問題の確認
electromagnetic#09各設問の思考プロセス
この問題は、複数の点電荷が存在する空間における電位の計算に関するものです。電位はスカラー量であるため、各点電荷が単独で点Pに作る電位をそれぞれ計算し、それらを代数的に足し合わせる(重ね合わせる)ことで、点Pにおける合成電位を求めることができます。
- 点電荷による電位の公式の理解:
- 無限遠を電位の基準とするとき、電気量 \(q\) の点電荷から距離 \(d\) だけ離れた点の電位 \(V\) は、クーロンの法則の比例定数を \(k\) として \(V = k \frac{q}{d}\) で与えられます。電荷 \(q\) の符号(正負)もそのまま式に反映されます。
- 各電荷から点Pまでの距離の把握:
- 点Oにある電荷 \(Q\) から点Pまでの距離は \(x\) です。
- 点Aにある電荷 \(-2Q\) から点Pまでの距離は、点Aの座標が \(r\)、点Pの座標が \(x\) であり、点PがOとAの間 (\(0 < x < r\)) にあることから、\(r-x\) となります。
- 電位の重ね合わせ (設問(1)):
- 点Oの電荷が点Pに作る電位 \(V_1\) と、点Aの電荷が点Pに作る電位 \(V_2\) をそれぞれ計算します。
- 点Pにおける合成電位 \(V\) は、\(V = V_1 + V_2\) として求めます。
- 電位がゼロとなる条件の適用 (設問(2)):
- 設問(1)で求めた合成電位 \(V\) の式を \(0\) とおき、これを \(x\) についての方程式として解きます。
- 得られた解が、問題で与えられた \(x\) の存在範囲 (\(0 < x < r\)) を満たしているかを確認します。
各設問の具体的な解説と解答
(1) 点O,Aの間に点Pをとる。OPの長さを \(x(0<x<r)\) として,点Pの電位Vをxを含む式で表せ。電位の基準を無限遠とする。
問われている内容の明確化:
点P(Oからの距離 \(x\))における合成電位 \(V\) を、与えられた物理量 \(k, Q, r, x\) を用いて式で表現します。
具体的な解説と計算手順:
点Pにおける電位は、点Oにある電荷 \(Q\) による電位 \(V_O\) と、点Aにある電荷 \(-2Q\) による電位 \(V_A\) の和として求められます。
1. 点Oの電荷 \(Q\) が点Pに作る電位 \(V_O\):
$$V = k \frac{q}{d}$$
電荷は \(Q\)、距離は \(x\) なので、
$$V_O = k \frac{Q}{x}$$
2. 点Aの電荷 \(-2Q\) が点Pに作る電位 \(V_A\):
電荷は \(-2Q\)、距離は点A(\(r\))から点P(\(x\))までなので \(r-x\)。
$$V_A = k \frac{-2Q}{r-x}$$
3. 点Pにおける合成電位 \(V\):
$$V = V_O + V_A = k \frac{Q}{x} + k \frac{-2Q}{r-x}$$
共通因子 \(kQ\) でくくると、
$$V = kQ \left( \frac{1}{x} – \frac{2}{r-x} \right)$$
この式を通分して整理することもできます。
$$V = kQ \left( \frac{(r-x) – 2x}{x(r-x)} \right) = kQ \frac{r-3x}{x(r-x)}$$
計算方法の平易な説明:
点Pでの電気的な「高さ」(電位)を考えます。これは、Oにある電荷 \(Q\) が作る高さと、Aにある電荷 \(-2Q\) が作る高さを単純に足し算したものです。
- 電荷 \(Q\) (点O) から点Pまでの距離は \(x\) なので、この電荷がPに作る電位は \(k \frac{Q}{x}\) です。
- 電荷 \(-2Q\) (点A) から点Pまでの距離は \(r-x\) なので、この電荷がPに作る電位は \(k \frac{-2Q}{r-x}\) です。
よって、点Pでの全体の電位 \(V\) は、これらを足し合わせて、
$$V = k \frac{Q}{x} + k \frac{-2Q}{r-x} = kQ \left( \frac{1}{x} – \frac{2}{r-x} \right)$$
となります。
この設問における重要なポイント:
- 電位はスカラー量なので、各電荷が作る電位を単純に足し合わせればよい(重ね合わせの原理)。
- 各電荷から点Pまでの距離を正確に求める(点Aからは \(r-x\))。
- 電荷の符号(正負)を電位の式に正しく反映させる。
\(V = kQ \left( \displaystyle \frac{1}{x} – \frac{2}{r-x} \right)\) (または \(\displaystyle V = kQ \frac{r-3x}{x(r-x)}\))
(2) \(V=0\) となるとき,点Pのx座標をrを用いて表せ。
問われている内容の明確化:
設問(1)で求めた点Pの電位 \(V\) の式が \(0\) になるような \(x\) の値を、\(r\) を用いて表します。
具体的な解説と計算手順:
(1)で求めた \(V\) の式の一つ \(V = kQ \frac{r-3x}{x(r-x)}\) を用いて \(V=0\) とおきます。
$$kQ \frac{r-3x}{x(r-x)} = 0$$
ここで、\(k \neq 0\)、\(Q > 0\) です。また、条件より \(0 < x < r\) なので、\(x \neq 0\) かつ \(r-x \neq 0\) であり、分母 \(x(r-x)\) は \(0\) になりません。
したがって、上記の方程式が成り立つためには、分子が \(0\) である必要があります。
$$r-3x = 0$$
この方程式を \(x\) について解くと、
$$3x = r$$
$$x = \frac{r}{3}$$
この解が条件 \(0 < x < r\) を満たすか確認します。 \(r > 0\) であるため、\(x = \frac{r}{3}\) は \(0\) より大きいです。
また、\(\frac{1}{3} < 1\) なので、\(\frac{r}{3} < r\) も成り立ちます。
よって、\(x = \frac{r}{3}\) は与えられた条件を満たします。
計算方法の平易な説明:
(1)で求めた電位の式 \(V = kQ \left( \frac{1}{x} – \frac{2}{r-x} \right)\) が \(0\) になる場合を考えます。
\(kQ\) は \(0\) ではないので、括弧の中身が \(0\) になればよいことになります。
$$\frac{1}{x} – \frac{2}{r-x} = 0$$
$$\frac{1}{x} = \frac{2}{r-x}$$
両辺の逆数を取るか、たすき掛けのように考えると(分母を払うと)、
$$1 \times (r-x) = 2 \times x$$
$$r-x = 2x$$
$$r = 3x$$
$$x = \frac{r}{3}$$
この \(x\) の値は \(0\) と \(r\) の間にあるので、適切です。
この設問における重要なポイント:
- \(V=0\) の条件から方程式を立てる。
- 方程式を解く際、分母が \(0\) にならない条件(\(x \neq 0, x \neq r\))を考慮する(本問では \(0<x<r\) で保証される)。
- 得られた解が、問題文で指定された \(x\) の範囲内にあるかを確認する(解の吟味)。
\(x = \displaystyle \frac{r}{3}\)
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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- 点電荷の作る電位: 無限遠を基準として、点電荷 \(q\) から距離 \(d\) の点の電位は \(V = k \frac{q}{d}\)。電位はスカラー量。
- 電位の重ね合わせの原理: 複数の点電荷がある場合、ある点での合成電位は、各電荷が単独でその点に作る電位の代数和で求められる。
- クーロンの法則の比例定数 \(k\): 電荷間の力や電場・電位を計算する際に用いられる定数。
- 電位がゼロになる点: 異符号の電荷が存在する場合、電荷間やその延長線上に電位がゼロになる点が存在しうる。その位置は、各電荷からの距離と電気量のバランスで決まる。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- 図を描いて状況を把握: 電荷の配置や対象となる点の位置関係を正確に図示することで、距離の計算ミスを防ぐ。
- 距離の表現: 各電荷から対象点までの距離を、問題で与えられた変数(この場合は \(x\) と \(r\))を用いて正しく表す。
- 符号の取り扱い: 電荷の電気量の符号(正負)を電位の計算に正確に反映させる。
- 方程式の解の吟味: 解が物理的に意味のある範囲内にあるか(例:距離が負にならない、指定された区間内にあるかなど)を確認する。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 電場と電位の混同: 電場はベクトル量(向きも考慮)、電位はスカラー量(向きは考えないが符号はある)。計算方法や重ね合わせの方法も異なる。
- 距離の2乗との混同: 電場やクーロン力は距離の2乗に反比例するが、電位は距離に反比例する。
- 電位の重ね合わせでの計算ミス: 特に複数の項がある場合の通分や符号の扱いでミスしやすい。
- 電位がゼロになる点の誤解: 必ずしも電荷の間の点に限定されない場合もあるが、本問では電荷間に限定されている。異符号の電荷の場合、電気量の絶対値が小さい方の電荷に近い側に電位ゼロの点が存在しやすい。
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