Step 2
340 電子と電流
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電流の微視的(ミクロな)表現」です。普段マクロな量として扱っている電流が、ミクロな視点では自由電子の集団的な運動によってどのように説明されるかを理解し、その関係式を扱えるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電流の定義: 電流とは、ある断面を単位時間あたりに通過する電気量のことです。
- 自由電子: 金属内で原子間を自由に動き回り、電圧をかけると一斉に動くことで電流の担い手(キャリア)となる電子。
- 電子の平均の速さ(ドリフト速度): 個々の電子は高速でランダムに運動(熱運動)していますが、電場がかかると全体としてゆっくりと一定方向に流れていきます。この集団としての平均の速さが電流の大きさに関係します。
- 電流のミクロな公式: 電流 \(I\) は、電気素量 \(e\)、単位体積あたりの自由電子数(電子密度) \(n\)、導線の断面積 \(S\)、電子の平均の速さ \(v\) を用いて \(I=enSv\) と表されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 電流のミクロな表現である公式 \(I=enSv\) を思い出します。
- この公式を、求めたい物理量である「電子の平均の速さ \(v\)」について変形します。
- 問題文で与えられた各数値を、単位に注意しながら式に代入します。
- 指数計算を含め、慎重に計算を実行します。
思考の道筋とポイント
この問題は、マクロな物理量である電流 \(I\) と、ミクロな物理量である電子の平均の速さ \(v\) を結びつける公式 \(I=enSv\) を知っているか、またそれを導出できるかが全てです。この公式は暗記するだけでなく、その成り立ちを理解しておくことが重要です。
公式の導出は、「1秒間に導線の断面を通過する自由電子の総電気量はいくらか?」を考えることで行えます。
- 速さ \(v\) で移動する電子は、1秒間に \(v\) [m] 進みます。
- 断面積 \(S\) の導線において、長さ \(v\) の円柱部分の体積は \(S \times v\) です。
- この体積の中に含まれる自由電子の数は、単位体積あたりの数 \(n\) を掛けて \(nSv\) 個となります。
- 電子1個の電気量は \(e\) なので、これらの電子が持つ総電気量は \(enSv\) となります。
- これが1秒あたりに断面を通過する電気量、すなわち電流 \(I\) に等しくなります。
この思考プロセスを理解していれば、公式を忘れてもその場で導くことができます。
この設問における重要なポイント
- 電流のミクロな表現式 \(I=enSv\) を正しく適用すること。
- \(e\): 電気素量(電子1個の電気量の大きさ)
- \(n\): 電子密度(単位体積あたりの自由電子の数)
- \(S\): 導線の断面積
- \(v\): 自由電子の平均の速さ(ドリフト速度)
- 指数を含む数値計算を正確に行うこと。
具体的な解説と立式
電流 \(I\) は、電子1個の電気量を \(e\)、単位体積あたりの自由電子の数を \(n\)、導線の断面積を \(S\)、自由電子の平均の速さを \(v\) とすると、以下の式で表されます。
$$ I = enSv $$
この問題では、自由電子の平均の速さ \(v\) を求めたいので、この式を \(v\) について解きます。
$$ v = \frac{I}{enS} $$
この式に、問題文で与えられた各値を代入することで、速さ \(v\) を求めることができます。
使用した物理公式
- 電流と自由電子の速さの関係式: \(I=enSv\)
与えられた値を代入します。
- \(I = 6.4 \, \text{A}\)
- \(e = 1.6 \times 10^{-19} \, \text{C}\)
- \(n = 8.0 \times 10^{28} \, \text{個/m}^3\)
- \(S = 2.0 \times 10^{-6} \, \text{m}^2\)
これらの値を \(v = \displaystyle\frac{I}{enS}\) の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{6.4}{ (1.6 \times 10^{-19}) \times (8.0 \times 10^{28}) \times (2.0 \times 10^{-6}) } \\[2.0ex]
&= \frac{6.4}{ (1.6 \times 8.0 \times 2.0) \times (10^{-19} \times 10^{28} \times 10^{-6}) } \\[2.0ex]
&= \frac{6.4}{ 25.6 \times 10^{-19+28-6} } \\[2.0ex]
&= \frac{6.4}{ 25.6 \times 10^{3} } \\[2.0ex]
&= 0.25 \times 10^{-3} \\[2.0ex]
&= 2.5 \times 10^{-4} \, [\text{m/s}]
\end{aligned}
$$
電流の正体は、金属の中にあるたくさんの自由電子が一斉に動くことです。この問題は、その電子たちの平均的な「進行速度」を求めるものです。
「電流の大きさ」は、「電子1個の電気量」「電子の混み具合(密度)」「導線の太さ(断面積)」「電子の速さ」の4つをすべて掛け合わせることで計算できる、という便利な公式 (\(I=enSv\)) があります。
今回は「電子の速さ」を知りたいので、この公式を「速さ = 電流 ÷ (他の3つの要素)」という形に変形します。あとは、問題文にある数値をすべて代入して計算するだけです。計算するときは、\(10\)のべき乗の部分とそれ以外の数字の部分を分けて計算するとミスが減ります。
自由電子の平均の速さは \(2.5 \times 10^{-4} \, \text{m/s}\) です。
この速さは、秒速 \(0.25 \, \text{mm}\) という、非常にゆっくりとしたものです。私たちがスイッチを入れると瞬時に電気がつくのは、導線中の電子が一斉に動き始めるからであり、個々の電子が発電所から猛スピードでやってくるわけではありません。電子の個々の熱運動の速さは非常に高速ですが、電場によって生じる集団としての平均の速さ(ドリフト速度)は非常に遅い、という事実は物理的に重要であり、この計算結果は妥当なものです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電流のミクロな正体とマクロな量の関係
- 核心: この問題は、日常的に使う「電流」というマクロな物理量が、ミクロな視点では無数の「自由電子の集団的な流れ」によって構成されていることを理解し、両者を結びつける関係式 \(I=enSv\) を正しく使えるかどうかが核心です。
- 理解のポイント:
- 電流 \(I\): 1秒あたりに断面を通過する総電気量 [C/s] = [A]。これはマクロな測定量。
- 自由電子の流れ: 電流の担い手は、負の電荷 \(-e\) を持つ自由電子の集団。
- \(enSv\) の意味: この式は、1秒間に導線の断面を通過する電子の「数」(\(nSv\)) に、電子1個あたりの電気量 (\(e\)) を掛けることで、総電気量を計算しています。これにより、ミクロな電子の振る舞い(数と速さ)からマクロな電流の大きさが決まる、という物理的描像を数式で表現しています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ホール効果: 磁場中の導体に電流を流すと、電流と磁場の両方に垂直な方向に電位差(ホール電圧)が生じる現象。このホール電圧は、電流の担い手(キャリア)の符号(正か負か)や密度 \(n\) に依存するため、\(I=enSv\) の考え方を応用して解析します。
- 半導体中の電流: 半導体では、電流の担い手が負の電子だけでなく、正孔(ホール)という正の電荷を持つキャリアも存在します。全体の電流は、電子による電流と正孔による電流の和として考えます。
- 抵抗率のミクロな表現: オームの法則のミクロな表現 \(E = \rho j\) (\(E\):電場, \(\rho\):抵抗率, \(j\):電流密度)と \(I=enSv\) を組み合わせることで、抵抗率 \(\rho\) が電子の運動とどう関係しているかを考察する問題につながります。
- 初見の問題での着眼点:
- ミクロな量の特定: 問題文に「自由電子」「電子の数(密度)」「電気素量」「電子の速さ」といったキーワードが出てきたら、即座に \(I=enSv\) の公式を連想します。
- 各変数の単位を確認:
- \(I\): [A]
- \(e\): [C]
- \(n\): [個/m³]
- \(S\): [m²]
- \(v\): [m/s]
全ての単位が基本単位(MKSA単位系)で与えられているかを確認し、もし異なれば換算します。
- 求める量を明確にする: \(I, e, n, S, v\) のうち、どの変数を求めるのかを明確にし、それに応じて式を変形します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 公式の変数の意味の混同:
- 誤解: \(n\) を単なる電子の数と勘違いする(正しくは単位体積あたりの数、すなわち密度)。
- 対策: \(I=enSv\) の各文字が何を意味し、どのような単位を持つのかを正確に覚えます。「\(n\)はnumber density(数密度)」のように、英語の頭文字と関連付けて覚えるのも一つの手です。
- 指数計算のミス:
- 誤解: \(10^{-19} \times 10^{28} \times 10^{-6}\) のような計算で、指数の足し算を間違える。(\(-19+28-6 = 3\))
- 対策: 指数部分と係数部分を完全に分けて計算する習慣をつけます。計算過程を丁寧に書き出し、符号の扱いに特に注意します。
- 電子の速さに対する誤解:
- 誤解: 計算結果が非常に遅い値(例: \(10^{-4}\) m/s)になったため、計算ミスを疑ってしまう。
- 対策: 「電子の平均の速さ(ドリフト速度)は、カタツムリが進む程度の非常にゆっくりとした速さである」という物理的な事実を知っておくことが重要です。光速に近い速さで伝わるのは、個々の電子の移動ではなく、電場(電界)の変化、つまり「進め」という命令そのものです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(I=enSv\) (電流のミクロ表現):
- 選定理由: この問題は、マクロな量(電流 \(I\))とミクロな量(電子の速さ \(v\))の関係を直接問うており、この公式はその関係を定義するものです。これ以外の公式で解くことは困難であり、この公式を選択するのは必然です。
- 適用根拠: この公式は、電流の定義「単位時間あたりに断面を通過する電気量」を、自由電子という具体的なキャリアの運動に基づいて表現し直したものです。
- \(v \times 1\text{秒}\): 1秒間に電子が進む距離。
- \(S \times v\): 1秒間に断面を通過する電子が含まれていた体積。
- \(n \times Sv\): その体積に含まれる電子の総数。
- \(e \times nSv\): その電子たちが持つ総電気量。
この論理的な積み上げが、公式の物理的な意味と妥当性を保証しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 係数と指数の分離: 計算式を \(\displaystyle v = \frac{6.4}{1.6 \times 8.0 \times 2.0} \times \frac{1}{10^{-19} \times 10^{28} \times 10^{-6}}\) のように、係数部分と指数部分に分けて書くと、それぞれの計算に集中でき、ミスを減らせます。
- 約分をうまく利用する: 係数部分の計算で、\(6.4 / 1.6 = 4\) のように、先に割り算を実行すると計算が楽になります。\(v = \displaystyle\frac{4}{8.0 \times 2.0} \times \dots = \frac{4}{16} \times \dots = 0.25 \times \dots\)
- 最終的な表記: 計算結果が \(0.25 \times 10^{-3}\) のようになった場合、科学表記のルール(係数部分を1以上10未満にする)に従い、\(2.5 \times 10^{-4}\) に直して解答します。
- 単位による検算: \(v = I/(enS)\) の単位を考えると、[A] / ([C]・[m⁻³]・[m²]) = [C/s] / ([C]・[m⁻¹]) = [m/s] となり、確かに速さの単位になっています。このような単位のチェックは、公式の形が正しいかどうかの簡単な検証になります。
341 抵抗率の温度係数
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「抵抗の温度変化」です。金属の抵抗値は温度によって変化し、一般に温度が高くなるほど抵抗値も大きくなります。この関係性を数式で理解し、オームの法則と組み合わせて計算できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 抵抗の温度依存性: 温度 \(t\) [℃] における抵抗値 \(R\) は、0℃のときの抵抗値 \(R_0\) と抵抗率の温度係数 \(\alpha\) [/K] を用いて、\(R = R_0(1 + \alpha t)\) と表されます。
- オームの法則: 電圧 \(V\)、電流 \(I\)、抵抗 \(R\) の間には、どの温度においても \(V=RI\) の関係が成り立ちます。
- 温度係数の単位: 温度係数 \(\alpha\) の単位が [/K](毎ケルビン)で与えられていても、温度変化 \(\Delta t\) はセルシウス度 [℃] とケルビン [K] で等しいため、公式の \(t\) にはセルシウス温度 [℃] をそのまま代入して計算できます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、1500℃で動作しているときの情報(電圧と電流)から、オームの法則を用いてそのときの抵抗値 \(R\) を計算します。
- 次に、抵抗の温度変化の公式 \(R = R_0(1 + \alpha t)\) を利用して、1500℃の抵抗値 \(R\) から、基準となる0℃のときの抵抗値 \(R_0\) を逆算します。
- 最後に、この0℃のときの抵抗値 \(R_0\) を持つフィラメントに100Vの電圧を加えたときに流れる電流 \(I_0\) を、再びオームの法則を用いて求めます。
思考の道筋とポイント
この問題は、2つの異なる温度状況における電球の振る舞いを比較するものです。最大のポイントは、電球のフィラメントの「抵抗値が一定ではない」という点です。温度が \(1500 \, \text{℃}\) のときと \(0 \, \text{℃}\) のときでは、抵抗値が大きく異なります。
この2つの状態を結びつけるのが、抵抗の温度変化の公式 \(R = R_0(1 + \alpha t)\) です。この問題では、高温時の状態から基準(0℃)の状態を求め、その基準の状態から問われている電流を計算する、というステップを踏みます。つまり、0℃のときの抵抗値 \(R_0\) を中間目標として計算を進めるのが解法の流れとなります。
この設問における重要なポイント
- 抵抗値は温度に依存することを理解する。
- オームの法則 \(V=RI\) を使って、特定の温度での抵抗値を求める。
- 抵抗の温度変化の公式 \(R = R_0(1 + \alpha t)\) を使って、異なる温度間の抵抗値を関連付ける。
具体的な解説と立式
まず、フィラメントの温度が \(t = 1500 \, \text{℃}\) のときの抵抗値を \(R\) とします。このとき、電圧 \(V = 100 \, \text{V}\)、電流 \(I = 0.50 \, \text{A}\) なので、オームの法則より、
$$ R = \frac{V}{I} \quad \cdots ① $$
次に、フィラメントの温度が \(0 \, \text{℃}\) のときの抵抗値を \(R_0\) とします。抵抗の温度変化の公式より、\(R\) と \(R_0\) の間には以下の関係が成り立ちます。
$$ R = R_0 (1 + \alpha t) \quad \cdots ② $$
この式②を使って、①で求めた \(R\) から \(R_0\) を計算することができます。
最後に、この \(R_0\) の抵抗値を持つフィラメントに電圧 \(V_0 = 100 \, \text{V}\) を加えたときに流れる電流 \(I_0\) を求めます。オームの法則より、
$$ I_0 = \frac{V_0}{R_0} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V=RI\)
- 抵抗の温度変化: \(R = R_0(1 + \alpha t)\)
式①に \(V=100 \, \text{V}\), \(I=0.50 \, \text{A}\) を代入して、1500℃での抵抗 \(R\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{100}{0.50} \\[2.0ex]
&= 200 \, [\Omega] = 2.0 \times 10^2 \, [\Omega]
\end{aligned}
$$
次に、式②に \(R=200 \, \Omega\), \(\alpha = 5.2 \times 10^{-3} \, \text{/K}\), \(t = 1500 \, \text{℃}\) を代入して、0℃での抵抗 \(R_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
2.0 \times 10^2 &= R_0 (1 + 5.2 \times 10^{-3} \times 1500) \\[2.0ex]
2.0 \times 10^2 &= R_0 (1 + 7.8) \\[2.0ex]
2.0 \times 10^2 &= R_0 \times 8.8 \\[2.0ex]
R_0 &= \frac{2.0 \times 10^2}{8.8} \, [\Omega]
\end{aligned}
$$
最後に、式③に \(V_0 = 100 \, \text{V}\) と上で求めた \(R_0\) を代入して、電流 \(I_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
I_0 &= \frac{100}{R_0} \\[2.0ex]
&= \frac{100}{\frac{2.0 \times 10^2}{8.8}} \\[2.0ex]
&= \frac{100 \times 8.8}{2.0 \times 10^2} \\[2.0ex]
&= \frac{100 \times 8.8}{200} \\[2.0ex]
&= \frac{8.8}{2} \\[2.0ex]
&= 4.4 \, [\text{A}]
\end{aligned}
$$
電球のフィラメントは、熱くなると電気が流れにくく(抵抗が大きく)なります。この問題は、その性質を利用して計算を進めます。
- 熱いときの抵抗を計算: まず、1500℃のときの電圧(100V)と電流(0.50A)から、オームの法則を使って抵抗を計算すると、200Ωになります。
- 冷たいときの抵抗を逆算: 「抵抗の温度変化の公式」を使って、1500℃で200Ωなら、基準の0℃では何Ωになるかを逆算します。計算すると、0℃のときの抵抗は \(200 \div 8.8\) Ωという値になります。
- 冷たいときの電流を計算: この「冷たいときの抵抗」に100Vの電圧をかけると何Aの電流が流れるか、再びオームの法則で計算します。\(100 \div (200 \div 8.8) = 4.4\)A となります。
フィラメントを0℃に保ったときに流れる電流は \(4.4 \, \text{A}\) です。
フィラメントの温度が \(1500 \, \text{℃}\) から \(0 \, \text{℃}\) に下がると、抵抗値は \(200 \, \Omega\) から約 \(22.7 \, \Omega\) へと大幅に減少します。そのため、同じ100Vの電圧をかけても、流れる電流は \(0.50 \, \text{A}\) から \(4.4 \, \text{A}\) へと大きく増加します。この結果は、金属の抵抗が温度低下によって減少するという物理的性質と一致しており、妥当なものと言えます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 抵抗値の温度依存性
- 核心: 金属などの導体の電気抵抗は一定ではなく、温度によって変化するという物理現象がこの問題の核心です。特に、その関係が \(R = R_0(1 + \alpha t)\) という線形の式で近似できることを理解し、使いこなせるかが問われます。
- 理解のポイント:
- 物理的描像: 温度が上がると、金属内の陽イオンの熱振動が激しくなります。これにより、電流の担い手である自由電子が陽イオンと衝突する頻度が増え、電子の進行が妨げられやすくなります。これが、抵抗値が増加するミクロな原因です。
- \(R_0\): 基準となる温度(通常は0℃)での抵抗値。すべての温度における抵抗値を計算するための「原点」となります。
- \(\alpha\) (温度係数): 抵抗値が温度によってどれくらい変化しやすいかを示す物質固有の定数。この値が大きいほど、温度変化に対する抵抗値の変化が敏感であることを意味します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 抵抗温度計: 抵抗値の温度変化を積極的に利用して温度を測定する装置。ある温度での抵抗値を測定し、\(R = R_0(1 + \alpha t)\) の関係から温度 \(t\) を逆算する問題。
- 超伝導: ある種の物質を極低温まで冷やすと、特定の温度(転移温度)で電気抵抗が完全にゼロになる現象。抵抗の温度依存性の究極の例として関連付けて理解すると良いでしょう。
- 半導体の抵抗温度特性: 半導体は、一般的に温度が上がると抵抗値が「減少」するという、金属とは逆の性質を示します。これは、温度上昇によってキャリア(電子や正孔)の数が増加する効果が、熱振動による妨害効果を上回るためです。
- 初見の問題での着眼点:
- 「温度」というキーワード: 問題文に複数の温度(例: 0℃と1500℃)や「温度係数」という言葉が出てきたら、即座に「抵抗値が変化する問題だ」と認識します。
- 2つの状態の特定: 問題文から、どの物理量(電圧、電流、温度)がどの状態で与えられているかを整理します。(状態1: \(V=100\)V, \(I=0.50\)A, \(t=1500\)℃ → 状態2: \(V_0=100\)V, \(t_0=0\)℃, \(I_0=?\))
- 中間目標の設定: 2つの状態を結びつけるためには、基準となる0℃での抵抗値 \(R_0\) が必要になります。したがって、「まず\(R_0\)を求める」ことを中間目標として設定し、計算の道筋を立てます。
- 計算のステップ化:
- Step 1: 状態1の情報から、オームの法則で高温時の抵抗 \(R\) を求める。
- Step 2: \(R = R_0(1 + \alpha t)\) を使って、\(R\) から \(R_0\) を求める。
- Step 3: 状態2の情報と求めた \(R_0\) から、オームの法則で低温時の電流 \(I_0\) を求める。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 抵抗値が一定だと誤解する:
- 誤解: 100Vの電圧をかけたときの電流を求める際に、温度の違いを無視して、1500℃のときの抵抗値(200Ω)をそのまま使ってしまう。
- 対策: 問題文に「温度」に関する記述がある場合は、常に抵抗値が変化する可能性を疑います。「フィラメント」や「電球」といった言葉は、温度変化が大きいことを示唆していることが多いです。
- 温度係数の式の適用の誤り:
- 誤解: \(R = R_0(1 + \alpha t)\) の \(R\) と \(R_0\) の関係を取り違え、\(R_0 = R(1 + \alpha t)\) のように計算してしまう。
- 対策: \(R_0\) はあくまで基準(0℃)であり、温度 \(t\) が上がると抵抗値 \(R\) は \(R_0\) より大きくなる(\(\alpha > 0\) の場合)という大小関係をイメージします。これにより、\(R_0\) を求めるときは \(R\) を \(1+\alpha t\)(>1)で割る、という正しい式変形につながります。
- 温度の単位:
- 誤解: 温度係数 \(\alpha\) の単位が [/K] なので、セルシウス温度 [℃] を絶対温度 [K] に変換(+273)しなければならないと勘違いする。
- 対策: 公式 \(R = R_0(1 + \alpha t)\) の \(t\) は「温度上昇」を意味します。温度の「差」や「変化量」は、セルシウス度とケルビンで全く同じです(例: 10℃から20℃への変化は10℃の上昇であり、283Kから293Kへの変化は10Kの上昇)。したがって、基準が0℃の場合、セルシウス温度の値をそのまま \(t\) に代入して問題ありません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(R = R_0(1 + \alpha t)\) (抵抗の温度変化の公式):
- 選定理由: この問題は、異なる2つの温度における抵抗値を関連付ける必要があり、この公式はそのための唯一の手段です。問題文に「温度係数」が与えられていることが、この公式を選択する直接的な根拠となります。
- 適用根拠: 多くの金属では、実用的な温度範囲において、抵抗値の変化が温度変化にほぼ比例するという実験事実に基づいています。この比例関係を最も単純な一次式でモデル化したのがこの公式です。\(R_0\) を基準としたときの変化量 \(\Delta R = R – R_0\) が、基準の抵抗値 \(R_0\) と温度上昇 \(t\) の両方に比例する(\(\Delta R \propto R_0 t\))と考え、その比例定数を \(\alpha\) としたものです。
- オームの法則 \(V=RI\):
- 選定理由: 電圧・電流・抵抗という電気回路の3つの基本量を結びつける法則であり、各状態での具体的な抵抗値や電流を計算するために不可欠です。
- 適用根拠: オームの法則は、特定の状態(温度が一定)におけるV, I, Rの関係を記述します。この問題では、「1500℃の状態」と「0℃の状態」という2つの異なる静的な状態それぞれに対して、この法則を適用しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 計算の順序: この問題のように、ある値を一度計算し、それを使って次の計算に進む場合、計算の順序を間違えないことが重要です。思考の道筋で立てたステップを一つずつ着実に実行します。
- 分数の扱い: \(R_0 = \frac{2.0 \times 10^2}{8.8}\) のように、割り切れない分数が計算途中に出てきた場合、無理に小数に直さず、分数の形のまま次の計算に代入する方が、誤差が蓄積せず、最終的な計算が楽になることが多いです(この問題では \(I_0 = 100 / R_0\) の計算でうまく約分できる)。
- 概算による検算: 1500℃で抵抗が200Ω。温度が下がれば抵抗は大幅に小さくなるはず。\(1+\alpha t = 8.8\) なので、抵抗は約1/9になる。すると電流は約9倍になるはず。\(0.5 \text{A} \times 9 = 4.5 \text{A}\)。計算結果の4.4Aと非常に近い値であり、計算が妥当であると確信できます。
342 オームの法則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「オームの法則の微視的導出」です。電流や抵抗といったマクロな物理量が、金属内部の自由電子の運動というミクロな視点からどのように説明されるのか、その論理的なつながりを一つずつ解き明かしていく問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電流のミクロな定義: 電流は、単位時間あたりに導線の断面を通過する自由電子の総電気量として表されます。
- 電場と電位の関係: 一様な電場 \(E\) 中の2点間の距離が \(d\)、電位差が \(V\) のとき、\(V=Ed\) の関係が成り立ちます。
- 電場中の荷電粒子が受ける力: 電荷 \(q\) を持つ粒子が電場 \(E\) 中に置かれると、\(F=qE\) の力を受けます。
- 終端速度: 物体が駆動力と抵抗力を受けながら運動するとき、やがて両者がつり合って速度が一定になります。このときの速度を終端速度といい、自由電子の平均の速さもこの考え方でモデル化されます。
- 抵抗と抵抗率: マクロな抵抗値 \(R\) は、物質の幾何学的な形状(長さ \(L\)、断面積 \(S\))と、物質の種類で決まる抵抗率 \(\rho\) を用いて \(R = \rho \displaystyle\frac{L}{S}\) と表されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題文の誘導に従い、空欄①から⑧までを順番に埋めていきます。各ステップでは、基本的な物理法則を適用し、前のステップで得られた結果を使いながら、最終的に抵抗率 \(\rho\) をミクロな量で表現することを目指します。
問 空欄①, ②
思考の道筋とポイント
毎秒あたりに導線の断面を通過する自由電子の数と、それによって生じる電流の大きさを求める問題です。これは電流のミクロな定義そのものです。1秒間に電子が平均で \(v\) [m] 進むことを利用して、1秒間に断面を通過する電子の数を体積から計算します。
この設問における重要なポイント
- 1秒間に電子が進む距離は \(v\) [m] である。
- 断面積 \(S\)、長さ \(v\) の円柱体積内にいる電子が、1秒間に断面を通過する。
- 電流は、単位時間あたりに通過する総電気量である。
具体的な解説と立式
空欄①: 毎秒断面を通過する自由電子の数 \(N\)
速さ \(v\) [m/s] で移動する電子は、1秒間に \(v\) [m] 進みます。断面積 \(S\) [m²] の導線を考えると、1秒間に特定の断面を通過する電子は、その断面から上流側に長さ \(v\) [m] までの円柱領域にいた電子たちです。
この円柱の体積は \(V_{\text{円柱}} = S \times v\) [m³] です。
単位体積あたりの自由電子の数は \(n\) [個/m³] なので、この体積内に含まれる電子の総数 \(N\) は、
$$ N = n \times V_{\text{円柱}} = nSv \quad \cdots ① $$
これが毎秒断面を通過する電子の数となります。
空欄②: 電流の強さ \(I\)
電流の強さ \(I\) は、1秒間に断面を通過する電気量の総和です。電子1個の電気量の大きさは \(e\) [C] であり、毎秒 \(N\) 個の電子が通過するので、電流 \(I\) は、
$$ I = e \times N = enSv \quad \cdots ② $$
となります。
①は \(nSv\)、②は \(enSv\) となります。これは電流のミクロな表現として基本となる関係式です。
問 空欄③, ④
思考の道筋とポイント
金属棒内部に生じる電場の強さと、それによって個々の自由電子が受ける力の大きさを求める問題です。一様な金属棒に電圧 \(V\) をかけると、内部には一様な電場 \(E\) が生じると考えます。
この設問における重要なポイント
- 一様な電場 \(E\) と電位差 \(V\)、距離 \(d\) の関係は \(V=Ed\)。
- 電荷 \(q\) が電場 \(E\) から受ける力の大きさは \(F=|q|E\)。
具体的な解説と立式
空欄③: 電場の強さ \(E\)
長さ \(L\) の金属棒の両端に電圧 \(V\) がかかっているので、棒の内部には一様な電場 \(E\) が生じます。電位差・電場・距離の関係式 \(V=Ed\) より、
$$ V = EL $$
これを \(E\) について解くと、
$$ E = \frac{V}{L} \quad \cdots ③ $$
空欄④: 電子が受ける力の大きさ \(F\)
電気量 \(-e\) の自由電子が、強さ \(E\) の電場から受ける力の大きさ \(F\) は、\(F=|q|E\) より、
$$ F = eE $$
ここに③で求めた \(E\) を代入すると、
$$ F = e \frac{V}{L} = \frac{eV}{L} \quad \cdots ④ $$
③は \(\displaystyle\frac{V}{L}\)、④は \(\displaystyle\frac{eV}{L}\) となります。電位差から電場を求め、電場から力を求めるという基本的な流れを正しく適用できました。
問 空欄⑤, ⑥
思考の道筋とポイント
自由電子の運動を妨げる力と、力のつり合いから電子の平均の速さを求める問題です。電子は電場から力を受けて加速しますが、金属中の陽イオンなどとの衝突によって抵抗力を受けます。やがて両者がつり合い、電子は一定の平均速度(終端速度)で移動するようになります。
この設問における重要なポイント
- 問題文の条件「妨げる力 \(f\) は速さ \(v\) に比例し、比例定数は \(k\)」を数式化する。
- 「速さは一定」という条件から、「力のつり合い」を考える。
具体的な解説と立式
空欄⑤: 妨げる力の大きさ \(f\)
問題文の指示通り、速さ \(v\) に比例する妨げる力 \(f\) を、比例定数 \(k\) を用いて表します。
$$ f = kv \quad \cdots ⑤ $$
空欄⑥: 自由電子の速さ \(v\)
一定の電流が流れているとき、電子の平均の速さ \(v\) は一定です。これは、電子に働く力がつり合っていることを意味します。すなわち、電場から受ける力 \(F\) と、妨げる力 \(f\) が等しくなります。
$$ F = f $$
④と⑤の結果を代入すると、
$$ \frac{eV}{L} = kv $$
これを速さ \(v\) について解くと、
$$ v = \frac{eV}{kL} \quad \cdots ⑥ $$
⑤は \(kv\)、⑥は \(\displaystyle\frac{eV}{kL}\) となります。駆動力と抵抗力がつり合って終端速度に達するという、物理モデルを正しく数式化できました。
問 空欄⑦, ⑧
思考の道筋とポイント
これまでの結果を統合し、電流 \(I\) と抵抗率 \(\rho\) をミクロな物理量で表現する問題です。まず、電流の基本式 \(I=enSv\) に、⑥で求めた \(v\) の具体的な表現を代入します。次に、得られた \(I\) と \(V\) の関係式を、マクロなオームの法則 \(I=V/R\) や抵抗率の定義式 \(R=\rho L/S\) と比較することで、\(\rho\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 導出済みの関係式を代入し、マクロな量(\(I, V\))とミクロな量(\(e, n, k\)など)の関係を明らかにする。
- 異なる2つの表現(ミクロとマクロ)を比較し、対応する部分を見つけ出す。
具体的な解説と立式
空欄⑦: 電流の強さ \(I\)
②で求めた電流の式 \(I=enSv\) に、⑥で求めた \(v = \displaystyle\frac{eV}{kL}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= enS \left( \frac{eV}{kL} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{e^2nSV}{kL} \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$
空欄⑧: 抵抗率 \(\rho\)
⑦で得られた式 \(I = \displaystyle\frac{e^2nS}{kL} V\) は、電圧 \(V\) と電流 \(I\) の比例関係を示しており、オームの法則に対応します。オームの法則は \(I = \displaystyle\frac{1}{R}V\) と書けるので、この式と比較すると、金属棒の抵抗 \(R\) は、
$$ R = \frac{kL}{e^2nS} $$
と表せることがわかります。
一方、抵抗率 \(\rho\) を用いた抵抗の定義式は、
$$ R = \rho \frac{L}{S} $$
です。この2つの \(R\) の表現を比較すると、抵抗率 \(\rho\) に対応する部分は、
$$ \rho = \frac{k}{e^2n} \quad \cdots ⑧ $$
となります。
⑦は \(\displaystyle\frac{e^2nSV}{kL}\)、⑧は \(\displaystyle\frac{k}{e^2n}\) となります。自由電子の運動モデルから出発し、最終的にオームの法則が導かれ、さらに抵抗率という物質の性質を決めるマクロな量が、電子の電荷や密度、運動の妨げられやすさといったミクロな量によって決まることが示されました。一連の論理展開は物理的に非常に重要であり、正しくたどることができました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- オームの法則の微視的(ミクロ)な解釈
- 核心: この問題は、単に公式を適用するのではなく、マクロな物理法則であるオームの法則(\(V=RI\))や抵抗率の定義(\(R=\rho L/S\))が、なぜ成り立つのかを自由電子の運動モデルから論理的に導出するプロセスそのものです。核心は、「電子の運動(ミクロ)」と「電気抵抗(マクロ)」の間に存在する因果関係を理解することにあります。
- 理解のポイント:
- 駆動力: 電圧 \(V\) が電場 \(E\) を生み、電場が電子に力 \(F=eE\) を及ぼす。これが電子を動かす根本的な力です。
- 抵抗力: 金属内を動く電子は、陽イオンとの衝突などにより運動を妨げられます。この妨げ(抵抗力)が速さ \(v\) に比例する(\(f=kv\))とモデル化されています。
- 定常状態(力のつり合い): 駆動力と抵抗力がつり合うことで、電子は一定の平均速度 \(v\)(終端速度)で流れます。この「つり合い」が、電圧と電流の間に安定した比例関係(オームの法則)を生み出す原因です。
- 抵抗率の本質: 最終的に導かれる抵抗率 \(\rho = k/(e^2n)\) は、物質の電気の流れにくさ(\(\rho\))が、電子の運動の妨げられやすさ(\(k\))に比例し、キャリア(電子)の電荷(\(e\))や数(\(n\))に反比例することを示しており、抵抗の物理的起源を明らかにしています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 抵抗力のモデルの変更: この問題では抵抗力を \(f=kv\) としましたが、別のモデル(例えば、平均自由時間 \(\tau\) を用いるモデル)で抵抗率を導出する問題。本質的な考え方(駆動力と抵抗力の関係から電子の運動を記述する)は同じです。
- 半導体の抵抗率: 半導体の場合、キャリアが電子と正孔の2種類になるため、それぞれの移動度や密度を考慮して全体の抵抗率を計算する問題。
- 温度による抵抗率の変化: 抵抗率の式 \(\rho = k/(e^2n)\) において、温度が上がると陽イオンの熱振動が激しくなり、電子の運動の妨げやすさ \(k\) が大きくなると解釈できます。これにより、金属の抵抗率が温度とともに増加する理由をミクロな視点から説明できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 問題の構造を把握: この種の問題は、通常、物理現象を段階的に説明する長い文章の穴埋め形式です。最終的に何を導出しようとしているのか(この場合は抵抗率 \(\rho\))を最初に意識すると、各ステップの目的が明確になります。
- ステップごとのつながりを意識: 各空欄は独立しておらず、前の空欄の答えを使って次の空欄を埋める構造になっています。例えば、⑥を求めるには④と⑤の結果が必要、というように、論理の連鎖を丁寧たどることが重要です。
- マクロとミクロの対応付け: 問題の最終段階では、ミクロなモデルから導出した式(例: ⑦)と、マクロな世界の法則(オームの法則 \(I=V/R\))を比較します。式の形を見比べて、どの部分がどの物理量に対応するのかを見つけ出すのが鍵となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力のつり合いの条件の誤解:
- 誤解: 電子は加速し続けると考えてしまい、力のつり合いを見落とす。
- 対策: 問題文の「一定の電流が流れているとき自由電子の速さは一定である」という記述が決定的なヒントです。「速さが一定」ならば「加速度がゼロ」であり、したがって「合力がゼロ(力がつり合っている)」という運動の基本法則に立ち返ることが重要です。
- マクロな法則との比較ミス:
- 誤解: ⑦で得た式 \(I = \displaystyle\frac{e^2nS}{kL} V\) と \(I=V/R\) を比較する際に、\(R\) に対応する部分を正しく抜き出せない。
- 対策: \(I = (\dots) V\) の形にそろえて、括弧の部分が \(1/R\) に対応すると考えます。つまり、\(1/R = \displaystyle\frac{e^2nS}{kL}\) であり、これを逆数にして \(R = \displaystyle\frac{kL}{e^2nS}\) となります。この一手間を惜しまないことがミスを防ぎます。
- 変数の混同:
- 誤解: 電子の速さ \(v\) と電圧 \(V\) を混同したり、比例定数 \(k\) と電気素量 \(e\) を見間違えたりする。
- 対策: 複雑な文字式を扱う際は、各文字が何を表す物理量なのかを常に意識し、丁寧に書き写すことが基本です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 一連の基本法則の組み合わせ:
- 選定理由: この問題は、特定の応用公式を一つ使うのではなく、物理学の最も基本的な法則(電流の定義、電場と電位の関係、運動方程式、力のつり合い)を論理的に積み上げていくことで、より高度な法則(オームの法則)を導出する構成になっています。したがって、各ステップでどの基本法則が適用できるかを判断することが求められます。
- 適用根拠:
- ①, ②: 「電流とは何か」という定義に基づいています。
- ③, ④: 電場と電位、電場と力の関係という、静電気学の基本法則に基づいています。
- ⑤, ⑥: 問題文で与えられたモデル(抵抗力)と、運動の法則(力のつり合い)に基づいています。
- ⑦, ⑧: これまで導出したミクロな関係式を統合し、マクロな法則(オームの法則、抵抗率の定義)と結びつけることで、マクロな物理量のミクロな起源を明らかにしています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の変形: この問題は数値計算がなく、文字式の変形が主です。分数の割り算(逆数を掛ける)、移項、代入といった基本的な操作を、焦らず正確に行うことが求められます。
- 式の整理: ⑦で \(I\) を求めた後、⑧で \(\rho\) を求めるために \(R\) の式を導出しますが、その際に \(I = \displaystyle\frac{V}{R}\) の形から \(R = \displaystyle\frac{V}{I}\) と変形し、\(V\) と ⑦で求めた \(I\) の式を代入する方法もあります。\(R = V / (\frac{e^2nSV}{kL}) = V \cdot \frac{kL}{e^2nSV} = \frac{kL}{e^2nS}\)。どちらの方法でも同じ結果になりますが、自分がミスしにくい手順で進めるのが良いでしょう。
- 最終結果の吟味: 導出された抵抗率 \(\rho = k/(e^2n)\) が物理的に妥当か考えます。電子の動きが妨げられやすい(\(k\)が大きい)ほど、抵抗率が大きくなる。キャリアの電荷(\(e\))や数(\(n\))が多いほど、電気を運びやすくなるので抵抗率は小さくなる。これらの関係は直感と一致しており、導出結果が妥当であることを示唆しています。
343 電流のする仕事
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「モーターにおけるエネルギー変換と保存」です。モーターは、供給された電気エネルギーを、力学的な仕事と内部での熱(ジュール熱)に変換する装置です。このエネルギーの収支を正しく理解し、計算できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 消費電力: 電気器具が単位時間あたりに消費する電気エネルギー。電圧 \(V\) と電流 \(I\) の積 \(P=VI\) で与えられます。
- 電力量: ある時間 \(t\) の間に消費される電気エネルギーの総量。消費電力 \(P\) に時間 \(t\) を掛けて \(Q=Pt\) で求められます。
- 力学的な仕事: モーターがおもりを持ち上げるなど、外部に対して行う仕事。おもりを持ち上げる場合、位置エネルギーの増加分 \(mgh\) に等しくなります。
- エネルギー保存則: モーターに供給された電気エネルギーは、外部への仕事と、モーター内部で発生するジュール熱の和に等しくなります。(消費した電力量)=(外部にした仕事)+(発生した熱量)
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、モーターの消費電力 \(P\) を求めます。これは、モーターにかかる電圧 \(V\) と流れる電流 \(I\) から、公式 \(P=VI\) を用いて直接計算できます。
- (2)では、エネルギー保存則を利用します。まず、20秒間にモーターが消費した総電力量を計算します。次に、モーターがおもりを持ち上げるためにした力学的な仕事を計算します。消費した総電力量から、外部にした仕事を差し引いた残りが、モーター内部で熱として発生したエネルギー量となります。
問(1)
思考の道筋とポイント
モーターの消費電力を求める問題です。消費電力とは、モーターが1秒あたりに消費する電気エネルギーのことです。問題文にモーターにかかる電圧と流れる電流が与えられているため、消費電力の基本公式 \(P=VI\) を使って直接計算できます。
この設問における重要なポイント
- 消費電力の定義を理解していること。
- 消費電力の公式 \(P=VI\) を正しく適用できること。
具体的な解説と立式
モーターの消費電力を \(P\) [W]、モーターにかかる電圧を \(V\) [V]、流れる電流を \(I\) [A] とすると、これらの間には以下の関係が成り立ちます。
$$ P = VI $$
この式に、問題で与えられた値を代入します。
使用した物理公式
- 消費電力: \(P=VI\)
与えられた値 \(V = 4.0 \, \text{V}\), \(I = 0.10 \, \text{A}\) を公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
P &= 4.0 \times 0.10 \\[2.0ex]
&= 0.40 \, [\text{W}]
\end{aligned}
$$
モーターがどれくらいのペースで電気を消費しているか(=消費電力)を計算します。これは単純に「電圧 × 電流」で求めることができます。電圧が4.0V、電流が0.10Aなので、掛け合わせると0.40Wとなります。
モーターの消費電力は \(0.40 \, \text{W}\) です。与えられた数値を公式に代入する基本的な計算であり、特に問題はありません。
問(2)
思考の道筋とポイント
モーター内部で発生した熱量を求める問題です。これは、モーターにおけるエネルギー保存則を考えることで解決できます。モーターに供給された電気エネルギーは、すべてがおもりを持ち上げる仕事に使われるわけではありません。一部はモーター内部のコイルの抵抗などによって熱(ジュール熱)に変わってしまいます。
したがって、「(モーターが消費した総電力量)=(おもりを持ち上げた仕事)+(内部で発生した熱量)」というエネルギー収支の式が成り立ちます。この式を変形し、「(発生した熱量)=(消費した総電力量)-(した仕事)」として計算します。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則: (供給された電気エネルギー) = (外部への仕事) + (内部発生熱)
- 電力量の計算: \(Q = Pt = VIt\)
- 重力に逆らってする仕事の計算: \(W = mgh\)
- 単位の換算(g → kg)を忘れないこと。
具体的な解説と立式
まず、20秒間にモーターが消費した総電力量 \(Q_{\text{消費}}\) を計算します。(1)で求めた消費電力 \(P\) と時間 \(t=20 \, \text{s}\) を用いて、
$$ Q_{\text{消費}} = P \times t \quad \cdots ① $$
次に、この間にモーターがおもりに対してした仕事 \(W_{\text{仕事}}\) を計算します。これは、おもりの位置エネルギーの増加分に等しいです。質量 \(m=250 \, \text{g}\)、持ち上げた高さ \(h=2.0 \, \text{m}\)、重力加速度 \(g=9.8 \, \text{m/s}^2\) を用いて、
$$ W_{\text{仕事}} = mgh \quad \cdots ② $$
エネルギー保存則より、発生した熱量 \(Q_{\text{熱}}\) は、消費した電力量から外部にした仕事を引いたものになります。
$$ Q_{\text{熱}} = Q_{\text{消費}} – W_{\text{仕事}} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 電力量: \(Q=Pt\)
- 仕事(位置エネルギー): \(W=mgh\)
- エネルギー保存則
式①を用いて、消費した電力量 \(Q_{\text{消費}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{消費}} &= 0.40 \, [\text{W}] \times 20 \, [\text{s}] \\[2.0ex]
&= 8.0 \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
次に、式②を用いて、モーターがした仕事 \(W_{\text{仕事}}\) を計算します。質量の単位をkgに換算する (\(250 \, \text{g} = 0.250 \, \text{kg}\)) ことを忘れないようにします。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{仕事}} &= 0.250 \, [\text{kg}] \times 9.8 \, [\text{m/s}^2] \times 2.0 \, [\text{m}] \\[2.0ex]
&= 4.9 \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
最後に、式③を用いて発生した熱量 \(Q_{\text{熱}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{熱}} &= 8.0 – 4.9 \\[2.0ex]
&= 3.1 \, [\text{J}]
\end{aligned}
$$
モーターのエネルギーの使い道を考えます。
- 使った電気の総量: モーターは0.40Wのペースで20秒間電気を使ったので、総消費エネルギーは \(0.40 \times 20 = 8.0\)J です。
- おもりを持ち上げるのに使ったエネルギー: おもりを持ち上げる仕事は「重さ × 高さ」で計算できます。仕事量は \(0.250\text{kg} \times 9.8\text{m/s}^2 \times 2.0\text{m} = 4.9\)J です。
- 熱としてムダになったエネルギー: 使った電気の総量(8.0J)のうち、仕事になったのは4.9Jでした。その差額 \(8.0 – 4.9 = 3.1\)J が、モーター内部で熱として発生し、ムダになったエネルギーです。
20秒間にモーター内部で発生した熱量は \(3.1 \, \text{J}\) です。消費した電気エネルギーの一部が力学的な仕事に、残りが熱に変換されるというエネルギー保存則を正しく適用できました。単位の換算や計算も正確に行われています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- モーターにおけるエネルギー保存則
- 核心: この問題の根幹にあるのは、モーターというエネルギー変換装置におけるエネルギー保存則です。モーターは単なる抵抗ではなく、供給された電気エネルギーを「力学的な仕事」と「内部での熱発生(ジュール熱)」という2つの形に変換します。このエネルギーの収支、すなわち (消費電力量)=(外部にした仕事)+(発生した熱量) という関係を理解し、立式できるかが全てです。
- 理解のポイント:
- 消費電力量 \(VIt\): 電源からモーターに供給された全エネルギー。
- 外部にした仕事 \(W\): モーターが回転することでおもりを持ち上げるなど、外部の物体に対して行う有効な仕事。
- 発生した熱量 \(Q’\): モーター内部のコイルなどが持つ電気抵抗によって、電流が流れることで必然的に発生する損失エネルギー(ジュール熱)。
- エネルギー効率: モーターの性能を表す指標で、(外部にした仕事)/(消費電力量)で計算できます。この問題では \(4.9 / 8.0 \approx 61\%\) となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- モーターの内部抵抗を求める問題: (2)で求めた発生熱量 \(Q’\) は、モーターの内部抵抗を \(r\) とするとジュール熱の公式から \(Q’ = I^2rt\) と表せます。この関係から、モーターの内部抵抗 \(r\) を逆算する問題。(\(3.1 = (0.10)^2 \times r \times 20 \rightarrow r = 15.5 \, \Omega\))
- モーターの逆起電力: モーターが回転すると、発電機のように逆向きの起電力(逆起電力)\(V’\) が生じます。モーター回路の電圧則は \(E = V’ + Ir\) となり、モーターの消費電力 \(EI\) のうち、\(V’I\) が仕事に、\(I^2r\) が熱になると解釈できます。この逆起電力の概念を使って解析する問題。
- 発電機(ダイナモ): モーターとは逆に、外部から力学的な仕事を与えて回転させることで、電気エネルギーを取り出す装置。これもエネルギー変換の観点から同様に解析できます。
- 初見の問題での着眼点:
- エネルギーの流れを把握: 問題文を読み、「何がエネルギーを供給し(電源)、何がエネルギーを消費・変換しているか(モーター)」をまず把握します。
- エネルギーの形態を区別: モーターが関わる問題では、エネルギーが「電気」「仕事」「熱」の3つの形態で登場することを意識します。それぞれの量を計算するために必要な公式を整理します。
- 電気エネルギー: \(P=VI\), \(Q=VIt\)
- 仕事: \(W=Fx\), \(W=mgh\)
- 熱エネルギー: ジュール熱 \(Q’=I^2rt\) または エネルギー保存則からの差引
- エネルギー収支の立式: 「入ってきたエネルギー=出ていったエネルギーの和」というエネルギー保存則の観点から、これらの量を結びつける式を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 消費電力をすべて熱と勘違いする:
- 誤解: モーターの消費電力 \(P=VI\) を、すべてジュール熱の発生に使われると考えてしまう。つまり、\(Q’ = VIt\) として計算してしまう。
- 対策: 「モーターは仕事をする装置である」という大前提を忘れないこと。消費した電気エネルギーは、まず「仕事」に使われ、その「残り」が熱になる、という優先順位を意識します。抵抗だけの回路とはエネルギーの使われ方が根本的に異なります。
- 単位の換算ミス:
- 誤解: (2)で仕事 \(W=mgh\) を計算する際に、質量 \(m\) に250gの「250」をそのまま代入してしまう。
- 対策: 物理計算では、力学・電磁気問わず、MKSA単位系(メートル、キログラム、秒、アンペア)に統一するのが鉄則です。計算を始める前に、与えられた量の単位をすべてチェックし、必要であれば換算する習慣をつけます。
- 仕事と熱量の混同:
- 誤解: 問題で問われているのが「熱量」なのに、「仕事」の \(4.9 \, \text{J}\) を答えてしまう。
- 対策: 計算の最後に、問題文をもう一度読み返し、「何を問われているか」を指差し確認します。エネルギー保存則のどの項を求めるべきかを明確にします。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- エネルギー保存則 \(Q_{\text{消費}} = W_{\text{仕事}} + Q_{\text{熱}}\):
- 選定理由: (2)で問われている「内部で発生した熱量」は、モーターの内部抵抗が不明なため、ジュール熱の公式 \(I^2rt\) からは直接計算できません。しかし、モーターが消費した全エネルギーと、外部へした仕事は計算可能です。したがって、エネルギー保存則を用いて、全体の収支から引き算で求めるのが唯一かつ最適な解法となります。
- 適用根拠: エネルギー保存則は物理学における最も普遍的で強力な法則の一つです。ある系(この場合はモーター)に加えられたエネルギーは、形を変えることはあっても、決して消えたり無から生まれたりしない、という原理に基づいています。この問題は、その原理が電気・力学・熱という異なる分野のエネルギーをまたいで成立することを示す好例です。
- 消費電力 \(P=VI\):
- 選定理由: (1)で問われている消費電力、および(2)で消費電力量を計算するための出発点として必要です。電圧と電流という、電気回路における最も基本的な測定量から計算できるため、最初に用いるべき公式です。
- 適用根拠: 電圧 \(V\) は単位電荷あたりのエネルギー [J/C]、電流 \(I\) は単位時間あたりの電荷の流れ [C/s] を表します。この2つを掛け合わせることで、\(VI\) は単位時間あたりのエネルギー [J/s]、すなわち仕事率(電力)[W] を意味します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認: 質量をgからkgへ換算するのを忘れないように、問題文の単位に丸をつけるなどして注意を喚起します。
- 計算のステップ化: (2)のような複数の計算を組み合わせる問題では、
- 消費電力量 \(Q_{\text{消費}}\) の計算
- 仕事 \(W_{\text{仕事}}\) の計算
- 差引による熱量 \(Q_{\text{熱}}\) の計算
と、各ステップを明確に分けて計算し、それぞれの結果に単位をつけてメモしておくと、思考が整理されミスが減ります。
- 有効数字: 問題文で与えられた数値(4.0V, 0.10A, 20s, 250g, 2.0m, 9.8m/s²)はすべて有効数字2桁です。したがって、最終的な答えも有効数字2桁(3.1J)でまとめるのが適切です。計算途中では3桁程度で計算を進め、最後に丸めるのが良いでしょう。
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