問題11 (芝浦工大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 点Bまわりのモーメントのつりあいを用いた解法
- 模範解答では点Aまわりのモーメントのつりあいから壁の垂直抗力 \(R\) を求め、水平方向の力のつりあいから摩擦力 \(F\) を求めていますが、別解では点Bを回転軸としたモーメントのつりあいから直接 \(F\) と \(N\) の関係式を導きます。
- 設問(3)の別解: 点Bまわりのモーメントのつりあいを用いた解法
- 模範解答では点Aまわりのモーメントのつりあい式に最大摩擦力の条件を代入して \(x\) を求めていますが、別解では点Bまわりのモーメントのつりあい式を立て、そこから \(x\) を導出します。
- 設問(1)の別解: 点Bまわりのモーメントのつりあいを用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 計算の効率化: 適切な回転軸を選ぶことで、未知数(壁の垂直抗力 \(R\) など)を消去し、求めたい物理量をより少ない計算ステップで導出できる場合があります。
- 検算としての利用: 異なる回転軸で同じ結果が得られることを確認することで、解答の確実性を高められます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「剛体のつりあい」と「摩擦力」です。
壁に立てかけられた棒が静止している条件、そして小物体Pの位置を変えたときに滑り出す直前の条件(最大摩擦力)を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 剛体のつりあい条件:
- 力のつりあい: 上下左右の力のベクトル和が \(0\)(並進運動しない)。
- 力のモーメントのつりあい: 任意の点のまわりのモーメントの和が \(0\)(回転運動しない)。
- 静止摩擦力と最大摩擦力:
- 静止している間は、力のつりあいに必要なだけの摩擦力 \(F\) が働きます。
- 滑り出す直前(限界状態)では、摩擦力は最大値 \(\mu N\) になります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、点Aまわりのモーメントのつりあいから壁の垂直抗力 \(R\) を求め、水平方向の力のつりあいから摩擦力 \(F\) を求めます。
- (2)では、鉛直方向の力のつりあいから床の垂直抗力 \(N\) を求め、静止条件 \(F \le \mu N\) を用いて \(\mu\) の条件を導きます。
- (3)では、Pの位置が \(x\) に変わった状態で、滑り出す直前の条件(摩擦力が \(\mu N\))を用いて、モーメントのつりあいと力のつりあいを再び立式し、\(x\) を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
未知の力(床の垂直抗力 \(N\)、静止摩擦力 \(F\))が集中している点Aを回転軸(支点)に選びます。
これにより、\(N\) と \(F\) のモーメントが \(0\) になり、壁の垂直抗力 \(R\) だけを含む式を作ることができます。
その後、水平方向の力のつりあいから \(F\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 回転軸の選択: 点Aを回転軸とします。
- 力の図示:
- 棒の重力 \(Mg\): 重心(中点)に鉛直下向き。
- 小物体の重力 \(mg\): 中点に鉛直下向き。
- 壁の垂直抗力 \(R\): 点Bに水平右向き。
- 床の垂直抗力 \(N\): 点Aに鉛直上向き。
- 静止摩擦力 \(F\): 点Aに水平左向き(棒の下端が右に滑ろうとするのを止める向き)。
- 腕の長さ:
- 重力(鉛直力)の腕: 回転軸Aからの水平距離。
- 壁の抗力(水平力)の腕: 回転軸Aからの鉛直距離。
具体的な解説と立式
1. 点Aまわりのモーメントのつりあい
- 反時計回りのモーメント: 棒と小物体の重力によるもの。
- 棒の重力 \(Mg\): 腕の長さ \(\displaystyle \frac{l}{2} \cos \theta\) \(\rightarrow\) \(Mg \cdot \displaystyle \frac{l}{2} \cos \theta\)
- 小物体の重力 \(mg\): 腕の長さ \(\displaystyle \frac{l}{2} \cos \theta\) \(\rightarrow\) \(mg \cdot \displaystyle \frac{l}{2} \cos \theta\)
- 時計回りのモーメント: 壁の垂直抗力 \(R\) によるもの。
- 力: \(R\)
- 腕の長さ: \(l \sin \theta\) (AからBまでの高さ)
- モーメント: \(R \cdot l \sin \theta\)
モーメントのつりあいの式(反時計回りの和 = 時計回りの和)は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
(Mg + mg) \cdot \frac{l}{2} \cos \theta &= R \cdot l \sin \theta \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
2. 水平方向の力のつりあい
- 右向きの力: \(R\)
- 左向きの力: \(F\)
つりあいの式は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
F &= R \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = F \cdot (\text{腕の長さ})\)
- 力のつりあい
式①より \(R\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
R \cdot l \sin \theta &= \frac{1}{2}(M + m)g l \cos \theta \\[2.0ex]
R &= \frac{(M + m)g \cos \theta}{2 \sin \theta} \\[2.0ex]
&= \frac{(M + m)g}{2 \tan \theta}
\end{aligned}
$$
式②より、摩擦力 \(F\) は \(R\) と等しいので、
$$
\begin{aligned}
F &= \frac{(M + m)g}{2 \tan \theta}
\end{aligned}
$$
棒が倒れないように壁が支えている力 \(R\) を、回転のバランス(モーメント)から計算しました。
そして、棒の下端が滑らないように床が支えている摩擦力 \(F\) は、壁が押す力 \(R\) とちょうど釣り合っているはずなので、同じ大きさになります。
摩擦力は \(\displaystyle \frac{(M + m)g}{2 \tan \theta}\) です。
角度 \(\theta\) が小さい(棒が立っている)と \(\tan \theta\) は小さくなり、摩擦力は大きくなります。これは直感(立ちすぎると倒れやすい=大きな支えが必要)とは逆に見えますが、実際には \(\theta \to 90^\circ\) で \(F \to 0\) となり、垂直に立てば摩擦はいらないので正しいです。逆に \(\theta \to 0\)(寝かせると)\(F \to \infty\) となり、滑りやすくなることを示唆しています。
思考の道筋とポイント
点Bを回転軸に選ぶと、壁の垂直抗力 \(R\) のモーメントが \(0\) になり、式から消去できます。
これにより、床の垂直抗力 \(N\) と摩擦力 \(F\) の関係式を直接導けます。
この設問における重要なポイント
- 回転軸: 点B
- モーメントが0になる力: 壁の垂直抗力 \(R\)
- 腕の長さ: 点Bからの距離を考えます。
具体的な解説と立式
点Bを回転軸として、モーメントのつりあいを考えます。
- 時計回りのモーメント:
- 棒の重力 \(Mg\): 腕の長さ \(\displaystyle \frac{l}{2} \cos \theta\) \(\rightarrow\) \(Mg \cdot \displaystyle \frac{l}{2} \cos \theta\)
- 小物体の重力 \(mg\): 腕の長さ \(\displaystyle \frac{l}{2} \cos \theta\) \(\rightarrow\) \(mg \cdot \displaystyle \frac{l}{2} \cos \theta\)
- 摩擦力 \(F\): 腕の長さ \(l \sin \theta\) \(\rightarrow\) \(F \cdot l \sin \theta\)
- 反時計回りのモーメント:
- 床の垂直抗力 \(N\): 腕の長さ \(l \cos \theta\) \(\rightarrow\) \(N \cdot l \cos \theta\)
つりあいの式(時計回りの和 = 反時計回りの和)は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
(M + m)g \cdot \frac{l}{2} \cos \theta + F \cdot l \sin \theta &= N \cdot l \cos \theta
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = F \cdot l\)
鉛直方向のつりあいより \(N = (M+m)g\) です。これを代入します。
$$
\begin{aligned}
(M + m)g \frac{l}{2} \cos \theta + F l \sin \theta &= (M + m)g l \cos \theta \\[2.0ex]
F l \sin \theta &= (M + m)g l \cos \theta – \frac{1}{2}(M + m)g l \cos \theta \\[2.0ex]
F l \sin \theta &= \frac{1}{2}(M + m)g l \cos \theta \\[2.0ex]
F &= \frac{(M + m)g \cos \theta}{2 \sin \theta} \\[2.0ex]
&= \frac{(M + m)g}{2 \tan \theta}
\end{aligned}
$$
棒の上端(点B)を支点にして考えました。
棒の重さと床の摩擦力は棒を時計回りに回そうとし、床の垂直抗力は反時計回りに回そうとします。
このバランスから、摩擦力の大きさを直接計算しました。
メインの解法と同じ結果が得られました。
回転軸を変えるときは、各力のモーメントの向き(時計/反時計)を慎重に判定する必要がありますが、正しく立式できれば同じ答えにたどり着けます。
問(2)
思考の道筋とポイント
棒が静止しているということは、静止摩擦力 \(F\) が最大摩擦力 \(\mu N\) 以下であるということです。
まずは鉛直方向の力のつりあいから \(N\) を求め、不等式 \(F \le \mu N\) を解きます。
この設問における重要なポイント
- 鉛直方向のつりあい:
- 上向き: \(N\)
- 下向き: \(Mg + mg\)
- 静止条件: \(F \le \mu N\) (滑り出さない条件)
具体的な解説と立式
1. 鉛直方向の力のつりあい
$$
\begin{aligned}
N &= Mg + mg = (M + m)g \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
2. 静止条件の立式
棒が滑らないための条件は、
$$
\begin{aligned}
F &\le \mu N
\end{aligned}
$$
これに(1)の結果と式③を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{(M + m)g}{2 \tan \theta} &\le \mu (M + m)g
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のつりあい
- 静止摩擦力の条件: \(F \le \mu N\)
両辺を \((M + m)g\) (正の値)で割ります。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2 \tan \theta} &\le \mu \\[2.0ex]
\mu &\ge \frac{1}{2 \tan \theta}
\end{aligned}
$$
床がツルツルだと棒は滑って倒れてしまいます。
滑らないためには、床の摩擦係数 \(\mu\) がある程度大きくないといけません。
その「ある程度」の基準を計算しました。棒が立っている(\(\theta\) が大きい)ほど \(\tan \theta\) が大きくなり、必要な \(\mu\) は小さくて済みます。
\(\mu \ge \displaystyle \frac{1}{2 \tan \theta}\) です。
\(\theta\) が小さい(寝ている)と \(\tan \theta\) が小さくなり、右辺が大きくなるため、より大きな摩擦係数が必要になります。これは経験則と一致します。
問(3)
思考の道筋とポイント
小物体Pの位置がAから \(x\) の位置に変わりました。
「滑らずに静止する限界」なので、摩擦力は最大摩擦力 \(F = \mu N\) になっています。
再びモーメントのつりあいと力のつりあいを考え、\(x\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- Pの位置: Aから \(x\) なので、モーメントの腕の長さ(水平距離)は \(x \cos \theta\) になります。
- 摩擦力: \(F = \mu N\)
- 垂直抗力 \(N\): 鉛直方向のつりあいは変わらないので、\(N = (M + m)g\) のままです。
- 壁の垂直抗力 \(R\): 水平方向のつりあいより \(R = F = \mu N\) となります。
具体的な解説と立式
点Aを回転軸として、モーメントのつりあいを考えます。
- 反時計回りのモーメント:
- 棒の重力 \(Mg\): 腕の長さ \(\displaystyle \frac{l}{2} \cos \theta\) \(\rightarrow\) \(Mg \cdot \displaystyle \frac{l}{2} \cos \theta\)
- 小物体の重力 \(mg\): 腕の長さ \(x \cos \theta\) \(\rightarrow\) \(mg \cdot x \cos \theta\)
- 時計回りのモーメント:
- 壁の垂直抗力 \(R\): 腕の長さ \(l \sin \theta\) \(\rightarrow\) \(R \cdot l \sin \theta\)
モーメントのつりあいの式は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
Mg \cdot \frac{l}{2} \cos \theta + mg \cdot x \cos \theta &= R \cdot l \sin \theta \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
ここで、水平方向のつりあい \(R = F\) と、限界条件 \(F = \mu N\) より、
$$
\begin{aligned}
R &= \mu (M + m)g
\end{aligned}
$$
これを式④に代入します。
$$
\begin{aligned}
Mg \frac{l}{2} \cos \theta + mg x \cos \theta &= \mu (M + m)g l \sin \theta
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 最大摩擦力: \(F_{\text{max}} = \mu N\)
\(x\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
mg x \cos \theta &= \mu (M + m)g l \sin \theta – \frac{1}{2} Mg l \cos \theta
\end{aligned}
$$
両辺を \(mg \cos \theta\) で割ります。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{\mu (M + m)g l \sin \theta}{mg \cos \theta} – \frac{Mg l \cos \theta}{2 mg \cos \theta} \\[2.0ex]
&= \frac{\mu (M + m)}{m} l \tan \theta – \frac{M}{2m} l \\[2.0ex]
&= \frac{l}{2m} \left\{ 2\mu (M + m) \tan \theta – M \right\}
\end{aligned}
$$
小物体Pを上にずらしていくと、Pの重力による回転力(モーメント)が大きくなります。
それを支えるために壁からの力 \(R\) も大きくなり、結果として床の摩擦力 \(F\) も大きくなります。
摩擦力が限界 \(\mu N\) に達したときの位置 \(x\) を計算しました。
\(x = \displaystyle \frac{l}{2m} \{ 2\mu (M + m) \tan \theta – M \}\) です。
\(\mu\) が大きいほど \(x\) は大きくなり、より高い位置まで置けることを意味します。妥当です。
思考の道筋とポイント
点Bを回転軸に選ぶと、壁の垂直抗力 \(R\) を考えなくて済みます。
床の垂直抗力 \(N\) と最大摩擦力 \(\mu N\) のモーメントだけで式を立てられます。
この設問における重要なポイント
- 回転軸: 点B
- モーメントが0になる力: 壁の垂直抗力 \(R\)
- Pの位置: Aから \(x\) なので、Bからの水平距離は \(l \cos \theta – x \cos \theta\) です。
具体的な解説と立式
点Bを回転軸として、モーメントのつりあいを考えます。
- 時計回りのモーメント:
- 棒の重力 \(Mg\): 腕の長さ \(\displaystyle \frac{l}{2} \cos \theta\) \(\rightarrow\) \(Mg \cdot \displaystyle \frac{l}{2} \cos \theta\)
- 小物体の重力 \(mg\): 腕の長さ \(l \cos \theta – x \cos \theta\) \(\rightarrow\) \(mg (l – x) \cos \theta\)
- 最大摩擦力 \(F = \mu N\): 腕の長さ \(l \sin \theta\) \(\rightarrow\) \(\mu N \cdot l \sin \theta\)
- 反時計回りのモーメント:
- 床の垂直抗力 \(N\): 腕の長さ \(l \cos \theta\) \(\rightarrow\) \(N \cdot l \cos \theta\)
つりあいの式は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
Mg \frac{l}{2} \cos \theta + mg (l – x) \cos \theta + \mu N l \sin \theta &= N l \cos \theta
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = F \cdot l\)
\(N = (M + m)g\) を代入して \(x\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} Mgl \cos \theta + mgl \cos \theta – mgx \cos \theta + \mu (M + m)gl \sin \theta &= (M + m)gl \cos \theta
\end{aligned}
$$
\(mgx \cos \theta\) を右辺に移項し、その他を左辺にまとめます。
$$
\begin{aligned}
mgx \cos \theta &= \frac{1}{2} Mgl \cos \theta + mgl \cos \theta + \mu (M + m)gl \sin \theta – Mgl \cos \theta – mgl \cos \theta \\[2.0ex]
&= \mu (M + m)gl \sin \theta – \frac{1}{2} Mgl \cos \theta
\end{aligned}
$$
両辺を \(mg \cos \theta\) で割ります。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{\mu (M + m)l \sin \theta}{m \cos \theta} – \frac{Ml \cos \theta}{2m \cos \theta} \\[2.0ex]
&= \frac{\mu (M + m)}{m} l \tan \theta – \frac{M}{2m} l \\[2.0ex]
&= \frac{l}{2m} \{ 2\mu (M + m) \tan \theta – M \}
\end{aligned}
$$
点Bを支点にすると、壁からの力を考えなくて済みます。
「棒と小物体と摩擦力」が時計回りに回そうとする力と、「床の垂直抗力」が反時計回りに回そうとする力のバランスだけで式が作れるので、計算が少し楽になります。
メインの解法と同じ結果が得られました。
点Bまわりのモーメントを考える方が、壁の垂直抗力 \(R\) を経由せずに直接 \(x\) を求められるため、計算の見通しが良い場合があります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 剛体のつりあい条件の完全理解
- 核心: 剛体が静止し続けるためには、「並進運動しない(力の和が \(0\))」だけでなく、「回転運動しない(力のモーメントの和が \(0\))」という2つの条件を同時に満たす必要があります。
- 理解のポイント:
- 力のつりあい: 上下左右の力のバランス。これだけでは回転を止められません。
- モーメントのつりあい: 回転軸(支点)をどこに設定しても、回転させる能力(トルク)の総和が \(0\) になること。特に「任意の点」まわりで成立するという性質が、計算を楽にするための強力な武器になります。
- 摩擦力の性質と最大摩擦力
- 核心: 静止摩擦力は「動こうとするのを妨げる力」であり、外力に応じて \(0\) から最大値 \(\mu N\) までの値をとります。「滑り出す直前」というキーワードが出たら、摩擦力は最大値 \(\mu N\) に固定されます。
- 理解のポイント:
- 静止時: \(F \le \mu N\) の範囲で、つりあいに必要なだけの力が働きます(問1, 2)。
- 限界時: \(F = \mu N\) となり、これを超えると滑り出します(問3)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 壁に立てかけた梯子: 床と壁からの垂直抗力、摩擦力が働きます。「滑り出す直前」は最大静止摩擦力を使い、「倒れる直前」は垂直抗力が \(0\) になる点に着目します。
- 転倒する直方体: トラックの荷台上の荷物などが倒れる条件。作用線が底面からはみ出すか、あるいは端点を支点としたモーメントのつりあいで考えます。
- ヒンジ(蝶番)で固定された棒: ヒンジには任意の方向の抗力が働きますが、ヒンジ周りのモーメントを考えればその抗力を消去できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 回転軸(支点)の戦略的選択: 未知の力(垂直抗力 \(N\) や摩擦力 \(F\))が集中している点を回転軸に選ぶことで、それらのモーメントを \(0\) にし、計算をショートカットします(別解のアプローチ)。
- 力の分解: 斜めの力(張力 \(T\))は必ず水平・鉛直成分に分解し、それぞれの方向のつりあいに組み込みます。
- 状態の変化を見抜く: 「おもりの位置が変わる」=「モーメントのバランスが変わる」=「必要な摩擦力が変わる」という因果関係を意識します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 摩擦力の向きの勘違い:
- 誤解: 摩擦力は常に運動方向と逆だと思い込み、静止している場合でも適当に向きを決めてしまう。
- 対策: 「もし摩擦がなかったらどう動くか?」を想像します。この問題なら棒の下端は右に滑り出すので、摩擦力はそれを止める「左向き」に働きます。
- 腕の長さの取り違え:
- 誤解: 「力点までの距離」を単純に棒の長さ \(l\) だと思い込み、角度を考慮せずに計算してしまう。
- 対策: 必ず「回転軸から力の作用線に下ろした垂線の長さ」を確認します。この問題のように棒が斜めの場合は、\(l \cos \theta\) や \(l \sin \theta\) のように角度成分が必須です。
- 最大摩擦力の適用ミス:
- 誤解: 問(1)のような静止状態でも \(F = \mu N\) を使ってしまう。
- 対策: 「滑り出す直前」「限界」という言葉があるときだけ \(\mu N\) を使います。それ以外は未知数 \(F\) として扱います。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(1)での公式選択(モーメントのつりあい):
- 選定理由: 未知数 \(N, F\) を求めずに \(R\) だけを知りたい場合、\(N, F\) が集中する点Aを支点としたモーメントの式が最適です。
- 適用根拠: 未知数を消去できるため、連立方程式を解く手間が省けます。
- 問(3)での公式選択(別解:点Bまわりのモーメント):
- 選定理由: 最終的に \(x\) を求めたい場合、\(R\) を消去できる点Bまわりのモーメント式を使うと、\(N\) と \(x\) の関係が直接得られ、計算が速いです。
- 適用根拠: どの点を支点にしてもモーメントのつりあいは成立するため、計算が最も楽になる点を選ぶのが賢い戦略です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の次元確認(ディメンションチェック):
- 答えが出たら単位を確認します。
- (1)の摩擦力は \([M][L][T]^{-2}\)(力)。
- (3)の \(x\) は \([L]\)(長さ)。分母分子で \(\mu\)(無次元)の項がキャンセルされ、\(l\)(長さ)が残るので正しいです。
- 極限的なケースでの検算:
- もし \(\theta \to 90^\circ\)(垂直)だったら? \(\tan \theta \to \infty\) となり、(1)の摩擦力 \(F \to 0\) となります。垂直に立てば摩擦はいらないので正しいです。
- もし \(\mu\) が非常に小さかったら? (3)の分子が負になり \(x < 0\) となります。これは、おもりをどこに置いても(Aから離しても)滑ってしまうことを意味します。
- 係数の処理:
- \(\sin \theta\)、\(\cos \theta\) などの係数が頻出します。分母の2を掛け忘れたりしないよう、途中式を丁寧に書きましょう。
問題12 (工学院大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)(2)の別解: エネルギー保存則を用いた解法
- 模範解答では運動方程式から加速度を求めていますが、別解ではエネルギー保存則を用いて先に速さを求め、そこから時間を逆算します。
- 設問(3)(4)の別解: 微積分を用いた体系的解法
- 放物運動の運動方程式を時間で積分することで、速度と位置の式を導出し、そこから幾何学的条件(飛び込み角度)を適用して解きます。公式の暗記ではなく、原理からの導出を示します。
- 設問(1)(2)の別解: エネルギー保存則を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- エネルギー保存則の効率性: 時間を問われない場合(問2など)、エネルギー保存則は計算が速く、ミスが少ない強力なツールです。
- 微積分の体系性: 放物運動の公式(\(x=v_0 t, y=\frac{1}{2}gt^2\) など)が、運動方程式 \(ma=F\) の積分から自然に導かれることを理解することで、物理学の統一的な視点を養えます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「斜面上の運動」と「斜方投射」です。
前半は斜面を滑り降りる等加速度直線運動、後半は空中に飛び出した後の放物運動(斜方投射)を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 等加速度直線運動の公式:
- \(v = v_0 + at\)
- \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
- \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
- 斜方投射: 水平方向は等速直線運動、鉛直方向は自由落下(投げ下ろし)と同じ等加速度運動になります。
- 力学的エネルギー保存則: 摩擦がないため、運動エネルギーと位置エネルギーの和は保存されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)(2)では、斜面方向の運動方程式を立てて加速度を求め、等加速度運動の公式を使って時間と速さを求めます。
- (3)(4)では、B点での速度を水平成分と鉛直成分に分解し、それぞれの方向の運動を解析します。特に、水面に飛び込む角度が \(60^\circ\) であるという幾何学的な条件を速度ベクトルの成分比に結びつけるのがポイントです。
問(1)
思考の道筋とポイント
物体が斜面を滑り落ちる運動です。まずは物体に働く力を図示し、斜面方向と斜面に垂直な方向に分解します。
斜面方向の力から加速度を求め、距離と時間の関係式を使って時間を求めます。
垂直抗力は、斜面に垂直な方向の力のつりあいから求めます。
この設問における重要なポイント
- 力の分解: 重力 \(mg\) を斜面に平行な成分 \(mg \sin 30^\circ\) と、垂直な成分 \(mg \cos 30^\circ\) に分解します。
- 斜面の長さ: 高さ \(h\) と傾角 \(30^\circ\) から、斜面の長さ \(\text{AB}\) を幾何学的に求めます。
- \(\text{AB} \sin 30^\circ = h \Rightarrow \text{AB} = \frac{h}{\sin 30^\circ} = 2h\)
具体的な解説と立式
1. 垂直抗力 \(N\) を求める
斜面に垂直な方向には運動しないため、力がつりあっています。
- 斜面垂直上向き: 垂直抗力 \(N\)
- 斜面垂直下向き: 重力の分力 \(mg \cos 30^\circ\)
つりあいの式より、
$$
\begin{aligned}
N &= mg \cos 30^\circ
\end{aligned}
$$
2. 時間 \(t_1\) を求める
斜面下向きを正として運動方程式を立てます。加速度を \(a\) とします。
$$
\begin{aligned}
ma &= mg \sin 30^\circ
\end{aligned}
$$
これより加速度 \(a\) が求まります。
初速度 \(0\) で距離 \(\text{AB} = 2h\) を進むのにかかる時間 \(t_1\) は、等加速度直線運動の公式 \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) を用いて求めます。
$$
\begin{aligned}
2h &= 0 \cdot t_1 + \frac{1}{2} a t_1^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 三角比: \(\sin 30^\circ = \frac{1}{2}, \cos 30^\circ = \frac{\sqrt{3}}{2}\)
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 等加速度直線運動: \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
垂直抗力 \(N\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
N &= mg \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{3}}{2}mg
\end{aligned}
$$
加速度 \(a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
ma &= mg \cdot \frac{1}{2} \\[2.0ex]
a &= \frac{1}{2}g
\end{aligned}
$$
時間 \(t_1\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
2h &= \frac{1}{2} \cdot \left( \frac{1}{2}g \right) t_1^2 \\[2.0ex]
2h &= \frac{1}{4}g t_1^2 \\[2.0ex]
t_1^2 &= \frac{8h}{g} \\[2.0ex]
t_1 &= \sqrt{\frac{8h}{g}} \\[2.0ex]
&= 2\sqrt{\frac{2h}{g}}
\end{aligned}
$$
坂道を滑り降りるとき、重力の一部が加速に使われ、残りが坂を押す力(垂直抗力)になります。
坂の角度が \(30^\circ\) なので、重力の半分が加速に使われます。
この加速度で、高さ \(h\) 分(坂の長さ \(2h\))を滑り降りるのにかかる時間を計算しました。
\(t_1 = 2\sqrt{\frac{2h}{g}}\)、\(N = \frac{\sqrt{3}}{2}mg\) です。
次元を確認すると、\(t_1\) は \(\sqrt{[L]/[L][T]^{-2}} = [T]\) で時間の次元、\(N\) は力の次元で正しいです。
問(2)
思考の道筋とポイント
B点に達したときの速さ \(v\) を求めます。
(1)で求めた加速度 \(a\) と時間 \(t_1\) を使って、等加速度直線運動の速度の公式 \(v = v_0 + at\) から求められます。
この設問における重要なポイント
- 初速度: \(v_0 = 0\)
- 加速度: \(a = \frac{1}{2}g\)
- 時間: \(t_1 = 2\sqrt{\frac{2h}{g}}\)
具体的な解説と立式
等加速度直線運動の速度の公式より、
$$
\begin{aligned}
v &= 0 + a t_1
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動: \(v = v_0 + at\)
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{1}{2}g \cdot 2\sqrt{\frac{2h}{g}} \\[2.0ex]
&= g \sqrt{\frac{2h}{g}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{g^2 \cdot \frac{2h}{g}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2gh}
\end{aligned}
$$
加速し続けた結果、どれくらいのスピードになったかを計算しました。
結果は \(\sqrt{2gh}\) となり、これは高さ \(h\) から自由落下したときの速さと同じです。摩擦がないので、エネルギー保存の観点からも納得できる結果です。
\(v = \sqrt{2gh}\) です。
これは力学的エネルギー保存則 \(mgh = \frac{1}{2}mv^2\) から得られる結果と一致しており、正しいです。
思考の道筋とポイント
摩擦がないため、力学的エネルギー保存則が成立します。
A点(高さ \(h\))での位置エネルギーが、B点(高さ \(0\) とみなす)での運動エネルギーにすべて変換されたと考えます。
この設問における重要なポイント
- エネルギーの変換: 位置エネルギー \(mgh\) \(\rightarrow\) 運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\)
具体的な解説と立式
B点を高さの基準とします。
- A点: 運動エネルギー \(0\)、位置エネルギー \(mgh\)
- B点: 運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\)、位置エネルギー \(0\)
エネルギー保存則より、
$$
\begin{aligned}
0 + mgh &= \frac{1}{2}mv^2 + 0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
$$
\begin{aligned}
mgh &= \frac{1}{2}mv^2 \\[2.0ex]
v^2 &= 2gh \\[2.0ex]
v &= \sqrt{2gh}
\end{aligned}
$$
高いところにある物体が持っているエネルギー(位置エネルギー)が、滑り落ちることでスピードのエネルギー(運動エネルギー)に変わりました。
途中の経路に関係なく、高さの差だけで速さが決まるという法則を使いました。
メインの解法と同じ結果が得られました。
時間を求める必要がない場合は、こちらの方が計算が圧倒的に速いです。
問(3)
思考の道筋とポイント
B点から飛び出した後の運動(斜方投射)を考えます。
B点での速度 \(v\) を水平成分と鉛直成分に分解します。
水面に飛び込むときの角度が \(60^\circ\) という条件は、水面到達時の速度ベクトルの「鉛直成分」と「水平成分」の比が \(\tan 60^\circ\) であることを意味します。
この設問における重要なポイント
- 速度の分解:
- B点での速度 \(v\) の向きは、斜面に沿って水平面から \(30^\circ\) 下向きです。
- 水平成分 \(v_x = v \cos 30^\circ\) (等速運動なので不変)
- 鉛直成分 \(v_{y0} = v \sin 30^\circ\) (初速度、下向き)
- 水面到達時の条件:
- 水面到達時の鉛直成分を \(v_y\) とすると、速度ベクトルが水平面と \(60^\circ\) をなすので、\(\displaystyle \frac{v_y}{v_x} = \tan 60^\circ\) が成り立ちます。
具体的な解説と立式
1. 速度成分の確認
B点での速度 \(v = \sqrt{2gh}\) を分解します。
- 水平成分: \(v_x = v \cos 30^\circ = \frac{\sqrt{3}}{2}v\)
- 鉛直成分(初速度): \(v_{y0} = v \sin 30^\circ = \frac{1}{2}v\)
2. 水面到達時の速度の関係
水面到達時の鉛直成分 \(v_y\) は、等加速度運動の公式 \(v = v_0 + at\) より、下向きを正として、
$$
\begin{aligned}
v_y &= v_{y0} + g t_2
\end{aligned}
$$
また、飛び込み角度が \(60^\circ\) なので、
$$
\begin{aligned}
\frac{v_y}{v_x} &= \tan 60^\circ \\[2.0ex]
&= \sqrt{3} \\[2.0ex]
v_y &= \sqrt{3} v_x
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 速度の分解
- 等加速度直線運動: \(v = v_0 + at\)
- タンジェントの定義: \(\tan \theta = \frac{v_y}{v_x}\)
\(v_y = \sqrt{3} v_x\) に成分を代入して \(v_y\) を \(v\) で表します。
$$
\begin{aligned}
v_y &= \sqrt{3} \cdot \left( \frac{\sqrt{3}}{2}v \right) \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}v
\end{aligned}
$$
これを速度の式 \(v_y = v_{y0} + g t_2\) に代入して \(t_2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{3}{2}v &= \frac{1}{2}v + g t_2 \\[2.0ex]
g t_2 &= v \\[2.0ex]
t_2 &= \frac{v}{g}
\end{aligned}
$$
\(v = \sqrt{2gh}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
t_2 &= \frac{\sqrt{2gh}}{g} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{2h}{g}}
\end{aligned}
$$
飛び出したボールは、横方向にはずっと同じスピードで進みますが、縦方向には重力でどんどん加速します。
水面に突っ込むときの角度が \(60^\circ\) になるということは、縦のスピードが横のスピードの \(\sqrt{3}\) 倍になったということです。
そこまで加速するのにかかった時間を計算しました。
\(t_2 = \sqrt{\frac{2h}{g}}\) です。
(1)の \(t_1 = 2\sqrt{\frac{2h}{g}}\) と比べると、半分の時間で着水したことになります。
問(4)
思考の道筋とポイント
B点から水面までの高さ \(H\) を求めます。
鉛直方向の運動は、初速度 \(v_{y0}\) の投げ下ろし運動です。
時間 \(t_2\) が求まっているので、距離の公式 \(y = v_0 t + \frac{1}{2}gt^2\) に代入すれば求まります。
この設問における重要なポイント
- 鉛直方向の運動:
- 初速度: \(v_{y0} = \frac{1}{2}v\)
- 加速度: \(g\)
- 時間: \(t_2 = \frac{v}{g}\) (計算を楽にするため \(v\) のまま扱います)
具体的な解説と立式
鉛直下向きを正として、落下距離 \(H\) の式を立てます。
$$
\begin{aligned}
H &= v_{y0} t_2 + \frac{1}{2} g t_2^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動: \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
値を代入します。
$$
\begin{aligned}
H &= \left( \frac{1}{2}v \right) \cdot \left( \frac{v}{g} \right) + \frac{1}{2} g \left( \frac{v}{g} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{v^2}{2g} + \frac{v^2}{2g} \\[2.0ex]
&= \frac{v^2}{g}
\end{aligned}
$$
\(v^2 = 2gh\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
H &= \frac{2gh}{g} \\[2.0ex]
&= 2h
\end{aligned}
$$
縦方向の初速と、重力による加速の両方の効果で落下します。
計算してみると、落下した高さ \(H\) は、最初の斜面の高さ \(h\) のちょうど2倍になることが分かりました。
\(H = 2h\) です。
シンプルな整数倍の結果となり、美しい関係が得られました。
思考の道筋とポイント
放物運動の公式を暗記するのではなく、運動方程式から出発して、積分によって速度と位置を導出します。
B点を原点 \((0, 0)\) とし、水平右向きを \(x\) 軸、鉛直下向きを \(y\) 軸とします。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式の立式:
- \(x\) 方向: 力は働かないので \(ma_x = 0\)
- \(y\) 方向: 重力が働くので \(ma_y = mg\)
- 初期条件:
- \(t=0\) で \(x=0, y=0\)
- \(v_{x0} = v \cos 30^\circ = \frac{\sqrt{3}}{2}v\)
- \(v_{y0} = v \sin 30^\circ = \frac{1}{2}v\)
具体的な解説と立式
1. 加速度の積分(速度の導出)
運動方程式より、\(a_x = 0, a_y = g\)。
これを時間 \(t\) で積分します。
$$
\begin{aligned}
v_x(t) &= \int a_x dt \\[2.0ex]
&= C_1 \\[2.0ex]
&= v_{x0} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{3}}{2}v
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
v_y(t) &= \int a_y dt \\[2.0ex]
&= gt + C_2 \\[2.0ex]
&= gt + v_{y0} \\[2.0ex]
&= gt + \frac{1}{2}v
\end{aligned}
$$
2. 速度の積分(位置の導出)
さらに時間 \(t\) で積分します。
$$
\begin{aligned}
x(t) &= \int v_x dt \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{3}}{2}vt + C_3 \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{3}}{2}vt \quad (x(0)=0)
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
y(t) &= \int v_y dt \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}gt^2 + \frac{1}{2}vt + C_4 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}gt^2 + \frac{1}{2}vt \quad (y(0)=0)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 微分の定義: \(v = \frac{dx}{dt}, a = \frac{dv}{dt}\)
- 積分の基本公式
3. 問3(時間の導出)
水面到達時刻 \(t_2\) において、速度ベクトルの角度が \(60^\circ\) なので、
$$
\begin{aligned}
\frac{v_y(t_2)}{v_x(t_2)} &= \tan 60^\circ \\[2.0ex]
&= \sqrt{3} \\[2.0ex]
v_y(t_2) &= \sqrt{3} v_x(t_2)
\end{aligned}
$$
導出した式を代入します。
$$
\begin{aligned}
gt_2 + \frac{1}{2}v &= \sqrt{3} \cdot \frac{\sqrt{3}}{2}v \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}v \\[2.0ex]
gt_2 &= v \\[2.0ex]
t_2 &= \frac{v}{g} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{2h}{g}}
\end{aligned}
$$
4. 問4(高さの導出)
水面までの高さ \(H\) は、時刻 \(t_2\) での \(y\) 座標 \(y(t_2)\) です。
$$
\begin{aligned}
H &= y(t_2) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}g t_2^2 + \frac{1}{2}v t_2
\end{aligned}
$$
\(t_2 = \frac{v}{g}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
H &= \frac{1}{2}g \left( \frac{v}{g} \right)^2 + \frac{1}{2}v \left( \frac{v}{g} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{v^2}{2g} + \frac{v^2}{2g} \\[2.0ex]
&= \frac{v^2}{g} \\[2.0ex]
&= 2h
\end{aligned}
$$
「力」から「加速度」が決まり、それを積み重ねて(積分して)「速度」になり、さらに積み重ねて「位置」になる、という物理の根本的な流れを計算で追いました。
公式を忘れても、この手順さえ知っていればいつでも答えを導き出せます。
微積分を用いて、運動の全容(任意時刻の位置と速度)を記述した上で、特定の条件(角度 \(60^\circ\))を適用することで、同じ結果が導かれました。
この方法は、例えば「水平距離を求めよ」といった他の設問が追加されても、\(x(t_2)\) に代入するだけで即座に対応できる汎用性があります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の独立性と分解
- 核心: 斜方投射のような2次元の運動は、互いに直交する2つの方向(水平方向と鉛直方向)に分解することで、それぞれ独立した1次元の運動として扱うことができます。
- 理解のポイント:
- 水平方向: 力が働かないため、等速直線運動をします。
- 鉛直方向: 重力のみが働くため、等加速度直線運動(投げ下ろし)をします。
- この2つを結びつける唯一の共通変数が「時間 \(t\)」です。
- 幾何学的条件の物理的翻訳
- 核心: 「水面に \(60^\circ\) の角度で飛び込んだ」という幾何学的な記述を、速度ベクトルの成分比 \(\frac{v_y}{v_x} = \tan 60^\circ\) という数式に翻訳する力が問われます。
- 理解のポイント: 速度の向きは、その瞬間の軌道の接線方向と一致します。したがって、軌道の角度は速度成分の比で決まります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 壁への衝突: 斜方投射された物体が壁に衝突する問題。衝突の瞬間の高さや速度を求める際、水平距離から時間を求め、それを鉛直方向の式に代入する手順は共通です。
- 斜面への着地: 斜面から飛び出して再び斜面に着地する問題。着地点の座標 \((x, y)\) が斜面の式 \(y = x \tan \theta\) を満たすことを利用します。
- モンキーハンティング: 標的の落下と弾丸の運動を同時に考える問題。鉛直方向の運動方程式が共通していることに着目します。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動の切り替わりを見抜く: この問題のように「斜面上の運動」から「空中での放物運動」へと運動の性質が変わる点(B点)に着目し、そこでの速度(大きさ・向き)を正確に求めます。前の運動の終端速度が、次の運動の初速度になります。
- 座標軸の設定: 斜面上では「斜面に平行・垂直」な軸、空中では「水平・鉛直」な軸を設定するのが定石です。
- エネルギー保存則の活用: 時間を問われていない区間(A→Bなど)では、運動方程式よりもエネルギー保存則の方が計算が速い場合が多いです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 速度成分の取り違え:
- 誤解: \(\sin\) と \(\cos\) を逆にしてしまう。特に斜面の角度(\(30^\circ\))と飛び込みの角度(\(60^\circ\))が混在しているため注意が必要です。
- 対策: 図を描き、直角三角形の辺の比を確認します。「角度を挟む辺が \(\cos\)」と覚えるのが鉄則です。
- 初期条件の忘れ:
- 誤解: 放物運動の鉛直初速度 \(v_{y0}\) を \(0\)(自由落下)として計算してしまう。
- 対策: B点での速度ベクトルを分解し、必ず \(v_{y0} = v \sin 30^\circ\) という初速度があることを明記してから立式します。
- 座標の正負:
- 誤解: 上向きを正としたり下向きを正としたり、途中で基準が変わって符号が合わなくなる。
- 対策: 「鉛直下向きを正」と決めたら、重力加速度 \(g\)、落下距離 \(H\)、下向きの速度 \(v_y\) すべてを正として一貫させます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(1)(2)での公式選択(エネルギー保存則 vs 運動方程式):
- 選定理由: 時間 \(t_1\) を求める必要がある問(1)では運動方程式と等加速度運動の公式が必須ですが、速さ \(v\) だけを求める問(2)ではエネルギー保存則の方が計算ステップが少なく、ミスを防げます。
- 適用根拠: 摩擦がないため、非保存力が仕事をせず、力学的エネルギーが保存されることが保証されています。
- 問(3)(4)での公式選択(微積分 vs 公式):
- 選定理由: 通常の公式適用で十分解けますが、微積分を使うと \(x(t), y(t)\) の式を一度作るだけで、時間、位置、速度のあらゆる質問に答えられるため、見通しが良くなります。
- 適用根拠: 等加速度運動の公式自体が、運動方程式の積分結果そのものであるため、どちらを使っても物理的には等価です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の次元確認(ディメンションチェック):
- 答えが出たら単位を確認します。
- \(t\) は \(\sqrt{h/g} \rightarrow \sqrt{[L]/([L][T]^{-2})} = [T]\) で時間。
- \(v\) は \(\sqrt{gh} \rightarrow \sqrt{([L][T]^{-2})[L]} = [L][T]^{-1}\) で速さ。
- \(H\) は \(h\) と同じ長さの次元。
- これらが合っているか常に確認する癖をつけましょう。
- 係数の処理:
- \(\frac{1}{2}\) や \(\sqrt{3}\) などの係数が頻出します。特に2乗するときに \(\left(\frac{\sqrt{3}}{2}\right)^2 = \frac{3}{4}\) となる計算などは、暗算せず丁寧に書き残すことでケアレスミスを減らせます。
- 極限的なケースでの検算:
- もし \(h=0\) なら? 全て \(0\) になるはず。
- もし斜面が垂直(\(90^\circ\))なら? 自由落下と同じになるはず。
- このような極端な値を代入して、式が破綻しないか確認します。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
問題13 (愛知工大+室蘭工大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係)を用いた解法
- 模範解答では運動方程式から加速度を求めていますが、別解では「動摩擦力のした仕事=運動エネルギーの変化」という関係を用いて、加速度を経由せずに距離を求めます。
- 設問(2)の別解: エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係)を用いた解法
- 斜面上の運動においても、重力による位置エネルギーの変化と動摩擦力の仕事を考慮したエネルギー保存則を用いることで、加速度を求めずに摩擦係数を導出します。
- 設問(1)(2)の別解: 微積分を用いた体系的解法
- 運動方程式を積分して速度と位置の式を導出し、そこから停止条件(\(v=0\))を適用して解きます。公式の暗記ではなく、原理からの導出を示します。
- 設問(1)の別解: エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係)を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- エネルギー保存則の効率性: 時間を問われない場合(距離や摩擦係数を求める場合)、エネルギー保存則は計算が速く、ミスが少ない強力なツールです。
- 微積分の体系性: 等加速度運動の公式が、運動方程式 \(ma=F\) の積分から自然に導かれることを理解することで、物理学の統一的な視点を養えます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「摩擦力のある面上での運動」です。
水平面および斜面上での物体の滑り運動を通して、動摩擦力、運動方程式、等加速度直線運動の公式、そして静止摩擦係数の条件を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 摩擦力:
- 動摩擦力: \(F’ = \mu N\) (動いているとき、向きは運動方向と逆)
- 最大摩擦力: \(F_0 = \mu_0 N\) (滑り出す直前)
- 等加速度直線運動の公式:
- \(v = v_0 + at\)
- \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
- \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
- 仕事とエネルギーの関係: \((\text{運動エネの変化}) + (\text{位置エネの変化}) = (\text{非保存力の仕事})\)
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、水平方向の運動方程式を立てて加速度(減速度)を求め、等加速度運動の公式から停止距離と時間を求めます。
- (2)では、斜面方向の運動方程式を立てて加速度を求め、停止距離の条件から動摩擦係数を逆算します。
- (3)では、斜面上で静止し続けるための力のつりあい条件から、静止摩擦係数の条件を求めます。
問(1)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
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なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
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