「良問の風」攻略ガイド(46〜50問):重要問題の解き方と物理の核心をマスター!

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問題46 (高知大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

こんにちは!この問題は、ばね振り子の基本的な性質から、途中で質量が変化する場合の振動、さらには加速度運動するエレベーターの中での振動と、ステップアップしていく構成になっていますね。一つ一つの物理現象を丁寧にひも解いていきましょう。特に(1)の最初の伸びを表す文字 \(a\) と、(2)のエレベーターの加速度を表す文字 \(a\) が同じである点に注意しつつ、混乱しないように解説していきますね。

ばねの下端に物体P(質量 \(2m\))と物体Q(質量 \(m\))を接合したものを吊るし、つり合い状態からQを切り離した後のPの単振動、およびPだけを吊るしたばねを加速度運動するエレベーター内に持ち込んだ場合のつり合いと振動について考察する問題です。

与えられた条件
  • 物体Pの質量: \(2m\)
  • 物体Qの質量: \(m\)
  • PとQを接合して吊るしたときのばねの自然長からの伸び(つり合い時): \(a\)
  • 重力加速度: \(g\)
問われていること (空欄補充)
  1. (1) (a) ばね定数 \(k\)。
  2. (1) (b) P,Q一体での振動周期 \(T_{PQ}\)。
  3. (1) (c) Q切り離し後、Pの新しい振動中心の、もとのつり合い位置からの距離(上の位置)。
  4. (1) (d) Q切り離し後のPの振幅 \(A\)。
  5. (1) (e) Q切り離し後のPの周期 \(T_P\)。
  6. (1) (f) Pが新しい振動中心を通過するときの速さ \(v_{\text{max}}\)。
  7. (2) (g) Pを吊るしたばねをエレベーターに設置。エレベーターが上向きに加速度 \(a_{\text{el}}\)(問題文では\(a\))で運動中、ばねが自然長から \(a\)(初期のPQ全体の伸びと同じ値)だけ伸びてPが静止したときの加速度 \(a_{\text{el}}\)。
  8. (2) (h) (g)の状態でのPの振動周期は、(e)で求めた周期の何倍か。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は「力のつり合い」「フックの法則」「単振動(振動中心、周期、振幅、エネルギー保存)」「慣性力」といった、力学の基本かつ重要なテーマを網羅しています。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合い: 物体が静止している、または等速直線運動しているとき、物体にはたらく力の合力は \(0\) です。
  2. フックの法則: ばねの弾性力は、ばねの自然長からの伸び(または縮み)に比例します (\(F=kx\))。
  3. 単振動の周期: 質量 \(M\)、ばね定数 \(k\) のばね振り子の周期は \(T=2\pi\sqrt{M/k}\) です。
  4. 単振動の振動中心: 復元力が \(0\) になる位置、すなわち力のつり合いの位置です。
  5. 単振動の振幅: 振動中心から振動の端までの距離です。物体が運動を開始した位置(速度0)が端になることが多いです。
  6. 単振動における力学的エネルギー保存: 摩擦などがなければ、運動エネルギーと弾性ポテンシャルエネルギーの和は(重力がある場合は重力ポテンシャルエネルギーも考慮し)保存されますが、水平ばね振り子や鉛直ばね振り子では、振動中心からの変位を用いた有効なポテンシャルエネルギーを考えることで、よりシンプルにエネルギー保存を扱えます (\(\frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}Mv^2 + \frac{1}{2}kx^2\))。
  7. 慣性力: 加速度運動する観測者から物体を見たとき、実際にはたらく力に加えて、観測者の加速度と逆向きに \(m\alpha\)(\(m\)は物体の質量、\(\alpha\)は観測者の加速度)の慣性力がはたらいているように見えます。

全体的な戦略としては、

  1. (1) PQ一体の状態:
    • (a) まず、PとQが一体となった状態での力のつり合いから、ばね定数 \(k\) を求めます。
    • (b) 次に、PとQ一体の質量 \(3m\) を用いて、単振動の周期の公式を適用します。
  2. (1) Qを切り離した後のPの運動:
    • (c) P単独になったときの新しい力のつり合いの位置(振動中心)を求め、もとのつり合い位置からのずれを計算します。
    • (d) Qを切り離した瞬間(もとのつり合い位置)が新しい単振動の端となることから、振幅を求めます。
    • (e) P単独の質量 \(2m\) を用いて、単振動の周期の公式を適用します。
    • (f) 単振動のエネルギー保存則(または \(v_{\text{max}} = A\omega\))を用いて、振動中心での速さを求めます。
  3. (2) エレベーター内のPの運動:
    • (g) 上向きに加速するエレベーター内でPが静止している状態を考えます。エレベーター内で観測すると、Pには重力、ばねの力、そして下向きの慣性力がはたらき、これらがつり合っていると考えます。
    • (h) ばね振り子の周期が、重力加速度や一定の慣性力の影響を受けるかどうかを考察します。

問1 (a)

思考の道筋とポイント

物体P(質量 \(2m\))と物体Q(質量 \(m\))を接合した全体の質量は \(2m+m=3m\) です。このおもりがばねに吊るされてつり合っているとき、ばねの弾性力(上向き)と全体の重力(下向き)がつり合っています。ばねの伸びは \(a\) と与えられています。

この設問における重要なポイント

  • 力のつり合いの条件を正しく立てること。
  • フックの法則 \(F=kx\) を用いること。

具体的な解説と立式

PとQを一体とみなすと、質量は \(M = 2m+m = 3m\)。
このおもりにはたらく力は、

  • 重力: \(Mg = 3mg\)(鉛直下向き)
  • ばねの弾性力: \(F_{\text{弾性}} = ka\)(鉛直上向き、\(k\) はばね定数、\(a\) は伸び)

力のつり合いより、(上向きの力) = (下向きの力) なので、
$$ka = 3mg$$
これをばね定数 \(k\) について解くと、
$$k = \frac{3mg}{a}$$

使用した物理公式

  • 力のつり合い: \(\sum F = 0\)
  • フックの法則: \(F = kx\)
計算過程

上記立式の通り。

計算方法の平易な説明

ばねにおもりPとQ(合計質量 \(3m\))を吊るしたら、ばねが \(a\) だけ伸びて止まった、という状況です。このとき、ばねがおもりを上に引っ張る力(弾性力 \(ka\))と、おもり全体にかかる重力(\(3mg\))が等しくなっています。この関係からばねの強さ(ばね定数 \(k\))を求めます。

結論と吟味

ばね定数 \(k = \frac{3mg}{a}\) です。
単位は、右辺が \([\text{N}]/[\text{m}]\) となり、ばね定数の単位として正しいです。

解答 (a) \(\frac{3mg}{a}\)

問1 (b)

思考の道筋とポイント

PとQが一体となった系(質量 \(3m\))を単振動させたときの周期を求めます。ばね定数は(a)で求めた \(k\) を使います。

この設問における重要なポイント

  • 単振動の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{M/k}\) を使うこと。
  • 質量 \(M\) にはPとQの合計質量 \(3m\) を用いること。

具体的な解説と立式

PとQを一体(質量 \(M=3m\))として振動させる場合、その周期 \(T_{PQ}\) は、単振動の周期の公式より、
$$T_{PQ} = 2\pi\sqrt{\frac{M}{k}} = 2\pi\sqrt{\frac{3m}{k}}$$
ここに、(a)で求めた \(k = \frac{3mg}{a}\) を代入します。
$$T_{PQ} = 2\pi\sqrt{\frac{3m}{3mg/a}} = 2\pi\sqrt{\frac{3m \cdot a}{3mg}}$$

使用した物理公式

  • 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{M/k}\)
計算過程

$$T_{PQ} = 2\pi\sqrt{\frac{3ma}{3mg}}$$

分母分子の \(3m\) を約分すると、

$$T_{PQ} = 2\pi\sqrt{\frac{a}{g}}$$

計算方法の平易な説明

ばね振り子の周期は、おもりの質量が大きいほど長く、ばねが強い(ばね定数 \(k\) が大きい)ほど短くなります。公式 \(T = 2\pi\sqrt{M/k}\) に、全体の質量 \(3m\) と(a)で求めたばね定数 \(k\) を代入して計算します。

結論と吟味

PとQを一体で振動させたときの周期 \(T_{PQ} = 2\pi\sqrt{\frac{a}{g}}\) です。
単位は、\(\sqrt{[\text{m}] / [\text{m/s}^2]} = \sqrt{[\text{s}^2]} = [\text{s}]\) となり、周期の単位として正しいです。

解答 (b) \(2\pi\sqrt{\frac{a}{g}}\)

問1 (c)

思考の道筋とポイント

Qを切り離すと、ばねに吊るされているおもりの質量はPのみ(\(2m\))に変わります。これにより、力のつり合いの位置(単振動の振動中心)が変化します。新しい振動中心の位置を求め、もとのつり合い位置(PQ一体でのつり合い位置)からのずれを計算します。

この設問における重要なポイント

  • Qを切り離した後の、P単独での力のつり合いの位置を求める。
  • もとのつり合い位置と比較して、振動中心がどれだけ移動したかを考える。

具体的な解説と立式

もとのつり合い位置(PとQが一体のとき)では、ばねの伸びは \(a\) でした。
Qを切り離した後、P(質量 \(2m\))単独での力のつり合いを考えます。このときのばねの自然長からの伸びを \(l\) とすると、

  • 重力: \(2mg\)(下向き)
  • ばねの弾性力: \(kl\)(上向き)

力のつり合いより、\(kl = 2mg\)。
よって、新しいつり合い位置でのばねの伸び \(l\) は、
$$l = \frac{2mg}{k}$$
ここに \(k = \frac{3mg}{a}\) を代入すると、
$$l = \frac{2mg}{3mg/a} = \frac{2mg \cdot a}{3mg} = \frac{2}{3}a$$
これがQを切り離した後のPの振動中心でのばねの伸びです。
もとのつり合い位置での伸びは \(a\) でした。新しい振動中心での伸びは \(\frac{2}{3}a\) です。
ばねは自然長の位置を \(0\) として下向きに伸びるので、伸びが \(a\) から \(\frac{2}{3}a\) に変わるということは、振動中心がもとのつり合い位置より \(a – \frac{2}{3}a = \frac{1}{3}a\) だけ「上」に移動したことを意味します。
Pは、この新しいつり合いの位置(伸びが \(\frac{2}{3}a\) の位置)を中心として振動します。

使用した物理公式

  • 力のつり合い
  • フックの法則
計算過程

上記立式の通り。

計算方法の平易な説明

おもりQを取り去ると、Pだけになるので、ばねを下に引っ張る重力が小さくなります。そのため、ばねの伸びも小さくなり、新しいつり合いの位置(振動の中心)は、Qがあったときよりも上の位置に移動します。どれだけ上に移動したかを計算します。

結論と吟味

Pはもとのつり合いの位置から \(\frac{1}{3}a\) だけ上の位置を中心にして振動します。
もとのつり合い位置(伸び \(a\))は、PとQの重さ \(3mg\) を支える位置。新しい振動中心(伸び \(\frac{2}{3}a\))は、Pの重さ \(2mg\) を支える位置です。

解答 (c) \(\frac{1}{3}a\)

問1 (d)

思考の道筋とポイント

Qを「静かに」切り離した瞬間、Pはもとのつり合いの位置(ばねの伸び \(a\))にあり、その瞬間のPの速度は \(0\) です。単振動において、速度が \(0\) になる位置は振動の端です。したがって、Qを切り離した瞬間のPの位置が、新しい単振動の端となります。振幅は、この端の位置と新しい振動中心との距離です。

この設問における重要なポイント

  • 「静かに切り離す」とは、その瞬間の速度が \(0\) であることを意味する。
  • 速度が \(0\) の位置は単振動の端である。
  • 振幅は振動中心から端までの距離。

具体的な解説と立式

Qを切り離した瞬間、Pの位置はばねの伸びが \(a\) のところです。この位置が新しい単振動の「端」になります。
新しい振動中心は、(c)で求めたように、ばねの伸びが \(l = \frac{2}{3}a\) のところです。
振幅 \(A\) は、振動の端と振動中心との間の距離なので、
$$A = |(\text{端の位置の伸び}) – (\text{振動中心の伸び})| = \left|a – \frac{2}{3}a\right| = \left|\frac{1}{3}a\right| = \frac{1}{3}a$$
(あるいは、(c)で求めた「もとのつり合いの位置から振動中心までの距離」がそのまま振幅になります。)

使用した物理公式

  • 単振動の振幅の定義
計算過程

上記立式の通り。

計算方法の平易な説明

Qをそっと取り除いた瞬間、Pは「あれ?軽くなった!」と感じて動き出します。この動き出す直前の位置(もともとPとQが一緒に止まっていた位置)が、Pの新しい振動の最も下の位置(端っこ)になります。そして、(c)で求めた新しいつり合いの位置が振動の真ん中。この端っこと真ん中の間の距離が振幅です。

結論と吟味

Pの振動の振幅 \(A = \frac{1}{3}a\) です。
これは(c)で求めた振動中心の移動距離と同じ値です。これは、静かに質量を変化させた場合、変化前のつり合い位置が新しい単振動の端になるという典型的なパターンです。

解答 (d) \(\frac{1}{3}a\)

問1 (e)

思考の道筋とポイント

Qを切り離した後のP単独(質量 \(2m\))の単振動の周期を求めます。ばね定数は \(k = \frac{3mg}{a}\) です。

この設問における重要なポイント

  • 単振動の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{M/k}\) を使うこと。
  • 質量 \(M\) にはP単独の質量 \(2m\) を用いること。

具体的な解説と立式

P単独(質量 \(2m\))での単振動の周期を \(T_P\) とすると、
$$T_P = 2\pi\sqrt{\frac{2m}{k}}$$
ここに \(k = \frac{3mg}{a}\) を代入します。
$$T_P = 2\pi\sqrt{\frac{2m}{3mg/a}} = 2\pi\sqrt{\frac{2m \cdot a}{3mg}}$$

使用した物理公式

  • 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{M/k}\)
計算過程

$$T_P = 2\pi\sqrt{\frac{2ma}{3mg}}$$

分母分子の \(m\) を約分すると、

$$T_P = 2\pi\sqrt{\frac{2a}{3g}}$$

計算方法の平易な説明

ばね振り子の周期は、おもりの質量とばねの強さ(ばね定数)で決まります。今度はP(質量 \(2m\))だけが振動するので、その質量と(a)で求めたばね定数を使って周期を計算します。

結論と吟味

P単独での振動周期 \(T_P = 2\pi\sqrt{\frac{2a}{3g}}\) です。
(b)で求めた \(T_{PQ} = 2\pi\sqrt{\frac{a}{g}}\) と比較すると、質量が \(3m\) から \(2m\) に減少したため、周期は \(\sqrt{2/3}\) 倍(約0.816倍)に変化しています(同じ \(k\) に対して)。

解答 (e) \(2\pi\sqrt{\frac{2a}{3g}}\)

問1 (f)

思考の道筋とポイント

Pが新しい振動中心(力のつり合いの位置)を通過するとき、その速さは最大になります。この最大速度 \(v_{\text{max}}\) は、単振動のエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}Mv_{\text{max}}^2\) から求めることができます。ここで \(A\) は振幅、\(M\) はPの質量 \(2m\) です。
あるいは、角振動数 \(\omega_P = \sqrt{k/(2m)}\) を用いて \(v_{\text{max}} = A\omega_P\) からも求められます。

この設問における重要なポイント

  • 単振動において、振動中心で速さが最大になる。
  • 単振動のエネルギー保存則、または \(v_{\text{max}} = A\omega\) の公式の利用。

具体的な解説と立式

P単独の単振動において、振幅 \(A = \frac{1}{3}a\)、質量 \(2m\)、ばね定数 \(k = \frac{3mg}{a}\)。
単振動のエネルギー保存則より、端での弾性ポテンシャルエネルギー(振動中心を基準とした場合)が、振動中心での運動エネルギーに等しくなります。
振動中心を基準とした端でのポテンシャルエネルギーは \(\frac{1}{2}kA^2\)。
振動中心での運動エネルギーは \(\frac{1}{2}(2m)v_{\text{max}}^2\)。
$$\frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}(2m)v_{\text{max}}^2$$
$$kA^2 = 2mv_{\text{max}}^2$$
これを \(v_{\text{max}}\) について解くと、\(v_{\text{max}} = A\sqrt{\frac{k}{2m}}\)。
ここに \(A = \frac{a}{3}\) と \(k = \frac{3mg}{a}\) を代入します。
$$v_{\text{max}} = \frac{a}{3}\sqrt{\frac{3mg/a}{2m}}$$

使用した物理公式

  • 単振動のエネルギー保存則: \(\frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}Mv_{\text{max}}^2\)
  • (または \(v_{\text{max}} = A\omega\), \(\omega = \sqrt{k/M}\))
計算過程

$$v_{\text{max}} = \frac{a}{3}\sqrt{\frac{3mg}{2ma}} = \frac{a}{3}\sqrt{\frac{3g}{2a}}$$

平方根の中に \(a^2/9\) を入れると、

$$v_{\text{max}} = \sqrt{\frac{a^2}{9} \cdot \frac{3g}{2a}} = \sqrt{\frac{3a^2g}{18a}} = \sqrt{\frac{ag}{6}}$$

計算方法の平易な説明

単振動では、振動の端っこ(一番伸びたところや縮んだところ)で蓄えられたエネルギーが、振動の真ん中を通るときにすべて速さのエネルギー(運動エネルギー)に変わります。このエネルギーの変換の式から、真ん中を通るときの速さ(最大の速さ)を計算します。

結論と吟味

振動の中心を通過するときの速さ \(v_{\text{max}} = \sqrt{\frac{ag}{6}}\) です。
単位は \(\sqrt{[\text{m}] \cdot [\text{m/s}^2]} = \sqrt{[\text{m}^2/\text{s}^2]} = [\text{m/s}]\) となり、速さの単位として正しいです。

解答 (f) \(\sqrt{\frac{ag}{6}}\)

問2 (g)

思考の道筋とポイント

上向きに加速度 \(a\) で運動するエレベーターの中でPが静止している状況を考えます。エレベーター内で観測すると、Pには下向きの慣性力 \(2ma\) がはたらいているように見えます。この慣性力と重力、そしてばねの弾性力がつり合っています。ばねの伸びは、最初のPQ一体のつり合いの伸びと同じ \(a\) とされています。
注意: ここで問題文中の「大きさ \(a\) の加速度」と、(1)で定義された「ばねの伸び \(a\)」は同じ文字ですが、意味が異なります。解説中はエレベーターの加速度を \(a_{\text{el}}\) などと区別して考えるとよいですが、最終的な解答は問題文に合わせて \(a\) を用います。

この設問における重要なポイント

  • 加速度運動する系(エレベーター)内での力のつり合いを考える。
  • 慣性力を導入する。向きは観測系(エレベーター)の加速度と逆向き、大きさは(物体の質量)\(\times\)(観測系の加速度)。
  • 問題文の指示通り、エレベーターの加速度の大きさを \(a\) とし、ばねの伸びも \(a\) となっている点に注意。

具体的な解説と立式

エレベーターが上向きに加速度 \(a\) で運動している。エレベーター内で物体P(質量 \(2m\))を見ると、Pには以下の力がはたらいてつり合っている。

  • 重力: \(2mg\)(鉛直下向き)
  • ばねの弾性力: \(ka’\)(鉛直上向き)。ここで、ばねの伸び \(a’\) は問題文より、最初のPQ全体のつり合いの伸びと同じ \(a\) である。よって弾性力は \(ka\)。
  • 慣性力: \(F_{\text{慣性力}} = (2m)a\)(鉛直下向き、エレベーターの加速度と逆向き)。

エレベーター内での力のつり合いより、(上向きの力)=(下向きの力の合計)
$$ka = 2mg + 2ma$$
ここに、(1)(a)で求めたばね定数 \(k = \frac{3mg}{a_0}\) を代入します。(ここで \(a_0\) は最初のPQ全体の伸びを指す「\(a\)」です。混乱を避けるため、ここでの「伸び \(a\)」とエレベーターの「加速度 \(a\)」を区別するために、\(k = \frac{3mg}{(\text{伸び }a)}\) と理解してください。)
よって、\(k = \frac{3mg}{a}\) (ここでの \(a\) は伸び)。
$$\left(\frac{3mg}{a}\right)a = 2mg + 2ma \quad (\text{左辺の } a \text{ は伸び、右辺の } a \text{ はエレベーターの加速度})$$

使用した物理公式

  • 力のつり合い(慣性力考慮)
  • 慣性力: \(F_{\text{慣性力}} = m\alpha\)
計算過程

$$\frac{3mg}{a} \cdot a = 2mg + 2ma$$
$$3mg = 2mg + 2ma$$
$$3mg – 2mg = 2ma$$
$$mg = 2ma$$

エレベーターの加速度 \(a\) について解くと(\(m \neq 0\) なので両辺の \(m\) を消去)、

$$a = \frac{1}{2}g$$

計算方法の平易な説明

エレベーターが上に加速すると、私たちは下に押し付けられるような感じがしますね。これが慣性力です。物体Pも同様に下向きの慣性力を受けます。エレベーターの中で見ると、Pは静止しているので、ばねが上に引っ張る力と、Pの重さ+下向きの慣性力の合計が釣り合っています。この釣り合いの式からエレベーターの加速度を求めます。

結論と吟味

エレベーターの加速度の大きさ \(a = \frac{1}{2}g\) です。
このとき、Pにはたらく見かけの重力は \(2mg + 2m(\frac{1}{2}g) = 2mg + mg = 3mg\) となります。この見かけの重力 \(3mg\) と、ばねの弾性力 \(ka = (\frac{3mg}{a})a = 3mg\) がつり合っていることになります。

解答 (g) \(\frac{1}{2}g\)

問2 (h)

思考の道筋とポイント

ばね振り子の周期は \(T = 2\pi\sqrt{M/k}\) で与えられ、おもりの質量 \(M\) とばね定数 \(k\) のみで決まります。重力加速度 \(g\) や、一定の慣性力が加わることによる見かけの重力加速度の変化は、振動の中心の位置を変えるだけで、振動の周期には影響しません。

この設問における重要なポイント

  • ばね振り子の周期の式を理解していること。
  • 周期が何に依存し、何に依存しないかを把握していること。

具体的な解説と立式

P単独の質量は \(2m\)、ばね定数は \(k\)。
エレベーターが加速度運動していても、Pの質量 \(2m\) とばね定数 \(k\) は変化しません。
ばね振り子の周期は \(T = 2\pi\sqrt{\frac{\text{質量}}{\text{ばね定数}}}\) であり、重力加速度の大きさ(あるいは見かけの重力加速度の大きさ)には依存しません。
したがって、エレベーター内でのPの振動周期は、(e)で求めた静止した地上でのP単独の振動周期 \(T_P = 2\pi\sqrt{\frac{2m}{k}}\) と同じです。
よって、周期は(e)の1倍です。

使用した物理公式

  • 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{M/k}\)
計算過程

比較するまでもなく、周期は変わらない。

計算方法の平易な説明

ばね振り子の揺れる速さ(周期)は、おもりの重さ(質量)とばねの硬さだけで決まります。エレベーターが加速していて、見かけの重さが変わったとしても、おもり自体の「重さ(質量)」と「ばねの硬さ」は変わらないので、揺れる速さ(周期)も変わりません。

結論と吟味

周期は(e)の1倍です。
これは重要な性質で、鉛直ばね振り子の周期は、つり合いの位置(振動中心)が重力や一定の慣性力によって変わっても、周期自体は変わらないということを示しています。

解答 (h) 1

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力のつり合いとフックの法則: (1)(a)や(1)(c)、(2)(g)で、物体が静止している(またはつり合っている)状態での力の関係を正しく記述することが基本でした。
  • 単振動の基本性質(周期、振動中心、振幅): (1)(b, c, d, e, f)では、単振動の周期の公式、振動中心が力のつり合い位置であること、振幅の定義(端と中心の距離)を理解しているかが問われました。
  • 力学的エネルギー保存則(単振動において): (1)(f)では、単振動におけるエネルギー保存(\(\frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}Mv_{\text{max}}^2\) など)の考え方が有効でした。
  • 慣性力: (2)(g)では、加速度運動するエレベーター内で物体を観測する際に慣性力を考慮する必要がありました。
  • ばね振り子の周期の普遍性: (2)(h)では、ばね振り子の周期が(見かけの)重力加速度によらず、質量とばね定数のみで決まるという重要な性質が問われました。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題のパターン:
    • 途中で物体系の質量が変化する単振動問題。
    • 加速度運動する台の上での物体の運動や振動(電車内での振り子など)。
    • エレベーター内のばね振り子や単振り子。
  • 初見の問題への着眼点:
    1. 系の状態変化の特定: どこで何が変化するのか(例: Qの切り離し、エレベーターの加速)。
    2. 各状態での力のつり合い: 静止時やつり合い振動の中心を求める際に重要。
    3. エネルギー保存則の適用可否: 非保存力が仕事をしていなければ、エネルギー保存は強力なツール。
    4. 慣性系か非慣性系か: 加速度運動する系で物体を見る場合は、慣性力を導入すると非慣性系でもニュートンの法則の形で扱える。
  • 問題解決のヒント・注意点:
    • 振動中心は必ず「力のつり合いの位置」であると再確認する。
    • 質量が変化した直後の速度は、変化直前の速度と同じ(力を受けずに瞬間的に質量だけが変わる場合)。ただし、この問題では「静かに切り離す」なので、その瞬間の速度が \(0\) であることが初期条件となる。
    • 文字の定義に注意する(特に同じ文字が異なる意味で使われている場合)。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 振動中心の誤認: 質量が変わった後の新しい振動中心を正しく求められない。
  • 振幅の誤認: どこが単振動の端になるのかを誤解する(Qを切り離した瞬間の位置が端)。
  • 慣性力の向きや大きさの誤り: 慣性力は観測系の加速度と「逆向き」に「\(m\alpha\)」。
  • 単振動の周期が重力に依存するという誤解(ばね振り子の場合): 単振り子と混同しない。

対策:

  • 力の図示を丁寧に行い、つり合いの式を正確に立てる。
  • 単振動の各パラメータ(振動中心、振幅、周期、角振動数)の定義と求め方を再確認する。
  • 慣性力は「見かけの力」であることを理解し、導入方法をマスターする。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題で有効だった図(模範解答中の図も含む):
    1. 力のつり合いを示す図: ばねの伸びと、それに対応する重力や弾性力を矢印で示す。
    2. 単振動の模式図: 振動中心、振幅、端の位置関係を視覚的に捉える。
    3. エレベーター内の力の図: 慣性力を含めて、Pにはたらく力を図示する。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 力の作用点、向き、大きさを意識する。
    • 座標軸(特に変位の向き)を明確にする。
    • 振動の状況(どこが中心でどこが端か)を図で整理する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(ka=Mg\): 力のつり合い時に適用(\(M\) はおもりの総質量)。
  • \(T=2\pi\sqrt{M/k}\): ばね振り子の周期を求める際に適用。
  • \(\frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}Mv_{\text{max}}^2\): 単振動のエネルギー保存則。振幅と最大速度の関係。
  • \(F_{\text{慣性力}} = M\alpha\): 加速度 \(\alpha\) の非慣性系で運動を記述する際に適用。

なぜその公式がこの場面で有効なのか、その前提条件は何かを常に意識することが大切。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1a,b) PQ一体の状態 \(\rightarrow\) 力のつり合いから \(k\)、周期公式から \(T_{PQ}\)。
  2. (1c,d,e,f) Q分離 \(\rightarrow\) P単独のつり合い位置(新振動中心)、分離時の位置が端(速度0) \(\rightarrow\) 振幅、P単独の周期、エネルギー保存から \(v_{\text{max}}\)。
  3. (2g) エレベーター加速 \(\rightarrow\) Pに慣性力 \(\rightarrow\) エレベーター内での力のつり合い \(\rightarrow\) \(a_{\text{el}}\)。
  4. (2h) ばね振り子の周期の性質 \(\rightarrow\) 変わらない。

このように、状況の変化に応じて適用する法則や考えるべきポイントを整理する能力が求められます。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で特に注意すべき点:
    • \(k = 3mg/a\) の代入計算。分数の扱い。
    • \(A = a/3\) のような値を \(v_{\text{max}}\) の計算に代入する際の \(a\) の処理。
    • (g)での力のつり合いの立式と、加速度 \(a_{\text{el}}\) について解く計算。
  • 日頃の練習:
    • 文字式の計算に習熟する。特に分母に分数が入る場合など。
    • 単位の一貫性を確認する。
    • 計算結果が極端な値(物理的にありえない値)になっていないか確認する。

解の吟味の習慣化

  • 物理的な妥当性:
    • Qを切り離すと振動中心が上にずれるのは、支える重さが減るためで妥当。
    • 振幅が \(a/3\) となるのも、開始点が新しい振動からのずれに対応していて妥当。
    • エレベーターが上に加速すると、ばねの伸びが同じなら、より強い力で引っ張る必要があるため、慣性力が下向きに働くと考えられ、加速度 \(a_{\text{el}}\) が正の値で出るのは妥当。
    • ばね振り子の周期が重力(や見かけの重力)によらないのは重要な知識。
  • 答えの文字 \(a\) が伸びなのか加速度なのか、常に文脈で判断する必要があった。

この問題を通して、ばね振り子の扱いや慣性力について、より深く理解できたことと思います。繰り返し練習して、これらの概念を自分のものにしてください。

問題47 (名城大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ばねで繋がれた二つの物体AとBの運動に関するものです。物体Aは鉛直方向に単振動を行い、その影響で床の上にある物体Bが床から離れるかどうか、という条件を考察します。力のつり合い、単振動の性質、そして作用・反作用の法則を正しく理解し適用することが鍵となります。

与えられた条件
  • 物体Aと物体Bの質量:ともに \(m\)
  • ばねは軽い(質量を無視できる)
  • Aは滑らかな円筒状ガードにより鉛直方向に運動
  • Bは床の上に置かれている
  • Aが静止する位置O:ばねが自然長より \(a\) だけ縮んだ位置
  • 重力加速度の大きさ:\(g\)
問われていること
  1. ばねのばね定数 \(k\)。床がBから受ける力の大きさ \(N\)。
  2. AをO点からさらに \(a\) だけ下のP点まで押し下げて静かに放した後のAの振動について:
    • (ア) Aの速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\)
    • (イ) O点を原点とし鉛直下向きを正とする \(x\) 軸をとったときの、Aの位置 \(x\) の時間 \(t\) に対する関数 \(x(t)\)
  3. AをO点から押し下げる距離を \(b\) としたとき、振動中にBが床から離れないための \(b\) の条件。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は、ばね振り子力のつり合い、そして単振動の概念を組み合わせた、高校物理の力学分野における複合的な問題です。特に、2つの物体が相互作用し、片方が床から離れる条件を考える(3)は、物理法則の深い理解と応用力が試されます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • フックの法則: ばねの弾性力 \(F = k \times (\text{変形量})\)
  • 力のつり合い: 物体が静止している、または加速度0で運動している場合、働く力の合力は0。
  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • 単振動の条件と性質: 復元力が変位に比例し変位と逆向き (\(F = -Kx\))。振動中心、振幅、角振動数 \(\omega\)、周期 \(T\)。
  • 力学的エネルギー保存則: 保存力のみが仕事をする場合、力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は一定。
  • 作用・反作用の法則: 2物体間に力が働くとき、互いに大きさが等しく逆向きの力を及ぼし合う。

全体的な戦略としては、まず各物体にかかる力を正確に把握し、力のつり合いや運動方程式を立てます。単振動については、振動中心、振幅、角振動数を特定し、エネルギー保存則や単振動の公式を利用します。床から離れる条件は、垂直抗力が0になる瞬間として捉えます。

問1

思考の道筋とポイント
物体Aと物体B、それぞれに働く力を図示し、つり合いの式を立てます。ばねが「縮んでいる」状態にあるとき、物体Aには上向きの弾性力、物体Bには(ばねを介して)下向きの力が作用することを正確に理解することが重要です。

この設問における重要なポイント

  • 各物体に働く力を漏れなく図示し、その向きを正しく判断すること。
  • ばねの弾性力は、Aに対してはAの運動を支える向き(上向き)、Bに対してはBを床に押し付ける向き(下向き)に働くこと。
  • 作用・反作用の法則により、ばねがAを押す力とばねがBを押す力の大きさは等しい(\(ka\))。

具体的な解説と立式
(1) 物体Aは、位置Oで静止しており、このときばねは自然長より \(a\) だけ縮んでいます。
物体Aに働く力は以下の通りです。

  • 鉛直下向きの重力: \(mg\)
  • 鉛直上向きのばねの弾性力: ばねの縮みが \(a\) なので、その大きさは \(ka\)

Aは静止しているため、これらの力はつり合っています。したがって、力のつり合いの式は、
$$mg = ka$$
この式から、ばね定数 \(k\) を求めることができます。

次に、床がBから受ける力の大きさ \(N\) を考えます。これは、物体Bに働く垂直抗力の大きさに等しいです。
物体Bに働く力は以下の通りです。

  • 鉛直下向きの重力: \(mg\)
  • 鉛直下向きのばねの弾性力: ばねが物体Aを \(ka\) の力で押し上げているので、作用・反作用の法則により、物体Bを \(ka\) の力で押し下げています。
  • 鉛直上向きの床からの垂直抗力: \(N\)

Bも床の上で静止しているため、これらの力はつり合っています。鉛直上向きを正とすると、力のつり合いの式は、
$$N – mg – ka = 0$$
したがって、
$$N = mg + ka$$
先ほど導いた \(ka = mg\) の関係を用いると、\(N\) を \(m\) と \(g\) で表すことができます。

使用した物理公式

  • フックの法則: ばねの弾性力 \(F_{\text{弾性力}} = k \times (\text{ばねの自然長からの変形量})\)
  • 力のつり合い: 物体に働く力の合力が \(0\) (\(\Sigma \vec{F} = \vec{0}\))
計算過程

物体Aの力のつり合いの式 \(mg = ka\) から、ばね定数 \(k\) は、
$$k = \frac{mg}{a} \quad \cdots ①$$
次に、物体Bの力のつり合いの式 \(N = mg + ka\) に、①の \(ka=mg\) を代入すると、
$$N = mg + (mg)$$
$$N = 2mg$$

計算方法の平易な説明

まず、空中で静止している物体Aに注目しましょう。Aには地球が下に引っ張る力(重力 \(mg\))と、縮んだばねがAを上に押し上げる力(弾性力 \(ka\))が働いています。これら二つの力が釣り合っているからAは静止できるので、\(mg = ka\) という関係が成り立ちます。この式から、ばねの硬さ(ばね定数 \(k\))は \(mg/a\) だと分かります。
次に、床の上の物体Bに注目します。Bには地球が下に引っ張る力(重力 \(mg\))、そして縮んだばねがBをさらに下に押し付ける力(これも \(ka\))、最後に床がBを上に支える力(垂直抗力 \(N\))が働いています。Bも静止しているので、下向きの力の合計 (\(mg + ka\)) と上向きの力 (\(N\)) が釣り合っています。つまり \(N = mg + ka\) です。先ほど \(ka\) は \(mg\) と同じだと分かったので、これを代入すると \(N = mg + mg = 2mg\) となります。これは、床がB自身の重さだけでなく、Aの重さ分も一緒に支えていることを意味しますね。

結論と吟味

ばね定数は \(k = \displaystyle\frac{mg}{a}\)、床がBから受ける力の大きさは \(N = 2mg\) です。
これらの結果の単位を確認すると、\(k\) は \([\text{N/m}]\)、\(N\) は \([\text{N}]\) となり、それぞれ物理量として正しい単位を持っています。
また、AとBを一体として考えると全体の質量は \(2m\) であり、それらを支えるためには床から \(2mg\) の力が必要であるという直感とも一致しており、物理的に妥当な結果と言えます。

解答 (1) ばね定数: \(k = \displaystyle\frac{mg}{a}\), 床がBから受ける力の大きさ: \(N = 2mg\)

問2

思考の道筋とポイント
(ア) 物体Aは、つり合いの位置O点を中心として単振動を行います。単振動において、物体の速さが最大になるのは振動中心を通過するときです。この最大速度は、力学的エネルギー保存則を用いるか、単振動の公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\)(\(A\):振幅, \(\omega\):角振動数)を用いて求めることができます。
(イ) 単振動における物体の位置 \(x\) の時間 \(t\) による変化は、三角関数(\(\cos\) または \(\sin\))で表されます。初期条件(\(t=0\) での位置と速度)と座標軸の取り方(O点原点、鉛直下向き正)を考慮して、適切な式を導きます。

この設問における重要なポイント

  • 単振動の振動中心がどこか(力のつり合いの位置O点)、振幅がいくらか(O点からP点までの距離 \(a\))を正しく把握すること。
  • 角振動数 \(\omega = \sqrt{k/m}\) を計算し、それを用いて \(v_{\text{最大}}\) や \(x(t)\) を表すこと。
  • 力学的エネルギー保存則を適用する際は、運動エネルギー、重力による位置エネルギー、弾性力による位置エネルギーを正しく評価し、基準点を明確にすること。
  • \(x(t)\) の式を立てる際、\(t=0\) で物体がどの位置にあり、どちら向きに動いているか(または静止しているか)という初期条件を正確に反映させること。

具体的な解説と立式
(ア) Aの速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\)
物体Aは、力のつり合いの位置であるO点を中心に単振動します。O点からさらに \(a\) だけ下のP点まで押し下げて静かに放すので、この単振動の振幅 \(A\) は \(a\) となります。
単振動の角振動数 \(\omega\) は、ばね定数 \(k\) と物体Aの質量 \(m\) を用いて次のように表されます。
$$\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}$$
(1)で求めた \(k = \frac{mg}{a}\) を代入すると、
$$\omega = \sqrt{\frac{(mg/a)}{m}} = \sqrt{\frac{g}{a}}$$
単振動における速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\) は、振幅 \(A\) と角振動数 \(\omega\) を用いて、
$$v_{\text{最大}} = A\omega$$
これに \(A=a\) と \(\omega = \sqrt{g/a}\) を代入することで \(v_{\text{最大}}\) が求まります。

【別解:力学的エネルギー保存則を用いる方法】
物体Aの運動において、働く力は保存力である重力とばねの弾性力のみなので、Aの力学的エネルギーは保存されます。
振動の始点であるP点(最も低い位置)と、速さが最大となる振動中心O点とで力学的エネルギー保存則を考えます。
ばねの自然長の位置を、重力による位置エネルギー \(U_{\text{重力}}\) の基準点 (\(h=0\)) とします。
O点は自然長の位置より \(a\) だけ下方にあるので、O点の高さは \(-a\) と表せます。
P点はO点よりさらに \(a\) だけ下方にあるので、P点の高さは \(-2a\) と表せます。

P点において(時刻 \(t=0\)、変位 \(x=a\)):

  • 速さ:\(v_{\text{P点}} = 0\) (静かに放すため)
  • 運動エネルギー:\(K_{\text{P点}} = 0\)
  • 高さ:\(h_{\text{P点}} = -2a\) より、重力による位置エネルギー:\(U_{\text{重力,P点}} = mg(-2a) = -2mga\)
  • ばねの縮み:O点で \(a\) 縮んでおり、P点はO点よりさらに \(a\) 下なので、自然長からの縮みは \(2a\)。
    よって、弾性力による位置エネルギー:\(U_{\text{ばね,P点}} = \frac{1}{2}k(2a)^2 = 2ka^2\)
  • P点での力学的エネルギー \(E_{\text{P点}}\):\(E_{\text{P点}} = K_{\text{P点}} + U_{\text{重力,P点}} + U_{\text{ばね,P点}} = 0 – 2mga + 2ka^2\)

O点において(振動中心、変位 \(x=0\)):

  • 速さ:\(v_{\text{O点}} = v_{\text{最大}}\)
  • 運動エネルギー:\(K_{\text{O点}} = \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2\)
  • 高さ:\(h_{\text{O点}} = -a\) より、重力による位置エネルギー:\(U_{\text{重力,O点}} = mg(-a) = -mga\)
  • ばねの縮み:自然長からの縮みは \(a\)。
    よって、弾性力による位置エネルギー:\(U_{\text{ばね,O点}} = \frac{1}{2}ka^2\)
  • O点での力学的エネルギー \(E_{\text{O点}}\):\(E_{\text{O点}} = K_{\text{O点}} + U_{\text{重力,O点}} + U_{\text{ばね,O点}} = \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 – mga + \frac{1}{2}ka^2\)

力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{P点}} = E_{\text{O点}}\) より、
$$-2mga + 2ka^2 = \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 – mga + \frac{1}{2}ka^2$$
この式を \(v_{\text{最大}}\) について解きます。途中で \(ka=mg\) の関係式を用います。

(イ) Aの位置 \(x\) の時間変化 \(x(t)\)
問題文の指示通り、O点を原点 (\(x=0\)) とし、鉛直下向きを正とする \(x\) 軸をとります。
物体AはO点を中心に、振幅 \(A=a\) で単振動します。角振動数は \(\omega = \sqrt{g/a}\) です。
時刻 \(t=0\) において、AはP点(\(x=a\) の位置)にあり、そこで静かに放されるので初速度は \(v_0=0\) です。
単振動において、\(t=0\) で正の最大変位(振幅の位置)にあり初速度が0の場合、その運動は \(x(t) = A \cos(\omega t)\) の形で表されます。
したがって、振幅 \(A=a\) と角振動数 \(\omega = \sqrt{g/a}\) を代入して \(x(t)\) を求めます。

使用した物理公式

  • 単振動の角振動数: \(\omega = \sqrt{\frac{k}{m}}\)
  • 単振動の速さの最大値: \(v_{\text{最大}} = A\omega\) (\(A\) は振幅)
  • 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{全ポテンシャル,初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{全ポテンシャル,後}}\)
  • 重力による位置エネルギー: \(U_{\text{重力}} = mgh\)
  • 弾性力による位置エネルギー: \(U_{\text{ばね}} = \frac{1}{2}k \times (\text{自然長からの変形量})^2\)
  • 単振動の変位の式 ( \(t=0\) で \(x=A, v=0\) の場合): \(x(t) = A \cos(\omega t)\)
計算過程

(ア) 速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\)
角振動数 \(\omega\) は、
$$\omega = \sqrt{\frac{k}{m}} = \sqrt{\frac{(mg/a)}{m}} = \sqrt{\frac{g}{a}}$$
振幅 \(A=a\) なので、速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\) は、
$$v_{\text{最大}} = A\omega = a \cdot \sqrt{\frac{g}{a}} = \sqrt{a^2 \cdot \frac{g}{a}} = \sqrt{ga}$$

【別解:力学的エネルギー保存則による計算】
エネルギー保存則の式:
$$-2mga + 2ka^2 = \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 – mga + \frac{1}{2}ka^2$$
\(ka=mg\) を代入して整理します。
$$-2mga + 2(mg)a = \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 – mga + \frac{1}{2}(mg)a$$
$$0 = \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 – mga + \frac{1}{2}mga$$
$$0 = \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 – \frac{1}{2}mga$$
\(\frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2\) について整理すると、
$$\frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 = \frac{1}{2}mga$$
両辺に \(\frac{2}{m}\) を掛けると(\(m \neq 0\) なので可能)、
$$v_{\text{最大}}^2 = ga$$
\(v_{\text{最大}} > 0\) なので、
$$v_{\text{最大}} = \sqrt{ga}$$

(イ) 位置 \(x(t)\)
振幅 \(A=a\)、角振動数 \(\omega = \sqrt{g/a}\)。
\(t=0\) で \(x=a\) (正の最大変位の位置) で初速度 \(0\) なので、
$$x(t) = A \cos(\omega t) = a \cos\left(\sqrt{\frac{g}{a}}t\right)$$

計算方法の平易な説明

(ア) 物体Aは、つり合いの位置O点を中心にして、一番下のP点(O点から \(a\) だけ下)と一番上の点(O点から \(a\) だけ上)の間を行ったり来たりする単振動をします。この振動の「勢い」を表す角振動数 \(\omega\) は、ばねの硬さ \(k\) と物体の質量 \(m\) から \(\omega = \sqrt{k/m}\) と計算でき、(1)の結果を使うと \(\sqrt{g/a}\) となります。単振動では、真ん中のO点を通る時に速さが最大になります。その速さは「振幅 \(\times\) 角振動数」で求められ、振幅は \(a\) なので、\(a \times \sqrt{g/a} = \sqrt{ga}\) となります。
別のアプローチとしてエネルギーで考えることもできます。P点(速さ0)での位置エネルギーの合計(重力とばね)と、O点(速さ最大)での運動エネルギーと位置エネルギーの合計が等しい、というエネルギー保存の法則から計算しても同じ結果が得られます。

(イ) Aの位置 \(x\) が時間 \(t\) と共にどう変わるかを表す式を作ります。O点を \(x=0\)、下向きを正とします。Aは \(t=0\) のとき \(x=a\) の位置(P点、振動の一番下の端)から動き始めます。このような動き(端からスタートする単振動)は、コサイン関数を使って \(x(t) = (\text{振幅}) \cos((\text{角振動数}) t)\) と表せます。振幅は \(a\)、角振動数は \(\sqrt{g/a}\) なので、\(x(t) = a \cos(\sqrt{g/a} t)\) となります。

結論と吟味

(ア) Aの速さの最大値は \(v_{\text{最大}} = \sqrt{ga}\) です。
(イ) Aの位置 \(x\) の時間変化は \(x(t) = a \cos\left(\sqrt{\frac{g}{a}}t\right)\) です。
これらの結果の次元(単位)を確認すると、\(\sqrt{ga}\) は \(\sqrt{[\text{m/s}^2] \cdot [\text{m}]} = [\text{m/s}]\) となり、速さの単位として正しいです。また、\(\sqrt{g/a} \cdot t\) は \(\sqrt{[\text{m/s}^2]/[\text{m}]} \cdot [\text{s}] = [\text{無次元}]\) となり、コサイン関数の引数として適切です。その結果 \(x(t)\) は \(a\) と同じ長さの次元を持ちます。
問題文で指定された座標軸(O点原点、鉛直下向き正)に基づいた \(x(t)\) であることを確認しましょう。\(t=0\) で \(x(0) = a \cos(0) = a\) となり、これはP点の位置と一致しています。

解答 (2) (ア) \(v_{\text{最大}} = \sqrt{ga}\) (イ) \(x(t) = a \cos\left(\sqrt{\displaystyle\frac{g}{a}}t\right)\)

問3

思考の道筋とポイント
物体Bが床から離れるのは、Bに働く床からの垂直抗力 \(N_{\text{B}}\) が \(0\) になるときです。Aの振動に伴い、ばねの変形量(伸びまたは縮み)が変化し、それが物体Bに及ぼす力も変化します。\(N_{\text{B}}\) が最も小さくなるのは、ばねがBを最も強く上向きに引くとき、すなわち、ばねが(自然長から)最も伸びるときです。この状態がAの振動中に起こりうるかを考え、\(N_{\text{B}} \ge 0\) が常に成り立つための振幅 \(b\) の条件を導き出します。

この設問における重要なポイント

  • 物体Bが床から離れる瞬間は、垂直抗力 \(N_{\text{B}}\) が \(0\) になる瞬間であると理解すること。
  • 物体Aの位置 \(x\)(O点基準、下向き正)によって、ばねの自然長からの変形量(伸びか縮みか、その量はいくらか)がどう変わるかを正確に把握すること。
  • O点はあくまで「力のつり合いの位置」であり、「ばねの自然長の位置」ではないことを常に意識すること。O点ではばねは \(a\) 縮んでいます。
  • Bが最も離れやすくなるのは、Aが振動のどの位置にあるときかを特定すること(Aが最下点 \(x=b\) にあるとき)。

具体的な解説と立式
AをO点から距離 \(b\) だけ押し下げて放すので、AはO点 (\(x=0\)) を中心に振幅 \(b\) で単振動します。したがって、Aの変位 \(x\) の範囲は \(-b \le x \le b\) となります(鉛直下向きを正としています)。

物体Bに働く力は以下の通りです。

  • 鉛直下向きの重力: \(mg\)
  • ばねからの力: \(F_{\text{ばね}}\)(向きと大きさはAの位置 \(x\) に依存)
  • 鉛直上向きの床からの垂直抗力: \(N_{\text{B}}\)

Bが床から離れないためには、常に \(N_{\text{B}} \ge 0\) である必要があります。

Aの位置が \(x\) のとき、ばねの「自然長からの縮み」は \(s = a-x\) であると問1,2の考察で確認しました(O点で \(a\) 縮み、そこからAが \(x\) だけ下がると、全体の縮みは \(a-x\) になる)。

  • もし \(s = a-x > 0\) (つまり \(x < a\)) なら、ばねは縮んでいます。このとき、ばねはBを下向きに \(k(a-x)\) の力で押します。 Bの力のつり合いは \(N_{\text{B}} = mg + k(a-x)\) となります。\(a-x > 0\) なので \(k(a-x) > 0\)。したがって、\(N_{\text{B}} > mg > 0\) となり、この場合はBは床から離れません。
  • もし \(s = a-x < 0\) (つまり \(x > a\)) なら、ばねは伸びています。その伸びの量は \(-s = x-a\) です。このとき、ばねはBを上向きに \(k(x-a)\) の力で引きます。
    Bの力のつり合いは \(N_{\text{B}} + k(x-a) = mg\) となります。よって \(N_{\text{B}} = mg – k(x-a)\)。
    Bが床から離れないためには \(N_{\text{B}} \ge 0\) が必要なので、\(mg – k(x-a) \ge 0\)、つまり \(mg \ge k(x-a)\) が条件となります。

Bが床から離れる可能性があるのは、ばねが伸びてBを上に引くとき、すなわち \(x > a\) の場合です。
このとき、\(N_{\text{B}}\) が \(0\) 以上を保つ条件 \(mg \ge k(x-a)\) が、Aの振動範囲 \([-b, b]\) の中で常に成り立っていればよいわけです。
条件が最も厳しくなるのは、左辺 \(k(x-a)\) が最大になるとき、つまり \(x-a\) が最大となるときです。これは、\(x\) がその取りうる最大値をとるときに起こります。
Aの振動範囲における \(x\) の最大値は \(b\) です。
したがって、Bが床から離れるかどうかは、Aが振動の最下点 \(x=b\) に来たときに、条件 \(mg \ge k(b-a)\) が満たされるかどうかで決まります (ただし、この議論は \(b>a\) の場合、すなわちばねが実際に伸びる可能性がある場合についてです)。

ここで、(1)より \(k = mg/a\)、すなわち \(mg = ka\) という関係がありました。これを代入すると、
$$ka \ge k(b-a)$$
ばね定数 \(k\) は正なので、両辺を \(k\) で割っても不等号の向きは変わりません。
$$a \ge b-a$$
これを \(b\) について整理すると、
$$2a \ge b \quad \text{つまり} \quad b \le 2a$$
この結果は、ばねが伸びる可能性のある \(b>a\) の仮定のもとで導かれました。

もし、最初に \(b \le a\) である場合はどうでしょうか。
この場合、Aが振動の最下点 \(x=b\) にあっても、\(x \le a\) なので、ばねの「縮み」\(a-x\) は \(0\) 以上、つまりばねは常に縮んでいるか自然長です。
このとき、Bはばねから下向きの力 \(k(a-x)\) を受けるか、力を受けません(自然長のとき)。
よって、垂直抗力 \(N_{\text{B}} = mg + k(a-x) \ge mg > 0\) となり、Bは床から離れることはありません。
この \(b \le a\) という条件は、\(a > 0\) とすれば、\(b \le 2a\) という条件に包含されます ( \(b \le a \) , \( b \le 2a\) は常に真)。

したがって、すべての場合を考慮すると、Bが床から離れないためには \(b \le 2a\) でなければなりません。

使用した物理公式

  • 力のつり合い(特に、垂直抗力が0になる条件が「離れる瞬間」)
  • フックの法則
計算過程

物体Bが床から離れるのは、床からの垂直抗力 \(N_{\text{B}}\) が \(0\) になるときです。
ばねがBを上向きに引く力 \(F_{\text{引上}}\) が、Bの重力 \(mg\) に等しくなるとき、\(N_{\text{B}}=0\) となります。
ばねがBを上向きに引くのは、ばねが自然長よりも伸びているときです。
AのO点からの変位を \(x\)(下向き正)とすると、O点ではばねは \(a\) 縮んでいるので、Aの位置が \(x\) のときのばねの自然長からの「縮み」は \(a-x\) です。
ばねが伸びるのは \(a-x < 0\)、すなわち \(x > a\) のときで、そのときの伸びの量は \(x-a\) です。
この伸びによるBへの上向きの引く力は \(k(x-a)\) です。
Bが床から離れないためには、この引く力が \(mg\) を超えないこと、つまり、
$$k(x-a) \le mg$$
が、Aの運動範囲(特に \(x>a\) となる範囲)で常に成り立たなければなりません。
この不等式が最も破られやすい(左辺が最大になる)のは、\(x\) が最大値をとるときです。Aの振幅は \(b\) なので、\(x\) の最大値は \(b\) です。
したがって、Aが最下点 \(x=b\) に来たときに、上の条件が満たされていれば、他のどの位置でも満たされます(ただし \(b>a\) の場合を考えています)。
$$k(b-a) \le mg$$
ここで、(1)で得られた関係 \(mg=ka\) を用います。
$$k(b-a) \le ka$$
ばね定数 \(k\) は正なので、両辺を \(k\) で割ると、
$$b-a \le a$$
これを \(b\) について解くと、
$$b \le 2a$$
この条件は \(b>a\) の仮定のもとで導きましたが、\(b \le a\) の場合は、Aが最下点 \(x=b\) にいても \(x \le a\) であるため、ばねは縮んでいるか自然長であり、Bを上向きに引くことはありません。したがって \(N_{\text{B}} \ge mg > 0\) となり、Bは離れません。この \(b \le a\) は \(b \le 2a\) を満たすので、最終的な条件は \(b \le 2a\) となります。

計算方法の平易な説明

物体Bが床からプカッと浮き上がらないようにするには、Aの動きの幅(振幅 \(b\))をどれくらいまでに抑えれば良いか、という問題ですね。
Bが浮き上がるのは、AのせいでばねがBを上に強く引っ張り、その力がB自身の重さ (\(mg\)) 以上になったときです。
ばねがBを上に引っ張るのは、ばねが「自然の長さ」よりも伸びたときです。Aのつり合い位置O点では、ばねは \(a\) だけ縮んでいました。
AがO点から下に \(x\) だけ動くと、ばねの縮み具合は「\(a\) から \(x\) を引いた分」になります。もし \(x\) が \(a\) より大きいと、これはマイナスになり、ばねは「\(x-a\) だけ伸びている」ことになります。
この「\(x-a\) の伸び」によってBを上に引っ張る力は \(k(x-a)\) です。
これがBの重さ \(mg\) を超えなければセーフなので、\(k(x-a) \le mg\) が条件です。
Aは一番下まで行くと \(x=b\) の位置に来ます。このときが一番Bが浮きやすい状況なので、この \(x=b\) を代入して \(k(b-a) \le mg\) であれば、常にBは浮きません。
(1)で \(mg\) は \(ka\) と等しいことが分かっているので、\(k(b-a) \le ka\) となります。
これを解くと \(b-a \le a\)、つまり \(b \le 2a\) という結果が得られます。
もし、そもそも振幅 \(b\) が \(a\) 以下 (\(b \le a\)) なら、Aが一番下に来てもばねは縮んだままか、せいぜい自然長なので、Bを上に引っ張ることはなく、絶対に浮きません。この場合も \(b \le 2a\) という条件は満たされていますね。

結論と吟味

Aの振動中にBが床から離れないためには、AのO点からの初期押し下げ距離(=振幅)\(b\) が \(2a\) 以下、すなわち \(b \le 2a\) である必要があります。
この結果を物理的に考えてみましょう。もし \(b=2a\) ちょうどの場合、Aが振動の最下点(O点から \(2a\) 下)に来ると、ばねの自然長からの伸びは \(x-a = 2a-a=a\) となります。このとき、ばねがBを上に引く力は \(ka\) です。一方、Bの重力は \(mg\) ですが、(1)から \(ka=mg\) なので、この瞬間、ばねがBを上に引く力とBの重力がちょうどつり合い、床からの垂直抗力 \(N_{\text{B}}\) は \(0\) になります。これより \(b\) が少しでも大きいと(\(b>2a\))、ばねがBを引く力が \(mg\) を超えてしまい、Bは床から離れてしまいます。したがって、\(b \le 2a\) という条件は物理的に妥当であると言えます。

解答 (3) \(b \le 2a\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力のつり合い: 物体が静止している状態、あるいは運動状態が変化しない場合に、物体に働く力のベクトル和が0になるという基本法則です。問1ではAとBそれぞれのつり合いを考えました。
  • フックの法則: ばねの弾性力が、ばねの自然長からの変形量に比例するという法則 (\(F=kx\))。ばねの問題では必須です。
  • 単振動: 物体が平衡点の周りを往復する運動のうち、復元力が変位に比例し、変位と逆向きに働く場合に起こります。\(F=-Kx\) の形。
    • 振動中心: 復元力が0になる点(力のつり合いの位置)。
    • 振幅: 振動中心から最も離れた位置までの距離。
    • 角振動数 (\(\omega\)): 振動の速さを表す量で、\(\omega = \sqrt{K/m}\)(\(K\) は復元力の比例定数)。
  • 力学的エネルギー保存則: 保存力(重力、弾性力など)のみが仕事をする場合に、運動エネルギーと位置エネルギーの和が一定に保たれる法則。問2(ア)の別解で用いました。基準点の取り方が重要です。
  • 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに力を及ぼすとき、物体Bも物体Aに大きさが等しく向きが反対の力を及ぼすという法則。問1でばねがAを押す力とBを押す力を考える際に暗黙的に用いています。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 水平ばね振り子、鉛直ばね振り子(特に、つり合いの位置が自然長からずれる場合)。
    • 複数の物体がばねで連結されている系。
    • 物体が床や壁から離れる条件、あるいは滑り出す条件を問う問題(摩擦力が絡む場合も)。
    • U字管内の液体の振動など、見かけは違えど単振動として扱える問題。
  • 初見の問題で着目すべき点:
    1. 力の図示: まず、各物体に働く力をすべて正確に図示すること。特に接触力(垂直抗力、摩擦力)や遠隔力(重力、弾性力、電気力など)を漏らさずに。
    2. 座標軸の設定: 運動の方向や力の分解を考慮して、適切な座標軸を設定する。
    3. つり合いの位置の特定: 静止状態やつり合い振動の中心はどこか。
    4. 運動方程式の立式: 各物体について、運動方程式 \(ma=F\) を立てる。単振動の場合は \(F=-Kx\) の形を目指す。
    5. エネルギー保存則の適用の可否: 保存力のみが働くか、非保存力が仕事をするかを確認する。
    6. 「離れる」「滑る」の限界条件: 垂直抗力が0、静止摩擦力が最大摩擦力を超える、などの条件を数式化する。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • ばねの力の向き: ばねが「縮んでいる」のか「伸びている」のかを正確に判断し、それぞれの物体に働く力の向きを間違えないこと。特に2物体間にあるばねの場合、片方に働く力と他方に働く力は逆向き(作用・反作用)になります。
  • 自然長とつり合いの位置の混同: ばね振り子では、特につり合いの位置が自然長の位置と一致しない場合(鉛直ばね振り子や本問の初期状態など)に注意が必要です。弾性エネルギーを計算する際の「変形量」は常に「自然長からの変化」です。
  • 単振動の振幅と振動中心: 振動の中心は「力のつり合いの位置」です。振幅は「振動中心からの最大変位」です。これらを問題の状況に合わせて正しく設定することが重要です。
  • 符号のミス: 座標軸の正の向きと力の向き、変位の向きを考慮して、式中の符号を間違えないように注意が必要です。

対策:

  • 必ず力を図示する習慣をつける。
  • 自然長の位置、つり合いの位置を明確に区別して図に書き込む。
  • 単振動の基本的な定義(復元力、振動中心、振幅、周期、角振動数)をしっかり理解し、問題ごとにこれらの要素を特定する練習を積む。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 有効だった図:
    • 各物体にはたらく力のベクトル図(つり合い状態、振動中のある瞬間など)。
    • ばねの自然長、つり合いの位置、振動の端点などを示した位置関係の図。
  • 図を描く際の注意点:
    • 力の矢印は、作用点を明確にし、向きと相対的な大きさがわかるように描く。
    • 座標軸の向きを明記する。
    • ばねの伸び縮みがわかるように、自然長の位置を基準として描くと良い。
    • 現象を単純化しすぎず、しかし本質がわかるように描く。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつり合い (\(\Sigma F = 0\)): 物体が静止している、または等速直線運動している場合に適用。本問ではAの初期静止状態、Bの静止状態で使用。
  • フックの法則 (\(F=kx\)): ばねの弾性力を計算する際に使用。\(x\) は自然長からの変形量。
  • 運動方程式 (\(ma=F\)): 物体の運動状態が変化する(加速度が生じる)場合に基本となる式。単振動の解析で加速度を求める際に使用。
  • 単振動の角振動数 (\(\omega = \sqrt{k/m}\) または \(\sqrt{K/m}\)): 復元力が \(F=-Kx\) と表される場合に適用。\(K\) が有効な「ばね定数のようなもの」。
  • 力学的エネルギー保存則: 外力や非保存力が仕事をしない場合に適用。基準点の選び方で式の形が変わるが、結果は同じになる。

これらの公式がなぜその場面で使えるのか(あるいは使えないのか)を常に自問自答する習慣が、応用力を高めます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 状況把握と図示: 問題文を読み解き、物体やばねの位置関係、働く力を図に描いて整理する。
  2. 法則の選択: 静止していれば「力のつり合い」、運動していれば「運動方程式」や「エネルギー保存則」など、状況に応じた物理法則を選択する。
  3. 立式: 選択した法則に基づいて数式を立てる。座標軸や力の向き、変数の定義を明確にする。
    • (1) Aのつり合い \(\rightarrow\) \(k\) の決定。Bのつり合い \(\rightarrow\) \(N\) の決定。
    • (2) 単振動の性質(\(\omega\), \(A\), \(v_{\text{最大}}\))、初期条件 \(\rightarrow\) \(x(t)\) の決定。
    • (3) Bが離れる条件 (\(N_{\text{B}}=0\)) を特定し、Aの振動中のどの瞬間にその条件が最も満たされやすいかを考察 \(\rightarrow\) \(b\) の条件式の導出。
  4. 計算実行: 立てた式を解いて答えを求める。文字計算を丁寧に行い、最後に数値を代入する方がミスが少ない。
  5. 解の吟味: 得られた答えが物理的に妥当か(単位、符号、極端な場合の挙動など)を検討する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の確認: 式の各項や最終的な答えの単位が正しいか常に意識する。
  • 文字式の利用: できるだけ計算の最後まで文字を使って進め、代入は最後に行う。これにより、途中の計算ミスを発見しやすくなったり、一般的な関係が見えやすくなったりする。
  • 符号のチェック: 力の向き、変位の向き、座標軸の正負を常に意識し、式の符号が正しいか確認する。
  • 途中式の明記: 計算過程を省略せずに丁寧に書くことで、間違いを発見しやすくなる。
  • 検算: 時間が許せば、別の方法で解いたり、極端な値を代入したりして検算する。例えば、(2)(ア)は \(v_{\text{最大}}=A\omega\) とエネルギー保存則の2通りで確認できました。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な妥当性の確認:
    • 例えば、(1)で \(N=2mg\) となったのは、AとBの合計の重さを床が支えていると解釈でき、直感と合います。
    • (3)で \(b \le 2a\) という条件は、\(b\) が大きすぎるとBが浮くという直感と一致します。\(b=0\)(振動しない)なら当然浮かない。\(b=a\) のときは、(2)の状況と同じで浮かないはず(\(a \le 2a\) は \(a \ge 0\) なので成立)。
  • 単位の確認: 解説の各所で触れた通り、常に単位が物理的に正しいかを確認しましょう。
  • 極端な場合を考える:
    • もし \(a \rightarrow 0\) だったとしたらどうなるか?(ばねが最初から自然長に近い状態でつり合う状況は、\(mg\)が非常に小さい場合などを意味し、問題設定自体が難しくなりますが、思考実験として有効です)。
    • もし \(g \rightarrow 0\) だったとしたらどうなるか?(無重力状態では、つり合いの位置Oの定義が変わります)。
  • 既知の事実との比較: 例えば、鉛直ばね振り子の周期の公式など、関連する知識と矛盾がないか確認する(本問では直接周期を問われてはいませんが)。

これらの振り返りポイントを意識して学習を進めることで、単に問題を解けるだけでなく、物理現象への深い理解と応用力が身につきます。頑張ってください!

問題48 (千葉大+学習院大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、傾角30°の滑らかな斜面上で、ばねに繋がれた小球Aと、斜面を滑り降りてくる小球Bとの弾性衝突、そしてその後の各小球の運動を扱う力学の総合問題です。力学的エネルギー保存則、運動量保存則、単振動といった複数の重要な物理概念が絡み合っています。

与えられた条件
  • 斜面の傾角: \(\theta = 30^\circ\)
  • 斜面は滑らか(摩擦なし)
  • 小球A: 質量 \(M\)、ばね(ばね定数 \(k\))で壁に結ばれ、初期位置は原点 (\(x=0\)) で静止(この位置がばねの自然長)。
  • 小球B: 質量 \(m\)。重要な条件として \(m<M\)。
  • Bの初期状態: Aから距離 \(d\) だけ離れた位置(\(x=-d\))で静かに置かれる(初速度0)。
  • 衝突: AとBは弾性衝突(反発係数 \(e=1\))。
  • 座標軸: 斜面に平行に \(x\) 軸、Aの初期位置(自然長位置)を原点 (\(x=0\))、斜面右下向きが正。
  • 重力加速度の大きさ: \(g\)
  • (3)の仮定: Aが再び原点に戻るまでの間にBとの2回目の衝突は起こらない。
  • (5)の目標: Aが初めて原点に戻ったときにBと2回目の衝突が起こる。
問われていること
  1. 衝突直前のBの速度 \(u\)。
  2. 衝突直後のAの速度 \(v_A\) とBの速度 \(v_B\)。
  3. 衝突後、Aが達する最下点(\(x\) 軸正方向の最大変位)の座標 \(x_0\) を、\(v_A, M, k\) を用いて表す。
  4. Aが \(x = \frac{1}{2}x_0\) の位置を通過するときの速さ \(w\) を、\(v_A\) を用いて表す。
  5. Aが初めて原点に戻ったときに、Bと2回目の衝突が起こるための初期距離 \(d\) を、\(M, m, k, g\) を用いて表す。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は、斜面上の物体の運動エネルギーと位置エネルギーの変化、2体衝突における運動量とエネルギーのやり取り、そしてばねによる単振動という、力学の重要事項を網羅的に扱っています。各ステップでどの物理法則が適用できるかを正確に見極め、数式に落とし込んでいくことが求められます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 力学的エネルギー保存則: 保存力(本問では重力とばねの弾性力)のみが仕事をする場合に、運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定に保たれます。
  • 運動量保存則: 外力が働かない系(または、衝突のような極めて短い時間では内力に比べて無視できる系)では、系の全運動量は保存されます。
  • 弾性衝突 (反発係数 \(e=1\)): 運動エネルギーが保存される衝突です。運動量保存則と合わせて、衝突後の速度を決定するのに用います。
  • 単振動: ばねに繋がれた物体が、つり合いの位置(本問ではばねの自然長の位置)を中心に復元力を受けて行う周期的な往復運動です。そのエネルギーや周期に関する理解が必要です。

全体的な戦略としては、まずBがAに衝突するまでの運動を力学的エネルギー保存則で解析し、次にAとBの衝突を運動量保存則と反発係数の式で解析します。その後、Aの単振動の様子をエネルギー保存則で、Bの等加速度直線運動を運動の法則で追跡し、最終的に2回目の衝突の条件へと繋げます。

問1

思考の道筋とポイント
小球Bは、初速度0でAから距離 \(d\) の位置(高さ \(d \sin 30^\circ\))から斜面を滑り降ります。この過程では重力のみが仕事をするため(斜面は滑らか)、力学的エネルギー保存則が適用できます。Bが最初に持っていた重力による位置エネルギーが、Aに衝突する直前にはすべてBの運動エネルギーに変換されると考えます。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則が使える条件を正しく認識すること(保存力以外の力が仕事をしない)。
  • 重力による位置エネルギーの基準点を適切に設定すること(通常、最も低い位置か初期位置を基準にすると計算が簡便)。
  • 斜面の角度から、高さの変化量を正確に計算すること (\(h = d \sin \theta\))。

具体的な解説と立式
小球BがAに衝突する直前の位置(\(x=0\))を重力による位置エネルギーの基準面(高さ0)とします。
Bが運動を始める前の初期状態(\(x=-d\) の位置):

  • 初速度: \(v_{\text{初}} = 0\)
  • 基準面からの高さ: \(h = d \sin 30^\circ = d \cdot \frac{1}{2} = \frac{d}{2}\)
  • 初期の力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\):
    $$E_{\text{初}} = (\text{運動エネルギー})_{\text{初}} + (\text{位置エネルギー})_{\text{初}} = 0 + mg\left(\frac{d}{2}\right) = \frac{1}{2}mgd$$

BがAに衝突する直前の最終状態(\(x=0\) の位置):

  • 速度: \(u\) (求める速さ)
  • 基準面からの高さ: \(0\)
  • 最終の力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\):
    $$E_{\text{後}} = (\text{運動エネルギー})_{\text{後}} + (\text{位置エネルギー})_{\text{後}} = \frac{1}{2}mu^2 + 0 = \frac{1}{2}mu^2$$

力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) より、
$$\frac{1}{2}mgd = \frac{1}{2}mu^2$$
この式を \(u\) について解きます。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{重力,初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{重力,後}}\)
  • 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
  • 重力による位置エネルギー: \(U_{\text{重力}} = mgh\)
計算過程

力学的エネルギー保存則の式:
$$\frac{1}{2}mgd = \frac{1}{2}mu^2$$
両辺に \(\frac{2}{m}\) を掛けます(質量 \(m \neq 0\) なので可)。
$$gd = u^2$$
\(u\) は速さなので \(u > 0\) です。したがって、
$$u = \sqrt{gd}$$

計算方法の平易な説明

小球Bが斜面を滑り落ちるとき、最初に持っていた「高さのエネルギー」(位置エネルギー)が、だんだんと「速さのエネルギー」(運動エネルギー)に変わっていきます。斜面がツルツルなので、エネルギーが無駄になることはありません。
最初の位置エネルギーは、質量 \(m\)、重力加速度 \(g\)、高さ \(h\) で \(mgh\) と表せます。この問題での高さは、Aからの距離 \(d\) と斜面の角度 \(30^\circ\) から \(h = d \sin 30^\circ = d/2\) です。なので、最初のエネルギーは \(mg(d/2)\) です。
これが衝突直前にはすべて運動エネルギー \(\frac{1}{2}mu^2\) に変わるので、\(mg(d/2) = \frac{1}{2}mu^2\) という等式が成り立ちます。これを \(u\) について解くと、\(u=\sqrt{gd}\) となります。

結論と吟味

衝突直前のBの速度 \(u\) は \(\sqrt{gd}\) です。
単位を確認してみましょう。重力加速度 \(g\) の単位は \([\text{m/s}^2]\)、距離 \(d\) の単位は \([\text{m}]\) です。したがって、\(gd\) の単位は \([\text{m}^2/\text{s}^2]\) となり、その平方根である \(u\) の単位は \([\text{m/s}]\) となって、速度の単位として正しいです。
また、直感的に考えても、Bが離れている距離 \(d\) が大きいほど、また重力加速度 \(g\) が大きいほど、衝突直前の速度 \(u\) は大きくなるという結果は妥当です。

解答 (1) \(u = \sqrt{gd}\)

問2

思考の道筋とポイント
小球Aと小球Bの衝突は弾性衝突(反発係数 \(e=1\))です。衝突の前後で、AとBからなる系全体の運動量が保存されます(運動量保存則)。また、弾性衝突なので、反発係数の式も成り立ちます。これら2つの式を連立させることで、衝突直後のAの速度 \(v_A\) とBの速度 \(v_B\) を求めることができます。速度はベクトル量なので、\(x\) 軸の正負で向きを表すことに注意します。

この設問における重要なポイント

  • 運動量保存則は、衝突方向(本問では斜面に平行な \(x\) 軸方向)について立てること。
  • 衝突前のAの速度は \(0\) であること、衝突前のBの速度は \(u\) であること(\(x\) 軸正向き)を正しく式に反映させること。
  • 弾性衝突なので反発係数 \(e=1\)。反発係数の式: \((\text{衝突後の相対速度}) = -e \times (\text{衝突前の相対速度})\) を正確に用いること。
  • 得られた速度の符号が、衝突後の運動方向(\(x\) 軸の正方向か負方向か)を示していることを理解すること。

具体的な解説と立式
衝突直前のAの速度を \(u_A=0\)、Bの速度を \(u_B = u\)(\(x\) 軸正向き)とします。
衝突直後のAの速度を \(v_A\)、Bの速度を \(v_B\) とします(これらも \(x\) 軸方向の速度成分)。

運動量保存則(\(x\) 軸方向):
(衝突前の全運動量) = (衝突後の全運動量)
$$M u_A + m u_B = M v_A + m v_B$$
$$M \cdot 0 + m u = M v_A + m v_B$$
$$mu = M v_A + m v_B \quad \cdots ①$$

反発係数の式(弾性衝突なので \(e=1\)):
\(v_A – v_B = -e(u_A – u_B)\)
$$v_A – v_B = -1(0 – u)$$
$$v_A – v_B = u \quad \cdots ②$$
式①と式②を \(v_A\) と \(v_B\) についての連立方程式として解きます。

使用した物理公式

  • 運動量保存則: \(m_1 \vec{v_1} + m_2 \vec{v_2} = m_1 \vec{v_1}’ + m_2 \vec{v_2}’\) (ベクトル量)
  • 反発係数の式(衝突方向の速度成分について): \(v_1′ – v_2′ = -e(v_1 – v_2)\)
計算過程

式①: \(mu = M v_A + m v_B\)
式②: \(u = v_A – v_B\)

式②から \(v_B = v_A – u\) とし、これを式①に代入します:
$$mu = M v_A + m (v_A – u)$$
$$mu = M v_A + m v_A – mu$$
右辺を \(v_A\) でまとめ、左辺に \(-mu\) を移項します:
$$mu + mu = (M+m)v_A$$
$$2mu = (M+m)v_A$$
したがって、\(v_A\) は、
$$v_A = \frac{2m}{M+m}u$$
次に、この \(v_A\) を \(v_B = v_A – u\) に代入して \(v_B\) を求めます:
$$v_B = \frac{2m}{M+m}u – u$$
共通因数 \(u\) でくくり、通分します:
$$v_B = \left(\frac{2m}{M+m} – \frac{M+m}{M+m}\right)u$$
$$v_B = \frac{2m – (M+m)}{M+m}u$$
$$v_B = \frac{2m – M – m}{M+m}u$$
$$v_B = \frac{m-M}{M+m}u$$
(1)で求めた \(u = \sqrt{gd}\) を代入すると、
$$v_A = \frac{2m}{M+m}\sqrt{gd}$$
$$v_B = \frac{m-M}{M+m}\sqrt{gd}$$

計算方法の平易な説明

2つのボールがぶつかる時、2つの大切なルールがあります。1つ目は「運動量保存則」といって、ぶつかる前と後で、2つのボールを合わせた全体の「勢い」のようなものは変わらない、というルールです。式で書くと \(mu = Mv_A + mv_B\) となります(Aは最初止まっていたので勢い0)。
2つ目は「反発係数の式」です。今回は「弾性衝突」というよく跳ね返る衝突なので、反発係数は1です。このときの速度の関係は \(v_A – v_B = u\) となります。
この2つの式を連立方程式として解けば、衝突後のAの速度 \(v_A\) とBの速度 \(v_B\) が、衝突前のBの速度 \(u\) を使って表せます。

結論と吟味

衝突直後のAの速度は \(v_A = \displaystyle\frac{2m}{M+m}u = \frac{2m}{M+m}\sqrt{gd}\) です。
衝突直後のBの速度は \(v_B = \displaystyle\frac{m-M}{M+m}u = \frac{m-M}{M+m}\sqrt{gd}\) です。
ここで各速度の向きを確認しましょう。\(M, m, u\) は全て正の値です。
\(v_A\) の係数 \(\frac{2m}{M+m}\) は常に正なので、\(v_A\) は常に正、つまり小球Aは衝突後、必ず \(x\) 軸の正方向(斜面右下向き)に動き出します。これは直感的にも理解できます。
一方、\(v_B\) の係数 \(\frac{m-M}{M+m}\) の符号は \(m-M\) の符号で決まります。問題文で \(m < M\) という条件が与えられているため、\(m-M < 0\) となります。したがって、\(v_B\) は負の値を取ります。これは、小球Bが衝突後、\(x\) 軸の負方向(斜面左上向き)にはね返ることを意味します。軽い物体が重い静止物体に弾性衝突すると、軽い物体ははね返るという現象と一致しており、物理的に妥当です。

解答 (2) \(v_A = \displaystyle\frac{2m}{M+m}\sqrt{gd}\), \(v_B = \displaystyle\frac{m-M}{M+m}\sqrt{gd}\)

問3

思考の道筋とポイント
衝突によって \(x\) 軸正方向に初速度 \(v_A\) を得た小球Aは、ばねの復元力を受けて単振動を開始します。Aの初期位置(原点 \(x=0\))はばねの自然長の位置なので、この点が単振動の振動中心となります。Aが達する最下点(\(x\) 軸正方向の最大の変位)を \(x_0\) とすると、この位置ではAの速さは一瞬 \(0\) になります。このとき、衝突直後にAが持っていた運動エネルギーが、すべてばねの弾性エネルギー(ポテンシャルエネルギー)に変換されたと考え、単振動におけるエネルギー保存則を適用します。

この設問における重要なポイント

  • 単振動の振動中心がどこか(本問では原点=ばねの自然長の位置)を正しく認識すること。
  • 単振動の端(最下点や最上点)では、物体の速さは一瞬 \(0\) になること。
  • 単振動の系において力学的エネルギー(運動エネルギー + 弾性エネルギー)が保存されることを理解し、それを利用すること。具体的には、振動中心(\(x=0\))での運動エネルギーが、振動の端(\(x=x_0\))での弾性エネルギーに等しい。

具体的な解説と立式
小球Aは、原点 (\(x=0\)) を振動中心として単振動を行います。
衝突直後のAの状態(単振動が始まるときの状態とみなせる):

  • 位置: \(x=0\)
  • 速度: \(v_A\)
  • このときのAの運動エネルギー: \(\frac{1}{2}Mv_A^2\)
  • このときのばねの弾性エネルギー: \(\frac{1}{2}k(0)^2 = 0\) (ばねは自然長)

したがって、Aの単振動における力学的エネルギー(全エネルギー)は \(\frac{1}{2}Mv_A^2\) です。

Aが最下点 \(x_0\) に達したときの状態:

  • 位置: \(x=x_0\)
  • 速度: \(0\) (最下点では一瞬静止)
  • このときのAの運動エネルギー: \(0\)
  • このときのばねの弾性エネルギー: \(\frac{1}{2}kx_0^2\)

単振動において力学的エネルギーは保存されるので、(振動中心での運動エネルギー) = (最下点での弾性エネルギー) が成り立ちます。
$$\frac{1}{2}Mv_A^2 = \frac{1}{2}kx_0^2$$
この式を \(x_0\) について解きます。\(x_0\) は最下点の座標なので \(x_0 > 0\) です。

使用した物理公式

  • 単振動における力学的エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\)
  • 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
  • 弾性力による位置エネルギー(ばねのエネルギー): \(U_{\text{ばね}} = \frac{1}{2}kx^2\) (\(x\) は自然長からの変位)
計算過程

単振動のエネルギー保存則より:
$$\frac{1}{2}Mv_A^2 = \frac{1}{2}kx_0^2$$
両辺に \(2\) を掛けて整理すると:
$$Mv_A^2 = kx_0^2$$
\(x_0^2\) について解くと:
$$x_0^2 = \frac{Mv_A^2}{k}$$
\(x_0 > 0\) (最下点の座標は正の変位)であり、\(v_A > 0\) なので、両辺の正の平方根をとると:
$$x_0 = \sqrt{\frac{Mv_A^2}{k}} = v_A\sqrt{\frac{M}{k}}$$

計算方法の平易な説明

ボールAは、ぶつかった直後の勢い(速度 \(v_A\))で動き出し、ばねを伸ばしていきます。最もばねが伸びた点(最下点 \(x_0\))では、Aは一瞬止まります。このとき、最初にAが持っていた運動エネルギー(\(\frac{1}{2}Mv_A^2\))が、すべてばねの伸びによるエネルギー(ばねのポテンシャルエネルギー \(\frac{1}{2}kx_0^2\))に変わったと考えることができます。
したがって、「最初の運動エネルギー = 最下点でのばねのエネルギー」という式、つまり \(\frac{1}{2}Mv_A^2 = \frac{1}{2}kx_0^2\) が成り立ちます。これを \(x_0\) について解くと、\(x_0 = v_A\sqrt{M/k}\) が得られます。この \(x_0\) が、Aの単振動の振幅になります。

結論と吟味

Aが達する最下点の座標 \(x_0\) は \(v_A\sqrt{\displaystyle\frac{M}{k}}\) です。
単位の確認をしてみましょう。\(v_A\) の単位は \([\text{m/s}]\)、\(M\) の単位は \([\text{kg}]\)、\(k\) の単位は \([\text{N/m}] = [\text{kg} \cdot \text{m/s}^2 / \text{m}] = [\text{kg/s}^2]\) です。
すると、\(\sqrt{M/k}\) の単位は \(\sqrt{[\text{kg}] / [\text{kg/s}^2]} = \sqrt{[\text{s}^2]} = [\text{s}]\)。
したがって、\(x_0 = v_A\sqrt{M/k}\) の単位は \([\text{m/s}] \cdot [\text{s}] = [\text{m}]\) となり、座標(長さ)の単位として正しいです。
物理的にも、衝突直後の速度 \(v_A\) が大きいほど、Aの質量 \(M\) が大きいほど(慣性が大きい)、また、ばね定数 \(k\) が小さいほど(ばねが柔らかい)、Aはより遠くまで変位する (\(x_0\) が大きくなる) という結果は直感と一致します。

解答 (3) \(x_0 = v_A\sqrt{\displaystyle\frac{M}{k}}\)

問4

思考の道筋とポイント
小球Aは単振動をしています。単振動中、系の力学的エネルギー(運動エネルギーと弾性エネルギーの和)は常に保存されます。この保存される力学的エネルギーの総量は、(3)で考えたように、衝突直後のAの運動エネルギー \(\frac{1}{2}Mv_A^2\)(または最下点での弾性エネルギー \(\frac{1}{2}kx_0^2\))に等しいです。Aが \(x = \frac{1}{2}x_0\) の位置を通過するときの速さを \(w\) として、この位置での運動エネルギーと弾性エネルギーの和が、単振動の全エネルギーに等しいという式を立てます。

この設問における重要なポイント

  • 単振動のどの瞬間においても、運動エネルギーと弾性エネルギーの和が一定(単振動の全エネルギー)であることを利用すること。
  • (3)で確立した関係式(\(kx_0^2 = Mv_A^2\) や全エネルギーが \(\frac{1}{2}Mv_A^2\) であること)をうまく活用すると計算が簡略化できる。
  • 代数計算、特に \(x_0\) を含む項の処理を正確に行うこと。

具体的な解説と立式
小球Aの単振動における力学的エネルギーは一定で、その値は \(E_{\text{全}} = \frac{1}{2}Mv_A^2\) です((3)より、これは \(\frac{1}{2}kx_0^2\) とも等しい)。
Aが \(x = \frac{1}{2}x_0\) の位置を速さ \(w\) で通過するとき、その瞬間の力学的エネルギーは、
$$(\text{運動エネルギー}) + (\text{弾性エネルギー}) = \frac{1}{2}Mw^2 + \frac{1}{2}k\left(\frac{x_0}{2}\right)^2$$
これが単振動の全エネルギー \(E_{\text{全}}\) に等しいので、
$$\frac{1}{2}Mv_A^2 = \frac{1}{2}Mw^2 + \frac{1}{2}k\left(\frac{x_0}{2}\right)^2$$
この式を \(w\) について解きます。(3)の結果から \(kx_0^2 = Mv_A^2\) であることを利用します。

使用した物理公式

  • 単振動における力学的エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\) (この一定値は \(\frac{1}{2}m v_{\text{max}}^2\) や \(\frac{1}{2}K A^2\) とも書ける)
計算過程

単振動のエネルギー保存則の式:
$$\frac{1}{2}Mv_A^2 = \frac{1}{2}Mw^2 + \frac{1}{2}k\left(\frac{x_0^2}{4}\right)$$
両辺に \(2\) を掛けて整理すると:
$$Mv_A^2 = Mw^2 + \frac{1}{4}kx_0^2$$
ここで、(3)より \(kx_0^2 = Mv_A^2\) という関係があるので、これを代入します。
$$Mv_A^2 = Mw^2 + \frac{1}{4}(Mv_A^2)$$
\(Mw^2\) について解くと:
$$Mw^2 = Mv_A^2 – \frac{1}{4}Mv_A^2$$
$$Mw^2 = \frac{3}{4}Mv_A^2$$
両辺を \(M\) で割ります(\(M \neq 0\))。
$$w^2 = \frac{3}{4}v_A^2$$
\(w\) は速さなので \(w > 0\) です(また \(v_A\) は衝突直後の速さなので \(v_A > 0\))。したがって、
$$w = \sqrt{\frac{3}{4}v_A^2} = \frac{\sqrt{3}}{2}v_A$$

計算方法の平易な説明

ボールAがばねで振動している間、その「エネルギーの合計」(運動エネルギーとばねのエネルギーの和)はずっと同じです。最初にAが動き出す瞬間のエネルギーは \(\frac{1}{2}Mv_A^2\) でした。
Aが振動の最大幅の半分の位置 (\(x = \frac{1}{2}x_0\)) を通るとき、そのときの速さを \(w\) とすると、運動エネルギーは \(\frac{1}{2}Mw^2\)、ばねのエネルギーは \(\frac{1}{2}k(\frac{x_0}{2})^2\) です。
これら2つのエネルギーの合計が、最初のエネルギー \(\frac{1}{2}Mv_A^2\) と等しい、という式を立てます。
\(\frac{1}{2}Mv_A^2 = \frac{1}{2}Mw^2 + \frac{1}{2}k(\frac{x_0}{2})^2\)。
ここで、(3)で \(x_0\) と \(v_A\) の間には \(kx_0^2 = Mv_A^2\) という関係があることが分かっているので、これを利用して式を整理すると、\(w = \frac{\sqrt{3}}{2}v_A\) という結果が得られます。

結論と吟味

Aが \(x = \frac{1}{2}x_0\) を通るときの速さ \(w\) は \(\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}v_A\) です。
ここで、\(\frac{\sqrt{3}}{2} \approx 0.866\) なので、\(w\) は \(v_A\)(振動中心 \(x=0\) での速さ、これが単振動の最大速度)よりも小さい値となっています。振動中心から離れるにつれて速さが遅くなるという単振動の性質と一致しており、物理的に妥当な結果です。
もし \(x=0\) ならば \(w=v_A\)、\(x=x_0\) ならば \(w=0\) となることも、このエネルギー保存の式から導かれます。

解答 (4) \(w = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}v_A\)

問5

思考の道筋とポイント
Aが衝突後に単振動を行い、初めて原点 (\(x=0\)) に戻るまでの時間 \(t_A\) を計算します。これはAの単振動の周期 \(T_A\) の半分に相当します。
一方、Bは衝突後に初速度 \(v_B\) で \(x\) 軸方向に運動を開始します。(2)の結果から \(v_B\) は負であり、Bは斜面を一度左上向きに上がった後、重力の斜面成分によって減速し、やがて反転して再び斜面を下り、原点 (\(x=0\)) に戻ってきます。このBが原点に戻るまでの時間 \(t_B\) を計算します。Bの運動は等加速度直線運動です。
Aが原点に戻ったときにBと2回目の衝突が起こるためには、\(t_A = t_B\) が成り立たなければなりません。この時間の一致の条件から、Bが最初に置かれていたAからの距離 \(d\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 小球Aの運動(単振動)と小球Bの運動(等加速度直線運動)をそれぞれ独立に考え、それぞれの運動にかかる時間を正確に計算すること。
  • Aが原点に戻る時間は、単振動の周期 \(T_A = 2\pi\sqrt{M/k}\) の半分であること。
  • Bの運動において、初速度 \(v_B\) の向き(符号)と加速度の向き(常に斜面下向き \(g\sin30^\circ\))を正確に考慮し、等加速度直線運動の公式を正しく適用して時間を求めること。
  • 最終的に \(d\) を求めるために、これまでに得られた \(v_B\) と \(u\) の関係式、および \(u\) と \(d\) の関係式を代入し、複雑な代数計算を正確に行うこと。

具体的な解説と立式
1. Aが初めて原点に戻るまでの時間 \(t_A\):
小球A(質量 \(M\)、ばね定数 \(k\))は単振動をします。その周期 \(T_A\) は、
$$T_A = 2\pi\sqrt{\frac{M}{k}}$$
Aは衝突直後に原点 \(x=0\) から動き出し(\(x\) 軸正方向へ)、最下点 \(x_0\) に達した後、再び原点 \(x=0\) に戻ってきます。この運動にかかる時間は、単振動の半周期に相当します。
$$t_A = \frac{T_A}{2} = \frac{1}{2} \cdot 2\pi\sqrt{\frac{M}{k}} = \pi\sqrt{\frac{M}{k}} \quad \cdots ③$$

2. Bが再び原点に戻るまでの時間 \(t_B\):
小球Bは、衝突直後に初速度 \(v_B = \frac{m-M}{M+m}u\) で運動を開始します。(2)で確認したように、\(m<M\) なので \(v_B < 0\) です。つまり、Bは \(x\) 軸負の向き(斜面左上向き)に打ち出されます。 Bに働く力は重力の斜面成分のみです(斜面は滑らか)。\(x\) 軸正方向(斜面右下向き)を正とすると、Bの加速度 \(a_B\) は、重力の斜面下向き成分により、 $$a_B = g \sin 30^\circ = g \cdot \frac{1}{2} = \frac{g}{2}$$ (この加速度は常に \(x\) 軸正方向、つまり斜面下向きに働きます) Bが時刻 \(t=0\)(衝突直後)に原点 \(x=0\) から初速度 \(v_B\) で運動を始め、時刻 \(t_B\) に再び原点 \(x=0\) に戻ってくるとします。等加速度直線運動の変位の式 \(x(t) = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) を用いると、 $$0 = v_B t_B + \frac{1}{2}a_B t_B^2$$ $$0 = v_B t_B + \frac{1}{2}\left(\frac{g}{2}\right)t_B^2$$ $$0 = v_B t_B + \frac{g}{4}t_B^2$$ \(t_B \neq 0\)(衝突後なので \(t_B > 0\))より、両辺を \(t_B\) で割ると、
$$0 = v_B + \frac{g}{4}t_B$$
これを \(t_B\) について解くと、
$$t_B = -\frac{4v_B}{g} \quad \cdots ④$$
ここで \(v_B\) は負の値なので、\(t_B\) は正の値となり、物理的に意味のある時間となります。

3. 時間の一致条件 \(t_A = t_B\) から \(d\) を求める:
式③と式④を等しいとおき、(2)で求めた \(v_B = \frac{m-M}{M+m}u\) と、(1)で求めた \(u = \sqrt{gd}\) を代入して、最終的に \(d\) について解きます。
$$\pi\sqrt{\frac{M}{k}} = -\frac{4v_B}{g}$$
ここに \(v_B = \frac{m-M}{M+m}u\) を代入します。
$$\pi\sqrt{\frac{M}{k}} = -\frac{4}{g}\left(\frac{m-M}{M+m}u\right)$$
\(m-M = -(M-m)\) を利用して、マイナス符号を整理すると、
$$\pi\sqrt{\frac{M}{k}} = \frac{4(M-m)}{(M+m)g}u$$
次に、\(u = \sqrt{gd}\) を代入します。
$$\pi\sqrt{\frac{M}{k}} = \frac{4(M-m)}{(M+m)g}\sqrt{gd}$$
この式を \(d\) について解くために、両辺を2乗します。

使用した物理公式

  • 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\) (半周期は \(T/2\))
  • 等加速度直線運動の変位の式: \(x(t) = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
  • (1)で求めた \(u = \sqrt{gd}\)
  • (2)で求めた \(v_B = \frac{m-M}{M+m}u\)
計算過程

Aが初めて原点に戻るまでの時間 \(t_A\):
$$t_A = \pi\sqrt{\frac{M}{k}}$$
Bが再び原点に戻るまでの時間 \(t_B\):
$$t_B = -\frac{4v_B}{g} = -\frac{4}{g}\left(\frac{m-M}{M+m}u\right) = \frac{4(M-m)}{(M+m)g}u$$
2回目の衝突が起こる条件 \(t_A = t_B\) より、
$$\pi\sqrt{\frac{M}{k}} = \frac{4(M-m)}{(M+m)g}u$$
ここに、(1)の結果 \(u = \sqrt{gd}\) を代入します。
$$\pi\sqrt{\frac{M}{k}} = \frac{4(M-m)}{(M+m)g}\sqrt{gd}$$
両辺を2乗して \(d\) について整理します:
$$\left(\pi\sqrt{\frac{M}{k}}\right)^2 = \left(\frac{4(M-m)}{(M+m)g}\sqrt{gd}\right)^2$$
$$\pi^2 \frac{M}{k} = \frac{16(M-m)^2}{(M+m)^2 g^2} \cdot gd$$
$$\pi^2 \frac{M}{k} = \frac{16(M-m)^2 d}{(M+m)^2 g}$$
この式を \(d\) について解くと、
$$d = \pi^2 \frac{M}{k} \cdot \frac{(M+m)^2 g}{16(M-m)^2}$$
$$d = \frac{\pi^2 M g (M+m)^2}{16 k (M-m)^2}$$

計算方法の平易な説明

Aがバネでビヨーンと一往復する半分(つまり元の位置に戻るまで)の時間を計算します。これは \(\pi\sqrt{M/k}\) となります。
一方、Bは衝突後、一旦斜面を上に進んでからUターンし、また元の衝突場所(原点)に戻ってきます。このBが戻ってくるまでの時間を計算します。Bは初速度 \(v_B\)(上向きなのでマイナスの値)で、常に下向きに \(g/2\) の加速度で運動します。原点に戻るまでの時間は \(t_B = -4v_B/g\) と計算できます。
この2つの時間、\(t_A\) と \(t_B\) がピッタリ同じになれば、Aが原点に戻ってきた瞬間にBも原点にいるので、2回目の衝突が起こります。
そこで \(t_A = t_B\) という式を立てます。この式には \(v_B\) や \(u\) が含まれていますが、これらは(1)や(2)で \(d\) を使って表すことができていたので、それらをすべて代入して、最終的に \(d\) について解く、という流れです。計算は少し複雑になりますが、順を追って行えば大丈夫です。

結論と吟味

Aが初めて原点に戻ったときに、Bと2回目の衝突をするための初期距離 \(d\) は \(\displaystyle d = \frac{\pi^2 M g (M+m)^2}{16 k (M-m)^2}\) です。
この結果は、多くの物理定数を含んでおり複雑に見えます。各定数が結果にどのように影響するかを考察することは、理解を深める上で有益です。
例えば、ばね定数 \(k\) が大きい(ばねが硬い)場合、Aは速く原点に戻ります (\(t_A\) が小さい)。そのため、Bも速く原点に戻る必要があり、そのためにはBの初速度 \(|v_B|\) が適切である必要があり、それは \(u\) すなわち \(d\) の値に依存します。式の形から \(d\) は \(1/k\) に比例しており、\(k\) が大きいと \(d\) が小さくなることがわかります。これは、\(t_A\) が小さくなるので、\(t_B\) も小さくするために、\(u\) を小さく(つまり \(d\) を小さく)する必要がある、という直感と一致します。
また、\(M-m\) の項が分母に2乗で入っているため、\(M\) と \(m\) の質量差が小さいと \(d\) は非常に大きくなる傾向があります。これは、質量差が小さいと衝突後のBの速度 \(|v_B|\) が小さくなり、原点に戻るのに時間がかかるため、その間にAが戻ってくるようにするには、Aの周期を長くする(\(M/k\) を大きくする)か、あるいは \(u\) (つまり \(d\)) を非常に大きくして \(|v_B|\) を稼ぐ必要がある、といった複雑なバランスを示唆しています。
特に \(M=m\) の極限では分母が0に近づき \(d \rightarrow \infty\) となります。これは、\(M=m\) の場合、弾性衝突で速度が交換され \(v_B=0\) となるため、Bは衝突後に動かず原点に戻ることができず、2回目の衝突が(有限の \(d\) では)起こり得ないことと整合しています。(ただし、問題の前提は \(m<M\) です。)

解答 (5) \(d = \displaystyle\frac{\pi^2 M g (M+m)^2}{16 k (M-m)^2}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力学的エネルギー保存則: 斜面を滑り降りるBの運動(問1)、ばねに繋がれたAの単振動(問3, 4)で中心的な役割を果たします。運動エネルギー、重力による位置エネルギー、ばねの弾性力による位置エネルギーの間の変換を正しく捉えることが重要です。
  • 運動量保存則: AとBの衝突現象(問2)において、衝突の前後で系全体の運動量が保存されること。特に衝突方向(斜面方向)の運動量に着目します。
  • 弾性衝突の条件(反発係数 \(e=1\)): 運動量保存則と合わせて、衝突後の各物体の速度を決定するために不可欠です(問2)。反発係数の式を正しく立てることが求められます。
  • 単振動の性質: 衝突後のAの運動は単振動です。振動中心(本問ではばねの自然長の位置)、振幅、周期(特に半周期)、単振動におけるエネルギー保存を理解している必要があります(問3, 4, 5)。
  • 等加速度直線運動: 衝突後のBの運動は、重力の斜面成分による一定の加速度を受ける等加速度直線運動です。運動の式を正しく適用し、時間を計算することが求められます(問5)。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 水平面や鉛直面での物体間の衝突と、その後のばね振り子の運動。
    • 複数の物体が連続して衝突する問題。
    • 単振動と他の運動(例:放物運動、円運動)が組み合わさり、特定の条件(例:再会、特定の高さや位置への到達)を満たすための初期条件や時間を求める問題。
    • 摩擦がある場合のエネルギーの増減を考慮する問題への発展。
  • 初見の問題で着目すべき点:
    1. 現象のフェーズ分け: 問題全体を時間的な流れ(衝突前 \(\rightarrow\) 衝突の瞬間 \(\rightarrow\) 衝突後Aの運動 \(\rightarrow\) 衝突後Bの運動 など)に分割して、各フェーズで何が起こっているかを把握する。
    2. 各フェーズで適用すべき物理法則の特定:
      • 滑らかな斜面での運動や自由落下 \(\rightarrow\) 力学的エネルギー保存則。
      • 物体間の衝突 \(\rightarrow\) 運動量保存則、反発係数の式。
      • ばねに繋がれた物体の運動 \(\rightarrow\) 単振動の法則、エネルギー保存則。
      • 一定の力が働く運動 \(\rightarrow\) 等加速度直線運動の公式、運動方程式。
    3. 座標軸と正負の向きの明確な設定: 速度、加速度、変位などのベクトル量を扱う上で非常に重要。設定を一貫して用いる。
    4. 保存則の適用条件の再確認: エネルギー保存則や運動量保存則が「なぜ使えるのか」その条件(外力が仕事をしない、外力が無視できるなど)を常に意識する。
    5. 連立方程式の確実な処理: 特に衝突問題では、未知数が複数になるため、式を正確に立てて解く計算力が求められる。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 運動量保存則と力学的エネルギー保存則の混同: 衝突現象では、運動量は(適切な条件下で)常に保存されますが、力学的エネルギーは弾性衝突の場合にのみ保存されます。一般的な非弾性衝突では力学的エネルギーは減少し、熱などに変わります。
  • 単振動の振動中心の誤認: 本問ではAの初期位置(原点)がばねの自然長であり、そこが単振動の振動中心となるため比較的シンプルです。しかし、例えば鉛直ばね振り子のように重力が常に関わる系では、つり合いの位置が自然長の位置からずれるため、振動中心の特定がより重要になります。
  • 速度・加速度・力の向き(符号)のミス: 設定した座標軸の正の向きに対して、各ベクトル量がどの向きであるかを正確に把握し、式の符号を間違えないように細心の注意を払う。特に、衝突後のBの速度 \(v_B\) が負になること、Bの運動中の加速度が常に斜面下向き(\(x\) 軸正方向)であることなど。
  • 時間の計算における誤り: 単振動の周期と半周期の使い分け、等加速度直線運動の公式(特に初速度が0でない場合や、特定の変位に達する時間を求める場合)の正しい適用。
  • 複雑な代数計算でのミス: (5)のように多くの物理定数を含む最終的な式を導出する過程では、計算ミスが起こりやすくなります。文字式のまま慎重に計算を進め、途中で確認する習慣が大切です。

対策:

  • 各物理法則の定義、公式、そしてそれらが成り立つための「条件」をセットで正確に記憶し、理解する。
  • 問題を解き始める前に、状況を図示し、力、速度、加速度などのベクトルを矢印で書き込み、向きを明確にする。
  • 複雑な計算になりそうな場合は、一度立ち止まって計算の方針を確認し、一つ一つのステップを丁寧に書き出しながら進める。検算も有効。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 有効だった図(この問題で描くと良い図):
    • 問題全体の状況を示す、斜面、物体A、物体B、ばねの位置関係図。
    • Bが滑り降りる際の、高さと速度変化のイメージ図(力学的エネルギー保存の理解補助)。
    • 衝突直前と直後の、AとBの速度ベクトルを図示したもの(運動量保存と相対速度の理解補助)。
    • 衝突後のAの単振動の様子(振動中心、振幅 \(x_0\)、最下点など)。
    • 衝突後のBの等加速度直線運動の様子(初速度の向き、加速度の向き、Uターンして戻ってくる軌跡のイメージ)。
    • 各物体に働く力のベクトル図(Bが滑るとき、衝突の瞬間、Aが振動するときなど、各フェーズで)。
  • 図を描く際の注意点:
    • 座標軸の向き(\(x\) 軸とその正方向)を必ず明記する。
    • 既知の量(\(M, m, k, g, d, \theta\) など)と未知の量(\(u, v_A, v_B, x_0, w, t_A, t_B\) など)を区別して、あるいは求めるべき量を明確に示す。
    • ベクトル量(速度、加速度、力)は矢印で向きを正確に表現する。
    • ばねに関しては、自然長の位置、振動中心の位置、振幅などを区別して描くと、単振動の理解が深まる。
    • 現象の時間的変化を追うために、複数の図(例:衝突前、衝突直後、Aが最下点、Aが原点復帰時)を描くのも有効。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 問1 (Bの衝突前速度 \(u\)):
    • 選択した法則: 力学的エネルギー保存則。
    • 根拠: Bが滑らかな斜面を重力によって滑り降りる運動であり、仕事をするのは保存力である重力のみ。摩擦や空気抵抗は無視。
  • 問2 (衝突後速度 \(v_A, v_B\)):
    • 選択した法則: 運動量保存則 および 反発係数の式(弾性衝突)。
    • 根拠: 2物体間の衝突という短時間の現象では、系に働く外力(重力の斜面成分やばねの力)の影響は無視できる(または内力に比べて小さい)とみなせ、運動量が保存される。また、「弾性衝突」と明記されているため反発係数 \(e=1\) が使える。
  • 問3 (Aの最下点 \(x_0\)):
    • 選択した法則: 単振動における力学的エネルギー保存則。
    • 根拠: 衝突後のAはばねの弾性力(保存力)のみを受けて単振動するため、その運動エネルギーと弾性エネルギーの和は一定。
  • 問4 (Aの特定位置速度 \(w\)):
    • 選択した法則: 単振動における力学的エネルギー保存則。
    • 根拠: 問3と同様、Aの単振動中はその力学的エネルギーが常に保存されるため。
  • 問5 (2回目衝突の条件 \(d\)):
    • 選択した法則: Aの単振動の周期の公式、Bの等加速度直線運動の公式。
    • 根拠: Aの運動は既知の単振動であり、原点に戻る時間は半周期。Bの運動は一定の加速度(重力の斜面成分)を受けるので等加速度直線運動。2つの独立した運動の時間が一致するという条件から逆算する。

これらの法則を選択する際には、その法則が成り立つための「前提条件」を常に意識し、問題の状況がその条件を満たしているかを自問自答する訓練が、物理の論理的思考力を高める上で非常に重要です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. Bの運動(衝突前):
    • 初期状態(\(x=-d\)、静止)と衝突直前状態(\(x=0\)、速度 \(u\))を定義。
    • 力学的エネルギー保存則を適用し、\(u\) を \(d, g\) で表す。
  2. AとBの衝突:
    • 衝突直前(A:0, B:\(u\))と衝突直後(A:\(v_A\), B:\(v_B\))の状態を定義。
    • 運動量保存則(\(x\) 軸方向)を立式。
    • 反発係数の式(\(e=1\))を立式。
    • 上記2式を連立し、\(v_A, v_B\) を \(u, M, m\) で表す。
  3. Aの運動(衝突後、単振動):
    • 振動中心は原点 (\(x=0\))、衝突直後の速度 \(v_A\) が単振動の初速(@原点)。
    • 単振動のエネルギー保存則を使い、原点での運動エネルギーが最下点 \(x_0\) での弾性エネルギーに等しいとして \(x_0\) を \(v_A, M, k\) で表す (問3)。
    • 同様に、\(x=x_0/2\) での速さ \(w\) を求める (問4)。
    • 単振動の周期 \(T_A = 2\pi\sqrt{M/k}\) から、Aが原点に戻る時間 \(t_A=T_A/2\) を計算 (問5)。
  4. Bの運動(衝突後):
    • 初速度 \(v_B\)、加速度 \(a_B = g\sin30^\circ\) の等加速度直線運動。
    • Bが原点に戻る(変位0)までの時間 \(t_B\) を計算 (問5)。
  5. 2回目の衝突条件 (問5):
    • \(t_A = t_B\) とおき、これまでに導いた \(v_B, u\) の関係式を代入し、最終的に \(d\) を \(M, m, k, g\) で表す。

このように、問題の状況を時系列や物体ごとに分解し、それぞれのフェーズで適切な物理法則を適用していく論理の流れを意識することが重要です。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の一貫性と確認: 本問は主に文字式ですが、途中で単位がおかしくないか、最終結果の単位が求めるべき物理量の単位と一致するかを意識することは、ミス発見の助けになります。
  • 文字の丁寧な記述: \(M\) と \(m\)、\(u\) と \(v\) など、似た文字や添え字を正確に書き分け、混同しないようにする。
  • 符号の厳密な取り扱い: 速度、加速度、変位などのベクトル量では、設定した座標軸に対する向き(正負)を常に意識し、式に正しく反映させる。特に衝突後の \(v_B\) の符号や、Bの運動中の加速度の向きは重要。
  • 平方根や2乗の計算: 平方根をとる際は正負の吟味(速さや距離は正)、2乗する際は符号の変化に注意。
  • 分数の計算・通分・約分: 複雑な分数式が出てくる場合、通分や約分を慎重に行う。
  • 式の代入と整理: 複数の式を代入して一つの式にまとめる際、括弧の使用を適切に行い、展開や整理の各ステップを丁寧に進める。特に(5)のような問題では、最終的な式が複雑になるため、途中の計算過程を記録し、見直せるようにすることが推奨されます。
  • 検算の習慣:
    • 時間があれば、別の方法でアプローチしてみる(例:エネルギーと運動方程式の両方で解けるかなど)。
    • 得られた結果に極端な値(例:\(m \ll M\)、\(k \rightarrow \infty\)など)を代入してみて、物理的に妥当な振る舞いをするか確認する。
    • 簡単なケースや既知の問題に帰着させてみて、結果が矛盾しないか確認する。

日頃の演習から、計算過程を丁寧にノートに書き出し、間違いやすいポイントを意識して取り組むことが、計算ミスを減らすための最も確実な方法です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直観との照らし合わせ:
    • (2)で \(m<M\) のとき \(v_B < 0\) となり、Bがはね返るという結果は、軽いボールが重いボールに当たってはね返るという日常的な経験や物理的直観と一致します。
    • (3)で振幅 \(x_0\) が、衝突直後のAの速度 \(v_A\) が大きいほど、Aの質量 \(M\) が大きいほど、また、ばね定数 \(k\) が小さい(ばねが柔らかい)ほど大きくなるという結果は、物理的に妥当と考えられます。
    • (5)の \(d\) の式は非常に複雑ですが、例えば \(M=m\) の場合を(問題の条件外ですが思考実験として)考えると、弾性衝突では速度が交換され \(v_A=u, v_B=0\) となります。このとき \(v_B=0\) なのでBは原点に戻れず、\(d\) の式の分母が \( (M-m)^2 = 0 \) となり発散する(解なし、または無限遠を意味する)ことと定性的に対応します。
  • 単位の整合性確認: 各設問の解説で触れたように、得られた答えの単位が、求めるべき物理量の単位として正しいかを確認することは、基本的ながら重要な吟味方法です。
  • 極端な条件下での挙動の考察:
    • 例えば、ばね定数 \(k\) が非常に大きい(硬いばね)場合、Aはほとんど振動せず、\(x_0 \rightarrow 0\)、周期 \(T_A \rightarrow 0\) となります。このとき(5)の \(d\) はどうなるべきか、などと考察することで、式の妥当性や物理現象への理解を深めることができます(\(d \propto 1/k\) なので \(d \rightarrow 0\))。
    • 重力加速度 \(g\) が0(無重力空間)の場合、Bは滑り降りないので \(u=0\)。衝突も起こらず、問題全体が意味をなさなくなりますが、式の上では \(d \propto g\) となっており、\(g=0\) なら \(d=0\) となるなど、部分的な整合性は確認できます。
  • 既知の公式や典型的な問題との比較: 例えば、1次元の2体弾性衝突の公式と、(2)で得られた \(v_A, v_B\) の式が(質量や初速度の対応を考えれば)一致することを確認するなど。

解答を導き出すだけでなく、その結果が物理的にどのような意味を持つのか、他の状況や知識とどう関連するのかを考える習慣は、物理の応用力を養う上で非常に大切です。

問題49 (青山学院大+センター試験)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、天井から吊るされたおもりが運動中にくぎに引っかかるという、いわゆる「障害物のある振り子」の運動を扱います。力学的エネルギー保存則や単振り子の周期の考え方を基本とし、さらに(3)では加速するエレベーター内という非慣性系での運動へと発展します。物理法則を様々な状況設定の中で的確に適用できるかが問われます。

与えられた条件
  • 静止系での設定 (問1, 問2):
    • 糸の長さ: \(L\)
    • おもりの質量: \(m\)
    • くぎの位置: 天井の支点から真下 \(d\) の位置 (\(d<L\))。くぎは細くて滑らか。
    • おもりの初期状態: 水平な床から高さ \(h_0\) の位置で静かに放す(初速度 \(0\))。
    • 天井の高さ: \(H\) (床から天井の支点までの高さ)。
    • 糸は運動中にゆるむことはない。
    • 重力加速度の大きさ: \(g\)。
    • (問2の仮定): おもりの振れ幅は十分小さい。
  • (問3)での追加設定:
    • 同じ実験を、鉛直上向きに一定の加速度 \(\alpha\) で上昇するエレベーター内で行う。
問われていること
  1. (1) 静止系において:
    • 糸がくぎに引っかかった後、おもりが最初に静止したときの、床からの高さを求めよ。
    • おもりの速さの最大値を求めよ。
  2. (2) 静止系において:
    • おもりが運動を始めてから、最初の位置(高さ \(h_0\) の静止していた点)に戻ってくるまでの時間を求めよ(振れ幅は十分小さいとする)。
  3. (3) 加速するエレベーター内において:
    • 上記(1)の二つの問い(最高点の高さ、速さの最大値)に答えよ。
    • 上記(2)の問い(最初の位置に戻るまでの時間)に答えよ。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は、振り子の運動という基本的なテーマに、途中で回転中心が変わるという要素と、非慣性系での運動という応用的な要素を加えたものです。各段階でどの物理法則が支配的かを見極め、適切に数式化していくことが重要です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 力学的エネルギー保存則: おもりには重力(保存力)と糸の張力が働きますが、張力は常におもりの運動方向と垂直であるため仕事をしません。したがって、おもりの力学的エネルギー(運動エネルギーと重力による位置エネルギーの和)は保存されます。
  • 単振り子の周期 (微小振動の場合): おもりの振れ幅が小さいとき、その運動は単振動とみなせ、周期 \(T\) は \(T = 2\pi\sqrt{l/g}\) で与えられます。ここで \(l\) は振り子の長さ、\(g\) は重力加速度です。
  • 慣性力と見かけの重力: 加速度運動する座標系(非慣性系)で物体の運動を考える際には、慣性力を考慮に入れる必要があります。鉛直上向きに加速度 \(\alpha\) で運動するエレベーター内では、おもりには鉛直下向きに大きさ \(m\alpha\) の慣性力が働いているように見えます。この慣性力と実際の重力を合わせて「見かけの重力」として扱うと、問題を考えやすくなります。

全体的な戦略としては、まず静止系での運動を力学的エネルギー保存則と単振り子の周期の公式を用いて解析します。次に、加速するエレベーター内での運動については、慣性力を導入して「見かけの重力加速度」を定義し、静止系の場合と同様の考え方を適用します。

問1 (静止系)

思考の道筋とポイント
おもりの運動中、糸の張力は仕事をしないため、力学的エネルギーが保存されます。「最初に静止したとき」とは運動の最高点を指し、そこでは運動エネルギーが0になります。「速さの最大値」は運動の最下点を通過するときに現れ、そこでは位置エネルギーが最小になります。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則を迷いなく適用できること。
  • 位置エネルギーの基準点をどこに取るかを最初に明確にすること(床面を基準とすると考えやすい)。
  • 「静止」は運動エネルギー0、「速さ最大」は最下点(位置エネルギー最小)という関係を理解すること。
  • 振り子の最下点の高さを、天井の高さ \(H\) と糸の長さ \(L\) から正しく計算すること。くぎの影響は、最下点の位置そのものには影響しない(糸がたるまなければ)。

具体的な解説と立式
床面を重力による位置エネルギーの基準 (\(h=0\)) とします。

糸がくぎに引っかかった後、最初に静止したときのおもりの床からの高さ:
初期状態(おもりを静かに放した瞬間):

  • 床からの高さ: \(h_0\)
  • 速さ: \(0\)
  • 力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\): \(E_{\text{初}} = (\text{運動エネルギー})_{\text{初}} + (\text{位置エネルギー})_{\text{初}} = 0 + mgh_0 = mgh_0\)

糸がくぎに引っかかった後、おもりが最初に静止する(再び運動エネルギーが0になる)ときの床からの高さを \(h_{\text{最高}}\) とします。このときの力学的エネルギーは \(E_{\text{最高}} = 0 + mgh_{\text{最高}}\) です。
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{最高}}\) より、
$$mgh_0 = mgh_{\text{最高}}$$
したがって、\(h_{\text{最高}} = h_0\)。
これは、くぎに引っかかるという事象があっても、エネルギーが保存される限り、おもりは元の高さまで戻ることを意味します。

おもりの速さの最大値:
おもりの速さが最大になるのは、運動の経路中の最も低い位置(最下点)を通過するときです。
天井の床からの高さが \(H\)、糸の長さが \(L\) なので、おもりがくぎに引っかかる前の運動における最下点(支点の真下)の床からの高さ \(h_{\text{最下}}\) は、
$$h_{\text{最下}} = H – L$$
この最下点を通過するときの速さを \(v_{\text{最大}}\) とします。
初期状態(高さ \(h_0\)、速さ \(0\))と最下点(高さ \(h_{\text{最下}}\)、速さ \(v_{\text{最大}}\))との間で力学的エネルギー保存則を適用すると、
$$E_{\text{初}} = (\text{最下点での力学的エネルギー})$$
$$mgh_0 = \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 + mgh_{\text{最下}}$$
$$mgh_0 = \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 + mg(H-L)$$
この式を \(v_{\text{最大}}\) について解きます。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \((\text{運動エネルギー})_1 + (\text{位置エネルギー})_1 = (\text{運動エネルギー})_2 + (\text{位置エネルギー})_2\)
  • 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
  • 重力による位置エネルギー: \(U_{\text{重力}} = mgh\)
計算過程
  • 最初に静止したときの高さ \(h_{\text{最高}}\):
    力学的エネルギー保存則より \(mgh_0 = mgh_{\text{最高}}\)。
    両辺を \(mg\) で割ると(\(m \neq 0, g \neq 0\))、
    $$h_{\text{最高}} = h_0$$
  • 速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\):
    力学的エネルギー保存則の式: \(mgh_0 = \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 + mg(H-L)\)
    まず、両辺を \(m\) で割ります:
    $$gh_0 = \frac{1}{2}v_{\text{最大}}^2 + g(H-L)$$
    \(\frac{1}{2}v_{\text{最大}}^2\) について整理します:
    $$\frac{1}{2}v_{\text{最大}}^2 = gh_0 – g(H-L)$$
    $$\frac{1}{2}v_{\text{最大}}^2 = g(h_0 – H + L)$$
    両辺に \(2\) を掛けます:
    $$v_{\text{最大}}^2 = 2g(h_0 + L – H)$$
    速さ \(v_{\text{最大}}\) は正なので、平方根をとると:
    $$v_{\text{最大}} = \sqrt{2g(h_0 + L – H)}$$
計算方法の平易な説明
  • 最初に止まる高さ: おもりをある高さ \(h_0\) からそっと放すと、ブランコのように揺れますね。このとき、空気の抵抗などがなければ、エネルギーはなくならないので、反対側でも同じ高さ \(h_0\) まで上がって一瞬止まります。途中でくぎに糸が引っかかっても、糸がおもりを引っ張る力は常に動きと垂直なのでエネルギーのやり取りには関係せず、やはり同じ高さ \(h_0\) まで上がります。
  • 一番速いときの速さ: おもりが一番速くなるのは、一番低いところを通るときです。一番低いところの床からの高さは、天井の高さ \(H\) から糸の長さ \(L\) を引いた \(H-L\) です。
    エネルギーの観点から、「最初に持っていた高さ \(h_0\) のエネルギー (\(mgh_0\))」が、「一番低いところでの速さのエネルギー (\(\frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2\)) と一番低いところの高さのエネルギー (\(mg(H-L)\)) の合計」と等しくなります。この関係式を \(v_{\text{最大}}\) について解けば、答えが出てきます。
結論と吟味
  • 糸がくぎに引っかかった後、最初に静止したときのおもりの床からの高さは \(h_0\) です。これはエネルギー保存則からの直接的な帰結です。
  • おもりの速さの最大値は \(v_{\text{最大}} = \sqrt{2g(h_0 + L – H)}\) です。
    この式の根号の中 \(h_0 + L – H\) は、\(h_0 – (H-L)\) と書け、これは初期の高さ \(h_0\) と最下点の高さ \(H-L\) の差、つまり落下する高低差を表しています。この高低差が大きいほど最大速度が大きくなるという結果は物理的に妥当です。また、この高低差が正でなければ(つまり初期位置が最下点より低ければ)運動は起こらないため、根号の中が正であるという条件も物理的な状況と一致します。単位も \(\sqrt{[\text{m/s}^2] \cdot [\text{m}]} = [\text{m/s}]\) となり、速度の単位として正しいです。
解答 (1) 床からの高さ: \(h_0\), 速さの最大値: \(v_{\text{最大}} = \sqrt{2g(h_0 + L – H)}\)

問2 (静止系)

思考の道筋とポイント
おもりが運動を始めてから最初の位置に戻ってくるまでの時間、つまり1往復(1周期)の時間を求めます。「おもりの振れ幅は十分小さい」という重要な仮定があるため、単振り子の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{l/g}\) を適用することができます。
おもりの運動は、くぎに引っかかる前の部分と、引っかかった後の部分で振り子の有効な長さが変わるため、2種類の単振り子運動が組み合わさったものと考えられます。1往復の運動は、それぞれの振り子としての運動が半周期ずつ寄与すると考えられます。

この設問における重要なポイント

  • 「振れ幅が十分小さい」という条件から、単振り子の周期の近似公式が使えることを見抜く。
  • おもりの運動が、途中で回転中心と振り子の長さが変わる2つの単振り子運動の区間から構成されることを理解する。
    • 第1区間(くぎに引っかかるまで/離れた後): 振り子の長さ \(l_1 = L\)、支点は天井。
    • 第2区間(くぎに引っかかっている間): 振り子の長さ \(l_2 = L-d\)、支点はくぎ。
  • 「最初の位置に戻ってくる」ための1往復の運動が、それぞれの振り子としての運動区間の「半周期」の合計で構成されることを把握する。(例えば、右端から左端までが、長さ \(L\) の振り子の1/4周期と長さ \(L-d\) の振り子の1/4周期の和。往復なのでその2倍、つまりそれぞれの半周期の和。)

具体的な解説と立式
おもりが運動を始めてから最初の位置に戻るまでの1周期の運動を \(T_{\text{全}}\) とします。
この運動は、以下の2つの部分から構成されます。

  1. 糸の長さが \(L\) の単振り子としての運動区間。
    この単振り子の周期を \(T_1 = 2\pi\sqrt{L/g}\) とすると、1往復の運動のうち、この長さ \(L\) の振り子として動く時間は、その半周期分 \(T_1/2 = \pi\sqrt{L/g}\) に相当します。
    (これは、例えばおもりが右端の最高点から最下点を通り、くぎに触れる直前までと、くぎから離れて左側の最下点(同じ高さ)を通り、右端の最高点に戻るまでの運動のうち、くぎに触れていない部分の往復時間を合計したものに対応します。対称性から、片道で考えると、最下点までの1/4周期と、最下点からの1/4周期の組み合わせです。)
  2. 糸の長さが \(L-d\) の単振り子としての運動区間(くぎが支点となる)。
    この単振り子の周期を \(T_2 = 2\pi\sqrt{(L-d)/g}\) とすると、1往復の運動のうち、この長さ \(L-d\) の振り子として動く時間は、その半周期分 \(T_2/2 = \pi\sqrt{(L-d)/g}\) に相当します。
    (これは、おもりがくぎに引っかかった状態で、一方の最高点からもう一方の最高点まで運動する時間です。)

したがって、おもりが最初の位置に戻ってくるまでの全時間 \(T_{\text{全}}\) は、これら2つの半周期の和として与えられます。
$$T_{\text{全}} = \frac{T_1}{2} + \frac{T_2}{2}$$
$$T_{\text{全}} = \pi\sqrt{\frac{L}{g}} + \pi\sqrt{\frac{L-d}{g}}$$
共通の因子でくくりだすと、
$$T_{\text{全}} = \frac{\pi}{\sqrt{g}}(\sqrt{L} + \sqrt{L-d})$$

使用した物理公式

  • 単振り子の周期 (微小振動の場合): \(T = 2\pi\sqrt{l/g}\)
計算過程

振り子の長さが \(L\) のときの単振り子の周期を \(T_L = 2\pi\sqrt{L/g}\) とします。
振り子の長さが \(L-d\) のときの単振り子の周期を \(T_{L-d} = 2\pi\sqrt{(L-d)/g}\) とします。
おもりが運動を始めてから最初の位置に戻ってくるまでの全時間(1周期) \(T_{\text{全}}\) は、それぞれの振り子としての運動の半周期分の時間を合計したものになります。
$$T_{\text{全}} = \frac{T_L}{2} + \frac{T_{L-d}}{2}$$
$$T_{\text{全}} = \frac{1}{2} \left( 2\pi\sqrt{\frac{L}{g}} \right) + \frac{1}{2} \left( 2\pi\sqrt{\frac{L-d}{g}} \right)$$
$$T_{\text{全}} = \pi\sqrt{\frac{L}{g}} + \pi\sqrt{\frac{L-d}{g}}$$
共通因子 \(\frac{\pi}{\sqrt{g}}\) でまとめると、
$$T_{\text{全}} = \frac{\pi}{\sqrt{g}}(\sqrt{L} + \sqrt{L-d})$$

計算方法の平易な説明

おもりが揺れて元の場所に戻ってくるまでの時間を考えます。この振り子は、途中でくぎに引っかかるので、動き方が2段階に分かれます。
前半(または外側)は、糸の長さが \(L\) の普通の振り子として動きます。後半(または内側、くぎに引っかかっているとき)は、糸の長さが \(L-d\) の短い振り子として動きます。
「振れ幅が小さい」とき、振り子が一回「行って戻ってくる」時間(周期)は \(2\pi\sqrt{(\text{糸の長さ})/g}\) で計算できます。
今回の運動では、長さ \(L\) の振り子として「半往復」する時間と、長さ \(L-d\) の振り子として「半往復」する時間を足し合わせることで、全体の時間が求まります。
「半往復」の時間は、周期の半分なので、それぞれ \(\pi\sqrt{L/g}\) と \(\pi\sqrt{(L-d)/g}\) です。
これらを合計すると、求める時間になります。

結論と吟味

おもりが運動を始めてから最初の位置に戻ってくるまでの時間は \(T_{\text{全}} = \displaystyle\frac{\pi}{\sqrt{g}}(\sqrt{L} + \sqrt{L-d})\) です。
この式の単位を確認すると、\(\sqrt{L}\) や \(\sqrt{L-d}\) は長さの平方根 \([\text{m}^{1/2}]\)、\(\sqrt{g}\) は \([\text{m}^{1/2}/\text{s}]\) なので、\(\frac{1}{\sqrt{g}}(\sqrt{L} + \sqrt{L-d})\) の部分は \(\frac{[\text{m}^{1/2}]}{[\text{m}^{1/2}/\text{s}]} = [\text{s}]\) となり、時間の単位として正しいです。\(\pi\) は無次元の定数です。
物理的な妥当性も考えてみましょう。もし、くぎがない場合 (\(d=0\)) を考えると、式は \(T_{\text{全}} = \frac{\pi}{\sqrt{g}}(\sqrt{L} + \sqrt{L}) = \frac{2\pi\sqrt{L}}{\sqrt{g}} = 2\pi\sqrt{L/g}\) となります。これは、長さ \(L\) の単振り子の周期の公式そのものであり、正しい結果を与えます。
また、くぎの位置が非常に低い場合 (\(d \rightarrow L\)) を考えると、\(L-d \rightarrow 0\) となり、\(\sqrt{L-d} \rightarrow 0\)。このとき \(T_{\text{全}} \rightarrow \pi\sqrt{L/g}\) となります。これは、振り子の一部分が非常に短い周期で振動するものの、全体の動きとしては長さ \(L\) の部分が支配的になることを示唆していますが、\(L-d=0\) では振り子として成立しないため、この極限の解釈には注意が必要です(実際にはくぎがおもりと同じ高さになるので、問題設定が変わります)。\(d<L\) の範囲で考えるのが適切です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{\pi}{\sqrt{g}}(\sqrt{L} + \sqrt{L-d})\)

問3 (加速エレベーター内)

思考の道筋とポイント
エレベーターが鉛直上向きに一定の加速度 \(\alpha\) で上昇している場合、エレベーターという加速座標系(非慣性系)内で運動を観測すると、おもりには実際の重力 \(mg\)(鉛直下向き)に加えて、鉛直「下向き」に大きさ \(m\alpha\) の慣性力が働いているように見えます。これらの合力を「見かけの重力」として扱うことで、問題を静止系における運動と同様の枠組みで解くことができます。具体的には、「見かけの重力加速度 \(g’\)」を定義し、(1)と(2)で用いた式の中の重力加速度 \(g\) をこの \(g’\) で置き換えることで、エレベーター内での答えを導き出します。

この設問における重要なポイント

  • 慣性力の概念を正しく理解し、その向き(観測系の加速度と逆向き)と大きさ(質量 \(\times\) 観測系の加速度)を求められること。
  • 「見かけの重力」が実際の重力と慣性力のベクトル和であることを理解し、「見かけの重力加速度 \(g’\)」を \(g’ = g+\alpha\) と正しく導入できること。
  • 力学的エネルギー保存則や単振り子の周期の公式が、重力加速度 \(g\) を見かけの重力加速度 \(g’\) に置き換えることで、非慣性系でも同様の形で適用できることを理解していること。

具体的な解説と立式
エレベーターが鉛直上向きに加速度 \(\alpha\) で上昇しているため、おもり(質量 \(m\))には、エレベーターの加速度と逆向き、つまり鉛直下向きに大きさ \(F_{\text{慣性力}} = m\alpha\) の慣性力が作用します。
この慣性力と、実際に働く重力 \(mg\)(鉛直下向き)を合わせて考えると、おもりには鉛直下向きに合計で \(mg + m\alpha = m(g+\alpha)\) の力が常に作用していると見なせます。これを「見かけの重力」と呼びます。
この見かけの重力 \(m(g+\alpha)\) を質量 \(m\) で割ったものが「見かけの重力加速度 \(g’\)」となり、
$$g’ = g+\alpha$$
この \(g’\) を用いることで、(1)および(2)で得られた結果の \(g\) を \(g’\) に置き換えるだけで、エレベーター内での答えが得られます。

(1)の問いに対する答え(エレベーター内):

  • 糸がくぎに引っかかった後、最初に静止したときのおもりの床からの高さ:
    静止系での結果は \(h_0\) であり、これは重力加速度 \(g\) の値に依存しませんでした(エネルギー保存則の式から \(mg\) が両辺で消去されたため)。したがって、見かけの重力加速度 \(g’\) を用いても、この結果は変わらず \(h_0\) です。
    より丁寧に考えると、位置エネルギーが \(mg’h\) となるだけで、\(mg’h_0 = mg’h’_{\text{最高}}\) より \(h’_{\text{最高}} = h_0\)。
  • おもりの速さの最大値 \(v’_{\text{最大}}\):
    静止系での結果 \(v_{\text{最大}} = \sqrt{2g(h_0 + L – H)}\) の \(g\) を \(g’ = g+\alpha\) で置き換えます。
    $$v’_{\text{最大}} = \sqrt{2g'(h_0 + L – H)}$$
    $$v’_{\text{最大}} = \sqrt{2(g+\alpha)(h_0 + L – H)}$$

(2)の問いに対する答え(エレベーター内):

  • おもりが運動を始めてから、最初の位置に戻ってくるまでの時間 \(T’_{\text{全}}\):
    静止系での結果 \(T_{\text{全}} = \frac{\pi}{\sqrt{g}}(\sqrt{L} + \sqrt{L-d})\) の \(g\) を \(g’ = g+\alpha\) で置き換えます。
    $$T’_{\text{全}} = \frac{\pi}{\sqrt{g’}}(\sqrt{L} + \sqrt{L-d})$$
    $$T’_{\text{全}} = \frac{\pi}{\sqrt{g+\alpha}}(\sqrt{L} + \sqrt{L-d})$$

使用した物理公式

  • 慣性力: \(F_{\text{慣性力}} = -m \times (\text{観測系の加速度})\) (ベクトル的に)
  • 見かけの重力加速度: \(g’ = g + \alpha\) (鉛直上向き加速度 \(\alpha\) の場合)
  • 上記(1), (2)で用いた公式の \(g\) を \(g’\) で置き換えたもの。
計算過程

見かけの重力加速度を \(g’ = g+\alpha\) と定義します。

  • (1)の問い(エレベーター内)の答え:
    • 最初に静止したときの高さ: \(h_0\) (これは \(g\) に依存しなかったため、\(g’\) になっても変わらない)
    • 速さの最大値 \(v’_{\text{最大}}\):
      (1)の \(v_{\text{最大}} = \sqrt{2g(h_0 + L – H)}\) において、\(g\) を \(g’\) で置き換える。
      $$v’_{\text{最大}} = \sqrt{2g'(h_0 + L – H)} = \sqrt{2(g+\alpha)(h_0 + L – H)}$$
  • (2)の問い(エレベーター内)の答え:
    • 最初の位置に戻るまでの時間 \(T’_{\text{全}}\):
      (2)の \(T_{\text{全}} = \frac{\pi}{\sqrt{g}}(\sqrt{L} + \sqrt{L-d})\) において、\(g\) を \(g’\) で置き換える。
      $$T’_{\text{全}} = \frac{\pi}{\sqrt{g’}}(\sqrt{L} + \sqrt{L-d}) = \frac{\pi}{\sqrt{g+\alpha}}(\sqrt{L} + \sqrt{L-d})$$
計算方法の平易な説明

エレベーターが上に「グッ」と加速している中で同じ振り子の実験をすると、おもりは普段より強く下に引っ張られるように感じます。これは、エレベーターの加速とは逆向き(下向き)に「慣性力」という見かけの力が働くためです。この慣性力と普通の重力を合わせたものが「見かけの重力」となり、それに対応する「見かけの重力加速度」は \(g’ = g+\alpha\) となります(\(\alpha\) はエレベーターの加速度)。
つまり、エレベーターの中にいる人にとっては、あたかも重力が \(g\) から \(g’\) に変わった世界で同じ実験をしているのと同じことになります。
ですから、(1)や(2)で求めた答えの中の \(g\) を、すべてこの \(g’\)(つまり \(g+\alpha\))に置き換えてあげれば、それがエレベーター内での答えになります。
ただし、(1)の「最初に静止する高さ」は、もともと \(g\) を含まない形で \(h_0\) と決まったので、これは変わりません。

結論と吟味

エレベーター内での結果は以下の通りです。

  • 最初に静止したときのおもりの床からの高さ: \(h_0\)
  • おもりの速さの最大値: \(v’_{\text{最大}} = \sqrt{2(g+\alpha)(h_0 + L – H)}\)
  • おもりが運動を始めてから最初の位置に戻ってくるまでの時間: \(T’_{\text{全}} = \displaystyle\frac{\pi}{\sqrt{g+\alpha}}(\sqrt{L} + \sqrt{L-d})\)

これらの結果を物理的に考察してみましょう。
見かけの重力加速度 \(g’ = g+\alpha\) は、静止系の \(g\) よりも大きい(\(\alpha > 0\) のため)です。
このため、

  • 速さの最大値 \(v’_{\text{最大}}\) は、静止系の場合の \(v_{\text{最大}}\) よりも大きくなります。これは、見かけの重力が強くなった分、おもりが最下点に至るまでに得る運動エネルギーが増加するためと解釈でき、妥当です。
  • 運動の時間(周期に相当)\(T’_{\text{全}}\) は、静止系の場合の \(T_{\text{全}}\) よりも短くなります。これは、見かけの重力が強くなった分、振り子の復元力も相対的に強くなり、振動が速くなるためと解釈でき、これも妥当です。単振り子の周期は \(g\) の平方根に反比例するので、\(g\) が大きくなれば周期は短くなります。

もしエレベーターが鉛直「下向き」に加速度 \(\alpha\) (\(<g\)) で運動する場合は、慣性力は鉛直「上向き」に働き、見かけの重力加速度は \(g’ = g-\alpha\) となります。この場合、最大速度は小さくなり、周期は長くなるでしょう。

解答 (3)
(1)の問いの答え: 床からの高さ: \(h_0\), 速さの最大値: \(\sqrt{2(g+\alpha)(h_0 + L – H)}\)
(2)の問いの答え: \(\displaystyle\frac{\pi}{\sqrt{g+\alpha}}(\sqrt{L} + \sqrt{L-d})\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力学的エネルギー保存則: 物体が保存力(本問では主に重力。見かけの重力も同様の扱い)のみから仕事をされる場合に、運動エネルギーと位置エネルギーの総和が一定に保たれるという法則です。おもりの運動中の速さと高さの関係を調べる上で、最も基本的な考え方となります。
  • 単振り子の周期 (微小振動の場合): 糸の長さ \(l\) と重力加速度 \(g\)(または見かけの重力加速度 \(g’\))のみによって周期 \(T = 2\pi\sqrt{l/g}\) が決まるという重要な性質です。「振れ幅が十分小さい」という条件のもとで適用できます。本問では、途中で振り子の有効な長さが変わるため、それぞれの区間での運動時間を考える必要がありました。
  • 慣性力と見かけの重力(見かけの重力加速度): 加速度運動する座標系(非慣性系、例:加速中のエレベーター)で物体の運動を記述する際に導入される概念です。慣性力の向き(座標系の加速度と逆向き)と大きさ(質量 \(\times\) 座標系の加速度)を正しく求め、それによって生じる「見かけの重力」や「見かけの重力加速度」を定義することで、非慣性系での問題を静止系(慣性系)における問題と類似の形式で扱うことができます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 途中で振り子の長さや質量、あるいはおもりが受ける力が変わるような問題(例:ばね振り子で途中でばね定数が変わる、磁場中で荷電粒子が運動し途中で磁場の強さが変わるなど)。
    • ジェットコースターの運動のように、円弧運動と力学的エネルギー保存則を組み合わせる問題。
    • エレベーター内に限らず、加速度運動する電車、船、あるいは回転する円盤上など、様々な非慣性系における物体の運動(単振動、放物運動、円運動など)。特に回転系では遠心力やコリオリの力といった慣性力が登場します。
  • 初見の問題で着目すべき点:
    1. 系の特定と働く力の分析: まず、どの物体(または物体系)の運動に注目しているのかを明確にし、その物体に働く力をすべて(重力、張力、垂直抗力、摩擦力、弾性力、そして必要なら慣性力も)図示しリストアップする。
    2. 保存則の適用可能性の検討:
      • 力学的エネルギーは保存されるか?(保存力以外の力は仕事をしていないか?)
      • 運動量は保存されるか?(系に外力が働いていないか、または無視できるか?)
    3. 座標系の選択と性質の認識: 問題を記述する座標系が慣性系(静止または等速直線運動)か非慣性系(加速度運動)かを見極める。非慣性系であれば、どの慣性力を考慮すべきかを判断する。
    4. 運動の特性による分類と分割: 観測される運動が、等速運動、等加速度運動、円運動、単振動など、どの基本的な運動モデルに分類できるか、あるいはそれらの組み合わせとして捉えられるかを考える。必要であれば、運動を時間的または空間的にいくつかの単純な区間に分割して解析する。
    5. 近似条件の役割の理解: 「振れ幅が十分小さい」「滑らかである」「糸は軽い」「糸は伸びない」などの近似条件が、どの物理法則や公式の適用を可能にしているのか(または何を無視して良いか)を正確に理解する。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 力学的エネルギー保存則の基準点の不一致または誤解: 位置エネルギーの基準点は任意に選べますが、問題全体を通じて(あるいは比較する2状態間で)一貫して使う必要があります。また、何に対する位置エネルギーか(重力か、弾性力かなど)を明確に区別することも重要です。
  • 単振り子の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{l/g}\) の安易な適用: この公式は「微小振動」という近似が成り立つ場合にのみ有効です。また、式中の \(l\) は回転中心からおもり(の重心)までの距離であり、\(g\) はその場所での重力加速度(または見かけの重力加速度)です。これらの意味を正確に理解せずに使うと誤りにつながります。
  • 慣性力の向きと大きさの誤り: 慣性力の向きは、観測している座標系の加速度ベクトルと「逆向き」です。大きさは「物体の質量 \(\times\) 座標系の加速度の大きさ」です。これを混同したり、符号を間違えたりしやすいです。
  • 見かけの重力と実際の重力の混同、\(g’\) の定義ミス: エレベーターが上向きに加速する場合、見かけの重力加速度は \(g’ = g+\alpha\) となりますが、下向きに加速する場合は \(g’ = g-\alpha\)(ただし \(g>\alpha\))、等速で動く場合は \(g’=g\) となります。状況に応じて正しく \(g’\) を設定する必要があります。
  • 時間の計算における混同: 単振動の「周期(1往復)」「半周期(片道、端から端まで)」「1/4周期(端から中心まで)」など、問題が要求している「時間」が運動のどの区間に対応するのかを正確に把握し、適切な計算を行う必要があります。

対策:

  • 必ず図を描き、物体に働く力(必要なら慣性力も)をすべてベクトルで正確に記入する習慣をつける。
  • エネルギーの形態(運動エネルギー、各種位置エネルギー)とその変化を、図やグラフを使って視覚的にイメージする訓練をする。
  • 非慣性系の問題に遭遇したら、まず静止系で同様の問題を解く方法を思い出し、その後で慣性力の影響をどのように組み込むか(または見かけの重力加速度で置き換えるか)というステップで考えると、混乱を避けやすいです。
  • 公式は、その導出過程や適用条件とセットで理解するように努める。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 有効だった図(この問題で描くと良い図):
    • 振り子の運動経路全体と、くぎの位置、天井、床などの位置関係を明確に示した概略図。
    • おもりが初期位置、最高点、最下点にあるときの、それぞれの状態(速度の有無、糸の様子、高さなど)を個別に示した図。
    • (3)のエレベーター内の状況では、おもりにかかる重力 \(mg\) と慣性力 \(m\alpha\) をベクトルで図示し、それらの合力が見かけの重力 \(mg’\) となる様子を示した図。
    • (可能であれば)力学的エネルギーの時間変化や、位置エネルギーと運動エネルギーの間のエネルギー変換の様子を模式的に示すグラフ(例えば、横軸に時間や変位、縦軸にエネルギーをとったもの)。
  • 図を描く際の注意点:
    • 糸の長さ(\(L\)、\(L-d\))、くぎの位置(\(d\))、天井の高さ(\(H\))、床からの高さ(\(h_0\)、\(h_{\text{最高}}\)、\(h_{\text{最下}}\))など、問題に出てくる幾何学的な情報をできるだけ正確に図に反映させる。
    • 力のベクトルは、作用点、向き、そして可能であれば相対的な大きさがわかるように描く。
    • エネルギーを考える際には、位置エネルギーの基準面を明記する。
    • 単振動の運動を考える際には、振動中心、振幅、端点などを意識して描く。

物理現象を正しく視覚化し、図に表現する能力は、問題を理解し、解法を導き出す上で非常に強力な助けとなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力学的エネルギー保存則 (\(K+U = \text{一定}\)):
    • 選定理由: おもりに働く力のうち、仕事をするのは保存力である重力のみ(糸の張力は仕事をしない)。摩擦や空気抵抗も無視できる。
    • 適用場面: おもりの運動中の任意の2状態間での速さと高さの関係を調べるため (問1, 問3(1))。
  • 単振り子の周期の公式 (\(T=2\pi\sqrt{l/g}\)):
    • 選定理由: 「振れ幅が十分小さい」という条件があり、振り子の運動が単振動とみなせるため。
    • 適用場面: 異なる長さの振り子区間での運動時間を計算するため (問2, 問3(2))。
  • 慣性力 (\(F_{\text{慣性力}} = -m\vec{a}_{\text{系}}\)) と見かけの重力加速度 (\(g’ = g+\alpha\)):
    • 選定理由: 問題の舞台が加速度運動するエレベーターという非慣性系であるため、ニュートンの運動法則やエネルギー保存則を適用するためには、慣性力を考慮するか、等価原理に基づいて見かけの重力加速度を導入する必要がある。
    • 適用場面: エレベーター内での振り子の運動全般を解析するため (問3)。

これらの物理法則や公式を選択する際には、その法則が成り立つための「前提条件」や「適用限界」を常に意識し、問題で与えられた状況がそれらの条件を満たしているかを自問自答する習慣が、物理の論理的思考力を養い、正しい解法へと導きます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 問1 (静止系での高さ・最大速度):
    1. 初期状態(高さ \(h_0\), 速さ0)の力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\) を計算。
    2. 糸がくぎに引っかかった後の最高到達点(速さ0, 高さ \(h_{\text{最高}}\))の力学的エネルギー \(E_{\text{最高}}\) を設定。
    3. \(E_{\text{初}} = E_{\text{最高}}\) より \(h_{\text{最高}}\) を求める。
    4. 運動の最下点(高さ \(H-L\), 速さ \(v_{\text{最大}}\))の力学的エネルギー \(E_{\text{最下}}\) を設定。
    5. \(E_{\text{初}} = E_{\text{最下}}\) より \(v_{\text{最大}}\) を求める。
  2. 問2 (静止系での運動時間):
    1. 運動を2つの単振り子区間(長さ \(L\) と 長さ \(L-d\))に分割。
    2. 各区間の単振り子としての周期 \(T_L, T_{L-d}\) を公式から計算。
    3. 1往復の全時間 \(T_{\text{全}}\) は、\(T_L/2 + T_{L-d}/2\) として計算。
  3. 問3 (エレベーター内での運動):
    1. エレベーターの加速度 \(\alpha\) から、おもりに働く慣性力(鉛直下向き \(m\alpha\))を特定。
    2. 見かけの重力加速度 \(g’ = g+\alpha\) を導出。
    3. 問1の(a)高さ、(b)最大速度の計算において、\(g\) を \(g’\) に置き換えて再計算。
    4. 問2の運動時間の計算において、\(g\) を \(g’\) に置き換えて再計算。

このように、問題を論理的なステップに分解し、各ステップで用いるべき物理法則を明確にしながら進めることが、複雑な問題でも正確に解き進めるための鍵となります。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の確認の徹底: 特に多くの文字定数(\(L, d, H, h_0, m, g, \alpha\) など)が使われる問題では、計算の各段階や最終的な答えの単位が、求めるべき物理量の単位と一致しているかを常に確認する。これは、式の形が正しいかどうかの簡単なチェックにもなります。
  • 平方根や累乗の計算の正確性: 速度を求める際の平方根の計算では、根号の中が負にならないか(物理的に意味のある範囲か)を確認する。2乗や平方根の操作で符号が変わる(または変わらない)ことにも注意する。
  • 文字の置き換えの際の注意: (3)で \(g\) を \(g+\alpha\) に置き換える際など、式中のすべての \(g\) を漏れなく、かつ正確に置き換える。括弧の付け忘れなどにも注意。
  • 途中式の整理と明瞭化: 式が複雑になる前に、適宜、共通因数でくくりだしたり、既知の関係式を代入して簡単な形にまとめたりすることで、見通しを良くし、計算ミスを減らす。
  • 問題文の条件の再確認: 特に「静かに放す(初速0)」「振れ幅が十分小さい」「糸はゆるまない」などの条件が、どの公式や考え方の根拠になっているかを意識し、計算途中でその条件から外れていないかを確認する。

計算ミスは、多くの場合、不注意や手順の省略から生じます。日頃の演習から、計算過程を丁寧にノートに書き出し、一つ一つの操作の意味を確認しながら進めることが、ミスを減らす最も効果的な方法です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直観との比較・整合性の確認:
    • (1)で、エネルギーが保存されるなら元の高さに戻るというのは基本的な事実です。最大速度の式も、初めの位置エネルギーが大きいほど、また最下点が低いほど速くなるという直感と合致します。
    • (2)で、糸の長さが長いほど周期が長くなり、重力が強い(\(g\)が大きい)ほど周期が短くなるというのは単振り子の基本的な性質です。くぎがない場合 (\(d=0\)) に通常の単振り子の周期に帰着することも確認できました。
    • (3)で、エレベーターが上に加速すると見かけの重力が強くなり、それによって最大速度は増加し、周期(運動時間)は短くなるという結果は、物理的な感覚と一致します。
  • 極端な条件下での挙動の考察:
    • もし、くぎの位置が非常に高い (\(d \rightarrow 0\))、または非常に低い (\(d \rightarrow L\)) 場合、(2)の周期の式がどのような値に近づくか、そしてそれは物理的に妥当かを考えてみる(ただし、\(d=L\) は振り子として成立しない限界なので注意)。
    • もし、エレベーターの加速度 \(\alpha\) が0であれば、(3)の結果が(1)および(2)の結果と一致することを確認する。もし \(\alpha\) が非常に大きい場合、周期は非常に短くなり、最大速度は非常に大きくなるはずです。
  • 他の関連する物理法則や既知の公式との整合性: 例えば、単振り子の周期の公式は、より一般的な単振動の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) ( \(K\) は復元力の比例定数) からも導出できることなどを念頭に置く。
  • 単位の一貫性の最終確認: 導出した最終的な答えの単位が、求めるべき物理量の単位として正しいかを再度確認する。

解答を導き出した後、その結果が本当に物理的に意味をなすのか、他の知識と矛盾しないのかを多角的に検討する「吟味」の習慣は、物理の理解を深め、間違いを発見する能力を高める上で非常に重要です。

問題50 (岐阜大+琉球大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、液体に浮かぶ円柱の「浮力」と「力のつり合い」から始まり、円柱と同じ質量の小球との「弾性衝突」、そして衝突後に円柱が「単振動」する様子を解析するという、力学の複数の重要なテーマを組み合わせた問題です。それぞれの物理現象に対して、適切な法則を適用し、段階的に解き進めていくことが求められます。

与えられた条件
  • 円柱について:
    • 底面積: \(S\)
    • 長さ: \(l\)
    • 一様な密度: \(\rho_0\)
    • 質量: \(m_{\text{円柱}} = \rho_0 S l\)
  • 液体について:
    • 密度: \(\rho\)
  • 小球について:
    • 質量: 円柱と同じ質量 (\(m_{\text{小球}} = m_{\text{円柱}}\))
    • 衝突前の速さ: \(v_0\) (円柱の真上から落下し、円柱に弾性衝突)
  • その他:
    • 重力加速度の大きさ: \(g\)
    • 円柱の運動に伴う液体からの抵抗は無視できる。
    • 液面の高さは一定に保たれる。
    • 円柱の上面が液面下に沈むことはない(これは \(\rho_0 < \rho\) を意味します)。
問われていること
  1. 円柱が静止しているときの、円柱の液面下の深さ \(d\)。
  2. 小球との衝突直後の円柱の速さ。
  3. 衝突後、小球は取り除かれ、円柱は単振動を始めた。円柱の静止した状態(つり合いの位置)から円柱が下方に \(x\) だけ沈んでいるとき、円柱が受ける合力 \(f\) を下向きを正として求めよ。
  4. 円柱が単振動中に達する液面下の深さの最大値 \(d_1\)。
  5. 円柱が衝突後に動き出し、静止位置(つり合いの位置)よりも上に上がって初めて速さが \(0\) になるまでの時間 \(t\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は、静力学的なつり合いから始まり、衝突現象を経て、動力学的な単振動へと展開していきます。各段階で基本となる物理法則を正確に適用することが重要です。特に、浮力の扱いや、単振動の復元力、エネルギー保存、周期の理解が試されます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • アルキメデスの原理(浮力): 液体中の物体が受ける浮力は、その物体が押しのけた液体の重さに等しい(\(F_{\text{浮力}} = \rho_{\text{液体}} V_{\text{液中}} g\))。
  • 力のつり合い: 物体が静止しているとき、物体に働く力の合力はゼロです。
  • 弾性衝突: 運動量と運動エネルギーの両方が保存される衝突。特に、質量が等しい2物体が1次元弾性衝突(正面衝突)する場合、速度が交換されるという性質があります。
  • 単振動: 物体が、つり合いの位置からの変位に比例し、変位と逆向きの復元力を受けて行う周期的な往復運動。復元力が \(F = -Kx\)(\(K\) は正の定数)の形で表されることが特徴です。
    • 単振動のエネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\)
    • 単振動の周期: \(T = 2\pi \sqrt{m/K}\)

全体的な戦略としては、まず(1)で円柱の静止時の力のつり合いから液面下の深さを求めます。(2)では弾性衝突の法則を適用します。(3)では円柱のつり合いの位置からの変位 \(x\) に対する合力を計算し、これが復元力となることを見抜きます。(4)では単振動のエネルギー保存則から振幅を求め、最大の深さを計算します。(5)では単振動の周期を求め、特定の状態に至るまでの時間を計算します。

問1

思考の道筋とポイント
円柱が液体中で静止している状態では、円柱に働く重力(鉛直下向き)と浮力(鉛直上向き)が釣り合っています。それぞれの力を円柱の密度 \(\rho_0\)、液体の密度 \(\rho\)、円柱の寸法 \(S, l\)、液面下の深さ \(d\)、重力加速度 \(g\) を用いて表し、つり合いの式を立てます。

この設問における重要なポイント

  • 円柱の質量 \(m_{\text{円柱}}\) を \(\rho_0 S l\) と正しく計算できること。
  • 円柱が液面下に深さ \(d\) だけ沈んでいるときの、円柱が押しのけた液体の体積 \(V_{\text{液中}}\) が \(Sd\) となること。
  • アルキメデスの原理に基づき、浮力の大きさを \(F_{\text{浮力}} = \rho V_{\text{液中}} g = \rho (Sd) g\) と正しく表せること。
  • 力のつり合いの条件(重力の大きさと浮力の大きさが等しい)を正確に立式すること。

具体的な解説と立式
まず、円柱の質量 \(m_{\text{円柱}}\) を求めます。円柱の体積 \(V_{\text{円柱}}\) は \(Sl\) なので、
$$m_{\text{円柱}} = \rho_0 V_{\text{円柱}} = \rho_0 S l$$
したがって、円柱に働く重力の大きさ \(W\) は、
$$W = m_{\text{円柱}} g = (\rho_0 S l) g$$
次に、円柱が液面下に深さ \(d\) まで沈んでいるとき、円柱が押しのけた液体の体積(つまり、液面下にある円柱部分の体積)\(V_{\text{液中}}\) は、
$$V_{\text{液中}} = S d$$
このとき、アルキメデスの原理により、円柱に働く浮力の大きさ \(F_{\text{浮力}}\) は、押しのけた液体の重さに等しいので、
$$F_{\text{浮力}} = \rho V_{\text{液中}} g = \rho (Sd) g$$
円柱が静止しているとき、重力 \(W\) と浮力 \(F_{\text{浮力}}\) はつり合っているので、
$$W = F_{\text{浮力}}$$
$$\rho_0 S l g = \rho S d g$$
この式を \(d\) について解きます。

使用した物理公式

  • 質量の計算: \((\text{質量}) = (\text{密度}) \times (\text{体積})\)
  • 重力の大きさ: \(W = mg\)
  • アルキメデスの原理(浮力): \(F_{\text{浮力}} = \rho_{\text{液体}} V_{\text{液中}} g\)
  • 力のつり合いの条件: \(\Sigma F = 0\)
計算過程

力のつり合いの式より、
$$\rho_0 S l g = \rho S d g$$
両辺に共通する因子 \(Sg\) で割ります(\(S \neq 0, g \neq 0\) なので可)。
$$\rho_0 l = \rho d$$
これを \(d\) について解くと、
$$d = \frac{\rho_0 l}{\rho}$$
模範解答の表記に合わせると、
$$d = \frac{\rho_0}{\rho}l$$

計算方法の平易な説明

円柱が液体に浮いて静止しているのは、円柱を下に引っ張る「重力」と、液体が円柱を上に押し上げる「浮力」がちょうど同じ大きさで釣り合っているからです。
円柱の重さは、「円柱の密度 \(\rho_0\) \(\times\) 円柱の体積 \(Sl\) \(\times\) 重力加速度 \(g\)」です。
一方、浮力は、「液体の密度 \(\rho\) \(\times\) 円柱が液体に沈んでいる部分の体積 \(Sd\) \(\times\) 重力加速度 \(g\)」です(ここで \(d\) が求めたい液面下の深さ)。
これら二つが等しいので、\(\rho_0 S l g = \rho S d g\) という式が成り立ちます。この式から \(S\) と \(g\) を消去して \(d\) について整理すると、\(d = (\rho_0/\rho)l\) が求まります。

結論と吟味

円柱が静止しているときの液面下の深さ \(d\) は \(\displaystyle d = \frac{\rho_0}{\rho}l\) です。
この結果は、円柱の密度 \(\rho_0\) と液体の密度 \(\rho\) の比、および円柱の全長 \(l\) に依存することを示しています。
問題文には「円柱の上面が液面下に沈むことはない」という条件があり、これは \(d \le l\) を意味します。したがって、\(\frac{\rho_0}{\rho}l \le l\) から \(\rho_0 \le \rho\) という関係が成り立っている必要があります(\(\rho_0 = \rho\) のときは全体が沈んで中立浮遊、\(\rho_0 < \rho\) のとき一部が沈んで浮遊)。「浮かんでいる」という表現からは \(\rho_0 < \rho\) がより自然です。
単位の観点からも、\(\rho_0/\rho\) は無次元(密度の比)で、\(l\) は長さの単位なので、\(d\) は長さの単位となり、深さを表す量として適切です。

解答 (1) \(d = \displaystyle\frac{\rho_0}{\rho}l\)

問2

思考の道筋とポイント
小球と円柱は弾性衝突をします。また、重要な条件として「円柱と同じ質量の小球」とあります。質量が等しい2物体が(1次元的な)弾性衝突をする場合、それぞれの速度が交換されるという非常に便利な性質があります。これを利用するのが最も簡単な解法です。もしこの性質を知らない場合や確認したい場合は、運動量保存則と反発係数の式(弾性衝突なので \(e=1\))を連立させて解くことになります。

この設問における重要なポイント

  • 衝突が「弾性衝突」であること(反発係数 \(e=1\)、系の運動エネルギーが保存される)。
  • 衝突する「小球」と「円柱」の質量が等しい、という条件を見逃さないこと。
  • 質量が等しい2物体の1次元弾性衝突では、速度が交換されるという法則を適用できること。
  • (別解として)運動量保存則と反発係数の式を正しく立式し、連立方程式を解けること。

具体的な解説と立式
小球の質量を \(m_{\text{小球}}\)、円柱の質量を \(m_{\text{円柱}}\) とします。問題の条件より、\(m_{\text{小球}} = m_{\text{円柱}}\) です。この共通の質量を \(m\) とおきましょう(\(m = \rho_0 S l\))。
衝突前の小球の速度を \(v_{\text{小球,初}} = v_0\)(鉛直下向き)、円柱の速度を \(v_{\text{円柱,初}} = 0\)(静止)とします。
衝突直後の小球の速度を \(v’_{\text{小球}}\)、円柱の速度を \(v’_{\text{円柱}}\) とします。鉛直下向きを正の向きとします。

質量が等しい2物体が弾性衝突する場合、それぞれの速度は衝突の前後で入れ替わります。
つまり、

  • 衝突後の円柱の速度 \(v’_{\text{円柱}}\) は、衝突前の小球の速度 \(v_0\) になります。
  • 衝突後の小球の速度 \(v’_{\text{小球}}\) は、衝突前の円柱の速度 \(0\) になります。

したがって、衝突直後の円柱の速さは \(v_0\) です。

【念のため、運動量保存則と反発係数の式から導出】
運動量保存則(鉛直方向):
$$m v_0 + m \cdot 0 = m v’_{\text{小球}} + m v’_{\text{円柱}}$$
両辺を \(m\) で割ると、
$$v_0 = v’_{\text{小球}} + v’_{\text{円柱}} \quad \cdots ①$$
反発係数の式(弾性衝突なので \(e=1\)):
衝突後の相対速度 = \(-e \times\) 衝突前の相対速度
$$v’_{\text{円柱}} – v’_{\text{小球}} = -1(0 – v_0)$$
$$v’_{\text{円柱}} – v’_{\text{小球}} = v_0 \quad \cdots ②$$
式①と式②を足し合わせると:
$$(v_0) + (v_0) = (v’_{\text{小球}} + v’_{\text{円柱}}) + (v’_{\text{円柱}} – v’_{\text{小球}})$$
$$2v_0 = 2v’_{\text{円柱}}$$
$$v’_{\text{円柱}} = v_0$$
これを式②に代入すると、\(v_0 – v’_{\text{小球}} = v_0\) より \(v’_{\text{小球}} = 0\)。
確かに速度が交換されています。

使用した物理公式

  • 質量が等しい2物体の弾性衝突における速度交換の法則
  • (別解) 運動量保存則: \(m_1v_1 + m_2v_2 = m_1v_1′ + m_2v_2’\)
  • (別解) 反発係数の式: \(v_1′ – v_2′ = -e(v_1 – v_2)\) (弾性衝突では \(e=1\))
計算過程

質量が等しい2物体 (\(m_{\text{小球}} = m_{\text{円柱}}\)) が弾性衝突 (\(e=1\)) を行う場合、速度交換の法則が成り立ちます。
衝突前の速度は、小球が \(v_0\)、円柱が \(0\) です。
したがって、衝突直後の速度は、

  • 円柱の速度: \(v_0\)
  • 小球の速度: \(0\)

よって、衝突直後の円柱の速さは \(v_0\) です。

計算方法の平易な説明

同じ重さのボール2つがカチンとぶつかって、ものすごくよく跳ね返る場合(これを物理では弾性衝突といいます)、面白いことに、ぶつかった後、2つのボールの速さがそっくり入れ替わるんです。
今回の問題では、小球と円柱は同じ質量で、弾性衝突をします。
ぶつかる前は、小球が \(v_0\) の速さで落ちてきて、円柱は止まっていました(速さ0)。
なので、ぶつかった後は、円柱が \(v_0\) の速さで動き出し、小球は止まる(速さ0)ことになります。
したがって、円柱が衝突直後に得る速さは \(v_0\) です。

結論と吟味

小球との衝突直後の円柱の速さは \(v_0\) です。
この「速度交換」は、質量が等しい2物体間の1次元弾性衝突における重要な結果であり、覚えておくと非常に便利です。運動量保存則と反発係数の式を連立して解く手間が省けます。この結果は物理的に広く知られており、妥当です。

解答 (2) \(v_0\)

問3

思考の道筋とポイント
衝突後、円柱は単振動を始めます。この設問では、円柱の静止していたつり合いの位置(液面下の深さ \(d\))から、さらに下方に \(x\) だけ沈んでいるときに円柱に働く合力 \(f\) を求めます(下向きを正とします)。
円柱に働く力は、常に鉛直下向きの「重力」と、鉛直上向きの「浮力」です。浮力は、円柱が液体に沈んでいる部分の体積に比例して変化します。これらの力の合力を計算し、それが変位 \(x\) の関数としてどのように表されるかを見ます。

この設問における重要なポイント

  • 円柱の静止時(つり合いの位置、\(x=0\) に対応)における力のつり合いの関係(重力 = そのときの浮力)を正しく利用すること。
  • 円柱がつり合いの位置から \(x\) だけ下方に変位したとき、液面下の総深さが \(d+x\) となることを理解すること。
  • 変位 \(x\) によって浮力が変化し、その結果としてつり合いの状態から力のバランスが崩れ、合力(これが復元力となる)が生じることを把握すること。
  • 力の向きと座標軸の正の向き(下向き正)を考慮して、合力の符号を正しく決定すること。

具体的な解説と立式
円柱の質量を \(m = \rho_0 S l\) とします。円柱に働く重力の大きさは常に \(mg = \rho_0 S l g\) で、鉛直下向きです。
円柱が静止しているとき(つり合いの位置)、液面下の深さは \(d\) であり、このときの浮力 \(F_{\text{浮力,静止時}}\) は重力とつり合っています。すなわち、
$$mg = F_{\text{浮力,静止時}} = \rho S d g \quad \cdots (*)$$
(これは(1)で \(d = (\rho_0/\rho)l\) を導いた際のつり合いの式そのものです。)

さて、このつり合いの位置から円柱がさらに下方に \(x\) だけ沈んでいる場合を考えます(\(x\) はつり合いの位置からの変位で、下向きを正とします)。
このとき、円柱の液面下の総深さは \(d+x\) となります。
この状態での浮力の大きさ \(F’_{\text{浮力}}\) は、
$$F’_{\text{浮力}} = \rho S (d+x) g$$
この浮力は鉛直上向きに働きます。
円柱に働く合力 \(f\) を、問題文の指示通り下向きを正として求めると、
$$f = (\text{重力}) – (\text{浮力})$$
$$f = mg – F’_{\text{浮力}}$$
$$f = \rho_0 S l g – \rho S (d+x) g$$
ここで、つり合いの条件式 \((*)\) すなわち \(\rho_0 S l g = \rho S d g\) を用いて、式を整理します。

使用した物理公式

  • 重力の大きさ: \(W = mg\)
  • アルキメデスの原理(浮力): \(F_{\text{浮力}} = \rho_{\text{液体}} V_{\text{液中}} g\)
  • 力の合力: \(\vec{F}_{\text{合力}} = \Sigma \vec{F}_i\) (ベクトル和)
  • (1)で導いた力のつり合いの関係
計算過程

円柱に働く合力 \(f\)(下向きを正)は、
$$f = (\text{重力}) – (\text{現在の浮力})$$
$$f = \rho_0 S l g – \rho S (d+x) g$$
(1)で確立した静止時のつり合いの関係 \(mg = \rho_0 S l g = \rho S d g\) を用いると、式の最初の項 \(\rho_0 S l g\) は \(\rho S d g\) と書き換えられます。
$$f = \rho S d g – \rho S (d+x) g$$
括弧を展開して整理します:
$$f = \rho S d g – (\rho S d g + \rho S x g)$$
$$f = \rho S d g – \rho S d g – \rho S x g$$
$$f = -\rho S g x$$

計算方法の平易な説明

円柱が水に浮いて止まっているとき(これを「つり合いの位置」と呼びます)、重力と浮力は釣り合っています。
ここから、円柱がさらに \(x\) だけ下に沈んだとしましょう。
重力は相変わらず同じ大きさ \(\rho_0 S l g\) で下向きに働いています。
しかし、浮力は、円柱が水に沈んでいる部分が \(x\) だけ増えたので、その分だけ大きくなります。新しい浮力は \(\rho S (d+x) g\) で上向きです。
円柱に働く力の合計(合力 \(f\)、下向きを正とする)は、「下向きの重力 - 上向きの浮力」なので、
\(f = \rho_0 S l g – \rho S (d+x) g\) となります。
ここで、つり合いのときには \(\rho_0 S l g\) と \(\rho S d g\) が等しかったことを使うと、式は \(f = \rho S d g – \rho S (d+x) g\) と書き換えられます。これを整理すると、\(f = -\rho S g x\) となります。
この式が意味するのは、円柱が下に \(x\) だけズレると、上向きに \(\rho S g x\) の力が働く、ということです(マイナスがついているので \(x\) と逆向き)。これは、円柱をつり合いの位置に戻そうとする力(復元力)ですね。

結論と吟味

円柱が静止状態(つり合いの位置)から下方に \(x\) だけ沈んでいるとき、円柱が受ける合力 \(f\) は、下向きを正として \(f = -\rho S g x\) です。
この結果は、\(f = -Kx\) の形をしています。ここで \(K = \rho S g\) は正の定数です。これは、合力がつり合いの位置からの変位 \(x\) に比例し、変位と逆向きに働く「復元力」であることを示しており、円柱がこの力を受けて単振動を行うことの根拠となります。
変位 \(x\) が正(下向き)のとき、合力 \(f\) は負(上向きの力)。変位 \(x\) が負(つり合い位置より上向き)のとき、合力 \(f\) は正(下向きの力)となり、常につり合いの位置に戻そうとする働きをします。

解答 (3) \(f = -\rho S g x\)

問4

思考の道筋とポイント
(3)で求めた合力 \(f = -(\rho S g)x\) は、変位 \(x\) に比例しその向きと反対向きの復元力であるため、円柱はつり合いの位置(静止時の深さ \(d\) の位置、すなわち \(x=0\))を中心として単振動を行います。この単振動の「有効なばね定数」に相当するものは \(K_{\text{有効}} = \rho S g\) です。
衝突直後、円柱はつり合いの位置 (\(x=0\)) で、下向きに速さ \(v_0\) を持ちます((2)の結果より)。このときの円柱の運動エネルギーが、単振動の最大の変位(振幅を \(A\) とする)でのポテンシャルエネルギー(\(\frac{1}{2}K_{\text{有効}}A^2\) と書ける)にちょうど等しくなると考え、単振動のエネルギー保存則から振幅 \(A\) を求めます。
円柱が達する液面下の「深さ」の最大値 \(d_1\) は、つり合いのときの深さ \(d\) に、この振幅 \(A\) を加えたものになります (\(d_1 = d+A\))。

この設問における重要なポイント

  • (3)の結果から、円柱の運動が単振動であること、およびその有効なばね定数 \(K_{\text{有効}} = \rho S g\) を正しく見抜くこと。
  • 円柱の質量 \(m\) を \(m = \rho_0 S l\) と認識し、計算に用いること。
  • 単振動のエネルギー保存則(つり合いの位置での運動エネルギー = 振動の端でのポテンシャルエネルギー)を正しく適用して、振幅 \(A\) を計算すること。
  • 最終的に問われているのが「液面下の深さの最大値 \(d_1\)」であり、これがつり合いの深さ \(d\) と振幅 \(A\) の和で表されること (\(d_1 = d+A\)) を理解すること。

具体的な解説と立式
(3)より、円柱に働く合力は \(f = -(\rho S g)x\) であり、これは \(F=-Kx\) の形の復元力です。
したがって、この単振動の有効なばね定数 \(K_{\text{有効}}\) は、
$$K_{\text{有効}} = \rho S g$$
円柱の質量 \(m\) は、\(m = \rho_0 S l\) です。
(2)より、衝突直後、円柱はつり合いの位置 (\(x=0\)) で下向きに速さ \(v_0\) を持ちます。このときの円柱の運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv_0^2\) です。
この単振動の振幅を \(A\) とします。振動の端(最も深く沈んだ位置 \(x=A\)、または最も高く浮き上がった位置 \(x=-A\))では、円柱の速さは一瞬 \(0\) になり、このときの単振動のポテンシャルエネルギーは \(\frac{1}{2}K_{\text{有効}}A^2\) と書けます。
単振動におけるエネルギー保存則より、(つり合い位置での運動エネルギー) = (振動の端でのポテンシャルエネルギー) が成り立つので、
$$\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}K_{\text{有効}}A^2$$
この式から振幅 \(A\) を求めます。
$$A = v_0 \sqrt{\frac{m}{K_{\text{有効}}}}$$
ここに \(m = \rho_0 S l\) と \(K_{\text{有効}} = \rho S g\) を代入して \(A\) を計算します。
$$A = v_0 \sqrt{\frac{\rho_0 S l}{\rho S g}} = v_0 \sqrt{\frac{\rho_0 l}{\rho g}}$$
円柱が達する液面下の深さの最大値 \(d_1\) は、つり合いのときの深さ \(d\) に、この振幅 \(A\)(最も深く沈んだときの変位)を加えたものになります。
$$d_1 = d + A$$
(1)で求めた \(d = \frac{\rho_0}{\rho}l\) を用いて \(d_1\) を表します。

使用した物理公式

  • 単振動の復元力: \(F = -Kx\) (ここから \(K_{\text{有効}} = \rho S g\))
  • 単振動のエネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\)
    (特に、\(\frac{1}{2}mv_{\text{max}}^2 = \frac{1}{2}KA^2\)、ここで \(v_{\text{max}}\) はつり合い位置での速さ、\(A\) は振幅)
  • 円柱の質量: \(m = \rho_0 S l\)
  • (1)で求めたつり合いの深さ: \(d = \frac{\rho_0}{\rho}l\)
計算過程

単振動の有効なばね定数は \(K_{\text{有効}} = \rho S g\)。
円柱の質量は \(m = \rho_0 S l\)。
単振動のエネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}K_{\text{有効}}A^2\) より、振幅 \(A\) は次のように計算できます。
$$A = v_0 \sqrt{\frac{m}{K_{\text{有効}}}} = v_0 \sqrt{\frac{\rho_0 S l}{\rho S g}}$$
分母と分子の \(S\) が約分されて、
$$A = v_0 \sqrt{\frac{\rho_0 l}{\rho g}}$$
液面下の深さの最大値 \(d_1\) は、つり合いの深さ \(d\) に振幅 \(A\) を加えたものなので、\(d_1 = d + A\)。
(1)で求めた \(d = \frac{\rho_0}{\rho}l\) を代入すると、
$$d_1 = \frac{\rho_0}{\rho}l + v_0 \sqrt{\frac{\rho_0 l}{\rho g}}$$

計算方法の平易な説明

(3)で見たように、円柱に働く力は、つり合いの位置からのズレ \(x\) が大きくなるほど、元に戻そうとする力が強くなる、まるでバネのような性質を持っていました。この「バネの硬さ」に相当するものを \(K_{\text{有効}} = \rho S g\) と考えることができます。
衝突直後、円柱はつり合いの位置で \(v_0\) という速さを持っています。このときの運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv_0^2\) です(\(m\) は円柱の質量 \(\rho_0 S l\))。
この運動エネルギーが、円柱が一番深く沈んだとき(そこでは一瞬止まるので運動エネルギーは0)には、すべて「バネ(のようなもの)のエネルギー」つまりポテンシャルエネルギー \(\frac{1}{2}K_{\text{有効}}A^2\) に変わります。ここで \(A\) は、つり合いの位置からどれだけ沈んだか、つまり振動の幅(振幅)です。
このエネルギーの関係式 \(\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}K_{\text{有効}}A^2\) から振幅 \(A\) を計算すると、\(A = v_0 \sqrt{(\rho_0 l)/(\rho g)}\) となります。
最終的に求めたいのは、液面下の「深さ」の最大値です。これは、もともと沈んでいた深さ \(d\) に、さらに振幅 \(A\) だけ沈んだときの深さなので、\(d_1 = d+A\) となります。ここに、(1)で求めた \(d\) と、今計算した \(A\) を代入すれば、答えが得られます。

結論と吟味

円柱が達する液面下の深さの最大値 \(d_1\) は \(\displaystyle d_1 = \frac{\rho_0}{\rho}l + v_0 \sqrt{\frac{\rho_0 l}{\rho g}}\) です。
この式は、つり合いの深さ \(d = (\rho_0/\rho)l\) に、衝突によって与えられた初速 \(v_0\) に比例する振幅 \(A = v_0 \sqrt{(\rho_0 l)/(\rho g)}\) が加わった形をしており、物理的に自然な結果です。
\(v_0\) が大きいほど、振幅 \(A\) が大きくなり、その結果 \(d_1\) も大きくなります。また、円柱の慣性(\(m = \rho_0 S l\) に関連)が大きいほど、あるいは復元力に関わる \(\rho g\) が小さいほど、振幅 \(A\) が大きくなる傾向があることも式から読み取れます。
単位の確認: \(A\) の中の \(\sqrt{(\rho_0 l)/(\rho g)}\) の単位は、\(\sqrt{ ([\text{kg/m}^3][\text{m}]) / ([\text{kg/m}^3][\text{m/s}^2]) } = \sqrt{ [\text{m}^2 \text{s}^2 / \text{m}^2] } = \sqrt{[\text{s}^2]} = [\text{s}]\)。したがって、振幅 \(A = v_0 \sqrt{(\rho_0 l)/(\rho g)}\) の単位は \([\text{m/s}] \cdot [\text{s}] = [\text{m}]\) となり、長さの単位として正しいです。つり合いの深さ \(d\) も長さの単位なので、\(d_1\) も長さの単位となり、深さを表す量として適切です。

解答 (4) \(d_1 = \displaystyle\frac{\rho_0}{\rho}l + v_0 \sqrt{\frac{\rho_0 l}{\rho g}}\)

問5

思考の道筋とポイント
円柱はつり合いの位置(静止時の深さ \(d\) の位置、これを \(x=0\) とする)を中心として、振幅 \(A\) で単振動を行います。衝突直後(時刻を0とする)に、円柱は \(x=0\) の位置で下向き(\(x\) 軸正方向)に速さ \(v_0\) で動き始めます。
問題で問われているのは、「静止位置(\(x=0\))より上に上がって初めて速さが0になるまでの時間」です。これは、単振動において、つり合いの位置から出発し、上側の端点(\(x=-A\))に到達するまでの時間に相当します。
単振動の周期 \(T\) をまず計算し、この運動が周期のどの部分に当たるかを考えます。

この設問における重要なポイント

  • 円柱の運動が単振動であることを再確認し、その周期 \(T = 2\pi\sqrt{m/K_{\text{有効}}}\) を正しく計算すること(\(m = \rho_0 S l\), \(K_{\text{有効}} = \rho S g\))。
  • 衝突直後の初期条件(時刻 \(t=0\) で \(x=0\), 速度 \(v=v_0\)(下向き))から、単振動の位相を考えること。
  • 「静止位置より上に上がって初めて速さが0になる」のが、単振動の上側の端点 (\(x=-A\)) であることを理解すること。
  • 円柱が、つり合いの位置(\(x=0\)) \(\rightarrow\) 下端(\(x=A\)) \(\rightarrow\) つり合いの位置(\(x=0\)) \(\rightarrow\) 上端(\(x=-A\)) と運動する各区間が、それぞれ周期の \(1/4\) に相当することから、合計の時間を計算すること。

具体的な解説と立式
円柱の単振動の周期 \(T\) は、円柱の質量 \(m = \rho_0 S l\) と、(3)で求めた有効なばね定数 \(K_{\text{有効}} = \rho S g\) を用いて、
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K_{\text{有効}}}} = 2\pi\sqrt{\frac{\rho_0 S l}{\rho S g}} = 2\pi\sqrt{\frac{\rho_0 l}{\rho g}}$$
衝突直後(これを時刻 \(t=0\) とします)に、円柱はつり合いの位置 (\(x=0\)) を下向き(\(x\) 軸正方向)の初速 \(v_0\) で通過します。
この単振動の変位 \(x(t)\) は、例えば \(x(t) = A \sin(\omega t)\) と表すことができます(ここで \(\omega = 2\pi/T\) は角振動数、\(A\) は(4)で求めた振幅です)。このとき、速度 \(v(t) = A\omega \cos(\omega t)\) であり、\(t=0\) で \(v(0)=A\omega = v_0\) となり初期条件を満たします。

求めたいのは、「静止位置(\(x=0\))より上に上がって初めて速さが0になる」までの時間です。
速さが0になるのは振動の端点です。円柱が上に上がって速さが0になるのは、上側の端点 \(x=-A\) に到達したときです。
円柱の運動の経路と対応する時間は以下のようになります。

  1. 時刻 \(t=0\): つり合いの位置 \(x=0\) を出発(下向きに \(v_0\))。
  2. 時刻 \(t_1 = T/4\): 下側の端点 \(x=A\) に到達し、速さが0になる。
  3. 時刻 \(t_2 = T/2\): 再びつり合いの位置 \(x=0\) を通過(今度は上向き)。
  4. 時刻 \(t_3 = 3T/4\): 上側の端点 \(x=-A\) に到達し、速さが0になる。

したがって、問題で問われている「静止位置(\(x=0\))より上に上がって初めて速さが0になるまでの時間」は、\(t_3 = 3T/4\) です。
この時間 \(t\) を計算します。

使用した物理公式

  • 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\)
  • 単振動の運動と位相の関係(特定の点に達するまでの時間が周期の何倍か)
計算過程

まず、単振動の周期 \(T\) を計算します:
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K_{\text{有効}}}} = 2\pi\sqrt{\frac{\rho_0 S l}{\rho S g}} = 2\pi\sqrt{\frac{\rho_0 l}{\rho g}}$$
求める時間 \(t\) は、円柱がつり合いの位置 \(x=0\) から下向きに動き出し、その後、下端 \(\rightarrow\) 再びつり合い位置 \(\rightarrow\) 上端 と運動して、上側の端点 \(x=-A\) に達するまでの時間です。
これは単振動の \(3/4\) 周期に相当します。
$$t = \frac{3}{4}T$$
$$t = \frac{3}{4} \cdot \left( 2\pi\sqrt{\frac{\rho_0 l}{\rho g}} \right)$$
$$t = \frac{3 \cdot 2\pi}{4}\sqrt{\frac{\rho_0 l}{\rho g}}$$
$$t = \frac{3}{2}\pi\sqrt{\frac{\rho_0 l}{\rho g}}$$

計算方法の平易な説明

円柱は、衝突後に上下にゆらゆらと振動します(単振動)。この振動は、つり合いの位置(静止していた深さ \(d\) のところ)が真ん中になります。
衝突直後、円柱は真ん中の位置から下に向かって動き始めます。

  1. まず、一番下まで沈みます。真ん中から端まで行くのにかかる時間は、一往復する時間(周期 \(T\))の \(1/4\) です。(\(t=T/4\))
  2. 次に、一番下からまた真ん中に戻ってきます。これも \(T/4\) かかります。(\(t=T/2\) で真ん中)
  3. そして、真ん中から今度は上に上がっていき、一番上まで行って止まります。これも \(T/4\) かかります。(\(t=3T/4\) で一番上)

問題で聞かれているのは、「静止位置(真ん中)より上に上がって初めて速さが0になるまでの時間」なので、これは3番目のステップが終わるまでの時間、つまり \(3T/4\) です。
周期 \(T\) は \(2\pi\sqrt{m/K_{\text{有効}}}\) で計算でき、\(m=\rho_0 S l\)、\(K_{\text{有効}}=\rho S g\) を代入すると \(T = 2\pi\sqrt{(\rho_0 l)/(\rho g)}\) です。
なので、求める時間 \(t\) は、この \(T\) の \(3/4\) 倍となります。

結論と吟味

円柱が静止位置より上に上がって初めて速さが0になるまでの時間 \(t\) は \(\displaystyle t = \frac{3}{2}\pi\sqrt{\frac{\rho_0 l}{\rho g}}\) です。
この時間は単振動の周期 \(T = 2\pi\sqrt{(\rho_0 l)/(\rho g)}\) の \(3/4\) であり、つり合いの位置から出発して反対側の端点に到達するまでの時間として物理的に妥当です。
単位の確認: \(\sqrt{(\rho_0 l)/(\rho g)}\) の部分は(4)の振幅 \(A\) の計算で \([\text{s}]\) の単位を持つことを確認しました。したがって、\(t\) の単位も \([\text{s}]\) となり、時間の単位として正しいです。\(\pi\) は無次元定数です。

解答 (5) \(t = \displaystyle\frac{3}{2}\pi\sqrt{\frac{\rho_0 l}{\rho g}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 浮力とアルキメデスの原理: 液体中の物体が受ける浮力は、その物体が押しのけた液体の「重さ」に等しい (\(F_{\text{浮力}} = \rho_{\text{液体}} V_{\text{液中}} g\))。この原理に基づいて、円柱のつり合い(問1)や運動中の合力(問3)を考えることが基本です。
  • 力のつり合い: 物体が静止している状態では、物体に働く力のベクトル和がゼロになるという、静力学の基本法則です(問1)。
  • 弾性衝突(特に質量が等しい場合): 運動量と運動エネルギーの両方が保存される衝突です。本問では、円柱と小球の質量が等しいため、衝突によって速度が交換されるという性質が使えます。これにより衝突直後の円柱の速度が簡単に求まります(問2)。
  • 単振動: 物体が、ある「つり合いの位置」からの変位に比例し、かつ変位と逆向きの「復元力」(\(F=-Kx\) の形)を受けるときに行う周期的な往復運動です。本問では、浮力の変化分がこの復元力となり、円柱が単振動をします(問3, 4, 5)。
    • 復元力と有効なばね定数(\(K_{\text{有効}}\)): 合力が変位に比例する形 (\(F=-Kx\)) になることを見抜き、その比例定数 \(K\)(有効なばね定数)を正しく特定することが重要です。
    • 単振動のエネルギー保存: 単振動する系の力学的エネルギー(運動エネルギー + ポテンシャルエネルギー \(\frac{1}{2}Kx^2\))は一定に保たれます。特に、振動中心での運動エネルギーが振動の端でのポテンシャルエネルギーに等しくなります(問4)。
    • 単振動の周期: 周期 \(T\) は \(T=2\pi\sqrt{m/K_{\text{有効}}}\) で与えられます(問5)。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 様々な形状の物体(球、直方体、円錐など)の浮力とつり合い、あるいは物体が液体中に沈む条件を問う問題。
    • 浮力を復元力とする単振動の問題(例:試験管に重りを入れて液体に浮かべた系の鉛直振動、U字管内の液柱の振動など)。これらは、ばね振り子の単振動と数学的に同じ形で扱えるアナロジーがあります。
    • 衝突によって単振動が開始される問題、あるいは単振動の途中で他の物体と衝突する問題。
    • 液体の密度が異なる2層の液体に物体が浮かぶ場合など、より複雑な浮力の問題。
  • 初見の問題で着目すべき点:
    1. 物体に働く力の同定と図示: まず、注目する物体にどのような力が働いているか(重力、浮力、接触力、遠隔力など)をすべて正確に図示する。
    2. つり合いの位置の特定: 物体が静止できる位置、あるいは単振動の中心となる「つり合いの位置」を、力のつり合いの条件から最初に求める。
    3. つり合いの位置からの変位と復元力: 物体がつり合いの位置からわずかに変位したときに、どの方向にどのような合力が働くかを調べる。この合力が変位に比例し逆向き(\(F=-Kx\))であれば、単振動をする。
    4. エネルギーの変化と保存の法則の適用可能性: 系の力学的エネルギーが保存されるか(保存力以外の力が仕事をしないか)、されるならどの形態のエネルギー(運動エネルギー、位置エネルギー、弾性エネルギーなど)が関わるかを検討する。
    5. 衝突現象の性質の把握: 衝突が弾性か非弾性か、質量関係はどうなっているかなどを確認し、運動量保存則や反発係数の式(または特殊な法則)を適用する。
    6. 周期運動における時間の捉え方: 単振動の周期、半周期、1/4周期などが、運動のどの区間(例:端から中心、中心から端、端から端)に対応するのかを正確に理解する。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 浮力の計算における体積の誤り: 浮力の計算で用いる体積 \(V_{\text{液中}}\) は、物体の全体の体積ではなく、物体が「液面下に沈んでいる部分の体積」であることに注意する。
  • 復元力の導出における符号の取り違え: 単振動の復元力は、つり合いの位置からの変位 \(x\) とは「逆向き」に働くため、\(F=-Kx\) のようにマイナス符号がつきます。力の向きと座標軸の正の向きを考慮して、この符号を正しく導出することが重要です。
  • 単振動の「有効なばね定数 \(K_{\text{有効}}\)」の誤認: 浮力による単振動の場合、\(K_{\text{有効}}\) は液体の密度 \(\rho\) や物体の断面積 \(S\)、重力加速度 \(g\) などから決まります(本問では \(\rho S g\))。機械的なばねのばね定数 \(k\) とは意味合いが異なるので混同しないこと。
  • 単振動の初期条件と位相の扱いの難しさ: 単振動の一般解 \(x(t) = A\sin(\omega t + \phi)\) や \(A\cos(\omega t + \phi)\) を用いる場合、初期条件(\(t=0\) での位置と速度)から振幅 \(A\) と初期位相 \(\phi\) を正しく決定する必要があります。本問(5)では、\(t=0\) で \(x=0\) かつ \(v=v_0\)(下向き)という条件から、運動の特定の区間が周期の何倍にあたるかを判断しました。
  • 質量 \(m\) の取り扱いの混同: 浮力の式 \(F_{\text{浮力}} = \rho V_{\text{液中}} g\) には液体の密度 \(\rho\) が用いられますが、運動方程式 (\(ma=F\)) や単振動の周期の式 (\(T=2\pi\sqrt{m/K_{\text{有効}}}\)) に出てくる質量 \(m\) は、運動している「物体自身の質量」(本問では円柱の質量 \(\rho_0 Sl\))です。これらを混同しないように注意が必要です。

対策:

  • 必ずフリーボディダイアグラム(物体に働くすべての力を図示し、それぞれの大きさを書き込む)を作成する習慣をつける。
  • 単振動のつり合いの位置を \(x=0\) と定義し、そこからの変位 \(x\) を用いて力を記述し、合力を求める。
  • 単振動の周期やエネルギーに関する公式を、その導出過程や各記号が何を意味するのかという点から深く理解し、単に丸暗記するのではなく、本質を掴むように努める。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 有効だった図(この問題で描くと良い図):
    • 円柱が液体に浮かび静止している状態の図。この図には、円柱に働く重力と浮力のベクトルを明確に描き、それぞれの大きさを記号で示すと良い。液面下の深さ \(d\) も図示する。
    • 円柱がつり合いの位置から \(x\) だけ沈んだ(または浮き上がった)状態の図。この図にも重力と、変化した浮力のベクトルを描き、合力がどちら向きに働くかを視覚的に捉える。
    • 円柱の単振動の様子を模式的に示した図。振動中心(つり合いの位置)、振幅 \(A\)、最も深く沈んだ位置(\(x=A\) または深さ \(d+A\))、最も高く浮き上がった位置(\(x=-A\) または深さ \(d-A\))を明記する。
    • (5)の時間を考える上では、単振動の変位-時間グラフ(サインカーブまたはコサインカーブ)を頭の中でイメージするか、実際に描いてみると、運動の特定の区間が周期のどの部分に相当するのかが非常に分かりやすくなります。
  • 図を描く際の注意点:
    • 力のベクトルは、必ず作用点(力が働く点)を明確にし、向きを正確に、そして可能であれば相対的な大きさがわかるように描く(例:つり合いでは重力と浮力の矢印の長さが同じ)。
    • 変位 \(x\) の正の向き(座標軸の向き)を明確に定義し、それに基づいて力の向きや符号を考える。
    • 液面の位置、円柱の沈んでいる深さ \(d\)、つり合い位置からの変位 \(x\)、振幅 \(A\) など、問題に出てくる様々な「長さ」の関係を図で正確に捉え、混同しないようにする。
    • 単振動の運動を考える際には、振動中心、振幅、端点(速度が0になる点)などの特徴的な点を意識して描く。

物理現象を正しく視覚化し、それを簡潔かつ正確な図で表現する能力は、問題を深く理解し、適切な解法を導き出す上で非常に強力な武器となります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 浮力の公式 (\(F_{\text{浮力}}=\rho Vg\)):
    • 選定理由: 液体中にある物体が液体から受ける鉛直上向きの力を計算するため。
    • 根拠(アルキメデスの原理): 物体が押しのけた液体の「重さ」に等しいという物理的原理に基づいている。\(V\) は液面下の物体の体積であることに注意。
  • 力のつり合いの条件 (\(\Sigma F=0\)):
    • 選定理由: 物体が静止している、または等速直線運動している状態を記述するため。
    • 根拠: ニュートンの運動の第1法則(慣性の法則)および第2法則(運動方程式 \(ma=F\) で \(a=0\) の場合)。
  • 弾性衝突における速度交換の法則:
    • 選定理由: 「質量が等しい2物体」が「弾性衝突」するという、特定の条件が満たされているため、計算を簡略化できる。
    • 根拠: 運動量保存則と運動エネルギー保存則(または反発係数 \(e=1\) の式)を連立して解いた結果として一般的に成り立つ。
  • 単振動の復元力の条件 (\(F=-Kx\)):
    • 選定理由: 物体が周期的な往復運動をするかどうか、またその運動が単振動であるかを見極めるため。
    • 根拠: この形の復元力を受ける物体の運動方程式を解くと、解が三角関数で表され、単振動となる。
  • 単振動のエネルギー保存則 (\(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\)):
    • 選定理由: 単振動している物体の、任意の変位における速さや、振幅を求めるため。
    • 根拠: 単振動を引き起こす復元力が保存力(ポテンシャルエネルギーが定義できる力)であるため、系全体の力学的エネルギーが保存される。
  • 単振動の周期の公式 (\(T=2\pi\sqrt{m/K}\)):
    • 選定理由: 単振動の1往復にかかる時間を求めるため。
    • 根拠: 単振動の運動方程式 \(m\ddot{x}=-Kx\) の解から導かれる。

これらの物理法則や公式を「いつ、なぜ、どのように」使うのか、その適用条件や物理的な意味を常に意識することで、単なる公式の暗記ではなく、本質的な理解に基づいた問題解決能力が向上します。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 静止状態の力の分析:
    • 円柱に働く力を図示(重力、浮力)。
    • 力のつり合いの式を立てる: (重力) = (浮力)。
    • 各力を物理量で表す: \(\rho_0 S l g = \rho S d g\)。
    • \(d\) について解く。
  2. (2) 衝突現象の分析:
    • 衝突の種類(弾性衝突)と物体の質量関係(等質量)を確認。
    • 速度交換の法則を適用し、衝突直後の円柱の速度を決定。
  3. (3) 単振動の力の分析(復元力の導出):
    • 円柱がつり合いの位置から \(x\) だけ変位した状態を考える。
    • その状態での重力と浮力を計算。
    • 合力 \(f\) を \(x\) の関数として表す(下向き正)。
    • \(f = -Kx\) の形になっていることを確認し、\(K_{\text{有効}}\) を特定。
  4. (4) 単振動のエネルギー分析(振幅と最大深さの計算):
    • 衝突直後(\(x=0\), 速度 \(v_0\))の運動エネルギーを計算。
    • 単振動の振幅を \(A\) とし、振動の端(\(x=A\), 速度0)でのポテンシャルエネルギー \(\frac{1}{2}K_{\text{有効}}A^2\) を設定。
    • エネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}K_{\text{有効}}A^2\) から \(A\) を求める(\(m = \rho_0 S l\))。
    • 液面下の深さの最大値 \(d_1 = d+A\) を計算。
  5. (5) 単振動の時間の分析:
    • 単振動の周期 \(T = 2\pi\sqrt{m/K_{\text{有効}}}\) を計算。
    • 円柱が \(x=0\) から動き出し、\(x=-A\)(上側の端)に達するまでの時間が、周期の \(3/4\) に相当することを判断。
    • 時間 \(t = (3/4)T\) を計算。

このように、問題を論理的なステップに分解し、各ステップで用いるべき物理法則を明確にしながら計算を進めることが、複雑に見える問題でも正確に解き進めるための鍵となります。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の一貫性と最終確認: 計算の各段階や最終的に得られた答えの単位が、求めるべき物理量の単位として正しいか(例:深さなら長さの単位、速さなら長さ/時間、力なら質量×加速度の単位など)を常に意識する。これは、式の形が正しいかどうかの簡単なチェックにもなります。
  • 文字の正確な記述と区別: 密度を表す \(\rho_0\)(ローゼロ)と \(\rho\)(ロー)、長さ \(l\) と深さ \(d\) や変位 \(x\)、底面積 \(S\) など、多くの文字記号が登場するため、これらを正確に書き分け、混同しないように注意する。添え字も明確に。
  • 符号の厳密な取り扱い: 特に(3)で合力(復元力)を導出する際、力の向きと座標軸の正の向きを考慮した符号の取り扱いが重要です。\(f = -Kx\) のマイナス符号が自然に出てくるかを確認する。
  • 平方根や分数の計算の丁寧さ: (4)や(5)で振幅や周期を計算する際に平方根や分数計算が出てきます。特に文字式の場合、約分や整理を慎重に行う。
  • 既知の関係式の有効活用: 前の設問で導いた結果(例:(1)の \(d\) の式、(3)の \(K_{\text{有効}}\) の式)を後の設問で使う場合、代入ミスや書き写しミスがないように注意する。
  • 式の整理と見通しの良さ: 計算の途中では、式が冗長にならないように、適宜、共通因数でくくったり、既知の関係を代入して簡単な形にまとめたりすることで、見通しを良くし、計算ミスを減らすことができます。

計算ミスは、多くの場合、不注意や手順の焦りから生じます。日頃の演習から、計算過程を丁寧にノートに書き出し、一つ一つの操作の意味を確認しながら進めることが、ミスを減らすための最も効果的な方法です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直観との比較・整合性の確認:
    • (1)で、もし円柱の密度 \(\rho_0\) が液体の密度 \(\rho\) に非常に近ければ(ただし \(\rho_0 < \rho\))、\(d\) は \(l\) に近い値になり、ほとんど全体が沈むというのは直感に合います。逆に \(\rho_0 \ll \rho\) なら \(d \ll l\) で少ししか沈みません。
    • (2)の速度交換は、ビリヤードの玉の衝突などで見られる現象と似ています。
    • (4)で、衝突の初速 \(v_0\) が大きいほど振幅 \(A\) が大きくなり、その結果 \(d_1\) も大きくなるというのは自然な結果です。
    • (5)で、円柱の質量 \(m = \rho_0 S l\) が大きいほど、また有効なばね定数 \(K_{\text{有効}} = \rho S g\) が小さいほど、単振動の周期 \(T\) は長くなり、それに応じて時間 \(t\) も長くなるという傾向は、単振動の一般的な性質と一致します。
  • 極端な条件下での挙動の考察(思考実験):
    • もし衝突の初速 \(v_0\) がゼロだったらどうなるか? \(\rightarrow\) (4)で振幅 \(A=0\) となり \(d_1=d\)、(5)では振動しないので \(t\) の定義が難しくなりますが、動き出さないことは確かです。
    • もし液体の密度 \(\rho\) が非常に大きかったら(\(\rho \gg \rho_0\))どうなるか? \(\rightarrow\) (1)で \(d \rightarrow 0\)(ほとんど沈まない)。(4)で振幅 \(A\) の中の \(\sqrt{1/\rho}\) の項が小さくなるので \(A\) も小さくなる。(5)で周期 \(T\) の中の \(\sqrt{1/\rho}\) の項が小さくなるので \(T\) も小さくなる。
  • 他の関連する物理法則や既知の公式との整合性: 例えば、浮力による単振動の周期の公式は、ばね振り子の単振動の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) と同じ形をしており、\(K_{\text{有効}}\) がばね定数 \(k\) に対応していることを再確認する。
  • 単位の一貫性の最終確認: 各設問の解説でも触れましたが、導出した最終的な答えの単位が、求めるべき物理量の単位として正しいかを再度確認することは、基本的ながら非常に重要な吟味方法です。

解答を導き出すこと自体も大切ですが、その結果が物理的にどのような意味を持つのか、他の知識や状況とどのように関連するのかを多角的に検討する「吟味」の習慣は、物理学の理解を深め、未知の問題に対する応用力を養う上で非常に価値があります。

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