「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅰ 章 1】発展例題~発展問題28

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

発展例題

発展例題1 相対速度

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解1: 速度の変換則の観点からベクトル図を描く解法
      • 主たる解法が相対速度の定義式 \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\) を元にベクトル図を構成するのに対し、別解1ではそれを変形した \(\vec{v}_B = \vec{v}_A + \vec{v}_{AB}\) という、より直感的なベクトルの足し算の観点から作図して解を導きます。
    • 別解2: 特別な直角三角形の辺の比を用いる解法
      • 主たる解法や別解1が三角比(\(\sin\))を計算するのに対し、別解2ではベクトル図が構成する直角三角形の角度が\(30^\circ, 60^\circ\)であることに着目し、辺の比の関係(\(1:2:\sqrt{3}\))から比例計算によってより簡潔に答えを導きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 相対速度の異なる側面(引き算としての定義、足し算としての変換則)を理解することで、物理現象への多角的な視点が養われます。
    • 思考の柔軟性向上: 問題の特性(ベクトルが直交する、特別な角)を見抜いて、三角比、辺の比など、最適な数学的道具を選択する能力が向上します。
    • 解法の効率化: 別解2のように、図形の性質を利用することで、計算を大幅に簡略化できる強力な手法を学ぶことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「平面上での相対速度のベクトル解析」です。2つの異なる状況(静止時と歩行時)で観測される雨の運動から、ベクトル図を用いて元の雨の速度を特定するという、応用的な問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 相対速度のベクトル関係式: 観測者の速度を\(\vec{v}_A\)、物体の速度を\(\vec{v}_B\)、観測者から見た物体の相対速度を\(\vec{v}_{AB}\)とすると、\(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\) が成り立つこと。
  2. ベクトルの作図: 上記の関係式を、ベクトル(矢印)を用いて正しく図に表現できること。
  3. 三角比の利用: 作図によって現れる直角三角形の辺の長さ(速さ)と角度の関係を、三角比を用いて数式で表現できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文から、3つの速度ベクトル(\(\vec{v}_A\), \(\vec{v}_B\), \(\vec{v}_{AB}\))の向きと、分かっている大きさの情報を整理します。
  2. 相対速度の関係式 \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\) を元に、これらのベクトルで三角形を描きます。
  3. この三角形が直角三角形になることを見抜き、与えられた角度の情報と三角比を用いて、未知の速さを計算します。

思考の道筋とポイント
この問題の鍵は、「歩いている観測者から見て雨が鉛直下向きに見えた」という現象を物理的にどう解釈するかです。これは、雨が元々持っていた「水平方向の速度」が、観測者が歩く「水平方向の速度」によって、ちょうど打ち消された結果と考えることができます。
つまり、「静止して見たときの雨の水平速度成分」の大きさが、「観測者の歩く速さ」に等しい、という等式を立てることができます。
一方、静止して見たときの雨の速度は、鉛直と\(30^\circ\)の角をなす斜め方向のベクトルです。このベクトルを水平成分と鉛直成分に分解し、その水平成分が観測者の速さに等しい、という関係から未知の速さを求めます。
この設問における重要なポイント

  • 「相対速度が鉛直になる」=「水平方向の相対速度が0」=「物体の水平速度と観測者の水平速度が等しい」。
  • 静止して見た雨の速度 \(\vec{v}_B\) を、水平成分と鉛直成分に分解して考える。
  • ベクトル図に現れる直角三角形と、角度の関係を正しく把握する。

具体的な解説と立式
静止している観測者から見た雨の速度を \(\vec{v}_B\)、観測者が歩く速度を \(\vec{v}_A\) とします。
問題文より、

  • \(v_A = 4.0 \, \text{m/s}\) (水平方向)
  • \(\vec{v}_B\) は鉛直方向と \(30^\circ\) の角をなす。

歩いている観測者から見た雨の相対速度 \(\vec{v}_{AB}\) は、\(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\) であり、これが鉛直下向きになります。
これは、\(\vec{v}_B\) の水平成分と \(\vec{v}_A\) が等しく、互いに打ち消し合ったことを意味します。
\(\vec{v}_B\) を水平成分 \(\vec{v}_{Bx}\) と鉛直成分 \(\vec{v}_{By}\) に分解すると、\(v_{Bx} = v_A\) となります。

\(\vec{v}_B\) とその成分の関係を図に描くと、\(\vec{v}_B\) を斜辺とする直角三角形ができます。この三角形において、\(\vec{v}_B\) と鉛直方向のなす角が \(30^\circ\) なので、水平成分 \(v_{Bx}\) との関係は、
$$
\begin{aligned}
\sin 30^\circ &= \frac{v_{Bx}}{v_B}
\end{aligned}
$$
となります。ここに \(v_{Bx} = v_A = 4.0 \, \text{m/s}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
\sin 30^\circ &= \frac{4.0}{v_B}
\end{aligned}
$$
この式を \(v_B\) について解きます。

使用した物理公式

  • 相対速度の関係式: \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\)
  • ベクトルの成分分解と三角比
計算過程

上記で立てた式に、\(\sin 30^\circ = \frac{1}{2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} &= \frac{4.0}{v_B} \\[2.0ex]
v_B &= 2 \times 4.0 \\[2.0ex]
v_B &= 8.0
\end{aligned}
$$
したがって、静止している観測者から見た雨滴の速さは \(8.0 \, \text{m/s}\) となります。

この設問の平易な説明

雨はもともと風で斜めに降っています。この斜めの動きは「真下に落ちる動き」と「横に流される動き」に分解できます。
ここで、自分が横に \(4.0 \, \text{m/s}\) で歩いたところ、雨がちょうど真下に降るように見えました。これは、自分が歩くことで、雨が「横に流される動き」をぴったり打ち消した(キャンセルした)ことを意味します。
つまり、雨が横に流される速さは、自分が歩く速さと同じ \(4.0 \, \text{m/s}\) だったのです。
もともとの雨は、鉛直方向と \(30^\circ\) の角度で降っていたので、この「横に流される速さ \(4.0 \, \text{m/s}\)」という情報と三角比を使うことで、元の斜めの速さを逆算することができます。

結論と吟味

静止している観測者から見た雨滴の速さは \(8.0 \, \text{m/s}\) となりました。このとき、雨の水平速度成分は \(8.0 \sin 30^\circ = 4.0 \, \text{m/s}\) となり、観測者の歩く速さと一致します。したがって、歩いている観測者から見れば水平方向の速度は打ち消し合い、鉛直成分 \(8.0 \cos 30^\circ\) の速度だけで降下するように見えるため、問題の条件と一致し、妥当な結果です。

解答 \(8.0 \, \text{m/s}\)
別解1: 速度の変換則の観点からベクトル図を描く解法

思考の道筋とポイント
相対速度の公式を \(\vec{v}_B = \vec{v}_A + \vec{v}_{AB}\) と変形して考えます。これは「地面に対する雨の速度(\(\vec{v}_B\))」は「地面に対する人の速度(\(\vec{v}_A\))」と「人に対する雨の速度(\(\vec{v}_{AB}\))」のベクトル和である、と解釈できます。
\(\vec{v}_A\)(水平)と \(\vec{v}_{AB}\)(鉛直)は直交するので、このベクトルの足し算を図に描くと、\(\vec{v}_B\) を斜辺とする直角三角形が現れます。この三角形の角度の情報から、斜辺の長さを求めます。
この設問における重要なポイント

  • \(\vec{v}_B = \vec{v}_A + \vec{v}_{AB}\) の関係から作図する。
  • 水平ベクトルと鉛直ベクトルの和は、直角三角形の斜辺になる。
  • \(\sin\theta = \frac{\text{対辺}}{\text{斜辺}}\) の関係を利用する。

具体的な解説と立式
\(\vec{v}_A\)(水平方向、大きさ \(4.0\))と \(\vec{v}_{AB}\)(鉛直下向き)の和が \(\vec{v}_B\) となるようなベクトル図を描きます。
この図は、\(\vec{v}_A\) と \(\vec{v}_{AB}\) を直角を挟む2辺とし、\(\vec{v}_B\) を斜辺とする直角三角形になります。
問題文より、\(\vec{v}_B\) は鉛直方向(\(\vec{v}_{AB}\)の方向)と \(30^\circ\) の角をなします。
この直角三角形において、角度 \(30^\circ\) の対辺が \(v_A\)、斜辺が \(v_B\) となるので、
$$
\begin{aligned}
\sin 30^\circ &= \frac{v_A}{v_B}
\end{aligned}
$$
この式を \(v_B\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_B &= \frac{v_A}{\sin 30^\circ}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • ガリレイの速度変換則: \(\vec{v}_B = \vec{v}_A + \vec{v}_{AB}\)
  • 三角比: \(\sin\theta\)
計算過程

上記で立てた式に、\(v_A = 4.0 \, \text{m/s}\) と \(\sin 30^\circ = \frac{1}{2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_B &= \frac{4.0}{1/2} \\[2.0ex]
&= 8.0
\end{aligned}
$$
したがって、速さは \(8.0 \, \text{m/s}\) です。

この設問の平易な説明

雨の本当の動き(\(\vec{v}_B\))は、「人が歩く動き(\(\vec{v}_A\))」と「人から見た雨の動き(\(\vec{v}_{AB}\))」を合体させたもの、と考えることができます。
人が歩くのは水平方向、人から見た雨は鉛直方向なので、この2つの動きを合成すると、直角三角形ができます。
この三角形の角度(\(30^\circ\))と、分かっている辺の長さ(人の速さ \(4.0 \, \text{m/s}\))から、三角比を使って斜辺の長さ(雨の本当の速さ)を計算することができます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。こちらのベクトル図の方が、単純なベクトルの足し算であるため、より直感的に理解しやすいと感じる人も多いでしょう。

解答 \(8.0 \, \text{m/s}\)
別解2: 特別な直角三角形の辺の比を用いる解法

思考の道筋とポイント
別解1で描いたベクトル図が、内角 \(30^\circ, 60^\circ, 90^\circ\) の特別な直角三角形であることに着目します。この三角形の辺の長さの比は常に \(1:2:\sqrt{3}\) であるという幾何学的な性質を利用して、比例計算で答えを導きます。
この設問における重要なポイント

  • 角度が \(30^\circ, 60^\circ, 90^\circ\) の直角三角形の辺の比は、\(30^\circ\)の対辺 : \(60^\circ\)の対辺 : \(90^\circ\)の対辺 = \(1 : \sqrt{3} : 2\) である。
  • この問題のベクトル図では、\(v_A\) が \(30^\circ\) の対辺、\(v_B\) が斜辺(\(90^\circ\)の対辺)に対応する。

具体的な解説と立式
別解1で描いた直角三角形において、各辺の長さの比は、
$$
\begin{aligned}
v_A : v_{AB} : v_B &= 1 : \sqrt{3} : 2
\end{aligned}
$$
となります。この比例関係のうち、\(v_A\) と \(v_B\) の関係に着目します。
$$
\begin{aligned}
v_A : v_B &= 1 : 2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 特別な直角三角形の辺の比 (\(1:2:\sqrt{3}\))
計算過程

上記で立てた比例式に \(v_A = 4.0 \, \text{m/s}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
4.0 : v_B &= 1 : 2
\end{aligned}
$$
比例式の性質(内項の積 = 外項の積)より、
$$
\begin{aligned}
1 \times v_B &= 4.0 \times 2 \\[2.0ex]
v_B &= 8.0
\end{aligned}
$$
したがって、速さは \(8.0 \, \text{m/s}\) です。

この設問の平易な説明

この問題で作られる直角三角形は、角度が \(30^\circ\) と \(60^\circ\) の、分度器セットに入っている特別な三角形です。この三角形は、辺の長さの比が「\(1 : \sqrt{3} : 2\)」になることが決まっています。
一番短い辺(比が「1」)の長さが、人の歩く速さ \(4.0 \, \text{m/s}\) にあたります。求めたい雨の速さは、一番長い斜辺(比が「2」)にあたるので、その長さは \(4.0 \times 2 = 8.0 \, \text{m/s}\) と暗算で求めることができます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。角度が \(30^\circ, 45^\circ, 60^\circ\) の場合は、三角比の計算よりもこちらの方法が速く、直感的に理解しやすいため非常に有効です。

解答 \(8.0 \, \text{m/s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 相対速度のベクトル的解釈
    • 核心: この問題の根幹は、「動いている人から見た物体の運動」という相対速度の概念を、2次元平面上でベクトル(矢印)として正しく扱い、その関係性を図形的に解き明かすことにあります。特に、「歩くと雨が真下に見えた」という現象の物理的意味を正確に捉えることが鍵となります。
    • 理解のポイント:
      • 相対速度の定義: 歩行者から見た雨の速度 \(\vec{v}_{\text{雨,人}}\) は、地面に対する雨の速度 \(\vec{v}_{\text{雨,地}}\) から、地面に対する人の速度 \(\vec{v}_{\text{人,地}}\) をベクトルとして引き算したもの (\(\vec{v}_{\text{雨,人}} = \vec{v}_{\text{雨,地}} – \vec{v}_{\text{人,地}}\)) です。
      • 現象の翻訳: 「歩くと雨が真下に見えた」とは、\(\vec{v}_{\text{雨,人}}\) が鉛直下向きになったことを意味します。これは、\(\vec{v}_{\text{雨,地}}\) が元々持っていた水平方向の速度成分が、\(\vec{v}_{\text{人,地}}\) によって完全に打ち消された(キャンセルされた)結果と解釈できます。
      • 結論: つまり、「雨が風によって水平方向に流される速さ」と「人が歩く速さ」が等しい、という重要な関係が導き出されます。
  • ベクトル図と三角比の連携
    • 核心: 上記の物理的な関係性を、ベクトル図という幾何学的な図に変換し、その図形の性質を三角比という数学的な道具を用いて解く、という物理学の王道的な問題解決プロセスを体験することです。
    • 理解のポイント:
      • 静止して見た雨の速度 \(\vec{v}_{\text{雨,地}}\) は、鉛直と\(30^\circ\)の角をなす斜めのベクトルです。
      • このベクトルを、鉛直成分と水平成分に分解すると、直角三角形が現れます。
      • この三角形において、水平成分の大きさが人の歩く速さ \(4.0 \, \text{m/s}\) に等しいことが分かっているので、三角比を用いることで、斜辺の長さ、すなわち求めたい雨の速さを計算することができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 川を横断する船: 「船首を対岸に垂直に向けて進むと、川に流されて斜め下流に着いた。岸から見た船の速さと向きは?」という問題。これは「静水に対する船の速度」と「川の流れの速度」という直交する2つのベクトルを合成する問題です。
    • 川を最短距離で横断する: 「対岸の真向かいの点に到着するためには、船首をどれだけ上流に向けるべきか?」という問題。これは、船の合成速度が岸に垂直になるようにベクトル図を描く、本問と非常によく似た構造の問題です。
    • 風の中を飛ぶ飛行機: 「東へ向かいたいが、北風が吹いている。機首をどちらに向けるべきか?」という問題も、合成速度が望む方向になるようにベクトル図を描いて解きます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 2つの状況を比較する: 「静止しているとき」と「歩いているとき」で、雨の見え方がどう違うかに注目します。
    2. 「〜に見えた」は相対速度: 「〜に見えた」という記述は、相対速度を扱っていることの合図です。
    3. ベクトル図を描くことを最優先: 平面上の速度の問題は、まずベクトル図を描くことから始めます。各ベクトルの向き(鉛直、水平、斜め)と、それらの関係(和か差か)を正確に図示することが、解法の第一歩です。
    4. 図形の中に直角三角形を探す: ベクトル図を描いたら、その中に直角三角形が隠れていないか探します。水平と鉛直、東と南など、直交する方向が問題に含まれている場合は、ほぼ確実に直角三角形を利用できます。
    5. 角度と辺の関係を整理: 見つけた直角三角形において、問題文で与えられた角度や辺の長さが、三角形のどの部分に対応するのかを正確に把握します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • ベクトル図の作図ミス:
    • 誤解: \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\) の作図で、ベクトルの足し算と混同したり、どのベクトルが斜辺になるかを取り違えたりする。
    • 対策: 2つの方法を使い分けるのが有効です。①引き算のまま作図する場合:\(\vec{v}_A\) と \(\vec{v}_B\) の始点を揃え、\(\vec{v}_A\) の先端から \(\vec{v}_B\) の先端へ引いた矢印が \(\vec{v}_{AB}\) となります。②足し算に変換する場合:\(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B + (-\vec{v}_A)\) として、「しりとり」のようにつなぎます。
  • 角度の取り違え:
    • 誤解: 問題文の「鉛直方向と30°の角」を、ベクトル図の直角三角形のどの角に対応させるかを間違える。
    • 対策: 大きく正確な図を描き、問題文の情報を丁寧に図に書き込むことが不可欠です。どの線が「鉛直方向」なのかを明確にし、それと雨の速度ベクトル \(\vec{v}_B\) のなす角が\(30^\circ\)であることを図示すれば、計算に使うべき角度を正しく特定できます。
  • 三角比の選択ミス(\(\sin, \cos, \tan\)の混同):
    • 誤解: 斜辺と対辺の関係なのに\(\cos\)を使ったり、底辺と対辺の関係なのに\(\sin\)を使ったりする。
    • 対策: SOH-CAH-TOAを思い出し、直角三角形において「分かっている辺」と「求めたい辺」が、角度に対してどのような位置関係(対辺、底辺、斜辺)にあるかを確認してから、適切な三角比を選択しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 相対速度の式 (\(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\)) を用いる理由:
    • 選定理由: 問題文に「観測者が静止しているとき」と「歩いているとき」という2つの基準系からの視点が含まれており、それらの関係を記述する物理法則が相対速度の公式だからです。
    • 適用根拠: この公式は、異なる基準系での物理現象の見え方を結びつける「ガリレイの相対性原理」の基本的な表現です。この問題では、この関係式を図形的に解釈することで、未知の量を特定する鍵となります。
  • 三角比(\(\sin\))を用いる理由:
    • 選定理由: ベクトル図を描いた結果、直角三角形が現れ、その中で「角度(\(30^\circ\))」「その角度の対辺(\(v_A\))」「斜辺(\(v_B\))」の関係が問題になっているからです。この3つの要素を結びつける数学的道具が\(\sin\)であるため、これを選択します。
    • 適用根拠: 直角三角形における三角比の定義は、数学的に証明された普遍的な関係です。物理的なベクトル量を辺の長さとする図形にも、この数学的関係をそのまま適用することができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • ベクトル図を大きく正確に描く: この種の問題の成否は、作図の正確さにかかっています。フリーハンドでも良いので、各ベクトルの向き(水平、鉛直、斜め)と、それらの関係(和か差か)を正確に反映した図を大きく描くことが、ミスを防ぐ最大のポイントです。
  • 特別な角の利用: 角度が\(30^\circ, 60^\circ\)と出てきたら、別解2で示した「辺の比 \(1:2:\sqrt{3}\)」が使えないか、常に意識しましょう。この問題では、\(30^\circ\)の対辺が\(4.0 \, \text{m/s}\)(比の「1」に相当)と分かっているので、斜辺(比の「2」に相当)は即座に \(4.0 \times 2 = 8.0 \, \text{m/s}\) と暗算できます。
  • 答えの吟味(検算): 計算結果(\(v_B = 8.0 \, \text{m/s}\))を使って、他の物理量が問題文と一致するかを確認しましょう。例えば、雨の水平速度は \(v_{Bx} = v_B \sin 30^\circ = 8.0 \times \frac{1}{2} = 4.0 \, \text{m/s}\) となります。これは観測者の歩く速さと一致しており、「歩くと雨が真下に見える」という条件を満たしていることが確認できます。

発展例題2 等加速度直線運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 異なる公式やグラフの面積を用いる解法
      • 模範解答が最高点までの距離を \(v^2-v_0^2=2ax\) で求めるのに対し、別解では \(x=v_0t+\frac{1}{2}at^2\) を用いる方法と、\(v-t\)グラフの面積を用いる方法を提示します。
    • 設問(4)の別解: 異なる公式やグラフの面積を用いる解法
      • 模範解答が時刻を \(v=v_0+at\) で、移動距離をグラフの面積で求めるのに対し、別解では時刻を \(x=v_0t+\frac{1}{2}at^2\) を解いて求める方法や、移動距離を変位の絶対値の和として計算する方法を提示します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 等加速度直線運動の3公式が相互に連携していることや、グラフの面積が変位に対応するという物理法則への理解が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 一つの問題に対して、どの公式からアプローチするのが最も効率的かを考える訓練になり、問題解決能力の幅が広がります。
    • 解法の相互検証: 複数の方法で同じ答えが出ることを確認することで、計算の信頼性を高める検算の手段としても有効です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「斜面上の等加速度直線運動の総合的な解析」です。初速度を与えられて斜面を上り、最高点で折り返して下ってくるという、鉛直投げ上げ運動と本質的に同じ構造の運動を扱います。等加速度直線運動の公式を、符号に注意しながら戦略的に使いこなす能力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 等加速度直線運動の3公式: \(v=v_0+at\), \(x=v_0t+\frac{1}{2}at^2\), \(v^2-v_0^2=2ax\) を状況に応じて使い分けること。
  2. 座標軸と符号: 「斜面上向きを正」と定めた場合、下向きの速度や加速度は負の値として扱うこと。
  3. 最高点の物理的条件: 最高点では一瞬速度が \(0\) になる (\(v=0\)) こと。
  4. 変位と移動距離の違い: 折り返し運動では、位置を表す「変位」と、実際に動いた道のりである「移動距離」は異なる値になること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、点Oから点Qまでの運動に着目し、初速度、終端速度、変位が分かっているので、時間を含まない公式 \(v^2-v_0^2=2ax\) を用いて加速度を求めます。
  2. (2)では、最高点Pでの速度が \(v=0\) となる条件を使い、公式を用いて到達時刻と距離を計算します。
  3. (3)では、(1)で求めた加速度と初速度から、速度と時間の関係式を立て、\(v-t\)グラフ(直線)を描きます。
  4. (4)では、点Qを斜面下向きに通るときの速度(負の値)になる時刻を計算し、移動距離を最高点までの距離と最高点からの距離の和として求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
問題文には「等加速度直線運動」とあり、点Oから点Qまでの運動について、初速度、終端速度、変位が与えられています。求めたいのは加速度\(a\)で、この区間の時間は分かっていません。このような状況で最も適した公式は、時間\(t\)を含まない \(v^2-v_0^2=2ax\) です。
この設問における重要なポイント

  • 時間\(t\)が未知かつ不要なので、\(t\)を含まない公式 \(v^2-v_0^2=2ax\) を選択する。
  • 斜面上向きを正とするため、点Qでの「斜面下向きに速さ\(4.0 \, \text{m/s}\)」は、速度 \(v = -4.0 \, \text{m/s}\) となる。
  • 点Oから点Qへの変位は、正の向きに \(x = 5.0 \, \text{m}\)。

具体的な解説と立式
斜面上向きを正とします。点Oから点Qまでの運動について、

  • 初速度 \(v_0 = 6.0 \, \text{m/s}\)
  • 点Qでの速度 \(v = -4.0 \, \text{m/s}\)
  • 変位 \(x = 5.0 \, \text{m}\)

これらの値を、時間を含まない公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
v^2 – v_0^2 &= 2ax
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の公式: \(v^2-v_0^2=2ax\)
計算過程

上記で立てた式に、数値を代入して \(a\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
(-4.0)^2 – (6.0)^2 &= 2 \times a \times 5.0 \\[2.0ex]
16 – 36 &= 10a \\[2.0ex]
-20 &= 10a \\[2.0ex]
a &= -2.0
\end{aligned}
$$
したがって、ボールの加速度は \(-2.0 \, \text{m/s}^2\) となります。

この設問の平易な説明

時間が分からないときに加速度を求める便利な公式 \(v^2-v_0^2=2ax\) を使います。この問題では、スタート地点Oから、一度通り過ぎて戻ってきたQ点までの情報が与えられています。スタート時の速さ、Q点での速さ、OQ間の距離を公式に当てはめますが、このとき「向き」に注意が必要です。上向きをプラスと決めたので、Q点での下向きの速さは「マイナス4.0」として計算します。

結論と吟味

加速度は \(-2.0 \, \text{m/s}^2\) となりました。負の値は、加速度が斜面下向き(初速度の向きと逆)にはたらいていることを意味します。これは、斜面を上る物体が減速し、下る物体が加速するという現象と一致しており、物理的に妥当です。

解答 (1) \(-2.0 \, \text{m/s}^2\)

問(2)

思考の道筋とポイント
最高点Pに達したときの時刻と、OP間の距離を求めます。最高点ではボールが一瞬停止するため、速度は \(v=0\) となります。

  • 時刻を求めるには、(1)で求めた加速度を使い、公式 \(v=v_0+at\) に \(v=0\) を代入します。
  • 距離を求めるには、時間を含まない公式 \(v^2-v_0^2=2ax\) に \(v=0\) を代入するのが効率的です。

この設問における重要なポイント

  • 「最高点Pに達する」は、物理的に「速度 \(v=0\)」と読み替える。

具体的な解説と立式
最高点Pについて、\(v=0\) となります。

  • 時刻 \(t_P\) の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    v &= v_0 + at_P
    \end{aligned}
    $$
  • 距離 \(x_P\) の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    v^2 – v_0^2 &= 2ax_P
    \end{aligned}
    $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の公式: \(v=v_0+at\), \(v^2-v_0^2=2ax\)
計算過程
  • 時刻 \(t_P\) の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    0 &= 6.0 + (-2.0) \times t_P \\[2.0ex]
    2.0t_P &= 6.0 \\[2.0ex]
    t_P &= 3.0 \, \text{s}
    \end{aligned}
    $$
  • 距離 \(x_P\) の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    0^2 – (6.0)^2 &= 2 \times (-2.0) \times x_P \\[2.0ex]
    -36 &= -4.0x_P \\[2.0ex]
    x_P &= 9.0 \, \text{m}
    \end{aligned}
    $$
この設問の平易な説明

ボールが一番高い点Pに達したとき、一瞬だけ止まります。つまり、速さが \(0\) になります。

  • 時間: 初速 \(6.0 \, \text{m/s}\) で、1秒あたり \(2.0 \, \text{m/s}\) ずつ遅くなるので、止まるまでの時間は \(6.0 \div 2.0 = 3.0\) 秒です。
  • 距離: 時間が分からないときに距離を求める公式を使うと、計算が簡単です。初速と加速度から、止まるまでに \(9.0 \, \text{m}\) 進むことが分かります。
結論と吟味

ボールは投げてから \(3.0\) 秒後に最高点に達し、その距離は \(9.0 \, \text{m}\) となります。どちらも正の値であり、妥当な結果です。

解答 (2) \(3.0\) 秒後, \(9.0 \, \text{m}\)
別解: 異なる公式やグラフの面積を用いる解法

思考の道筋とポイント
最高点までの距離を求める際に、主たる解法とは異なるアプローチを取ります。

  1. 先に求めた時刻 \(t_P=3.0 \, \text{s}\) を利用して、変位の公式 \(x=v_0t+\frac{1}{2}at^2\) から計算します。
  2. \(v-t\)グラフをイメージし、最高点に達するまでの変位が、グラフの三角形の面積に等しいことを利用します。

この設問における重要なポイント

  • 複数の公式から同じ答えが導けることを確認する。
  • \(v-t\)グラフの面積が変位に対応するという物理法則を応用する。

具体的な解説と立式
【方法1: \(x=v_0t+\frac{1}{2}at^2\) を用いる】

先に求めた時刻 \(t_P=3.0 \, \text{s}\) を、変位の公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
x_P &= v_0 t_P + \frac{1}{2} a t_P^2
\end{aligned}
$$
【方法2: \(v-t\)グラフの面積を用いる】

\(t=0\) から \(t=3.0 \, \text{s}\) までの\(v-t\)グラフは、高さ \(v_0=6.0\)、底辺 \(t_P=3.0\) の三角形を描きます。その面積が距離 \(x_P\) になります。
$$
\begin{aligned}
x_P &= \frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ})
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の公式: \(x=v_0t+\frac{1}{2}at^2\)
  • 変位と\(v-t\)グラフの面積の関係
計算過程

【方法1の計算】
$$
\begin{aligned}
x_P &= 6.0 \times 3.0 + \frac{1}{2} \times (-2.0) \times (3.0)^2 \\[2.0ex]
&= 18 – 9.0 \\[2.0ex]
&= 9.0 \, \text{m}
\end{aligned}
$$
【方法2の計算】
$$
\begin{aligned}
x_P &= \frac{1}{2} \times 3.0 \times 6.0 \\[2.0ex]
&= 9.0 \, \text{m}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

【方法1】「3.0秒後にはどこにいますか?」という計算を、距離の公式を使って行います。

【方法2】(3)で描く\(v-t\)グラフを先にイメージし、ボールが止まるまでの3秒間のグラフが作る三角形の面積を計算します。

結論と吟味

いずれの方法でも、主たる解法と完全に同じ結果 \(9.0 \, \text{m}\) が得られました。これにより、各公式やグラフの面積が、同じ物理現象を異なる側面から記述していることが確認できます。

解答 (2) \(3.0\) 秒後, \(9.0 \, \text{m}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
\(v-t\)グラフを描きます。この運動は等加速度直線運動なので、グラフは直線になります。グラフを描くには、運動の式 \(v=v_0+at\) を立て、始点と終点(または他の1点)の座標を求めて直線で結びます。
この設問における重要なポイント

  • 等加速度直線運動の\(v-t\)グラフは直線になる。
  • グラフの切片が初速度 \(v_0\)、傾きが加速度 \(a\) に対応する。

具体的な解説と立式
運動の式は、\(v_0=6.0 \, \text{m/s}\), \(a=-2.0 \, \text{m/s}^2\) より、
$$
\begin{aligned}
v &= 6.0 – 2.0t
\end{aligned}
$$
この一次関数のグラフを描きます。

  • \(t=0\) のとき、\(v=6.0 \, \text{m/s}\) (切片)
  • \(v=0\) となるのは、(2)より \(t=3.0 \, \text{s}\) (\(t\)軸との交点)

これらの点 \((0, 6.0)\) と \((3.0, 0)\) をプロットし、直線を引きます。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の公式: \(v=v_0+at\)
計算過程

上記の式に基づき、グラフを描画します。

この設問の平易な説明

速度と時間の関係式は \(v = 6.0 – 2.0t\) となります。これは数学で習った一次関数なので、グラフは直線になります。スタート地点である \(t=0\) のときの速度 \(v=6.0\) の点と、(2)で求めた速度が \(0\) になる \(t=3.0\) の点を結べば、グラフが描けます。

結論と吟味

グラフは、切片が \(6.0\)、傾きが \(-2.0\) の右下がりの直線となります。\(t=3.0 \, \text{s}\) で時間軸を横切り、その後は負の領域に入ることで、ボールが折り返して下っていく様子を正しく表現しています。

解答 (3) 模範解答の図の通り。

問(4)

思考の道筋とポイント
ボールが点Qを「斜面下向きに」通過するときの時刻と、それまでの「移動距離」を求めます。

  • 時刻: 速度が \(v=-4.0 \, \text{m/s}\) となる時刻を、公式 \(v=v_0+at\) から計算します。
  • 移動距離: これは折り返し運動なので、「変位」とは異なります。移動距離は、最高点Pまで進んだ距離(OP間)と、最高点Pから点Qまで下った距離(PQ間)の和になります。

この設問における重要なポイント

  • 「移動距離」は道のりの総和であり、変位とは区別する。
  • 移動距離 = (OP間の距離) + (PQ間の距離)

具体的な解説と立式

  • 時刻 \(t_Q\) の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    v &= v_0 + at_Q
    \end{aligned}
    $$
    に \(v=-4.0 \, \text{m/s}\) を代入します。
  • 移動距離 \(L\) の計算:
    (2)より、OP間の距離は \(x_P = 9.0 \, \text{m}\) です。
    PQ間の距離は、点Pの位置(\(x_P=9.0 \, \text{m}\))と点Qの位置(\(x_Q=5.0 \, \text{m}\))の差の絶対値です。
    $$
    \begin{aligned}
    L &= x_P + |x_Q – x_P|
    \end{aligned}
    $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の公式: \(v=v_0+at\)
  • 移動距離の定義
計算過程
  • 時刻 \(t_Q\) の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    -4.0 &= 6.0 + (-2.0) \times t_Q \\[2.0ex]
    2.0t_Q &= 10.0 \\[2.0ex]
    t_Q &= 5.0 \, \text{s}
    \end{aligned}
    $$
  • 移動距離 \(L\) の計算:
    $$
    \begin{aligned}
    L &= 9.0 + |5.0 – 9.0| \\[2.0ex]
    &= 9.0 + |-4.0| \\[2.0ex]
    &= 9.0 + 4.0 \\[2.0ex]
    &= 13.0 \, \text{m}
    \end{aligned}
    $$
この設問の平易な説明
  • 時間: ボールがQ点を下向きに速さ \(4.0 \, \text{m/s}\) で通過するのはいつか、という問題です。上向きをプラスとしているので、これは速度が \(-4.0 \, \text{m/s}\) になるときです。速度の式 \(v = 6.0 – 2.0t\) に \(v=-4.0\) を当てはめて計算すると、\(t=5.0\) 秒後とわかります。
  • 移動距離: 5秒後までにボールが動いた道のりの合計です。ボールは、まず \(9.0 \, \text{m}\) 上って最高点Pに着き、そこからQ点(\(5.0 \, \text{m}\)地点)まで \(4.0 \, \text{m}\) 下っています。したがって、動いた道のりの合計は \(9.0 + 4.0 = 13.0 \, \text{m}\) となります。
結論と吟味

時刻は \(5.0\) 秒後、移動距離は \(13.0 \, \text{m}\) となりました。このときの変位は \(5.0 \, \text{m}\) であり、移動距離の方が大きくなっていることから、折り返し運動の計算として妥当です。

解答 (4) \(5.0\) 秒後, \(13.0 \, \text{m}\)
別解: 異なる公式やグラフの面積を用いる解法

思考の道筋とポイント
主たる解法とは異なるアプローチで時刻と移動距離を求めます。

  1. 時刻: 点Qの位置が \(x=5.0 \, \text{m}\) であることを利用し、変位の公式 \(x=v_0t+\frac{1}{2}at^2\) から \(t\) に関する二次方程式を解きます。
  2. 移動距離: \(v-t\)グラフの面積の「絶対値」の和として計算します。

この設問における重要なポイント

  • \(x=v_0t+\frac{1}{2}at^2\) は、同じ位置を2回通過する場合、2つの時刻を解として与える。
  • 移動距離は、\(v-t\)グラフの面積の絶対値の和に等しい。

具体的な解説と立式
【時刻の別解 (\(x=v_0t+\frac{1}{2}at^2\) を用いる)】

点Qの位置は \(x=5.0 \, \text{m}\) なので、
$$
\begin{aligned}
5.0 &= 6.0t + \frac{1}{2}(-2.0)t^2
\end{aligned}
$$
【移動距離の別解 (\(v-t\)グラフの面積を用いる)】

移動距離 \(L\) は、\(t=0 \sim 3.0 \, \text{s}\) の面積(OP間)と、\(t=3.0 \sim 5.0 \, \text{s}\) の面積の絶対値(PQ間)の和です。
$$
\begin{aligned}
L &= (\text{面積}_{0-3}) + |(\text{面積}_{3-5})|
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の公式: \(x=v_0t+\frac{1}{2}at^2\)
  • 移動距離と\(v-t\)グラフの面積の関係
計算過程

【時刻の計算】
$$
\begin{aligned}
5.0 &= 6.0t – t^2 \\[2.0ex]
t^2 – 6.0t + 5.0 &= 0 \\[2.0ex]
(t-1.0)(t-5.0) &= 0
\end{aligned}
$$
よって \(t=1.0 \, \text{s}\)(上りでQを通過)と \(t=5.0 \, \text{s}\)(下りでQを通過)が求まります。問題の状況は下りなので、\(5.0 \, \text{s}\) を採用します。

【移動距離の計算】

  • \(0 \sim 3.0 \, \text{s}\) の面積(OP間): \(\frac{1}{2} \times 3.0 \times 6.0 = 9.0 \, \text{m}\)
  • \(3.0 \sim 5.0 \, \text{s}\) の面積(PQ間): \(t=5.0\)のとき\(v=-4.0\)なので、\(\frac{1}{2} \times (5.0-3.0) \times (-4.0) = -4.0 \, \text{m}\)。絶対値は \(4.0 \, \text{m}\)。

総移動距離:
$$
\begin{aligned}
L &= 9.0 + 4.0 \\[2.0ex]
&= 13.0 \, \text{m}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

【時刻】ボールが \(5.0 \, \text{m}\) 地点にいる時刻を、距離の公式から逆算します。すると答えが2つ出てきます。これは、ボールが上るときと下るときに2回Q点を通るからです。問題は下るときを聞いているので、遅い方の時刻を選びます。

【移動距離】\(v-t\)グラフの面積を計算します。ただし、道のりなので、マイナス側の面積もプラスとして足し合わせます。

結論と吟味

いずれの方法でも、主たる解法と完全に同じ結果が得られました。特に時刻の計算では、二次方程式を解くことで、上りと下りの両方の時刻が一度に求まるという利点があります。

解答 (4) \(5.0\) 秒後, \(13.0 \, \text{m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 等加速度直線運動の公式の戦略的選択
    • 核心: この問題の根幹は、等加速度直線運動を記述する3つの主要な公式を理解し、問題の状況(何が与えられ、何を求めるか)に応じて、最も効率的で計算ミスの少ない公式を戦略的に選択して適用することにあります。
    • 理解のポイント:
      • 3つの公式:
        1. \(v = v_0 + at\) (変位\(x\)が関係ない場合)
        2. \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) (最終速度\(v\)が関係ない場合)
        3. \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) (時間\(t\)が関係ない場合)
      • 公式の選択法: 5つの物理量(\(v_0, v, a, t, x\))のうち、問題で与えられた量と求めたい量を見て、関係のない変数が1つだけ含まれていない公式を選ぶのが基本戦略です。
  • 物理的な事象の数式への翻訳
    • 核心: 「最高点Pに達した」「斜面下向きに通過」といった日本語で書かれた物理的な事象を、「速度 \(v=0\)」「速度 \(v<0\)」といった簡潔な数式に正しく翻訳する能力が重要です。
    • 理解のポイント:
      • 物体が進行方向を反転する瞬間(最高点)では、その一瞬だけ速度がゼロになります。
      • 最初に設定した正の向き(斜面上向き)と逆向きの運動は、速度や加速度を負の値として扱う必要があります。
      • 「移動距離」と「変位」は、折り返し運動では異なる物理量であることを明確に区別する必要があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 鉛直投げ上げ運動: 本質的にこの問題と全く同じ構造です。初速度\(v_0\)が正、加速度が重力加速度で負(\(a=-g\))となります。「最高点に達する」が「点P」に対応し、\(v=0\)として時刻や高さを求めます。
    • ブレーキをかける自動車: 一定の加速度(負)で減速し、停止するまでの時間や距離(制動距離)を求める問題。「停止する」が「最高点」に対応し、\(v=0\)として計算します。
    • 2物体の追跡問題(出会う・追いつく): 一方が等速、もう一方が等加速度運動をする場合など。「出会う(追いつく)」とは、「同じ時刻に同じ位置にいる」ということなので、それぞれの物体の位置\(x\)に関する式を立て、\(x_A = x_B\)として時刻\(t\)についての方程式を解きます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の種類の特定: 問題文に「等加速度直線運動」と明記されていることを確認します。
    2. 座標軸と符号の宣言: 最初に「斜面上向きを正とする」と問題文で指定されていることを確認します。
    3. 物理量のリストアップ: 問題文から初速度\(v_0\)、後の速度\(v\)、時間\(t\)、加速度\(a\)、変位\(x\)の5つの物理量のうち、分かっている値を符号(\(\pm\))付きでリストアップします。
    4. 物理的条件の数式化: 「最高点P」→\(v=0\), 「斜面下向きに速さ4.0m/s」→\(v=-4.0 \, \text{m/s}\) のように、問題文のキーワードを数式に翻訳します。
    5. 公式の選択: 「不要な変数」が含まれていない公式を3つの候補から選びます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 速度と加速度の符号ミス:
    • 誤解: 点Qでの下向きの速度を \(v=4.0 \, \text{m/s}\) と正の値で代入してしまう。
    • 対策: 最初に座標軸の向き(斜面上向きが正)を宣言し、それと逆向きのベクトル量(下向きの速度、下向きの加速度)には、必ずマイナスの符号を付けることを徹底します。
  • 「最高点」=「加速度が0」という誤解:
    • 誤解: 折り返し点では力が働かなくなり、加速度がゼロになると勘違いする。
    • 対策: 投げ上げたボールが最高点に達した瞬間をイメージしましょう。その瞬間も重力(の斜面成分)は働いているため、加速度はゼロではありません。等加速度運動では、加速度は常に一定です。
  • 「変位」と「移動距離」の混同:
    • 誤解: (4)で移動距離を問われているのに、その時刻での変位(\(x=5.0 \, \text{m}\))を答えてしまう。
    • 対策: 「変位」はスタートからゴールへの最短距離(向きあり)。「移動距離」は実際に通った道のりの長さ(向きなし)。折り返し運動ではこれらは異なることを明確に意識しましょう。移動距離は「(最高点までの距離) + (最高点から下った距離)」のように、道のりを分割して足し合わせる必要があります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)で \(v^2-v_0^2=2ax\) を選ぶ理由:
    • 選定理由: 問題で与えられた情報(\(v_0, v, x\))と求めたい情報(\(a\))だけで構成されており、未知の情報である時間(\(t\))を含まない唯一の公式だからです。これにより、未知数が\(a\)だけの単純な一次方程式となり、一発で答えを求めることができます。
    • 適用根拠: この公式は、他の2つの基本公式から時間\(t\)を消去して導出されたものです。時間経過を問わない状態変化(速度と位置の変化)を直接結びつける強力な関係式です。
  • (2)で \(v=v_0+at\) と \(v^2-v_0^2=2ax\) を選ぶ理由:
    • 選定理由: どちらも「最高点(\(v=0\))」という条件を代入するだけで、未知数が1つの方程式になるからです。特に距離を求める際は、時間を計算する必要がない後者の公式がより効率的です。
    • 適用根拠: それぞれ時間と速度、変位と速度の関係を直接記述する基本公式であり、物理的条件を代入することで未知数を特定できます。
  • (4)で移動距離を「道のりの和」で計算する理由:
    • 選定理由: 折り返し運動をしているため、単一の公式で移動距離を直接求めることはできないからです。
    • 適用根拠: 移動距離の定義は「実際に動いた道のりの総和」です。したがって、運動を「上り(O→P)」と「下り(P→Q)」の区間に分け、それぞれの区間で動いた距離を足し合わせるという、定義に基づいた計算が必要になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 初期情報のリストアップ: 計算を始める前に、問題文から読み取れる \(v_0, v, t, x, a\) の値を、符号を付けて書き出す習慣をつけましょう。「O点: \(t=0, x=0, v_0=+6.0\)。Q点: \(x=+5.0, v=-4.0\)。P点: \(v=0\)。(1)\(a=?\), …」のように整理すると、思考が明確になります。
  • \(v-t\)グラフによる全体像の把握: 計算を始める前に、(3)で描くことになる\(v-t\)グラフの概形(切片が正、傾きが負の直線)を頭の中でイメージしましょう。これにより、折り返し時刻(\(t\)軸との交点)や各時刻の速度の符号などを視覚的に確認でき、立式のミスを防げます。
  • 別解による検算: 複数の公式やグラフの面積を使って同じ答えが出るか確認する「ダブルチェック」は非常に有効です。例えば、(2)で求めた時刻と距離を、\(x=v_0t+\frac{1}{2}at^2\) に代入して式が成り立つかを確認できます。
  • 因数分解の活用: \(v^2-v_0^2\)の計算では、\(a^2-b^2=(a+b)(a-b)\)の公式を積極的に利用しましょう。(1)では \((-4.0)^2 – (6.0)^2 = (-4.0+6.0)(-4.0-6.0) = 2.0 \times (-10) = -20\) となり、\(16-36\)よりも暗算しやすく、ミスが減ります。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]

発展問題

23 平面運動の速度の合成

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(3)の別解1: 三角比を直接用いる解法
      • 模範解答が特別な直角三角形の辺の比(\(1:2:\sqrt{3}\))に着目するのに対し、別解1では三角比の定義(\(\sin\theta, \cos\theta\))から直接、角度や合成速度を計算します。
    • 設問(3)の別解2: 成分計算を用いる解法
      • 主たる解法や別解1がベクトル図という幾何学的なアプローチを取るのに対し、別解2では座標を設定し、ベクトルを成分で表して代数的に計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 幾何学的アプローチと代数的アプローチの両方を学ぶことで、ベクトルという概念の理解が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 問題の特性(特別な角)に気づかなくても解ける汎用的な手法(三角比、成分計算)を習得することで、応用力が向上します。
    • 解法の汎用性: 別解2の成分計算は、ベクトルが直交しない、より複雑な角度の問題にも対応できるため、非常に汎用性の高い手法です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「平面運動における速度の合成」です。川の流れの中を進む船の運動を、「川を横切る方向の運動」と「川の流れに沿った方向の運動」に分解して考えることが基本となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の分解: 2次元の運動を、互いに直交する2つの1次元の運動の組み合わせとして独立に考えることができること。
  2. 速度の合成: 「岸から見た船の速度(合成速度)」は、「静水に対する船の速度」と「川の流れの速度」のベクトル和で表されること。
  3. ベクトル図と三角比: 速度の合成をベクトル図で表現し、その図形的な性質(特に直角三角形)を三角比や三平方の定理を用いて解析する能力。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1), (2)では、船の運動を「川岸に垂直な方向」と「川岸に平行な方向」に分解します。垂直方向の運動から対岸への到達時間を求め、その時間を使って平行方向の運動(流された距離)を計算します。
  2. (3)では、「点Oに到達する」という条件から、合成速度が川岸に垂直な向きになるようにベクトル図を描きます。その図から、川を横切る実際の速さ(合成速度の大きさ)を求め、到達時間を計算します。

問(1)

この先は、会員限定コンテンツです

記事の続きを読んで、物理の「なぜ?」を解消しませんか?
会員登録をすると、全ての限定記事が読み放題になります。

PVアクセスランキング にほんブログ村