319 電気力線の本数と電界
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、無限に長い直線状の導体が一様に帯電している状況で、その周りにできる電界(電場)の強さを求める問題です。ガウスの法則を、電気力線という直感的な概念を用いて段階的に理解させる構成になっています。
- 導体棒の線電荷密度: \(q \text{ [C/m]} (q>0)\)
- クーロンの法則の比例定数: \(k_0 \text{ [N}\cdot\text{m}^2\text{/C}^2\text{]}\)
- (1) 導体棒の周りの電気力線の概略図。
- (2) 導体棒の長さ \(L\) の部分から出る電気力線の総本数。
- (3) 導体棒を同軸に囲む、半径 \(r\)、長さ \(L\) の円筒の側面を貫く電気力線の本数。
- (4) 導体棒から距離 \(r\) の点における電界の強さ \(E\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ガウスの法則を用いた、一様に帯電した無限長直線導体がつくる電界の導出」です。電気力線の性質を理解し、それを用いて電界の強さを求めるプロセスを学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電気力線の性質: 正電荷から湧き出し、負電荷に吸い込まれる。途中で消滅・分岐・交差しない。導体表面とは垂直に交わる。
- ガウスの法則(電気力線による表現): 任意の閉曲面を貫いて外に出る電気力線の正味の本数は、内部の総電荷 \(Q\) を用いて \(N = 4\pi k_0 Q\) と表される。
- 電界の強さの定義: 電界の強さ \(E\) は、その場所での単位面積あたりの電気力線の本数(電気力線密度)に等しい。
- 対称性の利用: 物理的な系の対称性から、電界の向きや大きさの分布を推測する。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)で「非常に長い」という条件から系の対称性を考え、電気力線がどのように分布するかを定性的に把握します。
- 次に、(2)でガウスの法則の基本公式を使い、導体棒の特定の部分から出る電気力線の総本数を計算します。
- (3)では、電気力線が途中で消えないという性質と(1)で考えた向きを利用して、仮想的な円筒の側面を貫く本数を求めます。
- 最後に、(4)で電界の強さが電気力線の密度で定義されることを用い、(3)の結果と円筒の側面積から電界の強さ \(E\) を導出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
「非常に長い導体棒」という設定が重要です。これにより、棒の端の影響を無視でき、高い対称性を持つ系として扱うことができます。電気力線の様子は、この対称性から決定されます。また、電気力線は導体表面に垂直であるという基本性質も使います。
この設問における重要なポイント
- 軸対称性: 導体棒は、その中心軸の周りに回転させても物理的な状況は変わりません。このため、電界(電気力線)も軸に対して対称的、すなわち放射状に広がるはずです。
- 並進対称性: 導体棒は、その軸方向に平行移動させても(端が無限遠にあるため)状況は変わりません。このため、電界の様子は軸からの距離のみに依存し、軸に沿ったどの位置でも同じになります。
- 導体の性質: 静電状態にある導体の表面から出る電気力線は、必ず表面に垂直です。
具体的な解説と立式
この問題は定性的な説明を求めるものです。
- 導体棒は非常に長く、一様に帯電しているため、どの部分も同じ状況と見なせます(並進対称性)。また、中心軸の周りのどの方向も等価です(軸対称性)。
- この対称性から、電気力線は棒の中心軸から放射状に、かつ軸に垂直な方向にまっすぐ広がると考えられます。もし斜めを向く成分があれば、それは対称性を破るからです。
- 導体表面から電気力線が出るときは、必ず表面に垂直になります。円筒状の導体棒の場合、表面に垂直な方向とは、まさに放射状の方向です。
- したがって、電気力線は、導体棒の表面全体から、棒の軸に垂直な向きに放射状に均一に湧き出します。
- 棒を軸方向から(左横から)見ると、点から放射状に線が広がるように見えます。
- 棒を側面から(正面から)見ると、直線から上下に平行な線が等間隔で出ているように見えます。
使用した物理公式
使用した物理公式
- 電気力線の性質
この設問は定性的な説明を求めるものであるため、計算過程はありません。
まっすぐで限りなく長いストローのような棒を想像してください。この棒全体にプラスの電気が均等に塗られています。電気力線はこの電気から出ていきますが、棒はどこを切っても同じで、どの方向から見ても(回転させても)同じなので、電気力線も偏ることなく、きれいサッパリと、棒からまっすぐ外側に向かって放射状に飛び出す形になります。
導体棒の周りの電気力線は、棒の軸に垂直なあらゆる方向へ、放射状にまっすぐ伸びていく。これは問題で与えられた図の通りであり、系の持つ高い対称性を反映した妥当な結論です。
問(2)
思考の道筋とポイント
電荷とそこから出る電気力線の本数の関係式 \(N = 4\pi k_0 Q\) を用います。まず、問題で指定された「導体棒の長さ \(L\) の部分」が持つ電気量 \(Q\) を計算し、その値を公式に代入します。
この設問における重要なポイント
- 電気力線の本数の公式: 正電荷 \(Q\) [C] から湧き出す電気力線の総本数 \(N\) は、\(N = 4\pi k_0 Q\) で与えられます。これはガウスの法則の基本です。
- 線電荷密度の定義: 単位長さあたりの電気量が \(q\) [C/m] であるため、長さ \(L\) [m] の部分が持つ電気量は、単純な掛け算 \(q \times L\) で求められます。
具体的な解説と立式
電気量 \(Q\) の点電荷から出る電気力線の総本数 \(N\) は、クーロンの法則の比例定数 \(k_0\) を用いて次のように表されます。
$$ N = 4\pi k_0 Q \quad \cdots ① $$
問題の導体棒は、単位長さあたり \(q\) [C/m] の電気量を持っています。したがって、長さ \(L\) [m] の部分が持つ電気量 \(Q_L\) は、
$$ Q_L = qL \quad \cdots ② $$
となります。
この長さ \(L\) の部分から出る電気力線の総本数 \(N_L\) を求めるには、①式の \(Q\) に②式の \(Q_L\) を代入します。
使用した物理公式
- 電気力線の本数: \(N = 4\pi k_0 Q\)
上記で立てた方針に従い、\(Q\) に \(qL\) を代入して \(N_L\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
N_L &= 4\pi k_0 Q_L \\[2.0ex]
&= 4\pi k_0 (qL) \\[2.0ex]
&= 4\pi k_0 qL \text{ [本]}
\end{aligned}
$$
電気力線の総本数は、その源となる電気の量に比例します。まず、注目している「長さ \(L\) の部分」にどれだけの電気量があるか(\(q \times L\))を計算します。次に、その電気量を本数に変換するための「換算係数」である \(4\pi k_0\) を掛けることで、答えが求まります。
導体棒の長さ \(L\) の部分から出る電気力線の本数は \(4\pi k_0 qL\) 本です。この本数は、線電荷密度 \(q\) と長さ \(L\) に比例しており、物理的に直感と合う妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
(1)で考えた電気力線の性質を再度用います。電気力線は、電荷がない空間では途中で消えたり、新たに生まれたりしません(これを「電気力線の保存」と呼びます)。また、電気力線は棒の軸に垂直な方向にのみ進みます。この2つの性質から、導体棒の長さ \(L\) の部分から出た電気力線が、周りを囲む円筒のどの部分を貫くかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 電気力線の保存則: 電荷のない領域では、電気力線の本数は保存されます。
- 電気力線の進行方向: (1)で考察した通り、電気力線はすべて棒の軸に垂直な方向(放射状)に進みます。このため、円筒の上面と底面(軸に垂直な面)を貫く電気力線は存在しません。
具体的な解説と立式
- (1)で確認したように、電気力線は導体棒から放射状に、つまり棒の軸に垂直な向きにのみ出ていきます。
- 電気力線は、その途中に電荷がなければ、消えたり生まれたりすることはありません。
- ここで考えるのは、導体棒の長さ \(L\) の部分を同軸に囲む、半径 \(r\)、長さ \(L\) の円筒です。
- 導体棒の長さ \(L\) の部分から出た電気力線は、すべて外側に向かいます。その進行方向は軸に垂直なので、円筒の上面および底面(蓋の部分)を貫くことはありません。
- したがって、導体棒の長さ \(L\) の部分から出た電気力線は、すべてがこの円筒の側面(曲面)を貫くことになります。
- よって、円筒の側面を貫く電気力線の本数 \(N_{\text{側面}}\) は、(2)で求めた、導体棒の長さ \(L\) の部分から出る電気力線の総本数 \(N_L\) に等しくなります。
使用した物理公式
- 電気力線の性質(保存性、進行方向)
(2)で求めた結果をそのまま用います。
$$ N_{\text{側面}} = N_L = 4\pi k_0 qL \text{ [本]} $$
棒からまっすぐ外側に向かって放たれた矢(電気力線)を想像してください。この矢は途中で消えたり曲がったりしません。棒の周りを筒で囲んだとき、矢は筒の上下の蓋には当たらず、必ず側面を突き抜けます。したがって、棒から放たれた矢の総本数と、筒の側面を突き抜ける矢の総本数は同じになります。
円筒の側面を貫く電気力線の本数は \(4\pi k_0 qL\) 本です。(2)の結果と全く同じになるのは、電気力線が保存され、かつその進行方向が軸に垂直であるという物理的状況を正しく反映した結果であり、妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
電界の強さ \(E\) が「単位面積を垂直に貫く電気力線の本数」と定義されることを利用します。この定義は、電気力線が密なところほど電界が強い、という直感的なイメージを数式化したものです。(3)で求めた「円筒側面を貫く電気力線の総本数」を、「円筒側面の面積」で割ることで、電界の強さ \(E\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 電界の強さと電気力線密度の関係: \(E = \displaystyle\frac{N}{S}\) が基本です。ここで \(N\) は面積 \(S\) を垂直に貫く電気力線の本数です。
- 円筒の側面積の公式: 半径 \(r\)、長さ(高さ) \(L\) の円筒の側面積は \(S = 2\pi rL\) です。
- 電界と面の垂直性: (1)で考えたように、電界の向きは放射状なので、円筒側面に対して常に垂直です。そのため、単純に割り算ができます。
具体的な解説と立式
電界の強さ \(E\) は、電界に垂直な面を単位面積あたりに貫く電気力線の本数(電気力線密度)として定義されます。
$$ E = \frac{\text{面を垂直に貫く電気力線の本数}}{\text{面の面積}} $$
導体棒から距離 \(r\) の点での電界の向きは、(1)で考察したように、棒の軸から放射状外向きです。これは、半径 \(r\) の円筒の側面に対して常に垂直な方向です。
(3)より、この円筒側面を貫く電気力線の総本数 \(N_{\text{側面}}\) は \(4\pi k_0 qL\) です。
一方、半径 \(r\)、長さ \(L\) の円筒の側面の面積 \(S_{\text{側面}}\) は、
$$ S_{\text{側面}} = 2\pi r L \quad \cdots ① $$
と計算できます。
したがって、導体棒から距離 \(r\) の点における電界の強さ \(E\) は、これらの値を用いて次のように立式できます。
$$ E = \frac{N_{\text{側面}}}{S_{\text{側面}}} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 電界の強さの定義(\(E=N/S\))
②式に、(3)で求めた \(N_{\text{側面}}\) の値と、①式で求めた \(S_{\text{側面}}\) の値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{4\pi k_0 qL}{2\pi rL} \\[2.0ex]
&= \frac{2 k_0 q}{r}
\end{aligned}
$$
計算の途中で \(L\) が約分されて消えることに注意してください。
電界の強さは、電気力線がどれくらい「混雑しているか」の度合いです。(3)で、円筒の側面を突き抜ける電気力線の総本数がわかりました。この本数を、突き抜ける面の面積(円筒の側面積)で割ってあげることで、「1平方メートルあたりの本数」が計算できます。これがまさに電界の強さです。
思考の道筋とポイント
高校物理の発展的な内容ですが、より普遍的なガウスの法則 \(\oint_S \vec{E} \cdot d\vec{S} = \frac{Q_{\text{内部}}}{\varepsilon_0}\) を用いて、(4)の電界 \(E\) を直接導出します。この法則を適用するために、問題の対称性を最大限に利用した「ガウス面」として、導体棒を同軸に囲む半径 \(r\)、長さ \(L\) の円筒を考えます。
この設問における重要なポイント
- ガウスの法則(積分形式): 任意の閉曲面 \(S\) を貫く電束(\(\vec{E} \cdot d\vec{S}\) の面積分)の総和は、その閉曲面内部にある全電荷 \(Q_{\text{内部}}\) を真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) で割った値に等しい。
- 対称性の利用: (1)で考察した対称性から、電界 \(\vec{E}\) の向きは動径方向(棒に垂直な放射状)であり、その大きさ \(E\) は軸からの距離 \(r\) のみに依存すると仮定します。
- 物理定数の関係: クーロン定数 \(k_0\) と真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) の間には \(k_0 = \displaystyle\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\) という重要な関係があります。
具体的な解説と立式
ガウスの法則は次式で与えられます。
$$ \oint_S \vec{E} \cdot d\vec{S} = \frac{Q_{\text{内部}}}{\varepsilon_0} \quad \cdots ① $$
ガウス面として、導体棒を同軸に囲む半径 \(r\)、長さ \(L\) の円筒閉曲面を考えます。この閉曲面についての左辺の面積分は、「側面」「上面」「下面」の3つの部分の和として計算できます。
- 上面と下面: 電界 \(\vec{E}\) は動径方向(水平向き)ですが、これらの面の面積ベクトル \(d\vec{S}\) は軸方向(鉛直向き)です。よって、\(\vec{E}\) と \(d\vec{S}\) は常に垂直なので、内積 \(\vec{E} \cdot d\vec{S}\) は0になります。したがって、上面と下面を貫く電束は0です。
- 側面: 側面上の任意の点において、電界 \(\vec{E}\) と面積ベクトル \(d\vec{S}\) は同じ向き(放射状外向き)で平行です。また、側面上のどの点でも軸からの距離は \(r\) で一定なので、電界の大きさ \(E\) は一定です。したがって、積分は単純な掛け算で計算できます。
$$ \int_{\text{側面}} \vec{E} \cdot d\vec{S} = E \times (\text{側面の面積}) = E \times (2\pi rL) \quad \cdots ② $$
以上から、①式の左辺は \(E \cdot 2\pi rL\) となります。
次に、①式の右辺を考えます。ガウス面である円筒の内部にある電荷 \(Q_{\text{内部}}\) は、導体棒の長さ \(L\) の部分に含まれる電荷に等しいので、
$$ Q_{\text{内部}} = qL \quad \cdots ③ $$
①式にこれらの結果を代入すると、次の関係式が得られます。
$$ E \cdot 2\pi rL = \frac{qL}{\varepsilon_0} \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- ガウスの法則: \(\oint_S \vec{E} \cdot d\vec{S} = \frac{Q_{\text{内部}}}{\varepsilon_0}\)
- クーロン定数と誘電率の関係: \(k_0 = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\)
④式を \(E\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{qL}{2\pi rL \varepsilon_0} \\[2.0ex]
&= \frac{q}{2\pi \varepsilon_0 r}
\end{aligned}
$$
このままでは \(k_0\) を使った形になっていないため、\(k_0 = \displaystyle\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\) の関係を使って式を変形します。分母分子を2倍すると \(4\pi\varepsilon_0\) の形が作れます。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{2q}{4\pi \varepsilon_0 r} \\[2.0ex]
&= 2q \cdot \left( \frac{1}{4\pi \varepsilon_0} \right) \cdot \frac{1}{r}
\end{aligned}
$$
ここで \(\displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0} = k_0\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
E &= 2q \cdot k_0 \cdot \frac{1}{r} \\[2.0ex]
&= \frac{2k_0 q}{r}
\end{aligned}
$$
ガウスの法則は、「ある領域を囲んだとき、その囲いから外に出ていく電気的な流れ(電束)の合計は、囲いの中にある電気の総量だけで決まる」という強力な法則です。この問題では、仮想的な円筒で棒を囲みます。対称性から、電気的な流れは円筒の側面だけをまっすぐ突き抜けることがわかります。したがって、「(流れの強さ=電界 \(E\))×(側面積)=(内部の電気量)÷(定数 \(\varepsilon_0\))」という非常にシンプルな関係式を立てることができ、これを解くことで電界 \(E\) が求められます。
導体棒から距離 \(r\) の点における電界の強さは \(E = \displaystyle\frac{2k_0 q}{r}\) [V/m] です。
この結果から、電界の強さは導体棒からの距離 \(r\) に反比例することがわかります。点電荷がつくる電界が \(r^2\) に反比例するのとは異なる関係であり、これは電荷が点ではなく線状に分布していることによる特徴です。また、最終的な式に \(L\) が含まれていないのは、「非常に長い」導体棒を考えているため、一部分の長さに依存しない普遍的な結果となっていることを示しており、物理的に妥当です。
ガウスの法則の積分形という、より厳密で一般的なアプローチを用いても、電気力線の本数を用いる誘導問題のアプローチと完全に一致しました。これは、電気力線の本数と密度の概念が、ガウスの法則を直感的に理解するための優れたモデルであることを示しています。どちらの考え方も理解しておくことが重要です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ガウスの法則(電気力線による表現):
- 核心: この問題全体を貫く最も重要な法則です。特に、総電荷 \(Q\) [C] から出る電気力線の総本数が \(N = 4\pi k_0 Q\) で与えられるという関係式が根幹をなします。
- 理解のポイント: この法則は、目に見えない電界を「電気力線」という仮想的な線で可視化し、その本数が電荷量に直接比例することを示しています。これにより、複雑な電界の計算を、より直感的な「本数の勘定」に置き換えることができます。
- 電界の強さと電気力線密度の関係:
- 核心: 電界の強さ \(E\) は、単位面積を垂直に貫く電気力線の本数(密度)に等しい(\(E = \displaystyle\frac{N}{S}\))と定義されます。
- 理解のポイント: 電気力線が「密」な場所ほど電界が強く、「疎」な場所ほど電界が弱い、という直感的なイメージを定量的に表現した法則です。ガウスの法則とこの定義を組み合わせることが、電界の強さを求めるための強力な手段となります。
- 対称性の利用:
- 核心: 「非常に長い」という問題設定から、系が軸対称性(回転させても同じ)および並進対称性(軸方向にずらしても同じ)を持つことを見抜くことが、この問題を解く上での隠れた核心です。
- 理解のポイント: この高い対称性があるからこそ、電界の向きが「放射状で軸に垂直」であると断定でき、計算を劇的に単純化するための仮想的な閉曲面(ガウス面)として円筒を選ぶことができるのです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 一様に帯電した無限に広い平面: ガウス面として、平面を貫くように直方体や円柱を設定します。対称性から、電界は平面に垂直で、距離によらず一様な大きさになります。
- 一様に帯電した球(導体球または絶縁体球): ガウス面として、電荷の中心と中心を合わせた同心球を考えます。球対称性から、電界は必ず中心からの放射状になります。球の外側では、全電荷が中心に集まった点電荷がつくる電界と同じになります。
- 同軸円筒コンデンサ: 内側と外側の円筒導体がつくる電界を考える問題で、今回の問題の直接的な応用形です。
- 初見の問題での着眼点:
- 電荷分布の対称性を見抜く: まず、問題で与えられた電荷の分布(点、線、面、球など)から、どのような対称性(球対称、軸対称など)があるかを見極めます。これが解法の種類を決定する最初のステップです。
- 適切なガウス面を設定する: 見抜いた対称性に合わせて、計算が最も簡単になるような仮想的な閉曲面(ガウス面)を考えます。基本は、①電界の向きとガウス面の向きが常に「平行」か「垂直」になる、②電界の大きさがガウス面上で「一定」になる、ような面を選ぶことです。
- ガウス面内部の電荷を正確に計算する: 設定したガウス面の内側にある総電荷量を、電荷密度(線密度 \(q\)、面密度 \(\sigma\)、体積密度 \(\rho\))を使って正しく計算します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ガウスの法則の適用条件の誤解:
- 誤解: どんな電荷分布でもガウスの法則を使えば簡単に電界が求まると思ってしまう。
- 対策: ガウスの法則の式自体は常に成り立ちますが、それを使って電界 \(E\) を簡単に計算できるのは、この問題のように高い対称性がある場合に限られることを理解しましょう。対称性がないと、電界の向きや大きさが場所によって複雑に変化するため、積分計算が困難または不可能になります。
- ガウス面に設定する面積の混同:
- 誤解: 電界を計算する際に、ガウスの法則の左辺で使う面積 \(S\)(この問題では円筒の側面積 \(2\pi rL\))と、電荷が存在する導体自体の表面積などを混同してしまう。
- 対策: ガウスの法則で使う面積は、あくまで「自分で設定した仮想的な閉曲面(ガウス面)の面積」であることを常に意識しましょう。
- 電気力線の本数と電束の混同:
- 誤解: 高校物理で学ぶ電気力線の本数 \(N = 4\pi k_0 Q\) と、大学物理で標準的に使われる電束 \(\Phi = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0}\) を混同してしまう。
- 対策: 両者は本質的に同じ物理現象を表していますが、比例定数が異なります(\(N = 4\pi k_0 \Phi\) の関係)。クーロン定数 \(k_0\) と真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) の間に \(k_0 = \displaystyle\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\) の関係があることを理解し、どちらの表現で問われても対応できるようにしておくと万全です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電気力線の湧き出しイメージ: 無限に長い帯電した導体棒を「シャワーヘッドの穴が無限に並んだ長いホース」のようにイメージします。各穴から水がまっすぐ垂直に噴き出す様子が、電気力線が放射状に広がる様子と対応します。
- ガウス面を「魚獲りの網」に例える: ガウス面は、電荷という「魚の発生源」から出てくる「魚(電気力線)」を捕らえるための網と考えることができます。「網を通り抜ける魚の総数は、網の中にどれだけの発生源があるかだけで決まる」というのがガウスの法則のイメージです。網の形や大きさを変えても、中の発生源が同じなら捕獲総数は変わりません。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 対称性を意識した作図: (1)の解答図のように、棒を軸方向から見た図(軸対称性がわかる)と、側面から見た図(並進対称性がわかる)の両方を描くことで、3次元的な電界の分布を直感的に理解しやすくなります。
- ガウス面を明記する: 自分で問題を解く際には、考えたガウス面(この問題では円筒)を点線などで明確に図に描き加えましょう。これにより、どの面積を使い、どの内部電荷を考えるべきかが一目瞭然になります。
- ベクトルを正確に描く: 別解のようにガウスの法則の積分形を使う場合、ガウス面の各部分(側面、上面、下面)における電界ベクトル \(\vec{E}\) と面積ベクトル \(d\vec{S}\) の向きを矢印で描き込むと、内積が0になる部分とそうでない部分が視覚的に判断でき、ミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電気力線の本数の公式 (\(N = 4\pi k_0 Q\)):
- 選定理由: (2)で、電荷の量という「原因」から、それが発生源となる電気力線の総量という「結果」を求めるため。これは定義そのものです。
- 適用根拠: クーロン力の世界における「源」と「そこから生じる場」の関係を定量化した、電磁気学の基本法則です。
- 電気力線の保存則(言葉による法則):
- 選定理由: (3)で、導体棒から出た電気力線が、途中で消滅することなくすべて円筒側面を貫くことを論理的に説明するため。
- 適用根拠: 電荷のない空間では電界の湧き出し・吸い込みがないという電磁気学の基本原理を、電気力線というモデルで平易に表現したものです。
- 電界と電気力線密度の関係 (\(E=N/S\)):
- 選定理由: (4)で、電気力線の本数という仮想的な量から、測定可能な物理量である電界の強さ \(E\) を導出するため。
- 適用根拠: 電界の強さを直感的に理解するための定義です。この定義があるからこそ、(2)と(3)で計算した本数が物理的な意味を持ちます。
- ガウスの法則(積分形):
- 選定理由: (別解) 電荷分布から電界を求める、より根源的で普遍的な法則を用いるため。高校範囲を超えることもありますが、本質的な理解を深める上で極めて有効です。
- 適用根拠: マクスウェル方程式の一つであり、静電場に関する最も基本的な法則の一つです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- メインの解法(電気力線アプローチ):
- 定性分析 (問1): 対称性から電界の向き(放射状で軸に垂直)を特定する。
- 源の計算 (問2): 長さ \(L\) の部分の電荷 \(Q_L = qL\) を計算し、ガウスの法則 \(N_L = 4\pi k_0 Q_L\) で電気力線の総本数を求める。
- 通過本数の特定 (問3): 電気力線の保存則と進行方向から、\(N_L\) がそのまま半径 \(r\) の円筒側面を貫く本数 \(N_{\text{側面}}\) になると結論づける。
- 密度の計算 (問4): 円筒の側面積 \(S_{\text{側面}} = 2\pi rL\) を計算し、電界の定義式 \(E = \displaystyle\frac{N_{\text{側面}}}{S_{\text{側面}}}\) に各値を代入して \(E\) を求める。
- 別解(ガウスの法則・積分形アプローチ):
- ガウス面の設定: 対称性から、ガウス面として半径 \(r\)、長さ \(L\) の円筒を考える。
- 電束の計算(左辺): 対称性を利用して面積分 \(\oint \vec{E} \cdot d\vec{S}\) を計算する。上面・下面は0、側面は \(E \times (2\pi rL)\) となる。
- 内部電荷の計算(右辺): ガウス面内部の電荷 \(Q_{\text{内部}} = qL\) を計算する。
- 立式と計算: ガウスの法則 \(E \cdot (2\pi rL) = \displaystyle\frac{qL}{\varepsilon_0}\) を立てて \(E\) について解き、最後に \(k_0\) を使った形に変換する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題はまさにその典型例です。最後まで文字式で計算を進め、最終的に \(L\) がきれいに約分されて消えることを確認しましょう。物理的に意味のある変数が消える過程を見ることで、理解が深まります。
- 物理定数の関係式を正確に使う: \(k_0 = \displaystyle\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\) の関係は非常に重要です。特に別解のように \(\varepsilon_0\) で計算した結果を \(k_0\) に変換する、あるいはその逆の操作は頻出します。式変形を焦らず丁寧に行いましょう。
- 面積の公式の確認: 円筒の側面積 \(2\pi rL\) や、球の表面積 \(4\pi r^2\) など、ガウスの法則で頻出する面積の公式を正確に覚えておきましょう。特に円周 \(2\pi r\) と混同しないように注意が必要です。
- 約分を慎重に: 最終段階で \(4\pi k_0 qL\) を \(2\pi rL\) で割る際、\(\pi\)、\(L\)、そして係数の2を正確に約分します。単純な計算ほど見直しを怠らない習慣が大切です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- \(E = \displaystyle\frac{2k_0 q}{r}\) の吟味:
- 距離依存性: 電界が \(r\) に反比例(\(1/r\))しています。これは、電荷が線状に分布しているため、遠ざかっても点電荷がつくる電界(\(1/r^2\))ほど急激には弱まらないことを意味しており、直感的に妥当です。
- 電荷密度依存性: 電界が線電荷密度 \(q\) に比例しています。電荷が多ければ電界が強くなるのは当然であり、妥当です。
- \(L\) に依存しない: 最終結果に、計算の途中で導入した長さ \(L\) が含まれていません。これは「無限に長い」という問題設定を正しく反映しています。もし結果に \(L\) が残っていたら、どこかで計算ミスをしている可能性が高いと判断できます。
- \(E = \displaystyle\frac{2k_0 q}{r}\) の吟味:
- 別解との比較:
- 電気力線の本数という直感的・モデル的なアプローチと、ガウスの法則の積分形という厳密・普遍的なアプローチで、全く同じ \(E = \displaystyle\frac{2k_0 q}{r}\) という結果が得られました。これは、両者のアプローチの正しさと、電気力線モデルの有効性を強力に裏付けています。異なる視点から同じ結論に至ることは、物理的理解が深まっている証拠となります。
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