「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 32】Step1 & 例題

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Step1

① 原子の構成

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「原子核の構造と構成要素の数の計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 原子の表記法(\({}_{Z}^{A}\text{X}\))の理解
  2. 原子番号(\(Z\))の定義:原子核内の陽子の数
  3. 質量数(\(A\))の定義:原子核内の陽子の数と中性子の数の和
  4. 核子、陽子、中性子の関係

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 与えられた原子の表記 \({}_{55}^{133}\text{Cs}\) から、原子番号と質量数を正確に読み取る。
  2. 原子番号の定義に基づき、陽子の数を特定する。
  3. 質量数と陽子の数の関係式を用いて、中性子の数を計算する。

思考の道筋とポイント
この問題は、原子を表す記号 \({}_{Z}^{A}\text{X}\) の意味を正しく理解しているかを問う、基本的な知識問題です。記号の左下に書かれた数字「原子番号(\(Z\))」と、左上に書かれた数字「質量数(\(A\))」がそれぞれ何を示しているのかを把握することが全てです。原子番号は陽子の数を、質量数は陽子と中性子の合計数を表します。この2つの定義さえ覚えていれば、簡単な引き算で答えを導き出すことができます。

この設問における重要なポイント

  • 原子番号 (\(Z\)): 原子核の中の陽子の数を表します。元素の種類は、この陽子の数によって決まります。記号の左下に表記されます。
  • 質量数 (\(A\)): 原子核の中の陽子の数と中性子の数の合計を表します。原子の質量の大部分は原子核が占めるため、質量数は原子のおおよその質量を表す指標となります。記号の左上に表記されます。
  • 中性子の数 (\(N\)): 質量数(\(A\))から原子番号(\(Z\))を引くことで求められます。つまり、\(N = A – Z\) です。
  • 核子: 陽子と中性子をまとめて呼ぶときの名称です。したがって、質量数は「核子の数」とも言えます。

具体的な解説と立式
この問題では、セシウム原子が \({}_{55}^{133}\text{Cs}\) という記号で与えられています。
この表記法 \({}_{Z}^{A}\text{X}\) に当てはめて、各数値を読み解きます。

  • 元素記号 \(\text{X}\) はセシウム \(\text{Cs}\) です。
  • 左下の数字は原子番号 \(Z\) を表すので、\(Z = 55\) です。
  • 左上の数字は質量数 \(A\) を表すので、\(A = 133\) です。

物理的な定義に基づき、陽子の数と中性子の数を求める式を立てます。

  1. 陽子の数:
    陽子の数は、定義により原子番号 \(Z\) に等しくなります。
    $$ \text{陽子の数} = Z \quad \cdots ① $$
  2. 中性子の数:
    質量数 \(A\) は陽子の数と中性子の数の和です。したがって、中性子の数は質量数 \(A\) から陽子の数 \(Z\) を引くことで求められます。
    $$ \text{中性子の数} = A – Z \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 陽子の数 = 原子番号 (\(Z\))
  • 中性子の数 = 質量数 (\(A\)) – 原子番号 (\(Z\))
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた方針に従って計算します。
与えられた原子は \({}_{55}^{133}\text{Cs}\) なので、原子番号 \(Z=55\)、質量数 \(A=133\) です。

  1. 陽子の数を求める:
    式①に \(Z=55\) を代入します。
    $$ \text{陽子の数} = 55 $$
  2. 中性子の数を求める:
    式②に \(A=133\) と \(Z=55\) を代入します。
    $$
    \begin{aligned}
    \text{中性子の数} &= 133 – 55 \\[2.0ex]&= 78
    \end{aligned}
    $$

したがって、陽子の数は55個、中性子の数は78個となります。

計算方法の平易な説明

原子の記号 \({}_{55}^{133}\text{Cs}\) を見たら、数字の場所と意味を思い出しましょう。

  • 左下の数字(55): これがそのまま「陽子の数」です。なので、陽子は55個です。
  • 左上の数字(133): これは「陽子の数」と「中性子の数」を合わせた合計の数(質量数)です。
  • 中性子の数を知るには?: 合計の数から、すでにわかっている陽子の数を引き算すればOKです。

計算は「\(133\) (合計) \( – 55\) (陽子) \( = 78\) (中性子)」となります。
このように、記号のルールさえ覚えてしまえば、簡単な計算問題になります。

解答 陽子の数:55、中性子の数:78

② 統一原子質量単位

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「質量の単位変換(kgから統一原子質量単位uへ)」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 統一原子質量単位(u)の定義の理解。
  2. 単位変換の基本的な考え方(基準となる量で割る)。
  3. 与えられた数値を用いた割り算の実行。
  4. 計算結果の適切な桁数への丸め方(四捨五入)。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 陽子の質量(\(\text{kg}\))を、\(1\text{u}\)に相当する質量(\(\text{kg}\))で割る。
  2. 中性子の質量(\(\text{kg}\))を、\(1\text{u}\)に相当する質量(\(\text{kg}\))で割る。
  3. 計算結果を、模範解答で示されている小数第4位までになるように四捨五入する。

思考の道筋とポイント
この問題は、質量の単位を国際単位系であるキログラム(\(\text{kg}\))から、原子物理学で広く用いられる「統一原子質量単位(\(\text{u}\))」へ変換する、基本的な計算問題です。原子や素粒子のような非常に小さな粒子の質量を\(\text{kg}\)で表すと、\(10^{-27}\)のような非常に小さな指数が付いてしまい、扱いにくくなります。そこで、よりミクロな世界のスケールに合わせた質量の基準として「統一原子質量単位(\(\text{u}\))」が導入されています。
単位変換の基本は「基準となる量で割る」ことです。例えば、120cmをメートル(m)に直すとき、「1m = 100cm」という基準で割って「\(120 \div 100 = 1.2\text{m}\)」と計算するのと同じ考え方です。この問題では、\(1\text{u}\)が何\(\text{kg}\)に相当するかが与えられているので、これを基準として割り算を実行します。

この設問における重要なポイント

  • 統一原子質量単位(\(\text{u}\)): 質量数12の炭素原子 \({}^{12}\text{C}\) 1個の質量の \(\displaystyle\frac{1}{12}\) と定義されています。原子や素粒子の質量を表すのに便利な単位です。
  • 単位変換: ある物理量を別の単位で表すことです。変換したい単位の基準量(この問題では \(1\text{u}\) の\(\text{kg}\)での値)で、元の物理量を割ることで求められます。
  • 計算の正確性: 指数部分(\(10^{-27}\))は割り算によって相殺されるため、数値部分(\(1.6726\) や \(1.6605\) など)の割り算を正確に行う必要があります。
  • 有効数字と四捨五入: 問題文で与えられている数値は有効数字5桁ですが、模範解答では小数第5位を四捨五入して小数第4位まで求めています。このような計算問題では、問題文や解答の形式に従って適切に数値を丸めることが重要です。

具体的な解説と立式
陽子の質量を \(m_{\text{陽子}}\)、中性子の質量を \(m_{\text{中性子}}\) とします。
問題で与えられている値は以下の通りです。

  • \(m_{\text{陽子}} = 1.6726 \times 10^{-27} \, \text{kg}\)
  • \(m_{\text{中性子}} = 1.6749 \times 10^{-27} \, \text{kg}\)
  • \(1\text{u} = 1.6605 \times 10^{-27} \, \text{kg}\)

陽子の質量を統一原子質量単位で表した値を \(M_{\text{陽子}}\) とすると、その値は陽子の質量(\(\text{kg}\))を \(1\text{u}\) の質量(\(\text{kg}\))で割ることで求められます。
$$ M_{\text{陽子}} = \frac{m_{\text{陽子}}}{1\text{u}} = \frac{1.6726 \times 10^{-27} \, \text{kg}}{1.6605 \times 10^{-27} \, \text{kg}} \quad \cdots ① $$
同様に、中性子の質量を統一原子質量単位で表した値を \(M_{\text{中性子}}\) とすると、
$$ M_{\text{中性子}} = \frac{m_{\text{中性子}}}{1\text{u}} = \frac{1.6749 \times 10^{-27} \, \text{kg}}{1.6605 \times 10^{-27} \, \text{kg}} \quad \cdots ② $$
これらの式において、分子と分母にある \(10^{-27}\) は共通なので、約分して消去できます。

使用した物理公式

  • 統一原子質量単位での質量 = \(\displaystyle\frac{\text{対象の質量} \, [\text{kg}]}{1\text{u} \, \text{の質量} \, [\text{kg}]}\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式に従って計算します。

  1. 陽子の質量(\(\text{u}\))の計算
    式①より、
    $$
    \begin{aligned}
    M_{\text{陽子}} &= \frac{1.6726 \times 10^{-27}}{1.6605 \times 10^{-27}} \\[2.0ex]&= \frac{1.6726}{1.6605} \\[2.0ex]&= 1.0072869…
    \end{aligned}
    $$
    解答の形式に合わせて小数第5位を四捨五入すると、
    $$ M_{\text{陽子}} \approx 1.0073 \, [\text{u}] $$
  2. 中性子の質量(\(\text{u}\))の計算
    式②より、
    $$
    \begin{aligned}
    M_{\text{中性子}} &= \frac{1.6749 \times 10^{-27}}{1.6605 \times 10^{-27}} \\[2.0ex]&= \frac{1.6749}{1.6605} \\[2.0ex]&= 1.0086720…
    \end{aligned}
    $$
    解答の形式に合わせて小数第5位を四捨五入すると、
    $$ M_{\text{中性子}} \approx 1.0087 \, [\text{u}] $$
計算方法の平易な説明

この問題は、\(\text{kg}\)で表された重さを、「\(1\text{u}\)」という特別な重さの何倍か、という形に変換する作業です。
基準となる \(1\text{u}\) は \(1.6605 \times 10^{-27}\text{kg}\) です。

  • 陽子の場合: 陽子の重さ \(1.6726 \times 10^{-27}\text{kg}\) が、基準の \(1.6605 \times 10^{-27}\text{kg}\) の何倍かを計算します。これは単純な割り算です。
    「\(1.6726 \div 1.6605\)」を計算すると、約\(1.0073\)になります。だから、陽子の質量は \(1.0073\text{u}\) です。
  • 中性子の場合: 同じように、中性子の重さ \(1.6749 \times 10^{-27}\text{kg}\) を基準の重さで割ります。
    「\(1.6749 \div 1.6605\)」を計算すると、約\(1.0087\)になります。だから、中性子の質量は \(1.0087\text{u}\) です。

どちらの計算でも、うしろにくっついている「\(\times 10^{-27}\)」の部分は、分子と分母で同じなので、割り算をするときに消えてしまいます。なので、前の数字の部分だけを計算すればOKです。

解答 陽子:1.0073u、中性子:1.0087u

③ 放射線

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「放射線の正体と、電場・磁場中での振る舞い」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. α線、β線、γ線の正体(電荷の有無と符号)の知識。
  2. 荷電粒子が電場から受ける力(静電気力)の向きの判断。
  3. 荷電粒子が磁場から受ける力(ローレンツ力)の向きを判断するフレミングの左手の法則。
  4. 電磁波であるγ線が電場や磁場の影響を受けないことの理解。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、α線、β線、γ線がそれぞれ正電荷、負電荷、電荷なしのいずれであるかを特定する。
  2. 図1(電場中)について、各放射線が受ける静電気力の向きを考え、対応する軌道を選ぶ。
  3. 図2(磁場中)について、フレミングの左手の法則を用いて各放射線が受けるローレンツ力の向きを考え、対応する軌道を選ぶ。

思考の道筋とポイント
この問題は、3種類の放射線の基本的な性質を理解しているかを確認するものです。まず「α線は正電荷」「β線は負電荷」「γ線は電荷なし」という事実を思い出すことが全ての出発点です。
次に、それぞれの荷電粒子が電場や磁場からどのような力を受けるかを考えます。電場からの力はシンプルで、正電荷なら電場の向き、負電荷なら逆向きです。磁場からの力は「フレミングの左手の法則」を使いますが、この法則は「正電荷の流れ(=電流)」を基準にしているため、負電荷であるβ線の場合は力の向きが逆になる、という点が最大の注意点です。電荷を持たないγ線は、どちらの場からも力を受けずに直進します。

この設問における重要なポイント

  • α線の正体: ヘリウム原子核(\({}_{2}^{4}\text{He}\))です。陽子2個と中性子2個からなり、電荷は \(+2e\) の正電荷を持ちます。
  • β線の正体: 高速の電子(\(e^-\))です。電荷は \(-e\) の負電荷を持ちます。
  • γ線の正体: エネルギーの高い電磁波(光の仲間)です。電荷は持たず、質量も0です。
  • 電場中の運動: 電荷 \(q\) の粒子は、電場 \(E\) から静電気力 \(F=qE\) を受けます。
    • 正電荷(\(q>0\))の場合、力の向きは電場の向きと同じ。
    • 負電荷(\(q<0\))の場合、力の向きは電場の向きと逆。
  • 磁場中の運動: 電荷 \(q\) の粒子が速さ \(v\) で磁場 \(B\) に突入すると、ローレンツ力 \(F=qvB\) を受けます。力の向きはフレミングの左手の法則で決まります。
    • フレミングの左手の法則: 中指を「電流の向き」、人差し指を「磁場の向き」に合わせると、親指が「力の向き」を示します。
    • 注意点: 電流の向きは「正電荷の運動の向き」です。負電荷(電子など)の場合は、運動の向きと逆向きが電流の向きとなります。

具体的な解説と立式
この問題は、力の向きを判断する定性的な問題であり、計算式を立てる必要はありません。各放射線の性質に基づいて、その軌道を特定します。

  1. γ線(ガンマ線)
    • 正体: 電荷を持たない電磁波。
    • 図1(電場): 電荷がないため、静電気力を受けません。したがって、直進して(イ)に進みます。
    • 図2(磁場): 電荷がないため、ローレンツ力を受けません。したがって、直進して(オ)に進みます。
  2. α線(アルファ線)
    • 正体: 正の電荷(\(q=+2e\))を持つヘリウム原子核。
    • 図1(電場): 電場は上向きです。正電荷は電場と同じ向きに力を受けるため、軌道は上に曲がります。よって、(ア)に進みます。
    • 図2(磁場): 放射線は右向きに進み(速度\(\vec{v}\))、磁場(\(\vec{B}\))は紙面奥向きです。α線は正電荷なので、電流の向きは運動の向きと同じ右向きです。フレミングの左手の法則(中指:右、人差し指:奥)を適用すると、力の向き(親指)は上を向きます。したがって、軌道は上に曲がり、(エ)に進みます。
  3. β線(ベータ線)
    • 正体: 負の電荷(\(q=-e\))を持つ電子。
    • 図1(電場): 電場は上向きです。負電荷は電場と逆向きに力を受けるため、軌道は下に曲がります。よって、(ウ)に進みます。
    • 図2(磁場): 放射線は右向きに進み(速度\(\vec{v}\))、磁場(\(\vec{B}\))は紙面奥向きです。β線は負電荷なので、電流の向きは運動の向きとは逆の「左向き」と考えます。フレミングの左手の法則(中指:左、人差し指:奥)を適用すると、力の向き(親指)は下を向きます。したがって、軌道は下に曲がり、(カ)に進みます。(別解:正電荷なら上向きに力を受けるので、負電荷はその逆の下向き、と考えることもできます。)

使用した物理公式

  • 静電気力: \(F = qE\)
  • ローレンツ力: \(F = qvB\)
  • フレミングの左手の法則
計算過程

この問題には計算過程はありません。上記の「具体的な解説と立式」で述べた、各放射線が受ける力の向きを判断するプロセスそのものが解答プロセスとなります。

  • α線: (ア), (エ)
  • β線: (ウ), (カ)
  • γ線: (イ), (オ)
計算方法の平易な説明

3種類の放射線をキャラクターでイメージすると分かりやすいです。

  • α線: 元気な「プラスくん」(正電荷)
  • β線: ひねくれものの「マイナスちゃん」(負電荷)
  • γ線: 誰にも干渉されない「おばけくん」(電荷なし)

図1:電場の世界(上下方向の風が吹いているイメージ)

  • 上向きの風(電場)が吹いています。
  • プラスくんは素直に風に乗って上(ア)に流されます。
  • マイナスちゃんはひねくれものなので、風と逆の下(ウ)に行ってしまいます。
  • おばけくんは風の影響を受けないので、まっすぐ(イ)進みます。

図2:磁場の世界(フレミングの左手の法則ルール)

  • ここでは「フレミングの左手」という不思議な力が働きます。左手で「ピストルの形」を作ってみましょう。
  • 人差し指を「磁場(奥向き)」、中指を「キャラクターの進む向き(右向き)」に合わせます。
  • プラスくん: ルールに素直に従い、親指が向く上(エ)に曲がります。
  • マイナスちゃん: ひねくれものなので、プラスくんとは逆の方向、つまり下(カ)に曲がります。
  • おばけくん: 電気的な性質がないので、この不思議な力の影響も受けず、まっすぐ(オ)進みます。
解答 α線:(ア), (エ) β線:(ウ), (カ) γ線:(イ), (オ)

④ α崩壊

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「α崩壊と原子核の変化」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. α崩壊の定義(ヘリウム原子核の放出)。
  2. 原子核反応における質量数保存の法則。
  3. 原子核反応における原子番号(電荷)保存の法則。
  4. 原子の表記法 \({}_{Z}^{A}\text{X}\) の意味。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. α崩壊の原子核反応式を立てる。
  2. 反応の前後で質量数の和が等しいことを利用して、ポロニウムの質量数を求める。
  3. 反応の前後で原子番号の和が等しいことを利用して、ポロニウムの原子番号を求める。

思考の道筋とポイント
この問題の核心は、「α崩壊」が具体的にどのような現象かを理解しているかという点にあります。α崩壊とは、不安定な原子核が安定化するために、α粒子(アルファりゅうし)を放出する現象です。そして、このα粒子の正体は「ヘリウム原子核 \({}_{2}^{4}\text{He}\)」です。
つまり、α崩壊が1回起こると、元の原子核からは陽子が2個、中性子が2個、合計4個の核子が失われることになります。

  • 陽子の数が2個減るため、原子番号は2減少します。
  • 核子の総数(陽子+中性子)が4個減るため、質量数は4減少します。

このルールを、問題で与えられたラドン原子核 \({}_{86}^{222}\text{Rn}\) に適用するだけで、崩壊後のポロニウムの質量数と原子番号を計算することができます。

この設問における重要なポイント

  • α崩壊: 不安定な原子核が、α粒子を放出して、より安定な原子核に変化(壊変)する現象。
  • α粒子: その正体はヘリウム原子核 \({}_{2}^{4}\text{He}\) です。陽子2個と中性子2個から構成されています。
  • 質量数保存の法則: 原子核反応の前後で、質量数(左上の数字)の総和は変わりません。
  • 原子番号保存の法則(電荷保存則): 原子核反応の前後で、原子番号(左下の数字)の総和は変わりません。

具体的な解説と立式
まず、問題文で与えられた原子核反応を、物理的な記号を用いて式で表現します。

  • 崩壊前の原子核:ラドン \({}_{86}^{222}\text{Rn}\)
  • 崩壊後の原子核:ポロニウム \(\text{Po}\)
  • 放出される粒子:α粒子(ヘリウム原子核 \({}_{2}^{4}\text{He}\))

崩壊後のポロニウムの質量数を \(A\)、原子番号を \(Z\) とすると、このα崩壊は次のような原子核反応式で表すことができます。
$$ {}_{86}^{222}\text{Rn} \rightarrow {}_{Z}^{A}\text{Po} + {}_{2}^{4}\text{He} \quad \cdots ① $$
この反応式の前後で、質量数と原子番号はそれぞれ保存されます。

  1. 質量数保存則:
    反応式の左辺と右辺で、左上の数字(質量数)の合計は等しくなります。
    $$ 222 = A + 4 \quad \cdots ② $$
  2. 原子番号保存則:
    反応式の左辺と右辺で、左下の数字(原子番号)の合計は等しくなります。
    $$ 86 = Z + 2 \quad \cdots ③ $$

これらの式を解くことで、ポロニウムの質量数 \(A\) と原子番号 \(Z\) を求めることができます。

使用した物理公式

  • α崩壊の反応式: \({}_{Z}^{A}\text{X} \rightarrow {}_{Z-2}^{A-4}\text{Y} + {}_{2}^{4}\text{He}\)
  • 質量数保存の法則
  • 原子番号保存の法則
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式②と③をそれぞれ解きます。

  1. ポロニウムの質量数 \(A\) を求める:
    式②を変形して \(A\) について解きます。
    $$
    \begin{aligned}
    222 &= A + 4 \\[2.0ex]A &= 222 – 4 \\[2.0ex]A &= 218
    \end{aligned}
    $$
  2. ポロニウムの原子番号 \(Z\) を求める:
    式③を変形して \(Z\) について解きます。
    $$
    \begin{aligned}
    86 &= Z + 2 \\[2.0ex]Z &= 86 – 2 \\[2.0ex]Z &= 84
    \end{aligned}
    $$

したがって、崩壊後のポロニウムの質量数は218、原子番号は84となります。

計算方法の平易な説明

「α崩壊」とは、原子核から「α粒子」というブロックが1個飛び出す現象だと考えてみましょう。
この「α粒子」は、「陽子2個」と「中性子2個」がセットになったものです。
元のラドン原子核からこのブロックが飛び出すので、その分だけ中身が減ります。

  • 原子番号(陽子の数)の変化:
    ラドンの陽子はもともと86個でした。そこからブロックの中の陽子2個がなくなるので、残りは \(86 – 2 = 84\) 個になります。これがポロニウムの原子番号です。
  • 質量数(陽子と中性子の合計数)の変化:
    ラドンの陽子と中性子の合計はもともと222個でした。そこからブロックの中の陽子2個と中性子2個、合わせて4個がなくなるので、残りは \(222 – 4 = 218\) 個になります。これがポロニウムの質量数です。

このように、「α崩壊 = 質量数が4減り、原子番号が2減る」というルールさえ覚えておけば、簡単な引き算で答えを出すことができます。

解答 質量数:218、原子番号:84

⑤ β崩壊

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「β崩壊と原子核の変化」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. β崩壊の定義(原子核内の中性子が陽子と電子に変化し、電子を放出する現象)。
  2. β粒子(電子)の表記法 \({}_{-1}^{0}e\) の理解。
  3. 原子核反応における質量数保存の法則。
  4. 原子核反応における原子番号(電荷)保存の法則。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. β崩壊の原子核反応式を立てる。
  2. 反応の前後で質量数の和が等しいことを利用して、アクチニウムの質量数を求める。
  3. 反応の前後で原子番号の和が等しいことを利用して、アクチニウムの原子番号を求める。

思考の道筋とポイント
この問題は、α崩壊と並んで重要な「β崩壊」のルールを理解しているかを問うものです。β崩壊の核心は、原子核の中にある中性子1個が、陽子1個と電子1個に「変身」し、生まれた電子を原子核の外へ放出する現象である、という点です。
この「変身」の結果、原子核にどのような変化が起こるかを考えます。

  • 陽子と中性子の合計数(質量数):中性子が1個減り、陽子が1個増えるので、合計数は変わりません。
  • 陽子の数(原子番号):陽子が1個増えるので、原子番号は1増加します。

このルールを、問題で与えられたラジウム原子核 \({}_{88}^{228}\text{Ra}\) に適用すれば、崩壊後のアクチニウムの質量数と原子番号がわかります。

この設問における重要なポイント

  • β崩壊: 原子核内の中性子1個が、陽子1個と電子1個に変化し、その電子をβ粒子として原子核の外に放出する現象です。(\(n \rightarrow p^+ + e^-\))
  • β粒子: 正体は電子(\(e^-\))です。質量数は0、電荷は-1と見なせるため、原子核反応式では \({}_{-1}^{0}e\) と表記します。
  • 質量数保存の法則: 原子核反応の前後で、質量数(左上の数字)の総和は変わりません。
  • 原子番号保存の法則(電荷保存則): 原子核反応の前後で、原子番号(左下の数字)の総和は変わりません。

具体的な解説と立式
まず、問題文で与えられた原子核反応を、物理的な記号を用いて式で表現します。

  • 崩壊前の原子核:ラジウム \({}_{88}^{228}\text{Ra}\)
  • 崩壊後の原子核:アクチニウム \(\text{Ac}\)
  • 放出される粒子:β粒子(電子 \({}_{-1}^{0}e\))

崩壊後のアクチニウムの質量数を \(A\)、原子番号を \(Z\) とすると、このβ崩壊は次のような原子核反応式で表すことができます。
$$ {}_{88}^{228}\text{Ra} \rightarrow {}_{Z}^{A}\text{Ac} + {}_{-1}^{0}e \quad \cdots ① $$
この反応式の前後で、質量数と原子番号はそれぞれ保存されます。

  1. 質量数保存則:
    反応式の左辺と右辺で、左上の数字(質量数)の合計は等しくなります。
    $$ 228 = A + 0 \quad \cdots ② $$
  2. 原子番号保存則:
    反応式の左辺と右辺で、左下の数字(原子番号)の合計は等しくなります。
    $$ 88 = Z + (-1) \quad \cdots ③ $$

これらの式を解くことで、アクチニウムの質量数 \(A\) と原子番号 \(Z\) を求めることができます。

使用した物理公式

  • β崩壊の反応式: \({}_{Z}^{A}\text{X} \rightarrow {}_{Z+1}^{A}\text{Y} + {}_{-1}^{0}e\)
  • 質量数保存の法則
  • 原子番号保存の法則
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式②と③をそれぞれ解きます。

  1. アクチニウムの質量数 \(A\) を求める:
    式②より、
    $$
    \begin{aligned}
    A &= 228 – 0 \\[2.0ex]A &= 228
    \end{aligned}
    $$
  2. アクチニウムの原子番号 \(Z\) を求める:
    式③を変形して \(Z\) について解きます。
    $$
    \begin{aligned}
    88 &= Z – 1 \\[2.0ex]Z &= 88 + 1 \\[2.0ex]Z &= 89
    \end{aligned}
    $$

したがって、崩壊後のアクチニウムの質量数は228、原子番号は89となります。

計算方法の平易な説明

「β崩壊」は、原子核の中で起こる「変身イベント」だとイメージしてください。
原子核の中にいる「中性子くん(電荷0)」が、あるとき「陽子くん(電荷+1)」に変身します。このとき、帳尻を合わせるために「電子ちゃん(電荷-1)」が外にポイっと捨てられます。

  • 質量数(原子核にいるメンバーの総数)の変化:
    「中性子くん」が「陽子くん」に変わっただけなので、原子核にいるメンバーの総数は変わりません。だから、質量数は228のままです。
  • 原子番号(陽子の数)の変化:
    「陽子くん」が1人増えたので、原子番号は1つ増えます。もともと88だったので、\(88 + 1 = 89\) になります。

このように、「β崩壊 = 質量数は変わらず、原子番号が1増える」というルールを覚えておけば、簡単に答えを出すことができます。

解答 質量数:228、原子番号:89

⑥ 半減期

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「半減期の概念を用いた経過時間の計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 半減期の定義の正確な理解。
  2. 放射性原子核の数がどのように減少していくかの把握。
  3. 求める割合(\(\displaystyle\frac{1}{8}\))と、半減の繰り返し回数との関係。
  4. 放射性崩壊の公式 \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\) の意味と使い方。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 原子核の数が最初の\(\displaystyle\frac{1}{8}\)になるには、半減期を何回繰り返せばよいかを考える。
  2. 半減期の回数に、1回あたりの半減期の年数を掛けて、総経過時間を計算する。

思考の道筋とポイント
この問題は、半減期の定義である「原子核の数が半分になるまでにかかる時間」を正しく理解し、応用できるかを問うています。
まず注目すべきは、原子核の数が\(\displaystyle\frac{1}{8}\)になるという点です。この\(\displaystyle\frac{1}{8}\)という数が、\(\displaystyle\frac{1}{2}\)を何回かければ作れるかを考えます。\(\displaystyle\frac{1}{8} = \displaystyle\frac{1}{2} \times \displaystyle\frac{1}{2} \times \displaystyle\frac{1}{2} = \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^3\) であることから、半減期を3回繰り返した後の状態であることが直感的にわかります。
あとは、1回あたりの半減期が\(5.7 \times 10^3\)年なので、それを3倍すれば答えが求まります。公式を丸暗記していなくても、半減期の意味さえ分かっていれば解ける問題です。

この設問における重要なポイント

  • 半減期(\(T\)): 放射性同位体の原子核の数が、崩壊によって元の数の半分(\(\displaystyle\frac{1}{2}\))になるまでにかかる時間。
  • 原子核の数の変化: 半減期が\(n\)回過ぎると、原子核の数は元の数の \(\left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^n\) 倍になります。
    • 1回後: \(\displaystyle\frac{1}{2}\)倍
    • 2回後: \(\displaystyle\frac{1}{4}\)倍
    • 3回後: \(\displaystyle\frac{1}{8}\)倍
  • 経過時間と半減期の関係: 経過時間\(t\)の間に半減期を\(n\)回繰り返したとすると、\(t = n \times T\) の関係が成り立ちます。

具体的な解説と立式
初期の原子核の数を\(N_0\)、半減期を\(T\)、求める経過時間を\(t\)とします。
半減期の定義に従って、原子核の数がどのように減っていくかを考えます。

  • \(T\)年後(半減期1回):原子核の数は \(N_0 \times \displaystyle\frac{1}{2}\) になる。
  • \(2T\)年後(半減期2回):原子核の数は \( \left(N_0 \times \displaystyle\frac{1}{2}\right) \times \displaystyle\frac{1}{2} = N_0 \times \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^2 = N_0 \times \displaystyle\frac{1}{4} \) になる。
  • \(3T\)年後(半減期3回):原子核の数は \( \left(N_0 \times \displaystyle\frac{1}{4}\right) \times \displaystyle\frac{1}{2} = N_0 \times \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^3 = N_0 \times \displaystyle\frac{1}{8} \) になる。

問題では、原子核の数が初めの\(\displaystyle\frac{1}{8}\)になる時間を問われているので、これは半減期をちょうど3回繰り返した時間であることがわかります。
したがって、求める時間\(t\)は半減期\(T\)の3倍となります。
$$ t = 3 \times T \quad \cdots ① $$
ここで、半減期 \(T = 5.7 \times 10^3\) 年です。

使用した物理公式

  • 半減期の定義
  • 放射性崩壊の公式: \(N(t) = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式①に、問題で与えられた半減期 \(T = 5.7 \times 10^3\) 年を代入して、経過時間 \(t\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
t &= 3 \times T \\[2.0ex]&= 3 \times (5.7 \times 10^3) \\[2.0ex]&= 17.1 \times 10^3 \\[2.0ex]&= 1.71 \times 10^4
\end{aligned}
$$
問題文で与えられている半減期の有効数字が2桁(5.7)であるため、計算結果も有効数字2桁に丸めます。小数第2位の1を四捨五入します。
$$ t \approx 1.7 \times 10^4 \, \text{[年]} $$

計算方法の平易な説明

この問題は、すごろくのように考えることができます。
「半減期」というマスを1回通過するごとに、原子の数が半分になります。

  • スタート地点:原子の数は「1」
  • 1回半減期(\(5.7 \times 10^3\)年)進む → 原子は「\(\displaystyle\frac{1}{2}\)」に減る
  • 2回半減期(さらに\(5.7 \times 10^3\)年)進む → 原子は「\(\displaystyle\frac{1}{4}\)」に減る
  • 3回半減期(さらに\(5.7 \times 10^3\)年)進む → 原子は「\(\displaystyle\frac{1}{8}\)」に減る

ゴールは原子の数が「\(\displaystyle\frac{1}{8}\)」になるときなので、半減期マスを3回通過すればよいことがわかります。
1回通過するのに \(5.7 \times 10^3\) 年かかるので、3回通過するのにかかる時間は、
\( (5.7 \times 10^3) \times 3 = 17.1 \times 10^3 = 1.71 \times 10^4 \) 年
となります。最後に、答えの見た目を整えて \(1.7 \times 10^4\) 年とします。

解答 1.7×10⁴年

⑦ 質量とエネルギーの等価性

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「質量とエネルギーの等価性」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. アインシュタインの質量とエネルギーの等価性の関係式 \(E=mc^2\)。
  2. 物理量の単位(質量はkg、光速はm/s、エネルギーはJ)の確認。
  3. 指数を含む数値の計算方法(特に積とべき乗)。
  4. 有効数字の概念と計算結果の処理。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文から、質量 \(m\) と光速 \(c\) の値を特定する。
  2. 質量とエネルギーの等価性の公式 \(E=mc^2\) に、特定した値を代入する。
  3. 計算を正確に実行し、与えられた数値の有効数字に合わせて結果をまとめる。

思考の道筋とポイント
この問題は、物理学で最も有名と言っても過言ではないアインシュタインの公式 \(E=mc^2\) を実際に使って計算する、というものです。この式は「質量はエネルギーの一形態であり、質量が消滅すると莫大なエネルギーが発生する」という、物理学の根幹をなす重要な概念を表しています。
計算自体は、公式に与えられた数値を代入するだけですが、光速 \(c\) が非常に大きな値であるため、その2乗 (\(c^2\)) は天文学的な数字になります。そのため、たとえ \(1\text{u}\) というごくわずかな質量であっても、それが全てエネルギーに変わると、非常に大きなエネルギーになることが体感できます。計算においては、指数部分の扱いを間違えないように注意することが重要です。

この設問における重要なポイント

  • 質量とエネルギーの等価性: アインシュタインの特殊相対性理論が示す基本原理の一つ。質量 \(m\) を持つ物体は、それだけで \(E=mc^2\) で表されるエネルギー(静止エネルギー)を内包しているとされます。
  • 公式 \(E=mc^2\) の各文字の意味:
    • \(E\): エネルギー(単位:ジュール [\(\text{J}\)])
    • \(m\): 質量(単位:キログラム [\(\text{kg}\)])
    • \(c\): 真空中の光速(単位:メートル毎秒 [\(\text{m/s}\)])
  • 有効数字: 計算に用いる数値の桁数に注意し、計算結果もそれに合わせる必要があります。この問題では、質量 \(1.66 \times 10^{-27}\text{kg}\) と光速 \(3.00 \times 10^8 \text{m/s}\) が、どちらも有効数字3桁で与えられています。したがって、計算結果も有効数字3桁で答えるのが適切です。

具体的な解説と立式
この問題は、質量 \(1\text{u}\) をエネルギーに変換したときの値を求めるものです。
問題文で与えられている値は以下の通りです。

  • 質量 \(m = 1\text{u} = 1.66 \times 10^{-27} \, \text{kg}\)
  • 真空中の光速 \(c = 3.00 \times 10^8 \, \text{m/s}\)

使用する公式は、アインシュタインの質量とエネルギーの等価性を示す関係式です。
$$ E = mc^2 \quad \cdots ① $$
この式に、上記の \(m\) と \(c\) の値を代入することで、求めるエネルギー \(E\) を計算できます。

使用した物理公式

  • 質量とエネルギーの等価性: \(E = mc^2\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式①に、与えられた数値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
E &= mc^2 \\[2.0ex]&= (1.66 \times 10^{-27}) \times (3.00 \times 10^8)^2 \\[2.0ex]&= (1.66 \times 10^{-27}) \times (3.00^2 \times (10^8)^2) \\[2.0ex]&= (1.66 \times 10^{-27}) \times (9.00 \times 10^{16}) \\[2.0ex]&= (1.66 \times 9.00) \times (10^{-27} \times 10^{16}) \\[2.0ex]&= 14.94 \times 10^{-27+16} \\[2.0ex]&= 14.94 \times 10^{-11} \\[2.0ex]&= 1.494 \times 10^1 \times 10^{-11} \\[2.0ex]&= 1.494 \times 10^{-10}
\end{aligned}
$$
計算結果を有効数字3桁に丸めます。\(1.494\) の小数第3位の4を四捨五入すると \(1.49\) となります。
したがって、
$$ E \approx 1.49 \times 10^{-10} \, [\text{J}] $$

計算方法の平易な説明

この問題は、アインシュタインの超有名な公式「\(E=mc^2\)」に数字を当てはめるだけの計算問題です。
この式は「エネルギー \(E\) = 質量 \(m\) × (光の速さ \(c\)) × (光の速さ \(c\))」という意味です。
問題文から、

  • 質量 \(m\) は \(1.66 \times 10^{-27}\)
  • 光の速さ \(c\) は \(3.00 \times 10^8\)

です。これを公式に入れてみましょう。

計算を楽にするコツは、「普通の数字の部分」と「\(10\)の何乗かの部分(指数)」を別々に計算することです。

  • 数字の部分: \(1.66 \times (3.00)^2 = 1.66 \times 9.00 = 14.94\)
  • 指数の部分: \(10^{-27} \times (10^8)^2 = 10^{-27} \times 10^{16} = 10^{-27+16} = 10^{-11}\)

この2つを合体させると、\(14.94 \times 10^{-11}\) となります。
科学の世界では、先頭の数字を1桁にするのが一般的なので、\(1.494 \times 10^{-10}\) と形を整えます。
最後に、問題で使われている数字が3桁(1.66と3.00)なので、答えも3桁にそろえます。\(1.494\) を四捨五入して \(1.49\) にします。
よって、答えは \(1.49 \times 10^{-10}\) ジュールとなります。

解答 1.49×10⁻¹⁰J

⑧ 核反応式

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「核反応式における保存則の適用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 原子核反応における質量数保存の法則。
  2. 原子核反応における原子番号(電荷)保存の法則。
  3. 原子の表記法 \({}_{Z}^{A}\text{X}\) の意味の理解。
  4. γ線が質量数も原子番号も持たない(\({}_{0}^{0}\gamma\))ことの理解。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 与えられた2つの核反応式をそれぞれ取り上げる。
  2. 各反応式について、反応の前後で質量数(左上の数字)の和が等しくなるように方程式を立てる。
  3. 同様に、反応の前後で原子番号(左下の数字)の和が等しくなるように方程式を立てる。
  4. これらの方程式を解いて、空欄(ア〜エ)にあてはまる数を決定する。

思考の道筋とポイント
この問題は、核反応式の基本的なルールである「質量数保存則」と「原子番号保存則」を理解していれば、簡単な計算で解くことができます。核反応は、反応の前後で粒子が変化しますが、陽子と中性子の総数(質量数)と、陽子の数(原子番号)は、反応の前後で必ず保存されます。この2つの保存則を、反応式の上下の数字の「つじつま合わせ」として適用することがポイントです。特に、γ線はエネルギーの放出を表すだけで、質量数も原子番号も0として扱う点に注意しましょう。

この設問における重要なポイント

  • 質量数保存の法則: 反応式の矢印の左側にある原子核の質量数(左上の数字)の合計と、右側にある粒子・原子核の質量数の合計は等しくなります。
  • 原子番号保存の法則(電荷保存則): 反応式の矢印の左側にある原子核の原子番号(左下の数字)の合計と、右側にある粒子・原子核の原子番号の合計は等しくなります。
  • γ線(\(\gamma\)): 高エネルギーの電磁波であり、粒子ではありません。そのため、質量数も原子番号も0(\({}_{0}^{0}\gamma\))として扱います。

具体的な解説と立式
1. 窒素と水素の核反応
与えられた反応式は次の通りです。
$$ {}_{7}^{14}\text{N} + {}_{1}^{1}\text{H} \rightarrow {}_{\text{イ}}^{\text{ア}}\text{O} + \gamma $$
γ線は質量数0、原子番号0なので、\({}_{0}^{0}\gamma\)と考えることができます。

  • 質量数保存則(上の数字の合計):
    $$ 14 + 1 = \text{ア} + 0 \quad \cdots ① $$
  • 原子番号保存則(下の数字の合計):
    $$ 7 + 1 = \text{イ} + 0 \quad \cdots ② $$

2. ホウ素と重水素の核反応
与えられた反応式は次の通りです。
$$ {}_{5}^{10}\text{B} + {}_{1}^{2}\text{H} \rightarrow {}_{\text{エ}}^{\text{ウ}}\text{Be} + {}_{2}^{4}\text{He} $$

  • 質量数保存則(上の数字の合計):
    $$ 10 + 2 = \text{ウ} + 4 \quad \cdots ③ $$
  • 原子番号保存則(下の数字の合計):
    $$ 5 + 1 = \text{エ} + 2 \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 質量数保存の法則
  • 原子番号保存の法則
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた4つの方程式を解きます。

  • アの計算:
    式①より、
    $$ \text{ア} = 14 + 1 = 15 $$
  • イの計算:
    式②より、
    $$ \text{イ} = 7 + 1 = 8 $$
  • ウの計算:
    式③を変形してウについて解きます。
    $$
    \begin{aligned}
    12 &= \text{ウ} + 4 \\[2.0ex]\text{ウ} &= 12 – 4 \\[2.0ex]\text{ウ} &= 8
    \end{aligned}
    $$
  • エの計算:
    式④を変形してエについて解きます。
    $$
    \begin{aligned}
    6 &= \text{エ} + 2 \\[2.0ex]\text{エ} &= 6 – 2 \\[2.0ex]\text{エ} &= 4
    \end{aligned}
    $$
計算方法の平易な説明

核反応式は、数字のパズルのようなものです。「→」を挟んで、左側と右側で「上の段の数字の合計」と「下の段の数字の合計」がそれぞれ等しくなるように計算します。

1つ目の式: \({}_{7}^{14}\text{N} + {}_{1}^{1}\text{H} \rightarrow {}_{\text{イ}}^{\text{ア}}\text{O} + \gamma\)

  • γは数字を持たないので、計算上は無視できます。
  • 上の段(ア): 左側の合計は \(14+1=15\)。右側も15になるはずなので、アは15です。
  • 下の段(イ): 左側の合計は \(7+1=8\)。右側も8になるはずなので、イは8です。

2つ目の式: \({}_{5}^{10}\text{B} + {}_{1}^{2}\text{H} \rightarrow {}_{\text{エ}}^{\text{ウ}}\text{Be} + {}_{2}^{4}\text{He}\)

  • 上の段(ウ): 左側の合計は \(10+2=12\)。右側の合計も12になる必要があるので、「\(\text{ウ} + 4 = 12\)」となります。これを解くと、ウは8です。
  • 下の段(エ): 左側の合計は \(5+1=6\)。右側の合計も6になる必要があるので、「\(\text{エ} + 2 = 6\)」となります。これを解くと、エは4です。
解答 ア:15、イ:8、ウ:8、エ:4

⑨ 質量欠損と結合エネルギー

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「質量欠損と結合エネルギー」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 質量欠損の定義の理解。
  2. 結合エネルギーの定義と、質量欠損との関係。
  3. 質量とエネルギーの等価性(\(E=mc^2\))。
  4. 原子核の構成(陽子と中性子の数)の特定。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 設問(1)では、まずヘリウム原子核を構成する陽子と中性子の数を特定する。次に、それらの質量の合計を計算し、実際のヘリウム原子核の質量との差を求めることで質量欠損を計算する。
  2. 設問(2)では、設問(1)で求めた質量欠損に、\(1\text{u}\)あたりのエネルギーを掛けることで、結合エネルギーを計算する。

問(1)

思考の道筋とポイント
原子核は、それを構成する陽子と中性子が集まってできていますが、不思議なことに「合体後の原子核の質量」は、「バラバラの部品(陽子と中性子)の質量の合計」よりも軽くなります。この「失われた質量」のことを「質量欠損」と呼びます。
したがって、質量欠損を計算するには、「(バラバラの部品の質量の合計)ー(合体後の原子核の質量)」という単純な引き算を行えばよいことになります。まずは、ヘリウム原子核の部品である陽子と中性子の数を正確に把握することが第一歩です。

この設問における重要なポイント

  • 質量欠損(\(\Delta m\)): 原子核を構成する陽子と中性子の質量の総和から、実際の原子核の質量を引いた差のこと。
  • 原子核の構成: ヘリウム原子核 \({}_{2}^{4}\text{He}\) は、原子番号が2、質量数が4です。これは、陽子を2個、中性子を \(4-2=2\)個含んでいることを意味します。
  • 計算の基本方針: (陽子2個の質量 + 中性子2個の質量)-(ヘリウム原子核の質量)

具体的な解説と立式
ヘリウム原子核 \({}_{2}^{4}\text{He}\) は、陽子2個と中性子2個から構成されています。
問題で与えられた各粒子の質量は以下の通りです。

  • 陽子の質量 \(m_{\text{陽子}} = 1.0073 \, \text{u}\)
  • 中性子の質量 \(m_{\text{中性子}} = 1.0087 \, \text{u}\)
  • ヘリウム原子核の質量 \(M_{\text{He}} = 4.0015 \, \text{u}\)

まず、ヘリウム原子核の部品である陽子2個と中性子2個の質量の合計を計算します。
$$ \text{部品の質量の合計} = 2 \times m_{\text{陽子}} + 2 \times m_{\text{中性子}} \quad \cdots ① $$
質量欠損 \(\Delta m\) は、この部品の質量の合計から、実際のヘリウム原子核の質量 \(M_{\text{He}}\) を引いたものです。
$$ \Delta m = (2 \times m_{\text{陽子}} + 2 \times m_{\text{中性子}}) – M_{\text{He}} \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 質量欠損の定義式: \(\Delta m = Z m_{\text{陽子}} + (A-Z)m_{\text{中性子}} – M\)
計算過程

式②に与えられた数値を代入して、質量欠損 \(\Delta m\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta m &= (2 \times 1.0073) + (2 \times 1.0087) – 4.0015 \\[2.0ex]&= 2.0146 + 2.0174 – 4.0015 \\[2.0ex]&= 4.0320 – 4.0015 \\[2.0ex]&= 0.0305 \\[2.0ex]&= 3.05 \times 10^{-2} \, [\text{u}]\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

レゴブロックで車を作ることを想像してみましょう。

  • 「陽子ブロック」2個と「中性子ブロック」2個の重さを、バラバラの状態で測ります。
  • 次に、それらを合体させて作った「ヘリウムカー」の重さを測ります。
  • すると、なぜか合体後の「ヘリウムカー」の方が軽くなっています。この「消えた重さ」が質量欠損です。
  • 計算は単純な引き算です。「(陽子2個の重さ + 中性子2個の重さ) – ヘリウムカーの重さ」を計算すればOKです。

問(2)

思考の道筋とポイント
問(1)で計算した「消えた質量(質量欠損)」は、どこかへ消えて無くなったわけではありません。アインシュタインの有名な公式 \(E=mc^2\) が示すように、質量はエネルギーに変換されることができます。この質量欠損から生じたエネルギーが、原子核の中で陽子と中性子をバラバラにならないように強く結びつけている「接着剤」の役割を果たしています。このエネルギーを「結合エネルギー」と呼びます。
したがって、結合エネルギーを求めるには、質量欠損をエネルギーに変換すればよいのです。この問題では、\(1\text{u}\)が何ジュールのエネルギーに相当するかが与えられているので、それを使って計算します。

この設問における重要なポイント

  • 結合エネルギー: 原子核を構成する陽子と中性子を、バラバラの状態にするために必要なエネルギーのこと。これは、質量欠損に相当するエネルギーと等しくなります。
  • 質量とエネルギーの換算: 問題文で \(1\text{u}\) あたりのエネルギーが与えられているので、これを利用します。結合エネルギー(\(\text{J}\)) = 質量欠損(\(\text{u}\)) × \(1\text{u}\)あたりのエネルギー(\(\text{J/u}\))。

具体的な解説と立式
結合エネルギー \(E_{\text{結合}}\) は、問(1)で求めた質量欠損 \(\Delta m\) に相当するエネルギーです。
問題文より、\(1\text{u}\) は \(1.49 \times 10^{-10} \, \text{J}\) のエネルギーに等しいと与えられています。
したがって、結合エネルギーは、質量欠損(\(\text{u}\)単位)にこの換算値を掛けることで求められます。
$$ E_{\text{結合}} = \Delta m \times (1.49 \times 10^{-10}) \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 結合エネルギー = 質量欠損 × \(c^2\)
  • (本問で利用) 結合エネルギー = 質量欠損(\(\text{u}\)) × \(1\text{u}\)あたりのエネルギー(\(\text{J}\))
計算過程

式③に、問(1)で求めた \(\Delta m = 3.05 \times 10^{-2} \, \text{u}\) を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{結合}} &= (3.05 \times 10^{-2}) \times (1.49 \times 10^{-10}) \\[2.0ex]&= (3.05 \times 1.49) \times (10^{-2} \times 10^{-10}) \\[2.0ex]&= 4.5445 \times 10^{-12}
\end{aligned}
$$
与えられた数値の有効数字(\(1.49\)が3桁)に合わせて、結果を有効数字3桁に丸めます。
$$ E_{\text{結合}} \approx 4.54 \times 10^{-12} \, [\text{J}] $$

計算方法の平易な説明

問(1)で求めた「消えた重さ(質量欠損)」が、エネルギーに変わったと考えます。
問題文には「\(1\text{u}\)の重さは、\(1.49 \times 10^{-10}\)ジュールのエネルギーに相当しますよ」という便利な換算レートが書かれています。
あとは、問(1)で計算した質量欠損の値に、この換算レートを掛けるだけです。
「(消えた重さ) × (1uあたりのエネルギー)」を計算すると、それが原子核を結びつけているエネルギー、すなわち「結合エネルギー」になります。

解答 (1) 3.05×10⁻²u (2) 4.54×10⁻¹²J

例題

例題101 原子核の崩壊

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

この解説は、設問(1)と(2)の解法において、問題文の情報をより直接的に利用する論理的な流れを重視するため、模範解答とは異なるアプローチで解説を進めます。

  1. 解説の方針が模範解答と異なる点
    • 設問(1)の解法: 模範解答が設問(2)と連立させて解いているのに対し、この解説では設問(3)の記述「ラジウムがラドン\({}_{86}^{222}\text{Rn}\)に変化する」という情報を利用して、ラジウムの質量数\(A\)を直接特定します。
    • 設問(2)の解法: 模範解答がα崩壊の回数\(x\)を先に仮定して解いているのに対し、この解説では(1)で特定した質量数\(A\)を用いて、α崩壊とβ崩壊の回数を連立方程式として解きます。
  2. 上記の方針を取る理由
    • 問題文の設問順序(1)→(2)に沿った、より自然で論理的な思考プロセスを提示するため。
    • 問題文中のすべての情報を有効活用する姿勢を示すため。
  3. 解答への影響
    • 最終的な答えは模範解答と一致しますが、解答に至るまでの思考の順序と立式が異なります。

この問題のテーマは「原子核崩壊における質量数と原子番号の保存則、および半減期の計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. α崩壊: 質量数が4減少し、原子番号が2減少します。(\({}_{Z}^{A}\text{X} \rightarrow {}_{Z-2}^{A-4}\text{Y} + {}_{2}^{4}\text{He}\))
  2. β崩壊: 質量数は変化せず、原子番号が1増加します。(\({}_{Z}^{A}\text{X} \rightarrow {}_{Z+1}^{A}\text{Y} + {}_{-1}^{0}\text{e}\))
  3. 保存則: 原子核反応の前後で、質量数の和と原子番号の和はそれぞれ保存されます。
  4. 半減期の公式: 放射性原子の数\(N\)は、初めの数\(N_0\)、半減期\(T\)、経過時間\(t\)を用いて、\(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\) と表されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、設問(3)の記述を手がかりに、ラジウムがα崩壊してラドンになる反応式を考え、質量数保存則から\(A\)を特定します。
  2. (2)では、(1)で求めた\(A\)を使い、ラジウムから鉛への全崩壊過程について、質量数と原子番号の保存則で連立方程式を立て、崩壊回数を求めます。
  3. (3)では、半減期の公式に与えられた値を代入し、常用対数を用いて経過時間\(t\)を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
設問(3)にある「このラジウムは…ラドン\({}_{86}^{222}\text{Rn}\)に変化する」という記述が最大のヒントです。ラジウム\({}_{88}^{A}\text{Ra}\)がラドン\({}_{86}^{222}\text{Rn}\)に変化する過程を考えます。原子番号が88から86へと2減少していることから、この変化は1回のα崩壊であると判断できます。この反応における質量数の変化に着目すれば、\(A\)の値を特定できます。
この設問における重要なポイント

  • α崩壊では質量数が4、原子番号が2減少する。
  • 問題文全体を読み、他の設問の記述がヒントになっていないか確認する姿勢が重要。

具体的な解説と立式
ラジウム\({}_{88}^{A}\text{Ra}\)がラドン\({}_{86}^{222}\text{Rn}\)に変化する核反応を考えます。
原子番号が \(88 \rightarrow 86\) と2減少していることから、この反応はα粒子(\({}_{2}^{4}\text{He}\))を1個放出するα崩壊であることがわかります。
したがって、この核反応は次のように書くことができます。
$$ {}_{88}^{A}\text{Ra} \rightarrow {}_{86}^{222}\text{Rn} + {}_{2}^{4}\text{He} $$
核反応の前後で質量数の和は保存されるため、次の関係式が成り立ちます。
$$ A = 222 + 4 $$

使用した物理公式

  • 質量数保存則: 核反応の前後で、核子(陽子と中性子)の総数である質量数の和は変わらない。
計算過程

$$
\begin{aligned}
A &= 222 + 4 \\[2.0ex]&= 226
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(3)の問題文に、このラジウムがラドン\({}_{86}^{222}\text{Rn}\)に変わるというヒントがあります。ラジウムの原子番号は88なので、ラドンの86に変わるには、原子番号が2減る「α崩壊」が1回起きたことがわかります。α崩壊では、質量数は4減ります。つまり、ラジウムの質量数\(A\)から4を引くと、ラドンの質量数222になるはずです。式にすると \(A – 4 = 222\) となり、これを解くと\(A=226\)と求まります。

結論と吟味

ラジウムの質量数\(A\)は226です。これは問題で与えられた選択肢の中に含まれており、妥当な答えです。

解答 (1) 226

問(2)

思考の道筋とポイント
設問(1)でラジウムが\({}_{88}^{226}\text{Ra}\)であることが特定できました。この原子核が、α崩壊を\(x\)回、β崩壊を\(y\)回繰り返して、最終的に鉛\({}_{82}^{206}\text{Pb}\)になる、という一連の過程を考えます。この過程全体を通して、「質量数の和」と「原子番号の和」がそれぞれ保存されることを利用して、崩壊回数\(x\)と\(y\)に関する連立方程式を立てて解きます。
この設問における重要なポイント

  • α崩壊が\(x\)回起こると、質量数は\(4x\)、原子番号は\(2x\)減少する。
  • β崩壊が\(y\)回起こると、質量数は変化せず、原子番号は\(y\)増加する。
  • 質量数と原子番号、それぞれについて保存則の式を立てる。

具体的な解説と立式
始状態の原子核はラジウム\({}_{88}^{226}\text{Ra}\)、終状態の原子核は鉛\({}_{82}^{206}\text{Pb}\)です。
α崩壊の回数を\(x\)回、β崩壊の回数を\(y\)回とします。

まず、質量数の変化に着目します。ラジウムの質量数226が、α崩壊\(x\)回によって\(4x\)だけ減少し、鉛の質量数206になります。β崩壊は質量数に影響を与えません。
$$ 226 – 4x = 206 \quad \cdots ① $$
次に、原子番号の変化に着目します。ラジウムの原子番号88が、α崩壊\(x\)回によって\(2x\)減少し、β崩壊\(y\)回によって\(y\)増加して、鉛の原子番号82になります。
$$ 88 – 2x + y = 82 \quad \cdots ② $$
これらの連立方程式を解くことで、\(x\)と\(y\)が求まります。

使用した物理公式

  • 質量数保存則
  • 原子番号保存則(電荷保存則)
計算過程

まず、式①を解いてα崩壊の回数\(x\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
226 – 4x &= 206 \\[2.0ex]4x &= 226 – 206 \\[2.0ex]4x &= 20 \\[2.0ex]x &= 5
\end{aligned}
$$
次に、求めた\(x=5\)を式②に代入してβ崩壊の回数\(y\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
88 – 2(5) + y &= 82 \\[2.0ex]88 – 10 + y &= 82 \\[2.0ex]78 + y &= 82 \\[2.0ex]y &= 82 – 78 \\[2.0ex]y &= 4
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

α崩壊が\(x\)回、β崩壊が\(y\)回起きたとします。
まず、重さの目安である「質量数」に注目します。ラジウム226が鉛206に変わるので、重さは \(226 – 206 = 20\) だけ減りました。重さが変わるのはα崩壊だけで、1回で4減ります。なので、「\(4 \times (\text{α崩壊の回数}) = 20\)」という式が成り立ち、α崩壊は5回だとわかります。
次に、原子の種類を決める「原子番号」に注目します。ラジウム88が鉛82に変わります。α崩壊が5回起きると原子番号は \(2 \times 5 = 10\) 減ります。β崩壊が\(y\)回起きると原子番号は \(y\) 増えます。これらの変化をすべて合わせると、「\(88 – 10 + y = 82\)」という式になり、これを解くとβ崩壊は4回だとわかります。

結論と吟味

α崩壊は5回、β崩壊は4回起こることがわかりました。崩壊回数が自然数となり、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) α崩壊: 5回, β崩壊: 4回
別解: 設問(1)と(2)の同時解法

思考の道筋とポイント
設問(1)と(2)を別々に解くのではなく、α崩壊の回数\(x\)とラジウムの質量数\(A\)を両方とも未知数として扱います。まず質量数保存則から\(A\)と\(x\)の関係式を立て、この式と設問(1)の選択肢を使って\(A\)と\(x\)の値を決定します。その後、原子番号保存則からβ崩壊の回数\(y\)を求めます。これは模範解答で示されているアプローチです。
この設問における重要なポイント

  • 質量数の式 \(A – 4x = 206\) を立てる。
  • この式を満たす\(x\)(自然数)と\(A\)(選択肢の値)の組を探す。

具体的な解説と立式
α崩壊の回数を\(x\)回、β崩壊の回数を\(y\)回とします。
質量数について、ラジウム\({}_{88}^{A}\text{Ra}\)から鉛\({}_{82}^{206}\text{Pb}\)への変化を考えると、
$$ A – 4x = 206 \quad \cdots ③ $$
原子番号については、
$$ 88 – 2x + y = 82 \quad \cdots ④ $$
式③を変形すると \(A = 4x + 206\) となります。ここで、\(x\)は崩壊回数なので自然数です。\(x=1, 2, 3, \dots\) と順に代入し、計算される\(A\)の値が設問(1)の選択肢 (223, 224, 225, 226, 228) のいずれかに一致するかを調べます。

使用した物理公式

  • 質量数保存則
  • 原子番号保存則(電荷保存則)
計算過程

\(A = 4x + 206\) に \(x=1, 2, 3, \dots\) を代入していきます。

  • \(x=1\) のとき \(A = 4(1) + 206 = 210\) (選択肢にない)
  • \(x=2\) のとき \(A = 4(2) + 206 = 214\) (選択肢にない)
  • \(x=3\) のとき \(A = 4(3) + 206 = 218\) (選択肢にない)
  • \(x=4\) のとき \(A = 4(4) + 206 = 222\) (選択肢にない)
  • \(x=5\) のとき \(A = 4(5) + 206 = 226\) (選択肢にある!)

この結果、\(A=226\)が選択肢に存在するため、α崩壊の回数は \(x=5\) 回、ラジウムの質量数は \(A=226\) であると決定できます。

この \(x=5\) を式④に代入して\(y\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
88 – 2(5) + y &= 82 \\[2.0ex]78 + y &= 82 \\[2.0ex]y &= 4
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

α崩壊の回数を\(x\)回とします。質量数に注目すると、ラジウムの質量数\(A\)から \(4 \times x\) だけ引くと、鉛の206になります。つまり \(A – 4x = 206\) です。
この式を変形すると \(A = 4x + 206\) となります。ここで、(1)の選択肢の値を\(A\)に入れてみて、\(x\)がきれいな整数になるものを探します。
試してみると、\(A=226\) のときだけ \(226 = 4x + 206\) となり、\(4x=20\)、\(x=5\) ときれいな整数になります。これで(1)の答えが226、α崩壊が5回と同時にわかります。
あとはメインの解法と同じように、原子番号の変化からβ崩壊の回数を求めます。

結論と吟味

質量数\(A\)は226、α崩壊は5回、β崩壊は4回となります。メインの解法と同じ結果が得られ、妥当性が確認できます。

解答 (1) 226, (2) α崩壊: 5回, β崩壊: 4回

問(3)

思考の道筋とポイント
放射性原子の数が時間とともに減少する様子は、半減期の公式で表されます。ラジウムの量が初めの \(\displaystyle\frac{1}{5}\) になる時間を求める問題なので、公式に \(N/N_0 = 1/5\)、半減期 \(T=1600\)年を代入します。未知数は時間\(t\)のみとなります。この指数関数を含む方程式を解くために、両辺の常用対数(\(\log_{10}\))をとるのが定石です。
この設問における重要なポイント

  • 半減期の公式: \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
  • 対数の性質: \(\log(a^b) = b \log a\), \(\log(a/b) = \log a – \log b\)
  • \(\log_{10}5\) の値は与えられていないが、\(\log_{10}5 = \log_{10}(10/2) = \log_{10}10 – \log_{10}2 = 1 – \log_{10}2\) を使って計算できる。

具体的な解説と立式
時刻\(t=0\)でのラジウムの原子数を\(N_0\)、時刻\(t\)での原子数を\(N\)とします。半減期を\(T\)とすると、これらの間には次の関係式が成り立ちます。
$$ N = N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}} $$
問題の条件より、ラジウムの量が初めの量の\(\displaystyle\frac{1}{5}\)になるので \(N = \displaystyle\frac{1}{5}N_0\) です。また、半減期は \(T=1600\)年です。これらを代入します。
$$ \frac{1}{5}N_0 = N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{1600}} $$
両辺を\(N_0\)で割ると、
$$ \frac{1}{5} = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{1600}} $$
この方程式を解くために、両辺の常用対数(底を10とする対数)をとります。
$$ \log_{10}\left(\frac{1}{5}\right) = \log_{10}\left\{\left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{1600}}\right\} $$

使用した物理公式

  • 放射性崩壊の法則(半減期の式): \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
計算過程

対数の性質を用いて式を整理します。
$$
\begin{aligned}
\log_{10}\left(\frac{1}{5}\right) &= \frac{t}{1600} \log_{10}\left(\frac{1}{2}\right) \\[2.0ex]\log_{10}1 – \log_{10}5 &= \frac{t}{1600} (\log_{10}1 – \log_{10}2) \\[2.0ex]0 – \log_{10}5 &= \frac{t}{1600} (0 – \log_{10}2) \\[2.0ex]-\log_{10}5 &= -\frac{t}{1600} \log_{10}2 \\[2.0ex]\log_{10}5 &= \frac{t}{1600} \log_{10}2
\end{aligned}
$$
ここで、\(\log_{10}5 = \log_{10}\left(\displaystyle\frac{10}{2}\right) = \log_{10}10 – \log_{10}2 = 1 – \log_{10}2\) を用います。
与えられた値 \(\log_{10}2 = 0.30\) を代入して計算を進めます。
$$
\begin{aligned}
1 – \log_{10}2 &= \frac{t}{1600} \log_{10}2 \\[2.0ex]1 – 0.30 &= \frac{t}{1600} \times 0.30 \\[2.0ex]0.70 &= \frac{0.30t}{1600}
\end{aligned}
$$
この式を\(t\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{0.70 \times 1600}{0.30} \\[2.0ex]&= \frac{7 \times 1600}{3} \\[2.0ex]&= \frac{11200}{3} \\[2.0ex]&= 3733.3\dots
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、上から3桁目を四捨五入して \(3.7 \times 10^3\) 年とします。

計算方法の平易な説明

原子が半分に減るまでの時間を「半減期」といい、この問題では1600年です。量が \(\displaystyle\frac{1}{5}\) になるまでの時間を知りたいので、公式「\(\displaystyle\frac{1}{5} = (\frac{1}{2})^{t/1600}\)」を使います。このままだと計算が難しいので、「対数(log)」という道具を使います。両辺に \(\log_{10}\) をつけると、肩の数字(\(t/1600\))を前に下ろすことができます。計算を進めると、「\(\log_{10}5 = \displaystyle\frac{t}{1600} \times \log_{10}2\)」という式になります。問題には \(\log_{10}2 = 0.30\) しかありませんが、\(\log_{10}5\) は \(\log_{10}(10 \div 2)\) と考え、「\( \log_{10}10 – \log_{10}2 = 1 – 0.30 = 0.70\)」と計算できます。あとは、「\(0.70 = \displaystyle\frac{t}{1600} \times 0.30\)」を解けば、\(t\)が約3700年と求まります。

結論と吟味

経過時間は約 \(3.7 \times 10^3\) 年です。半減期(1600年)の2倍(3200年)で量は \(\displaystyle\frac{1}{4}\) に、3倍(4800年)で \(\displaystyle\frac{1}{8}\) になります。\(\displaystyle\frac{1}{5}\) は \(\displaystyle\frac{1}{4}(=0.25)\) と \(\displaystyle\frac{1}{8}(=0.125)\) の間なので、経過時間も3200年と4800年の間にあるはずです。\(3.7 \times 10^3 = 3700\) 年という結果はこの範囲にあり、妥当であると判断できます。

解答 (3) \(3.7 \times 10^3\) 年

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 原子核反応における保存則:
    • 核心: 原子核が崩壊したり反応したりする前後で、「質量数の和」と「原子番号の和」は常に一定に保たれるという、原子核物理学の根幹をなす法則です。
    • 理解のポイント:
      • α崩壊: 質量数が4減り、原子番号が2減る(\({}_{2}^{4}\text{He}\)の放出)。
      • β崩壊: 質量数は変わらず、原子番号が1増える(中性子が陽子に変わり、電子\({}_{-1}^{0}\text{e}\)を放出)。
      • この2つの変化ルールを正確に覚え、保存則の式を立てることが、(1)と(2)を解くための絶対条件です。
  • 放射性崩壊に関する半減期の法則:
    • 核心: 放射性原子の数が、一定時間(半減期\(T\))ごとに半分になっていくという指数関数的な減少法則です。
    • 理解のポイント:
      • 公式 \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\) を正しく理解し、適用できることが重要です。
      • 指数部分 \(\displaystyle\frac{t}{T}\) は「経過時間\(t\)の間に、半減期を何回経験したか」という回数を意味します。
      • この公式を含む方程式を解く際には、(3)のように両辺の対数をとるのが定石です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 未知の粒子や原子核の特定: 核反応式の一部が空欄になっており、保存則を使って未知の粒子(例: 陽子、中性子)や生成後の原子核を特定させる問題。
    • 崩壊エネルギーの計算: 反応前後の質量差(質量欠損)を計算し、アインシュタインの有名な関係式 \(E = mc^2\) を用いて放出されるエネルギーを求める問題。
    • 放射能(ベクレル)の計算: 単位時間あたりの崩壊数を表す放射能\(A\)が、原子数\(N\)と崩壊定数\(\lambda\)を用いて \(A = \lambda N\) と表されることを利用する問題。(\(\lambda = (\ln 2)/T\) の関係も重要)
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 反応の種類を把握する: 問題文から、どの核反応(α崩壊、β崩壊、核分裂など)について問われているのかを正確に読み取ります。
    2. 保存則を第一に考える: (1), (2)のように崩壊回数や原子核の種類を問われたら、まず質量数と原子番号の保存則で立式できないか検討します。
    3. 問題文全体からヒントを探す: 今回の(1)のように、他の設問の記述((3)のラドンへの変化)が解法の鍵になることがあります。行き詰まったら、問題全体を俯瞰して利用できる情報がないか探しましょう。
    4. 対数計算の準備: (3)のように半減期と具体的な減少率が与えられた問題では、ほぼ確実に対数計算が必要になります。\(\log(a/b) = \log a – \log b\) や \(\log(a^n) = n \log a\) などの基本性質をすぐに使えるようにしておきましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • β崩壊での原子番号の変化ミス:
    • 誤解: β崩壊で電子(電荷-1)が放出されるため、原子番号が1「減少する」と勘違いしてしまう。
    • 対策: β崩壊は「原子核内の中性子が、陽子と電子に変化する」現象だと覚える。陽子が1個増えるので、原子番号は1「増加」します。質量数は陽子と中性子の数の合計なので変化しません。
  • 連立方程式の符号ミス:
    • 誤解: (2)で原子番号の式を立てる際、\(88 – 2x – y = 82\) のように、β崩壊による増加分(\(+y\))を減少分(\(-y\))としてしまう。
    • 対策: 各崩壊が原子番号を「増やす」のか「減らす」のかを、立式する際に一つ一つ確認する癖をつけましょう。「α崩壊→-2」「β崩壊→+1」と明確に意識します。
  • 対数 \(\log_{10}5\) の処理:
    • 誤解: (3)の計算で \(\log_{10}5\) が出てきたときに、値が与えられていないため手が止まってしまう。
    • 対策: \(\log_{10}2\) が与えられている場合、\(\log_{10}5 = \log_{10}(10/2) = \log_{10}10 – \log_{10}2 = 1 – \log_{10}2\) という変形は頻出テクニックです。これは必ずマスターしておきましょう。
  • 半減期の公式の指数の混同:
    • 誤解: 半減期の公式の指数を \(\displaystyle\frac{T}{t}\) や \(t \cdot T\) のように間違えて覚えてしまう。
    • 対策: 指数は「半減期の経験回数」と意味で覚えます。例えば、時間が \(t=2T\)(半減期の2倍)なら、経験回数は2回なので、量は \((\displaystyle\frac{1}{2})^2 = \displaystyle\frac{1}{4}\) になります。この具体例から、指数は \(\displaystyle\frac{t}{T}\) が正しいと毎回確認できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 質量数・原子番号保存則:
    • 選定理由: (1), (2)は、原子核の種類が変化する「核反応」における量的関係を問う問題だからです。核反応を記述する最も基本的なルールがこれらの保存則です。
    • 適用根拠: これらの保存則は、より根源的な「核子数保存」と「電荷保存」の法則に基づいています。原子核反応では、陽子や中性子が別の粒子に変化することはあっても、核子(陽子・中性子の総称)や電荷が何もないところから生まれたり消えたりすることはない、という物理学の大原則を反映しています。
  • 半減期の公式 \(N = N_0 (\displaystyle\frac{1}{2})^{t/T}\):
    • 選定理由: (3)は、放射性物質が時間経過でどれだけ減少するかという「放射性崩壊の統計的性質」を問う問題だからです。この現象を定量的に記述するのが半減期の公式です。
    • 適用根拠: 個々の原子核がいつ崩壊するかは確率的で予測不能ですが、原子核の集団として見ると、その減少する速さは「その瞬間に存在する原子核の数」に比例します。この関係を数学的に表現すると指数関数的な減少となり、それを半減期\(T\)という分かりやすい指標で表現したのがこの公式です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 原子核の表記の確認: \({}_{88}^{226}\text{Ra}\) のように、左下の原子番号と左上の質量数を正確に把握し、計算対象を間違えないようにします。
  • 連立方程式の検算: (2)で求めた \(x=5, y=4\) を、元の質量数と原子番号の式両方に代入して、等式が成り立つかを確認する(質量数: \(226 – 4 \times 5 = 206\)、原子番号: \(88 – 2 \times 5 + 4 = 78+4=82\))。
  • 対数計算の基本の徹底: \(\log_{10}1=0\), \(\log_{10}10=1\) や、和・差・べき乗の公式をスムーズに使えるように練習しておくことが、(3)のような計算を迅速かつ正確に行うための鍵です。
  • 分数と小数の扱い: (3)の最後の計算 \(t = \displaystyle\frac{0.70 \times 1600}{0.30}\) は、小数点をなくして \(t = \displaystyle\frac{7 \times 1600}{3}\) と整数・分数の形に直してから計算すると、桁を間違えるなどのケアレスミスを防ぎやすくなります。
  • 概算による検算: (3)で求めた \(t \approx 3700\)年という答えの妥当性を確認します。半減期が1600年なので、2回半減(3200年)で量は \(\displaystyle\frac{1}{4}=0.25\) に、3回半減(4800年)で \(\displaystyle\frac{1}{8}=0.125\) になります。今回は \(\displaystyle\frac{1}{5}=0.20\) になる時間なので、3200年と4800年の間、特に3200年に近い値になるはずです。3700年という結果は、この予測と合致しており、大きな間違いはないと判断できます。

例題102 核反応

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「核反応における保存則(質量数、原子番号、エネルギー、運動量)の総合的な応用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 質量数保存則と原子番号保存則: 核反応の前後で、質量数の和と原子番号(電荷)の和はそれぞれ保存されます。
  2. 質量とエネルギーの等価性: 質量\(m\)は \(E=mc^2\) のエネルギーと等価です。核反応で質量が減少(質量欠損)すると、その分のエネルギーが放出されます。
  3. 運動量保存則: 外力が働かない系では、反応の前後で運動量の和は保存されます。静止状態からの分裂・反応では、反応後の運動量のベクトル和はゼロになります。
  4. 運動エネルギーの分配: 運動量保存則の結果、分裂・反応後の粒子の運動エネルギーは、質量の逆比に分配されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、核反応式の質量数と原子番号の保存則を用いて、未知の原子核を特定します。
  2. (2)では、反応で放出されたエネルギーが質量欠損によるものであることを利用し、エネルギー保存則から未知の質量を計算します。
  3. (3)から(5)では、運動量保存則を適用して、反応後に生成された2つの粒子の速度と運動エネルギーの比を導き出します。
  4. (6)では、(5)で求めた運動エネルギーの比を使い、放出された全エネルギーを2つの粒子に分配して、一方の運動エネルギーを求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
核反応式 \({}_{3}^{6}\text{Li} + {}_{0}^{1}\text{n} \rightarrow {}_{2}^{4}\text{He} + ①\) において、未知の原子核①を特定する問題です。核反応では、反応の前後で「質量数(左上の数字の和)」と「原子番号(左下の数字の和)」がそれぞれ保存されるという大原則を利用します。
この設問における重要なポイント

  • 核反応の前後で質量数の和は保存される。
  • 核反応の前後で原子番号の和は保存される。

具体的な解説と立式
未知の原子核①の質量数を\(A\)、原子番号を\(Z\)とし、記号を\({}_{Z}^{A}\text{X}\)と表します。
核反応式は次のようになります。
$$ {}_{3}^{6}\text{Li} + {}_{0}^{1}\text{n} \rightarrow {}_{2}^{4}\text{He} + {}_{Z}^{A}\text{X} $$
質量数保存則より、反応前後の左上の数字の和は等しくなります。
$$ 6 + 1 = 4 + A \quad \cdots ① $$
原子番号保存則より、反応前後の左下の数字の和は等しくなります。
$$ 3 + 0 = 2 + Z \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 質量数保存則
  • 原子番号保存則
計算過程

式①を解いて\(A\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
7 &= 4 + A \\[2.0ex]A &= 3
\end{aligned}
$$
式②を解いて\(Z\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
3 &= 2 + Z \\[2.0ex]Z &= 1
\end{aligned}
$$
したがって、原子核①は質量数3、原子番号1の原子核です。

計算方法の平易な説明

核反応は、左上の数字と左下の数字のつじつまが合うように起こります。左上の数字(質量数)は、反応前が \(6+1=7\) なので、反応後も合計が7になるはずです。ヘリウムが4なので、①は \(7-4=3\) となります。同様に、左下の数字(原子番号)は、反応前が \(3+0=3\) なので、反応後も合計が3になるはずです。ヘリウムが2なので、①は \(3-2=1\) となります。原子番号1は水素(H)なので、①は質量数3の水素ということになります。

結論と吟味

原子核①は、質量数\(A=3\)、原子番号\(Z=1\)の水素の同位体、三重水素(トリチウム)です。記号では\({}_{1}^{3}\text{H}\)と表します。

解答 (1) \({}_{1}^{3}\text{H}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
この核反応では\(4.8\text{MeV}\)のエネルギーが「生じた」とあります。これは、反応前後の質量を比べると、反応後の方がわずかに軽くなっている(質量欠損)ことを意味します。この減少した質量が、アインシュタインの関係式 \(E=mc^2\) に従ってエネルギーに変換されたのです。このエネルギー保存則(質量とエネルギーの等価性を含む)を用いて、未知の質量を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 放出エネルギー \(Q = (\text{質量欠損}) \times c^2\)
  • 質量欠損 \(\Delta m = (\text{反応前の質量合計}) – (\text{反応後の質量合計})\)
  • \(1\text{u}\) の質量は \(9.3 \times 10^2 \text{MeV}\) のエネルギーに相当する。

具体的な解説と立式
(1)で特定した原子核①(\({}_{1}^{3}\text{H}\))の質量を\(m\)とします。
反応前の質量の合計 \(m_{\text{前}}\) は、
$$ m_{\text{前}} = m_{\text{Li}} + m_{\text{n}} = 6.0151\text{ u} + 1.0087\text{ u} $$
反応後の質量の合計 \(m_{\text{後}}\) は、
$$ m_{\text{後}} = m_{\text{He}} + m = 4.0015\text{ u} + m $$
質量欠損 \(\Delta m\) は \(m_{\text{前}} – m_{\text{後}}\) です。
放出されたエネルギー \(Q=4.8\text{MeV}\) は、この質量欠損に \(1\text{u}\) あたりのエネルギー \(9.3 \times 10^2 \text{ MeV}\) を掛けたものに等しくなります。
$$ Q = (m_{\text{前}} – m_{\text{後}}) \times (9.3 \times 10^2) $$
値を代入して、\(m\)に関する方程式を立てます。
$$ 4.8 = \{ (6.0151 + 1.0087) – (4.0015 + m) \} \times 930 $$

使用した物理公式

  • 質量とエネルギーの等価性: \(E = \Delta m c^2\)
計算過程

まず、方程式を \(m\) について整理します。
$$
\begin{aligned}
4.8 &= (7.0238 – 4.0015 – m) \times 930 \\[2.0ex]4.8 &= (3.0223 – m) \times 930
\end{aligned}
$$
両辺を930で割ります。
$$
\begin{aligned}
3.0223 – m &= \frac{4.8}{930} \\[2.0ex]3.0223 – m &\approx 0.005161
\end{aligned}
$$
\(m\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
m &\approx 3.0223 – 0.005161 \\[2.0ex]m &\approx 3.017139
\end{aligned}
$$
与えられている質量の有効数字に合わせて、\(m = 3.0171 \text{ u}\) とします。

計算方法の平易な説明

反応でエネルギーが生まれるのは、反応の前後で全体の重さが少しだけ軽くなるからです。この軽くなった分の重さ(質量欠損)がエネルギーに変わります。まず、反応前の重さの合計(リチウム+中性子)と、反応後の重さの合計(ヘリウム+①)を計算します。その差が「質量欠損」です。問題文から、\(1\text{u}\)の重さは\(930\text{MeV}\)のエネルギーになることがわかっているので、「質量欠損(\(\text{u}\)) \(\times 930 = 4.8\text{MeV}\)」という式が成り立ちます。この式を解くことで、未知の原子核①の重さを求めることができます。

結論と吟味

原子核①(\({}_{1}^{3}\text{H}\))の質量は \(3.0171 \text{ u}\) です。計算結果も妥当な値です。

解答 (2) 3.0171 u

問(3)

思考の道筋とポイント
反応前の系(静止したリチウム+運動エネルギーの小さな中性子)の運動量は、ほぼゼロとみなせます。核反応は原子核内部の力(内力)によるもので、外部からの力(外力)は働かないため、反応の前後で系全体の運動量は保存されます。したがって、反応後の運動量の合計もゼロになるはずです。
この設問における重要なポイント

  • 運動量保存則が適用できる。
  • 反応前の運動量がゼロの場合、反応後の運動量のベクトル和もゼロになる。

具体的な解説と立式
反応後のヘリウム(\({}_{2}^{4}\text{He}\))の運動量を \(\vec{p}_{\text{He}}\)、原子核①(\({}_{1}^{3}\text{H}\))の運動量を \(\vec{p}_{①}\) とします。
反応前の運動量はほぼゼロなので、運動量保存則より、
$$ \vec{p}_{\text{He}} + \vec{p}_{①} = \vec{0} $$
この式は、\(\vec{p}_{\text{He}} = – \vec{p}_{①}\) を意味します。これは、2つの粒子の運動量ベクトルが、大きさが等しく、向きが正反対であることを示しています。
したがって、ヘリウムの速度の向きをx軸の正の向きとすると、原子核①の速度の向きはx軸の負の向きとなります。

使用した物理公式

  • 運動量保存則
計算過程

この設問は、向きを判断するものであり、具体的な計算は不要です。

計算方法の平易な説明

止まっている物体が2つに分裂するときを想像してください。例えば、宇宙空間で止まっている宇宙飛行士がボールを右に投げると、宇宙飛行士自身は左に動きます。これと同じで、反応前は全体がほぼ止まっているので、反応後にヘリウムが右(x軸正)に飛び出すなら、もう一方の粒子は必ず左(x軸負)に飛び出さないと、つじつまが合いません。これが運動量保存則です。

結論と吟味

原子核①の速度の向きは、ヘリウムの速度の向きと正反対であるx軸の負の向きです。

解答 (3) x軸の負の向き

問(4)

思考の道筋とポイント
(3)で立てた運動量保存則の式 \(p_{\text{He}} = p_{①}\) (大きさの関係)を、質量と速さを用いて具体的に書き下します。これにより、速さの比を質量の比で表すことができます。
この設問における重要なポイント

  • 運動量の大きさは \(p=Mv\) で表される。
  • 2つの粒子の運動量の大きさが等しいことを利用する。

具体的な解説と立式
ヘリウム(\({}_{2}^{4}\text{He}\))の質量を\(M_1\)、速さを\(v_1\)とし、原子核①(\({}_{1}^{3}\text{H}\))の質量を\(M_2\)、速さを\(v_2\)とします。
(3)で確認した通り、運動量の大きさは等しいので、
$$ M_1 v_1 = M_2 v_2 $$
この式から、速さの比 \(v_1 : v_2\) を求めます。式を比の形に変形すると、
$$ \frac{v_1}{v_2} = \frac{M_2}{M_1} $$
したがって、速さの比は質量の逆比になります。
$$ v_1 : v_2 = M_2 : M_1 $$

使用した物理公式

  • 運動量の定義: \(p=mv\)
  • 運動量保存則
計算過程

この設問は、比を求めるものであり、具体的な数値計算は不要です。

計算方法の平易な説明

運動量は「重さ×速さ」です。2つの粒子の運動量の大きさが同じなので、「ヘリウムの重さ \(\times\) ヘリウムの速さ = ①の重さ \(\times\) ①の速さ」という関係が成り立ちます。この式から、重いヘリウムは遅く、軽い①は速く動くことがわかります。速さの比は、重さの比をひっくり返したもの(逆比)になります。

結論と吟味

速さの比は \(v_1 : v_2 = M_2 : M_1\) となり、質量の逆比になるという結果は物理的に妥当です。

解答 (4) \(M_2 : M_1\)

問(5)

思考の道筋とポイント
(4)で求めた速さの比 \(v_1 : v_2 = M_2 : M_1\) を使って、2つの粒子の運動エネルギーの比を計算します。運動エネルギーは \(K = \displaystyle\frac{1}{2}Mv^2\) で与えられます。
この設問における重要なポイント

  • 運動エネルギーの定義: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}Mv^2\)
  • 運動エネルギーと運動量の関係: \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2M}\) を使うと計算が簡単になる。

具体的な解説と立式
ヘリウムの運動エネルギーを\(K_1\)、原子核①の運動エネルギーを\(K_2\)とします。
$$ K_1 = \frac{1}{2}M_1 v_1^2, \quad K_2 = \frac{1}{2}M_2 v_2^2 $$
これらの比を計算します。
$$ \frac{K_1}{K_2} = \frac{\frac{1}{2}M_1 v_1^2}{\frac{1}{2}M_2 v_2^2} = \frac{M_1}{M_2} \left( \frac{v_1}{v_2} \right)^2 $$
(4)の結果 \(\displaystyle\frac{v_1}{v_2} = \frac{M_2}{M_1}\) を代入すると、
$$ \frac{K_1}{K_2} = \frac{M_1}{M_2} \left( \frac{M_2}{M_1} \right)^2 = \frac{M_1 M_2^2}{M_2 M_1^2} = \frac{M_2}{M_1} $$
したがって、運動エネルギーの比は \(K_1 : K_2 = M_2 : M_1\) となります。

別解

運動量 \(p=Mv\) と運動エネルギー \(K=\displaystyle\frac{1}{2}Mv^2\) の関係式 \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2M}\) を使うとより簡単です。
(3)より、2つの粒子の運動量の大きさは等しく \(p_1 = p_2 = p\) です。
$$ K_1 = \frac{p^2}{2M_1}, \quad K_2 = \frac{p^2}{2M_2} $$
これらの比をとると、
$$ \frac{K_1}{K_2} = \frac{p^2 / (2M_1)}{p^2 / (2M_2)} = \frac{M_2}{M_1} $$

使用した物理公式

  • 運動エネルギーの定義: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}Mv^2\)
  • 運動エネルギーと運動量の関係: \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2M}\)
計算過程

この設問は、比を求めるものであり、具体的な数値計算は不要です。

計算方法の平易な説明

運動エネルギーは質量の逆比に分配されます。つまり、重い粒子は少しだけ、軽い粒子はたくさんの運動エネルギーをもらいます。これは、(4)で見たように軽い粒子の方が速く飛び出すためです。

結論と吟味

ヘリウム(\(M_1\))と原子核①(\(M_2\))の運動エネルギーの比は \(K_1 : K_2 = M_2 : M_1\) となり、質量の逆比になることが示されました。

解答 (5) \(M_2 : M_1\)

問(6)

思考の道筋とポイント
反応で生じたエネルギー \(Q=4.8\text{MeV}\) は、中性子の運動エネルギーが無視できるため、すべて反応後のヘリウムと原子核①の運動エネルギーの和になります。つまり \(K_1 + K_2 = 4.8\text{MeV}\) です。(5)で求めた運動エネルギーの比 \(K_1 : K_2 = M_2 : M_1\) を用いて、この \(4.8\text{MeV}\) を2つの粒子に分配します。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則: \(Q = K_1 + K_2\)
  • 比例配分: 全体を比に応じて分ける。
  • 質量の近似: 質量の比を計算する際、精密な質量のかわりに質量数で近似しても良い結果が得られる。

具体的な解説と立式
求めるのは原子核①の運動エネルギー \(K_2\) です。
(5)より、運動エネルギーの比は \(K_1 : K_2 = M_2 : M_1\) です。
全運動エネルギー \(K_{\text{全}} = K_1 + K_2 = 4.8 \text{ MeV}\) を、この比で分配します。
\(K_2\) が全体に占める割合は \(\displaystyle\frac{M_1}{M_1+M_2}\) となります。
したがって、
$$ K_2 = \frac{M_1}{M_1 + M_2} \times (K_1 + K_2) = \frac{M_1}{M_1 + M_2} \times 4.8 $$

使用した物理公式

  • エネルギー保存則
計算過程

質量 \(M_1, M_2\) には、与えられた質量 \(M_1 = m_{\text{He}} = 4.0015\text{ u}\) と、(2)で求めた \(M_2 = m = 3.0171\text{ u}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
K_2 &= \frac{4.0015}{4.0015 + 3.0171} \times 4.8 \\[2.0ex]&= \frac{4.0015}{7.0186} \times 4.8 \\[2.0ex]&\approx 0.5701 \times 4.8 \\[2.0ex]&\approx 2.736
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるので、\(2.7 \text{ MeV}\) となります。

(参考: 質量数で近似した場合)
\(M_1 \approx 4\), \(M_2 \approx 3\) として計算すると、
$$ K_2 \approx \frac{4}{4+3} \times 4.8 = \frac{4}{7} \times 4.8 \approx 2.74 $$
となり、非常に良い近似値が得られることがわかります。

計算方法の平易な説明

生じた4.8MeVのエネルギーを、ヘリウムと原子核①で分け合います。(5)で、エネルギーは質量の逆比で分け合うことがわかりました。ヘリウムの質量を\(M_1\)、①の質量を\(M_2\)とすると、①がもらうエネルギーは、全体のエネルギーに \(\displaystyle\frac{M_1}{M_1+M_2}\) を掛けたものになります。ここに、それぞれの質量(ヘリウムは約4、①は約3)をあてはめて、「\(4.8 \times \displaystyle\frac{4}{4+3}\)」を計算すると、答えが求まります。

結論と吟味

原子核①の運動エネルギーは \(2.7 \text{ MeV}\) です。軽い粒子である原子核①(\(M_2 \approx 3\))の方が、重いヘリウム(\(M_1 \approx 4\))よりも多くのエネルギー(\(4.8 – 2.7 = 2.1 \text{ MeV}\))を受け取っており、\(K_1:K_2 \approx 2.1:2.7 \approx 3:4 \approx M_2:M_1\) という関係も満たしており、物理的に妥当な結果です。

解答 (6) 2.7 MeV

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 核反応における4つの保存則:
    • 核心: この問題は、一つの核反応という現象に対して、物理学の根幹をなす4つの異なる保存則(質量数、原子番号、エネルギー、運動量)を総動員して多角的に分析する能力を試しています。
    • 理解のポイント:
      1. 質量数・原子番号保存則: 反応に関わる粒子を特定するための基本ルール。(1)で使用。
      2. エネルギー保存則(質量とエネルギーの等価性を含む): 反応で放出・吸収されるエネルギーと、反応前後の質量変化(質量欠損)を結びつける法則。(2)と(6)で使用。
      3. 運動量保存則: 反応後の粒子の運動の様子(向きや速さの比)を決定する法則。(3)と(4)で使用。
    • これら4つの法則が、それぞれどの物理量を扱い、どの設問で活躍するのかを明確に区別して理解することが、この問題を解くための絶対的な鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
    • 応用できる類似問題のパターン:
      • 静止核の分裂: 静止していた原子核が2つ(または3つ)の粒子に分裂する問題。運動量保存則から、分裂後の粒子の運動エネルギーが質量の逆比に分配されることを利用します。
      • 光子の放出・吸収: 原子核がγ線を放出してエネルギー準位が低い状態に遷移する(γ崩壊)ような問題。光子も運動量(\(p=E/c\))を持つため、光子を放出した原子核は反対方向にわずかに後ずさりします(反跳)。
      • 非弾性衝突: 入射粒子が標的核に吸収され、複合核を形成したのち、別の粒子を放出するような、より複雑な核反応。この場合も、各段階で4つの保存則が成り立ちます。
    • 初見の問題での着眼点:
      1. 反応前の運動状態を確認: 「静止している…」という記述があれば、反応前の全運動量はゼロとみなせます。これは運動量保存則を適用する上で非常に重要な条件です。
      2. エネルギーの出入りを確認: 「…エネルギーが生じた」とあれば、反応で質量がエネルギーに変わった(質量欠損)ことを意味します。「…エネルギーを与えた」とあれば、反応を起こすために外部からエネルギーが必要だったことを意味します。
      3. 求めるものが何かを意識: 粒子の「種類」なら保存則(1)。「質量」や「エネルギー」なら保存則(2)。「向き」や「速さ」なら保存則(3)が主役になります。どの法則を使えば最短で答えにたどり着けるかを見極めることが重要です。
      4. 質量の近似計算: (6)のようにエネルギーを分配する際、厳密な質量比の代わりに質量数の比で計算しても、多くの場合で有効数字の範囲内で正しい答えが得られます。検算や時間がない場合に有効なテクニックです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • エネルギーと運動量の混同:
    • 誤解: 反応で生じたエネルギー\(Q\)が、生成された粒子に等しく分配されると考えてしまう。
    • 対策: エネルギーはスカラー量、運動量はベクトル量であり、保存則の性質が全く異なります。静止状態からの分裂では、運動量の「大きさ」は等しくなりますが、運動「エネルギー」は質量の逆比に分配されます。軽い粒子ほど多くのエネルギーを受け取ることを常に意識しましょう。
  • 質量欠損の計算ミス:
    • 誤解: (2)で質量欠損を計算する際に、反応前と反応後の質量を逆に引いてしまう(\(m_{\text{後}} – m_{\text{前}}\))。
    • 対策: 「エネルギーが生じた(発熱反応)」場合は「質量が減った」と結びつけ、必ず「\(m_{\text{前}} – m_{\text{後}}\)」が正になるように計算します。逆にエネルギーを吸収する反応なら、質量は増加します。
  • 単位の換算ミス:
    • 誤解: 質量の単位(\(\text{u}\))とエネルギーの単位(\(\text{MeV}\))の関係を間違える。\(1\text{u} = 9.3 \times 10^2 \text{MeV}\) の値をうっかり忘れたり、桁を間違えたりする。
    • 対策: この換算値は問題文で与えられることが多いですが、頻出なので覚えておくと便利です。計算時には、単位が正しくキャンセルされるか、求めるべき単位になるかを確認する癖をつけましょう。
  • 比例配分の式の間違い:
    • 誤解: (6)で\(K_2\)を求める際に、比を逆にして \(\displaystyle\frac{M_2}{M_1+M_2}\) を掛けてしまう。
    • 対策: \(K_1:K_2 = M_2:M_1\) という比の関係を書き出し、\(K_2\)に対応するのは\(M_1\)であることを確認します。したがって、\(K_2\)が全体に占める割合は \(\displaystyle\frac{M_1}{M_1+M_2}\) となります。「軽い方(\(M_2\))のエネルギー(\(K_2\))を求めるには、重い方(\(M_1\))の質量を分子にする」と覚えても良いでしょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 運動量保存則:
    • 選定理由: (3), (4)では、反応後の粒子の「向き」や「速さ」といった運動状態を問われています。運動状態を記述する最も基本的な物理量が運動量であり、外力が働かない系で保存されるため、この法則が最適です。
    • 適用根拠: 核反応を引き起こす核力は、原子核という非常に狭い領域で働く「内力」です。反応に関わる粒子全体を一つの「系」と見なせば、外部からの力は(ほぼ)働いていないとみなせるため、運動量保存則が非常に高い精度で成り立ちます。
  • 運動エネルギーと運動量の関係式 \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2M}\):
    • 選定理由: (5)で運動エネルギーの比を求める際に、この公式を使うと計算が劇的に簡略化されます。
    • 適用根拠: この式は、運動エネルギー \(K=\displaystyle\frac{1}{2}Mv^2\) と運動量 \(p=Mv\) の定義から導かれる純粋な数学的関係です。運動量\(p\)が等しい2つの粒子を比較する場合、この式から運動エネルギー\(K\)は質量\(M\)に反比例することが一目でわかります。これにより、速さの比を介さずに直接エネルギーの比を求めることが可能になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 数値の桁数に注意: (2)の計算では、\(6.0151\) や \(1.0087\) のように小数点以下4桁までの精密な計算が求められます。足し算や引き算での桁の取り違えや、筆算でのケアレスミスに細心の注意を払いましょう。
  • 方程式の変形は慎重に: (2)の \(4.8 = (3.0223 – m) \times 930\) のような式を解くとき、焦って移項や割り算を間違えないように、一行一行丁寧に式変形を行うことが重要です。
  • 概算を活用する: (6)の計算 \(\displaystyle\frac{4.0015}{7.0186} \times 4.8\) は、\(\displaystyle\frac{4}{7} \times 4.8\) と概算できます。\(4/7 \approx 0.57\) なので、\(0.57 \times 4.8\) を計算します。\(0.6 \times 5 = 3\) より少し小さい値、つまり2.7あたりだろうと予測できます。この予測と計算結果が大きくずれていなければ、計算ミスをしている可能性は低いと判断できます。
  • 有効数字の確認: 最後に答えを出す前に、問題文で指定されている有効数字(この問題では(6)で2桁)を必ず確認します。計算途中で丸めず、最後の最後で指定された有効数字に合わせるのが鉄則です。

 

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