215 内部エネルギーの保存
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、断熱容器内で、熱を伝える仕切りによって分けられた2つの理想気体の状態変化を扱う問題です。力学的平衡、熱平衡、そして内部エネルギー保存則という、熱力学の重要な概念を組み合わせて解く能力が問われます。
この問題の核心は、初期状態と最終状態において、気体に働く力のつり合い(圧力の関係)と、系全体でのエネルギー保存の関係を正しく立式し、連立して解くことです。
- シリンダーの断面積: \(S \text{ [m}^2\text{]}\)
- シリンダーの半分の長さ: \(L \text{ [m]}\) (全長は \(2L\))
- 気体の種類: 単原子分子の理想気体
- 気体のモル質量: \(M \text{ [kg/mol]}\)
- 気体定数: \(R \text{ [J/(mol}\cdot\text{K)]}\)
- 初期状態:
- Aの気体の絶対温度: \(T_A \text{ [K]}\)
- Bの気体の絶対温度: \(T_B \text{ [K]}\) (ただし \(T_A < T_B\))
- 仕切りWの位置: 中央
- Aの気体の質量: \(m_A \text{ [kg]}\)
- シリンダーの外壁: 断熱性
- 仕切りW: なめらかに動き、熱を伝える
- (1) Bの気体の質量 \(m_B\)。
- (2) 十分に時間がたった後(熱平衡後)の、仕切りWの中央からの移動距離 \(x\) と、気体の最終的な絶対温度 \(T\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「断熱容器内での気体の混合と状態変化」です。仕切りを介して熱の移動と仕事のやりとり(体積変化)が起こり、最終的に新たな平衡状態に達する過程を解析します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 理想気体の状態方程式: 各気体の圧力、体積、物質量、温度の関係を記述する基本法則です。
- 力学的平衡: なめらかに動く仕切りが静止している状態では、左右の気体の圧力が等しくなります。
- 熱平衡: 熱を伝える仕切りを介して十分に時間が経つと、左右の気体の温度が等しくなります。
- 内部エネルギー保存則: 断熱された系全体で、外部との仕事のやりとりがない場合、内部エネルギーの総和は保存されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、初期状態で仕切りが中央で静止していることから、AとBの圧力が等しいと考え、それぞれの状態方程式を立てて質量 \(m_B\) を求めます(問1)。
- 次に、最終状態を考えます。熱平衡(温度が等しい)と力学的平衡(圧力が等しい)が成立することから、A, Bそれぞれの状態方程式を立て、その比を取ることで移動距離 \(x\) を計算します。
- 最後に、シリンダー全体が断熱系であり、外部との仕事のやりとりもないため、AとBを合わせた系全体の内部エネルギーが保存されることを利用して、最終的な温度 \(T\) を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
Bの気体の質量 \(m_B\) を求める問題です。初期状態では、なめらかに動く仕切りWが中央で静止しています。これは、Aの気体が仕切りを押す力と、Bの気体が仕切りを押す力がつり合っていることを意味します。断面積が共通なので、AとBの圧力が等しい(\(p_A = p_B\))と考え、それぞれの気体について理想気体の状態方程式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 力学的平衡: 仕切りが静止しているため、両側の気体の圧力は等しい。
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\) を用いる。
- 物質量の変換: 物質量 \(n\) は、質量 \(m\) とモル質量 \(M\) を用いて \(n = \displaystyle\frac{m}{M}\) と表される。
具体的な解説と立式
初期状態において、A, Bの気体の圧力を \(p \text{ [Pa]}\) とします。仕切りは中央にあるので、A, Bの体積はともに \(V = SL \text{ [m}^3\text{]}\) です。
Aの気体について、理想気体の状態方程式を立てます。Aの物質量は \(n_A = \displaystyle\frac{m_A}{M}\) です。
$$ p(SL) = \frac{m_A}{M} R T_A \quad \cdots ① $$
同様に、Bの気体について状態方程式を立てます。Bの物質量は \(n_B = \displaystyle\frac{m_B}{M}\) です。
$$ p(SL) = \frac{m_B}{M} R T_B \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
式①と式②は左辺が等しいので、右辺も等しくなります。
$$ \frac{m_A}{M} R T_A = \frac{m_B}{M} R T_B $$
この式の両辺から共通の項である \(\displaystyle\frac{R}{M}\) を消去します。
$$ m_A T_A = m_B T_B $$
この式を \(m_B\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
m_B &= \frac{T_A}{T_B} m_A \text{ [kg]}
\end{aligned}
$$
最初、仕切りが動かないのは、AとBが同じ力で押し合っているからです。この「押し合う力(圧力)」が同じという条件を、気体の性質を表す公式(状態方程式)に当てはめて、Bの重さ(質量)を計算します。温度が異なるのに圧力が同じであるためには、質量(気体の量)で調整されているはずです。
Bの気体の質量は \(m_B = \displaystyle\frac{T_A}{T_B} m_A\) です。
問題の条件より \(T_A < T_B\) なので、分数 \(\displaystyle\frac{T_A}{T_B}\) は1より小さくなります。したがって、\(m_B < m_A\) となります。
これは、温度が高い気体Bの方が、分子の運動が激しいため、少ない量の気体でも温度の低い気体Aと同じ圧力を生み出せる、という物理的な描像と一致しており、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
仕切りの移動距離 \(x\) と最終温度 \(T\) を求める問題です。十分に時間が経つと、熱を伝える仕切りを介してAとBの温度は等しくなり(熱平衡)、仕切りも移動して新たな位置で静止するため圧力も等しくなります(力学的平衡)。
まず、この最終的な平衡状態について状態方程式を立て、移動距離 \(x\) を求めます。
次に、シリンダー全体が断熱されていることから、AとBの内部エネルギーの合計が変化の前後で保存されることを利用して、最終温度 \(T\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 力学的平衡(最終状態): 最終的に仕切りが静止するため、AとBの圧力は等しい(\(p’\))。
- 熱平衡: 熱を伝える仕切りなので、最終的にAとBの温度は等しくなる(\(T\))。
- 体積の変化: 仕切りが中央から \(x\) 移動すると、Aの体積は \(S(L+x)\)、Bの体積は \(S(L-x)\) となる。
- 内部エネルギー保存則: シリンダー全体が断熱系なので、AとBの内部エネルギーの和は一定に保たれる。
- 単原子分子の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)。
具体的な解説と立式
(移動距離 \(x\) の導出)
最終状態での圧力を \(p’\)、温度を \(T\) とします。
仕切りが中央から距離 \(x\) だけ移動したとすると、A, Bの体積はそれぞれ \(V_A’ = S(L+x)\), \(V_B’ = S(L-x)\) となります。
A, Bそれぞれについて、最終状態での理想気体の状態方程式を立てます。
Aについて:
$$ p’ S(L+x) = \frac{m_A}{M} R T \quad \cdots ③ $$
Bについて:
$$ p’ S(L-x) = \frac{m_B}{M} R T \quad \cdots ④ $$
(最終温度 \(T\) の導出)
シリンダー全体は断熱されており、外部との仕事のやりとりもないため、AとBを合わせた系の内部エネルギーは保存されます。
初期状態の内部エネルギーの和 \(U_{\text{初}}\) は、Aの内部エネルギー \(U_{A, \text{初}}\) とBの内部エネルギー \(U_{B, \text{初}}\) の和です。
$$ U_{\text{初}} = U_{A, \text{初}} + U_{B, \text{初}} \quad \cdots ⑤ $$
$$ U_{A, \text{初}} = \frac{3}{2}\frac{m_A}{M}RT_A, \quad U_{B, \text{初}} = \frac{3}{2}\frac{m_B}{M}RT_B $$
最終状態の内部エネルギーの和 \(U_{\text{終}}\) も同様に、
$$ U_{\text{終}} = U_{A, \text{終}} + U_{B, \text{終}} \quad \cdots ⑥ $$
$$ U_{A, \text{終}} = \frac{3}{2}\frac{m_A}{M}RT, \quad U_{B, \text{終}} = \frac{3}{2}\frac{m_B}{M}RT $$
最終状態ではAとBの温度が等しくなるため、\(U_{\text{終}}\) は次のようにまとめることができます。
$$ U_{\text{終}} = \frac{3}{2}\frac{m_A+m_B}{M}RT $$
内部エネルギー保存則より、\(U_{\text{初}} = U_{\text{終}}\) です。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
- 単原子分子の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)
- エネルギー保存則
(移動距離 \(x\) の計算)
式③を式④で辺々割ると、共通の項 \(p’, S, \frac{R}{M}, T\) が消去されます。
$$ \frac{p’ S(L+x)}{p’ S(L-x)} = \frac{\displaystyle\frac{m_A}{M} R T}{\displaystyle\frac{m_B}{M} R T} $$
$$ \frac{L+x}{L-x} = \frac{m_A}{m_B} $$
ここに、(1)で求めた \(m_B = \displaystyle\frac{T_A}{T_B} m_A\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{L+x}{L-x} &= \frac{m_A}{\left(\displaystyle\frac{T_A}{T_B} m_A\right)} \\[2.0ex]&= \frac{T_B}{T_A}
\end{aligned}
$$
この式を \(x\) について解きます。
$$ T_A(L+x) = T_B(L-x) $$
$$ T_A L + T_A x = T_B L – T_B x $$
$$ (T_A + T_B)x = (T_B – T_A)L $$
$$ x = \frac{T_B – T_A}{T_A + T_B} L \text{ [m]} $$
(最終温度 \(T\) の計算)
内部エネルギー保存則 \(U_{\text{初}} = U_{\text{終}}\) より、
$$ \frac{3}{2}\frac{m_A}{M}RT_A + \frac{3}{2}\frac{m_B}{M}RT_B = \frac{3}{2}\frac{m_A+m_B}{M}RT $$
両辺から共通の項 \(\displaystyle\frac{3}{2}\frac{R}{M}\) を消去します。
$$ m_A T_A + m_B T_B = (m_A + m_B)T $$
この式を \(T\) について解くと、
$$ T = \frac{m_A T_A + m_B T_B}{m_A + m_B} $$
ここに、(1)で求めた \(m_B = \displaystyle\frac{T_A}{T_B} m_A\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{m_A T_A + \left(\displaystyle\frac{T_A}{T_B} m_A\right) T_B}{m_A + \displaystyle\frac{T_A}{T_B} m_A} \\[2.0ex]&= \frac{m_A T_A + m_A T_A}{m_A \left(1 + \displaystyle\frac{T_A}{T_B}\right)} \\[2.0ex]&= \frac{2 m_A T_A}{m_A \left(\displaystyle\frac{T_B + T_A}{T_B}\right)} \\[2.0ex]&= \frac{2 T_A}{\left(\displaystyle\frac{T_A + T_B}{T_B}\right)} \\[2.0ex]&= \frac{2 T_A T_B}{T_A + T_B} \text{ [K]}
\end{aligned}
$$
(移動距離) 最終的に落ち着いた状態では、AとBは同じ温度、同じ圧力になります。このときのAとBの体積の比は、それぞれの気体の量(物質量)の比に等しくなります。この体積の関係から、仕切りがどれだけ動いたかを計算します。
(最終温度) この容器は魔法瓶のように外と熱をやりとりしないので、AとBが持っているエネルギーの合計は、混ざり合う前と後で変わりません。この「エネルギー保存」の考え方を使って、最終的な温度を計算します。
思考の道筋とポイント
AとB、それぞれに熱力学第一法則を適用します。系全体で考えると、AとBの間でやりとりされる熱と仕事は互いに打ち消し合うため、系全体の内部エネルギーの変化がゼロになることを示し、そこから最終温度を導きます。これは、なぜ内部エネルギー保存則が成り立つのかをより根本的な法則から確認するアプローチです。
この設問における重要なポイント
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q + W\) (内部エネルギーの変化 = 吸収した熱 + された仕事)
- 作用・反作用の関係: AがBから受け取る熱を \(Q\) とすると、BがAから受け取る熱は \(-Q\)。AがBからされる仕事を \(W\) とすると、BがAからされる仕事は \(-W\)。
具体的な解説と立式
Aの気体がBの気体から受け取る熱量を \(Q\)、される仕事を \(W\) とします。
Aの気体についての熱力学第一法則は、
$$ \Delta U_A = U_{A, \text{終}} – U_{A, \text{初}} = Q + W $$
一方、Bの気体はAに熱量 \(Q\) を与え、仕事 \(W\) をするので、Bが受け取る熱量は \(-Q\)、される仕事は \(-W\) となります。
Bの気体についての熱力学第一法則は、
$$ \Delta U_B = U_{B, \text{終}} – U_{B, \text{初}} = -Q – W $$
この2つの式を足し合わせると、
$$ (\Delta U_A) + (\Delta U_B) = (Q+W) + (-Q-W) = 0 $$
$$ \Delta U_A + \Delta U_B = 0 $$
これは、AとBの内部エネルギーの合計の変化量がゼロ、つまり内部エネルギーの和が保存されることを意味します。
$$ U_{A, \text{初}} + U_{B, \text{初}} = U_{A, \text{終}} + U_{B, \text{終}} $$
この式はメインの解法で用いた内部エネルギー保存則の式と全く同じです。
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q + W\)
上記で導かれた式はメインの解法で用いたものと同じであるため、以降の計算過程も全く同一となり、同じ結果が得られます。
$$ T = \frac{2 T_A T_B}{T_A + T_B} \text{ [K]} $$
AとBという2つの部屋を考えます。Aのエネルギーが増えた分は、必ずBのエネルギーが減った分に等しくなります。なぜなら、エネルギー(熱や仕事)は2つの部屋の間で移動するだけで、外に漏れたり外から入ってきたりしないからです。この考え方から、2部屋のエネルギーの合計は常に一定だとわかります。
移動距離は \(x = \displaystyle\frac{T_B – T_A}{T_A + T_B} L\)、最終温度は \(T = \displaystyle\frac{2 T_A T_B}{T_A + T_B}\) です。
\(x\) について: \(T_B > T_A\) なので \(x > 0\) となり、仕切りはA側に移動します。これは、初めに温度が高く圧力も高かったBがAを押し込むという直感に合致します(注:初期圧力は同じでした。温度が高いBがAに熱を与え、Aが膨張しようとするよりも、Bが収縮する度合いが小さいため、結果としてBがAを押す形になります)。
\(T\) について: この温度は \(T_A\) と \(T_B\) の調和平均と呼ばれます。\(T_A < T < T_B\) の関係を満たしており、最終温度が初期温度の中間の値になるため、物理的に妥当です。もし気体の量が同じ(\(m_A=m_B\))なら、最終温度は相加平均 \(\frac{T_A+T_B}{2}\) になりますが、今回は \(m_A > m_B\) なので、より量の多いAの初期温度 \(T_A\) に近い値(相加平均より小さい値)になるはずで、調和平均が相加平均より小さいことと整合します。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)):
- 核心: 気体の圧力、体積、物質量、温度という4つの状態量を結びつける、熱力学の最も基本的な法則です。この問題では、初期状態と最終状態のそれぞれで、気体AとBについて状態方程式を立てることが全ての解析の出発点となります。
- 理解のポイント: (1)では初期状態の力のつり合い(圧力が等しい)を、(2)では最終状態の力のつり合いと体積の関係を、それぞれ状態方程式を用いて数式化しています。
- 力学的平衡と熱平衡:
- 核心: なめらかに動く仕切りは、両側の圧力が等しくなる位置で静止します(力学的平衡)。また、熱を伝える仕切りは、十分に時間が経つと両側の温度が等しくなります(熱平衡)。
- 理解のポイント: (1)では初期の力学的平衡を、(2)では最終状態での力学的平衡と熱平衡の両方を利用します。これらの平衡条件が、どの物理量が等しくなるかを教えてくれます。
- 内部エネルギー保存則:
- 核心: シリンダー全体が断熱材でできており、外部との熱のやりとり(\(Q_{\text{吸収}}=0\))がなく、かつ外部に対して仕事をしない(\(W_{\text{外部へ}}=0\))ため、系全体の内部エネルギーの総和は保存されます。これが(2)の最終温度を決定する最も重要な法則です。
- 理解のポイント: \(U_{\text{A,初}} + U_{\text{B,初}} = U_{\text{A,終}} + U_{\text{B,終}}\) という関係式は、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q+W\) を系全体に適用した結果(\(\Delta U_{\text{全体}} = 0\))に他なりません。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 断熱されたピストンで仕切られた気体: この問題とほぼ同じ設定です。ピストンが断熱性か透熱性(熱を伝えるか)かで、最終状態の温度がどうなるかが変わります。
- コックで繋がれた2つの容器内の気体の混合: 2つの容器の気体をコックを開いて混合させる問題。体積は変化しませんが、圧力と温度が変化します。容器全体が断熱されていれば、同様に内部エネルギー保存則が使えます。
- 断熱変化・定圧変化: ピストンが固定されていたり、外圧が一定だったりする問題。この問題のように系全体が断熱されていても、片方の気体だけを見ると断熱変化ではありません(熱の移動があるため)。各部分がどのような変化をするのかを見極めることが重要です。
- 初見の問題での着眼点:
- 系の境界条件を確認する: 「シリンダーの外壁は断熱」「仕切りは熱を伝える」「仕切りはなめらかに動く」といった境界条件が、どの物理法則(エネルギー保存、温度・圧力の均一化)が使えるかを決定します。
- 初期状態と最終状態を明確にする: それぞれの状態で、圧力、体積、温度、物質量がどうなっているか、あるいはどういう関係にあるかを整理します。
- 保存則が使えないか検討する: 「断熱」「外部との仕事なし」というキーワードから、エネルギー保存則の適用を第一に考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 内部エネルギーの式の間違い:
- 誤解: 単原子分子の内部エネルギーを \(U = \displaystyle\frac{5}{2}nRT\)(二原子分子)や \(U=nC_V T\) の \(C_V\) を間違える。
- 対策: 問題文に「単原子分子」と明記されているのを見落とさないこと。基本的な分子種の内部エネルギーの式は正確に暗記しておきましょう。
- エネルギー保存則の誤用:
- 誤解: 気体Aだけ、あるいは気体Bだけでエネルギーが保存されると考えてしまう。
- 対策: エネルギー保存則は、閉じた系(外部とのエネルギーのやりとりがない系)全体に適用される法則です。この問題では、AとBは互いに熱や仕事をやりとりしているので、それぞれ単独ではエネルギーは保存されません。「AとBを合わせた全体」が閉じた系であると正しく認識することが重要です。
- 状態方程式の変数の混同:
- 誤解: 初期状態の圧力や温度を、最終状態の計算でうっかり使ってしまう。
- 対策: 初期状態の物理量には \(p, T_A, T_B\) など、最終状態の物理量には \(p’, T\) など、明確に記号を区別して立式する習慣をつけましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 状態変化のプロセスイメージ:
- 初期状態: 温度の高いBの分子は激しく運動し、温度の低いAの分子は比較的穏やかに運動している。しかし、Bは量が少ないため、Aと同じ圧力になっている。
- 変化の途中: 熱を伝える仕切りを通じて、BからAへ熱エネルギーが移動する。熱をもらったAの分子は元気になり、膨張してBを押し始める。
- 最終状態: 熱の移動が止まり、AとBの温度は同じになる。Aが膨張しBが収縮した結果、両者の圧力が再び等しくなった位置で仕切りが静止する。
- エネルギーのキャッチボール: AとBの内部エネルギーの合計という「ボールの総数」は変わらない。Bが持っていた「熱いボール(エネルギー)」をAにいくつか渡して、最終的に2人が同じ温度のボールを持つようになった、とイメージすると内部エネルギー保存則が直感的に理解できます。
- 状態変化のプロセスイメージ:
- 図を描く際に注意すべき点:
- 初期状態と最終状態の2つの図を並べて描く。
- それぞれの図に、圧力(\(p, p’\))、体積(\(SL, S(L\pm x)\))、温度(\(T_A, T_B, T\))を明確に書き込む。これにより、どの変数が変化し、どの変数が同じなのかが一目瞭然になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)):
- 選定理由: 気体の状態(圧力、体積、温度など)を扱う問題であり、これらの物理量を関連付ける必要があるため。熱力学のあらゆる問題の基礎となります。
- 適用根拠: 問題文に「理想気体」と明記されているため、この法則を適用できます。
- 内部エネルギー保存則 (\(\Delta U_{\text{全体}}=0\)):
- 選定理由: (2)で未知数が最終温度\(T\)と移動距離\(x\)の2つあるのに対し、状態方程式だけでは式が足りない。別の物理法則が必要となる。
- 適用根拠: 「シリンダーは断熱」「外部への仕事なし」という条件から、系全体のエネルギーが保存されると判断できるため。これは熱力学第一法則 \(\Delta U = Q+W\) において、系全体で \(Q=0, W=0\) となることに相当します。
- 単原子分子の内部エネルギーの公式 (\(U = \frac{3}{2}nRT\)):
- 選定理由: 内部エネルギー保存則を具体的な式で表現するために必要。
- 適用根拠: 問題文に「単原子分子」と指定されているため、この公式を選択します。もし二原子分子なら \(\frac{5}{2}nRT\) を使います。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 質量 \(m_B\) の計算:
- 戦略: 初期状態の力学的平衡(圧力が等しい)に着目する。
- フロー: ①A, Bそれぞれについて初期状態の状態方程式を立式 → ②両式の左辺が等しいことから、右辺同士を等しいとおく → ③式を \(m_B\) について解く。
- (2) 移動距離 \(x\) と最終温度 \(T\) の計算:
- 戦略: 未知数が2つ(\(x, T\))なので、2つの独立した物理法則(状態方程式、エネルギー保存則)から2本の式を立てて連立させる。
- フロー(\(x\)の計算): ①A, Bそれぞれについて最終状態の状態方程式を立式 → ②両式の辺々を割り算し、共通項を消去する → ③(1)の結果を代入し、式を \(x\) について解く。
- フロー(\(T\)の計算): ①初期状態と最終状態の内部エネルギーの和をそれぞれ立式 → ②内部エネルギー保存則から両者を等しいとおく → ③(1)の結果を代入し、式を \(T\) について解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: (2)の計算では、(1)で求めた \(m_B = \displaystyle\frac{T_A}{T_B} m_A\) をすぐに代入するのではなく、まずは \(m_A, m_B\) のまま計算を進め、最後の段階で代入すると見通しが良くなります。
- \(x\) の計算: \(\displaystyle\frac{L+x}{L-x} = \frac{m_A}{m_B}\) まで進めてから代入する。
- \(T\) の計算: \(T = \displaystyle\frac{m_A T_A + m_B T_B}{m_A + m_B}\) まで進めてから代入する。
- 分数の計算を丁寧に行う: 最終温度 \(T\) の計算では、分母に分数が入る形(繁分数)になります。焦らず、分母と分子に同じ数を掛けるなどして、段階的に整理しましょう。
$$ T = \frac{2 m_A T_A}{m_A \left(1 + \displaystyle\frac{T_A}{T_B}\right)} = \frac{2 m_A T_A}{m_A \left(\displaystyle\frac{T_B + T_A}{T_B}\right)} $$
ここで分母分子に \(T_B\) を掛けると考えると、
$$ T = \frac{2 m_A T_A \cdot T_B}{m_A (T_B + T_A)} = \frac{2 T_A T_B}{T_A + T_B} $$
となり、計算ミスを減らせます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 質量 \(m_B\): \(m_B = \frac{T_A}{T_B} m_A\)。\(T_A < T_B\) なので \(m_B < m_A\)。温度が高いBの方が分子運動が激しいので、同じ圧力を出すのに必要な気体の量は少なくて済む、という直感と一致します。
- (2) 移動距離 \(x\): \(x = \frac{T_B – T_A}{T_A + T_B} L\)。\(T_B > T_A\) なので \(x>0\)。これは仕切りがBからAの方向に押されることを意味し、物理的直感と合致します。また、もし \(T_A=T_B\) なら \(x=0\) となり、仕切りは動かないはずで、式とも一致します。
- (2) 最終温度 \(T\): \(T = \frac{2 T_A T_B}{T_A + T_B}\)。この値(調和平均)は、必ず \(T_A\) と \(T_B\) の間の値になります。もし \(T_A=T_B\) なら \(T=T_A\) となり、温度変化は起こらないはずで、式とも一致します。最終温度が初期温度の範囲外になることは物理的にありえないため、この吟味は有効です。
- 別解との比較:
- (2)の最終温度は、マクロな視点での「内部エネルギー保存則」と、ミクロな視点での「熱力学第一法則」の両方から導出できました。異なるアプローチで同じ結論に至ることは、解の正しさを強力に裏付けます。
216 気体の変化
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、理想気体が定積変化、断熱変化、定圧変化という3つの過程を経て元の状態に戻るサイクル(A→B→C→A)を扱う、熱力学の総合問題です。各状態における物理量(体積、温度)、過程ごとの熱量や仕事、そしてサイクル全体の熱効率を求めることで、熱力学の法則の理解度を多角的に問われます。
この問題の核心は、各過程の特性を正しく理解し、理想気体の状態方程式、熱力学第一法則、そして各変化(定積、定圧、断熱)に特有の公式を適切に使い分けることです。
- 気体の種類: 単原子分子の理想気体
- 物質量: \(n = 2.0 \text{ mol}\)
- 状態変化のサイクル: A→B→C→A
- A→B: 定積変化
- B→C: 断熱変化 (\(pV^\gamma = \text{一定}\))
- C→A: 定圧変化
- 状態A:
- 圧力 \(p_A = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)
- 絶対温度 \(T_A = 300 \text{ K}\)
- 状態B:
- 圧力 \(p_B = 4.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)
- 状態C:
- 圧力 \(p_C = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)
- 比熱比: \(\gamma = \displaystyle\frac{5}{3}\)
- 定数: \(\sqrt[5]{64} = 2.3\)
- 気体定数: \(R = 8.3 \text{ J/(mol}\cdot\text{K)}\)
- (1) 状態Aの体積 \(V_A\)、状態Bの絶対温度 \(T_B\)、状態Cの体積 \(V_C\) と絶対温度 \(T_C\)。
- (2) A→B、C→Aの各過程で気体に加えた熱量 \(Q_{AB}\), \(Q_{CA}\)。
- (3) C→A、B→Cの各過程で気体がした仕事 \(W_{CA}\), \(W_{BC}\)。
- (4) このサイクルを熱機関と考えたときの熱効率 \(e\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「理想気体の状態変化と熱力学サイクル」です。p-Vグラフで囲まれたサイクルの解析は、熱力学の最重要テーマの一つです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)。全ての状態において成立する基本法則です。
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q + W_{\text{された}}\) または \(Q = \Delta U + W_{\text{した}}\)。内部エネルギーの変化、熱、仕事の関係を表します。
- 各過程の性質:
- 定積変化: 体積一定 (\(W=0\))。加えた熱は全て内部エネルギーの増加に使われる。
- 定圧変化: 圧力一定。熱、仕事、内部エネルギー変化の全てが関わる。
- 断熱変化: 熱の出入りがない (\(Q=0\))。ポアソンの法則 (\(pV^\gamma = \text{一定}\)) が成り立つ。
- 単原子分子の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、各状態(A, B, C)の圧力、体積、温度を全て特定します。状態方程式や各変化の法則を駆使して、未知の量を順に求めていきます(問1)。
- 次に、各過程(A→B, B→C, C→A)について、熱力学第一法則を適用し、熱量や仕事を計算します。各過程の特性(定積、断熱、定圧)に応じた公式を使います(問2, 問3)。
- 最後に、サイクル全体で吸収した熱量と、正味の仕事から熱効率を計算します(問4)。
問(1)
思考の道筋とポイント
状態A, B, Cにおける体積と温度を求める問題です。わかっている状態量から、状態方程式や変化の法則を使って未知の量を一つずつ明らかにしていきます。
- 状態A: 圧力と温度がわかっているので、状態方程式から体積 \(V_A\) を求めます。
- 状態B: A→Bは定積変化なので \(V_B = V_A\)。圧力もわかっているので、状態方程式(またはボイル・シャルルの法則)から温度 \(T_B\) を求めます。
- 状態C: B→Cは断熱変化なので、ポアソンの法則 \(p_B V_B^\gamma = p_C V_C^\gamma\) を使って体積 \(V_C\) を求めます。体積と圧力がわかれば、状態方程式から温度 \(T_C\) を求められます。
この設問における重要なポイント
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
- 定積変化の性質: \(V_A = V_B\)
- ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{p_A V_A}{T_A} = \frac{p_B V_B}{T_B}\)
- ポアソンの法則(断熱変化): \(pV^\gamma = \text{一定}\)
具体的な解説と立式
(状態Aの体積 \(V_A\))
状態Aについて、理想気体の状態方程式 \(p_A V_A = n R T_A\) を適用します。
$$ (1.0 \times 10^5) \times V_A = 2.0 \times 8.3 \times 300 \quad \cdots ① $$
(状態Bの絶対温度 \(T_B\))
A→Bは定積変化なので、体積は \(V_B = V_A\) です。
状態AとBについて、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{p_A V_A}{T_A} = \frac{p_B V_B}{T_B}\) を適用します。
$$ \frac{(1.0 \times 10^5) \times V_A}{300} = \frac{(4.0 \times 10^5) \times V_A}{T_B} \quad \cdots ② $$
(状態Cの体積 \(V_C\) と絶対温度 \(T_C\))
B→Cは断熱変化なので、ポアソンの法則 \(p V^\gamma = \text{一定}\) が成り立ちます。
$$ p_B V_B^\gamma = p_C V_C^\gamma \quad \cdots ③ $$
ここで、\(V_B = V_A\) です。
体積 \(V_C\) が求まった後、状態Cについて理想気体の状態方程式 \(p_C V_C = n R T_C\) を適用して \(T_C\) を求めます。
$$ (1.0 \times 10^5) \times V_C = 2.0 \times 8.3 \times T_C \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
- ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{p_1V_1}{T_1} = \frac{p_2V_2}{T_2}\)
- ポアソンの法則: \(pV^\gamma = \text{一定}\)
(状態Aの体積 \(V_A\))
式①を \(V_A\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
V_A &= \frac{2.0 \times 8.3 \times 300}{1.0 \times 10^5} \\[2.0ex]&= 4980 \times 10^{-5} \\[2.0ex]&= 4.98 \times 10^{-2} \text{ [m}^3\text{]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(5.0 \times 10^{-2} \text{ [m}^3\text{]}\) となりますが、後の計算のために \(4.98 \times 10^{-2}\) を用います。
(状態Bの絶対温度 \(T_B\))
式②の両辺から \(V_A\) を消去し、\(T_B\) について解きます。
$$ \frac{1.0 \times 10^5}{300} = \frac{4.0 \times 10^5}{T_B} $$
$$
\begin{aligned}
T_B &= \frac{4.0 \times 10^5}{1.0 \times 10^5} \times 300 \\[2.0ex]&= 4 \times 300 \\[2.0ex]&= 1200 \text{ [K]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(1.2 \times 10^3 \text{ K}\) です。
(状態Cの体積 \(V_C\))
式③に値を代入します。\(V_B = V_A = 4.98 \times 10^{-2}\), \(\gamma = 5/3\)。
$$ (4.0 \times 10^5) \times (4.98 \times 10^{-2})^{5/3} = (1.0 \times 10^5) \times V_C^{5/3} $$
$$ V_C^{5/3} = 4 \times (4.98 \times 10^{-2})^{5/3} $$
両辺を \(3/5\) 乗します。
$$
\begin{aligned}
V_C &= (4)^{3/5} \times (4.98 \times 10^{-2}) \\[2.0ex]&= (2^2)^{3/5} \times (4.98 \times 10^{-2}) \\[2.0ex]&= 2^{6/5} \times (4.98 \times 10^{-2}) \\[2.0ex]&= \sqrt[5]{2^6} \times (4.98 \times 10^{-2}) \\[2.0ex]&= \sqrt[5]{64} \times (4.98 \times 10^{-2})
\end{aligned}
$$
問題文の \(\sqrt[5]{64} = 2.3\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
V_C &= 2.3 \times 4.98 \times 10^{-2} \\[2.0ex]&= 11.454 \times 10^{-2} \\[2.0ex]&\approx 0.11 \text{ [m}^3\text{]}
\end{aligned}
$$
(状態Cの絶対温度 \(T_C\))
式④に \(V_C = 0.11454\) を代入して \(T_C\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
T_C &= \frac{(1.0 \times 10^5) \times 0.11454}{2.0 \times 8.3} \\[2.0ex]&= \frac{11454}{16.6} \\[2.0ex]&= 689.9… \text{ [K]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(6.9 \times 10^2 \text{ K}\) となります。
(1) まずは各地点(A, B, C)の住所(体積)と気温(温度)を調べる作業です。
A地点: 圧力と温度がわかっているので、気体の基本公式(状態方程式)で体積を計算します。
B地点: AからBへは「まっすぐ上(定積)」に進むので、体積はAと同じです。温度は圧力に比例するので、圧力が4倍になったなら温度も4倍になります。
C地点: BからCへは特殊な道(断熱)を通ります。この道専用の公式(ポアソンの法則)を使ってCの体積を計算し、その後、基本公式で温度を計算します。
状態Aの体積 \(V_A \approx 5.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\)。
状態Bの絶対温度 \(T_B = 1.2 \times 10^3 \text{ K}\)。
状態Cの体積 \(V_C \approx 0.11 \text{ m}^3\)、絶対温度 \(T_C \approx 6.9 \times 10^2 \text{ K}\)。
各値は模範解答と一致しています。断熱膨張(B→C)で温度が下がり(\(1200 \text{ K} \rightarrow 690 \text{ K}\))、定圧圧縮(C→A)でさらに温度が下がっている(\(690 \text{ K} \rightarrow 300 \text{ K}\))という変化は物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
A→B(定積変化)とC→A(定圧変化)で気体に加えた熱量を求める問題です。それぞれの変化に応じた熱量の公式を使います。
- A→B(定積変化): 定積モル比熱 \(C_V\) を用いて \(Q = n C_V \Delta T\) で計算します。単原子分子なので \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\) です。
- C→A(定圧変化): 定圧モル比熱 \(C_p\) を用いて \(Q = n C_p \Delta T\) で計算します。単原子分子なので \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\) です。
この設問における重要なポイント
- 定積モル比熱(単原子分子): \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\)
- 定圧モル比熱(単原子分子): \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\)
- 熱量の公式: \(Q = n C \Delta T\)
具体的な解説と立式
(A→Bの熱量 \(Q_{AB}\))
A→Bは定積変化なので、加えた熱量 \(Q_{AB}\) は、
$$ Q_{AB} = n C_V (T_B – T_A) $$
単原子分子の理想気体なので、\(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\) です。
$$ Q_{AB} = n \left(\frac{3}{2}R\right) (T_B – T_A) \quad \cdots ⑤ $$
(C→Aの熱量 \(Q_{CA}\))
C→Aは定圧変化なので、加えた熱量 \(Q_{CA}\) は、
$$ Q_{CA} = n C_p (T_A – T_C) $$
単原子分子の理想気体なので、\(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\) です。
$$ Q_{CA} = n \left(\frac{5}{2}R\right) (T_A – T_C) \quad \cdots ⑥ $$
使用した物理公式
- 定積変化の熱量: \(Q = nC_V \Delta T\)
- 定圧変化の熱量: \(Q = nC_p \Delta T\)
(A→Bの熱量 \(Q_{AB}\))
式⑤に値を代入します。\(n=2.0, R=8.3, T_A=300, T_B=1200\)。
$$
\begin{aligned}
Q_{AB} &= 2.0 \times \left(\frac{3}{2} \times 8.3\right) \times (1200 – 300) \\[2.0ex]&= 3.0 \times 8.3 \times 900 \\[2.0ex]&= 22410 \text{ [J]} \\[2.0ex]&\approx 2.2 \times 10^4 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
(C→Aの熱量 \(Q_{CA}\))
式⑥に値を代入します。\(n=2.0, R=8.3, T_A=300, T_C=690\) (計算には686 Kを用いる)。
$$
\begin{aligned}
Q_{CA} &= 2.0 \times \left(\frac{5}{2} \times 8.3\right) \times (300 – 686) \\[2.0ex]&= 5.0 \times 8.3 \times (-386) \\[2.0ex]&= -16019 \text{ [J]} \\[2.0ex]&\approx -1.6 \times 10^4 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
\(Q_{CA}\) が負の値なのは、気体が外部に熱を放出したことを意味します。
気体に熱を加えることは、気体の温度を上げることにつながります。
A→B: 体積を変えずに温める(定積)場合と、C→A: 圧力を一定に保ちながら冷やす(定圧)場合では、温まり方(冷え方)の効率が違います。それぞれの専用の公式を使って、出入りした熱の量を計算します。
A→Bで加えた熱量は \(2.2 \times 10^4 \text{ J}\)。C→Aで加えた熱量は \(-1.6 \times 10^4 \text{ J}\)(つまり \(1.6 \times 10^4 \text{ J}\) の熱を放出した)。
A→Bでは温度が上昇しているので吸熱(\(Q>0\))、C→Aでは温度が下降しているので放熱(\(Q<0\))となり、結果は物理的に妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
C→A(定圧変化)とB→C(断熱変化)で気体がした仕事を求める問題です。
- C→A(定圧変化): 仕事は \(W = p \Delta V\) で計算できます。
- B→C(断熱変化): 仕事を直接計算する公式は複雑なので、熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W_{\text{した}}\) を利用します。断熱変化では \(Q=0\) なので、した仕事は内部エネルギーの減少分 (\(-\Delta U\)) に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- 定圧変化の仕事: \(W_{\text{した}} = p \Delta V = p(V_{\text{終}} – V_{\text{初}})\)
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W_{\text{した}}\)
- 断熱変化の性質: \(Q=0\)。よって \(W_{\text{した}} = -\Delta U\)。
- 内部エネルギーの変化: \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)
具体的な解説と立式
(C→Aの仕事 \(W_{CA}\))
C→Aは定圧変化なので、気体がした仕事 \(W_{CA}\) は、
$$ W_{CA} = p_A (V_A – V_C) \quad \cdots ⑦ $$
(B→Cの仕事 \(W_{BC}\))
B→Cは断熱変化なので、熱の出入りは \(Q_{BC} = 0\) です。
熱力学第一法則 \(Q_{BC} = \Delta U_{BC} + W_{BC}\) より、
$$ 0 = \Delta U_{BC} + W_{BC} $$
$$ W_{BC} = – \Delta U_{BC} \quad \cdots ⑧ $$
内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{BC}\) は、
$$ \Delta U_{BC} = \frac{3}{2} n R (T_C – T_B) \quad \cdots ⑨ $$
使用した物理公式
- 仕事の定義(定圧): \(W = p\Delta V\)
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
- 内部エネルギーの公式: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)
(C→Aの仕事 \(W_{CA}\))
式⑦に値を代入します。\(p_A = 1.0 \times 10^5\), \(V_A = 4.98 \times 10^{-2}\), \(V_C = 0.1145\)。
$$
\begin{aligned}
W_{CA} &= (1.0 \times 10^5) \times (4.98 \times 10^{-2} – 0.1145) \\[2.0ex]&= (1.0 \times 10^5) \times (-0.0647) \\[2.0ex]&= -6470 \text{ [J]} \\[2.0ex]&\approx -6.5 \times 10^3 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
仕事が負の値なのは、気体が外部から仕事をされた(圧縮された)ことを意味します。
(B→Cの仕事 \(W_{BC}\))
まず式⑨を用いて \(\Delta U_{BC}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta U_{BC} &= \frac{3}{2} \times 2.0 \times 8.3 \times (686 – 1200) \\[2.0ex]&= 3.0 \times 8.3 \times (-514) \\[2.0ex]&= -12796.2 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
式⑧より、\(W_{BC} = – \Delta U_{BC}\) なので、
$$
\begin{aligned}
W_{BC} &= -(-12796.2) \\[2.0ex]&= 12796.2 \text{ [J]} \\[2.0ex]&\approx 1.3 \times 10^4 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
気体が膨張すれば「仕事をした(プラス)」、圧縮されれば「仕事をされた(マイナス)」となります。
C→A: 定圧で圧縮されているので、した仕事はマイナスになります。公式 \(W=p\Delta V\) で計算します。
B→C: 断熱で膨張しています。このとき、気体は外部から熱をもらえないので、自分自身のエネルギー(内部エネルギー)を消費して仕事をします。したがって、した仕事の分だけ内部エネルギーが減ります。この関係から仕事を計算します。
C→Aで気体がした仕事は \(-6.5 \times 10^3 \text{ J}\)。B→Cで気体がした仕事は \(1.3 \times 10^4 \text{ J}\)。
C→Aは圧縮過程なので仕事が負、B→Cは膨張過程なので仕事が正となり、物理的に妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
熱機関の熱効率 \(e\) を求める問題です。熱効率の定義は「(1サイクルで気体がした正味の仕事)/(1サイクルで気体が吸収した熱量)」です。
- 吸収した熱量 \(Q_{\text{吸収}}\) を計算します。熱を加えた過程はA→Bのみなので、\(Q_{\text{吸収}} = Q_{AB}\) です。
- 1サイクルで気体がした正味の仕事 \(W_{\text{正味}}\) を計算します。\(W_{\text{正味}} = W_{AB} + W_{BC} + W_{CA}\) です。A→Bは定積変化なので \(W_{AB}=0\) です。
- 定義式 \(e = \displaystyle\frac{W_{\text{正味}}}{Q_{\text{吸収}}}\) に代入して計算します。
この設問における重要なポイント
- 熱効率の定義: \(e = \displaystyle\frac{W_{\text{正味}}}{Q_{\text{吸収}}}\)
- 吸収熱量 \(Q_{\text{吸収}}\): サイクル中で \(Q>0\) となる熱量の合計。
- 正味の仕事 \(W_{\text{正味}}\): サイクル全体の仕事の合計。\(W_{\text{正味}} = Q_{\text{吸収}} – Q_{\text{放出}}\) の関係も成り立つ。
具体的な解説と立式
熱効率 \(e\) は、吸収した熱量 \(Q_{\text{吸収}}\) と、1サイクルでの正味の仕事 \(W_{\text{正味}}\) を用いて次のように表されます。
$$ e = \frac{W_{\text{正味}}}{Q_{\text{吸収}}} \quad \cdots ⑩ $$
このサイクルで熱を吸収しているのは、温度が上昇するA→Bの過程のみです。したがって、
$$ Q_{\text{吸収}} = Q_{AB} $$
1サイクルでの正味の仕事 \(W_{\text{正味}}\) は、各過程で気体がした仕事の和です。
$$ W_{\text{正味}} = W_{AB} + W_{BC} + W_{CA} $$
A→Bは定積変化なので、体積変化がなく、仕事はゼロです (\(W_{AB}=0\))。
したがって、
$$ W_{\text{正味}} = W_{BC} + W_{CA} $$
使用した物理公式
- 熱効率: \(e = \displaystyle\frac{W_{\text{正味}}}{Q_{\text{吸収}}}\)
(2), (3)の結果を用います。
吸収した熱量:
$$ Q_{\text{吸収}} = Q_{AB} = 2.241 \times 10^4 \text{ [J]} $$
正味の仕事:
$$
\begin{aligned}
W_{\text{正味}} &= W_{BC} + W_{CA} \\[2.0ex]&= (1.286 \times 10^4) + (-6.47 \times 10^3) \\[2.0ex]&= 12860 – 6470 \\[2.0ex]&= 6390 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
熱効率を計算します。
$$
\begin{aligned}
e &= \frac{W_{\text{正味}}}{Q_{\text{吸収}}} \\[2.0ex]&= \frac{6390}{22410} \\[2.0ex]&= 0.2851… \\[2.0ex]&\approx 0.29
\end{aligned}
$$
熱効率とは「投入したエネルギー(吸収した熱)のうち、どれだけの割合を有効な仕事に変換できたか」を示す指標です。この熱エンジンでは、A→Bの過程で燃料を燃やして熱を吸収し、B→CとC→Aの過程を経て、差し引きで外部に仕事をします。この「得られた仕事」を「投入した熱」で割ることで、効率を計算します。
熱効率は \(0.29\) です。これは、吸収した熱エネルギーの29%を仕事に変換できたことを意味します。熱効率は必ず1より小さい値になるため、結果は妥当です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 理想気体の状態方程式 (\(pV=nRT\)):
- 核心: 各状態(A, B, C)における圧力、体積、温度を結びつける基本法則です。未知の状態量を求める際の出発点となります。
- 理解のポイント: (1)では、状態A, B, Cのすべての未知数を求めるために、この方程式を繰り返し使用します。
- 熱力学第一法則 (\(Q = \Delta U + W_{\text{した}}\)):
- 核心: 熱(\(Q\))、内部エネルギーの変化(\(\Delta U\))、仕事(\(W_{\text{した}}\))の間のエネルギー保存則です。各過程におけるこれらの量の関係を明らかにし、未知の量を計算するために不可欠です。
- 理解のポイント: (2)の熱量計算、(3)の仕事計算、(4)の熱効率計算のすべてにおいて、この法則が背景にあります。特に断熱変化(B→C)では \(Q_{BC}=0\) となるため、\(W_{BC} = -\Delta U_{BC}\) という形で仕事と内部エネルギー変化を直接結びつけます。
- 各過程に特有の法則:
- 核心: 定積・定圧・断熱という各過程の性質を数式で表現したものです。これらを状態方程式や第一法則と組み合わせることで、問題を解くことができます。
- 理解のポイント:
- 定積 (A→B): \(W_{AB}=0\)。熱量は \(Q_{AB} = nC_V\Delta T\)。
- 定圧 (C→A): 仕事は \(W_{CA} = p_A\Delta V\)。熱量は \(Q_{CA} = nC_p\Delta T\)。
- 断熱 (B→C): \(Q_{BC}=0\)。ポアソンの法則 \(pV^\gamma = \text{一定}\) が成立。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- スターリングサイクル、オットーサイクルなど他の熱力学サイクル: 異なる過程(例:等温変化)を組み合わせたサイクル問題。基本的なアプローチは同じで、各過程の性質を正しく理解し、状態方程式と第一法則を適用することが鍵となります。
- p-Vグラフが与えられていない問題: 文章だけで状態変化が記述されている問題。まずは与えられた情報からp-Vグラフを自分で描くことが、問題を視覚的に理解し、解法を立てる上で非常に有効です。
- 単原子分子以外(二原子分子など)の気体: 内部エネルギーの式 (\(U=\frac{5}{2}nRT\)) やモル比熱 (\(C_V=\frac{5}{2}R, C_p=\frac{7}{2}R\))、比熱比 (\(\gamma\)) の値が変わります。問題文で気体の種類を必ず確認しましょう。
- 初見の問題での着眼点:
- p-Vグラフを描く: 問題にグラフがなければ、まず自分で概略図を描きます。各状態(点)と各過程(線)を明確にし、圧力・体積・温度の大小関係を把握します。
- 状態量をリストアップする: 各状態A, B, Cについて、\(p, V, T\) の値を一覧表にまとめます。未知の値を計算しながら表を埋めていくと、思考が整理されます。
- 過程の種類を特定する: 各変化が「定積」「定圧」「断熱」「等温」のどれに当たるかを確認し、適用すべき公式を判断します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 仕事の正負の混同:
- 誤解: 「気体がした仕事」と「気体がされた仕事」を取り違える。\(W = p\Delta V\) の \(\Delta V\) が膨張(\(\Delta V > 0\))なら気体は正の仕事をし、圧縮(\(\Delta V < 0\))なら負の仕事をします(=正の仕事をされる)。
- 対策: p-Vグラフをイメージし、「体積が増えれば(右に進めば)仕事は正、体積が減れば(左に進めば)仕事は負」と視覚的に覚えるのが有効です。
- 熱力学第一法則の符号:
- 誤解: \(Q = \Delta U + W\) の \(W\) が「した仕事」なのか「された仕事」なのかを混同する。
- 対策: 自分で使う第一法則の式の形(例: \(Q_{\text{吸収}} = \Delta U + W_{\text{した}}\))を一つに決め、常にその定義で問題を解くように統一しましょう。
- ポアソンの法則の誤用:
- 誤解: 断熱変化でない過程で \(pV^\gamma = \text{一定}\) を使ってしまう。また、\(T V^{\gamma-1} = \text{一定}\) など、他の形の公式との使い分けを間違える。
- 対策: ポアソンの法則は「断熱変化」専用の公式であることを強く意識しましょう。どの形の公式を使うかは、問題で与えられている、あるいは求めやすい物理量(\(p\)と\(V\)、\(T\)と\(V\)など)に応じて選択します。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- p-Vグラフと仕事: p-Vグラフ上で、過程の線とV軸が囲む面積が、その過程で気体がした仕事の大きさを表します。
- B→C(膨張): グラフの下の面積が \(W_{BC}\)(正の仕事)。
- C→A(圧縮): グラフの下の面積が \(|W_{CA}|\)(負の仕事)。
- サイクルが囲む面積: A→B→C→Aの閉じたループが囲む面積が、1サイクルあたりの正味の仕事 \(W_{\text{正味}}\) に相当します。
- エネルギーの流れの図解:
- A→B: 外部から熱 \(Q_{AB}\) が供給される(矢印が気体に入る)。
- B→C: 気体が外部に仕事 \(W_{BC}\) をする(矢印が気体から出る)。
- C→A: 気体が外部に熱 \(Q_{CA}\) を放出し、外部から仕事 \(W_{CA}\) をされる(熱の矢印は外へ、仕事の矢印は内へ)。
このエネルギーの出入りを模式図で描くと、熱効率の意味が直感的に理解できます。
- p-Vグラフと仕事: p-Vグラフ上で、過程の線とV軸が囲む面積が、その過程で気体がした仕事の大きさを表します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 状態方程式 (\(pV=nRT\)):
- 選定理由: 状態量(\(p, V, T\))のうち2つが分かっているときに、残りの1つを求めるため。
- 適用根拠: 「理想気体」である限り、どの状態、どの過程でも普遍的に成り立ちます。
- 定積・定圧モル比熱を用いた熱量の公式 (\(Q=nC\Delta T\)):
- 選定理由: (2)で定積・定圧変化における熱量を計算するため。熱力学第一法則を使って \(\Delta U\) と \(W\) から計算することも可能ですが、こちらの公式の方が直接的で計算が早いです。
- 適用根拠: それぞれ「定積変化」「定圧変化」という条件が満たされている場合にのみ使用できます。
- ポアソンの法則 (\(pV^\gamma = \text{一定}\)):
- 選定理由: (1)で断熱変化(B→C)後の体積 \(V_C\) を求めるため。状態方程式だけでは未知数が多くて解けないため、断熱変化に特有のこの関係式が必要になります。
- 適用根拠: 「断熱変化」という条件が明記されているため、適用できます。
- 熱効率の定義式 (\(e = W_{\text{正味}}/Q_{\text{吸収}}\)):
- 選定理由: (4)で「熱効率」という物理量を計算するために、その定義式を用いるのは当然です。
- 適用根拠: 熱機関の性能を評価するための普遍的な定義です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 全状態量の特定:
- 戦略: A→B→Cの順に、状態方程式と各過程の法則を適用して未知数を埋めていく。
- フロー: ①状態Aで状態方程式 → \(V_A\) 算出 → ②A→Bが定積なので \(V_B=V_A\)。ボイル・シャルルの法則 → \(T_B\) 算出 → ③B→Cが断熱なのでポアソンの法則 → \(V_C\) 算出 → ④状態Cで状態方程式 → \(T_C\) 算出。
- (2),(3) 各過程の熱と仕事の計算:
- 戦略: 各過程の性質(定積、断熱、定圧)に応じた最適な公式を選択する。
- フロー:
- A→B (定積): \(W_{AB}=0\)。\(Q_{AB} = nC_V\Delta T\)。
- B→C (断熱): \(Q_{BC}=0\)。\(W_{BC} = -\Delta U_{BC} = -\frac{3}{2}nR(T_C-T_B)\)。
- C→A (定圧): \(W_{CA} = p_A(V_A-V_C)\)。\(Q_{CA} = nC_p\Delta T\)。
- (4) 熱効率の計算:
- 戦略: 熱効率の定義に従い、必要な量(吸収熱と正味の仕事)を代入する。
- フロー: ①吸収熱 \(Q_{\text{吸収}}\) を特定(\(Q>0\) の過程の熱の和、この場合は \(Q_{AB}\) のみ)→ ②正味の仕事 \(W_{\text{正味}}\) を計算(\(W_{AB}+W_{BC}+W_{CA}\))→ ③ \(e = W_{\text{正味}}/Q_{\text{吸収}}\) に代入。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 有効数字の扱いに注意: 模範解答のように、途中の計算では有効数字より1桁多く残しておき、最終的な答えを出すときに丸めるのが理想的です。例えば(1)で \(V_A=4.98 \times 10^{-2}\) を使って \(V_C\) や \(T_C\) を計算することで、丸め誤差の蓄積を防げます。
- 単位の換算: この問題では全てSI基本単位系で与えられているため不要ですが、体積がL(リットル)で与えられた場合などは、\(1 \text{ L} = 10^{-3} \text{ m}^3\) のように正しく換算する必要があります。
- 指数の計算: ポアソンの法則の計算では、\( (10^5)^{3/5} = 10^{5 \times 3/5} = 10^3 \) のような指数法則の計算を正確に行う必要があります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 温度変化: A→B(定積加熱)で温度上昇、B→C(断熱膨張)で温度下降、C→A(定圧冷却)で温度下降。このサイクルの温度変化はp-Vグラフの動きと整合しており、妥当です。
- 仕事の符号: B→Cは膨張なので \(W_{BC}>0\)、C→Aは圧縮なので \(W_{CA}<0\)。これもグラフから明らかで、計算結果の符号と一致しています。
- 熱効率: \(e=0.29\) は \(0 < e < 1\) を満たしており、熱機関の効率として妥当な値です。もし1以上になったら、計算ミスを疑うべきです。
- サイクル全体での熱力学第一法則の確認:
- 1サイクル後には元の状態Aに戻るので、内部エネルギーの変化はゼロ(\(\Delta U_{\text{サイクル}}=0\))です。
- 熱力学第一法則より、1サイクルの熱と仕事の関係は \(Q_{\text{正味}} = W_{\text{正味}}\) が成り立つはずです。ここで \(Q_{\text{正味}} = Q_{\text{吸収}} + Q_{\text{放出}}\) です。
- 実際に計算してみると、
- \(Q_{\text{正味}} = Q_{AB} + Q_{BC} + Q_{CA} = (2.241 \times 10^4) + 0 + (-1.602 \times 10^4) \approx 6.39 \times 10^3 \text{ J}\)
- \(W_{\text{正味}} = W_{AB} + W_{BC} + W_{CA} = 0 + (1.286 \times 10^4) + (-6.47 \times 10^3) \approx 6.39 \times 10^3 \text{ J}\)
- 計算の丸め誤差はありますが、両者が一致していることが確認でき、計算全体が自己無撞着であることを示しています。これは非常に強力な検算方法です。
217 断熱変化
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、単原子分子理想気体のモル比熱に関する基本的な知識と、断熱変化における物理量(圧力、体積、温度)の関係を問う、穴埋め形式の問題です。熱力学の重要な公式とその導出、そして物理的な意味の理解が試されます。
この問題の核心は、モル比熱の関係式(マイヤーの関係)、ポアソンの法則(\(pV^\gamma = \text{一定}\))、そしてそれを状態方程式と組み合わせて得られる \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) という関係式を正しく理解し、適用することです。
- 気体の種類: 単原子分子の理想気体
- 気体定数: \(R \text{ [J/(mol}\cdot\text{K)]}\)
- 変化の種類: 断熱膨張
- 変化後の絶対温度: 元の \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍
- ① 単原子分子の定積モル比熱 \(C_V\)。
- ② 定圧モル比熱 \(C_p\) と定積モル比熱 \(C_V\) の差。
- ③ 断熱膨張後の体積が元の何倍になるか。
- ④ 断熱膨張後の圧力が元の何倍になるか。
- ⑤ 断熱膨張後の分子1個の平均運動エネルギーが元の何倍になるか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「理想気体のモル比熱と断熱変化」です。熱力学の法則を具体的な計算に適用する能力を養います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- モル比熱: 定積モル比熱 \(C_V\) と定圧モル比熱 \(C_p\) の定義と、その関係式(マイヤーの関係 \(C_p – C_V = R\))。
- 内部エネルギー: 単原子分子の内部エネルギー \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\) と定積モル比熱の関係 \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\)。
- 断熱変化とポアソンの法則: 断熱変化中に成り立つ \(pV^\gamma = \text{一定}\) という関係。比熱比 \(\gamma = \displaystyle\frac{C_p}{C_V}\)。
- 状態方程式とポアソンの法則の組み合わせ: \(pV^\gamma = \text{一定}\) に \(p = \displaystyle\frac{nRT}{V}\) を代入することで導かれる \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) の関係。
- 気体分子運動論: 分子1個の平均運動エネルギーが絶対温度に比例するという関係 (\(\displaystyle\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3}{2}k_B T\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、単原子分子の内部エネルギーの公式から定積モル比熱を求めます(①)。次に、マイヤーの関係式から定圧モル比熱との差を求めます(②)。
- 断熱変化において温度と体積を結びつける関係式 \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) を用い、与えられた温度変化から体積の変化率を計算します(③)。
- ポアソンの法則 \(pV^\gamma = \text{一定}\) を用い、③で求めた体積変化から圧力の変化率を計算します(④)。
- 最後に、分子1個の平均運動エネルギーと絶対温度の関係から、エネルギーの変化率を求めます(⑤)。
問①, ②
思考の道筋とポイント
単原子分子の定積モル比熱 \(C_V\) と、定圧モル比熱 \(C_p\) との関係を問う問題です。これは熱力学の基本的な定義と法則に関する知識問題です。
- ① 定積モル比熱 \(C_V\): 熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) を定積変化に適用すると、\(W=0\) なので \(\Delta U = Q\)。また、熱量の定義から \(Q = nC_V \Delta T\)。よって \(\Delta U = nC_V \Delta T\)。一方、単原子分子の内部エネルギーは \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\) なので、\(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)。この2式を比較することで \(C_V\) が求まります。
- ② マイヤーの関係: 定圧モル比熱 \(C_p\) と定積モル比熱 \(C_V\) の間には、気体の種類によらず \(C_p – C_V = R\) という関係が成り立ちます。
この設問における重要なポイント
- 内部エネルギーの公式(単原子分子): \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)
- 定積モル比熱の定義関係: \(\Delta U = nC_V \Delta T\)
- マイヤーの関係式: \(C_p – C_V = R\)
具体的な解説と立式
(① 定積モル比熱 \(C_V\))
単原子分子の理想気体の内部エネルギー \(U\) は、
$$ U = \frac{3}{2}nRT $$
と表されます。内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、
$$ \Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T \quad \cdots (a) $$
一方、定積モル比熱 \(C_V\) の定義より、定積変化における内部エネルギーの変化は、
$$ \Delta U = nC_V\Delta T \quad \cdots (b) $$
式(a)と(b)を比較して、
$$ C_V = \frac{3}{2}R $$
(② マイヤーの関係)
定圧モル比熱 \(C_p\) は、定積モル比熱 \(C_V\) に気体定数 \(R\) を加えた値となります。
$$ C_p = C_V + R $$
これはマイヤーの関係式として知られています。したがって、加える値は \(R\) です。
使用した物理公式
- 内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)
- マイヤーの関係式: \(C_p = C_V + R\)
これらは公式そのものであるため、特別な計算過程はありません。
① 気体を体積一定の箱に入れて温めると、加えた熱はすべて気体の内部エネルギー(分子の運動エネルギー)の増加に使われます。このときの「温まりやすさ」を示すのが定積モル比熱で、単原子分子の場合は \(\displaystyle\frac{3}{2}R\) と決まっています。
② 気体をピストン付きの容器に入れて、圧力を一定に保ちながら温めると、気体は膨張して外部に仕事をしてしまいます。そのため、同じだけ温度を上げるのにも、定積のときより多くの熱(仕事をする分だけ余計に)が必要になります。この余分に必要な熱が気体定数 \(R\) に相当します。
① 定積モル比熱は \(\displaystyle\frac{3}{2}R\)。
② 定圧モル比熱は定積モル比熱に \(R\) を加えた値。
これらは熱力学の基本公式であり、問題の空欄と一致します。
問③, ④
思考の道筋とポイント
断熱膨張における体積と圧力の変化を求める問題です。与えられているのは温度の変化なので、まず温度と体積の関係式を使って体積の変化を求め(③)、次に体積と圧力の関係式を使って圧力の変化を求めます(④)。
- 比熱比 \(\gamma\) の計算: まず、単原子分子の比熱比 \(\gamma = \displaystyle\frac{C_p}{C_V}\) を計算しておく必要があります。
- ③ 体積の変化: 断熱変化では \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) が成り立ちます。この式を使って、温度が \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍になったときの体積を求めます。
- ④ 圧力の変化: 断熱変化では \(pV^\gamma = \text{一定}\) が成り立ちます。この式と③で求めた体積の関係を使って、圧力が何倍になるかを計算します。
この設問における重要なポイント
- 比熱比の定義: \(\gamma = \displaystyle\frac{C_p}{C_V}\)
- 断熱変化の関係式: \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) および \(pV^\gamma = \text{一定}\)
具体的な解説と立式
まず、単原子分子の比熱比 \(\gamma\) を求めます。
$$ C_p = C_V + R = \frac{3}{2}R + R = \frac{5}{2}R $$
$$ \gamma = \frac{C_p}{C_V} = \frac{\displaystyle\frac{5}{2}R}{\displaystyle\frac{3}{2}R} = \frac{5}{3} $$
(③ 体積の変化)
断熱膨張の前の状態を(\(T, V\))、後の状態を(\(T’, V’\))とします。
問題の条件より、\(T’ = \displaystyle\frac{1}{4}T\)。
断熱変化では \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) が成り立つので、
$$ T V^{\gamma-1} = T’ V’^{\gamma-1} $$
ここに、\(T’ = \displaystyle\frac{1}{4}T\) と \(\gamma = \displaystyle\frac{5}{3}\) を代入します。
$$ T V^{\frac{5}{3}-1} = \left(\frac{1}{4}T\right) V’^{\frac{5}{3}-1} $$
$$ T V^{2/3} = \frac{1}{4}T V’^{2/3} \quad \cdots (c) $$
(④ 圧力の変化)
断熱膨張の前の圧力を \(p\)、後の圧力を \(p’\) とします。
断熱変化では \(pV^\gamma = \text{一定}\) が成り立つので、
$$ pV^\gamma = p’V’^\gamma \quad \cdots (d) $$
使用した物理公式
- 比熱比: \(\gamma = C_p/C_V\)
- ポアソンの法則: \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\), \(pV^\gamma = \text{一定}\)
(③ 体積の変化)
式(c)を整理します。
$$ V^{2/3} = \frac{1}{4} V’^{2/3} $$
$$ 4 V^{2/3} = V’^{2/3} $$
両辺を \(3/2\) 乗します。
$$
\begin{aligned}
V’ &= (4)^{3/2} \times (V^{2/3})^{3/2} \\[2.0ex]&= (\sqrt{4})^3 \times V \\[2.0ex]&= 2^3 \times V \\[2.0ex]&= 8V
\end{aligned}
$$
よって、体積は元の8倍になります。
(④ 圧力の変化)
式(d)を \(p’\) について解きます。
$$ p’ = p \left(\frac{V}{V’}\right)^\gamma $$
ここに、\(V’ = 8V\) と \(\gamma = \displaystyle\frac{5}{3}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
p’ &= p \left(\frac{V}{8V}\right)^{5/3} \\[2.0ex]&= p \left(\frac{1}{8}\right)^{5/3} \\[2.0ex]&= p \left(\frac{1}{2^3}\right)^{5/3} \\[2.0ex]&= p \frac{1}{(2^3)^{5/3}} \\[2.0ex]&= p \frac{1}{2^5} \\[2.0ex]&= \frac{1}{32}p
\end{aligned}
$$
よって、圧力は元の \(\displaystyle\frac{1}{32}\) 倍になります。
③④ 気体を断熱材で囲んで急に膨張させると、気体は自分自身のエネルギーを使って膨張するため、温度が下がります。この断熱変化には「温度と体積」「圧力と体積」の間に特殊な関係式(ポアソンの法則)が成り立ちます。今回は温度が1/4になったという情報から、まず「温度と体積」の関係式を使って体積が何倍になったかを計算し、次にその体積変化を使って「圧力と体積」の関係式から圧力が何倍になったかを計算します。
③ 体積は8倍になる。
④ 圧力は \(\displaystyle\frac{1}{32}\) 倍になる。
断熱「膨張」なので体積が増え、圧力と温度が下がるのは当然です。計算結果もそのようになっているため、物理的に妥当です。
問⑤
思考の道筋とポイント
分子1個の平均運動エネルギーが何倍になるかを問う問題です。気体分子運動論によれば、理想気体の分子1個あたりの平均運動エネルギーは、気体の種類によらず、絶対温度 \(T\) にのみ比例します。
この設問における重要なポイント
- 気体分子運動論の帰結: 分子1個の平均運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3}{2}k_B T\) で与えられ、絶対温度 \(T\) に比例する。(\(k_B\) はボルツマン定数)
具体的な解説と立式
分子1個の平均運動エネルギーを \(E_k\) とすると、
$$ E_k = \frac{3}{2}k_B T $$
この式から、平均運動エネルギー \(E_k\) は絶対温度 \(T\) に正比例することがわかります。
$$ E_k \propto T $$
したがって、絶対温度が \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍になれば、平均運動エネルギーも \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍になります。
使用した物理公式
- 分子1個の平均運動エネルギー: \(E_k = \displaystyle\frac{3}{2}k_B T\)
比例関係にあるため、特別な計算は不要です。
温度が \(T \rightarrow \displaystyle\frac{1}{4}T\) と変化したので、
エネルギーも \(E_k \rightarrow \displaystyle\frac{1}{4}E_k\) となります。
気体の「温度」とは、ミクロに見れば、その気体を構成する分子がどれだけ激しく動き回っているか(運動エネルギーがどれだけ大きいか)の指標です。両者は正比例の関係にあります。したがって、温度が \(\displaystyle\frac{1}{4}\) になったのなら、分子1個あたりの平均的な運動エネルギーも \(\displaystyle\frac{1}{4}\) になります。
分子1個の平均運動エネルギーは元の \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍になります。
これは気体分子運動論の基本的な結論であり、問題の条件と直接結びついた妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- モル比熱の関係(マイヤーの関係式):
- 核心: 定圧モル比熱\(C_p\)と定積モル比熱\(C_V\)の間には、気体の種類によらず \(C_p – C_V = R\) という関係が成り立ちます。また、単原子分子の内部エネルギーの公式から \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\) が導かれます。これらは熱力学の土台となる知識です。
- 理解のポイント: ①と②は、これらの基本公式を正しく覚えているか、またその意味を理解しているかを確認する問題です。
- ポアソンの法則(断熱変化):
- 核心: 断熱変化中に成り立つ、圧力・体積・温度の間の特別な関係式です。特に \(pV^\gamma = \text{一定}\) と \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) は頻繁に使われます。
- 理解のポイント: この法則は、理想気体の状態方程式と熱力学第一法則から導出されます。問題では、与えられた温度変化から体積変化を求めるために \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) を、体積変化から圧力変化を求めるために \(pV^\gamma = \text{一定}\) を使う、というように、状況に応じて適切な形の公式を選択する能力が問われます。
- 気体分子運動論と絶対温度:
- 核心: 気体の絶対温度\(T\)は、その気体を構成する分子の平均運動エネルギーに比例します。これは、マクロな量である「温度」とミクロな量である「分子の運動」を結びつける非常に重要な概念です。
- 理解のポイント: ⑤はこの法則を直接問う問題です。圧力や体積がどのように変化しようとも、分子1個の平均運動エネルギーの変化は、絶対温度の変化だけで決まります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 断熱圧縮の問題: 断熱膨張の逆の過程です。体積を減少させると、圧力と温度が上昇します。計算方法は全く同じです。
- p-Vグラフを含むサイクル問題: 断熱曲線が描かれたサイクル問題では、曲線上のある点から別の点へ移るときの状態量の変化を計算する際に、ポアソンの法則が必須となります。
- 二原子分子の断熱変化: \(C_V = \frac{5}{2}R\), \(C_p = \frac{7}{2}R\) となるため、比熱比は \(\gamma = \frac{7}{5}\) となります。ポアソンの法則の指数が変わる点に注意が必要です。
- 初見の問題での着眼点:
- 気体の種類を確認する: まず「単原子分子」か「二原子分子」かを確認し、\(C_V, C_p, \gamma\) の値を確定させます。
- 変化の種類を特定する: 「断熱」というキーワードを見つけたら、ポアソンの法則を使うことを念頭に置きます。
- どの形のポアソンの法則を使うか判断する: 問題で与えられている物理量と、求めたい物理量に応じて、\(pV^\gamma = \text{一定}\), \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\), \(p^{1-\gamma}T^\gamma = \text{一定}\) の中から最も計算しやすい式を選びます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ポアソンの法則の指数間違い:
- 誤解: \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) の指数を \(\gamma\) と勘違いしたり、\(\gamma-1\) の計算を間違えたりする。
- 対策: なぜ \(TV^{\gamma-1}\) となるのか、状態方程式 \(p=nRT/V\) を \(pV^\gamma=\text{一定}\) に代入する導出過程を一度自分でやってみると、指数の形を忘れにくくなります。
- 比熱比 \(\gamma\) の値の間違い:
- 誤解: 単原子分子と二原子分子の \(\gamma\) の値を取り違える。
- 対策: \(\gamma = \frac{C_p}{C_V} = \frac{C_V+R}{C_V} = 1 + \frac{R}{C_V}\) という関係を覚えておくと便利です。単原子分子なら \(C_V=\frac{3}{2}R\) なので \(\gamma = 1+\frac{R}{3/2 R} = 1+\frac{2}{3} = \frac{5}{3}\) とすぐに導出できます。
- 平方根・立方根の計算ミス:
- 誤解: \(V’ = 8V\) から \(p’ = p(1/8)^{5/3}\) を計算する際に、\(8^{5/3} = (\sqrt[3]{8})^5 = 2^5 = 32\) のような指数の計算を誤る。
- 対策: 指数法則の基本(\( (a^m)^n = a^{mn} \), \( a^{-n} = 1/a^n \) など)をしっかり復習し、落ち着いて計算する練習をしましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 断熱膨張のイメージ: ピストン付きのシリンダーに気体を閉じ込め、断熱材で覆う。ピストンを急に引くと、気体は外部から熱をもらう暇がなく、自分自身の内部エネルギーを消費して膨張(仕事をする)します。その結果、内部エネルギーが減少し、温度が下がります。
- p-Vグラフ上の断熱曲線: p-Vグラフにおいて、断熱変化を表す曲線(断熱線)は、等温変化を表す曲線(等温線)よりも傾きが急になります。これは、断熱膨張では体積増加に加えて温度も下がるため、同じ体積変化でも圧力の低下がより大きくなるためです。このグラフの形状を頭に入れておくと、断熱変化のイメージが掴みやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(C_V = \frac{3}{2}R\) (単原子分子):
- 選定理由: ①で定積モル比熱そのものが問われているため。また、比熱比 \(\gamma\) を計算する上での基礎となります。
- 適用根拠: 気体分子運動論から導かれる、単原子分子理想気体の内部エネルギーの表式 \(U=\frac{3}{2}nRT\) と、熱力学の定義 \(\Delta U = nC_V\Delta T\) を結びつけた結果です。
- \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\):
- 選定理由: ③で、温度の変化(既知)と体積の変化(未知)の関係を知る必要があるため。\(p\)と\(V\)の関係式よりも直接的に計算できます。
- 適用根拠: この式はポアソンの法則 \(pV^\gamma = \text{一定}\) と状態方程式 \(pV=nRT\) から導かれる、断熱変化に特有の関係式です。
- \(pV^\gamma = \text{一定}\):
- 選定理由: ④で、体積の変化(③で求めた)と圧力の変化(未知)の関係を知る必要があるため。
- 適用根拠: 断熱変化の基本法則です。
- \(E_k \propto T\):
- 選定理由: ⑤で分子1個の平均運動エネルギーの変化が問われているため。
- 適用根拠: 気体分子運動論の最も重要な結論の一つです。気体のマクロな性質である「温度」が、ミクロな分子の運動状態と直接結びついていることを示しています。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- ①, ② モル比熱の特定:
- 戦略: 基本公式を思い出す。
- フロー: ① \(U=\frac{3}{2}nRT\) と \(\Delta U=nC_V\Delta T\) を比較し \(C_V=\frac{3}{2}R\) を導く。→ ② マイヤーの関係 \(C_p-C_V=R\) を適用する。
- ③ 体積変化の計算:
- 戦略: 温度変化が与えられているので、\(T\)と\(V\)の断熱変化の公式を使う。
- フロー: ①比熱比 \(\gamma\) を計算する。→ ② \(TV^{\gamma-1} = T’V’^{\gamma-1}\) を立てる。→ ③ \(T’=\frac{1}{4}T\) を代入し、\(V’/V\) を求める。
- ④ 圧力変化の計算:
- 戦略: 体積変化が分かったので、\(p\)と\(V\)の断熱変化の公式を使う。
- フロー: ① \(pV^\gamma = p’V’^\gamma\) を立てる。→ ② ③で求めた \(V’=8V\) を代入し、\(p’/p\) を求める。
- ⑤ 平均運動エネルギーの変化の計算:
- 戦略: 平均運動エネルギーと絶対温度の比例関係を使う。
- フロー: ①温度が \(\frac{1}{4}\) 倍になったことを確認する。→ ②エネルギーも同じく \(\frac{1}{4}\) 倍になると結論づける。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数の計算を正確に: この問題の計算の要は、\(4^{3/2}\) や \((1/8)^{5/3}\) のような指数計算です。
- \(A^{m/n} = (\sqrt[n]{A})^m\) のように、まずn乗根をとってからm乗すると、数が小さくなり計算しやすくなります。
- 例: \(4^{3/2} = (\sqrt{4})^3 = 2^3 = 8\)。
- 例: \((1/8)^{5/3} = (\sqrt[3]{1/8})^5 = (1/2)^5 = 1/32\)。
- 公式の導出過程を理解する: \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\) のような公式を丸暗記するだけでなく、なぜその形になるのかを一度は自分で導出しておくと、記憶が定着し、応用も効くようになります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との比較:
- 断熱「膨張」させたのだから、体積は増え(8倍 > 1)、圧力は下がり(1/32倍 < 1)、温度も下がる(1/4倍 < 1)はずです。計算結果がこの直感と一致しているかを確認するだけで、大きなミスを発見できます。
- 状態方程式を用いた検算:
- 変化後の状態について、状態方程式 \(p’V’=nRT’\) が成り立つかを確認できます。
- 変化前の状態を \(p, V, T\) とすると、変化後は \(p’=\frac{p}{32}, V’=8V, T’=\frac{T}{4}\) です。
- 右辺: \(nRT’ = nR(\frac{T}{4}) = \frac{1}{4}(nRT) = \frac{1}{4}pV\)。
- 左辺: \(p’V’ = (\frac{p}{32})(8V) = \frac{8}{32}pV = \frac{1}{4}pV\)。
- 左辺と右辺が一致したので、計算結果は自己無撞着であり、正しい可能性が非常に高いと判断できます。
218 気体の変化
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ばね付きピストンで閉じ込められた理想気体を加熱する際の、状態変化を解析する問題です。気体の圧力は、大気圧とばねの弾性力によって決まるため、体積が増えるにつれて圧力も増加するという、定圧でも定積でもない、より一般的な変化を扱います。
この問題の核心は、ピストンに働く力のつり合いから圧力と体積の関係式を導き、理想気体の状態方程式と熱力学第一法則を組み合わせて、各物理量を計算することです。
- 気体の種類: 単原子分子の理想気体
- 物質量: \(n = 0.10 \text{ mol}\)
- 初期状態:
- 絶対温度 \(T_0 = 300 \text{ K}\)
- ばねは自然の長さ
- 大気圧: \(p_0 = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)
- ピストンの断面積: \(S = 1.0 \times 10^{-3} \text{ m}^2\)
- ばね定数: \(k = 500 \text{ N/m}\)
- 気体定数: \(R = 8.3 \text{ J/(mol}\cdot\text{K)}\)
- 変化: 熱を加えたらピストンが \(x = 0.20 \text{ m}\) 動いた。
- (1) 熱を加えた後の気体の圧力 \(p\)、体積 \(V\)、絶対温度 \(T\)。
- (2) この変化のp-Vグラフ。
- (3) 気体が外部にした仕事 \(W\)。
- (4) 気体の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\)。
- (5) 気体に加えた熱量 \(Q\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ばねと大気圧による気体の状態変化」です。気体の圧力が体積の関数として変化する点が特徴的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: ピストンはなめらかに動くため、常に気体の圧力による力、大気圧による力、ばねの弾性力がつり合っています。
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)。初期状態と最終状態のそれぞれで成立します。
- p-Vグラフと仕事: 気体がした仕事は、p-Vグラフの面積で表されます。
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)。熱、内部エネルギーの変化、仕事の関係を結びつけます。
- 単原子分子の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、初期状態と最終状態の物理量を整理します。初期体積は状態方程式から、最終圧力は力のつり合いから、最終体積は初期体積とピストンの移動距離から、最終温度は最終状態の状態方程式から求めます(問1)。
- 圧力と体積の関係式を導き、それが線形(1次関数)であることを確認してp-Vグラフを描きます(問2)。
- p-Vグラフが台形になることから、その面積を計算して気体がした仕事を求めます(問3)。
- 内部エネルギーの変化を、温度変化から \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) を用いて計算します(問4)。
- 最後に、熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W\) を用いて、(3)と(4)の結果から気体に加えた熱量を求めます(問5)。
問(1)
思考の道筋とポイント
加熱後の気体の状態量(圧力、体積、温度)を求める問題です。3つの未知数に対して、①力のつり合い、②体積の関係、③状態方程式、という3つの異なるアプローチから情報を引き出して解きます。
- 最終圧力 \(p\): 加熱後、ピストンは \(x=0.20 \text{ m}\) 移動した位置で静止しています。このとき、ピストンに働く「気体が内側から押す力 \(pS\)」と、「大気圧が外から押す力 \(p_0 S\)」および「ばねが縮んで押す力 \(kx\)」がつり合っています。この力のつり合いの式から \(p\) を求めます。
- 初期体積 \(V_0\) と最終体積 \(V\): まず、初期状態(温度 \(T_0\)、圧力 \(p_0\))について状態方程式を立て、初期体積 \(V_0\) を求めます。最終体積 \(V\) は、この初期体積にピストンの移動によって増加した体積 \(\Delta V = S x\) を加えることで求まります。
- 最終温度 \(T\): 最終的な圧力 \(p\) と体積 \(V\) がわかったので、最終状態について理想気体の状態方程式を立て、温度 \(T\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 力のつり合い: \(pS = p_0 S + kx\)
- 体積変化: \(V = V_0 + Sx\)
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
具体的な解説と立式
(最終圧力 \(p\))
加熱後にピストンが \(x\) だけ移動したとき、ピストンに働く力のつり合いの式は、
$$ pS = p_0 S + kx $$
この式を \(p\) について解くと、
$$ p = p_0 + \frac{kx}{S} \quad \cdots ① $$
(初期体積 \(V_0\) と最終体積 \(V\))
初期状態では、ばねは自然長なので気体の圧力は大気圧に等しく \(p_0\) です。初期状態について理想気体の状態方程式を立てます。
$$ p_0 V_0 = n R T_0 \quad \cdots ② $$
最終的な体積 \(V\) は、初期体積 \(V_0\) にピストンの移動による増加分 \(Sx\) を加えたものです。
$$ V = V_0 + Sx \quad \cdots ③ $$
(最終温度 \(T\))
最終状態について、理想気体の状態方程式を立てます。
$$ pV = nRT \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
(最終圧力 \(p\))
式①に与えられた値を代入します。
$$
\begin{aligned}
p &= (1.0 \times 10^5) + \frac{500 \times 0.20}{1.0 \times 10^{-3}} \\[2.0ex]&= (1.0 \times 10^5) + \frac{100}{1.0 \times 10^{-3}} \\[2.0ex]&= (1.0 \times 10^5) + (1.0 \times 10^5) \\[2.0ex]&= 2.0 \times 10^5 \text{ [Pa]}
\end{aligned}
$$
(初期体積 \(V_0\) と最終体積 \(V\))
まず式②から初期体積 \(V_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \frac{nRT_0}{p_0} \\[2.0ex]&= \frac{0.10 \times 8.3 \times 300}{1.0 \times 10^5} \\[2.0ex]&= \frac{249}{1.0 \times 10^5} \\[2.0ex]&= 2.49 \times 10^{-3} \text{ [m}^3\text{]}
\end{aligned}
$$
次に式③から最終体積 \(V\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
V &= (2.49 \times 10^{-3}) + (1.0 \times 10^{-3}) \times 0.20 \\[2.0ex]&= (2.49 \times 10^{-3}) + (0.20 \times 10^{-3}) \\[2.0ex]&= 2.69 \times 10^{-3} \text{ [m}^3\text{]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(2.7 \times 10^{-3} \text{ m}^3\) です。
(最終温度 \(T\))
式④に求めた \(p, V\) の値を代入して \(T\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{pV}{nR} \\[2.0ex]&= \frac{(2.0 \times 10^5) \times (2.69 \times 10^{-3})}{0.10 \times 8.3} \\[2.0ex]&= \frac{538}{0.83} \\[2.0ex]&= 648.1… \text{ [K]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(6.5 \times 10^2 \text{ K}\) です。
(1) まず、気体が膨らんだ後の状態を調べます。ピストンが止まっているということは、力がつり合っているということです。気体が中から押す力と、外から大気とばねが押す力が等しい、という式から最終的な圧力がわかります。次に、最初の体積を計算し、それにピストンが動いた分の体積を足して、最終的な体積を求めます。最後に、圧力と体積がわかったので、気体の基本公式(状態方程式)から最終的な温度を計算します。
最終圧力 \(p = 2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)、最終体積 \(V \approx 2.7 \times 10^{-3} \text{ m}^3\)、最終温度 \(T \approx 6.5 \times 10^2 \text{ K}\)。
熱を加えた結果、体積が増え、圧力もばねの力で増加し、温度も上昇しており、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
この変化のp-Vグラフを描く問題です。グラフの形を知るためには、圧力 \(p\) と体積 \(V\) の関係式を導く必要があります。ピストンの移動距離を \(x’\) とすると、体積の増加分は \(Sx’\) であり、\(V = V_0 + Sx’\) となります。一方、そのときの圧力は力のつり合いから \(p = p_0 + \frac{kx’}{S}\) となります。この2式から \(x’\) を消去することで、\(p\) と \(V\) の関係式が得られます。
この設問における重要なポイント
- 圧力と変位の関係: \(p = p_0 + \frac{kx’}{S}\)
- 体積と変位の関係: \(V = V_0 + Sx’\)
- 上記2式から \(p\) と \(V\) の関係式を導出する。
具体的な解説と立式
ピストンの初期位置からの移動距離を \(x’\) とすると、そのときの体積 \(V\) は、
$$ V = V_0 + Sx’ \quad \rightarrow \quad x’ = \frac{V – V_0}{S} $$
そのときの圧力 \(p\) は、力のつり合いより、
$$ p = p_0 + \frac{kx’}{S} $$
この式に \(x’\) を代入すると、
$$ p = p_0 + \frac{k}{S} \left( \frac{V – V_0}{S} \right) = p_0 + \frac{k}{S^2}(V – V_0) $$
$$ p = \left(\frac{k}{S^2}\right)V + \left(p_0 – \frac{kV_0}{S^2}\right) $$
この式は \(p\) が \(V\) の1次関数(\(p = aV+b\) の形)であることを示しています。したがって、p-Vグラフは直線になります。
始点(初期状態)は \((V_0, p_0) = (2.49 \times 10^{-3}, 1.0 \times 10^5)\)。
終点(最終状態)は \((V, p) = (2.69 \times 10^{-3}, 2.0 \times 10^5)\)。
この2点を結ぶ直線を描けばよいことになります。
気体が膨らむと、ばねが縮んで気体を押す力が強くなります。ばねが押す力は縮んだ長さに比例し、その縮んだ長さは気体の体積の増加分に比例します。結果として、気体の圧力は体積の増加に比例して直線的に増えていくことになります。そのため、グラフは右上がりの直線になります。
p-Vグラフは、点 \((2.49 \times 10^{-3}, 1.0 \times 10^5)\) から点 \((2.69 \times 10^{-3}, 2.0 \times 10^5)\) へと至る、右上がりの直線セグメントとなります。これは模範解答のグラフと一致します。
問(3)
思考の道筋とポイント
気体が外部にした仕事 \(W\) を求める問題です。気体がした仕事は、p-VグラフとV軸で囲まれた部分の面積に等しくなります。(2)で描いたグラフは台形なので、台形の面積を求める公式を使って計算します。
この設問における重要なポイント
- 仕事とp-Vグラフの関係: \(W = \int p dV\)。グラフの面積に相当。
- 台形の面積の公式: (上底 + 下底)× 高さ ÷ 2
具体的な解説と立式
仕事 \(W\) は、p-Vグラフの面積に等しい。グラフは台形なので、その面積は
$$ W = \frac{1}{2} (p_0 + p)(V – V_0) \quad \cdots ⑤ $$
ここで、\(p_0\) は初期圧力(上底)、\(p\) は最終圧力(下底)、\(V-V_0\) は体積変化(高さ)に相当します。
使用した物理公式
- 仕事のp-Vグラフによる表現
式⑤に(1)で求めた値を代入します。
$$
\begin{aligned}
W &= \frac{1}{2} (1.0 \times 10^5 + 2.0 \times 10^5) \times (2.69 \times 10^{-3} – 2.49 \times 10^{-3}) \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} (3.0 \times 10^5) \times (0.20 \times 10^{-3}) \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \times (3.0 \times 0.20) \times 10^{5-3} \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \times 0.60 \times 10^2 \\[2.0ex]&= 30 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
気体がした仕事は、p-Vグラフの面積を計算することで求められます。今回はグラフが台形なので、小学校で習った台形の面積の公式「(上底+下底)×高さ÷2」を使って計算します。
気体がした仕事は \(30 \text{ J}\) です。気体は膨張しているので、外部に正の仕事をしたことになり、結果は妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
気体の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) を求める問題です。単原子分子の理想気体なので、内部エネルギーは絶対温度だけで決まります。内部エネルギーの変化は、温度変化 \(\Delta T = T – T_0\) を使って計算できます。
この設問における重要なポイント
- 単原子分子の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)
- 内部エネルギーの変化の公式: \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)
具体的な解説と立式
単原子分子の理想気体の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、
$$ \Delta U = \frac{3}{2} n R (T – T_0) \quad \cdots ⑥ $$
使用した物理公式
- 内部エネルギーの変化: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)
式⑥に値を代入します。\(T_0 = 300 \text{ K}\), \(T = 648 \text{ K}\)。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= \frac{3}{2} \times 0.10 \times 8.3 \times (648 – 300) \\[2.0ex]&= \frac{3}{2} \times 0.10 \times 8.3 \times 348 \\[2.0ex]&= 1.5 \times 0.10 \times 8.3 \times 348 \\[2.0ex]&= 433.26 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(4.3 \times 10^2 \text{ J}\) です。
気体の内部エネルギーは、その温度で決まります。温度がどれだけ変化したかがわかれば、内部エネルギーがどれだけ変化したかも計算できます。単原子分子の場合の専用の公式を使って計算します。
内部エネルギーの変化は \(4.3 \times 10^2 \text{ J}\) です。温度が上昇しているので、内部エネルギーが増加(\(\Delta U > 0\))しており、結果は妥当です。
問(5)
思考の道筋とポイント
気体に加えた熱量 \(Q\) を求める問題です。ここまでの設問で、気体がした仕事 \(W\) と内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) が求まっているので、熱力学第一法則を使って \(Q\) を計算するのが最も簡単です。
この設問における重要なポイント
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
具体的な解説と立式
熱力学第一法則より、気体に加えた熱量 \(Q\)、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\)、気体がした仕事 \(W\) の間には、以下の関係が成り立ちます。
$$ Q = \Delta U + W \quad \cdots ⑦ $$
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
式⑦に(3)と(4)で求めた値を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q &= 433 + 30 \\[2.0ex]&= 463 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(4.6 \times 10^2 \text{ J}\) です。
エネルギー保存の法則(熱力学第一法則)によれば、「気体に加えた熱エネルギー」は、「気体の内部エネルギーの増加」と「気体が外部にした仕事」の2つに分配されます。したがって、(3)と(4)で求めた2つの値を足し合わせることで、加えられた熱の総量がわかります。
気体に加えた熱量は \(4.6 \times 10^2 \text{ J}\) です。気体の温度が上がり、かつ外部に仕事をしているので、外部から熱を吸収している(\(Q>0\))はずで、結果は妥当です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ピストンに働く力のつり合い:
- 核心: この問題の最も特徴的な部分です。気体の圧力は一定ではなく、ばねの伸び(=体積の増加)に比例して増加します。\(pS = p_0 S + kx\) という力のつり合いの式が、圧力と体積の関係を決定する鍵となります。
- 理解のポイント: このつり合いの式を立てられないと、最終状態の圧力やp-Vグラフの形状がわからず、問題全体を解くことができません。
- 熱力学第一法則 (\(Q = \Delta U + W_{\text{した}}\)):
- 核心: 熱力学におけるエネルギー保存則であり、この問題の全体像を貫く法則です。加えた熱量(\(Q\))が、内部エネルギーの増加(\(\Delta U\))と外部への仕事(\(W_{\text{した}}\))にどう分配されるかを示します。
- 理解のポイント: (3)で仕事\(W\)を、(4)で内部エネルギー変化\(\Delta U\)を個別に計算し、最後に(5)でそれらを足し合わせて熱量\(Q\)を求める、という流れは、この法則そのものを体現しています。
- 理想気体の状態方程式 (\(pV=nRT\)):
- 核心: 任意の平衡状態における気体の状態量(\(p, V, T\))を結びつける基本法則です。
- 理解のポイント: 初期状態の体積を求めたり、最終状態の温度を求めたりと、状態量を決定する場面で必ず使用します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 縦向きのシリンダーとピストン: ピストン自体の重力(\(mg\))が力のつり合いに加わります。上向きに加熱すれば \(pS = p_0S + kx + mg\)、下向きなら \(pS + mg = p_0S + kx\) のようにつり合いの式が変わります。
- ばねが最初から圧縮(または伸長)されている場合: 力のつり合いの式で、ばねの力の項が \(k(x_0+x)\) のように、初期変位を含む形になります。
- 断熱変化させる場合: 熱力学第一法則で \(Q=0\) となります。この場合、\(W = -\Delta U\) となり、仕事と内部エネルギー変化の関係がより直接的になりますが、圧力と体積の関係は \(p = p_0 + kx/S\) のままなので、ポアソンの法則は使えません。
- 初見の問題での着眼点:
- 力のつり合いを最優先で考える: ピストンが動く問題では、まずピストンに働く力をすべて図示し、つり合いの式を立てます。これが圧力の性質を決定します。
- p-Vグラフの概形をイメージする: 力のつり合いから圧力\(p\)と体積\(V\)の関係式を導き、グラフが直線になるか、曲線になるか、あるいは水平(定圧)か垂直(定積)かを見極めます。これにより、仕事の計算方法(面積計算)の方針が立ちます。
- 初期状態と最終状態のパラメータを整理する: \(p_0, V_0, T_0\) と \(p_1, V_1, T_1\) のように、各状態の物理量を表にまとめ、既知の量と未知の量を明確にすると、解法の道筋が見えやすくなります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 圧力の誤認:
- 誤解: 変化の途中や最終状態でも、圧力が大気圧\(p_0\)のままだと勘違いしてしまう。
- 対策: ばねが付いていることを見落とさないこと。ばねが変形すれば、必ず弾性力が働き、内外の圧力差を生み出します。必ず力のつり合いを確認する習慣をつけましょう。
- 仕事の計算ミス:
- 誤解: 圧力が変化するのに、仕事の計算で \(W=p\Delta V\) のように、ある特定の圧力値(例えば初期圧力や最終圧力)を使ってしまう。
- 対策: 圧力が変化する場合、仕事はp-Vグラフの面積で計算するのが原則です。今回は圧力が体積の1次関数なのでグラフは台形になり、面積計算が容易ですが、より複雑な変化の場合は積分が必要になります。
- 体積変化の計算ミス:
- 誤解: ピストンの移動距離 \(x\) をそのまま体積変化 \(\Delta V\) としてしまう。
- 対策: 体積変化は「断面積 × 移動距離」です。必ず \(\Delta V = S \times x\) と計算しましょう。単位が \(m^3\) になることを確認するのも有効です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 力のつり合いのベクトル図: ピストンに働く3つの力(内圧による力 \(pS\)、大気圧による力 \(p_0S\)、ばねの力 \(kx\))を矢印で描くことで、\(pS = p_0S + kx\) という関係を視覚的に理解できます。
- p-Vグラフと仕事の内訳: p-Vグラフの台形の面積(全仕事 \(W\))は、長方形の部分と三角形の部分に分割できます。
- 長方形の面積: \(p_0 \Delta V\)。これは、気体が「大気圧に逆らって」した仕事に相当します。
- 三角形の面積: \(\frac{1}{2}(p-p_0)\Delta V\)。これは、気体が「ばねを縮めるために」した仕事に相当します。
このように、仕事の内訳を考えることで、現象の理解が深まります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (\(pS = p_0S + kx\)):
- 選定理由: (1)で未知の最終圧力\(p\)を決定するため。この問題特有の状況を数式化する唯一の方法です。
- 適用根拠: ピストンが(ゆっくりと)動いて静止している、という力学的な平衡状態に基づいています。
- 仕事の面積計算 (\(W = \frac{1}{2}(p_0+p)\Delta V\)):
- 選定理由: (3)で仕事\(W\)を計算するため。圧力が一定ではないため、単純な \(p\Delta V\) では計算できず、p-Vグラフの面積を求める必要があります。
- 適用根拠: (2)でp-Vグラフが直線(台形)になることが分かったため、台形の面積公式を適用できます。
- 内部エネルギー変化の公式 (\(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)):
- 選定理由: (4)で内部エネルギーの変化\(\Delta U\)を計算するため。
- 適用根拠: 気体が「単原子分子の理想気体」であるため、内部エネルギーは温度のみに依存し、この公式が使えます。もしこれが断熱変化など、温度変化が未知の場合でも、状態方程式から \(p_1V_1 – p_0V_0\) を計算し、\(\Delta U = \frac{3}{2}(p_1V_1 – p_0V_0)\) という形で計算することも可能です。
- 熱力学第一法則 (\(Q = \Delta U + W\)):
- 選定理由: (5)で熱量\(Q\)を求めるため。\(Q\)を直接計算するのは困難ですが、\(\Delta U\)と\(W\)は既に計算済みなので、この法則を使えば容易に\(Q\)が求まります。
- 適用根拠: エネルギー保存則であり、あらゆる熱力学過程で普遍的に成り立ちます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 状態量の決定:
- 戦略: 初期状態と最終状態の \(p, V, T\) をすべて求める。
- フロー: ①初期状態(\(p_0, T_0\))で状態方程式 → \(V_0\)算出。 ②最終状態の力のつり合い → \(p\)算出。 ③体積変化の定義(\(V=V_0+Sx\)) → \(V\)算出。 ④最終状態(\(p, V\))で状態方程式 → \(T\)算出。
- (2) p-Vグラフの描画:
- 戦略: \(p\)と\(V\)の関係式を導き、グラフの形状を特定する。
- フロー: ①力のつり合い(\(p\)と\(x\))と体積変化(\(V\)と\(x\))の2式から\(x\)を消去 → ②\(p\)が\(V\)の1次関数であることを確認 → ③始点と終点をプロットし、直線で結ぶ。
- (3) 仕事の計算:
- 戦略: p-Vグラフの面積を計算する。
- フロー: ①グラフが台形であることを確認 → ②台形の面積公式に \(p_0, p, V_0, V\) の値を代入して計算。
- (4) 内部エネルギー変化の計算:
- 戦略: 温度変化\(\Delta T\)から計算する。
- フロー: ①\(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) の公式に値を代入して計算。
- (5) 熱量の計算:
- 戦略: 熱力学第一法則に、計算済みの\(\Delta U\)と\(W\)を代入する。
- フロー: ①\(Q = \Delta U + W\) に(3)と(4)の結果を代入して計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位系を統一する: 問題で与えられている単位(m, N, Pa, K, mol, J)は全てSI単位系なので換算は不要ですが、もしcmやLなどが使われていたら、計算前にmやm\(^3\)に変換するのを忘れないようにしましょう。
- 指数の計算: \(10^5\) や \(10^{-3}\) のような指数が多数出てきます。掛け算では指数の足し算、割り算では指数の引き算という基本を丁寧に行いましょう。
- 検算: (1)で求めた最終温度\(T\)は、\(T = \frac{pV}{nR}\) で計算しましたが、ボイル・シャルルの法則の変形 \(\frac{p_0V_0}{T_0} = \frac{pV}{T}\) が成り立つか確認するのも良い検算になります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との比較:
- 熱を加えたので、温度が上昇(\(300\text{K} \rightarrow 650\text{K}\))し、気体が膨張(\(V_0 < V\))するのは当然です。
- 膨張に伴いばねが縮むので、気体の圧力も上昇(\(1.0\times 10^5 \text{Pa} \rightarrow 2.0\times 10^5 \text{Pa}\))するはずです。これらの直感と計算結果が一致しているかを確認します。
- エネルギーの分配の確認:
- 加えた熱量 \(Q \approx 460 \text{ J}\) のうち、内部エネルギーの増加に \(\Delta U \approx 430 \text{ J}\) が使われ、外部への仕事に \(W = 30 \text{ J}\) が使われました。加えた熱の大部分が温度上昇に使われ、一部が仕事に使われたというエネルギーの分配は、物理的に妥当なバランスです。
219 気体の変化
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、p-Vグラフが三角形を描くサイクル(A→B→C→A)を題材に、単原子分子理想気体の状態変化を解析する問題です。各状態の温度を求める基本的な問題から、サイクル途中の温度を体積の関数として表現し、その最大値を求める応用問題、さらには吸収熱量が最大となる条件を求める発展的な問題まで、段階的に熱力学の理解を深める構成になっています。
この問題の核心は、p-Vグラフから状態量の関係を読み取り、理想気体の状態方程式を駆使して温度を体積の関数として表現すること、そして熱力学第一法則を用いて熱量を体積の関数として表現し、数学的な処理(二次関数の最大値問題)に持ち込むことです。
- 気体の種類: 単原子分子の理想気体
- 状態変化のサイクル: A→B→C→A
- A→B: 定積変化
- B→C: 圧力が体積の1次関数として変化
- C→A: 定圧変化
- 状態A:
- 圧力 \(p_A = p_0\)
- 体積 \(V_A = V_0\)
- 絶対温度 \(T_A = T_0\)
- 状態B:
- 圧力 \(p_B = 3p_0\)
- 体積 \(V_B = V_0\)
- 状態C:
- 圧力 \(p_C = p_0\)
- 体積 \(V_C = 3V_0\)
- (1) 状態B, Cでの絶対温度 \(T_B, T_C\)。
- (2) B→Cの過程において、体積が \(V\) のときの温度 \(T\) を \(T_0, V_0\) を用いて表す。
- (3) サイクル全体での最高温度 \(T_{\text{max}}\)。
- (4) B→Cの過程において、吸収熱量が最大となる体積 \(V_1\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「線形なp-V変化と熱力学法則の応用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)。特に、物質量 \(n\) が一定の場合、\(pV/T\) が一定である(ボイル・シャルルの法則)という形が便利です。
- p-Vグラフの解釈: グラフ上の点の座標が状態量(\(p, V\))を表し、2点を結ぶ直線の方程式を立てることで、過程中の圧力と体積の関係を数式化できます。
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)。熱、内部エネルギー、仕事の関係を記述します。
- 数学的処理: 温度や熱量を体積の関数(二次関数)として表し、平方完成などを用いて最大値を求めます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- ボイル・シャルルの法則を用いて、状態Aを基準に状態B, Cの温度を求めます(問1)。
- B→Cの過程を表す直線の方程式(\(p\)を\(V\)の関数)を求め、それを状態方程式に代入して、温度\(T\)を体積\(V\)の関数として表します(問2)。
- (2)で求めた\(T(V)\)が上に凸の二次関数であることから、定義域内で最大値をとる条件を求め、最高温度を計算します(問3)。
- B→Cの過程について、仕事\(W\)(p-Vグラフの面積)と内部エネルギー変化\(\Delta U\)を体積\(V\)の関数として求め、熱力学第一法則から熱量\(Q\)を\(V\)の関数として表します。これも二次関数になるため、最大値をとる条件を求めて体積\(V_1\)を計算します(問4)。
問(1)
思考の道筋とポイント
状態BとCの絶対温度を求める問題です。気体の物質量は一定なので、状態Aを基準としてボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\) を適用するのが最も簡単です。
この設問における重要なポイント
- ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{p_1V_1}{T_1} = \frac{p_2V_2}{T_2}\)
具体的な解説と立式
状態A, B, Cについて、ボイル・シャルルの法則を適用します。
AとBの比較:
$$ \frac{p_A V_A}{T_A} = \frac{p_B V_B}{T_B} $$
$$ \frac{p_0 V_0}{T_0} = \frac{(3p_0) V_0}{T_B} \quad \cdots ① $$
AとCの比較:
$$ \frac{p_A V_A}{T_A} = \frac{p_C V_C}{T_C} $$
$$ \frac{p_0 V_0}{T_0} = \frac{p_0 (3V_0)}{T_C} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- ボイル・シャルルの法則
式①を \(T_B\) について解きます。
$$ T_B = \frac{3p_0 V_0}{p_0 V_0} T_0 = 3T_0 $$
式②を \(T_C\) について解きます。
$$ T_C = \frac{p_0 (3V_0)}{p_0 V_0} T_0 = 3T_0 $$
気体の量は変わらないので、「圧力×体積÷温度」の値は常に一定です。この関係を使って、A地点の情報を基準に、B地点とC地点の温度を計算します。
状態Bの温度 \(T_B = 3T_0\)、状態Cの温度 \(T_C = 3T_0\) です。
A→Bは定積変化で圧力が3倍になったので、温度も3倍になるのは妥当です。C→Aは定圧変化で体積が1/3になったので、温度も1/3になるはずで、\(T_A = T_C/3 = 3T_0/3 = T_0\) となり、つじつまが合っています。
問(2)
思考の道筋とポイント
B→Cの過程における温度 \(T\) を体積 \(V\) の関数として表す問題です。まず、p-Vグラフ上の直線BCの方程式を求め、\(p\) を \(V\) の関数で表します。次に、理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) に代入し、\(T\) を \(V\) の関数で表します。このとき、未知の \(nR\) は初期状態Aの情報 \(p_0V_0=nRT_0\) を使って消去します。
この設問における重要なポイント
- 直線の方程式: 2点 \((x_1, y_1), (x_2, y_2)\) を通る直線の方程式は \(y-y_1 = \displaystyle\frac{y_2-y_1}{x_2-x_1}(x-x_1)\)。
- 状態方程式の利用: \(pV=nRT\)
- \(nR\) の消去: \(nR = \displaystyle\frac{p_0V_0}{T_0}\)
具体的な解説と立式
直線BCは2点 B\((V_0, 3p_0)\) と C\((3V_0, p_0)\) を通ります。この直線の方程式は、
$$ p – 3p_0 = \frac{p_0 – 3p_0}{3V_0 – V_0} (V – V_0) $$
$$ p – 3p_0 = \frac{-2p_0}{2V_0} (V – V_0) $$
$$ p = -\frac{p_0}{V_0}(V – V_0) + 3p_0 $$
整理すると、
$$ p = -\frac{p_0}{V_0}V + 4p_0 \quad \cdots ③ $$
この過程の任意の点 \((V, p)\) での温度を \(T\) とすると、状態方程式は \(pV=nRT\) です。
この式に③を代入します。
$$ \left(-\frac{p_0}{V_0}V + 4p_0\right)V = nRT \quad \cdots ④ $$
ここで、状態Aより \(p_0V_0 = nRT_0\) なので、\(nR = \displaystyle\frac{p_0V_0}{T_0}\) です。これを④に代入して \(T\) について解きます。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式
式④を \(T\) について解きます。
$$ T = \frac{1}{nR} \left(-\frac{p_0}{V_0}V^2 + 4p_0V\right) $$
\(nR = \displaystyle\frac{p_0V_0}{T_0}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{T_0}{p_0V_0} \left(-\frac{p_0}{V_0}V^2 + 4p_0V\right) \\[2.0ex]&= \frac{T_0}{p_0V_0} \cdot p_0 \left(-\frac{1}{V_0}V^2 + 4V\right) \\[2.0ex]&= \frac{T_0}{V_0} \left(-\frac{1}{V_0}V^2 + 4V\right) \\[2.0ex]&= -\frac{T_0}{V_0^2}V^2 + \frac{4T_0}{V_0}V
\end{aligned}
$$
模範解答の形に合わせると、
$$ T = -\frac{T_0}{V_0^2}(V^2 – 4V_0V) $$
となります。
BからCへ進む間の温度を知りたいので、まずBとCを結ぶ直線の式(圧力と体積の関係式)を作ります。次に、気体の基本公式(状態方程式)にその関係式を組み込むことで、温度を体積の式で表すことができます。
B→C間の温度は \(T = -\displaystyle\frac{T_0}{V_0^2}(V^2 – 4V_0V)\) と表せます。これは \(V\) に関する上に凸の二次関数です。
試しに \(V=V_0\) を代入すると \(T = -\frac{T_0}{V_0^2}(V_0^2 – 4V_0^2) = 3T_0 = T_B\)、\(V=3V_0\) を代入すると \(T = -\frac{T_0}{V_0^2}(9V_0^2 – 12V_0^2) = 3T_0 = T_C\) となり、始点と終点で(1)の結果と一致するため、式は正しいと考えられます。
問(3)
思考の道筋とポイント
サイクル全体での最高温度を求める問題です。A→Bでは温度は \(T_0\) から \(3T_0\) へ単調に増加、C→Aでは \(3T_0\) から \(T_0\) へ単調に減少します。したがって、最高温度はB→Cの過程で到達する可能性があります。(2)で求めた \(T(V)\) は上に凸の二次関数なので、その頂点の値を求めます。
この設問における重要なポイント
- 二次関数の最大値: \(y = a(x-p)^2+q\) の頂点は \((p, q)\)。
- 定義域の確認: B→Cの過程なので、体積の範囲は \(V_0 \le V \le 3V_0\) です。
具体的な解説と立式
(2)で求めた温度の式を平方完成して、頂点を求めます。
$$ T(V) = -\frac{T_0}{V_0^2}(V^2 – 4V_0V) $$
$$ T(V) = -\frac{T_0}{V_0^2} \left\{ (V – 2V_0)^2 – 4V_0^2 \right\} $$
$$ T(V) = -\frac{T_0}{V_0^2}(V – 2V_0)^2 + 4T_0 \quad \cdots ⑤ $$
使用した物理公式
- (2)で導出した \(T(V)\) の式
式⑤は、軸が \(V=2V_0\) で、頂点のT座標が \(4T_0\) の上に凸の放物線を表します。
軸 \(V=2V_0\) は、定義域 \(V_0 \le V \le 3V_0\) の中に含まれています。
したがって、最高温度 \(T_{\text{max}}\) は頂点の値そのものです。
$$ T_{\text{max}} = 4T_0 \text{ [K]} $$
これは \(V=2V_0\) のときに達成されます。
(2)で、B→C間の温度は体積の二次関数で表せることがわかりました。これは数学で習う放物線のグラフになります。この放物線のてっぺん(頂点)が最高温度になるので、平方完成を使って頂点の値を計算します。
最高温度は \(4T_0\) です。これは \(T_B=3T_0\) や \(T_C=3T_0\) よりも高いので、B→Cの途中で一度温度が上がってから下がるという変化と一致しており、妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
B→Cの過程で、気体が吸収する熱量 \(Q\) が最大となる体積 \(V_1\) を求める問題です。熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W\) を使って、まず \(Q\) を体積 \(V\) の関数として表す必要があります。
- 仕事 \(W\): Bから体積 \(V\) の点までの仕事は、p-Vグラフの台形の面積として計算します。
- 内部エネルギー変化 \(\Delta U\): Bから体積 \(V\) の点までの内部エネルギー変化は、\(\Delta U = \frac{3}{2}(pV – p_B V_B)\) で計算します。
- 熱量 \(Q\): \(Q = \Delta U + W\) に代入し、\(Q\) を \(V\) の関数で表します。
- \(Q(V)\) も二次関数になるため、平方完成して最大値をとる \(V\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
- 仕事の面積計算: \(W = \frac{1}{2}(p+p_B)(V-V_B)\)
- 内部エネルギー変化: \(\Delta U = U – U_B = \frac{3}{2}(pV – p_B V_B)\)
具体的な解説と立式
B\((V_0, 3p_0)\) から、B→C上の任意の点 X\((V, p)\) までの変化を考えます。この間の仕事を \(W_{BX}\)、内部エネルギー変化を \(\Delta U_{BX}\)、熱量を \(Q_{BX}\) とします。
(仕事 \(W_{BX}\))
$$ W_{BX} = \frac{1}{2}(p + 3p_0)(V – V_0) $$
(内部エネルギー変化 \(\Delta U_{BX}\))
$$ \Delta U_{BX} = \frac{3}{2}(pV – p_B V_B) = \frac{3}{2}(pV – 3p_0V_0) $$
(熱量 \(Q_{BX}\))
熱力学第一法則より、\(Q_{BX} = \Delta U_{BX} + W_{BX}\)。
$$ Q_{BX} = \frac{3}{2}(pV – 3p_0V_0) + \frac{1}{2}(p+3p_0)(V-V_0) $$
この式に \(p = -\frac{p_0}{V_0}V + 4p_0\) を代入して整理すると、模範解答にあるように、
$$ Q_{BX} = -\frac{2p_0}{V_0} \left( V^2 – 5V_0V + 4V_0^2 \right) \quad \cdots ⑥ $$
となります。
式⑥は \(V\) に関する上に凸の二次関数です。これを平方完成します。
$$ Q_{BX} = -\frac{2p_0}{V_0} \left\{ \left(V – \frac{5}{2}V_0\right)^2 – \frac{25}{4}V_0^2 + 4V_0^2 \right\} $$
$$ Q_{BX} = -\frac{2p_0}{V_0} \left\{ \left(V – \frac{5}{2}V_0\right)^2 – \frac{9}{4}V_0^2 \right\} $$
この式から、\(Q_{BX}\) は \(V = \displaystyle\frac{5}{2}V_0\) のときに最大値をとることがわかります。
この値は定義域 \(V_0 \le V \le 3V_0\) の中に含まれています。
したがって、求める体積 \(V_1\) は、
$$ V_1 = \frac{5}{2}V_0 $$
気体に加えた熱は、内部エネルギーを増やし、外部に仕事をするために使われます。この問題では、仕事と内部エネルギーの両方を体積の式で表し、それらを足し合わせることで、熱量を体積の式で表します。出来上がった式はまたしても二次関数(放物線)になるので、その頂点を求めることで、熱量が最大になる時の体積を計算します。
吸収熱量が最大になる体積は \(V_1 = \displaystyle\frac{5}{2}V_0\) です。
B→Cの過程では、初めは温度が急上昇するため内部エネルギーの増加が大きく、吸熱します。しかし、\(V=2V_0\) を超えると温度は下がり始め、内部エネルギーは減少し始めます。一方、仕事は膨張し続ける限り常に正です。この両者の兼ね合いで、吸熱から放熱に転じる点(\(Q=0\)となる点)や、吸熱量が最大になる点が存在します。\(V=2.5V_0\) は最高温度点 \(V=2V_0\) よりも後であり、物理的にありえる値です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 理想気体の状態方程式 (\(pV=nRT\)):
- 核心: p-Vグラフ上の状態量(\(p, V\))と、直接グラフに現れない状態量(\(T\))を結びつける万能の法則です。この問題では、\(p\)を\(V\)の関数で表したものを状態方程式に代入することで、\(T\)を\(V\)の関数として表現する、という応用的な使い方が核心となります。
- 理解のポイント: (2)で\(T\)を\(V\)の二次関数として導出する部分が、(3)と(4)を解くための土台となっています。
- 熱力学第一法則 (\(Q = \Delta U + W_{\text{した}}\)):
- 核心: 熱力学におけるエネルギー保存則です。(4)では、この法則を用いて、過程の途中での吸収熱量\(Q\)を体積\(V\)の関数として表現します。
- 理解のポイント: 仕事\(W\)(p-Vグラフの面積)と内部エネルギー変化\(\Delta U\)(\(\frac{3}{2}(pV-p_B V_B)\))をそれぞれ\(V\)の関数として求め、それらを足し合わせることで\(Q(V)\)を導出します。この一連の操作は、熱力学第一法則の深い理解を要求します。
- p-Vグラフの数学的解釈:
- 核心: 物理現象をグラフという数学的ツールで表現し、そこから情報を引き出す能力です。直線の方程式を立てたり、グラフの面積から仕事(積分値)を求めたりする操作が含まれます。
- 理解のポイント: B→Cが直線であることから、\(p\)が\(V\)の1次関数となり、結果として\(T\)や\(Q\)が\(V\)の2次関数になる、という論理の流れを掴むことが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- p-Vグラフが異なる形のサイクル: 例えば、放物線や双曲線の一部を含むサイクル問題。基本的な考え方は同じで、与えられた曲線から\(p(V)\)の関係式を特定し、状態方程式や第一法則に適用します。
- 最高・最低温度を求める問題: サイクル中の任意の過程で温度が最大・最小になる条件を問う問題。本問のように\(T\)を体積\(V\)(または圧力\(p\))の関数で表し、微分や平方完成で極値を求めるのが定石です。
- 熱の吸収・放出が切り替わる点を求める問題: \(Q(V)=0\) となる\(V\)を求める問題。(4)で導出した\(Q(V)\)の式を=0とおいて解きます。
- 初見の問題での着眼点:
- 過程の関数形を特定する: p-Vグラフ上の各過程が、どのような関数(定数、1次関数、反比例、etc.)で表されるかを見抜きます。
- 求めたい物理量を、独立変数(この問題ではV)の関数で表す: 温度\(T\)、仕事\(W\)、内部エネルギー\(\Delta U\)、熱量\(Q\)など、問われている量を全て\(V\)の関数として表現することを目指します。
- 数学(微分・二次関数)に持ち込む: 物理量を関数の形で表現できれば、あとは最大・最小問題や方程式を解くといった数学的な処理に帰着します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 最高温度点の誤認:
- 誤解: p-Vグラフで最も右上にある点(この問題ではBやC)が最高温度だと早合点してしまう。
- 対策: 温度\(T\)は \(pV\) に比例します(\(T \propto pV\))。p-Vグラフ上で、原点から最も遠い点が最高温度とは限りません。等温線(\(pV=\text{一定}\)の双曲線)をイメージし、サイクルが最も外側の等温線に接する点が最高温度点であると理解しましょう。必ず\(T\)を関数で表して最大値を求めるのが確実です。
- 仕事や内部エネルギー変化の始点を間違える:
- 誤解: (4)でB→C間の熱量を考える際に、仕事\(W\)や内部エネルギー変化\(\Delta U\)をA→C間やサイクル全体で計算してしまう。
- 対策: 問題文をよく読み、「どの過程における量か」を明確に意識することです。Bから任意の点Xまでの変化を考えるので、仕事も内部エネルギーも、始点はB(\(V_0, 3p_0\))であることを常に念頭に置いて立式します。
- 複雑な代数計算でのミス:
- 誤解: (4)の\(Q(V)\)の導出のように、複数の項を代入・整理する過程で計算ミスを犯す。
- 対策: 焦らず、一つ一つの項を丁寧に展開・整理することです。また、模範解答のように、\(W\)と\(\Delta U\)をそれぞれ\(V\)の多項式として整理してから足し合わせるなど、計算手順を工夫すると見通しが良くなります。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 等温線の束を重ねるイメージ: p-Vグラフに、原点から放射状に広がる等温線(\(T_1<T_2<T_3<\dots\))の束を重ねて描くイメージを持ちます。サイクル(三角形)の軌跡が、これらの等温線を横切っていく様子を想像します。サイクルが最も外側(高温)の等温線に「接する」点が、そのサイクルにおける最高温度点 \(T_{\text{max}}\) です。この問題では、直線BCが放物線 \(T(V)\) の頂点 \(V=2V_0\) で、等温線 \(T=4T_0\) に接していると解釈できます。
- 熱の出入りと\(dQ/dV\)の符号: (4)で求めた\(Q(V)\)を\(V\)で微分すると、\(dQ/dV\)は単位体積変化あたりの吸熱量(または放熱量)を意味します。\(Q\)が最大となる \(V_1 = \frac{5}{2}V_0\) は、\(dQ/dV=0\) となる点です。これは、この体積を境に、気体が熱を吸収する状態から放出する状態へと切り替わる(わけではないが、吸熱の勢いが最大から減少に転じる)ことを示唆しています。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ボイル・シャルルの法則 (\(\frac{pV}{T}=\text{一定}\)):
- 選定理由: (1)で、物質量が一定の気体の3つの状態(A, B, C)が与えられており、ある状態を基準に他の状態の温度を求めるのに最も効率的だからです。
- 適用根拠: 理想気体で物質量が変化しない場合に普遍的に成り立ちます。
- 直線の方程式:
- 選定理由: (2)で、過程B→Cにおける圧力\(p\)と体積\(V\)の関係を数式化するため。グラフが直線であることから、この数学ツールを選択します。
- 適用根拠: p-Vグラフ上のB-C間が線形であるという問題設定そのものです。
- 二次関数の平方完成:
- 選定理由: (3)と(4)で、それぞれ\(T(V)\)と\(Q(V)\)という二次関数の最大値を求めるため。
- 適用根拠: 関数の形が二次関数であると特定できたため、その最大・最小を求める標準的な数学的手法として適用します。微分して極値を求める方法も同等に有効です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 端点の温度計算:
- 戦略: ボイル・シャルルの法則で既知の状態Aと比較する。
- フロー: ① \(\frac{p_A V_A}{T_A} = \frac{p_B V_B}{T_B}\) → \(T_B\)算出。 ② \(\frac{p_A V_A}{T_A} = \frac{p_C V_C}{T_C}\) → \(T_C\)算出。
- (2) 途中の温度の関数化:
- 戦略: ①直線BCの式\(p(V)\)を求める → ②状態方程式 \(pV=nRT\) に代入 → ③\(nR\)を初期状態の情報で消去。
- フロー: \(p-p_B = m(V-V_B)\) → \(p(V)\)導出 → \(T = \frac{pV}{nR} = \frac{p(V)V}{p_0V_0/T_0}\) → \(T(V)\)導出。
- (3) 最高温度の計算:
- 戦略: \(T(V)\)の最大値を求める。
- フロー: ①\(T(V)\)を平方完成 → ②頂点の座標を求める → ③軸が定義域内にあることを確認し、最大値を答える。
- (4) 吸収熱量が最大になる体積の計算:
- 戦略: 熱力学第一法則を使い、\(Q\)を\(V\)の関数で表し、その最大値を求める。
- フロー: ①仕事\(W_{BX}(V)\)を面積計算で求める → ②内部エネルギー変化\(\Delta U_{BX}(V)\)を\(\frac{3}{2}(pV-p_B V_B)\)で求める → ③\(Q(V) = \Delta U + W\)を計算し、\(V\)の二次式として整理する → ④平方完成し、頂点のV座標を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題は数値が与えられておらず、\(p_0, V_0, T_0\) を用いて答える形式です。最後まで文字式のまま計算を進める必要があり、代数計算の正確さが求められます。
- 共通因数でくくる: \(T(V)\)や\(Q(V)\)を導出する際、\(p_0\) や \(V_0\), \(T_0\) などの定数をうまく式の外にくくりだしながら計算すると、式全体が簡潔になり、ミスを減らせます。
- 例: \(T = \frac{T_0}{V_0^2}(-V^2+4V_0V)\) のように、係数をまとめてから平方完成する。
- 検算: (2)で導出した\(T(V)\)の式に、\(V=V_0\) や \(V=3V_0\) を代入して、(1)で求めた \(T_B\) や \(T_C\) と一致するかを確認するのは有効な検算です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との比較:
- 最高温度: \(T_{\text{max}}=4T_0\) は、サイクルの端点である \(T_B=3T_0, T_C=3T_0\) よりも高い値であり、「途中で温度がピークを迎える」という直感と一致します。
- 熱量最大点: \(V_1 = 2.5V_0\) は、最高温度点 \(V=2V_0\) よりも体積が大きい側に来ています。これは、温度が下がり始めても、まだ気体は膨張して仕事をしているため、トータルでは熱を吸収しうることを示唆しており、物理的にありえない値ではありません。
- 極限状態を考える: もしBとCが非常に近い点だったら、最高温度はBやCの温度に近いはずです。導出した式がそのような極限で妥当な振る舞いをするか考えることも、理解を深める一助となります。
220 気体の変化
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、シリンダー内の気体に対する定積変化と定圧変化という、熱力学における基本的な2つのプロセスを比較する問題です。熱力学第1法則を正しく理解し、それぞれの条件下で熱、仕事、内部エネルギーがどのように関わり合うかを分析する力が問われます。
この問題の核心は、気体が外部にする仕事の有無が、同じ温度を上昇させるために必要な熱量にどう影響するかを理解することです。
- 気体に加えられる熱量を\(Q\)、気体にする仕事を\(w\)、気体の内部エネルギーの変化を\(\Delta U\)とする。
- (a) 気体の体積を一定にして加熱する(定積変化)。
- (b) 気体の圧力を一定にして加熱する(定圧変化)。
- (4)では、(a)と(b)の場合で同じだけ温度を上昇させる。
- (4)では、気体の内部エネルギーは温度だけの関数とする。
- (a)と(b)の場合で気体の質量は等しい。
- (1) \(Q\), \(w\), \(\Delta U\)の間に成り立つ関係式とその法則名。
- (2) (a)の場合の仕事\(w_a\)の符号と、\(Q_a\), \(\Delta U_a\)の間の関係式。
- (3) (b)の場合の仕事\(w_b\)の符号と、\(Q_b\), \(\Delta U_b\), \(w_b\)の間の関係式。
- (4) 同じ温度上昇における\(\Delta U_a\)と\(\Delta U_b\)、\(Q_a\)と\(Q_b\)、比熱\(c_a\)と\(c_b\)の大小関係。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「熱力学第1法則と気体の状態変化」です。特に、定積変化と定圧変化の違いを深く理解することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 熱力学第1法則: 気体の内部エネルギーの変化が、外部から得た熱とされた仕事によって決まるというエネルギー保存則です。
- 気体の仕事: 気体が膨張・収縮するときに外部との間でやりとりされるエネルギーです。体積変化がなければ仕事はゼロです。
- 内部エネルギー: 気体分子の運動エネルギーの総和であり、理想気体では温度にのみ依存します。
- 定積変化と定圧変化: それぞれ体積一定、圧力一定という条件下での変化であり、仕事の有無に直接的な違いが現れます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、熱力学第1法則の正しい形を理解します。
- 次に、(a)定積変化、(b)定圧変化のそれぞれについて、体積変化の有無から仕事\(w\)の値を判断し、熱力学第1法則を適用します。
- 最後に、(a)と(b)で同じ温度上昇という条件を使い、内部エネルギー変化、熱量、比熱の大小関係を論理的に導き出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
熱、仕事、内部エネルギーという熱力学の基本的な3つの量を結びつける法則を問う問題です。これらの量の定義、特に仕事の向き(気体が「する」のか「される」のか)を正確に把握することが重要です。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則: 気体の持つエネルギー(内部エネルギー)の変化は、外部とのエネルギーのやり取り(熱と仕事)の収支に等しい、という考え方が基本です。
- 各量の定義:
- \(\Delta U\): 内部エネルギーの「変化量」。
- \(Q\): 気体が外部から「吸収した」熱量。
- \(w\): 気体が外部から「された」仕事。問題文の「気体にする仕事」はこれに相当します。
- 法則の表現: 上記の定義に基づくと、内部エネルギーの増加分は、吸収した熱とされた仕事の和になります。
具体的な解説と立式
気体の内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は、気体が外部から吸収した熱量\(Q\)と、気体が外部からされた仕事\(w\)の和に等しくなります。これはエネルギー保存則の熱力学的な表現です。
$$ \Delta U = Q + w $$
この法則は「熱力学第1法則」として知られています。
この式を変形すると、\(Q = \Delta U – w\) となります。これは模範解答で示されている形式です。どちらの形式も物理的に等価です。
物理学では、気体が外部に「する」仕事を\(W\)として、\(\Delta U = Q – W\) と表すこともあります。\(w\)は「される」仕事なので、\(w = -W\) の関係があり、どちらの表現も同じ内容を示しています。
使用した物理公式
- 熱力学第1法則
この設問は法則を答えるものであり、具体的な計算はありません。
気体の元気(内部エネルギー)が増えるのは、外から食べ物(熱)をもらったり、マッサージ(仕事)をしてもらったりした時です。この「元気の変化」=「もらった食べ物」+「してもらったマッサージ」という関係を表したのが熱力学第1法則です。
関係式は \(Q = \Delta U – w\) (または \(\Delta U = Q + w\))、法則の名前は「熱力学第1法則」です。
熱力学の問題を解く上で最も基本となる法則であり、各項の符号の定義を正確に理解しておくことが不可欠です。
問(2)
思考の道筋とポイント
(a)の定積変化について、仕事と熱力学第1法則を考える問題です。定積変化という言葉の意味を正しく理解し、仕事の定義に当てはめることが第一歩です。
この設問における重要なポイント
- 定積変化: 体積が一定の変化です。図(a)ではピストンが固定されているため、気体の体積は変わりません。
- 気体の仕事の定義: 気体の仕事は体積変化に伴って生じます。体積が変化しない場合、気体は外部に仕事もせず、外部から仕事もされません。
- 熱力学第1法則の適用: 仕事がゼロであることを熱力学第1法則の式に代入し、熱と内部エネルギーの関係を導きます。
具体的な解説と立式
(a)の過程は定積変化であり、ピストンが固定されているため気体の体積は変化しません。
気体が外部からされる仕事\(w\)は、体積変化がない場合にはゼロとなります。
$$ w_a = 0 $$
この結果を熱力学第1法則 \(Q = \Delta U – w\) に適用します。添字aをつけて、(a)の場合の関係式を立てます。
$$ Q_a = \Delta U_a – w_a $$
ここに \(w_a = 0\) を代入すると、
$$ Q_a = \Delta U_a $$
となります。
使用した物理公式
- 熱力学第1法則: \(Q = \Delta U – w\)
- 仕事の定義(定積変化)
この設問は物理法則を適用するものであり、数値計算はありません。
(a)の状況では、ピストンが固定されているので、気体は膨らんだり縮んだりできません。つまり、壁を押して動かすような「仕事」は一切しませんし、されません。そのため、気体に与えた熱は、すべて気体の元気(内部エネルギー)を増やすために使われます。
仕事\(w_a\)は \(0\) です。
熱量\(Q_a\)と内部エネルギーの変化\(\Delta U_a\)の間に成り立つ式は \(Q_a = \Delta U_a\) です。
これは、定積変化では、加えられた熱がすべて内部エネルギーの増加に使われることを意味しており、物理的に妥当な結論です。
問(3)
思考の道筋とポイント
(b)の定圧変化について、仕事の符号と熱力学第1法則を考える問題です。定圧変化で加熱された場合に気体の体積がどうなるかを考え、仕事の符号を判断することが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 定圧変化: 圧力が一定の変化です。図(b)ではピストンが自由に動けるため、内外の圧力がつりあったまま加熱されます。
- シャルルの法則: 圧力が一定のとき、気体の体積\(V\)は絶対温度\(T\)に比例します(\(V/T = \text{一定}\))。
- 仕事の符号: 気体が膨張すると、外部に対して正の仕事をするため、外部から「される」仕事は負になります。
具体的な解説と立式
(b)の過程は定圧変化です。気体を加熱すると、シャルルの法則により温度が上昇し、体積が増加します。
体積が増加するということは、気体がピストンを押し上げて外部に対して正の仕事をする、ということです。
問題で問われている仕事\(w_b\)は、気体が外部から「される」仕事です。気体が外部に仕事をする場合、される仕事は負となります。
したがって、仕事\(w_b\)は負です。
この場合の熱力学第1法則は、添字bをつけて次のように表されます。
$$ Q_b = \Delta U_b – w_b $$
この式が、\(Q_b\), \(\Delta U_b\), \(w_b\)の間に成り立つ関係式です。\(w_b\)は負の値を持つため、\(-w_b\)は正の値となります。
使用した物理公式
- 熱力学第1法則: \(Q = \Delta U – w\)
- シャルルの法則
この設問は物理法則を適用するものであり、数値計算はありません。
(b)の状況では、ピストンが自由に動けます。気体を温めると、気体は膨張してピストンを押し上げます。この「ピストンを押し上げる」という行為が、気体が外部にした「仕事」です。気体が仕事をした分、エネルギーを消費します。したがって、気体に与えた熱は、気体の元気(内部エネルギー)を増やすためだけでなく、外部への仕事をするためにも使われます。
問題で聞かれている仕事\(w_b\)は「気体がされた仕事」なので、気体が仕事をした場合は「マイナスの仕事」をされたことになります。よって、\(w_b\)は負です。
仕事\(w_b\)は負です。
関係式は \(Q_b = \Delta U_b – w_b\) です。
定圧変化では、加えられた熱の一部が外部への仕事に使われ、残りが内部エネルギーの増加に使われることを示しています。これは物理的に妥当な結論です。
問(4)
思考の道筋とポイント
定積変化(a)と定圧変化(b)で同じ温度上昇をさせた場合の、内部エネルギー変化、熱量、比熱を比較する問題です。内部エネルギーが温度のみに依存するという条件が、比較の出発点となります。
この設問における重要なポイント
- 内部エネルギーと温度: 問題の条件より、内部エネルギーは温度だけの関数です。したがって、温度変化が同じであれば、内部エネルギーの変化も同じになります。
- 熱力学第1法則の比較: (2)と(3)で導いた関係式を比較し、仕事の有無が熱量の大小にどう影響するかを分析します。
- 比熱の定義: 比熱は、単位質量あたりの物質の温度を1K上昇させるのに必要な熱量です。\(Q = mc\Delta T\) の関係から、熱量の大小関係がそのまま比熱の大小関係につながります。
具体的な解説と立式
まず、内部エネルギーの変化 \(\Delta U_a\) と \(\Delta U_b\) を比較します。
問題の条件から、内部エネルギーは温度だけの関数であり、(a)と(b)で温度の上昇は同じです。したがって、内部エネルギーの変化も等しくなります。
$$ \Delta U_a = \Delta U_b $$
次に、加えられた熱量 \(Q_a\) と \(Q_b\) を比較します。
(2), (3)の結果から、
$$ Q_a = \Delta U_a \quad \cdots ① $$
$$ Q_b = \Delta U_b – w_b \quad \cdots ② $$
\(\Delta U_a = \Delta U_b\) であるから、①を②に代入すると、
$$ Q_b = Q_a – w_b $$
これを変形すると、
$$ Q_a – Q_b = w_b $$
(3)で確認したように、\(w_b\)は負の値です(\(w_b < 0\))。したがって、
$$ Q_a – Q_b < 0 $$
よって、\(Q_a < Q_b\) となります。
最後に、比熱 \(c_a\) と \(c_b\) を比較します。
比熱の定義式 \(Q = mc\Delta T\) を(a), (b)それぞれに適用します。気体の質量を\(m\)、温度上昇を\(\Delta T\)とすると、
$$ Q_a = m c_a \Delta T \quad \cdots ③ $$
$$ Q_b = m c_b \Delta T \quad \cdots ④ $$
\(Q_a < Q_b\) であり、\(m\)と\(\Delta T\)は両者で等しいので、
$$ m c_a \Delta T < m c_b \Delta T $$
両辺を正の値である \(m\Delta T\) で割ると、
$$ c_a < c_b $$
となります。
使用した物理公式
- 熱力学第1法則
- 比熱の定義: \(Q = mc\Delta T\)
この設問は大小関係を導くものであり、数値計算はありません。
同じ温度だけ上げる場合を考えます。
- 内部エネルギー: 気体の元気(内部エネルギー)は温度で決まるので、同じ温度上昇なら、元気の増え方(\(\Delta U\))は(a)も(b)も同じです。
- 熱量: (a)では与えた熱がすべて元気の増加に使われます。一方、(b)では与えた熱が「元気の増加」と「外部への仕事」の両方に分配されます。同じだけ元気を増やすためには、(b)の方が仕事をした分だけ余計に熱を必要とします。だから \(Q_a < Q_b\) です。
- 比熱: 比熱は「温まりにくさ」を表します。同じ温度を上げるのにより多くの熱が必要な(b)の方が、温まりにくいと言えます。したがって、比熱も \(c_a < c_b\) となります。
思考の道筋とポイント
高校物理の発展的な内容として、定積モル比熱\(C_V\)と定圧モル比熱\(C_p\)の関係(マイヤーの関係式)を用いると、より深く現象を理解できます。
この設問における重要なポイント
- モル比熱: 1モルあたりの物質の温度を1K上昇させるのに必要な熱量です。
- 内部エネルギーと定積モル比熱: 理想気体の内部エネルギーの変化は、変化の仕方によらず \(\Delta U = nC_V\Delta T\) と表せます。
- マイヤーの関係式: 定圧モル比熱と定積モル比熱の間には \(C_p = C_V + R\) という関係が成り立ちます(\(R\)は気体定数)。
具体的な解説と立式
気体の物質量を\(n\)、温度上昇を\(\Delta T\)とします。
内部エネルギーの変化は、過程によらず温度変化だけで決まり、\(\Delta U = nC_V\Delta T\) と書けます。
(a), (b)ともに温度上昇は\(\Delta T\)なので、
$$ \Delta U_a = \Delta U_b = nC_V\Delta T $$
次に熱量を考えます。
(a)定積変化では、\(Q_a = \Delta U_a\) なので、
$$ Q_a = nC_V\Delta T $$
(b)定圧変化では、定義より \(Q_b = nC_p\Delta T\) です。
マイヤーの関係式 \(C_p = C_V + R\) より、\(R>0\) なので \(C_p > C_V\) です。
したがって、
$$ nC_V\Delta T < nC_p\Delta T $$
となり、\(Q_a < Q_b\) が導かれます。 最後に比熱を比較します。比熱\(c\)とモル比熱\(C\)の関係は、モル質量を\(M\)として \(C=Mc\) です。 \(C_p > C_V\) の両辺を\(M\)で割ると、
$$ \frac{C_p}{M} > \frac{C_V}{M} $$
よって、\(c_b > c_a\) となります。
この別解は、なぜ定圧変化の方が多くの熱量を必要とするのかを、気体定数\(R\)(気体が仕事をする能力に関わる定数)という形で定量的に示してくれます。
内部エネルギーの関係は \(\Delta U_a = \Delta U_b\) です。
熱量の関係は \(Q_a < Q_b\) です。
比熱の関係は \(c_a < c_b\) です。
定積変化よりも定圧変化の方が、同じ温度を上げるのにより多くの熱量を要するという結果は、定圧モル比熱が定積モル比熱より大きい(マイヤーの関係式)という事実とも整合しており、物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 熱力学第1法則 (\(\Delta U = Q + w\)):
- 核心: この問題全体を貫く最も重要な法則です。気体の内部エネルギーの変化(\(\Delta U\))が、外部から吸収した熱量(\(Q\))と外部からされた仕事(\(w\))の和に等しいという、エネルギー保存則の熱力学的な表現です。
- 理解のポイント: 各項の符号の定義を正確に理解することが不可欠です。\(Q\)は吸収なら正、放出なら負。\(w\)は「される」仕事であり、気体が膨張(外部に仕事をする)すれば\(w\)は負、収縮(外部から仕事をされる)すれば\(w\)は正となります。この法則を正しく適用することが、全設問を解くための出発点です。
- 仕事の有無と状態変化:
- 核心: (a)定積変化と(b)定圧変化の根本的な違いは、気体が外部に仕事をするかしないか、という点にあります。
- 理解のポイント:
- 定積変化 (a): 体積が変化しない(\(\Delta V = 0\))ため、気体は仕事をしません(\(w_a = 0\))。したがって、加えられた熱は100%内部エネルギーの増加に使われます (\(Q_a = \Delta U_a\))。
- 定圧変化 (b): 加熱により体積が膨張(\(\Delta V > 0\))するため、気体は外部に仕事をします(\(w_b < 0\))。そのため、加えられた熱は内部エネルギーの増加と外部への仕事の両方に分配されます (\(Q_b = \Delta U_b – w_b\))。この「仕事」の分だけ、同じ温度上昇でも定積変化より多くの熱が必要になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 断熱変化: 外部との熱のやり取りがない(\(Q=0\))変化。熱力学第1法則は \(\Delta U = w\) となります。断熱圧縮すれば(\(w>0\))、内部エネルギーが増加し温度が上昇します。断熱膨張すれば(\(w<0\))、内部エネルギーを消費して仕事をするため温度が下降します。
- 等温変化: 内部エネルギーが一定(\(\Delta U=0\))の変化。熱力学第1法則は \(Q = -w\) となります。気体が膨張して外部に仕事をした分(\(-w>0\))だけ、外部から熱を吸収します。
- サイクル: 気体がいくつかの状態変化を経て元の状態に戻る過程。1サイクル全体では内部エネルギーの変化はゼロ(\(\Delta U = 0\))なので、\(Q_{\text{net}} = -w_{\text{net}}\) となります。つまり、サイクル全体で吸収した正味の熱量が、外部にした正味の仕事に等しくなります。
- 初見の問題での着眼点:
- 状態変化の種類を特定する: 問題文やグラフから、定積、定圧、等温、断熱のどの変化に当たるのか、あるいはこれらの組み合わせなのかをまず見抜きます。
- P-Vグラフをイメージする: 問題にグラフがなくても、P-Vグラフ上での変化の軌跡を頭に描くと、仕事の有無や大小関係(グラフとV軸で囲まれた面積)が視覚的に理解しやすくなります。
- 熱力学第1法則の各項をチェックする: \(\Delta U\), \(Q\), \(w\) のそれぞれについて、その変化で0になるのか、正になるのか、負になるのかを一つずつ検討します。これが立式の基本となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 仕事(w)の符号の混同:
- 誤解: 気体が「する」仕事(\(W\))と、気体が「される」仕事(\(w\))を混同してしまう。熱力学第1法則の式 \(\Delta U = Q – W\) と \(\Delta U = Q + w\) のどちらを使うかで、仕事の定義が異なることを忘れてしまう。
- 対策: 自分で「気体がされる仕事を\(w\)とする」のように、使う文字の定義を最初に決めてしまうのが安全です。そして、気体が膨張したら「外部に仕事をしたから、された仕事\(w\)は負」、収縮したら「外部から仕事をされたから\(w\)は正」というルールを徹底しましょう。
- 内部エネルギー変化の誤解:
- 誤解: 定圧変化(b)では熱の一部が仕事に使われるから、同じ熱量を加えても内部エネルギーの増加は定積変化(a)より小さい、と考えてしまう。
- 対策: 問題の条件をよく読むことが重要です。この問題の(4)では「同じだけ温度を上昇させる」という条件が与えられています。内部エネルギーは温度で決まるので、この条件下では\(\Delta U_a = \Delta U_b\)となります。熱量ではなく、温度変化が内部エネルギー変化を決定する、という点を強く意識しましょう。
- 比熱とモル比熱の混同:
- 誤解: 比熱\(c\)(単位 J/(g·K))とモル比熱\(C\)(単位 J/(mol·K))を区別せず、マイヤーの関係式 \(C_p – C_V = R\) を比熱にそのまま適用しようとする。
- 対策: 単位を意識することが重要です。マイヤーの関係式はモル比熱に関するものです。比熱\(c\)とモル比熱\(C\)は、モル質量\(M\)を用いて \(C=Mc\) という関係にあることを理解し、混同しないようにしましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- エネルギーの分配イメージ:
- (a) 定積変化: 外部から来た熱エネルギー(\(Q_a\))という一本の矢印が、そのまま内部エネルギー(\(\Delta U_a\))という箱にすべて注ぎ込まれるイメージ。
- (b) 定圧変化: 外部から来た熱エネルギー(\(Q_b\))という太い矢印が、途中で二股に分かれ、一方は内部エネルギー(\(\Delta U_b\))の箱へ、もう一方は外部への仕事(\(-w_b\))として外に出ていくイメージ。同じ量の内部エネルギーを溜めるには、(a)より太い矢印が必要だと直感的にわかります。
- P-Vグラフでの可視化:
- (a) 定積変化: P-Vグラフ上で、体積\(V\)が一定のまま圧力が上昇する「縦線」の軌跡。V軸と囲む面積はゼロなので、仕事はゼロです。
- (b) 定圧変化: P-Vグラフ上で、圧力\(P\)が一定のまま体積が増加する「横線」の軌跡。この軌跡とV軸が囲む長方形の面積が、気体が外部にした仕事(\(-w_b\))に相当します。
- エネルギーの分配イメージ:
- 図を描く際に注意すべき点:
- 状態変化の矢印: P-Vグラフを描く際は、変化の前の状態から後の状態へ矢印を引くことで、膨張か圧縮かを明確にします。
- 仕事の面積: P-Vグラフで仕事を表す面積を斜線で示すと、仕事の有無や大小が視覚的に一目瞭然になります。
- エネルギーの流れ図: 上記の「エネルギーの分配イメージ」のような簡単な図を描くことで、熱、仕事、内部エネルギーの関係を整理し、立式のミスを防ぐことができます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 熱力学第1法則 (\(\Delta U = Q + w\)):
- 選定理由: 問題が熱、仕事、内部エネルギーという3つの量について問うており、これらの関係性を記述する唯一の基本法則だからです。熱力学の問題では、まずこの法則を思い浮かべるのが定石です。
- 適用根拠: エネルギー保存則という、物理学全体を貫く大原則に基づいています。
- シャルルの法則 (\(V/T = \text{一定}\)):
- 選定理由: (3)で、定圧加熱時に体積がどうなるか(仕事の有無)を判断するために必要となります。「圧力が一定」という条件から、この法則の適用を考えます。
- 適用根拠: 実験的に見出された気体の性質に関する法則であり、定圧変化の挙動を記述します。
- 比熱の定義式 (\(Q = mc\Delta T\)):
- 選定理由: (4)で、熱量の大小関係を比熱の大小関係に結びつけるために必要となります。問題文に「比熱」という言葉が出てきた時点で、この公式の出番です。
- 適用根拠: 比熱という物理量の定義そのものです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 法則の確認:
- 戦略: 熱力学第1法則の定義を記述する。
- (2) 定積変化の分析:
- 戦略: 「定積」→「体積変化なし」→「仕事ゼロ」という論理の流れで\(w_a\)を決定し、熱力学第1法則に代入する。
- フロー: ①定積なので\(\Delta V_a = 0\) → ②仕事の定義から\(w_a = 0\) → ③熱力学第1法則 \(Q_a = \Delta U_a – w_a\) に代入 → ④\(Q_a = \Delta U_a\) を導出。
- (3) 定圧変化の分析:
- 戦略: 「定圧加熱」→「シャルルの法則で体積膨張」→「外部に仕事をする」→「される仕事\(w_b\)は負」と判断する。
- フロー: ①定圧加熱なので\(T\)上昇 → ②シャルルの法則から\(V\)増加 → ③気体は外部に仕事をするので、される仕事\(w_b\)は負 → ④熱力学第1法則の一般式 \(Q_b = \Delta U_b – w_b\) を記述。
- (4) 両過程の比較:
- 戦略: 「同じ温度上昇」という条件を基点に、\(\Delta U\)、\(Q\)、\(c\)の順で比較していく。
- フロー: ①「同じ\(\Delta T\)」かつ「\(\Delta U\)は\(T\)の関数」→ \(\Delta U_a = \Delta U_b\) → ②(2)(3)の結果 \(Q_a = \Delta U_a\) と \(Q_b = \Delta U_b – w_b\) を比較 → ③\(w_b < 0\) なので \(Q_a < Q_b\) → ④比熱の定義式 \(Q=mc\Delta T\) に適用 → ⑤\(Q_a < Q_b\) なので \(c_a < c_b\)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま論理を進める: この問題のように、大小関係や符号を問う問題では、具体的な数値を扱うことはありません。物理法則を文字式のまま正確に適用し、論理的に結論を導く訓練が重要です。
- 不等号の扱いに注意: \(w_b < 0\) のような不等式を扱う際、移項や代入で不等号の向きが変わらないように細心の注意を払いましょう。例えば、\(Q_a – Q_b = w_b\) で \(w_b < 0\) なのだから、\(Q_a – Q_b < 0\) となり、\(Q_a < Q_b\) となります。この変形を焦って間違えないようにしましょう。
- 定義を明確にする: 特に仕事の符号は混乱の元です。自分が使っている文字が「する仕事」なのか「される仕事」なのかを常に意識することで、符号ミスを防げます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- \(Q_a < Q_b\): 定圧変化では、気体は膨張して外部に仕事をするという「余計な仕事」をする。そのため、同じ温度上昇(同じ内部エネルギー増加)を達成するには、仕事に使われる分のエネルギーを追加で供給してやる必要がある。したがって、定圧変化の方が多くの熱を要する(\(Q_b > Q_a\))というのは、物理的に極めて妥当な結論です。
- \(c_a < c_b\): 比熱は「温まりにくさ」の指標です。より多くの熱を必要とする定圧変化の方が「温まりにくい」と言えるため、\(c_b > c_a\) という結果は直感とも一致します。これは定圧モル比熱が定積モル比熱より大きいという事実(\(C_p > C_V\))とも一致します。
- 別解との比較:
- この問題は、モル比熱とマイヤーの関係式(\(C_p – C_V = R\))という、より進んだ知識を使っても解くことができます。その知識によれば、\(C_p > C_V\) は自明であり、そこから \(Q_b > Q_a\) や \(c_b > c_a\) が直ちに導かれます。基本的な熱力学第1法則から導いた結論が、この発展的な内容と一致することを確認することで、解答の正しさを強く確信できます。
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