「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 24】Step 2

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Step 2

308 箔検電器

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「静電誘導と接地による導体の帯電」です。一連の操作によって、導体内の自由電子がどのように移動し、電荷がどう分布するかを段階的に理解することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 静電誘導: 帯電体を導体に近づけると、導体内の電荷が移動し、帯電体に近い側に異種符号、遠い側に同種符号の電荷が現れる現象です。
  2. 自由電子: 導体内を自由に移動できる電子のことで、静電誘導による電荷の移動の主役です。
  3. 接地(アース): 導体を地球や人体のような巨大な導体に接続することです。これにより、電荷は地球との間で自由に移動できるようになり、電荷の逃げ道や供給源となります。
  4. クーロン力: 電荷間に働く力です。同種符号の電荷は反発し、異種符号の電荷は引き合います。この力が自由電子を動かす原因となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、負に帯電した棒が作る反発力によって、箔検電器内の自由電子がどこへ移動するかを考えます。
  2. (2)では、指で触れる(接地する)ことで、自由電子の新たな移動経路(人体)ができたと考え、電子がどこへ逃げるかを考察します。
  3. (3)から(6)までは、各操作によって帯電した棒や指(接地)からの影響がどう変化し、箔検電器内に残った電荷や自由電子がどのように再配置されるかを順を追って考えていきます。

問(1)

思考の道筋とポイント
負に帯電した棒を、中性の箔検電器に近づける操作です。これは「静電誘導」の最も基本的な例であり、導体である箔検電器の中で、電荷(特に自由電子)がどのように移動するかを考えることが出発点となります。
この設問における重要なポイント

  • 導体内の自由電子は、外部の電場(この場合は負の棒が作る電場)から力を受けて移動します。
  • 負に帯電した棒は、自由電子(負電荷)に対して反発力を及ぼします。
  • 箔検電器全体では、初めは電気的に中性(正電荷と負電荷が同数)です。

具体的な解説と立式
初め、箔検電器は電気的に中性であり、箔は閉じています。ここに負に帯電した棒を金属板に近づけると、棒が持つ負電荷と、箔検電器の導体内を自由に動ける自由電子(負電荷)との間に、クーロン力の反発力が働きます。

この反発力により、自由電子は棒からできるだけ遠い場所へ逃げようとします。その結果、自由電子は箔検電器の最も下にある箔の部分へと移動します。

これにより、電子が過剰になった箔は負に帯電します。一方で、もともと中性だった金属板は、自由電子が去ったことで電子が不足した状態になります。その結果、動くことのできない原子核の正電荷が表面に現れ、金属板は正に帯電します。

箔は両方のひだが負に帯電するため、負電荷どうしの反発力によって互いに反発し合い、開きます。

使用した物理公式

  • クーロンの法則(定性的な理解): 同符号の電荷は反発し、異符号の電荷は引き合う。
計算過程

この設問は、現象の定性的な理解を問うものであり、具体的な計算は不要です。

計算方法の平易な説明

マイナスの電気を持つ棒を近づけると、箔検電器の中にあるマイナスの電気(自由電子)は「嫌だ!」と反発して、棒から一番遠い箔の先っぽに逃げていきます。その結果、電子がいなくなった金属板はプラスの電気が残り、電子が集まった箔はマイナスになります。マイナス同士は反発するので、箔が開きます。

結論と吟味

金属板は正、箔は負に帯電し、箔は開きます。これは静電誘導の基本的な現象として、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) 金属板:正,箔:負,箔:開く。

問(2)

思考の道筋とポイント
負の棒を近づけたまま、金属板を指で触れる操作です。これは「接地(アース)」と呼ばれる操作に相当します。指(人体)という巨大な導体と接続されたことで、電荷がさらにどこへ移動できるかを考えるのがポイントです。
この設問における重要なポイント

  • 人体は電気をよく通す導体であり、非常に大きいため、電子を大量に受け取ったり供給したりできます。
  • 負の棒は、金属板の正電荷を引きつけ(束縛し)、箔の負電荷(自由電子)を反発させ続けています。
  • 指で触れることで、箔検電器と人体が一体の導体とみなせます。

具体的な解説と立式
(1)の状態から、負の棒は近づいたままです。このため、金属板に現れた正電荷は、棒の負電荷に強く引きつけられており、その場に束縛されています。

一方、箔に集まっていた自由電子は、棒の負電荷から強い反発力を受け続けています。ここに指で触れると、箔検電器と人体が電気的に接続されます。自由電子にとって、反発力が働く箔検電器内にとどまるよりも、指を通って広大な人体へと移動する方が電気的に安定します。

したがって、箔にたまっていた自由電子は、指を通って人体へ逃げていきます。その結果、箔は電気的に中性(電荷が\(0\))になり、反発力がなくなって重力により閉じます。金属板は、依然として棒によって正電荷が束縛されたままです。

使用した物理公式

  • 静電誘導と接地
計算過程

この設問は、現象の定性的な理解を問うものであり、具体的な計算は不要です。

計算方法の平易な説明

マイナスの棒が近くにある状態で指で触れると、箔の先に逃げていたマイナスの電気(電子)は、もっと遠くに逃げられる「出口」を見つけます。それがあなたの指です。電子は指を通って体の中へどんどん逃げていきます。その結果、箔には電気がなくなり、パタンと閉じます。金属板のプラスの電気は、棒のマイナスに引きつけられているので、そこから動きません。

結論と吟味

金属板は正、箔は\(0\)の電荷を持ち、箔は閉じます。接地によって箔の電荷が人体へ逃げた結果として、物理的に妥当です。

解答 (2) 金属板:正,箔:0,箔:閉じる。

問(3)

思考の道筋とポイント
負の棒を近づけたまま、指をはなす操作です。電荷の移動経路が断たれた後、箔検電器内の電荷分布がどうなるかを考えます。
この設問における重要なポイント

  • 指をはなすと、箔検電器は再び電気的に孤立した状態になります。
  • 負の棒はまだ近くにあり、金属板の正電荷を束縛し続けています。

具体的な解説と立式
(2)の操作で、箔検電器内の移動可能な自由電子はすでに人体へ逃げてしまっています。指をはなすことで、人体との電気的な接続は断たれます。

しかし、箔検電器内の電荷の状況、すなわち「金属板に正電荷が束縛され、箔は中性」という状態は、指をはなす前後で変化する要因がありません。負の棒が依然として正電荷を束縛しているため、この正電荷が箔へ移動することもありません。したがって、状態は(2)のまま変化しません。

使用した物理公式

  • 特になし。
計算過程

この設問は、現象の定性的な理解を問うものであり、具体的な計算は不要です。

計算方法の平易な説明

電子が体へ逃げ切った後で「出口」である指を離しても、もう箔検電器の中の電気の様子は変わりません。マイナスの棒がプラスの電気をがっちり捕まえているので、何も起こりません。(2)の状態のままです。

結論と吟味

金属板は正、箔は\(0\)の電荷を持ち、箔は閉じたままです。電荷の移動が完了した後に移動経路を断っても状態は変わらないため、この結果は妥当です。

解答 (3) 金属板:正,箔:0,箔:閉じたまま。

問(4)

思考の道筋とポイント
指をはなした後、負に帯電した棒を遠ざける操作です。これまで金属板の正電荷を束縛していた力がなくなり、箔検電器内に残された電荷が導体内でどのように再配置されるかを考えます。
この設問における重要なポイント

  • 棒を遠ざけると、静電誘導の影響がなくなります。
  • 箔検電器全体としては、(2)の操作で電子を失ったため、正に帯電しています。
  • 導体内の電荷は、互いの反発力により、できるだけ離れて分布しようとします。

具体的な解説と立式
(3)の時点で、箔検電器は全体として正に帯電しています。この正電荷は、負の棒に引きつけられて金属板に偏って存在していました。

ここで負の棒を遠ざけると、正電荷を金属板に束縛していた引力がなくなります。残された正電荷どうしは互いに反発し合うため、導体である箔検電器全体に広がろうとします。(実際には、正電荷を持つ原子核は動かず、残っているわずかな自由電子が全体に薄く広がることで、結果的に正電荷が全体に分布したのと同じ状態になります。)

その結果、金属板だけでなく箔にも正電荷が分布します。箔の両方のひだが正に帯電するため、互いに反発し合って再び開きます。

使用した物理公式

  • クーロンの法則(定性的な理解)
計算過程

この設問は、現象の定性的な理解を問うものであり、具体的な計算は不要です。

計算方法の平易な説明

金属板のプラスの電気を捕まえていたマイナスの棒がいなくなると、プラスの電気たちは「自由だ!」となって、お互いに反発し合って箔検電器全体に散らばります。その結果、金属板も箔もプラスの電気を持つことになり、プラス同士で反発して箔は再び開きます。

結論と吟味

金属板は正、箔も正に帯電し、箔は開きます。これは静電誘導と接地を利用して物体を帯電させる「誘導帯電」という現象の完了した状態であり、結果は物理的に正しいです。

解答 (4) 金属板:正,箔:正,箔:開く。

問(5)

思考の道筋とポイント
(2)の状態、つまり「棒を近づけ、指で触れている」状態から、先に棒を遠ざける操作です。これは(3)→(4)の操作順序とは異なります。棒からの束縛がなくなったとき、指で接続された箔検電器と人体の間で何が起こるかを考えることが重要です。
この設問における重要なポイント

  • (2)の時点では、金属板に正電荷があり、箔は中性で、電子が人体へ流出しています。
  • 指は触れたままであり、箔検電器と人体は電気的に接続されています。
  • 先に棒を遠ざけることで、金属板の正電荷を束縛していた力がなくなります。

具体的な解説と立式
(2)の操作により、箔検電器は正に帯電し、その正電荷は負の棒によって金属板に束縛されています。

この状態で、指を触れたまま(人体との接続を保ったまま)負の棒を遠ざけます。すると、金属板の正電荷を束縛していた引力がなくなり、この正電荷は自由に動けるようになります。

箔検電器は人体とつながっているため、箔検電器の正電荷は、広大な電子の供給源である人体から自由電子を引き寄せます。人体から供給された自由電子が、箔検電器の正電荷をすべて中和します。

その結果、箔検電器全体が電気的に中性(電荷\(0\))に戻ります。したがって、金属板も箔も電荷は\(0\)となり、箔は閉じたままである。

使用した物理公式

  • 静電誘導と接地
計算過程

この設問は、現象の定性的な理解を問うものであり、具体的な計算は不要です。

計算方法の平易な説明

(2)の「指で触れている」状態に戻ります。ここで、指を離す前にマイナスの棒を遠ざけると、金属板で捕まっていたプラスの電気が「助けて!」と、つながっている指(体)からマイナスの電気(電子)を呼び戻します。体からやってきた電子がプラスの電気を打ち消してしまうので、箔検電器は元の電気がない状態(中性)に戻ります。なので、箔は閉じたままです。

結論と吟味

金属板は\(0\)、箔も\(0\)の電荷を持ち、箔は閉じたままです。帯電させる手順((3)で指を離し、(4)で棒を遠ざける)とは異なり、先に棒を遠ざけると帯電に失敗し、中性に戻ります。この操作順序による結果の違いを理解することが重要であり、結果は妥当です。

解答 (5) 金属板:0,箔:0,箔:閉じたまま。

問(6)

思考の道筋とポイント
(5)の操作の後、指をはなす操作です。すでに中性に戻った箔検電器から指をはなすとどうなるかを考えます。
この設問における重要なポイント

  • (5)の時点で、箔検電器は全体として電気的に中性です。
  • 外部からの帯電体の影響もありません。

具体的な解説と立式
(5)の操作によって、箔検電器は完全に中性に戻っており、電荷の偏りも存在しません。この状態で指をはなしても、電荷が移動する要因は何もありません。したがって、状態は(5)のまま変化しません。

使用した物理公式

  • 特になし。
計算過程

この設問は、現象の定性的な理解を問うものであり、具体的な計算は不要です。

計算方法の平易な説明

(5)で箔検電器はすっかり電気がない状態に戻っています。その状態で指を離しても、何も起こりません。電気がないので、箔は閉じたままです。

結論と吟味

金属板は\(0\)、箔も\(0\)の電荷を持ち、箔は閉じたままです。中性の物体から導線を外しても何も変わらないのは自明であり、結果は妥当です。

解答 (6) 金属板:0,箔:0,箔:閉じたまま。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 静電誘導と自由電子の移動:
    • 核心: 導体に帯電体を近づけると、導体内の自由電子がクーロン力を受けて移動し、電荷の分布に偏りが生じる「静電誘導」が全ての現象の根本原理です。
    • 理解のポイント:
      • 負の帯電体接近: 自由電子(負電荷)は反発して帯電体から遠い側へ移動 → 遠い側が負、近い側が正に帯電。
      • 正の帯電体接近: 自由電子(負電荷)は引かれて帯電体に近い側へ移動 → 近い側が負、遠い側が正に帯電。
  • 接地(アース)の役割:
    • 核心: 導体を人体や地球のような巨大な導体に接続(接地)すると、電荷が自由に移動できる「逃げ道」または「供給源」ができると理解することが重要です。
    • 理解のポイント:
      • 電子の逃げ道: 箔検電器内に反発力で押し込められた電子は、接地によってより広大な人体へ逃げ出すことができる(問2)。
      • 電子の供給源: 箔検電器が正に帯電している場合、接地によって人体から電子が引き寄せられ、中和される(問5)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 正の帯電体を用いた場合: 問題の帯電体を「正」に変えて同じ操作をするとどうなるか。自由電子の動きが逆になるだけで、全く同じ論理で考えられます。
    • 絶縁体で隔てられた2つの導体: 2つの金属球を接触させた状態で帯電体を近づけ、その後金属球を引き離す問題。これも静電誘導で電荷を分離する典型例です。
    • 中空導体(ファラデーケージ): 導体の殻の内部や外部の電荷がどうなるかを問う問題。接地が絡むことも多く、本質は同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 操作の順番を正確に追う: この問題のように、一連の操作が段階的に示される場合、各ステップでの電荷の状態を正確に把握し、それを次のステップの初期条件として考えることが極めて重要です。「指をはなす」と「棒を遠ざける」の順序が入れ替わるだけで結果が全く異なる(問4と問5の比較)ことを意識してください。
    2. 「自由電子」を主役にする: 物理現象として動いているのは、基本的に自由電子だけです。常に「自由電子は今、どちら向きの力を受けているか?」「どこへ移動できるか?」という視点で考えると、現象を追いやすくなります。
    3. 全体の電荷保存を意識する: 箔検電器が「孤立している」状態(指で触れていない、他の導体と接触していない)では、内部での電荷の移動はあっても、全体の総電荷は保存されます。接地されているときのみ、外部との電荷のやり取りが起こり、総電荷が変化します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 正電荷が移動すると考えるミス:
    • 誤解: 棒を遠ざけたとき(問4)、「金属板の正電荷が箔に移動する」と考えてしまう。
    • 対策: 導体中で実際に移動するのは自由電子だけである、と徹底して覚える。正電荷の正体は電子を失った原子核であり、結晶格子に固定されて動けません。「正電荷が広がる」という現象は、実際には「残された自由電子が再配置されることで、結果的に正電荷が均等に分布しているように見える」状態だと理解する。
  • 接地時の電荷の動きの誤解:
    • 誤解: (2)で指を触れたとき、棒に近い金属板の正電荷が中和される、または箔の負電荷だけでなく金属板の正電荷も指を通って移動すると考えてしまう。
    • 対策: 棒からの力を常に意識する。金属板の正電荷は、棒の負電荷に強く引きつけられ「束縛」されています。一方、箔の電子は棒から反発力を受けているため「逃げたがっている」状態です。接地という逃げ道ができれば、逃げたがっている電子だけが移動すると考えるのが自然です。
  • 操作の順序の混同:
    • 誤解: (4)と(5)の違いを意識せず、どちらも同じように帯電すると考えてしまう。
    • 対策: 「①指をはなす(孤立させる)→ ②棒を遠ざける(束縛を解く)」という手順が、物体を誘導帯電させるための正しい手順であると覚える。この順序が逆になると、束縛を解かれた電荷が接地を通じて中和されてしまうため、帯電に失敗します。この違いを明確に区別することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • クーロンの法則(定性的利用):
    • 選定理由: この問題は、電荷間に働く力の向き(引力か反発力か)を理解することが全ての基本です。クーロン力の数式 \(F = k \displaystyle\frac{q_1 q_2}{r^2}\) を直接計算する場面はありませんが、その定性的な意味である「同符号は反発、異符号は引力」という法則が、自由電子の移動方向を決定する唯一の根拠となります。
    • 適用根拠:
      • 問(1): 負の棒と自由電子(負)の間に働く「反発力」が、電子を箔へ移動させる原因です。
      • 問(2): 負の棒と金属板の正電荷の間に働く「引力」が、正電荷をその場に束縛する原因です。
      • 問(4): 棒がなくなり、正電荷どうしの「反発力」が、電荷を箔検電器全体に広げる原因です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • この問題には定量的な計算はありませんが、思考のプロセスを正確に積み重ねることが「計算」に相当します。
  • 図を描いて考える: 各ステップごとに、箔検電器の簡単な図を描き、プラス(+)とマイナス(-)の記号を書き込んで電荷の分布を可視化する習慣をつける。特に、自由電子(e-)の移動を矢印で示すと、思考が整理されやすくなります。
  • 状態変化の前後を比較する: 「操作前」の状態と「操作後」の状態で、何が変化したのか(棒の有無、接地の有無)を明確にし、その変化が電荷にどのような影響を与えるかを一つずつ論理的に考える。
  • 言葉で説明する癖をつける: 「なぜ電子は箔に移動するのか?」→「負の棒からの反発力で、一番遠い場所に逃げるから」のように、現象の理由を自分の言葉で説明する練習をすると、理解が深まり、ケアレスミスが減ります。

309 電荷の移動と電気力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「クーロンの法則と電気量保存の法則」です。点電荷間に働く力の計算、複数の力がつりあう条件、そして導体どうしを接触させたときの電荷の移動という、静電気の分野における基本的な重要事項が詰まっています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. クーロンの法則: 点電荷間に働く力の大きさは、それぞれの電気量の大きさの積に比例し、電荷間の距離の2乗に反比例します。
  2. 力のつり合い: 物体にはたらく力のベクトル和が0のとき、その物体にはたらく力の合力は0となります。
  3. 電気量保存の法則: 外部と電荷のやり取りがない孤立した系において、電気量の総和(符号を考慮した和)は常に一定に保たれます。
  4. 導体の接触による電荷の再分配: 同じ材質・同じ大きさの導体を接触させると、それらが持つ電気量の総和が、接触後は均等に分配されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、クーロンの法則の公式に与えられた電気量と距離の値を代入して、力の大きさを直接計算します。
  2. (2)では、正電荷Qにはたらく2つのクーロン力が「大きさが等しく、向きが逆」になる位置を探します。まず力の向きを考察して候補となる領域を絞り込み、次に力のつり合いの式を立てて距離を求めます。
  3. (3)では、まず電気量保存の法則を用いて、接触後の各金属球の電気量を求めます。その新しい電気量を使って、再びクーロンの法則を適用し、2球間にはたらく力を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
2つの点電荷間に働く静電気力(クーロン力)の大きさを求める、最も基本的な問題です。クーロンの法則の公式を正しく理解し、適用できるかが問われます。電荷の符号が正と負で異なるため、2球間には引力がはたらくことも念頭に置きます。
この設問における重要なポイント

  • クーロンの法則の公式: \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
  • クーロン定数: \(k = 9.0 \times 10^9 \text{ N}\cdot\text{m}^2/\text{C}^2\)
  • 力の大きさを求める計算では、電気量は絶対値を用いる。

具体的な解説と立式
金属球Aの電荷を \(q_{\text{A}} = +8.0 \times 10^{-8} \text{ C}\)、金属球Bの電荷を \(q_{\text{B}} = -2.0 \times 10^{-8} \text{ C}\) とします。2球間の距離は \(r = 4.0 \text{ m}\) です。
クーロンの法則より、AとBの間に働く力の大きさ \(F\) は以下の式で表されます。
$$ F = k \frac{|q_{\text{A}} q_{\text{B}}|}{r^2} \quad \cdots ① $$
ここで、クーロン定数は \(k = 9.0 \times 10^9 \text{ N}\cdot\text{m}^2/\text{C}^2\) です。

使用した物理公式

  • クーロンの法則: \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
計算過程

式①に与えられた値を代入して \(F\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= (9.0 \times 10^9) \times \frac{|(+8.0 \times 10^{-8}) \times (-2.0 \times 10^{-8})|}{(4.0)^2} \\[2.0ex]&= (9.0 \times 10^9) \times \frac{8.0 \times 2.0 \times 10^{-16}}{16} \\[2.0ex]&= (9.0 \times 10^9) \times \frac{16 \times 10^{-16}}{16} \\[2.0ex]&= 9.0 \times 10^{9-16} \\[2.0ex]&= 9.0 \times 10^{-7} \text{ [N]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

電気を帯びた物体の間に働く力は、「クーロンの法則」という公式で計算できます。公式に、問題で与えられたAとBの電気の量、そして2つの間の距離を当てはめて計算します。力の大きさを知りたいので、電気の量がプラスかマイナスかは気にせず、それぞれの大きさ(絶対値)を使って計算するのがポイントです。

結論と吟味

A, Bが引き合う力の大きさは \(9.0 \times 10^{-7} \text{ N}\) です。Aは正電荷、Bは負電荷なので、互いに引き合う力(引力)がはたらきます。計算結果は力の大きさのみを示しており、問題の要求と一致しています。

解答 (1) \(9.0 \times 10^{-7} \text{ N}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
3つ目の電荷Qを置いたとき、Qにはたらく力の合力が0になる点を探す問題です。これは、Aから受ける力とBから受ける力が「大きさが等しく、向きが逆」になる点を見つけることを意味します。まず、力の向きを考えて合力が0になりうる領域を絞り込み、その上で力のつり合いの式を立てて計算することが効率的かつ確実なアプローチです。
この設問における重要なポイント

  • 力のつり合い: \(\vec{F}_{\text{Aから}} + \vec{F}_{\text{Bから}} = \vec{0}\)
  • 力の向きの考察: A, B, Qの電荷の符号から、Qが受ける力の向きを判断する。
  • 距離の設定: 基準点(例えばB)からの距離を文字(例: \(x\))で置き、力のつり合いの式を立てる。

具体的な解説と立式
正電荷Qを置く点をPとします。Pにはたらく力の合力が0になるためには、Aからの力 \(\vec{F}_{\text{A}}\) とBからの力 \(\vec{F}_{\text{B}}\) がつりあう必要があります。
Aの電荷 \(q_{\text{A}} = +8.0 \times 10^{-8} \text{ C}\) は正、Bの電荷 \(q_{\text{B}} = -2.0 \times 10^{-8} \text{ C}\) は負、Qの電荷 \(q_{\text{Q}}\) は正です。

  • AとQの間には、正電荷どうしなので斥力(Aから遠ざかる向きの力)がはたらきます。
  • BとQの間には、異符号の電荷なので引力(Bに近づく向きの力)がはたらきます。

力の向きを、AとBを結ぶ直線上の3つの領域で考えます。

  • AとBの間: Aからの斥力は右向き、Bからの引力も右向き。2つの力が同じ向きなので、合力は0になりません。
  • Aの左側: Aからの斥力は左向き、Bからの引力は右向き。力の向きは逆ですが、Qは電荷の絶対値が大きいA (\(|q_{\text{A}}| = 8.0 \times 10^{-8}\)) に近く、絶対値が小さいB (\(|q_{\text{B}}| = 2.0 \times 10^{-8}\)) からは遠くなります。クーロン力は距離の2乗に反比例するため、Aからの力の方が常にBからの力より大きくなり、つりあうことはありません。
  • Bの右側: Aからの斥力は右向き、Bからの引力は左向き。力の向きが逆なので、力の大きさが等しくなればつりあう可能性があります。

したがって、つりあい点はBの右側(Aの反対側)に存在します。
点PがBから距離 \(x\) の位置にあるとすると、Aからの距離は \((4.0+x)\) となります。力のつり合いの条件は \(|\vec{F}_{\text{A}}| = |\vec{F}_{\text{B}}|\) なので、
$$ k \frac{|q_{\text{A}} q_{\text{Q}}|}{(4.0+x)^2} = k \frac{|q_{\text{B}} q_{\text{Q}}|}{x^2} \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • クーロンの法則: \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
  • 力のつり合い: 合力 = 0
計算過程

式①を解いて \(x\) を求めます。両辺に共通する \(k\) と \(q_{\text{Q}}\) を消去し、値を代入します。
$$ \frac{|+8.0 \times 10^{-8}|}{(4.0+x)^2} = \frac{|-2.0 \times 10^{-8}|}{x^2} $$
両辺の \(10^{-8}\) を消去すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{8.0}{(4.0+x)^2} &= \frac{2.0}{x^2} \\[2.0ex]8.0 x^2 &= 2.0 (4.0+x)^2 \\[2.0ex]4.0 x^2 &= (4.0+x)^2
\end{aligned}
$$
距離 \(x\) は正の値なので、両辺の正の平方根をとると、
$$
\begin{aligned}
2.0 x &= 4.0+x \\[2.0ex]x &= 4.0 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
これは、BからAの反対側に \(4.0 \text{ m}\) 離れた点であることを示します。

計算方法の平易な説明

まず、どこに電荷Qを置けば力がつりあうか考えます。A(プラス)とQ(プラス)は反発し、B(マイナス)とQ(プラス)は引き合います。力の矢印を図に描いてみると、AとBの外側で、電気の量が小さいBの近くに置けばつりあいそうだとわかります。
次に、Bからの距離を \(x\) として、「AからQにはたらく力」と「BからQにはたらく力」の大きさが等しくなるという式を立てます。この方程式を解くことで、具体的な距離 \(x\) が求まります。

結論と吟味

Qにはたらく力の合力が0になるのは、Bから \(4.0 \text{ m}\) だけAの反対側に離れた点です。この位置は、電荷の絶対値が小さいBの近くであり、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) Bから4.0mだけAの反対側に離れた点

問(3)

思考の道筋とポイント
同じ材質・大きさの導体球を接触させると、電荷が移動して均等に再分配される、という性質を利用します。まず、接触後の各球の電気量を「電気量保存の法則」から求め、その新しい電気量を用いて、再びクーロンの法則で2球間にはたらく力を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 電気量保存の法則: 接触前後の電気量の総和は変わらない。
  • 電荷の再分配: 同じ材質・大きさの導体を接触させると、総電荷を等分する。
  • 力の向きの判断: 接触後の電荷の符号から、力が引力か斥力かを判断する。

具体的な解説と立式
金属球AとBを接触させると、2つの球は一体の導体とみなせます。電荷は導体全体に広がり、再び離すと均等に分配されます。
接触前の電気量の総和は、\(Q_{\text{全}} = q_{\text{A}} + q_{\text{B}}\) です。
接触後、AとBはそれぞれ同じ電気量 \(q\) を持つとすると、電気量保存の法則より、
$$ 2q = q_{\text{A}} + q_{\text{B}} \quad \cdots ① $$
この式から \(q\) を求めます。その後、この新しい電気量 \(q\) を使って、距離 \(r=4.0 \text{ m}\) での力の大きさ \(F’\) をクーロンの法則で計算します。
$$ F’ = k \frac{|q \cdot q|}{r^2} = k \frac{q^2}{r^2} \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 電気量保存の法則: \(q_{\text{A}} + q_{\text{B}} = q’_{\text{A}} + q’_{\text{B}}\)
  • クーロンの法則: \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
計算過程

まず、式①を用いて接触後の電気量 \(q\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
2q &= (+8.0 \times 10^{-8}) + (-2.0 \times 10^{-8}) \\[2.0ex]&= +6.0 \times 10^{-8} \\[2.0ex]q &= +3.0 \times 10^{-8} \text{ [C]}
\end{aligned}
$$
次に、式②を用いてこの電気量 \(q\) での力の大きさ \(F’\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
F’ &= (9.0 \times 10^9) \times \frac{(+3.0 \times 10^{-8})^2}{(4.0)^2} \\[2.0ex]&= (9.0 \times 10^9) \times \frac{9.0 \times 10^{-16}}{16} \\[2.0ex]&= \frac{81}{16} \times 10^{-7} \\[2.0ex]&= 5.0625 \times 10^{-7} \\[2.0ex]&\approx 5.1 \times 10^{-7} \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
接触後の電荷 \(q\) は両方とも正なので、AとBの間には互いに反発しあう力(斥力)がはたらきます。

計算方法の平易な説明

金属のボールをくっつけると、中の電気が混ざり合って、最終的に均等に分かれます。まず、AとBの電気の量を足し算(マイナスの電気も符号をつけて計算)して、それを2で割ることで、接触後のそれぞれの電気の量を求めます。
新しくなった電気の量を使って、(1)と同じようにクーロンの法則の公式で力の大きさを計算します。今回は2つのボールが同じプラスの電気を持つので、お互いに反発する力(斥力)になります。

結論と吟味

A, Bの間には、大きさ \(5.1 \times 10^{-7} \text{ N}\) の斥力がはたらきます。接触により、Bの負電荷がAの正電荷の一部を中和し、残った正電荷が均等に分配されます。結果として両球とも正に帯電するため、斥力がはたらくという結果は物理的に妥当です。

解答 (3) 大きさ\(5.1 \times 10^{-7} \text{ N}\)の斥力

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • クーロンの法則:
    • 核心: 点電荷間に働く力 \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\) を計算できること。
    • 理解のポイント:
      • 力の大きさ: 電荷の大きさ(絶対値)の積に比例し、距離の2乗に反比例する。
      • 力の向き: 電荷の符号の組み合わせで決まる(同符号なら斥力、異符号なら引力)。
  • 電気量保存の法則と電荷の再分配:
    • 核心: 導体を接触させると、電気量の総和が保存され、同じ材質・大きさの導体であれば総電荷が均等に分配されること。
    • 理解のポイント:
      • 総電荷の計算: 接触前の各電荷を、符号を含めて足し合わせる(代数和)。
      • 分配: 同じ導体2つなら、総電荷を2で割ったものが接触後の各電荷となる。
  • 力のつり合い(重ね合わせの原理):
    • 核心: ある電荷にはたらく合力は、他の各電荷から受ける力をベクトル的に足し合わせたものになること。
    • 理解のポイント:
      • 合力が0: 各力のベクトル和が0になることであり、一直線上では「大きさが等しく、向きが逆」になることを意味する。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 力のつり合い問題の定石:
    • つり合い点の領域特定: 計算を始める前に、必ず力の向きを図示し、つり合いが成立しうる領域を特定する。
      • 異符号の電荷(例: 本問)の場合、つり合い点は2つの電荷の外側で、かつ電荷の絶対値が小さい方の近くにできる。
      • 同符号の電荷の場合、つり合い点は2つの電荷の間にできる。
  • 応用的な設定:
    • 導体球の大きさが異なる場合: 高校範囲を超えることが多いが、もし導体球の半径が異なる場合、接触させると「電位」が等しくなるように電荷が移動する。結果、電荷は半径の比に比例して分配される。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • クーロンの法則の計算ミス:
    • 誤解: 力の大きさを計算する際に、電荷の符号をそのまま式に入れてしまう。
    • 対策: 力の大きさは \(F = k \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\) のように、電荷の絶対値で計算すると決めておく。力の向き(引力か斥力か)は、計算後に符号の組み合わせを見て別途判断する、という手順を徹底する。
  • つり合い点の位置の勘違い:
    • 誤解: (2)で、つり合い点をAとBの間に設定して計算を始めてしまう。
    • 対策: 計算を始める前に、必ず力の向きを矢印で図示する癖をつける。矢印が逆向きになる領域だけが候補であることを確認してから、式を立てる。
  • 接触後の電荷の計算ミス:
    • 誤解: (3)で、接触後の電荷を求めるときに、電荷の絶対値の平均をとってしまう(例: \((8.0+2.0)/2\))。
    • 対策: 電気量は符号を含むスカラー量であることを意識する。接触後の総電荷は、必ず符号を含めた「代数和」(例: \((+8.0) + (-2.0)\))で計算する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 「力は?」→ クーロンの法則:
    • 選定理由: (1)と(3)で問われているのは、2つの電荷の間に働く「力」そのものです。これはクーロンの法則が定義する物理量なので、この公式を選択します。
    • 適用根拠: 問題で与えられた電荷と距離から、直接的に力を計算する場面で適用します。
  • 「力の合力が0」「つりあう」→ 力のつり合いの式:
    • 選定理由: (2)は「合力が0」という条件が与えられています。これは物理学における「力のつり合い」の状態を指します。
    • 適用根拠: つり合いの式(\(\Sigma \vec{F} = \vec{0}\))を立て、式中の各力をクーロンの法則で表現することで、未知の距離を求めることができます。
  • 「接触させたら」→ 電気量保存の法則:
    • 選定理由: (3)の「接触」という操作は、電荷が移動し再分配されることを意味します。この現象を支配する根本法則が「電気量保存の法則」です。
    • 適用根拠: 接触後の状態(新しい電荷の値)を求めるために、まずこの法則を適用する必要があります。これがなければ、クーロンの法則を使うことができません。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 指数の計算: \(10^9 \times 10^{-8} \times 10^{-8} = 10^{9-8-8} = 10^{-7}\) のような指数の足し算・引き算は、焦らず慎重に行う。特に負の符号に注意する。
  • 有効数字: 問題文で与えられている数値(\(8.0, -2.0, 4.0\))はすべて有効数字2桁です。したがって、最終的な答えも有効数字2桁に揃える(例: \(5.0625 \dots \rightarrow 5.1\))。計算途中では多めの桁数で計算し、最後に四捨五入するのが基本です。
  • 方程式の解法: (2)の \(4.0x^2 = (4.0+x)^2\) のような方程式では、展開して解の公式を使うよりも、両辺の平方根をとる方が計算が楽でミスも少ないです。ただし、\(x>0\) のような物理的な条件を考慮して、適切な解を選ぶことを忘れないようにしましょう。

310 電気力線の本数

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電界の定義とガウスの法則の導入」です。電界という概念が、クーロン力とどのように関連付けられているか、そして電界を視覚化する電気力線というツールがどのように定義され、どのような性質を持つかを、一連の論理的な流れに沿って理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 電界(電場)の定義: ある点に \(+1 \text{ C}\) の試験電荷を置いたときに、その電荷が受ける静電気力のことです。
  2. クーロンの法則: 2つの点電荷間に働く力の大きさを記述する法則です。
  3. 電気力線: 電界の様子を視覚的に表現するための仮想的な線です。その密度が電界の強さを、向きが電界の向きを表します。
  4. 球の表面積: 半径 \(r\) の球の表面積は \(S = 4\pi r^2\) で与えられます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 空欄①では、電界の定義に立ち返り、クーロンの法則を用いて点電荷が作る電界の強さの公式を導きます。
  2. 空欄②では、問題文で与えられた「電気力線の密度」の定義と、球の表面積の公式を用いて、球面全体を貫く電気力線の総本数を数式で表現します。
  3. 空欄③では、①と②で得られた2つの式を組み合わせることで、電気力線の総本数が電荷の量だけで決まるという、ガウスの法則の基本的な考え方を導出します。

空欄①

思考の道筋とポイント
点電荷が作る電界の強さを求める問題です。電界の最も基本的な定義である「その点に \(+1 \text{ C}\) の電荷を置いたときに受ける力の大きさ」を、クーロンの法則を用いて数式にすることが求められます。
この設問における重要なポイント

  • 電界 \(E\) の定義: その点に置いた試験電荷 \(q_0\) が受ける力を \(F\) とすると、\(E = \displaystyle\frac{F}{q_0}\)。
  • 特に、試験電荷として \(q_0 = +1 \text{ C}\) を考えると、\(E = F\) となります。
  • クーロンの法則: 2つの電荷 \(q_1, q_2\) が距離 \(r\) だけ離れているとき、働く力の大きさは \(F = k_0 \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)。

具体的な解説と立式
電界の強さ \(E\) は、定義により、その点に置かれた \(+1 \text{ C}\) の試験電荷が受ける静電気力の大きさに等しくなります。
いま、電気量 \(q\) (\(q>0\)) の点電荷から距離 \(r\) だけ離れた点に、試験電荷として \(+1 \text{ C}\) の電荷を置いた状況を考えます。
この \(+1 \text{ C}\) の電荷が、電荷 \(q\) から受ける力の大きさ \(F\) は、クーロンの法則によって次のように計算できます。
$$ F = k_0 \frac{|q \times (+1)|}{r^2} $$
電界の定義 \(E=F\) より、電界の強さ \(E\) は、
$$ E = k_0 \frac{q}{r^2} $$
となります。

使用した物理公式

  • 電界の定義: \(E = \displaystyle\frac{F}{q_0}\)
  • クーロンの法則: \(F = k_0 \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
計算過程

この設問は、定義から公式を導出するものであり、具体的な数値計算はありません。上記の「具体的な解説と立式」で示した導出過程が計算過程に相当します。

計算方法の平易な説明

「電界の強さ」とは、その場所に「\(+1 \text{ C}\) の電気」を仮想的に置いたときに、どれくらいの力を受けるか、という強さの指標です。クーロンの法則を使って、電気量 \(q\) の電荷と、\(+1 \text{ C}\) の電荷の間に働く力の大きさを計算すれば、それがそのまま電界の強さ \(E\) の式になります。

結論と吟味

空欄①に当てはまる式は \(k_0 \displaystyle\frac{q}{r^2}\) です。これは点電荷が作る電界の公式そのものであり、物理的に正しいです。

解答 ① \(k_0\displaystyle\frac{q}{r^2}\)

空欄②

思考の道筋とポイント
電気力線の総本数を、電界の強さ \(E\) と半径 \(r\) を用いて表す問題です。問題文で与えられている「電気力線のルール」、すなわち「単位面積あたりの本数が電界の強さ \(E\) に等しい」という定義を正しく解釈することが鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • 電気力線の密度(単位面積あたりの本数)が、電界の強さ \(E\) を表す。
  • 総本数 = (単位面積あたりの本数) × (全面積) という関係を適用する。
  • 半径 \(r\) の球の表面積の公式は \(S = 4\pi r^2\) である。

具体的な解説と立式
問題文の定義によれば、電界の強さが \(E\) の点では、電界に垂直な面を \(1 \text{ m}^2\) あたり \(E\) 本の電気力線が貫きます。これは、電気力線の密度が \(E\) であることを意味します。
今、点電荷 \(q\) を中心とする半径 \(r\) の球面を考えます。この球面全体を貫く電気力線の総本数 \(N\) を求めたい場合、「単位面積あたりの本数」に「球全体の表面積」を掛ければよいことになります。

  • 単位面積あたりの本数(密度): \(E\)
  • 半径 \(r\) の球の表面積: \(S = 4\pi r^2\)

したがって、総本数 \(N\) は、
$$
\begin{aligned}
N &= E \times S \\[2.0ex]&= E \times (4\pi r^2) \\[2.0ex]&= 4\pi r^2 E
\end{aligned}
$$
と表されます。

使用した物理公式

  • 電気力線の本数と電界の関係(定義): \(N = ES\)
  • 球の表面積: \(S = 4\pi r^2\)
計算過程

この設問も、定義から式を立てるものであり、数値計算はありません。上記の解説がそのまま計算過程となります。

計算方法の平易な説明

電気力線は、電界の強さを矢印の「混み具合」で表したものです。問題文には「1平方メートルあたり \(E\) 本の混み具合で描く」というルールが書かれています。今、半径 \(r\) のボール(球面)全体を貫く本数を知りたいので、「1平方メートルあたりの本数」に「ボール全体の表面積」を掛ければ求まります。ボールの表面積は算数や数学で習った \(4\pi r^2\) です。

結論と吟味

空欄②に当てはまる式は \(4\pi r^2 E\) です。これは電気力線の定義から直接導かれる関係式であり、正しいです。

解答 ② \(4\pi r^2 E\)

空欄③

思考の道筋とポイント
空欄①と②で求めた関係式を組み合わせて、電気力線の総本数をクーロン定数 \(k_0\) と電荷 \(q\) だけで表す問題です。代入して式を整理するだけの単純な計算ですが、その結果が物理的に非常に重要な意味を持つことを理解することが大切です。
この設問における重要なポイント

  • ②で求めた式 \(N = 4\pi r^2 E\) に、①で求めた式 \(E = k_0 \displaystyle\frac{q}{r^2}\) を代入する。
  • 計算結果から \(r\) が消去され、総本数が距離によらないことを確認する。

具体的な解説と立式
空欄②で、点電荷 \(q\) を中心とする半径 \(r\) の球面を貫く電気力線の総本数 \(N\) は、
$$ N = 4\pi r^2 E \quad \cdots (\text{ii}) $$
と表されることがわかりました。
また、空欄①で、この球面上の電界の強さ \(E\) は、
$$ E = k_0 \frac{q}{r^2} \quad \cdots (\text{i}) $$
と表されることがわかりました。
式(ii)に式(i)を代入することで、総本数 \(N\) を \(k_0\) と \(q\) を用いて表すことができます。

使用した物理公式

  • 空欄①、②で導出した関係式。
計算過程

式(ii)に式(i)を代入します。
$$
\begin{aligned}
N &= 4\pi r^2 \times \left( k_0 \frac{q}{r^2} \right) \\[2.0ex]&= 4\pi k_0 q
\end{aligned}
$$
分母と分子にある \(r^2\) が打ち消し合い、この結果は半径 \(r\) を含みません。

計算方法の平易な説明

(2)で求めた電気力線の総本数を表す式 \(4\pi r^2 E\) に、(1)で求めた \(E\) の正体である \(k_0 \displaystyle\frac{q}{r^2}\) を代入します。すると、分母と分子に \(r^2\) があるので、きれいに約分されて消えてしまいます。残ったものが空欄③の答えです。

結論と吟味

空欄③に当てはまる式は \(4\pi k_0 q\) です。この結果は、電荷を囲む球の半径 \(r\) に依存しない、という重要な性質を示しています。これは、電荷 \(q\) から出る(または入る)電気力線の総本数は、その電荷の量だけで決まり、観測する距離にはよらないという「ガウスの法則」の根幹をなす考え方であり、物理的に正しい結論です。

解答 ③ \(4\pi k_0 q\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 電界の定義:
    • 核心: 電界 \(E\) とは、その空間の点に \(+1 \text{ C}\) の試験電荷を置いたときに、その電荷が受ける静電気力 \(F\) のことである (\(E=F\))。この定義が、クーロンの法則と電界の公式を結びつける橋渡しとなります。
    • 理解のポイント:
      • 電界は「場」の概念であり、電荷が存在することでその周りの空間自体の性質が変化したと考える。
      • 力 (\(\text{N}\)) とは異なり、電界の単位は (\(\text{N/C}\)) である。
  • 電気力線の概念とルール:
    • 核心: 電気力線は電界を視覚化するためのツールであり、「電界に垂直な面を貫く単位面積あたりの本数(密度)が、その点の電界の強さ \(E\) に等しい」という約束事(定義)で描かれる。
    • 理解のポイント:
      • 電気力線が密なところほど電界が強く、疎なところほど電界が弱い。
      • 電気力線の接線の向きが、その点の電界の向きを表す。
  • ガウスの法則(の原型):
    • 核心: 電荷 \(q\) から出る(または入る)電気力線の総本数 \(N\) は、電荷を囲む閉曲面の形状や大きさによらず、\(N=4\pi k_0 q\) となり、電荷の量 \(q\) だけで決まる。
    • 理解のポイント:
      • この法則により、複雑な形状の導体の周りの電界を計算することが可能になる。
      • \(r^2\) に反比例する電界の性質(逆2乗の法則)と、表面積が \(r^2\) に比例する幾何学的性質が組み合わさることで、総本数が距離 \(r\) によらなくなる、という点が本質。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 無限に広い平面導体がつくる電界: ガウスの法則を用いると、距離によらない一様な電界 \(E = 2\pi k_0 \sigma\) (\(\sigma\) は面電荷密度)が簡単に導出できる。
    • 電気力線の作図問題: 正負の点電荷や導体板を配置し、電気力線の概形を描かせる問題。電気力線の性質(正電荷から出て負電荷に入る、途中で途切れたり交わったりしない、導体表面に垂直に出入りする等)の理解が問われる。
    • 電束との関連: 大学物理では、電気力線の本数を「電束」という物理量で扱い、ガウスの法則は \(\oint \vec{E} \cdot d\vec{S} = \frac{Q}{\varepsilon_0}\) と表現される。本問は、この積分形のガウスの法則の最も簡単な原型を扱っている。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「電界」を問われたら?: まず定義「\(+1 \text{ C}\) あたりの力」に立ち返る。電荷分布が単純な点電荷や球対称なら、クーロンの法則から \(E = k_0 \displaystyle\frac{q}{r^2}\) を適用する。
    2. 「電気力線の本数」を問われたら?: 「密度が\(E\)」という定義を思い出す。総本数 \(N\) は、電界 \(E\) に面積 \(S\) を掛ける (\(N=ES\)) ことで求められる、と考える。
    3. 物理定数の関係: クーロン定数 \(k_0\) と真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) の間には \(k_0 = \displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\) という関係がある。これを使うと、ガウスの法則は \(N = 4\pi k_0 q = 4\pi \left(\displaystyle\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\right) q = \displaystyle\frac{q}{\varepsilon_0}\) と、よりシンプルな形で表される。この変形を要求される問題もある。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 電界と力の混同:
    • 誤解: 電界 \(E\) と力 \(F\) を同じものとして扱い、単位などを間違える。
    • 対策: 電界は「空間の性質」、力は「電荷が受け取るもの」と区別する。\(F=qE\) という関係式を常に意識し、電界に電気量 \(q\) を掛けて初めて力になる、と理解する。
  • 電気力線の本数の定義の誤解:
    • 誤解: 電気力線の総本数が電界の強さ \(E\) そのものであると勘違いする。
    • 対策: 「本数」と「密度(本/m²)」を明確に区別する。「密度」が \(E\) であり、総本数 \(N\) はそれに面積を掛けたものである、という定義を正確に覚える。
  • 公式の丸暗記による弊害:
    • 誤解: \(N=4\pi k_0 q\) という結果だけを覚えてしまい、なぜそうなるのかの論理的なつながり(①と②の組み合わせ)を説明できない。
    • 対策: この問題のように、定義から出発して公式を導出する流れを一度は自分で再現してみる。「電界の定義」→「クーロンの法則で電界を計算」→「電気力線の定義」→「総面積を掛けて総本数を計算」→「両者を結合」というストーリーで理解する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 電界の定義式 (\(E = F/q_0\)):
    • 選定理由: (1)で、クーロン力の世界から電界の世界へ移るために必要不可欠な「翻訳機」の役割を果たす。
    • 適用根拠: 問題が「電界の強さ \(E\) は」と問いかけているため、その定義に直接立ち返るのが最も論理的な出発点となる。
  • クーロンの法則 (\(F = k_0 |q_1 q_2|/r^2\)):
    • 選定理由: (1)で、電界の定義を具体的な数式で表現するための計算ツールとして使用する。
    • 適用根拠: 電界の定義に出てくる「力 \(F\)」を、電荷 \(q\) と距離 \(r\) を使って計算するために、この法則が必要となる。
  • 電気力線の本数の定義 (\(N = ES\)):
    • 選定理由: (2)で「電気力線の総本数」を問われているため、その定義式を直接用いる。
    • 適用根拠: 問題文に「単位面積あたり\(E\)本描く」と明記されており、これが \(E\) が密度であることを示している。総量を求めるには密度に面積を掛ける、という一般的な考え方を適用する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • この問題は文字式の計算が中心であり、数値計算ミスは発生しにくい。しかし、論理のステップを間違えないことが重要。
  • 文字の区別: \(q\) (電荷), \(E\) (電界), \(F\) (力), \(N\) (本数), \(k_0\) (定数), \(r\) (距離) など、各文字が何を表す物理量なのかを常に意識しながら式を立てる。
  • 単位の確認: 式変形の際に、両辺の単位が合っているかを確認する癖をつけると、間違いに気づきやすくなる。例えば、\(N=4\pi r^2 E\) の右辺の単位は \(\text{m}^2 \times (\text{N/C})\) であり、力線の本数とは直接対応しないが、これは定義上の約束事であると割り切る。
  • 代入の正確さ: (3)で \(E\) の式を代入する際に、分母と分子を間違えないように慎重に行う。特に分数の形をした式を代入するときは、括弧を適切に使うとミスが減る。
    $$ N = 4\pi r^2 \times (E) \rightarrow N = 4\pi r^2 \times \left( k_0 \frac{q}{r^2} \right) $$

311 電界

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「複数の点電荷が作る電界の合成」です。ある点における電界は、その点に存在するすべての電荷がそれぞれ作る電界を、ベクトルとして足し合わせる(重ね合わせる)ことで求められます。電界がベクトル量であることを正しく理解し、ベクトルの合成を的確に行うことが求められます。

  1. 点電荷が作る電界: 電荷 \(q\) から距離 \(r\) の点に作られる電界の強さは \(E = k_0 \displaystyle\frac{|q|}{r^2}\) で与えられます。
  2. 電界の向き: 電界の向きは、正電荷からは湧き出す向き、負電荷へは吸い込まれる向きとなります。
  3. 電界の重ね合わせの原理: ある点における合成電界は、各電荷がその点に単独でつくる電界のベクトル和に等しくなります。
  4. ベクトルの合成: 2つのベクトルを合成する場合、作図によって平行四辺形を作り、その対角線として合性ベクトルを求めます。特に、2つのベクトルが直交している場合は、三平方の定理を用いてその大きさを計算できます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、三角形ABCが直角二等辺三角形であることから、点Bと各電荷(点A、点C)との距離を求めます。
  2. 次に、点Aの電荷が点Bに作る電界の大きさと向き、点Cの電荷が点Bに作る電界の大きさと向きを、それぞれ電界の公式を用いて求めます。
  3. 最後に、これら2つの電界ベクトルを合成し、最終的な電界の強さ(ベクトルの大きさ)と向きを求めます。

電界の強さと向き

思考の道筋とポイント
点Bにおける電界は、点Aにある電荷 \(+q\) が作る電界と、点Cにある電荷 \(-q\) が作る電界の重ね合わせによって生じます。電界は大きさと向きを持つベクトル量であるため、単純な足し算ではなく、ベクトルの合成を行う必要があります。まず、それぞれの電荷が作る電界ベクトルを個別に求め、それらを図に描いてから合成するのが確実な手順です。
この設問における重要なポイント

  • 電界はベクトル量であり、合成はベクトル和 \(\vec{E}_{\text{B}} = \vec{E}_{\text{A}} + \vec{E}_{\text{C}}\) で計算する。
  • 直角二等辺三角形の辺の比(\(1:1:\sqrt{2}\))を用いて、各電荷から点Bまでの距離を正しく求める。
  • Aの正電荷はBに斥力的な(Aから遠ざかる向きの)電界を作り、Cの負電荷はBに引力的な(Cに引き寄せられる向きの)電界を作る。

具体的な解説と立式
三角形ABCは、ACを斜辺とする直角二等辺三角形なので、\(\angle \text{B} = 90^\circ\) であり、辺の長さの比は \(AB:BC:AC = 1:1:\sqrt{2}\) となります。
斜辺ACの長さが \(\sqrt{2}L\) なので、辺ABとBCの長さはともに \(L\) となります。

1. 点Aの電荷 \(+q\) が点Bに作る電界 \(\vec{E}_{\text{A}}\)

  • 距離は \(r_{\text{AB}} = L\)。
  • 強さ \(E_{\text{A}}\) は、点電荷の電界の公式より、
    $$ E_{\text{A}} = k_0 \frac{|+q|}{L^2} = k_0 \frac{q}{L^2} $$
  • 向きは、電荷が正なので、点Aから点Bへ向かう向き(A→Bの向き)です。

2. 点Cの電荷 \(-q\) が点Bに作る電界 \(\vec{E}_{\text{C}}\)

  • 距離は \(r_{\text{CB}} = L\)。
  • 強さ \(E_{\text{C}}\) は、
    $$ E_{\text{C}} = k_0 \frac{|-q|}{L^2} = k_0 \frac{q}{L^2} $$
  • 向きは、電荷が負なので、点Bから点Cへ向かう向き(B→Cの向き)です。

3. 合成電界 \(\vec{E}_{\text{B}}\)
点Bにおける合成電界 \(\vec{E}_{\text{B}}\) は、\(\vec{E}_{\text{A}}\) と \(\vec{E}_{\text{C}}\) のベクトル和です。
\(\vec{E}_{\text{A}}\) (A→Bの向き)と \(\vec{E}_{\text{C}}\) (B→Cの向き)は互いに直交しています。また、その大きさは \(E_{\text{A}} = E_{\text{C}} = k_0 \displaystyle\frac{q}{L^2}\) で等しいです。
したがって、合成電界の強さ \(E_{\text{B}}\) は、三平方の定理を用いて計算できます。
$$ E_{\text{B}} = \sqrt{E_{\text{A}}^2 + E_{\text{C}}^2} $$

使用した物理公式

  • 点電荷のまわりの電界: \(E = k_0 \displaystyle\frac{|q|}{r^2}\)
  • 電界の重ね合わせの原理: \(\vec{E} = \vec{E}_1 + \vec{E}_2 + \dots\)
  • 三平方の定理
計算過程

上で立てた式に、\(E_{\text{A}}\) と \(E_{\text{C}}\) の値を代入して、合成電界の強さ \(E_{\text{B}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{B}} &= \sqrt{ \left( k_0 \frac{q}{L^2} \right)^2 + \left( k_0 \frac{q}{L^2} \right)^2 } \\[2.0ex]&= \sqrt{ 2 \left( k_0 \frac{q}{L^2} \right)^2 } \\[2.0ex]&= \sqrt{2} \left( k_0 \frac{q}{L^2} \right) \\[2.0ex]&= \sqrt{2} k_0 \frac{q}{L^2}
\end{aligned}
$$
次に、向きを考えます。\(\vec{E}_{\text{A}}\) と \(\vec{E}_{\text{C}}\) は大きさが等しい直交するベクトルです。これらのベクトルを2辺とする平行四辺形(この場合は正方形)を描くと、その対角線が合成ベクトル \(\vec{E}_{\text{B}}\) の向きとなります。これは、\(\vec{E}_{\text{A}}\) の向きから45°、B→Cの向きに傾いた方向、すなわちA→Cの向きと平行になります。

計算方法の平易な説明

まず、点BとA、点BとCの距離を求めます。三角形が直角二等辺三角形なので、どちらの距離も \(L\) になります。
次に、Aのプラス電荷がBに作る電界(下向き)と、Cのマイナス電荷がBに作る電界(右向き)の強さを、それぞれ公式を使って計算します。距離と電気の量が同じなので、2つの電界の強さは同じになります。
点Bには「下向き」と「右向き」の2つの電界が同時に存在することになるので、これらを合成します。2つの電界は直角に交わっているので、三平方の定理を使って合成後の強さを計算できます。
また、2つの電界の強さが同じなので、合成後の向きはちょうど真ん中の「右下45°」の向きになります。これは、図のAからCへ向かう向きと同じです。

結論と吟味

点Bにおける電界の強さは \(\sqrt{2}k_0 \displaystyle\frac{q}{L^2}\) で、向きはAからCへ向かう向きです。
各電荷が作る電界の大きさと向きを正しく求め、ベクトルとして適切に合成した結果であり、物理的に妥当です。

解答 強さ:\(\sqrt{2}k_0 \displaystyle\frac{q}{L^2}\) [N/C],向き:A→Cの向き

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 電界の重ね合わせの原理:
    • 核心: 複数の電荷が存在するとき、ある点における電界は、それぞれの電荷が単独でその点に作る電界を、ベクトルとして足し合わせたものになる。これがこの問題で最も重要な原理です。
    • 理解のポイント:
      • 電界はベクトル量なので、大きさと向きの両方を考慮して合成する必要がある。
      • 合成は「ベクトルの和」であり、単純な大きさの足し算ではない。
  • 点電荷が作る電界の公式:
    • 核心: 各電荷が作る個々の電界ベクトルを求めるための基本ツールが、\(E = k_0 \displaystyle\frac{|q|}{r^2}\) という公式です。
    • 理解のポイント:
      • 強さ: 電荷の大きさに比例し、距離の2乗に反比例する。
      • 向き: 正電荷からは湧き出す向き(斥力方向)、負電荷へは吸い込まれる向き(引力方向)である。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 正三角形の頂点に電荷を置く問題: 各頂点に電荷を置き、中心や他の頂点での電界を求める問題。ベクトルの合成角度が60°や120°になり、三角比や余弦定理の知識が必要になる。
    • 電気双極子: 本問のように、大きさが等しく符号が逆の電荷の対(\(+q, -q\))を電気双極子と呼ぶ。この双極子から十分離れた点での電界を求める問題などがある。
    • 四角形の頂点に電荷を置く問題: 正方形や長方形の頂点に電荷を配置し、中心点での電界を求める問題。対称性を利用すると、特定の方向の成分が打ち消し合って計算が簡単になる場合がある。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 図を描いてベクトルを可視化する: まず問題の幾何学的な配置を図に描き、求めたい点(本問ではB)に各電荷が作る電界ベクトルを矢印で書き込む。この作図が、思考の出発点として最も重要。
    2. 座標軸を設定する: ベクトルが直交していない場合や、3つ以上のベクトルを合成する場合は、x-y座標軸を設定し、各ベクトルを成分に分解して計算すると間違いが少ない。x成分どうし、y成分どうしをそれぞれ足し算し、最後に再び三平方の定理で合成する。
    3. 対称性を探す: 電荷の配置や大きさに規則性や対称性がないか確認する。対称性があれば、電界の特定の成分が0になり、計算が大幅に簡略化できることがある。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • ベクトル合成のミス:
    • 誤解: 電界の強さをスカラー量のように単純に足し算・引き算してしまう(例: \(E_A + E_C\) や \(E_A – E_C\))。
    • 対策: 「電界はベクトルである」と常に意識する。必ずベクトルを図示し、平行四辺形の法則や成分分解を用いて合成する習慣をつける。
  • 距離の計算ミス:
    • 誤解: 問題の図形から、電荷と観測点との距離を正しく求められない。特に、斜辺や高さを計算する際に三平方の定理を使い間違える。
    • 対策: 問題で与えられた図形の性質(本問では直角二等辺三角形)を正確に把握し、辺の比(\(1:1:\sqrt{2}\))などを利用して、距離 \(r\) を慎重に計算する。\(r^2\) を使うので、ルートを外し忘れないように注意する。
  • 電界の向きの間違い:
    • 誤解: 正電荷が作る電界の向きと、負電荷が作る電界の向きを取り違える。
    • 対策: 「正電荷からは湧き出す、負電荷には吸い込まれる」と覚える。あるいは、「その点に\(+1\text{ C}\)の試験電荷を置いたときに受ける力の向き」と定義に立ち返って考える。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 点電荷の電界の公式 (\(E = k_0 |q|/r^2\)):
    • 選定理由: 問題には複数の「点電荷」が存在し、それらが作る「電界」を求める必要があるため、この公式が個々の電界を計算するための唯一の選択肢となる。
    • 適用根拠: 点Aの電荷がBに作る電界、点Cの電荷がBに作る電界を、それぞれ独立に計算する場面で適用する。
  • 重ね合わせの原理(ベクトルの和):
    • 選定理由: 問題は点Bにおける「合成された」電界を求めている。物理学において、複数の要因が同時に作用する場合の結果は、それぞれの要因が単独で作用した結果の和(重ね合わせ)で与えられる。電界はベクトルなので、その和は「ベクトルの和」となる。
    • 適用根拠: 個別に計算した \(\vec{E}_{\text{A}}\) と \(\vec{E}_{\text{C}}\) から、最終的な答えである \(\vec{E}_{\text{B}}\) を導出する最終段階で適用する。
  • 三平方の定理:
    • 選定理由: これは物理法則ではなく数学のツールだが、ベクトル合成において極めて重要。
    • 適用根拠: 合成したい2つのベクトル (\(\vec{E}_{\text{A}}\) と \(\vec{E}_{\text{C}}\)) が互いに直交しているため、その合成ベクトルの大きさ(対角線の長さ)を計算する最も効率的な方法として選択する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の整理: 本問のように文字式で答える問題では、共通項を括り出すと計算が楽になることが多い。
    $$ \sqrt{ (k_0 \frac{q}{L^2})^2 + (k_0 \frac{q}{L^2})^2 } = \sqrt{ 2 \times (k_0 \frac{q}{L^2})^2 } $$
    ここで、\((k_0 \frac{q}{L^2})\) を一つの塊と見てルートの外に出すと、\(\sqrt{2} \times (k_0 \frac{q}{L^2})\) となり、計算が簡潔になる。
  • ルートの計算: \(\sqrt{A^2+B^2}\) のような計算では、\(A+B\) とはならないことを肝に銘じる。基本的なことだが、焦っているとミスしやすい。
  • 向きの表現: 答えの向きを記述する際は、「右下45°」のような曖昧な表現ではなく、「A→Cの向き」のように問題で与えられた点を用いて明確に表現する。あるいは、x-y軸を設定した場合は「x軸の正の向きから-45°の向き」のように記述する。

312 電位

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「複数の点電荷が作る電位の合成」です。電位は向きを持たないスカラー量であるため、ある点における合成電位は、各電荷が作る電位を単純に足し合わせる(代数和をとる)ことで求められます。この点が、ベクトル和を必要とする電界の合成との大きな違いです。

  1. 点電荷が作る電位: 電荷 \(q\) から距離 \(r\) の点に作られる電位は \(V = k_0 \displaystyle\frac{q}{r}\) で与えられます。
  2. 電位の重ね合わせの原理: ある点における合成電位は、各電荷がその点に単独でつくる電位の代数和(単純な足し算)に等しくなります。
  3. 電位の符号: 電位の計算では、電荷 \(q\) の正負の符号をそのまま式に代入します。正電荷は正の電位を、負電荷は負の電位を作ります。
  4. 図形の幾何学的性質: 正方形の対角線と一辺の長さの関係を正しく用いて、各電荷から点Dまでの距離を求めることが計算の前提となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、正方形の対角線の長さから、一辺の長さを三平方の定理を用いて求めます。
  2. 次に、点Dから各電荷(点A, B, C)までの距離を特定します。
  3. 点電荷の電位の公式 \(V = k_0 \displaystyle\frac{q}{r}\) を用いて、各電荷が点Dに作る電位をそれぞれ計算します。
  4. 最後に、3つの電位をすべて足し合わせることで、点Dにおける合成電位を求めます。

点Dにおける電位

思考の道筋とポイント
点Dにおける電位は、点A, B, Cに置かれた3つの点電荷がそれぞれ作る電位の和として求められます。電位はスカラー量なので、向きを考える必要がなく、各電位を計算して単純に足し合わせるだけでよい、という点が最大のポイントです。計算を始める前に、まず正方形の幾何学的関係から、点Dと各電荷との距離を正確に求めることが不可欠です。
この設問における重要なポイント

  • 電位はスカラー量であり、合成は代数和 \(V = V_{\text{A}} + V_{\text{B}} + V_{\text{C}}\) で計算する。
  • 点電荷の電位の公式 \(V = k_0 \displaystyle\frac{q}{r}\) では、電荷 \(q\) の符号をそのまま用いる。
  • 正方形の対角線の長さと一辺の長さの関係(\(1:1:\sqrt{2}\))を正しく利用する。

具体的な解説と立式
1. 各電荷から点Dまでの距離の計算
正方形ABCDの対角線の長さは \(3.0 \text{ m}\) です。一辺の長さを \(L\) とすると、三平方の定理より、
$$ L^2 + L^2 = (3.0)^2 $$
$$ 2L^2 = 9.0 $$
$$ L = \frac{3.0}{\sqrt{2}} \text{ [m]} $$
したがって、点Dから各電荷までの距離は以下のようになります。

  • AからDまでの距離: \(r_{\text{AD}} = L = \displaystyle\frac{3.0}{\sqrt{2}} \text{ m}\)
  • BからDまでの距離: \(r_{\text{BD}} = 3.0 \text{ m}\) (対角線)
  • CからDまでの距離: \(r_{\text{CD}} = L = \displaystyle\frac{3.0}{\sqrt{2}} \text{ m}\)

2. 合成電位の立式
点Dにおける電位 \(V_{\text{D}}\) は、各電荷 \(q_{\text{A}}, q_{\text{B}}, q_{\text{C}}\) が作る電位 \(V_{\text{A}}, V_{\text{B}}, V_{\text{C}}\) の和となります。
$$ V_{\text{D}} = V_{\text{A}} + V_{\text{B}} + V_{\text{C}} $$
点電荷の電位の公式 \(V = k_0 \displaystyle\frac{q}{r}\) を用いて、
$$ V_{\text{D}} = k_0 \frac{q_{\text{A}}}{r_{\text{AD}}} + k_0 \frac{q_{\text{B}}}{r_{\text{BD}}} + k_0 \frac{q_{\text{C}}}{r_{\text{CD}}} $$

使用した物理公式

  • 点電荷のまわりの電位: \(V = k_0 \displaystyle\frac{q}{r}\)
  • 電位の重ね合わせの原理: \(V = V_1 + V_2 + \dots\)
計算過程

上で立てた式に、各値を代入して \(V_{\text{D}}\) を計算します。
クーロン定数 \(k_0 = 9.0 \times 10^9 \text{ N}\cdot\text{m}^2/\text{C}^2\)、電荷は \(q_{\text{A}} = -2.0 \times 10^{-6} \text{ C}\), \(q_{\text{B}} = +2.0 \times 10^{-6} \text{ C}\), \(q_{\text{C}} = +2.0 \times 10^{-6} \text{ C}\) です。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{D}} &= 9.0 \times 10^9 \times \frac{-2.0 \times 10^{-6}}{3.0/\sqrt{2}} + 9.0 \times 10^9 \times \frac{+2.0 \times 10^{-6}}{3.0} + 9.0 \times 10^9 \times \frac{+2.0 \times 10^{-6}}{3.0/\sqrt{2}}
\end{aligned}
$$
共通の係数 \(9.0 \times 10^9\) でくくります。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{D}} &= 9.0 \times 10^9 \left( \frac{-2.0 \times 10^{-6}}{3.0/\sqrt{2}} + \frac{+2.0 \times 10^{-6}}{3.0} + \frac{+2.0 \times 10^{-6}}{3.0/\sqrt{2}} \right)
\end{aligned}
$$
さらに \(10^{-6}\) もくくり出し、分母の有理化を行います。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{D}} &= 9.0 \times 10^3 \left( \frac{-2.0\sqrt{2}}{3.0} + \frac{2.0}{3.0} + \frac{2.0\sqrt{2}}{3.0} \right)
\end{aligned}
$$
括弧の中を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{D}} &= 9.0 \times 10^3 \times \frac{-2.0\sqrt{2} + 2.0 + 2.0\sqrt{2}}{3.0} \\[2.0ex]&= 9.0 \times 10^3 \times \frac{2.0}{3.0} \\[2.0ex]&= 3.0 \times 10^3 \times 2.0 \\[2.0ex]&= 6.0 \times 10^3 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

電位は「電気的な位置エネルギーの高さ」のようなもので、向きがないので単純な足し算で合成できます。
1. まず、正方形の対角線が \(3.0 \text{ m}\) であることから、一辺の長さを計算します。これは \(\frac{3.0}{\sqrt{2}} \text{ m}\) となります。
2. 次に、D点からA, B, Cの各点までの距離を求めます。ADとCDは一辺の長さ、BDは対角線の長さです。
3. A, B, Cの各電荷がD点に作る「電位(高さ)」を、公式 \(V = k_0 \frac{q}{r}\) を使ってそれぞれ計算します。このとき、電荷のプラス・マイナスの符号もそのまま計算に入れるのがポイントです。
4. 最後に、3つの電位をすべて足し合わせます。すると、うまく項が打ち消し合って、D点の最終的な電位が求まります。

結論と吟味

点Dにおける電位は \(6.0 \times 10^3 \text{ V}\) です。
この計算では、Aの負電荷が作る負の電位と、Cの正電荷が作る正の電位の項のうち、\(\sqrt{2}\) を含む部分がうまく打ち消し合いました。最終的にBの電荷が作る正の電位の一部だけが残る形となり、結果は正の値となりました。これは物理的に妥当な結果です。電位がスカラーであるため、このような単純な和で計算できることを理解することが重要です。

解答 \(6.0 \times 10^3 \text{ V}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 電位の重ね合わせの原理:
    • 核心: 複数の電荷が存在するとき、ある点における合成電位は、それぞれの電荷が単独でその点に作る電位の「代数和(スカラー和)」に等しい。これがこの問題の最重要ポイントです。
    • 理解のポイント:
      • 電位は向きを持たないスカラー量なので、ベクトルのように向きを考慮する必要がなく、単純な足し算で合成できる。
      • 電界の合成(ベクトル和)との違いを明確に理解することが極めて重要。
  • 点電荷が作る電位の公式:
    • 核心: 各電荷が作る個々の電位を求めるための基本ツールが、\(V = k_0 \displaystyle\frac{q}{r}\) という公式です。
    • 理解のポイント:
      • 符号: 電位の計算では、電荷 \(q\) の正負の符号をそのまま式に代入する。正電荷は正の電位(山)、負電荷は負の電位(谷)を作るイメージ。
      • 距離との関係: 電位は距離 \(r\) に反比例する。電界が \(r^2\) に反比例する点との違いを意識する。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 電位が0になる点の探索: 異なる符号の電荷がある場合、電位が0になる点(面)が存在する。その位置を求める問題。\(V_1 + V_2 = 0\) という方程式を解く。
    • 電気双極子の作る電位: \(+q\) と \(-q\) の電荷対が作る電位の分布を問う問題。特に、双極子から十分離れた点での電位の近似式を求める問題などがある。
    • 静電気力による仕事とエネルギー: ある点から別の点へ電荷を運ぶのに必要な仕事を問う問題。仕事 \(W\) は、運ぶ電荷 \(q\) と始点・終点の電位差 \(\Delta V\) を用いて \(W = q\Delta V\) と計算できる。この問題を解く前提として、各点での電位を求める必要がある。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「電位」を問われたらスカラー和!: 問題文に「電位」というキーワードを見たら、即座に「向きは関係ない、単純な足し算だ」と頭を切り替える。これにより、ベクトル合成の複雑さから解放される。
    2. 距離の特定を最優先: 電位の計算には各電荷からの距離 \(r\) が必要。まず、問題の図形の幾何学的性質を正確に把握し、すべての距離を計算しておく。
    3. 計算の工夫: 本問のように、複数の項で共通の係数(\(k_0\) など)がある場合、先にそれで括り出すと計算が大幅に楽になり、ミスも減る。
      $$ V = k_0 \left( \frac{q_A}{r_A} + \frac{q_B}{r_B} + \frac{q_C}{r_C} \right) $$
      のように、先に式を整理してから値を代入する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 電位と電界の混同:
    • 誤解: 電位を求める問題なのに、ベクトルの合成をしようとしてしまう。あるいは、電界を求める問題でスカラー和をとってしまう。
    • 対策: 問題を解き始める前に、「問われているのは電位(スカラー)か、電界(ベクトル)か」を指差し確認する習慣をつける。この2つの違いは静電気分野で最も重要な区別の一つ。
  • 電荷の符号の扱いミス:
    • 誤解: 電位の計算で、電荷の絶対値を使ってしまう。
    • 対策: 電位の公式 \(V = k_0 \displaystyle\frac{q}{r}\) では、電荷 \(q\) の符号をそのまま含めて計算すると覚える。電界の「強さ」の計算 (\(E = k_0 \displaystyle\frac{|q|}{r^2}\)) との対比で覚えると効果的。
  • 距離 \(r\) と \(r^2\) の混同:
    • 誤解: 電位の公式の分母を、電界の公式と同じ \(r^2\) だと勘違いしてしまう。
    • 対策: 「電位は \(r\) に反比例、電界は \(r^2\) に反比例」と声に出して覚える。次元(単位)を考えると、力や電界は \(r^2\) に、エネルギーや電位は \(r\) に関係すると結びつけるのも一つの手。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 点電荷の電位の公式 (\(V = k_0 q/r\)):
    • 選定理由: 問題には複数の「点電荷」が存在し、それらが作る「電位」を求める必要があるため、この公式が個々の電位を計算するための唯一の選択肢となる。
    • 適用根拠: 点A, B, Cの各電荷が点Dに作る電位を、それぞれ独立に計算する場面で適用する。
  • 重ね合わせの原理(スカラー和):
    • 選定理由: 問題は点Dにおける「合成された」電位を求めている。電位はエネルギー(仕事)に関連するスカラー量であり、その重ね合わせは単純な代数和で与えられる。
    • 適用根拠: 個別に計算した \(V_{\text{A}}, V_{\text{B}}, V_{\text{C}}\) から、最終的な答えである \(V_{\text{D}}\) を導出する最終段階で適用する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 分数の計算: 本問のように、分母にルート(\(\sqrt{2}\))が含まれる場合、有理化するタイミングを考える。先に有理化しても良いし、式の整理の過程でうまく消えることもある。本問では、先に有理化せずに計算を進めると、最終的に項が打ち消しあって計算が楽になる。
  • 共通因数で括る: 計算過程で示したように、共通の係数(\(9.0 \times 10^9\) や \(10^{-6}\))で括り出すことで、計算の手間とミスを大幅に削減できる。これは物理計算全般で非常に有効なテクニック。
  • 有効数字の確認: 問題文で与えられている数値(\(3.0 \text{ m}\), \(\pm 2.0 \times 10^{-6} \text{ C}\))は有効数字2桁。最終的な答えもそれに合わせて \(6.0 \times 10^3 \text{ V}\) と2桁で表現する。
  • 単位の記述: 最終的な答えには、必ず「V」(ボルト)という単位を忘れずに記述する。

313 電界と電位

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電界の単位の同等性」です。電界の強さの単位として、定義から導かれる \(\text{N/C}\) と、電位との関係から導かれる \(\text{V/m}\) の2種類があることを理解し、それらが物理的に等価であることを、仕事やエネルギーの定義式を介して証明するプロセスを追体験します。

  1. 電界の定義: 電界 \(E\) は、その点に置いた試験電荷 \(q\) が受ける力 \(F\) を用いて、\(E = F/q\) と定義されます。
  2. 電位・電位差の定義: 電位差 \(V\) は、電荷 \(q\) を運ぶのに要する仕事(静電気力がする仕事) \(W\) を用いて、\(W = qV\) と定義されます。
  3. 仕事の定義: 力 \(F\) が物体を距離 \(x\) だけ動かすとき、その仕事は \(W = Fx\) と定義されます。
  4. 単位の関係: 上記の定義式は、そのまま物理量の単位の関係式につながります。(\([\text{V}] = [\text{J}]/[\text{C}]\), \([\text{J}] = [\text{N}]\cdot[\text{m}]\))

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 空欄①では、電界の定義式 \(E=F/q\) から、力の単位と電気量の単位を用いて電界の単位を導きます。
  2. 空欄②、③では、仕事 \(W\) を電気量 \(q\) や力 \(F\) と結びつける2つの基本公式を思い出します。
  3. 空欄④、⑤では、②、③で確認した関係式を単位に適用し、\(\text{V/m}\) という単位を基本単位に分解していくことで、\(\text{N/C}\) と等しくなることを示します。

空欄①

思考の道筋とポイント
電界の強さの単位を、その定義式から導き出す問題です。電界が「単位電荷あたりにはたらく力」として定義されていることを理解していれば、直ちに単位を組み立てることができます。
この設問における重要なポイント

  • 電界の定義式: \(E = \displaystyle\frac{F}{q}\)
  • 力の単位は \(\text{N}\) (ニュートン)、電気量の単位は \(\text{C}\) (クーロン) である。

具体的な解説と立式
電界の強さ \(E\) は、その点に置いた電気量 \(q\) の試験電荷が受ける力の大きさ \(F\) を用いて、次のように定義されます。
$$ E = \frac{F}{q} $$
この定義式の両辺の単位を考えると、電界の単位 \([E]\) は、力の単位 \([F]\) を電気量の単位 \([q]\) で割ったものになります。
$$ [E] = \frac{[F]}{[q]} $$
力の単位は \(\text{N}\)、電気量の単位は \(\text{C}\) なので、電界の単位は \(\text{N/C}\) となります。

使用した物理公式

  • 電界の定義: \(E = \displaystyle\frac{F}{q}\)
計算過程

この設問は定義から単位を導くものであり、計算は不要です。

計算方法の平易な説明

電界の強さは、「\(1 \text{ C}\) の電気を置いたときに、どれくらいの力を受けるか」を表す量です。したがって、その単位は「力の単位 \(\div\) 電気量の単位」となります。力の単位は「\(\text{N}\)」、電気量の単位は「\(\text{C}\)」なので、電界の単位は「\(\text{N/C}\)」となります。

結論と吟味

空欄①に当てはまる単位は \(\text{N/C}\) です。これは電界の定義から直接導かれる基本的な単位です。

解答 ① N/C

空欄②, ③

思考の道筋とポイント
仕事とエネルギーに関する2つの基本的な関係式を完成させる問題です。一つは電気的な仕事、もう一つは力学的な仕事の定義式です。
この設問における重要なポイント

  • 静電気力がする仕事 \(W\) は、電気量 \(q\) と電位差 \(V\) を用いて \(W=qV\) と表される。
  • 力学的な仕事 \(W\) は、力の大きさ \(F\) と移動距離 \(x\) を用いて \(W=Fx\) と表される。

具体的な解説と立式
問題文の関係式は、仕事の定義を問うています。

  • [仕事] = [電気量] × [②]:
    静電気力が電荷 \(q\) にする仕事 \(W\) は、その電荷が移動した2点間の電位差を \(V\) とすると、\(W=qV\) と定義されます。したがって、空欄②は「電位差」となります。(単に「電位」でも文脈上許容されます)
  • [仕事] = [力] × [③]:
    力学における仕事の定義は、力の大きさに、力の向きに移動した距離を掛け合わせたものです。したがって、空欄③は「距離」となります。

使用した物理公式

  • 静電気力のする仕事: \(W = qV\)
  • 仕事の定義: \(W = Fx\)
計算過程

この設問は物理法則の知識を問うものであり、計算は不要です。

計算方法の平易な説明

「仕事」を計算する公式を思い出します。電気の世界では、仕事は「電気量 \(\times\) 電位差」で計算できます。一方、力学の世界では、仕事は「力 \(\times\) 距離」で計算できます。この2つの公式に当てはまる言葉を考えます。

結論と吟味

空欄②は「電位差」、空欄③は「距離」です。これらは仕事とエネルギーに関する物理学の基本的な定義です。

解答 ② 電位差  距離

空欄④, ⑤

思考の道筋とポイント
空欄②、③で確認した物理法則の単位の関係を用いて、\(\text{V/m}\) が \(\text{N/C}\) と等価であることを証明する単位換算の問題です。各単位がどの物理量の定義から来ているかを一つずつ分解していくことが鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • 電位の単位 \(\text{V}\) (ボルト) は、仕事の単位 \(\text{J}\) (ジュール) と電気量の単位 \(\text{C}\) (クーロン) から、\([\text{V}] = [\text{J}]/[\text{C}]\) と定義される。
  • 仕事の単位 \(\text{J}\) は、力の単位 \(\text{N}\) (ニュートン) と距離の単位 \(\text{m}\) (メートル) から、\([\text{J}] = [\text{N}\cdot\text{m}]\) と定義される。

具体的な解説と立式
単位の等価性を示す式を、ステップを追って変形していきます。
出発点は \(1[\text{V/m}]\) です。
1. 空欄④:
まず、\([\text{V}]\) を他の単位で表します。電位差の定義 \(V = W/q\) より、単位の関係は \([\text{V}] = [\text{J}]/[\text{C}]\) となります。これを代入すると、
$$ 1 \left[ \frac{\text{V}}{\text{m}} \right] = 1 \frac{[\text{V}]}{[\text{m}]} = 1 \frac{[\text{J}]/[\text{C}]}{[\text{m}]} = 1 \left[ \frac{[\text{J}]/\text{C}}{\text{m}} \right] $$
したがって、空欄④は仕事の単位である \(\text{J}\) (ジュール) となります。仕事の定義より \(\text{N}\cdot\text{m}\) も同等です。

2. 空欄⑤:
次に、仕事の単位 \([\text{J}]\) をさらに分解します。仕事の定義 \(W=Fx\) より、単位の関係は \([\text{J}] = [\text{N}\cdot\text{m}]\) となります。これを④に代入すると、
$$ 1 \left[ \frac{[\text{J}]/\text{C}}{\text{m}} \right] = 1 \left[ \frac{([\text{N}\cdot\text{m}])/\text{C}}{\text{m}} \right] $$
この式の分母と分子にある \([\text{m}]\) を約分すると、
$$ 1 \left[ \frac{\text{N}}{\text{C}} \right] $$
となります。問題の式の最終項 `1[[⑤]/m]` は `1[N/C]` の誤記と解釈するのが自然であり、その分子である `N` が空欄⑤に相当します。

使用した物理公式

  • 単位の関係: \([\text{V}] = [\text{J}]/[\text{C}]\), \([\text{J}] = [\text{N}\cdot\text{m}]\)
計算過程

単位の変形をまとめると以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
1 \left[ \frac{\text{V}}{\text{m}} \right] &= 1 \left[ \frac{[\text{J}]/\text{C}}{\text{m}} \right] \\[2.0ex]&= 1 \left[ \frac{([\text{N}\cdot\text{m}])/\text{C}}{\text{m}} \right] \\[2.0ex]&= 1 \left[ \frac{\text{N}\cdot\text{m}}{\text{C}\cdot\text{m}} \right] \\[2.0ex]&= 1 \left[ \frac{\text{N}}{\text{C}} \right]\end{aligned}
$$
問題の空欄を埋める流れに沿うと、

  • `1[V/m] = 1[[④]/C]/[m]` より、④は `J` または `N·m`。
  • `1[[J]/C]/[m] = 1[N/C]` となる。問題の `1[[⑤]/m]` は `1[N/C]` のことであり、⑤はその分子である `N` を指していると考えられます。
計算方法の平易な説明

単位のパズルを解くように考えます。
1. まず「\(\text{V}\)」(ボルト)を分解します。ボルトは「ジュール \(\div\) クーロン」なので、`V`を`J/C`に置き換えます。これが④です。
2. 次に「\(\text{J}\)」(ジュール)を分解します。ジュールは「ニュートン \(\times\) メートル」なので、`J`を`N·m`に置き換えます。
3. すると、式全体は `(N·m/C)/m` となります。分数の計算をすると、分母と分子の`m`が消えて、最終的に`N/C`が残ります。問題の空欄⑤は、この最終的な単位の分子である「\(\text{N}\)」を指しています。

結論と吟味

空欄④は \(\text{J}\) (または \(\text{N}\cdot\text{m}\))、空欄⑤は \(\text{N}\) となります。この一連の単位換算により、電界の単位 \(\text{V/m}\) と \(\text{N/C}\) が物理的に等価であることが示されました。

解答 ④ JまたはN·m  N

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 物理法則と単位の関係:
    • 核心: 物理法則を記述する公式は、そのまま物理量の単位の関係式に対応する、という根本的な理解が全てです。例えば、\(F=ma\) ならば \([\text{N}] = [\text{kg}]\cdot[\text{m/s}^2]\) となります。
    • 理解のポイント:
      • 電界の定義: \(E = F/q\) → \([E] = [\text{N}]/[\text{C}]\)
      • 電位の定義: \(V = W/q\) → \([V] = [\text{J}]/[\text{C}]\)
      • 仕事の定義: \(W = Fx\) → \([J] = [\text{N}]\cdot[\text{m}]\)
      • 一様な電界と電位差の関係: \(V = Ed\) → \([V] = [E]\cdot[\text{m}]\) → \([E] = [\text{V}]/[\text{m}]\)
  • 電界の2つの表現:
    • 核心: 電界 \(E\) は、「力」の側面から見ると「単位電荷あたりの力 (\(\text{N/C}\))」と表現され、「電位(エネルギー)」の側面から見ると「単位長さあたりの電位の変化(電位の傾き, \(\text{V/m}\))」と表現される。この2つの表現が物理的に同じものであることを本問は示しています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 他の物理量の単位の導出: 例えば、電力 \(P\) の単位 \(\text{W}\) (ワット) が、電圧 \(V\) と電流 \(A\) を用いてどのように表されるか (\(P=VI\))、また、仕事率の定義から \(\text{J/s}\) と等価であることを示す問題。
    • 次元解析: 物理量の単位を、質量(\(\text{M}\))、長さ(\(\text{L}\))、時間(\(\text{T}\))、電流(\(\text{A}\))などの基本次元の組み合わせで表現する問題。例えば、力の次元は \([\text{MLT}^{-2}]\) となる。
    • 公式の妥当性チェック: 自分で導出した公式が正しいかどうかを、両辺の単位(次元)が一致しているかを確認することで検算するテクニック。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 単位を物理量に翻訳する: \(\text{V/m}\) という単位を見たら、「ボルト毎メートル」と読むだけでなく、「電位差を距離で割ったものだな」と物理量に翻訳する。
    2. 定義式に立ち返る: 単位の分解や組み立てに迷ったら、その単位を持つ物理量の「定義式」を思い出す。例えば「\(\text{V}\)って何だっけ?」→「仕事/電気量だ」→「\(\text{J/C}\)だ」という思考プロセスをたどる。
    3. 単位を文字のように扱う: 単位の計算では、\(\text{V, m, N, C, J}\) などを文字式の文字のように扱い、約分や移項を行う。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 定義式の混同:
    • 誤解: \(W=qV\) と \(V=Ed\) のような、似た文字を含む公式を取り違える。
    • 対策: 各公式を単独で覚えるのではなく、「静電気力が電荷\(q\)にする仕事\(W\)は、電位差\(V\)に比例する」のように、物理的な意味合いと共にストーリーで覚える。
  • 単位の分解ミス:
    • 誤解: \(\text{V}\) を \(\text{J}\cdot\text{C}\) と間違える(正しくは \(\text{J/C}\))。
    • 対策: 定義式 \(V=W/q\) を正確に覚えていれば、単位の関係も \(V=J/C\) と割り算になることが自然に導かれる。公式の形を正確に記憶することが重要。
  • 問題の意図の読み違え:
    • 誤解: 本問の空欄⑤を、最終的な単位である \(\text{N/C}\) と答えてしまう。
    • 対策: 問題の式の形 `1[[⑤]/m]` をよく見る。これは `1[N/C]` とは形が違う。これは問題の表現が少し不自然で、`1[N/C]` を意図していると解釈する必要がある。解答の選択肢や文脈から、何を問われているのかを正確に推測する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 電界の定義式 (\(E=F/q\)):
    • 選定理由: (1)で電界の単位を問われているため、その定義式から出発するのが最も直接的。
    • 適用根拠: 「単位」というものは、その物理量を定義する式に直結しているため。
  • 仕事の公式 (\(W=qV\) と \(W=Fx\)):
    • 選定理由: (2), (3)で、仕事と他の物理量との関係が問われているため、これらの定義式を選択する。
    • 適用根拠: (4), (5)の単位換算は、異なる物理概念(電気的な仕事と力学的な仕事)を結びつけることで行われる。これらの公式は、その橋渡しの役割を果たす。
  • 単位の代入:
    • 選定理由: (4), (5)は、ある単位を別の単位の組み合わせで表現する問題。これは、定義式から得られる単位の関係式を、文字式のように代入していくことで解決できる。
    • 適用根拠: \(1[\text{V/m}]\) を出発点とし、\([\text{V}] \rightarrow [\text{J}]/[\text{C}]\), \([\text{J}] \rightarrow [\text{N}\cdot\text{m}]\) と段階的に代入していくことで、最終的な目標である \([\text{N/C}]\) にたどり着く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • この問題は計算ミスというより、知識の混同や論理の飛躍がミスの原因となる。
  • 単位の書き方の徹底: 分数形式の単位を書く際は、どこまでが分子でどこからが分母かを明確にする。例えば、\(\text{J/C/m}\) のような曖昧な書き方はせず、\(\displaystyle\frac{\text{J/C}}{\text{m}}\) や \(\displaystyle\frac{\text{J}}{\text{C}\cdot\text{m}}\) のように、分数の横線を明確に引いて考える。
  • 連想ゲームで覚える:
    • 「電界 \(E\)」→「力 \(F\)」→「\(\text{N/C}\)」
    • 「電界 \(E\)」→「電位 \(V\)」→「\(\text{V/m}\)」
    • 「電位 \(V\)」→「仕事 \(W\)」→「\(\text{J/C}\)」
    • 「仕事 \(W\)」→「力 \(F\)」→「\(\text{J} = \text{N}\cdot\text{m}\)」

    このように、物理量と定義式、単位をセットで連想できるように訓練すると、記憶が定着しやすくなる。

314 等電位線と仕事

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「等電位線と、静電気力がする仕事および電界の強さとの関係」です。等電位線の図から情報を読み取り、物理法則を適用する能力が問われます。

  1. 静電気力がする仕事と電位差の関係: 電荷 \(q\) をある点から別の点へ移動させるとき、静電気力がする仕事 \(W\) は、電荷 \(q\) と始点・終点の電位差で決まります。
  2. 保存力: 静電気力は保存力であり、その仕事は移動経路によらず、始点と終点の位置(電位)だけで決まります。したがって、一周して元の位置に戻る場合、仕事の総和は0になります。
  3. 等電位線の性質: 等電位線とは電位の等しい点を結んだ線です。電気力線とは常に直交します。
  4. 等電位線の間隔と電界の強さ: 等電位線の間隔が狭い場所ほど電界は強く、間隔が広い場所ほど電界は弱くなります。これは、地形図の等高線で、間隔が狭い場所が急斜面であることに対応します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、図から各区間の始点と終点の電位を正確に読み取り、仕事の公式 \(W = q(V_{\text{始点}} – V_{\text{終点}})\) に代入して計算します。
  2. (2)では、(1)で求めた各区間の仕事をすべて足し合わせます。あるいは、静電気力が保存力であることから、一周して戻ってくる仕事は0であると結論付けます。
  3. (3)では、図中の点A付近と点B付近の等電位線の「間隔の広さ・狭さ」を比較し、電界の強弱を判断します。

問(1)

思考の道筋とポイント
各区間で電界(静電気力)がした仕事を求める問題です。重要なのは、静電気力がする仕事は、移動した経路の形にはよらず、始点と終点の「電位差」だけで決まるという点です。図から各点の電位を正確に読み取り、仕事の公式に適用することが求められます。
この設問における重要なポイント

  • 電荷 \(q\) を電位 \(V_{\text{始}}\) の点から電位 \(V_{\text{終}}\) の点へ移動させるとき、電界がする仕事 \(W\) は \(W = q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\) で計算される。
  • 同じ等電位線上を移動する場合、電位差は0なので仕事も0になる。
  • 電位が下がる向き(坂を下る向き)に正電荷を動かすと、電界は正の仕事をする。逆に電位が上がる向き(坂を上る向き)に動かすと、負の仕事をする。

具体的な解説と立式
電荷 \(q\) を点P(電位 \(V_{\text{P}}\))から点Q(電位 \(V_{\text{Q}}\))へ移動させるとき、電界がする仕事 \(W_{\text{PQ}}\) は、
$$ W_{\text{PQ}} = q(V_{\text{P}} – V_{\text{Q}}) $$
で与えられます。問題では、移動させる電荷は \(q = +1.0 \text{ C}\) です。
図から各点の電位を読み取ると、
\(V_{\text{A}}=20\text{ V}\), \(V_{\text{B}}=20\text{ V}\), \(V_{\text{C}}=10\text{ V}\), \(V_{\text{D}}=40\text{ V}\), \(V_{\text{E}}=20\text{ V}\)
となります。
これを用いて、各区間での仕事を計算する式を立てます。

  • AB間: \(W_{\text{AB}} = q(V_{\text{A}} – V_{\text{B}})\)
  • BC間: \(W_{\text{BC}} = q(V_{\text{B}} – V_{\text{C}})\)
  • CD間: \(W_{\text{CD}} = q(V_{\text{C}} – V_{\text{D}})\)
  • DE間: \(W_{\text{DE}} = q(V_{\text{D}} – V_{\text{E}})\)
  • EA間: \(W_{\text{EA}} = q(V_{\text{E}} – V_{\text{A}})\)

使用した物理公式

  • 静電気力がする仕事: \(W = q(V_{\text{始点}} – V_{\text{終点}})\)
計算過程

各区間の仕事を計算します。\(q = +1.0 \text{ C}\) を代入します。

  • AB間:
    $$
    \begin{aligned}
    W_{\text{AB}} &= (+1.0) \times (20 – 20) \\[2.0ex]&= 0 \text{ [J]}
    \end{aligned}
    $$
  • BC間:
    $$
    \begin{aligned}
    W_{\text{BC}} &= (+1.0) \times (20 – 10) \\[2.0ex]&= 10 \text{ [J]}
    \end{aligned}
    $$
  • CD間:
    $$
    \begin{aligned}
    W_{\text{CD}} &= (+1.0) \times (10 – 40) \\[2.0ex]&= -30 \text{ [J]}
    \end{aligned}
    $$
  • DE間:
    $$
    \begin{aligned}
    W_{\text{DE}} &= (+1.0) \times (40 – 20) \\[2.0ex]&= 20 \text{ [J]}
    \end{aligned}
    $$
  • EA間:
    $$
    \begin{aligned}
    W_{\text{EA}} &= (+1.0) \times (20 – 20) \\[2.0ex]&= 0 \text{ [J]}
    \end{aligned}
    $$
計算方法の平易な説明

電位を「山の高さ」とイメージします。電界がする仕事は「電気量 \(\times\) 下った高さ」で計算できます。

  • A→B: 高さ20mの場所から高さ20mの場所への移動なので、高さは変わらず仕事は0です。
  • B→C: 高さ20mから10mへ、10m下るので、仕事は \(1 \times 10 = 10 \text{ J}\) です。
  • C→D: 高さ10mから40mへ、30m上るので、仕事は \(1 \times (-30) = -30 \text{ J}\) です(坂を上るのを手伝ったので、電界自身はマイナスの仕事)。
  • D→E: 高さ40mから20mへ、20m下るので、仕事は \(1 \times 20 = 20 \text{ J}\) です。
  • E→A: 高さ20mから20mへの移動なので、仕事は0です。
結論と吟味

AB間の仕事は \(0 \text{ J}\)、BC間は \(10 \text{ J}\)、CD間は \(-30 \text{ J}\)、DE間は \(20 \text{ J}\)、EA間は \(0 \text{ J}\) です。仕事の正負は、電位が下がる(電界が力を及ぼす自然な方向)ときに正、電位が上がる(電界に逆らう方向)ときに負となっており、物理的に妥当です。

解答 (1) AB間:0J,BC間:10J,CD間:-30J,DE間:20J,EA間:0J

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で求めた仕事の総和を求める問題です。これは、電荷をA→B→C→D→E→Aと一周させて元の位置に戻したときの、電界がした仕事の合計を意味します。静電気力が「保存力」であるという性質を理解していれば、計算するまでもなく答えがわかります。
この設問における重要なポイント

  • 静電気力は保存力である。
  • 保存力がする仕事は、経路によらず始点と終点の位置(電位)だけで決まる。
  • 一周して元の位置に戻る場合、始点と終点が同じなので、保存力がする仕事の総和は常に0になる。

具体的な解説と立式
求める仕事の総和 \(W_{\text{総}}\) は、(1)で求めた各区間の仕事の和です。
$$ W_{\text{総}} = W_{\text{AB}} + W_{\text{BC}} + W_{\text{CD}} + W_{\text{DE}} + W_{\text{EA}} $$
また、静電気力が保存力であることから、始点Aから出発して終点Aに戻ってくるまでの仕事は、経路によらず0になるはずです。
$$ W_{\text{総}} = q(V_{\text{始点}} – V_{\text{終点}}) $$
始点と終点が同じA点なので、\(V_{\text{始点}} = V_{\text{A}}\), \(V_{\text{終点}} = V_{\text{A}}\) となり、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{総}} &= q(V_{\text{A}} – V_{\text{A}}) \\[2.0ex]&= 0
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 保存力の性質(一周する仕事は0)
計算過程

(1)で求めた値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{総}} &= 0 + 10 + (-30) + 20 + 0 \\[2.0ex]&= 0 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

山登りで、ふもとから出発して山頂に行き、また同じふもとに戻ってきた場合、トータルの高さの変化は0です。それと同じように、電気の世界でも、ある点から出発してぐるっと一周して元の点に戻ってきた場合、電界がした仕事の合計は必ず0になります。

結論と吟味

仕事の総和は \(0 \text{ J}\) です。これは、静電気力が保存力であるという性質と一致しており、物理的に正しい結果です。

解答 (2) 0J

問(3)

思考の道筋とポイント
等電位線の図から、異なる2点での電界の強さを比較する問題です。電界の強さと等電位線の間隔の関係を正しく理解しているかが問われます。
この設問における重要なポイント

  • 等電位線の間隔が狭いほど、電界は強い。
  • 等電位線の間隔が広いほど、電界は弱い。
  • これは、一様な電界における関係式 \(V=Ed\) を変形した \(E=V/d\) から類推できます。同じ電位差 \(\Delta V\) を生じさせるのに、必要な距離 \(d\) が短いほど、電界 \(E\) は強いことを意味します。

具体的な解説と立式
図を見ると、点Aの付近と点Bの付近では、同じ \(10 \text{ V}\) の電位差(例えば20Vと30Vの線)を生み出すための線の間隔が異なります。

  • 点A付近は、等電位線の間隔が広くなっています。
  • 点B付近は、等電位線の間隔が狭く、線が混み合っています。

等電位線の間隔が狭い場所ほど、電位が急激に変化していることを意味し、これは電界が強いことを示します。
したがって、点Aと点Bとでは、点Bのほうが電界が強いと判断できます。

使用した物理公式

  • 等電位線の間隔と電界の強さの関係(定性的理解)
  • (参考)一様な電界における電位と電界の関係: \(V=Ed\)
計算過程

この設問は図からの定性的な判断を問うものであり、具体的な計算は不要です。

計算方法の平易な説明

等電位線は、地図の「等高線」と同じように考えることができます。等高線の間隔が狭い場所は「急な坂」で、間隔が広い場所は「なだらかな坂」です。電気の世界では、この「坂の急さ」が「電界の強さ」に相当します。図を見ると、点Bの周りは線が混み合って(間隔が狭く)いるので坂が急、つまり電界が強いことがわかります。

結論と吟味

点Bのほうが電界が強い。図から読み取れる等電位線の間隔と、電界の強さに関する物理法則が正しく結びついており、妥当な結論です。

解答 (3) 点B

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 静電気力がする仕事と電位差の関係:
    • 核心: 電荷 \(q\) を電位 \(V_{\text{A}}\) の点Aから電位 \(V_{\text{B}}\) の点Bへ移動させるとき、静電気力がする仕事 \(W\) は、経路によらず \(W = q(V_{\text{A}} – V_{\text{B}})\) で決まる。この1本の式が(1)と(2)の全ての計算の根拠です。
    • 理解のポイント:
      • 仕事の計算に必要なのは、始点と終点の電位の値だけであり、途中の経路の形や長さは一切関係ない。
      • \(V_{\text{A}} – V_{\text{B}}\) は「電位の降下分」を表す。正電荷は電位が下がる(坂を下る)ときに正の仕事をされる、と覚えると符号を間違えにくい。
  • 等電位線と電界の関係:
    • 核心: 等電位線の間隔が狭い場所ほど、電界は強い。これは電界の強さを視覚的に判断するための最も重要なルールです。
    • 理解のポイント:
      • 等電位線は地形図の等高線に例えられる。間隔が狭い=傾きが急=電界が強い。
      • 電界の向きは、等電位線に常に垂直で、電位の高い方から低い方へ向かう向きである。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 電気力線が描かれた図: 電気力線が描かれている図から、電界の強さや向き、電位の高低を判断する問題。電気力線が密なほど電界が強く、電気力線の向きに沿って電位は低くなる。
    • 外力がする仕事: 「電界がした仕事」ではなく、「(電荷をゆっくり運ぶために)外力がした仕事」を問う問題。外力がする仕事 \(W_{\text{外}}\) は、電界がする仕事 \(W\) と符号が逆になる(\(W_{\text{外}} = -W = q(V_{\text{B}} – V_{\text{A}})\))。
    • 運動エネルギーの変化: 電荷が電界中を自由に運動するときの速さを求める問題。エネルギー保存則(力学的エネルギー+静電気力による位置エネルギー=一定)や、運動エネルギーと仕事の関係(\(\Delta K = W\)) を用いて解く。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 図から電位を読み取る: まず、図に示された各点(A, B, C…)がどの等電位線上にあるかを確認し、それぞれの電位の値をメモする。これが全ての計算の基礎データとなる。
    2. 仕事の主体を確認する: 問題文が「電界がした仕事」を問うているのか、「外力がした仕事」を問うているのかを正確に区別する。これにより符号のミスを防ぐ。
    3. 等電位線の間隔に注目する: 電界の強弱を比較する問題では、線の混み具合(間隔の狭さ)に注目する。具体的な距離が与えられていなくても、相対的な強弱は判断できる。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 仕事の公式の符号ミス:
    • 誤解: 仕事の公式を \(W = q(V_{\text{終点}} – V_{\text{始点}})\) と覚えてしまい、符号を間違える。
    • 対策: \(W = q(V_{\text{始点}} – V_{\text{終点}})\) と正しく覚える。あるいは、物理的なイメージで「正電荷が電位の坂を下るときに、電界は正の仕事をする」と理解する。例えばB→Cでは、電位が \(20\text{V} \rightarrow 10\text{V}\) と下がっているので、正電荷を動かす仕事は正になると判断できる。
  • 保存力の概念の不理解:
    • 誤解: (2)で、(1)の計算結果を単純に足し算しようとして計算ミスをする。あるいは、なぜ0になるのかを説明できない。
    • 対策: 静電気力や重力のような「保存力」がする仕事は、スタートとゴールが同じなら、どんな経路をたどっても合計で0になる、という大原則を理解しておく。これにより、(2)は計算不要で即答できる。
  • 電界と電位の混同:
    • 誤解: 等電位線の値(例: 40V)が大きい点Dが、最も電界が強いと勘違いする。
    • 対策: 「電位の高さ」と「電界の強さ(電位の坂の傾き)」は全く別の概念であると区別する。山の頂上(標高は高い)でも、平坦であれば傾き(電界)は0である。電界の強さは、電位の値そのものではなく、その「変化率(線の間隔)」で決まることを徹底する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 仕事の公式 (\(W = q(V_A – V_B)\)):
    • 選定理由: (1)と(2)で問われているのが、まさに「静電気力がする仕事」であるため、その定義式を直接選択する。
    • 適用根拠: 電位は「単位電荷あたりの位置エネルギー」と定義される (\(U=qV\))。仕事は位置エネルギーの変化量に等しい(\(W = -\Delta U = -(U_B – U_A) = U_A – U_B\))。これを代入すると \(W = qV_A – qV_B = q(V_A – V_B)\) となり、公式が導かれる。この背景を理解していると、公式の形を間違えにくくなる。
  • 等電位線の間隔と電界の強さの関係:
    • 選定理由: (3)では、図から電界の強弱を「比較」することが求められている。数値計算ではなく定性的な判断が必要な場面では、図形的特徴(等電位線の間隔)と物理量(電界の強さ)を結びつけるこの法則を用いる。
    • 適用根拠: 一様な電界 \(E\) の中では、電界の向きに距離 \(d\) だけ離れた2点間の電位差は \(V=Ed\) となる。これを変形すると \(E=V/d\) となり、「同じ電位差\(V\)に対して、距離\(d\)が短いほど電界\(E\)は強い」という関係がわかる。この関係が、一般的な電界においても「等電位線の間隔が狭いほど電界が強い」という形で成り立つ。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 符号の確認: 仕事の計算では、特に引き算の順序による符号ミスが多い。\(V_{\text{始点}} – V_{\text{終点}}\) の計算は、各点の電位を書き出してから慎重に行う。
  • 検算: (2)で、(1)の結果を足し算して0になることを確認するのは良い検算方法。もし0にならなければ、(1)のどこかで計算ミスをしている可能性が高い。
  • 図への書き込み: 問題の図に、各点の電位の値を直接書き込む。また、仕事の計算結果も各区間の横にメモしていくと、(2)での総和の計算が楽になり、見直しもしやすい。

315 電界と電位

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「一様な電界中での仕事と電位の関係」です。仕事の定義式、仕事と電位差の関係式、そして一様な電界と電位の関係式という、複数の重要な概念を正しく使い分ける能力が問われます。

  1. 一様な電界と力: 電荷 \(q\) が一様な電界 \(E\) から受ける力は、場所によらず \(F=qE\) で一定です。
  2. 仕事の定義: 力 \(F\) が物体を距離 \(x\) だけ動かすときの仕事 \(W\) は、力と変位のなす角を \(\theta\) として \(W = Fx\cos\theta\) と表されます。これは「力の大きさ」に「力の向きに移動した距離」を掛けたものと同じです。
  3. 静電気力がする仕事と電位差: 電荷 \(q\) を電位 \(V_{\text{始}}\) の点から電位 \(V_{\text{終}}\) の点へ移動させるとき、静電気力がする仕事 \(W\) は \(W = q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\) で計算されます。
  4. 静電気力の保存性: 静電気力は保存力なので、その仕事は移動経路によらず、始点と終点の位置(電位)だけで決まります。
  5. 一様な電界と電位: 一様な電界 \(E\) の中では、電界の向きに距離 \(d\) だけ離れた2点間の電位差は \(V=Ed\) となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、仕事の定義「力 × 力の向きに移動した距離」を用いて、AからCへの移動における仕事を直接計算します。
  2. (2)では、A→BとB→Cの2つの区間に分けて仕事を計算し、それらを足し合わせます。静電気力が保存力であるため、(1)と同じ結果になることを確認します。
  3. (3)では、(1)または(2)で求めた仕事と、仕事と電位差の関係式 \(W = q(V_{\text{A}} – V_{\text{C}})\) を用いて、点Cの電位を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
点Aから点Cへまっすぐ移動させたときの、電界がする仕事を求めます。電界から受ける力は常に右向きで一定です。仕事は「力の大きさ」と「力の向きに移動した距離」の積で計算できることを利用するのが最も簡単です。
この設問における重要なポイント

  • 電荷が電界から受ける力は \(F=qE\) で、向きは電界と同じ右向き。
  • 仕事は、力の大きさに、力の向きに沿って移動した距離成分を掛けて求める。
  • 点Aから点Cへの移動において、力の向き(水平右向き)の移動距離はAB間の距離 \(d\) に等しい。

具体的な解説と立式
電荷 \(q\) が一様な電界 \(E\) から受ける力の大きさ \(F\) は、
$$ F = qE $$
であり、その向きは電界と同じく水平右向きです。
仕事 \(W_1\) は、この力 \(F\) の大きさと、力の向きに移動した距離の積で求められます。点Aから点Cへ移動する際、力の向き(水平方向)に移動した距離は、図よりAB間の距離 \(d\) に等しいです。
したがって、仕事 \(W_1\) は、
$$ W_1 = F \times d $$
と立式できます。

使用した物理公式

  • 電界中の電荷が受ける力: \(F=qE\)
  • 仕事の定義: \(W = (\text{力}) \times (\text{力の向きに移動した距離})\)
計算過程

上で立てた式に \(F=qE\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
W_1 &= (qE) \times d \\[2.0ex]&= qEd \text{ [J]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

仕事は「力 \(\times\) 力の向きに進んだ距離」で計算します。この問題では、電荷は常に右向きに \(qE\) という大きさの力を受けます。点Aから点Cへ斜めに移動しますが、この移動のうち、力の向きである「右方向」に進んだ距離は \(d\) です。したがって、電界がした仕事は、力の大きさ \(qE\) に、力の向きに進んだ距離 \(d\) を掛けて \(qEd\) となります。

結論と吟味

電界がする仕事は \(qEd\) [J] です。電荷 \(q\) も電界 \(E\) も正であり、力の向きに移動成分があるので、仕事が正の値になるのは物理的に妥当です。

解答 (1) qEd [J]

問(2)

思考の道筋とポイント
A→B、B→Cと経路を分けて移動させたときの仕事を求めます。これは、各区間の仕事の和を計算することを意味します。静電気力は保存力であるため、仕事は経路によらないはずで、(1)と同じ結果になることが予想されます。
この設問における重要なポイント

  • 仕事の総和は、各区間の仕事の和で求められる (\(W_2 = W_{\text{AB}} + W_{\text{BC}}\))。
  • 力の向きと移動の向きが同じ場合、仕事は \(W=Fd\)。
  • 力の向きと移動の向きが垂直な場合、その区間での仕事は0になる。

具体的な解説と立式
求める仕事 \(W_2\) は、AB間の仕事 \(W_{\text{AB}}\) とBC間の仕事 \(W_{\text{BC}}\) の和です。
$$ W_2 = W_{\text{AB}} + W_{\text{BC}} $$
それぞれの区間の仕事を計算します。

  • AB間:
    力の向き(右向き)と移動の向き(右向き)が同じです。力の大きさは \(F=qE\)、移動距離は \(d\) なので、
    $$ W_{\text{AB}} = F \times d $$
  • BC間:
    力の向き(右向き)と移動の向き(上向き)は垂直です。この場合、力は移動の助けにも妨げにもならないため、仕事は0になります。
    $$ W_{\text{BC}} = 0 $$

使用した物理公式

  • 仕事の定義: \(W = Fx\)
  • 力と移動が垂直な場合の仕事: \(W=0\)
計算過程

各区間の仕事を計算し、足し合わせます。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{AB}} &= (qE) \times d \\[2.0ex]&= qEd
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
W_{\text{BC}} &= 0
\end{aligned}
$$
したがって、合計の仕事 \(W_2\) は、
$$
\begin{aligned}
W_2 &= W_{\text{AB}} + W_{\text{BC}} \\[2.0ex]&= qEd + 0 \\[2.0ex]&= qEd \text{ [J]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

AからBへの移動では、力の向きにまっすぐ \(d\) だけ進むので、仕事は「力 \(qE \times\) 距離 \(d\)」で \(qEd\) となります。一方、BからCへの移動では、力の向き(右向き)とは垂直な上方向に進むので、力は全く仕事をしません。仕事は0です。したがって、合計の仕事は \(qEd + 0 = qEd\) となります。

結論と吟味

電界がする仕事は \(qEd\) [J] です。(1)のまっすぐ移動した場合と同じ結果になりました。これは、静電気力が保存力であり、仕事が経路によらないという性質を裏付けています。

解答 (2) qEd [J]

問(3)

思考の道筋とポイント
点Aを電位の基準(\(V_{\text{A}}=0\))としたときの、点Cの電位 \(V_{\text{C}}\) を求める問題です。これまでに計算した「AからCへ移動したときの仕事」と、「仕事と電位差の関係式」を結びつけることで解くことができます。
この設問における重要なポイント

  • 仕事と電位差の関係式: \(W_{\text{A}\rightarrow\text{C}} = q(V_{\text{A}} – V_{\text{C}})\)
  • 電位の基準とは、その点の電位を0と考えること。(\(V_{\text{A}}=0\))
  • 電界は電位の高い方から低い方へ向かう。

具体的な解説と立式
電荷 \(q\) を点Aから点Cへ移動させたときに電界がする仕事 \(W_{\text{AC}}\) は、(1)や(2)の結果から、
$$ W_{\text{AC}} = qEd \quad \cdots ① $$
です。一方、仕事と電位差の関係は、
$$ W_{\text{AC}} = q(V_{\text{A}} – V_{\text{C}}) \quad \cdots ② $$
と表されます。
①と②は等しいので、
$$ qEd = q(V_{\text{A}} – V_{\text{C}}) $$
と立式できます。ここで、点Aを電位の基準とするので、\(V_{\text{A}}=0\) を代入します。

使用した物理公式

  • 静電気力がする仕事: \(W = q(V_{\text{始点}} – V_{\text{終点}})\)
計算過程

立てた式を \(V_{\text{C}}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
qEd &= q(0 – V_{\text{C}}) \\[2.0ex]qEd &= -qV_{\text{C}}
\end{aligned}
$$
両辺を \(-q\) で割ると(\(q>0\) なので0で割る心配はない)、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{C}} &= -Ed \text{ [V]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(1)や(2)で求めた仕事 \(qEd\) は、公式によると「電気量 \(q \times\) (A点の電位 – C点の電位)」と等しくなります。いま、A点の電位を基準の0Vと決めたので、この式は \(qEd = q \times (0 – V_C)\) となります。この方程式を \(V_C\) について解けば、C点の電位が求まります。

結論と吟味

点Cの電位は \(-Ed\) [V] です。電界は電位の高い方から低い方へ向かう性質があります。この問題では電界はAからBの向き(右向き)にはたらいているので、A点に比べてB点やC点の電位は低くなります。A点を基準の0Vとすると、B点やC点の電位が負の値になるのは物理的に正しい結果です。

解答 (3) -Ed [V]
別解: (3) 等電位線の性質を利用した解法

思考の道筋とポイント
一様な電界と電位の関係式 \(V=Ed\) と、等電位線の性質(電気力線と垂直)を直接利用して電位を求める方法です。仕事の計算を介さずに、より直接的に電位を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 一様な電界中では、電気力線(この場合は水平線)と等電位線(この場合は鉛直線)は互いに垂直である。
  • 同じ等電位線上にある点は、すべて同じ電位である。
  • 電界の向きに距離 \(d\) だけ離れた2点間の電位差は \(Ed\) である。

具体的な解説と立式
一様な電界は水平右向きなので、電気力線は水平右向きの平行線です。等電位線は電気力線に垂直なので、鉛直方向の直線となります。
点Bと点Cは同じ鉛直線上にあるため、同じ等電位線上にあります。したがって、点Bと点Cの電位は等しくなります。
$$ V_{\text{B}} = V_{\text{C}} $$
次に、点Aと点Bの電位差を考えます。この2点は電界の向きに沿って距離 \(d\) だけ離れています。一様な電界と電位の関係式 \(V=Ed\) より、A点とB点の電位差の大きさは \(Ed\) です。
電界は電位の高い方から低い方へ向かうので、A点よりもB点の方が電位は低くなります。
$$ V_{\text{A}} – V_{\text{B}} = Ed $$
点Aを電位の基準とするので、\(V_{\text{A}}=0\) を代入します。

計算過程

$$
\begin{aligned}
0 – V_{\text{B}} &= Ed \\[2.0ex]V_{\text{B}} &= -Ed
\end{aligned}
$$
\(V_{\text{C}} = V_{\text{B}}\) なので、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{C}} &= -Ed \text{ [V]}
\end{aligned}
$$

結論と吟味

メインの解法と同じく、点Cの電位は \(-Ed\) [V] と求められました。等電位線の概念を正しく理解していれば、仕事の計算を経由せずとも、より直感的に電位を求めることが可能です。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 静電気力がする仕事の経路によらない性質(保存力):
    • 核心: 静電気力がする仕事は、移動経路によらず、始点と終点の電位差だけで決まる。この「保存力」としての性質が、(1)と(2)の答えが一致する理由であり、この問題の根幹をなす概念です。
    • 理解のポイント:
      • 仕事の公式 \(W = q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\) は、この性質を数式で表現したものです。
      • (1)のA→Cという斜めの経路と、(2)のA→B→Cという回り道の経路で仕事が同じになるのは、この法則のためです。
  • 仕事の定義と電位の関係:
    • 核心: 「力学的な仕事の定義 (\(W=Fd\))」と「電気的な仕事の定義 (\(W=q(V_A-V_C))\))」という2つの異なる側面から仕事を表現し、それらを等しいと置くことで、力学的な量(力、距離)と電気的な量(電位)を結びつけることができます。これが(3)の解法の本質です。
    • 理解のポイント:
      • \(W=Fd\) は「力」の視点から見た仕事。
      • \(W=q\Delta V\) は「エネルギー(電位)」の視点から見た仕事。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜方投射のような運動: 一様な電界中に斜めに電荷を入射させたときの軌跡を求める問題。水平方向は等速直線運動、鉛直方向は等加速度直線運動になる重力下での放物運動と全く同じように解くことができます。
    • 電位が0の面(アース)がある問題: 特定の面が接地(アース)されて電位が0になっている場合、そこを基準として他の点の電位を求める問題。本問の(3)は、点Aを仮想的にアースしたのと同じ設定です。
    • コンデンサー内部の電界: 平行平板コンデンサーの極板間には、ほぼ一様な電界が形成されます。その内部での仕事や電位を求める問題は、本問と全く同じ考え方で解くことができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 電界は一様か?: まず、問題の電界が「一様」かどうかを確認する。一様であれば、電荷が受ける力は常に一定で、計算が非常に単純になります。
    2. 仕事の計算方法を選択する: 仕事を求める方法は主に2つあります。
      • 経路が単純な場合: \(W=Fd\) のように、力の定義から直接計算する方が直感的なことが多い((1)や(2)の各区間)。
      • 電位が分かっている場合: \(W=q(V_A-V_B)\) のように、電位差から計算する方が楽な場合が多い。

      問題に応じて、どちらのアプローチが楽かを判断する。

    3. 電位を問われたら仕事を経由する: (3)のように電位を問われた場合、直接求めるのが難しくても、「仕事」を計算し、それを \(W=q(V_A-V_C)\) の関係式に当てはめることで、間接的に電位を求めることができる、という思考ルートを持っておく。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 仕事の定義の誤用:
    • 誤解: (1)で、仕事 \(W_1\) を「力 \(qE\) × 斜めの距離 AC」としてしまう。
    • 対策: 仕事の定義は「力 × 力の向きに移動した距離」であることを徹底する。力が水平右向きなので、移動距離も水平成分だけを考える必要がある。あるいは、\(W=Fx\cos\theta\) の公式を使い、力と変位のなす角 \(\theta\) を正しく設定する。
  • 仕事と電位の関係式の符号ミス:
    • 誤解: \(W=q(V_C-V_A)\) のように、始点と終点の電位の引き算の順序を間違える。
    • 対策: \(W=q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\) と覚える。または、「電界は電位の高い方から低い方へ向かう」という原則から、電界の向きに正電荷を動かすと電位は下がり、仕事は正になる、という物理的イメージで符号を判断する。
  • 基準電位の誤解:
    • 誤解: (3)で、Aを基準としたときのCの電位を、AとCの「電位差」である \(Ed\) と答えてしまう。
    • 対策: 「電位」と「電位差」は異なる概念であることを意識する。電位差は2点間の電位の差であり、常に正の値で表すことが多い。一方、電位は基準点からの「高さ」なので、基準点より低ければ負の値になる。電界の向きに沿って進むと電位は低くなるので、A(0V)から見てCの電位は負になるはずだと判断する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 仕事の定義式 (\(W=Fd\)):
    • 選定理由: (1), (2)では、一様な電界によって電荷にはたらく「力」が一定で計算しやすいため、力学の基本に立ち返って仕事の定義から計算するのが最も直接的で分かりやすい。
    • 適用根拠: 力の向きと移動の向きの関係が明確(平行または垂直)な区間では、この公式が最も効率的。
  • 仕事と電位差の関係式 (\(W=q(V_A-V_C)\)):
    • 選定理由: (3)では、未知の物理量である「電位」を求めることが目的。仕事 \(W\) は(1)や(2)で既知となっているため、仕事と電位を結びつけるこの関係式を用いることで、未知の電位を導出できる。
    • 適用根拠: 異なる物理量(仕事と電位)の間の関係性を利用して、一方からもう一方を導き出す場面で適用する。
  • 一様な電界と電位の関係式 (\(V=Ed\)):
    • 選定理由: (3)の別解で用いられる。この公式は、一様な電界という特殊な状況下で、距離と電位差を直接結びつける強力なツール。
    • 適用根拠: 仕事の計算を介さず、電位差を直接求めたい場合に適用する。等電位線の概念と組み合わせることで、より迅速に解答にたどり着ける。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 正負の符号の管理: この問題では、仕事や電位の正負が物理的に重要な意味を持つ。計算の各段階で、なぜその符号になるのか(電位が上がったのか下がったのか、力の向きと同じか逆か)を意識することが、ケアレスミスを防ぐ上で最も重要。
  • 単位の確認: 最終的な答えの単位が、仕事なら[J]、電位なら[V]になっているかを必ず確認する。
  • 別解による検算: (1)と(2)の結果が一致することを確認する、(3)を仕事経経由と電位差の公式の両方で解いてみて結果が一致するか確認するなど、複数のアプローチで同じ答えが出ることを確かめるのは、非常に有効な検算テクニック。

316 電界と電荷

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「複数の点電荷が作る電界(クーロン力)と電位、そして仕事」です。力のつり合い、力の合成(ベクトル和)、電位の合成(スカラー和)、そして仕事と電位差の関係という、静電気学の基本的な概念が複合的に問われます。

  1. クーロンの法則: 2つの点電荷間に働く力の大きさを計算する基本法則です。
  2. 力の重ね合わせの原理: ある電荷が受ける力は、他の各電荷から受ける力をベクトルとして足し合わせたものになります。
  3. 電位の重ね合わせの原理: ある点の電位は、他の各電荷がその点に作る電位をスカラーとして(符号を考慮して)足し合わせたものになります。
  4. 外力がする仕事と電位差の関係: 電荷 \(q\) をある点から別の点へゆっくり動かすのに必要な仕事 \(W\) は、その電荷 \(q\) と2点間の電位差 \(\Delta V\) の積に等しくなります (\(W = q\Delta V\))。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、負電荷Pにはたらく2つの引力が「大きさが等しく、向きが逆」になる点をx軸上で探します。力の向きを考察して領域を絞り込み、力のつり合いの式を立てて座標を求めます。
  2. (2)では、原点Oに置かれた負電荷Pが、AとBの各電荷から受ける力をクーロンの法則で計算し、ベクトルとして合成します。
  3. (3)では、まず始点Oと終点Cの電位を、電位の重ね合わせの原理を用いてそれぞれ計算します。次に、外力がする仕事の公式 \(W = q(V_{\text{終}} – V_{\text{始}})\) を用いて、必要な仕事を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
負の点電荷Pが受ける電気力が0になる、すなわち、力がつりあう点を探す問題です。点Aの電荷\(+q\)と点Bの電荷\(+3q\)はどちらも正なので、負電荷P(\(-2q\))に対して引力を及ぼします。これらの力が大きさが等しく、向きが逆になる点を見つけ出すことが目標です。
この設問における重要なポイント

  • 力のつり合い: \(\vec{F}_{\text{Aから}} + \vec{F}_{\text{Bから}} = \vec{0}\)
  • 力の向きの考察: AはPを左(Aの方向)に引き、BはPを右(Bの方向)に引く。2つの力が逆向きになるのは、AとBの間だけである。
  • 距離の設定: 求める点のx座標を \(x\) とし、各電荷からの距離を正しく設定する。

具体的な解説と立式
求める点の座標を \((x, 0)\) とします。この点が受ける電気力が0になるためには、点Aの電荷からの引力 \(\vec{F}_{\text{A}}\) と点Bの電荷からの引力 \(\vec{F}_{\text{B}}\) がつりあう必要があります。
\(\vec{F}_{\text{A}}\) はx軸負の向き、\(\vec{F}_{\text{B}}\) はx軸正の向きなので、AとBの間 (\(-a < x < a\)) につり合い点が存在する可能性があります。
このとき、PとAの距離は \(x – (-a) = x+a\)、PとBの距離は \(a-x\) となります。
力の大きさが等しいという条件から、
$$ k_0 \frac{|q| |-2q|}{(x+a)^2} = k_0 \frac{|3q| |-2q|}{(a-x)^2} $$

使用した物理公式

  • クーロンの法則: \(F = k_0 \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
  • 力のつり合い
計算過程

上で立てた力のつり合いの式を解きます。
$$
\begin{aligned}
k_0 \frac{2q^2}{(x+a)^2} &= k_0 \frac{6q^2}{(a-x)^2} \\[2.0ex]\frac{1}{(x+a)^2} &= \frac{3}{(a-x)^2}
\end{aligned}
$$
両辺に \((x+a)^2 (a-x)^2\) を掛けて整理すると、
$$
\begin{aligned}
(a-x)^2 &= 3(x+a)^2 \\[2.0ex]a^2 – 2ax + x^2 &= 3(x^2 + 2ax + a^2) \\[2.0ex]a^2 – 2ax + x^2 &= 3x^2 + 6ax + 3a^2 \\[2.0ex]2x^2 + 8ax + 2a^2 &= 0 \\[2.0ex]x^2 + 4ax + a^2 &= 0
\end{aligned}
$$
二次方程式の解の公式より、
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{-4a \pm \sqrt{(4a)^2 – 4 \cdot 1 \cdot a^2}}{2} \\[2.0ex]&= \frac{-4a \pm \sqrt{16a^2 – 4a^2}}{2} \\[2.0ex]&= \frac{-4a \pm \sqrt{12a^2}}{2} \\[2.0ex]&= \frac{-4a \pm 2\sqrt{3}a}{2} \\[2.0ex]&= (-2 \pm \sqrt{3})a
\end{aligned}
$$
つり合い点はAとBの間 (\(-a < x < a\)) にあるので、解を吟味します。
\(\sqrt{3} \approx 1.732\) なので、

  • \(x = (-2 + \sqrt{3})a \approx -0.268a\)。これは \(-a < x < a\) を満たすので適しています。
  • \(x = (-2 – \sqrt{3})a \approx -3.732a\)。これは条件を満たさないので不適です。
計算方法の平易な説明

負の電荷Pをx軸上に置くと、Aの正電荷はPを左に、Bの正電荷はPを右に引っ張ります。この左右の引っ張る力が同じ強さになる点を探します。その点のx座標を \(x\) とおき、「Aからの力 = Bからの力」という式を立てます。この式を整理するとxについての二次方程式になるので、解の公式を使って解きます。出てきた2つの答えのうち、AとBの間に位置するものだけが求める答えです。

結論と吟味

求める点のx座標は \((-2+\sqrt{3})a\) です。電荷の大きいB(\(+3q\))よりも、電荷の小さいA(\(+q\))に近い位置でつりあうという結果は、物理的に妥当です。

解答 (1) \((-2+\sqrt{3})a\)

問(2)

思考の道筋とポイント
点電荷P(\(-2q\))を原点Oに置いたときに受ける電気力を求めます。これは、Aからの力とBからの力をベクトルとして合成する問題です。x軸上の一直線上の力の合成なので、向きを正負の符号で表し、代数和を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 力の重ね合わせの原理を適用する。
  • Aからの力は引力なのでx軸負の向き。
  • Bからの力も引力なのでx軸正の向き。
  • 原点Oと各電荷との距離はともに \(a\) である。

具体的な解説と立式
原点Oに置かれた電荷Pが受ける合力 \(\vec{F}\) は、Aからの力 \(\vec{F}_{\text{A}}\) とBからの力 \(\vec{F}_{\text{B}}\) の和です。
$$ \vec{F} = \vec{F}_{\text{A}} + \vec{F}_{\text{B}} $$

  • A(\(+q\))がP(\(-2q\))に及ぼす力 \(\vec{F}_{\text{A}}\):
    距離は \(a\)。引力なのでx軸負の向き。
    $$ F_{\text{A}} = – k_0 \frac{|q||-2q|}{a^2} = -k_0 \frac{2q^2}{a^2} $$
  • B(\(+3q\))がP(\(-2q\))に及ぼす力 \(\vec{F}_{\text{B}}\):
    距離は \(a\)。引力なのでx軸正の向き。
    $$ F_{\text{B}} = + k_0 \frac{|3q||-2q|}{a^2} = +k_0 \frac{6q^2}{a^2} $$

使用した物理公式

  • クーロンの法則: \(F = k_0 \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
  • 力の重ね合わせ
計算過程

2つの力を足し合わせます。
$$
\begin{aligned}
F &= F_{\text{A}} + F_{\text{B}} \\[2.0ex]&= -k_0 \frac{2q^2}{a^2} + k_0 \frac{6q^2}{a^2} \\[2.0ex]&= +k_0 \frac{4q^2}{a^2}
\end{aligned}
$$
結果が正なので、力の向きはx軸の正の向きです。

計算方法の平易な説明

Pを原点に置いたとき、AはPを左に、BはPを右に引っ張ります。それぞれの力の大きさをクーロンの法則で計算します。Bの電気量はAの3倍なので、Bが引っ張る力はAが引っ張る力の3倍になります。この左右逆向きの力を差し引きすると、最終的に右向きの力が残ります。

結論と吟味

点電荷Pは、x軸の正の向きに大きさ \(k_0 \displaystyle\frac{4q^2}{a^2}\) の力を受けます。

解答 (2) x軸の正の向きに大きさ \(k_0 \displaystyle\frac{4q^2}{a^2}\) [N]

問(3)

思考の道筋とポイント
電荷Pを原点Oから点Cまでゆっくり動かすのに「必要な仕事」を求めます。これは「外力がする仕事」を意味し、静電気力による位置エネルギーの変化量に等しくなります。公式 \(W_{\text{外}} = q(V_{\text{終}} – V_{\text{始}})\) を利用するため、まず始点Oと終点Cの電位を求めることが必要です。
この設問における重要なポイント

  • 外力がする仕事: \(W_{\text{外}} = q_{\text{運ぶ}}(V_{\text{終}} – V_{\text{始}})\)
  • 電位はスカラー量であり、重ね合わせは単純な足し算(代数和)で計算できる。
  • 各点と電荷源(A, B)との距離を三平方の定理で正しく求める。

具体的な解説と立式
外力がする仕事 \(W\) は、運ぶ電荷 \(-2q\) と、始点Oと終点Cの電位差の積で与えられます。
$$ W = (-2q)(V_{\text{C}} – V_{\text{O}}) $$
ここで、\(V_{\text{O}}\) と \(V_{\text{C}}\) は、電荷AとBが作る電位の合成電位です。

  1. 原点Oの電位 \(V_{\text{O}}\)
    A, Bからの距離はともに \(a\)。
    $$ V_{\text{O}} = k_0 \frac{q}{a} + k_0 \frac{3q}{a} $$
  2. 点Cの電位 \(V_{\text{C}}\)
    A(-a, 0)とC(0, a)の距離は \(\sqrt{a^2+a^2} = \sqrt{2}a\)。
    B(a, 0)とC(0, a)の距離も \(\sqrt{a^2+a^2} = \sqrt{2}a\)。
    $$ V_{\text{C}} = k_0 \frac{q}{\sqrt{2}a} + k_0 \frac{3q}{\sqrt{2}a} $$

使用した物理公式

  • 外力がする仕事: \(W = q\Delta V\)
  • 点電荷が作る電位: \(V = k_0 \displaystyle\frac{q}{r}\)
  • 電位の重ね合わせ
計算過程

まず \(V_{\text{O}}\) と \(V_{\text{C}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{O}} &= k_0 \frac{q+3q}{a} \\[2.0ex]&= k_0 \frac{4q}{a}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
V_{\text{C}} &= k_0 \frac{q+3q}{\sqrt{2}a} \\[2.0ex]&= k_0 \frac{4q}{\sqrt{2}a} \\[2.0ex]&= k_0 \frac{2\sqrt{2}q}{a}
\end{aligned}
$$
これらを仕事の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
W &= (-2q)(V_{\text{C}} – V_{\text{O}}) \\[2.0ex]&= (-2q) \left( k_0 \frac{2\sqrt{2}q}{a} – k_0 \frac{4q}{a} \right) \\[2.0ex]&= (-2q) \left( \frac{k_0 q}{a} (2\sqrt{2} – 4) \right) \\[2.0ex]&= -2 \frac{k_0 q^2}{a} (2\sqrt{2} – 4) \\[2.0ex]&= -4 \frac{k_0 q^2}{a} (\sqrt{2} – 2) \\[2.0ex]&= 4(2-\sqrt{2}) \frac{k_0 q^2}{a} \text{ [J]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

電荷を動かすのに必要な仕事は、「運ぶ電気の量 \(\times\) 電位の上昇分」で計算できます。
まず、スタート地点Oとゴール地点Cの「電位(電気的な高さ)」を計算します。電位は向きがないので、Aが作る電位とBが作る電位を単純に足し算するだけでOKです。
次に、OからCへ電位がどれだけ変化したか(\(V_C – V_O\))を計算し、それに運ぶ電荷の量 \(-2q\) を掛ければ、必要な仕事が求まります。

結論と吟味

必要な仕事は \(4(2-\sqrt{2}) \displaystyle\frac{k_0 q^2}{a}\) [J] です。\(2 > \sqrt{2}\) なので仕事は正の値となり、位置エネルギーが増加する方向へ動かすために外からエネルギーを供給する必要があったことを示しており、物理的に妥当です。

解答 (3) \(4(2-\sqrt{2}) \displaystyle\frac{k_0 q^2}{a}\) [J]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 電界(力)と電位(エネルギー)の区別と使い分け:
    • 核心: この問題は、静電気学の2大概念である「電界(力)」と「電位(エネルギー)」を明確に区別し、設問に応じて適切に使い分ける能力を試しています。
    • 理解のポイント:
      • 力(電界): ベクトル量。向きを考慮した「ベクトル和」で合成する。(1), (2)
      • 電位: スカラー量。向きを考慮しない「代数和(単純な足し算)」で合成する。(3)

      この違いを理解することが、この問題を攻略する最大の鍵です。

  • 重ね合わせの原理:
    • 核心: 複数の電荷源がある場合、ある点での力や電位は、各電荷源が単独でつくる力や電位を、それぞれ足し合わせることで求められる。
    • 理解のポイント:
      • 力の重ね合わせはベクトルの和。
      • 電位の重ね合わせはスカラーの和。
  • 仕事と電位差の関係:
    • 核心: 電荷を動かす「仕事」は、その電荷が持つ「位置エネルギーの変化」に等しく、それは「電位差」を用いて計算できる。
    • 理解のポイント:
      • 電界がする仕事: \(W_{\text{電界}} = q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\)
      • 外力がする仕事: \(W_{\text{外}} = q(V_{\text{終}} – V_{\text{始}})\) = \(q\Delta V\)
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 電界が0になる点と電位が0になる点の違い: 電界はベクトルなので、大きさが等しく向きが逆なら0になる。電位はスカラーなので、正の電位と負の電位が打ち消し合って0になる。この2つの点が必ずしも一致しないことを問う問題。
    • 電荷を無限遠から運んでくる仕事: 無限遠点を電位の基準(\(V=0\))とすることが多い。無限遠からある点Pまで電荷\(q\)を運ぶ仕事は、\(W = q(V_P – V_{\infty}) = qV_P\) となり、その点の電位そのものに等しくなる。
    • エネルギー保存則: 電界中で電荷を放した後の速さを求める問題。力学的エネルギーと静電気力による位置エネルギーの和が保存されることを利用する。(\(\frac{1}{2}mv^2 + qV = \text{一定}\))
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 何を問われているか?(力か、電位か、仕事か): 問題文を正確に読み取り、求める物理量がベクトルかスカラーかをまず判断する。
    2. 幾何学的配置の把握: 各電荷と対象点との距離を、三平方の定理などを用いて正確に計算する。これが全ての計算の土台となる。
    3. 計算の戦略を立てる:
      • (1) 力のつり合い → 大きさが等しく向きが逆。
      • (2) 力の合成 → ベクトル和。
      • (3) 仕事 → 電位差を求める → 各点の電位をスカラー和で求める。

      このように、最終目標から逆算して必要なステップを考える。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 力のつり合い点の計算ミス:
    • 誤解: (1)で、\((a-x)^2 = 3(x+a)^2\) の平方根をとるときに、安易に \(a-x = \sqrt{3}(x+a)\) としてしまい、もう一つの解(\(a-x = -\sqrt{3}(x+a)\))を見逃す。
    • 対策: 2次方程式は、展開して解の公式を使うのが最も確実。平方根をとる場合は、\(\pm\) を忘れないようにし、出てきた解が物理的に妥当か(例:AとBの間に存在するか)を吟味する。
  • ベクトル和とスカラー和の混同:
    • 誤解: (2)の力の計算で、向きを考えずに大きさだけを足し引きしてしまう。あるいは、(3)の電位の計算で、ベクトルのように考え込んでしまう。
    • 対策: 問題を解き始める前に、「これはベクトル計算」「これはスカラー計算」と自分に言い聞かせる。特に電位は「高さ」のようなイメージを持つと、単純な足し算であることが直感的に理解しやすい。
  • 仕事の公式の符号ミス:
    • 誤解: (3)で「外力がする仕事」を求められているのに、「電界がする仕事」の公式 \(q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\) を使ってしまう。
    • 対策: 「外力がする仕事は、位置エネルギーの増加分に等しい」と覚える。エネルギーの増加分は「後のエネルギー – 前のエネルギー」なので、\(U_C – U_O = qV_C – qV_O = q(V_C – V_O)\) となる。この理屈を理解しておくと、公式の符号を間違えにくい。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • クーロンの法則:
    • 選定理由: (1), (2)で「電気力」を扱うため、その大きさを計算する基本法則として選択する。
    • 適用根拠: 点電荷間の相互作用を記述する根源的な法則であるため。
  • 点電荷の電位の公式 (\(V=k_0 q/r\)):
    • 選定理由: (3)で「仕事」を計算するために、その前提となる「電位」を求める必要があるため。
    • 適用根拠: 各点電荷が空間に作る電位を計算するための基本公式として適用する。
  • 重ね合わせの原理:
    • 選定理由: 問題には複数の電荷源(A, B)が存在するため、それらの影響を合成する必要がある。
    • 適用根拠: (2)では力のベクトル和、(3)では電位のスカラー和を計算するために、この原理を適用する。
  • 外力がする仕事の公式 (\(W=q\Delta V\)):
    • 選定理由: (3)で問われているのが、まさに「(外力がする)仕事」であるため。
    • 適用根拠: 電位差が分かっている(または計算できる)状況で、電荷を動かす仕事(エネルギー)を計算する場面で適用する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 共通因数で括る: (3)の計算で、\(V_C – V_O\) を計算する際に、共通の係数 \(k_0 q/a\) で括り出すと、計算が非常に簡潔になる。
    $$ V_C – V_O = \left( k_0 \frac{2\sqrt{2}q}{a} \right) – \left( k_0 \frac{4q}{a} \right) = \frac{k_0 q}{a} (2\sqrt{2} – 4) $$
  • ルートの計算: \(\sqrt{12a^2} = 2\sqrt{3}a\) のように、ルートの中を簡単にすることを忘れない。
  • 符号の分配法則: (3)の最終段階で、\(-2q\) を \((V_C – V_O)\) に掛ける際、分配法則を慎重に適用する。
    $$ (-2q) \times \frac{k_0 q}{a} (2\sqrt{2} – 4) = \frac{-2k_0 q^2}{a} (2\sqrt{2} – 4) $$
    ここからさらに \(-2\) を括弧の中に入れると、
    $$ \frac{k_0 q^2}{a} \times (-2)(2\sqrt{2} – 4) = \frac{k_0 q^2}{a} (-4\sqrt{2} + 8) = 4(2-\sqrt{2})\frac{k_0 q^2}{a} $$
    のように、符号の変化に注意する。

317 電界と電位のグラフ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「平行平板間の電界と電位」です。一様な電界中における電界の強さ、電位、電気力線、等電位面の関係をグラフや図で表現し、基本的な計算を行う能力が問われます。

  1. 一様な電界と電位差の関係: 一様な電界 \(E\) の中で、電界の向きに距離 \(d\) だけ離れた2点間の電位差は \(V=Ed\) となります。
  2. 導体内の静電場: 静電誘導が完了した導体の内部では、電界は0です。また、導体は全体が等電位となります。
  3. 電界と電位の向き: 電界は、電位の高い方から低い方へ向かう向きに生じます。
  4. 電気力線と等電位面: 電気力線は電界の向きを表す線で、等電位面は電位の等しい点を結んだ面です。両者は常に直交します。
  5. 電界中の電荷が受ける力: 電荷 \(q\) が電界 \(E\) から受ける力は \(F=qE\) で与えられます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まず公式 \(V=Ed\) を用いて金属板間の電界の強さを計算します。導体内部の電界は0であることと合わせて、\(E-x\) グラフを作成します。
  2. (2)では、アース点の電位を基準に各点の電位を考えます。導体内部が等電位であること、金属板間では電位が距離に比例して直線的に変化することから、\(V-x\) グラフを作成します。
  3. (3)では、電界の向きを判断し、電気力線を描きます。等電位面は電気力線に垂直で、電位が等間隔になるように描きます。
  4. (4)では、(1)で求めた電界の強さと電子の電気量を用いて、公式 \(F=qE\) から力の大きさと向きを求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
x軸上の各点における電界の強さ \(E\) を求め、グラフにする問題です。領域を「金属板Aの内部」「金属板AとBの間」「金属板Bの内部」に分けて考える必要があります。特に、金属板間の一様な電界の強さを、与えられた電圧と距離から計算することが最初のステップです。
この設問における重要なポイント

  • 導体(金属板)の内部では、静電平衡の状態では電界は0である。
  • 平行平板間の電界は一様であり、その強さ \(E\) は電位差 \(V\) と距離 \(d\) を用いて \(E = V/d\) で計算できる。
  • 電界はベクトル量だが、この設問では「強さ」を問われているため、大きさのみをプロットする。

具体的な解説と立式
1. 金属板A, Bの内部:
金属板は導体なので、その内部の電界は0です。
\(x\) 座標で考えると、原点Oは金属板Aの右端なので、Aの内部は \(x \le 0\)。Bの左端は \(x=5.0 \text{ cm}\)、厚さ \(2.0 \text{ cm}\) なので、Bの内部は \(5.0 \le x \le 7.0\) [cm]。これらの領域で \(E=0\) です。

2. 金属板AとBの間 (\(0 < x < 5.0 \text{ cm}\)):
この空間には一様な電界ができています。電位差は \(V = 10 \text{ V}\)、金属板間の距離は \(d = 5.0 \text{ cm} = 5.0 \times 10^{-2} \text{ m}\) です。
一様な電界の強さ \(E\) は、公式 \(V=Ed\) より、
$$ E = \frac{V}{d} $$

使用した物理公式

  • 一様な電界と電位差の関係: \(V = Ed\)
  • 導体内部の電界: \(E=0\)
計算過程

金属板間の電界の強さ \(E\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{10}{5.0 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]&= 2.0 \times 10^2 \text{ [V/m]}
\end{aligned}
$$
したがって、\(0 < x < 5.0 \times 10^{-2}\) [m] の区間で、電界の強さは \(2.0 \times 10^2 \text{ V/m}\) で一定です。
グラフは、\(x=0\) から \(x=5.0 \times 10^{-2}\) までの間で、縦軸の値が \(2.0 \times 10^2\) の水平な直線となります。

計算方法の平易な説明

電界の強さを場所ごとに調べます。

  • 金属の中では電界は0になります。
  • 金属板の間では、電界の強さは「電圧 \(\div\) 距離」で計算できます。\(10 \text{ V} \div 0.05 \text{ m} = 200 \text{ V/m}\) となり、この空間ではどこでも同じ強さです。

これをグラフにすると、金属板の間だけ高さ200の平らな線が描かれます。

結論と吟味

\(0 < x < 5.0 \times 10^{-2}\) [m] の区間で \(E = 2.0 \times 10^2 \text{ V/m}\) で一定のグラフを描きます。問題の指示通りOP間(金属板Aの右端から金属板Bの左端まで)のみを描画します。

解答 (1) 解説の図を参照

問(2)

思考の道筋とポイント
x軸上の各点における電位 \(V\) を求め、グラフにする問題です。電位の基準(アース)がどこにあるかを確認し、そこから各点の電位を決定していくことが重要です。
この設問における重要なポイント

  • アースされている点の電位は0Vである。
  • 導体内部は等電位である。
  • 一様な電界中では、電位は距離に比例して直線的に変化する。
  • 電界は電位の高い方から低い方へ向かう。

具体的な解説と立式
1. 各点の電位の決定:

  • 金属板Aはアースされているので、A全体の電位は \(V_{\text{A}} = 0 \text{ V}\) です。原点OはAの右端なので、\(V_{\text{O}} = 0 \text{ V}\) です。
  • 金属板BはAに対して \(10 \text{ V}\) の電圧がかかっています。電源の図から、Bの方がAより電位が高いことがわかります。したがって、B全体の電位は \(V_{\text{B}} = 10 \text{ V}\) です。点PはBの左端なので、\(V_{\text{P}} = 10 \text{ V}\) です。

2. 金属板AとBの間 (\(0 \le x \le 5.0 \text{ cm}\)):
この空間では、電位は距離 \(x\) と共に直線的に変化します。始点O(\(x=0\))で \(V=0\)、終点P(\(x=5.0 \times 10^{-2}\))で \(V=10\) となるような一次関数(直線)のグラフを描きます。
x座標が \(x\) [m] の点の電位を \(V(x)\) とすると、電界の強さが \(E\) で一定なので、
$$ V(x) = Ex $$
と表せます。

使用した物理公式

  • 一様な電界と電位の関係: \(V = Ed\)
  • 導体は等電位
計算過程

\(V(x) = Ex\) の式に、(1)で求めた \(E = 2.0 \times 10^2 \text{ V/m}\) を代入します。
$$ V(x) = (2.0 \times 10^2) x $$
これは、原点を通り、傾きが \(2.0 \times 10^2\) の直線です。
終点Pのx座標 \(x = 5.0 \times 10^{-2}\) [m] を代入して検算すると、
$$
\begin{aligned}
V(5.0 \times 10^{-2}) &= (2.0 \times 10^2) \times (5.0 \times 10^{-2}) \\[2.0ex]&= 10 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
となり、点Pの電位と一致します。
グラフは、原点(0, 0)と点(\(5.0 \times 10^{-2}\), 10)を結ぶ直線となります。

計算方法の平易な説明

電位を「高さ」と考えます。

  • Aはアースされているので「地面」、高さ0Vです。
  • BはAより10V高いので、高さ10Vです。
  • AとBの間は、高さ0Vから10Vまで、なだらかな坂のように高さがまっすぐ上がっていきます。

これをグラフにすると、原点から始まって、右に5cm進むと高さが10Vになるような、右上がりの直線が描かれます。

結論と吟味

原点(0, 0)から点(\(5.0 \times 10^{-2}\) m, 10 V)までを結ぶ直線グラフを描きます。一様な電界中で電位が直線的に変化するという物理法則と一致しています。

解答 (2) 解説の図を参照

問(3)

思考の道筋とポイント
金属板間の電気力線と等電位面を図示する問題です。電気力線と等電位面の基本的な性質、特に一様な電界中での様子を理解しているかが問われます。
この設問における重要なポイント

  • 電気力線は、電界の向き(電位の高い方から低い方へ)を示す。
  • 等電位面は、電気力線に常に垂直である。
  • 一様な電界では、電気力線は平行で等間隔な直線、等電位面は平行で等間隔な平面(図では直線)となる。
  • 問題の指示通り「2Vごと」に等電位面を描く。

具体的な解説と立式
1. 電気力線の向き:
金属板Bの電位(\(10 \text{ V}\))は、金属板Aの電位(\(0 \text{ V}\))より高いです。電界(電気力線)は電位の高い方から低い方へ向かうので、BからAへ、すなわちx軸負の向きに向かいます。電界は一様なので、電気力線は等間隔な平行線として描きます。

2. 等電位面:
等電位面は電気力線に垂直なので、y軸に平行な直線(平面)になります。
電位はA(\(0 \text{ V}\))からB(\(10 \text{ V}\))まで直線的に変化します。2Vごとの等電位面を描くには、AB間(\(5.0 \text{ cm}\))を5等分すればよいことになります。
\(5.0 \text{ cm} \div 5 = 1.0 \text{ cm}\)
したがって、\(x=1.0, 2.0, 3.0, 4.0\) [cm] の位置に、それぞれ \(V=2, 4, 6, 8\) [V] の等電位面(破線)を描きます。

使用した物理公式

  • 電気力線と等電位面の関係
計算過程

この設問は作図が中心であり、計算は等電位面の位置を特定するための簡単な割り算のみです。

計算方法の平易な説明
  • 電気力線は「水の流れ」のようなもので、電位が高いB(10V)から低いA(0V)へ、つまり右から左へまっすぐ流れます。これを実線の矢印で描きます。
  • 等電位面は「ダムの堰」のように、流れをせき止める壁です。なので、流れ(電気力線)に垂直な、縦の線になります。0Vから10Vまでを2Vずつ区切るので、2V, 4V, 6V, 8Vの4本の壁を描きます。AB間が5cmなので、1cmごとに壁を描けばよいことになります。
結論と吟味

x軸負の向き(右から左)に実線の矢印を数本描き、y軸に平行な破線を \(x=1, 2, 3, 4\) cmの位置に描きます。電気力線と等電位面が直交し、一様な電界の様子を正しく表現できています。

解答 (3) 解説の図を参照

問(4)

思考の道筋とポイント
金属板間の中央に置かれた電子が受ける力を求める問題です。一様な電界中では、電荷が受ける力は場所によらず一定です。電界の強さと向き、そして電子の電荷を用いて、力の大きさと向きを計算します。
この設問における重要なポイント

  • 電荷\(q\)が電界\(E\)から受ける力の公式は \(F=qE\)。
  • 電子の電荷は負 (\(q = -1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\)) である。
  • 負電荷が受ける力は、電界の向きと逆向きになる。

具体的な解説と立式
金属板間の中央であっても、電界は一様なので、その強さは(1)で求めた \(E = 2.0 \times 10^2 \text{ V/m}\) です。
電界の向きは、(3)で確認したように、BからAへ向かうx軸負の向きです。
電子の電荷を \(q = -1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\) として、力の大きさ \(F\) を公式 \(F=|q|E\) で計算します。
$$ F = |q|E $$
力の向きは、電子の電荷が負であるため、電界の向き(x軸負の向き)とは逆向き、すなわちx軸正の向きになります。

使用した物理公式

  • 電界中の電荷が受ける力: \(F=qE\)
計算過程

力の大きさ \(F\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= |(-1.6 \times 10^{-19})| \times (2.0 \times 10^2) \\[2.0ex]&= (1.6 \times 10^{-19}) \times (2.0 \times 10^2) \\[2.0ex]&= 3.2 \times 10^{-17} \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
力の向きはx軸正の向きです。

計算方法の平易な説明

力は「電気量 \(\times\) 電界の強さ」で計算できます。電子の電気量は \(1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\)、電界の強さは(1)で計算した \(200 \text{ V/m}\) なので、これらを掛け算します。
向きについては、電界は右から左へ向かっています。電子はマイナスの電気を持っているので、電界とは逆向き、つまり左から右(x軸正の向き)へ力を受けます。

結論と吟味

電子の受ける力の大きさは \(3.2 \times 10^{-17} \text{ N}\) で、向きはx軸の正の向きです。負電荷が電界と逆向きに力を受けるという基本法則とも一致しており、妥当な結果です。

解答 (4) 大きさ:\(3.2 \times 10^{-17}\) N,向き:x軸の正の向き

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 一様な電界と電位の関係 (\(V=Ed\)):
    • 核心: 平行な金属板間にできる一様な電界 \(E\) と、その電位差 \(V\)、距離 \(d\) の間には \(V=Ed\) という極めて重要な関係が成り立つ。この1本の式が、(1)の電界の計算、(2)の電位グラフの傾き、(3)の等電位面の間隔の根拠となっています。
    • 理解のポイント:
      • この式は \(E=V/d\) と変形でき、電界の単位が \([\text{V/m}]\) であることを直接示している。
      • 電位 \(V\) は距離 \(d\) に比例するため、\(V-x\) グラフは直線(一次関数)になる。
  • 導体の静電的性質:
    • 核心: 静電平衡状態にある導体について、2つの大原則「内部の電界は0」「導体はすべて等電位」を理解していること。
    • 理解のポイント:
      • この原則により、\(E-x\) グラフでは金属板の領域が \(E=0\) となり、\(V-x\) グラフでは金属板の領域が水平な直線(電位一定)になる。
  • 電界・電位・電気力線・等電位面の関係性:
    • 核心: これら4つの概念が互いにどう関連しているかを体系的に理解していること。
    • 理解のポイント:
      • 向き: 電界の向き = 電気力線の向き = 電位が減少する向き。
      • 直交: 電気力線と等電位面は常に直交する。
      • 強さ: 電界の強さ ∝ 電気力線の密度 ∝ 等電位面の密さ(間隔の狭さ)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • コンデンサー: 本問の構造は、まさに平行平板コンデンサーそのものです。コンデンサーの電場や電位、蓄えられる電気量 \(Q=CV\) やエネルギー \(U=\frac{1}{2}CV^2\) を計算する問題は、本問の理解が基礎となります。
    • ミリカンの油滴実験: 一様な電界中で、帯電した油滴にはたらく静電気力と重力をつり合わせる実験。本問(4)の力の計算が直接的に応用される。
    • ブラウン管・オシロスコープ: 電子が電界中で偏向される原理を扱う問題。電子は電界と垂直な方向には等速直線運動、平行な方向には等加速度直線運動をする。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. アース(接地)の位置を確認: まず、電位の基準点(0V)がどこにあるかを確認する。これが電位を決定する上での出発点となる。
    2. 電源の向きを確認: 電源のプラス極とマイナス極がどちらの金属板に接続されているかを確認し、どちらの電位が高いかを判断する。これが電界の向きを決定する。
    3. 領域を分割して考える: 問題の空間を「導体内部」と「真空中(または絶縁体中)」に明確に分け、それぞれの領域で電界や電位がどのような法則に従うかを個別に考える。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 単位の換算ミス:
    • 誤解: 距離をcmのまま計算してしまう(例: \(E=10/5.0=2\))。
    • 対策: 計算に用いる物理量は、必ず基本単位(メートル、ボルト、クーロンなど)に直してから公式に代入する癖をつける。\(5.0 \text{ cm} = 5.0 \times 10^{-2} \text{ m}\) のような換算を確実に行う。
  • 電界の向きと力の向きの混同:
    • 誤解: (4)で、電子(負電荷)が受ける力の向きを、電界の向きと同じだと考えてしまう。
    • 対策: 力の公式 \(F=qE\) をベクトルとして意識する。\(q\) が正なら \(\vec{F}\) と \(\vec{E}\) は同じ向き、\(q\) が負なら逆向きになる、という基本を徹底する。
  • グラフの形状の誤解:
    • 誤解: \(V-x\) グラフを、電界の公式 \(E \propto 1/r^2\) や電位の公式 \(V \propto 1/r\) から類推して、曲線で描いてしまう。
    • 対策: それらの公式は「点電荷」が作る電界・電位のものであることを理解する。本問のような「平行平板間」では、特殊な状況として「一様な電界」が生まれ、電位は距離に比例して「直線的に」変化する、という違いを明確に区別する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • \(V=Ed\) (一様な電界と電位差の関係):
    • 選定理由: (1), (2)で扱う空間が、平行平板間にできる「一様な電界」であるため、この特殊な状況に適用できる最もシンプルで強力な公式として選択する。
    • 適用根拠: この公式一つで、電界の強さの計算、電位グラフが直線になること、等電位面が等間隔になることの全てを説明できる。
  • \(F=qE\) (電界中の電荷が受ける力):
    • 選定理由: (4)で問われているのが、まさに「電界中にある電荷が受ける力」であるため、その定義式を直接選択する。
    • 適用根拠: 電界 \(E\) が既知(または計算可能)な状況で、そこに置かれた電荷 \(q\) が受ける力を計算する場面で適用する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 指数の計算: \(10 / (5.0 \times 10^{-2})\) のような計算では、まず係数部分(\(10/5.0=2\))と指数部分(\(1/10^{-2} = 10^2\))を分けて計算するとミスが少ない。
  • グラフの目盛りの確認: グラフを描く問題では、横軸・縦軸の目盛りや単位を正確に読み取り、解答のグラフにも反映させる。本問では横軸が \(\times 10^{-2}\) [m]、縦軸が \(\times 10^2\) [V/m] や [V] となっている点に注意する。
  • 作図の丁寧さ: (3)の作図では、電気力線と等電位面の「直交性」や、一様な電界を表す「等間隔」といった特徴が採点者に伝わるように、丁寧に描くことを心がける。フリーハンドでも、定規を使ったかのように平行・垂直を意識することが重要。

318 エネルギー保存の法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「静電気力による位置エネルギーと力学的エネルギー保存則」です。粒子にはたらく力が保存力である静電気力のみであるため、運動エネルギーと静電気力による位置エネルギーの和、すなわち力学的エネルギーが保存されることを利用して、粒子の速さを求めます。

  1. 力学的エネルギー保存則: 物体にはたらく力が保存力のみの場合、その物体の(運動エネルギー)+(位置エネルギー)の和は一定に保たれます。
  2. 運動エネルギー: 質量 \(m\)、速さ \(v\) の物体の運動エネルギーは \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) で与えられます。
  3. 静電気力による位置エネルギー: 電荷 \(Q\) の点電荷から距離 \(r\) の点にある電荷 \(q\) の粒子の、静電気力による位置エネルギーは \(U = k_0 \displaystyle\frac{Qq}{r}\) で与えられます。これは、無限遠を基準(\(0\))としたときの値です。
  4. 保存力: 静電気力は、仕事が経路によらない「保存力」です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 「距離3rでの速さ」を求めるには、「はじめの状態(距離r)」と「あとの状態(距離3r)」について、力学的エネルギー保存則の式を立てます。
  2. 「無限遠での速さ」を求めるには、「はじめの状態(距離r)」と「あとの状態(無限遠)」について、力学的エネルギー保存則の式を立てます。

距離3rでの速さ

思考の道筋とポイント
粒子にはたらく力は静電気力(保存力)のみなので、力学的エネルギーが保存されます。「はじめ(距離r)」と「あと(距離3r)」の2つの状態で、力学的エネルギーが等しいという式を立てます。はじめは「静かに置いた」とあるので、初速度は0です。
この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
  • 静電気力による位置エネルギーの公式: \(U = k_0 \displaystyle\frac{Qq}{r}\)
  • 初速度は0なので、はじめの運動エネルギーは0である。

具体的な解説と立式
はじめの状態(電荷\(+Q\)から距離\(r\))と、あとの状態(距離\(3r\))について、それぞれのエネルギーを考えます。

  • はじめの状態
    • 速さは0なので、運動エネルギーは \(K_{\text{初}} = 0\)。
    • 静電気力による位置エネルギーは \(U_{\text{初}} = k_0 \displaystyle\frac{Qq}{r}\)。
  • あとの状態
    • 求める速さを \(v\) とすると、運動エネルギーは \(K_{\text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。
    • 静電気力による位置エネルギーは \(U_{\text{後}} = k_0 \displaystyle\frac{Qq}{3r}\)。

力学的エネルギー保存則より、\((はじめのエネルギー) = (あとのエネルギー)\) なので、
$$ 0 + k_0 \frac{Qq}{r} = \frac{1}{2}mv^2 + k_0 \frac{Qq}{3r} $$
と立式できます。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 静電気力による位置エネルギー: \(U = k_0 \displaystyle\frac{Qq}{r}\)
計算過程

上で立てたエネルギー保存則の式を、速さ \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= k_0 \frac{Qq}{r} – k_0 \frac{Qq}{3r} \\[2.0ex]\frac{1}{2}mv^2 &= k_0 Qq \left( \frac{1}{r} – \frac{1}{3r} \right) \\[2.0ex]\frac{1}{2}mv^2 &= k_0 Qq \left( \frac{3-1}{3r} \right) \\[2.0ex]\frac{1}{2}mv^2 &= k_0 \frac{2Qq}{3r} \\[2.0ex]v^2 &= \frac{4k_0Qq}{3mr} \\[2.0ex]v &= \sqrt{\frac{4k_0Qq}{3mr}}
\end{aligned}
$$
速さ \(v\) は正なので、正の平方根をとります。
$$
\begin{aligned}
v &= 2\sqrt{\frac{k_0Qq}{3mr}} \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

この問題は「エネルギー保存の法則」を使って解きます。スタート地点(距離\(r\))でのエネルギーの合計と、ゴール地点(距離\(3r\))でのエネルギーの合計が等しくなります。

  • スタート時: 速さ0なので運動エネルギーは0。位置エネルギーは \(k_0 \frac{Qq}{r}\)。
  • ゴール時: 速さ \(v\) なので運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv^2\)。位置エネルギーは \(k_0 \frac{Qq}{3r}\)。

「スタートのエネルギー = ゴールのエネルギー」という式を立てて、それを \(v\) について解けば答えが求まります。

結論と吟味

距離\(3r\)の点を通過する瞬間の速さは \(2\sqrt{\displaystyle\frac{k_0Qq}{3mr}}\) [m/s] です。\(+Q\) と \(+q\) の間には斥力が働くため、粒子は加速され、速さを持つようになります。計算結果が正の実数となり、物理的に妥当です。

解答(距離3r) \(2\sqrt{\displaystyle\frac{k_0Qq}{3mr}}\) [m/s]

無限遠での速さ

思考の道筋とポイント
これも力学的エネルギー保存則を用いて解きます。今回は、「あとの状態」が「十分に離れたところ」、すなわち無限遠点であると考えます。無限遠点では、静電気力による位置エネルギーが基準の0になる、という定義を適用することがポイントです。
この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則を適用する。
  • 無限遠点では、静電気力による位置エネルギーは0になる。

具体的な解説と立式
はじめの状態(距離\(r\))と、あとの状態(無限遠)について、エネルギーを考えます。

  • はじめの状態 (先ほどと同じ)
    • 運動エネルギー: \(K_{\text{初}} = 0\)
    • 位置エネルギー: \(U_{\text{初}} = k_0 \displaystyle\frac{Qq}{r}\)
  • あとの状態
    • 求める速さを \(v’\) とすると、運動エネルギーは \(K_{\text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}m(v’)^2\)。
    • 距離が無限遠なので、位置エネルギーは \(U_{\text{後}} = 0\)。

力学的エネルギー保存則より、
$$ 0 + k_0 \frac{Qq}{r} = \frac{1}{2}m(v’)^2 + 0 $$
と立式できます。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 静電気力による位置エネルギー: \(U = k_0 \displaystyle\frac{Qq}{r}\) (無限遠基準)
計算過程

エネルギー保存則の式を、速さ \(v’\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m(v’)^2 &= k_0 \frac{Qq}{r} \\[2.0ex](v’)^2 &= \frac{2k_0Qq}{mr} \\[2.0ex]v’ &= \sqrt{\frac{2k_0Qq}{mr}} \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
速さ \(v’\) は正なので、正の平方根をとります。

計算方法の平易な説明

これもエネルギー保存の法則を使います。スタート地点(距離\(r\))でのエネルギーと、ゴール地点(無限の彼方)でのエネルギーが等しくなります。

  • スタート時: 運動エネルギー0、位置エネルギー \(k_0 \frac{Qq}{r}\)。
  • ゴール時: 無限遠では位置エネルギーが0になるので、運動エネルギー \(\frac{1}{2}m(v’)^2\) のみ。

「スタートの位置エネルギー = ゴールの運動エネルギー」という式を立てて、\(v’\) について解きます。

結論と吟味

無限遠に達したときの速さは \(\sqrt{\displaystyle\frac{2k_0Qq}{mr}}\) [m/s] です。はじめに持っていた位置エネルギーが、すべて運動エネルギーに変換された結果の速さです。距離\(3r\)の地点を通過するときよりも、さらに加速されているため、速さが大きくなっているはずです。
\((v’)^2 = \frac{2k_0Qq}{mr}\), \(v^2 = \frac{4k_0Qq}{3mr}\) を比較すると、\((v’)^2 = \frac{3}{2} v^2\) となり、\(v’ = \sqrt{1.5} v > v\) なので、結果は妥当です。

解答(無限遠) \(\sqrt{\displaystyle\frac{2k_0Qq}{mr}}\) [m/s]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力学的エネルギー保存則:
    • 核心: この問題で起こる現象は、静電気力という「保存力」だけが仕事をするため、「運動エネルギーと静電気力による位置エネルギーの和が常に一定に保たれる」という力学的エネルギー保存則によって完全に記述されます。これが唯一かつ絶対の法則です。
    • 理解のポイント:
      • \(K + U = \text{一定}\) すなわち \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\) という関係式を立てることが全て。
      • この法則が使えるのは、仕事をする力が「保存力(重力、弾性力、静電気力など)」のみの場合に限られる。摩擦力や空気抵抗などの「非保存力」が仕事をすると、エネルギーは熱などに変わってしまい、力学的エネルギーは保存されない。
  • 静電気力による位置エネルギーの定義:
    • 核心: 力学的エネルギー保存則を適用するためには、位置エネルギー \(U\) を正しく数式で表現する必要があります。点電荷 \(Q\) と \(q\) が距離 \(r\) だけ離れているときの位置エネルギーは \(U = k_0 \displaystyle\frac{Qq}{r}\) で与えられます。
    • 理解のポイント:
      • この公式は、無限遠点を位置エネルギーの基準(\(U=0\))として定義されている。
      • 電荷の符号をそのまま代入する。同符号の電荷(斥力)の場合は \(U>0\)、異符号の電荷(引力)の場合は \(U<0\) となる。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 引力の場合: 片方の電荷が負の場合。初めは束縛されており、初速度を与えないと動き出さない。位置エネルギーが負になるため、計算時の符号に注意が必要。無限遠に到達するには、初めのエネルギーが0以上(脱出速度)である必要がある。
    • 重力との類推: この問題は、惑星の周りを運動する探査機の問題と全く同じ構造をしています。万有引力による位置エネルギー \(U = -G\frac{Mm}{r}\) を使えば、同じ力学的エネルギー保存則で解くことができます。
    • 複数の固定電荷がある場合: 固定電荷が複数ある場合、粒子が持つ位置エネルギーは、各固定電荷との間で生じる位置エネルギーの「スカラー和」で計算します。\(U = U_1 + U_2 + \dots\)
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 仕事をする力を特定する: まず、粒子にはたらく力が何かを考える。この問題では静電気力のみ。非保存力がはたらいていないかを確認する。
    2. 「エネルギー保存則が使える!」と判断する: 仕事をする力が保存力のみであることを確認したら、エネルギー保存則を立式する方針を固める。
    3. 「はじめ」と「あと」の状態を定義する: エネルギー保存則の式を立てるために、「はじめ」の状態と「あと」の状態を明確に設定する。それぞれの状態における速さ(運動エネルギー)と位置(位置エネルギー)を整理する。
      • はじめ: \(r_1 = r\), \(v_1 = 0\)
      • あと(1): \(r_2 = 3r\), \(v_2 = v\)
      • あと(2): \(r_3 = \infty\), \(v_3 = v’\)
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 位置エネルギーの公式の混同:
    • 誤解: 位置エネルギーの分母を、クーロン力や電界と同じ \(r^2\) と間違えてしまう。
    • 対策: 「力・電界は \(r^2\) に反比例」「エネルギー・電位は \(r\) に反比例」と明確に区別して覚える。
  • エネルギー保存則の立式ミス:
    • 誤解: \(K_{\text{初}} – U_{\text{初}} = K_{\text{後}} – U_{\text{後}}\) のように、運動エネルギーと位置エネルギーの間の符号を間違える。
    • 対策: 力学的エネルギーは「運動エネルギーと位置エネルギーの『和』である」と正しく覚える。\(K+U=\text{一定}\) が基本形。
  • 無限遠の扱いの誤解:
    • 誤解: 無限遠での速さやエネルギーをどう扱っていいかわからなくなる。
    • 対策: 「無限遠」とは、位置エネルギーの基準点であり、\(U=0\) となる特別な点であると理解する。粒子が斥力で無限に遠ざかる場合、位置エネルギーはすべて運動エネルギーに変換される。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力学的エネルギー保存則:
    • 選定理由: この問題は、ある地点から別の地点へ移動したときの「速さ」を問うています。これは、力と加速度から運動方程式を立てて積分するアプローチも可能ですが、非常に複雑になります。一方、仕事をする力が保存力のみであるため、エネルギーというスカラー量で運動の前後関係を結びつけるエネルギー保存則が、最も簡単で強力な解法となります。
    • 適用根拠: 粒子にはたらく力が静電気力(保存力)のみである、という物理的状況が、この法則の適用を正当化します。
  • 静電気力による位置エネルギーの公式 (\(U = k_0 Qq/r\)):
    • 選定理由: エネルギー保存則の式を立てるためには、位置エネルギーを数式で表現する必要がある。点電荷間の位置エネルギーを表す公式として、これを選択します。
    • 適用根拠: 問題設定が「点電荷」であり、無限遠を基準とする標準的な定義を用いるのが適切であるため。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 分数の計算: \(k_0 \frac{Qq}{r} – k_0 \frac{Qq}{3r}\) のような計算では、共通項 \(k_0Qq\) で括り出し、\(\frac{1}{r} – \frac{1}{3r} = \frac{2}{3r}\) のように分数部分の計算を丁寧に行う。
  • 移項のミス: エネルギー保存則の式を \(v^2 = \dots\) の形に変形する際、移項の符号ミスや、係数(\(\frac{1}{2}m\))の逆数を掛ける際のミスに注意する。
    $$ \frac{1}{2}mv^2 = A$$
    $$ v^2 = \frac{2A}{m} $$
    という変形を確実に行う。
  • ルートの処理: 最終的に \(v = \sqrt{\dots}\) の形にする際、ルートの外に出せる数(本問では \(4=2^2\))を見逃さないようにする。
    $$ \sqrt{\frac{4k_0Qq}{3mr}} = \sqrt{4} \times \sqrt{\frac{k_0Qq}{3mr}} = 2\sqrt{\frac{k_0Qq}{3mr}} $$
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