基本問題
97 壁に立てかけた棒のつりあい
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「摩擦のある床に立てかけた棒のつりあい」です。剛体が静止するための2つの条件(力のつりあい、力のモーメントのつりあい)を正しく適用することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 剛体のつりあいの条件: 物体が静止しているとき、「力のつりあい(合力が0)」と「力のモーメントのつりあい(任意の点のまわりのモーメントの和が0)」が同時に成り立ちます。
- 力のモーメント: 物体を回転させようとする能力のことで、「力の大きさ × 腕の長さ」で計算します。
- 腕の長さ: 回転の中心から、力の作用線(力の向きに沿った直線)へ下ろした垂線の長さです。
- 問題文の条件の読み取り: 「軽い棒」は棒の重さを無視、「なめらかな壁」は壁からの摩擦力を無視、「あらい床」は床からの摩擦力を考慮することを意味します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず棒にはたらく全ての力を図示します。次に、問題の指示に従い、鉛直方向と水平方向の力のつりあいの式、および点Bを回転中心とした力のモーメントのつりあいの式を、それぞれ立てます。
- (2)では、(1)で立てた3つの式を連立方程式として解き、未知の力である\(N_A\), \(N_B\), \(F\)の大きさを求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
棒が静止しているため、剛体のつりあいの条件が成立します。まず、棒にはたらく力をすべて特定し、図に書き込むことが第一歩です。
はたらく力は以下の4つです。
- 壁からの垂直抗力 \(N_A\)(壁に垂直、つまり水平右向き)
- 床からの垂直抗力 \(N_B\)(床に垂直、つまり鉛直上向き)
- 床からの静止摩擦力 \(F\)(棒は壁に沿って滑り落ちようとするので、それを妨げる向き、つまり水平左向き)
- おもりからの張力(鉛直下向き、大きさは重力\(W\)に等しい)
これらの力を用いて、問題で指定された3つのつりあいの式を立てます。特に、力のモーメントを計算する際の「腕の長さ」を、図の幾何学的な関係から正確に求めることが重要です。
この設問における重要なポイント
- 「軽い棒」「なめらかな壁」「あらい床」の条件を正しく力の図示に反映させること。
- 力のモーメントは「力の大きさ × 腕の長さ」であり、腕の長さは回転中心から力の作用線への垂線の距離である。
- 回転の中心(点B)から各力の作用点までの水平距離や鉛直距離を、三角比を用いて正しく計算する。
具体的な解説と立式
棒にはたらく4つの力(\(N_A, N_B, F, W\))について、つりあいの式を立てます。
鉛直方向の力のつりあい
上向きの力は床からの垂直抗力\(N_B\)、下向きの力はおもりの重さ\(W\)です。これらの力の和が0になるので、
$$ N_B – W = 0 $$
水平方向の力のつりあい
右向きの力は壁からの垂直抗力\(N_A\)、左向きの力は床からの摩擦力\(F\)です。これらの力の和が0になるので、
$$ N_A – F = 0 $$
点Bのまわりの力のモーメントのつりあい
回転の中心を点Bとします。点Bにはたらく力\(N_B\)と\(F\)は、腕の長さが0なのでモーメントも0です。したがって、おもりの重さ\(W\)と壁からの垂直抗力\(N_A\)のモーメントを考えます(反時計回りを正とします)。
- 重さ\(W\)によるモーメント:
この力は棒を時計回りに回転させようとするので、モーメントは負です。腕の長さは、点Bから重さ\(W\)の作用線(鉛直線)までの水平距離です。おもりはAから\(\displaystyle\frac{1}{3}l\)の点にあり、Bからの距離は\(l – \displaystyle\frac{1}{3}l = \displaystyle\frac{2}{3}l\)です。腕の長さは \((\displaystyle\frac{2}{3}l) \cos 60^\circ = \displaystyle\frac{2}{3}l \times \displaystyle\frac{1}{2} = \displaystyle\frac{1}{3}l\) となります。モーメントは \(-W \times (\displaystyle\frac{1}{3}l)\) です。 - 垂直抗力\(N_A\)によるモーメント:
この力は棒を反時計回りに回転させようとするので、モーメントは正です。腕の長さは、点Bから垂直抗力\(N_A\)の作用線(Aを通る水平線)までの鉛直距離です。腕の長さは \(l \sin 60^\circ = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}l\) となります。モーメントは \(+N_A \times (\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}l)\) です。
これらのモーメントの和が0になるので、
$$ N_A \times \frac{\sqrt{3}}{2}l – W \times \frac{1}{3}l = 0 $$
使用した物理公式
- 力のつりあい
- 力のモーメントのつりあい
この設問は立式のみを問うているため、計算は不要です。
棒が静止しているということは、「上下の力がつりあっている」「左右の力がつりあっている」「回転しない」という3つのルールが同時に成り立っていることを意味します。
- 上下のつりあい:床が棒を支える力\(N_B\)と、おもりの重さ\(W\)が等しい。
- 左右のつりあい:壁が棒を押す力\(N_A\)と、床が棒を滑らないように支える摩擦力\(F\)が等しい。
- 回転しない(点B周り):壁が棒を押して回そうとする力(反時計回り)と、おもりが棒を回そうとする力(時計回り)が等しい。
これらのルールを数式で表現します。
問題の指示通り、鉛直方向の力のつりあい、水平方向の力のつりあい、点Bのまわりの力のモーメントのつりあいの3つの式を正しく立てることができました。
鉛直方向の力のつりあい: \(N_B – W = 0\)
水平方向の力のつりあい: \(N_A – F = 0\)
点Bのまわりの力のモーメントのつりあい: \(N_A \times \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}l – W \times \displaystyle\frac{1}{3}l = 0\)
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で立てた3つの連立方程式を解いて、未知数である\(N_A\), \(N_B\), \(F\)を求めます。どの式から解き始めると効率的かを考えるのがポイントです。
- 鉛直方向の力のつりあいの式には未知数が\(N_B\)しか含まれていないため、これから\(N_B\)がすぐに求まります。
- 次に、力のモーメントのつりあいの式には未知数が\(N_A\)しか含まれていないため、これから\(N_A\)が求まります。
- 最後に、水平方向の力のつりあいの式に求めた\(N_A\)を代入すれば、\(F\)が求まります。
この設問における重要なポイント
- 連立方程式を解く際は、未知数が1つしか含まれていない式から手をつけるのが基本。
- 文字式の計算を正確に行う。
具体的な解説と立式
(1)で立てた3つの式を再掲します。
$$ N_B – W = 0 \quad \cdots ① $$
$$ N_A – F = 0 \quad \cdots ② $$
$$ N_A \times \frac{\sqrt{3}}{2}l – W \times \frac{1}{3}l = 0 \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- (1)で立てたつりあいの式
\(N_B\)の計算
式①より、
$$ N_B = W $$
\(N_A\)の計算
式③より、
$$
\begin{aligned}
N_A \times \frac{\sqrt{3}}{2}l &= W \times \frac{1}{3}l
\end{aligned}
$$
両辺を\(l\)で割り、\(N_A\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
N_A &= W \times \frac{1}{3} \times \frac{2}{\sqrt{3}} \\[2.0ex]
&= \frac{2}{3\sqrt{3}}W \\[2.0ex]
&= \frac{2\sqrt{3}}{9}W
\end{aligned}
$$
\(F\)の計算
式②に、上で求めた\(N_A\)の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= N_A \\[2.0ex]
&= \frac{2\sqrt{3}}{9}W
\end{aligned}
$$
(1)で作った3つの数式(レシピ)を使って、未知の力の大きさを順番に明らかにしていきます。
まず、レシピ①「\(N_B – W = 0\)」から、床が支える力\(N_B\)は、おもりの重さ\(W\)と等しいことがすぐにわかります。
次に、レシピ③「回転のつりあい」の式を解くと、壁が押す力\(N_A\)の大きさがわかります。
最後に、レシピ②「\(N_A – F = 0\)」から、摩擦力\(F\)は、先ほど求めた\(N_A\)と等しいことがわかります。
このように、簡単な式から順番に解いていくのがコツです。
壁からの垂直抗力\(N_A\)は\(\displaystyle\frac{2\sqrt{3}}{9}W\)、床からの垂直抗力\(N_B\)は\(W\)、床からの摩擦力\(F\)は\(\displaystyle\frac{2\sqrt{3}}{9}W\)と求まりました。すべての力が正の値として計算され、物理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 剛体のつりあいの3点セット:
- 核心: この問題は、摩擦がはたらく床に立てかけた棒のつりあいを扱っており、剛体の静止条件を網羅的に適用する典型問題です。核心は、以下の3つの独立したつりあいの式を立て、連立方程式として解くことにあります。
- 水平方向の力のつりあい: 水平方向の力の合力が0。
- 鉛直方向の力のつりあい: 鉛直方向の力の合力が0。
- 力のモーメントのつりあい: 任意の点のまわりの力のモーメントの和が0。
- 理解のポイント:
- 未知数が3つ(\(N_A, N_B, F\))あるため、これら3つの式をすべて使わないと解くことができません。どの力がどの方向にはたらくか、どの力がどの向きに回転させようとするかを正確に把握し、3つの式を正しく立式する能力が問われます。
- 核心: この問題は、摩擦がはたらく床に立てかけた棒のつりあいを扱っており、剛体の静止条件を網羅的に適用する典型問題です。核心は、以下の3つの独立したつりあいの式を立て、連立方程式として解くことにあります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 解法の鍵と着眼点:
- STEP 1: 全ての力を図示する: 問題文の条件(「軽い棒」「なめらかな壁」「あらい床」)を正確に反映させ、棒にはたらく全ての力(壁からの垂直抗力、床からの垂直抗力、床からの摩擦力、おもりの重さ)を作用点に描きます。特に摩擦力の向き(滑りを妨げる向き)を間違えないように注意します。
- STEP 2: 回転中心を戦略的に選ぶ: 力のモーメントを考える際、未知の力が最も多くはたらく点、または計算が簡単になる点を選びます。この問題では、床の接地点Bを回転中心に選ぶと、\(N_B\)と\(F\)の2つの力がモーメントの式から消えるため、計算が非常に楽になります。これは定石として覚えておきましょう。
- STEP 3: 3つの式を立て、簡単なものから解く:
- まず、力のつりあい(水平・鉛直)と力のモーメントのつりあいの3式をすべて書き出します。
- 次に、式を眺めて、未知数が1つしか含まれていない式から順番に解いていきます。この問題では「鉛直方向のつりあい → モーメントのつりあい → 水平方向のつりあい」の順で解くと、代入計算がスムーズに進みます。
- 応用できる類似問題のパターン:
- 棒自体の重さを考慮する問題: 「軽い棒」ではなく「一様な棒」の場合、棒の中点(重心)に重力がはたらきます。モーメントの式に、棒の重力による項が追加されるだけで、解法の流れは全く同じです。
- 壁もあらい場合: 「なめらかな壁」ではなく「あらい壁」の場合、壁からも摩擦力がはたらきます。未知数が1つ増えるため、つりあいの式だけでは解けず、「最大静止摩擦力 \(F_{\text{最大}} = \mu N\)」などの追加条件が必要になることが多いです。
- 人がハシゴを登る問題: 人が登る位置によって、重力(人の)がかかる位置が変わり、それに応じて各抗力や摩擦力が変化します。人の位置を変数として扱う応用問題です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の図示漏れ・方向ミス:
- 誤解: 床からの摩擦力\(F\)を忘れたり、向きを逆に描いてしまう。
- 対策: 棒がどちらに滑ろうとするか(この場合は右下に滑る)をイメージし、摩擦力は必ずその動きを「妨げる」向き(左向き)にはたらくと考えます。また、「なめらか」なら摩擦力なし、「あらい」なら摩擦力あり、と条件を機械的に変換する練習をしましょう。
- 腕の長さの計算ミス:
- 誤解: 回転中心Bから力の作用点までの「棒に沿った距離」を腕の長さだと勘違いする。
- 対策: 腕の長さは、回転中心から「力の作用線」への「垂線の距離」であることを徹底します。図に力の作用線(点線)と垂線を描き、三角比(\(\cos\theta, \sin\theta\))を使って長さを求める癖をつけましょう。
- モーメントの符号ミス:
- 誤解: 時計回りと反時計回りのモーメントの符号を混同してしまう。
- 対策: 計算を始める前に、自分で「反時計回りを正(+)」とルールを決め、答案の余白に書き出しておきます。そして、各力が棒をどちらに回そうとするかを指でなぞるように確認し、符号を一つ一つ慎重に決定します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつりあい(水平・鉛直):
- 選定理由: 物体が静止している以上、どの方向にも加速していない、つまり力の合力は0であるという基本原則です。
- 適用根拠: 水平方向と鉛直方向は互いに独立しているため、それぞれの方向で別々の式を立てることができます。これにより、未知数3つに対して2つの独立した方程式が得られます。
- 力のモーメントのつりあい:
- 選定理由: 物体が静止している以上、どの点のまわりにも回転していない、というもう一つの基本原則です。
- 適用根拠: 未知数が3つ(\(N_A, N_B, F\))あるのに対し、力のつりあいだけでは式が2つしかなく、解を確定できません。3つ目の独立した方程式として、力のモーメントのつりあいが不可欠となります。また、回転中心を戦略的に選ぶことで、計算を大幅に簡略化できるという実用的なメリットもあります。この3つの式を揃えることで、初めて3つの未知数を一意に決定できるのです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 腕の長さの図解: モーメントの計算で最もミスが多いのは腕の長さです。解説図のように、回転中心から力の作用線までの水平距離や鉛直距離を、三角比を使って明示的に書き出すと、立式ミスが劇的に減ります。例えば、\(W\)の腕の長さは「Bからの水平距離」なので「Bからの棒に沿った距離 \(\times \cos 60^\circ\)」というように、段階的に考えると確実です。
- 文字式の整理: モーメントの式を立てた後、すぐに数値を代入せず、まずは文字式のまま整理しましょう。この問題では、両辺に\(l\)が含まれているので、最初に\(l\)を消去することで式がすっきりし、計算ミスを防げます。
- 分数の計算: \(\displaystyle\frac{2}{3\sqrt{3}}\) のような形が出てきたら、有理化(分母と分子に\(\sqrt{3}\)を掛ける)を忘れずに行い、\(\displaystyle\frac{2\sqrt{3}}{9}\) のように最も簡単な形に整理する習慣をつけましょう。
- 解の代入は慎重に: ある式で求めた解を別の式に代入する際は、書き写しミスがないか、符号は正しいかなどを十分に確認しましょう。特に、分数が絡む計算では注意が必要です。
98 剛体にはたらく力の合力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「剛体にはたらく力の合成」です。特に、作用点が異なる複数の力を、1つの力(合力)で表現する方法を学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のベクトル合成: 作用線が交わる力は、作用線上で力を移動させて1点に集め、ベクトルの和として合成できます。
- 平行な力の合成(大きさ):
- 同じ向き: 合力の大きさは、力の大きさの和。
- 逆向き: 合力の大きさは、力の大きさの差。
- 平行な力の合成(作用点):
- 同じ向き: 作用点は、2力の作用点を力の大きさの「逆比」に「内分」する点。
- 逆向き: 作用点は、2力の作用点を力の大きさの「逆比」に「外分」する点(大きい方の力の外側)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (a)では、2つの力の作用線の交点に力を移動させ、ベクトルとして合成します。
- (b)では、平行で逆向きの2力の合力を考えます。大きさを力の差で求め、作用点を力の逆比に外分する点の公式を用いて求めます。
- (c)では、まず2つの力を選び、(b)と同様に合力を求めます。次に、その合力と残りの1つの力をさらに合成する、という段階的な方法で全体の合力を求めます。
問(a)
思考の道筋とポイント
剛体にはたらく力は、その作用線上を自由に移動させても、物体に及ぼす効果(並進運動や回転運動に与える影響)は変わりません。この性質を利用して、作用点が異なる2つの力を、それらの作用線の交点Oに移動させます。すると、1点にはたらく2つの力の合成問題に帰着します。
この問題では、2つの力が直交しているため、合成された力の大きさは三平方の定理で簡単に求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 力は作用線上を自由に移動できる。
- 作用線が交わる2力は、交点に移動させてベクトル合成できる。
- 直交するベクトルの合成では、三平方の定理が使える。
具体的な解説と立式
水平左向きの40Nの力と、鉛直上向きの30Nの力を、それぞれの作用線の交点Oに移動させます。
この2つの力は互いに直角なので、合力\(\vec{F}\)の大きさ\(F\)は、この2辺を持つ長方形の対角線の長さに相当します。三平方の定理より、
$$ F^2 = 40^2 + 30^2 $$
使用した物理公式
- 三平方の定理
$$
\begin{aligned}
F &= \sqrt{40^2 + 30^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{1600 + 900} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2500} \\[2.0ex]
&= 50 \, \text{[N]}
\end{aligned}
$$
合力\(\vec{F}\)の向きは、交点Oから左上方向になります。
2つの力を、それぞれの矢印が伸びる線の交差点に集めます。すると、左向きの力と上向きの力が1ヶ所から出ている状態になります。この2つの力を合わせた1つの力(合力)は、この2つの矢印を2辺とする長方形の対角線になります。直角三角形の斜辺の長さを求めるのと同じで、三平方の定理を使って計算します。
合力の大きさは50Nです。作用点は、元の2つの力の作用線の交点を通ります。
問(b)
思考の道筋とポイント
平行で逆向きにはたらく2つの力の合力を考えます。
まず、合力の大きさは、2つの力の大きさの差で求められます。向きは、大きい方の力と同じ向きになります。
次に、合力の作用点を決定します。平行で逆向きの2力(大きさ\(F_1, F_2\))の合力の作用点は、2力の作用点を結ぶ線分を、力の大きさの逆比(\(F_2 : F_1\))に「外分」する点になります。作用点は、大きい方の力の外側に位置します。
この設問における重要なポイント
- 平行で逆向きの力の合力の大きさは、力の大きさの差。
- 合力の作用点は、2力の作用点を力の大きさの逆比に外分する点。
具体的な解説と立式
合力の大きさ
下向きの20Nの力と上向きの10Nの力なので、合力の大きさ\(F\)は、
$$ F = 20 – 10 = 10 \, \text{[N]} $$
向きは大きい方の力と同じで、下向きです。
合力の作用点
合力の作用点は、20Nと10Nの力の作用点を、力の大きさの逆比である \(10:20\) に外分する点です。
20Nの力の作用点から合力の作用点までの距離を\(x\) [m]とすると、10Nの力の作用点からの距離は \(x+0.30\) [m] となります。
外分の比例式を立てると、
$$ x : (x + 0.30) = 10 : 20 \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 平行な力の合力の計算
- 外分点の公式
式①を解いて\(x\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
20x &= 10(x + 0.30) \\[2.0ex]
20x &= 10x + 3.0 \\[2.0ex]
10x &= 3.0 \\[2.0ex]
x &= 0.30 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$
したがって、合力の作用点は、20Nの力の作用点から左に0.30mの位置になります。
まず、力の大きさは、逆向きなので引き算をして \(20 – 10 = 10\)N となります。
次に、作用点の位置を考えます。これは「外分」の考え方を使います。2つの力の作用点を結ぶ線を、力の大きさの逆の比(\(10:20\))で外側に分ける点を探します。この比例式を解くことで、作用点の位置が求まります。
合力の大きさは10N(下向き)で、その作用点は20Nの力の作用点から左に0.30mの位置です。
合力の作用点のまわりでは、元の力のモーメントの和は0になります。20Nの力の作用点から左向きに\(x\) [m]の点に合力の作用点があると仮定し、この点のまわりのモーメントの和が0になるように式を立てます(反時計回りを正とします)。
$$ 10 \times (x + 0.30) – 20 \times x = 0 $$
これを解くと、\(10x + 3.0 – 20x = 0\) より \(-10x = -3.0\)、よって \(x = 0.30 \, \text{[m]}\) となり、主解法と同じ結果が得られます。この方法は、公式を暗記していなくても物理的な意味から作用点を導出できるため、非常に強力です。
問(c)
思考の道筋とポイント
3つの平行な力がはたらく場合は、2段階で合成を行います。
まず、計算しやすい2つの力(ここでは30Nと10N)を選んで、その合力を求めます。これは(b)と同様に、大きさと作用点を求めます。
次に、今求めた合力と、残りの力(20N)をさらに合成します。この2つの力は平行で同じ向きなので、合力の大きさは和になり、作用点は力の逆比に「内分」する点になります。
この設問における重要なポイント
- 複数の平行な力は、段階的に2つずつ合成していく。
- 平行で同じ向きの力の合力の大きさは和、作用点は力の逆比に内分する点。
具体的な解説と立式
ステップ1: 30Nの力と10Nの力の合成
まず、30N(下向き)と10N(上向き)の2力を合成します。
- 大きさ: \(30 – 10 = 20\)N。向きは大きい方の力と同じで、下向きです。
- 作用点: 2力の作用点を力の逆比 \(10:30\) に外分する点です。30Nの力の作用点から左に\(x\) [m]の位置とすると、
$$ x : (x + 0.20) = 10 : 30 $$
これを解くと \(30x = 10x + 2.0\) より \(20x = 2.0\)、よって \(x = 0.10\)m。
この合力(20N、下向き)は、30Nの力の作用点から左に0.10mの位置にはたらきます。
ステップ2: ステップ1の合力と残りの20Nの力の合成
次に、ステップ1で求めた合力(20N、下向き)と、一番左の20Nの力(下向き)を合成します。
- 大きさ: 2つの力は同じ向きなので、合力の大きさ\(F\)は和になります。
$$ F = 20 + 20 = 40 \, \text{[N]} $$
向きは下向きです。 - 作用点: 2つの力は同じ大きさ(20N)なので、作用点は2つの力の作用点を結ぶ線分のちょうど中点になります。
ステップ1の合力の作用点は、一番左の20Nの力の作用点から \(0.30 – 0.10 = 0.20\)m 右の位置です。
したがって、2つの20Nの力の作用点間の距離は0.20mです。
その中点は、一番左の20Nの力の作用点から右に0.10mの位置になります。
使用した物理公式
- 平行な力の合力の計算
- 内分点・外分点の公式
上記の解説に含まれるため、ここでは省略します。
3つの力を一度に考えるのは大変なので、2段階に分けて考えます。
まず、真ん中の30Nの力と右の10Nの力を合成します。力の大きさは引き算で20N(下向き)になります。作用点の位置は外分の考え方で求めます。
次に、今できた合力(20N)と、残っていた左の20Nの力を合成します。今度はどちらも下向きなので、力の大きさは足し算で40Nになります。また、2つの力の大きさが同じなので、作用点はちょうど真ん中に来ます。これで全体の合力が求まります。
合力の大きさは40N(下向き)で、その作用点は一番左の力の作用点から右に0.10mの位置です。段階的に合成することで、複雑な問題も基本的なルールの組み合わせで解けることがわかります。
3つの力を一度に扱う方法です。まず合力の大きさは \(F = 20+30-10=40\)N(下向き)です。
次に、一番左の20Nの力の作用点を基準点Oとして、合力の作用点の座標を\(y\)とします。基準点Oのまわりで「元の3つの力のモーメントの和」と「合力のモーメント」が等しくなるという式を立てます(反時計回りを正とします)。
$$ (10 \times 0.50) – (30 \times 0.30) – (20 \times 0) = -40 \times y $$
$$ 5.0 – 9.0 = -40y $$
$$ -4.0 = -40y $$
これを解くと \(y = 0.10\)m となり、主解法と同じ結果が得られます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力の合成における「大きさと作用点」のセット:
- 核心: 剛体にはたらく力を合成する際、単にベクトルの和として「大きさ」と「向き」を求めるだけでは不十分です。その合力が物体のどこにはたらくのか、すなわち「作用点」まで決定して初めて、元の複数の力と等価であると言えます。この「大きさと作用点」をワンセットで考えることが、この問題の最も重要な核心です。
- 作用点の決定原理(力のモーメント):
- 核心: 合力の作用点は、「元の複数の力がつくる回転効果(モーメントの和)を、たった一つの合力で再現できる点」として定義されます。
- 理解のポイント:
- モーメントのつりあい: 合力の作用点自身のまわりでは、合力によるモーメントは0です。これは、その点のまわりでは「元の複数の力がつくるモーメントの和も0になる」ことを意味します。この原理が、作用点を計算で求めるための最も基本的な武器となります。
- 内分・外分公式の正体: (b)や(c)で使われる「力の逆比に内分/外分する」という公式は、実はこのモーメントのつりあいの関係を、幾何学的な比例式に書き直したものに他なりません。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 解法の選択肢と使い分け:
- アプローチ1:内分・外分公式(模範解答の主解法)
- 長所: 平行な「2力」の合成に特化しており、知っていれば素早く計算できる。
- 短所: 3力以上になると段階的な計算が必要で煩雑になる。公式の暗記が必要。
- アプローチ2:力のモーメント(別解で紹介)
- 長所: 2力でも3力以上でも、一貫した考え方で解ける。物理的な意味(回転のつりあい)を考えながら立式できるため、応用が利き、忘れにくい。
- 短所: 多少の計算は必要だが、汎用性は非常に高い。
- 推奨: 普段の学習では、両方のアプローチを理解し、特に「力のモーメント」で解く方法に習熟しておくことが応用力を高めます。
- アプローチ1:内分・外分公式(模範解答の主解法)
- 初見の問題での着眼点:
- 力の関係性の確認: まず、合成したい力が「平行か、交わるか」を判断します。
- 平行な場合: 次に「同じ向きか、逆向きか」を確認します。これにより、大きさが和になるか差になるか、作用点が内分点になるか外分点になるかが決まります。
- 3力以上の場合: 段階的に合成するよりも、基準点を一つ決めて「(元の力のモーメントの和)=(合力のモーメント)」というモーメントの式を立てる方が、計算ミスが少なく、見通しが良いことが多いです。
- 応用できる類似問題のパターン:
- 物体の重心を求める問題: 物体を微小な部分に分割し、各部分にはたらく重力(平行な力)の合力の作用点を求める問題と本質的に同じです。
- 分布荷重: 橋などにかかる一様に分布した荷重を、一つの集中荷重(合力)に置き換えて計算する問題。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 作用点を考えずに合成してしまう:
- 誤解: (b)や(c)で、力の大きさだけを計算して満足してしまう。
- 対策: 「剛体」の力の合成では、作用点まで求めて初めて完了だと意識すること。作用点が異なれば、同じ大きさの力でも回転の効果が全く変わってしまいます。
- 内分と外分の混同:
- 誤解: 同じ向きの力なのに外分したり、逆向きなのに内分してしまう。
- 対策: 「同じ向きなら間に、逆向きなら外に」とイメージで覚える。特に外分は、合力が「大きい方の力の側に寄る」と覚えておくと、どちらの外側かを間違えません。
- 力の「逆比」のミス:
- 誤解: 力の大きさの比 \(F_1:F_2\) で内分・外分してしまう。
- 対策: 正しくは「力の逆比 \(F_2:F_1\)」であることを強く意識する。てこの原理(重いおもりは支点に近く、軽いおもりは遠くに置く)を思い出し、力の大きい方が作用点に近くなる、と物理的に確認する癖をつける。
- 段階的合成での位置の勘違い:
- 誤解: (c)を段階的に解く際、ステップ1で求めた合力の作用点の「位置」を、元の座標系で正確に把握せずに次の計算に進んでしまう。
- 対策: 段階的に合成する場合は、その都度、新しい力の作用点が「どこからの距離」なのかを明確にした図を描き直すことが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 平行な力の合力の作用点(内分・外分公式):
- 選定理由: 平行な2力の合力の作用点を求めるための、計算に特化した便利な公式です。
- 適用根拠: この公式の数学的な証明は、力のモーメントのつりあいの式を変形することで得られます。例えば、2力\(F_1, F_2\)の作用点(座標\(x_1, x_2\))と合力\(F_1+F_2\)の作用点(座標\(x_G\))について、点\(x_G\)のまわりのモーメントの和が0になる条件 \(F_1(x_G-x_1) – F_2(x_2-x_G) = 0\) を変形すると、内分点の公式 \(x_G = \displaystyle\frac{F_1x_1+F_2x_2}{F_1+F_2}\) が導かれます。つまり、公式の背後にはモーメントのつりあいという物理法則が存在します。
- 力のモーメントの和の考え方(ヴァリニョンの定理):
- 選定理由: より根源的で、3力以上の平行な力の合成にも直接適用できる、汎用性の高い物理法則です。
- 適用根拠: 「ある点のまわりの合力のモーメントは、同一点のまわりの元の各力のモーメントの和に等しい」という定理に基づいています。これは、力の線形性(重ね合わせの原理)から導かれるもので、力の合成を考える上での基本中の基本と言えます。この法則を使えば、公式を暗記していなくても、物理法則から直接作用点を導き出すことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 図を丁寧に描く: 作用点、力、距離を正確に図に書き込みましょう。特に外分点を求める際は、どの距離が\(x\)で、どの距離が\(x+d\)なのかを図で明確にすることが、立式ミスを防ぐ鍵です。
- 比例式の計算: \(a:b = c:d\) の式を立てたら、「内項の積 = 外項の積」(\(bc=ad\))を落ち着いて計算します。分配法則での符号ミスに注意しましょう。
- モーメント計算の基準点と符号: モーメントで解く場合は、まず計算の基準点(原点)を明確に定めます。次に、回転の向き(例:反時計回りを正)を決め、各力のモーメントの符号を一つ一つ確認しながら立式します。
- 単位の確認: 問題で与えられている距離の単位(m)と、力の単位(N)を確認し、計算結果の単位も意識しましょう。
- 検算: (c)のように複数の解法がある場合、主解法で解いた後に別解でも計算してみて、結果が一致するかを確認する(検算する)ことで、確実性を大幅に高めることができます。
99 重心
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「重心の計算」です。複数の部分から構成される物体の全体の重心を、各部分の重心と質量(またはそれに比例する量)を用いて求める方法を理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 重心の定義: 物体の各部分にはたらく重力の合力の作用点。物体をその点で支えれば、どの向きに傾けてもつりあう点です。
- 部分への分割: 複雑な形状の物体も、単純な形状(この場合は2本の直線)の集まりとして考えることができます。
- 一様な物体の重心: 一様な棒や板の重心は、その図形的な中心(中点)にあります。
- 重心の公式: 複数の質点(または部分)からなる系の重心座標は、各質点の「質量×座標」の和を、全質量で割ることで求められます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- L字型の針金を、垂直な部分(AO)と水平な部分(OB)の2つの直線部分に分割します。
- それぞれの部分の質量と重心の座標を求めます。「一様な針金」なので、質量は長さに比例します。
- 重心の公式を用いて、全体の重心のx座標とy座標をそれぞれ計算します。
(重心の座標を求める)
思考の道筋とポイント
L字型の針金は、2つの長方形の板を組み合わせたような面ではなく、2つの直線を組み合わせた線と考えることができます。この針金を、長さ0.60mの垂直な部分(AO)と、長さ1.2mの水平な部分(OB)の2つの部分に分けて考えます。
「一様な針金」という条件が重要です。これは、針金のどの部分を取っても、単位長さあたりの質量が同じであることを意味します。したがって、各部分の質量は、その長さに比例します。
それぞれの部分の重心は、その部分の中点になります。
最後に、この2つの部分を、それぞれの重心の位置に質量が集中した2つの質点とみなし、重心の公式を使って全体の重心を計算します。
この設問における重要なポイント
- 複雑な形状は、単純な部分に分割して考える。
- 「一様な」という言葉から、質量が長さ(または面積、体積)に比例することを見抜く。
- 各部分の重心の位置(中点)と質量比を正確に求める。
- 重心の公式をx座標、y座標それぞれに正しく適用する。
具体的な解説と立式
L字型の針金を、垂直部分AOと水平部分OBに分割します。
- 部分AO:
- 長さ: \(l_1 = 0.60\) m
- 質量: 針金の単位長さあたりの質量を \(\rho\) とすると、\(m_1 = \rho l_1 = 0.60\rho\)。
- 重心の座標: AOの中点なので、\((x_1, y_1) = (0, 0.30)\)。
- 部分OB:
- 長さ: \(l_2 = 1.2\) m
- 質量: \(m_2 = \rho l_2 = 1.2\rho\)。
- 重心の座標: OBの中点なので、\((x_2, y_2) = (0.60, 0)\)。
質量比は \(m_1 : m_2 = 0.60\rho : 1.2\rho = 1 : 2\) となります。計算を簡単にするため、\(m_1 = m\), \(m_2 = 2m\) と置くことができます。
全体の重心の座標 \((x_G, y_G)\) は、重心の公式を用いて求めます。
x座標 \(x_G\)
$$ x_G = \frac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2} $$
y座標 \(y_G\)
$$ y_G = \frac{m_1 y_1 + m_2 y_2}{m_1 + m_2} $$
使用した物理公式
- 重心の公式: \(x_G = \displaystyle\frac{m_1x_1 + m_2x_2 + \dots}{m_1+m_2+\dots}\), \(y_G = \displaystyle\frac{m_1y_1 + m_2y_2 + \dots}{m_1+m_2+\dots}\)
上で求めた値を重心の公式に代入します。
\(x_G\)の計算
$$
\begin{aligned}
x_G &= \frac{m \times 0 + 2m \times 0.60}{m + 2m} \\[2.0ex]
&= \frac{1.2m}{3m} \\[2.0ex]
&= 0.40 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$
\(y_G\)の計算
$$
\begin{aligned}
y_G &= \frac{m \times 0.30 + 2m \times 0}{m + 2m} \\[2.0ex]
&= \frac{0.30m}{3m} \\[2.0ex]
&= 0.10 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$
L字の針金を、縦の棒と横の棒の2つに分けます。
縦の棒の長さは0.60m、横の棒の長さは1.2mなので、重さの比も \(1:2\) になります。
それぞれの棒の「おへそ」(重心)の位置を考えます。縦の棒のおへそは \((0, 0.30)\) の位置に、横の棒のおへそは \((0.60, 0)\) の位置にあります。
全体の重心は、この2つのおへそを、重さの逆比である \(2:1\) で結んだ線分の内側のどこかに来ます。
これを正確に計算するのが重心の公式です。x座標とy座標を別々に、公式「(重さ1×座標1 + 重さ2×座標2)÷(重さの合計)」を使って計算します。
針金全体の重心の座標は \((0.40 \, \text{m}, 0.10 \, \text{m})\) となります。
この位置は、質量の大きい水平部分OB(質量比2)の方に、質量の小さい垂直部分AO(質量比1)よりも近く、物理的な直感とも一致しています。具体的には、2つの部分重心 \((0, 0.30)\) と \((0.60, 0)\) を結ぶ線分を \(2:1\) に内分する点になっています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 重心の定義と公式:
- 核心: この問題の核心は、「重心とは、物体の各部分にはたらく重力の合力の作用点である」という物理的な意味を理解し、それを計算するための「重心の公式」を正しく適用することです。
- 理解のポイント:
- 分割思考: どんなに複雑な形状の物体でも、単純な形状(この場合は2本の棒)の集まりとして見なすことができます。
- 質量と形状の関係: 「一様な」という言葉は、質量が長さに比例することを意味します。これにより、各部分の質量比を長さの比から求めることができます。
- 公式の適用: 各部分の「質量」と「重心座標」がわかれば、重心の公式 \(x_G = \displaystyle\frac{m_1x_1 + m_2x_2 + \dots}{m_1+m_2+\dots}\) を使って、全体の重心を機械的に計算できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 解法の鍵と着眼点:
- STEP 1: 物体を単純な部分に分割する: L字型なら2本の棒、T字型なら2本の棒、コの字型なら3本の棒、というように、自分が重心位置と質量(またはその比)を知っている単純な図形に分割します。
- STEP 2: 各部分の「質量比」と「重心座標」を求める:
- 質量比: 「一様な線」なら長さに比例、「一様な板」なら面積に比例します。簡単な整数比(例: \(1:2\))にして、文字(例: \(m, 2m\))で置くと計算が楽になります。
- 重心座標: 各部分の図心(棒なら中点)の座標を、設定した座標系で正確に読み取ります。
- STEP 3: 重心の公式に代入する: x座標とy座標をそれぞれ別々に、公式に代入して計算します。
- 応用できる類似問題のパターン:
- 板の重心: L字型の「板」の重心を求める問題。考え方は同じですが、質量が「面積」に比例する点が異なります。
- くり抜かれた物体の重心: 大きな板から一部をくり抜いた物体の重心を求める問題。この場合、くり抜いた部分を「負の質量」を持つ物体と考えて、重心の公式を適用するテクニックが非常に有効です。
(例: \(x_G = \displaystyle\frac{M X_{\text{全体}} – m x_{\text{くり抜き}}}{M – m}\)) - 複数の物体からなる系の重心: 複数の物体が接触している系の全体の重心を求める問題も、各物体を一つの質点とみなせば、全く同じ方法で解くことができます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 質量と長さ(面積)の比例関係を見落とす:
- 誤解: 「一様な」というキーワードを見落とし、2つの部分の質量を同じだと勘違いしてしまう。
- 対策: 問題文の「一様な」という言葉に必ず印をつけ、「質量は長さに比例する」と意識づけること。質量比を計算するステップを、手順として必ず組み込むようにしましょう。
- 部分の重心座標のミス:
- 誤解: 水平部分OB(長さ1.2m)の重心のx座標を、長さそのものである1.2としてしまう。
- 対策: 各部分の重心は、その部分の「中点」であることを徹底する。図を描き、分割した各部分の中点の座標を一つずつ丁寧に確認する癖をつけましょう。(OBの中点のx座標は \(1.2/2 = 0.60\))
- x座標とy座標の計算の混同:
- 誤解: \(x_G\)を計算する際に、\(y\)座標の値(例: 0.30)を誤って代入してしまう。
- 対策: \(x_G\)の計算と\(y_G\)の計算は、完全に別の計算として分けて行うこと。計算式を立てる際に、x座標の値だけ、y座標の値だけを抜き出して確認するとミスが減ります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 重心の公式 \(x_G = \displaystyle\frac{m_1x_1 + m_2x_2 + \dots}{m_1+m_2+\dots}\):
- 選定理由: この公式は、複数の質点からなる系の重心を求めるための、最も直接的で普遍的な方法です。
- 適用根拠: この公式は、物理学のより基本的な法則である「力のモーメントのつりあい」から導かれます。
- 物理的背景: 全体の重心Gのまわりでは、各部分にはたらく重力による力のモーメントの和は0になるはずです。
- 導出: x座標について考えると、重心Gのまわりのモーメントのつりあいは、\(m_1 g (x_G – x_1) + m_2 g (x_G – x_2) = 0\) と表せます。この式を\(x_G\)について解くと、\(x_G(m_1+m_2) = m_1x_1 + m_2x_2\) となり、重心の公式が導かれます。
- つまり、重心の公式は単なる数学的な平均ではなく、「重さ」で重み付けされた座標の平均であり、力のモーメントのつりあいを満たす点を求めるための物理的な計算式なのです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 情報を表にまとめる: 計算を始める前に、各部分の情報を表に整理すると、見通しが良くなり、代入ミスを防げます。
部分 長さ [m] 質量比 重心x座標 [m] 重心y座標 [m] AO 0.60 1 (\(m\)) 0 0.30 OB 1.2 2 (\(2m\)) 0.60 0 - 文字を有効に使う: 質量比が\(1:2\)だからといって、具体的な質量を1kg, 2kgと置くのではなく、\(m, 2m\)と文字で置くことが重要です。これにより、計算の最終段階で文字\(m\)が必ず約分で消えることを確認でき、計算の正しさを検証できます。
- 分数の計算を丁寧に: \(\displaystyle\frac{1.2m}{3m}\) のような計算では、まず文字\(m\)を約分し、その後に数値の割り算(\(1.2 \div 3 = 0.4\))を落ち着いて行いましょう。
- 答えの妥当性を吟味する: 計算結果 \((0.40, 0.10)\) が出たら、それが物理的に妥当な位置にあるかを図で確認する習慣をつけましょう。重心は質量の大きい方に偏るはずなので、この場合、重心は質量の大きい水平部分OB(質量比2)の方に、質量の小さい垂直部分AO(質量比1)よりも近いはずです。計算結果はこの直感と一致しており、妥当性が高いと判断できます。
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