181 比熱の測定
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、熱量計を用いて金属球の比熱を測定する、典型的な熱量計算の問題です。熱量保存則という、熱力学における基本的な法則を正しく適用できるかが問われます。
この問題の核心は、高温の物体が失った熱量と、低温の物体が得た熱量が等しくなるという「熱量保存則」を理解し、立式することです。また、熱量を受け取る物体が「水」と「熱量計」の2つある点に注意が必要です。
- 熱量計の熱容量: \(C_{\text{計}} = 50.0 \text{ J/K}\)
- 水の質量: \(m_{\text{水}} = 200 \text{ g}\)
- 水の比熱: \(c_{\text{水}} = 4.2 \text{ J/(g·K)}\)
- 金属球の質量: \(m_{\text{金属}} = 50 \text{ g}\)
- 実験1(問1, 2):
- 投入前の水と熱量計の温度: \(T_{\text{初1}} = 18.9 \text{ ℃}\)
- 投入前の金属球の温度: \(T_{\text{金属1}} = 100.0 \text{ ℃}\)
- かくはん後の全体の温度(平衡温度): \(T_{\text{平1}} = 20.9 \text{ ℃}\)
- 実験2(問3):
- 投入前の水と熱量計の温度: \(T_{\text{初2}} = 18.9 \text{ ℃}\)
- かくはん後の全体の温度(平衡温度): \(T_{\text{平2}} = 20.7 \text{ ℃}\)
- その他: 熱量計と外部との熱の出入りは無視できる。
- (1) 実験1で、金属球から水と熱量計に移動した熱量 \(Q_{\text{得}}\)。
- (2) 金属球の比熱 \(c_{\text{金属}}\)。
- (3) 実験2で、熱量計に入れる直前の金属球の温度 \(t\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「熱量保存則を用いた比熱の測定」です。異なる温度の物体を接触させたときの熱の移動を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 熱量の計算式: 物体が得る、または失う熱量を計算する公式です。質量 \(m\)、比熱 \(c\)、温度変化 \(\Delta T\) を用いる \(Q = mc\Delta T\) と、熱容量 \(C\)、温度変化 \(\Delta T\) を用いる \(Q = C\Delta T\) の2つを使い分けます。
- 熱量保存則: 断熱された系の中では、熱の移動は内部だけで起こります。この法則は2通りの表現ができます。
- (A) 熱の移動量に着目: 高温物体が失った熱量の総和と、低温物体が得た熱量の総和は等しい。(\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\))
- (B) エネルギーの総和に着目: 系全体のエネルギーは保存されるため、ある基準温度における熱量の総和は、変化の前後で等しい。
- 温度変化 \(\Delta T\) の扱い: 熱量の計算で用いる温度変化 \(\Delta T\) は、セルシウス温度(℃)の差で計算しても、絶対温度(K)の差で計算しても同じ値になります。問題文の単位に合わせてセルシウス温度で計算するのが簡便です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず(1)で、低温側である水と熱量計が、温度上昇によって得た熱量をそれぞれの公式を用いて計算し、合計します。
- 次に(2)で、熱量保存則(高温の金属球が失った熱量 = (1)で求めた熱量)を立式し、未知数である金属球の比熱 \(c_{\text{金属}}\) を求めます。
- 最後に(3)で、2回目の実験について同様に熱量保存則を考えます。(2)で求めた比熱 \(c_{\text{金属}}\) を用いて、未知数である金属球の初期温度 \(t\) を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
金属球から水と熱量計に移動した熱量を求める問題です。これは、低温側である「水」と「熱量計」が得た熱量の合計に等しくなります。それぞれの物体が得た熱量を、適切な公式を使って計算し、最後にそれらを足し合わせます。
この設問における重要なポイント
- 熱量を受け取った物体: 熱を受け取ったのは「水」と「熱量計」の2つです。両方を考慮する必要があります。
- 水が得た熱量の計算: 水は質量 \(m_{\text{水}}\) と比熱 \(c_{\text{水}}\) が与えられているので、公式 \(Q = mc\Delta T\) を用います。
- 熱量計が得た熱量の計算: 熱量計は熱容量 \(C_{\text{計}}\) が与えられているので、公式 \(Q = C\Delta T\) を用います。
- 共通の温度変化: 水と熱量計は一体となって温度が上昇するため、温度変化 \(\Delta T\) は両者で共通です。 \(\Delta T = (\text{後の温度}) – (\text{前の温度}) = 20.9 – 18.9 = 2.0 \text{ ℃}\) となります。
具体的な解説と立式
低温側である水と熱量計が得た熱量をそれぞれ \(Q_{\text{水}}\)、\(Q_{\text{計}}\) とします。
水が得た熱量 \(Q_{\text{水}}\) は、質量 \(m_{\text{水}}\)、比熱 \(c_{\text{水}}\)、温度変化 \(\Delta T_1 = T_{\text{平1}} – T_{\text{初1}}\) を用いて、
$$ Q_{\text{水}} = m_{\text{水}} c_{\text{水}} (T_{\text{平1}} – T_{\text{初1}}) \quad \cdots ① $$
熱量計が得た熱量 \(Q_{\text{計}}\) は、熱容量 \(C_{\text{計}}\)、同じ温度変化 \(\Delta T_1\) を用いて、
$$ Q_{\text{計}} = C_{\text{計}} (T_{\text{平1}} – T_{\text{初1}}) \quad \cdots ② $$
金属球から移動した熱量、すなわち水と熱量計が得た熱量の合計 \(Q_{\text{得1}}\) は、これらの和となります。
$$ Q_{\text{得1}} = Q_{\text{水}} + Q_{\text{計}} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 物体の得た熱量: \(Q = mc\Delta T\)
- 熱量計の得た熱量: \(Q = C\Delta T\)
①、②、③の式に与えられた値を代入して \(Q_{\text{得1}}\) を計算します。
温度変化は \(\Delta T_1 = 20.9 – 18.9 = 2.0 \text{ ℃}\) です。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{得1}} &= m_{\text{水}} c_{\text{水}} \Delta T_1 + C_{\text{計}} \Delta T_1 \\[2.0ex]&= (m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{計}}) \Delta T_1 \\[2.0ex]&= (200 \times 4.2 + 50.0) \times 2.0 \\[2.0ex]&= (840 + 50.0) \times 2.0 \\[2.0ex]&= 890 \times 2.0 \\[2.0ex]&= 1780 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
問題文中の数値の有効数字は2桁または3桁です。計算結果の1780を有効数字2桁で表すと \(1.8 \times 10^3 \text{ J}\) となります。
熱い金属球を入れたことで、冷たかった水と容器(熱量計)が温められました。このとき、水と容器がどれだけの熱エネルギーを受け取ったかを計算します。「水が受け取った熱」と「容器が受け取った熱」を別々に計算し、最後にそれらを合計することで、金属球から移動してきた全体の熱量が分かります。
水と熱量計が得た熱量は \(1780 \text{ J}\) であり、有効数字2桁で丸めると \(1.8 \times 10^3 \text{ J}\) となります。これは選択肢③と一致します。計算過程で、水が得た熱量(\(840 \times 2.0 = 1680 \text{ J}\))と熱量計が得た熱量(\(50.0 \times 2.0 = 100 \text{ J}\))を比べると、水のほうがはるかに多くの熱を得ていることがわかります。これは水の質量と比熱が大きいことに起因しており、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
金属球の比熱 \(c_{\text{金属}}\) を求める問題です。外部との熱の出入りがないため、「熱量保存則」が成り立ちます。すなわち、「高温物体(金属球)が失った熱量」と「低温物体(水+熱量計)が得た熱量」が等しくなります。この関係を数式で表し、未知数である \(c_{\text{金属}}\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 熱量保存則の適用: この問題の根幹をなす法則です。\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) という関係を立てます。
- 失った熱量の計算: 金属球が失った熱量 \(Q_{\text{失}}\) は、\(Q = mc\Delta T\) の公式を使って計算します。このときの温度変化 \(\Delta T\) は、\((\text{高温時の温度}) – (\text{低温時の温度})\) なので、\(100.0 – 20.9\) となります。
- 得た熱量の利用: 低温側が得た熱量 \(Q_{\text{得}}\) は、問(1)で計算した \(1780 \text{ J}\) をそのまま利用できます。
具体的な解説と立式
熱量保存則より、金属球が失った熱量 \(Q_{\text{失1}}\) は、水と熱量計が得た熱量 \(Q_{\text{得1}}\) に等しくなります。
$$ Q_{\text{失1}} = Q_{\text{得1}} \quad \cdots ① $$
金属球が失った熱量 \(Q_{\text{失1}}\) は、その質量 \(m_{\text{金属}}\)、比熱 \(c_{\text{金属}}\)、温度変化 \(T_{\text{金属1}} – T_{\text{平1}}\) を用いて次のように表せます。
$$ Q_{\text{失1}} = m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (T_{\text{金属1}} – T_{\text{平1}}) \quad \cdots ② $$
したがって、①と②より、以下の関係式が成り立ちます。
$$ m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (T_{\text{金属1}} – T_{\text{平1}}) = Q_{\text{得1}} $$
使用した物理公式
- 熱量保存則: \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)
- 物体の失った熱量: \(Q = mc\Delta T\)
上記で立てた式を \(c_{\text{金属}}\) について解き、与えられた値と(1)の結果を代入します。
$$
\begin{aligned}
c_{\text{金属}} &= \frac{Q_{\text{得1}}}{m_{\text{金属}} (T_{\text{金属1}} – T_{\text{平1}})} \\[2.0ex]&= \frac{1780}{50 \times (100.0 – 20.9)} \\[2.0ex]&= \frac{1780}{50 \times 79.1} \\[2.0ex]&= \frac{1780}{3955} \\[2.0ex]&\approx 0.45006… \text{ [J/(g·K)]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(0.45 \text{ J/(g·K)}\) となります。
「金属球が放出した熱」と「水と容器が受け取った熱」が等しい、というエネルギーの保存ルールを使います。(1)で計算した「受け取った熱」の量が分かっているので、それと同じだけの熱を放出するために、この金属の「温まりにくさ(比熱)」がどれくらいかを逆算します。
思考の道筋とポイント
熱の移動を、系全体のエネルギー状態の変化として捉える方法です。外部との熱のやり取りがないため、金属球、水、熱量計からなる系全体の熱エネルギーの総和は、金属球を入れる前後で変化しません。この考え方で立式します。ただし、熱エネルギーの絶対量は定義できないため、ある基準温度(例えば \(0 \text{ ℃}\))を定め、そこからの熱量として計算します。
この設問における重要なポイント
- 基準温度の設定: 全ての物体の熱量を比較するための基準となる温度、例えば \(T_0 = 0 \text{ ℃}\) を設定します。
- 初めの状態の熱量: 金属球を入れる前の、各物体の基準温度からの熱量を計算し、合計します。
- 終わりの状態の熱量: 全ての物体の温度が平衡温度 \(T_{\text{平1}}\) になったときの、各物体の基準温度からの熱量を計算し、合計します。
- エネルギー保存則の立式: 「初めの熱量の総和」=「終わりの熱量の総和」という式を立てます。
具体的な解説と立式
基準温度を \(T_0 = 0 \text{ ℃}\) とします。
金属球を入れる前の系の熱量の総和 \(U_{\text{前}}\) は、
$$ U_{\text{前}} = m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (T_{\text{金属1}} – T_0) + m_{\text{水}} c_{\text{水}} (T_{\text{初1}} – T_0) + C_{\text{計}} (T_{\text{初1}} – T_0) \quad \cdots ① $$
かくはん後の系の熱量の総和 \(U_{\text{後}}\) は、
$$ U_{\text{後}} = m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (T_{\text{平1}} – T_0) + m_{\text{水}} c_{\text{水}} (T_{\text{平1}} – T_0) + C_{\text{計}} (T_{\text{平1}} – T_0) \quad \cdots ② $$
熱量保存則より \(U_{\text{前}} = U_{\text{後}}\) なので、
$$ m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (T_{\text{金属1}} – T_0) + (m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{計}})(T_{\text{初1}} – T_0) = (m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} + m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{計}})(T_{\text{平1}} – T_0) $$
この式を \(c_{\text{金属}}\) を含む項と含まない項で整理すると、
$$ m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (T_{\text{金属1}} – T_0) – m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (T_{\text{平1}} – T_0) = (m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{計}})(T_{\text{平1}} – T_0) – (m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{計}})(T_{\text{初1}} – T_0) $$
左辺と右辺をそれぞれまとめると、
$$ m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (T_{\text{金属1}} – T_{\text{平1}}) = (m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{計}})(T_{\text{平1}} – T_{\text{初1}}) $$
この式は、\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) の式と全く同じ形になります。
使用した物理公式
- 熱量保存則(エネルギー総和の観点): \(U_{\text{前}} = U_{\text{後}}\)
- 基準温度からの熱量: \(Q = mc(T – T_0)\), \(Q = C(T – T_0)\)
導かれた式はメインの解法と同一であるため、計算過程も同じになります。
$$ m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (T_{\text{金属1}} – T_{\text{平1}}) = Q_{\text{得1}} $$
ここに \(Q_{\text{得1}} = 1780 \text{ J}\) を代入し、
$$
\begin{aligned}
c_{\text{金属}} &= \frac{1780}{50 \times (100.0 – 20.9)} \\[2.0ex]&\approx 0.45 \text{ [J/(g·K)]}
\end{aligned}
$$
となり、同じ結果が得られます。
「金属球、水、容器が持っていた熱エネルギーの合計は、かき混ぜる前と後で変わらない」という考え方です。基準となる温度(例えば0℃)を決めて、混ぜる前の各部品のエネルギーを足し合わせたものと、混ざった後の各部品のエネルギーを足し合わせたものが等しくなるように式を立てます。この方法でも、最終的には「失った熱量=得た熱量」と同じ式になり、同じ答えが求まります。
金属球の比熱は \(0.45 \text{ J/(g·K)}\) です。これは選択肢⑤と一致します。「失った熱量=得た熱量」という考え方も、「エネルギーの総和は不変」という考え方も、本質的には同じ熱量保存則を異なる側面から表現したものです。どちらの視点でも立式できるようになっておくと、問題への理解が深まります。
問(3)
思考の道筋とポイント
2回目の実験について、熱量計に入れる直前の金属球の温度 \(t\) を求める問題です。金属球が少し冷めてしまった、という状況設定です。この実験でも同様に熱量保存則が成り立ちます。(2)で求めた金属球の比熱 \(c_{\text{金属}}\) を既知の値として用い、熱量保存の式を立てて未知数 \(t\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 既知の値の利用: (2)で求めた金属球の比熱 \(c_{\text{金属}} \approx 0.45 \text{ J/(g·K)}\) を使って計算を進めます。
- 熱量保存則の再適用: 2回目の実験条件(平衡温度 \(T_{\text{平2}} = 20.7 \text{ ℃}\))で、改めて熱量保存則の式を立てます。
- 低温側が得た熱量の再計算: 平衡温度が変わったため、水と熱量計が得た熱量 \(Q_{\text{得2}}\) を再計算する必要があります。温度変化は \(\Delta T_2 = 20.7 – 18.9 = 1.8 \text{ ℃}\) です。
- 高温側が失った熱量の表現: 金属球が失った熱量 \(Q_{\text{失2}}\) は、未知の初期温度 \(t\) を用いて \(m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (t – T_{\text{平2}})\) と表されます。
具体的な解説と立式
2回目の実験における熱量保存則は、
$$ Q_{\text{失2}} = Q_{\text{得2}} $$
と書けます。
ここで、高温の金属球が失った熱量 \(Q_{\text{失2}}\) は、求める初期温度を \(t\) として、
$$ Q_{\text{失2}} = m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (t – T_{\text{平2}}) \quad \cdots ① $$
低温の水と熱量計が得た熱量 \(Q_{\text{得2}}\) は、
$$ Q_{\text{得2}} = m_{\text{水}} c_{\text{水}} (T_{\text{平2}} – T_{\text{初2}}) + C_{\text{計}} (T_{\text{平2}} – T_{\text{初2}}) \quad \cdots ② $$
となります。したがって、熱量保存則の式は以下のようになります。
$$ m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (t – T_{\text{平2}}) = (m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{計}}) (T_{\text{平2}} – T_{\text{初2}}) $$
使用した物理公式
- 熱量保存則: \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)
- 熱量の計算式: \(Q = mc\Delta T\), \(Q = C\Delta T\)
まず、右辺(水と熱量計が得た熱量)を計算します。温度変化は \(\Delta T_2 = 20.7 – 18.9 = 1.8 \text{ ℃}\) です。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{得2}} &= (m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{計}}) \Delta T_2 \\[2.0ex]&= (200 \times 4.2 + 50.0) \times 1.8 \\[2.0ex]&= (840 + 50.0) \times 1.8 \\[2.0ex]&= 890 \times 1.8 \\[2.0ex]&= 1602 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
次に、この結果を熱量保存則の式に代入し、\(t\) について解きます。(2)で求めた \(c_{\text{金属}} = 0.45 \text{ J/(g·K)}\) を用います。
$$ 50 \times 0.45 \times (t – 20.7) = 1602 $$
この式を \(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
22.5 \times (t – 20.7) &= 1602 \\[2.0ex]t – 20.7 &= \frac{1602}{22.5} \\[2.0ex]t – 20.7 &= 71.2 \\[2.0ex]t &= 71.2 + 20.7 \\[2.0ex]t &= 91.9 \text{ [℃]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(92 \text{ ℃}\) となります。
2回目の実験でも、1回目と同じように「金属球が放出した熱」と「水と容器が受け取った熱」が等しいというルールを使います。今回は、最終的に混ざった後の温度(20.7℃)が分かっているので、そこから逆算して、金属球を入れる直前の温度が何度だったのかを突き止めます。
思考の道筋とポイント
問(2)の別解と同様に、系全体のエネルギー総和が保存されるという視点で立式します。2回目の実験条件で、金属球を入れる前の系の熱量総和と、かくはん後の熱量総和が等しいという式を立て、未知数である金属球の初期温度 \(t\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 基準温度の設定: 問(2)と同様に、基準温度 \(T_0 = 0 \text{ ℃}\) を設定します。
- 未知数を含む初期状態: 2回目の実験では、金属球の初期温度が未知数 \(t\) となります。
- 既知の値の利用: (2)で求めた金属球の比熱 \(c_{\text{金属}}\) は既知として扱います。
具体的な解説と立式
基準温度を \(T_0 = 0 \text{ ℃}\) とします。
2回目の実験について、金属球を入れる前の系の熱量の総和 \(U_{\text{前2}}\) は、
$$ U_{\text{前2}} = m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (t – T_0) + (m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{計}})(T_{\text{初2}} – T_0) $$
かくはん後の系の熱量の総和 \(U_{\text{後2}}\) は、
$$ U_{\text{後2}} = (m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} + m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{計}})(T_{\text{平2}} – T_0) $$
熱量保存則 \(U_{\text{前2}} = U_{\text{後2}}\) より、
$$ m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (t – T_0) + (m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{計}})(T_{\text{初2}} – T_0) = (m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} + m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{計}})(T_{\text{平2}} – T_0) $$
この式を \(t\) を含む項とそれ以外で整理すると、
$$ m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (t – T_0) = (m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} + m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{計}})(T_{\text{平2}} – T_0) – (m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{計}})(T_{\text{初2}} – T_0) $$
右辺を \(T_{\text{平2}}\) と \(T_{\text{初2}}\) でまとめると、
$$ m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (t – T_0) = m_{\text{金属}} c_{\text{金属}}(T_{\text{平2}} – T_0) + (m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{計}})(T_{\text{平2}} – T_{\text{初2}}) $$
\(t\) を含む項を左辺にまとめると、
$$ m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (t – T_{\text{平2}}) = (m_{\text{水}} c_{\text{水}} + C_{\text{計}})(T_{\text{平2}} – T_{\text{初2}}) $$
この式は、\(Q_{\text{失2}} = Q_{\text{得2}}\) の式と全く同じ形になります。
使用した物理公式
- 熱量保存則(エネルギー総和の観点): \(U_{\text{前}} = U_{\text{後}}\)
- 基準温度からの熱量: \(Q = mc(T – T_0)\), \(Q = C(T – T_0)\)
導かれた式はメインの解法と同一であるため、計算過程も同じになります。
右辺は低温側が得た熱量 \(Q_{\text{得2}} = 1602 \text{ J}\) です。
$$ m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (t – T_{\text{平2}}) = 1602 $$
$$ 50 \times 0.45 \times (t – 20.7) = 1602 $$
これを解くと、
$$ t = 91.9 \text{ [℃]} $$
となり、有効数字2桁で \(92 \text{ ℃}\) となります。
問(2)の別解と同じく、「混ぜる前と後で、全体のエネルギーの合計は変わらない」というルールを使います。今回は、混ぜる前の金属球の温度が分からないので、それを文字 \(t\) で表して式を立てます。最終的に、この \(t\) が約92℃であれば、計算が合うことが分かります。
熱量計に入れる直前の金属球の温度は \(92 \text{ ℃}\) です。これは選択肢④と一致します。この結果は、実験1の \(100.0 \text{ ℃}\) よりも低く、「金属球が少し冷えてしまい」という問題文の記述と整合性が取れています。また、平衡温度が実験1の \(20.9 \text{ ℃}\) よりも低い \(20.7 \text{ ℃}\) になったことからも、投入された金属球の温度が \(100.0 \text{ ℃}\) より低かったことが裏付けられ、結果は妥当であると言えます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 熱量保存則:
- 核心: 外部と熱のやり取りがない断熱された系において、内部での熱移動が起こる際、系全体のエネルギーは保存されるという法則です。この法則が、この問題の(2)と(3)を解くための最も重要な原理です。
- 理解のポイント: この法則は、2つの同等な視点から立式できます。
- 熱の移動量に着目する視点(\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)): 高温の物体が失った熱量と、低温の物体が得た熱量は等しい、という考え方です。熱の「やり取り」に注目した、直感的で計算しやすい方法です。\(m_{\text{高温}}c_{\text{高温}}(T_{\text{高温}} – T_{\text{平衡}}) = m_{\text{低温}}c_{\text{低温}}(T_{\text{平衡}} – T_{\text{低温}})\)
- エネルギー総和に着目する視点(\(U_{\text{前}} = U_{\text{後}}\)): ある基準温度に対する系全体の熱エネルギーの総和は、状態が変化する前後で変わらない、という考え方です。より普遍的なエネルギー保存則の考え方に近く、複雑な系でも適用しやすいです。\(U_{\text{前}} = \sum m_i c_i (T_{i, \text{前}} – T_0)\)\(U_{\text{後}} = \sum m_i c_i (T_{i, \text{後}} – T_0)\)\(U_{\text{前}} = U_{\text{後}}\)
どちらの視点も本質的には同じ物理現象を記述しており、最終的には同じ方程式に至ります。両方を理解しておくことが重要です。
- 熱量の計算式(\(Q=mc\Delta T\) と \(Q=C\Delta T\)):
- 核心: 物体の温度を変化させるのに必要な熱量を計算するための基本公式です。比熱 \(c\) が与えられている場合は \(mc\Delta T\)、熱容量 \(C\) が与えられている場合は \(C\Delta T\) を使います。この問題では、水(比熱)と熱量計(熱容量)で適切に使い分ける必要がありました。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 氷の融解を伴う熱量計算: 0℃の氷を水の中に入れる問題。この場合、低温側が得る熱量は「氷が0℃の水になるための融解熱(\(Q=mL\))」と「0℃の水が温度上昇する熱(\(Q=mc\Delta T\))」の2段階で考える必要があります。
- 複数の液体を混合する問題: 例えば、20℃の水と80℃の油を混ぜるなど。各液体の質量、比熱、初期温度を正確に把握し、熱量保存則を適用します。
- 抵抗での発熱(ジュール熱)と水の温度上昇: 電熱線で水を温める問題。この場合、「電熱線が発生した熱量(\(P \times t = IVt\))」が「水と容器が得た熱量」に等しい、という形でエネルギー保存則を立てます。
- 初見の問題での着眼点:
- 登場人物をリストアップする: 問題に出てくる物体(水、金属球、熱量計、氷など)をすべて書き出し、それぞれの質量、比熱(または熱容量)、初期温度を整理します。
- 熱の移動方向を把握する: どの物体が高温で、どの物体が低温かを確認し、熱がどちらからどちらへ移動するのかを矢印で図示すると分かりやすいです。
- 状態変化の有無を確認する: 氷が水になる、水が水蒸気になるといった「状態変化」が伴うかを確認します。状態変化がある場合は、融解熱や蒸発熱を考慮に入れる必要があります。この問題には状態変化はありませんでした。
- 「断熱」のキーワードを確認: 「外部との熱の出入りはない」「断熱された容器」といった記述があれば、熱量保存則が使えるサインです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 熱量計の熱容量の無視:
- 誤解: 水が得た熱量だけを計算してしまい、熱量計(容器)が得た熱量を計算に入れない。
- 対策: 問題文に「熱量計の熱容量」が与えられている場合、それは必ず計算に使うべき重要な情報です。水だけでなく、それを入れている容器も一緒に温度が変化することを常に意識しましょう。
- 温度変化 \(\Delta T\) の計算ミス:
- 誤解: \(Q_{\text{失}} = mc\Delta T\) と \(Q_{\text{得}} = mc\Delta T\) の両方で、\(\Delta T\) を単純に(後の温度)-(前の温度)で計算してしまい、片方が負の値になってしまう。
- 対策: \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) の式を立てる際は、\(\Delta T\) は常に正の値になるように「大きい温度 – 小さい温度」で計算するのが安全です。
- 失った熱量: \(mc(\text{高温} – \text{平衡温度})\)
- 得た熱量: \(mc(\text{平衡温度} – \text{低温})\)
- 単位の混同:
- 誤解: 比熱の単位が J/(g·K) なのに、質量を kg で代入してしまう。あるいはその逆。
- 対策: 計算を始める前に、すべての物理量の単位が整合しているか(gで統一、kgで統一など)を確認する習慣をつけましょう。この問題では、質量は g、比熱は J/(g·K) で与えられているため、そのまま計算できます。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 温度の数直線: 横軸に温度をとった数直線をイメージします。左側に低温の物体(水+熱量計)の初期温度 \(T_{\text{初}}\)、右側に高温の物体(金属球)の初期温度 \(T_{\text{金属}}\) をプロットします。熱平衡に達すると、両者はその間のどこかの温度 \(T_{\text{平}}\) に落ち着きます。この図により、「金属球が失った温度幅(\(T_{\text{金属}} – T_{\text{平}}\))」と「水が得た温度幅(\(T_{\text{平}} – T_{\text{初}}\))」が視覚的に理解できます。
- 熱エネルギーのシーソー: シーソーの片方に高温の物体、もう片方に低温の物体が乗っているイメージ。熱移動が起こると、高温側が下がり(エネルギーを失う)、低温側が上がる(エネルギーを得る)。最終的に両者が釣り合った状態(\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\))が熱平衡状態です。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 状態変化を図示する: 氷の融解など状態変化が伴う場合は、温度一定のまま状態が変わる区間(融解熱の吸収)と、温度が上昇する区間を明確に区別したグラフ(縦軸:温度、横軸:加えた熱量)を描くと、計算すべき熱量の要素を整理しやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 熱量保存則 (\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)):
- 選定理由: (2)と(3)で、断熱された系内での熱のやり取りを記述するため。異なる温度の物体を接触させ、最終的に一つの温度に落ち着く、という問題設定そのものが、この法則の適用を強く示唆しています。
- 適用根拠: エネルギー保存則という物理学の根本原理に基づいています。外部からエネルギーが供給されたり、外部に逃げたりしない限り、系内部のエネルギーの形態が変わる(この場合は熱移動)だけで、総量は不変であるという考え方です。
- 熱量の式 (\(Q=mc\Delta T\), \(Q=C\Delta T\)):
- 選定理由: (1)で、温度変化から具体的な熱量を計算するため。また、(2)(3)で熱量保存則を立式する際の各項を表現するために必要です。
- 適用根拠: 熱量、質量、比熱、熱容量、温度変化という物理量の間の関係を定義する、実験的に確立された関係式です。どの物体にどの公式を適用するかは、問題文で「比熱」が与えられているか、「熱容量」が与えられているかによって決まります。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 低温側が得た熱量の計算:
- 戦略: 低温の物体(水、熱量計)が、温度上昇によって得た熱量を計算する。
- フロー: ①水が得た熱量 \(Q_{\text{水}}\) を \(m_{\text{水}}c_{\text{水}}\Delta T_1\) で計算 → ②熱量計が得た熱量 \(Q_{\text{計}}\) を \(C_{\text{計}}\Delta T_1\) で計算 → ③両者を合計して \(Q_{\text{得1}} = Q_{\text{水}} + Q_{\text{計}}\) を求める。
- (2) 比熱の計算:
- 戦略: 熱量保存則 \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) を利用して、未知の比熱 \(c_{\text{金属}}\) を求める。
- フロー: ①高温の金属球が失った熱量 \(Q_{\text{失1}}\) を \(m_{\text{金属}}c_{\text{金属}}\Delta T’_{\text{1}}\) と表現 → ②熱量保存則の式 \(m_{\text{金属}}c_{\text{金属}}\Delta T’_{\text{1}} = Q_{\text{得1}}\) を立てる → ③(1)で求めた \(Q_{\text{得1}}\) の値を代入し、\(c_{\text{金属}}\) について解く。
- (3) 初期温度の計算:
- 戦略: 2回目の実験について、再度、熱量保存則を適用し、未知の初期温度 \(t\) を求める。
- フロー: ①2回目の実験で低温側が得た熱量 \(Q_{\text{得2}}\) を再計算 → ②高温の金属球が失った熱量 \(Q_{\text{失2}}\) を、未知温度 \(t\) を用いて表現 → ③熱量保存則の式 \(Q_{\text{失2}} = Q_{\text{得2}}\) を立てる → ④(2)で求めた \(c_{\text{金属}}\) の値を使い、式を \(t\) について解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 式を整理してから代入する: (1)の計算では、\(Q_{\text{得1}} = m_{\text{水}}c_{\text{水}}\Delta T_1 + C_{\text{計}}\Delta T_1\) を、先に \((m_{\text{水}}c_{\text{水}} + C_{\text{計}})\Delta T_1\) と変形してから数値を代入すると、\(\Delta T_1\) の掛け算が一度で済み、計算が少し楽になりミスも減ります。この \((m_{\text{水}}c_{\text{水}} + C_{\text{計}})\) は「水と熱量計を合わせた系の熱容量」と見なすことができます。
- 途中計算の値をメモしておく: (1)で計算した \(Q_{\text{得1}} = 1780 \text{ J}\) や、(2)で計算した \(c_{\text{金属}} \approx 0.45 \text{ J/(g·K)}\) は、後の設問で使います。計算用紙に明確にメモしておきましょう。特に、(3)の計算では、丸める前の値 \(c_{\text{金属}} \approx 0.45006…\) や分数の形 \(\displaystyle\frac{1780}{3955}\) を使って計算を進めると、より正確な結果が得られます(ただし、高校物理では有効数字の桁数程度の精度で計算すれば十分な場合が多いです)。
- 有効数字の扱い: 最終的な答えを出す段階で、問題文で与えられた数値の有効数字の桁数(この問題では主に2桁)に合わせます。計算途中では、1桁多く保持しておくと丸め誤差を減らせます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) 比熱: \(c_{\text{金属}} \approx 0.45 \text{ J/(g·K)}\) という値は、水の比熱 \(4.2 \text{ J/(g·K)}\) に比べて十分に小さいです。一般に、金属は水よりも温まりやすく冷めやすい(比熱が小さい)という経験的事実と一致しており、妥当な値です。
- (3) 温度: \(t \approx 92 \text{ ℃}\) という結果は、1回目の実験の初期温度 \(100.0 \text{ ℃}\) よりも低いです。これは「金属球が少し冷えてしまい」という問題文の状況設定と一致します。また、その結果として平衡温度が \(20.9 \text{ ℃}\) から \(20.7 \text{ ℃}\) へとわずかに下がったこととも整合性が取れており、結果は信頼できると判断できます。
- 別解との比較:
- (2)と(3)は、「失った熱量=得た熱量」という視点と、「エネルギーの総和は不変」という視点の両方で解くことができました。どちらの方法でも全く同じ方程式が導かれ、同じ答えが得られたことは、計算の正しさと物理法則の理解の確かさを強力に裏付けます。
182 熱量の保存
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、水と氷を混合したときの熱量計算を扱う問題で、状態変化(氷の融解や水の凝固)を伴う点が特徴です。熱量保存則に加え、融解熱の概念を正しく理解し、適用することが求められます。特に(2)は、最終的な平衡状態が0℃の混合状態になるのか、それとも一方に偏るのかを慎重に判断する必要があります。
- 氷の融解熱: \(L = 3.34 \times 10^2 \text{ J/g}\)
- 氷の比熱: \(c_{\text{氷}} = 2.1 \text{ J/(g·K)}\)
- 水の比熱: \(c_{\text{水}} = 4.2 \text{ J/(g·K)}\)
- その他: 容器の熱容量は無視でき、外部との熱の出入りもない。
- (1) 15℃の水100gに、ある温度の氷50gを入れたところ、最終的に氷の質量が60gになった。初めに入れた氷の温度 \(t_{\text{氷}}\) は何℃か。
- (2) 15℃の水10gに、-20℃の氷79gを入れた。最終的にどのような状態になるか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「状態変化を伴う熱量保存」です。水と氷の間での熱のやり取りを考えます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 熱量保存則: 断熱された系では、高温側が失う熱量と低温側が得る熱量の合計は等しくなります (\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\))。
- 状態変化と融解熱: 氷が水に、あるいは水が氷に状態変化する際には、温度を変えずに熱(融解熱または凝固熱)を吸収・放出します。この熱量は \(Q = mL\) で計算されます。
- 温度変化と比熱: 物質の温度が変化する際の熱量は \(Q = mc\Delta T\) で計算されます。水と氷で比熱の値が異なることに注意が必要です。
- 平衡状態の判断: (2)のような問題では、まず全ての物質が0℃に達するために必要な熱量を比較し、熱が「余る」のか「足りない」のかを判断することが、最終状態を見極めるための重要なステップとなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、最終状態(氷60gと水)から、水が氷に変化した(凝固した)ことが分かります。この情報をもとに、熱量保存則の式を立て、未知数である氷の初期温度を求めます。
- (2)では、まず「15℃の水が0℃の水になるまでに放出する熱量」と「-20℃の氷が0℃の氷になるまでに吸収する熱量」を比較します。この大小関係から、最終的な平衡温度が0℃になるか、あるいは別の温度になるかを判断し、具体的な状態を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
初めに入れた氷の温度を求める問題です。最終的に氷の質量が50gから60gに増えていることから、15℃の水の一部が冷やされて凝固し、0℃の氷になったことが分かります。また、氷と水が共存しているため、最終的な平衡温度は0℃です。
この情報から、「高温側(15℃の水)が失った熱量」と「低温側(初めの氷)が得た熱量」が等しいという熱量保存則を立てて解きます。
この設問における重要なポイント
- 最終状態の把握: 氷の質量が \(60 – 50 = 10 \text{ g}\) 増加している。これは、水が10gだけ凝固したことを意味します。
- 平衡温度: 氷と水が共存しているため、最終的な平衡温度は \(0 \text{ ℃}\) です。
- 高温側が失う熱量: 15℃の水100gが0℃の水になる熱量と、そのうち10gがさらに0℃の氷になる熱量(凝固熱)の合計です。
- 低温側が得る熱量: 初期の温度 \(t_{\text{氷}}\) の氷50gが、0℃の氷になるまでに吸収する熱量です。
具体的な解説と立式
熱量保存則 \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) を考えます。
高温側である水が失った熱量 \(Q_{\text{失}}\) は、2つの過程の合計です。
1. 100gの水が15℃から0℃に冷却される熱量: \(Q_1 = m_{\text{水}} c_{\text{水}} (15 – 0)\)
2. 10gの水が0℃で凝固して0℃の氷になる熱量(凝固熱): \(Q_2 = \Delta m \cdot L\)
よって、
$$ Q_{\text{失}} = m_{\text{水}} c_{\text{水}} (15 – 0) + (m_{\text{氷,後}} – m_{\text{氷,前}}) L \quad \cdots ① $$
低温側である氷が得た熱量 \(Q_{\text{得}}\) は、
求める初期温度を \(t_{\text{氷}}\)(\(t_{\text{氷}} < 0\))とすると、\(t_{\text{氷}}\)℃の氷50gが0℃の氷になるまでに吸収する熱量です。
$$ Q_{\text{得}} = m_{\text{氷,前}} c_{\text{氷}} (0 – t_{\text{氷}}) \quad \cdots ② $$
熱量保存則より \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) なので、①と②から以下の式が立てられます。
$$ m_{\text{水}} c_{\text{水}} (15 – 0) + (m_{\text{氷,後}} – m_{\text{氷,前}}) L = m_{\text{氷,前}} c_{\text{氷}} (0 – t_{\text{氷}}) $$
使用した物理公式
- 熱量保存則: \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)
- 温度変化の熱量: \(Q = mc\Delta T\)
- 状態変化の熱量(融解熱/凝固熱): \(Q = mL\)
上記で立てた式に数値を代入し、\(t_{\text{氷}}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{失}} &= 100 \times 4.2 \times (15 – 0) + (60 – 50) \times (3.34 \times 10^2) \\[2.0ex]&= 420 \times 15 + 10 \times 334 \\[2.0ex]&= 6300 + 3340 \\[2.0ex]&= 9640 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{得}} &= 50 \times 2.1 \times (0 – t_{\text{氷}}) \\[2.0ex]&= -105 t_{\text{氷}} \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) より、
$$
\begin{aligned}
9640 &= -105 t_{\text{氷}} \\[2.0ex]t_{\text{氷}} &= -\frac{9640}{105} \\[2.0ex]&\approx -91.809… \text{ [℃]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(-92 \text{ ℃}\) となります。
最終的に氷が10g増えて全体が0℃になった、という結果から逆算します。「15℃の水が冷やされて一部が氷になるときに放出した熱エネルギー」と、「すごく冷たい氷が0℃まで温められるときに吸収した熱エネルギー」が、ちょうど等しくなったと考えます。このエネルギーのつり合いの式を立てて、氷の最初の温度を計算します。
思考の道筋とポイント
系全体のエネルギーが保存されるという視点で立式します。基準温度を0℃とし、0℃の状態を基準とした熱量の総和が、氷を入れる前後で等しいと考えます。
この設問における重要なポイント
- 基準状態: 0℃の水または氷の状態をエネルギーの基準(0)とします。
- 初めの状態の熱量:
- 15℃の水100g: 0℃の水より \(m_{\text{水}}c_{\text{水}}(15-0)\) だけ多い熱量を持つ。
- \(t_{\text{氷}}\)℃の氷50g: 0℃の氷より \(m_{\text{氷,前}}c_{\text{氷}}(t_{\text{氷}}-0)\) だけ多い熱量を持つ(\(t_{\text{氷}}\)は負なので、これは負の値)。
- 終わりの状態の熱量:
- 最終的に氷は60g、水は \(100+50-60=90\)g。すべて0℃なので、基準状態そのものです。ただし、初めの水100gのうち10gが氷になっているため、その分の凝固熱 \( (m_{\text{氷,後}} – m_{\text{氷,前}}) L \) が放出されています。この考え方は少し複雑で、\(Q_{失}=Q_{得}\)の方が直感的です。
- より厳密には、0℃の水を基準(エネルギー0)とします。
- 初めの状態: \(U_{\text{前}} = m_{\text{水}}c_{\text{水}}(15-0) + m_{\text{氷,前}}c_{\text{氷}}(t_{\text{氷}}-0) – m_{\text{氷,前}}L\)
- 終わりの状態: \(U_{\text{後}} = -m_{\text{氷,後}}L\)
\(U_{\text{前}} = U_{\text{後}}\) から立式します。
具体的な解説と立式
基準温度を0℃とします。熱量保存則 \(U_{\text{前}} = U_{\text{後}}\) を考えます。
この方法では、どの状態をエネルギーの基準にするかで式の形が変わります。ここでは、メインの解法である \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) の方が直感的で間違いにくいため、そちらを推奨します。
参考までに、\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) の式を移項すると、
$$ m_{\text{水}} c_{\text{水}} (15 – 0) + (m_{\text{氷,後}} – m_{\text{氷,前}}) L – m_{\text{氷,前}} c_{\text{氷}} (0 – t_{\text{氷}}) = 0 $$
これは「(水が失った熱量)+(氷が得た熱量)=0」という形式で、熱の出入りをすべて足し合わせるとゼロになる、というエネルギー保存則の表現と見なせます。
初めに入れた氷の温度は \(-92 \text{ ℃}\) です。これは選択肢と一致します。氷の温度が非常に低かったため、15℃の水を冷やして0℃にするだけでなく、さらに一部を凍らせるほどの冷却能力があった、という物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
15℃の水10gと-20℃の氷79gを混ぜた最終状態を求める問題です。このような問題では、いきなり熱量保存の式を立てるのではなく、まず「どちらの熱量が優勢か」を判断するステップが不可欠です。
具体的には、
1. 水が0℃になるまでに放出できる熱量 \(Q_{\text{水→0℃}}\) を計算する。
2. 氷が0℃になるまでに吸収できる熱量 \(Q_{\text{氷→0℃}}\) を計算する。
この2つの熱量を比較し、その後の展開を予測します。
この設問における重要なポイント
- 熱量のポテンシャル比較:
- \(Q_{\text{水→0℃}}\): 15℃の水10gが0℃の水になるときに放出する熱量。
- \(Q_{\text{氷→0℃}}\): -20℃の氷79gが0℃の氷になるときに吸収する熱量。
- シナリオ分岐:
- もし \(Q_{\text{水→0℃}} > Q_{\text{氷→0℃}}\) なら、氷はすべて0℃になり、さらに一部が融解する。最終温度は0℃か、それ以上。
- もし \(Q_{\text{水→0℃}} < Q_{\text{氷→0℃}}\) なら、水はすべて0℃になり、氷は0℃に達しない。最終温度は0℃か、それ以下。
- この問題では後者のシナリオが予想されます。
- 凝固・融解の考慮: 0℃に達した後、熱のやり取りが続く場合、水が凝固するか、氷が融解します。そのために必要な熱量(凝固熱・融解熱)も計算し、比較に加えます。
具体的な解説と立式
ステップ1: 0℃までの熱量比較
– 高温側(水)が0℃になるまでに放出する熱量 \(Q_1\):
$$ Q_1 = m_{\text{水}} c_{\text{水}} (15 – 0) \quad \cdots ① $$
– 低温側(氷)が0℃になるまでに吸収する熱量 \(Q_3\):
$$ Q_3 = m_{\text{氷}} c_{\text{氷}} (0 – (-20)) \quad \cdots ② $$
ステップ2: 熱量計算と比較
$$ Q_1 = 10 \times 4.2 \times 15 = 630 \text{ [J]} $$
$$ Q_3 = 79 \times 2.1 \times 20 = 3318 \text{ [J]} $$
比較すると、\(Q_1 < Q_3\) です。
これは、水が放出しうる熱量(630 J)だけでは、氷を0℃まで温めること(3318 J必要)ができないことを意味します。
したがって、水はすべて0℃になり、さらに一部が凝固して熱を放出し、その熱が氷の温度上昇に使われます。最終的な平衡温度は0℃となり、水と氷が共存する状態になります。
ステップ3: 凝固する水の質量を計算
熱量保存則 \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) を立てます。
– 失う側(水): 15℃の水10gが0℃の水になり、さらに質量 \(m_{\text{凝固}}\) の水が0℃の氷になるときに失う熱量。
$$ Q_{\text{失}} = Q_1 + m_{\text{凝固}} L $$
– 得る側(氷): -20℃の氷79gが0℃の氷になるときに得る熱量。
$$ Q_{\text{得}} = Q_3 $$
よって、熱量保存則は
$$ Q_1 + m_{\text{凝固}} L = Q_3 $$
この式は、氷を0℃にするために必要な熱量 \(Q_3\) のうち、まず水が0℃になることで \(Q_1\) が供給され、それでも足りない分 (\(Q_3 – Q_1\)) を、水が凝固することで補う、と解釈できます。
凝固に使われる熱量は \(Q_3 – Q_1\) なので、凝固する水の質量 \(m_{\text{凝固}}\) は、
$$ m_{\text{凝固}} L = Q_3 – Q_1 $$
$$ m_{\text{凝固}} = \frac{Q_3 – Q_1}{L} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 熱量保存則: \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)
- 温度変化の熱量: \(Q = mc\Delta T\)
- 状態変化の熱量(融解熱/凝固熱): \(Q = mL\)
③式に数値を代入して、凝固する水の質量を計算します。
$$
\begin{aligned}
m_{\text{凝固}} &= \frac{3318 – 630}{3.34 \times 10^2} \\[2.0ex]&= \frac{2688}{334} \\[2.0ex]&\approx 8.047… \text{ [g]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(8.0 \text{ g}\) の水が凝固します。
ステップ4: 最終状態の記述
– 温度: 平衡温度は \(0 \text{ ℃}\) です。
– 氷の質量: 初めの79gに、凝固した8.0gが加わるので、\(79 + 8.0 = 87 \text{ g}\)。
– 水の質量: 初めの10gから、凝固した8.0gが減るので、\(10 – 8.0 = 2.0 \text{ g}\)。
したがって、最終状態は「0℃で、水2.0gと氷87gが共存する状態」となります。
まず、水が0℃になるときに出す熱と、氷が0℃になるときに吸い込む熱を天秤にかけます。計算すると、氷を温めるのに必要な熱の方が圧倒的に大きいことが分かります。このため、水は自分の熱を全部放出して0℃になるだけでは足りず、さらに「凍る」ことで追加の熱を放出して、氷を温める手伝いをします。どれだけの水が凍れば、ちょうど氷が0℃になるかとつり合うかを計算し、最終的な水と氷の量を求めます。
最終状態は、0℃で水が約2g、氷が約87g共存する状態です。
この問題のように、最終状態が不明な場合は、まず0℃を基準点として各物質が放出・吸収できる熱量を比較する、という手順が非常に有効です。この比較によって、最終温度が0℃より上か、下か、あるいは0℃で共存するのか、というシナリオを確定でき、その後の計算方針が明確になります。
模範解答では、水がすべて凝固する場合の熱量も計算していますが、\(Q_1 < Q_3\) が分かった時点で、水がすべて凝固することはない(氷を0℃にするだけで熱を使い切ってしまうため)と判断できるので、その計算は省略可能です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 熱量保存則と状態変化:
- 核心: この問題の根幹は、状態変化(融解・凝固)を伴う熱量保存則の適用です。高温側が失う熱量と低温側が得る熱量が等しいという原則 (\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)) に加え、状態変化の際にやり取りされる熱量(融解熱・凝固熱 \(Q=mL\))を正しく計算に組み込むことが核心となります。
- 理解のポイント: 熱のやり取りは、①温度変化 (\(Q=mc\Delta T\)) と ②状態変化 (\(Q=mL\)) の2種類で起こります。物体の状態に応じて、どの熱量が関係するのかを正確に把握する必要があります。例えば(1)では、水は「温度変化」と「状態変化(凝固)」の両方で熱を失い、氷は「温度変化」のみで熱を得ます。
- 熱平衡状態の探索的判断:
- 核心: (2)のように、最終的な温度や状態が自明でない問題では、いきなり方程式を立てるのではなく、まず「探索的な計算」を行うことが重要です。具体的には、「全ての物質が0℃に達するために必要な熱量の比較」が、問題を解く上での決定的なステップとなります。
- 理解のポイント: この比較によって、熱の過不足が明らかになり、最終状態が「0℃より高い温度になる」「0℃より低い温度になる」「0℃で水と氷が共存する」のどのシナリオに進むのかを確定させることができます。この判断ができないと、正しい立式ができません。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 水蒸気と氷の混合: 100℃を超える水蒸気と0℃未満の氷を混ぜる問題。水蒸気は「100℃までの冷却熱」「凝縮熱(液化熱)」「100℃以下の水としての冷却熱」という3段階で熱を放出する可能性があり、非常に複雑になります。0℃と100℃を基準点とした熱量の比較がより重要になります。
- 金属球と氷の混合: 高温の金属球を0℃の氷に入れる問題。金属球が失う熱量と、氷が融解して水になり、さらに温度上昇する熱量を比較します。
- 断熱材で覆われたコップ内の氷: 時間経過とともに外部から熱が流入し、氷がゆっくりと融解していく問題。単位時間あたりに流入する熱量が一定であるとして、氷がすべて融けるまでの時間などを計算します。
- 初見の問題での着眼点:
- 状態図(温度-熱量グラフ)をイメージする: 横軸に加えた熱量、縦軸に温度をとったグラフを頭に描きます。氷は「温度上昇(斜めの線)」→「融解(水平な線)」→「水として温度上昇(傾きの緩やかな斜めの線)」と変化します。このグラフ上のどの位置からどの位置へ移動するのかを考えることで、必要な熱量の要素を整理できます。
- 熱量の「ポテンシャル」を比較する: (2)で実践したように、まず「高温側が0℃になるまでに放出しうる全熱量」と「低温側が0℃になるまでに吸収しうる全熱量」を計算して比較します。これが最も確実な初手です。
- 状態変化の方向を特定する: (1)のように、最終的な質量変化が与えられている場合、それが「融解」なのか「凝固」なのかを最初に特定します。これにより、熱の移動方向が明確になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 最終状態の決めつけ:
- 誤解: (2)のような問題で、安易に「最終温度は0℃だろう」と決めつけて、いきなり氷の融解や水の凝固を計算し始めてしまう。
- 対策: 必ず「0℃までの熱量比較」のステップを踏むこと。例えば、もし水が放出する熱量が、氷を0℃にする熱量よりも大きければ、最終温度は0℃より高くなります。この場合、氷はすべて融解し、水だけの状態になります。探索的計算を怠ると、根本的に間違ったシナリオで計算を進めてしまいます。
- 比熱の使い間違い:
- 誤解: 氷の温度変化を計算する際に、水の比熱 \(c_{\text{水}}\) を使ってしまう。あるいはその逆。
- 対策: 水と氷では比熱の値が異なります (\(c_{\text{水}}=4.2\), \(c_{\text{氷}}=2.1\))。計算対象が「水」の状態なのか「氷」の状態なのかを常に確認し、対応する比熱を正しく選択しましょう。
- 融解熱の計算対象の誤り:
- 誤解: (1)で、増えた氷の質量(10g)ではなく、初めの氷の質量(50g)や最終的な氷の質量(60g)で融解熱(凝固熱)を計算してしまう。
- 対策: 融解熱・凝固熱は、実際に状態変化した物質の質量にのみ関係します。\(Q=mL\) の \(m\) は、あくまで「融解した氷の質量」または「凝固した水の質量」です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 熱量収支の図: 左側に「低温側(氷)が得る熱量」の箱、右側に「高温側(水)が失う熱量」の箱を描きます。それぞれの箱の中に、熱量の内訳(温度上昇分、状態変化分)を書き出します。\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) は、この左右の箱の合計が等しくなることを意味します。
- (2)のシナリオ分岐図:
- まず \(Q_{\text{水→0℃}}\) と \(Q_{\text{氷→0℃}}\) を計算。
- \(Q_{\text{水→0℃}} < Q_{\text{氷→0℃}}\) であれば、「水は0℃になり、さらに一部凝固。氷は0℃まで温度上昇。最終状態は0℃の混合状態」というフローチャートに進む。
- \(Q_{\text{水→0℃}} > Q_{\text{氷→0℃}}\) であれば、「氷は0℃になり、さらに一部融解。水は0℃まで温度低下。最終状態は0℃の混合状態か、それ以上の温度」というフローチャートに進む。
このように思考の道筋を図式化すると、複雑な問題でも冷静に対処できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 熱量保存則 (\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)):
- 選定理由: 「断熱された容器」内で「異なる温度の物体を混合する」という、熱量保存則の典型的な適用場面だからです。
- 適用根拠: エネルギー保存則に基づき、外部との熱のやり取りがない限り、系内部での熱の移動は収支がゼロになるという原理を適用します。
- 融解熱の式 (\(Q=mL\)):
- 選定理由: (1)では水が凝固し、(2)では水が凝固する可能性があるため、状態変化に伴う熱量を計算する必要があるからです。
- 適用根拠: 物質が固体から液体へ(あるいはその逆へ)相転移する際には、温度は一定のまま、潜熱と呼ばれるエネルギーを吸収・放出するという物理現象を数式化したものです。
- 比熱の式 (\(Q=mc\Delta T\)):
- 選定理由: 水と氷が、状態変化を伴わずに温度だけが変化する過程の熱量を計算するために必要です。
- 適用根拠: 物質の温度を1K(または1℃)上昇させるのに必要な熱量が、物質の種類と質量に依存するという実験事実を数式化したものです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 初期の氷の温度の計算:
- 戦略: 最終状態から「水が10g凝固して全体が0℃になった」ことを読み取り、熱量保存則を立てる。
- フロー: ①高温側(水)が失った熱量を計算(15℃→0℃の冷却熱+10g分の凝固熱)→ ②低温側(氷)が得た熱量を、未知温度 \(t_{\text{氷}}\) を使って表現(\(t_{\text{氷}}\)℃→0℃の上昇熱)→ ③ ①=②として方程式を立て、\(t_{\text{氷}}\) を解く。
- (2) 最終状態の決定:
- 戦略: まず0℃までの熱量を比較してシナリオを確定し、その後、熱量保存則で具体的な状態を計算する。
- フロー: ①水が0℃になるまでに放出する熱量 \(Q_1\) を計算 → ②氷が0℃になるまでに吸収する熱量 \(Q_3\) を計算 → ③ \(Q_1\) と \(Q_3\) を比較し、\(Q_1 < Q_3\) であることを確認 → ④最終状態が「0℃での水と氷の混合状態」であると結論づける → ⑤氷を0℃にするために不足する熱量 (\(Q_3 – Q_1\)) を、水の凝固熱で補うと考え、凝固する水の質量を計算 → ⑥最終的な水と氷の質量を求め、状態を記述する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 段階的な計算: (2)のような複雑な問題では、一度にすべての計算をしようとせず、\(Q_1\), \(Q_3\) のように熱量の各要素を個別に計算し、その結果をメモしながら進めると、思考が整理されミスが減ります。
- 符号の扱いに注意: \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) の式を立てる場合、\(\Delta T\) は「高温-低温」で計算し、常に正の値になるように扱うと混乱が少ないです。もし「後の状態-前の状態」で統一する場合は、熱を失う側は負、得る側は正になるので、\(Q_{\text{失}} + Q_{\text{得}} = 0\) のように、熱の総和がゼロになる式を立てると良いでしょう。
- 単位の確認: 融解熱、比熱、質量など、すべての単位がJ、g、K(または℃)で整合しているかを確認してから計算を始めましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 氷の温度: \(-92 \text{ ℃}\) という非常に低い温度が得られました。その結果、15℃の水を0℃に冷やすだけでなく、さらに10gも凍らせることができた、という現象とつじつまが合います。もし正の温度や、-10℃程度の温度が答えとして出た場合、計算ミスを疑うべきです。
- (2) 最終状態: 初めの水の質量(10g)に比べて氷の質量(79g)が圧倒的に多く、かつ氷の温度も-20℃と低いため、最終的に氷が残り、水の一部が凍るという結果は直感的に妥当です。もし計算結果が「氷がすべて融けて水になった」となったら、どこかで計算ミスをしている可能性が高いと判断できます。
- 極端なケースを想像する: もし(2)で入れる氷が1gだったら?→明らかに氷はすべて融け、最終温度は0℃より高くなるはず。もし入れる水が1000gだったら?→明らかに氷はすべて融けるはず。このように極端な状況を考えることで、問題の状況が熱量のバランスの中でどのあたりに位置するのかを直感的に把握する訓練になります。
183 摩擦熱
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、あらい斜面上の運動で失われた力学的エネルギーが、摩擦熱に変換されるという、力学と熱力学の融合問題です。エネルギー保存則をより広い視点(熱エネルギーを含む)で捉える能力が問われます。
この問題の核心は、「非保存力である動摩擦力がした仕事」が「力学的エネルギーの減少量」に等しく、そしてその減少した分のエネルギーが「発生した摩擦熱」に等しい、という一連のエネルギー変換プロセスを理解することです。
- 物体の質量: \(m \text{ [kg]}\)
- 斜面の傾斜角: \(\theta\)
- 物体がすべった距離: \(s \text{ [m]}\)
- 物体の比熱: \(c \text{ [J/(g·K)]}\)
- 物体と斜面の間の動摩擦係数: \(\mu’\)
- 重力加速度の大きさ: \(g \text{ [m/s}^2\text{]}\)
- (1) 物体が静止するまでに発生した摩擦熱 \(Q\)。
- (2) 発生した熱量の半分が物体に伝わったときの、物体の温度上昇 \(\Delta T\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「仕事とエネルギーの関係、および力学的エネルギーから熱エネルギーへの変換」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 仕事とエネルギーの関係(エネルギー保存則): 「(後の力学的エネルギー)-(初めの力学的エネルギー)=(非保存力がした仕事)」という関係式が基本となります。この問題では、非保存力は動摩擦力のみです。
- 動摩擦力の仕事: 動摩擦力は常に運動と逆向きに働くため、その仕事は負の値になります。仕事の大きさは「(力の大きさ)×(移動距離)」で計算できます。
- 摩擦熱への変換: 動摩擦力がした仕事の絶対値(力学的エネルギーの減少量)が、そのまま発生した摩擦熱の量に等しくなります。
- 熱量と温度上昇の関係: 物体が得た熱量 \(Q’\) と、それによる温度上昇 \(\Delta T\) の関係は、\(Q’ = (\text{質量}) \times (\text{比熱}) \times \Delta T\) で与えられます。単位の整合性に注意が必要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず動摩擦力の大きさを求め、その力が距離 \(s\) だけ働くときの仕事 \(W\) を計算します。発生した摩擦熱 \(Q\) は、この仕事の絶対値 \(|W|\) に等しくなります。
- (2)では、(1)で求めた摩擦熱 \(Q\) の半分が物体の温度上昇に使われると考えます。熱量の公式 \(Q’ = mc\Delta T\) を用いて、未知数である温度上昇 \(\Delta T\) を求めます。この際、質量の単位(kg)と比熱の単位(J/(g·K))の違いに注意して単位換算を行う必要があります。
問(1)
思考の道筋とポイント
物体が静止するまでに発生した摩擦熱を求める問題です。これは、動摩擦力が物体にした仕事の絶対値に等しく、また、物体の力学的エネルギーの減少量に等しくなります。ここでは、動摩擦力がした仕事から直接求める方法で解説します。
この設問における重要なポイント
- 動摩擦力の大きさの計算: 物体に働く力を図示し、斜面に垂直な方向の力のつり合いから、垂直抗力 \(N\) を求めます。動摩擦力 \(f’\) は \(f’ = \mu’ N\) で計算できます。
- 動摩擦力の仕事の計算: 動摩擦力 \(f’\) は運動方向と逆向きに働くため、その仕事 \(W\) は負の値になります。\(W = -f’ \times s\)。
- 摩擦熱との関係: 発生した摩擦熱 \(Q\) は、\(Q = |W| = f’s\) となります。
具体的な解説と立式
まず、物体に働く力を考えます。斜面に垂直な方向には、重力の成分 \(mg\cos\theta\) と垂直抗力 \(N\) が働きます。物体は斜面から浮き上がらないので、この方向の力はつり合っています。
$$ N – mg\cos\theta = 0 $$
よって、垂直抗力 \(N\) の大きさは、
$$ N = mg\cos\theta \quad \cdots ① $$
次に、動摩擦力 \(f’\) の大きさは、動摩擦係数 \(\mu’\) と垂直抗力 \(N\) を用いて、
$$ f’ = \mu’ N \quad \cdots ② $$
と表せます。①を②に代入すると、
$$ f’ = \mu’ mg\cos\theta \quad \cdots ③ $$
この動摩擦力は、物体の運動方向と常に逆向きに働きます。したがって、物体が距離 \(s\) だけすべる間に動摩擦力がする仕事 \(W\) は、
$$ W = -f’ s = -\mu’ mgs\cos\theta \quad \cdots ④ $$
となります。
発生した摩擦熱 \(Q\) は、この動摩擦力がした仕事の絶対値に等しいので、
$$ Q = |W| = \mu’ mgs\cos\theta \quad \cdots ⑤ $$
となります。
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 動摩擦力: \(f’ = \mu’ N\)
- 仕事: \(W = Fx\cos\phi\) (この場合は \(W = -f’s\))
- 仕事と熱の関係: \(Q = |W_{\text{摩擦}}|\)
⑤式がそのまま答えとなります。
$$ Q = \mu’ mgs\cos\theta \text{ [J]} $$
物体が斜面をすべるとき、ザラザラした面との間で摩擦が生じ、熱が発生します。この熱の量は、摩擦という「ブレーキをかける力」が、物体が止まるまでの間にどれだけの「仕事」をしたか、で決まります。まず摩擦力の大きさを計算し、それにすべった距離を掛けることで、発生した熱量を求めることができます。
思考の道筋とポイント
「(後の力学的エネルギー)-(初めの力学的エネルギー)=(動摩擦力がした仕事)」というエネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係)を利用します。発生した摩擦熱は、減少した力学的エネルギーに等しい、という考え方です。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギーの定義: 運動エネルギー \(K = \frac{1}{2}mv^2\) と、位置エネルギー \(U = mgh\) の和です。
- 初めと終わりの状態:
- 初め: 初速度を \(v_0\)、高さを \(h_0\) とする。\(E_{\text{初}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + mgh_0\)
- 終わり: 静止したので速度は0、高さは \(h_0\) から \(s\sin\theta\) だけ低くなる。\(E_{\text{後}} = 0 + mg(h_0 – s\sin\theta)\)
- エネルギーの減少量: \(\Delta E = E_{\text{初}} – E_{\text{後}}\) が摩擦熱 \(Q\) になります。
具体的な解説と立式
物体の初速度を \(v_0\)、すべり始めの位置の高さを \(h_0\) とします。
初めの力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\) は、
$$ E_{\text{初}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + mgh_0 $$
距離 \(s\) だけすべって静止したとき、高さは \(h_0 – s\sin\theta\) となります。
終わりの力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\) は、
$$ E_{\text{後}} = \frac{1}{2}m \cdot 0^2 + mg(h_0 – s\sin\theta) = mg(h_0 – s\sin\theta) $$
エネルギーと仕事の関係より、
$$ E_{\text{後}} – E_{\text{初}} = W_{\text{摩擦}} $$
ここで \(W_{\text{摩擦}}\) は動摩擦力がした仕事です。
発生した摩擦熱 \(Q\) は、失われた力学的エネルギーに等しいので、
$$ Q = -W_{\text{摩擦}} = E_{\text{初}} – E_{\text{後}} $$
$$
\begin{aligned}
Q &= \left( \frac{1}{2}mv_0^2 + mgh_0 \right) – mg(h_0 – s\sin\theta) \\[2.0ex]&= \frac{1}{2}mv_0^2 + mgs\sin\theta
\end{aligned}
$$
一方、運動方程式を立てて \(v_0\) を消去します。斜面下向きを正とすると、物体に働く合力は \(mg\sin\theta – \mu’mg\cos\theta\) なので、加速度 \(a\) は、
$$ ma = mg\sin\theta – \mu’mg\cos\theta \quad \rightarrow \quad a = g(\sin\theta – \mu’\cos\theta) $$
等加速度運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) より、\(0^2 – v_0^2 = 2as\) なので、
$$ v_0^2 = -2as = -2g(\sin\theta – \mu’\cos\theta)s $$
これを \(Q\) の式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
Q &= \frac{1}{2}m \{-2g(\sin\theta – \mu’\cos\theta)s\} + mgs\sin\theta \\[2.0ex]&= -mgs\sin\theta + \mu’mgs\cos\theta + mgs\sin\theta \\[2.0ex]&= \mu’mgs\cos\theta
\end{aligned}
$$
となり、同じ結果が得られます。この解法は、動摩擦力の仕事から直接求めるよりも複雑ですが、エネルギー保存則の理解を深める上で有益です。
物体が静止するまでに発生した摩擦熱は \(\mu’ mgs\cos\theta \text{ [J]}\) です。
動摩擦力の仕事から直接求める方法と、エネルギー保存則から求める方法のどちらでも同じ結果が得られました。前者のほうが計算はシンプルですが、後者はエネルギー全体の収支を考える良い練習になります。
問(2)
思考の道筋とポイント
発生した熱量の半分が物体の温度上昇に使われたときの、温度上昇 \(\Delta T\) を求める問題です。これは、(1)で求めた摩擦熱 \(Q\) と、熱量と温度上昇の関係式 \(Q’ = mc\Delta T\) を結びつける問題です。単位の換算が重要なポイントになります。
この設問における重要なポイント
- 物体が吸収した熱量: 発生した摩擦熱 \(Q = \mu’ mgs\cos\theta\) の半分なので、\(Q’ = \frac{1}{2}Q = \frac{1}{2}\mu’ mgs\cos\theta\)。
- 熱量の公式: \(Q’ = (\text{質量}) \times (\text{比熱}) \times (\text{温度上昇})\)。
- 単位の整合性:
- 質量の単位: 問題文では \(m \text{ [kg]}\) で与えられている。
- 比熱の単位: 問題文では \(c \text{ [J/(g·K)]}\) で与えられている。
- このままでは単位が合わないため、どちらかに統一する必要があります。質量をグラムに換算するのが一般的です。\(m \text{ [kg]} = m \times 10^3 \text{ [g]}\)。
具体的な解説と立式
物体が吸収した熱量 \(Q’\) は、(1)で求めた摩擦熱 \(Q\) の半分なので、
$$ Q’ = \frac{1}{2} Q = \frac{1}{2} \mu’ mgs\cos\theta \quad \cdots ① $$
一方、質量 \(M\)、比熱 \(c\)、温度上昇 \(\Delta T\) の物体が吸収する熱量は、
$$ Q’ = M c \Delta T \quad \cdots ② $$
で与えられます。
ここで、物体の質量は \(m \text{ [kg]}\) ですが、比熱 \(c\) の単位が \(\text{[J/(g·K)]}\) であるため、質量の単位をグラムに合わせる必要があります。
$$ M = m \times 10^3 \text{ [g]} \quad \cdots ③ $$
①、②、③より、以下の関係式が成り立ちます。
$$ \frac{1}{2} \mu’ mgs\cos\theta = (m \times 10^3) c \Delta T $$
使用した物理公式
- 熱量と温度変化の関係: \(Q = mc\Delta T\)
上記で立てた式を \(\Delta T\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\Delta T &= \frac{\displaystyle\frac{1}{2} \mu’ mgs\cos\theta}{(m \times 10^3) c} \\[2.0ex]&= \frac{\mu’ mgs\cos\theta}{2 \times m \times 1000 \times c} \\[2.0ex]&= \frac{\mu’ gs\cos\theta}{2000c} \text{ [K]}
\end{aligned}
$$
途中で質量 \(m\) が約分されて消えることに注意してください。
(1)で計算した摩擦熱のうち、半分が物体の温度を上げるために使われます。物体がどれだけ温まるかは、「受け取った熱量 ÷ (物体の質量 × 温まりにくさの指標である比熱)」で計算できます。ただし、質量の単位がkg、比熱の単位がg基準で与えられているため、単位をそろえる(kgをgに直す)という一手間が必要です。
物体の温度上昇は \(\Delta T = \displaystyle\frac{\mu’ gs\cos\theta}{2000c} \text{ [K]}\) です。
この結果は、動摩擦係数 \(\mu’\) や重力加速度 \(g\)、すべった距離 \(s\) が大きいほど温度上昇も大きくなることを示しており、物理的に直感と合致します。また、比熱 \(c\) が大きい(温まりにくい)物質ほど、温度上昇は小さくなることも示しており、妥当な結果と言えます。質量 \(m\) が最終的に消去されるのは、発生する摩擦熱も、物体を温めるのに必要な熱容量も、共に質量 \(m\) に比例するためです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係):
- 核心: この問題の根幹は、「力学的エネルギーの減少量」が「非保存力(動摩擦力)がした仕事の絶対値」に等しいという、エネルギー保存則の拡張版です。これが(1)を解くための最も重要な法則です。
- 理解のポイント: 物体が運動する際、動摩擦力のような非保存力が働くと、力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は保存されません。その失われた分の力学的エネルギーは、どこかへ消えてしまうのではなく、別の形態のエネルギー、すなわち「熱エネルギー」に変換されます。\( \Delta E_{\text{力学}} = W_{\text{非保存力}} \)
発生した熱量 \(Q = -W_{\text{非保存力}} = -W_{\text{摩擦}}\)
- 熱量と温度上昇の関係 (\(Q=mc\Delta T\)):
- 核心: (2)では、(1)で発生した熱エネルギーが、物体の温度をどれだけ上昇させるかを計算します。この変換を定量的に結びつけるのが \(Q=mc\Delta T\) の公式です。
- 理解のポイント: この公式を適用する際には、各物理量の単位を厳密に合わせる必要があります。特に、質量が[kg]、比熱が[J/(g·K)]で与えられている場合、単位換算(例: \(m \text{[kg]} = m \times 10^3 \text{[g]}\))が必須となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ばねと摩擦: あらい水平面上でばねに繋がれた物体を振動させる問題。振動するたびに摩擦によって力学的エネルギーが失われ、振幅が徐々に小さくなります。1サイクルの振動で失われるエネルギー(摩擦熱)を計算する問題などに応用できます。
- 空気抵抗と落下運動: 空気抵抗を受けながら落下する物体。失われた力学的エネルギーが熱に変わります。終端速度に達した後は、位置エネルギーの減少分がすべて空気抵抗による熱に変換され続けます。
- 振り子と摩擦: 支点に摩擦がある振り子の運動。往復運動を繰り返すうちに、振れ角が小さくなっていきます。これも力学的エネルギーが摩擦熱に変換される例です。
- 初見の問題での着眼点:
- 「あらい面」「摩擦」「空気抵抗」のキーワードを探す: これらの言葉があれば、力学的エネルギーが保存されない問題であると判断します。
- 非保存力を見極める: 問題の中で、力学的エネルギーを減少させる原因となっている力(この問題では動摩擦力)を特定します。
- エネルギーの変換経路を追う: 「力学的エネルギー → (非保存力の仕事) → 熱エネルギー → (物体の温度上昇)」という一連のエネルギー変換の流れを意識します。これにより、どの段階でどの公式を使えばよいかが明確になります。
- 単位のチェック: 特に力学と熱力学が融合した問題では、質量の単位(kgとg)やエネルギーの単位(Jとcal)が混在することがあります。計算前に単位を統一する癖をつけましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 摩擦熱の計算ミス:
- 誤解: 摩擦熱を、重力の斜面成分 \(mg\sin\theta\) や、斜面に平行な合力を使って計算しようとする。
- 対策: 摩擦熱は、動摩擦力そのものがした仕事によって発生します。動摩擦力の大きさは \(f’ = \mu’N = \mu’mg\cos\theta\) です。この力を正しく計算することが第一歩です。発生熱量は \(Q = f’ \times s = \mu’mgs\cos\theta\) となります。
- 単位換算の忘れ:
- 誤解: (2)で、熱量の式 \(Q’=mc\Delta T\) に、質量 \(m\)[kg]と比熱 \(c\)[J/(g·K)]をそのまま代入してしまう。
- 対策: 計算式のすべての文字に単位を付けて書いてみるのが有効です。\( \frac{1}{2}\mu’mgs\cos\theta \text{[J]} = m\text{[kg]} \times c\text{[J/(g·K)]} \times \Delta T\text{[K]} \)
と書くと、右辺の質量の単位が合わないことが一目瞭然です。\(m\text{[kg]}\) を \(m \times 10^3\text{[g]}\) に直す必要があると気づけます。
- 仕事の符号と熱量の関係:
- 誤解: 動摩擦力の仕事 \(W = -\mu’mgs\cos\theta\) をそのまま熱量としてしまい、熱量が負の値になってしまう。
- 対策: 仕事はベクトル的な向きを持つため負の値を取りえますが、発生した熱量(スカラー量)は常に正の値です。失われたエネルギー量として、仕事の「絶対値」が熱量になると覚えましょう。\(Q = |W|\)。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- エネルギーの円グラフ: 初めの状態のエネルギーを円グラフで描きます。例えば「運動エネルギー 30%, 位置エネルギー 70%」のように。すべって止まった後の状態では、この円グラフ全体が「摩擦熱」という別の円グラフに100%変換された、とイメージします。これにより、力学的エネルギーが熱エネルギーに姿を変えただけで、エネルギーの総量は保存されているという広い視点を持つことができます。
- 力の分解図: 物体に働く力を正確に図示し、斜面に平行な方向と垂直な方向に分解する図は必須です。特に、垂直抗力 \(N\) を求めるために重力を \(mg\cos\theta\) と \(mg\sin\theta\) に分解する図は、この種の問題を解く上での出発点となります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 仕事とエネルギーの関係 (\(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\)):
- 選定理由: (1)で、力学的エネルギーが保存されない状況でのエネルギー変化を定量的に扱うため。摩擦という非保存力が働く問題では、この公式が最も強力なツールとなります。
- 適用根拠: エネルギー保存則を、熱の発生などを含めたより一般的な形に拡張したものです。力学的エネルギーの変化は、外部からされた仕事や、非保存力によってなされた仕事に等しいという、物理学の基本法則です。
- 熱量の式 (\(Q=mc\Delta T\)):
- 選定理由: (2)で、物体が吸収した熱エネルギーを、観測可能な「温度上昇」という物理量に変換するために必要です。
- 適用根拠: 物質の内部エネルギーの増加が、その物質の温度上昇として現れるという熱力学的な関係を数式化したものです。比熱 \(c\) は、その物質の「温まりにくさ」を表す比例定数です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 摩擦熱の計算:
- 戦略: 動摩擦力がした仕事の大きさを計算し、それが摩擦熱に等しいと考える。
- フロー: ①物体に働く力のつり合い(斜面垂直方向)から垂直抗力 \(N\) を求める (\(N=mg\cos\theta\)) → ②動摩擦力 \(f’\) を計算する (\(f’=\mu’N\)) → ③発生した摩擦熱 \(Q\) を計算する (\(Q=f’s\))。
- (2) 温度上昇の計算:
- 戦略: 物体が吸収した熱量を、熱量の公式と結びつけて温度上昇 \(\Delta T\) を求める。
- フロー: ①物体が吸収した熱量 \(Q’\) を求める (\(Q’ = Q/2\)) → ②質量の単位をkgからgに換算する (\(m \rightarrow m \times 10^3\)) → ③熱量の公式 \(Q’ = (\text{質量}) \times c \times \Delta T\) を立てる → ④式を \(\Delta T\) について解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題のように、最終的な答えが文字式で求められる場合、途中で数値を代入する必要がないため、計算ミスは起こりにくいです。しかし、文字の書き間違いや、約分できる項を見逃すといったミスはあり得ます。
- 単位換算の徹底: (2)の計算では、\(m \times 10^3\) という項が出てきます。模範解答のように \(2000c\) とまとめるのも良いですが、不安な場合は \(2 \times 10^3 \times c\) のように、指数の形を残しておくと、何をしたのかが後で見返しやすいです。
- 最終的な式の吟味: (2)で得られた答え \(\Delta T = \displaystyle\frac{\mu’ gs\cos\theta}{2000c}\) の各項が、物理的にどのような意味を持つかを考えます。例えば、分子は「単位質量あたりに発生する熱量」に比例する項、分母は「単位質量あたりの温まりにくさ」に比例する項と解釈できます。このように、式の構造を物理的な意味と結びつけることで、検算の精度が上がります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 摩擦熱: \(Q = \mu’mgs\cos\theta\) という結果は、質量 \(m\)、動摩擦係数 \(\mu’\)、すべった距離 \(s\) が大きいほど熱が大きくなることを示しており、直感と一致します。また、\(\cos\theta\) の項があるため、傾きが急 (\(\theta\) が大きい) になると、垂直抗力が小さくなり、発生する熱も小さくなることを示しています。これも物理的に妥当です。
- (2) 温度上昇: \(\Delta T\) の式を見ると、分子に摩擦熱を発生させる要因 (\(\mu’, g, s\)) が、分母に温まりにくさを示す要因 (\(c\)) が来ており、理にかなった形になっています。また、物体の質量 \(m\) が最終的に消去される点も重要です。これは、発生する摩擦熱も、物体の熱容量(温まりにくさ)も、共に質量 \(m\) に比例するため、その効果が相殺されることを意味します。この事実は、同じ材質・同じ形の物体であれば、大きいものでも小さいものでも、同じ条件ですべらせれば同じだけ温度が上昇することを示唆しており、興味深い結果です。
- 別解との比較:
- (1)の摩擦熱は、「動摩擦力の仕事」から直接求める方法と、「エネルギー保存則」から求める方法の2通りで考えられました。後者は計算が複雑になりましたが、全く同じ結果が得られたことで、計算の正しさと物理法則の理解の確かさを裏付けることができます。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]