「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 14】Step 2

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

Step 2

200 内部エネルギー

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「単原子分子理想気体の内部エネルギーの変化」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 理想気体の内部エネルギー: 理想気体の内部エネルギーは、気体分子の運動エネルギーの総和であり、気体の絶対温度にのみ比例します。体積や圧力には依存しません。
  2. 単原子分子の内部エネルギーの公式: 単原子分子(He, Ne, Arなど)からなる理想気体の内部エネルギー\(U\)は、物質量を\(n\)、気体定数を\(R\)、絶対温度を\(T\)として、\(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\) と表されます。
  3. 内部エネルギーの変化: 内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は、温度の変化\(\Delta T\)に比例します。つまり、\(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文で与えられた物質量\(n\)、気体定数\(R\)、そして温度変化\(\Delta T\)を特定します。
  2. 単原子分子の理想気体の内部エネルギー変化の公式 \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) に、特定した値を代入して計算します。
  3. 計算結果を問題文の有効数字に合わせて整理します。

思考の道筋とポイント
この問題は、単原子分子からなる理想気体の内部エネルギーが温度の変化によってどれだけ変わるかを計算するものです。重要なのは、理想気体の内部エネルギーが絶対温度\(T\)のみの関数であることを理解し、正しい公式を選択して適用することです。問題文から必要な数値を正確に読み取り、計算ミスなく答えを導き出すことが求められます。
この設問における重要なポイント

  • 単原子分子の理想気体の内部エネルギーの公式は \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)。
  • 内部エネルギーの変化量は \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)。
  • 温度変化\(\Delta T\)は、変化後の温度から変化前の温度を引いて求める。
  • 与えられた数値の有効数字に注意して、最終的な答えをまとめる。

具体的な解説と立式
求める内部エネルギーの変化を\(\Delta U\) [J]とします。
単原子分子の理想気体の内部エネルギー\(U\)は、物質量\(n\)、気体定数\(R\)、絶対温度\(T\)を用いて次のように表されます。
$$ U = \frac{3}{2}nRT $$
温度が\(T_{\text{前}} = 273 \text{ K}\)から\(T_{\text{後}} = 323 \text{ K}\)に変化したときの内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は、それぞれの温度における内部エネルギーの差として計算できます。
$$ \Delta U = U_{\text{後}} – U_{\text{前}} = \frac{3}{2}nRT_{\text{後}} – \frac{3}{2}nRT_{\text{前}} $$
この式を整理すると、温度変化\(\Delta T = T_{\text{後}} – T_{\text{前}}\)を用いた以下の関係式が得られます。
$$ \Delta U = \frac{3}{2}nR(T_{\text{後}} – T_{\text{前}}) = \frac{3}{2}nR\Delta T $$
問題文より、\(n = 2.0 \text{ mol}\)、\(R = 8.31 \text{ J/(mol}\cdot\text{K)}\)、温度変化\(\Delta T = 323 – 273 \text{ K}\)です。これらの値をこの式に代入して\(\Delta U\)を求めます。

使用した物理公式

  • 単原子分子の理想気体の内部エネルギーの変化: \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)
計算過程

まず、温度変化\(\Delta T\)を計算します。
$$ \Delta T = 323 – 273 = 50 \text{ K} $$
次に、この値を内部エネルギー変化の公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= \frac{3}{2} \times 2.0 \times 8.31 \times (323 – 273) \\[2.0ex]&= \frac{3}{2} \times 2.0 \times 8.31 \times 50 \\[2.0ex]&= 3.0 \times 8.31 \times 50 \\[2.0ex]&= 249.3 \times 2.0 \\[2.0ex]&= 1246.5 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
問題文で与えられている物質量「\(2.0 \text{ mol}\)」は有効数字が2桁です。したがって、計算結果も有効数字2桁に丸めます。
$$ \Delta U \approx 1.2 \times 10^3 \text{ [J]} $$

計算方法の平易な説明

この問題は、公式に数値を当てはめるだけで解くことができます。使う公式は「単原子分子の内部エネルギーの変化 = (3/2) × 物質量 × 気体定数 × 温度の変化」です。
まず、「温度の変化」を計算します。これは「後の温度」から「前の温度」を引けばよいので、\(323 – 273 = 50 \text{ K}\)となります。
次に、問題文に書かれている「物質量 \(2.0 \text{ mol}\)」「気体定数 \(8.31 \text{ J/(mol}\cdot\text{K)}\)」と、今計算した「温度の変化 \(50 \text{ K}\)」をすべて掛け合わせます。
計算式は \(\displaystyle\frac{3}{2} \times 2.0 \times 8.31 \times 50\) となり、これを計算すると \(1246.5\) となります。
最後に、問題文の数値「\(2.0 \text{ mol}\)」が2桁の数字なので、答えも2桁にそろえる必要があります。\(1246.5\)を上から2桁で表すと\(1200\)となり、科学的な表記法で \(1.2 \times 10^3 \text{ J}\) となります。

結論と吟味

求める内部エネルギーの変化は \(1.2 \times 10^3 \text{ J}\) です。
気体の温度が上昇しているため、気体分子の運動はより活発になります。その結果、内部エネルギーは増加するはずです。計算結果が正の値(\(\Delta U > 0\))となっていることから、この結果は物理的に妥当であると言えます。また、有効数字の処理も適切に行われています。

解答 \(1.2 \times 10^3 \text{ J}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 理想気体の内部エネルギーと絶対温度の関係:
    • 核心: 理想気体の内部エネルギーは、気体を構成する分子の熱運動による運動エネルギーの総和であり、体積や圧力にはよらず、絶対温度\(T\)にのみ比例するという 基本的な法則を理解することが最も重要です。
    • 理解のポイント:
      • 温度が上がれば分子の運動は激しくなり、内部エネルギーは増加する。
      • 温度が下がれば分子の運動は穏やかになり、内部エネルギーは減少する。
  • 単原子分子の内部エネルギーの公式:
    • 核心: 上記の関係を数式で表現したものが、単原子分子の理想気体の内部エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\) です。この公式を正しく記憶し、適用できることが直接的な得点力になります。
    • 理解のポイント:
      • \(U\): 内部エネルギー [J]
      • \(n\): 物質量 [mol]
      • \(R\): 気体定数 [J/(mol・K)]
      • \(T\): 絶対温度 [K]
      • 内部エネルギーの「変化」\(\Delta U\)を求めるときは、温度の「変化」\(\Delta T\)を用いて、\(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 二原子分子の内部エネルギー: 問題文が「二原子分子」(例: \(H_2\), \(N_2\), \(O_2\))の場合、内部エネルギーの公式は \(U = \displaystyle\frac{5}{2}nRT\) となります。係数が \(\frac{3}{2}\) から \(\frac{5}{2}\) に変わる点に注意が必要です。
    • 熱力学第一法則との融合問題: 気体が外部から熱量\(Q\)を吸収し、外部に仕事\(W\)をしたとき、内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は \(Q = \Delta U + W\) という関係(熱力学第一法則)を満たします。この問題で求めた\(\Delta U\)を使って、\(Q\)や\(W\)を計算させる問題は頻出です。
    • 状態方程式との組み合わせ: 問題によっては、物質量\(n\)や温度\(T\)が直接与えられず、圧力\(p\)と体積\(V\)が与えられることがあります。その場合は、理想気体の状態方程式 \(pV = nRT\) を用いて、必要な量(例えば\(nRT\)の塊など)を導出してから計算します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 気体の種類を最優先で確認: まず「単原子分子」か「二原子分子」か、あるいはその指定がないかを確認します。これにより、内部エネルギーの公式の係数(\(\frac{3}{2}\)か\(\frac{5}{2}\)か)が決定します。
    2. 求められているものを明確化: 「内部エネルギー\(U\)」そのものを問われているのか、それとも「内部エネルギーの変化\(\Delta U\)」を問われているのかを区別します。
    3. 温度の単位を確認: 温度がセルシウス温度(℃)で与えられていないか確認します。熱力学の計算では、必ず絶対温度(K)に変換する必要があります。(変換式: \(T \text{[K]} = t \text{[℃]} + 273.15\))
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 係数(\(\frac{3}{2}\))の間違い:
    • 誤解: 単原子分子の問題なのに、二原子分子用の係数\(\frac{5}{2}\)をうっかり使ってしまう。
    • 対策: 問題文の「単原子分子」というキーワードに丸を付けるなど、意識的に確認する癖をつけましょう。「単」→3文字→3/2、「二」→2文字→5/2?など、自分なりのこじつけで覚えても効果的です。
  • \(\Delta U\)と\(U\)の混同:
    • 誤解: 「内部エネルギーの変化を求めよ」と問われているのに、変化後の温度(323 K)を使って、その時点での内部エネルギー \(U = \frac{3}{2}nRT = \frac{3}{2} \times 2.0 \times 8.31 \times 323\) を計算してしまう。
    • 対策: 「変化」という言葉は「(後の量)-(前の量)」を意味することを常に意識します。公式 \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) の \(\Delta\)(デルタ)が「変化量」を表す記号であることを再確認しましょう。
  • 有効数字の処理ミス:
    • 誤解: 計算結果の \(1246.5\) をそのまま答えにしたり、中途半端に \(1250\) などと丸めてしまったりする。
    • 対策: 計算に用いた数値の中で、最も有効数字の桁数が少ないものに合わせるのがルールです。この問題では「\(2.0\) mol」が2桁なので、答えも2桁にします。\(1246.5\) を上から2桁(1と2)で表すには、3桁目の4を四捨五入して \(1200\) とし、\(1.2 \times 10^3\) と表記します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 単原子分子の内部エネルギー変化の公式 (\(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)):
    • 選定理由: この問題は、指定された条件下での「単原子分子」の「理想気体」の「内部エネルギーの変化」を計算することが目的です。この公式は、まさにその物理量を、与えられた変数(物質量\(n\)、気体定数\(R\)、温度変化\(\Delta T\))から直接求めるために存在する、最も的確なツールです。
    • 適用根拠:
      • 「内部エネルギーの変化」を求めたい → \(\Delta U\) を求める式が必要。
      • 「単原子分子」と指定されている → 係数は \(\frac{3}{2}\) を選択。
      • 「理想気体」とされている → 内部エネルギーは温度のみに依存し、この公式が厳密に成り立つ。
      • 与えられた値が \(n, R, \Delta T\) である → 公式の変数と完全に一致しており、直接代入が可能。
      • このように、問題文のキーワードと公式の適用条件を一つ一つ照らし合わせることで、論理的にこの公式を選択することができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 代入前の値の整理: 計算を始める前に、問題文から使う数値をリストアップする癖をつけましょう。
    • \(n = 2.0 \text{ mol}\)
    • \(R = 8.31 \text{ J/(mol}\cdot\text{K)}\)
    • \(\Delta T = 323 – 273 = 50 \text{ K}\)

    このように整理することで、代入ミスや読み間違いを防ぎます。

  • 計算順序の工夫: \(\displaystyle\frac{3}{2} \times 2.0 \times 8.31 \times 50\) のような計算では、掛け算の順序を工夫すると楽になります。
    • まず、分数を解消できる組み合わせを探します。\(\frac{3}{2} \times 2.0 = 3.0\) と先に計算します。
    • 残りの計算は \(3.0 \times 8.31 \times 50\) となります。
    • \(3.0 \times 50 = 150\) なので、計算は \(150 \times 8.31\) となり、筆算がしやすくなります。
  • 有効数字の意識: 計算の最終段階で必ず有効数字を確認する習慣をつけます。「問題文の数値の桁数は?」「答えは何桁にすべき?」と自問自答しましょう。特に、物理の問題では測定値に基づいて計算することが多いため、有効数字の扱いは非常に重要です。

201 内部エネルギー

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「理想気体の内部エネルギーと状態量(p, V, T)の関係」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 単原子分子の内部エネルギー: 内部エネルギー\(U\)は、絶対温度\(T\)を用いて \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\) と表されます。これは、内部エネルギーが絶対温度に正比例することを意味します。
  2. 理想気体の状態方程式: 圧力\(p\)、体積\(V\)、物質量\(n\)、気体定数\(R\)、絶対温度\(T\)の間には \(pV=nRT\) の関係が成り立ちます。
  3. 内部エネルギーの別表現: 上記2つの式を組み合わせることで、\(nRT\)を消去し、内部エネルギーを圧力\(p\)と体積\(V\)で表す \(U = \displaystyle\frac{3}{2}pV\) という関係式を導くことができます。これは、内部エネルギーが積\(pV\)に正比例することを意味します。
  4. 状況に応じた公式の選択: 問題の条件によって、\(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\) と \(U = \displaystyle\frac{3}{2}pV\) のどちらを使うと考えやすいかが変わります。この2つの表現を自在に使い分けることが、この問題を効率よく解く鍵となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、絶対温度\(T\)の変化が与えられているため、\(U\)が\(T\)に比例する関係 (\(U \propto T\)) を利用します。
  2. (2), (3)では、圧力\(p\)や体積\(V\)の変化が与えられているため、\(U\)が積\(pV\)に比例する関係 (\(U \propto pV\)) を利用します。
  3. (4)では、積\(pV\)が一定という条件が与えられているため、\(U \propto pV\) の関係から内部エネルギーが変化しないことを判断します。

思考の道筋とポイント
この問題は、単原子分子理想気体の内部エネルギーが、状態量(絶対温度\(T\)、圧力\(p\)、体積\(V\))の変化に応じてどのように変わるかを問うています。核心は、内部エネルギー\(U\)が絶対温度\(T\)に比例すること (\(U \propto T\))、そして、状態方程式 \(pV=nRT\) を介して、積\(pV\)にも比例すること (\(U \propto pV\)) を理解し、使い分けることです。

まず、すべての設問を解くための準備として、2つの重要な関係式を導出しておきます。
単原子分子の理想気体の内部エネルギーの公式は、
$$ U = \frac{3}{2}nRT \quad \cdots ① $$
また、理想気体の状態方程式は、
$$ pV = nRT \quad \cdots ② $$
です。式②を式①に代入することで、\(nRT\)を消去し、内部エネルギーを圧力\(p\)と体積\(V\)で表す式を得ます。
$$ U = \frac{3}{2}pV \quad \cdots ③ $$
これで準備は完了です。設問の条件に応じて、式①と式③を使い分けていきます。


問(1)

思考の道筋とポイント
「絶対温度を2倍にする」という条件が与えられています。内部エネルギー\(U\)と絶対温度\(T\)の直接的な関係を示す式①を使えば、簡単に答えを導くことができます。
この設問における重要なポイント

  • 内部エネルギー\(U\)は絶対温度\(T\)に正比例する (\(U \propto T\))。

具体的な解説と立式
式① \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\) より、物質量\(n\)と気体定数\(R\)は定数なので、内部エネルギー\(U\)は絶対温度\(T\)に比例します。
変化前の内部エネルギーを\(U_{\text{前}}\)、絶対温度を\(T_{\text{前}}\)とします。変化後の内部エネルギーを\(U_{\text{後}}\)、絶対温度を\(T_{\text{後}}\)とすると、
$$ U_{\text{前}} = \frac{3}{2}nRT_{\text{前}} $$
$$ U_{\text{後}} = \frac{3}{2}nRT_{\text{後}} $$
となります。問題の条件は \(T_{\text{後}} = 2T_{\text{前}}\) です。

使用した物理公式

  • 単原子分子の理想気体の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)
計算過程

変化後の内部エネルギーが変化前の何倍になるか、比を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{U_{\text{後}}}{U_{\text{前}}} &= \frac{\displaystyle\frac{3}{2}nRT_{\text{後}}}{\displaystyle\frac{3}{2}nRT_{\text{前}}} \\[2.0ex]&= \frac{T_{\text{後}}}{T_{\text{前}}} \\[2.0ex]&= \frac{2T_{\text{前}}}{T_{\text{前}}} \\[2.0ex]&= 2
\end{aligned}
$$
したがって、内部エネルギーは2倍になります。

計算方法の平易な説明

内部エネルギーの大きさは、絶対温度に比例します。とてもシンプルな関係なので、「温度が2倍になれば、内部エネルギーも2倍になる」と直感的に理解できます。

結論と吟味

絶対温度を2倍にすると、内部エネルギーは2倍になります。

解答 (1) 2倍

問(2)

思考の道筋とポイント
「体積一定で、圧力を2倍にする」という条件です。温度の変化は直接書かれていません。このような場合は、内部エネルギー\(U\)を圧力\(p\)と体積\(V\)で表した式③を使うと便利です。
この設問における重要なポイント

  • 内部エネルギー\(U\)は積\(pV\)に正比例する (\(U \propto pV\))。

具体的な解説と立式
式③ \(U = \displaystyle\frac{3}{2}pV\) より、内部エネルギー\(U\)は積\(pV\)に比例します。
変化前の状態を \(p_{\text{前}}, V_{\text{前}}, U_{\text{前}}\)、変化後の状態を \(p_{\text{後}}, V_{\text{後}}, U_{\text{後}}\) とすると、
$$ U_{\text{前}} = \frac{3}{2}p_{\text{前}}V_{\text{前}} $$
$$ U_{\text{後}} = \frac{3}{2}p_{\text{後}}V_{\text{後}} $$
となります。問題の条件は「体積一定」なので \(V_{\text{後}} = V_{\text{前}}\)、「圧力を2倍」なので \(p_{\text{後}} = 2p_{\text{前}}\) です。

使用した物理公式

  • 単原子分子の理想気体の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}pV\)
計算過程

変化後の内部エネルギーが変化前の何倍になるか、比を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{U_{\text{後}}}{U_{\text{前}}} &= \frac{\displaystyle\frac{3}{2}p_{\text{後}}V_{\text{後}}}{\displaystyle\frac{3}{2}p_{\text{前}}V_{\text{前}}} \\[2.0ex]&= \frac{p_{\text{後}}V_{\text{後}}}{p_{\text{前}}V_{\text{前}}} \\[2.0ex]&= \frac{(2p_{\text{前}})V_{\text{前}}}{p_{\text{前}}V_{\text{前}}} \\[2.0ex]&= 2
\end{aligned}
$$
したがって、内部エネルギーは2倍になります。

計算方法の平易な説明

内部エネルギーは「圧力と体積の積(\(pV\))」に比例します。今回は、体積は変わらずに圧力が2倍になるので、積\(pV\)の値も2倍になります。そのため、内部エネルギーも2倍になります。

結論と吟味

体積一定で圧力を2倍にすると、内部エネルギーは2倍になります。

解答 (2) 2倍

問(3)

思考の道筋とポイント
「圧力一定で体積を2倍にする」という条件です。これも問(2)と同様に、内部エネルギー\(U\)を圧力\(p\)と体積\(V\)で表した式③を使うのが効率的です。
この設問における重要なポイント

  • 内部エネルギー\(U\)は積\(pV\)に正比例する (\(U \propto pV\))。

具体的な解説と立式
式③ \(U = \displaystyle\frac{3}{2}pV\) より、内部エネルギー\(U\)は積\(pV\)に比例します。
変化前の状態を \(p_{\text{前}}, V_{\text{前}}, U_{\text{前}}\)、変化後の状態を \(p_{\text{後}}, V_{\text{後}}, U_{\text{後}}\) とすると、
$$ U_{\text{前}} = \frac{3}{2}p_{\text{前}}V_{\text{前}} $$
$$ U_{\text{後}} = \frac{3}{2}p_{\text{後}}V_{\text{後}} $$
となります。問題の条件は「圧力一定」なので \(p_{\text{後}} = p_{\text{前}}\)、「体積を2倍」なので \(V_{\text{後}} = 2V_{\text{前}}\) です。

使用した物理公式

  • 単原子分子の理想気体の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}pV\)
計算過程

変化後の内部エネルギーが変化前の何倍になるか、比を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{U_{\text{後}}}{U_{\text{前}}} &= \frac{\displaystyle\frac{3}{2}p_{\text{後}}V_{\text{後}}}{\displaystyle\frac{3}{2}p_{\text{前}}V_{\text{前}}} \\[2.0ex]&= \frac{p_{\text{後}}V_{\text{後}}}{p_{\text{前}}V_{\text{前}}} \\[2.0ex]&= \frac{p_{\text{前}}(2V_{\text{前}})}{p_{\text{前}}V_{\text{前}}} \\[2.0ex]&= 2
\end{aligned}
$$
したがって、内部エネルギーは2倍になります。

計算方法の平易な説明

内部エネルギーは「圧力と体積の積(\(pV\))」に比例します。今回は、圧力は変わらずに体積が2倍になるので、積\(pV\)の値も2倍になります。そのため、内部エネルギーも2倍になります。

結論と吟味

圧力一定で体積を2倍にすると、内部エネルギーは2倍になります。

解答 (3) 2倍

問(4)

思考の道筋とポイント
「圧力×体積は一定で、圧力を2倍にする」という条件です。「圧力×体積」、つまり積\(pV\)が一定であるという情報が鍵です。内部エネルギー\(U\)と積\(pV\)の関係式③を見れば、答えは明らかです。
この設問における重要なポイント

  • 内部エネルギー\(U\)は積\(pV\)に正比例する (\(U \propto pV\))。
  • 積\(pV\)が一定ならば、\(U\)も一定である。

具体的な解説と立式
式③ \(U = \displaystyle\frac{3}{2}pV\) より、内部エネルギー\(U\)は積\(pV\)に比例します。
問題の条件は「圧力×体積は一定」なので、変化の前後で積\(pV\)の値は変わりません。
つまり、\(p_{\text{後}}V_{\text{後}} = p_{\text{前}}V_{\text{前}}\) です。
(ちなみに、この条件を満たすためには、圧力を2倍にすると体積は\(\frac{1}{2}\)倍になる必要があります。)

使用した物理公式

  • 単原子分子の理想気体の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}pV\)
計算過程

変化後の内部エネルギーが変化前の何倍になるか、比を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{U_{\text{後}}}{U_{\text{前}}} &= \frac{\displaystyle\frac{3}{2}p_{\text{後}}V_{\text{後}}}{\displaystyle\frac{3}{2}p_{\text{前}}V_{\text{前}}} \\[2.0ex]&= \frac{p_{\text{後}}V_{\text{後}}}{p_{\text{前}}V_{\text{前}}} \\[2.0ex]&= \frac{p_{\text{前}}V_{\text{前}}}{p_{\text{前}}V_{\text{前}}} \\[2.0ex]&= 1
\end{aligned}
$$
したがって、内部エネルギーは変化しません(1倍)。

計算方法の平易な説明

内部エネルギーは「圧力と体積の積(\(pV\))」に比例します。問題文で、その積\(pV\)の値が「一定」であると明言されています。したがって、それに比例する内部エネルギーも変化するはずがなく、元のまま(1倍)となります。「圧力を2倍にする」という情報は、この問題の結論には影響しない、いわば引っ掛けの情報です。

結論と吟味

圧力×体積を一定に保つと、内部エネルギーは変化せず1倍のままです。

解答 (4) 1倍

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 内部エネルギーと状態量の比例関係:
    • 核心: 単原子分子理想気体の内部エネルギー\(U\)が、絶対温度\(T\)に比例するだけでなく、状態方程式 \(pV=nRT\) を介して、圧力\(p\)と体積\(V\)の積\(pV\)にも比例するという、2つの側面を理解することが全てです。
    • 理解のポイント:
      • 温度との関係: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)。これは、\(U\)が\(T\)に正比例すること (\(U \propto T\)) を示します。
      • 圧力・体積との関係: 上の式と \(pV=nRT\) を組み合わせると、\(U = \displaystyle\frac{3}{2}pV\) となります。これは、\(U\)が積\(pV\)に正比例すること (\(U \propto pV\)) を示します。
    • この2つの表現を、問題の条件に応じて自在に使い分ける能力が問われています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 二原子分子の場合: 問題が「二原子分子」に変わっても、内部エネルギーの公式が \(U = \displaystyle\frac{5}{2}nRT = \displaystyle\frac{5}{2}pV\) となるだけで、\(U \propto T\) および \(U \propto pV\) という比例関係は変わりません。したがって、この問題の答えは全く同じになります。
    • p-Vグラフ問題: p-Vグラフ上の点A(\(p_A, V_A\))から点B(\(p_B, V_B\))へ状態が変化したときの内部エネルギーの比 (\(U_B/U_A\)) や変化量 (\(\Delta U = U_B – U_A\)) を求める問題。\(U \propto pV\) を利用して、\(U_B/U_A = (p_B V_B) / (p_A V_A)\) のように計算します。
    • 熱力学第一法則との組み合わせ: 「圧力一定で体積を2倍にする(設問(3)の状況)」とき、気体がした仕事\(W\)と吸収した熱量\(Q\)を求める問題。内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は今回の結果から計算し、仕事は \(W=p\Delta V\)、熱量は \(Q = \Delta U + W\) で求めます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 与えられた条件は何か?: まず、問題文がどの状態量(\(p, V, T\))の変化について述べているかを確認します。
    2. どの公式が最短ルートか判断:
      • 条件が「温度\(T\)」に関するものなら、\(U \propto T\) を使うのが最も速い。
      • 条件が「圧力\(p\)」や「体積\(V\)」に関するものなら、\(U \propto pV\) を使うのが断然速い。わざわざ状態方程式で温度の変化を計算するのは遠回りです。
    3. 「一定」という条件を見逃さない: (4)のように「\(pV=\text{一定}\)」という条件は非常に強力です。これを見つけたら、他の情報に惑わされず、即座に「\(U\)も一定」と結論付けます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 内部エネルギーが圧力や体積に単独で比例すると誤解する:
    • 誤解: (2)で「圧力が2倍だから内部エネルギーも2倍」、(3)で「体積が2倍だから内部エネルギーも2倍」と短絡的に考えてしまう。結果は合っていますが、論理が不正確です。この考え方だと、(4)で「圧力が2倍だから内部エネルギーも2倍」と答えて間違えます。
    • 対策: 内部エネルギーは、あくまで圧力と体積の「積」\(pV\)に比例することを徹底的に頭に叩き込む。「\(U \propto pV\)」とセットで覚え、\(p\)だけ、\(V\)だけでは決まらないことを意識しましょう。
  • 2つの公式をうまく使い分けられない:
    • 誤解: (2)や(3)のような\(p,V\)の条件が与えられたときに、\(U = \frac{3}{2}nRT\) の式しか思い浮かばず、まず状態方程式 \(pV=nRT\) から温度の変化を計算し、それから内部エネルギーの変化を考える、という面倒な手順を踏んでしまう。
    • 対策: 問題を解き始める前に、\(U = \frac{3}{2}nRT\) と \(U = \frac{3}{2}pV\) の2つの公式を両方書き出しておく。そして、「今回はどっちが楽か?」と自問する習慣をつけましょう。
  • (4)の「圧力を2倍にする」という情報に惑わされる:
    • 誤解: 「\(pV=\text{一定}\)」という条件を見落とし、あるいは軽視して、「圧力を2倍にする」という部分だけを見てしまい、答えを「2倍」としてしまう。
    • 対策: 問題文の条件はすべて等しく重要です。特に「〜は一定」という拘束条件は、物理現象の性質を決定づける最も重要な情報であることが多いです。この条件から何が言えるかを最優先で考えましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • \(U = \frac{3}{2}nRT\) と \(U = \frac{3}{2}pV\) の戦略的使い分け:
    • 選定理由: この問題は、様々な条件下での内部エネルギーの変化を問うています。内部エネルギーは複数の式で表現できるため、各設問の「インプット情報(与えられた条件)」から「アウトプット(答え)」への思考プロセスが最も単純になる公式を選択するのが賢明です。
    • 適用根拠と思考法:
      • 設問(1): インプットが「\(T\)の変化」。アウトプットは「\(U\)の変化」。→ \(U\)と\(T\)を直接結ぶ \(U = \frac{3}{2}nRT\) を選択するのが論理的。
      • 設問(2)〜(4): インプットが「\(p, V, pV\)の変化」。アウトプットは「\(U\)の変化」。→ \(U\)と\(p,V\)を直接結ぶ \(U = \frac{3}{2}pV\) を選択するのが論理的。
    • このように、「どの変数とどの変数の関係が問われているか」を分析し、それらを最もシンプルに結びつける公式を選ぶ、という思考法が極めて有効です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 比例関係の明記: この問題は具体的な数値計算はありませんが、思考のミスを防ぐために、計算用紙の最初に \(U \propto T\) と \(U \propto pV\) を大きく書いておくと良いでしょう。これにより、常に正しい比例関係に立ち返ることができます。
  • 変化の比を式で立てる: 感覚や暗算で「2倍」と判断するのではなく、面倒でも一度は \( \displaystyle\frac{U_{\text{後}}}{U_{\text{前}}} = \frac{p_{\text{後}}V_{\text{後}}}{p_{\text{前}}V_{\text{前}}} \) のような比の式を立てる練習をしましょう。この習慣が、より複雑な条件(例:圧力を1.5倍、体積を0.8倍にしたら?)が出題されたときに、確実な計算力として生きてきます。
  • 条件の整理と可視化: 各設問について、変化の前後で状態量がどうなるかを簡単な表にまとめると、思考が整理されます。
    • 例(問4):
      \(p\)\(V\)\(pV\)\(U\)
      \(p_{\text{前}}\)\(V_{\text{前}}\)\(p_{\text{前}}V_{\text{前}}\)\(U_{\text{前}}\)
      \(2p_{\text{前}}\)\(\frac{1}{2}V_{\text{前}}\)\(p_{\text{前}}V_{\text{前}}\)\(U_{\text{前}}\)
    • このように可視化することで、「\(pV\)が一定だから\(U\)も一定」という関係が一目瞭然になります。

202 定圧変化のときの仕事

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「定圧変化におけるシャルルの法則と気体のする仕事」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. シャルルの法則: 圧力が一定のとき、気体の体積\(V\)は絶対温度\(T\)に比例します。数式で表すと \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) となります。
  2. 気体がする仕事: 気体が膨張または収縮するとき、外部に対して仕事をしたり、されたりします。
  3. 定圧変化における仕事の公式: 圧力が\(p\)で一定のまま体積が\(\Delta V\)だけ変化したとき、気体が外部にする仕事\(W\)は \(W = p\Delta V\) で計算できます。
  4. 状態変化の特定: 問題文の「圧力一定で」という記述から、今回の変化が「定圧変化」であることを正確に読み取ることが出発点となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、問題文が「圧力一定」の定圧変化であることを確認し、シャルルの法則を適用して変化後の体積を求めます。
  2. 次に、求めた体積変化\(\Delta V\)と一定の圧力\(p\)を用いて、気体が外部にした仕事の公式 \(W = p\Delta V\) で仕事を計算します。

問(1) 変化後の体積

思考の道筋とポイント
この問題は、圧力一定の条件下で理想気体の温度を変化させたときの体積を求めるものです。問題文の「圧力一定で」というキーワードから、これが「定圧変化」であり、「シャルルの法則」が適用できると判断することが最初のステップです。与えられた初期状態(体積と温度)と変化後の温度を使って、変化後の体積を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 圧力一定の変化(定圧変化)では、シャルルの法則が成り立つ。
  • シャルルの法則の公式は \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\)。
  • 計算には必ず絶対温度(単位: K)を用いる。

具体的な解説と立式
変化前の体積を \(V_1 = 0.060 \text{ m}^3\)、絶対温度を \(T_1 = 300 \text{ K}\) とします。
変化後の体積を \(V_2\)、絶対温度を \(T_2 = 400 \text{ K}\) とします。
圧力が一定の条件下では、シャルルの法則が成り立ちます。
$$ \frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2} $$
この式に与えられた値を代入して、未知の体積\(V_2\)を求めます。

使用した物理公式

  • シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2}\)
計算過程

シャルルの法則の式に、具体的な数値を代入します。
$$ \frac{0.060}{300} = \frac{V_2}{400} $$
この式を\(V_2\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
V_2 &= \frac{0.060}{300} \times 400 \\[2.0ex]&= 0.060 \times \frac{4}{3} \\[2.0ex]&= 0.080 \text{ [m}^3\text{]}
\end{aligned}
$$
問題文で与えられた数値(\(1.0 \times 10^5\) Pa, \(0.060 \text{ m}^3\))の有効数字は2桁なので、答えも有効数字2桁で表します。
$$ V_2 = 8.0 \times 10^{-2} \text{ [m}^3\text{]} $$

計算方法の平易な説明

圧力が一定のとき、気体の体積は絶対温度に正比例します。温度が300Kから400Kへ、つまり \(\frac{400}{300} = \frac{4}{3}\) 倍になったので、体積も同じく \(\frac{4}{3}\) 倍になります。元の体積 \(0.060 \text{ m}^3\) を \(\frac{4}{3}\) 倍して、\(0.060 \times \frac{4}{3} = 0.080 \text{ m}^3\) と計算できます。

結論と吟味

変化後の体積は \(8.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\) です。温度が上昇したことで気体が膨張し、体積が初期の \(0.060 \text{ m}^3\) から増加するという結果は、物理的に妥当です。

解答 (体積) \(8.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\)

問(2) 気体が外部にした仕事

思考の道筋とポイント
次に、この定圧変化の過程で気体が外部にした仕事を求めます。変化の種類が「定圧変化」であることから、仕事の計算には専用の公式 \(W = p\Delta V\) を使うことができます。圧力\(p\)は問題文で与えられており、体積の変化量\(\Delta V\)は、問(1)で求めた変化後の体積と初期体積の差から計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 定圧変化で気体が外部にする仕事の公式は \(W = p\Delta V = p(V_{\text{後}} – V_{\text{前}})\)。
  • 体積が増加(膨張)した場合、気体は外部に正の仕事をする (\(W > 0\))。
  • 計算に用いる物理量の単位を正しく揃える(圧力: Pa, 体積: m³)。

具体的な解説と立式
気体が外部にした仕事を\(W\) [J]とします。
圧力が\(p\)で一定の変化(定圧変化)において、気体がする仕事は次式で与えられます。
$$ W = p\Delta V = p(V_2 – V_1) $$
ここで、圧力 \(p = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)、初期体積 \(V_1 = 0.060 \text{ m}^3\)、そして問(1)で求めた後の体積 \(V_2 = 0.080 \text{ m}^3\) を代入して\(W\)を計算します。

使用した物理公式

  • 定圧変化で気体がする仕事: \(W = p\Delta V\)
計算過程

仕事の公式に、具体的な数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
W &= (1.0 \times 10^5) \times (0.080 – 0.060) \\[2.0ex]&= (1.0 \times 10^5) \times 0.020 \\[2.0ex]&= 1.0 \times 10^5 \times 2.0 \times 10^{-2} \\[2.0ex]&= 2.0 \times 10^{5-2} \\[2.0ex]&= 2.0 \times 10^3 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

気体が膨らむとき、それは周りの環境を押しのけていることになり、物理ではこれを「仕事をした」と表現します。圧力が一定のときの仕事量は、「圧力 × 増えた体積」という非常にシンプルな掛け算で求められます。
圧力は \(1.0 \times 10^5\) Pa、増えた体積は \(0.080 – 0.060 = 0.020 \text{ m}^3\) です。
この2つの値を掛け合わせると、\(1.0 \times 10^5 \times 0.020 = 2000\) となります。これを有効数字2桁の科学表記にすると \(2.0 \times 10^3 \text{ J}\) となります。

結論と吟味

気体が外部にした仕事は \(2.0 \times 10^3 \text{ J}\) です。気体は膨張(体積が増加)しているので、外部に対して正の仕事をしたことになります。計算結果が正の値であることから、この答えは物理的に妥当であると言えます。

解答 (仕事) \(2.0 \times 10^3 \text{ J}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 定圧変化における物理法則の適用:
    • 核心: この問題は「圧力一定」という条件下で起こる「定圧変化」を扱っています。この特定の状況で適用される2つの重要な法則を理解し、使い分けることが核心です。
    • 理解のポイント:
      1. 状態量の変化(シャルルの法則): 圧力が一定のとき、気体の体積\(V\)は絶対温度\(T\)に比例する (\(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\))。これにより、温度の変化から体積の変化を予測できます。
      2. 気体がする仕事: 圧力が\(p\)で一定のまま体積が\(\Delta V\)変化したとき、気体が外部にする仕事\(W\)は \(W = p\Delta V\) で計算できます。これは、p-Vグラフ上で定圧変化が描く長方形の面積に相当します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 他の状態変化:
      • 定積変化: 体積一定で加熱する場合。シャルルの法則の代わりにゲイ=リュサックの法則 (\(\frac{p}{T} = \text{一定}\)) を使います。体積変化がゼロなので、気体がする仕事は \(W=0\) となります。
      • 等温変化: 温度一定で膨張・収縮する場合。ボイルの法則 (\(pV = \text{一定}\)) を使います。このとき、圧力は一定ではないため、仕事の計算に \(W=p\Delta V\) は使えません。
    • 熱力学第一法則との融合問題: この問題の状況で「気体が吸収した熱量\(Q\)」を問う問題。まず内部エネルギーの変化 \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) を計算し(単原子分子の場合)、今回求めた仕事\(W\)と合わせて、熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W\) から\(Q\)を求めます。
    • p-Vグラフ問題: p-Vグラフが与えられ、ある点から別の点への状態変化(例えば、横軸に平行な移動=定圧変化)について、体積や仕事などを読み取らせる問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「何変化」かを見抜く: 問題文中の「圧力一定」「体積一定」「温度一定」「熱の出入りがなく」といったキーワードを最優先で探し、変化の種類(定圧、定積、等温、断熱)を特定します。
    2. 問われている物理量は何か?: 変化後の状態量(\(p, V, T\))なのか、それとも過程の量(仕事\(W\)、熱量\(Q\)、内部エネルギー変化\(\Delta U\))なのかを明確にします。
    3. 適切な公式を選択: 特定した変化の種類と、問われている物理量に応じて、最も適切な法則(シャルルの法則など)や公式(\(W=p\Delta V\)など)を選択します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 温度の単位ミス(絶対温度 vs セルシウス温度):
    • 誤解: シャルルの法則の式に、もし問題がセルシウス温度(℃)で与えられた場合に、そのまま代入してしまう。
    • 対策: 熱力学の計算(状態方程式、ボイル・シャルルの法則など)で使う温度は、常に「絶対温度(K)」であると徹底して覚える。問題文に℃が出てきたら、計算を始める前に必ずKに変換する(\(T[\text{K}] = t[^\circ\text{C}] + 273\))癖をつけましょう。
  • 仕事の公式 \(W=p\Delta V\) の乱用:
    • 誤解: 圧力や体積が変化する問題なら、どんな変化でもこの公式が使えると勘違いし、等温変化や断熱変化で使ってしまう。
    • 対策: この公式は「圧力\(p\)が一定」という特別な条件だからこそ使える「定圧変化専用」の公式であると強く認識する。仕事はp-Vグラフの面積であり、面積が単純な長方形(縦\(p\) × 横\(\Delta V\))になるのは定圧変化のときだけ、とイメージで理解するのが効果的です。
  • 有効数字の扱い:
    • 誤解: 計算結果の \(0.080\) を \(0.08\) と書いたり、\(2.0 \times 10^3\) を \(2 \times 10^3\) と書いたりして、有効数字の桁数を間違える。
    • 対策: 計算に用いた数値(この問題では \(1.0 \times 10^5\) や \(0.060\))の有効数字が2桁であることを確認し、最終的な答えも2桁に揃える意識を持つ。科学表記では、たとえ末尾が0でも有効数字として意味を持つ(\(8.0\) は \(8\) とは精度が違う)ことを理解しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2}\)):
    • 選定理由: 問題の前半は「圧力一定」という条件下で、既知の「初期体積・初期温度」と「最終温度」から、未知の「最終体積」を求めることが目的です。シャルルの法則は、まさにこの状況(定圧)における体積と温度の関係を直接的に結びつける法則であり、これ以外に選択肢はありません。
    • 適用根拠: 問題文に「圧力一定で」と明確に書かれていることが、この法則を選択する唯一かつ絶対的な根拠です。
  • 定圧変化における仕事の公式 (\(W = p\Delta V\)):
    • 選定理由: 問題の後半は「定圧変化」という過程で「気体がした仕事」を求めることが目的です。この公式は、その特定の状況のために導出された最もシンプルで直接的な計算式です。
    • 適用根拠: 本来、気体のする仕事は圧力と体積変化の積を積分したもの (\(W = \int p dV\)) です。しかし、「圧力が一定」という条件があるため、定数である\(p\)を積分の外に出すことができ、\(W = p \int dV = p\Delta V\) と劇的に単純化されます。この公式が使えるのは、ひとえに「圧力一定」という条件のおかげなのです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位の統一: 計算を始める前に、すべての物理量の単位が基本単位(SI単位系)に揃っているかを確認する癖をつけましょう。圧力は[Pa]、体積は[m³]、温度は[K]です。
  • 指数の計算: \( (1.0 \times 10^5) \times 0.020 \) のような計算は、小数も指数表記に直すとミスが減ります。
    • \(0.020\) を \(2.0 \times 10^{-2}\) と考えます。
    • 式は \( (1.0 \times 10^5) \times (2.0 \times 10^{-2}) \) となります。
    • 係数部分(\(1.0 \times 2.0 = 2.0\))と指数部分(\(10^5 \times 10^{-2} = 10^{5-2} = 10^3\))を別々に計算し、最後に合体させて \(2.0 \times 10^3\) とします。これにより、ゼロの数を数え間違えるといったケアレスミスを防げます。
  • 分数の計算の工夫: \(V_2 = \frac{0.060}{300} \times 400\) の計算では、いきなり \(0.060 \div 300\) を実行するのではなく、まず分数を約分するのが賢明です。
    • \(\frac{400}{300}\) を先に計算して \(\frac{4}{3}\) とします。
    • 式は \(V_2 = 0.060 \times \frac{4}{3}\) となり、見通しが良くなります。
    • \(0.060 \div 3 = 0.020\) を先に計算し、それに4を掛けて \(0.080\) を得る、という手順なら暗算も容易です。

203 定圧変化のときの仕事

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「定圧変化における仕事の計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 定圧変化で気体がする仕事: 圧力が\(p\)で一定のまま体積が\(\Delta V\)だけ変化したとき、気体が外部にする仕事\(W\)は \(W = p\Delta V\) で計算できます。
  2. 理想気体の状態方程式: 圧力\(p\)、体積\(V\)、物質量\(n\)、気体定数\(R\)、絶対温度\(T\)の間には \(pV = nRT\) の関係が成り立ちます。
  3. 仕事の公式の変形: 上記の2つの式を組み合わせることで、定圧変化における仕事の公式を \(W = nR\Delta T\) と変形できます。
  4. 与えられた情報からの公式選択: 問題文で与えられている物理量(この問題では\(n, R, \Delta T\))に応じて、最も計算しやすい形の公式を選択することが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文の「圧力一定」という記述から、この変化が「定圧変化」であることを確認します。
  2. 気体がする仕事の公式 \(W = p\Delta V\) を考えます。
  3. しかし、この問題では\(p\)や\(\Delta V\)が与えられていないため、状態方程式を用いてこの式を \(W = nR\Delta T\) へと変形します。
  4. 変形した式に、問題文で与えられた物質量\(n\)、気体定数\(R\)、温度変化\(\Delta T\)を代入して、仕事を計算します。

思考の道筋とポイント
この問題は、圧力一定の条件下で理想気体が外部にする仕事を計算するものです。仕事の基本公式は \(W = p\Delta V\) ですが、問題文には圧力\(p\)や体積変化\(\Delta V\)の値が直接与えられていません。その代わりに、物質量\(n\)、気体定数\(R\)、温度変化\(\Delta T\)が与えられています。この状況から、仕事の公式を\(n, R, \Delta T\)を使って表現し直す必要がある、と考えるのが核心です。そのために理想気体の状態方程式を利用します。
この設問における重要なポイント

  • 定圧変化で気体がする仕事の公式は \(W = p\Delta V\)。
  • 理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を利用すると、定圧変化に限り \(p\Delta V = nR\Delta T\) が成り立つ。
  • したがって、定圧変化の仕事は \(W = nR\Delta T\) とも計算できる。
  • 問題で与えられた情報に応じて、適切な公式を使い分ける。

具体的な解説と立式
求める仕事を\(W\) [J]とします。
問題文より、この変化は「圧力一定」の定圧変化です。したがって、気体が外部にする仕事は次のように表せます。
$$ W = p\Delta V $$
ここで、理想気体の状態方程式 \(pV = nRT\) を考えます。
変化前の状態を(\(p, V_1, T_1\))、変化後の状態を(\(p, V_2, T_2\))とすると、
$$ pV_1 = nRT_1 \quad \cdots ① $$
$$ pV_2 = nRT_2 \quad \cdots ② $$
式②から式①を引くと、
$$ p(V_2 – V_1) = nR(T_2 – T_1) $$
体積変化を \(\Delta V = V_2 – V_1\)、温度変化を \(\Delta T = T_2 – T_1\) とおくと、次の関係が成り立ちます。
$$ p\Delta V = nR\Delta T $$
よって、定圧変化で気体がする仕事は、温度変化\(\Delta T\)を用いて以下のように表すこともできます。
$$ W = nR\Delta T $$
この式に、問題文で与えられた \(n = 2.0 \text{ mol}\)、\(R = 8.31 \text{ J/(mol}\cdot\text{K)}\)、\(\Delta T = 50 \text{ K}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 定圧変化で気体がする仕事: \(W = p\Delta V\)
  • 理想気体の状態方程式: \(pV = nRT\)
  • 上記から導かれる関係式(定圧変化の仕事): \(W = nR\Delta T\)
計算過程

仕事の公式 \(W = nR\Delta T\) に、具体的な数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
W &= 2.0 \times 8.31 \times 50 \\[2.0ex]&= 100 \times 8.31 \\[2.0ex]&= 831 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
問題文で与えられている数値(\(2.0\) mol, \(50\) K)の有効数字は2桁なので、計算結果も有効数字2桁に丸めます。
$$ W \approx 8.3 \times 10^2 \text{ [J]} $$

計算方法の平易な説明

気体が膨らむときにする仕事は、基本的には「圧力 × 増えた体積」で計算します。しかし、この問題では圧力や体積の値が分かりません。そこで、理想気体の状態方程式という便利な法則を使うと、「圧力 × 増えた体積」という量は、「物質量 × 気体定数 × 増えた温度」と全く同じ値になることが分かります。この関係は圧力が一定のとき限定で使えます。
したがって、問題文に書かれている数値をすべて掛け算するだけで仕事が求まります。
計算式は \(2.0 \times 8.31 \times 50\) となり、掛け算の順番を工夫して \( (2.0 \times 50) \times 8.31 = 100 \times 8.31 = 831 \) と計算できます。
最後に、答えを有効数字2桁にそろえるため、\(8.3 \times 10^2 \text{ J}\) とします。

結論と吟味

気体が外部にした仕事は \(8.3 \times 10^2 \text{ J}\) です。
熱を加えられて温度が上昇し、かつ圧力が一定なので、気体は膨張したはずです。気体が膨張するということは、外部に対して正の仕事をすることを意味します。計算結果が正の値になっていることから、この答えは物理的に妥当です。

解答 \(8.3 \times 10^2 \text{ J}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 定圧変化における仕事の2つの表現:
    • 核心: 定圧変化で気体がする仕事\(W\)には、2つの計算方法があることを理解し、状況に応じて使い分けることが核心です。
    • 理解のポイント:
      1. \(W = p\Delta V\): 仕事の定義からくる基本的な形。圧力と体積変化が分かっている場合に使う。
      2. \(W = nR\Delta T\): 上の式を状態方程式で変形した形。物質量と温度変化が分かっている場合に使う、非常に便利な公式。
    • この問題のように、\(p\)や\(\Delta V\)が不明でも、\(n\)と\(\Delta T\)が分かっていれば仕事が計算できる、という点が重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 熱力学第一法則との融合問題: この問題の条件で、さらに「気体が吸収した熱量\(Q\)」や「内部エネルギーの変化\(\Delta U\)」を問う問題。\(W\)を計算した後、\(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)(単原子分子の場合)などを計算し、熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W\) に当てはめます。
    • 逆算問題: 気体がした仕事\(W\)が与えられていて、そこから温度変化\(\Delta T\)を求めさせる問題。\(W = nR\Delta T\) を\(\Delta T\)について解くだけです。
    • 他の変化との比較: 定積変化、等温変化、断熱変化など、他の状態変化における仕事の計算方法と比較させる問題。それぞれの変化で仕事の計算式がどう違うかを理解しておく必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「何変化」かを見抜く: まず問題文から「圧力一定」というキーワードを探し、定圧変化であることを確定させます。
    2. 与えられた変数を確認する: 問題で与えられているのが、圧力・体積系の情報(\(p, \Delta V\))なのか、物質量・温度系の情報(\(n, \Delta T\))なのかを把握します。
    3. 最短ルートの公式を選択する: 把握した変数に応じて、\(W=p\Delta V\) と \(W=nR\Delta T\) のうち、直接計算できる方を選びます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 公式 \(W=nR\Delta T\) の乱用:
    • 誤解: この便利な公式を、定圧変化以外の変化(等温変化や断熱変化など)でも使えると勘違いしてしまう。
    • 対策: この公式は、あくまで \(W=p\Delta V\) と \(p\Delta V = nR\Delta T\)(定圧変化のときのみ成立)を組み合わせた「定圧変化専用」の公式であると強く認識しましょう。なぜこの式が成り立つのか、導出過程を一度は自分でやってみることが、誤用を防ぐ最善策です。
  • 内部エネルギー変化の式との混同:
    • 誤解: 仕事を求めるべきところで、内部エネルギー変化の公式 \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)(単原子分子の場合)を誤って使ってしまう。
    • 対策: 「仕事 \(W\)」と「内部エネルギー変化 \(\Delta U\)」は全く別の物理量であることを明確に区別する。仕事は気体が膨張・収縮することで外部となされるエネルギーのやり取り、内部エネルギーは気体分子の運動の激しさを表すエネルギー、と意味を理解することが重要です。公式の形が似ているので、特に注意が必要です。
  • 温度変化 \(\Delta T\) の単位:
    • 誤解: 温度変化がセルシウス度(例: 50℃上昇)で与えられた場合に、絶対温度(K)への変換が必要だと勘違いする。
    • 対策: 温度の「値」そのもの(例: 300 K)は絶対温度でないと計算できませんが、温度の「変化量」(例: 50 K上昇)については、セルシウス度での変化量と絶対温度での変化量は等しくなります(例: 10℃から60℃への変化は50℃の上昇であり、283Kから333Kへの変化は50Kの上昇)。したがって、\(\Delta T\) に関しては単位変換は不要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • \(W = nR\Delta T\) の選定:
    • 選定理由: この問題は「定圧変化」における「仕事」を求めることが目的です。そして、与えられている情報は「物質量 \(n\)」「気体定数 \(R\)」「温度変化 \(\Delta T\)」です。仕事の基本公式 \(W=p\Delta V\) では、与えられた情報だけでは計算できません。そこで、状態方程式を使って基本公式を変形し、与えられた情報だけで計算できる \(W=nR\Delta T\) という形にすることが、最も論理的かつ効率的な選択となります。
    • 適用根拠:
      1. 仕事の定義から \(W=p\Delta V\) が出発点。
      2. 状態方程式 \(pV=nRT\) から、変化の前後で \(pV_1=nRT_1\) と \(pV_2=nRT_2\) が成り立つ。
      3. 両式の差を取ると \(p(V_2-V_1) = nR(T_2-T_1)\)、すなわち \(p\Delta V = nR\Delta T\) が導かれる。
      4. この関係は「圧力\(p\)が一定」だからこそ成り立つ。
      5. したがって、\(W=p\Delta V\) の \(p\Delta V\) を \(nR\Delta T\) に置き換えることが正当化される。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 計算順序の工夫: \(2.0 \times 8.31 \times 50\) のような計算では、掛け算の順序を工夫すると計算が楽になります。
    • \(2.0 \times 50 = 100\) と先に計算します。
    • 残りの計算は \(100 \times 8.31\) となり、小数点を2つずらすだけで \(831\) と暗算できます。
  • 有効数字の最終確認: 計算結果が出た後(この場合は831)、問題文で使われている数値の有効数字を確認する習慣をつけましょう。
    • 「\(2.0\) mol」→ 2桁
    • 「\(50\) K」→ 2桁

    したがって、答えも2桁に揃える必要があります。\(831\) を上から2桁で表すには、3桁目の1を四捨五入して \(830\) とし、科学表記で \(8.3 \times 10^2\) とします。

  • 単位の確認: 最終的な答えに正しい単位 [J] をつけることを忘れないようにしましょう。単位の付け忘れは、テストでは減点の対象になります。

204 熱力学第1法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「定圧変化における熱力学第1法則の適用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 熱力学第1法則: 気体の内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は、気体が吸収した熱量\(Q\)と、気体が外部にした仕事\(W\)を用いて、\(\Delta U = Q – W\) と表されます。これはエネルギー保存則の気体バージョンです。
  2. 定圧変化: 問題文の「圧力が〜のまま」という記述から、今回の変化が圧力が一定の「定圧変化」であることがわかります。
  3. 定圧変化における仕事: 圧力が\(p\)で一定のまま体積が\(\Delta V\)だけ変化したとき、気体が外部にする仕事\(W\)は \(W = p\Delta V\) で計算できます。
  4. 各物理量の符号: この問題では、気体に「熱を加えた」ので\(Q\)は正、「膨張した」ので気体は外部に仕事をし\(W\)は正となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文から、加えられた熱量\(Q\)、一定の圧力\(p\)、体積の増加量\(\Delta V\)を正確に読み取ります。
  2. まず、気体が外部にした仕事\(W\)を、定圧変化の仕事の公式 \(W = p\Delta V\) を用いて計算します。
  3. 次に、熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) に、与えられた熱量\(Q\)と計算した仕事\(W\)の値を代入し、内部エネルギーの変化\(\Delta U\)を求めます。

思考の道筋とポイント
この問題は、熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) を用いて、気体の内部エネルギーの変化\(\Delta U\)を求める典型的な問題です。法則を適用するためには、熱量\(Q\)と仕事\(W\)の2つの量が必要です。熱量\(Q\)は問題文で直接与えられています。一方、仕事\(W\)は直接与えられていませんが、計算するための情報(圧力と体積変化)が揃っています。問題文の「圧力が〜のまま」という記述から、この変化が「定圧変化」であることを見抜き、仕事の公式 \(W = p\Delta V\) を適用することが解法の鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • 熱力学第1法則: \(\Delta U = Q – W\)。
  • 定圧変化で気体がする仕事: \(W = p\Delta V\)。
  • \(Q\): 気体が吸収した熱量(加えられた熱)。
  • \(W\): 気体が外部にした仕事。
  • \(\Delta U\): 内部エネルギーの変化。

具体的な解説と立式
求める内部エネルギーの変化を\(\Delta U\) [J]とします。
気体のエネルギー収支は、熱力学第1法則によって記述されます。
$$ \Delta U = Q – W $$
ここで、\(Q\)は気体に加えられた熱量、\(W\)は気体が外部にした仕事です。

問題文より、気体に加えられた熱量は \(Q = 5.0 \times 10^3 \text{ J}\) です。

次に、気体が外部にした仕事\(W\)を計算します。
問題文に「圧力が\(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)のまま」とあるので、これは定圧変化です。定圧変化において気体がする仕事は、圧力\(p\)と体積変化\(\Delta V\)を用いて次のように計算できます。
$$ W = p\Delta V $$
問題文より、圧力は \(p = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)、体積の膨張量は \(\Delta V = 0.020 \text{ m}^3\) です。

したがって、熱力学第1法則の式に \(W = p\Delta V\) を代入した、以下の式を用いて\(\Delta U\)を計算します。
$$ \Delta U = Q – p\Delta V $$

使用した物理公式

  • 熱力学第1法則: \(\Delta U = Q – W\)
  • 定圧変化で気体がする仕事: \(W = p\Delta V\)
計算過程

まず、気体が外部にした仕事\(W\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
W &= p\Delta V \\[2.0ex]&= (1.0 \times 10^5) \times 0.020 \\[2.0ex]&= 2.0 \times 10^3 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
次に、この結果を熱力学第1法則の式に代入して、内部エネルギーの変化\(\Delta U\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= Q – W \\[2.0ex]&= (5.0 \times 10^3) – (2.0 \times 10^3) \\[2.0ex]&= 3.0 \times 10^3 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

気体のエネルギーの出入りを考えます。気体は、外部からエネルギーをもらう(熱を吸収する)ことも、外部にエネルギーを放出する(仕事をする)こともできます。熱力学第1法則は、その収支を表す「お小遣い帳」のようなものです。
「内部エネルギーの変化(\(\Delta U\))」=「もらった熱(\(Q\))」-「外部にした仕事(\(W\))」
という関係になっています。
1. 「もらった熱(\(Q\))」は、問題文に \(5.0 \times 10^3\) J と書かれています。
2. 「外部にした仕事(\(W\))」は、圧力が一定なので「圧力 × 増えた体積」で計算できます。
\(W = (1.0 \times 10^5) \times 0.020 = 2000 = 2.0 \times 10^3\) J です。
3. 最後に、引き算をします。
\(\Delta U = 5.0 \times 10^3 – 2.0 \times 10^3 = 3.0 \times 10^3\) J となります。

結論と吟味

気体の内部エネルギーの変化は \(3.0 \times 10^3 \text{ J}\) です。
これは、気体が外部から \(5.0 \times 10^3 \text{ J}\) の熱エネルギーを受け取ったものの、膨張するために \(2.0 \times 10^3 \text{ J}\) のエネルギーを仕事として消費したため、差し引き \(3.0 \times 10^3 \text{ J}\) が気体自身のエネルギー(内部エネルギー)の増加分になった、ということを意味します。結果が正の値なので、気体の温度は上昇したと考えられ、物理的に妥当な結果です。

解答 \(3.0 \times 10^3 \text{ J}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 熱力学第1法則 (\(\Delta U = Q – W\)):
    • 核心: 気体のエネルギー変化に関する最も基本的な法則である「熱力学第1法則」を理解し、正しく適用できることが全てです。この法則は、気体のエネルギー保存則であり、内部エネルギーの変化(\(\Delta U\))が、外部との熱のやり取り(\(Q\))と仕事のやり取り(\(W\))によって決まることを示しています。
    • 理解のポイント:
      • \(\Delta U\): 気体の内部エネルギーがどれだけ増減したか。
      • \(Q\): 気体が外部から吸収した熱量。気体が熱を放出する場合は負の値になる。
      • \(W\): 気体が外部にした仕事。気体が外部から仕事をされる場合は負の値になる。
      • この法則は「気体がもらったエネルギー(\(Q\))の一部は外部への仕事(\(W\))に使われ、残りが自分の内部エネルギーの増加(\(\Delta U\))になる」と解釈できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 他の状態変化での熱力学第1法則:
      • 定積変化: 体積が一定なので \(\Delta V = 0\)。したがって仕事は \(W=0\)。熱力学第1法則は \(\Delta U = Q\) となり、吸収した熱がすべて内部エネルギーの増加に使われます。
      • 等温変化: 温度が一定なので、理想気体の場合、内部エネルギーは変化しません (\(\Delta U = 0\))。熱力学第1法則は \(0 = Q – W\)、つまり \(Q=W\) となり、吸収した熱がすべて外部への仕事に使われます。
      • 断熱変化: 外部との熱のやり取りがないので \(Q=0\)。熱力学第1法則は \(\Delta U = -W\) となります。気体が膨張して仕事(\(W>0\))をすると、内部エネルギーが減少し(\(\Delta U < 0\))、温度が下がります。
    • \(Q\)や\(W\)を求める問題: \(\Delta U\)と\(W\)が与えられて\(Q\)を求めさせたり、\(\Delta U\)と\(Q\)が与えられて\(W\)を求めさせたりする逆算問題。移項するだけで解けます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 3つのエネルギー量 (\(\Delta U, Q, W\)) を意識する: 問題文を読みながら、「\(\Delta U\), \(Q\), \(W\) のうち、どれが与えられていて、どれを計算する必要があり、最終的にどれを求めるのか?」を整理します。
    2. 変化の種類を特定する: 「圧力一定」「体積一定」「温度一定」「断熱」などのキーワードから、状態変化の種類を特定します。これにより、仕事\(W\)の計算方法や、3つのエネルギー量のうちどれかが0になる、といった特別な条件が分かります。
    3. 仕事\(W\)の計算方法を判断する: 変化の種類に応じて、仕事\(W\)の計算方法を決定します。定圧変化なら \(W=p\Delta V\)、定積変化なら \(W=0\) など。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 仕事\(W\)の符号ミス:
    • 誤解: 熱力学第1法則の \(W\) が「気体が『された』仕事」なのか「気体が『した』仕事」なのかを混同し、符号を間違える。
    • 対策: \(\Delta U = Q – W\) の形のとき、\(W\)は「気体が外部に『した』仕事」と覚えるのが一般的です。問題文が「膨張した」なら\(W\)は正、「収縮した(圧縮された)」なら\(W\)は負として代入します。教科書によっては \(\Delta U = Q + W’\)(\(W’\)は気体がされた仕事)と定義している場合もあるので、自分が使っている公式の\(W\)の定義を正確に理解しておくことが重要です。
  • 熱量\(Q\)と内部エネルギー\(\Delta U\)の混同:
    • 誤解: 「加えた熱」をそのまま「内部エネルギーの変化」だと勘違いしてしまう。
    • 対策: 気体に熱を加えても、気体が膨張して仕事をしてしまうと、加えた熱の一部が仕事として外部に逃げてしまいます。熱\(Q\)はあくまで外部から供給されたエネルギーであり、内部エネルギー\(\Delta U\)はその結果として気体自身に蓄えられたエネルギーの正味の変化量である、という区別をしっかりつけましょう。
  • 仕事の計算を忘れる:
    • 誤解: \(\Delta U = Q\) だと思い込み、仕事\(W\)の項を完全に無視して \(5.0 \times 10^3 \text{ J}\) と答えてしまう。
    • 対策: 気体の体積が変化した(膨張・収縮した)場合は、必ず仕事のやり取りが発生します。問題文に「体積が〜膨張した」と書かれているのを見たら、「仕事\(W\)を計算する必要があるな」と条件反射で思えるように訓練しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 熱力学第1法則 (\(\Delta U = Q – W\)):
    • 選定理由: この問題は、気体の「内部エネルギーの変化」を問うています。そして、インプット情報として「加えられた熱」と「仕事(を計算できる情報)」が与えられています。この3つの物理量(\(\Delta U, Q, W\))の関係を記述する唯一の法則が、熱力学第1法則です。したがって、この法則を選択するのは必然です。
    • 適用根拠: 熱力学第1法則は、あらゆる状態変化(定圧、定積、等温、断熱など)に対して普遍的に成り立つエネルギー保存則です。問題文の状況がどのような変化であっても、この法則自体は常に成り立ちます。
  • 定圧変化の仕事の公式 (\(W = p\Delta V\)):
    • 選定理由: 熱力学第1法則を適用する上で、未知数である仕事\(W\)を計算する必要がありました。問題文に「圧力が〜のまま」「体積が〜膨張した」という情報があるため、定圧変化の仕事の公式 \(W=p\Delta V\) を使うのが最も直接的で論理的な選択です。
    • 適用根拠: 問題文の「圧力が〜のまま」という記述が、この公式を選択する明確な根拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 指数の計算: \( (1.0 \times 10^5) \times 0.020 \) のような計算は、小数も指数表記に直すとミスが減ります。
    • \(0.020\) を \(2.0 \times 10^{-2}\) と考えます。
    • 仕事\(W\)の計算は \( (1.0 \times 10^5) \times (2.0 \times 10^{-2}) = 2.0 \times 10^3 \)。
    • \(\Delta U\)の計算は \(5.0 \times 10^3 – 2.0 \times 10^3\)。指数部分(\(10^3\))が共通なので、係数部分だけを引き算して \((5.0 – 2.0) \times 10^3 = 3.0 \times 10^3\) となります。
  • 単位の確認: 計算に使うすべての量の単位が[J]に揃っているかを確認しましょう。仕事の計算で圧力が[Pa]、体積変化が[m³]であれば、結果は[J]になります。
  • 立式の習慣: 焦って数値を直接計算しようとせず、まず \(\Delta U = Q – W\)、そして \(W = p\Delta V\) と、使う公式を文字で書き出す習慣をつけましょう。これにより、どの値をどこに代入するかが明確になり、ケアレスミスを防げます。

205 モル比熱

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「理想気体の定積モル比熱と定圧モル比熱」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. モル比熱の定義: 1molの物質の温度を1K上昇させるのに必要な熱量のこと。体積を一定に保つ場合を「定積モル比熱 \(C_V\)」、圧力を一定に保つ場合を「定圧モル比熱 \(C_p\)」と呼びます。
  2. 熱量の計算式: 物質量\(n\)、モル比熱\(C\)、温度変化\(\Delta T\)のとき、気体に加える熱量\(Q\)は \(Q = nC\Delta T\) と表されます。
  3. 熱力学第1法則: 気体の内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は、吸収した熱量\(Q\)と外部にした仕事\(W\)を用いて \(\Delta U = Q – W\) と表されます。
  4. 単原子分子の内部エネルギー: 内部エネルギーの変化は \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) で与えられます。
  5. マイヤーの関係式: 定圧モル比熱と定積モル比熱の間には、常に \(C_p – C_V = R\) という関係が成り立ちます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、熱力学第1法則を用いて、単原子分子理想気体の\(C_V\)と\(C_p\)の値を導出します。
  2. (2)では、「体積一定」の条件から定積モル比熱\(C_V\)を使い、熱量の公式を温度変化\(\Delta T_1\)について解きます。
  3. (3)では、「圧力一定」の条件から定圧モル比熱\(C_p\)を使い、熱量の公式を温度変化\(\Delta T_2\)について解きます。

問(1)

思考の道筋とポイント
単原子分子理想気体の定積モル比熱\(C_V\)と定圧モル比熱\(C_p\)の値を求める問題です。これらの値は公式として覚えていても良いですが、熱力学第1法則から導出できることが重要です。\(C_V\)は定積変化、\(C_p\)は定圧変化という、それぞれの定義に対応する状況を考えて導きます。
この設問における重要なポイント

  • 定積変化では、気体がする仕事はゼロ (\(W=0\))。
  • 熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) を利用する。
  • 単原子分子の内部エネルギー変化は \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)。
  • \(C_p\)はマイヤーの関係式 \(C_p = C_V + R\) から求めるのが効率的。

具体的な解説と立式
定積モル比熱 \(C_V\) の導出
体積一定(定積変化)で気体の温度を\(\Delta T\)だけ上昇させる場合を考えます。
このとき、気体に加える熱量を\(Q_V\)とすると、定義より \(Q_V = nC_V\Delta T\) です。
定積変化では体積が変わらないので、気体が外部にする仕事は \(W=0\) です。
熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) に代入すると、
$$ \Delta U = Q_V – 0 = Q_V $$
一方、単原子分子の内部エネルギーの変化は、
$$ \Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T $$
これらより、\(Q_V = \Delta U\) なので、
$$ nC_V\Delta T = \frac{3}{2}nR\Delta T $$
両辺を \(n\Delta T\) で割ることで、\(C_V\)が求まります。

定圧モル比熱 \(C_p\) の導出
次に、\(C_p\)を求めます。\(C_V\)が分かっていれば、マイヤーの関係式 \(C_p – C_V = R\) を使うのが最も簡単です。
$$ C_p = C_V + R $$

使用した物理公式

  • 熱力学第1法則: \(\Delta U = Q – W\)
  • 熱量の定義式: \(Q = nC\Delta T\)
  • 単原子分子の内部エネルギー変化: \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)
  • マイヤーの関係式: \(C_p – C_V = R\)
計算過程

\(C_V\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
nC_V\Delta T &= \frac{3}{2}nR\Delta T \\[2.0ex]C_V &= \frac{3}{2}R
\end{aligned}
$$
次に、マイヤーの関係式を用いて\(C_p\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
C_p &= C_V + R \\[2.0ex]&= \frac{3}{2}R + R \\[2.0ex]&= \frac{5}{2}R
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

モル比熱は「1molの気体の温度を1K上げるのに必要な熱」です。
体積を固定して(定積)熱を加えると、気体は膨張できないので仕事をしません。加えた熱はすべて内部エネルギーの増加(=温度上昇)に使われます。このときのモル比熱が\(C_V\)で、計算すると\(\frac{3}{2}R\)になります。
一方、圧力を一定に保って(定圧)熱を加えると、気体は膨張して外部に仕事をしてしまいます。そのため、温度を1K上げるためには、内部エネルギーを増やす分に加えて、仕事で消費される分のエネルギーも余計に熱として供給してやる必要があります。このときのモル比熱が\(C_p\)で、\(C_V\)よりも気体定数\(R\)の分だけ大きくなり、\(\frac{5}{2}R\)となります。

結論と吟味

定積モル比熱は \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\)、定圧モル比熱は \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\) です。気体が仕事をする分、定圧モル比熱が定積モル比熱より大きくなるという結果は物理的に妥当です。

解答 (1) \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\), \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\)

問(2)

思考の道筋とポイント
「体積一定で熱量\(Q\)を加えた」という条件から、これが定積変化であることが分かります。したがって、熱量の計算には定積モル比熱\(C_V\)を用います。熱量の公式 \(Q = nC_V\Delta T_1\) を、求めたい温度変化\(\Delta T_1\)について解くだけのシンプルな問題です。
この設問における重要なポイント

  • 定積変化で加える熱量は \(Q = nC_V\Delta T_1\)。
  • (1)で求めた \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\) を代入する。

具体的な解説と立式
体積一定(定積変化)で熱量\(Q\)を加えたときの温度変化を\(\Delta T_1\)とします。
熱量の定義式より、
$$ Q = nC_V\Delta T_1 $$
(1)の結果から、単原子分子の定積モル比熱は \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\) なので、これを代入します。
$$ Q = n \left( \frac{3}{2}R \right) \Delta T_1 $$
この式を\(\Delta T_1\)について解きます。

使用した物理公式

  • 定積変化における熱量: \(Q = nC_V\Delta T\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
Q &= \frac{3}{2}nR\Delta T_1 \\[2.0ex]\Delta T_1 &= Q \times \frac{2}{3nR} \\[2.0ex]&= \frac{2Q}{3nR}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(1)で、1molを1K温度を上げるのに \(\frac{3}{2}R\) の熱が必要だと分かりました。この関係を使って、熱量\(Q\)を加えたら温度が何度上がるかを逆算します。「加えた熱量 \(Q\) ÷ (1K上げるのに必要な熱量 \(nC_V\))」で温度変化が求まります。

結論と吟味

温度変化は \(\Delta T_1 = \displaystyle\frac{2Q}{3nR}\) です。加えた熱量\(Q\)に比例し、物質量\(n\)に反比例するという、直感に合った結果となっています。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{2Q}{3nR}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
「圧力一定で熱量\(Q\)を加えた」という条件から、これが定圧変化であることが分かります。問(2)と同様に、今度は定圧モル比熱\(C_p\)を用いて熱量の公式 \(Q = nC_p\Delta T_2\) を立て、\(\Delta T_2\)について解きます。
この設問における重要なポイント

  • 定圧変化で加える熱量は \(Q = nC_p\Delta T_2\)。
  • (1)で求めた \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\) を代入する。

具体的な解説と立式
圧力一定(定圧変化)で熱量\(Q\)を加えたときの温度変化を\(\Delta T_2\)とします。
熱量の定義式より、
$$ Q = nC_p\Delta T_2 $$
(1)の結果から、単原子分子の定圧モル比熱は \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\) なので、これを代入します。
$$ Q = n \left( \frac{5}{2}R \right) \Delta T_2 $$
この式を\(\Delta T_2\)について解きます。

使用した物理公式

  • 定圧変化における熱量: \(Q = nC_p\Delta T\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
Q &= \frac{5}{2}nR\Delta T_2 \\[2.0ex]\Delta T_2 &= Q \times \frac{2}{5nR} \\[2.0ex]&= \frac{2Q}{5nR}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

考え方は問(2)と全く同じです。定圧変化なので、使うモル比熱が\(C_p\)に変わるだけです。

結論と吟味

温度変化は \(\Delta T_2 = \displaystyle\frac{2Q}{5nR}\) です。
問(2)の結果 \(\Delta T_1 = \frac{2Q}{3nR}\) と比較すると、分母の係数が3から5に大きくなっているため、\(\Delta T_2 < \Delta T_1\) であることが分かります。これは、定圧変化では加えられた熱の一部が外部への仕事に使われるため、同じ熱量を加えても温度が上がりにくいという物理的な事実と一致しており、妥当な結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{2Q}{5nR}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • モル比熱の物理的意味と熱力学第1法則:
    • 核心: 「定積モル比熱\(C_V\)」と「定圧モル比熱\(C_p\)」の違いが、熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) における仕事\(W\)の有無に起因することを理解するのが最も重要です。
    • 理解のポイント:
      • 定積変化 (\(W=0\)): 体積を固定して熱\(Q_V\)を加える場合。仕事はゼロなので、加えた熱はすべて内部エネルギーの増加に使われます (\(Q_V = \Delta U\))。このときのモル比熱が\(C_V\)です。
      • 定圧変化 (\(W>0\)): 圧力を一定に保ちながら熱\(Q_p\)を加える場合。気体は膨張して外部に仕事\(W\)をするため、加えた熱は内部エネルギーの増加と仕事の両方に分配されます (\(Q_p = \Delta U + W\))。このときのモル比熱が\(C_p\)です。
      • したがって、同じ温度を上げる(\(\Delta U\)は同じ)にも、仕事をする分だけ余計に熱が必要になるため、必ず \(C_p > C_V\) となります。
  • マイヤーの関係式 (\(C_p – C_V = R\)):
    • 核心: 上記の\(C_p\)と\(C_V\)の差が、気体の種類によらず常に気体定数\(R\)に等しいという、非常に強力な関係式です。
    • 理解のポイント: この差\(R\)は、1molの理想気体の温度を1K上げる際に、定圧変化で「余分に」必要となる熱量、すなわち外部にする仕事に相当します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 二原子分子の場合: 問題が「二原子分子」(\(H_2, N_2\)など)に変わった場合、内部エネルギーの式が \(\Delta U = \displaystyle\frac{5}{2}nR\Delta T\) となります。これにより、\(C_V = \displaystyle\frac{5}{2}R\)、\(C_p = C_V + R = \displaystyle\frac{7}{2}R\) となります。導出の論理は全く同じです。
    • \(Q, W, \Delta U\)の具体的な計算: 「\(n\)molの単原子分子に定圧で\(Q\)Jの熱を加えた。気体がした仕事\(W\)と内部エネルギーの変化\(\Delta U\)はいくらか?」という問題。まず(3)の結果から \(\Delta T_2 = \frac{2Q}{5nR}\) を求め、これを使って \(W = nR\Delta T_2 = \frac{2}{5}Q\)、\(\Delta U = nC_V\Delta T_2 = n(\frac{3}{2}R)(\frac{2Q}{5nR}) = \frac{3}{5}Q\) のように各エネルギーを計算できます。
    • 比熱比\(\gamma\)の計算: 断熱変化で重要となる比熱比 \(\gamma = \displaystyle\frac{C_p}{C_V}\) を計算させる問題。単原子分子なら \(\gamma = \frac{5/2 R}{3/2 R} = \frac{5}{3}\) となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 分子の種類を確認: まず「単原子分子」か「二原子分子」かを確認します。これにより内部エネルギーの式が決まり、\(C_V\)の値が確定します。
    2. 変化の種類を確認: 「体積一定(定積)」か「圧力一定(定圧)」かを見極め、\(C_V\)と\(C_p\)のどちらを使うべきかを判断します。
    3. 熱量の公式を使いこなす: \(Q=nC\Delta T\) の式を基本に、問題で何が与えられ、何を求めるのかに応じて、式を変形して使います。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • \(C_V\)と\(C_p\)の使い分けミス:
    • 誤解: 定積変化なのに\(C_p\)を、定圧変化なのに\(C_V\)を使ってしまう。
    • 対策: 「定積(Volume)→\(C_V\)」「定圧(Pressure)→\(C_p\)」と、アルファベットの頭文字と物理的な意味を強く結びつけて覚えましょう。
  • 内部エネルギー変化の式との混同:
    • 誤解: 内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) を求めるべきところで、熱量 \(Q\) の式を使ってしまう。特に、\(\Delta U = nC_p\Delta T\) のような誤った式を立ててしまう。
    • 対策: 内部エネルギーは温度だけで決まる状態量なので、その変化は常に \(\Delta U = nC_V\Delta T\) で計算される、と覚えてしまうのが有効です(これは理想気体ならどんな変化でも成り立ちます)。一方、熱量\(Q\)は過程に依存するため、定積なら\(Q=nC_V\Delta T\)、定圧なら\(Q=nC_p\Delta T\)と使い分けが必要です。
  • マイヤーの関係式の符号ミス:
    • 誤解: \(C_V – C_p = R\) のように、引き算の順序を逆にしてしまう。
    • 対策: 「定圧のほうが仕事をする分、多くの熱が必要」→「だから\(C_p\)のほうが大きい」と物理的な大小関係を理解しておけば、\(C_p – C_V\) の順序を間違えることはありません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • \(C_V\)の導出 (\(\Delta U = Q_V\)):
    • 選定理由: \(C_V\)は「定積」という条件下での物理量です。この条件を熱力学第1法則に適用するのが最も直接的なアプローチです。
    • 適用根拠: 定積変化では\(W=0\)となるため、熱力学第1法則は \(\Delta U = Q\) と単純化されます。ここに、内部エネルギーの公式 \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) と熱量の定義式 \(Q=nC_V\Delta T\) を適用することで、未知数だった\(C_V\)が既知の物理定数\(R\)だけで表現できます。
  • \(C_p\)の導出 (マイヤーの関係式):
    • 選定理由: \(C_V\)が判明した後、\(C_p\)を求めるには、再度熱力学第1法則から複雑な計算をするよりも、\(C_p\)と\(C_V\)の間に常に成り立つ普遍的な関係式(マイヤーの関係式)を利用するのが最も賢明かつ高速です。
    • 適用根拠: マイヤーの関係式 \(C_p – C_V = R\) は、理想気体であれば分子の種類を問わず成立するため、(1)で求めた\(C_V\)を代入すれば直ちに\(C_p\)が求まります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の変形: この問題は文字式のみの計算なので、移項や分数の扱いに注意が必要です。
    • \(Q = \frac{3}{2}nR\Delta T_1\) から \(\Delta T_1\) を求めるには、両辺に \(\frac{2}{3nR}\) を掛けると考えるとスムーズです。
    • \(\Delta T_1 = Q \times \frac{2}{3nR} = \frac{2Q}{3nR}\)。焦って分母と分子を逆にしないよう、丁寧に変形しましょう。
  • 結果の物理的な吟味: (2)と(3)で得られた結果、\(\Delta T_1 = \frac{2Q}{3nR}\) と \(\Delta T_2 = \frac{2Q}{5nR}\) を比較します。分母が \(3nR < 5nR\) なので、\(\Delta T_1 > \Delta T_2\) となります。これは「同じ熱量\(Q\)を加えても、仕事をする定圧変化のほうが温度が上がりにくい」という物理的直感と一致します。このようなセルフチェックは、ミスの発見に繋がります。
  • 公式の暗記と導出の使い分け: 単原子分子の \(C_V = \frac{3}{2}R\), \(C_p = \frac{5}{2}R\) は非常に基本的な値なので、最終的には暗記してしまうのが試験では有利です。しかし、なぜその値になるのかを熱力学第1法則から導出できる力があれば、二原子分子の場合や応用問題にも対応できる真の実力が身につきます。

206 等温変化

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「等温変化における熱力学第1法則」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 等温変化: 気体の温度を一定に保ったまま行われる状態変化のことです。
  2. 理想気体の内部エネルギー: 理想気体の内部エネルギーは絶対温度にのみ比例します。したがって、温度が一定の等温変化では、内部エネルギーは変化しません (\(\Delta U = 0\))。
  3. 熱力学第1法則: 気体の内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は、気体が吸収した熱量\(Q\)と、気体が外部にした仕事\(W\)を用いて、\(\Delta U = Q – W\) と表されます。
  4. 仕事の符号: 気体が外部から仕事を「される」場合と、外部へ仕事を「する」場合とで、仕事の符号の扱いが逆になります。熱力学第1法則の\(W\)は、気体が「した」仕事です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文の「温度を一定に保ったまま」という記述から、この変化が「等温変化」であり、内部エネルギーが変化しない (\(\Delta U = 0\)) ことを確定させます。
  2. 問題文の「仕事を加えて気体を圧縮した」という情報から、気体が外部から「された」仕事の値を読み取ります。これを、熱力学第1法則で用いる気体が「した」仕事\(W\)に符号を反転させて変換します。
  3. 熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) に、\(\Delta U = 0\) と計算した\(W\)の値を代入し、熱量\(Q\)を求めます。
  4. 求めた\(Q\)の符号から、気体が熱を吸収したのか、放出したのかを判断します。

思考の道筋とポイント
この問題の核心は、「温度を一定に保った」という記述から、これが「等温変化」であり、理想気体の内部エネルギーは変化しない (\(\Delta U = 0\)) という非常に強力な条件を導き出すことです。
次に重要なのは、仕事の扱いです。問題文では「仕事を加えて気体を圧縮した」とあり、これは気体が外部から仕事を「された」ことを意味します。一方、熱力学第1法則の公式 \(\Delta U = Q – W\) における \(W\) は、慣例的に気体が外部へ「した」仕事として定義されます。この「された仕事」と「した仕事」の符号関係を正しく処理することが、正確な立式に繋がります。
これらの情報を熱力学第1法則に適用すれば、求めたい熱量\(Q\)を計算することができます。
この設問における重要なポイント

  • 等温変化では、理想気体の内部エネルギーは変化しない (\(\Delta U = 0\))。
  • 熱力学第1法則は \(\Delta U = Q – W\)。
  • 気体が外部から「された」仕事を \(w\) とすると、気体が外部へ「した」仕事 \(W\) との関係は \(W = -w\) となる。
  • 熱量\(Q\)の符号が正なら「吸収」、負なら「放出」を意味する。

具体的な解説と立式
気体が吸収した熱量を\(Q\) [J]、気体が外部にした仕事を\(W\) [J]とします。
気体のエネルギー収支を表す熱力学第1法則は、
$$ \Delta U = Q – W $$
です。

まず、問題文の「気体の温度を一定に保った」という記述から、この変化は等温変化です。理想気体の内部エネルギーは絶対温度のみに依存するため、温度が一定ならば内部エネルギーは変化しません。したがって、
$$ \Delta U = 0 $$
となります。

次に、仕事について考えます。問題文には「\(4.0 \times 10^3\) Jの仕事を加えて気体を圧縮した」とあります。これは、気体が外部から「された」仕事です。気体が「された」仕事を \(w\) とすると、\(w = 4.0 \times 10^3\) J です。
熱力学第1法則の\(W\)は気体が「した」仕事なので、符号が逆になります。
$$ W = -w = -4.0 \times 10^3 \text{ J} $$
これらの関係を熱力学第1法則の式に代入します。
$$ 0 = Q – W $$
これを\(Q\)について解くと、
$$ Q = W $$
となります。

使用した物理公式

  • 熱力学第1法則: \(\Delta U = Q – W\)
  • 理想気体の内部エネルギーと温度の関係: \(T\)が一定なら\(\Delta U = 0\)
計算過程

立式した関係式に、仕事\(W\)の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q &= W \\[2.0ex]&= -4.0 \times 10^3 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
計算の結果、\(Q\)は負の値となりました。

計算方法の平易な説明

この問題は、エネルギーの出入りを考えるパズルのようなものです。
1. 「温度が一定」というルールから、気体の元気(内部エネルギー)は増えも減りもしないと分かります。
2. 気体は、外部から \(4.0 \times 10^3\) J の仕事を「されて」います。これは、気体の視点から見れば、\(4.0 \times 10^3\) J のエネルギーをもらったのと同じことです。
3. しかし、ルール1により、元気(内部エネルギー)は増えてはいけません。では、もらったエネルギーはどこへ消えたのでしょうか?
4. 答えは、もらったエネルギーをそのまま「熱」として外部に捨てた、ということです。
したがって、気体は \(4.0 \times 10^3\) J の熱を「放出した」ことになります。

結論と吟味

計算結果は \(Q = -4.0 \times 10^3\) J となりました。
熱量\(Q\)は「気体が吸収した熱量」として定義されているため、その値が負であることは、気体が熱を「吸収」したのではなく「放出」したことを意味します。
したがって、気体は \(4.0 \times 10^3\) J の熱を放出しました。
外部から仕事をされてエネルギーを受け取った分だけ、温度を一定に保つために外部へ熱を放出した、という物理的に妥当な結果です。

解答 \(4.0 \times 10^3\) J の熱を放出した。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 等温変化における熱力学第1法則の特殊な形:
    • 核心: この問題は「温度一定」という条件下で起こる「等温変化」を扱っています。この状況を熱力学第1法則に適用すると、法則が非常にシンプルな形になることを理解するのが核心です。
    • 理解のポイント:
      1. 内部エネルギーの変化がゼロ: 理想気体の内部エネルギーは絶対温度だけで決まります。したがって、温度が一定の等温変化では、内部エネルギーは全く変化しません (\(\Delta U = 0\))。
      2. 熱と仕事の関係: この \(\Delta U = 0\) を熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) に代入すると、\(0 = Q – W\)、すなわち \(Q = W\) という関係が導かれます。
    • これは、「等温変化において、気体が吸収した熱量(\(Q\))は、すべて気体が外部にした仕事(\(W\))に変換される(あるいはその逆)」という、等温変化に特有のエネルギー変換ルールを意味します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 等温膨張: 気体が温度一定で膨張し、外部に仕事\(W\)をした場合。\(Q=W\)なので、気体はした仕事と同じだけの熱量\(Q\)を外部から吸収していることになります。
    • p-Vグラフ問題: p-Vグラフ上で反比例の曲線(等温線)に沿って状態が変化する場合。この過程での熱の出入りを問われたら、等温変化であることを見抜き、\(Q=W\)の関係を使います。(高校範囲では等温変化の仕事の具体的な計算は稀ですが、その関係性は問われます)
    • 他の状態変化との比較: 定圧変化や断熱変化など、他の変化とエネルギーの出入りの違いを比較させる問題。例えば「断熱圧縮」では\(Q=0\)なので、された仕事はすべて内部エネルギーの増加に使われ、温度が上昇します。これに対し「等温圧縮」では、された仕事はすべて熱として放出され、温度は上がりません。この違いを理解することが重要です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「温度一定」のキーワードを探す: 問題文に「温度を一定に保ったまま」「等温的に」といった言葉があれば、即座に「\(\Delta U = 0\) だ!」と判断します。これが最大のヒントです。
    2. 仕事の向き(した or された)を判断する: 「圧縮した」なら気体は仕事を「された」、「膨張した」なら気体は仕事を「した」と判断します。
    3. 熱力学第1法則の\(W\)の定義を思い出す: 自分が使う公式 \(\Delta U = Q – W\) の\(W\)が「した仕事」であることを確認し、問題文の仕事の向きと合わせて符号を決定します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 仕事の符号ミス:
    • 誤解: 問題文の「\(4.0 \times 10^3\) Jの仕事を加えて」というのを、そのまま \(W = 4.0 \times 10^3\) J として式に代入してしまう。
    • 対策: 「された仕事」と「した仕事」は符号が逆の関係 (\(W = -w\)) にあることを徹底します。「圧縮された」→「体積が減った」→「した仕事\(W\)は負」というように、物理的なイメージと結びつけて覚えるのが効果的です。
  • 熱量\(Q\)の符号の解釈ミス:
    • 誤解: 計算結果で \(Q = -4.0 \times 10^3\) J と出たのに、「\(4.0 \times 10^3\) Jの熱を吸収した」と答えてしまう。
    • 対策: 熱力学第1法則における\(Q\)は、あくまで「気体が吸収した熱量」として定義されています。したがって、計算結果が負になった場合は、吸収の逆、つまり「放出した」と解釈する必要があります。これは機械的に判断できるようにしておきましょう。
  • \(\Delta U = 0\) の条件を忘れる:
    • 誤解: 等温変化であることを見落とし、\(\Delta U\)が0にならないと考えてしまい、情報不足で解けないと混乱する。
    • 対策: 「定積→\(W=0\)」「等温→\(\Delta U=0\)」「断熱→\(Q=0\)」という、各状態変化における「ゼロになる物理量」をセットで覚えておくことが非常に重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 熱力学第1法則 (\(\Delta U = Q – W\)):
    • 選定理由: この問題は、気体の「熱」の吸収・放出を問うています。そして、インプット情報として「仕事」と「内部エネルギーの変化(をゼロと判断できる情報)」が与えられています。この3つの物理量(\(\Delta U, Q, W\))の関係を記述する唯一の法則が、熱力学第1法則です。
    • 適用根拠:
      1. 問題文の「温度を一定に保った」という記述から、これは「等温変化」であると特定します。
      2. 理想気体の性質から、等温変化では内部エネルギーは変化しない、すなわち \(\Delta U = 0\) であると結論付けられます。
      3. この \(\Delta U = 0\) という強力な条件を、普遍的なエネルギー保存則である熱力学第1法則に適用することで、\(Q=W\)という等温変化に特有の関係式を導き、問題を解くことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 符号の丁寧な扱い: この問題は数値計算そのものより、符号の扱いが全てです。
    • まず、問題文の情報を物理量に変換する際に符号を確定させます。「された仕事 \(w = 4.0 \times 10^3\) J」→「した仕事 \(W = -w = -4.0 \times 10^3\) J」。
    • 次に、式を立てて計算します。\(Q = W = -4.0 \times 10^3\) J。
    • 最後に、計算結果の符号を日本語に翻訳します。「\(Q\)が負」→「熱を放出した」。

    この3ステップを意識的に行うことで、符号ミスを撲滅できます。

  • 物理的なイメージを持つ: 「気体を無理やり圧縮した(仕事をした)のに、温度が上がらないのはなぜだろう? それは、圧縮によって発生した熱を外部に捨てているからに違いない」という物理的なストーリーを頭の中で描くことができれば、計算結果が「熱を放出」となることを予測でき、検算の役割を果たします。

207 気体の混合

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「気体の混合と内部エネルギー保存則」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 内部エネルギー保存則: 外部との熱のやり取りがなく、外部に仕事をしない系では、系全体の内部エネルギーは保存されます。
  2. 熱力学第1法則: \(\Delta U = Q – W\)。問題の条件「外部への熱の出入りはない」(\(Q=0\))、「全体の体積は変わらず」(\(W=0\))から、\(\Delta U = 0\)となり、内部エネルギーが保存されることが導かれます。
  3. 単原子分子の内部エネルギー: ヘリウムは単原子分子の理想気体とみなせるため、その内部エネルギー\(U\)は、物質量\(n\)、気体定数\(R\)、絶対温度\(T\)を用いて \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\) と表されます。
  4. 混合の前後でのエネルギー保存: (混合前の各気体の内部エネルギーの和) = (混合後の気体全体の内部エネルギー) という関係が成り立ちます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文の条件から、この混合プロセスで系全体の内部エネルギーが保存されることを確認します。
  2. 混合前の2つのヘリウムガスが持つ内部エネルギーの合計を、それぞれの物質量と温度を使って計算します。
  3. 混合後の気体全体の内部エネルギーを、混合後の全物質量と未知の最終温度\(T\)を使って表します。
  4. 「混合前のエネルギーの和 = 混合後のエネルギー」という保存則の式を立て、最終温度\(T\)を求めます。

思考の道筋とポイント
この問題は、温度の異なる2種類の気体を断熱された容器内で混合した後の、最終的な平衡温度を求める問題です。核心となる考え方は「エネルギー保存則」です。
問題文には「全体の体積は変わらず」「外部への熱の出入りはない」という2つの重要な条件が書かれています。
1. 「体積は変わらず」→ 気体は外部に対して仕事をしないので \(W=0\)。
2. 「熱の出入りはない」→ 外部と熱をやり取りしないので \(Q=0\)。
この2つの条件を熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) に当てはめると、\(\Delta U = 0 – 0 = 0\) となります。これは、混合の前後で、2つの気体を合わせた系全体の内部エネルギーが変化しない(保存される)ことを意味します。
この内部エネルギー保存則を数式で表現し、未知の温度\(T\)を解くことができれば、それが答えとなります。
この設問における重要なポイント

  • 外部と熱や仕事のやり取りがない場合、系全体の内部エネルギーは保存される。
  • 保存則の立式: (混合前の内部エネルギーの合計) = (混合後の内部エネルギー)。
  • ヘリウムは単原子分子であり、その内部エネルギーは \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\) で計算できる。
  • 混合後の気体の総物質量は、それぞれの気体の物質量の和になる。

具体的な解説と立式
混合前の2つのヘリウムガスをそれぞれ気体1、気体2とし、混合後の気体を気体3とします。

  • 気体1: \(n_1 = 2.0 \text{ mol}\), \(T_1 = 300 \text{ K}\)
  • 気体2: \(n_2 = 3.0 \text{ mol}\), \(T_2 = 400 \text{ K}\)
  • 気体3(混合後): \(n_3 = n_1 + n_2 = 5.0 \text{ mol}\), 温度を \(T\) [K] とする。

ヘリウムは単原子分子なので、内部エネルギーは \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\) で与えられます。
内部エネルギー保存則より、「混合前の内部エネルギーの和 = 混合後の内部エネルギー」なので、
$$ U_1 + U_2 = U_3 $$
この式に、具体的な内部エネルギーの公式を代入します。
$$ \frac{3}{2}n_1RT_1 + \frac{3}{2}n_2RT_2 = \frac{3}{2}n_3RT $$
$$ \frac{3}{2}n_1RT_1 + \frac{3}{2}n_2RT_2 = \frac{3}{2}(n_1+n_2)RT $$
この式を未知の温度\(T\)について解きます。

使用した物理公式

  • 熱力学第1法則: \(\Delta U = Q – W\)
  • 単原子分子の理想気体の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)
  • 内部エネルギー保存則: \(U_{\text{前合計}} = U_{\text{後}}\)
計算過程

立式したエネルギー保存則の式から計算を始めます。
$$ \frac{3}{2}n_1RT_1 + \frac{3}{2}n_2RT_2 = \frac{3}{2}(n_1+n_2)RT $$
両辺に共通して含まれる係数 \(\displaystyle\frac{3}{2}R\) は消去できます。
$$ n_1T_1 + n_2T_2 = (n_1+n_2)T $$
この式に、与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
(2.0 \times 300) + (3.0 \times 400) &= (2.0 + 3.0)T \\[2.0ex]600 + 1200 &= 5.0T \\[2.0ex]1800 &= 5.0T \\[2.0ex]T &= \frac{1800}{5.0} \\[2.0ex]&= 360 \text{ [K]}
\end{aligned}
$$
問題文で与えられた数値の有効数字は2桁(2.0 mol, 3.0 mol)なので、答えも有効数字2桁で表します。
$$ T = 3.6 \times 10^2 \text{ [K]} $$

計算方法の平易な説明

この問題は、温度の違う2つの液体を混ぜる状況とよく似ています。最終的な温度は、それぞれの液体の量と温度によって決まります。物理では、この現象を「エネルギーの保存」で考えます。
外部とのエネルギーのやり取りがないので、2つのヘリウムがもともと持っていた「内部エネルギー」の合計は、混ざった後も変わらないはずです。
気体の内部エネルギーは、大まかに「物質量 × 温度」に比例します。
したがって、「(気体1の物質量×温度) + (気体2の物質量×温度) = (全体の物質量×最終温度)」という関係が成り立ちます。
これに数字を当てはめると、
\((2.0 \times 300) + (3.0 \times 400) = (2.0 + 3.0) \times T\)
\(600 + 1200 = 5.0 \times T\)
\(1800 = 5.0 \times T\)
これを解くと、\(T = 360\) K となります。

結論と吟味

混合後の絶対温度は \(3.6 \times 10^2\) K です。
この温度は、混合前の温度である300Kと400Kの間にあり、物理的に妥当な値です。また、物質量の多い400Kの気体の方に温度がより近い値(350Kよりも高い)になっていることから、物質量の多い気体の影響が強く出ていることが分かり、直感的にも正しい結果と言えます。これは、温度が物質量を重みとした加重平均で決まるためです。

解答 \(3.6 \times 10^2 \text{ K}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 断熱系における内部エネルギー保存則:
    • 核心: この問題の状況は、外部とのエネルギーのやり取りが遮断された「断熱系」での変化です。このような系では、系全体の内部エネルギーの総和は変化の前後で一定に保たれる、という「内部エネルギー保存則」が成り立ちます。これがこの問題を解くための最も重要な法則です。
    • 理解のポイント:
      • なぜ内部エネルギーが保存されるのか? → 熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) において、問題文の条件「外部への熱の出入りはない」から\(Q=0\)。また、容器全体の体積が変わらないため、系として外部に仕事をしておらず\(W=0\)。よって、\(\Delta U = 0 – 0 = 0\) となり、内部エネルギーは保存されます。
      • 立式の形: (混合前の気体1の内部エネルギー) + (混合前の気体2の内部エネルギー) = (混合後の気体全体の内部エネルギー) という等式を立てることがゴールです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 二原子分子の混合: 気体がヘリウム(単原子)ではなく、窒素や酸素(二原子)に変わった場合。内部エネルギーの公式が \(U = \displaystyle\frac{5}{2}nRT\) に変わるだけで、内部エネルギー保存則を立てて解くというアプローチは全く同じです。
    • 単原子分子と二原子分子の混合: 例えばヘリウムと窒素を混合する場合。内部エネルギー保存則の式は \(\frac{3}{2}n_1RT_1 + \frac{5}{2}n_2RT_2 = (\frac{3}{2}n_1R + \frac{5}{2}n_2R)T\) のようにはならず、混合後の気体は単一のモル比熱を持たないため、より複雑になります(高校範囲を超えることが多いですが、基本的な考え方は同じです)。
    • 熱量保存則(熱量計の考え方)での解法: 高温の気体が失った熱量と、低温の気体が得た熱量が等しい、という考え方でも解くことができます。
      • 高温気体(400K)が失う熱量: \(Q_{\text{失}} = n_2 C_V (400 – T)\)
      • 低温気体(300K)が得る熱量: \(Q_{\text{得}} = n_1 C_V (T – 300)\)
      • \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) より、\(3.0 \times C_V \times (400 – T) = 2.0 \times C_V \times (T – 300)\)。\(C_V\)が消去でき、同じ結果が得られます。これは内部エネルギー保存則の式と数学的に等価です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 系の設定を確認: 「混合」「仕切りを外す」といった操作に注目します。
    2. 断熱・定積条件を探す: 「断熱容器」「熱の出入りがない」「体積一定」といったキーワードを探し、\(Q=0, W=0\) となるかを確認します。
    3. エネルギー保存則の適用: 上の条件が揃っていれば、「内部エネルギー保存則」が使えると判断します。
    4. 分子の種類を確認: 気体が単原子分子か二原子分子かを確認し、正しい内部エネルギーの公式 \(U = \frac{3}{2}nRT\) または \(U = \frac{5}{2}nRT\) を選択します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 単純な温度の平均をとってしまう:
    • 誤解: 混合後の温度を、単純に \((300 \text{ K} + 400 \text{ K}) / 2 = 350 \text{ K}\) と計算してしまう。
    • 対策: これは物質量が同じ場合にしか成り立ちません。物質量が異なる場合は、量の多い方の気体の温度に引っぱられます。最終的な温度は、物質量を「重み」とした「加重平均」になることを理解しましょう。今回の答え360Kは、物質量の多い400Kの方に近い値になっており、このことからも妥当性が確認できます。
  • 内部エネルギーの公式の係数ミス:
    • 誤解: ヘリウムは単原子分子なのに、二原子分子用の係数 \(\frac{5}{2}\) を使ってしまう。
    • 対策: ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)は代表的な単原子分子であることをしっかり覚えておきましょう。
  • 混合後の物質量のミス:
    • 誤解: エネルギー保存の式を立てる際、右辺(混合後)の物質量を \(n_1\) や \(n_2\) のままにしてしまったり、足し算を間違えたりする。
    • 対策: 混合後の総物質量は、当然ながら元の物質量の和 (\(n_1+n_2\)) になります。当たり前のことですが、焦ると見落としがちです。混合前と後で、状態量(\(n, T\))をきちんと整理する癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 内部エネルギー保存則 (\(U_{\text{前合計}} = U_{\text{後}}\)):
    • 選定理由: この問題は、外部から完全に隔離された「孤立系」の内部で起こる変化を扱っています。このような系の状態変化を記述する最も強力で根源的な法則がエネルギー保存則です。
    • 適用根拠: 熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) は、どんな系にも成り立つ普遍的な法則です。ここに、問題文で与えられた「外部への熱の出入りはない」(\(Q=0\)) と「全体の体積は変わらず(外部への仕事がない)」(\(W=0\)) という、この問題に特有の条件を適用します。その結果、この系では \(\Delta U = 0\)、すなわち内部エネルギーが保存される、という特別な法則が論理的に導かれます。
  • 単原子分子の内部エネルギーの公式 (\(U = \frac{3}{2}nRT\)):
    • 選定理由: 抽象的な「内部エネルギー保存則」を、具体的な計算が可能な数式に落とし込むために必要です。
    • 適用根拠: 問題で扱われている気体が「ヘリウム」であり、これは単原子分子の理想気体として扱えるため、この公式を適用することが正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 共通因数の早期消去: エネルギー保存の式 \(\frac{3}{2}n_1RT_1 + \frac{3}{2}n_2RT_2 = \frac{3}{2}(n_1+n_2)RT\) を立てた後、計算を始める前に両辺に共通する係数 \(\frac{3}{2}R\) を消去しましょう。これにより、式は \(n_1T_1 + n_2T_2 = (n_1+n_2)T\) と非常にシンプルになり、計算ミスを劇的に減らせます。
  • 加重平均の形を意識する: 上記の簡略化された式を変形すると、\(T = \displaystyle\frac{n_1T_1 + n_2T_2}{n_1+n_2}\) となります。これは、物質量\(n_1, n_2\)を重みとする温度\(T_1, T_2\)の「加重平均」の形です。この形を知っていると、立式が正しいかどうかの確認や、検算に役立ちます。
  • 代入は最後に行う: まずは文字式のまま \(T = \displaystyle\frac{n_1T_1 + n_2T_2}{n_1+n_2}\) まで変形してから数値を代入する癖をつけると、計算の見通しが良くなり、ミスが減ります。
  • 有効数字の確認: 最終的な答え(360)が出たら、問題文の有効数字(2.0, 3.0なので2桁)を確認し、答えを \(3.6 \times 10^2\) K と科学表記で正しく表現することを忘れないようにしましょう。

208 定圧変化

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「定圧変化における熱力学の総合問題」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 定圧変化の特定: 問題文の「圧力を一定に保ったまま」という記述や、外圧とつり合って自由に動けるピストンの状況から、この変化が「定圧変化」であることを見抜くことが全ての出発点です。
  2. 熱力学第1法則: 気体のエネルギー収支を表す基本法則 \(\Delta U = Q – W\) です。各文字が何を表し、符号がどういう意味を持つかを正確に理解しているかが問われます。
  3. 単原子分子の内部エネルギー: 内部エネルギーの変化は、気体の種類と温度変化だけで決まります。単原子分子の場合、\(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) となります。
  4. 定圧変化における仕事: 圧力が一定なので、仕事の計算は \(W = p\Delta V\) となります。さらに状態方程式を用いると、\(W = nR\Delta T\) とも計算できます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1) 気体がされた仕事を計算します。定圧変化なので、\(W = nR\Delta T\) の関係を利用します。
  2. (2) 気体の内部エネルギーの変化を計算します。単原子分子の公式 \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) を利用します。
  3. (3) 気体が放出した熱量を計算します。(1)と(2)の結果を、熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) に代入して求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
気体が外部から「された」仕事を求めます。まず、この変化が「定圧変化」であることを確認します。ピストンが自由に動ける状態でゆっくり冷却しているので、内部の圧力は常に外部の大気圧とつり合っており、一定とみなせます。
仕事の計算には \(W=p\Delta V\) を使いますが、問題文に圧力\(p\)や体積変化\(\Delta V\)が与えられていません。しかし、物質量\(n\)、気体定数\(R\)、温度変化\(\Delta T\)は分かっているので、状態方程式を利用して変形した \(W=nR\Delta T\) の関係から計算するのが賢明です。
最後に、問われているのが「された仕事」であることに注意して符号を決定します。
この設問における重要なポイント

  • 自由に動くピストン → 定圧変化。
  • 気体が外部に「した」仕事は \(W = p\Delta V = nR\Delta T\)。
  • 気体が外部から「された」仕事 \(w\) は、「した」仕事 \(W\) と符号が逆の関係にある (\(w = -W\))。
  • したがって、「された」仕事は \(w = -nR\Delta T\) で計算できる。

具体的な解説と立式
気体が外部からされた仕事を \(w\) [J] とします。
まず、気体が外部に「した」仕事 \(W\) は、定圧変化なので次のように表せます。
$$ W = p\Delta V $$
ここで、理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) より、定圧変化では \(p\Delta V = nR\Delta T\) が成り立ちます。よって、
$$ W = nR\Delta T $$
問題で問われているのは、気体が「された」仕事 \(w\) です。これは「した」仕事 \(W\) とは符号が逆なので、
$$ w = -W = -nR\Delta T $$
となります。
ここに、\(n=4.0 \text{ mol}\), \(R=8.3 \text{ J/(mol}\cdot\text{K)}\), \(\Delta T = T_{\text{後}} – T_{\text{前}} = 400 – 500 = -100 \text{ K}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 定圧変化で気体がする仕事: \(W = nR\Delta T\)
  • 「された仕事」と「した仕事」の関係: \(w = -W\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
w &= -nR\Delta T \\[2.0ex]&= – (4.0 \times 8.3 \times (400 – 500)) \\[2.0ex]&= – (4.0 \times 8.3 \times (-100)) \\[2.0ex]&= 4.0 \times 8.3 \times 100 \\[2.0ex]&= 33.2 \times 100 \\[2.0ex]&= 3320 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
有効数字を2桁(4.0 mol)に合わせます。
$$ w \approx 3.3 \times 10^3 \text{ [J]} $$

計算方法の平易な説明

気体が冷やされて縮むとき、外部の空気がピストンを押してあげる形になります。これが「気体がされた仕事」です。この仕事の量は、「物質量 × 気体定数 × 温度変化」で計算できますが、符号に注意が必要です。「された仕事」は「した仕事」のマイナスなので、\(w = -nR\Delta T\) となります。温度変化は \(400 – 500 = -100\) K なので、\(w = – (4.0 \times 8.3 \times (-100)) = 3320\) J となります。

結論と吟味

気体が外部からされた仕事は \(3.3 \times 10^3\) J です。気体は冷却されて収縮(圧縮)しているので、外部から正の仕事をされたことになり、計算結果が正の値であることは物理的に妥当です。

解答 (1) \(3.3 \times 10^3 \text{ J}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
単原子分子の理想気体の内部エネルギーの変化を求める問題です。内部エネルギーは温度だけで決まるので、その変化は温度変化\(\Delta T\)だけで計算できます。単原子分子の内部エネルギー変化の公式に、与えられた値を代入するだけです。
この設問における重要なポイント

  • 単原子分子の理想気体の内部エネルギー変化の公式は \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)。
  • 温度が下がっているので、\(\Delta T\)は負であり、\(\Delta U\)も負になる。

具体的な解説と立式
気体の内部エネルギーの変化を \(\Delta U\) [J] とします。
気体は単原子分子の理想気体なので、その内部エネルギーの変化は次式で与えられます。
$$ \Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T $$
ここに、\(n=4.0 \text{ mol}\), \(R=8.3 \text{ J/(mol}\cdot\text{K)}\), \(\Delta T = 400 – 500 = -100 \text{ K}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 単原子分子の内部エネルギー変化: \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\Delta U &= \frac{3}{2} \times 4.0 \times 8.3 \times (400 – 500) \\[2.0ex]&= 6.0 \times 8.3 \times (-100) \\[2.0ex]&= 49.8 \times (-100) \\[2.0ex]&= -4980 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
有効数字を2桁に合わせます。
$$ \Delta U \approx -5.0 \times 10^3 \text{ [J]} $$

計算方法の平易な説明

気体の元気(内部エネルギー)は、その温度に比例します。今回は温度が500Kから400Kに下がったので、当然、内部エネルギーも減少します。その減少量は、公式 \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) で計算できます。

結論と吟味

気体の内部エネルギーの変化は \(-5.0 \times 10^3\) J です。温度が低下しているので、内部エネルギーが減少する(変化量が負になる)のは物理的に正しい結果です。

解答 (2) \(-5.0 \times 10^3 \text{ J}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
気体が放出した熱量を求めます。ここまでの設問で、内部エネルギーの変化\(\Delta U\)と、気体がされた仕事\(w\)(つまり、した仕事\(W\)も)が分かっています。これらの関係をまとめるのが熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) です。この法則を使って、気体が吸収した熱量\(Q\)を計算し、その符号から「放出した熱量」を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) を利用する。
  • \(Q\)は気体が「吸収した」熱量。
  • \(W\)は気体が「した」仕事であり、\(W = -w\)。
  • 計算結果の\(Q\)が負であれば、その絶対値が「放出した」熱量になる。

具体的な解説と立式
気体が吸収した熱量を \(Q_{\text{吸収}}\) [J] とします。熱力学第1法則は、
$$ \Delta U = Q_{\text{吸収}} – W $$
と表せます。ここで、\(W\)は気体が「した」仕事です。
この式を \(Q_{\text{吸収}}\) について解くと、
$$ Q_{\text{吸収}} = \Delta U + W $$
問(1)で求めた「された」仕事 \(w = 3320\) J より、「した」仕事 \(W\) は、
$$ W = -w = -3320 \text{ J} $$
問(2)で求めた内部エネルギーの変化 \(\Delta U = -4980\) J と、この\(W\)の値を代入して \(Q_{\text{吸収}}\) を計算します。

使用した物理公式

  • 熱力学第1法則: \(\Delta U = Q – W\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
Q_{\text{吸収}} &= \Delta U + W \\[2.0ex]&= (-4980) + (-3320) \\[2.0ex]&= -8300 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
\(Q_{\text{吸収}}\)が負の値になったので、気体は熱を吸収したのではなく、外部に放出したことがわかります。
問題で問われているのは「放出した熱量」なので、この値の絶対値をとります。
放出した熱量を \(Q_{\text{放出}}\) とすると、
$$ Q_{\text{放出}} = -Q_{\text{吸収}} = 8300 \text{ J} $$
有効数字を2桁に合わせます。
$$ Q_{\text{放出}} \approx 8.3 \times 10^3 \text{ [J]} $$

計算方法の平易な説明

気体のエネルギーのお金の出入りを考えます。
1. 内部エネルギー(貯金)は、4980 J 減りました (\(\Delta U = -4980\))。
2. 仕事(出費)は、-3320 J でした。つまり、3320 J の仕事を「された」ので、これは収入です。
3. 熱(収入or出費)はいくらだったでしょう?
「貯金の変化」=「熱の収入」-「仕事の出費」なので、
\(-4980 = Q_{\text{吸収}} – (-3320)\)
\(-4980 = Q_{\text{吸収}} + 3320\)
\(Q_{\text{吸収}} = -4980 – 3320 = -8300\) J
熱の収入がマイナスということは、8300 J の熱を支出した(放出した)ということです。

結論と吟味

気体が外部に放出した熱量は \(8.3 \times 10^3\) J です。気体を冷却し、さらに外部から圧縮して仕事までされているので、その分のエネルギーは熱として外部に放出されるはずです。物理的に妥当な結果です。

解答 (3) \(8.3 \times 10^3 \text{ J}\)
別解: 定圧モル比熱を用いた解法

思考の道筋とポイント
この変化は定圧変化なので、気体がやり取りする熱量は、定圧モル比熱\(C_p\)を使って直接計算することもできます。
この設問における重要なポイント

  • 定圧変化で気体が吸収する熱量は \(Q_{\text{吸収}} = nC_p\Delta T\)。
  • 単原子分子の定圧モル比熱は \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\)。

具体的な解説と立式
定圧変化において、気体が吸収する熱量 \(Q_{\text{吸収}}\) は、定圧モル比熱 \(C_p\) を用いて次のように表せます。
$$ Q_{\text{吸収}} = nC_p\Delta T $$
単原子分子の理想気体の場合、\(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\) なので、
$$ Q_{\text{吸収}} = n \left( \frac{5}{2}R \right) \Delta T $$
この式から吸収した熱量を計算し、放出した熱量を求めます。

計算過程

$$
\begin{aligned}
Q_{\text{吸収}} &= \frac{5}{2} \times 4.0 \times 8.3 \times (400 – 500) \\[2.0ex]&= 10 \times 8.3 \times (-100) \\[2.0ex]&= -8300 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
吸収した熱量が \(-8300\) J なので、放出した熱量は \(8300\) J となります。有効数字2桁にすると \(8.3 \times 10^3\) J です。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 熱力学第1法則 (\(\Delta U = Q – W\)) の総合的な適用:
    • 核心: この問題は、仕事(\(W\))、内部エネルギーの変化(\(\Delta U\))、熱量(\(Q\))という熱力学の主役となる3つの物理量を、一つの具体的なプロセス(定圧冷却)において全て計算させる総合問題です。これら3つの量を結びつける唯一の法則である「熱力学第1法則」を司令塔として、各量を個別に計算し、最終的に全体のエネルギー収支を理解することが核心となります。
    • 理解のポイント:
      • 仕事\(W\): 過程(どう変化したか)に依存する量。定圧変化なので \(W=p\Delta V=nR\Delta T\) で計算。
      • 内部エネルギー変化\(\Delta U\): 状態(最初と最後)だけで決まる量。理想気体では温度変化だけで決まり、\(\Delta U = nC_V\Delta T = \frac{3}{2}nR\Delta T\)。
      • 熱量\(Q\): 過程に依存する量。熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) から、\(Q = \Delta U + W\) として求めるのが基本。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 定圧加熱の場合: 気体を加熱して膨張させる逆のパターン。\(\Delta T > 0\) となるため、\(W, \Delta U, Q\) すべてが正の値になります。
    • 二原子分子の場合: 気体が単原子分子から二原子分子に変わるだけ。内部エネルギーとモル比熱の公式が \(\Delta U = \frac{5}{2}nR\Delta T\), \(C_V = \frac{5}{2}R\), \(C_p = \frac{7}{2}R\) に変わるだけで、解法の流れ(各物理量の計算と熱力学第1法則の適用)は全く同じです。
    • p-Vグラフ問題: p-Vグラフ上で、ある点から水平に移動する変化(定圧変化)が与えられ、\(W, \Delta U, Q\) を計算させる問題。仕事\(W\)はグラフの面積(長方形)、\(\Delta U\)は状態方程式 \(pV=nRT\) から温度変化を読み取って計算、\(Q\)は第一法則から求めます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 変化の種類を特定: まず「圧力一定」という条件から「定圧変化」であることを見抜きます。
    2. 問われている3要素をリストアップ: 問題が \(W, \Delta U, Q\) のどれを問うているかを確認します。
    3. 計算の順序を立てる: この問題のように、\(n, R, \Delta T\) が分かっている場合、\(W=nR\Delta T\) と \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) は直接計算できます。そして、最後に熱力学第1法則を使って残りの\(Q\)を求める、という流れが最もスムーズです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 仕事の符号ミス(「された仕事」と「した仕事」):
    • 誤解: (1)で「された仕事」を問われているのに、気体が「した」仕事 \(W\) を計算して答えてしまう。あるいは、\(w = nR\Delta T\) とマイナスを付け忘れる。
    • 対策: 「された仕事 \(w\)」と「した仕事 \(W\)」は常に \(w = -W\) の関係にあることを徹底する。冷却で収縮する場合、気体は外部から押されるので「仕事をされる(\(w>0\))」。した仕事\(W\)は負になるはず、と物理現象と結びつけて確認しましょう。
  • \(\Delta T\) の計算ミス:
    • 誤解: 温度変化を \(\Delta T = T_{\text{前}} – T_{\text{後}} = 500 – 400 = 100\) K と計算してしまう。
    • 対策: 変化量は常に「後 – 前」です。\(\Delta T = T_{\text{後}} – T_{\text{前}} = 400 – 500 = -100\) K。このマイナスの符号が、\(W\)や\(\Delta U\)の符号を決定する上で極めて重要なので、絶対に間違えないようにしましょう。
  • 熱量\(Q\)の符号の解釈ミス:
    • 誤解: (3)で \(Q = -8.3 \times 10^3\) J と計算した後、そのまま「放出した熱量は \(-8.3 \times 10^3\) J」と答えてしまう。
    • 対策: \(Q\)は「吸収した熱量」なので、\(Q\)が負であること自体が「放出した」ことを意味します。「放出した熱量はいくらか」と問われたら、その大きさ(絶対値)である \(8.3 \times 10^3\) J を答えるのが正解です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 各物理量の計算式の選択:
    • 選定理由: この問題は、\(W, \Delta U, Q\)という3つの異なる物理量を、与えられた情報(\(n, R, \Delta T\)と定圧変化という条件)から計算することが目的です。それぞれの物理量を、与えられた変数で直接表現できる公式を選択するのが最も論理的です。
    • 適用根拠:
      • 仕事\(W\): 定圧変化なので \(W=p\Delta V\)。しかし\(p, \Delta V\)が不明。状態方程式で変形すると \(W=nR\Delta T\)。与えられた変数で計算可能なので、これを選択。
      • 内部エネルギー変化\(\Delta U\): 単原子分子の理想気体なので、その定義から \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)。与えられた変数で計算可能なので、これを選択。
      • 熱量\(Q\): \(W\)と\(\Delta U\)が分かったので、これら3者を結びつける普遍的な法則である熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) を使うのが最も合理的。あるいは、(別解のように)定圧変化における熱量の公式 \(Q=nC_p\Delta T\) を直接使うことも論理的な選択肢です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • \(\Delta T\)の符号の徹底: 計算を始める前に、まず \(\Delta T = 400 – 500 = -100\) K と計算し、この値を全ての計算で使うことを明確に意識しましょう。
  • 符号のダブルチェック:
    • \(w = -nR\Delta T\) の計算では、式自体にマイナスがあり、\(\Delta T\)もマイナスなので、結果はプラスになる (\(- \times – = +\))。
    • \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) の計算では、\(\Delta T\)がマイナスなので、結果はマイナスになる。
    • \(Q = \Delta U + W = \Delta U – w\) の計算では、\(\Delta U\)も\(-w\)も負の値なので、結果はより大きな負の値になる。

    このように、計算の各段階で符号がどうなるかを予測・確認する癖をつけると、ミスが大幅に減ります。

  • 計算の共通化: \(nR\Delta T\) という塊が全ての計算のベースになっています。
    • \(nR\Delta T = 4.0 \times 8.3 \times (-100) = -3320\) J
    • (1) \(w = -nR\Delta T = -(-3320) = 3320\) J
    • (2) \(\Delta U = \frac{3}{2}(nR\Delta T) = \frac{3}{2}(-3320) = -4980\) J
    • (3) \(Q = \Delta U – w = -4980 – 3320 = -8300\) J

    このように共通部分を先に計算しておくと、計算の手間が省け、ミスも減ります。

  • 有効数字の扱い: 計算途中では3320, -4980, -8300のように丸めずに計算し、最終的な答えを出す段階で、問題文の有効数字(4.0 molなので2桁)に合わせて \(3.3 \times 10^3\), \(-5.0 \times 10^3\), \(8.3 \times 10^3\) と丸めましょう。

209 マイヤーの関係式

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「定積・定圧変化における熱・仕事・内部エネルギーの関係とマイヤーの法則の導出」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 熱力学第1法則: 気体のエネルギー収支の基本法則 \(\Delta U = Q – W\) です。
  2. モル比熱の定義: 熱量\(Q\)は、定積変化では \(Q = nC_V\Delta T\)、定圧変化では \(Q = nC_p\Delta T\) と表されます。
  3. 定圧変化における仕事: 気体が外部にする仕事\(W\)は、\(W = p\Delta V\) で計算でき、状態方程式を用いると \(W = nR\Delta T\) とも表せます。
  4. 内部エネルギーの性質: 理想気体の内部エネルギーは温度のみに依存する「状態量」です。そのため、変化の経路によらず、温度変化が同じであれば内部エネルギーの変化も同じになります。その変化量は常に \(\Delta U = nC_V\Delta T\) で計算できます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 文章の誘導に従い、定積変化と定圧変化における熱量、仕事、内部エネルギーの変化を、それぞれの定義式や法則から導き、空欄を埋めていきます。
  2. 定圧変化に熱力学第1法則を適用し、上で求めた各物理量の関係式を代入することで、マイヤーの関係式 \(C_p – C_V = R\) を導出します。
  3. 最後に、単原子分子と二原子分子の具体的な\(C_V\)の値を用いて、マイヤーの関係式から\(C_p\)の値を求めます。

空欄①

思考の道筋とポイント
「定積変化」において、温度変化が\(\Delta T\)であるときに気体が「吸収した熱量」を問われています。これは、定積モル比熱\(C_V\)の定義そのものです。
この設問における重要なポイント

  • 熱量の計算式は \(Q = nC\Delta T\)。
  • 「定積変化」なので、モル比熱には定積モル比熱\(C_V\)を用いる。

具体的な解説と立式
物質量\(n\)の気体の温度を\(\Delta T\)だけ上昇させるのに必要な熱量\(Q\)は、モル比熱\(C\)を用いて \(Q = nC\Delta T\) と表されます。
今回は定積変化なので、定積モル比熱\(C_V\)を用いて、吸収した熱量は次のように表せます。
$$ Q = nC_V\Delta T $$

解答 ① \(nC_V\Delta T\)

空欄②

思考の道筋とポイント
「定積変化」における「内部エネルギーの変化」を問われています。熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) を定積変化の条件で考えます。
この設問における重要なポイント

  • 熱力学第1法則: \(\Delta U = Q – W\)。
  • 定積変化では体積が変化しないため、気体は外部に仕事をしない (\(W=0\))。

具体的な解説と立式
熱力学第1法則は \(\Delta U = Q – W\) です。
定積変化では、体積の変化がゼロなので、気体が外部にする仕事もゼロ、すなわち \(W=0\) です。
したがって、熱力学第1法則は \(\Delta U = Q\) となります。
ここで、吸収した熱量\(Q\)は空欄①で求めた \(nC_V\Delta T\) ですから、
$$ \Delta U = nC_V\Delta T $$
となります。

解答 ② \(nC_V\Delta T\)

空欄③

思考の道筋とポイント
図のA→Bのような「定圧変化」において、気体が外部にした仕事\(W\)を、圧力\(p\)と体積変化\(\Delta V\)を用いて表す問題です。これは仕事の定義そのものです。
この設問における重要なポイント

  • 気体がする仕事は「圧力 × 体積変化」で計算できる。

具体的な解説と立式
圧力が\(p\)で一定のまま、体積が\(\Delta V\)だけ変化したとき、気体が外部にする仕事\(W\)は、
$$ W = p\Delta V $$
と定義されます。これは、p-Vグラフにおいて、定圧変化の線とV軸が囲む長方形の面積に相当します。

解答 ③ \(p\Delta V\)

空欄④

思考の道筋とポイント
空欄③で求めた仕事\(W\)を、理想気体の状態方程式を用いて、物質量\(n\)、気体定数\(R\)、温度変化\(\Delta T\)で表す問題です。
この設問における重要なポイント

  • 理想気体の状態方程式: \(pV = nRT\)。
  • 定圧変化では、\(p\Delta V = nR\Delta T\) という関係が成り立つ。

具体的な解説と立式
理想気体の状態方程式 \(pV = nRT\) を考えます。
状態Aでの体積を\(V\)、温度を\(T\)とすると、\(pV = nRT\) が成り立ちます。
状態Bでの体積を\(V+\Delta V\)、温度を\(T+\Delta T\)とすると、\(p(V+\Delta V) = nR(T+\Delta T)\) が成り立ちます。
後の式から前の式を引くと、
$$ p(V+\Delta V) – pV = nR(T+\Delta T) – nRT $$
$$ p\Delta V = nR\Delta T $$
したがって、空欄③の仕事 \(W=p\Delta V\) は、
$$ W = nR\Delta T $$
と変形できます。

解答 ④ \(nR\Delta T\)

空欄⑤

思考の道筋とポイント
「定圧変化」において、温度変化が\(\Delta T\)であるときに気体が「吸収した熱量」を問われています。これは、定圧モル比熱\(C_p\)の定義そのものです。
この設問における重要なポイント

  • 熱量の計算式は \(Q = nC\Delta T\)。
  • 「定圧変化」なので、モル比熱には定圧モル比熱\(C_p\)を用いる。

具体的な解説と立式
物質量\(n\)の気体の温度を\(\Delta T\)だけ上昇させるのに必要な熱量\(Q\)は、モル比熱\(C\)を用いて \(Q = nC\Delta T\) と表されます。
今回は定圧変化なので、定圧モル比熱\(C_p\)を用いて、吸収した熱量は次のように表せます。
$$ Q = nC_p\Delta T $$

解答 ⑤ \(nC_p\Delta T\)

空欄⑥

思考の道筋とポイント
定圧変化A→Bにおける内部エネルギーの変化\(\Delta U\)を求める問題です。問題文の誘導に従い、A→C→Bという迂回ルートで考えます。この誘導の意図は、「内部エネルギーは状態量であり、変化の経路によらない」という重要な性質を使わせるためです。
この設問における重要なポイント

  • 内部エネルギーは状態量であり、変化の経路によらない。
  • 理想気体の内部エネルギーは温度のみに依存する。
  • したがって、どんな変化であっても、内部エネルギーの変化は \(\Delta U = nC_V\Delta T\) で計算できる。

具体的な解説と立式
内部エネルギーは状態量なので、その変化量は始点と終点の状態だけで決まり、途中の経路にはよりません。したがって、定圧変化A→Bでの内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{AB}\) は、迂回ルートであるA→C→Bでの内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{ACB}\) と等しくなります。
$$ \Delta U_{AB} = \Delta U_{ACB} = \Delta U_{AC} + \Delta U_{CB} $$

  • A→Cの変化: 図より、これは温度が\(T\)のままの「等温変化」です。理想気体の内部エネルギーは温度だけで決まるので、温度が変化しない等温変化では内部エネルギーも変化しません。よって \(\Delta U_{AC} = 0\)。
  • C→Bの変化: 図より、これは体積が\(V+\Delta V\)のままの「定積変化」です。このときの温度変化は\(T\)から\(T+\Delta T\)なので、\(\Delta T\)です。空欄②で見たように、定積変化での内部エネルギーの変化は \(nC_V\Delta T\) で与えられます。よって \(\Delta U_{CB} = nC_V\Delta T\)。

以上を合わせると、
$$ \Delta U_{AB} = 0 + nC_V\Delta T = nC_V\Delta T $$
となります。

解答 ⑥ \(nC_V\Delta T\)

空欄⑦

思考の道筋とポイント
熱量\(Q\)、仕事\(W\)、内部エネルギーの変化\(\Delta U\)の間の関係式を問うています。これは熱力学第1法則そのものです。
この設問における重要なポイント

  • 熱力学第1法則は、気体のエネルギー保存則を表す。

具体的な解説と立式
気体が外部から熱量\(Q\)を吸収し、外部へ仕事\(W\)をしたとき、気体の内部エネルギーは\(\Delta U\)だけ変化します。この3つの量の間のエネルギー保存則が熱力学第1法則です。
$$ \Delta U = Q – W $$
問題文の空欄は \(Q, W, \Delta U\) の順になっているので、この式を\(Q\)について解いた形にします。
$$ Q = \Delta U + W $$

解答 ⑦ \(Q = \Delta U + W\)

空欄⑧

思考の道筋とポイント
空欄⑦で立てた熱力学第1法則の式に、定圧変化A→Bについて求めてきた各物理量(空欄④, ⑤, ⑥)を代入し、\(C_p\)を求める問題です。これがマイヤーの関係式の導出過程です。
この設問における重要なポイント

  • 定圧変化において、\(Q=nC_p\Delta T\), \(\Delta U=nC_V\Delta T\), \(W=nR\Delta T\) が成り立つ。

具体的な解説と立式
熱力学第1法則 \(Q = \Delta U + W\) に、定圧変化A→Bにおける各量を代入します。

  • \(Q = nC_p\Delta T\) (空欄⑤の結果)
  • \(\Delta U = nC_V\Delta T\) (空欄⑥の結果)
  • \(W = nR\Delta T\) (空欄④の結果)

これらを代入すると、
$$ nC_p\Delta T = nC_V\Delta T + nR\Delta T $$
この式の両辺を、共通の因子である \(n\Delta T\) で割ります。
$$ C_p = C_V + R $$
問題の空欄は \(C_p = \) の形なので、右辺が答えとなります。

解答 ⑧ \(C_V + R\)

空欄⑨

思考の道筋とポイント
単原子分子の場合の\(C_p\)の値を求める問題です。単原子分子の\(C_V\)の値を知っていれば、空欄⑧で導いたマイヤーの関係式に代入するだけで求まります。
この設問における重要なポイント

  • 単原子分子の内部エネルギーは \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)。
  • \(\Delta U = nC_V\Delta T\) と比較して、\(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\)。
  • マイヤーの関係式: \(C_p = C_V + R\)。

具体的な解説と立式
単原子分子の理想気体の内部エネルギーは \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\) で与えられます。
一方、内部エネルギーの変化は \(\Delta U = nC_V\Delta T\) とも書けるので、この2つを比較すると、
$$ nC_V\Delta T = \Delta \left( \frac{3}{2}nRT \right) = \frac{3}{2}nR\Delta T $$
よって、\(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\) となります。
これをマイヤーの関係式 \(C_p = C_V + R\) に代入します。
$$ C_p = \frac{3}{2}R + R $$

計算過程

$$
\begin{aligned}
C_p &= \frac{3}{2}R + R \\[2.0ex]&= \left( \frac{3}{2} + 1 \right)R \\[2.0ex]&= \frac{5}{2}R
\end{aligned}
$$

解答 ⑨ \(\displaystyle\frac{5}{2}R\)

空欄⑩

思考の道筋とポイント
二原子分子の場合の\(C_p\)の値を求める問題です。問⑨と同様に、二原子分子の\(C_V\)の値を知っていれば、マイヤーの関係式からすぐに計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 二原子分子の内部エネルギーは \(U = \displaystyle\frac{5}{2}nRT\)。
  • よって、\(C_V = \displaystyle\frac{5}{2}R\)。
  • マイヤーの関係式: \(C_p = C_V + R\)。

具体的な解説と立式
二原子分子の理想気体の内部エネルギーは \(U = \displaystyle\frac{5}{2}nRT\) で与えられます。(回転の運動エネルギーが加わるため)
問⑨と同様に、\(\Delta U = nC_V\Delta T\) と比較することで、\(C_V = \displaystyle\frac{5}{2}R\) となります。
これをマイヤーの関係式 \(C_p = C_V + R\) に代入します。
$$ C_p = \frac{5}{2}R + R $$

計算過程

$$
\begin{aligned}
C_p &= \frac{5}{2}R + R \\[2.0ex]&= \left( \frac{5}{2} + 1 \right)R \\[2.0ex]&= \frac{7}{2}R
\end{aligned}
$$

解答 ⑩ \(\displaystyle\frac{7}{2}R\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 内部エネルギーが「状態量」であることの物理的意味:
    • 核心: この問題の誘導(A→C→Bという迂回路)が教えてくれる最も重要な概念は、「内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は、変化の経路によらず、始点と終点の状態(特に温度)だけで決まる」という性質です。
    • 理解のポイント:
      • 定圧変化(A→B)の\(\Delta U\)を計算する際に、わざわざ等温変化(A→C)と定積変化(C→B)を組み合わせた経路で考えても、結果は同じになります。
      • この性質があるからこそ、どんな変化(定圧、等温、断熱など)であっても、理想気体の内部エネルギーの変化は常に \(\Delta U = nC_V\Delta T\) というシンプルな式で計算できるのです。これは非常に強力なツールとなります。
  • 熱力学第1法則とマイヤーの関係式:
    • 核心: 熱力学第1法則 \(Q = \Delta U + W\) という普遍的なエネルギー保存則に、定圧変化という特定の条件下での各物理量の表現(\(Q=nC_p\Delta T\), \(\Delta U=nC_V\Delta T\), \(W=nR\Delta T\))を代入することで、モル比熱間の重要な関係式 \(C_p = C_V + R\)(マイヤーの関係式)が導かれます。
    • 理解のポイント: マイヤーの関係式は、単なる公式ではなく、エネルギー保存則の必然的な帰結です。\(C_p\)が\(C_V\)より\(R\)だけ大きいのは、定圧変化時に気体が外部にする仕事(\(nR\Delta T\))の分だけ、余計に熱エネルギーが必要になるためです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • \(Q, W, \Delta U\)の具体的な計算問題: 「\(n\)molの単原子分子を定圧で\(\Delta T\)だけ加熱した。吸収した熱量\(Q\)、した仕事\(W\)、内部エネルギーの変化\(\Delta U\)をそれぞれ求めよ」という問題。この問題で学んだ公式をすべて使って解くことができます。
      • \(\Delta U = nC_V\Delta T = n(\frac{3}{2}R)\Delta T\)
      • \(W = nR\Delta T\)
      • \(Q = nC_p\Delta T = n(\frac{5}{2}R)\Delta T\) (または \(Q=\Delta U+W\))
    • 比熱比\(\gamma\)の計算: 断熱変化で重要な物理量である比熱比 \(\gamma = \displaystyle\frac{C_p}{C_V}\) を計算させる問題。単原子分子なら \(\gamma = \frac{5/2 R}{3/2 R} = \frac{5}{3}\)、二原子分子なら \(\gamma = \frac{7/2 R}{5/2 R} = \frac{7}{5}\) となります。
    • p-Vグラフ上のサイクル問題: A→B→C→Aのようなサイクル過程全体の仕事や熱の収支を計算する問題。各過程が定積、定圧、等温、断熱のどれに当たるかを見極め、この問題で整理した知識を総動員して解きます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 分子の種類を確認: 「単原子分子」か「二原子分子」か。これで\(C_V\)の値(\(\frac{3}{2}R\)か\(\frac{5}{2}R\)か)が決まります。
    2. 変化の種類を確認: 「定積」「定圧」「等温」「断熱」のどれか。これにより、\(Q, W, \Delta U\)のうちどれかがゼロになったり、特定の公式が使えたりします。
    3. \(\Delta U\)は常に\(nC_V\Delta T\)で攻める: 内部エネルギーの変化を問われたら、どんな変化であってもまず \(\Delta U = nC_V\Delta T\) を試みる、という思考は非常に有効です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 定圧変化の\(\Delta U\)の計算ミス:
    • 誤解: 定圧変化だからという理由で、内部エネルギーの変化を \(\Delta U = nC_p\Delta T\) と計算してしまう。これは最も多い間違いの一つです。
    • 対策: 内部エネルギーは温度だけで決まる「状態量」であり、その変化の計算式は経路によらない、と肝に銘じましょう。したがって、\(\Delta U\)の計算に\(C_p\)が登場することは絶対にありません。\(\Delta U\)は常に\(nC_V\Delta T\)です。
  • \(C_V\)と\(C_p\)の混同:
    • 誤解: 定積変化で使うべき熱量の式に\(C_p\)を、定圧変化で使うべき式に\(C_V\)を入れてしまう。
    • 対策: VはVolume(体積)、PはPressure(圧力)の頭文字です。「体積が一定→定積→\(C_V\)」「圧力が一定→定圧→\(C_p\)」と、言葉と記号をセットで覚えましょう。
  • マイヤーの関係式の符号ミス:
    • 誤解: \(C_V – C_p = R\) のように、大小関係を逆に覚えてしまう。
    • 対策: 「定圧変化では、気体は膨張して仕事をする。だから、同じ温度を上げるにも、仕事の分だけ余計に熱が必要になる」という物理的イメージを持つことが重要です。つまり、\(C_p\)は\(C_V\)より必ず大きいので、引き算の順序は \(C_p – C_V\) となります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • \(\Delta U = nC_V\Delta T\) が普遍的に使える理由:
    • 選定理由: 内部エネルギーが経路によらない「状態量」であるという、熱力学の根本的な性質を利用するためです。
    • 適用根拠: この問題の誘導(A→C→Bの迂回路)が示す通り、どんな変化(A→B)であっても、同じ始点・終点を持つ別の経路(A→C→B)で考えてよい、というのが状態量の強みです。計算しやすい経路として「等温+定積」の組み合わせを選ぶと、\(\Delta U_{AC}=0\)、\(\Delta U_{CB}=nC_V\Delta T\) となるため、結果的にどんな変化でも \(\Delta U = nC_V\Delta T\) で計算できることが論理的に導かれます。
  • マイヤーの関係式の導出ロジック:
    • 選定理由: \(C_p\)と\(C_V\)という、異なる条件下で定義された2つの物理量の間の関係性を明らかにするためです。
    • 適用根拠: 熱力学第1法則 \(Q = \Delta U + W\) という、いかなる変化にも成り立つエネルギー保存則を考えます。この普遍的な法則に、「定圧変化」という特定の条件下での各物理量の表現(\(Q=nC_p\Delta T\), \(\Delta U=nC_V\Delta T\), \(W=nR\Delta T\))を代入します。すると、\(nC_p\Delta T = nC_V\Delta T + nR\Delta T\) となり、係数間に \(C_p = C_V + R\) という関係が必然的に成り立つことが導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 概念の表整理: この問題で登場した物理量を、定積・定圧変化ごとに表にまとめて整理する習慣をつけると、知識が定着しやすくなります。
    変化\(Q\) (吸収熱量)\(W\) (した仕事)\(\Delta U\) (内部エネルギー変化)
    定積変化\(nC_V\Delta T\)0\(nC_V\Delta T\)
    定圧変化\(nC_p\Delta T\)\(nR\Delta T\)\(nC_V\Delta T\)

    この表から、\(\Delta U\)の計算式は常に同じであることや、定圧変化では \(Q = \Delta U + W\) が \(nC_p\Delta T = nC_V\Delta T + nR\Delta T\) に対応していることが一目瞭然です。

  • 分子の種類と\(C_V\)の対応付け:
    • 単原子分子: 並進運動の自由度3 → \(C_V = \frac{3}{2}R\)
    • 二原子分子: 並進運動3+回転運動2=自由度5 → \(C_V = \frac{5}{2}R\)

    このように、エネルギーが分配される「自由度」の数と結びつけて覚えると、忘れにくく、応用も効きます。

210 断熱変化

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「断熱変化とポアソンの法則」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 断熱変化: 気体と外部との間で熱のやり取りがない状態変化 (\(Q=0\)) のことです。
  2. 比熱比\(\gamma\): 定圧モル比熱\(C_p\)と定積モル比熱\(C_V\)の比で、\(\gamma = \displaystyle\frac{C_p}{C_V}\) と定義されます。断熱変化を特徴づける重要な物理量です。
  3. ポアソンの法則: 断熱変化において、圧力\(p\)、体積\(V\)、絶対温度\(T\)の間には、\(pV^\gamma = \text{一定}\) および \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) という関係が成り立ちます。
  4. ボイル・シャルルの法則: 理想気体の状態変化において、常に \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\) が成り立ちます。
  5. 単原子分子のモル比熱: 単原子分子の理想気体では、\(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\)、\(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\) となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、比熱比\(\gamma\)の定義に従い、単原子分子の\(C_p\)と\(C_V\)の値を代入して計算します。
  2. (2)では、問題文で与えられた断熱変化の関係式 \(pV^\gamma = \text{一定}\) と、常に成り立つボイル・シャルルの法則 \(\frac{pV}{T} = \text{一定}\) の2つの式を組み合わせ、圧力\(p\)を消去することで、\(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) の関係を導出します。
  3. (3)では、(2)で示した関係式 \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) を用いて、体積が変化した後の温度が元の何倍になるかを計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
比熱比\(\gamma\)の値を求める問題です。問題文に\(\gamma\)は「(定圧モル比熱)÷(定積モル比熱)」と定義されているので、\(\gamma = \displaystyle\frac{C_p}{C_V}\) です。気体が「単原子分子」であることから、\(C_p\)と\(C_V\)の具体的な値を気体定数\(R\)を用いて表し、比を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 比熱比の定義: \(\gamma = \displaystyle\frac{C_p}{C_V}\)。
  • 単原子分子のモル比熱: \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\), \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\)。

具体的な解説と立式
比熱比\(\gamma\)の定義は、
$$ \gamma = \frac{C_p}{C_V} $$
です。
単原子分子の理想気体の場合、定積モル比熱は \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\)、定圧モル比熱は \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\) です。
これらの値を定義式に代入します。

使用した物理公式

  • 比熱比の定義: \(\gamma = \displaystyle\frac{C_p}{C_V}\)
  • 単原子分子のモル比熱: \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\), \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\gamma &= \frac{\displaystyle\frac{5}{2}R}{\displaystyle\frac{3}{2}R} \\[2.0ex]&= \frac{5}{3} \\[2.0ex]&= 1.666\dots
\end{aligned}
$$
有効数字3桁で求めると、小数第4位を四捨五入して、
$$ \gamma \approx 1.67 $$
となります。

計算方法の平易な説明

比熱比\(\gamma\)は、\(C_p\)を\(C_V\)で割った値です。単原子分子の場合、\(C_p = \frac{5}{2}R\)、\(C_V = \frac{3}{2}R\) なので、\(\gamma = \frac{5/2 R}{3/2 R} = \frac{5}{3}\) となります。これを小数に直して有効数字3桁にすると1.67です。

結論と吟味

比熱比\(\gamma\)の値は1.67です。

解答 (1) 1.67

問(2)

思考の道筋とポイント
断熱変化の関係式 \(pV^\gamma = \text{一定}\) から、温度\(T\)と体積\(V\)の関係式 \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) を導出する問題です。2つの関係式を見比べると、圧力\(p\)が消去されています。したがって、圧力\(p\)を消去する方針で式変形を行います。そのためには、圧力\(p\)を含むもう一つの関係式、すなわちボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\) を利用します。
この設問における重要なポイント

  • 断熱変化の関係式(ポアソンの法則): \(pV^\gamma = \text{一定}\)。
  • 常に成り立つ関係式(ボイル・シャルルの法則): \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\)。
  • これら2式から圧力\(p\)を消去する。

具体的な解説と立式
変化の前の状態を(\(p, V, T\))、後の状態を(\(p’, V’, T’\))とします。
ボイル・シャルルの法則より、次の関係が成り立ちます。
$$ \frac{pV}{T} = \frac{p’V’}{T’} \quad \cdots ① $$
また、問題文で与えられた断熱変化の関係式(ポアソンの法則)は、
$$ pV^\gamma = p’V’^\gamma \quad \cdots ② $$
です。
目標の式 \(TV^{\gamma-1} = T’V’^{\gamma-1}\) には圧力\(p, p’\)が含まれていないので、①と②から\(p, p’\)を消去します。
式①から、\(p = \displaystyle\frac{T}{V} \times (\text{定数})\) のように、\(p\)は\(\frac{T}{V}\)に比例することがわかります。これを式②に代入する方針で考えます。
より形式的に解くには、式①を \(p’\) について解き、式②に代入します。
式①より、\(p’ = p \cdot \displaystyle\frac{V}{T} \cdot \frac{T’}{V’}\) です。これを式②の右辺に代入します。
$$ pV^\gamma = \left( p \frac{VT’}{TV’} \right) V’^\gamma $$

使用した物理公式

  • ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\)
  • ポアソンの法則: \(pV^\gamma = \text{一定}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
pV^\gamma &= \left( p \frac{VT’}{TV’} \right) V’^\gamma \\[2.0ex]V^\gamma &= \frac{VT’}{TV’} V’^\gamma \quad (\text{両辺を} p \text{で割る}) \\[2.0ex]V^\gamma &= \frac{V T’}{T} V’^{\gamma-1} \\[2.0ex]V^{\gamma-1} &= \frac{T’}{T} V’^{\gamma-1} \quad (\text{両辺を} V \text{で割る}) \\[2.0ex]TV^{\gamma-1} &= T’V’^{\gamma-1} \quad (\text{両辺に} T \text{を掛ける})
\end{aligned}
$$
したがって、\(TV^{\gamma-1}\) は変化の前後で一定の値をとることが示されました。

計算方法の平易な説明

2つのルール、(A) \(pV^\gamma = \text{一定}\) と (B) \(\frac{pV}{T} = \text{一定}\) を使って、新しいルールを作ります。
ルール(B)を変形すると \(p = (\text{一定}) \times \frac{T}{V}\) となります。これをルール(A)に代入すると、
\((\text{一定}) \times \frac{T}{V} \times V^\gamma = \text{一定}\)
\(T \times V^{\gamma-1} = \text{一定}\)
となり、新しい関係式が導かれます。

結論と吟味

ボイル・シャルルの法則とポアソンの法則から、\(TV^{\gamma-1} = T’V’^{\gamma-1}\) の関係が成り立つことが示されました。

解答 (2) 上記の通り証明された。

問(3)

思考の道筋とポイント
断熱変化で体積が\(\frac{1}{8}\)倍になったときの、絶対温度が何倍になるかを求める問題です。問(2)で導出した関係式 \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) を使います。また、気体は単原子分子なので、問(1)で求めた \(\gamma = \frac{5}{3}\) の値を利用します。
この設問における重要なポイント

  • 断熱変化では \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) が成り立つ。
  • 単原子分子なので \(\gamma = \displaystyle\frac{5}{3}\)。
  • 指数法則 (\((a^m)^n = a^{mn}\)) を正しく使う。

具体的な解説と立式
変化前の状態を(\(T, V\))、変化後の状態を(\(T’, V’\))とします。
問(2)で示した関係式より、
$$ TV^{\gamma-1} = T’V’^{\gamma-1} $$
この式を、求めたい温度の比 \(\displaystyle\frac{T’}{T}\) について解きます。
$$ \frac{T’}{T} = \frac{V^{\gamma-1}}{V’^{\gamma-1}} = \left( \frac{V}{V’} \right)^{\gamma-1} $$
問題の条件より、体積が初めの\(\frac{1}{8}\)倍になったので、\(V’ = \displaystyle\frac{1}{8}V\) です。これを代入すると \(\displaystyle\frac{V}{V’} = 8\) となります。
また、単原子分子なので \(\gamma = \displaystyle\frac{5}{3}\) であり、指数部分は \(\gamma-1 = \displaystyle\frac{5}{3} – 1 = \frac{2}{3}\) となります。
これらの値を式に代入します。

使用した物理公式

  • ポアソンの法則: \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\frac{T’}{T} &= \left( \frac{V}{V’} \right)^{\gamma-1} \\[2.0ex]&= (8)^{\frac{2}{3}} \\[2.0ex]&= (2^3)^{\frac{2}{3}} \\[2.0ex]&= 2^{3 \times \frac{2}{3}} \\[2.0ex]&= 2^2 \\[2.0ex]&= 4
\end{aligned}
$$
したがって、絶対温度は4倍になります。

計算方法の平易な説明

断熱圧縮(熱の出入りなく体積を縮める)すると、気体の温度は上がります。その関係を表すのが \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) です。
この式を変形すると、後の温度\(T’\)は、\(T’ = T \times (\frac{V}{V’})^{\gamma-1}\) となります。
体積が\(\frac{1}{8}\)倍になったので、\(\frac{V}{V’}\)は8です。
\(\gamma-1\)は、\(\frac{5}{3}-1 = \frac{2}{3}\) です。
よって、温度の倍率は \(8^{\frac{2}{3}}\) となります。これは「8の2乗の3乗根」または「8の3乗根の2乗」を意味します。8の3乗根は2なので、その2乗で4倍となります。

結論と吟味

絶対温度は4倍になります。断熱圧縮すると温度が上昇するという物理現象と一致しており、妥当な結果です。

解答 (3) 4倍

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 断熱変化を記述するポアソンの法則:
    • 核心: 「熱の出入りがない」断熱変化では、ボイルの法則(\(pV=\text{一定}\))やシャルルの法則(\(V/T=\text{一定}\))は成り立ちません。その代わりに、比熱比\(\gamma\)を用いて \(pV^\gamma = \text{一定}\) という特別な関係(ポアソンの法則)が成り立ちます。これが断熱変化を理解する上での最も重要な法則です。
    • 理解のポイント:
      • ポアソンの法則には、どの状態量(\(p, V, T\))に着目するかによって、いくつかの表現形があります。
        1. \(pV^\gamma = \text{一定}\) (圧力と体積の関係)
        2. \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\) (温度と体積の関係)
        3. \(p^{1-\gamma}T^\gamma = \text{一定}\) (圧力と温度の関係)
      • これらの式はすべて等価であり、ボイル・シャルルの法則 \(\frac{pV}{T}=\text{一定}\) を使って互いに変換できます。
  • 比熱比\(\gamma\)の物理的意味:
    • 核心: \(\gamma = \displaystyle\frac{C_p}{C_V}\) という比は、気体の断熱的な性質を決定づける重要なパラメータです。
    • 理解のポイント: \(\gamma\)の値は気体の分子構造(単原子か二原子かなど)によって決まります。単原子分子では \(\gamma = \frac{5}{3}\)、二原子分子では \(\gamma = \frac{7}{5}\) となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 断熱膨張: 気体を断熱的に膨張させた場合。体積が増加するので、ポアソンの法則から圧力と温度は低下します。例えば、体積が8倍になった場合、温度は\(\frac{1}{4}\)倍になります。
    • 二原子分子の断熱変化: 気体が窒素や酸素などの二原子分子に変わった場合。比熱比が \(\gamma = \frac{7}{5}\) となるため、指数部分の値が変わります。例えば、\(\gamma-1 = \frac{2}{5}\) となります。
    • 仕事や内部エネルギーの計算: 断熱変化で気体がした仕事\(W\)を求める問題。断熱変化では\(Q=0\)なので、熱力学第1法則より \(W = -\Delta U = -nC_V\Delta T\) となります。この問題の条件で仕事量を計算することも可能です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「断熱」キーワードの確認: まず問題文から「熱の出入りがないように」「断熱的に」というキーワードを探し、断熱変化であることを確定します。
    2. 与えられた変数と求める変数の確認: 問題で与えられている状態量(例:体積)と、求めたい状態量(例:温度)を明確にします。
    3. 最適なポアソンの法則を選択: 上記の3つの表現形の中から、与えられた変数と求める変数を直接結びつける式(この問題では\(T\)と\(V\)の関係なので \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\))を選択します。
    4. 分子の種類を確認: 「単原子分子」か「二原子分子」かを確認し、正しい\(\gamma\)の値を計算します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • ボイルの法則(\(pV=\text{一定}\))との混同:
    • 誤解: 体積が\(\frac{1}{8}\)倍になったので、圧力は8倍になると考えてしまう。これは温度が一定の「等温変化」の場合です。
    • 対策: 断熱変化では、圧縮されると温度が上昇するため、圧力は等温変化の場合よりもさらに高くなります。\(pV^\gamma=\text{一定}\) と \(pV=\text{一定}\) は似て非なるものと明確に区別しましょう。
  • 指数の計算ミス:
    • 誤解: (3)の \(8^{\frac{2}{3}}\) のような分数の指数計算を間違える。\(8 \times \frac{2}{3}\) のように計算してしまうなど。
    • 対策: 指数法則を正確に思い出すことが重要です。\(a^{\frac{m}{n}} = (\sqrt[n]{a})^m\) の関係を使い、まず\(n\)乗根を計算してから\(m\)乗すると、数が小さくなり計算しやすくなります。例: \(8^{\frac{2}{3}} = (\sqrt[3]{8})^2 = 2^2 = 4\)。
  • \(\gamma\)と\(\gamma-1\)の混同:
    • 誤解: \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\) の公式の指数部分を、\(\gamma\)のままにして \(TV^\gamma=\text{一定}\) と間違えて使ってしまう。
    • 対策: ポアソンの法則の3つの表現形を、それぞれ正確に覚えておく必要があります。特に\(T-V\)関係の指数は \(\gamma-1\) であることを強く意識しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • ポアソンの法則の導出ロジック (問2):
    • 選定理由: \(p,V\)の関係式から\(T,V\)の関係式を導くには、\(p\)を消去して\(T\)を導入する必要があります。この役割を果たすのが、\(p,V,T\)の3つの変数を普遍的につなぐ「ボイル・シャルルの法則」です。
    • 適用根拠: 断熱変化に特有の法則 \(pV^\gamma=\text{一定}\) と、どんな変化にも成り立つ普遍的な法則 \(\frac{pV}{T}=\text{一定}\) の2つが同時に成立している、という事実に基づいています。未知数を消去する連立方程式を解くのと同じ論理で、2つの法則から不要な変数\(p\)を消去することで、新しい関係式を導き出します。
  • \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\) の選択 (問3):
    • 選定理由: 問題は「体積(\(V\))の変化」が与えられ、「温度(\(T\))の変化」を問うています。ポアソンの法則の3つの表現形のうち、\(T\)と\(V\)の関係を直接記述している \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\) を選択するのが、最も合理的で計算が速いからです。
    • 適用根拠: 問(2)でこの関係式が成り立つことを証明済みであるため、これを直接利用することが正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 比の形での立式: \(TV^{\gamma-1} = T’V’^{\gamma-1}\) のような式は、求めたい量の比の形、例えば \(\displaystyle\frac{T’}{T} = \left(\frac{V}{V’}\right)^{\gamma-1}\) に変形してから数値を代入する癖をつけると、思考が整理され、ミスが減ります。
  • \(\gamma\)と\(\gamma-1\)の事前計算: 計算を始める前に、問題文の「単原子分子」から \(\gamma = \frac{5}{3}\) と、指数として使う \(\gamma-1 = \frac{2}{3}\) を計算用紙の隅にメモしておくと、計算中に混乱しにくくなります。
  • 物理的な吟味による検算: (3)では、気体を断熱「圧縮」(体積を減少)させています。この操作は気体に仕事を加えることに相当し、熱としてエネルギーが逃げないため、内部エネルギーが増加し、温度は必ず上昇します。計算結果が「4倍」と1より大きくなったことは、この物理的な予測と一致しており、答えの妥当性を裏付けています。もし1より小さい値が出たら、どこかで計算ミスをしている可能性が高いと判断できます。

211 断熱変化

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「断熱変化における内部エネルギーと温度の変化」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 断熱変化: 気体と外部との間で熱のやり取りがない状態変化のことです。このとき、気体が吸収する熱量はゼロ (\(Q=0\)) となります。
  2. 熱力学第1法則: 気体の内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は、気体が吸収した熱量\(Q\)と、気体が外部にした仕事\(W\)を用いて、\(\Delta U = Q – W\) と表されます。断熱変化では\(Q=0\)なので、この法則は \(\Delta U = -W\) という非常にシンプルな形になります。
  3. 単原子分子の内部エネルギー: 内部エネルギーの変化は、気体の種類と温度変化だけで決まります。単原子分子の場合、\(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、内部エネルギーの変化\(\Delta U\)を求めます。問題文の「熱の出入りがないように」という記述から、この変化が「断熱変化」(\(Q=0\)) であることを特定し、熱力学第1法則 \(\Delta U = -W\) を用いて計算します。
  2. 次に、温度の変化\(\Delta T\)を求めます。上で計算した内部エネルギーの変化\(\Delta U\)と、単原子分子の内部エネルギー変化の公式 \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) を結びつけ、\(\Delta T\)について解きます。

内部エネルギーの変化

思考の道筋とポイント
気体の内部エネルギーの変化\(\Delta U\)を求める問題です。まず、問題文の「熱の出入りがないように」というキーワードから、この変化が「断熱変化」であると判断します。断熱変化では、気体が吸収する熱量\(Q\)はゼロです。この情報を熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) に適用することで、\(\Delta U\)を簡単に計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 断熱変化では、気体が吸収する熱量はゼロ (\(Q=0\))。
  • 熱力学第1法則は \(\Delta U = Q – W\)。
  • 断熱変化では、上記2つより \(\Delta U = -W\) が成り立つ。

具体的な解説と立式
求める気体の内部エネルギーの変化を\(\Delta U\) [J]とします。
気体のエネルギー収支は、熱力学第1法則によって記述されます。
$$ \Delta U = Q – W $$
問題文より、この変化は「熱の出入りがない」断熱変化なので、気体が吸収した熱量\(Q\)はゼロです。
$$ Q = 0 $$
また、気体は外部に \(3.6 \times 10^3\) J の仕事をしたので、
$$ W = 3.6 \times 10^3 \text{ J} $$
これらの値を熱力学第1法則の式に代入します。

使用した物理公式

  • 熱力学第1法則: \(\Delta U = Q – W\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\Delta U &= Q – W \\[2.0ex]&= 0 – (3.6 \times 10^3) \\[2.0ex]&= -3.6 \times 10^3 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

断熱変化とは、熱のやり取りが一切ない変化のことです。気体が外部に仕事をする(膨張する)ためには、エネルギーが必要です。しかし、外部から熱エネルギーを補給してもらえないため、気体は自分自身が持っているエネルギー(内部エネルギー)を消費して仕事をするしかありません。
したがって、気体がした仕事の分だけ、内部エネルギーは減少します。
内部エネルギーの変化 = – (した仕事) = \(-3.6 \times 10^3\) J となります。

結論と吟味

気体の内部エネルギーの変化は \(-3.6 \times 10^3\) J です。断熱膨張では、気体は内部エネルギーを消費して仕事をするため、内部エネルギーが減少します。計算結果が負の値であることは、物理的に妥当です。

解答 (内部エネルギーの変化) \(-3.6 \times 10^3 \text{ J}\)

気体の温度の変化

思考の道筋とポイント
気体の温度の変化\(\Delta T\)を求める問題です。前の設問で内部エネルギーの変化\(\Delta U\)がすでに分かっています。理想気体の内部エネルギーは温度だけで決まるので、\(\Delta U\)と\(\Delta T\)は直接関係しています。気体が「単原子分子」であることから、内部エネルギー変化の公式 \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) を利用して、\(\Delta T\)を逆算します。
この設問における重要なポイント

  • 単原子分子の理想気体の内部エネルギー変化の公式は \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)。
  • この式を\(\Delta T\)について解き、各値を代入する。

具体的な解説と立式
気体の温度の変化を\(\Delta T\) [K]とします。
気体は単原子分子の理想気体なので、その内部エネルギーの変化\(\Delta U\)は、温度変化\(\Delta T\)を用いて次のように表せます。
$$ \Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T $$
この式を、求めたい\(\Delta T\)について解きます。
$$ \Delta T = \frac{2\Delta U}{3nR} $$
ここに、上で求めた \(\Delta U = -3.6 \times 10^3\) J、および問題文で与えられた \(n=4.0 \text{ mol}\), \(R=8.3 \text{ J/(mol}\cdot\text{K)}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 単原子分子の内部エネルギー変化: \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\Delta T &= \frac{2 \times (-3.6 \times 10^3)}{3 \times 4.0 \times 8.3} \\[2.0ex]&= \frac{-7.2 \times 10^3}{12.0 \times 8.3} \\[2.0ex]&= \frac{-7200}{99.6} \\[2.0ex]&= -72.28\dots
\end{aligned}
$$
有効数字を2桁(4.0 mol, 3.6 \(\times 10^3\) J)に合わせます。
$$ \Delta T \approx -72 \text{ [K]} $$

計算方法の平易な説明

気体の元気(内部エネルギー)の変化量は、その気体の温度の変化量と比例します。内部エネルギーが \(-3.6 \times 10^3\) J 変化したことが分かったので、この値から温度がどれだけ変化したかを逆算します。
「温度の変化 = 内部エネルギーの変化 ÷ (比例定数)」という計算になります。

結論と吟味

気体の温度の変化は \(-72\) K です。断熱膨張すると、気体の内部エネルギーが減少するため、温度は低下します。計算結果が負の値であることは、物理的に妥当な結果です。

解答 (温度の変化) \(-72 \text{ K}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 断熱変化における熱力学第1法則 (\(\Delta U = -W\)):
    • 核心: 「熱の出入りがない」という断熱変化の条件(\(Q=0\))を、普遍的なエネルギー保存則である熱力学第1法則(\(\Delta U = Q – W\))に適用すると、\(\Delta U = -W\) という断熱変化に特有の非常にシンプルな関係式が導かれます。これがこの問題を解く上での最も重要な出発点です。
    • 理解のポイント: この式は、「断熱的に気体が外部にした仕事(\(W\))は、すべて気体自身の内部エネルギー(\(U\))を犠牲にして行われる」という物理的意味を持っています。外部からエネルギーの補給(熱)がないため、仕事をするには自分のエネルギーを使うしかない、というイメージです。
  • 内部エネルギーと温度の絶対的な関係:
    • 核心: 理想気体の内部エネルギーは、その時の温度だけで決まる「状態量」です。この関係を数式で表したものが、単原子分子の場合 \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) となります。
    • 理解のポイント: この式は、内部エネルギーの変化(\(\Delta U\))と温度の変化(\(\Delta T\))を直接結びつける橋渡しの役割を果たします。熱力学第1法則から\(\Delta U\)を求めた後、この式を使って\(\Delta T\)を計算する、という流れが典型的な解法パターンです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 断熱圧縮: 気体を断熱的に圧縮し、外部から仕事\(w\)を「された」場合。このとき、気体が「した」仕事は \(W = -w\) となり負の値になります。したがって、\(\Delta U = -W = -(-w) = w > 0\) となり、内部エネルギーは増加し、温度は上昇します。
    • 二原子分子の断熱変化: 気体が単原子分子から二原子分子に変わった場合。内部エネルギーの公式が \(\Delta U = \displaystyle\frac{5}{2}nR\Delta T\) に変わるだけです。同じ仕事\(W\)をしても、\(\Delta U\)は同じ(\(-W\))ですが、温度変化\(\Delta T\)は \(\Delta T = \frac{\Delta U}{nC_V} = \frac{-W}{n(\frac{5}{2}R)}\) となり、単原子分子の場合よりも温度変化が小さくなります。
    • ポアソンの法則との連携: 断熱変化後の圧力や体積を問う問題。この問題で求めた温度変化\(\Delta T\)を使って、ポアソンの法則 \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\) などから、体積が何倍になったかなどを逆算することも可能です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「断熱」キーワードの確認: 問題文から「熱の出入りがない」という言葉を探し、\(Q=0\) を確定させます。
    2. 仕事の向きと大きさを把握: 「外部に〜Jの仕事をした」のか「外部から〜Jの仕事をされた」のかを正確に読み取り、\(W\)の値を符号付きで確定させます。
    3. 熱力学第1法則を適用: \(Q=0\) と \(W\) の値から、まず \(\Delta U = -W\) で内部エネルギーの変化を計算します。
    4. 分子の種類を確認し、\(\Delta U\)と\(\Delta T\)を繋ぐ: 「単原子分子」か「二原子分子」かを確認し、適切な内部エネルギーの公式(例: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\))を使って、\(\Delta U\)から\(\Delta T\)を計算します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • \(\Delta U = -W\) の符号ミス:
    • 誤解: \(\Delta U = W\) と符号を間違えて覚えてしまい、\(\Delta U = 3.6 \times 10^3\) J と答えてしまう。
    • 対策: 「断熱膨張→仕事をする→エネルギーを消費→温度が下がる→内部エネルギーは減少」という物理的な因果関係をストーリーとして理解しておけば、\(\Delta U\)が負になることは自明です。公式の丸暗記だけでなく、物理的なイメージを持つことがミスを防ぎます。
  • 内部エネルギーの公式の係数ミス:
    • 誤解: 単原子分子の問題なのに、二原子分子用の係数 \(\frac{5}{2}\) を使ってしまう。
    • 対策: ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)が単原子分子の代表例であることを覚えておきましょう。問題文に「単原子分子」と明記されている場合は、必ず印をつけるなどして意識しましょう。
  • 計算の順序ミス:
    • 誤解: \(\Delta T\)を先に求めようとして、情報不足で混乱する。
    • 対策: この問題の解法は、「\(W\) → \(\Delta U\) → \(\Delta T\)」という一方向の流れになっています。まず熱力学第1法則でエネルギー量(\(\Delta U\))を確定させ、その後に温度(\(\Delta T\))に換算する、という手順を意識するとスムーズに解けます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 熱力学第1法則 (\(\Delta U = Q – W\)):
    • 選定理由: 内部エネルギーの変化\(\Delta U\)を求めるにあたり、インプット情報として熱量\(Q\)(=0)と仕事\(W\)が与えられています。これら3つの物理量を結びつけるのは熱力学第1法則以外にありません。
    • 適用根拠: 熱力学第1法則は普遍的なエネルギー保存則です。ここに「断熱」という特殊条件(\(Q=0\))を適用することで、この問題に特化した関係式 \(\Delta U = -W\) が導かれます。
  • 内部エネルギーの公式 (\(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)):
    • 選定理由: 温度の変化\(\Delta T\)を求めるにあたり、前のステップで内部エネルギーの変化\(\Delta U\)が求まっています。この\(\Delta U\)と\(\Delta T\)を直接結びつける関係式が必要となります。
    • 適用根拠: 気体が「単原子分子の理想気体」であるため、その内部エネルギーと温度の関係は、この公式によって正確に記述されます。この公式が、エネルギーの世界(ジュール)と温度の世界(ケルビン)を繋ぐ架け橋となっています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位と有効数字の確認:
    • 仕事\(W\)が[J]、気体定数\(R\)が[J/(mol・K)]、物質量\(n\)が[mol]で与えられているため、計算結果の\(\Delta T\)は[K]で出てくることを確認しましょう。
    • 計算に用いた数値(4.0 mol, 3.6 \(\times 10^3\) J, 8.3 J/(mol・K))のうち、有効数字が最も少ないのは2桁(4.0と3.6)です。したがって、最終的な答えも2桁に丸める必要があります。
  • 移項の丁寧な実行: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) から \(\Delta T\) を求める際の式変形 \(\Delta T = \displaystyle\frac{2\Delta U}{3nR}\) を焦らず正確に行いましょう。分数の係数を逆数にして掛ける、と意識するとミスが減ります。
  • 物理的な吟味: 断熱膨張では、気体は仕事をすることでエネルギーを失い、温度が下がるはずです。計算結果として\(\Delta U\)と\(\Delta T\)が両方とも負の値になったことは、この物理的な直感と一致しており、計算が正しい可能性が高いことを示唆しています。

212 真空中への膨張

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「断熱自由膨張」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 断熱自由膨張: 断熱された容器内で、気体が真空中に向かって膨張する現象のことです。この問題のように、コックで仕切られた真空の容器へ気体が拡散する状況が典型例です。
  2. 仕事と熱量:
    • 仕事\(W\): 気体は真空中に広がるだけで、外部の何かを押しのけているわけではありません。また、容器全体の体積も変化していません。したがって、気体が外部にした仕事はゼロ (\(W=0\)) です。
    • 熱量\(Q\): 全体が断熱材で覆われているため、外部との熱のやり取りはありません (\(Q=0\))。
  3. 熱力学第1法則: \(\Delta U = Q – W\)。断熱自由膨張では \(Q=0, W=0\) なので、\(\Delta U = 0\) となります。つまり、内部エネルギーは変化しません。
  4. 理想気体の内部エネルギーと温度: 理想気体の内部エネルギーは絶対温度にのみ比例します。内部エネルギーが変化しない (\(\Delta U=0\)) ということは、温度も変化しない (\(\Delta T=0\)) ことを意味します。
  5. ボイルの法則: 温度が一定のとき、気体の圧力\(p\)と体積\(V\)の積は一定になります (\(pV = \text{一定}\))。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1) この現象が「断熱自由膨張」であり、気体が外部に仕事をしていないことを理解し、\(W=0\)と結論付けます。
  2. (2) 熱力学第1法則と(1)の結果から、内部エネルギーが変化しないこと (\(\Delta U=0\)) を導き、それによって温度も変化しないことを結論付けます。
  3. (3) (2)で温度が一定であることが分かったので、ボイルの法則を適用して、体積が変化した後の圧力を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
気体が外部にした仕事を求める問題です。仕事とは、気体が外部の何か(ピストンや大気など)を押しのけて体積を変化させるときに行われます。この問題では、気体は真空の容器Bに拡散するだけです。真空には圧力がなく、気体は何かを押しのける必要がありません。また、容器AとBを合わせた系全体の体積は変化していません。したがって、気体は外部に対して仕事をしていません。
この設問における重要なポイント

  • 仕事は、気体が外部の物体を押しのけることで行われる。
  • 真空への膨張では、押しのける相手がいないため、仕事はゼロ。
  • 容器全体の体積が変化していないため、外部への仕事はゼロ。

具体的な解説と立式
気体が外部にする仕事\(W\)は、外部の圧力に逆らって体積を変化させるときに発生します。
今回の現象では、気体は容器Aから真空の容器Bへと広がります。真空には気体を押しかえす圧力が存在しないため、気体は力を加えて何かを押しのける必要がありません。
また、容器AとBを合わせた系全体として見ると、その境界(容器の壁)は動いておらず、外部の空間に対する体積変化はありません。
以上の理由から、気体が外部にした仕事はゼロです。
$$ W = 0 \text{ J} $$

使用した物理公式

  • 仕事の概念的な理解
計算過程

この設問は概念を問うものであり、計算は不要です。

計算方法の平易な説明

仕事とは、物理では「力を加えて、その力の向きに物体を動かすこと」を意味します。気体が膨張するとき、通常は外の空気を押しのけています。これが「仕事をする」ということです。しかし今回は、広がる先が真空、つまり何もない空間です。押しのける相手がいないので、気体は全く力を必要とせず、楽に広がることができます。したがって、した仕事はゼロになります。

結論と吟味

気体が外部にした仕事は0 Jです。

解答 (1) 0 J

問(2)

思考の道筋とポイント
気体の絶対温度がどうなるかを問う問題です。これは熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) を使って考えます。

  • \(Q\): 全体が断熱材で覆われているので、外部との熱のやり取りはなく \(Q=0\)。
  • \(W\): 問(1)で見たように、外部への仕事はゼロなので \(W=0\)。

これらの条件から、内部エネルギーの変化\(\Delta U\)がどうなるかを判断し、そこから温度の変化を導きます。
この設問における重要なポイント

  • 断熱材で覆われている → \(Q=0\)。
  • 外部への仕事がない → \(W=0\)。
  • 熱力学第1法則: \(\Delta U = Q – W\)。
  • 理想気体の内部エネルギーは温度にのみ比例する。

具体的な解説と立式
熱力学第1法則は \(\Delta U = Q – W\) です。
問題の条件より、

  • 全体が断熱材で覆われているため、外部との熱のやり取りはありません。よって \(Q=0\)。
  • 問(1)より、気体が外部にした仕事はありません。よって \(W=0\)。

これらを熱力学第1法則に代入すると、
$$ \Delta U = 0 – 0 = 0 $$
となり、気体の内部エネルギーは変化しないことが分かります。
理想気体の内部エネルギーは絶対温度にのみ比例するため、内部エネルギーが変化しないということは、絶対温度も変化しないことを意味します。
したがって、コックを開けた後の温度は、初めの温度と同じです。
$$ T_{\text{後}} = T_{\text{前}} = 400 \text{ K} $$

使用した物理公式

  • 熱力学第1法則: \(\Delta U = Q – W\)
  • 理想気体の内部エネルギーと温度の関係
計算過程

この設問は法則の適用を問うものであり、数値計算は不要です。

計算方法の平易な説明

気体の元気(内部エネルギー)の変化は、「もらった熱」から「した仕事」を引いたものです。今回は、断熱材で覆われているので熱の出入りはなく(もらった熱=0)、真空に広がるだけなので仕事もしていません(した仕事=0)。したがって、内部エネルギーは全く変化しません。気体の元気は温度と連動しているので、元気の量が変わらないなら、温度も変わらない、ということになります。

結論と吟味

気体の絶対温度は変化せず、400 Kのままです。

解答 (2) 400 K

問(3)

思考の道筋とポイント
コックを開けた後の気体の圧力を求める問題です。問(2)で、この変化が「等温変化」であることが分かりました。温度が一定のときの圧力と体積の関係は、ボイルの法則で記述されます。
この設問における重要なポイント

  • 断熱自由膨張は、結果的に等温変化となる。
  • 温度が一定のとき、ボイルの法則 \(pV = \text{一定}\) が成り立つ。
  • 気体の体積は、容器Aのみの状態から、容器AとBを合わせた全体の体積に変化する。

具体的な解説と立式
変化前の状態を(\(p_1, V_1\))、変化後の状態を(\(p_2, V_2\))とします。

  • 変化前: \(p_1 = 2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\), \(V_1 = 3.0 \times 10^{-3} \text{ m}^3\)
  • 変化後: 圧力は \(p_2\)、体積は容器AとBの合計になるので \(V_2 = 3.0 \times 10^{-3} + 5.0 \times 10^{-3} = 8.0 \times 10^{-3} \text{ m}^3\)

問(2)より、この変化では温度が一定に保たれるため、ボイルの法則が適用できます。
$$ p_1V_1 = p_2V_2 $$
この式を、求めたい圧力\(p_2\)について解き、数値を代入します。

使用した物理公式

  • ボイルの法則: \(p_1V_1 = p_2V_2\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
p_2 &= p_1 \frac{V_1}{V_2} \\[2.0ex]&= (2.0 \times 10^5) \times \frac{3.0 \times 10^{-3}}{8.0 \times 10^{-3}} \\[2.0ex]&= (2.0 \times 10^5) \times \frac{3.0}{8.0} \\[2.0ex]&= (2.0 \times 10^5) \times 0.375 \\[2.0ex]&= 0.75 \times 10^5 \\[2.0ex]&= 7.5 \times 10^4 \text{ [Pa]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

温度が変わらないとき、気体の圧力は体積に反比例します。つまり、体積が広がった分だけ、圧力は弱まります。
もともとの体積は \(3.0 \times 10^{-3}\) で、後の体積は \(3.0 \times 10^{-3} + 5.0 \times 10^{-3} = 8.0 \times 10^{-3}\) です。
体積は \(\frac{8.0}{3.0}\) 倍になったので、圧力は逆に \(\frac{3.0}{8.0}\) 倍になります。
元の圧力 \(2.0 \times 10^5\) Pa を \(\frac{3}{8}\) 倍して、\(2.0 \times 10^5 \times \frac{3}{8} = 0.75 \times 10^5 = 7.5 \times 10^4\) Pa となります。

結論と吟味

気体の圧力は \(7.5 \times 10^4\) Pa になります。体積が広がったので圧力が減少するという結果は、物理的に妥当です。

解答 (3) \(7.5 \times 10^4 \text{ Pa}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 断熱自由膨張におけるエネルギー保存:
      • 核心: この問題で起こっている「断熱自由膨張」は、熱力学において非常に特殊で重要な現象です。その本質は、仕事も熱の移動もないため、結果的に内部エネルギーが保存されるという点にあります。
      • 理解のポイント:
        1. 仕事 \(W=0\): 気体は真空(何もない空間)に広がるだけなので、何かを押し返す必要がありません。したがって、外部に対する仕事はゼロです。
        2. 熱量 \(Q=0\): 容器全体が断熱材で覆われているため、外部との熱のやり取りはありません。
        3. 内部エネルギー変化 \(\Delta U=0\): 熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) に \(Q=0, W=0\) を代入すると、\(\Delta U=0\) となります。
        4. 温度変化 \(\Delta T=0\): 理想気体の内部エネルギーは温度だけで決まるため、\(\Delta U=0\) ならば温度も変化しません (\(\Delta T=0\))。
      • この「\(W=0, Q=0 \rightarrow \Delta U=0 \rightarrow \Delta T=0\)」という一連の論理の流れを理解することが、この問題の全てです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 断熱膨張との比較: ピストンをゆっくりと動かして気体を断熱的に膨張させる「断熱膨張」と、今回の「断熱自由膨張」を比較する問題。
      • 断熱膨張: \(W>0\)(仕事をする), \(Q=0\) → \(\Delta U = -W < 0\) → 温度は下がる。ポアソンの法則が成り立つ。
      • 断熱自由膨張: \(W=0\), \(Q=0\) → \(\Delta U = 0\) → 温度は変わらない。ポアソンの法則は使えない。

      この違いは頻出なので、明確に区別できるようにしておくことが重要です。

    • 気体の混合問題との比較: 断熱容器内で仕切りを外して2種類の気体を混合する問題。これも \(Q=0, W=0\) なので系全体の内部エネルギーは保存されますが、高温の気体から低温の気体へエネルギーが移動するため、各気体の温度は変化し、最終的に一つの平衡温度に落ち着きます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「真空へ」というキーワード: 「真空の容器へ」「真空中に」という記述を見たら、「断熱自由膨張」の可能性を疑います。これは仕事がゼロになる強力なヒントです。
    2. 「断熱材」「断熱容器」: このキーワードは \(Q=0\) を意味します。
    3. 「外部にした仕事」の定義: 仕事は「外部の圧力に逆らって体積を増やす」行為です。相手が真空なら外部の圧力はゼロなので、仕事もゼロになります。
    4. 最終的な変化の種類: (1)(2)の考察の結果、この現象は「等温変化」とみなせることが分かります。この結論に至るまでの論理が重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 断熱膨張と断熱自由膨張の混同:
    • 誤解: 「断熱」と「膨張」という言葉に釣られて、ポアソンの法則(\(pV^\gamma = \text{一定}\) や \(TV^{\gamma-1} = \text{一定}\))を使おうとしてしまう。
    • 対策: ポアソンの法則は、ピストンをゆっくり動かすような準静的な断熱変化で成立します。コックを開けるような急激な変化であり、かつ相手が真空である「自由膨張」は、仕事がゼロになる特殊なケースとして明確に区別しましょう。「自由」という言葉が「仕事ゼロ」を意味すると覚えるのが有効です。
  • 仕事の発生に関する誤解:
    • 誤解: 気体の体積が \(3.0 \times 10^{-3}\) m³ から \(8.0 \times 10^{-3}\) m³ に増えたのだから、仕事をしたはずだと思い込んでしまう。
    • 対策: 仕事はあくまで「外部に」対して行われるものです。容器の内部で体積が変化しても、容器全体の体積が変わらず、外部の何かを押しのけていなければ、外部への仕事はゼロです。
  • 温度変化の誤解:
    • 誤解: 断熱膨張だから温度は下がるはずだ、と直感で判断してしまう。
    • 対策: その直感は「仕事をする」断熱膨張の場合には正しいです。しかし、仕事がゼロの「断熱自由膨張」では、内部エネルギーを消費する理由がないため、温度は下がりません。必ず熱力学第1法則に立ち返って、\(Q\)と\(W\)の値を吟味する癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 熱力学第1法則 (\(\Delta U = Q – W\)):
    • 選定理由: この問題は、気体の仕事、温度(内部エネルギー)、熱の出入りという、熱力学の根幹をなす3要素の関係を問うています。これらを結びつける唯一の基本法則が熱力学第1法則です。
    • 適用根拠: この普遍的な法則に、問題文の「断熱材」(\(Q=0\))と「真空への膨張」(\(W=0\))という特殊な条件を代入することで、この現象の本質である \(\Delta U=0\) を論理的に導き出すことができます。
  • ボイルの法則 (\(p_1V_1 = p_2V_2\)):
    • 選定理由: (3)で圧力を求めるにあたり、(2)までの考察で「温度が一定」であることが確定しました。温度一定の条件下で圧力と体積の関係を記述する法則がボイルの法則だからです。
    • 適用根拠: ボイルの法則が使えるのは、温度が一定のときに限られます。この問題では、熱力学第1法則による考察の結果として温度一定(\(\Delta T=0\))が導かれたため、(3)でボイルの法則を適用することが論理的に正当化されます。最初から無条件に使えるわけではない、という論理の順序が重要です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 状態の整理: 計算を始める前に、変化の前後で \(p, V, T\) がどうなっているかを整理すると、状況が明確になります。
    • 前: \(p_1 = 2.0 \times 10^5\) Pa, \(V_1 = 3.0 \times 10^{-3}\) m³, \(T_1 = 400\) K
    • 後: \(p_2 = ?\), \(V_2 = 3.0 \times 10^{-3} + 5.0 \times 10^{-3} = 8.0 \times 10^{-3}\) m³, \(T_2 = 400\) K

    この表を見れば、\(T_1=T_2\) なのでボイルの法則を使えばよいことが一目瞭然です。

  • 分数の計算: (3)の圧力計算 \(p_2 = p_1 \times \frac{V_1}{V_2}\) では、\(V_1\)と\(V_2\)の比を先に計算すると楽です。
    • \(\frac{V_1}{V_2} = \frac{3.0 \times 10^{-3}}{8.0 \times 10^{-3}} = \frac{3}{8}\)
    • \(p_2 = (2.0 \times 10^5) \times \frac{3}{8} = \frac{6.0}{8} \times 10^5 = 0.75 \times 10^5 = 7.5 \times 10^4\) Pa
  • 物理的な吟味: 計算結果を直感と照らし合わせましょう。「体積が約2.7倍(\(8/3\))に広がったのだから、圧力はその逆数である約0.375倍(\(3/8\))になるはずだ」。\(2.0 \times 10^5 \times 0.375 = 0.75 \times 10^5\) となり、計算結果と一致します。

213 気体の変化

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「気体の状態変化と熱力学第1法則のグラフへの応用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 理想気体の状態方程式とボイル・シャルルの法則: 気体の状態(\(p, V, T\))の関係を記述する \(pV=nRT\) や \(\displaystyle\frac{pV}{T}=\text{一定}\) は、状態変化を読み解く基本です。
  2. V-Tグラフの解釈: グラフの形状から、定圧変化(原点を通る直線)、等温変化(横線)、定積変化(縦線)を特定する能力が求められます。
  3. p-Vグラフと仕事: p-Vグラフでは、グラフとV軸で囲まれた面積が気体のした仕事を表します。1サイクルが囲む面積は、正味の仕事量を表します。
  4. 熱力学第1法則: \(\Delta U = Q – W\)。内部エネルギーの変化\(\Delta U\)、吸収した熱量\(Q\)、外部にした仕事\(W\)の関係を理解し、各物理量の符号を正しく判断することが重要です。
  5. 状態量と過程量: 内部エネルギー(\(U\))は温度で決まる「状態量」であり、変化の経路によらず始点と終点で決まります。一方、仕事(\(W\))と熱量(\(Q\))は経路に依存する「過程量」です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1) まず、与えられたV-Tグラフの各過程(A→B, B→C, C→A)が、それぞれ定圧、等温、定積変化のどれに対応するかを特定します。次に、その情報を元にp-Vグラフ上での変化を描きます。
  2. (2) 各過程について、圧力、温度、体積の変化をグラフから読み取り、内部エネルギーの変化(\(\Delta U\))と仕事(\(W\))の符号を判断します。最後に熱力学第1法則を用いて熱量(\(Q\))の符号を決定します。
  3. (3) 1サイクル(A→B→C→A)すると気体の状態が元に戻ることに着目し、内部エネルギーの変化を考えます。また、p-Vグラフの面積から1サイクルの仕事の正負を、熱力学第1法則から熱量の正負を判断します。

問(1)

思考の道筋とポイント
与えられたV-Tグラフから、A→B, B→C, C→Aの各過程がどのような状態変化であるかを特定し、それをp-Vグラフに変換する問題です。V-Tグラフの線の特徴を、物理法則と結びつけることが鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • A→B: V-Tグラフで原点を通る直線。これはシャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) が成り立つことを意味し、「定圧変化」です。体積Vは増加しています。
  • B→C: V-Tグラフで横軸に平行な直線。これは温度Tが一定であることを意味し、「等温変化」です。体積Vは減少しています。
  • C→A: V-Tグラフで縦軸に平行な直線。これは体積Vが一定であることを意味し、「定積変化」です。温度Tは減少しています。

具体的な解説と立式
各過程をp-Vグラフにプロットします。

  • A→B (定圧膨張): 圧力が一定のまま、体積が増加します。p-Vグラフでは、右向きの水平な線分になります。
  • B→C (等温圧縮): 温度が一定のまま、体積が減少します。ボイルの法則 \(pV=\text{一定}\) に従うため、圧力は体積に反比例して増加します。p-Vグラフでは、反比例の曲線に沿って左上へ移動する線分になります。
  • C→A (定積冷却): 体積が一定のまま、温度が減少します。ゲイ=リュサックの法則 \(\displaystyle\frac{p}{T}=\text{一定}\) に従うため、圧力も温度に比例して減少します。p-Vグラフでは、真下に向かう垂直な線分になります。

これらを繋ぎ合わせることで、p-Vグラフが完成します。

使用した物理公式

  • シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) (定圧変化)
  • ボイルの法則: \(pV = \text{一定}\) (等温変化)
  • ゲイ=リュサックの法則: \(\displaystyle\frac{p}{T} = \text{一定}\) (定積変化)
計算過程

この設問は作図問題なので、計算はありません。

計算方法の平易な説明

V-Tグラフから状態変化の種類を読み取ります。「原点を通る直線」は圧力が一定、「横線」は温度が一定、「縦線」は体積が一定、と覚えましょう。次に、それぞれの変化をp-Vグラフに翻訳します。「圧力が一定」は水平な線、「体積が一定」は垂直な線、「温度が一定」は反比例のカーブになります。体積が増えるなら右へ、減るなら左へ、圧力が上がるなら上へ、下がるなら下へ、と矢印を描いていきます。

結論と吟味

解答の図のような、右回りの三角形に似たサイクルが描かれます。各過程の物理的な特徴とグラフの形状が正しく対応しています。

解答 (1) (模範解答の図を参照)

問(2)

思考の道筋とポイント
各過程における物理量(圧力、内部エネルギー、仕事、熱量)の変化を定性的に判断する問題です。(1)で特定した変化の種類とグラフの形状が判断の根拠となります。
この設問における重要なポイント

  • 圧力\(p\): p-Vグラフの縦軸の変化を見ます。
  • 内部エネルギー\(\Delta U\): 温度変化\(\Delta T\)に比例します (\(\Delta U \propto \Delta T\))。V-Tグラフの縦軸の変化を見ます。
  • 仕事\(W\): 体積変化\(\Delta V\)に依存します。膨張(\(\Delta V > 0\))なら\(W>0\)、圧縮(\(\Delta V < 0\))なら\(W<0\)、定積(\(\Delta V = 0\))なら\(W=0\)です。
  • 熱量\(Q\): 熱力学第1法則 \(Q = \Delta U + W\) を使い、\(\Delta U\)と\(W\)の符号から判断します。

具体的な解説と立式
(a) 圧力

  • A→B (定圧): (イ)不変
  • B→C (等温圧縮): p-Vグラフで左上へ移動するので、(ア)上昇
  • C→A (定積冷却): p-Vグラフで真下へ移動するので、(ウ)下降

(b) 内部エネルギー

  • A→B: V-TグラフでTが増加するので、(ア)増加
  • B→C (等温): V-TグラフでTが不変なので、(イ)不変
  • C→A: V-TグラフでTが減少するので、(ウ)減少

(c) 仕事

  • A→B: V-TグラフでVが増加(膨張)するので、(ア)正
  • B→C: V-TグラフでVが減少(圧縮)するので、(ウ)負
  • C→A (定積): V-TグラフでVが不変なので、(イ)0

(d) 熱量

  • A→B: \(\Delta U > 0\), \(W > 0\) なので \(Q = \Delta U + W > 0\)。(ア)正(吸収)
  • B→C: \(\Delta U = 0\), \(W < 0\) なので \(Q = W < 0\)。(ウ)負(放出)
  • C→A: \(\Delta U < 0\), \(W = 0\) なので \(Q = \Delta U < 0\)。(ウ)負(放出)
解答 (2)
(a) A→B:(イ), B→C:(ア), C→A:(ウ)
(b) A→B:(ア), B→C:(イ), C→A:(ウ)
(c) A→B:(ア), B→C:(ウ), C→A:(イ)
(d) A→B:(ア), B→C:(ウ), C→A:(ウ)

問(3)

思考の道筋とポイント
1サイクル(A→B→C→A)した後の、内部エネルギー、仕事、熱量の正味の変化を問う問題です。
この設問における重要なポイント

  • 内部エネルギー: 状態量なので、1サイクルして元の状態に戻れば、変化量はゼロ。
  • 仕事: 1サイクルで気体がした正味の仕事は、p-Vグラフが囲む面積に相当します。時計回りのサイクルなら正、反時計回りなら負です。
  • 熱量: 1サイクルの熱力学第1法則 \(\Delta U_{cycle} = Q_{net} – W_{net}\) を考えます。

具体的な解説と立式

  • 内部エネルギー: 状態Aから出発して状態Aに戻るので、温度は元に戻ります。内部エネルギーは温度だけで決まるので、変化量はゼロです。よって、(イ)不変。
  • 仕事: 「外部へした仕事から、外部からされた仕事を引いたもの」とは、1サイクルでの正味の仕事 \(W_{net}\) のことです。これはp-Vグラフが囲む面積で表されます。
    • A→B(膨張)で気体は正の仕事をします(面積はA-Bの下側全体)。
    • B→C(圧縮)で気体は負の仕事をします(された仕事の大きさはB-Cの下側全体)。
    • グラフを見ると、圧縮で「された」仕事の面積の方が、膨張で「した」仕事の面積よりも大きいです。
    • したがって、正味の仕事 \(W_{net}\) は負になります。よって、(ウ)負。
  • 熱量: 「外部から吸収した熱量から、外部へ放出した熱量を引いたもの」とは、1サイクルでの正味の吸収熱量 \(Q_{net}\) のことです。熱力学第1法則を1サイクルに適用すると、
    $$ \Delta U_{cycle} = Q_{net} – W_{net} $$
    \(\Delta U_{cycle} = 0\) なので、\(Q_{net} = W_{net}\) となります。
    上で見たように \(W_{net}\) は負なので、\(Q_{net}\) も負になります。これは、1サイクル全体では熱を吸収するより放出する方が多いことを意味します。よって、(ウ)負。
解答 (3) (イ), (ウ), (ウ)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 状態変化のグラフ表現と熱力学第1法則の統合的理解:
    • 核心: この問題は、V-Tグラフとp-Vグラフという2つの異なる表現を行き来しながら、各状態変化(定圧、等温、定積)の物理的特徴を読み解き、それらを熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) に結びつけて、エネルギーの出入りを定性的に判断する能力を試しています。特定の公式を覚えているだけでなく、法則の物理的意味を深く理解しているかが問われます。
    • 理解のポイント:
      • グラフの翻訳能力: V-Tグラフの線の形(原点を通る直線、水平線、垂直線)から、p-Vグラフの線の形(水平線、反比例曲線、垂直線)へと、状態変化の種類を媒介して変換できること。
      • エネルギー3要素の判断: 各過程で、\(\Delta U\)(温度変化から)、\(W\)(体積変化から)、そして\(Q\)(\(\Delta U\)と\(W\)の和から)の符号を正しく判断できること。
      • サイクルへの応用: 1サイクルすると状態が元に戻るため、状態量である内部エネルギーの変化はゼロ(\(\Delta U_{cycle}=0\))になること。その結果、熱力学第1法則から、サイクル全体の仕事と熱の収支が等しくなる(\(Q_{net}=W_{net}\))こと。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 逆サイクルの場合: もしサイクルがA→C→B→Aという時計回りだった場合、全ての矢印が逆になります。
      • \(W_{net}\) はp-Vグラフが囲む面積で正の値になります(した仕事 > された仕事)。
      • \(\Delta U_{cycle}=0\) は変わらないので、\(Q_{net} = W_{net} > 0\) となります。
      • これは、熱を吸収して外部に正の仕事をする「熱機関」のサイクルに相当します。
    • 断熱変化を含むサイクル: サイクルの一部に断熱変化(p-Vグラフでは等温線より急な曲線)が含まれる場合。断熱過程では\(Q=0\)となるため、\(\Delta U = -W\)の関係を使ってエネルギー収支を考えます。
    • 具体的な数値計算問題: 各点の\(p, V, T\)の値が与えられ、各過程や1サイクルでの\(W, \Delta U, Q\)の具体的な値を計算させる問題。この問題で培った定性的な判断力は、計算結果の符号が正しいかどうかの検算に非常に役立ちます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. グラフの軸を確認: まず、縦軸と横軸が何を表しているか(p-Vグラフか、V-Tグラフか、p-Tグラフか)を絶対に確認します。
    2. 各過程の種類を特定: グラフの形状から、各線分が定積・定圧・等温・断熱のどれに対応するかを特定します。
    3. p-Vグラフに変換(思考の上で): どのようなグラフが与えられても、仕事\(W\)を考える上ではp-Vグラフが最も直感的です。頭の中や計算用紙の隅で、p-Vグラフの概形を描いてみると、仕事の正負や大小関係が把握しやすくなります。
    4. エネルギー収支表を作成: 各過程(A→B, B→C, C→A)と全体(Cycle)について、\(\Delta U, W, Q\)の符号を表にまとめると、思考が整理され、ミスを防げます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 仕事\(W\)の正負の判断ミス:
    • 誤解: (2)(c)のB→Cで、体積が減少しているのに仕事が正だと考えてしまう。
    • 対策: 仕事\(W\)は「気体が『した』仕事」です。体積が増加(膨張)すれば\(W>0\)、体積が減少(圧縮)すれば\(W<0\)(仕事をされる)と機械的に結びつけて覚えましょう。p-Vグラフでは、右に進めば\(W>0\)、左に進めば\(W<0\)です。
  • 1サイクルの仕事の判断ミス:
    • 誤解: (3)で、A→Bで正の仕事、B→Cで負の仕事をするから、全体ではゼロだと考えてしまう。
    • 対策: p-Vグラフの面積で考えるのが最も確実です。膨張時の仕事(A→Bの下の面積)と圧縮時の仕事(B→Cの下の面積)の大きさを比較します。サイクルが囲む面積が、正味の仕事量になります。サイクルが時計回りなら\(W_{net}>0\)、反時計回りなら\(W_{net}<0\)と覚えてしまうのも有効です。
  • 内部エネルギーと熱量の混同:
    • 誤解: (2)(d)のC→Aで、温度が下がる(\(\Delta U<0\))から熱も放出する(\(Q<0\))、と考えるのは正しいですが、B→Cで温度が不変(\(\Delta U=0\))だから熱の出入りもない(\(Q=0\))、と間違えてしまう。
    • 対策: 熱力学第1法則 \(\Delta U = Q – W\) に常に立ち返る癖をつけましょう。B→Cでは\(\Delta U=0\)ですが、\(W<0\)(仕事をされる)なので、\(0 = Q – W \) つまり \(Q = W < 0\)となり、熱を放出することが分かります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • p-Vグラフの面積と仕事の関係:
    • 選定理由: (3)で1サイクル全体の仕事の正負を判断する際に、各過程の仕事を足し合わせるよりも、グラフが囲む面積で直感的に判断する方が速く、間違いが少ないためです。
    • 適用根拠: 仕事の定義 \(W = \int p dV\) は、p-Vグラフ上の線分とV軸で囲まれた面積の計算に相当します。1サイクルの仕事は、膨張時の仕事(正の面積)と圧縮時の仕事(負の面積)の和なので、結果的にサイクルが囲む閉ループの面積そのものになります。
  • サイクルの熱力学第1法則 (\(Q_{net} = W_{net}\)):
    • 選定理由: (3)で1サイクル全体の熱の出入りを判断する際に、各過程の熱量を足し合わせるよりも、仕事の総和から判断する方が論理的に明快だからです。
    • 適用根拠: 内部エネルギーは状態量であるため、1サイクルして元の状態に戻れば、その変化量は必ずゼロ(\(\Delta U_{cycle}=0\))になります。この普遍的な事実を熱力学第1法則 \(\Delta U_{cycle} = Q_{net} – W_{net}\) に適用すると、\(0 = Q_{net} – W_{net}\) すなわち \(Q_{net} = W_{net}\) という、サイクルに特有の強力な関係式が導かれます。これにより、仕事の正負が分かれば、熱の出入りの正負も自動的に決まります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 定性的な問題での符号チェックリスト:
    • \(\Delta T > 0 \iff \Delta U > 0\) (温度上昇 ⇔ 内部エネルギー増加)
    • \(\Delta V > 0 \iff W > 0\) (膨張 ⇔ した仕事が正)
    • \(\Delta V < 0 \iff W < 0\) (圧縮 ⇔ した仕事が負)
    • \(\Delta V = 0 \iff W = 0\) (定積 ⇔ 仕事ゼロ)
    • \(Q = \Delta U + W\) の符号の足し算を丁寧に行う。
  • グラフの矢印の向きを追う:
    • p-Vグラフで、右に進む過程は\(W>0\)、左に進む過程は\(W<0\)。
    • V-Tグラフで、上に進む過程は\(\Delta T>0\)(\(\Delta U>0\))、下に進む過程は\(\Delta T<0\)(\(\Delta U<0\))。

    このように、グラフ上の動きと物理量の符号の変化を視覚的にリンクさせると、判断が速く正確になります。

  • サイクルの回転方向: p-Vグラフ上で、サイクルが「時計回り」なら、そのサイクルは外部に正の仕事をする「熱機関」であり、\(W_{net}>0, Q_{net}>0\)です。サイクルが「反時計回り」なら、外部から仕事をされる「冷凍機・ヒートポンプ」であり、\(W_{net}<0, Q_{net}<0\)です。このパターンを覚えておくと、(3)のような問題は瞬時に解答できます。

214 理想気体の循環過程

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「p-Vグラフで表される熱サイクル」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)。これを用いて、各状態における未知の物理量(特に温度)を求めます。
  2. 状態変化の特定: p-Vグラフの形状から、各過程が定積変化(縦線)か定圧変化(横線)かを判断します。
  3. 熱量の計算:
    • 定積変化: \(Q = nC_V\Delta T\)
    • 定圧変化: \(Q = nC_p\Delta T = n(C_V+R)\Delta T\)
  4. 仕事の計算:
    • 定積変化: \(W=0\)
    • 定圧変化: \(W=p\Delta V\)
  5. 熱力学第1法則: \(\Delta U = Q – W\)。また、1サイクルでは \(\Delta U_{cycle}=0\) となり、\(W_{net} = Q_{net}\) が成り立ちます。
  6. 熱効率の定義: 熱機関が吸収した熱量全体のうち、どれだけを正味の仕事に変換できたかを示す割合です。\(e = \displaystyle\frac{W_{net}}{Q_{in}}\) で定義されます。ここで \(Q_{in}\) は、1サイクルの間に吸収した熱量の合計です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1) まず、状態Aの \(p_1, V_1, T_A\) を基準とし、状態方程式を用いて状態B, C, Dの絶対温度を求めます。
  2. (2) 各過程が定積変化か定圧変化かを見極め、対応する熱量の公式に(1)で求めた温度を代入して、各過程で気体が得た熱量を計算します。
  3. (3) 各過程で気体がした仕事を計算し、それらを合計して1サイクルの正味の仕事を求めます。または、サイクルが囲む長方形の面積から直接計算します。
  4. (4) (2)で求めた熱量のうち、正の値(吸収した熱)だけを合計して \(Q_{in}\) を求め、(3)で求めた正味の仕事 \(W_{net}\) を使って、熱効率の定義式 \(e = \frac{W_{net}}{Q_{in}}\) に代入します。

問(1)

思考の道筋とポイント
状態B, C, Dでの絶対温度を、状態Aの温度\(T_A\)を用いて表す問題です。p-Vグラフから各状態の圧力と体積を読み取り、理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を用いて、各状態の温度を比較します。ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{pV}{T}=\text{一定}\) の形を使うと、比の計算がしやすくなります。
この設問における重要なポイント

  • 各状態の圧力と体積をグラフから正確に読み取る。
    • A: (\(p_1, V_1\))
    • B: (\(3p_1, V_1\))
    • C: (\(3p_1, 2V_1\))
    • D: (\(p_1, 2V_1\))
  • ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{p_A V_A}{T_A} = \frac{p_B V_B}{T_B} = \dots\) を適用する。

具体的な解説と立式
状態A, B, C, Dの圧力、体積、温度をそれぞれ (\(p_A, V_A, T_A\)), (\(p_B, V_B, T_B\)), (\(p_C, V_C, T_C\)), (\(p_D, V_D, T_D\)) とします。
グラフから、
\(p_A=p_1, V_A=V_1\)
\(p_B=3p_1, V_B=V_1\)
\(p_C=3p_1, V_C=2V_1\)
\(p_D=p_1, V_D=2V_1\)
です。
ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{pV}{T}=\text{一定}\) より、
$$ \frac{p_A V_A}{T_A} = \frac{p_B V_B}{T_B} = \frac{p_C V_C}{T_C} = \frac{p_D V_D}{T_D} $$
この関係を使って、\(T_B, T_C, T_D\) を \(T_A\) で表します。

使用した物理公式

  • ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\)
計算過程

\(T_B\)の計算:
$$ \frac{p_1 V_1}{T_A} = \frac{3p_1 V_1}{T_B} $$
したがって、\(T_B = 3T_A\) となります。

\(T_C\)の計算:
$$ \frac{p_1 V_1}{T_A} = \frac{(3p_1)(2V_1)}{T_C} = \frac{6p_1 V_1}{T_C} $$
したがって、\(T_C = 6T_A\) となります。

\(T_D\)の計算:
$$ \frac{p_1 V_1}{T_A} = \frac{p_1 (2V_1)}{T_D} = \frac{2p_1 V_1}{T_D} $$
したがって、\(T_D = 2T_A\) となります。

計算方法の平易な説明

温度は \(pV\) の積に比例します。

  • A→B: Vは同じでpが3倍になったので、温度も3倍になります。
  • A→C: pが3倍、Vが2倍になったので、\(pV\)の積は6倍。温度も6倍になります。
  • A→D: pは同じでVが2倍になったので、温度も2倍になります。
解答 (1) B: \(3T_A\), C: \(6T_A\), D: \(2T_A\)

問(2)

思考の道筋とポイント
各過程で気体が得た熱量を計算します。まず、各過程が定積変化か定圧変化かを見極め、適切な熱量の公式を選択します。温度変化\(\Delta T\)は、(1)で求めた各状態の温度を使って計算します。
この設問における重要なポイント

  • A→B, C→Dは定積変化: \(Q = nC_V\Delta T\)
  • B→C, D→Aは定圧変化: \(Q = nC_p\Delta T = n(C_V+R)\Delta T\)
  • 温度変化 \(\Delta T\) は「後の温度 – 前の温度」で計算する。

具体的な解説と立式

  • A→B (定積変化):
    \(\Delta T = T_B – T_A = 3T_A – T_A = 2T_A\)
    $$ Q_{AB} = nC_V\Delta T = nC_V(2T_A) = 2nC_V T_A $$
  • B→C (定圧変化):
    \(\Delta T = T_C – T_B = 6T_A – 3T_A = 3T_A\)
    $$ Q_{BC} = nC_p\Delta T = n(C_V+R)(3T_A) = 3n(C_V+R)T_A $$
  • C→D (定積変化):
    \(\Delta T = T_D – T_C = 2T_A – 6T_A = -4T_A\)
    $$ Q_{CD} = nC_V\Delta T = nC_V(-4T_A) = -4nC_V T_A $$
  • D→A (定圧変化):
    \(\Delta T = T_A – T_D = T_A – 2T_A = -T_A\)
    $$ Q_{DA} = nC_p\Delta T = n(C_V+R)(-T_A) = -n(C_V+R)T_A $$
解答 (2)
\(Q_{AB} = 2nC_V T_A\)
\(Q_{BC} = 3n(C_V+R)T_A\)
\(Q_{CD} = -4nC_V T_A\)
\(Q_{DA} = -n(C_V+R)T_A\)

問(3)

思考の道筋とポイント
1サイクルで気体が外部にした正味の仕事を求めます。2つの方法があります。
1. 各過程の仕事 \(W_{AB}, W_{BC}, W_{CD}, W_{DA}\) を計算し、合計する。
2. p-Vグラフでサイクルが囲む面積を計算する。
後者の方が簡単です。
この設問における重要なポイント

  • 定積変化では仕事はゼロ (\(W_{AB}=0, W_{CD}=0\))。
  • 定圧変化では仕事は \(W=p\Delta V\)。
  • 1サイクルの正味の仕事は、p-Vグラフが囲む面積に等しい。

具体的な解説と立式
方法1: 各過程の仕事の和

  • A→B (定積): \(W_{AB} = 0\)
  • B→C (定圧): \(W_{BC} = p_B \Delta V = (3p_1)(2V_1 – V_1) = 3p_1V_1\)
  • C→D (定積): \(W_{CD} = 0\)
  • D→A (定圧): \(W_{DA} = p_D \Delta V = p_1(V_1 – 2V_1) = -p_1V_1\)

正味の仕事 \(W_{net}\) はこれらの和です。
$$ W_{net} = W_{AB} + W_{BC} + W_{CD} + W_{DA} = 0 + 3p_1V_1 + 0 – p_1V_1 = 2p_1V_1 $$
状態Aでの状態方程式 \(p_1V_1 = nRT_A\) を用いて、\(p_1V_1\)を消去します。
$$ W_{net} = 2nRT_A $$
方法2: p-Vグラフの面積
サイクルが囲む図形は長方形です。

  • 縦の長さ: \(3p_1 – p_1 = 2p_1\)
  • 横の長さ: \(2V_1 – V_1 = V_1\)

面積は (縦) × (横) = \(2p_1 \times V_1 = 2p_1V_1\) です。
サイクルは時計回りなので、仕事は正です。
$$ W_{net} = 2p_1V_1 = 2nRT_A $$

解答 (3) \(2nRT_A\)

問(4)

思考の道筋とポイント
1サイクルにおける熱効率\(e\)を求めます。熱効率の定義式 \(e = \displaystyle\frac{W_{net}}{Q_{in}}\) に、これまでに求めた値を代入します。\(Q_{in}\)は、1サイクルの間に気体が「吸収した」熱量の合計です。
この設問における重要なポイント

  • 熱効率の定義: \(e = \displaystyle\frac{W_{net}}{Q_{in}}\)
  • \(W_{net}\) は(3)で求めた正味の仕事。
  • \(Q_{in}\) は、(2)で求めた熱量のうち、正の値を持つもの(\(Q_{AB}\)と\(Q_{BC}\))の和。

具体的な解説と立式
熱効率\(e\)の定義は、
$$ e = \frac{W_{net}}{Q_{in}} $$
(3)より、正味の仕事は \(W_{net} = 2nRT_A\)。
(2)より、気体が熱を吸収する(Qが正)過程はA→BとB→Cです。したがって、吸収した熱量の合計\(Q_{in}\)は、
$$ Q_{in} = Q_{AB} + Q_{BC} = 2nC_V T_A + 3n(C_V+R)T_A $$
これらの値を定義式に代入します。

計算過程

まず\(Q_{in}\)を整理します。
$$
\begin{aligned}
Q_{in} &= 2nC_V T_A + 3nC_V T_A + 3nRT_A \\[2.0ex]&= 5nC_V T_A + 3nRT_A \\[2.0ex]&= nT_A(5C_V + 3R)
\end{aligned}
$$
熱効率の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
e &= \frac{W_{net}}{Q_{in}} \\[2.0ex]&= \frac{2nRT_A}{nT_A(5C_V + 3R)} \\[2.0ex]&= \frac{2R}{5C_V + 3R}
\end{aligned}
$$

解答 (4) \(\displaystyle\frac{2R}{5C_V + 3R}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 熱力学の法則のサイクルへの応用:
    • 核心: この問題は、定積変化と定圧変化からなる単純な熱サイクルを題材に、熱力学の法則を総合的に適用する能力を試しています。以下の3つのステップを順序立てて実行できるかが核心となります。
      1. 状態量の確定(状態方程式): p-Vグラフから各状態の圧力・体積を読み取り、状態方程式 \(pV=nRT\) を用いて全状態の温度を基準温度(\(T_A\))で表現すること。
      2. 過程量の計算(熱・仕事の公式): 各過程(A→B, B→C, …)が定積か定圧かを見極め、適切な公式(\(Q=nC\Delta T\), \(W=p\Delta V\)など)を用いて、熱と仕事の出入りを計算すること。
      3. サイクル全体の評価(熱効率): 1サイクルでの正味の仕事\(W_{net}\)と、吸収した総熱量\(Q_{in}\)を求め、熱効率の定義式 \(e = \frac{W_{net}}{Q_{in}}\) に当てはめること。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 逆サイクルの場合: もしサイクルがA→D→C→B→Aという反時計回りだった場合、全ての矢印が逆になります。
      • \(W_{net}\) はp-Vグラフが囲む面積で負の値になります(された仕事 > した仕事)。
      • \(\Delta U_{cycle}=0\) は変わらないので、\(Q_{net} = W_{net} < 0\) となります。
      • これは、外部から仕事をされて熱を放出する「冷凍機」や「ヒートポンプ」のサイクルに相当します。
    • 断熱変化を含むサイクル: サイクルの一部に断熱変化(p-Vグラフでは等温線より急な曲線)が含まれる場合。断熱過程では\(Q=0\)となるため、\(\Delta U = -W\)の関係を使ってエネルギー収支を考えます。
    • 具体的な気体での計算: 気体が「単原子分子」や「二原子分子」と指定され、\(C_V\)に具体的な値(\(\frac{3}{2}R\)や\(\frac{5}{2}R\))を代入して、熱効率を数値で計算させる問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 各頂点の状態量を整理: まず、A, B, C, D…の各点について、分かっている\(p, V, T\)の値を書き出し、未知のものは文字で置いて整理します。
    2. 状態方程式で温度を統一: 一つの状態(通常はA)の温度を\(T_A\)などと基準にし、他のすべての点の温度をこの基準温度で表します。これが計算をスムーズに進める鍵です。
    3. 仕事はp-Vグラフの面積で: 1サイクルの正味の仕事\(W_{net}\)は、各過程の仕事を足し合わせるよりも、サイクルが囲む面積を計算する方が速くて確実です。
    4. \(Q_{in}\)の特定: 熱効率を計算する際、分母の\(Q_{in}\)は「吸収した熱量」の合計です。(2)で計算した\(Q\)のうち、正の値を持つものだけを足し合わせることに注意します。負の値(放出した熱)は含めません。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 温度の計算ミス:
    • 誤解: (1)で、状態Cの温度を計算する際に、状態Bを基準にして \(T_C = 2T_B\) と考えてしまうなど、基準がぶれてしまう。
    • 対策: 常に一つの状態(この場合はA)を基準にして、ボイル・シャルルの法則 \(\frac{p_A V_A}{T_A} = \frac{p_X V_X}{T_X}\) を使うように徹底すると、混乱が防げます。
  • 熱量\(Q\)の計算式の間違い:
    • 誤解: 定圧変化なのに定積モル比熱\(C_V\)を使ってしまう、あるいはその逆。
    • 対策: 「定積(Volume)→\(C_V\)」「定圧(Pressure)→\(C_p\)」という対応を確実に覚える。また、\(C_p = C_V + R\) の関係も忘れないようにしましょう。
  • 熱効率の分母(\(Q_{in}\))の間違い:
    • 誤解: 熱効率の分母に、1サイクルで出入りした熱量の総和(\(Q_{net}\))や、放出した熱量まで含めてしまう。
    • 対策: 熱効率は「投入した熱エネルギーのうち、どれだけを仕事に変えられたか」という効率の話です。したがって、分母に来るのは「投入した」エネルギー、すなわち「吸収した熱量(\(Q>0\))」の合計のみです。
  • 仕事\(W\)と内部エネルギー\(\Delta U\)の混同:
    • 誤解: 1サイクルの仕事\(W_{net}\)を計算する際に、内部エネルギーの変化を考慮してしまう。
    • 対策: 仕事\(W\)はあくまで \(p\Delta V\) の積分(p-Vグラフの面積)で決まる量であり、内部エネルギーとは直接関係ありません。両者は熱力学第1法則を介して関係づけられる、独立した物理量として捉えましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 状態方程式 (\(p_1V_1 = nRT_A\)) の利用:
    • 選定理由: (3)や(4)の最終的な答えは、\(n, T_A, R, C_V\) といった基本的な物理量だけで表すことが求められています。計算の途中で出てくる \(p_1V_1\) という量は、これらの基本量ではないため、消去する必要があります。その変換の役割を果たすのが、状態Aにおける状態方程式です。
    • 適用根拠: 状態Aにおいて、圧力、体積、温度、物質量がそれぞれ \(p_1, V_1, T_A, n\) であるため、状態方程式がそのまま適用できます。
  • 熱効率の定義式 (\(e = \frac{W_{net}}{Q_{in}}\)):
    • 選定理由: (4)は「熱効率」を求める問題であり、これはその定義式そのものです。
    • 適用根拠: 熱効率は、熱機関の性能を示す指標として定義された量です。\(W_{net}\)は機関が1サイクルで外部に行う正味の仕事(得られる利益)、\(Q_{in}\)はそれを動かすために外部から投入する必要がある熱エネルギー(コスト)を表します。したがって、効率が「利益/コスト」で表されるのは自然な定義です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 共通因数での整理: (2)や(4)の計算では、\(n, T_A, R, C_V\) といった文字が多く出てきて複雑に見えます。計算の各段階で、\(nT_A\) などの共通因数でくくりながら整理すると、式が簡潔になり、見通しが良くなります。
    • 例: \(Q_{in} = 2nC_V T_A + 3n(C_V+R)T_A = nT_A [2C_V + 3(C_V+R)] = nT_A(5C_V+3R)\)
  • 単位の次元チェック: 最終的な答えの単位(次元)が正しいかを確認する癖をつけましょう。
    • (3)の仕事はエネルギーの次元を持つはず。\(nRT_A\) は \(pV\) と同じ次元なので、確かにエネルギーの次元になっています。
    • (4)の熱効率は、エネルギー÷エネルギーなので、無次元量になるはずです。計算結果 \(\frac{2R}{5C_V+3R}\) も、(モル比熱)÷(モル比熱)の形なので、無次元量となり、正しいことが確認できます。
  • 物理的な吟味:
    • (2)で、温度が上昇する過程(A→B, B→C)では\(Q>0\)、温度が下降する過程(C→D, D→A)では\(Q<0\)となるはずです(ただし、B→Cのように仕事が関わる場合は注意が必要ですが、この問題ではそうなっています)。
    • (3)の仕事は、p-Vグラフのサイクルが時計回りなので、正の値になるはずです。計算結果 \(2nRT_A\) も正であり、妥当です。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]

PVアクセスランキング にほんブログ村