問題111 (防衛大+センター試験)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、3枚の導体板P₁, Pᴍ, P₂を平行に配置したコンデンサー系を扱います。まずスイッチSを閉じて中間の導体板Pᴍに電位を与え、そのときのP₂の電荷が与えられています。その後、スイッチを開いてPᴍを動かしたときのPᴍの電位やP₁の電荷を求める問題です。電荷保存則やコンデンサーの基本性質を理解しているかが問われます。
- 導体板P₁, Pᴍ, P₂: 面積は等しい(面積をSとする)。平行に配置。
- 初期配置 (図1): P₁とPᴍの間隔は \(a\)、PᴍとP₂の間隔も \(a\)。P₁とP₂は接地(電位0)。
- 初期操作: スイッチSを閉じ、Pᴍの電位を \(V_0\) にする。このときP₂の電荷は \(-Q_0\) であった。
- 次の操作 (図2): スイッチSを切り(開いて)、PᴍをP₂の方へ平行に \(x\) (\(x<a\)) だけ移動する。
- 移動後の間隔: P₁-Pᴍ間は \(a+x\)、Pᴍ-P₂間は \(a-x\)。
- (1) 初期の操作(Sを閉じ、Pᴍの電位を\(V_0\)にしたとき)のPᴍ全体の電荷。
- (2) スイッチを切り、Pᴍを移動させた後のPᴍの電位。
- (3) スイッチを切り、Pᴍを移動させた後のP₁の電荷。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。
- 平行平板コンデンサーの電気容量: \(C = \epsilon_0 S/d_{\text{gap}}\) (\(\epsilon_0\)は真空の誘電率、\(S\) は極板面積、\(d_{\text{gap}}\) は極板間隔)。
- コンデンサーの基本式: \(Q = CV\)。
- 導体の性質: 導体は等電位。導体内部に電場はない。
- 電荷保存則: 電気的に孤立した導体の総電荷は保存される。
- 重ね合わせの原理: 複数のコンデンサーが複雑に接続されている場合でも、各部分の電位差と電荷の関係を個別に考えることができる。
まず、P₁とPᴍ間、PᴍとP₂間の初期状態(間隔\(a\))での電気容量を \(C_0 = \epsilon_0 S/a\) と定義しておくと便利です。
問1 Pᴍ全体の電荷を求めよ。
思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じると、Pᴍの電位は \(V_0\) になり、P₁とP₂は接地されているので電位は \(0\text{V}\) です。
このとき、PᴍはP₁との間でコンデンサー(P₁Pᴍ間コンデンサー)を形成し、同様にP₂との間でもコンデンサー(PᴍP₂間コンデンサー)を形成します。
PᴍのP₁側の面とP₂側の面にそれぞれ電荷が蓄えられます。
P₂の電荷が \(-Q_0\) と与えられていることから、PᴍP₂間コンデンサーについて考察し、\(Q_0\) と \(C_0, V_0\) の関係を導きます。 次に、P₁Pᴍ間コンデンサーについても同様に考え、Pᴍ全体の電荷を求めます。
この設問における重要なポイント
- P₁, P₂が接地されているため、\(V_{P1}=0, V_{P2}=0\)。
- Pᴍの電位が \(V_0\)。
- P₁Pᴍ間とPᴍP₂間はそれぞれコンデンサーを形成し、かかる電位差は \(V_0\)。
- P₂の電荷が \(-Q_0\) であることから、PᴍのP₂側の面の電荷が \(+Q_0\) であるとわかる。
具体的な解説と立式
初期状態(スイッチSを閉じ、Pᴍの電位を\(V_0\)にしたとき)を考えます。
P₁の電位 \(V_{P1} = 0\)、P₂の電位 \(V_{P2} = 0\)、Pᴍの電位 \(V_{Pᴍ} = V_0\) です。
極板PᴍとP₂の間のコンデンサーの電気容量を \(C_0 = \epsilon_0 S/a\) とすると、電位差は \(V_{Pᴍ} – V_{P2} = V_0 – 0 = V_0\) です。
P₂の極板(Pᴍに面した側)の電荷が \(-Q_0\) なので、PᴍのP₂に面した側の極板の電荷 \(Q_{ᴍ右}\) は \(+Q_0\) となります。
コンデンサーの基本式 \(Q=CV\) より、
$$Q_0 = C_0 V_0 \quad \cdots ①$$
同様に、極板PᴍとP₁の間のコンデンサー(容量 \(C_0 = \epsilon_0 S/a\))について、電位差は \(V_{Pᴍ} – V_{P1} = V_0 – 0 = V_0\) です。
したがって、PᴍのP₁に面した側の極板の電荷 \(Q_{ᴍ左}\) は、
$$Q_{ᴍ左} = C_0 V_0 \quad \cdots ②$$
Pᴍ全体の電荷 \(Q_ᴍ\) は、Pᴍの左右両面の電荷の和なので、
$$Q_ᴍ = Q_{ᴍ左} + Q_{ᴍ右} \quad \cdots ③$$
使用した物理公式
- コンデンサーの基本式: \(Q = CV\)
- 平行平板コンデンサーの電気容量: \(C_0 = \epsilon_0 S/a\)
式①および式②より、\(Q_{ᴍ左} = C_0 V_0\) かつ \(Q_{ᴍ右} = Q_0\) です。式①から \(C_0 V_0 = Q_0\) なので、\(Q_{ᴍ左} = Q_0\) となります。
これらを式③に代入すると、Pᴍ全体の電荷 \(Q_ᴍ\) は、
$$Q_ᴍ = Q_0 + Q_0 = 2Q_0$$
- P₁とP₂はアースされて0V、Pᴍはスイッチで\(V_0\)の電圧になっています。
- PᴍとP₂の間は、電圧\(V_0\)のコンデンサーです。P₂に\(-Q_0\)の電気がたまったので、PᴍのP₂側の面には\(+Q_0\)の電気がたまります。
- PᴍとP₁の間も、全く同じ条件(同じ間隔、同じ面積、同じ電圧\(V_0\))のコンデンサーです。なので、PᴍのP₁側の面にも同じように\(+Q_0\)の電気がたまります。
- したがって、Pᴍ全体では、P₁側の面とP₂側の面の電気を合わせて \(Q_0 + Q_0 = 2Q_0\) の電気がたまります。
Pᴍ全体の電荷は \(2Q_0\) です。Pᴍは左右それぞれにコンデンサーを形成し、それぞれに \(Q_0\) の電荷が蓄えられる(Pᴍ側が正)と考えることができます。
問2 Pᴍの電位を求めよ。
思考の道筋とポイント
スイッチSを切ると、Pᴍは電気的に孤立します。したがって、Pᴍ全体の電荷 \(2Q_0\) (問1の結果) は保存されます。
PᴍをP₂の方へ \(x\) だけ移動させると、P₁-Pᴍ間とPᴍ-P₂間の距離が変わり、それぞれの電気容量も変化します。
新しい電気容量を \(C_1\) (P₁-Pᴍ間) と \(C_2\) (Pᴍ-P₂間) とし、移動後のPᴍの電位を \(V_ᴍ\) とします。P₁とP₂は接地されたままなので電位は \(0\text{V}\) です。
Pᴍの左右の面に蓄えられる電荷の和が \(2Q_0\) に等しいという電荷保存則の式を立てて、\(V_ᴍ\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- スイッチを切るとPᴍは孤立し、その総電荷 \(2Q_0\) が保存される。
- Pᴍ移動後の各部分コンデンサーの容量 \(C_1, C_2\) を正しく計算する。
- P₁とP₂の電位は \(0\text{V}\) のまま。
- Pᴍの電位を \(V_ᴍ\) とし、各部分コンデンサーの電荷を \(V_ᴍ\) で表し、電荷保存の式を立てる。
具体的な解説と立式
スイッチSを切った後、Pᴍ全体の電荷 \(Q_ᴍ = 2Q_0\) は保存されます。
PᴍをP₂の方へ \(x\) だけ移動させると、各部の間隔と電気容量は以下のように変化します。
P₁-Pᴍ間:間隔 \(d_1 = a+x\)。電気容量 \(C_1 = \epsilon_0 S / (a+x)\)。
Pᴍ-P₂間:間隔 \(d_2 = a-x\)。電気容量 \(C_2 = \epsilon_0 S / (a-x)\)。
移動後のPᴍの電位を \(V_ᴍ\) とします。P₁とP₂の電位は \(0\text{V}\) です。
PᴍのP₁側の面に蓄えられる電荷 \(Q_1\) は、
$$Q_1 = C_1 (V_ᴍ – 0) = C_1 V_ᴍ \quad \cdots ④$$
PᴍのP₂側の面に蓄えられる電荷 \(Q_2\) は、
$$Q_2 = C_2 (V_ᴍ – 0) = C_2 V_ᴍ \quad \cdots ⑤$$
Pᴍ全体の電荷保存より、
$$Q_1 + Q_2 = 2Q_0 \quad \cdots ⑥$$
ここで、初期の容量 \(C_0 = \epsilon_0 S/a\) を使うと、\(C_1 = \frac{a}{a+x}C_0\), \(C_2 = \frac{a}{a-x}C_0\) と表せます。
また、問1より \(Q_0 = C_0 V_0\) です。
使用した物理公式
- 平行平板コンデンサーの電気容量: \(C = \epsilon_0 S/d_{\text{gap}}\)
- コンデンサーの基本式: \(Q = CV\)
- 電荷保存則
式④と式⑤を式⑥に代入します。
$$C_1 V_ᴍ + C_2 V_ᴍ = 2Q_0$$
$$V_ᴍ (C_1 + C_2) = 2Q_0$$
ここで、\(C_1 = \frac{\epsilon_0 S}{a+x}\) と \(C_2 = \frac{\epsilon_0 S}{a-x}\) を代入します。
$$V_ᴍ \left( \frac{\epsilon_0 S}{a+x} + \frac{\epsilon_0 S}{a-x} \right) = 2Q_0$$
$$V_ᴍ \epsilon_0 S \left( \frac{1}{a+x} + \frac{1}{a-x} \right) = 2Q_0$$
括弧内を通分すると、\(\frac{(a-x) + (a+x)}{(a+x)(a-x)} = \frac{2a}{a^2-x^2}\)。
$$V_ᴍ \epsilon_0 S \frac{2a}{a^2-x^2} = 2Q_0$$
\(\epsilon_0 S = C_0 a\) (∵ \(C_0 = \epsilon_0 S/a\))と \(Q_0 = C_0 V_0\) を用いて \(Q_0\) を消去し、\(V_ᴍ\) を \(V_0\) で表します。
$$V_ᴍ (C_0 a) \frac{2a}{a^2-x^2} = 2(C_0 V_0)$$
両辺の \(2C_0\) を消去すると、
$$V_ᴍ \frac{a^2}{a^2-x^2} = V_0$$
よって、Pᴍの電位 \(V_ᴍ\) は、
$$V_ᴍ = V_0 \frac{a^2-x^2}{a^2}$$
- スイッチを切ると、Pᴍにたまっていた電気の総量 \(2Q_0\) は逃げ場がないので変わりません。
- Pᴍを動かすと、P₁との間の距離は \(a+x\)、P₂との間の距離は \(a-x\) に変わります。距離が変わるので、それぞれの部分のコンデンサーの容量 \(C_1, C_2\) も変わります。
- 動いた後のPᴍの電圧を \(V_ᴍ\) とします。P₁とP₂はアースされているので0Vのままです。
- PᴍのP₁側の面の電気は \(Q_1 = C_1 V_ᴍ\)、P₂側の面の電気は \(Q_2 = C_2 V_ᴍ\) となります。
- Pᴍ全体の電気の量は変わらないので、\(Q_1 + Q_2 = 2Q_0\) です。
- この式に \(C_1, C_2\) を代入し、さらに \(Q_0 = (\epsilon_0 S/a)V_0\) の関係を使って整理すると、\(V_ᴍ = V_0 \frac{a^2-x^2}{a^2}\) が求まります。
Pᴍの電位は \(V_0 \displaystyle\frac{a^2-x^2}{a^2}\) です。
\(x=0\) のとき(移動前)は \(V_ᴍ = V_0 \frac{a^2}{a^2} = V_0\) となり、初期状態と一致します。
\(x\) が増加すると \(a^2-x^2\) は減少するので、\(V_ᴍ\) は \(V_0\) より小さくなります。これは、PᴍがP₂に近づきP₁から遠ざかることで、Pᴍ-P₂間の容量が増加しP₁-Pᴍ間の容量が減少する効果を反映しています。
問3 P₁の電荷を求めよ。
思考の道筋とポイント
Pᴍを移動させた後のP₁の電荷を求めます。Pᴍの電位 \(V_ᴍ\) は問2で求めました。P₁Pᴍ間のコンデンサーの容量 \(C_1\) も分かっています。P₁の電位は \(0\text{V}\) です。
P₁の極板に蓄えられる電荷は、PᴍのP₁側の面に蓄えられる電荷 \(Q_1\) と絶対値が等しく符号が逆になります。\(Q_1 = C_1 V_ᴍ\) を計算し、P₁の電荷を求めます。
この設問における重要なポイント
- P₁の電位は \(0\text{V}\)。
- Pᴍの電位 \(V_ᴍ\) は問2の結果を用いる。
- P₁Pᴍ間の容量 \(C_1 = \epsilon_0 S / (a+x)\) を用いる。
- P₁の電荷は、PᴍのP₁側対向面の電荷と逆符号で等しい。
具体的な解説と立式
Pᴍを移動させた後のPᴍのP₁側の面に蓄えられる電荷 \(Q_1\) は、式④より \(Q_1 = C_1 V_ᴍ\) です。
P₁の電荷 \(Q_{P1}\) はこれと逆符号で大きさが等しいので、
$$Q_{P1} = -Q_1 = -C_1 V_ᴍ \quad \cdots ⑦$$
ここで、\(C_1 = \displaystyle\frac{\epsilon_0 S}{a+x}\) であり、\(V_ᴍ = V_0 \displaystyle\frac{a^2-x^2}{a^2}\) です。
また、\(C_0 = \epsilon_0 S/a\) と \(Q_0 = C_0 V_0\) の関係も利用します。
使用した物理公式
- コンデンサーの基本式: \(Q = CV\)
- 平行平板コンデンサーの電気容量
式⑦に \(C_1 = \frac{\epsilon_0 S}{a+x}\) と \(V_ᴍ = V_0 \frac{a^2-x^2}{a^2}\) を代入します。
$$Q_{P1} = – \left( \frac{\epsilon_0 S}{a+x} \right) \left( V_0 \frac{a^2-x^2}{a^2} \right)$$
ここで、\(a^2-x^2 = (a-x)(a+x)\) を用いて変形します。
$$Q_{P1} = – \frac{\epsilon_0 S}{a+x} V_0 \frac{(a-x)(a+x)}{a^2} = – \frac{\epsilon_0 S (a-x) V_0}{a^2}$$
さらに、\(\epsilon_0 S = C_0 a\) と \(C_0 V_0 = Q_0\) を用いて \(Q_0\) で表します。
$$Q_{P1} = – \frac{(C_0 a)(a-x)V_0}{a^2} = – \frac{C_0 (a-x) V_0}{a}$$
$$Q_{P1} = – \frac{a-x}{a} (C_0 V_0) = – \frac{a-x}{a} Q_0$$
- Pᴍを動かした後のPᴍの電圧 \(V_ᴍ\) は(2)で求めました (\(V_0 \frac{a^2-x^2}{a^2}\))。
- P₁とPᴍの間のコンデンサーの容量 \(C_1\) は \(\frac{\epsilon_0 S}{a+x}\) です。
- PᴍのP₁側の面にたまる電気 \(Q_1\) は \(C_1 V_ᴍ\) で計算できます。
- P₁の面にたまる電気は、この \(Q_1\) と反対の符号で同じ大きさなので、\(-Q_1\) となります。
- これらを代入して計算し、\(Q_0\) を使って表すと、\(- \frac{a-x}{a} Q_0\) となります。
P₁の電荷は \(- \displaystyle\frac{a-x}{a} Q_0\) です。
\(x=0\) のとき(移動前)は \(Q_{P1} = – \frac{a}{a} Q_0 = -Q_0\) となり、初期状態のP₁の電荷(PᴍのP₁側の電荷 \(+Q_0\) に対するもの)と一致します。
\(x \rightarrow a\) の極限では、P₁-Pᴍ間隔が \(2a\) となり、Pᴍ-P₂間隔が \(0\) に近づきます。このとき \(Q_{P1} \rightarrow 0\) となります。これは、PᴍがP₂に非常に近づくと、Pᴍの電荷のほとんどがP₂側との相互作用で決まるようになるためと考えられます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーの基本性質: 電気容量の定義 (\(C=\epsilon_0 S/d\))、電荷と電圧の関係 (\(Q=CV\))。これらを各部分コンデンサーに適用できるか。
- 電荷保存則: スイッチを開いて導体(この場合はPᴍ)を電気的に孤立させると、その導体の総電荷が保存されること。これがPᴍの電位を決定する上での鍵となる。
- 導体の等電位性: 接地された導体の電位は0V。一枚の導体板はどこでも同じ電位であること。
- 重ね合わせの考え方: PᴍがP₁およびP₂とそれぞれ形成するコンデンサーに蓄えられる電荷の総和がPᴍ全体の電荷となる。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 複数の平行平板導体を組み合わせた複雑なコンデンサー系の問題。
- スイッチ操作や導体の移動によって、電荷分布や電位、静電エネルギーが変化する問題。
- 誘電体を挿入する場合の問題(本問は導体板の移動だが、容量変化の考え方は共通)。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 電位の基準と固定点: まず接地点(電位0V)を確認する。電池やスイッチによって電位が固定される導体板はどこか。
- 孤立導体の特定: スイッチ操作などで孤立する導体があれば、その電荷保存則が利用できないか検討する。
- コンデンサー部分の分割: 複雑に見える配置でも、対向する導体面を一つのコンデンサーと見なし、それらが直列か並列か(あるいはより複雑な接続か)を判断する。本問ではPᴍを挟んで2つのコンデンサーが形成されると考える。
- 変数の設定: 未知の電位や電荷を文字で置き、関係式を立てて連立方程式を解く。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電荷の正負の扱い: コンデンサーのどちらの極板に正電荷、負電荷が分布するか、また問われているのが「導体全体の電荷」なのか「特定の面の電荷」なのかを正確に把握する。
- 対策: 電位の高い方から低い方へ電場が生じることを意識し、電場に面した導体表面の電荷の符号を判断する。
- 電荷保存の対象: Pᴍ全体の電荷が保存されるのであり、Pᴍの片面だけの電荷が保存されるわけではない。
- 対策: 孤立した「導体全体」の総電荷が保存されると理解する。
- 容量計算時の間隔の誤り: Pᴍを動かした後のP₁-Pᴍ間、Pᴍ-P₂間の距離を正しく設定する。
- 対策: 図を丁寧に描き、距離の変化を正確に追う。
- 文字計算の煩雑さによるミス: \(a, x, C_0, V_0, Q_0\) など多くの文字が出てくるため、式変形の過程で混乱しやすい。
- 対策: 一つ一つのステップを丁寧に行い、必要なら既知の関係式(例: \(Q_0 = C_0 V_0\))を使って適宜文字を置き換えるなどして式を簡潔に保つ工夫をする。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象のイメージ化:
- 初期状態: Pᴍ (\(V_0\)) と接地されたP₁ (0V), P₂ (0V) との間にはさまれた「電気のバネ」がそれぞれ縮んでいる(電荷が蓄えられている)イメージ。
- Pᴍの孤立と移動: スイッチを切るとPᴍは電荷を抱えたまま宙に浮く。Pᴍを動かすと、左右の「バネの強さ」(電気容量)が変わり、Pᴍの「高さ」(電位)も変化する。
- 図示の有効性:
- 問題の図1、図2は状況を理解する上で基本。特に図2で間隔が \(a+x, a-x\) となることを正確に読み取る。
- 各導体板の電位、および各面に分布する電荷の符号(\(+Q, -Q\)など)を図に書き込むと、立式の助けになる。模範解答の図も参考に、電荷の分布を色分けなどで表現すると分かりやすい。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(C = \epsilon_0 S/d_{\text{gap}}\): 平行平板コンデンサーの形状からその「電荷を蓄える能力」を定量化する基本式。間隔が変われば容量が変わる。
- \(Q=CV\): あるコンデンサー(またはその部分)に着目したとき、その容量と両端の電位差から蓄えられている電荷を求めるための最も基本的な関係式。
- 電荷保存則: スイッチを切ることでPᴍが外部回路から電気的に切り離されるため、Pᴍが持つ電荷の総量は変化しようがない、という物理的な制約を表す。これにより未知数(移動後のPᴍの電位)を決定する方程式が得られる。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 初期状態のPᴍの電荷:
- P₁, Pᴍ, P₂の電位を確定 (\(0, V_0, 0\))。
- P₁Pᴍ間、PᴍP₂間の容量を \(C_0 = \epsilon_0 S/a\) と定義。
- P₂の電荷が \(-Q_0\) であることから、\(Q_0 = C_0 V_0\) の関係を導く。
- Pᴍの各面の電荷を \(C_0 V_0\) で表し、合計して \(2Q_0\) を得る。
- (2) Pᴍ移動後の電位:
- Pᴍの総電荷 \(2Q_0\) が保存されることを確認。
- 移動後のP₁Pᴍ間容量 \(C_1\) とPᴍP₂間容量 \(C_2\) を \(a, x, \epsilon_0, S\) で表す(または \(C_0\) を使って表す)。
- 移動後のPᴍの電位を \(V_ᴍ\) とし、Pᴍの各面の電荷を \(C_1 V_ᴍ\), \(C_2 V_ᴍ\) と表す。
- 電荷保存の式 \(C_1 V_ᴍ + C_2 V_ᴍ = 2Q_0\) を立てる。
- \(C_1, C_2\) および \(Q_0=C_0V_0\) の関係を代入し、\(V_ᴍ\) について解く。
- (3) P₁の電荷:
- P₁の電荷は、PᴍのP₁側対向面の電荷 \(-Q_1 = -C_1 V_ᴍ\) である。
- (2)で求めた \(V_ᴍ\) と \(C_1\) の式を代入し、\(Q_0\) を使って表す。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 容量の変数表現: \(C_1, C_2\) を \(a, x, C_0\) などを用いて正しく表す。特に分母と分子を間違えないように。
- 通分計算: (2)の \(C_1+C_2\) の計算や、その後の式変形で複雑な分数の通分が出てくるため、慎重に計算する。
- 文字の代入タイミング: 適切なタイミングで \(Q_0 = C_0 V_0\) や \(C_0 = \epsilon_0 S/a\) の関係を用いて式を整理すると、見通しが良くなることがある。
- 符号の確認: 特に(3)でP₁の電荷を求める際、Pᴍの面電荷との符号関係に注意する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との整合性:
- (2) \(x\) が大きくなる(PᴍがP₂に近づき、P₁から遠ざかる)と、\(a^2-x^2\) は小さくなり、\(V_ᴍ\) は \(V_0\) より小さくなる。これは、容量の大きい方(Pᴍ-P₂間)に電荷が偏りやすくなるため、全体の電位が下がるという直感と合うか検討する(電荷一定で合成容量が変化するため、電位も変化する)。
- (3) \(x=0\) のとき \(Q_{P1} = -Q_0\) となり初期状態と一致するか。\(x \rightarrow a\) の極限ではどうなるかなどを考えてみる。
- 単位の確認: 計算結果の単位が正しい物理量になっているか常に意識する(電荷ならクーロン[C]、電位ならボルト[V])。
問題112 (九州産大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、導体中の自由電子の運動モデル(ドリフトモデル)に基づいて、オームの法則や電気抵抗、抵抗率の表式を導出するものです。電場と電位の関係、電場から受ける力、抵抗力とのつり合い、電流の定義といった基本的な物理法則を順を追って適用していきます。
- 導体: 断面積 \(S \text{ [m}^2\text{]}\)、長さ \(l \text{ [m]}\)。
- 自由電子: 電荷 \(-e \text{ [C]}\)(\(e\) は電気素量で正の値)、数密度 \(n \text{ [個/m}^3\text{]}\)。
- 印加電圧: 導体の両端に \(V \text{ [V]}\)。
- 抵抗力: 電子の速さ \(v \text{ [m/s]}\) に比例し、\(kv \text{ [N]}\)(\(k\) は比例定数)。
- 導体内部の一様な電場の強さ \(E\)。
- 1個の自由電子が受ける力の大きさ \(F\)。
- 自由電子の一定の速さ(ドリフト速度) \(v\)。
- 導体を流れる電流 \(I\)。
- 導体の電気抵抗 \(R\)。
- 導体の抵抗率 \(\rho\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くにあたって中心となるのは、以下の物理法則や概念です。
- 一様な電場と電位差の関係: \(V = Ed\) (導体のような一様な太さの物質内で一様な電場が生じている場合、両端の電位差 \(V\)、電場の強さ \(E\)、長さ \(d\) の間にはこの関係が成り立ちます)。
- 電場中の荷電粒子が受ける力: \(F = qE\) (電荷 \(q\) の粒子が電場 \(E\) から受ける力)。
- 力のつり合い: 電子が一定の速さで移動するということは、電子に働く合力が0であることを意味します。
- 電流の定義: \(I = \Delta Q / \Delta t\)。微視的には、\(I = enSv\) (\(e\) は電気素量、\(n\) はキャリア密度、\(S\) は断面積、\(v\) はドリフト速度)。
- オームの法則と電気抵抗・抵抗率: \(V = RI\)、\(R = \rho l/S\)。
問1 導体内部の電場の強さ
思考の道筋とポイント
導体の両端に電圧 \(V\) がかかると、導体内部には電場が生じます。問題文で「一様な電場が生じる」とあるので、電場の強さ \(E\) と導体の長さ \(l\)、電位差 \(V\) の間には \(V=El\) の関係が成り立ちます。
この設問における重要なポイント
- 導体内部の電場は一様であるという条件。
- 一様な電場と電位差、距離の関係式 \(V=Ed\) (この場合は \(V=El\)) を適用する。
具体的な解説と立式
導体の両端に電圧 \(V\) がかかっており、導体の長さは \(l\) です。導体内部には一様な電場 \(E\) が生じるとされているので、電場の強さ \(E\) と電位差 \(V\)、導体の長さ \(l\) の間には次の関係が成り立ちます。
$$V = El \quad \cdots ①$$
この式から電場の強さ \(E\) を求めます。
使用した物理公式
- 一様な電場と電位差の関係: \(V = Ed\)
式①の両辺を \(l\) で割ると、電場の強さ \(E\) が求まります。
$$E = \frac{V}{l}$$
- 導体に電圧 \(V\) をかけると、その中に電気の坂道(電場)ができます。
- 坂道の全体の高さ(電圧 \(V\))と坂道の長さ(導体の長さ \(l\))が分かっていれば、坂道の傾き(電場の強さ \(E\))は「高さ ÷ 長さ」で \(E = V/l\) と計算できます。
導体内部の電場の強さは \(\displaystyle\frac{V}{l}\) [V/m] です。単位も [V]/[m] となり正しいです。
問2 自由電子が受ける力の大きさ
思考の道筋とポイント
問1で求めた電場の強さ \(E\) の中に、電荷 \(-e\) を持つ自由電子が存在します。荷電粒子が電場から受ける力の公式 \(F=|q|E\) を用いて、電子が受ける力の大きさを計算します。
この設問における重要なポイント
- 自由電子の電荷の大きさは \(e\)。
- 電場中の荷電粒子が受ける力の公式 \(F=|q|E\) を適用する。
- 問1で求めた電場の強さ \(E\) を用いる。
具体的な解説と立式
自由電子の電荷の大きさは \(e\) です。この電子が、強さ \(E\) の電場の中に置かれると、電場から力を受けます。その力の大きさ \(F\) は、
$$F = eE \quad \cdots ②$$
この式に問1で求めた \(E\) を代入して \(F\) を求めます。
使用した物理公式
- 電場中の荷電粒子が受ける力: \(F = |q|E\)
式②に、問1で求めた \(E = \displaystyle\frac{V}{l}\) を代入します。
$$F = e \left(\frac{V}{l}\right) = \frac{eV}{l}$$
- 電気の坂道(電場 \(E\))の中に電気の粒(電荷 \(e\) の電子)を置くと、坂道を転がり落ちるような力(静電気力 \(F\))を受けます。
- この力の大きさは「電気の量 \(e\) × 坂道の傾き \(E\)」で \(F = eE\) と計算できます。
- (1)で \(E=V/l\) と分かったので、\(F = e(V/l)\) となります。
1個の自由電子が受ける力の大きさは \(\displaystyle\frac{eV}{l}\) [N] です。単位も [C] \(\cdot\) [V/m] = [J/m] = [N] となり正しいです。電子の電荷は負なので、力の向きは電場の向きと逆になります。
問3 自由電子の一定の速さ
思考の道筋とポイント
自由電子は、電場から力 \(F\) を受けて加速されますが、同時に導体中のイオンなどとの衝突によって速さに比例する抵抗力 \(kv\) を受けます。問題文に「一定の速さ \(v\) で移動する」とあるので、これは電場から受ける力と抵抗力がつり合っている状態(終端速度、ドリフト速度)を指します。力のつり合いの式を立てて、速さ \(v\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 電子が一定の速さで移動するため、合力は0(力のつり合い)。
- 電子に働く力は、電場からの力 \(F\) と抵抗力 \(kv\)。
- 力のつり合いの式を立てる。
具体的な解説と立式
自由電子は一定の速さ \(v\) で移動するため、電子に働く力の合力は \(0\) です。
電子に働く力は、問2で求めた電場からの力 \(F = \displaystyle\frac{eV}{l}\) と、運動方向と逆向きに働く抵抗力 \(kv\) です。
力のつり合いの式は、これらの力の大きさが等しいとおいて、
$$\frac{eV}{l} = kv \quad \cdots ③$$
この式から速さ \(v\) を求めます。
使用した物理公式
- 力のつり合い(合力=0)
式③の両辺を \(k\) で割ると、速さ \(v\) が求まります。
$$v = \frac{eV}{kl}$$
- 電子は電気の坂道(電場)から力を受けて進もうとしますが、導体の中を進むと邪魔(抵抗力)も受けます。
- 電子の速さが一定になるのは、進もうとする力と邪魔する力(抵抗力 \(kv\))がちょうど同じ大きさになったときです。
- (2)で進もうとする力は \(\frac{eV}{l}\) と分かったので、「\(\frac{eV}{l} = kv\)」という式が成り立ちます。
- この式から速さ \(v\) を求めると、\(v = \frac{eV}{kl}\) となります。
自由電子の一定の速さ(ドリフト速度)は \(\displaystyle\frac{eV}{kl}\) [m/s] です。印加電圧\(V\)に比例し、抵抗力の係数\(k\)や導体の長さ\(l\)に反比例することがわかります。
問4 導体を流れる電流
思考の道筋とポイント
電流 \(I\) は、単位時間あたりに導体の断面を通過する電気量として定義されます。自由電子の数密度 \(n\)、電子1個の電荷の大きさ \(e\)、導体の断面積 \(S\)、電子のドリフト速度 \(v\) を用いて、電流の公式 \(I = enSv\) を適用します。この設問では、電流 \(I\) をこれらの基本的な物理量(特に \(v\) をそのまま用いて)で表すことが求められています。
この設問における重要なポイント
- 電流の微視的定義 \(I=enSv\)。
- 各物理量(\(e, n, S, v\))が何を表すかを理解していること。
- この設問では、\(v\) を問3で求めた具体的な式で置き換えず、記号 \(v\) のまま用いて \(I\) を表す。
具体的な解説と立式
電流 \(I\) は、導体の断面を単位時間に通過する自由電子の総電荷量です。
自由電子の数密度が \(n \text{ [個/m}^3\text{]}\)、電子の速さが \(v \text{ [m/s]}\)、導体の断面積が \(S \text{ [m}^2\text{]}\)、電子1個の電荷の大きさが \(e \text{ [C]}\) であるとき、電流 \(I\) は次のように表されます。
$$I = enSv \quad \cdots ④$$
これが求める電流の式となります。
使用した物理公式
- 電流の定義: \(I = enSv\)
式④がそのまま答えとなります。設問は速さ \(v\) を用いて電流 \(I\) を表すことを求めているため、ここで問3で求めた \(v\) の具体的な biểu thức (\(eV/(kl)\)) を代入する必要はありません。
$$I = enSv$$
- 電流とは、1秒間に導線の断面を通り過ぎる電気の量のことです。
- 電子の速さが \(v\)、導線の断面積が \(S\) なので、1秒間に \(S \times v\) の体積分だけ電子が移動します。
- この体積の中にいる電子の数は、電子の密度 \(n\) を掛けて \(nSv\) 個です。
- 電子1個の電気の大きさが \(e\) なので、通り過ぎる電気の総量は \(e \times nSv\) となります。これが電流 \(I\) です。この問題では、この形で答えます。
導体を流れる電流は \(enSv\) [A] です。この表式は、電流がキャリアの電荷、数密度、断面積、およびドリフト速度にどのように依存するかを直接的に示しています。次の設問(5)で電気抵抗を求める際には、この \(v\) に(3)の結果を代入した形が用いられます。
問5 導体の電気抵抗
思考の道筋とポイント
オームの法則 \(V=RI\) の関係から、電気抵抗 \(R\) は \(R=V/I\) と表せます。問4で電流 \(I\) を \(v\) を用いて表し、その \(v\) は問3で \(V\) を含む形で求まっているので、これらを組み合わせて \(I\) を \(V\) の式で表し、\(R=V/I\) に代入して \(R\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- オームの法則 \(V=RI\)。
- \(R=V/I\) の関係を用いる。
- 問4の \(I=enSv\) と問3の \(v=eV/(kl)\) を組み合わせて \(I\) を \(V\) で表す。
具体的な解説と立式
オームの法則によれば、電圧 \(V\) と電流 \(I\)、電気抵抗 \(R\) の間には \(V=RI\) の関係があります。
これを \(R\) について解くと、
$$R = \frac{V}{I} \quad \cdots ⑤$$
ここで、問4の \(I=enSv\) に、問3で求めた \(v = \displaystyle\frac{eV}{kl}\) を代入して得られる電流 \(I\) の表式を用います。
$$I = enS \left(\frac{eV}{kl}\right) = \frac{e^2nSV}{kl} \quad \cdots ⑤’$$
式⑤に式⑤’を代入して \(R\) を求めます。
使用した物理公式
- オームの法則: \(V=RI\)
- 電流の定義: \(I=enSv\) (および \(v\) の導出結果)
式⑤に、式⑤’ (\(I = \displaystyle\frac{e^2nSV}{kl}\)) を代入します。
$$R = \frac{V}{\frac{e^2nSV}{kl}} = V \cdot \frac{kl}{e^2nSV}$$
分子と分母の \(V\) を約分すると、
$$R = \frac{kl}{e^2nS}$$
- 電気抵抗 \(R\) は、オームの法則から「電圧 \(V\) ÷ 電流 \(I\)」で計算できます。
- (4)で電流 \(I\) は \(enSv\) と表され、(3)でその速さ \(v\) は \(\frac{eV}{kl}\) と分かりました。なので、これらを組み合わせると電流 \(I\) は \(\frac{e^2nSV}{kl}\) となります。
- これを \(R = V/I\) の式に入れると、\(R = \frac{kl}{e^2nS}\) となります。
導体の電気抵抗は \(\displaystyle\frac{kl}{e^2nS}\) [Ω] です。抵抗は導体の長さ\(l\)に比例し、断面積\(S\)に反比例することがこの式からもわかります。また、材質によって決まるミクロな量(\(k, e, n\))にも依存します。
問6 導体の抵抗率
思考の道筋とポイント
電気抵抗 \(R\) と抵抗率 \(\rho\)、導体の長さ \(l\)、断面積 \(S\) の間には \(R = \rho \frac{l}{S}\) という関係があります。問5で求めた \(R\) の表式をこの形と比較することで、抵抗率 \(\rho\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 抵抗 \(R\) と抵抗率 \(\rho\) の関係式 \(R = \rho \frac{l}{S}\)。
- 問5で求めた \(R\) の表式と比較する。
具体的な解説と立式
導体の電気抵抗 \(R\) は、その抵抗率 \(\rho\)、長さ \(l\)、断面積 \(S\) を用いて次のように表されます。
$$R = \rho \frac{l}{S} \quad \cdots ⑥$$
この式と、問5で得られた \(R = \displaystyle\frac{kl}{e^2nS}\) の表式を比較します。
使用した物理公式
- 抵抗と抵抗率の関係: \(R = \rho \frac{l}{S}\)
問5で得られた \(R = \displaystyle\frac{kl}{e^2nS}\) を、式⑥の形 \(R = \rho \frac{l}{S}\) と比較するために書き換えます。
$$R = \left(\frac{k}{e^2n}\right) \frac{l}{S}$$
この2つの式を比較すると、抵抗率 \(\rho\) に対応する部分は \(\displaystyle\frac{k}{e^2n}\) であることがわかります。
$$\rho = \frac{k}{e^2n}$$
- 電気抵抗 \(R\) は、物質の種類で決まる「抵抗率 \(\rho\)」と、導線の「長さ \(l\)」、「断面積 \(S\)」を使って \(R = \rho \frac{l}{S}\) と表せることが知られています。
- (5)で求めた \(R = \frac{kl}{e^2nS}\) の式を、この形になるように見比べます。
- すると、\(\rho\) に当たる部分が \(\frac{k}{e^2n}\) だと分かります。
導体の抵抗率は \(\displaystyle\frac{k}{e^2n}\) [Ω·m] です。抵抗率は導体の材質によって決まる物性値であり、自由電子の運動を妨げる抵抗力の係数 \(k\)、電気素量 \(e\)、自由電子の数密度 \(n\) といったミクロな物理量で表されることが示されました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電場と電位の関係 (\(V=El\)): 一様な導体にかかる電圧と内部電場の基本的な関係。
- 荷電粒子の受ける力 (\(F=eE\)): 電場中の電子が受ける力の大きさ。
- 力のつり合いと終端速度(ドリフト速度): 電子が一定速度で動く場合、電場からの力と抵抗力がつり合っている。
- 電流の微視的表現 (\(I=enSv\)): 電流を電子の運動の観点から記述する重要な式。
- オームの法則の導出: 上記の法則を組み合わせることで、 macroscopic なオームの法則 (\(V=RI\)) が microscopic なパラメータから導かれるプロセス。
- 抵抗と抵抗率の関係 (\(R=\rho l/S\)): 抵抗値が物質固有の抵抗率と形状(長さ、断面積)で決まること。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 半導体中のキャリア(正孔と電子)の運動を考える問題。
- ホール効果など、磁場中での荷電粒子の運動が加わる問題の基礎。
- 温度による抵抗率の変化を説明するモデル(\(n\) や \(k\) が温度に依存する)。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 荷電粒子の運動モデル: どのような力が働き、どのように運動状態(加速か等速か)が決まるかを把握する。
- 電流の定義の適用: 電荷、数密度、速さ、断面積から電流を求める流れを理解する。
- マクロな法則とミクロなモデルの接続: オームの法則や抵抗率の式を、電子レベルのパラメータで表現することを目指す。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電荷の符号と力の向き: 電子の電荷は負であるため、電場の向きと受ける力の向きは逆になる。電流の向きと電子の運動方向も逆。
- 対策: 図を描いて力の向きや運動方向を丁寧に確認する。
- 各文字の意味の混同: \(n\)(数密度)、\(N\)(個数)、\(e\)(電気素量)などの意味を正確に把握する。
- 対策: 問題文で与えられた物理量をリストアップし、それぞれの単位や意味を確認する。
- 電流 \(I=enSv\) の \(v\) の意味: これは個々の電子のランダムな熱運動の速さではなく、電場による平均的な偏った速度(ドリフト速度)である。
- 対策: ドリフトモデルの仮定を理解する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象のイメージ化:
- 自由電子の流れ: パチンコ台の釘の間を玉が落ちていくように、電子がイオンに衝突しながらも全体として電場に引かれて流れていくイメージ。
- 抵抗力: 電子がイオンに衝突することで受ける「邪魔」の力。速いほど衝突頻度が増し、抵抗力も大きくなるというモデル。
- 電流: 一定時間内に特定の断面を通過する「電子の粒の数 × 1粒あたりの電気量」。
- 図示の有効性:
- 導体と電場、電子の運動方向、力の向きなどを図示すると関係が整理しやすい。
- 電流を考える際に、\(v \Delta t\) の長さの円柱内の電子が断面を通過する図を描くと、\(I=enSv\) の理解が深まる。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(V=El\): 一様な電場を仮定しているため、電位(スカラー場)と電場(ベクトル場)の最も基本的な関係式の一つ。
- \(F=eE\): 電荷が電場から受ける力の定義そのもの。
- 力のつり合い (\(eE=kv\)): 「一定の速さで移動する」という記述から、加速度がゼロ、つまり合力がゼロであると判断し、作用する力をリストアップして立式する。
- \(I=enSv\): 電流の定義を、多数の荷電粒子の集団的な運動として捉えた表現。
- \(R=V/I\): オームの法則による抵抗の定義。
- \(R=\rho l/S\): 抵抗が物質の種類(\(\rho\))と形状(\(l,S\))で決まることを示す実験則に基づく関係式。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 電場E: \(V=El\) から \(E=V/l\)。
- (2) 電子への力F: \(F=eE\) に(1)を代入し \(F=eV/l\)。
- (3) 電子の速さv: 力のつり合い \(eE=kv\) に(1)を代入し \(eV/l=kv\)、よって \(v=eV/(kl)\)。
- (4) 電流I: \(I=enSv\)。
- (5) 抵抗R: \(I=enS(eV/(kl))\) としてから \(R=V/I\) に代入し \(R=kl/(e^2nS)\)。
- (6) 抵抗率ρ: \(R=\rho l/S\) と(5)を比較し、\( \rho = k/(e^2n)\)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の整理: 多くの物理定数や変数が登場するので、どの文字が何を表すか常に意識する。
- 分数の計算: \(R=V/I\) の計算などで分数の割り算が出てくるので、逆数を掛ける際に間違いやすい。丁寧に処理する。
- 単位の確認: 各ステップで得られた物理量の単位が正しいかを確認する習慣をつける。例えば、抵抗率の単位が[Ω·m]になるかなど。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な依存関係の確認:
- 抵抗\(R\)が導体の長さ\(l\)に比例し、断面積\(S\)に反比例するという結果は、日常的な経験や他の知識と整合するか。
- 抵抗率\(\rho\)が、電子の動きにくさ(\(k\))に比例し、電子の数密度(\(n\))や電荷(\(e\))の2乗に反比例するという結果は物理的に妥当か。キャリアが多いほど、また電荷が大きいほど電気は流れやすくなる(抵抗が小さくなる)はず。
- 式の次元解析: 各式の両辺の単位(次元)が一致しているかを確認する。
問題113 (愛知工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、同じ起電力と内部抵抗を持つ2個の電池を直列または並列に接続し、外部抵抗に電流を流したときの、電池1個の端子電圧をそれぞれ求める問題です。電池の接続方法によって回路全体の電流や各電池にかかる負担がどう変わるかを理解することがポイントとなります。
- 電池: 2個。各電池の起電力は \(E\)、内部抵抗は \(r\)。
- 外部抵抗: 抵抗値 \(R\)。
- 2個の電池を直列につないで抵抗Rに接続したときの、電池1個の端子電圧。
- 2個の電池を並列につないで抵抗Rに接続したときの、両者共通の端子電圧。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くにあたって中心となるのは、以下の物理法則や概念です。
- 電池の直列接続: 全体の起電力は各電池の起電力の和、全体の内部抵抗は各電池の内部抵抗の和。
- 電池の並列接続 (同一電池の場合): 全体の起電力は1個の電池の起電力に等しい。全体の内部抵抗は、各電池の内部抵抗を並列合成したものと考えることができる(ただし、電流の扱いからキルヒホッフの法則を用いるのが一般的)。
- オームの法則: 回路全体や部分に対して適用 \(V=IR\)。
- 電池の端子電圧: \(V_{\text{端子}} = E – Ir\) (\(E\)は起電力、\(I\)は電池を流れる電流、\(r\)は内部抵抗)。電流が電池の正極から流れ出す向きを正とする。
- キルヒホッフの法則:
- 第1法則(電流則): 回路中の任意の接続点に流入する電流の総和と流出する電流の総和は等しい。
- 第2法則(電圧則): 回路中の任意の閉ループにおいて、起電力の総和と電圧降下の総和は等しい。
問1 電池を直列につないだ場合の電池1個の端子電圧
思考の道筋とポイント
2個の同一電池を直列に接続した場合、回路全体の起電力と内部抵抗をまず求めます。次に、その全体としての電池が外部抵抗\(R\)に接続されたときの回路電流をオームの法則を用いて計算します。最後に、電池1個の端子電圧の公式 \(V_{\text{端子}} = E – Ir\) を用いて、端子電圧を算出します。このとき、\(I\) は電池1個を流れる電流であり、直列接続なので回路全体の電流に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- 直列接続された電池全体の起電力は \(E_{\text{全}} = E+E = 2E\)。
- 直列接続された電池全体の内部抵抗は \(r_{\text{全}} = r+r = 2r\)。
- 回路を流れる電流 \(I\) は、全体の起電力と全体の抵抗(外部抵抗\(R\) + 全内部抵抗\(r_{\text{全}}\))から求める。
- 電池1個の端子電圧は \(E – Ir\) で計算する(\(I\) はその電池を流れる電流)。
具体的な解説と立式
2個の電池を直列に接続すると、全体の起電力 \(E_{\text{直列}}\) は各電池の起電力の和となり、全体の内部抵抗 \(r_{\text{直列}}\) も各電池の内部抵抗の和となります。
$$E_{\text{直列}} = E + E = 2E \quad \cdots ①$$
$$r_{\text{直列}} = r + r = 2r \quad \cdots ②$$
この直列電池が外部抵抗 \(R\) に接続された回路を考えます。回路全体を流れる電流を \(I\) とすると、オームの法則より、
$$(R + r_{\text{直列}})I = E_{\text{直列}} \quad \cdots ③$$
電池1個の端子電圧 \(V_{\text{端子1個}}\) は、その電池の起電力を \(E\)、内部抵抗を \(r\)、その電池を流れる電流を \(I\)(直列なので回路電流と同じ)として、次のように表されます。
$$V_{\text{端子1個}} = E – Ir \quad \cdots ④$$
まず式③から電流 \(I\) を求め、それを式④に代入して端子電圧を計算します。
使用した物理公式
- 電池の直列接続: \(E_{\text{全}} = \sum E_i\), \(r_{\text{全}} = \sum r_i\)
- オームの法則: \(V=IR\) (回路全体に適用)
- 電池の端子電圧: \(V_{\text{端子}} = E – Ir\)
式①と式②を式③に代入して電流 \(I\) を求めます。
$$(R + 2r)I = 2E$$
$$I = \frac{2E}{R+2r} \quad \cdots ⑤$$
次に、この電流 \(I\) を式④に代入して、電池1個の端子電圧 \(V_{\text{端子1個}}\) を求めます。
$$V_{\text{端子1個}} = E – r \left( \frac{2E}{R+2r} \right)$$
共通因子 \(E\) でくくり、通分します。
$$V_{\text{端子1個}} = E \left( 1 – \frac{2r}{R+2r} \right) = E \left( \frac{R+2r-2r}{R+2r} \right) = E \frac{R}{R+2r}$$
- 2つの電池を直列につなぐと、電圧は2倍 (\(2E\))、内部の邪魔(内部抵抗)も2倍 (\(2r\)) になります。
- この「大きな電池」に抵抗 \(R\) をつなぐので、回路全体の抵抗は \(R+2r\) です。
- 流れる電流 \(I\) は、オームの法則から「全体の電圧 ÷ 全体の抵抗」で \(I = \frac{2E}{R+2r}\) となります。
- 電池1個から見たとき、実際に外に出てくる電圧(端子電圧)は、電池が本来持っている電圧 \(E\) から、電池内部での電圧ロス (\(Ir\)) を引いたものです。つまり \(E-Ir\)。
- 計算した \(I\) を代入すると、端子電圧は \(E \frac{R}{R+2r}\) と求まります。
直列接続の場合、電池1個の端子電圧は \(\displaystyle\frac{R}{R+2r}E\) です。
この結果から、\(R\) が大きいほど(外部抵抗が大きいほど)、\(I\) は小さくなり、端子電圧は \(E\) に近づきます。逆に \(R\) が小さいほど \(I\) は大きくなり、内部抵抗による電圧降下 \(Ir\) が大きくなるため、端子電圧は \(E\) よりかなり小さくなります。
問2 電池を並列につないだ場合の共通の端子電圧
思考の道筋とポイント
2個の同一電池を並列に接続した場合を考えます。この場合、各電池から流れ出す電流は等しいと考えることができます(対称性より)。各電池から流れ出す電流を \(I_1\) とすると、外部抵抗 \(R\) を流れる電流は \(2I_1\) となります。
キルヒホッフの第2法則(電圧則)を、1つの電池と外部抵抗を含む閉ループに適用して \(I_1\) を求めます。その後、電池1個の端子電圧 \(V_{\text{端子}} = E – I_1 r\) を計算します。これが両者に共通の端子電圧となります。
この設問における重要なポイント
- 同一電池の並列接続では、全体の起電力は \(E\) と考えられる(端子電圧が共通になるため)。
- 各電池から流れる電流を \(I_1\) とすると、外部抵抗 \(R\) には \(2I_1\) の電流が流れる。
- キルヒホッフの電圧則を適用して \(I_1\) を求める。
- 電池1個の端子電圧は \(E – I_1 r\) で計算する。
具体的な解説と立式
2個の同一電池を並列に接続し、外部抵抗 \(R\) につなぎます。
各電池から流れ出す電流を \(I_1\) とします。すると、対称性から2つの電池は同じように動作し、外部抵抗 \(R\) には合計で \(2I_1\) の電流が流れます。
1つの電池、その内部抵抗 \(r\)、そして外部抵抗 \(R\) を含む閉ループに対してキルヒホッフの第2法則を適用します。このループでは、電池の起電力 \(E\) が、内部抵抗での電圧降下 \(I_1 r\) と外部抵抗での電圧降下 \(R(2I_1)\) の和に等しくなります。
$$E = I_1 r + R(2I_1) \quad \cdots ⑥$$
この式から電流 \(I_1\) を求めます。
電池の共通の端子電圧 \(V_{\text{端子共通}}\) は、1つの電池に着目して、
$$V_{\text{端子共通}} = E – I_1 r \quad \cdots ⑦$$
で与えられます。式⑥から \(I_1\) を求め、式⑦に代入します。
使用した物理公式
- キルヒホッフの第2法則(電圧則)
- 電池の端子電圧: \(V_{\text{端子}} = E – Ir\)
式⑥を \(I_1\) について整理します。
$$E = I_1 (r + 2R)$$
$$I_1 = \frac{E}{r+2R} \quad \cdots ⑧$$
次に、この \(I_1\) を式⑦に代入して、共通の端子電圧 \(V_{\text{端子共通}}\) を求めます。
$$V_{\text{端子共通}} = E – r \left( \frac{E}{r+2R} \right)$$
共通因子 \(E\) でくくり、通分します。
$$V_{\text{端子共通}} = E \left( 1 – \frac{r}{r+2R} \right) = E \left( \frac{r+2R-r}{r+2R} \right) = E \frac{2R}{r+2R}$$
- 2つの電池を並列につなぐと、全体の電圧は \(E\) のままですが、電流は2つの電池で分担して流します。
- 1つの電池から流れる電流を \(I_1\) とすると、抵抗 \(R\) には \(2I_1\) の電流が流れます。
- 1つの電池と抵抗 \(R\) を含む回路ループを考えると、「電池の電圧 \(E\)」=「内部抵抗でのロス \(I_1 r\)」+「外部抵抗 \(R\) での電圧 \(R \times 2I_1\)」という式が成り立ちます。
- この式から \(I_1 = \frac{E}{r+2R}\) が求まります。
- 電池の端子電圧は、\(E – I_1 r\) なので、計算した \(I_1\) を代入すると、\(E \frac{2R}{r+2R}\) となります。
並列接続の場合、両者共通の端子電圧は \(\displaystyle\frac{2R}{r+2R}E\) です。
直列接続の場合と比較すると、流れる電流や端子電圧の特性が異なります。例えば、外部抵抗 \(R\) が内部抵抗 \(r\) に比べて非常に小さい場合 (\(R \ll r\))、並列では端子電圧は \(E (2R/r)\) となり、これは \(R\) が小さいと非常に小さくなります。一方、直列の場合は \(E(R/2r)\) となり、やはり小さいですが、電流の供給能力という点では並列の方が有利な場合があります(電池の消耗を抑えつつ大電流を流したい場合など)。逆に \(R \gg r\) の場合、どちらの接続でも端子電圧はほぼ \(E\) に近づきます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電池の端子電圧: \(V = E – Ir\)。電池から電流を取り出すとき、内部抵抗によって電圧が降下する。
- 電池の直列接続: 起電力は和、内部抵抗も和。電流は各電池で共通。
- 電池の並列接続 (同一電池): 端子電圧は共通。各電池が分担して電流を供給する。キルヒホッフの法則が有効。
- オームの法則: 回路全体、または回路の一部に対して適用できる普遍的な法則。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 異なる起電力・内部抵抗を持つ電池の直列・並列接続。
- 複数の抵抗が複雑に接続された回路における各部の電流・電圧。
- 最大電力を取り出すための外部抵抗の条件(整合条件)。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 回路の接続形態の正確な把握: 電池や抵抗が直列か並列か、どこが分岐・合流点かを図から読み取る。
- 電流の設定: 未知の電流を文字で置き、キルヒホッフの第1法則(電流則)を考慮して、独立な電流の数を最小限にする。
- 閉ループの選択: キルヒホッフの第2法則(電圧則)を適用する閉ループを適切に選ぶ。未知数と同じ数の独立な方程式を立てる必要がある。
- 端子電圧の定義の再確認: どの部分の電位差を端子電圧として問われているかを明確にする。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 直列と並列の内部抵抗の扱いの混同: 直列なら和、並列なら逆数和の逆数(同一なら\(r/n\))。
- 対策: 基本的な合成抵抗の公式を正確に覚えておく。
- 並列接続時の電流: 各電池から流れる電流と、外部抵抗を流れる電流の関係を誤る。
- 対策: 電流則を意識し、図に電流を書き込んで考える。
- 端子電圧の計算での \(I\) の取り違い: 電池1個の端子電圧を計算する際に、その電池自身を流れる電流を用いる必要がある。
- 対策: 常にどの部分の電流・電圧を考えているのかを明確にする。
- キルヒホッフの法則の符号のミス: 起電力の向き、電圧降下の向きを間違えて式を立てる。
- 対策: 電流の向きを仮定し、それに従って電位の上がり下がりを丁寧に追う。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象のイメージ化:
- 電池の直列: ポンプを直列につなぎ、より高い位置へ水を押し上げる(起電力増大)が、ポンプ自身の抵抗も増えるイメージ。
- 電池の並列: 同じ高さのポンプを並列につなぎ、より多くの水を流せるようにする(電流供給能力増大、電池の消耗分散)イメージ。
- 内部抵抗: ポンプ内部の摩擦や水路の細さによる圧力損失(電圧降下)のイメージ。
- 端子電圧: ポンプの出口で実際に得られる水圧(電圧)のイメージ。
- 図示の有効性:
- 回路図に電流の向きと大きさを仮定して書き込む。
- キルヒホッフの電圧則を適用するループを色分けするなどして明示する。
- 各点の電位を想定して書き込む(特に接地点を0Vとして)。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(E_{\text{全}}=2E, r_{\text{全}}=2r\) (直列時): 電位差と抵抗が直線上(一筆書き)に加算されていくことから。
- キルヒホッフの法則 (並列時): 電流の分岐・合流があり、単純な合成起電力・合成内部抵抗の考え方が複雑になるため、より基本的な電流則・電圧則に立ち返る。
- \(V_{\text{端子}} = E – Ir\): 電池内部でのエネルギー消費(電圧降下)を考慮した、電池が外部に供給できる実際の電位差の表現。起電力という「理想的な能力」から「内部損失」を引いたもの。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 直列接続:
- 回路全体の起電力 \(E_{\text{全}}\) と内部抵抗 \(r_{\text{全}}\) を求める。
- 回路全体にオームの法則を適用し、電流 \(I\) を求める: \(I = E_{\text{全}} / (R + r_{\text{全}})\)。
- 電池1個の端子電圧を \(V = E – Ir\) で計算する。
- (2) 並列接続:
- 1つの電池から流れる電流を \(I_1\) とし、外部抵抗 \(R\) を流れる電流を \(2I_1\) と設定する。
- 1つの電池を含む閉ループにキルヒホッフの電圧則を適用し、\(I_1\) についての方程式を立てる: \(E = I_1 r + (2I_1)R\)。
- \(I_1\) を解く。
- 電池1個の端子電圧を \(V = E – I_1 r\) で計算する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の整理: \(E, r, R, I, I_1\) など、多くの記号が出てくるので、それぞれの意味を明確に区別する。
- 分数の計算: 通分や約分を丁寧に行う。特に端子電圧の最終的な整理の際に注意。
- 代入の正確性: あるステップで求めた電流 \(I\) や \(I_1\) を、次のステップの式に正確に代入する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な意味の確認:
- 端子電圧が起電力 \(E\) を超えないこと(通常の電池の使用時)。\(E\) より小さくなるのは内部抵抗による電圧降下のため。
- 外部抵抗 \(R\) が非常に大きい場合(開放に近い)、電流はほとんど流れず、端子電圧はほぼ \(E\) になるはず。式がそうなっているか確認。
- 外部抵抗 \(R\) が非常に小さい場合(短絡に近い)、大きな電流が流れ、端子電圧は0に近づくはず。
- 両極端なケースでの比較:
- 例えば、内部抵抗 \(r\) がゼロの理想的な電池なら、端子電圧は常に \(E\) となるはず。式がそうなっているか確認。
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