Step 2
308 箔検電器
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「静電誘導と接地による導体の帯電」です。一連の操作によって、導体内の自由電子がどのように移動し、電荷がどう分布するかを段階的に理解することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 静電誘導: 帯電体を導体に近づけると、導体内の電荷が移動し、帯電体に近い側に異種符号、遠い側に同種符号の電荷が現れる現象です。
- 自由電子: 導体内を自由に移動できる電子のことで、静電誘導による電荷の移動の主役です。
- 接地(アース): 導体を地球や人体のような巨大な導体に接続することです。これにより、電荷は地球との間で自由に移動できるようになり、電荷の逃げ道や供給源となります。
- クーロン力: 電荷間に働く力です。同種符号の電荷は反発し、異種符号の電荷は引き合います。この力が自由電子を動かす原因となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、負に帯電した棒が作る反発力によって、箔検電器内の自由電子がどこへ移動するかを考えます。
- (2)では、指で触れる(接地する)ことで、自由電子の新たな移動経路(人体)ができたと考え、電子がどこへ逃げるかを考察します。
- (3)から(6)までは、各操作によって帯電した棒や指(接地)からの影響がどう変化し、箔検電器内に残った電荷や自由電子がどのように再配置されるかを順を追って考えていきます。
問(1)
思考の道筋とポイント
負に帯電した棒を、中性の箔検電器に近づける操作です。これは「静電誘導」の最も基本的な例であり、導体である箔検電器の中で、電荷(特に自由電子)がどのように移動するかを考えることが出発点となります。
この設問における重要なポイント
- 導体内の自由電子は、外部の電場(この場合は負の棒が作る電場)から力を受けて移動します。
- 負に帯電した棒は、自由電子(負電荷)に対して反発力を及ぼします。
- 箔検電器全体では、初めは電気的に中性(正電荷と負電荷が同数)です。
具体的な解説と立式
初め、箔検電器は電気的に中性であり、箔は閉じています。ここに負に帯電した棒を金属板に近づけると、棒が持つ負電荷と、箔検電器の導体内を自由に動ける自由電子(負電荷)との間に、クーロン力の反発力が働きます。
この反発力により、自由電子は棒からできるだけ遠い場所へ逃げようとします。その結果、自由電子は箔検電器の最も下にある箔の部分へと移動します。
これにより、電子が過剰になった箔は負に帯電します。一方で、もともと中性だった金属板は、自由電子が去ったことで電子が不足した状態になります。その結果、動くことのできない原子核の正電荷が表面に現れ、金属板は正に帯電します。
箔は両方のひだが負に帯電するため、負電荷どうしの反発力によって互いに反発し合い、開きます。
使用した物理公式
- クーロンの法則(定性的な理解): 同符号の電荷は反発し、異符号の電荷は引き合う。
この設問は、現象の定性的な理解を問うものであり、具体的な計算は不要です。
マイナスの電気を持つ棒を近づけると、箔検電器の中にあるマイナスの電気(自由電子)は「嫌だ!」と反発して、棒から一番遠い箔の先っぽに逃げていきます。その結果、電子がいなくなった金属板はプラスの電気が残り、電子が集まった箔はマイナスになります。マイナス同士は反発するので、箔が開きます。
金属板は正、箔は負に帯電し、箔は開きます。これは静電誘導の基本的な現象として、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
負の棒を近づけたまま、金属板を指で触れる操作です。これは「接地(アース)」と呼ばれる操作に相当します。指(人体)という巨大な導体と接続されたことで、電荷がさらにどこへ移動できるかを考えるのがポイントです。
この設問における重要なポイント
- 人体は電気をよく通す導体であり、非常に大きいため、電子を大量に受け取ったり供給したりできます。
- 負の棒は、金属板の正電荷を引きつけ(束縛し)、箔の負電荷(自由電子)を反発させ続けています。
- 指で触れることで、箔検電器と人体が一体の導体とみなせます。
具体的な解説と立式
(1)の状態から、負の棒は近づいたままです。このため、金属板に現れた正電荷は、棒の負電荷に強く引きつけられており、その場に束縛されています。
一方、箔に集まっていた自由電子は、棒の負電荷から強い反発力を受け続けています。ここに指で触れると、箔検電器と人体が電気的に接続されます。自由電子にとって、反発力が働く箔検電器内にとどまるよりも、指を通って広大な人体へと移動する方が電気的に安定します。
したがって、箔にたまっていた自由電子は、指を通って人体へ逃げていきます。その結果、箔は電気的に中性(電荷が\(0\))になり、反発力がなくなって重力により閉じます。金属板は、依然として棒によって正電荷が束縛されたままです。
使用した物理公式
- 静電誘導と接地
この設問は、現象の定性的な理解を問うものであり、具体的な計算は不要です。
マイナスの棒が近くにある状態で指で触れると、箔の先に逃げていたマイナスの電気(電子)は、もっと遠くに逃げられる「出口」を見つけます。それがあなたの指です。電子は指を通って体の中へどんどん逃げていきます。その結果、箔には電気がなくなり、パタンと閉じます。金属板のプラスの電気は、棒のマイナスに引きつけられているので、そこから動きません。
金属板は正、箔は\(0\)の電荷を持ち、箔は閉じます。接地によって箔の電荷が人体へ逃げた結果として、物理的に妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
負の棒を近づけたまま、指をはなす操作です。電荷の移動経路が断たれた後、箔検電器内の電荷分布がどうなるかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 指をはなすと、箔検電器は再び電気的に孤立した状態になります。
- 負の棒はまだ近くにあり、金属板の正電荷を束縛し続けています。
具体的な解説と立式
(2)の操作で、箔検電器内の移動可能な自由電子はすでに人体へ逃げてしまっています。指をはなすことで、人体との電気的な接続は断たれます。
しかし、箔検電器内の電荷の状況、すなわち「金属板に正電荷が束縛され、箔は中性」という状態は、指をはなす前後で変化する要因がありません。負の棒が依然として正電荷を束縛しているため、この正電荷が箔へ移動することもありません。したがって、状態は(2)のまま変化しません。
使用した物理公式
- 特になし。
この設問は、現象の定性的な理解を問うものであり、具体的な計算は不要です。
電子が体へ逃げ切った後で「出口」である指を離しても、もう箔検電器の中の電気の様子は変わりません。マイナスの棒がプラスの電気をがっちり捕まえているので、何も起こりません。(2)の状態のままです。
金属板は正、箔は\(0\)の電荷を持ち、箔は閉じたままです。電荷の移動が完了した後に移動経路を断っても状態は変わらないため、この結果は妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
指をはなした後、負に帯電した棒を遠ざける操作です。これまで金属板の正電荷を束縛していた力がなくなり、箔検電器内に残された電荷が導体内でどのように再配置されるかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 棒を遠ざけると、静電誘導の影響がなくなります。
- 箔検電器全体としては、(2)の操作で電子を失ったため、正に帯電しています。
- 導体内の電荷は、互いの反発力により、できるだけ離れて分布しようとします。
具体的な解説と立式
(3)の時点で、箔検電器は全体として正に帯電しています。この正電荷は、負の棒に引きつけられて金属板に偏って存在していました。
ここで負の棒を遠ざけると、正電荷を金属板に束縛していた引力がなくなります。残された正電荷どうしは互いに反発し合うため、導体である箔検電器全体に広がろうとします。(実際には、正電荷を持つ原子核は動かず、残っているわずかな自由電子が全体に薄く広がることで、結果的に正電荷が全体に分布したのと同じ状態になります。)
その結果、金属板だけでなく箔にも正電荷が分布します。箔の両方のひだが正に帯電するため、互いに反発し合って再び開きます。
使用した物理公式
- クーロンの法則(定性的な理解)
この設問は、現象の定性的な理解を問うものであり、具体的な計算は不要です。
金属板のプラスの電気を捕まえていたマイナスの棒がいなくなると、プラスの電気たちは「自由だ!」となって、お互いに反発し合って箔検電器全体に散らばります。その結果、金属板も箔もプラスの電気を持つことになり、プラス同士で反発して箔は再び開きます。
金属板は正、箔も正に帯電し、箔は開きます。これは静電誘導と接地を利用して物体を帯電させる「誘導帯電」という現象の完了した状態であり、結果は物理的に正しいです。
問(5)
思考の道筋とポイント
(2)の状態、つまり「棒を近づけ、指で触れている」状態から、先に棒を遠ざける操作です。これは(3)→(4)の操作順序とは異なります。棒からの束縛がなくなったとき、指で接続された箔検電器と人体の間で何が起こるかを考えることが重要です。
この設問における重要なポイント
- (2)の時点では、金属板に正電荷があり、箔は中性で、電子が人体へ流出しています。
- 指は触れたままであり、箔検電器と人体は電気的に接続されています。
- 先に棒を遠ざけることで、金属板の正電荷を束縛していた力がなくなります。
具体的な解説と立式
(2)の操作により、箔検電器は正に帯電し、その正電荷は負の棒によって金属板に束縛されています。
この状態で、指を触れたまま(人体との接続を保ったまま)負の棒を遠ざけます。すると、金属板の正電荷を束縛していた引力がなくなり、この正電荷は自由に動けるようになります。
箔検電器は人体とつながっているため、箔検電器の正電荷は、広大な電子の供給源である人体から自由電子を引き寄せます。人体から供給された自由電子が、箔検電器の正電荷をすべて中和します。
その結果、箔検電器全体が電気的に中性(電荷\(0\))に戻ります。したがって、金属板も箔も電荷は\(0\)となり、箔は閉じたままである。
使用した物理公式
- 静電誘導と接地
この設問は、現象の定性的な理解を問うものであり、具体的な計算は不要です。
(2)の「指で触れている」状態に戻ります。ここで、指を離す前にマイナスの棒を遠ざけると、金属板で捕まっていたプラスの電気が「助けて!」と、つながっている指(体)からマイナスの電気(電子)を呼び戻します。体からやってきた電子がプラスの電気を打ち消してしまうので、箔検電器は元の電気がない状態(中性)に戻ります。なので、箔は閉じたままです。
金属板は\(0\)、箔も\(0\)の電荷を持ち、箔は閉じたままです。帯電させる手順((3)で指を離し、(4)で棒を遠ざける)とは異なり、先に棒を遠ざけると帯電に失敗し、中性に戻ります。この操作順序による結果の違いを理解することが重要であり、結果は妥当です。
問(6)
思考の道筋とポイント
(5)の操作の後、指をはなす操作です。すでに中性に戻った箔検電器から指をはなすとどうなるかを考えます。
この設問における重要なポイント
- (5)の時点で、箔検電器は全体として電気的に中性です。
- 外部からの帯電体の影響もありません。
具体的な解説と立式
(5)の操作によって、箔検電器は完全に中性に戻っており、電荷の偏りも存在しません。この状態で指をはなしても、電荷が移動する要因は何もありません。したがって、状態は(5)のまま変化しません。
使用した物理公式
- 特になし。
この設問は、現象の定性的な理解を問うものであり、具体的な計算は不要です。
(5)で箔検電器はすっかり電気がない状態に戻っています。その状態で指を離しても、何も起こりません。電気がないので、箔は閉じたままです。
金属板は\(0\)、箔も\(0\)の電荷を持ち、箔は閉じたままです。中性の物体から導線を外しても何も変わらないのは自明であり、結果は妥当です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 静電誘導と自由電子の移動:
- 核心: 導体に帯電体を近づけると、導体内の自由電子がクーロン力を受けて移動し、電荷の分布に偏りが生じる「静電誘導」が全ての現象の根本原理です。
- 理解のポイント:
- 負の帯電体接近: 自由電子(負電荷)は反発して帯電体から遠い側へ移動 → 遠い側が負、近い側が正に帯電。
- 正の帯電体接近: 自由電子(負電荷)は引かれて帯電体に近い側へ移動 → 近い側が負、遠い側が正に帯電。
- 接地(アース)の役割:
- 核心: 導体を人体や地球のような巨大な導体に接続(接地)すると、電荷が自由に移動できる「逃げ道」または「供給源」ができると理解することが重要です。
- 理解のポイント:
- 電子の逃げ道: 箔検電器内に反発力で押し込められた電子は、接地によってより広大な人体へ逃げ出すことができる(問2)。
- 電子の供給源: 箔検電器が正に帯電している場合、接地によって人体から電子が引き寄せられ、中和される(問5)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 正の帯電体を用いた場合: 問題の帯電体を「正」に変えて同じ操作をするとどうなるか。自由電子の動きが逆になるだけで、全く同じ論理で考えられます。
- 絶縁体で隔てられた2つの導体: 2つの金属球を接触させた状態で帯電体を近づけ、その後金属球を引き離す問題。これも静電誘導で電荷を分離する典型例です。
- 中空導体(ファラデーケージ): 導体の殻の内部や外部の電荷がどうなるかを問う問題。接地が絡むことも多く、本質は同じです。
- 初見の問題での着眼点:
- 操作の順番を正確に追う: この問題のように、一連の操作が段階的に示される場合、各ステップでの電荷の状態を正確に把握し、それを次のステップの初期条件として考えることが極めて重要です。「指をはなす」と「棒を遠ざける」の順序が入れ替わるだけで結果が全く異なる(問4と問5の比較)ことを意識してください。
- 「自由電子」を主役にする: 物理現象として動いているのは、基本的に自由電子だけです。常に「自由電子は今、どちら向きの力を受けているか?」「どこへ移動できるか?」という視点で考えると、現象を追いやすくなります。
- 全体の電荷保存を意識する: 箔検電器が「孤立している」状態(指で触れていない、他の導体と接触していない)では、内部での電荷の移動はあっても、全体の総電荷は保存されます。接地されているときのみ、外部との電荷のやり取りが起こり、総電荷が変化します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 正電荷が移動すると考えるミス:
- 誤解: 棒を遠ざけたとき(問4)、「金属板の正電荷が箔に移動する」と考えてしまう。
- 対策: 導体中で実際に移動するのは自由電子だけである、と徹底して覚える。正電荷の正体は電子を失った原子核であり、結晶格子に固定されて動けません。「正電荷が広がる」という現象は、実際には「残された自由電子が再配置されることで、結果的に正電荷が均等に分布しているように見える」状態だと理解する。
- 接地時の電荷の動きの誤解:
- 誤解: (2)で指を触れたとき、棒に近い金属板の正電荷が中和される、または箔の負電荷だけでなく金属板の正電荷も指を通って移動すると考えてしまう。
- 対策: 棒からの力を常に意識する。金属板の正電荷は、棒の負電荷に強く引きつけられ「束縛」されています。一方、箔の電子は棒から反発力を受けているため「逃げたがっている」状態です。接地という逃げ道ができれば、逃げたがっている電子だけが移動すると考えるのが自然です。
- 操作の順序の混同:
- 誤解: (4)と(5)の違いを意識せず、どちらも同じように帯電すると考えてしまう。
- 対策: 「①指をはなす(孤立させる)→ ②棒を遠ざける(束縛を解く)」という手順が、物体を誘導帯電させるための正しい手順であると覚える。この順序が逆になると、束縛を解かれた電荷が接地を通じて中和されてしまうため、帯電に失敗します。この違いを明確に区別することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- クーロンの法則(定性的利用):
- 選定理由: この問題は、電荷間に働く力の向き(引力か反発力か)を理解することが全ての基本です。クーロン力の数式 \(F = k \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2}\) を直接計算する場面はありませんが、その定性的な意味である「同符号は反発、異符号は引力」という法則が、自由電子の移動方向を決定する唯一の根拠となります。
- 適用根拠:
- 問(1): 負の棒と自由電子(負)の間に働く「反発力」が、電子を箔へ移動させる原因です。
- 問(2): 負の棒と金属板の正電荷の間に働く「引力」が、正電荷をその場に束縛する原因です。
- 問(4): 棒がなくなり、正電荷どうしの「反発力」が、電荷を箔検電器全体に広げる原因です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- この問題には定量的な計算はありませんが、思考のプロセスを正確に積み重ねることが「計算」に相当します。
- 図を描いて考える: 各ステップごとに、箔検電器の簡単な図を描き、プラス(+)とマイナス(-)の記号を書き込んで電荷の分布を可視化する習慣をつける。特に、自由電子(e-)の移動を矢印で示すと、思考が整理されやすくなります。
- 状態変化の前後を比較する: 「操作前」の状態と「操作後」の状態で、何が変化したのか(棒の有無、接地の有無)を明確にし、その変化が電荷にどのような影響を与えるかを一つずつ論理的に考える。
- 言葉で説明する癖をつける: 「なぜ電子は箔に移動するのか?」→「負の棒からの反発力で、一番遠い場所に逃げるから」のように、現象の理由を自分の言葉で説明する練習をすると、理解が深まり、ケアレスミスが減ります。
309 電荷の移動と電気力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「クーロンの法則と電気量保存の法則」です。点電荷間に働く力の計算、複数の力がつりあう条件、そして導体どうしを接触させたときの電荷の移動という、静電気の分野における基本的な重要事項が詰まっています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- クーロンの法則: 点電荷間に働く力の大きさは、それぞれの電気量の大きさの積に比例し、電荷間の距離の2乗に反比例します。
- 力のつり合い: 物体にはたらく力のベクトル和が0のとき、その物体にはたらく力の合力は0となります。
- 電気量保存の法則: 外部と電荷のやり取りがない孤立した系において、電気量の総和(符号を考慮した和)は常に一定に保たれます。
- 導体の接触による電荷の再分配: 同じ材質・同じ大きさの導体を接触させると、それらが持つ電気量の総和が、接触後は均等に分配されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、クーロンの法則の公式に与えられた電気量と距離の値を代入して、力の大きさを直接計算します。
- (2)では、正電荷Qにはたらく2つのクーロン力が「大きさが等しく、向きが逆」になる位置を探します。まず力の向きを考察して候補となる領域を絞り込み、次に力のつり合いの式を立てて距離を求めます。
- (3)では、まず電気量保存の法則を用いて、接触後の各金属球の電気量を求めます。その新しい電気量を使って、再びクーロンの法則を適用し、2球間にはたらく力を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
2つの点電荷間に働く静電気力(クーロン力)の大きさを求める、最も基本的な問題です。クーロンの法則の公式を正しく理解し、適用できるかが問われます。電荷の符号が正と負で異なるため、2球間には引力がはたらくことも念頭に置きます。
この設問における重要なポイント
- クーロンの法則の公式: \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
- クーロン定数: \(k = 9.0 \times 10^9 \text{ N}\cdot\text{m}^2/\text{C}^2\)
- 力の大きさを求める計算では、電気量は絶対値を用いる。
具体的な解説と立式
金属球Aの電荷を \(q_{\text{A}} = +8.0 \times 10^{-8} \text{ C}\)、金属球Bの電荷を \(q_{\text{B}} = -2.0 \times 10^{-8} \text{ C}\) とします。2球間の距離は \(r = 4.0 \text{ m}\) です。
クーロンの法則より、AとBの間に働く力の大きさ \(F\) は以下の式で表されます。
$$ F = k \frac{|q_{\text{A}} q_{\text{B}}|}{r^2} \quad \cdots ① $$
ここで、クーロン定数は \(k = 9.0 \times 10^9 \text{ N}\cdot\text{m}^2/\text{C}^2\) です。
使用した物理公式
- クーロンの法則: \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
式①に与えられた値を代入して \(F\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= (9.0 \times 10^9) \times \frac{|(+8.0 \times 10^{-8}) \times (-2.0 \times 10^{-8})|}{(4.0)^2} \\[2.0ex]
&= (9.0 \times 10^9) \times \frac{8.0 \times 2.0 \times 10^{-16}}{16} \\[2.0ex]
&= (9.0 \times 10^9) \times \frac{16 \times 10^{-16}}{16} \\[2.0ex]
&= 9.0 \times 10^{9-16} \\[2.0ex]
&= 9.0 \times 10^{-7} \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
電気を帯びた物体の間に働く力は、「クーロンの法則」という公式で計算できます。公式に、問題で与えられたAとBの電気の量、そして2つの間の距離を当てはめて計算します。力の大きさを知りたいので、電気の量がプラスかマイナスかは気にせず、それぞれの大きさ(絶対値)を使って計算するのがポイントです。
A, Bが引き合う力の大きさは \(9.0 \times 10^{-7} \text{ N}\) です。Aは正電荷、Bは負電荷なので、互いに引き合う力(引力)がはたらきます。計算結果は力の大きさのみを示しており、問題の要求と一致しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
3つ目の電荷Qを置いたとき、Qにはたらく力の合力が0になる点を探す問題です。これは、Aから受ける力とBから受ける力が「大きさが等しく、向きが逆」になる点を見つけることを意味します。まず、力の向きを考えて合力が0になりうる領域を絞り込み、その上で力のつり合いの式を立てて計算することが効率的かつ確実なアプローチです。
この設問における重要なポイント
- 力のつり合い: \(\vec{F}_{\text{Aから}} + \vec{F}_{\text{Bから}} = \vec{0}\)
- 力の向きの考察: A, B, Qの電荷の符号から、Qが受ける力の向きを判断する。
- 距離の設定: 基準点(例えばB)からの距離を文字(例: \(x\))で置き、力のつり合いの式を立てる。
具体的な解説と立式
正電荷Qを置く点をPとします。Pにはたらく力の合力が0になるためには、Aからの力 \(\vec{F}_{\text{A}}\) とBからの力 \(\vec{F}_{\text{B}}\) がつりあう必要があります。
Aの電荷 \(q_{\text{A}} = +8.0 \times 10^{-8} \text{ C}\) は正、Bの電荷 \(q_{\text{B}} = -2.0 \times 10^{-8} \text{ C}\) は負、Qの電荷 \(q_{\text{Q}}\) は正です。
- AとQの間には、正電荷どうしなので斥力(Aから遠ざかる向きの力)がはたらきます。
- BとQの間には、異符号の電荷なので引力(Bに近づく向きの力)がはたらきます。
力の向きを、AとBを結ぶ直線上の3つの領域で考えます。
- AとBの間: Aからの斥力は右向き、Bからの引力も右向き。2つの力が同じ向きなので、合力は0になりません。
- Aの左側: Aからの斥力は左向き、Bからの引力は右向き。力の向きは逆ですが、Qは電荷の絶対値が大きいA (\(|q_{\text{A}}| = 8.0 \times 10^{-8}\)) に近く、絶対値が小さいB (\(|q_{\text{B}}| = 2.0 \times 10^{-8}\)) からは遠くなります。クーロン力は距離の2乗に反比例するため、Aからの力の方が常にBからの力より大きくなり、つりあうことはありません。
- Bの右側: Aからの斥力は右向き、Bからの引力は左向き。力の向きが逆なので、力の大きさが等しくなればつりあう可能性があります。
したがって、つりあい点はBの右側(Aの反対側)に存在します。
点PがBから距離 \(x\) の位置にあるとすると、Aからの距離は \((4.0+x)\) となります。力のつり合いの条件は \(|\vec{F}_{\text{A}}| = |\vec{F}_{\text{B}}|\) なので、
$$ k \frac{|q_{\text{A}} q_{\text{Q}}|}{(4.0+x)^2} = k \frac{|q_{\text{B}} q_{\text{Q}}|}{x^2} \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- クーロンの法則: \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
- 力のつり合い: 合力 = 0
式①を解いて \(x\) を求めます。両辺に共通する \(k\) と \(q_{\text{Q}}\) を消去し、値を代入します。
$$ \frac{|+8.0 \times 10^{-8}|}{(4.0+x)^2} = \frac{|-2.0 \times 10^{-8}|}{x^2} $$
両辺の \(10^{-8}\) を消去すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{8.0}{(4.0+x)^2} &= \frac{2.0}{x^2} \\[2.0ex]
8.0 x^2 &= 2.0 (4.0+x)^2 \\[2.0ex]
4.0 x^2 &= (4.0+x)^2
\end{aligned}
$$
距離 \(x\) は正の値なので、両辺の正の平方根をとると、
$$
\begin{aligned}
2.0 x &= 4.0+x \\[2.0ex]
x &= 4.0 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
これは、BからAの反対側に \(4.0 \text{ m}\) 離れた点であることを示します。
まず、どこに電荷Qを置けば力がつりあうか考えます。A(プラス)とQ(プラス)は反発し、B(マイナス)とQ(プラス)は引き合います。力の矢印を図に描いてみると、AとBの外側で、電気の量が小さいBの近くに置けばつりあいそうだとわかります。
次に、Bからの距離を \(x\) として、「AからQにはたらく力」と「BからQにはたらく力」の大きさが等しくなるという式を立てます。この方程式を解くことで、具体的な距離 \(x\) が求まります。
Qにはたらく力の合力が0になるのは、Bから \(4.0 \text{ m}\) だけAの反対側に離れた点です。この位置は、電荷の絶対値が小さいBの近くであり、物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
同じ材質・大きさの導体球を接触させると、電荷が移動して均等に再分配される、という性質を利用します。まず、接触後の各球の電気量を「電気量保存の法則」から求め、その新しい電気量を用いて、再びクーロンの法則で2球間にはたらく力を計算します。
この設問における重要なポイント
- 電気量保存の法則: 接触前後の電気量の総和は変わらない。
- 電荷の再分配: 同じ材質・大きさの導体を接触させると、総電荷を等分する。
- 力の向きの判断: 接触後の電荷の符号から、力が引力か斥力かを判断する。
具体的な解説と立式
金属球AとBを接触させると、2つの球は一体の導体とみなせます。電荷は導体全体に広がり、再び離すと均等に分配されます。
接触前の電気量の総和は、\(Q_{\text{全}} = q_{\text{A}} + q_{\text{B}}\) です。
接触後、AとBはそれぞれ同じ電気量 \(q\) を持つとすると、電気量保存の法則より、
$$ 2q = q_{\text{A}} + q_{\text{B}} \quad \cdots ① $$
この式から \(q\) を求めます。その後、この新しい電気量 \(q\) を使って、距離 \(r=4.0 \text{ m}\) での力の大きさ \(F’\) をクーロンの法則で計算します。
$$ F’ = k \frac{|q \cdot q|}{r^2} = k \frac{q^2}{r^2} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 電気量保存の法則: \(q_{\text{A}} + q_{\text{B}} = q’_{\text{A}} + q’_{\text{B}}\)
- クーロンの法則: \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
まず、式①を用いて接触後の電気量 \(q\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
2q &= (+8.0 \times 10^{-8}) + (-2.0 \times 10^{-8}) \\[2.0ex]
&= +6.0 \times 10^{-8} \\[2.0ex]
q &= +3.0 \times 10^{-8} \text{ [C]}
\end{aligned}
$$
次に、式②を用いてこの電気量 \(q\) での力の大きさ \(F’\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
F’ &= (9.0 \times 10^9) \times \frac{(+3.0 \times 10^{-8})^2}{(4.0)^2} \\[2.0ex]
&= (9.0 \times 10^9) \times \frac{9.0 \times 10^{-16}}{16} \\[2.0ex]
&= \frac{81}{16} \times 10^{-7} \\[2.0ex]
&= 5.0625 \times 10^{-7} \\[2.0ex]
&\approx 5.1 \times 10^{-7} \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
接触後の電荷 \(q\) は両方とも正なので、AとBの間には互いに反発しあう力(斥力)がはたらきます。
金属のボールをくっつけると、中の電気が混ざり合って、最終的に均等に分かれます。まず、AとBの電気の量を足し算(マイナスの電気も符号をつけて計算)して、それを2で割ることで、接触後のそれぞれの電気の量を求めます。
新しくなった電気の量を使って、(1)と同じようにクーロンの法則の公式で力の大きさを計算します。今回は2つのボールが同じプラスの電気を持つので、お互いに反発する力(斥力)になります。
A, Bの間には、大きさ \(5.1 \times 10^{-7} \text{ N}\) の斥力がはたらきます。接触により、Bの負電荷がAの正電荷の一部を中和し、残った正電荷が均等に分配されます。結果として両球とも正に帯電するため、斥力がはたらくという結果は物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- クーロンの法則:
- 核心: 点電荷間に働く力 \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\) を計算できること。
- 理解のポイント:
- 力の大きさ: 電荷の大きさ(絶対値)の積に比例し、距離の2乗に反比例する。
- 力の向き: 電荷の符号の組み合わせで決まる(同符号なら斥力、異符号なら引力)。
- 電気量保存の法則と電荷の再分配:
- 核心: 導体を接触させると、電気量の総和が保存され、同じ材質・大きさの導体であれば総電荷が均等に分配されること。
- 理解のポイント:
- 総電荷の計算: 接触前の各電荷を、符号を含めて足し合わせる(代数和)。
- 分配: 同じ導体2つなら、総電荷を2で割ったものが接触後の各電荷となる。
- 力のつり合い(重ね合わせの原理):
- 核心: ある電荷にはたらく合力は、他の各電荷から受ける力をベクトル的に足し合わせたものになること。
- 理解のポイント:
- 合力が0: 各力のベクトル和が0になることであり、一直線上では「大きさが等しく、向きが逆」になることを意味する。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 力のつり合い問題の定石:
- つり合い点の領域特定: 計算を始める前に、必ず力の向きを図示し、つり合いが成立しうる領域を特定する。
- 異符号の電荷(例: 本問)の場合、つり合い点は2つの電荷の外側で、かつ電荷の絶対値が小さい方の近くにできる。
- 同符号の電荷の場合、つり合い点は2つの電荷の間にできる。
- つり合い点の領域特定: 計算を始める前に、必ず力の向きを図示し、つり合いが成立しうる領域を特定する。
- 応用的な設定:
- 導体球の大きさが異なる場合: 高校範囲を超えることが多いが、もし導体球の半径が異なる場合、接触させると「電位」が等しくなるように電荷が移動する。結果、電荷は半径の比に比例して分配される。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- クーロンの法則の計算ミス:
- 誤解: 力の大きさを計算する際に、電荷の符号をそのまま式に入れてしまう。
- 対策: 力の大きさは \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\) のように、電荷の絶対値で計算すると決めておく。力の向き(引力か斥力か)は、計算後に符号の組み合わせを見て別途判断する、という手順を徹底する。
- つり合い点の位置の勘違い:
- 誤解: (2)で、つり合い点をAとBの間に設定して計算を始めてしまう。
- 対策: 計算を始める前に、必ず力の向きを矢印で図示する癖をつける。矢印が逆向きになる領域だけが候補であることを確認してから、式を立てる。
- 接触後の電荷の計算ミス:
- 誤解: (3)で、接触後の電荷を求めるときに、電荷の絶対値の平均をとってしまう(例: \((8.0+2.0)/2\))。
- 対策: 電気量は符号を含むスカラー量であることを意識する。接触後の総電荷は、必ず符号を含めた「代数和」(例: \((+8.0) + (-2.0)\))で計算する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 「力は?」→ クーロンの法則:
- 選定理由: (1)と(3)で問われているのは、2つの電荷の間に働く「力」そのものです。これはクーロンの法則が定義する物理量なので、この公式を選択します。
- 適用根拠: 問題で与えられた電荷と距離から、直接的に力を計算する場面で適用します。
- 「力の合力が0」「つりあう」→ 力のつり合いの式:
- 選定理由: (2)は「合力が0」という条件が与えられています。これは物理学における「力のつり合い」の状態を指します。
- 適用根拠: つり合いの式(\(\Sigma \vec{F} = \vec{0}\))を立て、式中の各力をクーロンの法則で表現することで、未知の距離を求めることができます。
- 「接触させたら」→ 電気量保存の法則:
- 選定理由: (3)の「接触」という操作は、電荷が移動し再分配されることを意味します。この現象を支配する根本法則が「電気量保存の法則」です。
- 適用根拠: 接触後の状態(新しい電荷の値)を求めるために、まずこの法則を適用する必要があります。これがなければ、クーロンの法則を使うことができません。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数の計算: \(10^9 \times 10^{-8} \times 10^{-8} = 10^{9-8-8} = 10^{-7}\) のような指数の足し算・引き算は、焦らず慎重に行う。特に負の符号に注意する。
- 有効数字: 問題文で与えられている数値(\(8.0, -2.0, 4.0\))はすべて有効数字2桁です。したがって、最終的な答えも有効数字2桁に揃える(例: \(5.0625 \dots \rightarrow 5.1\))。計算途中では多めの桁数で計算し、最後に四捨五入するのが基本です。
- 方程式の解法: (2)の \(4.0x^2 = (4.0+x)^2\) のような方程式では、展開して解の公式を使うよりも、両辺の平方根をとる方が計算が楽でミスも少ないです。ただし、\(x>0\) のような物理的な条件を考慮して、適切な解を選ぶことを忘れないようにしましょう。
310 電気力線の本数
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電界の定義とガウスの法則の導入」です。電界という概念が、クーロン力とどのように関連付けられているか、そして電界を視覚化する電気力線というツールがどのように定義され、どのような性質を持つかを、一連の論理的な流れに沿って理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電界(電場)の定義: ある点に \(+1 \text{ C}\) の試験電荷を置いたときに、その電荷が受ける静電気力のことです。
- クーロンの法則: 2つの点電荷間に働く力の大きさを記述する法則です。
- 電気力線: 電界の様子を視覚的に表現するための仮想的な線です。その密度が電界の強さを、向きが電界の向きを表します。
- 球の表面積: 半径 \(r\) の球の表面積は \(S = 4\pi r^2\) で与えられます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 空欄①では、電界の定義に立ち返り、クーロンの法則を用いて点電荷が作る電界の強さの公式を導きます。
- 空欄②では、問題文で与えられた「電気力線の密度」の定義と、球の表面積の公式を用いて、球面全体を貫く電気力線の総本数を数式で表現します。
- 空欄③では、①と②で得られた2つの式を組み合わせることで、電気力線の総本数が電荷の量だけで決まるという、ガウスの法則の基本的な考え方を導出します。
空欄①
思考の道筋とポイント
点電荷が作る電界の強さを求める問題です。電界の最も基本的な定義である「その点に \(+1 \text{ C}\) の電荷を置いたときに受ける力の大きさ」を、クーロンの法則を用いて数式にすることが求められます。
この設問における重要なポイント
- 電界 \(E\) の定義: その点に置いた試験電荷 \(q_0\) が受ける力を \(F\) とすると、\(E = \displaystyle\frac{F}{q_0}\)。
- 特に、試験電荷として \(q_0 = +1 \text{ C}\) を考えると、\(E = F\) となります。
- クーロンの法則: 2つの電荷 \(q_1, q_2\) が距離 \(r\) だけ離れているとき、働く力の大きさは \(F = k_0 \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)。
具体的な解説と立式
電界の強さ \(E\) は、定義により、その点に置かれた \(+1 \text{ C}\) の試験電荷が受ける静電気力の大きさに等しくなります。
いま、電気量 \(q\) (\(q>0\)) の点電荷から距離 \(r\) だけ離れた点に、試験電荷として \(+1 \text{ C}\) の電荷を置いた状況を考えます。
この \(+1 \text{ C}\) の電荷が、電荷 \(q\) から受ける力の大きさ \(F\) は、クーロンの法則によって次のように計算できます。
$$ F = k_0 \frac{|q \times (+1)|}{r^2} $$
電界の定義 \(E=F\) より、電界の強さ \(E\) は、
$$ E = k_0 \frac{q}{r^2} $$
となります。
使用した物理公式
- 電界の定義: \(E = \displaystyle\frac{F}{q_0}\)
- クーロンの法則: \(F = k_0 \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
この設問は、定義から公式を導出するものであり、具体的な数値計算はありません。上記の「具体的な解説と立式」で示した導出過程が計算過程に相当します。
「電界の強さ」とは、その場所に「\(+1 \text{ C}\) の電気」を仮想的に置いたときに、どれくらいの力を受けるか、という強さの指標です。クーロンの法則を使って、電気量 \(q\) の電荷と、\(+1 \text{ C}\) の電荷の間に働く力の大きさを計算すれば、それがそのまま電界の強さ \(E\) の式になります。
空欄①に当てはまる式は \(k_0 \displaystyle\frac{q}{r^2}\) です。これは点電荷が作る電界の公式そのものであり、物理的に正しいです。
空欄②
思考の道筋とポイント
電気力線の総本数を、電界の強さ \(E\) と半径 \(r\) を用いて表す問題です。問題文で与えられている「電気力線のルール」、すなわち「単位面積あたりの本数が電界の強さ \(E\) に等しい」という定義を正しく解釈することが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 電気力線の密度(単位面積あたりの本数)が、電界の強さ \(E\) を表す。
- 総本数 = (単位面積あたりの本数) × (全面積) という関係を適用する。
- 半径 \(r\) の球の表面積の公式は \(S = 4\pi r^2\) である。
具体的な解説と立式
問題文の定義によれば、電界の強さが \(E\) の点では、電界に垂直な面を \(1 \text{ m}^2\) あたり \(E\) 本の電気力線が貫きます。これは、電気力線の密度が \(E\) であることを意味します。
今、点電荷 \(q\) を中心とする半径 \(r\) の球面を考えます。この球面全体を貫く電気力線の総本数 \(N\) を求めたい場合、「単位面積あたりの本数」に「球全体の表面積」を掛ければよいことになります。
- 単位面積あたりの本数(密度): \(E\)
- 半径 \(r\) の球の表面積: \(S = 4\pi r^2\)
したがって、総本数 \(N\) は、
$$
\begin{aligned}
N &= E \times S \\[2.0ex]
&= E \times (4\pi r^2) \\[2.0ex]
&= 4\pi r^2 E
\end{aligned}
$$
と表されます。
使用した物理公式
- 電気力線の本数と電界の関係(定義): \(N = ES\)
- 球の表面積: \(S = 4\pi r^2\)
この設問も、定義から式を立てるものであり、数値計算はありません。上記の解説がそのまま計算過程となります。
電気力線は、電界の強さを矢印の「混み具合」で表したものです。問題文には「1平方メートルあたり \(E\) 本の混み具合で描く」というルールが書かれています。今、半径 \(r\) のボール(球面)全体を貫く本数を知りたいので、「1平方メートルあたりの本数」に「ボール全体の表面積」を掛ければ求まります。ボールの表面積は算数や数学で習った \(4\pi r^2\) です。
空欄②に当てはまる式は \(4\pi r^2 E\) です。これは電気力線の定義から直接導かれる関係式であり、正しいです。
空欄③
思考の道筋とポイント
空欄①と②で求めた関係式を組み合わせて、電気力線の総本数をクーロン定数 \(k_0\) と電荷 \(q\) だけで表す問題です。代入して式を整理するだけの単純な計算ですが、その結果が物理的に非常に重要な意味を持つことを理解することが大切です。
この設問における重要なポイント
- ②で求めた式 \(N = 4\pi r^2 E\) に、①で求めた式 \(E = k_0 \displaystyle\frac{q}{r^2}\) を代入する。
- 計算結果から \(r\) が消去され、総本数が距離によらないことを確認する。
具体的な解説と立式
空欄②で、点電荷 \(q\) を中心とする半径 \(r\) の球面を貫く電気力線の総本数 \(N\) は、
$$ N = 4\pi r^2 E \quad \cdots (\text{ii}) $$
と表されることがわかりました。
また、空欄①で、この球面上の電界の強さ \(E\) は、
$$ E = k_0 \frac{q}{r^2} \quad \cdots (\text{i}) $$
と表されることがわかりました。
式(ii)に式(i)を代入することで、総本数 \(N\) を \(k_0\) と \(q\) を用いて表すことができます。
使用した物理公式
- 空欄①、②で導出した関係式。
式(ii)に式(i)を代入します。
$$
\begin{aligned}
N &= 4\pi r^2 \times \left( k_0 \frac{q}{r^2} \right) \\[2.0ex]
&= 4\pi k_0 q
\end{aligned}
$$
分母と分子にある \(r^2\) が打ち消し合い、この結果は半径 \(r\) を含みません。
(2)で求めた電気力線の総本数を表す式 \(4\pi r^2 E\) に、(1)で求めた \(E\) の正体である \(k_0 \displaystyle\frac{q}{r^2}\) を代入します。すると、分母と分子に \(r^2\) があるので、きれいに約分されて消えてしまいます。残ったものが空欄③の答えです。
空欄③に当てはまる式は \(4\pi k_0 q\) です。この結果は、電荷を囲む球の半径 \(r\) に依存しない、という重要な性質を示しています。これは、電荷 \(q\) から出る(または入る)電気力線の総本数は、その電荷の量だけで決まり、観測する距離にはよらないという「ガウスの法則」の根幹をなす考え方であり、物理的に正しい結論です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電界の定義:
- 核心: 電界 \(E\) とは、その空間の点に \(+1 \text{ C}\) の試験電荷を置いたときに、その電荷が受ける静電気力 \(F\) のことである (\(E=F\))。この定義が、クーロンの法則と電界の公式を結びつける橋渡しとなります。
- 理解のポイント:
- 電界は「場」の概念であり、電荷が存在することでその周りの空間自体の性質が変化したと考える。
- 力 (\(\text{N}\)) とは異なり、電界の単位は (\(\text{N/C}\)) である。
- 電気力線の概念とルール:
- 核心: 電気力線は電界を視覚化するためのツールであり、「電界に垂直な面を貫く単位面積あたりの本数(密度)が、その点の電界の強さ \(E\) に等しい」という約束事(定義)で描かれる。
- 理解のポイント:
- 電気力線が密なところほど電界が強く、疎なところほど電界が弱い。
- 電気力線の接線の向きが、その点の電界の向きを表す。
- ガウスの法則(の原型):
- 核心: 電荷 \(q\) から出る(または入る)電気力線の総本数 \(N\) は、電荷を囲む閉曲面の形状や大きさによらず、\(N=4\pi k_0 q\) となり、電荷の量 \(q\) だけで決まる。
- 理解のポイント:
- この法則により、複雑な形状の導体の周りの電界を計算することが可能になる。
- \(r^2\) に反比例する電界の性質(逆2乗の法則)と、表面積が \(r^2\) に比例する幾何学的性質が組み合わさることで、総本数が距離 \(r\) によらなくなる、という点が本質。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 無限に広い平面導体がつくる電界: ガウスの法則を用いると、距離によらない一様な電界 \(E = 2\pi k_0 \sigma\) (\(\sigma\) は面電荷密度)が簡単に導出できる。
- 電気力線の作図問題: 正負の点電荷や導体板を配置し、電気力線の概形を描かせる問題。電気力線の性質(正電荷から出て負電荷に入る、途中で途切れたり交わったりしない、導体表面に垂直に出入りする等)の理解が問われる。
- 電束との関連: 大学物理では、電気力線の本数を「電束」という物理量で扱い、ガウスの法則は \(\oint \vec{E} \cdot d\vec{S} = \frac{Q}{\varepsilon_0}\) と表現される。本問は、この積分形のガウスの法則の最も簡単な原型を扱っている。
- 初見の問題での着眼点:
- 「電界」を問われたら?: まず定義「\(+1 \text{ C}\) あたりの力」に立ち返る。電荷分布が単純な点電荷や球対称なら、クーロンの法則から \(E = k_0 \displaystyle\frac{q}{r^2}\) を適用する。
- 「電気力線の本数」を問われたら?: 「密度が\(E\)」という定義を思い出す。総本数 \(N\) は、電界 \(E\) に面積 \(S\) を掛ける (\(N=ES\)) ことで求められる、と考える。
- 物理定数の関係: クーロン定数 \(k_0\) と真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) の間には \(k_0 = \displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\) という関係がある。これを使うと、ガウスの法則は \(N = 4\pi k_0 q = 4\pi \left(\displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\right) q = \displaystyle\frac{q}{\varepsilon_0}\) と、よりシンプルな形で表される。この変形を要求される問題もある。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電界と力の混同:
- 誤解: 電界 \(E\) と力 \(F\) を同じものとして扱い、単位などを間違える。
- 対策: 電界は「空間の性質」、力は「電荷が受け取るもの」と区別する。\(F=qE\) という関係式を常に意識し、電界に電気量 \(q\) を掛けて初めて力になる、と理解する。
- 電気力線の本数の定義の誤解:
- 誤解: 電気力線の総本数が電界の強さ \(E\) そのものであると勘違いする。
- 対策: 「本数」と「密度(本/m²)」を明確に区別する。「密度」が \(E\) であり、総本数 \(N\) はそれに面積を掛けたものである、という定義を正確に覚える。
- 公式の丸暗記による弊害:
- 誤解: \(N=4\pi k_0 q\) という結果だけを覚えてしまい、なぜそうなるのかの論理的なつながり(①と②の組み合わせ)を説明できない。
- 対策: この問題のように、定義から出発して公式を導出する流れを一度は自分で再現してみる。「電界の定義」→「クーロンの法則で電界を計算」→「電気力線の定義」→「総面積を掛けて総本数を計算」→「両者を結合」というストーリーで理解する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電界の定義式 (\(E = F/q_0\)):
- 選定理由: (1)で、クーロン力の世界から電界の世界へ移るために必要不可欠な「翻訳機」の役割を果たす。
- 適用根拠: 問題が「電界の強さ \(E\) は」と問いかけているため、その定義に直接立ち返るのが最も論理的な出発点となる。
- クーロンの法則 (\(F = k_0 |q_1 q_2|/r^2\)):
- 選定理由: (1)で、電界の定義を具体的な数式で表現するための計算ツールとして使用する。
- 適用根拠: 電界の定義に出てくる「力 \(F\)」を、電荷 \(q\) と距離 \(r\) を使って計算するために、この法則が必要となる。
- 電気力線の本数の定義 (\(N = ES\)):
- 選定理由: (2)で「電気力線の総本数」を問われているため、その定義式を直接用いる。
- 適用根拠: 問題文に「単位面積あたり\(E\)本描く」と明記されており、これが \(E\) が密度であることを示している。総量を求めるには密度に面積を掛ける、という一般的な考え方を適用する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- この問題は文字式の計算が中心であり、数値計算ミスは発生しにくい。しかし、論理のステップを間違えないことが重要。
- 文字の区別: \(q\) (電荷), \(E\) (電界), \(F\) (力), \(N\) (本数), \(k_0\) (定数), \(r\) (距離) など、各文字が何を表す物理量なのかを常に意識しながら式を立てる。
- 単位の確認: 式変形の際に、両辺の単位が合っているかを確認する癖をつけると、間違いに気づきやすくなる。例えば、\(N=4\pi r^2 E\) の右辺の単位は \(\text{m}^2 \times (\text{N/C})\) であり、力線の本数とは直接対応しないが、これは定義上の約束事であると割り切る。
- 代入の正確さ: (3)で \(E\) の式を代入する際に、分母と分子を間違えないように慎重に行う。特に分数の形をした式を代入するときは、括弧を適切に使うとミスが減る。
$$ N = 4\pi r^2 \times (E) \rightarrow N = 4\pi r^2 \times \left( k_0 \frac{q}{r^2} \right) $$
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