「良問の風」攻略ガイド(11〜15問):重要問題の解き方と物理の核心をマスター!

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問題11 (芝浦工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、静止摩擦力と力のモーメントのつり合いを扱う、剛体のつり合いに関する典型的な問題です。棒、小物体、床、壁が登場し、それぞれの間に働く力を正確に把握し、力のつり合いとモーメントのつり合いの式を立てることが求められます。特に、問(3)では、棒が滑り出す限界の条件を考える必要があります。

与えられた条件
  • 棒: 質量 \(M\)、長さ \(l\)、一様
  • 棒の傾き: 床と角 \(\theta\)
  • 小物体P: 質量 \(m\)
  • Pの位置 (問(1)時点): 棒の中点 (Aから \(l/2\))
  • Pと棒の間: 粗く、Pは静止
  • A点: 床から摩擦力を受ける
  • 壁: なめらか(摩擦なし)
  • 重力加速度: \(g\)
  • 棒と床の間の静止摩擦係数: \(\mu\)
問われていること
  1. A点で棒が床から受ける摩擦力の大きさ \(F\)
  2. 棒が静止しているための \(\mu\) の条件
  3. PをAからの距離 \(x\) に置いたとき、棒が滑らずに静止する限界の \(x\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は、物理における「剛体のつり合い」というテーマに属します。剛体がつり合っている(静止している)状態を分析するには、以下の2つの条件が同時に満たされる必要があります。

  • 力のつり合い: 物体に働く力のベクトル和がゼロであること。
    • 水平方向の力のつり合い: \(\sum F_{\text{水平}} = 0\)
    • 鉛直方向の力のつり合い: \(\sum F_{\text{鉛直}} = 0\)
  • 力のモーメントのつり合い: ある点のまわりの力のモーメントの和がゼロであること。
    • \(\sum M = 0\)

これらの法則を適用して、未知の力を求めていきます。特に力のモーメントのつり合いを考える際には、回転軸をどこに選ぶかが計算を簡略化する上で重要になります。全体的な戦略としては、まず棒に働く力をすべて図示し、力のつり合いの式、力のモーメントのつり合いの式を立て、それらを連立して解いていきます。

問1

思考の道筋とポイント
まず、棒ABに働く力をすべて図示します。これらは、棒自身の重力 \(Mg\)、小物体Pの重力による力 \(mg\)、床からの垂直抗力 \(N\)、床からの静止摩擦力 \(F\)、壁からの垂直抗力 \(R\) です。摩擦力 \(F\) の向きは、棒が滑るとすればA点は左へ動こうとするため、それを妨げる右向きとなります。壁はなめらかなので、壁からの摩擦力はありません。
これらの力を図に描き込んだ後、力のつり合いとモーメントのつり合いを考えます。A点のまわりのモーメントのつり合いを考えると、\(N\) と \(F\) のモーメントが \(0\) になるため、計算が比較的簡単になります。

この設問における重要なポイント

  • 棒に働くすべての力を正確に図示すること。
  • 力のモーメントのつり合いを考える際、回転軸を適切に選ぶこと(本問ではA点が有利)。
  • 水平方向および鉛直方向の力のつり合いの式も立て、連立して解くこと。

具体的な解説と立式
棒ABに働く力は以下の通りです。

  • 棒の重力 \(Mg\): 棒の中点に鉛直下向き。A点のまわりのモーメントは \(-Mg \cdot \frac{l}{2} \cos\theta\)。 (時計回りを負)
  • 小物体Pの重力 \(mg\): 棒の中点 (Aから \(l/2\)) に鉛直下向き。A点のまわりのモーメントは \(-mg \cdot \frac{l}{2} \cos\theta\)。
  • 床からの垂直抗力 \(N\): A点に鉛直上向き。A点のまわりのモーメントは \(0\)。
  • 床からの静止摩擦力 \(F\): A点に水平右向き。A点のまわりのモーメントは \(0\)。
  • 壁からの垂直抗力 \(R\): B点に水平左向き。A点のまわりのモーメントは \(R \cdot l \sin\theta\)。 (反時計回りを正)

点Aのまわりの力のモーメントのつり合いの式 (反時計回りを正):
$$ R \cdot l \sin\theta – Mg \cdot \frac{l}{2} \cos\theta – mg \cdot \frac{l}{2} \cos\theta = 0 $$
水平方向の力のつり合い (右向きを正):
$$ F – R = 0 \quad \text{つまり} \quad F = R $$
鉛直方向の力のつり合い (上向きを正):
$$ N – Mg – mg = 0 \quad \text{つまり} \quad N = (M+m)g $$

使用した物理公式
力のつり合い: \(\sum F_{\text{水平}} = 0\), \(\sum F_{\text{鉛直}} = 0\)
力のモーメントのつり合い: \(\sum M_A = 0\)
計算過程

まず、モーメントのつり合いの式から \(R\) を求めます。
$$ R \cdot l \sin\theta = \left(Mg \cdot \frac{l}{2} + mg \cdot \frac{l}{2}\right) \cos\theta $$
$$ R \cdot l \sin\theta = (M+m)g \frac{l}{2} \cos\theta $$
両辺から \(l\) を消去し (\(l \neq 0\))、\(\sin\theta\) で割ると (\(\sin\theta \neq 0\) なので):
$$ R = (M+m)g \frac{\cos\theta}{2 \sin\theta} $$
$$ R = \frac{(M+m)g}{2 \tan\theta} $$
水平方向の力のつり合いより \(F=R\) なので、
$$ F = \frac{(M+m)g}{2 \tan\theta} $$

計算方法の平易な説明

棒が点Aを中心に回転しないためには、棒を時計回りに回そうとする力のモーメント(棒自身の重さとPの重さによるもの)と、反時計回りに回そうとする力のモーメント(壁からの力によるもの)が釣り合っている必要があります。このつり合いから壁が棒を押す力 \(R\) が求まります。次に、棒が水平方向に動かないためには、床からの摩擦力 \(F\) と壁からの力 \(R\) が釣り合っている必要があるので、\(F=R\) となります。

結論と吟味

A点で棒が床から受ける摩擦力の大きさ \(F\) は \(\displaystyle F = \frac{(M+m)g}{2 \tan\theta}\) です。
この結果は、棒の傾き \(\theta\) が小さいほど(棒がより水平に近いほど)、\(\tan\theta\) が小さくなり、摩擦力 \(F\) は大きくなることを示しています。これは直感的に、棒が寝ているほど滑りやすく、それを支えるためにより大きな摩擦力が必要になることと一致します。

解答 (1) \(\displaystyle \frac{(M+m)g}{2 \tan\theta}\)

問2

思考の道筋とポイント
棒が静止しているためには、A点で働く静止摩擦力 \(F\) が、その点で発揮できる最大静止摩擦力 \(\mu N\) 以下でなければなりません。すなわち、\(F \le \mu N\) という条件が成り立っている必要があります。問1で求めた \(F\) と、鉛直方向の力のつり合いから得られる \(N = (M+m)g\) をこの不等式に代入して、\(\mu\) についての条件を導きます。

この設問における重要なポイント

  • 静止摩擦力と最大静止摩擦力の関係 \(F \le \mu N\) を正しく理解し適用すること。
  • 問1で求めた摩擦力 \(F\) と垂直抗力 \(N\) の式を正確に代入すること。

具体的な解説と立式
静止するための条件は \(F \le \mu N\) です。
問1の結果より、
$$ F = \frac{(M+m)g}{2 \tan\theta} $$
鉛直方向の力のつり合いより、
$$ N = (M+m)g $$
これらを \(F \le \mu N\) に代入します。

使用した物理公式
静止摩擦力の条件: \(F \le \mu N\)
計算過程

$$ \frac{(M+m)g}{2 \tan\theta} \le \mu (M+m)g $$
\((M+m)g\) は正の定数なので、両辺をこれで割っても不等号の向きは変わりません (\(M+m > 0, g > 0\))。
$$ \frac{1}{2 \tan\theta} \le \mu $$
したがって、
$$ \mu \ge \frac{1}{2 \tan\theta} $$

計算方法の平易な説明

棒が滑り出さないためには、実際に働いている摩擦力 \(F\) が、床が出せる最大の摩擦力(最大静止摩擦力 \(\mu N\))を超えてはいけません。この条件に、問1で求めた \(F\) と \(N\) の値を代入して \(\mu\) について整理すると、求める条件が得られます。

結論と吟味

棒が静止していることから \(\displaystyle \mu \ge \frac{1}{2 \tan\theta}\) の条件が成り立っています。
この結果は、傾き \(\theta\) が小さいほど(棒が寝ているほど)、\(\tan\theta\) が小さくなり、\(\frac{1}{2 \tan\theta}\) は大きくなります。つまり、棒が寝ているほど、滑らないためにはより大きな静止摩擦係数 \(\mu\) が必要になることを示しており、直感と一致します。

解答 (2) \(\displaystyle \frac{1}{2 \tan\theta}\)

問3

思考の道筋とポイント
Pの位置をAからの距離 \(x\) に変えたとき、棒が滑らずに静止する「限界」になったとは、A点で働く静止摩擦力 \(F’\) が最大静止摩擦力 \(\mu N’\) に等しくなった状況、すなわち \(F’ = \mu N’\) を指します。
Pの位置が変わることで、Pの重力によるモーメントが変化します。これに伴い、壁からの垂直抗力 \(R’\) や床からの摩擦力 \(F’\) も変化します(床からの垂直抗力 \(N’\) は変化しません)。
新しい条件で力のつり合いとモーメントのつり合いの式を立て、\(F’=\mu N’\) の条件を使って \(x\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 「限界になった」という言葉から、静止摩擦力が最大静止摩擦力に等しい (\(F’ = \mu N’\)) という条件を適用すること。
  • 小物体Pの位置 \(x\) を変数として、力のモーメントのつり合いの式を正しく立てること。特に、Pの重力によるモーメントの腕の長さが \(x \cos\theta\) となる点に注意する。
  • 文字が多く複雑な計算になるため、一つ一つのステップを丁寧に、かつ正確に進めること。

具体的な解説と立式
Pの位置がAから距離 \(x\) のとき、棒に働く力は以下の通りです。

  • 棒の重力 \(Mg\): A点のまわりのモーメントは \(-Mg \cdot \frac{l}{2} \cos\theta\)。
  • 小物体Pの重力 \(mg\): Aから水平距離 \(x \cos\theta\) の位置に作用。A点のまわりのモーメントは \(-mg \cdot x \cos\theta\)。
  • 床からの垂直抗力 \(N’\): 鉛直方向のつり合いより \(N’ = (M+m)g\)。これは \(x\) に依りません。
  • 床からの静止摩擦力 \(F’\): 滑る限界なので \(F’ = \mu N’ = \mu (M+m)g\)。
  • 壁からの垂直抗力 \(R’\): 水平方向のつり合いより \(R’ = F’ = \mu (M+m)g\)。

点Aのまわりの力のモーメントのつり合いの式 (反時計回りを正):
$$ R’ \cdot l \sin\theta – Mg \cdot \frac{l}{2} \cos\theta – mg \cdot x \cos\theta = 0 $$
ここに \(R’ = \mu (M+m)g\) を代入します。
$$ \mu (M+m)g \cdot l \sin\theta – Mg \frac{l}{2} \cos\theta – mgx \cos\theta = 0 $$

使用した物理公式
力のつり合い: \(\sum F_{\text{水平}} = 0\), \(\sum F_{\text{鉛直}} = 0\)
力のモーメントのつり合い: \(\sum M_A = 0\)
滑る限界の条件: \(F’ = \mu N’\)
計算過程

上記モーメントのつり合いの式を \(x\) について解きます。
$$ mgx \cos\theta = \mu (M+m)g l \sin\theta – Mg \frac{l}{2} \cos\theta $$
両辺を \(mg \cos\theta\) で割ります (\(m, g, \cos\theta\) はいずれも0ではないと仮定)。
$$ x = \frac{\mu (M+m)g l \sin\theta}{mg \cos\theta} – \frac{Mg \frac{l}{2} \cos\theta}{mg \cos\theta} $$
\(g\) を消去し、整理します。
$$ x = \frac{\mu (M+m) l}{m} \frac{\sin\theta}{\cos\theta} – \frac{M l}{2m} $$
$$ x = \frac{\mu (M+m) l}{m} \tan\theta – \frac{Ml}{2m} $$
共通因数 \(\displaystyle \frac{l}{2m}\) でくくると、
$$ x = \frac{l}{2m} \{2\mu (M+m) \tan\theta – M\} $$

計算方法の平易な説明

Pの位置が変わると、Pの重さが棒を回転させようとする力のモーメントが変わります。滑り出すギリギリの状態では、摩擦力は最大値 \(\mu N’\) となり、壁からの力 \(R’\) もこれと釣り合います。これらの力を使って点Aの周りのモーメントのつり合いの式を立て、それを \(x\) について解けば、限界となるPの位置が求まります。

結論と吟味

PをAからの距離 \(\displaystyle x = \frac{l}{2m} \{2\mu (M+m) \tan\theta – M\}\) に置いたとき、棒が滑らずに静止する限界になります。
この式は、静止摩擦係数 \(\mu\) が大きいほど、また傾斜角 \(\theta\) が大きい(\(\tan\theta\) が大きい)ほど、\(x\) が大きくなる傾向を示します。これは、床が滑りにくかったり、棒がより垂直に近い方が、小物体Pをより壁側(B点に近い位置)に置いても滑らないという直感と一致します。

解答 (3) \(\displaystyle \frac{l}{2m} \{2\mu (M+m) \tan\theta – M\}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 剛体のつり合いの条件:
    • 力のつり合い: \(\sum \vec{F} = 0\) (水平成分、鉛直成分それぞれで和が0)
    • 力のモーメントのつり合い: \(\sum M = 0\) (任意の点のまわりで和が0)
    • これら2つの条件が、剛体が静止し続けるための基本法則です。
  • 静止摩擦力と最大静止摩擦力:
    • 静止摩擦力 \(F\) は外力に応じて変化し、\(0 \le F \le \mu N\) の範囲の値をとります。
    • 最大静止摩擦力は \(F_{\text{最大}} = \mu N\) であり、「滑り出す限界」ではこの条件を用います。
  • 力のモーメント:
    • モーメント = 力の大きさ \(\times\) 腕の長さ(回転軸から力の作用線までの垂直距離)。
    • モーメントの符号(時計回りか反時計回りか)を統一して計算することが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • はしごを壁に立てかける問題(本問と同様の構造)。
    • 看板や物体を複数のロープや支柱で支える問題。
    • 物体が傾いて倒れるかどうかの判定問題。
  • 初見の問題への着眼点:
    1. 対象となる物体に働くすべての力を特定し、図示する(作用点も明確に)。
    2. 力のつり合い(水平・鉛直)の式を立てる。
    3. 力のモーメントのつり合いの式を立てる(計算が楽になる回転軸を選ぶ)。
    4. 「滑る限界」なら \(F=\mu N\)。「倒れる限界」なら回転軸周りのモーメントのつり合いが崩れる瞬間(多くは垂直抗力の作用点が支持面の端に来る)。
  • ヒント・注意点:
    • 図を丁寧に描くことが、力の見落としや腕の長さの間違いを防ぐ鍵です。
    • 文字が多く複雑な場合は、一つ一つのステップを確実に進め、計算ミスに注意しましょう。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 摩擦力の向きの誤り: 物体が動こうとする向きと反対向きに働きます。
  • 垂直抗力と重力の混同: 垂直抗力は面から垂直に働く力で、常に重力と等しいわけではありません。
  • モーメントの腕の長さの誤り: 回転軸から力の「作用線までの垂直距離」です。三角比を正しく使いましょう。
  • 静止摩擦力 \(F\) と最大静止摩擦力 \(\mu N\) の混同: \(F \le \mu N\) であり、等号は滑り出す直前のみです。

対策: 多くの類題を解き、図を描く習慣をつけ、簡単なケースで検算する癖をつけましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 有効な図:
    1. フリーボディダイアグラム(対象物体に働くすべての力を矢印で図示)。
    2. モーメント計算のための、回転軸、力の作用線、腕の長さを示した図。
  • 図を描く際の注意点: 力の作用点、向き、角度や長さを正確に。座標軸も明記する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(\sum F_{\text{水平}} = 0, \sum F_{\text{鉛直}} = 0\): 物体が並進運動せず静止するための条件。
  • \(\sum M = 0\): 物体が回転運動せず静止するための条件。
  • \(F \le \mu N\) (静止時), \(F = \mu N\) (滑る限界時): 摩擦に関する実験法則。

これらの選択・適用の根拠は、「物体が静止している」という問題設定そのものから来ています。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 状況把握(剛体の静止、問われていることの確認)。
  2. 力の分析(対象物体に働く全力を図示)。
  3. 問1: モーメントのつり合い (A点周り) \(\rightarrow R\) 決定 \(\rightarrow\) 水平方向力のつり合い \(\rightarrow F\) 決定。鉛直方向力のつり合い \(\rightarrow N\) 決定。
  4. 問2: \(F \le \mu N\) の条件に問1の結果を代入 \(\rightarrow \mu\) の条件導出。
  5. 問3: 「滑る限界」 \(\rightarrow F’ = \mu N’\) を適用。Pの位置 \(x\) を変数としてモーメントのつり合い (A点周り) を立式 \(\rightarrow x\) について解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位確認: 最終結果の単位が物理的に正しいか確認。
  • 文字式の丁寧な扱い: 展開、移項、約分を慎重に。特に符号ミスに注意。
  • 分数の計算: \(\tan\theta = \sin\theta / \cos\theta\) の扱いなど、分子分母を明確に。
  • 共通因数での整理: 答えを見やすく、物理的な意味が分かりやすくなるように。

日頃の練習: 途中式を省略せずに書き、検算する習慣をつけましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な妥当性:
    • 問(1) \(F\): \(\theta\) 小 \(\Rightarrow F\) 大。 \(\theta \rightarrow 90^\circ \Rightarrow F \rightarrow 0\)。
    • 問(2) \(\mu\): \(\theta\) 小 \(\Rightarrow\) 必要な \(\mu\) 大。
    • 問(3) \(x\): \(\mu\) 大 \(\Rightarrow x\) 大傾向。\(\theta\) 大 \(\Rightarrow x\) 大傾向。
  • 単位確認:
    • (1) \(F\): [N]
    • (2) \(\mu\): 無次元
    • (3) \(x\): [m]
  • 特殊なケース(極端な場合)の代入:
    • 問(3)で、もし \(2\mu (M+m) \tan\theta – M \le 0\) なら、PをA点より手前に置かないと(あるいはA点でも)滑ることを意味します。
    • Pを中点 \(x=l/2\) に置いたときに滑る限界になる条件は、問(2)で等号が成り立つ場合と一致することを確認できます。

これらの吟味が理解を深め、ミスを防ぎます。

問題12 (工学院大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、物体の運動を「斜面上の等加速度直線運動」と「空中での放物運動」の2つの部分に分けて考えるものです。それぞれの運動において、運動方程式や等加速度直線運動の公式、エネルギー保存則、放物運動の速度と変位の式などを適切に用いることが求められます。

与えられた条件
  • 斜面の傾斜角: \(30^\circ\)
  • 斜面の頂点Aの高さ: \(h\)
  • 斜面: なめらか (摩擦なし)
  • 物体の質量: \(m\)
  • 初速度: A点で手放す (初速 \(v_{\text{初}} = 0\))
  • 水面への入射角: B点から飛び出した後、水面に対して\(60^\circ\)の角度で飛び込む。
  • 重力加速度: \(g\)
問われていること
  1. 物体が斜面を滑り落ち、B点に達するまでの時間 \(t_1\) と、斜面から受ける垂直抗力 \(N\)。
  2. B点での物体の速さ \(v\)。
  3. B点から水面に飛びこむまでの時間 \(t_2\) (\(h, g\) を用いて表す)。
  4. 水面からB点までの高さ \(H\) (\(h\) を用いて表す)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く鍵は、運動のフェーズを明確に区別し、それぞれのフェーズで適切な物理法則を適用することです。

  • フェーズ1 (A\(\rightarrow\)B): 斜面上の運動
    • 物体は重力と垂直抗力を受け、斜面に沿って等加速度直線運動をします。
    • 運動方程式、等加速度直線運動の公式、または力学的エネルギー保存則が利用できます。
  • フェーズ2 (B\(\rightarrow\)水面): 空中での放物運動
    • 物体は重力のみを受け、放物運動をします。
    • 水平方向は等速直線運動、鉛直方向は等加速度直線運動として扱います。

全体的な戦略としては、まずフェーズ1(斜面上の運動)を分析し、次にその結果を使ってフェーズ2(放物運動)を分析します。

問1

思考の道筋とポイント
物体が斜面を滑り落ちる運動は、重力の斜面方向成分による等加速度直線運動です。まず斜面の長さを求め、次に運動方程式から加速度を決定し、等加速度直線運動の公式を使って時間 \(t_1\) を求めます。垂直抗力 \(N\) は、斜面に垂直な方向の力のつり合いから求めます。

この設問における重要なポイント

  • 物体に働く力を正確に図示し、斜面方向と斜面に垂直な方向に分解すること。
  • 三角比(特に \(\sin 30^\circ\) と \(\cos 30^\circ\))を正しく用いて、斜面の長さや力の成分を計算すること。
  • 等加速度直線運動の公式を正しく選択し、適用すること。

具体的な解説と立式
斜面の頂点Aの高さが \(h\) で、傾斜角が \(30^\circ\) なので、斜面の長さ \(L_{AB}\) は、
$$ L_{AB} = \frac{h}{\sin 30^\circ} = \frac{h}{1/2} = 2h $$
物体に働く力は、重力 \(mg\) と垂直抗力 \(N\) です。重力を斜面方向と斜面に垂直な方向に分解します。

  • 斜面方向の力(運動方向): \(F_s = mg \sin 30^\circ = mg \cdot \frac{1}{2} = \frac{1}{2}mg\)
  • 斜面に垂直な方向の力: \(F_n = mg \cos 30^\circ = mg \cdot \frac{\sqrt{3}}{2}\)

斜面方向の運動方程式 \(ma = F_s\) より、加速度 \(a\) は、
$$ ma = \frac{1}{2}mg \quad $$
$$ \quad a = \frac{1}{2}g $$
初速度 \(v_{\text{初}} = 0\)、距離 \(L_{AB} = 2h\)、加速度 \(a = \frac{g}{2}\) なので、等加速度直線運動の公式 \(s = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\) より、時間 \(t_1\) は、
$$ 2h = 0 \cdot t_1 + \frac{1}{2} \left(\frac{g}{2}\right) t_1^2 $$
斜面に垂直な方向では力のつり合いが成り立っているので(この方向の加速度は0)、
$$ N – mg \cos 30^\circ = 0 \quad $$
$$ \quad N = mg \cos 30^\circ $$

使用した物理公式
三角比: \(\sin\theta = \text{対辺}/\text{斜辺}\)
運動方程式: \(ma = F\)
等加速度直線運動: \(s = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\)
力のつり合い(斜面垂直方向): \(\sum F_y = 0\)
計算過程

時間 \(t_1\) の計算:
$$ 2h = \frac{g}{4} t_1^2 $$
$$ t_1^2 = \frac{8h}{g} $$
\(t_1 > 0\) なので、
$$ t_1 = \sqrt{\frac{8h}{g}} = 2\sqrt{\frac{2h}{g}} $$
垂直抗力 \(N\) の計算:
$$ N = mg \cos 30^\circ = mg \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} = \frac{\sqrt{3}}{2}mg $$

計算方法の平易な説明

まず、物体が滑り降りる斜面の実際の長さを、高さ \(h\) と角度 \(30^\circ\) から計算します(結果は \(2h\))。次に、物体が斜面を滑り落ちる加速度を、重力の一部から計算します(結果は \(g/2\))。これらの情報を使って、初速0で斜面を滑りきる時間を計算式から求めます。垂直抗力は、重力の斜面に垂直な成分と釣り合っています。

結論と吟味

物体がB点に達するまでの時間 \(t_1\) は \(\displaystyle 2\sqrt{\frac{2h}{g}}\)、斜面から受ける垂直抗力 \(N\) は \(\displaystyle \frac{\sqrt{3}}{2}mg\) です。時間は高さ \(h\) が大きいほど長くなり、重力加速度 \(g\) が大きいほど短くなるという直感と一致します。垂直抗力は重力 \(mg\) よりも小さく、斜面の角度に依存しており妥当です。

解答 (1) 時間 \(t_1 = 2\sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\), 垂直抗力 \(N = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}mg\)

問2

思考の道筋とポイント
B点での物体の速さ \(v\) は、A点からB点までの運動がなめらかな斜面上の運動であるため、力学的エネルギー保存則を用いるのが最も簡単です。あるいは、問1で求めた加速度 \(a\) と時間 \(t_1\) (または距離 \(L_{AB}\)) を使って、等加速度直線運動の公式からも求められます。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則の適用条件(保存力以外の力が仕事をしないこと)を理解し、この問題で適用できると判断すること。
  • エネルギー保存則を用いる場合、位置エネルギーの基準点を明確に設定すること(通常は最も低いB点を基準とする)。
  • 等加速度直線運動の公式 \(v = v_{\text{初}} + at\) や \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2as\) も利用可能であることを理解しておく。

具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則を用います。B点を高さの基準 (\(H_B=0\)) とすると、A点の高さは \(H_A=h\) です。A点での速さは \(v_A=0\) です。
A点での力学的エネルギー: \(E_A = mgH_A + \frac{1}{2}mv_A^2 = mgh + 0 = mgh\)
B点での力学的エネルギー: \(E_B = mgH_B + \frac{1}{2}mv_B^2 = 0 + \frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2}mv^2\)
力学的エネルギー保存則 \(E_A = E_B\) より、
$$ mgh = \frac{1}{2}mv^2 $$

使用した物理公式
力学的エネルギー保存則: \(E_A = E_B\)
位置エネルギー: \(U = mgh\)
運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
計算過程

$$ mgh = \frac{1}{2}mv^2 $$
両辺から \(m\) を消去し (\(m \neq 0\))、2倍すると、
$$ 2gh = v^2 $$
\(v > 0\) なので、
$$ v = \sqrt{2gh} $$
(別解として、\(v = at_1 = \frac{g}{2} \cdot 2\sqrt{\frac{2h}{g}} = g\sqrt{\frac{2h}{g}} = \sqrt{g^2 \frac{2h}{g}} = \sqrt{2gh}\) でも同じ結果が得られます。)

計算方法の平易な説明

物体がA点からB点まで滑り落ちる間、摩擦がないため、持っていた「高さのエネルギー(位置エネルギー)」がすべて「速さのエネルギー(運動エネルギー)」に変わります。この関係を式にすると、B点での速さ \(v\) が簡単に求まります。

結論と吟味

B点での物体の速さ \(v\) は \(\sqrt{2gh}\) です。この速さは、物体が高さ \(h\) から自由落下したときの速さと同じであり、力学的エネルギーが保存されていることを反映しています。質量 \(m\) に依らない点も特徴です。

解答 (2) \(v = \sqrt{2gh}\)

問3

思考の道筋とポイント
B点から物体は放物運動をします。B点での初速度は問2で求めた \(v\) で、向きは斜面と同じく水平面に対して \(30^\circ\) です。水面に \(60^\circ\) の角度で飛びこむという条件は、水面到達時の速度の鉛直成分と水平成分の比が \(\tan 60^\circ\) であることを意味します。水平方向の速度は放物運動中一定であることに注意します。

この設問における重要なポイント

  • 放物運動を水平方向(等速直線運動)と鉛直方向(等加速度直線運動)に分けて考えること。
  • B点での初速度を正確に水平成分と鉛直成分に分解すること。このとき、速度の向きは斜面方向(水平と \(30^\circ\))である。
  • 水面への入射角の条件を、速度の鉛直成分と水平成分の関係式 (\(v_{\text{鉛直}}/v_{\text{水平}} = \tan\theta\)) に正しく変換すること。
  • 鉛直方向の運動について、座標軸の向き(上向き正か下向き正か)を一貫して用いること。

具体的な解説と立式
B点での初速度 \(v = \sqrt{2gh}\)。この速度の水平成分 \(v_{B,\text{水平}}\) と鉛直成分 \(v_{B,\text{鉛直}}\) (鉛直下向きを正とする) は、
$$ v_{B,\text{水平}} = v \cos 30^\circ = \sqrt{2gh} \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} $$
$$ v_{B,\text{鉛直}} = v \sin 30^\circ = \sqrt{2gh} \cdot \frac{1}{2} $$
時間 \(t_2\) 後に水面に達したときの速度の水平成分 \(v_{W,\text{水平}}\) と鉛直成分 \(v_{W,\text{鉛直}}\) は、
$$ v_{W,\text{水平}} = v_{B,\text{水平}} = \frac{\sqrt{3}}{2}\sqrt{2gh} \quad (\text{水平方向は等速}) $$
$$ v_{W,\text{鉛直}} = v_{B,\text{鉛直}} + gt_2 = \frac{1}{2}\sqrt{2gh} + gt_2 \quad (\text{鉛直方向は初速 } v_{B,\text{鉛直}} \text{ で加速度 } g \text{ の等加速度運動}) $$
水面に \(60^\circ\) の角度で飛びこむので、
$$ \frac{v_{W,\text{鉛直}}}{v_{W,\text{水平}}} = \tan 60^\circ = \sqrt{3} $$
したがって、
$$ \frac{\frac{1}{2}\sqrt{2gh} + gt_2}{\frac{\sqrt{3}}{2}\sqrt{2gh}} = \sqrt{3} $$

使用した物理公式
速度の分解: \(v_{\text{水平}} = v \cos\alpha\), \(v_{\text{鉛直}} = v \sin\alpha\)
水平投射(類似): 水平方向 \(v_{\text{水平}} = \text{一定}\), 鉛直方向 \(v_{\text{鉛直}} = v_{\text{初,鉛直}} + gt\)
角度と速度成分の関係: \(\tan\theta = v_{\text{鉛直}}/v_{\text{水平}}\)
計算過程

$$ \frac{1}{2}\sqrt{2gh} + gt_2 = \sqrt{3} \cdot \left(\frac{\sqrt{3}}{2}\sqrt{2gh}\right) $$
$$ \frac{1}{2}\sqrt{2gh} + gt_2 = \frac{3}{2}\sqrt{2gh} $$
両辺から \(\frac{1}{2}\sqrt{2gh}\) を引くと、
$$ gt_2 = \frac{3}{2}\sqrt{2gh} – \frac{1}{2}\sqrt{2gh} $$
$$ gt_2 = \left(\frac{3-1}{2}\right)\sqrt{2gh} = \frac{2}{2}\sqrt{2gh} = \sqrt{2gh} $$
したがって、
$$ t_2 = \frac{\sqrt{2gh}}{g} = \sqrt{\frac{2gh}{g^2}} = \sqrt{\frac{2h}{g}} $$

計算方法の平易な説明

物体がB点から飛び出すときの速さ \(v\) と角度 \(30^\circ\) から、まず水平方向の速さと鉛直下向きの初速を求めます。物体が水面に \(60^\circ\) で飛び込むとき、その瞬間の「鉛直方向の速さ」を「水平方向の速さ」で割ったものが \(\tan 60^\circ\)(つまり \(\sqrt{3}\))になります。水平方向の速さは飛び出してからずっと変わりません。鉛直方向の速さは、初速に加えて重力で時間とともに増えていきます。この関係を式にして、時間 \(t_2\) について解きます。

結論と吟味

B点から水面に飛びこむまでの時間 \(t_2\) は \(\displaystyle \sqrt{\frac{2h}{g}}\) です。この時間は \(h\) が大きいほど長くなり、\(g\) が大きいほど短くなるという物理的な直感に合致します。

解答 (3) \(t_2 = \sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\)

問4

思考の道筋とポイント
水面からB点までの高さ \(H\) は、B点から鉛直下向きに \(t_2\) 時間落下したときの鉛直方向の変位です。鉛直方向の初速度 \(v_{B,\text{鉛直}}\) と時間 \(t_2\)、重力加速度 \(g\) を用いて、等加速度直線運動の変位の公式から求めることができます。あるいは、鉛直方向の速度と変位の関係式 \(v_{\text{鉛直}}^2 – v_{\text{初,鉛直}}^2 = 2ay\) も利用可能です。

この設問における重要なポイント

  • 鉛直方向の運動に着目し、適切な等加速度直線運動の公式を選択すること。
  • 問2および問3で求めたB点での速度の鉛直成分 \(v_{B,\text{鉛直}}\) や時間 \(t_2\) の値を正確に用いること。
  • 計算過程での平方根や代数計算を丁寧に行うこと。

具体的な解説と立式
鉛直下向きを正とし、B点を原点とすると、\(t_2\) 時間後の鉛直方向の変位が \(H\) になります。
初速度の鉛直成分: \(v_{B,\text{鉛直}} = v \sin 30^\circ = \sqrt{2gh} \cdot \frac{1}{2} = \frac{1}{2}\sqrt{2gh}\)
時間: \(t_2 = \sqrt{\frac{2h}{g}}\)
加速度: \(g\)
変位の公式 \(y = v_{\text{初}y}t + \frac{1}{2}at^2\) より、
$$ H = v_{B,\text{鉛直}} t_2 + \frac{1}{2}g t_2^2 $$
$$ H = \left(\frac{1}{2}\sqrt{2gh}\right) \left(\sqrt{\frac{2h}{g}}\right) + \frac{1}{2}g \left(\sqrt{\frac{2h}{g}}\right)^2 $$

使用した物理公式
鉛直方向の等加速度直線運動: \(y = v_{\text{初}y}t + \frac{1}{2}gt^2\)
(または \(v_y^2 – v_{\text{初}y}^2 = 2gy\))
計算過程

第1項:
$$ \left(\frac{1}{2}\sqrt{2gh}\right) \left(\sqrt{\frac{2h}{g}}\right) = \frac{1}{2} \sqrt{2gh \cdot \frac{2h}{g}} = \frac{1}{2} \sqrt{\frac{4gh^2}{g}} = \frac{1}{2} \sqrt{4h^2} = \frac{1}{2} (2h) = h \quad (\text{since } h>0) $$
第2項:
$$ \frac{1}{2}g \left(\sqrt{\frac{2h}{g}}\right)^2 = \frac{1}{2}g \left(\frac{2h}{g}\right) = \frac{1}{2} \cdot 2h = h $$
したがって、
$$ H = h + h = 2h $$
(別解として、\(v_{W,\text{鉛直}}^2 – v_{B,\text{鉛直}}^2 = 2gH\) を用いることもできます。
\(v_{W,\text{鉛直}} = \frac{3}{2}\sqrt{2gh}\)、\(v_{B,\text{鉛直}} = \frac{1}{2}\sqrt{2gh}\) なので、
$$ \left(\frac{3}{2}\sqrt{2gh}\right)^2 – \left(\frac{1}{2}\sqrt{2gh}\right)^2 = 2gH $$
$$ \frac{9}{4}(2gh) – \frac{1}{4}(2gh) = 2gH $$
$$ \frac{8}{4}(2gh) = 2gH $$
$$ 2(2gh) = 2gH $$
$$ 4gh = 2gH $$
$$ H=2h $$

計算方法の平易な説明

B点から水面までの高さ \(H\) は、物体がB点から鉛直下向きにどれだけ落ちたかという距離です。これは、B点での鉛直下向きの初速と、B点から水面まで落ちる時間を使って、等加速度運動の距離の公式から計算できます。「距離 = 初速 × 時間 + (1/2) × 加速度 × 時間の2乗」という式に値を代入します。

結論と吟味

水面からB点までの高さ \(H\) は \(2h\) です。これは斜面の頂点Aの高さ \(h\) のちょうど2倍という結果です。物理的な条件から導かれた明確な関係であり、\(h\) が大きいほど \(H\) も大きくなるという直感に合致します。

解答 (4) \(H = 2h\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 斜面上の運動:
    • 運動方程式 (\(ma=F\)) と力の分解。
    • 等加速度直線運動の公式の適用。
    • なめらかな面での力学的エネルギー保存則。
  • 放物運動:
    • 水平方向と鉛直方向への運動の分解(水平:等速、鉛直:等加速度)。
    • 速度のベクトル的な扱い(成分分解、角度との関係)。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 斜面の角度や高さ、飛び出す角度が異なる設定の問題。
    • 地面や壁への衝突、最高点到達などを問う問題。
  • 初見の問題への着眼点:
    1. 運動のフェーズを明確に区別する(例:斜面運動 \(\rightarrow\) 放物運動)。
    2. 各フェーズで働く力を正確に把握し、図示する。
    3. 座標軸を設定し、ベクトル量(速度、加速度、変位)を成分で考える。
    4. 「特定の角度で衝突」「最高点」などのキーワードから、速度成分間の関係式を立てる。
  • ヒント・注意点:
    • 図を丁寧に描くことは、力の分解や角度の把握に不可欠です。
    • 力学的エネルギー保存則は、適用できれば計算を大幅に簡略化できます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 斜面上の加速度: 重力加速度 \(g\) ではなく、\(g\sin\theta\) です。
  • 垂直抗力 \(N\): \(mg\) ではなく、\(mg\cos\theta\) です(斜面の場合)。
  • 放物運動の初速度の分解: B点での速度 \(v\) は斜面方向を向いているため、これを水平・鉛直に分解する際の角度(水平面となす角は \(30^\circ\))に注意が必要です。
  • 衝突角度の解釈: 速度ベクトルと「水平面」がなす角度です。図示して三角比の関係を明確にしましょう。
  • 符号の扱い: 座標軸の正の向きを定め、初速度や加速度の符号を一貫して扱うことが重要です。

対策: 基本公式の理解を深め、多くの類題で図を描きながら解く練習を重ねることが大切です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 有効な図:
    1. 斜面上の物体に働く力(重力、垂直抗力)と、重力の分解を示した図。
    2. B点から放物運動する際の初速度ベクトルと、その水平・鉛直成分を示した図。
    3. 水面到達時の速度ベクトル、その成分、および入射角を示した図。
  • 図を描く際の注意点: 角度やベクトルの向きを正確に。座標軸も明記する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(L_{AB} = h/\sin 30^\circ\): 斜面の幾何学的関係。
  • \(a = g\sin 30^\circ\): 斜面方向の運動方程式から。
  • \(L_{AB} = \frac{1}{2}at_1^2\): 初速ゼロの等加速度運動の距離の式。
  • \(N = mg\cos 30^\circ\): 斜面垂直方向の力のつり合い。
  • \(mgh = \frac{1}{2}mv^2\): A点からB点までの力学的エネルギー保存。
  • \(v_{W,\text{鉛直}}/v_{W,\text{水平}} = \tan 60^\circ\): 水面入射時の速度ベクトルの向きの条件。
  • \(v_{W,\text{鉛直}} = v_{B,\text{鉛直}} + gt_2\), \(H = v_{B,\text{鉛直}}t_2 + \frac{1}{2}gt_2^2\): 鉛直方向の等加速度運動の公式。

各公式の選択は、その場面での物理法則と求める量に基づいています。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 問(1) \(t_1, N\): 斜面の長さ特定 \(\rightarrow\) 斜面上の加速度特定 \(\rightarrow\) 時間 \(t_1\) 計算 \(\rightarrow\) 垂直抗力 \(N\) 計算。
  2. 問(2) \(v\): A点とB点間で力学的エネルギー保存則を適用。
  3. 問(3) \(t_2\): B点での初速度を成分分解 \(\rightarrow\) 水面到達時の速度成分を \(t_2\) で表現 \(\rightarrow\) 入射角の条件から \(t_2\) を計算。
  4. 問(4) \(H\): B点からの鉛直投射と考え、鉛直方向の変位公式から \(H\) を計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 三角比の値の正確性: \(\sin 30^\circ, \cos 30^\circ, \tan 60^\circ\) などを正確に。
  • 平方根の計算: \(\sqrt{8} = 2\sqrt{2}\) のような変形や、文字式の平方根の処理を丁寧に。
  • 式の代入: 前の設問の結果を代入する際は、値を間違えないように。
  • 符号: 速度や加速度の向きに注意し、符号を一貫して扱う。

日頃の練習: 途中式を丁寧に書き、検算や単位の確認を習慣づけることが重要です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な妥当性:
    • \(t_1, t_2\): \(h\) が大きいほど時間は増大、\(g\) が大きいほど時間は減少。
    • \(N\): \(mg\) より小さく、角度に依存。
    • \(v\): \(h\) が大きいほど増大、質量 \(m\) には無関係。
    • \(H\): \(h\) と比例関係にあるかなど、依存性を確認。\(H=2h\) は興味深い結果。
  • 単位確認: 各物理量の単位が最終的に正しいか(例:時間は[s]、速さは[m/s]、力は[N]、長さは[m])。
  • 極端な場合を考える: 例えば、もし斜面が平ら(\(\theta=0\))なら滑り出さない、など。

これらの吟味が理解を深め、ミスを減らすのに役立ちます。

問題13 (愛知工大 + 室蘭工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、動摩擦力が働く場合の物体の運動(水平面および斜面上)と、斜面上で物体が静止し続けるための条件(静止摩擦力)を扱っています。運動方程式と仕事とエネルギーの関係(または等加速度運動の公式)、そして摩擦力の性質を理解しているかが問われます。

与えられた条件
  • 物体の質量: \(m [\text{kg}]\)
  • 平板と物体との間の動摩擦係数: \(\mu\)
  • 重力加速度の大きさ: \(g [\text{m/s}^2]\)
  • (1) 初速: \(v_{\text{初}} [\text{m/s}]\) (水平方向)
  • (2) 斜面の傾斜角: \(45^\circ\)
  • (2) 初速: \(v_{\text{初}} [\text{m/s}]\) (斜面を上る向き)
  • (2) 滑った距離: \(\frac{1}{2}l [\text{m}]\)
  • (3) 点Aで完全に静止
  • (3) 平板と物体との間の静止摩擦係数: \(\mu_0\)
問われていること
  1. 水平面上を滑り、止まるまでの距離 \(l\) と時間 \(t\)。
  2. 動摩擦係数 \(\mu\) の値。
  3. 静止摩擦係数 \(\mu_0\) の最小値。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く上で中心となるのは以下の物理法則と概念です。

  • ニュートンの運動方程式 (\(ma=F_{\text{合力}}\)): 物体の加速度は、働く力の合力に比例し、質量に反比例します。
  • 動摩擦力: 物体が動いているときに働く摩擦力で、大きさは \(F_{\text{動摩擦}} = \mu N\)(\(\mu\): 動摩擦係数, \(N\): 垂直抗力)。向きは運動方向と逆向きです。
  • 等加速度直線運動の公式: 加速度が一定の場合に成り立つ速度と変位の関係式。
  • 仕事とエネルギーの関係: 物体に働く合力のする仕事は、物体の運動エネルギーの変化に等しい。
  • 静止摩擦力: 物体が静止しているときに働く摩擦力。その大きさは外力に応じて変化し、最大値(最大静止摩擦力 \(\mu_0 N\))を超えると物体は滑り出します。

各設問において、これらの法則を適切に適用し、未知数を求めていきます。

問1

思考の道筋とポイント
物体は水平面上を初速 \(v_{\text{初}}\) で滑り始め、動摩擦力を受けて減速し、やがて止まります。これは等加速度(負の加速度)直線運動です。まず物体に働く力を特定し、運動方程式から加速度を求め、等加速度直線運動の公式を用いて距離 \(l\) と時間 \(t\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 動摩擦力の大きさが \(F_{\text{動摩擦}} = \mu N\) であり、その向きが運動方向と逆向きであることを正しく理解し適用すること。
  • 水平面上では、垂直抗力 \(N\) が重力 \(mg\) と釣り合うことを把握すること。
  • 運動方程式を立てて加速度を正確に求めること。
  • 物体の最終的な速度が \(0\) になるという条件を、等加速度直線運動の公式に適用すること。

具体的な解説と立式
物体に働く力は、鉛直下向きの重力 \(mg\)、鉛直上向きの垂直抗力 \(N\)、運動方向と逆向きの動摩擦力 \(F_{\text{動摩擦}} = \mu N\) です。
鉛直方向の力のつり合いより、
$$ N – mg = 0 $$
$$ N = mg $$
したがって、動摩擦力の大きさは、
$$ F_{\text{動摩擦}} = \mu N = \mu mg $$
運動の向きを正とすると、物体の運動方程式 \(ma = F\) は、
$$ ma = -F_{\text{動摩擦}} = -\mu mg $$
ここから加速度 \(a\) が求まります。
止まる(終端速度 \(v=0\))までの距離 \(l\) は、等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2as\) より、
$$ 0^2 – v_{\text{初}}^2 = 2al $$
止まるまでの時間 \(t\) は、公式 \(v = v_{\text{初}} + at\) より、
$$ 0 = v_{\text{初}} + at $$

使用した物理公式
力のつり合い(鉛直方向): \(\sum F_{\text{鉛直}} = 0\)
動摩擦力: \(F_{\text{動摩擦}} = \mu N\)
運動方程式: \(ma = F\)
等加速度直線運動: \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2as\), \(v = v_{\text{初}} + at\)
計算過程

加速度 \(a\) の計算:
$$ ma = -\mu mg $$
$$ a = -\mu g $$
距離 \(l\) の計算:
$$ -v_{\text{初}}^2 = 2(-\mu g)l $$
$$ v_{\text{初}}^2 = 2\mu gl $$
$$ l = \frac{v_{\text{初}}^2}{2\mu g} $$
時間 \(t\) の計算:
$$ 0 = v_{\text{初}} + (-\mu g)t $$
$$ \mu gt = v_{\text{初}} $$
$$ t = \frac{v_{\text{初}}}{\mu g} $$

計算方法の平易な説明

物体が水平な板の上を滑るとき、板との摩擦によって減速します。この摩擦による減速の度合い(加速度の負の値)は \(-\mu g\) となります。初めの速さ \(v_{\text{初}}\) から、この減速で止まる(速さが0になる)までに進む距離 \(l\) と、かかる時間 \(t\) を、それぞれ運動の公式に当てはめて計算します。

結論と吟味

止まるまでに滑る距離 \(l = \displaystyle\frac{v_{\text{初}}^2}{2\mu g} [\text{m}]\)、止まるまでの時間 \(t = \displaystyle\frac{v_{\text{初}}}{\mu g} [\text{s}]\) です。これらの結果は、初速が大きいほど、また動摩擦係数や重力加速度が小さいほど、より遠くまで、より長い時間滑るという直感と一致します。単位もそれぞれ距離と時間として適切です。

解答 (1) 距離 \(l = \displaystyle\frac{v_{\text{初}}^2}{2\mu g} [\text{m}]\), 時間 \(t = \displaystyle\frac{v_{\text{初}}}{\mu g} [\text{s}]\)

問2

思考の道筋とポイント
物体は斜面を初速 \(v_{\text{初}}\) で上向きに滑り始め、重力の斜面方向成分と動摩擦力の両方によって減速し、やがて点Aで止まります。まず、斜面上で物体に働く力を正確に把握し、運動方程式から加速度を求めます。次に、等加速度直線運動の公式と、(1)で求めた \(l\) の関係を用いて動摩擦係数 \(\mu\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 斜面上の運動では、重力を斜面方向と斜面に垂直な方向に分解すること。
  • 物体が斜面を上る場合、動摩擦力は斜面下向きに働くことを理解すること。
  • 斜面上の垂直抗力 \(N’\) が \(mg\cos\theta\) (\(\theta=45^\circ\)) となることを正しく導くこと。
  • 前の設問(1)で得られた \(l\) の式を、本設問の条件式に正しく代入し、\(\mu\) について解くこと。

具体的な解説と立式
平板を \(45^\circ\) 傾けたとき、物体に働く力は、重力 \(mg\)、垂直抗力 \(N’\)、動摩擦力 \(F’_{\text{動摩擦}} = \mu N’\) です。運動は斜面に沿って上向きなので、動摩擦力は斜面下向きに働きます。重力 \(mg\) を斜面方向と斜面に垂直な方向に分解します。

  • 重力の斜面下向き成分: \(mg \sin 45^\circ = mg \cdot \frac{1}{\sqrt{2}}\)
  • 重力の斜面に垂直な成分: \(mg \cos 45^\circ = mg \cdot \frac{1}{\sqrt{2}}\)

斜面に垂直な方向の力のつり合いより、
$$ N’ – mg \cos 45^\circ = 0 $$
$$ N’ = mg \cos 45^\circ = \frac{mg}{\sqrt{2}} $$
動摩擦力の大きさは、
$$ F’_{\text{動摩擦}} = \mu N’ = \mu \frac{mg}{\sqrt{2}} $$
斜面上向きを正とすると、物体の運動方程式 \(ma’ = F_{\text{合力}}\) は、
$$ ma’ = -mg \sin 45^\circ – F’_{\text{動摩擦}} = -mg \frac{1}{\sqrt{2}} – \mu \frac{mg}{\sqrt{2}} = -\frac{mg}{\sqrt{2}}(1+\mu) $$
加速度 \(a’\) は、
$$ a’ = -\frac{g}{\sqrt{2}}(1+\mu) $$
物体は初速 \(v_{\text{初}}\) で \(\frac{1}{2}l\) の距離を滑って止まった(終端速度 \(v=0\))ので、等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2as\) より、
$$ 0^2 – v_{\text{初}}^2 = 2a’ \left(\frac{1}{2}l\right) $$
$$ -v_{\text{初}}^2 = a’l $$

使用した物理公式
力の分解(斜面)
力のつり合い(斜面垂直方向)
動摩擦力: \(F_{\text{動摩擦}} = \mu N\)
運動方程式: \(ma = F\)
等加速度直線運動: \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2as\)
計算過程

$$ -v_{\text{初}}^2 = \left(-\frac{g}{\sqrt{2}}(1+\mu)\right) l $$
$$ v_{\text{初}}^2 = \frac{g}{\sqrt{2}}(1+\mu)l $$
ここで、(1)で求めた \(l = \displaystyle\frac{v_{\text{初}}^2}{2\mu g}\) を代入します。
$$ v_{\text{初}}^2 = \frac{g}{\sqrt{2}}(1+\mu) \left(\frac{v_{\text{初}}^2}{2\mu g}\right) $$
\(v_{\text{初}} \neq 0\) なので両辺を \(v_{\text{初}}^2\) で割り、\(g \neq 0\) なので \(g\) を消去すると、
$$ 1 = \frac{1}{\sqrt{2}}(1+\mu) \frac{1}{2\mu} $$
$$ 1 = \frac{1+\mu}{2\sqrt{2}\mu} $$
両辺に \(2\sqrt{2}\mu\) を掛けると、
$$ 2\sqrt{2}\mu = 1+\mu $$
$$ 2\sqrt{2}\mu – \mu = 1 $$
$$ (2\sqrt{2}-1)\mu = 1 $$
$$ \mu = \frac{1}{2\sqrt{2}-1} $$
(有理化すると \(\mu = \displaystyle\frac{2\sqrt{2}+1}{7}\))

計算方法の平易な説明

物体が斜面を上るとき、重力の一部(斜面下向き)と摩擦力(これも斜面下向き)の両方が物体の動きを妨げ、減速させます。この減速の度合い(加速度の負の値)を計算します。初めの速さ \(v_{\text{初}}\) から、この減速で止まるまでに進む距離が \(\frac{1}{2}l\) であるという条件と、問(1)で求めた \(l\) の式を結びつけることで、動摩擦係数 \(\mu\) についての方程式が得られ、これを解きます。

結論と吟味

動摩擦係数 \(\mu\) の値は \(\displaystyle\frac{1}{2\sqrt{2}-1}\) です。数値としておよそ \(0.547\) となり、動摩擦係数として妥当な範囲の値です。この値は、水平面と斜面での運動の比較から導き出されました。

解答 (2) \(\mu = \displaystyle\frac{1}{2\sqrt{2}-1}\)

問3

思考の道筋とポイント
物体が点Aで止まった後、滑り落ちずに静止し続けるための条件を考えます。このとき物体に働く力は、重力 \(mg\)、垂直抗力 \(N’\)、そして静止摩擦力 \(F_{\text{静止摩擦}}\) です。物体を滑り落とそうとする力(重力の斜面方向成分)と、これを妨げる最大の静止摩擦力を比較します。

この設問における重要なポイント

  • 静止摩擦力と最大静止摩擦力の違いを明確に理解すること。物体が静止しているとき、実際に働いている静止摩擦力は、滑り出そうとする力と釣り合う大きさで、最大静止摩擦力 \(\mu_0 N’\) を超えない。
  • 物体が滑り落ちないための条件は、「滑り落ちようとする力 \(\le\) 最大静止摩擦力」である。
  • この場合の「滑り落ちようとする力」は、重力の斜面方向成分である。
  • 垂直抗力 \(N’\) は問(2)と同じ値を用いる。

具体的な解説と立式
点Aで物体が静止しているとき、物体には斜面下向きに重力の成分 \(mg \sin 45^\circ\) が働いています。この力で滑り落ちないように、静止摩擦力 \(F_{\text{静止摩擦}}\) が斜面「上向き」に働きます。
物体が静止し続けるためには、この静止摩擦力 \(F_{\text{静止摩擦}}\) が最大静止摩擦力 \(F_{\text{最大静止摩擦}} = \mu_0 N’\) 以下であればよく、かつ、滑り落ちようとする力と釣り合っている必要があります。つまり、
$$ mg \sin 45^\circ \le F_{\text{最大静止摩擦}} $$
$$ mg \sin 45^\circ \le \mu_0 N’ $$
ここで、\(N’ = mg \cos 45^\circ = \displaystyle\frac{mg}{\sqrt{2}}\) であり、\(\sin 45^\circ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\) です。
$$ mg \frac{1}{\sqrt{2}} \le \mu_0 \left(mg \frac{1}{\sqrt{2}}\right) $$

使用した物理公式
力の分解(斜面)
最大静止摩擦力: \(F_{\text{最大静止摩擦}} = \mu_0 N\)
静止の条件: 滑り出そうとする力 \(\le\) 最大静止摩擦力
計算過程

$$ mg \frac{1}{\sqrt{2}} \le \mu_0 mg \frac{1}{\sqrt{2}} $$
両辺を \(mg \frac{1}{\sqrt{2}}\)(これは正の数)で割ると、
$$ 1 \le \mu_0 $$
したがって、
$$ \mu_0 \ge 1 $$

計算方法の平易な説明

物体が斜面上の点Aで止まった後、下に滑り落ちないためには、摩擦力が物体を支える必要があります。物体を斜面下に引っ張ろうとするのは重力の一部です(\(mg \sin 45^\circ\))。これに対して、静止摩擦力が反対向き(斜面上向き)に働きます。この静止摩擦力が出せる最大の力は「静止摩擦係数 \(\mu_0 \times\) 垂直抗力 \(N’\)」です。物体が滑り落ちないためには、「重力の斜面方向成分 \(\le\) 最大の静止摩擦力」という条件が満たされればよいので、これを \(\mu_0\) について解きます。

結論と吟味

静止摩擦係数 \(\mu_0\) の値は \(1\) 以上である必要があります (\(\mu_0 \ge 1\))。静止摩擦係数が1以上というのは比較的大きな値ですが、\(45^\circ\) という急な斜面で物体が滑り落ちないためには、それだけの摩擦が必要であることを示しています。一般に、角度 \(\theta\) の斜面で物体が滑り落ちない条件は \(\mu_0 \ge \tan\theta\) であり、\(\tan 45^\circ = 1\) なので、この結果と一致します。

解答 (3) \(\mu_0 \ge 1\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動方程式 (\(ma=F_{\text{合力}}\)): 力と加速度の関係を記述する基本法則。特に摩擦力が関わる運動の解析に不可欠です。
  • 動摩擦力 (\(F_{\text{動摩擦}} = \mu N\)): 物体が運動している際に働く摩擦力。その大きさと向きを正しく理解することが重要です。
  • 静止摩擦力と最大静止摩擦力 (\(F_{\text{静止摩擦}} \le \mu_0 N\)): 物体が静止している際に働く摩擦力。滑り出す限界の条件を理解することが鍵となります。
  • 力の分解: 特に斜面上の運動では、重力を斜面方向と斜面に垂直な方向に分解する操作が基本です。
  • 等加速度直線運動の公式: 加速度が一定の場合に、速度、変位、時間の関係を記述する便利なツールです。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 様々な角度の斜面、異なる初速度、あるいは摩擦係数が未知の問題。
    • 摩擦がある場合の仕事とエネルギーの関係を問う問題。
  • 初見の問題への着眼点:
    1. 物体に働く力を全て図示する(フリーボディダイアグラム)。
    2. 摩擦が動摩擦なのか静止摩擦なのかを問題文から正確に判断する。
    3. 運動方向、あるいは力のつり合いを考える方向に応じて座標軸を設定する。
    4. 垂直抗力 \(N\) は常に \(mg\) とは限らないことに注意し、必ず力のつり合い(または運動方程式)から求める。
  • ヒント・注意点:
    • 摩擦力は常に運動を妨げる向き、あるいは滑り出そうとするのを妨げる向きに働きます。
    • 仕事とエネルギーの関係(運動エネルギーの変化=合力のした仕事)は、加速度を介さずに速度変化と移動距離の関係を導けるため、有効な別解となることがあります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 動摩擦力と静止摩擦力の混同: それぞれ係数が異なり、働く条件も異なります。
  • 摩擦力の向きの誤り: 動摩擦力は「運動方向と逆」、静止摩擦力は「滑り出そうとする方向と逆」。
  • 垂直抗力 \(N\) の安易な決定: 必ず力の図示とつり合いから。斜面では \(N=mg\cos\theta\)。
  • 重力の斜面成分の誤り: \(mg\sin\theta\) (斜面平行)と \(mg\cos\theta\) (斜面垂直)の使い分け。
  • 加速度の符号: 設定した座標軸の正の向きに対して、減速なら負、加速なら正。

対策: 多くの類題にあたり、特に力の図示と運動方程式の立式を丁寧に練習しましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 有効な図:
    1. 物体に働く全ての力を矢印で示したフリーボディダイアグラム。
    2. 斜面上の問題では、重力を斜面平行成分と垂直成分に分解した図。
    3. 加速度の向き、運動の向きを明確に示した図。
  • 図を描く際の注意点: 力の作用点、ベクトルの向きと相対的な長さを意識する。角度や座標軸も明記する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(N=mg\) や \(N=mg\cos\theta\): 面に垂直な方向の力のつり合い(または加速度ゼロの運動方程式)。
  • \(F_{\text{動摩擦}} = \mu N\), \(F_{\text{最大静止摩擦}} = \mu_0 N\): 摩擦力の定義式。
  • \(ma = F_{\text{合力}}\): ニュートンの第二法則。運動状態の変化(加速度)の原因となる正味の力を記述。
  • 等加速度運動の公式群: 加速度が一定であるという条件下で、運動の様子を記述する運動学的関係式。
  • \(mg\sin\theta \le \mu_0 N\): 物体が斜面で静止し続けるための力学的条件。

これらの公式は、それぞれの物理的状況と問いに応じて選択されます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 問(1) 水平面上の運動: \(N\)決定 \(\rightarrow\) \(F_{\text{動摩擦}}\)決定 \(\rightarrow\) 運動方程式で\(a\)決定 \(\rightarrow\) 等加速度公式で\(l, t\)決定。
  2. 問(2) 斜面上の運動: \(N’\)決定 \(\rightarrow\) \(F’_{\text{動摩擦}}\)決定 \(\rightarrow\) 運動方程式で\(a’\)決定 \(\rightarrow\) 等加速度公式と(1)の\(l\)で\(\mu\)決定。
  3. 問(3) 斜面上の静止: 滑り出す力(\(mg\sin 45^\circ\))特定 \(\rightarrow\) 最大静止摩擦力(\(\mu_0 N’\))特定 \(\rightarrow\) 静止条件の不等式から\(\mu_0\)の範囲決定。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の一貫性と明記: 問題文で単位が与えられている場合、解答にも適切に単位を付す。
  • 符号の確認: 力、加速度、変位などのベクトルの向きと、設定した座標軸の正の向きを照らし合わせ、符号を間違えない。
  • 三角比の正確な値: \(\sin 45^\circ = \cos 45^\circ = 1/\sqrt{2}\) などを正確に。
  • 代数計算の精度: 文字式の整理、方程式の解法、特に分数や平方根を含む計算は慎重に。

日頃の練習: 途中式を丁寧に書き、図と照らし合わせながら論理の流れを確認する習慣をつけましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な妥当性:
    • \(l, t\) (問1): 初速大 \(\Rightarrow l, t\) 大。 \(\mu\) 大 \(\Rightarrow l, t\) 小。
    • \(\mu\) (問2): 通常0から1程度だが、状況による。\(\mu \approx 0.547\) は妥当。
    • \(\mu_0\) (問3): \(\mu_0 \ge 1\) は \(45^\circ\) の斜面で静止するには大きな摩擦が必要であることを示唆 (\(\tan 45^\circ = 1\))。
  • 単位確認: \(l[\text{m}]\), \(t[\text{s}]\), \(\mu, \mu_0\)は無次元。全て整合性が取れています。
  • 特殊なケースの考察: 例えば \(\mu=0\) (摩擦なし) なら(1)では止まらない。もし \(\theta=0\) なら(2)は(1)と矛盾する状況設定(上向きに滑らせるが水平)。

これらの吟味は、解答の信頼性を高め、物理現象への理解を深めます。

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問題14 (山形大 + 徳島大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、斜面上の小物体Pと、そのPが乗っている台が絡む静力学および動力学の問題です。前半(1)-(3)は物体Pと台が糸の張力も受けて静止している状況での力のつり合いと静止摩擦条件を扱い、後半(4)-(6)は糸を切った後の物体Pの運動と、その際の台の静止条件を扱います。各物体に働く力を正確に図示し、適切な座標系で力のつり合いまたは運動方程式を立てることが重要になります。

与えられた条件
  • 台: 質量 \(M\)、なめらかな斜面、角度 \(30^\circ\)、水平な粗い床の上
  • 小物体P: 質量 \(m\)
  • 状態1 (問1-3): Pは糸で引かれA点で静止。糸は鉛直方向と \(30^\circ\) の角度。Pの床からの高さ \(h\)。
  • 状態2 (問4-6): 糸を切るとPは斜面に沿って滑り出す。台は静止したまま。
  • 重力加速度: \(g\)
問われていること
  1. 静止時: 糸の張力 \(T\), Pが斜面から受ける垂直抗力 \(N_1\)
  2. 静止時: 台が床から受ける静止摩擦力 \(F\), 垂直抗力 \(R\)
  3. 静止時: 台と床との間の静止摩擦係数 \(\mu\) の最小値
  4. P運動時: Pの加速度 \(a\), Pが斜面から受ける垂直抗力 \(N_2\)
  5. P運動時: PがBに達する時間 \(t\), 速さ \(v\)
  6. P運動時: 台が静止しているための静止摩擦係数 \(\mu\) の最小値

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くには、物体(Pおよび台)に働く力を正確に把握し、それぞれの状況(静止または運動)に応じて力のつり合いの式または運動方程式を立てる必要があります。作用・反作用の法則や摩擦力の性質の理解も不可欠です。

問1

思考の道筋とポイント
小物体Pは静止しているため、Pに働く力の合力はゼロです。Pに働く力は、糸の張力 \(T\)、重力 \(mg\)、斜面からの垂直抗力 \(N_1\) の3つです。これらの力を水平方向と鉛直方向に分解し、それぞれの方向での力のつり合いの式を立てることで \(T\) と \(N_1\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 静止している物体には力のつり合い (\(\sum \vec{F} = 0\)) が成り立つことを利用する。
  • 力を適切な方向(本問では水平・鉛直が有効)に分解して考えること。
  • 糸の張力 \(T\) が鉛直方向となす角、および垂直抗力 \(N_1\) が斜面(水平と \(30^\circ\))に垂直であることから、各力の成分を三角比を用いて正確に表すこと。

具体的な解説と立式
小物体Pに働く力は以下の通りです。

  • 糸の張力 \(T\): 鉛直方向と \(30^\circ\) の角度。
    • 水平右向き成分: \(T \sin 30^\circ\)
    • 鉛直上向き成分: \(T \cos 30^\circ\)
  • 垂直抗力 \(N_1\): 斜面 (\(30^\circ\)) に垂直。斜面が水平となす角が \(30^\circ\) なので、\(N_1\) が鉛直となす角は \(30^\circ\)、水平となす角は \(60^\circ\)。あるいは、\(N_1\) の向きを水平から \(90^\circ – 30^\circ = 60^\circ\) 上向きの法線方向と考え、水平左向き成分を \(N_1 \cos 60^\circ = N_1 \sin 30^\circ\)、鉛直上向き成分を \(N_1 \sin 60^\circ = N_1 \cos 30^\circ\)。
  • 重力 \(mg\): 鉛直下向き。

Pについての力のつり合いの式:
水平方向(右向きを正):
$$ T \sin 30^\circ – N_1 \sin 30^\circ = 0 $$
鉛直方向(上向きを正):
$$ T \cos 30^\circ + N_1 \cos 30^\circ – mg = 0 $$

使用した物理公式
力のつり合い: \(\sum F_{\text{水平}} = 0\), \(\sum F_{\text{鉛直}} = 0\)
力の分解、三角比
計算過程

水平方向のつり合いの式より、\(\sin 30^\circ \neq 0\) なので、
$$ T = N_1 $$
これを鉛直方向のつり合いの式に代入すると、
$$ T \cos 30^\circ + T \cos 30^\circ – mg = 0 $$
$$ 2T \cos 30^\circ = mg $$
$$ 2T \left(\frac{\sqrt{3}}{2}\right) = mg $$
$$ \sqrt{3}T = mg $$
$$ T = \frac{mg}{\sqrt{3}} $$
よって、\(N_1 = T\) なので、
$$ N_1 = \frac{mg}{\sqrt{3}} $$

計算方法の平易な説明

小物体Pは、糸で引かれる力、地球からの重力、斜面から押される垂直抗力の3つの力を受けて静止しています。これらの力が水平方向にも鉛直方向にも釣り合っていると考えます。水平方向の力の釣り合いから、糸の張力 \(T\) と垂直抗力 \(N_1\) の大きさが等しいことが分かります。次に、この関係を使って鉛直方向の力の釣り合いを考えると、\(T\) (したがって \(N_1\) も) の具体的な大きさが \(m\) と \(g\) を使って表せます。

結論と吟味

糸の張力 \(T = \displaystyle\frac{mg}{\sqrt{3}}\)、Pが斜面から受ける垂直抗力 \(N_1 = \displaystyle\frac{mg}{\sqrt{3}}\) です。
張力と垂直抗力の大きさが等しくなるのは、本問の力の配置(糸の鉛直との角度、斜面の角度、Pの静止)によるものです。

解答 (1) \(T = \displaystyle\frac{mg}{\sqrt{3}}\), \(N_1 = \displaystyle\frac{mg}{\sqrt{3}}\)

問2

思考の道筋とポイント
台も静止しているため、台に働く力の合力はゼロです。台に働く力は、台自身の重力 \(Mg\)、小物体Pから受ける力(\(N_1\) の反作用)、床からの垂直抗力 \(R\)、床からの静止摩擦力 \(F\) です。Pから台が受ける力は、Pが斜面から受ける垂直抗力 \(N_1\) の反作用であり、大きさが等しく向きが反対です。この力を水平・鉛直に分解し、台全体の力のつり合いを考えます。

この設問における重要なポイント

  • 作用・反作用の法則を正しく適用し、Pから台に働く力を \(N_1\) の反作用として捉えること。
  • 台に働く全ての力(自身の重力、Pからの力、床からの力)をリストアップし、図示すること。
  • Pからの力を水平成分と鉛直成分に分解し、台全体の水平方向と鉛直方向の力のつり合いを立てること。

具体的な解説と立式
台に働く力は以下の通りです。

  • 台の重力 \(Mg\): 鉛直下向き。
  • Pから受ける力 ( \(N_1\) の反作用): 大きさ \(N_1\)、向きは斜面に対して垂直に台を押し込む方向。
    • 水平右向き成分: \(N_1 \sin 30^\circ\)
    • 鉛直下向き成分: \(N_1 \cos 30^\circ\)
  • 床からの垂直抗力 \(R\): 鉛直上向き。
  • 床からの静止摩擦力 \(F\): 水平左向き(Pからの力の水平成分と釣り合うため)。

台についての力のつり合いの式:
水平方向(右向きを正):
$$ N_1 \sin 30^\circ – F = 0 $$
鉛直方向(上向きを正):
$$ R – Mg – N_1 \cos 30^\circ = 0 $$

使用した物理公式
作用・反作用の法則
力のつり合い: \(\sum F_{\text{水平}} = 0\), \(\sum F_{\text{鉛直}} = 0\)
力の分解、三角比
計算過程

静止摩擦力 \(F\) の計算:
$$ F = N_1 \sin 30^\circ $$
問(1)より \(N_1 = \displaystyle\frac{mg}{\sqrt{3}}\) なので、
$$ F = \frac{mg}{\sqrt{3}} \cdot \frac{1}{2} = \frac{mg}{2\sqrt{3}} $$
床からの垂直抗力 \(R\) の計算:
$$ R = Mg + N_1 \cos 30^\circ $$
$$ R = Mg + \frac{mg}{\sqrt{3}} \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} = Mg + \frac{mg}{2} = \left(M + \frac{m}{2}\right)g $$

計算方法の平易な説明

台も床の上で静止しているので、台に働く全ての力が釣り合っています。台には、(a)台自身の重さ、(b)小物体Pが台を押す力(これは問1の\(N_1\)と同じ大きさで向きが反対)、(c)床が台を鉛直上向きに支える力(垂直抗力 \(R\))、(d)床が台の水平方向の滑りを防ぐ力(静止摩擦力 \(F\))が働きます。(b)の力を水平と鉛直に分け、(c)(d)と合わせて水平方向、鉛直方向それぞれの力の釣り合いの式を立てることで \(F\) と \(R\) を求めます。

結論と吟味

台が床から受ける静止摩擦力 \(F = \displaystyle\frac{mg}{2\sqrt{3}}\)、垂直抗力 \(R = \left(M + \displaystyle\frac{m}{2}\right)g\) です。静止摩擦力 \(F\) は、小物体Pから台に加えられる力の水平成分と釣り合っています。垂直抗力 \(R\) は、台自身の重力 \(Mg\) に加えて、Pから台に加えられる力の鉛直成分も支えているため、\(Mg\) よりも大きな値となっています。

解答 (2) \(F = \displaystyle\frac{mg}{2\sqrt{3}}\), \(R = \left(M + \displaystyle\frac{m}{2}\right)g\)

問3

思考の道筋とポイント
台が床の上で静止し続けるためには、実際に働いている静止摩擦力 \(F\) が、その状況で床が発生させることができる最大の静止摩擦力 \(\mu R\) 以下でなければなりません。すなわち、\(F \le \mu R\) という条件から、静止摩擦係数 \(\mu\) の最小値を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 静止摩擦力と最大静止摩擦力の関係 (\(F \le \mu N\)) を正しく理解し適用すること。(ここでは垂直抗力はR)
  • 台が滑り出さないためには、実際に働いている静止摩擦力 \(F\) が、最大静止摩擦力 \(\mu R\) を超えてはならない。
  • 問(2)で求めた \(F\) と \(R\) の値を正確に代入して不等式を解くこと。

具体的な解説と立式
台が滑らないための条件は、実際に働いている静止摩擦力 \(F\) が最大静止摩擦力 \(\mu R\) 以下であることです。
$$ F \le \mu R $$
これに問(2)で求めた \(F\) と \(R\) を代入します。
$$ \frac{mg}{2\sqrt{3}} \le \mu \left(M + \frac{m}{2}\right)g $$

使用した物理公式
静止摩擦の条件: \(F_{\text{静止摩擦}} \le \mu N\)
計算過程

$$ \frac{mg}{2\sqrt{3}} \le \mu \frac{2M+m}{2}g $$
両辺の \(g\) を消去し(\(g \neq 0\))、\(\mu\) について解くと、
$$ \mu \ge \frac{mg}{2\sqrt{3}} \cdot \frac{2}{(2M+m)g} $$
$$ \mu \ge \frac{m}{\sqrt{3}(2M+m)} $$

計算方法の平易な説明

台が床の上で滑り出さないためには、実際に働いている静止摩擦力 \(F\) が、床と台の間で生じうる最大の静止摩擦力(静止摩擦係数 \(\mu \times\) 床からの垂直抗力 \(R\))を超えてはいけません。この \(F \le \mu R\) という条件に、問(2)で計算した \(F\) と \(R\) を代入し、\(\mu\) について整理することで、\(\mu\) が少なくともどれくらいの値でなければならないかが分かります。

結論と吟味

台と床との間の静止摩擦係数 \(\mu\) は、\(\displaystyle\mu \ge \frac{m}{\sqrt{3}(2M+m)}\) である必要があります。この値は、小物体Pの質量 \(m\) が大きいほど、また台の質量 \(M\) が小さいほど、より大きな静止摩擦係数が必要になることを示しています。

解答 (3) \(\mu \ge \displaystyle\frac{m}{\sqrt{3}(2M+m)}\)

問4

思考の道筋とポイント
糸を切ると、小物体Pに働く力は重力 \(mg\) と斜面からの垂直抗力 \(N_2\) のみになります(斜面はなめらかなのでPと斜面間の摩擦はなし)。Pは斜面に沿って等加速度運動をします。力を斜面方向と斜面に垂直な方向に分解し、運動方程式および力のつり合いの式を立てて、加速度 \(a\) と垂直抗力 \(N_2\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 糸を切った後の物体Pに働く力を正確に把握すること(張力がなくなる)。
  • 斜面がなめらかなので、Pと斜面の間には摩擦力が働かないこと。
  • 運動方向(斜面下向き)を正として運動方程式を立てること。
  • 斜面に垂直な方向では力のつり合いが成り立っている(加速度がゼロ)ことから垂直抗力 \(N_2\) を求めること。

具体的な解説と立式
糸が切れた後、小物体Pに働く力は、重力 \(mg\) と斜面からの垂直抗力 \(N_2\) です。
重力 \(mg\) を斜面方向と斜面に垂直な方向に分解します。

  • 重力の斜面方向下向き成分: \(mg \sin 30^\circ\)
  • 重力の斜面に垂直な方向(押し付ける向き)成分: \(mg \cos 30^\circ\)

Pの運動方程式(斜面下向きを正とする):
$$ ma = mg \sin 30^\circ $$
斜面に垂直な方向の力のつり合い:
$$ N_2 – mg \cos 30^\circ = 0 $$

使用した物理公式
運動方程式: \(ma = F\)
力の分解、三角比
力のつり合い(斜面垂直方向)
計算過程

加速度 \(a\) の計算:
$$ ma = mg \sin 30^\circ = mg \cdot \frac{1}{2} $$
$$ a = \frac{1}{2}g $$
垂直抗力 \(N_2\) の計算:
$$ N_2 = mg \cos 30^\circ = mg \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} = \frac{\sqrt{3}}{2}mg $$

計算方法の平易な説明

糸が切れると、Pは重力と斜面からの垂直抗力 \(N_2\) のみを受けて斜面を滑り降ります(斜面はなめらかなので摩擦はありません)。Pを斜面下向きに加速させるのは、重力のうち斜面方向の成分です。ニュートンの運動法則(\(ma=F\))から、この力による加速度 \(a\) が計算できます。また、Pは斜面に対して垂直方向には動かないので、その方向の力は釣り合っており、そこから垂直抗力 \(N_2\) が求まります。

結論と吟味

Pの加速度 \(a = \displaystyle\frac{1}{2}g\) (斜面下向き)、Pが斜面から受ける垂直抗力 \(N_2 = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}mg\) です。加速度は斜面の角度だけで決まり、質量にはよりません。垂直抗力 \(N_2\) は、糸で引かれていた静止時の \(N_1 = mg/\sqrt{3} \approx 0.577mg\) と比較して、\(N_2 = \sqrt{3}mg/2 \approx 0.866mg\) と大きくなっています。これは糸による斜め上向きの力が無くなったため、重力の斜面に垂直な成分をより大きく斜面が支える必要が生じたためです。

解答 (4) \(a = \displaystyle\frac{1}{2}g\), \(N_2 = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}mg\)

問5

思考の道筋とポイント
小物体Pは初速0(A点で静止していた状態から糸が切れるので)、問4で求めた加速度 \(a=\frac{1}{2}g\) の等加速度直線運動をします。Pの初期の床からの高さが \(h\) なので、斜面に沿って滑り降りる距離 \(L_{AB}\) は \(h/\sin 30^\circ = 2h\) となります。これらの情報から、等加速度直線運動の公式を用いて時間 \(t\) と速さ \(v\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 物体Pの運動が等加速度直線運動であることを理解し、適切な公式を選択すること。
  • 斜面上の移動距離を、初期の高さ \(h\) と斜面の角度から正しく計算すること (\(L_{AB} = h/\sin 30^\circ\))。
  • 初速度が \(0\) であること、加速度が問(4)で求めた値であることを用いる。

具体的な解説と立式
Pが滑り降りる斜面の長さ \(L_{AB}\) は、床からの高さ \(h\) と斜面の角度 \(30^\circ\) より、
$$ L_{AB} = \frac{h}{\sin 30^\circ} = \frac{h}{1/2} = 2h $$
初速度 \(v_{\text{初}} = 0\)、加速度 \(a = \displaystyle\frac{1}{2}g\) (問4の結果)。
時間 \(t\) は、等加速度直線運動の公式 \(s = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\) より、
$$ L_{AB} = 0 \cdot t + \frac{1}{2}at^2 $$
$$ 2h = \frac{1}{2}\left(\frac{1}{2}g\right)t^2 $$
Bに達したときの速さ \(v\) は、公式 \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2as\) より、
$$ v^2 – 0^2 = 2a L_{AB} $$
$$ v^2 = 2\left(\frac{1}{2}g\right)(2h) $$

使用した物理公式
三角比(斜面長計算)
等加速度直線運動: \(s = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\), \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2as\) (または \(v = v_{\text{初}} + at\))
計算過程

時間 \(t\) の計算:
$$ 2h = \frac{1}{4}gt^2 $$
$$ t^2 = \frac{8h}{g} $$
\(t > 0\) なので、
$$ t = \sqrt{\frac{8h}{g}} = 2\sqrt{\frac{2h}{g}} $$
速さ \(v\) の計算:
$$ v^2 = 2gh $$
\(v > 0\) なので、
$$ v = \sqrt{2gh} $$
(別解として \(v = at = \frac{1}{2}g \cdot 2\sqrt{\frac{2h}{g}} = g\sqrt{\frac{2h}{g}} = \sqrt{2gh}\) も可)

計算方法の平易な説明

小物体Pは、初めの速さ0から、問4で求めた一定の加速度 \(a=g/2\) で斜面を滑り降ります。まず、Pが滑り降りる斜面の実際の長さを、最初の高さ \(h\) と斜面の角度 \(30^\circ\) から計算します(結果は \(2h\))。この距離 \(2h\) を、加速度 \(a\) で滑り降りるのにかかる時間 \(t\) と、滑り降りた端Bでの速さ \(v\) を、それぞれ運動の公式に当てはめて計算します。

結論と吟味

Bに達するまでに要する時間 \(t = \displaystyle 2\sqrt{\frac{2h}{g}}\)、Bに達したときの速さ \(v = \sqrt{2gh}\) です。速さ \(v = \sqrt{2gh}\) は、高さ \(h\) から物体を自由落下させた場合に得られる速さと同じです。これは、斜面がなめらかな場合、失われた位置エネルギーがすべて運動エネルギーに変換される(力学的エネルギー保存則が成り立つ)ためです。

解答 (5) 時間 \(t = 2\sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\), 速さ \(v = \sqrt{2gh}\)

問6

思考の道筋とポイント
Pが斜面を滑っている間、Pは台に対して垂直抗力 \(N_2\) で力を及ぼします。この力の反作用がPから台に働く力です。この力の水平成分が、台を水平方向に動かそうとする力となります。台が静止し続けるためには、この力が床からの最大静止摩擦力以下でなければなりません。台に働く鉛直方向の力も考慮し、床からの垂直抗力 \(R’\) を求め、静止摩擦の条件 \(F’_{\text{水平}} \le \mu R’\) を適用します。

この設問における重要なポイント

  • 作用・反作用の法則に基づき、Pが台に及ぼす力を \(N_2\) の反作用として正しく認識すること。
  • その反作用の力を水平成分と鉛直成分に分解し、台を動かそうとする水平力と、床からの垂直抗力に影響する鉛直力を正確に計算すること。
  • 台が静止し続けるための条件(滑らせようとする力 \(\le\) 最大静止摩擦力)を適用すること。
  • このときの床からの垂直抗力 \(R’\) は、問(2)の \(R\) とは異なることに注意(Pから台への力の鉛直成分が異なるため)。

具体的な解説と立式
Pが斜面を滑っているとき、Pが台から受ける垂直抗力は \(N_2 = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}mg\) (問4の結果) です。
作用・反作用の法則により、Pは台に対して大きさが \(N_2\) で向きが反対の力(斜面に対して垂直に台を押し込む力)を及ぼします。
この力の水平成分 \(F’_{\text{水平}}\)(台を右へ動かそうとする力)は、
$$ F’_{\text{水平}} = N_2 \sin 30^\circ $$
この力の鉛直下向き成分 \(F’_{\text{鉛直}}\) は、
$$ F’_{\text{鉛直}} = N_2 \cos 30^\circ $$
台に働く鉛直方向の力は、台の重力 \(Mg\) と \(F’_{\text{鉛直}}\) です。床からの垂直抗力を \(R’\) とすると、鉛直方向の力のつり合いより、
$$ R’ – Mg – F’_{\text{鉛直}} = 0 \quad \text{なので} \quad R’ = Mg + N_2 \cos 30^\circ $$
台が静止しているためには、床からの静止摩擦力 \(F’_{\text{摩擦}}\) が \(F’_{\text{水平}}\) と釣り合い、かつ \(F’_{\text{摩擦}} \le \mu R’\) を満たす必要があります。
$$ F’_{\text{水平}} \le \mu R’ $$

使用した物理公式
作用・反作用の法則
力の分解、三角比
力のつり合い(鉛直方向、台について)
静止摩擦の条件: \(F_{\text{静止摩擦}} \le \mu N\)
計算過程

台を動かそうとする水平力 \(F’_{\text{水平}}\):
$$ F’_{\text{水平}} = N_2 \sin 30^\circ = \left(\frac{\sqrt{3}}{2}mg\right) \cdot \frac{1}{2} = \frac{\sqrt{3}}{4}mg $$
床からの垂直抗力 \(R’\):
$$ R’ = Mg + N_2 \cos 30^\circ = Mg + \left(\frac{\sqrt{3}}{2}mg\right) \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} = Mg + \frac{3}{4}mg = \left(M + \frac{3}{4}m\right)g $$
静止するための条件 \(F’_{\text{水平}} \le \mu R’\) より、
$$ \frac{\sqrt{3}}{4}mg \le \mu \left(M + \frac{3}{4}m\right)g $$
両辺の \(g\) を消去し(\(g \neq 0\))、\(\mu\) について解くと、
$$ \mu \ge \frac{\frac{\sqrt{3}}{4}m}{M + \frac{3}{4}m} $$
分母分子に4を掛けて整理すると、
$$ \mu \ge \frac{\sqrt{3}m}{4M + 3m} $$

計算方法の平易な説明

小物体Pが斜面を滑り降りるとき、Pは台を垂直に押します。この押す力には水平方向の成分があり、これが台を水平に動かそうとします。台が動かないためには、床からの静止摩擦力がこの「動かそうとする力」と釣り合い、かつ床が出せる最大の静止摩擦力を超えてはいけません。まず、Pが台を押す力の水平成分を計算します。次に、床が台を支える垂直な力 \(R’\)(台の重さとPが台を押す力の鉛直成分の和)を計算します。最後に、「動かそうとする力 \(\le\) 静止摩擦係数 \(\mu \times R’\)」という条件から、\(\mu\) がいくら以上でなければならないかを求めます。

結論と吟味

Pが斜面上を滑っている間、台が静止しているためには、台と床との間の静止摩擦係数 \(\mu\) は \(\displaystyle\mu \ge \frac{\sqrt{3}m}{4M + 3m}\) である必要があります。この値は、小物体Pの質量 \(m\) が大きいほど、あるいは台の質量 \(M\) が小さいほど、より大きな静止摩擦係数が必要となることを示しており、物理的な直感と一致します。問(3)で求めた静止時の条件とは異なるのは、Pが台に及ぼす垂直抗力の大きさが \(N_1\) から \(N_2\) に変わった(糸がなくなった)ためです。

解答 (6) \(\mu \ge \displaystyle\frac{\sqrt{3}m}{4M + 3m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力のつり合いと運動方程式: 静止時は力のつり合い (\(\sum \vec{F} = 0\))、運動時は運動方程式 (\(m\vec{a} = \sum \vec{F}\)) を適用する、物理学の基本原則です。
  • 作用・反作用の法則: 物体Pと台が互いに力を及ぼし合う場面(垂直抗力とその反作用)を正しく認識することが、特に台の運動や静止条件を考える上で重要です。
  • 力の分解: 重力や接触力を、水平・鉛直方向、あるいは斜面平行・垂直方向といった適切な成分に分解する技術が、式を立てる上で不可欠です。
  • 摩擦力の正確な理解:
    • 静止摩擦力: 滑り出すのを妨げる力。大きさが変化し、最大値は \(\mu_s N\)。静止条件は「滑らせようとする力 \(\le \mu_s N\)\」。
    • 垂直抗力 \(N\) の決定: 摩擦力は垂直抗力に比例するため、まずは \(N\) を正しく求めることが全ての前提となります。
  • 等加速度直線運動の公式: 加速度が一定の運動(本問ではPの斜面上の運動)において、時間、距離、速度の関係を求めるのに用います。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 複数の物体が互いに力を及ぼし合いながら運動または静止している系(特に一方が斜面や動く台の場合)。
    • 条件変化(例:糸を切る、力を加える)によって物体の運動状態が変わる問題。
  • 初見の問題への着眼点:
    1. 物体ごとの分析: まずは一つの物体に着目し、それに働く力を全て図示する(フリーボディダイアグラム)。
    2. 作用・反作用のペア特定: 物体間で力が及ぼしあう場合、どの力が作用・反作用の関係にあるかを明確にする。
    3. 座標系の選択: 運動の方向や力の向きを考慮し、最も計算がしやすい座標系(水平鉛直、斜面平行垂直など)を選ぶ。
    4. 条件変化の前後での力の変化: 「糸がある状態」と「糸を切った後」では、物体Pに働く力が変わる。この変化がPの運動や台への影響をどう変えるかを追う。
  • ヒント・注意点:
    • 複雑に見える系でも、基本法則(力のつり合い、運動方程式、作用・反作用)に立ち返って一つ一つ丁寧に力を分析することが肝心です。
    • 文字が多くなると計算ミスが増えやすいので、式の整理や代入は慎重に行いましょう。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 作用・反作用の力の対象の誤認: Pが斜面から受ける垂直抗力 \(N\) の反作用は「Pが斜面(台)を押す力」であり、この力が台の運動状態に影響します。
  • 力の分解時の角度のミス: 図を正確に描き、三角比の定義に基づいて成分を求める。特に糸の角度、斜面の角度、垂直抗力の向きが複雑に絡む場合は注意が必要です。
  • 静止摩擦力と最大静止摩擦力の区別: 静止している物体に常に最大静止摩擦力が働いているわけではありません。滑り出す直前の限界状態で最大となります。
  • 台が受ける垂直抗力 \(R\) の計算: 台自身の重力だけでなく、上に乗っている物体から受ける力の鉛直成分も考慮に入れる必要があります。

対策: 各物体について独立した力の図を描く練習を徹底し、作用・反作用の関係を常に意識する。複雑な角度設定の問題では、大きな図で丁寧に力の分解を行う。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 有効な図:
    1. 小物体Pについて、静止時(糸あり)と運動時(糸なし)それぞれに働く力を全て図示したフリーボディダイアグラム。力の分解も示す。
    2. 台について、Pが静止している時と運動している時それぞれに、Pから受ける力(反作用)、自身の重力、床からの力を全て図示したフリーボディダイアグラム。Pからの反作用の分解も示す。
  • 図を描く際の注意点: 全ての力を描き漏らさないこと。作用点を明確に。力の分解は元の力と区別して示す。角度情報を正確に図に反映させること。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつり合い (\(\sum F_{\text{水平}}=0, \sum F_{\text{鉛直}}=0\)): 物体が「静止している」という情報から適用。
  • 運動方程式 (\(ma=F\)): 物体が「加速度運動している」という情報から適用。
  • 作用・反作用の法則: 二つの物体が「互いに力を及ぼしあう」場面で、一方から他方への力を知るために適用。
  • 静止摩擦の条件 (\(F \le \mu N\)): 物体が「滑り出さない」という条件から適用。(\(F\)は実際に働く静止摩擦力)
  • 等加速度運動の公式群: 「加速度が一定」である運動の距離、時間、速度の関係を求めるために適用。

これらの選択は、問題文の記述から読み取れる物理的状況に基づいて行われます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 問(1) Pの静止時: Pに働く力を水平・鉛直に分解 \(\rightarrow\) 水平・鉛直の力のつり合いから \(T, N_1\)。
  2. 問(2) 台の静止時(Pも静止): \(N_1\) の反作用を台への力として考慮 \(\rightarrow\) 台に働く力を水平・鉛直に分解 \(\rightarrow\) 水平・鉛直の力のつり合いから \(F, R\)。
  3. 問(3) 台の静止条件(Pも静止): \(F \le \mu R\) から \(\mu\) の下限。
  4. 問(4) Pの運動時: Pに働く力を斜面平行・垂直に分解 \(\rightarrow\) 運動方程式から \(a\)、力のつり合いから \(N_2\)。
  5. 問(5) Pの運動時: 斜面長と \(a\) から等加速度運動の公式で \(t, v\)。
  6. 問(6) 台の静止条件(P運動中): \(N_2\) の反作用を台への力として考慮 \(\rightarrow\) 台を動かそうとする水平力と床からの垂直抗力 \(R’\) を計算 \(\rightarrow\) 静止条件から \(\mu\) の下限。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字の多さへの対応: \(m, M, g, h, T, N, R, F, \mu, a, t, v\) など多くの文字が登場します。定義を混同せず、代入や式の整理を丁寧に行う。
  • 三角比の正確な使用: \(\sin 30^\circ = 1/2\), \(\cos 30^\circ = \sqrt{3}/2\) を確実に。
  • 分母・分子の整理: 特に分数の形で係数を求める場合、計算間違いをしやすいので慎重に。
  • 符号の厳密な扱い: 力の向き、加速度の向きを常に座標軸と照らし合わせて符号を決定する。

日頃の練習: 複雑な問題設定でも、基本に立ち返り、各物体に働く力を一つ一つ丁寧に図示し、法則を適用する練習を積むことが大切です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な妥当性:
    • \(T, N_1\) (問1): \(mg\) と比較して妥当な大きさか。力の方向と釣り合いを考慮。
    • \(F, R\) (問2): \(R\) は \(Mg\) よりも大きいか(\(N_1\)の鉛直成分が加わるため)。\(F\) は \(N_1\)の水平成分と釣り合うはず。
    • \(\mu\) (問3,6): 0以上の値か。問3と問6でPの状態が異なるため、台が受ける力も変わり、\(\mu\) の条件も変わる。
    • \(a\) (問4): \(g\) よりも小さい値(斜面のため)。
    • \(v\) (問5): \(v=\sqrt{2gh}\) は力学的エネルギー保存の結果と一致。
  • 単位確認: 全ての物理量が適切な単位を持っているか(本問では明示されていないが、意識することは重要)。
  • 極端なケースでの考察: 例えば \(m=0\) ならP関連の力はゼロになるか、\(M \rightarrow \infty\) なら台は動かないという直感と合うか、など。

これらの吟味を通じて、解答の正しさに対する自信を深め、物理現象の本質的な理解に繋げることができます。

問題15 (武蔵工大 + 北海道工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、定滑車を介して繋がれた物体A、板、そして板上の物体Bからなる系の力のつり合いと運動を扱うものです。前半(1)では系全体が静止しているときの各糸の張力を、後半(2)では物体Aと床を結ぶ糸を切った後の物体Aの運動、およびその際の他の部分の力について問われています。滑車の質量は無視できるため、滑車を介する糸の張力は両側で等しいという点がポイントになります。

与えられた条件
  • 物体A: 質量 \(m\)
  • 板: 質量 \(m\)
  • 物体B: 質量 \(M\) (板上に置かれる)
  • 滑車: 定滑車、滑らか、質量無視
  • 糸 \(\alpha\): 物体Aと板を滑車を介してつなぐ
  • 糸 \(\beta\): 物体Aと床をつなぐ
  • 糸 \(\gamma\): 天井と滑車をつなぐ
  • 重力加速度の大きさ: \(g\)
問われていること
  1. 静止時: 糸 \(\alpha\), \(\beta\), \(\gamma\) の張力
  2. 糸 \(\beta\) を切った後:
    1. 物体Aの加速度、およびAが距離 \(h\) だけ上がるのにかかる時間
    2. 糸 \(\gamma\) の張力
    3. 物体Bが板を押している力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くためには、各物体に働く力を正確に図示し、静止している場合は力のつり合いの式を、運動している場合は運動方程式を立てる必要があります。滑車の性質や作用・反作用の法則も適切に用います。

問1

思考の道筋とポイント

系全体が静止しているため、物体A、板と物体B(一体として考える)、そして滑車それぞれに働く力は釣り合っています。糸 \(\alpha\) の張力を \(T_\alpha\)、糸 \(\beta\) の張力を \(T_\beta\)、糸 \(\gamma\) の張力を \(T_\gamma\) とします。

この設問における重要なポイント

  • 各物体に働く力をすべて図示し、力のつり合いの式を立てること。
  • 「板と物体B」は一体として扱い、その合計質量 (\(m+M\)) にかかる重力を考える。
  • 軽い滑らかな定滑車を介する一本の糸の張力はどこでも等しい。
  • 滑車自体も静止しているので、滑車に働く力のつり合いから糸 \(\gamma\) の張力を求める。

具体的な解説と立式

右側の「板 + 物体B」の系(質量 \(m+M\))に着目します。これに働く力は、上向きの糸 \(\alpha\) の張力 \(T_\alpha\) と、下向きの重力 \((m+M)g\) です。これらが釣り合っているので、

$$ T_\alpha – (m+M)g = 0 $$

次に、物体A(質量 \(m\))に着目します。これに働く力は、上向きの糸 \(\alpha\) の張力 \(T_\alpha\)、下向きの重力 \(mg\)、そして下向きの糸 \(\beta\) の張力 \(T_\beta\) です。これらが釣り合っているので、

$$ T_\alpha – mg – T_\beta = 0 $$

最後に、滑車に着目します。滑車には、下向きに糸 \(\alpha\) による張力が2ヶ所からかかり(合計 \(2T_\alpha\))、上向きに糸 \(\gamma\) の張力 \(T_\gamma\) がかかっています。これらが釣り合っているので、

$$ T_\gamma – 2T_\alpha = 0 $$

使用した物理公式

力のつり合い: \(\sum F = 0\)

計算過程

まず、糸 \(\alpha\) の張力 \(T_\alpha\) は、「板+物体B」のつり合いから、

$$ T_\alpha = (m+M)g $$

次に、この \(T_\alpha\) を物体Aのつり合いの式に代入して、糸 \(\beta\) の張力 \(T_\beta\) を求めます。

$$ (m+M)g – mg – T_\beta = 0 $$

$$ mg + Mg – mg – T_\beta = 0 $$

$$ Mg – T_\beta = 0 $$

$$ T_\beta = Mg $$

最後に、糸 \(\gamma\) の張力 \(T_\gamma\) は、滑車のつり合いから、

$$ T_\gamma = 2T_\alpha = 2(m+M)g $$

計算方法の平易な説明

全体が静止しているので、各部分で力が釣り合っています。

1. 右側の「板と物体B」を一体と見ると、その重さ \((m+M)g\) を糸 \(\alpha\) が支えているので、糸 \(\alpha\) の張力は \((m+M)g\) です。

2. 左側の物体Aは、糸 \(\alpha\) に上に引かれ、重力 \(mg\) と糸 \(\beta\) の張力で下に引かれています。これらの力が釣り合うことから、糸 \(\beta\) の張力が求まります。

3. 滑車は、糸 \(\alpha\) に両側から下に引かれ、糸 \(\gamma\) に上に引かれて釣り合っています。よって、糸 \(\gamma\) の張力は糸 \(\alpha\) の張力の2倍になります。

結論と吟味

糸 \(\alpha\) の張力は \( (m+M)g \)、糸 \(\beta\) の張力は \( Mg \)、糸 \(\gamma\) の張力は \( 2(m+M)g \) です。

\(T_\beta = Mg\) というのは、物体Aを床に固定するために必要な追加の張力が、物体Bの重力に等しいことを意味しています。

解答 (1) 糸 \(\alpha\) の張力: \((m+M)g\), 糸 \(\beta\) の張力: \(Mg\), 糸 \(\gamma\) の張力: \(2(m+M)g\)

問2 (ア)

思考の道筋とポイント

糸 \(\beta\) を切ると、物体Aは上昇し、板と物体B(一体として質量 \(m+M\))は下降すると考えられます。Aと「板+B」は同じ糸 \(\alpha\) で繋がれているため、加速度の大きさは等しくなります(これを \(a\) とします)。運動中の糸 \(\alpha\) の張力を \(T’\) として、物体Aと「板+B」それぞれについて運動方程式を立て、これらを連立して加速度 \(a\) を求めます。その後、等加速度直線運動の公式を用いて、Aが距離 \(h\) 上昇する時間を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 糸で連結された複数の物体が運動する場合、各物体の運動方程式を立てて連立して解く。
  • 物体Aと「板+物体B」の加速度の大きさは等しく、向きが反対であることを認識する(片方が上がれば他方は下がる)。
  • 運動中の糸の張力 \(T’\) は、静止時の張力 \(T_\alpha\) とは一般に異なることに注意する。
  • 加速度が求まれば、等加速度直線運動の公式を用いて時間や速度を計算できる。

具体的な解説と立式

物体Aの加速度を \(a\)(上向きを正)とすると、「板+物体B」の加速度は \(a\)(下向きを正)となります。運動中の糸 \(\alpha\) の張力を \(T’\) とします。

物体A(質量 \(m\))の運動方程式:

$$ ma = T’ – mg \quad \cdots ① $$

「板+物体B」(質量 \(m+M\))の運動方程式:

$$ (m+M)a = (m+M)g – T’ \quad \cdots ② $$

これらの式から加速度 \(a\) を求めます。

次に、Aが距離 \(h\) だけ上がるのにかかる時間を \(t_h\) とすると、初速度 \(v_{\text{初}}=0\)、加速度 \(a\)、距離 \(h\) なので、等加速度直線運動の公式 \(s = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\) より、

$$ h = 0 \cdot t_h + \frac{1}{2}a t_h^2 $$

使用した物理公式

運動方程式: \(ma = F\)

等加速度直線運動: \(s = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\)

計算過程

加速度 \(a\) の計算:

① + ② より、

$$ ma + (m+M)a = (T’ – mg) + ((m+M)g – T’) $$

$$ (2m+M)a = -mg + mg + Mg $$

$$ (2m+M)a = Mg $$

$$ a = \frac{M}{2m+M}g $$

時間 \(t_h\) の計算:

$$ h = \frac{1}{2}a t_h^2 $$

$$ t_h^2 = \frac{2h}{a} = \frac{2h}{\frac{M}{2m+M}g} = \frac{2h(2m+M)}{Mg} $$

$$ t_h = \sqrt{\frac{2h(2m+M)}{Mg}} $$

計算方法の平易な説明

(加速度) 糸 \(\beta\) を切ると、物体Aは上に、板と物体Bの組は下に動き始めます。このとき、Aと板+Bは同じ大きさの加速度で運動します。Aについては「質量×加速度=糸\(\alpha\)の張力-Aの重さ」、板+Bについては「(板+Bの質量)×加速度=(板+Bの重さ)-糸\(\alpha\)の張力」という運動の式が成り立ちます。これら2つの式を組み合わせることで、加速度が求まります。

(時間) 物体Aが距離 \(h\) だけ上がるのにかかる時間は、初めの速さが0で、上で求めた一定の加速度で運動する場合の時間を、運動の公式 \(h = \frac{1}{2}at^2\) から計算します。

結論と吟味

Aの加速度は \(a = \displaystyle\frac{M}{2m+M}g\)(上向き)です。Aが距離 \(h\) だけ上がるのにかかる時間は \(t_h = \sqrt{\displaystyle\frac{2h(2m+M)}{Mg}}\) です。

加速度は \(M > 0\) のとき正となり、Aが上昇することを示します。もし \(M=0\)(物体Bがない)なら \(a=0\) となり、物体Aと板(どちらも質量 \(m\))は釣り合って動かないことになり、直感と一致します。

時間は、上昇距離 \(h\) が大きいほど、また全体の慣性質量(\(2m+M\) に比例)が大きいほど長くなり、動かす力の源である \(Mg\) が小さいほど長くなるという、物理的に妥当な依存性を示しています。

解答 (2ア) 加速度: \(\displaystyle\frac{M}{2m+M}g\), 時間: \(\sqrt{\displaystyle\frac{2h(2m+M)}{Mg}}\)

問2 (イ)

思考の道筋とポイント

運動中の糸 \(\alpha\) の張力 \(T’\) をまず求めます。これは、(ア)で求めた加速度 \(a\) を物体Aの運動方程式(式①)に代入することで得られます。滑車は質量が無視でき、天井に固定されているので(静止)、滑車にかかる力のつり合いから糸 \(\gamma\) の張力 \(T_\gamma’\) を求めます。滑車には下向きに2つの \(T’\) が作用し、上向きに \(T_\gamma’\) が作用します。

この設問における重要なポイント

  • 運動中の糸の張力 \(T’\) を、加速度 \(a\) を用いて運動方程式から導出すること。
  • 滑車自体は静止しており、質量が無視できるため、滑車にかかる力の合計はゼロである。
  • 糸 \(\gamma\) の張力は、滑車を介して両側にかかる糸 \(\alpha\) の張力 \(T’\) の合計を支える。

具体的な解説と立式

まず、運動中の糸 \(\alpha\) の張力 \(T’\) を求めます。式① \(ma = T’ – mg\) より、

$$ T’ = ma + mg = m(a+g) $$

(ア)で求めた \(a = \displaystyle\frac{M}{2m+M}g\) を代入します。

次に、滑車は静止しているので、糸 \(\gamma\) の張力を \(T_\gamma’\) とすると、滑車にかかる力のつり合いより、

$$ T_\gamma’ = T’ + T’ = 2T’ $$

使用した物理公式

運動方程式: \(ma = F\) (張力 \(T’\) 算出のため)

力のつり合い: \(\sum F = 0\) (滑車について)

計算過程

糸 \(\alpha\) の張力 \(T’\):

$$ T’ = m\left(\frac{M}{2m+M}g + g\right) = m\left(\frac{Mg + (2m+M)g}{2m+M}\right) $$

$$ T’ = m\left(\frac{Mg + 2mg + Mg}{2m+M}\right) = m\left(\frac{2Mg + 2mg}{2m+M}\right) $$

$$ T’ = \frac{2m(M+m)g}{2m+M} $$

糸 \(\gamma\) の張力 \(T_\gamma’\):

$$ T_\gamma’ = 2T’ = 2 \cdot \frac{2m(M+m)g}{2m+M} = \frac{4m(M+m)g}{2m+M} $$

計算方法の平易な説明

まず、物体Aや板+Bが運動しているときの、糸 \(\alpha\) の張力 \(T’\) を計算します。これは、(ア)で求めた加速度 \(a\) を使って、例えば物体Aの運動の式から求めることができます。次に、天井から滑車を吊るしている糸 \(\gamma\) の張力 \(T_\gamma’\) は、滑車の両側で糸 \(\alpha\) が下に引く力(それぞれ \(T’\))の合計を支えているので、\(T_\gamma’ = 2T’\) となります。

結論と吟味

運動時の糸 \(\gamma\) の張力は \(T_\gamma’ = \displaystyle\frac{4m(M+m)g}{2m+M}\) です。

静止時の糸 \(\gamma\) の張力は \(T_\gamma = 2(m+M)g\) でした。

\(T_\gamma’ – T_\gamma = \displaystyle\frac{4m(m+M)g}{2m+M} – 2(m+M)g = 2(m+M)g \left(\frac{2m}{2m+M} – 1\right) = 2(m+M)g \left(\frac{2m – (2m+M)}{2m+M}\right) = 2(m+M)g \left(\frac{-M}{2m+M}\right) = -\frac{2M(m+M)g}{2m+M}\)。

\(M>0\) であれば、\(T_\gamma’ < T_\gamma\) となり、運動時は静止時よりも糸 \(\gamma\) の張力は小さくなります。これは、系全体が動き出すことで、滑車を引っ張る力が変化するためです。

解答 (2イ) \(\displaystyle\frac{4m(M+m)g}{2m+M}\)

問2 (ウ)

思考の道筋とポイント

物体B(質量 \(M\))は、板とともに加速度 \(a = \displaystyle\frac{M}{2m+M}g\) で鉛直下向きに運動しています。物体Bに働く力は、下向きの重力 \(Mg\) と、板からBが受ける上向きの垂直抗力 \(N_B\) です。B自身の運動方程式を立てることで \(N_B\) を求めます。Bが板を押す力は、作用・反作用の法則により、この \(N_B\) と大きさが等しく向きが反対です。

この設問における重要なポイント

  • 着目する物体(ここでは物体B)に働く力を全て正しく特定し、図示すること。
  • 物体の運動の方向と加速度の向きを考慮して、運動方程式を正確に立てること。
  • 作用・反作用の法則を正しく適用し、問われている「Bが板を押す力」を、板がBを押す力(垂直抗力)から導くこと。

具体的な解説と立式

物体B(質量 \(M\))の運動方程式を考えます。鉛直下向きを正とすると、加速度は \(a = \displaystyle\frac{M}{2m+M}g\) です。

Bに働く力は、下向きの重力 \(Mg\) と、板がBを上に押す垂直抗力 \(N_B\) です。

運動方程式 \(Ma = F_{\text{合力}}\) より、

$$ Ma = Mg – N_B $$

ここから \(N_B\) を求めます。Bが板を押す力 \(F_{\text{Bが板に}}\) は \(N_B\) に等しいです。

使用した物理公式

運動方程式: \(ma = F\)

作用・反作用の法則

計算過程

板がBを押す垂直抗力 \(N_B\):

$$ N_B = Mg – Ma = M(g-a) $$

(ア)で求めた \(a = \displaystyle\frac{M}{2m+M}g\) を代入すると、

$$ N_B = M\left(g – \frac{M}{2m+M}g\right) = Mg\left(1 – \frac{M}{2m+M}\right) $$

$$ N_B = Mg\left(\frac{(2m+M)-M}{2m+M}\right) = Mg\left(\frac{2m}{2m+M}\right) = \frac{2mMg}{2m+M} $$

Bが板を押す力 \(F_{\text{Bが板に}}\) は、作用・反作用の法則により \(N_B\) と大きさが等しいので、

$$ F_{\text{Bが板に}} = \frac{2mMg}{2m+M} $$

計算方法の平易な説明

物体Bは板と一緒に下に加速しながら運動しています。このとき、Bには下向きの重力と、板から上向きに押される力(垂直抗力)が働いています。Bの運動の様子(質量×加速度)は、これらの力の合力(重力-垂直抗力)と等しくなります。この関係式から、板がBを上向きに押す力(垂直抗力)を求めることができます。作用・反作用の法則により、Bが板を下向きに押す力は、この垂直抗力と同じ大きさになります。

結論と吟味

Bが板を押している力は \(\displaystyle\frac{2mMg}{2m+M}\) です。

この力は、物体Bの重力 \(Mg\) よりも小さい (\(N_B = Mg – Ma\), \(a>0\) なら \(N_B < Mg\))。これは、板が下向きに加速しているため、Bが板から受ける垂直抗力が減少し、結果としてBが板を押す力も減少する(見かけの重さが減る)ことを意味します。例えば、エレベーターが下に加速するときに体重計の目盛りが減るのと同じ現象です。

もし \(a=0\)(例えば \(M=0\) で系が動かない場合)なら、\(N_B = Mg\) となり、Bが板を押す力はBの重力に等しくなります。

解答 (2ウ) \(\displaystyle\frac{2mMg}{2m+M}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力のつり合い (\(\sum \vec{F} = 0\)): 静止している物体や系では、力のベクトル和がゼロになります。問(1)や滑車のつり合いで使用しました。
  • ニュートンの運動方程式 (\(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\)): 加速度運動する物体では、質量と加速度の積が合力に等しくなります。問(2)の各物体の運動解析で中心となりました。
  • 張力の性質: 軽くて伸び縮みしない糸の一部分の張力は、糸全体で等しく、滑らかな滑車を介しても大きさは変わりません。
  • 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに力を及ぼせば、物体Bも物体Aに同じ大きさで反対向きの力を及ぼします。問(2ウ)でBが板を押す力を考える際に重要です。
  • 連結された物体の運動: 糸で繋がれた物体は、糸がたるまない限り同じ大きさの加速度で運動します。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 滑車を含む複数の物体(アトウッドの器械など)の運動や力の問題。
    • エレベーター内のように、加速度運動する基準系内の物体にかかる力の問題(見かけの重さ)。
    • 一部の束縛が解かれたり、力が加わったりすることで運動状態が変化する問題。
  • 初見の問題への着眼点:
    1. 物体ごとの力の図示: まず、系を構成する各物体について、働く力を全て(重力、張力、垂直抗力など)図示する。
    2. 運動の方向の仮定: どちらの物体が上がり、どちらが下がるかなどを最初に予測し、加速度の向きを仮定する。
    3. 共通の物理量と束縛条件: 糸で繋がっていれば加速度の大きさが等しい、同じ糸なら張力が等しい、といった関係性を見抜く。
    4. 作用・反作用のペアの明確化: どの力がどの力の反作用かを意識する。
  • ヒント・注意点:
    • 運動方程式を立てる際は、各物体について座標軸の正の向きを一貫させると混乱しにくい。あるいは、各物体の運動方向に正を取るなら、その関係を明確に記述する。
    • 連立方程式を解くことになるので、計算ミスをしないように、式を整理しながら進めることが大切。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 張力の混同: 滑車を介する糸 \(\alpha\) の張力 \(T’\) と、滑車を吊るす糸 \(\gamma\) の張力 \(T_\gamma’\) は異なります。
  • 運動方程式の符号ミス: 設定した加速度の向き(正方向)に対して、力の向きが同じなら正、反対なら負として運動方程式に組み込む。
  • 「板+B」の一体化とB単独の扱い: 全体の加速度を求める際は「板+B」を一体として扱うと便利ですが、Bが板を押す力や板がBから受ける力を考える際は、B単独(あるいは板単独)の運動方程式や力のつり合いを考える必要があります。
  • 作用・反作用の誤解: 「Bが板を押す力」を問われたら、まず「板がBを押す力(垂直抗力)」を求め、その反作用として答えます。これらの大きさは等しいです。

対策: 多くの滑車や連結物体の問題を解き、運動方程式の立て方や力の図示に習熟する。特に、各物体に働く力を「もれなく」「向きを正しく」図示する練習を繰り返す。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 有効な図:
    1. 静止時: 物体A、板+物体Bのそれぞれに働く力のつり合いを示した図。滑車にかかる力のつり合いも。
    2. 運動時: 物体A、板+物体Bのそれぞれに働く力と加速度の向きを示した図(運動方程式用)。物体B単独に働く力と加速度を示した図も(問2ウ用)。
  • 図を描く際の注意点: 各物体を分離して描くフリーボディダイアグラムを心がける。力の矢印は作用点から正しい向きに。加速度の向きも明示する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつり合い (\(\sum F = 0\)): 問(1)全体と、問(2イ)の滑車部分は「静止している」という条件から適用。
  • 運動方程式 (\(ma = F_{\text{合力}}\)): 問(2ア)、(2ウ)は物体が「動き出した」(加速度運動している)という条件から適用。
  • 等加速度運動の公式 (\(s = \frac{1}{2}at^2\)): 問(2ア)で加速度が一定である運動で、距離と時間の関係を求めるために適用。(注: 初速度\(v_{\text{初}}=0\)の場合)
  • 作用・反作用の法則: 問(2ウ)で「Bが板を押す力」を求める際に、「板がBを押す力」との関係を明確にするために意識する。

これらの公式や法則は、問題文中の「静止」「動き出した」「押している力」などの記述から、どの物理的状況に該当するかを判断して選択されます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 問(1) 全体静止:
    1. 「板+B」の鉛直つり合い \(\rightarrow\) \(T_\alpha\)。
    2. Aの鉛直つり合い \(\rightarrow\) \(T_\beta\)。
    3. 滑車の鉛直つり合い \(\rightarrow\) \(T_\gamma\)。
  2. 問(2ア) Aの運動:
    1. Aの運動方程式、板+Bの運動方程式を連立 \(\rightarrow\) 加速度 \(a\)。
    2. 等加速度運動の公式 (\(h = \frac{1}{2}at_h^2\)) \(\rightarrow\) 時間 \(t_h\)。
  3. 問(2イ) 運動中の糸\(\gamma\)張力:
    1. 加速度 \(a\) から運動中の糸\(\alpha\)の張力 \(T’\) を計算。
    2. 滑車の力のつり合いから糸\(\gamma\)の張力 \(T_\gamma’\) を計算。
  4. 問(2ウ) Bが板を押す力:
    1. B単独の運動方程式から、板がBを押す垂直抗力 \(N_B\) を計算。
    2. 作用・反作用の法則により、Bが板を押す力は \(N_B\) と等しい。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字の整理と確認: 複数の質量 (\(m, M\)) や張力 (\(T_\alpha, T_\beta, T_\gamma, T’\)) が登場するため、定義を混同せず、式変形の際に注意する。
  • 連立方程式の確実な処理: 加減法や代入法を用いる際、符号ミスや移項ミスをしないように。
  • 分数の計算: 特に加速度や張力の式が分数になる場合、通分や約分を丁寧に行う。
  • 代入の正確性: あるステップで求めた加速度や張力を次のステップで使用する際、正確に値を代入する。

日頃の練習: 複数の物体が関わる問題では、一つ一つの物体に注目し、基本に忠実に運動方程式(または力のつり合いの式)を立てる練習を積むことが重要です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な妥当性:
    • (1) 各張力が \(m, M, g\) を用いて正しく力の次元で表されているか。例えば、\(T_\beta = Mg\) は、物体Bの重さがそのまま物体Aを床に繋ぎ止める張力になっていると解釈でき、状況と合うか。
    • (2ア) 加速度 \(a\): \(M/(2m+M)\) は無次元であり、それに \(g\) を掛けて加速度の次元になっている。\(M=0\) なら \(a=0\)(Aと板は釣り合う)。\(m \ll M\) なら \(a \approx g\)(Bがほぼ自由落下し、Aはそれに引っ張られる)。
    • (2イ) 糸\(\gamma\)の張力 \(T_\gamma’\): 静止時 \(T_\gamma = 2(m+M)g\) と比較し、運動によって張力が増減する理由を考察する(この場合は減少)。
    • (2ウ) Bが板を押す力: Bの重力 \(Mg\) と比較し、加速度運動によって見かけの重さがどう変化するか(下向き加速なら減少)を検討する。
  • 単位確認: 各物理量が正しい単位(張力や力は[N]、加速度は[m/s²]、時間は[s])を持つか、頭の中で確認する。
  • 極端な条件の代入: 例えば \(M=0\) や \(m=0\)(ただし物理的に意味のある範囲で)といった値を各式に代入してみて、直感的に理解できる結果になるか確認する。例えば \(M=0\) のとき、加速度 \(a=0\) となり、系は動かないはず。このとき運動中の張力 \(T’\) は \(mg\) となり、静止時の \(T_\alpha=mg\) と一致する。

これらの吟味は、解答の信頼性を高めるだけでなく、物理現象に対する深い理解と洞察を養うのに役立ちます。

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