194 気体の法則
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、コックで連結された2つの容器内の気体の状態変化を扱う問題です。気体の法則、特にボイル・シャルルの法則と理想気体の状態方程式を正しく使い分ける能力が問われます。
この問題の核心は、(1)では系全体の物質量が保存される中で状態が均一に変化する状況を、(2)では物質量の総和は保存されるものの、部分によって温度が異なる不均一な状態を、それぞれ適切にモデル化し立式することです。
- 容器Aの容積: \(V_A = 3.0 \times 10^{-3} \text{ m}^3\)
- 容器Bの容積: \(V_B = 7.0 \times 10^{-3} \text{ m}^3\)
- (1)の初期条件:
- 容器A: 圧力 \(P_{A1} = 2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\), 温度 \(t_{A1} = 27^\circ\text{C}\)
- 容器B: 真空
- (1)の最終条件:
- 全体の温度: \(t_2 = 127^\circ\text{C}\)
- (2)の初期条件:
- 容器A: 圧力 \(P_{A1} = 2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\), 温度 \(t_{A1} = 27^\circ\text{C}\)
- 容器B: 圧力 \(P_{B1} = 5.0 \times 10^5 \text{ Pa}\), 温度 \(t_{B1} = 77^\circ\text{C}\)
- (2)の最終条件:
- 全体の圧力: \(P_2 = 4.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)
- 容器Aの温度: \(t_{A2} = 27^\circ\text{C}\)
- (1) コックを開き、全体の温度を \(127^\circ\text{C}\) にしたときの圧力 \(P_2\)。
- (2) コックを開き、Aを \(27^\circ\text{C}\) に保ったときのB内の空気の温度 \(t_{B2}\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「連結された容器内の気体の状態変化」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ボイル・シャルルの法則: 閉じ込めた気体の物質量が一定のとき、圧力・体積・絶対温度の関係 \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) が成り立ちます。
- 理想気体の状態方程式: 気体の圧力 \(P\)、体積 \(V\)、物質量 \(n\)、絶対温度 \(T\) の関係を示す基本法則 \(PV = nRT\) です。
- 物質量保存則: 外部との物質の出入りがない閉じた系では、内部で状態が変化しても、全体の物質量の総和は変化しません。
- 絶対温度: 気体の法則に関する計算では、必ず絶対温度 \(T \text{ [K]} = t \text{ [}^\circ\text{C]} + 273\) を用います。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、容器Bが真空なので、気体は容器Aにあるものだけです。コックを開いても気体の物質量は変わらないため、ボイル・シャルルの法則を用いて変化前後の状態を比較します。
- (2)では、AとBの両方に気体が入っており、コックを開いて混合します。このとき、全体の物質量は保存されます。また、最終的にAとBの温度が異なるため、系全体を単一の状態で記述できず、ボイル・シャルルの法則は使えません。状態方程式を用いて「コックを開く前の物質量の和」と「開いた後の物質量の和」が等しいという式を立てて解きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
コックを開く前の容器A内の気体が、コックを開くことで容器AとBを合わせた体積全体に広がる状況を考えます。この過程で、外部との気体の出入りはないため、気体の物質量 \(n\) は一定に保たれます。物質量が一定である気体の状態変化なので、ボイル・シャルルの法則を適用して解くことができます。
この設問における重要なポイント
- 状態変化の前後を明確にする: 変化前の状態(圧力 \(P_1\), 体積 \(V_1\), 絶対温度 \(T_1\))と、変化後の状態(圧力 \(P_2\), 体積 \(V_2\), 絶対温度 \(T_2\))を整理します。
- 体積の変化: コックを開くと、気体は容器AとBの両方に均一に広がるため、変化後の体積は2つの容器の和 \(V_2 = V_A + V_B\) となります。
- 絶対温度の使用: ボイル・シャルルの法則や状態方程式では、必ず絶対温度(ケルビン)を用います。摂氏温度 \(t\)[℃] と絶対温度 \(T\)[K] の関係は \(T = t + 273\) です。
具体的な解説と立式
変化前の気体の状態を \(P_1, V_1, T_1\)、変化後の状態を \(P_2, V_2, T_2\) とします。
与えられた条件から、各物理量を整理します。
- 変化前: \(P_1 = 2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\), \(V_1 = V_A = 3.0 \times 10^{-3} \text{ m}^3\), \(T_1 = 27 + 273 = 300 \text{ K}\)
- 変化後: \(P_2\) は求める圧力, \(V_2 = V_A + V_B = (3.0 + 7.0) \times 10^{-3} = 10.0 \times 10^{-3} \text{ m}^3\), \(T_2 = 127 + 273 = 400 \text{ K}\)
気体の物質量は一定なので、ボイル・シャルルの法則が成り立ちます。
$$ \frac{P_1 V_1}{T_1} = \frac{P_2 V_2}{T_2} $$
使用した物理公式
- ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\)
- 絶対温度: \(T \text{ [K]} = t \text{ [}^\circ\text{C]} + 273\)
上記で立てたボイル・シャルルの法則の式を \(P_2\) について解き、値を代入します。
$$
\begin{aligned}
P_2 &= \frac{P_1 V_1 T_2}{T_1 V_2} \\[2.0ex]&= \frac{(2.0 \times 10^5) \times (3.0 \times 10^{-3}) \times 400}{300 \times (10.0 \times 10^{-3})} \\[2.0ex]&= \frac{2.0 \times 3.0 \times 400}{300 \times 10.0} \times 10^5 \\[2.0ex]&= \frac{2400}{3000} \times 10^5 \\[2.0ex]&= 0.80 \times 10^5 \\[2.0ex]&= 8.0 \times 10^4 \text{ [Pa]}
\end{aligned}
$$
最初、容器Aに閉じ込められていた空気が、コックを開けることでより広い空間(A+B)に広がり、同時に温められます。このとき、空気の量(物質量)は変わらないので、「圧力×体積÷絶対温度」の値が変化の前後で一定になる、という法則(ボイル・シャルルの法則)を使います。この関係式に、変化前と変化後のそれぞれの圧力、体積、温度の値を当てはめて、未知の圧力を計算します。
コックを開いた後の圧力は \(8.0 \times 10^4 \text{ Pa}\) です。
元の圧力 \(2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) と比較すると、圧力は減少しています。体積が約3.3倍 (\(10/3\)) に増加し、絶対温度が約1.3倍 (\(4/3\)) に増加しています。圧力は体積に反比例し、絶対温度に比例するため、体積増加による圧力減少の効果が温度上昇による圧力増加の効果を上回り、結果として圧力が減少するのは物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
ボイル・シャルルの法則の根底にあるのは、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) と物質量保存則です。まず、変化前の状態から気体の物質量 \(n\) を計算し、その物質量が変化後の状態でも保存されることを利用して、変化後の圧力を求めるアプローチです。より根本的な法則から問題を解くことで、法則間の関係性の理解が深まります。
この設問における重要なポイント
- 物質量の計算: 状態方程式 \(PV=nRT\) を \(n\) について解き、\(n = \displaystyle\frac{PV}{RT}\) として物質量を求めます。
- 物質量保存: コックを開いても気体の出入りはないため、最初に容器Aにあった物質量 \(n\) が、そのまま変化後の系全体の物質量となります。
- 気体定数Rの扱い: この解法では、計算過程で気体定数 \(R\) が現れますが、最終的に式を整理すると \(R\) は相殺されて消えるため、具体的な値を知る必要はありません。
具体的な解説と立式
まず、変化前の容器A内の気体の物質量を \(n\) とします。理想気体の状態方程式より、
$$ P_1 V_1 = n R T_1 \quad \cdots ① $$
次に、コックを開いた後の状態を考えます。体積は \(V_2 = V_A + V_B\)、温度は \(T_2\)、圧力は \(P_2\) です。気体の物質量は変化しないので、ここでも \(n\) です。したがって、状態方程式は以下のようになります。
$$ P_2 V_2 = n R T_2 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
式①から \(n\) を \(P_1, V_1, T_1, R\) を用いて表します。
$$ n = \frac{P_1 V_1}{R T_1} $$
この \(n\) の表現を式②に代入します。
$$ P_2 V_2 = \left( \frac{P_1 V_1}{R T_1} \right) R T_2 $$
両辺の気体定数 \(R\) が消去されます。
$$ P_2 V_2 = \frac{P_1 V_1 T_2}{T_1} $$
この式を \(P_2\) について解くと、
$$ P_2 = \frac{P_1 V_1 T_2}{T_1 V_2} $$
これはボイル・シャルルの法則から導いた式と全く同じです。したがって、以降の計算も同様になり、
$$ P_2 = 8.0 \times 10^4 \text{ [Pa]} $$
という結果が得られます。
まず、最初に容器Aに入っている空気の「量」(物質量)を、圧力・体積・温度を使って表します。次に、コックを開けて空気が広がった後の状態について考えます。空気の「量」は変わらないので、この「量」を使って、変化後の圧力・体積・温度の関係式を立てます。この2つの関係式を組み合わせることで、未知の圧力を求めることができます。
理想気体の状態方程式を用いたアプローチでも、ボイル・シャルルの法則を用いた場合と全く同じ結果 \(8.0 \times 10^4 \text{ Pa}\) が得られました。これは、ボイル・シャルルの法則が状態方程式と物質量保存則から導かれる関係であることを示しており、計算の正しさを裏付けています。
問(2)
思考の道筋とポイント
この設問では、コックを開く前に容器AとBの両方に気体が入っています。コックを開くと、2つの気体が混ざり合いますが、外部との気体の出入りはないため、系全体の物質量の合計は保存されます。しかし、最終的に容器AとBで温度が異なるため、系全体を一つの状態(P, V, T)で記述することができず、ボイル・シャルルの法則は適用できません。
そこで、「コックを開く前の物質量の総和」と「コックを開いた後の物質量の総和」が等しい、という物質量保存の考え方で立式します。各部分の物質量は、理想気体の状態方程式 \(n = \displaystyle\frac{PV}{RT}\) を使って計算します。
この設問における重要なポイント
- 物質量保存の適用: 閉じた系(外部との物質のやり取りがない系)では、内部で状態が変化しても、全体の物質量の和は一定です。この問題では \(n_{\text{A,初}} + n_{\text{B,初}} = n_{\text{A,後}} + n_{\text{B,後}}\) が成り立ちます。
- 部分ごとの状態方程式: コックを開いた後、容器AとBでは圧力が等しくなりますが(\(P_2\))、温度が異なります(\(T_{A2}\) と \(T_{B2}\))。したがって、容器AとBにそれぞれ別々に状態方程式を適用して、それぞれの部分に含まれる物質量を計算する必要があります。
- 絶対温度への変換: 計算では、すべての温度を摂氏から絶対温度(ケルビン)に変換して用いる必要があります。最後に、求められた絶対温度を摂氏に変換し直すことを忘れないようにしましょう。
具体的な解説と立式
コックを開く前の容器A, B内の気体の物質量をそれぞれ \(n_A\), \(n_B\) とします。
コックを開いた後の容器A, B内の気体の物質量をそれぞれ \(n’_A\), \(n’_B\) とします。
物質量保存則より、
$$ n_A + n_B = n’_A + n’_B \quad \cdots ① $$
理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を \(n\) について変形した \(n = \displaystyle\frac{PV}{RT}\) を用いて、各物質量を以下のように表せます。
- コックを開く前:
$$ n_A = \frac{P_{A1} V_A}{R T_{A1}} \quad \cdots ② $$
$$ n_B = \frac{P_{B1} V_B}{R T_{B1}} \quad \cdots ③ $$ - コックを開いた後:
$$ n’_A = \frac{P_2 V_A}{R T_{A2}} \quad \cdots ④ $$
$$ n’_B = \frac{P_2 V_B}{R T_{B2}} \quad \cdots ⑤ $$
ここで、与えられた条件を絶対温度に変換して整理します。
\(P_{A1} = 2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\), \(V_A = 3.0 \times 10^{-3} \text{ m}^3\), \(T_{A1} = 27+273 = 300 \text{ K}\)。
\(P_{B1} = 5.0 \times 10^5 \text{ Pa}\), \(V_B = 7.0 \times 10^{-3} \text{ m}^3\), \(T_{B1} = 77+273 = 350 \text{ K}\)。
\(P_2 = 4.0 \times 10^5 \text{ Pa}\), \(T_{A2} = 27+273 = 300 \text{ K}\)。
求めるB内の温度を \(t_{B2}\) [\(\circ\text{C}\)] とすると、絶対温度は \(T_{B2} = t_{B2} + 273\) [K] です。
使用した物理公式
- 物質量保存則
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
式②, ③, ④, ⑤を式①に代入します。
$$ \frac{P_{A1} V_A}{R T_{A1}} + \frac{P_{B1} V_B}{R T_{B1}} = \frac{P_2 V_A}{R T_{A2}} + \frac{P_2 V_B}{R T_{B2}} $$
両辺に共通する気体定数 \(R\) を消去します。
$$ \frac{P_{A1} V_A}{T_{A1}} + \frac{P_{B1} V_B}{T_{B1}} = \frac{P_2 V_A}{T_{A2}} + \frac{P_2 V_B}{T_{B2}} $$
この式に与えられた値を代入します。
$$ \frac{(2.0 \times 10^5) \times (3.0 \times 10^{-3})}{300} + \frac{(5.0 \times 10^5) \times (7.0 \times 10^{-3})}{350} = \frac{(4.0 \times 10^5) \times (3.0 \times 10^{-3})}{300} + \frac{(4.0 \times 10^5) \times (7.0 \times 10^{-3})}{T_{B2}} $$
各項の \(10^5 \times 10^{-3} = 10^2\) を計算し、式を整理します。
$$ \frac{6.0 \times 10^2}{300} + \frac{35 \times 10^2}{350} = \frac{12.0 \times 10^2}{300} + \frac{28.0 \times 10^2}{T_{B2}} $$
$$ 2.0 + 10.0 = 4.0 + \frac{2800}{T_{B2}} $$
$$ 12.0 = 4.0 + \frac{2800}{T_{B2}} $$
\(\displaystyle\frac{2800}{T_{B2}}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{2800}{T_{B2}} &= 12.0 – 4.0 \\[2.0ex]&= 8.0
\end{aligned}
$$
したがって、\(T_{B2}\) は、
$$
\begin{aligned}
T_{B2} &= \frac{2800}{8.0} \\[2.0ex]&= 350 \text{ [K]}
\end{aligned}
$$
これは絶対温度なので、摂氏温度 \(t_{B2}\) に変換します。
$$
\begin{aligned}
t_{B2} &= T_{B2} – 273 \\[2.0ex]&= 350 – 273 \\[2.0ex]&= 77 \text{ [}^\circ\text{C]}
\end{aligned}
$$
コックを開ける前と後で、2つの容器に入っている空気の分子の総数は変わりません。この「分子の数が同じ」ということを数式で表します。まず「開ける前のAの分子数+開ける前のBの分子数」を計算し、次に「開けた後のAの分子数+開けた後のBの分子数」を計算します。これらが等しいという方程式を立て、未知のBの温度を求めます。分子の数は、状態方程式を使って「圧力×体積÷絶対温度」に比例する量として計算できます。
容器B内の空気の温度は \(77^\circ\text{C}\) です。
この結果は、コックを開く前の容器Bの温度と偶然にも同じ値になりました。
計算結果を吟味してみましょう。コックを開く前、AとBの \(\frac{PV}{T}\) の値(物質量に比例)はそれぞれ \(2.0\) と \(10.0\) で、合計は \(12.0\) です。コックを開いた後、Aの \(\frac{PV}{T}\) の値は \(4.0\) になりました。物質量保存則から、Bの \(\frac{PV}{T}\) の値は \(12.0 – 4.0 = 8.0\) となる必要があります。
\(\frac{P_2 V_B}{T_{B2}} = 8.0\) より、\(\frac{(4.0 \times 10^5) \times (7.0 \times 10^{-3})}{T_{B2}} = 8.0\) となり、\(\frac{2800}{T_{B2}} = 8.0\)、\(T_{B2}=350 \text{ K}\) と確かに計算が合います。
コックを開くことで、物質量に比例する \(\frac{PV}{T}\) の値が、Aでは \(2.0 \rightarrow 4.0\) と増加し、Bでは \(10.0 \rightarrow 8.0\) と減少しています。これは、BからAへ気体分子が移動したことを意味しており、物理的に妥当な変化です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ボイル・シャルルの法則(問1):
- 核心: 外部との物質の出入りがなく、閉じ込められた気体の物質量 \(n\) が一定の場合に成立する法則です。状態変化の前後で \(\displaystyle\frac{PV}{T}\) の値が保存されることを利用します。問(1)のように、系全体が均一な状態(圧力、温度がどこでも同じ)で変化する場合に非常に有効です。
- 理解のポイント: この法則は、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) において、\(n\) と \(R\) が定数であることから直接導かれます。つまり、状態方程式の特殊なケースと理解することが重要です。
- 物質量保存則と理想気体の状態方程式(問2):
- 核心: 複数の容器が連結され、最終的な状態が場所によって異なる(例:温度が違う)場合、系全体を単一の \(P, V, T\) で記述できません。このような複雑な状況では、より根源的な法則に立ち返る必要があります。その核心が「物質量の総和は保存される」という原理です。
- 理解のポイント: 「コックを開く前の物質量の和」=「コックを開いた後の物質量の和」という保存則を立式します。各部分の物質量 \(n\) は、その部分の状態(\(P, V, T\))を用いて、理想気体の状態方程式から \(n = \displaystyle\frac{PV}{RT}\) として求めます。このアプローチは、より複雑な気体の混合問題全般に応用できる万能な手法です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ピストンで仕切られた容器: シリンダーがピストンで2つの部分に仕切られており、それぞれの部分で気体の状態が変化する問題。ピストンが自由に動ける場合は両側の圧力が等しくなり、固定されている場合は体積が一定になります。物質量保存則の考え方が同様に適用できます。
- 気体の混合: 異なる種類・状態の気体を混合させる問題。ドルトンの分圧の法則と関連付けて考えることもありますが、基本は「各成分気体の物質量の和が、混合後の全物質量に等しい」という考え方で解くことができます。
- 液体とその蒸気が共存する系: 容器内に液体があり、その蒸気(気体)が状態変化する問題。この場合、液体の蒸発や凝縮によって気体の物質量が変化する可能性があるため、単純な物質量保存則が使えない場合があります。飽和蒸気圧の概念が鍵となります。
- 初見の問題での着眼点:
- 系の設定を確認する: 気体は閉じ込められているか?(物質量は一定か?) 容器は連結されているか? ピストンは動くか、固定か?
- 状態変化の均一性を見抜く: コックを開いた後、系全体が均一な温度・圧力になるか? それとも場所によって異なるか?
- 均一なら: ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{PV}{T}=\text{一定}\) が使える可能性が高いです(問1のパターン)。
- 不均一なら: 物質量保存則 \(\sum n_{\text{前}} = \sum n_{\text{後}}\) に立ち返り、各部分について状態方程式 \(PV=nRT\) を適用する必要があります(問2のパターン)。
- 温度の単位をチェックする: 問題文で与えられている温度が摂氏温度(℃)か絶対温度(K)かを確認し、計算は必ず絶対温度で行うことを徹底します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ボイル・シャルルの法則の誤用:
- 誤解: 問(2)のように、コックを開いた後に容器AとBで温度が異なる状況で、無理やりボイル・シャルルの法則を使おうとするミス。例えば、全体の体積 \(V_A+V_B\) と全体の圧力 \(P_2\) を使い、温度をどう扱うかで混乱してしまいます。
- 対策: ボイル・シャルルの法則が使えるのは「物質量が一定」かつ「系全体が単一の状態で記述できる」場合に限られる、と強く意識しましょう。少しでも複雑な設定(複数の気体の混合、部分的に温度が違うなど)の場合は、より基本法則である「物質量保存+状態方程式」に切り替えるのが安全策です。
- 絶対温度への変換忘れ:
- 誤解: 摂氏温度のまま \(t=27\) や \(t=127\) を式の \(T\) に代入してしまう。これは最も頻発し、致命的なミスです。
- 対策: 問題を読み始めた瞬間に、与えられた摂氏温度の横に「\(+273=\)〇〇K」と書き込んでしまう習慣をつけましょう。計算プロセスの最初で、すべての温度を絶対温度に変換しておくことが確実です。
- 物質量保存の立式ミス:
- 誤解: 問(2)で、コックを開いた後の状態を \(P_2(V_A+V_B) = (n’_A+n’_B) R T_{\text{平均?}}\) のように、一つの状態方程式で無理に表現しようとしてしまう。
- 対策: コックを開いた後は、AとBは「圧力だけが共通な、別の状態の気体」と見なします。したがって、物質量の和を考える際も、\(n’_{\text{合計}} = n’_A + n’_B\) のように、それぞれの部分の物質量を別々に計算して足し合わせる、という意識を持つことが重要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 状態変化の表を作成する: 変化の「前」と「後」で、容器A、容器B、そして系全体について、\(P, V, T, n\) の値を一覧表にまとめるのが非常に有効です。未知の値は変数(例: \(P_2\), \(t_{B2}\))として記入します。これにより、どの物理量が既知で何が未知か、どの法則を使えばよいかが一目瞭然になります。
- 気体分子の動きをイメージする:
- 問(1): 「Aに密集していた分子が、コックが開いた瞬間にBへ勢いよく流れ込み、最終的にはAとBの空間を均等に飛び回るようになる」というイメージ。
- 問(2): 「Bの方が初期状態で圧力・温度ともに高い(特に圧力)ので、分子がより高密度に存在している。コックが開くと、BからAへ分子が純移動し、最終的に両容器の圧力が等しくなる点で移動が止まる」というイメージ。このとき、AとBで温度が違うので、分子の平均運動エネルギーも異なる状態になります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 問題の図に、各状態の \(P, V, T\) の値を直接書き込む。
- 変化前は容器AとBを別々に、変化後は一つの系として囲むなど、図の上で状態の変化を視覚的に表現する。
- 問(2)のように状態が不均一な場合は、変化後の図で容器AとBのそれぞれに温度 \(T_{A2}\), \(T_{B2}\) を明記し、両者をつなぐコック部分に共通の圧力 \(P_2\) を書き込むと、状況が整理しやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\):
- 選定理由: (1)で、考察対象の気体の「物質量 \(n\)」が変化の前後で一定であり、かつ系全体が「均一な状態」で記述できるため。この条件が揃う場合、最もシンプルに状態変化を記述できる公式です。
- 適用根拠: 理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) から、\(\displaystyle\frac{PV}{T} = nR\) となり、右辺が定数であることから導かれる関係式です。
- 物質量保存則 \(\sum n_{\text{前}} = \sum n_{\text{後}}\):
- 選定理由: (2)で、系が複数の部分から構成され、状態変化後に不均一な状態(温度が異なる)になるため。ボイル・シャルルの法則が適用できない、より複雑な状況に対応するための普遍的な原理です。
- 適用根拠: 外部との物質の出入りがない限り、原子・分子の数は不変であるという物理学の基本法則に基づいています。
- 理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\):
- 選定理由: (2)の物質量保存則を適用する際に、各部分の「物質量 \(n\)」をその部分の状態量(\(P, V, T\))から計算するために必要となるため。また、(1)の別解のように、ボイル・シャルルの法則の代わりに用いることもできる、より根源的な公式です。
- 適用根拠: 気体のマクロな状態量(\(P, V, T\))とミクロな量(\(n\))を結びつける、気体論の基本法則です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 圧力の計算:
- 戦略: 気体の物質量が一定で、状態が均一に変化するため、ボイル・シャルルの法則を適用する。
- フロー: ①変化前後の状態量(\(P_1, V_1, T_1\) と \(P_2, V_2, T_2\))を整理 → ②温度を絶対温度に変換 → ③ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{P_1 V_1}{T_1} = \frac{P_2 V_2}{T_2}\) を立式 → ④式を \(P_2\) について解き、数値を代入して計算。
- (2) 温度の計算:
- 戦略: 状態が不均一になるため、物質量保存則を適用する。
- フロー: ①変化前後の各部分の状態量(\(P_{A1}, V_A, T_{A1}\) など)を整理 → ②すべての温度を絶対温度に変換 → ③物質量保存の式 \(n_A + n_B = n’_A + n’_B\) を立てる → ④各物質量を状態方程式 \(n=\frac{PV}{RT}\) を用いて表現し、代入 → ⑤気体定数 \(R\) を消去し、未知の温度 \(T_{B2}\) についての方程式を解く → ⑥得られた絶対温度を摂氏温度に変換。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位を含めた立式: (2)の計算では、\(10^5\) や \(10^{-3}\) といった指数が多く登場します。
$$ \frac{(2.0 \times 10^5) \times (3.0 \times 10^{-3})}{300} + \dots $$
のような式で、まず各項の指数の部分(\(10^5 \times 10^{-3} = 10^2\))を先に計算して、
$$ \frac{6.0 \times 10^2}{300} + \dots = 2.0 + \dots $$
のように、早い段階で簡単な数値に直してしまうと、後の計算が楽になり、ミスが減ります。 - 分数の整理: (2)の計算では、
$$ \frac{P_{A1} V_A}{T_{A1}} + \frac{P_{B1} V_B}{T_{B1}} = \frac{P_2 V_A}{T_{A2}} + \frac{P_2 V_B}{T_{B2}} $$
という形になります。未知数が分母にある項(\(\frac{P_2 V_B}{T_{B2}}\))だけを片側に残し、他の項をすべて逆側に移項してから計算すると、見通しが良くなります。
$$ \frac{P_2 V_B}{T_{B2}} = \left( \frac{P_{A1} V_A}{T_{A1}} + \frac{P_{B1} V_B}{T_{B1}} \right) – \frac{P_2 V_A}{T_{A2}} $$ - 気体定数Rの扱い: 計算過程で気体定数 \(R\) が出てきても、慌てて \(8.31\) などを代入しないこと。ほとんどの場合、今回のように両辺で相殺されて消えます。文字式のまま計算を進めることの利点の一つです。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 圧力: 体積は \(3.0 \rightarrow 10.0\) と約3.3倍に、絶対温度は \(300 \text{ K} \rightarrow 400 \text{ K}\) と約1.3倍になっています。圧力は \(P \propto \frac{T}{V}\) なので、\(P_2 \approx P_1 \times \frac{1.3}{3.3}\) となり、元の圧力より小さくなるはずです。\(2.0 \times 10^5 \times \frac{1.3}{3.3} \approx 0.79 \times 10^5\) となり、計算結果 \(8.0 \times 10^4 \text{ Pa}\) とほぼ一致し、妥当性が確認できます。
- (2) 温度: コックを開く前、BにはAよりも多くの物質量がありました(\(\frac{PV}{T}\) の値が \(10.0\) vs \(2.0\))。コックを開くと、BからAへ気体が移動します。最終的にAの物質量は増え(\(\frac{PV}{T}\) が \(2.0 \rightarrow 4.0\))、Bの物質量は減りました(\(10.0 \rightarrow 8.0\))。Bは分子を失ったにもかかわらず、初期温度 \(77^\circ\text{C}\) を保っているという結果になりました。これは、問題設定としてそのような温度に「保った」という外部からの操作があったことを意味します。もし断熱されたままなら、BからAへの膨張によりBの温度は下がるはずですが、今回は「温度を保った」という条件なので、計算結果が初期値と同じでも問題ありません。
- 別解との比較:
- (1)はボイル・シャルルの法則と、より基本的な状態方程式+物質量保存の2通りで解きました。両者で全く同じ結果が得られたことで、計算の正しさと、法則間の論理的なつながりを再確認できます。このような確認作業は、物理への深い理解を促します。
195 力のつり合いと気体の法則
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ピストン付きシリンダー内の気体の状態変化と、それに連動する物体の運動を力学的に考察する複合問題です。熱力学と力学の法則を正しく適用する能力が試されます。
この問題の核心は、物体が動き出す「直前」という瞬間の物理的条件を正しく捉え、「力のつり合い」と「気体の法則」という2つの異なる分野の法則を連携させて解くことです。
- 初期の気体の圧力: \(p_0\) (大気圧に等しい)
- 初期の気体の温度: \(T_0\)
- シリンダーの断面積: \(S\)
- 初期のピストンの高さ: \(l_0\)
- 物体の質量: \(M\)
- 重力加速度: \(g\)
- ピストンおよびひもの質量は無視でき、ピストンはなめらかに動く。
- (1) 物体が上がり始めたときのシリンダー内の気体の圧力 \(p_1\)。
- (2) 物体が上がり始めたときの気体の温度 \(T_1\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「力のつり合いと気体の状態変化」です。気体を冷却することで内部圧力が変化し、その結果としてピストンに働く力が変化して、最終的に外部の物体を動かすという一連のプロセスを追います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: 物体が動き出す直前、系は静止しているため、関係する物体(ピストンと質量\(M\)の物体)それぞれに働く力はつり合っています。
- 圧力による力: 圧力が \(p\) の気体が面積 \(S\) の面に及ぼす力は \(F=pS\) と表されます。
- ボイル・シャルルの法則: 閉じ込められた気体の圧力、体積、温度の関係を示します。特に今回は、ピストンが動くまでは体積が一定の「定積変化」となります。
- 変化の瞬間の条件: 「物体が上がり始めた」という記述から、その瞬間に物体が床から受ける垂直抗力が \(0\) になると読み取ることが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)で問われている圧力 \(p_1\) を求めるために、物体が床から離れる瞬間に着目します。このとき、物体とピストンは静止していると見なせるため、それぞれに働く力のつり合いの式を立てます。これらの式を連立することで \(p_1\) を求めます。
- 次に、(2)で問われている温度 \(T_1\) を求めるために、気体の状態変化に着目します。初期状態から物体が動き出す直前までの変化は体積が一定の「定積変化」です。ボイル・シャルルの法則(シャルルの法則)を適用し、(1)で求めた \(p_1\) を用いて \(T_1\) を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
物体が上がり始めた瞬間の、シリンダー内の気体の圧力 \(p_1\) を求める問題です。この「上がり始め」という瞬間が物理的にどのような状態に対応するのかを考えることが出発点です。この瞬間、物体はまだ動いておらず、速度はゼロです。したがって、物体とピストンに働く力はつり合っていると考えることができます。特に重要なのは、物体が床から「離れる」瞬間なので、床が物体を押す力、すなわち垂直抗力がちょうど \(0\) になったと解釈することです。
この設問における重要なポイント
- 力の図示: 「質量\(M\)の物体」と「ピストン」という2つの物体に着目し、それぞれに働く力をすべて正確に図示します。
- 張力の役割: 1本のひもで繋がれているため、物体を上に引く張力とピストンを上に引く張力は同じ大きさ \(T\) です。
- 物体が離れる条件: 物体が床から離れる直前の瞬間では、物体が床から受ける垂直抗力 \(N\) が \(0\) になります。
- 力のつり合い: 物体とピストンのそれぞれについて、鉛直方向の力のつり合いの式を立てます。
具体的な解説と立式
物体が床から離れる直前の瞬間を考えます。このとき、物体とピストンは静止しているとみなせます。
まず、質量\(M\)の物体に働く力について考えます。物体には、鉛直上向きにひもの張力 \(T\) と床からの垂直抗力 \(N\)、鉛直下向きに重力 \(Mg\) が働きます。力のつり合いの式は、
$$ T + N – Mg = 0 $$
となります。物体が床から離れる直前なので、垂直抗力は \(N=0\) です。したがって、
$$ T – Mg = 0 \quad \cdots ① $$
次に、ピストンに働く力について考えます。ピストンには、鉛直上向きに内部の気体が押す力 \(p_1S\) とひもの張力 \(T\)、鉛直下向きに外部の大気が押す力 \(p_0S\) が働きます(ピストンの質量は無視)。力のつり合いの式は、
$$ p_1S + T – p_0S = 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 圧力と力の関係 \(F=pS\)
式①と②を連立して \(p_1\) を求めます。
まず、式①から張力 \(T\) が求まります。
$$ T = Mg $$
この結果を式②に代入します。
$$ p_1S + Mg – p_0S = 0 $$
この式を \(p_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
p_1S &= p_0S – Mg \\[2.0ex]p_1 &= \frac{p_0S – Mg}{S} \\[2.0ex]&= p_0 – \frac{Mg}{S}
\end{aligned}
$$
物体がちょうど浮き上がるためには、ひもが物体の重さ(\(Mg\))と同じ力で真上に引っ張る必要があります。一方、ピストンは、中の気体が押し上げる力とひもが引っ張る力の合計が、外の大気が押し下げる力と釣り合うことで静止しています。この「力の釣り合い」が成立する瞬間の気体の圧力がいくらになるかを、数式を使って計算します。
物体が上がり始めたときのシリンダー内の気体の圧力は \(p_1 = p_0 – \displaystyle\frac{Mg}{S}\) です。
この結果は、気体を冷却して圧力が初期の \(p_0\) から \(\frac{Mg}{S}\) だけ減少したときに、物体が動き出すことを示しています。物体が実際に持ち上がるためには \(p_1 > 0\) である必要があり、そのためには \(p_0S > Mg\) という条件が満たされている必要があります。これは、大気圧がピストンを押す力が物体の重力より大きいことを意味し、物理的に妥当な条件と言えます。
問(2)
思考の道筋とポイント
物体が上がり始めたときの気体の温度 \(T_1\) を求める問題です。これは、シリンダー内の気体の状態変化の問題として捉えます。初期状態(温度 \(T_0\), 圧力 \(p_0\))から、気体を冷却していき、物体が動き出す直前の状態(温度 \(T_1\), 圧力 \(p_1\))に至るまでの変化を考えます。この過程で、ピストンは動いていないため、気体の体積は一定に保たれています。この「定積変化」という条件から、適切な気体の法則を選択して立式します。
この設問における重要なポイント
- 定積変化: 気体を冷却し始めてからピストンが動き出す直前まで、ピストンの位置は変わらないため、気体の体積は \(V_0 = Sl_0\) で一定です。
- 状態の特定:
- 初期状態: 圧力 \(p_0\), 体積 \(V_0 = Sl_0\), 絶対温度 \(T_0\)。
- 最終状態: 圧力 \(p_1\), 体積 \(V_1 = Sl_0\), 絶対温度 \(T_1\)。
- ボイル・シャルルの法則: 2つの状態を関係づけるために、ボイル・シャルルの法則 \(\frac{pV}{T} = \text{一定}\) を用います。体積が一定なので、これはシャルルの法則 \(\frac{p}{T} = \text{一定}\) となります。
具体的な解説と立式
閉じ込められた気体の初期状態と最終状態について、ボイル・シャルルの法則を適用します。
初期状態を(\(p_0, V_0, T_0\))、物体が動き出す直前の状態を(\(p_1, V_1, T_1\))とします。
ボイル・シャルルの法則より、
$$ \frac{p_0 V_0}{T_0} = \frac{p_1 V_1}{T_1} $$
この問題では、ピストンが動き出すまでは体積が一定なので、\(V_0 = V_1 = Sl_0\) です。したがって、上式は \(V_0\) と \(V_1\) が約分されて、
$$ \frac{p_0}{T_0} = \frac{p_1}{T_1} \quad \cdots ③ $$
となります。
使用した物理公式
- ボイル・シャルルの法則(またはシャルルの法則)
式③を \(T_1\) について解きます。
$$ T_1 = \frac{p_1}{p_0} T_0 $$
この式に、(1)で求めた \(p_1 = p_0 – \displaystyle\frac{Mg}{S}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T_1 &= \frac{p_0 – \displaystyle\frac{Mg}{S}}{p_0} T_0 \\[2.0ex]&= \left( \frac{p_0}{p_0} – \frac{Mg}{p_0S} \right) T_0 \\[2.0ex]&= \left( 1 – \frac{Mg}{p_0S} \right) T_0
\end{aligned}
$$
分母と分子に \(S\) を掛けて整理すると、模範解答の形になります。
$$
\begin{aligned}
T_1 &= \frac{p_0 – \displaystyle\frac{Mg}{S}}{p_0} T_0 \\[2.0ex]&= \frac{\displaystyle\frac{p_0S – Mg}{S}}{p_0} T_0 \\[2.0ex]&= \frac{p_0S – Mg}{p_0S} T_0
\end{aligned}
$$
体積が一定のとき、気体の絶対温度と圧力は比例します。つまり、圧力が半分になれば、絶対温度も半分になります。(1)で、物体が浮き上がる瞬間の圧力が、元の圧力 \(p_0\) の \(\frac{p_1}{p_0}\) 倍になることがわかりました。したがって、温度も元の絶対温度 \(T_0\) の \(\frac{p_1}{p_0}\) 倍になるはずです。この関係を使って、そのときの温度 \(T_1\) を計算します。
思考の道筋とポイント
ボイル・シャルルの法則の代わりに、より根源的な法則である気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を用いて解く方法です。初期状態と最終状態のそれぞれについて状態方程式を立て、変化しない量(物質量 \(n\) と気体定数 \(R\))を消去することで、温度 \(T_1\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 状態方程式の適用: 初期状態と最終状態のそれぞれについて、\(pV=nRT\) の式を立てます。
- 不変量の消去: この変化を通じて、気体の物質量 \(n\) と気体定数 \(R\) は変化しません。この \(nR\) の項を2つの式から消去することがポイントです。
- 定積条件: 体積が一定であること \(V = Sl_0\) を利用します。
具体的な解説と立式
シリンダー内の気体の物質量を \(n\)、気体定数を \(R\) とします。
初期状態(圧力 \(p_0\), 体積 \(Sl_0\), 温度 \(T_0\))における状態方程式は、
$$ p_0 (Sl_0) = nRT_0 \quad \cdots ④ $$
物体が動き出す直前の状態(圧力 \(p_1\), 体積 \(Sl_0\), 温度 \(T_1\))における状態方程式は、
$$ p_1 (Sl_0) = nRT_1 \quad \cdots ⑤ $$
使用した物理公式
- 気体の状態方程式 \(pV=nRT\)
式④から、定数となる \(nR\) の項を求めます。
$$ nR = \frac{p_0Sl_0}{T_0} $$
これを式⑤に代入します。
$$ p_1 (Sl_0) = \left( \frac{p_0Sl_0}{T_0} \right) T_1 $$
両辺に共通する \(Sl_0\) を消去すると、
$$ p_1 = \frac{p_0}{T_0} T_1 $$
この式は、メインの解法で用いたシャルルの法則の式と全く同じです。したがって、これ以降の計算も同様になり、
$$ T_1 = \frac{p_1}{p_0} T_0 = \frac{p_0S – Mg}{p_0S} T_0 $$
という結果が得られます。
気体の状態は「圧力・体積・温度」という3つのパラメータで決まりますが、これらは「気体の状態方程式」という一つの関係式で結ばれています。初めの状態と、物体が浮き上がる瞬間の状態、それぞれについてこの方程式を立てます。2つの式に共通する「気体の量」に関する部分を消去することで、求めたい温度 \(T_1\) を計算することができます。
物体が上がり始めたときの気体の温度は \(T_1 = \displaystyle\frac{p_0S – Mg}{p_0S} T_0\) です。
\(p_0S > Mg\) であるため、\(\frac{p_0S – Mg}{p_0S}\) の項は \(1\) より小さい正の値となります。したがって、\(T_1 < T_0\) となり、気体を「冷却した」という問題の設定と整合性が取れています。また、別解である状態方程式を用いたアプローチでも同じ結果が得られたことから、解答の妥当性が確認できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合い(静力学):
- 核心: 物体が動き出す「直前」の状態は、力がつり合った静止状態とみなせます。この問題では、「ピストン」と「質量\(M\)の物体」という2つの物体に注目し、それぞれに働く力のつり合いを考えることが(1)を解くための鍵です。
- 理解のポイント: \(T-Mg=0\) と \(p_1S+T-p_0S=0\) という2つの式は、この物理現象を直接的に表現したものです。特に、圧力による力 \(F=pS\) を正しく力のつり合いの式に組み込むことが重要です。
- 気体の法則(熱力学):
- 核心: シリンダー内の気体は、冷却される過程で状態が変化します。この変化を記述するのが気体の法則です。ピストンが動くまでは体積が一定であるため、この変化は「定積変化」となります。
- 理解のポイント: ボイル・シャルルの法則 \(\frac{pV}{T}=\text{一定}\) を適用し、\(V=\text{一定}\) という条件からシャルルの法則 \(\frac{p}{T}=\text{一定}\) を導き出すのが(2)を解くための核心です。これにより、(1)で求めた圧力の変化と温度の変化を結びつけることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- U字管内の液体と気体: U字管の一方を封じ、気体を閉じ込めた問題。液柱の移動は、この問題のピストンの移動に対応し、液柱の重さによる圧力が力のつり合いに関わってきます。
- 熱気球: 気球内の空気を温めることで密度が下がり、浮力が重力を上回って浮上する問題。気球内外の圧力差や温度変化が、この問題のシリンダー内外の状況と類似しています。
- ばね付きピストン: ピストンの片側がばねで固定されている問題。力のつり合いを考える際に、張力の代わりにばねの弾性力 \(kx\) が加わります。気体の状態変化によってピストンが移動すると、ばねの弾性力も変化するため、より複雑な力のつり合いを考える必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 系の状態変化を時系列で追う: 「初期状態」→「冷却中(定積変化)」→「物体が動き出す瞬間」→「物体が動いた後」のように、現象をステップごとに分解して考えます。
- 力学と熱力学の切り分け: どの部分が力学的な「力のつり合い」の問題で、どの部分が熱力学的な「気体の状態変化」の問題なのかを明確に区別します。この問題では、(1)が力学、(2)が熱力学に対応します。
- 「〜し始める」「〜する直前」の解釈: これらの言葉は、物理的な状態の「境界」を示唆しています。この問題の「物体が上がり始めた」は、「垂直抗力が0になる瞬間」と読み替えることが解法の鍵です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の向きの間違い:
- 誤解: 気体の圧力 \(p\) による力 \(pS\) の向きを間違える。圧力は面を「押す」向きに働きます。シリンダー内の気体はピストンを上向きに押し、外の大気はピストンを下向きに押します。
- 対策: 必ず着目する物体(この場合はピストン)を描き、その物体が「どの方向から押されているか」を考えて力の矢印を記入する習慣をつけましょう。
- 張力の扱い:
- 誤解: ピストンと物体に働く張力を別々の文字(例: \(T_1, T_2\))で置いてしまう。滑車を介した1本のひもなので、張力の大きさはどこでも等しく \(T\) です。
- 対策: 「軽くて伸び縮みしない糸」や「なめらかな滑車」という条件がある場合、張力は一定であるという基本原則を再確認しましょう。
- 気体の法則の誤適用:
- 誤解: ピストンが動いていない(体積が一定の)過程なのに、ボイルの法則(\(pV=\text{一定}\))や、圧力一定と勘違いしてシャルルの法則(\(\frac{V}{T}=\text{一定}\))を適用してしまう。
- 対策: 常に「圧力・体積・温度」のうち、何が変化し、何が一定に保たれているのかを明確に意識しましょう。この問題では、物体が動き出すまでは「体積が一定」です。迷ったら、基本のボイル・シャルルの法則 \(\frac{pV}{T}=\text{一定}\) から出発するのが安全です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 力のつり合いの図解: (1)を解く際には、「ピストン」と「物体M」を別々の物体として描き出し、それぞれに働く力をすべて矢印で記入した「力の作用図(フリーボディダイアグラム)」を作成することが極めて有効です。ピストンには「内部気体の力 \(p_1S\)」「張力 \(T\)」「大気圧の力 \(p_0S\)」の3つ、物体Mには「張力 \(T\)」「重力 \(Mg\)」「垂直抗力 \(N\)」の3つが働くことが一目瞭然になります。
- p-Tグラフによる状態変化の可視化: (2)の気体の状態変化は、縦軸に圧力 \(p\)、横軸に絶対温度 \(T\) をとったグラフで考えると理解が深まります。初期状態 \((T_0, p_0)\) から、原点を通る直線上を左下に向かって状態が変化していき、圧力 \(p_1\) に達した点が最終状態 \((T_1, p_1)\) となります。この直線関係がシャルルの法則 \(\frac{p}{T}=\text{一定}\) を視覚的に表現しています。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 着目物体を明確に: 複数の物体が絡む問題では、どの物体についての力のつり合いを考えているのかを明確にするため、物体をまるで囲むなどして区別すると良いでしょう。
- 力の作用点を意識する: 圧力による力はピストンの面に、重力は物体の重心に、張力はひもの接続点に働くことを意識して描くと、より正確な図になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (\(\sum F = 0\)):
- 選定理由: (1)で、物体が動き出す「直前」という、加速度がゼロの静止状態を数式で表現するため。
- 適用根拠: ニュートンの第一法則(慣性の法則)に基づき、静止している物体に働く力の合力はゼロになるという力学の基本原理を適用します。
- ボイル・シャルルの法則 (\(\frac{p_0V_0}{T_0} = \frac{p_1V_1}{T_1}\)):
- 選定理由: (2)で、閉じ込められた気体の初期状態と最終状態の関係を記述するため。
- 適用根拠: この法則は、気体の圧力、体積、絶対温度という3つの状態量を結びつける普遍的な関係式です。特に、この問題のように物質量 \(n\) が一定の場合に極めて有効です。体積が一定という条件 \(V_0=V_1\) を適用することで、より単純なシャルルの法則 \(\frac{p_0}{T_0} = \frac{p_1}{T_1}\) が導かれます。
- 気体の状態方程式 (\(pV=nRT\)):
- 選定理由: (2)の別解として。ボイル・シャルルの法則の根源となる、より基本的な法則だからです。
- 適用根拠: この方程式は、気体の状態量を物質量 \(n\) と気体定数 \(R\) を介して結びつけます。初期状態と最終状態でそれぞれ式を立て、不変量である \(nR\) を消去することで、ボイル・シャルルの法則と同じ関係式を導出できます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 圧力の計算:
- 戦略: 物体が床から離れる瞬間の力のつり合いを考える。
- フロー: ①物体Mとピストン、それぞれに働く力を図示 → ②物体Mが床から離れる条件(垂直抗力\(N=0\))から、張力 \(T\) を求める (\(T=Mg\)) → ③ピストンの力のつり合いを立式 (\(p_1S+T-p_0S=0\)) → ④求めた \(T\) を代入し、\(p_1\) について解く。
- (2) 温度の計算:
- 戦略: 初期状態から物体が動き出す直前までの気体の定積変化に着目する。
- フロー: ①初期状態 \((p_0, Sl_0, T_0)\) と最終状態 \((p_1, Sl_0, T_1)\) を確認 → ②体積が一定であることから、ボイル・シャルルの法則を簡略化し、シャルルの法則を立式 (\(\frac{p_0}{T_0} = \frac{p_1}{T_1}\)) → ③式を \(T_1\) について解き、(1)で求めた \(p_1\) の式を代入して計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: (2)の計算では、\(T_1 = \frac{p_1}{p_0}T_0\) の式に、(1)で求めた \(p_1 = p_0 – \frac{Mg}{S}\) をそのまま代入します。途中で具体的な数値を代入する問題ではないため、文字式の整理が中心となります。分数の計算を丁寧に行うことが重要です。
- 単位系の確認: この問題では具体的な数値計算はありませんが、普段から圧力の単位(Pa = N/m²)、力の単位(N)、面積の単位(m²)の関係を意識しておくことが、式の妥当性を判断する上で役立ちます。例えば、\(p_0 – \frac{Mg}{S}\) という式では、\(p_0\) と \(\frac{Mg}{S}\) の単位が同じ圧力の単位になっていることを確認できます。
- 最終的な式の検算: (2)で得られた \(T_1 = \frac{p_0S – Mg}{p_0S} T_0\) という結果について、もし \(M=0\) ならば、\(T_1 = T_0\) となり、何も変化しないはずだ、という極端な場合を考えてみましょう。式は \(T_1 = \frac{p_0S}{p_0S}T_0 = T_0\) となり、物理的な直感と一致します。このような簡単なチェックで、式の形が妥当かどうかを吟味できます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 圧力 \(p_1\): \(p_1 = p_0 – \frac{Mg}{S}\) という結果は、\(p_1 < p_0\) であることを示しています。気体を「冷やした」のだから、圧力が下がるのは当然であり、物理的に妥当です。また、物体の質量 \(M\) が大きいほど、より多くの力で引っ張る必要があり、そのためにはピストン内外の圧力差を大きくする必要があるため、\(p_1\) はより小さくなるはずです。この式は、\(M\) が大きいほど \(p_1\) が小さくなる関係を示しており、直感と一致します。
- (2) 温度 \(T_1\): \(T_1 = \frac{p_0S – Mg}{p_0S} T_0\) という結果は、\(T_1 < T_0\) であることを示しています。これも「冷やした」という設定と一致しており、妥当です。圧力が下がった分だけ、絶対温度も比例して下がっていることを示しています。
- 別解との比較:
- (2)の温度は、ボイル・シャルルの法則(現象論的な法則)と、気体の状態方程式(よりミクロな視点を含む法則)のどちらを使っても同じ結果が得られました。異なるアプローチで同じ結論に至ることは、その結論の正しさを強力に裏付けます。これにより、気体の法則の理解が深まります。
196 気体の密度
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、理想気体の状態方程式を、密度などの物理量を用いて変形し、その関係性を理解することを目的とした穴埋め問題です。基本的な定義と公式の変形を正確に行う能力が問われます。
- 圧力: \(p\)
- 体積: \(V\)
- 絶対温度: \(T\)
- 質量: \(W\)
- モル質量: \(M\)
- 気体定数: \(R\)
- 密度: \(\rho\)
- (1) 気体の物質量を \(W, M\) で表した式。
- (2) 理想気体の状態方程式を \(W, M, R, T\) を用いて表した式。
- (3) 気体の密度を \(W, V\) で表した式。
- (4) 状態方程式を変形して得られる \(\displaystyle\frac{p}{\rho T}\) の値。
- (5) 気体の状態が変化したときの、圧力、密度、温度の関係式。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「理想気体の状態方程式の応用と変形」です。状態方程式という基本法則を、他の物理量(質量、モル質量、密度)と結びつけることで、より応用範囲の広い関係式を導出するプロセスを学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 物質量、質量、モル質量の関係: これらの量の定義を正しく理解していることが全ての出発点です。
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\) という基本形を正確に覚えていること。
- 密度の定義: 密度が質量と体積からどのように定義されるかを理解していること。
- 式変形による物理量の関係性の導出: 複数の基本式を組み合わせて、特定の物理量を消去し、新たな関係式を導く数学的なスキル。
基本的なアプローチは以下の通りです。
問題文の誘導に従い、(1)から(5)まで順番に空欄を埋めていきます。前の設問の結果を次の設問で利用する形式になっているため、一つ一つ着実に解き進めることが重要です。
問(1)
思考の道筋とポイント
気体の物質量 [mol] を、その質量 \(W\) [kg] とモル質量 \(M\) [kg/mol] を用いて表す問題です。これは物質量の定義そのものです。
モル質量 \(M\) が「気体 1 mol あたりの質量」であることを理解していれば、全体の質量 \(W\) を \(M\) で割ることで、その気体が何 mol あるか(物質量 \(n\))が計算できることがわかります。
この設問における重要なポイント
- モル質量の定義: モル質量 \(M\) は、物質 1 mol あたりの質量を表す量です。単位は [g/mol] がよく使われますが、この問題では [kg/mol] で与えられている点に注意します。
- 物質量の計算: 物質量 \(n\) は、全体の質量 \(W\) をモル質量 \(M\) で割ることで求められます。
具体的な解説と立式
求める物質量を \(n\) [mol] とする。
物質量、質量、モル質量の関係は、定義より以下のようになります。
$$ n = \frac{W}{M} $$
使用した物理公式
- 物質量の定義
これは定義そのものであるため、計算過程はありません。
例えば、1箱に10個のリンゴが入っているとき、リンゴが全部で50個あれば、箱の数は 50 ÷ 10 = 5箱 と計算できます。これと同じように、気体1molあたりの重さが \(M\) [kg] で、気体が全部で \(W\) [kg] あれば、その気体が何molあるか(\(n\))は、\(n = W \div M\) で計算できます。
気体の物質量は \(\displaystyle\frac{W}{M}\) [mol] となります。単位を確認すると、[kg] / [kg/mol] = [mol] となり、正しく物質量の単位になっていることがわかります。
問(2)
思考の道筋とポイント
理想気体の状態方程式を、物質量 \(n\) の代わりに質量 \(W\) とモル質量 \(M\) を用いて表す問題です。
まず、理想気体の状態方程式の基本形 \(pV=nRT\) を書き出し、(1)で求めた \(n = \displaystyle\frac{W}{M}\) を代入するだけで解くことができます。
この設問における重要なポイント
- 理想気体の状態方程式の基本形: \(pV=nRT\) を正確に記憶していることが大前提です。
- 代入による式の書き換え: 前の設問の結果を正しく代入し、式を書き換えます。
具体的な解説と立式
理想気体の状態方程式は、物質量を \(n\) として次のように表されます。
$$ pV = nRT $$
ここに、(1)で求めた物質量の関係式 \(n = \displaystyle\frac{W}{M}\) を代入します。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\)
\(pV=nRT\) の \(n\) に \(n = \displaystyle\frac{W}{M}\) を代入します。
$$ pV = \left( \frac{W}{M} \right) RT $$
整理すると、
$$ pV = \frac{W}{M}RT $$
となります。
気体のふるまいを記述する基本ルールが \(pV=nRT\) です。この式の「気体の量(\(n\))」の部分を、(1)で求めた「重さを使った表現(\(\frac{W}{M}\))」に置き換える作業です。
理想気体の状態方程式は \(pV = \displaystyle\frac{W}{M}RT\) と表されます。この形式は、気体の物質量(mol)が直接わからなくても、質量(kg)がわかれば状態方程式を適用できることを示しており、実用上非常に便利です。
問(3)
思考の道筋とポイント
気体の密度 \(\rho\) [kg/m³] を、質量 \(W\) [kg] と体積 \(V\) [m³] を用いて表す問題です。これも密度の定義そのものです。
密度は「単位体積あたりの質量」と定義されるため、全体の質量を全体の体積で割ることで求められます。
この設問における重要なポイント
- 密度の定義: 密度(\(\rho\)) = 質量(\(W\)) ÷ 体積(\(V\)) という関係を正しく式で表現します。
具体的な解説と立式
密度の定義より、気体の密度 \(\rho\) は、質量 \(W\) を体積 \(V\) で割ったものなので、
$$ \rho = \frac{W}{V} $$
と表されます。
使用した物理公式
- 密度の定義
これは定義そのものであるため、計算過程はありません。
密度とは、物質がどれくらいぎっしり詰まっているかを表す指標です。全体の重さ(\(W\))を、それが占める空間の大きさ(\(V\))で割ることで計算できます。
気体の密度は \(\rho = \displaystyle\frac{W}{V}\) [kg/m³] となります。単位を確認すると、[kg] / [m³] となり、正しく密度の単位になっていることがわかります。
問(4)
思考の道筋とポイント
(2)で導いた状態方程式を、(3)の密度の定義を使って変形し、\(\displaystyle\frac{p}{\rho T}\) という量を計算する問題です。
(2)の式 \(pV = \displaystyle\frac{W}{M}RT\) と (3)の式 \(\rho = \displaystyle\frac{W}{V}\) を連立させ、最終的に \(p, \rho, T\) を含む形に変形することを目指します。
この設問における重要なポイント
- 式変形の目標設定: \(\displaystyle\frac{p}{\rho T}\) という形を作ることを意識して、不要な文字(この場合は \(V\) と \(W\))を消去していきます。
- 連立方程式の処理: 複数の式から特定の変数を消去する、基本的な代数計算の能力が求められます。
具体的な解説と立式
(2)で求めた、質量 \(W\) を用いた状態方程式は、
$$ pV = \frac{W}{M}RT \quad \cdots ① $$
(3)で確認した密度の定義式は、
$$ \rho = \frac{W}{V} \quad \cdots ② $$
これらの式から \(V\) と \(W\) を消去し、\(p, \rho, T\) の関係式を導きます。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式
- 密度の定義
まず、式②を \(V\) について解きます。
$$ V = \frac{W}{\rho} $$
この \(V\) を式①に代入します。
$$ p \left( \frac{W}{\rho} \right) = \frac{W}{M}RT $$
両辺に \(W\) があるので、\(W \neq 0\) より両辺を \(W\) で割って消去します。
$$ \frac{p}{\rho} = \frac{RT}{M} $$
最後に、この式の両辺を絶対温度 \(T\) で割ると、求めたい形になります。
$$ \frac{p}{\rho T} = \frac{R}{M} $$
気体の基本ルール(状態方程式)と、密度の定義式という2つの道具を使って、パズルを解くように式を組み立て直します。目標は、圧力・密度・温度だけの関係式を作ることです。体積(\(V\))と質量(\(W\))を消去するように式を整理していくと、目標の形にたどり着きます。
\(\displaystyle\frac{p}{\rho T} = \frac{R}{M}\) となります。右辺の \(R\) は気体定数、\(M\) はその気体のモル質量であり、どちらも気体の種類が決まれば変わらない「定数」です。つまり、この式は「ある特定の種類の気体については、その状態がどのように変化しても、\(\frac{p}{\rho T}\) という値は常に一定である」という重要な物理法則を示しています。
問(5)
思考の道筋とポイント
気体の状態が \((p, \rho, T)\) から \((p’, \rho’, T’)\) に変化したときの関係式を求める問題です。
(4)で導いた \(\displaystyle\frac{p}{\rho T} = \frac{R}{M}\) という関係が、この設問を解く鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 不変量に着目: (4)の結果から、\(\displaystyle\frac{p}{\rho T}\) という組み合わせの値が、気体の種類に固有の定数 \(\displaystyle\frac{R}{M}\) に等しい、つまり「不変量」であることを見抜きます。
- 保存則の立式: ある量が変化の前後で不変であるならば、変化前の値と変化後の値は等しい、という等式を立てることができます。
具体的な解説と立式
(4)の結果より、ある気体の状態 \((p, \rho, T)\) において、以下の関係が成り立ちます。
$$ \frac{p}{\rho T} = \frac{R}{M} $$
気体の種類が変わらなければ、状態が \((p’, \rho’, T’)\) に変化しても、モル質量 \(M\) と気体定数 \(R\) は変わらないため、同様に
$$ \frac{p’}{\rho’ T’} = \frac{R}{M} $$
が成り立ちます。
両式とも右辺が同じ \(\displaystyle\frac{R}{M}\) なので、左辺どうしも等しくなります。
使用した物理公式
- (4)で導出した関係式
上記の考察から、直ちに以下の等式が導かれます。
$$ \frac{p}{\rho T} = \frac{p’}{\rho’ T’} $$
(4)で、\(\frac{p}{\rho T}\) という値が、その気体の「背番号」のような定数(\(\frac{R}{M}\))になることがわかりました。気体の状態(圧力、密度、温度)がいろいろ変わっても、同じ気体である限りこの「背番号」は変わりません。したがって、変化する前の \(\frac{p}{\rho T}\) と、変化した後の \(\frac{p’}{\rho’ T’}\) は、同じ値になるはずです。
関係式は \(\displaystyle\frac{p}{\rho T} = \frac{p’}{\rho’ T’}\) となります。
この関係式には、気体の質量 \(W\) や体積 \(V\) が含まれていません。そのため、シリンダーのように気体を「閉じ込めていない」場合、例えば部屋の空気や熱気球の内部の空気のように、空気の出入りがある状況でも、ある一点における圧力・密度・温度の間にはこの関係が成り立ちます。これは、ボイル・シャルルの法則が「閉じ込めた一定量の気体」にしか適用できないのに対し、より広い応用を持つ関係式であることを示しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 理想気体の状態方程式 (\(pV=nRT\)):
- 核心: この問題全体を貫く最も基本的な法則です。圧力(\(p\))、体積(\(V\))、物質量(\(n\))、絶対温度(\(T\))という4つの状態量を結びつけます。
- 理解のポイント: この法則を単に覚えるだけでなく、物質量(\(n\))を質量(\(W\))とモル質量(\(M\))で表した \(n=\frac{W}{M}\) や、体積(\(V\))を密度(\(\rho\))と質量(\(W\))で表した \(V=\frac{W}{\rho}\) といった他の定義式と組み合わせることで、様々な形に変形できる柔軟性を理解することが重要です。
- 物理量の定義の正確な理解:
- 核心: 物質量、モル質量、密度の定義が、この問題の各設問の土台となっています。これらの定義が曖昧だと、式変形の第一歩でつまずいてしまいます。
- 理解のポイント:
- 物質量 \(n = \frac{W}{M}\) (全体の質量 ÷ 1molあたりの質量)
- 密度 \(\rho = \frac{W}{V}\) (質量 ÷ 体積)
という関係を、単位も含めて正確に把握しておくことが不可欠です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 熱気球の浮力計算: 熱気球が浮上する原理は、内部の空気を温めて密度を小さくし、周囲の冷たい(密度の大きい)空気から受ける浮力を大きくすることです。このとき、気球内外の空気の密度を計算するために、まさにこの問題で導出した \(\rho = \frac{pM}{RT}\) という関係式が活躍します。
- 大気圧の高度変化: 地上と上空では、気圧も温度も異なります。上空の空気の密度を推定する際に、この問題で導いた関係式が用いられます。
- 化学反応における気体の質量計算: 化学反応で発生または消費される気体の体積、圧力、温度が分かっているとき、その気体の質量を求める際に、状態方程式を質量ベースに書き換えた \(pV = \frac{W}{M}RT\) が直接的に役立ちます。
- 初見の問題での着眼点:
- 与えられた物理量を確認する: 問題文で与えられている文字(\(p, V, T, W, M, \rho\) など)をリストアップします。
- 求めたい物理量を確認する: 何をどの文字で表すことがゴールなのかを明確にします。
- 関係式を書き出す: 関連すると思われる公式(状態方程式、密度の定義など)をすべて書き出します。
- 不要な文字を消去する: ゴールの式に含まれない文字を、連立方程式を解く要領で消去していく、という方針を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 文字の混同:
- 誤解: 質量(\(W\))とモル質量(\(M\))を混同する。あるいは、物質量(\(n\))と質量(\(W\))を同じものとして扱ってしまう。
- 対策: それぞれの文字が何を表す物理量で、単位は何なのかを常に意識しましょう。\(W\) [kg], \(M\) [kg/mol], \(n\) [mol] のように、単位をセットで覚えるのが効果的です。
- 絶対温度の使い忘れ:
- 誤解: 状態方程式やボイル・シャルルの法則で、セルシウス温度 [℃] をそのまま使ってしまう。
- 対策: 気体の法則で使う温度は「必ず絶対温度 [K]」であると徹底して覚えましょう。\(T[\text{K}] = t[^\circ\text{C}] + 273.15\) の関係は常に念頭に置く必要があります。
- 式変形の過程での計算ミス:
- 誤解: \(pV = \frac{W}{M}RT\) から \(\frac{p}{\rho T} = \frac{R}{M}\) を導く際に、移項や割り算を間違える。
- 対策: 焦らず、一行ずつ丁寧に式変形を行いましょう。特に、分数が絡む計算では、どの項が分子でどの項が分母にあるのかを明確にしながら進めることが重要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化:
- 定数 \(\frac{R}{M}\) のイメージ: \(\frac{R}{M}\) という値は、その気体に固有の「ID番号」や「背番号」のようなものだとイメージすると良いでしょう。気体定数 \(R\) は全ての理想気体で共通の定数ですが、それをモル質量 \(M\) で割ることで、気体の種類ごとに異なる値になります。例えば、水素(\(M \approx 0.002\) kg/mol)と二酸化炭素(\(M \approx 0.044\) kg/mol)では、この「ID番号」の値は大きく異なります。
- \(\frac{p}{\rho T} = \text{一定}\) のイメージ: この関係は、「圧力 \(p\) を大きくすると、密度 \(\rho\) か温度 \(T\) (あるいは両方)もそれに比例して大きくならなければ、この等式は保てない」ということを意味します。例えば、温度を一定に保ったまま気体を圧縮して圧力を2倍にすると、分子がぎゅっと詰まるので密度も2倍になります。これにより、\(\frac{2p}{2\rho T} = \frac{p}{\rho T}\) となり、関係が保たれる、というように具体的な変化をイメージすると理解が深まります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 物質量の定義式 (\(n = W/M\)):
- 選定理由: (1)で、質量というマクロな量と、化学の基本単位である物質量を結びつけるため。また、(2)で状態方程式を質量ベースの式に書き換えるための準備として必要。
- 適用根拠: モル質量の定義そのものです。
- 理想気体の状態方程式 (\(pV=nRT\)):
- 選定理由: 気体の状態を表す最も基本的な関係式であり、問題全体の出発点となるため。
- 適用根拠: 多数の実験事実から導かれた、理想気体の振る舞いを記述する基本法則です。
- 密度の定義式 (\(\rho = W/V\)):
- 選定理由: (3)で定義を確認し、(4)で状態方程式から体積 \(V\) と質量 \(W\) を消去し、代わりに密度 \(\rho\) を導入するために必要。
- 適用根拠: 密度の定義そのものです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 物質量の導出:
- 戦略: 物質量、質量、モル質量の定義を思い出す。
- フロー: ①質量 \(W\) をモル質量 \(M\) で割ると物質量 \(n\) になる、という定義から \(n = \frac{W}{M}\) を導く。
- (2) 状態方程式の変形:
- 戦略: 状態方程式の \(n\) に(1)の結果を代入する。
- フロー: ① \(pV=nRT\) を書く → ② \(n\) に \(\frac{W}{M}\) を代入し、\(pV = \frac{W}{M}RT\) を得る。
- (3) 密度の定義:
- 戦略: 密度の定義を思い出す。
- フロー: ①密度は質量を体積で割ったもの、という定義から \(\rho = \frac{W}{V}\) を導く。
- (4) 新しい関係式の導出:
- 戦略: (2)の式と(3)の式を連立させ、\(V\) と \(W\) を消去する。
- フロー: ①(3)の式を \(V = \frac{W}{\rho}\) と変形 → ②これを(2)の式に代入し、\(p(\frac{W}{\rho}) = \frac{W}{M}RT\) を得る → ③両辺を \(W\) で割り、\(\frac{p}{\rho} = \frac{RT}{M}\) を得る → ④両辺を \(T\) で割り、\(\frac{p}{\rho T} = \frac{R}{M}\) を得る。
- (5) 保存則の立式:
- 戦略: (4)の結果が、状態変化の前後で不変であることを利用する。
- フロー: ①変化前の状態で \(\frac{p}{\rho T} = \frac{R}{M}\) → ②変化後の状態で \(\frac{p’}{\rho’ T’} = \frac{R}{M}\) → ③両者は等しいので、\(\frac{p}{\rho T} = \frac{p’}{\rho’ T’}\) と結論づける。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の扱いに慣れる: この問題はすべて文字式での計算です。日頃から、具体的な数値を代入する前に、文字式のまま計算を最後まで進める練習をしておくと、見通しが良くなり、計算ミスも減ります。
- 単位による検算: 式変形の各段階で、両辺の単位が一致しているかを確認する習慣をつけましょう。例えば、\(\frac{p}{\rho} = \frac{RT}{M}\) の両辺の単位を考えると、
- 左辺: \(\frac{[\text{N/m}^2]}{[\text{kg/m}^3]} = \frac{[\text{N} \cdot \text{m}]}{[\text{kg}]} = \frac{[\text{J}]}{[\text{kg}]}\)
- 右辺: \(\frac{[\text{J/(mol}\cdot\text{K)}] \cdot [\text{K}]}{[\text{kg/mol}]} = \frac{[\text{J/mol}]}{[\text{kg/mol}]} = \frac{[\text{J}]}{[\text{kg}]}\)
となり、両辺の単位が一致していることが確認できます。これにより、式の形が正しい可能性が高いと判断できます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 導出した式の物理的意味を考える:
- \(\frac{p}{\rho T} = \frac{R}{M}\) という式は、単なる数式の変形結果ではありません。「圧力は密度と絶対温度に比例する」という物理的な関係性を表しています。\(p \propto \rho T\) ということです。この関係が直感的に妥当かどうかを考えてみましょう。
- 温度が一定のとき、気体を圧縮して密度を高くすれば、分子が壁に衝突する頻度が増えるので圧力は高くなるはず(\(p \propto \rho\))。これは妥当です。
- 密度が一定のとき(体積一定で)、気体を加熱して温度を高くすれば、分子の運動エネルギーが増して壁に強く衝突するので圧力は高くなるはず(\(p \propto T\))。これも妥当です。
このように、導出した式が物理的な直感と一致するかを吟味する習慣は、深い理解につながります。
- \(\frac{p}{\rho T} = \frac{R}{M}\) という式は、単なる数式の変形結果ではありません。「圧力は密度と絶対温度に比例する」という物理的な関係性を表しています。\(p \propto \rho T\) ということです。この関係が直感的に妥当かどうかを考えてみましょう。
- 法則の適用範囲を意識する:
- 最後に問題文で「この関係は、熱気球内の空気のような閉じ込めていない気体でも成り立つ」と述べられています。なぜボイル・シャルルの法則ではダメで、この関係式なら良いのかを考えましょう。ボイル・シャルルの法則は \(n=\text{一定}\) が前提ですが、熱気球は空気が膨張すると一部が外に逃げるため \(n\) は一定ではありません。一方、\(\frac{p}{\rho T} = \frac{R}{M}\) は、ある瞬間の、ある場所における状態量の関係を示しており、気体の総量(\(n\)や\(W\))を含んでいません。だからこそ、開放系(閉じ込めていない系)でも適用できるのです。この違いを理解することが、この問題の最も重要な学びの一つです。
197 熱気球
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、熱気球が浮上する原理を、浮力、重力、そして気体の状態変化の法則を組み合わせて解き明かす問題です。力学と熱力学の知識を統合して応用する力が試されます。
- 熱気球の質量: \(m\) [kg] (内部の空気の質量は含まない)
- 熱気球の容積: \(V\) [m³]
- 気球外部の空気の密度: \(\rho_0\) [kg/m³]
- 気球外部の空気の絶対温度: \(T_0\) [K]
- 重力加速度: \(g\) [m/s²]
- (1) 気球にはたらく浮力の大きさ。
- (2) 気球内部の空気を絶対温度 \(T\) [K] に加熱したときの、内部の空気の密度 \(\rho\) と、内部の空気にはたらく重力の大きさ。
- (3) 気球を浮上させるための温度 \(T\) の条件。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「浮力と気体の法則の応用」です。気球内部の空気を加熱することで密度を下げ、その結果生じる浮力と重力の関係から、浮上の条件を導き出します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- アルキメデスの原理(浮力): 物体が流体(この場合は空気)から受ける浮力の大きさは、その物体が押しのけた流体の重さに等しい。
- 気体の状態方程式の応用: 前問で導出した、圧力、密度、温度の関係式 \(\frac{p}{\rho T} = \text{一定}\) を用いて、加熱後の気球内部の空気の密度を求めます。
- 力のつり合い(浮上条件): 物体が浮上するためには、上向きの力(浮力)が下向きの力(重力)の合計を上回る必要があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、アルキメデスの原理の定義に従って、気球が押しのけている外部の空気の重さを計算し、浮力を求めます。
- (2)では、気球内部と外部の空気の関係を考えます。圧力は等しいこと、気体の種類は同じであることから、\(\frac{p}{\rho T} = \text{一定}\) の関係を適用して、加熱後の内部空気の密度 \(\rho\) を求めます。次に、その密度と気球の容積 \(V\) から内部空気の質量を計算し、重力を求めます。
- (3)では、気球全体(気球本体+内部の空気)にはたらく力を考え、「浮力 > 全体の重力」という不等式を立て、(1)と(2)の結果を代入して \(T\) について解きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
気球にはたらく浮力の大きさを求める問題です。浮力の基本法則である「アルキメデスの原理」を正しく適用することが全てです。
アルキメデスの原理によれば、浮力の大きさは「物体が押しのけた流体の重さ」に等しくなります。この問題では、気球が押しのけているのは「外部の空気」です。
この設問における重要なポイント
- 浮力の定義: 浮力 \(F_{\text{浮力}} = \rho_{\text{流体}} V_{\text{物体}} g\) という公式を理解して適用します。
- どの流体か: 浮力は周囲の流体から受ける力です。したがって、密度は「外部の空気の密度 \(\rho_0\)」を用います。
- 押しのけた体積: 気球が空気中に占める体積は、気球の容積 \(V\) です。
具体的な解説と立式
アルキメデスの原理より、浮力の大きさは、気球が押しのけた外部の空気の重さに等しいです。
押しのけた外部の空気の体積は、気球の容積 \(V\) です。
その空気の質量は、(密度)×(体積)で \(\rho_0 V\) となります。
したがって、その重さは(質量)×(重力加速度)で求められます。
$$ F_{\text{浮力}} = (\rho_0 V) g $$
使用した物理公式
- アルキメデスの原理 \(F = \rho V g\)
上記の立式を整理します。
$$ F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g $$
浮力とは、周りの空気が「そこにあってはいけない!」と気球を押し戻そうとする力のことです。その力の大きさは、もし気球がそこになかった場合に、その空間を埋めていたはずの空気の重さと同じになります。外部の空気の密度が \(\rho_0\) なので、体積 \(V\) の分の空気の重さを計算すれば、それが浮力の大きさになります。
気球にはたらく浮力の大きさは \(\rho_0 V g\) [N] です。この浮力は、気球内部の温度に関わらず、外部の空気の密度と気球の容積だけで決まる一定の値であることに注意が必要です。
問(2)
思考の道筋とポイント
気球内部の空気を絶対温度 \(T\) に加熱したときの、内部空気の密度 \(\rho\) とその重力を求める問題です。
まず密度を求めます。気球の内部と外部では、下部が開いているため空気が出入りでき、圧力は等しくなります。また、内部も外部も同じ「空気」なので、モル質量も同じです。この条件から、前問で学んだ関係式 \(\frac{p}{\rho T} = \text{一定}\) が適用できます。
次に、求めた密度 \(\rho\) を使って内部空気の質量を計算し、重力を求めます。
この設問における重要なポイント
- 開放系の条件: 気球は閉じられていないため、内部と外部で圧力は等しい (\(p = p_0\))。
- 気体の状態変化の法則: 内部と外部で気体の種類(空気)が同じなので、\(\frac{p}{\rho T} = \text{一定}\) の関係が成り立つ。
- 重力の計算: 内部空気の質量は(密度 \(\rho\))×(容積 \(V\))で計算し、その重力は質量に \(g\) を掛け合わせることで求めます。
具体的な解説と立式
まず、内部空気の密度 \(\rho\) を求めます。
外部の空気の状態を \((p_0, \rho_0, T_0)\)、加熱後の内部の空気の状態を \((p, \rho, T)\) とします。
気球の内部と外部では圧力が等しいので \(p = p_0\) です。
気体の種類が同じなので、\(\frac{p}{\rho T} = \text{一定}\) の関係が成り立ちます。したがって、
$$ \frac{p_0}{\rho_0 T_0} = \frac{p}{\rho T} $$
ここに \(p=p_0\) を代入すると、
$$ \frac{p_0}{\rho_0 T_0} = \frac{p_0}{\rho T} \quad \cdots ① $$
次に、この密度 \(\rho\) を用いて、内部空気の重力 \(W_{\text{内}}\) を求めます。
内部空気の質量 \(m_{\text{内}}\) は、
$$ m_{\text{内}} = \rho V $$
したがって、その重力 \(W_{\text{内}}\) は、
$$ W_{\text{内}} = m_{\text{内}} g = \rho V g \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 気体の状態の関係式 \(\frac{p}{\rho T} = \text{一定}\)
- 質量と密度の関係 \(m = \rho V\)
- 重力の式 \(W = mg\)
まず、式①を \(\rho\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{\rho_0 T_0} &= \frac{1}{\rho T} \\[2.0ex]\rho T &= \rho_0 T_0 \\[2.0ex]\rho &= \frac{T_0}{T} \rho_0
\end{aligned}
$$
次に、この \(\rho\) を式②に代入して、内部空気の重力 \(W_{\text{内}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{内}} &= \left( \frac{T_0}{T} \rho_0 \right) V g \\[2.0ex]&= \frac{\rho_0 T_0 V g}{T}
\end{aligned}
$$
内部の空気の密度を求めるには、外の空気と中の空気を比べます。圧力は同じなので、密度と絶対温度は反比例の関係になります。つまり、温度を高くすると、その分だけ密度は軽くなります。この関係から、加熱後の密度を計算します。
次に、その軽くなった密度に気球の容積を掛けて内部空気の質量を出し、最後に重力加速度を掛けて重さを計算します。
内部の空気の密度は \(\rho = \displaystyle\frac{T_0}{T}\rho_0\) [kg/m³]、その重力は \(\displaystyle\frac{\rho_0 T_0 V g}{T}\) [N] です。
\(T > T_0\) のとき、\(\rho < \rho_0\) となり、内部の空気が外部の空気より軽くなる(密度が小さくなる)ことが式からわかります。これが熱気球の基本原理であり、物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
気球を浮上させるための温度 \(T\) の条件を求める問題です。
物体が浮上するということは、上向きの力の合力が下向きの力の合力を上回るということです。この問題では、気球全体(気球本体+内部の空気)を一つの物体とみなし、それにはたらく力を考えます。
この設問における重要なポイント
- 力の図示: 気球全体にはたらく力は、上向きに「浮力」、下向きに「気球本体の重力」と「内部の空気の重力」の2つです。
- 浮上条件: 浮上するためには、力のつり合いが破れ、上向きの力が勝る必要があります。すなわち、「浮力 > 全体の重力」という不等式を立てます。
- 不等式の計算: (1)と(2)で求めた各力の大きさを代入し、\(T\) についての不等式を解きます。
具体的な解説と立式
気球が浮上するためには、気球全体にはたらく上向きの浮力が、気球全体の重力(気球本体の重力+内部の空気の重力)よりも大きくなる必要があります。
- 浮力: \(F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g\) ((1)の結果)
- 気球本体の重力: \(mg\)
- 内部の空気の重力: \(W_{\text{内}} = \displaystyle\frac{\rho_0 T_0 V g}{T}\) ((2)の結果)
したがって、浮上条件は以下の不等式で表されます。
$$ \rho_0 V g > mg + \frac{\rho_0 T_0 V g}{T} $$
使用した物理公式
- 力のつり合い(浮上条件)
上記で立てた不等式を \(T\) について解きます。
$$ \rho_0 V g > mg + \frac{\rho_0 T_0 V g}{T} $$
まず、\(T\) を含む項を左辺に、それ以外を右辺に移項します。
$$ \frac{\rho_0 T_0 V g}{T} < \rho_0 V g – mg $$
右辺を整理します。
$$ \frac{\rho_0 T_0 V g}{T} < (\rho_0 V – m)g $$ 両辺の \(g\) を消去します。(\(g>0\) なので不等号の向きは変わらない)
$$ \frac{\rho_0 T_0 V}{T} < \rho_0 V – m $$ ここで、気球が浮上するためには、浮力が気球本体の重力より大きい、つまり \(\rho_0 V g > mg\) である必要があります。したがって、\(\rho_0 V – m > 0\) です。
この正の数で両辺を割り、\(T\) を両辺に掛けることで \(T\) について解きます。
$$ \frac{\rho_0 T_0 V}{\rho_0 V – m} < T $$ したがって、求める条件は $$ T > \frac{\rho_0 V}{\rho_0 V – m} T_0 $$
気球が空に浮かぶためには、気球を上に持ち上げる力(浮力)が、気球全体の重さ(気球そのものの重さ+中の空気の重さ)よりも大きくなる必要があります。この「浮力 > 全体の重さ」という関係を数式にし、(1)と(2)で求めたそれぞれの力の大きさを代入します。そして、この不等式が成り立つためには、内部の空気の温度 \(T\) がどれくらい高くなければならないかを計算します。
気球を浮上させるための温度条件は \(T > \displaystyle\frac{\rho_0 V}{\rho_0 V – m} T_0\) です。
右辺の \(\frac{\rho_0 V}{\rho_0 V – m}\) は、\(\rho_0 V – m > 0\) かつ \(\rho_0 V > \rho_0 V – m\) であることから、1より大きい値です。したがって、\(T > T_0\) という、外部の空気より内部を高温にする必要がある、という物理的な直感と一致する結果が得られました。また、気球本体の質量 \(m\) が大きいほど、分母が小さくなり、より高い温度 \(T\) が必要になることも式から読み取れ、これも妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- アルキメデスの原理(浮力):
- 核心: 熱気球がなぜ浮くのかを説明する根源的な法則です。浮力の大きさは「気球が押しのけた外部の空気の重さ」に等しい、すなわち \(F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g\) となります。この浮力は気球内部の状態によらず一定であることがポイントです。
- 理解のポイント: 浮力を計算する際は、必ず「周囲の流体の密度」(\(\rho_0\)) を使うことを徹底しましょう。
- 気体の状態法則と力のつり合いの融合:
- 核心: この問題は、単なる力学や熱力学の問題ではありません。気球内部の空気を加熱することで密度が下がり(熱力学)、その結果、内部空気の重さが軽くなり(力学)、最終的に浮力が重力を上回る(力学)という、2つの分野が連動した現象です。
- 理解のポイント: (2)で気体の法則を使って内部空気の重さを温度 \(T\) の関数として求め、(3)でその結果を力のつり合い(浮上条件)の式に代入するという、分野をまたいだ情報の連携が解法の鍵となります。特に、開放系で適用できる \(\frac{p}{\rho T} = \text{一定}\) という関係を使いこなすことが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 水中での物体の浮き沈み: 水中にある物体(例えば潜水艦や、氷と水の混合物)の浮き沈みを考える問題。周囲の流体が空気から水に変わるだけで、浮力と重力の関係を考えるという本質は全く同じです。
- 密度が異なる液体の混合: 混ざり合わない2種類の液体(水と油など)に物体を入れたときの力のつり合い。物体の上部と下部で異なる液体から浮力を受ける場合など、より複雑な浮力の計算に応用できます。
- ヘリウムガス入り風船: 熱気球の代わりに、空気より元々密度の小さいヘリウムガスを詰めた風船の問題。加熱は不要ですが、浮力と、風船自体の重さ+内部のヘリウムガスの重さとのつり合いを考える点は共通しています。
- 初見の問題での着眼点:
- 物体にはたらく力をすべて図示する: まずはフリーボディダイアグラムを描くことが鉄則です。上向きの力(浮力)と下向きの力(重力)を漏れなく矢印で図示します。
- 重力を分解する: 「全体の重力」を、「容器・物体の重力」と「内部の流体(気体や液体)の重力」に分けて考える癖をつけましょう。特に内部の流体の重さは、状態によって変化する可能性があるため、独立して扱うことが重要です。
- 浮上・沈降・静止の条件を明確にする:
- 浮上: 浮力 > 重力
- 静止(浮遊): 浮力 = 重力
- 沈降: 浮力 < 重力
問題で問われている状況に応じて、正しい式(等式か不等式か)を立てることが不可欠です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 浮力の計算における密度の間違い:
- 誤解: 浮力を計算するときに、物体内部の流体の密度(この問題では \(\rho\))を使ってしまう。\(F = \rho V g\) と計算してしまうミスが非常に多いです。
- 対策: 浮力は「周囲の流体」が物体を押しのける力です。したがって、必ず「周囲の流体の密度」(この問題では \(\rho_0\))を使う、と繰り返し確認しましょう。
- 重力の計算における質量の漏れ:
- 誤解: 気球全体の重力を考える際に、気球本体の質量 \(m\) か、内部の空気の質量 \(\rho V\) のどちらか一方を忘れてしまう。
- 対策: 「気球全体」という言葉を意識し、その構成要素である「気球の皮(質量 \(m\))」と「中の空気(質量 \(\rho V\))」の両方を足し合わせることを忘れないようにしましょう。
- 不等式の計算ミス:
- 誤解: (3)の不等式 \(\rho_0 V g > mg + \frac{\rho_0 T_0 V g}{T}\) を変形する際に、負の数で割ってしまい不等号の向きを逆にし忘れる、などの計算ミス。
- 対策: 不等式を解く際は、両辺に掛けたり割ったりする数が正か負かを常に確認する習慣をつけましょう。この問題では、浮上条件から \(\rho_0 V – m > 0\) であることを確認してから計算を進めるのが安全です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 力の大きさの比較図: 気球にはたらく力を、矢印の長さで表現する図が有効です。上向きの浮力の矢印(長さは一定)に対して、下向きの重力の矢印が2本(気球本体の重力:一定、内部空気の重力:温度 \(T\) で変化)ある様子を描きます。内部の空気を加熱すると、内部空気の重力の矢印が短くなっていき、やがて浮力の矢印の長さが下向きの矢印2本の合計より長くなった瞬間に浮上する、というイメージを持つと現象を直感的に理解できます。
- 分子レベルのイメージ: なぜ加熱すると密度が下がるのかを分子レベルでイメージします。加熱すると、気球内部の空気分子の運動が激しくなります。気球は下部が開いているため、激しくなった分子の一部は外に逃げ出します。その結果、同じ体積 \(V\) の中に存在する分子の数が減るため、質量が減り、密度が小さくなる、と理解できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 浮力の公式 (\(F = \rho_0 V g\)):
- 選定理由: (1)で、空気に囲まれた物体が受ける上向きの力を定量的に計算するため。
- 適用根拠: アルキメデスの原理という、流体中の物体にはたらく力に関する普遍的な法則です。
- 気体の関係式 (\(\frac{p}{\rho T} = \text{一定}\)):
- 選定理由: (2)で、加熱によって変化する内部空気の状態(特に密度)を、既知の外部空気の状態と関連付けて求めるため。物質量 \(n\) が一定でない開放系であるため、ボイル・シャルルの法則ではなく、この式を選ぶ必要があります。
- 適用根拠: 理想気体の状態方程式を変形して得られる関係式で、気体の種類が同じであれば、圧力・密度・温度の間に常に成り立つ法則です。
- 浮上条件の不等式 (浮力 > 重力):
- 選定理由: (3)で、「浮上する」という運動状態の変化を引き起こす力の条件を数式で表現するため。
- 適用根拠: ニュートンの運動の第二法則 \(ma = F_{\text{合力}}\) において、上向きの加速度 \(a>0\) が生じる条件、すなわち上向きの合力 \(F_{\text{合力}} > 0\) を適用しています。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 浮力の計算:
- 戦略: アルキメデスの原理を適用する。
- フロー: ①浮力は押しのけた流体の重さに等しいことを確認 → ②押しのけた流体は外部の空気なので、その密度 \(\rho_0\) と気球の容積 \(V\) を使って、質量 \(\rho_0 V\) を計算 → ③重力加速度 \(g\) を掛けて、浮力 \(\rho_0 V g\) を求める。
- (2) 内部空気の密度と重力の計算:
- 戦略: 開放系での気体の状態変化の法則を適用し、密度を求める。その後、重力を計算する。
- フロー: ①内部と外部で圧力が等しく、気体の種類も同じであることから、\(\frac{p}{\rho T} = \text{一定}\) を適用 → ②外部空気 \((p_0, \rho_0, T_0)\) と内部空気 \((p_0, \rho, T)\) の関係から、\(\rho = \frac{T_0}{T}\rho_0\) を導出 → ③内部空気の質量 \(\rho V\) を計算し、重力 \(\rho V g\) を \(T\) の関数として求める。
- (3) 浮上条件の計算:
- 戦略: 気球全体にはたらく力のつり合いを考え、浮上条件の不等式を立てる。
- フロー: ①気球全体を一つの系とみなし、上向きの力(浮力)と下向きの力(気球本体の重力+内部空気の重力)をリストアップ → ②「浮力 > 全体の重力」という不等式を立てる → ③(1), (2)の結果を代入し、\(T\) について解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の添え字を明確に: 外部空気の密度 \(\rho_0\) と内部空気の密度 \(\rho\) のように、状態が異なる物理量には添え字をつけて明確に区別しましょう。これにより、計算途中でどちらの密度を使うべきか混乱するのを防げます。
- 不等式の変形は慎重に: (3)の計算では、最終的に \(T\) について解くために、分母にある \(T\) を分子に持ってくる操作が必要です。このとき、両辺に \(T\) や \((\rho_0 V – m)\) を掛けることになりますが、これらの量が正であることを確認してから操作を行うことで、不等号の向きを間違えるミスを防げます。
- 最終結果の吟味: 得られた条件 \(T > \frac{\rho_0 V}{\rho_0 V – m} T_0\) について、分母の \(\rho_0 V – m\) は、浮力が気球本体の重力より大きいことを意味する \(\rho_0 V g > mg\) から、正の値でなければならないことがわかります。もし計算結果の分母が負になるような形になったら、どこかで計算ミスをしている可能性が高いと判断できます。
198 気体分子の運動
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、多数の分子のミクロな運動から、気体の圧力というマクロな物理量を導出する「気体分子運動論」の基本モデルを扱います。段階的な設問を通じて、圧力の正体が分子の壁への衝突による力積の集まりであることを理解することが目的です。
- 容器: 半径 \(r\) のなめらかな球形容器
- 分子の数: \(N\) 個
- 分子の質量: \(m\)
- 分子の速さ: \(v\) (全分子で共通)
- 衝突: 分子どうしの衝突は無視、壁とは弾性衝突
- (1) 1回の衝突における、1個の分子の運動量の変化の大きさ。
- (2) 1個の分子が壁に衝突してから次に衝突するまでに進む距離。
- (3) 1個の分子が単位時間あたりに壁に衝突する回数。
- (4) 1個の分子が単位時間あたりに壁に及ぼす力積の大きさの総和。
- (5) \(N\)個の分子が単位時間あたりに壁に及ぼす力積の大きさの総和。
- (6) 容器の壁が受ける圧力。
- (7) (6)の圧力を、気体の体積 \(V\) などを用いて表した式。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「気体分子運動論による圧力の導出」です。一個一個の分子の壁への衝突というミクロな現象を積み重ねることで、我々が日常的に感じる圧力というマクロな量を理論的に説明するプロセスを追体験します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量と力積: 「力積は運動量の変化に等しい」という関係が、分子の衝突と壁が受ける力を結びつけます。
- 弾性衝突: 運動エネルギーが保存される衝突です。壁との衝突では、壁に垂直な速度成分の向きだけが反転し、大きさは変わりません。
- 平均の力: 多数の衝突が断続的に起こる場合、単位時間あたりの力積の総和が、壁にはたらく平均の力と等しくなります。
- 圧力の定義: 圧力は、単位面積あたりにはたらく力の大きさです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
まず(1)〜(4)で、1個の分子の運動に着目します。1回の衝突による運動量変化を計算し、次に単位時間あたりの衝突回数を求めます。この2つを掛け合わせることで、1個の分子が壁に及ぼす平均の力を導出します。次に(5)で、これを\(N\)個の分子に拡張します。(6), (7)では、壁が受ける力の総和を壁の面積で割り、圧力を求め、最終的に体積を用いた普遍的な形にまとめます。
問(1)
思考の道筋とポイント
1個の分子が壁に衝突する際の、運動量の変化の大きさを求める問題です。運動量はベクトル量であるため、衝突の前後でベクトルがどう変化するかを考えます。弾性衝突では、壁に平行な速度成分は変化せず、壁に垂直な速度成分だけが向きを反転させます。
この設問における重要なポイント
- 運動量の分解: 分子の運動量ベクトル \(m\vec{v}\) を、壁に「垂直な成分」と「平行な成分」に分解します。
- 弾性衝突の性質: 壁に垂直な成分の向きのみが逆になり、大きさは変わりません。平行な成分は全く変化しません。
- 変化量の計算: 運動量の変化は「衝突後の運動量ベクトル」から「衝突前の運動量ベクトル」を引くことで求めます。
具体的な解説と立式
衝突前の分子の速度を \(\vec{v}\) とします。この速度ベクトルを、衝突点での壁の接線に平行な成分 \(\vec{v}_{\parallel}\) と、垂直な成分 \(\vec{v}_{\perp}\) に分解します。
図より、それぞれの大きさは \(v_{\parallel} = v \sin\theta\)、\(v_{\perp} = v \cos\theta\) です。
衝突前の運動量の各成分は、\(mv \sin\theta\) と \(mv \cos\theta\) です。
弾性衝突後、速度の平行成分は変わらず、垂直成分は向きだけが反転するので、衝突後の速度の垂直成分の大きさは \(v \cos\theta\) のままですが、向きは逆になります。
したがって、運動量の変化が生じるのは垂直成分のみです。
衝突前の垂直成分: \(mv \cos\theta\)
衝突後の垂直成分: \(-mv \cos\theta\)
運動量の変化 \(\Delta p\) は、
$$ \Delta p = (\text{衝突後の運動量}) – (\text{衝突前の運動量}) = (-mv \cos\theta) – (mv \cos\theta) = -2mv \cos\theta $$
問題で問われているのは変化の「大きさ」なので、この絶対値をとります。
$$ |\Delta p| = 2mv \cos\theta $$
使用した物理公式
- 運動量の定義 \(p=mv\)
- 弾性衝突の性質
上記の立式の通りです。
ボールを壁に斜めにぶつけると、壁に沿って進む速さは変わらず、壁に近づいたり遠ざかったりする速さの向きだけが逆になります。運動量の変化は、この「向きが逆になった」部分だけを考えればよく、その大きさは近づくときの運動量の2倍になります。
分子の運動量の変化の大きさは \(2mv \cos\theta\) です。この変化は、壁に対して垂直な向きに起こります。
問(2)
思考の道筋とポイント
分子が壁に衝突してから、次に壁に衝突するまでに進む距離ABを求める、幾何学の問題です。
図において、衝突点A、次の衝突点B、容器の中心Oを結んでできる三角形OABに着目します。これはOA=OB=\(r\)の二等辺三角形です。
この設問における重要なポイント
- 図形の対称性: 入射角と反射角が等しいことから、三角形OABはOA=OB=\(r\)の二等辺三角形になります。
- 三角比の利用: Oから弦ABに垂線を下ろし、その足をDとすると、直角三角形OADができます。この三角形に三角比を適用します。
具体的な解説と立式
三角形OADにおいて、斜辺はOA=\(r\)、\(\angle AOD\) の向かいの角が \(\angle OAD = \theta\) なので、\(\angle AOD = 90^\circ – \theta\) となります。
あるいは、OAが半径、ABが接線に垂直な線なので、\(\angle OAB\) の角度を考えます。半径と衝突点での法線は同じ直線上にあるため、\(\angle OAB = \theta\) となります。
直角三角形OADにおいて、
$$ AD = OA \cos\theta = r \cos\theta $$
求める距離ABはADの2倍なので、
$$ AB = 2 \times AD = 2r \cos\theta $$
使用した物理公式
- 三角比
上記の立式の通りです。
円の中心Oと、衝突点A、次の衝突点Bを結ぶと二等辺三角形ができます。この三角形の頂点Oから底辺ABに垂線を引くと、合同な2つの直角三角形に分かれます。この直角三角形の辺の長さを三角比を使って計算し、2倍することでABの長さを求めます。
次に壁に衝突するまでに進む距離は \(2r \cos\theta\) です。
問(3)
思考の道筋とポイント
1個の分子が、単位時間(1秒間)あたりに壁に何回衝突するかを求める問題です。
分子は速さ \(v\) で運動しており、1回の衝突あたり \(2r \cos\theta\) の距離を進むことが(2)でわかりました。単位時間に進む距離(速さ)を、1回あたりに進む距離で割れば、単位時間あたりの回数が求まります。
この設問における重要なポイント
- 速さ・距離・時間の関係: (単位時間あたりの回数) = (単位時間に進む距離) / (1回あたりに進む距離) という関係を理解します。
具体的な解説と立式
単位時間あたりに分子が進む距離は \(v\) です。
1回壁に衝突するごとに進む距離は \(2r \cos\theta\) です。
したがって、単位時間あたりの衝突回数を \(n\) とすると、
$$ n = \frac{v}{2r \cos\theta} $$
使用した物理公式
- 速さ、距離、回数の関係
上記の立式の通りです。
分子は1秒間に \(v\) メートル進みます。そして、1回壁にぶつかるためには \(2r \cos\theta\) メートル進む必要があります。では、1秒間に何回ぶつかることができるか、という割り算の問題です。
単位時間あたりの衝突回数は \(n = \displaystyle\frac{v}{2r \cos\theta}\) 回です。
問(4)
思考の道筋とポイント
1個の分子が、単位時間あたりに壁に及ぼす力積の大きさの総和を求めます。これは、壁が分子から受ける「平均の力」の大きさに等しくなります。
これは、「1回の衝突で壁が受ける力積の大きさ」と「単位時間あたりの衝突回数」の積で計算できます。
この設問における重要なポイント
- 運動量と力積の関係: 作用・反作用の法則より、分子が壁に及ぼす力積の大きさは、壁が分子に及ぼす力積の大きさに等しく、それは分子の運動量の変化の大きさ \(2mv \cos\theta\) に等しいです。
- 平均の力の計算: (平均の力) = (1回あたりの力積) × (単位時間あたりの衝突回数)
具体的な解説と立式
1回の衝突で分子が壁に及ぼす力積の大きさ \(I_1\) は、(1)で求めた分子の運動量の変化の大きさに等しいので、
$$ I_1 = 2mv \cos\theta $$
単位時間あたりの衝突回数 \(n\) は、(3)で求めた通り、
$$ n = \frac{v}{2r \cos\theta} $$
したがって、単位時間あたりに壁に及ぼす力積の総和 \(I_{\text{総和}}\) は、
$$ I_{\text{総和}} = I_1 \times n $$
使用した物理公式
- 力積と運動量の関係
- 平均の力
上記で立てた式に、具体的な式を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
I_{\text{総和}} &= (2mv \cos\theta) \times \left( \frac{v}{2r \cos\theta} \right) \\[2.0ex]&= \frac{2mv^2 \cos\theta}{2r \cos\theta} \\[2.0ex]&= \frac{mv^2}{r}
\end{aligned}
$$
壁が受ける「平均的な力」を求めます。これは、1回ごとの衝突で受ける衝撃の大きさに、1秒間に何回その衝撃を受けるかを掛け合わせることで計算できます。(1)で求めた衝撃の大きさと、(3)で求めた衝撃の回数を掛け算します。
1分子が単位時間に壁に及ぼす力積の総和は \(\displaystyle\frac{mv^2}{r}\) です。この結果、入射角 \(\theta\) が消去されました。これは、\(\theta\) が小さい(正面に近い衝突)ほど1回の力積は大きいが衝突回数は少なくなり、\(\theta\) が大きい(かすめるような衝突)ほど1回の力積は小さいが衝突回数は多くなり、結果的に角度によらず一定の力積を及ぼすことを意味しています。これは非常に重要な結果です。
問(5)
思考の道筋とポイント
\(N\)個の分子が単位時間あたりに壁に及ぼす力積の大きさの総和を求めます。
問題の仮定より、分子どうしの衝突は考えず、各分子は独立して運動しています。したがって、\(N\)個の分子が及ぼす力積の総和は、1個の分子が及ぼす力積の総和の\(N\)倍になります。
この設問における重要なポイント
- 分子の独立性: 分子間の相互作用を無視できるという仮定から、単純な足し算(N倍)が可能です。
具体的な解説と立式
1個の分子が単位時間に及ぼす力積の総和は(4)より \(\displaystyle\frac{mv^2}{r}\) です。
\(N\)個の分子が及ぼす力積の総和 \(I_{N}\) は、この\(N\)倍なので、
$$ I_{N} = N \times \frac{mv^2}{r} = \frac{Nmv^2}{r} $$
使用した物理公式
- 重ね合わせの原理
上記の立式の通りです。
1個の分子が壁に及ぼす平均の力がわかったので、\(N\)個の分子が及ぼす平均の力は、単純にそれを\(N\)倍すれば求まります。
\(N\)個の分子が単位時間に壁に及ぼす力積の総和は \(\displaystyle\frac{Nmv^2}{r}\) です。これは、\(N\)個の分子全体が壁に及ぼす平均の力 \(F\) の大きさに等しいです。
問(6)
思考の道筋とポイント
容器の壁が受ける圧力を求めます。圧力は、単位面積あたりにはたらく力の大きさです。
(5)で求めた、壁全体が受ける平均の力 \(F\) を、容器の壁の全面積 \(S\) で割ることで圧力が求まります。
この設問における重要なポイント
- 圧力の定義: \(p = \displaystyle\frac{F}{S}\)
- 球の表面積: 半径 \(r\) の球の表面積の公式は \(S = 4\pi r^2\) です。
具体的な解説と立式
壁が受ける平均の力 \(F\) は、(5)で求めた単位時間あたりの力積の総和に等しいので、
$$ F = \frac{Nmv^2}{r} $$
容器(球)の表面積 \(S\) は、
$$ S = 4\pi r^2 $$
したがって、圧力 \(p\) は、
$$ p = \frac{F}{S} = \frac{\displaystyle\frac{Nmv^2}{r}}{4\pi r^2} $$
使用した物理公式
- 圧力の定義 \(p=F/S\)
- 球の表面積の公式
上記で立てた式を整理します。
$$
\begin{aligned}
p &= \frac{Nmv^2}{r} \times \frac{1}{4\pi r^2} \\[2.0ex]&= \frac{Nmv^2}{4\pi r^3}
\end{aligned}
$$
(5)で壁全体が受ける力の合計がわかりました。圧力とは、その力を壁の面積全体でならして、1平方メートルあたりにどれくらいの力がかかっているかを表す量です。力の合計を、球の表面積で割り算します。
圧力は \(p = \displaystyle\frac{Nmv^2}{4\pi r^3}\) です。
問(7)
思考の道筋とポイント
(6)で求めた圧力の式を、容器の半径 \(r\) ではなく、気体の体積 \(V\) を用いて表す問題です。
半径 \(r\) の球の体積の公式を使い、(6)の式から \(r\) を消去します。
この設問における重要なポイント
- 球の体積: 半径 \(r\) の球の体積の公式は \(V = \displaystyle\frac{4}{3}\pi r^3\) です。
具体的な解説と立式
(6)で求めた圧力の式は、
$$ p = \frac{Nmv^2}{4\pi r^3} \quad \cdots ① $$
球の体積 \(V\) の公式は、
$$ V = \frac{4}{3}\pi r^3 $$
この体積の公式を、式①の分母の形 \(4\pi r^3\) に合わせて変形します。
$$ 3V = 4\pi r^3 \quad \cdots ② $$
式②を式①に代入します。
使用した物理公式
- 球の体積の公式
式①に式②を代入すると、
$$ p = \frac{Nmv^2}{3V} $$
(6)で求めた圧力の式は、容器の半径 \(r\) を使ったものでした。これを、物理的により本質的な量である体積 \(V\) を使った式に書き換える作業です。球の体積と半径の関係式を使って、文字を置き換えます。
思考の道筋とポイント
この問題で導かれた \(p = \frac{Nmv^2}{3V}\) という関係は、実は容器の形状によらない普遍的な結果です。それを確かめるために、より一般的な気体分子運動論で用いられる「一辺 \(L\) の立方体容器」モデルで圧力を計算してみます。
この設問における重要なポイント
- 速度の成分分解: 分子の速度 \(\vec{v}\) をx, y, zの3成分 \((v_x, v_y, v_z)\) に分解して考えます。\(v^2 = v_x^2 + v_y^2 + v_z^2\) です。
- 壁への衝突: x軸に垂直な壁との衝突では、\(v_x\) 成分のみが反転します。
- 速度の等方性: 多数の分子がランダムに運動しているため、平均的にはどの方向の運動も平等と考え、\(\overline{v_x^2} = \overline{v_y^2} = \overline{v_z^2}\) と仮定します。これにより \(\overline{v_x^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2}\) が導かれます。
具体的な解説と立式
一辺 \(L\) の立方体容器を考え、1個の分子がx軸に垂直な一方の壁(面積 \(L^2\))に及ぼす圧力を考えます。
1. 1回の衝突での運動量変化: 速度のx成分を \(v_x\) とすると、壁との弾性衝突で運動量のx成分は \(mv_x\) から \(-mv_x\) に変化します。変化の大きさは \(2mv_x\) です。
2. 衝突の時間間隔: 分子が壁に衝突してから、反対側の壁にぶつかって戻ってくるまでの距離は \(2L\) です。かかる時間は \(\Delta t = \frac{2L}{v_x}\) です。
3. 壁が受ける平均の力: 1個の分子から壁が受ける平均の力 \(f_x\) は、単位時間あたりの運動量変化に等しいので、
$$ f_x = \frac{2mv_x}{\Delta t} = \frac{2mv_x}{2L/v_x} = \frac{mv_x^2}{L} $$
4. N個の分子による力: \(N\)個の分子が壁に及ぼす力の合計 \(F_x\) は、各分子の力の和です。分子ごとに \(v_x\) は異なるので、その2乗の平均値 \(\overline{v_x^2}\) を用いて、
$$ F_x = N \times (\text{1分子あたりの平均の力}) = N \frac{m\overline{v_x^2}}{L} $$
5. 圧力の計算: 圧力 \(p\) は \(F_x\) を壁の面積 \(L^2\) で割って、
$$ p = \frac{F_x}{L^2} = \frac{Nm\overline{v_x^2}}{L^3} $$
ここで \(L^3\) は容器の体積 \(V\) なので、\(p = \frac{Nm\overline{v_x^2}}{V}\) となります。
6. 等方性の適用: 速度の等方性から \(\overline{v_x^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2}\) を代入します。
$$ p = \frac{Nm(\frac{1}{3}\overline{v^2})}{V} = \frac{Nm\overline{v^2}}{3V} $$
この問題では、全分子の速さが同じ \(v\) なので、速さの2乗平均 \(\overline{v^2}\) は \(v^2\) に等しくなります。
$$ p = \frac{Nmv^2}{3V} $$
これは球形容器モデルで得られた結果と完全に一致します。
圧力は \(p = \displaystyle\frac{Nmv^2}{3V}\) と表せます。この式は \(pV = \frac{1}{3}Nmv^2\) とも書け、気体の圧力と体積の積が、内部の分子の運動エネルギーの総和(\(E_k = \frac{1}{2}Nmv^2\))と比例関係(\(pV = \frac{2}{3}E_k\))にあることを示す、気体分子運動論の根幹をなす重要な結果です。また、この関係は容器の形状によらない普遍的なものであることも、別解の考察からわかります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力積と運動量の関係:
- 核心: 気体の圧力が、無数の分子が壁に衝突することで生じる、という現象の根幹を結びつける法則です。1回の衝突で分子が壁に及ぼす力積は、分子の運動量の変化に等しい(作用・反作用の法則)。このミクロな力積を時間的・空間的に平均化することで、マクロな圧力という量に繋がっていきます。
- 理解のポイント: (1)で運動量変化を求め、(4)で「力積=運動量変化」を使い、(6)で「圧力=単位面積あたりの力」を計算するという流れは、この法則が問題全体を貫いていることを示しています。
- 平均の力という考え方:
- 核心: 分子の衝突は断続的で、個々の力はパルス状ですが、無数の分子がひっきりなしに衝突するため、壁は時間的に平均化された一定の力を受け続けます。この「平均の力」は「単位時間あたりの力積の総和」に等しい、という考え方が、断続的な衝突から定常的な力を導出するための鍵となります。
- 理解のポイント: (4)の計算「(1回あたりの力積) × (単位時間あたりの衝突回数)」は、まさにこの平均の力を求めるための計算です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 立方体容器モデル: この問題は球形容器でしたが、教科書や入試で最も頻出なのは一辺 \(L\) の立方体容器モデルです。別解で示したように、速度をx, y, z成分に分解して考えるアプローチは必須のテクニックです。
- 分子の速度分布: この問題では全分子の速さが \(v\) で一定でしたが、実際の気体では分子の速さは様々です(マクスウェル分布)。その場合、\(v^2\) の部分が「速度の2乗平均 \(\overline{v^2}\)」に置き換わります。本質的な式構造は変わらないため、この問題の解法はそのまま応用できます。
- 内部エネルギーとの関係: 導出した \(pV = \frac{1}{3}Nmv^2\) という式と、理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を組み合わせることで、気体の内部エネルギー \(U = \frac{1}{2}N_A m \overline{v^2} \times n = \frac{3}{2}nRT\) という非常に重要な関係を導くことができます。この問題はその一歩手前の段階にあります。
- 初見の問題での着眼点:
- 1個の分子の運動から始める: まずは多数の分子ではなく、1個の分子の運動に集中します。
- 1回の衝突を分析する: 1回の衝突で何が変化するのか(運動量)、何が変化しないのかを明確にします。
- 時間平均を考える: 次に、単位時間あたりに何が起こるか(衝突回数、力積の総和)を考え、平均の力を求めます。
- 全体に拡張する: 最後に、1個の分子の結果を \(N\) 個の分子に拡張し、空間平均(圧力)を考えます。この「1個→時間平均→全体→空間平均」という思考の流れが定石です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動量変化の計算ミス:
- 誤解: 運動量の変化を、衝突前後の速さの差 \(mv – mv = 0\) と考えてしまう。あるいは、ベクトルの引き算を間違え、\(mv \cos\theta – (-mv \cos\theta)\) を \(0\) や \(mv \cos\theta\) と計算してしまう。
- 対策: 運動量はベクトル量であることを常に意識しましょう。図を描き、衝突前後の運動量ベクトルを矢印で示し、「後のベクトル – 前のベクトル」のベクトル作図を行うと間違いが減ります。
- 衝突回数の計算ミス:
- 誤解: 単位時間あたりの衝突回数を計算する際に、進む距離を \(v\) ではなく、壁に垂直な速度成分 \(v \cos\theta\) で計算しようとして混乱する。
- 対策: 分子は速さ \(v\) で「実際に」進んでいます。1回の衝突サイクルで進む「実際の距離」が \(2r \cos\theta\) なので、単純に(速さ)÷(1サイクルあたりの距離)で回数を計算するのが最も明快です。
- 圧力計算での面積の間違い:
- 誤解: 球形容器の表面積を \( \pi r^2 \) や \( 2\pi r^2 \) など、円や半球の面積と混同する。
- 対策: 基本的な図形の面積・体積の公式(球の表面積 \(4\pi r^2\)、体積 \(\frac{4}{3}\pi r^3\))は正確に覚えておきましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 運動量ベクトルの図示: (1)を解く際に、衝突点での壁の法線と接線を描き、衝突前後の運動量ベクトルを成分分解した図を描くことが極めて有効です。変化する成分(垂直成分)と変化しない成分(平行成分)が一目瞭然となり、計算ミスを防ぎます。
- \(\theta\) が消えることの物理的イメージ: (4)で力積の総和を計算すると \(\theta\) が消えるのは、このモデルの巧妙な点です。これは「正面衝突(\(\theta \approx 0\))は、1回の衝撃は強いが、なかなか次の衝突が起こらない」「かすめるような衝突(\(\theta \approx 90^\circ\))は、1回の衝撃は弱いが、すぐに次の衝突が起こる」という2つの効果が相殺しあい、結果的にどの角度の分子も壁に及ぼす平均的な影響は同じになる、という美しい物理的描像を反映しています。
- ミクロとマクロの架け橋: この一連の問題は、目に見えない分子(ミクロ)の運動が、我々が測定できる圧力(マクロ)という現象をどのように生み出すかの物語です。各設問がその物語のどの部分に対応しているのかを意識すると、物理現象の階層構造を深く理解できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量の変化 (\(\Delta \vec{p}\)):
- 選定理由: (1)で、壁との衝突という「力積」が関わる現象の基本量を計算するため。力積そのものを求めるのは難しいため、結果である運動量の変化からアプローチします。
- 適用根拠: 運動量の定義 \( \vec{p} = m\vec{v} \) に基づきます。
- 平均の力 (\(F = I/\Delta t\)):
- 選定理由: (4)で、断続的な力積から、時間平均された力を導出するため。この問題では、単位時間あたり(\(\Delta t = 1\))の力積の総和を求めることで、平均の力 \(F\) を計算しています。
- 適用根拠: 力積の定義 \(I = F \Delta t\) を変形したものです。
- 圧力の定義 (\(p = F/S\)):
- 選定理由: (6)で、壁全体が受ける力 \(F\) を、物理的に意味のある示強性変数(物質の量によらない変数)である圧力 \(p\) に変換するため。
- 適用根拠: 圧力の定義そのものです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 単一分子・単一衝突の分析 (1)-(2):
- 戦略: まずは最も単純な要素である「1個の分子の1回の衝突」を分析する。
- フロー: ①運動量を壁の垂直・平行成分に分解し、垂直成分の変化量 \(2mv \cos\theta\) を計算(1)。②幾何学的な考察から、衝突間の移動距離 \(2r \cos\theta\) を計算(2)。
- 単一分子・時間平均の分析 (3)-(4):
- 戦略: 1個の分子が時間にわたって壁に及ぼす平均的な影響を計算する。
- フロー: ①単位時間あたりの衝突回数を「速さ÷距離」で計算(3)。②「1回あたりの力積×単位時間あたりの回数」で、単位時間あたりの力積総和(=平均の力)を計算(4)。
- 多分子・全体への拡張 (5)-(7):
- 戦略: 1個の分子の結果を、\(N\)個の分子全体に拡張し、圧力というマクロな量に結びつける。
- フロー: ①(4)の結果を\(N\)倍して、全分子による平均の力 \(F\) を求める(5)。②\(F\)を容器の表面積 \(S\) で割り、圧力 \(p\) を計算(6)。③圧力の式を、半径 \(r\) ではなく体積 \(V\) を用いた形に書き換える(7)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字のキャンセルを丁寧に行う: (4)の計算 \( (2mv \cos\theta) \times ( \frac{v}{2r \cos\theta} ) \) では、多くの文字 (\(2, \cos\theta\)) がキャンセルされます。どの項が消えるのかを一つ一つ確認しながら、慎重に計算を進めましょう。
- 次元解析(単位の確認): 最終的に得られた圧力の式 \(p = \frac{Nmv^2}{3V}\) の単位が正しいか確認してみましょう。
- 右辺の単位: \(\frac{[\text{個}] \cdot [\text{kg}] \cdot [\text{m/s}]^2}{[\text{m}^3]} = \frac{[\text{kg} \cdot \text{m}^2/\text{s}^2]}{[\text{m}^3]} = \frac{[\text{kg} \cdot \text{m}/\text{s}^2]}{[\text{m}^2]} = \frac{[\text{N}]}{[\text{m}^2]} = [\text{Pa}]\)
となり、圧力の単位と一致します。これにより、式の形が妥当であると確認できます。
- 結果の一般性を意識する: (4)で \(\theta\) が消えること、(7)で容器の形状によらない普遍的な式が導かれることは、この理論の重要なポイントです。計算結果がそうなっていることを確認し、その物理的意味を考えることで、理解が深まり、記憶にも定着しやすくなります。
199 気体分子の運動
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、動く壁(ピストン)と気体分子の衝突を扱い、その結果として気体の内部エネルギー(絶対温度)がどのように変化するかをミクロな視点から考察する問題です。これは、熱力学第一法則における「気体が仕事をされると内部エネルギーが増加する」という現象の微視的なメカニズムを解明するものです。
- 容器: 断熱材でできたシリンダーと、なめらかに動くピストン
- ピストンの運動: 速さ \(u\) でx軸正の向き(内側)に動く
- 分子の質量: \(m\)
- 衝突前の分子の速度のx成分: \(-v_x\) (\(v_x > 0\))
- 衝突: ピストンと分子は弾性衝突
- (1) ピストンと衝突した後の、分子の速度のx成分と、運動エネルギーの変化量。
- (2) ピストンを押し込むと気体の絶対温度が上昇する理由の、微視的な説明。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「断熱圧縮の微視的メカニズム」です。マクロな視点では「ピストンが気体にする仕事」として扱われる現象が、ミクロな視点では「動く壁との衝突による分子の運動エネルギー増加」として説明できることを理解します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 相対速度と反発係数: 動く物体どうしの衝突を扱う際には、反発係数の式を相対速度で記述するのが定石です。弾性衝突なので反発係数 \(e=1\) です。
- 運動エネルギー: 分子の速さが変われば運動エネルギーも変化します。運動エネルギーの変化量を正しく計算することが求められます。
- 内部エネルギーと絶対温度の関係: 気体の内部エネルギーは、構成する全分子の運動エネルギーの総和であり、絶対温度に比例します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず動くピストンと分子の1次元衝突と考え、反発係数の式を立てて衝突後の分子の速度を求めます。次に、衝突前後での運動エネルギーを計算し、その差(変化量)を求めます。
- (2)では、(1)の結果を用いて、なぜ絶対温度が上昇するのかを論理的に説明します。具体的には、「ピストンを押し込む」→「分子が動く壁と衝突する」→「分子の運動エネルギーが増加する」→「気体全体の内部エネルギーが増加する」→「絶対温度が上昇する」という因果関係を記述します。
問(1)
思考の道筋とポイント
動くピストンと分子の衝突後の速度、および運動エネルギーの変化量を求める問題です。静止した壁との衝突とは異なり、動く壁との衝突では分子の速さが変化します。この問題を解くには、反発係数の式を用いるのが最も標準的です。
この設問における重要なポイント
- 1次元衝突として扱う: 衝突はx軸方向で起こるので、y, z成分は変化しません。x成分のみに着目して1次元の衝突問題として扱います。
- 反発係数の式: 反発係数 \(e\) は「衝突後の相対速度」を「衝突前の相対速度」で割ったものの負の値、すなわち \(e = -\displaystyle\frac{v_2′ – v_1′}{v_2 – v_1}\) で定義されます。弾性衝突なので \(e=1\) です。
- 運動エネルギーの変化: 変化量は「衝突後の運動エネルギー」から「衝突前の運動エネルギー」を引くことで求めます。
具体的な解説と立式
まず、衝突後の分子の速度のx成分 \(v_x’\) を求めます。
分子の衝突前の速度のx成分を \(-v_x\)、ピストンの速度を \(u\) とします。
衝突後の分子の速度のx成分を \(v_x’\)、ピストンの速度は変わらず \(u\) とします。
反発係数の式(弾性衝突なので \(e=1\))を立てます。
$$ 1 = – \frac{v_x’ – u}{(-v_x) – u} \quad \cdots ① $$
次に、運動エネルギーの変化量 \(\Delta E_k\) を求めます。
衝突前の分子の速さを \(v\)、衝突後の速さを \(v’\) とすると、運動エネルギーの変化量は次のように定義されます。
$$ \Delta E_k = \frac{1}{2}mv’^2 – \frac{1}{2}mv^2 $$
ここで、衝突前後の速さの2乗は、各成分の2乗の和で表せます。
$$ v^2 = v_x^2 + v_y^2 + v_z^2 $$
$$ v’^2 = v_x’^2 + v_y^2 + v_z^2 $$
y, z成分は衝突によって変化しないため、運動エネルギーの変化はx成分の速度変化にのみ依存します。したがって、
$$ \Delta E_k = \frac{1}{2}mv_x’^2 – \frac{1}{2}mv_x^2 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 反発係数の式
- 運動エネルギーの式 \(E_k = \frac{1}{2}mv^2\)
まず、式①を \(v_x’\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
1 &= – \frac{v_x’ – u}{(-v_x) – u} \\[2.0ex]&= \frac{v_x’ – u}{v_x + u}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ v_x + u = v_x’ – u $$
これを解くと、
$$ v_x’ = v_x + 2u $$
次に、この \(v_x’ = v_x + 2u\) を式②に代入して、運動エネルギーの変化量 \(\Delta E_k\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta E_k &= \frac{1}{2}m(v_x’)^2 – \frac{1}{2}mv_x^2 \\[2.0ex]&= \frac{1}{2}m(v_x + 2u)^2 – \frac{1}{2}mv_x^2 \\[2.0ex]&= \frac{1}{2}m \left( (v_x^2 + 4uv_x + 4u^2) – v_x^2 \right) \\[2.0ex]&= \frac{1}{2}m (4uv_x + 4u^2) \\[2.0ex]&= 2m(uv_x + u^2) \\[2.0ex]&= 2mu(v_x + u)
\end{aligned}
$$
向かってくる壁(ピストン)にボールをぶつけると、ボールは跳ね返った後、ぶつかる前より速くなります。この「跳ね返り後の速さ」を、衝突のルールである反発係数の式を使って計算します。
次に、速くなったことで運動エネルギーがどれだけ増えたかを、「後のエネルギー」から「前のエネルギー」を引き算して求めます。
思考の道筋とポイント
衝突現象を、ピストンと一緒に動く観測者の視点から見る方法です。この観測者から見れば、ピストンは静止しており、分子が近づいてきて弾性衝突(静止した壁との衝突)をして去っていくように見えます。この単純な衝突を解析し、最後に元の静止した観測者の視点に戻すことで、衝突後の速度を求めます。
この設問における重要なポイント
- 座標系の変換: 「実験室系(床に固定された座標系)」から「ピストン系(ピストンに固定された座標系)」へ視点を移します。
- 相対速度: ピストン系での分子の速度は、実験室系での分子の速度からピストンの速度を引くことで求められます。
- 静止壁との衝突: ピストン系では、ピストンは静止した壁とみなせます。したがって、分子の速度の壁に垂直な成分が、大きさを変えずに向きだけ反転します。
- 逆変換: ピストン系で求めた衝突後の速度に、ピストンの速度を足すことで、実験室系での速度に戻します。
具体的な解説と立式
1. ピストン系への変換:
ピストンから見た分子の衝突前の速度(相対速度)を \(v_{\text{相},x}\) とします。これは、実験室系での分子の速度からピストンの速度を引くことで求められます。
$$ v_{\text{相},x} = (-v_x) – u \quad \cdots ③ $$
2. ピストン系での衝突:
ピストン系では、ピストンは静止した壁とみなせます。弾性衝突なので、分子の速度の壁に垂直な成分が、大きさを変えずに向きだけ反転します。衝突後の相対速度を \(v’_{\text{相},x}\) とすると、
$$ v’_{\text{相},x} = -v_{\text{相},x} \quad \cdots ④ $$
3. 実験室系への逆変換:
実験室系での衝突後の分子の速度 \(v_x’\) は、ピストン系での衝突後の相対速度にピストンの速度を足し合わせることで求められます。
$$ v_x’ = v’_{\text{相},x} + u \quad \cdots ⑤ $$
式③、④、⑤を順に解いて \(v_x’\) を求めます。
まず、式③を式④に代入して \(v’_{\text{相},x}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v’_{\text{相},x} &= – ((-v_x) – u) \\[2.0ex]&= v_x + u
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式⑤に代入して \(v_x’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_x’ &= (v_x + u) + u \\[2.0ex]&= v_x + 2u
\end{aligned}
$$
この結果は、反発係数の式を用いた解法と完全に一致します。運動エネルギーの変化量の計算は同様です。
自分がピストンに乗っていると想像します。すると、自分は止まっていて、分子がすごい速さで飛んできて、ぶつかって、同じ速さで遠ざかっていくように見えます。この「自分から見た分子の速さ」を計算し、最後に「地上から見た速さ」に変換し直す、という方法です。
衝突後の分子の速度のx成分は \(v_x + 2u\)、運動エネルギーの変化量は \(2mu(v_x + u)\) です。
\(v_x > 0, u > 0\) なので、運動エネルギーの変化量は正の値となります。これは、向かってくる壁に衝突すると分子の運動エネルギーが増加することを示しており、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
ピストンを押し込むと気体の絶対温度が上昇する理由を、ミクロな視点から説明する問題です。(1)で得られた結果が、この説明の根幹となります。
「気体の絶対温度」が「構成分子の運動エネルギーの平均値」と比例するという、気体分子運動論の基本原理と結びつけて説明します。
この設問における重要なポイント
- (1)の結果の解釈: (1)の結果は、1個の分子が動くピストンに衝突すると、その運動エネルギーが増加することを示しています。
- マクロな量への拡張: 1個の分子だけでなく、容器内の多数の分子が次々とピストンに衝突するため、気体全体の分子の運動エネルギーの総和が増加すると考えます。
- 温度との関係: 気体分子運動論によれば、気体の絶対温度は、分子の平均運動エネルギーに比例します。したがって、分子の運動エネルギーが増加することは、絶対温度の上昇を意味します。
具体的な解説と立式
(1)で計算したように、気体分子が速さ \(u\) で動くピストンと弾性衝突すると、分子の運動エネルギーは \(2mu(v_x + u)\) だけ増加する。
ピストンを押し込む(断熱圧縮する)過程では、多数の気体分子が次々とこの動くピストンに衝突するため、気体分子全体の運動エネルギーの総和は増加していく。
気体分子運動論によれば、気体の絶対温度は、気体分子1個あたりの平均運動エネルギーに比例する。
したがって、分子の運動エネルギーが増加することにより、気体の絶対温度は上昇する。
使用した物理公式
- 気体の内部エネルギーと絶対温度の関係
これは記述問題なので、計算過程はありません。
自転車の空気入れを速く押すと、先が熱くなる現象を分子レベルで説明する問題です。
(1)で、向かってくる壁(ピストン)にぶつかった分子は、前より速くなることがわかりました。ピストンを押し込むと、中のたくさんの空気分子が、この「向かってくる壁」に次々とぶつかって、どんどんスピードアップしていきます。気体の温度とは、この分子のスピード(運動エネルギー)の激しさのことなので、分子がスピードアップすれば、気体の温度も上がる、という理屈です。
ピストンを押し込むというマクロな操作(気体に仕事をする)が、ミクロな視点では分子の運動エネルギーを増加させ、それが結果として気体の絶対温度の上昇というマクロな変化として現れる、という一連の因果関係を明確に説明することが重要です。この説明は、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W\) において、断熱変化(\(Q=0\))で気体が仕事をされる(\(W>0\))と内部エネルギーが増加する(\(\Delta U > 0\))という法則のミクロな裏付けとなっています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 動く壁との弾性衝突:
- 核心: この問題の現象を解明するための出発点です。静止した壁との衝突では分子の速さ(運動エネルギー)は変わりませんが、壁が動いている場合、特に壁が分子に向かってくる場合は、分子は衝突後により速くなります。この速度増加を定量的に計算することが(1)の鍵です。
- 理解のポイント: この計算には、反発係数の式 \(e = -\frac{v_2′ – v_1′}{v_2 – v_1}\) を使うのが最も確実です。あるいは、ピストンに乗った視点(相対運動)で考えると、静止壁との衝突に問題を単純化でき、物理的イメージが掴みやすくなります。
- 内部エネルギーと絶対温度の微視的定義:
- 核心: (2)の設問に答えるための根源的な原理です。気体の絶対温度とは、マクロな視点での「温かさの度合い」ですが、ミクロな視点では「構成する分子の平均運動エネルギーの激しさ」そのものです。
- 理解のポイント: 「ピストンを押し込む → 分子の運動エネルギーが増加する → 気体全体の内部エネルギーが増加する → 絶対温度が上昇する」という因果の連鎖を、自分の言葉で説明できることが重要です。これは断熱圧縮の本質をミクロの視点から理解している証拠となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 断熱膨張: この問題とは逆に、ピストンが外側に速さ \(u\) で動く(気体が膨張する)場合。分子は動く壁に「追いついて」衝突するため、衝突後には速さが遅くなります。その結果、分子の運動エネルギーが減少し、気体の絶対温度は下がります。計算上はピストンの速度を \(-u\) として扱えば同様に解けます。
- ピストンにばねがついている場合: ピストンがばねで壁に繋がれて振動している場合、分子が衝突する瞬間のピストンの速度によって、分子の運動エネルギーが増えることも減ることもあります。気体全体としては、ピストンの振動とエネルギーをやりとりすることになります。
- 重力下での気体: シリンダーを鉛直に立て、ピストンが重力と気体の圧力でつり合っている状況。この状態からピストンを押し込む場合も、本問と同じメカニズムで温度が上昇します。
- 初見の問題での着眼点:
- 壁は動いているか?: まず、分子が衝突する相手(壁やピストン)が静止しているか、動いているかを確認します。動いている場合は、単純な反射の問題ではなく、反発係数や相対運動を考える必要があります。
- 衝突は弾性か非弾性か?: 問題に「弾性衝突」とあれば、反発係数 \(e=1\) であり、エネルギーの損失はありません(ただし、動く壁との衝突では運動エネルギーのやりとりは起こりえます)。
- 問われているのは何か?: 速度や運動量のようなベクトル的な量か、運動エネルギーのようなスカラー量か。あるいは、1回の衝突か、時間平均か。問われている内容を正確に把握し、適切な公式を選択します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 動く壁との衝突の誤解:
- 誤解: 動いている壁との衝突でも、静止した壁と同じように、速さを変えずにただ向きだけが反転する(\(v_x’ = v_x\))と考えてしまう。
- 対策: 「向かってくる壁にボールをぶつけたら速くなる」「逃げていく壁にぶつけたら遅くなる」という日常的な感覚を物理モデルに結びつけましょう。動く壁との衝突では、必ず反発係数の式か相対速度の考え方を用いる、と肝に銘じることが重要です。
- 反発係数の式の符号ミス:
- 誤解: 反発係数の式 \(e = -\frac{v_2′ – v_1′}{v_2 – v_1}\) の最初のマイナス符号を忘れたり、各速度の符号(正負)の代入を間違えたりする。
- 対策: 軸の正の向きを最初に明確に定め、各物体の速度を符号付きで式に代入する練習を繰り返しましょう。例えば、この問題では衝突前の分子の速度は \(-v_x\) であり、これをそのまま式の \(v_1\) に代入します。
- 運動エネルギー変化の計算ミス:
- 誤解: \(\Delta E_k = \frac{1}{2}m(v_x’ – v_x)^2\) のように、速度の差の2乗として計算してしまう。
- 対策: 変化量は常に「(後)-(前)」です。運動エネルギーの変化量は \(\frac{1}{2}m(v_x’)^2 – \frac{1}{2}m v_x^2\) であり、因数分解すると \(\frac{1}{2}m(v_x’ – v_x)(v_x’ + v_x)\) となります。定義に忠実に計算する習慣をつけましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 卓球のスマッシュのイメージ: 向かってくるボールをラケットで打ち返す(スマッシュする)と、ボールは非常に速く飛んでいきます。これは、ラケット(動く壁)がボール(分子)にエネルギーを与えていることに対応します。この身近な例えで、分子の運動エネルギーが増加する現象を直感的に理解できます。
- 相対速度の図解: 2本の数直線を上下に並べ、上の直線に分子の動き、下の直線にピストンの動きを矢印で描きます。そして、「ピストンから見た分子の動き」を別の矢印で描くことで、相対速度の概念を視覚的に捉えることができます。衝突前後でこの図を描き比べることで、なぜ実験室系で速さが増加するのかがよくわかります。
- エネルギーの移動のイメージ: ピストンを押し込むには外から力が必要です。その「外部からの仕事」というエネルギーが、ピストンを介して分子に「運動エネルギー」として受け渡され、最終的に気体全体の「内部エネルギー(熱)」に変換されていく、というエネルギーの流れをイメージすることが、現象の全体像を掴む上で非常に有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 反発係数の式:
- 選定理由: (1)で、2物体の1次元衝突において、衝突後の速度を求めるための最も標準的で強力なツールだからです。運動量保存則と連立させる方法もありますが、ピストンの質量が非常に大きい(実質的に無限大)と考えると、反発係数の式だけで解くのが簡潔です。
- 適用根拠: 衝突の前後での相対速度の関係を記述する、実験的に確立された法則です。
- 運動エネルギーの定義式 (\(E_k = \frac{1}{2}mv^2\)):
- 選定理由: (1)で、衝突による分子の速さの変化が、エネルギーにどのような変化をもたらすかを定量的に評価するため。
- 適用根拠: 運動エネルギーの定義そのものです。
- 内部エネルギーと絶対温度の関係 (\(U \propto T\)):
- 選定理由: (2)で、ミクロな分子の運動エネルギーの変化という結果を、マクロな物理量である絶対温度の変化に結びつけるため。
- 適用根拠: 気体分子運動論から導かれる、理想気体の内部エネルギーが絶対温度のみに依存するという基本原理です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 衝突後の速度とエネルギー変化の計算:
- 戦略: 動く壁との1次元弾性衝突としてモデル化し、反発係数の式を適用する。
- フロー: ①衝突前後の分子とピストンの速度を、符号に注意して定義する → ②弾性衝突なので反発係数 \(e=1\) として式を立てる → ③式を解いて衝突後の分子の速度 \(v_x’\) を求める → ④運動エネルギーの定義式 \(\Delta E_k = E_{k,\text{後}} – E_{k,\text{前}}\) に代入し、変化量を計算する。
- (2) 温度上昇の理由の説明:
- 戦略: (1)のミクロな結果を、マクロな温度変化に結びつける。
- フロー: ①(1)の結果から「ピストンとの衝突で分子1個の運動エネルギーが増加する」ことを述べる → ②「多数の分子が次々と衝突するため、気体全体の運動エネルギーの総和(内部エネルギー)が増加する」と拡張する → ③「気体の絶対温度は分子の平均運動エネルギーに比例するため、温度が上昇する」と結論づける。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の扱いに細心の注意を払う: この問題では、速度の向きが非常に重要です。x軸の正の向きを基準とし、ピストンの速度は \(+u\)、衝突前の分子の速度は \(-v_x\) と、符号を明確にして計算を始めましょう。特に反発係数の式に代入する際に、符号を間違えないように注意が必要です。
- 文字式の展開と整理を丁寧に行う: (1)の運動エネルギー変化の計算では、\((v_x+2u)^2\) のような展開が必要です。展開ミスや、その後の項の整理でのミスが起こりやすいポイントなので、焦らず一行ずつ確実に計算を進めましょう。
- 物理的な意味を常に考える: 計算結果 \(v_x’ = v_x + 2u\) が出たとき、「衝突前の速さ \(v_x\) に、ピストンの速さの2倍が加算されている。これは物理的に妥当か?」と考えます。向かってくる壁との衝突なので速くなるはずであり、妥当だと判断できます。このように、計算の各ステップで物理的な意味を問い直すことで、大きな間違いを防ぐことができます。
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