「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 19】Step3

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259 弦の振動

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ギターの弦のように両端が固定された弦に生じる定在波を扱う問題です。弦の押さえ方によって振動の条件がどう変わるかを理解し、波の基本式を適用する能力が問われます。
この問題の核心は、「強く押さえる」場合と「軽く押さえる」場合の物理的な状況の違いを正確に把握することです。

与えられた条件
  • どこも押さえないときの基本振動の振動数: \(f_0 = 330 \text{ Hz}\)
  • 弦の全長を \(L\) とする。
問われていること
  • (1) 弦の端から \(\displaystyle\frac{3}{4}L\) の場所を強く押さえてはじいたときの振動数 \(f_1\)。
  • (2) (1)と同じ場所を軽く押さえてはじいたときの振動数 \(f_2\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「弦の定在波と固有振動」です。特に、ギターの奏法における「通常の押弦」と「ハーモニクス奏法」の物理的な違いに対応しています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 波の基本式: 弦を伝わる波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の間には \(v=f\lambda\) の関係が成り立ちます。
  2. 弦を伝わる波の速さ: 波の速さ \(v\) は、弦の張力と線密度によって決まります。この問題では、弦の種類や張りは変わらないため、\(v\) は一定です。
  3. 定在波の条件: 両端が固定された弦では、両端が必ず定在波の「節」になります。
  4. 「強く押さえる」と「軽く押さえる」の違い:
    • 強く押さえる:その点が新たな固定端(節)となり、振動する部分の長さが変わります。
    • 軽く押さえる:弦全体の長さは変わらず、その点が強制的に節になるような高次の振動(倍振動)が起こります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、与えられた基本振動の情報(\(L\), \(f_0=330 \text{ Hz}\))から、この弦を伝わる波の速さ \(v\) を、弦の長さ \(L\) を用いて表します。この \(v\) の値は(1), (2)で共通です。
  2. (1)では、振動する弦の長さが \(\displaystyle\frac{3}{4}L\) になるとして、その場合の基本振動の振動数 \(f_1\) を計算します。
  3. (2)では、弦の全長 \(L\) のままで、指定された点が節になるような定在波のモードを特定し、その振動数 \(f_2\) を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
弦の端から \(\displaystyle\frac{3}{4}L\) の場所を「強く押さえる」と、そこが新しい固定端(節)となります。つまり、振動する弦の長さが、元の \(L\) から \(\displaystyle\frac{3}{4}L\) に短くなります。この短くなった弦で生じる「基本振動」の振動数を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 波の速さの不変性: 弦の材質や張力は変わらないので、弦を伝わる波の速さ \(v\) は、どこも押さえないときと同じです。
  • 新しい弦長: 振動する部分の弦の長さは \(L’ = \displaystyle\frac{3}{4}L\) となります。
  • 基本振動: この新しい弦長 \(L’\) での基本振動を考えます。基本振動では、弦の長さが半波長に等しくなります。

具体的な解説と立式
まず、問題の冒頭で与えられた条件から、弦を伝わる波の速さ \(v\) を求めます。
どこも押さえないとき、弦の長さは \(L\) で、両端が節の基本振動が生じます。このときの波長を \(\lambda_0\) とすると、腹が1つの状態なので、
$$ L = \frac{\lambda_0}{2} \quad \text{より} \quad \lambda_0 = 2L $$
このときの振動数が \(f_0 = 330 \text{ Hz}\) なので、波の基本式 \(v=f\lambda\) から、
$$ v = f_0 \lambda_0 = 330 \times 2L = 660L \quad \cdots ① $$
この速さ \(v\) は、弦の状態が変わっても一定です。

次に、(1)の状況を考えます。
強く押さえたことで、振動する弦の長さは \(L’ = \displaystyle\frac{3}{4}L\) となります。
この弦で基本振動が生じるので、その波長を \(\lambda_1\) とすると、
$$ L’ = \frac{\lambda_1}{2} \quad \text{より} \quad \lambda_1 = 2L’ = 2 \times \left(\frac{3}{4}L\right) = \frac{3}{2}L \quad \cdots ② $$
求める振動数を \(f_1\) とすると、波の基本式は、
$$ v = f_1 \lambda_1 \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 波の基本式: \(v = f\lambda\)
  • 弦の基本振動: 弦長 \(l\) のとき、波長 \(\lambda = 2l\)
計算過程

式①、②、③から \(v\), \(\lambda_1\) を消去して \(f_1\) を求めます。
式③に式①と式②を代入します。
$$
\begin{aligned}
660L &= f_1 \times \frac{3}{2}L
\end{aligned}
$$
両辺を \(L\) で割り、\(f_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
f_1 &= 660 \times \frac{2}{3} \\[2.0ex]
&= 220 \times 2 \\[2.0ex]
&= 440 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ギターの弦は、フレットを押さえて弦を短くすると、音が高くなります。(1)は、弦の長さを元の \(\displaystyle\frac{3}{4}\) にしたのと同じです。弦の長さが \(\displaystyle\frac{3}{4}\) 倍になると、音の高さ(振動数)は逆数の \(\displaystyle\frac{4}{3}\) 倍になります。したがって、元の振動数 \(330 \text{ Hz}\) を \(\displaystyle\frac{4}{3}\) 倍することで、新しい振動数を計算できます。

結論と吟味

求める振動数は \(440 \text{ Hz}\) です。
弦長が \(L\) から \(\displaystyle\frac{3}{4}L\) へと短くなったので、振動数は高くなるはずです。\(440 \text{ Hz} > 330 \text{ Hz}\) であり、物理的に妥当な結果です。

別解: 基本振動数と弦長の比例関係を用いた解法

思考の道筋とポイント
弦の基本振動数は、振動する弦の長さに反比例するという関係性を利用して、より直接的に振動数を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 弦の基本振動数 \(f_{\text{基本}}\) と弦長 \(l\) の間には、\(f_{\text{基本}} \propto \displaystyle\frac{1}{l}\) の関係があります。
  • 元の状態: 弦長 \(L\)、振動数 \(f_0 = 330 \text{ Hz}\)。
  • 新しい状態: 弦長 \(L’ = \displaystyle\frac{3}{4}L\)、振動数 \(f_1\)。

具体的な解説と立式
弦の基本振動の振動数 \(f_{\text{基本}}\) は、弦を伝わる波の速さを \(v\)、弦長を \(l\) とすると、\(f_{\text{基本}} = \displaystyle\frac{v}{2l}\) で与えられます。
速さ \(v\) は一定なので、\(f_{\text{基本}}\) は弦長 \(l\) に反比例します。
したがって、元の状態(添字0)と新しい状態(添字1)について、以下の比例式が成り立ちます。
$$ f_1 : f_0 = \frac{1}{L’} : \frac{1}{L} $$
この式から、
$$ \frac{f_1}{f_0} = \frac{L}{L’} \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • 弦の基本振動数: \(f = \displaystyle\frac{v}{2l}\)
計算過程

式①に \(L’ = \displaystyle\frac{3}{4}L\) と \(f_0 = 330 \text{ Hz}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_1 &= f_0 \times \frac{L}{L’} \\[2.0ex]
&= 330 \times \frac{L}{\frac{3}{4}L} \\[2.0ex]
&= 330 \times \frac{4}{3} \\[2.0ex]
&= 110 \times 4 \\[2.0ex]
&= 440 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

弦の長さが \(\displaystyle\frac{3}{4}\) 倍になったので、音の高さ(振動数)は、その逆数である \(\displaystyle\frac{4}{3}\) 倍になります。元の振動数 \(330 \text{ Hz}\) に \(\displaystyle\frac{4}{3}\) を掛けるだけで答えが求まります。

結論と吟味

求める振動数は \(440 \text{ Hz}\) です。メインの解法と一致しており、計算がより簡潔です。物理的な比例関係を理解していると、この解法が素早く使えます。

解答 (1) \(440 \text{ Hz}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)と同じ場所を「軽く押さえる」と、弦全体の長さ \(L\) は変わらないまま、押さえた点(端から \(\displaystyle\frac{3}{4}L\) の位置)が強制的に定在波の「節」になります。両端も節なので、この3点が節となるような定在波を考えます。このような条件を満たすのは、基本振動ではなく、腹が複数ある高次の振動(倍振動)になります。条件を満たす最も単純な(=最も振動数が低い)定在波の振動数を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 振動領域: 弦全体の長さ \(L\) で振動が起こります。
  • 節の条件: 両端(位置 0 と \(L\))に加えて、位置 \(x = \displaystyle\frac{3}{4}L\) も節になります。
  • 倍振動: この条件を満たす定在波は、腹が複数ある倍振動です。そのモード(腹がいくつあるか)を特定することが鍵となります。

具体的な解説と立式
弦の全長 \(L\) にわたって定在波が生じ、両端と \(x = \displaystyle\frac{3}{4}L\) の点が節になります。
節と節の間隔は、半波長 \(\displaystyle\frac{\lambda_2}{2}\) の整数倍でなければなりません。
したがって、端(0)から \(\displaystyle\frac{3}{4}L\) までの距離と、\(\displaystyle\frac{3}{4}L\) からもう一方の端(\(L\))までの距離について、
$$ \frac{3}{4}L = m_1 \times \frac{\lambda_2}{2} \quad \cdots ① $$
$$ L – \frac{3}{4}L = \frac{1}{4}L = m_2 \times \frac{\lambda_2}{2} \quad \cdots ② $$
が成り立ちます。ここで \(m_1, m_2\) は自然数です。
問題では、この条件で生じる音を問うているので、最も単純な(=\(m_1, m_2\) が最小の自然数となる)場合を考えます。

式①と②の比をとると、
$$ \frac{\frac{3}{4}L}{\frac{1}{4}L} = \frac{m_1}{m_2} \quad \rightarrow \quad \frac{m_1}{m_2} = 3 $$
これを満たす最小の自然数の組は \(m_1 = 3, m_2 = 1\) です。
このとき、弦全体には \(n = m_1 + m_2 = 3 + 1 = 4\) 個の腹がある4倍振動が生じていることがわかります。

波長 \(\lambda_2\) を求めるために、式②に \(m_2=1\) を代入します。
$$ \frac{1}{4}L = 1 \times \frac{\lambda_2}{2} \quad \rightarrow \quad \lambda_2 = \frac{L}{2} \quad \cdots ③ $$
求める振動数を \(f_2\) とすると、波の基本式は、
$$ v = f_2 \lambda_2 \quad \cdots ④ $$
波の速さ \(v\) は(1)で求めたものと同じです。
$$ v = 660L \quad \cdots ⑤ $$

使用した物理公式

  • 波の基本式: \(v = f\lambda\)
  • 定在波の節の間隔: \(\displaystyle\frac{\lambda}{2}\)
計算過程

式④に式③と式⑤を代入します。
$$
\begin{aligned}
660L &= f_2 \times \frac{L}{2}
\end{aligned}
$$
両辺を \(L\) で割り、\(f_2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= 660 \times 2 \\[2.0ex]
&= 1320 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$
有効数字3桁で答えるため、\(1.32 \times 10^3 \text{ Hz}\) とします。

計算方法の平易な説明

ギターの弦の途中を軽く触れて弾くと、キーンという高い音が出ます。これはハーモニクスという奏法で、基本の音の整数倍の高さの音(倍音)を取り出すテクニックです。弦の \(\displaystyle\frac{3}{4}\) の場所を触れると、弦全体が4つの「こぶ」を持って振動する「4倍振動」という状態になります。音の高さは基本の音の4倍になるので、元の振動数 \(330 \text{ Hz}\) を4倍して計算します。

結論と吟味

求める振動数は \(1.32 \times 10^3 \text{ Hz}\) です。
この値は、基本振動数 \(f_0 = 330 \text{ Hz}\) のちょうど4倍(\(4 \times 330 = 1320\))になっています。これは、生じた振動が4倍振動であることを裏付けており、物理的に妥当な結果です。

別解: 固有振動数の条件を用いた解法

思考の道筋とポイント
弦の定在波の振動数(固有振動数)は、基本振動数の整数倍に限られます。このうち、\(x = \displaystyle\frac{3}{4}L\) が節になるという条件を満たす最小のモード(\(n\)倍振動の\(n\))を特定し、振動数を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 固有振動数: 弦の固有振動数 \(f_n\) は、基本振動数を \(f_0\) として \(f_n = n f_0\) (\(n=1, 2, 3, \dots\))と表せます。
  • 節の位置: \(n\)倍振動のとき、端( \(x=0\) )から数えた節の位置は \(x = \displaystyle\frac{m}{n}L\) (\(m=0, 1, 2, \dots, n\))で与えられます。
  • モードの特定: \(x = \displaystyle\frac{3}{4}L\) が節になるという条件から、\(n\) の値を決定します。

具体的な解説と立式
長さ \(L\) の弦に生じる定在波の振動数は、基本振動数 \(f_0 = 330 \text{ Hz}\) の整数 \(n\) 倍、すなわち \(f_n = n f_0\) となります。\(n\) は振動のモード(腹の数)を表す自然数です。

\(n\)倍振動において、両端の節を含めた節の位置は、弦の一端を \(x=0\) とすると、
$$ x = \frac{m}{n}L \quad (m = 0, 1, 2, \dots, n) $$
と表すことができます。
問題の条件は、\(x = \displaystyle\frac{3}{4}L\) がこれらの節の一つになることです。したがって、ある整数 \(m\) (\(0 < m < n\)) に対して、
$$ \frac{3}{4}L = \frac{m}{n}L \quad \cdots ① $$
が成立する必要があります。

使用した物理公式

  • 弦の固有振動数: \(f_n = n f_0\)
  • \(n\)倍振動における節の位置の条件
計算過程

式①の両辺から \(L\) を消去します。
$$ \frac{m}{n} = \frac{3}{4} $$
この関係を満たす最小の自然数の組は、\(m=3, n=4\) です。
したがって、生じる定在波は \(n=4\) の4倍振動であることがわかります。
求める振動数 \(f_2\) は、この4倍振動の振動数 \(f_4\) なので、
$$
\begin{aligned}
f_2 &= 4 \times f_0 \\[2.0ex]
&= 4 \times 330 \\[2.0ex]
&= 1320 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$
有効数字3桁で答えると、\(1.32 \times 10^3 \text{ Hz}\) となります。

計算方法の平易な説明

弦の振動は、腹が1つの「基本振動」、2つの「2倍振動」、3つの「3倍振動」…という決まったパターンしかできません。それぞれの振動数は、基本の330 Hzの1倍、2倍、3倍…となります。このうち、弦の4分の3の場所が「節」になるのはどのパターンかを調べます。計算すると、それは「4倍振動」のときだとわかります。したがって、答えは基本の振動数の4倍です。

結論と吟味

求める振動数は \(1.32 \times 10^3 \text{ Hz}\) です。メインの解法と一致しており、固有振動の性質を体系的に利用した見通しの良い解法です。

解答 (2) \(1.32 \times 10^3 \text{ Hz}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 波の基本式 \(v=f\lambda\) と速さの不変性:
    • 核心: 弦を伝わる波の速さ \(v\) は、弦の張力と線密度のみで決まります。問題の操作(押さえる場所や方法を変える)ではこれらは変化しないため、\(v\) は一貫して同じ値をとります。この「速さの不変性」を基点として、各設問の \(f\) と \(\lambda\) の関係を考えるのが、この問題の最も重要なアプローチです。
    • 理解のポイント: まず初めに与えられた基本振動の情報(\(f_0=330 \text{ Hz}\), \(\lambda_0=2L\))から \(v=660L\) という関係を導き出し、これを(1)と(2)の両方で「共通の定数」として利用します。
  • 定在波の形成条件(境界条件):
    • 核心: 弦の振動で生じる音は、弦の長さや固定のされ方によって決まる「定在波」のパターンによって決まります。この問題では、そのパターンが「強く押さえる」か「軽く押さえる」かで劇的に変わることを理解するのが核心です。
    • 理解のポイント:
      1. (1) 強く押さえる: 押さえた点が新たな「固定端(節)」となり、振動する部分の長さそのものが変わります。\(L’ = \displaystyle\frac{3}{4}L\) という新しい弦長での基本振動を考えます。
      2. (2) 軽く押さえる: 弦の長さは \(L\) のまま変わらず、押さえた点が強制的に節になるという制約が加わります。これにより、基本振動ではなく、その条件を満たす高次の振動(倍振動)が選択的に励起されます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 開管・閉管の気柱の共鳴: 弦の振動と同様に、管の長さと開口端(腹)か閉口端(節)かという境界条件によって共鳴する音の高さが決まります。管の途中に仕切りを入れる問題は(1)に、管の途中で音を鳴らして共鳴させる問題は(2)の考え方に類似します。
    • 他のハーモニクス奏法: ギターで弦の中央(\(\displaystyle\frac{1}{2}L\))を軽く押さえて弾くと、2倍振動(1オクターブ上の音)が生じます。\(\displaystyle\frac{1}{3}L\) の位置なら3倍振動が生じます。本問の(2)は、このハーモニクス奏法の原理そのものです。
    • 膜の振動: 太鼓の皮のような2次元の膜の振動も、境界(膜の縁)が固定されているため、特定のパターンの定在波(固有振動)しか生じません。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 波の速さ \(v\) は一定か?: まず、弦の張力や材質が変わっていないかを確認します。変わっていなければ、\(v\) は一定として扱えます。
    2. 境界条件はどうなっているか?: 弦のどこが「節」になり、どこが「腹」になるのかを図示します。「強く押さえる」「固定する」は節、「自由端」「開口端」は腹、と読み替えます。
    3. 振動領域の長さはどこか?: 実際に波が立っている区間の長さを正確に把握します。(1)のように弦長そのものが変わるのか、(2)のように弦長は同じで振動のパターンが変わるだけなのかを区別することが最重要です。
    4. 問われているのは基本振動か、倍振動か?: 問題文から、腹が1つの最も単純な振動を求められているのか、それとも特定の条件を満たす高次の振動なのかを読み取ります。「生じる音は」とだけ問われた場合は、通常、最も振動数が低い(波長が長い)ものを答えます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • (1)と(2)の状況の混同:
    • 誤解: 「強く押さえる」と「軽く押さえる」の違いが分からず、(2)でも(1)と同じように弦長が \(\displaystyle\frac{3}{4}L\) になると考えてしまう。あるいは、(1)で(2)のように倍振動を考えてしまう。
    • 対策: 「強く押さえる=弦を短くする」「軽く押さえる=ハーモニクス(倍振動の選択)」という物理的なイメージを明確に区別して覚えましょう。ギターを弾く人なら実際の奏法と結びつけると忘れません。
  • 波長の計算ミス:
    • 誤解: 腹が \(n\) 個ある定在波の波長を \(\lambda = \displaystyle\frac{L}{n}\) のように誤って覚えてしまう。
    • 対策: 必ず図を描いて確認する習慣をつけましょう。弦長 \(L\) の中に腹が \(n\) 個ある(=半波長が \(n\) 個ある)ので、\(L = n \times \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) という関係が成り立ちます。ここから \(\lambda = \displaystyle\frac{2L}{n}\) と正しく導出できます。
  • 基本振動数と弦長の関係の誤認:
    • 誤解: 弦長が短くなると振動数も低くなると勘違いする。
    • 対策: \(f = \displaystyle\frac{v}{2l}\) の関係から、振動数 \(f\) は弦長 \(l\) に反比例することを明確に意識しましょう。「短い弦ほど高い音が出る」という日常的な感覚と結びつけると間違いにくくなります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 定在波の図を必ず描く: この種の問題は、図を描くことが全てと言っても過言ではありません。
      • 基準状態: 全長 \(L\) で腹が1つの基本振動の図を描く。
      • (1)の状況: 長さ \(\displaystyle\frac{3}{4}L\) の弦を描き、その中に腹が1つの基本振動を描く。
      • (2)の状況: 全長 \(L\) の弦を描き、両端と \(\displaystyle\frac{3}{4}L\) の位置に「節」の印(●)をつけます。この3つの節を結ぶ最も滑らかで単純な波形(腹が4つの波)を描いてみる。これにより、4倍振動であることが視覚的に一目瞭然となります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 節と腹を明確に: 節は点で、腹は振動の最大振幅を示す曲線で描きます。
    • 波長との関係を書き込む: 描いた図に、半波長 \(\displaystyle\frac{\lambda}{2}\) がどの区間に対応するかを書き込むと、立式が容易になります。
    • モード(\(n\))を明記する: 図の横に \(n=1\)(基本振動)、\(n=4\)(4倍振動)のようにモード番号を書いておくと、思考が整理されます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 波の基本式 (\(v=f\lambda\)):
    • 選定理由: 波の3つの基本要素(速さ、振動数、波長)の関係を表す最も普遍的な公式だからです。この問題では、未知の振動数 \(f\) を、計算で求まる \(v\) と \(\lambda\) から導出するために用います。
    • 適用根拠: 弦の振動、音波、光など、あらゆる波に適用できる基本法則です。
  • 定在波の波長と弦長の関係 (\(L = n \cdot \frac{\lambda}{2}\)):
    • 選定理由: 弦の長さという幾何学的な制約(境界条件)が、そこに存在できる波の波長 \(\lambda\) をどのように制限するかを数式で表現するためです。
    • 適用根拠: 両端が節という条件から、弦の長さは半波長の整数倍でなければならない、という物理的要請に基づいています。
  • 固有振動数の公式 (\(f_n = n f_0\)):
    • 選定理由: (2)の別解のように、定在波の振動数がとびとびの値(基本振動数の整数倍)になるという性質を利用するため。これにより、波長や速さを経由せずに、直接モード \(n\) から振動数を求めることができます。
    • 適用根拠: \(f_n = \displaystyle\frac{v}{\lambda_n} = \frac{v}{2L/n} = n \left(\frac{v}{2L}\right) = n f_0\) という導出からわかるように、上記の2つの公式から導かれる便利な関係式です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 準備段階(共通):
    • 戦略: まず、すべての計算の土台となる波の速さ \(v\) を求める。
    • フロー: ①基準状態(全長 \(L\)、基本振動)の図を描く → ②波長 \(\lambda_0 = 2L\) を求める → ③波の基本式 \(v = f_0 \lambda_0\) に値を代入し、\(v = 660L\) を導出する。
  2. (1) 強く押さえた場合:
    • 戦略: 短くなった弦での基本振動を考える。
    • フロー: ①振動する弦長 \(L’ = \displaystyle\frac{3}{4}L\) を確認 → ②この弦での基本振動の波長 \(\lambda_1 = 2L’ = \displaystyle\frac{3}{2}L\) を求める → ③波の基本式 \(v = f_1 \lambda_1\) に \(v\) と \(\lambda_1\) を代入し、\(f_1\) を解く。
  3. (2) 軽く押さえた場合:
    • 戦略: 全長 \(L\) のままで、指定された点が節になる条件を満たす倍振動モードを特定する。
    • フロー: ①全長 \(L\) で、\(x=0, \displaystyle\frac{3}{4}L, L\) が節になる図を描く → ②この条件を満たす波長 \(\lambda_2\) を求める(節の間隔が \(\displaystyle\frac{\lambda_2}{2}\) の整数倍になることから、\(\lambda_2 = \displaystyle\frac{L}{2}\) を導出) → ③波の基本式 \(v = f_2 \lambda_2\) に \(v\) と \(\lambda_2\) を代入し、\(f_2\) を解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める:
    • (1)の別解のように、比例関係を使うと計算が楽になります。\(f_1 = f_0 \times \displaystyle\frac{L}{L’} = 330 \times \frac{L}{(3/4)L} = 330 \times \frac{4}{3}\)。
    • (2)では、\(f_2 = \displaystyle\frac{v}{\lambda_2} = \frac{660L}{L/2} = 660 \times 2\)。このように、最後まで文字(\(L\))を残して計算すると、約分によって計算が簡単になり、ミスが減ります。
  • 分数の計算を丁寧に:
    • \(\displaystyle\frac{L}{(3/4)L}\) のような繁分数の計算は、逆数を掛ける(\(\times \frac{4}{3}\))と落ち着いて処理しましょう。
  • 比を利用する:
    • (2)のメインの解法では、節の間隔の比からモードを特定しました。\(\displaystyle\frac{3}{4}L : \frac{1}{4}L = 3:1\)。この比から、腹の数も \(3:1\) の比で分かれ、合計4個の腹(4倍振動)になると直感的に理解できます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 振動数 \(f_1 = 440 \text{ Hz}\): 弦を短くしたので、音は高くなるはずです。\(440 \text{ Hz} > 330 \text{ Hz}\) であり、直感と一致します。
    • (2) 振動数 \(f_2 = 1320 \text{ Hz}\): ハーモニクスは元の音より高い倍音を取り出す奏法なので、振動数は必ず高くなります。\(1320 \text{ Hz}\) は基本振動数 \(330 \text{ Hz}\) のちょうど4倍であり、4倍振動が生じたという解析結果と完全に一致します。この整数倍の関係が確認できれば、答えの正しさに自信が持てます。
  • 別解との比較:
    • (1), (2)ともに、2つの異なるアプローチ(波の基本式を愚直に使う方法と、固有振動の性質を利用する方法)で同じ答えが得られました。これは、計算の正しさと物理的理解の確かさを裏付ける強力な証拠となります。特に(2)で、波長から計算した結果と、モード番号から計算した結果が一致することの確認は非常に重要です。

260 弦の振動

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、「弦の振動」と「気柱の共鳴」という2つの波動現象を組み合わせた複合問題です。うなりの情報から未知の振動数を特定し、さらに弦の振動が音源となって気柱を共鳴させるという、一連の物理プロセスを追う必要があります。

与えられた条件
  • 弦の長さ: \(l = 80.0 \text{ cm} = 0.800 \text{ m}\)
  • おんさ1の振動数: \(f_{\text{おんさ1}} = 332 \text{ Hz}\)
  • 弦の基本振動とおんさ1とのうなりの回数: \(f_{\text{うなり1}} = 6 \text{ Hz}\)
  • おんさ2の振動数: \(f_{\text{おんさ2}} = 344 \text{ Hz}\)
  • 弦の基本振動とおんさ2とのうなりの回数: \(f_{\text{うなり2}} = 6 \text{ Hz}\)
  • 閉管内の音速: \(v_{\text{音}} = 340 \text{ m/s}\)
  • 開口端補正は無視する。
問われていること
  • (1) 弦の基本振動の振動数 \(f_1\) と、弦を伝わる波の速さ \(v_{\text{弦}}\)。
  • (2) 弦を2倍振動させたときに共鳴した閉管の長さ \(L\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「うなり・弦の固有振動・気柱の共鳴」です。複数の物理現象が連動しており、それぞれの関係を正しく理解することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. うなり: 振動数がわずかに異なる2つの音を同時に鳴らすと、音の強弱が周期的に変化します。うなりの振動数 \(f_{\text{うなり}}\) は、2つの音の振動数 \(f_a, f_b\) の差の絶対値で与えられます (\(f_{\text{うなり}} = |f_a – f_b|\))。
  2. 弦の固有振動: 両端が固定された弦の固有振動数 \(f_n\) は、基本振動数 \(f_1\) の整数倍 (\(f_n = n f_1\)) となります。\(n\) は腹の数を表す自然数です。
  3. 波の基本式: 波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の間には \(v=f\lambda\) の関係が成り立ちます。これは弦の波にも音波にも適用されます。
  4. 気柱の共鳴: 閉管が基本振動で共鳴するとき、管の長さ \(L\) は音波の波長の \(\displaystyle\frac{1}{4}\) に等しくなります (\(L = \displaystyle\frac{\lambda_{\text{音}}}{4}\))。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まず「うなり」の公式を用いて、2つのおんさとのうなりの情報から、弦の基本振動数 \(f_1\) を特定します。次に、弦の基本振動の条件から波長 \(\lambda_1\) を求め、波の基本式 \(v_{\text{弦}} = f_1 \lambda_1\) を使って弦を伝わる波の速さ \(v_{\text{弦}}\) を計算します。
  2. (2)では、まず弦の2倍振動の振動数 \(f_2\) を求めます。この振動が音源となり、閉管を共鳴させるので、音波の振動数は \(f_2\) となります。閉管の基本振動の共鳴条件と波の基本式を用いて、閉管の長さ \(L\) を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
弦の基本振動の振動数 \(f_1\) を求める問題です。\(f_1\) は未知ですが、2つの既知の振動数のおんさ(\(332 \text{ Hz}\) と \(344 \text{ Hz}\))との間で、どちらとも \(6 \text{ Hz}\) のうなりを生じることが分かっています。この2つの条件を同時に満たす \(f_1\) を見つけ出します。その後、弦の速さを計算します。
この設問における重要なポイント

  • うなりの公式: うなりの振動数 \(f_{\text{うなり}}\) は、2つの音源の振動数の差の絶対値、\(f_{\text{うなり}} = |f_a – f_b|\) で与えられます。
  • 2つの条件の利用: 2つのおんさの情報を使うことで、\(f_1\) の候補を一つに絞り込むことができます。
  • 弦の基本振動の波長: 長さ \(l\) の弦の基本振動では、腹が1つなので、波長 \(\lambda_1\) は弦の長さの2倍、\(\lambda_1 = 2l\) となります。

具体的な解説と立式
弦の基本振動の振動数を \(f_1\) [Hz] とします。
おんさ1(\(332 \text{ Hz}\))との間に \(6 \text{ Hz}\) のうなりが生じるので、うなりの公式から、
$$ |f_1 – 332| = 6 \quad \cdots ① $$
この式から、\(f_1\) は \(332+6=338 \text{ Hz}\) または \(332-6=326 \text{ Hz}\) のどちらかです。

おんさ2(\(344 \text{ Hz}\))との間に \(6 \text{ Hz}\) のうなりが生じるので、同様に、
$$ |f_1 – 344| = 6 \quad \cdots ② $$
この式から、\(f_1\) は \(344+6=350 \text{ Hz}\) または \(344-6=338 \text{ Hz}\) のどちらかです。

\(f_1\) は両方の条件を同時に満たす必要があるので、共通する値は \(338 \text{ Hz}\) と決まります。

次に、弦を伝わる波の速さ \(v_{\text{弦}}\) を求めます。
弦の長さは \(l = 0.800 \text{ m}\) で、基本振動なので、その波長 \(\lambda_1\) は、
$$ \lambda_1 = 2l = 2 \times 0.800 = 1.60 \text{ m} \quad \cdots ③ $$
波の基本式 \(v=f\lambda\) を用いて、
$$ v_{\text{弦}} = f_1 \lambda_1 \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • うなりの振動数: \(f_{\text{うなり}} = |f_a – f_b|\)
  • 波の基本式: \(v = f\lambda\)
  • 弦の基本振動: \(\lambda = 2l\)
計算過程

まず、\(f_1\) を求めます。
式①より、\(f_1 = 332 \pm 6\) なので、\(f_1 = 338 \text{ Hz}\) または \(f_1 = 326 \text{ Hz}\)。
式②より、\(f_1 = 344 \pm 6\) なので、\(f_1 = 350 \text{ Hz}\) または \(f_1 = 338 \text{ Hz}\)。
両方を満たすのは、
$$ f_1 = 338 \text{ [Hz]} $$
次に、\(v_{\text{弦}}\) を計算します。式④に求めた \(f_1\) と式③の \(\lambda_1\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{弦}} &= 338 \times 1.60 \\[2.0ex]
&= 540.8 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字3桁で答えると、\(541 \text{ m/s}\) となります。

計算方法の平易な説明

うなりが「1秒間に6回」ということは、弦の音の高さ(振動数)と、おんさの音の高さの差が「6 Hz」だということです。332 Hzのおんさとの差が6、344 Hzのおんさとの差も6になるような音の高さを探します。数直線で考えると、332と344のちょうど真ん中の音、つまり338 Hzが答えだとわかります。弦の速さは、この振動数と、弦の基本振動のときの波長(弦の長さの2倍)を掛け算して求めます。

結論と吟味

弦の基本振動の振動数は \(338 \text{ Hz}\)、弦を伝わる波の速さは \(541 \text{ m/s}\) です。
うなりの問題では、候補が2つ出ることが多いですが、本問のように条件が2つ与えられることで一意に定まる典型的なパターンです。計算結果も物理的に妥当な範囲です。

解答 (1) 振動数: \(338 \text{ Hz}\), 速さ: \(541 \text{ m/s}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
弦に2倍振動を起こさせ、その音で閉管を共鳴させる問題です。まず、弦の2倍振動の振動数 \(f_2\) を求めます。この \(f_2\) が、閉管を共鳴させる音波の振動数になります。次に、音速 \(v_{\text{音}}\) と振動数 \(f_2\) から音波の波長 \(\lambda_{\text{音}}\) を計算し、最後に閉管の基本振動の共鳴条件を使って管の長さ \(L\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 弦の倍振動: 弦の \(n\) 倍振動の振動数 \(f_n\) は、基本振動数 \(f_1\) の \(n\) 倍、つまり \(f_n = n f_1\) です。
  • 音源の引き継ぎ: 弦の振動が音源となり、周囲の空気を同じ振動数で振動させます。したがって、発生する音波の振動数は、弦の振動数と等しくなります。
  • 閉管の基本共鳴: 長さ \(L\) の閉管が基本振動で共鳴するとき、管長は波長の4分の1に等しくなります (\(L = \displaystyle\frac{\lambda_{\text{音}}}{4}\))。

具体的な解説と立式
まず、弦の2倍振動の振動数 \(f_2\) を求めます。
弦の固有振動数の関係から、
$$ f_2 = 2 f_1 \quad \cdots ① $$
ここで \(f_1\) は(1)で求めた基本振動数 \(338 \text{ Hz}\) です。

この弦の振動によって発生する音波が閉管を共鳴させます。したがって、音波の振動数 \(f_{\text{音}}\) は \(f_2\) に等しくなります。
$$ f_{\text{音}} = f_2 \quad \cdots ② $$
この音波の速さは \(v_{\text{音}} = 340 \text{ m/s}\) と与えられています。波の基本式から、音波の波長 \(\lambda_{\text{音}}\) は、
$$ v_{\text{音}} = f_{\text{音}} \lambda_{\text{音}} \quad \cdots ③ $$
閉管は基本振動で共鳴したので、閉管の長さ \(L\) と音波の波長 \(\lambda_{\text{音}}\) の間には次の関係があります。
$$ L = \frac{\lambda_{\text{音}}}{4} \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 弦の固有振動数: \(f_n = n f_1\)
  • 波の基本式: \(v = f\lambda\)
  • 閉管の基本共鳴: \(L = \displaystyle\frac{\lambda}{4}\)
計算過程

まず、式①から \(f_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= 2 \times 338 \\[2.0ex]
&= 676 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$
したがって、音波の振動数も \(f_{\text{音}} = 676 \text{ Hz}\) です。
次に、式③を \(\lambda_{\text{音}}\) について解き、値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda_{\text{音}} &= \frac{v_{\text{音}}}{f_{\text{音}}} \\[2.0ex]
&= \frac{340}{676} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
最後に、式④にこの \(\lambda_{\text{音}}\) を代入して \(L\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{1}{4} \lambda_{\text{音}} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{4} \times \frac{340}{676} \\[2.0ex]
&= \frac{85}{676} \\[2.0ex]
&\approx 0.1257… \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
有効数字3桁で答えると、\(0.126 \text{ m}\) となります。

計算方法の平易な説明

(1)で求めた弦の基本の音(338 Hz)の、1オクターブ上の音(2倍の振動数、676 Hz)を鳴らします。この音を使って、片方が閉じた筒を共鳴させます。筒が基本の形で共鳴するとき、筒の長さは音の波長の「4分の1」になります。まず「音速÷振動数」で音の波長を計算し、それを4で割れば、筒の長さが求まります。

結論と吟味

閉管の長さは \(0.126 \text{ m}\)(\(12.6 \text{ cm}\))です。
弦の振動数と音波の振動数が等しいこと、閉管の共鳴条件を正しく適用できるかがポイントです。計算結果も現実的な管の長さであり、妥当です。

解答 (2) \(0.126 \text{ m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • うなりの公式 (\(f_{\text{うなり}} = |f_a – f_b|\)):
    • 核心: (1)の前半は、この公式を応用して未知の振動数を特定する典型問題です。振動数 \(f_1\) の音源が、\(f_{\text{おんさ1}}\) とも \(f_{\text{おんさ2}}\) とも同じ回数のうなりを生じる、という条件が鍵です。これは、\(f_1\) が \(f_{\text{おんさ1}}\) と \(f_{\text{おんさ2}}\) のちょうど中間の値であることを意味します。
    • 理解のポイント: \(|f_1 – 332| = 6\) と \(|f_1 – 344| = 6\) という2つの連立方程式を解く問題と捉えます。数直線をイメージすると、2つの定点(332, 344)から等距離(距離6)にある点を求めることになり、それが2点の中点(338)であると直感的に理解できます。
  • 弦の固有振動と気柱の共鳴の連動:
    • 核心: この問題は、弦の振動という「第1の現象」が、音波という形でエネルギーを伝え、気柱の共鳴という「第2の現象」を引き起こす、という連動したプロセスを扱っています。この2つの現象を結びつけるのが「振動数」です。
    • 理解のポイント:
      1. 振動数の引き継ぎ: 弦が振動数 \(f\) で振動すると、周囲の空気も強制的に同じ振動数 \(f\) で振動させられ、音波が発生します。この「振動数は保存される」という点が、2つの現象をつなぐ橋渡しとなります。
      2. 波の種類の違い: 弦を伝わるのは「横波」であり、その速さは \(v_{\text{弦}}\) です。一方、空気中を伝わるのは「縦波(音波)」であり、その速さは \(v_{\text{音}}\) です。同じ振動数でも、媒質が違うため速さと波長は異なります。この区別を明確にすることが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ドップラー効果とうなり: 観測者に近づいてくるおんさと、静止しているおんさの音を同時に聞いたときのうなりを考える問題など、他の波動現象とうなりが組み合わされることがあります。
    • 開管との共鳴: 本問が閉管だったのに対し、両端が開いた開管を共鳴させる問題も考えられます。その場合、基本共鳴の条件は \(L = \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) となります。
    • 弦の張力を変える問題: 弦につるすおもりの質量を変えると、弦の張力が変わり、波の速さ \(v_{\text{弦}}\) が変化します。その結果、振動数も変わるという設定の問題も頻出です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 現象の分解: 問題文を読み、いくつの独立した物理現象(うなり、弦の振動、気柱の共鳴、ドップラー効果など)が含まれているかを把握します。
    2. 現象間のつながりを探す: 各現象を結びつけている物理量は何かを見抜きます。本問では「振動数」がその役割を担っていました。
    3. 各現象の条件を整理: 弦であれば「長さ、固定端、腹の数」、気柱であれば「開管か閉管か、長さ、共鳴の次数」といった、それぞれの現象を特徴づける条件を正確にリストアップします。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 波の速さの混同:
    • 誤解: (2)で気柱の長さを計算する際に、(1)で求めた弦を伝わる波の速さ \(v_{\text{弦}} = 541 \text{ m/s}\) を誤って使ってしまう。
    • 対策: 「何の波」が「どの媒質」を伝わっているのかを常に意識しましょう。弦の振動はあくまで音源であり、気柱を共鳴させるのは「空気中を伝わる音波」です。したがって、音速 \(v_{\text{音}} = 340 \text{ m/s}\) を使わなければなりません。
  • 振動数の計算ミス:
    • 誤解: (2)で、弦の2倍振動の振動数を計算せず、(1)で求めた基本振動数 \(f_1 = 338 \text{ Hz}\) をそのまま音源の振動数として使ってしまう。
    • 対策: 問題文の「図2のような2倍振動を起こさせ」という記述を正確に読み取りましょう。\(n\)倍振動の振動数は基本振動数の\(n\)倍 (\(f_n = n f_1\)) であることを確実に適用します。
  • 気柱の共鳴条件の間違い:
    • 誤解: 閉管の基本共鳴の条件を、開管の条件 \(L = \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) と混同してしまう。
    • 対策: 「閉管は節・腹」で \(L=\lambda/4\), 「開管は腹・腹」で \(L=\lambda/2\) と、必ず図をイメージして条件式を導き出せるようにしておきましょう。暗記だけに頼ると間違いやすいポイントです。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • うなりの数直線イメージ: (1)の振動数決定では、数直線を描き、332と344の位置に印をつけます。それぞれの点から距離6となる点を考えると、338が唯一の共通点であることが視覚的にわかります。
    • 現象の連鎖の図解: 弦の振動から気柱の共鳴への流れを、各段階の物理量とともに整理すると、思考がクリアになり、どの数値をどこで使うべきかが一目瞭然になります。
      • ステップ1:弦の2倍振動(音源)
        • 振動数: \(f_2 = 2f_1 = 676 \text{ Hz}\)
        • 弦を伝わる波の速さ: \(v_{\text{弦}} = 541 \text{ m/s}\)
        • 弦の定在波の波長: \(\lambda_{\text{弦}} = l = 0.800 \text{ m}\)
      • ステップ2:音波(伝達)
        • 弦の振動が空気を振動させ、音波が発生します。振動数は引き継がれます。
        • 音波の振動数: \(f_{\text{音}} = f_2 = 676 \text{ Hz}\)
        • 音波の速さ: \(v_{\text{音}} = 340 \text{ m/s}\)
        • 音波の波長: \(\lambda_{\text{音}} = \displaystyle\frac{v_{\text{音}}}{f_{\text{音}}}\)
      • ステップ3:閉管の基本振動(共鳴)
        • この音波が閉管を共鳴させます。
        • 共鳴する振動数: \(f_{\text{音}} = 676 \text{ Hz}\)
        • 閉管内の音速: \(v_{\text{音}} = 340 \text{ m/s}\)
        • 共鳴条件から決まる管の長さ: \(L = \displaystyle\frac{\lambda_{\text{音}}}{4}\)

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • うなりの公式 (\(f_{\text{うなり}} = |f_a – f_b|\)):
    • 選定理由: (1)で、問題文に「うなり」というキーワードがあり、その回数が与えられているため。未知の振動数 \(f_1\) を決定するための主要な手がかりです。
    • 適用根拠: 2つの波の重ね合わせによって振幅が周期的に変化する現象を記述する、実験的に確立された関係式です。
  • 弦の固有振動数の関係式 (\(f_n = n f_1\)):
    • 選定理由: (2)で「2倍振動」という、基本振動ではない特定のモードが指定されているため。その振動数を基本振動数から計算する必要があります。
    • 適用根拠: 弦の定在波の波長が \(\lambda_n = 2l/n\) となることから、\(f_n = v/\lambda_n = n(v/2l) = n f_1\) として導出される、弦の振動の基本特性です。
  • 閉管の共鳴条件 (\(L = \lambda/4\)):
    • 選定理由: (2)で「閉管」が「基本振動で共鳴」したと明記されているため。管の長さと、共鳴している音波の波長を結びつけるために必須の公式です。
    • 適用根拠: 閉管の口(開口端)が腹、底(閉口端)が節となるという境界条件を満たす最も単純な定在波の形が、長さ\(L\)の管に1/4波長が収まる形であることから導かれます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 振動数と弦の速さの計算:
    • 戦略: うなりの情報から振動数を特定し、波の基本式で速さを求める。
    • フロー: ①うなりの公式を2つのおんさに対して立式 (\(|f_1 – 332| = 6\), \(|f_1 – 344| = 6\)) → ②連立方程式を解き、\(f_1 = 338 \text{ Hz}\) を特定 → ③弦の基本振動の波長を計算 (\(\lambda_1 = 2l = 1.60 \text{ m}\)) → ④波の基本式 \(v_{\text{弦}} = f_1 \lambda_1\) に値を代入して \(v_{\text{弦}}\) を計算。
  2. (2) 閉管の長さの計算:
    • 戦略: 弦の振動数を音源とし、閉管の共鳴条件から長さを逆算する。
    • フロー: ①弦の2倍振動の振動数を計算 (\(f_2 = 2f_1 = 676 \text{ Hz}\)) → ②これが音波の振動数 \(f_{\text{音}}\) となることを確認 → ③音波の波長を計算 (\(\lambda_{\text{音}} = v_{\text{音}} / f_{\text{音}}\)) → ④閉管の基本共鳴の条件式 \(L = \lambda_{\text{音}}/4\) に値を代入して \(L\) を計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の換算を確実に行う: 弦の長さが \(80.0 \text{ cm}\) で与えられているので、計算の最初に \(0.800 \text{ m}\) に変換するのを忘れないようにしましょう。他の物理量(速さなど)がm/sで与えられているため、単位をmに統一することが不可欠です。
  • 有効数字を意識する: 問題文で与えられている数値(80.0cm, 332Hz, 344Hz, 340m/s)がいずれも有効数字3桁です。したがって、最終的な答えも有効数字3桁でまとめるのが適切です。計算途中の値は、1桁多く(4桁程度)保持しておくと、丸め誤差を減らせます。\(v_{\text{弦}} = 540.8 \rightarrow 541\), \(L = 0.1257… \rightarrow 0.126\)。
  • 分数のまま計算を進める: (2)の計算では、\(L = \frac{1}{4} \times \frac{340}{676}\) のように、途中で小数に直さずに分数のまま計算を進め、最後の最後に電卓などで割り算を実行すると、精度が保たれやすくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 振動数: \(f_1=338\text{ Hz}\) は、おんさの振動数 \(332\text{ Hz}\) と \(344\text{ Hz}\) のちょうど中間の値であり、うなりの条件と完全に一致していて妥当です。
    • (2) 閉管の長さ: \(L=0.126\text{ m} = 12.6\text{ cm}\)。これは実験で使うようなガラス管の長さとして、ごく一般的なサイズです。もし答えが数kmや数mmになったら、どこかで計算ミスを疑うべきです。
  • 思考プロセスの再確認:
    • (2)の計算で、弦の速さ \(v_{\text{弦}}\) ではなく音速 \(v_{\text{音}}\) を正しく使ったか? 弦の振動数として基本振動 \(f_1\) ではなく2倍振動 \(f_2\) を正しく使ったか? この2点がこの問題最大のトラップであり、解き終わった後にセルフチェックする重要なポイントです。
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261 弦の振動

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