問題の確認
dynamics#14各設問の思考プロセス
この問題は、鉛直投げ上げ運動(物体A)と斜方投射運動(物体B)を扱い、二つの物体が衝突するための条件を考えるものです。
- 物体Aの運動解析 (問1):
- 鉛直投げ上げ運動の公式を用います。着地するとは、変位 \(y_A\) が再び \(0\) になることを意味します。
- 初速度 \(V\)、加速度 \(-g\) として、\(y_A = Vt – \frac{1}{2}gt^2 = 0\) を解いて飛行時間を求めます。
- 衝突条件の基本 (問2, 問3):
- 二つの物体が衝突するためには、ある同じ時刻 \(t_c\) において、それらのx座標とy座標がそれぞれ一致する必要があります。つまり、\(x_A(t_c) = x_B(t_c)\) かつ \(y_A(t_c) = y_B(t_c)\) です。
- \(\sin\alpha\) の決定 (問2):
- 同時刻におけるy座標の一致条件 \(y_A(t_c) = y_B(t_c)\) から立式します。重力加速度の影響は両物体に共通なので、この条件から比較的簡単に \(\sin\alpha\) に関する関係式が導かれます。
- \(y_A(t) = Vt – \frac{1}{2}gt^2\)
- \(y_B(t) = (v\sin\alpha)t – \frac{1}{2}gt^2\)
- これらを等しいとおくことで、\(\sin\alpha\) が求まります。
- 距離 \(l\) の決定 (問3):
- まず、物体Aが最高点に達する時刻 \(t_H\) を求めます。最高点では物体Aの鉛直方向の速度 \(v_{Ay}\) が \(0\) になります。(\(v_{Ay} = V – gt_H = 0\))。
- この時刻 \(t_H\) が衝突時刻 \(t_c\) となります。(\(t_c = t_H\))。
- 次に、この衝突時刻 \(t_c\) におけるx座標の一致条件 \(x_A(t_c) = x_B(t_c)\) から \(l\) を求めます。問2で求めた \(\sin\alpha\) の条件も利用して \(\cos\alpha\) を導出し、式に代入します。
- \(x_A(t) = 0\) (P地点を原点としたため)
- \(x_B(t) = -l + (v\cos\alpha)t\)
各設問の具体的な解説と解答
(1) AがBと衝突しない場合,Aは打ち上げから着地までどれほど時間がかかるか。
問われている内容の明確化:
物体A(鉛直投げ上げ)が地上から打ち上げられ、再び地上に戻ってくるまでの全飛行時間 \(T_A\) を求めます。
具体的な解説と計算手順:
物体Aの鉛直方向の運動について考えます。初速度 \(V\)、加速度 \(-g\)、着地時の変位 \(y_A = 0\)。
$$y = v_0 t + \frac{1}{2}at^2$$
値を代入し、\(y_A(T_A) = 0\) とおくと、
$$0 = VT_A + \frac{1}{2}(-g)T_A^2$$
$$0 = T_A \left(V – \frac{1}{2}gT_A\right)$$
\(T_A = 0\) は打ち上げ時なので、着地時は \(V – \frac{1}{2}gT_A = 0\) より、
$$\frac{1}{2}gT_A = V$$
$$T_A = \frac{2V}{g}$$
計算方法の平易な説明:
Aが上に投げられてから地面に落ちるまでの時間を求めます。
上向きを正とすると、初めの速さは \(V\)、重力による加速度は下向きなので \(-g\)。地面に戻ったとき、高さ(変位)は \(0\)。
「変位 = 初速度 \(\times\) 時間 + \(\frac{1}{2} \times\) 加速度 \(\times\) 時間\(^2\)」の公式より、
\(0 = V \cdot T_A + \frac{1}{2}(-g)T_A^2\)。
\(T_A \neq 0\) なので、両辺を \(T_A\) で割って整理すると \(V = \frac{1}{2}gT_A\)。
よって、\(T_A = \frac{2V}{g}\)。
この設問における重要なポイント:
- 鉛直投げ上げ運動の対称性を理解する(上昇時間と下降時間は等しい)。
- 変位が \(0\) になる条件を用いて全飛行時間を求める。
Aが打ち上げから着地までにかかる時間は \(\displaystyle T_A = \frac{2V}{g}\) である。
(2) BをAに衝突させるには、角度をいくらにしなければならないか。sina の値を求めよ。
問われている内容の明確化:
物体Bと物体Aが空中で衝突するために必要な、Bの打ち上げ角度 \(\alpha\) の \(\sin\alpha\) の値を求めます。
具体的な解説と計算手順:
衝突が起こる時刻を \(t_c\) とします。このとき、AとBのy座標が一致する必要があります (\(y_A(t_c) = y_B(t_c)\))。
物体Aの時刻 \(t\) におけるy座標: \(y_A(t) = Vt – \frac{1}{2}gt^2\)
物体Bの時刻 \(t\) におけるy座標: \(y_B(t) = (v\sin\alpha)t – \frac{1}{2}gt^2\)
\(y_A(t_c) = y_B(t_c)\) より、
$$Vt_c – \frac{1}{2}gt_c^2 = (v\sin\alpha)t_c – \frac{1}{2}gt_c^2$$
両辺の \(-\frac{1}{2}gt_c^2\) は相殺され、
$$Vt_c = (v\sin\alpha)t_c$$
衝突は \(t_c > 0\) で起こるので、両辺を \(t_c\) で割ることができます。
$$V = v\sin\alpha$$
したがって、
$$\sin\alpha = \frac{V}{v}$$
この条件が成り立つためには、\(\frac{V}{v} \le 1\)、つまり \(v \ge V\) である必要があります。
計算方法の平易な説明:
AとBがぶつかるためには、同じ時刻に同じ高さにいなければなりません。
Aの高さは \(Vt – \frac{1}{2}gt^2\)。Bの高さは \((v\sin\alpha)t – \frac{1}{2}gt^2\)。
これらが等しい (\(Vt – \frac{1}{2}gt^2 = (v\sin\alpha)t – \frac{1}{2}gt^2\)) とき、両辺にある \(-\frac{1}{2}gt^2\) は同じなので消せます。
すると \(Vt = (v\sin\alpha)t\) となります。\(t=0\)(打ち上げ時)以外でぶつかるので、\(t\) で割ると \(V = v\sin\alpha\)。
これを \(\sin\alpha\) について解くと、\(\sin\alpha = \frac{V}{v}\)。
この設問における重要なポイント:
- 衝突条件の一つとして、同時刻にy座標が一致することを考える。
- 重力加速度 \(g\) の項が両物体のy座標の式に共通して現れるため、相殺されることに注目する。これは、Aから見たBの相対運動(またはその逆)の鉛直成分が無重力下の運動と同じになることを意味する。
\(\displaystyle \sin\alpha = \frac{V}{v}\)
(3) (2)の条件を満たす角度で、Aが最高点に達したときにBとの衝突が起こるようにしたい。そのためにはlをいくらにしなければならないか。
問われている内容の明確化:
\(\sin\alpha = \frac{V}{v}\) の条件のもとで、物体Aが最高点に達する瞬間に物体Bと衝突するようにするための、P地点とQ地点の間の水平距離 \(l\) を求めます。
具体的な解説と計算手順:
1. Aが最高点に達する時刻 \(t_H\) の計算:
物体Aの鉛直方向の速度 \(v_{Ay}(t) = V – gt\) が \(0\) になる時刻です。
$$0 = V – gt_H \Rightarrow t_H = \frac{V}{g}$$
この時刻 \(t_H\) が衝突時刻 \(t_c\) となります。
2. 衝突時のx座標の一致条件:
衝突時刻 \(t_c = t_H = \frac{V}{g}\) において、\(x_A(t_c) = x_B(t_c)\) となる必要があります。
物体Aのx座標: \(x_A(t) = 0\) (P地点を原点としているため)
物体Bのx座標: \(x_B(t) = -l + (v\cos\alpha)t\)
よって、衝突時には
$$0 = -l + (v\cos\alpha)t_c$$
$$l = (v\cos\alpha)t_c$$
ここに \(t_c = \frac{V}{g}\) を代入すると、
$$l = (v\cos\alpha)\frac{V}{g}$$
3. \(\cos\alpha\) の導出:
(2)より \(\sin\alpha = \frac{V}{v}\)。\(\sin^2\alpha + \cos^2\alpha = 1\) を利用します。
$$\cos^2\alpha = 1 – \sin^2\alpha = 1 – \left(\frac{V}{v}\right)^2 = \frac{v^2 – V^2}{v^2}$$
打ち上げ角度 \(\alpha\) は通常 \(0 < \alpha < \pi/2\) で考えるため \(\cos\alpha > 0\)。
$$\cos\alpha = \sqrt{\frac{v^2 – V^2}{v^2}} = \frac{\sqrt{v^2 – V^2}}{v}$$
(ただし、\(\cos\alpha\) が実数であるためには \(v^2 – V^2 \ge 0 \Rightarrow v \ge V\) が必要です。)
4. \(l\) の計算:
求めた \(\cos\alpha\) を \(l\) の式に代入します。
$$l = v \left( \frac{\sqrt{v^2 – V^2}}{v} \right) \frac{V}{g}$$
$$l = \frac{V\sqrt{v^2 – V^2}}{g}$$
計算方法の平易な説明:
- まず、Aが一番高いところに着くまでの時間を求めます。Aの真上の速さが \(0\) になる時間なので、\(t_H = V/g\)。この時間に衝突します。
- Bがこの時間 \(t_H\) で横に進む距離がちょうど \(l\) になれば、P地点の真上でAとBは出会えます(高さは(2)の条件で合っています)。
Bの横方向の速さは \(v\cos\alpha\)。よって \(l = (v\cos\alpha) \times t_H = (v\cos\alpha) \frac{V}{g}\)。 - \(\cos\alpha\) が必要です。(2)で \(\sin\alpha = V/v\) とわかっているので、\(\cos\alpha = \sqrt{1-\sin^2\alpha} = \sqrt{1-(V/v)^2} = \frac{\sqrt{v^2-V^2}}{v}\)。
- これを \(l\) の式に入れると、\(l = v \left(\frac{\sqrt{v^2-V^2}}{v}\right) \frac{V}{g} = \frac{V\sqrt{v^2-V^2}}{g}\)。
この設問における重要なポイント:
- 物体Aが最高点に達する時刻を正確に求める。
- その時刻に物体Bが水平距離 \(l\) だけ進んで物体Aと同じx座標に到達するという条件を立式する。
- (2)で求めた \(\sin\alpha\) の関係から \(\cos\alpha\) を正しく導出し、代入する。
- 解が存在するための条件(例:\(v \ge V\))が暗黙的に含まれている。
そのためには \(l\) を \(\displaystyle l = \frac{V\sqrt{v^2 – V^2}}{g}\) にしなければならない。
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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- 鉛直投げ上げ運動: 初速度 \(V\)、加速度 \(-g\)。最高点での速度は \(0\)、最高点到達時間は \(V/g\)、全飛行時間は \(2V/g\)。
- 斜方投射運動: 水平方向は等速直線運動(速度 \(v\cos\alpha\))、鉛直方向は鉛直投げ上げ運動(初速度 \(v\sin\alpha\)、加速度 \(-g\))。
- 運動の独立性: 水平方向の運動と鉛直方向の運動は、時間 \(t\) を共通のパラメータとして独立に扱える。
- 衝突の条件: 二物体が衝突するためには、ある同じ時刻に、それらのx座標とy座標がそれぞれ一致しなければならない。
- 三角関数の恒等式: \(\sin^2\alpha + \cos^2\alpha = 1\) は、\(\sin\alpha\) と \(\cos\alpha\) の間の変換に用いられる。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- 明確な座標系の設定: 運動を記述する基準となる原点と軸の向きを最初に定める。
- 運動の成分分解: 速度や加速度などのベクトル量を、設定した座標軸に沿って成分分解する。
- 衝突時刻 \(t_c\) の導入: 衝突が起こる時刻を未知数として設定し、その時刻における位置の一致条件から方程式を立てる。
- 物理的な条件の確認: 導出した解(例えば \(\sin\alpha\) の値や根号の中身)が、物理的に実現可能であるか(例: \(|\sin\alpha| \le 1\)、根号内 \(\ge 0\))を確認する。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 相対運動の誤解: 衝突問題では、各物体の絶対的な位置座標が一致する条件で考えるのが基本。安易に相対速度だけで判断しようとすると誤ることがある(特に加速度が異なる場合や、初期位置が異なる場合)。
- 加速度の扱いの誤り: 鉛直方向には常に重力加速度 \(g\) が働くが、その向き(符号)を座標系の設定と合わせて一貫して扱う必要がある。水平方向には(空気抵抗無視の場合)加速度は \(0\)。
- 衝突条件の不備: x座標とy座標の「両方」が一致する必要がある。片方の条件だけで結論を出してしまう。
- 三角関数の計算ミスや公式の誤用: 特に \(\sin\alpha\) から \(\cos\alpha\) を求める際の符号の扱いや、二乗の関係を間違える。
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