問題101 (信州大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、[A]でガウスの法則を用いて1枚の帯電金属平板が作る電場を求め、[B]でその結果を利用して平行平板コンデンサーの性質(電場、電位差、電気容量、極板間の力)を考察する構成になっています。
この問題の核心は、ガウスの法則、電場の重ね合わせの原理、そしてコンデンサーの基本公式を段階的に適用していくことです。特に、極板間の引力を計算する際に「電荷は自身が作る電場からは力を受けない」という原理を正しく理解することが重要です。
- 真空の誘電率: \(\varepsilon_0\)
- 金属平板の面積: \(S\)
- [A]での電荷: \(Q (>0)\)
- [B]での電荷: 平板Aに\(+Q\)、平板Bに\(-Q\)
- [B]での極板間隔: \(d\)
- [A](1) 電荷\(Q\)から出る電気力線の総数\(N\)。
- [A](2) 1枚の金属平板のまわりの電場の強さ\(E\)。
- [B](1) 平行平板コンデンサー内の電場の強さ\(E_1\)。
- [B](2) 平板Bから見たAの電位\(V\)。
- [B](3) コンデンサーの電気容量\(C\)。
- [B](4) 平板Aが受ける引力の大きさ\(F\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ガウスの法則と平行平板コンデンサー」です。一見複雑に見えますが、基本的な法則を一つずつ積み上げていくことで解くことができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ガウスの法則: 電荷の量と、そこから出る電気力線の総数を結びつける法則です。対称性の良い電荷分布の周りの電場を求めるのに非常に強力です。
- 電場と電気力線の関係: 電場の強さは、単位面積を垂直に貫く電気力線の本数として定義されます。この定義から、電気力線の総数がわかれば電場の強さを計算できます。
- 電場の重ね合わせの原理: 複数の電荷があるとき、ある点での電場は、それぞれの電荷が単独で作る電場をベクトル的に足し合わせることで得られます。コンデンサー内部の電場は、この原理を用いて求めます。
- コンデンサーの基本公式: 電位差(\(V=Ed\))、電気容量(\(Q=CV\))、極板間の力(\(F=qE\))といった公式を、それぞれの物理的意味を理解しながら適用することが求められます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、[A]でガウスの法則を使い、孤立した1枚の帯電平板が作る電場の性質を明らかにします。
- 次に、[B]では[A]の結果を部品として利用し、2枚の平板が作る電場を「重ね合わせの原理」で合成します。
- 合成した電場\(E_1\)から、公式を用いて電位差\(V\)、電気容量\(C\)を順に導出します。
- 最後に、極板間の力を求める際には、「相手の極板が作る電場」のみを考えるという重要な原則を適用します。
[A](1)
思考の道筋とポイント
電荷\(Q\)から出る電気力線の総数\(N\)を求めます。これはガウスの法則の基本公式そのものです。クーロンの法則の比例定数を\(k_0\)、真空の誘電率を\(\varepsilon_0\)とすると、\(k_0 = \displaystyle\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\)という関係式を用いて、公式を\(\varepsilon_0\)で表現します。
この設問における重要なポイント
- ガウスの法則の公式 \(N = 4\pi k_0 Q\) を知っていること。
- 比例定数\(k_0\)と誘電率\(\varepsilon_0\)の関係を理解していること。
具体的な解説と立式
クーロンの法則の比例定数を\(k_0\)とすると、ガウスの法則によれば、電荷\(Q\)から出る電気力線の総数\(N\)は次式で与えられます。
$$ N = 4\pi k_0 Q \quad \cdots ① $$
また、\(k_0\)と真空の誘電率\(\varepsilon_0\)の間には次の関係があります。
$$ k_0 = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- ガウスの法則: \(N = 4\pi k_0 Q\)
式②を式①に代入して、\(N\)を\(\varepsilon_0\)と\(Q\)で表します。
$$
\begin{aligned}
N &= 4\pi \left( \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \right) Q \\[2.0ex]&= \frac{Q}{\varepsilon_0}
\end{aligned}
$$
物理学の基本的なルールである「ガウスの法則」によると、電荷\(Q\)が存在すると、その周りには\(Q/\varepsilon_0\)本という決まった数の電気力線が湧き出すことになっています。この公式をそのまま適用するだけで答えが求まります。
電荷\(Q\)から出る電気力線の総数\(N\)は\(\displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0}\)です。これは電磁気学における最も基本的な関係式の一つです。
[A](2)
思考の道筋とポイント
電場の強さ\(E\)は、定義により「単位面積を垂直に貫く電気力線の本数」です。十分に薄い金属平板の場合、(1)で求めた総数\(N\)の電気力線は、平板の表と裏から上下両方向に半分ずつ出ていくと考えられます。この考え方に基づいて、片側の電場の強さを計算します。
この設問における重要なポイント
- 電場の強さの定義を理解していること。
- 孤立した一枚の平板からは、電気力線が上下両面に均等に(\(N/2\)本ずつ)放出されると考えること。
具体的な解説と立式
電場の強さ\(E\)は、単位面積あたりの電気力線の本数で定義されます。総数\(N\)の電気力線は、金属平板の上面と下面から、それぞれ外向きに\(N/2\)本ずつ出ていきます。平板の片面の面積は\(S\)なので、片側の空間における電場の強さ\(E\)は、\(N/2\)本を面積\(S\)で割ることで求められます。
$$ E = \frac{N/2}{S} = \frac{N}{2S} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 電場の強さの定義: \(E = \displaystyle\frac{\text{電気力線の本数}}{\text{面積}}\)
式③に、(1)で求めた\(N = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0}\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{1}{2S} \left( \frac{Q}{\varepsilon_0} \right) \\[2.0ex]&= \frac{Q}{2\varepsilon_0 S}
\end{aligned}
$$
(1)で計算したすべての電気力線(\(N\))が、平板の上面と下面に半分ずつ分かれて出ていくとイメージします。片側に出ていく本数は\(N/2\)本です。この本数を平板の面積\(S\)で割ることで、「1平方メートルあたり何本の電気力線があるか」が計算でき、それが電場の強さ\(E\)になります。
金属平板のまわりの電場の強さは\(E = \displaystyle\frac{Q}{2\varepsilon_0 S}\)です。これは無限に広い一様な面電荷が作る電場の公式として知られており、平板からの距離によらず一定となる点が重要です。
[B](1)
思考の道筋とポイント
平行平板コンデンサーの内部の電場\(E_1\)は、平板A(電荷\(+Q\))が作る電場と、平板B(電荷\(-Q\))が作る電場の「重ね合わせ」によって生じます。それぞれの平板が単独で作る電場の大きさは、[A](2)で求めた\(E\)と同じです。平板の間では、両者が作る電場が同じ向きになるため、単純に足し合わせることで合成電場\(E_1\)が求まります。
この設問における重要なポイント
- 電場の重ね合わせの原理を正しく適用すること。
- 正電荷からは電場が湧き出し、負電荷には電場が吸い込まれるという電場の向きを正確に把握すること。
具体的な解説と立式
平板A(電荷\(+Q\))が単独で周囲に作る電場の大きさは、[A](2)の結果から\(E = \displaystyle\frac{Q}{2\varepsilon_0 S}\)です。この電場の向きは、Aから遠ざかる向き(図では下向き)です。
一方、平板B(電荷\(-Q\))が単独で作る電場の大きさも、電荷の絶対値が同じなので\(E = \displaystyle\frac{|-Q|}{2\varepsilon_0 S} = \frac{Q}{2\varepsilon_0 S}\)です。この電場の向きは、Bに吸い込まれる向き(図では下向き)です。
平板AとBの間では、これら2つの電場がともに下向きで同じ方向を向いているため、重ね合わされた合成電場の強さ\(E_1\)は、2つの電場の大きさの和となります。
$$ E_1 = E + E = 2E \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 電場の重ね合わせの原理
式④に、[A](2)で求めた\(E = \displaystyle\frac{Q}{2\varepsilon_0 S}\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
E_1 &= 2 \left( \frac{Q}{2\varepsilon_0 S} \right) \\[2.0ex]&= \frac{Q}{\varepsilon_0 S}
\end{aligned}
$$
コンデンサーの内部では、プラスの板Aが作る「下向きの電場」と、マイナスの板Bが作る「下向きの電場」が合体します。その結果、電場は強め合い、1枚の板が作る電場の2倍の強さになります。
金属平板間の電場の強さは\(E_1 = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0 S}\)です。これは平行平板コンデンサーの内部電場の基本公式です。ちなみに、平板の外側では、Aが作る電場とBが作る電場が逆向きになるため、互いに打ち消し合って電場は0になります。
[B](2)
思考の道筋とポイント
平行平板コンデンサーの内部の電場\(E_1\)は一様です。一様な電場中における2点間の電位差は、公式\(V = Ed\)(電位差 = 電場の強さ × 距離)を用いて簡単に計算できます。ここでは、平板Bを基準(電位0)としたときのAの電位を求めます。
この設問における重要なポイント
- 一様な電場における電位差の公式\(V=Ed\)を適用できること。
- (1)で求めた電場の強さ\(E_1\)と、与えられた間隔\(d\)を用いること。
具体的な解説と立式
金属平板Bを電位の基準(0V)とします。平板間の電場\(E_1\)は一様なので、BからAまでの電位差、すなわちAの電位\(V\)は、電場の強さ\(E_1\)と極板間の距離\(d\)の積で与えられます。
$$ V = E_1 d \quad \cdots ⑤ $$
使用した物理公式
- 一様な電場における電位差の公式: \(V = Ed\)
式⑤に、(1)で求めた\(E_1 = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0 S}\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
V &= \left( \frac{Q}{\varepsilon_0 S} \right) d \\[2.0ex]&= \frac{Qd}{\varepsilon_0 S}
\end{aligned}
$$
電場の中を電場に沿って進むと、電位は下がっていきます(電場と逆行すると電位は上がる)。その変化量は「電場の強さ × 距離」で計算できます。Bを基準に、電場と逆向きにAまで距離\(d\)だけ移動するので、Aの電位は\(E_1 d\)だけ高くなります。
Aの電位\(V\)は\(\displaystyle\frac{Qd}{\varepsilon_0 S}\)です。この式は、コンデンサーの電位差が、蓄えられた電荷\(Q\)と間隔\(d\)に比例し、極板の面積\(S\)に反比例することを示しています。
[B](3)
思考の道筋とポイント
コンデンサーの電気容量\(C\)は、その定義式\(Q=CV\)から求めます。(2)で導出した、電荷\(Q\)と電位差\(V\)の関係式を\(Q = (\text{係数}) \times V\)の形に変形し、この係数部分を電気容量\(C\)とみなします。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーの電気容量の定義式\(Q=CV\)を理解していること。
- (2)で求めた関係式を式変形して\(C\)を導出すること。
具体的な解説と立式
(2)で求めた電位差の式は \(V = \displaystyle\frac{Qd}{\varepsilon_0 S}\) です。この式を、電荷\(Q\)について解きます。
$$ Q = \left( \frac{\varepsilon_0 S}{d} \right) V \quad \cdots ⑥ $$
この式を、コンデンサーの電気容量の定義式\(Q=CV\)と比較します。
使用した物理公式
- コンデンサーの電気容量の定義: \(Q = CV\)
式⑥と\(Q=CV\)の形を見比べると、電気容量\(C\)に相当する部分は\(\displaystyle\frac{\varepsilon_0 S}{d}\)であることが直ちにわかります。
$$ C = \frac{\varepsilon_0 S}{d} $$
電気容量\(C\)とは、コンデンサーの「電荷のためやすさ」を表す性能値です。定義として\(C=Q/V\)という関係があります。(2)で求めた\(Q\)と\(V\)の関係式をこの定義に当てはめることで、このコンデンサーの性能値\(C\)が具体的にどのような式で表されるかを計算します。
コンデンサーの電気容量\(C\)は\(\displaystyle\frac{\varepsilon_0 S}{d}\)です。これは平行平板コンデンサーの電気容量の公式そのものです。この結果は、極板の面積\(S\)が広いほど、また極板間の距離\(d\)が狭いほど、より多くの電荷を蓄えられる(容量が大きい)という物理的な直感と一致します。
[B](4)
思考の道筋とポイント
平板A(電荷\(+Q\))が受ける引力は、平板B(電荷\(-Q\))が作る電場から受ける静電気力です。ここで最も重要な原理は「電荷は、自分自身が作る電場からは力を受けない」ということです。したがって、力の計算に用いる電場は、コンデンサー内部の合成電場\(E_1\)ではなく、平板Bだけが単独でAの位置に作る電場\(E\)でなければなりません。
この設問における重要なポイント
- 力の計算に用いる電場は「相手(平板B)だけが作る電場」であることを理解する。
- 平板1枚が作る電場\(E\)は、合成電場\(E_1\)の半分(\(E = E_1/2\))であること。
具体的な解説と立式
電荷\(q\)が外部の電場\(E_{\text{外部}}\)から受ける力の公式は\(F = qE_{\text{外部}}\)です。
今、平板A(電荷\(Q\))が受ける力を考えます。この力は、A以外の電荷、すなわち平板Bが作る電場から生じます。平板B(電荷\(-Q\))がAの位置に作る電場の大きさは、[A](2)で求めた通り\(E = \displaystyle\frac{Q}{2\varepsilon_0 S}\)です。
したがって、平板Aが受ける引力の大きさ\(F\)は、
$$ F = QE \quad \cdots ⑦ $$
ここで、[B](1)の結果 \(E_1 = \displaystyle\frac{Q}{\varepsilon_0 S}\) との関係を見ると、平板1枚が作る電場\(E\)は、合成電場\(E_1\)のちょうど半分、すなわち\(E = \displaystyle\frac{E_1}{2}\)であることがわかります。問題では\(Q\)と\(E_1\)を用いて表すことが求められているため、この関係を使います。
使用した物理公式
- 静電気力の公式: \(F = qE\)
- 電荷は自身が作る電場から力を受けないという原理
平板Aが受ける力は、平板Bが作る電場\(E\)から受ける力なので、
$$
\begin{aligned}
F &= QE \\[2.0ex]\end{aligned}
$$
ここに\(E = \displaystyle\frac{E_1}{2}\)の関係を代入すると、
$$
\begin{aligned}
F &= Q \left( \frac{E_1}{2} \right) \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} Q E_1
\end{aligned}
$$
プラスの電荷を持つ平板Aは、マイナスの電荷を持つ平板Bから引力を受けます。この力の大きさは「Aの電荷 × Bが作る電場の強さ」で計算されます。「自分自身が作る電場」は力の計算には含めません。Bが作る電場の強さは、コンデンサー内部全体の電場の強さ\(E_1\)の半分なので、力の大きさは\(F = Q \times (E_1/2)\)となります。
平板Aが受ける引力の大きさ\(F\)は\(\displaystyle\frac{1}{2}QE_1\)です。\(F=QE_1\)と間違えやすいですが、係数\(1/2\)がつくのが正しい結果です。この結果は、コンデンサーに蓄えられる静電エネルギー\(U = \displaystyle\frac{1}{2}QV = \frac{1}{2}Q(E_1 d)\)を、極板間隔\(d\)で微分したもの(\(F = \displaystyle\frac{dU}{dd}\))と一致しており、熱力学的な関係からも妥当性が確認できます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ガウスの法則:
- 核心: 電荷\(Q\)の周りには、その量に比例した本数 \(N = Q/\varepsilon_0\) の電気力線が湧き出す、という電磁気学の根幹をなす法則です。
- 理解のポイント: この法則は、特に電荷分布に対称性がある場合(点電荷、無限に長い直線電荷、無限に広い平面電荷など)に、周囲の電場を簡単に計算するための強力なツールとなります。この問題では、無限に広いとみなせる金属平板の電場を求める出発点として機能します。
- 電場の重ね合わせの原理:
- 核心: 複数の電荷が存在する空間のある点での電場は、それぞれの電荷が単独でその点に作る電場を、ベクトルとして足し合わせることで求められます。
- 理解のポイント: この問題の[B]では、平板Aが作る電場と平板Bが作る電場をベクトル的に合成することで、コンデンサー内部の電場\(E_1\)を求めています。平板間では向きが同じで強め合い、外側では逆向きで打ち消し合うという現象は、この原理によって明快に説明されます。
- 電荷は自身が作る電場から力を受けない:
- 核心: 物体が受ける力は、必ず「外部」から作用するものです。電荷の場合、自身が帯びている電荷と、自身が作り出す電場との間に相互作用は生じません。
- 理解のポイント: [B](4)で極板Aが受ける力を計算する際、Aの位置にある合成電場\(E_1\)をそのまま使って\(F=QE_1\)としてしまうのは典型的な誤りです。\(E_1\)は「Aが作る電場」と「Bが作る電場」の和です。Aが受ける力は、あくまで「Bが作る電場」からのみ作用するため、\(E_1\)の半分である\(E_1/2\)を用いなければなりません。この区別が本問最大の難所であり、最も重要なポイントです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 同心球殻コンデンサー: 内側の球殻と外側の球殻に電荷を与えたもの。ガウスの法則を使って各領域の電場を求め、電位差、電気容量を計算する流れは本問と全く同じです。
- 同軸円筒コンデンサー: 中心の導体棒と外側の円筒導体に電荷を与えたもの。これも同様にガウスの法則から電場を求め、積分によって電位差を計算します。
- 誘電体を挿入したコンデンサー: 極板間に誘電体を入れると、電場が弱められます(\(E \rightarrow E/\varepsilon_r\))。この変化を考慮すれば、本問の考え方をそのまま応用して電気容量の変化などを計算できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 電荷分布の対称性の確認: まず、問題の電荷分布が点、線、面のいずれの対称性を持つかを見極めます。対称性が高ければ、ガウスの法則が有効な候補となります。
- 電場の源を特定する: 複数の電荷がある場合、どの電荷がどの空間にどのような電場を作っているかを個別に考えます。図を描いて、各電荷が作る電場のベクトルを矢印で書き込むと理解が深まります。
- 求める量に応じた法則の選択:
- 「電場」を求めたい \(\rightarrow\) ガウスの法則、クーロンの法則
- 「電位差」を求めたい \(\rightarrow\) 電場が分かっていれば \(V=Ed\) や積分 \(V = \int E dr\)
- 「電気容量」を求めたい \(\rightarrow\) \(Q=CV\) の定義に立ち返り、\(Q\)と\(V\)の関係式を導出する。
- 「力」や「エネルギー」を求めたい \(\rightarrow\) \(F=qE\), \(U=qV\)。特に力を求める際は「相手が作る電場」を使う原則を思い出す。
- 「無限に広い」という近似: 問題文に「十分に薄い」「十分に広い」といった記述があれば、それは端の部分の影響(端効果)を無視し、理想的な一様な電場として扱ってよいというサインです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 極板間の力の計算ミス:
- 誤解: 極板Aが受ける力を、極板間の合成電場\(E_1\)を使って\(F=QE_1\)と計算してしまう。
- 対策: 「力は常に外部から受ける」という物理の基本原則に立ち返りましょう。「平板Aの電荷\(Q\)が、どの電場から力を受けるのか?」と自問します。答えは「平板Bが作る電場」です。合成電場\(E_1\)は「Aが作る電場 + Bが作る電場」なので、このうち「Aが作る電場」は力の計算から除外しなければならない、と論理的に考えます。
- ガウスの法則の適用範囲の誤解:
- 誤解: どんな形の電荷分布にでもガウスの法則で簡単に電場が求まると思ってしまう。
- 対策: ガウスの法則 \(N=Q/\varepsilon_0\) は常に成り立ちますが、そこから電場\(E\)を簡単に計算できるのは、ガウス面に垂直な電場が面上で一定であるなど、高い対称性がある場合に限られます。対称性がない場合は、クーロンの法則を積分するなど、より複雑な計算が必要になります。
- 電場と電位の関係の混同:
- 誤解: 電場が0なら電位も0、電位が一定なら電場も一定、などと混同する。
- 対策: \(E = -\displaystyle\frac{dV}{dx}\)(電場は電位の空間的な傾き)という関係を常に意識しましょう。電位が一定(傾き0)の場所では電場は0ですが、電場が0の場所でも電位が0とは限りません(例:コンデンサー外部)。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電気力線の図示: [B](1)の状況を理解するために、平板Aから湧き出す電気力線(下向き)と、平板Bに吸い込まれる電気力線(これも下向き)を、それぞれ別の色で描いてみましょう。平板間では2色が重なって線が密になり(電場が強い)、平板の外側では2色が逆向きになって打ち消し合う(電場が0)様子が視覚的に理解できます。
- 力の作用点の明確化: [B](4)では、平板A全体に分布する電荷\(+Q\)が、平板Bの作る一様な電場\(E\)から力を受けている図を描きます。このとき、力の原因となる電場\(E\)はBだけが作っていることを強調してメモしておくと、\(E_1\)ではなく\(E\)を使う理由が明確になります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- ベクトルの向きと大きさ: 電場はベクトル量なので、向きを矢印で、大きさを矢印の長さや密度で表現することが重要です。
- 重ね合わせの原理の図解: 複数の電場を合成する場合は、合成前の各電場ベクトルと、それらをベクトル的に足し合わせた後の合成ベクトルを、区別して描くと混乱を防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ガウスの法則 \(N=Q/\varepsilon_0\):
- 選定理由: 問題が「電気力線の総数」を直接問うているため。また、対称性の高い「無限に広い平板」の電場を求める最も基本的な出発点だからです。
- 適用根拠: 真空中に電荷が存在するという物理的状況。
- 電場の定義 \(E = (\text{本数})/(\text{面積})\):
- 選定理由: ガウスの法則で求めた電気力線の総数\(N\)と、求めたい「電場の強さ\(E\)」とを結びつけるため。
- 適用根拠: 電場の強さが、電気力線の密度で定義されるという物理的な定義そのもの。
- 電位差の公式 \(V=Ed\):
- 選定理由: 「電位」を求めるため。特に、電場が「一様」であると分かっている場合に、最も簡単に電位差を計算できる公式だからです。
- 適用根拠: 平行平板コンデンサー内部では、端効果を無視すれば電場は一様であるという物理的状況。
- 静電気力の公式 \(F=qE\):
- 選定理由: 問題が「引力の大きさ」という力を問うているため。
- 適用根拠: 電荷が電場の中に置かれているという物理的状況。このとき、\(E\)には「外部の電場」のみを用いるという原理原則を厳密に適用する必要があります。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- [A](1) 電気力線の総数:
- 戦略: ガウスの法則の公式を適用。
- フロー: \(N = 4\pi k_0 Q\) と \(k_0 = 1/(4\pi\varepsilon_0)\) \(\rightarrow\) \(N = Q/\varepsilon_0\)。
- [A](2) 1枚の平板が作る電場:
- 戦略: 電気力線が上下に半分ずつ出ると考え、電場の定義を適用。
- フロー: 片側に出る本数は \(N/2\) \(\rightarrow\) \(E = (N/2)/S\) \(\rightarrow\) (1)の結果を代入し\(E\)を求める。
- [B](1) コンデンサー内部の電場:
- 戦略: 電場の重ね合わせの原理を適用。
- フロー: Aが作る電場\(E\)とBが作る電場\(E\)が同じ向き \(\rightarrow\) \(E_1 = E + E = 2E\) \(\rightarrow\) [A](2)の結果を代入し\(E_1\)を求める。
- [B](2) 電位差:
- 戦略: 一様な電場における電位差の公式を適用。
- フロー: \(V = E_1 d\) \(\rightarrow\) (1)の結果を代入し\(V\)を求める。
- [B](3) 電気容量:
- 戦略: \(Q=CV\)の定義式と比較。
- フロー: (2)で得た\(V\)と\(Q\)の関係式を \(Q = (\dots)V\) の形に変形 \(\rightarrow\) \((\dots)\) の部分が\(C\)になる。
- [B](4) 極板間の引力:
- 戦略: 「相手が作る電場」から受ける力を計算。
- フロー: Aが受ける力はBが作る電場\(E\)から \(\rightarrow\) \(F = QE\) \(\rightarrow\) \(E\)は合成電場\(E_1\)の半分なので \(E=E_1/2\) \(\rightarrow\) \(F = Q(E_1/2)\)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 係数1/2の意識: この問題セットで最も注意すべきは係数です。特に、1枚の平板が作る電場(\(E\))と2枚の平板が作る合成電場(\(E_1\))の関係 \(E_1 = 2E\) は頻出します。力の計算で\(F = \frac{1}{2}QE_1\)となぜ\(1/2\)がつくのか、その物理的理由を常に意識することで、単純な暗記ミスを防げます。
- 文字の区別: \(E\)と\(E_1\)など、似ているが物理的意味が異なる記号を明確に区別してノートに書きましょう。自分で問題設定を整理する際に、記号の定義を最初に書き出しておくのが有効です。
- 単位による検算: 例えば、電気容量\(C\)の単位は[F](ファラド)ですが、\(\varepsilon_0 S / d\)の単位を組み立ててみると、\([F/m] \cdot [m^2] / [m] = [F]\)となり、次元的に正しいことが確認できます。計算結果の次元が合っているかを確認する習慣は、根本的な間違いを発見するのに役立ちます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- [B](3) 電気容量 \(C = \varepsilon_0 S / d\): この式は、極板面積\(S\)を大きくしたり、極板間隔\(d\)を小さくしたりすると、容量\(C\)が大きくなることを示しています。これは「より広く、より近く」すると電荷をためやすくなるという直感的なイメージと一致しており、妥当です。
- [B](4) 引力 \(F = \frac{1}{2}QE_1\): この力を、コンデンサーの静電エネルギー \(U = \frac{1}{2}QV = \frac{1}{2}Q(E_1 d)\) と関連付けてみましょう。もし極板を微小距離 \(\Delta d\) だけ引き離すのに必要な外力の仕事を考えると、\(W = F \Delta d\) です。これは静電エネルギーの増加分 \(\Delta U = \frac{1}{2}QE_1 \Delta d\) に等しいはずです。よって \(F \Delta d = \frac{1}{2}QE_1 \Delta d\) となり、\(F = \frac{1}{2}QE_1\) という結果がエネルギーの観点からも支持されることがわかります。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし平板Bを取り去ったら(\(Q_B=0\))、平板Aが作る電場は[A](2)の\(E\)に戻ります。このとき、重ね合わせの原理を考えれば、\(E_1 = E + 0 = E\)となり、辻褄が合います。
- もし電荷\(Q\)を0にしたら、すべての電場、電位差、力、容量(に蓄えられた電荷)は0になるはずです。導出した全ての式(\(E_1, V, F\))は\(Q\)に比例しているので、この条件を満たしており、妥当性が確認できます。
問題102 (静岡大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、一様な電場と重力が共存する空間での荷電粒子の運動を扱っています。前半(1)~(3)は、静電気力がする仕事について、保存力としての性質を問うています。後半(4)は、具体的な運動の様子(時間、距離、エネルギー)を力学的に解析する問題です。
この問題の核心は、静電気力や重力といった「保存力」の性質を深く理解し、運動方程式やエネルギー保存則といった基本法則を的確に使い分ける能力を試すことにあります。
- 座標系: 鉛直上向きにz軸
- 電場: x軸正の向き、強さ\(E\)、一様
- 重力: 鉛直下向き、重力加速度\(g\)
- 荷電粒子: 質量\(m\)、正の電荷\(q\)
- 図1: 半径\(d\)の円周上の点P, Q, R。原点Oの電位は\(0V\)。
- 図2: z軸上の高さ\(h\)の点Aから静かにはなす。
- (1) 点Pと点Qの電位。
- (2) OからRまで直線にそって移動したときの静電気力の仕事。
- (3) RからPまで円周にそって移動したときの静電気力の仕事。
- (4a) AからBに達するまでの時間。
- (4b) OB間の距離。
- (4c) 点Bでの運動エネルギー。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電場・重力場中の荷電粒子の運動とエネルギー」です。複数の力が働く状況を、適切に分解・統合して考えることが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電位と電場の関係: 一様な電場中では、電位は電場に沿って線形に減少します (\(V=Ed\))。電場に垂直な方向への移動では電位は変化しません。
- 保存力の仕事: 静電気力や重力は「保存力」であり、これらの力がする仕事は移動経路によらず、始点と終点の位置(ポテンシャルエネルギーの差)だけで決まります。\(W = -\Delta U\)。
- 運動の分解: 互いに直交する方向に働く力(この問題ではx方向の静電気力とz方向の重力)がある場合、各方向の運動を独立した等加速度直線運動として扱うことができます。
- 仕事とエネルギーの定理(エネルギー保存則): 物体の運動エネルギーの変化は、その物体にされた仕事の総和に等しい (\(\Delta K = W_{\text{合計}}\))。これは、運動の途中経過を問わず、始点と終点の状態を結びつける強力なツールです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)~(3)では、静電気力が保存力であることを利用し、仕事を経路に依存しない「電位差」から計算します。
- 問(4)では、粒子の運動をx方向とz方向に分解します。
- (a)ではz方向の運動(自由落下)に、(b)ではx方向の運動に、それぞれ等加速度運動の公式を適用します。
- (c)では、(a)(b)の結果から速度を計算する方法と、よりエレガントなエネルギー保存則を用いる方法の2通りで考えます。
問(1)
思考の道筋とポイント
原点Oを基準(0V)として、点Pと点Qの電位を求めます。一様な電場\(E\)がx軸の正の向きにかかっているため、電位はx軸の正の方向へ進むにつれて低くなります。電場に垂直なy軸方向には電位は変化しません。
この設問における重要なポイント
- 電場の向きは、電位が減少する向きである。
- 一様な電場中での電位差の公式 \(V=Ed\) を使う。
- 電場に垂直な線上では、どの点も電位が等しい(等電位線)。
具体的な解説と立式
- 点Pの電位 \(V_P\)
電場\(E\)はx軸の正の向きを向いているので、電位はx座標が大きくなるほど低くなります。点Pは原点Oからx軸の正の向きに距離\(d\)だけ離れているため、その電位\(V_P\)はOよりも\(Ed\)だけ低くなります。
$$ V_P = -Ed $$ - 点Qの電位 \(V_Q\)
点Qはy軸上にあり、原点Oからの移動方向は電場の向き(x軸方向)と垂直です。電場に垂直な方向への移動では電位は変化しないため、点Qの電位は原点Oと同じです。
$$ V_Q = 0 $$
使用した物理公式
- 一様な電場における電位差: \(V = Ed\)
立式そのものが結論となります。
電場を坂道に例えると、x軸は坂を下る方向、y軸やz軸は等高線にあたります。P点は坂を\(d\)だけ下った場所なので、高さ(電位)はマイナスになります。Q点は同じ高さ(等高線上)を移動しただけなので、高さ(電位)は変わりません。
点Pの電位は \(-Ed\)、点Qの電位は \(0V\) です。電場の向きと電位の高低の関係を正しく理解していれば、直感的に導ける結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
静電気力がした仕事\(W\)を求めます。静電気力は保存力なので、その仕事は移動経路(OからRまで直線)によらず、始点Oと終点Rの電位差だけで決まります。公式 \(W = q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\) を用いるのが最も簡単です。
この設問における重要なポイント
- 静電気力は保存力であり、仕事は経路によらない。
- 仕事は \(W = -\Delta U = -(U_{\text{終}} – U_{\text{始}}) = q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\) で計算できる。
- 点Rの電位を正しく求める必要がある。
具体的な解説と立式
まず、終点Rの電位\(V_R\)を求めます。点Rのx座標は \(d\cos\theta\) です。電位はx座標にのみ依存するため、点Rの電位はx座標が \(d\cos\theta\) である点の電位と同じです。
$$ V_R = -E \times (d\cos\theta) = -Ed\cos\theta $$
静電気力がした仕事\(W\)は、始点Oの電位\(V_O=0\)と終点Rの電位\(V_R\)を用いて、次のように計算できます。
$$ W = q(V_O – V_R) $$
使用した物理公式
- 静電気力のする仕事: \(W = q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\)
$$
\begin{aligned}
W &= q(V_O – V_R) \\[2.0ex]&= q(0 – (-Ed\cos\theta)) \\[2.0ex]&= qEd\cos\theta
\end{aligned}
$$
静電気力の仕事は、結局「どれだけ電位が下がったか」で決まります。点Rは原点Oより電位が \(Ed\cos\theta\) だけ低いので、正電荷qがそこへ移動すると、静電気力は \(q \times (Ed\cos\theta)\) の仕事をします。
静電気力がした仕事は \(qEd\cos\theta\) です。\(\theta=0\)のとき(P点への移動)仕事は最大 \(qEd\) となり、\(\theta=\pi/2\)のとき(Q点への移動)仕事は0となります。これは物理的に妥当な結果です。
別解: 仕事の定義から計算
思考の道筋とポイント
仕事の定義式 \(W = \vec{F} \cdot \vec{s}\) を直接適用して計算します。静電気力ベクトルと変位ベクトルを正しく設定し、その内積(\(Fs\cos\theta\))を計算します。
この設問における重要なポイント
- 仕事の定義(内積)を理解していること。
- 力ベクトルと変位ベクトルを正しく設定できること。
具体的な解説と立式
仕事の定義 \(W = \vec{F} \cdot \vec{s}\) を用います。
- 静電気力 \(\vec{F}\) は、大きさ\(qE\)でx軸正の向きです。
- 変位 \(\vec{s} = \vec{OR}\) は、大きさ\(d\)でx軸と角\(\theta\)をなす向きです。
よって、仕事\(W\)は2つのベクトルの内積で与えられます。
$$ W = |\vec{F}| |\vec{s}| \cos\theta $$
使用した物理公式
- 仕事の定義: \(W = \vec{F} \cdot \vec{s} = Fs\cos\theta\)
$$
\begin{aligned}
W &= (qE)(d)\cos\theta \\[2.0ex]&= qEd\cos\theta
\end{aligned}
$$
仕事とは「力の向きにどれだけ進んだか」を掛け合わせたものです。静電気力は横向き(x軸方向)にしか働かないので、横方向にどれだけ移動したかだけが仕事の量に関係します。OからRへの移動では、横方向の移動距離は \(d\cos\theta\) です。したがって、仕事は「力\(qE\) × 横方向の距離\(d\cos\theta\)」となります。
仕事は \(qEd\cos\theta\) となり、メインの解法(電位差)で得られた結果と一致します。どちらの方法でも解けることを確認しておきましょう。
問(3)
思考の道筋とポイント
点Rから点Pまで円周にそって移動したときの静電気力の仕事を求めます。問(2)と同様に、静電気力は保存力なので、仕事は円周という複雑な経路にはよらず、始点Rと終点Pの電位差だけで決まります。
この設問における重要なポイント
- ここでも「仕事は経路によらない」という保存力の性質を使う。
- 始点Rと終点Pの電位を正しく使う。
具体的な解説と立式
始点はR、終点はPです。それぞれの電位は、
- 始点の電位: \(V_R = -Ed\cos\theta\) (問(2)で計算済み)
- 終点の電位: \(V_P = -Ed\) (問(1)で計算済み)
静電気力がした仕事\(W\)は、これらの電位差から計算します。
$$ W = q(V_R – V_P) $$
使用した物理公式
- 静電気力のする仕事: \(W = q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\)
$$
\begin{aligned}
W &= q(V_R – V_P) \\[2.0ex]&= q((-Ed\cos\theta) – (-Ed)) \\[2.0ex]&= q(-Ed\cos\theta + Ed) \\[2.0ex]&= qEd(1-\cos\theta)
\end{aligned}
$$
RからPへ移動する際も、静電気力は横向きにしか働かないので、横方向にどれだけ進んだかが重要です。Rのx座標は\(d\cos\theta\)、Pのx座標は\(d\)なので、横方向の移動距離は \(d – d\cos\theta\) です。したがって、仕事は「力\(qE\) × 横方向の距離\(d(1-\cos\theta)\)」となります。
静電気力がした仕事は \(qEd(1-\cos\theta)\) です。この結果は、OからPまでの全仕事 \(qEd\) から、OからRまでの仕事 \(qEd\cos\theta\) を引いたものと一致しており、仕事の加法性とも整合性がとれています。
問(4a)
思考の道筋とポイント
粒子は、x方向に静電気力、z方向に重力を受けて運動します。この2つの力は互いに直交し、かつ一定なので、x方向とz方向の運動はそれぞれ独立した等加速度直線運動として扱えます。AからBに達するまでの時間は、z方向の運動だけを考えれば求まります。
この設問における重要なポイント
- 運動をx方向とz方向に分解して考える。
- z方向の運動は、初速度0の自由落下と同じである。
具体的な解説と立式
z方向の運動に着目します。
- 初速度: \(v_{0z} = 0\) (静かにはなす)
- 加速度: \(a_z = -g\) (鉛直下向き)
- 変位: \(\Delta z = -h\) (高さhからx軸(z=0)まで落下)
等加速度直線運動の変位の公式 \(\Delta z = v_{0z}t + \displaystyle\frac{1}{2}a_z t^2\) を用います。
$$ -h = 0 \cdot t + \frac{1}{2}(-g)t^2 $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位の式: \(x = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
上記の方程式を時間\(t\)について解きます。
$$ -h = -\frac{1}{2}gt^2 $$
$$ t^2 = \frac{2h}{g} $$
\(t>0\)なので、
$$ t = \sqrt{\frac{2h}{g}} $$
物体が高さhから落ちるのにかかる時間は、横方向にどんな運動をしていようとも、単に真下に自由落下する場合と全く同じです。自由落下の公式から時間を計算します。
AからBに達するまでの時間は \(\sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\) です。これは自由落下の公式そのものであり、物理的に妥当です。
問(4b)
思考の道筋とポイント
OB間の距離は、x方向の移動距離です。(a)で求めた落下時間 \(t\) の間に、粒子がx方向にどれだけ進むかを計算します。x方向も初速度0の等加速度直線運動です。
この設問における重要なポイント
- x方向の運動方程式を立て、加速度を求める。
- (a)で求めた時間を使って、x方向の変位を計算する。
具体的な解説と立式
x方向の運動に着目します。
- 初速度: \(v_{0x} = 0\)
- 働く力: \(F_x = qE\)
- 運動方程式: \(ma_x = qE\)、よって加速度は \(a_x = \displaystyle\frac{qE}{m}\)。
落下時間 \(t = \sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\) の間のx方向の変位 \(x_B\) を、等加速度直線運動の公式で求めます。
$$ x_B = v_{0x}t + \frac{1}{2}a_x t^2 $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 等加速度直線運動の変位の式
$$
\begin{aligned}
x_B &= 0 \cdot t + \frac{1}{2} \left( \frac{qE}{m} \right) t^2 \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \frac{qE}{m} \left( \sqrt{\frac{2h}{g}} \right)^2 \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \frac{qE}{m} \frac{2h}{g} \\[2.0ex]&= \frac{qEh}{mg}
\end{aligned}
$$
別解: 力の方向と運動の方向の一致を利用
思考の道筋とポイント
粒子は静止状態から一定の合力を受けて運動するため、その軌跡は合力の向きと一致する直線となります。この幾何学的な関係を利用して距離を求めます。
この設問における重要なポイント
- 初速ゼロの物体が一定力を受ける場合、運動方向が力の方向と一致すること。
- 力のベクトルと変位ベクトルの方向が相似の関係にあること。
具体的な解説と立式
粒子に働く合力の向きと、変位の向きは等しくなります。
- 合力のx成分: \(F_x = qE\)
- 合力のz成分: \(F_z = mg\) (大きさ)
合力の向きがz軸の負の向きとなす角を\(\alpha\)とすると、その正接は力の成分の比で表せます。
$$ \tan\alpha = \frac{F_x}{F_z} = \frac{qE}{mg} $$
一方、運動の軌跡も同じ角\(\alpha\)をなすので、変位の成分の比も同じ値になります。
$$ \tan\alpha = \frac{\text{横の移動距離}}{\text{縦の移動距離}} = \frac{x_B}{h} $$
これら2つの式を等しいとおきます。
$$ \frac{x_B}{h} = \frac{qE}{mg} $$
使用した物理公式
- 力の合成、三角形の相似
$$
\begin{aligned}
x_B &= h \cdot \tan\alpha \\[2.0ex]&= h \cdot \frac{qE}{mg} \\[2.0ex]&= \frac{qEh}{mg}
\end{aligned}
$$
粒子が進む道の傾きは、粒子に働く力の合力の傾きと同じになります。力の傾き(横向きの力÷縦向きの力)と、移動距離の傾き(横に進んだ距離÷縦に進んだ距離)が等しいという式を立てることで、簡単に距離が求まります。
OB間の距離は \(\displaystyle\frac{qEh}{mg}\) です。電場\(E\)が強いほど、また落下高さ\(h\)が大きい(=落下時間が長い)ほど、横に流される距離が大きくなるという直感に合う結果です。メインの解法の結果とも一致します。
問(4c)
思考の道筋とポイント
点Bを通過したときの運動エネルギーを求めます。(a)で求めた時間\(t\)を使って点Bでの速度のx成分とz成分を求め、\(K = \displaystyle\frac{1}{2}m(v_x^2 + v_z^2)\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 速度もベクトルであり、x成分とz成分に分解できること。
- 合成速度の2乗は三平方の定理 \(v^2 = v_x^2 + v_z^2\) で計算できること。
具体的な解説と立式
点Bでの速度成分 \(v_x, v_z\) を、等加速度運動の速度の公式 \(v=v_0+at\) を用いて求めます。
- \(v_x = v_{0x} + a_x t = 0 + \left(\displaystyle\frac{qE}{m}\right) \sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\)
- \(v_z = v_{0z} + a_z t = 0 + (-g) \sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}} = -\sqrt{2gh}\)
運動エネルギー \(K_B\) は、これらの成分を用いて計算します。
$$ K_B = \frac{1}{2}m(v_x^2 + v_z^2) $$
使用した物理公式
- 等加速度運動の速度の式: \(v=v_0+at\)
- 運動エネルギーの公式: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
$$
\begin{aligned}
K_B &= \frac{1}{2}m \left( \left(\frac{qE}{m} \sqrt{\frac{2h}{g}}\right)^2 + (-\sqrt{2gh})^2 \right) \\[2.0ex]&= \frac{1}{2}m \left( \frac{q^2E^2}{m^2} \frac{2h}{g} + 2gh \right) \\[2.0ex]&= \frac{1}{2}m \left( \frac{2q^2E^2h}{m^2g} + 2gh \right) \\[2.0ex]&= \frac{q^2E^2h}{mg} + mgh \\[2.0ex]&= mgh \left( \frac{q^2E^2}{m^2g^2} + 1 \right) \\[2.0ex]&= mgh \left( 1 + \left(\frac{qE}{mg}\right)^2 \right)
\end{aligned}
$$
別解: 仕事とエネルギーの定理を用いる
思考の道筋とポイント
始点Aと終点Bの間で、物体の運動エネルギーの変化は、重力と静電気力がした仕事の合計に等しい(仕事とエネルギーの定理)ことを利用します。この方法では、途中の速度を計算する必要がなく、より直接的にエネルギーを求められます。
この設問における重要なポイント
- 仕事とエネルギーの定理を正しく適用できること。
- 重力と静電気力がした仕事をそれぞれ正しく計算できること。
具体的な解説と立式
AからBまでの運動エネルギーの変化は、重力と静電気力がした仕事の和に等しい。
$$ K_B – K_A = W_{\text{重力}} + W_{\text{静電気力}} $$
- 初めの運動エネルギー: \(K_A = 0\) (静かにはなす)
- 重力がした仕事: \(W_{\text{重力}} = mgh\) (高さhだけ落下)
- 静電気力がした仕事: \(W_{\text{静電気力}} = F_x \cdot x_B = qE \cdot x_B\)。ここで(4b)の結果 \(x_B = \displaystyle\frac{qEh}{mg}\) を使います。
よって、運動エネルギー\(K_B\)は次式で求められます。
$$ K_B = mgh + qE \cdot x_B $$
使用した物理公式
- 仕事とエネルギーの定理: \(\Delta K = W_{\text{合計}}\)
$$
\begin{aligned}
K_B &= mgh + qE \left( \frac{qEh}{mg} \right) \\[2.0ex]&= mgh + \frac{q^2E^2h}{mg} \\[2.0ex]&= mgh \left( 1 + \frac{q^2E^2}{m^2g^2} \right) \\[2.0ex]&= mgh \left( 1 + \left(\frac{qE}{mg}\right)^2 \right)
\end{aligned}
$$
粒子がAからBへ移動するとき、2つの「得」をします。一つは、高さhを落ちることによる「位置エネルギーの得(\(mgh\))」。もう一つは、電場に沿って横に流されることによる「静電気力のエネルギーの得(\(qEx_B\))」。これらの得したエネルギーの合計が、最終的な運動エネルギーになります。
点Bでの運動エネルギーは \(mgh \left( 1 + \left(\displaystyle\frac{qE}{mg}\right)^2 \right)\) です。もし電場がなければ(\(E=0\))、\(K_B=mgh\)となり、自由落下のエネルギー保存則と一致します。メインの解法の結果とも一致し、妥当です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 保存力の仕事とポテンシャルエネルギー:
- 核心: 静電気力と重力はどちらも「保存力」です。保存力がする仕事は、移動の具体的な経路には一切よらず、始点と終点の位置だけで決まります。この性質は、ポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)という概念 \(U\) で表され、仕事は \(W = -\Delta U = U_{\text{始}} – U_{\text{終}}\) と計算できます。
- 理解のポイント: (2)や(3)で、移動経路が直線であろうと円周であろうと、仕事の計算方法が全く同じになるのはこのためです。電位は静電気力による位置エネルギーを電荷あたりで表した量 (\(V=U/q\)) であり、\(W_{\text{静電気力}} = q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\) という関係は、この法則の電場バージョンと言えます。
- 運動の独立性(重ね合わせの原理):
- 核心: 互いに直交する方向に働く複数の力がある場合、各方向の運動は互いに影響を与えず、独立したものとして扱うことができます。
- 理解のポイント: (4)では、粒子はx方向に静電気力、z方向に重力を受けます。この2つの力は直交しているため、x方向の運動(初速0、加速度\(qE/m\)の等加速度運動)と、z方向の運動(初速0、加速度\(-g\)の等加速度運動、つまり自由落下)を完全に別々の問題として解くことができます。落下にかかる時間はz方向だけで決まり、その間に横に流される距離はx方向だけで決まります。
- 仕事とエネルギーの定理:
- 核心: 物体の運動エネルギーの変化量 (\(\Delta K\)) は、その物体にはたらく全ての力(保存力・非保存力を問わず)がした仕事の総和 (\(W_{\text{合計}}\)) に等しい。
- 理解のポイント: (4c)で運動エネルギーを求める際に、この定理は絶大な威力を発揮します。速度の成分を個別に計算して合成するよりも、始点Aと終点Bの間で「重力がした仕事」と「静電気力がした仕事」を足し合わせるだけで、最終的な運動エネルギーが直接求まります。複雑な運動の「結果」だけを知りたい場合に非常に有効なアプローチです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜方投射と一様な横風: 地上からボールを斜めに投げ上げ、同時に一定の横風が吹いている状況。重力(鉛直方向)と風の力(水平方向)が直交するため、本問(4)と全く同じ考え方で運動を分解して解析できます。
- 磁場中の荷電粒子の運動(ローレンツ力): 電場と磁場が共存する空間では、荷電粒子は電場から力\(q\vec{E}\)を、磁場から力\(q(\vec{v} \times \vec{B})\)を受けます。力の向きが複雑に変化するため、運動の分解やエネルギー保存則の適用がより重要になります。
- ポテンシャル(等高線)が描かれた問題: 地図の等高線のように、電位や重力ポテンシャルの等高線(等ポテンシャル線)が与えられた問題。ある点から別の点へ移動する際の仕事は、等高線を何本横切ったか(ポテンシャルエネルギーの変化)だけで決まる、という本問(1)~(3)の考え方が直接応用できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の分析: まず、物体に働く力を全てリストアップします。それぞれの力は「保存力」か「非保存力」か?「一定の力」か「変化する力」か?を分類します。
- 座標軸の適切な設定: 力が働く向きに合わせて座標軸を設定すると、運動の分解が容易になります。この問題では、力がx軸とz軸に沿って働くため、デカルト座標系が有効です。
- 解法の選択:
- 運動の途中経過(時間、位置、速度)を知りたい場合 \(\rightarrow\) 運動方程式を立てて解く(運動の分解が有効)。
- 始点と終点の状態(速さ、エネルギー)だけを知りたい場合 \(\rightarrow\) エネルギー保存則や仕事とエネルギーの定理を使う。
- 「仕事」を問われたら: まず「何の力がした仕事か?」を確認します。それが保存力であれば、経路によらずポテンシャルエネルギーの差から計算できることを思い出しましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 仕事の計算における符号のミス:
- 誤解: 仕事の公式 \(W=q(V_{\text{始}}-V_{\text{終}})\) と \(W=q(V_{\text{終}}-V_{\text{始}})\) を混同する。
- 対策: 物理的なイメージで確認しましょう。正電荷は電位が「下がる」向き(電場の向き)に力を受けるので、電位が下がると静電気力は「正」の仕事をします。\(V_{\text{始}} > V_{\text{終}}\) のとき \(W>0\) となるのは \(W=q(V_{\text{始}}-V_{\text{終}})\) です。また、仕事と位置エネルギーの関係 \(W = -\Delta U\) から、\(W = -(U_{\text{終}}-U_{\text{始}}) = U_{\text{始}}-U_{\text{終}}\) と覚えておくと、様々な保存力で応用が効きます。
- 運動の分解の誤用:
- 誤解: 力が斜めを向いている場合に、運動をうまく分解できない。
- 対策: 力が座標軸と斜めを向いている場合でも、力を座標軸に沿って成分分解すれば、各軸方向の運動は独立に扱えます。本問(4)の別解のように、運動の軌跡そのものが合力の向きと一致する(初速が0の場合)という性質を知っておくと、見通しが良くなることもあります。
- エネルギー保存則の適用条件の誤解:
- 誤解: どんな状況でも力学的エネルギー保存則(運動エネルギー+位置エネルギー=一定)が成り立つと思ってしまう。
- 対策: 力学的エネルギーが保存されるのは、「保存力以外の力が仕事をしない」場合に限られます。この問題では、重力と静電気力(どちらも保存力)しか働かないため、(運動エネルギー)+(重力の位置エネルギー)+(静電気力の位置エネルギー)=一定、という形のエネルギー保存則が成り立ちます。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電位の等高線図: 図1の空間に、y-z平面に平行な「等電位面」を想像してみましょう。x軸に沿って進むことは、この等高線を垂直に横切って坂を下ることに相当します。点Qやy軸上の点は同じ等高線上にあり、点Rは点Pと点Qの間の高さの等高線上にある、とイメージすると電位の関係が直感的に理解できます。
- 力のベクトル図と運動の軌跡: 図2の状況で、点Aにある粒子に働く静電気力(右向きベクトル)と重力(下向きベクトル)を描き、その合力ベクトル(右斜め下向き)を描きます。粒子は静止状態からこの合力ベクトルの向きにまっすぐ進んでいく、という軌跡をイメージすることが重要です。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 力の分解と合成: 複数の力がある場合は、それらをベクトルとして図示し、必要に応じて成分分解したり、合成したりするプロセスを図に書き込むと、思考が整理されます。
- 幾何学的関係の利用: (2)で点Rのx座標を求める際に \(d\cos\theta\) を使うなど、図形的な関係から物理量を導出する場面は多いです。角度や辺の長さを図に正確に書き込みましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電位差の公式 \(V=-Ex\):
- 選定理由: (1)で「電位」を求めるため。電場がx軸方向に一様であるという最も単純な状況なので、この公式が直接使えます。
- 適用根拠: 一様な電場\(E\)と、それに沿った距離\(x\)の関係。
- 保存力の仕事 \(W = q(V_{\text{始}}-V_{\text{終}})\):
- 選定理由: (2), (3)で「静電気力の仕事」を求めるため。経路が与えられていますが、保存力の性質を使えば、より簡単な電位差の計算に置き換えられるからです。
- 適用根拠: 静電気力が保存力であるという物理的性質。
- 運動の分解 + 等加速度運動の公式:
- 選定理由: (4a), (4b)で運動の途中経過である「時間」と「距離」を求めるため。エネルギー保存則ではこれらの量は直接求まらないため、運動を力学的に追跡する必要があります。
- 適用根拠: 働く力が互いに直交し、かつ一定であるため、各方向の運動が独立した等加速度運動になるという物理的状況。
- 仕事とエネルギーの定理:
- 選定理由: (4c)で最終的な「運動エネルギー」を求めるため。運動の途中経過を全て計算するよりも、始点と終点のエネルギー変化だけに着目する方が計算が圧倒的に楽だからです。
- 適用根拠: エネルギー原理は、ニュートンの運動法則と等価であり、常に成り立つ普遍的な法則です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 電位:
- 戦略: 電場の向きと電位の関係、等電位線の概念を用いる。
- フロー: P点: x方向に\(d\)移動 \(\rightarrow\) \(V_P = -Ed\)。Q点: 電場と垂直に移動 \(\rightarrow\) \(V_Q = V_O = 0\)。
- (2) 仕事 (O\(\rightarrow\)R):
- 戦略: 保存力の仕事は電位差で計算。
- フロー: Rの電位 \(V_R = -E(d\cos\theta)\) を求める \(\rightarrow\) \(W = q(V_O – V_R)\) を計算。
- (3) 仕事 (R\(\rightarrow\)P):
- 戦略: (2)と同様に電位差で計算。
- フロー: \(W = q(V_R – V_P)\) に既知の電位を代入して計算。
- (4a) 時間:
- 戦略: z方向の運動(自由落下)に着目。
- フロー: \(-h = \frac{1}{2}(-g)t^2\) を \(t\) について解く。
- (4b) 距離:
- 戦略: x方向の運動(等加速度運動)に着目。
- フロー: x方向の加速度 \(a_x = qE/m\) を求める \(\rightarrow\) \(x_B = \frac{1}{2}a_x t^2\) に(4a)の\(t\)を代入。
- (4c) 運動エネルギー:
- 戦略: 仕事とエネルギーの定理を用いるのが最も効率的。
- フロー: \(K_B = W_{\text{重力}} + W_{\text{静電気力}}\) \(\rightarrow\) \(K_B = mgh + qE \cdot x_B\) に(4b)の\(x_B\)を代入。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三角関数の適用: (2)や(3)でx座標を求める際に、\(\cos\theta\) を正しく使えるかどうかが鍵です。単位円や直角三角形を書いて、どの辺が\(\cos\)に対応し、どの辺が\(\sin\)に対応するのかを視覚的に確認する癖をつけましょう。
- 成分の2乗和: (4c)を運動学的に解く場合、\(K = \frac{1}{2}m(v_x^2 + v_z^2)\) の計算が必要です。各成分を2乗して足し合わせる際に、根号が外れたり、文字式が複雑になったりするので、展開や整理を丁寧に行いましょう。
- 別解による検算: この問題のように、同じ量を複数の方法で求められる場合、一方で得た答えをもう一方の方法でも確認する(セルフチェック)ことで、計算ミスを劇的に減らすことができます。(4b)や(4c)は、その良い練習になります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) \(W = qEd\cos\theta\): \(\theta\)が0から\(\pi/2\)に増えると\(\cos\theta\)は減少し、仕事も減ります。これは、x方向への移動距離が減るため、力がする仕事が減るという直感と一致します。
- (4b) \(x_B = qEh/mg\): この式は、\(qE/mg\) という無次元の量に長さ\(h\)を掛けた形になっています。\(qE\)は電気的な力、\(mg\)は重力なので、この比は「重力に対する静電気力の相対的な強さ」を表しています。この比が大きいほど横に流されやすい、という結果は物理的に非常に妥当です。
- (4c) \(K_B = mgh(1+(qE/mg)^2)\): もし電場がなければ(\(E=0\))、この式は \(K_B=mgh\) となり、自由落下のエネルギー保存則に帰着します。もし重力がなければ(\(g \rightarrow 0\))、式は発散してしまいますが、これは落下時間が無限大になることに対応しており、物理的におかしくはありません。このように、極端な場合を考えることで式の妥当性を吟味できます。
問題103 (筑波大 前期)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、2つの正の点電荷が作る電場と電位について、基本的な性質からエネルギー保存則の応用までを幅広く問うています。前半(1)~(3)は電場と電位の定義、重ね合わせの原理の理解を、後半(4)~(6)は静電気力による位置エネルギーと運動エネルギーの関係を深く考察する問題です。
この問題の核心は、電場(ベクトル量)と電位(スカラー量)の違いを明確に区別し、それぞれの重ね合わせの原理を正しく適用すること、そして「速さが最大 ⇔ 位置エネルギーが極小 ⇔ 力が0」という力学における重要な関係を電磁気の問題に応用することです。
- 電荷配置: 点A(a, 0)と点B(-a, 0)に正電荷\(Q\)を固定 (\(a>0\))。
- 物理定数: クーロンの法則の比例定数\(k\)。
- 基準電位: 無限遠における電位を0とする。
- 質点P: 質量\(m\)、正電荷\(q\)。
- その他: 質点Pには静電気力のみが働く。
- (1) 点C(0, b)における電場の大きさと向き。
- (2) x軸上の電位\(V(x)\)の式とグラフの概略。
- (3) 点Cに置いた質点Pが受ける静電気力の大きさと向き。
- (4) \(b=3a/4\)のとき、質点PをCからD(-a/3, 0)まで運ぶ外力の仕事。
- (5) 点Dで静かにはなした質点Pが原点Oを通過するときの速さ。
- (6) 点Aの電荷をE(2a/3, 0)に移動後、点Dで静かにはなした質点Pの速さが最大になる座標とその速さ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「点電荷が作る電場・電位とエネルギー保存」です。対称性や保存則をうまく利用することで、計算を簡略化できます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電場の重ね合わせ: ある点での電場は、各点電荷が単独で作る電場をベクトルとして足し合わせることで求められます。ベクトルの合成なので、向きを考慮することが重要です。
- 電位の重ね合わせ: ある点での電位は、各点電荷が単独で作る電位をスカラーとして単純に足し合わせることで求められます。向きを考える必要がないため、計算が比較的容易です。
- 仕事とエネルギーの関係: 静電気力は保存力なので、その仕事は経路によらず、位置エネルギーの変化(\(W = -\Delta U = q(V_{\text{始}} – V_{\text{終}})\))で計算できます。外力がする仕事は、位置エネルギーの変化(\(W_{外力} = \Delta U\))に等しくなります。
- エネルギー保存則: 静電気力のみが働く場合、荷電粒子の「運動エネルギー」と「静電気力による位置エネルギー」の和は保存されます (\(\frac{1}{2}mv^2 + qV = 一定\))。
- 力が0になる点とエネルギー極小点: 荷電粒子が受ける合力が0になる点では、位置エネルギーが極値(この問題では極小)をとります。初速ゼロで運動を始めた場合、この位置エネルギー極小点で速さが最大になります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、対称性を利用して電場のベクトル和を計算します。
- (2)では、電位のスカラー和を計算し、絶対値の外し方によって場合分けします。
- (3)では、公式\(F=qE\)に(1)の結果を適用します。
- (4),(5)では、(2)で求めた電位の式を使い、仕事やエネルギー保存則を立式します。
- (6)では、「速さ最大⇔力が0」の条件から位置を特定し、エネルギー保存則で速さを求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
点Cにおける電場は、点Aの電荷Qが作る電場\(\vec{E}_{AC}\)と、点Bの電荷Qが作る電場\(\vec{E}_{BC}\)のベクトル和で求められます。図形の対称性から、2つの電場のx成分は互いに打ち消し合い、y成分のみが残ることがわかります。
この設問における重要なポイント
- 電場はベクトル量であり、ベクトルとして合成する必要がある。
- 対称性を利用して計算を簡略化する。
- 点電荷からの距離と、角度に関する三角比を正しく求める。
具体的な解説と立式
点A, Bから点Cまでの距離\(r\)は、三平方の定理より等しくなります。
$$ r = AC = BC = \sqrt{a^2 + b^2} $$
したがって、点A, Bの電荷が点Cに作る電場の大きさ\(E_{AC}\), \(E_{BC}\)も等しくなります。
$$ E_{AC} = E_{BC} = k\frac{Q}{r^2} = k\frac{Q}{a^2+b^2} $$
これらの電場のx成分は大きさが等しく逆向きなので打ち消し合います。y成分はどちらも上向き(y軸正の向き)なので、足し合わされます。線分ACとy軸がなす角を\(\theta\)とすると、合成電場\(E_C\)の大きさは、
$$ E_C = E_{AC}\cos\theta + E_{BC}\cos\theta = 2E_{AC}\cos\theta $$
図より、\(\cos\theta = \displaystyle\frac{b}{r} = \frac{b}{\sqrt{a^2+b^2}}\)なので、これを代入します。
使用した物理公式
- 点電荷が作る電場の大きさ: \(E = k\displaystyle\frac{|Q|}{r^2}\)
- 電場の重ね合わせ(ベクトル和)
$$
\begin{aligned}
E_C &= 2 \left( k\frac{Q}{a^2+b^2} \right) \left( \frac{b}{\sqrt{a^2+b^2}} \right) \\[2.0ex]&= \frac{2kQb}{(a^2+b^2)\sqrt{a^2+b^2}} \\[2.0ex]&= \frac{2kQb}{(a^2+b^2)^{3/2}}
\end{aligned}
$$
電場の向きは、対称性から明らかにy軸の正の向きです。
C点に置かれた試験電荷は、AとBの両方のプラス電荷から斜め上向きに反発力を受けます。この2つの力は左右対称なので、横方向の成分はキャンセルされ、上向きの成分だけが残って強め合います。この上向きの合力を計算します。
点Cにおける電場の大きさは\(\displaystyle\frac{2kQb}{(a^2+b^2)^{3/2}}\)で、向きはy軸の正の向きです。もし\(b=0\)(原点)なら\(E_C=0\)となり、対称性から妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
x軸上の点P(x, 0)における電位\(V(x)\)は、点Aの電荷が作る電位\(V_A\)と点Bの電荷が作る電位\(V_B\)のスカラー和で求められます。電位は向きを持たないので、単純に足し算するだけです。ただし、点電荷からの距離は常に正であるため、絶対値を用いて表現し、xの位置によって場合分けして絶対値を外す必要があります。
この設問における重要なポイント
- 電位はスカラー量であり、単純な和で重ね合わせができる。
- 点電荷からの距離を絶対値を用いて正しく表す (\(r_{AP} = |x-a|\), \(r_{BP} = |x+a|\))。
- \(|x|\)と\(a\)の大小関係で場合分けを行う。
具体的な解説と立式
x軸上の点(x, 0)における電位\(V(x)\)は、
$$ V(x) = k\frac{Q}{|x-a|} + k\frac{Q}{|x+a|} \quad \cdots ① $$
この式を、xの範囲に応じて場合分けします。
- \(|x|<a\) のとき: \(x-a<0\), \(x+a>0\) なので、\(|x-a|=-(x-a)=a-x\), \(|x+a|=x+a\)。
- \(|x|>a\) のとき:
- \(x>a\) ならば \(x-a>0\), \(x+a>0\) なので、\(|x-a|=x-a\), \(|x+a|=x+a\)。
- \(x<-a\) ならば \(x-a<0\), \(x+a<0\) なので、\(|x-a|=-(x-a)=a-x\), \(|x+a|=-(x+a)\)。
使用した物理公式
- 点電荷が作る電位: \(V = k\displaystyle\frac{Q}{r}\)
- 電位の重ね合わせ(スカラー和)
- \(|x|<a\) のとき:
$$
\begin{aligned}
V(x) &= kQ\left(\frac{1}{a-x} + \frac{1}{a+x}\right) \\[2.0ex]&= kQ\frac{(a+x)+(a-x)}{(a-x)(a+x)} \\[2.0ex]&= \frac{2kQa}{a^2-x^2}
\end{aligned}
$$ - \(|x|>a\) のとき:
- \(x>a\) の場合:
$$
\begin{aligned}
V(x) &= kQ\left(\frac{1}{x-a} + \frac{1}{x+a}\right) \\[2.0ex]&= kQ\frac{(x+a)+(x-a)}{(x-a)(x+a)} \\[2.0ex]&= \frac{2kQx}{x^2-a^2}
\end{aligned}
$$ - \(x<-a\) の場合:
$$
\begin{aligned}
V(x) &= kQ\left(\frac{1}{a-x} + \frac{1}{-(x+a)}\right) \\[2.0ex]&= kQ\frac{-(x+a)+(a-x)}{(a-x)(-x-a)} \\[2.0ex]&= kQ\frac{-2x}{-(x-a)(x+a)} \\[2.0ex]&= \frac{2kQx}{x^2-a^2}
\end{aligned}
$$
よって、\(|x|>a\) の場合はまとめて \(V(x) = \displaystyle\frac{2kQx}{x^2-a^2}\) となります。
- \(x>a\) の場合:
- 原点Oの電位: \(|x|<a\) の式に \(x=0\) を代入して、
$$
\begin{aligned}
V(0) &= \frac{2kQa}{a^2-0^2} \\[2.0ex]&= \frac{2kQ}{a}
\end{aligned}
$$ - グラフの概略:
- y軸に対して対称 (\(V(-x)=V(x)\))。
- \(x=0\)で極小値 \(V(0)=\frac{2kQ}{a}\) をとる。
- \(x=\pm a\) で分母が0になるため、電位は正の無限大に発散する。
- \(|x| \rightarrow \infty\) で \(V(x) \rightarrow 0\) となる。
これらの特徴から、U字型の谷が2つの電荷の位置で無限に高くなるようなグラフが描けます。
電位の式は \(|x|<a\) で \(V(x)=\displaystyle\frac{2kQa}{a^2-x^2}\)、\(|x|>a\) で \(V(x)=\displaystyle\frac{2kQx}{x^2-a^2}\) となります。グラフは2つの正電荷の間に電位の「谷」ができ、電荷の位置で電位が無限大になるという物理的状況を正しく反映しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
点Cに置かれた質点P(電荷q)が受ける静電気力は、公式 \(F=qE\) を用いて計算できます。点Cにおける電場\(E_C\)は問(1)で求めているので、それを代入するだけです。
この設問における重要なポイント
- 静電気力の基本公式 \(F=qE\) を使う。
- 電荷qが正なので、力の向きは電場の向きと同じ。
具体的な解説と立式
質点Pが受ける静電気力の大きさ\(F_C\)は、質点Pの電荷\(q\)と、点Cにおける電場の強さ\(E_C\)の積で与えられます。
$$ F_C = qE_C $$
問(1)で求めた \(E_C = \displaystyle\frac{2kQb}{(a^2+b^2)^{3/2}}\) を代入します。
使用した物理公式
- 静電気力: \(F=qE\)
$$
\begin{aligned}
F_C &= q \cdot \frac{2kQb}{(a^2+b^2)^{3/2}} \\[2.0ex]&= \frac{2kQqb}{(a^2+b^2)^{3/2}}
\end{aligned}
$$
質点Pの電荷qは正なので、力の向きは電場の向きと同じ、y軸の正の向きです。
(1)で求めた「その場所の電場の強さ」に、そこに置いた「電荷の量」を掛け算すれば、その電荷が受ける力の大きさがわかります。
静電気力の大きさは \(\displaystyle\frac{2kQqb}{(a^2+b^2)^{3/2}}\) で、向きはy軸の正の向きです。
問(4)
思考の道筋とポイント
質点Pを「静かにゆっくり運ぶ」とき、外力がする仕事は、その間の静電気力による位置エネルギーの変化量に等しくなります。\(W_{外力} = \Delta U = U_{終} – U_{始}\)。電位を用いると \(W_{外力} = q(V_{終} – V_{始})\) と表せます。始点Cと終点Dの電位をそれぞれ求め、この式に代入します。
この設問における重要なポイント
- 「静かに運ぶ」とき、外力の仕事は位置エネルギーの変化に等しい。
- 始点Cと終点Dの電位を、(2)で求めた式や電位の定義から正しく計算する。
具体的な解説と立式
外力がした仕事\(W_{外力}\)は、
$$ W_{外力} = q(V_D – V_C) $$
- 終点Dの電位 \(V_D\):
点Dの座標は(-a/3, 0)。これは \(|x|<a\) の範囲なので、問(2)で求めた式 \(V(x) = \displaystyle\frac{2kQa}{a^2-x^2}\) を使います。
$$ V_D = V(-a/3) $$ - 始点Cの電位 \(V_C\):
点C(0, 3a/4)の電位は、点A, Bからの電位の和です。A, BからCまでの距離\(r\)は、
$$ r = \sqrt{a^2 + b^2} $$
$$ V_C = V_{AC} + V_{BC} = k\frac{Q}{r} + k\frac{Q}{r} = 2k\frac{Q}{r} $$
使用した物理公式
- 外力の仕事: \(W_{外力} = q(V_{終} – V_{始})\)
まず各点の電位を計算します。
点Cまでの距離\(r\)は、\(b=3a/4\)を代入して、
$$
\begin{aligned}
r &= \sqrt{a^2 + (3a/4)^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{a^2 + \frac{9a^2}{16}} \\[2.0ex]&= \sqrt{\frac{25a^2}{16}} \\[2.0ex]&= \frac{5a}{4}
\end{aligned}
$$
よって点Cの電位\(V_C\)は、
$$
\begin{aligned}
V_C &= 2k\frac{Q}{r} \\[2.0ex]&= 2k\frac{Q}{5a/4} \\[2.0ex]&= \frac{8kQ}{5a}
\end{aligned}
$$
点Dの電位\(V_D\)は、
$$
\begin{aligned}
V_D &= V(-a/3) = \frac{2kQa}{a^2 – (-a/3)^2} \\[2.0ex]&= \frac{2kQa}{a^2 – a^2/9} \\[2.0ex]&= \frac{2kQa}{8a^2/9} \\[2.0ex]&= \frac{18kQa}{8a^2} \\[2.0ex]&= \frac{9kQ}{4a}
\end{aligned}
$$
これらを仕事の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
W_{外力} &= q(V_D – V_C) \\[2.0ex]&= q \left( \frac{9kQ}{4a} – \frac{8kQ}{5a} \right) \\[2.0ex]&= kQq \left( \frac{9}{4a} – \frac{8}{5a} \right) \\[2.0ex]&= kQq \left( \frac{45 – 32}{20a} \right) \\[2.0ex]&= \frac{13kQq}{20a}
\end{aligned}
$$
外力がした仕事は \(\displaystyle\frac{13kQq}{20a}\) です。\(V_D \approx 2.25 kQ/a\), \(V_C = 1.6 kQ/a\) であり、電位が高い方へ運んでいるため、外力が正の仕事をするという結果は妥当です。
問(5)
思考の道筋とポイント
点Dで静かにはなされた質点Pは、静電気力のみを受けて運動するため、力学的エネルギー保存則(この場合は運動エネルギーと静電気力による位置エネルギーの和が一定)が成り立ちます。点Dと原点Oでエネルギー保存則を立式し、速さを求めます。
この設問における重要なポイント
- 静電気力のみが働く系では、エネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv^2 + qV = 一定\) が成り立つ。
- 始点Dと終点Oのそれぞれのエネルギーを正しく記述する。
具体的な解説と立式
エネルギー保存則より、点Dと点Oでのエネルギーは等しくなります。
$$ (\text{点Dでの運動エネルギー}) + (\text{点Dでの位置エネルギー}) = (\text{点Oでの運動エネルギー}) + (\text{点Oでの位置エネルギー}) $$
$$ \frac{1}{2}m v_D^2 + qV_D = \frac{1}{2}m v_O^2 + qV_O $$
条件より \(v_D=0\)。求める速さを\(v_O\)とすると、
$$ 0 + qV_D = \frac{1}{2}m v_O^2 + qV_O $$
電位は、問(4)より \(V_D = \displaystyle\frac{9kQ}{4a}\)、問(2)より \(V_O = V(0) = \displaystyle\frac{2kQ}{a}\) です。
使用した物理公式
- エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv_i^2 + qV_i = \frac{1}{2}mv_f^2 + qV_f\)
上式を \(v_O^2\) について解きます。
$$ \frac{1}{2}m v_O^2 = q(V_D – V_O) $$
$$
\begin{aligned}
v_O^2 &= \frac{2q}{m}(V_D – V_O) \\[2.0ex]&= \frac{2q}{m} \left( \frac{9kQ}{4a} – \frac{2kQ}{a} \right) \\[2.0ex]&= \frac{2q}{m} \left( \frac{9kQ – 8kQ}{4a} \right) \\[2.0ex]&= \frac{2q}{m} \left( \frac{kQ}{4a} \right) \\[2.0ex]&= \frac{kQq}{2ma}
\end{aligned}
$$
したがって、速さ\(v_O\)は、
$$ v_O = \sqrt{\frac{kQq}{2ma}} $$
原点Oにおける速さは \(\sqrt{\displaystyle\frac{kQq}{2ma}}\) です。D点から電位の谷であるO点に向かって移動するため、位置エネルギーが運動エネルギーに変換されて加速します。結果は物理的に妥当です。
問(6)
思考の道筋とポイント
質点Pの速さが最大になるのは、運動エネルギーが最大になるときです。エネルギー保存則から、これは位置エネルギーが最小(極小)になる点に相当します。そして、位置エネルギーが極小になるのは、質点Pが受ける力(この場合は静電気力の合力)が0になる点です。
まず、力が0になる点の座標を求め、次にその点と始点Dとの間でエネルギー保存則を適用して速さを求めます。
この設問における重要なポイント
- 「速さが最大」⇔「運動エネルギーが最大」⇔「位置エネルギーが極小」⇔「力が0」という一連の関係を理解していること。
- 新しい電荷配置 B(-a, 0) と E(2a/3, 0) のもとで、力が0になる点と、各点の電位を計算し直す必要がある。
具体的な解説と立式
Step 1: 速さが最大になる座標を求める
新しい電荷配置はB(-a, 0)とE(2a/3, 0)です。x軸上の点(x, 0)にある質点Pが受ける力が0になる条件は、Bからの斥力とEからの斥力がつりあうことです。
$$ k\frac{Qq}{(x – (-a))^2} = k\frac{Qq}{(x – 2a/3)^2} $$
$$ (x+a)^2 = (x-2a/3)^2 $$
この方程式を解くと、力が0になる点 \(x_M\) が求まります。
Step 2: エネルギー保存則を適用して速さを求める
始点D(-a/3, 0)と、速さが最大になる点M(\(x_M\), 0)との間でエネルギー保存則を立てます。
$$ \frac{1}{2}m v_D^2 + qV_D’ = \frac{1}{2}m v_M^2 + qV_M $$
ここで \(v_D=0\)。\(V_D’\) と \(V_M\) は、新しい電荷配置 B(-a, 0) と E(2a/3, 0) による電位です。
- \(V_D’ = k\frac{Q}{|-a/3 – (-a)|} + k\frac{Q}{|-a/3 – 2a/3|}\)
- \(V_M = k\frac{Q}{|x_M – (-a)|} + k\frac{Q}{|x_M – 2a/3|}\)
使用した物理公式
- クーロンの法則: \(F=k\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
- エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + qV = 一定\)
Step 1 の計算:
\( (x+a)^2 = (x-2a/3)^2 \) の両辺の平方根をとると、
\( x+a = \pm(x-2a/3) \)
- `+` の場合: \(x+a = x-2a/3\)。これを解くと \(a = -2a/3\) となり、\(a>0\)に反するため不適。
- `-` の場合: \(x+a = -(x-2a/3)\)。これを変形すると、
$$
\begin{aligned}
x+a &= -x+\frac{2a}{3} \\[2.0ex]2x &= \frac{2a}{3} – a \\[2.0ex]2x &= -\frac{a}{3}
\end{aligned}
$$
よって、\(x_M = -a/6\)。
Step 2 の計算:
- 点Dの電位 \(V_D’\):
$$
\begin{aligned}
V_D’ &= k\frac{Q}{|-a/3 – (-a)|} + k\frac{Q}{|-a/3 – 2a/3|} \\[2.0ex]&= k\frac{Q}{|2a/3|} + k\frac{Q}{|-a|} \\[2.0ex]&= \frac{3kQ}{2a} + \frac{kQ}{a} \\[2.0ex]&= \frac{5kQ}{2a}
\end{aligned}
$$ - 点Mの電位 \(V_M\):
$$
\begin{aligned}
V_M &= k\frac{Q}{|-a/6 – (-a)|} + k\frac{Q}{|-a/6 – 2a/3|} \\[2.0ex]&= k\frac{Q}{|5a/6|} + k\frac{Q}{|-5a/6|} \\[2.0ex]&= \frac{6kQ}{5a} + \frac{6kQ}{5a} \\[2.0ex]&= \frac{12kQ}{5a}
\end{aligned}
$$ - エネルギー保存則:
\(\frac{1}{2}mv_M^2 = q(V_D’ – V_M)\)
$$
\begin{aligned}
v_M^2 &= \frac{2q}{m}(V_D’ – V_M) \\[2.0ex]&= \frac{2q}{m} \left( \frac{5kQ}{2a} – \frac{12kQ}{5a} \right) \\[2.0ex]&= \frac{2q}{m} \cdot kQ \left( \frac{25 – 24}{10a} \right) \\[2.0ex]&= \frac{2q}{m} \left( \frac{kQ}{10a} \right) \\[2.0ex]&= \frac{kQq}{5ma}
\end{aligned}
$$
よって、速さ\(v_M\)は、
$$ v_M = \sqrt{\frac{kQq}{5ma}} $$
速さが最大になる座標は \(x=-a/6\)、そのときの速さは \(\sqrt{\displaystyle\frac{kQq}{5ma}}\) です。力がつりあう点は、2つの電荷BとEの間にあり、その座標は中点であることが直感的にわかります(電荷の大きさが等しいため)。エネルギー計算も複雑ですが、手順通りに進めれば答えにたどり着けます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電場と電位の重ね合わせの原理:
- 核心: 複数の点電荷が存在するとき、ある点での電場や電位は、各電荷が単独でその点に作るものの「重ね合わせ」で求められます。
- 理解のポイント: この問題で最も重要なのは、電場がベクトル(向きを持つ量)であり、電位がスカラー(大きさのみの量)であるという違いを明確に意識することです。
- 電場 (問1): 各電荷が作る電場ベクトルを、図を描いてベクトルとして合成する必要があります。対称性を利用すると計算が楽になります。
- 電位 (問2): 各電荷が作る電位を、単純にスカラーとして足し算するだけです。ただし、距離の計算(絶対値)は正確に行う必要があります。
- エネルギー保存則:
- 核心: この問題では、荷電粒子に働く力は静電気力のみです。静電気力は保存力なので、系の「運動エネルギー」と「静電気力による位置エネルギー」の和は常に一定に保たれます。
- 理解のポイント: この法則は、\(\frac{1}{2}mv^2 + qV = 一定\) という非常に強力な式で表されます。問(5)や問(6)のように、運動の途中経過を問わず、始点と終点の「速さ」と「電位」の関係を知りたい場合に絶大な威力を発揮します。
- 速さ最大 ⇔ 力のつりあい:
- 核心: 荷電粒子が運動する中で速さが最大になる点は、その粒子の運動エネルギーが最大になる点です。エネルギー保存則を考えると、これは位置エネルギーが極小になる点に相当します。そして、位置エネルギーが極小になる点では、粒子に働く合力が0になります。
- 理解のポイント: 問(6)はこの関係性を直接問う問題です。「速さが最大になる点を探せ」と言われたら、それは「力がつりあう点を探せ」という指示と同じ意味だと読み替えることができれば、問題を解く道筋が明確になります。この「速さ最大⇔力が0」の対応関係は、単振動など他の力学分野でも頻出する超重要概念です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電気双極子: 正負の電荷が対になっている場合。電場や電位の計算方法は同じですが、対称性が崩れるため、ベクトルの合成やスカラー和がより複雑になります。
- 万有引力による運動: 2つの天体(例:恒星)の周りを惑星が運動する問題。万有引力もクーロン力と同様に逆2乗則に従う保存力なので、位置エネルギー(ポテンシャル)を考え、エネルギー保存則を適用する解法の構造は全く同じです。
- 分子間力ポテンシャル: レナード-ジョーンズ型ポテンシャルのように、原子間の位置エネルギーが与えられている問題。「最も安定な原子間距離」は「位置エネルギーが極小の点」であり、「原子を引き離すのに必要なエネルギー」は「無限遠との位置エネルギーの差」として計算でき、本問の考え方が応用できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 対称性の有無を確認: まず、電荷の配置に対称性があるかを確認します。対称性があれば、電場のベクトル和の計算が大幅に簡略化されたり、電位のグラフの概形を予測したりできます。
- ベクトル量とスカラー量の区別: 問題が「電場」を問うているのか、「電位」を問うているのかを明確に区別します。計算の方針が全く異なるため、この区別は極めて重要です。
- エネルギー保存則が使えるか判断: 働く力が保存力(静電気力、重力、ばねの弾性力など)のみかを確認します。もし使えるなら、運動方程式を解くよりもエネルギー保存則で考えた方が楽な場合が多いです。
- 「速さ最大」「安定点」などのキーワードに反応: これらの言葉が出てきたら、即座に「力が0になる点」「位置エネルギーが極小になる点」と結びつける思考回路を働かせましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電場と電位の混同:
- 誤解: 電場の計算でベクトル和をせず、スカラー和で計算してしまう。あるいは、電位の計算でなぜかベクトルの分解を考えてしまう。
- 対策: 「電場はForce(力)の仲間、電位はEnergy(エネルギー)の仲間」と覚えましょう。力はベクトル、エネルギーはスカラーです。この意識を常に持つことで、計算方法の混同を防げます。
- 距離の計算と絶対値の扱い:
- 誤解: 問(2)で電位を計算する際に、距離を\(x-a\)や\(x+a\)と書いてしまい、負の距離を許してしまう。
- 対策: 「距離は常に正である」という大原則を忘れないでください。座標を用いて距離を表す際は、必ず絶対値記号 \(|…|\) をつける習慣をつけましょう。その上で、座標の範囲に応じて場合分けをして絶対値を外す、という手順を徹底します。
- 「力が0」と「電場が0」の混同:
- 誤解: 問(6)で速さが最大になる点を、電場が0になる点だと勘違いする。
- 対策: 質点Pが受ける力は、その場所の電場にP自身の電荷qを掛けたものです(\(F=qE\))。電場\(E\)は、固定された電荷Qだけが作ります。したがって、「質点Pが受ける力が0」になる点と、「固定電荷Qが作る電場が0」になる点は同じ意味です。しかし、問題設定が複雑になると、複数の電場源がある場合もあるため、「どの物体が受ける力が0なのか」を主語を明確にして考えることが重要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電場のベクトル図: 問(1)では、点A, Bから点Cに向かう電場ベクトルを矢印で描き、そのベクトルを平行四辺形の法則で合成する図を描くことが、解法の理解に直結します。対称性からx成分が消える様子を視覚的に確認できます。
- 電位の等高線(等電位線)とポテンシャルの地形図: x-y平面を土地に見立て、電位を「標高」とイメージします。正電荷Qがある場所は「標高が無限に高い山」です。問(2)のグラフは、この地形をx軸に沿って切った「断面図」に相当します。2つの山の間に「谷」(電位の極小点)ができる様子がイメージできます。質点Pの運動は、この地形図の上を転がるボールのように考えることができます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 距離と角度の明記: 三平方の定理や三角比を使う場面では、図の中に直角三角形を見つけ出し、辺の長さ(\(a, b, r\))や角度(\(\theta\))を正確に書き込むことがミスを防ぐ鍵です。
- グラフの要点: 問(2)でグラフを描く際は、①極値(極小点)、②発散する点(\(x=\pm a\))、③無限遠での振る舞い(\(V \rightarrow 0\))、④対称性、といった特徴点を押さえて描くことが求められます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電場の重ね合わせ(ベクトル和):
- 選定理由: 問(1)で「電場」というベクトル量を求めるため。複数の電場源がある場合、ベクトルとして合成するのが物理法則です。
- 適用根拠: 電場という物理量のベクトル性。
- 電位の重ね合わせ(スカラー和):
- 選定理由: 問(2)で「電位」というスカラー量を求めるため。スカラー量は向きを持たないので、単純な足し算で合成できます。
- 適用根拠: 電位という物理量のスカラー性。
- エネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv^2 + qV = 一定\):
- 選定理由: 問(5), (6)で、ある点から別の点へ移動した後の「速さ」を求めるため。運動方程式を積分するよりも、始点と終点の状態を直接結びつけるこの法則の方が圧倒的に計算が楽だからです。
- 適用根拠: 働く力が保存力である静電気力のみであるという物理的状況。
- 力のつりあい \(F=0\):
- 選定理由: 問(6)で「速さが最大になる点」を特定するため。「速さ最大」を「力が0」という条件に読み替えることで、位置エネルギーの微分などを考えることなく、代数的に座標を求めることができます。
- 適用根拠: エネルギーが保存される系において、運動エネルギーが最大(極大)となる点は、位置エネルギーが最小(極小)となる点であり、その点では力がつりあう(\(F = -dU/dx = 0\))という力学の普遍的な原理。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 点Cの電場:
- 戦略: 対称性を利用したベクトル和。
- フロー: ①各電荷からの電場の大きさを計算 → ②y成分を計算(\(\cos\theta\)を掛ける) → ③2倍する。
- (2) x軸上の電位:
- 戦略: スカラー和。距離を絶対値で表し、場合分け。
- フロー: ①\(V(x) = kQ/|x-a| + kQ/|x+a|\)と立式 → ②\(|x|<a\)と\(|x|>a\)で場合分けして絶対値を外す。
- (3) 点Cでの力:
- 戦略: \(F=qE\)の公式適用。
- フロー: (1)で求めた\(E_C\)にqを掛ける。
- (4) 外力の仕事:
- 戦略: \(W_{外力} = q(V_{終} – V_{始})\)。
- フロー: ①始点Cと終点Dの電位を計算 → ②差をとってqを掛ける。
- (5) 原点での速さ:
- 戦略: エネルギー保存則。
- フロー: ①点Dと点Oでエネルギー保存則を立式 → ②各点の電位を代入し、\(v_O\)について解く。
- (6) 速さ最大:
- 戦略: ①力が0になる点を求める → ②その点と始点Dでエネルギー保存則を適用。
- フロー: ①クーロン力のつりあい式から座標\(x_M\)を求める → ②点Dと点Mの電位を計算 → ③エネルギー保存則を立式し、\(v_M\)について解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 分数の計算: この問題は、分数の足し算(通分)や、分母に根号が含まれる式の整理など、計算が煩雑になりがちです。焦らず、一行一行丁寧に式変形を進めましょう。
- 文字の代入: 問(4)のように \(b=3a/4\) を代入する場面では、計算の早い段階で代入すると式が複雑になることがあります。まずは文字のまま計算を進め、最後の段階で代入する方が見通しが良くなる場合もあります。
- 単位や次元の確認: 例えば、最終的に求める速さの式の次元が \([L/T]\) になっているか、エネルギーの式の次元が \([ML^2/T^2]\) になっているかなどを確認する(次元解析)ことで、大きな間違いを発見できることがあります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 電場の向き: 2つの正電荷の中間地点(y軸上)では、反発力はy軸方向に合成されるはずなので、「y軸正の向き」という結果は直感と一致します。
- (2) 電位のグラフ: 2つの正電荷(山)の間に電位の谷ができるのは、物理的に自然な形状です。原点Oは谷底ではありませんが、局所的な極小点になっています。
- (6) 速さ最大の点: 2つの正電荷QがあるB(-a, 0)とE(2a/3, 0)の間で力がつりあう点は、2電荷のちょうど中点 \(x=(-a+2a/3)/2 = -a/6\) になります。これは、電荷の大きさが等しい場合に力がつりあうのは中点であるという知識と一致しており、計算結果の妥当性を裏付けます。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし \(a \rightarrow 0\) とすると、2つの電荷が原点で重なり、電荷\(2Q\)の点電荷とみなせます。このとき、例えば \(V(x) = k(2Q)/|x|\) となるはずですが、問(2)の式で \(a \rightarrow 0\) の極限をとると、確かにこの形に近づくことが確認できます。このような極限操作は、式の妥当性を検証する強力な手段です。
問題104 (電気通信大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、x軸上を運動する2つの正電荷を帯びた小物体が、静電気力(斥力)によって相互作用する、いわゆる「衝突」の問題です。外力が働かない系なので、運動量保存則と力学的エネルギー保存則が解析の基本となります。
この問題の核心は、(1)「最も近づく」という物理的条件を「相対速度が0」と読み替えること、(2)静電気力による位置エネルギーを正しく導入してエネルギー保存則を立てること、(3)そして、十分に時間が経った後の運動が、力学で学ぶ「1次元弾性衝突」と全く同じ結果になることを理解することです。
- 小物体A: 質量\(m_1\)、電荷\(q_1(>0)\)、初速度\(v_0\)
- 小物体B: 質量\(m_2\)、電荷\(q_2(>0)\)、初速度\(0\)(静止)
- 初期状態: AとBは十分に遠く離れている(位置エネルギー0)。
- 相互作用: 静電気力のみ(保存力)。
- その他: クーロンの法則の比例定数\(k\)。
- (1) AとBが最も近づいたときの速度\(V_{A1}\), \(V_{B1}\)。
- (2) AとBが最も近づいたときの距離\(d\)。
- (3) 十分に時間が経ち、遠く離れた後の速度\(V_{A2}\), \(V_{B2}\)。
- (4) 質量の比\(m_2/m_1\)を横軸としたときの、\(V_{A2}\)と\(V_{B2}\)のグラフ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「荷電粒子の衝突と保存則」です。一見、電磁気の問題に見えますが、その本質は力学の衝突問題と同じです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量保存則: 2物体に働く力は内力(静電気力)のみなので、系全体の運動量は常に保存されます。これは、運動のどの段階においても成り立つ強力な法則です。
- 力学的エネルギー保存則: 静電気力は保存力なので、2物体の運動エネルギーと静電気力による位置エネルギーの和(力学的エネルギー)は常に保存されます。
- 最接近の条件: 速い物体が遅い物体を追いかける状況で、2物体が「最も近づく」のは、両者の速度が等しくなり、相対速度が0になった瞬間です。この条件の読み替えが(1)を解く鍵です。
- 衝突問題とのアナロジー: この問題は、反発係数\(e=1\)の「完全弾性衝突」と全く同じ状況です。(3)の結果は、弾性衝突の公式と一致します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、「最接近⇔相対速度0」という条件と、運動量保存則を連立させて速度を求めます。
- (2)では、(1)で求めた速度を使い、初期状態(無限遠)と最接近時との間でエネルギー保存則を立て、距離\(d\)を求めます。
- (3)では、初期状態と最終状態(再び無限遠)との間で、運動量保存則とエネルギー保存則を連立させて解きます。
- (4)では、(3)で得られた速度の式を、指定された変数(質量の比)で表現し直し、関数の概形を調べてグラフを描きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
2つの小物体AとBは、互いに静電気力(斥力)を及ぼしあうだけなので、系全体として運動量保存則が成り立ちます。また、「AとBが最も近づく」瞬間とは、Aの速度がBに追いつき、両者の速度が等しくなった瞬間です。この2つの条件から速度を求めます。
この設問における重要なポイント
- 系に外力が働かないため、運動量保存則が適用できる。
- 「最も近づく」という条件を「相対速度が0」、すなわち\(V_{A1} = V_{B1}\)と正しく解釈すること。
具体的な解説と立式
AとBの系全体に働く力は内力のみなので、運動量保存則が成り立ちます。
$$ m_1 v_0 + m_2 \cdot 0 = m_1 V_{A1} + m_2 V_{B1} \quad \cdots ① $$
AとBが最も近づくとき、両者の相対速度は0になるため、速度は等しくなります。
$$ V_{A1} = V_{B1} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(m_1\vec{v}_1 + m_2\vec{v}_2 = m_1\vec{v}_1′ + m_2\vec{v}_2’\)
式②を式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
m_1 v_0 &= m_1 V_{A1} + m_2 V_{A1} \\[2.0ex]m_1 v_0 &= (m_1 + m_2) V_{A1}
\end{aligned}
$$
これを\(V_{A1}\)について解くと、
$$ V_{A1} = \frac{m_1}{m_1+m_2} v_0 $$
式②より、\(V_{B1}\)も同じ値になります。
$$ V_{B1} = \frac{m_1}{m_1+m_2} v_0 $$
2つの物体が一番近づくのは、追いかけるAのスピードと逃げるBのスピードがちょうど同じになった瞬間です。この「速度が同じになる」という条件と、衝突の前後で全体の運動の勢い(運動量)が変わらないという法則を使って、その瞬間の速度を計算します。
最も近づいたときの速度は、A, Bともに \(\displaystyle\frac{m_1}{m_1+m_2} v_0\) です。これは、衝突後の2物体が一体となって運動するときの速度(重心の速度)と同じであり、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
最接近距離\(d\)を求めるには、エネルギーの情報が必要です。静電気力は保存力なので、系の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は保存されます。初期状態(無限遠)と最接近時で、力学的エネルギー保存則を立式します。
この設問における重要なポイント
- 静電気力は保存力であり、力学的エネルギー保存則が成り立つ。
- 無限遠における静電気力による位置エネルギーは0とする。
- 距離\(d\)だけ離れた2つの点電荷の位置エネルギーは \(U = k\displaystyle\frac{q_1 q_2}{d}\) である。
具体的な解説と立式
初期状態と最接近時で、力学的エネルギー保存則を立てます。
$$ (\text{初期の運動エネルギー}) + (\text{初期の位置エネルギー}) = (\text{最接近時の運動エネルギー}) + (\text{最接近時の位置エネルギー}) $$
$$ \frac{1}{2}m_1 v_0^2 + 0 = \left( \frac{1}{2}m_1 V_{A1}^2 + \frac{1}{2}m_2 V_{B1}^2 \right) + k\frac{q_1 q_2}{d} $$
ここに、(1)で求めた \(V_{A1} = V_{B1} = \displaystyle\frac{m_1}{m_1+m_2} v_0\) を代入します。
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K_i + U_i = K_f + U_f\)
- 静電気力による位置エネルギー: \(U = k\displaystyle\frac{q_1 q_2}{r}\)
エネルギー保存則の式を整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m_1 v_0^2 &= \frac{1}{2}(m_1+m_2) V_{A1}^2 + k\frac{q_1 q_2}{d} \\[2.0ex]\frac{1}{2}m_1 v_0^2 &= \frac{1}{2}(m_1+m_2) \left( \frac{m_1}{m_1+m_2} v_0 \right)^2 + k\frac{q_1 q_2}{d} \\[2.0ex]\frac{1}{2}m_1 v_0^2 &= \frac{1}{2}(m_1+m_2) \frac{m_1^2}{(m_1+m_2)^2} v_0^2 + k\frac{q_1 q_2}{d} \\[2.0ex]\frac{1}{2}m_1 v_0^2 &= \frac{1}{2} \frac{m_1^2}{m_1+m_2} v_0^2 + k\frac{q_1 q_2}{d}
\end{aligned}
$$
この式を \(d\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
k\frac{q_1 q_2}{d} &= \frac{1}{2}m_1 v_0^2 – \frac{1}{2} \frac{m_1^2}{m_1+m_2} v_0^2 \\[2.0ex]k\frac{q_1 q_2}{d} &= \frac{1}{2} v_0^2 \left( m_1 – \frac{m_1^2}{m_1+m_2} \right) \\[2.0ex]k\frac{q_1 q_2}{d} &= \frac{1}{2} v_0^2 \left( \frac{m_1(m_1+m_2) – m_1^2}{m_1+m_2} \right) \\[2.0ex]k\frac{q_1 q_2}{d} &= \frac{1}{2} v_0^2 \frac{m_1 m_2}{m_1+m_2}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ d = \frac{2k q_1 q_2 (m_1+m_2)}{m_1 m_2 v_0^2} $$
最初Aが持っていた運動エネルギーが、最も近づいた瞬間の「AとBの運動エネルギー」と「電気的な位置エネルギー」に分け与えられます。このエネルギーの収支の式を立てて、距離dを計算します。
最接近距離は \(d = \displaystyle\frac{2k q_1 q_2 (m_1+m_2)}{m_1 m_2 v_0^2}\) です。初速\(v_0\)が大きいほど、dは小さくなる(より深く接近できる)。電荷\(q_1, q_2\)が大きいほど、dは大きくなる(斥力が強く、あまり近づけない)。物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
十分に時間が経ち、AとBが再び遠く離れた後の速度を求めます。この過程全体を通して、運動量と力学的エネルギーは保存されます。初期状態と最終状態で、運動量保存則とエネルギー保存則の2つの式を立て、連立方程式として解きます。これは、力学における1次元の完全弾性衝突の問題と全く同じです。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則と力学的エネルギー保存則の両方を連立させて解く。
- 最終状態では、再び物体間の距離が無限大になるため、静電気力による位置エネルギーは0に戻る。
具体的な解説と立式
初期状態(添字なし)と最終状態(添字2)で、2つの保存則を立てます。
運動量保存則:
$$ m_1 v_0 = m_1 V_{A2} + m_2 V_{B2} \quad \cdots ③ $$
力学的エネルギー保存則(位置エネルギーは初期・最終ともに0):
$$ \frac{1}{2}m_1 v_0^2 = \frac{1}{2}m_1 V_{A2}^2 + \frac{1}{2}m_2 V_{B2}^2 \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 運動量保存則
- 力学的エネルギー保存則
式③と④は、1次元弾性衝突で速度を求める際の連立方程式そのものです。
式③を変形します。
$$ m_1(v_0 – V_{A2}) = m_2 V_{B2} \quad \cdots ③’ $$
式④の両辺を2倍して変形します。
$$ m_1(v_0^2 – V_{A2}^2) = m_2 V_{B2}^2 $$
$$ m_1(v_0 – V_{A2})(v_0 + V_{A2}) = m_2 V_{B2}^2 \quad \cdots ④’ $$
④’を③’で辺々割ると(ただし\(V_{B2} \neq 0\))、
$$ v_0 + V_{A2} = V_{B2} $$
これは反発係数の式 \(e=1 = \displaystyle\frac{V_{B2}-V_{A2}}{v_0-0}\) と同じ意味です。
この式を③に代入して\(V_{A2}\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
m_1 v_0 &= m_1 V_{A2} + m_2 (v_0 + V_{A2}) \\[2.0ex]m_1 v_0 &= (m_1 + m_2)V_{A2} + m_2 v_0 \\[2.0ex](m_1 – m_2)v_0 &= (m_1 + m_2)V_{A2}
\end{aligned}
$$
よって、
$$ V_{A2} = \frac{m_1-m_2}{m_1+m_2} v_0 $$
次に\(V_{B2}\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
V_{B2} &= v_0 + V_{A2} \\[2.0ex]&= v_0 + \frac{m_1-m_2}{m_1+m_2} v_0 \\[2.0ex]&= \left( 1 + \frac{m_1-m_2}{m_1+m_2} \right) v_0 \\[2.0ex]&= \left( \frac{m_1+m_2+m_1-m_2}{m_1+m_2} \right) v_0 \\[2.0ex]&= \frac{2m_1}{m_1+m_2} v_0
\end{aligned}
$$
最終的な速度は、\(V_{A2} = \displaystyle\frac{m_1-m_2}{m_1+m_2} v_0\)、\(V_{B2} = \displaystyle\frac{2m_1}{m_1+m_2} v_0\) です。これは1次元弾性衝突の公式そのものであり、\(m_1=m_2\)なら速度交換が起こるなど、既知の事実と一致します。
問(4)
思考の道筋とポイント
(3)で求めた\(V_{A2}\)と\(V_{B2}\)の式を、問題で指定された横軸の変数 \(x = m_2/m_1\) を使って書き直し、関数の形を調べます。その上で、指定された範囲 \(0 < x \le 3\) でグラフを描きます。
この設問における重要なポイント
- 数式をグラフ化のために変形する。式の分母・分子を \(m_1\) で割ることで、変数 \(x=m_2/m_1\) を作り出す。
- グラフの主要な点(\(x=0\)の極限、\(x=1\)、\(x=3\)など)の値を計算し、プロットする。
具体的な解説と立式
横軸を \(x = \displaystyle\frac{m_2}{m_1}\) とします。
\(V_{A2}\)の式を\(x\)で表します。分母・分子を\(m_1\)で割ります。
$$ V_{A2} = \frac{m_1-m_2}{m_1+m_2} v_0 = \frac{1 – (m_2/m_1)}{1 + (m_2/m_1)} v_0 = \frac{1-x}{1+x} v_0 $$
\(V_{B2}\)の式も同様に\(x\)で表します。
$$ V_{B2} = \frac{2m_1}{m_1+m_2} v_0 = \frac{2}{1 + (m_2/m_1)} v_0 = \frac{2}{1+x} v_0 $$
使用した物理公式
- 問(3)で導出した速度の式
グラフを描くために、主要な点の値を計算します。
- \(x \to 0\) のとき:
- \(V_{A2} \to \displaystyle\frac{1-0}{1+0}v_0 = v_0\)
- \(V_{B2} \to \displaystyle\frac{2}{1+0}v_0 = 2v_0\)
- \(x = 1\) (\(m_1=m_2\)) のとき:
- \(V_{A2} = \displaystyle\frac{1-1}{1+1}v_0 = 0\)
- \(V_{B2} = \displaystyle\frac{2}{1+1}v_0 = v_0\)
- \(x = 3\) (\(m_2=3m_1\)) のとき:
- \(V_{A2} = \displaystyle\frac{1-3}{1+3}v_0 = -\frac{2}{4}v_0 = -\frac{1}{2}v_0\)
- \(V_{B2} = \displaystyle\frac{2}{1+3}v_0 = \frac{2}{4}v_0 = \frac{1}{2}v_0\)
これらの点をプロットし、滑らかな曲線で結びます。\(V_{A2}\)は\(v_0\)から単調に減少し、\(x=1\)で0になり、その後負の値になります。\(V_{B2}\)は\(2v_0\)から単調に減少します。
(3)で求めた速度の式を、グラフが描きやすいように変形します。横軸を「Aに対するBの重さの比」として、この比が0に近いとき、1のとき、3のときの縦軸(速度)の値を計算し、それらの点を結んでグラフを完成させます。
グラフの形状は、物理的な直感と一致します。例えば、BがAより重くなる(\(x>1\))と、Aは跳ね返される(\(V_{A2}<0\))。Bが非常に重い(\(x \to \infty\))場合、Aは壁に当たったかのように速度\(-v_0\)で跳ね返り、Bはほとんど動かない(\(V_{B2} \to 0\))ことも式から読み取れ、妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存則:
- 核心: 2つの荷電粒子に働く静電気力は、互いに作用・反作用の関係にある「内力」です。系に外部から力が加わらない限り、系全体の運動量の合計は、衝突のどの瞬間においても一定に保たれます。
- 理解のポイント: この法則は、運動の初期状態と、最接近時(1)、最終状態(3)など、異なる状態を結びつけるための最も基本的な関係式です。特に、力が複雑に変化する衝突過程の詳細を追うことなく、始点と終点の速度関係を導ける点が強力です。
- 力学的エネルギー保存則:
- 核心: 静電気力は、その仕事が経路によらない「保存力」です。したがって、2つの粒子の「運動エネルギーの和」と「静電気力による位置エネルギー」を足し合わせた力学的エネルギーは、常に一定に保たれます。
- 理解のポイント: この問題では、初期状態と最終状態では粒子が「十分に遠く離れている」ため、位置エネルギーは0とみなせます。一方、最接近時(2)では、粒子間の距離が有限の\(d\)になるため、位置エネルギー \(U = k\frac{q_1 q_2}{d}\) を考慮する必要があります。この位置エネルギーの出入りが、運動エネルギーの変化と結びつきます。
- 最接近の条件 = 相対速度が0:
- 核心: 2物体が衝突(あるいは斥力で反発)する過程で「最も近づく」瞬間は、両者の速度が等しくなった瞬間です。これは、一方から見たもう一方の速度(相対速度)が0になることを意味します。
- 理解のポイント: この物理的条件の読み替えが、問(1)を解くための決定的な鍵となります。運動量保存則の式と、この \(V_{A1}=V_{B1}\) という条件式を連立させることで、未知数であった2つの速度を求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ばねによる衝突: 2つの台車の間にばねを挟んで衝突させる問題。ばねの弾性力も保存力なので、運動量保存則と力学的エネルギー保存則(運動エネルギー+弾性エネルギー)を適用する点で、本問と全く同じ構造をしています。「ばねが最も縮んだとき」が「最も近づいたとき」に相当し、やはり相対速度が0になります。
- 天体の接近(スイングバイなど): 惑星と探査機が万有引力によって接近し、軌道を変える問題。万有引力も保存力なので、運動量とエネルギーの保存則が解析の基本となります。
- 非弾性衝突: 衝突後に2物体が合体する「完全非弾性衝突」では、力学的エネルギーは保存されませんが、運動量保存則は常に成り立ちます。本問の(1)は、見方を変えれば、最接近の瞬間に2物体が一体になったと見なせるため、完全非弾性衝突の速度を求める問題と同じ構造になっています。
- 初見の問題での着眼点:
- 系の特定と外力の有無: まず、どの物体を一つの「系」として考えるかを決めます。次に、その系に対して外部から力が働いているか(例:摩擦、空気抵抗、外部からの押し引き)を確認します。外力がなければ、運動量保存則が使える可能性が高いです。
- 働く力の性質分析: 系内部で働く力(内力)が保存力(重力、静電気力、ばねの力など)のみかを確認します。保存力のみであれば、力学的エネルギー保存則が使えます。
- キーワードの読み替え: 「最も近づく」「最も縮む」→相対速度が0。「遠く離れる」→位置エネルギーが0。「静かにはなす」→初速0、運動エネルギー0。これらの日本語表現を、的確に数式や物理的条件に翻訳する能力が重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- エネルギー保存則の適用範囲の誤解:
- 誤解: 運動量保存則が成り立つなら、常に力学的エネルギーも保存されると思い込んでしまう。
- 対策: 運動量保存は「外力がない」こと、エネルギー保存は「非保存力が仕事をしない」ことが条件です。例えば、摩擦がある場合や非弾性衝突では、運動量は保存されても力学的エネルギーは熱エネルギーなどに変わってしまい、保存されません。2つの保存則は独立した法則であると認識しましょう。
- 位置エネルギーの扱い:
- 誤解: 問(2)でエネルギー保存則を立てる際に、最接近時の位置エネルギー \(k\frac{q_1 q_2}{d}\) を考慮し忘れる。
- 対策: エネルギー保存則を立てる際は、必ず「運動エネルギー」と「位置エネルギー」の両方の項を書き出す癖をつけましょう。そして、各状態で「速さはいくつか?」「粒子間の距離はいくつか?」を自問し、それぞれの項に具体的な値を代入します。「無限遠」なら位置エネルギーは0、「距離d」なら有限の値を持つ、という対応を明確にします。
- 連立方程式の計算ミス:
- 誤解: 問(3)のような運動量とエネルギーの連立方程式の処理で、式変形が複雑になり計算ミスを犯す。
- 対策: この形の連立方程式は、\(m_1(v_0-V_{A2}) = m_2V_{B2}\) と \(m_1(v_0-V_{A2})(v_0+V_{A2}) = m_2V_{B2}^2\) のように式を整理し、辺々割り算をすることで、反発係数の式 \(v_0+V_{A2}=V_{B2}\) を導くのが定石です。この解法パターンをマスターしておくと、計算が大幅に簡略化され、ミスを減らせます。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 時間発展のコマ送り図: ①初期状態(Aが速さ\(v_0\)、Bが静止、距離∞)、②最接近時(AとBが同じ速さ\(V_1\)、距離d)、③最終状態(Aが速さ\(V_{A2}\)、Bが速さ\(V_{B2}\)、距離∞)という3つのシーンを、コマ送りのように図示すると、各段階でどの保存則を適用すればよいかが明確になります。
- グラフによる解釈: 問(4)のグラフは、衝突現象の豊かな物理的側面を可視化してくれます。例えば、\(m_1=m_2\) (x=1) の点で、Aが止まり(\(V_{A2}=0\))、BがAの初速を引き継ぐ(\(V_{B2}=v_0\))という「速度交換」が起こる様子がはっきりと読み取れます。また、AがBより軽い(\(x>1\))とAは跳ね返され(\(V_{A2}<0\))、重い(\(x<1\))とAはBを追い越した後も前進し続ける(\(V_{A2}>0\))こともわかります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 速度ベクトル: 各物体の速度を矢印で図示し、その向きと相対的な長さを意識して描くと、運動のイメージが掴みやすくなります。
- 座標軸と正の向き: x軸と、速度の正の向きを明確に図に示しておくことで、運動量保存則などを立式する際の符号ミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存則:
- 選定理由: 2物体の速度の関係を知りたいが、働く力が時間的に変化するため運動方程式の直接積分が困難なため。運動量は、力が複雑でも系全体で保存されるため、このような衝突問題で非常に有効です。
- 適用根拠: 系に外力が働かないという物理的状況。
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: 運動量保存則だけでは未知数(速度)が2つあり、式が足りないため。また、問(2)のように「距離」という位置エネルギーに関わる量を求めるために必要だからです。
- 適用根拠: 働く内力が保存力である静電気力のみであるという物理的状況。
- 相対速度ゼロの条件 \(V_{A1}=V_{B1}\):
- 選定理由: 問(1)で「最も近づく」という条件を数式化するため。これにより、運動量保存則と連立させて速度を確定できます。
- 適用根拠: 速度が異なる2物体間の距離が極小値をとるための数学的・物理的条件。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 最接近時の速度:
- 戦略: ①運動量保存則、②最接近条件(\(V_{A1}=V_{B1}\))を連立。
- フロー: \(m_1v_0 = m_1V_{A1} + m_2V_{B1}\) と \(V_{A1}=V_{B1}\) を解く。
- (2) 最接近距離:
- 戦略: エネルギー保存則(初期状態 ⇔ 最接近時)。
- フロー: \(\frac{1}{2}m_1v_0^2 = \frac{1}{2}(m_1+m_2)V_{A1}^2 + k\frac{q_1q_2}{d}\) に(1)の結果を代入し、\(d\)を求める。
- (3) 最終速度:
- 戦略: ①運動量保存則、②エネルギー保存則(初期状態 ⇔ 最終状態)を連立。
- フロー: \(m_1v_0 = m_1V_{A2} + m_2V_{B2}\) と \(\frac{1}{2}m_1v_0^2 = \frac{1}{2}m_1V_{A2}^2 + \frac{1}{2}m_2V_{B2}^2\) を連立方程式として解く。
- (4) グラフ:
- 戦略: (3)の式を \(x=m_2/m_1\) で変数変換し、関数の概形を調べる。
- フロー: \(V_{A2} = \frac{1-x}{1+x}v_0\), \(V_{B2} = \frac{2}{1+x}v_0\) の形にし、主要な点(\(x \to 0, x=1, x=3\))の値を計算してプロットする。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 換算質量の導入: 問(2)のエネルギー計算では、\(\mu = \frac{m_1 m_2}{m_1+m_2}\) という「換算質量」の概念を知っていると、\(k\frac{q_1 q_2}{d} = \frac{1}{2}\mu v_0^2\) と見通しよく式変形できます。これは相対運動のエネルギーが位置エネルギーに変換されたと解釈するもので、大学レベルの力学につながる考え方です。
- 式の対称性: 問(3)で得られる速度の式は、添字の1と2を入れ替えると対称的な形にはなっていません。これは初期条件が非対称(Bが静止)だからです。式の形を見て、物理的な状況を反映しているかを確認する癖も有効です。
- 変数変換: 問(4)のように、数式を特定の変数で整理し直す作業は、物理現象を別の視点から見る良い訓練になります。分母・分子を同じ量で割る、という操作は頻出テクニックです。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (3) 最終速度: もし \(m_1=m_2\) なら、\(V_{A2}=0, V_{B2}=v_0\) となり、ビリヤードの球のように速度が完全に入れ替わります。もしBが壁のように非常に重い(\(m_2 \to \infty\))なら、\(V_{A2} \to -v_0, V_{B2} \to 0\) となり、Aは壁に弾性衝突して跳ね返るのと同じ結果になります。これらの極端な場合を考えることで、式の正しさを確信できます。
- (4) グラフ: グラフから、\(V_{B2}\)は常に正であり、Aから斥力を受けて必ず前方に動き出すことがわかります。一方、\(V_{A2}\)は \(m_2 > m_1\) となると負になり、Aが跳ね返されることを示しています。これも直感と一致する妥当な結果です。
問題105 (関西大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、帯電した導体球や導体球殻が作る電場と電位について、ガウスの法則の基本的な考え方から、同心球殻コンデンサーの電気容量の計算までを、文章の空欄を埋める形で段階的に理解させていく構成になっています。
この問題の核心は、(1)球対称な電荷分布が作る電場は、中心に全電荷が集まった点電荷が作るものと同じとみなせること、(2)導体内部では電場が0で電位が一定(等電位)であること、(3)導体球殻は内部に電場を作らないこと、という導体の静電的性質を正しく理解し、適用することです。
- 物理定数: クーロンの法則の比例定数\(k_0\)。
- 図1: 半径\(a\)の金属球M、電荷\(+Q\)。
- 図2: 内半径\(b\)、外半径\(c\)の金属球殻N、電荷\(-Q\)。
- 図3: 金属球Mを金属球殻Nで囲んだ同心球構造。Mの電荷\(+Q\)、Nの電荷\(-Q\)。
- 幾何学的条件: \(a<b<c\)。
- 基準電位: 無限遠方を0とする。
- [ア] 電気量\(q\)の点電荷から出る電気力線の本数\(n\)。
- [イ] 図1、\(x \ge a\)での電場\(E\)。
- [ウ] 図1、\(x \ge a\)での電位\(V\)。
- [エ] 図1、\(x < a\)での電場\(E\)。
- [オ] 図1、\(x < a\)での電位\(V\)。
- [カ] 図3、\(a < x < b\)での電場\(E’\)。
- [キ] 図3、金属球Mの金属球殻Nに対する電位\(V_{NM}\)。
- [ク] 図3のコンデンサーの電気容量\(C\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「導体球・球殻が作る電場と電位」です。ガウスの法則と導体の性質を理解していれば、空欄をスムーズに埋めることができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ガウスの法則: 電荷から出る電気力線の総数は\(4\pi k_0 q\)で与えられます。また、球対称な電荷分布の場合、その外側に作る電場は、中心に全電荷が集まった点電荷が作る電場と同じになります。
- 導体の静電的性質:
- 導体内部(金属の中)の電場は常に0です。
- 導体は全体が等電位です。したがって、導体内部の電位は表面の電位と等しくなります。
- 導体球殻(中空の導体)は、その内部の空間に電場を作りません(静電遮蔽)。
- 電場と電位の関係: 電場\(E\)が分かっているとき、電位\(V\)は電場を積分することで求められます。特に、点電荷が作る電場 \(E=k_0 Q/x^2\) からは、電位 \(V=k_0 Q/x\) が導かれます。
- コンデンサーの電気容量: 2つの導体間の電位差\(V\)と蓄えられた電荷\(Q\)の間には、\(Q=CV\)という関係が成り立ちます。この\(C\)が電気容量です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- [ア]では、ガウスの法則の公式を思い出します。
- [イ]~[オ]では、帯電した導体球の性質(外部は点電荷と等価、内部は電場0・等電位)を適用します。
- [カ]~[ク]では、同心球殻コンデンサーについて考えます。球殻Nが内部に電場を作らないことを利用して、MとNの間の電場を求め、そこから電位差、電気容量を順に導出します。
[ア]
思考の道筋とポイント
電気量\(q\)の点電荷から出る電気力線の総数\(n\)を問われています。これはガウスの法則の基本公式そのものです。
この設問における重要なポイント
- ガウスの法則の公式を知っていること。
具体的な解説と立式
ガウスの法則によれば、電荷\(q\)から出る電気力線の総数\(n\)は、クーロンの法則の比例定数\(k_0\)を用いて次のように表されます。
$$ n = 4\pi k_0 q $$
使用した物理公式
- ガウスの法則
立式そのものが答えです。
電気力線の本数は、電荷の量に比例します。この比例定数が\(4\pi k_0\)です。
[イ], [ウ]
思考の道筋とポイント
半径\(a\)の金属球M(電荷\(Q\))が、その外部(\(x \ge a\))に作る電場\(E\)と電位\(V\)を求めます。ガウスの法則により、球対称な電荷分布がその外側に作る電場・電位は、中心に全電荷が集まった点電荷が作るものと全く同じになります。
この設問における重要なポイント
- 球対称な導体の外部の電場・電位は、中心にある同量の点電荷のものと等価である。
- 点電荷が作る電場と電位の公式を適用する。
具体的な解説と立式
金属球Mの中心Oに、電荷\(Q\)の点電荷があるとみなすことができます。
- 電場 E ([イ]): 中心Oから距離\(x\)の点の電場は、点電荷の公式より、
$$ E = k_0 \frac{Q}{x^2} $$ - 電位 V ([ウ]): 同様に、中心Oから距離\(x\)の点の電位は、
$$ V = k_0 \frac{Q}{x} $$
使用した物理公式
- 点電荷が作る電場: \(E = k_0 \displaystyle\frac{Q}{r^2}\)
- 点電荷が作る電位: \(V = k_0 \displaystyle\frac{Q}{r}\)
公式を適用するだけで答えが得られます。
[エ], [オ]
思考の道筋とポイント
金属球Mの内部(\(x < a\))の電場\(E\)と電位\(V\)を求めます。導体の重要な性質「内部の電場は0」「内部は等電位」を適用します。
この設問における重要なポイント
- 導体内部の電場は常に0である。
- 導体内部の電位は、表面の電位と等しく、一定である。
具体的な解説と立式
- 電場 E ([エ]): 導体内部では、静電誘導によって電荷が再配置し、外部の電場を打ち消すため、電場は常に0になります。
$$ E = 0 $$ - 電位 V ([オ]): 導体内部は等電位であり、その値は表面の電位に等しくなります。表面の電位は、[ウ]の式で\(x=a\)としたときの値です。
$$ V = V(a) = k_0 \frac{Q}{a} $$
使用した物理公式
- 導体の静電的性質
導体の性質を適用するだけで答えが得られます。
[カ]
思考の道筋とポイント
図3において、金属球Mと金属球殻Nの間(\(a < x < b\))の電場\(E’\)を求めます。この領域の電場は、Mが作る電場とNが作る電場の重ね合わせです。ここで、導体球殻Nはその内部の空間に電場を作らない(静電遮蔽)という性質を使います。
この設問における重要なポイント
- 電場は重ね合わせの原理に従う。
- 導体球殻は、その内部に電場を作らない。
具体的な解説と立式
領域 \(a < x < b\) における電場\(E’\)は、
$$ E’ = (\text{Mが作る電場}) + (\text{Nが作る電場}) $$
- Mが作る電場: Mは中心に電荷\(Q\)の点電荷があるとみなせるので、距離\(x\)の点に作る電場は \(k_0 \displaystyle\frac{Q}{x^2}\) です。
- Nが作る電場: 導体球殻Nは、その内部(\(x<b\))には電場を作りません。
したがって、合成電場はMが作る電場のみとなります。
$$ E’ = k_0 \frac{Q}{x^2} + 0 = k_0 \frac{Q}{x^2} $$
使用した物理公式
- 電場の重ね合わせの原理
- 導体球殻の性質(静電遮蔽)
立式そのものが答えです。
[キ]
思考の道筋とポイント
金属球殻Nに対する金属球Mの電位\(V_{NM}\)を求めます。これはMとNの電位差 \(V_M – V_N\) を意味します。
導体は等電位なので、Mの電位は\(V_M = V(a)\)、Nの電位は\(V_N = V(b)\)となります。
(カ)で求めた間の電場 \(E’ = k_0 Q/x^2\) は、中心に点電荷Qがある場合の電場と同じ形です。したがって、この空間の電位も、中心に点電荷Qを置いたときの電位の式 \(V(x) = k_0 Q/x + C’\)(\(C’\)は積分定数)で表せると考えられます。この式を用いて、\(x=a\)と\(x=b\)での電位差を計算します。
この設問における重要なポイント
- 導体は等電位であり、その電位は表面の電位で代表される。
- 間の空間の電場が点電荷状であるため、電位も点電荷の公式から類推できる。
- 電位差を計算する際には、基準(積分定数)が相殺されるため、無限遠基準でなくても計算できる。
具体的な解説と立式
金属球Mの電位\(V_M\)は、その表面 \(x=a\) での電位に等しい。同様に、金属球殻Nの電位\(V_N\)は、その内表面 \(x=b\) での電位に等しい。
$$ V_M = V(a), \quad V_N = V(b) $$
よって、求める電位差\(V_{NM}\)は、
$$ V_{NM} = V_M – V_N = V(a) – V(b) $$
領域 \(a<x<b\) の電場は \(E’ = k_0 Q/x^2\) であり、これは中心に点電荷Qがある場合の電場と同じです。この電場に対応する電位は \(V(x) = k_0 Q/x + C’\) (\(C’\)は積分定数)と書けます。
したがって、
$$ V(a) = k_0 \frac{Q}{a} + C’ $$
$$ V(b) = k_0 \frac{Q}{b} + C’ $$
これらの差をとることで、電位差\(V_{NM}\)を求めます。
使用した物理公式
- 導体の等電位性
- 点電荷が作る電位の式
$$
\begin{aligned}
V_{NM} &= V(a) – V(b) \\[2.0ex]&= \left(k_0 \frac{Q}{a} + C’\right) – \left(k_0 \frac{Q}{b} + C’\right) \\[2.0ex]&= k_0 \frac{Q}{a} – k_0 \frac{Q}{b} \\[2.0ex]&= k_0 Q \left(\frac{1}{a} – \frac{1}{b}\right) \\[2.0ex]&= k_0 Q \frac{b-a}{ab}
\end{aligned}
$$
別解: 電場の積分による計算
思考の道筋とポイント
電位差は、電場を積分することで直接計算することもできます。電位差 \(V_{NM} = V_M – V_N\) は、電場\(E’\)をNからMまで(経路に沿って\(x\)が\(b \to a\)と変化)線積分した値に等しくなります。
$$ V_{NM} = V_M – V_N = \int_b^a (-E’) dx = \int_a^b E’ dx $$
この設問における重要なポイント
- 電位差と電場の関係 \(V = -\int E dx\) を理解していること。
- 定積分の計算を正しく実行できること。
具体的な解説と立式
電位差\(V_{NM}\)は、MとNの間の電場 \(E’ = k_0 \displaystyle\frac{Q}{x^2}\) を、Mの表面(\(x=a\))からNの内表面(\(x=b\))まで積分することで求められます。
$$ V_{NM} = \int_a^b E’ dx $$
- 電位と電場の関係: \(V = -\int E dx\)
$$
\begin{aligned}
V_{NM} &= \int_a^b k_0 \frac{Q}{x^2} dx \\[2.0ex]&= k_0 Q \left[ -\frac{1}{x} \right]_a^b \\[2.0ex]&= k_0 Q \left( -\frac{1}{b} – (-\frac{1}{a}) \right) \\[2.0ex]&= k_0 Q \left( \frac{1}{a} – \frac{1}{b} \right) \\[2.0ex]&= k_0 Q \frac{b-a}{ab}
\end{aligned}
$$
[ク]
思考の道筋とポイント
この同心球殻コンデンサーの電気容量\(C\)を求めます。コンデンサーの基本公式 \(Q=CV\) を使います。電荷は\(Q\)、電位差は(キ)で求めた\(V_{NM}\)です。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーの電気容量の定義式 \(Q=CV\) を使う。
具体的な解説と立式
コンデンサーの定義式 \(Q=CV\) を \(C\) について解くと、\(C = \displaystyle\frac{Q}{V}\) となります。
ここで、電荷は\(Q\)、電位差は \(V_{NM}\) なので、
$$ C = \frac{Q}{V_{NM}} $$
[キ]で求めた \(V_{NM} = k_0 Q \displaystyle\frac{b-a}{ab}\) を代入します。
使用した物理公式
- 電気容量の定義: \(Q=CV\)
$$
\begin{aligned}
C &= \frac{Q}{k_0 Q \frac{b-a}{ab}} \\[2.0ex]&= \frac{ab}{k_0(b-a)}
\end{aligned}
$$
電気容量とは、「1Vの電位差を与えるのに、どれだけの電荷が必要か」という指標です。このコンデンサーでは、\(V_{NM}\)の電位差を生じさせるのに\(Q\)の電荷が必要だったので、\(C=Q/V_{NM}\)で計算できます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ガウスの法則とその応用(球対称性):
- 核心: 任意の閉曲面を貫く電気力線の総数は、その内部にある総電荷に比例する (\(N=4\pi k_0 Q_{内部}\)) という法則です。
- 理解のポイント: この法則から導かれる最も重要な応用例が、「球対称な電荷分布がその外側に作る電場は、中心に全電荷が集まった点電荷が作る電場と同一とみなせる」というものです。この問題では、金属球Mが外部に作る電場[イ]や電位[ウ]は、すべてこの考え方に基づいています。これにより、複雑な導体の問題を単純な点電荷の問題に置き換えることができます。
- 導体の静電的性質:
- 核心: 静電平衡状態にある導体は、その全体が等電位となり、内部の電場は0になります。
- 理解のポイント:
- 電場0 ([エ]): 導体内部に電場が存在すると、内部の自由電子が力を受けて移動してしまい、静電平衡ではなくなるため、最終的に電場は0になります。
- 等電位 ([オ]): 電場が0なので、内部のどの2点を取っても電位差は0です。したがって、導体全体が表面と同じ電位になります。
- 静電遮蔽 ([カ]): 導体球殻は、その内部の空間に電場を作りません。これは、球殻自身が持つ電荷(この問題では-Q)や、さらにその外側にある電荷が、内部に影響を及ぼさないことを意味します。この性質のおかげで、[カ]の電場は金属球Mが作るものだけを考えればよくなります。
- 電位差と電気容量:
- 核心: 2つの導体間の電位差は、それらの間の電場を積分することで求められます。そして、その電位差\(V\)と蓄えられた電荷\(Q\)の比が、コンデンサーとしての性能を表す電気容量\(C=Q/V\)を定義します。
- 理解のポイント: [キ]では、MとNの間の電場が点電荷状の \(E’ = k_0 Q/x^2\) であることから、電位差を \(V_{NM} = V(a)-V(b)\) として計算しました。これは電場を積分する操作に相当します。そして[ク]では、この電位差と電荷Qの関係から、系の幾何学的形状(半径a, b)だけで決まる電気容量を導出しています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 同軸円筒コンデンサー: 中心の導体円柱と外側の導体円筒からなるコンデンサー。ガウスの法則を用いて円柱から距離rの点の電場を求め(\(E \propto 1/r\))、それを積分して電位差を計算し、電気容量を求める、という本問と全く同じ思考フローで解くことができます。
- 多重球殻構造: 3層、4層と同心球殻が重なった問題。どの領域の電場を考えるかによって、ガウスの法則を適用する閉曲面の内側にある総電荷が変化します。各領域の電場を求め、それらを積分して各点・各導体の電位を計算していくことで、複雑な問題も解きほぐせます。
- 導体球に点電荷を近づける問題: 対称性が崩れるため、電場や電位の計算は複雑になりますが、「導体全体が等電位になる」という性質は常に成り立ちます。この等電位条件が、問題を解く上での重要な制約条件となります。
- 初見の問題での着眼点:
- 電荷分布の対称性を確認: まず、問題の導体の形が球対称、円筒対称、平面対称など、ガウスの法則を適用しやすい形かを確認します。
- 導体か絶縁体かを見極める: 問題に出てくる物体が「導体」であれば、「内部電場0」「等電位」という強力な性質が使えます。
- 電場を問われているか、電位を問われているか:
- 「電場」なら、ガウスの法則や重ね合わせの原理(ベクトル和)を考えます。
- 「電位」なら、電場を積分するか、点電荷の公式 \(V=k_0Q/r\) の重ね合わせ(スカラー和)を考えます。
- 「電位差」や「電気容量」を問われたら: 2つの導体間の電場を特定し、それを積分して電位差を求める、という流れを思い描きましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 導体内部の電位を0と勘違いする:
- 誤解: 導体内部は電場が0だから、電位も0だと思ってしまう。
- 対策: 電場は「電位の傾き」です。傾きが0でも、高さが0とは限りません。平らな地面(電場0)が、標高100m(電位が0でない)に存在できるのと同じです。導体内部の電位は「一定」ではありますが、0とは限らず、表面の電位と等しくなります。
- 位置エネルギーと電位の混同:
- 誤解: 電荷\(q_1\)と\(q_2\)が距離rだけ離れているときの位置エネルギーを \(U=k_0 q_1/r\) のように、片方の電荷だけで考えてしまう。
- 対策: 電位\(V\)は「単位電荷あたりの位置エネルギー」です。電荷\(q_1\)が作る電位は \(V_1 = k_0 q_1/r\)。その場所に電荷\(q_2\)を置いたときの位置エネルギーは \(U = q_2 V_1 = k_0 q_1 q_2/r\) となります。必ず2つの電荷の積になることを意識しましょう。
- コンデンサーの電荷Qの意味:
- 誤解: コンデンサーの電気量Qを、2つの導体の電荷の合計(この問題では \(Q+(-Q)=0\))だと考えてしまう。
- 対策: コンデンサーの電気容量の定義式 \(Q=CV\) に出てくる\(Q\)は、通常「正極側の導体に蓄えられた電荷の絶対値」を指します。2つの導体には、大きさが等しく符号が逆の電荷が蓄えられているのが基本です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- ガウスの法則の適用イメージ: 電場を求めたい点を通るような同心球面(ガウス面)を想像します。その球面の内側にある電荷の合計だけが、その点の電場に寄与します。例えば、[カ]で \(a<x<b\) の電場を考えるときは、半径xのガウス面を考え、その内側には球Mの電荷Qしかないため、Nの電荷-Qは無視できる、と視覚的に理解できます。
- 電位のグラフ: 問題のヒント図(b)のように、電場と電位のグラフをセットで描くと、両者の関係がよくわかります。電場が \(1/x^2\) で減少する領域では、電位は \(1/x\) で緩やかに減少し、電場が0の領域では、電位は一定(水平)になります。この対応関係を理解することが重要です。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 電荷の分布: 導体表面に電荷がどのように分布するかを図に描き込むと理解が深まります。図3では、Mの+Qに引かれて、Nの内表面に-Qが、外表面に0の電荷が分布します(Nの総電荷が-Qなので)。
- 電気力線: 電気力線は正電荷から出て負電荷に入り、導体表面に垂直に出入りし、導体内部には存在しません。これらのルールに従って電気力線を描くことで、電場の様子を直感的に把握できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ガウスの法則 \(n=4\pi k_0 q\):
- 選定理由: [ア]で「電気力線の本数」が直接問われているため。また、球対称な導体の電場を考える上での最も基本的な出発点だからです。
- 適用根拠: 電荷が存在すれば、その周りに必ず電気力線が生じるという電磁気学の基本法則。
- 点電荷とみなす考え方 \(E=k_0Q/x^2, V=k_0Q/x\):
- 選定理由: [イ],[ウ]で球の外側の電場・電位を求めるため。ガウスの法則の結論として、計算を大幅に簡略化できるこの等価な考え方を用いるのが最も効率的です。
- 適用根拠: 電荷分布が球対称であるという条件。
- 導体内部の性質 \(E=0, V=一定\):
- 選定理由: [エ],[オ]で導体内部の電場・電位を求めるため。これは導体の定義からくる最も重要な性質です。
- 適用根拠: 静電平衡状態にある導体であるという条件。
- 電気容量の定義 \(Q=CV\):
- 選定理由: [ク]で「電気容量」という系の性能を表す量を求めるため。
- 適用根拠: 2つの導体に電荷を与えると、その間に電位差が生じるというコンデンサーの基本原理。この関係式は、その比例係数として\(C\)を定義するものです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- [ア] 電気力線の本数:
- 戦略: ガウスの法則の公式を思い出す。
- フロー: \(n=4\pi k_0 q\)。
- [イ][ウ] 球Mの外部:
- 戦略: 中心にある点電荷Qとみなす。
- フロー: 点電荷の公式 \(E=k_0Q/x^2\), \(V=k_0Q/x\) を適用。
- [エ][オ] 球Mの内部:
- 戦略: 導体の静電的性質を適用。
- フロー: 内部電場は \(E=0\)。内部電位は表面の電位と等しいので、[ウ]の式に \(x=a\) を代入して \(V=k_0Q/a\)。
- [カ] MとNの間:
- 戦略: 電場の重ね合わせ + 静電遮蔽。
- フロー: 球殻Nは内部に電場を作らないので、球Mが作る電場 \(E’=k_0Q/x^2\) のみ。
- [キ] 電位差:
- 戦略: MとNの間の電位は点電荷状の電位で表せるので、その差を計算。
- フロー: \(V_{NM} = V(a) – V(b) = k_0Q/a – k_0Q/b\)。
- [ク] 電気容量:
- 戦略: コンデンサーの定義式 \(C=Q/V\) を適用。
- フロー: \(C = Q/V_{NM}\) に[キ]の結果を代入して整理。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の区別: \(q\)と\(Q\)、\(a, b, c\)と\(x\)など、多くの文字が登場します。どの文字が定数で、どれが変数か、どの電荷がどの物体に対応するかを混同しないように注意しましょう。
- 分数の計算 : [キ]や[ク]では、分数の計算(通分)が出てきます。\(\frac{1}{a} – \frac{1}{b} = \frac{b-a}{ab}\) のような基本的な計算を素早く正確に行うことが求められます。
- 公式の暗記精度: 点電荷の電場(\(r^2\)に反比例)と電位(\(r\)に反比例)の公式は、混同しやすい代表例です。なぜそうなるのか(電位は電場を積分したもの)という関係性まで含めて理解しておくと、間違いが減ります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- [オ] \(V=k_0Q/a\): 導体内部の電位が0ではなく、有限の正の値になるのは、無限遠から表面まで電荷を運ぶのに仕事が必要だからです。物理的に妥当です。
- [キ] \(V_{NM} = k_0 Q (\frac{1}{a} – \frac{1}{b})\): \(a<b\)なので、\(\frac{1}{a} > \frac{1}{b}\)となり、電位差は正です。これは、正電荷を帯びた内側の球Mの方が、外側の球殻Nより電位が高いことを意味しており、電気力線がMからNへ向かうことと整合性がとれています。
- [ク] \(C = \frac{ab}{k_0(b-a)}\): もし球殻の隙間を非常に大きくする(\(b \to \infty\))と、\(C \to a/k_0 = 4\pi\varepsilon_0 a\) となります。これは孤立した導体球の電気容量の公式と一致し、結果の正しさを裏付けています。
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