問題1 (大阪産大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(4)の別解1: 等加速度直線運動の公式を用いた解法
- 模範解答が「折り返し点からの復路」として座標軸を反転させて(左向きを正として)解くのに対し、別解1では座標軸を固定したまま、\(t \ge 7\) の区間全体に等加速度直線運動の公式を適用して解きます。
- 設問(4)の別解2: 微積分を用いた体系的解法
- 加速度を積分して速度を、速度を積分して位置を求めることで、グラフの面積計算に頼らずに関数として運動を記述します。特に、位置 \(x\) が \(0\) になる時刻を二次方程式として自然に導出します。
- 設問(4)の別解1: 等加速度直線運動の公式を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 公式を用いた解法: 座標軸を反転させるテクニックは便利ですが、符号の混乱を招くリスクもあります。座標軸を固定して解く方法は、より汎用的で、複雑な状況でもミスが少ないアプローチです。
- 微積分を用いた解法: 「傾き=微分」「面積=積分」という物理と数学のつながりを明確にし、グラフの形状が変わっても対応できる応用力を養います。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「\(v\)-\(t\) グラフの読み取りと等加速度直線運動」です。グラフから物理情報を読み取り、物体の運動をイメージする力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- \(v\)-\(t\) グラフの傾き: その瞬間の加速度を表します。
- \(v\)-\(t\) グラフの面積: その区間での変位(移動距離)を表します。
- 速度の符号: 正なら正方向(右)、負なら負方向(左)への運動を意味し、符号が変わる瞬間に物体は折り返します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、各区間のグラフの傾きを計算して加速度を求めます。
- (2)(3)では、グラフと横軸で囲まれた部分の面積(台形や三角形)を計算して位置を求めます。
- (4)では、等加速度直線運動の公式を利用するか、あるいは運動の対称性に着目して解きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
\(v\)-\(t\) グラフ(速度と時間のグラフ)において、グラフの傾きは加速度を表します。
各時刻が含まれる区間の直線の傾きを読み取ります。
この設問における重要なポイント
- 傾きの定義: \(\text{傾き} = \frac{\text{縦の変化量}}{\text{横の変化量}} = \frac{\Delta v}{\Delta t}\) です。
- 符号の確認: 右上がりの直線は正の加速度(加速)、水平なら \(0\)(等速)、右下がりなら負の加速度(減速)です。
具体的な解説と立式
(ア) 時刻 \(t=2\,\text{s}\)
この時刻は \(0 \le t \le 4\) の区間にあります。この区間では、原点 \((0, 0)\) から点 \((4, 16)\) へ向かう直線です。
加速度 \(a\) はこの直線の傾きに等しいので、
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{16 – 0}{4 – 0}
\end{aligned}
$$
(イ) 時刻 \(t=6\,\text{s}\)
この時刻は \(4 \le t \le 7\) の区間にあります。この区間では、速度は \(16\,\text{m/s}\) で一定(水平な直線)です。
速度が変化しないため、加速度は \(0\) です。
$$
\begin{aligned}
a &= 0
\end{aligned}
$$
(ウ) 時刻 \(t=11\,\text{s}\)
この時刻は \(7 \le t\) の区間にあります。この区間では、点 \((7, 16)\) から点 \((15, 0)\) を通る直線です。
加速度 \(a\) はこの直線の傾きなので、
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{0 – 16}{15 – 7}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 加速度の定義: \(a = \frac{\Delta v}{\Delta t}\)
(ア)
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{16}{4} \\[2.0ex]
&= 4
\end{aligned}
$$
(イ)
$$
\begin{aligned}
a &= 0
\end{aligned}
$$
(ウ)
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{-16}{8} \\[2.0ex]
&= -2
\end{aligned}
$$
グラフの「坂の急さ」が加速度です。
最初は急な上り坂なので、勢いよく加速しています(\(4\,\text{m/s}^2\))。
次は平坦な道なので、スピードは変わりません(\(0\,\text{m/s}^2\))。
最後は下り坂なので、ブレーキをかけて減速しています(\(-2\,\text{m/s}^2\))。
(ア) \(4\)、(イ) \(0\)、(ウ) \(-2\)。
単位はすべて \(\text{m/s}^2\) です。グラフの見た目(右上がり、水平、右下がり)と符号が一致しており妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
\(v\)-\(t\) グラフと横軸(\(t\) 軸)で囲まれた部分の面積は、移動距離(変位)を表します。
時刻 \(t=6\,\text{s}\) までのグラフの面積を求めます。
この設問における重要なポイント
- 図形の分割: 求める面積は台形になりますが、三角形と長方形に分割して計算しても構いません。ここでは台形の面積公式を使って一発で求めます。
- 初期位置: 問題文に「\(t=0\) で \(x=0\)」とあるので、面積の値がそのまま位置 \(x\) になります。
具体的な解説と立式
時刻 \(t=0\) から \(t=6\) までのグラフの面積 \(S\) を計算します。
この図形は、上底の長さが \(6 – 4 = 2\)、下底の長さが \(6 – 0 = 6\)、高さが \(16\) の台形です。
位置 \(x\) はこの面積 \(S\) に等しいので、
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{1}{2} \times (\text{上底} + \text{下底}) \times \text{高さ} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times (2 + 6) \times 16
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 変位 \(x = \text{\(v\)-\(t\) グラフの面積}\)
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{1}{2} \times 8 \times 16 \\[2.0ex]
&= 4 \times 16 \\[2.0ex]
&= 64
\end{aligned}
$$
「速さ \(\times\) 時間 = 距離」ですが、速さが変わる場合はグラフの面積が距離になります。
最初の4秒間で加速しながら進み、次の2秒間は等速で進みました。これら全体の移動距離を、グラフの面積として計算しました。
答えは \(64\,\text{m}\)。
概算してみると、平均速度はおよそ \(10\,\text{m/s}\) 程度で \(6\) 秒間走ったので、\(60\,\text{m}\) 前後になるはずです。\(64\,\text{m}\) は妥当な値です。
問(3)
思考の道筋とポイント
「右に最も離れる」とはどういう状況かを物理的に考えます。
物体は速度 \(v > 0\) の間は右に進み続け、\(v < 0\) になると左に戻り始めます。つまり、速度の符号がプラスからマイナスに変わる瞬間(\(v=0\))が、最も遠くまで行った地点(折り返し点)です。
この設問における重要なポイント
- 折り返し条件: \(v=0\) となる時刻を探します。
- 最大変位: 折り返し時刻までのグラフの総面積を計算します。
具体的な解説と立式
(オ) 時刻 \(t\)
グラフを見ると、\(t=0\) から \(t=15\) までは \(v \ge 0\)(グラフが横軸より上)ですが、\(t=15\) を過ぎると \(v < 0\)(横軸より下)になります。
したがって、右への移動が終了し、左への移動が始まるのは \(t=15\,\text{s}\) です。
(カ) 位置 \(x\)
\(t=0\) から \(t=15\) までの移動距離を求めます。これはグラフ全体の台形の面積に相当します。
上底は \(7 – 4 = 3\)、下底は \(15 – 0 = 15\)、高さは \(16\) です。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{1}{2} \times (3 + 15) \times 16
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 変位 \(x = \text{\(v\)-\(t\) グラフの面積}\)
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{1}{2} \times 18 \times 16 \\[2.0ex]
&= 9 \times 16 \\[2.0ex]
&= 144
\end{aligned}
$$
物体はずっと右に進んでいましたが、\(t=7\) からブレーキをかけ始め、\(t=15\) で一瞬止まりました。その後はバック(左へ移動)し始めます。
だから、一番遠くにいるのは止まった瞬間である \(15\) 秒後です。その場所は、そこまで進んだ距離の合計(面積)で計算できます。
時刻 \(15\,\text{s}\)、位置 \(144\,\text{m}\)。
(2)の \(64\,\text{m}\) よりも遠くに行っているので矛盾はありません。
問(4)
思考の道筋とポイント
物体は \(t=15\) で \(x=144\) の地点で折り返し、その後は負の加速度(左向きの力)を受けて左へ進みます。
「再び原点に戻る」とは、位置 \(x\) が再び \(0\) になるということです。
模範解答のように「折り返し点からの復路」だけを切り出して考える方法が最も計算が楽ですが、ここでは別解も含めて解説します。
この設問における重要なポイント
- 運動の対称性: \(t=15\) 以降は、初速度 \(0\) から一定のペースで加速しながら戻ってくる運動です。
- 変位の条件: 原点に戻るということは、折り返し点から「左向きに \(144\,\text{m}\)」進むということです。
具体的な解説と立式
\(t=15\,\text{s}\) 以降の運動に着目します。
このとき、物体は位置 \(x=144\,\text{m}\) にあり、速度は \(0\) です。
加速度は(1)(ウ)で求めた通り \(a = -2\,\text{m/s}^2\) です。つまり、左向きに大きさ \(2\,\text{m/s}^2\) の加速度で運動します。
ここで、左向きを正とする新しい座標軸を考え、\(t=15\) を基準時刻 \(T=0\) とします。
原点まで戻るのにかかる時間を \(T\) とすると、進むべき距離は \(144\,\text{m}\) です。
等加速度直線運動の公式 \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) より、
$$
\begin{aligned}
144 &= 0 \cdot T + \frac{1}{2} \times 2 \times T^2 \\[2.0ex]
144 &= T^2
\end{aligned}
$$
これを解いて \(T\) を求め、元の時刻 \(t = 15 + T\) を計算します。
そのときの速度 \(v\) は、左向きを正として \(v’ = v_0 + aT\) より、
$$
\begin{aligned}
v’ &= 0 + 2 \times T
\end{aligned}
$$
元の座標系(右向き正)では、符号を逆にして \(v = -v’\) となります。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位: \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
- 等加速度直線運動の速度: \(v = v_0 + at\)
時間の計算:
$$
\begin{aligned}
T^2 &= 144 \\[2.0ex]
T &= 12 \quad (T > 0)
\end{aligned}
$$
よって、求める時刻 \(t\) は、
$$
\begin{aligned}
t &= 15 + 12 \\[2.0ex]
&= 27
\end{aligned}
$$
速度の計算:
$$
\begin{aligned}
v’ &= 2 \times 12 \\[2.0ex]
&= 24
\end{aligned}
$$
左向きに \(24\,\text{m/s}\) なので、求める速度 \(v\) は、
$$
\begin{aligned}
v &= -24
\end{aligned}
$$
\(144\,\text{m}\) 先まで行って止まった物体が、今度は逆向きに加速しながら戻ってきます。
「行き」にかかった時間や距離とは関係なく、「帰り」は初速度ゼロからのスタートとして計算できます。
\(144\,\text{m}\) を加速度 \(2\,\text{m/s}^2\) で走ると \(12\) 秒かかります。だから、スタートから数えて \(15 + 12 = 27\) 秒後に戻ってきます。
時刻 \(27\,\text{s}\)、速度 \(-24\,\text{m/s}\)。
戻ってくるので速度は負になるはずであり、符号は正しいです。
思考の道筋とポイント
座標軸を反転させず、\(x\) 軸正方向を右向きとしたまま、\(t \ge 7\) の区間全体に対して等加速度直線運動の公式を適用します。
この方法なら、時刻 \(t\) が直接求まり、速度の符号も自動的に正しく得られます。
この設問における重要なポイント
- 初期条件の設定: この運動(減速して逆行する運動)が始まったのは \(t=7\,\text{s}\) です。この時刻を基準とします。
- \(t=7\) での状態:
- 速度 \(v_0 = 16\,\text{m/s}\)
- 位置 \(x_0\): \(t=0 \sim 7\) の面積なので、台形 \((3+7)\times 16 / 2 = 80\,\text{m}\) です。
- 加速度: \(a = -2\,\text{m/s}^2\)
具体的な解説と立式
時刻 \(t\) における位置 \(x\) が \(0\) になる条件を求めます。
経過時間を \(t’ = t – 7\) とします。
等加速度直線運動の公式 \(x = x_0 + v_0 t’ + \frac{1}{2}at’^2\) より、
$$
\begin{aligned}
0 &= 80 + 16t’ + \frac{1}{2}(-2)t’^2 \\[2.0ex]
0 &= 80 + 16t’ – t’^2
\end{aligned}
$$
この二次方程式を解いて \(t’\) を求めます。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位: \(x = x_0 + v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
- 等加速度直線運動の速度: \(v = v_0 + at\)
式を整理すると、
$$
\begin{aligned}
t’^2 – 16t’ – 80 &= 0
\end{aligned}
$$
解の公式 \(t’ = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 – 4ac}}{2a}\) を利用します。
$$
\begin{aligned}
t’ &= \frac{16 \pm \sqrt{(-16)^2 – 4 \cdot 1 \cdot (-80)}}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{16 \pm \sqrt{256 + 320}}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{16 \pm \sqrt{576}}{2}
\end{aligned}
$$
ここで \(\sqrt{576}\) を計算します。\(20^2=400, 25^2=625\) なので、その間の数です。末尾が \(6\) なので \(24\) か \(26\) ですが、\(24^2 = (25-1)^2 = 625 – 50 + 1 = 576\) なので、\(\sqrt{576} = 24\) です。
$$
\begin{aligned}
t’ &= \frac{16 \pm 24}{2}
\end{aligned}
$$
\(t’ > 0\) より、
$$
\begin{aligned}
t’ &= \frac{16 + 24}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{40}{2} \\[2.0ex]
&= 20
\end{aligned}
$$
よって、求める時刻 \(t\) は、
$$
\begin{aligned}
t &= 7 + 20 \\[2.0ex]
&= 27
\end{aligned}
$$
そのときの速度 \(v\) は、
$$
\begin{aligned}
v &= v_0 + at’ \\[2.0ex]
&= 16 + (-2) \times 20 \\[2.0ex]
&= 16 – 40 \\[2.0ex]
&= -24
\end{aligned}
$$
\(t=7\) の時点で、物体は \(80\,\text{m}\) の地点にいて、\(16\,\text{m/s}\) で進んでいました。そこからブレーキ(加速度 \(-2\))をかけ続けたら、いつ原点(\(0\,\text{m}\))に戻るか?という計算をしました。
方程式を解くと、\(20\) 秒後と出ました。
メインの解法と同じ結果が得られました。
この方法は計算が少し大変ですが、座標軸をいじらずに機械的に解ける強みがあります。
思考の道筋とポイント
物理量の定義(加速度は速度の微分、速度は位置の微分)に基づき、積分を使って位置の関数 \(x(t)\) を導出します。
特に \(t \ge 7\) の区間における運動を一つの関数で表すことで、現象を俯瞰的に捉えます。
この設問における重要なポイント
- 速度関数の決定: \(t \ge 7\) において、グラフは傾き \(-2\) の直線であり、\(t=15\) で \(v=0\) となります。これを式で表します。
- 位置関数の導出: 速度関数を積分し、積分定数を境界条件(\(t=15\) での最大変位)から決定します。
具体的な解説と立式
\(t \ge 7\) における速度 \(v(t)\) は、傾き \(-2\) で \(t=15\) を通る直線なので、以下のように書けます。
$$
\begin{aligned}
v(t) &= -2(t – 15)
\end{aligned}
$$
位置 \(x(t)\) は速度の積分なので、
$$
\begin{aligned}
x(t) &= \int v(t) \, dt \\[2.0ex]
&= \int -2(t – 15) \, dt \\[2.0ex]
&= -(t – 15)^2 + C
\end{aligned}
$$
ここで \(C\) は積分定数です。\(t=15\) のとき物体は折り返し点(最大変位)にあり、その位置は(3)で求めた \(144\,\text{m}\) です。
$$
\begin{aligned}
x(15) &= -(15 – 15)^2 + C = 144 \\[2.0ex]
C &= 144
\end{aligned}
$$
よって、位置の関数は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
x(t) &= -(t – 15)^2 + 144
\end{aligned}
$$
原点に戻る条件は \(x(t) = 0\) です。
$$
\begin{aligned}
-(t – 15)^2 + 144 &= 0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 速度の定義: \(v = \frac{dx}{dt}\)
- 位置の積分: \(x = \int v \, dt\)
$$
\begin{aligned}
(t – 15)^2 &= 144 \\[2.0ex]
t – 15 &= \pm 12
\end{aligned}
$$
\(t > 15\)(一度折り返した後)なので、
$$
\begin{aligned}
t – 15 &= 12 \\[2.0ex]
t &= 27
\end{aligned}
$$
このときの速度は、速度関数に代入して、
$$
\begin{aligned}
v(27) &= -2(27 – 15) \\[2.0ex]
&= -2 \times 12 \\[2.0ex]
&= -24
\end{aligned}
$$
物体の位置 \(x\) が、時間 \(t\) を使って \(x = -(t-15)^2 + 144\) という放物線の式で表されることが分かりました。
この式は、\(t=15\) で頂点(最大値 \(144\))を持つ山なりのグラフです。
\(x=0\) になるのは、頂点から左右に \(12\) 離れたとき(\(15 \pm 12\))です。未来の話なので \(15+12=27\) 秒後となります。
微積分を使うと、等加速度運動の公式を暗記していなくても、速度のグラフの形から自然に位置の式を導き出せます。
結果はもちろん一致します。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- \(v\)-\(t\) グラフの幾何学的意味の理解
- 核心: \(v\)-\(t\) グラフ(速度-時間グラフ)は、単なるデータの羅列ではなく、物体の運動の全てを記述する地図のようなものです。「傾き」が加速度、「面積」が変位(移動距離)を表すという2つの幾何学的性質が、この問題の全ての計算の根拠となります。
- 理解のポイント:
- 傾きと加速度: グラフが右上がりなら加速(\(a>0\))、水平なら等速(\(a=0\))、右下がりなら減速(\(a<0\))という直感的なイメージと、数式 \(a = \frac{\Delta v}{\Delta t}\) を結びつけましょう。
- 面積と変位: 「速さ \(\times\) 時間 = 距離」という小学校以来の公式が、速度が変化する場合でも「グラフの面積」として拡張できることを理解しましょう。特に、速度が負の領域(\(t\) 軸より下)の面積は、負方向への変位(戻る距離)を意味します。
- 運動の対称性と折り返しの概念
- 核心: 物体が減速して停止し、逆向きに加速して戻ってくる運動(折り返し運動)は、停止点(最高点や最遠点)を境に対称性を持ちます。この対称性を利用することで、複雑な計算を単純化できます。
- 理解のポイント:
- 速度の符号変化: 「折り返し」とは、速度の符号がプラスからマイナス(またはその逆)に変わる瞬間のことです。つまり、\(v=0\) となる瞬間が折り返し点です。
- 行きと帰りの対称性: 等加速度運動では、同じ高さ(位置)を通過するときの速さは同じで向きが逆になります。また、停止点までの減速時間と、そこからの加速時間は、距離が同じなら等しくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- エレベーターの運動: 「加速→等速→減速」というパターンは、エレベーターの問題で頻出です。\(v\)-\(t\) グラフが台形になるのが特徴で、この問題の(1)(2)と全く同じアプローチで解けます。
- 鉛直投げ上げ運動: 重力による等加速度運動も、\(v\)-\(t\) グラフを描くと一直線の右下がりのグラフになります。最高点(\(v=0\))での折り返しや、地面に戻るまでの時間の計算は、この問題の(4)と同じ構造です。
- 2物体の追跡問題: 逃げる泥棒と追うパトカーのように、2つの物体が動く場合も、同じ\(v\)-\(t\) グラフ上に2本の線を描き、「面積が等しくなる時刻(追いつく時刻)」を探すという手法が有効です。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの軸を確認する: 縦軸が \(v\)(速度)なのか \(x\)(位置)なのか \(a\)(加速度)なのかを最初に見極めます。\(v\)-\(t\) グラフなら「傾き=加速度」「面積=距離」が使えます。
- 「カクカク」した点に注目する: グラフの傾きが変わる点(この問題では \(t=4, 7\))は、運動の状態が変わる節目です。ここで区間を分けて考えます。
- \(v=0\) の点を探す: グラフが横軸と交わる点(\(t=15\))は、運動の向きが変わる極めて重要なポイントです。ここを基準に「行き」と「帰り」を分けて考えると見通しが良くなります。
- 解法の選択:
- 「ある瞬間の加速度」 \(\rightarrow\) 傾きを計算。
- 「ある時刻までの距離」 \(\rightarrow\) 面積を計算。
- 「特定の条件(元の位置に戻るなど)」 \(\rightarrow\) 運動方程式や等加速度運動の公式、あるいはグラフの幾何学的性質(面積計算)を利用。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 「変位」と「移動距離」の混同:
- 誤解: \(t=15\) 以降、物体は左に戻っていますが、単純に面積を足し続けてしまい、「総移動距離(道のり)」を求めてしまうミス。位置(変位)を問われている場合は、戻った分(負の面積)を引き算する必要があります。
- 対策: 「位置 \(x\)」を問われたら、\(t\) 軸より下の面積は「マイナス」として扱います。「移動した道のり」を問われたら、すべてプラスとして足し合わせます。問題文がどちらを求めているか注意深く読みましょう。
- 加速度の符号のミス:
- 誤解: 減速しているからといって、加速度を正の値(大きさ)だけで答えてしまう、あるいは公式に代入する際にマイナスを忘れる。
- 対策: グラフが右下がりなら加速度は必ず「負」です。計算結果がマイナスになったら、そのままマイナスをつけて答えます(「大きさ」を問われた場合を除く)。公式 \(v = v_0 + at\) に代入するときも、\(a = -2\) のように符号付きで代入します。
- 時刻の基準点の取り違え:
- 誤解: (4)のような問題で、途中から運動を考える際に、\(t=0\) からの通算時間 \(t\) と、その区間での経過時間 \(T\)(または \(t’\))を混同してしまう。
- 対策: 途中から計算を始める場合は、必ず「\(t = 15 + T\)」のように、元の時刻 \(t\) と新しい変数 \(T\) の関係式を最初に書き出してから計算を始めましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(2)(3)での公式選択(グラフの面積):
- 選定理由: 加速度が変化する運動(加速→等速→減速)全体の移動距離を求める場合、等加速度運動の公式を区間ごとに3回適用して足し合わせるのは手間がかかります。グラフの面積なら、台形の面積公式一発で求められるため、圧倒的に効率的です。
- 適用根拠: \(v\)-\(t\) グラフの面積が変位を表すことは物理的に常に正しいからです。
- 問(4)での公式選択(等加速度直線運動の公式):
- 選定理由: 「いつ戻ってくるか(時間)」や「その時の速度」といった、特定の位置や時刻における瞬時値を求める問題です。グラフの面積から逆算することも可能ですが(二次方程式になる)、公式 \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) を使う方が、未知数 \(t\) を直接方程式として立てやすく、解法が機械的になります。
- 適用根拠: \(t \ge 7\) の区間ではグラフが一直線であり、加速度が一定(等加速度運動)であるため、この公式が適用可能です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- グラフへの書き込み:
- 問題用紙のグラフに、読み取った座標 \((4, 16)\) や、計算した傾き(加速度)、区間ごとの面積(距離)を直接書き込む癖をつけましょう。視覚的に情報を整理することで、計算ミスや取り違えを防げます。
- 単位の確認と次元解析:
- 加速度の単位は \(\text{m/s}^2\)、速度は \(\text{m/s}\)、距離は \(\text{m}\) です。計算の途中で単位が合っているか意識しましょう。例えば、面積計算で \(\text{縦}(\text{m/s}) \times \text{横}(\text{s}) = \text{m}\) となり、距離の次元になっていることを確認します。
- 概算による検算:
- (2)で \(64\,\text{m}\) という答えが出たとき、「最大速度 \(16\) で \(6\) 秒なら \(96\)、平均速度はその半分より少し速いくらいだから \(60\) くらいかな?」と直感的に当たりをつけます。もし答えが \(640\) や \(6.4\) になっていたら、桁の間違いに気づけます。
- (4)で \(27\,\text{s}\) という答えが出たとき、「行きに \(15\) 秒かかったのだから、帰りもそれなりに時間がかかるはず。\(16\) 秒とか \(100\) 秒とか極端な値ではないな」と確認します。
問題2 (大阪電通大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)〜(5)の別解1: \(v\)-\(t\) グラフを用いた解法
- 模範解答でも別解として触れられていますが、ここではグラフの「傾き」と「面積」の物理的意味(加速度と移動距離)を軸に、全設問を一貫して解く方法を詳細に解説します。数式だけで解くよりも現象の全体像(加速・等速・減速の流れ)を視覚的に捉えやすくなります。
- 設問(1)〜(5)の別解2: 微積分を用いた体系的解法
- 加速度を時間積分して速度を、速度を時間積分して位置を求めるという、物理学の根本原理に基づいた解法です。公式の暗記ではなく、運動の因果関係(力 \(\to\) 加速度 \(\to\) 速度 \(\to\) 位置)から解を導きます。
- 設問(2)〜(5)の別解1: \(v\)-\(t\) グラフを用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- \(v\)-\(t\) グラフの解法: 複雑な運動の変化を「図形の面積計算」に帰着できるため、計算ミスが減り、直感的な理解が深まります。特に、移動距離と時間の関係を一目で把握できる点が強力です。
- 微積分の解法: 「なぜその公式になるのか」という背景を理解するのに役立ちます。また、加速度が一定でない場合など、公式が通用しない応用問題にも対応できる汎用的な思考力を養います。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「複数の運動区間を持つエレベーターの昇降運動」です。加速、等速、減速と運動の状態が変化していく中で、それぞれの区間をつなぐ物理量(速度や位置)に着目して解く力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 等加速度直線運動の3公式:
- \(v = v_0 + at\) (速度と時間の関係)
- \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) (位置と時間の関係)
- \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) (時間を含まない関係)
- 等速直線運動: 加速度が \(0\) の運動で、\(x = vt\) が成り立ちます。
- 運動の連続性: ある区間の「終わりの速度・位置」は、次の区間の「始まりの速度・位置」と等しくなります。これが区間をつなぐ接続条件となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、初速度 \(0\) から始まる等加速度運動の公式を適用します。
- (2)(3)では、加速区間と等速区間のつながりに着目し、総移動距離の条件から加速度を逆算します。
- (4)(5)では、減速区間の運動を解析し、停止するまでの距離や時間を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
問題文より、最初の \(6\) 秒間は「初速度 \(0\)」「一定の加速度 \(a\)」の等加速度直線運動です。
この条件に合わせて、等加速度直線運動の公式を適用します。
この設問における重要なポイント
- 初期条件の確認: 「地上で静止していた」とあるので、時刻 \(t=0\) での位置 \(y=0\)、初速度 \(v_0=0\) です。
- 変数の定義: 時刻 \(t\) における高さ \(y\) と速さ \(v\) を求めます。
具体的な解説と立式
鉛直上向きを正の向きとします。
等加速度直線運動の速度の公式 \(v = v_0 + at\) において、\(v_0 = 0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= 0 + at
\end{aligned}
$$
同様に、位置の公式 \(y = y_0 + v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) において、\(y_0 = 0, v_0 = 0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
y &= 0 + 0 \cdot t + \frac{1}{2}at^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の速度: \(v = v_0 + at\)
- 等加速度直線運動の位置: \(y = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
$$
\begin{aligned}
v &= at \\[2.0ex]
y &= \frac{1}{2}at^2
\end{aligned}
$$
止まっていたエレベーターが一定の勢いでスピードを上げていく場面です。
速さは時間とともに比例して増えていき(\(v=at\))、進んだ距離は時間の2乗に比例して伸びていきます(\(y=\frac{1}{2}at^2\))。これは物を落とした時(自由落下)と逆向きの同じ種類の運動です。
\(y = \frac{1}{2}at^2\)、\(v = at\)。
次元を確認すると、\(y\) は \([\text{L}]\)、\(at^2\) は \([\text{L}\text{T}^{-2}] \cdot [\text{T}^2] = [\text{L}]\) で一致。\(v\) は \([\text{L}\text{T}^{-1}]\)、\(at\) は \([\text{L}\text{T}^{-2}] \cdot [\text{T}] = [\text{L}\text{T}^{-1}]\) で一致しており、妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
運動が「加速区間(6秒間)」と「等速区間(8秒間)」の2つに分かれています。
これら2つの区間で進んだ距離の合計が、問題文にある「高さ \(99\,\text{m}\)」に等しいという式を立てて、未知数 \(a\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 区間の接続: 加速が終わった瞬間(\(t=6\))の速度が、その後の等速運動の速度になります。
- 距離の足し算: \((\text{加速で進んだ距離}) + (\text{等速で進んだ距離}) = 99\) という関係式を作ります。
具体的な解説と立式
まず、加速区間(\(0 \le t \le 6\))の終わりの状態を文字式で表します。
(1)の式に \(t=6\) を代入して、加速終了時の速度 \(v_1\) と高さ \(y_1\) を表します。
$$
\begin{aligned}
v_1 &= a \times 6 \\[2.0ex]
y_1 &= \frac{1}{2} a \times 6^2
\end{aligned}
$$
次に、等速区間(次の \(8\) 秒間)に進む距離 \(y_2\) を表します。
速度は \(v_1\) のまま一定なので、
$$
\begin{aligned}
y_2 &= v_1 \times 8
\end{aligned}
$$
これら2つの区間で進んだ合計の高さが \(99\,\text{m}\) なので、以下の式を立てます。
$$
\begin{aligned}
y_1 + y_2 &= 99
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等速直線運動の距離: \(x = vt\)
立てた式に \(y_1, y_2\) の式を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
\left( \frac{1}{2} a \times 36 \right) + (6a \times 8) &= 99 \\[2.0ex]
18a + 48a &= 99 \\[2.0ex]
66a &= 99 \\[2.0ex]
a &= \frac{99}{66} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2} \\[2.0ex]
&= 1.5
\end{aligned}
$$
最初の6秒で進んだ距離と、そのスピードのまま次の8秒で進んだ距離を足すと \(99\,\text{m}\) になりました。
どちらの距離も加速度 \(a\) を使って表せるので、合計が \(99\) になるような \(a\) を逆算しました。
\(a = 1.5\,\text{m/s}^2\)。
エレベーターの加速度として極端に大きくも小さくもなく、妥当な値です。
問(3)
思考の道筋とポイント
「一定の速さで上昇した距離」とは、先ほどの解説における \(y_2\) のことです。
すでに \(y_2 = v_1 \times 8\) という式を立てており、\(a\) の値も求まったので、代入するだけで求まります。
この設問における重要なポイント
- 等速運動の速度: 加速終了時の速度 \(v_1 = 6a\) を具体的な数値として求めます。
具体的な解説と立式
等速運動の速度 \(v_1\) は、\(a=1.5\) を用いて以下のように表されます。
$$
\begin{aligned}
v_1 &= 6 \times 1.5
\end{aligned}
$$
この速度で \(8\) 秒間上昇したので、距離 \(y_2\) は以下の式で計算されます。
$$
\begin{aligned}
y_2 &= v_1 \times 8
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等速直線運動の距離: \(x = vt\)
$$
\begin{aligned}
v_1 &= 9.0 \\[2.0ex]
y_2 &= 9.0 \times 8 \\[2.0ex]
&= 72
\end{aligned}
$$
加速が終わった時点で、エレベーターは秒速 \(9\,\text{m}\) になっていました。
この速さで \(8\) 秒間進んだので、\(9 \times 8 = 72\,\text{m}\) 上昇しました。
\(72\,\text{m}\)。
加速区間の距離は \(18a = 18 \times 1.5 = 27\,\text{m}\)。合計すると \(27 + 72 = 99\,\text{m}\) となり、問題文の条件と一致します。
問(4)
思考の道筋とポイント
最後の区間は「減速しながら上昇して停止」する運動です。
この区間の「初速度」「終速度」「移動距離」の情報から、加速度を求めます。
この設問における重要なポイント
- 区間の情報整理:
- 初速度 \(v_{\text{始}}\): 等速区間の速度と同じ \(9.0\,\text{m/s}\)。
- 終速度 \(v_{\text{終}}\): 屋上に着いたので \(0\,\text{m/s}\)。
- 移動距離 \(\Delta y\): 全体の高さ \(144\,\text{m}\) から、ここまでの高さ \(99\,\text{m}\) を引いた残り。
- 公式の選択: 時間 \(t\) が未知なので、時間を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を使うのが最適です。
具体的な解説と立式
まず、減速区間での移動距離 \(\Delta y\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\Delta y &= 144 – 99
\end{aligned}
$$
求める加速度を \(a’\) とします。
等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) に、\(v = 0, v_0 = 9.0, x = \Delta y\) を代入して立式します。
$$
\begin{aligned}
0^2 – 9.0^2 &= 2 a’ \times \Delta y
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の関係式: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
$$
\begin{aligned}
\Delta y &= 45 \\[2.0ex]
-81 &= 2 a’ \times 45 \\[2.0ex]
-81 &= 90 a’ \\[2.0ex]
a’ &= -\frac{81}{90} \\[2.0ex]
&= -0.9
\end{aligned}
$$
秒速 \(9\,\text{m}\) で走っていたエレベーターが、残り \(45\,\text{m}\) の距離を使ってブレーキをかけ、ぴったり停止しました。
「ある距離で止まるために必要なブレーキの強さ(加速度)」を計算する公式を使って求めました。
\(-0.9\,\text{m/s}^2\)。
上向きを正としているため、減速(下向きの加速度)を表すマイナスの符号がついているのは妥当です。
問(5)
思考の道筋とポイント
「全部でどれだけの時間」とあるので、各区間の時間を足し合わせます。
第1区間(加速)は \(6\) 秒、第2区間(等速)は \(8\) 秒と分かっているので、第3区間(減速)にかかった時間を求めれば完了です。
この設問における重要なポイント
- 減速区間の時間: 初速度 \(9.0\)、終速度 \(0\)、加速度 \(-0.9\) という情報から時間を求めます。
具体的な解説と立式
減速区間にかかった時間を \(t’\) とします。
速度の公式 \(v = v_0 + at\) より、以下の式を立てます。
$$
\begin{aligned}
0 &= 9.0 + (-0.9) \times t’
\end{aligned}
$$
これを解いて \(t’\) を求め、全体の所要時間 \(T\) を計算する式を立てます。
$$
\begin{aligned}
T &= 6 + 8 + t’
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の速度: \(v = v_0 + at\)
まず \(t’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
0.9 t’ &= 9.0 \\[2.0ex]
t’ &= 10
\end{aligned}
$$
合計時間を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= 6 + 8 + 10 \\[2.0ex]
&= 24
\end{aligned}
$$
最後のブレーキ区間では、秒速 \(9\,\text{m}\) から毎秒 \(0.9\,\text{m/s}\) ずつ速度を落としていきました。
\(9 \div 0.9 = 10\) なので、止まるまでに \(10\) 秒かかります。
これに前の \(6\) 秒と \(8\) 秒を足して、合計時間を求めました。
\(24\) 秒。
エレベーターが \(144\,\text{m}\)(約40〜50階建てのビル相当)を昇るのに24秒というのは、高速エレベーターとして現実的な数値です。
思考の道筋とポイント
物体の運動を \(v\)-\(t\) グラフ(縦軸に速度、横軸に時間)に描いて考えます。
このグラフでは、「傾き=加速度」「面積=移動距離」となります。
エレベーターの運動は「加速(右上がり)→等速(水平)→減速(右下がり)」となるため、グラフは台形になります。
この設問における重要なポイント
- グラフの形状: 原点から始まり、\(t=6\) まで直線的に上昇、\(t=14\) まで水平、その後直線的に下降して \(t\) 軸に戻る台形です。
- 面積の利用:
- 前半の面積(三角形+長方形) \(= 99\)
- 後半の面積(三角形) \(= 144 – 99 = 45\)
具体的な解説と立式
(2) 加速度 \(a\)
\(t=6\) での速度を \(v_1\) とします。
\(0 \le t \le 14\) の区間の面積は、最初の三角形と次の長方形の和です。
$$
\begin{aligned}
(\text{三角形の面積}) + (\text{長方形の面積}) &= 99 \\[2.0ex]
\left( \frac{1}{2} \times 6 \times v_1 \right) + (8 \times v_1) &= 99
\end{aligned}
$$
加速度 \(a\) は最初の直線の傾きなので、以下の式で求めます。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{v_1 – 0}{6 – 0}
\end{aligned}
$$
(3) 等速上昇した距離
長方形部分の面積に相当します。
$$
\begin{aligned}
(\text{距離}) &= 8 \times v_1
\end{aligned}
$$
(4)(5) 減速時の加速度と全時間
減速区間の時間を \(t’\) とします。
この区間(最後の三角形)の面積は、残りの距離 \(144 – 99 = 45\) に等しいので、以下の式を立てます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} \times t’ \times v_1 &= 45
\end{aligned}
$$
減速時の加速度 \(a’\) は、この区間のグラフの傾きなので、以下の式で求めます。
$$
\begin{aligned}
a’ &= \frac{0 – v_1}{t’}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- \(v\)-\(t\) グラフの傾き: 加速度
- \(v\)-\(t\) グラフの面積: 移動距離
(2)の計算:
$$
\begin{aligned}
3v_1 + 8v_1 &= 99 \\[2.0ex]
11v_1 &= 99 \\[2.0ex]
v_1 &= 9 \\[2.0ex]
a &= \frac{9}{6} \\[2.0ex]
&= 1.5
\end{aligned}
$$
(3)の計算:
$$
\begin{aligned}
(\text{距離}) &= 8 \times 9 \\[2.0ex]
&= 72
\end{aligned}
$$
(4)(5)の計算:
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} \times t’ \times 9 &= 45 \\[2.0ex]
4.5 t’ &= 45 \\[2.0ex]
t’ &= 10 \\[2.0ex]
a’ &= \frac{-9}{10} \\[2.0ex]
&= -0.9
\end{aligned}
$$
全時間は \(6 + 8 + 10 = 24\) 秒。
運動の様子を「台形のグラフ」として描きました。
「面積が距離になる」というルールを使うと、パズルのように面積計算だけで速度や時間を次々と求めることができます。数式をこねくり回すよりも、全体像が見えやすくなります。
すべての設問において、メインの解法と同じ結果が得られました。
思考の道筋とポイント
加速度 \(a(t)\) を定義し、それを積分して速度 \(v(t)\)、さらに積分して位置 \(y(t)\) を導きます。
区間ごとに異なる関数形になりますが、接続点での連続性を利用して解き進めます。
この設問における重要なポイント
- 定積分の利用: 変位(位置の変化)は速度の定積分で表されます。
$$
y(t) = y(t_0) + \int_{t_0}^t v(\tau) \, d\tau
$$
具体的な解説と立式
(1) \(0 \le t \le 6\)
加速度 \(a(t) = a\) (定数)です。
速度 \(v(t)\) と位置 \(y(t)\) を積分で表します。
$$
\begin{aligned}
v(t) &= \int_0^t a \, d\tau \\[2.0ex]
y(t) &= \int_0^t v(\tau) \, d\tau
\end{aligned}
$$
(2) \(6 < t \le 14\)
\(t=6\) での速度 \(v(6) = 6a\)、位置 \(y(6) = 18a\) です。
この区間は加速度 \(0\) なので、速度は一定 \(v(t) = 6a\) です。
\(t=14\) での位置 \(y(14)\) を積分で表し、それが \(99\) に等しいという式を立てます。
$$
\begin{aligned}
y(14) &= y(6) + \int_6^{14} 6a \, d\tau \\[2.0ex]
y(14) &= 99
\end{aligned}
$$
(4)(5) \(t > 14\)
\(t=14\) での速度 \(v(14) = 9\)、位置 \(y(14) = 99\) です。
加速度を \(a’\) とすると、速度は \(v(t) = 9 + a'(t – 14)\) となります。
停止する時刻を \(T\) とすると、\(v(T) = 0\) より以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
9 + a'(T – 14) &= 0 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
位置 \(y(T)\) を積分で表し、それが \(144\) に等しいという式を立てます。
$$
\begin{aligned}
y(T) &= y(14) + \int_{14}^T \{9 + a'(\tau – 14)\} \, d\tau \\[2.0ex]
y(T) &= 144
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 速度の定義: \(v = \frac{dy}{dt}\)
- 加速度の定義: \(a = \frac{dv}{dt}\)
- 微積分学の基本定理: \(y(b) – y(a) = \int_a^b v(t) \, dt\)
(1)の計算:
$$
\begin{aligned}
v(t) &= at \\[2.0ex]
y(t) &= \frac{1}{2}at^2
\end{aligned}
$$
(2)の計算:
$$
\begin{aligned}
y(14) &= 18a + [6a\tau]_6^{14} \\[2.0ex]
&= 18a + 6a(14 – 6) \\[2.0ex]
&= 18a + 48a \\[2.0ex]
&= 66a \\[2.0ex]
66a &= 99 \\[2.0ex]
a &= 1.5
\end{aligned}
$$
(4)(5)の計算:
\(y(T)\) の積分計算を進めます。
$$
\begin{aligned}
y(T) &= 99 + \left[ 9\tau + \frac{1}{2}a'(\tau – 14)^2 \right]_{14}^T \\[2.0ex]
&= 99 + 9(T – 14) + \frac{1}{2}a'(T – 14)^2
\end{aligned}
$$
これが \(144\) に等しいので、
$$
\begin{aligned}
45 &= 9(T – 14) + \frac{1}{2}a'(T – 14)^2 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
式①より \(a'(T – 14) = -9\)。これを式②の第2項に代入します。
$$
\begin{aligned}
45 &= 9(T – 14) + \frac{1}{2} \times (-9) \times (T – 14) \\[2.0ex]
45 &= \frac{9}{2}(T – 14) \\[2.0ex]
T – 14 &= 10 \\[2.0ex]
T &= 24
\end{aligned}
$$
式①より、
$$
\begin{aligned}
a’ \times 10 &= -9 \\[2.0ex]
a’ &= -0.9
\end{aligned}
$$
「位置は速度の積み重ね(積分)」という原理を使って、前の区間の結果を次の区間のスタート地点として次々とつなげていきました。
特に最後の区間では、停止条件と距離条件を連立方程式として解くことで、時間と加速度を同時に導き出しました。
微積分を用いても、当然ながら同じ結果が得られました。
この方法は、各区間の接続条件(位置と速度が連続であること)を数式として厳密に扱うため、より複雑な運動でもミスなく解くことができます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の区間分割と接続条件の理解
- 核心: 物理現象が時間とともに変化する場合(加速→等速→減速)、運動全体を一つの式で表すことはできません。現象の変わり目で区間を分割し、それぞれの区間で適切な物理法則(等加速度運動や等速運動の公式)を適用する必要があります。
- 理解のポイント:
- 接続の連続性: 区間の切れ目において、物体は瞬間移動したり急に速度が変わったりしません。つまり、「前の区間の終わりの位置・速度」が、そのまま「次の区間の始まりの位置・速度」になります。この「バトンタッチ」を数式で表現することが、問題を解く最大の鍵です。
- 相対的な時間と位置: 2つ目以降の区間を考える際、全体の通算時間 \(t\) を使うよりも、その区間が始まってからの経過時間 \(t’\) や、その区間での移動距離 \(\Delta x\) を使う方が計算が単純になります。
- \(v\)-\(t\) グラフによる運動の可視化
- 核心: 複雑な運動の変化も、\(v\)-\(t\) グラフ(速度-時間グラフ)を描けば一目瞭然です。この問題のように「加速・等速・減速」が組み合わさった運動は、グラフ上では必ず「台形」になります。
- 理解のポイント:
- 面積と移動距離の対応: グラフの面積計算(三角形や長方形の面積)が、そのまま移動距離の計算に対応します。数式だけで解く場合も、頭の中でこのグラフのイメージを持っておくことで、計算の意味(何を求めているのか)を見失わずに済みます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電車の駅間走行: 駅を出発して加速し、定速で走り、減速して次の駅に止まる運動は、このエレベーターの問題と全く同じ構造です。
- 自動車の信号停止: 信号を見てブレーキをかけ(減速)、停止し、青になって発進する(加速)という運動も、順序は違いますが区間分割の考え方は同じです。
- ベルトコンベア上の物体: 摩擦を受けて加速し、ベルトと同じ速度になって等速運動に移るケースなども、接続条件が鍵になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 「変化の節目」を見つける: 「一定の速度になった」「ブレーキをかけた」などの記述から、運動が切り替わる時刻や位置を特定し、そこで区間を分けます。
- 未知数を定義する: 加速度 \(a\) や時間 \(t\) など、与えられていない物理量を文字で置きます。
- 接続条件を書き出す: 区間のつなぎ目で \(v_1 = v_2\)、\(x_1 = x_2\) となることを確認します。
- 解法の選択:
- 「距離」や「時間」の関係が複雑なら \(\rightarrow\) \(v\)-\(t\) グラフを描いて面積計算(視覚的に解く)。
- 「瞬間の値」を求めるだけなら \(\rightarrow\) 公式を適用(代数的に解く)。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 区間ごとの時間の混同:
- 誤解: 2つ目や3つ目の区間の計算で、公式 \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) の \(t\) に、スタートからの通算時間(例えば \(t=14\))をそのまま代入してしまう。
- 対策: 公式の中の \(t\) は「その運動をしてからの経過時間」です。区間ごとにリセットして考えるか、\(t – 14\) のように補正する必要があります。別解の微積分の解法のように \(t\) を統一して扱う場合を除き、区間ごとに新しい時間変数 \(t’\) を定義するのが安全です。
- 加速度の符号の取り違え:
- 誤解: 減速区間において、加速度を正の値として計算してしまい、速度が増えてしまう、あるいは止まるはずが止まらないという結果になる。
- 対策: 「減速=進行方向と逆向きの力」です。進行方向(上向き)を正とするなら、減速時の加速度は必ず負になります。計算結果がマイナスになったとき、「減速しているからマイナスで正しい」と判断できる感覚を持ちましょう。
- 初期位置の忘れ:
- 誤解: 2つ目の区間の位置を求める際、その区間での移動距離だけを求めて、スタート地点からの総移動距離(高さ)と混同してしまう。
- 対策: \(x = x_0 + v_0 t + \dots\) のように、必ず初期位置 \(x_0\)(前の区間までの移動距離)を足すことを忘れないようにしましょう。あるいは、「区間での移動距離」と「座標(位置)」を明確に区別してメモしましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(2)での公式選択(距離の和):
- 選定理由: 「加速区間の距離」と「等速区間の距離」の合計が \(99\,\text{m}\) であるという条件が与えられています。それぞれの距離を加速度 \(a\) を用いて表し、足し合わせることで方程式を作れます。
- 適用根拠: 加速区間は等加速度運動の公式 \(x = \frac{1}{2}at^2\)、等速区間は \(x = vt\) が適用できます。
- 問(4)での公式選択(時間を含まない式):
- 選定理由: 減速区間の「初速度」「終速度」「移動距離」が分かっており、「時間」が未知の状態で「加速度」を求めたい場面です。時間 \(t\) を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を使えば、連立方程式を解く手間なく一発で加速度が求まります。
- 適用根拠: 減速区間も「一定の加速度」とあるため、等加速度直線運動の公式が使えます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める:
- いきなり数値を代入せず、できるだけ文字(\(v_1, t_1\) など)のまま式変形を行い、最後に代入すると計算ミスが減ります。例えば(2)では \(18a + 48a = 66a\) とまとめてから \(99\) と等置することで、計算が楽になりました。
- 検算の習慣(逆算):
- (5)で合計時間 \(24\) 秒が出たら、逆にたどってみます。「減速に \(10\) 秒かかったなら、加速度は \(9 \div 10 = 0.9\) で合っているか?」「距離は \(9 \times 10 \div 2 = 45\) で合っているか?」と確認することで、ミスの早期発見につながります。
- グラフの概形を描く:
- 計算だけで解く場合でも、余白に小さく\(v\)-\(t\) グラフ(台形)を描いておきましょう。「今は台形のこの部分の面積を求めているんだな」と意識するだけで、式の意味を取り違えるミスが激減します。
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問題3 (東京海洋大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 川を横断する時間の別解1: 幾何学的アプローチ(三角形の相似)
- 模範解答では三平方の定理を用いて合成速度を計算していますが、別解1では速度ベクトルが作る直角三角形の辺の比(\(1:2:\sqrt{3}\))に着目し、計算を簡略化します。
- 出会うまでの時間の別解2: ガリレイ変換を用いた座標変換
- 「川の流れに乗った観測者」から見た相対速度を考えることで、川の流速の影響をキャンセルし、静水中の問題として捉え直す視点を提供します。
- 川を横断する時間の別解1: 幾何学的アプローチ(三角形の相似)
- 上記の別解が有益である理由
- 幾何学的アプローチ: 三角比や特別な三角形の性質を利用することで、ルート計算の手間を省き、計算ミスを減らすことができます。また、物理現象を視覚的に捉える力を養います。
- ガリレイ変換: 慣性系を変えることで問題が劇的に単純化されることを体験できます。これは相対性理論など、より高度な物理学への入り口となる重要な概念です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「速度の合成と相対速度」です。川の流れがある中での船の運動を通して、ベクトルとしての速度の扱い方を学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 速度の合成則: 静水に対する船の速度を \(\vec{v}_{\text{船}}\)、川の流れの速度を \(\vec{v}_{\text{川}}\) とすると、岸から見た船の速度(合成速度)\(\vec{v}\) は \(\vec{v} = \vec{v}_{\text{船}} + \vec{v}_{\text{川}}\) となります。
- 相対速度: 観測者A(速度 \(\vec{v}_A\))から見た物体B(速度 \(\vec{v}_B\))の相対速度 \(\vec{v}_{AB}\) は、\(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\) です。
- ベクトルの分解と合成: 速度は向きと大きさを持つベクトル量であり、成分ごとに足し合わせたり、三平方の定理を用いて大きさを求めたりします。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 前半では、川の流れに沿った1次元の運動として、単純な足し算・引き算で合成速度を求めます。
- 中盤では、川の流れに垂直な方向への移動を考えるため、ベクトル図を描いて三平方の定理を利用します。
- 後半では、動いている物体(自転車)から見た別の物体(船)の運動なので、相対速度の公式を利用します。
川を上り下りして往復する時間 \(t_1\)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
「解法に至る思考プロセス」を
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なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
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