問題111 (防衛大+センター試験)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、3枚の導体板P₁, Pᴍ, P₂を平行に配置したコンデンサー系を扱います。まずスイッチSを閉じて中間の導体板Pᴍに電位を与え、そのときのP₂の電荷が与えられています。その後、スイッチを開いてPᴍを動かしたときのPᴍの電位やP₁の電荷を求める問題です。電荷保存則やコンデンサーの基本性質を理解しているかが問われます。
- 導体板P₁, Pᴍ, P₂: 面積は等しい(面積をSとする)。平行に配置。
- 初期配置 (図1): P₁とPᴍの間隔は \(a\)、PᴍとP₂の間隔も \(a\)。P₁とP₂は接地(電位0)。
- 初期操作: スイッチSを閉じ、Pᴍの電位を \(V_0\) にする。このときP₂の電荷は \(-Q_0\) であった。
- 次の操作 (図2): スイッチSを切り(開いて)、PᴍをP₂の方へ平行に \(x\) (\(x<a\)) だけ移動する。
- 移動後の間隔: P₁-Pᴍ間は \(a+x\)、Pᴍ-P₂間は \(a-x\)。
- (1) 初期の操作(Sを閉じ、Pᴍの電位を\(V_0\)にしたとき)のPᴍ全体の電荷。
- (2) スイッチを切り、Pᴍを移動させた後のPᴍの電位。
- (3) スイッチを切り、Pᴍを移動させた後のP₁の電荷。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(2) Pᴍの電位の別解: 極板電荷の公式を用いる解法
- 主たる解法が、Pᴍの左右の面に蓄えられる電荷の和として総電荷を考えるのに対し、別解では「極板上の電気量 = C × (その極板の電位 – 向かい合う極板の電位)」という関係式を各面について立て、それらの和が保存される総電荷に等しいとして立式します。これは本質的に同じ物理法則を表しますが、より公式的に解くアプローチです。
- 問(2) Pᴍの電位の別解: 極板電荷の公式を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 解法の体系化: 別解で用いる公式は、複数の導体で構成されるコンデンサー系において、各極板の電荷を機械的に計算できる汎用性の高い手法です。このアプローチを学ぶことで、より複雑な問題にも対応できる応用力が養われます。
- 物理モデルの比較: 2つの解法を比較することで、同じ物理現象(電荷保存)が、異なる数学的表現(左右の面の電荷の和 vs 公式の適用)で記述できることを理解し、物理モデルへの洞察が深まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題は、3枚の導体板で構成されたコンデンサー系を扱います。スイッチ操作によって変化する系の状態を、コンデンサーの基本法則と電荷保存則を用いて解析することがテーマです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 平行平板コンデンサーの電気容量: \(C = \epsilon_0 S/d_{\text{gap}}\) (\(\epsilon_0\)は真空の誘電率、\(S\) は極板面積、\(d_{\text{gap}}\) は極板間隔)。
- コンデンサーの基本式: \(Q = CV\)。
- 導体の性質: 導体は等電位であり、導体内部に電場はありません。
- 電荷保存則: 電気的に孤立した導体の総電荷は保存されます。
- 重ね合わせの考え方: PᴍがP₁およびP₂とそれぞれ形成するコンデンサーに蓄えられる電荷の総和がPᴍ全体の電荷となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、初期状態(図1)において、各導体板の電位を確定させ、P₁Pᴍ間とPᴍP₂間をそれぞれ独立したコンデンサーと見なして、Pᴍの各面に蓄えられる電荷を計算し、その総和を求めます。
- 次に、スイッチを開いてPᴍを移動させた後(図2)の状態を考えます。Pᴍは電気的に孤立するため、(1)で求めた総電荷が保存されることを利用します。
- 移動によって変化した新しい容量と、未知数であるPᴍの電位を用いて各面の電荷を表し、電荷保存則の式を立ててPᴍの電位を求めます。
- 最後に、求めたPᴍの電位を使って、P₁の電荷を計算します。
(1)
思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じると、Pᴍの電位は \(V_0\) になり、P₁とP₂は接地されているので電位は \(0\text{V}\) です。
このとき、PᴍはP₁との間でコンデンサー(P₁Pᴍ間コンデンサー)を形成し、同様にP₂との間でもコンデンサー(PᴍP₂間コンデンサー)を形成します。
PᴍのP₁側の面とP₂側の面にそれぞれ電荷が蓄えられます。
P₂の電荷が \(-Q_0\) と与えられていることから、まずPᴍP₂間コンデンサーについて考察し、\(Q_0\) と初期容量、電位差の関係を導きます。 次に、P₁Pᴍ間コンデンサーはPᴍP₂間と全く同じ条件であるため、同様に電荷を計算し、Pᴍ全体の電荷を求めます。
この設問における重要なポイント
- P₁, P₂が接地されているため、\(V_{P1}=0, V_{P2}=0\)。
- Pᴍの電位が \(V_0\)。
- P₁Pᴍ間とPᴍP₂間はそれぞれコンデンサーを形成し、かかる電位差はともに \(V_0\)。
- P₂の電荷が \(-Q_0\) であることから、PᴍのP₂側の面の電荷が \(+Q_0\) であるとわかる。
具体的な解説と立式
初期状態(スイッチSを閉じ、Pᴍの電位を\(V_0\)にしたとき)を考えます。
P₁の電位 \(V_{P1} = 0\)、P₂の電位 \(V_{P2} = 0\)、Pᴍの電位 \(V_{Pᴍ} = V_0\) です。
この系は、P₁とPᴍの間のコンデンサーと、PᴍとP₂の間のコンデンサーの2つから構成されていると見なせます。
まず、PᴍとP₂の間のコンデンサーを考えます。
極板間隔が \(a\)、極板面積を \(S\) とすると、この部分の電気容量を \(C_0\) と置くことができます。
$$
\begin{aligned}
C_0 &= \frac{\epsilon_0 S}{a}
\end{aligned}
$$
このコンデンサーにかかる電位差は \(V_{Pᴍ} – V_{P2} = V_0 – 0 = V_0\) です。
問題文より、P₂の電荷は \(-Q_0\) です。コンデンサーでは対向する極板に異符号で同じ大きさの電荷が蓄えられるため、PᴍのP₂に面した側の極板の電荷 \(Q_{ᴍ右}\) は \(+Q_0\) となります。
コンデンサーの基本式 \(Q=CV\) より、
$$
\begin{aligned}
Q_0 &= C_0 V_0 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
次に、PᴍとP₁の間のコンデンサーを考えます。
この部分も、極板間隔が \(a\)、極板面積が \(S\) なので、電気容量は同じく \(C_0\) です。
かかる電位差も \(V_{Pᴍ} – V_{P1} = V_0 – 0 = V_0\) です。
したがって、PᴍのP₁に面した側の極板の電荷 \(Q_{ᴍ左}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_{ᴍ左} &= C_0 V_0 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
Pᴍ全体の電荷 \(Q_ᴍ\) は、Pᴍの左右両面の電荷の和なので、
$$
\begin{aligned}
Q_ᴍ &= Q_{ᴍ左} + Q_{ᴍ右} \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- コンデンサーの基本式: \(Q = CV\)
- 平行平板コンデンサーの電気容量: \(C_0 = \epsilon_0 S/a\)
式①および式②より、\(Q_{ᴍ左} = C_0 V_0\) かつ \(Q_{ᴍ右} = Q_0\) です。式①から \(C_0 V_0 = Q_0\) なので、\(Q_{ᴍ左} = Q_0\) となります。
これらを式③に代入すると、Pᴍ全体の電荷 \(Q_ᴍ\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_ᴍ &= Q_0 + Q_0 \\[2.0ex]
&= 2Q_0
\end{aligned}
$$
- P₁とP₂はアースされて0V、Pᴍはスイッチで\(V_0\)の電圧になっています。
- PᴍとP₂の間は、電圧\(V_0\)のコンデンサーです。P₂に\(-Q_0\)の電気がたまったので、PᴍのP₂側の面には\(+Q_0\)の電気がたまります。
- PᴍとP₁の間も、全く同じ条件(同じ間隔、同じ面積、同じ電圧\(V_0\))のコンデンサーです。なので、PᴍのP₁側の面にも同じように\(+Q_0\)の電気がたまります。
- したがって、Pᴍ全体では、P₁側の面とP₂側の面の電気を合わせて \(Q_0 + Q_0 = 2Q_0\) の電気がたまります。
Pᴍ全体の電荷は \(2Q_0\) です。Pᴍは左右それぞれにコンデンサーを形成し、それぞれに \(Q_0\) の電荷が蓄えられる(Pᴍ側が正)と考えることができます。
(2)
思考の道筋とポイント
スイッチSを切ると、Pᴍは電気的に孤立します。したがって、Pᴍ全体の電荷 \(2Q_0\) (問(1)の結果) は保存されます。
PᴍをP₂の方へ \(x\) だけ移動させると、P₁-Pᴍ間とPᴍ-P₂間の距離が変わり、それぞれの電気容量も変化します。
新しい電気容量を \(C_1\) (P₁-Pᴍ間) と \(C_2\) (Pᴍ-P₂間) とし、移動後のPᴍの電位を \(V_ᴍ\) とします。P₁とP₂は接地されたままなので電位は \(0\text{V}\) です。
Pᴍの左右の面に蓄えられる電荷の和が \(2Q_0\) に等しいという電荷保存則の式を立てて、\(V_ᴍ\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- スイッチを切るとPᴍは孤立し、その総電荷 \(2Q_0\) が保存される。
- Pᴍ移動後の各部分コンデンサーの容量 \(C_1, C_2\) を正しく計算する。
- P₁とP₂の電位は \(0\text{V}\) のまま。
- Pᴍの電位を \(V_ᴍ\) とし、各部分コンデンサーの電荷を \(V_ᴍ\) で表し、電荷保存の式を立てる。
具体的な解説と立式
スイッチSを切った後、Pᴍ全体の電荷 \(Q_ᴍ = 2Q_0\) は保存されます。
PᴍをP₂の方へ \(x\) だけ移動させると、各部の間隔と電気容量は以下のように変化します。
- P₁-Pᴍ間:間隔 \(d_1 = a+x\)。電気容量 \(C_1 = \epsilon_0 S / (a+x)\)。
- Pᴍ-P₂間:間隔 \(d_2 = a-x\)。電気容量 \(C_2 = \epsilon_0 S / (a-x)\)。
移動後のPᴍの電位を \(V_ᴍ\) とします。P₁とP₂の電位は \(0\text{V}\) です。
PᴍのP₁側の面に蓄えられる電荷 \(Q_1\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_1 &= C_1 (V_ᴍ – 0) = C_1 V_ᴍ
\end{aligned}
$$
PᴍのP₂側の面に蓄えられる電荷 \(Q_2\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_2 &= C_2 (V_ᴍ – 0) = C_2 V_ᴍ
\end{aligned}
$$
Pᴍ全体の電荷保存より、
$$
\begin{aligned}
Q_1 + Q_2 &= 2Q_0
\end{aligned}
$$
ここで、初期の容量 \(C_0 = \epsilon_0 S/a\) と、問(1)の関係式 \(Q_0 = C_0 V_0\) を利用して、\(V_ᴍ\) を \(V_0\) で表します。
使用した物理公式
- 平行平板コンデンサーの電気容量: \(C = \epsilon_0 S/d_{\text{gap}}\)
- コンデンサーの基本式: \(Q = CV\)
- 電荷保存則
電荷保存の式に、各電荷の表式を代入します。
$$
\begin{aligned}
C_1 V_ᴍ + C_2 V_ᴍ &= 2Q_0 \\[2.0ex]
V_ᴍ (C_1 + C_2) &= 2Q_0
\end{aligned}
$$
ここで、\(C_1 = \displaystyle\frac{\epsilon_0 S}{a+x}\) と \(C_2 = \displaystyle\frac{\epsilon_0 S}{a-x}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
V_ᴍ \left( \frac{\epsilon_0 S}{a+x} + \frac{\epsilon_0 S}{a-x} \right) &= 2Q_0 \\[2.0ex]
V_ᴍ \epsilon_0 S \left( \frac{1}{a+x} + \frac{1}{a-x} \right) &= 2Q_0
\end{aligned}
$$
括弧内を通分すると、\(\displaystyle\frac{(a-x) + (a+x)}{(a+x)(a-x)} = \frac{2a}{a^2-x^2}\)。
$$
\begin{aligned}
V_ᴍ \epsilon_0 S \frac{2a}{a^2-x^2} &= 2Q_0
\end{aligned}
$$
ここで、\(C_0 = \epsilon_0 S/a\) より \(\epsilon_0 S = C_0 a\) と、\(Q_0 = C_0 V_0\) を用いて変形します。
$$
\begin{aligned}
V_ᴍ (C_0 a) \frac{2a}{a^2-x^2} &= 2(C_0 V_0)
\end{aligned}
$$
両辺の \(2C_0\) を消去すると、
$$
\begin{aligned}
V_ᴍ \frac{a^2}{a^2-x^2} &= V_0
\end{aligned}
$$
よって、Pᴍの電位 \(V_ᴍ\) は、
$$
\begin{aligned}
V_ᴍ &= V_0 \frac{a^2-x^2}{a^2}
\end{aligned}
$$
- スイッチを切ると、Pᴍにたまっていた電気の総量 \(2Q_0\) は逃げ場がないので変わりません。
- Pᴍを動かすと、P₁との間の距離は \(a+x\)、P₂との間の距離は \(a-x\) に変わります。距離が変わるので、それぞれの部分のコンデンサーの容量 \(C_1, C_2\) も変わります。
- 動いた後のPᴍの電圧を \(V_ᴍ\) とします。P₁とP₂はアースされているので0Vのままです。
- PᴍのP₁側の面の電気は \(Q_1 = C_1 V_ᴍ\)、P₂側の面の電気は \(Q_2 = C_2 V_ᴍ\) となります。
- Pᴍ全体の電気の量は変わらないので、\(Q_1 + Q_2 = 2Q_0\) です。
- この式に \(C_1, C_2\) を代入し、さらに \(Q_0 = (\epsilon_0 S/a)V_0\) の関係を使って整理すると、\(V_ᴍ = V_0 \displaystyle\frac{a^2-x^2}{a^2}\) が求まります。
Pᴍの電位は \(V_0 \displaystyle\frac{a^2-x^2}{a^2}\) です。
\(x=0\) のとき(移動前)は \(V_ᴍ = V_0 \displaystyle\frac{a^2}{a^2} = V_0\) となり、初期状態と一致します。
\(x\) が増加すると \(a^2-x^2\) は減少するので、\(V_ᴍ\) は \(V_0\) より小さくなります。
思考の道筋とポイント
孤立した導体Pᴍの総電荷が保存されることを、より公式的なアプローチで立式します。「極板上の電気量 = C × (その極板の電位 – 向かい合う極板の電位)」という関係を、Pᴍの左右の面それぞれに適用し、その和が保存される総電荷 \(2Q_0\) に等しいとします。
この設問における重要なポイント
- Pᴍの総電荷 \(2Q_0\) が保存される。
- Pᴍの左面の電荷は \(C_1(V_ᴍ – V_{P1})\)。
- Pᴍの右面の電荷は \(C_2(V_ᴍ – V_{P2})\)。
- これらの和が \(2Q_0\) に等しいという式を立てる。
具体的な解説と立式
移動後のPᴍの電位を \(V_ᴍ\)、P₁とP₂の電位を \(0\text{V}\) とします。
Pᴍの左面(P₁対向面)の電荷 \(Q_1\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_1 &= C_1 (V_ᴍ – 0)
\end{aligned}
$$
Pᴍの右面(P₂対向面)の電荷 \(Q_2\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_2 &= C_2 (V_ᴍ – 0)
\end{aligned}
$$
Pᴍの総電荷は保存されるので、
$$
\begin{aligned}
C_1(V_ᴍ – 0) + C_2(V_ᴍ – 0) &= 2Q_0
\end{aligned}
$$
この式は、主たる解法の電荷保存の式と全く同じ形になります。
使用した物理公式
- 極板電荷の公式: \(Q_{\text{極板}} = C(V_{\text{自}} – V_{\text{対向}})\)
- 電荷保存則
主たる解法と同様の計算を経て、
$$
\begin{aligned}
V_ᴍ &= V_0 \frac{a^2-x^2}{a^2}
\end{aligned}
$$
が得られます。
Pᴍ全体の電気の量 \(2Q_0\) が保たれる、というルールを式で表します。Pᴍの左側の面にたまる電気と、右側の面にたまる電気の合計が \(2Q_0\) になる、という式を立てます。それぞれの面の電気の量は「容量×電圧差」で計算できるので、これを解くとPᴍの電圧が求まります。
結果は主たる解法と完全に一致します。このアプローチは、各面の電荷を電位を用いて体系的に表現するのに役立ちます。
(3)
思考の道筋とポイント
Pᴍを移動させた後のP₁の電荷を求めます。Pᴍの電位 \(V_ᴍ\) は問(2)で求めました。P₁Pᴍ間のコンデンサーの容量 \(C_1\) も分かっています。P₁の電位は \(0\text{V}\) です。
P₁の極板に蓄えられる電荷は、PᴍのP₁側の面に蓄えられる電荷 \(Q_1\) と絶対値が等しく符号が逆になります。\(Q_1 = C_1 V_ᴍ\) を計算し、P₁の電荷を求めます。
この設問における重要なポイント
- P₁の電位は \(0\text{V}\)。
- Pᴍの電位 \(V_ᴍ\) は問(2)の結果を用いる。
- P₁Pᴍ間の容量 \(C_1 = \epsilon_0 S / (a+x)\) を用いる。
- P₁の電荷は、PᴍのP₁側対向面の電荷と逆符号で等しい。
具体的な解説と立式
Pᴍを移動させた後のPᴍのP₁側の面に蓄えられる電荷 \(Q_1\) は、\(Q_1 = C_1 V_ᴍ\) です。
P₁の電荷 \(Q_{P1}\) はこれと逆符号で大きさが等しいので、
$$
\begin{aligned}
Q_{P1} &= -Q_1 = -C_1 V_ᴍ
\end{aligned}
$$
ここに、\(C_1 = \displaystyle\frac{\epsilon_0 S}{a+x}\) と、問(2)で求めた \(V_ᴍ = V_0 \displaystyle\frac{a^2-x^2}{a^2}\) を代入します。
また、初期の関係式 \(Q_0 = C_0 V_0 = (\epsilon_0 S/a)V_0\) を用いて、結果を \(Q_0\) で表します。
使用した物理公式
- コンデンサーの基本式: \(Q = CV\)
- 平行平板コンデンサーの電気容量
P₁の電荷の式に、\(C_1\) と \(V_ᴍ\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q_{P1} &= – \left( \frac{\epsilon_0 S}{a+x} \right) \left( V_0 \frac{a^2-x^2}{a^2} \right)
\end{aligned}
$$
ここで、\(a^2-x^2 = (a-x)(a+x)\) を用いて変形します。
$$
\begin{aligned}
Q_{P1} &= – \frac{\epsilon_0 S}{a+x} V_0 \frac{(a-x)(a+x)}{a^2} \\[2.0ex]
&= – \frac{\epsilon_0 S (a-x) V_0}{a^2}
\end{aligned}
$$
さらに、\(\epsilon_0 S = C_0 a\) と \(C_0 V_0 = Q_0\) を用いて \(Q_0\) で表します。
$$
\begin{aligned}
Q_{P1} &= – \frac{(C_0 a)(a-x)V_0}{a^2} \\[2.0ex]
&= – \frac{C_0 (a-x) V_0}{a} \\[2.0ex]
&= – \frac{a-x}{a} (C_0 V_0) \\[2.0ex]
&= – \frac{a-x}{a} Q_0
\end{aligned}
$$
- Pᴍを動かした後のPᴍの電圧 \(V_ᴍ\) は(2)で求めました。
- P₁とPᴍの間のコンデンサーの容量 \(C_1\) は \(\displaystyle\frac{\epsilon_0 S}{a+x}\) です。
- PᴍのP₁側の面にたまる電気 \(Q_1\) は \(C_1 V_ᴍ\) で計算できます。
- P₁の面にたまる電気は、この \(Q_1\) と反対の符号で同じ大きさなので、\(-Q_1\) となります。
- これらを代入して計算し、\(Q_0\) を使って表すと、\(- \displaystyle\frac{a-x}{a} Q_0\) となります。
P₁の電荷は \(- \displaystyle\frac{a-x}{a} Q_0\) です。
\(x=0\) のとき(移動前)は \(Q_{P1} = – \displaystyle\frac{a}{a} Q_0 = -Q_0\) となり、初期状態のP₁の電荷(PᴍのP₁側の電荷 \(+Q_0\) に対するもの)と一致します。
\(x \rightarrow a\) の極限では、P₁-Pᴍ間隔が \(2a\) となり、Pᴍ-P₂間隔が \(0\) に近づきます。このとき \(Q_{P1} \rightarrow 0\) となります。これは、PᴍがP₂に非常に近づくと、Pᴍの電荷のほとんどがP₂側との相互作用で決まるようになるためと考えられます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーの基本性質と重ね合わせ:
- 核心: 3枚の導体板で構成される系を、2つの独立したコンデンサー(P₁Pᴍ間とPᴍP₂間)の組み合わせとしてモデル化できることが、この問題の出発点です。
- 理解のポイント:
- コンデンサーの形成: 電位差のある対向する導体面は、それぞれコンデンサーとして機能します。
- 容量の計算: 各部分コンデンサーの容量は、平行平板コンデンサーの公式 \(C = \epsilon_0 S/d\) で計算できます。
- 電荷の重ね合わせ: 導体板Pᴍ全体の電荷は、P₁側の面に蓄えられる電荷と、P₂側の面に蓄えられる電荷の和として求められます。
- 電荷保存則:
- 核心: スイッチを開いて導体(この場合はPᴍ)を電気的に孤立させると、その導体が持つ総電荷は、その後の操作(位置の変化など)によらず一定に保たれます。
- 理解のポイント: 問(2)や問(3)のように、スイッチを開いた後に系の状態を変化させる問題では、この法則が新しい状態を決定するための最も重要な制約条件となります。未知の電位を求めるための方程式を立てる上で不可欠です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 多層コンデンサー: 複数の平行な導体板を交互に接続したコンデンサー。各空間を個別のコンデンサーとみなし、それらの直列・並列接続として解析します。
- コンデンサーの極板を動かす問題: スイッチを開いて電荷を保存させた状態で極板を動かし、電位やエネルギーの変化、必要な仕事などを問う問題。
- 誘電体を挿入する問題: 導体板の移動の代わりに誘電体を挿入する場合も、容量が変化するという点で本質は同じです。
- 初見の問題での着眼点:
- 電位の基準と固定点の特定: まず接地点(電位\(0\text{V}\))を確認する。電池やスイッチによって電位が固定される導体板はどこか。
- 孤立導体の特定: スイッチ操作などで孤立する導体があれば、その電荷保存則が利用できないか検討する。
- コンデンサー部分の分割: 複雑に見える配置でも、対向する導体面を一つのコンデンサーと見なし、それらが直列か並列か(あるいはより複雑な接続か)を判断する。本問ではPᴍを挟んで2つのコンデンサーが形成されると考える。
- 変数の設定: 未知の電位や電荷を文字で置き、関係式を立てて連立方程式を解く。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電荷の正負の扱い:
- 誤解: コンデンサーのどちらの極板に正電荷、負電荷が分布するか、また問われているのが「導体全体の電荷」なのか「特定の面の電荷」なのかを正確に把握しない。
- 対策: 電位の高い方から低い方へ電場が生じることを意識し、電場に面した導体表面の電荷の符号を判断する。
- 電荷保存の対象:
- 誤解: Pᴍ全体の電荷が保存されるのであり、Pᴍの片面だけの電荷が保存されるわけではないと誤解する。
- 対策: 孤立した「導体全体」の総電荷が保存されると理解する。
- 容量計算時の間隔の誤り:
- 誤解: Pᴍを動かした後のP₁-Pᴍ間、Pᴍ-P₂間の距離を正しく設定できない。
- 対策: 図を丁寧に描き、距離の変化を正確に追う。Pᴍが\(x\)動くと、一方の間隔は\(x\)増え、もう一方は\(x\)減ることを確認する。
- 文字計算の煩雑さによるミス:
- 誤解: \(a, x, C_0, V_0, Q_0\) など多くの文字が出てくるため、式変形の過程で混乱しやすい。
- 対策: 一つ一つのステップを丁寧に行い、必要なら既知の関係式(例: \(Q_0 = C_0 V_0\))を使って適宜文字を置き換えるなどして式を簡潔に保つ工夫をする。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(C = \epsilon_0 S/d_{\text{gap}}\) (平行平板コンデンサーの容量):
- 選定理由: 導体板の幾何学的配置(面積、間隔)から、その部分が持つ「電荷を蓄える能力」を定量化するための基本公式だからです。
- 適用根拠: 問題の系が、平行な導体板の間に一様な電場が形成される、理想的な平行平板コンデンサーと見なせる物理的状況だからです。
- \(Q=CV\) (コンデンサーの基本式):
- 選定理由: あるコンデンサー(またはその部分)に着目したとき、その容量と両端の電位差から蓄えられている電荷を求めるための最も基本的な関係式だからです。
- 適用根拠: 電位差が与えられた導体間に電荷が蓄えられるという、コンデンサーの基本的な物理現象を記述するためです。
- 電荷保存則:
- 選定理由: スイッチを切ることでPᴍが外部回路から電気的に切り離され、その後の状態変化を規定する物理的制約条件が必要になるためです。
- 適用根拠: 外部との間に電荷の通り道がないため、導体Pᴍが持つ電荷の総量は増えも減りもしないという、物理学の基本法則が成り立つ状況だからです。これにより、未知数(移動後のPᴍの電位)を決定するための方程式が得られます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 容量の変数表現:
- 特に注意すべき点: \(C_1, C_2\) を \(a, x, C_0\) などを用いて正しく表すことが計算の第一歩です。特に分母と分子を間違えないように注意が必要です。
- 日頃の練習: 複雑な設定の問題でも、まずは各部分の容量を正確に文字式で表現する練習を繰り返す。
- 通分計算:
- 特に注意すべき点: 問(2)で \(C_1+C_2\) を計算する際など、複雑な分数の通分が出てきます。焦らず、共通の分母を見つけて丁寧に計算することが求められます。
- 日頃の練習: 物理の問題だけでなく、数学の計算練習として、文字式を含む分数計算に慣れておく。
- 文字の代入タイミング:
- 特に注意すべき点: 適切なタイミングで \(Q_0 = C_0 V_0\) や \(C_0 = \epsilon_0 S/a\) の関係を用いて式を整理すると、見通しが良くなることがあります。最後まで複雑な式のまま計算しない工夫も大切です。
- 日頃の練習: 複数の解法を試す中で、どのタイミングでどの関係式を代入すると計算が楽になるか、自分なりのスタイルを見つける。
- 符号の確認:
- 特に注意すべき点: 特に(3)でP₁の電荷を求める際、Pᴍの面電荷との符号関係に注意が必要です。電位の高い極板に対向する極板には負の電荷が誘導されます。
- 日頃の練習: 図に電位の高低と電荷の符号(+, -)を書き込む癖をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) Pᴍの電位: \(x\) が大きくなる(PᴍがP₂に近づき、P₁から遠ざかる)と、\(a^2-x^2\) は小さくなり、\(V_ᴍ\) は \(V_0\) より小さくなります。これは、容量の大きい方(Pᴍ-P₂間)に電荷がより多く引き寄せられるため、全体の電位が下がるという直感と合うか検討します(電荷一定で合成容量が変化するため、電位も変化する)。
- (3) P₁の電荷: \(x=0\) のとき \(Q_{P1} = -Q_0\) となり、初期状態と一致することを確認します。また、\(x \rightarrow a\) の極限では、P₁-Pᴍ間隔が \(2a\) となり、Pᴍ-P₂間隔が \(0\) に近づきます。このとき \(Q_{P1} \rightarrow 0\) となります。これは、PᴍがP₂に非常に近づくと、Pᴍの電荷のほとんどがP₂側との相互作用で決まるようになるため、物理的に妥当な結果です。
- 単位の確認:
- 計算結果の単位が正しい物理量になっているか常に意識します(電荷ならクーロン[C]、電位ならボルト[V])。この問題は比で答える部分が多いですが、基本的な単位の感覚は重要です。
問題112 (九州産大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、導体中の自由電子の運動モデル(ドリフトモデル)に基づいて、オームの法則や電気抵抗、抵抗率の表式を導出するものです。電場と電位の関係、電場から受ける力、抵抗力とのつり合い、電流の定義といった基本的な物理法則を順を追って適用していきます。
- 導体: 断面積 \(S \text{ [m}^2\text{]}\)、長さ \(l \text{ [m]}\)。
- 自由電子: 電荷 \(-e \text{ [C]}\)(\(e\) は電気素量で正の値)、数密度 \(n \text{ [個/m}^3\text{]}\)。
- 印加電圧: 導体の両端に \(V \text{ [V]}\)。
- 抵抗力: 電子の速さ \(v \text{ [m/s]}\) に比例し、\(kv \text{ [N]}\)(\(k\) は比例定数)。
- (1) 導体内部の一様な電場の強さ \(E\)。
- (2) 1個の自由電子が受ける力の大きさ \(F\)。
- (3) 自由電子の一定の速さ(ドリフト速度) \(v\)。
- (4) 導体を流れる電流 \(I\)。
- (5) 導体の電気抵抗 \(R\)。
- (6) 導体の抵抗率 \(\rho\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。
この問題は、導体中の自由電子の運動モデル(ドリフトモデル)に基づいて、オームの法則や電気抵抗、抵抗率の表式を導出するものです。電場と電位の関係、電場から受ける力、抵抗力とのつり合い、電流の定義といった基本的な物理法則を順を追って適用していきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 一様な電場と電位差の関係: \(V = Ed\) (導体のような一様な太さの物質内で一様な電場が生じている場合、両端の電位差 \(V\)、電場の強さ \(E\)、長さ \(d\) の間にはこの関係が成り立ちます)。
- 電場中の荷電粒子が受ける力: \(F = qE\) (電荷 \(q\) の粒子が電場 \(E\) から受ける力)。
- 力のつり合い: 電子が一定の速さで移動するということは、電子に働く合力が0であることを意味します。
- 電流の定義: \(I = \Delta Q / \Delta t\)。微視的には、\(I = enSv\) (\(e\) は電気素量、\(n\) はキャリア密度、\(S\) は断面積、\(v\) はドリフト速度)。
- オームの法則と電気抵抗・抵抗率: \(V = RI\)、\(R = \rho l/S\)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 導体にかけられた電圧 \(V\) と導体の長さ \(l\) から、内部の電場の強さ \(E\) を求めます。
- 電場 \(E\) から、1個の自由電子が受ける力の大きさ \(F\) を計算します。
- 電子が受ける力と、速さに比例する抵抗力がつり合う条件から、電子の一定の速さ \(v\) を求めます。
- 電子の速さ \(v\) を用いて、導体を流れる電流 \(I\) を微視的なモデルから導出します。
- これまでの結果をまとめてオームの法則 \(V=RI\) の形に整理し、電気抵抗 \(R\) を求めます。
- 最後に、\(R = \rho l/S\) の関係式と比較して、抵抗率 \(\rho\) を求めます。
(1)
思考の道筋とポイント
導体の両端に電圧 \(V\) がかかると、導体内部には電場が生じます。問題文で「一様な電場が生じる」とあるので、電場の強さ \(E\) と導体の長さ \(l\)、電位差 \(V\) の間には \(V=El\) の関係が成り立ちます。
この設問における重要なポイント
- 導体内部の電場は一様であるという条件。
- 一様な電場と電位差、距離の関係式 \(V=Ed\) (この場合は \(V=El\)) を適用する。
具体的な解説と立式
導体の両端に電圧 \(V\) がかかっており、導体の長さは \(l\) です。導体内部には一様な電場 \(E\) が生じるとされているので、電場の強さ \(E\) と電位差 \(V\)、導体の長さ \(l\) の間には次の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
V &= El
\end{aligned}
$$
この式から電場の強さ \(E\) を求めます。
使用した物理公式
- 一様な電場と電位差の関係: \(V = Ed\)
上式の両辺を \(l\) で割ると、電場の強さ \(E\) が求まります。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{V}{l}
\end{aligned}
$$
- 導体に電圧 \(V\) をかけると、その中に電気の坂道(電場)ができます。
- 坂道の全体の高さ(電圧 \(V\))と坂道の長さ(導体の長さ \(l\))が分かっていれば、坂道の傾き(電場の強さ \(E\))は「高さ ÷ 長さ」で \(E = V/l\) と計算できます。
導体内部の電場の強さは \(\displaystyle\frac{V}{l}\) [V/m] です。単位も [V]/[m] となり正しいです。
(2)
思考の道筋とポイント
(1)で求めた電場の強さ \(E\) の中に、電荷 \(-e\) を持つ自由電子が存在します。荷電粒子が電場から受ける力の公式 \(F=|q|E\) を用いて、電子が受ける力の大きさを計算します。
この設問における重要なポイント
- 自由電子の電荷の大きさは \(e\)。
- 電場中の荷電粒子が受ける力の公式 \(F=|q|E\) を適用する。
- (1)で求めた電場の強さ \(E\) を用いる。
具体的な解説と立式
自由電子の電荷の大きさは \(e\) です。この電子が、強さ \(E\) の電場の中に置かれると、電場から力を受けます。その力の大きさ \(F\) は、
$$
\begin{aligned}
F &= eE
\end{aligned}
$$
この式に(1)で求めた \(E\) を代入して \(F\) を求めます。
使用した物理公式
- 電場中の荷電粒子が受ける力: \(F = |q|E\)
(1)で求めた \(E = \displaystyle\frac{V}{l}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= e \left(\frac{V}{l}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{eV}{l}
\end{aligned}
$$
- 電気の坂道(電場 \(E\))の中に電気の粒(電荷 \(e\) の電子)を置くと、坂道を転がり落ちるような力(静電気力 \(F\))を受けます。
- この力の大きさは「電気の量 \(e\) × 坂道の傾き \(E\)」で \(F = eE\) と計算できます。
- (1)で \(E=V/l\) と分かったので、\(F = e(V/l)\) となります。
1個の自由電子が受ける力の大きさは \(\displaystyle\frac{eV}{l}\) [N] です。単位も [C] \(\cdot\) [V/m] = [J/m] = [N] となり正しいです。電子の電荷は負なので、力の向きは電場の向きと逆になります。
(3)
思考の道筋とポイント
自由電子は、電場から力 \(F\) を受けて加速されますが、同時に導体中のイオンなどとの衝突によって速さに比例する抵抗力 \(kv\) を受けます。問題文に「一定の速さ \(v\) で移動する」とあるので、これは電場から受ける力と抵抗力がつり合っている状態(終端速度、ドリフト速度)を指します。力のつり合いの式を立てて、速さ \(v\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 電子が一定の速さで移動するため、合力は0(力のつり合い)。
- 電子に働く力は、電場からの力 \(F\) と抵抗力 \(kv\)。
- 力のつり合いの式を立てる。
具体的な解説と立式
自由電子は一定の速さ \(v\) で移動するため、電子に働く力の合力は \(0\) です。
電子に働く力は、(2)で求めた電場からの力 \(F = \displaystyle\frac{eV}{l}\) と、運動方向と逆向きに働く抵抗力 \(kv\) です。
力のつり合いの式は、これらの力の大きさが等しいとおいて、
$$
\begin{aligned}
(\text{電場からの力}) &= (\text{抵抗力}) \\[2.0ex]
\frac{eV}{l} &= kv
\end{aligned}
$$
この式から速さ \(v\) を求めます。
使用した物理公式
- 力のつり合い(合力=0)
力のつり合いの式の両辺を \(k\) で割ると、速さ \(v\) が求まります。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{eV}{kl}
\end{aligned}
$$
- 電子は電気の坂道(電場)から力を受けて進もうとしますが、導体の中を進むと邪魔(抵抗力)も受けます。
- 電子の速さが一定になるのは、進もうとする力と邪魔する力(抵抗力 \(kv\))がちょうど同じ大きさになったときです。
- (2)で進もうとする力は \(\displaystyle\frac{eV}{l}\) と分かったので、「\(\displaystyle\frac{eV}{l} = kv\)」という式が成り立ちます。
- この式から速さ \(v\) を求めると、\(v = \displaystyle\frac{eV}{kl}\) となります。
自由電子の一定の速さ(ドリフト速度)は \(\displaystyle\frac{eV}{kl}\) [m/s] です。印加電圧\(V\)に比例し、抵抗力の係数\(k\)や導体の長さ\(l\)に反比例することがわかります。
(4)
思考の道筋とポイント
電流 \(I\) は、単位時間あたりに導体の断面を通過する電気量として定義されます。自由電子の数密度 \(n\)、電子1個の電荷の大きさ \(e\)、導体の断面積 \(S\)、電子のドリフト速度 \(v\) を用いて、電流の公式 \(I = enSv\) を適用します。この設問では、電流 \(I\) をこれらの基本的な物理量(特に \(v\) をそのまま用いて)で表すことが求められています。
この設問における重要なポイント
- 電流の微視的定義 \(I=enSv\)。
- 各物理量(\(e, n, S, v\))が何を表すかを理解していること。
- この設問では、\(v\) を(3)で求めた具体的な式で置き換えず、記号 \(v\) のまま用いて \(I\) を表す。
具体的な解説と立式
電流 \(I\) は、導体の断面を単位時間に通過する自由電子の総電荷量です。
自由電子の数密度が \(n \text{ [個/m}^3\text{]}\)、電子の速さが \(v \text{ [m/s]}\)、導体の断面積が \(S \text{ [m}^2\text{]}\)、電子1個の電荷の大きさが \(e \text{ [C]}\) であるとき、電流 \(I\) は次のように表されます。
$$
\begin{aligned}
I &= enSv
\end{aligned}
$$
これが求める電流の式となります。
使用した物理公式
- 電流の定義: \(I = enSv\)
上記立式がそのまま答えとなります。設問は速さ \(v\) を用いて電流 \(I\) を表すことを求めているため、ここで(3)で求めた \(v\) の具体的な式を代入する必要はありません。
- 電流とは、1秒間に導線の断面を通り過ぎる電気の量のことです。
- 電子の速さが \(v\)、導線の断面積が \(S\) なので、1秒間に \(S \times v\) の体積分だけ電子が移動します。
- この体積の中にいる電子の数は、電子の密度 \(n\) を掛けて \(nSv\) 個です。
- 電子1個の電気の大きさが \(e\) なので、通り過ぎる電気の総量は \(e \times nSv\) となります。これが電流 \(I\) です。この問題では、この形で答えます。
導体を流れる電流は \(enSv\) [A] です。この表式は、電流がキャリアの電荷、数密度、断面積、およびドリフト速度にどのように依存するかを直接的に示しています。
(5)
思考の道筋とポイント
オームの法則 \(V=RI\) の関係から、電気抵抗 \(R\) は \(R=V/I\) と表せます。(4)で電流 \(I\) を \(v\) を用いて表し、その \(v\) は(3)で \(V\) を含む形で求まっているので、これらを組み合わせて \(I\) を \(V\) の式で表し、\(R=V/I\) に代入して \(R\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- オームの法則 \(V=RI\)。
- \(R=V/I\) の関係を用いる。
- (4)の \(I=enSv\) と(3)の \(v=eV/(kl)\) を組み合わせて \(I\) を \(V\) で表す。
具体的な解説と立式
オームの法則によれば、電圧 \(V\) と電流 \(I\)、電気抵抗 \(R\) の間には \(V=RI\) の関係があります。
これを \(R\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{V}{I}
\end{aligned}
$$
ここで、(4)の \(I=enSv\) に、(3)で求めた \(v = \displaystyle\frac{eV}{kl}\) を代入して、電流 \(I\) を電圧 \(V\) を用いて表します。
$$
\begin{aligned}
I &= enS \left(\frac{eV}{kl}\right)
\end{aligned}
$$
この \(I\) を抵抗の式に代入して \(R\) を求めます。
使用した物理公式
- オームの法則: \(V=RI\)
- 電流の定義: \(I=enSv\) (および \(v\) の導出結果)
まず、電流 \(I\) を \(V\) で表します。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{e^2nSV}{kl}
\end{aligned}
$$
次に、この \(I\) を \(R = V/I\) に代入します。
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{V}{\frac{e^2nSV}{kl}} \\[2.0ex]
&= V \cdot \frac{kl}{e^2nSV}
\end{aligned}
$$
分子と分母の \(V\) を約分すると、
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{kl}{e^2nS}
\end{aligned}
$$
- 電気抵抗 \(R\) は、オームの法則から「電圧 \(V\) ÷ 電流 \(I\)」で計算できます。
- (4)で電流 \(I\) は \(enSv\) と表され、(3)でその速さ \(v\) は \(\displaystyle\frac{eV}{kl}\) と分かりました。なので、これらを組み合わせると電流 \(I\) は \(\displaystyle\frac{e^2nSV}{kl}\) となります。
- これを \(R = V/I\) の式に入れると、\(R = \displaystyle\frac{kl}{e^2nS}\) となります。
導体の電気抵抗は \(\displaystyle\frac{kl}{e^2nS}\) [Ω] です。抵抗は導体の長さ\(l\)に比例し、断面積\(S\)に反比例することがこの式からもわかります。また、材質によって決まるミクロな量(\(k, e, n\))にも依存します。
(6)
思考の道筋とポイント
電気抵抗 \(R\) と抵抗率 \(\rho\)、導体の長さ \(l\)、断面積 \(S\) の間には \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\) という関係があります。(5)で求めた \(R\) の表式をこの形と比較することで、抵抗率 \(\rho\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 抵抗 \(R\) と抵抗率 \(\rho\) の関係式 \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\)。
- (5)で求めた \(R\) の表式と比較する。
具体的な解説と立式
導体の電気抵抗 \(R\) は、その抵抗率 \(\rho\)、長さ \(l\)、断面積 \(S\) を用いて次のように表されます。
$$
\begin{aligned}
R &= \rho \frac{l}{S}
\end{aligned}
$$
この式と、(5)で得られた \(R = \displaystyle\frac{kl}{e^2nS}\) の表式を比較します。
使用した物理公式
- 抵抗と抵抗率の関係: \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\)
(5)で得られた \(R = \displaystyle\frac{kl}{e^2nS}\) を、\(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\) の形と比較するために書き換えます。
$$
\begin{aligned}
R &= \left(\frac{k}{e^2n}\right) \frac{l}{S}
\end{aligned}
$$
この2つの式を比較すると、抵抗率 \(\rho\) に対応する部分は \(\displaystyle\frac{k}{e^2n}\) であることがわかります。
$$
\begin{aligned}
\rho &= \frac{k}{e^2n}
\end{aligned}
$$
- 電気抵抗 \(R\) は、物質の種類で決まる「抵抗率 \(\rho\)」と、導線の「長さ \(l\)」、「断面積 \(S\)」を使って \(R = \rho \displaystyle\frac{l}{S}\) と表せることが知られています。
- (5)で求めた \(R = \displaystyle\frac{kl}{e^2nS}\) の式を、この形になるように見比べます。
- すると、\(\rho\) に当たる部分が \(\displaystyle\frac{k}{e^2n}\) だと分かります。
導体の抵抗率は \(\displaystyle\frac{k}{e^2n}\) [Ω·m] です。抵抗率は導体の材質によって決まる物性値であり、自由電子の運動を妨げる抵抗力の係数 \(k\)、電気素量 \(e\)、自由電子の数密度 \(n\) といったミクロな物理量で表されることが示されました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電流の微視的モデル(ドリフトモデル):
- 核心: 金属内の自由電子が、電場から受ける力と、イオンとの衝突による抵抗力がつり合うことで、一定の平均速度(ドリフト速度)で移動するというモデルが、この問題全体の根幹をなしています。
- 理解のポイント:
- 力のつり合い: 電子が一定速度で動く \(\Rightarrow\) 加速度ゼロ \(\Rightarrow\) 合力ゼロ。つまり、電場からの力 \(eE\) と抵抗力 \(kv\) がつり合います。
- 電流の正体: 電流とは、このドリフト速度\(v\)で移動する多数の電子(電荷\(-e\), 数密度\(n\))の流れです。その大きさは、単位時間に断面\(S\)を通過する総電荷量として \(I=enSv\) と表されます。
- マクロな物理法則とミクロなモデルの接続:
- 核心: 日常的に使うオームの法則(\(V=RI\))や抵抗率(\(R=\rho l/S\))といったマクロな法則が、電子レベルのミクロな振る舞い(電荷\(e\), 数密度\(n\), 動きにくさ\(k\))からどのようにして導出されるのか、その論理的な繋がりを理解することが重要です。
- 理解のポイント: この問題は、(1)から(6)までを順に解くことで、ミクロな世界の物理法則からマクロな電気抵抗の法則が導かれるプロセスそのものを体験させる構成になっています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 半導体中のキャリア(正孔と電子)の運動: 正孔(電荷\(+e\))と電子(電荷\(-e\))が同時に電流に寄与する場合。それぞれのドリフト速度を計算し、電流を合計する必要があります。
- ホール効果: 電流が流れている導体に磁場をかけると、キャリアがローレンツ力を受けて偏り、導体の側面に電位差が生じる現象。キャリアの電荷の符号や数密度を測定できます。
- 温度による抵抗率の変化: 一般に、金属の温度が上がるとイオンの熱振動が激しくなり、電子の動きを妨げる抵抗力の係数\(k\)が大きくなるため、抵抗率\(\rho\)が増加します。このモデルは、その定性的な説明の基礎となります。
- 初見の問題での着眼点:
- 荷電粒子の運動モデルの確認: 問題文で、荷電粒子にどのような力が働き、どのように運動状態(加速か等速か)が決まるかが記述されています。このモデルを正確に把握することが第一歩です。
- 電流の定義への立ち返り: 電流を問われたら、まず \(I=enSv\) の公式を思い出し、各要素(\(e, n, S, v\))が何かを確認します。特に、ドリフト速度\(v\)が他の条件からどのように決まるかが鍵となります。
- マクロな法則との接続: 最終的にオームの法則や抵抗率を導くことが目的であると見抜ければ、各ステップの計算が何のために行われているのか、全体の流れを意識しながら解き進めることができます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電荷の符号と力の向き・電流の向き:
- 誤解: 電子の電荷が負であることを忘れ、力の向きや運動の向きを電場の向きと同じにしてしまう。また、電流の向きと電子の運動方向が逆であることを混同する。
- 対策: 図を描いて、電場の向き(高電位→低電位)、電子が受ける力の向き(電場と逆)、電子の運動方向(力と同じ)、電流の向き(電子の運動と逆)を一つずつ丁寧に確認する。
- 各文字の意味の混同:
- 誤解: \(n\)(単位体積あたりの個数、数密度)と、導体全体の電子の総数\(N\)を混同する。
- 対策: 問題文で与えられた物理量をリストアップし、それぞれの単位(例: \(n\)は[m⁻³])や意味を正確に確認する。
- 電流 \(I=enSv\) の \(v\) の意味:
- 誤解: この\(v\)を、電子が原子核の周りを回る速さや、ランダムな熱運動の速さと勘違いする。
- 対策: このモデルにおける\(v\)は、あくまで電場によって生じる、一方向への集団的な平均速度(ドリフト速度)であることを理解する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(V=El\) (一様な電場と電位差の関係):
- 選定理由: 導体内部の「電場」を、外部から与えられた「電圧」というマクロな量と結びつけるため。
- 適用根拠: 問題文に「一様な電場が生じる」と明記されており、電位差\(V\)と距離\(l\)が与えられているため、この公式が直接適用できる物理的状況です。
- \(F=eE\) (電場中の荷電粒子が受ける力):
- 選定理由: 電子の運動を議論するための第一歩として、電子がどのような力を受けるかを明らかにするため。
- 適用根拠: 電荷を持つ粒子が電場の中に存在する、という基本的な物理的状況。力の大きさは電荷の大きさと電場の強さに比例するという基本法則です。
- 力のつり合い (\(eE=kv\)):
- 選定理由: 電子の最終的な運動状態(速さ)を決定するため。
- 適用根拠: 問題文に「一定の速さ\(v\)で移動する」と記述されているため。これは、ニュートンの運動法則で加速度がゼロ、つまり電子に働く合力がゼロであることを意味します。
- \(I=enSv\) (電流の微視的表現):
- 選定理由: 「電流」というマクロな量を、電子の集団運動というミクロな視点から表現するため。
- 適用根拠: 電流の定義(単位時間に断面を通過する電荷量)を、キャリア(電子)の数、電荷、速度を用いて計算した結果がこの公式です。
- \(R=V/I\) と \(R=\rho l/S\) (抵抗と抵抗率):
- 選定理由: これまで導出したミクロな物理量(\(k, e, n\))と、マクロな物理量である「電気抵抗\(R\)」および「抵抗率\(\rho\)」を結びつけるため。
- 適用根拠: \(R=V/I\)はオームの法則による抵抗の定義であり、\(R=\rho l/S\)は実験的に確立された、抵抗が物質の種類と形状で決まることを示す関係式です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の整理:
- 特に注意すべき点: この問題のように、多くの物理定数や変数が登場する場合、最終的な答えの形が複雑になりがちです。分数の計算や、文字の約分を慎重に行う必要があります。
- 日頃の練習: 複雑な文字式を扱う問題で、途中式を省略せずに丁寧に書く練習をする。特に、\(R=V/I\)の計算で分数の割り算が出てくる場面は、逆数を掛ける際に間違いやすいため注意する。
- 単位の一貫性:
- 特に注意すべき点: すべての物理量が基本単位(MKSA単位系)で与えられていることを確認する。
- 日頃の練習: 各ステップで得られた物理量の単位が正しいかを確認する習慣をつける。例えば、(6)で求めた抵抗率\(\rho\)の単位が[Ω·m]になるかを、各要素の単位から組み立てて検算してみる。
- 論理の流れの確認:
- 特に注意すべき点: この問題は(1)から(6)までが一直線の論理で繋がっています。途中で計算ミスをすると、それ以降のすべての答えが間違ってしまいます。
- 日頃の練習: 各設問を解き終えるごとに、その答えが次の設問の入力として妥当なものか、物理的な意味を考えながら確認する癖をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (5) 電気抵抗\(R\): \(R = \displaystyle\frac{kl}{e^2nS}\)。この結果は、抵抗が導体の長さ\(l\)に比例し、断面積\(S\)に反比例するという、よく知られた事実と一致しています。これは、式が妥当であることの強い根拠となります。
- (6) 抵抗率\(\rho\): \(\rho = \displaystyle\frac{k}{e^2n}\)。
- 電子の動きにくさ(抵抗力の係数\(k\))が大きいほど、抵抗率\(\rho\)が大きくなるのは直感的です。
- キャリア(電子)の数密度\(n\)が大きいほど、同じ電場でも多くの電荷が運ばれるため、電流が流れやすくなり、抵抗率\(\rho\)は小さくなるはずです。式は\(n\)に反比例しており、妥当です。
- キャリアの電荷\(e\)が大きいほど、同じ速度でも運ばれる電荷量が大きくなるため、電流が流れやすくなり、抵抗率\(\rho\)は小さくなるはずです。式は\(e^2\)に反比例しており、これも妥当です。
- 式の次元解析:
- 各式の両辺の単位(次元)が一致しているかを確認する。例えば、(3)の速さ\(v\)の単位が[m/s]になるかを、\(e, V, k, l\)の単位から組み立てて確認することで、式の妥当性を検証できます。
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問題113 (愛知工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、同じ起電力と内部抵抗を持つ2個の電池を直列または並列に接続し、外部抵抗に電流を流したときの、電池1個の端子電圧をそれぞれ求める問題です。電池の接続方法によって回路全体の電流や各電池にかかる負担がどう変わるかを理解することがポイントとなります。
- 電池: 2個。各電池の起電力は \(E\)、内部抵抗は \(r\)。
- 外部抵抗: 抵抗値 \(R\)。
- (1) 2個の電池を直列につないで抵抗Rに接続したときの、電池1個の端子電圧。
- (2) 2個の電池を並列につないで抵抗Rに接続したときの、両者共通の端子電圧。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(2) 並列接続時の端子電圧の別解: 合成電池とみなす解法
- 主たる解法が、キルヒホッフの法則を用いて回路を直接解析するのに対し、別解ではまず2つの並列電池を「1つの等価な合成電池」と見なします。この合成電池の起電力と内部抵抗を求め、それが外部抵抗\(R\)に接続された単純な回路として解くことで、共通の端子電圧を求めます。
- 問(2) 並列接続時の端子電圧の別解: 合成電池とみなす解法
- 上記の別解が有益である理由
- 解法の一般化: 「合成電池」の考え方は、複数の電池を含む複雑な回路を、より単純な等価回路に置き換えて解析するための強力な手法です。この考え方を学ぶことで、より多様な回路問題に対応できる応用力が養われます。
- 物理モデルの深化: なぜ同一電池の並列接続では起電力が変わらず、内部抵抗が半分になるのかを理解することで、電池の並列接続が持つ物理的な意味(電流供給能力の向上)への洞察が深まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題は、同じ起電力と内部抵抗を持つ2個の電池を直列または並列に接続し、外部抵抗に電流を流したときの、電池1個の端子電圧をそれぞれ求める問題です。電池の接続方法によって回路全体の電流や各電池にかかる負担がどう変わるかを理解することがポイントとなります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電池の直列接続: 全体の起電力は各電池の起電力の和、全体の内部抵抗は各電池の内部抵抗の和。
- 電池の並列接続 (同一電池の場合): 端子電圧は共通。各電池が分担して電流を供給する。
- オームの法則: 回路全体や部分に対して適用 \(V=IR\)。
- 電池の端子電圧: \(V_{\text{端子}} = E – Ir\) (\(E\)は起電力、\(I\)は電池を流れる電流、\(r\)は内部抵抗)。
- キルヒホッフの法則:
- 第1法則(電流則): 回路中の任意の接続点に流入する電流の総和と流出する電流の総和は等しい。
- 第2法則(電圧則): 回路中の任意の閉ループにおいて、起電力の総和と電圧降下の総和は等しい。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)の直列接続では、まず回路全体の合成起電力と合成内部抵抗を求め、回路全体にオームの法則を適用して電流を計算します。その後、電池1個の端子電圧の公式を適用します。
- (2)の並列接続では、キルヒホッフの法則を用いて各電池を流れる電流を求め、その電流値を使って電池1個の端子電圧を計算します。