「良問の風」攻略ガイド(1〜5問):重要問題の解き方と物理の核心をマスター!

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問題1 (大阪産大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、物体の1次元運動について、与えられた速度と時間の関係を示すグラフ(\(v-t\)グラフ)を読み解き、加速度、位置、特定の条件を満たす時刻や速度を求める問題です。\(v-t\)グラフの基本的な性質である「傾きが加速度を表すこと」と「面積が変位を表すこと」を理解し、活用できるかがポイントとなります。

与えられた条件
  • 物体は\(x\)軸上を運動する。
  • 時刻 \(t=0\) で物体の位置は原点 \(x=0\)。
  • 時刻 \(t\) と速度 \(v\) の関係が図2の\(v-t\)グラフで与えられている。
    • \(t=0 \, \text{s}\) から \(t=4 \, \text{s}\): 速度は \((0,0)\) から \((4,16)\) まで直線的に増加。
    • \(t=4 \, \text{s}\) から \(t=7 \, \text{s}\): 速度は \(v=16 \, \text{m/s}\) で一定。
    • \(t=7 \, \text{s}\) から \(t=15 \, \text{s}\): 速度は \((7,16)\) から \((15,0)\) まで直線的に減少。
問われていること
  • (1) 時刻 \(t=2 \, \text{s}\)、\(t=6 \, \text{s}\)、\(t=11 \, \text{s}\) における物体の加速度 \(a\)。
  • (2) 時刻 \(t=6 \, \text{s}\) における物体の位置 \(x\)。
  • (3) 物体が原点 \(x=0\) から右に最も離れる時刻 \(t\) とその位置 \(x\)。
  • (4) 時刻 \(t=15 \, \text{s}\) 以後も運動を続けた場合、物体が再び原点に戻ってくる時刻 \(t\) とそのときの速度 \(v\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている\(v-t\)グラフの性質(傾きと面積)を利用する解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2) 位置\(x\)の別解: 等加速度運動の公式を用いる解法
      • 主たる解法がグラフの面積を幾何学的に求めるのに対し、別解では各運動区間を等加速度運動として捉え、運動の公式を代数的に適用して位置を求めます。
    • 問(4) 原点に戻る時刻と速度の別解: \(v-t\)グラフの面積を利用する解法
      • 主たる解法が\(t=15\,\text{s}\)以降の運動を切り出して等加速度運動の公式で解くのに対し、別解では「全区間の変位の合計が0になる」という条件をグラフの面積で考え、より大局的な視点から解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 解法の多角化: 幾何学的なアプローチ(面積)と代数的なアプローチ(公式)の両方を学ぶことで、問題に応じて最適な解法を選択する能力が養われます。
    • 物理的意味の深化: 問(4)の別解は、「原点に戻る」という条件を「全変位がゼロ」と捉え、それを「グラフの正の面積と負の面積が相殺される」という視覚的なイメージに結びつけることで、変位の概念への理解が深まります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「\(v-t\)グラフの解釈」です。\(v-t\)グラフから、物体の運動に関する様々な情報を読み取る基本的な問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. \(v-t\)グラフの傾き = 加速度 \(a\): グラフの傾きは、単位時間あたりの速度の変化を表します。傾きが正なら加速、負なら減速(または負の向きに加速)、\(0\)なら等速運動です。
  2. \(v-t\)グラフの面積 = 変位 \(\Delta x\): グラフと時間軸で囲まれた部分の面積は、物体の位置の変化量を表します。\(t\)軸より上側の面積は正の変位、下側の面積は負の変位を意味します。
  3. 等加速度直線運動の公式: 加速度が一定の区間では、\(v = v_{\text{初}} + at\) や \(x = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2} a t^2\) などの公式が利用できます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問(1)では、指定された時刻が含まれる区間のグラフの「傾き」を計算して加速度を求めます。
  2. 問(2)と問(3)では、指定された時刻までのグラフと\(t\)軸で囲まれた「面積」を計算して、位置(変位)を求めます。
  3. 問(4)では、\(t=15\,\text{s}\)以降の運動が等加速度運動であることに着目し、公式を用いて原点に戻るまでの時間と、そのときの速度を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
加速度\(a\)は、\(v-t\)グラフの傾きに等しいです。傾きは「速度の変化量 \(\Delta v\) / 時間の変化量 \(\Delta t\)」で計算できます。指定された各時刻が、グラフ上のどの直線区間に含まれるかを確認し、その区間の傾きを求めます。
この設問における重要なポイント

  • \(v-t\)グラフの「傾き」が加速度\(a\)であることを理解している。
  • グラフが直線となっている区間(加速度が一定の区間)を正しく見分ける。
  • 各区間の始点と終点の座標を正確に読み取り、傾きを計算する。

具体的な解説と立式
(ア) 時刻 \(t=2\,\text{s}\) における加速度
この時刻は \(0 \le t \le 4\,\text{s}\) の区間に含まれます。この区間のグラフは、点\((0, 0)\)と点\((4, 16)\)を結ぶ直線です。したがって、加速度\(a_1\)は、
$$ a_1 = \frac{\Delta v}{\Delta t} = \frac{16 – 0}{4 – 0} $$

(イ) 時刻 \(t=6\,\text{s}\) における加速度
この時刻は \(4 \le t \le 7\,\text{s}\) の区間に含まれます。この区間のグラフは、速度\(v=16\,\text{m/s}\)で一定の水平な直線です。

(ウ) 時刻 \(t=11\,\text{s}\) における加速度
この時刻は \(7 \le t \le 15\,\text{s}\) の区間に含まれます。この区間のグラフは、点\((7, 16)\)と点\((15, 0)\)を結ぶ直線です。したがって、加速度\(a_2\)は、
$$ a_2 = \frac{\Delta v}{\Delta t} = \frac{0 – 16}{15 – 7} $$

使用した物理公式

  • 加速度の定義: \(a = \displaystyle\frac{\Delta v}{\Delta t}\)
計算過程

(ア) \(0 \le t \le 4\,\text{s}\) の区間
$$
\begin{aligned}
a_1 &= \frac{16 – 0}{4 – 0} \\[2.0ex]
&= \frac{16}{4} \\[2.0ex]
&= 4 \, \text{m/s}^2
\end{aligned}
$$
(イ) \(4 \le t \le 7\,\text{s}\) の区間
速度が一定なので、速度の変化は\(0\)です。
$$ a = 0 \, \text{m/s}^2 $$
(ウ) \(7 \le t \le 15\,\text{s}\) の区間
$$
\begin{aligned}
a_2 &= \frac{0 – 16}{15 – 7} \\[2.0ex]
&= \frac{-16}{8} \\[2.0ex]
&= -2 \, \text{m/s}^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(ア) 最初の\(4\)秒間で、速度は\(0\)から\(16\,\text{m/s}\)まで増えます。これは\(1\)秒あたり\(16 \div 4 = 4\,\text{m/s}\)ずつ速くなっていることを意味するので、加速度は\(4\,\text{m/s}^2\)です。
(イ) \(4\)秒から\(7\)秒の間は、速度はずっと\(16\,\text{m/s}\)で変わりません。速さが変わらないので、加速度は\(0\,\text{m/s}^2\)です。
(ウ) \(7\)秒から\(15\)秒までの\(8\)秒間で、速度は\(16\,\text{m/s}\)から\(0\)まで減ります。これは\(1\)秒あたり\(16 \div 8 = 2\,\text{m/s}\)ずつ遅くなっていることを意味するので、加速度は\(-2\,\text{m/s}^2\)です。

結論と吟味

(ア) \(a = 4\,\text{m/s}^2\)。グラフが右上がりで速度が増加しているので、正の値で妥当です。
(イ) \(a = 0\,\text{m/s}^2\)。グラフが水平で等速運動なので、妥当です。
(ウ) \(a = -2\,\text{m/s}^2\)。グラフが右下がりで速度が減少しているので、負の値で妥当です。

解答 (1) (ア) \(4\) (イ) \(0\) (ウ) \(-2\)

問(2)

思考の道筋とポイント
物体の位置\(x\)は、\(v-t\)グラフと\(t\)軸で囲まれた面積で表されます。時刻\(t=0\)で原点\(x=0\)から出発しているので、時刻\(t=6\,\text{s}\)での位置は、\(t=0\,\text{s}\)から\(t=6\,\text{s}\)までのグラフの面積に等しくなります。この面積は、\(0 \le t \le 4\,\text{s}\)の三角形と\(4 \le t \le 6\,\text{s}\)の長方形の2つの部分に分けて計算すると簡単です。
この設問における重要なポイント

  • \(v-t\)グラフの「面積」が変位(この場合は位置)を表すことを理解している。
  • 面積を計算する図形を、三角形や長方形などの単純な形に分割する。
  • 各図形の面積公式を正しく適用する。

具体的な解説と立式
時刻\(t=6\,\text{s}\)における位置\(x\)は、\(t=0\,\text{s}\)から\(t=6\,\text{s}\)までの\(v-t\)グラフの面積に等しいです。
この面積を、\(0 \le t \le 4\,\text{s}\)の三角形の面積\(S_1\)と、\(4 \le t \le 6\,\text{s}\)の長方形の面積\(S_2\)の和として求めます。
$$ x = S_1 + S_2 $$
\(S_1\)は底辺\(4\)、高さ\(16\)の三角形の面積です。
$$ S_1 = \frac{1}{2} \times 4 \times 16 $$
\(S_2\)は横の長さが\(6-4=2\)、縦の長さが\(16\)の長方形の面積です。
$$ S_2 = (6-4) \times 16 $$

使用した物理公式

  • 変位 \(\Delta x\) = \(v-t\)グラフの面積
  • 三角形の面積: \(S = \displaystyle\frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ})\)
  • 長方形の面積: \(S = (\text{横}) \times (\text{縦})\)
計算過程

三角形の面積\(S_1\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
S_1 &= \frac{1}{2} \times 4 \times 16 \\[2.0ex]
&= 32 \, \text{m}
\end{aligned}
$$
長方形の面積\(S_2\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
S_2 &= (6-4) \times 16 \\[2.0ex]
&= 2 \times 16 \\[2.0ex]
&= 32 \, \text{m}
\end{aligned}
$$
したがって、時刻\(t=6\,\text{s}\)での位置\(x\)は、
$$
\begin{aligned}
x &= S_1 + S_2 \\[2.0ex]
&= 32 + 32 \\[2.0ex]
&= 64 \, \text{m}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

物体の進んだ距離は、\(v-t\)グラフの面積で計算できます。
1. 最初の\(4\)秒間(三角形の部分)で進んだ距離は、\(\frac{1}{2} \times 4 \times 16 = 32\,\text{m}\)です。
2. 次の\(2\)秒間(\(4\)秒から\(6\)秒まで、長方形の部分)で進んだ距離は、\(2 \times 16 = 32\,\text{m}\)です。
これらを合計すると、\(6\)秒後には \(32 + 32 = 64\,\text{m}\) の位置にいることになります。

結論と吟味

時刻\(t=6\,\text{s}\)における物体の位置は\(x=64\,\text{m}\)となります。この間、速度は常に正なので、物体は\(x\)軸の正の方向に進み続けており、計算結果は妥当です。

別解: 等加速度運動の公式を用いる解法

思考の道筋とポイント
グラフの面積を計算する代わりに、各区間の運動を等加速度運動として捉え、公式を適用して位置を計算します。\(0 \le t \le 4\,\text{s}\)の区間と\(4 \le t \le 6\,\text{s}\)の区間に分けて考えます。
この設問における重要なポイント

  • 各区間の加速度と初速度を正しく設定する。
  • 等加速度運動の公式を正しく適用する。

具体的な解説と立式
1. 区間1 (\(0 \le t \le 4\,\text{s}\))
問(1)より加速度は \(a_1 = 4\,\text{m/s}^2\)。初速度は \(v_0 = 0\)。
\(t=4\,\text{s}\)での位置\(x_4\)は、
$$ x_4 = v_0 t + \frac{1}{2} a_1 t^2 = 0 \times 4 + \frac{1}{2} \times 4 \times 4^2 $$
2. 区間2 (\(4 \le t \le 6\,\text{s}\))
問(1)より加速度は \(a_2 = 0\,\text{m/s}^2\)(等速運動)。
この区間の初速度は、\(t=4\,\text{s}\)での速度であり、グラフから \(v_4 = 16\,\text{m/s}\)。
この区間で運動する時間は \(\Delta t = 6-4 = 2\,\text{s}\)。
この区間での変位\(\Delta x_{4 \to 6}\)は、
$$ \Delta x_{4 \to 6} = v_4 \Delta t = 16 \times 2 $$
時刻\(t=6\,\text{s}\)での位置\(x_6\)は、\(x_4\)と\(\Delta x_{4 \to 6}\)の和になります。
$$ x_6 = x_4 + \Delta x_{4 \to 6} $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の公式: \(x = v_{\text{初}} t + \displaystyle\frac{1}{2} a t^2\)
  • 等速直線運動の公式: \(x = vt\)
計算過程

1. \(t=4\,\text{s}\)での位置\(x_4\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
x_4 &= \frac{1}{2} \times 4 \times 16 \\[2.0ex]
&= 32 \, \text{m}
\end{aligned}
$$
2. \(4\,\text{s}\)から\(6\,\text{s}\)までの変位\(\Delta x_{4 \to 6}\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta x_{4 \to 6} &= 16 \times 2 \\[2.0ex]
&= 32 \, \text{m}
\end{aligned}
$$
3. 時刻\(t=6\,\text{s}\)での位置\(x_6\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
x_6 &= 32 + 32 \\[2.0ex]
&= 64 \, \text{m}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

最初の4秒間は加速度\(4\,\text{m/s}^2\)で加速します。この間に進む距離は、公式から\( \frac{1}{2} \times 4 \times 4^2 = 32\,\text{m}\)です。4秒後には速度が\(16\,\text{m/s}\)になります。
次の2秒間(4秒から6秒まで)は、この速度\(16\,\text{m/s}\)のまま等速で進みます。この間に進む距離は、\(16 \times 2 = 32\,\text{m}\)です。
したがって、合計で\(32 + 32 = 64\,\text{m}\)進んだことになります。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。これは、グラフの面積計算が、等加速度運動の公式を積分した結果と等価であることを示しています。

解答 (2) (エ) \(64\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(オ) 物体が原点から右に最も離れるのは、右向きの運動(\(v>0\))から左向きの運動(\(v<0\))に切り替わる瞬間、つまり速度が\(0\)になる瞬間です。グラフから、速度が正から\(0\)になる時刻を読み取ります。
(カ) その時刻までの移動距離が、原点から最も離れた位置になります。これは、\(t=0\)からその時刻までの\(v-t\)グラフの面積を計算することで求められます。
この設問における重要なポイント

  • 運動の折り返し点は、速度\(v=0\)となり、その前後で速度の符号が変わる点である。
  • 速度が正である全区間の変位の合計が、正の方向で最も離れた位置になる。
  • 面積計算の対象となる図形(台形)を正しく認識する。

具体的な解説と立式
(オ) グラフを見ると、\(t=0\,\text{s}\)から\(t=15\,\text{s}\)まで速度は \(v \ge 0\) であり、物体は右向きに進み続けています。\(t=15\,\text{s}\)で速度が \(v=0\) となり、それ以降は \(v<0\) となって左向きに進み始めます。したがって、物体が原点から右に最も離れるのは、運動の向きが変わる直前の \(t=15\,\text{s}\) です。

(カ) 時刻 \(t=15\,\text{s}\) における位置を求めるには、\(t=0\,\text{s}\)から\(t=15\,\text{s}\)までの\(v-t\)グラフと\(t\)軸で囲まれた面積を計算します。この図形は台形と見なすことができます。
上底は等速運動をしていた区間の時間幅で、\(7-4=3\,\text{s}\)。
下底は運動を開始してから停止するまでの全時間で、\(15\,\text{s}\)。
高さは最大速度の\(16\,\text{m/s}\)。
台形の面積の公式より、
$$ x_{\text{最大}} = \frac{1}{2} \times (\text{上底} + \text{下底}) \times (\text{高さ}) $$
$$ x_{\text{最大}} = \frac{1}{2} \times ( (7-4) + 15 ) \times 16 $$

使用した物理公式

  • 変位 \(\Delta x\) = \(v-t\)グラフの面積
  • 台形の面積: \(S = \displaystyle\frac{1}{2} \times (\text{上底} + \text{下底}) \times (\text{高さ})\)
計算過程

(オ) グラフより、\(v=0\)となる時刻は \(t=15\,\text{s}\)。

(カ) 台形の面積を計算します。
$$
\begin{aligned}
x_{\text{最大}} &= \frac{1}{2} \times ( (7-4) + 15 ) \times 16 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times (3 + 15) \times 16 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times 18 \times 16 \\[2.0ex]
&= 9 \times 16 \\[2.0ex]
&= 144 \, \text{m}
\end{aligned}
$$
(別解として、3つの部分(三角形、長方形、三角形)に分けて面積を計算することもできます)
\(S_{(0 \to 4)} = \frac{1}{2} \times 4 \times 16 = 32\,\text{m}\)
\(S_{(4 \to 7)} = 3 \times 16 = 48\,\text{m}\)
\(S_{(7 \to 15)} = \frac{1}{2} \times (15-7) \times 16 = \frac{1}{2} \times 8 \times 16 = 64\,\text{m}\)
合計: \(32 + 48 + 64 = 144\,\text{m}\)

この設問の平易な説明

(オ) 物体は、速度がプラスの間は右に進み続けます。グラフを見ると、\(15\)秒の瞬間に速度が\(0\)になり、その後マイナス(左向き)に変わります。つまり、\(15\)秒のときが最も右に到達した瞬間です。
(カ) その場所は、\(15\)秒間かけて進んだ距離の合計です。これはグラフの台形全体の面積で計算でき、\(144\,\text{m}\)となります。

結論と吟味

(オ) 最も離れる時刻は \(t=15\,\text{s}\)。速度の符号が正から負に変わる点であり、妥当です。
(カ) その位置は \(x=144\,\text{m}\)。それまでの総移動距離であり、妥当です。

解答 (3) (オ) \(15\) (カ) \(144\)

問(4)

思考の道筋とポイント
(キ) 時刻 \(t=15\,\text{s}\) で物体は \(x=144\,\text{m}\) の位置にいます。その後、物体は負の加速度で運動を続け、原点 \(x=0\) に戻ります。\(t \ge 15\,\text{s}\) の区間は、問(1)で求めた加速度 \(a = -2\,\text{m/s}^2\) の等加速度運動です。
時刻 \(t=15\,\text{s}\) を新たなスタート地点と考え、初速度 \(v_{\text{初}}=0\)、加速度 \(a=-2\,\text{m/s}^2\) で、変位 \(\Delta x = -144\,\text{m}\) となるまでの時間を計算します。
(ク) 求めた時間を使って、その時刻における速度を等加速度運動の公式で計算します。
この設問における重要なポイント

  • 折り返し後の運動を、新たな初期条件を持つ等加速度運動として捉える。
  • 変位の符号に注意する(原点に戻る \(\iff\) 変位が \(-144\,\text{m}\))。
  • 等加速度運動の公式 \(x = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2} a t^2\) および \(v = v_{\text{初}} + at\) を正しく使う。

具体的な解説と立式
(キ) 時刻 \(t=15\,\text{s}\) を基準(\(t’=0\))とします。
このときの初期条件は、初速度 \(v_{\text{初}} = 0\,\text{m/s}\)、加速度 \(a = -2\,\text{m/s}^2\)。
原点に戻るということは、この基準点から変位 \(\Delta x = 0 – 144 = -144\,\text{m}\) だけ移動することを意味します。
原点に戻るまでにかかる時間を \(T\) とすると、等加速度運動の変位の式より、
$$ \Delta x = v_{\text{初}} T + \frac{1}{2} a T^2 \quad \cdots ① $$
この式を解いて \(T\) を求め、\(15\,\text{s}\) に加えることで、求める時刻が得られます。

(ク) 原点に戻ったときの速度 \(v_{\text{戻り}}\) は、
$$ v_{\text{戻り}} = v_{\text{初}} + a T \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の公式:
    \(\Delta x = v_{\text{初}} t + \displaystyle\frac{1}{2} a t^2\)
    \(v = v_{\text{初}} + at\)
計算過程

(キ) 式①に数値を代入します。
$$ -144 = 0 \cdot T + \frac{1}{2} (-2) T^2 $$
$$ -144 = -T^2 $$
$$ T^2 = 144 $$
\(T>0\) より、\(T = 12\,\text{s}\)。
これは \(t=15\,\text{s}\) からの経過時間なので、求める時刻 \(t_{\text{戻り}}\) は、
$$
\begin{aligned}
t_{\text{戻り}} &= 15 + T \\[2.0ex]
&= 15 + 12 \\[2.0ex]
&= 27\,\text{s}
\end{aligned}
$$

(ク) 式②に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{戻り}} &= 0 + (-2) \times 12 \\[2.0ex]
&= -24\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(キ) \(15\)秒の時点で、物体は \(144\,\text{m}\) の地点にいて、速度は\(0\)です。ここから加速度\(-2\,\text{m/s}^2\)で左向きに戻り始めます。\(144\,\text{m}\)戻るのにかかる時間を考えます。距離と加速度の関係式 \((\text{距離}) = \frac{1}{2} \times (\text{加速度の大きさ}) \times (\text{時間})^2\) を使うと、\(144 = \frac{1}{2} \times 2 \times (\text{時間})^2\)。これを解くと時間は\(12\)秒とわかります。したがって、原点に戻るのは \(15 + 12 = 27\)秒後です。
(ク) 速度\(0\)から加速度\(-2\,\text{m/s}^2\)で\(12\)秒間運動すると、速度は \(0 + (-2) \times 12 = -24\,\text{m/s}\) になります。マイナスは左向きを意味します。

結論と吟味

(キ) 原点に戻る時刻は \(27\,\text{s}\)。\(15\,\text{s}\)より後の時刻であり妥当です。
(ク) そのときの速度は \(-24\,\text{m/s}\)。原点に向かって左向きに運動しているので、負の速度は妥当です。

別解: v-tグラフの面積を利用する解法

思考の道筋とポイント
物体が原点に戻るということは、出発からの総変位が\(0\)になるということです。これは、\(v-t\)グラフにおいて、\(t\)軸より上側の面積(正の変位)と、\(t\)軸より下側の面積(負の変位)の合計が\(0\)になることを意味します。
この設問における重要なポイント

  • 「原点に戻る」を「総変位 = 0」と解釈する。
  • 「総変位 = 0」を「グラフの面積の総和 = 0」と解釈する。
  • \(t=15\,\text{s}\)以降のグラフを直線として延長し、面積を計算する。

具体的な解説と立式
問(3)より、\(t=0\)から\(t=15\,\text{s}\)までの面積(正の変位)は \(S_{\text{正}} = 144\,\text{m}\) です。
物体が原点に戻るためには、\(t=15\,\text{s}\)以降に、これと大きさが等しい負の面積 \(S_{\text{負}} = -144\,\text{m}\) が生じればよいです。
$$ S_{\text{正}} + S_{\text{負}} = 0 $$
\(t=15\,\text{s}\)以降のグラフは、傾き\(-2\)の直線なので、\(t=15\,\text{s}\)から\(T\)秒後の時刻 \(t = 15+T\) における速度は \(v(t) = -2T\)。
この間の面積 \(S_{\text{負}}\) は、底辺\(T\)、高さ\(-2T\)の三角形の面積として計算できます。
$$ S_{\text{負}} = \frac{1}{2} \times T \times (-2T) = -T^2 $$
この面積が\(-144\,\text{m}\)になればよいので、
$$ -T^2 = -144 $$

使用した物理公式

  • 変位 \(\Delta x\) = \(v-t\)グラフの面積
  • 三角形の面積: \(S = \displaystyle\frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ})\)
計算過程

(キ) 時間\(T\)を求めます。
$$ T^2 = 144 $$
\(T>0\)より、\(T=12\,\text{s}\)。
求める時刻は \(15 + T = 15 + 12 = 27\,\text{s}\)。

(ク) そのときの速度は、\(t=15\,\text{s}\)から\(12\,\text{s}\)後の速度なので、
$$ v = -2T = -2 \times 12 = -24\,\text{m/s} $$

この設問の平易な説明

右向きに進んで稼いだ面積(\(+144\,\text{m}\))を、左向きに進んで作る負の面積で打ち消せば、合計の変位がゼロになり原点に戻れます。\(15\)秒後からグラフは下に伸びていき、三角形を作ります。この三角形の面積が\(144\)になる時間を求めればよいのです。計算すると\(12\)秒後だとわかるので、時刻は\(27\)秒。そのときの速度はグラフの縦軸の値で、\(-24\,\text{m/s}\)です。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この解法は、\(v-t\)グラフの面積が変位を表すという一貫した考え方で問題を解ききることができ、物理的なイメージがしやすいという利点があります。

解答 (4) (キ) \(27\) (ク) \(-24\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • \(v-t\)グラフの傾き = 加速度:
    • 核心: \(v-t\)グラフの幾何学的な「傾き」が、物理的な「加速度」に対応するという関係性。これは、加速度の定義 \(a = \Delta v / \Delta t\) を視覚的に表現したものです。
    • 理解のポイント:
      1. 傾きの符号: 右上がりの傾きは正の加速度(加速)、水平は加速度ゼロ(等速)、右下がりは負の加速度(減速または負の向きへの加速)を意味します。
      2. 傾きの大きさ: 傾きが急であるほど、速度変化が激しい(加速度が大きい)ことを示します。
  • \(v-t\)グラフの面積 = 変位:
    • 核心: \(v-t\)グラフと時間軸で囲まれた「面積」が、物理的な「変位(位置の変化量)」に対応するという関係性。これは、速度を時間で積分すると変位になるという関係を視覚化したものです。
    • 理解のポイント:
      1. 面積の符号: \(t\)軸より上側の面積は正の変位(正の向きへの移動)、下側の面積は負の変位(負の向きへの移動)を意味します。
      2. 変位と道のりの違い: 「変位」はスタートからゴールまでの直線的な位置変化(符号あり)ですが、「道のり」は実際に動いた総距離(常に正)です。道のりを求める際は、負の面積も正の値として足し合わせる必要があります。
  • 等加速度直線運動の公式:
    • 核心: 加速度が一定という特殊な条件下で、速度・変位・時間の関係を記述する一連の公式(\(v = v_{\text{初}} + at\), \(x = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2} a t^2\) など)。
    • 理解のポイント: \(v-t\)グラフが「直線」で表される運動は、すべて等加速度直線運動であり、これらの公式が適用可能です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • \(a-t\)グラフからの運動解析: 加速度と時間の関係を示すグラフが与えられ、そこから速度変化(面積)を求めて\(v-t\)グラフを作成し、さらに変位を求める問題。
    • 複数物体の運動(追いつき・出会い): 2つの物体の\(v-t\)グラフを同じ座標平面に描き、グラフの交点(速度が等しくなる時刻)や、2つのグラフで囲まれた面積(相対的な位置関係)を考察する問題。
    • エレベーターの運動: 上昇・下降時に加速・等速・減速を繰り返す運動の解析。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. グラフの種類の特定: まず、与えられたグラフが\(v-t\)グラフなのか、\(x-t\)グラフなのか、\(a-t\)グラフなのかを絶対に間違えないこと。それぞれ傾きと面積が持つ物理的意味が全く異なります。
    2. 運動の区間分け: グラフの傾きが変わる点や、グラフが\(t\)軸を横切る点(\(v=0\))など、運動の様子が変化する点で区切りを入れ、各区間の運動(加速、等速、減速など)を把握します。
    3. 物理量とグラフ特徴の対応付け: 「加速度は?」と聞かれたら「傾き」、「位置・距離は?」と聞かれたら「面積」というように、問われている物理量とグラフのどの特徴を見ればよいかを瞬時に結びつけられるようにします。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 傾きと面積の意味の混同:
    • 誤解: 加速度を求めるべき場面で面積を計算してしまう、あるいは変位を求めるべき場面で傾きを計算してしまう。
    • 対策: 「傾きは加速度、面積は変位」と何度も唱えて体に染み込ませる。問題を解き始める前に、求める物理量と見るべきグラフの特徴を指差し確認する習慣をつける。
  • 変位と道のりの混同:
    • 誤解: \(v-t\)グラフの面積を常に「移動距離」だと思い込んでしまう。
    • 対策: \(t\)軸より下側の面積は「負の変位」を表すことを強く意識する。問題文が「位置」や「変位」を問うているのか、「道のり」や「移動した距離」を問うているのかを正確に読み分ける。
  • 折り返し点の誤解:
    • 誤解: \(v=0\)になる点は、必ず最も遠くへ行った点だと勘違いする。(例:停止後、また同じ向きに進む場合もある)
    • 対策: 折り返し点とは、\(v=0\)になり、かつその前後で速度の符号が変わる点(グラフが\(t\)軸を横切る点)であると正しく理解する。
  • 等加速度運動公式の乱用:
    • 誤解: 加速度が一定でない区間(\(v-t\)グラフが曲線になる場合など)でも、安易に公式を使おうとしてしまう。
    • 対策: 等加速度運動の公式が使えるのは、加速度が一定の区間(\(v-t\)グラフが直線になる区間)のみであることを肝に銘じる。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 加速度の定義式 \(a = \Delta v / \Delta t\):
    • 選定理由: 問題が「加速度」を問い、かつ「\(v-t\)グラフ」が与えられている場合。
    • 適用根拠: 加速度の定義そのものであり、グラフの傾きという幾何学的性質と直接結びついているため、最も直接的な解法となる。
  • 変位 \(\Delta x\) = \(v-t\)グラフの面積:
    • 選定理由: 問題が「位置」「変位」「移動距離」を問い、かつ「\(v-t\)グラフ」が与えられている場合。
    • 適用根拠: 速度を時間で積分すると変位になるという物理法則の視覚的表現であり、複雑な運動でも図形の面積計算に帰着させることができるため。
  • 等加速度運動の公式群:
    • 選定理由: \(v-t\)グラフが直線で表される区間において、グラフから直接読み取れない情報(例:特定の変位になるまでの時間)を計算で求めたい場合。
    • 適用根拠: 加速度が一定という条件下で導かれた厳密な関係式であり、代数的な計算によって未知数を求めることができるため。問(4)のように、グラフの外側の運動を予測する際に特に有効。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の確認:
    • 特に注意すべき点: 傾きを計算する際の速度変化 \(\Delta v = v_{\text{後}} – v_{\text{前}}\) の引き算の順序。減速区間では\(\Delta v\)が負になることを確認する。変位を考える際、\(t\)軸より下側の面積は負として扱う。
    • 日頃の練習: 計算結果の符号が、グラフの見た目(右上がり/右下がり、上側/下側)と一致しているかを常に確認する癖をつける。
  • 面積計算の分割:
    • 特に注意すべき点: 台形などの複雑な図形は、無理に一つの公式で計算しようとせず、慣れないうちは単純な三角形や長方形に分割して計算する。特に三角形の面積公式の \(\frac{1}{2}\) を忘れやすいので注意。
    • 日頃の練習: 面積を計算する前に、図形を色ペンなどで分割し、各部分の寸法(底辺、高さなど)を書き込むことで、計算対象を明確にする。
  • 単位の意識:
    • 特に注意すべき点: グラフの軸の単位(例: \(\text{m/s}\), \(\text{s}\))を確認し、計算結果の単位(例: \(\text{m/s}^2\), \(\text{m}\))が正しくなることを確認する。
    • 日頃の練習: 途中式にも単位を書き込む習慣をつけると、次元のチェックが自然にでき、ミスが減る。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 加速度: 加速区間(グラフが右上がり)で加速度が正に、減速区間(グラフが右下がり)で負になっているか?
    • (2) 位置: \(t=6\,\text{s}\)までずっと正の速度で運動しているので、位置が正の値になっているか?
    • (3) 最も離れる時刻・位置: その時刻で速度が\(0\)になり、その後、負に転じているか?位置はそれまでの移動距離の最大値になっているか?
    • (4) 原点に戻る時刻・速度: 戻る時刻は折り返し時刻より後になっているか?戻るときの速度は負になっているか?
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし\(4 \le t \le 7\,\text{s}\)の等速区間が無限に長かったら、位置はひたすら時間に比例して増え続けるはずだ、といった思考実験を行う。
    • もし\(t=15\,\text{s}\)以降の加速度が\(0\)だったら、物体は\(x=144\,\text{m}\)の位置で静止し続けるはずだ、と考える。
  • グラフとの再照合:
    • 計算で求めた数値を、グラフの見た目と照らし合わせる。例えば、問(4)で求めた戻り速度\(-24\,\text{m/s}\)は、\(t=4\,\text{s}\)のときの速度\(16\,\text{m/s}\)よりも絶対値が大きい。これは、減速にかかった時間(\(8\,\text{s}\))よりも、戻りの加速にかかった時間(\(12\,\text{s}\))の方が長いため、より速くなるという直感と一致するか、などを確認する。

問題2 (大阪電通大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、高層ビルの屋上まで上昇するエレベーターの運動を解析するものです。エレベーターの運動は、(1)最初の一定加速度での加速上昇、(2)次の中間区間での一定速度での上昇、(3)最後の一定加速度での減速上昇、という3つのフェーズに分かれています。各フェーズでの運動の法則を適用し、加速度、距離、時間などを求めていきます。

与えられた条件
  • ビルの全高: \(144 \, \text{m}\)
  • 初期状態: 地上で静止 (\(v_{\text{初}} = 0\))
  • 運動のフェーズ:
    1. 最初の \(6\) 秒間: 一定の加速度 \(a\) で上昇。
    2. 次の \(8\) 秒間: 一定の速さで上昇。このフェーズ終了時(出発から \(6+8=14\) 秒後)にエレベーターの高さは \(99 \, \text{m}\)。
    3. その後: 一定の加速度で減速しながら上昇し、屋上 (\(144 \, \text{m}\)) で静止。
  • 運動の向き: 上向きを正とする。
問われていること
  1. 最初の \(6\) 秒間におけるエレベーターの高さ \(y\) と速さ \(v\) を、加速度 \(a\) と出発からの時間 \(t\) (\(0 \le t \le 6\)) を用いた文字式で表すこと。
  2. 最初の加速時の加速度 \(a\) の値。
  3. 一定の速さで上昇した距離。
  4. 減速時の加速度 \(a’\) の値(上向きを正として)。
  5. エレベーターが地上から屋上まで昇るのに要した合計時間。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている等加速度運動の公式を代数的に解くアプローチを主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(2)以降の別解: \(v-t\)グラフを用いた幾何学的解法
      • 主たる解法が各運動区間ごとに等加速度運動の公式を適用し、連立方程式のように解き進めるのに対し、別解では運動全体の様子を\(v-t\)グラフで視覚化し、グラフの傾き(加速度)と面積(移動距離)という幾何学的な性質を利用して解きます。これは模範解答でも示唆されているアプローチです。
    • 設問(4)の別解: エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係)を用いる解法
      • 主たる解法が運動学の公式(\(v^2-v_0^2=2ay\))を用いるのに対し、この別解では力学的エネルギーの変化が非保存力(この場合はエレベーターを減速させるための力)の仕事に等しいという、力学の別の側面からアプローチします。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的視点の多角化: 運動を「速度や加速度の時間変化」として捉える運動学的な視点だけでなく、「仕事やエネルギーの収支」として捉える力学的な視点からも問題を解析する能力が養われます。
    • 解法の選択肢拡大: 問題によっては、エネルギー保存則を用いた方が計算が簡潔になる場合や、物理的意味が捉えやすくなる場合があります。異なるアプローチを知ることで、問題解決の引き出しが増えます。
    • 概念の深化: 加速度を求める問題が、実は「仕事とエネルギーの関係」からも解けることを学ぶことで、運動方程式(\(ma=F\))と仕事の定義(\(W=Fs\))の間の深いつながり(\(ma \cdot s = Fs \rightarrow \frac{1}{2}mv^2 – \frac{1}{2}mv_0^2 = W\))を再確認できます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「区間に分かれた直線の運動」です。エレベーターの運動を「加速」「等速」「減速」の3つの区間に分け、それぞれの区間で適切な運動法則を適用することが鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 等加速度直線運動の公式: 加速度が一定の運動区間における、速度、変位、時間の関係を記述する3つの基本公式(\(v = v_{\text{初}} + at\), \(y = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\), \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\))を使い分けることが重要です。
  2. 等速直線運動: 加速度が\(0\)の運動であり、移動距離は「速さ × 時間」でシンプルに計算できます。
  3. 運動の接続条件: ある区間の終わりの速度や位置が、次の区間の始まりの速度や位置になるという、運動の連続性を理解することが不可欠です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問(1)では、最初の加速区間が初速\(0\)の等加速度運動であることから、基本公式を適用して高さと速さを文字式で表します。
  2. 問(2)以降は、加速区間と等速区間の情報を組み合わせて未知の加速度\(a\)を求め、その結果を使って各区間の物理量を順次計算していきます。
  3. 最後の減速区間では、それまでの情報から初速度と移動距離を特定し、加速度と時間を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
最初の\(6\)秒間は、エレベーターは初速度\(0\)(静止状態から出発)で、一定の加速度\(a\)による等加速度直線運動をします。この区間内のある時刻\(t\) (\(0 \le t \le 6\))における高さ\(y\)と速さ\(v\)を求めるには、等加速度直線運動の基本公式に初速度\(v_{\text{初}}=0\)を代入します。
この設問における重要なポイント

  • 初速度が \(0\) であることを正しく認識する。
  • 等加速度直線運動の公式\(y = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\)と\(v = v_{\text{初}} + at\)を適切に選択し、適用する。
  • 問題で指定された変数(\(a\), \(t\))を用いて式を表現する。

具体的な解説と立式
エレベーターは地上で静止していたため、初速度 \(v_{\text{初}} = 0\)。
一定の加速度を\(a\)、出発からの時間を\(t\) (\(0 \le t \le 6 \, \text{s}\))とします。

  • 高さ \(y\):
    変位と時間の関係式 \(y = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\) に \(v_{\text{初}} = 0\) を代入します。
    $$ y = 0 \cdot t + \frac{1}{2}at^2 $$
  • 速さ \(v\):
    速度と時間の関係式 \(v = v_{\text{初}} + at\) に \(v_{\text{初}} = 0\) を代入します。
    $$ v = 0 + at $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動(変位と時間): \(y = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\)
  • 等加速度直線運動(速度と時間): \(v = v_{\text{初}} + at\)
計算過程

上記の立式から、式を整理します。

  • 高さ \(y\):
    $$ y = \frac{1}{2}at^2 $$
  • 速さ \(v\):
    $$ v = at $$
この設問の平易な説明

エレベーターが動き始めてから最初の\(6\)秒間は、止まった状態から一定の割合でスピードアップしていきます。このような運動(等加速度直線運動)では、初めの速さが\(0\)の場合、ある時間\(t\)まで進んだ距離(高さ\(y\))は「\(\frac{1}{2} \times \text{加速度} \times (\text{時間})^2\)」で、その瞬間の速さ\(v\)は「\(\text{加速度} \times \text{時間}\)」で表すことができます。

結論と吟味

最初の\(6\)秒間のある時刻\(t\)におけるエレベーターの高さ\(y\)は\(y = \frac{1}{2}at^2\)、速さ\(v\)は\(v = at\)と表されます。これらの式は、\(t=0\)のとき\(y=0\), \(v=0\)となり、出発時の「静止」という条件と一致しており、物理的に妥当です。

解答 (1) 高さ: \(y = \displaystyle\frac{1}{2}at^2\),速さ: \(v = at\)

問(2)

思考の道筋とポイント
エレベーターの運動は3つの区間に分けられます。

  1. 第1区間(加速): \(0 \le t \le 6 \, \text{s}\)。加速度\(a\)。
    この区間終了時(\(t=6 \, \text{s}\))の高さ\(y_1\)と速度\(v_1\)は、問(1)の結果から\(y_1 = \frac{1}{2}a(6^2) = 18a\)、\(v_1 = a(6) = 6a\)。
  2. 第2区間(等速): 次の\(8 \, \text{s}\)間。速度\(v_1\)で一定。
    この区間での上昇距離\(y_2\)は\(y_2 = v_1 \times 8 = (6a) \times 8 = 48a\)。

問題文より、第1区間と第2区間が終了した時点(出発から \(6+8=14\) 秒後)での全上昇高さが \(99 \, \text{m}\) です。この条件 \(y_1 + y_2 = 99\) を用いて \(a\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 運動の各区間の情報を正確に把握し、それぞれの区間の変位や速度を\(a\)を用いて表現する。
  • 第1区間の終了時の状態(高さ、速度)が、第2区間の初期状態(速度)となることを理解する。
  • 問題文中の「高さ\(99 \, \text{m}\)まで達し」という条件を、第1区間と第2区間の合計の高さに関する方程式として立式する。

具体的な解説と立式
第1区間(最初の\(6 \, \text{s}\)間、加速度\(a\)で上昇):

  • \(6\)秒後の高さ: \(y_1 = \frac{1}{2}a(6)^2 = 18a\)
  • \(6\)秒後の速度: \(v_1 = a(6) = 6a\)

第2区間(次の\(8 \, \text{s}\)間、速度\(v_1\)で等速上昇):

  • この間の上昇距離: \(y_2 = v_1 \times 8 = (6a) \times 8 = 48a\)

第1区間と第2区間を合わせた総上昇高さ\(Y_{1+2}\)は\(y_1 + y_2\)であり、これが\(99 \, \text{m}\)に等しいとされています。
$$ 18a + 48a = 99 $$

使用した物理公式

  • 問(1)で導いた式: \(y = \frac{1}{2}at^2\), \(v = at\)
  • 等速直線運動: 距離 = 速さ × 時間
計算過程

$$
\begin{aligned}
18a + 48a &= 99 \\[2.0ex]
66a &= 99 \\[2.0ex]
a &= \frac{99}{66} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2} \\[2.0ex]
&= 1.5 \, \text{m/s}^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

エレベーターはまず\(6\)秒間加速します。この間に進んだ高さは、問1の結果から\(18a\)と表せます(\(a\)は求めたい加速度)。この\(6\)秒後には速さが\(6a\)になっています。
次に、この速さ\(6a\)のままで\(8\)秒間、一定の速さで上昇します。この間に進んだ高さは「速さ × 時間」で\(6a \times 8 = 48a\)です。
最初の\(6\)秒と次の\(8\)秒、合わせて\(14\)秒間でエレベーターは\(18a + 48a = 66a\)の高さまで上昇したことになります。
問題文には、この\(14\)秒後に高さ\(99 \, \text{m}\)に達したと書かれているので、\(66a = 99\)という式が成り立ちます。これを\(a\)について解くと、\(a = 1.5 \, \text{m/s}^2\)となります。

結論と吟味

加速度\(a\)は\(1.5 \, \text{m/s}^2\)です。正の値であり、エレベーターが上向きに加速しているという状況と一致しています。単位も加速度として適切です。

解答 (2) \(1.5 \, \text{m/s}^2\)

問(3)

思考の道筋とポイント
一定の速さで上昇したのは第2区間の\(8\)秒間です。このときの速さは、第1区間終了時の速度\(v_1 = 6a\)に等しいです。問(2)で求めた加速度\(a = 1.5 \, \text{m/s}^2\)の値を用いて\(v_1\)を計算し、その後「距離 = 速さ × 時間」の公式を使ってこの区間の上昇距離を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 前の設問で求めた加速度\(a\)の値を正しく用いて、等速運動時の速度を計算する。
  • 等速直線運動における「距離 = 速さ × 時間」の公式を適用する。
  • 問題がどの区間の距離を問うているのかを明確に把握する。

具体的な解説と立式
一定の速さで上昇したのは第2区間です。
このときの速さ\(v_1\)は、第1区間終了時の速度であり、\(v_1 = 6a\)。
問(2)より\(a = 1.5 \, \text{m/s}^2\)なので、
$$ v_1 = 6 \times 1.5 $$
この速さ\(v_1\)で\(8\)秒間上昇したので、その距離\(y_2\)は、
$$ y_2 = v_1 \times 8 $$

使用した物理公式

  • 速度の計算: \(v_1 = 6a\) (問2の途中結果より)
  • 等速直線運動: 距離 = 速さ × 時間
計算過程

まず、一定の速さ\(v_1\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
v_1 &= 6 \times 1.5 \\[2.0ex]
&= 9 \, \text{m/s}
\end{aligned}
$$
次に、この速さで\(8\)秒間に上昇した距離\(y_2\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
y_2 &= 9 \times 8 \\[2.0ex]
&= 72 \, \text{m}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

問(2)で、最初の加速時の加速度が\(a=1.5 \, \text{m/s}^2\)であることがわかりました。
エレベーターが一定の速さで動き始めるのは、最初の\(6\)秒間の加速が終わった後です。このときの速さは\(v_1 = 6a = 6 \times 1.5 = 9 \, \text{m/s}\)です。
この\(9 \, \text{m/s}\)という一定の速さで、次の\(8\)秒間上昇しました。したがって、この間に進んだ距離は「速さ × 時間」で\(9 \, \text{m/s} \times 8 \, \text{s} = 72 \, \text{m}\)となります。

結論と吟味

一定の速さで上昇した距離は\(72 \, \text{m}\)です。
念のため確認すると、第1区間での上昇距離は\(y_1 = 18a = 18 \times 1.5 = 27 \, \text{m}\)でした。
第1区間と第2区間の合計上昇距離は\(y_1 + y_2 = 27 \, \text{m} + 72 \, \text{m} = 99 \, \text{m}\)となり、これは問題文の「高さ\(99 \, \text{m}\)まで達し」という条件と一致しており、計算は妥当であると考えられます。

解答 (3) \(72 \, \text{m}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
第3区間(減速区間)について考えます。
この区間の初速度は、第2区間終了時の速度\(v_1 = 9 \, \text{m/s}\)です。
この区間の終速度は\(0 \, \text{m/s}\)です(屋上で停止するため)。
この区間で上昇する距離\(y_3\)は、ビルの全高\(144 \, \text{m}\)から、第1・第2区間で上昇した高さ\(99 \, \text{m}\)を差し引いた\(144 \, \text{m} – 99 \, \text{m} = 45 \, \text{m}\)です。
初速度、終速度、変位が分かっているので、時間を含まない等加速度直線運動の公式\(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\)を用いて、減速時の加速度\(a’\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 減速区間の「初速度」「終速度」「移動距離(変位)」を正しく特定する。
  • 時間に関する情報がないため、\(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\)の公式を選択するのが適切であると判断する。
  • 「上向きを正」という座標軸の定義に従い、加速度の符号が物理的な状況(減速)と一致するかを確認する。

具体的な解説と立式
第3区間(減速区間)について考えます。

  • 初速度\(v_{\text{初},3}\): 第2区間の終わりの速度であり、問(3)で計算した\(v_1 = 9 \, \text{m/s}\)。
  • 終速度\(v_{\text{終},3}\): 屋上で停止するので\(0 \, \text{m/s}\)。
  • 上昇距離\(y_3\): 全高\(144 \, \text{m}\)から、第2区間終了時の高さ\(99 \, \text{m}\)を引いたもの。
    $$ y_3 = 144 – 99 = 45 \, \text{m} $$

減速時の加速度を\(a’\)とします。等加速度直線運動の公式\(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\)を適用します。
$$ (v_{\text{終},3})^2 – (v_{\text{初},3})^2 = 2 a’ y_3 $$
$$ 0^2 – 9^2 = 2 \cdot a’ \cdot 45 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動(速度と変位): \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
0^2 – 9^2 &= 2 \cdot a’ \cdot 45 \\[2.0ex]
-81 &= 90 a’ \\[2.0ex]
a’ &= \frac{-81}{90} \\[2.0ex]
&= -0.9 \, \text{m/s}^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

エレベーターは、高さ\(99 \, \text{m}\)の地点で\(9 \, \text{m/s}\)の速さでした。そこから屋上の\(144 \, \text{m}\)地点まで、つまり残りの\(144 – 99 = 45 \, \text{m}\)を上昇して停止します。
この減速区間では、初めの速さが\(9 \, \text{m/s}\)、終わりの速さが\(0 \, \text{m/s}\)、進んだ距離が\(45 \, \text{m}\)です。このときの加速度\(a’\)を求めるために、「\((\text{終わりの速さ})^2 – (\text{初めの速さ})^2 = 2 \times \text{加速度} \times \text{距離}\)」という公式を使います。
\(0^2 – 9^2 = 2 \times a’ \times 45\)
\(-81 = 90 a’\)
ここから\(a’ = -81 \div 90 = -0.9 \, \text{m/s}^2\)と計算できます。加速度がマイナスになったのは、エレベーターが減速している(上向きを正としているので、下向きに力が働いているような状態)ことを意味しています。

結論と吟味

減速のときの加速度は\(-0.9 \, \text{m/s}^2\)です。上向きを正としていますので、負の値は下向きの加速度を意味し、これはエレベーターが上昇しながら減速している状況と一致しており、物理的に妥当です。

別解: エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係)を用いる解法

思考の道筋とポイント
第3区間(減速区間)において、エレベーターの運動エネルギーの変化は、重力と、エレベーターを減速させるための力(モーターによる引き下げ力やブレーキ力など、ここではまとめて非保存力\(F_{\text{非保存力}}\)とする)がした仕事の合計に等しい、と考えます。
この設問における重要なポイント

  • 仕事とエネルギーの関係式 \(\Delta K = W_{\text{合計}}\) を理解している。
  • エレベーターにはたらく力を重力とそれ以外の力(\(F_{\text{非保存力}}\))に分け、それぞれの仕事を設定する。
  • 運動方程式 \(ma=F\) との関係性を意識する。

具体的な解説と立式
エレベーターの質量を\(m\)とします。第3区間での運動エネルギーの変化\(\Delta K\)は、
$$ \Delta K = \frac{1}{2}m v_{\text{終},3}^2 – \frac{1}{2}m v_{\text{初},3}^2 = \frac{1}{2}m(0^2) – \frac{1}{2}m(9^2) = -\frac{81}{2}m $$
この区間でエレベーターにはたらく力の合力は\(ma’\)です。この合力がした仕事\(W_{\text{合計}}\)は、
$$ W_{\text{合計}} = (\text{合力}) \times (\text{距離}) = (ma’) \times y_3 $$
仕事とエネルギーの関係より \(\Delta K = W_{\text{合計}}\) なので、
$$ -\frac{81}{2}m = (ma’) \times 45 $$
この式を\(a’\)について解きます。

使用した物理公式

  • 仕事と運動エネルギーの関係: \(\Delta K = W_{\text{合計}}\)
  • 運動方程式: \(F_{\text{合力}} = ma\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
-\frac{81}{2}m &= (ma’) \times 45 \\[2.0ex]
\text{両辺を} m \text{で割ると、} \\
-\frac{81}{2} &= 45a’ \\[2.0ex]
a’ &= -\frac{81}{2 \times 45} \\[2.0ex]
&= -\frac{81}{90} \\[2.0ex]
&= -0.9 \, \text{m/s}^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

エレベーターが持っていた運動エネルギー(速さによるエネルギー)が、減速してゼロになります。この失われたエネルギーは、エレベーターにはたらく力(重力やモーターの力)が「仕事」をした結果です。この「エネルギーの変化量 = 力がした仕事」という関係を使うと、加速度を計算できます。この方法は、運動学の公式\(v^2-v_0^2=2ay\)が、実は仕事とエネルギーの関係から導かれていることを示しています。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。これは、運動学の公式と力学のエネルギー原理が、同じ物理現象を異なる視点から記述しているだけで、本質的に等価であることを示しています。

解答 (4) \(-0.9 \, \text{m/s}^2\)

問(5)

思考の道筋とポイント
エレベーターが地上から屋上まで昇るのに要した全時間は、3つの区間の時間合計です。

  • 第1区間(加速)の時間\(T_1\): \(6 \, \text{s}\)(問題文より)。
  • 第2区間(等速)の時間\(T_2\): \(8 \, \text{s}\)(問題文より)。
  • 第3区間(減速)の時間\(T_3\): この区間の初速度\(v_{\text{初},3} = 9 \, \text{m/s}\)、終速度\(v_{\text{終},3} = 0 \, \text{m/s}\)、加速度\(a’ = -0.9 \, \text{m/s}^2\)(問4の結果)が分かっているので、等加速度直線運動の公式\(v = v_{\text{初}} + at\)を用いて\(T_3\)を求めます。

最後に\(T_{\text{合計}} = T_1 + T_2 + T_3\)を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 各運動区間にかかった時間を正確に把握、または計算する。
  • 前の設問で求めた加速度\(a’\)の値を正しく用いて、減速時間を計算する。
  • 全ての区間の時間を単純に足し合わせることで、全所要時間が求まる。

具体的な解説と立式
第1区間の時間: \(T_1 = 6 \, \text{s}\)
第2区間の時間: \(T_2 = 8 \, \text{s}\)

第3区間(減速区間)の時間\(T_3\)を求めます。

  • 初速度\(v_{\text{初},3} = 9 \, \text{m/s}\)
  • 終速度\(v_{\text{終},3} = 0 \, \text{m/s}\)
  • 加速度\(a’ = -0.9 \, \text{m/s}^2\) (問4より)

等加速度直線運動の公式\(v = v_{\text{初}} + at\)を用いると、
$$ v_{\text{終},3} = v_{\text{初},3} + a’ T_3 $$
$$ 0 = 9 + (-0.9) T_3 $$
これを\(T_3\)について解きます。

全時間\(T_{\text{合計}}\)は、
$$ T_{\text{合計}} = T_1 + T_2 + T_3 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動(速度と時間): \(v = v_{\text{初}} + at\)
計算過程

まず、第3区間の時間\(T_3\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
0 &= 9 + (-0.9) T_3 \\[2.0ex]
0.9 T_3 &= 9 \\[2.0ex]
T_3 &= \frac{9}{0.9} \\[2.0ex]
&= 10 \, \text{s}
\end{aligned}
$$
次に、全時間\(T_{\text{合計}}\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
T_{\text{合計}} &= T_1 + T_2 + T_3 \\[2.0ex]
&= 6 \, \text{s} + 8 \, \text{s} + 10 \, \text{s} \\[2.0ex]
&= 24 \, \text{s}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

エレベーターが昇るのにかかった時間は、3つの部分に分けられます。

  1. 最初の加速にかかった時間: \(6\)秒(問題文より)。
  2. 次に一定の速さで上昇した時間: \(8\)秒(問題文より)。
  3. 最後に減速して停止するまでにかかった時間\(T_3\):
    減速し始めの速さは\(9 \, \text{m/s}\)、止まるときの速さは\(0 \, \text{m/s}\)、このときの加速度は\(-0.9 \, \text{m/s}^2\)(問4で計算)でした。
    「\(\text{終わりの速さ} = \text{初めの速さ} + \text{加速度} \times \text{時間}\)」の公式を使うと、
    \(0 = 9 + (-0.9) \times T_3\)
    これを解くと\(T_3 = 10\)秒となります。

したがって、全部でかかった時間は、これらを合計して\(6 + 8 + 10 = 24\)秒です。

結論と吟味

エレベーターが地上から屋上まで昇るのに要した全時間は\(24 \, \text{s}\)です。各区間の時間が正しく計算され、それらが合計されているため、妥当な結果と考えられます。

解答 (5) \(24 \, \text{s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 等加速度直線運動の3つの基本公式:
    • 核心: 加速度が一定という条件下で、物体の速度、位置、時間がどのように関連しているかを示す根幹的な方程式群です。
      • \(v = v_{\text{初}} + at\) (速度と時間の関係)
      • \(y = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\) (変位と時間の関係)
      • \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\) (速度と変位の関係、時間を含まない)
    • 理解のポイント: どの公式がどの物理量を結びつけているのかを理解し、問題の条件(何が与えられ、何を求めるか)に応じて適切に選択・適用する能力が求められます。
  • 運動の区間分けと接続条件の理解:
    • 核心: 複雑に見える運動も、より単純な運動(等加速度運動、等速運動など)の区間に分割して考えることができます。
    • 理解のポイント: ある運動区間の終了時点での状態(特に速度や位置)が、次の運動区間の開始時点での状態(初速度や初期位置)となる「接続」の概念を正しく捉えることです。これが全体の運動を連続的に解析するための鍵となります。
  • \(v-t\)グラフの物理的意味と活用:
    • 核心: 運動の様子を視覚的に表現し、微分(傾き)・積分(面積)といった数学的概念と物理現象を結びつけて理解することを助ける強力なツールです。
      • グラフの傾き \(\rightarrow\) 加速度 \(a\)
      • グラフと \(t\) 軸で囲まれた面積 \(\rightarrow\) 変位 \(y\) (または移動距離)

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 乗り物の運動: 電車の発進・一定速度での走行・駅への停車といった一連の運動の解析。自動車の加速・高速道路での巡航・料金所手前での減速といった運動。
    • 複数区間で力が変化する運動: 物体が異なる摩擦係数を持つ面を連続して滑る場合や、ロケットのように燃料消費で質量と推進力が変化する運動(高校範囲を超えるが概念は同じ)。
    • 投げ上げ運動: 上昇時(減速)と下降時(加速)で運動のフェーズが分かれると見なせる。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動のフェーズ(区間)を明確に分ける: 問題文を丁寧に読み解き、運動の性質が変化するポイント(例:加速から等速へ、等速から減速へ)を見つけ出し、運動全体をいくつかのフェーズに区切ります。
    2. 各フェーズにおける運動の種類を特定する: 分割した各フェーズが「静止」「等速直線運動」「等加速度直線運動(加速)」「等加速度直線運動(減速)」のいずれに該当するのかを正確に判断します。
    3. 既知の物理量と未知の物理量を整理する: 各フェーズについて、初速度、終速度、加速度、時間、変位(移動距離)のうち、どの量が問題文で与えられているか(既知)、そしてどの量を求める必要があるか(未知)をリストアップするなどして整理します。
    4. \(v-t\)グラフの概形を描いてみる (強く推奨): 特に運動が複数のフェーズにわたる複雑な問題では、\(v-t\)グラフの概形を手早く描くことで、全体の運動の流れ、各フェーズ間の関係性、そして面積や傾きが持つ物理的意味を視覚的に把握しやすくなり、解法のヒントが得られることが多いです。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 各運動区間における初速度 \(v_{\text{初}}\) の設定ミス:
    • 誤解: 各区間の初速度を常に \(0\) と誤解してしまう。
    • 対策: 第1区間の初速度は問題の初期条件(例:静止なら \(0\))に従いますが、第2区間以降の初速度は、その直前の区間の「終速度」となることを明確に意識しましょう。
  • 加速度 \(a\) の符号の判断ミス:
    • 誤解: 加速と減速を混同したり、設定した座標軸の正の向きに対して加速度の符号を直感で間違えたりする。
    • 対策: 設定した座標軸の正の向きに対して、速度が増加している場合は加速度 \(a > 0\)、速度が減少している場合は加速度 \(a < 0\) と、物理的な状況に基づいて判断しましょう。
  • 等速区間と等加速度区間で用いる公式の混同:
    • 誤解: 等速直線運動の区間で誤って等加速度直線運動の公式を適用してしまう、またはその逆。
    • 対策: 各運動区間の種類(等速か、等加速度か)を最初に明確に特定し、それに応じた正しい物理公式を選択する習慣をつけましょう。
  • \(v-t\)グラフの面積計算における図形の認識ミス:
    • 誤解: 台形の面積を計算する際に上底・下底の長さを誤って読み取る、三角形の高さを間違えるなど。
    • 対策: \(v-t\)グラフ上で、各辺が何を表しているのか(時間軸上の長さなのか、速度軸上の値なのか)を正確に読み取り、対応する幾何学的図形の面積公式に慎重に値を代入しましょう。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(y = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\) と \(v = v_{\text{初}} + at\):
    • 選定理由: 時間\(t\)が与えられており、変位\(y\)や速度\(v\)を求めたい場合。最も基本的な公式。
    • 適用根拠: 等加速度運動の定義から直接導かれる、時間を含む関係式。
  • \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\):
    • 選定理由: 時間\(t\)の情報が与えられていない、または不要な状況で、初速度・終速度・加速度・変位の関係を知りたい場合。問(4)が典型例。
    • 適用根拠: 上記の2つの基本公式から時間\(t\)を消去して導かれる関係式。
  • 仕事とエネルギーの関係 \(\Delta K = W\):
    • 選定理由: 力学的な視点から問題を解きたい場合や、運動学の公式が複雑になりそうな場合の別のアプローチとして。
    • 適用根拠: 運動方程式を距離で積分したものであり、運動学の公式と等価な内容をエネルギーという別の視点から表現している。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の統一と確認:
    • 特に注意すべき点: 計算を始める前に、全ての物理量を基本単位系(m, s, kg)に統一する。
    • 日頃の練習: 計算結果が出たら、その単位が問われている物理量の単位として適切であるかを必ず確認する癖をつける。
  • 連立方程式の丁寧な処理:
    • 特に注意すべき点: 未知数が複数存在する場合には、立式した方程式を一つ一つ丁寧に扱い、代入や消去の操作を正確に行う。
    • 日頃の練習: どの式をどのように変形したのかを明確に記録しながら進めると、見直しもしやすくなる。
  • 符号の確認:
    • 特に注意すべき点: 設定した座標軸の正の向きと、実際の物理的な状況(加速/減速、運動の向き)を常に照らし合わせ、計算結果の符号が正しいかどうかを各ステップで確認する。
    • 日頃の練習: 減速区間の加速度を求める際は、答えが負になるはずだと予測しながら計算を進める。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な状況との整合性の確認:
    • (2) 加速度\(a\): 正の値になっているか?(加速しているから)
    • (4) 加速度\(a’\): 負の値になっているか?(上向きを正として減速しているから)
    • (5) 全時間: 各区間の時間の合計になっており、各区間の時間も正の値になっているか?
  • 問題文の全条件との再照合:
    • 得られた全ての答えを使って、運動の全行程を再現してみる。例えば、計算した\(a\)と\(v_1\)を使って、最初の14秒間の移動距離を再計算し、\(99\,\text{m}\)になるか確認する。同様に、全高が\(144\,\text{m}\)になるか、最終速度が\(0\)になるかなどを確認する。
  • \(v-t\)グラフとの整合性:
    • 代数的に解いた後、\(v-t\)グラフを描いてみる。計算で得られた速度や時間が、グラフの形状と矛盾していないかを確認する。例えば、減速時間(10秒)が加速時間(6秒)より長いので、減速の傾きは加速の傾きより緩やかになるはずだ、といった視覚的なチェックが可能。
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問題3 (東京海洋大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、川を航行する船の運動について、「速度の合成」と「相対速度」の概念を用いて所要時間などを求める問題です。静水中の船の速さと川の流速が与えられた条件のもと、川を上り下りする場合、川を横断する場合、そして他の物体と出会う場合について考察します。ベクトルの和と差の考え方を正しく適用できるかが鍵となります。

与えられた条件
  • 静水なら速さ \(v\) で進む船がある。
  • 川の流速は \(\frac{1}{2}v\)。
  • 川を上り下りして往復する距離(片道)は \(l\)。
  • 川の流れに垂直に横断して往復する距離(片道)は \(l\)。
  • 川に沿い、上流に向かって速さ \(v\) で走る自転車がある。
  • 下流に向かって進む船と自転車との初期距離は \(L\)。
問われていること
  • 船が川を上り下りして距離 \(l\) を往復するのに要する時間 \(t_1\)。
  • 船が川の流れに垂直に横断して距離 \(l\) を往復するのに要する時間 \(t_2\)。
  • 下流に向かって進む船と上流に向かう自転車が出会うまでの時間 \(t_3\)(相対速度を考えることにより)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【注記】

本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。速度の合成と相対速度の定義に従って、各状況をベクトルで正確に捉えることが唯一かつ最良の解法となります。

この問題のテーマは、「速度の合成」と「相対速度」です。川の流れがある中での船の運動を題材に、これらの基本的な概念を正しく適用できるかを問うています。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 速度の合成(ベクトル和): 岸から見た物体の速度は、「静水(または静止した空気)に対する物体の速度」と「媒体(川や風)の速度」のベクトル和で表されます。
  2. 相対速度(ベクトル差): 物体Aから見た物体Bの相対速度は、\(\vec{v}_{\text{B}} – \vec{v}_{\text{A}}\)で計算されます。ここで、\(\vec{v}_{\text{A}}\)と\(\vec{v}_{\text{B}}\)は共通の基準(岸など)に対する速度です。
  3. ベクトルの分解と三平方の定理: 2次元の速度合成では、速度ベクトルを直交する成分に分解したり、ベクトル図を描いて三平方の定理を用いたりすることが有効です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 川の上り下りについては、川の流れの向きと船の進行方向が同一直線上にあるため、速度の大きさを単純に足し引きして合成速度を求め、時間 \(= \frac{\text{距離}}{\text{速さ}}\)を計算します。
  2. 川を横断する場合は、速度ベクトルが2次元的に関わるため、ベクトル図を描いて三平方の定理から岸に対して垂直な速度成分を求めます。
  3. 出会いの問題では、まず岸に対する各物体の速度を求め、それらを用いて相対速度を計算し、時間 \(= \frac{\text{相対距離}}{\text{相対速度}}\)を適用します。

川の上り下りの往復時間 \(t_1\)

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