「重要問題集」徹底解説(16〜20問):未来の得点力へ!完全マスター講座

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

問題16 (東海大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、斜面に置かれた直方体のつりあいを扱います。板の傾斜角を大きくしていくと、物体は「滑り出す」か「倒れる」かのどちらかが先に起こります。この2つの現象を、それぞれ「力のつりあい」と「力のモーメントのつりあい」の観点から分析する問題です。

与えられた条件
  • 物体: 質量 \(M\) の直方体。辺ABの長さ \(3a\)、辺BCの長さ \(a\)。
  • 板: 平らであらい。水平から徐々に傾けることができる。
  • 静止摩擦係数: \(\mu_0\) (板と物体の間)
  • 重力加速度: \(g\)
  • 状況1 (図1): 長辺ABを接して置く。傾斜角\(\theta\)が\(\theta_1\)を超えると滑りだす。
  • 状況2 (図2): 短辺BCを接して置く。滑りだすことなく、傾斜角\(\theta_2\)で倒れる。
問われていること
  • (1) 状況1で、\(\theta < \theta_1\) で静止しているときの摩擦力の大きさ。
  • (2) 状況1で、倒れることなく滑りだしたことからわかる \(\mu_0\) の条件。
  • (3) 状況2で、倒れ始める瞬間の傾斜角 \(\theta_2\) に対する \(\tan\theta_2\) の値。
  • (4) 状況2で、倒れ始める直前の摩擦力の大きさ。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「剛体のつりあい」と、その限界条件である「滑り出す条件」と「倒れる条件」の比較です。

  1. 力のつりあい: 物体が静止しているとき、斜面に平行な方向と垂直な方向の力はそれぞれつりあっている。
  2. 力のモーメントのつりあい: 物体が回転せずに静止しているとき、任意の点のまわりの力のモーメントはつりあっている。
  3. 滑り出す条件: 斜面に平行な力(重力の成分)が、最大静止摩擦力と等しくなる瞬間に物体は滑り出す。
  4. 倒れる条件: 重力の作用線が、物体の底面の支持領域(この場合は接している辺)の端点を越える瞬間に物体は倒れる。これは、垂直抗力の作用点が支持領域の端に達したときと等価である。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、物体にはたらく力(重力、垂直抗力、摩擦力)を図示し、斜面に平行・垂直な成分に分解します。
  2. 静止している状態での力のつりあいの式を立て、摩擦力を求めます。
  3. 「滑り出す」条件と「倒れる」条件をそれぞれ数式で表現し、比較することで\(\mu_0\)の条件を導きます。
  4. 状況2についても同様に、今度は「倒れる」条件から\(\theta_2\)を求め、そのときの力のつりあいから摩擦力を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
物体が板に対して静止しているとき、物体にはたらく力はつりあっています。特に、斜面に平行な方向の力のつりあいを考えることで、摩擦力の大きさを求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 考察の対象を「直方体」とする。
  • 重力を斜面に平行な成分と垂直な成分に分解する。
  • 静止している間、摩擦力は重力の斜面成分とつりあっている。

具体的な解説と立式
物体にはたらく力は、「重力 \(Mg\)」「斜面からの垂直抗力 \(N\)」「斜面からの静止摩擦力 \(f\)」の3つです。
重力 \(Mg\) を斜面に平行な成分と垂直な成分に分解します。

  • 斜面平行成分(斜面下向き): \(Mg\sin\theta\)
  • 斜面垂直成分(斜面に垂直下向き): \(Mg\cos\theta\)

物体は斜面に平行な方向に動かないので、この方向の力はつりあっています。摩擦力 \(f\) は、重力の斜面平行成分を支えるために、斜面上向きにはたらきます。
したがって、力のつりあいの式は、
$$f = Mg\sin\theta$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • 力の分解
計算過程

上記の立式がそのまま答えとなります。

計算方法の平易な説明

斜面に置かれた物体がずり落ちようとする力は、重力の一部分である \(Mg\sin\theta\) です。物体が静止しているのは、この力と全く同じ大きさの摩擦力が、反対向き(斜面を駆け上る向き)に働いて支えているからです。

結論と吟味

摩擦力の大きさは \(Mg\sin\theta\) です。傾斜角\(\theta\)が大きくなるほど、滑り落ちようとする力が強くなるため、それを支える摩擦力も大きくなるという、直感と一致した結果です。

解答 (1) \(Mg\sin\theta\)

問(2)

思考の道筋とポイント
この問題は、「倒れる」よりも先に「滑りだす」という条件を数式で表現することが鍵です。

  • 滑り出す条件: 傾斜角が \(\theta_1\) になったとき、摩擦力が最大静止摩擦力に達します。
    \(f_1 = Mg\sin\theta_1\) かつ \(f_1 = \mu_0 N = \mu_0 Mg\cos\theta_1\)。
    よって、\(\mu_0 = \tan\theta_1\)。
  • 倒れる条件: 物体が倒れるのは、重心の真下の点が、支持領域(この場合は辺AB)の端点(点A)を越えるときです。この瞬間の角度を \(\theta_0\) とすると、力のモーメントがつりあう限界の状態になります。
  • 倒れることなく滑りだす: これは、滑り出す角度 \(\theta_1\) が、倒れる角度 \(\theta_0\) よりも小さい (\(\theta_1 < \theta_0\)) ことを意味します。

この設問における重要なポイント

  • 「滑り出す条件」と「倒れる条件」をそれぞれ立式する。
  • \(\theta_1 < \theta_0\) という条件を、\(\tan\theta\) の大小関係に置き換えて\(\mu_0\)の条件を求める。

具体的な解説と立式
1. 滑り出す角度 \(\theta_1\) の条件

傾斜角が \(\theta_1\) のとき、摩擦力は最大静止摩擦力に等しくなります。
$$Mg\sin\theta_1 = \mu_0 (Mg\cos\theta_1)$$
$$\mu_0 = \frac{\sin\theta_1}{\cos\theta_1} = \tan\theta_1 \quad \cdots ①$$

2. 倒れる角度 \(\theta_0\) の条件

物体が倒れる直前、垂直抗力の作用点は下側の端点Aに集中します。この状態で、点Aのまわりの力のモーメントがつりあっています。

  • 重力 \(Mg\) によるモーメント: 重心Gにはたらく重力 \(Mg\) を、斜面に平行な成分 \(Mg\sin\theta_0\) と垂直な成分 \(Mg\cos\theta_0\) に分解します。
    • \(Mg\sin\theta_0\) は物体を反時計回りに回そうとします。腕の長さは、重心Gの高さなので \(\frac{a}{2}\)。
    • \(Mg\cos\theta_0\) は物体を時計回りに回そうとします。腕の長さは、重心Gの水平位置なので \(\frac{3a}{2}\)。

モーメントのつりあいの式は、
$$(Mg\sin\theta_0) \times \frac{a}{2} = (Mg\cos\theta_0) \times \frac{3a}{2}$$

3. 条件の結合

「倒れることなく滑りだした」ので、\(\theta_1 < \theta_0\) です。
\(\tan\theta\) は \(0 < \theta < \pi/2\) の範囲で単調増加なので、\(\tan\theta_1 < \tan\theta_0\) となります。

使用した物理公式

  • 最大静止摩擦力: \(f = \mu N\)
  • 力のモーメントのつりあい
計算過程

まず、倒れる角度\(\theta_0\)を求めます。モーメントのつりあいの式から、
$$\sin\theta_0 = 3\cos\theta_0$$
$$\tan\theta_0 = 3 \quad \cdots ②$$
次に、滑り出す条件 \(\mu_0 = \tan\theta_1\) と、倒れることなく滑る条件 \(\tan\theta_1 < \tan\theta_0\) を組み合わせます。
$$\mu_0 < 3$$

計算方法の平易な説明

物体が「滑る」か「倒れる」か、どちらが先に起こるかの競争です。「滑る」のは摩擦力の限界、「倒れる」のはバランスの限界です。それぞれの限界となる角度を計算し、今回は「滑る」が先に起きたので、滑る角度が倒れる角度より小さかった、という不等式を立てて、摩擦係数の条件を求めます。

結論と吟味

静止摩擦係数 \(\mu_0\) は3未満であるとわかります。もし \(\mu_0\) が3以上なら、物体は滑り出す前に倒れてしまうことになります。

解答 (2) 3

問(3)

思考の道筋とポイント
状況2では、短辺BCを接して物体を置いています。この状態で、滑りだすことなく、傾斜角が \(\theta_2\) になった瞬間に倒れた、とあります。「倒れ始める瞬間」の条件は、問(2)で考えた倒れる条件と同じです。ただし、辺の長さが変わるので、腕の長さが変わることに注意します。
この設問における重要なポイント

  • 「倒れ始める瞬間」の条件を適用する。
  • 辺の長さが \(a\) と \(3a\) で入れ替わっていることを正しく反映させる。

具体的な解説と立式
倒れ始める瞬間、垂直抗力の作用点は下側の端点Bに集中します。この状態で、点Bのまわりの力のモーメントがつりあっています。

  • 重力 \(Mg\) によるモーメント:
    • 斜面平行成分 \(Mg\sin\theta_2\) は、物体を反時計回りに回そうとします。腕の長さは、重心Gの高さなので \(\frac{3a}{2}\)。
    • 斜面垂直成分 \(Mg\cos\theta_2\) は、物体を時計回りに回そうとします。腕の長さは、重心Gの水平位置なので \(\frac{a}{2}\)。

モーメントのつりあいの式は、
$$(Mg\sin\theta_2) \times \frac{3a}{2} = (Mg\cos\theta_2) \times \frac{a}{2}$$

使用した物理公式

  • 力のモーメントのつりあい
計算過程

つりあいの式の両辺から \(Mg \times \frac{a}{2}\) を消去すると、
$$3\sin\theta_2 = \cos\theta_2$$
両辺を \(\cos\theta_2\) で割ると、
$$3\tan\theta_2 = 1$$
$$\tan\theta_2 = \frac{1}{3}$$

計算方法の平易な説明

今度は、物体を縦長に置いた場合です。倒れる瞬間のバランスの限界を考えます。問(2)と考え方は同じですが、物体の置き方が変わったので、重心までの「高さ」と「横位置」が入れ替わります。新しい腕の長さでモーメントのつりあいの式を立てます。

結論と吟味

\(\tan\theta_2 = \frac{1}{3}\) です。状況1の倒れる角度 \(\tan\theta_0=3\) と比べて、はるかに小さい角度で倒れることがわかります。これは、縦長の物体の方が倒れやすいという日常的な感覚と一致しています。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{1}{3}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
物体が倒れ始める「直前」は、まだ滑らずに静止しています。したがって、この瞬間も斜面に平行な方向の力はつりあっています。この力のつりあいの式から、摩擦力の大きさを求めます。
この設問における重要なポイント

  • 「倒れ始める直前」は、まだ静止しており、力のつりあいが成り立っている。
  • 摩擦力は、重力の斜面平行成分とつりあっている。

具体的な解説と立式
倒れ始める直前の傾斜角は \(\theta_2\) です。このとき、物体にはたらく摩擦力 \(f_2\) は、問(1)と同様に、重力の斜面平行成分とつりあっています。
$$f_2 = Mg\sin\theta_2$$
ここで、問(3)の結果 \(\tan\theta_2 = \frac{1}{3}\) を利用して \(\sin\theta_2\) の値を求めます。
\(\tan\theta_2 = \frac{1}{3}\) を満たす直角三角形を考えると、3辺の比は \(1:3:\sqrt{1^2+3^2} = 1:3:\sqrt{10}\) となります。
したがって、
$$\sin\theta_2 = \frac{1}{\sqrt{10}}$$
これを摩擦力の式に代入します。

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • 三角関数の相互関係
計算過程

$$f_2 = Mg \times \frac{1}{\sqrt{10}} = \frac{1}{\sqrt{10}}Mg$$

計算方法の平易な説明

物体が倒れる寸前も、まだ滑ってはいません。なので、滑り落ちようとする力(重力の斜面成分)と摩擦力は釣り合っています。(3)で倒れるときの角度がわかったので、その角度を使って滑り落ちようとする力を計算すれば、それがそのまま摩擦力の大きさになります。

結論と吟味

摩擦力の大きさは \(\frac{1}{\sqrt{10}}Mg\) です。
この状況では「滑りだすことなく」倒れたので、この摩擦力 \(f_2\) は最大静止摩擦力 \(\mu_0 N_2 = \mu_0 Mg\cos\theta_2\) よりも小さいはずです。
\(f_2 = Mg\sin\theta_2\) なので、\(Mg\sin\theta_2 < \mu_0 Mg\cos\theta_2\)、つまり \(\tan\theta_2 < \mu_0\) という条件が成り立っているはずです。 \(\tan\theta_2 = 1/3\) なので、\(\mu_0 > 1/3\) であれば、この状況は起こりえます。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{10}}Mg\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 剛体のつりあいの限界条件(滑り出す vs 倒れる):
    • 核心: この問題の最も重要なポイントは、斜面に置かれた剛体が静止状態を破る2つの異なるメカニズム、「滑り出す」ことと「倒れる」ことを区別し、それぞれを的確に数式で表現することです。
      1. 滑り出す条件: これは「力のつりあい」の限界です。斜面下向きに滑らせようとする力(重力の斜面成分)が、それを妨げる静止摩擦力の限界(最大静止摩擦力)に達した瞬間に起こります。数式では \(Mg\sin\theta = \mu_0 Mg\cos\theta\)、すなわち \(\tan\theta = \mu_0\) と表されます。
      2. 倒れる条件: これは「力のモーメントのつりあい」の限界です。傾きが増すにつれて重力の作用線が支持基底面(底辺)の端に近づき、ついにその端を越える瞬間に起こります。このとき、垂直抗力の作用点が支持基底面の端に移動したとして、力のモーメントのつりあいの式を立てます。
    • 理解のポイント: 物体が滑るか倒れるかは、\(\tan\theta\) で比較できます。滑り出す角度\(\theta_s\)は \(\tan\theta_s = \mu_0\)、倒れる角度\(\theta_t\)は \(\tan\theta_t = (\text{底辺の半分の長さ}) / (\text{重心の高さ})\) で決まります。\(\theta_s\) と \(\theta_t\) のどちらが小さいかによって、先に起こる現象が決まります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 様々な形状の物体: 直方体だけでなく、円柱や三角柱など、異なる形状の物体が斜面で滑るか倒れるかを問う問題。重心の位置と底面の形状を正しく把握すれば、同じ考え方で解けます。
    • 水平な力を加える問題: 斜面ではなく水平な床に置かれた物体に、徐々に大きな水平な力を加えていく問題。この場合も、滑り出す条件(力が最大静止摩擦力に達する)と、倒れる条件(力のモーメントがつりあわなくなる)を比較します。
    • 乗り物の安定性: トラックやバスがカーブを曲がる際に、遠心力によって外側に倒れるか、あるいはタイヤが滑るか、といった問題。これも「倒れる条件」と「滑る条件」の比較という点で本質的に同じ構造です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「滑る」と「倒れる」を分離して考える: 問題文に「滑る」「倒れる」という言葉が出てきたら、それぞれが「力のつりあい」と「力のモーメントのつりあい」のどちらの限界条件に対応するのかを即座に判断します。
    2. 重心の位置と支持基底面: 「倒れる」条件を考える際は、物体の重心の高さと、支持基底面(床と接している部分)の幅が決定的に重要になります。図からこれらの幾何学的な情報を正確に読み取ります。
    3. 限界瞬間の状態: 「滑りだす瞬間」や「倒れ始める瞬間」は、まだ物体が静止している(加速度が0である)とみなし、力のつりあいや力のモーメントのつりあいの式を適用できる、という点が重要です。運動が始まってからではなく、その直前の状態で考えます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 滑る条件と倒れる条件の混同:
    • 誤解: 摩擦力の問題を力のモーメントで、回転の問題を力のつりあいだけで解こうとして混乱する。
    • 対策: 「滑る=並進運動の開始 \(\rightarrow\) 力のつりあいの限界」「倒れる=回転運動の開始 \(\rightarrow\) 力のモーメントのつりあいの限界」という対応関係を明確に覚える。
  • 倒れるときの力のモーメントの腕の長さの計算ミス:
    • 誤解: 重心までの距離をそのまま腕の長さにしてしまう。
    • 対策: 倒れる直前は、回転の中心が底面の端点になる。そこを基準として、重力を「斜面に平行な成分」と「斜面に垂直な成分」に分解し、それぞれに対する腕の長さを正確に求める。腕の長さは、回転の中心から力の作用線までの「垂直距離」です。
  • 静止摩擦力の扱い:
    • 誤解: 静止している間の摩擦力を常に最大静止摩擦力 \(\mu_0 N\) だと思ってしまう。
    • 対策: 静止摩擦力は、あくまで外力とつりあうために必要な分だけはたらく「受動的な力」です。問(1)や(4)のように、単に静止している状態では、力のつりあいの式から求めます。\(f = \mu_0 N\) が使えるのは、「ちょうど滑りだす瞬間」だけです。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 重心と支持基底面の関係: 物体の重心から鉛直下向きに線を下ろし(重力の作用線)、この線が支持基底面(床との接触辺)の内側にあるか外側にあるかを考える。この線が支持基底面の端を越えた瞬間に、物体は倒れます。このイメージは非常に強力です。
    • 力の分解図: 重力\(Mg\)を、斜面に平行な\(Mg\sin\theta\)と垂直な\(Mg\cos\theta\)に分解する図は必須です。これにより、滑らせようとする力と、斜面に押し付ける力が明確になります。
    • 倒れる瞬間の力の図示: 倒れる瞬間には、垂直抗力の作用点が底面の端(回転軸)に移動していることを図に明記する。これにより、なぜ垂直抗力のモーメントが0になるのかが視覚的に理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 物体の向きと辺の長さ: 図1と図2で物体の置き方が違うことを明確に意識し、辺の長さ(\(a\)と\(3a\))を正しく図に反映させる。これが倒れる条件の計算結果を大きく左右します。
    • 作用点の明記: 重力は重心Gから、垂直抗力と摩擦力は接触面(倒れる直前は端点)から描く。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつりあいの式 (\(f = Mg\sin\theta\)):
    • 選定理由: 問(1)や(4)で、静止している物体にはたらく「静止摩擦力」の大きさを求めるため。
    • 適用根拠: 物体は斜面方向に並進運動していない(加速度がゼロ)ため、斜面方向の力はつりあっている。摩擦力は、重力の斜面成分とつりあう大きさになる。
  • 滑り出す条件式 (\(\tan\theta_1 = \mu_0\)):
    • 選定理由: 「滑りだす」という限界状態を数式で表現するため。
    • 適用根拠: 滑りだす瞬間には、静止摩擦力が最大値 \(f_{\text{最大}} = \mu_0 N\) に達する。力のつりあいの式 \(f=Mg\sin\theta\) と \(N=Mg\cos\theta\) を組み合わせることで導出される。
  • 倒れる条件式(モーメントのつりあい):
    • 選定理由: 「倒れる」という限界状態を数式で表現するため。
    • 適用根拠: 倒れる直前には、物体は回転軸(底面の端)まわりで力のモーメントがつりあっている限界の状態にある。重力による回転モーメントがつりあう条件から、そのときの角度が決定される。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 状況1(長辺ABが接地)の解析:
    • (1) 静止時の摩擦力: 斜面方向の力のつりあいから、\(f = Mg\sin\theta\)。
    • (2) \(\mu_0\)の条件:
      • Step 1 (滑る条件): 滑り出す角度\(\theta_1\)では \(\tan\theta_1 = \mu_0\)。
      • Step 2 (倒れる条件): 倒れる角度\(\theta_0\)を、点Aまわりのモーメントのつりあいから求める \(\rightarrow \tan\theta_0 = 3\)。
      • Step 3 (比較): 「倒れることなく滑る」ので \(\theta_1 < \theta_0\)。よって \(\tan\theta_1 < \tan\theta_0\) より \(\mu_0 < 3\)。
  2. 状況2(短辺BCが接地)の解析:
    • (3) 倒れる角度\(\theta_2\)の計算:
      • Step 1: 「滑らずに倒れる」という状況を把握。
      • Step 2: 倒れる瞬間の、点Bまわりのモーメントのつりあいの式を立てる。このとき、辺の長さが状況1と逆になることに注意する。
      • Step 3: 式を解いて \(\tan\theta_2 = 1/3\) を求める。
    • (4) 倒れる直前の摩擦力:
      • Step 1: 倒れる直前はまだ静止しているので、斜面方向の力のつりあいが成り立っている。\(f_2 = Mg\sin\theta_2\)。
      • Step 2: (3)で求めた \(\tan\theta_2=1/3\) から \(\sin\theta_2\) の値を計算する。
      • Step 3: \(f_2\) の式に代入して値を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 幾何学的な情報の正確な読み取り:
    • 特に注意すべき点: 倒れる条件を考える際の、回転軸から重心までの水平距離と鉛直距離。物体の向き(図1か図2か)によって、\(a/2\) と \(3a/2\) が入れ替わる。この対応を間違えると、結果が全く異なってしまう。
    • 日頃の練習: 問題ごとに図を丁寧に描き、長さや寸法を正確に書き込む習慣をつける。
  • 三角関数の変換:
    • 特に注意すべき点: 問(4)のように、\(\tan\theta\) の値から \(\sin\theta\) や \(\cos\theta\) の値を求める場面は頻出する。
    • 日頃の練習: \(1+\tan^2\theta = 1/\cos^2\theta\) のような公式を使う方法と、直角三角形を描いて辺の比から求める方法の両方に習熟しておく。後者の方が直感的で速いことが多い。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) \(\mu_0\)の条件: \(\mu_0 < 3\)。もし \(\mu_0\) がこれより大きい、例えば \(\mu_0=4\) なら、滑り出す角度は \(\tan\theta_1=4\) となり、倒れる角度 \(\tan\theta_0=3\) よりも大きくなる。つまり、角度を大きくしていくと、\(\tan\theta=3\) の時点で先に倒れてしまう。これは問題の設定(滑りだした)と矛盾しない。
    • (3) 倒れる角度: 長辺で置いたときの倒れる角度は \(\tan\theta_0=3\)、短辺で置いたときは \(\tan\theta_2=1/3\)。細長い方が倒れやすいという直感と完全に一致する。
  • 条件の再確認:
    • 状況1では「倒れることなくすべりだした」ので \(\theta_1 < \theta_0\)。
    • 状況2では「すべりだすことはなく、…倒れた」ので \(\theta_2 < \theta_s’\)(状況2での滑り出す角度)。\(\theta_s’\) は \(\tan\theta_s’ = \mu_0\) で決まるので、この状況が成り立つためには \(\tan\theta_2 < \mu_0\)、つまり \(1/3 < \mu_0\) である必要がある。
    • これらを総合すると、この直方体の静止摩擦係数 \(\mu_0\) は \(1/3 < \mu_0 < 3\) の範囲にある、ということが問題全体から読み取れる。このように、各設問の結果を統合して物理的状況を深く考察する習慣をつけると、応用力が格段に向上する。

問題17 (名城大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、液体に浮かぶ棒を糸で引き上げる際のつりあいを扱います。棒が傾いているため、重力と浮力の作用点が異なることがポイントとなり、力のモーメントのつりあいを考える必要があります。

与えられた条件
  • 棒: 長さ \(l\)、断面積 \(S\)、密度 \(\rho\)、一様
  • 液体: 密度 \(\rho_0\) (\(\rho_0 > \rho\))
  • 状態:
    • 棒の一端Aに糸をつけ、鉛直上向きに引き上げる。
    • 棒は液面と角\(\theta\)をなして静止。
    • 液面から点Aまでの高さが \(h\)。
  • その他: 糸は常に鉛直。力の作用点は常に棒の中心線上にある。
  • 重力加速度: \(g\)
問われていること
  • (1) 棒にはたらく重力の大きさ。
  • (2) 棒が傾いて静止しているとき
    • (a) 重力の作用線と点Aとの間の水平距離。
    • (b) 液体から受ける浮力の大きさ(液体中の長さを\(l_0\)とする)。
    • (c) \(l_0\) を \(l, h, \theta\) で表す式。
    • (d) 点Aのまわりの力のモーメントのつりあいの式。
    • (e) \(\sin\theta\) を求める式。
  • (3) \(\theta=90^\circ\)になった瞬間の、液面から点Aまでの高さ。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「浮力と剛体のつりあい」です。浮力がはたらく剛体のつりあいを考える際は、以下の点が重要になります。

  1. 重力の作用点: 剛体の重心。一様な棒の場合はその中心。
  2. 浮力の作用点: 剛体が押しのけた液体の体積部分の重心。一様な棒が液体に浸かっている場合は、その「液体に浸かっている部分の中心」。
  3. 力のモーメントのつりあい: 重力と浮力の作用点が異なるため、これらの力が力のモーメントを生み出します。剛体が回転せずに静止しているのは、これらのモーメントがつりあっているためです。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、棒の質量を計算し、重力の大きさを求めます。
  2. 次に、棒が傾いている状態について、重力と浮力がはたらく位置を特定し、それぞれの力のモーメントを計算します。
  3. 力のモーメントのつりあいの式を立て、未知数を解いていきます。幾何学的な関係式も併用します。
  4. 最後に、\(\theta=90^\circ\)という特定の状況を考え、(2)で導いた関係式を適用します。

問(1)

思考の道筋とポイント
棒の重力の大きさを求めます。重力は「質量 \(\times\) 重力加速度」で、質量は「密度 \(\times\) 体積」で計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 棒の体積を正しく計算する。
  • 質量と密度の関係式 \(m = \rho V\) を使う。

具体的な解説と立式
棒の体積 \(V\) は、長さ \(l\) と断面積 \(S\) から、
$$V = Sl$$
棒の質量 \(m\) は、密度 \(\rho\) と体積 \(V\) から、
$$m = \rho V$$
したがって、棒にはたらく重力の大きさ \(W\) は、
$$W = mg$$

使用した物理公式

  • 質量・密度・体積の関係: \(m = \rho V\)
  • 重力の式: \(W = mg\)
計算過程

立式したものを代入して整理します。
$$W = (\rho V)g = (\rho Sl)g = \rho Slg$$

計算方法の平易な説明

物体の重さは、その物体の質量に重力加速度を掛けることで求まります。質量は、密度に体積を掛けることで計算できます。棒の体積は「断面積 \(\times\) 長さ」です。

結論と吟味

棒にはたらく重力の大きさは \(\rho Slg\) です。

解答 (1) \(\rho Slg\)

問(2a)

思考の道筋とポイント
重力の作用線と点Aとの間の「水平距離」を求めます。重力は棒の重心にはたらきます。一様な棒なので、重心は棒の中心です。
この設問における重要なポイント

  • 重力の作用点は棒の中心(重心)である。
  • 図形的な関係から水平距離を求める。

具体的な解説と立式
重力は、棒の中心Gにはたらきます。点Aは棒の一端なので、AからGまでの棒に沿った距離は \(\frac{l}{2}\) です。
棒は液面と角\(\theta\)をなしているので、重力の作用線(鉛直な線)と点Aとの水平距離は、三角比の関係から、
$$(\text{水平距離}) = \frac{l}{2}\cos\theta$$

使用した物理公式

  • 三角比
計算過程

この設問では、立式がそのまま答えとなるため、特別な計算過程はありません。

計算方法の平易な説明

重力は棒のど真ん中にかかります。点Aから真ん中までの距離は \(\frac{l}{2}\) です。棒が\(\theta\)だけ傾いているので、A点と真ん中の点の「横方向のずれ」を考えます。これは三角関数を使って計算できます。

結論と吟味

水平距離は \(\frac{l}{2}\cos\theta\) です。

解答 (2a) \(\displaystyle\frac{l}{2}\cos\theta\)

問(2b)

思考の道筋とポイント
浮力の大きさを求めます。アルキメデスの原理によれば、浮力の大きさは「物体が押しのけた流体の重さ」に等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • アルキメデスの原理を適用する。
  • 液体に浸かっている部分の体積を正しく計算する。

具体的な解説と立式
棒のうち、液体に浸かっている部分の長さは \(l_0\) です。この部分の体積 \(V_{\text{水中}}\) は、
$$V_{\text{水中}} = S l_0$$
アルキメデスの原理より、浮力の大きさ \(F_{\text{浮力}}\) は、この体積と同じ体積の液体(密度\(\rho_0\))の重さに等しいので、
$$F_{\text{浮力}} = \rho_0 V_{\text{水中}} g$$

使用した物理公式

  • アルキメデスの原理: \(F_{\text{浮力}} = \rho_{\text{液体}} V_{\text{物体}} g\)
計算過程

立式した \(V_{\text{水中}}\) を代入します。
$$F_{\text{浮力}} = \rho_0 (S l_0) g = \rho_0 S l_0 g$$

計算方法の平易な説明

浮力の大きさは、その物体が沈んでいる部分と同じ体積分の水の重さと同じです。水に沈んでいる部分の長さが \(l_0\) なので、その体積は \(S \times l_0\)。この体積の水の重さを計算します。

結論と吟味

浮力の大きさは \(\rho_0 S l_0 g\) です。

解答 (2b) \(\rho_0 S l_0 g\)

問(2c)

思考の道筋とポイント
液体に浸かっている部分の長さ \(l_0\) を、与えられた \(l, h, \theta\) を用いて表します。図形的な関係に着目します。
この設問における重要なポイント

  • 図から、棒の長さ、高さ、角度の関係を表す直角三角形を見つける。

具体的な解説と立式
図を見ると、液面より上に出ている棒の部分、液面、そして点Aから液面に下ろした垂線で直角三角形ができます。
液面より上に出ている棒の長さは \(l – l_0\) です。
この直角三角形の斜辺が \(l-l_0\)、高さが \(h\)、角度が \(\theta\) なので、三角比の定義より、
$$\sin\theta = \frac{h}{l-l_0}$$

使用した物理公式

  • 三角比の定義
計算過程

この式を \(l_0\) について解きます。
$$l-l_0 = \frac{h}{\sin\theta}$$
$$l_0 = l – \frac{h}{\sin\theta}$$

計算方法の平易な説明

棒の、水面から出ている部分に注目します。この部分の長さは \(l-l_0\) です。この部分と水面、そしてA点の高さ\(h\)で直角三角形ができます。この三角形の辺と角度の関係(サイン)から、\(l_0\) を求める式を作ります。

結論と吟味

長さ \(l_0\) は \(l – \frac{h}{\sin\theta}\) と表せます。

解答 (2c) \(l – \displaystyle\frac{h}{\sin\theta}\)

問(2d)

思考の道筋とポイント
点Aのまわりの力のモーメントのつりあいの式を立てます。棒にはたらく力のうち、点Aまわりにモーメントを作るのは「重力」と「浮力」です。糸の力は点Aにはたらくのでモーメントは0です。
この設問における重要なポイント

  • 浮力の作用点を正しく特定する(液体に浸かっている部分の中心)。
  • 重力と浮力のモーメントの腕の長さを正確に計算する。
  • モーメントの回転方向を正しく判断する。

具体的な解説と立式
点Aを回転の中心とします。

  • 重力によるモーメント:
    • 力: \(W = \rho Slg\)(下向き)
    • 腕の長さ: (2a)で求めた通り \(\frac{l}{2}\cos\theta\)。
    • 回転方向: 時計回り。
  • 浮力によるモーメント:
    • 力: \(F_{\text{浮力}} = \rho_0 S l_0 g\)(上向き)
    • 作用点: 液体に浸かっている部分(長さ\(l_0\))の中心。Aからの距離は \(l – \frac{l_0}{2}\)。
    • 腕の長さ: \((l – \frac{l_0}{2})\cos\theta\)。
    • 回転方向: 反時計回り。

力のモーメントのつりあいの式は、
(反時計回りのモーメント) = (時計回りのモーメント)
$$(\rho_0 S l_0 g) \times \left(l – \frac{l_0}{2}\right)\cos\theta = (\rho Slg) \times \frac{l}{2}\cos\theta$$

使用した物理公式

  • 力のモーメントのつりあい
計算過程

この設問は式を立てるだけであり、計算は不要です。

計算方法の平易な説明

点Aを回転の軸として、棒が回転しないための条件を考えます。重力は棒を時計回りに回そうとし、浮力は反時計回りに回そうとします。この2つの「回す効果」が釣り合っている、という式を立てます。

結論と吟味

点Aのまわりの力のモーメントのつりあいの式は \(\rho_0 S l_0 g (l – \frac{l_0}{2})\cos\theta = \rho Slg \frac{l}{2}\cos\theta\) です。

解答 (2d) \(\rho_0 S l_0 g \left(l – \displaystyle\frac{l_0}{2}\right)\cos\theta = \rho Slg \displaystyle\frac{l}{2}\cos\theta\)

問(2e)

思考の道筋とポイント
(2c)と(2d)で立てた2つの式を連立させて、\(\sin\theta\) を求めます。未知数は \(l_0\) と \(\sin\theta\) (または\(\theta\)) ですが、うまく \(l_0\) を消去することを目指します。
この設問における重要なポイント

  • 2つの未知数を含む連立方程式を解く。
  • 式を整理し、最終的に \(\sin\theta\) を求める。

具体的な解説と立式
(2d)のモーメントのつりあいの式と、(2c)の幾何学的な関係式を使います。
$$(\rho_0 S l_0 g) \left(l – \frac{l_0}{2}\right)\cos\theta = (\rho Slg) \frac{l}{2}\cos\theta \quad \cdots ①$$
$$l_0 = l – \frac{h}{\sin\theta} \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 連立方程式の解法
計算過程

まず式①を整理します。両辺から \(Sg\cos\theta\) を消去します(\(\cos\theta \neq 0\))。
$$\rho_0 l_0 \left(l – \frac{l_0}{2}\right) = \rho \frac{l^2}{2}$$
$$\rho_0 l_0 (2l – l_0) = \rho l^2$$
次に、この式に②を代入します。
$$\rho_0 \left(l – \frac{h}{\sin\theta}\right) \left(2l – \left(l – \frac{h}{\sin\theta}\right)\right) = \rho l^2$$
$$\rho_0 \left(l – \frac{h}{\sin\theta}\right) \left(l + \frac{h}{\sin\theta}\right) = \rho l^2$$
左辺は \((a-b)(a+b) = a^2-b^2\) の形なので、
$$\rho_0 \left(l^2 – \frac{h^2}{\sin^2\theta}\right) = \rho l^2$$
この式を \(\sin\theta\) について解きます。
$$l^2 – \frac{h^2}{\sin^2\theta} = \frac{\rho}{\rho_0}l^2$$
$$\frac{h^2}{\sin^2\theta} = l^2 – \frac{\rho}{\rho_0}l^2 = l^2 \left(1 – \frac{\rho}{\rho_0}\right) = l^2 \frac{\rho_0 – \rho}{\rho_0}$$
$$\sin^2\theta = \frac{h^2}{l^2} \frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}$$
$$\sin\theta = \sqrt{\frac{h^2}{l^2} \frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}} = \frac{h}{l}\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}}$$

計算方法の平易な説明

(c)と(d)で2つの関係式が手に入りました。これらはどちらも \(l_0\) と \(\theta\) を含んでいます。この2つの式をうまく組み合わせて(連立方程式を解いて)、\(l_0\) を消去し、\(\sin\theta\) だけの式にして答えを求めます。

結論と吟味

\(\sin\theta = \frac{h}{l}\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}}\) です。

解答 (2e) \(\displaystyle\frac{h}{l}\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
糸をさらに引き上げ、\(\theta=90^\circ\) になったときの、液面から点Aまでの高さ \(h’\) を求めます。これは、(2e)で導いた \(\sin\theta\) と \(h\) の関係式に、\(\theta=90^\circ\) を代入することで求められます。
この設問における重要なポイント

  • \(\theta=90^\circ\) は、棒が鉛直に立った状態を意味する。
  • \(\sin(90^\circ) = 1\) である。

具体的な解説と立式
(2e)で求めた関係式
$$\sin\theta = \frac{h}{l}\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}}$$
に、\(\theta=90^\circ\) と、そのときの高さを \(h’\) として代入します。
$$\sin(90^\circ) = \frac{h’}{l}\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}}$$

使用した物理公式

  • (2e)で導出した関係式
計算過程

\(\sin(90^\circ) = 1\) なので、
$$1 = \frac{h’}{l}\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}}$$
この式を \(h’\) について解きます。
$$h’ = l \times \frac{1}{\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}}} = l \sqrt{\frac{\rho_0 – \rho}{\rho_0}}$$

計算方法の平易な説明

(e)で、棒の傾き \(\sin\theta\) とA点の高さ \(h\) の関係がわかりました。この関係式に、\(\theta=90^\circ\) という特別な場合を代入して、そのときの高さ \(h’\) を計算します。

結論と吟味

高さは \(l \sqrt{\frac{\rho_0 – \rho}{\rho_0}}\) です。この高さは、棒の長さ \(l\) と、棒と液体の密度の比によって決まることがわかります。もし \(\rho=\rho_0\) なら \(h’=0\) となり、棒は完全に液体に沈むまで引き上げられないことを示唆しており、妥当です。

解答 (3) \(l\sqrt{\displaystyle\frac{\rho_0 – \rho}{\rho_0}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 剛体のつりあいの条件(特に力のモーメント):
    • 核心: この問題は、大きさを持つ物体(剛体である棒)が、複数の力を受けて静止している状況を扱います。剛体が静止するためには、「力のつりあい」と「力のモーメントのつりあい」の2つの基本法則が成り立つ必要があります。特に、重力と浮力の作用点が異なるため、回転せずに静止するための「力のモーメントのつりあい」が解答の鍵を握っています。
    • 理解のポイント:
      1. 作用点の違い: 重力は剛体全体の「重心」にはたらくのに対し、浮力は剛体が押しのけた流体の体積部分、すなわち「水に浸かっている部分の重心」にはたらきます。この作用点のずれが、力のモーメントを生む原因です。
      2. 回転の中心の選択: 力のモーメントを考える際、基準となる回転の中心をどこに選ぶかが計算の効率を左右します。この問題では、未知の力である糸の張力\(T\)がはたらく点Aを回転の中心に選ぶことで、\(T\)のモーメントを0として計算から排除でき、他の力の関係式をシンプルに立てることができます。
      3. 腕の長さの計算: 棒が傾いているため、腕の長さ(回転の中心から力の作用線までの垂直距離)を三角関数を用いて幾何学的に正しく求めることが不可欠です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 船の安定性(復原力): 船が波などで傾いたときに、元の姿勢に戻ろうとする性質。これも、傾くことで重心と浮心(浮力の作用点)の位置がずれ、復元的な力のモーメントが生じることで説明されます。本問のつりあいは、この復原力と外部からの力がつりあっている状態と見なせます。
    • 氷山の一角: 氷山が水に浮かんでいる状態も、重力と浮力のつりあいです。氷と水の密度が異なるため、一部が水面上に出ます。その安定性を考える問題は、本問と類似の構造を持ちます。
    • 異なる液体に浮かぶ物体: 上半分が油、下半分が水のような、層になった液体に物体が浮かぶ問題。この場合、それぞれの液体から受ける浮力を別々に計算し、それらの合力とモーメントを考える必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 作用点の図示: まず、重力と浮力(およびその他の力)の作用点を、できるだけ正確に図に描き込むことが最優先です。作用点が不明確だと、モーメントの計算ができません。
    2. 幾何学的関係の整理: 棒の長さ、水に浸かっている部分の長さ、水面からの高さ、傾斜角など、問題で与えられた幾何学的な情報を整理し、それらの関係式(本問の(2c)のような)を立てることが、連立方程式を解く上で重要になります。
    3. モーメントの腕の長さの特定: 回転の中心を定めた後、各力の「作用線」を点線で描き、中心からその作用線へ垂線を下ろすことで、腕の長さを視覚的に確認します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 浮力の作用点を間違える:
    • 誤解: 浮力が棒全体の中心(重心)にはたらくと考えてしまう。
    • 対策: 浮力は「液体に浸かっている部分」にのみ関係する力であると強く意識する。したがって、その作用点も「液体に浸かっている部分の中心」になります。
  • 腕の長さの計算ミス:
    • 誤解: 棒が傾いているのに、棒に沿った距離を腕の長さとしてしまう。
    • 対策: 力のモーメントの定義「力 \(\times\) (回転軸から力の作用線までの垂直距離)」を徹底する。本問では、力が全て鉛直方向なので、腕の長さは「水平方向の距離」になります。図に直角三角形を描き、\(\cos\theta\) を掛けることを忘れないようにする。
  • 力の種類の解釈ミス:
    • 誤解: 問題文の「ばねが伸びた」という記述を、ばねが棒を「押し上げている」と解釈してしまう。(※これは前問の例ですが、本問でも同様の誤解があり得ます)
    • 対策: 問題の図と文章をよく照らし合わせ、力がどちらの向きにはたらくかを物理的に正しく解釈する。本問では、糸は「引き上げる」、重力は「引き下げる」、浮力は「押し上げる」という方向を間違えないことが基本です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 作用点の分離: 一本の棒の絵の中に、重力の作用点Gと浮力の作用点(水面下の部分の中心)を、明確に異なる点としてプロットする。この2点のずれこそが、回転モーメントを生む源であることを視覚的に理解する。
    • 水平な補助線: 回転の中心Aを通り、水平な補助線を引く。各力の作用線(鉛直線)とこの補助線との交点までの距離が、それぞれの力のモーメントの腕の長さになることを図示する。
    • 棒のシーソーモデル: 点Aで吊るされたシーソーと考える。重力は重心Gの位置からシーソーを下に押し、浮力は水面下の中心の位置からシーソーを上に押している。この2つの回転効果がつりあっている状態をイメージする。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 水面を基準に: 棒が水面と交わる点を基準に、水上部分と水中部分の長さを明確に区別して描く。
    • 幾何学的関係の書き込み: \(l\), \(l_0\), \(h\), \(\theta\) の関係を示す直角三角形を図中に描き込むと、(2c)のような関係式が立てやすくなる。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • アルキメデスの原理 (\(F_{浮力} = \rho_0 V g\)):
    • 選定理由: 液体に浮かぶ(あるいは沈む)物体にはたらく「浮力」の大きさを定量的に計算するため。
    • 適用根拠: 物体が液体中にあるという物理的状況。\(V\)は「液体に浸かっている部分の体積」であることに注意が必要。
  • 力のつりあいの式 (\(\sum F_y = 0\)):
    • 選定理由: 棒は静止しており、上下に動いていないため。糸の張力\(T\)や垂直抗力(もしあれば)など、並進運動に関わる力を求める際に使用します。
    • 適用根拠: 棒の並進の加速度がゼロであるという物理的状況。
  • 力のモーメントのつりあいの式 (\(\sum M_A = 0\)):
    • 選定理由: 棒は傾いているが、回転せずに静止しているため。重力と浮力の作用点が異なるため、回転に関するつりあいを考えないと、棒の傾き\(\theta\)を決定できません。
    • 適用根拠: 棒の角加速度がゼロであるという物理的状況。回転の中心をAに選ぶことで、未知の力である張力\(T\)を計算から排除できるという戦略的な理由もあります。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 準備段階: 棒にはたらく力(張力\(T\), 重力\(W\), 浮力\(F_{浮力}\))を図示する。重力の作用点は棒の中心G、浮力の作用点は水面下の部分の中心であることを確認する。
  2. 問(1) 重力: 棒の体積 \(V=Sl\) と密度 \(\rho\) から質量 \(m=\rho Sl\) を求め、重力 \(W=mg=\rho Slg\) を計算する。
  3. 問(2) 傾いた状態でのつりあい:
    • (a) 重力モーメントの腕: 点Aから重心Gまでの棒に沿った距離は \(l/2\)。水平距離(腕の長さ)は \((l/2)\cos\theta\)。
    • (b) 浮力: 水中部分の長さ\(l_0\)、体積\(Sl_0\)。浮力は \(F_{浮力} = \rho_0 (Sl_0) g\)。
    • (c) 幾何学的関係: 水上部分の長さ \((l-l_0)\) と高さ \(h\) の関係から、\(\sin\theta = h/(l-l_0)\) を立て、\(l_0\) について解く。
    • (d) モーメントのつりあい: 点Aを回転の中心とする。(浮力のモーメント) = (重力のモーメント) の式を立てる。それぞれの腕の長さに注意する。
    • (e) \(\sin\theta\)の計算: (d)のモーメントの式を整理し、それに(c)の\(l_0\)の式を代入して、\(l_0\)を消去し、\(\sin\theta\)について解く。
  4. 問(3) 鉛直状態:
    • Step 1: 「\(\theta=90^\circ\)」という条件を、(e)で導いた関係式に代入する。
    • Step 2: \(\sin(90^\circ)=1\) を使い、そのときの高さ\(h’\)について方程式を解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字の整理と消去:
    • 特に注意すべき点: この問題は多くの物理量(\(l, S, \rho, \rho_0, g, h, l_0, \theta\))が登場します。モーメントのつりあいの式を立てた後、両辺で共通して消去できる文字(\(S, g, \cos\theta\)など)を素早く見つけることが、計算を簡略化しミスを防ぐ鍵です。
    • 日頃の練習: 複雑な文字式を扱う際に、すぐに数値を代入するのではなく、まずは文字のまま整理し、約分できる項を探す練習をする。
  • 連立方程式の処理:
    • 特に注意すべき点: 問(2e)では、モーメントの式と幾何学的な関係式の連立方程式を解く必要があります。代入する前に一方の式をできるだけ簡単な形(例:\(\rho_0 l_0(2l-l_0) = \rho l^2\))に整理しておくことが、計算ミスを減らすコツです。
    • 日頃の練習: 複雑な代入計算を、焦らず一行ずつ丁寧に行う練習を積む。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2e) \(\sin\theta\)の式: \(\sin\theta = \frac{h}{l}\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}}\)。
      • 根号の中が正であるためには、\(\rho_0 > \rho\) が必要。これは問題の前提条件と一致します。
      • \(\sin\theta \le 1\) でなければならないので、\(h\) には上限があることがわかります。\(h \le l\sqrt{(\rho_0-\rho)/\rho_0}\)。これは(3)で求める \(h’\) の値と一致し、棒を \(h’\) より高く引き上げることはできない(つりあいが保てない)ことを示唆しています。
    • (3) 高さ\(h’\): \(h’ = l \sqrt{1 – \rho/\rho_0}\)。
      • もし棒の密度\(\rho\)が液体の密度\(\rho_0\)に近づくと、\(\rho/\rho_0 \rightarrow 1\) となり、\(h’ \rightarrow 0\)。これは、密度が同じなら棒は液体中で浮きも沈みもせず、引き上げてもすぐに全体が沈んでしまうという状況に対応し、妥当です。
      • もし棒の密度\(\rho\)が非常に小さいと、\(\rho/\rho_0 \rightarrow 0\) となり、\(h’ \rightarrow l\)。これは、非常に軽い棒はほとんど全体が液面から出た状態で鉛直につりあうことを意味し、これも直感と一致します。

問題18 (島根大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、滑車を介して糸でつながれた2つの物体の運動を扱います。一方は鉛直に運動し、もう一方は斜面上を運動します。このような「連結された物体の運動」では、2つの物体が一体となって運動するため、加速度の大きさが等しく、糸の張力も等しいという点がポイントになります。

与えられた条件
  • 物体A, B: ともに質量 \(M\)
  • 連結: 伸び縮みしない軽い糸で、なめらかな滑車を介してつながれている。
  • 運動:
    • 物体A: 鉛直下向きに運動。
    • 物体B: 傾斜角\(\theta\)のなめらかな板の上を運動。
  • 傾斜角\(\theta\): \(0\) から \(\frac{\pi}{2}\) の範囲で変化可能。
  • 無視できるもの: 空気抵抗、糸・滑車の質量、物体の大きさ、物体Bと板の間の摩擦。
  • 重力加速度: \(g\)
問われていること
  • (1) 物体Aが鉛直下方に加速度\(a\)で運動するときの、張力\(T\)と加速度\(a\)の大きさ。
  • (2) 傾斜角\(\theta\)を変化させたときの、張力\(T\)と加速度\(a\)の変化を表すグラフ。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「連結された物体の運動方程式」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動方程式: 各物体にはたらく力を特定し、それぞれの物体について運動方程式 \(m\vec{a} = \sum \vec{F}\) を立てます。
  2. 束縛条件: 2つの物体は伸び縮みしない糸でつながれているため、運動する速さや加速度の大きさは常に等しくなります。
  3. 張力の性質: 軽くて伸び縮みしない糸の場合、糸のどの部分でも張力の大きさは等しく、両端の物体を引く力の大きさも等しくなります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、物体Aと物体Bそれぞれにはたらく力を図示します。
  2. 物体Aと物体Bの運動方向を正の向きとして定め、それぞれの物体について運動方程式を立てます。このとき、加速度の大きさを\(a\)、張力の大きさを\(T\)として、共通の文字を使います。
  3. 立てた2つの運動方程式を連立させて解き、未知数である \(a\) と \(T\) を求めます。
  4. 求めた \(a\) と \(T\) の式が、傾斜角\(\theta\)の関数になっていることを確認し、\(\theta\)が0から\(\pi/2\)まで変化するときの関数の振る舞い(単調増加、単調減少、極値など)を分析して、適切なグラフを選択します。

問(1)

思考の道筋とポイント
物体Aと物体B、それぞれについて運動方程式を立てます。物体Aは鉛直方向に、物体Bは斜面方向に運動します。両者の加速度の大きさは等しく\(a\)、糸の張力の大きさも等しく\(T\)です。この2つの未知数を含む連立方程式を解きます。
この設問における重要なポイント

  • 物体Aと物体B、それぞれに着目して力を図示する。
  • 各物体の運動方向に合わせて運動方程式を立てる。
  • 加速度\(a\)と張力\(T\)が共通であることを利用して連立方程式を解く。

具体的な解説と立式
物体Aにはたらく力と運動方程式

物体Aには、鉛直下向きに重力\(Mg\)、鉛直上向きに張力\(T\)がはたらきます。
物体Aは鉛直下向きに加速度\(a\)で運動するので、下向きを正とすると、運動方程式は、
$$Ma = Mg – T \quad \cdots ①$$

物体Bにはたらく力と運動方程式

物体Bには、斜面下向きに重力の成分\(Mg\sin\theta\)、斜面上向きに張力\(T\)がはたらきます。(他に、斜面に垂直な方向には垂直抗力と重力の垂直成分がはたらきますが、運動方向とは垂直なので運動方程式には直接関係しません。)
物体Bは、物体Aが下がるのに伴い、斜面上向きに加速度\(a\)で運動します。斜面上向きを正とすると、運動方程式は、
$$Ma = T – Mg\sin\theta \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • 力の分解
計算過程

未知数 \(a\) と \(T\) を含む連立方程式①, ②を解きます。

加速度 \(a\) を求める

式①と式②を辺々足し合わせると、張力\(T\)が消去できます。
$$(Ma) + (Ma) = (Mg – T) + (T – Mg\sin\theta)$$
$$2Ma = Mg – Mg\sin\theta$$
$$2Ma = Mg(1 – \sin\theta)$$
両辺を \(2M\) で割ると、
$$a = \frac{1-\sin\theta}{2}g$$

張力 \(T\) を求める

式①から \(T = Mg – Ma\) です。これに求めた\(a\)を代入します。
$$T = Mg – M \left( \frac{1-\sin\theta}{2}g \right)$$
$$T = Mg \left( 1 – \frac{1-\sin\theta}{2} \right)$$
$$T = Mg \left( \frac{2 – (1-\sin\theta)}{2} \right)$$
$$T = Mg \left( \frac{1+\sin\theta}{2} \right) = \frac{1+\sin\theta}{2}Mg$$

計算方法の平易な説明

物体Aと物体Bは糸でつながっているので、運命共同体です。Aが下に動く速さとBが斜面を上がる速さは同じです。

  1. まず、AとBそれぞれについて、動かす力と邪魔する力を考えて運動方程式(力のルール)を立てます。
  2. Aにとっては、重力が動かす力、張力が邪魔する力です。
  3. Bにとっては、張力が動かす力、重力の斜面成分が邪魔する力です。
  4. この2つのルールを組み合わせる(連立方程式を解く)ことで、全体の加速度と糸の張力がわかります。
結論と吟味

加速度の大きさは \(a = \frac{1-\sin\theta}{2}g\)、張力の大きさは \(T = \frac{1+\sin\theta}{2}Mg\) です。
例えば、\(\theta=0\)(板が水平)のとき、\(a = g/2, T = Mg/2\) となり、これは同じ質量の物体を滑車でつないだ基本的な問題の結果と一致します。
また、\(\theta=\pi/2\)(板が鉛直)のとき、\(a=0, T=Mg\) となり、同じ質量の物体が両側からぶら下がって静止する状態と一致します。これらの極端な場合で結果が妥当であることが確認できます。

解答 (1) \(T = \displaystyle\frac{1+\sin\theta}{2}Mg\), \(a = \displaystyle\frac{1-\sin\theta}{2}g\)

問(2)

思考の道筋とポイント
問(1)で求めた \(T\) と \(a\) の式が、傾斜角\(\theta\)の関数としてどのように振る舞うかを分析します。\(\theta\)が \(0\) から \(\frac{\pi}{2}\) まで増加するとき、\(\sin\theta\) は \(0\) から \(1\) まで単調に増加します。この性質を利用して、\(T\) と \(a\) が単調に増加するのか、減少するのか、あるいは他の振る舞いをするのかを調べ、最も適当なグラフを選びます。
この設問における重要なポイント

  • \(\sin\theta\) の \(0 \le \theta \le \pi/2\) における振る舞いを理解している。
  • \(T\) と \(a\) の式を \(\sin\theta\) の関数と見て、その増減を調べる。
  • 始点(\(\theta=0\))と終点(\(\theta=\pi/2\))での値を計算し、グラフの形を特定する。

具体的な解説と立式
張力 \(T\) の変化

張力の式は、
$$T(\theta) = \frac{1+\sin\theta}{2}Mg$$
\(\theta\) が \(0 \rightarrow \pi/2\) と変化するとき、\(\sin\theta\) は \(0 \rightarrow 1\) と単調に増加します。
したがって、\(1+\sin\theta\) も単調に増加します。
よって、\(T\) も\(\theta\)に対して単調に増加します。
始点と終点の値を確認します。

  • \(\theta=0\) のとき: \(T = \frac{1+0}{2}Mg = \frac{1}{2}Mg\)
  • \(\theta=\pi/2\) のとき: \(T = \frac{1+1}{2}Mg = Mg\)

値が \(\frac{1}{2}Mg\) から \(Mg\) まで単調に増加するグラフを探します。解答群の中で、このような振る舞いをするのは⑦です。(グラフは直線ではありませんが、単調増加という特徴は一致します)

加速度 \(a\) の変化

加速度の式は、
$$a(\theta) = \frac{1-\sin\theta}{2}g$$
\(\theta\) が \(0 \rightarrow \pi/2\) と変化するとき、\(\sin\theta\) は \(0 \rightarrow 1\) と単調に増加します。
したがって、\(-\sin\theta\) は単調に減少し、\(1-\sin\theta\) も単調に減少します。
よって、\(a\) は\(\theta\)に対して単調に減少します。
始点と終点の値を確認します。

  • \(\theta=0\) のとき: \(a = \frac{1-0}{2}g = \frac{1}{2}g\)
  • \(\theta=\pi/2\) のとき: \(a = \frac{1-1}{2}g = 0\)

値が \(\frac{1}{2}g\) から \(0\) まで単調に減少するグラフを探します。解答群の中で、このような振る舞いをするのは②です。

使用した物理公式

  • 問(1)で導出した \(T\) と \(a\) の式
  • 三角関数の性質
計算過程

上記の分析が計算過程に相当します。

計算方法の平易な説明

(1)で求めた加速度と張力の式をじっと眺めます。角度\(\theta\)が変わると、\(\sin\theta\)の値が変わります。

  • 張力の式には \(+ \sin\theta\) が入っているので、\(\theta\)が大きくなるほど張力も大きくなります。
  • 加速度の式には \( – \sin\theta\) が入っているので、\(\theta\)が大きくなるほど加速度は小さくなります。

この増え方・減り方に合うグラフを解答群から選びます。

結論と吟味

張力\(T\)のグラフは⑦、加速度\(a\)のグラフは②が最も適当です。
物理的に考えると、\(\theta\)が大きくなるほど、物体Bの重力による「ブレーキ」(\(Mg\sin\theta\))が強くなります。そのため、系全体の動きは鈍くなり(加速度\(a\)が小さくなる)、それを反映して物体AとBをつなぐ糸の張り(張力\(T\))は強くなります。この物理的な直感とも、数式の分析結果は一致しています。

解答 (2) T: ⑦, a: ②

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 連結された物体の運動方程式:
    • 核心: この問題は、糸でつながれた2つの物体が連動して運動する「連結物体系」を扱います。核心となる物理法則は、個々の物体に対して立てる「運動方程式 (\(ma=F\))」と、それらを結びつける「束縛条件」です。
    • 理解のポイント:
      1. 加速度の共有: 伸び縮みしない糸でつながれているため、2つの物体の加速度の「大きさ」は等しくなります。これを共通の文字(例:\(a\))で置くことが第一歩です。
      2. 張力の共有: 軽くてなめらかな滑車を介した1本の糸では、張力の大きさはどこでも等しくなります。物体Aを引く張力と物体Bを引く張力の大きさを、共通の文字(例:\(T\))で置きます。
      3. 連立方程式: 上記の2つの共有条件を使い、物体Aと物体Bそれぞれについて運動方程式を立てると、未知数が\(a\)と\(T\)の2つ、式が2本となり、連立方程式として解くことができます。これが連結物体の問題を解く王道パターンです。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • アトウッドの器: 1つの滑車の両側に、質量の異なる2つのおもりを吊るした問題。本問で\(\theta=\pi/2\)とした場合に相当し、基本的な構造は同じです。
    • 水平面上の物体と吊るされた物体の連結: 一方の物体が摩擦のある水平面上を運動する問題。斜面上の運動が水平になっただけで、摩擦力が加わる点以外は同じ考え方で解けます。
    • 複数の滑車を含む問題(動滑車など): 複数の物体が動滑車で連結されている場合、加速度の関係が \(a_A = 2a_B\) のようになるなど、束縛条件がより複雑になります。糸の長さに着目して加速度の関係式を導出することが鍵となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 物体系の特定: まず、どの物体とどの物体が連動して動くのかを把握します。
    2. 束縛条件の確認: 糸が1本か、複数か。滑車は定滑車か、動滑車か。これにより、加速度と張力の関係が決まります。本問は「1本の糸」と「定滑車」なので、\(a\)と\(T\)は共通です。
    3. 各物体の運動方向と力の図示: それぞれの物体について、運動方向を正として座標軸を設定し、はたらく力をすべて図示します。特に、重力を斜面方向と垂直方向に分解する作業は必須です。
    4. 連立方程式の解法: 運動方程式を立てた後、2式を足したり引いたりすることで、一方の未知数(多くの場合\(T\))を消去して、まず加速度\(a\)を求めるのが効率的な解法です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 力の向きと符号の間違い:
    • 誤解: 運動方程式を立てる際に、力の向きと座標軸の正の向きを混同し、符号を間違える。
    • 対策: 各物体について、運動方向を正の向きと明確に定める。その向きと同じ方向の力は正、逆向きの力は負として、機械的に式を立てる。「\(ma = (\text{正の向きの力}) – (\text{負の向きの力})\)」という形を徹底する。
  • 張力の扱い:
    • 誤解: 物体Aにはたらく張力と物体Bにはたらく張力を、別の文字(\(T_A, T_B\))で置いてしまい、解けなくなる。
    • 対策: 「1本の軽い糸」と「なめらかな滑車」というキーワードがあれば、張力の大きさはどこでも等しい、という原理を思い出す。
  • 加速度の関係:
    • 誤解: 2つの物体の加速度の向きを考慮せず、大きさが同じであることだけを使ってしまう。
    • 対策: 物体Aが下向きに\(a\)で運動するなら、物体Bは斜面上向きに\(a\)で運動する、というように、運動の向きまで含めて関係を正しく把握する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • フリーボディダイアグラム: 物体Aと物体Bを完全に分離して、それぞれにはたらく力をすべて矢印で描く。これが最も重要です。
      • 物体A: 重力\(Mg\)(下向き)、張力\(T\)(上向き)。
      • 物体B: 重力\(Mg\)(鉛直下向き)、張力\(T\)(斜面上向き)、垂直抗力\(N\)(斜面に垂直上向き)。
    • 力の分解図: 物体Bにはたらく重力\(Mg\)を、斜面に平行な成分\(Mg\sin\theta\)と垂直な成分\(Mg\cos\theta\)に分解する図を描く。運動に関わる力と、つりあいに関わる力を明確に分離できます。
    • 系全体で考える(別解として): AとBを一つの「系」とみなすと、張力は内力になります。系を動かす力は「Aの重力\(Mg\)」、系を妨げる力は「Bの重力の斜面成分\(Mg\sin\theta\)」です。全体の質量は\(2M\)なので、運動方程式は \( (2M)a = Mg – Mg\sin\theta \) となり、加速度\(a\)を一発で求めることもできます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 座標軸の明記: 物体Aは鉛直下向き、物体Bは斜面上向きを正とする、など自分で設定した座標軸を図に描き込む。
    • 加速度の矢印: 各物体がどちらの向きに加速度\(a\)で運動するのかを矢印で明記する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動方程式 (\(ma=F\)):
    • 選定理由: 物体が「加速度運動」をしている状況を記述するための、力学の根幹をなす法則だからです。
    • 適用根拠: 手を離した後に物体が動き始める、つまり加速度が生じているという物理的状況。物体Aと物体Bの両方が運動しているので、それぞれについてこの法則を適用する必要があります。
  • 連立方程式:
    • 選定理由: 運動方程式を2つの物体について立てると、未知数が加速度\(a\)と張力\(T\)の2つ、式が2本になります。この2つの未知数を決定するために、数学的な手法として連立方程式を解く必要があります。
    • 適用根拠: 物理法則を適用した結果、複数の未知数と複数の方程式が得られたという数学的な状況。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 現象の把握: 2つの物体が糸と滑車で連結されて運動する。加速度と張力は共通。
  2. 問(1) 加速度と張力の計算:
    • Step 1: 物体Aの運動方程式: 鉛直下向きを正とする。\(Ma = Mg – T\)。
    • Step 2: 物体Bの運動方程式: 斜面上向きを正とする。\(Ma = T – Mg\sin\theta\)。
    • Step 3: 連立方程式を解く:
      • 2式を足し合わせて\(T\)を消去し、\(2Ma = Mg – Mg\sin\theta\) から\(a\)を求める。
      • 求めた\(a\)をどちらかの式に代入するか、あるいは2式を引き算して\(a\)を消去し、\(0 = Mg – 2T + Mg\sin\theta\) から\(T\)を求める。
  3. 問(2) グラフの選択:
    • Step 1: 関数の形を確認: (1)で求めた \(a(\theta) = \frac{g}{2}(1-\sin\theta)\) と \(T(\theta) = \frac{Mg}{2}(1+\sin\theta)\) を見る。
    • Step 2: 増減を調べる: \(\theta\)が \(0 \rightarrow \pi/2\) のとき、\(\sin\theta\) は \(0 \rightarrow 1\) に単調増加する。
      • \(T\)の式は \(+\sin\theta\) なので、\(T\)は単調に増加する。
      • \(a\)の式は \(-\sin\theta\) なので、\(a\)は単調に減少する。
    • Step 3: 端点での値を確認:
      • \(\theta=0\) で \(T=Mg/2\), \(a=g/2\)。
      • \(\theta=\pi/2\) で \(T=Mg\), \(a=0\)。
    • Step 4: グラフを特定: 上記の条件に合うグラフを解答群から選ぶ。\(T\)は⑦、\(a\)は②。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 連立方程式の加減法:
    • 特に注意すべき点: 2つの運動方程式を足したり引いたりする際に、符号を間違えやすい。
    • 日頃の練習: 模範解答のように、筆算の形で上下に並べて書くと、どの項とどの項を計算するかが明確になり、ミスが減ります。
  • 文字の整理:
    • 特に注意すべき点: \(Mg\) や \(g\) などの共通の係数をうまく括りだすことで、式がすっきりし、計算の見通しが良くなります。例えば、\(a = \frac{Mg(1-\sin\theta)}{2M}\) のように、最後にまとめて約分する方が安全です。
  • グラフの分析:
    • 特に注意すべき点: 関数の増減だけでなく、始点と終点の値も確認することで、より確実にグラフを特定できます。また、グラフが直線か曲線か(凹凸)も判断材料になります。本問の\(T\)と\(a\)は\(\sin\theta\)の1次関数なので、横軸が\(\sin\theta\)なら直線ですが、横軸が\(\theta\)なので曲線になります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 加速度\(a\): \(a = \frac{g(1-\sin\theta)}{2}\)。
      • \(\theta\)が \(0\) から \(\pi/2\) の範囲では、\(\sin\theta\) は \(0\) から \(1\) の値をとるので、\(1-\sin\theta \ge 0\)。したがって \(a \ge 0\) となり、物体Aが設問通り鉛直下方に加速することと矛盾しません。
    • 張力\(T\): \(T = \frac{Mg(1+\sin\theta)}{2}\)。
      • \(T\)は常に正の値をとります。また、\(T\)と\(Mg\)の大小を比較すると、\(T = Mg – Ma\) の関係から、\(a>0\) のときは必ず \(T < Mg\) となります。これは、物体Aが自由落下しているわけではなく、糸に引かれて加速が妨げられている状況を表しており、妥当です。
  • 極端な場合(境界値)での検証:
    • \(\theta=0\)(水平面): \(a=g/2, T=Mg/2\)。これは、質量\(M\)の物体を、同じ質量\(M\)の物体が水平に引く状況(摩擦なし)と同じで、2つの物体が加速度\(g/2\)で運動する基本的な問題の結果と一致します。
    • \(\theta=\pi/2\)(鉛直): \(a=0, T=Mg\)。これは、両側に同じ質量\(M\)のおもりを吊るしたアトウッドの器と同じで、力がつりあって静止(または等速直線運動)する状態と一致します。
    • このように、具体的な値を入れて既知の簡単な問題に帰着させてみることで、導出した式の正しさを強力に検証できます。

問題19 (愛知工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ひもで吊り下げられた箱と、その中の天井に糸で吊るされた小球の運動を扱います。静止している状態、全体が等加速度運動する状態、そして糸が切れた後の小球の落下運動と、状況が変化していきます。それぞれの状況で、各物体にはたらく力を正確に把握し、適切な運動法則を適用することが重要です。

与えられた条件
  • 箱: 質量 \(3m\)
  • 小球: 質量 \(m\)
  • 初期状態: 箱の上面に糸で吊るされた小球。箱の底からの高さ \(h\)。
  • ひも・糸: 軽くて伸びない。同じ鉛直線上にある。
  • 重力加速度: \(g\)
問われていること
  • (1) 全体が静止しているときの、ひもの張力の大きさ。
  • (2) ひもの張力を \(F\) にして全体が等加速度上昇するときの、加速度の大きさ。
  • (3) 加速上昇中に糸を切ってから、小球が箱の底に落下するまでの時間。
  • (4) 落下直前の、箱に対する小球の相対速度の大きさ。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「複数物体系の運動」と「相対運動」です。

  1. 力のつりあい: 静止している物体にはたらく力のベクトル和はゼロです。
  2. 運動方程式: 運動している物体にはたらく力と加速度の関係 (\(ma=F\)) を記述します。複数の物体がある場合は、それぞれについて式を立てるか、一体として考えます。
  3. 相対速度・相対加速度: 一方の物体から見たもう一方の物体の運動を記述します。(\(A\)から見た\(B\)の相対速度) = (\(B\)の速度) – (\(A\)の速度) で計算されます。
  4. 慣性力(別解で利用): 加速度運動する観測者から物体を見たとき、実際にはたらく力に加えて、見かけの力である「慣性力」(\(-m\vec{a}_{\text{観測者}})\) がはたらいているように見えます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、箱と小球を一体の物体とみなし、全体の力のつりあいを考えます。
  2. (2)では、箱と小球を一体の物体とみなし、全体の運動方程式を立てます。
  3. (3)では、糸が切れた後の「箱の運動」と「小球の運動」を、床に静止した観測者の視点からそれぞれ記述します。そして、両者の位置関係から落下時間を求めます。
  4. (4)では、(3)で求めた時間を使って、落下直前の箱と小球のそれぞれの速度を計算し、相対速度を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
箱と小球は一体となって静止しています。したがって、「箱+小球」を一つの物体とみなして、全体の力のつりあいを考えるのが最も簡単です。
この設問における重要なポイント

  • 静止している複数の物体は、一体として扱える。
  • 全体の重さと、それを支える力のつりあいを考える。

具体的な解説と立式
考察の対象を「箱と小球全体」とします。
この系にはたらく力は、

  • 全体の重力: \((3m+m)g = 4mg\)(下向き)
  • ひもの張力 \(T\): (上向き)

系全体は静止しているので、これらの力はつりあっています。
$$T = (3m+m)g$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい
計算過程

$$T = 4mg$$

計算方法の平易な説明

箱と小球がぶら下がって止まっているので、一番上のひもは、箱と小球の重さの合計を支えていることになります。全体の質量は \(3m+m=4m\) なので、重さは \(4mg\) です。これがひもの張力と等しくなります。

結論と吟味

ひもの張力の大きさは \(4mg\) です。

解答 (1) \(4mg\)

問(2)

思考の道筋とポイント
ひもの張力が \(F\) になったとき、箱と小球は一体となって鉛直上向きに等加速度運動をします。問(1)と同様に、「箱+小球」を一つの物体とみなし、全体の運動方程式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 一体となって運動する複数の物体は、一体として扱える。
  • 全体の質量、全体にはたらく合力、全体の加速度の関係を運動方程式で記述する。

具体的な解説と立式
考察の対象を「箱と小球全体」とします。全体の質量は \(4m\) です。
この系にはたらく力は、

  • ひもの張力 \(F\): (上向き)
  • 全体の重力: \(4mg\)(下向き)

鉛直上向きを正とし、加速度の大きさを \(a_0\) とすると、運動方程式は、
$$(\text{全体の質量}) \times a_0 = (\text{上向きの力}) – (\text{下向きの力})$$
$$4m \cdot a_0 = F – 4mg$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
計算過程

この式を \(a_0\) について解きます。
$$a_0 = \frac{F – 4mg}{4m} = \frac{F}{4m} – g$$

計算方法の平易な説明

今度は、箱と小球が一体となって上に加速しています。運動方程式「質量 \(\times\) 加速度 = 力」を考えます。全体の質量は \(4m\)、加速度は \(a_0\)、力は上向きの \(F\) と下向きの重力 \(4mg\) の差(合力)です。この式を立てて、加速度 \(a_0\) を求めます。

結論と吟味

加速度の大きさは \(\frac{F}{4m} – g\) です。上昇するためには \(a_0 > 0\)、つまり \(F > 4mg\) である必要があります。これは、静止している状態を支える力 \(4mg\) よりも大きな力で引かないと加速上昇しないという直感と一致します。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{F}{4m} – g\)

問(3)

思考の道筋とポイント
同じ力\(F\)でひもを引きながら糸を切ると、箱と小球は別々の運動を始めます。

  • 箱の運動: 上向きに力\(F\)、下向きに重力\(3mg\)がはたらく等加速度運動。
  • 小球の運動: 重力\(mg\)のみがはたらく自由落下運動。

床に静止した観測者から見て、それぞれの運動を記述し、小球が箱の底に到達する(両者の位置の差が\(h\)になる)までの時間を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 糸が切れた後、箱と小球は独立した物体として扱う。
  • それぞれの物体について運動方程式を立て、加速度を求める。
  • 等加速度運動の公式を用いて、時間と位置の関係を記述する。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。糸を切った瞬間を \(t=0\) とします。

1. 箱と小球の加速度を求める

  • : 質量 \(3m\)。加速度を \(A\) とすると、運動方程式は \(3mA = F – 3mg\)。
  • 小球: 質量 \(m\)。加速度を \(a\) とすると、運動方程式は \(ma = -mg\)。

2. 時間 \(t\) 後の位置関係を考える

糸が切れた瞬間の箱と小球の初速度は同じ(これを \(v_0\) とする)なので、相対初速度は0です。
時間 \(t\) の間に、箱は \(\frac{1}{2}At^2\)、小球は \(\frac{1}{2}at^2\) だけ初速度による変位に加えて移動します。
小球が箱の底に落下するのは、小球の位置が箱の底の位置と等しくなるときです。糸が切れた瞬間の小球の位置を \(h\)、箱の底の位置を \(0\) とすると、
$$(\text{小球の最終位置}) = (\text{箱の底の最終位置})$$
$$h + v_0 t + \frac{1}{2}at^2 = 0 + v_0 t + \frac{1}{2}At^2$$

使用した物理公式

  • 運動方程式
  • 等加速度運動の変位の式: \(y = y_0 + v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

まず、箱と小球の加速度を求めます。
$$A = \frac{F – 3mg}{3m} = \frac{F}{3m} – g$$
$$a = -g$$
次に、落下条件の式を整理します。両辺の \(v_0 t\) は消去できます。
$$h + \frac{1}{2}at^2 = \frac{1}{2}At^2$$
$$h = \frac{1}{2}(A-a)t^2$$
ここで、\(A-a\) は箱に対する小球の相対加速度です。
$$A-a = \left(\frac{F}{3m} – g\right) – (-g) = \frac{F}{3m}$$
これを代入すると、
$$h = \frac{1}{2} \left(\frac{F}{3m}\right) t^2$$
この式を \(t\) について解きます。
$$t^2 = \frac{2h \cdot 3m}{F} = \frac{6mh}{F}$$
$$t = \sqrt{\frac{6mh}{F}}$$

計算方法の平易な説明

糸が切れた後、箱は上に加速し続け、小球は下に落ちていきます。両者の「距離 \(h\)」が、両者の「加速度の差」によって縮まっていく、と考えます。距離と加速度と時間の関係式(\(距離 = \frac{1}{2} \times 加速度 \times 時間^2\))を使って、時間を求めます。

結論と吟味

落下までの時間は \(\sqrt{\frac{6mh}{F}}\) です。引く力\(F\)が大きいほど、箱はより強く上に加速するため、落下時間は短くなります。これは直感と一致します。

解答 (3) \(\sqrt{\displaystyle\frac{6mh}{F}}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
(3)で求めた落下時間 \(t\) を使って、落下直前の箱と小球のそれぞれの速度を求め、その差から相対速度を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 等加速度運動の速度の式 \(v = v_0 + at\) を使う。
  • 相対速度の定義 \((v_{相対}) = (v_{球}) – (v_{箱})\) を適用する。

具体的な解説と立式
糸が切れた瞬間の初速度を \(v_0\) とします。
時間 \(t\) 後のそれぞれの速度は、

  • 箱の速度 \(v_{箱}(t)\): \(v_{箱}(t) = v_0 + At\)
  • 小球の速度 \(v_{球}(t)\): \(v_{球}(t) = v_0 + at\)

箱に対する小球の相対速度 \(v_{相対}(t)\) は、
$$v_{相対}(t) = v_{球}(t) – v_{箱}(t)$$

使用した物理公式

  • 等加速度運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
  • 相対速度の定義
計算過程

相対速度の式を計算します。
$$v_{相対}(t) = (v_0 + at) – (v_0 + At) = (a-A)t$$
この式に、(3)で求めた \(a-A = -\frac{F}{3m}\) と \(t = \sqrt{\frac{6mh}{F}}\) を代入します。
$$v_{相対}(t) = \left(-\frac{F}{3m}\right) \times \sqrt{\frac{6mh}{F}}$$
$$v_{相対}(t) = -\frac{F}{3m} \sqrt{\frac{6mh}{F}} = -\sqrt{\frac{F^2}{9m^2} \cdot \frac{6mh}{F}} = -\sqrt{\frac{6F^2mh}{9m^2F}} = -\sqrt{\frac{2Fh}{3m}}$$
求められているのは相対速度の「大きさ」なので、この絶対値をとります。
$$|v_{相対}| = \sqrt{\frac{2Fh}{3m}}$$

計算方法の平易な説明

(3)で求めた落下時間を使って、その瞬間の箱の速度と小球の速度をそれぞれ計算します。そして、その速度の差を求めることで、相対的な速度がわかります。

結論と吟味

相対速度の大きさは \(\sqrt{\frac{2Fh}{3m}}\) です。この結果は、自由落下で高さ\(h\)を落ちたときの速さ \(\sqrt{2gh}\) とは異なり、箱が加速している効果が含まれています。

解答 (4) \(\sqrt{\displaystyle\frac{2Fh}{3m}}\)

別解:箱から見た運動(慣性力)

思考の道筋とポイント
(3)と(4)は、加速度 \(A\) で上昇する箱の中から小球の運動を見る、という立場でも解くことができます。この場合、小球には実際の力(重力)に加えて、見かけの力である「慣性力」がはたらいているように見えます。
この設問における重要なポイント

  • 観測者の加速度と逆向きに、大きさ \(m \times (\text{観測者の加速度})\) の慣性力がはたらく。
  • 加速座標系(箱の中)での運動方程式を立てる。

具体的な解説と立式
箱は鉛直上向きに加速度 \(A = \frac{F}{3m} – g\) で運動しています。
この箱の中から小球を見ると、小球には以下の力がはたらいているように見えます。

  • 重力: \(mg\)(下向き)
  • 慣性力: \(mA\)(観測者の加速度と逆向き、つまり下向き)

箱から見た小球の加速度(相対加速度)を \(a’\) とすると、運動方程式は、
$$ma’ = -mg – mA$$
この相対加速度 \(a’\) で、初速度0、距離 \(h\) を落下する等加速度運動を考えます。
落下時間 \(t\) は、\(h = \frac{1}{2}|a’|t^2\) より求められます。
落下直前の相対速度の大きさ \(|v’|\) は、\(v’^2 = 2|a’|h\) より求められます。

計算過程

まず相対加速度 \(a’\) を求めます。
$$a’ = -(g+A) = -\left(g + \left(\frac{F}{3m} – g\right)\right) = -\frac{F}{3m}$$
これは、静止系で計算した相対加速度 \(a-A\) と一致します。

(3) 落下時間 \(t\)
$$h = \frac{1}{2}|a’|t^2 = \frac{1}{2}\left(\frac{F}{3m}\right)t^2$$
$$t^2 = \frac{6mh}{F} \quad \rightarrow \quad t = \sqrt{\frac{6mh}{F}}$$

(4) 相対速度の大きさ \(|v’|\)
$$v’^2 = 2|a’|h = 2\left(\frac{F}{3m}\right)h = \frac{2Fh}{3m}$$
$$|v’| = \sqrt{\frac{2Fh}{3m}}$$
となり、静止系で考えた場合と同じ結果が得られます。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動方程式と相対運動の記述:
    • 核心: この問題は、複数の物体が連動して運動する状況を扱います。核心となるのは、各物体(または物体全体)に注目し、その状況に応じて「力のつりあい」または「運動方程式」を正しく立てることです。さらに、糸が切れた後は、2つの物体が別々の運動を始めるため、一方から見たもう一方の「相対運動」として捉える視点が重要になります。
    • 理解のポイント:
      1. 着目物体の設定: 問題の状況に応じて、どこまでを一つの「系(物体)」として見るかを見極めることが重要です。問(1)と(2)では「箱+小球」を一体と見なすと簡単ですが、問(3)と(4)では糸が切れるため、「箱」と「小球」を別々の物体として扱わなければなりません。
      2. 運動の基準(座標系): 誰の視点から運動を記述するかを意識することが大切です。床に静止した観測者(静止系)から見るのが基本ですが、別解のように加速する箱の中から見る(加速座標系)と、相対運動の問題としてシンプルに解ける場合があります。
      3. 相対加速度: 2つの物体がそれぞれ異なる加速度で運動する場合、一方から見たもう一方の相対的な運動は、相対加速度 \(a_{相対} = a_B – a_A\) に支配される等加速度運動として記述できます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • エレベーター内の物体の運動: 本問と全く同じ構造の問題です。上昇・下降するエレベーターの中でボールを放したり、ばね振り子を揺らしたり、台ばかりで重さを測ったりする問題は頻出です。
    • 電車内の物体の運動: 加速・減速する電車の中で、吊るされたおもりが傾いたり、物体が滑り出したりする問題。水平方向の慣性力を考える点で本問と共通しています。
    • 連結された物体の運動: 糸やばねで繋がれた複数の物体が、力を受けて運動する問題。一体として考えるか、個別に考えるかの判断が重要になります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 状況の変化点を見つける: 「静止していたが、力を加えた」「糸を切った」など、物理的な状況が変化する前後で、何が変わり、何が変わらないのかを整理します。特に、変化の直前と直後で速度は同じだが、加速度は変化する、という点は重要です。
    2. 誰の視点で解くか?:
      • 静止系(床)からの視点: 最も基本的で間違いが少ない方法。各物体の運動を個別に記述し、最後にそれらを統合します。
      • 加速系(箱)からの視点: 相対運動を直接問われている場合(落下時間や相対速度など)に有効。慣性力の概念を正しく使えるなら、計算が簡潔になることが多いです。
    3. 初速度の扱いに注意: 相対運動を考える際、相対初速度がゼロかどうかを確認します。本問では、糸が切れる直前まで箱と小球は一体で運動していたため、相対初速度はゼロです。これにより、\(h = \frac{1}{2}a_{相対}t^2\) のような簡単な式が使えます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 運動方程式の立て方ミス:
    • 誤解: 複数の物体があるとき、どの力とどの質量を対応させればよいか混乱する。
    • 対策: 必ず「1つの物体」または「一体とみなした系」に注目し、その物体(系)に「外部から」はたらく力だけを運動方程式の右辺に書く。内力(本問では糸の張力\(T’\))は、系全体を考える際には相殺されて現れません。
  • 相対加速度の計算ミス:
    • 誤解: 加速度の向き(符号)を間違えて、相対加速度を \(A+a\) のように足してしまう。
    • 対策: 座標軸の正の向きを一つ決め、各物体の加速度をその座標軸に沿った符号付きのスカラー量として扱う。相対加速度は常に \(a_{相対} = a_B – a_A\) のように「引き算」で定義されることを徹底する。
  • 慣性力の向きの間違い:
    • 誤解: 慣性力の向きを、観測者の加速度と同じ向きだと勘違いする。
    • 対策: 慣性力は「加速度と必ず逆向き」にはたらく見かけの力である、と覚える。エレベーターが上に加速すれば、中の人には下向きの慣性力がかかり、体が重く感じる、という日常体験と結びつけると忘れにくいです。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • フリーボディダイアグラム: 「箱」と「小球」を別々の物体として描き、それぞれにはたらく力をすべて矢印で示す。特に、状況が変化する(1)→(2)→(3)の各段階で、力がどのように変化するか(張力が\(T\)から\(F\)へ、糸の張力\(T’\)が消える、など)を図で描き分けると、状況整理に役立ちます。
    • v-tグラフ: 床から見た「箱の速度」と「小球の速度」のv-tグラフを同じ座標平面に描いてみる。糸が切れる時刻までは同じ直線ですが、切れた後はそれぞれ異なる傾き(加速度)の直線になります。2つの直線の間の距離が、小球と箱の相対的な変位を表し、それが\(h\)になったときが落下時刻です。
    • 慣性力の図示: 加速系で考える場合、観測者(箱)の加速度\(\vec{A}\)を明記し、それとは逆向きに慣性力 \(-m\vec{A}\) を小球にはたらく力として描き加える。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 座標軸の明記: 鉛直上向きを正とするなど、座標軸の向きを必ず図に描き込む。これにより、力や加速度の符号ミスを防げます。
    • 内力と外力の区別: ひもの張力\(T\)や力\(F\)は系全体に対する外力ですが、糸の張力\(T’\)は箱と小球の間にはたらく内力です。図示する際に、どの物体にはたらく力かを明確に区別する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつりあいの式 (\(\sum F = 0\)):
    • 選定理由: 問(1)で物体が「静止」している状態を記述するため。
    • 適用根拠: 加速度がゼロ (\(a=0\)) という物理的状況。
  • 運動方程式 (\(ma = F\)):
    • 選定理由: 問(2)以降、物体が「等加速度運動」をしている状態を記述するため。
    • 適用根拠: 物体に合力がはたらき、ゼロでない一定の加速度が生じている物理的状況。
  • 等加速度運動の公式 (\(y = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\), \(v = v_0 + at\)):
    • 選定理由: 問(3)と(4)で、加速度が一定の運動における時間、距離、速度の関係を求めるため。
    • 適用根拠: 運動方程式を解いた結果、箱と小球の加速度がそれぞれ一定値になることがわかったため。
  • 相対速度・相対加速度の定義:
    • 選定理由: 問(3)と(4)で、2つの物体の相対的な運動を解析するため。静止系で各物体の運動を追うよりも、直接相対運動を考えた方が計算が簡潔になる場合が多い。
    • 適用根拠: 2つの物体が同時に運動しているという状況。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 問(1) 静止時:
    • 「箱+小球」を質量\(4m\)の一つの系と見る。
    • 系全体の鉛直方向の力のつりあいの式 \(T = 4mg\) を立てる。
  2. 問(2) 一体での加速上昇時:
    • 「箱+小球」を質量\(4m\)の一つの系と見る。
    • 系全体の鉛直方向の運動方程式 \(4ma_0 = F – 4mg\) を立て、\(a_0\)を求める。
  3. 問(3) 落下時間(静止系での解法):
    • Step 1: 糸が切れた後の「箱」と「小球」それぞれについて、運動方程式を立て、加速度\(A\)と\(a\)を求める。
    • Step 2: 箱に対する小球の相対加速度 \(a_{相対} = a – A\) を計算する。
    • Step 3: 相対初速度が0であることから、等加速度運動の式 \(h = \frac{1}{2}|a_{相対}|t^2\) を立て、時間\(t\)を求める。
  4. 問(4) 相対速度(静止系での解法):
    • Step 1: 等加速度運動の式 \(v_{相対} = a_{相対}t\) を使う。
    • Step 2: (3)で求めた \(a_{相対}\) と \(t\) を代入し、相対速度の大きさを計算する。
  5. (別解) 問(3),(4)(加速系での解法):
    • Step 1: 加速度\(A\)で運動する箱の内部を基準とする。
    • Step 2: 小球にはたらく力として、重力\(mg\)と慣性力\(mA\)(いずれも下向き)を考える。
    • Step 3: 箱から見た運動方程式 \(ma’ = -(mg+mA)\) を立て、相対加速度\(a’\)を求める。
    • Step 4: 初速度0、距離\(h\)、加速度\(a’\)の等加速度運動として、時間\(t\)と最終速度\(v’\)を公式から求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の統一:
    • 特に注意すべき点: 鉛直上向きを正と決めたら、問題全体を通してそのルールを一貫して適用する。下向きの力(重力)や加速度にはマイナス符号を付けることを忘れない。
    • 日頃の練習: 式を立てる前に、必ず座標軸の正の向きを図に描き込む。
  • 質量の混同:
    • 特に注意すべき点: 箱の質量\(3m\)、小球の質量\(m\)、全体の質量\(4m\)を、運動方程式を立てる際に混同しないようにする。
    • 日頃の練習: 「どの物体についての方程式か」を式の横にメモするなどして、主語を明確にする習慣をつける。
  • 平方根の計算:
    • 特に注意すべき点: 問(4)の計算のように、平方根の中に分数や文字式が入る場合、整理の過程でミスしやすい。
    • 日頃の練習: \( \frac{F}{m}\sqrt{\frac{m}{F}} = \sqrt{\frac{F^2}{m^2}}\sqrt{\frac{m}{F}} = \sqrt{\frac{F^2 m}{m^2 F}} = \sqrt{\frac{F}{m}} \) のような、指数法則を用いた文字式の平方根の計算に慣れておく。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) 加速度\(a_0\): \(a_0 = F/(4m) – g\)。もし \(F=4mg\) なら \(a_0=0\) となり、つりあいの状態と一致する。もし \(F<4mg\) なら \(a_0<0\) となり、上向きに加速しない(あるいは下向きに加速する)ことを示しており、物理的に正しい。
    • (3) 落下時間\(t\): \(t = \sqrt{6mh/F}\)。もし \(F\) が非常に大きい(箱が猛烈に上に加速する)なら、\(t \rightarrow 0\) となり、瞬時に落下するように見える。もし \(F\) が \(4mg\) に近い(ゆっくり上昇する)なら、\(t\) は大きくなる。これらも直感と一致する。
  • 極端な場合を考える:
    • もし箱が非常に重かったら (\(3m \rightarrow \infty\)): 箱の加速度 \(A \rightarrow 0\) となる。このとき、相対加速度は \(a-A \rightarrow -g\) となり、落下時間は \(t \rightarrow \sqrt{2h/g}\) となる。これは、静止した箱の中で自由落下するのと同じ状況であり、結果が一致する。
    • もし重力がなかったら (\(g=0\)): 箱の加速度は \(A=F/3m\)、小球の加速度は \(a=0\)。相対加速度は \(-F/3m\)。落下時間は \(t=\sqrt{6mh/F}\) となり、重力がある場合と同じになる。これは、重力が箱と小球に同じ加速度\(g\)を与えるため、相対運動には影響しないことを示している(等価原理)。この考察は非常に高度だが、物理の理解を深める上で有効です。

問題20 (佐賀大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、気球とそれに吊るされた小球の運動を扱います。まず一体となって等加速度運動し、その後ひもが切れて別々の運動をするという、複数の段階に分かれた問題です。それぞれの段階で、物体にはたらく力と運動の状態を正確に把握することが求められます。

与えられた条件
  • 気球: 質量 \(M\)。鉛直上向きに一定の力(浮力)がはたらく。
  • 小球: 質量 \(m\)。
  • ひも: 軽く、質量の無視できる。
  • 初期運動: 気球と小球が一体となり、初速度0で地上から上昇。時間 \(T\) で高さ \(h\) に到達。
  • 重力加速度: \(g\)
  • 無視するもの: 空気の抵抗、小球にはたらく浮力。
問われていること
  • (1) 上昇中の加速度の大きさ \(a\)。
  • (2) 時間 \(T\) 経過後の速さ \(v_0\)。
  • (3) ひもが小球を引く力の大きさ。
  • (4) 気球にはたらく浮力の大きさ。
  • (5) 高さ \(h\) でひもが切れた後、小球が地上に到達するまでの時間。
  • (6) ひもが切れて \(t\) 秒後、気球から見た小球の速度(相対速度)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「運動方程式」と「等加速度直線運動」、そして「相対運動」です。

  1. 等加速度直線運動の公式: 加速度が一定の運動では、時間・距離・速度の関係を表す3つの公式が使えます。
  2. 運動方程式: 物体にはたらく力と、その結果生じる加速度の関係 (\(ma=F\)) を記述します。複数の物体がある場合は、それぞれについて式を立てるか、一体として考えます。
  3. 鉛直投げ上げ運動: ひもが切れた後の小球の運動は、初速度を持つ自由落下運動、すなわち鉛直投げ上げ運動となります。
  4. 相対速度: 一方の物体から見たもう一方の物体の速度です。(\(A\)から見た\(B\)の相対速度) = (\(B\)の速度) – (\(A\)の速度) で計算されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1),(2)では、気球と小球の運動が等加速度直線運動であることに着目し、運動学の公式を適用します。
  2. (3),(4)では、気球と小球それぞれにはたらく力を図示し、運動方程式を立てて未知の力(張力、浮力)を求めます。
  3. (5)では、ひもが切れた瞬間の小球の速度と高さを初期条件として、地上に落下するまでの時間を計算します。
  4. (6)では、ひもが切れた後の気球と小球のそれぞれの運動を記述し、各時刻の速度を求めて相対速度を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
気球と小球は、初速度0の等加速度直線運動をしています。時間 \(T\) で距離 \(h\) を進んだという情報から、等加速度直線運動の公式を用いて加速度 \(a\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 運動が等加速度直線運動であることを見抜く。
  • 距離、時間、加速度の関係式を選択する。

具体的な解説と立式
初速度 \(v_0=0\)、時間 \(t=T\)、変位 \(x=h\)、加速度 \(a\) の等加速度直線運動を考えます。
距離と時間の関係式 \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) を適用します。
$$h = 0 \cdot T + \frac{1}{2}aT^2$$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の変位の式: \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

立式した \(h = \frac{1}{2}aT^2\) を \(a\) について解きます。
$$a = \frac{2h}{T^2}$$

計算方法の平易な説明

初め止まっていた物体が、一定の加速度 \(a\) で \(T\) 秒間動いたら \(h\) だけ進んだ、という状況です。物理の公式「距離 = 1/2 \(\times\) 加速度 \(\times\) 時間の2乗」に、問題の文字を当てはめて加速度を計算します。

結論と吟味

加速度の大きさ \(a\) は \(\frac{2h}{T^2}\) です。単位を見ても、距離[m]を時間[s]の2乗で割っているので、加速度[m/s\(^2\)]の単位と一致しており、妥当です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{2h}{T^2}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
問(1)と同じく、等加速度直線運動の公式を用います。今度は、時間 \(T\) 後の速さ \(v_0\) を、加速度 \(a\) と時間 \(T\) を用いて表します。
この設問における重要なポイント

  • 速度、時間、加速度の関係式を選択する。
  • 問題文の「\(a, T\) を用いて表せ」という指示に従い、(1)の結果を代入しない。

具体的な解説と立式
初速度0、時間 \(T\)、加速度 \(a\) の等加速度直線運動における、時間 \(T\) 後の速さ \(v_0\) を求めます。
速度と時間の関係式 \(v = v_0 + at\) を適用します。(ここでの \(v_0\) は公式の初速度記号)
$$v_0 = 0 + aT$$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

$$v_0 = aT$$

計算方法の平易な説明

加速度 \(a\) で \(T\) 秒間加速し続けたときの速さを求めます。初めの速さは0なので、速さは単純に「加速度 \(\times\) 時間」で計算できます。

結論と吟味

速さ \(v_0\) は \(aT\) です。

解答 (2) \(aT\)

問(3)

思考の道筋とポイント
ひもが小球を引く力(張力)の大きさを求めます。考察の対象を「小球」に絞り、小球の運動方程式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 考察の対象を「小球」のみに限定する。
  • 小球にはたらく力(重力と張力)を考え、運動方程式を立てる。

具体的な解説と立式
小球(質量 \(m\))にはたらく力は、

  • ひもの張力 \(S\): (上向き)
  • 重力 \(mg\): (下向き)

小球は鉛直上向きに加速度 \(a\) で運動しているので、鉛直上向きを正として運動方程式を立てます。
$$ma = S – mg$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
計算過程

この式を張力 \(S\) について解きます。
$$S = ma + mg = m(a+g)$$

計算方法の平易な説明

小球は上に加速しています。これは、上向きに引っ張る力(張力)が、下向きの力(重力)よりも大きいことを意味します。運動方程式「質量 \(\times\) 加速度 = 合力(張力 – 重力)」を立てて、張力を求めます。

結論と吟味

張力の大きさ \(S\) は \(m(a+g)\) です。これは、静止しているときにかかる力 \(mg\) よりも \(ma\) だけ大きい力です。加速させるためには余分な力が必要であるという直感と一致します。

解答 (3) \(m(a+g)\)

問(4)

思考の道筋とポイント
気球にはたらく浮力の大きさを求めます。考察の対象を「気球」に絞り、気球の運動方程式を立てる方法と、「気球+小球」全体で考える方法があります。
この設問における重要なポイント

  • 気球にはたらく力(浮力、重力、ひもの張力)を考える。
  • 作用・反作用の法則を考慮する(ひもが気球を引く力は、小球を引く力と同じ大きさ)。

具体的な解説と立式
解法1: 気球のみに着目

気球(質量 \(M\))にはたらく力は、

  • 浮力 \(F\): (上向き)
  • 重力 \(Mg\): (下向き)
  • ひもが気球を引く力 \(S\): (下向き)

気球は鉛直上向きに加速度 \(a\) で運動しているので、運動方程式は、
$$Ma = F – Mg – S$$

解法2: 気球と小球全体に着目(別解)

気球と小球を一体(質量 \(M+m\))とみなします。
この系にはたらく外力は、

  • 浮力 \(F\): (上向き)
  • 全体の重力: \((M+m)g\)(下向き)

系全体は加速度 \(a\) で運動しているので、運動方程式は、
$$(M+m)a = F – (M+m)g$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
計算過程

解法1の場合

運動方程式 \(Ma = F – Mg – S\) を \(F\) について解きます。
$$F = Ma + Mg + S$$
この式に、問(3)で求めた \(S = m(a+g)\) を代入します。
$$F = M(a+g) + m(a+g) = (M+m)(a+g)$$

解法2の場合

運動方程式 \((M+m)a = F – (M+m)g\) を \(F\) について解きます。
$$F = (M+m)a + (M+m)g = (M+m)(a+g)$$
どちらの方法でも同じ結果が得られます。

計算方法の平易な説明

気球を上に持ち上げる力(浮力)は、気球自身の重さ、小球の重さ、そして両方を上に加速させるための力をすべて合わせたものになります。

結論と吟味

浮力の大きさ \(F\) は \((M+m)(a+g)\) です。

解答 (4) \((M+m)(a+g)\)

問(5)

思考の道筋とポイント
高さ \(h\) の位置でひもが切れた後、小球は初速度 \(v_0\) の鉛直投げ上げ運動をします。地上に到達するまでの時間を求めます。
この設問における重要なポイント

  • ひもが切れた後の小球は、重力のみを受ける自由落下(鉛直投げ上げ)運動となる。
  • 初期条件(初速度 \(v_0\)、初期位置 \(h\))を正しく設定する。
  • 変位が \(-h\) となる時間を求める。

具体的な解説と立式
ひもが切れた瞬間を \(t=0\) とし、その位置を原点 \(y=0\) とします。鉛直上向きを正とします。

  • 初速度: \(v_0\)
  • 加速度: \(-g\)
  • 目標地点(地上)の変位: \(-h\)

等加速度直線運動の変位の式 \(y = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) を適用します。
$$-h = v_0 t + \frac{1}{2}(-g)t^2$$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の変位の式
計算過程

この式は時間 \(t\) に関する2次方程式です。整理すると、
$$\frac{1}{2}gt^2 – v_0 t – h = 0$$
$$gt^2 – 2v_0 t – 2h = 0$$
解の公式を用いて \(t\) を求めます。
$$t = \frac{-(-2v_0) \pm \sqrt{(-2v_0)^2 – 4g(-2h)}}{2g} = \frac{2v_0 \pm \sqrt{4v_0^2 + 8gh}}{2g} = \frac{v_0 \pm \sqrt{v_0^2 + 2gh}}{g}$$
時間は正でなければならないので、正の解を選びます。
$$t = \frac{v_0 + \sqrt{v_0^2 + 2gh}}{g}$$

計算方法の平易な説明

ひもが切れた瞬間、小球は上昇する速さ \(v_0\) を持っています。そこから重力に引かれて、一度上昇してから落ちてきます。スタート地点より \(h\) だけ下の地面に到達するまでの時間を、等加速度運動の公式を使って計算します。

結論と吟味

時間は \(\frac{v_0 + \sqrt{v_0^2 + 2gh}}{g}\) です。もし初速度がなければ \(\sqrt{2h/g}\) となり、自由落下の公式と一致します。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{v_0 + \sqrt{v_0^2 + 2gh}}{g}\)

問(6)

思考の道筋とポイント
ひもが切れてから時間 \(t\) が経過したときの、気球から見た小球の速度(相対速度)を求めます。そのためには、時間 \(t\) 後の気球の速度と小球の速度をそれぞれ計算する必要があります。
この設問における重要なポイント

  • ひもが切れた後の気球の運動は、浮力と重力のみによる等加速度運動となる。
  • 相対速度の定義を適用する。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。ひもが切れた瞬間の初速度は、両者とも \(v_0\) です。

1. 気球の運動

  • ひもが切れた後の気球にはたらく力は、浮力 \(F\) と重力 \(Mg\)。
  • 加速度を \(A’\) とすると、運動方程式は \(MA’ = F – Mg\)。
  • 時間 \(t\) 後の気球の速度 \(V(t)\) は、\(V(t) = v_0 + A’t\)。

2. 小球の運動

  • ひもが切れた後の小球にはたらく力は、重力 \(mg\) のみ。
  • 加速度は \(-g\)。
  • 時間 \(t\) 後の小球の速度 \(v(t)\) は、\(v(t) = v_0 – gt\)。

3. 相対速度

気球から見た小球の速度 \(u(t)\) は、
$$u(t) = v(t) – V(t)$$

使用した物理公式

  • 運動方程式
  • 等加速度運動の速度の式
  • 相対速度の定義
計算過程

まず、気球の加速度 \(A’\) を求めます。
$$A’ = \frac{F-Mg}{M} = \frac{F}{M} – g$$
次に、相対速度 \(u(t)\) を計算します。
$$u(t) = (v_0 – gt) – (v_0 + A’t) = – (g + A’)t$$
\(A’\) を代入します。
$$u(t) = – \left(g + \left(\frac{F}{M} – g\right)\right)t = – \left(\frac{F}{M}\right)t$$

計算方法の平易な説明

ひもが切れた後、気球と小球はそれぞれ別々の加速度で運動します。\(t\) 秒後のそれぞれの速度を計算し、その差を取ることで、気球から見た小球の速度がわかります。

結論と吟味

相対速度は \(-\frac{F}{M}t\) です。マイナス符号は、気球から見ると小球が下向きに動いていることを示しています。その速さは時間に比例して増えていきます。

解答 (6) \(-\displaystyle\frac{F}{M}t\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動の三法則と運動学の連携:
    • 核心: この問題は、力学の根幹をなすニュートンの運動の三法則(特に第二法則:運動方程式)と、運動の状態を記述する運動学(等加速度直線運動の公式)を、段階的に変化する状況に適用する能力を問うています。
    • 理解のポイント:
      1. 運動の状態から加速度を求める(運動学): 問(1)のように、初速度、時間、距離といった運動の「結果」から、その原因である「加速度」を求めることができます。これは運動学の範疇です。
      2. 力から加速度を求める(運動方程式): 問(3),(4)のように、物体にはたらく力(原因)が分かっていれば、運動方程式 \(ma=F\) を用いて「加速度」(結果)を求めることができます。
      3. これらの往復: この問題のように、運動の状態から加速度を求め(問(1))、その加速度を使って未知の力を求め(問(3),(4))、さらに状況が変わった後の運動を予測する、というように、運動学と運動方程式の間を行き来する思考プロセスが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ロケットの多段分離: ロケットが燃料を噴射して加速し、途中で一段目を切り離してさらに加速する問題。切り離す前後で質量と推進力が変化し、それぞれの段階で運動方程式を立てる点で本問と共通しています。
    • エレベーター内で物体を放す: 上昇・下降するエレベーターの中で物体を放した後の、物体とエレベーターのそれぞれの運動を追跡する問題。相対運動の考え方が直接的に応用できます。
    • 動く台車上の物体の運動: 一定の力で引かれる台車の上で、別の物体が滑り出す、あるいはばねで繋がれているような問題。台車と物体の運動を個別に記述し、相対運動を考える点で類似しています。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動のフェーズ分け: 問題文を読み、「ひもが繋がっている状態」「ひもが切れた後の状態」など、物理的な状況が変化するポイントで問題を分割します。各フェーズで、どの物体にどの力がはたらき、どのような運動をするのかを整理します。
    2. 一体か、個別か**: 複数の物体が一緒に動いている場合(問1〜4)、それらを一つの物体(系)と見なして運動方程式を立てると、内力(ひもの張力S)を考えずに済むため計算が楽になります。物体が別々の運動を始めた場合(問5,6)は、必ず個別の物体として扱います。
    3. 初期条件の引き継ぎ: あるフェーズの終わりの状態(速度、位置)が、次のフェーズの始まりの「初期条件」になります。本問では、ひもが切れる瞬間の速度\(v_0\)と高さ\(h\)が、その後の運動の初期条件となっています。この情報の引き継ぎを正確に行うことが重要です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 運動方程式とつりあいの式の混同:
    • 誤解: 加速しているのに、力のつりあいの式を立ててしまう(例:\(S=mg\))。
    • 対策: 物体が「静止」または「等速直線運動」している場合にのみ、力のつりあいの式が成り立ちます。「加速」している場合は、必ず運動方程式 \(ma=F\) を立てる、という基本を徹底する。
  • 内力と外力の混同:
    • 誤解: 気球と小球を一体として考える際に、ひもの張力Sを運動方程式に含めてしまう。
    • 対策: ある「系」の運動方程式を立てるとき、右辺の力Fは、その系に「外部から」はたらく力の合力(外力)です。系内部で及ぼしあう力(内力)は、作用・反作用で必ず相殺されるため、式には現れません。
  • 相対速度・加速度の符号ミス:
    • 誤解: 相対速度を計算する際に、速度の向きを考慮せず、大きさの差をとってしまう。
    • 対策: 必ず座標軸の正の向きを定め、各物体の速度を符号付きのスカラー量として扱う。相対速度は常に \(u = v_B – v_A\) のように、定義に従って引き算で計算する。
  • 2次方程式の解の選択ミス:
    • 誤解: 問(5)で2次方程式を解いた後、負の解も答えとして許容してしまう。
    • 対策: 時間 \(t\) は物理的に負の値をとらないため、必ず正の解を選ぶ。問題の物理的条件に合致するかどうか、得られた解を吟味する習慣をつける。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • フリーボディダイアグラム: 「気球」と「小球」をそれぞれ別の点として描き、各物体にはたらく力を矢印で正確に図示する。特に、ひもが切れる前と後で、力の状況がどう変わるかを描き比べると、理解が深まります。
    • v-tグラフ: 床から見た「気球の速度」と「小球の速度」のv-tグラフを描く。ひもが切れる時刻\(T\)までは一本の直線で、その後、気球は傾きが緩やかな直線(加速度\(A’\))、小球は傾きが急な下向きの直線(加速度\(-g\))に分岐します。このグラフから、相対速度が時間とともにどう変化するかが視覚的にわかります。
    • 運動のストロボ写真イメージ: 一定時間間隔で気球と小球の位置をプロットしていくイメージを持つ。ひもが切れた後、気球は間隔を広げながら上昇し、小球は間隔を狭めながら上昇したのち、間隔を広げながら落下していく様子を想像する。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 座標軸と原点: 鉛直上向きを正、地表を原点とするなど、基準を明確に図に描き込む。特に、問(5)のように途中の位置を新たな原点として考える場合は、そのことを明記する。
    • 力の矢印の長さ: 加速している場合、合力の向きに加速度が生じるので、力の矢印の長さを工夫して描くと(例:上向きの浮力 > 下向きの重力)、運動の様子がイメージしやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 等加速度直線運動の公式:
    • 選定理由: 問(1),(2)では、運動の状態(時間と距離)から加速度や速度を求めるため。問(5),(6)では、加速度が一定であることがわかった後の、速度や位置を時間で追跡するために使用します。
    • 適用根拠: 物体にはたらく合力が一定であるため、運動方程式 \(ma=F\) より、加速度 \(a\) も一定となるから。
  • 運動方程式 \(ma=F\):
    • 選定理由: 問(3),(4)では、加速度 \(a\) と質量 \(M, m\) から、未知の力(張力や浮力)を求めるため。問(6)では、ひもが切れた後の新しい状況での加速度を求めるために使用します。
    • 適用根拠: 力と運動(加速度)の関係を記述する、力学の最も基本的な法則だから。
  • 相対速度の定義 \(u = v_B – v_A\):
    • 選定理由: 問(6)で「気球から見た小球の速度」という、相対的な運動量を問われているため。
    • 適用根拠: 2つの物体が同時に運動している状況で、一方を基準とした他方の運動を記述するための基本的な定義式。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. フェーズ1: 一体での上昇運動 (t=0〜T)
    • (1) 加速度a: 運動学の公式 \(h = \frac{1}{2}aT^2\) から求める。
    • (2) 速度v₀: 運動学の公式 \(v_0 = aT\) から求める。
    • (3) ひもの張力S: 「小球」に着目し、運動方程式 \(ma = S – mg\) を立てて解く。
    • (4) 浮力F: 「気球+小球」全体に着目し、運動方程式 \((M+m)a = F – (M+m)g\) を立てて解く。
  2. フェーズ2: ひもが切れた後の運動 (t>T)
    • 初期条件の確認: 時刻\(T\)での高さは\(h\)、速度は\(v_0\)。これが次の運動の初期値となる。
    • (5) 小球の落下時間:
      • Step 1: 小球の運動は初速度\(v_0\)の鉛直投げ上げ。加速度は\(-g\)。
      • Step 2: 地上(変位\(-h\))に到達する条件で、等加速度運動の式 \(-h = v_0 t – \frac{1}{2}gt^2\) を立てる。
      • Step 3: \(t\)に関する2次方程式を解き、正の解を選ぶ。
    • (6) 相対速度:
      • Step 1: ひもが切れた後の「気球」の運動方程式を立て、加速度\(A’\)を求める。
      • Step 2: 時刻\(t\)後の気球の速度 \(V = v_0 + A’t\) と小球の速度 \(v = v_0 – gt\) をそれぞれ求める。
      • Step 3: 相対速度の定義 \(u = v – V\) に従って計算する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字の代入タイミング:
    • 特に注意すべき点: この問題は、前の設問の答えを次の設問で使うことが多いです。例えば、問(4)で浮力\(F\)を求める際に、問(3)で求めた張力\(S\)を代入します。このとき、\(S=m(a+g)\) のように、できるだけ整理された形で代入すると計算が楽になります。
    • 日頃の練習: 複数の文字式を扱う際には、どの式がどの物理量を表しているのかを明確にメモしながら進める。
  • 2次方程式の解の公式:
    • 特に注意すべき点: 問(5)で解の公式を使う際、係数の符号(特にcにあたる\(-2h\))を間違えないように注意する。
    • 日頃の練習: 文字係数の2次方程式を解く練習を数学で行い、計算の正確性を高めておく。
  • 一貫した座標設定:
    • 特に注意すべき点: 鉛直上向きを正と決めたら、問題の最後までその設定を貫く。速度、加速度、変位、力のすべてにこの符号ルールを適用することで、混乱を防ぐ。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (3) 張力S: \(S = m(a+g)\)。もし加速度\(a=0\)なら\(S=mg\)となり、静止時のつりあいと一致する。もし下向きに加速(\(a<0\))するなら、\(S < mg\) となり、エレベーターが下降するときの体重計の目盛りが減るのと同じ現象を表している。
    • (4) 浮力F: \(F = (M+m)(a+g)\)。これは、気球と小球の全重量\((M+m)g\)を支え、さらに全体を加速度\(a\)で加速させるのに必要な力、と解釈できる。非常に理にかなった形をしている。
    • (6) 相対速度u: \(u = -(F/M)t\)。この式には初速度\(v_0\)や重力加速度\(g\)が含まれていない。これは、気球と小球のどちらにも同じ初速度\(v_0\)があり、また重力によってどちらも同じ加速度\(-g\)を受けるため、これらの効果が相対運動には影響せず、相殺されることを意味している。相対運動は、ひもが切れたことで気球だけが受け続けるようになった浮力\(F\)(とそれに伴う気球の運動)によってのみ生じている、という本質が見える。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]

PVアクセスランキング にほんブログ村