問題16 (東海大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、斜面に置かれた直方体のつりあいを扱います。板の傾斜角を大きくしていくと、物体は「滑り出す」か「倒れる」かのどちらかが先に起こります。この2つの現象を、それぞれ「力のつりあい」と「力のモーメントのつりあい」の観点から分析する問題です。
- 物体: 質量 \(M\) の直方体。辺ABの長さ \(3a\)、辺BCの長さ \(a\)。
- 板: 平らであらい。水平から徐々に傾けることができる。
- 静止摩擦係数: \(\mu_0\) (板と物体の間)
- 重力加速度: \(g\)
- 状況1 (図1): 長辺ABを接して置く。傾斜角\(\theta\)が\(\theta_1\)を超えると滑りだす。
- 状況2 (図2): 短辺BCを接して置く。滑りだすことなく、傾斜角\(\theta_2\)で倒れる。
- (1) 状況1で、\(\theta < \theta_1\) で静止しているときの摩擦力の大きさ。
- (2) 状況1で、倒れることなく滑りだしたことからわかる \(\mu_0\) の条件。
- (3) 状況2で、倒れ始める瞬間の傾斜角 \(\theta_2\) に対する \(\tan\theta_2\) の値。
- (4) 状況2で、倒れ始める直前の摩擦力の大きさ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(2)と問(3)の「倒れる条件」の別解: 重力の作用線を用いた幾何学的解法
- 主たる解法が、回転軸まわりの「力のモーメントのつりあい」を立式するのに対し、別解では、物体が倒れるのは「重心の鉛直下方の点が、支持基底面の端を越えるとき」という幾何学的な条件から直接角度を求めます。
- 問(2)と問(3)の「倒れる条件」の別解: 重力の作用線を用いた幾何学的解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 「力のモーメントのつりあいの限界」と「重心の作用線が支持基底面を外れる」という2つの表現が、物理的に等価であることを理解できます。これにより、剛体の安定性に関する洞察が深まります。
- 計算の簡略化: 問題によっては、モーメントの腕の長さを計算するよりも、幾何学的な関係から直接角度を求める方が直感的で計算が簡単な場合があります。
- 異なる視点の学習: 同じ現象を、力学的なアプローチ(モーメント)と幾何学的なアプローチの両方から見ることで、思考の柔軟性が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「剛体のつりあい」であり、特に斜面上の物体が「滑り出す条件」と「倒れる条件」を比較する典型的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつりあい: 物体が静止している(並進運動しない)とき、物体にはたらく力のベクトル和はゼロになります。斜面の問題では、斜面に平行な方向と垂直な方向に分解して考えます。
- 力のモーメントのつりあい: 物体が静止している(回転運動しない)とき、任意の点のまわりの力のモーメントの和はゼロになります。
- 滑り出す条件: 静止摩擦力がその最大値(最大静止摩擦力 \(\mu_0 N\))に達したとき、物体は滑り始めます。
- 倒れる条件: 物体の重心を通る鉛直線(重力の作用線)が、物体が床や斜面と接している領域(支持基底面)の端を越えたとき、物体は倒れ始めます。これは、垂直抗力の作用点が支持基底面の端に達したときと等価です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 物体にはたらく力(重力、垂直抗力、摩擦力)を正確に図示します。
- 「滑り出す条件」を力のつりあいから、「倒れる条件」を力のモーメントのつりあい(または幾何学的条件)から、それぞれ傾斜角の条件として立式します。
- 問題文で与えられた状況(「滑った」のか「倒れた」のか)に応じて、導出した条件式を比較・適用して、問われている量を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
物体が板に対して静止しているとき、物体にはたらく力はつりあっています。斜面に置かれた物体には、重力によって斜面を滑り落ちようとする力がはたらきます。静止しているということは、この力と静止摩擦力がつりあっていることを意味します。斜面に平行な方向の力のつりあいを考えることで、摩擦力の大きさを求めます。
この設問における重要なポイント
- 物体にはたらく力をすべて図示する。
- 重力を斜面に平行な成分と垂直な成分に分解する。
- 静止している間、摩擦力は外力(この場合は重力の斜面成分)とつりあう大きさをとる。
具体的な解説と立式
物体にはたらく力は、「重力 \(Mg\)」、「斜面からの垂直抗力 \(N\)」、「斜面からの静止摩擦力 \(f\)」の3つです。
座標軸を、斜面に沿って下向きを正、斜面に垂直に上向きを正と設定します。
重力 \(Mg\) を斜面に平行な成分と垂直な成分に分解すると、
- 斜面平行成分: \(Mg\sin\theta\)(斜面下向き)
- 斜面垂直成分: \(Mg\cos\theta\)(斜面に垂直下向き)
物体は斜面に平行な方向に動かないので、この方向の力はつりあっています。静止摩擦力 \(f\) は、重力の斜面平行成分を打ち消すために、斜面上向きにはたらきます。
したがって、斜面平行方向の力のつりあいの式は、
$$ f – Mg\sin\theta = 0 $$
これを変形すると、
$$ f = Mg\sin\theta $$
となります。
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{0}\)
- 力の分解
上記の立式がそのまま答えとなります。
斜面に置かれた物体がずり落ちようとする力は、重力の一部分である \(Mg\sin\theta\) です。物体が静止しているのは、この「ずり落ちようとする力」と全く同じ大きさの摩擦力が、反対向き(斜面を駆け上る向き)に働いて、しっかりと支えているからです。
摩擦力の大きさは \(f = Mg\sin\theta\) です。この結果は、傾斜角\(\theta\)が大きくなるほど、滑り落ちようとする力が強くなるため、それを支える摩擦力も大きくなるという、直感と一致した妥当なものです。
問(2)
思考の道筋とポイント
この問題は、「倒れる」という現象と「滑りだす」という現象のどちらが先に起こるかを比較する問題です。「倒れることなくすべりだした」という記述から、滑り出すときの傾斜角 \(\theta_1\) が、もし倒れるとした場合の傾斜角 \(\theta_0\) よりも小さい (\(\theta_1 < \theta_0\)) ことがわかります。
それぞれの限界となる角度を数式で表現し、この大小関係から静止摩擦係数 \(\mu_0\) の条件を導き出します。
この設問における重要なポイント
- 「滑り出す条件」を力のつりあいから立式する。
- 「倒れる条件」を力のモーメントのつりあいから立式する。
- \(\theta_1 < \theta_0\) という条件を、\(\tan\theta\) の大小関係に置き換えて\(\mu_0\)の条件を求める。
具体的な解説と立式
1. 滑り出す角度 \(\theta_1\) の条件
傾斜角が \(\theta_1\) のとき、物体は滑り始めます。この瞬間、静止摩擦力は最大静止摩擦力 \(\mu_0 N\) に達しています。
問(1)と同様に、斜面平行方向の力のつりあいから、
$$ Mg\sin\theta_1 = f_{\text{最大}} = \mu_0 N \quad \cdots ① $$
斜面垂直方向の力のつりあいから、
$$ N = Mg\cos\theta_1 \quad \cdots ② $$
②を①に代入すると、
$$ Mg\sin\theta_1 = \mu_0 (Mg\cos\theta_1) $$
ここから、\(\mu_0\) と \(\theta_1\) の関係式が得られます。
2. 倒れる角度 \(\theta_0\) の条件
もし物体が倒れるとしたら、その直前には垂直抗力の作用点は下側の端点Aに集中します。この状態で、点Aのまわりの力のモーメントがつりあっています。(垂直抗力と摩擦力は点Aを通過するので、モーメントは0です。)
重力 \(Mg\) を、斜面に平行な成分 \(Mg\sin\theta_0\) と垂直な成分 \(Mg\cos\theta_0\) に分解して、それぞれのモーメントを考えます。
- \(Mg\sin\theta_0\) によるモーメント(反時計回り): \((Mg\sin\theta_0) \times (\text{腕の長さ})\)
腕の長さは、点Aから重心Gまでの、斜面に垂直な距離なので \(\displaystyle\frac{a}{2}\)。 - \(Mg\cos\theta_0\) によるモーメント(時計回り): \((Mg\cos\theta_0) \times (\text{腕の長さ})\)
腕の長さは、点Aから重心Gまでの、斜面に平行な距離なので \(\displaystyle\frac{3a}{2}\)。
モーメントのつりあいの式は、
$$ (Mg\sin\theta_0) \times \frac{a}{2} = (Mg\cos\theta_0) \times \frac{3a}{2} \quad \cdots ③ $$
3. 条件の結合
問題文より「倒れることなくすべりだした」ので、\(\theta_1 < \theta_0\) です。
\(\tan\theta\) は \(0 \le \theta < 90^\circ\) の範囲で単調に増加する関数なので、この大小関係は \(\tan\theta_1 < \tan\theta_0\) となります。
使用した物理公式
- 力のつりあい
- 最大静止摩擦力: \(f_{\text{最大}} = \mu_0 N\)
- 力のモーメントのつりあい: \(\sum M = 0\)
まず、滑り出す条件から \(\mu_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
Mg\sin\theta_1 &= \mu_0 Mg\cos\theta_1 \\[2.0ex]
\mu_0 &= \frac{\sin\theta_1}{\cos\theta_1} \\[2.0ex]
&= \tan\theta_1
\end{aligned}
$$
次に、倒れる条件式③を解いて \(\tan\theta_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
(Mg\sin\theta_0) \times \frac{a}{2} &= (Mg\cos\theta_0) \times \frac{3a}{2} \\[2.0ex]
\sin\theta_0 &= 3\cos\theta_0 \\[2.0ex]
\frac{\sin\theta_0}{\cos\theta_0} &= 3 \\[2.0ex]
\tan\theta_0 &= 3
\end{aligned}
$$
最後に、\(\tan\theta_1 < \tan\theta_0\) の関係に代入します。
$$ \mu_0 < 3 $$
物体が「滑る」か「倒れる」か、どちらが先に起こるかの競争だと考えてみましょう。「滑る」のは摩擦力の限界で、その限界は \(\tan\theta_1 = \mu_0\) という角度で決まります。「倒れる」のはバランスの限界で、その限界は計算すると \(\tan\theta_0 = 3\) という角度で決まります。今回は「滑る」が先に起きたので、滑る角度が倒れる角度より小さかった、つまり \(\tan\theta_1 < \tan\theta_0\) ということになります。これを \(\mu_0\) の式に直すと \(\mu_0 < 3\) となります。
静止摩擦係数 \(\mu_0\) は3未満である、という条件が得られました。これは、もし \(\mu_0\) が3以上(例えば4)であれば、滑り出す角度 \(\theta_1\) は \(\tan\theta_1=4\) となり、倒れる角度 \(\theta_0\) (\(\tan\theta_0=3\)) よりも大きくなってしまいます。その場合、角度を上げていくと先に \(\tan\theta=3\) の点で倒れてしまうことになり、問題の条件と矛盾します。したがって、得られた結果は物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
物体が倒れるのは、重心の真下(鉛直下方)の点が、支持基底面(この場合は辺AB)の端点Aを越えるときです。この幾何学的な条件から、倒れる限界の角度 \(\theta_0\) を直接求めます。
この設問における重要なポイント
- 物体の重心の位置を正確に把握する。
- 重心を通る鉛直線が、支持基底面の端Aを通るという幾何学的条件を図示し、立式する。
具体的な解説と立式
直方体の重心Gは、その中心にあります。辺ABが斜面に接しているとき、重心Gは、回転の中心となる点Aから見て、
- 斜面に平行な方向に \(\displaystyle\frac{3a}{2}\)
- 斜面に垂直な方向に \(\displaystyle\frac{a}{2}\)
の位置にあります。
板の傾斜角が \(\theta_0\) のとき、重心Gを通る鉛直線がちょうど点Aを通過するとします。
このとき、重心Gから斜面に下ろした垂線の足をHとすると、AHの長さは \(\displaystyle\frac{3a}{2}\)、GHの長さは \(\displaystyle\frac{a}{2}\) です。
重心Gを通る鉛直線が斜面と交わる点をPとすると、\(\triangle GHP\) は直角三角形で、\(\angle HGP = \theta_0\) となります。
倒れる瞬間は、点Pが点Aと一致するときです。
このとき、
$$ \text{AH} = \text{GH} \tan\theta_0 $$
という関係が成り立ちます。
$$ \frac{3a}{2} = \frac{a}{2} \tan\theta_0 $$
使用した物理公式
- 剛体の安定条件(幾何学的解釈)
$$
\begin{aligned}
\frac{3a}{2} &= \frac{a}{2} \tan\theta_0 \\[2.0ex]
\tan\theta_0 &= 3
\end{aligned}
$$
この結果は、モーメントのつりあいから求めた結果と完全に一致します。
あとは主たる解法と同様に、\(\mu_0 = \tan\theta_1\) と \(\tan\theta_1 < \tan\theta_0\) の条件から、
$$ \mu_0 < 3 $$
を導きます。
物体のバランスは、重心の真下の点が、支えている面(底辺)の内側にあるかどうかで決まります。傾けていくと、重心の真下の点がだんだん端っこに寄っていき、ついに底辺から外れた瞬間に倒れます。この「外れる瞬間」の角度を計算すると \(\tan\theta_0 = 3\) となります。
モーメントのつりあいという力学的なアプローチと、重心の作用線という幾何学的なアプローチが、同じ結果を与えることを確認できました。これにより、剛体の安定性についての理解が深まります。
問(3)
思考の道筋とポイント
今度は、短辺BCを接して物体を置いています。この状態で、滑りだすことなく、傾斜角が \(\theta_2\) になった瞬間に倒れた、とあります。
「倒れ始める瞬間」の条件を考えます。これは問(2)で考えた倒れる条件と全く同じですが、物体の置き方が変わったため、重心までの距離(モーメントの腕の長さ)が変わる点に注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- 「倒れ始める瞬間」の条件として、力のモーメントのつりあいを適用する。
- 物体の置き方が変わったことによる、辺の長さ(\(a\) と \(3a\))の入れ替わりを正しく式に反映させる。
具体的な解説と立式
状況2では、短辺BCが斜面に接しています。倒れ始める瞬間、垂直抗力の作用点は下側の端点Bに集中します。この状態で、点Bのまわりの力のモーメントがつりあっています。
重力 \(Mg\) を、斜面に平行な成分 \(Mg\sin\theta_2\) と垂直な成分 \(Mg\cos\theta_2\) に分解します。
- \(Mg\sin\theta_2\) によるモーメント(反時計回り):
腕の長さは、点Bから重心Gまでの、斜面に垂直な距離なので \(\displaystyle\frac{3a}{2}\)。 - \(Mg\cos\theta_2\) によるモーメント(時計回り):
腕の長さは、点Bから重心Gまでの、斜面に平行な距離なので \(\displaystyle\frac{a}{2}\)。
モーメントのつりあいの式は、
$$ (Mg\sin\theta_2) \times \frac{3a}{2} = (Mg\cos\theta_2) \times \frac{a}{2} $$
使用した物理公式
- 力のモーメントのつりあい: \(\sum M = 0\)
つりあいの式の両辺から \(Mg \times \displaystyle\frac{a}{2}\) を消去すると、
$$
\begin{aligned}
3\sin\theta_2 &= \cos\theta_2 \\[2.0ex]
\frac{\sin\theta_2}{\cos\theta_2} &= \frac{1}{3} \\[2.0ex]
\tan\theta_2 &= \frac{1}{3}
\end{aligned}
$$
今度は、物体を縦長に置いた場合です。倒れる瞬間のバランスの限界を考えます。問(2)と考え方は同じですが、物体の置き方が変わったので、重心までの「高さ」と「横位置」が入れ替わります。新しい腕の長さでモーメントのつりあいの式を立て直すと、倒れる角度が計算できます。
\(\tan\theta_2 = \displaystyle\frac{1}{3}\) となりました。状況1で倒れる場合の角度 \(\tan\theta_0=3\) と比べて、はるかに小さい角度で倒れることがわかります。これは、細長い物体の方が倒れやすいという日常的な感覚と一致しており、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
問(2)の別解と同様に、重心の作用線が支持基底面の端を越えるという幾何学的な条件から、倒れる限界の角度 \(\theta_2\) を求めます。
具体的な解説と立式
辺BCが斜面に接しているとき、重心Gは、回転の中心となる点Bから見て、
- 斜面に平行な方向に \(\displaystyle\frac{a}{2}\)
- 斜面に垂直な方向に \(\displaystyle\frac{3a}{2}\)
の位置にあります。
問(2)の別解と同様に、重心Gを通る鉛直線がちょうど点Bを通過するとき、
$$ (\text{斜面に平行な距離}) = (\text{斜面に垂直な距離}) \times \tan\theta_2 $$
という関係が成り立ちます。
$$ \frac{a}{2} = \frac{3a}{2} \tan\theta_2 $$
$$
\begin{aligned}
\frac{a}{2} &= \frac{3a}{2} \tan\theta_2 \\[2.0ex]
\tan\theta_2 &= \frac{1}{3}
\end{aligned}
$$
この結果も、モーメントのつりあいから求めた結果と完全に一致します。
問(4)
思考の道筋とポイント
物体が倒れ始める「直前」は、まだ滑らずに静止しています。したがって、この瞬間も斜面に平行な方向の力はつりあっています。この力のつりあいの式は、問(1)で立てたものと全く同じです。この式に、問(3)で求めた倒れる瞬間の角度 \(\theta_2\) を適用することで、摩擦力の大きさを求めます。
この設問における重要なポイント
- 「倒れ始める直前」は、まだ静止しており、力のつりあいが成り立っていると考える。
- 摩擦力は、重力の斜面平行成分とつりあっている。
- 問(3)の結果を利用して、三角関数の値を計算する。
具体的な解説と立式
倒れ始める直前の傾斜角は \(\theta_2\) です。このとき、物体にはたらく摩擦力 \(f_2\) は、問(1)と同様に、重力の斜面平行成分とつりあっています。
$$ f_2 = Mg\sin\theta_2 $$
ここで、問(3)の結果 \(\tan\theta_2 = \displaystyle\frac{1}{3}\) を利用して \(\sin\theta_2\) の値を求めます。
\(\tan\theta_2 = \displaystyle\frac{1}{3}\) を満たす直角三角形を考えます。底辺を3、高さを1とすると、斜辺の長さは三平方の定理より \(\sqrt{1^2+3^2} = \sqrt{10}\) となります。
したがって、この直角三角形から \(\sin\theta_2\) の値は、
$$ \sin\theta_2 = \frac{\text{高さ}}{\text{斜辺}} = \frac{1}{\sqrt{10}} $$
これを摩擦力の式に代入します。
使用した物理公式
- 力のつりあい
- 三角関数の相互関係
$$
\begin{aligned}
f_2 &= Mg\sin\theta_2 \\[2.0ex]
&= Mg \times \frac{1}{\sqrt{10}} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\sqrt{10}}Mg
\end{aligned}
$$
物体が倒れる寸前も、まだ滑ってはいません。なので、滑り落ちようとする力(重力の斜面成分)と摩擦力は釣り合っています。(3)で倒れるときの角度がわかったので、その角度を使って「滑り落ちようとする力」を計算すれば、それがそのまま摩擦力の大きさになります。
摩擦力の大きさは \(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{10}}Mg\) となります。
この状況では「すべりだすことはなく」倒れたので、この摩擦力 \(f_2\) は、このときの最大静止摩擦力 \(\mu_0 N_2 = \mu_0 Mg\cos\theta_2\) よりも小さいはずです。
\(f_2 = Mg\sin\theta_2\) なので、この条件は \(Mg\sin\theta_2 < \mu_0 Mg\cos\theta_2\)、つまり \(\tan\theta_2 < \mu_0\) となります。
問(3)より \(\tan\theta_2 = 1/3\) なので、\(\mu_0 > 1/3\) であれば、この状況(滑らずに倒れる)は起こりえます。問(2)の結果 \(\mu_0 < 3\) と合わせると、この問題設定が成り立つためには、静止摩擦係数が \(1/3 < \mu_0 < 3\) の範囲にある必要があることがわかります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 剛体のつりあいの限界条件(滑り出す vs 倒れる):
- 核心: この問題の最も重要なポイントは、斜面に置かれた剛体が静止状態を破る2つの異なるメカニズム、「滑り出す」ことと「倒れる」ことを区別し、それぞれを的確に数式で表現することです。
- 滑り出す条件: これは「力のつりあい」の限界です。斜面下向きに滑らせようとする力(重力の斜面成分)が、それを妨げる静止摩擦力の限界(最大静止摩擦力)に達した瞬間に起こります。数式では \(Mg\sin\theta = \mu_0 Mg\cos\theta\)、すなわち \(\tan\theta = \mu_0\) と表されます。
- 倒れる条件: これは「力のモーメントのつりあい」の限界です。傾きが増すにつれて重力の作用線が支持基底面(底辺)の端に近づき、ついにその端を越える瞬間に起こります。このとき、垂直抗力の作用点が支持基底面の端に移動したとして、力のモーメントのつりあいの式を立てるか、あるいは重心の作用線が端を通るという幾何学的条件を用います。
- 理解のポイント: 物体が滑るか倒れるかは、\(\tan\theta\) で比較できます。滑り出す角度\(\theta_s\)は \(\tan\theta_s = \mu_0\)、倒れる角度\(\theta_t\)は物体の形状(重心の高さと底辺の幅)で決まります。\(\theta_s\) と \(\theta_t\) のどちらが小さいかによって、先に起こる現象が決まります。
- 核心: この問題の最も重要なポイントは、斜面に置かれた剛体が静止状態を破る2つの異なるメカニズム、「滑り出す」ことと「倒れる」ことを区別し、それぞれを的確に数式で表現することです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 様々な形状の物体: 直方体だけでなく、円柱や三角柱など、異なる形状の物体が斜面で滑るか倒れるかを問う問題。重心の位置と底面の形状を正しく把握すれば、同じ考え方で解けます。
- 水平な力を加える問題: 斜面ではなく水平な床に置かれた物体に、徐々に大きな水平な力を加えていく問題。この場合も、滑り出す条件(力が最大静止摩擦力に達する)と、倒れる条件(力のモーメントがつりあわなくなる)を比較します。
- 乗り物の安定性: トラックやバスがカーブを曲がる際に、遠心力によって外側に倒れるか、あるいはタイヤが滑るか、といった問題。これも「倒れる条件」と「滑る条件」の比較という点で本質的に同じ構造です。
- 初見の問題での着眼点:
- 「滑る」と「倒れる」を分離して考える: 問題文に「滑る」「倒れる」という言葉が出てきたら、それぞれが「力のつりあい」と「力のモーメントのつりあい」のどちらの限界条件に対応するのかを即座に判断します。
- 重心の位置と支持基底面: 「倒れる」条件を考える際は、物体の重心の高さと、支持基底面(床と接している部分)の幅が決定的に重要になります。図からこれらの幾何学的な情報を正確に読み取ります。
- 限界瞬間の状態: 「滑りだす瞬間」や「倒れ始める瞬間」は、まだ物体が静止している(加速度が0である)とみなし、力のつりあいや力のモーメントのつりあいの式を適用できる、という点が重要です。運動が始まってからではなく、その直前の状態で考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 滑る条件と倒れる条件の混同:
- 誤解: 摩擦力の問題を力のモーメントで、回転の問題を力のつりあいだけで解こうとして混乱する。
- 対策: 「滑る=並進運動の開始 \(\rightarrow\) 力のつりあいの限界」「倒れる=回転運動の開始 \(\rightarrow\) 力のモーメントのつりあいの限界」という対応関係を明確に覚える。
- 倒れるときの力のモーメントの腕の長さの計算ミス:
- 誤解: 重心までの距離をそのまま腕の長さにしてしまう。
- 対策: 倒れる直前は、回転の中心が底面の端点になる。そこを基準として、重力を「斜面に平行な成分」と「斜面に垂直な成分」に分解し、それぞれに対する腕の長さを正確に求める。腕の長さは、回転の中心から力の作用線までの「垂直距離」です。
- 静止摩擦力の扱い:
- 誤解: 静止している間の摩擦力を常に最大静止摩擦力 \(\mu_0 N\) だと思ってしまう。
- 対策: 静止摩擦力は、あくまで外力とつりあうために必要な分だけはたらく「受動的な力」です。問(1)や(4)のように、単に静止している状態では、力のつりあいの式から求めます。\(f = \mu_0 N\) が使えるのは、「ちょうど滑りだす瞬間」だけです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつりあいの式 (\(f = Mg\sin\theta\)):
- 選定理由: 問(1)や(4)で、静止している物体にはたらく「静止摩擦力」の大きさを求めるため。
- 適用根拠: 物体は斜面方向に並進運動していない(加速度がゼロ)ため、斜面方向の力はつりあっている。摩擦力は、重力の斜面成分とつりあう大きさになる。
- 滑り出す条件式 (\(\tan\theta_1 = \mu_0\)):
- 選定理由: 「滑りだす」という限界状態を数式で表現するため。
- 適用根拠: 滑りだす瞬間には、静止摩擦力が最大値 \(f_{\text{最大}} = \mu_0 N\) に達する。力のつりあいの式 \(f=Mg\sin\theta\) と \(N=Mg\cos\theta\) を組み合わせることで導出される。
- 倒れる条件式(モーメントのつりあい or 幾何学的条件):
- 選定理由: 「倒れる」という限界状態を数式で表現するため。
- 適用根拠: 倒れる直前には、物体は回転軸(底面の端)まわりで力のモーメントがつりあっている限界の状態にある。あるいは、重心の作用線が支持基底面の端を通るという幾何学的な限界にある。どちらの考え方でも同じ結果が得られる。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 幾何学的な情報の正確な読み取り:
- 特に注意すべき点: 倒れる条件を考える際の、回転軸から重心までの水平距離と鉛直距離。物体の向き(図1か図2か)によって、\(a/2\) と \(3a/2\) が入れ替わる。この対応を間違えると、結果が全く異なってしまう。
- 日頃の練習: 問題ごとに図を丁寧に描き、長さや寸法を正確に書き込む習慣をつける。
- 三角関数の変換:
- 特に注意すべき点: 問(4)のように、\(\tan\theta\) の値から \(\sin\theta\) や \(\cos\theta\) の値を求める場面は頻出する。
- 日頃の練習: \(1+\tan^2\theta = 1/\cos^2\theta\) のような公式を使う方法と、直角三角形を描いて辺の比から求める方法の両方に習熟しておく。後者の方が直感的で速いことが多い。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) \(\mu_0\)の条件: \(\mu_0 < 3\)。もし \(\mu_0\) がこれより大きい、例えば \(\mu_0=4\) なら、滑り出す角度は \(\tan\theta_1=4\) となり、倒れる角度 \(\tan\theta_0=3\) よりも大きくなる。つまり、角度を大きくしていくと、\(\tan\theta=3\) の時点で先に倒れてしまう。これは問題の設定(滑りだした)と矛盾しない。
- (3) 倒れる角度: 長辺で置いたときの倒れる角度は \(\tan\theta_0=3\)、短辺で置いたときは \(\tan\theta_2=1/3\)。細長い方が倒れやすいという直感と完全に一致する。
- 条件の再確認:
- 状況1では「倒れることなくすべりだした」ので \(\theta_1 < \theta_0\)。
- 状況2では「すべりだすことはなく、…倒れた」ので \(\theta_2 < \theta_s’\)(状況2での滑り出す角度)。\(\theta_s’\) は \(\tan\theta_s’ = \mu_0\) で決まるので、この状況が成り立つためには \(\tan\theta_2 < \mu_0\)、つまり \(1/3 < \mu_0\) である必要がある。
- これらを総合すると、この直方体の静止摩擦係数 \(\mu_0\) は \(1/3 < \mu_0 < 3\) の範囲にある、ということが問題全体から読み取れる。このように、各設問の結果を統合して物理的状況を深く考察する習慣をつけると、応用力が格段に向上する。
問題17 (名城大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、液体に浮かぶ棒を糸で引き上げる際のつりあいを扱います。棒が傾いているため、重力と浮力の作用点が異なることがポイントとなり、力のモーメントのつりあいを考える必要があります。
- 棒: 長さ \(l\)、断面積 \(S\)、密度 \(\rho\)、一様
- 液体: 密度 \(\rho_0\) (\(\rho_0 > \rho\))
- 状態:
- 棒の一端Aに糸をつけ、鉛直上向きに引き上げる。
- 棒は液面と角\(\theta\)をなして静止。
- 液面から点Aまでの高さが \(h\)。
- その他: 糸は常に鉛直。力の作用点は常に棒の中心線上にある。
- 重力加速度: \(g\)
- (1) 棒にはたらく重力の大きさ。
- (2) 棒が傾いて静止しているとき
- (a) 重力の作用線と点Aとの間の水平距離。
- (b) 液体から受ける浮力の大きさ(液体中の長さを\(l_0\)とする)。
- (c) \(l_0\) を \(l, h, \theta\) で表す式。
- (d) 点Aのまわりの力のモーメントのつりあいの式。
- (e) \(\sin\theta\) を求める式。
- (3) \(\theta=90^\circ\)になった瞬間の、液面から点Aまでの高さ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
【注記】本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。
この問題のテーマは「浮力と剛体のつりあい」です。浮力がはたらく剛体のつりあいを考える際は、以下の点が重要になります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 重力の作用点: 剛体の重心。一様な棒の場合はその中心。
- 浮力の作用点: 剛体が押しのけた液体の体積部分の重心。一様な棒が液体に浸かっている場合は、その「液体に浸かっている部分の中心」。
- 力のモーメントのつりあい: 重力と浮力の作用点が異なるため、これらの力が力のモーメントを生み出します。剛体が回転せずに静止しているのは、これらのモーメントがつりあっているためです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、棒の質量を計算し、重力の大きさを求めます。
- 次に、棒が傾いている状態について、重力と浮力がはたらく位置を特定し、それぞれの力のモーメントを計算します。
- 力のモーメントのつりあいの式を立て、未知数を解いていきます。幾何学的な関係式も併用します。
- 最後に、\(\theta=90^\circ\)という特定の状況を考え、(2)で導いた関係式を適用します。
問(1)
思考の道筋とポイント
棒の重力の大きさを求めます。重力は「質量 \(\times\) 重力加速度」で、質量は「密度 \(\times\) 体積」で計算できます。
この設問における重要なポイント
- 棒の体積を正しく計算する。
- 質量と密度の関係式 \(m = \rho V\) を使う。
具体的な解説と立式
棒の体積 \(V\) は、長さ \(l\) と断面積 \(S\) から、
$$V = Sl$$
棒の質量 \(m\) は、密度 \(\rho\) と体積 \(V\) から、
$$m = \rho V$$
したがって、棒にはたらく重力の大きさ \(W\) は、
$$W = mg$$
使用した物理公式
- 質量・密度・体積の関係: \(m = \rho V\)
- 重力の式: \(W = mg\)
立式したものを代入して整理します。
$$
\begin{aligned}
W &= (\rho V)g \\[2.0ex]
&= (\rho Sl)g \\[2.0ex]
&= \rho Slg
\end{aligned}
$$
物体の重さは、その物体の質量に重力加速度を掛けることで求まります。質量は、密度に体積を掛けることで計算できます。棒の体積は「断面積 \(\times\) 長さ」です。
棒にはたらく重力の大きさは \(\rho Slg\) です。
問(2a)
思考の道筋とポイント
重力の作用線と点Aとの間の「水平距離」を求めます。重力は棒の重心にはたらきます。一様な棒なので、重心は棒の中心です。図形的な関係から、この水平距離を計算します。
この設問における重要なポイント
- 重力の作用点は棒の中心(重心)である。
- 図形的な関係から水平距離を求める。
具体的な解説と立式
重力は、棒の中心Gにはたらきます。点Aは棒の一端なので、AからGまでの棒に沿った距離は \(\displaystyle\frac{l}{2}\) です。
棒は液面と角\(\theta\)をなしているので、点Aと重心Gを結ぶ線分を斜辺とする直角三角形を考えます。求めたい水平距離は、この直角三角形の底辺の長さに相当します。
したがって、三角比の関係から、
$$ (\text{水平距離}) = \frac{l}{2}\cos\theta $$
使用した物理公式
- 三角比
この設問では、立式がそのまま答えとなるため、特別な計算過程はありません。
重力は棒のど真ん中にかかります。点Aから真ん中までの棒に沿った距離は \(\displaystyle\frac{l}{2}\) です。棒が\(\theta\)だけ傾いているので、A点と真ん中の点の「横方向のずれ」を考えます。これは三角関数のコサインを使って計算できます。
水平距離は \(\displaystyle\frac{l}{2}\cos\theta\) です。これは、力のモーメントを計算する際の「腕の長さ」になります。
問(2b)
思考の道筋とポイント
浮力の大きさを求めます。アルキメデスの原理によれば、浮力の大きさは「物体が押しのけた流体の重さ」に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- アルキメデスの原理を適用する。
- 液体に浸かっている部分の体積を正しく計算する。
具体的な解説と立式
棒のうち、液体に浸かっている部分の長さは \(l_0\) です。この部分の体積 \(V_{\text{水中}}\) は、
$$ V_{\text{水中}} = S l_0 $$
アルキメデスの原理より、浮力の大きさ \(F_{\text{浮力}}\) は、この体積と同じ体積の液体(密度\(\rho_0\))の重さに等しいので、
$$ F_{\text{浮力}} = (\text{液体の密度}) \times (\text{押しのけた体積}) \times (\text{重力加速度}) $$
$$ F_{\text{浮力}} = \rho_0 V_{\text{水中}} g $$
使用した物理公式
- アルキメデスの原理: \(F_{\text{浮力}} = \rho_{\text{液体}} V_{\text{物体}} g\)
立式した \(V_{\text{水中}}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F_{\text{浮力}} &= \rho_0 (S l_0) g \\[2.0ex]
&= \rho_0 S l_0 g
\end{aligned}
$$
浮力の大きさは、その物体が沈んでいる部分と同じ体積分の液体の重さと同じです。液体に沈んでいる部分の長さが \(l_0\) なので、その体積は \(S \times l_0\) です。この体積の液体の重さを計算します。
浮力の大きさは \(\rho_0 S l_0 g\) です。浮力は、液体に浸かっている部分の長さ \(l_0\) に比例することがわかります。
問(2c)
思考の道筋とポイント
液体に浸かっている部分の長さ \(l_0\) を、与えられた \(l, h, \theta\) を用いて表します。図に描かれている棒、液面、そして点Aからの垂線が作る直角三角形に着目し、幾何学的な関係を立式します。
この設問における重要なポイント
- 図から、棒の長さ、高さ、角度の関係を表す直角三角形を見つける。
具体的な解説と立式
図を見ると、液面より上に出ている棒の部分、液面、そして点Aから液面に下ろした垂線で直角三角形ができます。
液面より上に出ている棒の長さは \(l – l_0\) です。
この直角三角形において、斜辺が \(l-l_0\)、高さが \(h\)、斜辺と底辺のなす角が \(\theta\) なので、三角比の定義より、
$$ \sin\theta = \frac{\text{高さ}}{\text{斜辺}} = \frac{h}{l-l_0} $$
使用した物理公式
- 三角比の定義
この式を \(l_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\sin\theta &= \frac{h}{l-l_0} \\[2.0ex]
l-l_0 &= \frac{h}{\sin\theta} \\[2.0ex]
l_0 &= l – \frac{h}{\sin\theta}
\end{aligned}
$$
棒の、水面から出ている部分に注目します。この部分の長さは \(l-l_0\) です。この部分と水面、そしてA点の高さ\(h\)で直角三角形ができます。この三角形の辺と角度の関係(サイン)から、\(l_0\) を求める式を作ります。
長さ \(l_0\) は \(l – \displaystyle\frac{h}{\sin\theta}\) と表せます。この式は、後の設問でモーメントの式と連立させるために使われます。
問(2d)
思考の道筋とポイント
点Aのまわりの力のモーメントのつりあいの式を立てます。棒にはたらく力のうち、点Aまわりにモーメントを作るのは「重力」と「浮力」です。糸の力は点Aにはたらくので、腕の長さが0となりモーメントは0です。
この設問における重要なポイント
- 浮力の作用点を正しく特定する(液体に浸かっている部分の中心)。
- 重力と浮力のモーメントの腕の長さを正確に計算する。
- モーメントの回転方向(時計回りか反時計回りか)を正しく判断する。
具体的な解説と立式
点Aを回転の中心とします。
- 重力によるモーメント:
- 力: \(W = \rho Slg\)(下向き)
- 腕の長さ: (2a)で求めた通り \(\displaystyle\frac{l}{2}\cos\theta\)。
- 回転方向: 時計回り。
- 浮力によるモーメント:
- 力: \(F_{\text{浮力}} = \rho_0 S l_0 g\)(上向き)
- 作用点: 液体に浸かっている部分(長さ\(l_0\))の中心。点Aからの棒に沿った距離は \(l – \displaystyle\frac{l_0}{2}\)。
- 腕の長さ: 作用点までの水平距離なので \(\left(l – \displaystyle\frac{l_0}{2}\right)\cos\theta\)。
- 回転方向: 反時計回り。
力のモーメントのつりあいの式は、「反時計回りのモーメントの和 = 時計回りのモーメントの和」なので、
$$ (\rho_0 S l_0 g) \times \left(l – \frac{l_0}{2}\right)\cos\theta = (\rho Slg) \times \frac{l}{2}\cos\theta $$
使用した物理公式
- 力のモーメントのつりあい
この設問は式を立てるだけであり、計算は不要です。
点Aを回転の軸として、棒が回転しないための条件を考えます。重力は棒を時計回りに回そうとし、浮力は反時計回りに回そうとします。この2つの「回す効果」が釣り合っている、という式を立てます。
点Aのまわりの力のモーメントのつりあいの式は \(\rho_0 S l_0 g \left(l – \displaystyle\frac{l_0}{2}\right)\cos\theta = \rho Slg \displaystyle\frac{l}{2}\cos\theta\) です。
問(2e)
思考の道筋とポイント
(2c)と(2d)で立てた2つの式を連立させて、\(\sin\theta\) を求めます。未知数は \(l_0\) と \(\sin\theta\) (または\(\theta\)) ですが、うまく \(l_0\) を消去することを目指します。
この設問における重要なポイント
- 2つの未知数を含む連立方程式を解く。
- 式を整理し、最終的に \(\sin\theta\) を求める。
具体的な解説と立式
(2d)のモーメントのつりあいの式と、(2c)の幾何学的な関係式を使います。
$$ (\rho_0 S l_0 g) \left(l – \frac{l_0}{2}\right)\cos\theta = (\rho Slg) \frac{l}{2}\cos\theta \quad \cdots ① $$
$$ l_0 = l – \frac{h}{\sin\theta} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 連立方程式の解法
まず式①を整理します。両辺から \(Sg\cos\theta\) を消去します(\(\theta \neq 90^\circ\) なので \(\cos\theta \neq 0\))。
$$
\begin{aligned}
\rho_0 l_0 \left(l – \frac{l_0}{2}\right) &= \rho \frac{l^2}{2} \\[2.0ex]
\rho_0 l_0 (2l – l_0) &= \rho l^2
\end{aligned}
$$
次に、この式に②を代入します。
$$ \rho_0 \left(l – \frac{h}{\sin\theta}\right) \left(2l – \left(l – \frac{h}{\sin\theta}\right)\right) = \rho l^2 $$
$$ \rho_0 \left(l – \frac{h}{\sin\theta}\right) \left(l + \frac{h}{\sin\theta}\right) = \rho l^2 $$
左辺は \((a-b)(a+b) = a^2-b^2\) の形なので、
$$ \rho_0 \left(l^2 – \frac{h^2}{\sin^2\theta}\right) = \rho l^2 $$
この式を \(\sin\theta\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
l^2 – \frac{h^2}{\sin^2\theta} &= \frac{\rho}{\rho_0}l^2 \\[2.0ex]
\frac{h^2}{\sin^2\theta} &= l^2 – \frac{\rho}{\rho_0}l^2 \\[2.0ex]
&= l^2 \left(1 – \frac{\rho}{\rho_0}\right) \\[2.0ex]
&= l^2 \frac{\rho_0 – \rho}{\rho_0} \\[2.0ex]
\sin^2\theta &= \frac{h^2}{l^2} \frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho} \\[2.0ex]
\sin\theta &= \sqrt{\frac{h^2}{l^2} \frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}} \\[2.0ex]
&= \frac{h}{l}\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}}
\end{aligned}
$$
(c)と(d)で2つの関係式が手に入りました。これらはどちらも \(l_0\) と \(\theta\) を含んでいます。この2つの式をうまく組み合わせて(連立方程式を解いて)、\(l_0\) を消去し、\(\sin\theta\) だけの式にして答えを求めます。
\(\sin\theta = \displaystyle\frac{h}{l}\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}}\) です。この式は、つり合いがとれているときの棒の傾きとA点の高さの関係を表しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
糸をさらに引き上げ、\(\theta=90^\circ\) になったときの、液面から点Aまでの高さ \(h’\) を求めます。これは、(2e)で導いた \(\sin\theta\) と \(h\) の関係式に、\(\theta=90^\circ\) を代入することで求められます。
この設問における重要なポイント
- \(\theta=90^\circ\) は、棒が鉛直に立った状態を意味する。
- \(\sin(90^\circ) = 1\) である。
具体的な解説と立式
(2e)で求めた関係式
$$ \sin\theta = \frac{h}{l}\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}} $$
に、\(\theta=90^\circ\) と、そのときの高さを \(h’\) として代入します。
$$ \sin(90^\circ) = \frac{h’}{l}\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}} $$
使用した物理公式
- (2e)で導出した関係式
\(\sin(90^\circ) = 1\) なので、
$$
\begin{aligned}
1 &= \frac{h’}{l}\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}} \\[2.0ex]
h’ &= l \times \frac{1}{\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}}} \\[2.0ex]
&= l \sqrt{\frac{\rho_0 – \rho}{\rho_0}}
\end{aligned}
$$
(e)で、棒の傾き \(\sin\theta\) とA点の高さ \(h\) の関係がわかりました。この関係式に、\(\theta=90^\circ\) という特別な場合を代入して、そのときの高さ \(h’\) を計算します。
高さは \(l\sqrt{\displaystyle\frac{\rho_0 – \rho}{\rho_0}}\) です。この高さは、棒の長さ \(l\) と、棒と液体の密度の比によって決まることがわかります。もし \(\rho=\rho_0\) なら \(h’=0\) となり、棒は完全に液体に沈むまで引き上げられないことを示唆しており、妥当です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 剛体のつりあいの条件(特に力のモーメント):
- 核心: この問題は、大きさを持つ物体(剛体である棒)が、複数の力を受けて静止している状況を扱います。剛体が静止するためには、「力のつりあい」と「力のモーメントのつりあい」の2つの基本法則が成り立つ必要があります。特に、重力と浮力の作用点が異なるため、回転せずに静止するための「力のモーメントのつりあい」が解答の鍵を握っています。
- 理解のポイント:
- 作用点の違い: 重力は剛体全体の「重心」にはたらくのに対し、浮力は剛体が押しのけた流体の体積部分、すなわち「水に浸かっている部分の重心」にはたらきます。この作用点のずれが、力のモーメントを生む原因です。
- 回転の中心の選択: 力のモーメントを考える際、基準となる回転の中心をどこに選ぶかが計算の効率を左右します。この問題では、未知の力である糸の張力\(T\)がはたらく点Aを回転の中心に選ぶことで、\(T\)のモーメントを0として計算から排除でき、他の力の関係式をシンプルに立てることができます。
- 腕の長さの計算: 棒が傾いているため、腕の長さ(回転の中心から力の作用線までの垂直距離)を三角関数を用いて幾何学的に正しく求めることが不可欠です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 船の安定性(復原力): 船が波などで傾いたときに、元の姿勢に戻ろうとする性質。これも、傾くことで重心と浮心(浮力の作用点)の位置がずれ、復元的な力のモーメントが生じることで説明されます。本問のつりあいは、この復原力と外部からの力がつりあっている状態と見なせます。
- 氷山の一角: 氷山が水に浮かんでいる状態も、重力と浮力のつりあいです。氷と水の密度が異なるため、一部が水面上に出ます。その安定性を考える問題は、本問と類似の構造を持ちます。
- 異なる液体に浮かぶ物体: 上半分が油、下半分が水のような、層になった液体に物体が浮かぶ問題。この場合、それぞれの液体から受ける浮力を別々に計算し、それらの合力とモーメントを考える必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 作用点の図示: まず、重力と浮力(およびその他の力)の作用点を、できるだけ正確に図に描き込むことが最優先です。作用点が不明確だと、モーメントの計算ができません。
- 幾何学的関係の整理: 棒の長さ、水に浸かっている部分の長さ、水面からの高さ、傾斜角など、問題で与えられた幾何学的な情報を整理し、それらの関係式(本問の(2c)のような)を立てることが、連立方程式を解く上で重要になります。
- モーメントの腕の長さの特定: 回転の中心を定めた後、各力の「作用線」を点線で描き、中心からその作用線へ垂線を下ろすことで、腕の長さを視覚的に確認します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 浮力の作用点を間違える:
- 誤解: 浮力が棒全体の中心(重心)にはたらくと考えてしまう。
- 対策: 浮力は「液体に浸かっている部分」にのみ関係する力であると強く意識する。したがって、その作用点も「液体に浸かっている部分の中心」になります。
- 腕の長さの計算ミス:
- 誤解: 棒が傾いているのに、棒に沿った距離を腕の長さとしてしまう。
- 対策: 力のモーメントの定義「力 \(\times\) (回転軸から力の作用線までの垂直距離)」を徹底する。本問では、力が全て鉛直方向なので、腕の長さは「水平方向の距離」になります。図に直角三角形を描き、\(\cos\theta\) を掛けることを忘れないようにする。
- 力の種類の解釈ミス:
- 誤解: 問題文の「糸で引き上げる」という記述から、糸の張力だけを考えてしまい、浮力の存在を忘れる。
- 対策: 物体が液体中にある限り、必ず浮力がはたらくことを思い出す。問題の図と文章をよく照らし合わせ、はたらく力をすべてリストアップする習慣をつける。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- アルキメデスの原理 (\(F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g\)):
- 選定理由: 液体に浮かぶ(あるいは沈む)物体にはたらく「浮力」の大きさを定量的に計算するため。
- 適用根拠: 物体が液体中にあるという物理的状況。\(V\)は「液体に浸かっている部分の体積」であることに注意が必要。
- 力のつりあいの式 (\(\sum F_y = 0\)):
- 選定理由: 棒は静止しており、上下に動いていないため。糸の張力\(T\)を求める場合などに使用します。本問では直接は使いませんでしたが、剛体のつりあいを考える上での基本法則です。
- 適用根拠: 棒の並進の加速度がゼロであるという物理的状況。
- 力のモーメントのつりあいの式 (\(\sum M_A = 0\)):
- 選定理由: 棒は傾いているが、回転せずに静止しているため。重力と浮力の作用点が異なるため、回転に関するつりあいを考えないと、棒の傾き\(\theta\)を決定できません。
- 適用根拠: 棒の角加速度がゼロであるという物理的状況。回転の中心をAに選ぶことで、未知の力である張力\(T\)を計算から排除できるという戦略的な理由もあります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の整理と消去:
- 特に注意すべき点: この問題は多くの物理量(\(l, S, \rho, \rho_0, g, h, l_0, \theta\))が登場します。モーメントのつりあいの式を立てた後、両辺で共通して消去できる文字(\(S, g, \cos\theta\)など)を素早く見つけることが、計算を簡略化しミスを防ぐ鍵です。
- 日頃の練習: 複雑な文字式を扱う際に、すぐに数値を代入するのではなく、まずは文字のまま整理し、約分できる項を探す練習をする。
- 連立方程式の処理:
- 特に注意すべき点: 問(2e)では、モーメントの式と幾何学的な関係式の連立方程式を解く必要があります。代入する前に一方の式をできるだけ簡単な形(例:\(\rho_0 l_0(2l-l_0) = \rho l^2\))に整理しておくことが、計算ミスを減らすコツです。
- 日頃の練習: 複雑な代入計算を、焦らず一行ずつ丁寧に行う練習を積む。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2e) \(\sin\theta\)の式: \(\sin\theta = \frac{h}{l}\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}}\)。
- 根号の中が正であるためには、\(\rho_0 > \rho\) が必要。これは問題の前提条件と一致します。
- \(\sin\theta \le 1\) でなければならないので、\(h\) には上限があることがわかります。\(h \le l\sqrt{(\rho_0-\rho)/\rho_0}\)。これは(3)で求める \(h’\) の値と一致し、棒を \(h’\) より高く引き上げることはできない(つりあいが保てない)ことを示唆しています。
- (3) 高さ\(h’\): \(h’ = l \sqrt{1 – \rho/\rho_0}\)。
- もし棒の密度\(\rho\)が液体の密度\(\rho_0\)に近づくと、\(\rho/\rho_0 \rightarrow 1\) となり、\(h’ \rightarrow 0\)。これは、密度が同じなら棒は液体中で浮きも沈みもせず、引き上げてもすぐに全体が沈んでしまうという状況に対応し、妥当です。
- もし棒の密度\(\rho\)が非常に小さいと、\(\rho/\rho_0 \rightarrow 0\) となり、\(h’ \rightarrow l\)。これは、非常に軽い棒はほとんど全体が液面から出た状態で鉛直につりあうことを意味し、これも直感と一致します。
- (2e) \(\sin\theta\)の式: \(\sin\theta = \frac{h}{l}\sqrt{\frac{\rho_0}{\rho_0 – \rho}}\)。
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問題18 (島根大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、滑車を介して糸でつながれた2つの物体の運動を扱います。一方は鉛直に運動し、もう一方は斜面上を運動します。このような「連結された物体の運動」では、2つの物体が一体となって運動するため、加速度の大きさが等しく、糸の張力も等しいという点がポイントになります。
- 物体A, B: ともに質量 \(M\)
- 連結: 伸び縮みしない軽い糸で、なめらかな滑車を介してつながれている。
- 運動:
- 物体A: 鉛直下向きに運動。
- 物体B: 傾斜角\(\theta\)のなめらかな板の上を運動。
- 傾斜角\(\theta\): \(0\) から \(\frac{\pi}{2}\) の範囲で変化可能。
- 無視できるもの: 空気抵抗、糸・滑車の質量、物体の大きさ、物体Bと板の間の摩擦。
- 重力加速度: \(g\)
- (1) 物体Aが鉛直下方に加速度\(a\)で運動するときの、張力\(T\)と加速度\(a\)の大きさ。
- (2) 傾斜角\(\theta\)を変化させたときの、張力\(T\)と加速度\(a\)の変化を表すグラフ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている、各物体について運動方程式を立てる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1) 加速度\(a\)の別解: 物体系全体を一つの系と見なす解法
- 主たる解法が物体Aと物体Bを別々に扱い、運動方程式を連立させるのに対し、別解では物体AとBを一体の「系」として扱い、系全体にはたらく外力(張力を内力として無視する)から直接加速度を求めます。
- 問(1) 加速度\(a\)の別解: 物体系全体を一つの系と見なす解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 「内力」と「外力」の区別を明確に意識する訓練になります。張力が物体系の内部で作用しあう力であり、系全体の運動(重心の運動)には寄与しないという、運動量保存則にもつながる重要な概念の理解が深まります。
- 計算の効率化: 加速度だけを求めたい場合、張力\(T\)を未知数として扱わずに済むため、連立方程式を解く手間が省け、計算を大幅に簡略化できます。
- 異なる視点の学習: 個々の物体に着目する視点と、系全体を俯瞰する視点の両方を学ぶことで、問題に応じて最適なアプローチを選択する能力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「連結された物体の運動方程式」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式: 各物体にはたらく力を特定し、それぞれの物体について運動方程式 \(m\vec{a} = \sum \vec{F}\) を立てます。
- 束縛条件: 2つの物体は伸び縮みしない糸でつながれているため、運動する速さや加速度の大きさは常に等しくなります。
- 張力の性質: 軽くて伸び縮みしない糸の場合、糸のどの部分でも張力の大きさは等しく、両端の物体を引く力の大きさも等しくなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、物体Aと物体Bそれぞれにはたらく力を図示します。
- 物体Aと物体Bの運動方向を正の向きとして定め、それぞれの物体について運動方程式を立てます。このとき、加速度の大きさを\(a\)、張力の大きさを\(T\)として、共通の文字を使います。
- 立てた2つの運動方程式を連立させて解き、未知数である \(a\) と \(T\) を求めます。
- 求めた \(a\) と \(T\) の式が、傾斜角\(\theta\)の関数になっていることを確認し、\(\theta\)が0から\(\pi/2\)まで変化するときの関数の振る舞い(単調増加、単調減少、極値など)を分析して、適切なグラフを選択します。