問題11 (芝浦工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、静止摩擦力と力のモーメントのつり合いを扱う、剛体のつり合いに関する典型的な問題です。棒、小物体、床、壁が登場し、それぞれの間に働く力を正確に把握し、力のつり合いとモーメントのつり合いの式を立てることが求められます。特に、問(3)では、棒が滑り出す限界の条件を考える必要があります。
- 棒: 質量 \(M\)、長さ \(l\)、一様
- 棒の傾き: 床と角 \(\theta\)
- 小物体P: 質量 \(m\)
- Pの位置 (問(1)時点): 棒の中点 (Aから \(\displaystyle\frac{l}{2}\))
- Pと棒の間: 粗く、Pは静止
- A点: 床から摩擦力を受ける
- 壁: なめらか(摩擦なし)
- 重力加速度: \(g\)
- 棒と床の間の静止摩擦係数: \(\mu\)
- A点で棒が床から受ける摩擦力の大きさ \(F\)
- 棒が静止しているための \(\mu\) の条件
- PをAからの距離 \(x\) に置いたとき、棒が滑らずに静止する限界の \(x\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1) 摩擦力\(F\)の別解: B点を回転軸としてモーメントのつり合いを考える解法
- 主たる解法が未知力の多いA点を回転軸に選んで計算を簡略化するのに対し、別解では壁との接点Bを回転軸に選びます。これにより、異なる連立方程式を解くことになりますが、最終的な答えは一致します。
- 問(1) 摩擦力\(F\)の別解: B点を回転軸としてモーメントのつり合いを考える解法
- 上記の別解が有益である理由
- 原理の確認: 「力のモーメントのつり合いは、どの点を回転軸に選んでも成立する」という剛体のつり合いにおける基本原理を、具体的な計算を通して確認できます。
- 解法選択の学習: なぜA点を回転軸に選ぶ方が計算が簡潔になるのかを比較検討することで、問題に応じて最適な解法を選択する戦略的な思考力が養われます。
- 結果への影響
- 計算の出発点となる式は異なりますが、物理法則に基づいて正しく計算すれば、最終的に得られる答えは主たる解法と完全に一致します。
この問題のテーマは「剛体のつり合い」です。剛体が静止している状態を分析するには、並進運動しないための「力のつり合い」と、回転運動しないための「力のモーメントのつり合い」という2つの条件を同時に考える必要があります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: 物体に働く力のベクトル和がゼロになります。水平方向と鉛直方向に分けて、それぞれの力の総和が\(0\)になるように式を立てます。(水平方向の力の総和\( = 0\), 鉛直方向の力の総和\( = 0\))
- 力のモーメントのつり合い: 任意の点のまわりの力のモーメントの代数和がゼロになります。(ある点のまわりの力のモーメントの和\( = 0\)) 計算を簡単にするため、未知の力が多く集まる点を回転軸に選ぶのが基本的な手順です。
- 静止摩擦力: 物体が滑り出さないように働く摩擦力で、その大きさは最大静止摩擦力 \(\mu N\) を超えません。(\(F \le \mu N\)) 「滑り出す限界」という状況では、静止摩擦力は最大値 \(F = \mu N\) となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、対象となる棒にはたらく力をすべて図示します(重力、垂直抗力、摩擦力など)。
- 問(1)では、力のつり合いと力のモーメントのつり合いの式を立て、連立して摩擦力\(F\)を求めます。
- 問(2)では、静止摩擦力の条件 \(F \le \mu N\) を用いて、静止摩擦係数\(\mu\)が満たすべき条件を導きます。
- 問(3)では、「滑り出す限界」という条件から \(F = \mu N\) として、小物体Pの位置\(x\)を変数としたモーメントのつり合いの式を解きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
棒が静止しているので、力のつり合いと力のモーメントのつり合いが成り立っています。まず、棒にはたらく力をすべて図示します。次に、力のモーメントのつり合いを考えますが、このとき回転軸をどこに選ぶかが重要です。未知の力である垂直抗力\(N\)と摩擦力\(F\)がはたらくA点(床との接点)を回転軸に選ぶと、これらの力のモーメントが0になり、式が簡単になります。A点周りのモーメントのつり合いから壁からの垂直抗力\(R\)を求め、最後に水平方向の力のつり合いから摩擦力\(F\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 棒にはたらくすべての力(重力\(Mg\), 小物体による力\(mg\), 床からの垂直抗力\(N\), 床からの静止摩擦力\(F\), 壁からの垂直抗力\(R\))を正確に図示する。
- 力のモーメントの計算を簡単にするため、未知の力が集中するA点を回転軸として選ぶ。
- モーメントのつり合いの式と、水平方向の力のつり合いの式を連立させる。
具体的な解説と立式
棒ABにはたらく力は以下の通りです。
- 棒の重力 \(Mg\): 棒の中点に下向きにはたらく。
- 小物体の重力 \(mg\): 棒の中点に下向きにはたらく。
- 床からの垂直抗力 \(N\): A点に上向きにはたらく。
- 床からの静止摩擦力 \(F\): A点に左向きにはたらく。
- 壁からの垂直抗力 \(R\): B点に右向きにはたらく。
A点を回転軸として、力のモーメントのつり合いの式を立てます(反時計回りを正とします)。
- 重力 \(Mg\) によるモーメント: 腕の長さが \(\displaystyle\frac{l}{2}\cos\theta\) で反時計回りなので、\(+Mg \cdot \displaystyle\frac{l}{2}\cos\theta\)。
- 重力 \(mg\) によるモーメント: 腕の長さが \(\displaystyle\frac{l}{2}\cos\theta\) で反時計回りなので、\(+mg \cdot \displaystyle\frac{l}{2}\cos\theta\)。
- 垂直抗力 \(R\) によるモーメント: 腕の長さが \(l\sin\theta\) で時計回りなので、\(-R \cdot l\sin\theta\)。
- \(N\)と\(F\)はA点にはたらくのでモーメントは0。
これらの和が0になるので、
$$ Mg \cdot \frac{l}{2}\cos\theta + mg \cdot \frac{l}{2}\cos\theta – R \cdot l\sin\theta = 0 \quad \cdots ① $$
次に、水平方向の力のつり合いの式を立てます(右向きを正とします)。
$$ R – F = 0 \quad \cdots ② $$
また、鉛直方向の力のつり合いの式を立てます(上向きを正とします)。
$$ N – Mg – mg = 0 \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 力のつり合い: 水平方向の力の総和\( = 0\), 鉛直方向の力の総和\( = 0\)
- 力のモーメントのつり合い: ある点のまわりの力のモーメントの和\( = 0\)
まず、式①から\(R\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
R \cdot l\sin\theta &= Mg \cdot \frac{l}{2}\cos\theta + mg \cdot \frac{l}{2}\cos\theta \\[2.0ex]
R \cdot l\sin\theta &= (M+m)g \frac{l}{2}\cos\theta
\end{aligned}
$$
両辺を \(l\sin\theta\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
R &= (M+m)g \frac{l\cos\theta}{2l\sin\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{(M+m)g}{2} \frac{\cos\theta}{\sin\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{(M+m)g}{2\tan\theta}
\end{aligned}
$$
次に、式②より \(F=R\) なので、
$$ F = \frac{(M+m)g}{2\tan\theta} $$
棒が倒れたり動いたりしないためには、力が釣り合っている必要があります。特に「回転しない」という条件を考えます。A点を中心に考えると、棒の重さ(\(Mg\))と小物体の重さ(\(mg\))は棒を反時計回りに回そうとし、壁が押す力(\(R\))は時計回りに回そうとします。この「回そうとする作用」のつり合いから、壁が押す力\(R\)が計算できます。さらに、棒が「横滑りしない」ためには、壁が右向きに押す力\(R\)と、床が左向きに支える摩擦力\(F\)が同じ大きさでなければなりません。したがって、求めた\(R\)がそのまま摩擦力\(F\)の答えになります。
A点で棒が床から受ける摩擦力の大きさは \(F = \displaystyle\frac{(M+m)g}{2\tan\theta}\) となります。
この結果は、棒の傾き\(\theta\)が小さい(棒が寝ている)ほど \(\tan\theta\) が小さくなり、摩擦力\(F\)が大きくなることを示しています。これは、棒が寝ているほど滑りやすくなり、それを防ぐためにより大きな摩擦力が必要になるという直感と一致しており、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
力のモーメントのつり合いは、どの点を回転軸に選んでも成立します。ここでは、壁との接点Bを回転軸としてみましょう。この場合、壁からの垂直抗力\(R\)のモーメントは0になりますが、床からの垂直抗力\(N\)と摩擦力\(F\)のモーメントが式に現れます。鉛直方向の力のつり合いから\(N\)を求め、モーメントのつり合いの式に代入することで、摩擦力\(F\)を直接求めることができます。
この設問における重要なポイント
- B点を回転軸としたときの、各力の腕の長さを正確に求める。
- モーメントのつり合いの式と、鉛直方向の力のつり合いの式を連立させる。
具体的な解説と立式
B点を回転軸として、力のモーメントのつり合いの式を立てます(反時計回りを正とします)。
- 床からの垂直抗力 \(N\): 腕の長さは \(l\cos\theta\)。反時計回りなので、\(+N \cdot l\cos\theta\)。
- 床からの静止摩擦力 \(F\): 腕の長さは \(l\sin\theta\)。時計回りなので、\(-F \cdot l\sin\theta\)。
- 棒の重力 \(Mg\): 腕の長さは \(\displaystyle\frac{l}{2}\cos\theta\)。時計回りなので、\(-Mg \cdot \displaystyle\frac{l}{2}\cos\theta\)。
- 小物体の重力 \(mg\): 腕の長さは \(\displaystyle\frac{l}{2}\cos\theta\)。時計回りなので、\(-mg \cdot \displaystyle\frac{l}{2}\cos\theta\)。
- 壁からの垂直抗力 \(R\): B点にはたらくのでモーメントは0。
以上のモーメントの和が0になるので、
$$ N \cdot l\cos\theta – F \cdot l\sin\theta – Mg \cdot \frac{l}{2}\cos\theta – mg \cdot \frac{l}{2}\cos\theta = 0 \quad \cdots ④ $$
この式には未知数が\(N\)と\(F\)の2つありますが、鉛直方向の力のつり合いの式③ \(N = (M+m)g\) を使うことで、未知数を\(F\)だけにできます。
使用した物理公式
- 力のつり合い: 鉛直方向の力の総和\( = 0\)
- 力のモーメントのつり合い: ある点のまわりの力のモーメントの和\( = 0\)
式④に、式③ \(N = (M+m)g\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
(M+m)g \cdot l\cos\theta – F \cdot l\sin\theta – (M+m)g \cdot \frac{l}{2}\cos\theta &= 0
\end{aligned}
$$
\(F\)を含む項を右辺に移項し、左辺を整理します。
$$
\begin{aligned}
(M+m)g \left( l\cos\theta – \frac{l}{2}\cos\theta \right) &= F \cdot l\sin\theta \\[2.0ex]
(M+m)g \cdot \frac{l}{2}\cos\theta &= F \cdot l\sin\theta
\end{aligned}
$$
両辺を \(l\sin\theta\) で割ると、
$$ F = \frac{(M+m)g}{2} \frac{\cos\theta}{\sin\theta} = \frac{(M+m)g}{2\tan\theta} $$
今度は、壁との接点Bを中心に棒が回転しない条件を考えてみます。床が棒を押し上げる力(\(N\))は棒を反時計回りに回そうとし、床の摩擦力(\(F\))、棒の重さ(\(Mg\))、小物体の重さ(\(mg\))は時計回りに回そうとします。これらの「回そうとする作用」がすべて釣り合っているという式を立てることで、摩擦力\(F\)を直接計算することができます。
主たる解法と完全に同じ結果 \(F = \displaystyle\frac{(M+m)g}{2\tan\theta}\) が得られました。これにより、「回転軸はどこに選んでも良い」という原理が確認できます。ただし、A点を軸に取った方が、モーメントの式を立てた時点で未知数が\(R\)の1つだけになり、連立の手間が省けるため、計算がより簡潔になることがわかります。
問(2)
思考の道筋とポイント
棒が静止している、つまり滑らないためには、A点ではたらいている静止摩擦力\(F\)が、床が及ぼすことのできる最大の静止摩擦力\(\mu N\)を超えてはいけません。この条件 \(F \le \mu N\) に、問(1)で求めた\(F\)と、鉛直方向の力のつり合いから求まる\(N\)を代入することで、静止摩擦係数\(\mu\)が満たすべき条件式を導き出します。
この設問における重要なポイント
- 静止摩擦力が最大静止摩擦力を超えない、という条件 \(F \le \mu N\) を正しく適用する。
- 問(1)で立てた力のつり合いの式から、\(F\)と\(N\)の値を正確に代入する。
具体的な解説と立式
棒が滑らずに静止するための条件は、静止摩擦力\(F\)が最大静止摩擦力\(\mu N\)以下であることです。
$$ F \le \mu N $$
問(1)の結果から、
$$ F = \frac{(M+m)g}{2\tan\theta} $$
また、鉛直方向の力のつり合いの式③より、
$$ N = (M+m)g $$
これらの式を、静止するための条件式に代入します。
使用した物理公式
- 静止摩擦力の条件: \(F \le \mu N\)
\(F \le \mu N\) に \(F\) と \(N\) を代入すると、
$$ \frac{(M+m)g}{2\tan\theta} \le \mu (M+m)g $$
両辺に正の値である \((M+m)g\) があるので、これで割ることができます。
$$ \frac{1}{2\tan\theta} \le \mu $$
したがって、求める条件は、
$$ \mu \ge \frac{1}{2\tan\theta} $$
床が物体を支えられる摩擦力には限界があります。その限界の強さは、床の滑りにくさ(\(\mu\))と、床に押し付ける力(\(N\))で決まります。棒が滑らないためには、実際に必要となっている摩擦力(\(F\))が、この限界の強さ(\(\mu N\))を超えていなければよい、というわけです。この関係を数式にして整理すると、\(\mu\)が満たすべき条件がわかります。
棒が静止しているための条件は \(\mu \ge \displaystyle\frac{1}{2\tan\theta}\) となります。
この式は、\(\theta\)が小さい(棒が寝ている)ほど、\(\tan\theta\)が小さくなり、\(\mu\)が満たすべき下限値が大きくなることを意味します。つまり、棒を寝かせるほど、滑らないためにはより滑りにくい床(大きな\(\mu\))が必要になるということで、これも直感と一致する妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
小物体Pの位置をAからの距離 \(x\) に変えたとき、棒が「滑らずに静止する限界になった」という記述がポイントです。これは、静止摩擦力が最大値に達した、すなわち \(F = \mu N\) が成立する瞬間を指します。
Pの位置が\(x\)に変わったことで、Pの重力によるモーメントが変化します。それに伴い、壁からの垂直抗力\(R\)と摩擦力\(F\)も変化します(鉛直方向の力のつり合いは変わらないので\(N\)は不変)。
新しい条件で、A点周りのモーメントのつり合いの式を立て直し、そこに限界の条件 \(F = \mu N\) と水平方向の力のつり合い \(F=R\) を適用して、\(x\)について解きます。
この設問における重要なポイント
- 「限界になった」を「静止摩擦力が最大静止摩擦力に等しい(\(F = \mu N\))」と読み替える。
- Pの位置が変数\(x\)になったときの、Pの重力によるモーメント(腕の長さが \(x\cos\theta\))を正しく式に反映させる。
- 複数の式を連立させて解くため、計算を丁寧に行う。
具体的な解説と立式
Pの位置がAから距離\(x\)のとき、棒が滑る限界にあるとします。このとき、各力は以下のようになります。
- 床からの垂直抗力 \(N\): 鉛直方向の力のつり合いより、\(N = (M+m)g\)。これはPの位置\(x\)に依存しません。
- 床からの静止摩擦力 \(F\): 滑る限界なので、\(F = \mu N = \mu(M+m)g\)。
- 壁からの垂直抗力 \(R\): 水平方向の力のつり合いより、\(R = F = \mu(M+m)g\)。
次に、A点を回転軸として力のモーメントのつり合いの式を立てます。Pの重力によるモーメントの腕の長さが \(x\cos\theta\) になることに注意します。(反時計回りを正)
$$ Mg \cdot \frac{l}{2}\cos\theta + mg \cdot x\cos\theta – R \cdot l\sin\theta = 0 $$
この式に、上で求めた \(R = \mu(M+m)g\) を代入します。
$$ Mg \frac{l}{2}\cos\theta + mgx\cos\theta – \mu(M+m)g \cdot l\sin\theta = 0 $$
使用した物理公式
- 力のつり合い: 水平方向の力の総和\( = 0\), 鉛直方向の力の総和\( = 0\)
- 力のモーメントのつり合い: ある点のまわりの力のモーメントの和\( = 0\)
- 滑る限界の条件: \(F = \mu N\)
モーメントのつり合いの式を、未知数\(x\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
mgx\cos\theta &= \mu(M+m)g l\sin\theta – Mg \frac{l}{2}\cos\theta
\end{aligned}
$$
両辺を \(mg\cos\theta\) で割ります。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{\mu(M+m)g l\sin\theta}{mg\cos\theta} – \frac{Mg \frac{l}{2}\cos\theta}{mg\cos\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{\mu(M+m)l}{m} \frac{\sin\theta}{\cos\theta} – \frac{Ml}{2m} \\[2.0ex]
&= \frac{\mu(M+m)l}{m}\tan\theta – \frac{Ml}{2m}
\end{aligned}
$$
共通の因子 \(\displaystyle\frac{l}{2m}\) で式をまとめると、
$$ x = \frac{l}{2m} \{ 2\mu(M+m)\tan\theta – M \} $$
小物体Pを壁の方へ動かしていくと、Pの重さが棒を反時計回りに回そうとする作用が強くなります。これを支えるために壁が押す力\(R\)が大きくなり、それに伴って床の摩擦力\(F\)も大きくなる必要があります。やがて摩擦力が限界(\(\mu N\))に達したとき、棒はそれ以上支えきれずに滑り出します。この「限界」の瞬間の力のつり合い(特にモーメントのつり合い)を考えることで、そのときのPの位置\(x\)を計算することができます。
棒が滑らずに静止する限界となるPの位置は \(x = \displaystyle\frac{l}{2m} \{ 2\mu(M+m)\tan\theta – M \}\) となります。
この式を吟味してみましょう。床が滑りにくい(\(\mu\)が大きい)ほど、また棒が立っている(\(\theta\)が大きい、つまり\(\tan\theta\)が大きい)ほど、\(x\)は大きくなります。これは、より壁に近い、遠い位置にPを置いても滑らないということを意味し、物理的な直感と一致します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 剛体のつり合いの2大条件:
- 核心: この問題は、物体が静止し続けるための条件である「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」という、剛体力学の最も基本的な2つの法則を適用する問題です。
- 理解のポイント:
- 力のつり合い (力のベクトル和がゼロ): 棒が平行移動しないための条件です。具体的には、水平方向の力の総和と、鉛直方向の力の総和が、それぞれゼロになるという式を立てます。
- 力のモーメントのつり合い (ある点のまわりのモーメントの和がゼロ): 棒が回転しないための条件です。重要なのは、「どの点を回転軸に選んでも、その点のまわりのモーメントの総和はゼロになる」という点です。計算を簡単にするためのコツは、未知の力が多く集まる点(本問ではA点)を回転軸に選ぶことです。
- 静止摩擦力の条件:
- 核心: 棒が床を滑らないための条件として、静止摩擦力の性質を正しく理解することが求められます。
- 理解のポイント:
- 力の大きさ: 静止摩擦力\(F\)は、滑らせようとする力に応じて大きさが変わる力であり、常に \(0 \le F \le \mu N\) の範囲にあります。
- 限界条件: 問題文に「滑らずに静止する限界」や「滑り出す直前」といった表現がある場合、それは静止摩擦力が最大値 \(F = \mu N\) に達した瞬間を指します。この等式を条件として使うことが、問(3)を解く鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 壁が粗い場合のはしごの問題: 壁からも摩擦力がはたらくため、未知数が1つ増えますが、基本的な立式は同じです。
- 看板をワイヤーで吊るす問題: 張力が未知の力となり、力のつり合いとモーメントのつり合いを考えます。
- 物体が倒れるか滑るかを判定する問題: 「倒れる条件(垂直抗力の作用点が支持面の端に来る)」と「滑る条件(\(F > \mu N\))」を比較します。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の図示: まず、対象となる物体(剛体)を抜き出し、それにはたらくすべての力を矢印で正確に図示します。作用点を間違えないことが重要です。
- 回転軸の戦略的選択: モーメントのつり合いを考える際、どの点を回転軸に選ぶかで作式の複雑さが大きく変わります。未知の力が最も多く集まる点を選ぶと、それらの力のモーメントが0になり、計算が最も簡単になります。
- 条件の読み替え: 「静止している」「つりあっている」 \(\rightarrow\) 力とモーメントのつり合いが成立。「滑り出す限界」 \(\rightarrow\) \(F = \mu N\)。「倒れる限界」 \(\rightarrow\) 垂直抗力の作用点が支持面の端点に移動。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- モーメントの腕の長さの誤り:
- 誤解: 作用点までの距離をそのまま腕の長さとしてしまう。
- 対策: 腕の長さは「回転軸から、力の作用線に下ろした垂線の長さ」であることを常に意識する。図に垂線を描き込み、三角比(\(\sin\theta\), \(\cos\theta\))を使って正確に長さを求める習慣をつける。
- モーメントの符号(回転の向き)の間違い:
- 誤解: 回転の向きを感覚で決めてしまい、符号を間違える。
- 対策: 最初に「反時計回りを正」などと自分でルールを決め、それに従ってすべての力のモーメントの符号を機械的に決定する。図に回転方向の矢印を書き込むとミスが減ります。
- 静止摩擦力と最大静止摩擦力の混同:
- 誤解: 静止している物体にはたらく摩擦力を、常に \(F = \mu N\) として計算してしまう。
- 対策: \(F = \mu N\) は、あくまで「滑り出す限界」の特別な状況でのみ成り立つ等式だと理解する。それ以外の静止状態では、摩擦力\(F\)は力のつり合いから決定される未知数であり、\(F \le \mu N\) を満たす値をとります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (水平・鉛直方向の力の総和がゼロ):
- 選定理由: 問題文に「棒も静止したままであった」とあり、棒が並進運動(上下左右に動くこと)をしていないため。
- 適用根拠: ニュートンの運動方程式 \(ma = F\) において、加速度 \(a=0\) の状態が「つり合い」です。
- 力のモーメントのつり合いの式 (ある点のまわりのモーメントの和がゼロ):
- 選定理由: 同じく「棒も静止したままであった」とあり、棒が回転運動をしていないため。
- 適用根拠: 回転の運動方程式 \(I\alpha = M\) において、角加速度 \(\alpha=0\) の状態が「モーメントのつり合い」です。
- 静止摩擦力の限界条件 (\(F = \mu N\)):
- 選定理由: 問(3)で「静止する限界になった」という、まさに滑り出すか滑り出さないかの境目の状態を問われているため。
- 適用根拠: これは実験的に得られた摩擦に関する法則であり、この特定の物理的状況を表すための条件式です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の確認:
- 特に注意すべき点: モーメントの計算では、回転の向き(時計回りか反時計回りか)による符号の付け間違いが頻発します。最初に決めた正の向き(例:反時計回りが正)を、最後まで貫徹することが重要です。
- 日頃の練習: 式を立てる前に、各力のモーメントの向きを矢印で図に書き込む癖をつける。
- 文字式の整理:
- 特に注意すべき点: \(M, m, l, g, \theta, \mu, x\) など多くの文字が登場するため、移項や代入の際に項を書き間違えたり、符号を誤ったりしやすいです。
- 日頃の練習: 途中式を省略せず、一行一行丁寧に変形する。特に、モーメントの式は \(l\) や \(g\), \(\cos\theta\) など共通の因子で割り算することが多いので、すべての項を正しく割れているか確認する。
- 三角関数の扱い:
- 特に注意すべき点: 最終的な答えを整理する際に、\(\displaystyle\frac{\cos\theta}{\sin\theta}\) を \(\displaystyle\frac{1}{\tan\theta}\) に、あるいは \(\displaystyle\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) を \(\tan\theta\) にまとめる変形があります。この変換を間違えないように注意が必要です。
- 日頃の練習: 三角関数の基本的な関係式を常に意識し、式を最もシンプルな形で表現する練習をする。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 摩擦力\(F\): \(F = \displaystyle\frac{(M+m)g}{2\tan\theta}\)。
- 吟味の視点: 棒を寝かせる(\(\theta \rightarrow 0\))と、\(\tan\theta \rightarrow 0\) となり、\(F \rightarrow \infty\)。これは、水平に近づくほど滑りやすくなり、それを支える摩擦力が非常に大きくなるという直感と一致します。逆に棒を立てる(\(\theta \rightarrow 90^\circ\))と、\(\tan\theta \rightarrow \infty\) となり、\(F \rightarrow 0\)。壁にほぼ垂直に立てかければ、滑ろうとする力はほとんど働かないので、摩擦力は不要になります。
- (2) 静止摩擦係数\(\mu\): \(\mu \ge \displaystyle\frac{1}{2\tan\theta}\)。
- 吟味の視点: 棒を寝かせる(\(\theta\)を小さくする)と、右辺の値が大きくなります。つまり、滑らないためにはより大きな\(\mu\)(滑りにくい床)が必要になるということで、これも妥当です。
- (3) 限界位置\(x\): \(x = \displaystyle\frac{l}{2m} \{ 2\mu(M+m)\tan\theta – M \}\)。
- 吟味の視点: 床が滑りにくい(\(\mu\)が大きい)ほど、また棒が立っている(\(\theta\)が大きい)ほど、\(x\)は大きくなります。これは、よりB点に近い(Aから遠い)位置に小物体を置いても耐えられることを意味し、直感と一致します。
- (1) 摩擦力\(F\): \(F = \displaystyle\frac{(M+m)g}{2\tan\theta}\)。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし小物体がなければ (\(m \rightarrow 0\)) どうなるか?
- 問(1)の\(F\)は \(\displaystyle\frac{Mg}{2\tan\theta}\) となり、妥当です。
- 問(3)の\(x\)は分母が0に近づき発散してしまいます。これは、\(m=0\) の状況では、棒が滑るかどうかはPの位置によらないため、この式で限界位置を定義できないことを意味します。
- もし棒が非常に軽ければ (\(M \rightarrow 0\)) どうなるか?
- 問(3)の\(x\)は \(x = l\mu\tan\theta\) となります。これは、棒の重さがなければ、限界位置はよりシンプルな形で表されることを示しています。
- もし小物体がなければ (\(m \rightarrow 0\)) どうなるか?
問題12 (工学院大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、物体の運動を「斜面上の等加速度直線運動」と「空中での放物運動」の2つの段階に分けて考える問題です。それぞれの段階で、適切な物理法則を適用することが鍵となります。
- 斜面の傾斜角: \(30^\circ\)
- 斜面の頂点Aの高さ: \(h\)
- 斜面: なめらか (摩擦なし)
- 物体の質量: \(m\)
- 初速度: A点で手放す (初速 \(v_{\text{初}} = 0\))
- 水面への入射角: B点から飛び出した後、水面に対して\(60^\circ\)の角度で飛び込む。
- 重力加速度: \(g\)
- 物体が斜面を滑り落ち、B点に達するまでの時間 \(t_1\) と、斜面から受ける垂直抗力 \(N\)。
- B点での物体の速さ \(v\)。
- B点から水面に飛びこむまでの時間 \(t_2\) (\(h, g\) を用いて表す)。
- 水面からB点までの高さ \(H\) (\(h\) を用いて表す)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(2)の速さ\(v\)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
- 模範解答が等加速度直線運動の公式を用いて計算するのに対し、別解ではA点からB点までの位置エネルギーと運動エネルギーの関係から直接速さを導出します。
- 問(2)の速さ\(v\)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 計算の効率化: 運動方程式から加速度を求め、さらに公式に代入するという複数の手順を踏む主たる解法に比べ、エネルギー保存則は一回の立式で済み、計算が大幅に簡潔になります。
- 物理モデルの深化: 「保存力以外の力が仕事をしない場合、力学的エネルギーは保存される」という物理学の重要な基本法則を、具体的な問題で適用する良い練習になります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題は、物体の運動を「斜面上の等加速度直線運動」と「空中での放物運動」の2つの段階に分けて考える問題です。それぞれの段階で、適切な物理法則を適用することが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式: 物体にはたらく力と加速度の関係 (\(ma=F\)) を記述する基本法則です。斜面上の運動では、重力を斜面方向と垂直方向に分解して考えます。
- 等加速度直線運動の公式: 加速度が一定の運動において、速度、変位、時間の関係を表す一連の公式です。
- 力学的エネルギー保存則: 摩擦や空気抵抗がない場合など、保存力以外の力が仕事をしないとき、物体の運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定に保たれます。
- 放物運動: 物体を投げ出した後の運動で、水平方向は力がはたらかないため等速直線運動、鉛直方向は重力のみがはたらくため等加速度直線運動となります。この2つの運動を組み合わせて考えます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、A点からB点までの「斜面上の運動」を分析し、時間\(t_1\)、垂直抗力\(N\)、B点での速さ\(v\)を求めます。
- 次に、その結果を利用して、B点から水面までの「放物運動」を分析し、時間\(t_2\)と高さ\(H\)を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
物体が斜面を滑り落ちる運動は、重力の斜面方向成分によって引き起こされる等加速度直線運動です。まず、問題の図から斜面の長さを高さ\(h\)で表します。次に、運動方程式を立てて加速度を求め、等加速度直線運動の公式を使ってB点に達するまでの時間\(t_1\)を計算します。垂直抗力\(N\)は、斜面に垂直な方向の力のつり合いから求められます。
この設問における重要なポイント
- 物体にはたらく重力\(mg\)を、斜面に平行な成分と垂直な成分に正しく分解する。
- 三角比(\(\sin30^\circ\), \(\cos30^\circ\))を正確に用いて、斜面の長さや力の成分を計算する。
- 初速度がゼロであることに注意して、適切な等加速度直線運動の公式を選ぶ。
具体的な解説と立式
まず、斜面の長さ\(L\)を求めます。図の直角三角形において、高さが\(h\)、傾斜角が\(30^\circ\)なので、
$$ \sin30^\circ = \frac{h}{L} $$
よって、
$$ L = \frac{h}{\sin30^\circ} = \frac{h}{1/2} = 2h $$
次に、物体にはたらく力を考えます。重力\(mg\)を斜面に平行な成分\(F_{\text{平行}}\)と垂直な成分\(F_{\text{垂直}}\)に分解すると、
- 平行成分: \(F_{\text{平行}} = mg\sin30^\circ\)
- 垂直成分: \(F_{\text{垂直}} = mg\cos30^\circ\)
斜面方向の運動方程式を立てます。加速度を\(a\)とすると、
$$ ma = F_{\text{平行}} = mg\sin30^\circ \quad \cdots ① $$
初速度\(0\)、距離\(L=2h\)、加速度\(a\)で運動するので、等加速度直線運動の公式 \(x = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を用いて、
$$ 2h = 0 \cdot t_1 + \frac{1}{2}at_1^2 \quad \cdots ② $$
一方、斜面に垂直な方向では、物体は動かないので力のつり合いが成り立っています。
$$ N = F_{\text{垂直}} = mg\cos30^\circ \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 等加速度直線運動の公式: \(x = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
- 力のつり合い
まず、式①から加速度\(a\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
ma &= mg\sin30^\circ \\[2.0ex]
ma &= mg \cdot \frac{1}{2} \\[2.0ex]
a &= \frac{1}{2}g
\end{aligned}
$$
この\(a\)を式②に代入して、\(t_1\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
2h &= \frac{1}{2} \left( \frac{1}{2}g \right) t_1^2 \\[2.0ex]
2h &= \frac{g}{4}t_1^2 \\[2.0ex]
t_1^2 &= \frac{8h}{g}
\end{aligned}
$$
\(t_1 > 0\) なので、
$$ t_1 = \sqrt{\frac{8h}{g}} = 2\sqrt{\frac{2h}{g}} $$
次に、式③から垂直抗力\(N\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
N &= mg\cos30^\circ \\[2.0ex]
N &= mg \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} = \frac{\sqrt{3}}{2}mg
\end{aligned}
$$
まず、物体が滑り降りる斜面の実際の長さを、高さ\(h\)と角度\(30^\circ\)から計算します。次に、物体を斜面方向に滑らせる力の大きさ(重力の一部)を求め、そこから運動の加速度を計算します。最後に、「距離、加速度、時間」の関係式を使って、斜面を滑りきるのにかかる時間を求めます。垂直抗力は、重力が斜面を垂直に押す力と釣り合っています。
B点に達するまでの時間は \(t_1 = 2\sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\)、斜面から受ける垂直抗力は \(N = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}mg\) となります。時間は高さ\(h\)が大きいほど長くなり、重力加速度\(g\)が大きいほど短くなるという関係は、直感と合っています。また、垂直抗力は重力\(mg\)より小さくなっており、これも妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
B点での速さ\(v\)を求めるには、いくつかの方法があります。模範解答のように、問(1)で求めた加速度\(a\)と時間\(t_1\)を使って等加速度直線運動の公式から求める方法が一つです。もう一つ、より計算が簡単な方法として、力学的エネルギー保存則を用いる別解があります。斜面はなめらかなので、A点からB点の間で力学的エネルギーは保存されます。
この設問における重要なポイント
- 等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\) や \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を利用できる。
- 摩擦がないため、力学的エネルギー保存則が利用でき、計算を簡略化できることに気づく。
- エネルギー保存則を考える際は、位置エネルギーの基準点を明確にする。
具体的な解説と立式
等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\) を用います。初速度\(v_0=0\)、加速度\(a=\displaystyle\frac{1}{2}g\)、時間\(t_1 = 2\sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\) なので、
$$ v = 0 + \left( \frac{1}{2}g \right) \cdot \left( 2\sqrt{\frac{2h}{g}} \right) $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の公式: \(v = v_0 + at\)
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{1}{2}g \cdot 2\sqrt{\frac{2h}{g}} \\[2.0ex]
&= g \sqrt{\frac{2h}{g}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{g^2 \cdot \frac{2h}{g}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2gh}
\end{aligned}
$$
B点での速さは、A点からB点まで一定の加速度で進んだ結果の速さです。「速さ = 加速度 × 時間」という関係式に、問(1)で求めた加速度と時間を代入することで計算できます。
B点での速さは \(v = \sqrt{2gh}\) となります。この結果は、高さ\(h\)から物体を自由落下させたときの速さと同じです。これは、斜面の角度に関わらず、失われた位置エネルギーがすべて運動エネルギーに変換されたことを示しており、物理的に正しい結果です。
思考の道筋とポイント
A点からB点まで物体にはたらく力は重力と垂直抗力のみです。垂直抗力は運動方向と常に垂直なので仕事をしません。したがって、保存力である重力のみが仕事をするため、力学的エネルギーは保存されます。A点での位置エネルギーが、B点での運動エネルギーに等しくなるという式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー保存則が使える条件(保存力以外の力が仕事をしない)を判断する。
- 位置エネルギーの基準点をB点に設定すると計算が簡単になる。
具体的な解説と立式
B点を位置エネルギーの基準(高さ\(0\))とします。
- A点での力学的エネルギー \(E_A\):
運動エネルギーは\(0\)。位置エネルギーは\(mgh\)。よって \(E_A = mgh\)。 - B点での力学的エネルギー \(E_B\):
運動エネルギーは\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。位置エネルギーは\(0\)。よって \(E_B = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。
力学的エネルギー保存則 \(E_A = E_B\) より、
$$ mgh = \frac{1}{2}mv^2 $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(E_{\text{前}} = E_{\text{後}}\)
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- 位置エネルギー: \(U = mgh\)
$$
\begin{aligned}
mgh &= \frac{1}{2}mv^2
\end{aligned}
$$
両辺を\(m\)で割り、\(2\)を掛けると、
$$
\begin{aligned}
2gh &= v^2
\end{aligned}
$$
\(v > 0\) なので、
$$ v = \sqrt{2gh} $$
物体がA点にいるとき、高さ\(h\)に応じた「位置エネルギー」を持っています。斜面を滑り落ちるにつれて、この位置エネルギーが「運動エネルギー」に変換されていきます。摩擦がないのでエネルギーの損失はなく、B点ではすべての位置エネルギーが運動エネルギーに変わります。このエネルギーの変換式を解くことで、B点での速さを求めることができます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。力学的エネルギー保存則を用いると、途中の加速度や時間を計算する必要がなく、より直接的かつ簡単に速さを求めることができます。
問(3)
思考の道筋とポイント
B点から飛び出した物体は放物運動をします。B点での初速度は、問(2)で求めた速さ\(v\)で、向きは斜面と同じく水平面に対して下向きに\(30^\circ\)です。この運動を水平方向と鉛直方向に分けて考えます。水平方向の速度は一定です。鉛直方向は重力により加速されます。水面に\(60^\circ\)の角度で飛び込むという条件は、水面到達時の速度の鉛直成分と水平成分の比が\(\tan60^\circ\)になることを意味します。この関係式から時間\(t_2\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 放物運動を水平方向(等速直線運動)と鉛直方向(等加速度直線運動)に分けて考える。
- B点での初速度を、水平成分と鉛直成分に正しく分解する。
- 「水面への入射角\(60^\circ\)」という条件を、速度の鉛直成分と水平成分の関係式に変換する。
具体的な解説と立式
B点での初速度\(v = \sqrt{2gh}\)を成分分解します。水平方向を\(x\)軸、鉛直下向きを\(y\)軸の正の向きとします。
- 初速度の水平成分: \(v_{0x} = v\cos30^\circ = \sqrt{2gh} \cdot \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\)
- 初速度の鉛直成分: \(v_{0y} = v\sin30^\circ = \sqrt{2gh} \cdot \displaystyle\frac{1}{2}\)
時間\(t_2\)後の水面到達時の速度を考えます。
- 水平成分: \(v_x = v_{0x}\) (一定)
- 鉛直成分: \(v_y = v_{0y} + gt_2\)
水面に\(60^\circ\)の角度で飛び込むので、速度ベクトルの向きから、
$$ \frac{v_y}{v_x} = \tan60^\circ = \sqrt{3} $$
よって、
$$ v_y = \sqrt{3} v_x $$
この式に各成分を代入します。
$$ v_{0y} + gt_2 = \sqrt{3} v_{0x} $$
$$ \frac{1}{2}\sqrt{2gh} + gt_2 = \sqrt{3} \left( \sqrt{2gh} \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} \right) $$
使用した物理公式
- 速度の成分分解
- 等速直線運動: \(v_x = \text{一定}\)
- 等加速度直線運動: \(v_y = v_{0y} + at\)
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}\sqrt{2gh} + gt_2 &= \frac{3}{2}\sqrt{2gh}
\end{aligned}
$$
\(gt_2\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
gt_2 &= \frac{3}{2}\sqrt{2gh} – \frac{1}{2}\sqrt{2gh} \\[2.0ex]
gt_2 &= \sqrt{2gh}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ t_2 = \frac{\sqrt{2gh}}{g} = \sqrt{\frac{2gh}{g^2}} = \sqrt{\frac{2h}{g}} $$
物体がB点から飛び出すときの速さと角度から、まず「水平方向の速さ」と「鉛直方向の初速」を計算します。物体が水面に\(60^\circ\)で飛び込むとき、その瞬間の「鉛直方向の速さ」は「水平方向の速さ」の\(\sqrt{3}\)倍になっています。水平方向の速さは飛び出してからずっと変わりません。鉛直方向の速さは、初速に加えて重力で時間とともに増えていきます。この関係を式にして、時間\(t_2\)について解きます。
B点から水面に飛び込むまでの時間は \(t_2 = \sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\) となります。この時間は、高さ\(h\)から物体を自由落下させたときにかかる時間と同じです。
問(4)
思考の道筋とポイント
水面からB点までの高さ\(H\)は、B点から鉛直下向きに\(t_2\)秒間落下したときの距離に相当します。これは鉛直方向の等加速度直線運動なので、変位の公式を使って計算できます。問(3)までに求めた初速度の鉛直成分\(v_{0y}\)と時間\(t_2\)の値を用います。
この設問における重要なポイント
- 求める高さ\(H\)が、鉛直方向の運動の変位であることを理解する。
- 適切な等加速度直線運動の公式(変位、初速度、時間、加速度を含むもの)を選択する。
- これまでの設問で求めた値を正確に代入し、計算を丁寧に行う。
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正として、B点を原点とします。高さ\(H\)は、時間\(t_2\)後の鉛直方向の変位です。
等加速度直線運動の公式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を用います。
- 初速度: \(v_{0y} = \displaystyle\frac{1}{2}\sqrt{2gh}\)
- 時間: \(t_2 = \sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\)
- 加速度: \(a = g\)
- 変位: \(y = H\)
これらの値を公式に代入します。
$$ H = \left( \frac{1}{2}\sqrt{2gh} \right) \left( \sqrt{\frac{2h}{g}} \right) + \frac{1}{2}g \left( \sqrt{\frac{2h}{g}} \right)^2 $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の公式: \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
式の第1項と第2項をそれぞれ計算します。
- 第1項:
$$
\begin{aligned}
\left( \frac{1}{2}\sqrt{2gh} \right) \left( \sqrt{\frac{2h}{g}} \right) &= \frac{1}{2}\sqrt{2gh \cdot \frac{2h}{g}} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}\sqrt{4h^2} = \frac{1}{2}(2h) = h
\end{aligned}
$$ - 第2項:
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}g \left( \sqrt{\frac{2h}{g}} \right)^2 &= \frac{1}{2}g \left( \frac{2h}{g} \right) = h
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ H = h + h = 2h $$
B点から水面までの高さ\(H\)は、物体がB点から鉛直下向きにどれだけ落ちたかという距離です。この距離は、「初速で進んだ距離」と「重力で加速されて進んだ距離」の合計になります。それぞれの距離を計算して足し合わせることで、高さ\(H\)が求まります。
水面からB点までの高さは \(H = 2h\) となりました。これは、物体が滑り始めた斜面の高さ\(h\)のちょうど2倍という、非常にすっきりした関係です。問題の条件設定によって導かれる興味深い結果と言えます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の分解という考え方:
- 核心: この問題は、一見複雑な物体の運動を、より単純な運動の組み合わせとして捉え直す「運動の分解」という物理学の基本的な考え方を試す問題です。
- 理解のポイント:
- 斜面上の運動: 物体にはたらく力を「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分解します。これにより、運動は斜面方向のみの単純な「等加速度直線運動」として扱うことができます。
- 放物運動: B点から飛び出した後の運動を「水平方向」と「鉛直方向」に分解します。これにより、運動は「等速直線運動(水平)」と「等加速度直線運動(鉛直)」という2つの単純な運動の組み合わせとして分析できます。
- エネルギー保存則の活用:
- 核心: 摩擦や空気抵抗がない場面では、力学的エネルギー保存則が強力な解法ツールとなります。
- 理解のポイント:
- 適用条件の確認: 「なめらかな斜面」という記述から、保存力である重力以外の力(垂直抗力)が仕事をしないため、力学的エネルギーが保存されると判断します。
- 計算の簡略化: 加速度や時間を経由せずに、始点と終点の「高さ」と「速さ」だけで関係式を立てられるため、計算を大幅に効率化できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 水平投射・斜方投射: B点から水平に、あるいは斜め上方に物体を投げ出す問題。基本的な考え方は同じです。
- 摩擦のある斜面からの放物運動: 斜面上の運動で力学的エネルギーが保存されなくなるため、仕事とエネルギーの関係(\(E_{\text{後}} – E_{\text{前}} = W_{\text{非保存力}}\))を使う必要があります。
- 最高点や地面への到達を問う問題: 「最高点 \(\rightarrow\) 鉛直方向の速度がゼロ」「地面に到達 \(\rightarrow\) 鉛直方向の変位が特定の値」といった条件に読み替えて立式します。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動の段階分け: まず、運動がどこで切り替わるか(例:斜面の終わり、地面への衝突など)を見極め、段階ごとに分析する計画を立てます。
- 座標軸の設定: 放物運動を扱う際は、水平・鉛直方向のどちらを正の向きとするか、どこを原点とするかを最初に明確に決めると、符号のミスを防げます。
- 角度の情報の変換: 「\(60^\circ\)で飛び込んだ」のような角度の情報は、そのままでは式に使いにくいです。これを「速度の鉛直成分と水平成分の比が\(\tan60^\circ\)である」という数式的な条件に変換することが解法の鍵です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 斜面上の加速度の誤り:
- 誤解: 斜面を滑り落ちる加速度を、重力加速度\(g\)そのものだと勘違いする。
- 対策: 加速度は、あくまで運動方向にはたらく力によって決まります。斜面上の運動では、運動方向の力は重力の成分である\(mg\sin\theta\)なので、加速度は\(g\sin\theta\)となります。
- 放物運動の初速度の分解ミス:
- 誤解: B点での速さ\(v\)を、そのまま鉛直方向の初速度としてしまう。
- 対策: B点での速度は斜面に沿った向き(この問題では水平面と\(30^\circ\))を向いています。必ずこの速度を水平成分\(v\cos30^\circ\)と鉛直成分\(v\sin30^\circ\)に分解してから、それぞれの方向の運動を考える必要があります。
- 角度の取り違え:
- 誤解: 斜面の角度\(30^\circ\)と、水面への入射角\(60^\circ\)を混同して計算してしまう。
- 対策: 問題文と図をよく照らし合わせ、どの角度がどの場面に対応するのかを一つ一つ確認する。特に、速度ベクトルの向きを表す角度なのか、斜面の傾きを表す角度なのかを区別することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式 (\(ma = mg\sin30^\circ\)):
- 選定理由: 斜面上の運動の「加速度」を求めるため。力と加速度を結びつける唯一の法則です。
- 適用根拠: 物体が力を受けて運動状態を変化させているという、最も基本的な物理状況。
- 力学的エネルギー保存則 (\(mgh = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)):
- 選定理由: 斜面上の運動の「速さ」を、途中の過程を省略して効率的に求めるため。
- 適用根拠: 「なめらかな斜面」であり、保存力以外の力が仕事をしないという条件が満たされている状況。
- 等加速度直線運動の公式 (\(y = v_{0y}t + \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\)など):
- 選定理由: 「時間」や「変位」を求めるため。加速度が一定(重力加速度\(g\))である鉛直方向の運動を記述するのに必要です。
- 適用根拠: 鉛直方向には常に一定の重力がはたらき、加速度が一定であるという物理状況。
- 速度の成分比 (\(v_y/v_x = \tan60^\circ\)):
- 選定理由: 「水面に\(60^\circ\)の角度で飛び込んだ」という問題文の条件を、計算可能な数式に変換するため。
- 適用根拠: 速度はベクトル量であり、その向きは成分の比(タンジェント)で表せるという数学的な事実。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三角比の値の確認:
- 特に注意すべき点: \(\sin30^\circ = 1/2\), \(\cos30^\circ = \sqrt{3}/2\), \(\tan60^\circ = \sqrt{3}\) といった基本的な三角比の値を正確に覚えているか。特に\(\sin\)と\(\cos\)の取り違えに注意が必要です。
- 日頃の練習: 単位円や直角三角形を頭に思い浮かべ、定義から値を導き出せるようにしておく。
- 平方根の計算:
- 特に注意すべき点: \(\sqrt{g^2 \cdot \displaystyle\frac{2h}{g}}\) のような、根号の中に文字式が入る計算を丁寧に行うこと。また、\(\sqrt{8} = 2\sqrt{2}\) のように、根号の中を簡単にする処理を忘れないこと。
- 日頃の練習: 文字式の平方根を含む計算問題を繰り返し解き、指数の扱いに慣れておく。
- 代入のタイミング:
- 特に注意すべき点: 問(3)や問(4)のように、前の設問で求めた結果(例:\(v=\sqrt{2gh}\))を代入する際、計算の早い段階で代入すると式が複雑になることがあります。
- 日頃の練習: まずは文字のまま式変形を進め、できるだけ式が簡単になってから最後に具体的な値を代入する、という手順を意識すると、計算ミスを減らせます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 時間\(t_1\): \(t_1 = 2\sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\)。高さ\(h\)が大きいほど、滑る時間は長くなる。妥当。
- (2) 速さ\(v\): \(v = \sqrt{2gh}\)。高さ\(h\)が大きいほど、速くなる。妥当。
- (3) 時間\(t_2\): \(t_2 = \sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\)。これも高さ\(h\)が大きいほど、B点の初速が大きくなるため、水面に達するまでの時間も長くなる傾向にある。妥当。
- (4) 高さ\(H\): \(H=2h\)。斜面の高さとB点から水面までの高さが、きれいな整数比になっている。問題の角度設定(\(30^\circ\), \(60^\circ\))がこの結果を生んでいると考えられ、興味深い。
- 単位の確認:
- 時間(\(t_1, t_2\)): \(\sqrt{h/g}\) は \(\sqrt{\text{m} / (\text{m/s}^2)} = \sqrt{\text{s}^2} = \text{s}\) となり、時間の単位と一致する。
- 速さ(\(v\)): \(\sqrt{gh}\) は \(\sqrt{(\text{m/s}^2) \cdot \text{m}} = \sqrt{\text{m}^2/\text{s}^2} = \text{m/s}\) となり、速さの単位と一致する。
- 高さ(\(H\)): \(h\) と同じ単位であり、長さの単位と一致する。
- 極端な場合との比較:
- もし斜面が垂直(\(\theta=90^\circ\))だったら、AからBまでは自由落下になる。この場合、\(t_1 = \sqrt{2h/g}\), \(v=\sqrt{2gh}\) となり、自由落下の公式と一致する。本問の結果は、斜面があることで時間がかかり、速さは同じになることを示している。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]
問題13 (愛知工大 + 室蘭工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、動摩擦力がはたらく物体の運動(水平面および斜面上)と、斜面上で物体が静止し続けるための条件(静止摩擦力)を扱っています。運動方程式と仕事とエネルギーの関係(または等加速度運動の公式)、そして摩擦力の性質を理解しているかが問われます。
- 物体の質量: \(m \, [\text{kg}]\)
- 平板と物体との間の動摩擦係数: \(\mu\)
- 重力加速度の大きさ: \(g \, [\text{m/s}^2]\)
- (1) 初速: \(v_0 \, [\text{m/s}]\) (水平方向)
- (2) 斜面の傾斜角: \(45^\circ\)
- (2) 初速: \(v_0 \, [\text{m/s}]\) (斜面を上る向き)
- (2) 滑った距離: \(\displaystyle\frac{1}{2}l \, [\text{m}]\)
- (3) 点Aで完全に静止
- (3) 平板と物体との間の静止摩擦係数: \(\mu_0\)
- 水平面上を滑り、止まるまでの距離 \(l\) と時間 \(t\)。
- 動摩擦係数 \(\mu\) の値。
- 静止摩擦係数 \(\mu_0\) の最小値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1)および問(2)の別解: 仕事とエネルギーの関係を用いる解法
- 主たる解法が運動方程式と等加速度直線運動の公式を組み合わせて解くのに対し、別解では「物体の運動エネルギーの変化が、された仕事に等しい」という、仕事とエネルギーの関係(エネルギー原理)を用いて解きます。
- 問(1)および問(2)の別解: 仕事とエネルギーの関係を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 計算の効率化: この解法では、加速度を計算する過程を省略し、始状態と終状態のエネルギー、そしてその間にされた仕事だけに着目するため、立式や計算がより簡潔になる場合があります。
- 異なる視点の学習: 運動を「力と加速度」の観点(運動方程式)で捉えるだけでなく、「仕事とエネルギー」の観点からも捉えることで、物理現象への理解が多角的になり、解法の選択肢が広がります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題は、動摩擦力がはたらく物体の運動と、斜面上で物体が静止し続けるための条件を扱う問題です。運動方程式や仕事とエネルギーの関係、そして摩擦力の性質を正しく理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式: 物体の加速度は、物体にはたらく力の合力に比例し、質量に反比例します。(\(ma=F\))
- 動摩擦力: 物体が動いているときにはたらく摩擦力で、大きさは \(F = \mu N\) です。向きは運動の向きと逆向きです。
- 仕事とエネルギーの関係: 物体の運動エネルギーの変化は、物体にはたらくすべての力がした仕事の和に等しくなります。
- 静止摩擦力: 物体が静止しているときにはたらく摩擦力で、その大きさは滑り出そうとする力と釣り合っています。ただし、最大値(最大静止摩擦力 \(\mu_0 N\))を超えることはできません。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、水平面上での運動を考え、運動方程式(または仕事とエネルギーの関係)から、止まるまでの距離\(l\)と時間\(t\)を求めます。
- 問(2)では、斜面を上る運動を考え、問(1)の結果と結びつけて動摩擦係数\(\mu\)を求めます。
- 問(3)では、斜面上で物体が静止し続けるための条件から、静止摩擦係数\(\mu_0\)が満たすべき不等式を導きます。