問題66 (近畿大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、熱機関の基本的な概念である「熱効率」、そしてその熱機関を利用した「仕事」について問うています。前半(1)~(3)は熱機関そのものの熱と仕事の関係を、後半(4)~(5)はその熱機関を動力源とするポンプの仕事に関する問題です。
この問題の核心は、熱機関のエネルギー収支(\(Q_1 = W + Q_2\))と熱効率の定義(\(e = W/Q_1\))を正しく理解し、具体的な数値を当てはめて計算することです。また、仕事の単位[J]と熱量の単位[J]が同じエネルギーの単位であることを認識することも重要です。
- 熱機関: 蒸気機関
- 高熱源から取り入れる熱量: \(Q_1\) [J/s]
- 低熱源へ放出する熱量: \(Q_2\) [J/s]
- 仕事: \(W\) [J/s]
- 低熱源でのプロセス: 毎秒2.0kgの100℃の水蒸気が100℃の水になる。
- 水の蒸発熱: \(2.3 \times 10^3\) J/g
- 熱効率: \(e = 15\% = 0.15\)
- 重力加速度: \(g = 9.8\) m/s²
- ポンプの仕事:
- 深さ: \(h = 45\) m
- 水の密度: \(\rho = 1.0 \times 10^3\) kg/m³ (これは物理常識として使用)
- (1) 毎秒、低熱源へ放出される熱量 \(Q_2\)。
- (2) 毎秒、高熱源から取り入れる熱量 \(Q_1\)。
- (3) 10分間にする仕事。
- (4) 1m³の水を地上へ排出するのに必要な仕事。
- (5) 10分間にポンプがくみ出せる水の体積。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(3) 10分間にする仕事の別解: 熱効率と吸収熱量から直接計算する解法
- 主たる解法が、まず1秒あたりの仕事\(W\)を熱量の差(\(W = Q_1 – Q_2\))から計算するのに対し、別解では熱効率の定義式(\(W = e Q_1\))を直接利用して1秒あたりの仕事を計算します。
- 問(3) 10分間にする仕事の別解: 熱効率と吸収熱量から直接計算する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理法則の多角的応用: 熱効率の定義式が \(e = \frac{W}{Q_1}\) と \(e = \frac{Q_1-Q_2}{Q_1}\) の両方で表現できることを再確認し、状況に応じて使い分ける能力を養うことができます。
- 計算の選択肢: 問(1)を解いていなくても、問(2)の結果さえあれば問(3)が解けることを示しており、設問の依存関係を理解する上で有益です。これにより、試験本番で特定の設問が解けない場合でも、他の設問からアプローチする柔軟な思考が身につきます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「熱機関の効率」と「仕事」です。熱力学第一法則の応用として、熱機関のエネルギーの流れを正しく把握することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 熱機関のエネルギー保存: 高熱源から吸収した熱量\(Q_1\)の一部が仕事\(W\)に変換され、残りが低熱源に熱量\(Q_2\)として排出されます。関係式は \(Q_1 = W + Q_2\) です。
- 熱効率の定義: 熱機関が吸収した熱量\(Q_1\)のうち、どれだけの割合が仕事\(W\)に変換されたかを示す指標です。定義式は \(e = \frac{W}{Q_1} = \frac{Q_1 – Q_2}{Q_1}\) です。
- 潜熱(蒸発熱): 物質が状態変化する際にやり取りする熱量です。質量\(m\)の物質が状態変化するのに必要な熱量は \(Q = mL\)(\(L\)は蒸発熱などの潜熱)で計算します。
- 仕事の計算: ポンプが水を持ち上げる仕事は、水の位置エネルギーの増加分に等しく、\(W = mgh\) で計算できます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、低熱源で起こっている現象(水蒸気→水)に着目し、放出される熱量\(Q_2\)を潜熱の計算から求めます(問1)。
- 次に、熱効率の定義式 \(e = (Q_1 – Q_2) / Q_1\) を用いて、吸収した熱量\(Q_1\)を逆算します(問2)。
- \(W = Q_1 – Q_2\) の関係から1秒あたりの仕事(仕事率)を求め、指定された時間(10分)を掛けて総仕事量を計算します(問3)。
- 後半は、ポンプの仕事です。位置エネルギーの増加分として、特定の体積の水を持ち上げるのに必要な仕事を計算します(問4)。
- 最後に、(3)で求めた熱機関が供給できる総仕事量と、(4)で求めた単位体積あたりの仕事量から、くみ出せる水の総体積を求めます(問5)。
問(1)
思考の道筋とポイント
低熱源へ放出される熱量 \(Q_2\) は、100℃の水蒸気が100℃の水になるときに放出する熱量(凝縮熱)に等しいです。これは、水の蒸発熱を用いて計算できます。
この設問における重要なポイント
- 放出される熱量は、状態変化に伴う潜熱である。
- 100℃の水蒸気 \(\rightarrow\) 100℃の水 の変化で放出される熱量は、蒸発熱に等しい。
- 単位の換算(kg \(\rightarrow\) g)に注意する。
具体的な解説と立式
- 毎秒状態変化する水の質量: \(m = 2.0\) kg \(= 2.0 \times 10^3\) g
- 水の蒸発熱: \(L_v = 2.3 \times 10^3\) J/g
毎秒放出される熱量 \(Q_2\) は、潜熱の公式 \(Q=mL\) を用いて計算します。
$$Q_2 = m L_v$$
使用した物理公式
- 潜熱の計算: \(Q = mL\)
$$
\begin{aligned}
Q_2 &= (2.0 \times 10^3) \times (2.3 \times 10^3) \\[2.0ex]
&= 4.6 \times 10^6 \text{ J}
\end{aligned}
$$
この熱機関では、仕事が終わった後の「燃えカス」である100℃の水蒸気を、100℃の水に戻すことで熱を捨てています。このとき放出される熱の量は、「質量 × 蒸発熱」で計算できます。問題文で与えられた数値を代入して計算します。
毎秒放出される熱量は \(4.6 \times 10^6\) J です。これは、熱機関が外部に捨てている熱エネルギーの量に相当します。
問(2)
思考の道筋とポイント
熱効率の定義式 \(e = \frac{Q_1 – Q_2}{Q_1}\) を用いて、高熱源から取り入れる熱量 \(Q_1\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 熱効率の公式を正しく使えること。
- 未知数が \(Q_1\) のみの方程式を立てて解く。
具体的な解説と立式
- 熱効率: \(e = 15\% = 0.15\)
- 低熱源へ放出する熱量: \(Q_2 = 4.6 \times 10^6\) J (問(1)の結果)
熱効率の公式は、
$$e = \frac{Q_1 – Q_2}{Q_1}$$
数値を代入すると、
$$0.15 = \frac{Q_1 – 4.6 \times 10^6}{Q_1}$$
使用した物理公式
- 熱効率の定義: \(e = \frac{W}{Q_1} = \frac{Q_1 – Q_2}{Q_1}\)
この方程式を \(Q_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
0.15 Q_1 &= Q_1 – 4.6 \times 10^6 \\[2.0ex]
Q_1 – 0.15 Q_1 &= 4.6 \times 10^6 \\[2.0ex]
0.85 Q_1 &= 4.6 \times 10^6 \\[2.0ex]
Q_1 &= \frac{4.6 \times 10^6}{0.85} \\[2.0ex]
&= 5.411… \times 10^6
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(5.4 \times 10^6\) J となります。
この熱機関の「燃費」(熱効率)は15%です。これは、取り入れた熱のうち15%しか仕事にならず、残りの85%は捨てられることを意味します。(1)で計算した「捨てられた熱量 \(Q_2\)」が、全体の85%に相当するわけではありません。計算式に当てはめて解くのが確実です。
毎秒取り入れる熱量は \(5.4 \times 10^6\) J です。捨てた熱量 \(4.6 \times 10^6\) J よりも大きい値であり、物理的に妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
熱機関が10分間にする仕事を求めます。まず、1秒あたりにする仕事(仕事率)を求め、それに時間(10分 = 600秒)を掛けます。
この設問における重要なポイント
- 1秒あたりの仕事 \(W\) は \(W = Q_1 – Q_2\)。
- 総仕事量は、(1秒あたりの仕事) × (時間)。
- 時間の単位を秒に換算する(10分 = 600秒)。
具体的な解説と立式
- 1秒あたりの仕事 \(W\):
$$W = Q_1 – Q_2$$ - 10分間の総仕事量 \(W_{total}\):
$$W_{total} = W \times (10 \times 60)$$
使用した物理公式
- 熱力学第一法則(熱機関): \(W = Q_1 – Q_2\)
まず、1秒あたりの仕事を計算します。計算の途中なので、有効数字を1桁多くとって計算します。
$$
\begin{aligned}
W &= 5.41 \times 10^6 – 4.6 \times 10^6 \\[2.0ex]
&= 0.81 \times 10^6 \text{ J/s}
\end{aligned}
$$
次に、10分間の総仕事量を計算します。
$$
\begin{aligned}
W_{total} &= (0.81 \times 10^6) \times (10 \times 60) \\[2.0ex]
&= (0.81 \times 10^6) \times 600 \\[2.0ex]
&= 486 \times 10^6 \\[2.0ex]
&= 4.86 \times 10^8
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(4.9 \times 10^8\) J となります。
「取り入れた熱量」から「捨てた熱量」を引いた差額が、実際に仕事になったエネルギーです。まず、この「1秒あたりにできる仕事」を計算します。そして、10分間ではその何倍の仕事ができるかを、時間を掛けることで計算します。
10分間にする仕事は \(4.9 \times 10^8\) J です。
思考の道筋とポイント
熱効率の定義 \(e = W/Q_1\) を変形した \(W=eQ_1\) を用いて、1秒あたりの仕事 \(W\) を直接計算します。
この設問における重要なポイント
- 熱効率の定義式 \(W = eQ_1\) を利用する。
具体的な解説と立式
- 熱効率: \(e = 0.15\)
- 吸収熱量: \(Q_1 = 5.41 \times 10^6\) J/s (問(2)の結果)
1秒あたりの仕事 \(W\) は、
$$ W = e Q_1 $$
使用した物理公式
- 熱効率の定義: \(W = eQ_1\)
$$
\begin{aligned}
W &= 0.15 \times (5.41 \times 10^6) \\[2.0ex]
&= 0.8115 \times 10^6 \text{ J/s}
\end{aligned}
$$
この結果は主たる解法の \(0.81 \times 10^6\) J/s と一致します。
この後の総仕事量の計算は同じです。
$$
\begin{aligned}
W_{total} &= (0.8115 \times 10^6) \times 600 \\[2.0ex]
&= 4.869 \times 10^8
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(4.9 \times 10^8\) J となります。
熱効率が15%ということは、取り入れた熱量の15%が仕事になる、という意味です。 (2)で計算した「取り入れた熱量」に0.15を掛けることで、「1秒あたりにできる仕事」を直接計算できます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。熱機関のエネルギー収支における \(Q_1, Q_2, W\) の3つの量は、どれか2つが分かれば残りの1つが計算できる関係にあります。この別解は、その関係を別の角度から利用したものです。
問(4)
思考の道筋とポイント
ポンプが1m³の水を45mの高さまで持ち上げるのに必要な仕事を計算します。この仕事は、持ち上げた水の位置エネルギーの増加分に等しいです。
この設問における重要なポイント
- 仕事は位置エネルギーの増加分に等しい: \(W = mgh\)。
- 1m³の水の質量を計算する必要がある(水の密度 \(\rho = 1.0 \times 10^3\) kg/m³)。
具体的な解説と立式
- 持ち上げる水の体積: \(V = 1.0\) m³
- 水の密度: \(\rho = 1.0 \times 10^3\) kg/m³
- 持ち上げる水の質量: \(m = \rho V = (1.0 \times 10^3) \times 1.0 = 1.0 \times 10^3\) kg
- 持ち上げる高さ: \(h = 45\) m
- 重力加速度: \(g = 9.8\) m/s²
必要な仕事 \(W_{pump}\) は、
$$W_{pump} = mgh$$
使用した物理公式
- 仕事と位置エネルギーの関係: \(W = \Delta U = mgh\)
- 質量と密度の関係: \(m = \rho V\)
$$
\begin{aligned}
W_{pump} &= (1.0 \times 10^3) \times 9.8 \times 45 \\[2.0ex]
&= 441 \times 10^3 \\[2.0ex]
&= 4.41 \times 10^5
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(4.4 \times 10^5\) J となります。
ポンプの仕事は、水を高いところに持ち上げることです。このとき、水の位置エネルギーが増加します。この「増えた位置エネルギー」の分だけ、ポンプは仕事をしたことになります。位置エネルギーは「質量 × 重力加速度 × 高さ」で計算できます。
1m³の水を排出するのに必要な仕事は \(4.4 \times 10^5\) J です。
問(5)
思考の道筋とポイント
10分間にくみ出せる水の体積を求めます。これは、熱機関が10分間に供給できる総仕事量((3)の結果)を、1m³の水をくみ出すのに必要な仕事量((4)の結果)で割ることで計算できます。
この設問における重要なポイント
- (くみ出せる総体積) = (利用できる総仕事量) / (単位体積あたりの仕事量)
具体的な解説と立式
- 10分間に熱機関ができる総仕事: \(W_{total} = 4.86 \times 10^8\) J ((3)の有効数字を増やした値)
- 1m³の水をくみ出すのに必要な仕事: \(W_{pump} = 4.41 \times 10^5\) J ((4)の有効数字を増やした値)
求める水の体積を \(V_{total}\) とすると、
$$V_{total} = \frac{W_{total}}{W_{pump}}$$
使用した物理公式
- 仕事の比例関係
$$
\begin{aligned}
V_{total} &= \frac{4.86 \times 10^8}{4.41 \times 10^5} \\[2.0ex]
&= 1.102… \times 10^3
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(1.1 \times 10^3\) m³ となります。
(3)で、この熱機関が10分間にどれだけの仕事ができるかがわかっています。(4)で、1m³の水をくみ出すのにどれだけの仕事が必要かがわかっています。したがって、割り算をすることで、10分間の総仕事量で、何m³の水をくみ出せるかが計算できます。
10分間にくみ出せる水の体積は \(1.1 \times 10^3\) m³ です。これは25mプール約3杯分に相当する量で、トンネル工事の排水量としては現実的なオーダーかもしれません。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 熱力学第一法則(熱機関への応用):
- 核心: 熱機関は、高温の熱源から熱量\(Q_1\)を吸収し、その一部を外部への仕事\(W\)に変換し、残りの熱量\(Q_2\)を低温の熱源へ排出する装置です。このエネルギーの流れは、エネルギー保存則(熱力学第一法則)によって \(Q_1 = W + Q_2\) と記述されます。
- 理解のポイント: この問題では、まず低熱源へ排出される\(Q_2\)を計算し(1)、次に熱効率\(e\)の情報を使って高熱源から吸収した\(Q_1\)を求め(2)、最後に差をとって仕事\(W\)を計算する(3)、という流れになっています。このエネルギー収支の三者の関係を正確に理解することが全ての基本です。
- 熱効率の定義:
- 核心: 熱機関の性能を表す指標が熱効率\(e\)です。これは、吸収した熱量\(Q_1\)のうち、どれだけの割合が有効な仕事\(W\)に変換されたかを示し、\(e = \frac{W}{Q_1}\) で定義されます。
- 理解のポイント: \(W = Q_1 – Q_2\) の関係を使うと、熱効率は \(e = \frac{Q_1 – Q_2}{Q_1} = 1 – \frac{Q_2}{Q_1}\) とも書き換えられます。この式は、「吸収した熱を100%仕事に変えることはできず(\(e<1\))、必ず熱を捨てる必要がある(\(Q_2>0\))」という熱力学第二法則の原理を示唆しています。(2)では、この定義式を\(Q_1\)についての方程式として解くことが求められます。
- 仕事とエネルギーの関係:
- 核心: ある物体に仕事\(W\)をすると、その物体のエネルギーが\(W\)だけ変化します。後半のポンプの問題では、ポンプが水にした仕事が、水の持つ位置エネルギーの増加分に等しいと考えます。
- 理解のポイント: (4)でポンプが水を持ち上げる仕事は、水の質量を\(m\)、持ち上げる高さを\(h\)として \(W=mgh\) で計算できます。これは、力学の仕事とエネルギーの関係が、熱機関のような熱力学的な装置と結びつけて出題される典型的なパターンです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- カルノーサイクル: 理想的な熱機関であるカルノーサイクルの問題。断熱変化と等温変化を組み合わせたサイクルで、その熱効率は \(e = 1 – \frac{T_2}{T_1}\) (\(T_1, T_2\)は高熱源と低熱源の絶対温度)で与えられます。
- 冷凍機・ヒートポンプ: 熱機関の逆のサイクルで動く装置。外部から仕事をすることで、低温の物体から熱を奪い、高温の物体へ熱を移動させます。性能はCOP(成績係数)という指標で評価されます。
- 発電所のエネルギー変換: 火力発電や原子力発電など、熱エネルギーを電気エネルギーに変換するプロセス全体を一つの熱機関とみなす問題。エネルギーの変換効率や、冷却水へ排出される熱量などが問われます。
- 初見の問題での着眼点:
- エネルギーの流れを図示する: 高熱源、熱機関、低熱源、そして外部への仕事の4つの要素を図で描き、\(Q_1\), \(Q_2\), \(W\) のエネルギーの流れを矢印で書き込むと、問題の構造が視覚的に理解しやすくなります。
- 単位時間あたりか、総量か?: 問題で与えられている量や問われている量が、「毎秒あたり」の量(仕事率[W]や熱流[J/s])なのか、それともある時間における「総量」(仕事[J]や熱量[J])なのかを明確に区別することが重要です。(3)や(5)では、この区別ができていないと計算を誤ります。
- 単位の統一: 熱量の問題では、質量が[g]で与えられたり[kg]で与えられたりします。比熱や潜熱の単位(J/gかJ/kgか)をよく確認し、計算前に単位を統一する習慣をつけましょう。この問題では、(1)でkgをgに換算する必要がありました。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 熱効率の式の誤用:
- 誤解: 熱効率を \(e = W/Q_2\) や \(e = Q_2/Q_1\) のように、定義を間違えて覚えてしまっている。
- 対策: 熱効率は「投入したエネルギーのうち、どれだけ有効活用できたか」という割合です。投入したエネルギーは\(Q_1\)、有効活用できたのは仕事\(W\)なので、\(e=W/Q_1\)が基本形であると意味で理解しましょう。
- \(Q_1\)と\(Q_2\)の取り違え:
- 誤解: (1)で計算した放出熱量を\(Q_1\)だと勘違いし、(2)の計算で混乱する。
- 対策: \(Q_1\)は高熱源から「吸収する」熱、\(Q_2\)は低熱源へ「排出する」熱です。必ず \(Q_1 > Q_2\) となります。問題文の「復水器(冷却器)で捨てられる」という記述から、(1)で求める熱量が\(Q_2\)であることを正確に読み取ることが重要です。
- 仕事率と仕事の混同:
- 誤解: (3)で、1秒あたりの仕事\(W\)を計算しただけで満足してしまい、時間(600秒)を掛けるのを忘れる。
- 対策: 問題文の「10分間にする仕事は」という問いかけを最後までよく読み、単位が[J]になるように計算しているかを確認しましょう。仕事率[J/s]に時間[s]を掛けることで、仕事[J]が得られます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(Q=mL_v\) (潜熱の計算):
- 選定理由: (1)で、100℃の水蒸気が100℃の水になるという「状態変化」で放出される熱量を計算するため。
- 適用根拠: 温度が一定のまま、気体から液体へと相転移している物理的状況。
- \(e = (Q_1-Q_2)/Q_1\) (熱効率の定義):
- 選定理由: (2)で、熱効率\(e\)と放出熱量\(Q_2\)が既知の状況で、吸収熱量\(Q_1\)という熱機関の基本的な性能値を求めるため。
- 適用根拠: 問題の装置が、熱を仕事に変換する「熱機関」としてモデル化されているため。
- \(W=mgh\) (位置エネルギーの増加):
- 選定理由: (4)で、ポンプが水を持ち上げるという「仕事」を計算するため。この仕事の結果、水の力学的なエネルギー(位置エネルギー)が増加します。
- 適用根拠: 物体を重力に逆らって高さ\(h\)だけ持ち上げる際に、外力がする最小の仕事は、その物体の位置エネルギーの増加分に等しいという、仕事とエネルギーの原理。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位換算の徹底:
- 特に注意すべき点: (1)でkgをgに直すのを忘れると、答えが1000倍ずれてしまいます。計算を始める前に、すべての量の単位が基本単位(SI単位系など)または問題内で整合性がとれた単位系に揃っているかを確認しましょう。
- 日頃の練習: 物理量を文字で置く際に、\(m = 2.0 \times 10^3 \text{ [g]}\) のように単位も併記する癖をつける。
- 有効数字の扱い:
- 特に注意すべき点: 模範解答のヒントにもあるように、途中の計算では、最終的な答えの有効数字よりも1桁多くとって計算を進めると、丸め誤差によるズレを防ぐことができます。
- 日頃の練習: 計算の最終段階までは、分数や無理数のままで計算を進める習慣をつける。
- パーセントの換算:
- 特に注意すべき点: 熱効率15%は、計算で使う際には小数0.15に直す必要があります。基本的なことですが、焦っていると見落としがちです。
- 日頃の練習: 問題文を読みながら、与えられた数値を計算で使う形(例: 15% \(\rightarrow\) 0.15)に直してメモする。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- エネルギーの大小関係:
- 吟味の視点: 必ず \(Q_1 > Q_2\) および \(Q_1 > W\) となっているかを確認しましょう。吸収した熱量が、排出した熱量や仕事量より小さい場合は、計算が間違っています。
- 熱効率の意味との照らし合わせ:
- 吟味の視点: (2)で求めた\(Q_1\)と(1)の\(Q_2\)から仕事\(W\)を計算し、その仕事が\(Q_1\)のちょうど15%になっているか検算してみましょう。\(W/Q_1 = (Q_1-Q_2)/Q_1 = (5.41-4.6)/5.41 \approx 0.15\) となり、つじつまが合っていることが確認できます。
- 物理的なスケール感:
- 吟味の視点: (5)で求めた水の体積 \(1.1 \times 10^3\) m³ は、1100トンに相当します。これを10分で45m持ち上げるというのは、非常にパワフルな蒸気機関であることを示唆しており、問題設定として極端におかしい値ではないと判断できます。
問題67 (大阪工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、熱気球が浮上する原理を、理想気体の状態方程式とアルキメデスの原理(浮力)を用いて解き明かすものです。
- [A]パートでは、まず準備として、理想気体の状態方程式から空気の密度と温度の関係を導き出します。
- [B]パートでは、具体的な熱気球モデルについて、内部の空気の温度を上げたときに、全体の重さと浮力がどのように変化し、どの条件で浮上するのかを考察します。
この問題の核心は、「温度が上がると気体の密度は小さくなる」という性質を状態方程式から導き、それが熱気球全体の重さの減少につながること、そして「浮力は周囲の空気の密度で決まるため一定」であることから、重力と浮力の大小関係が逆転する点(浮上開始点)を見つけ出すことです。
- [A] 理想気体としての空気:
- 物質量 \(n\), 圧力 \(p\), 体積 \(V\), 温度 \(T\), 気体定数 \(R\)。
- 1molあたりの質量 \(m_0\)。
- 密度 \(\rho\)。
- [B] 熱気球モデル:
- 球体の体積: \(V\)。
- 気球本体(空気除く)の質量: \(M\)。
- 開口部は開放されており、内外の圧力は等しい。
- 初期状態: 内外の空気の温度は \(T_0\)、密度は \(\rho_0\)。
- 加熱後: 内部の空気の温度 \(T\)、密度 \(\rho\)。
- 外部の空気の密度は常に \(\rho_0\) で一定。
- [A] ア, イ, ウ, エ: 理想気体の状態方程式と密度に関する空欄補充。
- [A](1) 圧力が一定のとき、温度\(T\)と密度\(\rho\)の関係の説明。
- [B](2) 加熱後の内部空気の密度\(\rho\)を\(T_0, \rho_0, T\)で表す。
- [B] オ, カ: 気球全体の重力\(F\)と浮力\(f\)に関する空欄補充。
- [B](3) 気球全体の重力\(F\)と温度\(T\)の関係のグラフ。
- [B](4) 気球が浮上する理由の説明。
- [B](5) 浮上を始める温度\(T_f\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(2) 密度の別解: 状態方程式と物質量の変化から導く解法
- 主たる解法が、[A]で導いたマクロな関係式 \(\rho T = \text{一定}\) を用いるのに対し、別解では状態方程式から加熱前後の物質量 \(n\) の関係を導き、密度が物質量に比例することを利用して解きます。
- 問(5) 浮上温度の別解: 「正味の浮力」を用いる解法
- 主たる解法が「気球全体の重力」と「(総)浮力」のつりあいを考えるのに対し、別解では気球内部の空気が生み出す「正味の浮力(=アルキメデスの原理による浮力と、内部空気の重力の差)」が「気球本体の重力」とつりあう、という物理的な洞察に基づいた考え方で解きます。
- 問(2) 密度の別解: 状態方程式と物質量の変化から導く解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 別解(2)は、温度上昇で空気が外部に逃げて物質量が減少するミクロな過程を陽に扱うことで、現象の理解が深まります。別解(5)は、重力と浮力を成分に分けて考えることで、どの部分が「浮く力」を生み出しているのかをより明確に捉えることができます。
- 異なる視点の学習: 同じ問題に対して、マクロな法則から解く方法と、より基本的な状態方程式や力の分解から解く方法の両方を学ぶことで、思考の柔軟性が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「理想気体の状態方程式」と「浮力」の融合です。一見複雑に見えますが、基本法則を一つずつ丁寧に適用していくことが重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)。気体の圧力、体積、物質量、温度の関係を表す基本法則です。
- 密度と質量の関係: \(\rho = m/V\)。物質量\(n\)とモル質量\(m_0\)から質量\(m=nm_0\)を計算し、状態方程式と組み合わせることで、密度と他の物理量との関係を導けます。
- アルキメデスの原理(浮力): 物体が受ける浮力の大きさは、その物体が押しのけた流体(この場合は周囲の空気)の重さに等しい。\(f = \rho_{\text{周囲}} V g\)。
- 力のつりあい: 物体が浮上を開始する瞬間は、物体全体の重力と浮力がちょうどつりあう瞬間です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- [A]パートでは、指示に従い、状態方程式と質量の定義式を組み合わせて、密度の式を導出します(ア〜エ)。
- [B]パートでは、開口部が開放されているため「内外の圧力が等しい」という条件が重要になります。これと[A]で導いた関係を使い、内部空気の密度を温度の関数として表します((2))。
- 次に、気球全体の重力(気球本体の重力+内部空気の重力)と、気球が受ける浮力をそれぞれ式で表します(オ、カ)。
- 温度\(T\)を変化させたときに、重力\(F\)と浮力\(f\)がどう変化するかを分析し、グラフを描き、浮上の原理を説明します((3), (4))。
- 最後に、浮上条件である \(F=f\) の式を立て、浮上開始温度\(T_f\)を求めます((5))。
[A] ア, イ, ウ, エ
思考の道筋とポイント
理想気体の状態方程式、および質量と物質量の関係についての基本的な知識を問う問題です。定義に従って空欄を埋めていきます。
この設問における重要なポイント
- 理想気体の状態方程式を正しく覚えていること。
- 物質量(mol)と質量の関係を理解していること。
- 密度の定義式 \(\rho = m/V\) を使えること。
具体的な解説と立式
- ア, イ: 理想気体の状態方程式は \(pV=nRT\) です。したがって、アは \(nRT\)、イは「状態方程式」です。
- ウ: 1molあたりの質量が \(m_0\) なので、\(n\) molの空気の質量は、単純に掛け算で \(nm_0\) となります。
- エ: 密度の定義は \(\rho = \frac{\text{質量}}{\text{体積}}\) です。ウの結果から質量は \(nm_0\)、体積は \(V\) なので、\(\rho = \frac{nm_0}{V}\) となります。ここから、状態方程式 \(pV=nRT\) を変形した \(V = \frac{nRT}{p}\) を代入して \(V\) を消去します。
$$
\rho = \frac{nm_0}{V} = \frac{nm_0}{\frac{nRT}{p}}
$$
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
- 質量と物質量の関係: \(m=nm_0\)
- 密度の定義: \(\rho = m/V\)
上記の式を整理します。
$$
\begin{aligned}
\rho &= \frac{nm_0 p}{nRT} \\[2.0ex]
&= \frac{m_0 p}{RT}
\end{aligned}
$$
アとイは、理想気体の法則の名前とその式を答える問題です。ウは、1個あたりの重さと個数がわかっているときの全体の重さを計算するのと同じ考え方です。エは、密度の公式「質量÷体積」に、これまでに分かった関係式を代入して整理する計算問題です。
- ア: \(nRT\)
- イ: 状態方程式
- ウ: \(nm_0\)
- エ: \(\displaystyle\frac{m_0 p}{RT}\)
(エ)の式は、気体の密度が圧力に比例し、絶対温度に反比例することを示しており、物理的に妥当な関係です。
問(1)
思考の道筋とポイント
(エ)で導出した密度と温度の関係式 \(\rho = \displaystyle\frac{m_0 p}{RT}\) を用いて、圧力が一定の場合に温度\(T\)が増加すると密度\(\rho\)がどうなるかを説明します。
この設問における重要なポイント
- (エ)の結果 \(\rho = \frac{m_0 p}{RT}\) を利用する。
- \(p, m_0, R\) が定数であることから、\(\rho\) と \(T\) の関係を見出す。
具体的な解説と立式
(エ)で導いた式は \(\rho = \displaystyle\frac{m_0 p}{RT}\) です。
この式を \(T\) を左辺に移項して整理すると、
$$
\rho T = \frac{m_0 p}{R}
$$
問題の条件より、圧力 \(p\) は一定です。また、空気のモル質量 \(m_0\) と気体定数 \(R\) も定数です。
したがって、式の右辺 \(\displaystyle\frac{m_0 p}{R}\) は一定値となります。
よって、\(\rho T = \text{一定}\) という関係が成り立ちます。
これは、密度\(\rho\)と絶対温度\(T\)が反比例の関係にあることを意味します。
使用した物理公式
- [A]エで導出した密度の関係式
上記の立式で結論は導かれているため、追加の計算過程はありません。
気体を温めると、中の分子が元気に動き回って膨張しようとします。もし圧力を一定に保つなら、同じ体積の中に入れる分子の数を減らすしかありません。分子の数が減るということは、スカスカになる、つまり密度が小さくなるということです。なので、温度を上げると密度は下がります。この関係は反比例になります。
\(\rho\)と\(T\)は反比例の関係にあるため、温度\(T\)が増加すると、空気の密度\(\rho\)は減少します。これは、温度が上がると気体分子の運動が激しくなり、同じ圧力を保つためには分子の数を減らす必要がある(=密度が下がる)という直感的なイメージとも一致します。
問(2)
思考の道筋とポイント
球体内の空気と外部の空気について、[A](1)で導いた \(\rho T = \text{一定}\) の関係を適用します。開口部が開放されているため、内外の圧力は常に等しいという条件が使えます。
この設問における重要なポイント
- 開口部が開放 \(\rightarrow\) 内外の圧力 \(p\) が等しく、一定。
- [A](1)の結果より、\(\rho T = \text{一定}\) が成り立つ。
具体的な解説と立式
内外の圧力が等しいので、[A](1)で示した関係 \(\rho T = \text{一定}\) が、加熱前と加熱後の球体内空気について成り立ちます。
- 加熱前: 温度 \(T_0\), 密度 \(\rho_0\)
- 加熱後: 温度 \(T\), 密度 \(\rho\)
したがって、次の関係式が成り立ちます。
$$
\rho T = \rho_0 T_0
$$
使用した物理公式
- ボイル・シャルルの法則の密度表現: \(\rho T / p = \text{一定}\)
この式を \(\rho\) について解きます。
$$
\rho = \rho_0 \frac{T_0}{T}
$$
[A]パートで、空気は「温度が上がると密度が下がる」という反比例の関係にあることがわかりました。加熱前の温度と密度は \(T_0, \rho_0\)、加熱後は \(T, \rho\) なので、反比例の式 \(\rho \times T = \rho_0 \times T_0\) を立て、これを \(\rho\) について解きます。
加熱後の密度は \(\rho = \rho_0 \displaystyle\frac{T_0}{T}\) です。温度\(T\)が高くなるほど、密度\(\rho\)が小さくなるという[A](1)の結果と整合しています。
思考の道筋とポイント
状態方程式 \(pV=nRT\) を直接用いて、加熱による内部空気の物質量の変化に着目します。密度が物質量に比例することから、密度の変化を導きます。
この設問における重要なポイント
- 球体の体積 \(V\) と内外の圧力 \(p\) は一定。
- 加熱により、内部の空気の物質量 \(n\) が変化する。
- 密度 \(\rho\) は物質量 \(n\) に比例する。
具体的な解説と立式
空気のモル質量を \(m_0\) とします。
加熱前の球体内空気について、体積 \(V\) に含まれる物質量を \(n_0\) とすると、状態方程式は、
$$ pV = n_0 R T_0 \quad \cdots ① $$
加熱後の球体内空気について、物質量を \(n\) とすると、状態方程式は、
$$ pV = n R T \quad \cdots ② $$
①、②より、右辺同士が等しいので、
$$ n_0 R T_0 = n R T $$
$$ n_0 T_0 = n T \quad \cdots ③ $$
一方、密度と物質量の関係は、
$$ \rho = \frac{nm_0}{V}, \quad \rho_0 = \frac{n_0m_0}{V} $$
これより、\(\rho\) と \(n\) は比例関係にあることがわかります。
$$ \frac{\rho}{\rho_0} = \frac{n}{n_0} $$
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
- 密度と物質量の関係
式③ \(n_0 T_0 = n T\) より、物質量の比は \(\displaystyle\frac{n}{n_0} = \frac{T_0}{T}\) となります。
これを密度比の式に代入すると、
$$
\frac{\rho}{\rho_0} = \frac{T_0}{T}
$$
したがって、
$$
\rho = \rho_0 \frac{T_0}{T}
$$
気球を温めると、中の空気が膨張して開口部から外に逃げていきます。つまり、気球の中にある空気の「粒の数(物質量)」が減ります。密度は粒の数に比例するので、密度も減ります。状態方程式を使うと、粒の数が温度に反比例して減ることがわかるので、密度も温度に反比例して減ることが計算できます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この解法は、温度上昇によって気球内の空気の物質量が減少するという、よりミクロな物理過程を明確に扱っている点で有益です。
[B] オ, カ
思考の道筋とポイント
気球全体の重力 \(F\) と、気球が受ける浮力 \(f\) をそれぞれ式で表します。
- 重力 \(F\): 「気球本体の重力」と「内部の空気の重力」の和です。
- 浮力 \(f\): 気球が押しのけた「外部の空気」の重さに等しいです。
この設問における重要なポイント
- 内部空気の質量は、その時点での密度\(\rho\)と体積\(V\)から計算する。
- 浮力は、周囲の空気の密度\(\rho_0\)と気球の体積\(V\)から計算する。
具体的な解説と立式
- オ(内部空気の質量):
内部空気の密度は \(\rho\)、体積は \(V\) なので、質量 \(m_{\text{空気}}\) は、
$$m_{\text{空気}} = \rho V$$
ここで、(2)の結果 \(\rho = \rho_0 \frac{T_0}{T}\) を代入すると、
$$m_{\text{空気}} = \left(\rho_0 \frac{T_0}{T}\right)V$$
問題文では、内部空気の重力を \(\text{オ} \times g\) としているので、オは内部空気の質量 \(\rho_0 V \frac{T_0}{T}\) となります。 - カ(浮力):
浮力の大きさ \(f\) は、気球が押しのけた体積\(V\)の「周囲の空気」の重さに等しいです。周囲の空気の密度は \(\rho_0\) なので、その質量は \(\rho_0 V\) です。
$$f = (\rho_0 V) g$$
問題文では、浮力を \(\text{カ} \times g\) としているので、カは押しのけた空気の質量 \(\rho_0 V\) となります。
使用した物理公式
- 質量と密度の関係: \(m = \rho V\)
- 重力: \(W=mg\)
- 浮力: \(f = \rho_{\text{流体}} V g\)
上記の立式で結論は導かれているため、追加の計算過程はありません。
オは、温められた気球の中に入っている空気の重さ(質量)を求める問題です。空気の重さは「密度×体積」で計算できます。カは、気球が受ける浮力の大きさを求める問題です。浮力の大きさは、気球が押しのけている「周りの冷たい空気」の重さと同じになります。
- オ: \(\rho_0 V \frac{T_0}{T}\)
- カ: \(\rho_0 V\)
気球全体の重力は \(F = \left(M + \rho_0 V \frac{T_0}{T}\right)g\) となり、温度\(T\)に依存して変化します。一方、浮力は \(f = \rho_0 V g\) となり、温度\(T\)によらず一定です。この違いが浮上の鍵となります。
問(3)
思考の道筋とポイント
[B]オで導いた気球全体の重力 \(F\) の式を、温度 \(T\) の関数としてグラフに描きます。
この設問における重要なポイント
- グラフにする関数は \(F(T) = \left(M + \rho_0 V \frac{T_0}{T}\right)g\)。
- \(F\) は \(1/T\) に比例する形の関数(反比例のグラフ)。
- \(T \rightarrow \infty\) の極限を考える。
具体的な解説と立式
グラフにする関数は、
$$F(T) = Mg + \frac{\rho_0 V T_0 g}{T}$$
これは、\(y = a + b/x\) の形の反比例のグラフです。
- \(T\) が増加すると、第2項が減少し、\(F\) は減少します。
- \(T \rightarrow \infty\) の極限では、第2項が0に近づくため、\(F\) は \(Mg\) に漸近します。
- \(T\) が正の小さい値に近づくと、第2項が非常に大きくなるため、\(F\) は無限大に発散するように増加します。
これらの特徴を持つグラフを、縦軸を \(F\)、横軸を \(T\) として \(T>0\) の領域で描きます。
使用した物理公式
- 反比例のグラフの知識
グラフの概形を描くため、これ以上の計算は不要です。
気球全体の重さ \(F\) が温度 \(T\) によってどう変わるかをグラフにする問題です。\(F\)の式を見ると、「定数+定数/T」という形をしています。これは数学で習う反比例のグラフを上下にずらしたものです。温度\(T\)が大きくなるほど分数の部分が小さくなるので、グラフは右下がりになります。温度が無限に大きくなると、気球の中の空気がほとんど無くなるので、重さは気球本体の重さ \(Mg\) に近づいていきます。
グラフは、\(T\)が小さいところで非常に大きく、\(T\)が大きくなるにつれて減少し、最終的に気球本体の重さ\(Mg\)に近づいていく曲線となります。これは、温度を上げるほど内部の空気が軽くなり、気球全体の重さも軽くなるという物理的な状況を正しく反映しています。
問(4)
思考の道筋とポイント
気球が浮上する理由を、重力\(F\)と浮力\(f\)の関係から説明します。
この設問における重要なポイント
- 浮力 \(f = \rho_0 V g\) は、温度\(T\)によらず一定。
- 重力 \(F(T) = (M + \rho_0 V \frac{T_0}{T})g\) は、温度\(T\)の上昇とともに減少する。
- 浮上するのは、上向きの力(浮力)が下向きの力(重力)を上回るとき、つまり \(f > F\) のとき。
具体的な解説と立式
気球にはたらく力は、下向きの重力\(F\)と上向きの浮力\(f\)です。
浮力 \(f = \rho_0 V g\) は、周囲の空気の密度\(\rho_0\)で決まるため、内部の温度\(T\)によらず一定です。
一方、気球全体の重力 \(F(T) = (M + \rho_0 V \frac{T_0}{T})g\) は、(3)で見たように、温度\(T\)を上昇させると減少します。
初め(低温時)は、\(F > f\) なので、気球は浮上しません。
しかし、温度\(T\)を上げていくと、\(F\)は単調に減少していくため、やがて浮力\(f\)と等しくなります。さらに温度を上げると、重力\(F\)が浮力\(f\)よりも小さく(\(F < f\))なります。
その結果、上向きの合力 (\(f-F\)) が生じ、気球は浮上します。
使用した物理公式
- 力のつりあいと運動の関係
説明問題のため、計算はありません。
熱気球が浮く原理は船が水に浮くのと同じです。気球には、周りの空気から上向きに押される力(浮力)が常にかかっています。この浮力の大きさは変わりません。一方で、気球全体の重さは、中の空気を温めると空気が軽くなるので、どんどん軽くなっていきます。最初は「重さ」が「浮力」より大きいので沈んでいますが、温め続けて「重さ」が「浮力」より小さくなった瞬間に、気球は上向きに力を受けて浮き上がります。
上記の説明が、気球が浮上する理由となります。物理的な現象を、力の変化と大小関係に基づいて論理的に説明できています。
問(5)
思考の道筋とポイント
気球が浮上を始めるのは、重力\(F\)と浮力\(f\)がちょうどつりあう瞬間です。このときの温度が \(T_f\) です。
この設問における重要なポイント
- 浮上開始の条件: \(F = f\)
具体的な解説と立式
浮上を開始する温度を \(T_f\) とすると、この温度で \(F(T_f) = f\) が成り立ちます。
これまでの結果から、それぞれの力は、
$$ F(T_f) = \left(M + \rho_0 V \frac{T_0}{T_f}\right)g $$
$$ f = \rho_0 V g $$
よって、つりあいの式は以下のようになります。
$$
\left(M + \rho_0 V \frac{T_0}{T_f}\right)g = \rho_0 V g
$$
使用した物理公式
- 力のつりあい
この方程式を \(T_f\) について解きます。まず両辺の \(g\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
M + \rho_0 V \frac{T_0}{T_f} &= \rho_0 V \\[2.0ex]
\rho_0 V \frac{T_0}{T_f} &= \rho_0 V – M \\[2.0ex]
\frac{1}{T_f} &= \frac{\rho_0 V – M}{\rho_0 V T_0} \\[2.0ex]
T_f &= \frac{\rho_0 V T_0}{\rho_0 V – M}
\end{aligned}
$$
気球が浮き始めるのは、「気球全体の重さ」と「浮力」が等しくなった瞬間です。それぞれの力を表す式をイコールで結び、そのときの温度\(T_f\)を求める計算をします。
浮上開始温度は \(T_f = \displaystyle\frac{\rho_0 V T_0}{\rho_0 V – M}\) です。
- 気球本体の質量\(M\)が大きいほど、分母が小さくなり、\(T_f\)は高くなります(より高温にしないと浮かない)。
- 浮力に関連する量(\(\rho_0 V\))が大きいほど、分母が大きくなり、\(T_f\)は低くなります(低い温度で浮く)。
これらは物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
気球本体(質量\(M\))を浮上させるのは、内部の空気が外部の空気より軽いことによって生じる「正味の浮力」であると考えます。この正味の浮力が気球本体の重力とつりあう点が浮上開始点です。
この設問における重要なポイント
- 正味の浮力 = (アルキメデスの原理による浮力) – (内部空気の重力)
- 浮上開始条件: (正味の浮力) = (気球本体の重力)
具体的な解説と立式
アルキメデスの原理による浮力は \(f = \rho_0 V g\)(上向き)です。
内部の空気の重力は \(W_{\text{空気}} = \rho V g\)(下向き)です。
したがって、気球の「空気部分」が全体に及ぼす正味の力(正味の浮力)は、
$$ f_{\text{正味}} = f – W_{\text{空気}} = (\rho_0 – \rho)Vg $$
気球が浮上を開始するとき、この上向きの力が気球本体の重力 \(Mg\) とつりあいます。
$$ (\rho_0 – \rho)Vg = Mg $$
このときの温度が \(T_f\) なので、(2)の結果である \(\rho = \rho_0 \frac{T_0}{T_f}\) を代入します。
$$ \left(\rho_0 – \rho_0 \frac{T_0}{T_f}\right)Vg = Mg $$
使用した物理公式
- 力のつりあい
- 浮力
上記の方程式を \(T_f\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\rho_0 V \left(1 – \frac{T_0}{T_f}\right) g &= Mg \\[2.0ex]
1 – \frac{T_0}{T_f} &= \frac{M}{\rho_0 V} \\[2.0ex]
\frac{T_0}{T_f} &= 1 – \frac{M}{\rho_0 V} = \frac{\rho_0 V – M}{\rho_0 V} \\[2.0ex]
T_f &= T_0 \times \frac{\rho_0 V}{\rho_0 V – M} = \frac{\rho_0 V T_0}{\rho_0 V – M}
\end{aligned}
$$
気球の袋(質量\(M\))自体は、空気より重いので沈みます。これを浮かせるのは、中に入っている「熱くて軽い空気」です。周りの冷たい空気と比べてどれだけ軽いかの差が、袋を持ち上げる力(正味の浮力)になります。この持ち上げる力が、袋の重さとちょうど同じになったときに、気球は浮き始めます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この解法は、気球本体を「荷物」、空気部分を「浮力装置」と見なす、より直感的なモデル化であり、物理現象の理解を深める上で非常に有益です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 理想気体の状態方程式 (\(pV=nRT\)):
- 核心: 気体の圧力・体積・温度・物質量の関係を支配する基本法則です。[A]パートでは、この式を質量や密度と結びつけることで、空気の密度が温度に反比例する関係 (\(\rho T = \text{一定}\)) を導き出します。
- 理解のポイント: この「温度が上がると密度が下がる」という性質が、熱気球が浮上する根本的な原理です。状態方程式を単なる公式として覚えるだけでなく、密度との関係まで理解しておくことが重要です。
- アルキメデスの原理(浮力):
- 核心: 流体中の物体は、その物体が押しのけた流体の重さに等しい大きさの浮力を受けます (\(f = \rho_{\text{流体}} V g\))。
- 理解のポイント: 熱気球の場合、押しのけている流体は「周囲の冷たい空気」です。したがって、浮力の大きさは、気球の体積\(V\)と周囲の空気の密度\(\rho_0\)で決まり、気球内部の温度をいくら上げても浮力の大きさ自体は変化しません。この「浮力は一定」という点が、重力との比較において極めて重要です。
- 力のつりあい:
- 核心: 気球が浮上を開始する瞬間は、気球全体にはたらく重力(下向き)と浮力(上向き)がちょうどつりあう瞬間です。
- 理解のポイント: 気球全体の重力は、「気球本体の重さ」と「内部の熱い空気の重さ」の和です。内部の空気は温度を上げると軽くなるため、気球全体の重力は温度とともに減少します。この減少する重力が、一定の浮力と等しくなる点が浮上開始点となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 潜水艦の浮沈: 潜水艦は、バラストタンクに水を入れたり排出したりすることで全体の平均密度を変化させ、浮力を制御して浮沈します。重さを変えて浮力を制御する例です。
- 氷がとけるときの水面変化: 水に浮いた氷がとけても水面は変化しませんが、氷の中に空気や他の物質が含まれている場合は水面が変化します。アルキメデスの原理と質量保存則を組み合わせる問題です。
- 密閉容器内の気体の加熱: この問題と異なり、容器が密閉されている場合、加熱すると内部の圧力が増加します。この圧力変化が外部に力を及ぼすような問題に応用されます。
- 初見の問題での着眼点:
- 開口部の有無(圧力条件の確認): まず、気球や容器が開いているか閉じているかを確認します。開いていれば、内外の「圧力」が等しくなります。閉じていれば、内部の気体の「物質量(や質量)」が一定に保たれます。この条件の違いで、状態方程式の使い方が全く変わってきます。
- 重力と浮力の登場人物を特定する:
- 重力: どの部分の重さを考えるべきか?(例:気球本体+内部の気体)
- 浮力: 何によって浮力が生じているか?(例:周囲の流体)
この2つの「登場人物」を正確にリストアップすることが、立式の第一歩です。
- 何が変数で、何が定数か?: 温度\(T\)を変化させたとき、それに伴って変化する量(内部空気の密度\(\rho\)、内部空気の質量、気球全体の重力\(F\))と、変化しない量(気球の体積\(V\)、周囲の空気の密度\(\rho_0\)、浮力\(f\))を明確に区別することが、現象を正しく理解する鍵となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 浮力の計算での密度の取り違え:
- 誤解: 浮力を計算する際に、周囲の空気の密度(\(\rho_0\))ではなく、気球内部の熱い空気の密度(\(\rho\))を使ってしまう (\(f=\rho V g\))。
- 対策: アルキメデスの原理を正確に思い出し、「浮力は、押しのけた『外部』の流体の重さ」であることを徹底しましょう。気球が熱くなっても、押しのけている周囲の空気の性質は変わらないので、浮力は一定です。
- 重力の計算での質量の取り違え:
- 誤解: 気球全体の重力を考える際に、内部の空気の質量を忘れて、気球本体の質量\(M\)だけで計算してしまう。
- 対策: 気球は「本体」と「内部の空気」を合わせたものが一つの物体です。重力を計算する際は、必ず両方の質量を足し合わせる必要があります。
- 状態方程式の誤用:
- 誤解: 開口部があるのに、内部の空気の物質量\(n\)が一定として状態方程式を扱ってしまう。
- 対策: 開口部がある場合、加熱によって膨張した空気は外部に逃げ出すため、物質量\(n\)は一定ではありません。この問題で一定なのは「圧力\(p\)」です。どの物理量が一定で、どの物理量が変数なのか、問題設定を正確に読み取ることが不可欠です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 理想気体の状態方程式:
- 選定理由: [A]で、気体のマクロな物理量(圧力、体積、温度)とミクロな量(物質量)を結びつけ、密度と温度の関係を導出するために必要不可欠な法則だからです。
- 適用根拠: 問題文で「空気を理想気体とみなして」と明記されているため。
- アルキメデスの原理:
- 選定理由: [B]で、気球が空気中から受ける上向きの力、すなわち「浮力」を定量的に計算するため。
- 適用根拠: 物体が流体(この場合は空気)の中に存在しているという物理的状況。
- 力のつりあいの式 (\(F=f\)):
- 選定理由: (5)で「浮上を始める」という特定の瞬間を捉えるため。浮上を開始する瞬間は、力がつりあって地面からの垂直抗力がゼロになる瞬間であり、これを超えると上向きの合力が生じます。
- 適用根拠: ある特定の条件下で、物体にはたらく力の合力がゼロになるという物理的状況。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号と文字の区別:
- 特に注意すべき点: \(\rho\)(内部の密度)と\(\rho_0\)(外部の密度)、\(T\)(内部の温度)と\(T_0\)(外部の温度)など、添え字の有無で意味が大きく異なる記号を正確に使い分けましょう。計算用紙に書き写す際の間違いが失点に直結します。
- 日頃の練習: 物理量を文字で置く際に、何を表しているか(例: \(\rho_{\text{内}}\), \(\rho_{\text{外}}\))を明確に意識する習慣をつけましょう。
- 分数の計算:
- 特に注意すべき点: (エ)や(5)のように、分母・分子に複数の項が含まれる計算では、通分や約分、移項を慎重に行いましょう。特に(5)の計算では、\(\frac{1}{T_f}\) の形から逆数をとる最後のステップでミスしやすいので注意が必要です。
- 日頃の練習: 複雑な文字式の計算練習を繰り返し行い、正確さとスピードを両立させる。途中式を面倒くさがらずに書くことが、結局はミスを減らす近道です。
- 式の意味を考える:
- 特に注意すべき点: 例えば(5)で求めた \(T_f = \frac{\rho_0 V T_0}{\rho_0 V – M}\) という式を見て、分母が \((\text{押しのけた空気の質量}) – (\text{気球本体の質量})\) という物理的な意味を持っていることに気づくと、式の妥当性を確認できます。
- 日頃の練習: 導出した結果をただの数式として見るのではなく、その式がどのような物理的意味を持っているかを常に考える癖をつけましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (5) 浮上開始温度 \(T_f\): \(T_f = \frac{\rho_0 V T_0}{\rho_0 V – M}\)。
- 吟味の視点: 浮上するためには \(T_f\) が正の有限値である必要があります。そのためには、分母が正、つまり \(\rho_0 V – M > 0\) でなければなりません。これは \(\rho_0 V > M\) を意味し、「気球が押しのけた空気の質量が、気球本体の質量よりも大きくなければ、いくら加熱しても浮上は不可能である」という物理的に当然の帰結です。この条件が式に内包されていることから、得られた結果は妥当であると判断できます。
- (5) 浮上開始温度 \(T_f\): \(T_f = \frac{\rho_0 V T_0}{\rho_0 V – M}\)。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし気球本体の質量がゼロ(\(M=0\))だったらどうなるか? (5)の式は \(T_f = \frac{\rho_0 V T_0}{\rho_0 V} = T_0\) となります。これは、内部の空気を全く加熱しなくても、内外の空気が同じ温度・密度である時点で、内部空気の重力と浮力がつりあうことを意味し、物理的につじつまが合っています。(この場合、気球全体の重力と浮力は等しくない)
- もし \(M\) が \(\rho_0 V\) に非常に近い値だったらどうなるか? 分母がゼロに近づくため \(T_f\) は非常に大きくなります。これは、浮力がギリギリの場合、浮上させるには内部の空気をほぼ真空に近い状態(超高温)にする必要があることを意味し、直感と一致します。
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問題68 (岩手大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、コックで連結された複数の容器内での気体の混合や拡散を扱っています。断熱容器内での気体の混合なので、エネルギーの出入りが特殊な形になります。
- (1)は、単原子分子理想気体の内部エネルギーの定義を問う問題です。
- (2)は、2つの容器内の気体を混合した後の温度と圧力を求めます。
- (3)は、(2)の状態から、さらに真空の容器へ気体を拡散させた後の状態を問います。
- (4)は、(3)の状態から圧力を計算します。
- (5)は、熱力学第二法則に関する知識を問う、語句補充問題です。
この問題の核心は、「断熱された系でコックを開く」という操作が何を意味するかを物理的に正しく理解することです。この操作では、外部との熱のやり取りがなく、気体は外部に対して仕事をしないため、系全体の「内部エネルギーが保存される」という点が最重要ポイントです。
- 容器1: 体積\(V_1\), 圧力\(p_1\), 温度\(T_1\), 物質量\(n_1\)。
- 容器2: 体積\(V_2\), 圧力\(p_2\), 温度\(T_2\), 物質量\(n_2\)。
- 容器3: 体積\(V_3\), 真空。
- 気体: 単原子分子理想気体。
- 系: 気体と容器、コックとの熱のやりとりはない(断熱)。
- 気体定数: \(R\)。
- (1) 容器1, 2内の気体の内部エネルギー \(U_1, U_2\)。
- (2) コックAを開いた後の温度 \(T_A\) と圧力 \(p_A\)。
- (3) コックBを開いた後の温度 \(T_B\) と物質量 \(n_B\)。
- (4) (3)の状態での圧力 \(p_B\)。
- (5) 熱力学第二法則に関する語句補充(ア〜オ)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(3) 物質量\(n_B\)の別解: 状態方程式を用いる解法
- 主たる解法が、気体が体積比で一様に分配されるという物理的な状況から直感的に立式するのに対し、別解ではコックAを開けた後の状態方程式 \(p_AV_2=n_2’RT_A\) から出発し、問(2)の結果を代入して厳密に計算します。(このアプローチは模範解答でも示唆されています)
- 問(4) 圧力\(p_B\)の別解: ボイルの法則を用いる解法
- 主たる解法が、状態方程式に問(3)で求めた物質量と温度を代入してゼロから計算するのに対し、別解では「断熱自由膨張は(理想気体の場合)等温変化である」という物理的洞察を利用します。これにより、コックBを開く前後で、容器2にあった気体についてボイルの法則が適用できると考え、より簡潔に解を導きます。
- 問(3) 物質量\(n_B\)の別解: 状態方程式を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 問(3)の別解は、直感的な理解が基本法則から導出できることを示します。問(4)の別解は、「断熱自由膨張」という複雑に見える現象を「等温変化」というより単純なモデルに結びつけることで、物理現象の本質を捉える力を養います。
- 思考の効率化: 特に問(4)の別解は、問(2)で求めた圧力\(p_A\)を巧みに利用することで、複雑な代数計算を大幅に簡略化できます。これは、より複雑な問題に応用できる重要なテクニックです。
- 異なる視点の学習: 同じ問題に対して、一つ一つの状態量を代入して解く方法と、過程全体を一つの法則(ボイルの法則)で捉えて解く方法の両方を学ぶことで、思考の柔軟性が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「気体の混合」と「断熱自由膨張」、そして「熱力学の基本法則」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: 内部エネルギーは絶対温度と物質量のみに依存し、\(U = \frac{3}{2}nRT\) で与えられます。
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)。気体の状態量を結びつける基本式です。
- 内部エネルギー保存則: 断熱された容器間で気体を混合したり、真空へ拡散(断熱自由膨張)させたりする場合、系全体として外部との熱のやり取り(\(Q=0\))も、外部への仕事(\(W=0\))もありません。熱力学第一法則 \(\Delta U = Q+W\) より、系の内部エネルギーの総和は変化しません(\(\Delta U = 0\))。
- 熱力学第二法則: 熱の移動の不可逆性や、熱を100%仕事に変えることができないことを示す法則です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、内部エネルギーの公式を正しく適用します((1))。
- コックを開く操作では、前後の内部エネルギーの総和が等しいという式を立て、混合後の温度を求めます。その後、状態方程式を用いて圧力を計算します((2))。
- (3)では、まずコックBを開く直前の容器2内の気体の物質量を、体積比を使って求めます。次に、真空への断熱自由膨張では気体が仕事をしないため、温度が変化しないことを利用します。
- (4)では、(3)で求めた状態量を用いて、状態方程式から圧力を計算します。
- (5)は、熱力学第二法則に関する知識問題です。