今回の問題
wave#14【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「波形グラフからの物理量の読み取りと波の式の立式」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- y-xグラフとy-tグラフ: y-xグラフは「ある瞬間の波の形」を、y-tグラフは「ある位置の媒質の時間変化(単振動)」を表します。この2つのグラフの関係を理解することが重要です。
- 波の基本公式: 波の速さ\(v\)、振動数\(f\)、波長\(\lambda\)の間の関係式 \(v=f\lambda\) と、振動数\(f\)と周期\(T\)の関係式 \(f=1/T\) は必須の知識です。
- 波の式の立式: 波の変位を表す式 \(y(x,t)\) は、①原点の振動の様子 \(y(0,t)\) から導く方法と、②時刻\(t=0\)の波形 \(y(x,0)\) から導く方法の2通りがあります。
- 媒質の振動方向: 波の進行方向から、各点の媒質が次にどちらの向きに動くかを判断するスキルが求められます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、与えられたy-xグラフから振幅\(A\)と波長\(\lambda\)を直接読み取り、問題文で与えられた速さ\(v\)と波の基本公式を用いて周期\(T\)を計算します。
- (2)では、まず波の進行方向から原点(\(x=0\))の媒質の振動の向きを判断し、それをもとに原点のy-tグラフを描き、単振動の式を立てます。
- (3)では、(2)で求めた原点の振動の式を利用し、波が点\(x\)まで伝わるのにかかる時間の「遅れ」を考慮して、一般的な波の式 \(y(x,t)\) を導出します。
- (4)では、(3)で立てた式に具体的な時刻\(t\)と位置\(x\)の値を代入して、その点における変位を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
振幅\(A\)、波長\(\lambda\)、周期\(T\)を求める問題です。振幅と波長は、与えられた時刻\(t=0\)の波形グラフ(y-xグラフ)から直接読み取ることができます。周期\(T\)はグラフからは直接読み取れないため、問題文で与えられている波の速さ\(v\)と、グラフから読み取った波長\(\lambda\)を用いて、波の基本公式 \(v = \lambda/T\) から計算します。
この設問における重要なポイント
- 振幅\(A\)は、y-xグラフにおける変位\(y\)の最大値(山の高さ)である。
- 波長\(\lambda\)は、y-xグラフにおける波1つ分の長さである。
- 周期\(T\)は、波の基本公式 \(v = f\lambda = \lambda/T\) を使って計算する。
具体的な解説と立式
与えられた\(t=0\)のy-xグラフから、物理量を読み取ります。
振幅\(A\): グラフの変位の最大値から、\(A = 0.20\) [m] です。
波長\(\lambda\): グラフで、原点(\(x=0\))から始まり、山と谷を1つずつ越えて再び変位が0になる点(\(x=4.0\))までが1波長です。したがって、\(\lambda = 4.0\) [m] です。
次に、周期\(T\)を求めます。波の速さ\(v\)、波長\(\lambda\)、周期\(T\)の間には次の関係があります。
$$ v = \frac{\lambda}{T} $$
この式を\(T\)について解くと、
$$ T = \frac{\lambda}{v} \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 波の基本公式: \(v = \displaystyle\frac{\lambda}{T}\)
問題文より \(v = 5.0\) m/s、グラフより \(\lambda = 4.0\) m なので、これらを式①に代入します。
$$ T = \frac{4.0}{5.0} = 0.80 \text{ [s]} $$
グラフの見た目から、波の高さである「振幅」と、波の1サイクルの長さである「波長」を読み取ります。次に、「周期」(1回の振動にかかる時間)は、波が1波長分進むのにかかる時間と同じです。「時間=距離÷速さ」なので、「周期=波長÷速さ」で計算できます。
この波の振幅は \(0.20\) m、波長は \(4.0\) m、周期は \(0.80\) s です。それぞれの物理量と単位が正しく対応しており、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
原点(\(x=0\))の媒質の時間変化(y-tグラフ)とその式を求める問題です。y-tグラフを描くには、まず原点の媒質が\(t=0\)の直後にどちらに動くかを知る必要があります。これは、波の進行方向から判断します。波がx軸正の向きに進むので、少し時間が経ったときの原点の変位は、\(t=0\)のときの少し左側の点の変位と同じになります。これによって振動の開始パターン(\(\sin\)型か\(-\sin\)型かなど)を決定し、グラフと式を作成します。
この設問における重要なポイント
- 波の進行方向から、特定の点の媒質の振動の向きを判断する。
- y-tグラフは、振幅\(A\)と周期\(T\)を持つ単振動のグラフである。
- \(t=0\)での変位と、その直後の動きから、単振動の式(\(A\sin\omega t\), \(-A\sin\omega t\), \(A\cos\omega t\)など)の形を決定する。
具体的な解説と立式
まず、原点(\(x=0\))の媒質の動きを考えます。
\(t=0\)のy-xグラフを見ると、原点では \(y=0\) です。
波はx軸の正の向きに進むので、少し時間が経った後の波形は、現在の波形を少し右にずらしたものになります。このとき、原点(\(x=0\))の位置の変位は、元の波形の少し左側(\(x<0\))の変位を見ればわかります。グラフで\(x\)がわずかに負の領域を見ると、\(y\)は負の値をとっています。
したがって、原点の媒質は\(t=0\)の直後、y軸の負の向きに動き始めます。
この情報をもとに、原点のy-tグラフを描きます。
- 縦軸を\(y_0\)、横軸を\(t\)とします。
- \(t=0\)で\(y_0=0\)から始まり、負の方向に変位します。
- \(t=T/4 = 0.80/4 = 0.20\) s で最小値 \(-A = -0.20\) m になります。
- \(t=T/2 = 0.40\) s で再び \(y_0=0\) になります。
- \(t=3T/4 = 0.60\) s で最大値 \(A = 0.20\) m になります。
- \(t=T = 0.80\) s で \(y_0=0\) に戻ります。
このグラフは、\(-\sin\)型のカーブを描きます。
次に、この単振動を式で表します。振幅が\(A\)、角振動数が\(\omega\)の\(-\sin\)型の振動は、
$$ y_0(t) = -A \sin(\omega t) $$
と表せます。ここで、角振動数\(\omega\)は周期\(T\)と \(\omega = 2\pi/T\) の関係にあります。
(1)より \(A=0.20\) m, \(T=0.80\) s なので、
$$ \omega = \frac{2\pi}{T} = \frac{2\pi}{0.80} = 2.5\pi \text{ [rad/s]} $$
よって、求める式は、
$$ y_0(t) = -0.20 \sin(2.5\pi t) \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 単振動の式: \(y = -A \sin(\omega t)\)
- 角振動数と周期の関係: \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)
(グラフは省略し、式の導出のみ示す)
上記「具体的な解説と立式」の通り、原点の振動は振幅\(A=0.20\) m、周期\(T=0.80\) s の\(-\sin\)型振動である。
角振動数\(\omega\)は、
$$ \omega = \frac{2\pi}{0.80} = 2.5\pi $$
よって、式は、
$$ y_0(t) = -0.20 \sin(2.5\pi t) $$
まず、原点の動きを調べます。波が右にスライドしていくのを想像すると、原点の位置はまず下に沈んでいくことがわかります。この「ゼロから始まって下に動く」動きは、数学の\(-\sin\)グラフと同じです。なので、原点の動きを表す式は \(y = -A \sin(\omega t)\) の形になります。あとは(1)で求めた振幅\(A\)と周期\(T\)を使って、\(\omega = 2\pi/T\) を計算し、式に代入すれば完成です。
原点の変位を表すグラフは\(-\sin\)カーブ、式は \(y_0(t) = -0.20 \sin(2.5\pi t)\) となります。この式に\(t=0\)を代入すると\(y_0=0\)、\(t\)がわずかに正の値をとると\(y_0\)は負となり、物理的な状況と一致しています。
式:\(y_0(t) = -0.20 \sin(2.5\pi t)\)
問(3)
思考の道筋とポイント
任意の座標\(x\)、時刻\(t\)における変位\(y(x,t)\)を表す式を作る問題です。基本的な考え方は、「点\(x\)の振動は、原点の振動が、波がそこまで伝わる時間だけ遅れて起こる」というものです。波の速さは\(v\)なので、原点から点\(x\)まで波が伝わるのにかかる時間は \(\Delta t = x/v\) です。したがって、(2)で求めた原点の振動の式 \(y_0(t)\) の時刻\(t\)を、\((t – x/v)\)で置き換えれば、\(y(x,t)\)の式が得られます。
この設問における重要なポイント
- x軸正方向に進む波では、点\(x\)の振動は原点の振動より時間 \(\Delta t = x/v\) だけ遅れる。
- この「時間の遅れ」は、式の\(t\)を\((t – \Delta t)\)で置き換えることで表現できる。
- 最終的に、波の式の標準形 \(y = A \sin 2\pi(\frac{t}{T} – \frac{x}{\lambda} + \dots)\) の形に整理する。
具体的な解説と立式
点\(x\)における時刻\(t\)の変位 \(y(x,t)\) は、原点における時刻 \((t – x/v)\) の変位 \(y_0(t-x/v)\) に等しい。
$$ y(x,t) = y_0\left(t – \frac{x}{v}\right) $$
(2)で求めた式 \(y_0(t) = -0.20 \sin(2.5\pi t)\) を用いて、
$$ y(x,t) = -0.20 \sin\left(2.5\pi \left(t – \frac{x}{v}\right)\right) $$
ここに、\(v=5.0\) m/s を代入します。
$$ y(x,t) = -0.20 \sin\left(2.5\pi \left(t – \frac{x}{5.0}\right)\right) \quad \cdots ③ $$
この式をさらに整理し、標準的な形にします。
$$
\begin{aligned}
y(x,t) &= -0.20 \sin\left(2.5\pi t – \frac{2.5\pi}{5.0}x\right) \\[2.0ex]
&= -0.20 \sin(2.5\pi t – 0.50\pi x)
\end{aligned}
$$
また、\(T=0.80\) s, \(\lambda=4.0\) m の関係を使うと、\(2.5\pi = 2\pi/T\), \(0.50\pi = 2\pi/\lambda\) なので、
$$ y(x,t) = -0.20 \sin\left(\frac{2\pi}{T}t – \frac{2\pi}{\lambda}x\right) = -0.20 \sin 2\pi\left(\frac{t}{T} – \frac{x}{\lambda}\right) $$
数値を代入した形では、
$$ y(x,t) = -0.20 \sin 2\pi\left(\frac{t}{0.80} – \frac{x}{4.0}\right) $$
使用した物理公式
- 波の伝播による時間の遅れ: \(y(x,t) = y_0(t – x/v)\)
上記「具体的な解説と立式」の通り、(2)の答えの\(t\)を\((t-x/v)\)で置き換える。
$$
\begin{aligned}
y(x,t) &= y_0(t-x/v) \\[2.0ex]
&= -0.20 \sin\left(2.5\pi \left(t – \frac{x}{5.0}\right)\right) \\[2.0ex]
&= -0.20 \sin 2\pi\left(\frac{t}{0.80} – \frac{x}{4.0}\right)
\end{aligned}
$$
ある場所(\(x\))の揺れは、原点の揺れを録画したビデオを、波が届くまでの時間(距離\(x\)÷速さ\(v\))だけ遅れて再生したものと同じです。数式で「時間を遅らせる」には、\(t\) を \((t – \text{遅れる時間})\) に書き換えるだけでOKです。(2)で作った原点の式にこの操作をすれば、いつでもどこでも変位がわかる万能な式が完成します。
座標\(x\)、時刻\(t\)における変位を表す式は \(y(x,t) = -0.20 \sin 2\pi\left(\frac{t}{0.80} – \frac{x}{4.0}\right)\) となる。この式に\(t=0\)を代入すると \(y(x,0) = -0.20 \sin(-\frac{2\pi x}{4.0}) = 0.20 \sin(\frac{\pi x}{2})\) となり、与えられたグラフの形と一致するため、妥当な式である。
問(4)
思考の道筋とポイント
(3)で導出した一般式に、指定された時刻 \(t=2.0\) s と位置 \(x=31\) m を代入して変位\(y\)の値を計算する問題です。計算過程で\(\sin\)の中の位相が大きくなりますが、\(\sin\)の周期性(\(2\pi\)ごとに同じ値をとる)を利用して、計算しやすい角度に変換するのがコツです。
この設問における重要なポイント
- 導出した一般式に、具体的な数値を代入して計算する。
- \(\sin\)関数の周期性 \(\sin(\theta + 2n\pi) = \sin\theta\) (\(n\)は整数)を利用して計算を簡略化する。
具体的な解説と立式
(3)で求めた式に、\(t=2.0\) s, \(x=31\) m を代入します。
$$ y = -0.20 \sin 2\pi\left(\frac{2.0}{0.80} – \frac{31}{4.0}\right) \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- (3)で導出した波の式
式④の\(\sin\)の中の計算を進めます。
$$ \frac{2.0}{0.80} = \frac{20}{8} = \frac{5}{2} = 2.5 $$
$$ \frac{31}{4.0} = 7.75 $$
よって、
$$
\begin{aligned}
y &= -0.20 \sin 2\pi(2.5 – 7.75) \\[2.0ex]
&= -0.20 \sin 2\pi(-5.25) \\[2.0ex]
&= -0.20 \sin(-10.5\pi)
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sin(-\theta) = -\sin(\theta)\) の関係を使うと、
$$ y = 0.20 \sin(10.5\pi) $$
さらに、\(\sin\)の周期が\(2\pi\)であることを利用して、\(10.5\pi = 10\pi + 0.5\pi = 5 \times (2\pi) + \pi/2\) と分解します。
$$ \sin(10.5\pi) = \sin\left(5 \times 2\pi + \frac{\pi}{2}\right) = \sin\left(\frac{\pi}{2}\right) = 1 $$
したがって、求める変位は、
$$ y = 0.20 \times 1 = 0.20 \text{ [m]} $$
(3)で作った万能レシピに、\(t=2.0\), \(x=31\) という材料を代入して計算します。\(\sin\)の中の数字が大きくなりますが、\(\sin\)はぐるぐる回る円の動きのようなものなので、何周もした後の角度は、最後の半端な角度だけ考えればOKです。計算すると、最終的に\(\sin(90^\circ)\)と同じ値になるので、答えが求まります。
時刻 \(t=2.0\) s, \(x=31\) m での変位は \(0.20\) m となった。これは振幅の最大値であり、物理的にありえる値です。
物理的に吟味してみましょう。
\(t=0\)のとき、\(x=31\) m の点の変位は \(y(31,0) = 0.20 \sin(\pi \times 31 / 2) = 0.20 \sin(15.5\pi) = -0.20\) m。つまり、谷の底にいます。
そこから \(t=2.0\) s 経過します。周期は \(T=0.80\) s なので、\(2.0 / 0.80 = 2.5\) 周期分、時間が経過したことになります。
谷の底にいる媒質は、\(0.5\)周期後に山の頂点に、\(1\)周期後に元の谷の底に戻ります。
\(2.5\)周期後には、\(2\)周期で元に戻り、さらに\(0.5\)周期進むので、谷の底から山の頂点に移動します。
よって、変位は \(+0.20\) m となり、計算結果と一致します。
▼別の問題もチャレンジ▼