問題の確認
dynamics#04_各設問の思考プロセス
(1) 岸から見たボートの速さを求めよ。
- 速度の合成の理解: 岸から見たボートの速度は、「静水時のボートの速度」ベクトルと「川の水の速度」ベクトルの合成(ベクトル和)として考えます。
- ベクトルの関係の把握: ボートは岸に対して直角な方向に進もうとし(この速度を \(\vec{v}_{\text{ボート}}\) とします)、川の水は岸に平行な方向に流れています(この速度を \(\vec{v}_{\text{川}}\) とします)。したがって、この2つの速度ベクトル \(\vec{v}_{\text{ボート}}\) と \(\vec{v}_{\text{川}}\) は互いに直角です。
- 合成速度の大きさの計算方法選択: 2つの速度ベクトルが直角であるため、合成速度の大きさ \(v_{\text{合成}}\) は、三平方の定理を用いて計算できると考えます。
(2) 川幅が40mであったとき、ボートが対岸に達するまでの時間を求めよ。
- 運動の分解: ボートの運動を、川を横断する方向(岸に垂直な方向)と川の流れに沿った方向(岸に平行な方向)に分けて考えます。
- 横断に必要な要素の特定: ボートが対岸に到達するためには、川幅 \(W\) の距離を岸に垂直な方向に進む必要があります。この方向のボートの速度成分が重要となります。
- 岸に垂直な速度成分の特定: ボートは岸に対して直角な方向に \(v_{\text{ボート}} = 4.0 \, \text{m/s}\) の速さで進もうとしているため、これが川を横断する方向の速度成分となります。
- 川の流れの影響の考察: 川の流れの速さ \(v_{\text{川}}\) は、ボートを岸に沿って下流に流しますが、川を横断する時間には影響しないと考えます(運動の独立性)。
- 時間計算式の選択: 時間は「距離 ÷ 速さ」で求められるため、川幅を岸に垂直な方向の速度成分で割ることで時間を計算します。
各設問の具体的な解説と解答
(1) 岸から見たボートの速さを求めよ。
問われている内容の明確化:
静水時のボートの速さと川の流速が与えられた条件で、岸から観測したときのボートの速さ(合成された速さ)を求めます。
具体的な解説と計算手順:
岸から見たボートの速度を \(\vec{v}_{\text{合成}}\) とします。これは、静水時のボートの速度 \(\vec{v}_{\text{ボート}}\) と川の流速 \(\vec{v}_{\text{川}}\) のベクトル和です。
$$ \vec{v}_{\text{合成}} = \vec{v}_{\text{ボート}} + \vec{v}_{\text{川}} $$
問題の条件より、
- 静水時のボートの速さ \(v_{\text{ボート}} = |\vec{v}_{\text{ボート}}| = 4.0 \, \text{m/s}\) (岸に対して直角方向)
- 川の流速 \(v_{\text{川}} = |\vec{v}_{\text{川}}| = 3.0 \, \text{m/s}\) (岸に平行な方向)
\(\vec{v}_{\text{ボート}}\) と \(\vec{v}_{\text{川}}\) は互いに直角なので、合成速度 \(\vec{v}_{\text{合成}}\) の大きさ \(v_{\text{合成}}\) は、三平方の定理を用いて計算できます。
2つのベクトル \(\vec{A}\) と \(\vec{B}\) が直角をなすとき、その和のベクトル \(\vec{C} = \vec{A} + \vec{B}\) の大きさ \(C\) は、次式で与えられます。
$$ C = \sqrt{A^2 + B^2} $$
この問題では、\(A\) が \(v_{\text{ボート}}\)、\(B\) が \(v_{\text{川}}\) に対応します。
$$ v_{\text{合成}} = \sqrt{v_{\text{ボート}}^2 + v_{\text{川}}^2} $$
数値を代入して計算します。
$$ v_{\text{合成}} = \sqrt{(4.0 \, \text{m/s})^2 + (3.0 \, \text{m/s})^2} $$
$$ v_{\text{合成}} = \sqrt{16.0 \, (\text{m/s})^2 + 9.0 \, (\text{m/s})^2} $$
$$ v_{\text{合成}} = \sqrt{25.0 \, (\text{m/s})^2} $$
$$ v_{\text{合成}} = 5.0 \, \text{m/s} $$
計算方法の平易な説明:
ボートは、自分が進もうとする方向(岸に垂直)に \(4.0 \, \text{m/s}\) の速さを持ち、同時に川の流れによって岸に平行な方向に \(3.0 \, \text{m/s}\) の速さで流されます。これら2つの速度は互いに直角です。岸から見ると、ボートはこの2つの速度が合わさった方向に、合わさった速さで進んでいるように見えます。この状況は、縦の長さが \(4.0\)、横の長さが \(3.0\) の直角三角形の斜辺の長さを求めるのと同じです。三平方の定理(ピタゴラスの定理)を使うと、斜辺の長さ(つまり合成された速さ)は \(\sqrt{(4.0)^2 + (3.0)^2} = \sqrt{16.0 + 9.0} = \sqrt{25.0} = 5.0\) と計算できます。したがって、岸から見たボートの速さは \(5.0 \, \text{m/s}\) となります。
この設問における重要なポイント:
- 速度はベクトル量であり、大きさと向きを持ちます。複数の速度の影響を考えるときは、ベクトルの合成(足し算)を行います。
- 互いに直角な2つのベクトルを合成する場合、合成ベクトルの大きさは三平方の定理で簡単に求めることができます。
岸から見たボートの速さは \(5.0 \, \text{m/s}\) です。
(2) 川幅が40mであったとき、ボートが対岸に達するまでの時間を求めよ。
問われている内容の明確化:
川の幅と、ボートが岸に対して直角に進もうとする速さが分かっているとき、ボートが対岸に到達するまでにかかる時間を求めます。
具体的な解説と計算手順:
ボートが対岸に達するためには、川幅である \(W = 40 \, \text{m}\) を岸に対して直角な方向に進む必要があります。ボートの岸に対して直角な方向の速度成分は、静水時のボートの速さそのものであり、これを \(v_{\text{横断}}\) とします。
$$ v_{\text{横断}} = v_{\text{ボート}} = 4.0 \, \text{m/s} $$
川の流れの速さ \(v_{\text{川}} = 3.0 \, \text{m/s}\) は、岸に平行な方向の成分であり、ボートを下流に流しますが、川を横断するのにかかる時間には直接影響しません。
時間 \(t\)、距離 \(d\)、速さ \(v\) の間には次の関係があります。
$$ t = \frac{d}{v} $$
この公式は、運動の方向に速度成分 \(v\) が一定である場合に適用できます。ここでは、岸に垂直な方向について考えます。
対岸に達するまでの時間 \(t\) は、川幅 \(W\) を岸に垂直な方向の速度 \(v_{\text{横断}}\) で割ることで求められます。
$$ t = \frac{W}{v_{\text{横断}}} $$
数値を代入して計算します。
$$ t = \frac{40 \, \text{m}}{4.0 \, \text{m/s}} $$
$$ t = 10 \, \text{s} $$
計算方法の平易な説明:
ボートが川をまっすぐ横切るのにかかる時間を考えます。川の幅は \(40 \, \text{m}\) です。ボートは、岸に対して垂直な方向に \(4.0 \, \text{m/s}\) の一定の速さで進みます。川の流れはボートを横に流しますが、対岸に向かう速さ \(4.0 \, \text{m/s}\) 自体は変わりません。したがって、\(40 \, \text{m}\) の距離を \(4.0 \, \text{m/s}\) の速さで進むのにかかる時間は、距離を速さで割ればよく、\(40 \div 4.0 = 10\) 秒となります。
この設問における重要なポイント:
- 川を横断する運動(岸に垂直な方向の運動)と、川の流れに沿って流される運動(岸に平行な方向の運動)は、互いに独立して考えることができます。これを「運動の独立性」といいます。
- 対岸に到達する時間は、川幅(岸に垂直な距離)と、岸に垂直な速度成分のみによって決まります。川の流れの速さは影響しません。
ボートが対岸に達するまでの時間は \(10 \, \text{s}\) です。
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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- 速度の合成と分解:
- 合成速度: 複数の速度が物体に影響を与える場合、それらのベクトル和として全体の速度(合成速度)を求めます。この問題では、ボート自身の速度と川の水の速度を合成しました。
- 速度の分解: 1つの速度を、互いに直交する複数の方向の成分に分けて考えることができます。これにより、複雑な運動を単純な運動の組み合わせとして扱うことができます。この問題では、岸に垂直な方向と平行な方向に運動を分けて考えました。
- 相対速度:
- ある座標系(例:静止している岸)から見た物体の速度を考えることが重要です。この問題では「岸から見たボートの速さ」が問われており、これが相対速度の考え方に基づいています。
- 運動の独立性:
- 物体の運動が複数の独立した方向の運動成分からなる場合(例:水平投射における水平方向と鉛直方向の運動)、各方向の運動は他の方向の運動の影響を受けずに独立して記述できます。この問題では、ボートの川を横断する方向の運動と川の流れに沿う方向の運動がこれに該当し、それぞれ独立して扱えるため、横断時間と流される距離を分けて計算できます。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- 速度ベクトルの図示: 川の流れの問題では、速度ベクトル(ボートの静水時の速度、川の流速、岸から見たときの合成速度)を図で描いてみると、状況を視覚的に理解しやすくなります。特にベクトルの始点を揃えて描くと、合成の様子がよくわかります。
- 成分分解の活用: ボートの進行方向が岸に対して斜めの場合など、速度ベクトルが直角でない場合は、三角関数(\(\sin\), \(\cos\))を用いて各速度を岸に平行な成分と垂直な成分に分解して考えると良いでしょう。
- 問題文の正確な読解: 何が問われているのか(例えば、「合成速度の大きさ」なのか、「岸に垂直な方向の速度成分」なのか、「対岸に到達する時間」なのか、実際に「進む経路の長さ」や「下流に流される距離」なのか等)を正確に把握することが、正しい解法を選択する上で非常に重要です。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 速度の大きさをスカラー的に足してしまう誤り:
- 例えば、(1)でボートの速さ \(4.0 \, \text{m/s}\) と川の流速 \(3.0 \, \text{m/s}\) を単純に足して \(7.0 \, \text{m/s}\) と計算してしまうケースです。
- 解説: 速度はベクトル量(大きさと向きを持つ量)なので、大きさを単純に足し算できるのは、2つの速度が同じ向きの場合のみです。向きが異なる場合は、ベクトルの合成のルール(この問題では三平方の定理)に従って計算しなければなりません。
- 対岸に達する時間の計算に合成速度を使ってしまう誤り:
- 例えば、(2)で川幅 \(40 \, \text{m}\) を (1) で求めた合成速度 \(5.0 \, \text{m/s}\) で割って、\(40 \, \text{m} / 5.0 \, \text{m/s} = 8 \, \text{s}\) と計算してしまうケースです。
- 解説: 対岸に到達する時間は、あくまで岸に垂直な方向の距離(川幅)を、岸に垂直な方向の速度成分で割ることで求められます。合成速度 \(5.0 \, \text{m/s}\) は、ボートが実際に岸から見て進む経路(下流に流された結果としての斜めの経路)の速さであり、その経路長は川幅 \(40 \, \text{m}\) よりも長くなります。
- 川の流れの影響の誤解:
- 川の流れが速いほど対岸に早く着く、または遅く着くと誤解することがあります。
- 解説: ボートが岸に対して垂直に進もうとする限り、その方向の速度成分は川の流れの速さに影響されません。したがって、川の流れの速さは、対岸に到達する時間には直接影響せず、下流にどれだけ流されるかという距離に影響します。
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