Step 2
50 運動の法則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「運動方程式と等加速度直線運動の公式の連携」です。物体にはたらく力から加速度を求め、その加速度を用いて未来の速度を予測するという、力学の最も基本的な問題解決の流れを扱います。
- 運動方程式 \(ma=F\): 物体の質量 \(m\)、加速度 \(a\)、そして物体にはたらく力の合力 \(F\) の関係を示します。
- 力の合成: 複数の力がはたらく場合、それらをベクトルとして合成した「合力」を運動方程式に用います。
- 等加速度直線運動の公式: 力が一定の場合、加速度も一定となります。このとき、速度や位置の変化を計算するために等加速度直線運動の公式が使えます。
- 座標軸の設定: 力の向きを正負の符号で扱うために、最初に座標軸の正の向きを定めることが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、物体にはたらく2つの逆向きの力を合成して合力を求め、運動方程式を立てて加速度を計算します。
- (2)では、(1)で求めた加速度が一定であることを利用し、等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\) を用いて、指定された時間後の物体の速さを計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
互いに逆向きの2つの力がはたらく物体の加速度を求める問題です。運動方程式 \(ma=F\) を適用しますが、この \(F\) には、2つの力を合成した「合力」を代入する必要があることを理解しているかが鍵となります。力の向きを正負の符号で正しく表現し、それらを足し合わせることが重要です。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式の力の項 \(F\) は、物体にはたらく全ての力を合わせた「合力」である。
- 一直線上の力の合成は、正の向きを基準として、各力の向きに応じて正負の符号をつけて足し算(代数和)をすることで計算できる。
- 加速度の向きは、合力の向きと一致する。
具体的な解説と立式
物体の質量は \(m=8.0 \text{ kg}\)、求める加速度の大きさを \(a\) [m/s²] とします。
まず、運動の方向である水平方向について、右向きを正の向きと定めます。
物体にはたらく力は、
- 右向きの力: \(+5.0 \text{ N}\)
- 左向きの力: \(-3.0 \text{ N}\)
したがって、物体にはたらく合力は、これら2つの力の和となります。運動方程式 \(ma = F\) を立てると、
$$ 8.0 a = 5.0 – 3.0 $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 力の合成
上記で立式した運動方程式を \(a\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
8.0 a &= 5.0 – 3.0 \\[2.0ex]
8.0 a &= 2.0 \\[2.0ex]
a &= \displaystyle\frac{2.0}{8.0} \\[2.0ex]
&= 0.25 \text{ [m/s²]}
\end{aligned}
$$
物体には右向きに5.0N、左向きに3.0Nの力がかかっています。これは、右向きの力が勝っている綱引きのような状態です。実際に物体を動かす正味の力(合力)は、力の強い方から弱い方を引いた \(5.0 – 3.0 = 2.0 \text{ N}\) となり、向きは力の強い右向きです。この合力を使って運動方程式「質量 × 加速度 = 合力」を立てると、「\(8.0 \times a = 2.0\)」となります。これを解けば加速度が求まります。
物体に生じる加速度の大きさは \(0.25 \text{ m/s²}\) です。計算結果が正の値なので、加速度の向きは正と定めた右向きであることがわかります。これは、より大きい力がはたらいている向きに加速するという直感的な考察と一致しており、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
一定の加速度で運動する物体が、ある時間後にどれくらいの速さになるかを求める問題です。(1)で求めた加速度は、力が一定である限り変わりません。したがって、この運動は「等加速度直線運動」として扱うことができます。初速度、加速度、時間がわかっているので、速度を求める公式に代入するだけで答えが得られます。
この設問における重要なポイント
- 力が一定なので、加速度も一定である。加速度が一定の運動は等加速度直線運動である。
- 問題文の「静止している」という記述から、初速度 \(v_0 = 0\) であることを読み取る。
- 等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\) を正しく適用する。
具体的な解説と立式
2.0s後の物体の速さを \(v\) [m/s] とします。
この運動は等加速度直線運動であり、各物理量は以下の通りです。
- 初速度: \(v_0 = 0 \text{ m/s}\) (「静止している」から)
- 加速度: \(a = 0.25 \text{ m/s²}\) ((1)の結果より)
- 時間: \(t = 2.0 \text{ s}\)
これらの値を、等加速度直線運動の速度と時間の関係式 \(v = v_0 + at\) に代入します。
$$ v = 0 + 0.25 \times 2.0 $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の速度と時間の関係式: \(v = v_0 + at\)
上記で立式した式を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= 0 + 0.25 \times 2.0 \\[2.0ex]
&= 0.50 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
(1)で求めた加速度 \(0.25 \text{ m/s²}\) は、「この物体は1秒あたり \(0.25 \text{ m/s}\) ずつ速くなりますよ」という意味です。物体は最初止まっていた(速さ0)ので、2.0秒後には、\(0.25 \times 2.0 = 0.50 \text{ m/s}\) だけ速くなります。したがって、2.0秒後の速さは \(0.50 \text{ m/s}\) です。
2.0s後の物体の速さは \(0.50 \text{ m/s}\) です。物体は静止状態から正の向きに加速しているので、速さは時間とともに増加します。計算結果は物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力学と運動学の連携
- 核心: この問題は、物理学の基本的な2つの柱、「力学(運動の原因を扱う)」と「運動学(運動の様子を記述する)」を連携させる典型的な問題です。この2ステップの思考プロセスを理解することが核心となります。
- 理解のポイント:
- 力学フェーズ(問1): まず、物体にはたらく全ての力(この場合は2つの逆向きの力)を合成して「合力」を求めます。次に、その合力と物体の質量を運動方程式 \(ma=F\) に代入し、運動の変化の度合いである「加速度 \(a\)」を計算します。
- 運動学フェーズ(問2): 力学フェーズで求めた加速度 \(a\) を使って、運動を記述する公式(この場合は等加速度直線運動の公式 \(v=v_0+at\))に代入し、特定の時間後の速度など、運動の具体的な様子を明らかにします。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 摩擦力がはたらく場合: 「なめらかな水平面」ではなく「粗い水平面」の場合。運動方向と逆向きに動摩擦力 \(f’ = \mu’N\) がはたらくため、合力を計算する際にこの力を考慮に入れる必要があります。(例: 合力 \(F = 5.0 – 3.0 – f’\))
- 移動距離を求める問題: (2)で「2.0s後の速さ」ではなく「2.0s間に進む距離 \(x\)」を問われた場合。等加速度直線運動の変位の公式 \(x = v_0t + \frac{1}{2}at^2\) を使って計算します。
- 斜面上の運動: 物体が斜面上にある場合。重力を斜面に平行な成分と垂直な成分に分解し、斜面方向の力の合力を考えて運動方程式を立てます。
- 初見の問題での着眼点:
- 物体にはたらく力を全て図示する: これが全ての始まりです。大きさだけでなく、向きも正確に矢印で書き出します。
- 座標軸(正の向き)を設定する: 複数の力がはたらく場合、どちらの向きを正とするかを最初に決め、各力をプラス・マイナスの符号で表現します。
- 合力を計算する: 設定した正の向きに従って、全ての力の代数和(符号を含めた足し算)をとり、合力を求めます。
- 運動の種類を判断する: 合力が一定であれば、加速度も一定となり「等加速度直線運動」の公式が使える、と判断します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 合力の計算ミス:
- 誤解: 逆向きにはたらく2つの力を、向きを考えずに足してしまう(\(5.0+3.0=8.0 \text{ N}\))。
- 対策: 必ず最初に「どちらの向きを正とするか」を決め、紙に書き出します。そして、各力をその向きに応じて「プラスの符号」または「マイナスの符号」をつけて表現します。その上で足し算(\( (+5.0) + (-3.0) = +2.0 \text{ N} \))をすることで、合力を機械的かつ正確に計算できます。
- 初速度の見落とし:
- 誤解: (2)を計算する際に、問題文の「静止している」という重要な情報を見落とし、初速度 \(v_0\) をどう扱っていいかわからなくなる。
- 対策: 問題文を読む際に、「静止」「初速〇〇で」「等速」といった運動の初期状態や種類を示すキーワードに下線を引くなど、印をつける習慣をつけると見落としが減ります。
- 運動方程式と運動の公式の役割分担の混同:
- 誤解: (1)で加速度を求めたいのに、いきなり \(v=v_0+at\) のような運動の公式を使おうとして、\(a\) も \(v\) もわからずに行き詰まる。
- 対策: 「力と質量から加速度を求めるのが運動方程式」「加速度を使って時間や速さ、距離を求めるのが運動の公式」という役割分担を明確に意識することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: (1)で「加速度」を問われているためです。力と加速度という、運動の原因と結果を結びつける物理法則は運動方程式しかありません。
- 適用根拠: 物体に力(合力)がはたらき、その運動状態が変化している(静止から動き出す)ため、この法則を適用するのが論理的に正当です。
- 等加速度直線運動の公式 (\(v = v_0 + at\)):
- 選定理由: (2)で「時間 \(t\) 後の速さ \(v\)」を問われており、初速度 \(v_0\) と加速度 \(a\) が分かっているため、これらの4つの物理量を含むこの公式が最適です。
- 適用根拠: この公式が使えるのは「加速度が一定」の場合に限られます。この問題では、物体にはたらく力(5.0Nと3.0N)が一定なので、運動方程式 \(ma=F\) から導かれる加速度 \(a\) も一定となります。この「加速度が一定である」という事実が、この公式を選択する絶対的な根拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 有効数字の意識:
- 問題文で与えられている数値(8.0kg, 5.0N, 3.0N, 2.0s)はすべて有効数字2桁です。したがって、計算結果も有効数字2桁で答えるのが適切です。(例: \(0.25 \text{ m/s²}\), \(0.50 \text{ m/s}\))
- 単位の確認:
- 計算の各段階で単位が正しいかを確認する癖をつけましょう。運動方程式 \(ma=F\) では、左辺が [kg・m/s²]、右辺が [N] であり、[N] = [kg・m/s²] なので単位は一致しています。
- 簡単な計算こそ慎重に:
- \(a = 2.0 / 8.0\) や \(v = 0.25 \times 2.0\) のような簡単な計算ほど、暗算で済ませようとしてケアレスミスをしがちです。特にテスト本番では、簡単な筆算をするか、一度見直すなどして慎重に計算しましょう。
- 物理的な意味の確認:
- 合力は \(2.0 \text{ N}\) で右向き。だから加速度も右向きになるはず。計算結果の \(a=0.25\) は正の値なのでOK。
- 物体は静止状態から右向きに加速するので、速さは時間とともに増加するはず。計算結果の \(v=0.50\) は正の値で、速さが増えているのでOK。
- このように、計算結果が物理的な直感と合っているかを確認するのも良い検算方法です。
51 張力と重力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「鉛直方向の運動と張力」です。エレベーターの運動のように、物体の運動状態(加速度の有無や向き)によって、物体を支える力(この場合は張力)の大きさがどのように変化するかを、運動方程式を用いて定量的に理解することが目的です。
- 運動方程式 \(ma=F\): 物体の運動状態(加速度 \(a\))と、その原因である力(合力 \(F\))の関係を示す基本法則です。
- 力のつり合い: 加速度が0(静止または等速直線運動)のとき、物体にはたらく力の合力は0になります。
- 慣性の法則: 力の合力が0の物体は、静止し続けるか、等速直線運動を続けます。
- 座標軸の設定: 運動方程式を立てる際に、上向きまたは下向きのどちらかを正と定め、力と加速度の向きを符号で表すことが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1), (2)は加速度が0なので、力のつり合いの式を立てて張力を求めます。
- (3)~(6)は加速度があるので、運動方程式 \(ma=F\) を立てて張力を求めます。その際、各設問の加速度の向きに合わせて座標軸を設定すると、計算がしやすくなります。
問(1) 静止しているとき
思考の道筋とポイント
物体が「静止」しているため、加速度は0です。したがって、物体にはたらく力はつり合っていると考えます。
この設問における重要なポイント
- 静止 \(\rightarrow\) 加速度 \(a=0\)。
- 加速度 \(a=0\) \(\rightarrow\) 合力 \(F=0\)(力のつり合い)。
- 物体にはたらく力は、鉛直上向きの張力 \(T\) と鉛直下向きの重力 \(mg\)。
具体的な解説と立式
物体にはたらく力は、上向きの張力 \(T\) と下向きの重力 \(mg\) です。物体は静止しているので、これらの力はつり合っています。
$$ T = mg $$
使用した物理公式
- 力のつり合い
与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= 0.50 \times 9.8 \\[2.0ex]
&= 4.9 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
物体が止まっているということは、ひもが上に引く力(張力)と、地球が下に引く力(重力)がちょうど同じ大きさで引き合っている状態です。したがって、張力の大きさは重力の大きさに等しくなります。
張力の大きさは \(4.9 \text{ N}\) です。これは物体の重さに等しく、静止している状況として妥当です。
問(2) 1.5m/sの等速度で下降しているとき
思考の道筋とポイント
物体が「等速度」で運動しているため、速度は変化しておらず、加速度は0です。慣性の法則により、この場合も物体にはたらく力はつり合っています。
この設問における重要なポイント
- 等速直線運動 \(\rightarrow\) 加速度 \(a=0\)。
- 加速度 \(a=0\) \(\rightarrow\) 合力 \(F=0\)(力のつり合い)。
- 物理的には、静止している(1)の場合と全く同じ力の状態です。
具体的な解説と立式
(1)と同様に、物体にはたらく力は上向きの張力 \(T\) と下向きの重力 \(mg\) です。加速度が0なので、これらの力はつり合っています。
$$ T = mg $$
使用した物理公式
- 慣性の法則、力のつり合い
(1)と全く同じ計算になります。
$$
\begin{aligned}
T &= 0.50 \times 9.8 \\[2.0ex]
&= 4.9 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
「速さが変わらない」ということは、加速も減速もしていないということです。つまり、物体にかかる力の合計はゼロです。これも(1)と同じで、張力と重力がつり合っている状態なので、張力の大きさは重力と等しくなります。
張力の大きさは \(4.9 \text{ N}\) です。(1)と同じ結果になることを理解することが重要です。
問(3) 上向きに1.2m/s²の加速度で上昇しているとき
思考の道筋とポイント
物体が「上向きに加速」しているため、力のつり合いは成立しません。運動方程式 \(ma=F\) を立てて張力を求めます。
この設問における重要なポイント
- 加速度運動なので、運動方程式 \(ma=F\) を適用する。
- 加速度の向きである「上向き」を正として運動方程式を立てると、計算が直感的になる。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正の向きとします。
- 加速度: \(a = +1.2 \text{ m/s²}\)
- 力: 張力 \(+T\)、重力 \(-mg\)
運動方程式 \(ma=F\) にこれらを代入すると、
$$ m a = T – mg $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
上記の式を \(T\) について解き、数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= ma + mg \\[2.0ex]
&= 0.50 \times 1.2 + 0.50 \times 9.8 \\[2.0ex]
&= 0.60 + 4.9 \\[2.0ex]
&= 5.5 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
上向きに加速するということは、上に引っ張る張力が、下に引っ張る重力よりも強いということです。その力の差(張力 – 重力)が、物体を加速させる力(質量 × 加速度)になります。この関係から張力を計算します。
張力の大きさは \(5.5 \text{ N}\) です。これは重力(\(4.9 \text{ N}\))よりも大きく、上向きに加速しているという状況と一致しており、妥当な結果です。
問(4) 下向きに1.2m/s²の加速度で下降しているとき
思考の道筋とポイント
物体が「下向きに加速」しているため、運動方程式を立てます。加速度の向きである下向きを正とすると計算が簡単です。
この設問における重要なポイント
- 加速度の向きである「下向き」を正として運動方程式を立てる。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正の向きとします。
- 加速度: \(a = +1.2 \text{ m/s²}\)
- 力: 重力 \(+mg\)、張力 \(-T\)
運動方程式 \(ma=F\) にこれらを代入すると、
$$ m a = mg – T $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
上記の式を \(T\) について解き、数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= mg – ma \\[2.0ex]
&= 0.50 \times 9.8 – 0.50 \times 1.2 \\[2.0ex]
&= 4.9 – 0.60 \\[2.0ex]
&= 4.3 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
下向きに加速するということは、下に引っ張る重力が、上に引っ張る張力よりも強いということです。その力の差(重力 – 張力)が、物体を加速させる力(質量 × 加速度)になります。
張力の大きさは \(4.3 \text{ N}\) です。これは重力(\(4.9 \text{ N}\))よりも小さく、下向きに加速しているという状況と一致しており、妥当な結果です。
問(5) 下向きに1.2m/s²の加速度で上昇しているとき
思考の道筋とポイント
「下向きの加速度」で「上昇」している、つまり「減速しながら上昇」している状態です。運動の向きと加速度の向きが逆である点に注意して、運動方程式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 加速度の向きと運動の向きが逆の場合、物体は減速する。
- 運動方程式を立てる際は、加速度の向きを正しく符号で表現することが重要。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正の向きとします。
- 運動の向きは上向きですが、加速度の向きは「下向き」なので、\(a = -1.2 \text{ m/s²}\) となります。
- 力: 張力 \(+T\)、重力 \(-mg\)
運動方程式 \(ma=F\) にこれらを代入すると、
$$ m(-1.2) = T – mg $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
上記の式を \(T\) について解き、数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= mg – m(1.2) \\[2.0ex]
&= 0.50 \times 9.8 – 0.50 \times 1.2 \\[2.0ex]
&= 4.9 – 0.60 \\[2.0ex]
&= 4.3 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
上に動きながらスピードが落ちている状態です。これは、全体として下向きに力がかかっていることを意味します。つまり、下に引っ張る重力が、上に引っ張る張力よりも強い状態です。これは、(4)の「下向きに加速しながら下降」しているときと、力の関係は全く同じになります。
張力の大きさは \(4.3 \text{ N}\) です。(4)と全く同じ結果になりました。加速度の向きが同じであれば、運動の向きが逆(減速運動)であっても、物体にはたらく力の関係は同じになります。
問(6) 下向きに9.8m/s²の加速度で下降しているとき
思考の道筋とポイント
物体の加速度が、重力加速度の大きさ \(g=9.8 \text{ m/s²}\) と等しくなっています。これは、物体が重力のみを受けて運動する「自由落下」と同じ状態であることを意味します。
この設問における重要なポイント
- 加速度が重力加速度 \(g\) に等しい場合、物体は自由落下している。
- 自由落下状態では、物体を支える力(張力)は0になる。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正の向きとします。
- 加速度: \(a = +9.8 \text{ m/s²}\)
- 力: 重力 \(+mg\)、張力 \(-T\)
運動方程式 \(ma=F\) にこれらを代入すると、
$$ m(9.8) = m(9.8) – T $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
上記の式を \(T\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
0.50 \times 9.8 &= 0.50 \times 9.8 – T \\[2.0ex]
4.9 &= 4.9 – T \\[2.0ex]
T &= 0 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
物体が重力と全く同じ加速度で落ちているということは、ひもが全く物体を支えていない、つまり「たるんでいる」のと同じ状態です。ひもがたるんでいれば、張力は0になります。
張力の大きさは \(0 \text{ N}\) です。これは、物体が自由落下しており、ひもが張っていない「無重力状態」になっていることを示しており、物理的に正しい結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式で見る「見かけの重さ」の変化
- 核心: この問題の核心は、物体の加速度に応じて、物体を支える力(張力)が変化するという現象を、運動方程式 \(ma=F\) を通して理解することです。この張力の変化が、私たちがエレベーターなどで感じる「見かけの重さ」の変化に相当します。
- 理解のポイント:
- 基準状態(\(a=0\)): 静止または等速直線運動のとき、力の合力はゼロです(力のつり合い)。このとき、張力は物体の実際の重さ \(mg\) と等しくなります。これが基準となります。
- 上向きに加速(\(a>0\), 上向き): 運動方程式は \(ma = T – mg\) となり、\(T = mg + ma\) となります。張力は実際の重さより大きくなります(重く感じる)。
- 下向きに加速(\(a>0\), 下向き): 運動方程式は \(ma = mg – T\) となり、\(T = mg – ma\) となります。張力は実際の重さより小さくなります(軽く感じる)。
- 自由落下(\(a=g\), 下向き): 加速度が重力加速度と等しくなると、\(T = mg – mg = 0\) となり、張力はゼロになります(無重力状態)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- エレベーター内の体重計: ひもの張力が、体重計が示す値(垂直抗力)に変わるだけで、考え方は全く同じです。エレベーターが上昇・下降するときの体重計の目盛りを問う問題は頻出です。
- 気球からの荷物の落下: 上昇中の気球から荷物を静かに放すと、荷物はその瞬間の気球の速度(上向き)を初速度として、重力加速度で運動(放物運動)を始めます。
- 単振動との関連: ばね振り子を鉛直に吊るした場合、つり合いの位置が重力によってずれますが、振動の中心(つり合いの位置)周りでの運動方程式は、この問題の考え方が基礎となります。
- 応用できる類似問題のパターン:
- 運動の状態を把握する: まず、問題文から「静止」「等速」「加速度の向きと大きさ」を正確に読み取ります。
- 加速度 \(a=0\) かどうかを判断する: 「静止」または「等速」というキーワードがあれば、加速度はゼロなので「力のつり合い」の式を立てます。それ以外の場合は「運動方程式」を立てます。初見の問題での着眼点:
- 座標軸(正の向き)を設定する: 運動方程式を立てる際は、必ずどちらかの向きを正と定めます。一般的に、加速度の向きを正とすると、加速度 \(a\) を正の値として扱えるため、計算が直感的で簡単になります。
- 力をもれなく図示する: 物体にはたらく力(この場合は重力と張力)を、向きも正確に矢印で書き出すことが、正しい式を立てるための第一歩です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 等速運動の誤解:
- 誤解: (2)で「下降している」という言葉に惑わされ、下向きに力がはたらいていると考えて運動方程式を立ててしまう。
- 対策: 運動の種類で最も重要なのは「速度が変化しているか(=加速しているか)」です。「等速」とあれば、動いていても加速度はゼロであり、力の合力もゼロ(つり合いの状態)であると機械的に判断しましょう。
- 加速度の向きと運動の向きの混同:
- 誤解: (5)で「上昇している」からといって、加速度も上向きだと勘違いしてしまう。
- 対策: 加速度は「速度の変化の向き」であり、運動の向きそのものではありません。「下向きの加速度で上昇」とは、「上向きの速度がだんだん小さくなる(減速する)」という意味です。運動方程式を立てる際に使う \(a\) は、問題文で指定された「加速度の向き」を正しく反映させる必要があります。
- 符号のミス:
- 誤解: 運動方程式 \(ma=F\) を立てる際に、力の向きや加速度の向きを考慮せず、\(ma = T+mg\) のように全て正としてしまう。
- 対策: 最初に「上向きを正」などと座標軸を明確に定め、それに従って各ベクトル量(力、加速度)にプラスまたはマイナスの符号を割り振る、という手順を徹底することが最も有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (\(T=mg\)):
- 選定理由: (1)と(2)で、物体が「静止」または「等速直線運動」しているためです。
- 適用根拠: ニュートンの第一法則(慣性の法則)によれば、加速度がゼロの物体にはたらく力の合力はゼロです。この法則を適用し、上向きの力と下向きの力が等しいという式を立てます。
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: (3)から(6)で、物体が「加速」しているためです。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則によれば、物体に力の合力 \(F\) がはたらくと、物体は力の向きに加速度 \(a\) を生じ、その間には \(ma=F\) の関係が成り立ちます。物体の運動が変化している(加速している)状況を記述するためには、この法則の適用が不可欠です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 重力の計算:
- 質量 \(m=0.50 \text{ kg}\) と重力加速度 \(g=9.8 \text{ m/s²}\) から、重力 \(mg = 4.9 \text{ N}\) を最初に計算しておくと、後の計算がスムーズになります。
- 移項の際の符号ミス:
- \(ma = T – mg\) から \(T\) を求める際に、\(T = ma + mg\) と正しく移項すること。
- \(ma = mg – T\) から \(T\) を求める際に、\(T = mg – ma\) と正しく移項すること。
- これらの基本的な計算でミスをしないよう、注意深く行いましょう。
- 物理的な意味での検算:
- 計算結果が出たら、それが直感と合っているかを確認します。
- 上向きに加速 \(\rightarrow\) 張力は重力より大きいか? (\(5.5 > 4.9\), OK)
- 下向きに加速 \(\rightarrow\) 張力は重力より小さいか? (\(4.3 < 4.9\), OK)
- 自由落下 \(\rightarrow\) 張力はゼロか? (OK)
- このような吟味を行うことで、ケアレスミスに気づくことができます。
- 計算結果が出たら、それが直感と合っているかを確認します。
52 連結した物体の運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「鉛直方向に連結された物体の運動」です。2つの物体がひもでつながれて一体で運動する、連結体問題の典型例です。
- 運動方程式 \(ma=F\): 各物体、あるいは物体全体について、運動方程式を正しく立てることが基本です。
- 張力(内力): 2つの物体をつなぐひもが及ぼす力です。「軽くて伸びないひも」では、張力の大きさはどこでも同じになります。
- 分離法と一体法: 連結体の問題を解くための2つの視点です。各物体を別々に考える「分離法」と、全体をまとめて一つの物体と見なす「一体法」を使い分けることが重要です。
- 作用・反作用の法則: ひもが物体Bを上に引く力と、物体Bがひもを下に引く力は作用・反作用の関係にあります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 解法1(分離法): 物体Aと物体Bそれぞれについて運動方程式を立て、連立方程式として解くことで、加速度と張力の両方を求めます。
- 解法2(一体法+分離法): まず物体AとBを一体と見なして全体の加速度を求め、その結果を使って物体B(またはA)の運動方程式から張力を求めます。
思考の道筋とポイント
2つの物体がひもでつながれ、一体となって鉛直上向きに加速する問題です。加速度の大きさと、物体間をつなぐひもの張力の大きさという2つの未知数を求める必要があります。これらを求めるには、2つの物体を別々に考えて運動方程式を立て、連立して解く方法(分離法)が基本です。また、加速度だけなら、2物体を一体と見なす方法(一体法)でより簡単に求めることもできます。
この設問における重要なポイント
- AとBは一体で運動するので、加速度の大きさは等しい。
- ひもが「軽くて伸びない」ので、ひもの両端で物体を引く張力の大きさは等しい。
- 運動方程式を立てる際は、各物体にはたらく力をすべて正確に図示することが重要。
具体的な解説と立式
A, B両物体の加速度の大きさを \(a\) [m/s²]、ひもの張力の大きさを \(T\) [N] とします。
鉛直上向きを正の向きとして、AとBそれぞれについて運動方程式を立てます。
物体Aについて:
物体Aには、上向きに引く力 \(F=60 \text{ N}\)、下向きに自身の重力 \(m_A g\)、そして下向きにひもが引く張力 \(T\) がはたらきます。
$$ m_A a = F – m_A g – T $$
物体Bについて:
物体Bには、上向きにひもが引く張力 \(T\) と、下向きに自身の重力 \(m_B g\) がはたらきます。
$$ m_B a = T – m_B g $$
これで、未知数が \(a\) と \(T\) の2つ、式が2本の連立方程式が立てられました。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
各運動方程式に数値を代入します。
$$
\begin{cases}
2.0 a = 60 – 2.0 \times 9.8 – T & \cdots ① \\
3.0 a = T – 3.0 \times 9.8 & \cdots ②
\end{cases}
$$
これを整理すると、
$$
\begin{cases}
2.0 a = 60 – 19.6 – T & \rightarrow & 2.0 a = 40.4 – T \\
3.0 a = T – 29.4 &
\end{cases}
$$
①式と②式を辺々足し合わせることで、\(T\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
(2.0 a) + (3.0 a) &= (40.4 – T) + (T – 29.4) \\[2.0ex]
5.0 a &= 40.4 – 29.4 \\[2.0ex]
5.0 a &= 11.0 \\[2.0ex]
a &= \displaystyle\frac{11.0}{5.0} \\[2.0ex]
&= 2.2 \text{ [m/s²]}
\end{aligned}
$$
次に、この \(a\) の値を②式に代入して \(T\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
3.0 \times 2.2 &= T – 29.4 \\[2.0ex]
6.6 &= T – 29.4 \\[2.0ex]
T &= 6.6 + 29.4 \\[2.0ex]
&= 36 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
AとBを別々の物体として考え、それぞれに運動方程式を立てます。
物体Aは、「上に引く60Nの力」から「A自身の重さ」と「ひもに下に引っ張られる力(張力)」を引いた、残りの力で加速します。
物体Bは、「ひもに上に引っ張られる力(張力)」から「B自身の重さ」を引いた、残りの力で加速します。
この2つの関係式を立て、中学校で習う連立方程式として解くと、加速度 \(a\) と張力 \(T\) が両方求まります。
加速度の大きさは \(2.2 \text{ m/s²}\)、ひもの張力の大きさは \(36 \text{ N}\) です。
下の物体Bの重さは \(3.0 \times 9.8 = 29.4 \text{ N}\) です。張力 \(T=36 \text{ N}\) はこの重さより大きいので、物体Bが上向きに加速できるという事実に合致しており、妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
まず全体の加速度を求めるために、AとBを一体の物体と見なします。これにより、物体間をつなぐひもの張力(内力)を考えずに済み、計算が簡略化されます。その後、個別の物体の運動方程式に立ち返って張力を求めます。
この設問における重要なポイント
- 一体と見なしたとき、考える力は系全体にはたらく「外力」のみ。
- この系の外力は、上向きに引く力 \(F\) と、AとBの重力の合計である。
具体的な解説と立式
加速度 \(a\) の計算
物体AとBを、質量 \(M = m_A + m_B = 2.0 + 3.0 = 5.0 \text{ kg}\) の一つの物体と見なします。
この一体の物体にはたらく外力は、上向きの力 \(F=60 \text{ N}\) と、下向きの全体の重力 \( (m_A+m_B)g \) です。
上向きを正として、一体の物体についての運動方程式を立てます。
$$ (m_A + m_B) a = F – (m_A + m_B)g $$
張力 \(T\) の計算
(1)で求めた加速度 \(a\) を使って、張力 \(T\) を求めます。物体Bに着目するのが簡単です。
物体Bを上向きに加速させている合力は、上向きの張力 \(T\) と下向きの重力 \(m_B g\) の差です。
物体Bについての運動方程式は、
$$ m_B a = T – m_B g $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
加速度 \(a\) の計算
$$
\begin{aligned}
(2.0 + 3.0) a &= 60 – (2.0 + 3.0) \times 9.8 \\[2.0ex]
5.0 a &= 60 – 5.0 \times 9.8 \\[2.0ex]
5.0 a &= 60 – 49 \\[2.0ex]
5.0 a &= 11.0 \\[2.0ex]
a &= 2.2 \text{ [m/s²]}
\end{aligned}
$$
張力 \(T\) の計算
求めた \(a = 2.2 \text{ m/s²}\) を、物体Bの運動方程式に代入します。
$$
\begin{aligned}
3.0 \times 2.2 &= T – 3.0 \times 9.8 \\[2.0ex]
6.6 &= T – 29.4 \\[2.0ex]
T &= 6.6 + 29.4 \\[2.0ex]
&= 36 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
まず、AとBをガチッと合体させて「5.0kgの大きな一つの物体」と考えます。この物体には、上向きに60Nの力と、下向きに全体の重さ(\(5.0 \times 9.8 = 49 \text{ N}\))がかかっています。差し引きすると、上向きに \(60 – 49 = 11 \text{ N}\) の力で加速することがわかります。この情報から、運動方程式を使って全体の加速度を求めます。
次に、張力を知るために下のBだけを見ます。Bを \(2.2 \text{ m/s²}\) で上に加速させるには、Bの重さ(\(29.4 \text{ N}\))に打ち勝って、さらに加速させる分の力が必要です。Bだけの運動方程式を立てて計算すると、張力が求まります。
メインの解法と同じく、加速度は \(2.2 \text{ m/s²}\)、張力は \(36 \text{ N}\) となり、同じ結果が得られました。一体法は、特に加速度を求める際に非常に見通しが良く、計算も簡潔になります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 連結体の運動方程式と2つの視点
- 核心: この問題は、ひもでつながれた2物体が一体で運動する「連結体問題」の典型例です。核心は、運動方程式を立てる際の2つの視点、「分離法」と「一体法」を理解し、状況に応じて使い分けることにあります。
- 理解のポイント:
- 分離法(個別に考える): 各物体を一つずつ分離し、それぞれにはたらく力(外力と、物体間の内力である張力)をすべて図示して、物体ごとに運動方程式を立てる方法。連立方程式を解くことで、加速度と張力の両方を求めることができます。
- 一体法(まとめて考える): 連結している物体全体を、質量を合計した一つの大きな物体と見なす方法。このとき、物体間をつなぐひもの張力は内力として相殺されるため、系全体にはたらく「外力」のみを考えればよくなります。全体の加速度を素早く求めるのに非常に有効です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 水平面上の連結物体: 物体が水平に置かれ、横向きに引かれる場合。重力は運動に直接関与せず、垂直抗力とつり合います。
- 滑車を介した連結物体: 一方の物体が水平面上、もう一方が鉛直に吊るされている場合。系を動かす駆動力は、吊るされた物体の重力になります。
- アトウッドの器械: 滑車の両側に2つの物体が吊るされている場合。系を動かす駆動力は、2つの物体の「重力の差」になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 何を問われているか確認する: 「加速度」だけか、「張力(内力)」も問われているかを確認します。
- 解法戦略を立てる:
- 加速度だけを問う問題なら、「一体法」が圧倒的に速くて簡単です。
- 張力も問われているなら、「一体法で加速度を求めてから、分離法で張力を求める」という2ステップの解法が最も見通しが良いでしょう。
- 力を正確に図示する: 各物体にはたらく力を「外力」と「内力」に区別して、もれなく矢印で書き出します。特に、張力は物体Aにとっては下向き、物体Bにとっては上向きにはたらくことを正確に把握することが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 張力の向きの間違い:
- 誤解: 物体Aにはたらく張力 \(T\) を、上に引く力と同じ上向きだと勘違いし、運動方程式を \(m_A a = F + T – m_A g\) と立式してしまう。
- 対策: 張力は「ひもが物体を引く力」です。物体Aから見ると、ひもはAを「下向きに」引いています。逆に物体Bから見ると、ひもはBを「上向きに」引いています。ひもを介して力が伝わる様子を正しくイメージしましょう。
- 一体法と分離法の混同:
- 誤解: 一体として考えているのに、運動方程式に内力である張力 \(T\) を含めてしまう。
- 対策: 「一体法では内力は無視する」と割り切りましょう。張力は、その系(AとBのセット)の内部で作用・反作用によりキャンセルされるため、系の外部から見た運動には影響を与えません。運動方程式の力の項には、考えている系の”外”から加えられる「外力」だけを書く、というルールを徹底します。この問題での外力は「上に引く60Nの力」と「AとBの重力の合計」です。
- 重力の見落とし:
- 誤解: 物体Aの運動方程式を立てる際に、A自身の重力 \(m_A g\) を書き忘れてしまう。(例: \(m_A a = F – T\))
- 対策: 「物体にはたらく力を全て図示する」という基本手順を絶対に省略しないこと。特に鉛直方向の運動では、重力は常にはたらいていることを忘れないようにしましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: 問題が「加速度」と「張力」という、力と運動の関係そのものを問うているため、運動方程式を用いるのは必然です。
- 適用根拠:
- 分離法: ニュートンの法則は個々の物体に対して成立するため、AとBをそれぞれ独立した物体と見なし、各々について運動方程式を立てます。未知数が加速度 \(a\) と張力 \(T\) の2つなので、独立した方程式が2本必要となり、このアプローチが論理的に正当化されます。
- 一体法: 同じ加速度で動く物体群は一つの「系」と見なすことができます。この系全体の運動は、系全体にはたらく外力の合力(この問題では、上に引く力と全体の重力の合力)と、系全体の質量によって決まります。これは運動方程式の考え方を個々の物体から「系全体」へと拡張したもので、問題を単純化する強力な思考ツールとなります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 連立方程式の確実な解法:
- この問題のように、一方の式に \(-T\)、もう一方に \(+T\) が現れる場合、2式をそのまま足し算すると \(T\) がきれいに消去できます。この操作は、物理的には「一体法」の運動方程式を導出するのと同じ意味を持ち、計算ミスが少なく最も推奨される方法です。
- 有効数字の意識:
- 問題文で与えられている数値(2.0kg, 3.0kg, 60N)は有効数字2桁です。重力加速度 \(g=9.8 \text{ m/s²}\) も有効数字2桁なので、計算結果も有効数字2桁で答えるのが適切です。(例: \(a=2.2 \text{ m/s²}\), \(T=36 \text{ N}\))
- 検算の徹底:
- 求めた \(a=2.2 \text{ m/s²}\) と \(T=36 \text{ N}\) を、最初に立てた両方の運動方程式に代入して、等式が成立するかを必ず確認します。
- Aの式: 左辺 \(2.0 \times 2.2 = 4.4\)。右辺 \(60 – 19.6 – 36 = 4.4\)。OK。
- Bの式: 左辺 \(3.0 \times 2.2 = 6.6\)。右辺 \(36 – 29.4 = 6.6\)。OK。
- この一手間が、テストでの失点を大きく減らします。
- 求めた \(a=2.2 \text{ m/s²}\) と \(T=36 \text{ N}\) を、最初に立てた両方の運動方程式に代入して、等式が成立するかを必ず確認します。
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