319 電気力線の本数と電界
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、無限に長い直線状の導体が一様に帯電している状況で、その周りにできる電界(電場)の強さを求める問題です。ガウスの法則を、電気力線という直感的な概念を用いて段階的に理解させる構成になっています。
- 導体棒の線電荷密度: \(q \text{ [C/m]} (q>0)\)
- クーロンの法則の比例定数: \(k_0 \text{ [N}\cdot\text{m}^2\text{/C}^2\text{]}\)
- (1) 導体棒の周りの電気力線の概略図。
- (2) 導体棒の長さ \(L\) の部分から出る電気力線の総本数。
- (3) 導体棒を同軸に囲む、半径 \(r\)、長さ \(L\) の円筒の側面を貫く電気力線の本数。
- (4) 導体棒から距離 \(r\) の点における電界の強さ \(E\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ガウスの法則を用いた、一様に帯電した無限長直線導体がつくる電界の導出」です。電気力線の性質を理解し、それを用いて電界の強さを求めるプロセスを学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電気力線の性質: 正電荷から湧き出し、負電荷に吸い込まれる。途中で消滅・分岐・交差しない。導体表面とは垂直に交わる。
- ガウスの法則(電気力線による表現): 任意の閉曲面を貫いて外に出る電気力線の正味の本数は、内部の総電荷 \(Q\) を用いて \(N = 4\pi k_0 Q\) と表される。
- 電界の強さの定義: 電界の強さ \(E\) は、その場所での単位面積あたりの電気力線の本数(電気力線密度)に等しい。
- 対称性の利用: 物理的な系の対称性から、電界の向きや大きさの分布を推測する。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)で「非常に長い」という条件から系の対称性を考え、電気力線がどのように分布するかを定性的に把握します。
- 次に、(2)でガウスの法則の基本公式を使い、導体棒の特定の部分から出る電気力線の総本数を計算します。
- (3)では、電気力線が途中で消えないという性質と(1)で考えた向きを利用して、仮想的な円筒の側面を貫く本数を求めます。
- 最後に、(4)で電界の強さが電気力線の密度で定義されることを用い、(3)の結果と円筒の側面積から電界の強さ \(E\) を導出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
「非常に長い導体棒」という設定が重要です。これにより、棒の端の影響を無視でき、高い対称性を持つ系として扱うことができます。電気力線の様子は、この対称性から決定されます。また、電気力線は導体表面に垂直であるという基本性質も使います。
この設問における重要なポイント
- 軸対称性: 導体棒は、その中心軸の周りに回転させても物理的な状況は変わりません。このため、電界(電気力線)も軸に対して対称的、すなわち放射状に広がるはずです。
- 並進対称性: 導体棒は、その軸方向に平行移動させても(端が無限遠にあるため)状況は変わりません。このため、電界の様子は軸からの距離のみに依存し、軸に沿ったどの位置でも同じになります。
- 導体の性質: 静電状態にある導体の表面から出る電気力線は、必ず表面に垂直です。
具体的な解説と立式
この問題は定性的な説明を求めるものです。
- 導体棒は非常に長く、一様に帯電しているため、どの部分も同じ状況と見なせます(並進対称性)。また、中心軸の周りのどの方向も等価です(軸対称性)。
- この対称性から、電気力線は棒の中心軸から放射状に、かつ軸に垂直な方向にまっすぐ広がると考えられます。もし斜めを向く成分があれば、それは対称性を破るからです。
- 導体表面から電気力線が出るときは、必ず表面に垂直になります。円筒状の導体棒の場合、表面に垂直な方向とは、まさに放射状の方向です。
- したがって、電気力線は、導体棒の表面全体から、棒の軸に垂直な向きに放射状に均一に湧き出します。
- 棒を軸方向から(左横から)見ると、点から放射状に線が広がるように見えます。
- 棒を側面から(正面から)見ると、直線から上下に平行な線が等間隔で出ているように見えます。
使用した物理公式
使用した物理公式
- 電気力線の性質
この設問は定性的な説明を求めるものであるため、計算過程はありません。
まっすぐで限りなく長いストローのような棒を想像してください。この棒全体にプラスの電気が均等に塗られています。電気力線はこの電気から出ていきますが、棒はどこを切っても同じで、どの方向から見ても(回転させても)同じなので、電気力線も偏ることなく、きれいサッパリと、棒からまっすぐ外側に向かって放射状に飛び出す形になります。
導体棒の周りの電気力線は、棒の軸に垂直なあらゆる方向へ、放射状にまっすぐ伸びていく。これは問題で与えられた図の通りであり、系の持つ高い対称性を反映した妥当な結論です。
問(2)
思考の道筋とポイント
電荷とそこから出る電気力線の本数の関係式 \(N = 4\pi k_0 Q\) を用います。まず、問題で指定された「導体棒の長さ \(L\) の部分」が持つ電気量 \(Q\) を計算し、その値を公式に代入します。
この設問における重要なポイント
- 電気力線の本数の公式: 正電荷 \(Q\) [C] から湧き出す電気力線の総本数 \(N\) は、\(N = 4\pi k_0 Q\) で与えられます。これはガウスの法則の基本です。
- 線電荷密度の定義: 単位長さあたりの電気量が \(q\) [C/m] であるため、長さ \(L\) [m] の部分が持つ電気量は、単純な掛け算 \(q \times L\) で求められます。
具体的な解説と立式
電気量 \(Q\) の点電荷から出る電気力線の総本数 \(N\) は、クーロンの法則の比例定数 \(k_0\) を用いて次のように表されます。
$$ N = 4\pi k_0 Q \quad \cdots ① $$
問題の導体棒は、単位長さあたり \(q\) [C/m] の電気量を持っています。したがって、長さ \(L\) [m] の部分が持つ電気量 \(Q_L\) は、
$$ Q_L = qL \quad \cdots ② $$
となります。
この長さ \(L\) の部分から出る電気力線の総本数 \(N_L\) を求めるには、①式の \(Q\) に②式の \(Q_L\) を代入します。
使用した物理公式
- 電気力線の本数: \(N = 4\pi k_0 Q\)
上記で立てた方針に従い、\(Q\) に \(qL\) を代入して \(N_L\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
N_L &= 4\pi k_0 Q_L \\[2.0ex]&= 4\pi k_0 (qL) \\[2.0ex]&= 4\pi k_0 qL \text{ [本]}
\end{aligned}
$$
電気力線の総本数は、その源となる電気の量に比例します。まず、注目している「長さ \(L\) の部分」にどれだけの電気量があるか(\(q \times L\))を計算します。次に、その電気量を本数に変換するための「換算係数」である \(4\pi k_0\) を掛けることで、答えが求まります。
導体棒の長さ \(L\) の部分から出る電気力線の本数は \(4\pi k_0 qL\) 本です。この本数は、線電荷密度 \(q\) と長さ \(L\) に比例しており、物理的に直感と合う妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
(1)で考えた電気力線の性質を再度用います。電気力線は、電荷がない空間では途中で消えたり、新たに生まれたりしません(これを「電気力線の保存」と呼びます)。また、電気力線は棒の軸に垂直な方向にのみ進みます。この2つの性質から、導体棒の長さ \(L\) の部分から出た電気力線が、周りを囲む円筒のどの部分を貫くかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 電気力線の保存則: 電荷のない領域では、電気力線の本数は保存されます。
- 電気力線の進行方向: (1)で考察した通り、電気力線はすべて棒の軸に垂直な方向(放射状)に進みます。このため、円筒の上面と底面(軸に垂直な面)を貫く電気力線は存在しません。
具体的な解説と立式
- (1)で確認したように、電気力線は導体棒から放射状に、つまり棒の軸に垂直な向きにのみ出ていきます。
- 電気力線は、その途中に電荷がなければ、消えたり生まれたりすることはありません。
- ここで考えるのは、導体棒の長さ \(L\) の部分を同軸に囲む、半径 \(r\)、長さ \(L\) の円筒です。
- 導体棒の長さ \(L\) の部分から出た電気力線は、すべて外側に向かいます。その進行方向は軸に垂直なので、円筒の上面および底面(蓋の部分)を貫くことはありません。
- したがって、導体棒の長さ \(L\) の部分から出た電気力線は、すべてがこの円筒の側面(曲面)を貫くことになります。
- よって、円筒の側面を貫く電気力線の本数 \(N_{\text{側面}}\) は、(2)で求めた、導体棒の長さ \(L\) の部分から出る電気力線の総本数 \(N_L\) に等しくなります。
使用した物理公式
- 電気力線の性質(保存性、進行方向)
(2)で求めた結果をそのまま用います。
$$ N_{\text{側面}} = N_L = 4\pi k_0 qL \text{ [本]} $$
棒からまっすぐ外側に向かって放たれた矢(電気力線)を想像してください。この矢は途中で消えたり曲がったりしません。棒の周りを筒で囲んだとき、矢は筒の上下の蓋には当たらず、必ず側面を突き抜けます。したがって、棒から放たれた矢の総本数と、筒の側面を突き抜ける矢の総本数は同じになります。
円筒の側面を貫く電気力線の本数は \(4\pi k_0 qL\) 本です。(2)の結果と全く同じになるのは、電気力線が保存され、かつその進行方向が軸に垂直であるという物理的状況を正しく反映した結果であり、妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
電界の強さ \(E\) が「単位面積を垂直に貫く電気力線の本数」と定義されることを利用します。この定義は、電気力線が密なところほど電界が強い、という直感的なイメージを数式化したものです。(3)で求めた「円筒側面を貫く電気力線の総本数」を、「円筒側面の面積」で割ることで、電界の強さ \(E\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 電界の強さと電気力線密度の関係: \(E = \displaystyle\frac{N}{S}\) が基本です。ここで \(N\) は面積 \(S\) を垂直に貫く電気力線の本数です。
- 円筒の側面積の公式: 半径 \(r\)、長さ(高さ) \(L\) の円筒の側面積は \(S = 2\pi rL\) です。
- 電界と面の垂直性: (1)で考えたように、電界の向きは放射状なので、円筒側面に対して常に垂直です。そのため、単純に割り算ができます。
具体的な解説と立式
電界の強さ \(E\) は、電界に垂直な面を単位面積あたりに貫く電気力線の本数(電気力線密度)として定義されます。
$$ E = \frac{\text{面を垂直に貫く電気力線の本数}}{\text{面の面積}} $$
導体棒から距離 \(r\) の点での電界の向きは、(1)で考察したように、棒の軸から放射状外向きです。これは、半径 \(r\) の円筒の側面に対して常に垂直な方向です。
(3)より、この円筒側面を貫く電気力線の総本数 \(N_{\text{側面}}\) は \(4\pi k_0 qL\) です。
一方、半径 \(r\)、長さ \(L\) の円筒の側面の面積 \(S_{\text{側面}}\) は、
$$ S_{\text{側面}} = 2\pi r L \quad \cdots ① $$
と計算できます。
したがって、導体棒から距離 \(r\) の点における電界の強さ \(E\) は、これらの値を用いて次のように立式できます。
$$ E = \frac{N_{\text{側面}}}{S_{\text{側面}}} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 電界の強さの定義(\(E=N/S\))
②式に、(3)で求めた \(N_{\text{側面}}\) の値と、①式で求めた \(S_{\text{側面}}\) の値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{4\pi k_0 qL}{2\pi rL} \\[2.0ex]&= \frac{2 k_0 q}{r}
\end{aligned}
$$
計算の途中で \(L\) が約分されて消えることに注意してください。
電界の強さは、電気力線がどれくらい「混雑しているか」の度合いです。(3)で、円筒の側面を突き抜ける電気力線の総本数がわかりました。この本数を、突き抜ける面の面積(円筒の側面積)で割ってあげることで、「1平方メートルあたりの本数」が計算できます。これがまさに電界の強さです。
思考の道筋とポイント
高校物理の発展的な内容ですが、より普遍的なガウスの法則 \(\oint_S \vec{E} \cdot d\vec{S} = \frac{Q_{\text{内部}}}{\varepsilon_0}\) を用いて、(4)の電界 \(E\) を直接導出します。この法則を適用するために、問題の対称性を最大限に利用した「ガウス面」として、導体棒を同軸に囲む半径 \(r\)、長さ \(L\) の円筒を考えます。
この設問における重要なポイント
- ガウスの法則(積分形式): 任意の閉曲面 \(S\) を貫く電束(\(\vec{E} \cdot d\vec{S}\) の面積分)の総和は、その閉曲面内部にある全電荷 \(Q_{\text{内部}}\) を真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) で割った値に等しい。
- 対称性の利用: (1)で考察した対称性から、電界 \(\vec{E}\) の向きは動径方向(棒に垂直な放射状)であり、その大きさ \(E\) は軸からの距離 \(r\) のみに依存すると仮定します。
- 物理定数の関係: クーロン定数 \(k_0\) と真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) の間には \(k_0 = \displaystyle\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\) という重要な関係があります。
具体的な解説と立式
ガウスの法則は次式で与えられます。
$$ \oint_S \vec{E} \cdot d\vec{S} = \frac{Q_{\text{内部}}}{\varepsilon_0} \quad \cdots ① $$
ガウス面として、導体棒を同軸に囲む半径 \(r\)、長さ \(L\) の円筒閉曲面を考えます。この閉曲面についての左辺の面積分は、「側面」「上面」「下面」の3つの部分の和として計算できます。
- 上面と下面: 電界 \(\vec{E}\) は動径方向(水平向き)ですが、これらの面の面積ベクトル \(d\vec{S}\) は軸方向(鉛直向き)です。よって、\(\vec{E}\) と \(d\vec{S}\) は常に垂直なので、内積 \(\vec{E} \cdot d\vec{S}\) は0になります。したがって、上面と下面を貫く電束は0です。
- 側面: 側面上の任意の点において、電界 \(\vec{E}\) と面積ベクトル \(d\vec{S}\) は同じ向き(放射状外向き)で平行です。また、側面上のどの点でも軸からの距離は \(r\) で一定なので、電界の大きさ \(E\) は一定です。したがって、積分は単純な掛け算で計算できます。
$$ \int_{\text{側面}} \vec{E} \cdot d\vec{S} = E \times (\text{側面の面積}) = E \times (2\pi rL) \quad \cdots ② $$
以上から、①式の左辺は \(E \cdot 2\pi rL\) となります。
次に、①式の右辺を考えます。ガウス面である円筒の内部にある電荷 \(Q_{\text{内部}}\) は、導体棒の長さ \(L\) の部分に含まれる電荷に等しいので、
$$ Q_{\text{内部}} = qL \quad \cdots ③ $$
①式にこれらの結果を代入すると、次の関係式が得られます。
$$ E \cdot 2\pi rL = \frac{qL}{\varepsilon_0} \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- ガウスの法則: \(\oint_S \vec{E} \cdot d\vec{S} = \frac{Q_{\text{内部}}}{\varepsilon_0}\)
- クーロン定数と誘電率の関係: \(k_0 = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\)
④式を \(E\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{qL}{2\pi rL \varepsilon_0} \\[2.0ex]&= \frac{q}{2\pi \varepsilon_0 r}
\end{aligned}
$$
このままでは \(k_0\) を使った形になっていないため、\(k_0 = \displaystyle\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\) の関係を使って式を変形します。分母分子を2倍すると \(4\pi\varepsilon_0\) の形が作れます。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{2q}{4\pi \varepsilon_0 r} \\[2.0ex]&= 2q \cdot \left( \frac{1}{4\pi \varepsilon_0} \right) \cdot \frac{1}{r}
\end{aligned}
$$
ここで \(\displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0} = k_0\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
E &= 2q \cdot k_0 \cdot \frac{1}{r} \\[2.0ex]&= \frac{2k_0 q}{r}
\end{aligned}
$$
ガウスの法則は、「ある領域を囲んだとき、その囲いから外に出ていく電気的な流れ(電束)の合計は、囲いの中にある電気の総量だけで決まる」という強力な法則です。この問題では、仮想的な円筒で棒を囲みます。対称性から、電気的な流れは円筒の側面だけをまっすぐ突き抜けることがわかります。したがって、「(流れの強さ=電界 \(E\))×(側面積)=(内部の電気量)÷(定数 \(\varepsilon_0\))」という非常にシンプルな関係式を立てることができ、これを解くことで電界 \(E\) が求められます。
導体棒から距離 \(r\) の点における電界の強さは \(E = \displaystyle\frac{2k_0 q}{r}\) [V/m] です。
この結果から、電界の強さは導体棒からの距離 \(r\) に反比例することがわかります。点電荷がつくる電界が \(r^2\) に反比例するのとは異なる関係であり、これは電荷が点ではなく線状に分布していることによる特徴です。また、最終的な式に \(L\) が含まれていないのは、「非常に長い」導体棒を考えているため、一部分の長さに依存しない普遍的な結果となっていることを示しており、物理的に妥当です。
ガウスの法則の積分形という、より厳密で一般的なアプローチを用いても、電気力線の本数を用いる誘導問題のアプローチと完全に一致しました。これは、電気力線の本数と密度の概念が、ガウスの法則を直感的に理解するための優れたモデルであることを示しています。どちらの考え方も理解しておくことが重要です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ガウスの法則(電気力線による表現):
- 核心: この問題全体を貫く最も重要な法則です。特に、総電荷 \(Q\) [C] から出る電気力線の総本数が \(N = 4\pi k_0 Q\) で与えられるという関係式が根幹をなします。
- 理解のポイント: この法則は、目に見えない電界を「電気力線」という仮想的な線で可視化し、その本数が電荷量に直接比例することを示しています。これにより、複雑な電界の計算を、より直感的な「本数の勘定」に置き換えることができます。
- 電界の強さと電気力線密度の関係:
- 核心: 電界の強さ \(E\) は、単位面積を垂直に貫く電気力線の本数(密度)に等しい(\(E = \displaystyle\frac{N}{S}\))と定義されます。
- 理解のポイント: 電気力線が「密」な場所ほど電界が強く、「疎」な場所ほど電界が弱い、という直感的なイメージを定量的に表現した法則です。ガウスの法則とこの定義を組み合わせることが、電界の強さを求めるための強力な手段となります。
- 対称性の利用:
- 核心: 「非常に長い」という問題設定から、系が軸対称性(回転させても同じ)および並進対称性(軸方向にずらしても同じ)を持つことを見抜くことが、この問題を解く上での隠れた核心です。
- 理解のポイント: この高い対称性があるからこそ、電界の向きが「放射状で軸に垂直」であると断定でき、計算を劇的に単純化するための仮想的な閉曲面(ガウス面)として円筒を選ぶことができるのです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 一様に帯電した無限に広い平面: ガウス面として、平面を貫くように直方体や円柱を設定します。対称性から、電界は平面に垂直で、距離によらず一様な大きさになります。
- 一様に帯電した球(導体球または絶縁体球): ガウス面として、電荷の中心と中心を合わせた同心球を考えます。球対称性から、電界は必ず中心からの放射状になります。球の外側では、全電荷が中心に集まった点電荷がつくる電界と同じになります。
- 同軸円筒コンデンサ: 内側と外側の円筒導体がつくる電界を考える問題で、今回の問題の直接的な応用形です。
- 初見の問題での着眼点:
- 電荷分布の対称性を見抜く: まず、問題で与えられた電荷の分布(点、線、面、球など)から、どのような対称性(球対称、軸対称など)があるかを見極めます。これが解法の種類を決定する最初のステップです。
- 適切なガウス面を設定する: 見抜いた対称性に合わせて、計算が最も簡単になるような仮想的な閉曲面(ガウス面)を考えます。基本は、①電界の向きとガウス面の向きが常に「平行」か「垂直」になる、②電界の大きさがガウス面上で「一定」になる、ような面を選ぶことです。
- ガウス面内部の電荷を正確に計算する: 設定したガウス面の内側にある総電荷量を、電荷密度(線密度 \(q\)、面密度 \(\sigma\)、体積密度 \(\rho\))を使って正しく計算します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ガウスの法則の適用条件の誤解:
- 誤解: どんな電荷分布でもガウスの法則を使えば簡単に電界が求まると思ってしまう。
- 対策: ガウスの法則の式自体は常に成り立ちますが、それを使って電界 \(E\) を簡単に計算できるのは、この問題のように高い対称性がある場合に限られることを理解しましょう。対称性がないと、電界の向きや大きさが場所によって複雑に変化するため、積分計算が困難または不可能になります。
- ガウス面に設定する面積の混同:
- 誤解: 電界を計算する際に、ガウスの法則の左辺で使う面積 \(S\)(この問題では円筒の側面積 \(2\pi rL\))と、電荷が存在する導体自体の表面積などを混同してしまう。
- 対策: ガウスの法則で使う面積は、あくまで「自分で設定した仮想的な閉曲面(ガウス面)の面積」であることを常に意識しましょう。
- 電気力線の本数と電束の混同:
- 誤解: 高校物理で学ぶ電気力線の本数 \(N = 4\pi k_0 Q\) と、大学物理で標準的に使われる電束 \(\Phi = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0}\) を混同してしまう。
- 対策: 両者は本質的に同じ物理現象を表していますが、比例定数が異なります(\(N = 4\pi k_0 \Phi\) の関係)。クーロン定数 \(k_0\) と真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) の間に \(k_0 = \displaystyle\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\) の関係があることを理解し、どちらの表現で問われても対応できるようにしておくと万全です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電気力線の湧き出しイメージ: 無限に長い帯電した導体棒を「シャワーヘッドの穴が無限に並んだ長いホース」のようにイメージします。各穴から水がまっすぐ垂直に噴き出す様子が、電気力線が放射状に広がる様子と対応します。
- ガウス面を「魚獲りの網」に例える: ガウス面は、電荷という「魚の発生源」から出てくる「魚(電気力線)」を捕らえるための網と考えることができます。「網を通り抜ける魚の総数は、網の中にどれだけの発生源があるかだけで決まる」というのがガウスの法則のイメージです。網の形や大きさを変えても、中の発生源が同じなら捕獲総数は変わりません。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 対称性を意識した作図: (1)の解答図のように、棒を軸方向から見た図(軸対称性がわかる)と、側面から見た図(並進対称性がわかる)の両方を描くことで、3次元的な電界の分布を直感的に理解しやすくなります。
- ガウス面を明記する: 自分で問題を解く際には、考えたガウス面(この問題では円筒)を点線などで明確に図に描き加えましょう。これにより、どの面積を使い、どの内部電荷を考えるべきかが一目瞭然になります。
- ベクトルを正確に描く: 別解のようにガウスの法則の積分形を使う場合、ガウス面の各部分(側面、上面、下面)における電界ベクトル \(\vec{E}\) と面積ベクトル \(d\vec{S}\) の向きを矢印で描き込むと、内積が0になる部分とそうでない部分が視覚的に判断でき、ミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電気力線の本数の公式 (\(N = 4\pi k_0 Q\)):
- 選定理由: (2)で、電荷の量という「原因」から、それが発生源となる電気力線の総量という「結果」を求めるため。これは定義そのものです。
- 適用根拠: クーロン力の世界における「源」と「そこから生じる場」の関係を定量化した、電磁気学の基本法則です。
- 電気力線の保存則(言葉による法則):
- 選定理由: (3)で、導体棒から出た電気力線が、途中で消滅することなくすべて円筒側面を貫くことを論理的に説明するため。
- 適用根拠: 電荷のない空間では電界の湧き出し・吸い込みがないという電磁気学の基本原理を、電気力線というモデルで平易に表現したものです。
- 電界と電気力線密度の関係 (\(E=N/S\)):
- 選定理由: (4)で、電気力線の本数という仮想的な量から、測定可能な物理量である電界の強さ \(E\) を導出するため。
- 適用根拠: 電界の強さを直感的に理解するための定義です。この定義があるからこそ、(2)と(3)で計算した本数が物理的な意味を持ちます。
- ガウスの法則(積分形):
- 選定理由: (別解) 電荷分布から電界を求める、より根源的で普遍的な法則を用いるため。高校範囲を超えることもありますが、本質的な理解を深める上で極めて有効です。
- 適用根拠: マクスウェル方程式の一つであり、静電場に関する最も基本的な法則の一つです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- メインの解法(電気力線アプローチ):
- 定性分析 (問1): 対称性から電界の向き(放射状で軸に垂直)を特定する。
- 源の計算 (問2): 長さ \(L\) の部分の電荷 \(Q_L = qL\) を計算し、ガウスの法則 \(N_L = 4\pi k_0 Q_L\) で電気力線の総本数を求める。
- 通過本数の特定 (問3): 電気力線の保存則と進行方向から、\(N_L\) がそのまま半径 \(r\) の円筒側面を貫く本数 \(N_{\text{側面}}\) になると結論づける。
- 密度の計算 (問4): 円筒の側面積 \(S_{\text{側面}} = 2\pi rL\) を計算し、電界の定義式 \(E = \displaystyle\frac{N_{\text{側面}}}{S_{\text{側面}}}\) に各値を代入して \(E\) を求める。
- 別解(ガウスの法則・積分形アプローチ):
- ガウス面の設定: 対称性から、ガウス面として半径 \(r\)、長さ \(L\) の円筒を考える。
- 電束の計算(左辺): 対称性を利用して面積分 \(\oint \vec{E} \cdot d\vec{S}\) を計算する。上面・下面は0、側面は \(E \times (2\pi rL)\) となる。
- 内部電荷の計算(右辺): ガウス面内部の電荷 \(Q_{\text{内部}} = qL\) を計算する。
- 立式と計算: ガウスの法則 \(E \cdot (2\pi rL) = \displaystyle\frac{qL}{\varepsilon_0}\) を立てて \(E\) について解き、最後に \(k_0\) を使った形に変換する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題はまさにその典型例です。最後まで文字式で計算を進め、最終的に \(L\) がきれいに約分されて消えることを確認しましょう。物理的に意味のある変数が消える過程を見ることで、理解が深まります。
- 物理定数の関係式を正確に使う: \(k_0 = \displaystyle\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\) の関係は非常に重要です。特に別解のように \(\varepsilon_0\) で計算した結果を \(k_0\) に変換する、あるいはその逆の操作は頻出します。式変形を焦らず丁寧に行いましょう。
- 面積の公式の確認: 円筒の側面積 \(2\pi rL\) や、球の表面積 \(4\pi r^2\) など、ガウスの法則で頻出する面積の公式を正確に覚えておきましょう。特に円周 \(2\pi r\) と混同しないように注意が必要です。
- 約分を慎重に: 最終段階で \(4\pi k_0 qL\) を \(2\pi rL\) で割る際、\(\pi\)、\(L\)、そして係数の2を正確に約分します。単純な計算ほど見直しを怠らない習慣が大切です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- \(E = \displaystyle\frac{2k_0 q}{r}\) の吟味:
- 距離依存性: 電界が \(r\) に反比例(\(1/r\))しています。これは、電荷が線状に分布しているため、遠ざかっても点電荷がつくる電界(\(1/r^2\))ほど急激には弱まらないことを意味しており、直感的に妥当です。
- 電荷密度依存性: 電界が線電荷密度 \(q\) に比例しています。電荷が多ければ電界が強くなるのは当然であり、妥当です。
- \(L\) に依存しない: 最終結果に、計算の途中で導入した長さ \(L\) が含まれていません。これは「無限に長い」という問題設定を正しく反映しています。もし結果に \(L\) が残っていたら、どこかで計算ミスをしている可能性が高いと判断できます。
- \(E = \displaystyle\frac{2k_0 q}{r}\) の吟味:
- 別解との比較:
- 電気力線の本数という直感的・モデル的なアプローチと、ガウスの法則の積分形という厳密・普遍的なアプローチで、全く同じ \(E = \displaystyle\frac{2k_0 q}{r}\) という結果が得られました。これは、両者のアプローチの正しさと、電気力線モデルの有効性を強力に裏付けています。異なる視点から同じ結論に至ることは、物理的理解が深まっている証拠となります。
320 平行極板間の電界
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、平行に置かれた電極と金属網によって作られる電界中での電子の運動を解析する問題です。空間は、電界が一様な領域(AM間)と電界がゼロの領域(MB間)の2つに分かれています。電子の軌道上の各点における電位 \(V\)、電界の強さ \(E\)、そして電子の速さ \(v\) が、位置 \(x\) の関数としてどのように変化するかを求め、グラフで表現することが目的です。
- 電極Aの電位: \(0\)
- 金属網Mと電極Bの電位: \(V_0\) (\(V_0 > 0\))
- AからMまでの距離: \(d\)
- AからBまでの距離: \(D\)
- 電子の電荷: \(-e\)
- 電子の質量: \(m\)
- 電子の初速度: \(0\) (Aで静かに置かれる)
- 重力の影響は無視する。
- 電位 \(V\)、電界の強さ \(E\)、電子の速さ \(v\) を、Aからの距離 \(x\) の関数として表し、グラフを描くこと。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「一様電界と無電界領域における荷電粒子の運動」です。電界と電位の関係、そして電界中での荷電粒子の力学(エネルギー保存則または運動方程式)という、電磁気学と力学の融合問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 平行極板間の電界と電位: 十分に広い平行極板間には一様な電界 \(E\) が生じ、電位差 \(V\) と距離 \(d\) の間に \(V=Ed\) の関係が成り立ちます。
- 電界中の荷電粒子の運動: 荷電粒子は電界から力 \(F=qE\) を受け、運動が変化します。
- エネルギー保存則: 電界から受ける力(静電気力)は保存力なので、運動エネルギーと位置エネルギー(静電エネルギー)の和は保存されます。
- 運動方程式: 荷電粒子が受ける力を元に、運動方程式 \(ma=F\) を立てて加速度を求め、運動を解析することもできます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、AM間 (\(0 \le x \le d\)) とMB間 (\(d \le x \le D\)) の2つの領域に分けて、それぞれの電界の強さ \(E\) と電位 \(V\) を \(x\) の関数として求めます。
- 次に、エネルギー保存則(または運動方程式)を用いて、電子の速さ \(v\) を \(x\) の関数として求めます。
- 最後に、得られた \(V(x)\), \(E(x)\), \(v(x)\) の関係を、それぞれグラフに描きます。
電界の強さ E(x) のグラフ
思考の道筋とポイント
AM間とMB間の2つの領域で、電界の強さがどうなるかを個別に考えます。十分に広い平行な極板(または網)の間には、一様な電界ができるという性質と、電界と電位差の関係式 \(V=Ed\) を使います。
この設問における重要なポイント
- AM間 (\(0 \le x \le d\)): 電極A(電位0)と網M(電位\(V_0\))は、距離 \(d\) だけ離れた平行極板と見なせます。したがって、この間には一様な電界ができます。
- MB間 (\(d \le x \le D\)): 網Mと電極Bはどちらも電位が \(V_0\) で等しいです。電位差が0なので、この間の電界は0になります。
具体的な解説と立式
領域を2つに分けて考えます。
- AM間 (\(0 \le x < d\)):
電極Aと網Mの間の電位差は \(V_0 – 0 = V_0\) です。この間の距離は \(d\) なので、電界の強さを \(E_{AM}\) とすると、一様電界の関係式より、
$$ V_0 = E_{AM} d $$ - MB間 (\(d < x \le D\)):
網Mと電極Bの間の電位差は \(V_0 – V_0 = 0\) です。この間の距離は \(D-d\) なので、電界の強さを \(E_{MB}\) とすると、
$$ 0 = E_{MB} (D-d) $$
使用した物理公式
- 一様な電界と電位差の関係: \(V = Ed\)
上記で立てた式をそれぞれ解きます。
- AM間:
$$ E_{AM} = \frac{V_0}{d} $$
この区間では電界の強さは一定です。 - MB間:
$$ E_{MB} = 0 $$
この区間では電界は存在しません。
電位を「土地の高さ」と考えると、電界は「坂の傾き」に相当します。AM間では、高さ0の地点Aから高さ\(V_0\)の地点Mまで、距離\(d\)をかけてまっすぐ登る坂があるので、一定の傾き(電界)が存在します。一方、MB間では、高さ\(V_0\)の地点Mから同じ高さ\(V_0\)の地点Bまで進むので、道は平坦です。したがって、坂の傾き(電界)は0になります。
電界の強さ \(E\) は、\(0 \le x < d\) の区間で \(E = \displaystyle\frac{V_0}{d}\) の一定値を取り、\(d \le x \le D\) の区間で \(E=0\) となります。\(x=d\) の点で電界の強さは不連続に変化します。これは、電荷が存在する金属網Mを境に電場の様子が切り替わるため、物理的に妥当です。
電位 V(x) のグラフ
思考の道筋とポイント
各領域の電界の強さがわかったので、それをもとに電位を \(x\) の関数として求めます。電極Aの電位が0であることを基準点として計算します。
この設問における重要なポイント
- 一様電界中の電位: 電界 \(E\) が一様な領域では、電界の向きに距離 \(x\) だけ進んだ点の電位は、基準点から \(Ex\) だけ変化します。
- 電界ゼロ領域の電位: 電界が0の領域では、電位は変化せず、一定の値を保ちます。
具体的な解説と立式
電極A (\(x=0\)) の電位を \(V(0)=0\) として、各領域の電位 \(V(x)\) を求めます。
- AM間 (\(0 \le x \le d\)):
この区間の電界は \(E_{AM} = \displaystyle\frac{V_0}{d}\) で一様です。電界の向きは電位の高いMから低いAへ向かう、つまりx軸負の向きです。電位は電界に逆らって進むと上がるので、Aからxだけ進んだ点の電位 \(V(x)\) は、
$$ V(x) = E_{AM} x $$ - MB間 (\(d \le x \le D\)):
この区間の電界は \(E_{MB} = 0\) です。したがって、この区間では電位は変化しません。その値は、\(x=d\) の点での電位に等しくなります。
$$ V(d) = E_{AM} d = \left(\frac{V_0}{d}\right) d = V_0 $$
よって、この区間では電位は常に \(V_0\) です。
使用した物理公式
- 一様な電界中の電位: \(V = Ex\)
上記で立てた式を整理します。
- AM間 (\(0 \le x \le d\)):
$$ V(x) = \frac{V_0}{d} x $$
これは、原点 \((0,0)\) と点 \((d, V_0)\) を結ぶ、傾き \(\displaystyle\frac{V_0}{d}\) の直線です。 - MB間 (\(d \le x \le D\)):
$$ V(x) = V_0 $$
これは、点 \((d, V_0)\) から点 \((D, V_0)\) までを結ぶ水平な直線です。
再び「土地の高さ」で例えます。AM間は一定の傾きの坂を上るので、高さ(電位)は進んだ距離に比例して直線的に増えていきます。M地点で坂の頂上(高さ\(V_0\))に到達した後は、B地点まで平坦な道が続くので、高さはずっと\(V_0\)のまま変わりません。
電位 \(V\) は、\(0 \le x \le d\) で \(x\) に比例して増加し、\(d \le x \le D\) で \(V=V_0\) の一定値を取ります。\(x=d\) の点で電位は連続的につながっており(\(V(d)=V_0\))、物理的に滑らかな変化を表しています。
電子の速さ v(x) のグラフ
思考の道筋とポイント
電子が電界から受ける力は保存力である静電気力のみなので、力学的エネルギー保存則が成り立ちます。電子の運動エネルギーと静電エネルギーの和が一定であることを利用して、速さ \(v\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー保存則: (運動エネルギー) + (静電エネルギー) = 一定。
- 静電エネルギー: 電荷 \(q\) の粒子が電位 \(V\) の点にいるときのエネルギーは \(U=qV\)。電子の電荷は \(-e\) なので、静電エネルギーは \(U = (-e)V = -eV\) となります。
- AM間: 電位 \(V\) が増加するにつれて、電子の静電エネルギー \(U\) は減少し、その分が運動エネルギーに変換されて加速します。
- MB間: 電位 \(V\) が一定なので静電エネルギー \(U\) も変化せず、運動エネルギーも一定に保たれます。つまり、等速直線運動をします。
具体的な解説と立式
出発点であるA (\(x=0\)) と、軌道上の任意の点 \(x\) との間で、力学的エネルギー保存則を立てます。
- AM間 (\(0 \le x \le d\)):
Aでの速さは0、電位は0です。位置 \(x\) での速さを \(v(x)\)、電位を \(V(x)\) とすると、エネルギー保存則は、
$$ \frac{1}{2}m \cdot 0^2 + (-e) \cdot 0 = \frac{1}{2}m \{v(x)\}^2 + (-e)V(x) \quad \cdots ① $$
ここで、この区間の電位は \(V(x) = \displaystyle\frac{V_0}{d}x\) です。 - MB間 (\(d \le x \le D\)):
この区間では電界が0なので、電子に力は働きません。したがって、網Mを通過したときの速さのまま、等速直線運動をします。その速さは、①式で \(x=d\) としたときの速さに等しくなります。
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K+U = \text{一定}\)
- 静電エネルギー: \(U = qV\)
- AM間 (\(0 \le x \le d\)):
①式を整理すると、
$$ 0 = \frac{1}{2}m v^2 – eV $$
ここに \(V(x) = \displaystyle\frac{V_0}{d}x\) を代入して \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m v^2 &= eV(x) \\[2.0ex]\frac{1}{2}m v^2 &= e \left( \frac{V_0}{d}x \right) \\[2.0ex]v^2 &= \frac{2eV_0x}{md} \\[2.0ex]v &= \sqrt{\frac{2eV_0x}{md}}
\end{aligned}
$$
これは \(v\) が \(x\) の平方根に比例する(\(v \propto \sqrt{x}\))ことを示しており、グラフは原点を通る上に凸の曲線になります。 - MB間 (\(d \le x \le D\)):
この区間での速さは、\(x=d\) での速さで一定です。上の式に \(x=d\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
v(d) &= \sqrt{\frac{2eV_0d}{md}} \\[2.0ex]&= \sqrt{\frac{2eV_0}{m}}
\end{aligned}
$$
よって、この区間では \(v(x) = \sqrt{\displaystyle\frac{2eV_0}{m}}\) (一定)となります。
電子はマイナスの電気を持っているので、電位が高い方(プラス側)に引き寄せられます。AM間は電位がどんどん高くなる「おいしい坂」なので、電子は坂を喜んで転がり落ちるように加速していきます。このとき、失った位置エネルギー(静電エネルギー)が運動エネルギーに変わります。MB間は平坦な道なので、M地点に到達したときのスピードを保ったまま、スイスイと等速で進んでいきます。
思考の道筋とポイント
電子が受ける力を求め、運動方程式 \(ma=F\) から加速度を計算し、等加速度直線運動の公式などを使って速さを求める方法です。
この設問における重要なポイント
- 電子が受ける力: \(F=qE\)。電子の電荷は \(-e\) です。AM間の電界 \(E\) はM→Aの向き(x軸負の向き)なので、電子が受ける力 \(F\) はx軸正の向きになります。
- AM間: 力が一定なので、等加速度直線運動をします。
- MB間: 電界が0なので力が0。加速度も0となり、等速直線運動をします。
具体的な解説と立式
- AM間 (\(0 \le x \le d\)):
電界の強さは \(E = \displaystyle\frac{V_0}{d}\) で、向きはx軸負の向きです。電子が受ける力の大きさ \(F\) は、
$$ F = |-e| E = e \frac{V_0}{d} $$
力の向きは電界と逆向き、つまりx軸正の向きです。運動方程式 \(ma=F\) より、加速度 \(a\) は、
$$ a = \frac{F}{m} = \frac{eV_0}{md} \quad (\text{一定}) $$
初速度0の等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を用います。 - MB間 (\(d \le x \le D\)):
電界が0なので力も0。したがって加速度も0です。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 等加速度直線運動: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
- AM間 (\(0 \le x \le d\)):
\(v_0=0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v^2 &= 2ax \\[2.0ex]&= 2 \left( \frac{eV_0}{md} \right) x \\[2.0ex]v &= \sqrt{\frac{2eV_0x}{md}}
\end{aligned}
$$ - MB間 (\(d \le x \le D\)):
\(x=d\) での速さ \(v(d) = \sqrt{\displaystyle\frac{2eV_0d}{md}} = \sqrt{\displaystyle\frac{2eV_0}{m}}\) で一定となります。
ニュートンの法則で考える方法です。AM間では、電子は一定の大きさの力でx軸の正の向きに引っ張られ続けます。そのため、一定の加速度でどんどん速くなっていきます。MB間では、電子を引っ張る力がなくなるので、それ以上は加速せず、Mを通過したときの速さのまま進んでいきます。
電子の速さ \(v\) は、\(0 \le x \le d\) で \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{2eV_0x}{md}}\) となり、\(d \le x \le D\) で \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{2eV_0}{m}}\) の一定値を取ります。エネルギー保存則と運動方程式、どちらのアプローチでも同じ結果が得られました。これは計算の正しさを裏付けています。グラフは原点から始まり、上に凸の曲線を描いて \(x=d\) まで増加し、その後は水平な直線となります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 一様電界と電位の関係 (\(V=Ed\)):
- 核心: 平行極板間にできる電界が一様であること、そしてその強さ \(E\) と電位差 \(V\)、距離 \(d\) の間に成り立つこの関係式が、電界と電位のグラフを決定する上での出発点です。
- 理解のポイント: 電位のグラフの傾きが電界の強さ(のマイナス、\(E = -dV/dx\))に対応するという、より本質的な関係を理解しておくと、グラフの形状を直感的に把握できます。
- 力学的エネルギー保存則 (\(\Delta K + \Delta U = 0\)):
- 核心: 静電気力は保存力であるため、荷電粒子の運動を解析する上でエネルギー保存則は極めて強力なツールとなります。特に、始点と終点の状態だけで速さを求められる場合に威力を発揮します。
- 理解のポイント: 静電エネルギー \(U=qV\) の式を正しく適用することが鍵です。電子の電荷 \(q=-e\) を代入し、\(U=-eV\) となる点に注意が必要です。電位 \(V\) が上がると、電子の静電エネルギー \(U\) は下がる、という関係を掴みましょう。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 荷電粒子の斜め入射: 一様な電界に粒子が斜めに入射する場合、電界方向の運動(等加速度運動)と、それに垂直な方向の運動(等速直線運動)に分解して考えます。これは重力下での放物運動と全く同じ考え方です。
- 電界が逆向きの領域がある問題: 例えば、電位が \(0 \to V_0 \to 0\) と変化するような設定では、粒子は一度加速された後、減速して元の速さに戻る、といった運動をします。エネルギー保存則を使えば、このような複雑な運動も容易に解析できます。
- 磁場も存在する問題: 電界に加えて磁場も存在する場合、粒子は静電気力とローレンツ力を同時に受けます。速度に応じて力の向きが変わるため、運動はより複雑になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 空間を領域分けする: 電界の様子が異なる境界(この問題では網M)を見つけ、空間をいくつかの領域に分割します。
- 各領域の電界と電位を特定する: 各領域について、電極の電位差と距離から電界の強さと向きを決定し、それを積分する形で電位を求めます。
- 運動の解析方法を選択する: 速さや運動エネルギーを求めたい場合は、エネルギー保存則が便利です。運動にかかる時間や加速度を求めたい場合は、運動方程式が有効です。問題に応じて適切な手法を選びましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電荷の符号ミス:
- 誤解: 電子の電荷を \(+e\) として計算してしまい、静電エネルギーを \(U=eV\) としたり、力の向きを逆に考えたりする。
- 対策: 問題を解き始める前に、扱う粒子の電荷が正か負かを必ず確認し、大きくメモしておきましょう。電子は \(-e\) であることを常に意識し、エネルギーや力の式に代入する際に符号を間違えないように注意します。
- 電界の向きと力の向きの混同:
- 誤解: 電界の向きと、負電荷が受ける力の向きを同じだと考えてしまう。
- 対策: 電界の向きは「正電荷が力を受ける向き」と定義されています。したがって、負電荷が受ける力の向きは、電界の向きと常に逆になります。図に電界のベクトルと力のベクトルを両方描き込むと、混同を防げます。
- 速さのグラフの形状:
- 誤解: AM間で電子は等加速度運動をするので、速さも時間に比例して直線的に増える(\(v=at\))ことから、\(v-x\)グラフも直線だと勘違いしてしまう。
- 対策: \(v-t\)グラフは直線ですが、\(v-x\)グラフは異なります。等加速度運動の公式 \(v^2 = 2ax\) からわかるように、\(v = \sqrt{2ax}\) となり、速さは位置 \(x\) の平方根に比例します。グラフは上に凸の曲線になることをしっかり理解しておきましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- 電位を「地形」でイメージする:
- 電位 \(V\): 土地の「高さ」。
- 電界 \(E\): 地形の「坂の傾き」。急な坂ほど電界が強い。電界の向きは坂を駆け下りる向き。
- 電子(負電荷): 坂を「上りたがる」性質を持つボール。高さ(電位)が低い方から高い方へ、自ら転がっていく(力を受ける)。
- この問題の地形: A(地点0)からM(地点d)まではなだらかな上り坂が続き、M(地点d)からB(地点D)までは平坦な高原が広がっているイメージ。電子はこの坂を勢いよく駆け上り、高原ではその勢いのまま等速で進みます。
- グラフ間の関係性を読み解く:
- \(V-x\)グラフの傾きが \(E\) を与える(\(E = -dV/dx\))。Vのグラフが直線ならEは一定、Vが水平ならEは0、という関係が視覚的にわかります。
- エネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv^2 = e(V_0 – V)\) (正電荷の場合)から、\(v\) の大きさは電位 \(V\) だけで決まります。\(V-x\)グラフがわかれば、そこから \(v-x\)グラフの形状も決まります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 一様電界の公式 (\(V=Ed\)):
- 選定理由: 問題設定が「十分に広い平行極板」であり、一様な電界が形成される典型的な状況だから。電位差と距離から電界を求める最も直接的な公式です。
- 適用根拠: ガウスの法則から導かれる、平行平板コンデンサーにおける基本的な関係式です。
- エネルギー保存則:
- 選定理由: 運動の途中経過(時間や加速度)を問わず、単に「ある位置での速さ」を知りたい場合に最も計算が簡単なため。
- 適用根拠: 静電気力は保存力であり、他に非保存力(摩擦など)が働いていないため、力学的エネルギーが保存されるという物理学の大原則を適用します。
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: (別解として) 運動のダイナミクス(力と加速度の関係)から、より根本的に運動を記述するため。エネルギー保存則の妥当性を確認する意味でも有効です。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則であり、力学の最も基本的な出発点です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 領域分割と状況把握: 空間をAM間とMB間に分け、それぞれの電位差と距離を整理する。
- 電界 \(E(x)\) の導出: 各領域で \(V=Ed\) の関係を使い、\(E\) を求める。AM間は一定値、MB間は0。
- 電位 \(V(x)\) の導出: \(E(x)\) の結果を使い、基準点A(\(V=0\))からの電位を求める。AM間は直線的に増加、MB間は一定値。
- 速さ \(v(x)\) の導出:
- (方法1: エネルギー保存) 出発点Aと任意点xでエネルギー保存則を立て、\(V(x)\) を代入して \(v(x)\) を解く。
- (方法2: 運動方程式) 各領域で力 \(F=qE\) から加速度 \(a\) を求め、等加速度運動の公式で \(v(x)\) を解く。
- グラフ化: 得られた \(E(x)\), \(V(x)\), \(v(x)\) の関数形(定数、直線、平方根の曲線)を正しくグラフに描く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算する: この問題のように、最終的な答えが物理定数(\(e, m, V_0, d\)など)を含む文字式で与えられる場合、最後まで文字のまま計算を進めることが基本です。これにより、物理的な意味合いを失わずに済み、検算もしやすくなります。
- 根号の扱い: 速さを求める際に平方根が出てきます。\(v^2\) の形で計算を進め、最後の最後に \(v\) を求める(平方根をとる)ようにすると、計算がすっきりします。
- 単位と次元の確認: 例えば、\(\sqrt{\frac{eV_0}{m}}\) の次元を考えます。\(eV_0\) はエネルギーの次元 \([ML^2T^{-2}]\)、\(m\) は質量の次元 \([M]\) です。よって、根号の中は \([L^2T^{-2}]\) となり、平方根をとると \([LT^{-1}]\) という速さの次元に正しくなっています。このような次元解析は、計算ミスを発見する有効な手段です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- グラフの連続性の確認:
- 電位 \(V\) と速さ \(v\): これらは物理的な状態量なので、空間的に急にジャンプすることはありません。\(x=d\) の点でグラフが連続的につながっているかを確認します。今回の解答では、\(V(d)=V_0\), \(v(d)=\sqrt{2eV_0/m}\) となり、左右で値が一致し、連続しています。
- 電界 \(E\): 電荷が存在する面(金属網M)では、電界は不連続になり得ます。今回の解答で \(E\) が \(x=d\) で不連続になっているのは、物理的に正しい状況です。
- 極端な場合を考える(思考実験):
- もし \(V_0=0\) なら、電界はどこにも存在せず、電子は静止したままのはずです。解答の式に \(V_0=0\) を代入すると、\(E=0, V=0, v=0\) となり、直感と一致します。
- もし網Mがなければ(\(d=D\))、AからBまで一様な電界がかかり、電子は最後まで加速し続けます。解答の式で \(d \to D\) とすると、\(v(D) = \sqrt{2eV_0D/mD} = \sqrt{2eV_0/m}\) となり、これも妥当な結果を与えます。
321 電界と仕事
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、一様な電界と点電荷が作る合成電場の中での、力のつり合いと仕事について問う問題です。2種類の電界が共存する状況で、それぞれの性質を正しく理解し、重ね合わせの原理を適用する能力が試されます。
- 点Oを中心とする半径\(r\)の円周を8等分する点ア〜クがある。
- 強さ\(E\)の一様な電界が、直径アオに平行に存在する。
- 点Oに、正の電気量\(q\)を持つ小球が固定されている。
- 第2の小球Mは、電気量\(-p\) (\(p>0\)) を持つ。
- クーロンの法則の比例定数: \(k_0\)
- (1) 小球Mを点アに置いたときに電場から受ける力が0になる条件から、一様な電界の強さ\(E\)とその向きを求める。
- (2) 小球Mを点アから点エまで円周に沿ってゆっくり動かすとき、外力が電気力に逆らってした仕事\(W\)を求める。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電界の重ね合わせと、電場中での仕事」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電界の重ね合わせの原理: ある点での電界は、それぞれの電荷が単独でつくる電界のベクトル和で与えられます。同様に、荷電粒子が受ける力も、それぞれの電界から受ける力のベクトル和となります。
- 力のつり合い: 物体にはたらく力の合力がゼロのとき、物体は静止し続けます(または等速直線運動をします)。
- 仕事とエネルギーの関係: 保存力である静電気力に逆らって外力がする仕事は、その物体の静電エネルギー(位置エネルギー)の変化に等しくなります (\(W_{\text{外}} = \Delta U\))。
- 電位の計算: 位置エネルギーの変化は、始点と終点の電位差を用いて \(\Delta U = q\Delta V\) と計算できます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、点アに置かれた小球Mにはたらく2つの電気力(一様電界からの力と、中心の点電荷からの力)をベクトルとして考え、その合力がゼロになるという「力のつり合い」の条件から立式します。
- (2)では、「外力が電気力に逆らってした仕事」が「静電エネルギーの変化 \(\Delta U\)」に等しいことを利用します。エネルギーの変化は経路によらないため、始点アと終点エの位置エネルギーの差を計算します。このとき、位置エネルギーは一様電界によるものと点電荷によるものの和ですが、点電荷による位置エネルギーは円周上では変化しないため、一様電界によるエネルギー変化のみを考えればよいことがポイントです。
問(1)
思考の道筋とポイント
点アに置かれた小球Mには、2種類の電界から力がはたらきます。一つは空間全体にかかっている「一様な電界」からの力、もう一つは点Oにある「点電荷\(q\)」からの力です。Mにはたらく電気力が0であるということは、この2つの力が「大きさが等しく、向きが逆」で、完全につり合っていることを意味します。
この設問における重要なポイント
- 力のベクトル和がゼロ: 小球Mにはたらく力の合力が \(\vec{F} = \vec{0}\) です。これは、一様電界からの力 \(\vec{F}_E\) と点電荷からの力 \(\vec{F}_q\) の和がゼロ、すなわち \(\vec{F}_E + \vec{F}_q = \vec{0}\) を意味します。
- 点電荷からの力(クーロン力): 点Oにある正電荷\(q\)は、点アにある負電荷\(-p\)を引きます。したがって、力 \(\vec{F}_q\) の向きはア→オの向きです。
- 一様電界からの力: 負電荷\(-p\)が受ける力 \(\vec{F}_E\) の向きは、電界 \(\vec{E}\) の向きと逆になります。
具体的な解説と立式
小球Mにはたらく力は次の2つです。
- 点Oの正電荷\(q\)から受けるクーロン力 \(\vec{F}_q\):
Mの電荷は\(-p\)で負なので、この力は引力です。したがって、力の向きは点アから点Oを通り、点オに向かう向き(ア→オの向き)です。その大きさ \(F_q\) は、
$$ F_q = k_0 \frac{q p}{r^2} \quad \cdots ① $$ - 一様な電界 \(\vec{E}\) から受ける力 \(\vec{F}_E\):
Mの電荷は\(-p\)で負なので、この力の向きは電界 \(\vec{E}\) の向きと逆になります。その大きさ \(F_E\) は、
$$ F_E = |-p| E = pE \quad \cdots ② $$
小球Mにはたらく電気力が0であるため、これら2つの力はつり合っています。つまり、\(\vec{F}_E = -\vec{F}_q\) です。
このことから、2つの力の大きさは等しく、向きは互いに逆になります。
まず、力の向きを考えます。
\(\vec{F}_q\) の向きはア→オの向きなので、\(\vec{F}_E\) の向きはこれと逆のオ→アの向きでなければなりません。
\(\vec{F}_E\) の向き(オ→ア)は、電界 \(\vec{E}\) の向きと逆なので、電界 \(\vec{E}\) の向きはア→オの向きであると決まります。
次に、力の大きさが等しいという条件から立式します。
$$ F_E = F_q $$
使用した物理公式
- クーロンの法則: \(F = k_0 \frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
- 電界中での荷電粒子にはたらく力: \(F = |q|E\)
上記で立てた力のつり合いの式に①、②を代入します。
$$
\begin{aligned}
pE &= k_0 \frac{qp}{r^2}
\end{aligned}
$$
この式の両辺を \(p\) (\(p>0\)) で割ると、
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{k_0 q}{r^2}
\end{aligned}
$$
小球Mが点アでピタッと静止しているのは、2つの電気が原因の力がちょうど綱引きで引き合っている状態だからです。一つは、中心のプラス電荷がMを「こっちへおいで」と引っ張る力(クーロン力)。もう一つは、空間全体にかかる電界がMを押し引きする力です。この2つの力が同じ強さで逆向きであれば、Mは動きません。この「力のつり合い」を数式にして、電界の強さを計算します。また、力の向きの関係から、電界がどちらを向いているのかを推理します。
一様な電界の強さは \(E = \displaystyle\frac{k_0 q}{r^2}\) で、その向きはア→オの向きです。これは、点アの位置において、点Oの電荷がつくる電界(オ→ア向き、大きさ \(k_0 q/r^2\))と、外部からかけられた一様な電界(ア→オ向き、大きさ \(E\))が、ちょうど互いに打ち消し合って、合成電界がゼロになっている状態を意味します。
問(2)
思考の道筋とポイント
「外力を加えてゆっくりと動かす」という記述は、物理の問題における重要なキーワードです。これは「運動エネルギーを変化させずに動かす」ことを意味し、このとき「外力がした仕事」は、そのまま「位置エネルギーの変化量 \(\Delta U\)」に等しくなります。
位置エネルギーの変化は、始点と終点の2点だけで決まり、途中の経路(ア→イ→ウ→エ)にはよりません。したがって、始点アと終点エでの位置エネルギーの差を計算すれば、それが答えとなります。
この設問における重要なポイント
- 仕事と位置エネルギーの関係: 外力が保存力(この場合は静電気力)に逆らってゆっくり物体を動かすとき、その仕事は位置エネルギーの変化に等しい。\(W = \Delta U = U_{\text{終}} – U_{\text{始}}\)。
- 位置エネルギーの重ね合わせ: 小球Mの静電エネルギー \(U\) は、一様な電界による位置エネルギー \(U_E\) と、点電荷\(q\)による位置エネルギー \(U_q\) の和で表されます。\(U = U_E + U_q\)。
- 点電荷による位置エネルギー: 点電荷がつくる電位は、電荷からの距離が同じ点では等しくなります。始点アと終点エは、どちらも点Oから同じ距離\(r\)にあるため、点電荷\(q\)による位置エネルギーは変化しません (\(\Delta U_q = 0\))。
- 一様電界による位置エネルギー: したがって、求める仕事は一様電界による位置エネルギーの変化 \(\Delta U_E\) だけで決まります。
具体的な解説と立式
外力が電気力に逆らってした仕事 \(W\) は、静電エネルギーの変化 \(\Delta U\) に等しくなります。
$$ W = \Delta U = U_{\text{エ}} – U_{\text{ア}} $$
小球Mの静電エネルギー \(U\) は、一様電界によるもの \(U_E\) と点電荷\(q\)によるもの \(U_q\) の和です。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= (U_{E, \text{エ}} + U_{q, \text{エ}}) – (U_{E, \text{ア}} + U_{q, \text{ア}}) \\[2.0ex]&= (U_{E, \text{エ}} – U_{E, \text{ア}}) + (U_{q, \text{エ}} – U_{q, \text{ア}})
\end{aligned}
$$
点アと点エは、ともに点Oから距離\(r\)の位置にあるため、点電荷\(q\)による位置エネルギーは等しく、\(U_{q, \text{エ}} = U_{q, \text{ア}}\) です。よって、\((U_{q, \text{エ}} – U_{q, \text{ア}}) = 0\) となります。
したがって、求める仕事は一様電界による位置エネルギーの変化のみを考えればよいことになります。
$$ W = \Delta U_E = U_{E, \text{エ}} – U_{E, \text{ア}} $$
一様電界による位置エネルギー \(U_E\) を計算するために、座標系を設定します。
(1)より、電界の向きはア→オの向きです。この向きをx軸の正方向とし、円の中心Oを原点 \((0,0)\) とします。
このとき、一様電界は \(\vec{E} = (E, 0)\) と表せます。
原点Oでの電位を0とすると、位置\((x,y)\)での電位は \(V_E(x,y) = -Ex\) となります。
したがって、電荷\(-p\)の小球Mの一様電界による位置エネルギー \(U_E\) は、
$$ U_E = (-p)V_E = (-p)(-Ex) = pEx $$
始点アと終点エの座標を求めます。
- 点ア: x軸の負の方向に距離\(r\)の位置なので、座標は \((-r, 0)\)。
- 点エ: 点アから反時計回りに \(3 \times 45^\circ = 135^\circ\) 回転した位置。座標は \((r\cos 45^\circ, r\sin 45^\circ) = (r\frac{\sqrt{2}}{2}, r\frac{\sqrt{2}}{2})\)。
よって、仕事 \(W\) は次のように計算できます。
$$ W = pEx_{\text{エ}} – pEx_{\text{ア}} $$
使用した物理公式
- 仕事と位置エネルギーの関係: \(W_{\text{外}} = \Delta U\)
- 静電エネルギー: \(U = qV\)
- 一様電界中の電位: \(V = -Ex\) (電界方向にx軸、原点で電位0とした場合)
上記で立てた式に、点アと点エのx座標を代入します。
$$
\begin{aligned}
W &= pE(x_{\text{エ}}) – pE(x_{\text{ア}}) \\[2.0ex]&= pE \left( r\frac{\sqrt{2}}{2} \right) – pE(-r) \\[2.0ex]&= pEr \left( \frac{\sqrt{2}}{2} + 1 \right) \\[2.0ex]&= \frac{2+\sqrt{2}}{2} pEr
\end{aligned}
$$
外から力を加えて物体を運ぶときの仕事は、「その物体の位置エネルギーがどれだけ増えたか」で決まります。この問題では、電気的な位置エネルギーを考えます。
電気的な位置エネルギーは、地形の「高さ」に例えられる「電位」で決まります。この空間には、2種類の地形が重なっています。一つは、中心のプラス電荷が作る「すり鉢状のくぼ地」。もう一つは、一様な電界が作る「まっすぐな坂」です。
小球Mを円周上で動かすとき、「すり鉢」については同じ高さの縁をなぞるだけなので、エネルギーは変化しません。したがって、仕事は「まっすぐな坂」をどれだけ上ったか、あるいは下ったかだけで決まります。始点アと終点エで、坂の方向(ア→オの向き)にどれだけ位置が変わったかを計算し、エネルギーの変化を求めれば、それが外力のした仕事になります。
思考の道筋とポイント
仕事とエネルギーの関係 \(W = \Delta U\) を、電位差 \(\Delta V\) を用いて \(W = q\Delta V\) の形で計算する方法です。本質的にはメインの解法と同じですが、電位差を先に計算するアプローチです。
この設問における重要なポイント
- 仕事と電位差の関係: 外力がした仕事は \(\Delta U = q\Delta V = q(V_{\text{終}} – V_{\text{始}})\)。
- 電位差の計算: 始点アと終点エの電位差 \(\Delta V\) を計算します。このとき、点電荷\(q\)による電位は両点で等しいため、一様電界による電位差だけを考えればよいです。
- 一様電界による電位差: 電界の強さ \(E\) と、電界方向の距離 \(d\) を用いて \(V=Ed\) の関係から計算できます。
具体的な解説と立式
外力がした仕事 \(W\) は、位置エネルギーの変化 \(\Delta U\) に等しく、これは電荷 \(q=-p\) と電位差 \(\Delta V = V_{\text{エ}} – V_{\text{ア}}\) を用いて次のように書けます。
$$ W = (-p)\Delta V = (-p)(V_{\text{エ}} – V_{\text{ア}}) $$
電位差 \(\Delta V\) は、一様電界による電位差 \(\Delta V_E\) と点電荷による電位差 \(\Delta V_q\) の和です。
点アと点エは点Oから等距離なので、点電荷\(q\)による電位は等しく、\(\Delta V_q = 0\)。
したがって、\(\Delta V = \Delta V_E\) となります。
一様電界による電位差 \(\Delta V_E\) を計算します。電界の向き(ア→オ)にx軸をとると、電位はx座標が大きくなるにつれて低くなります。
点アと点エの、電界方向(x軸方向)の距離の差を考えます。
メインの解法と同様に、Oを原点とすると、点アのx座標は \(-r\)、点エのx座標は \(r\frac{\sqrt{2}}{2}\) です。
電位差は、電界の強さ \(E\) と電界方向の変位 \(\Delta x = x_{\text{エ}} – x_{\text{ア}}\) を用いて、
$$ \Delta V = V_{\text{エ}} – V_{\text{ア}} = -E \Delta x = -E(x_{\text{エ}} – x_{\text{ア}}) $$
と計算できます。
使用した物理公式
- 仕事と電位差の関係: \(W_{\text{外}} = q(V_{\text{終}} – V_{\text{始}})\)
- 一様電界中の電位差: \(\Delta V = -E\Delta x\)
まず電位差 \(\Delta V\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta V &= -E \left( r\frac{\sqrt{2}}{2} – (-r) \right) \\[2.0ex]&= -E \left( r + r\frac{\sqrt{2}}{2} \right) \\[2.0ex]&= -\frac{2+\sqrt{2}}{2} Er
\end{aligned}
$$
次に、この電位差を用いて仕事 \(W\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
W &= (-p)\Delta V \\[2.0ex]&= (-p) \left( -\frac{2+\sqrt{2}}{2} Er \right) \\[2.0ex]&= \frac{2+\sqrt{2}}{2} pEr
\end{aligned}
$$
外力が電気力に逆らってした仕事は \(W = \displaystyle\frac{2+\sqrt{2}}{2} pEr\) です。
仕事が正の値になったのは、負電荷\(-p\)を、電位がより低い点エへ動かした(\(V_{\text{エ}} < V_{\text{ア}}\))ためです。負電荷は本来、電位が高い方へ行きたがるので、それに逆らって低い方へ動かすには、外力が正の仕事をする必要があります。この物理的な考察と、計算結果が一致しており、妥当な答えであると言えます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電界の重ね合わせの原理:
- 核心: (1)を解くための最も重要な考え方です。点アにおける電界は、外部からかけられた「一様な電界」と、点Oの電荷がつくる「点電荷の電界」のベクトル和で表されます。小球Mにはたらく力がゼロになるのは、この合成電界がゼロになる点だからです。
- 理解のポイント: 複数の電荷や電界が存在する空間では、ある点での電界(または力)は、それぞれの要因が単独でつくる電界(または力)を単純にベクトルとして足し合わせることで求められます。
- 仕事と静電エネルギーの関係 (\(W_{\text{外}} = \Delta U\)):
- 核心: (2)を解くための核心となる法則です。静電気力は保存力なので、それに逆らって外力がする仕事は、経路によらず始点と終点の静電エネルギー(位置エネルギー)の差だけで決まります。
- 理解のポイント: この法則のおかげで、ア→イ→ウ→エという複雑な経路を積分する必要がなく、始点アと終点エの2点だけを比較すれば仕事が求まります。
- 電位の概念 (\(U=qV\)):
- 核心: 仕事の計算を、より抽象的で便利な「電位」という概念を使って行うための基本法則です。仕事(エネルギー)を、電荷量\(q\)と電位差\(\Delta V\)の積として計算できます。
- 理解のポイント: 点電荷がつくる電位は同心円状に等しく、一様な電界がつくる電位は電界に垂直な直線上で等しい、という電位の幾何学的な性質を理解することが、問題を単純化する鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電気双極子が一様な電界中に置かれた場合: 正負の電荷がそれぞれ電界から力を受け、全体として力のモーメント(トルク)が生じます。力のつり合いやモーメントのつり合いを考える問題に応用できます。
- 複数の点電荷が配置された空間での電界・電位: 各点電荷がつくる電界や電位を、ベクトル和またはスカラー和として重ね合わせることで、任意の点での電界・電位を求められます。
- 重力と静電気力が同時にはたらく場合: 例えば、糸で吊るされた荷電小球が一様な電界中にある場合(電気振り子)、小球には重力、張力、静電気力の3つがはたらきます。これらの力のつり合いを考えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 電界の源をすべて特定する: まず、空間に電界を作っている原因(この問題では一様な外部電界と点電荷\(q\))をすべてリストアップします。
- 力のつり合いか、エネルギー保存かを見極める: (1)のように「力が0であった」とあれば、力のつり合いの問題です。力のベクトル図を描いて立式します。(2)のように「ゆっくり動かした仕事」とあれば、仕事とエネルギーの関係の問題です。始点と終点のエネルギー差を考えます。
- 対称性や保存則を利用して計算を簡略化する: (2)で、円周上の移動であることから「点電荷によるエネルギー変化はゼロ」と見抜くことが最大のポイントです。このように、問題設定に隠された対称性や保存則を見つけ出すことで、計算量を大幅に削減できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の向きと電界の向きの混同:
- 誤解: 小球Mの電荷が負であることを見落とし、一様電界からの力の向きを電界の向きと同じだと考えてしまう。
- 対策: 荷電粒子の電荷の正負を必ず最初に確認しましょう。正電荷なら力は電界と同じ向き、負電荷なら逆向き、という基本を徹底します。力のベクトル図を描く際には、電荷の符号を考慮した上で力の矢印を記入する習慣をつけましょう。
- 仕事の計算での経路依存性の誤解:
- 誤解: 仕事を計算するために、ア→イ、イ→ウ、ウ→エの各区間の仕事をそれぞれ計算して足し合わせようとしてしまう。
- 対策: 静電気力は「保存力」であり、保存力がする仕事(またはそれに逆らう外力の仕事)は経路によらない、という大原則を思い出しましょう。この原則を知っていれば、複雑な経路を積分するような手間をかける必要はなく、始点と終点の位置エネルギーの差だけを考えればよいと判断できます。
- 位置エネルギーの符号ミス:
- 誤解: 仕事の公式 \(W = q\Delta V\) を使う際に、電荷\(q\)に\(-p\)を代入し忘れたり、電位差 \(\Delta V = V_{\text{終}} – V_{\text{始}}\) の符号を逆にしたりする。
- 対策: \(W_{\text{外}} = U_{\text{終}} – U_{\text{始}}\) という基本の形から出発するのが安全です。\(U=qV\) を代入して \(W_{\text{外}} = qV_{\text{終}} – qV_{\text{始}}\) とし、ここに \(q=-p\) を慎重に代入しましょう。また、電位は電界の向きに進むと低くなる、という関係から、電位差の符号が物理的に正しいかを確認する習慣も有効です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 力のベクトル図: (1)では、点アから生える2本の力のベクトルを描くことが不可欠です。点電荷からの引力 \(\vec{F}_q\)(ア→オ向き)と、一様電界からの力 \(\vec{F}_E\)(オ→ア向き)が、同じ長さで逆向きに描かれていれば、力のつり合いの状況が一目瞭然となります。
- 電位の等高線マップ: この空間の電位は、点電荷がつくる「同心円状の等高線」と、一様電界がつくる「等間隔の直線状の等高線」を重ね合わせたものになります。仕事の計算は、この合成された等高線マップの上で、始点アと終点エの「高さ(電位)」の差を測る作業に相当します。円周上を動くことで同心円の等高線は越えないため、直線状の等高線をどれだけ横切ったかだけが重要になる、というイメージを持つと理解が深まります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 座標軸の設定を明確にする: (2)の計算では、電界の向き(ア→オ)をx軸の正方向にとるなど、自分で座標軸をどう設定したかを図に明記することが重要です。これにより、点の座標やベクトルの成分計算でのミスを防げます。
- 角度の関係を正確に把握する: 点ア、イ、ウ、エが円周を8等分していることから、中心角が \(45^\circ\) ずつであることがわかります。三角関数を用いて座標を計算する際に、この角度を正しく使うことが求められます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\)):
- 選定理由: (1)で「電気力は0であった」という、静力学的な条件が与えられているため。
- 適用根拠: ニュートンの第一法則(慣性の法則)に基づき、力がつり合っている物体は静止し続けるという普遍的な原理を適用します。
- 仕事とエネルギーの関係式 (\(W_{\text{外}} = \Delta U\)):
- 選定理由: (2)で「外力がした仕事」を問われており、かつ力が保存力である静電気力のみであるため。経路に依存しないエネルギーの概念を用いるのが最も効率的です。
- 適用根拠: エネルギー保存則の一つの表現形式です。運動エネルギーの変化がない「ゆっくりした移動」では、外力の仕事がそのままポテンシャルエネルギーの増加分となります。
- 位置エネルギーと電位の関係式 (\(U=qV\)):
- 選定理由: (2)でエネルギー変化 \(\Delta U\) を計算する際に、より扱いやすい「電位」というスカラー量に変換するため。
- 適用根拠: 電位そのものの定義式です。電位とは、単位電荷あたりの静電エネルギーのことです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 電界の強さと向きの決定:
- 状況分析: 点アの小球Mには2つの力(クーロン力 \(\vec{F}_q\)、一様電界からの力 \(\vec{F}_E\))がはたらく。
- 力の向きの特定: \(\vec{F}_q\) は引力なのでア→オ向き。つり合いのため \(\vec{F}_E\) はオ→ア向き。Mは負電荷なので、電界 \(\vec{E}\) は \(\vec{F}_E\) と逆向き、すなわちア→オ向きと決定。
- 力の大きさの計算: \(F_q = k_0 qp/r^2\), \(F_E = pE\) を計算。
- 立式と計算: 力のつり合い \(F_q = F_E\) の式を立て、\(E\) について解く。
- (2) 外力のした仕事の計算:
- 戦略選択: 「ゆっくり動かす仕事」→ \(W_{\text{外}} = \Delta U = U_{\text{エ}} – U_{\text{ア}}\) を使う。
- 計算の簡略化: \(\Delta U = \Delta U_E + \Delta U_q\) と分解し、円周上の移動なので \(\Delta U_q = 0\) であることを見抜く。よって \(W_{\text{外}} = \Delta U_E\)。
- 座標設定と位置エネルギーの表現: 電界方向をx軸とし、\(U_E = pEx\) と表現する。
- 座標計算: 始点アと終点エのx座標を三角比で求める。
- 代入と計算: \(W_{\text{外}} = pEx_{\text{エ}} – pEx_{\text{ア}}\) に値を代入して最終的な答えを導出する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の整理: (2)の計算結果は \(\displaystyle\frac{2+\sqrt{2}}{2} pEr\) のように、複数の文字と定数を含みます。計算過程で \(pEr\) などの共通項でくくりながら進めると、式が整理され、ミスが減ります。
- 三角関数の値の正確性: \(\cos 45^\circ = \sin 45^\circ = \frac{\sqrt{2}}{2}\) や \(\frac{1}{\sqrt{2}}\) を正確に使いこなすことが必須です。
- 符号のダブルチェック: 仕事の計算では、電荷の符号(\(-p\))と電位差の符号(\(\Delta V\) は負)の2つのマイナスが掛け合わさって最終的にプラスになります。このような符号の扱いはミスの温床なので、一つ一つの符号の意味を確認しながら慎重に計算を進めましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 電界の強さ \(E\): \(E = k_0 q/r^2\) という形は、点電荷がつくる電界の公式と同じ形をしています。これは、点アにおいて点電荷がつくる電界の大きさと、一様な電界の大きさが等しいというつり合いの条件を素直に反映しており、妥当です。
- (2) 仕事 \(W\): 仕事が正の値になりました。これは、負電荷であるMを、電位がより低い点(エ)へ動かす操作に対応します。負電荷は本来、電位が高い方へ行きたがる(位置エネルギーが低い方へ行きたがる)ので、それに逆らって動かすには外力が正の仕事をする必要があります。この物理的直感と計算結果が一致しています。
- 別解との比較:
- (2)の仕事は、「位置エネルギーの変化」として直接計算する方法と、「電位差」を介して計算する方法の2通りで考えられました。両者で全く同じ結果が得られたことは、計算の正しさと、\(U=qV\) という関係の理解が正しいことの証拠となります。
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