476 発電方式
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、現代社会で利用される様々なエネルギー資源を、複数の観点から分類する知識問題です。物理的な計算ではなく、「枯渇性/再生可能性」と「一次/二次エネルギー」という、エネルギー問題を理解する上で基本的な概念の正確な理解が問われます。
- 石油(原油)・石炭・天然ガス
- ウラン
- 水力(発電等に利用される)
- 原子力でつくった電気エネルギー
- 地熱
- バイオマス
- (1) 上記の資源を、(a)枯渇性エネルギーと(b)再生可能エネルギーに分類すること。
- (2) 上記の資源を、(c)一次エネルギーと(d)二次エネルギーに分類すること。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「エネルギー資源の分類」です。現代社会を支える様々なエネルギー資源について、その性質に基づいた分類方法を正しく理解しているかが問われます。物理的な知識というよりは、科学常識や社会的な知識に近い内容です。
- 枯渇性エネルギーと再生可能エネルギーの区別: 資源が有限で、使い続ければいずれなくなるものが「枯渇性エネルギー」、自然界のサイクルの中で再生・補充され、永続的に利用できるものが「再生可能エネルギー」です。
- 一次エネルギーと二次エネルギーの区別: 自然界に存在する状態のままエネルギー源として利用できるものが「一次エネルギー」、一次エネルギーを人間が使いやすい形に変換・加工したものが「二次エネルギー」です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、リストアップされた6つのエネルギー資源それぞれについて、「使い続けたらなくなるか(枯渇性)」「自然に補充されるか(再生可能)」という観点で分類します。
- (2)では、同じ6つのエネルギー資源について、「自然界にそのまま存在するか(一次)」「人間が変換・加工して作ったものか(二次)」という観点で分類します。
問(1) 枯渇性エネルギーと再生可能エネルギー
思考の道筋とポイント
「枯渇性エネルギー」と「再生可能エネルギー」の定義に基づいて、各エネルギー資源を分類する問題です。それぞれの資源がどのように得られるかを考えることが重要です。
この設問における重要なポイント
- 枯渇性エネルギーの定義: 地下に埋蔵されている量に限りがあり、現在のペースで消費し続ければ、いずれは枯渇してしまうエネルギー資源。化石燃料や核燃料がこれにあたります。
- 再生可能エネルギーの定義: 太陽光、水力、風力、地熱、バイオマスなど、自然界の営みによって常に再生・補充されるため、永続的な利用が期待できるエネルギー資源。
- 注意点: 「④原子力でつくった電気エネルギー」は、その大元である燃料「②ウラン」が枯渇性エネルギーであるため、これも枯渇性エネルギーに分類されます。電気そのものは再生可能ではありませんが、その源流をたどって分類します。
具体的な解説と立式
(a) 枯渇性エネルギー
- ① 石油・石炭・天然ガス: これらは化石燃料と呼ばれ、大昔の生物の死骸が地中で長い年月をかけて変化したものです。埋蔵量には限りがあり、使い続ければなくなります。
- ② ウラン: 原子力発電の燃料となるウランも、地中に埋蔵されている鉱物資源であり、量には限りがあります。
- ④ 原子力でつくった電気エネルギー: この電気エネルギーの源はウランの核分裂エネルギーです。燃料であるウランが枯渇性であるため、この方法で得られる電気も枯渇性エネルギーに分類されます。
(b) 再生可能エネルギー
- ③ 水力: 雨や雪として降った水がダムに貯まり、その位置エネルギーを利用します。水の循環は太陽エネルギーによって維持されるため、再生可能です。
- ⑤ 地熱: 地球内部の熱を利用するエネルギーです。地球が冷え切らない限り、半永久的に利用できます。
- ⑥ バイオマス: 植物や動物の排泄物などを燃焼・発酵させてエネルギーを得ます。植物は太陽光によって成長(光合成)するため、持続的に生産可能であり、再生可能エネルギーに分類されます。
使用した物理公式
- この設問は知識を問うものであり、物理公式は使用しません。
この設問は分類問題であり、計算は不要です。
(a) いずれなくなるものグループ:石油や石炭、天然ガス、そして原子力発電の燃料であるウランは、地球に埋まっている量が決まっているので、いつかはなくなってしまいます。ウランから作る電気も、元がなくなるのでこのグループです。
(b) なくならないものグループ:水力(雨)、地熱(地球の熱)、バイオマス(植物)は、太陽や地球の活動によって繰り返し補充されるので、うまく使えばずっと利用できます。
(a) 枯渇性エネルギー: ①, ②, ④
(b) 再生可能エネルギー: ③, ⑤, ⑥
それぞれのエネルギー資源の由来を考えると、この分類は妥当です。
問(2) 一次エネルギーと二次エネルギー
思考の道筋とポイント
「一次エネルギー」と「二次エネルギー」の定義に基づいて、各エネルギー資源を分類する問題です。エネルギーが利用されるまでの「加工・変換」の有無が判断基準となります。
この設問における重要なポイント
- 一次エネルギーの定義: 自然界に存在する状態のまま、エネルギー源として採取・利用されるもの。例えば、原油、石炭、天然ガス、ウラン鉱石、水力、地熱、太陽光、バイオマスなどが含まれます。
- 二次エネルギーの定義: 一次エネルギーを、人間が消費しやすい形(電気、ガソリン、都市ガスなど)に変換・加工したもの。発電所で一次エネルギーを変換して作られる電気が代表例です。
具体的な解説と立式
(c) 一次エネルギー
- ① 石油(原油)・石炭・天然ガス: 地中から採掘・採掘されたそのままの形でエネルギー資源となります。(ガソリンや灯油は二次エネルギーですが、ここでは大元の資源として考えます)
- ② ウラン: 地中から採掘されるウラン鉱石がエネルギーの源です。
- ③ 水力: ダムに貯まった水の位置エネルギーそのものを利用します。
- ⑤ 地熱: 地球内部の熱そのものを利用します。
- ⑥ バイオマス: 植物や家畜の糞など、自然界に存在する物質そのものをエネルギー源とします。
(d) 二次エネルギー
- ④ 原子力でつくった電気エネルギー: ウランという一次エネルギーを、原子力発電所で核分裂させ、その熱でタービンを回すというプロセスを経て「変換・加工」して作られたエネルギーです。電気エネルギーは常に二次エネルギーに分類されます。
使用した物理公式
- この設問は知識を問うものであり、物理公式は使用しません。
この設問は分類問題であり、計算は不要です。
(c) 自然界からそのまま取ってくるものグループ:石油、石炭、天然ガス、ウランは地面を掘って取り出します。水力や地熱、バイオマスも、自然にある水や熱、植物を直接利用します。これらが一次エネルギーです。
(d) 人間が加工して作ったものグループ:電気は、発電所で石炭を燃やしたり、ウランを核分裂させたりと、一次エネルギーを「加工」して作られます。したがって、電気は二次エネルギーです。
(c) 一次エネルギー: ①, ②, ③, ⑤, ⑥
(d) 二次エネルギー: ④
エネルギーの変換プロセスの有無という定義に基づくと、この分類は妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
この問題は物理法則を直接問うものではなく、エネルギー資源に関する科学的・社会的な知識を問うものです。核心となる概念は、エネルギー資源を分類するための2つの主要な「観点」です。
- 観点1:資源の持続可能性(枯渇性 vs 再生可能性)
- 核心: そのエネルギー資源が、人間の時間スケールで見て「有限」か「無限(または循環的)」かという観点です。これは、エネルギー問題や環境問題を考える上で最も基本的な分類方法です。
- 理解のポイント:
- 枯渇性エネルギー: 地球が長い年月をかけて蓄積した「ストック(貯蔵)」を利用するもの。化石燃料(石油、石炭、天然ガス)や核燃料(ウラン)が代表例です。
- 再生可能エネルギー: 太陽や地球の活動によって常に供給される「フロー(流れ)」を利用するもの。水力、地熱、バイオマス、太陽光、風力などが代表例です。
- 観点2:エネルギーの変換段階(一次 vs 二次)
- 核心: そのエネルギーが「自然界に存在するそのままの形」か「人間が利用しやすいように変換・加工した後の形」かという観点です。これは、エネルギーの供給から消費までの流れ(エネルギーシステム)を理解する上で重要です。
- 理解のポイント:
- 一次エネルギー: エネルギーの「原材料」。自然から直接採取します。
- 二次エネルギー: エネルギーの「製品」。一次エネルギーを工場(発電所や製油所など)で加工して作られます。電気、ガソリン、都市ガス、水素などが代表例です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 他のエネルギー資源の分類: 太陽光発電、風力発電、燃料電池(水素)などが選択肢に加わった場合。
- 太陽光、風力: 再生可能エネルギーであり、一次エネルギー。
- 水素: 製造方法によりますが、一般的には水を電気分解するなどして作られる二次エネルギー。
- エネルギー変換効率に関する問題: 一次エネルギーから二次エネルギーに変換する際には、必ずエネルギー損失が生じます。この変換効率を考慮した計算問題などに応用されます。
- 環境負荷に関する分類: 例えば、二酸化炭素(\(\text{CO}_2\))を排出するか否か、といった観点での分類問題も考えられます。
- 他のエネルギー資源の分類: 太陽光発電、風力発電、燃料電池(水素)などが選択肢に加わった場合。
- 初見の問題での着眼点:
- 分類の「観点(キーワード)」を正確に把握する: 「枯渇性/再生可能」なのか、「一次/二次」なのか、問題で問われている分類の軸を最初に確認します。
- 各エネルギー資源の「源流」をたどる: そのエネルギーが元々どこから来たのかを考えます。
- 例:「原子力でつくった電気」→ 源流は「ウラン」→ ウランは地中の鉱物資源 → 枯渇性。
- 例:「水力発電」→ 源流は「ダムの水の位置エネルギー」→ 水は雨として降る → 雨は太陽エネルギーによる水の循環 → 再生可能。
- 「加工」の有無を考える: 「電気」や「ガソリン」のように、明らかに人間が大規模な設備で作り出しているものは二次エネルギーであると判断できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 「原子力」と「電気」の混同:
- 誤解: 「原子力でつくった電気エネルギー」を、クリーンなイメージから再生可能エネルギーに分類してしまう。また、「電気」という形態に注目しすぎて、一次エネルギーか二次エネルギーかの判断を誤る。
- 対策: 必ずエネルギーの「源」を基準に考えましょう。「原子力でつくった電気」の源は「ウラン」です。ウランは有限な資源なので「枯渇性」です。また、電気はウランを「変換・加工」して作られるので「二次エネルギー」です。
- バイオマスの分類ミス:
- 誤解: バイオマスを燃やすと\(\text{CO}_2\)が出るため、化石燃料と同じ仲間だと考えて枯渇性エネルギーに分類してしまう。
- 対策: バイオマスの\(\text{CO}_2\)は、元々植物が光合成で大気中から吸収したものです。燃焼させて\(\text{CO}_2\)を排出しても、長い目で見れば大気中の\(\text{CO}_2\)の総量を増やさない(カーボンニュートラル)と考えられており、植物が育てば再生されるため「再生可能エネルギー」に分類されます。
- 一次・二次の判断基準の曖昧さ:
- 誤解: 「石炭」も家庭で使うためには採掘や輸送が必要だから二次エネルギーではないか、などと深く考えすぎて混乱する。
- 対策: ここでの「変換・加工」とは、エネルギーの形態そのものが化学的・物理的に大きく変わることを指します。石炭を燃やして熱を取り出すのは一次エネルギーの利用ですが、石炭を燃やして電気を作るのは二次エネルギーへの変換です。エネルギーの「質」が変わるかどうかがポイントです。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- エネルギーの流れ図(サンキーダイアグラム): 左側に一次エネルギー(石油、石炭、水力など)を配置し、中央に変換部門(発電所、製油所など)、右側に二次エネルギー(電気、ガソリンなど)と最終消費部門を配置した流れ図をイメージします。この図を描くことで、一次エネルギーと二次エネルギーの関係が一目瞭然になります。
- 資源のストックとフローのイメージ:
- 枯渇性エネルギー: 地球という名の「貯金箱」に貯まった有限のお金(ストック)を取り崩して使っているイメージ。
- 再生可能エネルギー: 太陽から降り注ぐ「お小遣い」(フロー)を日々利用しているイメージ。貯金は減らないが、使える量には限りがあります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
この問題では数式は使いませんが、分類の背景にある論理を理解することが重要です。
- 枯渇性/再生可能という分類の論理:
- 選定理由: エネルギー資源の「有限性」という、資源安全保障や持続可能な社会を考える上で最も重要な性質に着目するため。
- 適用根拠: 地球科学的な知見(化石燃料やウラン鉱床の形成プロセス)と、生態学的な知見(太陽エネルギーを起点とする生物圏のサイクル)に基づいています。
- 一次/二次という分類の論理:
- 選定理由: エネルギーが社会でどのように供給され、利用されているかという「エネルギーシステム」の構造を理解するため。
- 適用根拠: 熱力学の法則(エネルギー変換には必ず損失が伴う)や、工学的な知見(エネルギーの利用形態の多様性)に基づいています。二次エネルギーは便利ですが、変換の過程でエネルギーの一部が失われるという側面も持ち合わせています。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
この問題は計算を伴わないため、思考のフローは以下のようになります。
- (1) 枯渇性/再生可能エネルギーの分類:
- 戦略: 各資源の源流をたどり、有限か無限(循環的)かを判断する。
- フロー: ①石油・石炭・天然ガス → 化石燃料、有限 → (a)枯渇性。 ②ウラン → 鉱物資源、有限 → (a)枯渇性。 ③水力 → 水の循環、再生可能 → (b)再生可能。 ④原子力発電の電気 → 燃料がウラン → (a)枯渇性。 ⑤地熱 → 地球内部の熱、半永久的 → (b)再生可能。 ⑥バイオマス → 植物の成長、再生可能 → (b)再生可能。
- (2) 一次/二次エネルギーの分類:
- 戦略: 各資源が自然界にそのまま存在するか、人間が変換・加工したかを判断する。
- フロー: ①〜③, ⑤, ⑥ → 自然界から直接採取 → (c)一次。 ④電気エネルギー → 発電所で変換・加工 → (d)二次。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
この問題は知識問題のため、計算ミスはありません。ただし、以下のような「判断ミス」をなくす意識が重要です。
- キーワードの定義を正確に覚える: 「枯渇性」「再生可能」「一次」「二次」という言葉の定義を曖昧にせず、正確に記憶しておくことが最も重要です。
- 思い込みを排除する: 例えば「原子力=クリーン」というイメージだけで「再生可能」と判断するのではなく、「燃料のウランは有限か?」という定義に立ち返って論理的に判断する姿勢が大切です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの妥当性の検討:
- 分類結果の再確認: 分類が終わった後、もう一度各グループの定義に照らし合わせて、分類に矛盾がないかを確認します。例えば、「(a)枯渇性エネルギーのグループ(①, ②, ④)は、すべて使い続けたらなくなる資源(またはそれに由来するもの)だな」と確認する作業が有効です。
- 社会的な常識との照らし合わせ: 「再生可能エネルギーの導入促進」といったニュースで、水力、地熱、バイオマス、太陽光などが挙げられることを思い出せば、自分の分類が正しいかどうかを裏付けることができます。同様に、電気やガソリンが二次エネルギーであることは、日常生活の感覚とも一致します。
477 太陽のエネルギー
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、太陽光によって水が温められるという日常的な現象を、物理学の法則を用いて定量的に分析する問題です。太陽光が斜めから入射する際のエネルギー計算と、熱力学の基本である熱量計算を組み合わせることで、水の温度がどれだけ上昇するかを求めます。
- 容器: 直径40cm, 深さ10cmの円筒形
- 太陽光の入射角: 水面に対し30°
- 太陽光のエネルギー密度: 光線に垂直な面で 8.4 J/(cm²・分)
- 水の密度: \(\rho = 1.0 \text{ g/cm}^3\)
- 水の比熱: \(c = 4.2 \text{ J/(g}\cdot\text{K)}\)
- 円周率: \(\pi = 3.14\)
- 断熱条件: 太陽エネルギーはすべて水の温度上昇に使われ、外部に熱は逃げない。
- (1) 水が1分間に受け取る太陽エネルギー[J]。
- (2) 1時間放置したときの水の温度上昇[℃]。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「太陽エネルギーによる水の温度上昇」です。熱力学の基本的な概念である熱量計算と、幾何学的な考察(光が当たる面積の計算)を組み合わせる能力が問われます。
- エネルギーの入射量計算: 太陽光が斜めから当たる場合、光線に垂直な断面積を考える必要があります。水面が受け取るエネルギーは、水面の面積と、その面を光線に垂直な方向から見たときの「見かけの面積」に比例します。
- 熱量と温度変化の関係: 物質が得た熱量\(Q\)、質量\(m\)、比熱\(c\)、温度変化\(\Delta T\)の間には、\(Q=mc\Delta T\) という関係が成り立ちます。
- 熱量保存の法則: 外部に熱が逃げないという条件下では、「水が受け取った太陽エネルギー」がすべて「水の温度上昇に使われた熱量」に等しくなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず円筒容器の水面の面積を計算します。次に、太陽光が30°の角度で当たることを考慮して、水面が1分間に受け取る太陽エネルギーの総量を計算します。
- (2)では、(1)で求めた1分あたりのエネルギーを60倍して、1時間あたりに水が受け取る総熱量\(Q\)を計算します。一方、容器内の水の質量を計算し、水が得る熱量を\(Q’=mc\Delta T\)の形で表します。最後に、熱量保存の法則(\(Q=Q’\))から、温度上昇\(\Delta T\)を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
水面が1分間に受け取る太陽エネルギーを計算する問題です。ポイントは、太陽光が斜めから当たっているため、光の進行方向に対して水面がどれだけの面積を持っているように見えるか(有効断面積)を考える点です。
この設問における重要なポイント
- 水面の面積計算: 円筒の直径から半径を求め、円の面積の公式 \(S = \pi r^2\) を使って水面の面積を計算します。
- 有効断面積の計算: 太陽光線に対して水面が傾いているため、実際に太陽エネルギーを受け取る有効な面積は、水面の面積 \(S\) に \(\sin\theta\) を掛けた \(S \sin\theta\) となります。ここで \(\theta\) は水面と太陽光線のなす角です。
- 総エネルギーの計算: 単位面積あたり、1分間あたりのエネルギー量に、この有効断面積を掛けることで、水面全体が1分間に受け取る総エネルギーを求めます。
具体的な解説と立式
まず、容器の水面の面積 \(S\) [cm\(^2\)] を計算します。
直径が40cmなので、半径 \(r\) は20cmです。
$$ S = \pi r^2 = \pi \times 20^2 \quad \cdots ① $$
次に、水面が太陽光線からエネルギーを受け取る有効な面積 \(S_{\text{有効}}\) を考えます。
太陽光は水面に対して \(30^\circ\) の角度で当たるので、光の進行方向に垂直な平面への射影を考え、有効断面積は次のようになります。
$$ S_{\text{有効}} = S \sin 30^\circ \quad \cdots ② $$
太陽光線に垂直な \(1\text{cm}^2\) の面が1分間に受け取るエネルギーは \(E_0 = 8.4\) [J] です。
したがって、水全体が1分間に受け取る太陽エネルギー \(Q_{\text{分}}\) は、
$$ Q_{\text{分}} = E_0 \times S_{\text{有効}} = E_0 \times S \sin 30^\circ \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 円の面積: \(S = \pi r^2\)
①, ②, ③の式を順に計算します。
水面の面積 \(S\) は、\(\pi=3.14\) として、
$$ S = 3.14 \times 20^2 = 3.14 \times 400 = 1256 \text{ [cm}^2\text{]} $$
1分間に受け取る太陽エネルギー \(Q_{\text{分}}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{分}} &= 8.4 \times S \times \sin 30^\circ \\[2.0ex]&= 8.4 \times 1256 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]&= 4.2 \times 1256 \\[2.0ex]&= 5275.2 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(5.3 \times 10^3\) J となります。
まず、容器の水面の広さを計算します。次に、太陽の光はまっすぐではなく斜め(30°)から当たっているので、水面が実際に受け止められる光の量は、水面を太陽の正面に向けた場合よりも少なくなります。その「割引率」は \(\sin 30^\circ = 0.5\)(半分)です。1cm\(^2\)あたり8.4Jというエネルギー量に、この割引をした水面の面積を掛けることで、1分間に水が受け取る全エネルギーを計算します。
水に与えられる太陽エネルギーは、毎分あたり \(5.3 \times 10^3\) J です。計算プロセスは物理法則に忠実であり、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
1時間放置した後の水の温度上昇を求める問題です。水が受け取った太陽エネルギーが、すべて水の内部エネルギーの増加(温度上昇)に使われる、というエネルギー保存則を適用します。
この設問における重要なポイント
- 総熱量の計算: (1)で求めた1分あたりのエネルギー量を60倍して、1時間(60分)で水が受け取る総熱量 \(Q\) を計算します。
- 水の質量の計算: 容器の形状(円筒)と水の深さから、水の体積を計算します。その体積に水の密度を掛けることで、水の質量 \(m\) を求めます。単位(cmとg)に注意が必要です。
- 熱量保存則の立式: 「水が受け取った熱量 \(Q\)\) = 「水が吸収した熱量 \(Q’\)」として、\(Q = mc\Delta T\) の式を立て、温度上昇 \(\Delta T\) を求めます。
具体的な解説と立式
1. 1時間で水が受け取る総熱量 \(Q\) の計算
(1)で求めた1分あたりのエネルギー \(Q_{\text{分}} = 5275.2\) [J] を用いて、1時間(60分)あたりの総熱量 \(Q\) を計算します。
$$ Q = Q_{\text{分}} \times 60 \quad \cdots ① $$
2. 水の質量 \(m\) の計算
水の体積 \(V\) は、水面の面積 \(S\) に深さ \(h=10\) [cm] を掛けたものです。
$$ V = S \times h = (3.14 \times 20^2) \times 10 \text{ [cm}^3\text{]} $$
水の密度は \(\rho = 1.0\) [g/cm\(^3\)] なので、水の質量 \(m\) は、
$$ m = \rho \times V = 1.0 \times (3.14 \times 20^2 \times 10) \text{ [g]} \quad \cdots ② $$
3. 熱量保存則の立式
水の温度が \(\Delta T\) [℃] 上昇したときに水が得た熱量 \(Q’\) は、水の比熱 \(c = 4.2\) [J/(g・K)] を用いて、
$$ Q’ = mc\Delta T \quad \cdots ③ $$
外部に熱は逃げないので、\(Q = Q’\) が成り立ちます。
$$ Q_{\text{分}} \times 60 = mc\Delta T \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 熱量の計算式: \(Q = mc\Delta T\)
- 質量・密度・体積の関係: \(m = \rho V\)
④式に、これまで求めた関係式を代入して \(\Delta T\) について解きます。
$$ (8.4 \times (3.14 \times 20^2) \times \sin 30^\circ) \times 60 = (1.0 \times (3.14 \times 20^2) \times 10) \times 4.2 \times \Delta T $$
この式を見ると、両辺に共通の項 \((3.14 \times 20^2)\) があるため、これを消去できます。
$$ (8.4 \times \sin 30^\circ) \times 60 = (1.0 \times 10) \times 4.2 \times \Delta T $$
数値を代入して計算します。
$$ (8.4 \times \frac{1}{2}) \times 60 = 10 \times 4.2 \times \Delta T $$
$$ 4.2 \times 60 = 42 \times \Delta T $$
$$ 252 = 42 \times \Delta T $$
$$
\begin{aligned}
\Delta T &= \frac{252}{42} \\[2.0ex]&= 6.0 \text{ [℃]}
\end{aligned}
$$
(注:温度変化 \(\Delta T\) の場合、セ氏[℃]と絶対温度[K]の目盛りの幅は同じなので、\(\Delta T\) [℃] = \(\Delta T\) [K] となり、比熱の単位のKはそのまま使えます。)
まず、1時間で水が受け取る太陽エネルギーの総量を計算します。次に、容器に入っている水の重さ(質量)を計算します。最後に、「(受け取ったエネルギー)=(水の質量)×(水の温まりやすさの指標である比熱)×(温度上昇)」という熱の基本公式に当てはめて、温度が何度上がるかを計算します。
1時間放置したときの水の温度上昇は 6.0℃ です。
計算過程で、水面の面積の具体的な値(\(3.14 \times 20^2\))を計算しなくても、両辺で約分されて消えることに気づくと、計算が大幅に簡略化できます。これは、受け取るエネルギーも温める水の量も、どちらも水面の面積に比例するためです。物理的な洞察が計算の手間を省く良い例です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 熱量保存の法則(エネルギー保存則):
- 核心: この問題全体を貫く最も重要な法則は、「外部との熱のやり取りがない場合、ある物体が得たエネルギーは、その物体の内部エネルギーの増加に等しい」というエネルギー保存則です。具体的には、「水が受け取った太陽エネルギー \(Q_{\text{in}}\)」が、すべて「水の温度上昇に使われる熱量 \(Q_{\text{out}}\)」に変換されると考え、\(Q_{\text{in}} = Q_{\text{out}}\) という等式を立てることが核心となります。
- 理解のポイント: (1)は \(Q_{\text{in}}\) を求める問題、(2)は \(Q_{\text{in}} = mc\Delta T\) という関係式を使って \(\Delta T\) を求める問題と見ることができます。
- 熱量の計算式 (\(Q=mc\Delta T\)):
- 核心: 物質の温度を変化させるのに必要な熱量を計算するための基本公式です。質量\(m\)、比熱\(c\)、温度変化\(\Delta T\) という3つの要素で決まることを理解しているかが問われます。
- 理解のポイント: 比熱\(c\)は「その物質1gを1K(または1℃)上昇させるのに必要な熱量」という意味を持つ、物質固有の値です。この意味を理解していれば、公式を忘れにくくなります。
- 斜めに入射する光のエネルギー計算:
- 核心: (1)で、太陽光が斜めから当たる場合、エネルギーを受け取る「有効な面積」は、光線に垂直な方向への射影面積になる、という幾何学的な考え方が重要です。
- 理解のポイント: 同じ面積でも、光に対して正面を向いている方がたくさんの光を受け取れます。斜めを向いていると、見かけ上の面積が小さくなるため、受け取る光の量が減ります。その「見かけの面積」が \(S \sin\theta\) で計算されることを理解しましょう。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 熱効率が100%でない問題: 「受け取った太陽エネルギーのXX%が水の温度上昇に使われた」という条件が加わる場合。この場合、\(Q_{\text{in}} \times \frac{XX}{100} = mc\Delta T\) のように、熱効率を考慮して立式します。
- 容器の熱容量を考慮する問題: 「容器も一緒に温まる」という条件が加わる場合。水が得る熱量 \(mc\Delta T\) に加えて、容器が得る熱量 \(C\Delta T\)(\(C\)は容器の熱容量)も考慮し、\(Q_{\text{in}} = mc\Delta T + C\Delta T = (mc+C)\Delta T\) という式を立てる必要があります。
- 状態変化を伴う問題: 「0℃の氷が溶けて水になり、さらに温度が上昇する」といった問題。この場合は、融解熱(氷が水になるために必要な熱量)も考慮に入れる必要があります。\(Q_{\text{in}} = (\text{融解に使われた熱量}) + (\text{水の温度上昇に使われた熱量})\)。
- 初見の問題での着眼点:
- エネルギーの出入りを明確にする: 「何がエネルギーを得て」「何がエネルギーを失ったか」という関係を最初に整理します。この問題では「水が太陽からエネルギーを得た」というシンプルな関係です。
- 熱量の計算に必要な要素をリストアップする: \(Q=mc\Delta T\) を使うためには、質量\(m\)、比熱\(c\)、温度変化\(\Delta T\) が必要です。問題文からこれらの値を拾い出す、あるいは計算で求める必要があります。
- 単位の統一を意識する: 質量が[g]か[kg]か、エネルギーが[J]か[cal]か、長さが[cm]か[m]か、といった単位の不一致は計算ミスの最大の原因です。特に比熱の単位 \(J/(g \cdot K)\) に合わせて、他の物理量も[J], [g], [K(または℃)]に統一する意識が重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 斜めに入射する光の面積計算ミス:
- 誤解: 水面の面積\(S\)をそのまま使ってエネルギーを計算してしまう。あるいは、角度\(\theta\)の扱いを間違え、\(\cos\theta\) を掛けてしまう。
- 対策: 必ず図を描いて、光の進行方向と面の向きの関係を視覚的に確認しましょう。太陽光線と水面がなす角が\(\theta\)のとき、光線に垂直な面への射影面積は \(S\sin\theta\) となります。「太陽から見た水面の見かけの面積」と考えるとイメージしやすいです。
- 単位の換算ミス:
- 誤解: 直径40cmを半径40cmと勘違いする。水の質量を計算する際に、体積の単位(cm\(^3\))と密度の単位(g/cm\(^3\))が合っているかを確認しない。時間の単位を「分」と「時間」で混同する。
- 対策: 計算を始める前に、すべての物理量の単位をSI基本単位系(m, kg, s, J)または問題で指定された単位系(この問題ではcm, g, s, Jが便利)に統一する癖をつけましょう。
- 比熱の単位にあるK(ケルビン)と℃(セ氏)の混同:
- 誤解: 比熱の単位が J/(g・K) なので、温度も絶対温度(K)に変換しないといけない、と勘違いしてしまう。
- 対策: 温度「変化」\(\Delta T\) の場合、1℃の変化と1Kの変化は同じ大きさです。したがって、\(\Delta T\) に関しては℃とKを区別する必要はありません。\(Q=mc\Delta T\) の公式では、\(\Delta T\) に℃単位の値をそのまま使って問題ありません。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 光のシャワーのイメージ: 太陽エネルギーを、無数の光の粒が降り注ぐシャワーのようにイメージします。水面が水平(光に対して斜め)だと、シャワーが当たる範囲は広がるものの、単位面積あたりの粒の数は少なくなります。水面を光のシャワーに正対させたとき(光線に垂直な面)に受け取るエネルギーが最大になります。この「正対させたときの面積」が \(S\sin\theta\) に相当します。
- エネルギーの収支図: 左側に「入力:太陽エネルギー \(Q_{\text{in}}\)」、右側に「出力:水の温度上昇 \(mc\Delta T\)」を描き、矢印で結びます。外部に熱が逃げないという条件は、この矢印の途中でエネルギーが漏れ出さないことを意味し、\(Q_{\text{in}} = mc\Delta T\) が成り立つことを視覚的に示します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 有効断面積の計算 (\(S_{\text{有効}} = S \sin\theta\)):
- 選定理由: (1)で、斜めから入射する太陽光から水面が受け取るエネルギーの総量を計算するため。エネルギーの流入量は、光線に垂直な断面積に比例するという物理的性質を数式で表現する必要があります。
- 適用根拠: ベクトルの内積の考え方に基づいています。エネルギーの流れを表すベクトルと、面の法線ベクトルの内積が、その面を通過するエネルギー流量を与える、という考え方の応用です。
- 熱量の計算式 (\(Q=mc\Delta T\)):
- 選定理由: (2)で、水の温度上昇という現象を、熱量という物理量と結びつけるため。
- 適用根拠: 熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W\) において、仕事\(W=0\)の場合、内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は得た熱量\(Q\)に等しく、理想的な物質では\(\Delta U\)が温度変化\(\Delta T\)に比例する、という物理学の基本法則に基づいています。
- 熱量保存則 (\(Q_{\text{in}} = Q_{\text{out}}\)):
- 選定理由: (2)で、二つの異なる方法で計算した熱量(太陽から得たエネルギーと、水の温度上昇に使われたエネルギー)を結びつけ、未知数\(\Delta T\)を求める方程式を立てるため。
- 適用根拠: 「エネルギーは創り出されたり消滅したりせず、ただ形態を変えるだけである」という、物理学全体を貫く大原則「エネルギー保存則」の熱現象における現れです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 毎分の受熱エネルギーの計算:
- 戦略: 単位面積あたりのエネルギー量に、光に対する有効な面積を掛ける。
- フロー: ①水面の面積\(S\)を計算 (\(S=\pi r^2\)) → ②光に対する有効断面積を計算 (\(S_{\text{有効}}=S\sin\theta\)) → ③単位エネルギー量に\(S_{\text{有効}}\)を掛けて、1分あたりの総エネルギー\(Q_{\text{分}}\)を求める。
- (2) 温度上昇の計算:
- 戦略: 1時間の総受熱エネルギーと、水の温度上昇に必要な熱量が等しい、という式を立てる。
- フロー: ①1時間の総受熱エネルギー\(Q\)を計算 (\(Q=Q_{\text{分}}\times 60\)) → ②水の体積\(V\)と質量\(m\)を計算 (\(m=\rho V\)) → ③水の温度上昇に必要な熱量を立式 (\(Q’=mc\Delta T\)) → ④\(Q=Q’\)として\(\Delta T\)について解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: (2)の計算では、\( (8.4 \times S \times \sin 30^\circ) \times 60 = (\rho \times S \times h) \times c \times \Delta T \) のように、まず文字式で等式を立てると、両辺の面積\(S\)を約分できることに気づきやすくなります。具体的な数値をいきなり代入する前に、式を整理する習慣をつけると、計算が楽になりミスも減ります。
- 単位を含めて計算する: 例えば、\(m = 1.0 [\text{g/cm}^3] \times 12560 [\text{cm}^3] = 12560 [\text{g}]\) のように、計算過程で単位も一緒に書くことで、単位の整合性が取れているかを確認でき、ミスを防げます。
- 比熱の単位をガイドにする: 比熱の単位が J/(g・K) であることから、熱量は[J]、質量は[g]、温度変化は[K]または[℃]で計算する必要がある、という指針が得られます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2)の温度上昇6.0℃は、真夏の炎天下でコップの水を1時間放置した場合の温度上昇として、実感と大きくかけ離れていない、妥当な値です。もし計算結果が0.01℃や100℃のような極端な値になった場合は、桁間違いや単位換算のミスを疑うべきです。
- 条件を変えて思考実験する:
- もし太陽光が真上から(90°で)当たったらどうなるか? \(\sin 90^\circ = 1\) となり、受け取るエネルギーは最大(\(\sin 30^\circ\)の場合の2倍)になります。その結果、温度上昇も2倍の12℃になるはずです。
- もし容器の直径が2倍(80cm)になったら? 水面の面積は4倍になります。受け取るエネルギーも4倍、温める水の質量も4倍になるため、\(Q\)と\(m\)が両方4倍になり、温度上昇\(\Delta T\)は変わらないはずです。このように、条件を変えた場合の結果を予測し、自分の立てた式がその予測と一致するかを確認することで、理解を深めることができます。
478 太陽のエネルギー
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、太陽から惑星が受け取るエネルギーの強さが、太陽からの距離によってどのように変化するかを問う問題です。物理学における基本的な法則である「逆2乗の法則」を理解し、それを用いて簡単な比例計算を行う能力が試されます。
- 惑星が単位面積あたりに受け取る太陽エネルギーは、太陽からの距離の2乗に反比例する。
- 地球の場合:
- 太陽からの距離: 1天文単位
- 受け取るエネルギー: \(1.4 \times 10^3 \text{ J}\) (1m², 1sあたり)
- 火星の場合:
- 太陽からの距離: 1.5天文単位
- 火星が単位面積あたりに受け取る太陽エネルギー[J]。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「太陽定数と逆2乗の法則」です。太陽から放射されるエネルギーが、距離の2乗に反比例して単位面積あたりで弱まっていくという、光や重力などにも共通する基本的な物理法則の理解を問う問題です。
- 逆2乗の法則: 点状の線源から等方的に(あらゆる方向に均等に)放射されるエネルギーは、線源からの距離の2乗に反比例して、単位面積あたりの強さが減少します。
- 太陽定数: 地球の大気圏外で、太陽光線に垂直な単位面積が単位時間に受け取る太陽エネルギーのこと。この問題では、その値が \(1.4 \times 10^3\) J/(m\(^2\)\(\cdot\)s) であると与えられています。
- 天文単位(AU): 太陽と地球の間の平均距離を1とする、天文学で用いられる距離の単位。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 単位面積あたりのエネルギー \(E\) が、太陽からの距離 \(r\) の2乗に反比例する、という関係を数式で表現します。
- 地球と火星、それぞれの条件(距離とエネルギー)をこの関係式に代入し、比例式または方程式を立てて、火星が受け取るエネルギーを計算します。
火星が受け取るエネルギーの計算
思考の道筋とポイント
この問題は、物理法則を正しく理解し、それを用いて比例計算を行う能力を試すものです。複雑な計算はなく、法則の的確な適用が鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 逆2乗の法則の理解: 太陽から放出された全エネルギーは、太陽を中心とする球面状に広がっていきます。球の表面積は半径(距離)の2乗に比例するため、単位面積あたりのエネルギーは距離の2乗に反比例します。
- 数式化: 単位面積あたりのエネルギーを \(E\)、太陽からの距離を \(r\) とすると、\(E \propto \frac{1}{r^2}\) と表せます。これは、\(E = \frac{k}{r^2}\)(\(k\)は比例定数)または \(Er^2 = k\)(一定)と書くことができます。
- 条件の整理:
- 地球: 距離 \(r_{\text{地球}} = 1\) [天文単位], エネルギー \(E_{\text{地球}} = 1.4 \times 10^3\) [J]
- 火星: 距離 \(r_{\text{火星}} = 1.5\) [天文単位], エネルギー \(E_{\text{火星}} = x\) [J]
具体的な解説と立式
単位面積あたりに受け取るエネルギーを \(E\)、太陽からの距離を \(r\) とすると、問題文の条件より、\(E\) は \(r^2\) に反比例します。
この関係は、比例定数を \(k\) として次のように表せます。
$$ E = \frac{k}{r^2} \quad \text{または} \quad Er^2 = k \text{(一定)} $$
この関係が地球と火星の両方で成り立つので、次の等式を立てることができます。
$$ E_{\text{地球}} \cdot r_{\text{地球}}^2 = E_{\text{火星}} \cdot r_{\text{火星}}^2 \quad \cdots ① $$
ここに、与えられた値を代入して、火星が受け取るエネルギー \(E_{\text{火星}}\) を求めます。
\(E\) と \(\frac{1}{r^2}\) が比例することから、次の比例式を立てることもできます。
$$ E_{\text{地球}} : E_{\text{火星}} = \frac{1}{r_{\text{地球}}^2} : \frac{1}{r_{\text{火星}}^2} \quad \cdots ② $$
この方法は模範解答で用いられているアプローチです。
使用した物理公式
- 逆2乗の法則
①式を用いて計算します。
$$ (1.4 \times 10^3) \times 1^2 = E_{\text{火星}} \times (1.5)^2 $$
$$ 1.4 \times 10^3 = E_{\text{火星}} \times 2.25 $$
$$
\begin{aligned}
E_{\text{火星}} &= \frac{1.4 \times 10^3}{2.25} \\[2.0ex]&= \frac{1.4}{2.25} \times 10^3 \\[2.0ex]&\approx 0.6222 \times 10^3 \\[2.0ex]&= 6.222 \times 10^2 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めると、\(6.2 \times 10^2\) J となります。
太陽から出る光のエネルギーは、遠くに行くほど薄まります。その薄まり方は、距離が2倍になると強さが \(1/4\) に、距離が3倍になると \(1/9\) になるという「距離の2乗に反比例」のルールに従います。地球(距離1)と火星(距離1.5)でこのルールを比べます。火星は地球より1.5倍遠いので、受け取るエネルギーは \(1/(1.5^2) = 1/2.25\) 倍になります。地球でのエネルギー量にこの倍率を掛けることで、火星でのエネルギー量を計算します。
火星が受け取るエネルギーは \(6.2 \times 10^2\) J です。
火星は地球よりも太陽から遠いので、受け取るエネルギーは地球よりも少なくなるはずです。計算結果 \(6.2 \times 10^2\) J は、地球での値 \(1.4 \times 10^3\) J よりも小さく、物理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 逆2乗の法則 (Inverse Square Law):
- 核心: この問題の唯一かつ絶対的な核心は、「点状の線源から等方的に放射される物理量(光、重力、音、電場など)の強さは、線源からの距離の2乗に反比例する」という逆2乗の法則です。
- 理解のポイント: 太陽が放射する全エネルギーを \(P\) とすると、そのエネルギーは半径 \(r\) の球の表面全体に広がります。球の表面積は \(4\pi r^2\) なので、距離 \(r\) の地点における単位面積あたりのエネルギー \(E\) は \(E = \frac{P}{4\pi r^2}\) となります。この式から、\(P\) と \(4\pi\) は定数なので、\(E\) が \(r^2\) に反比例する (\(E \propto \frac{1}{r^2}\)) ことがわかります。この物理的背景を理解していると、公式を単に暗記するよりも深く現象を捉えることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 万有引力の問題: 2つの物体の間に働く万有引力の大きさは、物体間の距離の2乗に反比例します。
- 点電荷が作る電場の強さ: 点電荷から距離 \(r\) だけ離れた点の電場の強さも、\(r^2\) に反比例します。
- 音の強さ: 点音源から出る音の強さ(単位面積あたりの音響エネルギー)も、距離の2乗に反比例して減衰します。
- 様々な惑星の太陽定数を比較する問題: 金星(約0.7天文単位)や木星(約5.2天文単位)など、他の惑星が受け取る太陽エネルギーを計算する問題にも全く同じ考え方が適用できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「点状の線源」と「等方的な放射」を探す: 問題文に「太陽」や「点電荷」、「点音源」のようなキーワードがあれば、逆2乗の法則が適用できる可能性が高いです。
- 「距離」と「強さ」の関係に着目する: ある物理量が「距離の2乗に反比例する」という記述を見つけたら、それが問題を解くための鍵となる法則です。
- 比例計算の準備をする: 逆2乗の法則を使うとわかったら、\(E_1 r_1^2 = E_2 r_2^2\) のような等式を立てるか、\(E_1 : E_2 = \frac{1}{r_1^2} : \frac{1}{r_2^2}\) のような比例式を立てる準備をします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 反比例の誤解:
- 誤解: 「距離に反比例する」と勘違いし、\(r\) の2乗ではなく \(r\) で計算してしまう。例えば、火星のエネルギーを地球の \(1/1.5\) 倍としてしまう。
- 対策: なぜ「2乗」に反比例するのか、という物理的イメージ(球の表面積に広がっていくから)を常に意識することで、2乗を忘れるミスを防げます。「逆2乗の法則」という名前ごと覚えてしまうのが効果的です。
- 比例と反比例の混同:
- 誤解: 距離が遠くなるほどエネルギーが強くなると勘違いし、比例関係で計算してしまう。
- 対策: 「太陽から遠ざかれば寒くなる」という日常生活の感覚と結びつけましょう。距離が大きくなればエネルギーは小さくなる、という直感を働かせることで、反比例の関係であることを見失わずに済みます。
- 比例式の立て方のミス:
- 誤解: \(E_1 : E_2 = r_1^2 : r_2^2\) のように、反比例の関係を正しく比例式に反映できない。
- 対策: 反比例の場合、比は逆数になる、と覚えましょう。\(E_1 : E_2 = \frac{1}{r_1^2} : \frac{1}{r_2^2}\)。もしくは、積が一定になる関係 \(E_1 r_1^2 = E_2 r_2^2\) を使う方が、直感的で間違いが少ないかもしれません。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 同心円状の球面(タマネギの皮)のイメージ: 太陽を中心として、異なる半径を持つ同心円状の球(タマネギの皮のようなもの)をイメージします。太陽から放出された一定量のエネルギーは、これらの球面を次々と通過していきます。外側の球面ほど表面積が大きいため、同じ量のエネルギーがより広い面積に分散され、結果として単位面積あたりのエネルギー(=エネルギーの密度)は薄くなります。この「薄まり方」が、表面積の増加率、すなわち距離の2乗に比例するわけです。
- スプレーペイントのイメージ: スプレー缶を壁から吹き付ける様子を想像します。壁から近いとインクは狭い範囲に集中して濃く付きますが、壁から遠ざかるとインクは広い範囲に分散して薄く付きます。このインクの濃さが、単位面積あたりのエネルギーに相当します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 逆2乗の法則 (\(E \propto 1/r^2\)):
- 選定理由: 問題文に「太陽からその惑星までの距離の2乗に反比例する」と、適用すべき法則が明確に記述されているため。
- 適用根拠: この法則は、エネルギー保存則の幾何学的な現れです。太陽が単位時間に放出する全エネルギーは一定であり、それが距離\(r\)の球面全体に均等に分配されると仮定すると、単位面積あたりのエネルギーは球の表面積 \(4\pi r^2\) に反比例せざるを得ません。この幾何学的な制約が、逆2乗の法則の物理的な本質です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 法則の確認:
- 戦略: 問題文から、適用すべき物理法則(逆2乗の法則)を特定する。
- フロー: 「エネルギーは距離の2乗に反比例する」という記述を確認。
- 条件の整理:
- 戦略: 比較する2つのケース(地球と火星)について、距離とエネルギーの値を整理する。
- フロー: ①地球:\(r_1=1\), \(E_1=1.4 \times 10^3\)。 ②火星:\(r_2=1.5\), \(E_2=x\)。
- 立式:
- 戦略: 逆2乗の法則を数式で表現する。
- フロー: \(E_1 r_1^2 = E_2 r_2^2\) の等式を立てる。
- 計算:
- 戦略: 立式した方程式に数値を代入し、未知数\(x\)について解く。
- フロー: \( (1.4 \times 10^3) \times 1^2 = x \times (1.5)^2 \) を計算し、\(x\)の値を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 小数の2乗の計算: \(1.5^2 = 2.25\) のような、基本的な小数の2乗は暗算できるとスムーズです。もし不安なら、\(1.5^2 = (\frac{3}{2})^2 = \frac{9}{4} = 2.25\) のように分数に直して計算すると確実です。
- 割り算の工夫: \(x = \frac{1.4 \times 10^3}{2.25}\) の計算では、分母分子を100倍して \(\frac{140}{225} \times 10^3\) のように整数にしてから約分を進めると、計算ミスを減らせます。\( \frac{140}{225} = \frac{28}{45} \)。\(28 \div 45\) を筆算で実行します。
- 有効数字の確認: 問題文で与えられている数値が「1.4」「1.5」と2桁なので、最終的な答えも有効数字2桁で答える必要があります。計算の最後に、指定された有効数字に正しく丸めることを忘れないようにしましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 大小関係の確認: 火星は地球よりも太陽から遠い(1.5倍)ので、受け取るエネルギーは地球よりも少なくなるはずです。計算結果の \(6.2 \times 10^2\) J は、地球での値 \(1.4 \times 10^3\) J よりも小さいので、この点はクリアしています。
- オーダーの確認: 距離が1.5倍なので、エネルギーは \(1/(1.5^2) = 1/2.25 \approx 1/2\) より少し小さいくらい、つまり元の半分弱になるはずです。\(1.4 \times 10^3\) の半分は \(0.7 \times 10^3 = 7 \times 10^2\) J なので、計算結果の \(6.2 \times 10^2\) J は妥当なオーダーであると判断できます。もし計算結果が \(10^3\) のオーダーのままだったり、逆に \(10^1\) のオーダーになったりした場合は、計算ミスを疑うべきです。
479 等価線量
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、放射線の被ばく線量に関する身近なテーマを扱った計算問題です。医療で利用されるX線撮影の許容線量を基準に、ある環境下でその線量に達するまでに要する時間を求めます。物理学の深い知識は不要で、単位の意味を正確に理解し、基本的な四則演算を行う能力が問われます。
- 胸部X線撮影1回あたりの許容線量: \(50 \mu\text{Sv}\)
- トンネル内のガンマ線の量(線量率): \(0.07 \mu\text{Sv}\) / 時間
- トンネル内での滞在で、胸部X線1回分の許容線量を超えるのは何日間か。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「放射線の等価線量と被ばく計算」です。日常生活や特定の環境における放射線被ばくに関する、ごく基本的な計算問題です。物理法則というよりは、単位時間あたりの量から、目標の総量に達するまでの時間を求める、算数的な文章題に近い内容です。
- 等価線量(シーベルト, Sv): 放射線が人体に与える影響の度合いを表す単位。放射線の種類やエネルギーの違いを考慮して、生物学的な影響を評価するために用いられます。この問題では、単位がマイクロシーベルト(\(\mu\text{Sv}\))で与えられています。
- 線量率: 単位時間あたりに受ける放射線の量。この問題では、トンネル内のガンマ線の量が「1時間あたり\(0.07\mu\text{Sv}\)」として与えられています。
- 積算線量: ある期間に受けた放射線の総量。これは「線量率 × 時間」で計算できます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- トンネル内に1日間(24時間)滞在した場合に受けるガンマ線の総量を計算します。
- 胸部X線撮影1回分の許容線量を、1日あたりの被ばく線量で割ることで、許容線量に達するまでの日数を計算します。
許容線量を超える日数の計算
思考の道筋とポイント
この問題は、与えられた数値を正しく用い、単位を揃えて計算する能力を試すものです。問題文の意図を正確に読み取り、簡単な方程式を立てることができれば解くことができます。
この設問における重要なポイント
- 目標値の設定: 許容線量である \(50 \mu\text{Sv}\) が、積算線量の目標値となります。
- 線量率の単位の確認: トンネル内のガンマ線の量は「1時間あたり」で与えられています。求める日数を計算するためには、まず「1日あたり」の線量に換算すると考えやすいです。
- 方程式の立式: 求める日数を \(x\) [日] とおき、「(1日あたりの線量) × \(x\) [日] = (許容線量)」という方程式を立てます。
具体的な解説と立式
求める日数を \(x\) [日] とします。
トンネル内では、1時間あたり \(0.07 \mu\text{Sv}\) のガンマ線を浴びます。
1日は24時間なので、トンネル内に1日間滞在した場合に浴びる線量は、
$$ (\text{1日あたりの線量}) = 0.07 \text{ [}\mu\text{Sv/時]} \times 24 \text{ [時/日]} $$
\(x\) 日間滞在した場合の総被ばく線量(積算線量)は、
$$ (\text{総被ばく線量}) = (0.07 \times 24) \times x \text{ [}\mu\text{Sv]} $$
この総被ばく線量が、胸部X線撮影1回分の許容線量 \(50 \mu\text{Sv}\) を超える条件を考えます。
$$ (0.07 \times 24) \times x \ge 50 \quad \cdots ① $$
この不等式を解くことで、何日間の滞在で許容線量を超えるかがわかります。
使用した物理公式
- この問題は物理公式というより、単位量あたりの計算に基づいています。
- 積算量 = (単位時間あたりの量) × 時間
①式を \(x\) について解きます。
$$ 0.07 \times 24 \times x \ge 50 $$
$$ 1.68 \times x \ge 50 $$
$$
\begin{aligned}
x &\ge \frac{50}{1.68} \\[2.0ex]&\approx 29.76
\end{aligned}
$$
この計算結果は、29.76日を超えると許容線量を超えることを意味します。日数は整数で考えるため、29日間ではまだ許容線量に達せず、30日間の滞在で初めて許容線量を超えることになります。
したがって、答えは30日間です。
まず、トンネルに1日(24時間)いると、どれくらいの放射線を浴びるのかを計算します。「1時間あたり0.07」なので、24倍して「1日あたり1.68」となります。目標は、胸部X線1回分の「50」です。この目標値「50」を、1日あたりの量「1.68」で割り算すると、何日かかるかがわかります。計算すると約29.7日となるので、29日間ではまだ足りず、30日目に入ったところで目標を超えることがわかります。
30日間の滞在で許容線量を超える、という結果が得られました。
29日間での被ばく線量は \(1.68 \times 29 = 48.72 \mu\text{Sv}\) であり、50\(\mu\text{Sv}\)を超えません。
30日間での被ばく線量は \(1.68 \times 30 = 50.4 \mu\text{Sv}\) であり、50\(\mu\text{Sv}\)を超えます。
したがって、30日間という答えは妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
この問題は、厳密な物理法則を問うというよりは、科学的な単位の概念に基づいた「割合」と「積算」の計算問題です。核心となる考え方は以下の通りです。
- 線量率と積算線量の関係:
- 核心: 「総量」は「単位時間あたりの量(速さや率)」に「時間」を掛けることで求められる、という極めて基本的な関係を理解し、適用することがこの問題のすべてです。
- 理解のポイント: この考え方は物理の様々な場面で登場します。
- 距離 = 速さ × 時間
- 仕事 = 仕事率 × 時間
- 電荷 = 電流 × 時間
- 放射線量 = 線量率 × 時間
これらはすべて同じ構造を持つ関係式です。この問題は、放射線量を題材に、この基本構造を使いこなせるかを見ています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 年間許容線量からの計算: 一般公衆の年間被ばく線量限度(例えば1mSv = 1000μSv)が与えられ、「このトンネル内に年間何日間滞在できるか」といった問題。目標値が50μSvから1000μSvに変わるだけで、計算方法は全く同じです。
- 異なる線源からの被ばくの合算: 「トンネル滞在に加えて、飛行機に〇時間搭乗する(宇宙からの放射線)。合計の被ばく線量は?」といった問題。それぞれの線源からの被ばく線量を個別に計算し、最後に足し合わせることで解くことができます。
- 半減期を考慮した線量率の変化: 放射性物質が近くにある場合、その物質が時間とともに崩壊して放射能が弱まる(線量率が低下する)ため、単純な掛け算では計算できず、積分計算が必要になる大学レベルの問題に発展します。
- 初見の問題での着眼点:
- 単位を正確に読み解く: 問題文に出てくる単位(μSv, μSv/時など)が何を表しているのかを正確に把握します。「/時」のように時間で割られている量は「率(速さ)」を表し、「μSv」のように単独の量は「総量」を表します。
- 目標値(ゴール)と単位量(ペース)を特定する: この問題では、目標値が「許容線量50μSv」、単位量が「線量率0.07μSv/時」です。
- 時間の単位を揃える: 単位量が「/時」で与えられているのに対し、問われているのが「何日間」であるため、どこかで「時間」と「日」の単位を換算する必要がある、という点に気づくことが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 時間の単位換算ミス:
- 誤解: 1日を12時間や10時間で計算してしまう。あるいは、時間と日の換算(1日=24時間)を忘れて、\(0.07 \times x = 50\) のような式を立ててしまう。
- 対策: 問題を解く前に、関わる単位(μSv, 時間, 日)をすべてリストアップし、それらの関係(1日=24時間)を明確にしてから計算を始める習慣をつけましょう。
- 「超える」の解釈ミス:
- 誤解: 計算結果の \(x \approx 29.7\) を見て、四捨五入して「30日」と答える、あるいは切り捨てて「29日」と答えるなど、なぜその日数になるのかの論理的な詰めが甘くなる。
- 対策: 「許容線量を超えるのは何日目からか」という問いであることを正確に理解しましょう。29日間ではまだ許容線量に達しておらず(\(50\mu\text{Sv}\)未満)、30日間の滞在中に初めて超える、という事実を確認することが重要です。不等式 \(x > 29.7…\) を満たす最小の整数は30である、と数学的に考えるのが最も確実です。
- 単位のプレフィックス(接頭語)の誤解:
- 誤解: μ(マイクロ)が\(10^{-6}\)、m(ミリ)が\(10^{-3}\)であることを忘れたり、混同したりする。この問題ではすべての単位がμSvで統一されているため問題になりませんが、mSvとμSvが混在する問題では致命的なミスに繋がります。
- 対策: k(キロ=\(10^3\)), M(メガ=\(10^6\)), c(センチ=\(10^{-2}\)), m(ミリ=\(10^{-3}\)), μ(マイクロ=\(10^{-6}\)), n(ナノ=\(10^{-9}\))など、基本的な接頭語が示す桁数は正確に覚えておきましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- バケツと蛇口のイメージ: 許容線量(50μSv)を「バケツの容量」、トンネル内の放射線を「蛇口から出る水」に例えます。蛇口からは1時間に0.07μSvという一定のペースで水が出てきます。このバケツがいっぱいになる(溢れる)までには何日かかるか?という問題に置き換えることができます。
- 数直線のイメージ: 横軸に時間(日数)をとり、縦軸に積算線量をとったグラフをイメージします。原点から出発し、1日あたり \(0.07 \times 24 = 1.68\) [μSv]ずつ増えていく、傾きが一定の直線グラフになります。この直線が、水平線 \(y=50\) を初めて超えるときのx座標(日数)を求めている、と視覚的に捉えることができます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 積算量の計算式 (総量 = 率 × 時間):
- 選定理由: 時間とともに一定の割合で蓄積していく量を計算するための、最も基本的で直接的な方法だからです。
- 適用根拠: この関係は、変化率が一定である場合の積分の結果に相当します。線量率を \(R(t)\) とすると、積算線量 \(D\) は \(D = \int_0^T R(t) dt\) で与えられます。この問題では線量率 \(R(t)\) が時間によらず一定(定数 \(R_0\))なので、\(D = \int_0^T R_0 dt = R_0 [t]_0^T = R_0 T\) となり、「率×時間」という単純な掛け算で計算できます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問題の構造を把握する:
- 戦略: 何を求め、何が与えられているかを確認する。
- フロー: ①目標値(許容線量)は50μSv。 ②ペース(線量率)は0.07μSv/時。 ③求めるのは目標値に達するまでの日数。
- 単位を揃える:
- 戦略: ペースの単位を、求めたい時間の単位に合わせる。
- フロー: ①線量率を「/時」から「/日」に変換する。\(0.07 \times 24 = 1.68\) [μSv/日]。
- 立式と計算:
- 戦略: 「総量 = 率 × 時間」の形で方程式(または不等式)を立てる。
- フロー: ①求める日数を\(x\)として、\(1.68 \times x \ge 50\) を立式。 ②不等式を解いて \(x \ge 29.7…\) を得る。
- 結論を出す:
- 戦略: 計算結果を問題の条件に合わせて解釈する。
- フロー: ①「\(x \ge 29.7…\) を満たす最小の整数」を考える。 ②答えは30日であると結論づける。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 計算しやすい順序を考える: \(0.07 \times 24 \times x = 50\) を解く際に、先に \(0.07 \times 24 = 1.68\) を計算してから \(50 \div 1.68\) をするよりも、\(x = \frac{50}{0.07 \times 24}\) の形で計算する方が楽な場合もあります。例えば、\(x = \frac{5000}{7 \times 24} = \frac{5000}{168}\) のように、早い段階で整数にしてから計算を進めると、小数点の位置を間違えるミスを防げます。
- 概算による検算: 1日あたりの線量は \(0.07 \times 24 \approx 0.07 \times 25 = 1.75\) μSv。目標の50μSvに達するには、\(50 \div 1.75 \approx 50 \div \frac{7}{4} = \frac{200}{7} \approx 28.5\) 日。この概算結果から、答えが30日前後になることが予測でき、計算結果の妥当性を確認できます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 整数問題としての吟味: 計算結果が \(x \ge 29.7…\) となった時点で、答えを機械的に30としないことが重要です。
- 29日後:積算線量は \(1.68 \times 29 = 48.72\) μSv。まだ50μSvを超えていない。
- 30日後:積算線量は \(1.68 \times 30 = 50.4\) μSv。ここで初めて50μSvを超える。
このように、境界となる日数の前後を具体的に計算してみることで、解答の正しさを確実に検証できます。これは、物理に限らず、整数で答える問題全般に通用する重要な吟味の習慣です。
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