今回の問題
thermodynamicsall#19【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「熱力学第一法則とp-Vグラフ」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q + W_{\text{された}} = Q – W_{\text{した}}\)。内部エネルギーの変化、熱、仕事の関係を表す基本法則です。
- 気体がする仕事: 体積が変化しない定積変化では仕事は0。体積が変化する過程では、p-VグラフとV軸が囲む面積で仕事量が表されます。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)。状態方程式 \(pV=nRT\) を使うと、\(U = \displaystyle\frac{3}{2}pV\) とも表せます。
- 定積変化、定圧変化、断熱変化: それぞれの過程における熱力学的な特徴を理解していることが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各空欄について、問われている物理量(仕事、内部エネルギー変化、熱量)を、指定された状態変化(定積、定圧、断熱)の性質に基づいて計算します。
- p-Vグラフから各状態の圧力や体積の値を正確に読み取り、計算に用います。
- 内部エネルギーの計算などでは、まず各状態の温度を状態方程式を用いて求める必要があります。
問(ア)
思考の道筋とポイント
過程A→Bにおいて気体がした仕事を求める問題です。問題文とグラフから、この過程は「定積変化」であることがわかります。気体が仕事をするかどうかは、体積が変化するかどうかで決まります。
この設問における重要なポイント
- 気体が外部にする仕事は、体積が増加すれば正、減少すれば負、変化しなければ0である。
- 定積変化では、体積は一定で変化しない。
具体的な解説と立式
過程A→Bは定積変化です。
p-Vグラフを見ると、状態Aから状態Bへは体積が \(V_0\) のまま変化していません(グラフが垂直に上昇)。
体積の変化量 \(\Delta V\) が0なので、気体が外部にした仕事 \(W_{\text{A}\rightarrow\text{B}}\) は0となります。
$$ W_{\text{A}\rightarrow\text{B}} = 0 $$
使用した物理公式
- 仕事の定義(定性的理解)
上記の解説の通り、定積変化であることから仕事は0と判断できます。
気体がピストンにする仕事は、ピストンを動かしたときに行われます。ピストンが動くということは、気体の体積が変わるということです。
過程A→Bは「定積変化」なので、体積は一切変わっていません。したがって、ピストンは動いておらず、気体は仕事をしていません。よって仕事は0です。
定積変化で気体がする仕事は0です。これは熱力学の基本的な定義です。
問(イ)
思考の道筋とポイント
過程A→Bにおける気体の内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{\text{A}\rightarrow\text{B}}\) を求める問題です。気体は単原子分子理想気体なので、内部エネルギーは \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT = \frac{3}{2}pV\) と表せます。内部エネルギーの変化は、変化後の内部エネルギーから変化前の内部エネルギーを引くことで計算します。
この設問における重要なポイント
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}pV\)。
- 内部エネルギーの変化: \(\Delta U = U_{\text{後}} – U_{\text{前}}\)。
- p-Vグラフから各状態の圧力と体積を読み取る。
具体的な解説と立式
内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{\text{A}\rightarrow\text{B}}\) は、状態Bの内部エネルギー \(U_B\) から状態Aの内部エネルギー \(U_A\) を引いたものです。
$$ \Delta U_{\text{A}\rightarrow\text{B}} = U_B – U_A $$
単原子分子理想気体の内部エネルギーは \(U = \displaystyle\frac{3}{2}pV\) と書けるので、
$$ \Delta U_{\text{A}\rightarrow\text{B}} = \frac{3}{2}p_B V_B – \frac{3}{2}p_A V_A $$
ここで、p-Vグラフから各状態の圧力と体積を読み取ります。
- 状態A: \(p_A = p_0\), \(V_A = V_0\)
- 状態B: \(p_B = \alpha p_0\), \(V_B = V_0\)
これらを代入します。
$$ \Delta U_{\text{A}\rightarrow\text{B}} = \frac{3}{2}(\alpha p_0)V_0 – \frac{3}{2}p_0 V_0 \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}pV\)
式①を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta U_{\text{A}\rightarrow\text{B}} &= \frac{3}{2}\alpha p_0 V_0 – \frac{3}{2}p_0 V_0 \\
&= \frac{3}{2}(\alpha – 1)p_0 V_0
\end{aligned}
$$
内部エネルギーの変化は「後のエネルギー」ひく「前のエネルギー」です。単原子分子気体の場合、内部エネルギーは「\(\frac{3}{2} \times \text{圧力} \times \text{体積}\)」で計算できます。
状態Aのエネルギーは \(\frac{3}{2}p_0 V_0\)、状態Bのエネルギーは \(\frac{3}{2}(\alpha p_0)V_0\) です。
したがって、エネルギーの変化は「\(\frac{3}{2}\alpha p_0 V_0 – \frac{3}{2}p_0 V_0\)」となり、これを整理すると答えが得られます。
過程A→Bの内部エネルギーの変化は \(\displaystyle\frac{3}{2}(\alpha – 1)p_0 V_0\) です。グラフから \(\alpha > 1\) なので、内部エネルギーは増加しています。これは、定積変化で外部から熱を吸収した(加熱された)ことに対応し、物理的に妥当です。
問(ウ)
思考の道筋とポイント
過程B→Cにおいて気体がした仕事 \(W_{\text{B}\rightarrow\text{C}}\) を求める問題です。この過程は「定圧変化」です。定圧変化で気体がする仕事は、圧力と体積変化の積で簡単に計算できます。
この設問における重要なポイント
- 定圧変化で気体がする仕事は \(W = p \Delta V = p(V_{\text{後}} – V_{\text{前}})\)。
- p-Vグラフから、過程中の圧力と、変化前後の体積を読み取る。
具体的な解説と立式
過程B→Cは圧力 \(p = \alpha p_0\) で一定の定圧変化です。
この過程で気体がした仕事 \(W_{\text{B}\rightarrow\text{C}}\) は、
$$ W_{\text{B}\rightarrow\text{C}} = p \Delta V = (\alpha p_0) (V_C – V_B) $$
p-Vグラフから、各状態の体積を読み取ります。
- 状態B: \(V_B = V_0\)
- 状態C: \(V_C = \beta V_0\)
これらを代入します。
$$ W_{\text{B}\rightarrow\text{C}} = \alpha p_0 (\beta V_0 – V_0) \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 定圧変化における仕事: \(W = p \Delta V\)
式①を計算します。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{B}\rightarrow\text{C}} &= \alpha p_0 (\beta V_0 – V_0) \\
&= \alpha p_0 V_0 (\beta – 1) \\
&= \alpha (\beta – 1) p_0 V_0
\end{aligned}
$$
気体がする仕事は、p-Vグラフでグラフの下側の面積で表されます。過程B→Cは定圧変化なので、グラフは水平な直線です。このとき、仕事は単純な長方形の面積として計算できます。
長方形の「縦」は圧力 \(\alpha p_0\)、「横」は体積の変化 \((V_0 – \beta V_0)\) です。
ただし、今回は体積が減少(圧縮)しているので、仕事は負の値になります。
仕事 = 圧力 × (後の体積 – 前の体積) = \(\alpha p_0 \times (\beta V_0 – V_0)\) を計算します。
過程B→Cでした仕事は \(\alpha (\beta – 1) p_0 V_0\) です。グラフから \(\beta < 1\) なので、\(\beta – 1 < 0\) となり、仕事は負の値になります。これは、体積が減少する圧縮過程であることと一致しており、妥当な結果です。
問(エ)
思考の道筋とポイント
過程C→Aにおいて気体が吸収した熱量 \(Q_{\text{C}\rightarrow\text{A}}\) を求める問題です。この過程は「断熱変化」です。断熱変化の定義そのものが問われています。
この設問における重要なポイント
- 断熱変化とは、外部との熱のやりとりがない状態変化のことである。
具体的な解説と立式
過程C→Aは断熱変化です。
断熱変化の定義は、外部との熱の出入りが遮断された状態での変化、すなわち、気体が吸収する熱量 \(Q\) が0である変化です。
したがって、
$$ Q_{\text{C}\rightarrow\text{A}} = 0 $$
使用した物理公式
- 断熱変化の定義: \(Q=0\)
定義そのものであるため、計算は不要です。
「断熱」という言葉は、「熱を断つ」と書きます。つまり、外部との熱のやりとりが一切ない変化のことです。
したがって、この過程で気体が吸収した熱量は0です。
断熱変化で気体が吸収する熱量は0です。これは断熱変化の定義そのものです。
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【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 熱力学第一法則と状態変化の組み合わせ:
- 核心: この問題は、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) を、定積・定圧・断熱といった個々の状態変化の性質と組み合わせて理解し、適用できるかを問うています。
- 理解のポイント:
- 定積変化 (A→B): \(W=0\) なので \(\Delta U = Q\)。加えられた熱はすべて内部エネルギーの増加になる。
- 定圧変化 (B→C): \(W=p\Delta V\)。熱、仕事、内部エネルギー変化のすべてが関わる。
- 断熱変化 (C→A): \(Q=0\) なので \(\Delta U = -W\)。内部エネルギーの変化は、された仕事(または、した仕事の負号)に等しい。
この3つの関係を、p-Vグラフと結びつけて自在に使いこなせることがゴールです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 各状態の温度を求める: 状態Aの温度 \(T_0\) を基準に、状態B, Cの温度 \(T_B, T_C\) を求める問題。状態方程式 \(pV=nRT\) を使い、\(T_B = \alpha T_0\), \(T_C = \alpha \beta T_0\) のように計算できます。
- 各過程での熱量を求める: (エ)以外の過程での熱量を求める問題。熱力学第一法則を使います。
- \(Q_{\text{A}\rightarrow\text{B}} = \Delta U_{\text{A}\rightarrow\text{B}} + W_{\text{A}\rightarrow\text{B}} = \frac{3}{2}(\alpha – 1)p_0 V_0 + 0\)
- \(Q_{\text{B}\rightarrow\text{C}} = \Delta U_{\text{B}\rightarrow\text{C}} + W_{\text{B}\rightarrow\text{C}}\)。\(\Delta U_{\text{B}\rightarrow\text{C}} = \frac{3}{2}(\alpha\beta – \alpha)p_0V_0\) と \(W_{\text{B}\rightarrow\text{C}}\) を足し合わせることで求まります。
- サイクル全体の効率: このサイクルを熱機関とみなした場合の熱効率 \(\eta\) を求める問題。サイクル全体で吸収した熱 \(Q_{\text{in}}\) と、サイクル全体の仕事(グラフが囲む面積)を計算する必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 気体の種類を確認: 「単原子分子」か「二原子分子」かを確認します。これにより内部エネルギーの式 (\(U=\frac{3}{2}nRT\) か \(U=\frac{5}{2}nRT\)) が変わります。
- p-Vグラフの座標を読み取る: 各状態点 (A, B, C) の圧力と体積の値を、\(p_0, V_0, \alpha, \beta\) を使って正確に書き出します。
- 問われている物理量と過程を特定: 「どの過程」の「どの物理量(仕事W, 熱Q, 内部エネルギー変化ΔU)」を問われているのかを明確にし、その過程の性質(定積、定圧、断熱、等温)に応じた公式を選択します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 仕事の計算ミス:
- 誤解: (ウ)の定圧変化の仕事で、体積変化 \(\Delta V\) の符号を間違え、\(W = \alpha p_0 (V_0 – \beta V_0)\) のように計算してしまう。
- 対策: 仕事の計算では、\(\Delta V = V_{\text{後}} – V_{\text{前}}\) を徹底します。過程B→Cでは、後がC、前がBなので、\(\Delta V = V_C – V_B = \beta V_0 – V_0\) となります。グラフの矢印の向きを確認する癖をつけましょう。
- 内部エネルギーの式の混同:
- 誤解: 単原子分子でない場合に \(U = \frac{3}{2}pV\) を使ってしまう、あるいはその逆。
- 対策: 「単原子分子なら3/2」と覚えましょう。問題文の冒頭にある「単原子分子理想気体」という記述を見落とさないことが重要です。
- 熱力学第一法則の符号:
- 誤解: \(W\) を「された仕事」と「した仕事」で混同し、\(\Delta U = Q + W_{\text{した}}\) のような誤った式を立ててしまう。
- 対策: \(\Delta U = Q – W_{\text{した}}\) の形を基本として覚えるのがおすすめです。\(W_{\text{した}}\) は体積が増えれば正、と直感的に分かりやすいためです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(W=0\) (定積変化):
- 選定理由: (ア)は定積変化の仕事なので、定義から即座に0と判断できます。
- 適用根拠: 仕事は力と移動距離の積です。気体の仕事では、ピストンが動くこと(体積変化)が移動距離に相当します。体積が変化しないので、仕事は0です。
- \(U = \frac{3}{2}pV\) (内部エネルギー):
- 選定理由: (イ)は内部エネルギーの変化を問うています。単原子分子理想気体の場合、内部エネルギーは圧力と体積だけで表せるこの式が最も直接的で便利です。
- 適用根拠: 気体分子運動論から、内部エネルギーは分子の運動エネルギーの総和であり、それが絶対温度に比例すること (\(U=\frac{3}{2}nRT\)) が導かれます。状態方程式 \(pV=nRT\) を使って温度 \(T\) を消去すると、この形になります。
- \(W = p\Delta V\) (定圧変化の仕事):
- 選定理由: (ウ)は定圧変化の仕事なので、圧力が一定であることを利用したこの簡単な式で計算できます。
- 適用根拠: 一般的な仕事の定義 \(W = \int p dV\) において、圧力 \(p\) が定数なので積分の外に出せるため、\(W = p \int dV = p \Delta V\) となります。
- \(Q=0\) (断熱変化):
- 選定理由: (エ)は断熱変化の熱量なので、定義から即座に0と判断できます。
- 適用根拠: 「断熱」という言葉自体が、熱の出入りがない (\(Q=0\)) ことを意味しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の整理: (イ)や(ウ)の計算結果では、\(p_0 V_0\) という塊が共通して出てきます。これを一つの単位のように扱い、係数部分 (\(\frac{3}{2}(\alpha-1)\) や \(\alpha(\beta-1)\)) を間違えないように計算しましょう。
- パラメータの意味を考える: \(\alpha\) は圧力の増加率、\(\beta\) は体積の圧縮率を表すパラメータです。グラフから \(\alpha > 1\), \(0 < \beta < 1\) であることを読み取っておくと、計算結果の符号チェック(例:(ウ)の仕事が負になるはず)に役立ち、ミスを発見しやすくなります。
- サイクル図を自分で描いてみる: 問題で与えられた図をなぞるだけでなく、各過程の性質を理解した上で、自分でA→B→C→Aのサイクル図を描いてみる練習は、理解を深める上で非常に有効です。
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