問題81 (東京電機大+東京理科大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ドップラー効果と音の反射という、波の分野における重要な概念を組み合わせた複合問題です。船の運動、音波の伝播、そして観測される音の振動数がどのように変化するかを正確に捉え、段階的に考察することが求められます。特に、反射面をどのように扱うか、そして複数の物理現象が時間軸上でどのように関連しているかを整理することがポイントとなります。
- 船の運動: 岩壁に向かって一定の速さ \(v\) で進む。
- 音源の振動数 (船が静止している場合に出す音の振動数): \(f_0 = 840 \, \text{Hz}\)
- 反射音を聞くまでの時間: \(T = 2 \, \text{s}\) (船が汽笛を鳴らし始めてから)
- 反射音の振動数のずれ: \( \Delta f = 20 \, \text{Hz}\) (元の振動数からのずれ、近づいているため高くなる)
- 音速: \(V = 340 \, \text{m/s}\)
- (問3における) 汽笛の吹鳴時間: \( \Delta t_0 = 10 \, \text{s}\)
- 船の速さ: \(v\) (\(\text{m/s}\))
- 音を発射したときの船と岩壁との距離: \(x\) (\(\text{m}\))
- 上記条件で汽笛を \(10 \, \text{s}\) 間鳴らしたとき、船上で反射音が聞こえる継続時間: \( \Delta t_2\) (\(\text{s}\))
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(2) 音を発射したときの距離\(x\)の別解: 時間を往路と復路に分割して考える解法
- 主たる解法が、音と船の\(2\)秒間全体の運動における距離の関係から一気に立式するのに対し、別解では、音が壁まで進む「往路」と、壁から船に戻る「復路」に時間を分割し、それぞれの区間での距離の関係を立式して解きます。
- 問(2) 音を発射したときの距離\(x\)の別解: 時間を往路と復路に分割して考える解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 時間の経過に沿って、音と船の位置関係がどのように変化していくかを段階的に追跡する思考プロセスが学べます。これは、より複雑な問題に応用できる基本的なアプローチです。
- 計算の代替手段: 異なる視点からの立式方法を学ぶことで、一方の解法で詰まってしまった際の代替手段となり、問題解決能力が高まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「ドップラー効果と音の反射」です。船の運動、音波の伝播、そして観測される音の振動数がどのように変化するかを正確に捉え、段階的に考察することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ドップラー効果の公式: 音源が動く場合、観測者が動く場合、それぞれについて正しく公式を適用することが求められます。
- 音の反射の扱い: 壁で音が反射する際、壁を一種の「新しい音源」として考えることができます。
- 音波の伝播: 音は空間を一定の速さで伝わります。この基本的な性質「距離 = 速さ × 時間」を用いて、音波の移動距離や所要時間を計算します。
- 波の数保存の考え方: 音源からある一定時間内に放出された波の「個数」は、観測者がその音を聞く際に振動数や聞こえる時間が異なったとしても、その「総数」は変わらないという重要な原理です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、ドップラー効果を「船→壁」と「壁→船」の2段階で考え、最終的に観測される振動数の式を立て、与えられた振動数のずれから船の速さを求めます。
- 問(2)では、音が発射されてから反射音を聞くまでの\(2\)秒間に、音波と船がそれぞれ進んだ距離の関係を立式し、初期距離を求めます。
- 問(3)では、「波の数保存則」を用いて、音源が音を出した時間と観測者が反射音を聞いた時間の関係を導き、答えを求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
この設問の核心は、ドップラー効果を2段階で正しく適用することです。
- 船(音源)から壁(観測者とみなす)へ: 船が壁に近づきながら音を出すため、壁に到達する音の振動数\(f_1\)は、元の振動数\(f_0\)より高くなります。
- 壁(新たな音源とみなす)から船(観測者)へ: 壁は受け取った振動数\(f_1\)の音をそのまま反射します。今度は、この壁を振動数\(f_1\)を発する静止した音源とみなし、その音源に船(観測者)が近づいていくと考えます。船が聞く反射音の振動数\(f_2\)は、\(f_1\)よりもさらに高くなります。
- 振動数のずれを利用: 最終的に船が聞く振動数\(f_2\)が、元の振動数\(f_0\)より\(20 \, \text{Hz}\)高いという条件から方程式を立て、船の速さ\(v\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- ドップラー効果の公式を、音源が動く場合と観測者が動く場合それぞれについて正しく使い分ける。
- 壁は、受け取った振動数の音をそのまま反射する「新しい静止音源」と見なす。
- 船が壁に近づいているため、観測される振動数は元の振動数よりも高くなる、という物理的な直感を持つ。
具体的な解説と立式
1. 船から壁へ(壁が聞く振動数 \(f_1\))
船(音源)が速さ\(v\)で静止している壁(観測者)に近づくので、壁が聞く振動数\(f_1\)は、
$$
\begin{aligned}
f_1 = \frac{V}{V-v} f_0
\end{aligned}
$$
2. 壁から船へ(船が聞く振動数 \(f_2\))
壁は振動数\(f_1\)の音を出す静止音源と見なせます。この音源に船(観測者)が速さ\(v\)で近づくので、船が聞く反射音の振動数\(f_2\)は、
$$
\begin{aligned}
f_2 = \frac{V+v}{V} f_1
\end{aligned}
$$
3. \(f_1\)と\(f_2\)の関係式をまとめる
\(f_1\)の式を\(f_2\)の式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
f_2 = \frac{V+v}{V} \left( \frac{V}{V-v} f_0 \right)
\end{aligned}
$$
4. 振動数のずれの条件を適用する
問題文より、船が聞く反射音の振動数\(f_2\)は、元の振動数\(f_0\)より\(20 \, \text{Hz}\)高いので、
$$
\begin{aligned}
f_2 = f_0 + 20
\end{aligned}
$$
この関係と3.でまとめた式から、\(v\)に関する方程式を立てます。
$$
\begin{aligned}
f_0 + 20 = \frac{V+v}{V-v} f_0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- ドップラー効果(音源が静止観測者に速さ\(v_{\text{s}}\)で近づく場合): \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V-v_{\text{s}}} f_0\)
- ドップラー効果(観測者が静止音源に速さ\(v_{\text{o}}\)で近づく場合): \(f’ = \displaystyle\frac{V+v_{\text{o}}}{V} f_0\)
まず、\(f_2\)の式を整理します。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{V+v}{V} \frac{V}{V-v} f_0 \\[2.0ex]
&= \frac{V+v}{V-v} f_0
\end{aligned}
$$
この式に、\(f_2 = f_0 + 20 = 840 + 20 = 860 \, \text{Hz}\)、および\(V=340 \, \text{m/s}\), \(f_0=840 \, \text{Hz}\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
860 &= \frac{340+v}{340-v} \times 840
\end{aligned}
$$
両辺を\(840\)で割ります。
$$
\begin{aligned}
\frac{860}{840} &= \frac{340+v}{340-v}
\end{aligned}
$$
左辺を約分します(両辺を20で割る)。
$$
\begin{aligned}
\frac{43}{42} &= \frac{340+v}{340-v}
\end{aligned}
$$
分母を払います。
$$
\begin{aligned}
43(340-v) &= 42(340+v)
\end{aligned}
$$
展開します。
$$
\begin{aligned}
43 \times 340 – 43v &= 42 \times 340 + 42v
\end{aligned}
$$
移項して整理します。
$$
\begin{aligned}
(43-42) \times 340 &= (43+42)v \\[2.0ex]
340 &= 85v
\end{aligned}
$$
\(v\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{340}{85} \\[2.0ex]
&= 4
\end{aligned}
$$
- 船から出た音が壁に届くとき、船が壁に近づいている影響で、音の高さ(振動数)が少し上がります。
- 次に、壁で反射されたその音を、壁に向かって進んでいる船が聞くので、音の高さがさらに上がります。
- 問題文から、この最終的に聞こえる音の高さが、元の音より\(20 \, \text{Hz}\)高い\(860 \, \text{Hz}\)になったことが分かっています。
- 一方、この\(860 \, \text{Hz}\)という値は、船の速さ\(v\)を使って計算することもできます。その関係式は \(860 = \displaystyle\frac{340+v}{340-v} \times 840\) となります。
- この方程式を\(v\)について解くと、\(v=4 \, \text{m/s}\)が求まります。
船の速さは \(v = 4 \, \text{m/s}\) です。音速 \(V=340 \, \text{m/s}\) と比較して十分に小さい現実的な値であり、振動数の変化率が比較的小さいこととも整合性がとれています。
問(2)
思考の道筋とポイント
この設問では、船が音を発してからその反射音を聞くまでの時間 \(T = 2 \, \text{s}\) という情報が鍵となります。この\(2\)秒間に、音波は「船から出て壁まで進み、壁で反射してその時点の船の位置まで戻ってくる」という経路をたどります。一方、船も壁に向かって進んでいます。
音を発射したときの船と岩壁との距離を\(x\)とし、音波が進んだ総距離と船が進んだ総距離の間に成り立つ幾何学的な関係式を立てて\(x\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 音波と船の両方が、\(T = 2 \, \text{s}\) という共通の時間だけ運動している。
- 音波が進む経路と、船が進む経路を図で正確に把握する。
- 初期距離\(x\)、音速\(V\)、船の速さ\(v\)、経過時間\(T\)の間に成り立つ関係式を導出する。
具体的な解説と立式
船が汽笛を鳴らしてから反射音を聞くまでの時間 \(T = 2 \, \text{s}\) の間に、音波が進んだ総距離は \(VT\) です。
同じ時間\(T\)の間に、船が進んだ総距離は \(vT\) です。
音を発射したときの船と岩壁の間の距離を\(x\)とします。
音波は、まず距離\(x\)を進んで壁に到達します。その後、壁から反射して、\(T\)秒後の船の位置まで戻ってきます。
壁から\(T\)秒後の船の位置までの距離を\(x_{\text{帰り}}\)とすると、音波が進んだ総距離は、
$$
\begin{aligned}
VT = x + x_{\text{帰り}}
\end{aligned}
$$
一方、船は\(T\)秒間に\(vT\)だけ壁に近づくので、壁から\(T\)秒後の船の位置までの距離\(x_{\text{帰り}}\)は、初期距離\(x\)から船の移動距離\(vT\)を引いたものになります。
$$
\begin{aligned}
x_{\text{帰り}} = x – vT
\end{aligned}
$$
この\(x_{\text{帰り}}\)を最初の式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
VT = x + (x – vT)
\end{aligned}
$$
この式を整理すると、
$$
\begin{aligned}
VT &= 2x – vT \\[2.0ex]
2x &= VT + vT
\end{aligned}
$$
これが求める距離\(x\)を計算するための式です。
使用した物理公式
- 距離 = 速さ × 時間 (\(L=vt\))
- 音波の進行と船の進行を関連付けた距離の関係式: \(2x = VT + vT\)
導出した式 \(2x = VT + vT\) に、与えられた数値と問(1)で求めた\(v\)の値を代入します。
\(V = 340 \, \text{m/s}\), \(v = 4 \, \text{m/s}\), \(T = 2 \, \text{s}\)
$$
\begin{aligned}
2x &= (340 \, \text{m/s}) \times (2 \, \text{s}) + (4 \, \text{m/s}) \times (2 \, \text{s}) \\[2.0ex]
2x &= 680 \, \text{m} + 8 \, \text{m} \\[2.0ex]
2x &= 688 \, \text{m}
\end{aligned}
$$
\(x\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{688}{2} \, \text{m} \\[2.0ex]
&= 344 \, \text{m}
\end{aligned}
$$
- 船が音を出してから、その音が壁で跳ね返って再び船に聞こえるまでに\(2\)秒かかりました。
- この\(2\)秒の間に、音は壁まで行って戻ってくるという長い距離を進みます。その距離は「音速\(340 \, \text{m/s} \times 2 \, \text{s} = 680 \, \text{m}\)」です。
- 一方、同じ\(2\)秒の間に、船も壁に向かって少し進んでいます。その距離は「船の速さ\(4 \, \text{m/s} \times 2 \, \text{s} = 8 \, \text{m}\)」です。
- ここで、船と壁の最初の距離を\(x\)とすると、「\(2 \times x\)」という量が、「音が実際に\(2\)秒で進んだ総距離(\(680 \, \text{m}\))」と「船が実際に\(2\)秒で進んだ総距離(\(8 \, \text{m}\))」の和に等しい、つまり\(2x = 680 + 8\)という関係が成り立ちます。
- したがって、\(x = 688 \div 2 = 344 \, \text{m}\)と求まります。
音を発射したときの船と岩壁の距離は \(x = 344 \, \text{m}\) です。音が壁に到達するのに約1秒、船に戻るのに約1秒かかり、その間に船が約8m進むことを考えると、この距離は物理的に妥当な値です。
思考の道筋とポイント
音が船から壁まで進む「往路」と、壁から船に戻る「復路」にかかる時間をそれぞれ設定し、距離の関係式を立てて解く方法です。
この設問における重要なポイント
- 往路の時間\(t_1\)と復路の時間\(t_2\)の和が、全体の時間\(T=2\text{s}\)になる。
- 往路では音は距離\(x\)を進む。
- 復路では、音は\(t_2\)秒間に\(Vt_2\)進み、その距離は、壁から\(T\)秒後の船の位置までの距離に等しい。
具体的な解説と立式
音を発射したときの船と壁の距離を\(x\)とします。
音が壁に到達するまでの時間を\(t_1\)、壁で反射してから船に戻るまでの時間を\(t_2\)とします。
合計時間は\(T=2\text{s}\)なので、
$$
\begin{aligned}
t_1 + t_2 = 2
\end{aligned}
$$
往路において、音は距離\(x\)を速さ\(V\)で進むので、
$$
\begin{aligned}
x = V t_1
\end{aligned}
$$
復路において、音は時間\(t_2\)の間に距離\(Vt_2\)を進みます。この距離は、壁から\(T\)秒後の船の位置までの距離に等しいです。\(T\)秒後の船の位置は、初期位置から\(vT\)だけ壁に近づいているので、壁からの距離は\(x-vT\)です。
したがって、
$$
\begin{aligned}
Vt_2 = x – vT
\end{aligned}
$$
これらの式を連立して\(x\)を求めます。
使用した物理公式
- 距離 = 速さ × 時間
3つの式を連立します。
1. \(t_1 = x/V\)
2. \(t_2 = (x-vT)/V\)
これらを\(t_1+t_2=T\)に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{x}{V} + \frac{x-vT}{V} &= T
\end{aligned}
$$
両辺に\(V\)を掛けます。
$$
\begin{aligned}
x + (x-vT) &= VT \\[2.0ex]
2x – vT &= VT
\end{aligned}
$$
これを整理すると、主たる解法で得られた式と同じになります。
$$
\begin{aligned}
2x = VT + vT
\end{aligned}
$$
以降の計算は主たる解法と同じで、\(x=344 \, \text{m}\)が得られます。
音の旅を「行き」と「帰り」に分けて考えます。「行きの時間」と「帰りの時間」を足すと\(2\)秒です。
「行きの距離」は\(x\)です。
「帰りの距離」は、船が\(2\)秒間進んだ分だけ短くなります。
これらの関係を式にして解くと、やはり\(x=344 \, \text{m}\)が求まります。
主たる解法と同じ結果が得られました。この解法は、現象を時間軸に沿って追うため、より直感的に理解しやすい側面があります。
問(3)
思考の道筋とポイント
この設問では、「波の数保存則」という重要な考え方を用います。
- 船が汽笛を\(\Delta t_0 = 10 \, \text{s}\)の間鳴らし続けると、ある一定の数の波が空間に放出されます。この放出された波の総数を\(N\)とします。
- 船上の人は、この放出された波が壁で反射してきたものを聞きます。その際、船が聞く反射音の振動数は\(f_2\) (\(860 \, \text{Hz}\))に変化しています。
- ここで最も重要なのは、音源が放った波の「総数」\(N\)と、観測者である船上の人が聞く波の「総数」\(N\)は同じであるという点です。
- この関係「総波数 = 振動数 × 時間」すなわち\(N = f_0 \Delta t_0 = f_2 \Delta t_2\)を利用して、反射音が聞こえる時間\(\Delta t_2\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 波の数保存の原理: 音源から放出された波の総数は、観測者がそれをどのような条件下で聞こうとも、変わらない。
- 関係式の活用: 波の総数\(N\)は、「1秒あたりの波の数(振動数\(f\))」と「その状態が継続した時間(\(\Delta t\))」の積、すなわち\(N = f \Delta t\)で表される。
- 上記から導かれる\(f_0 \Delta t_0 = f_2 \Delta t_2\)という等式を正しく立てて用いる。
具体的な解説と立式
音源である船が、本来の振動数\(f_0 = 840 \, \text{Hz}\)の汽笛を、時間\(\Delta t_0 = 10 \, \text{s}\)の間鳴らし続けました。
この間に音源から放出された波の総数を\(N\)とすると、
$$
\begin{aligned}
N = f_0 \times \Delta t_0
\end{aligned}
$$
船上の人は、この音波が壁で反射してきたものを聞きます。このとき船が聞く反射音の振動数は、問(1)で計算した通り\(f_2 = 860 \, \text{Hz}\)です。
船上の人がこの反射音を聞き続ける時間を\(\Delta t_2\)とすると、船上の人が聞く波の総数も同じく\(N\)となります。
$$
\begin{aligned}
N = f_2 \times \Delta t_2
\end{aligned}
$$
これら2つの\(N\)に関する式は等しいので、以下の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
f_0 \Delta t_0 = f_2 \Delta t_2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 波の総数: \(N = f \Delta t\)
- 波の数保存則に基づく関係式: \(f_0 \Delta t_0 = f_2 \Delta t_2\)
立てた関係式\(f_0 \Delta t_0 = f_2 \Delta t_2\)に、具体的な数値を代入します。
\(f_0 = 840 \, \text{Hz}\), \(\Delta t_0 = 10 \, \text{s}\), \(f_2 = 860 \, \text{Hz}\)
$$
\begin{aligned}
840 \times 10 &= 860 \times \Delta t_2
\end{aligned}
$$
\(\Delta t_2\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\Delta t_2 &= \frac{840 \times 10}{860} \\[2.0ex]
&= \frac{8400}{860} \\[2.0ex]
&= \frac{840}{86} \\[2.0ex]
&= \frac{420}{43}
\end{aligned}
$$
この分数を小数で計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta t_2 &\approx 9.767… \, \text{s}
\end{aligned}
$$
模範解答に合わせて有効数字2桁で答えると、約\(9.8 \, \text{s}\)となります。
- 船が\(10\)秒間汽笛を鳴らすと、たくさんの「音の波」が送り出されます。その「波の総数」は「元の振動数(\(840\)) \(\times\) 音を出した時間(\(10\))」で、\(8400\)個です。
- 船に戻ってくる反射音は、振動数が\(860 \, \text{Hz}\)に上がっています。これは、1秒あたりに船が聞く波の数が\(860\)個であることを意味します。
- 船が送り出した波の「総数」(\(8400\)個)と、船が聞くことになる反射音の波の「総数」は同じはずです。
- したがって、「反射音の振動数(\(860\)) \(\times\) 反射音が聞こえる時間(\(\Delta t_2\))」も、同じく\(8400\)個に相当します。
- この関係式\(860 \times \Delta t_2 = 8400\)を\(\Delta t_2\)について解くと、約\(9.8\)秒と求まります。
船上で反射音が聞こえる時間は約\(9.8 \, \text{s}\)です。この時間は、音源が音を出していた時間\(10 \, \text{s}\)よりも短くなっています。これは、観測者が聞く音の振動数が元の振動数よりも高いため、単位時間あたりにより多くの波を聞くことになり、全ての波を聞き終えるのにかかる時間が短縮されるという物理的な状況と一致しており、妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ドップラー効果:
- 核心: この問題を解く上で最も中心的な物理概念です。音源や観測者が運動することにより、観測される音の振動数が変化する現象を正確に理解し、公式を適用できることが求められました。
- 理解のポイント:
- 船から壁への音(音源が動くケース)と、壁で反射した音を船が聞く(観測者が動くケース、壁は静止音源)という2段階のドップラー効果を正しく処理する必要がありました。
- 公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V \mp v_{\text{観測者}}}{V \mp v_{\text{音源}}} f_0\) における符号の選択(近づく場合は振動数が高くなる方向、遠ざかる場合は低くなる方向)が極めて重要です。
- 音の反射:
- 核心: 壁は、入射した音波を同じ振動数で反射する性質を持つと考えます。
- 理解のポイント: この問題では、壁を「受け取った音の振動数をそのまま発する静止した新しい音源」と見なすことができました。
- 波の伝播(距離=速さ×時間):
- 核心: 音波が一定の速さ(音速 \(V\))で空間を伝わるという基本的な性質です。
- 理解のポイント: 問(2)では、この関係を用いて音波の移動距離や船の移動距離を時間と関連付け、初期位置を求めました。
- 波の数保存の原理:
- 核心: 問(3)で決定的な役割を果たしました。ある時間間隔 \(\Delta t_0\) で音源から振動数 \(f_0\) で放出された波の総数 (\(N = f_0 \Delta t_0\)) は、観測者がその音を異なる振動数 \(f_2\) で異なる時間間隔 \( \Delta t_2\) の間に観測したとしても、その総数 (\(N = f_2 \Delta t_2\)) は保存される、という考え方です。
- 理解のポイント: この原理は、音源が音を出している時間と観測者が音を聞いている時間が異なる場合に特に有効な考え方です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 救急車や電車の警笛など、日常生活におけるドップラー効果を扱う問題(音源が通り過ぎる場合など、近づく・遠ざかるが切り替わるケースも含む)。
- 反射板が動いている場合の問題(例えば、動いている車に音を当ててその反射音を聞く場合など)。この場合、反射板が音を聞くときと、反射板が音を出すときの両方で反射板の運動を考慮する必要があります。
- 風が吹いている中でのドップラー効果。音速が風速の影響を受け、音の伝播方向によって実効的な音速が変わるため、公式の \(V\) を適切に修正する必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 音源は何か、観測者は誰か?: 問題の各段階(例:直接音、反射音)において、音を発しているものと、それを聞いているものを明確に特定します。
- それぞれの運動状態(速度と方向)はどうか?: 音源と観測者がそれぞれ静止しているか、動いているか。動いている場合、その速さと向き(互いに近づいているか、遠ざかっているか)を正確に把握します。
- 音の反射はあるか?反射体は動いているか?: 音が何らかの物体で反射している場合、その反射体をどのように扱うか(静止音源と見なせるか、動く音源か)を判断します。
- 問われている物理量は何か?: 振動数、波長、速さ、距離、時間など、何を求めたいのかを明確にし、それに応じた物理法則や公式を選択します。
- 時間経過と現象の対応: 複数の事象が時間的に連続して起こる場合(例:音を発射→壁に到達→反射→船に到達)、それぞれの区間で何が起きているかを整理します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ドップラー効果の公式における符号の誤り:
- 誤解: 近づく場合と遠ざかる場合の \(v_{\text{音源}}\) や \(v_{\text{観測者}}\) の符号の選択を間違える。あるいは、どの速度が分母でどの速度が分子かを混同する。
- 対策: 「近づけば振動数は上がり、遠ざかれば振動数は下がる」という大原則を常に意識します。公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V \mp v_{\text{観測者}}}{V \mp v_{\text{音源}}} f_0\) を基本形とし、観測者が近づくなら分子で \(+v_{\text{観測者}}\)、遠ざかるなら \(-v_{\text{観測者}}\)。音源が近づくなら分母で \(-v_{\text{音源}}\)、遠ざかるなら \(+v_{\text{音源}}\) と、結果的に振動数が適切に変化するように符号を選びます。
- 反射の取り扱いの誤解:
- 誤解: 壁での反射を1回のドップラー効果で処理しようとしたり、反射によって音の振動数そのものが変化すると誤解したりする。
- 対策: 壁での反射は、(1)壁が音を受け取る(このとき壁が動いていればドップラー効果が発生)、(2)壁がその受け取った振動数の音を新たな音源として発する(このときも壁が動いていればドップラー効果が発生)、という2段階で考えるのが基本です。本問のように壁が静止していれば、壁は受け取った振動数 \(f_1\) の音を、そのまま振動数 \(f_1\) の静止音源として発します。
- 問(2)における距離と時間の関係の混乱:
- 誤解: 音が進んだ総距離と船が進んだ総距離、そして初期距離 \(x\) の関係を正しく立式できない。特に、反射音が戻ってくる距離の扱いで混乱しやすい。
- 対策: 音が船から出て壁に当たり、反射して船に戻ってくるまでの全行程で、音と船がそれぞれどれだけの時間動き、どれだけの距離を進むのかを図で整理します。\(2x = VT + vT\) の関係式を導出過程から理解するか、少なくともその意味するところ(音の往復距離と船の移動距離の関連性)を把握することが重要です。
- 問(3)における「波の数保存則」の理解不足や不適用:
- 誤解: なぜ \(f_0 \Delta t_0 = f_2 \Delta t_2\) が成り立つのかを理解せず、単純な時間の比例計算などをしてしまう。
- 対策: 音源が単位時間に \(f_0\) 個の波を \( \Delta t_0\) 秒間出し続けると、総数 \(f_0 \Delta t_0\) 個の波が放出される、という基本的な定義に立ち返ります。これらの波は途中で消えたり増えたりしないので、観測者が聞く波の総数も同じはずだ、という物理的な考察が重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ドップラー効果の公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V \mp v_{\text{観測者}}}{V \mp v_{\text{音源}}} f_0\):
- 選定理由: 問題文に「船が動きながら音を出し、その反射音を聞く」「振動数がずれた」という記述があることから、音源または観測者の運動によって振動数が変化する現象、すなわちドップラー効果を扱う必要があると判断します。
- 適用根拠: この公式は、音速 \(V\)、音源の速度 \(v_{\text{音源}}\)、観測者の速度 \(v_{\text{観測者}}\)、元の振動数 \(f_0\) の間の関係を一般的に表しています。問題の具体的な状況に合わせて、公式中の速度に値を代入し、符号を正しく選択することで適用します。
- 距離 = 速さ × 時間 (\(L=vt\)):
- 選定理由: 「一定の速さで運動する物体(音波や船)が、ある時間でどれだけの距離を進むか」という、運動を記述する最も基本的な関係です。問(2)のように、音の到達時間や船の移動距離が関わる場面では、この法則の適用が考えられます。
- 適用根拠: 音速 \(V\) や船の速さ \(v\) が一定であるという条件下で、時間 \(T\) の間に進む距離を求める際に直接適用できます。
- 波の数保存則に基づく関係式 \(f_0 \Delta t_0 = f_2 \Delta t_2\):
- 選定理由: 「音源が一定時間音を出し続け、それを観測者が(異なる振動数で)聞く」という状況で、音を出した時間と聞いた時間が異なる可能性があり、かつその間の振動数の変化も考慮する必要がある場合、この法則が有効です。
- 適用根拠: 音源から放出された波の「個数」そのものは、途中で消えたり増えたりしない(理想的な状況下で)という物理的な洞察に基づいています。したがって、放出された総波数と観測された総波数は等しくなければならず、この等式が成り立ちます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 問(1)の \(v\) を求める計算での注意点:
- 特に注意すべき点: 方程式 \(860 = \displaystyle\frac{340+v}{340-v} \times 840\) を変形する際、まず両辺を \(840\) で割り \(\displaystyle\frac{860}{840} = \frac{43}{42}\) と約分することで、その後の計算が少し楽になります。\(43(340-v) = 42(340+v)\) を展開するとき、分配法則を正確に適用し、符号ミスに注意します。
- 日頃の練習: 大きな数をすぐに計算するのではなく、後の整理で簡単になることを見越して、共通因数でくくるなどの工夫をする練習をします。
- 問(2)の \(x\) を求める計算での注意点:
- 特に注意すべき点: \(x = \displaystyle\frac{(V+v)T}{2}\) の式は比較的単純ですが、代入する数値を間違えないようにします(特に \(v\) の値)。計算順序(括弧内が先、次に掛け算、最後に割り算)を守ります。
- 日頃の練習: 複雑な問題でも、最終的な計算は四則演算の基本に忠実に行うことを心がけます。
- 問(3)の \( \Delta t_2\) を求める計算での注意点:
- 特に注意すべき点: \( \Delta t_2 = \displaystyle\frac{f_0 \Delta t_0}{f_2} = \frac{840 \times 10}{860}\)。まず約分することで、割り算が少し楽になります。
- 日頃の練習: 筆算などで丁寧に行い、求められる有効数字に注意して結果を丸める練習をします。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- (1) 船の速さ \(v = 4 \, \text{m/s}\):
- 物理的な妥当性: 音速 \(V=340 \, \text{m/s}\) と比較して、\(4 \, \text{m/s}\) は十分に小さい値です。これは、一般的な船の速度としても現実的な範囲です。振動数の変化率が比較的小さいことからも、船の速さ \(v\) が音速 \(V\) に対してそれほど大きくないことが予想され、得られた結果と矛盾しません。
- (2) 初期距離 \(x = 344 \, \text{m}\):
- 物理的な妥当性: 音が \(2 \, \text{s}\) で往復できる距離であり、その間に船も \(8 \, \text{m}\) 移動することを考慮すると、数百メートルというスケールは妥当です。
- (3) 反射音が聞こえる時間 \( \Delta t_2 \approx 9.8 \, \text{s}\):
- 物理的な妥当性: 音源が音を出していた時間 \( \Delta t_0 = 10 \, \text{s}\) に対して、観測時間が \( \Delta t_2 \approx 9.8 \, \text{s}\) と短くなっています。これは、観測される振動数 \(f_2\) が元の振動数 \(f_0\) よりも高い (\(f_2 > f_0\)) ためです。単位時間あたりにより多くの波を聞くことになるので、全ての波を聞き終えるのにかかる時間は短縮される、という物理的な状況と一致しています。
問題82 (名城大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、音源や反射体(壁)が運動することによって観測される音の振動数が変化する「ドップラー効果」と、振動数がわずかに異なる2つの音が重なり合うことで生じる「うなり」の現象を組み合わせた問題です。それぞれの条件下で、音源と観測者(または壁)の相対的な運動を正確に把握し、適切な公式を適用することが求められます。
図の配置は、左から順に「観測者、音源S、壁」が並んでいるものとします。
- 観測者:静止
- 音源S:振動数 \(f_0\) [Hz] の音を発する。移動可能。
- 壁:音を反射する。移動可能。直線に対して垂直に置かれている。
- 音速:\(V\) [m/s]
- 図の配置:観測者、音源S、壁がこの順(左から右へ)に一直線上に並んでいる。
- 壁は固定、音源Sを左へ(観測者に近づき、壁から遠ざかる向き)速さ \(v\) [m/s] で動かす場合:
- (ア) Sから観測者に直接到達する音の振動数 \(f_1\)
- (イ) 壁で反射して観測者に到達する音の振動数 \(f_2\)
- (ウ) 観測者に1秒間に \(n_1\) 回のうなりが聞こえたときの、Sの速さ \(v\)
- 音源Sを固定、壁を左へ(観測者とSに近づく向き)速さ \(u\) [m/s] で動かす場合:
- (ア) 壁で反射して観測者に到達する音の振動数 \(f_{II}\)
- (イ) 観測者に1秒間に \(n_2\) 回のうなりが聞こえたときの、壁の速さ \(u\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
【注記】本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。
この問題のテーマは「ドップラー効果とうなり」です。音源や反射体(壁)が運動することによって観測される音の振動数が変化する「ドップラー効果」と、振動数がわずかに異なる2つの音が重なり合うことで生じる「うなり」の現象を組み合わせた問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ドップラー効果の公式: 音源の速度を\(v_S\)、観測者の速度を\(v_O\)としたとき、観測者が聞く音の振動数\(f’\)は、元の振動数を\(f_{\text{元}}\)として、\(f’ = \displaystyle\frac{V \pm v_O}{V \mp v_S} f_{\text{元}}\)と表されます。符号の選択は、観測者や音源が互いに近づくのか遠ざかるのかによって決まります。
- 反射音のドップラー効果: 壁による音の反射は、2段階のドップラー効果として考えることができます。
- 壁が音源からの音を「観測者」として受け取る。
- 壁が受け取った振動数の音を、今度は壁自身が「音源」となって反射(再放射)する。
- うなりの振動数: 振動数がわずかに異なる2つの音\(f_A\)と\(f_B\)が重なると、1秒あたり\(n = |f_A – f_B|\)回のうなりが聞こえます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各設問の状況設定(誰がどちらに動くか)を正確に把握します。
- 直接音と反射音の振動数を、それぞれドップラー効果の公式を用いて立式します。反射音は2段階で考えます。
- うなりの問題では、直接音と反射音の振動数の差をとって、うなりの振動数と等しいとおき、未知の速さについて解きます。
問(1)
音源Sが左へ動くということは、「観測者(左) — 音源S(中) — 壁(右)」という配置において、音源Sは観測者に近づき、壁からは遠ざかる運動です。
(ア) Sから観測者に直接到達する音の振動数 \(f_1\) はいくらか。
思考の道筋とポイント
音源Sが観測者に近づいています。観測者は静止しています。ドップラー効果の公式(音源が動く場合)を適用します。音源が近づくので、振動数は元の振動数よりも高くなるはずです。
この設問における重要なポイント
- 音源Sが観測者に速さ\(v\)で近づく。
- 観測者は静止している。
- ドップラー効果により、観測される振動数は\(f_0\)より高くなる。
具体的な解説と立式
音源Sが速さ\(v\)で観測者に近づいています。観測者は静止しています。
このとき、観測者が聞く直接音の振動数\(f_1\)は、ドップラー効果の公式より次のように表されます。
音源が観測者に近づく場合、分母から音源の速さを引きます。
$$
\begin{aligned}
f_1 = \frac{V}{V-v} f_0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- ドップラー効果(音源が運動、観測者静止): \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V \mp v_S} f_{\text{元}}\)
上記の立式がそのまま結論となります。
$$
\begin{aligned}
f_1 = \frac{V}{V-v} f_0
\end{aligned}
$$
音源Sがあなた(観測者)に速さ\(v\)で近づいてくる状況です。救急車のサイレンが近づいてくるときに音が高く聞こえるのと同じ現象で、音の波の間隔が圧縮されるため、1秒間にあなたの耳に届く波の数(振動数)が増えます。公式を使うと、\(f_1 = \displaystyle\frac{V}{V-v} f_0\)と計算できます。
Sから観測者に直接到達する音の振動数\(f_1\)は\(\displaystyle\frac{V}{V-v} f_0\) [Hz]です。
分母が\(V-v\)であり、\(v>0\)なので\(V-v < V\)となり、\(f_1 > f_0\)です。これは音源が近づく場合に振動数が高くなるという物理現象と一致しており、妥当です。
(イ) 壁で反射して観測者に到達する音の振動数 \(f_2\) はいくらか。
思考の道筋とポイント
壁による反射音の振動数を求めるには、2つのステップで考えます。
- まず、音源Sから壁に向かう音について考えます。音源Sは壁から遠ざかっており、壁は静止しています。壁が「聞く」(受け取る)音の振動数\(f_{\text{壁}}\)を求めます。
- 次に、壁はその振動数\(f_{\text{壁}}\)の音を反射します。壁は静止しているので、壁を新たな音源と考えると、その音源の振動数は\(f_{\text{壁}}\)です。この音源(壁)は静止しており、観測者も静止しているので、観測者が聞く反射音の振動数\(f_2\)は\(f_{\text{壁}}\)に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- ステップ1:音源Sが壁から速さ\(v\)で遠ざかる。壁は静止した観測者とみなせる。壁が受け取る振動数\(f_{\text{壁}}\)は\(f_0\)より低くなる。
- ステップ2:壁が振動数\(f_{\text{壁}}\)の音を出す静止した音源となる。観測者も静止している。したがって、観測者が聞く振動数\(f_2\)は\(f_{\text{壁}}\)と等しい。
具体的な解説と立式
ステップ1: 壁が受け取る音の振動数\(f_{\text{壁}}\)
音源Sは、壁に対して速さ\(v\)で遠ざかっています。壁は静止しています。
このとき、壁が受け取る音の振動数\(f_{\text{壁}}\)は、ドップラー効果の公式より次のように表されます。
音源が観測者(この場合は壁)から遠ざかる場合、分母に音源の速さを加えます。
$$
\begin{aligned}
f_{\text{壁}} = \frac{V}{V+v} f_0
\end{aligned}
$$
ステップ2: 壁からの反射音を観測者が聞く振動数\(f_2\)
壁は静止しており、振動数\(f_{\text{壁}}\)の音を反射します。このとき、壁は振動数\(f_{\text{壁}}\)の静止した音源と見なせます。観測者も静止しているので、観測者が聞く反射音の振動数\(f_2\)は、壁が受けた音の振動数\(f_{\text{壁}}\)と同じになります。
$$
\begin{aligned}
f_2 = f_{\text{壁}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- ドップラー効果(音源が運動、観測者静止): \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V \pm v_S} f_{\text{元}}\)
- 静止した反射体からの反射音の振動数は、反射体に入射する音の振動数に等しい。
上記の立式をまとめると、結論が得られます。
$$
\begin{aligned}
f_2 = \frac{V}{V+v} f_0
\end{aligned}
$$
壁からの反射音を考えるときは、2段階で考えます。
- まず、音源Sから出た音が壁に届くときの振動数を計算します。Sは壁から速さ\(v\)で遠ざかっているので、壁が受け取る音の振動数は、元の振動数\(f_0\)よりも低くなります。
- 次に、壁はこの低くなった振動数の音をそのまま反射します。壁も観測者も動いていないので、観測者が聞く反射音の振動数\(f_2\)は、この壁が受け取った振動数と同じになります。
壁で反射して観測者に到達する音の振動数\(f_2\)は\(\displaystyle\frac{V}{V+v} f_0\) [Hz]です。
分母が\(V+v\)であり、\(v>0\)なので\(V+v > V\)となり、\(f_2 < f_0\)です。これは音源が反射体(壁)から遠ざかる場合に振動数が低くなるという物理現象と一致しており、妥当です。
(ウ) 観測者には1秒間に \(n_1\) 回のうなりが聞こえた。Sの速さ \(v\) はいくらか。
思考の道筋とポイント
うなりは、振動数が異なる2つの音、この場合は直接音(振動数\(f_1\))と壁からの反射音(振動数\(f_2\))が干渉することで生じます。うなりの回数\(n_1\)は、2つの振動数の差の絶対値\(|f_1 – f_2|\)で与えられます。
(ア)で求めた\(f_1\)と、(イ)で求めた\(f_2\)を用います。\(v>0\)のとき\(f_1 > f_2\)であることから、\(n_1 = f_1 – f_2\)として方程式を立て、\(v\)について解きます。
この設問における重要なポイント
- うなりの発生源:直接音\(f_1\)と反射音\(f_2\)。
- うなりの振動数の公式:\(n_1 = |f_1 – f_2|\)(ここで\(f_1 > f_2\))。
- \(f_1\)と\(f_2\)の式を代入し、\(v\)についての方程式を解く。
具体的な解説と立式
うなりの振動数の公式より、
$$
\begin{aligned}
n_1 = |f_1 – f_2|
\end{aligned}
$$
(ア)と(イ)の結果から\(f_1 > f_2\)なので、
$$
\begin{aligned}
n_1 = f_1 – f_2
\end{aligned}
$$
\(f_1\)と\(f_2\)の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
n_1 = \frac{V}{V-v}f_0 – \frac{V}{V+v}f_0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- うなりの振動数: \(n = |f_A – f_B|\)
右辺を共通因数\(Vf_0\)でくくり、通分します。
$$
\begin{aligned}
n_1 &= Vf_0 \left( \frac{1}{V-v} – \frac{1}{V+v} \right) \\[2.0ex]
&= Vf_0 \left( \frac{(V+v) – (V-v)}{(V-v)(V+v)} \right) \\[2.0ex]
&= Vf_0 \left( \frac{2v}{V^2-v^2} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{2Vvf_0}{V^2-v^2}
\end{aligned}
$$
この式を\(v\)について解くため、分母を払います。
$$
\begin{aligned}
n_1(V^2-v^2) = 2Vf_0v
\end{aligned}
$$
展開し、\(v\)についての2次方程式の形に整理します。
$$
\begin{aligned}
n_1V^2 – n_1v^2 &= 2Vf_0v \\[2.0ex]
n_1v^2 + 2Vf_0v – n_1V^2 &= 0
\end{aligned}
$$
解の公式を適用します(\(a=n_1, b=2Vf_0, c=-n_1V^2\))。
$$
\begin{aligned}
v = \frac{-(2Vf_0) \pm \sqrt{(2Vf_0)^2 – 4(n_1)(-n_1V^2)}}{2n_1}
\end{aligned}
$$
根号の中を整理します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{-2Vf_0 \pm \sqrt{4V^2f_0^2 + 4n_1^2V^2}}{2n_1} \\[2.0ex]
&= \frac{-2Vf_0 \pm 2V\sqrt{f_0^2 + n_1^2}}{2n_1}
\end{aligned}
$$
約分します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{V(-f_0 \pm \sqrt{f_0^2 + n_1^2})}{n_1}
\end{aligned}
$$
速さ\(v\)は正なので、\(\sqrt{f_0^2 + n_1^2} > f_0\)を考慮し、複号の正の方を選びます。
$$
\begin{aligned}
v = \frac{V(\sqrt{f_0^2 + n_1^2} – f_0)}{n_1}
\end{aligned}
$$
- うなりが1秒間に\(n_1\)回聞こえるということは、直接音の振動数\(f_1\)と反射音の振動数\(f_2\)の差が\(n_1\)であることを意味します。
- (ア)と(イ)で求めた\(f_1\)と\(f_2\)の式を代入すると、\(n_1\)と\(v\)の関係式が得られます。
- この式を\(v\)について解くと、答えが得られます。計算の途中では\(v\)の2次方程式になるので、解の公式を使います。
音源Sの速さ\(v\)は\(\displaystyle\frac{V(\sqrt{f_0^2 + n_1^2} – f_0)}{n_1}\) [m/s]です。この式は、うなりの回数\(n_1\)が0に近づくと\(v\)も0に近づくことを示しており、物理的に妥当です。
問(2)
音源Sは静止しており、「観測者(左) — 音源S(中) — 壁(右)」という配置で、壁が左へ(音源Sおよび観測者に近づく向きへ)速さ\(u\)で動きます。
(ア) 壁で反射して観測者に到達する音の振動数 \(f_{II}\) はいくらか。
思考の道筋とポイント
これも2段階のドップラー効果で考えます。
- まず、音源S(静止)から壁(速さ\(u\)でSに近づく)へ向かう音について考えます。壁が「観測者」として受け取る音の振動数\(f_{\text{壁受信}}\)を求めます。
- 次に、壁はその振動数\(f_{\text{壁受信}}\)の音を反射します。このとき、壁は振動数\(f_{\text{壁受信}}\)の音源となり、観測者にも速さ\(u\)で近づいています。観測者は静止しています。この動く音源(壁)からの音を観測者が聞く振動数\(f_{II}\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- ステップ1:音源Sは静止。壁はSに速さ\(u\)で近づく観測者とみなせる。壁が受け取る振動数\(f_{\text{壁受信}}\)は\(f_0\)より高くなる。
- ステップ2:壁は振動数\(f_{\text{壁受信}}\)の音源となり、観測者に速さ\(u\)で近づく。観測者は静止している。観測者が聞く振動数\(f_{II}\)は\(f_{\text{壁受信}}\)よりさらに高くなる。
具体的な解説と立式
ステップ1: 壁が受信する音の振動数\(f_{\text{壁受信}}\)
音源Sは静止しており、壁は音源Sに速さ\(u\)で近づいています(壁が動く観測者の役割)。
観測者が音源に近づく場合、分子に観測者の速さを加えます。
$$
\begin{aligned}
f_{\text{壁受信}} = \frac{V+u}{V} f_0
\end{aligned}
$$
ステップ2: 壁が反射する音を観測者が聞く振動数\(f_{II}\)
次に、壁は振動数\(f_{\text{壁受信}}\)の音源として振る舞い、観測者に速さ\(u\)で近づいています。観測者は静止しています。
音源が観測者に近づく場合、分母から音源の速さを引きます。
$$
\begin{aligned}
f_{II} = \frac{V}{V-u} f_{\text{壁受信}}
\end{aligned}
$$
\(f_{\text{壁受信}}\)の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_{II} = \frac{V}{V-u} \left( \frac{V+u}{V} f_0 \right)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- ドップラー効果(音源静止、観測者が運動): \(f’ = \displaystyle\frac{V \pm v_O}{V} f_{\text{元}}\)
- ドップラー効果(音源が運動、観測者静止): \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V \mp v_S} f_{\text{元}}\)
上記の立式を整理します。
$$
\begin{aligned}
f_{II} &= \frac{V}{V-u} \frac{V+u}{V} f_0 \\[2.0ex]
&= \frac{V+u}{V-u} f_0
\end{aligned}
$$
壁が動く場合の反射音も、2段階で考えます。
- まず、音源Sは止まっていますが、壁がSに速さ\(u\)で近づいています。このため、壁が「聞く」音の振動数は、元の\(f_0\)より高くなります。
- 次に、この高くなった振動数の音を、壁が音源となって反射します。このとき、壁は観測者にも速さ\(u\)で近づいています。そのため、観測者が聞く音の振動数は、さらに高くなります。
これら2つの効果を合わせると、\(f_{II} = \displaystyle\frac{V+u}{V-u} f_0\)となります。
壁で反射して観測者に到達する音の振動数\(f_{II}\)は\(\displaystyle\frac{V+u}{V-u} f_0\) [Hz]です。
\(u>0\)なので\(V+u > V-u\)となり、\(f_{II} > f_0\)です。これは、壁が音源および観測者に近づくため、二重にドップラー効果を受けて振動数が元の振動数よりも高くなるという物理現象と一致しており、妥当です。
(イ) 観測者には1秒間に \(n_2\) 回のうなりが聞こえた。壁の速さ \(u\) はいくらか。
思考の道筋とポイント
音源Sは固定されているので、観測者が聞く直接音の振動数は\(f_0\)のままです。
壁からの反射音の振動数は、(2ア)で求めた\(f_{II} = \displaystyle\frac{V+u}{V-u} f_0\)です。
うなりの回数\(n_2\)は、これら2つの振動数の差の絶対値\(|f_0 – f_{II}|\)で与えられます。
(2ア)の結果より\(f_{II} > f_0\)なので、\(n_2 = f_{II} – f_0\)となります。
この設問における重要なポイント
- うなりの発生源:直接音\(f_0\)(Sは静止)と反射音\(f_{II}\)。
- うなりの振動数の公式:\(n_2 = |f_{II} – f_0|\)。ここで\(f_{II} > f_0\)。
- \(f_{II}\)の式を代入し、\(u\)についての方程式を解く。
具体的な解説と立式
うなりの振動数の公式より、
$$
\begin{aligned}
n_2 = |f_{II} – f_0|
\end{aligned}
$$
音源Sは静止しているので、観測者が聞く直接音の振動数は\(f_0\)です。
(2ア)の結果より\(f_{II} > f_0\)なので、
$$
\begin{aligned}
n_2 = f_{II} – f_0
\end{aligned}
$$
\(f_{II}\)の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
n_2 = \frac{V+u}{V-u}f_0 – f_0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- うなりの振動数: \(n = |f_A – f_B|\)
右辺を共通因数\(f_0\)でくくります。
$$
\begin{aligned}
n_2 = f_0 \left( \frac{V+u}{V-u} – 1 \right)
\end{aligned}
$$
括弧の中を通分します。
$$
\begin{aligned}
n_2 &= f_0 \left( \frac{(V+u) – (V-u)}{V-u} \right) \\[2.0ex]
&= f_0 \left( \frac{2u}{V-u} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{2uf_0}{V-u}
\end{aligned}
$$
この式を\(u\)について解くため、分母を払います。
$$
\begin{aligned}
n_2(V-u) = 2uf_0
\end{aligned}
$$
展開し、\(u\)を含む項を右辺に集めます。
$$
\begin{aligned}
n_2V – n_2u &= 2uf_0 \\[2.0ex]
n_2V &= 2uf_0 + n_2u \\[2.0ex]
n_2V &= u(2f_0 + n_2)
\end{aligned}
$$
\(u\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
u = \frac{n_2V}{2f_0 + n_2}
\end{aligned}
$$
- 音源Sは止まっているので、直接聞こえる音の振動数は\(f_0\)です。
- (2ア)で計算したように、壁からの反射音の振動数は\(f_{II}\)で、これは\(f_0\)よりも大きいです。
- うなりが1秒間に\(n_2\)回聞こえるので、\(n_2 = f_{II} – f_0\)となります。
- この式に\(f_{II}\)の具体的な形を代入すると、\(n_2\)と\(u\)の関係式が得られます。
- この式を壁の速さ\(u\)について解けば、答えが得られます。
壁の速さ\(u\)は\(\displaystyle\frac{n_2V}{2f_0 + n_2}\) [m/s]です。この式は、うなりの回数\(n_2\)が0に近づくと\(u\)も0に近づくことを示しており、物理的に妥当です。また、\(u\)は常に音速\(V\)より小さいことが示せます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ドップラー効果の原理と公式の正しい適用:
- 核心: 音源や観測者の運動方向(近づくか遠ざかるか)に応じて、振動数がどう変化するかを理解し、公式の符号を正しく選択することがこの問題の根幹をなします。
- 理解のポイント:
- 公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V \mp v_O}{V \mp v_S} f_0\) を基本とし、「近づく⇒振動数増加」「遠ざかる⇒振動数減少」という物理現象と式の形を対応させることが重要です。
- 観測者の運動は分子(\(v_O\))に、音源の運動は分母(\(v_S\))に影響を与えることを区別して理解します。
- 反射音におけるドップラー効果の2段階処理:
- 核心: 壁などの反射体は、一度「観測者」として音波を受け取り、次にその音波を「新たな音源」として再放射すると考えます。
- 理解のポイント:
- 壁が音波を「受信する」際のドップラー効果(壁を観測者とみなす)。
- 壁が音波を「送信(反射)する」際のドップラー効果(壁を音源とみなす)。
この2ステップを順に適用することで、複雑な反射の問題を系統的に解くことができます。
- うなりの原理:
- 核心: うなりの回数(振動数) \(n\) は、2つの音の振動数 \(f_A, f_B\) の差の絶対値 \(n = |f_A – f_B|\) であること。
- 理解のポイント: 問題文に「うなりが聞こえた」とあれば、どの2つの音(この問題では直接音と反射音)が干渉しているのかを特定し、それぞれの振動数を求めて差をとる、という思考の流れを確立することが大切です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 音源と観測者の両方が複雑な運動をする場合(例:互いに追いかけっこをする)。
- 風が吹いている場合(音速 \(V\) が風速の影響で変化するため、公式中の \(V\) を適切に \(V \pm w\) に置き換える必要がある)。
- 音源が観測者を通り過ぎる場合(近づく状況から遠ざかる状況へと変化する)。
- 初見の問題での着眼点:
- 各要素の運動状態の把握: まず、音源、観測者、反射体のそれぞれの速度(大きさと向き)を明確にする。静止しているのか、動いているのかを最初に確認する。
- 音の経路の特定: 観測者に届く音が、直接音なのか、反射音なのか、あるいはその両方なのかを特定する。
- ドップラー効果の適用の判断: 音源と観測者(または反射体)の間に相対的な運動があれば、ドップラー効果を考慮する。
- うなりの条件確認: 「うなりが聞こえた」とあれば、どの2つの音によるものかを特定し、それぞれの振動数を求める準備をする。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ドップラー効果の公式の符号ミス:
- 誤解: 近づく場合と遠ざかる場合の符号の選択を間違える。
- 対策: 「近づけば振動数は高くなる(分母は小さく、分子は大きくなる)」「遠ざかれば振動数は低くなる(分母は大きく、分子は小さくなる)」という物理現象と式の形を関連付けて覚える。機械的な暗記は避ける。
- 反射音の扱いでの混乱:
- 誤解: 壁での反射を1回のドップラー効果で処理しようとする。
- 対策: 壁が「聞く」ときと「出す」ときの2ステップを常に意識する。特に壁自身が動く場合は、両方のステップで壁の速度を考慮する必要がある。
- うなりの計算での単純な引き算:
- 誤解: どちらの振動数が高いかを考えずに、機械的に引き算をしてしまう。
- 対策: 必ず振動数の「差の絶対値」をとることを意識する。そのためには、まずどちらの振動数が高いかを物理的に(近づくか遠ざかるかで)判断することが重要。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ドップラー効果の公式の選択:
- 選定理由: 問題文に「音源が動く」「壁が動く」といった記述があり、観測者との間に相対速度が生じているため、振動数が変化するドップラー効果を扱う必要があると判断します。
- 適用根拠: この公式は、音源と観測者の運動による振動数変化を定量的に記述する唯一の法則です。
- うなりの公式の選択:
- 選定理由: 問題文に「うなりが聞こえた」という明確な記述があるため。
- 適用根拠: うなりは、振動数がわずかに異なる2つの波が干渉することによって生じる現象であり、その回数は振動数の差で与えられるという定義に基づいています。
- 2次方程式の解の公式の選択:
- 選定理由: (1ウ)で、うなりの式を未知の速さ\(v\)について整理した結果、\(v\)の2乗の項が現れ、2次方程式となったため。
- 適用根拠: 2次方程式を解くための標準的な数学的手法です。物理的な条件(速さは正であるなど)を用いて、得られた解の中から適切なものを選びます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 途中式を省略しない:
- 特に注意すべき点: ドップラー効果の式は分数の中に分数が入るなど複雑になりがちです。通分や約分の過程を丁寧に書くことで、計算ミスを防ぎます。
- 日頃の練習: 複雑な文字式の計算練習を繰り返し行い、正確さとスピードを両立させる。
- 文字式の整理を工夫する:
- 特に注意すべき点: (1ウ)や(2イ)のように、最終的に未知の速さについて解く問題では、式を整理する過程が重要です。共通因数でくくる、分母を払う、同類項をまとめる、といった基本的な代数操作を正確に行います。
- 日頃の練習: 物理の問題を解く際に、計算を面倒くさがらず、最後まで論理的に式を変形させる訓練を積む。
- 解の吟味:
- 特に注意すべき点: 2次方程式を解いた場合など、複数の解が得られることがあります。速さは正でなければならない、音速を超えてはならないなど、物理的な条件に合致する解を選ぶ必要があります。
- 日頃の練習: 計算して答えが出たら終わりではなく、その答えが物理的に意味のあるものか、問題の条件と矛盾しないかを常に確認する習慣をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との照らし合わせ:
- (1) 音源Sは観測者に近づき(\(f_1 > f_0\))、壁から遠ざかる(\(f_2 < f_0\))。したがって、\(f_1 > f_0 > f_2\)という大小関係が成り立つはず。
- (2) 壁がSと観測者に近づくため、反射音の振動数\(f_{II}\)は二重に高くなる。したがって、\(f_{II} > f_0\)となるはず。
これらの大小関係が、導出した式の形と一致しているかを確認します。
- 極端な条件での検証:
- もし音源や壁が動かなければ(\(v=0, u=0\))、うなりは生じないはず(\(n_1=0, n_2=0\))。導出した(1ウ)と(2イ)の式で、\(v=0\)や\(u=0\)を代入すると、確かに\(n_1=0, n_2=0\)となり、整合性が取れています。
- 式の依存関係の確認:
- (1ウ)の答えは、うなりの回数\(n_1\)が大きいほど、速さ\(v\)も大きくなる関係になっています(厳密には非線形ですが、傾向として)。
- (2イ)の答えは、うなりの回数\(n_2\)が大きいほど、速さ\(u\)も大きくなる関係になっています。
これらは「速く動くほどドップラー効果が大きくなり、振動数の差(うなり)も大きくなる」という直感と一致しています。
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問題83 (岐阜大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、高速で移動する音源(列車)によって生じるドップラー効果、音波の伝播時間、そして相対運動をする系での音波観測といった、波動現象の複合的な理解を問う問題です。図を正確に読み取り、各瞬間の物理現象を的確に捉えることが重要になります。
- 観測者:点Pに静止。
- 音源:超高速列車に搭載され、振動数 \(f_0\) の音波を発する。
- 列車の速度:\(v_{\text{列車}} = \frac{1}{2}V\) (音速 \(V\) の \(1/2\) 倍)。直線軌道を走行。
- 点Pから軌道までの最短距離:\(l\)。
- 点O:軌道上で、点Pの真上に位置する点。
- 図には、音源が軌道上のある位置にあるとき、観測者P、点O、軌道上の点Rなどが示されている。
- 観測者が聞く音の高さはどのように変化するかを10字以内で簡潔に述べる。
- 音源が \(\theta = 60^\circ\) の地点(音源とPを結ぶ線が、軌道と音源の速度ベクトルとなす角)で発した音波を観測者が観測するときの振動数を、\(f_0\) を用いて表す。
- 音源が観測者の正面の点Oで発した音波を観測者が受けた瞬間に、観測者がその受けた音波と同じ振動数 \(f\) の音波を送り出したときの、\(f\) を \(f_0\) を用いて表す。
- 上記(3)で観測者が送った音波が、音源が点Oから距離 \(r\) だけ離れた点Rに達したときに音源に届いたときの、\(r\) を \(l\) を用いて表す。
- 上記(3)で観測者が送った音波を、移動する列車上の音源の位置に置かれた測定器により、点Rを通過するとき観測したところ、その振動数が \(f’\) であったときの、\(f’\) を \(f\) を用いて表す。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(4) 距離\(r\)の別解: 音の像を利用する解法
- 主たる解法が、音波が実際に伝播した時間と列車が移動した時間が等しいという関係から直接立式するのに対し、別解では、観測者Pから送り返された音波を、軌道に対してPと対称な位置にある「音の像(P’)」から発せられたものと見なす考え方を用います。この像から発せられた音が、点Rにいる列車に直接届くまでの時間を考えます。
- 問(4) 距離\(r\)の別解: 音の像を利用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 「音の像」や「鏡像」という考え方は、波の反射を扱う際の強力なモデルであり、光学(光の反射)など他の分野にも通じる重要な概念です。この解法を通じて、反射現象をより抽象的かつ普遍的なモデルで捉える視点が養われます。
- 計算の簡略化: この別解では、音の伝播経路がP’からRへの直線となるため、主たる解法のように「O→P」と「P→R」の2つの区間に分けて時間を足し合わせる必要がなく、立式がよりシンプルになります。
- 異なる視点の学習: 同じ問題に対して、時間追跡で解く方法と、幾何学的なモデル(像)を用いて解く方法の両方を学ぶことで、思考の柔軟性が高まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「斜め方向のドップラー効果と音波の伝播」です。高速で移動する音源(列車)によって生じるドップラー効果、音波の伝播時間、そして相対運動をする系での音波観測といった、波動現象の複合的な理解を問う問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ドップラー効果: 音源や観測者が運動することにより、観測される音の振動数が変化する現象。特に、音源と観測者を結ぶ直線上における相対速度の成分(視線方向速度成分)が重要です。
- 音波の伝播: 音波は音速\(V\)で空間を伝わります。距離\(d\)を伝わるのにかかる時間は\(t = d/V\)です。
- 相対運動と時間の同時性: 複数の物体や波が関わる場合、それぞれの運動や伝播にかかる時間関係を正確に把握し、立式することが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、列車が通過する際の視線方向速度成分の変化を定性的に考えます。
- 問(2)と問(5)では、ドップラー効果の公式を適用します。このとき、音源や観測者の速度の、視線方向成分を正しく求めることが鍵となります。
- 問(3)では、ドップラー効果が生じない特殊な状況を考えます。
- 問(4)では、音の伝播時間と列車の移動時間が等しいことを利用して方程式を立てます。