Step 2
340 電子と電流
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電流の微視的(ミクロな)表現」です。普段マクロな量として扱っている電流が、ミクロな視点では自由電子の集団的な運動によってどのように説明されるかを理解し、その関係式を扱えるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電流の定義: 電流とは、ある断面を単位時間あたりに通過する電気量のことです。
- 自由電子: 金属内で原子間を自由に動き回り、電圧をかけると一斉に動くことで電流の担い手(キャリア)となる電子。
- 電子の平均の速さ(ドリフト速度): 個々の電子は高速でランダムに運動(熱運動)していますが、電場がかかると全体としてゆっくりと一定方向に流れていきます。この集団としての平均の速さが電流の大きさに関係します。
- 電流のミクロな公式: 電流 \(I\) は、電気素量 \(e\)、単位体積あたりの自由電子数(電子密度) \(n\)、導線の断面積 \(S\)、電子の平均の速さ \(v\) を用いて \(I=enSv\) と表されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 電流のミクロな表現である公式 \(I=enSv\) を思い出します。
- この公式を、求めたい物理量である「電子の平均の速さ \(v\)」について変形します。
- 問題文で与えられた各数値を、単位に注意しながら式に代入します。
- 指数計算を含め、慎重に計算を実行します。
思考の道筋とポイント
この問題は、マクロな物理量である電流 \(I\) と、ミクロな物理量である電子の平均の速さ \(v\) を結びつける公式 \(I=enSv\) を知っているか、またそれを導出できるかが全てです。この公式は暗記するだけでなく、その成り立ちを理解しておくことが重要です。
公式の導出は、「1秒間に導線の断面を通過する自由電子の総電気量はいくらか?」を考えることで行えます。
- 速さ \(v\) で移動する電子は、1秒間に \(v\) [m] 進みます。
- 断面積 \(S\) の導線において、長さ \(v\) の円柱部分の体積は \(S \times v\) です。
- この体積の中に含まれる自由電子の数は、単位体積あたりの数 \(n\) を掛けて \(nSv\) 個となります。
- 電子1個の電気量は \(e\) なので、これらの電子が持つ総電気量は \(enSv\) となります。
- これが1秒あたりに断面を通過する電気量、すなわち電流 \(I\) に等しくなります。
この思考プロセスを理解していれば、公式を忘れてもその場で導くことができます。
この設問における重要なポイント
- 電流のミクロな表現式 \(I=enSv\) を正しく適用すること。
- \(e\): 電気素量(電子1個の電気量の大きさ)
- \(n\): 電子密度(単位体積あたりの自由電子の数)
- \(S\): 導線の断面積
- \(v\): 自由電子の平均の速さ(ドリフト速度)
- 指数を含む数値計算を正確に行うこと。
具体的な解説と立式
電流 \(I\) は、電子1個の電気量を \(e\)、単位体積あたりの自由電子の数を \(n\)、導線の断面積を \(S\)、自由電子の平均の速さを \(v\) とすると、以下の式で表されます。
$$ I = enSv $$
この問題では、自由電子の平均の速さ \(v\) を求めたいので、この式を \(v\) について解きます。
$$ v = \frac{I}{enS} $$
この式に、問題文で与えられた各値を代入することで、速さ \(v\) を求めることができます。
使用した物理公式
- 電流と自由電子の速さの関係式: \(I=enSv\)
与えられた値を代入します。
- \(I = 6.4 \, \text{A}\)
- \(e = 1.6 \times 10^{-19} \, \text{C}\)
- \(n = 8.0 \times 10^{28} \, \text{個/m}^3\)
- \(S = 2.0 \times 10^{-6} \, \text{m}^2\)
これらの値を \(v = \displaystyle\frac{I}{enS}\) の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{6.4}{ (1.6 \times 10^{-19}) \times (8.0 \times 10^{28}) \times (2.0 \times 10^{-6}) } \\[2.0ex]&= \frac{6.4}{ (1.6 \times 8.0 \times 2.0) \times (10^{-19} \times 10^{28} \times 10^{-6}) } \\[2.0ex]&= \frac{6.4}{ 25.6 \times 10^{-19+28-6} } \\[2.0ex]&= \frac{6.4}{ 25.6 \times 10^{3} } \\[2.0ex]&= 0.25 \times 10^{-3} \\[2.0ex]&= 2.5 \times 10^{-4} \, [\text{m/s}]\end{aligned}
$$
電流の正体は、金属の中にあるたくさんの自由電子が一斉に動くことです。この問題は、その電子たちの平均的な「進行速度」を求めるものです。
「電流の大きさ」は、「電子1個の電気量」「電子の混み具合(密度)」「導線の太さ(断面積)」「電子の速さ」の4つをすべて掛け合わせることで計算できる、という便利な公式 (\(I=enSv\)) があります。
今回は「電子の速さ」を知りたいので、この公式を「速さ = 電流 ÷ (他の3つの要素)」という形に変形します。あとは、問題文にある数値をすべて代入して計算するだけです。計算するときは、\(10\)のべき乗の部分とそれ以外の数字の部分を分けて計算するとミスが減ります。
自由電子の平均の速さは \(2.5 \times 10^{-4} \, \text{m/s}\) です。
この速さは、秒速 \(0.25 \, \text{mm}\) という、非常にゆっくりとしたものです。私たちがスイッチを入れると瞬時に電気がつくのは、導線中の電子が一斉に動き始めるからであり、個々の電子が発電所から猛スピードでやってくるわけではありません。電子の個々の熱運動の速さは非常に高速ですが、電場によって生じる集団としての平均の速さ(ドリフト速度)は非常に遅い、という事実は物理的に重要であり、この計算結果は妥当なものです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電流のミクロな正体とマクロな量の関係
- 核心: この問題は、日常的に使う「電流」というマクロな物理量が、ミクロな視点では無数の「自由電子の集団的な流れ」によって構成されていることを理解し、両者を結びつける関係式 \(I=enSv\) を正しく使えるかどうかが核心です。
- 理解のポイント:
- 電流 \(I\): 1秒あたりに断面を通過する総電気量 [C/s] = [A]。これはマクロな測定量。
- 自由電子の流れ: 電流の担い手は、負の電荷 \(-e\) を持つ自由電子の集団。
- \(enSv\) の意味: この式は、1秒間に導線の断面を通過する電子の「数」(\(nSv\)) に、電子1個あたりの電気量 (\(e\)) を掛けることで、総電気量を計算しています。これにより、ミクロな電子の振る舞い(数と速さ)からマクロな電流の大きさが決まる、という物理的描像を数式で表現しています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ホール効果: 磁場中の導体に電流を流すと、電流と磁場の両方に垂直な方向に電位差(ホール電圧)が生じる現象。このホール電圧は、電流の担い手(キャリア)の符号(正か負か)や密度 \(n\) に依存するため、\(I=enSv\) の考え方を応用して解析します。
- 半導体中の電流: 半導体では、電流の担い手が負の電子だけでなく、正孔(ホール)という正の電荷を持つキャリアも存在します。全体の電流は、電子による電流と正孔による電流の和として考えます。
- 抵抗率のミクロな表現: オームの法則のミクロな表現 \(E = \rho j\) (\(E\):電場, \(\rho\):抵抗率, \(j\):電流密度)と \(I=enSv\) を組み合わせることで、抵抗率 \(\rho\) が電子の運動とどう関係しているかを考察する問題につながります。
- 初見の問題での着眼点:
- ミクロな量の特定: 問題文に「自由電子」「電子の数(密度)」「電気素量」「電子の速さ」といったキーワードが出てきたら、即座に \(I=enSv\) の公式を連想します。
- 各変数の単位を確認:
- \(I\): [A]
- \(e\): [C]
- \(n\): [個/m³]
- \(S\): [m²]
- \(v\): [m/s]
全ての単位が基本単位(MKSA単位系)で与えられているかを確認し、もし異なれば換算します。
- 求める量を明確にする: \(I, e, n, S, v\) のうち、どの変数を求めるのかを明確にし、それに応じて式を変形します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 公式の変数の意味の混同:
- 誤解: \(n\) を単なる電子の数と勘違いする(正しくは単位体積あたりの数、すなわち密度)。
- 対策: \(I=enSv\) の各文字が何を意味し、どのような単位を持つのかを正確に覚えます。「\(n\)はnumber density(数密度)」のように、英語の頭文字と関連付けて覚えるのも一つの手です。
- 指数計算のミス:
- 誤解: \(10^{-19} \times 10^{28} \times 10^{-6}\) のような計算で、指数の足し算を間違える。(\(-19+28-6 = 3\))
- 対策: 指数部分と係数部分を完全に分けて計算する習慣をつけます。計算過程を丁寧に書き出し、符号の扱いに特に注意します。
- 電子の速さに対する誤解:
- 誤解: 計算結果が非常に遅い値(例: \(10^{-4}\) m/s)になったため、計算ミスを疑ってしまう。
- 対策: 「電子の平均の速さ(ドリフト速度)は、カタツムリが進む程度の非常にゆっくりとした速さである」という物理的な事実を知っておくことが重要です。光速に近い速さで伝わるのは、個々の電子の移動ではなく、電場(電界)の変化、つまり「進め」という命令そのものです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(I=enSv\) (電流のミクロ表現):
- 選定理由: この問題は、マクロな量(電流 \(I\))とミクロな量(電子の速さ \(v\))の関係を直接問うており、この公式はその関係を定義するものです。これ以外の公式で解くことは困難であり、この公式を選択するのは必然です。
- 適用根拠: この公式は、電流の定義「単位時間あたりに断面を通過する電気量」を、自由電子という具体的なキャリアの運動に基づいて表現し直したものです。
- \(v \times 1\text{秒}\): 1秒間に電子が進む距離。
- \(S \times v\): 1秒間に断面を通過する電子が含まれていた体積。
- \(n \times Sv\): その体積に含まれる電子の総数。
- \(e \times nSv\): その電子たちが持つ総電気量。
この論理的な積み上げが、公式の物理的な意味と妥当性を保証しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 係数と指数の分離: 計算式を \(\displaystyle v = \frac{6.4}{1.6 \times 8.0 \times 2.0} \times \frac{1}{10^{-19} \times 10^{28} \times 10^{-6}}\) のように、係数部分と指数部分に分けて書くと、それぞれの計算に集中でき、ミスを減らせます。
- 約分をうまく利用する: 係数部分の計算で、\(6.4 / 1.6 = 4\) のように、先に割り算を実行すると計算が楽になります。\(v = \displaystyle\frac{4}{8.0 \times 2.0} \times \dots = \frac{4}{16} \times \dots = 0.25 \times \dots\)
- 最終的な表記: 計算結果が \(0.25 \times 10^{-3}\) のようになった場合、科学表記のルール(係数部分を1以上10未満にする)に従い、\(2.5 \times 10^{-4}\) に直して解答します。
- 単位による検算: \(v = I/(enS)\) の単位を考えると、[A] / ([C]・[m⁻³]・[m²]) = [C/s] / ([C]・[m⁻¹]) = [m/s] となり、確かに速さの単位になっています。このような単位のチェックは、公式の形が正しいかどうかの簡単な検証になります。
341 抵抗率の温度係数
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「抵抗の温度変化」です。金属の抵抗値は温度によって変化し、一般に温度が高くなるほど抵抗値も大きくなります。この関係性を数式で理解し、オームの法則と組み合わせて計算できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 抵抗の温度依存性: 温度 \(t\) [℃] における抵抗値 \(R\) は、0℃のときの抵抗値 \(R_0\) と抵抗率の温度係数 \(\alpha\) [/K] を用いて、\(R = R_0(1 + \alpha t)\) と表されます。
- オームの法則: 電圧 \(V\)、電流 \(I\)、抵抗 \(R\) の間には、どの温度においても \(V=RI\) の関係が成り立ちます。
- 温度係数の単位: 温度係数 \(\alpha\) の単位が [/K](毎ケルビン)で与えられていても、温度変化 \(\Delta t\) はセルシウス度 [℃] とケルビン [K] で等しいため、公式の \(t\) にはセルシウス温度 [℃] をそのまま代入して計算できます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、1500℃で動作しているときの情報(電圧と電流)から、オームの法則を用いてそのときの抵抗値 \(R\) を計算します。
- 次に、抵抗の温度変化の公式 \(R = R_0(1 + \alpha t)\) を利用して、1500℃の抵抗値 \(R\) から、基準となる0℃のときの抵抗値 \(R_0\) を逆算します。
- 最後に、この0℃のときの抵抗値 \(R_0\) を持つフィラメントに100Vの電圧を加えたときに流れる電流 \(I_0\) を、再びオームの法則を用いて求めます。
思考の道筋とポイント
この問題は、2つの異なる温度状況における電球の振る舞いを比較するものです。最大のポイントは、電球のフィラメントの「抵抗値が一定ではない」という点です。温度が \(1500 \, \text{℃}\) のときと \(0 \, \text{℃}\) のときでは、抵抗値が大きく異なります。
この2つの状態を結びつけるのが、抵抗の温度変化の公式 \(R = R_0(1 + \alpha t)\) です。この問題では、高温時の状態から基準(0℃)の状態を求め、その基準の状態から問われている電流を計算する、というステップを踏みます。つまり、0℃のときの抵抗値 \(R_0\) を中間目標として計算を進めるのが解法の流れとなります。
この設問における重要なポイント
- 抵抗値は温度に依存することを理解する。
- オームの法則 \(V=RI\) を使って、特定の温度での抵抗値を求める。
- 抵抗の温度変化の公式 \(R = R_0(1 + \alpha t)\) を使って、異なる温度間の抵抗値を関連付ける。
具体的な解説と立式
まず、フィラメントの温度が \(t = 1500 \, \text{℃}\) のときの抵抗値を \(R\) とします。このとき、電圧 \(V = 100 \, \text{V}\)、電流 \(I = 0.50 \, \text{A}\) なので、オームの法則より、
$$ R = \frac{V}{I} \quad \cdots ① $$
次に、フィラメントの温度が \(0 \, \text{℃}\) のときの抵抗値を \(R_0\) とします。抵抗の温度変化の公式より、\(R\) と \(R_0\) の間には以下の関係が成り立ちます。
$$ R = R_0 (1 + \alpha t) \quad \cdots ② $$
この式②を使って、①で求めた \(R\) から \(R_0\) を計算することができます。
最後に、この \(R_0\) の抵抗値を持つフィラメントに電圧 \(V_0 = 100 \, \text{V}\) を加えたときに流れる電流 \(I_0\) を求めます。オームの法則より、
$$ I_0 = \frac{V_0}{R_0} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V=RI\)
- 抵抗の温度変化: \(R = R_0(1 + \alpha t)\)
式①に \(V=100 \, \text{V}\), \(I=0.50 \, \text{A}\) を代入して、1500℃での抵抗 \(R\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{100}{0.50} \\[2.0ex]&= 200 \, [\Omega] = 2.0 \times 10^2 \, [\Omega]\end{aligned}
$$
次に、式②に \(R=200 \, \Omega\), \(\alpha = 5.2 \times 10^{-3} \, \text{/K}\), \(t = 1500 \, \text{℃}\) を代入して、0℃での抵抗 \(R_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
2.0 \times 10^2 &= R_0 (1 + 5.2 \times 10^{-3} \times 1500) \\[2.0ex]2.0 \times 10^2 &= R_0 (1 + 7.8) \\[2.0ex]2.0 \times 10^2 &= R_0 \times 8.8 \\[2.0ex]R_0 &= \frac{2.0 \times 10^2}{8.8} \, [\Omega]\end{aligned}
$$
最後に、式③に \(V_0 = 100 \, \text{V}\) と上で求めた \(R_0\) を代入して、電流 \(I_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
I_0 &= \frac{100}{R_0} \\[2.0ex]&= \frac{100}{\frac{2.0 \times 10^2}{8.8}} \\[2.0ex]&= \frac{100 \times 8.8}{2.0 \times 10^2} \\[2.0ex]&= \frac{100 \times 8.8}{200} \\[2.0ex]&= \frac{8.8}{2} \\[2.0ex]&= 4.4 \, [\text{A}]\end{aligned}
$$
電球のフィラメントは、熱くなると電気が流れにくく(抵抗が大きく)なります。この問題は、その性質を利用して計算を進めます。
- 熱いときの抵抗を計算: まず、1500℃のときの電圧(100V)と電流(0.50A)から、オームの法則を使って抵抗を計算すると、200Ωになります。
- 冷たいときの抵抗を逆算: 「抵抗の温度変化の公式」を使って、1500℃で200Ωなら、基準の0℃では何Ωになるかを逆算します。計算すると、0℃のときの抵抗は \(200 \div 8.8\) Ωという値になります。
- 冷たいときの電流を計算: この「冷たいときの抵抗」に100Vの電圧をかけると何Aの電流が流れるか、再びオームの法則で計算します。\(100 \div (200 \div 8.8) = 4.4\)A となります。
フィラメントを0℃に保ったときに流れる電流は \(4.4 \, \text{A}\) です。
フィラメントの温度が \(1500 \, \text{℃}\) から \(0 \, \text{℃}\) に下がると、抵抗値は \(200 \, \Omega\) から約 \(22.7 \, \Omega\) へと大幅に減少します。そのため、同じ100Vの電圧をかけても、流れる電流は \(0.50 \, \text{A}\) から \(4.4 \, \text{A}\) へと大きく増加します。この結果は、金属の抵抗が温度低下によって減少するという物理的性質と一致しており、妥当なものと言えます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 抵抗値の温度依存性
- 核心: 金属などの導体の電気抵抗は一定ではなく、温度によって変化するという物理現象がこの問題の核心です。特に、その関係が \(R = R_0(1 + \alpha t)\) という線形の式で近似できることを理解し、使いこなせるかが問われます。
- 理解のポイント:
- 物理的描像: 温度が上がると、金属内の陽イオンの熱振動が激しくなります。これにより、電流の担い手である自由電子が陽イオンと衝突する頻度が増え、電子の進行が妨げられやすくなります。これが、抵抗値が増加するミクロな原因です。
- \(R_0\): 基準となる温度(通常は0℃)での抵抗値。すべての温度における抵抗値を計算するための「原点」となります。
- \(\alpha\) (温度係数): 抵抗値が温度によってどれくらい変化しやすいかを示す物質固有の定数。この値が大きいほど、温度変化に対する抵抗値の変化が敏感であることを意味します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 抵抗温度計: 抵抗値の温度変化を積極的に利用して温度を測定する装置。ある温度での抵抗値を測定し、\(R = R_0(1 + \alpha t)\) の関係から温度 \(t\) を逆算する問題。
- 超伝導: ある種の物質を極低温まで冷やすと、特定の温度(転移温度)で電気抵抗が完全にゼロになる現象。抵抗の温度依存性の究極の例として関連付けて理解すると良いでしょう。
- 半導体の抵抗温度特性: 半導体は、一般的に温度が上がると抵抗値が「減少」するという、金属とは逆の性質を示します。これは、温度上昇によってキャリア(電子や正孔)の数が増加する効果が、熱振動による妨害効果を上回るためです。
- 初見の問題での着眼点:
- 「温度」というキーワード: 問題文に複数の温度(例: 0℃と1500℃)や「温度係数」という言葉が出てきたら、即座に「抵抗値が変化する問題だ」と認識します。
- 2つの状態の特定: 問題文から、どの物理量(電圧、電流、温度)がどの状態で与えられているかを整理します。(状態1: \(V=100\)V, \(I=0.50\)A, \(t=1500\)℃ → 状態2: \(V_0=100\)V, \(t_0=0\)℃, \(I_0=?\))
- 中間目標の設定: 2つの状態を結びつけるためには、基準となる0℃での抵抗値 \(R_0\) が必要になります。したがって、「まず\(R_0\)を求める」ことを中間目標として設定し、計算の道筋を立てます。
- 計算のステップ化:
- Step 1: 状態1の情報から、オームの法則で高温時の抵抗 \(R\) を求める。
- Step 2: \(R = R_0(1 + \alpha t)\) を使って、\(R\) から \(R_0\) を求める。
- Step 3: 状態2の情報と求めた \(R_0\) から、オームの法則で低温時の電流 \(I_0\) を求める。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 抵抗値が一定だと誤解する:
- 誤解: 100Vの電圧をかけたときの電流を求める際に、温度の違いを無視して、1500℃のときの抵抗値(200Ω)をそのまま使ってしまう。
- 対策: 問題文に「温度」に関する記述がある場合は、常に抵抗値が変化する可能性を疑います。「フィラメント」や「電球」といった言葉は、温度変化が大きいことを示唆していることが多いです。
- 温度係数の式の適用の誤り:
- 誤解: \(R = R_0(1 + \alpha t)\) の \(R\) と \(R_0\) の関係を取り違え、\(R_0 = R(1 + \alpha t)\) のように計算してしまう。
- 対策: \(R_0\) はあくまで基準(0℃)であり、温度 \(t\) が上がると抵抗値 \(R\) は \(R_0\) より大きくなる(\(\alpha > 0\) の場合)という大小関係をイメージします。これにより、\(R_0\) を求めるときは \(R\) を \(1+\alpha t\)(>1)で割る、という正しい式変形につながります。
- 温度の単位:
- 誤解: 温度係数 \(\alpha\) の単位が [/K] なので、セルシウス温度 [℃] を絶対温度 [K] に変換(+273)しなければならないと勘違いする。
- 対策: 公式 \(R = R_0(1 + \alpha t)\) の \(t\) は「温度上昇」を意味します。温度の「差」や「変化量」は、セルシウス度とケルビンで全く同じです(例: 10℃から20℃への変化は10℃の上昇であり、283Kから293Kへの変化は10Kの上昇)。したがって、基準が0℃の場合、セルシウス温度の値をそのまま \(t\) に代入して問題ありません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(R = R_0(1 + \alpha t)\) (抵抗の温度変化の公式):
- 選定理由: この問題は、異なる2つの温度における抵抗値を関連付ける必要があり、この公式はそのための唯一の手段です。問題文に「温度係数」が与えられていることが、この公式を選択する直接的な根拠となります。
- 適用根拠: 多くの金属では、実用的な温度範囲において、抵抗値の変化が温度変化にほぼ比例するという実験事実に基づいています。この比例関係を最も単純な一次式でモデル化したのがこの公式です。\(R_0\) を基準としたときの変化量 \(\Delta R = R – R_0\) が、基準の抵抗値 \(R_0\) と温度上昇 \(t\) の両方に比例する(\(\Delta R \propto R_0 t\))と考え、その比例定数を \(\alpha\) としたものです。
- オームの法則 \(V=RI\):
- 選定理由: 電圧・電流・抵抗という電気回路の3つの基本量を結びつける法則であり、各状態での具体的な抵抗値や電流を計算するために不可欠です。
- 適用根拠: オームの法則は、特定の状態(温度が一定)におけるV, I, Rの関係を記述します。この問題では、「1500℃の状態」と「0℃の状態」という2つの異なる静的な状態それぞれに対して、この法則を適用しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 計算の順序: この問題のように、ある値を一度計算し、それを使って次の計算に進む場合、計算の順序を間違えないことが重要です。思考の道筋で立てたステップを一つずつ着実に実行します。
- 分数の扱い: \(R_0 = \frac{2.0 \times 10^2}{8.8}\) のように、割り切れない分数が計算途中に出てきた場合、無理に小数に直さず、分数の形のまま次の計算に代入する方が、誤差が蓄積せず、最終的な計算が楽になることが多いです(この問題では \(I_0 = 100 / R_0\) の計算でうまく約分できる)。
- 概算による検算: 1500℃で抵抗が200Ω。温度が下がれば抵抗は大幅に小さくなるはず。\(1+\alpha t = 8.8\) なので、抵抗は約1/9になる。すると電流は約9倍になるはず。\(0.5 \text{A} \times 9 = 4.5 \text{A}\)。計算結果の4.4Aと非常に近い値であり、計算が妥当であると確信できます。
342 オームの法則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「オームの法則の微視的導出」です。電流や抵抗といったマクロな物理量が、金属内部の自由電子の運動というミクロな視点からどのように説明されるのか、その論理的なつながりを一つずつ解き明かしていく問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電流のミクロな定義: 電流は、単位時間あたりに導線の断面を通過する自由電子の総電気量として表されます。
- 電場と電位の関係: 一様な電場 \(E\) 中の2点間の距離が \(d\)、電位差が \(V\) のとき、\(V=Ed\) の関係が成り立ちます。
- 電場中の荷電粒子が受ける力: 電荷 \(q\) を持つ粒子が電場 \(E\) 中に置かれると、\(F=qE\) の力を受けます。
- 終端速度: 物体が駆動力と抵抗力を受けながら運動するとき、やがて両者がつり合って速度が一定になります。このときの速度を終端速度といい、自由電子の平均の速さもこの考え方でモデル化されます。
- 抵抗と抵抗率: マクロな抵抗値 \(R\) は、物質の幾何学的な形状(長さ \(L\)、断面積 \(S\))と、物質の種類で決まる抵抗率 \(\rho\) を用いて \(R = \rho \displaystyle\frac{L}{S}\) と表されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題文の誘導に従い、空欄①から⑧までを順番に埋めていきます。各ステップでは、基本的な物理法則を適用し、前のステップで得られた結果を使いながら、最終的に抵抗率 \(\rho\) をミクロな量で表現することを目指します。
問 空欄①, ②
思考の道筋とポイント
毎秒あたりに導線の断面を通過する自由電子の数と、それによって生じる電流の大きさを求める問題です。これは電流のミクロな定義そのものです。1秒間に電子が平均で \(v\) [m] 進むことを利用して、1秒間に断面を通過する電子の数を体積から計算します。
この設問における重要なポイント
- 1秒間に電子が進む距離は \(v\) [m] である。
- 断面積 \(S\)、長さ \(v\) の円柱体積内にいる電子が、1秒間に断面を通過する。
- 電流は、単位時間あたりに通過する総電気量である。
具体的な解説と立式
空欄①: 毎秒断面を通過する自由電子の数 \(N\)
速さ \(v\) [m/s] で移動する電子は、1秒間に \(v\) [m] 進みます。断面積 \(S\) [m²] の導線を考えると、1秒間に特定の断面を通過する電子は、その断面から上流側に長さ \(v\) [m] までの円柱領域にいた電子たちです。
この円柱の体積は \(V_{\text{円柱}} = S \times v\) [m³] です。
単位体積あたりの自由電子の数は \(n\) [個/m³] なので、この体積内に含まれる電子の総数 \(N\) は、
$$ N = n \times V_{\text{円柱}} = nSv \quad \cdots ① $$
これが毎秒断面を通過する電子の数となります。
空欄②: 電流の強さ \(I\)
電流の強さ \(I\) は、1秒間に断面を通過する電気量の総和です。電子1個の電気量の大きさは \(e\) [C] であり、毎秒 \(N\) 個の電子が通過するので、電流 \(I\) は、
$$ I = e \times N = enSv \quad \cdots ② $$
となります。
①は \(nSv\)、②は \(enSv\) となります。これは電流のミクロな表現として基本となる関係式です。
問 空欄③, ④
思考の道筋とポイント
金属棒内部に生じる電場の強さと、それによって個々の自由電子が受ける力の大きさを求める問題です。一様な金属棒に電圧 \(V\) をかけると、内部には一様な電場 \(E\) が生じると考えます。
この設問における重要なポイント
- 一様な電場 \(E\) と電位差 \(V\)、距離 \(d\) の関係は \(V=Ed\)。
- 電荷 \(q\) が電場 \(E\) から受ける力の大きさは \(F=|q|E\)。
具体的な解説と立式
空欄③: 電場の強さ \(E\)
長さ \(L\) の金属棒の両端に電圧 \(V\) がかかっているので、棒の内部には一様な電場 \(E\) が生じます。電位差・電場・距離の関係式 \(V=Ed\) より、
$$ V = EL $$
これを \(E\) について解くと、
$$ E = \frac{V}{L} \quad \cdots ③ $$
空欄④: 電子が受ける力の大きさ \(F\)
電気量 \(-e\) の自由電子が、強さ \(E\) の電場から受ける力の大きさ \(F\) は、\(F=|q|E\) より、
$$ F = eE $$
ここに③で求めた \(E\) を代入すると、
$$ F = e \frac{V}{L} = \frac{eV}{L} \quad \cdots ④ $$
③は \(\displaystyle\frac{V}{L}\)、④は \(\displaystyle\frac{eV}{L}\) となります。電位差から電場を求め、電場から力を求めるという基本的な流れを正しく適用できました。
問 空欄⑤, ⑥
思考の道筋とポイント
自由電子の運動を妨げる力と、力のつり合いから電子の平均の速さを求める問題です。電子は電場から力を受けて加速しますが、金属中の陽イオンなどとの衝突によって抵抗力を受けます。やがて両者がつり合い、電子は一定の平均速度(終端速度)で移動するようになります。
この設問における重要なポイント
- 問題文の条件「妨げる力 \(f\) は速さ \(v\) に比例し、比例定数は \(k\)」を数式化する。
- 「速さは一定」という条件から、「力のつり合い」を考える。
具体的な解説と立式
空欄⑤: 妨げる力の大きさ \(f\)
問題文の指示通り、速さ \(v\) に比例する妨げる力 \(f\) を、比例定数 \(k\) を用いて表します。
$$ f = kv \quad \cdots ⑤ $$
空欄⑥: 自由電子の速さ \(v\)
一定の電流が流れているとき、電子の平均の速さ \(v\) は一定です。これは、電子に働く力がつり合っていることを意味します。すなわち、電場から受ける力 \(F\) と、妨げる力 \(f\) が等しくなります。
$$ F = f $$
④と⑤の結果を代入すると、
$$ \frac{eV}{L} = kv $$
これを速さ \(v\) について解くと、
$$ v = \frac{eV}{kL} \quad \cdots ⑥ $$
⑤は \(kv\)、⑥は \(\displaystyle\frac{eV}{kL}\) となります。駆動力と抵抗力がつり合って終端速度に達するという、物理モデルを正しく数式化できました。
問 空欄⑦, ⑧
思考の道筋とポイント
これまでの結果を統合し、電流 \(I\) と抵抗率 \(\rho\) をミクロな物理量で表現する問題です。まず、電流の基本式 \(I=enSv\) に、⑥で求めた \(v\) の具体的な表現を代入します。次に、得られた \(I\) と \(V\) の関係式を、マクロなオームの法則 \(I=V/R\) や抵抗率の定義式 \(R=\rho L/S\) と比較することで、\(\rho\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 導出済みの関係式を代入し、マクロな量(\(I, V\))とミクロな量(\(e, n, k\)など)の関係を明らかにする。
- 異なる2つの表現(ミクロとマクロ)を比較し、対応する部分を見つけ出す。
具体的な解説と立式
空欄⑦: 電流の強さ \(I\)
②で求めた電流の式 \(I=enSv\) に、⑥で求めた \(v = \displaystyle\frac{eV}{kL}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= enS \left( \frac{eV}{kL} \right) \\[2.0ex]&= \frac{e^2nSV}{kL} \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$
空欄⑧: 抵抗率 \(\rho\)
⑦で得られた式 \(I = \displaystyle\frac{e^2nS}{kL} V\) は、電圧 \(V\) と電流 \(I\) の比例関係を示しており、オームの法則に対応します。オームの法則は \(I = \displaystyle\frac{1}{R}V\) と書けるので、この式と比較すると、金属棒の抵抗 \(R\) は、
$$ R = \frac{kL}{e^2nS} $$
と表せることがわかります。
一方、抵抗率 \(\rho\) を用いた抵抗の定義式は、
$$ R = \rho \frac{L}{S} $$
です。この2つの \(R\) の表現を比較すると、抵抗率 \(\rho\) に対応する部分は、
$$ \rho = \frac{k}{e^2n} \quad \cdots ⑧ $$
となります。
⑦は \(\displaystyle\frac{e^2nSV}{kL}\)、⑧は \(\displaystyle\frac{k}{e^2n}\) となります。自由電子の運動モデルから出発し、最終的にオームの法則が導かれ、さらに抵抗率という物質の性質を決めるマクロな量が、電子の電荷や密度、運動の妨げられやすさといったミクロな量によって決まることが示されました。一連の論理展開は物理的に非常に重要であり、正しくたどることができました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- オームの法則の微視的(ミクロ)な解釈
- 核心: この問題は、単に公式を適用するのではなく、マクロな物理法則であるオームの法則(\(V=RI\))や抵抗率の定義(\(R=\rho L/S\))が、なぜ成り立つのかを自由電子の運動モデルから論理的に導出するプロセスそのものです。核心は、「電子の運動(ミクロ)」と「電気抵抗(マクロ)」の間に存在する因果関係を理解することにあります。
- 理解のポイント:
- 駆動力: 電圧 \(V\) が電場 \(E\) を生み、電場が電子に力 \(F=eE\) を及ぼす。これが電子を動かす根本的な力です。
- 抵抗力: 金属内を動く電子は、陽イオンとの衝突などにより運動を妨げられます。この妨げ(抵抗力)が速さ \(v\) に比例する(\(f=kv\))とモデル化されています。
- 定常状態(力のつり合い): 駆動力と抵抗力がつり合うことで、電子は一定の平均速度 \(v\)(終端速度)で流れます。この「つり合い」が、電圧と電流の間に安定した比例関係(オームの法則)を生み出す原因です。
- 抵抗率の本質: 最終的に導かれる抵抗率 \(\rho = k/(e^2n)\) は、物質の電気の流れにくさ(\(\rho\))が、電子の運動の妨げられやすさ(\(k\))に比例し、キャリア(電子)の電荷(\(e\))や数(\(n\))に反比例することを示しており、抵抗の物理的起源を明らかにしています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 抵抗力のモデルの変更: この問題では抵抗力を \(f=kv\) としましたが、別のモデル(例えば、平均自由時間 \(\tau\) を用いるモデル)で抵抗率を導出する問題。本質的な考え方(駆動力と抵抗力の関係から電子の運動を記述する)は同じです。
- 半導体の抵抗率: 半導体の場合、キャリアが電子と正孔の2種類になるため、それぞれの移動度や密度を考慮して全体の抵抗率を計算する問題。
- 温度による抵抗率の変化: 抵抗率の式 \(\rho = k/(e^2n)\) において、温度が上がると陽イオンの熱振動が激しくなり、電子の運動の妨げやすさ \(k\) が大きくなると解釈できます。これにより、金属の抵抗率が温度とともに増加する理由をミクロな視点から説明できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 問題の構造を把握: この種の問題は、通常、物理現象を段階的に説明する長い文章の穴埋め形式です。最終的に何を導出しようとしているのか(この場合は抵抗率 \(\rho\))を最初に意識すると、各ステップの目的が明確になります。
- ステップごとのつながりを意識: 各空欄は独立しておらず、前の空欄の答えを使って次の空欄を埋める構造になっています。例えば、⑥を求めるには④と⑤の結果が必要、というように、論理の連鎖を丁寧たどることが重要です。
- マクロとミクロの対応付け: 問題の最終段階では、ミクロなモデルから導出した式(例: ⑦)と、マクロな世界の法則(オームの法則 \(I=V/R\))を比較します。式の形を見比べて、どの部分がどの物理量に対応するのかを見つけ出すのが鍵となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力のつり合いの条件の誤解:
- 誤解: 電子は加速し続けると考えてしまい、力のつり合いを見落とす。
- 対策: 問題文の「一定の電流が流れているとき自由電子の速さは一定である」という記述が決定的なヒントです。「速さが一定」ならば「加速度がゼロ」であり、したがって「合力がゼロ(力がつり合っている)」という運動の基本法則に立ち返ることが重要です。
- マクロな法則との比較ミス:
- 誤解: ⑦で得た式 \(I = \displaystyle\frac{e^2nS}{kL} V\) と \(I=V/R\) を比較する際に、\(R\) に対応する部分を正しく抜き出せない。
- 対策: \(I = (\dots) V\) の形にそろえて、括弧の部分が \(1/R\) に対応すると考えます。つまり、\(1/R = \displaystyle\frac{e^2nS}{kL}\) であり、これを逆数にして \(R = \displaystyle\frac{kL}{e^2nS}\) となります。この一手間を惜しまないことがミスを防ぎます。
- 変数の混同:
- 誤解: 電子の速さ \(v\) と電圧 \(V\) を混同したり、比例定数 \(k\) と電気素量 \(e\) を見間違えたりする。
- 対策: 複雑な文字式を扱う際は、各文字が何を表す物理量なのかを常に意識し、丁寧に書き写すことが基本です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 一連の基本法則の組み合わせ:
- 選定理由: この問題は、特定の応用公式を一つ使うのではなく、物理学の最も基本的な法則(電流の定義、電場と電位の関係、運動方程式、力のつり合い)を論理的に積み上げていくことで、より高度な法則(オームの法則)を導出する構成になっています。したがって、各ステップでどの基本法則が適用できるかを判断することが求められます。
- 適用根拠:
- ①, ②: 「電流とは何か」という定義に基づいています。
- ③, ④: 電場と電位、電場と力の関係という、静電気学の基本法則に基づいています。
- ⑤, ⑥: 問題文で与えられたモデル(抵抗力)と、運動の法則(力のつり合い)に基づいています。
- ⑦, ⑧: これまで導出したミクロな関係式を統合し、マクロな法則(オームの法則、抵抗率の定義)と結びつけることで、マクロな物理量のミクロな起源を明らかにしています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の変形: この問題は数値計算がなく、文字式の変形が主です。分数の割り算(逆数を掛ける)、移項、代入といった基本的な操作を、焦らず正確に行うことが求められます。
- 式の整理: ⑦で \(I\) を求めた後、⑧で \(\rho\) を求めるために \(R\) の式を導出しますが、その際に \(I = \displaystyle\frac{V}{R}\) の形から \(R = \displaystyle\frac{V}{I}\) と変形し、\(V\) と ⑦で求めた \(I\) の式を代入する方法もあります。\(R = V / (\frac{e^2nSV}{kL}) = V \cdot \frac{kL}{e^2nSV} = \frac{kL}{e^2nS}\)。どちらの方法でも同じ結果になりますが、自分がミスしにくい手順で進めるのが良いでしょう。
- 最終結果の吟味: 導出された抵抗率 \(\rho = k/(e^2n)\) が物理的に妥当か考えます。電子の動きが妨げられやすい(\(k\)が大きい)ほど、抵抗率が大きくなる。キャリアの電荷(\(e\))や数(\(n\))が多いほど、電気を運びやすくなるので抵抗率は小さくなる。これらの関係は直感と一致しており、導出結果が妥当であることを示唆しています。
343 電流のする仕事
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「モーターにおけるエネルギー変換と保存」です。モーターは、供給された電気エネルギーを、力学的な仕事と内部での熱(ジュール熱)に変換する装置です。このエネルギーの収支を正しく理解し、計算できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 消費電力: 電気器具が単位時間あたりに消費する電気エネルギー。電圧 \(V\) と電流 \(I\) の積 \(P=VI\) で与えられます。
- 電力量: ある時間 \(t\) の間に消費される電気エネルギーの総量。消費電力 \(P\) に時間 \(t\) を掛けて \(Q=Pt\) で求められます。
- 力学的な仕事: モーターがおもりを持ち上げるなど、外部に対して行う仕事。おもりを持ち上げる場合、位置エネルギーの増加分 \(mgh\) に等しくなります。
- エネルギー保存則: モーターに供給された電気エネルギーは、外部への仕事と、モーター内部で発生するジュール熱の和に等しくなります。(消費した電力量)=(外部にした仕事)+(発生した熱量)
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、モーターの消費電力 \(P\) を求めます。これは、モーターにかかる電圧 \(V\) と流れる電流 \(I\) から、公式 \(P=VI\) を用いて直接計算できます。
- (2)では、エネルギー保存則を利用します。まず、20秒間にモーターが消費した総電力量を計算します。次に、モーターがおもりを持ち上げるためにした力学的な仕事を計算します。消費した総電力量から、外部にした仕事を差し引いた残りが、モーター内部で熱として発生したエネルギー量となります。
問(1)
思考の道筋とポイント
モーターの消費電力を求める問題です。消費電力とは、モーターが1秒あたりに消費する電気エネルギーのことです。問題文にモーターにかかる電圧と流れる電流が与えられているため、消費電力の基本公式 \(P=VI\) を使って直接計算できます。
この設問における重要なポイント
- 消費電力の定義を理解していること。
- 消費電力の公式 \(P=VI\) を正しく適用できること。
具体的な解説と立式
モーターの消費電力を \(P\) [W]、モーターにかかる電圧を \(V\) [V]、流れる電流を \(I\) [A] とすると、これらの間には以下の関係が成り立ちます。
$$ P = VI $$
この式に、問題で与えられた値を代入します。
使用した物理公式
- 消費電力: \(P=VI\)
与えられた値 \(V = 4.0 \, \text{V}\), \(I = 0.10 \, \text{A}\) を公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
P &= 4.0 \times 0.10 \\[2.0ex]&= 0.40 \, [\text{W}]\end{aligned}
$$
モーターがどれくらいのペースで電気を消費しているか(=消費電力)を計算します。これは単純に「電圧 × 電流」で求めることができます。電圧が4.0V、電流が0.10Aなので、掛け合わせると0.40Wとなります。
モーターの消費電力は \(0.40 \, \text{W}\) です。与えられた数値を公式に代入する基本的な計算であり、特に問題はありません。
問(2)
思考の道筋とポイント
モーター内部で発生した熱量を求める問題です。これは、モーターにおけるエネルギー保存則を考えることで解決できます。モーターに供給された電気エネルギーは、すべてがおもりを持ち上げる仕事に使われるわけではありません。一部はモーター内部のコイルの抵抗などによって熱(ジュール熱)に変わってしまいます。
したがって、「(モーターが消費した総電力量)=(おもりを持ち上げた仕事)+(内部で発生した熱量)」というエネルギー収支の式が成り立ちます。この式を変形し、「(発生した熱量)=(消費した総電力量)-(した仕事)」として計算します。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則: (供給された電気エネルギー) = (外部への仕事) + (内部発生熱)
- 電力量の計算: \(Q = Pt = VIt\)
- 重力に逆らってする仕事の計算: \(W = mgh\)
- 単位の換算(g → kg)を忘れないこと。
具体的な解説と立式
まず、20秒間にモーターが消費した総電力量 \(Q_{\text{消費}}\) を計算します。(1)で求めた消費電力 \(P\) と時間 \(t=20 \, \text{s}\) を用いて、
$$ Q_{\text{消費}} = P \times t \quad \cdots ① $$
次に、この間にモーターがおもりに対してした仕事 \(W_{\text{仕事}}\) を計算します。これは、おもりの位置エネルギーの増加分に等しいです。質量 \(m=250 \, \text{g}\)、持ち上げた高さ \(h=2.0 \, \text{m}\)、重力加速度 \(g=9.8 \, \text{m/s}^2\) を用いて、
$$ W_{\text{仕事}} = mgh \quad \cdots ② $$
エネルギー保存則より、発生した熱量 \(Q_{\text{熱}}\) は、消費した電力量から外部にした仕事を引いたものになります。
$$ Q_{\text{熱}} = Q_{\text{消費}} – W_{\text{仕事}} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 電力量: \(Q=Pt\)
- 仕事(位置エネルギー): \(W=mgh\)
- エネルギー保存則
式①を用いて、消費した電力量 \(Q_{\text{消費}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{消費}} &= 0.40 \, [\text{W}] \times 20 \, [\text{s}] \\[2.0ex]&= 8.0 \, [\text{J}]\end{aligned}
$$
次に、式②を用いて、モーターがした仕事 \(W_{\text{仕事}}\) を計算します。質量の単位をkgに換算する (\(250 \, \text{g} = 0.250 \, \text{kg}\)) ことを忘れないようにします。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{仕事}} &= 0.250 \, [\text{kg}] \times 9.8 \, [\text{m/s}^2] \times 2.0 \, [\text{m}] \\[2.0ex]&= 4.9 \, [\text{J}]\end{aligned}
$$
最後に、式③を用いて発生した熱量 \(Q_{\text{熱}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{熱}} &= 8.0 – 4.9 \\[2.0ex]&= 3.1 \, [\text{J}]\end{aligned}
$$
モーターのエネルギーの使い道を考えます。
- 使った電気の総量: モーターは0.40Wのペースで20秒間電気を使ったので、総消費エネルギーは \(0.40 \times 20 = 8.0\)J です。
- おもりを持ち上げるのに使ったエネルギー: おもりを持ち上げる仕事は「重さ × 高さ」で計算できます。仕事量は \(0.250\text{kg} \times 9.8\text{m/s}^2 \times 2.0\text{m} = 4.9\)J です。
- 熱としてムダになったエネルギー: 使った電気の総量(8.0J)のうち、仕事になったのは4.9Jでした。その差額 \(8.0 – 4.9 = 3.1\)J が、モーター内部で熱として発生し、ムダになったエネルギーです。
20秒間にモーター内部で発生した熱量は \(3.1 \, \text{J}\) です。消費した電気エネルギーの一部が力学的な仕事に、残りが熱に変換されるというエネルギー保存則を正しく適用できました。単位の換算や計算も正確に行われています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- モーターにおけるエネルギー保存則
- 核心: この問題の根幹にあるのは、モーターというエネルギー変換装置におけるエネルギー保存則です。モーターは単なる抵抗ではなく、供給された電気エネルギーを「力学的な仕事」と「内部での熱発生(ジュール熱)」という2つの形に変換します。このエネルギーの収支、すなわち (消費電力量)=(外部にした仕事)+(発生した熱量) という関係を理解し、立式できるかが全てです。
- 理解のポイント:
- 消費電力量 \(VIt\): 電源からモーターに供給された全エネルギー。
- 外部にした仕事 \(W\): モーターが回転することでおもりを持ち上げるなど、外部の物体に対して行う有効な仕事。
- 発生した熱量 \(Q’\): モーター内部のコイルなどが持つ電気抵抗によって、電流が流れることで必然的に発生する損失エネルギー(ジュール熱)。
- エネルギー効率: モーターの性能を表す指標で、(外部にした仕事)/(消費電力量)で計算できます。この問題では \(4.9 / 8.0 \approx 61\%\) となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- モーターの内部抵抗を求める問題: (2)で求めた発生熱量 \(Q’\) は、モーターの内部抵抗を \(r\) とするとジュール熱の公式から \(Q’ = I^2rt\) と表せます。この関係から、モーターの内部抵抗 \(r\) を逆算する問題。(\(3.1 = (0.10)^2 \times r \times 20 \rightarrow r = 15.5 \, \Omega\))
- モーターの逆起電力: モーターが回転すると、発電機のように逆向きの起電力(逆起電力)\(V’\) が生じます。モーター回路の電圧則は \(E = V’ + Ir\) となり、モーターの消費電力 \(EI\) のうち、\(V’I\) が仕事に、\(I^2r\) が熱になると解釈できます。この逆起電力の概念を使って解析する問題。
- 発電機(ダイナモ): モーターとは逆に、外部から力学的な仕事を与えて回転させることで、電気エネルギーを取り出す装置。これもエネルギー変換の観点から同様に解析できます。
- 初見の問題での着眼点:
- エネルギーの流れを把握: 問題文を読み、「何がエネルギーを供給し(電源)、何がエネルギーを消費・変換しているか(モーター)」をまず把握します。
- エネルギーの形態を区別: モーターが関わる問題では、エネルギーが「電気」「仕事」「熱」の3つの形態で登場することを意識します。それぞれの量を計算するために必要な公式を整理します。
- 電気エネルギー: \(P=VI\), \(Q=VIt\)
- 仕事: \(W=Fx\), \(W=mgh\)
- 熱エネルギー: ジュール熱 \(Q’=I^2rt\) または エネルギー保存則からの差引
- エネルギー収支の立式: 「入ってきたエネルギー=出ていったエネルギーの和」というエネルギー保存則の観点から、これらの量を結びつける式を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 消費電力をすべて熱と勘違いする:
- 誤解: モーターの消費電力 \(P=VI\) を、すべてジュール熱の発生に使われると考えてしまう。つまり、\(Q’ = VIt\) として計算してしまう。
- 対策: 「モーターは仕事をする装置である」という大前提を忘れないこと。消費した電気エネルギーは、まず「仕事」に使われ、その「残り」が熱になる、という優先順位を意識します。抵抗だけの回路とはエネルギーの使われ方が根本的に異なります。
- 単位の換算ミス:
- 誤解: (2)で仕事 \(W=mgh\) を計算する際に、質量 \(m\) に250gの「250」をそのまま代入してしまう。
- 対策: 物理計算では、力学・電磁気問わず、MKSA単位系(メートル、キログラム、秒、アンペア)に統一するのが鉄則です。計算を始める前に、与えられた量の単位をすべてチェックし、必要であれば換算する習慣をつけます。
- 仕事と熱量の混同:
- 誤解: 問題で問われているのが「熱量」なのに、「仕事」の \(4.9 \, \text{J}\) を答えてしまう。
- 対策: 計算の最後に、問題文をもう一度読み返し、「何を問われているか」を指差し確認します。エネルギー保存則のどの項を求めるべきかを明確にします。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- エネルギー保存則 \(Q_{\text{消費}} = W_{\text{仕事}} + Q_{\text{熱}}\):
- 選定理由: (2)で問われている「内部で発生した熱量」は、モーターの内部抵抗が不明なため、ジュール熱の公式 \(I^2rt\) からは直接計算できません。しかし、モーターが消費した全エネルギーと、外部へした仕事は計算可能です。したがって、エネルギー保存則を用いて、全体の収支から引き算で求めるのが唯一かつ最適な解法となります。
- 適用根拠: エネルギー保存則は物理学における最も普遍的で強力な法則の一つです。ある系(この場合はモーター)に加えられたエネルギーは、形を変えることはあっても、決して消えたり無から生まれたりしない、という原理に基づいています。この問題は、その原理が電気・力学・熱という異なる分野のエネルギーをまたいで成立することを示す好例です。
- 消費電力 \(P=VI\):
- 選定理由: (1)で問われている消費電力、および(2)で消費電力量を計算するための出発点として必要です。電圧と電流という、電気回路における最も基本的な測定量から計算できるため、最初に用いるべき公式です。
- 適用根拠: 電圧 \(V\) は単位電荷あたりのエネルギー [J/C]、電流 \(I\) は単位時間あたりの電荷の流れ [C/s] を表します。この2つを掛け合わせることで、\(VI\) は単位時間あたりのエネルギー [J/s]、すなわち仕事率(電力)[W] を意味します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認: 質量をgからkgへ換算するのを忘れないように、問題文の単位に丸をつけるなどして注意を喚起します。
- 計算のステップ化: (2)のような複数の計算を組み合わせる問題では、
- 消費電力量 \(Q_{\text{消費}}\) の計算
- 仕事 \(W_{\text{仕事}}\) の計算
- 差引による熱量 \(Q_{\text{熱}}\) の計算
と、各ステップを明確に分けて計算し、それぞれの結果に単位をつけてメモしておくと、思考が整理されミスが減ります。
- 有効数字: 問題文で与えられた数値(4.0V, 0.10A, 20s, 250g, 2.0m, 9.8m/s²)はすべて有効数字2桁です。したがって、最終的な答えも有効数字2桁(3.1J)でまとめるのが適切です。計算途中では3桁程度で計算を進め、最後に丸めるのが良いでしょう。
344 ジュール熱
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ジュール熱と熱量」です。電熱線で発生した電気エネルギー(ジュール熱)が、水の温度を上昇させるための熱エネルギーに変換される、というエネルギーの変換と保存に関する問題です。電磁気学と熱力学の知識を融合させて解く必要があります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 消費電力: 電気器具が1秒あたりに消費するエネルギー。電圧 \(V\) と電流 \(I\) の積 \(P=VI\) で計算されます。
- ジュール熱(電力量): ある時間 \(t\) の間に発生する熱の総量。消費電力 \(P\) に時間 \(t\) を掛けて \(Q=Pt\) で求められます。
- 熱量と温度変化: 物質の温度を \(\Delta T\) だけ上昇させるのに必要な熱量 \(Q\) は、質量 \(m\)、比熱 \(c\) を用いて \(Q=mc\Delta T\) と表されます。
- エネルギー保存則: 問題文の「電熱線で発生した熱量は容器の外部へ逃げないものとする」という記述から、電熱線が発生したジュール熱が、すべて水の温度上昇のために使われると考えます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、与えられた電圧と消費電力の値から、消費電力の公式 \(P=VI\) を使って電流の強さを求めます。
- (2)では、(1)で用いた消費電力と、電流を流した時間から、ジュール熱の公式 \(Q=Pt\) を使って発生した熱量の総量を計算します。
- (3)では、(2)で求めた熱量がすべて水の温度上昇に使われたとして、熱量の公式 \(Q=mc\Delta T\) を用い、最終的な水温を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
電熱線を流れる電流の強さを求める問題です。問題文に、電熱線にかかる電圧と、そのときの消費電力が与えられています。これらの3つの物理量(電流、電圧、消費電力)を結びつける基本公式 \(P=VI\) を利用します。
この設問における重要なポイント
- 消費電力の公式 \(P=VI\) を正しく用いること。
- 問題文で指示された有効数字2桁で解答すること。
具体的な解説と立式
電熱線の消費電力を \(P\) [W]、電圧を \(V\) [V]、電流を \(I\) [A] とすると、これらの間には以下の関係が成り立ちます。
$$ P = VI $$
この式を、求めたい電流 \(I\) について解くと、
$$ I = \frac{P}{V} $$
となります。この式に与えられた値を代入します。
使用した物理公式
- 消費電力: \(P=VI\)
与えられた値 \(P = 300 \, \text{W}\), \(V = 100 \, \text{V}\) を公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{300}{100} \\[2.0ex]&= 3.0 \, [\text{A}]\end{aligned}
$$
有効数字は2桁で \(3.0 \, \text{A}\) となります。
消費電力は「電圧 × 電流」という関係で表されます。今、消費電力が300W、電圧が100Vとわかっているので、電流は「消費電力 ÷ 電圧」で計算できます。\(300 \div 100 = 3.0\) なので、電流は3.0Aです。
電熱線を流れる電流の強さは \(3.0 \, \text{A}\) です。基本的な公式の適用であり、問題ありません。
問(2)
思考の道筋とポイント
電熱線から発生した熱量を求める問題です。これは、10分間に電熱線が消費した電力量に等しくなります。消費電力 \(P\) は単位時間(1秒)あたりのエネルギーなので、これに時間 \(t\) を掛けることで、総エネルギー(熱量)\(Q\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 発生する熱量(ジュール熱)は、消費した電力量に等しい (\(Q=Pt\))。
- 時間の単位を「分」から「秒」に変換する必要がある。
具体的な解説と立式
発生した熱量を \(Q\) [J]、消費電力を \(P\) [W]、時間を \(t\) [s] とすると、
$$ Q = Pt $$
という関係が成り立ちます。問題では時間が10分と与えられているので、秒単位に変換して計算します。
使用した物理公式
- ジュール熱(電力量): \(Q=Pt\)
まず、時間を秒に変換します。
$$ t = 10 \, \text{[分]} = 10 \times 60 = 600 \, \text{[s]} $$
この時間と、消費電力 \(P=300 \, \text{W}\) を公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
Q &= 300 \, [\text{W}] \times 600 \, [\text{s}] \\[2.0ex]&= 180000 \, [\text{J}] \\[2.0ex]&= 1.8 \times 10^5 \, [\text{J}]\end{aligned}
$$
電熱線は、1秒あたり300Jの熱を発生させます。これを10分間、つまり \(10 \times 60 = 600\) 秒間続けたので、発生した熱の総量は、\(300 \times 600 = 180000\)J となります。
発生した熱量は \(1.8 \times 10^5 \, \text{J}\) です。単位の換算を忘れずに行うことが重要です。
問(3)
思考の道筋とポイント
最終的な水温を求める問題です。ここで、(2)で求めた熱エネルギーが、水の温度を上昇させるために使われる、というエネルギーの変換を考えます。問題文の「発生した熱量は容器の外部へ逃げない」という条件から、エネルギー保存則が成り立ち、電熱線が発生したジュール熱のすべてが水の温度上昇に使われると考えることができます。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則: (発生したジュール熱)=(水が得た熱量)
- 水が得た熱量の公式: \(Q = mc\Delta T\)
- 単位の統一: 比熱の単位が J/(g·K) で与えられているため、質量の単位を kg から g に変換する必要がある。
具体的な解説と立式
(2)で求めた、電熱線が発生した熱量を \(Q_{\text{発生}} = 1.8 \times 10^5 \, \text{J}\) とします。
水が得た熱量 \(Q_{\text{水}}\) は、水の質量を \(m\)、比熱を \(c\)、上昇後の温度を \(t\) [℃]、初めの温度を \(t_0=0 \, \text{℃}\) とすると、
$$ Q_{\text{水}} = mc(t – t_0) $$
エネルギー保存則より \(Q_{\text{発生}} = Q_{\text{水}}\) なので、
$$ 1.8 \times 10^5 = mc(t – 0) $$
この式を \(t\) について解くことで、最終的な水温を求めます。
使用した物理公式
- 熱量と温度変化: \(Q=mc\Delta T\)
- エネルギー保存則
計算の前に、単位を統一します。水の比熱の単位が J/(g·K) なので、質量をgに変換します。
$$ m = 1.5 \, \text{kg} = 1.5 \times 10^3 \, \text{g} $$
エネルギー保存の式に、各値を代入します。
$$
\begin{aligned}
1.8 \times 10^5 &= (1.5 \times 10^3) \times 4.2 \times (t – 0) \\[2.0ex]1.8 \times 10^5 &= (6.3 \times 10^3) \times t \\[2.0ex]t &= \frac{1.8 \times 10^5}{6.3 \times 10^3} \\[2.0ex]t &= \frac{180}{6.3} \\[2.0ex]t &\approx 28.57\dots \, [\text{℃}]\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、小数第1位を四捨五入して、
$$ t \approx 29 \, [\text{℃}] $$
(2)で計算した \(180000 \, \text{J}\) の熱が、すべて水の温度を上げるために使われます。
まず、1.5kg (=1500g) の水の温度を1℃上げるのにどれくらいの熱が必要かを計算します。これは「質量 × 比熱」で、\(1500 \times 4.2 = 6300 \, \text{J}\) です。
したがって、\(180000 \, \text{J}\) の熱があれば、温度は \(180000 \div 6300 \approx 28.6\)℃ 上昇します。元の水温が0℃だったので、最終的な水温は約29℃になります。
10分後の水温は約 \(29 \, \text{℃}\) です。電気エネルギーから熱エネルギーへの変換、そして水の温度上昇という一連の物理過程を、エネルギー保存則に基づいて正しく計算できました。特に、比熱の単位に合わせた質量の単位換算が重要なポイントです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- エネルギー保存則(ジュール熱と熱量の関係)
- 核心: この問題は、異なる物理分野である「電気」と「熱」を、エネルギーという共通の土俵で結びつけることができるか、という点が核心です。具体的には、電熱線が消費した電気エネルギー(ジュール熱)が、すべて水の温度上昇という形で熱エネルギーに変換される(外部に逃げない)、というエネルギー保存則を立式し、応用することです。
- 理解のポイント:
- エネルギーの形態変換: 電気エネルギー [J] → 熱エネルギー [J] という、エネルギーの形態が変わるだけで、その総量は保存されるという考え方が基本です。
- ジュール熱 \(Q=VIt\): 電気の分野でエネルギー量を計算するための式。
- 熱量 \(Q=mc\Delta T\): 熱の分野でエネルギー量を計算するための式。
- \(VIt = mc\Delta T\): この問題の物理現象を一行で表す、エネルギー保存則に基づいた等式です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 熱効率が100%でない問題: 「発生した熱量の80%が水の温度上昇に使われた」のように、熱効率が与えられる問題。この場合は、\(VIt \times (\text{効率}) = mc\Delta T\) のように、ジュール熱に効率を掛けてから熱量の式と等しいと置きます。
- 容器の熱容量を考慮する問題: 「容器の熱容量は無視できる」という条件がない場合。発生したジュール熱は、「水を温める熱」と「容器を温める熱」の二つに使われます。したがって、エネルギー保存則は \(VIt = m_{\text{水}}c_{\text{水}}\Delta T + C_{\text{容器}}\Delta T\) となります(\(C_{\text{容器}}\)は容器の熱容量)。
- 氷の融解を含む問題: 0℃の水ではなく、0℃の氷を温める問題。この場合、発生したジュール熱は、まず「氷を溶かすための熱(融解熱)」に使われ、残りの熱が「溶けてできた水の温度を上昇させるための熱」に使われます。エネルギー収支の式が複数の項に分かれます。
- 初見の問題での着眼点:
- エネルギーの流れを追う: 「誰がエネルギーを発生させ(電熱線)、誰がエネルギーを受け取るのか(水、容器など)」というエネルギーの流れを最初に把握します。
- 外部への熱の逃げを確認: 「断熱容器」「熱は外部へ逃げない」といった記述があるかを確認します。これが、エネルギー保存則を単純な等式で立てられるかどうかの判断基準になります。
- 単位の統一性をチェック: 計算を始める前に、すべての物理量の単位を確認します。特に、比熱の単位(J/g·K or J/kg·K)は重要で、質量の単位(g or kg)をそれに合わせる必要があります。ジュール(J)、ワット(W)、秒(s)といった基本単位も確認します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 単位の換算ミス:
- 誤解: (3)で、水の質量1.5kgの「1.5」を、比熱の単位がJ/(g·K)であるにもかかわらず、そのまま計算式に入れてしまう。
- 対策: 比熱の単位は問題によってg基準かkg基準かが異なります。必ず単位を確認し、質量の単位を合わせる癖をつけます。\(1.5\text{kg} = 1500\text{g}\) の換算を忘れないように、問題文の単位に印をつけるのが有効です。
- 時間の単位の換算ミス:
- 誤解: (2)で、ジュール熱を計算する際に、時間10分を秒に直さず、\(Q=300 \times 10\) と計算してしまう。
- 対策: 電力(W=J/s)の定義に立ち返り、エネルギー(J)を求めるには必ず時間(s)を掛ける必要があることを再確認します。
- 消費電力と電力量(熱量)の混同:
- 誤解: (2)で発生した熱量を問われているのに、(1)で求めた消費電力300Wを答えてしまう。
- 対策: 「電力」はエネルギーの「ペース(率)」[J/s] であり、「電力量」や「熱量」はエネルギーの「総量」[J] であるという、言葉と単位の違いを明確に区別します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(P=VI\) (消費電力):
- 選定理由: (1)で電流を求めるために使用。電圧と消費電力が与えられており、電流を求めるにはこの3者を結びつける公式が最適です。
- 適用根拠: 電圧は単位電荷あたりのエネルギー、電流は単位時間あたりの電荷の流れであり、その積が単位時間あたりのエネルギー(電力)となる、という定義に基づいています。
- \(Q=Pt\) (ジュール熱):
- 選定理由: (2)で発生した熱量の総量を求めるために使用。電力は単位時間あたりの熱量なので、それに時間を掛けることで総量が求まります。
- 適用根拠: 電力の定義そのものを時間で積分した形です。電力が一定の場合、単純な掛け算になります。
- \(Q=mc\Delta T\) (熱量):
- 選定理由: (3)で水の温度変化と、それに必要な熱エネルギーを結びつけるために使用。
- 適用根拠: 物質を温めるのに必要な熱量が、その物質の量(質量)、温まりにくさ(比熱)、そして温度の上昇幅に比例するという、実験的に確立された熱力学の基本法則です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位換算の先行: 計算を始める前に、問題文に出てくるすべての数値をMKSA単位系(または問題で指定された整合性のある単位系、この場合はg)に変換してリストアップする習慣をつけると、計算中の換算忘れを防げます。
- 大きな数の扱い: (2)や(3)のように大きな数を扱う場合、\(1.8 \times 10^5\) のように指数表記を積極的に利用すると、桁数を間違えるミスが減ります。
- 方程式の変形: (3)で \(t\) を求める際、\(1.8 \times 10^5 = (1.5 \times 10^3) \times 4.2 \times t\) のような式を解きます。まず両辺の \(10^3\) を割って \(1.8 \times 10^2 = 1.5 \times 4.2 \times t\) と簡単にしてから計算を進めるなど、式を整理する工夫が有効です。
- 答えの妥当性: 300Wの電熱線(ドライヤーの1/4程度のパワー)で1.5Lの水を10分温めたら、まあまあ熱いお風呂より少しぬるいくらい(29℃)になる、という結果は、日常感覚からしても極端におかしくはない、と大まかに吟味することができます。
345 消費電力量
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「消費電力と電力量」です。家庭で使われる電気器具を例に、電力、電力量、電圧、電流といった基本的な量の関係を理解し、実用的な計算に応用する力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 消費電力(\(P\)): 電気器具が単位時間(1秒)あたりに消費する電気エネルギーのことです。単位は [W] (ワット) です。
- 電力量(\(Q\)): ある時間 \(t\) の間に消費された電気エネルギーの総量です。単位は [J] (ジュール) です。消費電力が一定の場合、\(Q=Pt\) で計算できます。
- 電力・電圧・電流の関係: 消費電力 \(P\)、電圧 \(V\)、電流 \(I\) の間には、\(P=VI\) という関係が成り立ちます。
- 家庭用コンセントの並列接続: 家庭内の複数のコンセントは並列に接続されており、どのコンセントにも同じ電圧(この問題では100V)がかかります。回路全体で流れる電流は、各電気器具に流れる電流の和になります。
- ブレーカー: 回路に流れる総電流が許容値を超えたときに、自動的に電流を遮断する安全装置です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 最初の問い(電力量の計算)では、与えられた消費電力と使用時間から、電力量の公式 \(Q=Pt\) を用いて計算します。
- 次の問い(最大個数の計算)では、まずドライヤー1台が消費する電流を \(P=VI\) の関係から求めます。次に、ブレーカーの許容電流を1台あたりの電流で割ることで、同時に使用できる最大数を算出します。
問 ドライヤーの電力量
思考の道筋とポイント
ドライヤーを20秒間使用したときの電力量を求める問題です。電力量は「消費電力 × 時間」で計算できます。問題文に消費電力と使用時間が与えられているので、公式に当てはめるだけで解くことができます。単位の扱いに注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- 電力量 \(Q\)、消費電力 \(P\)、時間 \(t\) の関係式 \(Q=Pt\) を理解していること。
- 電力の単位 [W] は [J/s] と等価であり、時間の単位を [s] (秒) に合わせる必要があること。
- 必要に応じて、[J] (ジュール) と [kJ] (キロジュール) の単位換算を行うこと。
具体的な解説と立式
求める電力量を \(Q\) [J]、ドライヤーの消費電力を \(P=800\) [W]、使用時間を \(t=20\) [s] とすると、これらの間には以下の関係が成り立ちます。
$$ Q = Pt $$
この式に、与えられた値を代入して計算します。
使用した物理公式
- 電力量: \(Q=Pt\)
与えられた値 \(P = 800 \, \text{W}\), \(t = 20 \, \text{s}\) を公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
Q &= 800 \, [\text{W}] \times 20 \, [\text{s}] \\[2.0ex]&= 16000 \, [\text{J}] \\[2.0ex]&= 1.6 \times 10^4 \, [\text{J}]\end{aligned}
$$
解答で使われている単位 [kJ] に変換すると、\(1 \, \text{kJ} = 1000 \, \text{J}\) なので、
$$ Q = 16 \, [\text{kJ}] $$
ドライヤーの消費電力800Wとは、「1秒あたりに800Jのエネルギーを消費する」という意味です。これを20秒間使用したので、消費したエネルギーの総量(電力量)は、単純な掛け算で求めることができます。
\(800 \, \text{J/s} \times 20 \, \text{s} = 16000 \, \text{J}\)。これをキロジュール(kJ)に直すと、16kJとなります。
20秒間使用したときの電力量は \(1.6 \times 10^4 \, \text{J}\) (または \(16 \, \text{kJ}\)) です。基本的な公式の適用であり、計算も単純です。
問 ドライヤーの最大使用可能個数
思考の道筋とポイント
家庭のブレーカーが許容する電流の範囲内で、特定のドライヤーを同時に何個まで使えるかを問う問題です。これを解くには、まずドライヤー1台がどれくらいの電流を必要とするかを計算し、その電流値でブレーカーの許容電流を割ることで、使用可能な最大個数を求めます。個数は整数でなければならないため、計算結果の解釈に注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- 電力、電圧、電流の関係式 \(P=VI\) を利用して、まずドライヤー1台あたりの電流を求める。
- 家庭のブレーカーは、回路全体の「総電流」に上限を設けていることを理解する。
- 計算で得られた数値を、物理的な意味(個数)に合わせて解釈する(小数点以下は切り捨てる)。
具体的な解説と立式
まず、ドライヤー1台が使用する電流の強さを \(I\) [A] とします。消費電力 \(P=800 \, \text{W}\)、電圧 \(V=100 \, \text{V}\) なので、\(P=VI\) の関係から \(I\) を求めます。
$$ I = \frac{P}{V} \quad \cdots ① $$
次に、この家庭で許容される最大の総電流を \(I_{\text{最大}} = 50 \, \text{A}\) とします。同時に使用できるドライヤーの最大個数を \(N\) とすると、\(N\) 台のドライヤーが消費する総電流 \(N \times I\) が、許容電流 \(I_{\text{最大}}\) を超えてはいけません。
$$ N \times I \le I_{\text{最大}} $$
したがって、\(N\) の最大値は、
$$ N \le \frac{I_{\text{最大}}}{I} $$
を満たす最大の整数となります。
使用した物理公式
- 消費電力: \(P=VI\)
式①を用いて、ドライヤー1台あたりの電流 \(I\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{800 \, [\text{W}]}{100 \, [\text{V}]} \\[2.0ex]&= 8.00 \, [\text{A}]\end{aligned}
$$
次に、同時に使用できる最大個数を計算します。
$$ \frac{I_{\text{最大}}}{I} = \frac{50 \, [\text{A}]}{8.00 \, [\text{A}]} = 6.25 $$
使用できる個数 \(N\) は整数でなければならず、\(N \le 6.25\) を満たす必要があります。したがって、同時に使用できる最大の個数は6個です。
まず、ドライヤー1台がどれくらいの電流を必要とするか計算します。電力(800W)を電圧(100V)で割ると、電流は8Aとなります。
次に、家のブレーカーは全体で50Aまでしか電流を流せません。8Aのドライヤーが何台まで使えるかを知るには、割り算をします。
\(50 \div 8 = 6.25\)。
ドライヤーは6.25台という半端な数では使えません。7台使うと \(7 \times 8 = 56\)A となり、50Aを超えてブレーカーが落ちてしまいます。したがって、安全に使えるのは最大で6台まで、ということになります。
同時に使用できるドライヤーの最大個数は6個です。ドライヤー1台あたりの電流を正しく計算し、ブレーカーの許容電流から最大個数を導き出すことができました。計算結果の6.25を7個と切り上げたりせず、6個と切り捨てて解釈する点が重要です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電力・電力量の基本概念と実生活への応用
- 核心: この問題は、物理法則を日常生活の場面に適用する能力を試しています。核心となるのは、「電力 \(P\)」(エネルギー消費のペース、単位:W)と「電力量 \(Q\)」(消費したエネルギーの総量、単位:J)という2つの量を明確に区別し、それぞれを正しく計算できることです。また、家庭の電気配線における「ブレーカーの役割(電流制限)」を物理的に理解しているかも重要なポイントです。
- 理解のポイント:
- 電力 \(P=VI\): 電気製品の「強さ」や「性能」を表す指標。電圧と電流の積で決まります。
- 電力量 \(Q=Pt\): 電気製品を「どれくらいの時間使ったか」を考慮した、実際に消費したエネルギーの総量。電気料金の計算の基になります。
- ブレーカーと電流: 家庭の配線は並列接続なので、電気製品を増やすと全体の電流が増加します。ブレーカーは、この総電流が安全な範囲を超えないように監視する役割を担っています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電気料金の計算: 電力量の単位として、ジュール(J)の代わりにキロワット時(kWh)が使われる問題。「1kWhあたり〇〇円」という情報から、特定の電気製品を一定時間使ったときの電気料金を計算します。(\(1 \text{kWh} = 1000\text{W} \times 3600\text{s} = 3.6 \times 10^6 \text{J}\))
- タコ足配線の危険性: 一つのコンセント(通常15Aまで)で、複数の電気製品を同時に使った場合に、許容電流を超えるかどうかを計算する問題。考え方はこの問題のブレーカーと同じです。
- 電圧が異なる海外での使用: 日本の100V用の電気製品を、電圧が200Vの国で使ったらどうなるかを考察する問題。抵抗値が一定だと仮定すると、電圧が2倍になると電流も2倍になり、消費電力 \(P=VI\) は4倍になって非常に危険であることを理解します。
- 初見の問題での着眼点:
- 問われているのは「電力」か「電力量」か?: 問題文の言葉と単位(WかJか)をしっかり確認し、使うべき公式(\(P=VI\) か \(Q=Pt\) か)を判断します。
- 与えられている情報を整理: 電圧(\(V\))、電流(\(I\))、電力(\(P\))、時間(\(t\))、抵抗(\(R\))など、どの物理量が分かっていて、何を求めたいのかを明確にします。
- ブレーカーやコンセントの上限は「電流」: 「〇〇Aまで」という記述は、電流の上限値を指していることを理解します。もし電力の上限(例: 1500Wまで)で与えられていれば、それを電圧で割って電流の上限に換算する必要があります。
- 「個数」の解釈: 最大個数を求める問題では、計算結果が小数になった場合、必ず「切り捨て」て整数にする、というルールを適用します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電力と電力量の混同:
- 誤解: 電力量を求めよ、という問いに対して、消費電力800Wを答えてしまう。
- 対策: 「電力」は瞬間のペース、「電力量」は時間の積み重ね、というイメージを明確に持ちます。単位がW(ワット)かJ(ジュール)かを確認する癖をつけることが最も効果的です。
- 時間の単位の換算ミス:
- 誤解: 電力量を計算する際に、時間が「分」や「時間」で与えられた場合に、秒に直さずに計算してしまう。
- 対策: 電力の単位WがJ/sであることから、電力量の単位Jを求めるには、必ず時間の単位をs(秒)に統一する必要がある、と理解します。
- 最大個数の計算における切り上げミス:
- 誤解: 計算結果が「6.25個」となったときに、四捨五入や切り上げで「7個」と答えてしまう。
- 対策: 物理的な意味を考えます。「7個使うと許容電流を超えてしまう」ので、使えるのはあくまで「6個まで」です。許容範囲内に収まる最大の整数を選ぶ、という考え方を徹底します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(Q=Pt\) (電力量):
- 選定理由: 問題の前半で「電力量を求めよ」と直接的に問われているため、この公式を選択します。消費電力 \(P\) と時間 \(t\) が与えられているので、最も直接的な計算方法です。
- 適用根拠: この公式は電力量の定義そのものです。電力 \(P\) [J/s] は単位時間あたりの電力量なので、それに時間 \(t\) [s] を掛けることで、その時間内に消費された総電力量 \(Q\) [J] が得られます。
- \(P=VI\) (電力):
- 選定理由: 問題の後半で、ブレーカーの許容「電流」とドライヤーの「個数」を関連付けるために、まずドライヤー1台あたりの「電流」を知る必要があります。電力 \(P\) と電圧 \(V\) が分かっているので、電流 \(I\) を求めるにはこの公式が不可欠です。
- 適用根拠: この公式は、電気エネルギーの仕事率(電力)が、電荷を動かすためのポテンシャルエネルギー(電圧)と、流れる電荷の量(電流)の積で表されるという、電気における仕事率の基本的な関係を示しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認: kJ(キロジュール)で答える必要があるかなど、解答の形式を確認します。\(1\text{kJ} = 10^3\text{J}\) の換算を正確に行います。
- ゼロの数の確認: 800や100、16000など、ゼロが多い計算では、桁を間違えないように慎重に計算します。指数表記(\(8.00 \times 10^2\)など)を使うとミスを減らせます。
- 割り算の実行: \(50 \div 8.00\) のような割り算は、筆算などで正確に行います。簡単な計算だと油断しないことが大切です。
- 問題の二部構成を意識: この問題は「電力量の計算」と「最大個数の計算」という、独立した2つの問いから構成されています。それぞれの問いで何が求められているかを明確に区別し、混同しないようにします。
346 抵抗の接続
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「抵抗の接続と回路解析」です。スイッチの開閉によって回路の接続状態がどう変わるかを正しく理解し、それぞれの状態について合成抵抗やオームの法則、電位の考え方を適用する能力が問われる総合的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 直列・並列接続: 抵抗の接続方法に応じて、合成抵抗を正しく計算できること。
- オームの法則: 回路の任意の箇所における電圧、電流、抵抗の関係 (\(V=RI\)) を理解し、適用できること。
- キルヒホッフの法則:
- 第1法則(電流則): 分岐点において、流れ込む電流の総和と流れ出す電流の総和は等しい。
- 第2法則(電圧則): 任意の閉回路において、起電力の和と電圧降下の和は等しい。電位の計算に利用します。
- 回路の等価変換: スイッチを閉じたときの回路は、一見複雑ですが、接続関係を整理することで、より単純な直列・並列の組み合わせに描き直すことができます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)〜(3)はスイッチSが開いている状態です。このとき、回路は「\(R_1\)と\(R_2\)の直列回路」と「\(R_3\)と\(R_4\)の直列回路」が並列に接続されたものとして扱います。
- (1)では、上の枝の合成抵抗を求め、オームの法則から\(R_1\)を流れる電流を計算します。
- (2)では、下の枝を流れる電流も同様に計算し、点Aで合流する前の電流として、両者の和を求めます。
- (3)では、点Aを基準として、C点とD点の電位をそれぞれ計算し、その差を求めます。
- (4)では、スイッチSを閉じた状態を考えます。この回路は、\(R_1\)と\(R_3\)が並列、\(R_2\)と\(R_4\)が並列で、それらが直列に接続された回路と等価であることを理解し、全体の合成抵抗を求めて電流を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
スイッチSが開いている状態で、\(R_1\)を流れる電流を求める問題です。Sが開いているため、電流はスイッチの箇所を通過できません。したがって、上の枝(\(R_1\)と\(R_2\))と下の枝(\(R_3\)と\(R_4\))は電気的に独立しています。\(R_1\)と\(R_2\)は直列に接続されており、この枝全体に16Vの電圧がかかっています。まずこの枝の合成抵抗を求め、オームの法則を適用します。
この設問における重要なポイント
- スイッチが開いている場合、その部分は断線しているとみなす。
- 直列接続の合成抵抗は、各抵抗の和で求められる。
具体的な解説と立式
スイッチSが開いているとき、\(R_1\)と\(R_2\)は直列接続となります。この部分の合成抵抗を\(R_{12}\)とすると、
$$ R_{12} = R_1 + R_2 \quad \cdots ① $$
この合成抵抗\(R_{12}\)の両端に、電圧\(V=16 \, \text{V}\)がかかっています。\(R_1\)を流れる電流\(I_1\)は、この直列回路全体を流れる電流に等しいので、オームの法則より、
$$ I_1 = \frac{V}{R_{12}} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 直列抵抗の合成: \(R_{\text{直列}} = R_a + R_b\)
- オームの法則: \(I = V/R\)
式①に \(R_1=1.0 \, \Omega\), \(R_2=4.0 \, \Omega\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
R_{12} &= 1.0 + 4.0 \\[2.0ex]&= 5.0 \, [\Omega]\end{aligned}
$$
式②に \(V=16 \, \text{V}\), \(R_{12}=5.0 \, \Omega\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
I_1 &= \frac{16}{5.0} \\[2.0ex]&= 3.2 \, [\text{A}]\end{aligned}
$$
スイッチが開いているので、上の道と下の道は別々です。上の道には\(R_1\)と\(R_2\)が直列につながっているので、抵抗は合計で \(1.0 + 4.0 = 5.0 \, \Omega\) です。この道全体に16Vの電圧がかかっているので、オームの法則から流れる電流は \(16 \div 5.0 = 3.2 \, \text{A}\) となります。
\(R_1\)を流れる電流の強さは \(3.2 \, \text{A}\) です。直列回路の基本的な計算であり、問題ありません。
問(2)
思考の道筋とポイント
点Aを流れる電流の強さを求める問題です。点Aは、上の枝と下の枝に分かれる前の部分です。したがって、Aを流れる電流 \(I\) は、上の枝を流れる電流 \(I_1\) と下の枝を流れる電流 \(I_3\) の和になります(キルヒホッフの第1法則)。(1)で \(I_1\) は求めたので、同様に下の枝を流れる電流 \(I_3\) を計算し、それらを足し合わせます。
この設問における重要なポイント
- キルヒホッフの第1法則(電流則): \(I = I_1 + I_3\)
- 並列に接続された各枝には、同じ電圧がかかる。
具体的な解説と立式
下の枝では、\(R_3\)と\(R_4\)が直列接続されています。この部分の合成抵抗を\(R_{34}\)とすると、
$$ R_{34} = R_3 + R_4 \quad \cdots ① $$
この枝にも電圧\(V=16 \, \text{V}\)がかかっているので、流れる電流\(I_3\)はオームの法則より、
$$ I_3 = \frac{V}{R_{34}} \quad \cdots ② $$
点Aを流れる電流 \(I\) は、\(I_1\)と\(I_3\)の和なので、
$$ I = I_1 + I_3 \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 直列抵抗の合成: \(R_{\text{直列}} = R_a + R_b\)
- オームの法則: \(I = V/R\)
- キルヒホッフの第1法則
式①に \(R_3=4.0 \, \Omega\), \(R_4=6.0 \, \Omega\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
R_{34} &= 4.0 + 6.0 \\[2.0ex]&= 10.0 \, [\Omega]\end{aligned}
$$
式②に \(V=16 \, \text{V}\), \(R_{34}=10.0 \, \Omega\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
I_3 &= \frac{16}{10.0} \\[2.0ex]&= 1.6 \, [\text{A}]\end{aligned}
$$
式③に(1)で求めた \(I_1=3.2 \, \text{A}\) と \(I_3=1.6 \, \text{A}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= 3.2 + 1.6 \\[2.0ex]&= 4.8 \, [\text{A}]\end{aligned}
$$
点Aから出た電流は、上の道と下の道に分かれます。Aを流れる電流を知るには、それぞれの道を流れる電流を足し算すればOKです。上の道は(1)で3.2Aとわかりました。下の道は抵抗が合計 \(4.0+6.0=10.0 \, \Omega\) で、電圧は同じ16Vなので、電流は \(16 \div 10.0 = 1.6 \, \text{A}\) です。よって、Aを流れる電流は \(3.2 + 1.6 = 4.8 \, \text{A}\) となります。
Aを流れる電流の強さは \(4.8 \, \text{A}\) です。並列回路の基本的な性質を正しく適用できました。
問(3)
思考の道筋とポイント
C点とD点の電位差を求める問題です。電位差を求めるには、どこか基準となる点の電位を決め、そこからの各点の電位を計算するのが有効です。ここでは、点Aの電位を基準(例えば \(V_A\))として考えます。C点の電位 \(V_C\) は、A点から抵抗 \(R_1\) での電圧降下分だけ低くなります。同様に、D点の電位 \(V_D\) は、A点から抵抗 \(R_3\) での電圧降下分だけ低くなります。これらの差を計算することで、電位差が求まります。
この設問における重要なポイント
- 電位差は2点間の電位の差である。
- 抵抗を電流と同じ向きに通ると、電位は \(RI\) だけ降下する。
- 基準点を一つ定め、そこからの電位を考える。
具体的な解説と立式
点Aの電位を \(V_A\) とします。
C点の電位 \(V_C\) は、A点から \(R_1\) を電流 \(I_1\) が流れることによる電圧降下を引いたものなので、
$$ V_C = V_A – R_1 I_1 \quad \cdots ① $$
D点の電位 \(V_D\) は、A点から \(R_3\) を電流 \(I_3\) が流れることによる電圧降下を引いたものなので、
$$ V_D = V_A – R_3 I_3 \quad \cdots ② $$
求める電位差 \(V_{CD}\) は \(|V_C – V_D|\) です。
$$ V_{CD} = |(V_A – R_1 I_1) – (V_A – R_3 I_3)| = |R_3 I_3 – R_1 I_1| \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V=RI\)
まず、各抵抗での電圧降下を計算します。
$$ R_1 I_1 = 1.0 \, [\Omega] \times 3.2 \, [\text{A}] = 3.2 \, [\text{V}] $$
$$ R_3 I_3 = 4.0 \, [\Omega] \times 1.6 \, [\text{A}] = 6.4 \, [\text{V}] $$
式③にこれらの値を代入します。
$$
\begin{aligned}
V_{CD} &= |3.2 – 6.4| \\[2.0ex]&= |-3.2| \\[2.0ex]&= 3.2 \, [\text{V}]\end{aligned}
$$
D点の方がC点よりも電位が低い(電圧降下が大きい)ことがわかります。
C点とD点の「高さ(電位)」の差を求めます。スタート地点Aの高さを基準に考えます。
- C点の高さ: Aから坂道\(R_1\)を下った場所。下った高さは \(1.0\Omega \times 3.2\text{A} = 3.2\text{V}\)。
- D点の高さ: Aから坂道\(R_3\)を下った場所。下った高さは \(4.0\Omega \times 1.6\text{A} = 6.4\text{V}\)。
C点は3.2V下がり、D点は6.4V下がったので、2つの点の高さの差は \(6.4 – 3.2 = 3.2\text{V}\) となります。
CとDの電位差は \(3.2 \, \text{V}\) です。電位の考え方を正しく用いて計算できました。この電位差があるため、もしスイッチSを閉じればCからD(またはDからC)へ電流が流れることが予測できます。
問(4)
思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じたときにAを流れる電流を求める問題です。Sを閉じると、C点とD点が接続され、回路の構造が変わります。この回路は、一見複雑ですが、接続点を整理すると「\(R_1\)と\(R_3\)の並列回路」と「\(R_2\)と\(R_4\)の並列回路」が、直列に接続されたものと見なせます。この等価な回路の全体の合成抵抗を求め、オームの法則を適用して全体の電流を計算します。
この設問における重要なポイント
- スイッチを閉じると回路の接続関係が変わることを認識する。
- 回路図を描き直して、等価な接続(並列と直列の組み合わせ)を見抜く。
- 並列接続の合成抵抗の公式: \(\displaystyle\frac{1}{R_{\text{p}}} = \frac{1}{R_a} + \frac{1}{R_b}\)
具体的な解説と立式
スイッチSを閉じると、C点とD点は同電位になります。この回路は、点AからCへ向かう\(R_1\)とDへ向かう\(R_3\)が並列接続、CからBへ向かう\(R_2\)とDからBへ向かう\(R_4\)が並列接続されたものと見なせます。
まず、\(R_1\)と\(R_3\)の並列部分の合成抵抗を \(R_{13}\) とします。
$$ \frac{1}{R_{13}} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_3} \quad \cdots ① $$
次に、\(R_2\)と\(R_4\)の並列部分の合成抵抗を \(R_{24}\) とします。
$$ \frac{1}{R_{24}} = \frac{1}{R_2} + \frac{1}{R_4} \quad \cdots ② $$
回路全体の合成抵抗 \(R_{\text{全体}}\) は、これら2つのブロックの直列接続なので、
$$ R_{\text{全体}} = R_{13} + R_{24} \quad \cdots ③ $$
Aを流れる電流 \(I’\) は、この回路全体を流れる電流なので、オームの法則より、
$$ I’ = \frac{V}{R_{\text{全体}}} \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 並列抵抗の合成: \(\displaystyle\frac{1}{R_{\text{並列}}} = \frac{1}{R_a} + \frac{1}{R_b}\)
- 直列抵抗の合成: \(R_{\text{直列}} = R_a + R_b\)
- オームの法則: \(I = V/R\)
式①より \(R_{13}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R_{13}} &= \frac{1}{1.0} + \frac{1}{4.0} = \frac{4.0+1.0}{4.0} = \frac{5.0}{4.0} \\[2.0ex]R_{13} &= \frac{4.0}{5.0} = 0.80 \, [\Omega]\end{aligned}
$$
式②より \(R_{24}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R_{24}} &= \frac{1}{4.0} + \frac{1}{6.0} = \frac{3.0+2.0}{12.0} = \frac{5.0}{12.0} \\[2.0ex]R_{24} &= \frac{12.0}{5.0} = 2.4 \, [\Omega]\end{aligned}
$$
式③より全体の合成抵抗 \(R_{\text{全体}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
R_{\text{全体}} &= 0.80 + 2.4 \\[2.0ex]&= 3.2 \, [\Omega]\end{aligned}
$$
式④より全体の電流 \(I’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
I’ &= \frac{16}{3.2} \\[2.0ex]&= 5.0 \, [\text{A}]\end{aligned}
$$
スイッチを閉じると、回路は組み体操のように形を変えます。A地点から見ると、道が\(R_1\)と\(R_3\)に分かれ、合流した先でまた\(R_2\)と\(R_4\)に分かれる、という形になります。
- 前半ブロック: \(R_1\)と\(R_3\)の並列。合成抵抗は0.80Ω。
- 後半ブロック: \(R_2\)と\(R_4\)の並列。合成抵抗は2.4Ω。
この2つのブロックが直列につながっているので、回路全体の抵抗は \(0.80 + 2.4 = 3.2 \, \Omega\) となります。
全体に16Vの電圧がかかっているので、Aを流れる電流は \(16 \div 3.2 = 5.0 \, \text{A}\) となります。
Sを閉じたときにAを流れる電流の強さは \(5.0 \, \text{A}\) です。スイッチを閉じることで、全体の合成抵抗が \(16\text{V}/4.8\text{A} \approx 3.33\Omega\) から \(3.2\Omega\) へとわずかに減少し、結果として全体の電流が増加するという結果は物理的に妥当です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 回路の接続状態の読解と等価変換
- 核心: この問題は、単に公式を適用するだけでなく、スイッチの開閉によって回路のトポロジー(接続関係)がどのように変化するかを正確に読み解く能力が核心です。特に(4)では、一見複雑な回路を、より単純な直列・並列の組み合わせに等価変換(描き直し)できるかが、問題を解く上での最大の鍵となります。
- 理解のポイント:
- スイッチが開いている状態: 電流が流れない「断線」とみなします。これにより、回路は2つの独立した並列な枝に分離されます。
- スイッチが閉じている状態: 電流が流れる「導線」とみなします。これにより、スイッチの両端の点(CとD)が同電位の点として扱えるようになり、回路の接続関係が再構成されます。この問題では、ブリッジ回路の形に変形できることに気づくことが重要です。
- 電位の考え方: (3)で電位差を求める際や、(4)で回路を描き直す際に、「どの点とどの点が繋がっているか」「どの点が同じ電位か」を考えることが、複雑な回路を理解する上での基本となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 対称性のある回路: 立方体の各辺に抵抗を配置した回路など、一見複雑でも対称性から同電位の点を見つけ出し、回路を単純化して解く問題。
- デルタ-スター変換(Δ-Y変換): (4)の回路はブリッジ回路であり、もし平衡していなければキルヒホッフの法則で解くのが一般的ですが、高校範囲外のテクニックとして、Δ接続(\(R_1, R_3, S\))をY接続に変換して解く方法もあります。
- 無限にはしご状に続く抵抗回路: 回路の繰り返し構造に着目し、全体の合成抵抗を \(R\) とおくと、一部分を除いた残りも同じ \(R\) とみなせる、という自己相似性を利用して方程式を立てて解く問題。
- 初見の問題での着眼点:
- スイッチの状態をまず確認: 問題が「開いている」ときか「閉じている」ときかを最初に確認し、それぞれの状態の回路図を頭の中、あるいは紙に描きます。
- 回路の単純化を試みる:
- 直列・並列に分解できないか?
- 同電位の点はないか?(対称性、スイッチによる短絡など)
- 回路図を描き直したら、見慣れた形(ブリッジ回路など)にならないか?
- 基準点を設定する: 電位や電位差を考えるときは、必ず基準となる点(アースや電池の負極など)を一つ決め、そこからの電位を計算していくと、符号のミスが減り、思考が整理されます。
- 電流の流れを追う: 点Aから出発した電流が、どのように分岐し、合流していくかを矢印で追っていくことで、キルヒホッフの電流則を適用する箇所や、直列・並列の関係が明確になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- スイッチOFF時の回路誤認:
- 誤解: (1)で、下の枝(\(R_3, R_4\))の存在が上の枝に影響を与えると勘違いし、キルヒホッフの法則で解こうとしてしまう。
- 対策: スイッチが開いているときは、CとDの間は完全に切れていると認識します。回路は、単に「\(R_1, R_2\)の直列回路」と「\(R_3, R_4\)の直列回路」という2つの独立した回路が、同じ電源に並列につながっているだけ、と単純化して考えます。
- スイッチON時の回路誤認:
- 誤解: (4)でスイッチを閉じても、(1)~(3)と同じく上下2つの枝に分かれているだけだと勘違いしてしまう。
- 対策: スイッチを閉じることでC点とD点が接続される意味を考えます。これは、Aから来た電流が\(R_1\)を通ってCに行き、そこからSを通ってDに行き、さらに\(R_4\)を通ってBに行く、という新しい経路が生まれることを意味します。接続点がどこで、どのようにつながっているかを正確に把握し、回路図を描き直すことが最も有効な対策です。
- 電位差の計算ミス:
- 誤解: (3)で \(V_{CD} = V_C + V_D\) のように足してしまったり、基準点を考えずに混乱したりする。
- 対策: 電位差はあくまで2点間の電位の「差」であることを徹底します。\(V_{CD} = V_C – V_D\) です。基準点(例えばA点)を決め、\(V_C = V_A – (\text{AからCまでの電圧降下})\)、\(V_D = V_A – (\text{AからDまでの電圧降下})\) のように、各点の電位を個別に求めてから差を取ると、間違いが起こりにくいです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 合成抵抗の公式(直列・並列):
- 選定理由: 回路を流れる全体の電流や、特定の枝を流れる電流をオームの法則で求めるために、まず回路を一つの抵抗とみなして単純化する必要があります。そのために、接続状況に応じて直列・並列の合成抵抗の公式を用います。
- 適用根拠: これらの公式は、キルヒホッフの法則を、直列(電流一定)および並列(電圧一定)という特定の状況に適用し、整理した結果です。より複雑な回路ではキルヒホッフの法則そのものを使いますが、単純化できる部分では合成抵抗の公式を使う方が効率的です。
- 電位の概念とオームの法則:
- 選定理由: (3)で2点間の電位差を求めるために使用。電流が流れる抵抗を通過すると、電位が \(V=RI\) だけ降下するという考え方は、回路の任意の点の電位を計算する上で基本となります。
- 適用根拠: 電場の中で電荷が移動すると仕事(\(W=qV\))をされる(または、する)ことに基づいています。抵抗内では、電場が電子に仕事をし、そのエネルギーが熱に変わることで電位が降下します。その関係をマクロに表したのがオームの法則です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 回路図の描き直し: (4)のように複雑な回路では、与えられた図のまま考えずに、接続関係だけを保って自分が分かりやすい形(この場合は2つの並列ブロックが直列につながった形)に描き直すことが、ミスを防ぎ、正しい解法への道を開く上で非常に重要です。
- 分数の計算: (4)の並列抵抗の計算では、逆数の足し算が出てきます。通分や、最後に逆数に戻す操作を忘れないように注意します。例えば、\(\frac{1}{R_{13}} = \frac{5}{4}\) と計算した後、\(R_{13} = \frac{4}{5}\) と逆数にするのを忘れるミスは頻発します。
- 途中計算のメモ: (1)で計算した \(I_1\) や、(2)で計算した \(I_3\) は、(3)でも使います。各ステップで求めた値を、どの部分の値なのかを明確にしてメモしておくと、後の設問でスムーズに利用できます。
- 答えの比較: スイッチを開いたときの電流(4.8A)と閉じたときの電流(5.0A)を比較してみます。スイッチを閉じることで、全体の合成抵抗が減少し、電流が増加するという結果は物理的に妥当です。このような簡単なチェックで、大きな間違いに気づくことがあります。
347 電流計・電圧計
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「内部抵抗を持つ電流計・電圧計を含む直流回路の解析」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電流計・電圧計の内部抵抗: 理想的ではない測定器は、それ自体が抵抗を持つ回路素子として扱う必要があります。電流計は測定したい部分と「直列」に、電圧計は「並列」に接続します。
- キルヒホッフの第1法則(電流則): 回路の分岐点において、流入する電流の総和と流出する電流の総和は等しくなります。
- キルヒホッフの第2法則(電圧則): 回路の任意の閉ループにおいて、起電力の総和と電圧降下の総和は等しくなります。
- オームの法則 (\(V=IR\)): 抵抗にかかる電圧、流れる電流、抵抗値の間の基本的な関係式です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 図aでは、電圧計と抵抗\(R_1\)が並列接続されていることに着目し、分岐点でのキルヒホッフの電流則を用いて\(R_1\)を求めます。
- 図bでは、電流計と抵抗\(R_2\)が直列接続されていることに着目し、この直列部分にかかる電圧の関係(キルヒホッフの電圧則)から\(R_2\)を求めます。
抵抗\(R_1\)の計算(図a)
思考の道筋とポイント
図aの回路を分析します。電圧計と抵抗\(R_1\)は並列に接続されているため、両方にかかる電圧は等しく、電圧計の読みである\(100 \text{ V}\)となります。一方、電流計は回路の分岐点の手前に接続されており、その読み\(1.50 \text{ A}\)は、電圧計に流れる電流と抵抗\(R_1\)に流れる電流の和に等しくなります。この電流の関係(キルヒホッフの第1法則)を利用して、抵抗\(R_1\)の値を求めます。
この設問における重要なポイント
- 並列に接続された素子にかかる電圧は等しい。
- 電圧計は内部抵抗を持つため、それ自身にも電流が流れる。
- 回路の分岐点では、電流が保存される(キルヒホッフの第1法則)。
具体的な解説と立式
電圧計の内部抵抗を\(r_V = 1000 \, \Omega\)、電圧計の読み(すなわち抵抗\(R_1\)にかかる電圧)を\(V = 100 \, \text{V}\)とします。
電圧計に流れる電流を\(I_V\)とすると、オームの法則より、
$$ I_V = \frac{V}{r_V} \quad \cdots ① $$
同様に、抵抗\(R_1\)を流れる電流を\(I_1\)とすると、
$$ I_1 = \frac{V}{R_1} \quad \cdots ② $$
電流計の読みを\(I = 1.50 \, \text{A}\)とすると、回路の分岐点Pにおいてキルヒホッフの第1法則より、電流計を通過した電流\(I\)は\(I_V\)と\(I_1\)に分かれるため、以下の関係が成り立ちます。
$$ I = I_V + I_1 \quad \cdots ③ $$
式①、②を式③に代入することで、\(R_1\)に関する方程式を立てることができます。
$$ I = \frac{V}{r_V} + \frac{V}{R_1} $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V = IR\)
- キルヒホッフの第1法則(電流則): 分岐点において、流入する電流の和は流出する電流の和に等しい。
まず、式①を用いて電圧計に流れる電流\(I_V\)を計算します。
$$ I_V = \frac{100}{1000} = 0.100 \, \text{[A]} $$
次に、式③を用いて抵抗\(R_1\)に流れる電流\(I_1\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
1.50 &= 0.100 + I_1 \\[2.0ex]I_1 &= 1.50 – 0.100 \\[2.0ex]&= 1.40 \, \text{[A]}
\end{aligned}
$$
最後に、この\(I_1\)の値と抵抗\(R_1\)にかかる電圧\(V=100 \, \text{V}\)を式②に適用して、\(R_1\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
R_1 &= \frac{V}{I_1} \\[2.0ex]&= \frac{100}{1.40} \\[2.0ex]&= \frac{1000}{14} = \frac{500}{7} \\[2.0ex]&\approx 71.428… \, [\Omega]\end{aligned}
$$
与えられた数値の有効数字は3桁なので、\(R_1\)は\(71.4 \, \Omega\)となります。
電流計が測っている\(1.50 \text{ A}\)の電流は、途中で二手に分かれます。一方は電圧計へ、もう一方は抵抗\(R_1\)へ流れます。まず、電圧計にどれだけの電流が流れるか計算しましょう。電圧計には\(100 \text{ V}\)の電圧がかかっていて、内部抵抗は\(1000 \, \Omega\)なので、オームの法則「電流 = 電圧 ÷ 抵抗」から、\(100 \div 1000 = 0.100 \text{ A}\)が電圧計に流れます。全体の\(1.50 \text{ A}\)のうち\(0.100 \text{ A}\)が電圧計に流れたので、残りの\(1.50 – 0.100 = 1.40 \text{ A}\)が抵抗\(R_1\)に流れたことになります。抵抗\(R_1\)にも\(100 \text{ V}\)の電圧がかかっているので、再びオームの法則「抵抗 = 電圧 ÷ 電流」から、\(R_1 = 100 \div 1.40 \approx 71.4 \, \Omega\)と計算できます。
抵抗\(R_1\)の値は\(71.4 \, \Omega\)です。この計算では、電圧計にも電流が流れるという、実際の測定器の性質を考慮しました。もし電圧計の内部抵抗が無限大(理想的な電圧計)だと仮定すれば、\(R_1 = 100 / 1.50 \approx 66.7 \, \Omega\)となり、異なる結果になります。内部抵抗の存在が測定結果に影響を与えることがわかります。
抵抗\(R_2\)の計算(図b)
思考の道筋とポイント
図bの回路を分析します。この回路では、電流計と抵抗\(R_2\)が直列に接続されています。そして、この直列部分全体と電圧計が並列に接続されています。並列接続であるため、「電流計と抵抗\(R_2\)の直列部分」にかかる合計の電圧は、電圧計の読みである\(100 \text{ V}\)に等しくなります。この直列部分の合計電圧は、電流計での電圧降下と抵抗\(R_2\)での電圧降下の和として表せます。この関係式(キルヒホッフの第2法則)を用いて、抵抗\(R_2\)の値を求めます。
この設問における重要なポイント
- 並列に接続された回路部分にかかる電圧は等しい。
- 直列に接続された素子にかかる電圧の和は、全体の電圧に等しい。
- 電流計は内部抵抗を持つため、それ自身で電圧降下を生じさせる。
具体的な解説と立式
電流計の内部抵抗を\(r_A = 2.00 \, \Omega\)、電流計の読み(すなわち抵抗\(R_2\)にも流れる電流)を\(I = 1.50 \, \text{A}\)とします。
電流計による電圧降下を\(V_A\)、抵抗\(R_2\)による電圧降下を\(V_2\)とすると、オームの法則より、
$$ V_A = I \cdot r_A \quad \cdots ① $$
$$ V_2 = I \cdot R_2 \quad \cdots ② $$
電流計と抵抗\(R_2\)は直列に接続されているため、この部分全体の電圧\(V_{\text{total}}\)は、各電圧降下の和となります。
$$ V_{\text{total}} = V_A + V_2 $$
この直列部分は電圧計と並列であり、電圧計の読みは\(V = 100 \, \text{V}\)なので、\(V_{\text{total}} = V\)です。したがって、以下の関係が成り立ちます。
$$ V = I \cdot r_A + I \cdot R_2 \quad \cdots ③ $$
この式③から\(R_2\)を求めます。
使用した物理公式
- オームの法則: \(V = IR\)
- キルヒホッフの第2法則(電圧則): 閉回路において、起電力の和は電圧降下の和に等しい。
式③に与えられた数値を代入します。
$$ 100 = 1.50 \times 2.00 + 1.50 \times R_2 $$
この方程式を\(R_2\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
100 &= 3.00 + 1.50 R_2 \\[2.0ex]1.50 R_2 &= 100 – 3.00 \\[2.0ex]1.50 R_2 &= 97.0 \\[2.0ex]R_2 &= \frac{97.0}{1.50} \\[2.0ex]&= \frac{970}{15} = \frac{194}{3} \\[2.0ex]&\approx 64.666… \, [\Omega]\end{aligned}
$$
与えられた数値の有効数字は3桁なので、\(R_2\)は\(64.7 \, \Omega\)となります。
図bでは、電流計と抵抗\(R_2\)をひとまとめにした部分に、全体で\(100 \text{ V}\)の電圧がかかっています。この\(100 \text{ V}\)の電圧は、電流計と抵抗\(R_2\)の2つに分けられます。まず、電流計でどれだけ電圧が使われるか(電圧降下)を計算しましょう。電流計には\(1.50 \text{ A}\)が流れ、内部抵抗は\(2.00 \, \Omega\)なので、オームの法則「電圧 = 電流 × 抵抗」から、\(1.50 \times 2.00 = 3.00 \text{ V}\)が電流計で使われます。全体の\(100 \text{ V}\)のうち\(3.00 \text{ V}\)が電流計で使われたので、残りの\(100 – 3.00 = 97.0 \text{ V}\)が抵抗\(R_2\)にかかっていることになります。抵抗\(R_2\)には同じく\(1.50 \text{ A}\)が流れているので、再びオームの法則「抵抗 = 電圧 ÷ 電流」から、\(R_2 = 97.0 \div 1.50 \approx 64.7 \, \Omega\)と計算できます。
抵抗\(R_2\)の値は\(64.7 \, \Omega\)です。この計算では、電流計の内部抵抗による電圧降下を考慮しました。もし電流計の内部抵抗がゼロ(理想的な電流計)だと仮定すれば、\(R_2 = 100 / 1.50 \approx 66.7 \, \Omega\)となり、異なる結果になります。このように、測定器の接続方法によって、その内部抵抗が測定値に与える影響の仕方が変わることがわかります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 内部抵抗を持つ測定器の理解:
- 核心: この問題の最大のポイントは、電流計と電圧計を「理想的な測定器」ではなく、「内部抵抗を持つ一つの回路素子」として扱えるかどうかです。
- 理解のポイント:
- 電流計: 内部抵抗\(r_A\)を持ち、測定したい部分と直列に接続します。それ自体が\(V_A = I r_A\)の電圧降下を生み出します。
- 電圧計: 内部抵抗\(r_V\)を持ち、測定したい部分と並列に接続します。それ自体が\(I_V = V / r_V\)の電流を消費します。
- キルヒホッフの法則の的確な適用:
- 核心: 回路の接続形態に応じて、2つの法則を使い分ける能力が問われます。
- 理解のポイント:
- 図a(並列構造): 電流が分岐するため、キルヒホッフの第1法則(電流則)が中心となります。「分岐点に流入する電流の和 = 流出する電流の和」を立式します。
- 図b(直列構造): 電圧が分配されるため、キルヒホッフの第2法則(電圧則)が中心となります。「閉回路の起電力の和 = 電圧降下の和」を立式します。
- オームの法則 (\(V=IR\)):
- 核心: 上記の法則を具体的な数値計算に落とし込むための基本ツールです。各抵抗や測定器における電圧、電流、抵抗値の関係を求めるために使用します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 分流器と倍率器: 電流計に並列に抵抗(分流器)を接続して測定範囲を拡大する問題や、電圧計に直列に抵抗(倍率器)を接続して測定範囲を拡大する問題。本問の考え方を直接応用します。
- ホイートストンブリッジ: 4つの抵抗をひし形に繋ぎ、中央の検流計の振れが0になる条件(平衡条件)を求める問題。本問のように検流計に電流が流れる、平衡していない状態の解析は、より高度な応用問題となります。
- 電位を用いた回路解析: 回路内の一点を基準(0V)とし、各点の電位を計算していくことで、素子間の電位差(電圧)を求める手法。複雑な回路では、キルヒホッフの法則よりも見通しが良くなることがあります。
- 初見の問題での着眼点:
- 測定器の理想性を確認: 問題文に「内部抵抗」の値が与えられていたら、それは「理想的ではない」というサインです。必ず回路素子として計算に含めます。「無視できる」と書かれていない限り、無視してはいけません。
- 接続方法を把握: 電流計が「何と直列か」、電圧計が「何と並列か」を正確に図から読み取ります。図aと図bでは、同じ測定器でも抵抗との接続関係が全く異なることが、この問題の鍵です。
- 電流の流れと電圧の分配を追う:
- 分岐点はあるか? → あれば、電流則(キルヒホッフ第1法則)を考えます(図aのパターン)。
- 閉じたループはどこか? → 複数の素子に電圧が分配されているループを見つけ、電圧則(キルヒホッフ第2法則)を考えます(図bのパターン)。
- 既知の値を書き込む: 電圧計の読みは「並列部分の電圧」、電流計の読みは「直列部分の電流」です。これらの値を回路図に書き込むと、どの部分の何が分かっているのかが一目瞭然になり、立式しやすくなります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 内部抵抗の完全無視:
- 誤解: 電圧計や電流計を、単に値を表示するだけの理想的な装置だと思い込み、内部抵抗の存在を計算から除外してしまう。
- 対策: 問題文に内部抵抗の値が示されている場合、それは「この抵抗も回路の一部ですよ」というメッセージです。電圧計は抵抗\(r_V\)の抵抗器、電流計は抵抗\(r_A\)の抵抗器として、回路図に描き直す習慣をつけるとミスが減ります。
- 図aで電流が分岐することを忘れる:
- 誤解: 図aにおいて、電流計が示す\(1.50 \text{ A}\)が、そのまま抵抗\(R_1\)に流れると考えてしまう。
- 対策: 回路図上の「分岐点(線が3本以上集まる点)」に印をつける癖をつけましょう。図aの点Pが分岐点であることに気づけば、電流が電圧計と抵抗\(R_1\)に分かれることが自然に理解できます。
- 図bで電流計の電圧降下を忘れる:
- 誤解: 図bにおいて、電圧計が示す\(100 \text{ V}\)が、すべて抵抗\(R_2\)にかかると考えてしまう。
- 対策: 「直列接続では電圧は分配される」という原則を思い出しましょう。\(100 \text{ V}\)という電圧は、直列につながれた「電流計」と「抵抗\(R_2\)」の2つで分け合っている、と考えることが重要です。
- 移項や代入の単純な計算ミス:
- 誤解: \(100 = 3.00 + 1.50 R_2\) を解く際に、\(1.50 R_2 = 100 + 3.00\) のように符号を間違える。
- 対策: 式変形は一行ずつ、焦らず丁寧に行うこと。特に、小数を含む計算は間違いやすいため、検算をするか、可能であれば分数に直して計算すると、ミスを発見しやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- キルヒホッフの第1法則(電流則):
- 選定理由: 図aのように、回路に電流の「分岐」と「合流」がある場合に、各部分を流れる電流の関係を定量的に示すために選択します。
- 適用根拠: これは物理学の基本法則である「電荷量保存則」に基づいています。回路のどの点においても、電荷が突然生まれたり消えたりすることはないため、単位時間に流入する電荷量(電流)と流出する電荷量は必ず等しくなります。
- キルヒホッフの第2法則(電圧則):
- 選定理由: 図bのように、閉じた回路(ループ)の中で、電源や電池による「電圧の上昇」と、抵抗による「電圧の降下」がどのようにバランスしているかを記述するために選択します。
- 適用根拠: これは「エネルギー保存則」に対応します。電荷が回路を一周して元の位置に戻ったとき、その電位(単位電荷あたりの位置エネルギー)は元に戻るはずです。したがって、一周する間の電位の上昇分(起電力)と下降分(電圧降下)の合計はゼロになります。
- オームの法則 (\(V=IR\)):
- 選定理由: 上記のキルヒホッフの法則で立てた関係式に、具体的な「電圧降下」や「電流」の値を代入するために使用します。回路の各素子における\(V, I, R\)の関係を結びつける、最も基本的な計算ツールです。
- 適用根拠: 導体内の電子の振る舞いをモデル化した結果得られる関係式で、多くの物質において非常に良い近似で成り立ちます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位を書き込む: 計算の途中式でも、\(V_A = 1.50 \, \text{A} \times 2.00 \, \Omega = 3.00 \, \text{V}\) のように単位を意識して書くと、物理的な意味を見失いにくくなります。
- 有効数字の管理: 問題で与えられた数値の有効数字(この問題では主に3桁)を確認し、最終的な答えをその桁数に揃えることを忘れないようにしましょう。計算途中では1桁多く残しておき、最後に四捨五入するのが一般的です。
- 小数より分数を利用する: \(1.50\) は \(3/2\) と表せます。図bの計算で \(R_2 = \displaystyle\frac{97.0}{1.50}\) を計算する際、\(R_2 = \displaystyle\frac{97}{3/2} = \displaystyle\frac{97 \times 2}{3} = \displaystyle\frac{194}{3}\) と分数で計算を進めると、丸め誤差なく正確な値を求められ、最後に割り算を実行すればよいためミスが減ります。
- 式を整理してから代入する: 図bの式 \(V = I r_A + I R_2\) は、先に \(V = I (r_A + R_2)\) と共通因数\(I\)でくくってから数値を代入すると、計算の手間を少し減らせます。
$$ 100 = 1.50 (2.00 + R_2) $$
$$ \frac{100}{1.50} = 2.00 + R_2 $$
このように、代入前に式を最もシンプルな形に整理する癖をつけると、計算が楽になり、ミスも減ります。
348 分流器
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「分流器による電流計の測定範囲の拡大」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電流計の最大目盛り: 電流計には、安全に測定できる電流の上限値(最大目盛り)があり、これを超える電流を直接流すことはできません。
- キルヒホッフの第1法則(電流則): 回路の分岐点において、流入する電流の総和と流出する電流の総和は等しくなります。大電流を分流させる際の基本法則です。
- 並列回路の性質: 並列に接続された複数の抵抗(または回路素子)には、それぞれ同じ大きさの電圧がかかります。
- オームの法則 (\(V=IR\)): 電圧、電流、抵抗の関係を示す最も基本的な法則です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、\(1 \, \text{mA}\) までしか測れない電流計で \(1 \, \text{A}\) という大電流を測るためには、電流を分ける必要があることを理解し、適切な接続方法(並列接続)を選択します。
- 次に、並列接続した電流計と抵抗に流れる電流の比をキルヒホッフの法則から求め、並列接続では電圧が等しいことを利用して、オームの法則から抵抗値を計算します。
接続方法の選択と抵抗\(R\)の計算
思考の道筋とポイント
この問題は、2つの問い(接続方法、抵抗値)で構成されています。まず、なぜ測定範囲の拡大が必要で、そのためにはどのような工夫をすべきかを考えます。
電流計Mは最大で \(1 \, \text{mA}\) までしか測定できません。しかし、測定したい電流は最大で \(1 \, \text{A} (=1000 \, \text{mA})\) です。この大きな電流をそのまま電流計に流すと、電流計は壊れてしまいます。
そこで、測定したい電流の一部だけを電流計に流し、残りの大部分を別の経路に迂回させる(分流させる)必要があります。電流の通り道を分けるためには、抵抗Rを電流計Mに対して並列に接続する必要があります。これが「分流器」の原理です。
接続方法が決まれば、次に具体的な抵抗値を計算します。全体で \(1 \, \text{A}\) の電流が流れたときに、電流計Mにちょうど最大目盛りの \(1 \, \text{mA}\) が流れるように、抵抗Rの値を調整します。このとき、「電流計Mにかかる電圧」と「抵抗Rにかかる電圧」が等しくなる、という並列接続の性質を利用して立式します。
この設問における重要なポイント
- 電流計の測定範囲を拡大するには、電流を分けるための「分流器」として抵抗を並列に接続する。
- 並列接続された素子にかかる電圧は等しい。
- キルヒホッフの第1法則を用いて、全体の電流と分流する電流の関係を明らかにする。
具体的な解説と立式
1. 接続方法の選択
測定したい最大電流 \(I = 1 \, \text{A} = 1000 \, \text{mA}\) に対し、電流計Mに流せる最大電流は \(I_M = 1 \, \text{mA}\) です。
図①(直列接続)では、抵抗Rと電流計Mに同じ電流が流れます。これでは \(1 \, \text{A}\) の電流を測定できず、電流計が破損します。
図②(並列接続)では、電流 \(I\) が分岐し、電流計Mに \(I_M\)、抵抗Rに \(I_R\) が流れます。このように電流を分けることで、\(I_M\) を \(1 \, \text{mA}\) に抑えることが可能です。
したがって、適切な接続方法は②となります。
2. 抵抗\(R\)の値の計算
接続方法が②であるとわかったので、抵抗\(R\)の値を求めます。
全体に最大電流 \(I = 1.0 \, \text{A}\) が流れるとき、電流計Mには最大目盛りの電流 \(I_M = 1.0 \, \text{mA} = 1.0 \times 10^{-3} \, \text{A}\) が流れるようにします。
キルヒホッフの第1法則より、抵抗Rに流れるべき電流 \(I_R\) は、
$$ I_R = I – I_M \quad \cdots ① $$
電流計M(内部抵抗 \(r\))と抵抗Rは並列接続なので、両端にかかる電圧は等しくなります。オームの法則 \(V=IR\) を用いて、この関係を立式します。
$$ V_M = V_R $$
$$ I_M \cdot r = I_R \cdot R \quad \cdots ② $$
この式②に、式①で求まる \(I_R\) の値を代入することで、\(R\)を計算できます。
使用した物理公式
- キルヒホッフの第1法則(電流則): \(I = I_M + I_R\)
- オームの法則: \(V = IR\)
- 並列回路の電圧の関係: \(V_M = V_R\)
まず、式①を用いて、抵抗Rに流れる電流 \(I_R\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
I_R &= 1.0 \, [\text{A}] – (1.0 \times 10^{-3}) \, [\text{A}] \\[2.0ex]&= 1.0 – 0.001 \\[2.0ex]&= 0.999 \, \text{[A]}
\end{aligned}
$$
または、単位をmAに揃えて計算すると、
\(I = 1000 \, \text{mA}\), \(I_M = 1 \, \text{mA}\) なので、
\(I_R = 1000 – 1 = 999 \, \text{mA} = 999 \times 10^{-3} \, \text{A}\) となります。
次に、式②の電圧が等しいという関係式に、電流の値を代入して \(R\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
(1.0 \times 10^{-3}) \cdot r &= (999 \times 10^{-3}) \cdot R \\[2.0ex]\end{aligned}
$$
両辺の \(10^{-3}\) を消去すると、
$$
\begin{aligned}
1 \cdot r &= 999 \cdot R \\[2.0ex]R &= \frac{r}{999} \, [\Omega]\end{aligned}
$$
\(1 \, \text{A} = 1000 \, \text{mA}\) という大きな電流を測りたいのですが、手元の電流計は \(1 \, \text{mA}\) までしか測れません。そこで、電流の「逃げ道」として抵抗Rを並列につなぎます(接続方法②)。
全体の \(1000 \, \text{mA}\) のうち、\(1 \, \text{mA}\) を電流計に流し、残りの \(999 \, \text{mA}\) を抵抗Rに流すように分担を決めます。
並列接続では、電流計と抵抗Rの「電圧」が同じになるというルールがあります。「電圧 = 電流 × 抵抗」なので、「\(1 \, \text{mA} \times r = 999 \, \text{mA} \times R\)」という式が成り立ちます。
この式を解くと、抵抗Rは電流計の内部抵抗rの \(1/999\) 倍の大きさであれば良いことがわかります。
適切な接続方法は②で、そのときの抵抗値は \(R = \displaystyle\frac{r}{999} \, \Omega\) です。
電流計に流れる電流(\(1 \, \text{mA}\))と抵抗Rに流れる電流(\(999 \, \text{mA}\))の比は \(1:999\) です。電圧を等しくするためには、電流を多く流す方の抵抗値を小さくする必要があります。したがって、抵抗Rの抵抗値が内部抵抗rよりもずっと小さい (\(r:R = 999:1\)) という結果は物理的に妥当です。このように電流計の測定範囲を拡大するために用いる並列抵抗を「分流器」または「シャント抵抗」と呼びます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 分流器の原理:
- 核心: この問題は「分流器」と呼ばれる電流計の測定範囲拡大の原理を理解しているかが全てです。最大測定値の小さい電流計で大きな電流を測るには、電流計と並列に抵抗(分流器)を接続し、電流の大部分を分流器に流す必要があります。
- 理解のポイント:
- なぜ並列か?: 電流の通り道を複数に「分ける」ためです。直列に接続すると、全ての電流が電流計を通過してしまい、分流できません。
- 並列回路の電圧の関係:
- 核心: 並列に接続された電流計と分流器には、同じ大きさの電圧がかかります。この「電圧が等しい」という条件が、分流器の抵抗値を決定するための立式の鍵となります。
- 理解のポイント: \(V_{\text{電流計}} = V_{\text{分流器}}\) という関係から、オームの法則を用いて \(I_{\text{電流計}} \times r = I_{\text{分流器}} \times R\) という式を立てることができます。
- キルヒホッフの第1法則(電流則):
- 核心: 回路に流れ込む全体の電流が、電流計と分流器にどのように分配されるかを記述します。
- 理解のポイント: \(I_{\text{全体}} = I_{\text{電流計}} + I_{\text{分流器}}\) という関係を使い、分流器に流すべき電流の大きさを計算します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 倍率器: 電圧計の測定範囲を拡大する問題。分流器とは逆に、電圧計と直列に大きな抵抗(倍率器)を接続し、大きな電圧の大部分を倍率器に負担させます。分流器とセットで理解すべき重要テーマです。
- 測定範囲をN倍にする問題: 「元の電流計の測定範囲をN倍にするための分流器の抵抗Rを求めよ」という一般化された問題。この場合、\(I_{\text{全体}} = N \cdot I_{\text{電流計}}\) となるので、分流器には \((N-1)I_{\text{電流計}}\) の電流が流れます。結果として \(R = \displaystyle\frac{r}{N-1}\) という公式が導かれます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「測定範囲の拡大」という目的を確認: 問題文が「〜までの電流を測定したい」「〜までの電圧を測定したい」とあれば、それは分流器か倍率器の問題であると即座に判断します。
- 電流計か電圧計か:
- 電流計の範囲拡大 → 並列に抵抗(分流器)を接続。
- 電圧計の範囲拡大 → 直列に抵抗(倍率器)を接続。
この対応関係を確実に覚えます。
- 電流の比と抵抗の逆比: 並列接続では電圧が等しい (\(I_1 R_1 = I_2 R_2\)) ため、流れる電流の比は抵抗値の逆比 (\(I_1 : I_2 = R_2 : R_1\)) になります。本問では電流計と抵抗Rに流れる電流の比が \(1:999\) なので、抵抗値の比は \(r:R = 999:1\) となり、暗算レベルで \(R = r/999\) を導出できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 接続方法の混同:
- 誤解: 電流計の測定範囲を拡大するために、抵抗を直列に接続してしまう(図①を選択)。
- 対策: 「電流を分ける」という目的を常に意識してください。電流の経路を分けるには、並列接続しかありえません。直列では電流はどこにも逃げられず、同じ値のままです。
- 単位の換算ミス:
- 誤解: \(1 \, \text{A}\) と \(1 \, \text{mA}\) の計算で、\(1 – 1 = 0\) のように単位を無視して計算してしまう。
- 対策: 計算前に必ず単位を統一する習慣をつけましょう。\(1 \, \text{A} = 1000 \, \text{mA}\) と書き出し、「\(1000 \, \text{mA}\) のうち \(1 \, \text{mA}\) が電流計に、残りの \(999 \, \text{mA}\) が抵抗Rに流れる」と具体的にイメージします。
- 電圧の式での抵抗の取り違え:
- 誤解: \(I_M \cdot R = I_R \cdot r\) のように、電流と抵抗のペアを間違えて立式してしまう。
- 対策: 「電流計の電圧 = 抵抗Rの電圧」と日本語で確認してから、\(V_M = I_M \cdot r\)、\(V_R = I_R \cdot R\) と各要素の電圧を個別に書き出し、最後にそれらを等号で結ぶ、という手順を踏むとミスが防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 並列接続の選択:
- 選定理由: 目的は「電流計を壊さずに大電流を測る」こと。そのためには、電流計に流れる電流を許容範囲内に抑え、余った電流を別の経路に流す必要があります。この「電流のバイパス」を実現できる唯一の接続方法が並列接続です。
- 適用根拠: これは「電荷量保存則」の現れであるキルヒホッフの電流則に基づいています。分岐点で電流が分かれても、その総和は保存されるため、意図的に電流を分配することが可能です。
- 電圧等価の式 (\(I_M r = I_R R\)):
- 選定理由: 並列接続を選んだ後、具体的にどれくらいの抵抗値の抵抗を接続すれば良いかを決定するために使います。未知数である抵抗\(R\)を求めるための方程式となります。
- 適用根拠: 回路上の2点間の電位差(電圧)は、その2点を結ぶ経路によらず一定です。並列回路では、電流計と抵抗Rは同じ分岐点と合流点に接続されているため、両端の電位差、すなわち電圧は必然的に等しくなります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位を揃える意識: この問題のように `A` と `mA` が混在する場合は、計算前に必ずどちらかに統一します。`1 \, \text{A} = 1000 \, \text{mA}` を利用して `mA` に統一すると、整数で考えやすくなり、ミスが減ります。
- 比の概念を活用する:
- 電流計に流れる電流 \(I_M\) と抵抗Rに流れる電流 \(I_R\) の比を求める: \(I_M : I_R = 1 \, \text{mA} : 999 \, \text{mA} = 1 : 999\)。
- 並列接続では電圧が等しいので、抵抗の比は電流の比の逆比になる: \(r : R = 999 : 1\)。
- この比例式から「内項の積 = 外項の積」を計算する: \(R \times 999 = r \times 1\)。
- よって \(R = \displaystyle\frac{r}{999}\)。この思考法は計算が速く、直感的です。
- 文字式で一般化してから代入:
- \(I_R = I – I_M\)
- \(I_M r = I_R R = (I – I_M) R\)
- \(R = r \displaystyle\frac{I_M}{I – I_M}\)
この一般式を導いてから、最後に \(I=1000 \, \text{mA}\), \(I_M=1 \, \text{mA}\) を代入すると、\(R = r \displaystyle\frac{1}{1000-1} = \frac{r}{999}\) となり、見通しよく計算できます。
349 電池を含む回路
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電池の内部抵抗と端子電圧の関係をグラフから読み解く」ことです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電池の内部抵抗: 理想的ではない電池は、内部に電気抵抗(内部抵抗)を持つと考えます。電流を流すと、この内部抵抗によって電圧が降下します。
- 起電力と端子電圧: 起電力(\(E\))は電池が持つ本来の電圧生成能力です。端子電圧(\(V\))は、実際に外部の回路で利用できる電圧のことで、内部抵抗での電圧降下分だけ起電力より小さくなります。
- キルヒホッフの第2法則(電圧則): 閉じた回路において、起電力の総和と電圧降下の総和は等しいという、エネルギー保存則に基づいた法則です。
- V-Iグラフの物理的意味: 縦軸に端子電圧\(V\)、横軸に電流\(I\)をとったグラフ(V-Iグラフ)の切片と傾きが、それぞれ起電力\(E\)と内部抵抗\(r\)に関連付けられます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 図bの回路について、キルヒホッフの第2法則を用いて、端子電圧\(V\)、電流\(I\)、起電力\(E\)、内部抵抗\(r\)の間の関係式(回路方程式)を立てます。
- 立てた関係式が、図aのV-Iグラフ上で直線を表すことを確認します。
- グラフから読みやすい2点の座標を関係式に代入し、\(E\)と\(r\)についての連立方程式を立てて解きます。
思考の道筋とポイント
この問題は、実験で得られたグラフ(図a)と、それを説明するための物理モデル(図b)を結びつけて、モデルに含まれる未知のパラメータ(起電力\(E\)と内部抵抗\(r\))を決定するものです。
最初のステップは、図bの回路における物理法則を数式で表現することです。キルヒホッフの第2法則を用いると、端子電圧\(V\)と電流\(I\)の関係式を導くことができます。
導かれた関係式 \(V = E – rI\) は、縦軸を\(V\)、横軸を\(I\)とするグラフにおいて、一次関数 \(y = ax+b\) の形をしています。具体的には、\(V = (-r)I + E\) と見なすことができ、グラフの縦軸切片が起電力\(E\)、傾きが内部抵抗\(r\)の-1倍 (\(-r\)) に対応することがわかります。
この関係性を利用して、グラフから具体的な数値を読み取り、\(E\)と\(r\)を求めます。最も確実な方法は、グラフ上の明確に読み取れる2点の座標を選び、連立方程式を立てて解くことです。
この設問における重要なポイント
- 電池の回路方程式: \(E = V + rI\) または、それを変形した \(V = E – rI\)
- 端子電圧\(V\)は、回路に流れる電流\(I\)が増えるほど、内部抵抗による電圧降下\(rI\)の分だけ起電力\(E\)から減少する。
- V-Iグラフにおいて、縦軸切片(\(I=0\)の点)が起電力\(E\)を、傾きが \(-r\) を表す。
具体的な解説と立式
図bの回路において、キルヒホッフの第2法則を適用します。電池の起電力\(E\)は、内部抵抗\(r\)での電圧降下\(rI\)と、外部の抵抗にかかる電圧(端子電圧)\(V\)の和に等しくなります。
$$ E = V + rI $$
この式を、グラフの縦軸である\(V\)について解くと、以下の関係式が得られます。
$$ V = E – rI $$
この式は、縦軸を\(V\)、横軸を\(I\)とするグラフでは、縦軸切片が\(E\)、傾きが\(-r\)の直線を表します。
問題の解答では、グラフから2つの点の座標を読み取って連立方程式を立てています。グラフから読みやすい点として、
- 点1: \(I_1 = 0.10 \, \text{A}\) のとき \(V_1 = 1.35 \, \text{V}\)
- 点2: \(I_2 = 0.40 \, \text{A}\) のとき \(V_2 = 1.20 \, \text{V}\)
を選びます。これらの値を \(V = E – rI\) の式にそれぞれ代入します。
$$ 1.35 = E – r \times 0.10 \quad \cdots ① $$
$$ 1.20 = E – r \times 0.40 \quad \cdots ② $$
これで、未知数が\(E\)と\(r\)の連立一次方程式が立ちました。
使用した物理公式
- キルヒホッフの第2法則(電圧則)
- 電池の端子電圧と起電力の関係式: \(V = E – rI\)
連立方程式①、②を解いて\(E\)と\(r\)を求めます。
まず、①式から②式を引いて\(E\)を消去します。
$$
\begin{aligned}
1.35 – 1.20 &= (E – 0.10r) – (E – 0.40r) \\[2.0ex]0.15 &= -0.10r + 0.40r \\[2.0ex]0.15 &= 0.30r \\[2.0ex]r &= \frac{0.15}{0.30} \\[2.0ex]&= 0.50 \, [\Omega]\end{aligned}
$$
次に、求めた\(r=0.50 \, \Omega\)を①式に代入して\(E\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
1.35 &= E – 0.50 \times 0.10 \\[2.0ex]1.35 &= E – 0.05 \\[2.0ex]E &= 1.35 + 0.05 \\[2.0ex]&= 1.40 \, [\text{V}]\end{aligned}
$$
電池には、電気を送り出すパワーの源である「起電力\(E\)」と、電池自身が持つ邪魔者の「内部抵抗\(r\)」があります。電池から電流\(I\)が流れ出すと、この内部抵抗のせいで \(r \times I\) だけ電圧が下がってしまいます。そのため、実際に回路で使える電圧\(V\)は、\(V = E – rI\) という式で表せます。
この式は、数学で習う一次関数 \(y = ax+b\) と同じ形(\(V = -rI + E\))をしています。つまり、グラフの切片が\(E\)、傾きが\(-r\)に対応します。
この関係を使って、グラフから読みやすい2つの点、例えば「電流が0.10Aのとき電圧は1.35V」「電流が0.40Aのとき電圧は1.20V」を選びます。この2組の数値を \(V = E – rI\) の式に入れると、2つの方程式ができます。これを連立方程式として解けば、\(E\)と\(r\)の値を求めることができます。
起電力\(E\)は \(1.40 \, \text{V}\)、内部抵抗\(r\)は \(0.50 \, \Omega\) と求められます。
この結果が妥当か確認してみましょう。グラフは右下がりの直線であり、電流\(I\)が増えるほど端子電圧\(V\)が下がっていることから、内部抵抗が存在することを示しています。求めた値を使ってグラフの式を \(V = 1.40 – 0.50I\) とすると、縦軸の切片は1.40V、傾きは-0.50となります。グラフの見た目からも、縦軸切片は1.40あたり、傾きも計算通りであり、結果は物理的に妥当であると言えます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電池の回路方程式 (\(V = E – rI\)):
- 核心: この問題は、電池の「起電力\(E\)」、実際に使える「端子電圧\(V\)」、回路に流れる「電流\(I\)」、そして電池内部の「内部抵抗\(r\)」の4つの関係を示すこの式を理解し、使いこなせるかが全てです。
- 理解のポイント:
- 起電力\(E\) (Electromotive Force): 電池が持つ、電流を流そうとする能力の最大値。電流が0のときに外部に現れる電圧。
- 内部抵抗\(r\) (Internal Resistance): 電池の材料などが持つ電気抵抗。電流が流れると、電池の内部で電圧降下 (\(rI\)) を引き起こす。
- 端子電圧\(V\) (Terminal Voltage): 電池の両端子(プラス極とマイナス極)の間の実際の電圧。内部抵抗での電圧降下のため、起電力よりも小さくなる (\(V = E – rI\))。
- V-Iグラフの物理的解釈:
- 核心: \(V = E – rI\) の式を、縦軸を\(V\)、横軸を\(I\)とする一次関数 \(V = (-r)I + E\) と見なす能力。
- 理解のポイント:
- 縦軸切片 (\(I=0\)の点): 電流が流れていないときの端子電圧であり、起電力\(E\)に等しい。
- グラフの傾き: 傾きは \(\displaystyle\frac{\Delta V}{\Delta I}\) であり、式の形から内部抵抗の-1倍 (\(-r\)) に等しい。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電池の最大消費電力: 外部抵抗\(R\)で消費される電力 \(P = IV = I(E-rI)\) が最大になる条件を求める問題。\(I\)についての二次関数の最大値を求める問題に帰着する。また、\(R=r\)のときに最大となることが知られている。
- グラフから直接読み取る: グラフを\(I=0\)まで延長し、縦軸との交点から\(E\)を直接読み取る問題。また、傾きを計算して\(-r\)を求める問題。
- 電池の直列・並列接続: 複数の電池を組み合わせたときの合成起電力と合成内部抵抗を計算し、回路全体の電流や電圧を求める問題。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの軸を確認: 縦軸が電圧\(V\)、横軸が電流\(I\)であることを確認する。
- 関係式を思い出す: V-Iグラフを見たら、即座に \(V = E – rI\) の関係式を頭に描く。
- グラフの形状から物理現象を読み取る:
- グラフが右下がり → 電流\(I\)が増えると電圧\(V\)が下がる → 内部抵抗\(r\)が存在する。
- グラフが直線 → \(r\)が電流によらず一定であるとモデル化できる。
- 計算に使う点を特定する: グラフ上の格子点など、座標が最も正確に読み取れる2点を探す。この2点を使って連立方程式を立てるのが最も確実な解法。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 起電力\(E\)と端子電圧\(V\)の混同:
- 誤解: 電池の電圧は常に一定(\(E\))だと思い込み、電流が流れても電圧は変わらないと考えてしまう。
- 対策: 「起電力\(E\)は電池のポテンシャル、端子電圧\(V\)は実際に使える電圧」と明確に区別する。電流が流れると必ず内部抵抗で電圧降下 (\(rI\)) が起き、\(V\)は\(E\)より小さくなることを常に意識する。
- グラフの傾きと内部抵抗\(r\)の符号ミス:
- 誤解: グラフの傾きがそのまま内部抵抗\(r\)だと勘違いしてしまう。
- 対策: \(V = -rI + E\) の式を \(y = ax+b\) と対応させ、「傾き\(a\) = \(-r\)」であることを確認する。グラフの傾きは負の値なので、\(r\)自体は正の値になる。
- 座標の読み取りミス:
- 誤解: グラフの目盛りを読み間違える。特に0.1刻みなど細かい場合に注意が必要。
- 対策: 読み取る点に印をつけ、x軸、y軸に定規を当てるなどして慎重に値を読む。
- 連立方程式の計算ミス:
- 誤解: \(1.35 – 1.20 = (E – 0.10r) – (E – 0.40r)\) の計算で、括弧を外す際に \(-(-0.40r)\) の符号を間違える。
- 対策: 括弧を外すときは、分配法則と符号の変化に細心の注意を払う。一行ずつ丁寧に式変形する癖をつける。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- キルヒホッフの第2法則(電圧則)の適用:
- 選定理由: この問題は、電源(起電力)と抵抗(内部抵抗、外部抵抗)を含む単純な閉回路を扱っているため、回路全体のエネルギー保存則を表すキルヒホッフの第2法則が最も根本的な法則となります。
- 適用根拠: 電荷が回路を一周して元の位置に戻ったとき、その電位(単位電荷あたりのエネルギー)は元に戻るはずです。したがって、一周する間に電池によって得たエネルギー(起電力\(E\))と、抵抗によって失ったエネルギー(電圧降下\(rI\)と\(V\))の収支はゼロになります。これが \(E = V + rI\) という関係式の物理的な意味です。この式を変形した \(V = E – rI\) は、実験データ(\(I\)と\(V\))と電池の特性(\(E\)と\(r\))を直接結びつけるため、この問題の解析に最適です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 傾きから\(r\)を求める別解: 連立方程式を立てる代わりに、グラフの傾きから直接\(r\)を求めることもできます。
- 2点の座標 (\(I_1, V_1\)) = (\(0.10, 1.35\)) と (\(I_2, V_2\)) = (\(0.40, 1.20\)) を読み取る。
- 傾きを計算する: \(\text{傾き} = \displaystyle\frac{\Delta V}{\Delta I} = \frac{V_2 – V_1}{I_2 – I_1} = \frac{1.20 – 1.35}{0.40 – 0.10} = \frac{-0.15}{0.30} = -0.50\)。
- 傾き = \(-r\) なので、\(r = 0.50 \, \Omega\)。
- この\(r\)を \(V = E – rI\) に代入し、どちらか一方の点の座標を使って\(E\)を求める: \(1.35 = E – 0.50 \times 0.10 \rightarrow E = 1.40 \, \text{V}\)。
- 小数計算の注意: この問題では小数第2位まであるため、筆算などで位を揃えて慎重に計算する。
- 検算: 求めた \(E=1.40 \, \text{V}\), \(r=0.50 \, \Omega\) を、計算に使わなかったグラフ上の別の点(例: \(I=0.55 \, \text{A}\) のとき \(V \approx 1.13 \, \text{V}\))で確かめてみる。
\(V = 1.40 – 0.50 \times 0.55 = 1.40 – 0.275 = 1.125 \, \text{V}\)。グラフの読み取り値 \(1.13 \, \text{V}\) とほぼ一致するため、計算結果は信頼できると判断できます。
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