「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 13】Step1 & 例題

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Step1

① ボイルの法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ボイルの法則の適用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ボイルの法則の理解: 温度が一定のとき、一定量の気体の圧力\(P\)と体積\(V\)は反比例の関係にあること。
  2. 状態変化の把握: 気体の状態が変化する前後で、どの物理量が変化し、どの物理量が一定に保たれるかを正確に読み取ること。
  3. 立式: 変化の前後で成り立つ物理法則を数式で表現すること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文から、変化前の圧力と体積、変化後の体積を特定する。
  2. 「温度を一定に保つ」という条件から、ボイルの法則が適用できることを確認する。
  3. ボイルの法則の式 \(P_1V_1 = P_2V_2\) を立て、未知数である変化後の圧力を求める。

思考の道筋とポイント
この問題は、気体の状態変化に関する基本的な問題です。ポイントは、問題文中の「温度を一定に保ちながら」という記述を見逃さないことです。この一文が、数ある気体の法則の中から「ボイルの法則」を選択する決定的な根拠となります。気体の問題では、圧力\(P\)、体積\(V\)、温度\(T\)、物質量\(n\)のうち、何が変化し、何が一定なのかを整理することが第一歩です。今回は、\(T\)と\(n\)(容器に閉じ込められているので気体の量は一定)が不変で、\(P\)と\(V\)が変化する状況です。したがって、ボイルの法則 \(PV = \text{一定}\) を用いて、変化前と変化後の状態を等式で結びます。

この設問における重要なポイント

  • ボイルの法則: 一定量の気体において、温度が一定ならば、圧力\(P\)と体積\(V\)の積は一定である。
    $$ PV = \text{一定} $$
  • この法則は、変化前の状態を(\(P_1\), \(V_1\))、変化後の状態を(\(P_2\), \(V_2\))とすると、以下の関係式で表せます。
    $$ P_1V_1 = P_2V_2 $$
  • 圧力と体積は反比例の関係にあります。つまり、体積を半分に圧縮すると、圧力は2倍になります。この関係を直感的に理解しておくと、計算結果の妥当性を判断するのに役立ちます。

具体的な解説と立式
まず、問題文で与えられている物理量を整理します。
変化前の状態(状態1)

  • 圧力 \(P_1 = 1.0 \times 10^5\) Pa
  • 体積 \(V_1 = 0.50\) m³

変化後の状態(状態2)

  • 圧力 \(P_2\) [Pa] (求めたい量)
  • 体積 \(V_2 = 0.25\) m³

問題文に「温度を一定に保ちながら」と明記されているため、ボイルの法則が適用できます。ボイルの法則は、温度と物質量が一定のとき、圧力と体積の積が一定に保たれるという法則です。
したがって、状態1と状態2について、次の関係式が成り立ちます。
$$ P_1 V_1 = P_2 V_2 \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • ボイルの法則: \(P_1 V_1 = P_2 V_2\) (温度と物質量が一定の場合)
計算過程

式①を、求めたい圧力 \(P_2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
P_2 &= \displaystyle\frac{P_1 V_1}{V_2}
\end{aligned}
$$
この式に、与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
P_2 &= \displaystyle\frac{(1.0 \times 10^5) \times 0.50}{0.25} \\[2.0ex]&= (1.0 \times 10^5) \times \displaystyle\frac{0.50}{0.25} \\[2.0ex]&= (1.0 \times 10^5) \times 2 \\[2.0ex]&= 2.0 \times 10^5
\end{aligned}
$$
したがって、求める圧力は \(2.0 \times 10^5\) Pa となります。問題文で与えられている数値(\(1.0\), \(0.50\), \(0.25\))の有効数字が2桁であるため、解答も有効数字2桁で表します。

計算方法の平易な説明

この問題は、「温度を変えずに、風船を押しつぶしたらどうなる?」という身近な現象と同じ原理です。風船を押しつぶして体積を小さくすると、中の空気の圧力は高くなりますよね。これがボイルの法則です。
問題では、体積が \(0.50\) m³ から \(0.25\) m³ へと、ちょうど半分になっています。
ボイルの法則によれば、圧力と体積は「反比例」の関係なので、体積が半分(\(\displaystyle\frac{1}{2}\)倍)になると、圧力は逆に2倍になります。
もとの圧力が \(1.0 \times 10^5\) Pa だったので、これを2倍して、\(2.0 \times 10^5\) Pa が答えになります。

解答 \(2.0 \times 10^5\) Pa

② シャルルの法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「シャルルの法則の適用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. シャルルの法則の理解: 圧力が一定のとき、一定量の気体の体積\(V\)は絶対温度\(T\)に比例すること。
  2. 絶対温度への変換: セルシウス温度(摂氏)を絶対温度(ケルビン)に変換する必要性の理解。\(T[\text{K}] = t[^\circ\text{C}] + 273\)。
  3. 状態変化の把握: 気体の状態が変化する前後で、どの物理量が変化し、どの物理量が一定に保たれるかを正確に読み取ること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文から、変化前の体積と温度、変化後の温度を特定する。
  2. 「圧力を一定に保つ」という条件から、シャルルの法則が適用できることを確認する。
  3. セルシウス温度を絶対温度に変換する。
  4. シャルルの法則の式 \(\displaystyle\frac{V_1}{T_1} = \displaystyle\frac{V_2}{T_2}\) を立て、未知数である変化後の体積を求める。

思考の道筋とポイント
この問題は、気体の状態変化に関する基本的な問題です。ポイントは、問題文中の「圧力を一定に保ちながら」という記述です。この一文が、数ある気体の法則の中から「シャルルの法則」を選択する決定的な根拠となります。また、気体の法則を扱う上で最も重要な注意点の一つが、温度の単位です。計算には必ず「絶対温度(単位: K)」を用いなければなりません。問題文で与えられているセルシウス温度(単位: \(^\circ\text{C}\))をそのまま使ってしまうと、正しい答えは得られません。今回は、圧力\(P\)と物質量\(n\)が不変で、体積\(V\)と温度\(T\)が変化する状況なので、シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) を用いて、変化前と変化後の状態を等式で結びます。

この設問における重要なポイント

  • シャルルの法則: 一定量の気体において、圧力が一定ならば、体積\(V\)は絶対温度\(T\)に正比例する。
    $$ \displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定} $$
  • この法則は、変化前の状態を(\(V_1\), \(T_1\))、変化後の状態を(\(V_2\), \(T_2\))とすると、以下の関係式で表せます。
    $$ \displaystyle\frac{V_1}{T_1} = \displaystyle\frac{V_2}{T_2} $$
  • 絶対温度の計算: セルシウス温度 \(t[^\circ\text{C}]\) を絶対温度 \(T[\text{K}]\) に変換するには、次の式を用います。この変換は絶対に忘れてはいけません。
    $$ T[\text{K}] = t[^\circ\text{C}] + 273 $$

具体的な解説と立式
まず、問題文で与えられている物理量を整理し、温度を絶対温度に変換します。
変化前の状態(状態1)

  • 体積 \(V_1 = 0.60\) m³
  • 温度 \(t_1 = 27^\circ\text{C}\) → 絶対温度 \(T_1 = 27 + 273 = 300\) K

変化後の状態(状態2)

  • 体積 \(V_2\) [m³] (求めたい量)
  • 温度 \(t_2 = 127^\circ\text{C}\) → 絶対温度 \(T_2 = 127 + 273 = 400\) K

問題文に「圧力を一定に保ちながら」と明記されているため、シャルルの法則が適用できます。シャルルの法則は、圧力と物質量が一定のとき、体積が絶対温度に比例するという法則です。
したがって、状態1と状態2について、次の関係式が成り立ちます。
$$ \displaystyle\frac{V_1}{T_1} = \displaystyle\frac{V_2}{T_2} \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{V_1}{T_1} = \displaystyle\frac{V_2}{T_2}\) (圧力と物質量が一定の場合)
  • 絶対温度の定義: \(T[\text{K}] = t[^\circ\text{C}] + 273\)
計算過程

式①を、求めたい体積 \(V_2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
V_2 &= V_1 \times \displaystyle\frac{T_2}{T_1}
\end{aligned}
$$
この式に、整理した数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
V_2 &= 0.60 \times \displaystyle\frac{400}{300} \\[2.0ex]&= 0.60 \times \displaystyle\frac{4}{3} \\[2.0ex]&= 0.20 \times 4 \\[2.0ex]&= 0.80
\end{aligned}
$$
したがって、求める体積は \(0.80\) m³ となります。問題文で与えられている数値(\(0.60\))の有効数字が2桁であるため、解答も有効数字2桁で表します。

計算方法の平易な説明

この問題は、「温めると気体は膨らむ」という日常的な現象を扱っています。例えば、お菓子の袋を暖かい場所に置くとパンパンに膨らむのと同じ原理です。シャルルの法則は、「体積は絶対温度に比例する」というルールです。
まず、物理の計算で温度を使うときは、必ず「絶対温度」に直すのがお約束です。

  • 最初の温度: \(27^\circ\text{C}\) は、\(27 + 273 = 300\) K
  • 後の温度: \(127^\circ\text{C}\) は、\(127 + 273 = 400\) K

温度が \(300\) K から \(400\) K に、つまり \(\displaystyle\frac{400}{300} = \displaystyle\frac{4}{3}\) 倍になったことが分かります。
体積は絶対温度に比例するので、体積も同じように \(\displaystyle\frac{4}{3}\) 倍になるはずです。
もとの体積 \(0.60\) m³ を \(\displaystyle\frac{4}{3}\) 倍して、\(0.60 \times \displaystyle\frac{4}{3} = 0.80\) m³ が答えになります。

解答 \(0.80\) m³

③ ボイル・シャルルの法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ボイル・シャルルの法則の応用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ボイル・シャルルの法則の理解: 一定量の気体において、\(\displaystyle\frac{PV}{T}\) が一定であること。
  2. 状態変化の把握: 圧力、体積、温度の3つの状態量がすべて変化する場合の扱い。
  3. 比の計算: 変化後の量が変化前の量の「何倍か」を問われているため、最終的に比(例: \(\displaystyle\frac{V_2}{V_1}\))を求める必要があること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 変化前の状態量(\(P_1, V_1, T_1\))と変化後の状態量(\(P_2, V_2, T_2\))の関係を整理する。
  2. ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{P_1V_1}{T_1} = \displaystyle\frac{P_2V_2}{T_2}\) を立てる。
  3. 変化後の体積 \(V_2\) が変化前の体積 \(V_1\) の何倍になるか、つまり比 \(\displaystyle\frac{V_2}{V_1}\) を計算する。

思考の道筋とポイント
この問題では、圧力、体積、温度の3つの状態量がすべて変化します。このような場合、ボイルの法則(温度が一定)やシャルルの法則(圧力が一定)を単独で使うことはできず、これらを統合したボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) を用います。問題文では具体的な数値が与えられていませんが、「〜倍」という形で関係が示されています。この場合、変化前の状態量を文字(例: \(P_1, V_1, T_1\))で置き、変化後の状態量をその文字を使って表現する(例: \(4P_1, V_2, 6T_1\))のが定石です。最終的に求めたいのは「体積は何倍になるか」なので、変化後の体積 \(V_2\) そのものではなく、もとの体積 \(V_1\) との比 \(\displaystyle\frac{V_2}{V_1}\) を計算することがゴールとなります。

この設問における重要なポイント

  • ボイル・シャルルの法則: 一定量の気体において、圧力\(P\)、体積\(V\)、絶対温度\(T\)の間には以下の関係が成り立つ。
    $$ \displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定} $$
  • この法則は、変化前の状態を(\(P_1, V_1, T_1\))、変化後の状態を(\(P_2, V_2, T_2\))とすると、以下の関係式で表せます。
    $$ \displaystyle\frac{P_1V_1}{T_1} = \displaystyle\frac{P_2V_2}{T_2} $$
  • 問題文で「絶対温度」と明記されているため、セルシウス温度からの変換は不要です。もしセルシウス温度で与えられていたら、絶対温度への変換が必須となります。

具体的な解説と立式
変化前の気体の状態量を、圧力 \(P_1\)、体積 \(V_1\)、絶対温度 \(T_1\) とします。
問題文の条件に従って、変化後の状態量を設定します。

  • 圧力 \(P_2 = 4 P_1\)
  • 絶対温度 \(T_2 = 6 T_1\)
  • 体積 \(V_2\) (この \(V_2\) が \(V_1\) の何倍になるかを求めます)

ボイル・シャルルの法則は、変化の前後で \(\displaystyle\frac{PV}{T}\) の値が一定であることを示す法則です。
したがって、状態1と状態2について、次の関係式が成り立ちます。
$$ \displaystyle\frac{P_1 V_1}{T_1} = \displaystyle\frac{P_2 V_2}{T_2} \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{P_1 V_1}{T_1} = \displaystyle\frac{P_2 V_2}{T_2}\) (物質量が一定の場合)
計算過程

式①に、\(P_2 = 4P_1\) と \(T_2 = 6T_1\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{P_1 V_1}{T_1} &= \displaystyle\frac{(4P_1) V_2}{6T_1}
\end{aligned}
$$
この式を、求めたい比 \(\displaystyle\frac{V_2}{V_1}\) について整理します。まず、両辺に共通する \(P_1\) と \(T_1\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
V_1 &= \displaystyle\frac{4V_2}{6} \\[2.0ex]V_1 &= \displaystyle\frac{2}{3} V_2
\end{aligned}
$$
両辺を \(\displaystyle\frac{3}{2}\) 倍して、\(V_2\) についての式に変形します。
$$
\begin{aligned}
V_2 &= \displaystyle\frac{3}{2} V_1
\end{aligned}
$$
最後に、両辺を \(V_1\) で割ることで、体積の比を求めます。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{V_2}{V_1} &= \displaystyle\frac{3}{2} \\[2.0ex]&= 1.5
\end{aligned}
$$
したがって、体積は1.5倍になります。

計算方法の平易な説明

気体の体積がどう変わるかは、圧力と温度の変化で決まります。ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) を変形すると、\(V = \text{一定} \times \displaystyle\frac{T}{P}\) となります。これは「体積は、絶対温度に比例し、圧力に反比例する」ことを意味します。
今回の問題では、

  • 絶対温度が「6倍」になった → 体積を6倍にしようとする効果
  • 圧力が「4倍」になった → 体積を \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍にしようとする効果

この2つの効果を掛け合わせれば、最終的な体積の変化が分かります。
もとの体積を \(V\) とすると、変化後の体積 \(V’\) は、
$$ V’ = V \times 6 \times \displaystyle\frac{1}{4} = V \times \displaystyle\frac{6}{4} = 1.5 V $$
となり、体積は1.5倍になることがわかります。

解答 1.5倍

④ 理想気体の状態方程式

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「理想気体の状態方程式を用いた体積の計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) の理解
  2. 物質量 \(n\)、質量 \(m\)、モル質量 \(M\) の関係式 \(n = \displaystyle\frac{m}{M}\) の理解
  3. 絶対温度への変換: セルシウス温度を絶対温度に変換する必要性。
  4. 単位の整合性の確認: 計算に用いる物理量の単位をSI単位系に揃えること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文で与えられた物理量を整理する。
  2. セルシウス温度を絶対温度(ケルビン)に変換する。
  3. 与えられた質量とモル質量から、気体の物質量を計算する。
  4. 理想気体の状態方程式にすべての値を代入し、未知数である体積 \(V\) を求める。

思考の道筋とポイント
この問題は、気体の状態(圧力、体積、温度)とその「量」(物質量)を結びつける、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を用いて解く典型的な問題です。ボイル・シャルルの法則が「一定量の気体」の状態変化を扱うのに対し、状態方程式は特定の状態における各物理量の関係を示します。
この問題を解く上でのポイントは、状態方程式に必要な \(P, n, R, T\) のうち、物質量 \(n\) が直接与えられていない点です。しかし、気体の質量 \(m\) とモル質量 \(M\) が分かっているので、\(n = \displaystyle\frac{m}{M}\) の関係式を用いて物質量を求めることができます。また、気体関連の法則では温度は必ず絶対温度(K)を用いるという基本ルールを忘れないことが重要です。

この設問における重要なポイント

  • 理想気体の状態方程式: 圧力\(P\)、体積\(V\)、物質量\(n\)、気体定数\(R\)、絶対温度\(T\)の間に成り立つ関係式。
    $$ PV = nRT $$
  • 物質量の計算: 物質量\(n\) [mol]は、質量\(m\) [kg]をモル質量\(M\) [kg/mol]で割ることで求められる。
    $$ n = \displaystyle\frac{m}{M} $$
  • 絶対温度への変換: セルシウス温度 \(t[^\circ\text{C}]\) は、必ず絶対温度 \(T[\text{K}]\) に変換して計算に用いる。
    $$ T[\text{K}] = t[^\circ\text{C}] + 273 $$

具体的な解説と立式
まず、問題文で与えられている物理量を整理します。

  • 圧力 \(P = 1.0 \times 10^5\) Pa
  • セルシウス温度 \(t = 47^\circ\text{C}\)
  • 質量 \(m = 8.0 \times 10^{-3}\) kg
  • モル質量 \(M = 3.2 \times 10^{-2}\) kg/mol
  • 気体定数 \(R = 8.3\) J/(mol·K)
  • 体積 \(V\) [m³] を求めます。

計算の前に、セルシウス温度を絶対温度 \(T\) に変換します。
$$ T = 47 + 273 = 320 \text{ K} \quad \cdots ① $$
理想気体の状態方程式は次の通りです。
$$ PV = nRT \quad \cdots ② $$
ここで、物質量 \(n\) は質量 \(m\) とモル質量 \(M\) を用いて次のように表せます。
$$ n = \displaystyle\frac{m}{M} \quad \cdots ③ $$
式②に式③を代入すると、質量 \(m\) を用いた状態方程式が得られます。
$$ PV = \displaystyle\frac{m}{M}RT \quad \cdots ④ $$
この式④を用いて体積 \(V\) を計算します。

使用した物理公式

  • 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
  • 物質量の定義: \(n = \displaystyle\frac{m}{M}\)
  • 絶対温度の定義: \(T[\text{K}] = t[^\circ\text{C}] + 273\)
計算過程

式④を体積 \(V\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
V &= \displaystyle\frac{mRT}{PM}
\end{aligned}
$$
この式に、整理した数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
V &= \displaystyle\frac{(8.0 \times 10^{-3}) \times 8.3 \times 320}{(1.0 \times 10^5) \times (3.2 \times 10^{-2})} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{8.0 \times 8.3 \times 320}{1.0 \times 3.2} \times \displaystyle\frac{10^{-3}}{10^5 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{8.0}{3.2} \times 8.3 \times 320 \times \displaystyle\frac{10^{-3}}{10^3} \\[2.0ex]&= 2.5 \times 8.3 \times 320 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&= (2.5 \times 320) \times 8.3 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&= 800 \times 8.3 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&= 6640 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&= 6.64 \times 10^{-3}
\end{aligned}
$$
問題で与えられた数値の有効数字は2桁(\(1.0, 8.0, 3.2, 8.3, 47\))なので、計算結果を有効数字2桁に丸めます。
$$ V \approx 6.6 \times 10^{-3} \text{ m}^3 $$

計算方法の平易な説明

気体の体積を求めるには、「圧力」「温度」「量(何モルあるか)」の情報が必要です。これらを使って「理想気体の状態方程式」という万能な公式 \(PV=nRT\) に当てはめていきます。
1. 温度の単位を変換する: 物理の計算では、温度は必ず「絶対温度(K)」を使います。\(47^\circ\text{C}\) は \(47 + 273 = 320\) K です。
2. 気体の量を計算する: 問題には「質量 \(8.0 \times 10^{-3}\) kg」とありますが、公式で使うのは「物質量(mol)」です。質量をモル質量で割ると物質量が求まります。
\(n = \displaystyle\frac{8.0 \times 10^{-3} \text{ kg}}{3.2 \times 10^{-2} \text{ kg/mol}} = 0.25\) mol
3. 公式に代入する: 準備が整ったので、状態方程式 \(PV=nRT\) を \(V\) についての式 \(V = \displaystyle\frac{nRT}{P}\) に変形し、分かっている値をすべて代入します。
\(V = \displaystyle\frac{0.25 \times 8.3 \times 320}{1.0 \times 10^5}\)
4. 計算する: これを計算すると、\(V = 0.00664\) m³ となります。有効数字を2桁に合わせると、\(6.6 \times 10^{-3}\) m³ が答えです。これは 6.6 リットルに相当します。

解答 \(6.6 \times 10^{-3}\) m³

⑤ 理想気体の状態方程式

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「理想気体の状態方程式とp-Vグラフの関係」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) の理解
  2. ボイルの法則: 温度が一定のとき、圧力\(P\)と体積\(V\)は反比例の関係にあること。
  3. 反比例のグラフの形状(双曲線)の理解
  4. 温度が異なる場合の等温線の比較方法

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、温度が一定のときの圧力\(P\)と体積\(V\)の関係を、理想気体の状態方程式から導き出す。
  2. その関係式がどのようなグラフ形状(直線、双曲線など)に対応するかを判断し、選択肢を絞る。
  3. 次に、温度が異なる2つのグラフ(\(T_1\)と\(T_2\))の位置関係について、状態方程式を用いて考察し、正しいグラフを選択する。

思考の道筋とポイント
この問題は、気体の状態変化をp-Vグラフ上でどのように表現するか、特に温度が一定である「等温変化」のグラフ(等温線)の性質を問うています。
まず、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を圧力\(P\)について解いた形 \(P = \displaystyle\frac{nRT}{V}\) を考えます。
第一のステップは、グラフの概形を特定することです。温度\(T\)が一定のとき、\(nRT\)は定数となるため、\(P\)は\(V\)に反比例します(\(P \propto \displaystyle\frac{1}{V}\))。この関係は数学の反比例のグラフ、すなわち双曲線に対応します。この時点で、原点を通る直線であるグラフ①と②は選択肢から除外されます。
第二のステップは、グラフ③と④のどちらが正しいかを判断することです。これは、温度の大小関係(\(T_1 < T_2\))とグラフの上下関係を正しく結びつけることで解決します。状態方程式 \(P = \displaystyle\frac{nRT}{V}\) から、体積\(V\)をある一定値に固定して考えると、圧力\(P\)は絶対温度\(T\)に比例する(\(P \propto T\))ことがわかります。したがって、同じ体積であれば、温度が高いほど圧力も高くなります。グラフ上で\(T_2\)(高温側)の曲線が\(T_1\)(低温側)の曲線よりも上側に描かれているものが正しいと判断できます。

この設問における重要なポイント

  • 理想気体の状態方程式: \(PV=nRT\)。この式は気体の状態を理解する上での基本となる。
  • 等温線: 温度が一定のときの気体の状態変化をp-Vグラフ上に描いた曲線のこと。理想気体の場合、\(PV=\text{一定}\) となるため、グラフは双曲線を描く。
  • 温度と等温線の位置関係: 状態方程式 \(PV=nRT\) より、積\(PV\)の値は絶対温度\(T\)に比例する。p-Vグラフにおいて、積\(PV\)が大きいほどグラフは原点から遠ざかる。したがって、等温線は温度が高いものほど、原点から遠い(右上)位置に描かれる。

具体的な解説と立式
この問題は、理想気体の状態方程式から圧力\(P\)と体積\(V\)の関係を導き、グラフを考察します。
理想気体の状態方程式は次の通りです。
$$ PV = nRT $$
この式を圧力\(P\)について解くと、
$$ P = \displaystyle\frac{nRT}{V} \quad \cdots ① $$
ここで、\(n\)は物質量、\(R\)は気体定数です。

1. グラフの形状の特定
問題の条件より、温度\(T\)は一定に保たれています。また、気体の量(物質量\(n\))も一定です。したがって、式①の分子にある \(nRT\) は一定の値(定数)となります。これを \(k = nRT\) とおくと、
$$ P = \displaystyle\frac{k}{V} $$
これは、圧力\(P\)が体積\(V\)に反比例することを意味します。反比例のグラフは双曲線を描くため、この時点で選択肢は③か④に絞られます。

2. 温度の異なるグラフの比較
次に、温度が \(T_1\) の場合と \(T_2\) の場合を比較します。問題の条件は \(T_1 < T_2\) です。
式①において、体積\(V\)をある任意の値で固定して考えます。このとき、\(P\)は絶対温度\(T\)に比例する関係(\(P \propto T\))にあることがわかります。
\(T_1 < T_2\) なので、同じ体積\(V\)においては、温度が\(T_2\)のときの圧力\(P_2\)の方が、温度が\(T_1\)のときの圧力\(P_1\)よりも大きくなります。
$$ P_1 < P_2 $$
これをグラフ上で解釈すると、x軸の同じ値(同じ体積)に対して、\(T_2\)に対応する曲線の方が\(T_1\)に対応する曲線よりも上側(圧力\(P\)が大きい側)になければなりません。この条件を満たすのは、グラフ③です。

使用した物理公式

  • 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
計算過程

この問題は計算ではなく、グラフの定性的な考察が中心となります。

  1. 理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を変形し、\(P = \displaystyle\frac{nRT}{V}\) を得る。
  2. 温度\(T\)が一定のとき、\(P \propto \displaystyle\frac{1}{V}\) となるため、グラフは双曲線である。これにより選択肢は③、④に絞られる。
  3. 体積\(V\)を一定として考えると、\(P \propto T\) となる。
  4. \(T_1 < T_2\) という条件から、同じ体積\(V\)では、\(T_2\)のときの圧力の方が\(T_1\)のときの圧力より大きい。
  5. したがって、\(T_2\)のグラフは\(T_1\)のグラフより上側に位置する。
  6. 以上の条件を満たすのはグラフ③である。
計算方法の平易な説明

この問題は、気体の性質を表すグラフを選ぶ問題です。2つのステップで考えましょう。
ステップ1:グラフの形は「まっすぐ」か「カーブ」か?
問題には「温度\(T\)を一定に保ったとき」とあります。これは「ボイルの法則」が成り立つ状況です。ボイルの法則は \(PV = \text{一定}\) という関係で、圧力\(P\)と体積\(V\)は反比例します。数学で習った反比例のグラフ(\(y = \frac{a}{x}\))は、滑らかなカーブ(双曲線)を描きます。なので、まっすぐな線のグラフ①と②は間違いです。

ステップ2:2本のカーブ、どっちが上でどっちが下?
残ったのは③と④です。この2つの違いは、温度が高い\(T_2\)の線と低い\(T_1\)の線の上下関係です。
ここで「理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\)」を思い出しましょう。この式は「圧力\(P\)と体積\(V\)を掛け算した値は、温度\(T\)に比例する」と教えてくれています。
問題の条件は \(T_1 < T_2\) なので、温度が高い\(T_2\)のほうが、\(PV\)の積も大きくなるはずです。
グラフ上で「\(PV\)の積が大きい」というのは、「原点から遠い位置にある」ということです。
グラフ③を見ると、\(T_2\)のカーブは\(T_1\)のカーブよりも外側(右上)にあり、原点から遠いです。これは条件に合っています。
一方、グラフ④は逆になっているので間違いです。したがって、正しいグラフは③です。

解答

⑥ 理想気体の状態方程式

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「理想気体の状態方程式とV-Tグラフの関係」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) の理解
  2. シャルルの法則: 圧力が一定のとき、体積\(V\)は絶対温度\(T\)に比例すること。
  3. 比例のグラフの形状(原点を通る直線)の理解
  4. 圧力が異なる場合の定圧線の比較方法

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 圧力が一定のときの体積\(V\)と絶対温度\(T\)の関係を、理想気体の状態方程式から導き出す。
  2. その関係式がどのようなグラフ形状に対応するかを判断し、選択肢を絞る。
  3. 次に、圧力が異なる2つのグラフ(\(p_1\)と\(p_2\))の傾きの大小関係を考察し、正しいグラフを選択する。

思考の道筋とポイント
この問題は、圧力が一定である「定圧変化」のグラフ(定圧線)の性質を、V-Tグラフ上でどのように表現するかを問うています。
まず、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を体積\(V\)について解いた形 \(V = \displaystyle\frac{nRT}{p}\) を考えます。
第一のステップは、グラフの概形を特定することです。圧力\(p\)が一定のとき、\(\displaystyle\frac{nR}{p}\)は定数となるため、\(V\)は\(T\)に比例します(\(V \propto T\))。この関係は、原点を通る直線に対応します。この時点で、双曲線であるグラフ③と④は選択肢から除外されます。
第二のステップは、グラフ①と②のどちらが正しいかを判断することです。これは、圧力の大小関係(\(p_1 < p_2\))とグラフの傾きの大小関係を正しく結びつけることで解決します。式 \(V = \left(\displaystyle\frac{nR}{p}\right)T\) は、数学の一次関数 \(y=ax\) の形をしており、グラフの傾きは \(\displaystyle\frac{nR}{p}\) に相当します。このことから、傾きは圧力\(p\)に反比例することがわかります。したがって、圧力が大きいほど傾きは小さくなります。\(p_1 < p_2\) なので、圧力の大きい\(p_2\)の直線の傾きが、圧力の小さい\(p_1\)の直線の傾きよりも小さくなっているグラフを選びます。

この設問における重要なポイント

  • 理想気体の状態方程式: \(PV=nRT\)。この式は気体の状態を理解する上での基本となる。
  • 定圧線: 圧力が一定のときの気体の状態変化をV-Tグラフ上に描いた線のこと。理想気体の場合、\(V = \left(\displaystyle\frac{nR}{p}\right)T\) となり、グラフは原点を通る直線を描く。
  • 圧力と定圧線の傾き: V-Tグラフにおいて、定圧線の傾きは \(\displaystyle\frac{nR}{p}\) であり、圧力\(p\)に反比例する。したがって、圧力の値が大きいほど、グラフの傾きは緩やかになる。

具体的な解説と立式
この問題は、理想気体の状態方程式から体積\(V\)と絶対温度\(T\)の関係を導き、グラフを考察します。
理想気体の状態方程式は次の通りです。
$$ PV = nRT $$
この式を体積\(V\)について解くと、
$$ V = \displaystyle\frac{nRT}{p} $$
この式を、\(T\)を独立変数とする一次関数の形に整理します。
$$ V = \left( \displaystyle\frac{nR}{p} \right) T \quad \cdots ① $$
ここで、\(n\)は物質量、\(R\)は気体定数です。

1. グラフの形状の特定
問題の条件より、圧力\(p\)は一定に保たれています。また、気体の量(物質量\(n\))も一定です。したがって、式①の係数部分 \(\left( \displaystyle\frac{nR}{p} \right)\) は一定の値(定数)となります。
式①は \(V = (\text{定数}) \times T\) の形をしており、これは体積\(V\)が絶対温度\(T\)に比例することを示しています。比例のグラフは原点を通る直線であるため、この時点で選択肢は①か②に絞られます。

2. 圧力の異なるグラフの比較
次に、圧力が \(p_1\) の場合と \(p_2\) の場合を比較します。
式①は、数学の一次関数 \(y=ax\) に対応しており、V-Tグラフの傾きは \(a = \displaystyle\frac{nR}{p}\) であることがわかります。
この式から、グラフの傾きは圧力\(p\)に反比例します。
問題の条件は \(p_1 < p_2\) です。圧力が大きいほど傾きは小さくなるので、傾きの大小関係は次のようになります。 $$ (\text{傾き at } p_1) > (\text{傾き at } p_2) $$
したがって、\(p_1\)に対応する直線の方が、\(p_2\)に対応する直線よりも傾きが急でなければなりません。この条件を満たすのは、グラフ②です。

使用した物理公式

  • 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
計算過程

この問題は計算ではなく、グラフの定性的な考察が中心となります。

  1. 理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を変形し、\(V = \left( \displaystyle\frac{nR}{p} \right) T\) を得る。
  2. 圧力\(p\)が一定のとき、\(V \propto T\) となるため、グラフは原点を通る直線である。これにより選択肢は①、②に絞られる。
  3. V-Tグラフの傾きは \(\displaystyle\frac{nR}{p}\) であり、圧力\(p\)に反比例する。
  4. \(p_1 < p_2\) という条件から、圧力\(p_2\)の方が大きいため、傾きは\(p_2\)の方が小さい。
  5. したがって、\(p_1\)のグラフは\(p_2\)のグラフより傾きが急になる。
  6. 以上の条件を満たすのはグラフ②である。
計算方法の平易な説明

この問題は、気体の性質を表すグラフを選ぶ問題です。2つのステップで考えましょう。
ステップ1:グラフの形は「まっすぐ」か「カーブ」か?
問題には「圧力\(p\)を一定に保ったとき」とあります。これは「シャルルの法則」が成り立つ状況です。シャルルの法則は「体積\(V\)は絶対温度\(T\)に比例する」というもので、\(V \propto T\) と表せます。数学で習った比例のグラフ(\(y=ax\))は、原点を通る直線を描きます。なので、カーブのグラフ③と④は間違いです。

ステップ2:2本の直線、どっちが急?
残ったのは①と②です。この2つの違いは、圧力の大小と傾きの関係です。
理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を、グラフの縦軸である\(V\)についての式 \(V = \frac{nR}{p} T\) に変形してみましょう。
この式は \(y=ax\) の形をしていて、傾き \(a\) は \(\frac{nR}{p}\) にあたることがわかります。
傾きは圧力\(p\)が分母にあるので、「圧力\(p\)が大きいほど、傾きは小さく(緩やかに)なる」という関係があります。
問題の条件は \(p_1 < p_2\) なので、圧力の大きい\(p_2\)の線のほうが傾きが緩やかになるはずです。
グラフ②は、\(p_1\)の線が急で、\(p_2\)の線が緩やかになっているので、これが正しいグラフです。

解答

⑦ 気体の圧力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「気体分子運動論における圧力の公式の解釈」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 気体の圧力の公式: 圧力が分子の数、質量、速度、容器の体積とどのように関係しているかを理解すること。
  2. 2乗平均速度と速度の2乗の平均の関係: 問題文で与えられる「2乗平均速度」と、圧力の公式で使われる「速度の2乗の平均」の違いを正しく扱うこと。
  3. 比例関係の読み取り: 圧力の公式から、各物理量が圧力とどのような関係(比例、反比例など)にあるかを読み取る能力。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 気体の圧力の公式 \(p = \displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3V}\) を基に考える。
  2. 設問ごとに、変化する量と一定に保たれる量を整理する。
  3. 公式を用いて、変化する量が圧力にどのように影響するかを計算し、初めの状態との比を求める。

思考の道筋とポイント
この問題は、気体の圧力がミクロな分子の運動によってどのように決まるかを示した公式 \(p = \displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3V}\) の意味を問うています。この公式は、圧力が「分子の数 \(N\)」と「分子の運動の激しさ(\(\overline{v^2}\))」に比例し、「体積 \(V\)」に反比例することを示しています。
最初の設問では、「2乗平均速度 \(\sqrt{\overline{v^2}}\)」が2倍になったとされています。これを公式で使う「速度の2乗の平均 \(\overline{v^2}\)」に変換することが重要です。\(\sqrt{\overline{v^2}}\) が2倍なら、両辺を2乗して \(\overline{v^2}\) は4倍になります。この関係を正しく見抜けるかがポイントです。
二つ目の設問はよりシンプルで、分子数 \(N\) が圧力 \(p\) に単純に比例することを確認する問題です。

この設問における重要なポイント

  • 気体の圧力の公式: 気体分子運動論によると、圧力\(p\)は、分子数\(N\)、分子1個の質量\(m\)、速度の2乗の平均\(\overline{v^2}\)、体積\(V\)を用いて次のように表される。
    $$ p = \displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3V} $$
  • 2乗平均速度: 分子の速さの目安となる量で、\(\sqrt{\overline{v^2}}\) と定義される。
  • 比例関係の理解:
    • 他の条件が一定なら、圧力\(p\)は速度の2乗の平均\(\overline{v^2}\)に比例する (\(p \propto \overline{v^2}\))。
    • 他の条件が一定なら、圧力\(p\)は分子数\(N\)に比例する (\(p \propto N\))。

具体的な解説と立式
この問題は2つのパートに分かれています。それぞれについて、圧力の公式を基に考えます。
初めの状態の圧力を\(p_1\)、分子数を\(N_1\)、速度の2乗の平均を\(\overline{v_1^2}\)、体積を\(V\)とすると、
$$ p_1 = \displaystyle\frac{N_1m\overline{v_1^2}}{3V} \quad \cdots ① $$

【設問1】 2乗平均速度が2倍になった場合
変化後の圧力を\(p_2\)とします。体積は一定で、分子数も初めの状態から変わらない (\(N_1\)) と考えます。
2乗平均速度が2倍になったので、変化後の2乗平均速度は \(2\sqrt{\overline{v_1^2}}\) です。
変化後の速度の2乗の平均を \(\overline{v_2^2}\) とすると、
$$ \sqrt{\overline{v_2^2}} = 2\sqrt{\overline{v_1^2}} $$
両辺を2乗して、
$$ \overline{v_2^2} = 4\overline{v_1^2} $$
したがって、変化後の圧力\(p_2\)は、
$$ p_2 = \displaystyle\frac{N_1m\overline{v_2^2}}{3V} = \displaystyle\frac{N_1m(4\overline{v_1^2})}{3V} \quad \cdots ② $$

【設問2】 分子数が2倍になった場合
初めの状態から、分子数だけを2倍にしたときの圧力を\(p_3\)とします。
変化後の分子数は \(N_3 = 2N_1\) となります。他の条件(\(\overline{v_1^2}\), \(V\)) は初めの状態と同じです。
したがって、変化後の圧力\(p_3\)は、
$$ p_3 = \displaystyle\frac{N_3m\overline{v_1^2}}{3V} = \displaystyle\frac{(2N_1)m\overline{v_1^2}}{3V} \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 気体の圧力: \(p = \displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3V}\)
計算過程

【設問1の計算】
式②と式①の比を計算して、圧力が何倍になったかを求めます。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{p_2}{p_1} &= \displaystyle\frac{\frac{N_1m(4\overline{v_1^2})}{3V}}{\frac{N_1m\overline{v_1^2}}{3V}} \\[2.0ex]&= 4
\end{aligned}
$$
よって、圧力は初めの4倍になります。

【設問2の計算】
式③と式①の比を計算します。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{p_3}{p_1} &= \displaystyle\frac{\frac{(2N_1)m\overline{v_1^2}}{3V}}{\frac{N_1m\overline{v_1^2}}{3V}} \\[2.0ex]&= 2
\end{aligned}
$$
よって、圧力は初めの2倍になります。

計算方法の平易な説明

気体の圧力は、分子が壁にぶつかる「勢い」と「回数」で決まります。圧力の公式 \(p = \displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3V}\) は、これを数式にしたものです。

  • 設問1(勢いが変わる場合):
    「2乗平均速度」は分子のスピードの目安です。これが2倍になったということは、分子がより速く動き回るようになったということです。圧力の公式には「速度の2乗」(\(\overline{v^2}\))が入っているので、スピードが2倍になると、圧力への影響は \(2 \times 2 = 4\) 倍になります。したがって、圧力は4倍になります。
  • 設問2(回数が変わる場合):
    「分子数」は、壁にぶつかる分子の数です。これが2倍になれば、壁にぶつかる回数も単純に2倍になります。他の条件(スピードなど)が同じなら、圧力もそのまま2倍になります。
解答 4倍, 2倍

⑧ 気体分子の運動エネルギー

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「気体分子の運動エネルギーと絶対温度の関係」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 気体分子1個の運動エネルギーの平均値の公式: \(\overline{K} = \displaystyle\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \displaystyle\frac{3}{2}kT\)。
  2. 絶対温度の物理的意味: 気体分子の平均運動エネルギーの尺度であること。
  3. 2乗平均速度の定義: \(\sqrt{\overline{v^2}}\)。
  4. 比例関係の処理: 物理量間の比例関係や平方根に比例する関係を正しく扱うこと。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 分子1個の平均運動エネルギーと絶対温度の関係式を立てる。
  2. 温度が2倍になったときの平均運動エネルギーの変化を求める。
  3. 次に、平均運動エネルギーと2乗平均速度の関係式を立てる。
  4. 温度が2倍になったときの2乗平均速度の変化を求める。

思考の道筋とポイント
この問題は、マクロな量である「絶対温度」が、ミクロな「分子の運動エネルギー」と直接結びついていることを理解しているかを問う問題です。中心となるのは、気体分子運動論から導かれる公式 \(\displaystyle\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \displaystyle\frac{3}{2}kT\) です。この式は、左辺が「分子1個の運動エネルギーの平均値」、右辺が「絶対温度\(T\)に比例する量」であることを示しています。
前半の設問は、この公式から運動エネルギーと温度が単純な比例関係にあることを直接読み取るだけで解決します。
後半の設問では、一歩進んで、分子の速さの目安である「2乗平均速度」が温度とどう関係するかを考えます。運動エネルギーは速度の2乗に比例するため、\(\overline{v^2} \propto T\) という関係が導かれます。したがって、2乗平均速度 \(\sqrt{\overline{v^2}}\) は、絶対温度の平方根 \(\sqrt{T}\) に比例することになります。この平方根の関係を見抜くことがポイントです。

この設問における重要なポイント

  • 気体分子1個の運動エネルギーの平均値 \(\overline{K}\) は、絶対温度 \(T\) とボルツマン定数 \(k\) を用いて次のように表される。
    $$ \overline{K} = \displaystyle\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \displaystyle\frac{3}{2}kT $$
  • この式は、分子の平均運動エネルギーが絶対温度に正比例することを示している。
  • また、この式から \(\overline{v^2} \propto T\) が導かれるため、2乗平均速度 \(\sqrt{\overline{v^2}}\) は絶対温度の平方根に比例する。
    $$ \sqrt{\overline{v^2}} \propto \sqrt{T} $$

具体的な解説と立式
この問題は2つのパートに分かれています。

【設問1】 分子1個の運動エネルギーの平均値
気体分子1個の運動エネルギーの平均値 \(\overline{K}\) は、絶対温度 \(T\) とボルツマン定数 \(k\) を用いて次のように表されます。
$$ \overline{K} = \displaystyle\frac{3}{2}kT \quad \cdots ① $$
この式から、\(\overline{K}\) は絶対温度 \(T\) に比例することがわかります。

【設問2】 2乗平均速度
運動エネルギーの平均値の定義式 \(\overline{K} = \displaystyle\frac{1}{2}m\overline{v^2}\) と式①を組み合わせると、次の関係式が得られます。
$$ \displaystyle\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \displaystyle\frac{3}{2}kT \quad \cdots ② $$
この式を速度の2乗の平均 \(\overline{v^2}\) について整理すると、
$$ \overline{v^2} = \displaystyle\frac{3kT}{m} $$
この式から、\(\overline{v^2}\) は絶対温度 \(T\) に比例することがわかります。
したがって、2乗平均速度 \(\sqrt{\overline{v^2}}\) は、
$$ \sqrt{\overline{v^2}} = \sqrt{\displaystyle\frac{3kT}{m}} $$
となり、絶対温度 \(T\) の平方根に比例することがわかります。

使用した物理公式

  • 気体分子1個の運動エネルギーの平均値: \(\overline{K} = \displaystyle\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \displaystyle\frac{3}{2}kT\)
計算過程

【設問1の計算】
初めの絶対温度を \(T_1\)、運動エネルギーの平均値を \(\overline{K_1}\) とします。
変化後の絶対温度は \(T_2 = 2T_1\) です。このときの運動エネルギーの平均値を \(\overline{K_2}\) とします。
\(\overline{K} \propto T\) の関係から、
$$ \displaystyle\frac{\overline{K_2}}{\overline{K_1}} = \displaystyle\frac{T_2}{T_1} = \displaystyle\frac{2T_1}{T_1} = 2 $$
よって、運動エネルギーの平均値は2倍になります。

【設問2の計算】
初めの2乗平均速度を \(v_{\text{rms},1} = \sqrt{\overline{v_1^2}}\) とします。
変化後の絶対温度は \(T_2 = 2T_1\) です。このときの2乗平均速度を \(v_{\text{rms},2} = \sqrt{\overline{v_2^2}}\) とします。
\(\sqrt{\overline{v^2}} \propto \sqrt{T}\) の関係から、
$$ \displaystyle\frac{v_{\text{rms},2}}{v_{\text{rms},1}} = \sqrt{\displaystyle\frac{T_2}{T_1}} = \sqrt{\displaystyle\frac{2T_1}{T_1}} = \sqrt{2} $$
よって、2乗平均速度は\(\sqrt{2}\)倍になります。

計算方法の平易な説明

この問題の核心は「温度とは、分子がどれだけ激しく動き回っているかの指標」ということです。

  • 運動エネルギーについて:
    公式によると、「運動エネルギーの平均値」は「絶対温度」に単純に比例します。
    なので、絶対温度が2倍になれば、運動エネルギーの平均値もそのまま2倍になります。
  • 2乗平均速度について:
    「2乗平均速度」は分子のスピードの目安です。
    運動エネルギーは「速さの2乗」に比例します (\(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\))。
    つまり、「温度が2倍」→「運動エネルギーが2倍」→「速さの2乗が2倍」という関係になります。
    「速さの2乗」が2倍になるということは、元の「速さ」は\(\sqrt{2}\)倍になるということです。(例:\(A^2\)が2倍なら、\(A\)は\(\sqrt{2}\)倍)
    したがって、2乗平均速度は\(\sqrt{2}\)倍になります。
解答 2倍, \(\sqrt{2}\)倍

⑨ 気体分子の2乗平均速度

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「気体分子の2乗平均速度の具体的な計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 2乗平均速度の公式の理解と適用: \(\sqrt{\overline{v^2}} = \sqrt{\displaystyle\frac{3RT}{M}}\)。
  2. 絶対温度への変換: 気体の計算では、温度は必ず絶対温度(ケルビン)を用いること。
  3. 単位の整合性: 計算に使用する物理量の単位がSI単位系に揃っているかを確認すること(特にモル質量)。
  4. 指数と平方根の計算

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文で与えられた物理量(モル質量、気体定数、温度)を整理する。
  2. セルシウス温度を絶対温度に変換する。
  3. 2乗平均速度を求める公式に、これらの値を代入する。
  4. 与えられた近似値を用いて計算を実行し、有効数字に注意して解答する。

思考の道筋とポイント
この問題は、気体のマクロな状態量である温度\(T\)と、ミクロな分子の運動の激しさを示す2乗平均速度を結びつける公式を、実際に使って計算する問題です。前の問題で学んだ「2乗平均速度は絶対温度の平方根に比例する」という関係を、具体的な数値で確かめる応用問題と考えることができます。
問題を解く上で最も重要なのは、2乗平均速度を求めるための正しい公式 \(\sqrt{\overline{v^2}} = \sqrt{\displaystyle\frac{3RT}{M}}\) を選択し、正確に適用することです。
計算ミスを防ぐためのポイントは以下の通りです。

  1. 温度は必ず絶対温度(K)に変換する。
  2. モル質量の単位が、化学でよく使う g/mol ではなく、物理計算で必要な kg/mol になっているか確認する(この問題では kg/mol で与えられているのでそのまま使えます)。
  3. 指数計算と平方根の計算を丁寧に行う。

この設問における重要なポイント

  • 2乗平均速度の公式: 2乗平均速度 \(\sqrt{\overline{v^2}}\) は、気体定数\(R\)、絶対温度\(T\)、モル質量\(M\)を用いて次のように表される。
    $$ \sqrt{\overline{v^2}} = \sqrt{\displaystyle\frac{3RT}{M}} $$
  • この公式は、分子の速さが、温度が高いほど速く、分子が軽い(モル質量\(M\)が小さい)ほど速くなることを示している。
  • 絶対温度への変換: セルシウス温度 \(t[^\circ\text{C}]\) は、必ず絶対温度 \(T[\text{K}]\) に変換して計算に用いる。
    $$ T[\text{K}] = t[^\circ\text{C}] + 273 $$

具体的な解説と立式
まず、問題文で与えられている物理量を整理します。

  • モル質量 \(M = 3.2 \times 10^{-2}\) kg/mol
  • 気体定数 \(R = 8.3\) J/(mol·K)
  • セルシウス温度 \(t = 47^\circ\text{C}\)
  • 近似値 \(\sqrt{24.9} \approx 5.0\)

計算の前に、セルシウス温度を絶対温度 \(T\) に変換します。
$$ T = 47 + 273 = 320 \text{ K} \quad \cdots ① $$
求める2乗平均速度 \(\sqrt{\overline{v^2}}\) の公式は次の通りです。
$$ \sqrt{\overline{v^2}} = \sqrt{\displaystyle\frac{3RT}{M}} \quad \cdots ② $$
この式②に、与えられた値と式①で計算した絶対温度を代入して計算します。

使用した物理公式

  • 2乗平均速度: \(\sqrt{\overline{v^2}} = \sqrt{\displaystyle\frac{3RT}{M}}\)
  • 絶対温度の定義: \(T[\text{K}] = t[^\circ\text{C}] + 273\)
計算過程

式②に具体的な数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\sqrt{\overline{v^2}} &= \sqrt{\displaystyle\frac{3 \times 8.3 \times 320}{3.2 \times 10^{-2}}} \\[2.0ex]&= \sqrt{\displaystyle\frac{3 \times 8.3 \times 32 \times 10^1}{3.2 \times 10^{-2}}} \\[2.0ex]&= \sqrt{\displaystyle\frac{3 \times 8.3 \times 10 \times 10^1}{10^{-2}}} \\[2.0ex]&= \sqrt{24.9 \times 10^2 \times 10^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{24.9 \times 10^4}
\end{aligned}
$$
ここで、問題文で与えられた近似値 \(\sqrt{24.9} \approx 5.0\) を用います。
$$
\begin{aligned}
\sqrt{\overline{v^2}} &\approx \sqrt{24.9} \times \sqrt{10^4} \\[2.0ex]&= 5.0 \times 10^2
\end{aligned}
$$
したがって、求める2乗平均速度は \(5.0 \times 10^2\) m/s となります。問題で与えられた数値の有効数字が2桁であるため、解答も有効数字2桁で表します。

計算方法の平易な説明

この問題は、目に見えない酸素分子が、だいたいどれくらいの速さで飛び回っているのかを計算する問題です。
1. 準備(単位を変換する): 物理の計算では、温度は必ず「絶対温度(K)」を使います。問題の \(47^\circ\text{C}\) は、\(47 + 273 = 320\) K に直しておきます。
2. 公式に当てはめる: 分子の平均的な速さを求めるための専用の公式 \(\sqrt{\overline{v^2}} = \sqrt{\displaystyle\frac{3RT}{M}}\) に、問題文の数値をすべて代入します。
3. 計算する: ルートの中を頑張って計算すると、\(\sqrt{24.9 \times 10^4}\) となります。問題文に「\(\sqrt{24.9}\) は \(5.0\) として計算してよい」とヒントがあるので、これを使います。\(\sqrt{10^4}\) は \(100\) なので、答えは \(5.0 \times 100 = 500\) m/s となります。
これは秒速500mで、音の速さ(約340m/s)よりも速く、新幹線の6倍以上の猛スピードです。空気中の分子が、実はこれほどの速さで飛び回っていることがわかります。

解答 \(5.0 \times 10^2\) m/s

例題

例題40 ボイル・シャルルの法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「理想気体の状態変化とボイル・シャルルの法則」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ボイル・シャルルの法則: 気体の圧力\(P\)、体積\(V\)、絶対温度\(T\)の間には、気体の量が一定のとき \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) という関係が成り立ちます。
  2. シャルルの法則(定圧変化): 圧力が一定のとき、\(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) となります。
  3. ゲイ=リュサックの法則(定積変化): 体積が一定のとき、\(\displaystyle\frac{P}{T} = \text{一定}\) となります。
  4. 絶対温度: 気体の計算では、セルシウス温度 \(t [^\circ\text{C}]\) ではなく、必ず絶対温度 \(T [\text{K}]\) を用います。関係式は \(T = t + 273\) です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、問題文の「ピストンを自由に動けるようにして」という記述から、圧力が一定の変化(定圧変化)であると判断し、シャルルの法則を適用します。
  2. (2)では、「ピストンを固定して」という記述から、体積が一定の変化(定積変化)であると判断し、ゲイ=リュサックの法則(またはボイル・シャルルの法則)を適用します。
  3. いずれの計算でも、与えられたセルシウス温度を絶対温度に変換することが第一歩となります。

問(1)

思考の道筋とポイント
加熱前の初期状態(状態1)から加熱後の状態(状態2)への変化に着目します。問題文の「ピストンを自由に動けるようにして、気体の圧力を一定に保ちながら」という記述が最大のヒントです。これは、気体の圧力が初期値の \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) のまま一定で、温度と体積だけが変化する「定圧変化」であることを意味します。したがって、圧力一定の条件下での体積と温度の関係式である「シャルルの法則」を適用します。計算の際には、与えられたセルシウス温度を絶対温度(ケルビン)に変換することを忘れないようにしましょう。
この設問における重要なポイント

  • 定圧変化ではシャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) が成り立つ。
  • 「なめらかに動くピストン」や「圧力を一定に保ち」という記述は、定圧変化を示唆する重要なキーワード。
  • 気体の状態変化を扱う計算では、温度は必ず絶対温度 \(T [\text{K}]\) を用いる。関係式は \(T [\text{K}] = t [^\circ\text{C}] + 273\)。

具体的な解説と立式
加熱前の気体の状態を状態1、加熱後の状態を状態2とします。それぞれの状態量は以下の通りです。
状態1: \(P_1 = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\), \(V_1 = 6.0 \times 10^{-3} \text{ m}^3\), \(t_1 = 27^\circ\text{C}\)
状態2: \(P_2 = P_1 = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) (定圧変化), 求める体積を \(V_2\), \(t_2 = 127^\circ\text{C}\)

まず、セルシウス温度を絶対温度に変換します。
$$ T_1 = 27 + 273 = 300 \text{ K} $$
$$ T_2 = 127 + 273 = 400 \text{ K} $$
圧力 \(P\) が一定なので、シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2}\) が成り立ちます。この式に各値を代入して立式します。
$$ \frac{6.0 \times 10^{-3}}{300} = \frac{V_2}{400} $$

使用した物理公式

  • シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) (圧力が一定のとき)
  • 絶対温度: \(T [\text{K}] = t [^\circ\text{C}] + 273\)
計算過程

上記で立式した式を、求める体積 \(V_2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
V_2 &= \frac{6.0 \times 10^{-3}}{300} \times 400 \\[2.0ex]&= (6.0 \times 10^{-3}) \times \frac{400}{300} \\[2.0ex]&= (6.0 \times 10^{-3}) \times \frac{4}{3} \\[2.0ex]&= 8.0 \times 10^{-3} \text{ [m}^3\text{]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ピストンが自由に動けるので、中の気体の圧力は変わりません。このような「定圧変化」では、シャルルの法則が使えます。これは「絶対温度が上がった分だけ、体積も同じ割合で増える」という法則です。まず、摂氏(℃)を絶対温度(K)に直します。27℃は300K、127℃は400Kです。温度が300Kから400Kへ、つまり \(\displaystyle\frac{400}{300} = \frac{4}{3}\) 倍になったので、体積も同じく \(\displaystyle\frac{4}{3}\) 倍になります。元の体積 \(6.0 \times 10^{-3} \text{ m}^3\) を \(\displaystyle\frac{4}{3}\) 倍して、\(8.0 \times 10^{-3} \text{ m}^3\) という答えを求めます。

結論と吟味

加熱後の気体の体積は \(8.0 \times 10^{-3} \text{ m}^3\) です。定圧下で気体を加熱したため、気体は膨張します。計算結果は元の体積 \(6.0 \times 10^{-3} \text{ m}^3\) よりも大きくなっており、物理的に妥当な結果であると言えます。

解答 (1) \(8.0 \times 10^{-3} \text{ [m}^3\text{]}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で求めた状態(状態2)から、ピストンを固定して放置した後の状態(状態3)への変化を考えます。今度は「ピストンを固定して」という記述が鍵となります。これは、気体の体積が(1)で求めた値のまま一定で、温度と圧力が変化する「定積変化」であることを示しています。したがって、体積一定の条件下での圧力と温度の関係式である「ゲイ=リュサックの法則」を適用します。より一般的な「ボイル・シャルルの法則」を用いても、体積が一定であることから同じ結果が導かれます。
この設問における重要なポイント

  • 定積変化ではゲイ=リュサックの法則 \(\displaystyle\frac{P}{T} = \text{一定}\) が成り立つ。
  • 「ピストンを固定」や「密閉容器」という記述は、定積変化を示唆するキーワード。
  • ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) は、定圧・定積・定温変化をすべて内包する万能な法則であり、どの変化か迷った場合でも適用できる。

具体的な解説と立式
変化前の状態を状態2、変化後の状態を状態3とします。それぞれの状態量は以下の通りです。
状態2: \(P_2 = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\), \(V_2 = 8.0 \times 10^{-3} \text{ m}^3\), \(t_2 = 127^\circ\text{C}\)
状態3: 求める圧力を \(P_3\), \(V_3 = V_2 = 8.0 \times 10^{-3} \text{ m}^3\) (定積変化), \(t_3 = 87^\circ\text{C}\)

まず、セルシウス温度を絶対温度に変換します。
$$ T_2 = 127 + 273 = 400 \text{ K} $$
$$ T_3 = 87 + 273 = 360 \text{ K} $$
体積 \(V\) が一定なので、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{P_2 V_2}{T_2} = \frac{P_3 V_3}{T_3}\) において \(V_2 = V_3\) であるため、両辺の体積を約分でき、ゲイ=リュサックの法則 \(\displaystyle\frac{P_2}{T_2} = \frac{P_3}{T_3}\) となります。この式に各値を代入して立式します。
$$ \frac{1.0 \times 10^5}{400} = \frac{P_3}{360} $$

使用した物理公式

  • ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\)
  • (または ゲイ=リュサックの法則: \(\displaystyle\frac{P}{T} = \text{一定}\) (体積が一定のとき))
  • 絶対温度: \(T [\text{K}] = t [^\circ\text{C}] + 273\)
計算過程

上記で立式した式を、求める圧力 \(P_3\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
P_3 &= \frac{1.0 \times 10^5}{400} \times 360 \\[2.0ex]&= (1.0 \times 10^5) \times \frac{360}{400} \\[2.0ex]&= (1.0 \times 10^5) \times \frac{9}{10} \\[2.0ex]&= 0.90 \times 10^5 \\[2.0ex]&= 9.0 \times 10^4 \text{ [Pa]}
\end{aligned}
$$
模範解答のように、ボイル・シャルルの法則に体積の値も入れて立式することもできます。
$$ \frac{(1.0 \times 10^5) \times (8.0 \times 10^{-3})}{400} = \frac{P_3 \times (8.0 \times 10^{-3})}{360} $$
この場合、両辺の体積 \(8.0 \times 10^{-3}\) が約分されるため、計算結果は同じになります。

計算方法の平易な説明

今度はピストンが固定されているので、体積は変わりません。このような「定積変化」では、「絶対温度が下がった分だけ、圧力も同じ割合で下がる」という関係(ゲイ=リュサックの法則)が成り立ちます。まず、温度を絶対温度に直します。127℃は400K、87℃は360Kです。温度が400Kから360Kへ、つまり \(\displaystyle\frac{360}{400} = \frac{9}{10}\) 倍になったので、圧力も同じく \(\displaystyle\frac{9}{10}\) 倍になります。元の圧力 \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) を \(\displaystyle\frac{9}{10}\) 倍して、\(9.0 \times 10^4 \text{ Pa}\) という答えを求めます。

結論と吟味

放置後の気体の圧力は \(9.0 \times 10^4 \text{ Pa}\) です。定積下で気体を冷却(放置して温度が下がった)したため、気体分子の運動が穏やかになり、圧力は減少します。計算結果は元の圧力 \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) よりも小さくなっており、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(9.0 \times 10^4 \text{ [Pa]}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ボイル・シャルルの法則:
    • 核心: 気体の量が一定のとき、圧力\(P\)、体積\(V\)、絶対温度\(T\)の間には常に \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) という関係が成り立つ、という法則が全ての基本です。
    • 理解のポイント:
      • この一つの法則から、問題の条件に応じて特殊な場合の法則を導き出せます。
      • 圧力が一定(定圧変化)なら、\(P\)が消去されてシャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) となります(問1)。
      • 体積が一定(定積変化)なら、\(V\)が消去されてゲイ=リュサックの法則 \(\displaystyle\frac{P}{T} = \text{一定}\) となります(問2)。
      • 温度が一定(定温変化)なら、\(T\)が消去されてボイルの法則 \(PV = \text{一定}\) となります。
  • 絶対温度の利用:
    • 核心: 気体の状態を記述する法則では、温度は必ず絶対温度 \(T\) [K] を用いなければなりません。
    • 理解のポイント:
      • 気体の圧力や体積は、分子の熱運動の激しさに比例します。その尺度が絶対温度です。セルシウス温度 \(t\) [℃] は水の氷点を0とした便宜的な尺度にすぎず、物理的なエネルギーの基準点(絶対零度)とは異なります。
      • 変換式 \(T [\text{K}] = t [^\circ\text{C}] + 273\) は必ず覚え、機械的に変換できるようにしておくことが不可欠です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ピストンと力のつり合い: ピストン自体に質量があったり、ばねがついていたり、大気圧以外の力が働いたりする問題。この場合、ピストンに働く力のつり合いを考えて、気体の圧力\(P\)をまず求める必要があります。(例: \(P \times S = P_0 \times S + mg\))
    • U字管と気体: U字管の一方を封じて気体を閉じ込め、液面の高さの差から圧力を計算させる問題。液柱による圧力(\(\rho h g\))を考慮する必要があります。
    • 複数の気体の混合: コックで仕切られた2つの容器をつなぐ問題。混合後の圧力や温度を求めます。このとき、気体の物質量(モル数)の和が保存されることを利用して、状態方程式 \(PV=nRT\) を使うと見通しが良くなります。
    • 熱力学第一法則との融合: 気体に加えられた熱量\(Q\)や、気体がした仕事\(W\)を問う問題。定圧変化での仕事は \(W_{\text{した}} = P\Delta V\)、内部エネルギーの変化は \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)(単原子分子の場合)といった公式と組み合わせて考えます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 状態変化の種類の特定: まず、問題文のキーワードから、どの状態量が一定に保たれる変化なのかを読み取ります。「なめらかに動くピストン」→ 定圧、「ピストンを固定」「剛体の容器」→ 定積、「ゆっくり温度を変える」→ 定温(ことが多い)、「断熱材で囲む」「急激に圧縮・膨張」→ 断熱、といった対応関係を覚えます。
    2. 状態量の整理: 変化の前と後で、\(P, V, T\) の値がそれぞれどうなっているかを、簡単な表や図に書き出して整理します。どの値が既知で、どの値が未知数かを明確にすることが、立式の第一歩です。
    3. 絶対温度への変換: 問題文に「℃」を見つけたら、計算を始める前に、まず「K」に変換する作業を済ませてしまいましょう。これを習慣にすることで、最もありがちなミスを防げます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 絶対温度への変換忘れ:
    • 誤解: (1)で、シャルルの法則を \( \displaystyle\frac{6.0 \times 10^{-3}}{27} = \frac{V_2}{127} \) のように、セルシウス温度のまま計算してしまう。
    • 対策: 「気体の法則は、絶対温度が絶対!」と覚えてください。問題文に出てきたセルシウス温度の値に丸をつけ、そのすぐ横に「+273」と書き込んで絶対温度の値をメモする癖をつけると、忘れにくくなります。
  • 状態変化の条件の混同:
    • 誤解: (2)は(1)の続きの問題なので、(1)と同じ定圧変化だと勘違いし、圧力を \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) のままで計算してしまう。
    • 対策: 設問が変わるたびに、状況設定をリセットして考え直すことが重要です。(1)は「ピストンが動く」→定圧、(2)は「ピストンを固定」→定積、というように、各段階での束縛条件を正確に把握する訓練をしましょう。
  • 法則の適用ミス:
    • 誤解: 定圧変化なのにボイルの法則(\(PV=\text{一定}\))を適用したり、定積変化なのにシャルルの法則(\(\frac{V}{T}=\text{一定}\))を適用してしまう。
    • 対策: どの法則を使うか迷ったら、万能な「ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{PV}{T}=\text{一定}\)」から出発するのが最も安全です。この式を書き、問題文の条件(例:\(P_1=P_2\))を代入すれば、自然と正しい関係式が導かれます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • ボイル・シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\)):
    • 選定理由: この問題は、一定量の気体の状態が変化する現象を扱っています。気体の状態は主に圧力\(P\)、体積\(V\)、温度\(T\)の3つの物理量で記述され、これらの関係を包括的に結びつけるのがボイル・シャルルの法則だからです。
    • 適用根拠:
      • 問(1)の状況: 「ピストンが自由に動く」という条件から、内部の気体の圧力は大気圧とつり合って一定に保たれる(定圧変化)と判断できます。したがって、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{P_1V_1}{T_1} = \frac{P_2V_2}{T_2}\) において \(P_1=P_2\) なので、これを約分したシャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2}\) を適用するのが合理的です。
      • 問(2)の状況: 「ピストンを固定」という条件から、気体の体積が一定に保たれる(定積変化)と判断できます。したがって、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{P_2V_2}{T_2} = \frac{P_3V_3}{T_3}\) において \(V_2=V_3\) なので、これを約分したゲイ=リュサックの法則 \(\displaystyle\frac{P_2}{T_2} = \frac{P_3}{T_3}\) を適用するのが合理的です。
    • このように、まず最も一般的な法則であるボイル・シャルルの法則を念頭に置き、問題の物理的状況に応じて「何が一定か」を見抜き、式を簡略化して適用するという思考プロセスが、応用力を高める上で非常に有効です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 状態量の整理: 計算を始める前に、変化前(状態1)と変化後(状態2)の \(P, V, T\) の値を書き出す習慣をつけましょう。例えば、「\(P_1 = 1.0 \times 10^5\), \(V_1 = 6.0 \times 10^{-3}\), \(T_1 = 300\), \(P_2 = 1.0 \times 10^5\), \(V_2 = ?\), \(T_2 = 400\)」のように一覧にすると、どの値をどこに代入すればよいかが一目瞭然となり、ケアレスミスを防げます。
  • 分数の計算は後回し: \(V_2 = \displaystyle\frac{6.0 \times 10^{-3}}{300} \times 400\) のような式では、まず \(\displaystyle\frac{400}{300}\) の部分を約分して \(\displaystyle\frac{4}{3}\) という簡単な分数に直してから、\(6.0 \times 10^{-3}\) に掛けるようにします。途中で小数計算をすると、数字が複雑になり、間違いやすくなります。
  • 指数の扱いに注意: \(10^5\) や \(10^{-3}\) といった指数部分は、係数部分(\(1.0\) や \(6.0\) など)とは別にして計算を進め、最後にまとめるのが安全です。
  • 検算の意識: (2)で圧力を求めた後、\(P_3 = P_2 \times \displaystyle\frac{T_3}{T_2}\) という関係になっていることを確認します。温度が \(400 \text{ K}\) から \(360 \text{ K}\) に下がっているので、圧力も元の値より小さくなるはずです。\(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) より小さい \(9.0 \times 10^4 \text{ Pa}\) という結果は妥当である、と確認する習慣が大切です。

例題41 気体分子の熱運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「気体分子運動論による圧力と内部エネルギーの導出」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量と力積の関係: 分子が壁に衝突する際に、運動量が変化します。この運動量の変化が、壁から受けた力積に等しくなります。
  2. 力積と平均の力の関係: 力積を衝突が起こっている時間で割ることで、その間に働く平均の力を求めることができます。
  3. ミクロな量とマクロな量の対応: 個々の分子の運動(ミクロな視点)を多数集めて平均化することで、気体全体の圧力や温度(マクロな物理量)を説明することができます。
  4. 統計的な平均の考え方: 分子の運動は乱雑で方向によらない(等方的)という仮定から、速度の各成分の2乗平均値は等しく、全体の3分の1になるという関係 (\(\bar{v_x^2} = \frac{1}{3}\bar{v^2}\)) を用います。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (①-⑤) まず1個の分子に着目し、壁との1回の衝突による運動量の変化を計算し、それをもとに壁が分子から受ける平均の力を導出します。
  2. (⑥-⑨) 次にN個の分子全体を考え、統計的な平均操作を用いて、壁が受ける全圧力と体積の関係式 (\(pV = \dots\)) を導出します。
  3. (⑩-⑪) 最後に、分子運動論から導出した式と、実験則である理想気体の状態方程式を比較することで、分子1個の平均運動エネルギーと絶対温度の関係を明らかにします。

問①

思考の道筋とポイント
壁S(\(x=L\))との1回の衝突による、分子の運動量の変化を求めます。運動量はベクトル量であり、この衝突ではx成分のみが変化することに注意します。問題文の「弾性衝突」という条件から、衝突の前後で速さは変わらず、壁に垂直な速度成分の向きだけが反転します。
この設問における重要なポイント

  • 弾性衝突では、壁に垂直な速度成分の向きだけが反転する。
  • 運動量の変化 = (衝突後の運動量) – (衝突前の運動量)。
  • 運動量はベクトル量なので、向き(符号)を正しく扱う。

具体的な解説と立式
衝突前の分子の速度のx成分は \(v_x\) なので、x方向の運動量は \(mv_x\) です。
弾性衝突により、衝突後の速度のx成分は \(-v_x\) となります。したがって、衝突後のx方向の運動量は \(m(-v_x)\) です。
y成分、z成分は壁と平行なため変化しません。
よって、1回の衝突による運動量の変化 \(\Delta p\) は、x成分の変化のみを考えればよく、
$$ \Delta p = (\text{衝突後の運動量}) – (\text{衝突前の運動量}) $$
と立式できます。

使用した物理公式

  • 運動量: \(p = mv\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\Delta p &= m(-v_x) – mv_x \\[2.0ex]&= -2mv_x
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ボールが壁に当たって同じ速さでまっすぐ跳ね返るのをイメージしてください。衝突前は右向きに \(mv_x\)、衝突後は左向きに \(-mv_x\) の運動量を持っています。変化量は「あと」ひく「まえ」なので、\((-mv_x) – (mv_x)\) となり、合計で \(-2mv_x\) となります。マイナスの符号は、運動量の変化の向きが左向き(-x方向)であることを示しています。

結論と吟味

1回の衝突による運動量の変化は \(-2mv_x\) です。これは分子が壁から-x方向に力を受けた(力積を受けた)ことを意味しており、物理的に妥当です。

解答 ① \(-2mv_x\)

問②

思考の道筋とポイント
分子が壁Sに衝突してから、次に再び壁Sに衝突するまでの時間を求めます。この間、分子はx方向に往復運動をします。x方向の運動にのみ着目して考えます。
この設問における重要なポイント

  • 分子は壁S(\(x=L\))から反対側の壁(\(x=0\))まで進み、跳ね返って再び壁Sに戻ってくる。
  • 往復運動の距離は \(2L\) である。
  • x方向の速さの大きさは衝突の前後で変わらず、常に \(v_x\) である。

具体的な解説と立式
分子が壁Sを離れてから次に壁Sに衝突するまでの移動距離は、壁S(\(x=L\))から壁(\(x=0\))までの距離Lと、壁(\(x=0\))から壁S(\(x=L\))に戻るまでの距離Lの合計、つまり往復距離 \(2L\) です。
この間のx方向の速さの大きさは常に \(v_x\) なので、かかる時間 \(\Delta t\) は「距離 ÷ 速さ」で求められます。
$$ \Delta t = \frac{\text{往復距離}}{\text{速さ}} $$

使用した物理公式

  • 時間 = 距離 / 速さ
計算過程

$$
\begin{aligned}
\Delta t &= \frac{2L}{v_x}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

長さLの部屋の端から端まで往復するのにかかる時間を計算するのと同じです。往復なので移動距離は \(2L\)、速さは \(v_x\) なので、かかる時間は \(\displaystyle\frac{2L}{v_x}\) となります。

結論と吟味

分子が再びSと衝突するまでの時間は \(\displaystyle\frac{2L}{v_x}\) です。速さが速いほど、また容器が小さいほど、時間は短くなるという直感に合う結果です。

解答 ② \(\displaystyle\frac{2L}{v_x}\)

問③

思考の道筋とポイント
ある時間 \(t\) の間に、分子が壁Sに何回衝突するかを計算します。これは、総時間を1回の衝突にかかる時間で割ることで求められます。
この設問における重要なポイント

  • 1回の衝突にかかる時間(衝突の時間間隔)は、②で求めた \(\Delta t = \displaystyle\frac{2L}{v_x}\) である。
  • 衝突回数 = (総時間) / (1回あたりの時間)。

具体的な解説と立式
時間 \(t\) の間の衝突回数を \(N_{\text{衝突}}\) とします。1回衝突するのに \(\displaystyle\frac{2L}{v_x}\) の時間がかかるので、時間 \(t\) の間の衝突回数は、
$$ N_{\text{衝突}} = \frac{t}{\Delta t} $$
で計算できます。

使用した物理公式

  • (特になし)
計算過程

$$
\begin{aligned}
N_{\text{衝突}} &= \frac{t}{\left(\displaystyle\frac{2L}{v_x}\right)} \\[2.0ex]&= \frac{v_x t}{2L}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

例えば、1回の衝突に2秒かかるとします。では、10秒間では何回衝突するでしょうか。答えは 10 ÷ 2 = 5回です。これと同じ計算をしています。総時間 \(t\) を、1回の衝突にかかる時間 \(\displaystyle\frac{2L}{v_x}\) で割っています。

結論と吟味

時間 \(t\) の間の衝突回数は \(\displaystyle\frac{v_x t}{2L}\) です。時間が長いほど、速さが速いほど衝突回数は増え、容器が大きいほど減るという、直感に合う結果です。

解答 ③ \(\displaystyle\frac{v_x t}{2L}\)

問④

思考の道筋とポイント
時間 \(t\) の間に「分子が壁Sから受ける力積」を求めます。これは、1回の衝突で分子が受ける力積と、時間 \(t\) の間の衝突回数の積で計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 分子が受ける力積の合計 = (1回の衝突で受ける力積) × (衝突回数)。
  • 1回の衝突で分子が受ける力積は、①で求めた運動量の変化 \(-2mv_x\) に等しい。
  • 力積はベクトル量であり、符号は向きを表す。

具体的な解説と立式
時間 \(t\) の間に分子が壁Sから受ける力積の合計を \(I_{\text{分子}}\) とします。これは、1回の衝突による運動量の変化(①の結果)と、時間 \(t\) の間の衝突回数(③の結果)の積で与えられます。
$$ I_{\text{分子}} = (-2mv_x) \times \left(\frac{v_x t}{2L}\right) $$

使用した物理公式

  • 力積と運動量の関係: \(I = \Delta p\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
I_{\text{分子}} &= (-2mv_x) \times \left(\frac{v_x t}{2L}\right) \\[2.0ex]&= -\frac{mv_x^2 t}{L}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

1回の衝突で分子が受ける衝撃(力積)は①で \(-2mv_x\) とわかりました。③で時間 \(t\) の間に衝突する回数もわかっています。この2つを掛け合わせれば、時間 \(t\) の間に分子が受けるトータルの衝撃がわかります。

結論と吟味

分子が壁から受ける力積は \(-\displaystyle\frac{mv_x^2 t}{L}\) となります。これは分子が壁から-x方向に力積を受けたことを意味し、物理的に正しい結果です。

解答 ④ \(\displaystyle -\frac{mv_x^2 t}{L}\)

問⑤

思考の道筋とポイント
壁Sが1個の分子から受ける平均の力の大きさ \(f\) を求めます。力積と平均の力の関係式 \(I = f \Delta t\) を利用します。
この設問における重要なポイント

  • 平均の力 = (力積) / (時間)。
  • 壁が分子から受ける力積は、分子が壁から受ける力積と作用・反作用の関係にある。その大きさは④の結果から \(\displaystyle\frac{mv_x^2 t}{L}\) である。

具体的な解説と立式
壁が分子から受ける平均の力 \(f\) と、壁が分子から受ける力積 \(I_{\text{壁}}\) の間には、\(I_{\text{壁}} = f \times t\) の関係があります。作用・反作用の法則より、\(I_{\text{壁}}\) は分子が壁から受ける力積 \(I_{\text{分子}}\) と符号が逆になります。
$$ I_{\text{壁}} = – I_{\text{分子}} = – \left( -\frac{mv_x^2 t}{L} \right) = \frac{mv_x^2 t}{L} $$
したがって、平均の力 \(f\) は次のように立式できます。
$$ f = \frac{I_{\text{壁}}}{t} $$

使用した物理公式

  • 力積と平均の力の関係: \(I = f \Delta t\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
f &= \frac{1}{t} \left( \frac{mv_x^2 t}{L} \right) \\[2.0ex]&= \frac{mv_x^2}{L}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

「平均の力 × 時間 = 力積」という関係があります。④の結果から、壁が分子から受けた力積の大きさは \(\displaystyle\frac{mv_x^2 t}{L}\) です。これを時間 \(t\) で割れば、壁が受けた平均の力が求められます。

結論と吟味

壁Sが1個の分子から受ける平均の力は \(\displaystyle\frac{mv_x^2}{L}\) です。分子の質量が大きいほど、速さが速いほど、力が強くなるという直感に合った結果です。

解答 ⑤ \(\displaystyle\frac{mv_x^2}{L}\)

問⑥

思考の道筋とポイント
分子の速度の2乗の平均値 \(\bar{v^2}\) と、そのx成分の2乗の平均値 \(\bar{v_x^2}\) の関係を求めます。分子の運動がどの方向にも偏りがない(等方的である)という、気体分子運動論の重要な仮定を用います。
この設問における重要なポイント

  • 三平方の定理より、\(v^2 = v_x^2 + v_y^2 + v_z^2\) が成り立つ。この関係は平均値についても同様に \(\bar{v^2} = \bar{v_x^2} + \bar{v_y^2} + \bar{v_z^2}\) が成り立つ。
  • 気体分子は乱雑に運動しており、特定の方向に偏りがない(等方性)ため、統計的には各方向の運動は同等とみなせる。すなわち \(\bar{v_x^2} = \bar{v_y^2} = \bar{v_z^2}\)。

具体的な解説と立式
速度の平均値について、三平方の定理と等方性の仮定を組み合わせます。
$$ \bar{v^2} = \bar{v_x^2} + \bar{v_y^2} + \bar{v_z^2} $$
等方性より \(\bar{v_y^2}\) と \(\bar{v_z^2}\) を \(\bar{v_x^2}\) で置き換えることができます。
$$ \bar{v^2} = \bar{v_x^2} + \bar{v_x^2} + \bar{v_x^2} $$

使用した物理公式

  • (特になし)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\bar{v^2} &= 3\bar{v_x^2}
\end{aligned}
$$
この式を \(\bar{v_x^2}\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
\bar{v_x^2} &= \frac{1}{3}\bar{v^2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

分子の運動エネルギーは、x, y, zの3つの方向の運動エネルギーの合計です。分子はどの方向にも同じようにバラバラに動いているので、平均すると、3方向のエネルギーは同じになります。したがって、x方向のエネルギーは、全体のエネルギーの3分の1になります。速さの2乗はエネルギーに比例するので、\(\bar{v_x^2}\) は \(\bar{v^2}\) の3分の1になります。

結論と吟味

\(\bar{v_x^2} = \displaystyle\frac{1}{3}\bar{v^2}\) となります。これは気体分子運動論における基本的な関係式の一つです。

解答 ⑥ \(\displaystyle\frac{1}{3}\bar{v^2}\)

問⑦

思考の道筋とポイント
N個すべての分子から壁Sが受ける力の合計の大きさ \(F\) を求めます。1個の分子が及ぼす平均の力(⑤の結果)をN個分合計します。
この設問における重要なポイント

  • N個の分子はそれぞれ異なる速度で運動しているため、1分子あたりの平均の力を考える際には、速度の2乗 \(v_x^2\) をその平均値 \(\bar{v_x^2}\) で置き換える必要がある。
  • N個の分子からの力の合計は、1分子あたりの平均の力 \(\times N\)。
  • ⑥で求めた \(\bar{v_x^2} = \frac{1}{3}\bar{v^2}\) の関係を利用して、式を \(\bar{v^2}\) で表す。

具体的な解説と立式
1個の分子が壁Sに及ぼす平均の力は、⑤の結果から \(\displaystyle\frac{mv_x^2}{L}\) です。
N個の分子全体を考えるには、この \(v_x^2\) をその平均値 \(\bar{v_x^2}\) で置き換えたものを、分子の数 \(N\) 倍します。
$$ F = N \times \frac{m\bar{v_x^2}}{L} $$
ここに、⑥で求めた \(\bar{v_x^2} = \displaystyle\frac{1}{3}\bar{v^2}\) を代入します。

使用した物理公式

  • (特になし)
計算過程

$$
\begin{aligned}
F &= N \frac{m}{L} \left( \frac{1}{3}\bar{v^2} \right) \\[2.0ex]&= \frac{N m \bar{v^2}}{3L}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

1個の分子が壁を押す平均の力は \(\displaystyle\frac{m\bar{v_x^2}}{L}\) でした。N個の分子があれば、単純にこのN倍の力がかかると考えます。さらに、x方向だけでなく気体全体の速さの平均 \(\bar{v^2}\) を使って表すために、⑥の関係式を使って書き換えます。

結論と吟味

N個の分子から壁Sが受ける力の大きさFは \(\displaystyle\frac{N m \bar{v^2}}{3L}\) と表せます。

解答 ⑦ \(\displaystyle\frac{N m \bar{v^2}}{3L}\)

問⑧

思考の道筋とポイント
壁Sが受ける圧力 \(p\) を求めます。圧力は単位面積あたりの力として定義されます。
この設問における重要なポイント

  • 圧力 = (力) / (面積)。
  • 壁Sの面積は \(S = L^2\)。
  • 容器の体積 \(V = L^3\) を用いて式を整理する。

具体的な解説と立式
圧力 \(p\) は、⑦で求めた力 \(F\) を、力が働いている壁の面積 \(S=L^2\) で割ることで求められます。
$$ p = \frac{F}{S} = \frac{F}{L^2} $$
この式に⑦の結果を代入します。

使用した物理公式

  • 圧力の定義: \(p = \displaystyle\frac{F}{S}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
p &= \frac{1}{L^2} \left( \frac{N m \bar{v^2}}{3L} \right) \\[2.0ex]&= \frac{N m \bar{v^2}}{3L^3}
\end{aligned}
$$
ここで、立方体の体積が \(V=L^3\) であることを用いて書き換えると、
$$
\begin{aligned}
p &= \frac{N m \bar{v^2}}{3V}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

圧力とは、壁全体にかかる力を、その壁の面積で割った値です。⑦で求めた力 \(F\) を、壁の面積 \(L^2\) で割るだけです。式の形をきれいにするために、分母に出てきた \(L^3\) を体積 \(V\) に置き換えます。

結論と吟味

圧力pは \(\displaystyle\frac{N m \bar{v^2}}{3V}\) となります。分子の数が多いほど、質量が大きいほど、速さが速いほど圧力が高くなり、体積が大きいほど圧力が低くなるという、直感に合う結果です。

解答 ⑧ \(\displaystyle\frac{N m \bar{v^2}}{3V}\)

問⑨

思考の道筋とポイント
⑧で求めた圧力の式を、\(pV = \dots\) の形に書き換えます。これは、後の理想気体の状態方程式との比較を容易にするためです。
この設問における重要なポイント

  • ⑧の式の両辺に体積 \(V\) を掛ける。

具体的な解説と立式
⑧で導出した圧力の式 \(p = \displaystyle\frac{N m \bar{v^2}}{3V}\) の両辺に体積 \(V\) を掛けます。

使用した物理公式

  • (特になし)
計算過程

$$
\begin{aligned}
p \times V &= \left( \frac{N m \bar{v^2}}{3V} \right) \times V \\[2.0ex]pV &= \frac{N m \bar{v^2}}{3}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

⑧で求めた式の分母にある \(V\) を、左辺に移項するだけの簡単な式変形です。

結論と吟味

\(pV = \displaystyle\frac{N m \bar{v^2}}{3}\) となります。この式は、気体の圧力と体積の積が、分子の数と平均の運動エネルギーの総和に比例することを示しています。

解答 ⑨ \(\displaystyle\frac{N m \bar{v^2}}{3}\)

問⑩

思考の道筋とポイント
分子1個の平均運動エネルギー \(\frac{1}{2}m\bar{v^2}\) と絶対温度 \(T\) の関係を導きます。そのために、分子運動論から導いた理論式(⑨の結果)と、実験則である理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を比較します。
この設問における重要なポイント

  • 分子運動論の式: \(pV = \displaystyle\frac{N m \bar{v^2}}{3}\)
  • 理想気体の状態方程式: \(pV = nRT\)
  • 物質量 \(n\)、分子数 \(N\)、アボガドロ定数 \(N_A\) の関係: \(n = \displaystyle\frac{N}{N_A}\)

具体的な解説と立式
2つの \(pV\) の式を等しいとおきます。
$$ \frac{N m \bar{v^2}}{3} = nRT $$
この式の物質量 \(n\) を、分子数 \(N\) とアボガドロ定数 \(N_A\) を用いて書き換えます。
$$ \frac{N m \bar{v^2}}{3} = \left( \frac{N}{N_A} \right) RT $$
この式を、求めたい \(\frac{1}{2}m\bar{v^2}\) の形になるように変形します。

使用した物理公式

  • 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
  • 物質量の定義: \(n = \displaystyle\frac{N}{N_A}\)
計算過程

まず、両辺にある \(N\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
\frac{m \bar{v^2}}{3} &= \frac{RT}{N_A}
\end{aligned}
$$
次に、左辺が \(\frac{1}{2}m\bar{v^2}\) となるように、両辺に \(\displaystyle\frac{3}{2}\) を掛けます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m\bar{v^2} &= \frac{3}{2} \frac{RT}{N_A} \\[2.0ex]&= \frac{3R}{2N_A}T
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ミクロな分子の運動から計算した \(pV\) の式と、実験で確かめられている \(pV\) の式(状態方程式)は、同じ気体の状態を表しているので、イコールで結ぶことができます。この等式を整理すると、分子1個あたりの平均の運動エネルギーが、絶対温度 \(T\) を使って表せることがわかります。

結論と吟味

\(\frac{1}{2}m\bar{v^2} = \displaystyle\frac{3R}{2N_A}T\) となります。この式は、気体分子の平均運動エネルギーが絶対温度のみによって決まるという、非常に重要な結果を示しています。

解答 ⑩ \(\displaystyle\frac{3R}{2N_A}T\)

問⑪

思考の道筋とポイント
⑩で得られた結果から、理想気体の分子の平均の運動エネルギーが何に比例するかを結論付けます。
この設問における重要なポイント

  • ⑩の式 \(\frac{1}{2}m\bar{v^2} = \displaystyle\frac{3R}{2N_A}T\) において、何が定数で何が変数かを見極める。
  • \(R\) は気体定数、\(N_A\) はアボガドロ定数であり、どちらも定数。

具体的な解説と立式
⑩で導出した関係式は、
$$ (\text{平均運動エネルギー}) = (\text{定数}) \times (\text{絶対温度}) $$
という形をしています。
具体的には、比例定数は \(\displaystyle\frac{3R}{2N_A}\) です。この値はボルツマン定数 \(k_B\) と呼ばれることもあります。
したがって、平均運動エネルギーは絶対温度 \(T\) に比例します。

使用した物理公式

  • (特になし)
計算過程
  • (計算は不要)
計算方法の平易な説明

⑩で求めた式 \(\frac{1}{2}m\bar{v^2} = \displaystyle\frac{3R}{2N_A}T\) を見てみましょう。右辺の \(R\) と \(N_A\) は決まった値(定数)なので、\(\displaystyle\frac{3R}{2N_A}\) は全体として一つの定数です。つまり、分子の平均運動エネルギーは「定数 × 絶対温度」という関係になっています。これは、運動エネルギーが絶対温度に比例することを意味します。

結論と吟味

理想気体の分子の平均の運動エネルギーは、絶対温度 \(T\) に比例し、気体の種類(分子の質量 \(m\))や圧力、体積には無関係であることがわかります。これは熱力学における根幹をなす重要な結論です。

解答 ⑪ 絶対温度 \(T\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ミクロな運動とマクロな物理量の架け橋:
    • 核心: この問題の最大のテーマは、目に見えない「個々の分子の力学的な運動」(ミクロな振る舞い)から、我々が測定できる「気体全体の圧力や温度」(マクロな性質)を理論的に導き出すプロセスそのものです。
    • 理解のポイント:
      • 圧力の起源: 気体の圧力は、無数の分子が壁に衝突し、その運動量を変化させることで壁に及ぼす力の集まりとして説明されます。運動量と力積の関係が、圧力の根源を解明する鍵となります。
      • 温度の正体: 分子1個の平均運動エネルギーが、気体の絶対温度と直接結びついていることを明らかにします。温度が高いとは、分子が激しく運動している状態である、という直感的なイメージが数式で証明されます。
  • 統計的な平均操作の威力:
    • 核心: \(N\)個という膨大な数の分子を個別に追跡することは不可能です。そのため、個々の分子の速度ではなく「平均値」を考え、統計的に扱うという考え方が不可欠です。
    • 理解のポイント:
      • 運動の等方性: 分子の運動はどの方向にも偏りがない(等方的)という仮定から、\(\bar{v_x^2} = \bar{v_y^2} = \bar{v_z^2}\) となり、結果として \(\bar{v_x^2} = \displaystyle\frac{1}{3}\bar{v^2}\) という、計算を飛躍的に単純化する重要な関係が導かれます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 内部エネルギーの導出: この問題で導いた \(\frac{1}{2}m\bar{v^2} = \displaystyle\frac{3R}{2N_A}T\) は、分子1個の平均並進運動エネルギーです。N個の分子からなる単原子分子理想気体の内部エネルギー \(U\) は、このN倍、つまり \(U = N \times \displaystyle\frac{3R}{2N_A}T = \frac{3}{2}nRT\) となります。この関係式を導出させる問題は頻出です。
    • 二原子分子の場合: 問題が二原子分子になると、並進運動(3方向)に加えて回転運動(2方向)も考慮する必要が出てきます。エネルギー等分配の法則により、1自由度あたり \(\frac{1}{2}k_B T\)(\(k_B = R/N_A\))のエネルギーが分配されるため、平均運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{5}{2}k_B T\)、内部エネルギーは \(U = \displaystyle\frac{5}{2}nRT\) となります。この拡張を問う問題もあります。
    • 気体分子の速さ(二乗平均速度): \(\frac{1}{2}m\bar{v^2} = \displaystyle\frac{3}{2}k_B T\) の式から、速さの目安となる \(\sqrt{\bar{v^2}}\)(二乗平均速度の平方根)を \(T, m, k_B\) で表させる問題。温度が高いほど、分子量が小さい(軽い)ほど速くなることがわかります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. ミクロかマクロか: 問題が「1個の分子」について問うているのか、「N個の気体全体」について問うているのかを明確に区別します。
    2. 導出のステップを意識する: この問題は(①〜⑪)までが一連のストーリーになっています。「1分子の1衝突」→「1分子の長時間平均」→「N分子の合計」→「圧力・体積へ」→「状態方程式との比較」という流れを頭に入れておくと、自分が今どの段階の計算をしているのかが明確になります。
    3. 平均操作のタイミング: \(v_x^2\) を \(\bar{v_x^2}\) に、そして \(\displaystyle\frac{1}{3}\bar{v^2}\) に置き換えるタイミングが重要です。これは、多数の分子(N個)を扱い始めた時点(この問題では⑦)で行います。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 運動量の変化の計算ミス:
    • 誤解: ①で運動量の変化を \(mv_x – m(-v_x) = 2mv_x\) と計算してしまう(向きを考慮しない)、あるいは \(mv_x – mv_x = 0\) と計算してしまう(ベクトルの引き算を忘れる)。
    • 対策: 運動量はベクトル量であることを常に意識し、「変化量 = 後の量 – 前の量」という定義を徹底します。x軸の正の向きを基準に、衝突前は \(+mv_x\)、衝突後は \(-mv_x\) と符号をつけて計算します。
  • 往復距離の勘違い:
    • 誤解: ②で、分子が壁Sに次に衝突するまでの距離を \(L\) と勘違いし、時間を \(\displaystyle\frac{L}{v_x}\) としてしまう。
    • 対策: 図を描いて分子の動きを追跡します。壁Sに衝突した分子は、反対側の壁(\(x=0\))まで行って跳ね返り、再び壁Sに戻ってくるので、移動距離は往復の \(2L\) であることを視覚的に確認します。
  • 平均の力と個々の力の混同:
    • 誤解: ⑤で求めるのは、衝突が繰り返されることによる「平均」の力です。衝突している瞬間の力(撃力)とは異なります。
    • 対策: 「力積を時間で割ると平均の力が求まる」という定義をしっかり理解します。この問題の流れは、まさにその定義を計算で実行しているプロセスです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 運動量と力積の関係 (\(I = \Delta p\)):
    • 選定理由: 気体の圧力は、無数の分子が壁に衝突することで生じます。この「衝突」という現象を力学的に記述するための基本ツールが運動量と力積です。分子1個の衝突による運動量の変化を計算することが、圧力の根源を探る第一歩となります。
    • 適用根拠: ①で分子の運動量の変化を計算し、④でそれを力積と結びつけています。これは、圧力というマクロな現象の起源を、ミクロな粒子の力学に求めるという分子運動論の基本思想そのものです。
  • 理想気体の状態方程式 (\(pV=nRT\)):
    • 選定理由: これは実験的に確立された、気体のマクロな状態量(\(p, V, T, n\))を結びつける関係式です。
    • 適用根拠: ⑩で、分子運動論という純粋に理論的なアプローチから導かれた式 (\(pV = \displaystyle\frac{1}{3}Nm\bar{v^2}\)) と、この実験則を比較します。これにより、理論モデルの中に現れた「分子の平均運動エネルギー」というミクロな量が、実験で測定可能な「絶対温度」というマクロな量とどう対応するのか、という物理的に非常に重要な関係を導き出すことができます。これは、異なる起源を持つ2つの式を等しいとおくことで、新たな知見を得る物理学の王道的な手法です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字の区別: \(v\), \(\bar{v^2}\), \(\bar{v_x^2}\) など、似たような文字が多数出てきます。それぞれの物理的な意味を正確に理解し、混同しないように注意深く計算を進めます。特に、平均を表すバー(上線)をつけ忘れないようにします。
  • 分数の計算: ③で \(\displaystyle\frac{t}{2L/v_x}\) のような繁分数を計算する際は、分母と分子に \(v_x\) を掛けるなど、慎重に処理します。
  • 段階的な代入: ⑦や⑧のように、前の設問の結果を代入して計算を進める問題では、一気に代入しようとせず、一つずつ段階的に代入していくとミスが減ります。例えば、まず \(F = N \times f\) を書き、次に \(f\) に \(\displaystyle\frac{m\bar{v_x^2}}{L}\) を代入し、最後に \(\bar{v_x^2}\) に \(\displaystyle\frac{1}{3}\bar{v^2}\) を代入する、というようにステップを踏みます。
  • 最終的な式の物理的意味の確認: ⑧で求めた圧力の式 \(p = \displaystyle\frac{N m \bar{v^2}}{3V}\) が、直感に合うか確認します。分子の数\(N\)や速さ\(\bar{v^2}\)が大きいほど圧力が高く、体積\(V\)が大きいほど圧力が低くなる、という関係は物理的に妥当です。このような吟味を行うことで、計算ミスに気づくことがあります。
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