問題の確認
dynamics#13各設問の思考プロセス
この問題は、物体を水平面に対して角度を持って投げ上げる「斜方投射」の運動です。この運動は、水平方向と鉛直方向に分解して考えると理解しやすくなります。
- 運動の分解:
- 水平方向: 初速度 \(v_{0x} = v_0 \cos\theta\) の等速直線運動(加速度 \(0\))。空気抵抗を無視するため、水平方向には力が働かない。
- 鉛直方向: 初速度 \(v_{0y} = v_0 \sin\theta\) の鉛直投げ上げ運動(加速度 \(-g\)、鉛直上向きを正とした場合)。
これら二つの運動は互いに独立していますが、時間 \(t\) は共通です。
- 最高点 \(H\) の条件 (問1):
- 物体が最高点に達したとき、その瞬間だけ鉛直方向の速度成分 \(v_y\) が \(0\) になります。(水平方向の速度成分は \(v_{0x}\) のままです。)
- 鉛直方向の運動について、初速度 \(v_{0y}\)、最終速度 \(v_y=0\)、加速度 \(a_y=-g\) として、変位(高さ)\(H\) を求めます。
- 時間 \(t\) を含まない公式 \(v_y^2 – v_{0y}^2 = 2a_y y\) を利用すると効率的です。
- 水平到達距離 \(L\) の条件 (問2):
- 物体が再び地上に落下する(つまり、投げた高さに戻る)までの全飛行時間 \(T\) をまず求めます。これは鉛直方向の運動で、変位 \(y=0\) となる時刻を求めることで得られます(\(t=0\) を除く)。
- 次に、水平方向の運動について考えます。全飛行時間 \(T\) の間に、一定の水平速度 \(v_{0x}\) で進む距離が水平到達距離 \(L\) となります。
- 使用する公式: \(L = v_{0x} T\)。
各設問の具体的な解説と解答
(1) 最高点の高さHはいくらか。
問われている内容の明確化:
ボールが投げ上げられてから到達する最高点の、地上からの高さ \(H\) を求めます。
具体的な解説と計算手順:
鉛直方向の運動に着目します。
- 初速度の鉛直成分: \(v_{0y} = v_0 \sin\theta\)
- 最高点での鉛直成分の速度: \(v_y = 0\)
- 加速度の鉛直成分: \(a_y = -g\)
- 最高点までの鉛直方向の変位: \(y = H\)
時間 \(t\) を含まない速度と変位の関係式を用います。
$$v_y^2 – v_{0y}^2 = 2a_y y$$
これらの値を代入すると、
$$0^2 – (v_0 \sin\theta)^2 = 2(-g)H$$
$$-(v_0^2 \sin^2\theta) = -2gH$$
$$v_0^2 \sin^2\theta = 2gH$$
したがって、最高点の高さ \(H\) は、
$$H = \frac{v_0^2 \sin^2\theta}{2g}$$
計算方法の平易な説明:
ボールが一番高いところ(最高点)に達したとき、上下方向の速さは一瞬だけ \(0\) になります。
上下方向の動きだけを見ると、最初の速さ(上向き)は \(v_0 \sin\theta\) で、重力による加速度(下向き)は \(-g\) です。
「(最後の速さ)\(^2\) ー(最初の速さ)\(^2\) = \(2 \times\) 加速度 \(\times\) 距離」という公式を使います。
最高点での上下方向の最後の速さは \(0\)、最初の速さは \(v_0 \sin\theta\)、加速度は \(-g\)、距離(高さ)は \(H\) なので、
\(0^2 – (v_0 \sin\theta)^2 = 2 \times (-g) \times H\)。
これを \(H\) について解くと、\(H = \frac{v_0^2 \sin^2\theta}{2g}\) となります。
この設問における重要なポイント:
- 最高点では、速度の鉛直成分が \(0\) になる。
- 鉛直方向の運動は、初速度 \(v_0 \sin\theta\)、加速度 \(-g\) の等加速度直線運動として扱える。
- 時間 \(t\) を使わずに高さ \(H\) を求めることができる公式 \(v_y^2 – v_{0y}^2 = 2a_y y\) が有効。
最高点の高さ \(H\) は \(\displaystyle H = \frac{v_0^2 \sin^2\theta}{2g}\) である。
(2) 水平到達距離 L はいくらか。
問われている内容の明確化:
ボールが投げ上げられた点から、再び同じ高さの地上に落下するまでの水平方向の移動距離 \(L\) を求めます。
具体的な解説と計算手順:
まず、ボールが地上に落下するまでの全飛行時間 \(T\) を求めます。鉛直方向の運動について、変位 \(y=0\)(投げた高さに戻る)となる時刻 \(T\) を考えます。
初速度の鉛直成分 \(v_{0y} = v_0 \sin\theta\)、加速度 \(a_y = -g\)。
$$y = v_{0y}t + \frac{1}{2}a_y t^2$$
地上に落下するとき \(y=0\) なので、
$$0 = (v_0 \sin\theta)T + \frac{1}{2}(-g)T^2$$
$$0 = T \left( v_0 \sin\theta – \frac{1}{2}gT \right)$$
\(T=0\) は投げた瞬間を表すので、落下する時刻は \(v_0 \sin\theta – \frac{1}{2}gT = 0\) より、
$$\frac{1}{2}gT = v_0 \sin\theta$$
$$T = \frac{2v_0 \sin\theta}{g}$$
次に、水平方向の運動を考えます。水平方向には等速直線運動をします。
初速度の水平成分 \(v_{0x} = v_0 \cos\theta\)。
水平到達距離 \(L\) は、この速度で時間 \(T\) だけ進んだ距離です。
$$L = v_{0x}T$$
$$L = (v_0 \cos\theta) \left( \frac{2v_0 \sin\theta}{g} \right)$$
$$L = \frac{2v_0^2 \sin\theta \cos\theta}{g}$$
ここで、三角関数の倍角の公式 \(2\sin\theta\cos\theta = \sin(2\theta)\) を用いると、より簡潔な形になります。
$$L = \frac{v_0^2 \sin(2\theta)}{g}$$
計算方法の平易な説明:
- ボールが空中にいる時間 \(T\) を求める:
ボールが上がって落ちてきて、元の高さに戻るまでの時間を考えます。上下方向の動きだけを見ると、最初の速さ(上向き)は \(v_0 \sin\theta\)、加速度(下向き)は \(-g\)。高さが \(0\) に戻る時間を \(T\) とすると、「距離 = (最初の速さ \(\times\) 時間) + \(\frac{1}{2} \times\) 加速度 \(\times\) 時間\(^2\)」の公式から、
\(0 = (v_0 \sin\theta)T + \frac{1}{2}(-g)T^2\)。
\(T=0\) は投げた瞬間なので、もう一方の解は \(T = \frac{2v_0 \sin\theta}{g}\) となります。 - 水平に進む距離 \(L\) を求める:
ボールは横方向にはずっと同じ速さ \(v_0 \cos\theta\) で進みます。
上記の時間 \(T\) だけ飛んでいるので、横に進む距離 \(L\) は「速さ \(\times\) 時間」で計算できます。
\(L = (v_0 \cos\theta) \times \left( \frac{2v_0 \sin\theta}{g} \right) = \frac{2v_0^2 \sin\theta \cos\theta}{g}\)。
これは三角関数の公式を使って \(L = \frac{v_0^2 \sin(2\theta)}{g}\) とも書けます。
この設問における重要なポイント:
- まず全飛行時間 \(T\) を鉛直方向の運動から求める(変位 \(y=0\) となる \(t>0\) の時刻)。
- 水平方向の運動は初速度 \(v_0 \cos\theta\) の等速直線運動である。
- 水平到達距離 \(L\) は \((\text{水平初速度}) \times (\text{全飛行時間})\) で計算される。
- 三角関数の倍角の公式 \(2\sin\theta\cos\theta = \sin(2\theta)\) を知っていると、結果を簡潔にできる。
水平到達距離 \(L\) は \(\displaystyle L = \frac{2v_0^2 \sin\theta \cos\theta}{g}\) (または \(\displaystyle L = \frac{v_0^2 \sin(2\theta)}{g}\))である。
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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- 斜方投射: 物体を水平面に対して角度を持って投げ出す運動。空気抵抗を無視する場合、放物線軌道を描く。
- 運動の分解: 水平方向の運動(等速直線運動)と鉛直方向の運動(等加速度直線運動、加速度は \(-g\))に分けて考える。
- 初速度の成分分解: 初速度 \(v_0\)、投射角 \(\theta\) のとき、水平成分 \(v_{0x} = v_0 \cos\theta\)、鉛直成分 \(v_{0y} = v_0 \sin\theta\)。
- 最高点の条件: 鉛直方向の速度成分 \(v_y = 0\)。
- 水平到達距離の条件: 再び投げた高さに戻るまでの時間(全飛行時間)における水平方向の移動距離。
- 等加速度直線運動の公式群: 鉛直方向の運動解析に不可欠。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- 座標軸の設定: 最初に原点と各軸の正の向きを定めることで、符号のミスを防ぐ。通常、投射点を原点、水平方向をx軸、鉛直上向きをy軸とすることが多い。
- 運動の独立性: 水平方向の運動と鉛直方向の運動は、時間 \(t\) を介して関連するものの、それぞれ独立して扱うことができる。
- 対称性: 投げた高さと同じ高さに戻る場合、上昇時間と下降時間は等しく、最高点到達時間は全飛行時間の半分になる。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 水平方向の加速度の誤認: 空気抵抗を無視する場合、水平方向には力が働かないため、加速度は \(0\) であることを見落としがち。
- 最高点での速度: 最高点では鉛直方向の速度は \(0\) だが、水平方向の速度は \(v_0 \cos\theta\) のまま存在するため、物体の速度自体は \(0\) ではない。
- 重力加速度の符号: 鉛直上向きを正とした場合、重力加速度は常に下向きなので \(-g\) として扱う必要がある。
- 三角関数の取り違え: 初速度の成分分解で \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) を逆に使ってしまう。
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