「良問の風」攻略ガイド(126〜130問):重要問題の解き方と物理の核心をマスター!

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問題126 (大分大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、長方形コイルが一定の速さで一様な磁場領域を通過する際に発生する電磁誘導現象について、誘導起電力、誘導電流、コイルが受ける力、そして発生するジュール熱を時間経過とともに考察するものです。コイルの運動を3つの区間(磁場への進入時、磁場内通過時、磁場からの退出時)に分けて考えることがポイントとなります。

与えられた条件
  • コイルP (ABCD):
    • 形状: 長方形
    • 辺の長さ: 辺AB (およびCD) の長さ \(b\) [m]、辺BC (およびAD) の長さ \(a\) [m]
    • 全抵抗: \(R\) [Ω]
  • 磁場領域:
    • 幅: \(2a\) [m]
    • 磁束密度: \(B\) [T] (一様)
    • 向き: 紙面に垂直に裏から表へ向かう向き
  • コイルの運動:
    • 速度: \(v\) [m/s] (一定、磁場に垂直な方向)
  • 時間基準:
    • \(t=0\) [s] のとき、コイルの辺BCが磁場領域の左端に達する。
問われていること
  1. (1) コイルが磁場に入り始める区間 (\(0 \le t \le a/v\)) における、
    • (ア) 誘導起電力の大きさ [V]
    • (イ) コイルを流れる電流の強さ [A]
    • (ウ) コイルが磁場から受ける力の向き
    • (エ) コイルが磁場から受ける力の大きさ [N]
  2. (2) \(0 \le t \le 3a/v\) の区間における、コイルを流れる電流 \(I\) と時間 \(t\) の関係を示すグラフ(最大値・最小値も示す。時計回りを電流の正の向きとする)。
  3. (3) \(0 \le t \le 3a/v\) の区間における、コイルに加えている外力 \(F_{\text{外}}\) と時間 \(t\) の関係を示すグラフ(最大値・最小値も示す。コイルの速度の向きを力の正の向きとする)。
  4. (4) コイルPが磁場領域を完全に通過し終える間に、発生した全熱エネルギー [J]。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電磁誘導」であり、コイルが磁場を横切る際の様々な物理現象を統合的に扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • ファラデーの電磁誘導の法則: コイルを貫く磁束が変化するとき、または導体が磁束を横切るときに誘導起電力が生じます。導体棒が磁場を速さ \(v\) で垂直に横切る場合の起電力は \(V=vBl\) で与えられます (ここで \(l\) は磁場を横切る導体の長さ)。
  • レンツの法則: 誘導電流は、その原因である磁束の変化を妨げる向きに流れます。これは誘導電流の向きを決定する上で非常に重要です。
  • オームの法則: 回路に流れる電流 \(I\)、電圧 (起電力) \(V\)、抵抗 \(R\) の関係を示す \(I = V/R\)。
  • 電磁力 (ローレンツ力): 電流が流れる導体が磁場中に置かれると力を受けます。電流の向きと磁場の向きに垂直な導体部分の長さが \(L\)、電流が \(I\)、磁束密度が \(B\) のとき、力の大きさは \(F=IBL\)。向きはフレミングの左手の法則で決まります。
  • エネルギー保存則: コイルを一定速度で動かすために外力がする仕事は、コイルの抵抗で消費されるジュール熱に等しくなります (運動エネルギーは変化しないため)。
  • ジュール熱: 抵抗 \(R\) の導体に電流 \(I\) が時間 \(t\) だけ流れるときに発生する熱エネルギーは \(Q = RI^2t\)。

この問題では、コイルの運動を時間経過に沿って3つの主要な区間に分けて考察します。

  1. 区間1: コイルが磁場領域に進入する (\(0 \le t < a/v\))
    コイルの辺BCが磁場を横切り始め、辺ADはまだ磁場外にある状態。
  2. 区間2: コイル全体が磁場領域内を移動する (\(a/v \le t < 2a/v\))
    コイルの辺BCと辺ADの両方が磁場内にあり、同じ速度で磁場を横切る状態。
  3. 区間3: コイルが磁場領域から退出する (\(2a/v \le t < 3a/v\))
    コイルの辺BCは磁場外に出、辺ADが磁場を横切りながら磁場外へ出る状態。

各区間において、以下のステップで物理量を求めていきます。

  • 誘導起電力の大きさ及び向き(ファラデーの法則、レンツの法則、フレミングの右手の法則)
  • 誘導電流の大きさ及び向き(オームの法則、設問の電流の正の向きの定義)
  • コイルが磁場から受ける電磁力の大きさ及び向き(フレミングの左手の法則)
  • コイルを一定速度で動かすために必要な外力の大きさ及び向き(力のつりあい)

最後に、全区間を通して発生するジュール熱を計算します。

問1 (ア)

思考の道筋とポイント
この時間区間 (\(0 \le t \le a/v\)) では、コイルの辺BC(長さ \(b\))のみが磁束密度 \(B\) の磁場を速度 \(v\) で垂直に横切っています。磁場を垂直に横切る導体に生じる誘導起電力の公式 \(V=vBl\) を適用します。

この設問における重要なポイント

  • 磁場を横切っているのは辺BCのみである。
  • 導体棒に生じる誘導起電力の公式 \(V=v \times (\text{磁束密度}) \times (\text{磁場を横切る導体の長さ})\) を正しく用いる。

具体的な解説と立式
辺BCが磁束密度 \(B\) の磁場を速度 \(v\) で垂直に横切るため、誘導起電力 \(V\) が生じます。その大きさは、
$$V = vBb \quad \cdots ①$$

使用した物理公式

  • 誘導起電力 (導体棒): \(V = vBl\) (ここで \(l\) は磁場を横切る導体の長さ)
計算過程

上記の立式①がそのまま答えとなります。

計算方法の平易な説明

コイルの辺BC(長さ \(b\))が、速さ \(v\) で、強さ \(B\) の磁場を垂直に横切っています。このとき、辺BCには \(vBb\) という大きさの電圧(誘導起電力)が発生します。

結論と吟味

Pに誘導される起電力の大きさは \(vBb\) [V] です。

解答 (ア) \(vBb\)

問1 (イ)

思考の道筋とポイント
(ア)で求めた誘導起電力 \(V\) とコイル全体の抵抗 \(R\) を用いて、オームの法則から電流の強さ \(I\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • オームの法則 \(I=V/R\) を適用する。
  • コイル全体の抵抗が \(R\) である。

具体的な解説と立式
コイルPに生じる誘導起電力は \(V=vBb\)、コイル全体の抵抗は \(R\) なので、オームの法則よりコイルを流れる電流の強さ \(I\) は、
$$I = \frac{V}{R} = \frac{vBb}{R} \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I = V/R\)
計算過程

式① \(V=vBb\) をオームの法則 \(I=V/R\) に代入します。
$$I = \frac{vBb}{R}$$

計算方法の平易な説明

コイルには (ア) で求めた \(vBb\) [V] の電圧がかかり、コイル全体の電気抵抗が \(R\) [Ω] です。したがって、オームの法則 \(I = \text{電圧} / \text{抵抗}\) から、流れる電流の強さは \(vBb/R\) [A] となります。

結論と吟味

Pを流れる電流の強さは \(\displaystyle\frac{vBb}{R}\) [A] です。

解答 (イ) \(\displaystyle\frac{vBb}{R}\)

問1 (ウ)

思考の道筋とポイント
誘導電流の向きをレンツの法則(またはフレミングの右手の法則)で決定し、その電流が磁場から受ける力をフレミングの左手の法則で求めます。レンツの法則によれば、誘導電流はコイルを貫く磁束の変化を妨げる向きに流れます。

この設問における重要なポイント

  • レンツの法則を理解し、誘導電流の向きを決定できる。
  • フレミングの左手の法則を正しく適用できる。

具体的な解説と立式
コイルPが磁場領域に入っていくと、コイルを貫く「紙面裏から表向き」の磁束が増加します。レンツの法則により、誘導電流はこの磁束の増加を妨げる向き、すなわち「紙面表から裏向き」の磁場を作るような向きに流れます。右ねじの法則から、これはコイルPに反時計回りの電流が流れることを意味します。
したがって、辺BCを流れる電流の向きはCからBの向き(図で上向き)です。
この電流が磁場(紙面裏から表向き)から受ける力をフレミングの左手の法則で考えます。

  • 中指(電流の向き): CからBへ(上向き)
  • 人差し指(磁場の向き): 紙面裏から表へ
  • 親指(力の向き): 左向き

よって、Pが磁場から受ける力の向きは、コイルの進行方向(右向き)とは反対の左向きです。
$$\text{力の向きは左向き(コイルの運動と逆向き)。} \quad \cdots ③$$

使用した物理公式/法則

  • レンツの法則
  • フレミングの左手の法則
計算過程

向きの特定であり、計算はありません。

計算方法の平易な説明

まず、コイルに流れる電流の向きを考えます。コイルが磁場に入ると、コイルを貫く磁場が増えます。電流は、この変化を打ち消すように流れます(レンツの法則)。この結果、電流は反時計回りに流れます。次に、この電流が磁場から受ける力の向きをフレミングの左手の法則で調べます。辺BCを流れる電流は上向き、磁場は紙面の奥から手前向きなので、力は左向きに働きます。これはコイルが進むのを妨げる向きです。

結論と吟味

Pが磁場から受ける力の向きは左向きです。これはコイルの運動を妨げる向きであり、レンツの法則の結果と整合します。

解答 (ウ)

問1 (エ)

思考の道筋とポイント
電流が流れる導体が磁場から受ける力の公式 \(F=IBL\) (電流と磁場が垂直な場合) を用います。ここで \(I\) は(イ)で求めた電流の強さ、\(B\) は磁束密度、\(L\) は磁場中にある電流が流れる導体の部分の長さで、この場合は辺BCの長さ \(b\) です。

この設問における重要なポイント

  • 電磁力の公式 \(F=IBL\) を適用する。
  • 電流 \(I\)、磁場 \(B\)、導体の長さ \(b\) を正しく代入する。

具体的な解説と立式
辺BCには (イ) で求めた強さ \(I = \displaystyle\frac{vBb}{R}\) の電流が流れています。この辺BCの長さは \(b\) であり、磁束密度 \(B\) の磁場と垂直です。したがって、辺BCが受ける電磁力の大きさ \(F\) は、
$$F = IBb$$これに \(I = \displaystyle\frac{vBb}{R}\) を代入すると、$$F = \left(\frac{vBb}{R}\right)Bb = \frac{vB^2b^2}{R} \quad \cdots ④$$

使用した物理公式

  • 電磁力: \(F = IBL\) (電流と磁場が垂直な場合)
計算過程

(イ)で求めた電流 \(I = \displaystyle\frac{vBb}{R}\) を、力の公式 \(F = IBb\) に代入します。
$$F = \left(\frac{vBb}{R}\right) \cdot B \cdot b = \frac{vB^2b^2}{R}$$

計算方法の平易な説明

電流の強さが \(I\)、磁場の強さが \(B\)、電流が流れる導線の長さが \(b\) のとき、導線が受ける力の大きさは \(F = IBb\) で計算できます。(イ)で求めた電流 \(I\) の値を代入すると、力の大きさは \(\displaystyle\frac{vB^2b^2}{R}\) [N] となります。

結論と吟味

Pが磁場から受ける力の大きさは \(\displaystyle\frac{vB^2b^2}{R}\) [N] です。

解答 (エ) \(\displaystyle\frac{vB^2b^2}{R}\)

問2

思考の道筋とポイント
コイルの運動を3つの区間に分けて、各区間での誘導電流の大きさと向きを考えます。電流の向きは「時計回りを正」とすることに注意します。

  1. 区間1: \(0 \le t < a/v\) (コイル進入時)
    辺BCが磁場を横切り、起電力 \(V_1 = vBb\) が生じます。レンツの法則により、コイルを貫く磁束(裏→表)の増加を妨げるため、電流は反時計回りに流れます。したがって、電流値は負となります。 \(I_1 = -vBb/R\)。
  2. 区間2: \(a/v \le t < 2a/v\) (コイル全体が磁場内)
    辺BCと辺ADが共に磁場を横切ります。辺BCによる起電力と辺ADによる起電力は、同じ大きさ (\(vBb\)) ですが、コイル内で互いに逆向きに電流を流そうとするため、合成起電力はゼロになります。したがって、電流は流れません。 \(I_2 = 0\)。
  3. 区間3: \(2a/v \le t < 3a/v\) (コイル退出時)
    辺ADが磁場を横切り、起電力 \(V_3 = vBb\) が生じます。レンツの法則により、コイルを貫く磁束(裏→表)の減少を妨げるため、電流は時計回りに流れます。したがって、電流値は正となります。 \(I_3 = vBb/R\)。

この設問における重要なポイント

  • コイルの運動を3つの区間に分けて考える。
  • 各区間での誘導起電力の大きさと向き(電流を流そうとする向き)を正しく把握する。
  • 電流の正負の定義(時計回りが正)に従う。
  • グラフの横軸が時間 \(t\) であり、各区間の時間幅(\(a/v\), \(a/v\), \(a/v\))を正確に取る。

具体的な解説と立式
各区間における電流 \(I\) は以下のようになります。

  • 区間1 (\(0 \le t < a/v\)): $$I_1 = -\frac{vBb}{R} \quad \cdots ⑤$$
  • 区間2 (\(a/v \le t < 2a/v\)): $$I_2 = 0 \quad \cdots ⑥$$
  • 区間3 (\(2a/v \le t < 3a/v\)): $$I_3 = \frac{vBb}{R} \quad \cdots ⑦$$

最大値は \(\displaystyle\frac{vBb}{R}\)、最小値は \(-\displaystyle\frac{vBb}{R}\) です。

使用した物理公式/法則

  • 誘導起電力 (導体棒): \(V = vBl\)
  • レンツの法則
  • オームの法則: \(I = V/R\)
計算過程

上記「具体的な解説と立式」の⑤、⑥、⑦式が各区間の電流値を表します。これらを元にグラフを作成します。

計算方法の平易な説明

コイルの動きを3つのステージに分けて、それぞれのステージで流れる電流の大きさと向き(時計回りか反時計回りか)を考えます。

  1. ステージ1 (コイルが磁場に入るとき: \(0 \le t < a/v\)): 電流は \(vBb/R\) の強さで反時計回り(グラフではマイナス)に流れます。
  2. ステージ2 (コイル全体が磁場の中にあるとき: \(a/v \le t < 2a/v\)): コイルの前後の辺で発生する電圧が打ち消し合い、電流は流れません(グラフではゼロ)。
  3. ステージ3 (コイルが磁場から出るとき: \(2a/v \le t < 3a/v\)): 電流は \(vBb/R\) の強さで時計回り(グラフではプラス)に流れます。

この結果を時間軸に沿ってグラフにします。

結論と吟味

Pを流れる電流と \(t\) との関係のグラフは、模範解答の「電流グラフ」に示されるように、\(t=0\) から \(a/v\) までは \(I = -vBb/R\) の一定値、\(t=a/v\) から \(2a/v\) までは \(I=0\)、\(t=2a/v\) から \(3a/v\) までは \(I = vBb/R\) の一定値となる方形波状のグラフを描きます。縦軸には、最大値として \(vBb/R\)、最小値として \(-vBb/R\) を明記します。

解答 (2) (模範解答の図を参照し、\(0 \le t < a/v\) で \(I = -vBb/R\)、\(a/v \le t < 2a/v\) で \(I=0\)、\(2a/v \le t < 3a/v\) で \(I = vBb/R\) となる方形波のグラフを描く。縦軸の最大値に \(vBb/R\)、最小値に \(-vBb/R\) を明記する。)

問3

思考の道筋とポイント
コイルは一定の速さ \(v\) で運動しているため、コイルにはたらく合力は常にゼロです。したがって、加えている外力 \(F_{\text{外}}\) は、コイルが磁場から受ける電磁力 \(F_{\text{電磁}}\) と大きさが等しく、向きが反対になります (\(F_{\text{外}} = -F_{\text{電磁}}\))。力の正の向きはコイルの速度の向き(右向き)とします。

この設問における重要なポイント

  • コイルは等速直線運動をしているため、力のつり合いが成り立っている (\(F_{\text{外}} + F_{\text{電磁}} = 0\))。
  • 電磁力の向きを正しく把握する(多くの場合、運動を妨げる向き)。
  • 力の正の向きの定義(コイルの速度の向きが正)に従う。

具体的な解説と立式
各区間における電磁力 \(F_{\text{電磁}}\) と外力 \(F_{\text{外}}\) は以下のようになります。

  • 区間1: \(0 \le t < a/v\) (コイル進入時)
    電磁力 \(F_{\text{電磁1}}\) は大きさ \(\displaystyle\frac{vB^2b^2}{R}\) で左向き。力の正の向き(右向き)を考慮すると \(F_{\text{電磁1}} = -\displaystyle\frac{vB^2b^2}{R}\)。
    よって、外力 \(F_{\text{外1}}\) は、
    $$F_{\text{外1}} = -F_{\text{電磁1}} = \frac{vB^2b^2}{R} \quad \cdots ⑧$$
  • 区間2: \(a/v \le t < 2a/v\) (コイル全体が磁場内)
    電磁力 \(F_{\text{電磁2}} = 0\)。よって、外力 \(F_{\text{外2}}\) も、
    $$F_{\text{外2}} = 0 \quad \cdots ⑨$$
  • 区間3: \(2a/v \le t < 3a/v\) (コイル退出時)
    辺ADにはたらく電磁力 \(F_{\text{電磁3}}\) は大きさ \(\displaystyle\frac{vB^2b^2}{R}\) で左向き。力の正の向きを考慮すると \(F_{\text{電磁3}} = -\displaystyle\frac{vB^2b^2}{R}\)。
    よって、外力 \(F_{\text{外3}}\) は、
    $$F_{\text{外3}} = -F_{\text{電磁3}} = \frac{vB^2b^2}{R} \quad \cdots ⑩$$

最大値は \(\displaystyle\frac{vB^2b^2}{R}\)、最小値は \(0\) です。

使用した物理公式/法則

  • 力のつりあい: \(F_{\text{外}} + F_{\text{電磁}} = 0\)
  • 電磁力: \(F = IBL\)
  • フレミングの左手の法則
計算過程

上記「具体的な解説と立式」の⑧、⑨、⑩式が各区間の外力の値を表します。これらを元にグラフを作成します。

計算方法の平易な説明

コイルを一定の速さで動かすためには、コイルが磁場から受ける力(電磁力)と、ちょうど反対向きで同じ大きさの力を外から加える必要があります。力の向きは、コイルが進む向き(右向き)をプラスとします。

  1. ステージ1 (コイルが磁場に入るとき): 電磁力は左向きに \(\displaystyle\frac{vB^2b^2}{R}\) です。なので、外力は右向き(プラス)に \(\displaystyle\frac{vB^2b^2}{R}\) です。
  2. ステージ2 (コイル全体が磁場の中にあるとき): 電磁力はゼロです。なので、外力もゼロです。
  3. ステージ3 (コイルが磁場から出るとき): 電磁力は左向きに \(\displaystyle\frac{vB^2b^2}{R}\) です。なので、外力は右向き(プラス)に \(\displaystyle\frac{vB^2b^2}{R}\) です。

この結果を時間軸に沿ってグラフにします。

結論と吟味

Pに加えている外力と \(t\) との関係のグラフは、模範解答の「外力グラフ」に示されるように、\(t=0\) から \(a/v\) までは \(F_{\text{外}} = vB^2b^2/R\) の一定値、\(t=a/v\) から \(2a/v\) までは \(F_{\text{外}}=0\)、\(t=2a/v\) から \(3a/v\) までは \(F_{\text{外}} = vB^2b^2/R\) の一定値となる方形波状のグラフを描きます。縦軸には、最大値として \(vB^2b^2/R\)、最小値として \(0\) を明記します。

解答 (3) (模範解答の図を参照し、\(0 \le t < a/v\) で \(F_{\text{外}} = vB^2b^2/R\)、\(a/v \le t < 2a/v\) で \(F_{\text{外}}=0\)、\(2a/v \le t < 3a/v\) で \(F_{\text{外}} = vB^2b^2/R\) となる方形波のグラフを描く。縦軸の最大値に \(vB^2b^2/R\)、最小値に \(0\) を明記する。)

問4

思考の道筋とポイント
コイルが一定速度で運動しているため、運動エネルギーは変化しません。このとき、外力がした仕事はすべてコイルの抵抗で発生するジュール熱に変換されます(エネルギー保存則)。ジュール熱は電流が流れている区間(区間1と区間3)で発生します。各区間で発生するジュール熱を計算し、合計します。

この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則: 外力がした仕事 = 発生したジュール熱 (等速運動の場合)。
  • ジュール熱の公式: \(Q = RI^2t\) または \(Q = VIt = P t\)。
  • 電流が流れる時間と、その時の電流の大きさを正確に把握する。

具体的な解説と立式
ジュール熱が発生するのは、電流が流れている区間1 (\(0 \le t < a/v\)) と区間3 (\(2a/v \le t < 3a/v\)) です。それぞれの区間の継続時間は \(\Delta t = a/v\) です。
区間1での電流の大きさは \(|I_1| = \displaystyle\frac{vBb}{R}\)。この区間で発生するジュール熱 \(Q_1\) は、
$$Q_1 = R I_1^2 \Delta t = R \left(\frac{vBb}{R}\right)^2 \left(\frac{a}{v}\right) \quad \cdots ⑪$$
区間3での電流の大きさは \(I_3 = \displaystyle\frac{vBb}{R}\)。この区間で発生するジュール熱 \(Q_3\) は、
$$Q_3 = R I_3^2 \Delta t = R \left(\frac{vBb}{R}\right)^2 \left(\frac{a}{v}\right) \quad \cdots ⑫$$
発生した全熱エネルギー \(Q_{\text{全}}\) は \(Q_1 + Q_3\) です。
$$Q_{\text{全}} = Q_1 + Q_3 \quad \cdots ⑬$$

使用した物理公式

  • ジュール熱: \(Q = RI^2t\)
  • 仕事: \(W = Fs\)
  • エネルギー保存則
計算過程

式⑪より、区間1で発生するジュール熱 \(Q_1\) は、
$$Q_1 = R \frac{v^2B^2b^2}{R^2} \frac{a}{v} = \frac{vB^2b^2a}{R}$$
同様に、式⑫より、区間3で発生するジュール熱 \(Q_3\) も、
$$Q_3 = R \frac{v^2B^2b^2}{R^2} \frac{a}{v} = \frac{vB^2b^2a}{R}$$
したがって、式⑬より、発生した全熱エネルギー \(Q_{\text{全}}\) は、
$$Q_{\text{全}} = Q_1 + Q_3 = \frac{vB^2b^2a}{R} + \frac{vB^2b^2a}{R} = \frac{2vB^2b^2a}{R}$$
(別解:外力のした仕事からの計算)
区間1での外力 \(F_{\text{外1}} = \displaystyle\frac{vB^2b^2}{R}\)、移動距離 \(a\)。仕事 \(W_1 = F_{\text{外1}} \cdot a = \left(\displaystyle\frac{vB^2b^2}{R}\right)a\)。
区間3での外力 \(F_{\text{外3}} = \displaystyle\frac{vB^2b^2}{R}\)、移動距離 \(a\)。仕事 \(W_3 = F_{\text{外3}} \cdot a = \left(\displaystyle\frac{vB^2b^2}{R}\right)a\)。
全仕事 \(W_{\text{全}} = W_1 + W_3 = \displaystyle\frac{2vB^2b^2a}{R}\)。これが全ジュール熱に等しくなります。

計算方法の平易な説明

コイル内で発生する熱(ジュール熱)は、コイルに電流が流れている間に発生します。電流が流れるのは、コイルが磁場に入るときと出るときの2回です。それぞれの時間は、コイルの横幅 \(a\) を速さ \(v\) で通過するので \(a/v\) 秒間です。
1回あたりのジュール熱は、「抵抗 \(R\) × (電流の強さ \(I\))\(^2\) × 時間 \((a/v)\)」で計算できます。電流の強さ \(I\) は \(vBb/R\) です。
これを2回分合計すると、全体の熱エネルギーが求まります。
別の考え方として、コイルを一定の速さで動かすために外から加えた力(外力)がした仕事が、すべて熱エネルギーに変わったと考えることもできます。外力が仕事をするのもコイルが入るときと出るときの2回で、それぞれの仕事は「外力の大きさ × 動いた距離 \(a\)\」で計算できます。

結論と吟味

Pが磁場領域を完全に通過し終える間に発生した全熱エネルギーは \(\displaystyle\frac{2vB^2b^2a}{R}\) [J] です。この値は、外力がした総仕事に等しく、エネルギー保存の観点からも妥当です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{2vB^2b^2a}{R}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ファラデーの電磁誘導の法則: コイルを貫く磁束の時間変化率、または導体が磁束を横切ることで誘導起電力が生じる (\(V=vBb\))。これが全ての現象の始まりです。
  • レンツの法則: 誘導電流の向きは、磁束の変化を「妨げる」向きに生じます。これにより、電流の向きや電磁力の向きが定まります。
  • オームの法則 (\(I=V/R\)): 誘導起電力によって回路に流れる電流の大きさを決定します。
  • 電磁力 (\(F=IBL\)): 誘導電流が磁場から受ける力。これがコイルの運動に影響を与え、外力の必要性を生みます。向きはフレミングの左手の法則で。
  • エネルギー保存則: コイルが等速運動する場合、外力がする仕事はすべてジュール熱として消費されます。この視点は(4)を解く上で重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • コイルの形状が異なる場合(例: 円形コイル)。
    • 磁場の分布が一様でない場合、または時間的に変化する場合。
    • コイルが回転運動する場合(発電機の原理)。
    • 自己誘導や相互誘導が絡む問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 磁束の変化の捉え方: コイルのどの部分が、どのように磁場を横切っているのか、あるいはコイルを貫く磁束が時間的にどう変化しているのかを正確に把握することが第一歩です。
    2. 時間区分の設定: コイルと磁場の相対的な位置関係が変化するタイミング(例: 入り始め、完全に入る、出始め、完全に出る)で時間区間を区切り、各区間で状況を分析します。
    3. 起電力の向きと合成: 複数の辺で起電力が生じる場合、各起電力がコイル内で電流を流そうとする向きを考慮し、必要なら合成します(本問の区間2)。
    4. 力の向きとつりあい: 電磁力の向き(運動を妨げる向きが多い)を把握し、運動状態(等速か加速か)に応じて力のつりあいや運動方程式を立てます。
    5. エネルギーの流れの追跡: 「何エネルギーが何エネルギーに変換されたか」を意識すると、ジュール熱などの計算に見通しが立ちます。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点:
    • 電流や力の向きを問われた場合は、必ずレンツの法則やフレミングの法則の根拠を示すこと。
    • グラフ作成問題では、横軸・縦軸の変数、目盛り、区間の変わり目での値の連続性・不連続性に注意する。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電流の向きの誤り:
    • レンツの法則の適用の際に、磁束の変化(増加か減少か)や妨げる向きの解釈を間違える。
    • 対策: 「変化を妨げる」とはどういうことか、具体的な磁場の向きの変化とそれに対する応答を丁寧に考える訓練をする。フレミングの右手の法則も併用して確認する。
  • 起電力の合成ミス(区間2など):
    • 複数の起電力が存在する場合に、単純に足し算してしまう。各起電力が電流を流そうとする「向き」を考慮しない。
    • 対策: コイルの回路図を描き、各起電力を電池に見立てて、それらが直列で同じ向きか逆向きかなどを判断する。
  • 力の向きの定義と正負の混同:
    • 設問で指定された力の正の向きを無視して、自分の感覚で正負を決めてしまう。
    • 対策: 問題文をよく読み、座標軸や力の正の向きの定義を最初に確認する。
  • ジュール熱の計算での時間の誤り:
    • 電流が流れている「実質的な時間」を間違える。
    • 対策: 各区間で電流が流れる時間を正確に \(a/v\) と計算し、それを適用する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • コイルが磁場という「カーテン」を通り抜けるイメージ。
    • 区間1: カーテンに入り始めると、抵抗を感じる(電磁力)。スムーズに進むためには押し続ける必要がある(外力)。内部では電流が渦を巻く。
    • 区間2: カーテンの中に完全に入ると、なぜかスルスルと進める(電磁力ゼロ)。
    • 区間3: カーテンから出始めると、再び抵抗を感じる。最後まで押し出す必要がある。内部では先ほどと逆向きに電流が渦を巻く。
  • 図示の有効性:
    • コイルと磁場の位置関係の図: 各時間区間におけるコイルと磁場領域の位置関係を簡単な図で描くと、どの辺が磁束を横切っているかが一目瞭然になります。
    • 電流・力のベクトル図: コイルに電流の向き、各辺が受ける電磁力の向きを矢印で書き込むと、力のつり合いや合力を考える助けになります。
    • グラフ: 電流や外力の時間変化をグラフにすることで、現象のダイナミクスを視覚的に捉えられます。特に値が変化する \(t=a/v\), \(2a/v\) といった時刻を明確にすることが重要です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(V=vBb\):
    • 選定理由: 導体(コイルの辺)が磁場を横切ることで起電力が生じるため、この形の公式が適用できる。
    • 適用根拠: 速度 \(v\)、磁束密度 \(B\)、導体の長さ \(b\) が互いに垂直であるという条件が満たされている。
  • レンツの法則/フレミングの右手の法則:
    • 選定理由: 誘導起電力や誘導電流の「向き」を決定する必要があるため。
    • 適用根拠: 電磁誘導現象における基本的な法則。
  • \(I=V/R\):
    • 選定理由: 回路に生じた起電力と抵抗から電流を求めるため。
    • 適用根拠: コイル全体が一つの閉回路をなし、オームの法則が適用できる。
  • \(F=IBb\) / フレミングの左手の法則:
    • 選定理由: 電流が流れるコイルが磁場から受ける「力」の大きさと向きを求めるため。
    • 適用根拠: 磁場中で電流が受ける力に関する基本法則。
  • \(F_{\text{外}} + F_{\text{電磁}} = 0\):
    • 選定理由: コイルが「一定の速さで運動」しているため、外力と電磁力がつり合っていると判断できる。
    • 適用根拠: 慣性の法則(または運動方程式で加速度ゼロ)。
  • \(Q = RI^2t\) または \(W_{\text{外}} = Q\):
    • 選定理由: 発生する熱エネルギーを計算するため、またはエネルギー保存の観点から仕事と熱の関係を用いるため。
    • 適用根拠: 抵抗におけるエネルギー消費、および力学的エネルギーが保存されない場合のエネルギー変換の法則。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 状況分析 (時間区分の設定): コイルの運動を \(0 \sim a/v\), \(a/v \sim 2a/v\), \(2a/v \sim 3a/v\) の3区間に分割。
  2. 各区間での物理現象の分析:
    1. 誘導起電力 \(V\): ファラデーの法則 (\(V=vBb\)) と、起電力が生じる辺の特定。区間2では起電力が打ち消し合うことに注意。
    2. 誘導電流 \(I\): レンツの法則で向きを決定し、オームの法則 (\(I=V/R\)) で大きさを計算。設問の電流の正負の定義に従う。
    3. 電磁力 \(F_{\text{電磁}}\): フレミングの左手の法則で向きを決定し、\(F=IBb\) で大きさを計算。
    4. 外力 \(F_{\text{外}}\): 等速運動なので \(F_{\text{外}} = -F_{\text{電磁}}\)。設問の力の正負の定義に従う。
  3. グラフ作成 ((2), (3)): 上記で求めた \(I(t)\) と \(F_{\text{外}}(t)\) を指定された範囲でグラフ化。最大値・最小値を明記。
  4. ジュール熱の計算 ((4)):
    1. 電流が流れる区間1と3で、それぞれジュール熱 \(Q = RI^2 \Delta t\) を計算 (\(\Delta t = a/v\))。
    2. \(Q_{\text{全}} = Q_1 + Q_3\) として合計する。
    3. (別解) 外力が仕事をする区間1と3で、それぞれ仕事 \(W = F_{\text{外}} \Delta x\) を計算 (\(\Delta x = a\))。全仕事 \(W_{\text{全}} = W_1 + W_3\) がジュール熱に等しい。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字の整理: \(a, b, v, B, R\) と多くの文字が出てくるため、どの文字がどの物理量を表すのかを明確に意識する。特に \(a\) と \(b\) を混同しない。
  • 正負の扱いの徹底: 電流の向き(時計回りが正)、力の向き(速度の向きが正)といった定義を常に念頭に置き、計算結果の符号を吟味する。
  • 区間ごとの計算の分離: 各時間区間での計算は独立して丁寧に行い、後で結果を統合する。途中で区間を混同しないように注意。
  • 次元(単位)の確認: 計算結果の単位が、求めている物理量の単位と一致しているかを確認する(例: 力なら[N]、エネルギーなら[J])。
  • 簡単な値での検算: もし可能なら、具体的な数値を一部代入してみて、結果が物理的にありえない値にならないかを確認する(例えば、抵抗が負になるなど)。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直感との整合性:
    • (2) 電流のグラフ: コイルが磁場に入るときと出るときで電流の向きが逆になるのは、レンツの法則から磁束変化の向きが逆になるためであり、妥当。完全に内部にあるときに電流がゼロになるのも、起電力の打ち消し合いとして理解できる。
    • (3) 外力のグラフ: 電流が流れるとき(=電磁力が働くとき)のみ外力が必要で、その向きが常にコイルの運動方向であることは、電磁力が常に運動を妨げる向きに働くことと整合する。
    • (4) ジュール熱: \(R\) が分母にあるため、抵抗が大きいほどジュール熱は小さくなるように見えるが、\(I^2\) が \(1/R^2\) に比例するため、全体としては \(1/R\) に比例する。これは \(Q=V^2t/R\) からも確認できる。速度 \(v\) や磁束密度 \(B\) が大きいほど熱が大きくなるのも直感的。
  • グラフの対称性・非対称性の確認:
    • 電流のグラフは \(t=1.5a/v\) のあたりで点対称に近い形(ただし \(t=a/v \sim 2a/v\) でゼロ)。外力のグラフは \(t=1.5a/v\) のあたりで線対称に近い形になっている。このような対称性も物理現象の理解を助ける。
  • エネルギー保存の確認:
    • (4)でジュール熱を計算したが、これが外力の総仕事と一致することを確認することで、計算の信頼性が高まる。

問題127 (琉球大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、水平なレール上を動く導体棒が、滑車を介して連結されたおもりの重力によって運動する際に生じる電磁誘導現象を扱います。導体棒は一様な鉛直磁場中を運動するため、誘導電流が流れ、電磁力を受けます。この結果、導体棒の運動状態が変化し、最終的には一定の速さに達します。また、エネルギー保存則の観点からも現象を考察します。

与えられた条件
  • 回路構成:
    • 抵抗のない平行な導体レール cd, ef (間隔 \(l\))
    • レール間をつなぐ抵抗 \(R\)
    • 質量 \(m\)、長さ \(l\) の導体棒 ab (レール上をなめらかに左右に動ける)
  • 磁場:
    • 磁束密度 \(B\) (一様)
    • 向き: 鉛直上向き
  • 運動系:
    • 導体棒 ab に軽い糸を取り付け、滑車を介して質量 \(M\) のおもりを吊るす。
    • おもりの下降により、導体棒 ab は右向きに運動する。
  • その他:
    • 重力加速度の大きさ: \(g\)
    • 導体棒 ab, cd, ef 以外の部分の抵抗は無視できる。
    • 糸や滑車の質量、摩擦は無視できる。
問われていること
  1. (1) 導体棒 ab の速さが \(v\) のときの、誘導電流の大きさと向き、および導体棒が磁場から受ける力の大きさと向き。
  2. (2) 導体棒 ab が一定の速さ \(v_0\) で運動するようになったとき、
    • (ア) 回路に流れる電流 \(I_0\) と速さ \(v_0\)。
    • (イ) 単位時間におもりが失う重力の位置エネルギー \(P\) と、回路で発生するジュール熱 \(Q\) の関係、およびその根拠。
    • (ウ) (イ)の関係の計算による確認。
  3. (3) おもりをつないでいる糸を切った後、導体棒が停止するまでに回路で発生するジュール熱の総量。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは、「電磁誘導と力学の融合」であり、特に導体棒の運動に伴う誘導起電力の発生、それによる電流と電磁力、そして力のつりあいやエネルギー保存則が複雑に関係しあう状況を分析します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 誘導起電力: 導体棒が磁場を横切る際に生じる起電力で、\(V=vBl\) (\(v, B, l\) が互いに垂直な場合)。
  • オームの法則: 回路における電圧、電流、抵抗の関係 \(I=V/R\)。
  • 電磁力 (ローレンツ力): 電流が流れる導体が磁場から受ける力で、\(F=IBl\) (\(I, B, l\) が互いに垂直な場合)。向きはフレミングの左手の法則で決まります。
  • 力のつりあい: 物体が一定速度で運動している(または静止している)とき、物体にはたらく合力はゼロです。
  • エネルギー保存則: ある系において、外部とのエネルギーのやり取りや内部でのエネルギー形態の変換を考える際の基本法則。本問では、おもりの位置エネルギー、導体棒の運動エネルギー、ジュール熱などが関係します。

問題を解くための全体的な戦略と手順は以下の通りです。

  1. 設問(1): 一般の速さ \(v\) における物理量の導出
    導体棒 ab が任意の速さ \(v\) で運動している状況を考え、誘導起電力、誘導電流、そして電磁力の大きさと向きを順に求めます。
  2. 設問(2): 等速運動状態の分析
    • (ア) 導体棒 ab が一定の速さ \(v_0\) に達したとき、力のつりあいが成立することから、電流 \(I_0\) と速さ \(v_0\) を求めます。
    • (イ) エネルギー保存の観点から、単位時間あたりのおもりの位置エネルギー減少量 \(P\) とジュール熱 \(Q\) の関係を考察します。
    • (ウ) (ア)で求めた \(I_0, v_0\) を用いて \(P\) と \(Q\) を具体的に計算し、(イ)の関係を確認します。
  3. 設問(3): 糸を切った後の現象の分析
    糸を切断した後、導体棒は初速 \(v_0\) で運動を始め、電磁ブレーキによって減速し停止します。この過程で、導体棒の運動エネルギーがジュール熱に変換されると考え、エネルギー保存則から総ジュール熱を求めます。

問1

思考の道筋とポイント
導体棒 ab が磁場を横切ることによって誘導起電力が生じ、これにより回路に電流が流れます。この電流が磁場から力を受けるという一連の流れを追います。起電力の向き、電流の向き、力の向きはそれぞれフレミングの右手の法則、オームの法則、フレミングの左手の法則で決定します。

この設問における重要なポイント

  • 誘導起電力 \(V=vBl\) の公式を正しく適用する。
  • フレミングの右手の法則で起電力(電流)の向きを決定する。
  • オームの法則 \(I=V/R\) を用いて電流の大きさを求める。
  • 電磁力 \(F=IBl\) の公式を正しく適用する。
  • フレミングの左手の法則で電磁力の向きを決定する。

具体的な解説と立式
導体棒 ab が速さ \(v\) で右向きに運動するとき、磁束密度 \(B\) の鉛直上向きの磁場を横切ります。
このとき、導体棒 ab に生じる誘導起電力の大きさ \(V\) は、公式 \(V=vBl\) より、
$$V = vBl \quad \cdots ①$$
フレミングの右手の法則(親指:運動 \(v\) 右向き、人差し指:磁場 \(B\) 上向き)を用いると、中指の向き(起電力により電流を流そうとする向き)は a から b の向きになります。
この誘導起電力 \(V\) により、抵抗 \(R\) を含む回路に誘導電流 \(I\) が流れます。オームの法則 \(I=V/R\) を適用すると、電流 \(I\) の大きさは次の式で表されます。
$$I = \frac{V}{R} \quad \cdots ②$$
電流の向きは、起電力の向きと同じく、導体棒 ab においてa から b の向きです。

次に、電流 \(I\) が流れる導体棒 ab が磁場から受ける電磁力 \(F_{\text{電磁}}\) を考えます。電流の流れる導体が磁場から受ける力の大きさは、公式 \(F=IBL\) (この場合の \(L\) は導体棒の長さ \(l\))より、
$$F_{\text{電磁}} = IBl \quad \cdots ③$$
電磁力の向きは、フレミングの左手の法則(中指:電流 \(I\) a→b の向き、人差し指:磁場 \(B\) 上向き)を用いると、親指の向き(力の向き)は左向き(導体棒の運動方向と逆向き)になります。

使用した物理公式/法則

  • 誘導起電力: \(V = vBl\)
  • オームの法則: \(I = V/R\)
  • 電磁力: \(F = IBl\)
  • フレミングの右手の法則 (電流の向き)
  • フレミングの左手の法則 (力の向き)
計算過程

電流の大きさを求めるために、式①を式②に代入します。
$$I = \frac{vBl}{R}$$
次に、電磁力の大きさを求めるために、上で求めた電流 \(I\) の式を式③に代入します。
$$F_{\text{電磁}} = \left(\frac{vBl}{R}\right)Bl = \frac{vB^2l^2}{R}$$

計算方法の平易な説明
  1. 導体棒abが速さ \(v\) で動くと、棒の両端には \(V=vBl\) の電圧(誘導起電力)が発生します。フレミングの右手の法則から、この電圧はaからbの向きに電流を流そうとします。
  2. この電圧によって、回路には抵抗 \(R\) があるため、\(I = V/R = vBl/R\) の大きさの電流が、aからbの向きに流れます。
  3. 電流が流れる棒abは、磁場から力を受けます。フレミングの左手の法則から、この力は棒の運動とは反対の左向きに働きます。力の大きさは \(F = IBl\)。先ほど求めた \(I\) を代入すると、\(F = (vBl/R)Bl = vB^2l^2/R\) となります。
結論と吟味

電流の大きさは \(\displaystyle\frac{vBl}{R}\) で、向きはaからbの向き。
棒が磁場から受ける力の大きさは \(\displaystyle\frac{vB^2l^2}{R}\) で、向きは左向き。
これらの結果は、電磁誘導の基本的な現象として妥当です。電磁力は運動を妨げる向き(レンツの法則に合致)に働いています。

解答 (1) 電流の大きさ: \(\displaystyle\frac{vBl}{R}\)、向き: a→b。力の大きさ: \(\displaystyle\frac{vB^2l^2}{R}\)、向き: 左向き。

問2 (ア)

思考の道筋とポイント
導体棒 ab が一定の速さ \(v_0\) で運動するようになったということは、導体棒 ab にはたらく力がつり合っている状態です。導体棒 ab には、右向きに糸の張力 \(T\) が、左向きに電磁力 \(F_0\) がはたらいています。張力 \(T\) はおもりにはたらく重力 \(Mg\) と等しくなります(滑車は軽く、糸の質量も無視できるため)。

この設問における重要なポイント

  • 一定速度 \(\Rightarrow\) 力のつりあい。
  • 導体棒にはたらく力は、糸の張力 \(T\)(おもりの重力 \(Mg\) に等しい)と電磁力 \(F_0 = I_0Bl\)。
  • 電流 \(I_0\) は \(I_0 = v_0Bl/R\) とも表せる。

具体的な解説と立式
導体棒 ab が一定の速さ \(v_0\) で運動するとき、力のつり合いが成り立ちます。
おもりにはたらく重力は \(Mg\) です。おもりも等速運動しているため、糸の張力 \(T\) は \(Mg\) に等しくなります (\(T=Mg\))。
導体棒 ab にはたらく電磁力 \(F_0\) は、このときの電流を \(I_0\) とすると、(1)と同様に左向きであり、その大きさは \(F_0 = I_0Bl\) です。
導体棒 ab にはたらく右向きの張力 \(T\) と左向きの電磁力 \(F_0\) がつり合っているので、
$$T = F_0$$したがって、$$Mg = I_0Bl \quad \cdots ④$$
この式は、電流 \(I_0\) を求めるための方程式となります。

また、このときの誘導起電力は \(V_0 = v_0Bl\) であり、オームの法則から電流 \(I_0\) は次のように表せます。
$$I_0 = \frac{v_0Bl}{R} \quad \cdots ⑤$$
式④と式⑤は、未知数 \(I_0\) と \(v_0\) を含む連立方程式となります。これらを解くことで \(I_0\) と \(v_0\) を求めます。

使用した物理公式/法則

  • 力のつりあい
  • 電磁力: \(F = IBl\)
  • 誘導起電力: \(V = vBl\)
  • オームの法則: \(I = V/R\)
計算過程

まず、式④から電流 \(I_0\) を求めます。
$$I_0 = \frac{Mg}{Bl}$$次に、この \(I_0\) を式⑤に代入して \(v_0\) を求めます。$$\frac{Mg}{Bl} = \frac{v_0Bl}{R}$$この式を \(v_0\) について整理します。
両辺に \(R\) を掛けると、$$R\frac{Mg}{Bl} = v_0Bl$$両辺を \(Bl\) で割ると、$$v_0 = \frac{MgR}{(Bl)(Bl)} = \frac{MgR}{B^2l^2}$$

計算方法の平易な説明

導体棒が一定の速さで動いているとき、それは棒を右に引く力(おもりの重さ \(Mg\))と、棒を左に引く力(磁場からの電磁力 \(I_0Bl\))が釣り合っている状態です。この釣り合いの式 \(Mg = I_0Bl\) から、電流 \(I_0\) がまず求まります (\(I_0 = Mg/(Bl)\))。
次に、電流 \(I_0\) は、そのときの棒の速さ \(v_0\) によって発生する電圧 \(v_0Bl\) と抵抗 \(R\) から、\(I_0 = v_0Bl/R\) とも書けます。先ほど求めた \(I_0\) の式とこの式を組み合わせる(\(Mg/(Bl) = v_0Bl/R\))ことで、速さ \(v_0\) を計算することができます (\(v_0 = MgR/(B^2l^2)\))。

結論と吟味

回路に流れている電流 \(I_0 = \displaystyle\frac{Mg}{Bl}\)、導体棒の速さ \(v_0 = \displaystyle\frac{MgR}{B^2l^2}\)。
これらの結果は、各パラメータの物理的な意味を考えると妥当です。

解答 (2)(ア) \(I_0 = \displaystyle\frac{Mg}{Bl}\), \(v_0 = \displaystyle\frac{MgR}{B^2l^2}\)

問2 (イ)

思考の道筋とポイント
導体棒 ab が一定の速さ \(v_0\) で運動しているとき、導体棒の運動エネルギーは変化しません。この状態では、おもりが重力によって単位時間になす仕事(=単位時間に失う位置エネルギー \(P\))が、すべて回路の抵抗で単位時間に消費されるジュール熱 \(Q\) に変換されていると考えられます。これはエネルギー保存則に基づきます。

この設問における重要なポイント

  • 等速運動時は運動エネルギーが変化しない。
  • エネルギー保存則を適用する。
  • おもりの位置エネルギーの減少がジュール熱に変換される。

具体的な解説と立式
導体棒 ab が一定の速さ \(v_0\) で運動しているとき、おもりも一定の速さ \(v_0\) で下降します。このとき、導体棒の運動エネルギーは変化していません。エネルギー保存則を考えると、単位時間におもりが失う重力の位置エネルギー \(P\) は、単位時間に回路で発生するジュール熱 \(Q\) に等しくなります。
したがって、\(P\) と \(Q\) の間の関係は、
$$P = Q \quad \cdots ⑥$$
考え方の根拠は、エネルギー保存則です(10字以内)。

使用した物理公式/法則

  • エネルギー保存則
計算過程

上記はエネルギー保存則からの直接的な結論であり、ここでの計算はありません。

計算方法の平易な説明

おもりが下に落ちることでエネルギー(位置エネルギー)を供給し、そのエネルギーが導体棒を動かします。導体棒が一定の速さで動いているとき、棒自身の運動のエネルギーは増えも減りもしません。そのため、おもりが供給したエネルギーは、すべて回路の抵抗で熱(ジュール熱)として消費されることになります。したがって、おもりが失うエネルギー \(P\) と発生するジュール熱 \(Q\) は等しくなります。この考え方の基本は「エネルギーはなくならない」というエネルギー保存則です。

結論と吟味

関係は \(P=Q\)。根拠は「エネルギー保存則」。これは等速運動におけるエネルギー変換の典型的な例です。

解答 (2)(イ) 関係: \(P=Q\)、根拠: エネルギー保存則

問2 (ウ)

思考の道筋とポイント
(ア)で求めた \(I_0\) と \(v_0\) を用いて、単位時間あたりのおもりが失う重力の位置エネルギー \(P = Mgv_0\) と、単位時間あたりに回路で発生するジュール熱 \(Q = RI_0^2\) をそれぞれ計算し、両者が等しくなることを確認します。

この設問における重要なポイント

  • \(P = (\text{重力}) \times (\text{単位時間の落下距離})\) = \(Mgv_0\)。
  • \(Q = (\text{電力}) = RI_0^2\)。
  • (ア)で求めた \(I_0\) と \(v_0\) の式を正確に代入する。

具体的な解説と立式
単位時間におもりが失う重力の位置エネルギー \(P\) は、おもりにはたらく重力 \(Mg\) とおもりの速さ \(v_0\) の積で与えられます。
$$P = Mgv_0 \quad \cdots ⑦$$一方、単位時間に回路で発生するジュール熱 \(Q\) は、電流 \(I_0\) と抵抗 \(R\) を用いて \(Q = RI_0^2\) で与えられます。$$Q = RI_0^2 \quad \cdots ⑧$$
これらの式に、(ア)で求めた \(v_0\) と \(I_0\) の具体的表現を代入することで、関係を確かめます。

使用した物理公式

  • 仕事率 (位置エネルギー変化率): \(P = Fv = Mgv_0\)
  • 消費電力 (ジュール熱発生率): \(Q = RI_0^2\)
計算過程

まず、\(P\) を計算します。式⑦に (2)(ア)で求めた \(v_0 = \displaystyle\frac{MgR}{B^2l^2}\) を代入します。
$$P = Mg \left(\frac{MgR}{B^2l^2}\right) = \frac{M^2g^2R}{B^2l^2}$$次に、\(Q\) を計算します。式⑧に (2)(ア)で求めた \(I_0 = \displaystyle\frac{Mg}{Bl}\) を代入します。$$Q = R \left(\frac{Mg}{Bl}\right)^2 = R \frac{M^2g^2}{B^2l^2} = \frac{M^2g^2R}{B^2l^2}$$計算結果を比較すると、\(P\) と \(Q\) は等しいことがわかります。$$P = Q = \frac{M^2g^2R}{B^2l^2}$$

計算方法の平易な説明

(イ)で \(P=Q\) となるはずだと考えました。これを実際に計算して確かめます。
まず、\(P\)(おもりが1秒間に失う位置エネルギー)は「おもりの重さ \(Mg\) × 1秒間に進む距離(つまり速さ \(v_0\))」で計算できます。(ア)で求めた \(v_0\) の式を使って \(P\) を表します。
次に、\(Q\)(回路で1秒間に発生するジュール熱)は「抵抗 \(R\) × (電流 \(I_0\))\(^2\)」で計算できます。(ア)で求めた \(I_0\) の式を使って \(Q\) を表します。
この2つの計算結果が同じになることを示します。

結論と吟味

計算により \(P = \displaystyle\frac{M^2g^2R}{B^2l^2}\) と \(Q = \displaystyle\frac{M^2g^2R}{B^2l^2}\) が得られ、\(P=Q\) であることが確認できました。これはエネルギー保存則が正しく成り立っていることを示しています。

解答 (2)(ウ) \(P = Mgv_0 = Mg \cdot \displaystyle\frac{MgR}{B^2l^2} = \frac{M^2g^2R}{B^2l^2}\)。一方、\(Q = RI_0^2 = R\left(\displaystyle\frac{Mg}{Bl}\right)^2 = \frac{M^2g^2R}{B^2l^2}\)。よって \(P=Q\) が確かめられた。

問3

思考の道筋とポイント
おもりをつないでいる糸を切ると、導体棒 ab を右向きに引く力(張力)がなくなります。この瞬間、導体棒は速さ \(v_0\) で運動しています。運動を続けると誘導電流が流れ、運動と逆向き(左向き)の電磁力を受けます。この電磁力がブレーキとなり、導体棒は減速してやがて停止します。この過程で、導体棒が最初に持っていた運動エネルギーが、すべて回路の抵抗でジュール熱として消費されると考えられます。他にエネルギーの損失(摩擦など)は考えないため、エネルギー保存則が適用できます。

この設問における重要なポイント

  • 糸を切った直後の導体棒の運動エネルギーが、その後のジュール熱の総量に等しい。
  • 運動エネルギーの公式 \((1/2)mv^2\) を用いる。
  • (2)(ア)で求めた \(v_0\) の値を正確に代入する。

具体的な解説と立式
糸を切った瞬間、導体棒 ab は速さ \(v_0\) を持っており、その運動エネルギー \(K_{\text{初}}\) は、
$$K_{\text{初}} = \frac{1}{2}mv_0^2$$
導体棒はやがて停止するので、最終的な運動エネルギー \(K_{\text{後}}\) はゼロです。この間に外部から仕事はされず、また摩擦もないとすると、運動エネルギーの減少分がすべてジュール熱 \(Q_{\text{総}}\) に変換されます。
したがって、エネルギー保存則より、発生するジュール熱の総量 \(Q_{\text{総}}\) は、
$$Q_{\text{総}} = K_{\text{初}} – K_{\text{後}} = \frac{1}{2}mv_0^2 – 0 = \frac{1}{2}mv_0^2 \quad \cdots ⑨$$
この式に、(2)(ア)で求めた \(v_0 = \displaystyle\frac{MgR}{B^2l^2}\) を代入することで、\(Q_{\text{総}}\) が求められます。

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = (1/2)mv^2\)
  • エネルギー保存則 (運動エネルギーの変化がジュール熱に等しい)
計算過程

式⑨に、(2)(ア)で求めた \(v_0 = \displaystyle\frac{MgR}{B^2l^2}\) を代入します。
$$Q_{\text{総}} = \frac{1}{2}m\left(\frac{MgR}{B^2l^2}\right)^2$$これを計算すると、$$Q_{\text{総}} = \frac{1}{2}m\frac{(MgR)^2}{(B^2l^2)^2} = \frac{1}{2}m\frac{M^2g^2R^2}{B^4l^4} = \frac{m M^2g^2R^2}{2B^4l^4}$$模範解答の表記 \((Bl)^2\) を用いる場合、\(v_0 = \displaystyle\frac{MgR}{(Bl)^2}\) であるため、$$Q_{\text{総}} = \frac{1}{2}m\left(\frac{MgR}{(Bl)^2}\right)^2 = \frac{m(MgR)^2}{2(Bl)^4}$$

計算方法の平易な説明

糸が切れると、導体棒abを引っ張る力はなくなります。しかし、棒abはその瞬間まで速さ \(v_0\) で動いていたので、その勢い(運動エネルギー)を持っています。棒abが動き続けると、回路には電流が流れ、磁場からブレーキのような力(電磁力)を受けます。この力によって棒abはだんだん遅くなり、やがて止まります。このとき、棒abが持っていた最初の運動エネルギーは、すべて回路の抵抗で熱(ジュール熱)に変わります。したがって、最初に持っていた運動エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\) を計算すれば、それがそのまま発生するジュール熱の総量となります。(2)(ア)で求めた \(v_0\) の値を代入して計算します。

結論と吟味

糸を切った後に回路で発生するジュール熱の総量は、導体棒 ab が持っていた初期運動エネルギーに等しく、\(\displaystyle\frac{m M^2g^2R^2}{2B^4l^4}\) [J] です(模範解答の表記では \(\displaystyle\frac{m(MgR)^2}{2(Bl)^4}\))。この結果は、エネルギー保存則を正しく適用したものであり、物理的に妥当です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{m M^2g^2R^2}{2B^4l^4}\) (または \(\displaystyle\frac{m(MgR)^2}{2(Bl)^4}\))

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 誘導起電力とオームの法則: 導体棒の運動による誘導起電力 (\(V=vBl\)) と、それによって回路に流れる電流 (\(I=V/R\)) の関係。これが電磁現象の基本です。
  • 電磁力と力のつりあい: 誘導電流が磁場から受ける電磁力 (\(F=IBl\)) が、おもりからの張力とつりあうことで定常状態(等速運動)が実現します (\(Mg=I_0Bl\))。
  • エネルギー保存則:
    • 等速運動時(問2イ、ウ): おもりが失う位置エネルギーが、すべてジュール熱に変換されます (\(P=Q\))。運動エネルギーは変化しません。
    • 糸を切った後(問3): 導体棒が持っていた運動エネルギーが、すべてジュール熱に変換されて停止します。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 電磁ブレーキの原理を説明する問題。
    • 発電機において、外部回路に負荷を接続したときの発電機の回転への影響。
    • レールが傾斜している場合や、ばねで引かれる場合など、他の力が加わる状況。
    • 自己インダクタンスを持つコイルが回路に含まれる場合(過渡現象)。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 力の図示と運動状態の把握: まず、導体棒にはたらく力をすべて図示し(重力、張力、電磁力、垂直抗力など)、運動の状況(加速、等速、減速)を把握します。
    2. 起電力・電流・電磁力の連動: 導体棒の速度 \(\rightarrow\) 誘導起電力 \(\rightarrow\) 誘導電流 \(\rightarrow\) 電磁力、という一連の流れを常に意識します。
    3. 定常状態の条件: 「一定の速さになった」「十分時間が経過した」などの記述があれば、力のつりあいやエネルギーの収支が安定した状態を考えます。
    4. エネルギーの変換過程の追跡: 「どのエネルギーが、どのエネルギーに、どのように変換されたか」という視点を持つと、特にエネルギーに関する設問で見通しが良くなります。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点:
    • 誘導電流の向きや電磁力の向きを決定する際には、フレミングの法則(右手・左手)を正確に適用すること。図を描いて確認すると間違いが減ります。
    • 「単位時間あたり」のエネルギー(仕事率、消費電力)を問われているのか、ある過程「全体」でのエネルギーを問われているのかを区別すること。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 力のつりあいの式の誤り:
    • 電磁力の向きを間違えたり、張力とおもりの重力の関係を誤解したりして、力のつりあいの式を正しく立てられない。
    • 対策: 必ず力を図示し、各力の向きと大きさを確認する。作用・反作用の関係も意識する。
  • エネルギー保存則の適用範囲の誤解:
    • 等速運動時に運動エネルギーが変化しないことを見落とし、エネルギー収支の式に誤った項を入れてしまう。
    • 対策: 各エネルギー形態(位置エネルギー、運動エネルギー、電気的エネルギー、熱エネルギー)の変化量を正確に把握し、全体の収支を考える。
  • \(v_0\) や \(I_0\) の導出における混乱:
    • 力のつりあいの式とオームの法則の連立がうまくいかず、どちらかの式だけで解こうとしてしまう。
    • 対策: 未知数が \(v_0\) と \(I_0\) の2つであるのに対し、独立な関係式も2つ(力のつりあい、オームの法則)あることを確認し、丁寧に連立方程式を解く。
  • 文字計算のミス:
    • 特に \(B^2l^2\) や \(B^4l^4\) といった項の処理で、指数や係数を間違える。
    • 対策: 複雑な文字式は、一歩一歩丁寧に計算し、必要なら途中式をしっかり書く。次元解析で単位がおかしくないか確認するのも有効。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • おもりが「エンジン」となって導体棒を引っ張る。
    • 導体棒が動き出すと、磁場が「抵抗勢力(電磁ブレーキ)」を生み出す。
    • 初めはエンジンの力が勝って加速するが、速度が上がるにつれてブレーキも強くなり、やがてエンジンの力とブレーキの力が釣り合って一定速度になる。
    • 糸が切れるとエンジンがなくなり、ブレーキだけが残るので減速して止まる。その間の運動のエネルギーがすべてブレーキ(ジュール熱)で消費される。
  • 図示の有効性:
    • 力の図示: 導体棒abとおもりそれぞれにはたらく力を、作用点を明確にしてベクトルで図示する。特に、張力 \(T\)、重力 \(Mg\)、電磁力 \(F_{\text{電磁}}\) の関係が重要。
    • 回路図: 導体棒abを起電力 \(V=vBl\) の電池とみなし、抵抗 \(R\) と接続された回路図を描くと、電流の流れる様子やオームの法則の適用が理解しやすくなる。起電力の向き(電池の極性)も明記する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(V=vBl\):
    • 選定理由: 磁場中を運動する導体に生じる起電力を計算するため。
    • 適用根拠: 導体棒の速度 \(v\)、磁束密度 \(B\)、導体棒の長さ \(l\) が互いにほぼ垂直であるという条件を満たしている。
  • \(I=V/R\):
    • 選定理由: 回路に流れる電流の大きさを、起電力と抵抗から求めるため。
    • 適用根拠: 単純な直流回路(瞬間的には)と見なせるため、オームの法則が適用可能。
  • \(F=IBl\):
    • 選定理由: 電流が流れる導体が磁場から受ける力の大きさを計算するため。
    • 適用根拠: 電流 \(I\)、磁束密度 \(B\)、導体の長さ \(l\) が互いにほぼ垂直であるという条件を満たしている。
  • 力のつりあい (\(T=F_0\), \(T=Mg\)):
    • 選定理由: 導体棒およびおもりが「一定の速さで運動」しているため、それぞれの物体にはたらく合力がゼロであると判断できる。
    • 適用根拠: 慣性の法則、または運動方程式 \(ma=F\) で \(a=0\) の場合。
  • エネルギー保存則:
    • 選定理由: (2イ)ではエネルギーの変換効率、(3)では運動エネルギーがすべて熱に変わる過程を考えるため。
    • 適用根拠: 摩擦や空気抵抗が無視できる理想的な状況で、力学的エネルギーと電気的エネルギー(ジュール熱)の間の変換を記述する普遍的な法則。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 一般の速さ \(v\) での解析:
    1. 起電力 \(V=vBl\) を求める。
    2. 電流 \(I=V/R\) を求める(向きも)。
    3. 電磁力 \(F_{\text{電磁}}=IBl\) を求める(向きも)。
  2. (2ア) 等速 \(v_0\) での解析(力のつりあい):
    1. 導体棒の力のつりあい: \(T = F_0 = I_0Bl\)。
    2. おもりの力のつりあい: \(T = Mg\)。
    3. 上記2式から \(Mg = I_0Bl\)、よって \(I_0 = Mg/(Bl)\)。
    4. オームの法則: \(I_0 = v_0Bl/R\)。
    5. \(I_0\) の2つの表現を等置して \(v_0\) を求める: \(v_0Bl/R = Mg/(Bl) \Rightarrow v_0 = MgR/(B^2l^2)\)。
  3. (2イ) エネルギー保存(定常状態):
    1. 等速運動 \(\Rightarrow\) 運動エネルギー変化なし。
    2. 単位時間のおもり位置エネルギー減少 \(P\) = 単位時間のジュール熱 \(Q\)。根拠はエネルギー保存則。
  4. (2ウ) \(P=Q\) の計算による確認:
    1. \(P = Mgv_0\) に \(v_0\) を代入して計算。
    2. \(Q = RI_0^2\) に \(I_0\) を代入して計算。
    3. 両者が等しいことを確認。
  5. (3) 糸切断後のジュール熱(エネルギー保存):
    1. 導体棒の初期運動エネルギー \(K_{\text{初}} = (1/2)mv_0^2\) を計算(\(v_0\) は(2ア)の値)。
    2. 最終的に停止するので \(K_{\text{後}}=0\)。
    3. エネルギー保存則より、発生するジュール熱の総量は \(K_{\text{初}} – K_{\text{後}} = (1/2)mv_0^2\)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式の整理整頓: 多くの物理定数(\(m, M, g, R, B, l\))が登場するため、式変形の際はどの文字がどの物理量を指すのかを常に意識し、丁寧に扱う。特に、\(B^2l^2\) を \((Bl)^2\) と書くなど、指数の扱いに注意する。
  • 段階的な代入: (2ウ)や(3)のように、前の設問で求めた結果(\(I_0, v_0\))を代入する場合は、代入前の一般式と代入後の具体的な式を分けて記述すると、検算しやすく、思考の過程も明確になる。
  • 次元(単位)の一貫性チェック: 計算の各段階で、式の両辺の単位が一致しているかを確認する習慣をつけると、単純な計算ミスや公式の適用の誤りを発見しやすくなる。
  • 図を用いた確認: 力の向きや電流の向きは、図を描いてフレミングの法則を適用することで視覚的に確認する。これにより、符号のミスを防ぐ。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直感との照らし合わせ:
    • (2ア)で求めた \(v_0\): おもりの質量 \(M\) が大きいほど、抵抗 \(R\) が大きいほど、\(v_0\) は大きくなる。磁場 \(B\) や導体棒の長さ \(l\) が大きいほど(電磁ブレーキが効きやすい)、\(v_0\) は小さくなる。これらの依存関係が直感的に妥当か検討する。
    • (3)のジュール熱: 導体棒の質量 \(m\) が大きいほど、初速 \(v_0\) が大きいほど、発生するジュール熱は大きくなる。これは運動エネルギーが大きいほど多くの熱に変換されるという直感と一致する。
  • 極端な場合の考察:
    • もし抵抗 \(R \rightarrow \infty\) (断線)なら、電流は流れず電磁力も働かないので、おもりは自由落下的に導体棒を加速させるはず(等速にならない)。\(v_0\) の式で \(R \rightarrow \infty\) とすると \(v_0 \rightarrow \infty\) となり、これは等速解が得られない状況を示唆している。
    • もし磁場 \(B=0\) なら、誘導起電力も電磁力も生じないので、\(v_0 \rightarrow \infty\)、\(I_0 \rightarrow \infty\) (ただし \(F_0=0\) なのでつりあわない) となり、これも等速運動の前提が崩れる。
  • エネルギーの流れの一貫性:
    • (2)の定常状態では、おもりの重力がする仕事率 \(Mgv_0\) が、ジュール熱による消費電力 \(RI_0^2\) に等しい。このエネルギー変換の流れが途切れていないか、他のエネルギー損失がないか(問題設定では無視されている)を確認する。

問題128 (筑波大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、鉛直上向きの一様な磁場中に置かれた水平な導線レールと、その上を運動する導線 L に関する電磁誘導と力学、エネルギーの問題です。回路には電池と抵抗が含まれており、導線 L の運動は摩擦力も考慮に入れる必要があります。

与えられた条件
  • 磁場: 鉛直上向き、磁束密度 \(B\) (一様)
  • 導線レール: 水平に間隔 \(l\) で平行に置かれた十分に長い導線ab と cd
  • 回路:
    • ac間に抵抗値 \(R\) の抵抗と起電力 \(E\) の電池が接続
    • 導線 L: 質量 \(M\)、導線レールと垂直に置かれ、左右になめらかに動ける(実際は摩擦がある)
  • 摩擦:
    • Lと導線ab, cd間の静止摩擦係数 \(\mu\)
    • Lと導線ab, cd間の動摩擦係数 \(\mu’\)
  • その他:
    • 重力加速度 \(g\)
    • \(R\) 以外の抵抗、回路を流れる電流がつくる磁界は無視できる
問われていること
  1. (1) Lが固定されているときの、Lが磁界から受ける力の大きさと向き。
  2. (2) 固定がはずされたとき、Lが滑り出すための \(\mu\) が満たす条件。
  3. (3) Lが滑り出したのち十分時間が経過し、Lの速度が一定になったときの電流の大きさ \(I_0\) と速さ \(v_0\)。
  4. (4) Lが一定速度で運動しているときに、摩擦によって単位時間当たりに発生する熱量 \(Q_f\)。
  5. (5) Lが一定速度で運動しているとき、電池のエネルギーがどのように消費されるか(20字程度)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電磁誘導と力学の融合」であり、特に電池を含む回路における導線の運動、摩擦力、エネルギー収支を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • オームの法則: 回路における電圧、電流、抵抗の関係。
  • 電磁力 (ローレンツ力): 電流が流れる導体が磁場から受ける力 (\(F=IBl\))。
  • 誘導起電力: 導線が磁場を横切る際に生じる起電力 (\(V=vBl\))。
  • キルヒホッフの第二法則 (電圧則): 閉回路の電圧降下の総和は起電力の総和に等しい。
  • 摩擦力: 静止摩擦力と動摩擦力。
  • 力のつりあい: 物体が一定速度で運動している(または静止している)とき、物体にはたらく合力はゼロ。
  • エネルギー保存則と仕事: 電池が供給するエネルギー、抵抗で消費されるジュール熱、摩擦による熱、運動エネルギーの変化などの関係。

問題を解くための全体的な戦略と手順は以下の通りです。

  1. 設問(1): L固定時の電磁力
    Lが動いていないため誘導起電力は発生せず、回路には電池による電流のみが流れます。この電流が磁場から受ける力を計算します。
  2. 設問(2): Lが滑り出す条件
    Lが滑り出す直前は、(1)で求めた電磁力が最大静止摩擦力を超える瞬間です。この条件から \(\mu\) の不等式を導きます。
  3. 設問(3): Lが等速運動するときの電流と速さ
    Lが一定速度 \(v_0\) で運動するとき、Lには誘導起電力 \(v_0Bl\) が発生します。この誘導起電力を考慮した回路方程式(キルヒホッフの第二法則)と、Lにはたらく力のつりあい(電磁力と動摩擦力)の式を連立して \(I_0\) と \(v_0\) を求めます。
  4. 設問(4): 等速運動時の摩擦による発熱
    単位時間に摩擦によって発生する熱量は、動摩擦力とLの速さの積(仕事率)で計算できます。
  5. 設問(5): 等速運動時のエネルギー消費の内訳
    電池が供給するエネルギーが、回路の抵抗でのジュール熱と摩擦による熱として消費されることを説明します。

問1

思考の道筋とポイント
Lが固定されているため、Lの速度はゼロであり、誘導起電力は発生しません。回路に流れる電流は、電池の起電力 \(E\) と抵抗 \(R\) のみによって決まります。この電流が磁場から受ける電磁力の大きさと向きを求めます。

この設問における重要なポイント

  • Lが固定されている \(\Rightarrow\) 速度 \(v=0\) \(\Rightarrow\) 誘導起電力 \(V_{\text{誘導}}=0\)。
  • 回路に流れる電流はオームの法則 \(I=E/R\) で決まる。
  • 電磁力の公式 \(F=IBl\) とフレミングの左手の法則を用いる。

具体的な解説と立式
Lが固定されているとき、Lの速度は \(0\) なので、Lに誘導起電力は生じません。
回路に流れる電流 \(I\) は、電池の起電力 \(E\) と抵抗 \(R\) によって決まり、オームの法則から、
$$I = \frac{E}{R} \quad \cdots ①$$
問題図の「鉛直上方から見た回路」において、電池の正極がc側、負極がa側に接続されていると解釈すると、電流はc→抵抗R→a→導線L(上側)→d(下側導線へ)→cと流れます。導線Lを流れる電流の向きは、図において上から下(例えば、導線Lの左端を点c’、右端を点a’とするとc’→a’の向き)になります。磁場 \(B\) は紙面に対し垂直で手前向き(\(\cdot\) 印で示されることが多いですが、本文では「鉛直上向き」とあり、図ではこれが紙面手前向きに相当すると考えられます)。
この電流が磁場から受ける力 \(F\) の向きはフレミングの左手の法則で決まります。中指を電流の向き(図で上から下)、人差し指を磁場の向き(紙面手前)に合わせると、親指は右向きを指します。
電磁力 \(F\) の大きさは、電流 \(I\)、磁束密度 \(B\)、導線Lの磁場中の長さ \(l\) を用いて、
$$F = IBl \quad \cdots ②$$

使用した物理公式/法則

  • オームの法則: \(I = V/R\)
  • 電磁力: \(F = IBl\)
  • フレミングの左手の法則
計算過程

式①で与えられた電流 \(I = E/R\) を式②に代入すると、電磁力 \(F\) の大きさは、
$$F = \left(\frac{E}{R}\right)Bl = \frac{EBl}{R}$$
向きは上記の考察より右向きです。

計算方法の平易な説明

導線Lが止まっているので、回路には電池の電圧 \(E\) と抵抗 \(R\) だけによって電流 \(I=E/R\) が流れます。電流の向きは、回路図から判断して導線L上では図の上から下向き(cからaの向き、またはdからbの向き)です。この電流が、紙面手前向きの磁場から受ける力をフレミングの左手の法則で求めると、右向きになります。力の大きさは、電流 \(I\)、磁場の強さ \(B\)、導線の長さ \(l\) の積で \(F=IBl\) となり、\(I=E/R\) を代入して \(F=EBl/R\) と計算できます。

結論と吟味

Lが磁界から受ける力の大きさは \(\displaystyle\frac{EBl}{R}\) で、向きは右向き(図のa→bの向き)。これは電池によって流れる電流が磁場から受ける力です。

解答 (1) 大きさ: \(\displaystyle\frac{EBl}{R}\)、向き: 右向き(図のa→bの向き)

問2

思考の道筋とポイント
Lが滑り出すためには、(1)で求めた電磁力 \(F\) が、最大静止摩擦力 \(f_{\text{max}}\) を超える必要があります。最大静止摩擦力は、静止摩擦係数 \(\mu\) と垂直抗力 \(N\) の積で与えられます。Lは水平面上にあるので、垂直抗力は重力 \(Mg\) に等しいです。

この設問における重要なポイント

  • 滑り出す条件: 電磁力 > 最大静止摩擦力。
  • 最大静止摩擦力 \(f_{\text{max}} = \mu N\)。
  • 水平面上なので垂直抗力 \(N = Mg\)。

具体的な解説と立式
導線Lにはたらく垂直抗力 \(N\) は、重力 \(Mg\) とつり合っているので、\(N=Mg\)。
したがって、最大静止摩擦力 \(f_{\text{max}}\) は、
$$f_{\text{max}} = \mu N = \mu Mg \quad \cdots ③$$Lが滑り出すためには、(1)で求めた電磁力 \(F\) がこの最大静止摩擦力 \(f_{\text{max}}\) より大きくなければなりません。$$F > f_{\text{max}} \quad \cdots ④$$
この不等式に \(F = \displaystyle\frac{EBl}{R}\) と \(f_{\text{max}} = \mu Mg\) を代入することで、\(\mu\) の条件式を導きます。

使用した物理公式

  • 最大静止摩擦力: \(f_{\text{max}} = \mu N\)
  • 力のつりあい (垂直方向): \(N=Mg\)
計算過程

式④に、(1)で求めた \(F = \displaystyle\frac{EBl}{R}\) と式③ \(f_{\text{max}} = \mu Mg\) を代入します。
$$\frac{EBl}{R} > \mu Mg$$この不等式を \(\mu\) について解くと、両辺を \(Mg\) (\(Mg > 0\)) で割って、$$\mu < \frac{EBl}{MgR}$$

計算方法の平易な説明

導線Lが滑り出すためには、Lを右向きに押す電気的な力(電磁力 \(F\))が、Lが滑り出すのを妨げる最大の力(最大静止摩擦力 \(\mu Mg\))よりも大きくなる必要があります。したがって、\(F > \mu Mg\) という条件が成り立てば滑り出します。ここに(1)で求めた \(F\) の式を代入し、\(\mu\) について整理します。

結論と吟味

Lが滑り出す条件は \(\mu < \displaystyle\frac{EBl}{MgR}\) です。これは、電磁力が大きいほど、また最大静止摩擦力が小さいほど滑り出しやすいという直感と一致します。

解答 (2) \(\mu < \displaystyle\frac{EBl}{MgR}\)

問3

思考の道筋とポイント
Lが一定速度 \(v_0\) で運動するとき、Lにはたらく力はつり合っています。Lにはたらく水平方向の力は、右向きの電磁力 \(F_0 = I_0Bl\) と、左向きの動摩擦力 \(f’ = \mu’Mg\) です(ここで \(I_0\) はLが速度 \(v_0\) のときの電流)。
また、Lが速度 \(v_0\) で動くことにより、Lには誘導起電力 \(V_{\text{誘導}} = v_0Bl\) が発生します。この誘導起電力は、電池の起電力 \(E\) と逆向き(Lの運動による電流を妨げる向き)に作用します。回路全体の電圧と電流の関係はキルヒホッフの第二法則(またはオームの法則の拡張)で表されます。

この設問における重要なポイント

  • 等速運動 \(\Rightarrow\) 力のつりあい。Lにはたらく力は電磁力と動摩擦力。
  • Lの運動による誘導起電力 \(V_{\text{誘導}} = v_0Bl\) を考慮する。
  • 回路方程式(キルヒホッフの第二法則): \(E – V_{\text{誘導}} = RI_0\)。

具体的な解説と立式
Lが一定速度 \(v_0\) で右向きに運動しているとき、Lにはたらく水平方向の力はつり合っています。
Lにはたらく電磁力 \(F_0\) は、電流を \(I_0\) とすると、(1)と同様に右向きで、その大きさは、
$$F_0 = I_0Bl \quad \cdots ⑤$$Lにはたらく動摩擦力 \(f’\) は、左向きで、その大きさは、$$f’ = \mu’N = \mu’Mg \quad \cdots ⑥$$力のつり合いの式は、電磁力 \(F_0\) と動摩擦力 \(f’\) がつりあうので、$$F_0 = f’$$
$$I_0Bl = \mu’Mg \quad \cdots ⑦$$
この式から電流 \(I_0\) を求めることができます。

次に、Lが速度 \(v_0\) で動くことにより、Lには \(V_{\text{誘導}} = v_0Bl\) の誘導起電力が生じます。この誘導起電力の向きは、フレミングの右手の法則より、導線L上で電流を流そうとする向きはa→cの向き(電池の起電力 \(E\) と逆向き)になります。
回路にキルヒホッフの第二法則を適用すると(電池の起電力を正、誘導起電力を逆起電力として負、抵抗での電圧降下を考慮)、
$$E – v_0Bl = RI_0 \quad \cdots ⑧$$
式⑦と式⑧は、未知数 \(I_0\) と \(v_0\) を含む連立方程式となります。これらを解くことで \(I_0\) と \(v_0\) を求めます。

使用した物理公式/法則

  • 力のつりあい
  • 電磁力: \(F = IBl\)
  • 動摩擦力: \(f’ = \mu’N\)
  • 誘導起電力: \(V_{\text{誘導}} = vBl\)
  • キルヒホッフの第二法則: \(E – V_{\text{誘導}} = RI\)
計算過程

まず、式⑦から電流 \(I_0\) を求めます。両辺を \(Bl\) で割ると、
$$I_0 = \frac{\mu’Mg}{Bl}$$次に、この \(I_0\) を式⑧に代入して \(v_0\) を求めます。
$$E – v_0Bl = R\left(\frac{\mu’Mg}{Bl}\right)$$この式を \(v_0\) について整理します。
$$v_0Bl = E – R\frac{\mu’Mg}{Bl}$$両辺を \(Bl\) で割ると、$$v_0 = \frac{E}{Bl} – \frac{R\mu’Mg}{(Bl)^2} = \frac{EBl – \mu’MgR}{B^2l^2}$$

計算方法の平易な説明

導線Lが一定の速さ \(v_0\) で動いているとき、Lを右向きに押す電気的な力(電磁力 \(I_0Bl\))と、Lの動きを妨げる左向きの力(動摩擦力 \(\mu’Mg\))が釣り合っています。この力の釣り合いの式 \(I_0Bl = \mu’Mg\) から、そのときに流れている電流 \(I_0\) が求まります (\(I_0 = \mu’Mg/(Bl)\))。
また、Lが動いているためにL自身にも電圧(誘導起電力 \(v_0Bl\))が発生します。この電圧は電池の電圧 \(E\) を妨げる向きに働くため、回路全体でLに電流を流そうとする正味の電圧は \(E – v_0Bl\) となります。オームの法則から、この電圧と抵抗 \(R\)、電流 \(I_0\) の間には \(E – v_0Bl = RI_0\) という関係が成り立ちます。ここに先ほど求めた \(I_0\) を代入することで、速さ \(v_0\) を計算できます。

結論と吟味

電流の大きさ \(I_0 = \displaystyle\frac{\mu’Mg}{Bl}\)、速さ \(v_0 = \displaystyle\frac{EBl – \mu’MgR}{B^2l^2}\)。
\(v_0\) が正の値を取るためには、\(EBl > \mu’MgR\) である必要があります。これは、電池による電磁力が動摩擦力よりも十分に大きくなければ定常的な運動が維持できないことを意味しており、物理的に妥当です。

解答 (3) \(I_0 = \displaystyle\frac{\mu’Mg}{Bl}\), \(v_0 = \displaystyle\frac{EBl – \mu’MgR}{B^2l^2}\)

問4

思考の道筋とポイント
単位時間あたりに摩擦によって発生する熱量は、動摩擦力が単位時間にする仕事率に等しいです。仕事率は (力) × (速さ) で計算できます。

この設問における重要なポイント

  • 摩擦による発熱(仕事率) \(P_f = f’ v_0\)。
  • 動摩擦力 \(f’ = \mu’Mg\)。
  • (3)で求めた速さ \(v_0\) を用いる。

具体的な解説と立式
Lが一定速度 \(v_0\) で運動しているとき、Lにはたらく動摩擦力の大きさは式⑥より \(f’ = \mu’Mg\) です。
この動摩擦力が単位時間(1秒間)になす仕事は、摩擦熱 \(Q_f\) となります。単位時間あたりにLが進む距離は \(v_0\) なので、摩擦による単位時間あたりの熱量(仕事率)\(Q_f\) は、
$$Q_f = f’ \times v_0 = \mu’Mg v_0 \quad \cdots ⑨$$
この式に、(3)で求めた \(v_0\) の具体的表現を代入することで \(Q_f\) を求めます。

使用した物理公式

  • 仕事率: \(P = Fv\)
  • 動摩擦力: \(f’ = \mu’Mg\)
計算過程

式⑨に、(3)で求めた \(v_0 = \displaystyle\frac{EBl – \mu’MgR}{B^2l^2}\) を代入します。
$$Q_f = \mu’Mg \left(\frac{EBl – \mu’MgR}{B^2l^2}\right) = \frac{\mu’Mg(EBl – \mu’MgR)}{B^2l^2}$$

計算方法の平易な説明

摩擦によって1秒間に発生する熱量は、動摩擦力の大きさと導線Lの速さの掛け算で求めることができます。動摩擦力の大きさは \(\mu’Mg\) で、Lの速さは(3)で求めた \(v_0\) です。これらを掛け合わせます。

結論と吟味

摩擦によって単位時間当たりに発生する熱量 \(Q_f\) は \(\displaystyle\frac{\mu’Mg(EBl – \mu’MgR)}{B^2l^2}\) です。\(v_0\) が正である条件下では、この熱量も正となります。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{\mu’Mg(EBl – \mu’MgR)}{B^2l^2}\)

問5

思考の道筋とポイント
Lが一定速度で運動しているとき、導線Lの運動エネルギーは変化していません。このとき、電池が供給するエネルギーは、回路の抵抗 \(R\) で消費されるジュール熱と、摩擦によって発生する熱(これも最終的には熱エネルギー)として消費されます。エネルギー保存則の観点から、エネルギーの供給と消費の内訳を考えます。

この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則。
  • 電池の供給電力 \(P_{\text{電池}} = EI_0\)。
  • 消費されるエネルギーの形態: 抵抗でのジュール熱 \(RI_0^2\)、摩擦熱 \(Q_f = \mu’Mgv_0\)。
  • 等速運動なので運動エネルギーの変化はない。

具体的な解説と立式
Lが一定速度で運動しているとき、電池が単位時間に供給するエネルギー(電力)\(P_{\text{電池}}\) は、電流 \(I_0\) を用いて次のように表されます。
$$P_{\text{電池}} = EI_0 \quad \cdots ⑩$$
この供給されたエネルギーは、以下の2つの形で消費されます。

  1. 抵抗 \(R\) でのジュール熱(単位時間あたり): \(Q_R = RI_0^2 \quad \cdots ⑪\)
  2. 摩擦によって発生する熱(単位時間あたり): \(Q_f = \mu’Mgv_0 \quad \cdots ⑫\) (これは問4で求めたものと同じ)

Lの運動エネルギーは一定なので変化しません。したがって、エネルギー保存則より、電池が供給する電力は、抵抗で消費される電力と摩擦仕事の仕事率の和に等しくなります。
$$P_{\text{電池}} = Q_R + Q_f$$
つまり、電池のエネルギーは、抵抗でのジュール熱と摩擦による熱として消費されます。
これを20字程度で述べると、「抵抗でのジュール熱と摩擦熱として消費される。」となります。

使用した物理公式/法則

  • エネルギー保存則
  • 電池の供給電力: \(P = VI = EI\)
  • ジュール熱 (電力): \(P = RI^2\)
  • 摩擦による発熱(仕事率): \(P_f = f’v\)
計算過程

設問は説明を求めるものであり、ここでの新たな計算は不要ですが、念のため各項の関係性を確認します。
(3)で求めた \(I_0 = \displaystyle\frac{\mu’Mg}{Bl}\) と \(v_0 = \displaystyle\frac{EBl – \mu’MgR}{B^2l^2}\) を用います。
$$P_{\text{電池}} = E I_0 = E \frac{\mu’Mg}{Bl} = \frac{E\mu’Mg}{Bl}$$
$$Q_R = R I_0^2 = R \left(\frac{\mu’Mg}{Bl}\right)^2 = \frac{R(\mu’Mg)^2}{B^2l^2}$$
$$Q_f = \mu’Mg v_0 = \mu’Mg \left(\frac{EBl – \mu’MgR}{B^2l^2}\right) = \frac{\mu’Mg(EBl – \mu’MgR)}{B^2l^2}$$
ここで \(Q_R + Q_f\) を計算すると、
$$Q_R + Q_f = \frac{R(\mu’Mg)^2}{B^2l^2} + \frac{\mu’MgEBl – (\mu’Mg)^2R}{B^2l^2}$$
$$= \frac{R(\mu’Mg)^2 + \mu’MgEBl – R(\mu’Mg)^2}{B^2l^2} = \frac{\mu’MgEBl}{B^2l^2} = \frac{E\mu’Mg}{Bl}$$
よって、\(P_{\text{電池}} = Q_R + Q_f\) が成り立ちます。

計算方法の平易な説明

電池が供給する電気エネルギーは、どこかで使われなければなりません。この問題では、導線Lは一定の速さで動いているので、Lの運動を加速させるためには使われていません。では何に使われているかというと、回路の抵抗 \(R\) で発生する熱(ジュール熱)と、Lがレールとこすれることで発生する熱(摩擦熱)の2つです。

結論と吟味

電池のエネルギーは、抵抗でのジュール熱と摩擦熱として消費されます。これはエネルギー保存則から導かれる妥当な結論です。

解答 (5) 抵抗でのジュール熱と摩擦熱として消費される。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 電磁力と誘導起電力を含む回路方程式: 導線が運動する場合、電池の起電力 \(E\) だけでなく、導線自身に生じる誘導起電力 \(V_{\text{誘導}}=vBl\) も考慮してキルヒホッフの第二法則(またはオームの法則の拡張 \(E \pm V_{\text{誘導}} = RI\))を立てることが重要です。
  • 力のつりあい: 特に等速運動時には、導線にはたらく全ての力(電磁力、摩擦力、外力など)がつりあっているという条件が鍵となります。
  • エネルギー保存則: 電池が供給するエネルギー、抵抗で消費されるジュール熱、摩擦によって発生する熱、運動エネルギーの変化といった、エネルギーの出入りと変換の関係を正しく把握することが、特に後半の設問で求められます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 電動機(モーター)の原理に関する問題(電磁力が運動を生み、逆起電力が発生する)。
    • 発電機が外部負荷に電力を供給している状況(運動エネルギーが電気エネルギーに変換され、その反作用として電磁力が働く)。
    • 電磁ダンパーなど、電磁誘導を利用した制動装置に関する問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 導線の運動状態: まず導線が静止しているのか、加速しているのか、等速運動しているのか、減速しているのかを把握します。これにより、力のつりあいを考えるべきか、運動方程式を立てるべきかが決まります。
    2. 回路に含まれる起電力の特定: 電池による起電力だけでなく、導線の運動による誘導起電力も忘れずに考慮します。誘導起電力の向き(電池の起電力と同方向か逆方向か)も重要です。
    3. 働く力の洗い出し: 導線にはたらく可能性のある力(電磁力、摩擦力、外力、重力など)をすべてリストアップし、図示します。
    4. エネルギーの流れの図式化: 「何がエネルギーを供給し、何がエネルギーを消費・変換しているのか」というエネルギーの流れを簡単な図でイメージすると、エネルギー保存則の立式が容易になります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 誘導起電力の向きの誤り:
    • 導線が動くことで生じる誘導起電力が、電池の起電力に対して助ける向きなのか妨げる向きなのかを誤解する。
    • 対策: フレミングの右手の法則で誘導起電力の向き(電流を流そうとする向き)を正確に判断し、回路全体の電圧関係をキルヒホッフの法則で正しく記述する。レンツの法則(変化を妨げる向き)も参考に。
  • 力のつりあいの対象と力の種類の混同:
    • 電磁力と摩擦力の向き、あるいはそれらがどの物体にはたらくのかを混同する。
    • 対策: 注目する物体(この場合は導線L)を明確にし、その物体にはたらく力を種類別にすべて図示する。
  • エネルギー保存則における項の選択ミス:
    • 運動エネルギーが変化しているのに無視したり、逆に変化していないのに変化量があるとしてしまったりする。電池の仕事、ジュール熱、摩擦熱の関係を誤る。
    • 対策: 「単位時間あたり」なのか「ある過程全体」なのかを区別し、各エネルギー形態がどのように関与しているかを丁寧に追跡する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • (1) L固定時: 単純な電気回路でLに電流が流れ、磁場から力を受ける。
    • (2) 滑り出し: その力が静止摩擦力を超えた瞬間。
    • (3) 等速運動: Lが動くと逆向きの誘導起電力が生じ、電流が調整される。電磁力と動摩擦力がつりあう速度で安定。車がアクセルを踏みながらも空気抵抗などで速度が一定になるのに似ている(ただし、ここではアクセル=電池、抵抗=動摩擦力+誘導による電磁力の変化)。
    • (4)(5) エネルギーの流れ: 電池がエネルギーを供給し、それが抵抗での熱と摩擦での熱に変わっていく。
  • 図示の有効性:
    • 回路図と電流・電圧の記入: 電池の起電力 \(E\)、抵抗 \(R\)、導線Lに生じる誘導起電力 \(v_0Bl\) の向き(極性)を明確に回路図に書き込み、電流 \(I_0\) の流れる向きも示す。
    • 力のベクトル図: 導線Lにはたらく電磁力 \(F_0\)、動摩擦力 \(\mu’Mg\) を、向きと作用点がわかるようにベクトルで図示する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(I=E/R\) (問1):
    • 選定理由: Lが静止しており誘導起電力がないため、単純な直流回路のオームの法則。
    • 適用根拠: 電池と抵抗のみが電流を決定する。
  • \(F=IBl\):
    • 選定理由: 電流が流れる導線が磁場から受ける力を求めるため。
    • 適用根拠: 電流、磁場、導線が互いに垂直に近い関係にある。
  • \(F > \mu Mg\) (問2):
    • 選定理由: 物体が滑り出す直前の条件を考えるため。
    • 適用根拠: 静止摩擦の性質。外力が最大静止摩擦力を超えると動き出す。
  • \(I_0Bl = \mu’Mg\) および \(E-v_0Bl = RI_0\) (問3):
    • 選定理由: 等速運動時の力のつりあいと、運動している導線を含む回路の電圧関係を記述するため。
    • 適用根拠: 前者はニュートンの運動法則(加速度0)、後者はキルヒホッフの第二法則。
  • \(Q_f = \mu’Mgv_0\) (問4):
    • 選定理由: 摩擦による単位時間の発熱量(仕事率)を求めるため。
    • 適用根拠: 仕事率 \(P=Fv\) の公式を摩擦力に適用。
  • エネルギー保存則 (問5):
    • 選定理由: エネルギーの供給源(電池)と消費先(ジュール熱、摩擦熱)の関係を明らかにするため。
    • 適用根拠: 閉じた系(または定常状態)におけるエネルギー変換の普遍的法則。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) L固定時:
    1. \(v=0 \Rightarrow V_{\text{誘導}}=0\)。
    2. 電流 \(I=E/R\)。
    3. 電磁力 \(F=IBl\)。向きをフレミング左手で決定。
  2. (2) 滑り出し条件:
    1. 最大静止摩擦力 \(f_{\text{max}}=\mu Mg\)。
    2. 滑り出す条件 \(F > f_{\text{max}}\) より不等式を立てる。
  3. (3) 等速運動時 (\(v_0, I_0\)):
    1. 力のつりあい: \(I_0Bl = \mu’Mg\) (式A)。
    2. 誘導起電力 \(V_{\text{誘導}}=v_0Bl\)。
    3. 回路方程式: \(E-v_0Bl=RI_0\) (式B)。
    4. 式Aから \(I_0\) を求め、式Bに代入して \(v_0\) を求める(またはその逆)。
  4. (4) 摩擦熱 \(Q_f\):
    1. 動摩擦力 \(f’=\mu’Mg\)。
    2. 単位時間の発熱(仕事率) \(Q_f = f’v_0\)。(3)の \(v_0\) を代入。
  5. (5) エネルギー消費の内訳:
    1. 電池の供給電力 \(P_{\text{電池}}=EI_0\)。
    2. 抵抗でのジュール熱 \(Q_R=RI_0^2\)。
    3. 摩擦熱 \(Q_f=\mu’Mgv_0\)。
    4. エネルギー保存則 \(P_{\text{電池}} = Q_R + Q_f\) を確認し、説明する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の確認: 特に誘導起電力の向き(電池の起電力に対して足すか引くか)を間違えないように、レンツの法則やフレミングの右手の法則で慎重に確認する。
  • 力の向きの図示: 電磁力、摩擦力など、導線にはたらく力を正確に図示し、つりあいの式を立てる際の符号ミスを防ぐ。
  • 連立方程式の計算: (3)では2つの未知数 \(I_0, v_0\) に対する連立方程式を解くことになる。代入や消去の過程を丁寧に行う。
  • 単位時間あたりか否かの区別: (4)や(5)では「単位時間あたり」のエネルギー(仕事率、電力)を扱っている。これを総エネルギーと混同しないように注意する。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な状況との整合性:
    • (3)で求めた \(v_0\) が正の値を取るための条件 (\(EBl > \mu’MgR\)) は、電磁力が動摩擦力より大きくないと定常的な運動が実現しないことを意味し、直感的に妥当。もし \(EBl \le \mu’MgR\) なら、Lは動き出してもすぐに止まるか、あるいはそもそも動き出さない((2)の条件と関連)。
    • (5)でエネルギー保存則が成り立つことを数式で確認すると(模範解答にあるように)、全体の解答の信頼性が高まる。
  • 特殊なケースの考察:
    • もし摩擦がなければ (\(\mu, \mu’ = 0\)) どうなるか? (3)では \(I_0=0\), \(v_0=E/(Bl)\) となり、電流が流れずにLは誘導起電力が電池の起電力と等しくなるまで加速して等速運動する。このとき電磁力は0、動摩擦力も0なので、つり合いが成り立つ。
    • もし電池がなければ (\(E=0\)) どうなるか? この問題設定では外部から動かす要因がなくなるので、設問の状況は成立しにくいが、もし何らかの初速を与えれば電磁ブレーキと摩擦で止まる。
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問題129 (熊本大)

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