問題91 (九州工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、水面上で同じ周期で振動する2つの波源がつくる波の干渉について考える問題です。波長や速さの計算、干渉による強め合い・弱め合いの判断、経路差の計算、そして干渉縞の作図や本数の特定といった、波の干渉に関する基本的な理解と応用力が問われます。
- 2つの波源A, Bが水面上で距離 \(d\) [m] 離れている。
- 2つの波源A, Bは同じ周期 \(T\) [s] で振動し、2つの波をつくる。
- 図は、波源A, Bから出る波のある時刻での山の位置を描いたものである(同心円は波の山を表す)。
- (5)では、AとBを逆位相で振動させる条件が加わる。
- この波の波長 \(\lambda\) [m] および波の速さ \(v\) [m/s]。
- 図中の点P\(_1\), P\(_2\), P\(_3\) が、それぞれ強め合いの位置か、弱め合いの位置か。
- 点A, Bから各点(P\(_1\), P\(_2\), P\(_3\))までの距離の差 AP\(_1\)-BP\(_1\), AP\(_2\)-BP\(_2\), AP\(_3\)-BP\(_3\) を波長 \(\lambda\) を用いて表すこと。
- 線分ABを横切り、波源Aの最も近くを通る強め合いの線を図に描き入れること(波源は同位相とする)。
- AとBを逆位相で振動させると、AB間には何本の弱め合いの線が現れるか(波源は除く)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解く上で中心となるのは「波の干渉」の原理です。特に、2つの波源が同位相で振動する場合と逆位相で振動する場合の干渉条件を正しく理解し、使い分けることが重要です。
- 波の基本的な関係式:
- 速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の間には、\(v = f\lambda\) の関係があります。
- 振動数 \(f\) と周期 \(T\) の間には、\(f = \displaystyle\frac{1}{T}\) の関係があります。
- 波の干渉条件(2つの波源から点Pまでの距離をそれぞれ \(L_A\), \(L_B\) とする):
- 同位相の波源の場合:
- 強め合い(腹線): 経路差 \(|L_A – L_B| = m\lambda\) (\(m = 0, 1, 2, \dots\))
- 弱め合い(節線): 経路差 \(|L_A – L_B| = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\) (\(m = 0, 1, 2, \dots\))
- 逆位相の波源の場合:
- 強め合い(腹線): 経路差 \(|L_A – L_B| = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\) (\(m = 0, 1, 2, \dots\))
- 弱め合い(節線): 経路差 \(|L_A – L_B| = m\lambda\) (\(m = 0, 1, 2, \dots\))
- 同位相の波源の場合:
これらの知識を基に、各設問を丁寧に解いていきましょう。
問1
思考の道筋とポイント
まず、与えられた図から波長 \(\lambda\) を読み取ります。図に描かれた同心円は波の「山」の位置を示しており、隣り合う山と山の間隔が1波長 \(\lambda\) に相当します。次に、周期 \(T\) が与えられているので振動数 \(f\) を求め、波の基本式 \(v = f\lambda\) を用いて波の速さ \(v\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 図から、線分ABの長さ \(d\) が波長 \(\lambda\) の何倍になっているかを正確に読み取ること。
- 周期 \(T\) と振動数 \(f\) の関係 (\(f=1/T\)) を利用すること。
- 波の基本式 \(v=f\lambda\) を正しく適用すること。
具体的な解説と立式
図において、波源Aから出た波の山(同心円)が描かれています。隣り合う山と山の間隔が波長 \(\lambda\) です。
図の線分AB間には、波源Aを中心とする同心円(山)が4つ見て取れます。これは、AからBまでの距離 \(d\) が、ちょうど4つの波長分であることを意味します。
したがって、以下の関係式が成り立ちます。
$$d = 4\lambda$$この式から、波長 \(\lambda\) は次のように表されます。$$\lambda = \displaystyle\frac{d}{4}$$
次に、波の速さ \(v\) を求めます。波の速さ \(v\) は、振動数 \(f\) と波長 \(\lambda\) を用いて \(v = f\lambda\) と表されます。
振動数 \(f\) は周期 \(T\) の逆数なので、\(f = \displaystyle\frac{1}{T}\) です。
よって、速さ \(v\) の式は次のようになります。
$$v = \left(\displaystyle\frac{1}{T}\right) \lambda$$ここに先ほど求めた \(\lambda\) の式を代入します。$$v = \displaystyle\frac{1}{T} \cdot \displaystyle\frac{d}{4}$$
使用した物理公式
- 波長と距離の関係(図からの読み取り): \(d = 4\lambda\)
- 振動数と周期の関係: \(f = \displaystyle\frac{1}{T}\)
- 波の基本式: \(v = f\lambda\)
「具体的な解説と立式」で立てた式に基づいて、\(\lambda\) と \(v\) を求めます。
まず、波長 \(\lambda\) は、
$$\lambda = \displaystyle\frac{d}{4}$$
次に、速さ \(v\) は、
$$v = \displaystyle\frac{1}{T} \cdot \displaystyle\frac{d}{4} = \displaystyle\frac{d}{4T}$$
- 図を見ると、A点からB点までの間に、波の山から隣の山までの間隔(これが1波長 \(\lambda\) です)がちょうど4つ分入っていますね。なので、距離 \(d\) は波長 \(\lambda\) の4倍、つまり \(d = 4\lambda\) です。
- この関係から、波長 \(\lambda\) は距離 \(d\) を4で割ったもの、\(\lambda = \displaystyle\frac{d}{4}\) [m] となります。
- 次に速さ \(v\) ですが、速さは「振動数 \(f\) × 波長 \(\lambda\)」で求められます。振動数 \(f\) は「1 ÷ 周期 \(T\)」なので、\(f = \displaystyle\frac{1}{T}\) です。
- したがって、速さ \(v\) は、\(v = \left(\displaystyle\frac{1}{T}\right) \times \left(\displaystyle\frac{d}{4}\right) = \displaystyle\frac{d}{4T}\) [m/s] と計算できます。
この波の波長 \(\lambda\) は \(\displaystyle\frac{d}{4}\) [m]、波の速さ \(v\) は \(\displaystyle\frac{d}{4T}\) [m/s] です。
単位もそれぞれ長さの単位 [m]、速さの単位 [m/s] となっており、物理的に正しいことが確認できます。図から情報を正確に読み取ることができれば、基本的な公式で解ける問題です。
問2
思考の道筋とポイント
点P\(_1\), P\(_2\), P\(_3\) が強め合いの位置か弱め合いの位置かを判断します。問題文に特に断りがない場合、波源A, Bは同位相で振動していると考えます。同位相の波源から出た波が重なる時、山と山、あるいは谷と谷が重なれば強め合い、山と谷が重なれば弱め合います。図の実線は波の山を表しているので、実線と実線の中間点が谷の位置になります。
この設問における重要なポイント
- 波源が同位相であると仮定すること(問題文に指定がないため)。
- 図中の実線が「山」を表し、実線と実線の中間が「谷」を表すことを理解すること。
- 山と山、谷と谷の重なり \(\rightarrow\) 強め合い。
- 山と谷の重なり \(\rightarrow\) 弱め合い。
具体的な解説と立式
波源A, Bは同位相で振動しているものとして考えます。図に描かれている実線の同心円は、各波源から広がる波の「山」の位置を示しています。
- 点P\(_1\): 図を見ると、点P\(_1\) は波源Aからの山(実線)と波源Bからの山(実線)がちょうど重なっている点です。山と山が重なっているので、ここは強め合いの位置となります。
- 点P\(_2\): 図を見ると、点P\(_2\) は波源Aからの波の谷(実線と実線の中間地点)と、波源Bからの波の山(実線上)が重なっている点です。山と谷が重なっているので、ここは弱め合いの位置となります。
- 点P\(_3\): 図を見ると、点P\(_3\) は波源Aからの波の谷(実線と実線の中間地点)と、波源Bからの波の谷(実線と実線の中間地点)が重なっている点です。谷と谷が重なっているので、ここは強め合いの位置となります。
この設問では、図を正確に読み取り、波の重ね合わせの基本ルールを適用することが求められます。立式は特にありません。
この設問は図の読み取りによる定性的な判断が中心であり、数値計算や数式を用いた計算過程はありません。
- P\(_1\)点について: 図を見てください。P\(_1\)点は、Aから来た波の山(太い線)と、Bから来た波の山(太い線)がちょうど出会っています。山と山が重なると、波は大きく振動するので「強め合い」ます。
- P\(_2\)点について: P\(_2\)点は、Aから来た波の谷(太い線と太い線の中間)と、Bから来た波の山(太い線)が出会っています。山と谷が重なると、互いに打ち消し合うので「弱め合い」ます。
- P\(_3\)点について: P\(_3\)点は、Aから来た波の谷と、Bから来た波の谷が出会っています。谷と谷が重なると、波は大きく振動するので「強め合い」ます。
各点の強め合い・弱め合いの判断は以下の通りです。
P\(_1\): 強め合い
P\(_2\): 弱め合い
P\(_3\): 強め合い
これは、模範解答とも一致しており、図の丁寧な読み取りと干渉の基本原理の理解が鍵となります。
問3
思考の道筋とポイント
点A, Bから各点P\(_1\), P\(_2\), P\(_3\) までの距離の差(経路差)を、波長 \(\lambda\) を用いて表します。図の同心円(山)を利用して、各波源からの距離が波長 \(\lambda\) の何倍になっているかを読み取ります。円と円の中間は、0.5\(\lambda\) ずれていると考えます。
この設問における重要なポイント
- 波源A, Bからの距離を、図の同心円(山)の数を数えて \(\lambda\) の倍数として正確に読み取ること。
- 円と円の中間は、半波長 (\(0.5\lambda\)) ずれていると考えること。
- 距離の差を計算する際に、符号に注意すること(AP – BP の順序)。
- 問2の結果(強め合い・弱め合い)と、ここで計算される経路差が干渉条件を満たしているかを確認すると、理解が深まる。
具体的な解説と立式
波源A, Bから各点までの距離を、図に描かれた波の山(同心円)の数をもとに、波長 \(\lambda\) を単位として読み取ります。波源自身が0番目の山(中心)と考えます。
- 点P\(_1\)について:
- 波源AからP\(_1\)までの距離 AP\(_1\): 図から、Aを中心とする4番目の山の線上にあるため、\(AP_1 = 4\lambda\)。
- 波源BからP\(_1\)までの距離 BP\(_1\): 図から、Bを中心とする2番目の山の線上にあるため、\(BP_1 = 2\lambda\)。
したがって、距離の差 AP\(_1\) – BP\(_1\) は、
$$AP_1 – BP_1 = 4\lambda – 2\lambda$$ - 点P\(_2\)について:
- 波源AからP\(_2\)までの距離 AP\(_2\): 図から、Aを中心とする2番目の山と3番目の山の中間にあるため、\(AP_2 = 2.5\lambda = \displaystyle\frac{5}{2}\lambda\)。
- 波源BからP\(_2\)までの距離 BP\(_2\): 図から、Bを中心とする3番目の山の線上にあるため、\(BP_2 = 3\lambda\)。
したがって、距離の差 AP\(_2\) – BP\(_2\) は、
$$AP_2 – BP_2 = \displaystyle\frac{5}{2}\lambda – 3\lambda$$ - 点P\(_3\)について:
- 波源AからP\(_3\)までの距離 AP\(_3\): 図から、Aを中心とする2番目の山と3番目の山の中間にあるため、\(AP_3 = 2.5\lambda = \displaystyle\frac{5}{2}\lambda\)。
- 波源BからP\(_3\)までの距離 BP\(_3\): 図から、Bを中心とする3番目の山と4番目の山の中間にあるため、\(BP_3 = 3.5\lambda = \displaystyle\frac{7}{2}\lambda\)。
したがって、距離の差 AP\(_3\) – BP\(_3\) は、
$$AP_3 – BP_3 = \displaystyle\frac{5}{2}\lambda – \displaystyle\frac{7}{2}\lambda$$
使用した物理公式
- 特になし(図からの読み取りと算術計算)
「具体的な解説と立式」で立てた式に従って、各距離の差を計算します。
- AP\(_1\) – BP\(_1\):
$$AP_1 – BP_1 = 4\lambda – 2\lambda = 2\lambda$$ - AP\(_2\) – BP\(_2\):
$$AP_2 – BP_2 = \displaystyle\frac{5}{2}\lambda – 3\lambda = \displaystyle\frac{5}{2}\lambda – \displaystyle\frac{6}{2}\lambda = -\displaystyle\frac{1}{2}\lambda$$ - AP\(_3\) – BP\(_3\):
$$AP_3 – BP_3 = \displaystyle\frac{5}{2}\lambda – \displaystyle\frac{7}{2}\lambda = -\displaystyle\frac{2}{2}\lambda = -\lambda$$
- P\(_1\)点: Aからは4番目の山の線上なので距離は \(4\lambda\)。Bからは2番目の山の線上なので距離は \(2\lambda\)。その差は \(4\lambda – 2\lambda = 2\lambda\)。
- P\(_2\)点: Aからは2番目と3番目の山の間なので距離は \(2.5\lambda\)。Bからは3番目の山の線上なので距離は \(3\lambda\)。その差は \(2.5\lambda – 3\lambda = -0.5\lambda\) (つまり \(-\frac{1}{2}\lambda\))。
- P\(_3\)点: Aからは2番目と3番目の山の間なので距離は \(2.5\lambda\)。Bからは3番目と4番目の山の間なので距離は \(3.5\lambda\)。その差は \(2.5\lambda – 3.5\lambda = -\lambda\)。
各点までの距離の差は以下の通りです。
- AP\(_1\) – BP\(_1\) = \(2\lambda\)
- AP\(_2\) – BP\(_2\) = \(-\displaystyle\frac{1}{2}\lambda\)
- AP\(_3\) – BP\(_3\) = \(-\lambda\)
これらの結果と問2の判断を照らし合わせてみましょう。
- P\(_1\): 経路差 \(2\lambda = 2 \times \lambda\)。これは \(m=2\) の強め合いの条件 \(m\lambda\) を満たします(同位相波源)。問2で強め合いと判断したことと整合します。
- P\(_2\): 経路差の絶対値は \(|-\frac{1}{2}\lambda| = \frac{1}{2}\lambda\)。これは \(m=0\) の弱め合いの条件 \((m+\frac{1}{2})\lambda\) を満たします。問2で弱め合いと判断したことと整合します。
- P\(_3\): 経路差の絶対値は \(|-\lambda| = \lambda\)。これは \(m=1\) の強め合いの条件 \(m\lambda\) を満たします。問2で強め合いと判断したことと整合します。
すべて整合しており、計算は正しいと考えられます。
問4
思考の道筋とポイント
線分ABを横切り、波源Aの最も近くを通る強め合いの線を図に描き入れます。波源A, Bは同位相で振動していると考えます。強め合いの線(腹線)は、経路差 \(|AP – BP| = m\lambda\) (\(m = 0, 1, 2, \dots\)) を満たす点の集まりです。
図には波源A, Bから出る波の山が同心円で描かれているので、これらの山の線が交わる点を結ぶことで強め合いの線を描くことができます。
「波源Aの最も近くを通り」「線分ABを横切る」という条件を満たす線を探します。
AB間の距離は \(d=4\lambda\) です。
経路差が取りうる値は \(AP-BP\) で考えると、Aの近傍(A自身ではない)からBの近傍までで、およそ \(-4\lambda\) から \(4\lambda\) の範囲になります。
\(m=0\) の線はABの垂直二等分線です。
\(m=\pm 1, \pm 2, \pm 3\) の線がAB間に存在し得ます。
\(m=\pm 4\) は波源自身に対応するため、線としては考えにくいです。
「Aの最も近く」とは、これらのうちAに近い側の線で、かつABを横切るものです。模範解答の図を参考にすると、\(BP-AP=3\lambda\) (すなわち \(AP-BP = -3\lambda\)) の線が該当しそうです。
この設問における重要なポイント
- 同位相の波源による強め合いの条件 \(|AP – BP| = m\lambda\) を理解していること。
- 図中の山の線の交点が強め合いの点であることを理解し、それらを滑らかに結んで強め合いの線(腹線)を描くこと。
- 「波源Aの最も近く」かつ「線分ABを横切る」という条件を解釈し、適切な \(m\) の値に対応する線を選ぶこと。
具体的な解説と立式
波源A, Bが同位相で振動しているとき、強め合いの線は、波源Aからの距離 AP と波源Bからの距離 BP の差の絶対値が波長 \(\lambda\) の整数倍となる点の集まりです。
$$|AP – BP| = m\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots)$$
図中の同心円は波の山の位置を示しているので、異なる波源からの山の線が交わる点は、山と山が重なり強め合う点となります。これらの点を滑らかに結ぶと強め合いの線(腹線)が得られます。
線分ABの長さは \(d=4\lambda\) です。
考えられる強め合いの線は、経路差 \(AP-BP\) が \(0, \pm\lambda, \pm 2\lambda, \pm 3\lambda\) となる線です。
- \(AP-BP = 0\) (\(m=0\)): 線分ABの垂直二等分線。
- \(AP-BP = \lambda\) (\(m=1\))
- \(AP-BP = -\lambda\) (すなわち \(BP-AP = \lambda\), \(m=1\))
- \(AP-BP = 2\lambda\) (\(m=2\))
- \(AP-BP = -2\lambda\) (すなわち \(BP-AP = 2\lambda\), \(m=2\))
- \(AP-BP = 3\lambda\) (\(m=3\))
- \(AP-BP = -3\lambda\) (すなわち \(BP-AP = 3\lambda\), \(m=3\))
「波源Aの最も近くを通る強め合いの線」で、かつ「線分ABを横切る」ものを探します。
模範解答の図に示されている赤い線は、Aのすぐ右側(AとBの間)を通る強め合いの線であり、これは \(BP – AP = 3\lambda\) の条件を満たす線に相当します。
この線は、例えば、波源Aから1番目の山の線上にある点Pで、かつ波源Bから4番目の山の線上にある点(もし存在すれば \(AP=\lambda, BP=4\lambda\) で \(BP-AP=3\lambda\))や、Aから2番目の山とBから5番目の山の交点などを結んでいくことで描けます。
作図の際は、図中のAからの円(山)とBからの円(山)の交点のうち、上記の条件を満たすものを拾い、滑らかに結びます。
この設問は作図問題であるため、直接的な数値計算はありません。強め合いの条件 \(|AP-BP|=m\lambda\) を理解し、図から該当する線を選んで描くことが求められます。模範解答で示されているのは \(BP-AP=3\lambda\) の線です。
- 強め合う点を結んだ線を描きます。強め合う点とは、Aからの波の山とBからの波の山がちょうど重なる点です(または谷と谷が重なる点)。図には山の線が描かれているので、Aからの山の線とBからの山の線の交点を見つけて結んでいきましょう。
- 問題の指示は「線分ABを横切り、波源Aの最も近くを通る」線です。
- AとBのちょうど真ん中を通る、まっすぐな線も強め合いの線です(AからもBからも同じ距離なので、いつでも同じタイミングで山や谷が来ます)。これは経路差が0の線です。
- それ以外にも、AとBの間にはいくつか強め合いの線が双曲線として現れます。
- 模範解答の図にある赤い線は、Aのすぐ右側(AとBの間)を通っています。この線上の点では、Bからの距離がAからの距離よりも \(3\lambda\) だけ長くなっています (\(BP – AP = 3\lambda\))。この条件を満たす山の交点を結んで線を描きましょう。
作図問題です。強め合いの条件を正しく理解し、図から対応する点(山の交点)を拾い、滑らかに線を引くことが求められます。模範解答に示されている赤い線は、経路差が \(BP-AP = 3\lambda\) となる強め合いの線であり、これが「線分ABを横切り、波源Aの最も近くを通る」という条件を満たすものと考えられます。
問5
思考の道筋とポイント
波源AとBを逆位相で振動させた場合、強め合いと弱め合いの条件が同位相の場合と入れ替わります。つまり、逆位相の波源からの波が弱め合う条件は、経路差 \(|AP – BP|\) が波長 \(\lambda\) の整数倍になるときです: \(|AP – BP| = m\lambda\) (\(m = 0, 1, 2, \dots\))。
線分AB間に現れるこれらの弱め合いの線の本数を数えます(波源A, Bは除く)。
線分ABの長さは \(d = 4\lambda\) です。線分AB上の任意の点Pについて、Aからの距離を \(x = AP\) とすると、\(BP = 4\lambda – x\) となります。経路差は \(AP – BP = x – (4\lambda – x) = 2x – 4\lambda\)。
この経路差が \(m\lambda\) に等しいとし、\(0 < x < 4\lambda\) の範囲で整数 \(m\) がいくつ存在するかを調べます。
この設問における重要なポイント
- 逆位相の場合、弱め合いの条件が \(|AP – BP| = m\lambda\) となることを理解すること(同位相の強め合いの条件と同じ形)。
- 線分AB上で経路差がどのように変化するかを考えること。
- 条件を満たす整数 \(m\) の個数を正しく数えること。
- 「波源は除く」という条件を考慮し、\(x\) の範囲 (\(0 < x < 4\lambda\)) を設定すること。
具体的な解説と立式
波源AとBが逆位相で振動する場合、2つの波が弱め合う条件は、点Pまでの経路差 \(|AP – BP|\) が波長 \(\lambda\) の整数倍になるときです。
$$|AP – BP| = m\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots)$$
線分ABの長さは \(d = 4\lambda\) です。線分AB上の点Pを考え、Aからの距離を \(AP = x\) とします。
このとき、Bからの距離は \(BP = d – x = 4\lambda – x\) です。
点Pは波源A, Bを除く線分AB上にあるため、\(x\) の範囲は \(0 < x < 4\lambda\) です。
経路差 \(\Delta L = AP – BP\) を計算すると、
$$\Delta L = x – (4\lambda – x) = 2x – 4\lambda$$弱め合いの条件は \(\Delta L = m\lambda\) (ここで \(m\) は整数)なので、$$2x – 4\lambda = m\lambda$$この式を \(x\) について解くと、$$2x = (m+4)\lambda$$
$$x = \displaystyle\frac{m+4}{2}\lambda$$この \(x\) が \(0 < x < 4\lambda\) の範囲にあるような整数 \(m\) を見つけます。$$0 < \displaystyle\frac{m+4}{2}\lambda < 4\lambda$$\(\lambda > 0\) なので、両辺を \(\lambda\) で割り、2を掛けると、$$0 < m+4 < 8$$各辺から4を引くと、$$-4 < m < 4$$
この不等式を満たす整数 \(m\) を求めます。
使用した物理公式
- 逆位相の波源による弱め合いの条件: \(|AP – BP| = m\lambda\)
- 線分上の点の位置と経路差の関係
「具体的な解説と立式」で導出した不等式 \(-4 < m < 4\) を満たす整数 \(m\) を数え上げます。
整数 \(m\) は、
\(m = -3\)
\(m = -2\)
\(m = -1\)
\(m = 0\)
\(m = 1\)
\(m = 2\)
\(m = 3\)
の7個存在します。
それぞれの \(m\) の値に対して、線分AB間に1本の弱め合いの線が対応して現れます。
- AとBが逆のタイミングで振動する(逆位相)と、弱め合う条件は、Aからの距離とBからの距離の差がちょうど \(\lambda\) の整数倍(\(0, \pm\lambda, \pm 2\lambda, \dots\))になるときです。
- AとBの間の線の上で考えます。Aからの距離を \(x\) とすると、Bからの距離は \(4\lambda – x\) です(全体の距離が \(4\lambda\) なので)。
- 距離の差は \(AP – BP = x – (4\lambda – x) = 2x – 4\lambda\)。
- これが弱め合いの条件 \(m\lambda\) (mは整数) に等しいので、\(2x – 4\lambda = m\lambda\) という式が成り立ちます。
- この式を \(x\) について整理すると、\(x = \displaystyle\frac{m+4}{2}\lambda\) となります。
- 点PはAとBの間(波源自身は除く)にあるので、\(x\) は0より大きく、\(4\lambda\) より小さい必要があります。つまり \(0 < x < 4\lambda\)。
- この条件に \(x = \displaystyle\frac{m+4}{2}\lambda\) を代入して \(m\) の範囲を求めると、\(-4 < m < 4\) となります。
- この範囲に入る整数 \(m\) は、-3, -2, -1, 0, 1, 2, 3 の7つです。
- したがって、AとBの間には7本の弱め合いの線が現れます。
AとBを逆位相で振動させると、AB間に現れる弱め合いの線の本数は7本です。
これは、同位相の波源の場合にAB間に現れる「強め合い」の線の本数と同じになります。
\(m\) が取りうる値の範囲を正しく求め、その範囲に含まれる整数の個数を数えることができれば正解にたどり着けます。模範解答とも一致しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 波の基本特性の理解:
- 波長 \(\lambda\)、周期 \(T\)、振動数 \(f\)、速さ \(v\) の関係 (\(v = f\lambda\), \(f = 1/T\)) を確実に押さえ、図などの情報からこれらを読み取ったり計算したりする能力。
- 波の干渉の原理:
- 複数の波が重なり合うとき、その位相関係によって強め合ったり弱め合ったりする現象。
- 特に、2つの波源からの距離の差(経路差)が干渉の結果を決定する。
- 干渉条件の使い分け:
- 同位相の波源:
- 強め合い: 経路差 \(|L_A – L_B| = m\lambda\) (\(m = 0, 1, 2, \dots\))
- 弱め合い: 経路差 \(|L_A – L_B| = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\) (\(m = 0, 1, 2, \dots\))
- 逆位相の波源:
- 強め合い: 経路差 \(|L_A – L_B| = (m + \displaystyle\frac{1}{2})\lambda\) (\(m = 0, 1, 2, \dots\))
- 弱め合い: 経路差 \(|L_A – L_B| = m\lambda\) (\(m = 0, 1, 2, \dots\))
- 同位相の波源:
- 経路差の幾何学的計算:
- 図から波源までの距離を正確に読み取り、その差を計算するスキル。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 光の干渉: ヤングの実験、薄膜による干渉、回折格子など、光波でも同様の経路差・位相差に基づく干渉現象が見られます。基本的な考え方は共通です。
- 音波の干渉: 2つのスピーカーからの音波の干渉なども、同じ原理で説明できます。
- 異なる条件の水面波: 波源の数や配置、位相関係が異なる場合でも、経路差を考えるという基本方針は変わりません。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 波源の特定: 波源の数、位置、振動の仕方(周期、位相関係)を最初に確認します。
- 干渉条件の確認: 波源が同位相なのか逆位相なのかで、適用する強め合い・弱め合いの条件式が変わるため、最重要の確認ポイントです。
- 図の読解: 図が与えられている場合、波長や経路差を読み取る手がかりがないか丁寧に観察します。実線が山か谷か、同心円の間隔は何を表すかなど。
- 問われている内容の把握: 具体的に何を求めるのか(波長、速さ、強弱、経路差、線の作図、線の本数など)を明確にし、それに応じたアプローチを考えます。
- 経路差の計算: 干渉の問題では、ほぼ必ず経路差の計算が伴います。幾何学的な関係から正確に計算する準備をします。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- \(m\) の値: 干渉条件の \(m\) は \(0\) を含む非負整数 (\(0, 1, 2, \dots\)) です。\(m=0\) の場合(経路差0や経路差 \(\lambda/2\))が何に対応するかをしっかり理解しておくことが大切です。
- 「波源は除く」: (5)のような設問では、波源自体は干渉縞の点とは考えないため、条件設定(例えば \(x\) の範囲)に注意が必要です。
- 作図の正確性: (4)のような作図問題では、条件を満たす点をできるだけ正確にプロットし、滑らかに結ぶことが求められます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 同位相と逆位相の条件混同:
- ミス: 波源の位相関係を見落としたり、誤って逆の条件式を使ってしまう。
- 対策: 問題文を注意深く読み、最初に波源の位相関係(同位相か逆位相か、指定がなければ同位相と仮定することが多い)を確認し、正しい干渉条件を意識的に選択する。
- 経路差の計算ミス:
- ミス: 距離の引き算の順序を間違えたり、絶対値を考慮し忘れたりする。図からの距離の読み取りミス。
- 対策: AP – BP なのか BP – AP なのかを意識する。絶対値の扱いを正確にする。図のスケールや波長の数え方を慎重に行う。
- 図の解釈ミス:
- ミス: 図中の線が山なのか谷なのか、隣り合う線までの距離が1波長なのか半波長なのかを誤解する。
- 対策: 問題文や図のキャプションをよく読み、図が何を表しているのかを正確に把握する。今回の問題では「山の位置を描いたもの」と明記されています。
- \(m\) の範囲や扱い:
- ミス: (5)などで、条件を満たす整数 \(m\) の個数を数える際に、範囲の境界値を含めるか含めないかで間違う。
- 対策: 不等式を立てて解く際に、不等号の種類(< or ≦)に注意する。「波源は除く」などの条件から、境界がどうなるかを吟味する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象のイメージ化:
- 2つの石を水面に同時に落とした時に広がる波紋が重なり合う様子を思い浮かべると良いでしょう。
- 波が強め合う場所では水面が大きく振動し、弱め合う場所ではほとんど振動しない、そういった場所が交互に縞模様(干渉縞)を作るイメージです。
- 同心円状に広がる波の山と谷が、時間とともにどのように進んでいくかを頭の中で再生してみることも有効です。
- 図示の有効性:
- 問題で与えられた図は、現象を理解する上で非常に重要です。この図から波長や各点の波の重なり具合を読み取ることが解答の出発点となります。
- (4)の作図問題では、強め合いの条件を満たす点をプロットし、それらを結ぶことで干渉縞の形を視覚的に捉えることができます。
- 自分で簡単な図を描いてみることも理解を助けます。例えば、(5)でAB間にできる弱め合いの線を考える際に、線分ABを描き、その上に条件を満たす点がどのように分布するかを模式的に描いてみると、本数を数えやすくなります。
- 図を描く際の注意点:
- 波長や距離の関係をできるだけ正確に反映させる。
- 山と谷を区別して描く場合は、凡例を明確にする。
- 干渉縞は波源を結ぶ線分の中点に対して対称な形になることが多い(波源の条件が対称な場合)。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(v = f\lambda\): 波の速さ、振動数、波長という基本的な物理量を関連付ける普遍的な公式です。波の種類によらず成り立ちます。問題でこれらのうち2つが分かれば、残りの1つを求められます。
- 干渉条件式 (\(|L_A – L_B| = m\lambda\) など):
- これらの公式は、2つの波が特定の点に到達するまでにかかる時間(つまり位相)の差が、波の周期の整数倍か半整数倍かによって、強め合い・弱め合いが決まるという原理に基づいています。
- 波源が同位相か逆位相かで、基準となる位相差が異なるため、公式の形が変わります。
- 「なぜこの条件で強め合うのか/弱め合うのか」という根本的な理由(波の重ね合わせの図をイメージする)を理解しておくと、公式を忘れにくく、また応用も利きやすくなります。
- 公式適用の判断基準:
- 問題文で与えられている情報(波源の位相、問われている現象が強め合いか弱め合いかなど)を元に、適切な公式を選択します。
- 例えば、「強め合いの線は?」と聞かれれば強め合いの条件式を、「弱め合いの本数は?」と聞かれれば弱め合いの条件式を使います。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問1 (波長と速さ):
- 図からAB間の波長の数を読み取り、\(d = 4\lambda\) と立式。
- \(\lambda\) について解く: \(\lambda = d/4\)。
- 周期 \(T\) から振動数 \(f = 1/T\) を求める。
- 波の基本式 \(v = f\lambda\) に代入し、\(v = d/(4T)\) を得る。
- 問2 (各点の強弱判断):
- 波源は同位相と仮定。
- 図から各点P\(_1\), P\(_2\), P\(_3\) での波の山と谷の重なり方を読み取る。
- 山と山、谷と谷なら強め合い。山と谷なら弱め合いと判断。
- 問3 (経路差の計算):
- 図から各点PへのAPとBPの距離を \(\lambda\) の倍数(または半整数倍)として読み取る。
- AP – BP を計算する。
- (任意) 問2の判断と、計算した経路差が干渉条件と整合するか確認。
- 問4 (強め合いの線の作図):
- 同位相波源の強め合いの条件 \(|AP-BP|=m\lambda\) を確認。
- 図中の山の線の交点をプロットし、条件(Aに最も近い、ABを横切る)に合う線 \(BP-AP=3\lambda\) を選択し描画。
- 問5 (逆位相での弱め合いの線の本数):
- 逆位相波源の弱め合いの条件 \(|AP-BP|=m\lambda\) を確認。
- 線分AB上の点P (\(AP=x, BP=4\lambda-x\)) について経路差を \(x\) で表す: \(2x-4\lambda\)。
- \(2x-4\lambda = m\lambda\) とし、\(x\) について解く: \(x = \frac{m+4}{2}\lambda\)。
- \(0 < x < 4\lambda\) (波源除く) の条件から \(m\) の範囲を求める: \(-4 < m < 4\)。
- この範囲にある整数 \(m\) の個数を数える。
このように、各設問で何をすべきかを明確にし、段階的に解き進めることが大切です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 丁寧な図の読み取り: 波長の数え間違いや、山と谷の区別は慎重に。特に2.5\(\lambda\) のような半端な値の読み取りは注意が必要です。
- 分数の扱い: \(2.5\lambda\) は \(\displaystyle\frac{5}{2}\lambda\) のように分数で扱うと、その後の計算(特に通分)が正確に行えます。
- 符号の確認: 経路差を計算する際、AP – BP なのか BP – AP なのかによって符号が変わります。絶対値を考える場合は問題ありませんが、途中の計算では意識しましょう。
- 不等式の取り扱い: (5)で \(m\) の範囲を求める際、不等号の向きや、不等式に等号が含まれるかどうか(この場合は含まれない)を正確に処理することが重要です。
- 単位の確認: 最終的な答えだけでなく、途中の計算結果でも単位が物理的に正しいか(例:長さの単位になっているか)を意識すると、おかしな式変形に気づけることがあります。
- 検算の習慣: 可能であれば、別の方法で確かめたり、得られた結果が物理的に妥当か(例えば、(3)の結果が(2)と矛盾しないか)を検討したりする習慣をつけましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な整合性の確認:
- 問3で計算した経路差が、問2で判断した強め合い・弱め合いの条件と一致しているか? (例:P\(_1\)は強め合いで経路差 \(2\lambda\)、P\(_2\)は弱め合いで経路差 \(-\lambda/2\)。これらは同位相の干渉条件と整合しています。)
- 問5で求めた弱め合いの線の本数が、波源間の距離 \(4\lambda\) に対して極端に多すぎたり少なすぎたりしないか、大まかな感覚でチェックする。7本というのは妥当な範囲です。
- 条件の再確認:
- 「波源は除く」という条件を計算の最後に思い出して適用していないか?範囲設定の段階で考慮できているか。
- \(m\) は整数である、といった基本的な約束事を守れているか。
- 極端な場合を考えてみる(思考実験):
- もし波源間の距離 \(d\) が非常に小さかったら(例えば \(d = \lambda/2\))、干渉縞はどうなるだろうか?AB間に形成される線は少なくなるはずです。
- もし波長 \(\lambda\) が非常に大きかったらどうなるか?なども考えてみると、公式への理解が深まります。
- 作図の確認:
- (4)で描いた線が、本当に強め合いの条件を満たしているか、いくつかの点で確認してみる。対称性があるかなどもチェックポイントです。
これらの振り返りを通じて、一問から多くの学びを得て、次の問題解決能力を高めていきましょう。
問題92 (センター試験)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、2つのスリットを通過した水面波が干渉する現象について扱います。波の干渉による強め合い・弱め合いの条件、そしてそれらが作る模様(干渉縞)の性質を理解することが重要です。特に、スリット間の距離や波長が干渉の様子にどのように影響するかを考察します。
- 2つのスリットS1およびS2の間隔: \(d = 5 \text{ cm}\)
- 観測面: S1を通り、S1とS2を結ぶ直線に垂直な直線ST
- 直線ST上で波が弱め合う点: 2つ(A1, A2)
- 点A1: S1から遠い方の弱め合い点
- 点A2: S1に近い方の弱め合い点
- S1からA1までの距離: \(S_1A_1 = 12 \text{ cm}\)
- 距離 \(S_1A_1\) と \(S_2A_1\) の差、および距離 \(S_1A_2\) と \(S_2A_2\) の差が、それぞれ波長の何倍か。
- この水面波の波長 \(\lambda\) は何cmか。
- 水面上には強め合いの線(双曲線や直線)が何本生じているか。
- スリットS1を固定しS2を動かしてS1S2間の間隔を広げたとき:
- 直線STでの、水位がほとんど変化しない点の個数は増すか減るか。
- 点A1はS1に近づくか遠ざかるか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。
- 波の干渉条件: 2つの波源からの距離の差(経路差)によって、波が強め合うか弱め合うかが決まります。
- 強め合いの条件: 経路差が波長の整数倍。 \(|L_1 – L_2| = m\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots)\)
- 弱め合いの条件: 経路差が波長の半整数倍(半波長の奇数倍)。 \(|L_1 – L_2| = \left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots)\)
- 幾何学的な関係: 特に、三平方の定理を用いて経路差を具体的に計算する場面があります。
各設問に対して、これらの法則を適切に適用し、数式を立てて解いていきます。
問1
思考の道筋とポイント
点A1およびA2は、波が弱め合っている点です。弱め合いの条件は、2つの波源S1, S2からの経路差が \(\left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda\) (ここで \(m = 0, 1, 2, \dots\)) となることです。
問題文には「S1から遠い方をA1、S1に近い方をA2」とあり、「水位がほとんど変化しない場所が2つだけ見つかった」とあります。これは、S1S2の中央を通る強め合いの線(経路差0)から数えて、直線ST上で観測される弱め合いの線が2本あり、それらがA1とA2に対応することを意味します。
一般に、\(m\) の値が小さいほど、S1S2の中央線に近い弱め合いの線(節線)になります。図aと問題文の条件から、S1から遠い方のA1が \(m=0\) の節線上にあり、S1に近い方のA2が \(m=1\) の節線上にあると判断できます。
また、図aから、点A1, A2ともにS1よりもS2から遠い位置にあるため、経路差は \(S_2P – S_1P\) となります。
この設問における重要なポイント
- 弱め合いの条件式: \(|S_1P – S_2P| = \left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda\), \(m=0, 1, 2, \dots\)
- 問題文の「S1から遠い方A1、近い方A2」および「2つだけ見つかった」という情報から、A1が\(m=0\)、A2が\(m=1\)の弱め合いに対応すると判断すること。
- 図aから、経路差の具体的な形(この場合は \(S_2P – S_1P\))を読み取ること。
具体的な解説と立式
点Pで波が弱め合う条件は、2つの波源S1、S2からの経路差が波長\(\lambda\)の半整数倍であることです。図aより点A1, A2はS1よりもS2から遠いため、経路差は \(S_2P – S_1P\) と書けます。
$$S_2P – S_1P = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots)$$
点A1はS1から遠い方の弱め合いの点で、これは \(m=0\) に対応します。したがって、距離 \(S_1A_1\) と \(S_2A_1\) の差に関する式は次のようになります。
$$S_2A_1 – S_1A_1 = \left(0 + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad \cdots ①$$
点A2はS1に近い方の弱め合いの点で、これは \(m=1\) に対応します。したがって、距離 \(S_1A_2\) と \(S_2A_2\) の差に関する式は次のようになります。
$$S_2A_2 – S_1A_2 = \left(1 + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- 弱め合いの条件: \(|S_1P – S_2P| = \left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda\)
式①より、点A1における経路差は、
$$S_2A_1 – S_1A_1 = \frac{1}{2}\lambda$$
これは、距離の差が波長の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 倍であることを示しています。
式②より、点A2における経路差は、
$$S_2A_2 – S_1A_2 = \frac{3}{2}\lambda$$
これは、距離の差が波長の \(\displaystyle\frac{3}{2}\) 倍であることを示しています。
波が弱め合う場所というのは、2つのスリット(波源)からその場所までの「距離の差」が、波長の0.5倍、1.5倍、2.5倍…という中途半端な値になるところです。問題文を読むと、点A1はこれらの条件のうち一番目(距離の差が波長の0.5倍)、点A2は二番目(距離の差が波長の1.5倍)に当てはまると考えられます。
距離S1A1とS2A1の差は波長の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 倍、距離S1A2とS2A2の差は波長の \(\displaystyle\frac{3}{2}\) 倍となります。これは、A1がS1S2の中央に近い方から数えて1番目の弱め合いの線上にあり、A2が2番目の弱め合いの線上にあることを意味します。
問2
思考の道筋とポイント
問1の結果から、点A1における経路差は \(S_2A_1 – S_1A_1 = \frac{1}{2}\lambda\) です。
与えられた条件は \(S_1A_1 = 12 \text{ cm}\) と、スリット間隔 \(S_1S_2 = 5 \text{ cm}\) です。
問題文「S1を通り、S1とS2を結ぶ直線に垂直な直線ST」と図aから、\(\triangle S_1S_2A_1\) は \(\angle S_2S_1A_1 = 90^\circ\) の直角三角形であると解釈できます。この直角三角形に三平方の定理を適用して \(S_2A_1\) の長さを求め、経路差の式から波長 \(\lambda\) を算出します。
この設問における重要なポイント
- 問1で得られたA1における経路差の式 (\(S_2A_1 – S_1A_1 = \frac{1}{2}\lambda\)) を利用すること。
- 図aと問題文の条件から、\(\triangle S_1S_2A_1\) が直角三角形であると判断し、三平方の定理を正しく適用して辺の長さを計算すること。
具体的な解説と立式
問1より、点A1における経路差の式は次の通りです。
$$S_2A_1 – S_1A_1 = \frac{1}{2}\lambda \quad \cdots ③$$
問題の条件から \(S_1A_1 = 12 \text{ cm}\)、スリットS1とS2の間隔は \(S_1S_2 = 5 \text{ cm}\) です。
図aより、\(\triangle S_1S_2A_1\) は、辺S1S2と辺S1A1が直角をなす直角三角形と考えられます(\(\angle S_2S_1A_1 = 90^\circ\))。
三平方の定理より、斜辺S2A1の長さは次のように関係付けられます。
$$(S_2A_1)^2 = (S_1S_2)^2 + (S_1A_1)^2 \quad \cdots ④$$
この式④に \(S_1S_2 = 5 \text{ cm}\) と \(S_1A_1 = 12 \text{ cm}\) を代入することで \(S_2A_1\) を求め、その結果を式③に代入することで波長 \(\lambda\) を求めることができます。
使用した物理公式
- 弱め合いの条件: \(S_2A_1 – S_1A_1 = \frac{1}{2}\lambda\) (問1の結果)
- 三平方の定理: \(a^2 + b^2 = c^2\)
- 式④に \(S_1S_2 = 5 \text{ cm}\)、\(S_1A_1 = 12 \text{ cm}\) を代入します。
$$(S_2A_1)^2 = (5 \text{ cm})^2 + (12 \text{ cm})^2$$ - 右辺を計算します。
$$(S_2A_1)^2 = 25 \text{ cm}^2 + 144 \text{ cm}^2 = 169 \text{ cm}^2$$ - \(S_2A_1\) を求めます。\(S_2A_1 > 0\) なので、
$$S_2A_1 = \sqrt{169 \text{ cm}^2} = 13 \text{ cm}$$ - 求めた \(S_2A_1 = 13 \text{ cm}\) と与えられた \(S_1A_1 = 12 \text{ cm}\) の値を式③に代入します。
$$13 \text{ cm} – 12 \text{ cm} = \frac{1}{2}\lambda$$ - 左辺を計算します。
$$1 \text{ cm} = \frac{1}{2}\lambda$$ - \(\lambda\) について解きます。両辺に2を掛けると、
$$\lambda = 2 \times 1 \text{ cm}$$
$$\lambda = 2 \text{ cm}$$
まず、スリットS1、スリットS2、そして点A1の3つの点を結んでできる三角形を考えます。問題の図と条件から、この三角形はS1のところが直角になっている特別な直角三角形です。S1からS2までの長さが5cm、S1からA1までの長さが12cmとわかっているので、数学の「三平方の定理」を使うと、S2からA1までの長さを計算できます。計算すると13cmになります。
問1で、点A1では「S2からの距離とS1からの距離の差が、波長のちょうど半分(0.5倍)」になることがわかっています。そこで、「13cm – 12cm = 波長の0.5倍」という式を立てます。これを解くと、波長は2cmであると求められます。
この水面波の波長は \(\lambda = 2 \text{ cm}\) です。スリット間隔5cmに対して物理的に妥当な値と言えます。
問3
思考の道筋とポイント
水面上にできる強め合いの線(腹線)の数を求めます。強め合いの条件は、経路差 \(S_1P – S_2P\) が波長 \(\lambda\) の整数倍、つまり \(m\lambda\) (ここで \(m = 0, \pm 1, \pm 2, \dots\)) となることです。
問2で波長 \(\lambda = 2 \text{ cm}\) とわかりました。スリット間隔は \(d = S_1S_2 = 5 \text{ cm}\) です。
経路差 \(|S_1P – S_2P|\) が取りうる最大値は、スリット間隔 \(d\) そのものです。つまり、\(|S_1P – S_2P| \le d\)。
したがって、\(|m\lambda| \le d\) を満たす整数 \(m\) の個数を数えれば、それが強め合いの線の本数になります。
この設問における重要なポイント
- 強め合いの条件式: \(S_1P – S_2P = m\lambda\), \(m=0, \pm 1, \pm 2, \dots\)
- 問2で求めた波長 \(\lambda = 2 \text{ cm}\) と、与えられたスリット間隔 \(d = 5 \text{ cm}\) を使用すること。
- 経路差の最大値がスリット間隔 \(d\) であることから、\(|m\lambda| \le d\) を満たす整数 \(m\) の値を全て数え上げること。\(m=0\) の場合も忘れずに含める。
具体的な解説と立式
水面上で波が強め合う条件は、2つのスリットS1、S2からの経路差が波長\(\lambda\)の整数倍であることです。
$$S_1P – S_2P = m\lambda \quad (m = 0, \pm 1, \pm 2, \dots) \quad \cdots ⑤$$
ここで、\(\lambda = 2 \text{ cm}\) であり、スリット間隔 \(d = S_1S_2 = 5 \text{ cm}\) です。
経路差 \(S_1P – S_2P\) が取りうる値の範囲は、\(|S_1P – S_2P| \le d\) です。
したがって、強め合いが起こる条件を満たす整数 \(m\) は、次の不等式を満たす必要があります。
$$|m\lambda| \le d \quad \cdots ⑥$$
この不等式⑥に具体的な値を代入し、\(m\) の取りうる範囲を求めます。
使用した物理公式
- 強め合いの条件: \(S_1P – S_2P = m\lambda\)
- 不等式⑥に、\(\lambda = 2 \text{ cm}\) と \(d = 5 \text{ cm}\) を代入します。
$$|m \times 2 \text{ cm}| \le 5 \text{ cm}$$ - 単位を除いて不等式を整理します。
$$|2m| \le 5$$ - \(|m|\) について解きます。
$$|m| \le \frac{5}{2}$$
$$|m| \le 2.5$$ - この不等式を満たす整数 \(m\) をリストアップします。
$$m = -2, -1, 0, 1, 2$$ - これらの整数 \(m\) の個数を数えます。
\(m=0\) で1つ。
\(m=1\) と \(m=-1\) で2つ。
\(m=2\) と \(m=-2\) で2つ。
合計で \(1+2+2 = 5\) 個です。
したがって、強め合いの線の本数は5本です。
波が強め合う場所は、2つのスリットからの「距離の差」が「波長の0倍、波長の1倍、波長の2倍…」となるところです(マイナスの場合も同様に考えます)。波長は2cm、スリットの間隔は5cmです。この「距離の差」は、スリットの間隔である5cmを超えることはできません。
- 距離の差が \(0 \times 2\text{cm} = 0\text{cm}\) となる線が1本できます(これはスリットS1とS2のちょうど真ん中を通るまっすぐな線です)。
- 距離の差が \(\pm 1 \times 2\text{cm} = \pm 2\text{cm}\) となる線が左右(または上下)に1本ずつ、計2本できます(これらは双曲線です)。
- 距離の差が \(\pm 2 \times 2\text{cm} = \pm 4\text{cm}\) となる線がさらに外側に1本ずつ、計2本できます(これも双曲線です)。
- 次に距離の差が \(\pm 3 \times 2\text{cm} = \pm 6\text{cm}\) となりますが、これは最大で5cmしかありえない距離の差を超えてしまうので、このような線はできません。
したがって、全部で \(1 + 2 + 2 = 5\) 本の強め合いの線ができることになります。
水面上には5本の強め合いの線が生じます。これは、\(m=0, \pm 1, \pm 2\) に対応する線であり、物理的に妥当な本数です。
問4
思考の道筋とポイント
スリットS1を固定したままS2を動かし、S1S2間の間隔 \(d\) を広げていった場合の影響を考えます。
水位がほとんど変化しない点の個数について:
弱め合いの条件は経路差 \(|S_1P – S_2P| = \left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda\) です。スリット間隔 \(d\) が大きくなると、経路差が取りうる最大値も大きくなります。その結果、この条件を満たす整数 \(m\) の最大値も大きくなるため、弱め合いの線(節線)の本数が増加します。直線ST上で観測される弱め合いの点の数も、これに伴って増加すると考えられます。
点A1の移動について:
点A1は \(m=0\) の弱め合いの点であり、経路差 \(S_2A_1 – S_1A_1 = \displaystyle\frac{1}{2}\lambda\) を満たします。波長 \(\lambda\) は変わりません。
S1を原点(0,0)とし、点A1の座標を \((x_1, 0)\) (つまり \(S_1A_1 = x_1\))、新しいS2の座標を \((0, d’)\) (ここで \(d’\) は新しいS1S2間隔) とします。
このとき、\(S_2A_1 = \sqrt{x_1^2 + (d’)^2}\) です。
これらの関係を弱め合いの条件式に代入し、\(d’\) が増加したときに \(x_1\) がどのように変化するかを調べます。
この設問における重要なポイント
- スリット間隔 \(d\) が広がると、経路差の取りうる範囲が広がり、干渉縞(強め合い・弱め合いの線)の次数 \(m\) の最大値が増えること。
- 点A1が満たすべき弱め合いの条件式 (\(S_2A_1 – S_1A_1 = \frac{1}{2}\lambda\)) は変わらないこと。
- スリット間隔 \(d’\) を変数として、A1の位置 \(x_1\) がどのように \(d’\) に依存するかを数式で追跡すること。
具体的な解説と立式
水位がほとんど変化しない点の個数について:
水位がほとんど変化しない点(弱め合いの点)は、経路差が \(\left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda\) を満たす点です。
スリットS1S2間の間隔を \(d\) とすると、観測される可能性のある経路差の最大値は \(d\) に比例します。
\(d\) が大きくなると、より大きな \(m\) の値に対しても \(\left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda \le d\) という条件が満たされやすくなります。これは、より多くの弱め合いの線(節線)がS1S2間に形成されることを意味します。これらの節線が直線STと交わる点の数も、一般に増加すると考えられます。
したがって、直線STでの水位がほとんど変化しない点の個数は増す。
点A1の移動について:
点A1は、\(m=0\) の弱め合いの点であり、その条件は次のように表されます。
$$S_2A_1 – S_1A_1 = \frac{1}{2}\lambda \quad \cdots ⑦$$
S1を原点(0,0)とし、A1の座標を \((x_1, 0)\) とします。したがって、\(S_1A_1 = x_1\)。
スリットS2の座標を \((0, d’)\) とします。ここで \(d’\) は新しいS1S2間の間隔です。
すると、S2とA1の距離は三平方の定理より \(S_2A_1 = \sqrt{x_1^2 + (d’)^2}\)。
これらの関係を式⑦に代入すると、以下の式が得られます。
$$\sqrt{x_1^2 + (d’)^2} – x_1 = \frac{1}{2}\lambda \quad \cdots ⑧$$
この式⑧を \(x_1\) について解くことで、\(x_1\) が \(d’\) と \(\lambda\) にどのように依存するかが分かります。
使用した物理公式
- 弱め合いの条件: \(S_2A_1 – S_1A_1 = \displaystyle\frac{1}{2}\lambda\)
- 三平方の定理(経路長計算のため)
水位がほとんど変化しない点の個数:
- スリット間隔 \(d\) が大きくなると、条件 \(\left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda \le d\) を満たす整数 \(m\) の最大値が大きくなる。
- これにより、形成される弱め合いの線(節線)の本数が増える。
- したがって、直線STと交わる弱め合いの点の個数も増す。
点A1の移動:
- 式⑧より、
$$\sqrt{x_1^2 + (d’)^2} – x_1 = \frac{1}{2}\lambda$$ - \(x_1\) を右辺に移項します:
$$\sqrt{x_1^2 + (d’)^2} = x_1 + \frac{1}{2}\lambda$$ - 両辺を2乗します (ただし \(x_1 + \displaystyle\frac{1}{2}\lambda > 0\)):
$$x_1^2 + (d’)^2 = \left(x_1 + \frac{1}{2}\lambda\right)^2$$ - 右辺を展開します:
$$x_1^2 + (d’)^2 = x_1^2 + 2 \cdot x_1 \cdot \frac{1}{2}\lambda + \left(\frac{1}{2}\lambda\right)^2$$
$$x_1^2 + (d’)^2 = x_1^2 + x_1\lambda + \frac{1}{4}\lambda^2$$ - 両辺から \(x_1^2\) を引きます:
$$(d’)^2 = x_1\lambda + \frac{1}{4}\lambda^2$$ - \(x_1\lambda\) について整理します:
$$x_1\lambda = (d’)^2 – \frac{1}{4}\lambda^2$$ - \(x_1\) について解きます (\(\lambda \ne 0\)):
$$x_1 = \frac{(d’)^2}{\lambda} – \frac{1}{4}\lambda$$ - この結果から、\(d’\) が増加すると \((d’)^2\) も増加するため、\(x_1\) は増加します。つまり、A1はS1から遠ざかります。
点の個数について:
スリットS1とS2の間隔を広げると、2つの波が干渉し合うパターンがより細かくなり、多くの干渉縞(強め合いや弱め合いの線)ができるようになります。その結果、直線ST上で観測される、水位がほとんど変化しない点(弱め合いの点)の数も増えると考えられます。
点A1の移動について:
点A1は「S2からの距離とS1からの距離の差が、波長のちょうど半分」という特別な条件を満たす点です。スリットS1は固定されたままで、スリットS2をS1から遠ざける(つまりS1S2の間隔を広げる)とします。このときも点A1が同じ「距離の差が波長の半分」という条件を満たし続けるためには、点A1自身もS1から見て遠ざかる方向に移動する必要があります。
数式を使ってこれを確かめると、S1からA1までの距離 \(x_1\) は、新しいS1S2間隔 \(d’\) を使って \(x_1 = \displaystyle\frac{(d’)^2}{\lambda} – \displaystyle\frac{\lambda}{4}\) と表せます。この式から、\(d’\) が大きくなると \(x_1\) も大きくなることがわかります。
スリットS1S2間の間隔を広げていくと、直線STでの水位がほとんど変化しない点の個数は増し、点A1はS1から遠ざかります。この結果は、数式による導出とも、干渉現象の一般的な性質からの類推とも一致しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 波の干渉の原理: 複数の波が重なり合うとき、特定の場所では振幅が大きくなり(強め合い)、また別の場所では振幅が小さくなる(弱め合い)現象。
- 干渉条件(経路差):
- 強め合い: 2つの波源からの経路差が波長の整数倍 (\(m\lambda\))。 このとき波は同位相で重なる。
- 弱め合い: 2つの波源からの経路差が波長の半整数倍 (\(\left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda\))。 このとき波は逆位相で重なる。
- 経路差の計算: 問題の幾何学的配置(特に直角三角形)から三平方の定理などを用いて、実際に波源からの距離の差を求めること。
これらの法則の本質は、波の重ね合わせの原理が、空間的な位置関係(経路差)と波長によってどのように現れるかを記述している点にあります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- ヤングの実験(光の干渉): スリットを通過した光がスクリーン上に作る明暗の縞模様。基本的な考え方は全く同じ。
- 音波の干渉: 2つのスピーカーから出る音による強弱の分布。
- 薄膜干渉(シャボン玉の色など): 光の経路差と位相変化を考慮する点で少し複雑になるが、干渉の原理は共通。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 波源の特定: いくつの波源があり、それらは同位相か逆位相か。この問題ではS1とS2が同位相の波源。
- 観測点と経路差: 観測点Pに対して、各波源からの距離 \(L_1, L_2\) を考え、その差 \(|L_1 – L_2|\) が重要。
- 干渉条件の適用: 強め合いか弱め合いか、問題文の指示に従って適切な条件式を選ぶ。特に「\(m\)」の扱いに注意(\(m=0\) が何に対応するか)。
- 幾何学的条件: 与えられた図や数値から、経路差を具体的に計算できるか。三平方の定理がよく使われる。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点:
- 「○○番目の強め(弱め)合いの点」や「△つだけ見つかった」といった記述は、整数 \(m\) の値を特定する手がかりになる。
- 経路差が取りうる最大値は、通常、波源間の距離 \(d\) であることを利用して、\(m\) の最大値を推定できる(問3)。
- 条件が変化する場合(問4)、どの物理量が変化し、どれが一定かを明確にして、基本に立ち返って式を立て直す。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 強め合いと弱め合いの条件の混同: \(m\lambda\) なのか \(\left(m+\displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda\) なのかを正確に覚える。
- 整数 \(m\) の取り扱い: \(m=0\) から始まるのか、\(m=1\) から始まるのか。また、\(m=0\) が何(例えば中央の強め合い)を意味するのかを問題ごとに確認する。この問題では、\(m=0\) が最初の弱め合いに対応。
- 経路差の計算ミス: 特に三平方の定理を使う際のルートの計算や、座標設定のミス。
- 「遠い」「近い」の解釈: 問1のA1とA2の \(m\) の割り当ては、S1からの距離だけでなく、S1S2の中心線からの順番で考える必要がある。
対策:
- 公式は丸暗記ではなく、なぜその形になるのか(波の重ね合わせのイメージ)を理解する。
- 図を描いて、経路差や \(m\) の値が何に対応するのかを視覚的に整理する。
- 計算は一つ一つ丁寧に行い、単位も確認する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象のイメージ化:
- 池に2つの石を同時に投げ込んだ時にできる波紋の重なりを想像する。波紋の山と山が重なる線、山と谷が重なる線が交互に現れる。
- 強め合いの線は水面が大きく振動する場所、弱め合いの線は水面がほとんど動かない場所としてイメージする。
- 図示の有効性:
- 問題の図aは、S1, S2, A1の位置関係と、直角三角形を見抜く上で非常に重要。
- 自分で干渉の様子(同心円の波が広がり、交点で強め合ったり弱め合ったりする様子)を簡単にスケッチしてみるのも理解を助ける。
- 問4のように条件が変わる場合、変化前後の図を描き比べることで、何がどう変わるかの見通しが立てやすくなる。
- 図を描く際の注意点:
- 与えられた情報を正確に反映させる。特に長さの比率や角度(直角など)。
- 対称性があればそれを活かして描くと、考察が容易になる。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 弱め合いの条件 \(|L_1 – L_2| = \left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda\):
- 選定理由: 問題文に「水位がほとんど変化しない場所」とあり、これは波の弱め合いを指すため。
- 適用根拠: 2つの波源から出る波が逆位相(山と谷)で重なると打ち消し合うという、波の基本的な性質から導かれる。経路差が半波長の奇数倍のとき、この条件が満たされる。
- 強め合いの条件 \(|L_1 – L_2| = m\lambda\):
- 選定理由: 問3で「強め合いの線が何本生じているか」と明確に問われているため。
- 適用根拠: 2つの波源から出る波が同位相(山と山、谷と谷)で重なると強め合う。経路差が波長の整数倍のとき、この条件が満たされる。
- 三平方の定理:
- 選定理由: 問2で、直角三角形の辺の長さの関係から、波源S2から点A1までの直接距離を計算する必要があったため。
- 適用根拠: 図と問題文の条件から、関連する3点が直角三角形を形成すると判断できたため。
公式を選ぶ際は、まず問題がどの物理現象について述べているのかを特定し、その現象を記述する基本的な法則・公式を思い出すことが第一歩です。そして、その公式が適用できる条件を満たしているかを確認します。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問題の把握: 与えられた条件(スリット間隔、A1の位置、弱め合いの点の数など)と、何を問われているかを正確に読み取る。
- 現象の特定: 水面波の干渉現象であると理解する。
- 基本法則の適用:
- 問1: 弱め合いの条件式を立て、A1, A2がそれぞれ \(m=0, m=1\) に対応すると判断し、経路差を \(\lambda\) で表す。
- 問2: 図形情報(直角三角形)から三平方の定理で \(S_2A_1\) を計算し、問1の結果と組み合わせて \(\lambda\) を求める。
- 問3: 強め合いの条件式と、経路差がスリット間隔を超えないという条件から、可能な \(m\) の値をリストアップし、本数を数える。
- 問4: (点の数) スリット間隔 \(d\) が増えると \(m\) の最大値が増えることから結論を出す。(A1の移動) A1の弱め合い条件式に \(d\) を変数として含め、\(S_1A_1\) が \(d\) の関数としてどう変化するかを導く。
- 計算実行: 立てた式に基づいて、慎重に計算を進める。
- 結果の確認: 得られた値が物理的に妥当か(単位、符号、極端な場合の挙動など)を吟味する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 丁寧な立式: どの物理量をどの記号で表すかを明確にし、式を正確に書き出す。式番号を振ることで、後の参照が容易になる。
- 途中計算の省略を避ける: 特に複雑な代数計算では、各ステップを丁寧に記述する。
- 問2の三平方の定理: \(5^2=25\), \(12^2=144\), \(25+144=169\), \(\sqrt{169}=13\)。各計算を正確に。
- 問4の \(x_1 = \displaystyle\frac{(d’)^2}{\lambda} – \displaystyle\frac{1}{4}\lambda\) の導出: 2乗する際の展開、移項、整理の各ステップを間違えないように。
- 単位の確認: 計算の途中で単位がおかしくなっていないか、最終的な答えの単位は正しいかを確認する。
- 概算でのチェック: もし複雑な数値計算になった場合、おおよその値を予測し、計算結果が大きくずれていないか確認する。
日頃の練習:
- 類似問題を数多く解き、計算のパターンに慣れる。
- 計算過程を他人に見せるつもりで、論理的かつ整理して書く練習をする。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との照らし合わせ:
- (2) 波長 \(\lambda=2\text{cm}\) : スリット間隔5cmに対して、短すぎも長すぎもしない妥当な値か。
- (3) 強め合いの線5本: スリット間隔と波長の関係から、数本程度の干渉縞ができるというのは自然か。
- (4) 点の個数が増し、A1が遠ざかる: スリット間隔を広げると干渉縞の間隔が狭まる(より多くの縞ができる)イメージ。特定の経路差を保つためには、観測点が移動するのは自然か。例えば、A1の式 \(x_1 = \displaystyle\frac{(d’)^2}{\lambda} – \displaystyle\frac{1}{4}\lambda\) で、\(d’ \rightarrow \infty\) なら \(x_1 \rightarrow \infty\) となり、A1は無限遠に飛んでいく。これは、スリット間隔が非常に広がると、S1から見てS2が非常に遠くなり、ST上では経路差が大きくなりにくいため、\(\lambda/2\) という小さな経路差を満たすにはS1から非常に遠い点が必要になる、と解釈できる。
- 単位の一貫性: 計算の各段階で単位が正しく扱われているか。最終的な答えの単位は問われているものと一致しているか。
- 極端な条件での検討(思考実験):
- もし \(\lambda \rightarrow 0\) (波長が非常に短い)なら、干渉縞は非常に密になるはず。A1の位置は \(x_1 \approx (d’)^2/\lambda \rightarrow \infty\) となる。
- もしスリット間隔 \(d’\) が非常に小さい(例: \(d’ < \lambda/2\))場合、A1 (\(m=0\)の弱め合い) は存在するのか? \(x_1 = \displaystyle\frac{(d’)^2}{\lambda} – \displaystyle\frac{1}{4}\lambda\) より、\(x_1 > 0\) となるには \((d’)^2/\lambda > \lambda/4 \Rightarrow (d’)^2 > \lambda^2/4 \Rightarrow d’ > \lambda/2\)。つまり、スリット間隔が半波長より小さいと、S1よりも外側(\(x_1>0\))には\(m=0\)の弱め合い点は存在しなくなる。これは物理的にも妥当。
問題93 (センター試験)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、光の波動性を示す重要な現象であるヤングの干渉実験に関するものです。光源から出た光が2つのスリットを通過し、スクリーン上で干渉して明暗の縞模様を作る様子を解析します。
- 複スリットS1, S2の間隔: \(d = 2a\)
- 単スリットS0から複スリットS1, S2までの構成: S1, S2に同位相の光を供給する。
- スリット面からスクリーンまでの距離: \(l\)
- スクリーン中央Oから点Pまでの距離: \(x\)
- 近似条件: \(a \ll l\), \(x \ll l\)
- 光源: 単色光(波長 \(\lambda\))
- A部 (空気中)
- 点Pが暗線となるための \(x\) の条件式。
- 具体的な数値(\(a=0.47 \text{ mm}\), \(l=6.1 \text{ m}\), 暗線間隔 \(\Delta x = 4.1 \text{ mm}\))から波長 \(\lambda\) の算出。
- B部 (媒質中)
- スリットS0と複スリットS1,S2の間を屈折率 \(n\) の媒質で満たした場合の暗線間隔の変化(Aの場合との比較)。
- 複スリットS1,S2とスクリーンの間を屈折率 \(n\) の媒質で満たした場合の暗線間隔の変化(Aの場合との比較)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。
- 波の重ね合わせの原理と干渉条件: 2つの波が強め合う(明線)か弱め合う(暗線)かは、その点までの経路差(または光路差)によって決まります。
- 明線(強め合い): 経路差 \( = m\lambda\) (\(m\) は整数)
- 暗線(弱め合い): 経路差 \( = \left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda\) (\(m\) は整数)
- ヤングの実験における経路差の近似式: 条件 \(a \ll l\), \(x \ll l\) の下で、経路差 \(\Delta L \approx \displaystyle\frac{2ax}{l}\) と表されます。
- 媒質中での光の波長: 屈折率 \(n\) の媒質中では、光の波長は空気中(または真空中)の \(\displaystyle\frac{1}{n}\) 倍になります (\(\lambda_{\text{媒質}} = \displaystyle\frac{\lambda_{\text{空気}}}{n}\))。これは、媒質中で光速が遅くなるが振動数は変わらないためです。
各設問に対して、これらの法則を適切に適用し、数式を立てて解いていきます。
A部 (1)
思考の道筋とポイント
点Pが暗くなるのは、スリットS1からの光とS2からの光が、点Pで弱め合う干渉をするためです。弱め合う干渉の条件は、2つの光の経路差が、波長の半整数倍(つまり、\(\displaystyle\frac{1}{2}\lambda, \displaystyle\frac{3}{2}\lambda, \displaystyle\frac{5}{2}\lambda, \dots\))となることです。
まず、S1からPまでの経路 \(S_1P\) とS2からPまでの経路 \(S_2P\) の差、すなわち経路差 \(\Delta L = |S_2P – S_1P|\) を求める必要があります。
ヤングの実験の配置で、\(a \ll l\) および \(x \ll l\) の近似条件が成り立つとき、この経路差は \(\Delta L \approx \displaystyle\frac{2ax}{l}\) と近似できることが知られています。この近似式を導出または利用し、弱め合いの条件式に代入して \(x\) に関する条件を導きます。
この設問における重要なポイント
- ヤングの実験における経路差の近似式 \(\Delta L \approx \displaystyle\frac{2ax}{l}\) を正しく理解し、適用できること。
- 光が弱め合う(暗線ができる)ための条件は、経路差が半波長の奇数倍、すなわち \(\left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda\) (\(m\) は整数)であること。
具体的な解説と立式
スリットS1とS2の間隔は \(2a\) です。スクリーンまでの距離は \(l\)、スクリーンの中央Oから点Pまでの距離は \(x\) です。
ヤングの実験では、\(a \ll l\), \(x \ll l\) の条件下で、経路差 \(\Delta L = |S_2P – S_1P|\) は次のように近似されます。
$$\Delta L = \frac{2ax}{l} \quad \cdots ①$$
点Pが暗くなる条件は、この経路差 \(\Delta L\) が波長 \(\lambda\) の半整数倍(半波長の奇数倍)となるときです。整数 \(m\) を用いると、次のように書けます。
$$\Delta L = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m = 0, \pm 1, \pm 2, \dots) \quad \cdots ②$$
式①と式②から、\(x\) が満たす条件式が得られます。
$$\frac{2ax}{l} = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda$$
これが、点Pが暗くなるときに \(x\) が満たしている条件です。
使用した物理公式
- ヤングの実験における経路差の近似式: \(\Delta L = \displaystyle\frac{2ax}{l}\)
- 光の干渉条件(暗線): \(\Delta L = \left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda\)
「具体的な解説と立式」で導いた条件式
$$\frac{2ax}{l} = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda$$
が、\(x\) が満たしている条件を整数 \(m\) を用いて表したものです。通常、\(x\) について解いた形で表します。
上の式を \(x\) について解くと、両辺に \(\displaystyle\frac{l}{2a}\) を掛けて、
$$x = \left(m + \frac{1}{2}\right)\frac{\lambda l}{2a}$$
となります。ここで \(m = 0, \pm 1, \pm 2, \dots\) です。
ヤングの実験では、2つのスリットを通った光がスクリーン上で出会うまでの「道のりの差」が重要です。この「道のりの差」が、光の波長のちょうど0.5倍、1.5倍、2.5倍…というように「半端な」倍数になるとき、光同士は打ち消し合って暗い線を作ります。
この「道のりの差」は、スリットの間隔の半分を \(a\)、スクリーンまでの距離を \(l\)、スクリーン中心からの距離を \(x\) とすると、近似的に \(\displaystyle\frac{2ax}{l}\) と表せます。
したがって、暗くなる条件は、「\(\displaystyle\frac{2ax}{l} = (\text{整数} + 0.5) \times \text{波長}\)」となります。
点Pが暗くなるとき、\(x\) が満たす条件は \(\displaystyle\frac{2ax}{l} = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda\) (\(m = 0, \pm 1, \pm 2, \dots\))です。これを \(x\) について解くと \(x = \left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\displaystyle\frac{\lambda l}{2a}\) となり、\(m\) の各整数値に対応する \(x\) の位置に暗線が現れることを示しています。
A部 (2)
思考の道筋とポイント
(1)で求めた暗線の位置 \(x_m = \left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\displaystyle\frac{\lambda l}{2a}\) から、隣り合う暗線の間隔 \(\Delta x\) を求めます。これは、\(m\) 番目の暗線の位置 \(x_m\) と \((m+1)\) 番目の暗線の位置 \(x_{m+1}\) の差として計算できます。\(\Delta x = x_{m+1} – x_m\)。
計算すると、暗線の間隔 \(\Delta x\) は \(\displaystyle\frac{\lambda l}{2a}\) となることがわかります。この式に、与えられた \(a, l, \Delta x\) の値を代入して、波長 \(\lambda\) を算出します。単位の換算(mmをmに)を忘れずに行う必要があります。
この設問における重要なポイント
- ヤングの実験では、隣り合う明線同士の間隔、および隣り合う暗線同士の間隔は等しく、\(\Delta x = \displaystyle\frac{\lambda l}{d}\) (ここで \(d=2a\) はスリット間隔)で与えられること。
- 与えられた数値の単位をSI基本単位系(この場合はメートル)に統一してから計算すること。
具体的な解説と立式
(1)で求めた \(m\) 番目の暗線の位置を \(x_m\) とすると、
$$x_m = \left(m + \frac{1}{2}\right)\frac{\lambda l}{2a} \quad \cdots ③$$
同様に、\((m+1)\) 番目の暗線の位置を \(x_{m+1}\) とすると、式③の \(m\) を \((m+1)\) で置き換えて、
$$x_{m+1} = \left((m+1) + \frac{1}{2}\right)\frac{\lambda l}{2a} = \left(m + \frac{3}{2}\right)\frac{\lambda l}{2a} \quad \cdots ④$$
隣り合う暗線の間隔 \(\Delta x\) は、これらの差として求められます。
$$\Delta x = x_{m+1} – x_m \quad \cdots ⑤$$
この式⑤に、与えられた \(a = 0.47 \text{ mm}\)、\(l = 6.1 \text{ m}\)、\(\Delta x = 4.1 \text{ mm}\) を代入(単位換算後)して、\(\lambda\) を求めます。
使用した物理公式
- 暗線の位置の式: \(x_m = \left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\displaystyle\frac{\lambda l}{2a}\)
- 暗線の間隔: \(\Delta x = x_{m+1} – x_m\)
まず、式⑤に式③と式④を代入して、暗線の間隔 \(\Delta x\) の一般式を求めます。
\begin{align*} \Delta x &= x_{m+1} – x_m \\ &= \left(m + \frac{3}{2}\right)\frac{\lambda l}{2a} – \left(m + \frac{1}{2}\right)\frac{\lambda l}{2a} \\ &= \left\{ \left(m + \frac{3}{2}\right) – \left(m + \frac{1}{2}\right) \right\} \frac{\lambda l}{2a} \\ &= \left( m + \frac{3}{2} – m – \frac{1}{2} \right) \frac{\lambda l}{2a} \\ &= (1) \cdot \frac{\lambda l}{2a} \end{align*}
したがって、暗線の間隔は、
$$\Delta x = \frac{\lambda l}{2a} \quad \cdots ⑥$$
この式⑥を波長 \(\lambda\) について解くと、
$$\lambda = \frac{2a \Delta x}{l}$$
次に、与えられた数値を代入します。その際、単位をメートル(m)に統一します。
\(a = 0.47 \text{ mm} = 0.47 \times 10^{-3} \text{ m}\)
\(l = 6.1 \text{ m}\)
\(\Delta x = 4.1 \text{ mm} = 4.1 \times 10^{-3} \text{ m}\)
これらの値を代入すると、
$$\lambda = \frac{2 \times (0.47 \times 10^{-3} \text{ m}) \times (4.1 \times 10^{-3} \text{ m})}{6.1 \text{ m}}$$
分子の数値部分を計算します: \(2 \times 0.47 \times 4.1 = 0.94 \times 4.1 = 3.854\)。
分子のオーダー部分を計算します: \(10^{-3} \times 10^{-3} = 10^{-6}\)。
$$\lambda = \frac{3.854 \times 10^{-6} \text{ m}^2}{6.1 \text{ m}}$$
数値部分の割り算を実行します: \(3.854 \div 6.1 \approx 0.631803…\)。
$$\lambda \approx 0.6318 \times 10^{-6} \text{ m}$$
有効数字は、与えられた値が \(a\) (2桁)、\(l\) (2桁)、\(\Delta x\) (2桁) なので、結果も2桁で表すのが適切です。
$$\lambda \approx 0.63 \times 10^{-6} \text{ m} = 6.3 \times 10^{-7} \text{ m}$$
(1)で求めた「暗い線が現れる場所の式」を使うと、隣同士の暗い線の「間隔」は、いつでも \(\displaystyle\frac{\lambda l}{2a}\) という式で表されることがわかります(\(\lambda\)は波長、\(l\)はスリットからスクリーンまでの距離、\(2a\)は2つのスリットの間隔)。
問題では、この「間隔」が \(4.1 \text{ mm}\) であり、\(a\) が \(0.47 \text{ mm}\)、\(l\) が \(6.1 \text{ m}\) と与えられています。これらの値を上の「間隔」の式に入れて、波長 \(\lambda\) について解けばよいのです。
計算するときは、mm(ミリメートル)とm(メートル)の単位をそろえること(例えば全部メートルに直す)を忘れないようにしましょう。\(1 \text{ mm} = 0.001 \text{ m}\) です。
単色光の波長 \(\lambda\) は \(6.3 \times 10^{-7} \text{ m}\) です。これは 630 nm (ナノメートル) に相当し、可視光線の範囲(赤色光に近い)であり、物理的に妥当な値です。
B部 (3)
思考の道筋とポイント
ヤングの干渉縞は、スリットS1とS2から出た光が、スクリーン上の点Pに到達するまでの経路差(光路差)によって形成されます。
スリット面I(S1, S2がある面)とスリット面II(S0がある面)の間だけを屈折率 \(n\) の媒質で満たした場合、S0からS1へ、およびS0からS2へ進む光がその媒質の影響を受けます。
S0の役割は、S1とS2に同位相の光を送り込むことです。S1とS2はS0から等距離にあるため、S0からS1までの光路長とS0からS2までの光路長は、媒質が挿入されても等しくなります。したがって、S1とS2から出る光は依然として同位相であると考えられます。
干渉縞の形成に直接関与するS1からPまで、およびS2からPまでの光路は、空気中のままです。したがって、これらの経路差には変化がなく、干渉条件も変わりません。
この設問における重要なポイント
- ヤングの実験の干渉縞は、複スリットS1, S2を通過した後の光の干渉によって決まる。
- S0からS1,S2までの区間の媒質が変わっても、S1,S2が同位相の波源として機能する点が変わらなければ、S1,S2からスクリーンまでの干渉条件には影響しない。
具体的な解説と立式
スリットS0は、スリットS1とS2に同位相の光を供給するためのものです。問題の条件下では、S1とS2はS0から等距離にあります。
スリット面Iとスリット面IIの間だけを屈折率 \(n\) の媒質で満たした場合、光源S0からS1までの光路と、S0からS2までの光路は、どちらもこの媒質中を進みます。これらの光路長が等しいため、S1とS2には引き続き同位相で光が到達します。
実際に干渉縞を形成するのは、スリットS1からスクリーン上の点Pまでの光と、スリットS2から点Pまでの光です。この区間(スリット面Iからスクリーンまで)は空気中のままであり、媒質の影響を受けません。
したがって、S1PとS2Pの経路差に変化はなく、干渉条件もAの場合と全く同じです。
その結果、暗線の間隔も変化しません。
使用した物理公式
- (特になし。干渉条件が変化しないことの物理的洞察に基づく)
上記の物理的な考察により、干渉条件に変化はないため、暗線の間隔も変化しません。
したがって、Aの場合の暗線の間隔を \(\Delta x_{\text{A}}\)、この場合の間隔を \(\Delta x_{\text{(3)}}\) とすると、
$$\Delta x_{\text{(3)}} = \Delta x_{\text{A}}$$
よって、Aの場合の1倍です。
スクリーン上にできる明暗の縞模様は、主に、2つのスリットS1とS2を「出た後」の光が、スクリーンまでの道のりでどのように重なり合うかによって決まります。
今回、屈折率の異なる物質で満たしたのは、最初のスリットS0からS1とS2までの間だけです。S1とS2からスクリーンまでの間は空気のままなので、光がスクリーン上で重なり合うときの条件は変わりません。そのため、暗い線ができる間隔も変わらない、ということになります。
暗線の間隔はAの場合と変わらず、1倍です。S1, S2を同位相の波源として機能させるS0からの光路の媒質が変わっても、S1, S2が同位相であることと、その後の干渉が生じる空間の条件が変わらなければ、干渉縞は影響を受けません。
B部 (4)
思考の道筋とポイント
スリット面II(S0がある面)とスクリーンの間を屈折率 \(n\) の媒質で満たす場合、これは実質的にスリットS1, S2からスクリーンまでの区間全体が媒質で満たされると解釈できます。(S0からS1,S2までの区間も媒質中になるが、問3の考察と同様に、これはS1,S2の同位相性には影響しない。)
重要なのは、S1からP、S2からPまでの光路が屈折率 \(n\) の媒質中になることです。
屈折率 \(n\) の媒質中では、光の波長は空気中の \(\displaystyle\frac{1}{n}\) 倍になります。つまり、\(\lambda’ = \displaystyle\frac{\lambda}{n}\) となります。
暗線の間隔 \(\Delta x\) は、(2)で導いたように \(\Delta x = \displaystyle\frac{\lambda l}{2a}\) で与えられます。この式の \(\lambda\) が媒質中での波長 \(\lambda’\) に変わるため、新しい暗線間隔 \(\Delta x’\) は \(\Delta x’ = \displaystyle\frac{\lambda’ l}{2a}\) となります。この \(\Delta x’\) と元の \(\Delta x\) を比較します。
この設問における重要なポイント
- 光が屈折率 \(n\) の媒質中を進むとき、その波長は \(\lambda’ = \displaystyle\frac{\lambda}{n}\) (\(\lambda\) は空気中での波長)となること。
- 暗線の間隔の式 \(\Delta x = \displaystyle\frac{\lambda l}{2a}\) に、この変化した波長 \(\lambda’\) を適用すること。
具体的な解説と立式
スリット面IIとスクリーンの間だけを屈折率 \(n\) の媒質で満たすと、スリットS1およびS2からスクリーン上の点Pに至るまでの光路が、すべてこの媒質中になります。
媒質中での光の波長を \(\lambda’\) とすると、空気中での波長 \(\lambda\) との間には次の関係があります。
$$\lambda’ = \frac{\lambda}{n} \quad \cdots ⑦$$
空気中(Aの場合)での暗線の間隔 \(\Delta x\) は、式⑥より、
$$\Delta x = \frac{\lambda l}{2a}$$
でした。
スリットS1,S2からスクリーンまでが媒質で満たされた場合、光の波長が \(\lambda’\) になるため、新しい暗線の間隔を \(\Delta x’\) とすると、\(\Delta x\) の式の \(\lambda\) を \(\lambda’\) で置き換えることで得られます。
$$\Delta x’ = \frac{\lambda’ l}{2a} \quad \cdots ⑧$$
この式⑧に式⑦を代入することで、\(\Delta x’\) を \(\Delta x\) を用いて表すことができます。
使用した物理公式
- 媒質中での光の波長: \(\lambda’ = \displaystyle\frac{\lambda_{\text{空気}}}{n}\)
- ヤングの実験における暗線(または明線)の間隔: \(\Delta x = \displaystyle\frac{\lambda l}{2a}\)
式⑧に式⑦を代入します。
$$\Delta x’ = \frac{\left(\frac{\lambda}{n}\right) l}{2a}$$
この式を整理すると、
$$\Delta x’ = \frac{1}{n} \cdot \frac{\lambda l}{2a}$$
ここで、\(\displaystyle\frac{\lambda l}{2a}\) はAの場合の暗線の間隔 \(\Delta x\) ですから、
$$\Delta x’ = \frac{1}{n} \Delta x$$
したがって、新しい暗線の間隔 \(\Delta x’\) は、Aの場合の暗線の間隔 \(\Delta x\) の \(\displaystyle\frac{1}{n}\) 倍になります。
光が空気中から屈折率 \(n\) の物質の中に入ると、光の速さが遅くなるため、波長が短くなります。具体的には、波長は元の \(\displaystyle\frac{1}{n}\) 倍になります。
暗い線(や明るい線)の間隔は、光の波長に比例します((2)で見たように、間隔の式には \(\lambda\) が含まれています)。
したがって、波長が \(\displaystyle\frac{1}{n}\) 倍になると、暗い線ができる間隔も \(\displaystyle\frac{1}{n}\) 倍になります。
スリット面IIとスクリーンの間を屈折率 \(n\) の媒質で満たした場合、暗線の間隔はAの場合の \(\displaystyle\frac{1}{n}\) 倍になります。
一般に屈折率 \(n\) は1より大きい(例:水は約1.33、ガラスは約1.5)ため、\(1/n\) は1より小さくなります。これは、媒質中では光の波長が短くなる結果、干渉縞の間隔が狭まることを意味しており、物理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 光の波動性と干渉: 光が波の性質を持つために起こる干渉現象。ヤングの実験はこの代表例。
- 干渉の条件(経路差):
- 強め合い(明線): 経路差 \( = m\lambda \)
- 弱め合い(暗線): 経路差 \( = \left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda \)
- これらの条件が、スクリーン上のどの位置に明暗の縞ができるかを決定する。
- 経路差の近似計算 (ヤングの実験): 特定の条件下(スリット間隔やスクリーン上の位置がスリット-スクリーン間距離に比べて十分小さい)で、経路差を簡単な式(\(\Delta L \approx \displaystyle\frac{dx}{l}\)、この問題では \(d=2a\) なので \(\Delta L \approx \displaystyle\frac{2ax}{l}\))で近似できる。この近似が問題を解きやすくしている。
- 媒質中の光の波長: 光が屈折率 \(n\) の媒質中を進むとき、その波長は空気中(または真空中)での波長の \(\displaystyle\frac{1}{n}\) 倍になる (\(\lambda’ = \lambda/n\))。これは、光速が \(\displaystyle\frac{1}{n}\) 倍になるが振動数は不変であることから生じる。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 回折格子: 多数のスリットによる干渉。原理はヤングの実験と共通点が多いが、よりシャープな干渉縞が得られる。明線の条件 \(d\sin\theta = m\lambda\) は同様に重要。
- 薄膜による干渉: シャボン玉や油膜の色づき。光路差だけでなく、反射時の位相変化も考慮する必要がある場合が多い。
- ニュートンリング: レンズと平板ガラス間の薄い空気層による干渉。
- 音波や水面波など、他の波の干渉問題にも、経路差と波長に基づく干渉条件の考え方は共通して適用できる。
- 初見の問題での着眼点:
- 波源の数と位相関係: いくつの波源があり、それらは同位相か逆位相か。ヤングの実験ではS0によりS1, S2が同位相になる。
- 経路差の計算: 観測点までの各波源からの経路長を求め、その差を計算する。近似が使えるかどうかの条件確認。
- 干渉条件の適用: 明線か暗線か、問題の問いかけに応じて適切な条件式を選ぶ。
- 媒質の影響: 光路の一部または全部が媒質中にある場合、波長または光路長(幾何学的長さ \(\times\) 屈折率)を考慮する。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点:
- 必ず図を描き、スリット、スクリーン、観測点の位置関係、経路差が生じる部分を視覚的に把握する。
- 整数 \(m\) が取りうる値(\(0, \pm 1, \pm 2, \dots\) など)とその物理的意味(中央の明線、1次の暗線など)を明確にする。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 経路差の近似式の誤用・導出ミス: \(x \ll l\), \(a \ll l\) の条件がない場合には、この近似式は使えない。また、\(d=2a\) の \(a\) とスリット間隔 \(d\) を混同しない。
- 明線と暗線の条件の混同: \(m\lambda\) と \(\left(m+\displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda\) を取り違える。
- 整数 \(m\) の基準: \(m=0\) が中央の明線に対応することが多いが、暗線の条件で \(m=0\) を使うと、それは \(\displaystyle\frac{1}{2} \lambda\) の経路差に対応する最初の暗線群の一つを指す。
- 単位換算ミス: (2)のようにmmとmが混在する場合、計算前に単位を統一しないと結果が大きく狂う。特に \(10^{-3}\) や \(10^{-6}\) などのべき乗の計算。
- 媒質中の波長変化の誤解: 屈折率 \(n\) の媒質中では波長が \(n\) 倍になるのではなく、\(\displaystyle\frac{1}{n}\) 倍になる。
対策:
- 公式の適用条件と導出の背景を理解する。
- 問題ごとに \(m=0\) が何に対応するかを図と条件から確認する。
- 計算実行前に、必ず単位をチェックし、必要なら統一する。
- 媒質中では光速が遅くなる \(\rightarrow\) 波長が短くなる、という因果関係を覚えておく。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象のイメージ化:
- S0から出た波面がS1, S2に到達し、そこから新たな波面(球面波)が広がり、重なり合う様子をイメージする。
- スクリーン上で、S1からの波の山とS2からの波の山が一致する点(経路差 \(m\lambda\))では明るく、山と谷が一致する点(経路差 \(\left(m+\displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda\))では暗くなる。
- 媒質で満たされた空間では、波の「波長」という目盛りが縮むイメージ。
- 図示の有効性:
- 問題に与えられている図は、経路差を考える上での幾何学的関係を把握するのに不可欠。
- 自分で近似の状況(例:\(\theta\) が非常に小さい、S1PとS2Pがほぼ平行とみなせるなど)を図に描き込んでみると、近似式の意味が理解しやすくなる。
- B部のように媒質が変わる場合、どの領域の屈折率が \(n\) になるのかを図で明確に区別すると、考察の助けになる。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 経路差の近似式 \(\Delta L \approx \displaystyle\frac{2ax}{l}\):
- 選定理由: ヤングの実験で、スクリーン上の干渉縞の位置を解析するための標準的な公式だから。
- 適用根拠: 問題文に「\(a\) および \(x\) は \(l\) に比べて十分小さい」という近似条件が明記されているため、この近似が妥当と判断できる。
- 暗線の条件式 \(\Delta L = \left(m + \displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda\):
- 選定理由: (1)で「P点が暗くなるとき」と問われているため。
- 適用根拠: 波の重ね合わせの原理により、位相が \(\pi\) (180°) ずれて重なり合うと波は打ち消し合う。経路差が半波長の奇数倍のとき、この位相差が生じる。
- 暗線間隔の式 \(\Delta x = \displaystyle\frac{\lambda l}{2a}\):
- 選定理由: (2)で「暗線の間隔」が与えられ、それを用いて波長を求めるため。この式は暗線の位置の式から導出される。
- 適用根拠: ヤングの実験では、干渉縞(明線も暗線も)は等間隔に並ぶという性質があるため。
- 媒質中の波長 \(\lambda’ = \lambda/n\):
- 選定理由: (4)で光路が媒質で満たされた場合の影響を考えるため。
- 適用根拠: 光が異なる媒質に入射する際、振動数は変化しないが、光速が変化する(\(v=c/n\))。波の基本式 \(v=f\lambda\) より、波長も変化する。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- A部(1): P点の経路差を \(a,x,l\) で表す(近似式利用)\(\rightarrow\) 暗線の干渉条件(経路差が \(\left(m+\displaystyle\frac{1}{2}\right)\lambda\))と等置する。
- A部(2): (1)の \(x_m\) の式から \(x_{m+1}-x_m\) を計算して \(\Delta x\) の一般式を導く \(\rightarrow\) \(\Delta x\) の式を \(\lambda\) について解き、与えられた数値を(単位換算して)代入する。
- B部(3): 媒質で満たされた区間を確認 \(\rightarrow\) S1,S2からスクリーンまでの光路に変化がないことを確認 \(\rightarrow\) 干渉条件は不変と結論づける。
- B部(4): 媒質で満たされた区間を確認 \(\rightarrow\) その区間での波長が \(\lambda’=\lambda/n\) になることを適用 \(\rightarrow\) \(\Delta x\) の式の \(\lambda\) を \(\lambda’\) で置き換え、元の \(\Delta x\) と比較する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の一貫性: (2)の計算では、mm と m が混在している。計算前にmに統一することが最も重要。\(0.47 \text{ mm} = 0.47 \times 10^{-3} \text{ m}\), \(4.1 \text{ mm} = 4.1 \times 10^{-3} \text{ m}\)。
- 指数計算: \(10^{-3} \times 10^{-3} = 10^{-6}\) のような指数法則の適用を正確に。
- 近似と有効数字: (2)の最終結果は、与えられた数値の有効数字(この場合は2桁)に合わせる。
- 式の整理: (2)で \(\lambda = \displaystyle\frac{2a \Delta x}{l}\) のように、求める量について式を整理してから数値を代入する方が、計算ミスを減らしやすい。
日頃の練習:
- 類似問題を解く際に、式番号を振って計算過程を記述する練習をすると、論理の流れが明確になりやすい。
- 計算結果が出たら、単位が正しいか、オーダー(\(10^n\)の部分)が妥当かを確認する癖をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- (2)の \(\lambda\) の値: \(6.3 \times 10^{-7} \text{ m} = 630 \text{ nm}\)。これは可視光線の波長(例えば赤色が約620-750 nm)の範囲内にあり、現実的な実験結果として妥当。もしこれが \(10^{-3} \text{ m}\) や \(10^{-10} \text{ m}\) のようなオーダーになれば、計算ミスを疑うべき。
- (3)の結果: 1倍。干渉に直接関与する部分の条件が変わらなければ結果も変わらない、というのは直感的にも理解しやすい。
- (4)の結果: \(\displaystyle\frac{1}{n}\) 倍。\(n>1\) なので、間隔は狭まる。媒質中で波長が短くなるのだから、縞の間隔も狭まるはず、という物理的イメージと合致する。もし \(n\) 倍という結果が出たら、どこかで符号や逆数を間違えた可能性を考える。
- 式の依存関係の確認: 例えば、暗線間隔 \(\Delta x = \displaystyle\frac{\lambda l}{2a}\) は、波長 \(\lambda\) や距離 \(l\) が大きいほど広がり、スリット間隔 \(2a\) が大きいほど狭まる。この関係が直感と合うかを確認する。
問題94 (センター試験)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、回折格子による光の干渉について扱います。回折格子は、多数の平行なスリットを持つ光学素子で、入射した光を波長に応じて異なる方向に回折・干渉させ、スペクトルを得るのに用いられます。
- 回折格子への光の入射: 垂直入射
- 観測範囲: \(-60^\circ < \theta < 60^\circ\)
- スクリーン: 円筒状(図から半径1mと読み取れ、\(x\) 座標が与えられている。模範解答に従い \(\sin\theta = x\) として扱う場面あり)
- (1) 格子定数 \(d = 1.2 \times 10^{-6} \text{ m}\), 光の波長 \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7} \text{ m}\)
- (2) 赤色光と青色光を同時入射。スクリーン上の明線の位置 P(\(x=0.32\text{ m}\)), Q(\(x=0.48\text{ m}\)), R(\(x=0.64\text{ m}\))(\(0^\circ < \theta < 60^\circ\) の範囲)
- (3) (2)における赤色光の波長 \(\lambda_{\text{R}} = 6.8 \times 10^{-7} \text{ m}\)
- (1)の条件下で、スクリーン上に \(-60^\circ < \theta < 60^\circ\) の範囲に現れる明線の数。
- (2)の3本の明線のうち、青色の明線はどれか。
- (2)の条件と赤色光の波長から、回折格子の格子定数 \(d\) の算出。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。
- 回折格子の明線条件: 格子定数を \(d\)、光の波長を \(\lambda\)、入射光に対して角度 \(\theta\) の方向にできる明線の次数を \(m\)(整数)とすると、強め合いの条件は次のように表されます。
$$d\sin\theta = m\lambda \quad (m = 0, \pm 1, \pm 2, \dots)$$
\(m=0\) は中央の明線(入射光がそのまま直進した方向)に対応します。 - 波長と回折角の関係: 上記の式からわかるように、同じ次数の明線 (\(m\) が同じ) であれば、波長 \(\lambda\) が長いほど回折角 \(\theta\) は大きくなります(\(\sin\theta\) が大きくなる)。逆に、波長が短いほど回折角は小さくなります。
- 光のスペクトル: 白色光のように複数の波長の光が含まれる場合、回折格子は波長ごとに異なる角度に光を分けるため、スペクトルが観測されます。一般に、可視光では赤色光の波長が最も長く、紫色(青色系統)光の波長が最も短いです。
各設問に対して、これらの法則を適切に適用し、数式を立てて解いていきます。
問1
思考の道筋とポイント
回折格子による明線の条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\) を用います。この式を \(\sin\theta\) について解き、与えられた \(d\) と \(\lambda\) の値を代入して、\(m\) と \(\sin\theta\) の関係を求めます。
次に、観測範囲である \(-60^\circ < \theta < 60^\circ\) から、\(\sin\theta\) が取りうる値の範囲を求めます。
この \(\sin\theta\) の範囲を満たすような整数 \(m\) がいくつ存在するかを数えれば、それが求める明線の本数になります。
この設問における重要なポイント
- 回折格子の明線条件 \(d\sin\theta = m\lambda\) を正しく適用すること。
- 指定された角度 \(\theta\) の範囲を、\(\sin\theta\) の範囲に正確に変換すること。
- 条件を満たす整数 \(m\)(明線の次数)を過不足なく数え上げること。\(m=0\)(中央の明線)も忘れないように注意する。
具体的な解説と立式
回折格子で明線が生じる条件は、格子定数を \(d\)、光の波長を \(\lambda\)、明線の次数を \(m\)(\(m=0, \pm 1, \pm 2, \dots\))、入射光に対する回折角を \(\theta\) とすると、
$$d\sin\theta = m\lambda \quad \cdots ①$$
と表されます。この式を \(\sin\theta\) について整理すると、
$$\sin\theta = \frac{m\lambda}{d}$$
問題で与えられている観測範囲は \(-60^\circ < \theta < 60^\circ\) です。この範囲における \(\sin\theta\) の値の範囲を求めます。
\(\sin(-60^\circ) = -\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\) であり、\(\sin(60^\circ) = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\) です。また、\(-60^\circ < \theta < 60^\circ\) の範囲で \(\sin\theta\) は単調増加関数です。
したがって、\(\sin\theta\) の取りうる範囲は、
$$-\frac{\sqrt{3}}{2} < \sin\theta < \frac{\sqrt{3}}{2} \quad \cdots ②$$
となります。式①の右辺を式②の \(\sin\theta\) に代入し、与えられた \(d = 1.2 \times 10^{-6} \text{ m}\) と \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7} \text{ m}\) の値を使って、この条件を満たす整数 \(m\) の個数を探します。
使用した物理公式
- 回折格子の明線条件: \(d\sin\theta = m\lambda\)
式①の \(\sin\theta = \displaystyle\frac{m\lambda}{d}\) に、与えられた値を代入します。
$$\sin\theta = \frac{m \times (6.0 \times 10^{-7} \text{ m})}{1.2 \times 10^{-6} \text{ m}}$$
係数部分 \(\displaystyle\frac{6.0}{1.2} = 5\)、オーダー部分 \(\displaystyle\frac{10^{-7}}{10^{-6}} = 10^{-1} = 0.1\) なので、
$$\sin\theta = m \times 5 \times 0.1 = 0.5 m = \frac{1}{2}m$$
この結果を、式② \(-\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2} < \sin\theta < \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\) に代入します。
$$-\frac{\sqrt{3}}{2} < \frac{1}{2}m < \frac{\sqrt{3}}{2}$$
この不等式の各辺を2倍すると、
$$-\sqrt{3} < m < \sqrt{3}$$
ここで、\(\sqrt{3} \approx 1.732\) なので、不等式は、
$$-1.732 < m < 1.732$$
この範囲に含まれる整数 \(m\) は、\(m = -1, 0, 1\) の3つです。
したがって、観測される明線の数は3本です。
回折格子を通った光が明るい線を作る条件は \(d\sin\theta = m\lambda\) という式で表されます(\(d\)は回折格子の溝の間隔、\(\theta\)は光が曲がる角度、\(m\)は0, \(\pm 1\), \(\pm 2\)…という整数、\(\lambda\)は光の波長)。
まず、この式に問題で与えられた \(d\) と \(\lambda\) の値を入れ、\(\sin\theta\) を \(m\) で表す式を作ります。計算すると \(\sin\theta = \displaystyle\frac{1}{2}m\) となります。
次に、光が曲がる角度 \(\theta\) の範囲が \(-60^\circ\) から \(60^\circ\) までと決まっているので、それに対応する \(\sin\theta\) の値の範囲を求めます。\(\sin(-60^\circ) = -\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2} \approx -0.866\)、\(\sin(60^\circ) = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2} \approx 0.866\) なので、\(\sin\theta\) は約-0.866から約0.866の間の値をとります。
この範囲に \(\sin\theta = \displaystyle\frac{1}{2}m\) が収まるような整数 \(m\) を探します。つまり、\(-\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2} < \frac{1}{2}m < \frac{\sqrt{3}}{2}\) を満たす \(m\) です。これを解くと \(-\sqrt{3} < m < \sqrt{3}\) となり、\(\sqrt{3}\) は約1.732なので、この範囲に入る整数 \(m\) は -1, 0, 1 の3つです。つまり、明線は3本見えます。
スクリーン上に \(-60^\circ < \theta < 60^\circ\) の範囲に現れる明線の数は3本です。これは、\(m=0\)(中央の明線)、\(m=1\)(1次の明線)、\(m=-1\)(-1次の明線)に対応します。\(|m| \ge 2\) となる明線は、\(\sin\theta\) の値が1を超えてしまうか、指定された角度範囲外となるため観測されません。
問2
思考の道筋とポイント
回折格子の明線条件 \(d\sin\theta = m\lambda\) から、同じ次数 \(m\) (\(m \neq 0\)) の明線であれば、波長 \(\lambda\) が短いほど \(\sin\theta\) が小さく、したがって回折角 \(\theta\) も小さくなります(\(0^\circ < \theta < 90^\circ\) の範囲では \(\sin\theta\) は \(\theta\) と共に増加するため)。可視光では、青色光の波長は赤色光の波長よりも短いです (\(\lambda_{\text{青}} < \lambda_{\text{赤}}\))。
図2の円筒スクリーンは、原点Oを中心とする半径 \(R_0=1.0 \text{ m}\) の円筒であると読み取れ、\(x\) 座標が示されています。模範解答の解説によれば、この問題設定では \(\sin\theta = x\) とみなせるようです。この解釈に従います。
\(x\) の値が小さい方からP (0.32), Q (0.48), R (0.64) となっています。これらの \(x\) 座標の比率や、波長の大小関係から、各明線がどの色のどの次数に対応するかを推定します。
この設問における重要なポイント
- 同じ次数の明線では、波長が短い光ほど回折角が小さい (\(\sin\theta\) が小さい)。
- 青色光の波長は赤色光の波長より短い (\(\lambda_{\text{青}} < \lambda_{\text{赤}}\))。
- スクリーン上の位置 \(x\) と \(\sin\theta\) の関係を正しく把握する(この問題では模範解答に従い \(\sin\theta = x\) と解釈)。
- 観測された明線の \(x\) 座標の比率などから、各明線がどの色光の何次の明線かを推定する。
具体的な解説と立式
回折格子の明線条件は \(d\sin\theta = m\lambda\) です。この問題ではスクリーン上の \(x\) 座標が与えられており、\(\sin\theta = x\) と解釈します。すると、明線の条件は次のように書き換えられます。
$$dx = m\lambda \quad \cdots ③$$
この式から、\(x = \displaystyle\frac{m\lambda}{d}\) となります。
青色光の波長を \(\lambda_{\text{青}}\)、赤色光の波長を \(\lambda_{\text{赤}}\) とすると、\(\lambda_{\text{青}} < \lambda_{\text{赤}}\) です。
観測された明線の \(x\) 座標は、P: \(x_P=0.32\), Q: \(x_Q=0.48\), R: \(x_R=0.64\) です。
\(x_R / x_P = 0.64 / 0.32 = 2\)。このことから、PとRは同じ色の光による明線で、Pが \(m=1\) の次数、Rが \(m=2\) の次数に対応すると強く推測されます。
最も \(x\) が小さいPは、波長の短い青色光の \(m=1\) の明線であると考えるのが自然です。
そうすると、Rは青色光の \(m=2\) の明線となります (\(x_R = 2x_P\))。
残るQ(\(x_Q=0.48\))は、赤色光の \(m=1\) の明線であると推測されます。
(このとき、\(\lambda_{\text{青}}/\lambda_{\text{赤}} = x_P/x_Q = 0.32/0.48 = 2/3\) となり、妥当な比率です。)
したがって、青色の明線はPとRであると考えられます。
使用した物理公式
- 回折格子の明線条件: \(d\sin\theta = m\lambda\) (この問題では \(d x = m\lambda\) として使用)
- 波長の大小関係: \(\lambda_{\text{青}} < \lambda_{\text{赤}}\)
「具体的な解説と立式」での考察に基づき、各明線がどの光の何次の明線に対応するかを判断します。
- P, Q, R の \(x\) 座標の値は \(x_P=0.32\), \(x_Q=0.48\), \(x_R=0.64\)。
- \(x_P : x_R = 0.32 : 0.64 = 1 : 2\)。この比から、PとRは同じ色で、Pが1次(\(m=1\))、Rが2次(\(m=2\))の明線であると推測します。
- \(\lambda_{\text{青}} < \lambda_{\text{赤}}\) であり、同じ次数 \(m\) ならば波長の短い方が \(x\) も小さくなるため、最も \(x\) の小さいPは青色の1次明線と考えられます。
- したがって、Rは青色の2次明線です。
- Qは残った赤色の1次明線と考えられます。
よって、青色の明線はPとRです。選択肢では⑥です。
回折格子を通った光は、色(波長)と次数 \(m\) によって曲がる角度(\(x\)座標の値)が決まります。式は \(dx = m\lambda\) です。
ポイントは2つあります。
- 青い光は赤い光よりも波長が短い。
- 同じ色の光なら、次数 \(m\) が大きいほど \(x\) も大きくなる(つまり、\(m=1\) より \(m=2\) の方が外側に線が見える)。また、\(x\) の値は \(m\) に比例する。
P, Q, Rの \(x\) の値は 0.32, 0.48, 0.64 です。
P(0.32) と R(0.64) に注目すると、Rの \(x\) 座標はPのちょうど2倍です。これは、PとRが同じ色の光で、Pが \(m=1\) の線、Rが \(m=2\) の線であることを意味します。
一番内側(\(x\) が小さい)に見えるP(0.32) は、波長が短い青い光の \(m=1\) の線だと考えられます。そうすると、R(0.64) は青い光の \(m=2\) の線となります。
残ったQ(0.48)は、赤い光の \(m=1\) の線だろうと推測できます。
よって、青色の明線はPとRです。
青色の明線はPとRです。これは、波長の短い青色光の1次と2次の明線がそれぞれPとRに対応し、中間のQが波長の長い赤色光の1次の明線に対応するという解釈と整合します。
問3
思考の道筋とポイント
(2)の考察から、点Q (\(x_Q = 0.48\)) は赤色光の \(m=1\) の明線であると判断しました。
この情報と、与えられた赤色光の波長 \(\lambda_{\text{R}}\) を用いて、回折格子の明線条件の式 \(dx = m\lambda\) から格子定数 \(d\) を算出します。
この設問における重要なポイント
- (2)で特定した明線(Qが赤色の1次)の情報を正しく利用すること。
- 回折格子の明線条件の式 \(d x = m\lambda\) を \(d\) について解き、数値を代入すること。
具体的な解説と立式
(2)の考察より、点Qは赤色光 (\(\lambda_{\text{R}} = 6.8 \times 10^{-7} \text{ m}\)) の \(m=1\) の次数の明線であると判断しました。
図2より、点Qの \(x\) 座標(\(\sin\theta_Q\) に相当)は \(x_Q = 0.48\) です。
回折格子の明線の条件式(式③を再掲)は、
$$dx = m\lambda$$
点Qについてこの式を適用すると、\(m=1\), \(\lambda = \lambda_{\text{R}}\), \(x = x_Q\) として、
$$d \cdot x_Q = 1 \cdot \lambda_{\text{R}} \quad \cdots ④$$
この式④に \(x_Q = 0.48\) と \(\lambda_{\text{R}} = 6.8 \times 10^{-7} \text{ m}\) を代入して、格子定数 \(d\) を求めます。
使用した物理公式
- 回折格子の明線条件: \(dx = m\lambda\)
式④を格子定数 \(d\) について解くと、
$$d = \frac{1 \cdot \lambda_{\text{R}}}{x_Q}$$
与えられた値を代入します。
\(\lambda_{\text{R}} = 6.8 \times 10^{-7} \text{ m}\)
\(x_Q = 0.48\)
$$d = \frac{6.8 \times 10^{-7} \text{ m}}{0.48}$$
計算を実行します。
\(6.8 \div 0.48 = 680 \div 48\)。
\(680 \div 48 = \displaystyle\frac{680}{48} = \displaystyle\frac{170}{12} = \displaystyle\frac{85}{6} \approx 14.1666…\)
$$d \approx 14.167 \times 10^{-7} \text{ m}$$
有効数字を考慮すると、\(\lambda_{\text{R}}\) が2桁、\(x_Q\) が2桁なので、結果も2桁で表すのが適切です。
$$d \approx 1.4 \times 10^{1} \times 10^{-7} \text{ m} = 1.4 \times 10^{-6} \text{ m}$$
(模範解答に合わせるなら \(1.4 \times 10^{-6} \text{m}\) となりますが、計算途中では \(1.416…\) のように桁を多くとっておくと良いでしょう。)
(2)で、Qの線は「赤い光」の「\(m=1\)」の明るい線だとわかりました。このときの \(x\) の値は図から0.48です。赤い光の波長は \(6.8 \times 10^{-7} \text{ m}\) と与えられています。
これらを明線の条件式 \(dx = m\lambda\) に当てはめます(\(m=1\))。
\(d \times 0.48 = 1 \times (6.8 \times 10^{-7} \text{ m})\)
この式を \(d\) について解けば、回折格子の格子定数(溝の間隔)が求まります。
格子定数 \(d\) は約 \(1.4 \times 10^{-6} \text{ m}\) です。これは (1) で使用された格子定数 \(1.2 \times 10^{-6} \text{ m}\) と同程度のオーダーであり、回折格子として一般的な値の範囲です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 回折格子の原理: 多数の平行なスリット(刻線)によって光が回折し、干渉することで特定の方向に強い光(明線)が生じる現象。
- 明線の条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\)**: これが回折格子を理解する上で最も基本となる式。各記号の意味(\(d\):格子定数, \(\theta\):回折角, \(m\):明線の次数, \(\lambda\):光の波長)を正確に把握する。
- 波長と回折角の関係: 同じ次数の明線であれば、波長が長いほど回折角は大きくなる。これにより、回折格子は光を波長ごとに分ける(スペクトル分解する)ことができる。
- \(\sin\theta\) の取りうる範囲**: 物理的に \(-1 \le \sin\theta \le 1\) であるため、これを超えるような \(\displaystyle\frac{m\lambda}{d}\) の値に対応する明線は存在しない。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 特定の次数の明線の角度を求める問題。
- 特定の角度範囲内に見られる明線の本数を数える問題(本問(1))。
- 異なる波長の光を同時に入射させたときのスペクトルの重なりや分離を考える問題(本問(2))。
- スクリーン上の明線の位置から格子定数や波長を決定する問題(本問(3))。
- 入射角が0でない(垂直入射でない)場合の回折格子の問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 入射条件: 光は回折格子に垂直に入射しているか。
- 明線の条件式を正しく立てる: \(d\sin\theta = m\lambda\)。
- 変数は何か: \(d, \theta, m, \lambda\) のうち、何が既知で何が未知か。
- 角度の範囲: \(\sin\theta\) の値が1を超えないか、問題で指定された観測範囲はあるか。
- 複数の波長: 波長が異なれば、同じ \(m\) でも \(\theta\) が異なることを利用する。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点:
- まずは図を描いて、入射光、回折格子、回折角 \(\theta\)、スクリーンなどの位置関係を把握する。
- \(m=0\) は直進光(\(\theta=0\))であり、全ての波長で同じ位置になる。
- 次数 \(m\) は正負の整数を取りうることを忘れない(特に指定がない場合)。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \(m=0\) の扱い: \(m=0\) の明線(中央線)を数え忘れる、または逆に数えすぎる。
- \(\sin\theta\) と \(\theta\) の混同: 条件式は \(\sin\theta\) であり、\(\theta\) そのものではない。ただし、\(\theta\) が非常に小さい場合は \(\sin\theta \approx \theta\) と近似できることもあるが、本問ではその近似は不要。
- 角度範囲の扱い: (1)で \(-60^\circ < \theta < 60^\circ\) を \(\sin\theta\) の範囲に正しく変換できない。
- 波長と回折角の関係の誤解: 波長が長いほど回折角が大きいことを逆に覚えてしまう。
- (2)の \(x\) と \(\sin\theta\) の関係: 問題図から \(x\) が何を表すかを正確に読み取る。模範解答のように \(\sin\theta=x\) (半径1mの円筒スクリーンを仮定) と解釈するのがこの問題では適切だった。
対策:
- 必ず \(d\sin\theta = m\lambda\) の基本式に立ち返る。
- \(m\) の取りうる値の範囲を、\(\sin\theta\) の物理的制約(\([-1, 1]\))と問題の観測範囲の両方から検討する。
- 波長の長い赤色光の方が、短い青色光よりも大きく曲がる(同じ次数 \(m \neq 0\) の場合)と具体的に覚える。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象のイメージ化:
- 回折格子の多数のスリットから出るそれぞれの光が、遠方(スクリーン上)で干渉し合う様子。特定の方向(\(\theta\))で位相がそろって強め合う。
- 白色光を入射させると、虹のように色が分かれて見えるスペクトルをイメージする(\(m=0\) は白色のまま、\(|m| \ge 1\) では色が分散)。
- 図示の有効性:
- 問題の図1, 図2は状況理解に必須。特に図1は \(\theta\) と \(x\) の関係を、図2は複数の明線の位置関係を示している。
- 自分で \(d, \theta, m, \lambda\) の関係を図に書き込みながら考えると、式の意味が理解しやすくなる。
- (2)でP,Q,Rがどの光の何次の明線かを考える際、\(x\) 軸上にそれぞれの位置をプロットし、波長との関係を視覚化すると分かりやすい。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(d\sin\theta = m\lambda\) (回折格子の明線条件):
- 選定理由: 回折格子による光の干渉で明線が生じる方向を決定する基本公式であるため。
- 適用根拠: 問題が回折格子に光を垂直入射させ、スクリーン上の明線を観測する状況を記述しているため、この公式が直接適用できる。
訓練の重要性:
- 様々な回折格子の問題に触れ、\(d, \sin\theta, m, \lambda\) のうち、どの量が与えられ、どの量を求めるのか、パターンを経験する。
- 特に、複数の波長が絡む問題や、観測範囲が限定される問題では、条件を丁寧に整理し、式を正確に適用する訓練が重要。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 明線の本数:
明線条件 \(d\sin\theta = m\lambda\) を \(\sin\theta = \displaystyle\frac{m\lambda}{d}\) に変形 \(\rightarrow\) 数値代入して \(\sin\theta = \displaystyle\frac{1}{2}m\) を得る \(\rightarrow\) 角度範囲 \(-60^\circ < \theta < 60^\circ\) を \(\sin\theta\) の範囲 \(-\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2} < \sin\theta < \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\) に変換 \(\rightarrow\) \(-\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2} < \frac{1}{2}m < \frac{\sqrt{3}}{2}\) を満たす整数 \(m\) を数える。 - (2) 青色明線の特定:
明線条件 \(dx = m\lambda\) (\(\sin\theta = x\) と解釈) と \(\lambda_{\text{青}} < \lambda_{\text{赤}}\) を利用 \(\rightarrow\) \(x\) 座標の比 (P:R = 1:2) から、Pが青の1次、Rが青の2次と推定 \(\rightarrow\) Qが赤の1次と推定。 - (3) 格子定数の算出:
(2)の推定結果(Qは赤の1次、\(m=1\), \(x_Q=0.48\))と \(\lambda_{\text{R}}\) の値を明線条件 \(d x_Q = m \lambda_{\text{R}}\) に代入 \(\rightarrow\) \(d\) について解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- (1)の不等式の処理: \(-\sqrt{3} < m < \sqrt{3}\) から整数 \(m\) を拾い出す際に、境界値 (\(\approx \pm 1.732\)) を正しく評価する。
- (1)の数値計算: \(\displaystyle\frac{6.0 \times 10^{-7}}{1.2 \times 10^{-6}} = \frac{6.0}{1.2} \times 10^{-1} = 5 \times 0.1 = 0.5\)。係数とオーダーを分けて計算するとミスが減る。
- (3)の数値計算: \(d = \displaystyle\frac{6.8 \times 10^{-7}}{0.48}\)。割り算を慎重に行い、有効数字に注意する。
- 単位: 格子定数 \(d\) や波長 \(\lambda\) は通常メートル(m)で扱う。角度 \(\theta\) は度(°)またはラジアン(rad)だが、条件式では \(\sin\theta\) の形で使う。
日頃の練習:
- 三角関数の値(特に \(30^\circ, 45^\circ, 60^\circ\))はすぐに出せるようにしておく。
- 概算で見当をつける(例:(3)で \(6.8/0.48 \approx 7/0.5 = 14\))。
- 式番号を振ることで、どの式をどのように使っているのかを明確に意識する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- (1) 明線の本数: \(m=0, \pm 1\) の3本。\(m=\pm 2\) だと \(\sin\theta = \pm 1\) となり、\(\theta = \pm 90^\circ\)。これは観測範囲外なので妥当。
- (2) 色の特定: P, R が青で Q が赤。\(x_P : x_Q : x_R = 0.32 : 0.48 : 0.64 = 2:3:4\)。もしPが青(\(m=1\)), Rが青(\(m=2\)) なら \(x_P:x_R=1:2\)。これは合致。Qが赤(\(m=1\))とすると \(\lambda_{\text{青}}/\lambda_{\text{赤}} = x_P/x_Q = 0.32/0.48 = 2/3\)。\(\lambda_{\text{赤}} = 6.8 \times 10^{-7} \text{m}\) (問3)なら \(\lambda_{\text{青}} \approx (2/3) \times 680 \text{nm} \approx 453 \text{nm}\)。これは青色光の波長として妥当。
- (3) 格子定数 \(d\): \(1.4 \times 10^{-6} \text{m} = 1400 \text{nm}\)。1mmあたり \(1/(1.4 \times 10^{-3})) \approx 700\) 本程度の溝がある計算になり、一般的な回折格子としてありうる値。
- 物理的制約: \(\sin\theta\) は必ず \(-1\) から \(1\) の間の値を取る。これを超える \(m\) の明線は存在しない。
問題95 (宇都宮大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、回折格子による光の干渉について問うています。回折格子は、非常に多くの微細なスリットが等間隔に並んだもので、これに光を当てると、特定の方向に強く光が進む「明線」が観察されます。この現象は光の波動性を示す重要な証拠の一つです。
問題では、単色レーザー光を用いた場合の明線の位置や間隔、与えられた条件からレーザー光の波長を求める計算、そして光源を白色光に変えた場合の明線の見え方について考察します。
- 回折格子の格子定数を \(d\) [m] とする。
- 光は回折格子に垂直に入射する。
- 回折格子からスクリーンまでの距離は \(L\) [m]。
- (1) 光源は波長 \(\lambda\) [m] のレーザー光。
- (1) 中心の明るい点 (\(m=0\)) から \(m\) 番目の明るい点までの距離を \(x_m\) [m] とする。
- (1) \(x_m\) は \(L\) に比べて十分小さい (\(x_m \ll L\))。
- (1) 微小角 \(\theta\) に対して \(\sin\theta \approx \tan\theta\) の近似を用いる。
- (2) 回折格子のすじが 1 mm あたり 100 本。
- (2) \(L = 1.00\) [m]。
- (2) \(m=3\) の明るい点までの距離 \(x_3 = 19.0\) [cm]。
- (3) 光源は可視光領域の白色光。
- (4) 可視光の波長範囲は 380 [nm] \(\sim\) 770 [nm]。
- (1) \(x_m\) を \(\lambda, d, L, m\) を用いて表す式、および明るい点の間隔 \(\Delta x\) [m]。
- (2) レーザー光の波長 \(\lambda\) [nm]。
- (3) 白色光を用いた場合の \(m=0\) と \(m=1\) の明るい点における像の説明。
- (4) \(m=1\) のときの \(x_1\) の広がる範囲 [cm]。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。
- 回折格子の明線の条件: 格子定数を \(d\)、光の波長を \(\lambda\)、明線の次数を \(m\)、回折角を \(\theta\) とすると、\(d \sin\theta = m\lambda\) が成り立ちます。これは、各スリットからの光が強め合う条件を示しています。
- 微小角の近似: スクリーン上の明線の位置 \(x_m\) が回折格子からスクリーンまでの距離 \(L\) に比べて十分小さい (\(x_m \ll L\)) 場合、回折角 \(\theta\) は非常に小さくなります。このとき、\(\sin\theta \approx \tan\theta\) という近似が成り立ちます。
- 幾何学的関係: 図から、\(\tan\theta = \displaystyle\frac{x_m}{L}\) の関係が読み取れます。
これらの関係を使いながら、各設問を解き進めていきましょう。
問1
思考の道筋とポイント
まず、\(m\) 次の明線が形成される条件を考えます。回折格子の基本式 \(d \sin\theta_m = m\lambda\) と、問題で与えられた微小角近似 \(\sin\theta_m \approx \tan\theta_m\)、そして図から読み取れる幾何学的関係 \(\tan\theta_m = x_m/L\) を組み合わせることで、\(x_m\) を求めることができます。明るい点の間隔 \(\Delta x\) は、隣り合う明線の位置の差 \(x_{m+1} – x_m\) から計算できます。
この設問における重要なポイント
- 回折格子の明線条件 \(d\sin\theta_m = m\lambda\) を正しく理解していること。
- 条件 \(x_m \ll L\) から微小角近似 \(\sin\theta_m \approx \tan\theta_m\) が適用できること、そして図から \(\tan\theta_m = x_m/L\) を読み取れること。
- これらの式を連立させて \(x_m\) を導出する手順。
- 明線の間隔 \(\Delta x\) が \(x_{m+1} – x_m\) で求められること、そしてそれが \(m\) によらない一定値になること。
具体的な解説と立式
回折格子において、格子定数を \(d\)、入射光の波長を \(\lambda\)、スクリーンの中心から \(m\) 番目 (\(m=0, 1, 2, \ldots\)) の明線までの角度を \(\theta_m\) とすると、明線が生じる条件は次のように表されます。
$$d \sin\theta_m = m\lambda \quad \cdots ①$$
ここで、\(m=0\) は中央の明線を示します。
問題の条件から、スクリーン上の明線の位置 \(x_m\) は、回折格子からスクリーンまでの距離 \(L\) に比べて十分に小さい (\(x_m \ll L\)) ため、角度 \(\theta_m\) は微小角とみなせます。したがって、近似式 \(\sin\theta_m \approx \tan\theta_m\) が成り立ちます。
$$\sin\theta_m \approx \tan\theta_m \quad \cdots ②$$
また、問題の図に示されているように、\(x_m\)、\(L\)、\(\theta_m\) の間には以下の関係があります。
$$\tan\theta_m = \frac{x_m}{L} \quad \cdots ③$$
式②と式③から、
$$\sin\theta_m \approx \frac{x_m}{L} \quad \cdots ④$$
この式④を明線の条件式①に代入すると、
$$d \cdot \frac{x_m}{L} \approx m\lambda$$
\(x_m\) について整理すると、\(m\) 番目の明線の位置 \(x_m\) は次のように表されます。
$$x_m = \frac{m\lambda L}{d} \quad \cdots ⑤$$
次に、明るい点の間隔 \(\Delta x\) を求めます。これは隣り合う明線の間隔なので、\((m+1)\) 番目の明線の位置 \(x_{m+1}\) と \(m\) 番目の明線の位置 \(x_m\) の差として計算できます。式⑤を使って \(x_{m+1}\) を表すと、
$$x_{m+1} = \frac{(m+1)\lambda L}{d} \quad \cdots ⑥$$
よって、明るい点の間隔 \(\Delta x\) は、
$$\Delta x = x_{m+1} – x_m \quad \cdots ⑦$$
となります。
- 回折格子の明線条件: \(d \sin\theta = m\lambda\)
- 微小角の近似: \(\sin\theta \approx \tan\theta\) (条件 \(x_m \ll L\) より)
- 三角関数の定義(幾何学的関係): \(\tan\theta = \displaystyle\frac{x_m}{L}\)
「具体的な解説と立式」で導出したように、\(m\) 番目の明るい点までの距離 \(x_m\) を \(\lambda, d, L, m\) を用いて表すと、
$$x_m = \frac{m\lambda L}{d}$$
となります。
次に、明るい点の間隔 \(\Delta x\) を計算します。式⑦に式⑤と式⑥を代入すると、
$$\Delta x = x_{m+1} – x_m = \frac{(m+1)\lambda L}{d} – \frac{m\lambda L}{d}$$
共通の因子 \(\displaystyle\frac{\lambda L}{d}\) でまとめると、
$$\Delta x = \{(m+1) – m\} \frac{\lambda L}{d}$$
括弧の中を計算すると \(m+1-m=1\) なので、
$$\Delta x = 1 \cdot \frac{\lambda L}{d} = \frac{\lambda L}{d}$$
となります。
- 回折格子を通過した光が強め合って明るい点を作る条件は、\(d \sin\theta_m = m\lambda\) という式で表されます。ここで \(\theta_m\) は光が進む角度、\(m\) は明るい点の番号(0, 1, 2, …)です。
- 問題では、明るい点までの距離 \(x_m\) がスクリーンまでの距離 \(L\) に比べてずっと小さいので、角度 \(\theta_m\) はとても小さいと考えることができます。このとき、\(\sin\theta_m\) は \(\tan\theta_m\) とほぼ同じ値になります。
- 図を見ると、\(\tan\theta_m\) は \(x_m/L\) と表せます。つまり、\(\sin\theta_m \approx x_m/L\) です。
- これを最初の式に代入すると、\(d \cdot (x_m/L) \approx m\lambda\) となります。これを \(x_m\) について解くと、\(x_m = \displaystyle\frac{m\lambda L}{d}\) が得られます。
- 明るい点の間隔 \(\Delta x\) は、隣り合う明るい点の位置の差です。\((m+1)\) 番目の明るい点の位置 \(x_{m+1} = \displaystyle\frac{(m+1)\lambda L}{d}\) から \(m\) 番目の位置 \(x_m\) を引くと、\(\Delta x = x_{m+1} – x_m = \displaystyle\frac{\lambda L}{d}\) となり、間隔は一定であることがわかります。
\(m\) 番目の明るい点までの距離 \(x_m\) は \(x_m = \displaystyle\frac{m\lambda L}{d}\) であり、明るい点の間隔 \(\Delta x\) は \(\Delta x = \displaystyle\frac{\lambda L}{d}\) です。
この結果は、\(x_m = m \cdot \Delta x\) と書けることから、明るい点が中心 (\(m=0\)) から等間隔に並んでいることを示しています。また、間隔 \(\Delta x\) は、波長 \(\lambda\) とスクリーンまでの距離 \(L\) に比例し、格子定数 \(d\) に反比例することがわかります。これらの性質は実験結果ともよく一致し、物理的に妥当であると言えます。
問2
思考の道筋とポイント
まず、回折格子の「1 mm あたり 100 本のすじ」という情報から、格子定数 \(d\) の値を計算します。単位をメートル [m] に変換することを忘れないようにしましょう。次に、問1で導いた \(x_m\) の式を \(\lambda\) について解き、与えられた \(L\), \(m=3\), \(x_3\) の値を代入して波長 \(\lambda\) を求めます。最後に、計算結果の単位をナノメートル [nm] に変換します。
この設問における重要なポイント
- 格子定数 \(d\) の計算方法: 「1 mm あたり 100 本」は、1 mm の長さを 100 等分したものが \(d\) であることを意味します。\(d = (1 \times 10^{-3} \text{ m}) / 100\)。
- 問1の \(x_m\) の式を \(\lambda\) について正しく変形できること: \(\lambda = \displaystyle\frac{x_m d}{mL}\)。
- 与えられた数値の単位換算: \(x_3\) が cm で与えられているので m に直す。最終的な \(\lambda\) の単位を nm に直す。
- 有効数字の取り扱い(模範解答に合わせる)。
具体的な解説と立式
最初に、回折格子の格子定数 \(d\) を求めます。「1 mm あたり 100 本のすじ」とは、1 mm の長さの中に 100 本のすじが等間隔で引かれていることを意味します。したがって、隣り合うすじの間隔である格子定数 \(d\) は、1 mm を 100 で割った値になります。
$$d = \frac{1 \text{ [mm]}}{100}$$
これをメートル [m] 単位に変換します。\(1 \text{ mm} = 1 \times 10^{-3} \text{ m}\) なので、
$$d = \frac{1 \times 10^{-3} \text{ [m]}}{100} = \frac{1 \times 10^{-3}}{10^2} \text{ [m]} = 1 \times 10^{-5} \text{ [m]}$$
模範解答の有効数字に合わせて \(d = 1.00 \times 10^{-5}\) [m] とします。 \(\quad \cdots ⑧\)
次に、レーザー光の波長 \(\lambda\) を求めます。問1で得られた \(m\) 次の明線の位置の式(式⑤)は \(x_m = \displaystyle\frac{m\lambda L}{d}\) でした。この式を \(\lambda\) について解くと、
$$\lambda = \frac{x_m d}{mL} \quad \cdots ⑨$$
この式に、問題で与えられている以下の値を代入します。
- 明線の次数: \(m = 3\)
- 3次の明線の位置: \(x_3 = 19.0 \text{ [cm]} = 19.0 \times 10^{-2} \text{ [m]}\)
- スクリーンまでの距離: \(L = 1.00 \text{ [m]}\)
- 格子定数: \(d = 1.00 \times 10^{-5} \text{ [m]}\) (式⑧より)
- 格子定数の定義
- 問1で導出した明線の位置の式: \(x_m = \displaystyle\frac{m\lambda L}{d}\)
まず、格子定数 \(d\) を計算します。
1 mm あたり 100 本のすじがあるので、
$$d = \frac{1.00 \text{ [mm]}}{100} = \frac{1.00 \times 10^{-3} \text{ [m]}}{100} = 1.00 \times 10^{-5} \text{ [m]}$$
次に、波長 \(\lambda\) を式⑨に値を代入して計算します。
$$\lambda = \frac{x_3 d}{3L} = \frac{(19.0 \times 10^{-2} \text{ [m]}) \times (1.00 \times 10^{-5} \text{ [m]})}{3 \times 1.00 \text{ [m]}}$$
数値を計算すると、
$$\lambda = \frac{19.0 \times 1.00}{3 \times 1.00} \times \frac{10^{-2} \times 10^{-5}}{1} \text{ [m]}$$
$$\lambda = \frac{19.0}{3} \times 10^{-7} \text{ [m]}$$
\(\displaystyle\frac{19.0}{3} \approx 6.333\ldots\) です。有効数字3桁で考えると \(6.33\) となりますので、
$$\lambda \approx 6.33 \times 10^{-7} \text{ [m]}$$
問題では波長を [nm](ナノメートル)単位で求められています。\(1 \text{ nm} = 10^{-9} \text{ m}\) なので、\(1 \text{ m} = 10^9 \text{ nm}\) です。したがって、
$$\lambda \approx 6.33 \times 10^{-7} \times 10^9 \text{ [nm]} = 6.33 \times 10^{2} \text{ [nm]} = 633 \text{ [nm]}$$
- 最初に、回折格子のすじの間隔(格子定数 \(d\))を求めます。「1 mm あたり 100 本」なので、1 mm を 100 で割ると \(d\) が出ます。\(1 \text{ mm} = 0.001 \text{ m}\) なので、\(d = 0.001 \text{ m} / 100 = 0.00001 \text{ m} = 1.00 \times 10^{-5} \text{ m}\) です。
- 次に、問1で使った明るい点の位置の式 \(x_m = \displaystyle\frac{m\lambda L}{d}\) を、波長 \(\lambda\) について解き直します。すると \(\lambda = \displaystyle\frac{x_m d}{mL}\) となります。
- この式に、問題文の \(m=3\)、\(x_3 = 19.0 \text{ cm} = 0.190 \text{ m}\)、\(L = 1.00 \text{ m}\) と、上で計算した \(d = 1.00 \times 10^{-5} \text{ m}\) を代入します。
- 計算すると、\(\lambda \approx 6.33 \times 10^{-7} \text{ m}\) となります。
- 最後に、この長さをナノメートル [nm] に変換します。\(1 \text{ nm}\) は \(10^{-9} \text{ m}\) なので、\(6.33 \times 10^{-7} \text{ m}\) は \(633 \times 10^{-9} \text{ m}\)、つまり \(633 \text{ nm}\) となります。
レーザー光の波長 \(\lambda\) は 633 nm です。この値は、可視光スペクトルの中で赤色光に相当し、例えばヘリウムネオンレーザーの代表的な波長 (632.8 nm) に非常に近いため、物理的に妥当な結果と言えます。計算過程における単位の換算や、有効数字の扱いに注意することが大切です。
問3
思考の道筋とポイント
白色光は、様々な波長の光が混ざり合ったものです。回折格子による明線の位置は波長に依存するため (\(x_m = m\lambda L/d\))、白色光を光源に用いると、\(m \neq 0\) の明線では色が波長ごとに分離され、スペクトルとして観察されます。
\(m=0\) (中央の明線) と \(m=1\) (1次の明線) で、この波長依存性がどのように影響するかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 白色光が連続的な波長スペクトルを持つことの理解。
- \(m=0\) の明線条件 \(d\sin\theta_0 = 0 \cdot \lambda = 0\) は、波長 \(\lambda\) によらず \(\theta_0=0\) となるため、全ての波長の光が同じ位置に集まること。
- \(m=1\) の明線条件 \(d\sin\theta_1 = \lambda\) (または \(x_1 = \lambda L/d\)) から、明線の位置が波長 \(\lambda\) に比例すること。
- 可視光の波長と色の対応(波長が短いと紫・青、長いと赤)を理解し、スペクトルの色の並び順を説明できること。
具体的な解説と立式
白色光は、紫から赤に至るまでの様々な波長の光を含んでいます。回折格子による明線の位置 \(x_m\) は波長 \(\lambda\) に依存するため(式⑤: \(x_m = \displaystyle\frac{m\lambda L}{d}\))、白色光を用いると、次数 \(m\) が0でない明線では、光が波長ごとに異なる位置に現れることになります。
\(m=0\) の明るい点(中央の明線)について:
明線の条件式 \(d \sin\theta_m = m\lambda\) (式①) で \(m=0\) とすると、
$$d \sin\theta_0 = 0 \cdot \lambda = 0$$
この式は、光の波長 \(\lambda\) の値に関わらず、常に \(\sin\theta_0 = 0\)、すなわち \(\theta_0 = 0\) となることを意味します。
\(\theta_0 = 0\) は、回折格子の正面方向(入射光が直進する方向)です。この位置では、白色光に含まれるすべての波長の光が強め合って重なります。そのため、\(m=0\) の明るい点は、元の白色光と同じく白色に見えます。
\(m=1\) の明るい点(1次の明線)について:
\(m=1\) の場合、明線の条件は \(d \sin\theta_1 = 1 \cdot \lambda\)、すなわち \(d \sin\theta_1 = \lambda\) です。
微小角近似を用いると、1次の明線の位置 \(x_1\) は式⑤より、
$$x_1 = \frac{\lambda L}{d} \quad \cdots ⑩$$
この式から、\(x_1\) は波長 \(\lambda\) に正比例することがわかります。
可視光のスペクトルでは、波長が短いのは紫側(およそ 380 nm から)、波長が長いのは赤側(およそ 770 nm まで)です。
したがって、
- 波長の短い紫色の光は、\(x_1\) が小さいため、中心 (\(m=0\)) に近い位置に現れます。
- 波長の長い赤色の光は、\(x_1\) が大きいため、中心から遠い位置に現れます。
その結果、\(m=1\) の領域では、光が波長ごとに分解され、中心に近い側から順に、紫、藍、青、緑、黄、橙、赤という、虹のような色の帯(スペクトル)が観察されます。模範解答にあるように、より簡潔に表現すると、「中心に近い側から青 \(\rightarrow\) 黄 \(\rightarrow\) 赤のように色づく」 となります。これは、スペクトルの主要な色の変化を捉えた表現です。
- 回折格子の明線条件: \(d \sin\theta = m\lambda\)
- 問1で導出した明線の位置の式: \(x_m = \displaystyle\frac{m\lambda L}{d}\)
この設問は、現象の定性的な説明を求めるものであり、具体的な数値計算はありません。上記の物理的な考察が解答の根拠となります。
- \(m=0\) の明るい点(真ん中の光): 白色光はいろいろな色の光が混ざっています。回折格子を通った後、真ん中の点 (\(m=0\)) には、すべての色の光が波長に関係なく集まります。そのため、この点は元の白色光と同じく、白く見えます。
- \(m=1\) の明るい点(真ん中から1番目の光): 真ん中から少しずれたところにできる1番目の明るい点 (\(m=1\)) では、光の色(波長)によって現れる場所が変わります。波長が短い光(例えば、青や紫)ほど真ん中に近い位置に、波長が長い光(例えば、赤や橙)ほど真ん中から遠い位置に現れます。このため、\(m=1\) の明るい点は、虹のように色が分かれて見え、中心に近い方から青っぽい色、次に黄色っぽい色、そして赤っぽい色という順番に並びます。
\(m=0\) の中央の明線は、すべての波長の光が同じ位置に集まるため、白色になります。一方、\(m=1\) の1次の明線では、明線の位置が光の波長に依存するため、白色光が各波長の光に分離され、スペクトルとして観察されます。具体的には、中心に近い側(回折角が小さい側)に波長の短い紫や青の光が現れ、中心から遠い側(回折角が大きい側)に波長の長い赤の光が現れます。これは回折格子が分光器として利用される原理でもあります。
問4
思考の道筋とポイント
問1で求めた \(m=1\) のときの明線の位置 \(x_1 = \displaystyle\frac{\lambda L}{d}\) の式(式⑩)を利用します。可視光の波長範囲が 380 nm から 770 nm と与えられているので、この範囲の下限値と上限値のそれぞれについて \(x_1\) の値を計算します。その際に、問2で用いた \(L = 1.00\) m と \(d = 1.00 \times 10^{-5}\) m の値を使用します。計算結果を cm 単位で示し、\(x_1\) が広がる範囲としてまとめます。
この設問における重要なポイント
- \(m=1\) の明線の位置の式 \(x_1 = \lambda L/d\) を正しく使うこと。
- 与えられた波長範囲 (380 nm \(\sim\) 770 nm) の両端の値で \(x_1\) を計算すること。
- 波長の単位 (nm) をメートル (m) に正しく変換して計算すること (\(1 \text{ nm} = 10^{-9} \text{ m}\))。
- \(L\) と \(d\) の値は問2と同じものを使うこと。
- 最終的な答えを cm 単位で、範囲として示すこと。
具体的な解説と立式
\(m=1\) のときの明線の位置 \(x_1\) は、式⑩で示したように次のように表されます。
$$x_1 = \frac{\lambda L}{d} \quad \cdots ⑪$$
可視光の波長範囲は 380 nm から 770 nm です。それぞれの値をメートルに変換すると、
- 波長の下限値: \(\lambda_{\text{短}} = 380 \text{ [nm]} = 380 \times 10^{-9} \text{ [m]}\)
- 波長の上限値: \(\lambda_{\text{長}} = 770 \text{ [nm]} = 770 \times 10^{-9} \text{ [m]}\)
また、問2から、\(L = 1.00\) [m]、\(d = 1.00 \times 10^{-5}\) [m] です。
まず、波長が最短 (\(\lambda_{\text{短}} = 380\) nm) のときの \(x_1\) の位置 \(x_{1, \text{短}}\) を計算します。
$$x_{1, \text{短}} = \frac{\lambda_{\text{短}} L}{d} \quad \cdots ⑫$$
次に、波長が最長 (\(\lambda_{\text{長}} = 770\) nm) のときの \(x_1\) の位置 \(x_{1, \text{長}}\) を計算します。
$$x_{1, \text{長}} = \frac{\lambda_{\text{長}} L}{d} \quad \cdots ⑬$$
\(x_1\) の広がる範囲は、この \(x_{1, \text{短}}\) から \(x_{1, \text{長}}\) までの間となります。
- 問1で導出した明線の位置の式: \(x_1 = \displaystyle\frac{\lambda L}{d}\)
使用する値は、\(L = 1.00\) [m]、\(d = 1.00 \times 10^{-5}\) [m] です。
波長 \(\lambda_{\text{短}} = 380 \text{ nm} = 380 \times 10^{-9} \text{ m}\) のとき (式⑫より):
$$x_{1, \text{短}} = \frac{(380 \times 10^{-9} \text{ [m]}) \times 1.00 \text{ [m]}}{1.00 \times 10^{-5} \text{ [m]}}$$
$$x_{1, \text{短}} = \frac{380 \times 1.00}{1.00} \times \frac{10^{-9}}{10^{-5}} \text{ [m]} = 380 \times 10^{-9 – (-5)} \text{ [m]}$$
$$x_{1, \text{短}} = 380 \times 10^{-4} \text{ [m]} = 3.80 \times 10^2 \times 10^{-4} \text{ [m]} = 3.80 \times 10^{-2} \text{ [m]}$$
これをセンチメートル [cm] に変換します (\(1 \text{ m} = 100 \text{ cm}\))。
$$x_{1, \text{短}} = 3.80 \times 10^{-2} \times 100 \text{ [cm]} = 3.80 \text{ [cm]}$$
波長 \(\lambda_{\text{長}} = 770 \text{ nm} = 770 \times 10^{-9} \text{ m}\) のとき (式⑬より):
$$x_{1, \text{長}} = \frac{(770 \times 10^{-9} \text{ [m]}) \times 1.00 \text{ [m]}}{1.00 \times 10^{-5} \text{ [m]}}$$
$$x_{1, \text{長}} = \frac{770 \times 1.00}{1.00} \times \frac{10^{-9}}{10^{-5}} \text{ [m]} = 770 \times 10^{-4} \text{ [m]}$$
$$x_{1, \text{長}} = 7.70 \times 10^2 \times 10^{-4} \text{ [m]} = 7.70 \times 10^{-2} \text{ [m]}$$
これをセンチメートル [cm] に変換します。
$$x_{1, \text{長}} = 7.70 \times 10^{-2} \times 100 \text{ [cm]} = 7.70 \text{ [cm]}$$
したがって、\(m=1\) のときの \(x_1\) の広がる範囲は、3.80 cm から 7.70 cm です。
- \(m=1\) の明るい点の位置は、\(x_1 = \displaystyle\frac{\lambda L}{d}\) の式で計算できます。
- 可視光の波長は、一番短いもので約 380 nm (\(380 \times 10^{-9}\) m)、一番長いもので約 770 nm (\(770 \times 10^{-9}\) m) です。
- \(L=1.00\) m、\(d=1.00 \times 10^{-5}\) m を使って、まず波長 380 nm の場合の \(x_1\) を計算します。すると、\(x_1 = 3.80 \times 10^{-2}\) m となり、これは 3.80 cm です。
- 次に、波長 770 nm の場合の \(x_1\) を計算します。同様に計算すると、\(x_1 = 7.70 \times 10^{-2}\) m となり、これは 7.70 cm です。
- したがって、\(m=1\) の明るい点は、スクリーンの中心から 3.80 cm の位置から 7.70 cm の位置までの範囲に広がって見えることになります。
\(m=1\) のときの \(x_1\) の広がる範囲は \(3.80 \text{ cm} \le x_1 \le 7.70 \text{ cm}\) です。これは、1次のスペクトルがスクリーン上で約 \(7.70 – 3.80 = 3.90\) cm の幅を持って現れることを意味します。波長の短い光(紫や青に近い色)が内側(3.80 cm 付近)に、波長の長い光(赤に近い色)が外側(7.70 cm 付近)に位置することになり、問3で説明したスペクトルの色の並びとも一致しています。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 回折格子の明線条件: \(d \sin\theta = m\lambda\)
- この式は、回折格子を通過した光が特定の方向で強め合う(明線を作る)ための条件を示しています。\(d\) はスリット間隔(格子定数)、\(\theta\) は回折角、\(m\) は明線の次数(\(m=0, 1, 2, \ldots\))、\(\lambda\) は光の波長です。この関係式の理解が、回折格子の問題を解く上での全ての出発点となります。
- 光の波動性と干渉の原理:
- 回折格子によって光が干渉縞を作る現象は、光が波の性質を持つことの強力な証拠です。各スリットから出た光波(素元波)が重ね合わさり、特定の場所で位相が揃う(山と山、谷と谷が重なる)と強め合い(明線)、位相がずれる(山と谷が重なる)と弱め合う(暗線、本問では明線に注目)という干渉の原理を理解することが重要です。
- 微小角近似の利用: \(x_m \ll L\) の条件下での \(\sin\theta \approx \tan\theta\)
- 実験装置の配置(スクリーンが遠い、または明線の位置が中心に近い)によっては、回折角 \(\theta\) が非常に小さくなります。このとき、三角関数の近似 \(\sin\theta \approx \tan\theta\) を用いることで、計算が大幅に簡略化され、スクリーン上の位置 \(x_m\) と回折角 \(\theta\) の関係を \(\tan\theta = x_m/L\) を通じて線形的に扱うことができます。
- 白色光とスペクトルへの分解:
- 白色光が様々な波長の光の混合であり、回折格子を通すことで波長ごとに回折される角度が異なるため、光が分離されてスペクトルが観察されるという概念です。特に、明線の位置が波長 \(\lambda\) に比例 (\(x_m \propto \lambda\)) することから、この分離が起こります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- ヤングの干渉実験(2スリット干渉): 基本原理(光路差による干渉)は回折格子と共通ですが、スリット数が少ないため明線の鋭さが異なります。しかし、明線条件の導出方法や微小角近似の使い方は非常に似ています。
- 薄膜干渉(シャボン玉や油膜の色など): 光が異なる媒質の境界で反射・屈折する際に生じる複数の光波の干渉です。光路差や位相変化を正確に計算して干渉条件を求める点で、思考プロセスに共通点があります。
- X線回折(ブラッグの条件 \(2d\sin\theta = n\lambda\)): X線のような波長の短い電磁波が結晶格子(原子面が回折格子のような役割)によって回折される現象です。結晶構造の解析に用いられ、回折格子と同様の干渉の原理に基づいています。
- 具体的な装置のパラメータからの未知量算出: \(L\), \(d\), \(m\) などの値から \(\lambda\) を求める、あるいは \(\lambda\), \(L\), \(d\) から特定の次数の明線の位置 \(x_m\) を求めるなど、基本的な計算問題は頻出です。
- スペクトルの幅や重なりの考察: 白色光を用いた場合に、特定の次数のスペクトルがどの程度の幅を持つか(本問の(4))、あるいは異なる次数のスペクトルが重なり始める条件などを問う問題もあります。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 現象の把握: まず、問題文や図から、扱われている現象が「回折格子による光の干渉」であることを特定します。「明線」「暗線」「干渉縞」「スペクトル」「格子定数」などのキーワードが手がかりになります。
- 基本公式の想起: 回折格子と分かれば、即座に明線の条件式 \(d \sin\theta = m\lambda\) を思い出します。
- 近似条件の確認: 問題文中に「\(L\) に比べて \(x_m\) は十分小さい」「微小角近似を用いよ」といった記述があるか、あるいは図からそのように判断できるかを確認します。これがあれば \(\sin\theta \approx \tan\theta = x_m/L\) の利用を考えます。
- 与えられた物理量の整理と単位確認: 格子定数 \(d\) (「1cmあたりN本」のような形で与えられることも多い)、スクリーンまでの距離 \(L\)、光の波長 \(\lambda\)、明線の次数 \(m\)、明線の位置 \(x_m\) など、どの物理量が既知でどれが未知かを整理します。単位(特に長さの nm, \(\mu\)m, mm, cm, m)の換算には細心の注意を払います。
- 光源の種類の確認: 光源が単色光か白色光かを確認します。白色光の場合は、\(m=0\) では全ての波長が重なって白色に見え、\(m \neq 0\) では波長によって分離してスペクトルが見えることを念頭に置きます。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 図を丁寧に描き、角度 \(\theta\) や距離 \(L, x_m\) などの関係を視覚的に正確に把握することが非常に重要です。
- 格子定数 \(d\) の計算を間違えないようにしましょう。例えば「1mmあたりN本」とあれば、\(d = (1 \text{ mm}) / N\) となります。単位も [m] に直すことを忘れずに。
- 明線の次数 \(m\) は \(m=0, 1, 2, \ldots\) という整数値をとることを常に意識します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 格子定数 \(d\) の計算ミス・単位ミス:
- 例: 「1 mm あたり 100 本」を \(d=100\) [mm] や \(d=1/100\) [mm] と誤解するケース。正しくは \(d = (1 \text{ [mm]}) / 100 = 0.01 \text{ [mm]} = 1 \times 10^{-5} \text{ [m]}\) です。単位変換(mm \(\rightarrow\) m)も忘れやすいポイントです。
- 対策: 格子定数の定義(隣り合うスリットの間隔)を正確に理解し、単位を常に意識して計算する。
- 微小角近似の適用の混乱や誤用:
- \(\sin\theta \approx \theta\) と \(\tan\theta \approx \theta\) (\(\theta\) はラジアン) の関係を混同したり、\(\theta\) がラジアン単位であることを見落としたりする。本問では \(\sin\theta \approx \tan\theta\) を使いましたが、これは \(\theta\) が微小なときに両者が \(\theta\) に近い値をとるためです。
- 近似が使えない状況(例: \(x_m\) が \(L\) に対して無視できない大きさの場合)で安易に近似式を使ってしまう。
- 対策: 近似が成り立つ条件(\(x_m \ll L\) や \(\theta\) が微小角)を問題文や設定から確認する。近似式の意味を理解する。
- 波長 \(\lambda\) の単位換算ミス:
- nm (ナノメートル)、\(\mu\)m (マイクロメートル)、m (メートル) 間の変換ミス。特に \(1 \text{ nm} = 10^{-9} \text{ m}\) の関係は頻出です。
- 対策: 計算の初期段階で単位をSI基本単位系(通常はメートル)に統一する習慣をつける。
- 白色光における \(m=0\) と \(m \neq 0\) の明線の違いの混동:
- \(m=0\) の中央の明線は、波長 \(\lambda\) によらず常に \(\theta=0\) の位置にできるため、白色光のすべての成分が重なり合って白色に見えます。一方、\(m \neq 0\) の明線は、位置が \(\lambda\) に依存するため、色が分離してスペクトルとして観察されます。この区別が曖昧になることがあります。
- 対策: \(m=0\) と \(m \neq 0\) の場合で、明線の条件式がどのように働くかを分けて考える。
- スペクトルの色の並び順の誤解:
- \(x_m \propto \lambda\) であるため、波長の短い紫や青の光が中心 (\(m=0\)) に近く、波長の長い赤の光が中心から遠い位置に来ます。この順番を逆に覚えてしまうことがあります。
- 対策: 「波長が長いほど大きく回折される(より遠くに行く)」と覚えるか、具体的な式 \(x_m = m\lambda L/d\) から確認する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象のイメージ化:
- 回折格子と波面: 平面波として入射した光が、回折格子の多数のスリットを通過する際、各スリットが新たな波源(ホイヘンスの原理における素元波の波源)となって球面波(実際にはスクリーンに平行なスリットなので、2次元的には円筒波の断面として考えることが多い)を送り出すイメージ。これらの無数の波が前方に広がりながら重なり合う様子を想像します。
- 明線の形成のメカニズム: スクリーン上の特定の点に到達する各スリットからの光について、その光路差を考えます。光路差が波長の整数倍 (\(m\lambda\)) となるような方向では、すべての波が同位相で強め合い、明るい線(明線)が形成されます。この光路差が幾何学的に \(d\sin\theta\) と表されることを理解します。
- 図の活用法: 問題文に示されている図は、回折角 \(\theta\)、スクリーンまでの距離 \(L\)、中心からの明線の位置 \(x_m\) の間の幾何学的な関係 \(\tan\theta = x_m/L\) を視覚的に捉えるのに不可欠です。また、\(x_m \ll L\) という条件が、\(\theta\) が非常に小さい角度であることを図から直感的に理解する助けになります。
- スペクトルのイメージ: 白色光を光源とした場合、\(m=1\) の位置では、波長 \(\lambda\) によって明線の位置 \(x_1\) が異なるため、まるで虹のように色が連続的に並んで見える様子を頭の中で描くことが重要です。具体的には、中心に近い側には波長の短い紫色や青色の光が集まり、中心から遠ざかるにつれて緑、黄、橙、そして最も外側に波長の長い赤色の光が配置されるグラデーションをイメージします。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 回折角 \(\theta\) を、入射光の進行方向(またはスクリーンの法線)と、注目する明線への方向との間の角度として正確に図示する。
- \(L\), \(x_m\), \(d\) といった主要な物理量を、図中の対応する箇所に明確に記入する。
- 微小角近似を用いる場合は、その近似が図の上でどのような状況(例:\(\theta\) が非常に小さく、弦と弧の長さがほぼ等しいような状況)に対応するのかを意識する。
- 複数の波長を扱う場合は、それぞれの波長に対応する光線や明線の位置を色分けするなどして区別しやすくすると理解が深まる。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(d \sin\theta = m\lambda\) (回折格子の明線条件):
- 選定理由: この問題は「回折格子」によって生じる「明線」の位置や条件を議論しているため、この公式が最も根幹となるものです。
- 適用の根拠: この式は、隣り合うスリットから出て特定の方向に進む光どうしの光路差が \(d\sin\theta\) となり、これが波長の整数倍 \(m\lambda\) に等しいときに、これらの光波が強め合う(干渉して明線を作る)という物理的原理に基づいています。
- \(\sin\theta \approx \tan\theta\) (微小角近似):
- 選定理由: 問題文中に「\(x_m\) が \(L\) に比べて十分小さい」および「微小角 \(\theta\) に対して \(\sin\theta \approx \tan\theta\) の近似を用いよ」と明確な指示があるためです。
- 適用の根拠: 角度 \(\theta\) が非常に小さい(典型的には数度以下)場合、\(\sin\theta\) の値と \(\tan\theta\) の値は非常に近くなります(例えば、\(\theta\) をラジアン単位で表すと、\(\sin\theta \approx \theta\) かつ \(\tan\theta \approx \theta\) となるため)。この近似により、より扱いやすい幾何学的関係 \(\tan\theta = x_m/L\) と明線条件式を結びつけることが可能になります。
- \(\tan\theta = x_m/L\) (幾何学的関係):
- 選定理由: スクリーン上に実際に観察される明線の位置 \(x_m\) と、回折格子からスクリーンまでの距離 \(L\)、そして抽象的な回折角 \(\theta\) とを具体的に結びつけるために必要な関係式です。
- 適用の根拠: 問題の図において、回折格子上の点、スクリーンの中心、そして \(m\) 次の明線を頂点とする直角三角形を考えると、この関係は三角関数の定義そのものです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 明線の位置 \(x_m\) と間隔 \(\Delta x\) の導出:
- 目標設定: \(x_m\) を \(\lambda, d, L, m\) を用いて表し、さらに \(\Delta x\) を求める。
- 出発点(物理法則): 回折格子の明線条件 \(d\sin\theta_m = m\lambda\)。
- 条件適用(近似): \(x_m \ll L\) より \(\theta_m\) は微小角なので、\(\sin\theta_m \approx \tan\theta_m\)。
- 幾何学的関係の利用: 図より \(\tan\theta_m = x_m/L\)。
- 式の結合と整理: 上記を組み合わせて \(d(x_m/L) \approx m\lambda\) とし、これを \(x_m\) について解いて \(x_m = \displaystyle\frac{m\lambda L}{d}\) を得る。
- 間隔の計算: \(\Delta x = x_{m+1} – x_m = \displaystyle\frac{(m+1)\lambda L}{d} – \displaystyle\frac{m\lambda L}{d} = \displaystyle\frac{\lambda L}{d}\) を計算する。
- (2) レーザー光の波長 \(\lambda\) の計算:
- 目標設定: \(\lambda\) の数値を求める。
- 情報整理(格子定数): 「1 mm あたり 100 本」から \(d = (1 \times 10^{-3} \text{ m}) / 100 = 1.00 \times 10^{-5}\) m を計算。
- 情報整理(その他): \(L=1.00\) m, \(m=3\), \(x_3 = 19.0 \text{ cm} = 0.190\) m。
- 利用する式の変形: (1)で得た \(x_m = \displaystyle\frac{m\lambda L}{d}\) を \(\lambda\) について解き、\(\lambda = \displaystyle\frac{x_m d}{mL}\) とする。
- 数値代入と計算: 上記の値を代入して \(\lambda\) を計算し、単位を [m] から [nm] へ変換する。
- (3) 白色光を用いた場合の像の説明:
- 目標設定: \(m=0\) と \(m=1\) の明線の見え方を説明する。
- \(m=0\) の考察: 明線条件 \(d\sin\theta_0 = 0 \cdot \lambda = 0\) より、\(\theta_0=0\)。これは \(\lambda\) に依存しないため、すべての波長の光が同じ位置 (\(x_0=0\)) に集まる。結果:白色。
- \(m=1\) の考察: 明線の位置 \(x_1 = \displaystyle\frac{\lambda L}{d}\) より、\(x_1\) は \(\lambda\) に比例する。白色光は様々な \(\lambda\) を含むため、\(x_1\) も \(\lambda\) ごとに異なる値をとる。結果:色が分離し、スペクトルが見える。波長の短い紫・青が内側(\(x_1\) 小)、波長の長い赤が外側(\(x_1\) 大)に並ぶ。
- (4) \(m=1\) のときの \(x_1\) の広がる範囲の計算:
- 目標設定: \(x_1\) が取りうる値の範囲を求める。
- 利用する式: \(x_1 = \displaystyle\frac{\lambda L}{d}\)。
- 情報整理: 可視光の波長範囲 \(\lambda_{\text{短}} = 380\) nm, \(\lambda_{\text{長}} = 770\) nm。\(L, d\) の値は(2)と同じ。
- 計算手順: \(\lambda_{\text{短}}\) と \(\lambda_{\text{長}}\) それぞれについて \(x_1\) の値を計算し(単位換算に注意)、その範囲を \(x_{1, \text{短}} \le x_1 \le x_{1, \text{長}}\) の形で示す。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認と統一の徹底:
- 計算を始める前に、全ての物理量をSI基本単位(長さならメートル[m]、時間なら秒[s]など)に統一する習慣をつけましょう。特にこの問題では、mm, cm, nm, m といった複数の長さの単位が登場するため、変換ミスが起こりやすいです。
- 例: \(1 \text{ mm} = 10^{-3} \text{ m}\), \(1 \text{ cm} = 10^{-2} \text{ m}\), \(1 \text{ nm} = 10^{-9} \text{ m}\)。
- 指数計算(オーダー計算)の慎重な取り扱い:
- \(10^a \times 10^b = 10^{a+b}\) や \(10^a / 10^b = 10^{a-b}\) といった指数法則を正確に使いこなすことが重要です。特に、マイナス符号の扱い(例: \(10^{-9} / 10^{-5} = 10^{-9 – (-5)} = 10^{-4}\))には細心の注意を払いましょう。
- 有効数字の意識:
- 問題文で与えられた数値の有効数字を確認し、最終的な答えもそれに合わせた適切な有効数字で示すように心がけましょう。一般的に、途中計算では有効数字を1桁多く取っておき、最後に丸めることで計算誤差の蓄積を減らすことができます。
- 分数の計算の丁寧な処理:
- 式が複雑な分数になる場合は、分子と分母をそれぞれ整理してから最後に割り算を行うなど、ステップを分けて慎重に計算を進めましょう。
- 代入前の式の確認と物理的意味の吟味:
- 具体的な数値を代入する前に、導出した文字式の形が正しいか、物理的に意味のある形になっているか(例えば、両辺の次元が一致しているかなど)を概観する習慣をつけると、大きなミスを未然に防げます。
- 検算の習慣化:
- 可能であれば、得られた答えを使って元の条件を満たすか逆算してみる、あるいは別の角度からアプローチして同じ結果が得られるか確認するなど、検算を行うことで計算ミスを発見しやすくなります。例えば、(2)で求めた波長 \(\lambda\) の値を使って、\(m=3\) の明線の位置 \(x_3\) を再計算し、問題で与えられた 19.0 cm になるか確かめてみるのも良いでしょう。
日頃の練習:
- 指数計算や単位換算を含む基本的な計算練習を繰り返し行い、スムーズかつ正確にこなせるようにする。
- 問題を解く際には、面倒くさがらずに必ず単位を付けて計算する癖をつける。これにより、単位の矛盾から計算ミスに気づくことがあります。
- 計算過程を省略せずに丁寧にノートに記述し、後から見直したときに自分の思考プロセスや計算ステップを追えるようにする。これは間違いの原因特定にも役立ちます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な妥当性の確認:
- (1) \(x_m\) の依存性: \(x_m\) が明線の次数 \(m\)、波長 \(\lambda\)、スクリーンまでの距離 \(L\) に比例し、格子定数 \(d\) に反比例するという関係 (\(x_m = m\lambda L/d\)) は物理的に妥当でしょうか?
- 次数 \(m\) が大きいほど、より高次の干渉なので中心から離れる \(\rightarrow\) 妥当。
- 波長 \(\lambda\) が長いほど、光はより大きく曲げられやすい(回折角が大きい)ので中心から離れる \(\rightarrow\) 妥当。
- 距離 \(L\) が大きいほど、同じ角度でもスクリーン上での広がりは大きくなるので中心から離れる \(\rightarrow\) 妥当。
- 格子定数 \(d\) が小さい(スリットが密)ほど、各スリットからの光がより広い角度に広がって干渉しやすいため、明線の間隔も広がり中心から離れる \(\rightarrow\) 妥当。
- (2) 波長 \(\lambda\) の値: 計算された波長 \(\lambda = 633\) nm は、物理的にあり得る値でしょうか?
- 可視光の波長範囲 (約 380 nm \(\sim\) 770 nm) の中にあり、特に赤色光の領域です。レーザー光として一般的な値であり、妥当です。
- (3) 白色光の像: \(m=0\) の中央線が白色で、\(m=1\) の線がスペクトルに分かれるというのは、理論的な予測と一致しているでしょうか?
- \(m=0\) では \(\theta=0\) であり、波長によらず全ての光が同じ場所に集まるため白色になるのは妥当です。\(m=1\) では明線の位置が波長に依存するため、色が分離してスペクトルになるのも妥当です。
- (4) \(x_1\) の範囲: 計算された \(x_1\) の範囲 (\(3.80 \text{ cm} \le x_1 \le 7.70 \text{ cm}\)) は、波長との対応関係において妥当でしょうか?
- 波長が短い 380 nm のときに \(x_1\) が小さく (3.80 cm)、波長が長い 770 nm のときに \(x_1\) が大きく (7.70 cm) なっており、\(x_1 \propto \lambda\) の関係と整合していて妥当です。
- (1) \(x_m\) の依存性: \(x_m\) が明線の次数 \(m\)、波長 \(\lambda\)、スクリーンまでの距離 \(L\) に比例し、格子定数 \(d\) に反比例するという関係 (\(x_m = m\lambda L/d\)) は物理的に妥当でしょうか?
- 単位(次元)の一致確認:
- 例えば、(1)で求めた \(x_m = \displaystyle\frac{m\lambda L}{d}\) の式の両辺の単位が一致しているか確認します。右辺の単位は、\(m\) (無次元) \(\times\) \(\lambda\)[m] \(\times\) \(L\)[m] / \(d\)[m] = [m] となり、左辺の \(x_m\)[m] と一致しています。正しいです。
- 同様に、(2)で求めた \(\lambda = \displaystyle\frac{x_m d}{mL}\) の右辺の単位は、\(x_m\)[m] \(\times\) \(d\)[m] / (\(m\)(無次元) \(\times\) \(L\)[m]) = [m] となり、左辺の \(\lambda\)[m] と一致しています。正しいです。
- 極端な条件下での振る舞いの考察(定性的なチェック):
- もし格子定数 \(d\) が非常に大きくなったら(スリットの間隔が非常に広がったら)、明線の間隔 \(\Delta x = \lambda L/d\) は非常に小さくなるはずです。これは、ほぼ素通りの板に近づくイメージと合致します。式とも一致しています。
- もし波長 \(\lambda\) が非常に小さくなったら(例えばX線のように)、明線の間隔 \(\Delta x\) も非常に小さくなるはずです。式とも一致しています。
- もしスクリーンまでの距離 \(L\) が0に近づいたら、明線の間隔 \(\Delta x\) も0に近づくはずです。式とも一致しています。
- オーダー(桁数)の確認:
- 計算結果が、現実離れした桁数の値になっていないかを確認します。例えば、(2)で波長が数メートルになったり、(4)で \(x_1\) の範囲が数キロメートルになったりした場合は、単位換算や計算過程でのミスを疑うべきです。本問の数値は、一般的な実験室規模での現象として妥当なオーダーです。
- また、\(x_m \ll L\) の近似条件が、得られた結果で実際に成り立っているかも確認する視点があると良いでしょう (例: \(x_3 = 19.0 \text{ cm} = 0.190 \text{ m}\) は \(L=1.00 \text{ m}\) に対して十分に小さいと言えるか)。
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