「良問の風」攻略ガイド(1〜5問):重要問題の解き方と物理の核心をマスター!

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問題1 (大阪産大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、物体の1次元運動について、与えられた速度と時間の関係を示すグラフ(\(v-t\)グラフ)を読み解き、加速度、位置、特定の条件を満たす時刻や速度を求める問題です。\(v-t\)グラフの基本的な性質である「傾きが加速度を表すこと」と「面積が変位を表すこと」を理解し、活用できるかがポイントとなります。

与えられた条件
  • 物体は\(x\)軸上を運動する。
  • 時刻 \(t=0\) で物体の位置は原点 \(x=0\)。
  • 時刻 \(t\) と速度 \(v\) の関係が図2の\(v-t\)グラフで与えられている。
    • \(t=0 \, \text{s}\) から \(t=4 \, \text{s}\): 速度は \((0,0)\) から \((4,16)\) まで直線的に増加。
    • \(t=4 \, \text{s}\) から \(t=7 \, \text{s}\): 速度は \(v=16 \, \text{m/s}\) で一定。
    • \(t=7 \, \text{s}\) から \(t=15 \, \text{s}\): 速度は \((7,16)\) から \((15,0)\) まで直線的に減少。
    • \(t=15 \, \text{s}\) 以降: そのままの傾きで速度が減少し続ける。
問われていること
  1. 時刻 \(t=2 \, \text{s}\)、\(t=6 \, \text{s}\)、\(t=10 \, \text{s}\) における物体の加速度。
  2. 時刻 \(t=6 \, \text{s}\) における物体の位置 \(x\)。
  3. 物体が原点 \(x=0\) から右に最も離れる時刻とその位置 \(x\)。
  4. 時刻 \(t=15 \, \text{s}\) 以後も運動を続けた場合、物体が再び原点に戻ってくる時刻とそのときの速度。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「1次元の運動」で、特に「\(v-t\)グラフの解釈」が中心となります。\(v-t\)グラフは、物体の運動の様子を視覚的に捉えるのに非常に役立つツールです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の2つです。

  • \(v-t\)グラフの傾き = 加速度 \(a\): グラフの傾きが急なら加速度が大きく、平らなら加速度が小さい(または0)、右下がりなら負の加速度(減速または負の向きに加速)であることを意味します。
  • \(v-t\)グラフと \(t\)軸で囲まれた面積 = 変位 \(\Delta x\) (移動距離): 速度と時間の積が距離になることを考えれば、グラフの面積が移動した距離を表すことが直感的に理解できるでしょう。ただし、$v$が負の領域では、面積も負として扱われ、負の向きへの変位を意味します。

各設問に対して、\(v-t\)グラフの「傾き」と「面積」という2つの武器を使い分けて情報を引き出していきます。加速度を問われたら、「傾き」を見ます。位置や移動距離を問われたら、「面積」を計算します。

問1

思考の道筋とポイント
加速度 \(a\) は、\(v-t\)グラフの傾きで表されます。傾きは「縦の変化量(速度の変化 \(\Delta v\)) / 横の変化量(時間の変化 \(\Delta t\))」で計算できます。各指定時刻がグラフのどの区間に含まれるかを確認し、その区間の直線の傾きを求めます。

この設問における重要なポイント

  • \(v-t\)グラフの「傾き」が加速度 \(a\) であることを理解している。
  • 傾きを計算する区間(グラフが直線となっている区間)を正しく特定できる。
  • 速度変化 \(\Delta v\) と時間変化 \(\Delta t\) の符号に注意して傾きを計算できる。

具体的な解説と立式
(ア) 時刻 \(t=2 \, \text{s}\) における加速度:
時刻 \(t=2 \, \text{s}\) は、\(0 \le t \le 4 \, \text{s}\) の区間に含まれます。この区間では、グラフは原点 \((0,0)\) と点 \((4,16)\) を結ぶ直線です。
$$ a = \frac{\Delta v}{\Delta t} = \frac{v_2 – v_1}{t_2 – t_1} $$
ここで、\((t_1, v_1) = (0,0)\)、\((t_2, v_2) = (4,16)\) を使用します。

(イ) 時刻 \(t=6 \, \text{s}\) における加速度:
時刻 \(t=6 \, \text{s}\) は、\(4 \le t \le 7 \, \text{s}\) の区間に含まれます。この区間では、グラフは \(v=16 \, \text{m/s}\) で一定の水平な直線です。

(ウ) 時刻 \(t=10 \, \text{s}\) における加速度:
時刻 \(t=10 \, \text{s}\) は、\(7 \le t \le 15 \, \text{s}\) の区間に含まれます。この区間では、グラフは点 \((7,16)\) と点 \((15,0)\) を結ぶ直線です。
$$ a = \frac{\Delta v}{\Delta t} = \frac{v_2 – v_1}{t_2 – t_1} $$
ここで、\((t_1, v_1) = (7,16)\)、\((t_2, v_2) = (15,0)\) を使用します。

使用した物理公式
加速度の定義: \(a = \displaystyle\frac{\Delta v}{\Delta t}\)
計算過程

(ア) 時刻 \(t=2 \, \text{s}\) の加速度 (\(0 \le t \le 4 \, \text{s}\) の区間):
$$ a = \frac{16 \, \text{m/s} – 0 \, \text{m/s}}{4 \, \text{s} – 0 \, \text{s}} = \frac{16}{4} \, \text{m/s}^2 = 4 \, \text{m/s}^2 $$
(イ) 時刻 \(t=6 \, \text{s}\) の加速度 (\(4 \le t \le 7 \, \text{s}\) の区間):
この区間では速度が \(16 \, \text{m/s}\) で一定なので、速度の変化 \(\Delta v = 0\)。
$$ a = \frac{0}{7 \, \text{s} – 4 \, \text{s}} = 0 \, \text{m/s}^2 $$
(ウ) 時刻 \(t=10 \, \text{s}\) の加速度 (\(7 \le t \le 15 \, \text{s}\) の区間):
$$ a = \frac{0 \, \text{m/s} – 16 \, \text{m/s}}{15 \, \text{s} – 7 \, \text{s}} = \frac{-16}{8} \, \text{m/s}^2 = -2 \, \text{m/s}^2 $$

計算方法の平易な説明

(ア) \(0\)秒から\(4\)秒の間は、速度が \(0 \, \text{m/s}\) から \(16 \, \text{m/s}\) に \(4\) 秒かけて増えています。1秒あたり \(16 \div 4 = 4 \, \text{m/s}\) ずつ増えるので、加速度は \(4 \, \text{m/s}^2\) です。時刻 \(t=2 \, \text{s}\) もこの区間内なので同じ加速度です。
(イ) \(4\)秒から\(7\)秒の間は、速度はずっと \(16 \, \text{m/s}\) のままです。速度が変わらないので、加速度は \(0 \, \text{m/s}^2\) です。時刻 \(t=6 \, \text{s}\) もこの区間内です。
(ウ) \(7\)秒から\(15\)秒の間は、速度が \(16 \, \text{m/s}\) から \(0 \, \text{m/s}\) に \(15-7=8\) 秒かけて減っています。速度が \(16 \, \text{m/s}\) 減ったので、1秒あたり \(16 \div 8 = 2 \, \text{m/s}\) ずつ減ります。減速なので、加速度は \(-2 \, \text{m/s}^2\) です。時刻 \(t=10 \, \text{s}\) もこの区間内です。

結論と吟味

(ア) 時刻 \(t=2 \, \text{s}\) における加速度は \(4 \, \text{m/s}^2\)。グラフの傾きが正であり、速度が増加している区間なので妥当です。
(イ) 時刻 \(t=6 \, \text{s}\) における加速度は \(0 \, \text{m/s}^2\)。等速直線運動の区間なので妥当です。
(ウ) 時刻 \(t=10 \, \text{s}\) における加速度は \(-2 \, \text{m/s}^2\)。グラフの傾きが負であり、速度が減少している区間なので妥当です。

解答 (1) (ア) \(4 \, \text{m/s}^2\) (イ) \(0 \, \text{m/s}^2\) (ウ) \(-2 \, \text{m/s}^2\)

問2

思考の道筋とポイント
物体の位置 \(x\) は、\(v-t\)グラフと\(t\)軸で囲まれた面積で表されます(時刻 \(t=0\) で \(x=0\) なので、この場合の面積はそのまま位置 \(x\) を示します)。時刻 \(t=6 \, \text{s}\) までのグラフと\(t\)軸で囲まれた部分の面積を求めます。この図形は、\(0 \le t \le 4 \, \text{s}\) の三角形の部分と、\(4 \le t \le 6 \, \text{s}\) の長方形の部分に分けて考えると計算しやすいです。

この設問における重要なポイント

  • \(v-t\)グラフの「面積」が変位(この場合は時刻 \(t=0\) で \(x=0\) なので位置)を表すことを理解している。
  • 面積を計算する図形(三角形、長方形、台形など)を正しく認識できる。
  • 各図形の面積公式を正しく適用できる。

具体的な解説と立式
時刻 \(t=6 \, \text{s}\) における物体の位置 \(x\) は、\(t=0 \, \text{s}\) から \(t=6 \, \text{s}\) までの \(v-t\) グラフと \(t\) 軸で囲まれた面積に等しいです。
この面積は、二つの部分に分けられます。

  • \(S_1\): \(0 \le t \le 4 \, \text{s}\) の区間の三角形の面積
  • \(S_2\): \(4 \le t \le 6 \, \text{s}\) の区間の長方形の面積

$$ x = S_1 + S_2 $$
$$ S_1 = \frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ}) $$
$$ S_2 = (\text{横}) \times (\text{縦}) $$

使用した物理公式
\(v-t\)グラフの面積 = 変位 \(\Delta x\)
三角形の面積: \(S = \displaystyle\frac{1}{2} \times \text{底辺} \times \text{高さ}\)
長方形の面積: \(S = \text{横} \times \text{縦}\)
計算過程

\(S_1 (0 \text{~} 4 \, \text{s} \text{ の三角形})\):
底辺 \( = 4 \, \text{s} – 0 \, \text{s} = 4 \, \text{s} \)
高さ \( = 16 \, \text{m/s} \)
$$ S_1 = \frac{1}{2} \times 4 \, \text{s} \times 16 \, \text{m/s} = 32 \, \text{m} $$
\(S_2 (4 \text{~} 6 \, \text{s} \text{ の長方形})\):
横 \( = 6 \, \text{s} – 4 \, \text{s} = 2 \, \text{s} \)
縦 \( = 16 \, \text{m/s} \)
$$ S_2 = 2 \, \text{s} \times 16 \, \text{m/s} = 32 \, \text{m} $$
したがって、時刻 \(t=6 \, \text{s}\) における位置 \(x\) は、
$$ x = S_1 + S_2 = 32 \, \text{m} + 32 \, \text{m} = 64 \, \text{m} $$
【別解】模範解答のように台形として計算することもできます。この場合、時刻 \(t=0\) から \(t=6\) までの図形を、上底が \(t=4\) から \(t=6\) の時間幅 \(2\,\text{s}\)、下底が \(t=0\) から \(t=6\) の時間幅 \(6\,\text{s}\) ではなく、\(t=0\) から \(t=4\) の間の平均速度を考えた移動距離と、\(t=4\) から \(t=6\) の移動距離の和です。模範解答の式 \(x=\frac{1}{2}\times(2+6)\times16=64\,\text{m}\) は、図形 \((0,0)-(4,16)-(6,16)-(6,0)-(0,0)\) を、上底 \( (6-4)=2 \)、下底 \( (6-0)=6 \) (ただし、下底の一部分は傾斜している)、高さ \(16\) の台形のような形で解釈したものです。より正確には、\(t=0\) から \(t=4\) の三角形と \(t=4\) から \(t=6\) の長方形の和として計算するのが分かりやすいです。

計算方法の平易な説明

物体の位置は、\(v-t\)グラフの面積でわかります。

  1. 最初の4秒間 (\(0 \, \text{s} \rightarrow 4 \, \text{s}\)): 速度が \(0 \, \text{m/s}\) から \(16 \, \text{m/s}\) へ。この間の移動距離は三角形の面積で、\( \frac{1}{2} \times 4 \, \text{s} \times 16 \, \text{m/s} = 32 \, \text{m} \)。
  2. 次の2秒間 (\(4 \, \text{s} \rightarrow 6 \, \text{s}\)): 速度は \(16 \, \text{m/s}\) で一定。この間の移動距離は長方形の面積で、\( (6 \, \text{s} – 4 \, \text{s}) \times 16 \, \text{m/s} = 2 \, \text{s} \times 16 \, \text{m/s} = 32 \, \text{m} \)。

これらを合計すると、\(32 \, \text{m} + 32 \, \text{m} = 64 \, \text{m}\)。これが \(t=6 \, \text{s}\) での位置です。

結論と吟味

時刻 \(t=6 \, \text{s}\) における物体の位置 \(x\) は \(64 \, \text{m}\)。計算結果は正であり、物体が \(x\) 軸の正の方向に進んでいることと一致します。

解答 (2) \(64 \, \text{m}\)

問3

思考の道筋とポイント
(オ) 物体が原点から右に最も離れるのは、右向きの速度 (\(v>0\)) が \(0\) になり、その後左向きの速度 (\(v<0\)) に変わる直前です。グラフからこの時刻を読み取ります。
(カ) その時刻までの \(v-t\)グラフと\(t\)軸で囲まれた面積を計算することで、最も離れた位置を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 物体の運動の向きが変わる点(折り返し点)は、速度 \(v=0\) となる点であり、かつその前後で速度の符号が変わる点である。
  • 速度が正 (\(v>0\)) の間は右に進み続けるため、その間の総移動距離が原点から最も右に離れた位置になる。
  • 面積計算を複数の区間に分けて正確に行う。

具体的な解説と立式
(オ) 物体が右向きに進むのは \(v>0\) のときです。グラフを見ると、\(t=0 \, \text{s}\) から \(t=15 \, \text{s}\) までは \(v \ge 0\) であり、右向きに進んでいます(または一瞬停止)。\(t=15 \, \text{s}\) で \(v=0\) となり、それ以降は \(v<0\) となって左向きに進み始めます。したがって、物体が原点から右に最も離れるのは \(t=15 \, \text{s}\) です。

(カ) 時刻 \(t=15 \, \text{s}\) における位置を求めるので、\(t=0 \, \text{s}\) から \(t=15 \, \text{s}\) までの \(v-t\)グラフと \(t\)軸で囲まれた面積を計算します。
この面積は、三つの部分に分けられます。

  • \(S_A\): \(0 \le t \le 4 \, \text{s}\) の区間の三角形の面積
  • \(S_B\): \(4 \le t \le 7 \, \text{s}\) の区間の長方形の面積
  • \(S_C\): \(7 \le t \le 15 \, \text{s}\) の区間の三角形の面積

$$ x_{\text{最大}} = S_A + S_B + S_C $$

使用した物理公式
\(v-t\)グラフの面積 = 変位 \(\Delta x\)
計算過程

(オ) グラフより、\(v>0\) から \(v<0\) に変わる直前の \(v=0\) となる時刻は \(t=15 \, \text{s}\)。

(カ)
\(S_A (0 \text{~} 4 \, \text{s} \text{ の三角形})\):
$$ S_A = \frac{1}{2} \times 4 \, \text{s} \times 16 \, \text{m/s} = 32 \, \text{m} $$
\(S_B (4 \text{~} 7 \, \text{s} \text{ の長方形})\):
$$ S_B = (7 \, \text{s} – 4 \, \text{s}) \times 16 \, \text{m/s} = 3 \, \text{s} \times 16 \, \text{m/s} = 48 \, \text{m} $$
\(S_C (7 \text{~} 15 \, \text{s} \text{ の三角形})\):
底辺 \( = 15 \, \text{s} – 7 \, \text{s} = 8 \, \text{s} \)
高さ \( = 16 \, \text{m/s} \)
$$ S_C = \frac{1}{2} \times 8 \, \text{s} \times 16 \, \text{m/s} = 64 \, \text{m} $$
したがって、最も右に離れた位置 \(x_{\text{最大}}\) は、
$$ x_{\text{最大}} = S_A + S_B + S_C = 32 \, \text{m} + 48 \, \text{m} + 64 \, \text{m} = 144 \, \text{m} $$
【別解】模範解答のように、\(t=0\) から \(t=15\) までの図形を、上底が等速運動区間の時間幅 \((7-4)=3\,\text{s}\)、下底が動き始めてから速度が0になるまでの全時間 \(15\,\text{s}\)、高さが \(16\,\text{m/s}\) の台形として計算することも可能です。
$$ x_{\text{最大}} = \frac{1}{2} \times ((7-4) + 15) \times 16 = \frac{1}{2} \times (3+15) \times 16 = \frac{1}{2} \times 18 \times 16 = 144 \, \text{m} $$

計算方法の平易な説明

(オ) 物体は右に進んでいる間(速度がプラスの間)、原点からどんどん離れていきます。グラフを見ると、15秒までは速度がプラス(または0)で、15秒を過ぎると速度がマイナス(左向き)になります。なので、15秒のときが一番右にいる瞬間です。
(カ) 15秒のときの位置は、それまでの \(v-t\)グラフの面積です。

  1. \(0 \rightarrow 4\)秒: \(32 \, \text{m}\) 進む。
  2. \(4 \rightarrow 7\)秒: \( (7-4) \times 16 = 48 \, \text{m}\) 進む。
  3. \(7 \rightarrow 15\)秒: \( \frac{1}{2} \times (15-7) \times 16 = 64 \, \text{m}\) 進む。

合計すると、\(32 + 48 + 64 = 144 \, \text{m}\) です。

結論と吟味

(オ) 物体が原点から右に最も離れる時刻は \(15 \, \text{s}\)。この時刻で速度が \(0\) となり、その後負になるため妥当です。
(カ) その位置は \(144 \, \text{m}\)。それまでの全ての正の速度による移動距離の合計なので妥当です。

解答 (3) (オ) \(15 \, \text{s}\) (カ) \(144 \, \text{m}\)

問4

思考の道筋とポイント
(キ) 時刻 \(t=15 \, \text{s}\) で物体は \(x=144 \, \text{m}\) の位置にいます。その後、物体は負の速度で運動し、原点 \(x=0\) に戻ります。\(t \ge 15 \, \text{s}\) のときの加速度は問1(ウ)で求めた \(a = -2 \, \text{m/s}^2\) です。時刻 \(t=15 \, \text{s}\) を新たな基準(初速度 \(v_{\text{初}}=0\)、初期位置からの変位が \(-144 \, \text{m}\) となるまでの時間)として、等加速度運動の公式を用いて時間を求めます。
(ク) その時刻における速度を、等加速度運動の公式を用いて求めます。

この設問における重要なポイント

  • 折り返し後の運動も、加速度が一定であれば等加速度運動として扱える。
  • 新たな運動区間の始点を基準(初速度、初期位置、時刻 \(0\))として考えると計算しやすい。
  • 変位の符号に注意する(原点に戻るということは、\(x=144 \, \text{m}\) から変位 \(-144 \, \text{m}\) だけ移動する)。
  • 等加速度運動の公式 \(x = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2} a t^2\) および \(v = v_{\text{初}} + at\) を正しく使う。

具体的な解説と立式
(キ) 時刻 \(t=15 \, \text{s}\) で、物体の位置は \(x_{15} = 144 \, \text{m}\)、速度は \(v_{15} = 0 \, \text{m/s}\)。
\(t \ge 15 \, \text{s}\) での加速度は \(a = -2 \, \text{m/s}^2\)。
原点に戻るということは、この \(t=15 \, \text{s}\) の状態から、変位 \(\Delta x = 0 – 144 = -144 \, \text{m}\) だけ移動することを意味します。
かかる時間を \(T’\) とすると、等加速度運動の変位の式より、
$$ \Delta x = v_{15} T’ + \frac{1}{2} a (T’)^2 $$
(ク) 原点に戻ったときの速度 \(v_{\text{戻り}}\) は、
$$ v_{\text{戻り}} = v_{15} + a T’ $$

使用した物理公式
等加速度直線運動の公式:
\(\Delta x = v_{\text{初}} t + \displaystyle\frac{1}{2} a t^2\)
\(v = v_{\text{初}} + at\)
計算過程

(キ) \(t=15 \, \text{s}\) を基準 \(t_{\text{初}}=0\) とし、その時の初速度 \(v_{\text{初}} = 0 \, \text{m/s}\)、加速度 \(a = -2 \, \text{m/s}^2\)。
原点に戻るまでの変位は \(\Delta x = -144 \, \text{m}\)。かかる時間を \(T’\) とすると、
$$ -144 \, \text{m} = (0 \, \text{m/s}) \cdot T’ + \frac{1}{2} (-2 \, \text{m/s}^2) (T’)^2 $$
$$ -144 = – (T’)^2 $$
$$ (T’)^2 = 144 $$
$$ T’ = 12 \, \text{s} \quad (T’ > 0 \text{ より}) $$
これは \(t=15 \, \text{s}\) からさらに \(12 \, \text{s}\) 後なので、求める時刻 \(t_{\text{戻り}}\) は、
$$ t_{\text{戻り}} = 15 \, \text{s} + T’ = 15 \, \text{s} + 12 \, \text{s} = 27 \, \text{s} $$
(ク) 原点に戻ったときの速度 \(v_{\text{戻り}}\) は、\(t=15 \, \text{s}\) から \(T’=12 \, \text{s}\) 後の速度なので、
$$ v_{\text{戻り}} = v_{15} + a T’ = 0 \, \text{m/s} + (-2 \, \text{m/s}^2) \times 12 \, \text{s} $$
$$ v_{\text{戻り}} = -24 \, \text{m/s} $$

計算方法の平易な説明

(キ) 15秒後、物体は \(144 \, \text{m}\) 右にいます。ここから左に戻り始め、加速度は \(-2 \, \text{m/s}^2\) です(つまり、左向きに \(2 \, \text{m/s}^2\) で加速します)。 \(144 \, \text{m}\) を戻るのにかかる時間を \(T’\) とすると、移動距離の公式から \(144 = \frac{1}{2} \times 2 \times (T’)^2\) が成り立ちます(左向きを正ととらえた場合)。これを解くと \(T’=12\)秒。よって、15秒からさらに12秒後、つまり \(15+12=27\)秒後に原点に戻ります。
(ク) 15秒後に速度0になった後、加速度 \(-2 \, \text{m/s}^2\) で12秒間運動します。1秒間に速度が \(-2 \, \text{m/s}\) ずつ変わるので、12秒後には速度は \(0 + (-2) \times 12 = -24 \, \text{m/s}\) になります。マイナスは左向きを意味します。

結論と吟味

(キ) 物体が再び原点に戻ってくる時刻は \(27 \, \text{s}\)。\(t=15 \, \text{s}\) 以降の運動であり、妥当です。
(ク) そのときの速度は \(-24 \, \text{m/s}\)。原点に戻るときは左向きに運動しているので、負の速度は妥当です。

解答 (4) (キ) \(27 \, \text{s}\) (ク) \(-24 \, \text{m/s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • \(v-t\)グラフの傾き = 加速度:
    • 物理的意味: 単位時間あたりの速度の変化量を表します。傾きが正なら加速、負なら減速(または負の向きに加速)、0なら等速運動です。
    • 本質的理解: 速度 \(v\) を時間 \(t\) で微分すると加速度 \(a\) になる (\(a = dv/dt\)) という関係の視覚的表現です。
  • \(v-t\)グラフの面積 = 変位 (移動距離):
    • 物理的意味: 速度と時間の積が距離になることを、微小な時間区間で足し合わせたものです。\(t\)軸より上側の面積は正の変位、\(t\)軸より下側の面積は負の変位を意味します。
    • 本質的理解: 速度 \(v\) を時間 \(t\) で積分すると変位 \(x\) になる (\(x = \int v dt\)) という関係の視覚的表現です。
  • 等加速度直線運動の公式:
    • \(v = v_{\text{初}} + at\)
    • \(x = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2} a t^2\)
    • \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ax\)
    • 本質的理解: 加速度が一定という条件下での速度と位置の時間変化を記述する基本的な関係式群です。\(v-t\)グラフ上では直線として表現される運動に対応します。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • \(a-t\)グラフが与えられ、そこから\(v-t\)グラフを作成し、さらに変位を求める問題。(\(a-t\)グラフの面積が速度変化 \(\Delta v\))
    • 複数の物体が異なる運動をする場合、それぞれの\(v-t\)グラフを描いて比較し、出会う時刻や相対速度を考察する問題。
    • エレベーターの昇降運動のように、区間ごとに加速度が変化する現実的な運動の解析。
  • 初見の問題への着眼点:
    1. グラフの種類の確認: まず、与えられたグラフが \(v-t\)グラフなのか、\(x-t\)グラフなのか、\(a-t\)グラフなのかを明確に識別します。それぞれ傾きや面積が持つ物理的な意味が異なります。
    2. 運動の区間分け: グラフの形状が変化する点(例: 傾きが変わる点、速度が \(0\) になる点、加速度が \(0\) になる点など)で運動のフェーズを区切り、各区間ごとに運動の特性(等速、等加速度など)を把握します。
    3. 問われている物理量とグラフの関係の想起: 加速度なら傾き、変位や距離なら面積、速度や位置ならグラフの値を直接読み取る、といった対応関係を素早く思い出します。
  • ヒント・注意点:
    • 符号の厳密な取り扱い: 速度、加速度、変位の向き(正負)は、設定された座標軸の向きに基づいて一貫して扱います。特に、物体が運動の向きを変える(折り返す)場合には、符号の変化が極めて重要になります。
    • 面積計算の工夫と正確性: 複雑に見える図形でも、基本的な図形(三角形、長方形、台形)に分割すれば面積を計算できます。計算ミスをしないよう丁寧に。
    • 「時刻」と「時間(期間)」の区別: 「時刻 \(t=5 \, \text{s}\)」はその瞬間を指し、「\(5 \, \text{s}\) 間」はある期間の長さを指すため、混同しないように注意が必要です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 傾きと面積の意味の混同: 加速度を求めるべき場面で面積を計算してしまったり、逆に変位を求めるべき場面で傾きを計算してしまうミス。
    • 対策: 「傾き=加速度、面積=変位」という基本ルールを常に意識し、問題を解く前に「何を求めるのか?そのためにはグラフの何を見ればよいのか?」を自問自答する習慣をつけましょう。
  • 変位と道のりの混同: \(v-t\)グラフの面積は「変位」を表します。速度が負の領域(\(t\)軸より下側)の面積は負の変位となります。「道のり(実際に物体が動いた総距離)」を求める場合は、負の変位も絶対値を取って(つまり、\(t\)軸より下側の面積も正として)足し合わせる必要があります。
    • 対策: 問題文が「位置」や「変位」を問うているのか、それとも「道のり」や「移動距離」を問うているのかを正確に読み取り、区別することが重要です。
  • 折り返し点の解釈ミス: \(v=0\) となる点が必ずしも最大変位点(最も遠くへ行った点)であるとは限りません(例えば、一度停止してまた同じ向きに進む場合など)。重要なのは、\(v=0\) となり、かつその前後で速度の符号が変化する点(つまり運動の向きが変わる点)が折り返し点であるということです。
    • 対策: グラフ全体を注意深く観察し、速度の符号がどのように変化しているか(\(t\)軸を横切っているか)を確認します。
  • 等加速度運動の公式の安易な適用: 等加速度運動の公式(\(v=v_{\text{初}}+at\) など)は、加速度が一定の区間でのみ成り立ちます。\(v-t\)グラフが直線でない区間(つまり加速度が一定でない区間)では、これらの公式を直接適用することはできません。
    • 対策: グラフが直線で示されている区間ごとに公式を適用するか、面積計算や傾き計算といったグラフの基本的な性質から情報を得るようにします。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • \(v-t\)グラフ自体が物理現象の優れた「見える化」ツール:
    • グラフの傾きの急峻さ・緩やかさ \(\rightarrow\) 加速・減速の度合いの強弱
    • グラフが\(t\)軸より上側にある \(\rightarrow\) 物体が座標軸の正の向きに進んでいる
    • グラフが\(t\)軸より下側にある \(\rightarrow\) 物体が座標軸の負の向きに進んでいる
    • グラフが\(t\)軸を横切る点 \(\rightarrow\) 物体の運動方向が反転する点(折り返し点)
    • グラフと\(t\)軸で囲まれた面積の大きさ \(\rightarrow\) 物体が進んだ距離の大きさ
  • 運動の軌跡をイメージする: \(v-t\)グラフから得られる情報をもとに、実際に物体が \(x\) 軸上をどのように動いているか(例: 右に加速しながら進み、次に一定速度で進み、その後減速して止まり、今度は左向きに加速していく…など)を頭の中で連続的に追ってみましょう。簡単な数直線を書いて、物体の位置をプロットしていくのも有効です。
  • 各区間での速度や加速度のベクトルを意識する: 各運動フェーズにおいて、速度ベクトルと加速度ベクトルの向きと大きさがどのように変化しているかをイメージすると、物理現象の理解が深まります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(a = \Delta v / \Delta t\) (加速度の定義):
    • 選択理由: \(v-t\)グラフから直接的に加速度を求める場合。
    • 適用根拠: 加速度の定義そのものであり、グラフの傾きがこれに相当するから。
  • \(\Delta x = v-t \text{グラフの面積}\) (変位と速度・時間の関係):
    • 選択理由: \(v-t\)グラフから変位や位置を求める場合。
    • 適用根拠: \(v = dx/dt\) の関係を積分すると \(x = \int v dt\) となり、これがグラフの面積に相当するから。微小時間 \(\Delta t\) に進む距離が \(v \Delta t\) であることの総和。
  • 等加速度運動の公式群 (例: \(x = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2} a t^2\), \(v = v_{\text{初}} + at\)):
    • 選択理由: \(v-t\)グラフが直線で表される区間(加速度が一定の区間)において、特定の時刻での速度や位置、あるいは特定の位置に到達するまでの時間などを具体的に計算したい場合。
    • 適用根拠: これらの公式は、加速度 \(a\) が時間的に変化しないという前提条件のもとで数学的に導出された厳密な関係式だから。

これらの選択・適用の根拠を自問自答し、理解を深める訓練が重要です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 設問の要求を明確化: 何を問われているか(加速度、位置、時刻、速度など)を正確に把握する。
  2. \(v-t\)グラフからの情報抽出戦略の決定:
    • 加速度を求める \(\rightarrow\) 該当区間のグラフの「傾き」に着目。
    • 位置や変位を求める \(\rightarrow\) 該当区間のグラフと \(t\) 軸で囲まれた「面積」に着目。
    • 特定の時刻の速度を求める \(\rightarrow\) グラフの該当時刻の「縦軸の値」を読み取る。
  3. 適切な物理法則・公式の選択と適用: 上記の戦略に基づき、加速度の定義、面積計算、あるいは等加速度運動の公式などを選択し、必要な数値をグラフから読み取って適用する。
  4. 数値代入と計算実行: グラフから読み取った数値を慎重に代入し、計算ミスがないように注意深く計算を進める。
  5. 結果の検証(単位と符号の確認): 得られた結果の単位が物理的に正しいか、また、運動の状況(加速/減速、進行方向など)と結果の符号が整合しているかを確認する。

この論理の流れを常に意識して問題に取り組むことで、複雑な問題にも対応できるようになります。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 傾き計算時の符号と順序の確認: 速度変化 \(\Delta v = v_{\text{後}} – v_{\text{前}}\)、時間変化 \(\Delta t = t_{\text{後}} – t_{\text{前}}\) の定義(特に引き算の順序)を正確に守り、符号ミスを防ぐ。
  • 面積計算の正確性の追求:
    • 三角形の面積公式: \(S = \frac{1}{2} \times \text{底辺} \times \text{高さ}\)。係数 \(\frac{1}{2}\) のつけ忘れに注意。
    • 台形の面積公式: \(S = \frac{1}{2} \times (\text{上底} + \text{下底}) \times \text{高さ}\)。上底、下底、高さを正しくグラフから読み取る。
    • 複雑な図形の場合は、計算しやすい単純な図形(長方形や三角形)に確実に分割し、各部分の面積を正確に計算してから合計する。
  • 単位の一貫性の確認: 計算の各ステップで、使用している物理量の単位が一貫しているか(例: 時間が秒、速度がメートル毎秒など)、また、最終的な結果の単位が求められている物理量の単位として正しいかを確認する。
  • 概算による検算の習慣化: 計算を実行する前に、おおよその値や符号を予測してみる。計算結果がその予測から大きく外れている場合は、計算過程に誤りがないか見直す。
  • 途中式の丁寧な記述: 特に複雑な計算では、途中式を省略せずに丁寧に書くことで、見直しをしやすくし、計算ミスを発見しやすくする。

日頃の練習: ケアレスミスを減らすためには、日頃から計算練習を丁寧に行い、間違えた箇所はなぜ間違えたのかを分析し、同じミスを繰り返さないように意識することが大切です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な状況との整合性チェック:
    • 加速している区間で計算した加速度が正になっているか(速度の絶対値が増加し、進行方向が正の場合)。
    • 減速している区間で計算した加速度が負になっているか(速度の絶対値が減少し、進行方向が正の場合)。
    • 計算によって得られた物体の位置が、\(v-t\)グラフから読み取れるおおよその運動の様子(例: ずっと右に進んでいる、途中で折り返しているなど)と矛盾していないか。
    • 例えば、問4で原点に戻る時刻を計算した際、その時刻が折り返し点である \(t=15 \, \text{s}\) よりも後の時刻になっているか。また、その際の速度が負(右向きを正とした場合、左向きの運動)になっているかなどを確認する。
  • 単位の最終確認: 全ての最終的な答えに、正しい物理単位(例: \(\text{m/s}^2\)、\(\text{m}\)、\(\text{s}\)、\(\text{m/s}\))が付与されているかを確認する。
  • 極端なケースや既知の状況との比較 (一般論として): もし加速度が非常に大きかったら、あるいは運動時間が非常に短かったら、答えはどうなるべきかを思考実験してみることで、物理法則の理解が深まることがあります。また、既に学習した単純なケース(例: 等速直線運動や自由落下)の結果と、今回の問題で用いた考え方が整合しているかを確認するのも有効です。
  • グラフとの再照合による視覚的確認: 計算で得られた数値(特定の時刻での速度や位置など)を、元の\(v-t\)グラフ上にプロットしてみたり、グラフ全体の形状と見比べて、明らかな矛盾がないかを目で見て確認する。

これらの吟味を行う習慣は、物理的な直感を養い、解答の信頼性を高める上で非常に重要です。

問題2 (大阪電通大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、高層ビルの屋上まで上昇するエレベーターの運動を解析するものです。エレベーターの運動は、(1)最初の一定加速度での加速上昇、(2)次の中間区間での一定速度での上昇、(3)最後の一定加速度での減速上昇、という3つのフェーズに分かれています。各フェーズでの運動の法則を適用し、加速度、距離、時間などを求めていきます。

与えられた条件
  • ビルの全高: \(144 \, \text{m}\)
  • 初期状態: 地上で静止 (\(v_{\text{初}} = 0\))
  • 運動のフェーズ:
    1. 最初の \(6\) 秒間: 一定の加速度 \(a\) で上昇。
    2. 次の \(8\) 秒間: 一定の速さで上昇。このフェーズ終了時(出発から \(6+8=14\) 秒後)にエレベーターの高さは \(99 \, \text{m}\)。
    3. その後: 一定の加速度で減速しながら上昇し、屋上 (\(144 \, \text{m}\)) で静止。
  • 運動の向き: 上向きを正とする。
問われていること
  1. 最初の \(6\) 秒間におけるエレベーターの高さ \(y\) と速さ \(v\) を、加速度 \(a\) と出発からの時間 \(t\) (\(0 \le t \le 6\)) を用いた文字式で表すこと。
  2. 最初の加速時の加速度 \(a\) の値。
  3. 一定の速さで上昇した距離。
  4. 減速時の加速度 \(a’\) の値(上向きを正として)。
  5. エレベーターが地上から屋上まで昇るのに要した合計時間。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は、物体の直線運動に関する典型的な問題で、特に運動が複数の区間に分かれている場合を扱います。各区間で運動の種類(等加速度運動、等速直線運動)が異なるため、それぞれの区間に適した物理法則を適用し、情報を繋ぎ合わせて解いていく必要があります。
鍵となる物理法則・概念は以下の通りです。

  • 等加速度直線運動の公式:
    • 速度と時間の関係: \(v = v_{\text{初}} + at\)
    • 変位と時間の関係: \(y = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\)
    • 速度と変位の関係(時間を含まない式): \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\)
  • 等速直線運動: 速度が一定 (\(a=0\)) であり、移動距離 = 速さ × 時間。
  • \(v-t\)グラフの活用: 傾きが加速度を、面積が移動距離(変位)を表します。運動全体の様子を視覚的に捉えるのに有効です。

これらの知識を使い、エレベーターの運動を段階的に解析していきましょう。

問1:最初の \(6\) 秒までの高さ \(y\) と速さ \(v\) の文字式

思考の道筋とポイント
最初の \(6\) 秒間は、エレベーターは初速度 \(0\)(静止状態から出発)で、一定の加速度 \(a\) による等加速度直線運動をします。この区間内のある時刻 \(t\) (\(0 \le t \le 6\)) における高さ \(y\) と速さ \(v\) を求めるには、等加速度直線運動の基本公式に初速度 \(v_{\text{初}}=0\) を代入します。

この設問における重要なポイント

  • 初速度が \(0\) であることを正しく認識する。
  • 等加速度直線運動の公式 \(y = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\) と \(v = v_{\text{初}} + at\) を適切に選択し、適用する。
  • 問題で指定された変数(\(a\), \(t\))を用いて式を表現する。

具体的な解説と立式
エレベーターは地上で静止していたため、初速度 \(v_{\text{初}} = 0\)。
一定の加速度を \(a\)、出発からの時間を \(t\) (\(0 \le t \le 6 \, \text{s}\)) とします。

  • 高さ \(y\):
    公式 \(y = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\) に \(v_{\text{初}} = 0\) を代入します。
    $$ y = (0) \cdot t + \frac{1}{2}at^2 = \frac{1}{2}at^2 $$
  • 速さ \(v\):
    公式 \(v = v_{\text{初}} + at\) に \(v_{\text{初}} = 0\) を代入します。
    $$ v = 0 + at = at $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動(変位と時間): \(y = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\)
  • 等加速度直線運動(速度と時間): \(v = v_{\text{初}} + at\)
計算過程

上記の立式がそのまま計算結果となります。

計算方法の平易な説明

エレベーターが動き始めてから最初の \(6\) 秒間は、止まった状態から一定の割合でスピードアップしていきます。このような運動(等加速度直線運動)では、初めの速さが \(0\) の場合、ある時間 \(t\) までに進んだ距離(高さ \(y\))は「\(\frac{1}{2} \times \text{加速度} \times (\text{時間})^2\)」で、その瞬間の速さ \(v\) は「\(\text{加速度} \times \text{時間}\)」で表すことができます。

結論と吟味

最初の \(6\) 秒間のある時刻 \(t\) におけるエレベーターの高さ \(y\) は \(\displaystyle y = \frac{1}{2}at^2\)、速さ \(v\) は \(\displaystyle v = at\) と表されます。これらの式は、\(t=0\) のとき \(y=0\), \(v=0\) となり、出発時の「静止」という条件と一致しており、物理的に妥当です。

解答 (1) 高さ: \(y = \displaystyle\frac{1}{2}at^2\),速さ: \(v = at\)

問2:加速度 \(a\) はいくらか。

思考の道筋とポイント
エレベーターの運動は3つのフェーズに分けられます。

  1. 第1フェーズ(加速): \(0 \le t \le 6 \, \text{s}\)。加速度 \(a\)。
    このフェーズ終了時(\(t=6 \, \text{s}\))の高さ \(y_1\) と速度 \(v_1\) は、問1の結果から \(y_1 = \frac{1}{2}a(6^2) = 18a\)、\(v_1 = a(6) = 6a\)。
  2. 第2フェーズ(等速): 次の \(8 \, \text{s}\) 間。速度 \(v_1\) で一定。
    このフェーズでの上昇距離 \(y_2\) は \(y_2 = v_1 \times 8 = (6a) \times 8 = 48a\)。

問題文より、第1フェーズと第2フェーズが終了した時点(出発から \(6+8=14\) 秒後)での全上昇高さが \(99 \, \text{m}\) です。この条件 \(y_1 + y_2 = 99\) を用いて \(a\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 運動の各フェーズの情報を正確に把握し、それぞれの区間の変位や速度を \(a\) を用いて表現する。
  • 第1フェーズの終了時の状態(高さ、速度)が、第2フェーズの初期状態(速度)となることを理解する。
  • 問題文中の「高さ \(99 \, \text{m}\) まで達し」という条件を、第1フェーズと第2フェーズの合計の高さに関する方程式として立式する。

具体的な解説と立式
第1フェーズ(最初の \(6 \, \text{s}\) 間、加速度 \(a\) で上昇):
\(6\) 秒後の高さ: \(y_1 = \frac{1}{2}a(6)^2 = 18a\)
\(6\) 秒後の速度: \(v_1 = a(6) = 6a\)

第2フェーズ(次の \(8 \, \text{s}\) 間、速度 \(v_1\) で等速上昇):
この間の上昇距離: \(y_2 = v_1 \times 8 = (6a) \times 8 = 48a\)

第1フェーズと第2フェーズを合わせた総上昇高さ \(Y_{1+2}\) は \(y_1 + y_2\) であり、これが \(99 \, \text{m}\) に等しいとされています。
$$ 18a + 48a = 99 $$

使用した物理公式

  • 問1で導いた式: \(y = \frac{1}{2}at^2\), \(v = at\)
  • 等速直線運動: 距離 = 速さ × 時間
計算過程

$$ 18a + 48a = 99 $$
$$ (18+48)a = 99 $$
$$ 66a = 99 $$
両辺を \(66\) で割ります。
$$ a = \frac{99}{66} $$
分母分子を共通の約数である \(33\) で割ると、
$$ a = \frac{3}{2} = 1.5 $$
したがって、加速度 \(a\) は \(1.5 \, \text{m/s}^2\)。

計算方法の平易な説明

エレベーターはまず \(6\) 秒間加速します。この間に進んだ高さは、問1の結果から \(18a\) と表せます(\(a\) は求めたい加速度)。この \(6\) 秒後には速さが \(6a\) になっています。
次に、この速さ \(6a\) のままで \(8\) 秒間、一定の速さで上昇します。この間に進んだ高さは \((\text{速さ}) \times (\text{時間}) = 6a \times 8 = 48a\) です。
最初の \(6\) 秒と次の \(8\) 秒、合わせて \(14\) 秒間でエレベーターは \(18a + 48a = 66a\) の高さまで上昇したことになります。
問題文には、この \(14\) 秒後に高さ \(99 \, \text{m}\) に達したと書かれているので、\(66a = 99\) という式が成り立ちます。
これを \(a\) について解くと、\(a = \frac{99}{66} = \frac{3}{2} = 1.5 \, \text{m/s}^2\) となります。

結論と吟味

加速度 \(a\) は \(1.5 \, \text{m/s}^2\) です。正の値であり、エレベーターが上向きに加速しているという状況と一致しています。単位も加速度として適切です。

解答 (2) \(1.5 \, \text{m/s}^2\)

問3:一定の速さで上昇した距離はいくらか。

思考の道筋とポイント
一定の速さで上昇したのは第2フェーズの \(8\) 秒間です。このときの速さは、第1フェーズ終了時の速度 \(v_1 = 6a\) に等しいです。問2で求めた加速度 \(a = 1.5 \, \text{m/s}^2\) の値を用いて \(v_1\) を計算し、その後「距離 = 速さ × 時間」の公式を使ってこの区間の上昇距離を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 前の設問で求めた加速度 \(a\) の値を正しく用いて、等速運動時の速度を計算する。
  • 等速直線運動における「距離 = 速さ × 時間」の公式を適用する。
  • 問題がどの区間の距離を問うているのかを明確に把握する。

具体的な解説と立式
一定の速さで上昇したのは第2フェーズです。
このときの速さ \(v_1\) は、第1フェーズ終了時の速度であり、\(v_1 = 6a\)。
問2より \(a = 1.5 \, \text{m/s}^2\) なので、
$$ v_1 = 6 \times 1.5 = 9 \, \text{m/s} $$
この速さ \(v_1\) で \(8\) 秒間上昇したので、その距離 \(y_2\) は、
$$ y_2 = v_1 \times 8 $$

使用した物理公式

  • 速度の計算: \(v_1 = 6a\) (問2の途中結果より)
  • 等速直線運動: 距離 = 速さ × 時間
計算過程

まず、一定の速さ \(v_1\) を計算します。
$$ v_1 = 6a = 6 \times 1.5 \, \text{m/s} = 9 \, \text{m/s} $$
次に、この速さで \(8\) 秒間に上昇した距離 \(y_2\) を計算します。
$$ y_2 = (9 \, \text{m/s}) \times (8 \, \text{s}) = 72 \, \text{m} $$

計算方法の平易な説明

問2で、最初の加速時の加速度が \(a=1.5 \, \text{m/s}^2\) であることがわかりました。
エレベーターが一定の速さで動き始めるのは、最初の \(6\) 秒間の加速が終わった後です。このときの速さは \(v_1 = 6a = 6 \times 1.5 = 9 \, \text{m/s}\) です。
この \(9 \, \text{m/s}\) という一定の速さで、次の \(8\) 秒間上昇しました。したがって、この間に進んだ距離は \((\text{速さ}) \times (\text{時間}) = 9 \, \text{m/s} \times 8 \, \text{s} = 72 \, \text{m}\) となります。

結論と吟味

一定の速さで上昇した距離は \(72 \, \text{m}\) です。
念のため確認すると、第1フェーズでの上昇距離は \(y_1 = 18a = 18 \times 1.5 = 27 \, \text{m}\) でした。
第1フェーズと第2フェーズの合計上昇距離は \(y_1 + y_2 = 27 \, \text{m} + 72 \, \text{m} = 99 \, \text{m}\) となり、これは問題文の「高さ \(99 \, \text{m}\) まで達し」という条件と一致しており、計算は妥当であると考えられます。

解答 (3) \(72 \, \text{m}\)

問4:減速のときの加速度はいくらか。上向きを正として答えよ。

思考の道筋とポイント
第3フェーズ(減速区間)について考えます。
この区間の初速度は、第2フェーズ終了時の速度 \(v_1 = 9 \, \text{m/s}\) です。
この区間の終速度は \(0 \, \text{m/s}\) です(屋上で停止するため)。
この区間で上昇する距離 \(y_3\) は、ビルの全高 \(144 \, \text{m}\) から、第1・第2フェーズで上昇した高さ \(99 \, \text{m}\) を差し引いた \(144 \, \text{m} – 99 \, \text{m} = 45 \, \text{m}\) です。
初速度、終速度、変位が分かっているので、時間を含まない等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\) を用いて、減速時の加速度 \(a’\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 減速区間の「初速度」「終速度」「移動距離(変位)」を正しく特定する。
  • 時間に関する情報がないため、\(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\) の公式を選択するのが適切であると判断する。
  • 「上向きを正」という座標軸の定義に従い、加速度の符号が物理的な状況(減速)と一致するかを確認する。

具体的な解説と立式
第3フェーズ(減速区間)について考えます。

  • 初速度 \(v_{\text{初},3}\): 第2フェーズの終わりの速度であり、問3で計算した \(v_1 = 9 \, \text{m/s}\)。
  • 終速度 \(v_{\text{終},3}\): 屋上で停止するので \(0 \, \text{m/s}\)。
  • 上昇距離 \(y_3\): 全高 \(144 \, \text{m}\) から、第2フェーズ終了時の高さ \(99 \, \text{m}\) を引いたもの。
    $$ y_3 = 144 \, \text{m} – 99 \, \text{m} = 45 \, \text{m} $$

減速時の加速度を \(a’\) とします。等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\) を適用します。
$$ (v_{\text{終},3})^2 – (v_{\text{初},3})^2 = 2 a’ y_3 $$
$$ (0)^2 – (9)^2 = 2 \cdot a’ \cdot 45 $$

使用した物理公式
等加速度直線運動(速度と変位): \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\)
計算過程

$$ 0^2 – 9^2 = 2 \cdot a’ \cdot 45 $$
$$ 0 – 81 = 90 a’ $$
$$ -81 = 90 a’ $$
両辺を \(90\) で割ります。
$$ a’ = \frac{-81}{90} $$
分母分子を共通の約数である \(9\) で割ると、
$$ a’ = \frac{-9}{10} = -0.9 $$
したがって、減速時の加速度 \(a’\) は \(-0.9 \, \text{m/s}^2\)。

計算方法の平易な説明

エレベーターは、高さ \(99 \, \text{m}\) の地点で \(9 \, \text{m/s}\) の速さでした。そこから屋上の \(144 \, \text{m}\) 地点まで、つまり残りの \(144 – 99 = 45 \, \text{m}\) を上昇して停止します。
この減速区間では、初めの速さが \(9 \, \text{m/s}\)、終わりの速さが \(0 \, \text{m/s}\)、進んだ距離が \(45 \, \text{m}\) です。このときの加速度 \(a’\) を求めるために、「\((\text{終わりの速さ})^2 – (\text{初めの速さ})^2 = 2 \times \text{加速度} \times \text{距離}\)」という公式を使います。
\(0^2 – 9^2 = 2 \times a’ \times 45\)
\(-81 = 90 a’\)
ここから \(a’ = -81 \div 90 = -0.9 \, \text{m/s}^2\) と計算できます。
加速度がマイナスになったのは、エレベーターが減速している(上向きを正としているので、下向きに力が働いているような状態)ことを意味しています。

結論と吟味

減速のときの加速度は \(-0.9 \, \text{m/s}^2\) です。上向きを正としていますので、負の値は下向きの加速度を意味し、これはエレベーターが上昇しながら減速している状況と一致しており、物理的に妥当です。

解答 (4) \(-0.9 \, \text{m/s}^2\)

問5:地上から屋上まで昇るのに全部でどれだけの時間を要したか。

思考の道筋とポイント
エレベーターが地上から屋上まで昇るのに要した全時間は、3つのフェーズの時間合計です。

  • 第1フェーズ(加速)の時間 \(T_1 = 6 \, \text{s}\) (問題文より)。
  • 第2フェーズ(等速)の時間 \(T_2 = 8 \, \text{s}\) (問題文より)。
  • 第3フェーズ(減速)の時間 \(T_3\) を求める必要があります。この区間の初速度 \(v_{\text{初},3} = 9 \, \text{m/s}\)、終速度 \(v_{\text{終},3} = 0 \, \text{m/s}\)、加速度 \(a’ = -0.9 \, \text{m/s}^2\)(問4の結果)が分かっているので、等加速度直線運動の公式 \(v = v_{\text{初}} + at\) を用いて \(T_3\) を求めます。

最後に \(T_{\text{合計}} = T_1 + T_2 + T_3\) を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 各運動フェーズにかかった時間を正確に把握、または計算する。
  • 前の設問で求めた加速度 \(a’\) の値を正しく用いて、減速時間を計算する。
  • 全てのフェーズの時間を単純に足し合わせることで、全所要時間が求まる。

具体的な解説と立式
第1フェーズの時間: \(T_1 = 6 \, \text{s}\)
第2フェーズの時間: \(T_2 = 8 \, \text{s}\)

第3フェーズ(減速区間)の時間 \(T_3\) を求めます。

  • 初速度 \(v_{\text{初},3} = 9 \, \text{m/s}\)
  • 終速度 \(v_{\text{終},3} = 0 \, \text{m/s}\)
  • 加速度 \(a’ = -0.9 \, \text{m/s}^2\) (問4より)

等加速度直線運動の公式 \(v = v_{\text{初}} + at\) を用いると、
$$ v_{\text{終},3} = v_{\text{初},3} + a’ T_3 $$
$$ 0 = 9 + (-0.9) T_3 $$
これを \(T_3\) について解きます。

全時間 \(T_{\text{合計}}\) は、
$$ T_{\text{合計}} = T_1 + T_2 + T_3 $$

使用した物理公式
等加速度直線運動(速度と時間): \(v = v_{\text{初}} + at\)
計算過程

まず、第3フェーズの時間 \(T_3\) を求めます。
$$ 0 = 9 + (-0.9) T_3 $$
$$ 0 = 9 – 0.9 T_3 $$
$$ 0.9 T_3 = 9 $$
両辺を \(0.9\) で割ります。
$$ T_3 = \frac{9}{0.9} = \frac{90}{9} = 10 \, \text{s} $$
次に、全時間 \(T_{\text{合計}}\) を計算します。
$$ T_{\text{合計}} = T_1 + T_2 + T_3 = 6 \, \text{s} + 8 \, \text{s} + 10 \, \text{s} = 24 \, \text{s} $$

計算方法の平易な説明

エレベーターが昇るのにかかった時間は、3つの部分に分けられます。

  1. 最初の加速にかかった時間: \(6\) 秒(問題文より)。
  2. 次に一定の速さで上昇した時間: \(8\) 秒(問題文より)。
  3. 最後に減速して停止するまでにかかった時間 \(T_3\):
    減速し始めの速さは \(9 \, \text{m/s}\)、止まるときの速さは \(0 \, \text{m/s}\)、このときの加速度は \(-0.9 \, \text{m/s}^2\)(問4で計算)でした。
    「\(\text{終わりの速さ} = \text{初めの速さ} + \text{加速度} \times \text{時間}\)」の公式を使うと、
    \(0 = 9 + (-0.9) \times T_3\)
    これを解くと \(T_3 = 10\) 秒となります。

したがって、全部でかかった時間は、これらを合計して \(6 + 8 + 10 = 24\) 秒です。

結論と吟味

エレベーターが地上から屋上まで昇るのに要した全時間は \(24 \, \text{s}\) です。各フェーズの時間が正しく計算され、それらが合計されているため、妥当な結果と考えられます。

解答 (5) \(24 \, \text{s}\)

【別解】\(v-t\)グラフの利用について
模範解答にも示されているように、この種の問題は \(v-t\)グラフを描くことで非常に見通しが良くなります。

  • 横軸に時間 \(t\)、縦軸に速度 \(v\) を取ります。
  • 運動は以下のようになります:
    1. \(t=0\) で \(v=0\) から出発し、\(t=6 \, \text{s}\) まで一定の傾き \(a\) で速度 \(v_1\) まで直線的に上昇します。
    2. \(t=6 \, \text{s}\) から \(t=6+8=14 \, \text{s}\) まで速度 \(v_1\) で等速運動(水平な直線)。
    3. \(t=14 \, \text{s}\) から一定の傾き \(a’\) で直線的に減速し、屋上で \(v=0\) となる時刻 \(T_{\text{合計}}\) まで下降します。
  • \(v-t\)グラフの面積が移動距離(高さ)を表します。
    • 最初の \(14 \, \text{s}\) 間(加速区間+等速区間)で上昇した高さ \(99 \, \text{m}\) は、グラフ上で \(t=0\) から \(t=14\) までの部分と \(t\) 軸で囲まれた台形の面積に相当します。
      この台形は、上底の長さが \(14-6=8 \, \text{s}\)(等速区間の時間)、下底の長さが \(14 \, \text{s}\)(加速開始から等速終了までの全時間)、高さが \(v_1\) となります。
      よって、面積 \(=\frac{1}{2} \times (\text{上底} + \text{下底}) \times \text{高さ}\) より、
      $$ 99 = \frac{1}{2} \times (8 + 14) \times v_1 = \frac{1}{2} \times 22 \times v_1 = 11 v_1 $$
      これから \(v_1 = \frac{99}{11} = 9 \, \text{m/s}\) が求まります。
    • 加速度 \(a\) は、最初の \(6 \, \text{s}\) で速度が \(0\) から \(v_1=9 \, \text{m/s}\) に変化したので、グラフの傾きとして \(a = \frac{v_1 – 0}{6 – 0} = \frac{9}{6} = 1.5 \, \text{m/s}^2\)。(問2)
    • 一定の速さで上昇した距離は、等速区間の長方形の面積 \(v_1 \times 8 \, \text{s} = 9 \, \text{m/s} \times 8 \, \text{s} = 72 \, \text{m}\)。(問3)
    • 第3フェーズ(減速区間)で上昇する高さは \(144 \, \text{m} – 99 \, \text{m} = 45 \, \text{m}\)。
      この区間の \(v-t\)グラフは、高さが \(v_1=9 \, \text{m/s}\)、底辺が減速時間 \(T_3\) の三角形となります。
      面積 \(=\frac{1}{2} \times \text{底辺} \times \text{高さ}\) より、
      $$ 45 = \frac{1}{2} \times T_3 \times 9 $$
      $$ 90 = 9 T_3 $$
      $$ T_3 = 10 \, \text{s} $$
    • 全時間は \(T_{\text{合計}} = 6 \, \text{s} + 8 \, \text{s} + T_3 = 6 + 8 + 10 = 24 \, \text{s}\)。(問5)
    • 減速時の加速度 \(a’\) は、減速区間のグラフの傾きなので、\(a’ = \frac{\Delta v}{\Delta t} = \frac{0 – v_1}{T_3} = \frac{-9 \, \text{m/s}}{10 \, \text{s}} = -0.9 \, \text{m/s}^2\)。(問4)

\(v-t\)グラフを用いると、各区間の関係が視覚的に整理され、特に面積や傾きから直接的に情報を得られるため、問題解決がスムーズに進むことがあります。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 等加速度直線運動の3つの基本公式:
    • \(v = v_{\text{初}} + at\) (速度と時間の関係)
    • \(y = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\) (変位と時間の関係)
    • \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\) (速度と変位の関係、時間を含まない)
    • 本質: 加速度が一定という条件下で、物体の速度、位置、時間がどのように関連しているかを示す根幹的な方程式群です。どの公式がどの物理量を結びつけているのかを理解し、問題の条件に応じて適切に選択・適用する能力が求められます。
  • 等速直線運動の性質:
    • 加速度 \(a=0\)。速度 \(v\) は一定。移動距離 \(y = vt\)。
    • 本質: 物体に働く合力が \(0\) である場合、または初めからその速度で運動している場合に維持される、最も単純な運動状態です。
  • 運動の区間分けと接続条件の理解:
    • 複雑に見える運動も、より単純な運動(等加速度運動、等速運動など)の区間に分割して考えることができます。
    • 重要なのは、ある運動区間の終了時点での状態(特に速度や位置)が、次の運動区間の開始時点での状態(初速度や初期位置)となる「接続」の概念を正しく捉えることです。これが全体の運動を連続的に解析するための鍵となります。
  • \(v-t\)グラフの物理的意味と活用:
    • グラフの傾き \(\rightarrow\) 加速度 \(a\)
    • グラフと \(t\) 軸で囲まれた面積 \(\rightarrow\) 変位 \(y\) (または移動距離)
    • 本質: 運動の様子を視覚的に表現し、微分(傾き)・積分(面積)といった数学的概念と物理現象を結びつけて理解することを助ける強力なツールです。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 電車の発進・一定速度での走行・駅への停車といった一連の運動の解析。
    • 自動車の加速・高速道路での巡航・料金所手前での減速といった運動。
    • 物体の自由落下運動において、途中から空気抵抗が無視できなくなり最終的に一定速度(終端速度)で落下するような、より現実に近い運動モデルの解析。
    • 複数の区間で異なる一定の力が物体に働く場合の、各区間ごとの運動の分析。
  • 初見の問題への着眼点:
    1. 運動のフェーズ(区間)を明確に分ける: 問題文を丁寧に読み解き、運動の性質が変化するポイント(例:加速から等速へ、等速から減速へ)を見つけ出し、運動全体をいくつかのフェーズに区切ります。各フェーズの開始時刻と終了時刻(または所要時間)を意識します。
    2. 各フェーズにおける運動の種類を特定する: 分割した各フェーズが「静止」「等速直線運動」「等加速度直線運動(加速)」「等加速度直線運動(減速)」のいずれに該当するのかを正確に判断します。
    3. 既知の物理量と未知の物理量を整理する: 各フェーズについて、初速度、終速度、加速度、時間、変位(移動距離)のうち、どの量が問題文で与えられているか(既知)、そしてどの量を求める必要があるか(未知)をリストアップするなどして整理します。
    4. \(v-t\)グラフの概形を描いてみる (推奨): 特に運動が複数のフェーズにわたる複雑な問題では、\(v-t\)グラフの概形を手早く描くことで、全体の運動の流れ、各フェーズ間の関係性(速度の連続性など)、そして面積や傾きが持つ物理的意味を視覚的に把握しやすくなり、解法のヒントが得られることが多いです。
  • ヒント・注意点:
    • 座標軸の向き(例:上向きを正とする)を最初に明確に設定し、速度・加速度・変位の符号を一貫して扱うことが重要です。
    • 各運動区間の「つなぎ目」において、速度や位置が連続している(前の区間の終わりが次の区間の始まりになる)ことを常に意識しましょう。
    • 時間に関する情報が直接与えられていない、または時間を求める必要がない場合には、時間 \(t\) を含まない公式 \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\) の利用が有効な場合があります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 各運動区間における初速度 \(v_{\text{初}}\) の設定ミス:
    • ありがちな誤解: 各区間の初速度を常に \(0\) と誤解してしまう。
    • 対策: 第1区間の初速度は問題の初期条件(例:静止なら \(0\))に従いますが、第2区間以降の初速度は、その直前の区間の「終速度」となることを明確に意識しましょう。
  • 加速度 \(a\) の符号の判断ミス:
    • ありがちな誤解: 加速と減速を混同したり、設定した座標軸の正の向きに対して加速度の符号を直感で間違えたりする。
    • 対策: 設定した座標軸の正の向きに対して、速度が増加している場合は加速度 \(a > 0\)、速度が減少している(または負の向きに速度の絶対値が増加している)場合は加速度 \(a < 0\) と、物理的な状況に基づいて判断しましょう。
  • 等速区間と等加速度区間で用いる公式の混同:
    • ありがちな誤解: 等速直線運動の区間で誤って等加速度直線運動の公式を適用してしまう、またはその逆。
    • 対策: 各運動区間の種類(等速か、等加速度か)を最初に明確に特定し、それに応じた正しい物理公式を選択する習慣をつけましょう。
  • \(v-t\)グラフの面積計算における図形の認識ミスや計算ミス:
    • ありがちな誤解: 台形の面積を計算する際に上底・下底の長さを誤って読み取る、三角形の高さを間違える、単純な計算ミス。
    • 対策: \(v-t\)グラフ上で、各辺が何を表しているのか(時間軸上の長さなのか、速度軸上の値なのか)を正確に読み取り、対応する幾何学的図形の面積公式(三角形なら \(\frac{1}{2} \times \text{底辺} \times \text{高さ}\)、台形なら \(\frac{1}{2} \times (\text{上底} + \text{下底}) \times \text{高さ}\))に慎重に値を代入しましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における \(v-t\)グラフの絶大な有効性:
    1. 運動の全容の一覧性: エレベーターの複雑な昇降運動(加速→等速→減速)の全体像を、一枚のグラフ上で時間的な推移と共に視覚的に表現できます。
    2. 各運動フェーズの明確な区別: 加速区間(傾きが正の右上がりの直線)、等速区間(傾きが \(0\) の水平線)、減速区間(傾きが負の右下がりの直線)が、グラフの形状から一目瞭然に識別できます。
    3. 物理量間の関係の視覚的把握: 各区間における速度変化の様子、所要時間、そして特に移動距離(グラフと \(t\) 軸で囲まれる面積)といった複数の物理量間の関係性が、グラフを通じて直感的に結びつきます。
    4. 立式の補助および検算ツールとしての活用: 特に面積が移動距離に直結するという性質は、方程式を立てる際の強力な補助となったり、代数的に解いた結果を検証(検算)する手段としても非常に有効です。
  • 効果的な \(v-t\)グラフを描く際の注意点:
    • 横軸(時間 \(t\))と縦軸(速度 \(v\))のスケール感は、ある程度正確に(ただし、厳密な方眼紙レベルである必要はなく、運動の概形が正しく捉えられていれば十分です)。
    • 各運動フェーズの変わり目となる点(時刻と、その時刻での速度)を明確にプロットし、それらの点を結んでグラフを作成します。
    • 面積を計算して移動距離を求める場合は、どの部分の面積がどの運動区間の移動距離に対応しているのかを、色分けしたり斜線を引いたりするなどして視覚的に区別すると、混乱を防げます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(y = \frac{1}{2}at^2\), \(v=at\) (設問(1)での適用):
    • 選択理由: 最初の運動区間が「初速度 \(v_{\text{初}}=0\) の等加速度直線運動」であると特定されたため。
    • 適用根拠: 等加速度直線運動の一般公式 \(y = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\) および \(v = v_{\text{初}} + at\) において、初期条件 \(v_{\text{初}}=0\) を代入することで、これらのよりシンプルな形が得られます。
  • 距離 = 速度 \(\times\) 時間 (設問(2)の等速区間の変位計算、設問(3)での適用):
    • 選択理由: 第2運動区間が「等速直線運動」であると特定されたため。
    • 適用根拠: 速度が一定であるという等速直線運動の定義から、この単純な関係式が直接的に成り立ちます。
  • \(y_1 + y_2 = 99\) (設問(2)での方程式立脚点):
    • 選択理由: 第1運動区間の変位 \(y_1\) と第2運動区間の変位 \(y_2\) の合計が、問題文で与えられた特定の高さ情報(\(99 \, \text{m}\))に等しいという条件を利用するため。
    • 適用根拠: 変位が加法的な量であり、連続する運動区間の総変位は各区間の変位の和で表されるという物理的な事実に基づきます。
  • \(v_{\text{終},3}^2 – v_{\text{初},3}^2 = 2a’y_3\) (設問(4)での適用):
    • 選択理由: 第3運動区間(減速区間)において、時間が直接与えられていないが、初速度・終速度・変位(移動距離)が既知または計算可能なため。
    • 適用根拠: この公式は時間 \(t\) を含まないため、時間情報が不足している状況で加速度や変位、速度の関係を調べるのに有効です。等加速度直線運動の基本公式から導出されます。
  • \(v_{\text{終},3} = v_{\text{初},3} + a’T_3\) (設問(5)での減速時間 \(T_3\) 計算のための適用):
    • 選択理由: 第3運動区間(減速区間)の初速度・終速度・加速度が既知であるため、時間 \(T_3\) を求めるのに最も直接的な公式であるため。
    • 適用根拠: 等加速度直線運動における速度と時間の基本的な関係式です。
  • \(v-t\)グラフの面積 = 台形の面積公式 / 三角形の面積公式 (別解での活用):
    • 選択理由: \(v-t\)グラフ上での運動の軌跡が直線で構成されるため、その下の面積が幾何学的な図形として捉えられる場合。
    • 適用根拠: 速度を時間で積分すると変位が得られるという数学的関係が、グラフ上では面積計算に相当するためです。

各公式が持つ意味と、それが適用できる物理的条件(例:加速度が一定、初速度がゼロなど)を正確に理解することが、適切な公式選択の鍵となります。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 運動フェーズの明確な特定: 問題文から、エレベーターの運動が3つの異なるフェーズ(加速、等速、減速)に分けられることを読み取ります。
  2. 各フェーズの物理情報を数式で表現:
    • フェーズ1 (加速、\(t_1=6 \, \text{s}\)): 初速度 \(v_{\text{初}}=0\)、加速度 \(a\)。この結果、\(6\) 秒後の高さ \(y_1 = 18a\)、速度 \(v_1 = 6a\) となります。
    • フェーズ2 (等速、\(t_2=8 \, \text{s}\)): 速度 \(v_1\)。この結果、\(8\) 秒間の移動距離 \(y_2 = v_1 t_2 = (6a)(8) = 48a\) となります。
  3. 既知の条件と結びつけて方程式を立て、未知数を解く:
    • 問題文の「\(14\) 秒後(フェーズ1+2終了後)に高さ \(99 \, \text{m}\)」という条件から、\(y_1 + y_2 = 99\) という方程式を立てます。すなわち \(18a + 48a = 99\)。これを解いて加速度 \(a\) の値を求めます。(設問2)
  4. 求めた値を用いて他の未知数を順次計算:
    • 求めた \(a\) の値から、等速運動時の速度 \(v_1 (=6a)\) を計算し、それを用いてフェーズ2の移動距離 \(y_2 (=v_1 \times 8)\) を具体的に求めます。(設問3)
    • フェーズ3 (減速): 初速度 \(v_{\text{初},3} = v_1\)、終速度 \(v_{\text{終},3}=0\)、移動距離 \(y_3 = (\text{全高}) – (y_1+y_2) = 144-99=45 \, \text{m}\)。これらの情報から、時間を含まない公式 \(v_{\text{終},3}^2 – v_{\text{初},3}^2 = 2a’y_3\) を用いて減速時の加速度 \(a’\) を求めます。(設問4)
    • 最後に、求めた加速度 \(a’\) と初速度 \(v_{\text{初},3}\)、終速度 \(v_{\text{終},3}\) を用いて、公式 \(v_{\text{終},3} = v_{\text{初},3} + a’T_3\) から減速にかかった時間 \(T_3\) を計算します。
  5. 最終的な解を組み立てる:
    • 全所要時間 \(T_{\text{合計}} = T_1 + T_2 + T_3\) を計算します。(設問5)

このように、問題を小さなステップに分解し、各ステップで必要な情報を整理・計算していくことで、複雑な問題も確実に解き進めることができます。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の統一と最終確認の徹底: 計算を始める前に、全ての物理量を基本単位系(例: メートル[m]、秒[s]、メートル毎秒[m/s]、メートル毎秒毎秒[m/s²])に統一して扱うことを心がけましょう。また、計算結果が出たら、その単位が問われている物理量の単位として適切であるかを必ず確認します。
  • 連立方程式を解く際の丁寧な処理: 未知数が複数存在する場合には、立式した方程式を一つ一つ丁寧に扱い、代入や消去の操作を正確に行うことが重要です。どの式をどのように変形したのかを明確に記録しながら進めると、見直しもしやすくなります。
  • 分数や小数の計算における正確性の追求: 例えば、\(a=99/66\) を \(1.5\) に正確に約分・小数変換する、\(a’=-81/90\) を \(-0.9\) にするなど、基本的な算術計算を正確に行うことが、物理計算の土台となります。
  • 符号の確認の習慣化: 特に加速度や速度といったベクトル量について、設定した座標軸の正の向きと、実際の物理的な状況(加速しているのか減速しているのか、運動の向きはどちらか)を常に照らし合わせ、計算結果の符号が正しいかどうかを各ステップで確認しましょう。
  • \(v-t\)グラフを用いた検算の有効活用: 代数的な計算(公式を用いた計算)だけで問題を解いた後に、\(v-t\)グラフの概形を描いてみて、グラフの面積や傾きが、計算で得られた移動距離や加速度と矛盾していないかを確認する作業は、計算ミスを発見したり、解答の確信度を高めたりする上で非常に有効です。

日頃から、途中式を省略せずに丁寧に記述し、計算の各段階で確認作業を怠らないように意識することが、計算ミスを減らすための最も基本的な、そして効果的な対策です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な状況との整合性の確認:
    • 計算で得られた加速度 \(a\) が正の値(初期の加速運動と一致)、減速時の加速度 \(a’\) が負の値(上向きを正とした場合の減速運動と一致)になっているかを確認します。
    • 各運動区間で計算された速度や移動距離が、問題の状況設定(例:ビルの高さ、所要時間)と比較して、極端に大きすぎたり小さすぎたりする非現実的な値になっていないかを大まかに確認します。
    • 全所要時間が、各運動区間の所要時間の和として計算されており、各区間の時間も正の値になっているかなどを確認します。
  • \(v-t\)グラフとの整合性の確認(別解を用いた場合や検算時):
    • 代数計算で得られた等速運動時の速度 \(v_1\) や各区間の所要時間が、\(v-t\)グラフの形状(例:特定の時刻での速度の値、水平部分の長さ、傾斜部分の底辺の長さなど)と矛盾していないかを目で見て確認します。
    • \(v-t\)グラフの面積(台形や三角形)が、計算によって求めた各区間の移動距離や問題文で与えられた高さの情報と一致するかを照合します。
  • 問題文の全条件との再照合による最終確認:
    • 得られた全ての答え(\(a, y_2, a’, T_{\text{合計}}\)など)が、問題文で与えられた全ての数値条件(例:\(14\) 秒後に高さ \(99 \, \text{m}\) に到達、全高 \(144 \, \text{m}\) 地点で最終的に停止)を矛盾なく満たしているかどうかを、最後に改めて確認します。この作業により、見落としていた条件や計算ミスに気づくことがあります。

解答を導き出した後に、このように多角的な視点からその妥当性を吟味する習慣をつけることは、物理的な思考力を養い、解答の信頼性を格段に高める上で非常に重要です。

問題3 (東京海洋大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、川を航行する船の運動について、「速度の合成」と「相対速度」の概念を用いて所要時間などを求める問題です。静水中の船の速さと川の流速が与えられた条件のもと、川を上り下りする場合、川を横断する場合、そして他の物体と出会う場合について考察します。ベクトルの和と差の考え方を正しく適用できるかが鍵となります。

与えられた条件
  • 静水なら速さ \(v\) で進む船がある。
  • 川の流速は \(\frac{1}{2}v\)。
  • 川を上り下りして往復する距離(片道)は \(l\)。
  • 川の流れに垂直に横断して往復する距離(片道)は \(l\)。
  • 川に沿い、上流に向かって速さ \(v\) で走る自転車がある。
  • 下流に向かって進む船と自転車との初期距離は \(L\)。
問われていること
  1. 船が川を上り下りして距離 \(l\) を往復するのに要する時間 \(t_1\)。
  2. 船が川の流れに垂直に横断して距離 \(l\) を往復するのに要する時間 \(t_2\)。
  3. 下流に向かって進む船と上流に向かう自転車が出会うまでの時間 \(t_3\)(相対速度を考えることにより)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは、複数の速度が関わる場合の運動の解析です。特に「速度の合成」と「相対速度」の概念を正しく理解し、適用することが求められます。

  • 速度の合成: ある基準(例: 地面や岸)に対する物体の速度は、その物体自身の速度(例: 静水での船の速度)と、物体がいる動く基準の速度(例: 川の流速)のベクトル和として表されます。
  • 相対速度: 一方の物体から見たもう一方の物体の速度のことです。物体Aの速度を \(\vec{v}_A\)、物体Bの速度を \(\vec{v}_B\) とすると、「Aから見たBの相対速度」は \(\vec{v}_B – \vec{v}_A\) となります。

これらの基本事項を踏まえ、各設問に取り組んでいきましょう。

問1:川の上り下りの往復時間 \(t_1\)

思考の道筋とポイント
川を上る時と下る時で、岸に対する船の速度(合成速度)が異なります。上りでは船の静水での速さから川の流速を差し引き、下りでは足し合わせます。それぞれの区間でかかる時間を「距離 ÷ 速さ」で計算し、合計することで往復時間 \(t_1\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 速度の合成において、速度がベクトル量であることを意識し、向きによって足し算・引き算を正しく行うこと。
  • 「時間 = 距離 / 速さ」の基本的な関係を適用すること。

具体的な解説と立式
船の静水での速さを \(v\)、川の流速を \(\frac{1}{2}v\) とします。距離 \(l\) を往復します。

  1. 上りの場合:
    岸に対する船の速度 \(v_{\text{上り}}\) は、船の進行方向と川の流れが逆向きなので、
    $$ v_{\text{上り}} = v – \frac{1}{2}v = \frac{1}{2}v $$
    上りにかかる時間 \(t_{\text{上り}}\) は、
    $$ t_{\text{上り}} = \frac{l}{v_{\text{上り}}} = \frac{l}{\frac{1}{2}v} = \frac{2l}{v} $$
  2. 下りの場合:
    岸に対する船の速度 \(v_{\text{下り}}\) は、船の進行方向と川の流れが同じ向きなので、
    $$ v_{\text{下り}} = v + \frac{1}{2}v = \frac{3}{2}v $$
    下りにかかる時間 \(t_{\text{下り}}\) は、
    $$ t_{\text{下り}} = \frac{l}{v_{\text{下り}}} = \frac{l}{\frac{3}{2}v} = \frac{2l}{3v} $$

往復時間 \(t_1\) は、これらの和です。
$$ t_1 = t_{\text{上り}} + t_{\text{下り}} $$

使用した物理公式

  • 合成速度(1次元): \(v_{\text{合成}} = v_{\text{物体}} \pm v_{\text{基準}}\)
  • 時間 = 距離 / 速さ
計算過程

$$ t_1 = \frac{2l}{v} + \frac{2l}{3v} $$
共通の分母 \(3v\) で通分します。
$$ t_1 = \frac{3 \times 2l}{3v} + \frac{2l}{3v} = \frac{6l}{3v} + \frac{2l}{3v} $$
$$ t_1 = \frac{6l + 2l}{3v} = \frac{8l}{3v} $$

計算方法の平易な説明

上りは、船が \(v\) の力で進もうとしても、川が \(\frac{1}{2}v\) の力で押し戻すため、実際の速さは \(v – \frac{1}{2}v = \frac{1}{2}v\) となります。距離 \(l\) をこの速さで進むのにかかる時間は \(\frac{l}{v/2} = \frac{2l}{v}\) です。
下りは、船が \(v\) の力で進むのに加え、川が \(\frac{1}{2}v\) の力で後押ししてくれるため、実際の速さは \(v + \frac{1}{2}v = \frac{3}{2}v\) となります。距離 \(l\) をこの速さで進むのにかかる時間は \(\frac{l}{3v/2} = \frac{2l}{3v}\) です。
往復時間はこれらを足し合わせて、\(t_1 = \frac{2l}{v} + \frac{2l}{3v} = \frac{6l+2l}{3v} = \frac{8l}{3v}\) と計算できます。

結論と吟味

川を上り下りして距離 \(l\) を往復するのに要する時間 \(t_1\) は \(\displaystyle \frac{8l}{3v}\) です。単位は \(l\) [m]、\(v\) [m/s] とすると、\(\frac{[\text{m}]}{[\text{m/s}]} = [\text{s}]\) となり、時間の単位として適切です。

解答 (t1) \(\displaystyle t_1 = \frac{8l}{3v}\)

問2:川の横断の往復時間 \(t_2\)

思考の道筋とポイント
船が川の流れに垂直に、つまり対岸に向かってまっすぐ進むためには、船首を上流側に向けて流れの影響を打ち消すように進む必要があります。このとき、船の静水での速さ、川の流速、そして岸に対する船の実際の速度(合成速度)の間に、三平方の定理が成り立つ直角三角形の関係が生まれます。この関係から、川を横断する方向の速度成分を求め、往復時間を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 速度のベクトル的な合成、特に2次元での速度の合成を理解していること。
  • 「川の流れに垂直に進む」とは、岸に対する合成速度の向きが川岸に対して垂直になることを意味する。
  • 三平方の定理を用いて、必要な速度成分を正しく計算できること。

具体的な解説と立式
船が川岸に対して垂直に進むためには、船首を上流側に向ける必要があります。
船の静水での速さを \(v\)、川の流速を \(\frac{1}{2}v\) とします。
岸に対して垂直に進むときの船の速さ(合成速度の川岸に垂直な成分)を \(v_{\text{横断}}\) とすると、これらは直角三角形を形成します。ここで、\(v\) が斜辺、\(\frac{1}{2}v\) が川の流れに平行な速度成分に対応し、\(v_{\text{横断}}\) が川の流れに垂直な速度成分となります。
三平方の定理より、
$$ v_{\text{横断}}^2 + \left(\frac{1}{2}v\right)^2 = v^2 $$
$$ v_{\text{横断}}^2 = v^2 – \frac{1}{4}v^2 = \frac{3}{4}v^2 $$
$$ v_{\text{横断}} = \sqrt{\frac{3}{4}v^2} = \frac{\sqrt{3}}{2}v \quad (v_{\text{横断}} > 0) $$
これが実際に川を横断する速さです。距離 \(l\) をこの速さで片道進むのにかかる時間 \(t_{\text{片道}}\) は、
$$ t_{\text{片道}} = \frac{l}{v_{\text{横断}}} = \frac{l}{\frac{\sqrt{3}}{2}v} = \frac{2l}{\sqrt{3}v} $$
往復時間 \(t_2\) は、この2倍です。
$$ t_2 = 2 \times t_{\text{片道}} $$

使用した物理公式

  • 速度のベクトル合成(2次元)
  • 三平方の定理: \(a^2 + b^2 = c^2\)
  • 時間 = 距離 / 速さ
計算過程

$$ v_{\text{横断}} = \frac{\sqrt{3}}{2}v $$
$$ t_{\text{片道}} = \frac{2l}{\sqrt{3}v} $$
$$ t_2 = 2 \times \frac{2l}{\sqrt{3}v} = \frac{4l}{\sqrt{3}v} $$
分母を有理化すると、
$$ t_2 = \frac{4l \times \sqrt{3}}{\sqrt{3}v \times \sqrt{3}} = \frac{4\sqrt{3}l}{3v} $$

計算方法の平易な説明

船がまっすぐ対岸に渡るためには、川の流れに逆らって船首を少し上流に向ける必要があります。このとき、船自身の速さ \(v\)(斜め上流方向)、川の流れの速さ \(\frac{1}{2}v\)(真横)、そして実際にまっすぐ対岸に進む速さ \(v_{\text{横断}}\)(真向かい方向)の3つで直角三角形ができます。三平方の定理を使うと、\(v_{\text{横断}} = \sqrt{v^2 – (\frac{1}{2}v)^2} = \frac{\sqrt{3}}{2}v\) となります。
距離 \(l\) をこの速さで渡る時間は \(\frac{l}{\frac{\sqrt{3}}{2}v} = \frac{2l}{\sqrt{3}v}\) です。往復なので、これを2倍して \(t_2 = \frac{4l}{\sqrt{3}v}\) となります。

結論と吟味

川の流れに垂直に横断して距離 \(l\) を往復するのに要する時間 \(t_2\) は \(\displaystyle \frac{4l}{\sqrt{3}v}\) (または \(\displaystyle \frac{4\sqrt{3}l}{3v}\)) です。
\(t_1 = \frac{8}{3}\frac{l}{v} \approx 2.667 \frac{l}{v}\)
\(t_2 = \frac{4}{\sqrt{3}}\frac{l}{v} \approx \frac{4}{1.732}\frac{l}{v} \approx 2.309 \frac{l}{v}\)
よって \(t_1 > t_2\) となり、同じ距離 \(l\) の往復でも、川の流れに沿って上り下りする方が、流れを横断する場合よりも時間がかかることが確認できます。これは物理的にも妥当です。

解答 (t2) \(\displaystyle t_2 = \frac{4l}{\sqrt{3}v}\)

問3:出会い問題の時間 \(t_3\)

思考の道筋とポイント
二つの物体が出会うまでの時間を求めるには、一方の物体から見たもう一方の物体の相対速度を考えます。下流に向かう船の岸に対する速度と、上流に向かう自転車の岸に対する速度をまず求め、それらを用いて相対速度を計算します。初期の距離 \(L\) をこの相対速度の大きさで割ることで、出会うまでの時間 \(t_3\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 相対速度の概念を正しく適用すること。特に、互いに逆向きに進む物体の相対速度の大きさは、各々の速さの和になることを理解している。
  • 各物体の速度を、共通の基準(岸)に対する速度として考えること。
  • 「時間 = 距離 / 速さ」の関係を相対運動に適用すること。

具体的な解説と立式

  1. 船の岸に対する速度 (下流向き):
    問1の下りの場合と同様に、
    $$ v_{\text{船岸}} = v + \frac{1}{2}v = \frac{3}{2}v $$
  2. 自転車の岸に対する速度 (上流向き):
    問題文より、速さ \(v\) で上流向き。
    $$ v_{\text{自転車岸}} = v $$

ここで、下流向きを正の方向とします。
船の速度: \(v_{\text{船}} = +\frac{3}{2}v\)
自転車の速度: \(v_{\text{自転車}} = -v\) (上流向きなので負)

自転車から見た船の相対速度 \(v_{\text{相対}}\) は、
$$ v_{\text{相対}} = v_{\text{船}} – v_{\text{自転車}} = \frac{3}{2}v – (-v) = \frac{3}{2}v + v = \frac{5}{2}v $$
この相対速度の大きさは \(\frac{5}{2}v\) で、これは船と自転車が互いに近づく速さを意味します。
初期の距離が \(L\) なので、出会うまでの時間 \(t_3\) は、
$$ t_3 = \frac{\text{相対距離}}{\text{相対速度の大きさ}} = \frac{L}{\frac{5}{2}v} $$

使用した物理公式

  • 合成速度(1次元)
  • 相対速度: \(v_{\text{AB}} = v_{\text{B}} – v_{\text{A}}\)
  • 時間 = 距離 / 速さ
計算過程

相対速度の大きさは \(\frac{5}{2}v\)。
$$ t_3 = \frac{L}{\frac{5}{2}v} = L \times \frac{2}{5v} = \frac{2L}{5v} $$

計算方法の平易な説明

船は岸に対して下流へ \(\frac{3}{2}v\) の速さで進み、自転車は岸に対して上流へ \(v\) の速さで進みます。これらは互いに向かい合って進んでいるので、1秒間に縮まる距離は、それぞれの速さの和、つまり \(\frac{3}{2}v + v = \frac{5}{2}v\) となります。この速さで最初の距離 \(L\) を縮めていくので、出会うまでの時間は \(\frac{L}{\frac{5}{2}v} = \frac{2L}{5v}\) と計算できます。

結論と吟味

出会うまでの時間 \(t_3\) は \(\displaystyle \frac{2L}{5v}\) です。単位は \(L\) [m]、\(v\) [m/s] とすると \(\frac{[\text{m}]}{[\text{m/s}]} = [\text{s}]\) となり、時間の単位として適切です。二つの物体が互いに近づく場合、相対速度の大きさが速さの和になるという直感とも一致しています。

解答 (t3) \(\displaystyle t_3 = \frac{2L}{5v}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 速度の合成 (ベクトル和):
    • 岸に対する船の速度は、静水中の船の速度と川の流速のベクトル和で与えられます。
    • 同じ向きならスカラー的に足し算、逆向きなら引き算、角度を持つ場合はベクトル図を描いて考えることが重要です。本問では、川の横断時に直角三角形の辺の関係として現れました。
    • 本質: 複数の要因が物体の速度に影響を与える場合、それらの影響をベクトルとして足し合わせることで、観測される速度が決まるという物理学の基本原理です。
  • 相対速度 (ベクトル差):
    • 物体Aから見た物体Bの相対速度 \(\vec{v}_{AB}\) は、\(\vec{v}_B – \vec{v}_A\) で与えられます。
    • 向きが重要で、1次元で互いに向かってくる場合は、相対速度の大きさは各々の速さの和になります。
    • 本質: 一つの基準系(例:岸)から見た各物体の速度を元に、一方の物体を基準としたときの他方の物体の運動を記述する便利な方法です。
  • 時間 = 距離 / 速さ:
    • 等速直線運動における基本的な関係式であり、合成速度や相対速度を求めた後に、具体的な時間を計算するために適用します。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 風の中を飛行する航空機の問題(風の速度と飛行機の対気速度の合成、目的地への到達時間など)。
    • エスカレーターや動く歩道上を移動する人の運動(床に対する速度の合成)。
    • 二つの物体が追いかけたり、出会ったり、あるいはすれ違ったりする問題(相対速度の活用が効果的)。
    • 川を最短時間で渡る問題(船首を対岸にまっすぐ向ける場合)、または最短経路で渡る問題(対岸の真向かいの点に到達する場合、本問の \(t_2\) がこれに該当)。
  • 初見の問題への着眼点:
    1. 基準となる座標系(何に対する速度か)を明確にする: 「岸に対する速度」「静水に対する船の速度」「空気に対する飛行機の速度」など、どの速度について議論しているのかを常に意識します。
    2. 速度ベクトルを図示する習慣をつける: 特に角度が関わる2次元の運動では、速度ベクトル図を描くことで、合成や分解の関係を視覚的に捉え、立式ミスを防ぐことができます。
    3. 「合成速度」か「相対速度」か、問題の要求を見極める: 何を求めたいのかによって、速度の合成を用いるのか、相対速度を用いるのかを的確に判断します。(例:岸から見た運動の様子を知りたい場合は合成速度、一方の物体から見た他方の運動の様子を知りたい場合は相対速度)。
    4. 運動の次元を意識する: 運動が1次元(直線上)か2次元(平面上)かで、ベクトルの扱い方(符号での表現か、成分分解やベクトル図か)が変わることを理解しておきます。
  • ヒント・注意点:
    • ベクトルの向きは常に重要です。1次元なら正負の符号で、2次元なら図や角度で明確に表現しましょう。
    • 三平方の定理や三角比は、速度のベクトル分解・合成において頻繁に用いられる数学的ツールです。
    • 「出会う」「追い越す」「最も近づく」といったキーワードが出てきたら、相対速度の利用を検討すると問題がシンプルになることが多いです。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 合成速度と相対速度の定義の混同:
    • 対策: それぞれの定義(合成速度はベクトルの和、相対速度はベクトルの差)と、どのような物理的状況で使われるのかを明確に区別して理解しましょう。「岸から見てどう動くか」は合成速度、「Aから見てBがどう動くか」は相対速度です。
  • ベクトルの向きの考慮漏れ、特に符号ミス:
    • 対策: 1次元の運動では、座標軸を設定し、各速度ベクトルの向きを正負の符号で一貫して表す習慣をつけましょう。2次元の場合は、ベクトル図を描くことが有効です。
  • 川を垂直に横断する場合の船首の向きの誤解:
    • 対策: 船首を対岸の目標地点にまっすぐ向けても、川の流れによって下流に流されてしまいます。流れに垂直に進むためには、船首を上流側に向ける必要があることを、速度のベクトル合成図を描いて視覚的に理解しましょう。
  • 相対速度の計算における引き算の順序ミス: \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\) (Aから見たBの相対速度)という定義を正確に覚えましょう。
    • 対策: 「〜から見た〜の速度」という言葉の順序と、式の引き算の順序(引かれるベクトルと引くベクトル)を関連付けて覚えるのがコツです。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題で有効だった図の活用法:
    1. 川の上り下りの速度ベクトル図: 船の速度と川の速度をそれぞれ矢印で示し、それらを合成した結果(岸に対する速度)の大きさと向きを明確にすることで、計算の方向性が定まります。
    2. 川を横断する際の速度ベクトル図(直角三角形の活用): 船の静水での速度(斜辺として描く)、川の流速(川の流れに平行な一辺として描く)、そして岸に対する合成速度の垂直成分(川の流れに垂直なもう一辺として描く)を正確に図示することで、三平方の定理の適用や船首を向けるべき角度の理解が格段に容易になります。
    3. 出会い問題における相対運動の図: 各物体の岸に対する速度ベクトルを同じ基準(例:岸を表す直線)上に描き、相対速度の概念を適用する際の思考の助けとします。特に互いに向かってくる場合は、速度の矢印が向き合っている様子から、相対速度の大きさが速さの和になることを直感的に捉えやすくなります。
  • 図を描く際に注意すべき共通のポイント:
    • ベクトルの矢印の「始点」を適切に配置する(場合によっては揃えて描くことで関係性が明確になる)。
    • 各ベクトルの「向き」を正確に示し、「相対的な長さ」で速さの大小関係を表現するよう心がける。
    • 必要に応じて座標軸を設定し、それに対する各ベクトルの向き(角度や成分)を明示する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(v_{\text{合成}} = v_{\text{船}} \pm v_{\text{川}}\) (1次元の速度合成):
    • 選択理由: 川の上り下りのように、船の運動と川の流れが同じ直線上(または逆向き)で起こる場合。
    • 適用根拠: 岸という共通の基準系から見て、二つの速度が単純な加減算で合成できるため。
  • \(v_{\text{横断}}^2 + (\frac{1}{2}v)^2 = v^2\) (三平方の定理を速度ベクトルに適用):
    • 選択理由: 川を垂直に横断する際、船の静水中の速さ、川の流速、岸に対する実効的な横断速度が直角三角形を形成する場合。
    • 適用根拠: 速度がベクトル量であり、互いに直角な速度成分の合成には三平方の定理が適用できるため。
  • \(v_{\text{相対}} = v_{\text{船}} – v_{\text{自転車}}\) (相対速度の定義式):
    • 選択理由: 一方の物体(例:自転車)から見たもう一方の物体(例:船)の運動を記述し、出会いの時間を求める場合。
    • 適用根拠: 相対速度の基本的な定義であり、一方の基準系を固定してみたときの他方の運動を表すため。
  • \(t = \frac{d}{v}\) (時間 = 距離 ÷ 速さ):
    • 選択理由: 各状況で実効的な速さ(合成速度や相対速度の大きさ)と移動すべき距離が分かった後、所要時間を計算する場合。
    • 適用根拠: 等速直線運動(または、ある区間を一定の速さで移動するとみなせる場合)における時間、距離、速さの普遍的な関係式であるため。

これらの公式選択とその適用根拠を自問自答しながら問題を解くことで、物理法則への理解が深まります。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 現象の分析と物理モデルの選択:
    • \(t_1\) (上り下り): 川の流れが船の岸に対する速度にどう影響するかを分析 \(\rightarrow\) 1次元の速度合成モデルを選択。
    • \(t_2\) (横断): 岸に対して垂直に進むための条件を考察 \(\rightarrow\) 2次元の速度合成モデル(特に直角三角形)を選択。
    • \(t_3\) (出会い): 二つの物体間の相対的な運動に着目 \(\rightarrow\) 相対速度のモデルを選択。
  2. 必要な物理量の定義と具体的表現:
    • 各状況における「岸に対する船の速度」、「岸に対する自転車の速度」、「相対速度」などを、問題文で与えられた記号(\(v, l, L\) など)を用いて具体的に数式で表現する。
  3. 基本公式への適用と立式:
    • 上記で計算(または表現)した実効的な速さと、与えられた距離(または相対距離)を用いて、「時間 = 距離 / 速さ」の形に持ち込み、求める時間についての方程式を立てる。
  4. 代数計算の正確な実行:
    • 立てた方程式を解くために、分数の計算、平方根の計算、通分、式の整理などを、計算ミスがないように慎重に行う。

この一連の論理的な流れを意識することで、複雑に見える問題も段階的に解決へと導くことができます。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 分数の扱いの習熟: 特に分母に分数が入る「繁分数」の形(例: \(\frac{l}{(\frac{1}{2}v)}\))では、慌てずに逆数を掛ける操作(例: \(l \times \frac{2}{v}\))を丁寧に行いましょう。
  • 平方根の計算の正確性: \(\sqrt{A^2 – B^2}\) のような形では、\(A^2\) と \(B^2\) をそれぞれ正確に計算し、引き算を行った後に平方根を取るという手順を確実に踏みましょう。例えば、\(\sqrt{v^2 – (\frac{1}{2}v)^2} = \sqrt{v^2 – \frac{1}{4}v^2} = \sqrt{\frac{3}{4}v^2} = \frac{\sqrt{3}}{2}v\) のように、二乗の展開や係数の処理を一つ一つ段階的に行うことが大切です。
  • 通分計算の確実性: \(t_1\) の計算における \(\frac{2l}{v} + \frac{2l}{3v}\) のような分数の和では、分母の最小公倍数を正しく見つけ、各項の分子分母に適切な数を掛けて通分する基本操作を丁寧に行います。
  • 文字式の整理と確認: \(l\) や \(v\) などの物理量を表す文字記号を、計算途中で誤って消してしまったり、別の文字と混同したりしないように、最後まで注意深く扱い、整理します。
  • 単位による検算の習慣: 式の各項や最終的な結果の単位が、求めようとしている物理量の単位と一致しているか(例:時間を求めているなら単位は秒[s]になるはず)を確認することで、立式の誤りや大きな計算ミスに気づくことがあります。

日頃から途中式を丁寧に書き、計算の各ステップを確認する習慣をつけることが、ミスを減らす最も効果的な方法です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直観との整合性確認:
    • \(t_1\) と \(t_2\) の大小関係: 川の流れの影響を考えると、流れに沿って進む上り下り(\(t_1\))と、流れを横切る運動(\(t_2\))では、どちらがより時間がかかりそうか?(本問では \(t_1 > t_2\) となり、流れの抵抗を直接受ける上りの影響で \(t_1\) が長くなるのは直感的に妥当です)。
    • 極端な条件での振る舞いの考察: 例えば、もし川の流速が \(0\) (\(\frac{1}{2}v \rightarrow 0\)) だったら、\(t_1\) と \(t_2\) はどうなるべきか?
      • \(t_1 \rightarrow \frac{l}{v} + \frac{l}{v} = \frac{2l}{v}\)
      • \(t_2 \rightarrow \frac{l}{v} \times 2 = \frac{2l}{v}\)

      となり、両者が一致するのは物理的に正しい(静水中の往復と同じになる)ため、元の式の妥当性を裏付けます。

    • 相対速度を用いた \(t_3\) の結果が、二物体が互いに近づく速さ(速さの和)で初期距離を割るという、出会い問題の基本的な考え方と合致しているかを確認します。
  • 数値のオーダー感覚 (もし具体的な数値があれば): もし問題に具体的な数値(距離や速さ)が与えられていれば、計算結果が現実離れした極端に大きな値や小さな値になっていないか、大まかなオーダー(桁数)を確認します。
  • 各物理量への依存性の確認: 計算結果(時間 \(t_1, t_2, t_3\))が、与えられた物理量(距離 \(l, L\)、速さ \(v\))に対してどのように依存しているか(例:距離に比例するか、速さに反比例するかなど)が、物理的に自然であるかどうかを考察します。本問では全ての時間が距離に比例し、速さに反比例しており、これは妥当です。

これらの吟味を行うことで、計算ミスを発見したり、物理現象への理解をより深めたりすることができます。

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問題4 (九州工大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、水平投射された小球が滑らかな水平面で一度はね返り、再び放物運動をするという、複数の運動フェーズからなる問題です。水平投射の基本(水平方向は等速直線運動、鉛直方向は自由落下)、および床面との衝突における反発係数の扱いがポイントとなります。各運動区間と衝突の瞬間において、速度の水平成分と鉛直成分を分けて考えることが重要です。

与えられた条件
  • 小球は、滑らかな水平面の点Aの真上、高さ \(h\) の点Bから、初速 \(v_{\text{初}}\) で水平方向に投げ出される。
  • 小球は水平面の点Cではね返り、次に落下した点をDとする。
  • 小球と水平面との反発係数(はね返り係数)は \(e\)。
  • 重力加速度の大きさを \(g\) とする。
  • 問(2), (3)では、速度の水平成分は右向きを正、鉛直成分は上向きを正とする。
問われていること
  1. 点Bから点Cに落下するまでの時間 \(t_1\) と、AC間の距離。
  2. 点Cに落下する直前の、速度の水平成分と鉛直成分。
  3. 点Cではね返った直後の、速度の水平成分と鉛直成分。
  4. CD間での最高点の高さ \(H\)(C点を基準とした高さ)。
  5. 点Cから点Dに達するまでの時間 \(t_2\) と、CD間の距離。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は、「放物運動」と「衝突・反発」という2つの重要な物理現象を組み合わせたものです。それぞれの現象における基本的な法則を理解し、適用していくことが求められます。

  • 放物運動: 物体を投げ出した後の運動で、空気抵抗を無視すれば、水平方向には常に一定の速度で進む「等速直線運動」、鉛直方向には重力の影響のみを受けて運動する「等加速度直線運動」(初速度の向きや有無により自由落下、鉛直投げ上げ、鉛直投げ下ろしなど)となります。重要なのは、これら水平方向と鉛直方向の運動は互いに影響を与えず独立しているとして扱える「運動の独立性」です。
  • 衝突と反発係数: 物体が床や壁と衝突する際、衝突後の速度がどのように変化するかを示すのが反発係数 \(e\) です。特に滑らかな水平面との衝突では、
    • 水平方向の速度成分は変化しません。
    • 鉛直方向の速度成分は、衝突直前の速さの大きさを \(|v_y|\) とすると、衝突直後の速さの大きさは \(e|v_y|\) となり、向きは衝突前と逆(床から離れる向き)になります。

これらの基本事項を念頭に置き、運動の各段階を丁寧に追っていきましょう。

問1:点Bから点Cに落下するまでの時間 \(t_1\) と、AC間の距離

思考の道筋とポイント
小球は点Bから初速 \(v_{\text{初}}\) で水平方向に投げ出されます。この運動は、水平方向と鉛直方向に分けて考えます。

  • 鉛直方向: 初速度の鉛直成分は \(0\) であり、高さ \(h\) を自由落下する運動と見なせます。この落下時間 \(t_1\) を求めます。
  • 水平方向: 初速度 \(v_{\text{初}}\) の等速直線運動をします。時間 \(t_1\) の間に進む水平距離がAC間の距離となります。

この設問における重要なポイント

  • 水平投射の運動を、水平方向と鉛直方向に分解して考察する。
  • 鉛直方向の運動は、初速度 \(0\) の自由落下として扱う。
  • 水平方向の運動は、初速度 \(v_{\text{初}}\) の等速直線運動として扱う。
  • 両方向の運動に共通するパラメータは時間 \(t_1\) である。

具体的な解説と立式

  1. 鉛直方向の運動 (自由落下) から時間 \(t_1\) を求める:
    初速度の鉛直成分 \(v_{\text{初}y} = 0\)、落下距離 \(h\)、重力加速度の大きさを \(g\)。
    自由落下の公式 \(y = v_{\text{初}y}t + \frac{1}{2}at^2\) において、下向きを正とすると \(y=h\), \(v_{\text{初}y}=0\), \(a=g\) なので、
    $$ h = (0)t_1 + \frac{1}{2}gt_1^2 = \frac{1}{2}gt_1^2 $$
    これを \(t_1\) について解きます。
  2. 水平方向の運動 (等速直線運動) からAC間の距離を求める:
    水平方向の初速度は \(v_{\text{初}}\) で、この速度は運動中一定です。時間 \(t_1\) の間に進む水平距離がACなので、
    $$ \text{AC} = v_{\text{初}} \times t_1 $$

使用した物理公式

  • 自由落下(鉛直方向の変位): \(h = \frac{1}{2}gt^2\) (初速 \(0\)、下向き正の場合)
  • 等速直線運動(水平方向の距離): 距離 = 速さ × 時間
計算過程

まず、時間 \(t_1\) を求めます。
$$ h = \frac{1}{2}gt_1^2 $$
両辺を \(2\) 倍して \(g\) で割ると、
$$ t_1^2 = \frac{2h}{g} $$
時間は正なので、
$$ t_1 = \sqrt{\frac{2h}{g}} $$
次に、この \(t_1\) を用いてAC間の距離を求めます。
$$ \text{AC} = v_{\text{初}} t_1 = v_{\text{初}} \sqrt{\frac{2h}{g}} $$

計算方法の平易な説明

小球が点Bから水平に投げ出されて点Cに落ちるまでの運動を考えます。
まず、縦の動き(鉛直方向)に注目すると、これは高さ \(h\) の位置から初速度 \(0\) で真下に落ちる「自由落下」と同じです。物が高さ \(h\) を自由落下するのにかかる時間は、公式から \(\sqrt{\frac{2h}{g}}\) と計算できます。これが \(t_1\) です。
次に、横の動き(水平方向)に注目すると、最初に与えられた速さ \(v_{\text{初}}\) のままずっと進み続けます(等速直線運動)。したがって、AC間の距離は、この水平の速さ \(v_{\text{初}}\) と、落下にかかった時間 \(t_1\) を掛け合わせることで、\(v_{\text{初}} \times t_1\) として求められます。

結論と吟味

点Bから点Cに落下するまでの時間 \(t_1 = \displaystyle\sqrt{\frac{2h}{g}}\)、AC間の距離は \(\displaystyle v_{\text{初}} \sqrt{\frac{2h}{g}}\) です。
これらの結果の単位を確認すると、\(h\)[\(\text{m}\)], \(g\)[\(\text{m/s}^2\)] から \(t_1\) の単位は \([\text{s}]\) となり、また \(v_{\text{初}}\)[\(\text{m/s}\)] と \(t_1\)[\(\text{s}\)] からAC間の距離の単位は \([\text{m}]\) となり、それぞれ時間と距離の単位として物理的に正しいことがわかります。

解答 (1) 時間 \(t_1 = \displaystyle\sqrt{\frac{2h}{g}}\),AC間の距離 \(= \displaystyle v_{\text{初}} \sqrt{\frac{2h}{g}}\)

問2:点Cに落下する直前の速度の水平・鉛直成分

思考の道筋とポイント
点Cに落下する直前の速度を、水平成分と鉛直成分に分けて求めます。座標軸の指定(水平右向き正、鉛直上向き正)に注意します。

  • 水平成分 \(v_{Cx}\): 水平方向には力が働かない(空気抵抗無視)ため、初速度 \(v_{\text{初}}\) のまま変化しません。
  • 鉛直成分 \(v_{Cy}\): 鉛直方向は自由落下なので、時間 \(t_1\) 後の速度を計算します。初速度 \(0\)、加速度 \(g\)(下向き)です。

この設問における重要なポイント

  • 水平投射において、水平方向の速度成分は運動中常に一定であること。
  • 鉛直方向の速度成分は、自由落下の速度の公式 \(v_y = v_{\text{初}y} + at\) (この場合、初速 \(0\)、加速度 \(g\) (下向き))で計算できること。
  • 問題で指定された座標軸の正の向き(水平右向き正、鉛直上向き正)に従って、各速度成分の符号を正しく決定すること。

具体的な解説と立式
速度の水平成分は右向きを正、鉛直成分は上向きを正とします。

  1. 水平成分 \(v_{Cx}\):
    水平方向には初速度 \(v_{\text{初}}\) (右向き) で投げ出され、その後水平方向には力が働かないため、速度は常に \(v_{\text{初}}\) で一定です。
    $$ v_{Cx} = v_{\text{初}} $$
  2. 鉛直成分 \(v_{Cy}\):
    鉛直方向は初速度 \(0\) で自由落下します。時間 \(t_1\) 後の鉛直方向の速さの大きさは \(gt_1\) です。落下する向き(下向き)なので、上向きを正とすると負の符号がつきます。
    $$ v_{Cy} = -gt_1 $$
    ここで、問1で求めた \(t_1 = \sqrt{\frac{2h}{g}}\) を代入します。
    $$ v_{Cy} = -g \sqrt{\frac{2h}{g}} = -\sqrt{g^2 \cdot \frac{2h}{g}} = -\sqrt{2gh} $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動(水平速度): \(v_x = v_{\text{初}}\) (常に一定)
  • 自由落下(鉛直速度): \(v_y = gt\) (速さの大きさ、時間 \(t\) 後)。符号は座標軸による。
計算過程

水平成分:
$$ v_{Cx} = v_{\text{初}} $$
鉛直成分:
$$ v_{Cy} = -gt_1 $$
\(t_1 = \sqrt{\frac{2h}{g}}\) を代入して、
$$ v_{Cy} = -g \sqrt{\frac{2h}{g}} = -\sqrt{g^2 \cdot \frac{2h}{g}} = -\sqrt{g \cdot 2h} = -\sqrt{2gh} $$

計算方法の平易な説明

小球が点Cの床にぶつかる直前の速さを、横方向と縦方向に分けて考えます。
横方向の速さは、最初に投げたときの速さ \(v_{\text{初}}\) からずっと変わりません。問題の指定で右向きが正なので、これは \(+v_{\text{初}}\) です。
縦方向の速さは、自由落下によってだんだん速くなります。\(t_1\) 秒間落下したときの速さの「大きさ」は \(gt_1\) です。\(t_1 = \sqrt{2h/g}\) なので、速さの大きさは \(g\sqrt{2h/g} = \sqrt{2gh}\) となります。この瞬間、小球は下向きに動いているので、問題の指定で上向きが正とされているため、縦方向の速度成分は \(-\sqrt{2gh}\) となります。

結論と吟味

点Cに落下する直前の速度の水平成分は \(v_{\text{初}}\)、鉛直成分は \(-\sqrt{2gh}\) です。鉛直成分が負の値であることは、小球が下向きに落下しているという物理的な状況と一致しています。

解答 (2) 水平成分: \(v_{\text{初}}\),鉛直成分: \(-\sqrt{2gh}\)

問3:点Cではね返った直後の速度の水平・鉛直成分

思考の道筋とポイント
小球と水平面との衝突を考えます。反発係数は \(e\) です。

  • 水平成分 \(v’_{Cx}\): 滑らかな水平面との衝突では、水平方向の速度成分は変化しません。
  • 鉛直成分 \(v’_{Cy}\): 鉛直方向の速度成分は、衝突直前の鉛直成分の速さの大きさが \(e\) 倍になり、向きが逆転します(床から離れる向き、つまり上向き)。

問2で求めた衝突直前の速度成分と、座標軸の指定(水平右向き正、鉛直上向き正)を用います。

この設問における重要なポイント

  • 反発係数 \(e\) の定義を正しく理解し、適用すること。
  • 衝突において、面に平行な速度成分(ここでは水平成分)は変化せず、面に垂直な速度成分(ここでは鉛直成分)の大きさが \(e\) 倍になり、向きが反転することを把握している。
  • 座標軸の正の向きに従って、はね返り後の速度成分の符号を決定する。

具体的な解説と立式
問2より、点Cに衝突する直前の速度成分は \(v_{Cx} = v_{\text{初}}\)、\(v_{Cy} = -\sqrt{2gh}\) です。

  1. 水平成分 \(v’_{Cx}\):
    水平面は滑らかであるため、衝突によって水平方向の速度成分は変化しません。
    $$ v’_{Cx} = v_{Cx} = v_{\text{初}} $$
  2. 鉛直成分 \(v’_{Cy}\):
    衝突直前の鉛直方向の速度の「大きさ」は \(|v_{Cy}| = |-\sqrt{2gh}| = \sqrt{2gh}\) です。
    反発係数が \(e\) なので、衝突直後の鉛直方向の速度の「大きさ」は、この \(e\) 倍になります: \(e\sqrt{2gh}\)。
    衝突後は上向きにはね返るため、鉛直成分の符号は正となります。
    $$ v’_{Cy} = e\sqrt{2gh} $$
使用した物理公式
衝突における速度変化(反発係数 \(e\)):

  • 面に平行な成分: \(v’_x = v_x\) (変化なし)
  • 面に垂直な成分: \(|v’_y| = e |v_y|\) かつ向きが逆転。座標軸を考慮すると \(v’_y = -e v_y\)。(ここで \(v_y\) は衝突直前の垂直成分 \(-\sqrt{2gh}\))。
    \(v’_y = -e (-\sqrt{2gh}) = e\sqrt{2gh}\)
計算過程

水平成分:
$$ v’_{Cx} = v_{\text{初}} $$
鉛直成分:
衝突直前の鉛直速度 \(v_{Cy} = -\sqrt{2gh}\)。
衝突直後の鉛直速度 \(v’_{Cy}\) は、向きが反転し、大きさが \(e\) 倍になるので、
$$ v’_{Cy} = -e \times v_{Cy} = -e \times (-\sqrt{2gh}) = e\sqrt{2gh} $$

計算方法の平易な説明

小球が点Cの床ではね返った直後の速さを、横方向と縦方向に分けて考えます。
横方向の速さは、床とぶつかっても滑らかなので変わりません。したがって、\(v_{\text{初}}\) のままです。
縦方向の速さは変わります。ぶつかる直前は下向きに \(\sqrt{2gh}\) の速さの大きさでした。はね返り係数が \(e\) なので、はね返った直後の縦方向の速さの「大きさ」は、\(e \times \sqrt{2gh}\) になります。そして、向きは下向きから上向きに変わります。問題の指定で上向きが正なので、縦方向の速度成分は \(+e\sqrt{2gh}\) となります。

結論と吟味

点Cではね返った直後の速度の水平成分は \(v_{\text{初}}\)、鉛直成分は \(e\sqrt{2gh}\) です。鉛直成分が正の値であることは、小球が上向きにはね返るという物理的な状況と一致しています。また、反発係数 \(e\) は通常 \(0 \le e \le 1\) の値を取るため、はね返り後の鉛直方向の速さの大きさは、はね返り前の速さの大きさ以下になることも物理的に妥当です。

解答 (3) 水平成分: \(v_{\text{初}}\),鉛直成分: \(e\sqrt{2gh}\)

問4:CD間での最高点の高さ \(H\) を求めよ。(Cを基準とした高さ)

思考の道筋とポイント
点Cではね返った小球は、新たな初速度(問3で求めた \(v’_{Cx}\) と \(v’_{Cy}\))をもって再び放物運動(斜方投射に近い形)をします。この運動における最高点の高さ \(H\) を、点Cを基準(高さ \(0\))として求めます。
鉛直方向の運動に着目します。最高点では、速度の鉛直成分が一時的に \(0\) になります。
鉛直方向の初速度 \(v’_{Cy} = e\sqrt{2gh}\)、最高点での鉛直方向の速度 \(0\)、重力加速度(上向きを正とすると \(-g\))を用いて、時間を含まない等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\) から最高点の高さ \(H\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • はね返り後の運動を、新たな初期条件での放物運動として捉える。
  • 鉛直投げ上げ運動において、最高点では鉛直方向の速度成分が \(0\) になるという条件を理解している。
  • 時間に関する情報が直接必要ないため、\(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\) の公式を選択するのが適切であると判断する。
  • 座標軸の定義(上向き正)に基づき、重力加速度の符号を \(-g\) として正しく扱う。

具体的な解説と立式
点Cを基準の高さ \(y=0\) とします。
点Cを飛び出した直後の鉛直方向の初速度は、問3より \(v_{\text{初}y,CD} = v’_{Cy} = e\sqrt{2gh}\)。
最高点では、鉛直方向の速度 \(v_{\text{終}y,CD}\) は \(0\) になります。
鉛直方向の加速度は \(a_y = -g\)(上向きを正としているため、重力加速度は負)。
最高点の高さを \(H\) とします。
等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\) を鉛直方向の運動に適用すると、
$$ (v_{\text{終}y,CD})^2 – (v_{\text{初}y,CD})^2 = 2 a_y H $$
$$ (0)^2 – (e\sqrt{2gh})^2 = 2(-g)H $$

使用した物理公式
等加速度直線運動(速度と変位、鉛直方向): \(v_{\text{終}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\)
計算過程

$$ 0^2 – (e\sqrt{2gh})^2 = 2(-g)H $$
$$ -(e^2 \cdot 2gh) = -2gH $$
両辺を \(-2g\) で割ります (\(g \ne 0\) なので)。
$$ H = \frac{e^2 \cdot 2gh}{2g} $$
$$ H = e^2h $$

計算方法の平易な説明

点Cからはね返った後、小球は上向きに飛び出し、ある高さで一瞬だけ縦方向の速さが \(0\) になります。この一番高い地点の高さを \(H\)(点Cからの高さ)とします。
はね返った直後の上向きの速さは \(e\sqrt{2gh}\) でした。最高点では縦方向の速さは \(0\) です。この間の縦の動きは、重力(下向きに加速度 \(g\))の影響を受けます。
「\((\text{終わりの縦の速さ})^2 – (\text{初めの縦の速さ})^2 = 2 \times (\text{縦の加速度}) \times (\text{縦の移動距離})\)」という公式を使います。
上向きを正とすると、縦の加速度は \(-g\) です。
\(0^2 – (e\sqrt{2gh})^2 = 2 \times (-g) \times H\)
これを \(H\) について解くと、\(-e^2 \cdot 2gh = -2gH\) となり、\(H = e^2h\) が得られます。

結論と吟味

CD間での最高点の高さ \(H\) (C点基準) は \(e^2h\) です。
反発係数 \(e\) は \(0 \le e \le 1\) なので、\(e^2\) も \(0 \le e^2 \le 1\) です。したがって、\(H \le h\) となり、はね返り後の最高点は、最初の投射点の高さ \(h\) を超えることはない(\(e=1\) の完全弾性衝突の場合にのみ同じ高さ \(h\) まで戻る)という物理的に妥当な結果が得られます。

解答 (4) \(H = e^2h\)

問5:点Cから点Dに達するまでの時間 \(t_2\) と、CD間の距離

思考の道筋とポイント
点Cから点Dまでの運動は、点Cを原点とし、問3で求めたはね返り直後の速度を初速度とする放物運動です。

  • 時間 \(t_2\): 鉛直方向の運動に着目します。点C(高さ \(0\))から鉛直上向きの初速度 \(v’_{Cy} = e\sqrt{2gh}\) で投げ上げられ、重力加速度 \(-g\) の影響を受けて運動し、再び高さ \(0\) の点D(の鉛直位置)に戻ってくるまでの時間を求めます。これは、鉛直投げ上げ運動で、元の高さに戻ってくるまでの時間を計算するのと同じです。公式 \(y = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\) を用いて \(t_2\) を求めます。
    あるいは、対称性から、最高点まで上がる時間と、最高点から同じ高さまで下りる時間は等しいので、(4)の途中で計算できる最高点までの時間を2倍する方法も有効です。
  • 距離 CD: 水平方向は、はね返り直後の水平速度 \(v’_{Cx} = v_{\text{初}}\) の等速直線運動をします。この速度で時間 \(t_2\) の間に進む水平距離がCD間の距離となります。

この設問における重要なポイント

  • 鉛直投げ上げ運動において、元の高さに戻るまでの時間を計算する方法を理解している(変位が \(0\) となる条件を用いる)。
  • 放物運動の対称性を利用できる(上昇時間と下降時間が等しい)。
  • 水平方向の運動は、その区間の滞空時間と一定の水平速度で決まる。

具体的な解説と立式

  1. 時間 \(t_2\) (点Cから点Dまでの滞空時間):
    点Cを原点 (\(y=0\)) とし、鉛直上向きを正とします。
    鉛直方向の初速度: \(v_{\text{初}y,CD} = v’_{Cy} = e\sqrt{2gh}\)
    鉛直方向の加速度: \(a_y = -g\)
    点Dに達したとき、再び鉛直方向の変位は \(y=0\) となります。
    等加速度直線運動の公式 \(y = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\) を用いると、
    $$ 0 = (e\sqrt{2gh})t_2 + \frac{1}{2}(-g)t_2^2 $$
    $$ 0 = e\sqrt{2gh}t_2 – \frac{1}{2}gt_2^2 $$
    \(t_2 \ne 0\) ( \(t_2=0\) は点Cの瞬間) なので、両辺を \(t_2\) で割ることができます。
    $$ 0 = e\sqrt{2gh} – \frac{1}{2}gt_2 $$
    これを \(t_2\) について解きます。
  2. CD間の距離:
    水平方向の速度は \(v_{\text{初}}\) (一定) です。時間 \(t_2\) で進む水平距離なので、
    $$ \text{CD} = v_{\text{初}} \times t_2 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動(鉛直方向の変位と時間): \(y = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\)
  • 等速直線運動(水平方向の距離): 距離 = 速さ × 時間
計算過程

まず、時間 \(t_2\) を求めます。
$$ 0 = e\sqrt{2gh} – \frac{1}{2}gt_2 $$
$$ \frac{1}{2}gt_2 = e\sqrt{2gh} $$
$$ t_2 = \frac{2e\sqrt{2gh}}{g} $$
この式は、\(g = \sqrt{g^2}\) を利用して変形すると、
$$ t_2 = 2e\sqrt{\frac{2gh}{g^2}} = 2e\sqrt{\frac{2h}{g}} $$
次に、CD間の距離を求めます。
$$ \text{CD} = v_{\text{初}} t_2 = v_{\text{初}} \left( 2e\sqrt{\frac{2h}{g}} \right) = 2ev_{\text{初}}\sqrt{\frac{2h}{g}} $$

計算方法の平易な説明

小球が点Cからはね返ってから点Dに落ちるまでの運動を考えます。
まず、空中にいる時間 \(t_2\) を求めます。これは、点C(高さ0)から上向きに飛び出し、再び同じ高さ(点D、高さ0)に戻ってくるまでの時間です。
縦の動きだけを見ると、初めの速さが \(e\sqrt{2gh}\) で上に投げ上げられ、重力(下向きに加速度 \(g\))によって減速・加速して戻ってくる運動です。この「行って戻ってくる」時間は、「\(2 \times (\text{鉛直初速度}) \div g\)」で計算できます(あるいは、最高点までの時間を求めて2倍します)。
したがって、\(t_2 = \frac{2 \times e\sqrt{2gh}}{g}\) となります。この式は \(2e\sqrt{\frac{2h}{g}}\) とも書けます。
横の動きは、ずっと速さ \(v_{\text{初}}\) のままです。なので、CD間の距離は、この水平の速さ \(v_{\text{初}}\) と、空中にいた時間 \(t_2\) を掛け合わせて、\(v_{\text{初}} \times t_2\) として求められます。

結論と吟味

点Cから点Dに達するまでの時間 \(t_2 = \displaystyle 2e\sqrt{\frac{2h}{g}}\)、CD間の距離は \(\displaystyle 2ev_{\text{初}}\sqrt{\frac{2h}{g}}\) です。
時間 \(t_2\) は、最初の落下時間 \(t_1 = \sqrt{\frac{2h}{g}}\) と比較すると \(t_2 = 2e \cdot t_1\) という関係になっています。これは、鉛直方向の初速度の大きさが \(e\) 倍になり、かつ上昇と下降の対称性から滞空時間が最初の自由落下時間の \(2e\) 倍(正確には、上昇時間 \(et_1\) + 下降時間 \(et_1\))となることを示唆しており、物理的に整合性があります。
CD間の距離は、水平速度 \(v_{\text{初}}\) が一定であるため、滞空時間 \(t_2\) に比例し、\(\text{CD} = v_{\text{初}} t_2 = v_{\text{初}} (2et_1) = 2e \times (v_{\text{初}} t_1) = 2e \times \text{AC}\) となり、AC間の距離の \(2e\) 倍となります。これも妥当な結果です。

解答 (5) 時間 \(t_2 = \displaystyle 2e\sqrt{\frac{2h}{g}}\),CD間の距離 \(= \displaystyle 2ev_{\text{初}}\sqrt{\frac{2h}{g}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 放物運動における運動の独立性:
    • 水平方向の運動: 外力が働かなければ(空気抵抗無視)、初速度の水平成分を保ったままの等速直線運動となります。
    • 鉛直方向の運動: 重力のみが働き、一定の加速度 \(g\) での等加速度直線運動となります(自由落下、鉛直投げ上げ・投げ下ろし)。
    • 本質: これら二つの方向の運動は互いに影響を与えず、独立して扱うことができるという、放物運動解析の基本原則です。共通のパラメータは時間 \(t\) です。
  • 衝突と反発係数 \(e\) の正確な理解と適用:
    • 面に平行な速度成分: 滑らかな面との衝突では変化しません。
    • 面に垂直な速度成分: 衝突直後の速度の「大きさ」は、衝突直前の速度の「大きさ」の \(e\) 倍になり、向きは衝突前と逆向きになります。数式で表現すると、衝突面から離れる向きを正とした場合、衝突直前の垂直成分を \(v_y\)、衝突直後の垂直成分を \(v’_y\) とすると \(v’_y = -e v_y\) となります(\(v_y\) が衝突面に向かう向きなら負となるため、結果的に \(v’_y\) は正の向きかつ大きさ \(e|v_y|\) となる)。
    • 本質: 反発係数は、衝突の際のエネルギー散逸の度合いを巨視的に示す指標であり、\(0 \le e \le 1\) の範囲の値を取ります。\(e=1\) なら完全弾性衝突(力学的エネルギー保存)、\(e=0\) なら完全非弾性衝突(くっつく、またははね返らない)を意味します。
  • 等加速度直線運動の各種公式の適切な選択と使用:
    • \(v = v_{\text{初}} + at\) (速度と時間の関係)
    • \(x = v_{\text{初}} t + \frac{1}{2}at^2\) (変位と時間の関係)
    • \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ax\) (速度と変位の関係、時間を含まない式)
    • 本質: 加速度が一定であるという条件下での、物体の速度・位置・時間の関係を記述する基本的なツールです。問題の条件(何が既知で、何を求めたいか)に応じて、これらの公式を適切に使い分ける能力が重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 斜めに投げ出した小球が壁や床、あるいは複数の面と連続して衝突するような、より複雑なバウンドの問題。
    • ビリヤードの球の運動のように、回転や摩擦が関わる衝突(本問では無視)。
    • 反発係数が \(1\) ではない(非弾性衝突)場合の力学的エネルギーの変化を問う問題。
    • 空気抵抗を考慮に入れた、より現実的な放物運動の解析(通常は高校範囲を超えるが、近似的な扱いをすることもある)。
  • 初見の問題への着眼点:
    1. 運動のフェーズ(区間)を明確に分割する: 投射から最初の衝突まで、衝突の瞬間、衝突直後から次の運動終了(例:再度の落下、最高点到達など)まで、というように運動を時間的・空間的に区切って考えます。
    2. 各フェーズにおける運動の種類を特定する: 分割した各フェーズが、水平投射、斜方投射(あるいはその一部としての鉛直投げ上げ、自由落下など)、等速直線運動のいずれに該当するのかを正確に判断します。
    3. 衝突点における速度変化のルールを正確に把握する: 反発係数 \(e\) を用いて、衝突直前と衝突直後の速度成分(特に衝突面に垂直な成分)がどのように変化するのかを正しく計算します。水平成分は(滑らかな面なら)変化しないことも忘れないようにします。
    4. 座標軸の適切な設定: 問題文で指定がない場合は、自分で計算しやすいように座標軸(原点の位置、各軸の正の向き)を設定します。鉛直上向きを正とすることが一般的ですが、場合によっては下向きを正とした方が計算が楽になることもあります。一度設定したら、その定義を一貫して用いることが重要です。
  • ヒント・注意点:
    • 水平方向と鉛直方向の運動は、それぞれ独立して扱うことができます。共通の媒介変数は「時間 \(t\)」であることを常に意識しましょう。
    • 反発係数 \(e\) は「速度の比」ではなく「速さの比」であり、衝突後の速度の「向き」が衝突前と逆転することも含めて理解しておく必要があります。
    • 放物運動における「最高点」とは、鉛直方向の速度成分が一時的に \(0\) になる点のことであり、水平方向の速度成分は \(0\) にはなりません(一定のままです)。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 反発係数 \(e\) の適用の誤り:
    • ありがちな誤解: 水平方向の速度成分にも誤って反発係数を掛けてしまう。
    • 対策: 反発係数 \(e\) は、衝突面に「垂直な」方向の速度成分にのみ影響し、その速さの大きさを \(e\) 倍にし、向きを反転させる、というルールを正確に記憶し、適用しましょう。滑らかな面との衝突では、面に平行な速度成分は変化しません。
    • ありがちな誤解: 衝突後の速度の「向き」の考慮を忘れる、または間違える。
    • 対策: 衝突後は必ず衝突面から「離れる」向きにはね返ることを物理的にイメージしましょう。鉛直上向きを正とした場合、床との衝突では下向き(負)だった鉛直速度が、はね返り後は上向き(正)の速度に変わります。
  • 鉛直方向の初速度の扱いの混乱:
    • ありがちな誤解: 水平投射の最初の落下運動では鉛直方向の初速度は \(0\) ですが、点Cではね返った直後の運動では、鉛直方向の初速度は \(e\sqrt{2gh}\) (上向き) となります。これらの異なるフェーズでの初速度を混同してしまう。
    • 対策: 各運動フェーズの開始時点での初期条件(特に初速度の各成分)を、その都度明確に定義し直す習慣をつけましょう。
  • 加速度の符号の一貫性の欠如:
    • ありがちな誤解: 鉛直上向きを正と座標軸を設定した場合、重力加速度は常に下向きに働くため、加速度としては \(-g\) として扱う必要がありますが、これを途中で誤って \(+g\) としたり、符号の扱いが一貫しなかったりする。
    • 対策: 問題を解き始める際に設定した座標軸の正の向きを最後まで一貫して用い、それに基づいて各ベクトル量(速度、加速度、変位)の符号を決定しましょう。
  • 「最高点」の条件に関する誤解:
    • ありがちな誤解: 放物運動の最高点では、水平方向の速度成分も \(0\) になると誤解する。
    • 対策: 放物運動において、最高点はあくまで「鉛直方向の速度成分が \(0\) になる瞬間」のことであり、水平方向の速度成分は(空気抵抗がなければ)常に一定であることを正しく理解しましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題で有効だった図の活用法:
    1. 運動全体の軌跡図 (問題文に示されている図): まず、小球がどのような経路をたどるのか、全体像を視覚的に把握します。BからCへの放物線、Cでのバウンド、CからDへのより小さな放物線という流れをイメージします。
    2. 点Cにおける衝突前後の速度ベクトル図 (模範解答に示されている図): この図は非常に重要です。衝突直前の速度ベクトル(水平成分 \(v_{\text{初}}\)、鉛直成分 \(v_{Cy}\))と、衝突直後の速度ベクトル(水平成分 \(v’_{Cx}\)、鉛直成分 \(v’_{Cy}\))を並べて描くことで、水平成分は変化せず (\(v’_{Cx}=v_{\text{初}}\))、鉛直成分の向きが反転し大きさが \(e\) 倍になる (\(v’_{Cy} = e|v_{Cy}|\)) という反発の法則を視覚的に明確に理解できます。
    3. 各運動フェーズごとの \(v_x-t\) グラフと \(v_y-t\) グラフ (頭の中でイメージするか、実際に描いてみる):
      • \(v_x-t\) グラフ: 水平方向の速度は常に \(v_{\text{初}}\) で一定なので、\(t\) 軸に平行な直線となります。
      • \(v_y-t\) グラフ:
        • B-C間: 初速 \(0\) から傾き \(-g\)(上向き正の場合)の直線で速度が \(v_{Cy} = -\sqrt{2gh}\) まで変化します。
        • C点衝突時: 瞬時に速度が \(v’_{Cy} = e\sqrt{2gh}\) に跳ね上がります(グラフ上では不連続なジャンプ)。
        • C-D間: 初速 \(v’_{Cy}\) から再び傾き \(-g\) の直線で速度が変化し、最高点で \(v_y=0\) となり、D点で再びある負の鉛直速度を持ちます。

        この \(v_y-t\) グラフの面積が鉛直方向の変位に対応します。

  • 図を描く際に注意すべき共通のポイント:
    • 速度ベクトルは、矢印の向きで運動の方向を、矢印の長さで速さの大小関係を(ある程度)表現するように心がけます。
    • 衝突点では、混乱を避けるために、衝突「直前」の速度ベクトルと衝突「直後」の速度ベクトルを明確に区別して描きましょう。
    • 座標軸の向き(どちらの向きを正とするか)を、図中にも明示しておくと、符号の判断ミスを防ぐのに役立ちます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(h = \frac{1}{2}gt_1^2\) (問1、B-C間の鉛直運動):
    • 選択理由: B-C間の鉛直運動は「初速度 \(0\)、加速度 \(g\)(下向き正とした場合)の等加速度直線運動」であり、変位 \(h\) と時間 \(t_1\) の関係を知りたいので、この公式が適切。
    • 適用根拠: 等加速度直線運動の基本公式 \(y = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\) に、この状況の初期条件を代入した形。
  • \(\text{AC} = v_{\text{初}} t_1\) (問1、B-C間の水平運動):
    • 選択理由: B-C間の水平運動は「初速度 \(v_{\text{初}}\)、加速度 \(0\) の等速直線運動」であり、変位 AC と時間 \(t_1\) の関係を知りたいので、この公式が適切。
    • 適用根拠: 等速直線運動の定義そのもの。
  • \(v_{Cy} = -gt_1\) (問2、C点直前の鉛直速度、上向き正):
    • 選択理由: B-C間の鉛直運動において、時間 \(t_1\) 後の速度を求めたい。
    • 適用根拠: 等加速度直線運動の基本公式 \(v = v_{\text{初}} + at\) に、初期条件(初速 \(0\)、加速度 \(-g\))を代入した形。
  • \(v’_{Cx} = v_{\text{初}}\), \(v’_{Cy} = e|v_{Cy}|\) (問3、C点での衝突直後の速度):
    • 選択理由: 衝突現象における速度変化のルールを適用するため。
    • 適用根拠: 反発の法則(滑らかな面では平行成分不変、垂直成分は速さが \(e\) 倍で向き反転)に基づきます。
  • \(0^2 – (v’_{Cy})^2 = 2(-g)H\) (問4、Cから最高点までの鉛直運動):
    • 選択理由: Cからはね返った後の鉛直投げ上げ運動で、時間が直接関与しない形で最高到達点 \(H\) を求めたい。初速度 \(v’_{Cy}\)、最高点での終速度 \(0\)、加速度 \(-g\)、変位 \(H\) が関わるため。
    • 適用根拠: 等加速度直線運動における速度と変位の関係を示す公式 \(v_{\text{終}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\) の適用。
  • \(0 = v’_{Cy}t_2 + \frac{1}{2}(-g)t_2^2\) (問5、C-D間の鉛直運動、滞空時間 \(t_2\) 計算):
    • 選択理由: Cからはね返った後の鉛直投げ上げ運動で、再び元の高さ(変位 \(0\))に戻るまでの時間を求めたい。初速度 \(v’_{Cy}\)、加速度 \(-g\)、時間 \(t_2\)、変位 \(0\) が関わるため。
    • 適用根拠: 等加速度直線運動における変位と時間の関係を示す公式 \(y = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\) の適用。

各公式がどのような物理的状況や条件の下で成り立つのかを理解し、問題で与えられた情報と求めたい量に応じて最も適切な公式を選択する判断力が重要です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 運動のフェーズ分解と独立性の原則の適用: 運動全体を「BからCへの水平投射」「C点での衝突」「CからDへの斜方投射(的な運動)」の3つの主要フェーズに分解します。各投射運動フェーズでは、さらに「水平方向の運動(等速)」と「鉛直方向の運動(等加速度)」に分けて考えます。
  2. 第1フェーズ (B-C間) の解析:
    • 鉛直方向の自由落下運動から、落下時間 \(t_1\) を \(h\) と \(g\) で表します。
    • 水平方向の等速直線運動から、\(t_1\) と \(v_{\text{初}}\) を用いて水平到達距離 AC を計算します。
  3. C点における衝突直前の速度成分の計算:
    • 水平成分 \(v_{Cx}\) は \(v_{\text{初}}\) のままです。
    • 鉛直成分 \(v_{Cy}\) は、時間 \(t_1\) 後の自由落下の速度として計算します(向きに注意)。
  4. C点における衝突(反発の法則の適用):
    • 衝突直後の水平成分 \(v’_{Cx}\) は \(v_{Cx}\) と同じです。
    • 衝突直後の鉛直成分 \(v’_{Cy}\) は、\(v_{Cy}\) の大きさに反発係数 \(e\) を掛け、向きを反転させたものとして計算します。
  5. 第2フェーズ (C-D間) の解析 (点C直後を新たな初期状態とする):
    • 鉛直方向の運動(初速度 \(v’_{Cy}\) での鉛直投げ上げ)から、最高点の高さ \(H\)(C点基準)を計算します。
    • 同じく鉛直方向の運動から、再びC点と同じ高さに戻る(D点に到達する)までの時間 \(t_2\) を計算します。
    • 水平方向の運動(速度 \(v’_{Cx}\) での等速直線運動)から、時間 \(t_2\) を用いて水平到達距離 CD を計算します。
  6. 各物理量の具体的な計算: 上記のステップで導出した関係式に、与えられた記号や計算済みの値を代入し、最終的な答えを求めます。

このように、複雑な運動も論理的なステップに分解し、各ステップで基本的な物理法則を適用していくことで、確実に解答にたどり着くことができます。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 平方根の計算と変形の正確性: 例えば、\(g\sqrt{\frac{2h}{g}}\) を \(\sqrt{2gh}\) に変形する際など、根号内外での文字の出し入れや約分を慎重に行いましょう。(\(g\sqrt{\frac{2h}{g}} = \sqrt{g^2 \cdot \frac{2h}{g}} = \sqrt{g \cdot 2h}\))。
  • 符号の取り扱いの一貫性と確認: 特に鉛直方向の速度や加速度について、最初に設定した座標軸の正の向き(例:上向き正)に対して、各物理量の符号が物理的に正しいか(例:下向きの速度なら負、重力加速度なら負)を、立式時および計算結果確認時に常に意識します。
  • 文字式の整理と代入のタイミング: \(e, v_0, g, h\) など多くの文字記号が登場するため、計算途中で混同したり、書き間違えたりしないように丁寧に扱いましょう。可能な限り計算の最後まで文字式のまま進め、最後に値を代入するか、あるいは途中で意味のある物理量(例:\(t_1\) や \(v_1\))にまとめてから次の計算に進むと、見通しが良くなり、ミスも減らせます。
  • 反発係数 \(e\) の掛け忘れや二重適用の防止: 反発係数は衝突時に一度だけ、衝突面に垂直な速度成分の「大きさ」に影響することを確認します。

計算過程を丁寧にノートに書き出し、各ステップでの仮定や用いた公式を明確にすることで、見直しが容易になり、計算ミスを発見しやすくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直観や既知の事実との整合性確認:
    • 反発係数 \(e\) の極端な値での挙動を考察します。
      • もし \(e=1\) (完全弾性衝突) であれば、はね返り後の最高点の高さ \(H\) は最初の高さ \(h\) と等しくなるはずです。計算結果 \(H=e^2h\) は、\(e=1\) のとき \(H=h\) となり、これと一致します。
      • もし \(e=0\) (完全非弾性衝突、つまりはね返らない) であれば、はね返り後の鉛直初速度 \(v’_{Cy}=0\) となり、最高点 \(H=0\)、滞空時間 \(t_2=0\)、水平距離 \(\text{CD}=0\) となるはずです。計算結果はこれらと一致します。
    • 時間 \(t_1, t_2\) や距離 AC, CD が負の値になっていないか、といった基本的な確認を行います。
  • 単位の一貫性の最終確認: 計算で得られた各物理量の単位が、その物理量として正しい単位(例:時間は[s]、距離は[m]、速度は[m/s]、高さは[m])になっているかを最終的に確認します。
  • 各物理量への依存性の考察: 例えば、水平到達距離(ACやCD)が水平初速度 \(v_{\text{初}}\) や滞空時間(\(t_1\) や \(t_2\))に比例しているか、滞空時間が鉛直方向の初速度や \(g\) にどのように依存しているかなどが、物理的に自然な関係になっているかを考察します。

これらの吟味を行うことで、計算ミスや立式の誤りに気づくだけでなく、物理現象に対する理解をより一層深めることができます。

問題5 (東京工芸大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、一定速度で水平に運動する台車上から鉛直上向きに打ち上げられたボールの運動を扱います。台車の速度やボールの打ち上げ初速が変化したときに、ボールが台車上の同じ相対位置に落下するという条件が鍵となります。運動の相対性、特に慣性系における運動の記述と、鉛直投げ上げ運動の性質を理解しているかが問われます。

与えられた条件
  • 初期状態: 台車が一定速度 \(v\) で水平運動。A点通過時に、台車からボールを台車に対して初速 \(u\) で鉛直上向きに打ち上げると、B点で台車に落下した。
  • 変化後1: 台車を \(\frac{1}{2}v\) の速度で運動させた。A点通過時にボールを打ち上げ(鉛直初速は未知)、やはりB点で台車に落下した。
  • 重力加速度の大きさ: \(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\)。
  • 具体的なケース: 台車を \(5.6 \, \text{m/s}\) の速度で運動させ、台車がA点を通過する瞬間にボールを鉛直上向きに打ち上げたところ、ボールは \(10 \, \text{m}\) の高さまで上がり、やはりB点で台車に落下した。
問われていること
  1. 変化後1のときのボールの鉛直打ち上げ初速は、最初の初速 \(u\) の何倍か。
  2. 変化後1のとき、ボールが到達した最高点の高さは、最初の場合の最高点の高さの何倍か。
  3. 具体的なケースにおける、ボールを打ち上げた鉛直方向の初速。
  4. 具体的なケースにおける、AB間の距離。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題の核心は、「運動の相対性」「鉛直投げ上げ運動の解析」です。

  • 運動の相対性: 台車上でボールを鉛直上向きに打ち上げる運動は、台車から見れば単純な「鉛直投げ上げ運動」です。しかし、地上から見ると、ボールは台車と同じ水平速度成分を持ちながら鉛直投げ上げ運動をするため、「斜方投射」のような放物線を描きます。重要なのは、空気抵抗がなければ、台車に対して鉛直に打ち上げられたボールは必ず台車上の同じ相対位置(打ち上げた人の手元など)に戻ってくるという点です。これはボールが空中にある間も台車と同じ水平速度成分を保ち続けるためです。
  • 鉛直投げ上げ運動の解析: 台車から見たボールの運動は鉛直投げ上げであり、滞空時間や最高到達点は鉛直方向の初速度と重力加速度によって決まります。

ボールが台車上のB点に落下するという条件は、ボールの滞空時間と、その間に台車がA点からB点まで移動する時間が等しいことを意味します。この関係性を軸に解き進めます。

まず、準備としてボールの滞空時間の一般式を導出します。
台車から見てボールが鉛直上向きに初速 \(U_{\text{初}}\) で打ち上げられたとき、再び台車(同じ高さ)に戻るまでの時間を \(T\) とします。鉛直上向きを正とすると、時刻 \(t\) におけるボールの変位 \(y\) は \(y = U_{\text{初}}t – \frac{1}{2}gt^2\)。再び台車に戻るとき \(y=0\) (\(t \ne 0\)) なので、\(0 = T(U_{\text{初}} – \frac{1}{2}gT)\)。よって、滞空時間は \(T = \frac{2U_{\text{初}}}{g}\) となります。この式は、ボールの滞空時間が鉛直方向の打ち上げ初速 \(U_{\text{初}}\) に比例し、台車の水平速度には依存しないことを示しています。

問1:2度目の打ち上げ初速は最初の初速 \(u\) の何倍か

思考の道筋とポイント
1回目と2回目で、ボールがB点に落下するということは、AB間の距離が同じであることを意味します。AB間の距離は「台車の速度 × ボールの滞空時間」で表されます。ボールの滞空時間は「\(2 \times \text{鉛直初速} / g\)」です。これらの関係から、2回目の鉛直初速を求めます。

  • 1回目: 台車速度 \(v\)、鉛直初速 \(u\)、滞空時間 \(t_1 = \frac{2u}{g}\)。AB間の距離 \(\text{AB}_1 = v \cdot t_1\)。
  • 2回目: 台車速度 \(\frac{1}{2}v\)、鉛直初速を \(u’\)、滞空時間 \(t_2 = \frac{2u’}{g}\)。AB間の距離 \(\text{AB}_2 = \frac{1}{2}v \cdot t_2\)。

\(\text{AB}_1 = \text{AB}_2\) の条件から \(u’\) を \(u\) で表します。

この設問における重要なポイント

  • ボールの滞空時間が鉛直初速に比例すること (\(T = 2U_{\text{初}}/g\))。
  • AB間の距離が台車の速度と滞空時間の積で表されること。
  • AB間の距離が1回目と2回目で等しいという条件を立式に用いること。

具体的な解説と立式
1回目のボールの滞空時間を \(t_1\)、2回目のボールの鉛直初速を \(u’\)、滞空時間を \(t_2\) とします。
1回目のAB間の距離:
$$ \text{AB} = v \cdot t_1 = v \cdot \frac{2u}{g} \quad \cdots (B) $$
2回目のAB間の距離:
$$ \text{AB} = \left(\frac{1}{2}v\right) \cdot t_2 = \left(\frac{1}{2}v\right) \cdot \frac{2u’}{g} = \frac{vu’}{g} \quad \cdots (C) $$
ボールは両方のケースでB点に落下するため、AB間の距離は等しいので、(B) = (C) より、
$$ v \frac{2u}{g} = \frac{vu’}{g} $$

使用した物理公式

  • 鉛直投げ上げの滞空時間: \(T = \displaystyle\frac{2U_{\text{初}}}{g}\) (\(U_{\text{初}}\)は鉛直初速)
  • 等速直線運動: 距離 = 速さ × 時間
計算過程

$$ v \frac{2u}{g} = \frac{vu’}{g} $$
両辺に \(\frac{g}{v}\) を掛けます(\(v \ne 0, g \ne 0\) と仮定)。
$$ 2u = u’ $$
よって、\(u’ = 2u\)。
2度目にボールを打ち上げた鉛直方向の初速 \(u’\) は、最初の初速 \(u\) の \(2\) 倍です。

計算方法の平易な説明

ボールが台車上のA点から打ち上げられ、B点に戻ってくるまでの時間は、台車がA点からB点まで進む時間と同じです。
1回目は、台車の速さが \(v\) で、ボールが空中にいる時間を \(t_1\) とすると、AB間の距離は \(v \times t_1\) です。
2回目は、台車の速さが半分の \(\frac{1}{2}v\) になりました。それでも同じAB間の距離を進むためには、ボールが空中にいる時間 \(t_2\) は、1回目の \(t_1\) の2倍でなければなりません(なぜなら、距離 = 速さ × 時間 なので、速さが半分なら時間を2倍にしないと同じ距離にならないからです)。
ボールが空中にいる時間 \(T\) は、打ち上げる鉛直方向の速さ \(U_{\text{初}}\) に比例します(\(T = 2U_{\text{初}}/g\))。したがって、滞空時間を2倍にするためには、打ち上げる鉛直方向の速さも2倍にする必要があります。
よって、2度目の初速は最初の \(u\) の2倍となります。

結論と吟味

2度目にボールを打ち上げた鉛直方向の初速は最初の初速 \(u\) の 2 倍です。台車の速度が半分になったにもかかわらず同じ水平距離を進むためには、ボールの滞空時間を2倍にする必要があり、そのためには鉛直初速を2倍にする必要がある、という論理は物理的に妥当です。

解答 (1) \(2\) 倍

問2:このとき、ボールが到達した最高点の高さは最初の場合の何倍か

思考の道筋とポイント
鉛直投げ上げ運動において、初速 \(U_{\text{初}}\) で打ち上げたボールが到達する最高点の高さ \(H\) は、\(H = \frac{U_{\text{初}}^2}{2g}\) で与えられます(最高点では鉛直方向の速度が \(0\) になることから導出)。この関係式を用いて、1回目の鉛直初速 \(u\) の場合と、2回目の鉛直初速 \(u’ = 2u\) の場合の最高点の高さを比較します。

この設問における重要なポイント

  • 鉛直投げ上げの最高点では鉛直方向の速度が \(0\) になるという条件を理解している。
  • 最高到達点の高さが鉛直初速の2乗に比例する関係 (\(H = U_{\text{初}}^2/(2g)\)) を導出または利用できる。
  • 問1の結果(2回目の初速が最初の2倍)を正しく用いる。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。鉛直初速を \(U_{\text{初}}\)、最高点の高さを \(H\)、重力加速度の大きさを \(g\) とすると、最高点での鉛直速度は \(0\) です。
等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ay\) において、\(v=0\), \(v_{\text{初}}=U_{\text{初}}\), \(a=-g\), \(y=H\) を代入すると、
$$ 0^2 – U_{\text{初}}^2 = 2(-g)H $$
$$ -U_{\text{初}}^2 = -2gH $$
$$ H = \frac{U_{\text{初}}^2}{2g} \quad \cdots (D) $$
この式は、最高点の高さ \(H\) が鉛直初速 \(U_{\text{初}}\) の2乗に比例することを示しています。

1回目の鉛直初速は \(u\) なので、そのときの最高点の高さを \(H_1\) とすると、
$$ H_1 = \frac{u^2}{2g} $$
2回目の鉛直初速は、問1より \(u’ = 2u\) なので、そのときの最高点の高さを \(H_2\) とすると、
$$ H_2 = \frac{(u’)^2}{2g} = \frac{(2u)^2}{2g} = \frac{4u^2}{2g} $$
\(H_2\) が \(H_1\) の何倍かを求めます。
$$ \frac{H_2}{H_1} = \frac{\frac{4u^2}{2g}}{\frac{u^2}{2g}} $$

使用した物理公式
鉛直投げ上げの最高到達点の高さ: \(H = \displaystyle\frac{U_{\text{初}}^2}{2g}\) (\(U_{\text{初}}\)は鉛直初速)
計算過程

$$ \frac{H_2}{H_1} = \frac{\frac{4u^2}{2g}}{\frac{u^2}{2g}} = \frac{4u^2}{2g} \times \frac{2g}{u^2} = 4 $$
したがって、\(H_2 = 4H_1\)。
2回目の最高点の高さは、最初の場合の \(4\) 倍です。

計算方法の平易な説明

ボールがどれくらいの高さまで上がるかは、打ち上げる鉛直方向の速さ \(U_{\text{初}}\) で決まります。具体的には、最高点の高さ \(H\) は「\(U_{\text{初}}\) の2乗」に比例します(式 \(H = U_{\text{初}}^2/(2g)\) より)。
問1で、2度目の打ち上げの鉛直初速は最初のときの2倍になることがわかりました。
初速が2倍になると、初速の「2乗」は \(2^2 = 4\) 倍になります。
したがって、最高点の高さも4倍になります。

結論と吟味

このとき、ボールが到達した最高点の高さは最初の場合の 4 倍です。鉛直初速が \(k\) 倍になると、最高到達高さは \(k^2\) 倍になるという関係は、力学的エネルギー保存則(初期の運動エネルギー \(\frac{1}{2}mU_{\text{初}}^2\) が最高点での位置エネルギー \(mgH\) に変換されると考えると \(\frac{1}{2}mU_{\text{初}}^2 = mgH \Rightarrow H = \frac{U_{\text{初}}^2}{2g}\))からも確認でき、物理的に妥当です。

解答 (2) \(4\) 倍

問3:このとき、ボールを打ち上げた鉛直方向の初速は何m/sか

思考の道筋とポイント
「このとき」とは、問題文後半の「台車を \(5.6 \, \text{m/s}\) の速度で運動させて、台車がA点を通過する瞬間に台車から鉛直上向きにボールを打ち上げたら、ボールは \(10 \, \text{m}\) の高さまで上がって、やはりB点で台車に落下した」という具体的なケースを指します。
ボールが到達した最高点の高さが \(H = 10 \, \text{m}\) であるという条件と、重力加速度 \(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\) を用いて、鉛直投げ上げの最高点の高さの公式 \(H = \frac{U_{\text{初}}^2}{2g}\) から、このときの鉛直初速 \(U\) (この場合の具体的な初速) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 最高到達点の高さと鉛直初速の関係式 \(H = U_{\text{初}}^2/(2g)\) を正しく利用する。
  • 与えられた具体的な数値(\(H=10 \, \text{m}\), \(g=9.8 \, \text{m/s}^2\))を代入して計算する。

具体的な解説と立式
この具体的なケースにおけるボールの最高到達点の高さを \(H = 10 \, \text{m}\)、鉛直初速を \(U\) とします。重力加速度の大きさは \(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\)。
鉛直投げ上げの最高点の高さの公式 \(H = \frac{U_{\text{初}}^2}{2g}\) を \(U_{\text{初}}\) について解くと、\(U_{\text{初}}^2 = 2gH\)。
初速 \(U\) は上向きなので正の値をとります。
$$ U = \sqrt{2gH} $$

使用した物理公式
鉛直投げ上げの最高到達点の高さから初速を求める式: \(U_{\text{初}} = \sqrt{2gH}\) ( \(H = \frac{U_{\text{初}}^2}{2g}\) より)
計算過程

与えられた値を代入します。
$$ U = \sqrt{2 \times 9.8 \, \text{m/s}^2 \times 10 \, \text{m}} $$
$$ U = \sqrt{2 \times 9.8 \times 10} = \sqrt{19.6 \times 10} = \sqrt{196} $$
ここで、\(10^2 = 100\), \(15^2 = 225\) なので、\(\sqrt{196}\) は \(10\) と \(15\) の間の数です。実際には \(14^2 = (10+4)^2 = 100 + 80 + 16 = 196\) なので、
$$ U = 14 \, \text{m/s} $$

計算方法の平易な説明

この具体的な状況では、ボールが \(10 \, \text{m}\) の高さまで上がったと問題文にあります。
ボールがどれくらいの高さまで上がるか (\(H\)) と、打ち上げる鉛直方向の速さ (\(U_{\text{初}}\)) の関係は \(H = U_{\text{初}}^2 / (2g)\) でした。これを \(U_{\text{初}}\) について書き直すと、\(U_{\text{初}} = \sqrt{2gH}\) となります。
ここに、\(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\) と \(H = 10 \, \text{m}\) を代入して計算します。
\(U = \sqrt{2 \times 9.8 \times 10} = \sqrt{196}\)。\(\sqrt{196}\) は \(14\) なので、打ち上げた鉛直方向の初速は \(14 \, \text{m/s}\) となります。

結論と吟味

このとき、ボールを打ち上げた鉛直方向の初速は 14 \(\text{m/s}\) です。物理的に妥当な値であり、計算も正しく行われています。

解答 (3) \(14 \, \text{m/s}\)

問4:そして、AB間の距離は何mであるか

思考の道筋とポイント
この具体的なケース(台車速度 \(V’ = 5.6 \, \text{m/s}\)、ボールの鉛直初速 \(U = 14 \, \text{m/s}\))におけるAB間の距離を求めます。
AB間の距離は、台車の水平速度とボールの滞空時間の積で決まります。
まず、鉛直初速 \(U = 14 \, \text{m/s}\) と重力加速度 \(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\) から、ボールの滞空時間 \(T\) を公式 \(T = \frac{2U}{g}\) を用いて求めます。 (ここで \(U\) はこのケースの初速)
次に、この滞空時間 \(T\) と台車の速度 \(V’ = 5.6 \, \text{m/s}\) から、AB間の距離 \(\text{AB} = V’ \times T\) を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 問3で求めた鉛直初速 \(U\) の値を正しく用いる。
  • ボールの滞空時間 \(T = 2U/g\) を計算する。
  • AB間の距離が「台車の水平速度 × ボールの滞空時間」で求められることを理解し、適用する。

具体的な解説と立式
台車の速度: \(V’ = 5.6 \, \text{m/s}\)
ボールの鉛直初速 (問3より): \(U = 14 \, \text{m/s}\)
重力加速度の大きさ: \(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\)

ボールの滞空時間 \(T\) は、
$$ T = \frac{2U}{g} $$
AB間の距離は、
$$ \text{AB} = V’ \times T $$

使用した物理公式

  • 鉛直投げ上げの滞空時間: \(T = \displaystyle\frac{2U_{\text{初}}}{g}\)
  • 等速直線運動: 距離 = 速さ × 時間
計算過程

まず、ボールの滞空時間 \(T\) を計算します。
$$ T = \frac{2 \times 14 \, \text{m/s}}{9.8 \, \text{m/s}^2} = \frac{28}{9.8} $$
分母分子を \(10\) 倍して \(\frac{280}{98}\)。
\(280 \div 14 = 20\)、\(98 \div 14 = 7\) なので、
$$ T = \frac{20}{7} \, \text{s} $$
次に、AB間の距離を計算します。
$$ \text{AB} = (5.6 \, \text{m/s}) \times \left(\frac{20}{7} \, \text{s}\right) $$
ここで \(5.6 = \frac{56}{10}\) なので、
$$ \text{AB} = \frac{56}{10} \times \frac{20}{7} = \frac{56 \times 20}{10 \times 7} = \frac{56 \times 2}{7} $$
\(56 \div 7 = 8\) なので、
$$ \text{AB} = 8 \times 2 = 16 \, \text{m} $$

計算方法の平易な説明

この具体的な状況では、台車の速さが \(5.6 \, \text{m/s}\) で、ボールを打ち上げる鉛直方向の初速が \(14 \, \text{m/s}\)(問3で計算しました)です。
まず、ボールが空中にどれくらいの時間いたのか(滞空時間 \(T\))を計算します。滞空時間は「\(2 \times (\text{鉛直初速}) \div (\text{重力加速度})\)」で求められるので、
\(T = (2 \times 14) / 9.8 = 28 / 9.8 = 20/7\) 秒となります。
AB間の距離は、台車がこの滞空時間 \(T\) の間に水平に進んだ距離です。台車の速さは \(5.6 \, \text{m/s}\) で一定なので、距離は「\(\text{速さ} \times \text{時間}\)」で計算できます。
\(\text{AB} = 5.6 \, \text{m/s} \times (20/7) \, \text{s}\)。
ここで \(5.6\) は \((0.8 \times 7)\) なので、\((0.8 \times 7) \times (20/7) = 0.8 \times 20 = 16 \, \text{m}\) となります。

結論と吟味

このときのAB間の距離は 16 \(\text{m}\) です。計算過程は正しく、単位も \([\text{m/s}] \times [\text{s}] = [\text{m}]\) となり、距離の単位として適切です。

解答 (4) \(16 \, \text{m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動の相対性(特に慣性系における運動の記述):
    • 台車から見たボールの運動は純粋な「鉛直投げ上げ運動」として扱えます。これは、台車が等速直線運動をしている(慣性系である)ためです。
    • 地上から見たボールの運動は、台車の水平速度成分と鉛直投げ上げ運動が合成された「斜方投射(または放物運動)」となります。
    • 本質: この問題で最も重要なのは、「台車に対して鉛直に打ち上げられたボールは、空気抵抗を無視すれば、必ず打ち上げた台車上の同じ相対位置に戻ってくる」という現象です。これは、ボールが空中にある間も、台車と同じ水平速度成分を(地上から見て)保ち続けるためです。
  • 鉛直投げ上げ運動の特性と公式:
    • 滞空時間(打ち上げてから元の高さに戻るまで): \(T = \frac{2U_{\text{初}}}{g}\) (\(U_{\text{初}}\) は鉛直初速)。
    • 最高到達点の高さ(打ち上げ点基準): \(H = \frac{U_{\text{初}}^2}{2g}\)。
    • 最高点では鉛直方向の速度が \(0\) になります。
    • 上昇にかかる時間と下降にかかる時間は等しく、それぞれ \(T/2 = U_{\text{初}}/g\) です。
    • 本質: 重力という一定の加速度のもとでの鉛直方向の等加速度直線運動です。これらの公式は、等加速度直線運動の基本公式から導出されます。
  • 水平方向の運動の独立性と等速直線運動:
    • ボールが空中にある間、水平方向には(空気抵抗を無視すれば)力が作用しないため、地上から見たボールの水平方向の速度成分は、打ち上げられた瞬間の台車の速度と等しく、常に一定です(等速直線運動)。
    • 本質: 重力は鉛直方向にのみ作用するため、水平方向の運動状態には影響を与えないという「運動の独立性」の現れです。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 電車内でボールを真上に投げる人の運動(電車から見るか、地上から見るかで記述が変わる)。
    • 一定速度で飛行する飛行機から静かに投下された物体の運動(飛行機から見れば真下に自由落下するが、地上から見れば水平投射と同じ放物運動をする)。
    • 船上から物を投げ上げる場合や、動く歩道上でジャンプする場合など、基準となる慣性系が動いている状況での物体の運動解析全般。
  • 初見の問題への着眼点:
    1. 「誰から見た運動か」(観測基準系は何か)を最初に明確にする: 「台車に対する速度」なのか、「地面(地上)に対する速度」なのかを問題文から正確に読み取り、区別することが極めて重要です。
    2. 運動を水平方向と鉛直方向に分解して考える: 特に地上から見たボールの運動は、この分解が解析の基本となります。
    3. 「必ず同じ場所に戻る」という条件の活用: 台車に対して鉛直に打ち上げられた物体は、台車の水平速度がいくらであっても、また打ち上げる鉛直初速がいくらであっても(ただし \(0\) でない)、必ず台車上の同じ相対位置に戻ってきます。この事実は、ボールの滞空時間と台車の移動時間の関係を考える上で非常に重要です。
    4. 滞空時間が何によって決まるかを理解する: ボールの滞空時間は、鉛直方向の運動(具体的には鉛直初速と重力加速度)のみによって決まり、台車の水平速度には一切関係しないことを銘記しましょう。
  • ヒント・注意点:
    • 問題文中に「台車に対して」という言葉が出てきたら、それは台車を基準とした相対運動(台車から見た運動)を考えるヒントです。
    • AB間の距離は、台車の(地上から見た)水平速度と、ボールの(地上から見た)滞空時間の積で決まります。
    • ボールの滞空時間は、台車から見た鉛直投げ上げ運動の初速度によってのみ(\(g\) が一定なら)決定されます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 台車の水平速度とボールの鉛直方向の運動の関連付けミス:
    • ありがちな誤解: 台車の水平速度が変化すると、ボールの滞空時間や最高到達点も直接的に変化してしまうと誤解する。
    • 対策: 鉛直方向の運動は重力のみに支配され、台車の水平速度とは独立していることを強く意識しましょう。ボールの滞空時間や最高到達点は、あくまで鉛直方向の打ち上げ初速によって決まります。
  • AB間の距離の意味の誤解や条件の読み落とし:
    • ありがちな誤解: AB間の距離が常に一定であると早合点したり、あるいは台車の速度が変わればAB間も必ず変わると単純に考えてしまう。
    • 対策: 問題文を注意深く読み、「ボールはやはりB点で台車に落下した」という条件が何を意味するのか(AB間の距離は、各試行において「そのときの台車の速度 × そのときのボールの滞空時間」で決まり、かつそれが両方の試行で同じ値になった)を正確に把握することが重要です。
  • 初速度の基準の混同:
    • ありがちな誤解: 地上から見たボールの初速度(水平成分と鉛直成分を持つベクトル)と、台車から見たボールの初速度(鉛直成分のみ)を混同してしまう。
    • 対策: 常に「何に対する初速度か」という基準を明確に意識し、区別して扱いましょう。
  • 公式の丸暗記に頼り、物理的な意味や導出過程を理解していない:
    • ありがちな誤解: 例えば、鉛直投げ上げの滞空時間 \(T=2U_{\text{初}}/g\) や最高到達点 \(H=U_{\text{初}}^2/(2g)\) といった公式を単に暗記しているだけで、なぜそのような式になるのか(鉛直投げ上げ運動の運動方程式やエネルギー保存則から導かれること)を理解していないと、少し条件が変わっただけで応用が利かなくなります。
    • 対策: 公式を覚えるだけでなく、その公式がどのような物理現象を表し、どのような仮定のもとで導出されるのか、その物理的な意味を理解するよう努めましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題で有効だった図の活用法(問題文の図以外):
    1. 地上から見たボールの軌跡(放物線)のイメージ: 速度の水平成分(台車の速度と同じ)と鉛直成分(鉛直投げ上げの速度)をベクトルで示し、それらが合成されて放物軌道を描く様子をイメージします。台車の動きとボールの動きを時間的に同期させて追うことが重要です。
    2. 台車から見たボールの軌跡(鉛直線)のイメージ: 台車と一緒に動いている観測者からは、ボールは単に真上に上がって真下に落ちてくるように見えます。この視点の切り替えが問題を単純化する鍵です。
    3. \(v_y-t\) グラフ(ボールの鉛直速度と時間の関係)の描画またはイメージ: ボールの打ち上げから最高点到達(\(v_y=0\))、そして再び台車に落下するまでの間、鉛直速度が時間と共に直線的に変化する様子(傾きは常に \(-g\))を視覚化します。このグラフの \(t\) 軸との交点や面積が、滞空時間や変位と関連付きます。
  • 図を描く際に注意すべき共通のポイント:
    • 異なる観測基準系(地上から見た場合と、台車から見た場合)からの運動の見え方を明確に区別して描く、またはイメージするようにしましょう。
    • 速度ベクトルは、その大きさと向きを考慮して矢印で表現します。特に地上から見たボールの初速度は、水平成分と鉛直成分のベクトル和であることに注意が必要です。
    • 時間経過とともに物体(ボールと台車)が空間内でどのように動いていくのかを、頭の中で連続的にアニメーションのようにイメージすることが、現象理解を助けます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(T = \frac{2U_{\text{初}}}{g}\) (鉛直投げ上げの滞空時間の公式):
    • 選択理由: ボールが台車に対して鉛直に打ち上げられ、同じ高さ(台車上)に戻ってくるまでの時間を計算するため。
    • 適用根拠: 鉛直投げ上げ運動において、変位 \(y=0\) (元の高さに戻る) となる時間 \(T \ne 0\) を、等加速度直線運動の公式 \(y = U_{\text{初}}t – \frac{1}{2}gt^2\) から解いた結果です。この \(U_{\text{初}}\) は「台車から見た鉛直初速」です。
  • \(H = \frac{U_{\text{初}}^2}{2g}\) (鉛直投げ上げの最高到達点の高さの公式):
    • 選択理由: 台車から見た鉛直投げ上げ運動における、最高到達点の高さを計算するため。
    • 適用根拠: 鉛直投げ上げ運動において、最高点では鉛直方向の速度が \(0\) になるという条件を、等加速度直線運動の公式 \(v_{\text{終}}^2 – U_{\text{初}}^2 = 2(-g)H\) に適用して解いた結果です。この \(U_{\text{初}}\) も「台車から見た鉛直初速」です。
  • \(\text{距離} = \text{速さ} \times \text{時間}\) (AB間の距離の計算):
    • 選択理由: 台車の水平方向の運動が等速直線運動であるため、AB間の距離を計算するため。
    • 適用根拠: 等速直線運動の定義そのものです。ここで「速さ」は台車の(地上から見た)水平速度、「時間」はボールの(地上から見た)滞空時間に相当します。

これらの公式は、それぞれ特定の物理的状況と条件下で成り立つものです。公式を適用する際には、その前提条件が問題の状況と一致しているかを確認することが不可欠です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 基本原理の再確認と滞空時間の一般式の導出: 台車上の鉛直投げ上げは、台車から見れば純粋な鉛直投げ上げであり、ボールは必ず台車上の同じ相対位置に戻る。ボールの滞空時間 \(T\) は、台車から見た鉛直初速を \(U_{\text{初}}\) とすると \(T = 2U_{\text{初}}/g\) で与えられる。
  2. 設問(1)の論理展開:
    • 1回目のAB間の距離: \(\text{AB} = v \cdot t_1 = v \cdot (2u/g)\)。
    • 2回目のAB間の距離: \(\text{AB} = (\frac{1}{2}v) \cdot t_2 = (\frac{1}{2}v) \cdot (2u’/g)\)。
    • 両者が等しい (\(\text{AB}_1 = \text{AB}_2\)) という条件から、\(v \cdot (2u/g) = (\frac{1}{2}v) \cdot (2u’/g)\) を立て、これを解いて \(u’ = 2u\) を導く。
  3. 設問(2)の論理展開:
    • 鉛直投げ上げの最高到達点の高さは \(H = U_{\text{初}}^2/(2g)\) であり、\(H\) は \(U_{\text{初}}^2\) に比例する。
    • 鉛直初速 \(U_{\text{初}}\) が設問(1)の結果から2倍になるので、最高到達点 \(H\) は \(2^2 = 4\) 倍になる。
  4. 設問(3)の論理展開:
    • 具体的なケースで与えられた最高到達点 \(H=10 \, \text{m}\) と重力加速度 \(g=9.8 \, \text{m/s}^2\) を用い、公式 \(U = \sqrt{2gH}\) ( \(H = U_{\text{初}}^2/(2g)\) から変形) を使って鉛直初速 \(U\) を計算する。
  5. 設問(4)の論理展開:
    • 設問(3)で求めた鉛直初速 \(U\) を用いて、具体的なケースでのボールの滞空時間 \(T=2U/g\) を計算する。
    • 与えられた具体的なケースでの台車の水平速度 \(V’ = 5.6 \, \text{m/s}\) と、計算した滞空時間 \(T\) を用いて、AB間の距離 \(\text{AB} = V’T\) を計算する。

このように、基本的な物理法則と公式を理解し、問題文の条件を正確に数式に落とし込み、論理的なステップに従って計算を進めることが重要です。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 数値計算の正確性と工夫: \(g=9.8 \, \text{m/s}^2\) のような具体的な数値が与えられると、計算が煩雑になりがちです。分数や小数の計算を丁寧に行い、必要に応じて計算しやすい形に変形する(例:\(28/9.8\) を \(280/98\) としてから約分する)などの工夫をしましょう。
  • 文字式の段階での関係性の明確化: 複雑な数値計算に入る前に、できるだけ文字式(\(u, v, g\) など)のままで関係性をしっかりと導いておくと、問題の構造がクリアになり、見通しが良くなるため、結果的に計算ミスを減らすことにつながります。
  • 単位の一貫性と確認の徹底: 計算の各段階で、用いている物理量の単位が一貫しているか(例:時間は秒、距離はメートル、速度はメートル毎秒など)、そして最終的に得られた結果の単位が、求めようとしている物理量の単位として正しいかを確認する習慣をつけましょう。
  • 有効数字の意識 (本問では指定なし): 問題によっては有効数字の桁数が指定されることもあります。その場合は指示に従いましょう。

計算ミスは、多くの場合、焦りや不注意から生じます。落ち着いて、一つ一つのステップを丁寧に進めることが肝心です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直観や常識との整合性の確認:
    • (1) 台車の速度が遅くなったのに同じ水平距離を移動するためには、ボールがより長く空中に留まる(つまり、より大きな鉛直初速で打ち上げる)必要がある、というのは直感的に妥当です。
    • (2) 鉛直初速が大きくなれば、当然、最高到達点も高くなります。その関係が初速の2乗に比例するという点も、エネルギー保存則などから理解できる範囲です。
    • (3)や(4)で得られた具体的な数値が、例えば「ボールの初速が光速に近い」とか「AB間の距離が何百キロメートルにもなる」といった、明らかに非現実的な値になっていないかを大まかに確認します。
  • 各物理量間の依存関係の再確認:
    • ボールの滞空時間が重力加速度 \(g\) に反比例し、鉛直初速 \(U_{\text{初}}\) に比例すること。
    • 最高到達点が重力加速度 \(g\) に反比例し、鉛直初速 \(U_{\text{初}}\) の2乗に比例すること。
    • AB間の距離が台車の水平速度 \(V\) とボールの滞空時間 \(T\) に比例すること。
      これらの依存関係が、物理的に正しいかどうかを再確認します。

解答を導き出した後に、「本当にこれで良いのだろうか?」と一度立ち止まって吟味する習慣は、物理の理解を深め、ケアレスミスを防ぐ上で非常に大切です。

 

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