問1
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「単振動の変位の式からの物理量の読み取り」です。単振動を表す基本的な数式の意味を正しく理解し、与えられた具体的な式と対応付けることができるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 単振動の変位の一般式: 物体の位置 \(x\) が時間 \(t\) の関数として \(x = A\sin\omega t\) または \(x = A\cos\omega t\) の形で表されることを理解していること。
- 式の各要素の物理的意味: 一般式に含まれる \(A\) が振幅(振動の中心からの最大のずれ)、\(\omega\) が角振動数(振動のペースを表す量)であることを知っていること。
- 角振動数と周期の関係: 角振動数 \(\omega\) と、1回の振動にかかる時間である周期 \(T\) との間に \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) という関係があることを理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1), (2)では、問題で与えられた変位の式 \(x = 3.0\sin2\pi t\) と、単振動の一般式 \(x = A\sin\omega t\) の形を慎重に見比べ、振幅 \(A\) と角振動数 \(\omega\) に対応する数値を直接読み取ります。
- (3)では、(2)で求めた角振動数 \(\omega\) を、周期 \(T\) との関係式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) に代入して、周期を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
単振動の変位を表す一般式 \(x = A\sin\omega t\) と、問題で与えられた式 \(x = 3.0\sin2\pi t\) の形を比較します。振幅 \(A\) は、振動の中心からの最大の変位を表し、式の形から \(\sin\) 関数の前にかかっている係数に相当します。この対応関係を見抜くことが全てです。
この設問における重要なポイント
- 単振動の変位の式 \(x = A\sin\omega t\) において、係数 \(A\) が振幅を表す。
- \(\sin\) 関数の値は \(-1\) から \(+1\) までの範囲で変化するため、変位 \(x\) は \(-A\) から \(+A\) の範囲を往復運動する。
具体的な解説と立式
単振動の変位 \(x\) を表す一般式は、振幅を \(A\)、角振動数を \(\omega\) とすると、次のように書けます。
$$ x = A\sin\omega t $$
一方で、問題で与えられたこの物体の変位の式は、
$$ x = 3.0\sin2\pi t $$
です。
これら2つの式の形を比較すると、一般式の振幅 \(A\) に対応する部分が、与えられた式の \(3.0\) であることが直接わかります。
使用した物理公式
- 単振動の変位の式: \(x = A\sin\omega t\)
式の比較から、振幅 \(A\) は \(3.0\) であると読み取れます。
$$
\begin{aligned}
A &= 3.0
\end{aligned}
$$
単位は問題文より \( \text{m} \) です。有効数字は2桁であり、問題の指示と一致しています。
単振動の運動を表す式は、ざっくり言うと「\(x = (\text{振れ幅}) \times \sin((\text{振動のペース}) \times t)\)」という構造をしています。問題で与えられた式 \(x = 3.0\sin2\pi t\) とこの形を見比べると、「振れ幅」にあたるのが \(3.0\) だと一目でわかります。この「振れ幅」が物理でいうところの「振幅」です。
この単振動の振幅は \(3.0 \, \text{m}\) です。これは物体が振動の中心から最大で \(3.0 \, \text{m}\) 離れることを意味しており、物理的に妥当な解釈です。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)と同様に、単振動の一般式 \(x = A\sin\omega t\) と与えられた式 \(x = 3.0\sin2\pi t\) を比較します。角振動数 \(\omega\) は、振動の速さ(ペース)を表す量で、式の形から \(\sin\) 関数の中にある \(t\) の係数に相当します。
この設問における重要なポイント
- 単振動の変位の式 \(x = A\sin\omega t\) において、\(t\) の係数 \(\omega\) が角振動数を表す。
- 角振動数は、振動の位相が \(1\) 秒あたりに何ラジアン進むかを表す量で、単位は \(\text{rad/s}\) である。
具体的な解説と立式
単振動の一般式 \(x = A\sin\omega t\) と、問題の式 \(x = 3.0\sin2\pi t\) を比較します。
一般式の角振動数 \(\omega\) に対応するのは、与えられた式の \(\sin\) の中身で \(t\) にかかっている係数 \(2\pi\) です。
したがって、角振動数 \(\omega\) は \(2\pi \, \text{rad/s}\) となります。
使用した物理公式
- 単振動の変位の式: \(x = A\sin\omega t\)
式の比較から、角振動数 \(\omega\) を読み取ります。
$$
\begin{aligned}
\omega &= 2\pi
\end{aligned}
$$
問題では有効数字2桁で答えることが求められているため、\(\pi \approx 3.14\) として数値計算を行います。
$$
\begin{aligned}
\omega &= 2 \times 3.14 \\[2.0ex]
&= 6.28
\end{aligned}
$$
計算結果を有効数字2桁に四捨五入すると、\(6.3\) となります。
したがって、角振動数は \(6.3 \, \text{rad/s}\) です。
(1)と同じように、式の構造「\(x = (\text{振れ幅}) \times \sin((\text{振動のペース}) \times t)\)」と、問題の式 \(x = 3.0\sin2\pi t\) を見比べます。今回は「振動のペース」にあたる部分、つまり \(t\) のお隣さんを見ます。すると \(2\pi\) が対応していることがわかります。これが角振動数です。あとはこれを小数に直すために、\(2 \times 3.14 = 6.28\) を計算し、問題の指示通り有効数字2桁の \(6.3\) とします。
この単振動の角振動数は \(2\pi \, \text{rad/s}\) であり、数値で表すと約 \(6.3 \, \text{rad/s}\) となります。これは、この物体が \(1\) 秒間に約 \(6.3\) ラジアン(約 \(360^\circ\))だけ位相が進むペースで振動していることを示しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)で求めた角振動数 \(\omega\) を使って、周期 \(T\) を計算します。周期 \(T\) は物体が1回振動して元の状態に戻るまでの時間です。角振動数 \(\omega\) と周期 \(T\) の間には、\(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) という基本的な関係式があります。この式を \(T\) について解き、(2)で求めた \(\omega\) の値を代入します。
この設問における重要なポイント
- 周期 \(T\) は1回の振動にかかる時間であり、単位は \(\text{s}\) である。
- 角振動数 \(\omega\) と周期 \(T\) の関係式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) を正しく用いること。
- この関係式は、1回の振動(位相が \(2\pi\) 進む)にかかる時間は、\(2\pi\) を位相が進む速さ \(\omega\) で割れば求まる、と解釈できる。
具体的な解説と立式
角振動数 \(\omega\) と周期 \(T\) の間には、以下の関係が成り立ちます。
$$ T = \frac{2\pi}{\omega} $$
(2)の解説より、この単振動の角振動数は \(\omega = 2\pi \, \text{rad/s}\) であることがわかっています。この値を上の式に代入します。
使用した物理公式
- 角振動数と周期の関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\)
立式した \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) に、\(\omega = 2\pi\) を代入して周期 \(T\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi}{2\pi} \\[2.0ex]
&= 1
\end{aligned}
$$
問題文の指示に従い、有効数字2桁で答える必要があるため、\(1.0\) と表記します。
したがって、周期は \(1.0 \, \text{s}\) です。
周期というのは、物体が「行って、帰ってくる」という一往復にかかる時間のことです。(2)で求めた角振動数 \(\omega\) は振動のペースを表すものでした。周期 \(T\) を計算するには、「\(T = 2\pi \div \omega\)」という公式を使います。今回は \(\omega\) がちょうど \(2\pi\) だったので、計算は \(2\pi \div 2\pi = 1\) となり、周期は \(1.0\) 秒だと簡単にわかります。
この単振動の周期は \(1.0 \, \text{s}\) です。角振動数が \(2\pi \, \text{rad/s}\) であったことから、ちょうど \(1\) 秒で位相が \(2\pi\) ラジアン(つまり1周分)進むことがわかり、周期が \(1.0 \, \text{s}\) であるという結果と完全に一致します。物理的に非常に整合性のとれた結果です。
問2
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されているであろう解法(周期の公式を直接適用する解法)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 運動方程式から周期を導出する解法
- 主たる解法が周期の公式を結論として用いるのに対し、別解では各状況で運動方程式を立て、なぜ周期が等しくなるのかを根本から導出します。
- 運動方程式から周期を導出する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: なぜ重力や斜面の傾きが周期に影響しないのか、その物理的な理由を運動方程式のレベルで理解できます。「重力などの一定の力は、つり合いの位置をずらすだけで、復元力の大きさのルール(変位への比例関係)は変えない」という単振動の核心的な概念への理解が深まります。
- 応用力の養成: より複雑な設定の問題(例えば、力が変化する場合など)に遭遇した際に、運動方程式から単振動であることを見抜き、周期を求めるという、より汎用性の高い問題解決能力が身につきます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは完全に一致します。
この問題のテーマは「ばね振り子の周期」です。ばねによる単振動の周期が、どのような物理量によって決まるのかを正しく理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ばね振り子の周期の公式: 単振動の周期 \(T\) が、おもりの質量 \(m\) とばね定数 \(k\) を用いて \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\) と表されることを知っていること。
- 単振動の復元力: ばね振り子において、振動を引き起こす復元力はばねの弾性力であり、その大きさはつり合いの位置からの変位に比例すること。
- 力のつり合いと振動の中心: 重力が働く場合、ばねの弾性力と重力(またはその分力)がつり合う位置が、単振動の「中心」になること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- ばね振り子の周期の公式を思い出し、周期が何に依存するのかを分析します。
- (a)水平面、(b)斜面、(c)鉛直つり下げ、の3つの状況で、周期を決定する要因である質量 \(m\) とばね定数 \(k\) が変化するかどうかを考察し、周期の大小関係を結論付けます。
思考の道筋とポイント
この問題の核心は、ばね振り子の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\) を正しく理解しているかどうかにあります。まずこの公式を思い出し、式の中に含まれている文字が何を表しているかを確認します。\(m\) はおもりの質量、\(k\) はばね定数です。
次に、この公式に重力加速度 \(g\) や斜面の角度 \(\theta\) といった文字が含まれていないことに注目します。これは、ばね振り子の周期が、重力のかかり方や設置の向きには依存しない、という重要な事実を示唆しています。
問題で与えられた(a), (b), (c)の3つの状況は、見かけ上は大きく異なります。しかし、周期を決定する物理量である質量 \(m\) とばね定数 \(k\) は、3つの状況すべてで共通です。このことから、3つの場合の周期はすべて等しくなるのではないか、と推論することができます。
この設問における重要なポイント
- ばねによる単振動の周期は \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\) で与えられる。
- この周期は、おもりの質量 \(m\) とばね定数 \(k\) のみで決まる。
- 重力や斜面からの垂直抗力は、振動の「中心位置」をずらす効果はあるが、振動の「周期(一往復にかかる時間)」には影響を与えない。
具体的な解説と立式
ばねにつながれた質量 \(m\) のおもりが単振動するときの周期 \(T\) は、ばね定数を \(k\) として、以下の公式で与えられます。
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$
この公式から明らかなように、周期 \(T\) の値は、おもりの質量 \(m\) とばね定数 \(k\) のみによって決まります。
問題で設定された(a)〜(c)の3つの場合を比較してみましょう。
- (a) 水平面上での単振動
- (b) 傾き\(30^\circ\)の斜面上での単振動
- (c) 鉛直につるされた状態での単振動
これら3つの状況では、おもりとばねはすべて同じものが使われています。したがって、質量 \(m\) とばね定数 \(k\) の値は3つの場合で共通です。
周期の公式には、重力加速度 \(g\) や斜面の角度は含まれていないため、これらの条件の違いは周期に影響を与えません。
よって、3つの場合の周期 \(T_a, T_b, T_c\) は、すべて等しくなります。
$$ T_a = T_b = T_c $$
使用した物理公式
- ばね振り子の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\)
上記の考察により、周期の大小関係は \(T_a = T_b = T_c\) となります。
これは、選択肢④と一致します。
ばねの振動の「一往復にかかる時間(周期)」は、実は「おもりの重さ(\(m\))」と「ばねの硬さ(\(k\))」だけで決まるという、とてもシンプルな性質があります。
水平に置こうが、斜めに置こうが、ぶら下げようが、重力のかかり方が変わることで振動の「真ん中の位置」がずれるだけで、振動のペース自体は変わりません。
今回の問題では、おもりもばねも全部同じものを使っているので、3つの場合の周期はすべて同じになります。
結論として、3つの場合の周期はすべて等しく \(T_a = T_b = T_c\) となります。
重力のような一定の力は、振動中に常に一定の方向に働き続けます。この力は、振動の中心となる「力のつり合いの位置」を変化させますが、つり合いの位置からの変位に比例する「復元力」の大きさのルールそのものを変えるわけではありません。単振動の周期は、この復元力の強さ(実効的なばね定数)によって決まるため、重力は周期に影響しないのです。この理解は物理的に妥当であり、正しい結論です。
思考の道筋とポイント
単振動の周期の公式を既知のものとして使うのではなく、より根本的な運動方程式から周期を導き出すアプローチです。単振動の運動方程式は、つり合いの位置からの変位を \(x’\) とすると、\(ma = -Kx’\) という形で表されます。このとき、周期は \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{K}}\) となります。
(a), (b), (c) の各場合について運動方程式を立て、この \(ma = -Kx’\) の形に変形することで、実効的なばね定数 \(K\) がいずれの場合も \(k\) に等しいことを確認し、周期が等しくなることを証明します。
この設問における重要なポイント
- 単振動は、物体に働く合力(復元力)が、つり合いの位置からの変位に比例し、向きが逆である運動 (\(F = -Kx’\)) である。
- 運動方程式 \(ma = F\) を立て、この形に帰着させることが目標となる。
- 重力などの一定の力は、つり合いの位置を決定する際に考慮されるが、振動を表す項からは最終的に消去される。
具体的な解説と立式
各場合について、振動のつり合いの位置を原点とし、そこからの変位を \(x’\) として運動方程式を立てます。
(a) 水平面の場合
ばねが自然長のとき、水平方向の力はつり合っています。この位置を振動の中心(原点)とします。
原点から \(x’\) だけ変位したとき、小球に働く水平方向の力はばねの弾性力のみで、その大きさは \(-kx’\) です。
したがって、運動方程式は、
$$ ma = -kx’ $$
(b) 斜面の場合
まず、力のつり合いの位置を求めます。斜面方向下向きを正とすると、ばねの自然長からの伸びが \(x_0\) の位置でつり合ったとします。このとき、力のつり合いの式は、
$$ kx_0 = mg\sin30^\circ $$
このつり合いの位置を振動の中心(原点)とし、そこからさらに \(x’\) だけ変位した位置での運動方程式を考えます。このとき、ばねの自然長からの伸びは \(x_0 + x’\) となります。小球に働く斜面方向の合力は、
$$ F = mg\sin30^\circ – k(x_0 + x’) $$
ここで、\(mg\sin30^\circ = kx_0\) の関係を代入すると、
$$ F = kx_0 – k(x_0 + x’) = kx_0 – kx_0 – kx’ = -kx’ $$
したがって、運動方程式は、
$$ ma = -kx’ $$
(c) 鉛直の場合
鉛直下向きを正とします。ばねの自然長からの伸びが \(x_0\) の位置でつり合ったとすると、力のつり合いの式は、
$$ kx_0 = mg $$
このつり合いの位置を振動の中心(原点)とし、そこからさらに \(x’\) だけ変位した位置での運動方程式を考えます。ばねの自然長からの伸びは \(x_0 + x’\) となります。小球に働く鉛直方向の合力は、
$$ F = mg – k(x_0 + x’) $$
ここで、\(mg = kx_0\) の関係を代入すると、
$$ F = kx_0 – k(x_0 + x’) = kx_0 – kx_0 – kx’ = -kx’ $$
したがって、運動方程式は、
$$ ma = -kx’ $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- フックの法則: \(F = kx\)
- 単振動の定義式: \(ma = -Kx’\)
- 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{K}}\)
(a), (b), (c)のいずれの場合も、つり合いの位置からの変位 \(x’\) を用いると、運動方程式は
$$ ma = -kx’ $$
という全く同じ形になりました。
これは、角振動数 \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\) の単振動を表す式です。
したがって、周期 \(T\) はどの場合も
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi}{\omega} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}
\end{aligned}
$$
となります。
よって、\(T_a = T_b = T_c\) であることが導かれます。
物理の基本ルールである「運動方程式」を使って、それぞれの状況を詳しく調べてみましょう。運動方程式は、おもりにかかる全ての力を調べて「\(ma = (\text{力の合計})\)」という式を立てるものです。
(a)水平、(b)斜め、(c)垂直の3つの場合で、それぞれ力のつり合いの位置(振動の真ん中)が異なります。
しかし、その「真ん中」から少しずらしたときに、おもりを「真ん中」に戻そうとする「復元力」の大きさを計算してみると、驚くことに3つの場合で全く同じ「\(-k \times (\text{ずれ})\)」という式になります。
振動のペース(周期)を決めているのは、この「復元力」の強さなので、復元力が同じなら周期も同じになります。だから答えは全部同じになるのです。
運動方程式を立てて分析した結果、いずれの場合も復元力は \(-kx’\) となり、実効的なばね定数は \(k\) であることが確認できました。これにより、周期が \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\) となり、3つの場合で等しいことが厳密に示されました。主たる解法の「公式から周期は \(m\) と \(k\) だけで決まる」という結論を、より根本的なレベルで裏付ける、妥当な結果です。
問3
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「熱量保存則の応用」です。温度の異なる物体間で熱が移動し、やがて同じ温度(熱平衡状態)に達するまでの熱のやりとりを、数式で正しく表現できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 熱容量の定義: 物体全体の温度を \(1 \, \text{K}\) (または \(1^\circ\text{C}\)) 変化させるのに必要な熱量を表す \(Q = C\Delta T\) の関係を理解していること。
- 比熱の定義: 物質 \(1 \, \text{g}\) の温度を \(1 \, \text{K}\) (または \(1^\circ\text{C}\)) 変化させるのに必要な熱量を表す \(Q = mc\Delta T\) の関係を理解していること。
- 熱量保存則: 外部と熱のやりとりがない場合、高温の物体が失った熱量と、低温の物体が得た熱量は等しくなるという法則を理解していること。
- 温度変化の扱い: 温度差 \(\Delta T\) は、セルシウス温度(\(^\circ\text{C}\))で計算しても、絶対温度(\(\text{K}\))で計算しても値が同じになることを理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、高温の物体である容器が失った熱量を、熱容量の公式 \(Q=C\Delta T\) を用いて立式します。
- (2)では、低温の物体である水が得た熱量を、比熱の公式 \(Q=mc\Delta T\) を用いて立式します。
- (3)では、(1)と(2)で求めた熱量が等しいという「熱量保存則」の関係式を立て、熱平衡時の温度 \(t\) を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
高温の物体である容器が失った熱量 \(Q_1\) を求める問題です。問題文で容器の「熱容量 \(C\)」が与えられているため、熱量を計算する公式 \(Q = C\Delta T\) を使用します。容器の温度は \(85^\circ\text{C}\) から \(t^\circ\text{C}\) へと下がるため、温度変化 \(\Delta T\) は \((85 – t)\) となります。「失った熱量」を正の値で表現するため、温度変化は「高い方の温度 – 低い方の温度」で計算するのがポイントです。
この設問における重要なポイント
- 熱容量 \(C\) が与えられた物体の熱量は、\(Q = C\Delta T\) で計算する。
- 熱容量の単位が \(\text{J/K}\) であるが、温度「差」を考える場合、セルシウス温度(\(^\circ\text{C}\))の差とケルビン(\(\text{K}\))の差は等しいので、そのまま \(^\circ\text{C}\) の値を使って計算してよい。
- 失った熱量を正の値で表すため、温度変化は \(\Delta T = (\text{変化前の温度}) – (\text{変化後の温度})\) とする。
具体的な解説と立式
容器の熱容量は \(C = 70 \, \text{J/K}\) です。
容器の温度は、はじめ \(85^\circ\text{C}\) で、熱平衡になったときに \(t^\circ\text{C}\) になります。
したがって、容器の温度降下は \((85 – t) \, ^\circ\text{C}\) です。
容器が失った熱量 \(Q_1\) は、熱容量の公式 \(Q = C\Delta T\) を用いて、
$$ Q_1 = 70 \times (85 – t) $$
と表せます。
使用した物理公式
- 熱容量による熱量の計算式: \(Q = C\Delta T\)
これ以上の計算は不要です。求める式は \(70(85-t)\) となります。
「熱容量が \(70 \, \text{J/K}\)」というのは、「この容器は、温度が \(1^\circ\text{C}\) 変わるたびに \(70 \, \text{J}\) の熱をやりとりしますよ」という意味です。今回は温度が \(85^\circ\text{C}\) から \(t^\circ\text{C}\) まで下がったので、温度の変化量は \((85 – t)^\circ\text{C}\) です。したがって、容器が失った熱の総量は、\(1^\circ\text{C}\) あたりの熱量に温度の変化量を掛けて、\(70 \times (85 – t) \, \text{J}\) と計算できます。
容器が失った熱量 \(Q_1\) は \(70(85-t) \, \text{J}\) と表せます。熱平衡温度 \(t\) は \(85^\circ\text{C}\) より低くなるはずなので、\((85-t)\) は正の値となり、\(Q_1\) も正の値となります。これは「失った熱量」が正の値で表現されていることを意味し、物理的に妥当な式です。
問(2)
思考の道筋とポイント
低温の物体である水が得た熱量 \(Q_2\) を求める問題です。問題文では水の「質量 \(m\)」と「比熱 \(c\)」が与えられているため、熱量を計算する公式 \(Q = mc\Delta T\) を使用します。水の温度は \(15^\circ\text{C}\) から \(t^\circ\text{C}\) へと上がるため、温度変化 \(\Delta T\) は \((t – 15)\) となります。「得た熱量」を正の値で表現するため、温度変化は「高い方の温度 – 低い方の温度」で計算します。
この設問における重要なポイント
- 質量 \(m\) と比熱 \(c\) が与えられた物質の熱量は、\(Q = mc\Delta T\) で計算する。
- 得た熱量を正の値で表すため、温度変化は \(\Delta T = (\text{変化後の温度}) – (\text{変化前の温度})\) とする。
具体的な解説と立式
水の質量は \(m = 100 \, \text{g}\)、比熱は \(c = 4.2 \, \text{J/(g・K)}\) です。
水の温度は、はじめ \(15^\circ\text{C}\) で、熱平衡になったときに \(t^\circ\text{C}\) になります。
したがって、水の上昇温度は \((t – 15) \, ^\circ\text{C}\) です。
水が得た熱量 \(Q_2\) は、比熱の公式 \(Q = mc\Delta T\) を用いて、
$$ Q_2 = 100 \times 4.2 \times (t – 15) $$
と表せます。
使用した物理公式
- 比熱による熱量の計算式: \(Q = mc\Delta T\)
係数部分を計算して式を整理します。
$$
\begin{aligned}
Q_2 &= 100 \times 4.2 \times (t – 15) \\[2.0ex]
&= 420(t – 15)
\end{aligned}
$$
「水の比熱が \(4.2 \, \text{J/(g・K)}\)」というのは、「水 \(1 \, \text{g}\) の温度を \(1^\circ\text{C}\) 上げるのに \(4.2 \, \text{J}\) の熱が必要です」という意味です。今回は水が \(100 \, \text{g}\) あるので、全体の温度を \(1^\circ\text{C}\) 上げるには \(100 \times 4.2 = 420 \, \text{J}\) の熱が必要になります。水の温度は \(15^\circ\text{C}\) から \(t^\circ\text{C}\) まで、\((t – 15)^\circ\text{C}\) だけ上昇したので、水が得た熱の総量は \(420 \times (t – 15) \, \text{J}\) と計算できます。
水が得た熱量 \(Q_2\) は \(420(t-15) \, \text{J}\) と表せます。熱平衡温度 \(t\) は \(15^\circ\text{C}\) より高くなるはずなので、\((t-15)\) は正の値となり、\(Q_2\) も正の値となります。これは「得た熱量」が正の値で表現されていることを意味し、物理的に妥当な式です。
問(3)
思考の道筋とポイント
熱平衡になったときの温度 \(t\) を求める問題です。容器と水の間だけで熱の移動が起こり、外部に熱が逃げないと考えると、熱量保存則が成り立ちます。すなわち、「容器が失った熱量 \(Q_1\)」と「水が得た熱量 \(Q_2\)」は等しくなります。この \(Q_1 = Q_2\) という関係式に、(1)と(2)で求めた式を代入することで、\(t\) に関する一次方程式を立てて解きます。
この設問における重要なポイント
- 外部との熱のやりとりがなければ、熱量保存則 \(Q_{\text{失った}} = Q_{\text{得た}}\) が成り立つ。
- (1), (2)で立てた式を等しいとおき、\(t\) についての方程式を解く。
- 計算して得られた答えを、問題の指示に従って有効数字2桁で答える。
具体的な解説と立式
熱量保存則より、容器が失った熱量 \(Q_1\) と水が得た熱量 \(Q_2\) は等しくなります。
$$ Q_1 = Q_2 $$
(1)で求めた \(Q_1 = 70(85 – t)\) と、(2)で求めた \(Q_2 = 420(t – 15)\) を代入すると、
$$ 70(85 – t) = 420(t – 15) $$
この方程式を解くことで、温度 \(t\) を求めることができます。
使用した物理公式
- 熱量保存則: \(Q_{\text{失った}} = Q_{\text{得た}}\)
立式した方程式を解きます。
$$
\begin{aligned}
70(85 – t) &= 420(t – 15)
\end{aligned}
$$
まず、両辺を \(70\) で割ると計算が簡単になります。
$$
\begin{aligned}
85 – t &= 6(t – 15) \\[2.0ex]
85 – t &= 6t – 90 \\[2.0ex]
85 + 90 &= 6t + t \\[2.0ex]
175 &= 7t \\[2.0ex]
t &= \frac{175}{7} \\[2.0ex]
t &= 25
\end{aligned}
$$
問題文の指示により有効数字2桁で答えるので、\(25 \, ^\circ\text{C}\) となります。
熱い容器が冷めることで放出した熱の量((1)の答え)と、冷たい水が温まることで吸収した熱の量((2)の答え)は、外部に熱が逃げていなければ、ぴったり同じになるはずです。この「放出=吸収」という関係を数式で \(Q_1 = Q_2\) と表し、(1)と(2)の式を当てはめます。すると、未知数が \(t\) だけの方程式ができるので、これを解けば最終的な温度 \(t\) がわかります。
計算の結果、熱平衡時の温度は \(t = 25 \, ^\circ\text{C}\) と求められました。この値は、水の初期温度 \(15^\circ\text{C}\) と容器の初期温度 \(85^\circ\text{C}\) の間の値であり、物理的に妥当な結果です。
また、水の熱容量は \(mc = 100 \times 4.2 = 420 \, \text{J/K}\) であり、容器の熱容量 \(70 \, \text{J/K}\) よりも \(6\) 倍大きいです。これは水の方が温まりにくい(冷めにくい)ことを意味するため、最終的な温度は、温度変化が小さい水の方の初期温度 \(15^\circ\text{C}\) に近くなるはずです。\(25^\circ\text{C}\) は \(15^\circ\text{C}\) に近い値であり、この直感的な考察とも一致します。
問4
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、理想気体の状態方程式から出発する解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: シャルルの法則を直接用いる解法
- 設問(3)の別解: ボイル・シャルルの法則を直接用いる解法
- 主たる解法が、より根源的な状態方程式から出発して関係式を導くのに対し、別解では状態変化のパターン(定圧変化など)から適切な法則を直接選択して適用します。
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 主たる解法を通じて、シャルルの法則やボイル・シャルルの法則が、理想気体の状態方程式から導かれる特殊なケースであることを理解できます。これにより、法則間の関係性が明確になります。
- 思考の柔軟性向上: 状態方程式という万能なアプローチと、特定の状況下で計算を簡略化できる各法則を使い分ける経験は、問題解決能力の幅を広げます。
- 解法の効率化: 別解のように、問題の状況を正しく判断できれば、より少ないステップで簡潔に解に至る強力な手法を学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは完全に一致します。
この問題のテーマは「理想気体の状態変化と状態方程式」です。ピストン付き容器に封入された気体の状態が変化する際に、圧力、体積、温度の関係を表す法則を正しく適用できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 圧力と力の関係: 圧力 \(p\) は単位面積あたりの力であり、面積 \(S\) に働く力の大きさ \(F\) は \(F=pS\) と表されることを理解していること。
- ピストンの力のつり合い: なめらかに動くピストンが静止している場合、ピストンの内外から働く力がつり合っていること。これにより、内部の気体の圧力を求めることができます。
- 理想気体の状態方程式: 封入された気体の圧力 \(p\)、体積 \(V\)、物質量 \(n\)、絶対温度 \(T\) の間に \(pV=nRT\) という関係が常に成り立つこと。これは気体の状態変化を解く上での最も基本的な法則です。
- 絶対温度への変換: 気体の状態方程式や関連法則で用いる温度は、必ず絶対温度(\(\text{K}\))であること。セルシウス温度(\(^\circ\text{C}\))との変換式 \(T[\text{K}] = t[^\circ\text{C}] + 273\) を正しく使う必要があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、ピストンが静止していることから力のつり合いを考え、内部の気体の圧力を求めます。その圧力とピストンの断面積から、気体がピストンを押す力を計算します。
- (2)と(3)では、変化の前後でそれぞれ理想気体の状態方程式を立てます。気体の物質量 \(n\) が一定であることから2つの式の比をとり、未知の量を消去して答えを導きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
容器内の気体がピストンを押す力 \(F\) を求めるには、まず容器内の気体の圧力 \(p\) を知る必要があります。問題の図の状態では、ピストンは静止しています。これは、ピストンに対して、内側から気体が押す力と、外側から大気が押す力がつり合っていることを意味します。この力のつり合いから内部の圧力を求め、\(F=pS\) の関係式を使って力を計算します。
この設問における重要なポイント
- なめらかに動くピストンが静止している場合、容器内外の圧力は等しい。
- 力 \(F\)、圧力 \(p\)、面積 \(S\) の関係は \(F=pS\)。
具体的な解説と立式
ピストンはなめらかに動き、静止しています。このとき、ピストンには内側から気体が押す力 \(F\) と、外側から大気が押す力 \(F_0\) が働いており、これらがつり合っています。
$$ (\text{内側から押す力}) = (\text{外側から押す力}) $$
$$ F = F_0 $$
力と圧力の関係式 \(F=pS\) を用いて、このつり合いを圧力で表現します。容器内の気体の圧力を \(p\)、大気圧を \(p_0\)、ピストンの断面積を \(S\) とすると、
$$ pS = p_0 S $$
この式から、容器内の気体の圧力 \(p\) は大気圧 \(p_0\) に等しいことがわかります。
$$ p = p_0 = 1.0 \times 10^5 \, \text{Pa} $$
したがって、容器内の気体がピストンを押している力の大きさ \(F\) は、
$$ F = pS $$
で計算できます。
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 圧力と力の関係: \(F=pS\)
立式した \(F=pS\) に、\(p = 1.0 \times 10^5 \, \text{Pa}\) と \(S = 0.25 \, \text{m}^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= (1.0 \times 10^5) \times 0.25 \\[2.0ex]
&= 2.5 \times 10^4 \, \text{N}
\end{aligned}
$$
有効数字は2桁なので、このままで問題ありません。
ピストンが動かずにじっとしているのは、中から気体が押す力と、外から空気が押す力が、ちょうど同じ強さで押し合っているからです。つまり、中の気体の圧力は外の大気圧と同じです。
力を求めるには、「圧力 \(\times\) 面積」を計算すればよいので、大気圧の値とピストンの面積を掛け合わせれば答えが出ます。
容器内の気体がピストンを押す力は \(2.5 \times 10^4 \, \text{N}\) となります。これは約 \(2500 \, \text{kg}\) の物体にかかる重力に相当する大きな力ですが、大気圧による力はそれほど大きいという物理的な事実と一致しており、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
気体の状態変化を扱う最も基本的な法則は、理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) です。変化前の状態と変化後の状態でそれぞれ状態方程式を立て、2つの式から答えを導きます。
ピストンはなめらかに動くため、内外の圧力差があれば動いて解消します。したがって、ゆっくりと温度を変化させる限り、容器内の圧力は常に大気圧に等しいまま保たれます(定圧変化)。また、気体は容器内に封入されているので、物質量 \(n\) は一定です。
変化前後の状態方程式の比をとることで、変化しない量(\(p, n, R\))を消去し、体積と温度の関係式を導き出すのが定石です。温度は必ず絶対温度に変換する必要があります。
この設問における重要なポイント
- 理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) は、気体のどんな状態でも成り立つ万能の式。
- 変化しない量を見極め、変化前後の式の比をとることで、それらの量を消去するのが有効な戦略。
- 気体に関する法則では、温度は必ず絶対温度 \(T \, [\text{K}]\) を用いる。変換式: \(T \, [\text{K}] = t \, [^\circ\text{C}] + 273\)。
具体的な解説と立式
変化前の状態を状態1、変化後の状態を状態2とします。それぞれの状態で理想気体の状態方程式を立てます。
$$ p_1 V_1 = nRT_1 \quad \cdots ① $$
$$ p_2 V_2 = nRT_2 \quad \cdots ② $$
ピストンが自由に動けるため、圧力は常に大気圧 \(p_0\) で一定です。よって、\(p_1 = p_2 = p_0\)。
また、気体の物質量 \(n\) と気体定数 \(R\) も一定です。
②式を①式で辺々割り算すると、
$$ \frac{p_2 V_2}{p_1 V_1} = \frac{nRT_2}{nRT_1} $$
\(p_1=p_2\), \(n\), \(R\) が消去されるので、
$$ \frac{V_2}{V_1} = \frac{T_2}{T_1} $$
となります。
ここで、与えられた値を整理します。
\(V_1 = 2.0 \times 10^{-3} \, \text{m}^3\)
温度を絶対温度に変換します。
$$
\begin{aligned}
T_1 &= 27 + 273 = 300 \, \text{K} \\[2.0ex]
T_2 &= 127 + 273 = 400 \, \text{K}
\end{aligned}
$$
これらの値を導出した関係式に代入して、\(V_2\) を求めます。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
導出した \(\displaystyle\frac{V_2}{V_1} = \frac{T_2}{T_1}\) の式を \(V_2\) について解き、値を代入します。
$$
\begin{aligned}
V_2 &= V_1 \times \frac{T_2}{T_1} \\[2.0ex]
&= (2.0 \times 10^{-3}) \times \frac{400}{300} \\[2.0ex]
&= (2.0 \times 10^{-3}) \times \frac{4}{3} \\[2.0ex]
&\approx 2.666… \times 10^{-3}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に四捨五入すると、\(2.7 \times 10^{-3} \, \text{m}^3\) となります。
気体の状態を調べる最強の道具が「状態方程式 \(pV=nRT\)」です。変化の前と後でこの式を2つ立てます。今回はピストンが自由に動くので「圧力 \(p\)」は変わりません。また、気体は閉じ込められているので「量 \(n\)」も変わりません。\(R\) は定数です。2つの式を見比べると、変わらない部分を消去でき、「体積 \(V\) は絶対温度 \(T\) に比例する」という関係が導き出せます。あとは温度が何倍になったかを計算し、体積も同じだけ倍にすればOKです。
変化後の体積は \(2.7 \times 10^{-3} \, \text{m}^3\) となります。温度を上げた結果、体積が初期の \(2.0 \times 10^{-3} \, \text{m}^3\) から増加しており、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
容器内の温度を変化させる際、ピストンが自由に動けるため、内部の圧力は常に大気圧と等しく保たれます。このような「定圧変化」では、シャルルの法則が成り立ちます。この法則を直接適用することで、より簡潔に計算できます。法則を適用する際は、必ず温度をセルシウス温度(\(^\circ\text{C}\))から絶対温度(\(\text{K}\))に変換する必要があります。
この設問における重要なポイント
- ピストンが自由に動ける場合、内部の圧力は一定(大気圧)に保たれる(定圧変化)。
- 定圧変化では、シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) が成り立つ。
具体的な解説と立式
変化前の状態を状態1、変化後の状態を状態2とします。
この変化は圧力が一定の定圧変化なので、シャルルの法則が成り立ちます。
$$ \frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2} $$
ここで、\(V_1 = 2.0 \times 10^{-3} \, \text{m}^3\) です。
温度を絶対温度に変換します。
$$
\begin{aligned}
T_1 &= 27 + 273 = 300 \, \text{K} \\[2.0ex]
T_2 &= 127 + 273 = 400 \, \text{K}
\end{aligned}
$$
これらの値をシャルルの法則の式に代入して、\(V_2\) を求めます。
使用した物理公式
- シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\)
主たる解法と同様の計算により、\(V_2 \approx 2.7 \times 10^{-3} \, \text{m}^3\) となります。
「圧力が一定のまま気体を温めると、体積は絶対温度に比例して増える」という便利な法則が「シャルルの法則」です。今回はまさにこの状況なので、この法則を直接使って計算します。まず摂氏温度を絶対温度に直し、温度が何倍になったかを計算すれば、体積が何倍になるかもわかります。
主たる解法と同じ結果が得られました。状況を正しく判断できれば、法則を直接使うことで思考のステップを短縮できます。
問(3)
思考の道筋とポイント
この操作では、圧力 \(p\)、体積 \(V\)、温度 \(T\) の3つの状態量がすべて変化します。このような一般的な状態変化においても、理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) は常に成り立ちます。
(2)と同様に、変化前の状態と変化後の状態でそれぞれ状態方程式を立てます。気体は封入されたままなので物質量 \(n\) は一定です。2つの式の比をとることで、\(n\) と気体定数 \(R\) を消去し、\(p, V, T\) の関係式を導いて未知の温度を求めます。計算は絶対温度で行い、最後にセルシウス温度に変換します。
この設問における重要なポイント
- 圧力、体積、温度がすべて変化する一般的な状態変化にも、状態方程式は適用できる。
- 変化しない量(この場合は \(n, R\))を見極め、式の比をとることで消去する。
- 計算は絶対温度で行い、解答の要求に応じてセルシウス温度に変換する。
具体的な解説と立式
変化前の状態を(1)の状態(状態1)、変化後の状態を状態3とします。それぞれの状態で理想気体の状態方程式を立てます。
$$ p_1 V_1 = nRT_1 \quad \cdots ① $$
$$ p_3 V_3 = nRT_3 \quad \cdots ② $$
気体の物質量 \(n\) と気体定数 \(R\) は一定です。
②式を①式で辺々割り算すると、
$$ \frac{p_3 V_3}{p_1 V_1} = \frac{nRT_3}{nRT_1} $$
\(n\) と \(R\) が消去されるので、
$$ \frac{p_3 V_3}{p_1 V_1} = \frac{T_3}{T_1} $$
この式を変形すると、
$$ \frac{p_1 V_1}{T_1} = \frac{p_3 V_3}{T_3} $$
となります。
各状態量は以下の通りです。
- 状態1: \(p_1 = 1.0 \times 10^5 \, \text{Pa}\), \(V_1 = 2.0 \times 10^{-3} \, \text{m}^3\), \(T_1 = 27 + 273 = 300 \, \text{K}\)
- 状態3: \(p_3 = 2.2 \times 10^5 \, \text{Pa}\), \(V_3 = 1.0 \times 10^{-3} \, \text{m}^3\), \(T_3\) は未知
これらの値を導出した関係式に代入して、\(T_3\) を求めます。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
導出した \(\displaystyle\frac{p_1 V_1}{T_1} = \frac{p_3 V_3}{T_3}\) の式に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{(1.0 \times 10^5) \times (2.0 \times 10^{-3})}{300} &= \frac{(2.2 \times 10^5) \times (1.0 \times 10^{-3})}{T_3} \\[2.0ex]
\frac{2.0 \times 10^2}{300} &= \frac{2.2 \times 10^2}{T_3} \\[2.0ex]
\frac{200}{300} &= \frac{220}{T_3} \\[2.0ex]
\frac{2}{3} &= \frac{220}{T_3}
\end{aligned}
$$
この式を \(T_3\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
2 T_3 &= 3 \times 220 \\[2.0ex]
2 T_3 &= 660 \\[2.0ex]
T_3 &= 330 \, \text{K}
\end{aligned}
$$
最後に、この絶対温度をセルシウス温度 \(t_3\) に変換します。
$$
\begin{aligned}
t_3 &= T_3 – 273 \\[2.0ex]
&= 330 – 273 \\[2.0ex]
&= 57 \, ^\circ\text{C}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁の答えとして適切です。
(2)と同じく、最強の道具「状態方程式 \(pV=nRT\)」を使います。変化の前と後で式を2つ立てます。今回は気体の量 \(n\) だけが変わりません。2つの式を見比べると、\(n\) と \(R\) を消去でき、「\((\text{圧力} \times \text{体積}) \div (\text{絶対温度})\) が一定」という関係が導き出せます。この式にわかっている数字を全部入れて、未知の温度を計算します。最後に、計算で出てきた絶対温度を摂氏温度に直すのを忘れないようにしましょう。
変化後の温度は \(57 \, ^\circ\text{C}\) となります。気体を圧縮すると(仕事をされると)内部エネルギーが増加し、温度が上昇するという現象は断熱圧縮などでよく知られており、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
ピストンを外部から押して気体を圧縮するこの操作では、圧力 \(p\)、体積 \(V\)、温度 \(T\) の3つの状態量がすべて変化します。このような一般的な状態変化には、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\) を用いるのが最も効率的です。この法則を変化の前後で適用し、未知の温度を求めます。ここでも温度は絶対温度で計算し、最後にセルシウス温度に変換します。
この設問における重要なポイント
- 圧力、体積、温度がすべて変化する一般的な状態変化には、ボイル・シャルルの法則を適用する。
- 計算は絶対温度で行い、解答の要求に応じてセルシウス温度に変換する。
具体的な解説と立式
変化前の状態を(1)の状態(状態1)、変化後の状態を状態3とします。
ボイル・シャルルの法則より、以下の関係が成り立ちます。
$$ \frac{p_1 V_1}{T_1} = \frac{p_3 V_3}{T_3} $$
各状態量は以下の通りです。
- 状態1: \(p_1 = 1.0 \times 10^5 \, \text{Pa}\), \(V_1 = 2.0 \times 10^{-3} \, \text{m}^3\), \(T_1 = 27 + 273 = 300 \, \text{K}\)
- 状態3: \(p_3 = 2.2 \times 10^5 \, \text{Pa}\), \(V_3 = 1.0 \times 10^{-3} \, \text{m}^3\), \(T_3\) は未知
これらの値をボイル・シャルルの法則の式に代入して、\(T_3\) を求めます。
使用した物理公式
- ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\)
主たる解法と同様の計算により、\(T_3 = 330 \, \text{K}\) となり、セルシウス温度に変換すると \(t_3 = 57 \, ^\circ\text{C}\) となります。
「圧力、体積、温度が全部変わるときでも、\((\text{圧力} \times \text{体積}) \div (\text{絶対温度})\) の値だけは一定に保たれる」という便利な法則が「ボイル・シャルルの法則」です。今回はこの法則を直接使って計算します。わかっている数字を式に当てはめれば、未知の温度を求めることができます。
主たる解法と同じ結果が得られました。ボイル・シャルルの法則は、状態方程式から導かれる便利な関係式であり、正しく適用すれば効率的に問題を解くことができます。
問5
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、単振り子の周期の公式に見かけの重力加速度を適用する解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(4)および(6)の別解: 運動方程式から周期を導出する解法
- 主たる解法が「見かけの重力加速度」という概念を用いて公式を適用するのに対し、別解では各状況で運動方程式を立て、単振動の基本式に立ち返って周期を導出します。
- 設問(4)および(6)の別解: 運動方程式から周期を導出する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: なぜエレベーターや電車の中では周期が変化するのか、その理由を力の関係から根本的に理解できます。「見かけの重力加速度」という便利な概念が、運動方程式と慣性力からどのように導かれるのかを学ぶことで、非慣性系における運動への理解が深まります。
- 応用力の養成: より複雑な設定の問題に遭遇した際に、公式の丸暗記では対応できなくても、運動方程式から現象を分析するという、物理学の最も基本的で強力な手法を身につけることができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは完全に一致します。
この問題のテーマは「単振り子の周期とその依存性」です。単振り子の周期が、糸の長さ、重力加速度、おもりの質量、振幅といった物理量のうち、どれによって決まるのかを正確に理解しているかが問われます。特に後半では、加速度運動する系(非慣性系)における「見かけの重力加速度」の考え方が鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 単振り子の周期の公式: 微小振動のとき、単振り子の周期 \(T\) が、糸の長さ \(l\) と重力加速度の大きさ \(g\) を用いて \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\) と表されることを理解していること。
- 周期の依存性: 上記の公式から、周期は糸の長さ \(l\) と重力加速度 \(g\) のみに依存し、おもりの質量 \(m\) や振幅 \(A\) には(微小振動の範囲では)依存しないこと(振り子の等時性)。
- 見かけの重力加速度: 加速度運動する乗り物の中など(非慣性系)では、本来の重力に「慣性力」が加わったものが「見かけの重力」として働き、それに対応する加速度が「見かけの重力加速度」となること。単振り子の周期は、この見かけの重力加速度によって決まること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、基準となる単振り子の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\) を確認します。
- (1)〜(3)では、変化する物理量(質量、振幅、糸の長さ)が周期の公式にどう影響するかを考えます。
- (4)〜(6)では、状況に応じた「見かけの重力加速度」を求め、それを周期の公式の \(g\) に代入して計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
単振り子の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\) に、おもりの質量 \(m\) が含まれているかを確認します。公式に \(m\) が含まれていないことから、周期は質量によらないと判断できます。
この設問における重要なポイント
- 単振り子の周期は、おもりの質量に依存しない。
具体的な解説と立式
基準となる単振り子(長さ \(l\)、質量 \(m\))の周期を \(T_0\) とすると、
$$ T_0 = 2\pi\sqrt{\frac{l}{g}} $$
おもりの質量を \(2m\) に変えても、周期の公式には質量 \(m\) の項が含まれていないため、周期は変化しません。
したがって、求める周期 \(T_1\) は \(T_0\) と等しくなります。
使用した物理公式
- 単振り子の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\)
$$ T_1 = 2\pi\sqrt{\frac{l}{g}} $$
ブランコを漕ぐとき、大人の人が乗っても子供が乗っても、一往復するのにかかる時間はほとんど変わりません。それと同じで、単振り子の周期は、おもりの重さ(質量)には関係ないという性質があります。したがって、おもりを2倍の重さにしても周期は変わりません。
おもりの質量を \(2m\) にした場合の周期は、元の周期と変わらず \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\) です。これは単振り子の基本的な性質であり、妥当な結論です。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)と同様に、単振り子の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\) に、振幅 \(A\) が含まれているかを確認します。この公式は振幅が十分に小さい「微小振動」のときに成り立つ近似式であり、その範囲では周期は振幅によらないとされています。これを「振り子の等時性」と呼びます。
この設問における重要なポイント
- 単振り子の周期は、(微小振動の範囲では)振幅の大きさに依存しない(振り子の等時性)。
具体的な解説と立式
単振り子の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\) は、振幅が小さい場合に成り立つ式です。この公式には振幅 \(A\) の項が含まれていないため、振幅を \(2A\) に変えても周期は変化しません。
したがって、求める周期 \(T_2\) は元の周期と等しくなります。
使用した物理公式
- 単振り子の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\)
$$ T_2 = 2\pi\sqrt{\frac{l}{g}} $$
ブランコを大きく漕いでも、小さく漕いでも、一往復にかかる時間はほとんど変わりません。単振り子も同じで、揺れの幅(振幅)が多少変わっても、周期は一定に保たれるという性質があります。これを「等時性」といいます。
振幅を \(2A\) にした場合の周期は、元の周期と変わらず \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\) です。これも単振り子の基本的な性質であり、妥当な結論です。
問(3)
思考の道筋とポイント
周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\) において、糸の長さ \(l\) を \(\displaystyle\frac{1}{2}l\) に置き換えて計算します。周期が糸の長さ \(l\) の平方根に比例することを確認します。
この設問における重要なポイント
- 単振り子の周期は、糸の長さ \(l\) の平方根に比例する。
具体的な解説と立式
周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\) の \(l\) を、\(\displaystyle\frac{1}{2}l\) に置き換えます。
求める周期を \(T_3\) とすると、
$$ T_3 = 2\pi\sqrt{\frac{\frac{1}{2}l}{g}} $$
使用した物理公式
- 単振り子の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\)
$$
\begin{aligned}
T_3 &= 2\pi\sqrt{\frac{l}{2g}}
\end{aligned}
$$
これ以上簡単な形にはなりません。
長いブランコと短いブランコでは、短いブランコの方が速く往復します。単振り子も同じで、糸が短くなると周期も短くなります。公式を見ると、周期は長さのルート(平方根)に比例するので、長さを半分にすると、周期は \(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\) 倍になります。
糸の長さを \(\displaystyle\frac{1}{2}l\) にした場合の周期は \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{2g}}\) となります。糸が短くなったので周期も短くなっており、物理的に妥当な結果です。
問(4)
思考の道筋とポイント
加速度 \(\alpha\) で上昇するエレベーターの中は、非慣性系です。エレベーター内の観測者から見ると、おもりには本来の重力 \(mg\) に加えて、加速度と逆向き(下向き)に大きさ \(m\alpha\) の慣性力が働いているように見えます。したがって、おもりに働く見かけの重力は下向きに \(mg + m\alpha\) となります。これに対応する「見かけの重力加速度」は \(g’ = g+\alpha\) です。この \(g’\) を周期の公式の \(g\) の代わりに用います。
この設問における重要なポイント
- 加速度 \(\alpha\) で上昇する系では、下向きに大きさ \(m\alpha\) の慣性力が働く。
- 見かけの重力加速度は \(g’ = g+\alpha\) となる。
具体的な解説と立式
エレベーター内で働く見かけの重力加速度を \(g’\) とします。おもりには下向きの重力 \(mg\) と、同じく下向きの慣性力 \(m\alpha\) が働くため、見かけの重力は \(m(g+\alpha)\) となります。
よって、見かけの重力加速度は、
$$ g’ = g+\alpha $$
この \(g’\) を単振り子の周期の公式の \(g\) に代入します。求める周期を \(T_4\) とすると、
$$ T_4 = 2\pi\sqrt{\frac{l}{g’}} = 2\pi\sqrt{\frac{l}{g+\alpha}} $$
使用した物理公式
- 単振り子の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\)
- 慣性力: \(F = -ma\)
これ以上の計算は不要です。
エレベーターが上に加速すると、体がシートに押し付けられるように感じます。これは、見かけの重力が大きくなったように感じるからです。単振り子も同じように、通常より強い重力(見かけの重力)を感じます。その大きさは \(g+\alpha\) に相当します。周期の公式の \(g\) をこの \(g+\alpha\) に置き換えて計算します。
エレベーター内での周期は \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g+\alpha}}\) となります。見かけの重力加速度が \(g\) より大きくなったため、周期は元の周期より短くなります。これは、重力が強い場所ほど振り子の動きが速くなるという直感とも一致し、妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
エレベーターという非慣性系において、おもりに働くすべての力(重力、張力、慣性力)を考え、つり合いの位置からの微小変位に対する復元力を求めます。その復元力を用いて運動方程式を立て、単振動の式 \(ma = -Kx\) の形にすることで角振動数と周期を導出します。
この設問における重要なポイント
- 非慣性系では、観測者から見て物体に「慣性力」が働いているように見える。
- 単振動の周期は、つり合いの位置からの変位に比例する「復元力」の大きさによって決まる。
- 運動方程式を \(a = -(\text{定数}) \times x\) の形に変形することで、角振動数 \(\omega\) が \(\omega^2 = (\text{定数})\) の関係から求まる。
具体的な解説と立式
エレベーター内の観測者から見ると、おもりには常に下向きの重力 \(mg\) と下向きの慣性力 \(m\alpha\) が働いています。
振り子が鉛直方向から微小角 \(\theta\) だけ傾いたとき、復元力はこれらの力の合力の接線成分となります。
復元力 \(F\) は、おもりを元のつり合いの位置(鉛直方向)に戻そうとする力であり、その大きさは、
$$ F = -(mg + m\alpha)\sin\theta $$
となります。符号は変位と逆向きであることを示します。
ここで、\(\theta\) が十分に小さいとき、\(\sin\theta \approx \theta\) と近似できます。また、つり合いの位置からの円弧に沿った変位を \(x\) とすると、\(x = l\theta\) の関係があるので、\(\theta = \displaystyle\frac{x}{l}\) となります。
$$ F \approx -(mg + m\alpha)\frac{x}{l} $$
この復元力 \(F\) を用いて、運動方程式 \(ma = F\) を立てます。
$$ ma = -(mg + m\alpha)\frac{x}{l} $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 慣性力: \(F = -ma\)
- 単振動の定義式: \(a = -\omega^2 x\)
- 角振動数と周期の関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\)
立式した運動方程式を加速度 \(a\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
ma &= -(m(g+\alpha))\frac{x}{l} \\[2.0ex]
a &= -\frac{g+\alpha}{l}x
\end{aligned}
$$
この式は、単振動の加速度の式 \(a = -\omega^2 x\) と同じ形をしています。
両者を比較することで、角振動数 \(\omega\) の2乗が
$$ \omega^2 = \frac{g+\alpha}{l} $$
とわかります。したがって、角振動数は \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{g+\alpha}{l}}\) です。
周期 \(T_4\) は \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) の関係から、
$$
\begin{aligned}
T_4 &= \frac{2\pi}{\sqrt{\frac{g+\alpha}{l}}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{l}{g+\alpha}}
\end{aligned}
$$
「見かけの重力」というショートカットを使わずに、物理の基本ルール「運動方程式」から考えてみましょう。エレベーターが上に加速すると、中の振り子には「下向きの重力」に加えて「下向きの慣性力」という見えない力が加わります。この2つの力が合わさって、振り子を真下に戻そうとする「復元力」が通常より強くなります。運動方程式を立ててこの復元力の強さを計算すると、周期を決める部分が \(g\) ではなく \(g+\alpha\) になっていることがわかります。結果として、メインの解法と同じ答えにたどり着きます。
運動方程式から出発しても、主たる解法と全く同じ結果が得られました。これにより、「見かけの重力加速度」を \(g+\alpha\) と考えることの正当性が、より根本的なレベルで確認できます。
問(5)
思考の道筋とポイント
月面上では、重力加速度の大きさが地球上の \(\displaystyle\frac{1}{6}\) である \(\displaystyle\frac{1}{6}g\) になります。周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\) の \(g\) を、この値に置き換えて計算します。
この設問における重要なポイント
- 単振り子の周期は、重力加速度 \(g\) の平方根に反比例する。
具体的な解説と立式
周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\) の \(g\) を、月面上の重力加速度 \(\displaystyle\frac{1}{6}g\) に置き換えます。
求める周期を \(T_5\) とすると、
$$ T_5 = 2\pi\sqrt{\frac{l}{\frac{1}{6}g}} $$
使用した物理公式
- 単振り子の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\)
$$
\begin{aligned}
T_5 &= 2\pi\sqrt{\frac{6l}{g}}
\end{aligned}
$$
月面では重力が地球の約6分の1しかありません。宇宙飛行士がふわふわとジャンプする映像からもわかるように、物がゆっくり動きます。単振り子も同様に、重力が弱いと復元力が小さくなるため、ゆっくりと揺れるようになります。周期の公式の \(g\) を \(\displaystyle\frac{g}{6}\) に置き換えて計算します。
月面上での周期は \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{6l}{g}}\) となります。重力加速度が小さくなったため、周期は元の周期の \(\sqrt{6}\) 倍に長くなっており、物理的に妥当な結果です。
問(6)
思考の道筋とポイント
加速度 \(\beta\) で水平に加速する電車の中も非慣性系です。電車内の観測者から見ると、おもりには鉛直下向きの重力 \(mg\) に加えて、加速度と逆向き(水平後方)に大きさ \(m\beta\) の慣性力が働いているように見えます。
この2つの力(重力と慣性力)をベクトル的に合成したものが「見かけの重力」となります。その大きさが \(m g’\) に相当し、見かけの重力加速度 \(g’\) を周期の公式に代入します。
この設問における重要なポイント
- 水平加速度 \(\beta\) の系では、水平で逆向きに大きさ \(m\beta\) の慣性力が働く。
- 見かけの重力は、本来の重力と慣性力のベクトル和で与えられる。
- 見かけの重力加速度は \(g’ = \sqrt{g^2+\beta^2}\) となる。
具体的な解説と立式
電車内で働く見かけの重力加速度を \(g’\) とします。おもりには鉛直下向きの重力 \(mg\) と、水平後方に働く慣性力 \(m\beta\) が働きます。これらは互いに直交しているので、三平方の定理を用いて合力である見かけの重力の大きさ \(mg’\) を求めます。
$$ (mg’)^2 = (mg)^2 + (m\beta)^2 $$
$$ m^2 g’^2 = m^2(g^2 + \beta^2) $$
よって、見かけの重力加速度 \(g’\) は、
$$ g’ = \sqrt{g^2+\beta^2} $$
この \(g’\) を単振り子の周期の公式の \(g\) に代入します。求める周期を \(T_6\) とすると、
$$ T_6 = 2\pi\sqrt{\frac{l}{g’}} = 2\pi\sqrt{\frac{l}{\sqrt{g^2+\beta^2}}} $$
使用した物理公式
- 単振り子の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\)
- 慣性力: \(F = -ma\)
- 力の合成(三平方の定理)
これ以上の計算は不要です。
電車が加速すると、つり革は進行方向と逆向きに傾きます。これは、乗客や物体に後ろ向きの力(慣性力)が働くように見えるからです。単振り子のおもりにも、この後ろ向きの力と、下向きの重力が同時に働きます。この2つの力を合わせた「斜め下向き」の力が、この電車内での「見かけの重力」になります。この見かけの重力に対応する加速度の大きさを計算し、周期の公式の \(g\) の代わりに使います。
電車内での周期は \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{\sqrt{g^2+\beta^2}}}\) となります。見かけの重力加速度 \(g’ = \sqrt{g^2+\beta^2}\) は、元の \(g\) よりも大きいため、周期は短くなります。これも物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
電車内では、慣性力 \(m\beta\) と重力 \(mg\) の合力の向きが新しい「つり合いの位置」を決めます。この新しいつり合いの位置からの微小変位に対する復元力を求め、運動方程式を立てることで周期を導出します。これは、見かけの重力 \(mg’ = m\sqrt{g^2+\beta^2}\) が働く空間での単振り子と等価であることを示します。
この設問における重要なポイント
- 水平方向に加速する系では、水平で逆向きの慣性力が働く。
- 新しいつり合いの位置は、重力と慣性力の合力の向きになる。
- 復元力は、この新しいつり合いの位置からの変位に対して働く。
- 運動方程式を立てることで、見かけの重力加速度が \(g’ = \sqrt{g^2+\beta^2}\) に相当することがわかる。
具体的な解説と立式
電車内の観測者から見ると、おもりには鉛直下向きの重力 \(mg\) と水平後方の慣性力 \(m\beta\) が働きます。これらの合力が見かけの重力 \(mg’\) となり、その向きが振り子の新しいつり合いの位置となります。見かけの重力加速度の大きさは \(g’ = \sqrt{g^2+\beta^2}\) です。
この振り子の運動は、重力加速度が \(g’\) で、その向き(斜め下方向)を「鉛直方向」とみなした空間での単振り子の運動と全く同じになります。
したがって、この新しいつり合いの位置から微小角 \(\delta\theta\) だけずらしたときの復元力 \(F\) は、見かけの重力 \(mg’\) の、つり合いの位置に向かう接線成分で与えられます。
$$ F = -mg’\sin(\delta\theta) $$
微小振動の近似 \(\sin(\delta\theta) \approx \delta\theta\) を用います。また、つり合いの位置からの円弧に沿った変位を \(x’\) とすると、\(x’ = l(\delta\theta)\) の関係があるので、\(\delta\theta = \displaystyle\frac{x’}{l}\) となります。
$$ F \approx -mg’\frac{x’}{l} $$
この復元力 \(F\) を用いて、運動方程式 \(ma = F\) を立てます。
$$ ma = -mg’\frac{x’}{l} $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 慣性力: \(F = -ma\)
- 単振動の定義式: \(a = -\omega^2 x’\)
- 角振動数と周期の関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\)
立式した運動方程式に、\(g’ = \sqrt{g^2+\beta^2}\) を代入し、加速度 \(a\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
ma &= -m\frac{\sqrt{g^2+\beta^2}}{l}x’ \\[2.0ex]
a &= -\frac{\sqrt{g^2+\beta^2}}{l}x’
\end{aligned}
$$
この式は、単振動の加速度の式 \(a = -\omega^2 x’\) と同じ形をしています。
両者を比較することで、角振動数 \(\omega\) の2乗が
$$ \omega^2 = \frac{\sqrt{g^2+\beta^2}}{l} $$
とわかります。したがって、角振動数は \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{\sqrt{g^2+\beta^2}}{l}}\) です。
周期 \(T_6\) は \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) の関係から、
$$
\begin{aligned}
T_6 &= \frac{2\pi}{\sqrt{\frac{\sqrt{g^2+\beta^2}}{l}}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{l}{\sqrt{g^2+\beta^2}}}
\end{aligned}
$$
電車が加速すると、振り子の「真ん中」の位置が、真下ではなく少し後ろに傾いた場所になります。これは、下向きの重力と後ろ向きの慣性力が合わさった「斜め下向き」の力とつり合うためです。この新しい「真ん中」の位置から振り子を少しずらすと、この「斜め下向き」の力が振り子を元に戻そうとする「復元力」として働きます。この復元力の強さを運動方程式を使って計算すると、周期を決める部分が、元の \(g\) ではなく、より大きな \(\sqrt{g^2+\beta^2}\) になっていることがわかります。
運動方程式から出発しても、主たる解法と全く同じ結果が得られました。これにより、「見かけの重力加速度」を \(\sqrt{g^2+\beta^2}\) と考えることの正当性が確認できます。
問6
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されているであろう標準的な解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 単振動の速さの最大値の公式を用いる解法
- 主たる解法が力学的エネルギー保存則という、より普遍的な法則から出発するのに対し、別解では単振動に特化した公式を直接適用します。
- 設問(4)の別解: 運動方程式から直接加速度を導出する解法
- 主たる解法が単振動の加速度の最大値の公式を用いるのに対し、別解ではその場に働く力を元に運動方程式を立て、より根本的なアプローチで加速度を導出します。
- 設問(2)の別解: 単振動の速さの最大値の公式を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: (4)の別解のように、運動方程式から物理量を導く経験は、単振動が「復元力」によって支配される運動であるという本質的な理解を深めます。
- 思考の柔軟性向上: (2)のように、エネルギーの観点と運動学の公式という異なる視点から同じ答えを導くことで、一つの問題に対するアプローチの幅が広がります。
- 解法の効率化: 単振動の公式を覚えておけば、特定の状況下でより迅速に答えを導き出すことが可能になります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは完全に一致します。
この問題のテーマは「ばね振り子の単振動」です。ばねにつながれた物体の単振動について、その力、速さ、加速度、周期、そして運動の様子をグラフで表現する能力など、単振動に関する総合的な理解が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- フックの法則: ばねの弾性力の大きさは、ばねの自然長からの伸びや縮みに比例する (\(F=kx\))。
- 単振動の運動: 物体の位置(\(x\))、速さ(\(v\))、加速度(\(a\))が時間と共に周期的に変化し、特に振動の中心で速さが最大、両端で速さが0となり、加速度は中心で0、両端で最大となる特徴を理解していること。
- 力学的エネルギー保存則: なめらかな水平面上での運動では、運動エネルギーとばねの弾性エネルギーの和は一定に保たれる。
- ばね振り子の周期: 周期 \(T\) が質量 \(m\) とばね定数 \(k\) によって \(T=2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\) と決まること。
- 単振動のグラフ: \(x-t\), \(v-t\), \(a-t\) グラフがそれぞれ三角関数(\(\sin\) や \(\cos\))で表される関係を理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、フックの法則を用いて、ばねの縮みに対応する力を計算します。
- (2)では、力学的エネルギー保存則を用いて、ばねのエネルギーがすべて運動エネルギーに変換される点での速さを求めます。
- (3),(4)では、単振動の対称性と、端点での運動の性質(加速度最大)を利用します。
- (5)では、端から中心までの移動時間が周期の \(1/4\) であることを利用します。
- (6)〜(8)では、初期条件(\(t=0\) で \(x=-A\))から、変位、速度、加速度の時間変化を考え、それぞれのグラフを描きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
点Pで手をはなした瞬間、物体は静止していますが、ばねは自然長から \(A\) だけ縮んでいます。この縮みによって生じるばねの弾性力(復元力)を、フックの法則を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- フックの法則: ばねの弾性力の大きさ \(F\) は、ばね定数 \(k\) と自然長からの変位 \(x\) の大きさの積に等しい (\(F=k|x|\))。
- 点Pの座標は \(x=-A\) であり、ばねの「縮み」の大きさは \(A\) である。
具体的な解説と立式
フックの法則より、ばねの弾性力の大きさ \(F\) は、ばね定数 \(k\) とばねの縮みの大きさの積で与えられます。
点Pでは、ばねは自然長の位置Oから距離 \(A\) だけ縮んでいるので、その縮みの大きさは \(A\) です。
したがって、物体にはたらく水平方向の力の大きさは、
$$ F = kA $$
となります。この力はばねが元に戻ろうとする向き、すなわち \(x\) 軸の正の向き(右向き)に働きます。
使用した物理公式
- フックの法則: \(F=kx\)
これ以上の計算は不要です。
ばねは、縮められれば縮められるほど、強く元に戻ろうと押し返します。その力の強さは「ばねの硬さ(\(k\)) \(\times\) 縮んだ長さ」で計算できます。今回は点Pで \(A\) だけ縮んでいるので、力の大きさは \(kA\) となります。
点Pで物体にはたらく力の大きさは \(kA\) です。これは単振動における復元力の最大値であり、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
物体が点Pから点Oまで運動する間、水平方向にはばねの弾性力しか働かず、面はなめらかなので力学的エネルギーは保存されます。点P(振動の端)では速さが0で弾性エネルギーが最大、点O(振動の中心)ではばねの伸び縮みが0で弾性エネルギーが0となり、その分、速さが最大になります。このエネルギーの変換関係を用いて、点Oでの速さを求めます。
この設問における重要なポイント
- なめらかな水平面上でのばね振り子の運動では、力学的エネルギー保存則が成り立つ。
- 力学的エネルギー \(E = (\text{運動エネルギー}) + (\text{弾性エネルギー}) = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)。
- 振動の端点(\(x=\pm A\))では \(v=0\)、中心(\(x=0\))では \(v\) が最大となる。
具体的な解説と立式
点Pと点Oにおいて、力学的エネルギー保存則を立てます。点Pでの速さを \(v_P\)、点Oでの速さを \(v_O\) とします。
点P (\(x=-A\)) での力学的エネルギー \(E_P\) は、\(v_P=0\) なので、
$$ E_P = \frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}k(-A)^2 = \frac{1}{2}kA^2 $$
点O (\(x=0\)) での力学的エネルギー \(E_O\) は、ばねの伸び縮みが0なので、
$$ E_O = \frac{1}{2}mv_O^2 + \frac{1}{2}k(0)^2 = \frac{1}{2}mv_O^2 $$
力学的エネルギー保存則 \(E_P = E_O\) より、
$$ \frac{1}{2}kA^2 = \frac{1}{2}mv_O^2 $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + \displaystyle\frac{1}{2}kx^2 = \text{一定}\)
立式したエネルギー保存則の式を \(v_O\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
kA^2 &= mv_O^2 \\[2.0ex]
v_O^2 &= \frac{k}{m}A^2
\end{aligned}
$$
\(v_O > 0\) なので、
$$ v_O = \sqrt{\frac{k}{m}A^2} = A\sqrt{\frac{k}{m}} $$
点Pで縮められたばねは、たくさんの「弾性エネルギー」を蓄えています。手をはなすと、このエネルギーが物体の「運動エネルギー」にどんどん変換されていき、物体は加速します。ばねが自然長に戻る点Oで、蓄えられていた弾性エネルギーがすべて運動エネルギーに変わり、物体は最も速くなります。「Pでの弾性エネルギー = Oでの運動エネルギー」という式を立てて、速さを計算します。
点Oでの速さは \(A\sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\) となります。これは単振動における速さの最大値 \(v_{\text{max}}\) であり、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
単振動において、振動中心(点O)での速さは最大値 \(v_{\text{max}}\) をとります。この最大値は、振幅 \(A\) と角振動数 \(\omega\) を用いて \(v_{\text{max}} = A\omega\) と表されることが知られています。ばね振り子の角振動数が \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\) であることを利用して、速さを計算します。
この設問における重要なポイント
- 単振動の速さの最大値は \(v_{\text{max}} = A\omega\)。
- ばね振り子の角振動数は \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\)。
具体的な解説と立式
単振動の速さの最大値 \(v_{\text{max}}\) は、振幅 \(A\) と角振動数 \(\omega\) を用いて次式で与えられます。
$$ v_{\text{max}} = A\omega $$
ばね定数 \(k\)、質量 \(m\) のばね振り子の角振動数 \(\omega\) は、
$$ \omega = \sqrt{\frac{k}{m}} $$
であるため、点Oでの速さ(=\(v_{\text{max}}\))は、
$$ v_O = A\sqrt{\frac{k}{m}} $$
使用した物理公式
- 単振動の速さの最大値: \(v_{\text{max}} = A\omega\)
- ばね振り子の角振動数: \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\)
これ以上の計算は不要です。
単振動の運動には、「中心での速さ(最大速度)は、振幅 \(A\) と、振動のペースを表す角振動数 \(\omega\) を掛け算したものになる」という便利な公式があります。この公式に、ばね振り子の角振動数 \(\omega = \sqrt{k/m}\) を当てはめるだけで、すぐに答えを求めることができます。
主たる解法であるエネルギー保存則から導いた結果と完全に一致します。単振動の性質を公式として知っていれば、より迅速に解くことが可能です。
問(3)
思考の道筋とポイント
単振動は、振動の中心(点O)に対して対称な運動です。点Pは振動の一方の端であり、その中心からの距離が振幅 \(A\) です。物体はPQ間で単振動するので、点Qはもう一方の端となります。したがって、OQの長さも振幅 \(A\) に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- 単振動は、振動中心に対して対称な運動である。
- 振動中心から振動の端までの距離が「振幅」である。
具体的な解説と立式
問題文より、物体は点Oを中心としてPQ間で単振動をします。
点Oは振動の中心 (\(x=0\)) です。
点Pは振動の端点であり、その座標は \(x=-A\) です。
振動の中心から端点までの距離が振幅なので、この単振動の振幅は \(A\) です。
点Qはもう一方の端点なので、その座標は \(x=A\) となります。
したがって、OQの長さは \(A\) です。
使用した物理公式
- (単振動の定義)
計算は不要です。
単振動は、真ん中(O点)を挟んで、左右対称に「行って、来い」を繰り返す運動です。左側の折り返し地点(P点)が中心から \(A\) の距離にあるなら、右側の折り返し地点(Q点)も中心から同じく \(A\) の距離にあるはずです。
OQの長さは \(A\) となります。単振動の基本的な性質からの帰結であり、妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
点Qは振動の右端であり、物体はここで一瞬静止し、向きを変えます。このとき、ばねは最も伸びており、物体を中心(点O)に引き戻そうとする復元力が最大になります。したがって、加速度も最大になります。加速度の向きは復元力の向きと同じで、中心(点O)を向く、すなわち左向きです。大きさは、単振動の加速度の最大値の公式 \(a_{\text{max}} = A\omega^2\) を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- 単振動の加速度は、常に振動の中心を向く。
- 加速度の大きさは、振動の中心で0、両端で最大となる。
- 加速度の最大値は \(a_{\text{max}} = A\omega^2\)。
具体的な解説と立式
点Q (\(x=A\)) は振動の端点です。この位置で、ばねは自然長から \(A\) だけ伸びているため、物体にはたらく復元力は左向き(負の向き)に最大となります。加速度の向きは力の向きと同じなので、左向きです。
加速度の大きさは端点で最大値 \(a_{\text{max}}\) をとります。
$$ a_{\text{max}} = A\omega^2 $$
ばね振り子の角振動数 \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\) を代入すると、
$$ a_{\text{max}} = A \left( \sqrt{\frac{k}{m}} \right)^2 = A\frac{k}{m} $$
使用した物理公式
- 単振動の加速度の最大値: \(a_{\text{max}} = A\omega^2\)
- ばね振り子の角振動数: \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\)
これ以上の計算は不要です。
振動の折り返し地点(Q点)では、ばねが最も伸びきっていて、物体を「戻ってこい!」と最も強く引っ張ります。力が最大なので、加速度も最大になります。向きはもちろん、中心であるO点の方向、つまり左向きです。大きさは公式を使って計算できます。
点Qでの加速度は、向きが左向きで、大きさが \(\displaystyle\frac{kA}{m}\) となります。物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
点Qにおける物体の加速度を、運動方程式 \(ma=F\) から直接求めます。点Qでは、物体にはたらく水平方向の力は、ばねが \(A\) だけ伸びていることによる弾性力のみです。この力をフックの法則で求め、運動方程式に代入します。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式: \(ma=F\)。
- 点Q (\(x=A\)) での復元力は、フックの法則より \(F = -kA\)。
具体的な解説と立式
点Qでは、物体の座標は \(x=A\) です。
このとき、物体にはたらく水平方向の力 \(F\) は、フックの法則より、
$$ F = -kA $$
となります。負の符号は、力が \(x\) 軸の負の向き(左向き)にはたらくことを示しています。
この力を運動方程式 \(ma=F\) に代入します。
$$ ma = -kA $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- フックの法則: \(F=-kx\)
立式した運動方程式を \(a\) について解きます。
$$ a = -\frac{kA}{m} $$
この結果は、加速度の向きが負の向き(左向き)で、その大きさが \(\displaystyle\frac{kA}{m}\) であることを示しています。
物理の基本に立ち返り、「運動方程式 \(ma=F\)」を使ってみましょう。まず、Q点にいる物体にかかる力 \(F\) を調べます。ばねが \(A\) 伸びているので、左向きに \(kA\) の力で引っ張られます。これを \(F=-kA\) と表せます。あとは \(ma=-kA\) という式を解けば、加速度 \(a\) が求まります。
主たる解法である公式を用いた結果と完全に一致します。運動方程式は、あらゆる力学の問題を解くための基本であり、公式の導出根拠にもなっています。
問(5)
思考の道筋とポイント
点Pは振動の端点、点Oは振動の中心です。単振動において、端点から中心まで移動するのにかかる時間は、周期 \(T\) の \(1/4\) です。まず、ばね振り子の周期 \(T\) の公式を書き出し、その \(1/4\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- ばね振り子の周期は \(T=2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\)。
- 単振動の運動と時間の関係:
- 端 → 中心: \(T/4\)
- 中心 → 端: \(T/4\)
- 端 → 端: \(T/2\)
具体的な解説と立式
ばね振り子の周期 \(T\) は、
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$
で与えられます。
物体が点P(端点)から点O(中心)まで進むのにかかる時間 \(t\) は、周期の \(1/4\) なので、
$$ t = \frac{1}{4}T $$
となります。この式に周期 \(T\) の公式を代入します。
使用した物理公式
- ばね振り子の周期: \(T=2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\)
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{1}{4} \left( 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{k}}
\end{aligned}
$$
物体が「P \(\rightarrow\) O \(\rightarrow\) Q \(\rightarrow\) O \(\rightarrow\) P」と一往復するのにかかる時間が周期 \(T\) です。これは4つの同じような動きの区間に分けられます。求めたいのは「P \(\rightarrow\) O」という最初の区間にかかる時間なので、単純に周期 \(T\) を4で割ればよいわけです。
点Pから点Oまで進むのにかかる時間は \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{k}}\) となります。物理的に妥当な結果です。
問(6)
思考の道筋とポイント
物体の位置 \(x\) を時間の関数としてグラフにします。初期条件として、\(t=0\) で物体は点P (\(x=-A\)) にあります。ここから運動が始まり、\(t=T/4\) で点O (\(x=0\))、\(t=T/2\) で点Q (\(x=A\))、\(t=3T/4\) で点O (\(x=0\))、\(t=T\) で点P (\(x=-A\)) に戻ります。この動きは、三角関数の \(-\cos\) 型のグラフに対応します。
この設問における重要なポイント
- 初期条件(\(t=0\) での位置)から、グラフが \(\sin\) 型か \(\cos\) 型かを判断する。
- \(t=0\) で \(x=-A\) (端点) なので、\(-\cos\) 型。
- グラフの縦軸の最大値が振幅 \(A\)、最小値が \(-A\)。
- グラフの横軸は時間で、1周期が \(T\)。
具体的な解説と立式
この単振動の変位 \(x\) は、\(t=0\) で \(x=-A\) となるため、次のように表せます。
$$ x(t) = -A\cos(\omega t) \quad \text{ただし} \quad \omega = \frac{2\pi}{T} $$
この関数のグラフを描きます。
- \(t=0\): \(x = -A\cos(0) = -A\)
- \(t=T/4\): \(x = -A\cos(\pi/2) = 0\)
- \(t=T/2\): \(x = -A\cos(\pi) = A\)
- \(t=T\): \(x = -A\cos(2\pi) = -A\)
これらの点を滑らかな曲線で結び、\(2T\) まで描きます。
グラフの最大値は \(A\)、最小値は \(-A\) です。
使用した物理公式
- 単振動の変位の式: \(x = A\sin(\omega t+\phi)\) または \(x = A\cos(\omega t+\phi)\)
グラフの描画が解答となります。
物体の位置をストップウォッチで測りながら記録していく作業です。
スタート時(\(t=0\))はP点(\(x=-A\))にいます。
周期の4分の1後にはO点(\(x=0\))を通過します。
周期の半分後にはQ点(\(x=A\))で折り返します。
これを \(2T\) (2往復分)まで描くと、きれいな波形のグラフになります。
初期条件と単振動の周期的な動きを正しく反映したグラフが描ければ正解です。
問(7)
思考の道筋とポイント
物体の速さ \(v\) を時間の関数としてグラフにします。\(v\) は \(x-t\) グラフの傾きに相当します。
- \(t=0\) (点P, \(x=-A\)): 傾きが0なので \(v=0\)。
- \(t=T/4\) (点O, \(x=0\)): 傾きが正で最大なので \(v\) は正の最大値 \(v_{\text{max}}\)。
- \(t=T/2\) (点Q, \(x=A\)): 傾きが0なので \(v=0\)。
- \(t=3T/4\) (点O, \(x=0\)): 傾きが負で最大なので \(v\) は負の最大値 \(-v_{\text{max}}\)。
この動きは \(\sin\) 型のグラフに対応します。
この設問における重要なポイント
- \(v-t\) グラフは \(x-t\) グラフの各点での接線の傾きを表す。
- 速さの最大値は \(v_{\text{max}} = A\omega = A\sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\)。
- \(t=0\) で \(v=0\) から始まり、正の方向に増加するので \(\sin\) 型。
具体的な解説と立式
変位の式 \(x(t) = -A\cos(\omega t)\) を時間 \(t\) で微分すると、速度 \(v(t)\) が得られます。
$$ v(t) = \frac{dx}{dt} = -A(-\omega\sin(\omega t)) = A\omega\sin(\omega t) $$
この関数のグラフを描きます。
- \(t=0\): \(v = A\omega\sin(0) = 0\)
- \(t=T/4\): \(v = A\omega\sin(\pi/2) = A\omega\) (正の最大値)
- \(t=T/2\): \(v = A\omega\sin(\pi) = 0\)
- \(t=3T/4\): \(v = A\omega\sin(3\pi/2) = -A\omega\) (負の最大値)
これらの点を滑らかな曲線で結び、\(2T\) まで描きます。
グラフの最大値は \(v_{\text{max}} = A\omega = A\sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\)、最小値は \(-A\sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\) です。
使用した物理公式
- 速度と変位の関係: \(v = \displaystyle\frac{dx}{dt}\)
グラフの描画が解答となります。
今度は物体の「速さ」と「向き」を記録します。
スタート時(\(t=0\))はP点で一瞬止まるので、速さは0です。
その後、右向き(正)にどんどん加速し、O点で最速になります。
O点を過ぎると減速し、Q点でまた一瞬止まります(速さ0)。
今度は左向き(負)に加速し、O点でまた最速(向きは負)になります。
これをグラフにすると、サインカーブのような波形になります。
\(x-t\) グラフとの位相が \(\pi/2\) ずれたグラフが描ければ正解です。
問(8)
思考の道筋とポイント
物体の加速度 \(a\) を時間の関数としてグラフにします。\(a\) は \(v-t\) グラフの傾きに相当し、また \(a = -\omega^2 x\) の関係があります。
- \(t=0\) (点P, \(x=-A\)): \(a = -\omega^2(-A) = A\omega^2\)。加速度は正の最大値。
- \(t=T/4\) (点O, \(x=0\)): \(a = -\omega^2(0) = 0\)。
- \(t=T/2\) (点Q, \(x=A\)): \(a = -\omega^2(A) = -A\omega^2\)。加速度は負の最大値。
この動きは \(\cos\) 型のグラフに対応します。
この設問における重要なポイント
- \(a-t\) グラフは \(v-t\) グラフの各点での接線の傾きを表す。
- 加速度と変位の関係: \(a = -\omega^2 x\)。
- 加速度の最大値は \(a_{\text{max}} = A\omega^2 = \displaystyle\frac{kA}{m}\)。
- \(t=0\) で \(a\) が正の最大値なので \(\cos\) 型。
具体的な解説と立式
速度の式 \(v(t) = A\omega\sin(\omega t)\) を時間 \(t\) で微分すると、加速度 \(a(t)\) が得られます。
$$ a(t) = \frac{dv}{dt} = A\omega(\omega\cos(\omega t)) = A\omega^2\cos(\omega t) $$
この関数のグラフを描きます。
- \(t=0\): \(a = A\omega^2\cos(0) = A\omega^2\) (正の最大値)
- \(t=T/4\): \(a = A\omega^2\cos(\pi/2) = 0\)
- \(t=T/2\): \(a = A\omega^2\cos(\pi) = -A\omega^2\) (負の最大値)
これらの点を滑らかな曲線で結び、\(2T\) まで描きます。
グラフの最大値は \(a_{\text{max}} = A\omega^2 = \displaystyle\frac{kA}{m}\)、最小値は \(-\displaystyle\frac{kA}{m}\) です。
使用した物理公式
- 加速度と速度の関係: \(a = \displaystyle\frac{dv}{dt}\)
- 加速度と変位の関係: \(a = -\omega^2 x\)
グラフの描画が解答となります。
最後に物体の「加速度」を記録します。加速度は物体にかかる力に比例します。
スタート時(\(t=0\))のP点では、右向きに最大の力がかかるので、加速度も右向き(正)に最大です。
O点では力が0になるので、加速度も0です。
Q点では、左向き(負)に最大の力がかかるので、加速度も左向き(負)に最大です。
これをグラフにすると、コサインカーブのような波形になります。
\(x-t\) グラフとちょうど上下が反転した形のグラフが描ければ正解です。
問7
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「物質の状態変化と熱量」です。氷が水になり、さらに温められていく過程のグラフを読み解き、比熱や融解熱といった物理量を計算する問題です。グラフの各区間が、物質のどのような状態変化に対応しているかを正しく理解することが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- グラフの解釈:
- 温度が上昇している区間(グラフの斜めの部分)は、物質が単一の状態(氷または水)で熱を吸収している状態。
- 温度が一定の区間(グラフの水平な部分)は、状態変化(氷から水への融解)が起こっている状態。
- 比熱と熱量: 物質の温度を変化させるのに必要な熱量は、公式 \(Q = mc\Delta T\) で計算されること。ここで \(m\) は質量、\(c\) は比熱、\(\Delta T\) は温度変化。
- 融解熱と熱量: 固体が液体に状態変化するのに必要な熱量は、公式 \(Q = mL\) で計算されること。ここで \(m\) は質量、\(L\) は融解熱。
- 熱量の供給率: 「一定の割合で加熱」しているため、単位時間あたりに与える熱量(加熱率)は常に一定であること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、グラフの中で比熱が既知である「水」の状態に着目します。水が温度上昇した区間(\(280 \, \text{s}\) から \(370 \, \text{s}\))で得た総熱量を \(Q=mc\Delta T\) で計算し、それをかかった時間で割ることで、1秒間に与える熱量を求めます。
- (2)では、(1)で求めた加熱率を利用します。「氷」が温度上昇した区間(\(0 \, \text{s}\) から \(45 \, \text{s}\))に与えられた総熱量を計算し、それを \(Q=mc\Delta T\) の式に代入して、未知の氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) を求めます。
- (3)では、氷がすべて水に融解した区間(\(45 \, \text{s}\) から \(280 \, \text{s}\))に与えられた総熱量を計算します。これが \(100 \, \text{g}\) の氷の融解に必要な熱量なので、それを質量で割ることで \(1 \, \text{g}\) あたりの融解熱を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
1秒間に与える熱量(加熱率)を求めるには、熱量の出入りが計算できる区間を見つける必要があります。問題文で水の比熱が与えられているので、グラフ上で物質が「水」として温度上昇している区間に注目します。
グラフから、\(280 \, \text{s}\) から \(370 \, \text{s}\) の区間で、水が \(0^\circ\text{C}\) から \(30^\circ\text{C}\) に温度上昇していることがわかります。この間に水が得た総熱量を \(Q=mc\Delta T\) で計算し、かかった時間で割ることで加熱率を求めます。
この設問における重要なポイント
- 水の比熱は既知 (\(c_{\text{水}} = 4.2 \, \text{J/(g・K)}\))。
- グラフの \(280 \, \text{s} \sim 370 \, \text{s}\) の区間が、水の状態での加熱に対応する。
- 加熱率は、\((\text{その区間で与えられた総熱量}) \div (\text{かかった時間})\) で計算できる。
具体的な解説と立式
まず、グラフの \(280 \, \text{s}\) から \(370 \, \text{s}\) の区間に注目します。この区間では、\(100 \, \text{g}\) の水が \(0^\circ\text{C}\) から \(30^\circ\text{C}\) まで温度上昇しています。
この間に水が得た熱量 \(Q_{\text{水}}\) を、比熱の公式 \(Q=mc\Delta T\) を用いて計算します。
- 質量 \(m = 100 \, \text{g}\)
- 水の比熱 \(c_{\text{水}} = 4.2 \, \text{J/(g・K)}\)
- 温度変化 \(\Delta T = 30 – 0 = 30 \, \text{K}\) (または \(30^\circ\text{C}\))
$$ Q_{\text{水}} = 100 \times 4.2 \times 30 $$
この加熱にかかった時間は、
$$ \Delta t = 370 – 280 = 90 \, \text{s} $$
です。
加熱は一定の割合で行われるため、1秒間に与える熱量(加熱率)を \(P \, \text{[J/s]}\) とすると、
$$ Q_{\text{水}} = P \times \Delta t $$
この関係から \(P\) を求めます。
使用した物理公式
- 比熱による熱量の計算式: \(Q = mc\Delta T\)
まず \(Q_{\text{水}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{水}} &= 100 \times 4.2 \times 30 \\[2.0ex]
&= 12600 \, \text{J}
\end{aligned}
$$
次に、加熱率 \(P\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
P &= \frac{Q_{\text{水}}}{\Delta t} \\[2.0ex]
&= \frac{12600}{90} \\[2.0ex]
&= 140 \, \text{J/s}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるので、\(1.4 \times 10^2 \, \text{J/s}\) となります。
この問題は、まず「ヒーターの強さ(1秒あたり何ジュールの熱を出すか)」を求めることから始まります。ヒーターの強さは最初から最後まで一定です。手がかりは、性質がわかっている「水」の部分です。グラフを見ると、水は90秒かけて30℃温まっています。水100gを30℃温めるのに必要な熱量を計算し、それをかかった90秒で割れば、ヒーターが1秒あたりに与える熱量がわかります。
1秒間に与える熱量は \(1.4 \times 10^2 \, \text{J}\) となります。この値が、この後の設問を解くための基本データとなります。
問(2)
思考の道筋とポイント
氷の比熱を求めるには、グラフ上で物質が「氷」として温度上昇している区間に注目します。グラフの \(0 \, \text{s}\) から \(45 \, \text{s}\) の区間で、氷が \(-30^\circ\text{C}\) から \(0^\circ\text{C}\) に温度上昇していることがわかります。
(1)で求めた加熱率 \(P\) を用いて、この \(45\) 秒間に氷が受け取った総熱量 \(Q_{\text{氷}}\) を計算します。そして、その熱量を比熱の公式 \(Q_{\text{氷}} = mc_{\text{氷}}\Delta T\) に代入し、未知の氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- グラフの \(0 \, \text{s} \sim 45 \, \text{s}\) の区間が、氷の状態での加熱に対応する。
- この区間に与えられた総熱量は、\((\text{加熱率}) \times (\text{かかった時間})\) で計算できる。
- 計算した総熱量を \(Q=mc\Delta T\) に当てはめて \(c\) を求める。
具体的な解説と立式
グラフの \(0 \, \text{s}\) から \(45 \, \text{s}\) の区間に注目します。この区間では、\(100 \, \text{g}\) の氷が \(-30^\circ\text{C}\) から \(0^\circ\text{C}\) まで温度上昇しています。
この加熱にかかった時間は \(45 \, \text{s}\) です。(1)で求めた加熱率 \(P = 140 \, \text{J/s}\) を用いて、この間に氷が得た熱量 \(Q_{\text{氷}}\) を計算します。
$$ Q_{\text{氷}} = P \times 45 = 140 \times 45 $$
一方、この熱量は比熱の公式 \(Q_{\text{氷}} = mc_{\text{氷}}\Delta T\) でも表せます。
- 質量 \(m = 100 \, \text{g}\)
- 氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) (未知)
- 温度変化 \(\Delta T = 0 – (-30) = 30 \, \text{K}\) (または \(30^\circ\text{C}\))
$$ Q_{\text{氷}} = 100 \times c_{\text{氷}} \times 30 $$
これら2つの \(Q_{\text{氷}}\) の式を等しいとおくことで、\(c_{\text{氷}}\) を求めます。
$$ 140 \times 45 = 100 \times c_{\text{氷}} \times 30 $$
使用した物理公式
- 比熱による熱量の計算式: \(Q = mc\Delta T\)
立式した方程式を \(c_{\text{氷}}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
c_{\text{氷}} &= \frac{140 \times 45}{100 \times 30} \\[2.0ex]
&= \frac{14 \times 45}{10 \times 30} \\[2.0ex]
&= \frac{14 \times 3}{10 \times 2} \\[2.0ex]
&= \frac{7 \times 3}{10} \\[2.0ex]
&= \frac{21}{10} \\[2.0ex]
&= 2.1 \, \text{J/(g・K)}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁の答えとして適切です。
(1)でヒーターの強さがわかったので、今度はそれを使って氷の性質を調べます。グラフの最初の部分を見ると、氷は45秒かけて30℃温まっています。ヒーターが45秒間に与えた熱の総量を計算し、それを「氷100gを30℃温めるのに必要な熱量」とみなします。この関係から、氷の比熱(氷1gを1℃温めるのに必要な熱量)を逆算することができます。
氷の比熱は \(2.1 \, \text{J/(g・K)}\) と求められました。これは水の比熱 \(4.2 \, \text{J/(g・K)}\) のちょうど半分であり、よく知られた物理的な値と一致します。グラフを見ても、同じ \(30^\circ\text{C}\) の温度上昇に、水は \(90\) 秒かかっているのに対し、氷は \(45\) 秒しかかかっていないことから、氷の方が温まりやすい(比熱が小さい)ことが直感的にもわかり、計算結果と整合します。
問(3)
思考の道筋とポイント
\(0^\circ\text{C}\) の氷 \(1 \, \text{g}\) が \(0^\circ\text{C}\) の水に変わるのに必要な熱量、すなわち「融解熱」を求める問題です。グラフ上で温度が \(0^\circ\text{C}\) で一定になっている区間(\(45 \, \text{s}\) から \(280 \, \text{s}\))が、氷の融解に対応します。
(1)で求めた加熱率 \(P\) を用いて、この融解にかかった時間全体で与えられた総熱量 \(Q_{\text{融解}}\) を計算します。この熱量は \(100 \, \text{g}\) の氷すべてを融かすのに必要な量なので、最後に \(100\) で割ることで \(1 \, \text{g}\) あたりの融解熱を求めます。
この設問における重要なポイント
- グラフの \(45 \, \text{s} \sim 280 \, \text{s}\) の区間が、氷の融解に対応する。
- この区間に与えられた総熱量は、\((\text{加熱率}) \times (\text{かかった時間})\) で計算できる。
- 融解熱は \(1 \, \text{g}\) あたりの熱量なので、総熱量を質量で割る必要がある。
具体的な解説と立式
グラフの \(45 \, \text{s}\) から \(280 \, \text{s}\) の区間に注目します。この区間では、温度は \(0^\circ\text{C}\) のままで、氷が水へと状態変化しています。
融解にかかった時間は、
$$ \Delta t_{\text{融解}} = 280 – 45 = 235 \, \text{s} $$
です。
(1)で求めた加熱率 \(P = 140 \, \text{J/s}\) を用いて、この間に与えられた総熱量 \(Q_{\text{融解}}\) を計算します。
$$ Q_{\text{融解}} = P \times \Delta t_{\text{融解}} = 140 \times 235 $$
この熱量は、\(100 \, \text{g}\) の氷を融かすのに必要な熱量です。
求めるのは \(1 \, \text{g}\) あたりの融解熱 \(L\) なので、\(Q_{\text{融解}}\) を質量 \(m=100 \, \text{g}\) で割ります。
$$ L = \frac{Q_{\text{融解}}}{m} = \frac{140 \times 235}{100} $$
使用した物理公式
- 融解熱による熱量の計算式: \(Q = mL\)
立式した式を計算します。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{140 \times 235}{100} \\[2.0ex]
&= 1.4 \times 235 \\[2.0ex]
&= 329 \, \text{J/g}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に四捨五入すると、\(3.3 \times 10^2 \, \text{J/g}\) となります。
氷が水に溶けている間は、いくら熱を加えても温度は \(0^\circ\text{C}\) のままです。グラフの平らな部分が、まさにこの「融解」が起きている時間帯です。この時間(\(280 – 45 = 235\) 秒)にヒーターが与えた熱の総量を計算します。これが氷100gをすべて溶かすのに使われた熱量です。問題で聞かれているのは氷1gあたりなので、計算した総熱量を100で割れば答えが出ます。
氷の融解熱は \(3.3 \times 10^2 \, \text{J/g}\) と求められました。これは約 \(330 \, \text{J/g}\) であり、水の融解熱の既知の値(約 \(334 \, \text{J/g}\))と近い値です。実験データに基づく計算として妥当な結果と言えます。
問8
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「連結された容器内の理想気体の状態変化」です。コックでつながれた2つの容器内の気体の状態を、理想気体の状態方程式を用いて分析する問題です。特に、コックを開いた後の気体の混合や、温度変化に伴う状態の変化を正しく追跡できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 理想気体の状態方程式: 気体の状態(圧力\(p\)、体積\(V\)、物質量\(n\)、絶対温度\(T\))を表す最も基本的な関係式 \(pV=nRT\) を使いこなせること。
- 物質量の保存: コックを開いて気体が移動しても、2つの容器を一つの閉じた系と見なせば、全体の気体の物質量(モル数)は変化しないこと。
- 単位系の統一: 物理計算を行う際は、すべての量をSI基本単位系に統一することが原則です。特に、容積のリットル(\(\text{L}\))を立方メートル(\(\text{m}^3\))に、セルシウス温度(\(^\circ\text{C}\))を絶対温度(\(\text{K}\))に正しく変換する必要があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、容器A, Bそれぞれの初期状態について、状態方程式を用いて物質量を計算します。
- (2)では、コックを開いた後、2つの容器を体積・物質量を合算した一つの系とみなし、状態方程式を適用して全体の圧力を求めます。
- (3)では、(2)で求めた混合後の圧力を使って、容器Bに残っている気体の物質量を計算し、初期状態との差から移動量を求めます。
- (4)では、変化後の容器A, Bそれぞれについて状態方程式を立てます。コックが開いているため圧力が等しいこと、物質量が等しくなるという条件を利用して、未知の温度を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
容器AとBにそれぞれ封入されている空気の物質量(モル数)を求める問題です。圧力\(p\)、体積\(V\)、温度\(T\)が分かっているので、理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を物質量\(n\)について解くことで求められます。計算の前に、与えられた数値をSI基本単位に変換することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を物質量 \(n\) について解く。
- 単位をSI基本単位系にそろえることが重要。特に、容積 \(L\) を \(m^3\) に、セルシウス温度 \(^\circ\text{C}\) を絶対温度 \(K\) に変換する。
- \(1 \, \text{L} = 1000 \, \text{cm}^3 = 10^{-3} \, \text{m}^3\)
- \(T \, [\text{K}] = t \, [^\circ\text{C}] + 273\)
具体的な解説と立式
理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を \(n\) について変形すると、
$$ n = \frac{pV}{RT} $$
となります。
まず、各物理量をSI単位に変換します。
- 温度: \(T = 27 + 273 = 300 \, \text{K}\) (A, B共通)
- 容器Aの容積: \(V_A = 6.0 \, \text{L} = 6.0 \times 10^{-3} \, \text{m}^3\)
- 容器Bの容積: \(V_B = 3.0 \, \text{L} = 3.0 \times 10^{-3} \, \text{m}^3\)
容器Aの物質量 \(n_A\) と容器Bの物質量 \(n_B\) は、それぞれ以下の式で計算できます。
$$ n_A = \frac{p_A V_A}{RT} $$
$$ n_B = \frac{p_B V_B}{RT} $$
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
それぞれの式に数値を代入して計算します。
容器A:
$$
\begin{aligned}
n_A &= \frac{(1.66 \times 10^6) \times (6.0 \times 10^{-3})}{8.3 \times 300} \\[2.0ex]
&= \frac{1.66}{8.3} \times \frac{6.0}{300} \times 10^3 \\[2.0ex]
&= 0.20 \times 0.020 \times 10^3 \\[2.0ex]
&= 4.0 \, \text{mol}
\end{aligned}
$$
容器B:
$$
\begin{aligned}
n_B &= \frac{(4.15 \times 10^6) \times (3.0 \times 10^{-3})}{8.3 \times 300} \\[2.0ex]
&= \frac{4.15}{8.3} \times \frac{3.0}{300} \times 10^3 \\[2.0ex]
&= 0.50 \times 0.010 \times 10^3 \\[2.0ex]
&= 5.0 \, \text{mol}
\end{aligned}
$$
気体の量(物質量)を知りたいときは、その気体の圧力、体積、温度がわかっていれば、状態方程式という便利な公式 \(pV=nRT\) を使って計算できます。この問題では、まずAとBそれぞれについて、公式に必要な数値を当てはめて計算します。ただし、計算する前に、体積の単位を「リットル」から物理計算の標準単位である「立方メートル」に、温度を「摂氏」から「絶対温度」に変換するのを忘れないようにしましょう。
容器Aの物質量は \(4.0 \, \text{mol}\)、容器Bの物質量は \(5.0 \, \text{mol}\) となります。容器BはAより容積が小さいですが、圧力が非常に高いため、より多くの気体分子が含まれていることがわかります。
問(2)
思考の道筋とポイント
コックを開くと、2つの容器は一体となり、気体は自由に移動して混ざり合います。十分な時間が経つと、系全体で圧力は一様になります。このとき、2つの容器を一つの大きな系と見なすことができます。この系全体の体積、物質量、温度を用いて状態方程式を立てることで、混合後の圧力を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- コックを開くと、2つの容器は一体となり、1つの大きな系とみなせる。
- 全体の体積は \(V_{\text{全体}} = V_A + V_B\)。
- 全体の物質量は、気体の移動はあっても系外への流出はないため、保存される (\(n_{\text{全体}} = n_A + n_B\))。
具体的な解説と立式
コックを開いた後の系全体について、理想気体の状態方程式を立てます。混合後の圧力を \(p’\) とします。
- 全体の体積 \(V’ = V_A + V_B = 6.0 + 3.0 = 9.0 \, \text{L} = 9.0 \times 10^{-3} \, \text{m}^3\)
- 全体の物質量 \(n’ = n_A + n_B = 4.0 + 5.0 = 9.0 \, \text{mol}\)
- 温度 \(T’ = 27^\circ\text{C} = 300 \, \text{K}\)
これらの値を、系全体に対する状態方程式 \(p’V’ = n’RT’\) に代入します。
$$ p'(9.0 \times 10^{-3}) = 9.0 \times 8.3 \times 300 $$
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
- 物質量保存の考え方
立式した方程式を \(p’\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
p’ &= \frac{9.0 \times 8.3 \times 300}{9.0 \times 10^{-3}} \\[2.0ex]
&= 8.3 \times 300 \times 10^3 \\[2.0ex]
&= 2490 \times 10^3 \\[2.0ex]
&= 2.49 \times 10^6 \, \text{Pa}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に四捨五入すると、\(2.5 \times 10^6 \, \text{Pa}\) となります。
コックを開くと、AとBの仕切りがなくなり、全体で一つの大きな容器と考えることができます。この大きな容器の体積はAとBの合計、中の気体の量もAとBの合計になります。温度は変わらないとのことなので、この「合体後の容器」について状態方程式を使えば、最終的な圧力が計算できます。
混合後の圧力は \(2.5 \times 10^6 \, \text{Pa}\) となります。この値は、初期の圧力 \(1.66 \times 10^6 \, \text{Pa}\) と \(4.15 \times 10^6 \, \text{Pa}\) の間の値であり、物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
BからAへ移動した空気の物質量を求めるには、「Bにもともとあった物質量」から「コックを開いた後にBに残っている物質量」を引けば計算できます。Bにもともとあった物質量は(1)で計算済みです。コックを開いた後のBの状態(圧力は(2)で求めた \(p’\)、体積は \(V_B\)、温度は \(T’\))について状態方程式を適用し、Bに残っている物質量を求めます。
この設問における重要なポイント
- 移動した量 = (初期量) – (最終量)
- コックを開いた後、容器Bという部分系についても状態方程式は成り立つ。
具体的な解説と立式
コックを開いた後の容器B内に残っている空気の物質量を \(n’_B\) とします。
容器Bについて、混合後の状態で状態方程式を立てます。
- 圧力: \(p’ = 2.49 \times 10^6 \, \text{Pa}\) ((2)の計算途中の値を用いる)
- 体積: \(V_B = 3.0 \times 10^{-3} \, \text{m}^3\)
- 温度: \(T’ = 300 \, \text{K}\)
状態方程式 \(p’V_B = n’_B RT’\) より、
$$ n’_B = \frac{p’V_B}{RT’} $$
BからAへ移動した物質量 \(\Delta n\) は、初期の物質量 \(n_B\) との差で求められます。
$$ \Delta n = n_B – n’_B $$
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
まず \(n’_B\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
n’_B &= \frac{(2.49 \times 10^6) \times (3.0 \times 10^{-3})}{8.3 \times 300} \\[2.0ex]
&= \frac{2.49}{8.3} \times \frac{3.0}{300} \times 10^3 \\[2.0ex]
&= 0.30 \times 0.010 \times 10^3 \\[2.0ex]
&= 3.0 \, \text{mol}
\end{aligned}
$$
次に、移動した物質量 \(\Delta n\) を計算します。(1)より \(n_B = 5.0 \, \text{mol}\) なので、
$$
\begin{aligned}
\Delta n &= 5.0 – 3.0 \\[2.0ex]
&= 2.0 \, \text{mol}
\end{aligned}
$$
BからAにどれだけの空気が移ったかを知るには、Bの中に最終的にどれだけ空気が残っているかを調べればわかります。コックを開けた後のBの部屋の圧力・体積・温度はわかっているので、状態方程式を使えば、Bの部屋に残っている空気の量を計算できます。最初にBにあった量から、この残った量を引き算すれば、移動した量がわかります。
BからAへ移動した空気の物質量は \(2.0 \, \text{mol}\) となります。初期状態では圧力の高いBの方が気体が多かったのが、コックを開くことで圧力が均一になり、BからAへ気体が移動したという物理的状況と一致する妥当な結果です。
問(4)
思考の道筋とポイント
コックを開いたまま容器Aのみを温める問題です。このとき、気体はAとBの間を自由に移動できます。最終的にAとBの物質量が等しくなり、圧力も等しくなります。未知数は「Aの最終的な温度 \(T”_A\)」と「系全体の最終的な圧力 \(p”\)」の2つです。これに対し、AとBそれぞれについて状態方程式を立てることで、2つの式が得られ、連立方程式として解くことができます。
この設問における重要なポイント
- コックが開いているので、最終的に容器AとBの圧力は等しくなる (\(p”_A = p”_B = p”\))。
- 全体の物質量は保存される (\(n_A+n_B\))。
- 最終的にAとBの物質量は等しくなるので、\(n”_A = n”_B = (n_A+n_B)/2\)。
具体的な解説と立式
最終状態をダブルプライム(\(”\))で表します。
問題の条件より、最終的な物質量はA, Bで等しくなります。全体の物質量は \(n_A+n_B = 9.0 \, \text{mol}\) で保存されるので、
$$ n”_A = n”_B = \frac{9.0}{2} = 4.5 \, \text{mol} $$
容器AとBそれぞれについて、最終状態の状態方程式を立てます。
- 容器A: \(p”V_A = n”_A R T”_A\) \(\cdots ①\)
- 容器B: \(p”V_B = n”_B R T_B\) \(\cdots ②\)
ここで、\(T_B\) は加熱されないので \(300 \, \text{K}\) のままです。
未知数は \(p”\) と \(T”_A\) です。
式①を式②で辺々割り算すると、未知数 \(p”\) や定数 \(R\) などをまとめて消去できます。
$$ \frac{p”V_A}{p”V_B} = \frac{n”_A R T”_A}{n”_B R T_B} $$
\(p”\), \(n”_A\), \(n”_B\), \(R\) が消去できる(\(n”_A = n”_B\) なので)ので、
$$ \frac{V_A}{V_B} = \frac{T”_A}{T_B} $$
この式から \(T”_A\) を求めることができます。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
導出した関係式に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{6.0 \times 10^{-3}}{3.0 \times 10^{-3}} &= \frac{T”_A}{300} \\[2.0ex]
2.0 &= \frac{T”_A}{300} \\[2.0ex]
T”_A &= 2.0 \times 300 = 600 \, \text{K}
\end{aligned}
$$
最後に、この絶対温度をセルシウス温度 \(t”_A\) に変換します。
$$
\begin{aligned}
t”_A &= 600 – 273 \\[2.0ex]
&= 327 \, ^\circ\text{C}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に四捨五入すると、\(3.3 \times 10^2 \, ^\circ\text{C}\) となります。
今度は、AとBの中の空気の量をちょうど半分ずつにするのが目標です。Aを温めると、Aの中の空気が膨張してBに押し出され、Aの空気の量が減ります。ちょうど良い温度にすれば、量を半分にできます。
この問題を解くには、AとBそれぞれについて状態方程式を立てます。未知数が2つ(Aの温度と最終圧力)ありますが、式も2つあるので解けます。特に、2つの式を割り算すると、未知の圧力がきれいに消えて、簡単にAの温度を計算することができます。
容器Aの温度を \(3.3 \times 10^2 \, ^\circ\text{C}\) にすればよいことがわかりました。温度を上げることで気体が膨張し、AからBへ気体が移動して物質量が調整されるという、物理的に妥当な結果です。
問9
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「気体分子運動論の基本式の導出」です。目に見えない1個の分子の運動(ミクロな視点)から出発し、多数の分子の集団が壁に及ぼす力、そして圧力や温度といった測定可能な物理量(マクロな視点)を理論的に導き出す、気体分子運動論の根幹をなす思考プロセスを追体験する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量と力積の関係: 物体が壁から受ける力積は、その物体の運動量変化に等しい。また、壁が物体から受ける力積は、その作用・反作用の関係にある。
- 平均の力: 短時間に多数の衝突が繰り返される場合、個々の衝突による力は時間的に変動するが、ある程度の時間で平均した「平均の力」を考えることができる。力積を時間で割ることで求められる。
- 統計的な平均操作: 多数の分子の運動を扱う際、個々の分子の速度は様々だが、その平均値(特に2乗平均速度)を用いることで、集団全体の振る舞いを代表させることができる。
- 理想気体の状態方程式との接続: 分子運動論から導かれた圧力の式と、実験則である理想気体の状態方程式を比較することで、マクロな量である「温度」のミクロな正体が「分子の運動エネルギー」であることを明らかにする。
基本的なアプローチは、問題の空欄を順番に埋めていくことで、以下の思考の流れをたどります。
- まず、1個の分子が壁に衝突する際の力学的な関係(運動量変化、力積、平均の力)を整理します。
- 次に、\(N\)個の分子の集団に拡張し、統計的な平均を用いて、壁全体が受ける力と圧力を導出します。
- 最後に、導出した圧力の式と理想気体の状態方程式を結びつけ、分子の平均運動エネルギーや二乗平均速度を、温度や分子量といったマクロな量で表現します。
ア
思考の道筋とポイント
分子が壁Sと弾性衝突する際の、分子の運動量の変化を求めます。衝突によって変化するのは、壁に垂直な速度成分(\(x\)成分)のみです。運動量の変化は「衝突後の運動量 – 衝突前の運動量」で計算します。
この設問における重要なポイント
- 弾性衝突では、壁に垂直な速度成分の向きだけが反転する。
- 運動量の変化 = (衝突後の運動量) – (衝突前の運動量)。
具体的な解説と立式
分子は壁S(\(x=L\)の面)に速度 \(v_x\) で衝突します。弾性衝突なので、衝突後、速度の\(x\)成分は \(-v_x\) になります。\(y, z\)成分は変化しません。
衝突前の運動量の\(x\)成分を \(p_x\)、衝突後の運動量の\(x\)成分を \(p’_x\) とすると、
$$ p_x = mv_x $$
$$ p’_x = m(-v_x) = -mv_x $$
したがって、1回の衝突における分子の運動量の変化 \(\Delta p_x\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta p_x &= p’_x – p_x \\[2.0ex]
&= -mv_x – mv_x \\[2.0ex]
&= -2mv_x
\end{aligned}
$$
結論と吟味
1回の衝突における運動量の変化は \(-2mv_x\) です。負の符号は、運動量の\(x\)成分が減少した(向きが逆になった)ことを意味します。
イ
思考の道筋とポイント
分子が壁Sに衝突した後、再び壁Sに衝突するまでの時間を求めます。分子は\(x\)方向に速さ \(v_x\) で運動し、壁Sから反対側の壁(\(x=0\))まで進み、跳ね返って再び壁Sに戻ってきます。この往復運動にかかる時間を計算します。
この設問における重要なポイント
- 往復運動の距離は \(2L\) である。
- \(x\)方向の速さは常に \(v_x\) (大きさ)である。
- 時間 = 距離 ÷ 速さ
具体的な解説と立式
分子は壁S(\(x=L\))から速さ \(v_x\) で出発し、反対側の壁(\(x=0\))に到達するのに \(\displaystyle\frac{L}{v_x}\) の時間がかかります。
その後、跳ね返って再び壁S(\(x=L\))に戻ってくるのに、さらに \(\displaystyle\frac{L}{v_x}\) の時間がかかります。
したがって、再びSと衝突するまでの時間 \(\Delta t\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta t &= \frac{L}{v_x} + \frac{L}{v_x} \\[2.0ex]
&= \frac{2L}{v_x}
\end{aligned}
$$
結論と吟味
分子が再び壁Sに衝突するまでの時間は \(\displaystyle\frac{2L}{v_x}\) です。
ウ
思考の道筋とポイント
時間 \(t\) の間に壁Sに衝突する回数を求めます。1回の衝突にかかる時間間隔が(イ)で求まったので、全体の時間 \(t\) をこの時間間隔で割ることで、衝突回数が計算できます。
この設問における重要なポイント
- 衝突回数 = (全体の時間) ÷ (1回あたりの時間間隔)
具体的な解説と立式
1回の衝突あたり \(\Delta t = \displaystyle\frac{2L}{v_x}\) の時間がかかります。
したがって、時間 \(t\) の間に壁Sに衝突する回数 \(N_{\text{col}}\) は、
$$
\begin{aligned}
N_{\text{col}} &= \frac{t}{\Delta t} \\[2.0ex]
&= \frac{t}{\frac{2L}{v_x}} \\[2.0ex]
&= \frac{tv_x}{2L}
\end{aligned}
$$
結論と吟味
時間 \(t\) の間の衝突回数は \(\displaystyle\frac{tv_x}{2L}\) となります。
エ
思考の道筋とポイント
分子が時間 \(t\) の間に壁Sから受ける力積を求めます。力積は「1回の衝突で受ける力積」と「衝突回数」の積で計算できます。1回の衝突で分子が受ける力積は、その運動量変化(ア)に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- 力積 = (1回の衝突における運動量変化) \(\times\) (衝突回数)
具体的な解説と立式
1回の衝突で分子が受ける力積は、運動量変化(ア)に等しく、\(-2mv_x\) です。
時間 \(t\) の間の衝突回数は(ウ)より \(\displaystyle\frac{tv_x}{2L}\) です。
したがって、時間 \(t\) の間に壁Sから受ける力積の総量 \(I\) は、
$$
\begin{aligned}
I &= (-2mv_x) \times \left( \frac{tv_x}{2L} \right) \\[2.0ex]
&= -\frac{mtv_x^2}{L}
\end{aligned}
$$
結論と吟味
分子が壁Sから受ける力積は \(\displaystyle-\frac{mtv_x^2}{L}\) となります。負の符号は、力積が\(x\)軸の負の向きに加えられたことを示しています。
オ
思考の道筋とポイント
壁Sがこの分子から受けている平均の力を求めます。まず、分子が壁Sから受ける平均の力 \(f_{\text{分子}}\) を考えます。力積は「平均の力 \(\times\) 時間」の関係 (\(I=ft\)) で表せるので、(エ)で求めた力積を時間 \(t\) で割ることで、分子が壁から受ける平均の力が求まります。壁が分子から受ける力は、この力の反作用なので、大きさが等しく向きが逆になります。
この設問における重要なポイント
- 力積と力の関係: \(I = f \times t\)
- 作用・反作用の法則
具体的な解説と立式
分子が壁Sから受ける力積 \(I\) は、分子が壁Sから受ける平均の力 \(f_{\text{分子}}\) と時間 \(t\) を用いて \(I=f_{\text{分子}}t\) と表せます。
(エ)の結果より \(I = \displaystyle-\frac{mtv_x^2}{L}\) なので、
$$ f_{\text{分子}}t = -\frac{mtv_x^2}{L} $$
両辺を \(t\) で割ると、分子が壁から受ける平均の力 \(f_{\text{分子}}\) が求まります。
$$ f_{\text{分子}} = -\frac{mv_x^2}{L} $$
壁Sがこの分子から受ける平均の力 \(f\) は、この力の反作用であるため、
$$
\begin{aligned}
f &= -f_{\text{分子}} \\[2.0ex]
&= – \left( -\frac{mv_x^2}{L} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{mv_x^2}{L}
\end{aligned}
$$
結論と吟味
壁Sがこの分子から受ける平均の力は \(\displaystyle\frac{mv_x^2}{L}\) です。正の値であり、壁が\(x\)軸の正の向きに力を受けることを示しており、物理的に妥当です。
カ
思考の道筋とポイント
分子の運動は乱雑で、特定の方向に偏りがない(等方的である)と考えます。このため、速度の\(x, y, z\)各成分の2乗の平均値は等しくなると考えられます。
この設問における重要なポイント
- 気体分子の運動の等方性: \(\overline{v_x^2} = \overline{v_y^2} = \overline{v_z^2}\)
具体的な解説と立式
問題文にある関係式 \(\overline{v^2} = \overline{v_x^2} + \overline{v_y^2} + \overline{v_z^2}\) において、運動の等方性から \(\overline{v_x^2} = \overline{v_y^2} = \overline{v_z^2}\) が成り立ちます。
したがって、
$$
\begin{aligned}
\overline{v^2} &= \overline{v_x^2} + \overline{v_x^2} + \overline{v_x^2} \\[2.0ex]
&= 3\overline{v_x^2}
\end{aligned}
$$
この式を \(\overline{v_x^2}\) について解くと、
$$ \overline{v_x^2} = \frac{1}{3}\overline{v^2} $$
結論と吟味
\(\overline{v_x^2}\) は \(\displaystyle\frac{1}{3}\overline{v^2}\) となります。
キ
思考の道筋とポイント
\(N\)個の分子全体から壁Sが受ける力の大きさの合計 \(F\) を求めます。これは、1個の分子が及ぼす平均の力(オ)を、\(N\)個の分子について合計(平均)することで得られます。
この設問における重要なポイント
- 全体の力 = (1分子あたりの平均の力) \(\times\) (分子の総数)
具体的な解説と立式
1個の分子が壁Sに及ぼす平均の力は \(f = \displaystyle\frac{mv_x^2}{L}\) です。
\(N\)個の分子が及ぼす力の合計 \(F\) は、各分子の力の総和です。各分子の速度は異なるため、平均値を用いて考えます。
$$
\begin{aligned}
F &= N \times \bar{f} \\[2.0ex]
&= N \times \overline{\left(\frac{mv_x^2}{L}\right)} \\[2.0ex]
&= \frac{Nm}{L}\overline{v_x^2}
\end{aligned}
$$
ここに(カ)の結果 \(\overline{v_x^2} = \displaystyle\frac{1}{3}\overline{v^2}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
F &= \frac{Nm}{L} \left( \frac{1}{3}\overline{v^2} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{Nm\overline{v^2}}{3L}
\end{aligned}
$$
結論と吟味
\(N\)個の分子から壁Sが受ける力の大きさ \(F\) は \(\displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3L}\) と表せます。
ク
思考の道筋とポイント
壁Sが受ける圧力 \(p\) を求めます。圧力は、単位面積あたりに働く力なので、(キ)で求めた力 \(F\) を壁の面積 \(S=L^2\) で割ることで計算できます。
この設問における重要なポイント
- 圧力の定義: \(p = \displaystyle\frac{F}{S}\)
具体的な解説と立式
圧力 \(p\) は、力 \(F\) を面積 \(S=L^2\) で割ることで求められます。
$$ p = \frac{F}{S} = \frac{F}{L^2} $$
(キ)の結果 \(F = \displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3L}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
p &= \frac{1}{L^2} \left( \frac{Nm\overline{v^2}}{3L} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{Nm\overline{v^2}}{3L^3}
\end{aligned}
$$
ここで、立方体の体積 \(V=L^3\) を用いると、
$$ p = \frac{Nm\overline{v^2}}{3V} $$
結論と吟味
圧力 \(p\) は \(\displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3V}\) となります。
ケ
思考の道筋とポイント
(ク)で導出した圧力の式を、\(pV\) の形に書き換えます。
この設問における重要なポイント
- (ク)の式を移項するだけ。
具体的な解説と立式
(ク)で求めた圧力の式 \(p = \displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3V}\) の両辺に体積 \(V\) を掛けると、
$$ pV = \frac{Nm\overline{v^2}}{3} $$
問題文の分数形式に合わせると \(\displaystyle\frac{1}{3}Nm\overline{v^2}\) となります。
結論と吟味
\(pV\) は \(\displaystyle\frac{1}{3}Nm\overline{v^2}\) となります。
コ
思考の道筋とポイント
分子運動論から導かれた式(ケ)と、実験則である理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を比較し、分子1個の平均運動エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}m\overline{v^2}\) を \(R, T, N_A\) を用いて表します。
この設問における重要なポイント
- \(pV\) を介して2つの式を結びつける。
- 物質量 \(n\) と分子数 \(N\) の関係 \(N=nN_A\) を用いる。
具体的な解説と立式
(ケ)の結果と理想気体の状態方程式を \(pV\) で結びつけます。
$$ \frac{1}{3}Nm\overline{v^2} = nRT $$
この式を、分子1個の平均運動エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}m\overline{v^2}\) が現れるように変形します。
$$ \frac{2}{3}N \left( \frac{1}{2}m\overline{v^2} \right) = nRT $$
\(\displaystyle\frac{1}{2}m\overline{v^2}\) について解くと、
$$ \frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3nRT}{2N} $$
ここで、分子数 \(N\) は、物質量 \(n\) とアボガドロ定数 \(N_A\) を用いて \(N=nN_A\) と表せるので、これを代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m\overline{v^2} &= \frac{3nRT}{2(nN_A)} \\[2.0ex]
&= \frac{3RT}{2N_A}
\end{aligned}
$$
結論と吟味
分子1個の平均運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{3RT}{2N_A}\) となります。
サ
思考の道筋とポイント
(コ)で求めた平均運動エネルギーの式が、どの物理量に比例するかを考えます。\(R\) と \(N_A\) は定数です。
この設問における重要なポイント
- 式の中の定数と変数を区別する。
具体的な解説と立式
(コ)の結果 \(\displaystyle\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3RT}{2N_A}\) において、気体定数 \(R\) とアボガドロ定数 \(N_A\) は定数です。
したがって、分子の平均運動エネルギーは、絶対温度 \(T\) にのみ比例します。
結論と吟味
分子の平均運動エネルギーは、絶対温度 \(T\) に比例します。
シ
思考の道筋とポイント
分子量 \(M_0\) の定義を数式で表現します。分子量は、1 mol あたりの質量をグラム単位で表した数値です。物理計算で用いる質量はkg単位なので、単位換算が必要です。
この設問における重要なポイント
- 分子量の定義: 1 mol (\(N_A\)個) あたりの質量が \(M_0\) [g]。
- SI単位への変換: \(M_0 \, [\text{g}] = M_0 \times 10^{-3} \, [\text{kg}]\)。
具体的な解説と立式
分子1個の質量を \(m\) [kg]とします。
1 mol、すなわち \(N_A\) 個の分子の質量は \(m \times N_A\) [kg] となります。
一方、分子量 \(M_0\) の定義より、1 mol の質量は \(M_0\) [g] であり、これは \(M_0 \times 10^{-3}\) [kg] です。
これらは等しいので、
$$ mN_A = M_0 \times 10^{-3} $$
という関係式が成り立ちます。
結論と吟味
分子量と分子1個の質量の関係式が導かれました。
ス
思考の道筋とポイント
二乗平均速度 \(\sqrt{\overline{v^2}}\) を \(M_0, R, T\) を用いて表します。(コ)で求めた平均運動エネルギーの式と、(シ)で確認した質量の関係式を組み合わせて導出します。
この設問における重要なポイント
- (コ)と(シ)の結果を連立させて、\(m\) と \(N_A\) を消去する。
具体的な解説と立式
(コ)の結果より、
$$ \frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3RT}{2N_A} $$
この式を \(\overline{v^2}\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
m\overline{v^2} &= \frac{3RT}{N_A} \\[2.0ex]
\overline{v^2} &= \frac{3RT}{mN_A}
\end{aligned}
$$
ここで、分母の \(mN_A\) に(シ)の関係式 \(mN_A = M_0 \times 10^{-3}\) を代入します。
$$ \overline{v^2} = \frac{3RT}{M_0 \times 10^{-3}} $$
最後に、両辺の正の平方根をとって二乗平均速度 \(\sqrt{\overline{v^2}}\) を求めます。
$$ \sqrt{\overline{v^2}} = \sqrt{\frac{3RT}{M_0 \times 10^{-3}}} $$
結論と吟味
二乗平均速度が、絶対温度の平方根に比例し、分子量の平方根に反比例するという重要な関係式が導かれました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この一連の問題の核心となる物理法則は?
- 単振動の本質的理解:
- 核心: 単振動とは、ばね振り子や単振り子に限らず、「復元力(つり合いの位置からの変位に比例し、常につり合いの位置を向く力)」によって生じる周期的な運動である、という統一的な理解が根幹にあります。
- 理解のポイント:
- 運動方程式の視点: すべての単振動は、運動方程式が \(ma = -Kx\) という形で表せます。この「実効的なばね定数 \(K\)」が何であるかを見抜くことが、周期を求める上での本質です。
- 周期の決定要因: 周期は \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}}\) で与えられ、慣性質量 \(m\) と復元力の強さ \(K\) のみで決まります。ばね振り子では \(K=k\)、単振り子では \(K=\frac{mg}{l}\) に相当します。
- 等時性: 周期が振幅や初期速度によらないという性質は、この \(ma=-Kx\) という線形な関係から生まれます。
- 熱力学の二大法則:
- 核心: 熱現象は、目に見えない分子の集団運動(ミクロ)と、我々が測定できる物理量(マクロ)の2つの視点から記述され、それらは「理想気体の状態方程式」と「熱量保存則(エネルギー保存則)」によって結びつけられています。
- 理解のポイント:
- 状態方程式 \(pV=nRT\): 気体の圧力・体積・温度・物質量という4つのマクロな状態量を結びつける万能の法則です。ボイルの法則やシャルルの法則は、この方程式の特殊な場合に過ぎません。
- 熱量保存則: 「高温物体が失った熱量=低温物体が得た熱量」というエネルギー保存則の一形態です。温度変化(比熱)と状態変化(潜熱)で必要な熱量の計算式を正しく使い分けることが重要です。
- ミクロとマクロの接続: 気体分子運動論は、分子の力学的な衝突から圧力の式 \(p=\frac{Nm\overline{v^2}}{3V}\) を導きます。これを状態方程式と比較することで、温度 \(T\) の正体が分子の平均運動エネルギー \(\frac{1}{2}m\overline{v^2}\) であることが明らかになります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 振動問題の着眼点:
- 振動の種類を特定する: まず、ばね振り子か、単振り子か、あるいはそれ以外の復元力による振動かを見極めます。
- 周期に影響する因子を分析する:
- ばね振り子なら、質量 \(m\) とばね定数 \(k\) に注目します。重力や設置角度は(つり合いの位置をずらすだけで)周期に影響しません。
- 単振り子なら、糸の長さ \(l\) と重力加速度 \(g\) に注目します。質量 \(m\) や振幅 \(A\) は周期に影響しません。
- 非慣性系か判断する: エレベーターや電車の中など、加速度運動する系が舞台の場合、「見かけの重力加速度 \(g’\)」を考えます。これは、本来の重力と慣性力をベクトル合成することで求められます。
- エネルギーか運動方程式かを選択する: 速さを求めたい場合は「力学的エネルギー保存則」が有効です。周期を根本から導きたい、あるいは運動が単振動か不明な場合は「運動方程式」に立ち返ります。
- 熱力学問題の着眼点:
- 登場人物を整理する: 気体、液体、固体、容器など、熱をやりとりする物体をすべてリストアップします。
- 状態変化の有無を確認する: 氷が水になる、水が蒸発するなど、状態変化が伴うかを確認します。グラフ問題では、温度が一定の「平らな区間」が状態変化に対応します。
- 法則を選択する:
- 熱の移動: 「熱量保存則」を第一に考えます。
- 気体の状態変化: 「理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\)」を基本とします。物質量が一定なら、変化前後の式の比をとって \(\frac{p_1V_1}{T_1}=\frac{p_2V_2}{T_2}\)(ボイル・シャルルの法則)の形にするのが定石です。
- 連結容器: コックを開いたら、まず「全体の物質量 \(n_1+n_2\)」と「全体の体積 \(V_1+V_2\)」を計算し、系全体で状態方程式を立てるのが有効です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 単位系の不統一:
- 誤解: セルシウス温度(\(^\circ\text{C}\))をそのまま気体の状態方程式に代入してしまう。容積のリットル(\(\text{L}\))や質量グラム(\(\text{g}\))を変換し忘れる。
- 対策: 計算を始める前に、問題で与えられた数値をすべてSI基本単位(\(m, kg, s, K, mol\))に変換してメモする習慣をつけましょう。「気体の温度は絶対温度(\(K\))」と常に意識することが重要です。
- 周期公式の混同・誤用:
- 誤解: ばね振り子の周期に重力 \(g\) が関係する、あるいは単振り子の周期が質量 \(m\) に関係すると勘違いする。
- 対策: 2つの公式 \(T=2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\) と \(T=2\pi\sqrt{\frac{l}{g}}\) を、それぞれの物理的意味(ばねの復元力 vs 重力の復元力)とセットで正確に記憶しましょう。「ばねは重さに関係なく、振り子は重さに関係ない」と覚えておくのも有効です。
- 状態変化と温度変化の混同:
- 誤解: 氷が溶けている最中にも温度が上がると考えてしまう。あるいは、温度上昇に必要な熱量計算に融解熱を使ってしまう。
- 対策: 加熱グラフをイメージし、「斜めの部分=温度変化(比熱 \(mc\Delta T\))」、「平らな部分=状態変化(潜熱 \(mL\))」という対応関係を明確に区別しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 状態方程式 vs ボイル・シャルルの法則:
- 選定理由: 理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) は、気体の状態を記述する最も根源的な法則です。一方、ボイル・シャルルの法則 \(\frac{pV}{T}=\text{一定}\) は、「封入された気体(物質量 \(n\) が一定)」という条件下で状態方程式から導かれる便利な関係式です。
- 適用根拠: どの問題も状態方程式から解くことは可能ですが、物質量が一定であることが明らかな場合は、ボイル・シャルルの法則を直接適用する方が、\(n\) や \(R\) を計算する必要がなく、思考のステップを短縮できます。
- エネルギー保存則 vs 運動方程式(振動):
- 選定理由: 速さや位置エネルギーの変化など、「状態の変化」に注目したい場合は、エネルギー保存則が強力です。一方、運動の周期や加速度など、運動そのものの性質を詳しく知りたい場合は、運動方程式が基本となります。
- 適用根拠: エネルギー保存則は、系全体のスカラー量(エネルギー)に着目し、途中の力のやりとりを省略して始点と終点の関係を結びつけます。運動方程式は、各瞬間に働くベクトル量(力)に着目し、運動の時間的な変化を記述します。目的に応じて適切な道具を選ぶことが重要です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位換算の儀式化: 問題を読んだら、計算を始める前に、与えられた数値をすべてSI基本単位に直して問題用紙の余白に書き出すことを「儀式」にしましょう。特に、\(t[^\circ\text{C}] \rightarrow T[K]\)、\(V[L] \rightarrow V[m^3]\)、分子量 \(M_0 \rightarrow\) モル質量 \(M_0 \times 10^{-3} [kg/mol]\) は機械的に行います。
- 文字式のまま計算を進める: 特に分数が絡む計算では、いきなり数値を代入すると計算が複雑になりがちです。できる限り文字式のまま整理し、約分などを行ってから最後に数値を代入するのが鉄則です。問8(4)のように、式の割り算で未知数を消去するテクニックは非常に有効です。
- 概算で見当をつける: 計算結果が出たら、それが物理的に妥当な範囲にあるかを見積もる癖をつけましょう。例えば、熱平衡温度は必ず初期温度の間の値になるはずです。温まりにくい物質(熱容量が大きい)の方の初期温度に近い値になるはず、といった見当をつけることで、大きな計算ミスに気づくことができます。
- グラフの性質を活用する: 振動のグラフ問題では、\(x, v, a\) の関係性を意識します。「\(v\) は \(x\) の傾き」「\(a\) は \(v\) の傾き」「\(a\) は \(x\) の逆さ形」といった関係を知っていれば、一つのグラフから他のグラフを容易に推測でき、検算にも役立ちます。