問題の確認
dynamics#26各設問の思考プロセス
この問題は、接触した2つの物体が一体となって運動するときの加速度と、物体間にはたらく力(内力)を求める、運動方程式の応用問題です。このような問題では、「全体を一つの物体と見る」視点と、「各物体を個別に見る」視点の2つを使い分けることが重要になります。
この問題を解く上で中心となる物理法則は「ニュートンの運動の第二法則(運動方程式)」です。
$$ma = F_{\text{合力}}$$
この問題を解くための手順は以下の通りです。
- (1) 加速度を求める(全体を見る):
AとBが一体となって動いているので、AとBをまとめて質量 \((m+M)\) の一つの物体と見なします。この「かたまり」全体に、外部から力 \(F\) が加えられていると考えて運動方程式を立て、全体の共通の加速度 \(a\) を求めます。このとき、AとBがお互いに押し合う力は「内力」なので、全体の運動には影響せず、考える必要がありません。 - (2) 押しあう力を求める(部分を見る):
物体間にはたらく内力を求めるには、物体を個別に分けて考える必要があります。AとBのどちらか一方に注目し、その物体にはたらく力をすべて書き出して運動方程式を立てます。Bに注目する方が、はたらく力が少なく簡単です。Bを加速させているのは、AがBを押す力 \(f\) であると考え、Bについて運動方程式 (\(Ma = f\)) を立て、(1)で求めた加速度 \(a\) を使って力 \(f\) を計算します。
この「全体を見て加速度を求め、部分を見て内力を求める」という流れは、複数の物体が関係する力学問題の非常に有効な定石です。
各設問の具体的な解説と解答
(1) 物体に生じる加速度はいくら。
問われている内容の明確化
AとBが一体となって運動するときの、共通の加速度 \(a\) を求めます。
具体的な解説と立式
物体AとBを、質量が \(m_{\text{全体}} = m+M\) の一つの大きな物体と見なします。
この物体全体にはたらく水平方向の力は、外部から加えられた力 \(F\) のみです。(AとBが互いに押しあう力は、物体内部の力「内力」なので、全体の運動を考える際には相殺されて考慮しません。)
したがって、この物体全体の運動方程式は、
$$(\text{全体の質量}) \times (\text{加速度}) = (\text{外部からの合力})$$
$$(m+M)a = F \quad \cdots ①$$
となります。この式を、求めたい加速度 \(a\) について解きます。
$$ma = F_{\text{合力}}$$
計算過程
式①の両辺を \((m+M)\) で割ります。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{F}{m+M}
\end{aligned}
$$
計算方法の平易な説明
- AとBを合わせた「かたまり」として考えます。このかたまりの質量は \(m+M\) です。
- このかたまり全体を、力 \(F\) で押しているのと同じ状況です。
- 運動方程式 \(F=ma\) に当てはめると、\((\text{力}) = (\text{全体の質量}) \times (\text{加速度})\) なので、\(F = (m+M)a\) となります。
- これを \(a\) について解くと、答えが求まります。
この設問における重要なポイント
- 複数の物体が一体となって動くとき、全体を一つの物体と見なして運動方程式を立てると、全体の加速度を簡単に求めることができる。
\(\displaystyle a = \frac{F}{m+M}\)
(2) A, Bが押しあっている力はいくらか。
問われている内容の明確化
物体Aが物体Bを押す力(同時に、ニュートンの第三法則により、BがAを押し返す力)の大きさ \(f\) を求めます。
具体的な解説と立式
物体間にはたらく力を求めるには、物体を個別に考える必要があります。ここでは、はたらく力が少ない物体Bに注目します。
- 物体Bにはたらく水平方向の力: AがBを押す力 \(f\) のみです。この力 \(f\) が、Bを動かす原因となっています。
- 物体Bの運動: 物体Bは質量 \(M\) で、(1)で求めた加速度 \(a\) で運動します。
したがって、物体Bについての運動方程式は、
$$(\text{Bの質量}) \times (\text{Bの加速度}) = (\text{Bにはたらく合力})$$
$$Ma = f \quad \cdots ②$$
となります。この式に、(1)で求めた \(a\) を代入することで、力 \(f\) を求めることができます。
$$ma = F_{\text{合力}}$$
計算過程
式② \(f=Ma\) に、(1)で求めた \(a = \displaystyle\frac{F}{m+M}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
f &= M \times a \\[2.0ex]&= M \left( \frac{F}{m+M} \right) \\[2.0ex]&= \frac{MF}{m+M}
\end{aligned}
$$
これがAとBが押しあう力の大きさです。
計算方法の平易な説明
- 今度は、物体Bだけに着目します。
- 物体Bが動いているのは、AがBを力 \(f\) で押しているからです。この \(f\) がBにはたらく唯一の力です。
- 物体Bについて運動方程式 \(F=ma\) を立てると、「Bにはたらく力 \(f\) = Bの質量 \(M\) × 加速度 \(a\)」となります。つまり \(f=Ma\) です。
- この式の \(a\) に、(1)で求めた \(a = \frac{F}{m+M}\) を代入すると、答えが求まります。
この設問における重要なポイント
- 物体間にはたらく内力を求めるには、物体を個別に分けて考え、それぞれについて運動方程式を立てる必要がある。
- Bを加速させているのは、外力Fではなく、AがBを押す力 \(f\) であることを理解すること。
\(\displaystyle\frac{MF}{m+M}\)
問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- ニュートンの運動の第二法則(運動方程式): 力学の基本。\(ma=F_{\text{合力}}\) という形で、質量・加速度・力の関係を正確に記述できることが重要。
- 作用・反作用の法則(ニュートンの第三法則): AがBを押す力と、BがAを押す力は、大きさが等しく向きが反対である。この問題で求めた \(f\) は、両方の力の大きさを表している。
- 内力と外力: 複数の物体を一つの系(システム)として考えるとき、系内部の物体同士でおよぼしあう力を「内力」、系の外から加えられる力を「外力」と呼ぶ。系全体の加速度を決めるのは外力のみである。
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類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- 「全体→部分」の順で考える: 接触した物体の問題では、まず(1)のように全体を一つと見て「加速度」を求め、次に(2)のように部分に分けて「内力」を求める、という手順が非常に有効な定石です。
- 力の図示を徹底する: 各物体に注目したとき、どの力がはたらいているのかを正確に図示する癖をつけましょう。これにより、運動方程式の右辺(合力)を間違えることが減ります。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 物体Bにはたらく力をFとしてしまう: 物体Bを直接押しているのは力Fではなく、物体Aです。したがって、Bの運動方程式は \(Ma=F\) ではなく \(Ma=f\) となります。これは非常によくある間違いです。
- 物体Aにはたらく力をFだけと考えてしまう: 物体Aには、外力Fだけでなく、Bから押し返される力(反作用)もはたらいています。したがって、Aの運動方程式の合力は \(F-f\) となります。
- 内力を複雑に考えすぎる: AがBを押す力とBがAを押す力は、作用・反作用の関係にあり、大きさは同じです。両者を別々の未知数(例: \(f_1, f_2\))として考える必要はありません。
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