無料でしっかり基礎固め!物理基礎 問題演習「動滑車と運動方程式」【高校物理対応】

問題の確認

dynamics#28

各設問の思考プロセス

この問題は、「動滑車」を含む力学の問題です。動滑車が使われているため、2つの物体の加速度が単純な関係にならない点が特徴です。運動方程式を立てるだけでなく、物体間の運動の関連性(束縛条件)を見抜くことが重要になります。

この問題を解く上で中心となる物理法則は以下の通りです。

  • 運動の束縛条件: 物体が糸や滑車で連結されている場合、その動きは互いに制約を受けます。この問題では、動滑車の仕組みから、物体1と物体2の加速度の関係を導出することが最初のステップです。
  • ニュートンの運動の第二法則(運動方程式): 各物体にはたらく力をすべて特定し、それぞれについて運動方程式 (\(ma = F_{\text{合力}}\)) を立てます。

この問題を解くための手順は以下の通りです。

  1. (1) 加速度の関係を導く: 動滑車の仕組みから、物体1と物体2の移動距離の関係を考え、それを元に加速度 \(\alpha\) と \(\beta\) の関係式を導きます。向きに注意することが重要です。
  2. (2) 運動方程式を立てる: 物体1と物体2、それぞれにはたらく力(重力、張力)を図示し、問題で定められた「下向きが正」の座標軸に従って、運動方程式を立てます。物体1には2本のひもが繋がっている点に注意します。
  3. (3), (4) Mとmの関係を求める: (1)と(2)で立てた3つの式を連立させて、加速度 \(\alpha\) を \(M, m, g\) で表します。その\(\alpha\)の符号(正なら下降、負なら上昇)から、Mとmの関係を導き出します。

各設問の具体的な解説と解答

(1) 加速度\(\alpha\)と\(\beta\)の間に成りたつ関係を求めよ。

問われている内容の明確化
物体1の加速度 \(\alpha\) と物体2の加速度 \(\beta\) の間の関係式を求めます。

具体的な解説と立式
動滑車の働きを考えます。物体2が距離 \(x_2\) だけ下降したとします。すると、その長さのひもは、物体1を支える2本のひも部分に均等に供給されます。したがって、物体1を支えるひもはそれぞれ \(\frac{x_2}{2}\) だけ長くなります。これは、物体1が \(\frac{x_2}{2}\) だけ上昇することを意味します。
つまり、変位の関係は \(x_1 = -\frac{1}{2}x_2\) となります(下向きを正としているため、上昇は負の変位)。
この両辺を時間で2回微分すると、加速度の関係が得られます。
$$\alpha = -\frac{1}{2}\beta \quad \text{または} \quad \beta = -2\alpha \quad \cdots ①$$
これが求める関係式です。これは、物体1が下降(\(\alpha>0\))するとき、物体2は上昇(\(\beta<0\))することを意味しており、物理的にも正しいです。

使用した物理法則:

動滑車による運動の束縛条件

計算過程
この設問は、上記の力学的・幾何学的な考察から直接関係式を導くもので、数値計算はありません。

解答 (1):
\(\beta = -2\alpha\)

(2) 物体1,2の運動方程式をそれぞれ立てよ。

問われている内容の明確化
物体1と物体2について、それぞれ運動方程式を立てます。

具体的な解説と立式
問題の指示通り、鉛直下向きを正とします。ひもの張力の大きさを \(T\) とします。

物体1の運動方程式

  • 質量: \(M\), 加速度: \(\alpha\)
  • はたらく力:
    • 重力: 鉛直下向きに \(Mg\)。向きが正なので \(+Mg\)。
    • 張力: 2本のひもが物体1(につながった動滑車)を上に引いている。したがって、上向きに大きさ \(2T\) の力がはたらく。向きが負なので \(-2T\)。

運動方程式 \(M\alpha = F_{\text{合力}}\) は、
$$M\alpha = Mg – 2T \quad \cdots ②$$

物体2の運動方程式

  • 質量: \(m\), 加速度: \(\beta\)
  • はたらく力:
    • 重力: 鉛直下向きに \(mg\)。向きが正なので \(+mg\)。
    • 張力: 上向きに \(T\)。向きが負なので \(-T\)。

運動方程式 \(m\beta = F_{\text{合力}}\) は、
$$m\beta = mg – T \quad \cdots ③$$

使用した物理公式: ニュートンの運動方程式
$$ma = F_{\text{合力}}$$
解答 (2):
物体1: \(M\alpha = Mg – 2T\)
物体2: \(m\beta = mg – T\)

(3) 物体1が下降するときの Mとmの関係を求めよ。

問われている内容の明確化
物体1が下向きに加速して運動する(下降する)ための、質量 \(M\) と \(m\) の条件を求めます。

具体的な解説と立式
物体1が下降するということは、その加速度 \(\alpha\) が正であることを意味します(鉛直下向きを正としているため)。
$$\alpha > 0$$
この条件を調べるために、まず(1)と(2)で立てた3つの式を連立させて、\(\alpha\) を \(M, m, g\) だけで表します。

  1. \(\beta = -2\alpha \quad \cdots ①\)
  2. \(M\alpha = Mg – 2T \quad \cdots ②\)
  3. \(m\beta = mg – T \quad \cdots ③\)

まず、③から \(T\) を \(\beta\) で表し、それを②に代入して \(T\) を消去します。
式③より: \(T = mg – m\beta\)
この \(T\) を式②に代入します。
$$M\alpha = Mg – 2(mg – m\beta)$$
次に、この式に① \(\beta = -2\alpha\) を代入して、\(\beta\) を消去します。
$$M\alpha = Mg – 2(mg – m(-2\alpha))$$
この方程式を \(\alpha\) について解きます。

計算過程
まず、\(\alpha\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
M\alpha &= Mg – 2(mg + 2m\alpha) \\[2.0ex]M\alpha &= Mg – 2mg – 4m\alpha \\[2.0ex]M\alpha + 4m\alpha &= Mg – 2mg \\[2.0ex](M + 4m)\alpha &= (M – 2m)g \\[2.0ex]\alpha &= \frac{M – 2m}{M + 4m} g
\end{aligned}
$$
物体1が下降する条件は \(\alpha > 0\) です。\(M, m, g\) はすべて正なので、分母の \((M+4m)\) も常に正です。したがって、この不等式が成り立つかどうかは、分子の符号によって決まります。
$$M – 2m > 0$$
これを整理すると、
$$M > 2m$$
これが物体1が下降するための条件です。

解答 (3):
\(M > 2m\)

(4) 物体1が上昇するときの Mとmの関係を求めよ。

問われている内容の明確化
物体1が上向きに加速して運動する(上昇する)ための、質量 \(M\) と \(m\) の条件を求めます。

具体的な解説と立式
物体1が上昇するということは、その加速度 \(\alpha\) が負であることを意味します(鉛直下向きを正としているため)。
$$\alpha < 0$$
(3)で求めた \(\alpha\) の式を使います。
$$\alpha = \frac{M – 2m}{M + 4m} g$$
分母 \((M+4m)\) と \(g\) は正なので、\(\alpha < 0\) となる条件は、分子が負になることです。
$$M – 2m < 0$$

計算過程
上の不等式を整理します。
$$M < 2m$$
これが物体1が上昇するための条件です。
(補足: もし \(M = 2m\) ならば、\(\alpha=0\) となり、物体は動き出さずにつり合ったままになります。)

解答 (4):
\(M < 2m\)

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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則

  • 運動の束縛条件: 物体が糸や滑車で連結されている場合、その動きは互いに制約を受けます。動滑車がある場合、物体1が \(x\) 動くと物体2は \(2x\) 動くという関係(逆向きに)になり、加速度も \(\beta = -2\alpha\) となります。この関係を正しく見抜くことが最重要です。
  • ニュートンの運動の第二法則(運動方程式): 各物体にはたらく力をすべて特定し、それぞれについて運動方程式 (\(ma = F_{\text{合力}}\)) を立てることが基本です。
  • 動滑車の張力: 動滑車を吊るしている物体には、2本分のひもの張力がはたらくため、合力を計算する際には \(2T\) として扱う必要があります。

類似の問題を解く上でのヒントや注意点

  • 加速度の関係を先に導く: 動滑車や複数の物体が連動する問題では、まず各物体の変位や加速度の間の関係式(束縛条件)を導出することが、問題を解く上での良い出発点となります。
  • 力の図示を徹底する: 各物体にはたらく力をすべて矢印で図示し(フリーボディダイアグラム)、力の見落としや向きの間違いを防ぎましょう。
  • 連立方程式の解法: 複数の未知数(この問題では\(\alpha, \beta, T\))と複数の式が出てきます。代入法や加減法を使い、未知数を一つずつ消去していくのが定石です。

よくある誤解や間違いやすいポイント

  • 加速度の関係の間違い: 動滑車があるときの加速度の関係を、\( \alpha = \beta \) や \( \alpha = 2\beta \) のように誤って設定してしまうミスが最も多いです。どちらがどれだけ動くかを、ひもの長さに着目して慎重に考えましょう。
  • 向き(符号)の混乱: 運動の向きと座標軸の正の向きを混同し、運動方程式の力の符号を間違えてしまうケース。最初に「どちら向きを正とするか」を明確に決め、それに従って式を立てることが重要です。
  • 張力の数え間違い: 物体1にはたらく上向きの張力を \(T\) ではなく \(2T\) と数えることを見落としがちです。動滑車には2本のひもが掛かっていることを図から正確に読み取る必要があります。

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