問題46 (高知大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ばね振り子の基本的な性質から、途中で質量が変化する場合の振動、さらには加速度運動するエレベーターの中での振動と、ステップアップしていく構成になっています。一つ一つの物理現象を丁寧にひも解いていきましょう。
- 物体Pの質量: \(2m\)
- 物体Qの質量: \(m\)
- PとQを接合して吊るしたときのばねの自然長からの伸び(つり合い時): \(a\)
- 重力加速度: \(g\)
- エレベーターの加速度: \(\alpha\)
- (1) (a) ばね定数 \(k\)。
- (1) (b) P,Q一体での振動周期 \(T_{PQ}\)。
- (1) (c) Q切り離し後、Pの新しい振動中心の、もとのつり合い位置からの距離(上の位置)。
- (1) (d) Q切り離し後のPの振幅 \(A\)。
- (1) (e) Q切り離し後のPの周期 \(T_P\)。
- (1) (f) Pが新しい振動中心を通過するときの速さ \(v_{\text{最大}}\)。
- (2) (g) Pを吊るしたばねをエレベーターに設置。エレベーターが上向きに加速度 \(\alpha\) で運動中、ばねが自然長から \(a\) だけ伸びてPが静止したときの加速度 \(\alpha\)。
- (2) (h) (g)の状態でのPの振動周期は、(e)で求めた周期の何倍か。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1)(f)の別解1: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
- 主たる解法が、単振動のエネルギー保存則(\(\frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}Mv_{\text{最大}}^2\))を用いるのに対し、この別解では、重力による位置エネルギーを含めた、より一般的な力学的エネルギー保存則を用いて解きます。これにより、単振動のエネルギー保存則が、より基本的な法則から導かれるものであることを確認できます。
- 問(1)(f)の別解2: 公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) を用いる解法
- 主たる解法がエネルギーに着目するのに対し、この別解では、単振動の運動学的な性質(最大速さは振幅と角振動数の積で表される)を直接利用します。角振動数 \(\omega\) を求め、それに振幅 \(A\) を掛けることで最大速さを計算します。
- 問(1)(f)の別解1: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 単振動のエネルギー保存則は、重力ポテンシャルと弾性ポテンシャルの合力が作る「有効なポテンシャルエネルギー」を考えることで導出されます。別解を通じて、その背景にある、より基本的な力学的エネルギー保存則との関係性を理解することができます。
- 解法の選択肢: 問題によっては、角振動数が先に求まる場合や、エネルギー計算が複雑になる場合があります。そのような際に、\(v_{\text{最大}} = A\omega\) という関係式を知っていると、より効率的に解けることがあります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは完全に一致します。
この問題は「力のつり合い」「フックの法則」「単振動(振動中心、周期、振幅、エネルギー保存)」「慣性力」といった、力学の基本かつ重要なテーマを網羅しています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: 物体が静止している、または等速直線運動しているとき、物体にはたらく力の合力は \(0\) です。
- フックの法則: ばねの弾性力は、ばねの自然長からの伸び(または縮み)に比例します (\(F=kx\))。
- 単振動の周期: 質量 \(M\)、ばね定数 \(k\) のばね振り子の周期は \(T=2\pi\sqrt{M/k}\) です。
- 単振動の振動中心と振幅: 振動中心は力のつり合いの位置であり、振幅は振動中心から振動の端までの距離です。
- 慣性力: 加速する座標系で運動を記述する際に考慮する、見かけの力です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1): まず、PとQが一体となった状態での力のつり合いからばね定数 \(k\) を求め、周期を計算します。次に、Qを切り離した後のP単独での新しいつり合いの位置(振動中心)と、運動の開始点(端)から振幅を決定し、周期と最大速さを求めます。
- 問(2): 上向きに加速するエレベーター内でPが静止している状態を考えます。エレベーター内で観測すると、Pには重力、ばねの力、そして下向きの慣性力がはたらき、これらがつり合っていると考えます。周期については、ばね振り子の性質を考察します。
問(1)
思考の道筋とポイント
(a) 物体PとQを一体(質量 \(3m\))とみなし、この物体がばねに吊るされてつり合っている状態を考えます。ばねの弾性力と全体の重力がつりあっていることから、ばね定数 \(k\) を求めます。
(b) PとQが一体のまま振動する場合の周期を、単振動の公式を用いて計算します。
(c) Qを切り離すと、P単独(質量 \(2m\))での新しいつり合いの位置が決まります。これが新しい振動中心です。もとのつり合い位置との差を求めます。
(d) 「静かに切り離す」ので、切り離した瞬間(もとのつり合い位置)の速さは \(0\) です。速さが \(0\) の点は単振動の端なので、この位置と新しい振動中心との距離が振幅となります。
(e) P単独での振動の周期を、質量 \(2m\) を用いて計算します。
(f) 単振動のエネルギー保存則を用いて、振動中心での速さ(最大速さ)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 力のつり合いの位置が、単振動の振動中心となる。
- 単振動の周期は、振動する物体の質量とばね定数のみで決まる。
- 「静かに」質量が変化する場合、変化前のつり合いの位置が、変化後の新しい単振動の「端」となる。
- 振幅は、振動中心から端までの距離である。
具体的な解説と立式
- (a) ばね定数 \(k\):PとQを一体(質量 \(3m\))とみなし、力のつりあいを考えます。伸びは \(a\) です。「上向きの力 = 下向きの力」より、
$$
\begin{aligned}
ka &= (2m+m)g \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$ - (b) P,Q一体での振動周期 \(T_{PQ}\):質量 \(3m\)、ばね定数 \(k\) の単振動の周期を求めます。
$$
\begin{aligned}
T_{PQ} &= 2\pi\sqrt{\frac{3m}{k}} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$ - (c) 新しい振動中心:Qを切り離した後、P単独(質量 \(2m\))でのつり合いの位置を考えます。このときのばねの伸びを \(l\) とします。「上向きの力 = 下向きの力」より、
$$
\begin{aligned}
kl &= 2mg \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
もとのつり合い位置(伸び \(a\))と新しいつり合い位置(伸び \(l\))の差を求めます。 - (d) 振幅 \(A\):Qを切り離した瞬間、Pはもとのつり合い位置(伸び \(a\))にあり、速さは \(0\) です。ここが新しい単振動の端となります。振幅 \(A\) は、この端と新しい振動中心(伸び \(l\))との距離です。
$$
\begin{aligned}
A &= a – l \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$ - (e) Q切り離し後のPの周期 \(T_P\):質量 \(2m\)、ばね定数 \(k\) の単振動の周期を求めます。
$$
\begin{aligned}
T_P &= 2\pi\sqrt{\frac{2m}{k}} \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$ - (f) 振動中心での速さ \(v_{\text{最大}}\):単振動のエネルギー保存則より、端でのエネルギーと中心でのエネルギーは等しくなります。振動中心を基準としたとき、「端での弾性エネルギー = 中心での運動エネルギー」より、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}kA^2 &= \frac{1}{2}(2m)v_{\text{最大}}^2 \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のつりあい
- フックの法則
- 単振動の周期: \(T=2\pi\sqrt{M/k}\)
- 単振動のエネルギー保存則: \(\frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}Mv_{\text{最大}}^2\)
- (a): 式①より、\(k = \displaystyle\frac{3mg}{a}\)。
- (b): 式②に \(k=\displaystyle\frac{3mg}{a}\) を代入。
$$
\begin{aligned}
T_{PQ} &= 2\pi\sqrt{\frac{3m}{3mg/a}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{a}{g}}
\end{aligned}
$$ - (c): 式③より \(l = \displaystyle\frac{2mg}{k}\)。これに \(k=\displaystyle\frac{3mg}{a}\) を代入。
$$
\begin{aligned}
l &= \frac{2mg}{3mg/a} \\[2.0ex]
&= \frac{2}{3}a
\end{aligned}
$$
もとのつり合い位置からの距離は、\(a – l = a – \displaystyle\frac{2}{3}a = \frac{1}{3}a\)。 - (d): 式④と(c)の結果より、振幅 \(A = \displaystyle\frac{1}{3}a\)。
- (e): 式⑤に \(k=\displaystyle\frac{3mg}{a}\) を代入。
$$
\begin{aligned}
T_P &= 2\pi\sqrt{\frac{2m}{3mg/a}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{2a}{3g}}
\end{aligned}
$$ - (f): 式⑥より \(v_{\text{最大}}^2 = \displaystyle\frac{k}{2m}A^2\)。\(k=\displaystyle\frac{3mg}{a}\), \(A=\displaystyle\frac{a}{3}\) を代入。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}}^2 &= \frac{1}{2m}\left(\frac{3mg}{a}\right)\left(\frac{a}{3}\right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{3g}{2a} \cdot \frac{a^2}{9} \\[2.0ex]
&= \frac{ag}{6}
\end{aligned}
$$
よって、\(v_{\text{最大}} = \sqrt{\displaystyle\frac{ag}{6}}\)。
(a) まず、ばねの硬さ(ばね定数)を求めます。おもり全体の重さと、その重さでばねがどれだけ伸びたか、という情報から計算できます。
(b) 次に、おもり全体をぶら下げたまま揺らしたときの、1往復にかかる時間(周期)を計算します。
(c) おもりQを取り外すと、Pだけになるので軽くなります。そのため、ばねの伸びが縮んで、つりあう位置が少し上に移動します。この移動した距離を計算します。
(d) Qをそっと取り外した瞬間、Pは一番下の位置で一瞬止まってから上に動き始めます。単振動では、一番端の位置から振動の中心までの距離を「振幅」と呼ぶので、(c)で計算した距離がそのまま振幅になります。
(e) 今度はPだけで揺れるので、その場合の1往復の時間(周期)を計算します。おもりが軽くなったので、周期は(b)のときより短くなります。
(f) 振動している物体は、ブランコが一番下に来たときのように、真ん中を通り過ぎるときに最も速くなります。一番高いところ(端)で持っていた位置エネルギーが、一番低いところ(中心)ではすべてスピード(運動エネルギー)に変わると考えて、そのときの速さを計算します。
各空欄の値は上記の通りです。質量が \(3m\) から \(2m\) へと変化することで、振動の中心、振幅、周期がすべて変化する様子が計算によって明らかになりました。それぞれの物理的な意味と計算結果が整合していることを確認できます。
思考の道筋とポイント
単振動のエネルギー保存則の代わりに、重力による位置エネルギーを含めた、より一般的な力学的エネルギー保存則を用います。振動の端(Qを切り離した瞬間)と振動中心(新しいつり合いの位置)でエネルギー保存則を立てます。
この設問における重要なポイント
- 位置エネルギーの基準点を明確にする(例:自然長の位置)。
- 各点での運動エネルギー、弾性エネルギー、重力ポテンシャルエネルギーを正しく計算する。
具体的な解説と立式
ばねの自然長の位置を位置エネルギーの基準(高さ\(0\))とし、下向きを正とします。
- 端でのエネルギー(Qを切り離した瞬間):位置は \(x=a\)、速さは \(0\)。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{端}} &= (\text{運動エネルギー}) + (\text{弾性エネルギー}) + (\text{重力P.E.}) \\[2.0ex]
&= 0 + \frac{1}{2}ka^2 – (2m)ga
\end{aligned}
$$ - 中心でのエネルギー(新しいつり合いの位置):位置は \(x=l=\displaystyle\frac{2}{3}a\)、速さは \(v_{\text{最大}}\)。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{中心}} &= \frac{1}{2}(2m)v_{\text{最大}}^2 + \frac{1}{2}k\left(\frac{2}{3}a\right)^2 – (2m)g\left(\frac{2}{3}a\right)
\end{aligned}
$$
エネルギー保存則 \(E_{\text{端}} = E_{\text{中心}}\) より、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}ka^2 – 2mga = mv_{\text{最大}}^2 + \frac{1}{2}k\frac{4a^2}{9} – \frac{4mga}{3}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \((\text{運動エネルギー}) + (\text{位置エネルギー}) = \text{一定}\)
上式を \(v_{\text{最大}}\) について解きます。\(k=\displaystyle\frac{3mg}{a}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
mv_{\text{最大}}^2 &= \left(\frac{1}{2}ka^2 – \frac{2}{9}ka^2\right) – \left(2mga – \frac{4mga}{3}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{5}{18}ka^2 – \frac{2}{3}mga \\[2.0ex]
&= \frac{5}{18}\left(\frac{3mg}{a}\right)a^2 – \frac{2}{3}mga \\[2.0ex]
&= \frac{5}{6}mga – \frac{4}{6}mga \\[2.0ex]
&= \frac{1}{6}mga
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}}^2 &= \frac{ag}{6}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= \sqrt{\frac{ag}{6}}
\end{aligned}
$$
主たる解法と完全に一致した結果が得られます。単振動のエネルギー保存則が、より基本的な法則である力学的エネルギー保存則から導かれることがわかります。
思考の道筋とポイント
単振動の最大速さは、振幅 \(A\) と角振動数 \(\omega\) の積で与えられるという運動学的な公式を利用します。P単独の単振動の振幅 \(A\) と角振動数 \(\omega_P\) を求め、それらを掛け合わせます。
この設問における重要なポイント
- 最大速さの公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) を知っていること。
- 角振動数 \(\omega = \sqrt{k/M}\) の関係を理解していること。
具体的な解説と立式
P単独の単振動について、
- 振幅 \(A\): (d)より \(A = \displaystyle\frac{1}{3}a\)。
- 角振動数 \(\omega_P\): 質量 \(2m\)、ばね定数 \(k\) なので、
$$
\begin{aligned}
\omega_P &= \sqrt{\frac{k}{2m}}
\end{aligned}
$$
最大速さ \(v_{\text{最大}}\) は、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= A \omega_P
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 単振動の最大速さ: \(v_{\text{最大}} = A\omega\)
- 角振動数: \(\omega = \sqrt{k/M}\)
\(A = \displaystyle\frac{a}{3}\) と \(\omega_P = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{2m}}\) を代入し、さらに \(k = \displaystyle\frac{3mg}{a}\) を用います。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= \left(\frac{a}{3}\right) \sqrt{\frac{k}{2m}} \\[2.0ex]
&= \frac{a}{3} \sqrt{\frac{1}{2m}\left(\frac{3mg}{a}\right)} \\[2.0ex]
&= \frac{a}{3} \sqrt{\frac{3g}{2a}}
\end{aligned}
$$
\(\displaystyle\frac{a}{3}\) をルートの中に入れると \(\displaystyle\frac{a^2}{9}\) となるので、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= \sqrt{\frac{a^2}{9} \cdot \frac{3g}{2a}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{3a^2g}{18a}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{ag}{6}}
\end{aligned}
$$
単振動の速さは、振動の中心で最大になります。その大きさは「振幅の大きさ」と「揺れの速さ(角振動数)」を掛け合わせたものになります。振幅は(d)で、角振動数は(e)の周期から計算できるので、それらを掛け合わせることで最大速さを求めることができます。
主たる解法と完全に一致した結果が得られます。エネルギーの観点からも、運動学の観点からも同じ答えが導かれることが確認でき、多角的な理解が深まります。
(a) \(\displaystyle\frac{3mg}{a}\) (b) \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{a}{g}}\) (c) \(\displaystyle\frac{1}{3}a\) (d) \(\displaystyle\frac{1}{3}a\) (e) \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{2a}{3g}}\) (f) \(\sqrt{\displaystyle\frac{ag}{6}}\)
問(2)
思考の道筋とポイント
(g) 上向きに加速度 \(\alpha\)で運動するエレベーターの中でPが静止している状況を考えます。エレベーター内で観測すると、Pには下向きの慣性力 \(2m\alpha\) がはたらいているように見えます。この慣性力と重力、そしてばねの弾性力がつり合っています。
(h) ばね振り子の周期は \(T = 2\pi\sqrt{M/k}\) で与えられ、質量 \(M\) とばね定数 \(k\) のみで決まります。重力加速度や、一定の慣性力は、振動の中心の位置を変えるだけで、周期には影響しません。
この設問における重要なポイント
- 加速度運動する系(エレベーター)内での力のつり合いを考える。
- 慣性力を導入する。向きは観測系の加速度と逆向き、大きさは(物体の質量)\(\times\)(観測系の加速度)。
- ばね振り子の周期が、重力や一定の慣性力に依存しないことを理解している。
具体的な解説と立式
- (g) 加速度 \(\alpha\) の導出:エレベーターが上向きに加速度 \(\alpha\) で運動している。エレベーター内で物体P(質量 \(2m\))を見ると、Pにはたらく力がつりあっています。ばねの伸びは、最初のPQ全体のつり合いの伸びと同じ \(a\) です。「上向きの力 = 下向きの力の和」より、
$$
\begin{aligned}
ka &= 2mg + 2m\alpha
\end{aligned}
$$ - (h) 周期の比較:ばね振り子の周期は \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{\text{質量}}{\text{ばね定数}}}\) であり、重力加速度の大きさ(あるいは見かけの重力加速度の大きさ)には依存しません。したがって、エレベーター内でのPの振動周期は、(e)で求めた静止した地上でのP単独の振動周期 \(T_P\) と同じです。
使用した物理公式
- 力のつりあい(慣性力を含む)
- 慣性力: \(F_{\text{慣性力}} = M\alpha\)
- 単振動の周期: \(T=2\pi\sqrt{M/k}\)
- (g): \(ka = 2mg + 2m\alpha\) に、(a)で求めた \(k = \displaystyle\frac{3mg}{a}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\left(\frac{3mg}{a}\right)a &= 2mg + 2m\alpha \\[2.0ex]
3mg &= 2mg + 2m\alpha \\[2.0ex]
mg &= 2m\alpha
\end{aligned}
$$
加速度 \(\alpha\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
\alpha &= \frac{1}{2}g
\end{aligned}
$$ - (h): 周期は変わらないので、(e)の周期の1倍です。
(g) エレベーターが上にグンと加速すると、私たちは体がシートに押し付けられるように感じます。これが「慣性力」です。物体Pも同じように、下向きの慣性力を受けます。エレベーターの中にいる人から見ると、Pは静止しているので、ばねが上に引っ張る力と、P自身の重さ+下向きの慣性力の合計が釣り合っていることになります。この釣り合いの式からエレベーターの加速度を求めます。
(h) ばね振り子の揺れる速さ(周期)は、おもりの「重さ」ではなく「質量(物質そのものの量)」と、ばねの硬さだけで決まります。エレベーターが加速していて、見かけの重さが変わったとしても、おもり自体の質量とばねの硬さは変わらないので、揺れる速さ(周期)も変わらないのです。
(g) 加速度 \(\alpha = \displaystyle\frac{1}{2}g\)。このとき、Pにはたらく見かけの重力は \(2mg + 2m(\displaystyle\frac{1}{2}g) = 3mg\) となり、ばねの弾性力 \(ka = (\displaystyle\frac{3mg}{a})a = 3mg\) とつりあっています。物理的に整合性が取れています。
(h) 周期は1倍。これは鉛直ばね振り子の重要な性質であり、重力や一定の力が加わっても振動周期は変化しないという法則を再確認する問題です。
(g) \(\displaystyle\frac{1}{2}g\) (h) 1
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつりあいと単振動:
- 核心: この問題は、ばね振り子における「力のつり合いの位置が振動中心になる」という大原則を、様々な状況設定(質量の変化、加速度運動)で応用する問題です。静的な「力のつり合い」と動的な「単振動」の関係性を深く理解しているかが問われます。
- 理解のポイント:
- 静的なつり合い: まず、物体が静止している状態での力のつり合いを考えます。上向きの力(弾性力)と下向きの力(重力、慣性力)の和が等しいという式を立てます。これにより、ばね定数や振動中心の位置が決定されます。
- 動的な振動: 物体が振動しているとき、その運動は「力のつり合いの位置」を中心とした単振動になります。
- 周期の普遍性: 単振動の周期 \(T=2\pi\sqrt{M/k}\) は、振動する物体の質量 \(M\) とばね定数 \(k\) のみで決まります。重力や一定の慣性力は振動中心をずらすだけで、周期には影響を与えません。
- 振幅の決定: 振幅は「振動中心から振動の端までの距離」です。問題の条件(「静かに切り離す」など)から、振動の端がどこになるかを見極めることが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 台上で振動する物体: ばねで繋がれた物体が、動く台の上で振動する問題。台から見た運動を考えるか、床から見た運動を考えるかでアプローチが変わります。
- 斜面上のばね振り子: 重力の斜面成分と弾性力がつりあう点が振動中心になります。
- 液体中のばね振り子: 浮力や抵抗力が加わる場合。浮力は一定の力なので周期に影響しませんが、抵抗力は速さに依存するため減衰振動になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 誰の視点で見るか?(座標系の設定): (2)のエレベーターの問題のように、加速度運動する系が関わる場合、「静止した床から見る」か「加速するエレベーターの中から見る(慣性力を導入)」かを選択します。後者の方が、力のつり合いとして考えられるため、多くの場合で立式が容易になります。
- 何が変化して、何が不変か?: 問題の途中で条件が変わる場合((1)でQを切り離すなど)、質量、振動中心、振幅、周期、エネルギーのうち、何が変化し、何が保存されるのかを整理することが重要です。Qを切り離した直後、位置は連続的ですが、つり合いの位置は不連続に変化します。
- エネルギー保存則の活用: (1)(f)のように、速さを問われた場合はエネルギー保存則が有効な選択肢となります。特に「単振動のエネルギー保存則」(\(\frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}Mv^2 + \frac{1}{2}kx^2\))は、重力ポテンシャルを考えずに済むため、計算を簡略化できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 振動中心の誤認:
- 誤解: ばねの自然長の位置を常に振動中心だと考えてしまう。
- 対策: 鉛直ばね振り子や斜面上のばね振り子では、必ず「弾性力と他の力(重力など)がつりあう位置」が振動中心になります。問題を解く前に、まず力のつり合いの位置を計算する癖をつけましょう。
- 振幅の計算ミス:
- 誤解: (1)(d)で、Qを切り離した後のPの振動の振幅を、もとのつり合いの伸び \(a\) だと勘違いしてしまう。
- 対策: 振幅はあくまで「新しい振動中心」と「振動の端」との距離です。「静かに」物体を離す、切り離すといった操作が行われた場合、その瞬間の位置が振動の端(速さ\(0\)の点)になります。新しい振動中心を求めた後、その位置と端との距離を計算するという手順を徹底しましょう。
- 周期の公式の質量の混同:
- 誤解: (1)(b)と(e)で、振動する物体の質量が \(3m\) から \(2m\) に変化したことを見落とし、同じ周期を用いてしまう。
- 対策: 周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{M/k}\) の \(M\) は、実際に振動している物体の質量です。状況が変わったら、どの物体が振動しているのかを再確認することが重要です。
- 慣性力の向き:
- 誤解: 慣性力の向きを、観測系の加速度と同じ向きにしてしまう。
- 対策: 慣性力は「見かけの力」であり、その向きは常に「観測系(エレベーターなど)の加速度と逆向き」です。エレベーターが上に加速するなら、慣性力は下向きにはたらきます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつりあいの式:
- 選定理由: 問題に「つり合った」という記述がある場合や、「振動中心」を求める必要がある場合に使用します。静止状態を記述する最も基本的な法則です。
- 適用根拠: (1)(a), (c)では物体が静止しており、(2)(g)では加速系内で静止しているため、力の総和がゼロになるという条件を適用できます。
- 単振動の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{M/k}\):
- 選定理由: 問題が「周期」を問うているため、必須の公式です。
- 適用根拠: ばねにつながれた物体が、復元力(\(F=-Kx\))を受けて運動している状況。この問題では、重力を含めた合力を考えても、つり合いの位置からの変位 \(x\) に対して \(F = -kx\) という形の復元力がはたらくため、単振動とみなせます。
- 単振動のエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}Mv_{\text{最大}}^2\):
- 選定理由: (1)(f)で「振動中心を通過するときの速さ(最大速さ)」を問われているため。エネルギーの関係から速さを求める際に非常に強力なツールです。
- 適用根拠: 単振動では、振動中心を基準とした位置エネルギーと運動エネルギーの和が保存されるという法則に基づきます。端(\(v=0\))でのエネルギーが、中心(\(v=v_{\text{最大}}\))でのエネルギーに等しいという関係式を立てます。
- 慣性力 \(F = M\alpha\):
- 選定理由: (2)のように、加速度運動する座標系(エレベーター)の上で物体の運動を考える場合に必要となります。
- 適用根拠: 非慣性系(加速系)でニュートンの運動法則を成り立たせるために導入される見かけの力。これを導入することで、加速系内でも「力のつりあい」として静止状態を扱うことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の整理:
- 特に注意すべき点: この問題では、伸びを表す \(a\) と加速度を表す \(\alpha\) など、似た文字や複数の意味を持つ文字が登場します。どの文字が何を指しているのか、常に意識して混同しないように注意が必要です。
- 日頃の練習: 問題文の条件を自分で図に書き込み、定義を明確にする。例えば、つり合いの位置1、つり合いの位置2などを図中に明記し、それぞれの伸びを \(a\), \(l\) などと区別して書き込むと混乱が防げます。
- 段階的な代入:
- 特に注意すべき点: (1)(f)の計算のように、\(k\) や \(A\) の値を代入する場面があります。一気に代入すると式が複雑になりがちです。
- 日頃の練習: まずは文字式のまま \(v_{\text{最大}}\) を \(k, m, A\) で表し、最後の段階で \(k=\frac{3mg}{a}\) や \(A=\frac{a}{3}\) を代入するなど、計算の順序を工夫すると見通しが良くなり、ミスが減ります。
- 分数の計算:
- 特に注意すべき点: 周期の計算などで、平方根の中に分数が入る「分数分の分数」の形(\(\sqrt{\frac{3m}{3mg/a}}\)など)が頻出します。分母と分子を間違えやすいポイントです。
- 日頃の練習: 逆数を掛ける操作を丁寧に行う。\(\frac{A}{B/C} = A \times \frac{C}{B}\) のように、一段階挟んで計算する癖をつけると確実です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (c) 新しいつり合いの位置: \(l = \frac{2}{3}a\)。Qを切り離して軽くなったので、伸びがもとの \(a\) より小さくなるのは妥当です。
- (e) 新しい周期: \(T_P = 2\pi\sqrt{\frac{2a}{3g}}\)。もとの周期 \(T_{PQ} = 2\pi\sqrt{\frac{a}{g}}\) と比較すると、\(\sqrt{2/3} \approx 0.816\) 倍となり、軽くなった分だけ周期が短くなっている。これは物理的に正しいです。
- (g) 加速度 \(\alpha\): \(\alpha = \frac{1}{2}g\)。正の値なので、エレベーターは上向きに加速しているという設定と一致します。もし負の値が出たら、計算ミスか前提の勘違いを疑います。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もしQを切り離さなかったら?: (c)で \(l=a\) となり、つり合いの位置は変わらない。 (d)で振幅は \(A=0\) となり、振動しない。当然の結果と一致します。
- もしエレベーターが自由落下したら?: (g)で \(\alpha = -g\) となります。このとき、エレベーター内の見かけの重力は \(2mg + 2m(-g) = 0\) となり、無重力状態になります。ばねは自然長に戻るはずです。
- (h) 周期: 鉛直ばね振り子の周期が重力加速度 \(g\) に依存しないことは、非常に重要な性質です。例えば、月面(重力が約1/6)で同じ実験をしても、振動の周期は地球上と全く同じになります(振動中心はずれます)。この知識と照らし合わせても、答えが1倍であることは妥当です。
問題47 (名城大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ばねで繋がれた二つの物体AとBの運動に関するものです。物体Aは鉛直方向に単振動を行い、その影響で床の上にある物体Bが床から離れるかどうか、という条件を考察します。力のつり合い、単振動の性質、そして作用・反作用の法則を正しく理解し適用することが鍵となります。
- 物体Aと物体Bの質量:ともに \(m\)
- ばねは軽い(質量を無視できる)
- Aは滑らかな円筒状ガードにより鉛直方向に運動
- Bは床の上に置かれている
- Aが静止する位置O:ばねが自然長より \(a\) だけ縮んだ位置
- 重力加速度の大きさ:\(g\)
- (1) ばねのばね定数 \(k\)。床がBから受ける力の大きさ \(N\)。
- (2) AをO点からさらに \(a\) だけ下のP点まで押し下げて静かに放した後のAの振動について:
- (ア) Aの速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\)
- (イ) O点を原点とし鉛直下向きを正とする \(x\) 軸をとったときの、Aの位置 \(x\) の時間 \(t\) に対する関数 \(x(t)\)
- (3) AをO点から押し下げる距離を \(b\) としたとき、振動中にBが床から離れないための \(b\) の条件。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1)の別解: AとBを一体とみなす解法
- 主たる解法が、AとBそれぞれの力のつりあいを考えるのに対し、別解では、まずAとBを一体の物体(質量\(2m\))とみなし、床が受ける垂直抗力を考えます。これにより、計算の順序や見通しが異なるアプローチを学びます。
- 問(2)(ア)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
- 主たる解法が、単振動の公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) を用いるのに対し、別解では、重力による位置エネルギーと弾性エネルギーを含めた、より基本的な力学的エネルギー保存則を用いて解きます。
- 問(1)の別解: AとBを一体とみなす解法
- 上記の別解が有益である理由
- 視点の多様性: 「個々の物体」に着目する視点と、「系全体」に着目する視点の両方を学ぶことができます。また、運動学的な公式から解く方法と、エネルギーの観点から解く方法の両方を学ぶことで、単振動という現象を多角的に理解できます。
- 計算の効率化と基本法則の確認: 問(1)の別解は計算を簡略化するテクニックとして、問(2)の別解はより基本的な法則に立ち返る思考法として有益です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは完全に一致します。
この問題は、ばね振り子と力のつり合い、そして単振動の概念を組み合わせた、高校物理の力学分野における複合的な問題です。特に、2つの物体が相互作用し、片方が床から離れる条件を考える(3)は、物理法則の深い理解と応用力が試されます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- フックの法則: ばねの弾性力 \(F = k \times (\text{変形量})\)
- 力のつり合い: 物体が静止している、または加速度0で運動している場合、働く力の合力は0。
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 単振動の条件と性質: 復元力が変位に比例し変位と逆向き (\(F = -Kx\))。振動中心、振幅、角振動数 \(\omega\)、周期 \(T\)。
- 力学的エネルギー保存則: 保存力のみが仕事をする場合、力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は一定。
- 作用・反作用の法則: 2物体間に力が働くとき、互いに大きさが等しく逆向きの力を及ぼし合う。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず各物体にかかる力を正確に把握し、力のつり合いや運動方程式を立てます。
- 単振動については、振動中心、振幅、角振動数を特定し、エネルギー保存則や単振動の公式を利用します。
- 床から離れる条件は、垂直抗力が0になる瞬間として捉えます。
問(1)
思考の道筋とポイント
物体Aと物体B、それぞれに働く力を図示し、つり合いの式を立てます。ばねが「縮んでいる」状態にあるとき、物体Aには上向きの弾性力、物体Bには(ばねを介して)下向きの力が作用することを正確に理解することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 各物体に働く力を漏れなく図示し、その向きを正しく判断すること。
- ばねの弾性力は、Aに対しては上向き、Bに対しては下向きに働くこと。
- 作用・反作用の法則により、ばねがAを押す力とばねがBを押す力の大きさは等しい(\(ka\))。
具体的な解説と立式
- ばね定数 \(k\) の導出:物体Aは、位置Oで静止しています。Aにはたらく力は、鉛直下向きの重力 \(mg\) と、鉛直上向きのばねの弾性力 \(ka\) です。「上向きの力 = 下向きの力」より、
$$
\begin{aligned}
ka &= mg \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$ - 床がBから受ける力の大きさ \(N\) の導出:床がBから受ける力は、Bが床から受ける垂直抗力と作用・反作用の関係にあります。Bにはたらく力は、鉛直下向きの重力 \(mg\)、鉛直下向きのばねの弾性力 \(ka\)、鉛直上向きの床からの垂直抗力 \(N\) です。「上向きの力の和 = 下向きの力の和」より、
$$
\begin{aligned}
N &= mg + ka \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- フックの法則
- 力のつりあい
- ばね定数 \(k\):式①より、
$$
\begin{aligned}
k &= \frac{mg}{a}
\end{aligned}
$$ - 床がBから受ける力の大きさ \(N\):式②に、式①の関係 \(ka=mg\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
N &= mg + (mg) \\[2.0ex]
&= 2mg
\end{aligned}
$$
【ばね定数】空中で静止しているAは、重力(下向き)とばねの力(上向き)がつりあっています。この関係から、ばねの硬さ(ばね定数)がわかります。
【床が受ける力】床の上のBは、自身の重力(下向き)と、ばねに上から押される力(下向き)の両方を受けています。床は、これらの合計と同じ大きさの力でBを支えています(垂直抗力)。
ばね定数は \(k = \displaystyle\frac{mg}{a}\)、床がBから受ける力の大きさは \(N = 2mg\) です。
AとBを一体として考えると全体の質量は \(2m\) であり、それらを支えるためには床から \(2mg\) の力が必要であるという直感とも一致しており、物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
AとBを質量 \(2m\) の一つの物体とみなします。この一体の物体は、床からの垂直抗力 \(N\) と、全体の重力 \(2mg\) がつりあって静止しています。
この設問における重要なポイント
- 複数の物体を一つの「系」として捉え、系全体での力のつりあいを考える。
具体的な解説と立式
AとBを一体(質量 \(2m\))とみなすと、この系にはたらく鉛直方向の力は、全体の重力 \(2mg\)(下向き)と床からの垂直抗力 \(N\)(上向き)です。
「上向きの力 = 下向きの力」より、
$$
\begin{aligned}
N &= 2mg
\end{aligned}
$$
ばね定数 \(k\) は、A単独の力のつりあい \(ka=mg\) から求める必要があります。
使用した物理公式
- 力のつりあい
主たる解法と同じです。
床の気持ちになってみると、AとBが乗っているので、合計 \(2m\) の質量を支えなければなりません。したがって、床が及ぼす力は \(2mg\) となります。
主たる解法と同じ結果が得られます。
問(2)
思考の道筋とポイント
(ア) 物体Aは、つり合いの位置O点を中心として単振動を行います。単振動において、物体の速さが最大になるのは振動中心を通過するときです。この最大速度は、公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\)(\(A\):振幅, \(\omega\):角振動数)を用いて求めることができます。
(イ) 単振動における物体の位置 \(x\) の時間 \(t\) による変化は、三角関数(\(\cos\) または \(\sin\))で表されます。初期条件(\(t=0\) での位置と速度)と座標軸の取り方を考慮して、適切な式を導きます。
この設問における重要なポイント
- 単振動の振動中心がどこか(力のつり合いの位置O点)、振幅がいくらか(O点からP点までの距離 \(a\))を正しく把握すること。
- 角振動数 \(\omega = \sqrt{k/m}\) を計算し、それを用いて \(v_{\text{最大}}\) や \(x(t)\) を表すこと。
- \(x(t)\) の式を立てる際、\(t=0\) で物体がどの位置にあるかという初期条件を正確に反映させること。
具体的な解説と立式
- (ア) Aの速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\)AはO点を中心に、振幅 \(A=a\) で単振動します。角振動数 \(\omega\) は、
$$
\begin{aligned}
\omega &= \sqrt{\frac{k}{m}}
\end{aligned}
$$
速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\) は、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= A\omega
\end{aligned}
$$ - (イ) Aの位置 \(x\) の時間変化 \(x(t)\)O点を原点 (\(x=0\))、鉛直下向きを正とします。\(t=0\) で、AはP点(\(x=a\))で静かに放されます。これは、\(t=0\) で正の最大変位(振幅の位置)にあり初速度が0の場合なので、運動は \(x(t) = A \cos(\omega t)\) の形で表されます。
使用した物理公式
- 単振動の角振動数: \(\omega = \sqrt{k/m}\)
- 単振動の速さの最大値: \(v_{\text{最大}} = A\omega\)
- 単振動の変位の式: \(x(t) = A \cos(\omega t)\)
- (ア):角振動数 \(\omega\) に \(k = \displaystyle\frac{mg}{a}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\omega &= \sqrt{\frac{mg/a}{m}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{g}{a}}
\end{aligned}
$$
振幅 \(A=a\) なので、速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\) は、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= A\omega \\[2.0ex]
&= a \sqrt{\frac{g}{a}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{a^2 \cdot \frac{g}{a}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{ga}
\end{aligned}
$$ - (イ):振幅 \(A=a\)、角振動数 \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{g}{a}}\) を変位の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
x(t) &= a \cos\left(\sqrt{\frac{g}{a}}t\right)
\end{aligned}
$$
(ア) 物体Aは、つり合いの位置O点を中心にして、一番下のP点と一番上の点の間を行ったり来たりする単振動をします。真ん中のO点を通る時に速さが最大になります。その速さは「振幅 \(\times\) 角振動数」で求められます。
(イ) Aの位置は、時間とともにコサインカーブを描いて変化します。\(t=0\) で一番下の \(x=a\) からスタートし、周期的に上下運動します。
(ア) Aの速さの最大値は \(v_{\text{最大}} = \sqrt{ga}\) です。
(イ) Aの位置 \(x\) の時間変化は \(x(t) = a \cos\left(\sqrt{\displaystyle\frac{g}{a}}t\right)\) です。
これらの結果の次元(単位)は物理的に正しく、初期条件も満たしています。
思考の道筋とポイント
Aの運動において、働く力は保存力である重力とばねの弾性力のみなので、Aの力学的エネルギーは保存されます。振動の始点であるP点と、速さが最大となる振動中心O点で力学的エネルギー保存則を立てます。
この設問における重要なポイント
- 位置エネルギーの基準点を明確にする(例:自然長の位置)。
- 各点での運動エネルギー、弾性エネルギー、重力ポテンシャルエネルギーを正しく評価する。
具体的な解説と立式
ばねの自然長の位置を、重力による位置エネルギーの基準(高さ0)とします。
O点は高さ \(-a\)、P点は高さ \(-2a\) と表せます。
- P点でのエネルギー: 速さ \(0\)、ばねの縮み \(2a\)。
$$
\begin{aligned}
E_P &= 0 – mg(2a) + \frac{1}{2}k(2a)^2
\end{aligned}
$$ - O点でのエネルギー: 速さ \(v_{\text{最大}}\)、ばねの縮み \(a\)。
$$
\begin{aligned}
E_O &= \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 – mg(a) + \frac{1}{2}k(a)^2
\end{aligned}
$$
エネルギー保存則 \(E_P = E_O\) より、
$$
\begin{aligned}
-2mga + 2ka^2 &= \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 – mga + \frac{1}{2}ka^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
上式に \(ka=mg\) を代入して整理します。
$$
\begin{aligned}
-2mga + 2(mg)a &= \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 – mga + \frac{1}{2}(mg)a \\[2.0ex]
0 &= \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 – \frac{1}{2}mga
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 &= \frac{1}{2}mga \\[2.0ex]
v_{\text{最大}}^2 &= ga
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= \sqrt{ga}
\end{aligned}
$$
主たる解法と完全に一致した結果が得られます。
問(3)
思考の道筋とポイント
物体Bが床から離れるのは、Bに働く床からの垂直抗力 \(N_B\) が \(0\) になるときです。Aの振動に伴い、ばねの変形量が変化し、それが物体Bに及ぼす力も変化します。\(N_B\) が最も小さくなるのは、ばねがBを最も強く上向きに引くとき、すなわち、ばねが最も伸びるときです。この状態がAの振動中に起こり、\(N_B=0\) となる瞬間の振幅 \(b\) の条件を導き出します。
この設問における重要なポイント
- 物体Bが床から離れる瞬間は、垂直抗力 \(N_B\) が \(0\) になる瞬間である。
- Bが最も離れやすくなるのは、Aが振動の最上点にあるときである。
- O点は「力のつり合いの位置」であり、「ばねの自然長の位置」ではない。
具体的な解説と立式
AをO点から距離 \(b\) だけ押し下げて放すので、AはO点 (\(x=0\)) を中心に振幅 \(b\) で単振動します。Aの変位 \(x\) の範囲は \(-b \le x \le b\) です。
Bが床から離れる可能性があるのは、ばねが伸びてBを上向きに引くときです。
Bにはたらく垂直抗力 \(N_B\) が最も小さくなるのは、ばねが最も伸びる、すなわちAが振動の最上点 \(x=-b\) に達したときです。
この位置でBが床から離れないためには、\(N_B \ge 0\) である必要があります。
Aが最上点 \(x=-b\) にいるとき、ばねは自然長の位置(O点から \(a\) 上方)から測って \(b-a\) だけ伸びています(ただし \(b>a\) の場合)。
このとき、ばねがBを上向きに引く力は \(k(b-a)\) です。
Bにはたらく力のつりあいを考えます。上向きの力(垂直抗力 \(N_B\)、弾性力 \(k(b-a)\))と下向きの力(重力 \(mg\))がつりあうので、
$$
\begin{aligned}
N_B + k(b-a) &= mg
\end{aligned}
$$
よって、垂直抗力は、
$$
\begin{aligned}
N_B &= mg – k(b-a)
\end{aligned}
$$
Bが床から離れない条件は \(N_B \ge 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
mg – k(b-a) \ge 0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のつり合い
- フックの法則
\(mg – k(b-a) \ge 0\) に、問(1)で得られた関係 \(mg=ka\) を用います。
$$
\begin{aligned}
ka – k(b-a) &\ge 0 \\[2.0ex]
k(a – (b-a)) &\ge 0 \\[2.0ex]
k(2a – b) &\ge 0
\end{aligned}
$$
ばね定数 \(k\) は正なので、
$$
\begin{aligned}
2a – b &\ge 0 \\[2.0ex]
b &\le 2a
\end{aligned}
$$
物体Bが床からプカッと浮き上がらないようにするには、Aの動きの幅(振幅 \(b\))をどれくらいまでに抑えれば良いか、という問題ですね。
Bが浮き上がりそうになるのは、Aが一番高い位置まで上がって、ばねがBを一番強く上に引っ張るときです。この「ばねがBを引く力」が「Bの重さ」を超えなければ、Bは浮き上がりません。この限界の条件を数式にして、振幅 \(b\) の最大値を求めます。
Aの振動中にBが床から離れないためには、振幅 \(b\) が \(2a\) 以下、すなわち \(b \le 2a\) である必要があります。
もし \(b=2a\) の場合、Aの最上点は \(x=-2a\)。このときばねは自然長から \(2a-a=a\) だけ伸びます。ばねがBを引く力は \(ka=mg\) となり、Bの重力とちょうどつりあうため、垂直抗力は \(0\) になります。これより \(b\) が大きいとBは浮き上がります。したがって、この条件は物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 連成振動と接触条件:
- 核心: この問題の核心は、物体Aの単振動という「動的な運動」が、ばねを介して物体Bの「静的な条件(床との接触)」にどのような影響を及ぼすかを分析することです。単振動の知識と、力がつりあう条件、そして物体が面から離れる条件(垂直抗力=0)を統合して考える必要があります。
- 理解のポイント:
- 力の媒介者としてのばね: ばねはAとBをつなぐ力の媒介者です。Aの運動によってばねの長さが変わると、ばねがBに及ぼす力(押す力または引く力)も変化します。
- 振動中心の特定: まず、A単体での力のつり合いを考え、振動の中心がどこになるかを正確に特定します。この問題では、重力と弾性力がつりあうO点が振動中心です。
- 「離れる」の物理的翻訳: 「物体Bが床から離れる」という現象を、「Bが床から受ける垂直抗力 \(N\) が \(0\) になる」という物理的な条件式に翻訳することが最も重要です。
- 限界状態の考察: Bが最も離れやすくなるのはいつか?を考えます。それは、ばねがBを最も強く上向きに引く瞬間、すなわちAが振動の最上点に達したときです。この「限界状態」で条件式を立てることが問題を解く鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 重ねた物体の単振動: 水平な台の上に乗った物体が、台と一緒に単振動するとき、滑らずに一体で運動するための条件を問う問題。本問の「離れない条件」が「垂直抗力 \(\ge 0\)」であるのに対し、この場合は「静止摩擦力 \(\le\) 最大摩擦力」という条件式を立てます。構造が非常によく似ています。
- エレベーター内のばね振り子: エレベーターの天井や床にばねが取り付けられている問題。慣性力を考慮することで、見かけの重力が変化し、振動中心がずれます。
- 2物体ばね振り子: 2つの物体がばねの両端につながれ、水平な床の上や宇宙空間で振動する問題。この場合は、系全体の「重心の運動」と、2物体間の「相対運動」に分けて考えると見通しが良くなります。
- 初見の問題での着眼点:
- 誰に注目し、どの瞬間に注目するか?: この問題では、(1)では静止時のAとB、(2)では振動するA、(3)ではAが最上点にいる瞬間のB、というように、注目すべき物体と時間(状況)が設問ごとに異なります。まず「誰の」「いつの」話をしているのかを明確にすることが第一歩です。
- 座標軸と原点の賢い設定: 単振動の問題では、特別な理由がない限り「振動中心」を原点に取るのが定石です。これにより、運動を表す式が \(x = A \cos(\omega t)\) や \(x = A \sin(\omega t)\) のような最も単純な形になり、計算ミスを防げます。
- 「系全体」で見る視点: (1)の別解のように、複数の物体を一つの「系」として捉えると、内力(この場合はばねの力)を考えずに外力(重力、垂直抗力)だけで力のつり合いを考えられる場合があります。これにより、計算が簡略化できることがあります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 振動中心と自然長の位置の混同:
- 誤解: ばねの自然長の位置を、単振動の振動中心だと勘違いしてしまう。
- 対策: 重力が関わる鉛直方向のばね振り子では、必ず「重力と弾性力がつりあう位置」が振動中心になります。問題を解き始める前に、まず力のつり合いの式を立てて振動中心を確定させる習慣をつけましょう。
- ばねの力の向きの勘違い:
- 誤解: ばねが縮んでいるのに、Bを上向きに引く力として計算してしまう。あるいは、Aが最上点に来たときのばねの力が常に引く力だと思い込む。
- 対策: ばねの力は常に「自然長に戻ろうとする向き」にはたらきます。縮んでいれば両端を押し、伸びていれば両端を引きます。図を描き、ばねが「縮んでいるか」「伸びているか」「自然長か」を明確にして、力の矢印を正しく記入することが不可欠です。
- 振幅の定義の誤解:
- 誤解: (3)で、Aの最上点の位置を「自然長から \(b\) 上」などと、基準点を間違えて考えてしまう。
- 対策: 振幅は常に「振動中心からの最大変位」です。この問題では振動中心がO点なので、振幅 \(b\) の運動では、最上点はO点から \(b\) 上方、最下点はO点から \(b\) 下方となります。基準点を明確に意識しましょう。
- 作用・反作用の主語の混同:
- 誤解: (1)で「床がBから受ける力」を問われているのに、「Bが床から受ける力(垂直抗力)」を答えて満足してしまう(結果的に大きさは同じだが、論理が不完全)。
- 対策: 「AがBに及ぼす力」と「BがAに及ぼす力」のように、力の主語と目的語を常に意識する癖をつけましょう。作用・反作用の法則は、主語と目的語が入れ替わった一対の力に関する法則であることを再確認してください。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつりあいの式 (\(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{0}\)):
- 選定理由: (1)で物体が「静止した」という状況、(3)でBが「離れない」という限界状態の力の関係を記述するために使用します。
- 適用根拠: 物体が静止している(加速度が0)場合、ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) は \(F=0\) となり、力のつり合いの式に帰着します。
- 単振動の公式 (\(v_{\text{最大}}=A\omega\), \(x=A\cos\omega t\)):
- 選定理由: (2)で「速さの最大値」や「位置の時間変化」といった、単振動の運動そのものの詳細(運動学的情報)を問われているため。
- 適用根拠: 物体Aに働く合力(重力+弾性力)が、つり合いの位置O点からの変位 \(x\) に対して \(F=-kx\) という形の復元力になることが確認できるため、Aの運動は単振動であると断定できます。
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: (2)(ア)の別解として。速さと位置の関係を問う問題では、運動方程式を時間で積分する代わりに、エネルギー保存則を用いると計算が簡潔になる場合が多いです。
- 適用根拠: Aに働く力(重力、弾性力)がともに保存力であり、非保存力(摩擦や空気抵抗など)が仕事をしないため、力学的エネルギーが保存されます。
- 垂直抗力 \(N=0\) の条件式:
- 選定理由: (3)で「床から離れる」という物理現象を、数式で表現するために必要です。
- 適用根拠: 垂直抗力は、面が物体を押し返す力です。物体が面から離れるということは、その接触が失われ、力が働かなくなることを意味します。その限界点が、力がちょうど0になる \(N=0\) の瞬間です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の管理:
- 特に注意すべき点: 座標軸の向き((2)(イ)では下向きが正)、力の向き、変位の向きを常に意識することが極めて重要です。(3)でAの最上点は変位 \(x=-b\) となり、このときのばねの伸びは \(b-a\) となるなど、符号や文字の扱いが複雑になりがちです。
- 日頃の練習: 図を大きく描き、座標軸、原点、力のベクトル、変位ベクトルをすべて書き込む習慣をつけましょう。式を立てる際は、図と式を常に見比べて、符号が物理的な状況と合っているかを確認します。
- 関係式の積極的な利用:
- 特に注意すべき点: (3)の計算で \(mg – k(b-a) \ge 0\) を解く際に、\(k\) と \(mg\) が混在していると式が複雑に見えます。
- 日頃の練習: (1)で得られた関係式 \(mg=ka\) を積極的に利用する癖をつけましょう。これにより、文字の種類が減り、式がシンプルになって見通しが良くなります。物理の問題では、前の設問で導いた結果が後の設問を解くための重要な鍵になることが非常に多いです。
- 不等式の扱い:
- 特に注意すべき点: (3)の \(k(2a-b) \ge 0\) から \(2a-b \ge 0\) を導く際には、\(k>0\) であることを論理的に確認する必要があります。
- 日頃の練習: 不等式の両辺を文字式で割ったり掛けたりするときは、その式の符号を必ず確認する習慣をつけましょう。ばね定数 \(k\) や質量 \(m\) は常に正なので問題ありませんが、変位 \(x\) など負の値を取りうる文字の場合は特に注意が必要です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) \(N=2mg\): AとBの合計の重さと同じです。床がAとBの全体を支えていると考えれば、直感的に正しい結果です。
- (2)(ア) \(v_{\text{最大}}=\sqrt{ga}\): 次元の確認をします。\(g\) は加速度 (\(\text{m/s}^2\))、\(a\) は長さ (\(\text{m}\))。\(ga\) の単位は \(\text{m}^2/\text{s}^2\)。その平方根は \(\text{m/s}\) となり、速さの単位と一致します。
- (3) \(b \le 2a\):
- もし \(b=a\) なら((2)の状況)、Aの最上点は自然長の位置です。このときばねの力は0なので、Bには重力しかかからず、当然床から離れません。\(a \le 2a\) なので条件を満たしています。
- もし \(b=2a\) なら、Aの最上点は自然長から \(a\) 上方の位置です。このときばねは \(a\) 伸び、Bを \(ka=mg\) の力で引き上げます。これはBの重力とちょうどつりあうため、垂直抗力が0になる限界点です。物理的に妥当です。
- もし \(b\) が非常に小さい (\(b \to 0\)) なら、Aはほとんど振動せず、Bが離れるはずがありません。\(b \le 2a\) はこの状況も正しく含んでいます。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もしBが床に接着されていたらどうなるか? (3)の条件は不要になり、Aはどんなに大きな振幅でも(ガードにぶつからない限り)単振動を続けることができます。
- もし重力がなかったらどうなるか? つり合いの位置は自然長の位置になります。問題設定自体が変わりますが、思考実験として考えてみる価値はあります。この場合、Aは自然長の位置を中心に振動し、Bが離れる条件は、ばねがBを引く力 \(kb\) がBの重力 \(mg\)(もし重力だけ復活させたら)以上になるとき、つまり \(kb \ge mg\) となるでしょう。
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問題48 (千葉大+学習院大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、傾角\(30^\circ\)の滑らかな斜面上で、ばねに繋がれた小球Aと、斜面を滑り降りてくる小球Bとの弾性衝突、そしてその後の各小球の運動を扱う力学の総合問題です。力学的エネルギー保存則、運動量保存則、単振動といった複数の重要な物理概念が絡み合っています。
- 斜面の傾角: \(\theta = 30^\circ\)
- 斜面は滑らか(摩擦なし)
- 小球A: 質量 \(M\)、ばね(ばね定数 \(k\))で壁に結ばれ、初期位置は原点 (\(x=0\)) で静止(この位置がばねの自然長)。
- 小球B: 質量 \(m\)。重要な条件として \(m<M\)。
- Bの初期状態: Aから距離 \(d\) だけ離れた位置で静かに置かれる(初速度\(0\))。
- 衝突: AとBは弾性衝突(反発係数 \(e=1\))。
- 座標軸: 斜面に平行に \(x\) 軸、Aの初期位置(自然長位置)を原点 (\(x=0\))、斜面右下向きが正。
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
- (1) 衝突直前のBの速度 \(u\)。
- (2) 衝突直後のAの速度 \(v_A\) とBの速度 \(v_B\)。
- (3) 衝突後、Aが達する最下点の座標 \(x_0\) を、\(v_A, M, k\) を用いて表す。
- (4) Aが \(x = \displaystyle\frac{1}{2}x_0\) の位置を通過するときの速さ \(w\) を、\(v_A\) を用いて表す。
- (5) Aが初めて原点に戻ったときに、Bと2回目の衝突が起こるための初期距離 \(d\) を、\(M, m, k, g\) を用いて表す。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1)の別解: 運動方程式と等加速度直線運動の公式を用いる解法
- 主たる解法がエネルギーの観点から解くのに対し、別解では力の観点から運動方程式を立て、物体の運動そのものを追跡します。
- 問(2)の別解: 重心系を利用する解法
- 主たる解法が実験室系(静止した観測者の視点)で2つの保存則を連立するのに対し、別解では重心という特殊な視点に移ることで、衝突現象をよりシンプルに捉え直します。
- 問(3)の別解: 単振動の運動方程式を解く解法
- 主たる解法がエネルギー保存則から振幅を求めるのに対し、別解では単振動の運動方程式を立て、その数学的な解から振幅を導出します。
- 問(4)の別解: 単振動の速度と変位の関係式を用いる解法
- 主たる解法がエネルギー保存則をその都度立式するのに対し、別解ではエネルギー保存則から導かれる単振動の便利な公式を直接適用します。
- 問(5)の別解: Bの運動を最高点までの往復運動として捉える解法
- 主たる解法が変位の公式を代数的に解くのに対し、別解では運動の対称性を利用し、最高点までの時間から往復時間を求めるという、より物理的なイメージに基づいたアプローチを取ります。
- 問(1)の別解: 運動方程式と等加速度直線運動の公式を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 多角的な視点の獲得: エネルギー保存則と運動方程式、実験室系と重心系など、同じ現象を異なる物理法則や視点から分析する能力が養われます。
- 物理モデルの深化: 重心系の運動の単純さや、単振動の数学的構造(微分方程式の解)といった、より深い物理モデルへの理解が促進されます。
- 解法の選択肢の拡大: 問題の特性に応じて、最も効率的または直感的な解法を選択する判断力が身につきます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは、斜面上の弾性衝突と、その後のばねによる単振動を組み合わせた力学の総合問題です。力学的エネルギー保存則、運動量保存則、単振動といった複数の重要な物理概念がどのように連携するかを理解することが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 保存力(本問では重力とばねの弾性力)のみが仕事をする場合に、運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定に保まれます。
- 運動量保存則: 外力が働かない系(または、衝突のような極めて短い時間では内力に比べて無視できる系)では、系の全運動量は保存されます。
- 弾性衝突 (反発係数 \(e=1\)): 運動エネルギーが保存される衝突です。運動量保存則と合わせて、衝突後の速度を決定するのに用います。
- 単振動: ばねに繋がれた物体が、つり合いの位置を中心に復元力を受けて行う周期的な往復運動です。そのエネルギーや周期に関する理解が必要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、小球Bが小球Aに衝突するまでの運動を、力学的エネルギー保存則を用いて解析します。
- 次に、AとBの弾性衝突を、運動量保存則と反発係数の式を用いて解析します。
- 衝突後のAの運動(単振動)とBの運動(等加速度直線運動)を、それぞれ適切な物理法則を用いて追跡します。
- 最後に、2回目の衝突が起こるための時間的な条件を立式し、問われている初期条件を導出します。