各問題解説
問1
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 周期の公式から先に求める解法
- 模範解答が \(v=f\lambda\) から振動数を先に求めるのに対し、別解では \(v=\frac{\lambda}{T}\) から周期を先に求めます。
- 設問(3)の別解: 波の式(波動関数)を用いる解法
- 模範解答(およびメイン解説)が波形を平行移動させて直感的にグラフの形状を判断するのに対し、別解では波の数式 \(y(x,t)\) を立てて、\(x=0\) を代入することで論理的にグラフの形状を導きます。
- 設問(2)の別解: 周期の公式から先に求める解法
- 上記の別解が有益である理由
- 公式の相互理解: 振動数 \(f\) と周期 \(T\) の関係、および波の速さ \(v\) との関係を多角的に理解できます。
- 数学的記述力の向上: 波の現象を数式で表現する力(波動関数の理解)は、より高度な物理の問題を解くための基礎となります。
- グラフ描画の確実性: 「波をずらす」という直感的な方法はミスが起きやすいですが、数式を用いることで符号(プラスかマイナスか)を厳密に判定できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「波のグラフの読み取りと変換(y-x図とy-t図)」です。波の性質を表す基本的な物理量の定義と、それらの関係式を正しく使いこなすことが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の基本要素: 振幅 \(A\)、波長 \(\lambda\)、速さ \(v\)、振動数 \(f\)、周期 \(T\) の定義を理解していること。
- 波の基本公式: \(v = f\lambda\) および \(f = \frac{1}{T}\) (または \(v = \frac{\lambda}{T}\))の関係式を暗記し、変形できること。
- グラフの種類の区別: 「ある瞬間の波の写真(y-x図)」と「ある一点の媒質の動きの記録(y-t図)」の違いを明確に区別できること。
- 波の進行と媒質の動き: 波形全体が平行移動することと、各点の媒質がその場で単振動することの関係を理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、与えられたy-x図(波形グラフ)から、直接読み取れる情報である振幅 \(A\) と波長 \(\lambda\) を特定します。
- (2)では、問題文で与えられた速さ \(v\) と、(1)で読み取った波長 \(\lambda\) を用いて、波の基本公式から振動数 \(f\) と周期 \(T\) を計算します。
- (3)では、\(x=0\) という特定の場所に着目し、時間が経過すると波形がどのように通過していくかを考えます。波形を少し進行方向(右)にずらすことで、次の瞬間に媒質がどちらに動くかを判断し、グラフを描きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
図1は「時刻 \(t=0\,\text{s}\) における波形」を表すy-x図です。このグラフの縦軸と横軸から、波の幾何学的な特徴を読み取ります。
振幅 \(A\) は振動の中心から最大変位までの大きさ、波長 \(\lambda\) は波一つ分の長さ(位相が \(2\pi\) 変化する距離)です。
この設問における重要なポイント
- 縦軸の最大値が振幅 \(A\) に対応する。
- 横軸上で、波形が同じ状態に戻るまでの距離が波長 \(\lambda\) に対応する。
- 有効数字2桁で答えることに注意する。
具体的な解説と立式
図1より、波の形状を読み取ります。
まず、振幅 \(A\) について考えます。
グラフの縦軸(\(y\)軸)を見ると、波の山(最も高い点)の \(y\)座標は \(0.50\)、谷(最も低い点)の \(y\)座標は \(-0.50\) です。
振幅 \(A\) は、振動の中心(\(y=0\))から山、または谷までの距離なので、
$$ A = 0.50\,\text{m} $$
と読み取れます。
次に、波長 \(\lambda\) について考えます。
グラフの横軸(\(x\)軸)を見ると、波は原点 \(x=0\) で \(y=0\) から始まり、一度下がってから上がり、\(x=3.0\) で再び \(y=0\) を通過して山を作り、\(x=6.0\) で再び元の状態(\(y=0\) で下がり始める直前)に戻っています。
あるいは、単純に「山から次の山まで」や「谷から次の谷まで」の長さを測ることもできますが、ここでは \(x=0\) から \(x=6.0\) まででちょうど1つの波(1サイクル)が完了していることが明確です。
したがって、波長 \(\lambda\) は、
$$ \lambda = 6.0\,\text{m} $$
と読み取れます。
使用した物理公式
- グラフからの読み取り(公式なし)
読み取りのみのため、計算過程はありません。
$$
\begin{aligned}
A &= 0.50\,\text{m} \\[2.0ex]
\lambda &= 6.0\,\text{m}
\end{aligned}
$$
グラフを見て、波の「高さ」と「幅」を答える問題です。
「振幅」は、波の揺れ幅の半分のことです。真ん中の線から一番高いところまで(あるいは一番低いところまで)の高さを読みます。図を見ると \(0.50\) です。
「波長」は、波の「山ひとつ+谷ひとつ」の長さです。スタート地点の \(0\) から、波がうねってまた同じ形が始まるところまでの横の長さを読みます。図を見ると \(6.0\) 目盛り分で一周しています。
振幅 \(A=0.50\,\text{m}\)、波長 \(\lambda=6.0\,\text{m}\)。
グラフの目盛りから直接読み取れる値であり、有効数字2桁の形式(\(x.x\))とも一致しています。物理的に妥当な読み取りです。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で求めた波長 \(\lambda\) と、問題文で与えられた波の速さ \(v=3.0\,\text{m/s}\) を使って、残りの物理量である振動数 \(f\) と周期 \(T\) を求めます。これらは波の基本公式で結びついています。
この設問における重要なポイント
- 波の基本公式 \(v = f\lambda\) を用いる。
- 振動数 \(f\) と周期 \(T\) の関係式 \(fT = 1\) (または \(T = \frac{1}{f}\))を用いる。
- 与えられた数値: \(v = 3.0\,\text{m/s}\), \(\lambda = 6.0\,\text{m}\)。
具体的な解説と立式
まず、振動数 \(f\) を求めます。
波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の間には以下の関係(波の基本公式)が成り立ちます。
$$ v = f\lambda $$
この式を \(f\) について解く形に変形して立式します。
$$ f = \frac{v}{\lambda} $$
次に、周期 \(T\) を求めます。
周期 \(T\) と振動数 \(f\) は逆数の関係にあります。
$$ T = \frac{1}{f} $$
使用した物理公式
- 波の基本公式: \(v = f\lambda\)
- 周期と振動数の関係: \(T = \frac{1}{f}\)
まず、振動数 \(f\) を計算します。
\(v = 3.0\), \(\lambda = 6.0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{3.0}{6.0} \\[2.0ex]
&= 0.50\,\text{Hz}
\end{aligned}
$$
次に、周期 \(T\) を計算します。
求めた \(f = 0.50\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{1}{0.50} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{1/2} \\[2.0ex]
&= 2.0\,\text{s}
\end{aligned}
$$
波の速さは、「1秒間に波が何個進むか(振動数)」と「波1個の長さ(波長)」のかけ算で決まります。
「速さ \(3.0\) で、長さ \(6.0\) の波が進んでいる」ということは、1秒間に波は半分(\(0.5\)個)しか進んでいないことになります。これが振動数です。
また、周期は「波1個が進むのにかかる時間」です。1秒で半分しか進まないなら、1個進むには2秒かかりますね。これが周期です。
振動数 \(f=0.50\,\text{Hz}\)、周期 \(T=2.0\,\text{s}\)。
\(f \times T = 0.50 \times 2.0 = 1.0\) となり、逆数の関係が成立しています。また、\(v = \lambda / T = 6.0 / 2.0 = 3.0\,\text{m/s}\) となり、問題文の速さと一致するため、計算は正しいです。
思考の道筋とポイント
周期 \(T\) の定義「波が1波長分進むのにかかる時間」に基づいて、距離と速さの関係から先に \(T\) を求めることもできます。
この設問における重要なポイント
- 「時間 = 距離 ÷ 速さ」の関係を用いる。
- 波1つ分の距離は \(\lambda\)、速さは \(v\) である。
具体的な解説と立式
周期 \(T\) は、波が1波長 \(\lambda\) だけ進むのに要する時間です。
等速直線運動の公式 \((\text{時間}) = (\text{距離}) \div (\text{速さ})\) より、
$$ T = \frac{\lambda}{v} $$
振動数 \(f\) は周期の逆数なので、
$$ f = \frac{1}{T} $$
使用した物理公式
- 周期の定義式: \(T = \frac{\lambda}{v}\)
- 周期と振動数の関係: \(f = \frac{1}{T}\)
まず、周期 \(T\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{6.0}{3.0} \\[2.0ex]
&= 2.0\,\text{s}
\end{aligned}
$$
次に、振動数 \(f\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{1}{2.0} \\[2.0ex]
&= 0.50\,\text{Hz}
\end{aligned}
$$
波の長さは \(6.0\,\text{m}\) で、それが \(3.0\,\text{m/s}\) で進んでいます。
\(6.0\,\text{m}\) 進むのに何秒かかるか?と考えると、\(6.0 \div 3.0 = 2.0\) 秒です。これが周期です。
2秒で1回振動するなら、1秒あたり何回振動するか?と考えると、\(1 \div 2 = 0.5\) 回です。これが振動数です。
メインの解法と全く同じ結果が得られました。どちらの手順でも正解です。
問(3)
思考の道筋とポイント
求められているのは「\(x=0\,\text{m}\) の点における媒質の振動のようす(y-tグラフ)」です。
y-x図(ある瞬間の写真)からy-t図(ある点のムービー)への変換は、波のグラフ問題の最重要ポイントです。
「波を少し進行方向にずらして、未来の変位を予測する」という手法が最も一般的で確実です。
この設問における重要なポイント
- 波は \(x\)軸正の向き(右向き)に進んでいる。
- \(t=0\) の瞬間、\(x=0\) の変位は \(y=0\) である。
- \(t=0\) の直後、\(x=0\) の媒質が「上に動く」か「下に動く」かを判定する。
- グラフは周期 \(T=2.0\,\text{s}\) の正弦波(サインカーブ)または余弦波になる。
- 2周期分(\(t=0\) から \(t=4.0\) まで)描く必要がある。
具体的な解説と立式
まず、\(t=0\) における \(x=0\) の変位を確認します。図1より、\(y=0\) です。したがって、y-tグラフは原点から始まります。
次に、\(t=0\) の直後に媒質がどちらに動くかを判断します。
波は \(x\)軸正の向き(右)に進んでいます。
図1の波形を、少しだけ右にずらした波形(点線などでイメージ)を描いてみます。
すると、\(x=0\) の位置には、図1の \(x<0\) にあった「山」の部分が近づいてくることがわかります(図1では \(x=0\) から左側は見えませんが、波の形状から \(x=0\) の左側には山があると推測できます)。
あるいは、図1の \(x=0\) 付近の波形を見ると、右下がりになっています。波全体が右に動くと、\(x=0\) の地点には、現在の \(x=0\) より少し左にある「高い位置(\(y>0\))」の状態が移動してきます。
したがって、\(t=0\) の直後、\(x=0\) の媒質は正の向き(上向き)に変位します。
これより、求めるグラフは以下の特徴を持つことがわかります。
- \(t=0\) で \(y=0\) を通る。
- \(t=0\) から \(y\) が増加する(上に凸の山から始まる)。
- 周期 \(T=2.0\,\text{s}\) で振動する。
- 振幅は \(A=0.50\,\text{m}\) である。
この特徴を持つグラフ(正弦波 \(y = A\sin(\omega t)\) の形)を描きます。
使用した物理公式
- 波の平行移動の考え方
グラフを描くための主要な点の座標を計算します。
周期 \(T=2.0\,\text{s}\) なので、
- \(t=0\,\text{s}\): \(y=0\) (スタート)
- \(t = \frac{1}{4}T = 0.5\,\text{s}\): \(y = 0.50\,\text{m}\) (山の頂点)
- \(t = \frac{1}{2}T = 1.0\,\text{s}\): \(y = 0\) (中心に戻る)
- \(t = \frac{3}{4}T = 1.5\,\text{s}\): \(y = -0.50\,\text{m}\) (谷の底)
- \(t = T = 2.0\,\text{s}\): \(y = 0\) (1周期終了)
これを2周期分繰り返すので、
- \(t = 3.0\,\text{s}\): \(y = 0\)
- \(t = 4.0\,\text{s}\): \(y = 0\)
となります。
グラフは、原点から右上がりにスタートし、\(t=1.0, 2.0, 3.0, 4.0\) で横軸と交わるサインカーブになります。
「\(x=0\) の場所に立っている人」になったつもりで、足元の地面がどう動くかを記録します。
今(\(t=0\))、足元は高さゼロ(\(y=0\))です。
波は右へ進んでいます。図を見ると、あなたの左側(波がやってくる方向)には「山」がありそうです(図の \(x=0\) から右に行くと谷になっているので、逆に左に行くと山になっているはずです)。
波が右に動くと、その「山」があなたの足元にやってきます。つまり、あなたの足元はこれから「持ち上げられる」ことになります。
なので、グラフはゼロからスタートして、まずは上に上がっていきます。
あとは、2秒ごとに同じ動きを繰り返す波を描けば完成です。
描かれたグラフは、\(t=0\) で \(0\)、\(t=0.5\) で最大値 \(0.50\)、\(t=1.0\) で \(0\)、\(t=1.5\) で最小値 \(-0.50\)、\(t=2.0\) で \(0\) となる正弦波です。
これは、波が右に進むことと、\(x=0\) 付近の波形(右下がり)と整合しています。
思考の道筋とポイント
波の形状を数式(関数)で表し、そこに \(x=0\) を代入することで、数学的に厳密にグラフの形を導き出します。
この設問における重要なポイント
- \(t=0\) における波形を数式で表す。
- 波が正の向きに進むときの変数の置き換え \(x \to (x-vt)\) を行う。
- \(x=0\) を代入して \(y\) を \(t\) の関数にする。
具体的な解説と立式
まず、図1(\(t=0\) の波形)を式で表します。
原点 \(x=0\) を通り、\(x\) が増えると \(y\) が負になる(下に下がる)サインカーブなので、
$$ y(x, 0) = -A\sin\left( \frac{2\pi}{\lambda}x \right) $$
と表せます。
波は速さ \(v\) で \(x\)軸正の向きに進むので、時刻 \(t\) における波の式 \(y(x, t)\) は、上の式の \(x\) を \((x – vt)\) に置き換えたものになります。
$$ y(x, t) = -A\sin\left( \frac{2\pi}{\lambda}(x – vt) \right) $$
この式を変形します。
$$
\begin{aligned}
y(x, t) &= -A\sin\left( \frac{2\pi x}{\lambda} – \frac{2\pi vt}{\lambda} \right) \\[2.0ex]
&= -A\sin\left( 2\pi \frac{x}{\lambda} – 2\pi \frac{t}{T} \right)
\end{aligned}
$$
ここで、\(\frac{v}{\lambda} = \frac{1}{T}\) を用いました。
さらに、サイン関数の性質 \(\sin(-\theta) = -\sin(\theta)\) を利用して、カッコ内の符号を反転させ、外のマイナスを消します。
$$ y(x, t) = A\sin\left( 2\pi \frac{t}{T} – 2\pi \frac{x}{\lambda} \right) $$
求めたいのは \(x=0\) における振動の様子なので、この式に \(x=0\) を代入します。
$$ y(0, t) = A\sin\left( 2\pi \frac{t}{T} \right) $$
使用した物理公式
- 進行波の式: \(y(x,t) = f(x-vt)\)
- 三角関数の性質: \(\sin(-\theta) = -\sin\theta\)
得られた式 \(y = A\sin\left( \frac{2\pi}{T}t \right)\) に数値を代入します。
\(A=0.50\), \(T=2.0\) より、
$$ y = 0.50\sin(\pi t) $$
これは、\(t=0\) で \(y=0\) となり、\(t\) が少し増えると \(y\) も正の値になる、通常の正弦波(サインカーブ)です。
図の波の形を数式にします。最初は下がっていくので「マイナスのサイン」の形です。
波が右に進むときは、数式の中の \(x\) を「\(x – vt\)」に書き換えるというルールがあります。
これを計算して整理すると、\(x=0\) の場所での動きは「プラスのサイン」の式になりました。
つまり、グラフは上に向かってスタートする普通の波の形になります。
数式による導出からも、グラフが原点から上に立ち上がる正弦波であることが確認できました。メインの解法と同じ結論です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 波の基本公式の理解と運用
- 核心: 波の性質を記述する上で最も基本的かつ重要な関係式 \(v = f\lambda\) と \(f = \frac{1}{T}\) を、単なる記号の羅列としてではなく、物理的な意味(速さ=振動数×波長、振動数と周期は逆数)とともに深く理解していることです。
- 理解のポイント:
- 定義の定着: 振幅 \(A\)、波長 \(\lambda\)、周期 \(T\)、振動数 \(f\) が、波のグラフ(y-x図やy-t図)上のどの部分に対応するかを視覚的に把握できているかが問われます。
- 相互関係: これら4つの物理量は独立しておらず、波の速さ \(v\) を介して密接に関連しています。一つの量が変化すると他の量にどう影響するかを瞬時に判断できる力が重要です。
- y-x図とy-t図の相互変換
- 核心: 「ある瞬間の波形(写真)」を表すy-x図と、「ある一点の媒質の時間変化(ムービー)」を表すy-t図の違いを明確に区別し、一方から他方を導き出す能力です。
- 理解のポイント:
- 波の進行による予測: y-x図上の波形を進行方向にわずかに平行移動させることで、次の瞬間の媒質の変位を予測する手法(波ずらし法)は、この変換を行うための最も強力で直感的なツールです。
- 視点の切り替え: 「全体を見る視点(空間分布)」と「一点を見つめる視点(時間変化)」を自在に行き来できる柔軟な思考が求められます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 逆方向(負の向き)に進む波: 問題文に「\(x\)軸負の向きに進む」とあった場合、波形を左にずらして考えます。数式で考える場合は \(x \to (x+vt)\) の置き換えになります。
- y-t図からy-x図への変換: 今回とは逆に、ある点の振動グラフ(y-t図)が与えられ、ある時刻の波形(y-x図)を描く問題。この場合も、「時間を少し戻して波の源流を探る」あるいは「波の式を立てる」ことで対応可能です。
- 定常波の形成: 互いに逆向きに進む同じ波が重なり合ってできる定常波の問題でも、基本となるのは個々の進行波の理解です。
- 初見の問題での着眼点:
- 波の進行方向を確認する: まず最初に、波が右(\(+x\)方向)に進むのか、左(\(-x\)方向)に進むのかを問題文から読み取ります。これが全ての判断の基準になります。
- グラフの軸ラベルを見る: 提示されたグラフが y-x図(横軸が位置)なのか、y-t図(横軸が時間)なのかを必ず確認します。ここを間違えると全ての計算が狂います。
- 「0」の位置に着目する: \(x=0\) や \(t=0\) といった原点付近での挙動(上がっているか下がっているか)は、グラフの形状(サインかコサインか、符号はプラスかマイナスか)を決定する決定的な手がかりになります。
- 数式化を検討する: 複雑な問題や、直感的な判断に迷う場合は、別解で示したように波の式 \(y(x,t)\) を立ててしまうのが最も確実な逃げ道です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- y-x図とy-t図の混同:
- 誤解: y-x図の波形をそのままy-t図として描いてしまう、あるいはその逆をしてしまうミスが非常に多いです。
- 対策: グラフを描く前に、必ず「横軸は何を表しているか?」と自問自答しましょう。y-x図は「波の形」、y-t図は「一粒の媒質のダンス」とイメージを分けるのが有効です。
- 波をずらす方向の勘違い:
- 誤解: 波が右に進んでいるのに、媒質の動きを考える際に波形を左にずらしてしまう、あるいは媒質自体が右に動くと勘違いしてしまう(媒質はその場で振動するだけです)。
- 対策: 問題文の「進む向き」に矢印を書き込み、常にその矢印の方向に波形をスライドさせるイメージを持ちましょう。また、媒質の動きは常に「縦(y軸方向)」であることを意識してください。
- 周期と振動数の取り違え:
- 誤解: \(f\) と \(T\) の定義があやふやで、計算式 \(v=f\lambda\) に \(T\) を代入してしまうなどのケアレスミス。
- 対策: 単位を確認する癖をつけましょう。\(f\) は \(\text{Hz}\)(1秒あたりの回数)、\(T\) は \(\text{s}\)(1回あたりの秒数)です。単位が合わない計算は間違いのサインです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 波の基本公式 \(v = f\lambda\) の選択:
- 選定理由: 波の「速さ」「振動数(または周期)」「波長」という3つの要素のうち、2つが既知で残り1つを求めたい場合、これらを結びつける唯一の基本法則だからです。
- 適用根拠: この式は、波の種類(音波、光波、水面波など)に関わらず、あらゆる波動現象に普遍的に成り立つ強力なツールです。
- 波の平行移動(波ずらし法)の選択:
- 選定理由: 設問(3)のように、特定の場所での媒質の動き(時間変化)を問われた際、数式を使わずに視覚的・直感的に解を導ける最も効率的な方法だからです。
- 適用根拠: 波動現象の本質は「波形が形を保ったまま空間を伝播する」ことにあります。したがって、少し時間が経てば、波形全体が少し先に進んでいるはずだ、という物理的な事実は、常に正しい推論の根拠となります。
- 別解:波の式 \(y(x,t)\) の選択:
- 選定理由: グラフの形状判定において、直感に頼るのが不安な場合や、より複雑な条件(初期位相がずれているなど)がある場合に、数学的な厳密さを提供してくれるからです。
- 適用根拠: 物理現象はすべて数式で記述可能です。特に波は三角関数で美しく表現できるため、数式操作によって得られた結果は、グラフの読み取りミスなどを排除した絶対的な正解を保証してくれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認を徹底する:
- 波長 \(\lambda\) が \(\text{cm}\) で与えられているのに、速さ \(v\) が \(\text{m/s}\) である場合など、単位の不一致は計算ミスの元凶です。計算前に必ず単位を \(\text{m}\), \(\text{s}\), \(\text{Hz}\) などの基本単位に統一しましょう。
- 逆数計算の確認:
- \(f = 1/T\) の計算では、分母と分子を逆にしてしまうミスが起こりえます。\(f \times T = 1\) になることを最後に暗算で確認するだけで、このミスは防げます。
- グラフの目盛りを指で追う:
- 波長や振幅を読み取る際、目で見るだけでなく、鉛筆や指でグラフのグリッドをなぞりながら「1, 2, 3…」と数えることで、読み取りミスを劇的に減らせます。特に波長は「山から山」だけでなく、「ゼロからゼロを通って次のゼロまで」など、複数の箇所で確認すると確実です。
- 物理的な妥当性のチェック:
- 計算で求めた周期 \(T\) が、グラフ上で波が1波長進むのにかかりそうな時間と大きくずれていないか、直感的にチェックします。例えば、速さが \(3\) で波長が \(6\) なら、「だいたい2秒くらいだな」という予測を持って計算に臨むことが大切です。
問2
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 波の式を用いた数式による解法
- 模範解答(および一般的な解法)が作図によって反射波と合成波を求めるのに対し、別解では波の数式(正弦波の式)を立てて、計算によって波形を導出します。
- 設問(2)の別解: 波の式を用いた数式による解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 作図という幾何学的な手法だけでなく、数式という解析的な手法を用いることで、波の現象をより厳密かつ定量的に理解できます。
- 応用力の向上: 複雑な波形や、作図が困難な状況(例えばコンピュータシミュレーションなど)においても対応できる汎用的な力を養います。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られるグラフの形状は模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「波のグラフの読み取りと固定端反射の作図」です。波の基本的な性質を理解し、反射波を正確に描く手順をマスターすることが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の基本公式: 波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\)、周期 \(T\) の間には、\(v = f\lambda = \frac{\lambda}{T}\) の関係が成り立ちます。
- 固定端反射の性質: 固定端では媒質が固定されているため変位は常に \(0\) です。反射波は、入射波を「固定端に対して線対称に折り返し(鏡像)」、さらに「上下反転(位相を \(\pi\) ずらす)」させた形になります。
- 重ね合わせの原理: 媒質の変位は、そこにある全ての波の変位の和になります(合成波 = 入射波 + 反射波)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、与えられた \(y-x\) グラフから波長 \(\lambda\) を読み取り、波の基本公式を用いて周期 \(T\) を計算します。
- (2)では、まず時間が経過した後の入射波の位置を特定します。次に、固定端反射のルールに従って反射波を作図します。最後に、入射波と反射波を足し合わせて合成波を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
グラフは、ある時刻(\(t=0\))における波の形(波形)を表しています。このグラフから直接読み取れる情報は「波長」と「振幅」です。速さが与えられているので、波の基本公式を使って周期を求めます。
この設問における重要なポイント
- \(y-x\) グラフの横軸は位置を表しており、波1つ分の長さが波長 \(\lambda\) である。
- 波の速さ \(v\)、波長 \(\lambda\)、周期 \(T\) の関係式 \(v = \frac{\lambda}{T}\) を利用する。
具体的な解説と立式
まず、グラフから波長 \(\lambda\) を読み取ります。
図を見ると、\(x=-2.0\) で \(y=0\) を通り、\(x=0\) で山となり、\(x=2.0\) で再び \(y=0\) となり、\(x=4.0\) で谷の底、そして \(x=6.0\) で再び \(y=0\) に戻ると読み取れます。
\(x=-2.0\) から \(x=6.0\) まででちょうど波1つ分(山1つと谷1つ)の長さになっています。
したがって、波長は
$$ \lambda = 6.0 – (-2.0) = 8.0\,\text{m} $$
となります。
次に、周期 \(T\) を求めます。
波の速さは \(v = 4.0\,\text{m/s}\) と与えられています。
波の基本公式 \(v = \frac{\lambda}{T}\) より、周期 \(T\) について解くと、
$$ T = \frac{\lambda}{v} $$
となります。
使用した物理公式
- 波の基本公式: \(v = \frac{\lambda}{T}\)
値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{8.0}{4.0} \\[2.0ex]
&= 2.0\,\text{s}
\end{aligned}
$$
グラフを見ると、波の山と谷が一つずつセットになった長さ(波長)が \(8.0\,\text{m}\) であることがわかります。この波は \(1\) 秒間に \(4.0\,\text{m}\) 進む速さを持っています。波長 \(8.0\,\text{m}\) 分を進むのにかかる時間が周期なので、\(8.0 \div 4.0\) で \(2.0\) 秒となります。
波長 \(\lambda = 8.0\,\text{m}\)、周期 \(T = 2.0\,\text{s}\) と求まりました。これらはグラフの目盛りや与えられた速さと矛盾せず、妥当な値です。
問(2)
思考の道筋とポイント
時刻 \(t=2.0\,\text{s}\) における波の状態を作図します。
手順は以下の通りです。
1. 入射波の移動: \(t=2.0\,\text{s}\) 間に波がどれだけ進むかを計算し、壁(固定端)がないとした場合の波(入射波)を描きます。今回は連続波なので、波は途切れずに続いています。
2. 反射波の作図: 固定端より奥(右側)にはみ出した入射波を、固定端を軸に折り返し、さらに上下反転させます。
3. 合成波の作図: 観測される領域(固定端より左側)において、入射波と反射波を足し合わせます。
この設問における重要なポイント
- 波は \(t=2.0\,\text{s}\) で \(1\) 周期分(\(1\) 波長分)進む。
- 固定端反射では、反射波は入射波の「上下反転」かつ「左右反転(折り返し)」となる。
- 入射波と反射波が重なる部分では、変位を足し合わせる(重ね合わせの原理)。
具体的な解説と立式
まず、波が進む距離 \(\Delta x\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\Delta x &= v \times t \\[2.0ex]
&= 4.0 \times 2.0 \\[2.0ex]
&= 8.0\,\text{m}
\end{aligned}
$$
これはちょうど波長 \(\lambda = 8.0\,\text{m}\) と等しい距離です。
1. 入射波の位置(壁がないと仮定した場合)
\(t=0\) で波の先頭は \(x=6.0\,\text{m}\) にあり、それより左側(\(x < 6.0\))には波が続いています。
\(t=2.0\,\text{s}\) 後、波全体が右に \(8.0\,\text{m}\) 平行移動します。
- 波の先頭: \(x=6.0 \rightarrow x=14.0\,\text{m}\)
- 波の形状: \(8.0\,\text{m}\)(1波長分)進むので、元の波形と同じ位相が同じ位置に来ます。つまり、\(t=2.0\) での入射波の形は、\(t=0\) の波形と全く同じに見えます(ただし先頭は \(x=14.0\) まで伸びています)。
- \(x=0\) で山、\(x=4.0\) で谷、\(x=8.0\) で山、\(x=12.0\) で谷、\(x=14.0\) で \(0\) となっています。
2. 反射波の作図
固定端 \(x=8.0\,\text{m}\) より右側にある入射波(\(x=8.0 \sim 14.0\))を、固定端反射のルールに従って左側に折り返します。
この右側にはみ出した部分は、\(x=8.0\) で山、\(x=12.0\) で谷、\(x=14.0\) で \(0\) となる形です。
- ステップA(折り返し): \(x=8.0\) を対称軸として、右側の波形を左側に鏡映しにします。
- \(x=8.0\) で山、\(x=4.0\) で谷、\(x=2.0\) で \(0\) となります。
- ステップB(上下反転): 固定端反射なので、ステップAで折り返した波のプラスマイナスを逆転させます。
- \(x=8.0\) で山 \(\rightarrow\) 谷(\(-2.0\))
- \(x=4.0\) で谷 \(\rightarrow\) 山(\(2.0\))
- \(x=2.0\) で \(0 \rightarrow\) \(0\)
これが反射波(点線)です。反射波は \(x=2.0 \sim 8.0\,\text{m}\) の範囲に存在します。
3. 合成波の作図
観測領域(\(x \le 8.0\))において、入射波と反射波を足し合わせます。
- \(x=0 \sim 2.0\):
- 入射波: \(x=0\) で山、\(x=2.0\) で \(0\) に向かう形。
- 反射波: まだ到達していないので \(y=0\)。
- 合成波: 入射波と同じ(\(x=0\) で山、\(x=2.0\) で \(0\))。
- \(x=2.0 \sim 8.0\):
- 入射波: \(x=4.0\) で谷(\(-2.0\))、\(x=8.0\) で山(\(2.0\)) となる形。
- 反射波: \(x=4.0\) で山(\(2.0\))、\(x=8.0\) で谷(\(-2.0\)) となる形。
- 合成波: この区間では、入射波と反射波が互いに「逆位相(山と谷が逆)」の関係になっています。
- \(x=4.0\): 入射波 \(-2.0\) + 反射波 \(2.0\) = \(0\)
- \(x=8.0\): 入射波 \(2.0\) + 反射波 \(-2.0\) = \(0\)
- その他の点でも常に打ち消し合い、\(y=0\) となります。
使用した物理公式
- 移動距離: \(x = vt\)
- 波の重ね合わせ: \(y_{\text{合成}} = y_{\text{入射}} + y_{\text{反射}}\)
特になし(作図プロセスが主)。
結果として描かれる波形の特徴点:
- 反射波(点線): \(x=2.0\) で \(0\)、\(x=4.0\) で山(\(2.0\))、\(x=6.0\) で \(0\)、\(x=8.0\) で谷(\(-2.0\))。
- 合成波(実線):
- \(x=0 \sim 2.0\): 入射波と同じ(\(x=0\) で山(\(2.0\))、\(x=2.0\) で \(0\))。
- \(x=2.0 \sim 8.0\): 入射波と反射波が打ち消し合い、常に \(y=0\)(太線で描く)。
\(2.0\) 秒経つと、波は \(8.0\,\text{m}\) 進みます。波はずっと続いているので、\(t=2.0\) の時点では、壁(\(x=8.0\))の手前にも奥にも波がある状態です。壁の奥(\(x=8.0 \sim 14.0\))に行ってしまった波は、壁で跳ね返って戻ってきます。固定端反射なので、ひっくり返って戻ってきます。\(x=2.0 \sim 8.0\) のエリアでは、「これから壁に向かう波(入射波)」と「壁から跳ね返ってきた波(反射波)」がぶつかります。このとき、入射波が「山」の場所では反射波が「谷」、入射波が「谷」の場所では反射波が「山」というふうに、ちょうど正反対の形になります。そのため、お互いに打ち消し合って波が消えてしまい、真っ平ら(\(y=0\))になります。\(x=0 \sim 2.0\) のエリアは、まだ跳ね返ってきた波が届いていないので、元の波(入射波)の形がそのまま見えます。
反射波(点線)は \(x=4.0\) で山、\(x=8.0\) で谷となる波形です。合成波(実線)は \(x=0 \sim 2.0\) で山となり、\(x=2.0 \sim 8.0\) では \(0\) となります。これは固定端(\(x=8.0\))で変位が常に \(0\) であることと整合します。
合成波(実線): \(x=0 \sim 2.0\) の範囲で入射波と同じ山(\(2.0\))を描き、\(x=2.0 \sim 8.0\) の範囲では \(x\) 軸上の直線(\(y=0\))。
思考の道筋とポイント
波形を数式(正弦波の式)で表し、計算によって合成波を導出します。
この設問における重要なポイント
- 原点での波の式を作り、それを平行移動させて任意の時刻・位置での式を作る。
- 反射波 \(y_r(x, t)\) は、入射波 \(y_i(x, t)\) を用いて \(y_r(x, t) = -y_i(2L-x, t)\) (\(L\) は固定端の位置)と表せる。
具体的な解説と立式
時刻 \(t=0\) における波形は、\(x=0\) で山となる余弦波(コサインカーブ)として表せます。
波長 \(\lambda = 8.0\)、振幅 \(A = 2.0\) なので、\(t=0\) での波の式は、
$$
\begin{aligned}
y(x, 0) &= A \cos\left( \frac{2\pi}{\lambda} x \right) \\[2.0ex]
&= 2.0 \cos\left( \frac{\pi}{4} x \right)
\end{aligned}
$$
存在範囲は \(x \le 6.0\) です。
1. 入射波の式
波は正の向きに速さ \(v=4.0\) で進むので、時刻 \(t\) における入射波 \(y_i(x, t)\) は、\(x\) を \(x-vt\) に置き換えて、
$$ y_i(x, t) = 2.0 \cos\left\{ \frac{\pi}{4} (x – 4.0t) \right\} $$
存在範囲は \(x – 4.0t \le 6.0\)、つまり \(x \le 4.0t + 6.0\) です。
2. 反射波の式
固定端 \(x=L=8.0\) での反射波 \(y_r(x, t)\) は、入射波の式において \(x\) を \(2L-x\) に置き換え、符号を反転させたものです。
$$
\begin{aligned}
y_r(x, t) &= -y_i(16.0 – x, t) \\[2.0ex]
&= -2.0 \cos\left\{ \frac{\pi}{4} ((16.0 – x) – 4.0t) \right\}
\end{aligned}
$$
存在範囲は \(16.0 – x \le 4.0t + 6.0\) より、\(10.0 – 4.0t \le x\) です。また、反射波は固定端より左側(\(x \le 8.0\))にしか存在しません。
使用した物理公式
- 波の式: \(y(x,t) = A\cos(\omega(t – x/v))\)
- 固定端反射の条件: \(y_r(x,t) = -y_i(2L-x, t)\)
時刻 \(t=2.0\) を代入します。
入射波:
存在範囲: \(x \le 14.0\)
観測領域(\(x \le 8.0\))全体で入射波は存在します。
$$
\begin{aligned}
y_i(x, 2.0) &= 2.0 \cos\left\{ \frac{\pi}{4} (x – 8.0) \right\} \\[2.0ex]
&= 2.0 \cos\left( \frac{\pi}{4}x – 2\pi \right) \\[2.0ex]
&= 2.0 \cos\left( \frac{\pi}{4}x \right)
\end{aligned}
$$
反射波:
存在範囲: \(10.0 – 8.0 \le x \le 8.0 \rightarrow 2.0 \le x \le 8.0\)
この範囲で反射波の式を計算します。
$$
\begin{aligned}
y_r(x, 2.0) &= -2.0 \cos\left\{ \frac{\pi}{4} (16.0 – x – 8.0) \right\} \\[2.0ex]
&= -2.0 \cos\left\{ \frac{\pi}{4} (8.0 – x) \right\} \\[2.0ex]
&= -2.0 \cos\left( 2\pi – \frac{\pi}{4}x \right) \\[2.0ex]
&= -2.0 \cos\left( \frac{\pi}{4}x \right)
\end{aligned}
$$
合成波:
- \(0 \le x < 2.0\): 入射波のみ存在。
$$ y_{\text{合成}} = y_i = 2.0 \cos\left( \frac{\pi}{4}x \right) $$
\(x=0\) で \(2.0\)(山)、\(x=2.0\) で \(0\) となる形です。 - \(2.0 \le x \le 8.0\): 入射波と反射波の両方が存在。
$$
\begin{aligned}
y_{\text{合成}} &= y_i + y_r \\[2.0ex] &= 2.0 \cos\left( \frac{\pi}{4}x \right) + \left\{ -2.0 \cos\left( \frac{\pi}{4}x \right) \right\} \\[2.0ex] &= 0
\end{aligned}
$$
完全に打ち消し合って \(0\) になります。
数式で計算しても、\(x=2.0\) から \(x=8.0\) の間では入射波と反射波がプラスマイナス逆になって打ち消し合うことが確認できました。
数式による計算結果は、作図による結果と完全に一致しました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 波の基本公式の活用
- 核心: 波の性質を理解する上で最も基礎となるのが、波の速さ \(v\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\)、周期 \(T\) を結びつける公式 \(v = f\lambda = \frac{\lambda}{T}\) です。
- 理解のポイント:
- グラフからの読み取り: \(y-x\) グラフ(波形)からは波長 \(\lambda\) を、\(y-t\) グラフ(単振動の変位)からは周期 \(T\) を読み取ることができます。どちらのグラフが与えられているかを常に意識することが重要です。
- 物理量の関係性: 「1秒間に進む距離(速さ)」は「1秒間の振動回数(振動数)× 波1つ分の長さ(波長)」であるという物理的な意味を理解しておくと、公式を忘れにくくなります。
- 固定端反射の作図原理
- 核心: 固定端反射では、反射波は入射波に対して「位相が \(\pi\) ずれる(上下反転する)」という性質を持ちます。これを作図で表現するには、「折り返し」と「反転」の2ステップが必要です。
- 理解のポイント:
- 仮想的な入射波: まず、壁(固定端)がないと仮定して、波をそのまま通過させます。
- 鏡像反転: 壁の向こう側にはみ出した波を、壁を対称軸として折り返します(左右反転)。
- 位相反転: 固定端反射の場合のみ、さらに上下をひっくり返します(自由端反射ではこの操作は不要です)。
- 重ね合わせの原理
- 核心: 媒質の変位は、そこにある全ての波の変位の単純な和になります。
- 理解のポイント:
- 合成波 \(y_{\text{合成}} = y_{\text{入射}} + y_{\text{反射}}\) の式に従い、各点での変位を足し合わせます。特に、入射波と反射波が逆位相(山と谷)の関係にある場合、互いに打ち消し合って変位が \(0\) になる(定常波の節になる)現象は頻出です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 自由端反射の問題: 手順は固定端反射とほぼ同じですが、反射波を作図する際に「上下反転」のステップが不要になります。つまり、壁の向こうの波を単に折り返すだけで反射波が得られます。
- 定常波の発生: 連続波が反射する場合、入射波と反射波が重なり合って定常波が形成されます。固定端は必ず定常波の「節(ふし)」になり、自由端は「腹(はら)」になるという性質を利用すると、波形を予測しやすくなります。
- 異なる媒質への入射(透過と反射): 波が太さの異なるロープなどに伝わる場合、境界点での反射と透過を考えます。境界点の動きにくさによって、固定端反射的(重いロープへ)か自由端反射的(軽いロープへ)かが決まります。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの種類を確認する: 横軸が \(x\)(位置)なのか \(t\)(時間)なのかを真っ先に確認します。これによって読み取れる情報(波長か周期か)が変わります。
- 反射端の種類を確認する: 「固定端」なら位相が反転(山が谷に)、「自由端」なら位相は不変(山は山のまま)です。これを間違えると図が全く逆になります。
- 波の先端と後端を意識する: パルス波(有限の長さの波)の場合、波の始まりと終わりがどこにあるかを常に追跡します。連続波の場合でも、便宜的に「先頭」を追うことで全体の動きを把握しやすくなります。
- 特徴的な点(山、谷、0点)を追跡する: 波全体を漠然と見るのではなく、山の頂点や変位 \(0\) の点がどこに移動するかを点として追うと、作図のミスが減ります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- グラフの読み間違い:
- 誤解: \(y-x\) グラフから周期 \(T\) を読み取ろうとしたり、\(y-t\) グラフから波長 \(\lambda\) を読み取ろうとしてしまう。
- 対策: 横軸の単位とラベルを必ず確認する癖をつけましょう。「\(x\)(メートル)なら長さ(波長)」、「\(t\)(秒)なら時間(周期)」と結びつけます。
- 固定端と自由端の混同:
- 誤解: 固定端反射で上下反転を忘れる、あるいは自由端反射で上下反転させてしまう。
- 対策: 「固定端=硬い壁=動けない=変位0=打ち消し合う必要がある=逆位相の波が必要」というロジックで覚えると定着します。逆に自由端は「自由に動く=大きく揺れる=強め合う=同位相の波」とイメージしましょう。
- 合成波の作図ミス:
- 誤解: 反射波だけを描いて満足してしまい、入射波との合成を忘れる。あるいは、入射波が存在しない領域まで合成してしまう。
- 対策: 「観測される波(実線)= 入射波 + 反射波」という式を常に念頭に置きます。特に、入射波がまだ残っている領域と、通り過ぎた領域を明確に区別することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(波の基本公式):
- 選定理由: 与えられた情報が「波形グラフ(波長 \(\lambda\) がわかる)」と「波の速さ \(v\)」であり、求めたいのが「周期 \(T\)」だからです。これら3つの物理量を結びつける唯一かつ基本的な関係式が \(v = \frac{\lambda}{T}\) です。
- 適用根拠: 波が等速で伝わる現象において、この関係式は常に成立します。
- (2)でのアプローチ選択(作図法 vs 数式法):
- 選定理由(作図法): 視覚的に波の動きを捉えやすく、直感的な理解に適しているため、標準的な解法として推奨されます。特に波形が単純な場合や、定性的な理解が求められる場合に強力です。
- 適用根拠: 重ね合わせの原理は線形性(足し算ができる性質)に基づいています。作図による「高さの足し算」は、この原理を幾何学的に実行していることに他なりません。
- 選定理由(数式法 – 別解): 複雑な波形や、正確な値が求められる場合に威力を発揮します。
- 適用根拠: 波を関数 \(y(x,t)\) として記述することで、任意の時刻・位置での変位を厳密に計算できます。固定端反射の条件 \(y(L, t) = 0\) を満たすために、反射波が \(-y_i(2L-x, t)\) となることが数学的に導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 目盛りを指で追う:
- グラフから値を読み取る際は、目分量ではなく、必ずグリッド線を目や指で追って正確な値を読み取ります。特に \(0\) の位置や正負の符号に注意します。
- 単位の確認:
- 波長が \(\text{cm}\) なのか \(\text{m}\) なのか、時間が \(\text{s}\) なのか \(\text{ms}\) なのかを確認します。計算前に単位を統一(通常はSI単位系:\(\text{m}, \text{s}, \text{kg}\))することで、桁の間違いを防げます。
- 特殊な点での検算:
- 作図や計算が終わったら、固定端(\(x=8.0\))での変位が必ず \(0\) になっているかを確認します。もし \(0\) でなければ、反射波の作図(特に上下反転)か合成の計算に誤りがあります。
- 概算によるチェック:
- 「2秒で8m進む」という直感的な移動距離と、作図した波の先端の位置が合っているかをざっと確認します。明らかに波が進みすぎている、あるいは進んでいない場合は、計算や作図の前提を見直します。
問3
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(4)の別解: 波形の平行移動を用いた解法
- 模範解答(および主たる解法)が波の式に直接値を代入して計算するのに対し、別解では「波形が速さ \(v\) で平行移動する」という性質を利用して、\(t=0\) における波形のどの部分が到達したかを考えて解きます。
- 設問(4)の別解: 波形の平行移動を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的直感の養成: 数式だけの計算に頼らず、「波が動く」という現象をイメージしながら解く力が身につきます。
- 計算ミスの防止: 複雑な分数の計算を回避できる場合があり、検算としても有効です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と完全に一致します。
- 模範解答のグラフに関する重要な指摘(設問(2))
- 問題文で与えられた波の式 \(y = 2.0 \sin 2\pi \left( \frac{t}{1.2} – \frac{x}{0.60} \right)\) に \(t=0\) を代入すると、\(y = -2.0 \sin \left( \frac{2\pi x}{0.60} \right)\) となり、原点付近で負の値(谷)から始まるグラフになります。
- 一方、模範解答のグラフは原点付近で正の値(山)から始まっており、与えられた数式と矛盾しています(上下が逆転しています)。
- 本解説では、問題文の数式に忠実に従い、論理的に正しい「原点から負の方向に変位するグラフ」を正解として解説します。
この問題のテーマは「正弦波の式の理解と活用」です。波の式から物理量(振幅、周期、波長、速さ)を読み取り、特定の位置や時刻における変位を計算する力を養います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 正弦波の基本式: \(x\) 軸の正の向きに進む正弦波の式は、振幅 \(A\)、周期 \(T\)、波長 \(\lambda\) を用いて \(y = A \sin 2\pi \left( \frac{t}{T} – \frac{x}{\lambda} \right)\) と表されます。
- 波の基本公式: 波の速さ \(v\)、波長 \(\lambda\)、周期 \(T\) の間には \(v = \frac{\lambda}{T}\) の関係があります。
- 波の平行移動: 時刻 \(t\) における波形は、時刻 \(0\) における波形を \(x\) 軸の正の向きに距離 \(vt\) だけ平行移動させたものです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、与えられた式と基本式を係数比較して、\(A, T, \lambda\) を直接読み取ります。\(v\) は公式から計算します。
- (2)では、式に \(t=0\) を代入して \(y\) と \(x\) の関係式を作り、グラフを描きます。
- (3), (4)では、与えられた \(t\) や \(x\) の値を式に代入して変位 \(y\) を計算します。
- (5)では、進行方向が逆(左向き)になることで、式の \(x\) の項の符号が変わることを利用します。
問(1)
思考の道筋とポイント
与えられた波の式と、物理の教科書に出てくる一般的な波の式を見比べます。それぞれの文字(\(A, T, \lambda\))が式のどの部分に対応しているかを確認すれば、計算なしで値を読み取ることができます。
この設問における重要なポイント
- 与えられた式: \(y = 2.0 \sin 2\pi \left( \frac{t}{1.2} – \frac{x}{0.60} \right)\)
- 基本式: \(y = A \sin 2\pi \left( \frac{t}{T} – \frac{x}{\lambda} \right)\)
- 上記2つの式の対応関係を見抜くこと。
具体的な解説と立式
与えられた式と基本式を並べて比較します。
$$
\begin{aligned}
y &= 2.0 \sin 2\pi \left( \frac{t}{1.2} – \frac{x}{0.60} \right) \\
y &= A \sin 2\pi \left( \frac{t}{T} – \frac{x}{\lambda} \right)
\end{aligned}
$$
この対応関係より、以下の物理量が直接読み取れます。
- 振幅 \(A = 2.0\,\text{m}\)
- 周期 \(T = 1.2\,\text{s}\)
- 波長 \(\lambda = 0.60\,\text{m}\)
次に、波の速さ \(v\) を求めます。波の基本公式 \(v = \frac{\lambda}{T}\) を用います。
使用した物理公式
- 波の基本公式: \(v = \frac{\lambda}{T}\)
読み取った値を公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{0.60}{1.2} \\[2.0ex]
&= \frac{6.0}{12} \\[2.0ex]
&= 0.50\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
波の式は、一見複雑に見えますが、「定型文」のようなものです。式の形が決まっているので、数字が書いてある場所を見るだけで、その波のプロフィール(大きさ、リズム、長さ)が分かります。速さだけは割り算で計算してあげましょう。
振幅 \(2.0\,\text{m}\)、周期 \(1.2\,\text{s}\)、波長 \(0.60\,\text{m}\)、速さ \(0.50\,\text{m/s}\) と求まりました。これらはすべて正の値であり、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
「\(t=0\,\text{s}\) における波形」とは、波の式に \(t=0\) を代入したときの \(y\) と \(x\) の関係(グラフ)のことです。数式変形を行い、どのような関数になるかを確認してからグラフを描きます。
この設問における重要なポイント
- 式に \(t=0\) を代入して整理する。
- \(\sin(-\theta) = -\sin\theta\) の性質を利用する。
- 原点付近でのグラフの立ち上がり方(正か負か)に注意する。
具体的な解説と立式
与えられた式に \(t=0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
y &= 2.0 \sin 2\pi \left( \frac{0}{1.2} – \frac{x}{0.60} \right) \\[2.0ex]
&= 2.0 \sin 2\pi \left( – \frac{x}{0.60} \right) \\[2.0ex]
&= 2.0 \sin \left( – \frac{2\pi x}{0.60} \right)
\end{aligned}
$$
ここで、三角関数の性質 \(\sin(-\theta) = -\sin\theta\) を用いると、
$$ y = -2.0 \sin \left( \frac{2\pi x}{0.60} \right) $$
となります。
これは、振幅 \(2.0\)、波長 \(0.60\) の正弦波(サインカーブ)ですが、先頭にマイナスがついているため、通常のサインカーブを上下反転させた形になります。
つまり、原点 \(x=0\) から始まり、\(x\) が増えるとまずは負の方向(下)に変位します。
使用した物理公式
- 三角関数の性質: \(\sin(-\theta) = -\sin\theta\)
グラフの特徴点は以下の通りです。
- 原点: \(x=0\) のとき \(y=0\)
- 谷(最小値): \(x = \frac{1}{4}\lambda = 0.15\) のとき \(y = -2.0\)
- 節(ゼロ点): \(x = \frac{1}{2}\lambda = 0.30\) のとき \(y = 0\)
- 山(最大値): \(x = \frac{3}{4}\lambda = 0.45\) のとき \(y = 2.0\)
- 節(ゼロ点): \(x = \lambda = 0.60\) のとき \(y = 0\)
これを2波長分(\(x=0\) から \(x=1.20\) まで)繰り返して描きます。
時間の変数 \(t\) を \(0\) にしてしまえば、その瞬間の波の写真(グラフ)の式になります。計算すると \(y = -2.0 \sin(\dots)\) となり、マイナスがついているので、原点から「下」に潜っていく波を描けば正解です。(※模範解答のグラフは上に上がっていますが、数式通りに計算すると下に行くのが正しいです)
数式から論理的に導かれるグラフは、原点から負の方向に振れる正弦波です。2波長分なので、\(x=1.20\) まで描きます。
(グラフの交点数値: \(0, 0.30, 0.60, 0.90, 1.20\))
問(3)
思考の道筋とポイント
「原点において」は \(x=0\)、「\(t=2.4\,\text{s}\) のとき」は \(t=2.4\) を意味します。これらを波の式に代入して計算するだけです。
この設問における重要なポイント
- \(x=0\)、\(t=2.4\) を式に代入する。
- 三角関数の周期性を利用して値を求める。
具体的な解説と立式
与えられた式に \(x=0, t=2.4\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
y &= 2.0 \sin 2\pi \left( \frac{2.4}{1.2} – \frac{0}{0.60} \right) \\[2.0ex]
&= 2.0 \sin 2\pi (2.0 – 0) \\[2.0ex]
&= 2.0 \sin (4\pi)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 三角関数の値: \(\sin(2n\pi) = 0\) (\(n\) は整数)
\(\sin(4\pi) = 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
y &= 2.0 \times 0 \\[2.0ex]
&= 0\,\text{m}
\end{aligned}
$$
指定された場所(\(x=0\))と時間(\(t=2.4\))を式に入れると、\(\sin\) の中身がちょうど \(4\pi\)(2回転分)になります。一周回って元の位置に戻るのと同じなので、変位は \(0\) です。
\(t=2.4\,\text{s}\) は周期 \(T=1.2\,\text{s}\) のちょうど2倍(2周期後)です。原点は \(t=0\) で変位 \(0\) だったので、2周期後も当然 \(0\) に戻っています。
問(4)
思考の道筋とポイント
同様に、\(t=1.0\)、\(x=0.65\) を式に代入して計算します。分数の計算が出てくるので、通分して丁寧に計算しましょう。
この設問における重要なポイント
- \(t=1.0\)、\(x=0.65\) を代入する。
- 括弧内の分数の引き算を正確に行う。
具体的な解説と立式
式に値を代入します。
$$ y = 2.0 \sin 2\pi \left( \frac{1.0}{1.2} – \frac{0.65}{0.60} \right) $$
括弧内の計算を進めます。分母や小数を整理して見やすくします。
$$
\begin{aligned}
\frac{1.0}{1.2} &= \frac{10}{12} = \frac{5}{6} \\[2.0ex]
\frac{0.65}{0.60} &= \frac{65}{60} = \frac{13}{12}
\end{aligned}
$$
これらを式に戻します。
$$
\begin{aligned}
y &= 2.0 \sin 2\pi \left( \frac{5}{6} – \frac{13}{12} \right) \\[2.0ex]
&= 2.0 \sin 2\pi \left( \frac{10}{12} – \frac{13}{12} \right)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 三角関数の値: \(\sin(-\frac{\pi}{2}) = -1\)
括弧内を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{10}{12} – \frac{13}{12} &= – \frac{3}{12} \\[2.0ex]
&= – \frac{1}{4}
\end{aligned}
$$
これを元の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
y &= 2.0 \sin 2\pi \left( – \frac{1}{4} \right) \\[2.0ex]
&= 2.0 \sin \left( – \frac{\pi}{2} \right) \\[2.0ex]
&= 2.0 \times (-1) \\[2.0ex]
&= -2.0\,\text{m}
\end{aligned}
$$
少し複雑な分数計算になりますが、落ち着いて通分すれば解けます。計算の結果、角度が \(-90^\circ\)(\(-\pi/2\))になるので、波は一番低いところ(谷底)にいることがわかります。
変位が振幅のマイナス値(\(-2.0\))になりました。これは物理的にあり得る値(谷の位置)であり、計算過程にも誤りはありません。
思考の道筋とポイント
波は時間とともに形を変えずに移動します。\(t=1.0\,\text{s}\) の間に波がどれだけ進んだかを考え、\(t=0\) の波形をずらして考えることで、複雑な代入計算を避けることができます。
この設問における重要なポイント
- 波が進む距離 \(\Delta x = v \times t\) を求める。
- 現在の波の状態は、過去(\(t=0\))の波の状態が移動してきたものと考える。
具体的な解説と立式
(1)より、波の速さは \(v = 0.50\,\text{m/s}\) です。
\(t=1.0\,\text{s}\) の間に波が進む距離 \(\Delta x\) は、
$$ \Delta x = 0.50 \times 1.0 = 0.50\,\text{m} $$
波は \(x\) 軸の正の向き(右)に進むので、時刻 \(t=1.0\) に位置 \(x=0.65\) にある波形は、時刻 \(t=0\) のときに \(0.50\,\text{m}\) 手前(左)にあった波形と同じです。
つまり、求める変位は、\(t=0\) における \(x = 0.65 – 0.50 = 0.15\,\text{m}\) の地点での変位と等しくなります。
使用した物理公式
- 波の平行移動: \(y(x, t) = y(x-vt, 0)\)
(2)で求めた \(t=0\) の波の式 \(y = -2.0 \sin \left( \frac{2\pi x}{0.60} \right)\) に、\(x = 0.15\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
y &= -2.0 \sin \left( \frac{2\pi \times 0.15}{0.60} \right) \\[2.0ex]
&= -2.0 \sin \left( 2\pi \times \frac{1}{4} \right) \\[2.0ex]
&= -2.0 \sin \left( \frac{\pi}{2} \right) \\[2.0ex]
&= -2.0 \times 1 \\[2.0ex]
&= -2.0\,\text{m}
\end{aligned}
$$
「1秒後に0.65m地点にいる波」は、「今は0.15m地点にいる波」がそのまま移動してきたものです。0.15mという場所はちょうど波長(0.60m)の4分の1の場所です。(2)のグラフを思い出すと、スタートから4分の1進んだところはちょうど「谷底」でしたね。だから答えは \(-2.0\) です。
代入計算と同じ結果 \(-2.0\,\text{m}\) が得られました。
問(5)
思考の道筋とポイント
「左向きに進む波」の式を作る問題です。波の進行方向が逆になると、式の中の \(x\) の項の符号が逆転します。
この設問における重要なポイント
- \(x\) 正の向きに進む波: \(y = A \sin 2\pi \left( \frac{t}{T} – \frac{x}{\lambda} \right)\)
- \(x\) 負の向き(左向き)に進む波: \(y = A \sin 2\pi \left( \frac{t}{T} + \frac{x}{\lambda} \right)\)
- 振幅、周期、波長は変わらないので、数値はそのまま使う。
具体的な解説と立式
波の進行方向が逆(左向き)になる場合、波の式の \(x\) を含む項の符号を反転させます(マイナスをプラスにします)。
元の式:
$$ y = 2.0 \sin 2\pi \left( \frac{t}{1.2} – \frac{x}{0.60} \right) $$
左向きに進む波の式:
$$ y = 2.0 \sin 2\pi \left( \frac{t}{1.2} + \frac{x}{0.60} \right) $$
使用した物理公式
- 左向きに進む波の式: \(y = A \sin 2\pi \left( \frac{t}{T} + \frac{x}{\lambda} \right)\)
数値を代入した形そのものが答えなので、計算はありません。
波が逆向きに進むときは、式の \(x\) の前の「引き算(マイナス)」を「足し算(プラス)」に変えるだけでOKです。
進行方向のみが変わり、他の物理量は変わらないため、符号のみを変更したこの式が正解です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 正弦波の式の構造理解
- 核心: 波の式 \(y = A \sin 2\pi \left( \frac{t}{T} \mp \frac{x}{\lambda} \right)\) は、単なる数式の羅列ではなく、物理的な意味を持つパーツの組み合わせです。
- 理解のポイント:
- 振幅 \(A\): 波の高さ(揺れ幅)を決定します。
- 時間項 \(\frac{t}{T}\): 「今、周期の何分目か」を表し、時間的な振動のリズムを作ります。
- 空間項 \(\frac{x}{\lambda}\): 「今、波長の何分目か」を表し、空間的な波の形を作ります。
- 符号 \(\mp\): 波の進行方向を決定します。マイナスなら正の向き、プラスなら負の向きです。
- 波の基本公式の適用
- 核心: \(v = f\lambda = \frac{\lambda}{T}\) は、波の「速さ」「時間的周期性」「空間的周期性」を結びつける最も重要な架け橋です。
- 理解のポイント: 式から読み取った \(T\) と \(\lambda\) を使って、未知の \(v\) や \(f\) を即座に導出できる準備をしておくことが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 初期位相がある場合: 式が \(y = A \sin 2\pi \left( \frac{t}{T} – \frac{x}{\lambda} + \delta \right)\) のようになっている場合でも、焦らず \(A, T, \lambda\) の位置関係は変わらないことを見抜きましょう。
- コサイン型の場合: \(y = A \cos \dots\) となっていても、物理量の読み取り方は同じです。ただし、\(t=0, x=0\) でのスタート地点が山(最大値)になる点がサイン型と異なります。
- グラフから式を作る問題: 逆に、グラフから \(A, T, \lambda\) を読み取り、この基本式に当てはめて式を完成させる問題も頻出です。
- 初見の問題での着眼点:
- 式の形を「基本形」に寄せる: 与えられた式が \(y = A \sin (\omega t – kx)\) のような形の場合、\(\omega = \frac{2\pi}{T}, k = \frac{2\pi}{\lambda}\) と変形して、見慣れた \(T\) や \(\lambda\) をあぶり出します。
- 単位を確認する: 式の中の数値に単位がついているか、あるいは問題文で \(x[\text{m}], t[\text{s}]\) と指定されているかを確認します。
- \(t=0\) や \(x=0\) を代入してチェックする: どんなに複雑な式でも、\(0\) を代入すれば簡単な形になります。これでグラフの概形や初期状態を素早く把握できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 進行方向の符号ミス:
- 誤解: 「マイナスだから負の向きに進む」と直感的に思い込んでしまう。
- 対策: \(x-vt\) という形(平行移動の形)を思い出しましょう。\(t\) が増えたとき、同じ位相(波の形)を保つには \(x\) も増える必要があります。つまり、符号が異符号(\(t\) がプラスで \(x\) がマイナス)なら、\(x\) は正の向きに進みます。逆に同符号なら負の向きです。
- グラフの上下反転ミス:
- 誤解: \(t=0\) を代入した後のマイナスを見落とし、通常のサインカーブ(山から始まる)を描いてしまう。
- 対策: 必ず \(x\) に小さい値(例えば \(\lambda/4\))を入れて、\(y\) がプラスになるかマイナスになるかを計算で確認する「一点チェック」を行いましょう。
- 分数計算のミス:
- 誤解: 複雑な分数の足し引きで通分を間違える。
- 対策: 設問(4)の別解のように、物理的な意味(平行移動)を考えて計算を回避するか、あるいは小数を分数に直してから計算するなど、計算ミスが起きにくい方法を選びましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(係数比較):
- 選定理由: 計算して求めるのではなく、式の形そのものが答えを含んでいるからです。最も速く、かつ確実な方法です。
- 適用根拠: 物理における波の記述は、正弦波である限りこの形式に従うという普遍性に基づいています。
- (4)でのアプローチ選択(代入法 vs 平行移動法):
- 選定理由(代入法): 何も考えずに機械的に計算すれば答えが出るため、思考コストが低いです。ただし計算コストは高いです。
- 選定理由(平行移動法 – 別解): 計算が簡単になり、ミスが減ります。また、「波が動いている」という物理的実感を伴うため、検算としても優秀です。
- 適用根拠: 波動現象の本質が「波形の移動」であることに基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 式を書いてから代入する:
- いきなり数字で計算し始めず、まず \(y = \dots\) の式を書き、次に \(x=0\) などを代入した式を書く、という手順を踏みます。
- 三角関数の値を暗記ではなく円でイメージする:
- \(\sin(4\pi)\) や \(\sin(-\pi/2)\) の値を思い出すとき、頭の中で単位円を描き、ぐるぐると回ってどの位置に来るかを確認します。符号のミスが激減します。
- 物理的な妥当性のチェック:
- 「振幅が \(2.0\) なのに、計算結果が \(3.0\) になった」といった場合、即座に間違いに気づけるようにしましょう。サイン、コサインの値は必ず \(-1\) から \(1\) の間に収まるため、変位 \(y\) は必ず \(-A\) から \(A\) の間になります。
問4
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(3)の別解: 分子運動論的な解釈によるアプローチ
- 模範解答(および主たる解法)が熱力学第一法則という巨視的な(マクロな)視点から温度変化を導くのに対し、別解では気体分子と動く壁との衝突という微視的な(ミクロな)視点から分子の運動エネルギーの変化を考えます。
- 設問(3)の別解: 分子運動論的な解釈によるアプローチ
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的直感の養成: 数式操作だけでなく、「なぜ温度が上がるのか」を分子の動きとして具体的にイメージする力が身につきます。
- 現象理解の深化: 圧縮される気体が熱くなる現象(断熱圧縮)を、力学的なエネルギー保存の観点からも理解できるようになります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、結論(温度は上昇する)は一致します。
この問題のテーマは「理想気体の状態変化と熱力学第一法則」です。気体の圧力、体積、温度の関係や、熱と仕事と内部エネルギーのエネルギー収支を理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 理想気体の状態方程式: 圧力 \(P\)、体積 \(V\)、物質量 \(n\)、気体定数 \(R\)、絶対温度 \(T\) の間には、\(PV = nRT\) の関係が成り立ちます。
- 熱力学第一法則: 気体が吸収した熱量を \(Q\)、内部エネルギーの変化を \(\Delta U\)、気体が外部へした仕事を \(W\) とすると、\(Q = \Delta U + W\) が成り立ちます。
- 内部エネルギーと温度の関係: 理想気体の内部エネルギー \(U\) は絶対温度 \(T\) に比例します(単原子分子なら \(U = \frac{3}{2}nRT\))。つまり、温度が上がれば内部エネルギーは増加し、温度が変わらなければ内部エネルギーも変化しません。
- 仕事と体積変化の関係: 気体が膨張するとき(体積が増えるとき)は外部へ仕事をし(\(W > 0\))、圧縮するとき(体積が減るとき)は外部から仕事をされます(\(W < 0\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、理想気体の状態方程式 \(PV = nRT\) を変形し、変化しない量を固定して、変化する量同士の比例・反比例関係を調べます。
- (2)では、熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W\) の各項が、それぞれの変化(定積、定圧、等温)において \(0\) になるか、正になるかを判断して式を解釈します。
- (3)では、断熱変化の条件(\(Q=0\))と圧縮(仕事される)という条件を第一法則に代入し、内部エネルギーの変化(温度変化)を導きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
気体の状態量(圧力 \(P\)、体積 \(V\)、温度 \(T\))の変化を考える問題です。理想気体の状態方程式 \(PV = nRT\) を用いて、一定の量と変化させる量の関係を整理します。
この設問における重要なポイント
- 「一定量の気体」なので、物質量 \(n\) は一定です。
- ①では「温度を保ったまま(\(T\) 一定)」、「圧縮する(\(V\) 減少)」という条件に着目します。
- ②では「圧力を保ったまま(\(P\) 一定)」、「膨張する(\(V\) 増加)」という条件に着目します。
具体的な解説と立式
① 温度一定で圧縮する場合
理想気体の状態方程式 \(PV = nRT\) を、圧力 \(P\) について解きます。
$$ P = \frac{nRT}{V} $$
ここで、\(n, R, T\) は一定なので、右辺の分子は一定です。
気体を圧縮すると体積 \(V\) は小さくなります。分母の \(V\) が小さくなると、全体のあたいである圧力 \(P\) は大きくなります。
(これはボイルの法則 \(PV = \text{一定}\) と同じことです。)
② 圧力一定で膨張する場合
理想気体の状態方程式 \(PV = nRT\) を、温度 \(T\) について解きます。
$$ T = \frac{PV}{nR} $$
ここで、\(P, n, R\) は一定なので、右辺の係数 \(\frac{P}{nR}\) は一定です。
気体が膨張すると体積 \(V\) は大きくなります。分子の \(V\) が大きくなると、温度 \(T\) も高くなります。
(これはシャルルの法則 \(\frac{V}{T} = \text{一定}\) と同じことです。)
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
数値計算は不要で、比例・反比例の関係から判断します。
- ①: \(V\) が減少 \(\rightarrow\) \(P\) は増加
- ②: \(V\) が増加 \(\rightarrow\) \(T\) は増加
① 温度を変えずにギュッと押し縮めると、気体分子が壁にぶつかる回数が増えるので、圧力は大きくなります。
② 圧力を一定に保ったまま風船のように膨らませるには、温めて気体分子の動きを激しくする必要があります。つまり、温度は高くなります。
①は「大きくなる」、②は「高くなる」となります。これらは日常的な感覚(注射器を押すと硬くなる、温めると膨らむ)とも一致します。
問(2)
思考の道筋とポイント
熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W\) を用いて、エネルギーの収支を考えます。各変化において、どの項が \(0\) になるか、あるいは正になるかを整理します。
- \(Q\): 気体に加えた熱量(入ってきたエネルギー)
- \(\Delta U\): 内部エネルギーの増加分(温度上昇に使われたエネルギー)
- \(W\): 気体が外部へした仕事(膨張に使われたエネルギー)
この設問における重要なポイント
- 定積変化: 体積が変わらない \(\rightarrow\) 仕事 \(W = 0\)
- 定圧変化: 圧力が一定で膨張(加熱時) \(\rightarrow\) 仕事 \(W > 0\)、温度上昇 \(\Delta U > 0\)
- 等温変化: 温度が変わらない \(\rightarrow\) 内部エネルギー変化 \(\Delta U = 0\)
具体的な解説と立式
熱力学第一法則の式は以下の通りです。
$$ Q = \Delta U + W $$
① 定積変化
体積が一定なので、気体は膨張も圧縮もしません。つまり、外部へ仕事を行いません。
$$ W = 0 $$
これを第一法則に代入すると、
$$ Q = \Delta U $$
これは、「気体に加わった熱 \(Q\) が、すべて内部エネルギーの増加分 \(\Delta U\) になる」ことを意味します。
したがって、選択肢は ア です。
② 定圧変化
気体を加熱して膨張させる場合を考えます。体積が増えるので、気体は外部へ仕事をします。
$$ W > 0 $$
また、(1)②で確認したように、定圧で膨張すると温度が上がります。温度が上がると内部エネルギーも増加します。
$$ \Delta U > 0 $$
第一法則 \(Q = \Delta U + W\) において、右辺の2つの項がともに正であることから、「気体に加わった熱 \(Q\) は、一部が内部エネルギー \(\Delta U\) として蓄えられ、残りが外部へする仕事 \(W\) として使われる」ことになります。
したがって、選択肢は ウ です。
③ 等温変化
温度が一定なので、内部エネルギーは変化しません。
$$ \Delta U = 0 $$
これを第一法則に代入すると、
$$ Q = W $$
これは、「気体に加わった熱 \(Q\) が、すべて外部へする仕事 \(W\) として使われる」ことを意味します。
したがって、選択肢は イ です。
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
各変化の特徴を式に適用して解釈しました。
- 定積変化(ア): 蓋をして密閉した容器を加熱するイメージです。膨らむことができないので、入ってきた熱エネルギーはすべて「温度を上げること(内部エネルギー増)」だけに使われます。
- 定圧変化(ウ): 自由に動くピストン付きの容器を加熱するイメージです。入ってきた熱エネルギーは、「温度を上げること」と「ピストンを押して広げること(仕事)」の2つに分配されます。
- 等温変化(イ): 温度を変えないように制御しながら加熱し膨張させるイメージです。温度が変わらないので内部エネルギーは増えません。入ってきた熱エネルギーは、そのまま素通りしてすべて「仕事」に変換されます。
それぞれの変化の特徴とエネルギーの行き先が正しく対応しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
「断熱」と「圧縮」という2つのキーワードから、熱力学第一法則を用いて温度変化(内部エネルギー変化)を導きます。
この設問における重要なポイント
- 断熱: 熱の出入りがない \(\rightarrow Q = 0\)
- 圧縮: 気体の体積が減る \(\rightarrow\) 気体は外部から仕事をされる \(\rightarrow\) 気体が外部へする仕事 \(W\) は負(\(W < 0\))
- 温度変化: 内部エネルギー \(\Delta U\) の符号で判断する。
具体的な解説と立式
熱力学第一法則を立てます。
$$ Q = \Delta U + W $$
「断熱」変化なので、熱の出入りはありません。
$$ Q = 0 $$
これを式に代入すると、
$$ 0 = \Delta U + W $$
変形して、
$$ \Delta U = -W $$
ここで、「圧縮」するということは、気体が外部に対して負の仕事をする(=外部から仕事をされる)ことを意味します。
$$ W < 0 $$
したがって、\(-W\) は正の値になります。
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\) (ただし \(Q=0\))
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= -W \\[2.0ex]
W &< 0 \quad (\text{圧縮})
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ \Delta U > 0 $$
内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) が正ということは、内部エネルギーが増加したことを意味します。理想気体において内部エネルギーの増加は温度の上昇を意味します。
よって、気体の温度は上昇します。
断熱材で囲まれた注射器を急に押し込むような状況です。熱が逃げない状態で、外から力ずくで圧縮する(仕事をする)と、そのエネルギーは気体の中に閉じ込められます。行き場のないエネルギーは気体分子の運動を激しくするために使われるので、温度が上がります。自転車の空気入れが熱くなるのもこの原理です。
断熱圧縮によって温度が上昇するという結論は、物理法則および日常経験と整合します。
思考の道筋とポイント
数式を使わず、気体分子とピストン(壁)の衝突というミクロな視点で考えます。
この設問における重要なポイント
- 気体分子が動いている壁に衝突すると、跳ね返る速度が変わる。
- 壁が迫ってくる(圧縮)場合、跳ね返る速度は速くなる。
具体的な解説と立式
気体をピストンで圧縮している状況を想像してください。ピストンは内側に向かって動いています。
そこへ気体分子が衝突するとどうなるでしょうか?
テニスで例えると、向かってくるラケットにボールが当たるようなものです。ボール(気体分子)は、ラケット(ピストン)の速度が上乗せされて、衝突前よりも速いスピードで跳ね返されます。
$$ v_{\text{跳ね返り}} > v_{\text{衝突前}} $$
圧縮されている間、無数の分子がピストンに衝突するたびに速度を増していきます。
分子の速度が増すということは、分子の運動エネルギーが増加するということです。
気体の温度とは、分子の運動エネルギーの平均値のことですから、運動エネルギーが増えれば温度は上昇します。
迫ってくる壁にボールを投げると、勢いよく跳ね返ってきますよね。圧縮するときはピストンが「迫ってくる壁」の役割をするので、ぶつかった気体分子たちはどんどん加速されて元気になります。分子が元気になるということは、温度が上がるということです。
マクロな熱力学第一法則から導いた結果と同じく、温度上昇という結論が得られます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 理想気体の状態方程式の定性的な理解
- 核心: \(PV = nRT\) は単なる計算式ではなく、気体の状態量(\(P, V, T\))の相関関係を表す羅針盤です。
- 理解のポイント: 式を変形して「一定の量」と「変化する量」を分離することで、変数がどのように連動して動くか(比例か反比例か)を直感的に判断できます。例えば \(T\) 一定なら \(P = (\text{定数})/V\) となり、\(P\) と \(V\) はシーソーのように逆の動きをします。
- 熱力学第一法則におけるエネルギー収支
- 核心: \(Q = \Delta U + W\) は、「入ってきた熱エネルギー \(Q\)」が「自分自身の温度上昇 \(\Delta U\)」と「外部への仕事 \(W\)」の2つに分配されるという、エネルギー保存則の気体版です。
- 理解のポイント:
- \(\Delta U\)(内部エネルギー変化)は温度変化と直結しています(\(\Delta T > 0 \iff \Delta U > 0\))。
- \(W\)(仕事)は体積変化と直結しています(膨張 \(W > 0\)、圧縮 \(W < 0\)、不変 \(W = 0\))。
- この2点の対応関係を完全に暗記することが、熱力学攻略の第一歩です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- グラフ問題(\(P-V\) グラフ): 状態変化がグラフ上の移動として与えられる問題。
- 定積変化: 縦軸に平行な移動(\(W=0\))。
- 定圧変化: 横軸に平行な移動(\(W = P\Delta V\))。
- 等温変化: 反比例の曲線(\(PV=\text{一定}\))に沿った移動(\(\Delta U=0\))。
- 断熱変化: 等温線よりも急な勾配の曲線(\(Q=0\))。
- サイクル問題: 状態変化を組み合わせて元の状態に戻る問題。1周したときの \(\Delta U\) の総和は必ず \(0\) になることや、囲まれた面積が正味の仕事になることを利用します。
- グラフ問題(\(P-V\) グラフ): 状態変化がグラフ上の移動として与えられる問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 変化の名称を探す: 「定積」「定圧」「等温」「断熱」のどのキーワードがあるかを真っ先に探します。
- キーワードを数式に翻訳する:
- 定積 \(\rightarrow W=0, \Delta V=0\)
- 定圧 \(\rightarrow P=\text{一定}\)
- 等温 \(\rightarrow \Delta U=0, \Delta T=0\)
- 断熱 \(\rightarrow Q=0\)
- 第一法則 \(Q = \Delta U + W\) を書く: 上記で翻訳した条件(例えば \(W=0\))を式に代入し、残りの項の関係(\(Q=\Delta U\))を導きます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 仕事 \(W\) の符号の取り違え:
- 誤解: 圧縮されたときに \(W > 0\) としてしまう、あるいは「された仕事」と「した仕事」を混同する。
- 対策: 主語を明確にします。「気体が外部へした仕事」を \(W\) と定義するのが一般的です。
- 膨張(体積増) \(\rightarrow\) 外を押した \(\rightarrow\) \(W > 0\)(正の仕事をした)
- 圧縮(体積減) \(\rightarrow\) 外から押された \(\rightarrow\) \(W < 0\)(負の仕事をした=正の仕事をされた)
- 迷ったら「風船」をイメージしましょう。膨らむときは周りの空気を押しのけているので「仕事をしている」です。
- 断熱変化と等温変化の混同:
- 誤解: 「熱を加えないなら温度も変わらないだろう」と直感的に考えてしまう。
- 対策: 断熱変化(\(Q=0\))でも、仕事 \(W\) のやり取りによって内部エネルギー \(\Delta U\) は変化します(\(\Delta U = -W\))。「断熱圧縮=熱くなる(空気入れ)」「断熱膨張=冷える(スプレー缶)」という具体例とセットで覚えましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(状態方程式):
- 選定理由: 圧力、体積、温度という状態量の関係を問われているため、これらを結びつける唯一の基本法則である \(PV=nRT\) を選びます。ボイル・シャルルの法則を用いても良いですが、状態方程式の方が汎用性が高いです。
- 適用根拠: 理想気体とみなせる場合、圧力、体積、温度、物質量の関係は常にこの方程式に従うため、一部の変数を固定(一定)したときの他の変数の振る舞いを確実に予測できるからです。
- (2)(3)での公式選択(熱力学第一法則):
- 選定理由: 「熱」「エネルギー」「仕事」という言葉が出てきたら、エネルギー保存則である第一法則の出番です。
- 適用根拠: どの変化においても常に成立する法則であり、各変化の特殊条件(\(W=0\) など)を代入することで、エネルギーの流れを明確に記述できるからです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号チェックの習慣化:
- 熱力学の問題では、数値計算そのものよりもプラスマイナスの符号ミスが命取りになります。式を立てた直後に、「膨張だから \(W\) はプラスで合ってるか?」「吸熱だから \(Q\) はプラスか?」と指差し確認する癖をつけましょう。
- 定性的な予測との照合:
- 計算結果が出たら、直感と照らし合わせます。「圧縮したのに温度が下がった」などの計算結果が出たら、どこかで符号が逆になっている可能性が高いです。
- 変化の前後を表で整理する:
- 複雑な問題では、変化前と変化後の \(P, V, T\) を表に書き出し、それぞれの増減(\(\nearrow, \searrow, \rightarrow\))を矢印でメモしておくと、全体像を見失わずに済みます。
問5
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: \(P-V\) グラフの面積を用いた解釈
- 模範解答(および主たる解法)が熱力学第一法則の式変形から仕事を求めるのに対し、別解では \(P-V\) グラフにおける「等温変化の曲線の下側の面積」が仕事に相当することを定性的に説明し、エネルギー保存則の視覚的な理解を促します。
- 設問(2)の別解: \(P-V\) グラフの面積を用いた解釈
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的直感の養成: 数式だけでなく、グラフの面積がエネルギー(仕事)に対応するという物理数学的な感覚を養います。
- 応用力の向上: 積分計算が必要な大学レベルの物理への架け橋となり、より深い理解につながります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、結論(\(W=Q\))は一致します。
この問題のテーマは「単原子分子理想気体の内部エネルギーと熱力学第一法則の適用」です。気体の種類(単原子分子)による内部エネルギーの公式の使い分けや、等温変化・断熱変化におけるエネルギー収支の計算をマスターすることが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: 物質量 \(n\)、気体定数 \(R\)、絶対温度 \(T\) を用いて \(U = \frac{3}{2}nRT\) と表されます。
- 熱力学第一法則: 気体が吸収した熱量を \(Q\)、内部エネルギーの変化を \(\Delta U\)、気体が外部へした仕事を \(W_{\text{out}}\) とすると、\(Q = \Delta U + W_{\text{out}}\) が成り立ちます。
- 等温変化の特徴: 温度が一定(\(\Delta T = 0\))なので、内部エネルギーの変化も \(0\)(\(\Delta U = 0\))です。
- 断熱変化の特徴: 熱の出入りがない(\(Q = 0\))変化です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、単原子分子理想気体の内部エネルギーの公式を直接適用します。
- (2)では、等温変化の条件(\(\Delta U = 0\))を熱力学第一法則に代入し、与えられた熱量 \(Q\) と仕事の関係を導きます。
- (3)では、断熱変化の条件(\(Q = 0\))と、外部からされた仕事 \(W\)(=気体がした仕事は \(-W\))を熱力学第一法則に代入し、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) を求めます。さらに、\(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) の関係式を用いて温度上昇 \(\Delta T\) を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
「単原子分子理想気体」というキーワードから、内部エネルギーの公式を思い出します。
この設問における重要なポイント
- 気体の種類: 単原子分子(ヘリウムやネオンなど)であること。
- 公式の選択: \(U = \frac{3}{2}nRT\) を使用する。(二原子分子なら \(\frac{5}{2}nRT\) となるが、高校物理では通常単原子分子が扱われる)
具体的な解説と立式
単原子分子理想気体の内部エネルギー \(U\) は、物質量 \(n\)、気体定数 \(R\)、絶対温度 \(T\) を用いて以下の式で表されます。
$$ U = \frac{3}{2}nRT $$
問題文で与えられた文字(\(n, R, T\))をそのまま用いて答えます。
使用した物理公式
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \frac{3}{2}nRT\)
代入や変形は不要で、公式そのものが答えとなります。
単原子分子(原子1個で飛び回っている気体)のエネルギーは、温度 \(T\) に比例します。その比例係数は \(\frac{3}{2}nR\) です。これは公式として覚えておくべき基本事項です。
次元(単位)を確認すると、\(n [\text{mol}] \times R [\text{J/(mol}\cdot\text{K)}] \times T [\text{K}] = [\text{J}]\) となり、エネルギーの単位になっています。
問(2)
思考の道筋とポイント
「温度が変わらないように」という記述から、これが等温変化であることを読み取ります。等温変化では内部エネルギーが変化しないことを利用して、熱力学第一法則から仕事を求めます。
この設問における重要なポイント
- 変化の種類: 等温変化(\(\Delta T = 0\))。
- 内部エネルギー変化: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T = 0\)。
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W_{\text{out}}\)。
具体的な解説と立式
熱力学第一法則より、気体が吸収した熱量 \(Q\)、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\)、気体が外部へした仕事 \(W_{\text{out}}\) の間には以下の関係があります。
$$ Q = \Delta U + W_{\text{out}} $$
問題文より「温度が変わらない」ので、\(\Delta T = 0\) です。
したがって、内部エネルギーの変化も \(0\) になります。
$$ \Delta U = 0 $$
これを第一法則の式に代入すると、
$$ Q = 0 + W_{\text{out}} $$
よって、気体が外部にした仕事 \(W_{\text{out}}\) は、
$$ W_{\text{out}} = Q $$
となります。
(なお、「体積は2倍になった」という情報は、仕事が正(膨張)であることを確認するためには使えますが、仕事の値を計算する上では \(Q\) が与えられているため直接は使いません。)
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W_{\text{out}}\)
- 内部エネルギー変化: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)
$$
\begin{aligned}
Q &= 0 + W_{\text{out}} \\[2.0ex]
W_{\text{out}} &= Q
\end{aligned}
$$
温度を変えずに気体を温めて膨らませる場合、入ってきた熱エネルギー \(Q\) は、内部エネルギー(温度)を上げるためには使われません。その代わり、入ってきたエネルギーはすべて、ピストンを押して外に広がるための「仕事」として使われます。つまり、もらった熱 \(Q\) がそのまま仕事 \(Q\) に変わります。
入ってきた熱がすべて仕事に変わるというエネルギー保存則に合致します。
思考の道筋とポイント
気体がする仕事は、\(P-V\) グラフ(圧力と体積のグラフ)において、状態変化を表す線と横軸(\(V\)軸)で囲まれた面積に等しいことを利用します。
この設問における重要なポイント
- 等温変化のグラフは反比例の曲線(\(PV = \text{一定}\))になる。
- 膨張する場合、面積は正の仕事を表す。
具体的な解説と立式
\(P-V\) グラフを描くと、等温変化は右下がりの曲線になります。体積が \(V\) から \(2V\) に増えるとき、この曲線の下側の面積が、気体が外部へした仕事 \(W_{\text{out}}\) に相当します。
一方、熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W_{\text{out}}\) において \(\Delta U = 0\) なので \(Q = W_{\text{out}}\) です。
つまり、この「グラフの面積」そのものが、外部から加えられた熱量 \(Q\) と等しい大きさを持っていると解釈できます。
数式だけでなく、「加えられた熱エネルギー \(Q\) が、グラフの面積(仕事)に変換された」というイメージを持つことが重要です。
問(3)
思考の道筋とポイント
「外部との熱の出入りはない」という記述から、断熱変化であることを読み取ります。また、「押し込むのに \(W\) の仕事が必要であった」というのは、気体が外部から \(W\) の仕事をされたことを意味します。これらを熱力学第一法則に適用して温度上昇を求めます。
この設問における重要なポイント
- 変化の種類: 断熱変化(\(Q_{\text{in}} = 0\))。
- 仕事の符号: 「\(W\) の仕事が必要であった」 \(\rightarrow\) 気体は仕事をされた。
- 気体が外部へした仕事 \(W_{\text{out}} = -W\)
- あるいは、第一法則を \(Q_{\text{in}} + W_{\text{in}} = \Delta U\) (入ってきた熱+された仕事=内部エネルギー増)の形で使うと便利。ここでは \(W_{\text{in}} = W\)。
- 求めるもの: 温度上昇 \(\Delta T\)。
具体的な解説と立式
熱力学第一法則(エネルギーの入り=内部エネルギーの増加)の形を使います。
$$ \Delta U = Q_{\text{in}} + W_{\text{in}} $$
ここで、
- 断熱変化なので、熱の出入りはありません。
$$ Q_{\text{in}} = 0 $$ - 気体は外部から \(W\) の仕事をされました(圧縮)。
$$ W_{\text{in}} = W $$
これらを代入すると、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、
$$ \Delta U = 0 + W = W $$
一方、単原子分子理想気体の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、温度変化 \(\Delta T\) を用いて以下のように表されます。
$$ \Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T $$
これら2つの式から \(\Delta T\) を求めます。
$$ \frac{3}{2}nR\Delta T = W $$
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q_{\text{in}} + W_{\text{in}}\)
- 内部エネルギー変化: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)
\(\Delta T\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{3}{2}nR\Delta T &= W \\[2.0ex]
3nR\Delta T &= 2W \\[2.0ex]
\Delta T &= \frac{2W}{3nR}
\end{aligned}
$$
断熱材で囲まれたシリンダーを無理やり押し込む(仕事 \(W\) をする)と、そのエネルギーは熱として逃げることができません。行き場を失ったエネルギーは、すべて気体の中に閉じ込められ、気体分子の運動を激しくするために使われます。つまり、された仕事 \(W\) がそのまま内部エネルギーの増加になります。
内部エネルギーの増加分 \(W\) を、温度の上がりに換算するために、比熱のような係数(\(\frac{3}{2}nR\))で割り算をしてあげると、温度が何度上がったかが求まります。
\(W\)(エネルギー)を \(nR\)(エネルギー/温度)で割っているので、単位は温度 \([\text{K}]\) になり、次元的に正しいです。また、仕事をされてエネルギーをもらったので温度が上昇するという定性的な結果とも一致します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー
- 核心: 内部エネルギー \(U\) は、気体分子の運動エネルギーの総和であり、絶対温度 \(T\) に比例します。単原子分子の場合、その比例係数は \(\frac{3}{2}nR\) です。
- 理解のポイント:
- 公式 \(U = \frac{3}{2}nRT\) を確実に暗記します。
- 変化量についても同様に \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) が成り立ちます。これは、「温度変化 \(\Delta T\) がわかれば内部エネルギー変化 \(\Delta U\) がわかる」、逆に「\(\Delta U\) がわかれば \(\Delta T\) がわかる」という強力な武器になります。
- 熱力学第一法則の柔軟な運用
- 核心: エネルギー保存則 \(Q = \Delta U + W_{\text{out}}\) (または \(\Delta U = Q + W_{\text{in}}\))を、状況に応じて使いこなす能力です。
- 理解のポイント:
- 等温変化: \(\Delta T = 0 \rightarrow \Delta U = 0\) なので、\(Q = W_{\text{out}}\)(入った熱が全部仕事になる)。
- 断熱変化: \(Q = 0\) なので、\(\Delta U = -W_{\text{out}} = W_{\text{in}}\)(された仕事が全部内部エネルギーになる)。
- このように、変化の条件(等温、断熱など)を第一法則に代入して式を簡略化することが解法の定石です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 二原子分子気体の場合: 問題文に「二原子分子」とあったら、内部エネルギーの公式が \(U = \frac{5}{2}nRT\) に変わります。それ以外の第一法則の使い方は全く同じです。
- 定圧変化の場合: 圧力が一定で膨張する場合、仕事は \(W_{\text{out}} = P\Delta V\) で計算できます。また、状態方程式 \(P\Delta V = nR\Delta T\) を使うと、\(W_{\text{out}} = nR\Delta T\) と書き換えられ、\(Q = \frac{3}{2}nR\Delta T + nR\Delta T = \frac{5}{2}nR\Delta T\) (定圧モル比熱 \(C_p = \frac{5}{2}R\))の関係が導けます。
- 定積変化の場合: 体積一定なら仕事 \(W=0\) なので、\(Q = \Delta U\) (定積モル比熱 \(C_v = \frac{3}{2}R\))となります。
- 初見の問題での着眼点:
- 気体の種類を確認: 「単原子分子」か「二原子分子」か、あるいは一般の理想気体かを確認し、\(U\) の係数(\(\frac{3}{2}\) か \(\frac{5}{2}\) か)を決定します。
- 変化のキーワードを拾う:
- 「温度一定」「ゆっくり動かした(熱平衡を保つ)」 \(\rightarrow\) 等温変化
- 「熱の出入りがない」「断熱材で囲まれた」「急激に圧縮した」 \(\rightarrow\) 断熱変化
- 「体積一定」「容器を固定した」 \(\rightarrow\) 定積変化
- 「圧力一定」「自由に動くピストン」 \(\rightarrow\) 定圧変化
- 仕事の主語を確認: 「気体がした仕事」なのか「気体がされた仕事(外力がした仕事)」なのかを読み取り、符号を間違えないようにします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 仕事の符号ミス:
- 誤解: 圧縮されたのに \(W_{\text{out}} > 0\) としてしまったり、第一法則の式の \(W\) が「した」のか「された」のか分からなくなる。
- 対策: 常に「気体が膨張する=外へ仕事をする(エネルギーを失う)= \(W_{\text{out}} > 0\)」を基準にします。圧縮ならその逆(\(W_{\text{out}} < 0\) または \(W_{\text{in}} > 0\))です。第一法則を \(\Delta U = Q_{\text{in}} + W_{\text{in}}\) (貯金の増減=入金+働いて稼いだ分…ではなく、ここでは仕事を「される」ので、エネルギーをもらうイメージ)として覚えるのも有効です。
- 温度変化 \(\Delta T\) の計算ミス:
- 誤解: \(\Delta U\) が求まった後、\(\Delta T\) を出す際に係数 \(\frac{3}{2}nR\) の逆数を掛け忘れたり、\(R\) を忘れたりする。
- 対策: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) という式を必ず書き出し、\(\Delta T = \dots\) の形に変形してから数値を代入しましょう。暗算は禁物です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(内部エネルギー):
- 選定理由: 「単原子分子理想気体」の「内部エネルギー」を問われているため、定義式である \(U = \frac{3}{2}nRT\) を選ぶ以外にありません。
- 適用根拠: この式は、単原子分子理想気体であれば、どのような状態(圧力や体積)であっても常に成立する普遍的な関係式です。
- (2)(3)での公式選択(熱力学第一法則):
- 選定理由: 熱 \(Q\)、仕事 \(W\)、内部エネルギー(温度)変化 \(\Delta U\) の関係を扱う問題だからです。
- 適用根拠: エネルギー保存則は物理学の絶対的なルールであり、等温変化や断熱変化といった特定の条件下で、項が消えたり(\(0\) になったり)符号が変わったりするだけで、式の骨格は常に有効だからです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の次元確認:
- 答えが文字式になる場合、単位(次元)が合っているかを確認します。
- (1) \(nRT\) は \(PV\) と同じ次元(エネルギー \(\text{J}\))なのでOK。
- (3) \(\frac{W}{nR}\) は \(\frac{\text{J}}{\text{mol} \cdot (\text{J}/\text{mol}\cdot\text{K})} = \text{K}\) となり、温度の次元になるのでOK。もし \(R\) が分子にあったりすると次元が合わなくなります。
- 変化の前後関係の図示:
- 頭の中だけで考えず、簡単な図(シリンダーとピストン)を描き、熱 \(Q\) の矢印(入る/出る)や仕事 \(W\) の矢印(押す/押される)を書き込むと、符号のミスが劇的に減ります。
- 断熱圧縮なら、\(Q\) の矢印はなく、\(W\) の矢印が内向き(気体に向かう)になり、その結果として内部の \(U\)(温度計)が上がる、という図が描けます。
問6
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(5)の別解: 経路差の最大値を用いた解法
- 模範解答(および主たる解法)が線分AB上の腹の位置を具体的に数え上げるのに対し、別解では線分AB上での経路差の最大値が \(AB\) 間の距離そのものであることを利用し、不等式を用いて腹の個数を計算で求めます。
- 設問(5)の別解: 経路差の最大値を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 汎用性の高さ: 波源間の距離が非常に長く、腹の数が多くて数えきれない場合でも、計算によって正確な個数を求められます。
- 論理的思考の強化: 「経路差」という概念を数式的に扱う力が身につきます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、結論(腹の数は7個)は一致します。
この問題のテーマは「2つの波源からの波の干渉」です。波の重ね合わせによって生じる「強め合い」と「弱め合い」の条件を、図形的な位置関係(経路差)と波長の関係から理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の干渉条件(同位相の波源の場合):
- 強め合う点(腹): 2つの波源からの距離の差(経路差)が波長の整数倍になる点。
$$ |l_1 – l_2| = m\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots) $$ - 弱め合う点(節): 2つの波源からの距離の差(経路差)が波長の半整数倍(整数+0.5倍)になる点。
$$ |l_1 – l_2| = (m + 0.5)\lambda \quad (m = 0, 1, 2, \dots) $$
- 強め合う点(腹): 2つの波源からの距離の差(経路差)が波長の整数倍になる点。
- 図の読み取り: 実線は「山」、破線は「谷」を表します。
- 山と山、または谷と谷が重なる点 \(\rightarrow\) 強め合う(腹)
- 山と谷が重なる点 \(\rightarrow\) 弱め合う(節)
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)〜(3)では、図から直接、山と谷の重なり具合を読み取るか、あるいは経路差を計算して干渉条件に当てはめます。
- (4)では、与えられた経路差 \(5.0\,\text{cm}\) が波長 \(2.0\,\text{cm}\) の何倍かを計算し、干渉条件から強め合いか弱め合いかを判定します。また、その条件を満たす点(双曲線)を図示します。
- (5)では、線分AB上における定常波の腹の位置を特定し、その個数を数えます。
問(1)
思考の道筋とポイント
点Pがどのような位置にあるかを図から読み取ります。「垂直2等分線上」という幾何学的な特徴が最大のヒントです。
この設問における重要なポイント
- 垂直2等分線上の任意の点は、2つの点A, Bからの距離が等しい。
- つまり、経路差は \(0\) である。
具体的な解説と立式
点Pは線分ABの垂直2等分線上にあります。
幾何学的に、垂直2等分線上の点は2つの端点A, Bからの距離が等しいため、
$$ AP = BP $$
となります。
したがって、経路差は
$$ |AP – BP| = 0 $$
経路差 \(0\) は波長 \(\lambda = 2.0\,\text{cm}\) の \(0\) 倍(整数倍)です。
$$ 0 = 0 \times \lambda $$
これは強め合う条件 \(m\lambda\) (\(m=0\))を満たします。
また、図を見ると、点Pでは実線(山)と実線(山)が交差しているようにも見えます(あるいは破線と破線)。いずれにせよ、同位相で重なるため強め合います。
使用した物理公式
- 強め合う条件: \(|l_1 – l_2| = m\lambda\)
$$ |AP – BP| = 0 = 0 \times 2.0 $$
AからもBからも同じ距離にある場所(真ん中のライン)では、Aからの波とBからの波が同時に届きます。「山」が来るときは一緒に「山」、「谷」が来るときは一緒に「谷」が来るので、波は協力して大きくなります。つまり「強め合い」ます。
経路差0は強め合いの条件を満たします。
問(2)
思考の道筋とポイント
点Qにおける波の重なり方を図から読み取ります。実線(山)と破線(谷)のどちらが重なっているかを確認します。
この設問における重要なポイント
- 実線は山、破線は谷を表す。
- 山と谷が重なると打ち消し合って弱め合う。
具体的な解説と立式
図において、点QはAからの実線(山)と、Bからの破線(谷)が交わっている点です。
山(変位 \(+A\))と谷(変位 \(-A\))が重なると、重ね合わせの原理により変位は \(0\) になります。
したがって、点Qは弱め合う点です。
経路差で確認してみましょう。
図の波紋を中心から数えると、
- AからQまで: 実線(山) \(\rightarrow\) 破線(谷) \(\rightarrow\) 実線(山) \(\rightarrow\) 破線(谷) \(\rightarrow\) 実線(山) \(\rightarrow\) 破線(谷) \(\rightarrow\) 実線(山)。距離は \(3.0\lambda\)。
- BからQまで: 実線(山) \(\rightarrow\) 破線(谷) \(\rightarrow\) 実線(山) \(\rightarrow\) 破線(谷) \(\rightarrow\) 実線(山) \(\rightarrow\) 破線(谷)。距離は \(2.5\lambda\)。
経路差は \(|3.0\lambda – 2.5\lambda| = 0.5\lambda\) となり、波長の半整数倍なので弱め合います。
使用した物理公式
- 弱め合う条件: \(|l_1 – l_2| = (m + 0.5)\lambda\)
特になし(図の読み取り)。
点Qでは、片方の波の「山」ともう片方の波の「谷」がぶつかっています。プラスとマイナスで打ち消し合うので、波は消えてしまいます。つまり「弱め合い」ます。
図の読み取りと経路差の計算の両方で、弱め合うという結論が得られました。
問(3)
思考の道筋とポイント
点Rについても同様に、図から波の重なり方を読み取ります。
この設問における重要なポイント
- 実線と実線が重なる点も、同位相なので強め合う。
具体的な解説と立式
図において、点RはAからの実線(山)と、Bからの実線(山)が交わっている点です。
山(変位 \(+A\))と山(変位 \(+A\))が重なると、変位は \(+2A\) となり、振幅が大きくなります(高く盛り上がる)。
したがって、点Rは強め合う点です。
経路差で確認してみましょう。
- AからRまで: 中心から数えて3つ目の実線なので、距離は \(3.0\lambda\)。
- BからRまで: 中心から数えて5つ目の実線なので、距離は \(5.0\lambda\)。
経路差は \(|3.0\lambda – 5.0\lambda| = 2.0\lambda\) となり、波長の整数倍なので強め合います。
使用した物理公式
- 強め合う条件: \(|l_1 – l_2| = m\lambda\)
特になし(図の読み取り)。
点Rでは、両方の波の「山」が同時に来ています。一緒に高く盛り上がるので、波の動きは激しくなります。これも「強め合い」の一つです。
図の読み取りと経路差の計算の両方で、強め合うという結論が得られました。
問(4)
思考の道筋とポイント
与えられた距離差(経路差)が波長の何倍かを計算し、干渉条件に当てはめます。また、その条件を満たす点の集合(軌跡)がどのような曲線になるかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 距離差 \(5.0\,\text{cm}\)。
- 波長 \(\lambda = 2.0\,\text{cm}\)。
- 距離差が一定となる点の軌跡は双曲線である。
具体的な解説と立式
距離差 \(|l_1 – l_2| = 5.0\,\text{cm}\) です。
これが波長 \(\lambda = 2.0\,\text{cm}\) の何倍かを確認します。
$$ \frac{5.0}{2.0} = 2.5 $$
つまり、距離差は \(2.5\lambda\) です。
これは \((m + 0.5)\lambda\) の形(\(m=2\) の場合)をしているため、弱め合う条件を満たします。
次に、この条件を満たす曲線を図示します。
距離差が \(2.5\lambda\) となる点は、弱め合う点(節線)です。
節線は、垂直2等分線(経路差0)の両側に交互に現れます。
- 経路差 \(0.5\lambda\): 第1節線
- 経路差 \(1.5\lambda\): 第2節線
- 経路差 \(2.5\lambda\): 第3節線
したがって、中心から数えて3番目の節線(双曲線)を描きます。
具体的には、線分AB上で中心から \(1.25\lambda = 2.5\,\text{cm}\) 離れた点を通る双曲線です。
AB間の距離は \(7.0\,\text{cm}\) なので、中心から \(3.5\,\text{cm}\) が端点A, Bです。\(2.5\,\text{cm}\) はその内側にあるので、線分AB上にこの節線は存在します。
使用した物理公式
- 弱め合う条件: \(|l_1 – l_2| = (m + 0.5)\lambda\)
$$ 5.0 = 2.5 \times 2.0 = (2 + 0.5)\lambda $$
距離の差が \(5.0\,\text{cm}\) ということは、波長 \(2.0\,\text{cm}\) の \(2.5\) 倍です。「整数+半分」倍なので、波の山と谷がずれて重なることになり、弱め合います。
このような点の集まりは、AとBを焦点とする双曲線になります。図に描くときは、真ん中の線から外側へ向かって、「弱め合いの線(節線)」を数えて3本目の線を描けばOKです。
距離差が半整数倍なので弱め合います。図示する曲線は、左右対称に2本存在する双曲線(の外側のもの)です。
問(5)
思考の道筋とポイント
線分AB上には定常波ができます。定常波の腹(強め合う点)がどこにあるかを探します。腹と腹の間隔は半波長(\(\lambda/2\))であることを利用します。
この設問における重要なポイント
- 線分AB上では、互いに逆向きに進む波が重なり、定常波ができる。
- 腹の位置は、経路差が \(m\lambda\) となる点である。
- 線分ABの中点(経路差0)は必ず腹になる。
- 腹と腹の間隔は \(\frac{\lambda}{2} = 1.0\,\text{cm}\)。
具体的な解説と立式
線分ABの中点Mは、(1)で確認した通り経路差0なので、強め合う点(腹)です。ここを基準(\(m=0\))とします。
腹は半波長 \(\frac{\lambda}{2} = \frac{2.0}{2} = 1.0\,\text{cm}\) ごとに現れます。
中点MからA、Bに向かって \(1.0\,\text{cm}\) ごとに腹を数えていきます。
AB間の距離は \(7.0\,\text{cm}\) なので、中点MからA(またはB)までの距離は \(3.5\,\text{cm}\) です。
- 中点M (\(0\,\text{cm}\)): 腹 (1個目)
- Mから \(1.0\,\text{cm}\): 腹 (2個目, 3個目) ※左右に1つずつ
- Mから \(2.0\,\text{cm}\): 腹 (4個目, 5個目)
- Mから \(3.0\,\text{cm}\): 腹 (6個目, 7個目)
- Mから \(4.0\,\text{cm}\): 端点A, Bを超えてしまうので存在しない。
したがって、合計で \(1 + 2 + 2 + 2 = 7\) 個の腹があります。
使用した物理公式
- 定常波の腹の間隔: \(\frac{\lambda}{2}\)
中点からの距離 \(d\) が \(3.5\,\text{cm}\) 未満の範囲で、\(d = n \times 1.0\) を満たす整数 \(n\) を探す。
\(n = 0, 1, 2, 3\) が該当。
\(n=0\) は1点、\(n=1, 2, 3\) は左右に2点ずつ。
計 \(1 + 2 \times 3 = 7\) 個。
AとBの間には、動かない波(定常波)ができています。
ど真ん中は必ず大きく揺れる「腹」です。
そこから \(1\,\text{cm}\) (波長の半分)進むごとに、また「腹」が現れます。
端っこまで \(3.5\,\text{cm}\) あるので、\(1\,\text{cm}, 2\,\text{cm}, 3\,\text{cm}\) の地点に腹があります。
右側に3つ、左側に3つ、そして真ん中に1つ。全部で7つです。
腹の数は7個となります。これは波源の位置(\(3.5\,\text{cm}\))を含まない範囲に収まっています。
思考の道筋とポイント
線分AB上の点における経路差の最大値は、波源間の距離 \(AB\) そのものです。これを利用して、条件を満たす整数 \(m\) の個数を数えます。
この設問における重要なポイント
- 線分AB上の点Pにおいて、経路差 \(|AP – BP|\) は \(0\) から \(AB\) までの値をとる。
- 強め合う条件: \(|AP – BP| = m\lambda\)
具体的な解説と立式
線分AB上の任意の点において、経路差 \(l = |AP – BP|\) がとりうる値の範囲は、
$$ 0 \le l \le AB = 7.0\,\text{cm} $$
です。
強め合う条件は \(l = m\lambda = 2.0m\) (\(m\) は \(0\) 以上の整数)です。
この条件を満たす \(l\) を探します。
$$
\begin{aligned}
2.0m &\le 7.0 \\[2.0ex]
m &\le 3.5
\end{aligned}
$$
\(m\) は整数なので、可能な値は \(m = 0, 1, 2, 3\) です。
- \(m=0\) のとき: 経路差0。中点の1箇所。
- \(m=1, 2, 3\) のとき: 経路差が \(2.0, 4.0, 6.0\)。中点から左右に対称に存在するので、各 \(m\) につき2箇所ずつ。
よって、腹の総数は
$$ 1 + 2 \times 3 = 7\,\text{個} $$
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 波の干渉条件の幾何学的理解
- 核心: 2つの波源からの距離の差(経路差)が、波の重ね合わせの結果(強め合いか弱め合いか)を決定します。
- 理解のポイント:
- 強め合い(腹): 経路差 \(|l_1 – l_2| = m\lambda\) (波長の整数倍)。山と山、谷と谷が出会う場所です。
- 弱め合い(節): 経路差 \(|l_1 – l_2| = (m + 0.5)\lambda\) (波長の半整数倍)。山と谷が出会って打ち消し合う場所です。
- この条件式は、波源が同位相で振動している場合のものです。逆位相の場合は条件が逆転することを覚えておきましょう。
- 定常波の性質
- 核心: 2つの波源を結ぶ直線上では、互いに逆向きに進む波が重なり合い、定常波が形成されます。
- 理解のポイント:
- 腹の間隔: 定常波の腹と腹(または節と節)の間隔は、波長の半分(\(\lambda/2\))です。
- 中点の性質: 同位相の波源の場合、中点は経路差0なので必ず「腹」になります。ここを基準に \(\lambda/2\) ずつずらして数えるのが定石です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 逆位相の波源: 波源AとBが逆位相(片方が山のときもう片方が谷)で振動している場合、干渉条件が逆転します。
- 強め合い: \((m+0.5)\lambda\)
- 弱め合い: \(m\lambda\)
- 中点は経路差0ですが、山と谷が出会うので「節」になります。
- 平面上の干渉模様(双曲線): 強め合う点や弱め合う点を連ねた線は、2つの波源を焦点とする双曲線群になります。
- 腹線(強め合う線)の本数を問われたら、線分AB上の腹の数を数える問題(設問5と同じ)に帰着できます。なぜなら、すべての腹線は線分ABを通過するからです。
- 逆位相の波源: 波源AとBが逆位相(片方が山のときもう片方が谷)で振動している場合、干渉条件が逆転します。
- 初見の問題での着眼点:
- 波源の位相確認: 「同位相」か「逆位相」かを真っ先に確認します。これがすべての条件式の前提となります。
- 波長の特定: 問題文に明記されているか、あるいは \(v=f\lambda\) から計算する必要があるかを確認します。
- 代表点のチェック: 垂直2等分線上(経路差0)が強め合いか弱め合いかをチェックすることで、条件式の選択ミスを防げます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 経路差の計算ミス:
- 誤解: 図の波紋を数えるときに、中心からの距離ではなく、波源からの距離を間違えて数えてしまう。
- 対策: 波源を0として、実線(山)を \(1\lambda, 2\lambda\dots\)、破線(谷)を \(0.5\lambda, 1.5\lambda\dots\) と指で指しながら慎重に数えます。
- \(m\) の数え落とし:
- 誤解: \(m=0\) のケース(中点や垂直2等分線)を忘れてしまう。
- 対策: \(m\) は \(0\) から始まる整数であることを常に意識します。特に腹の数を数えるときは、まず \(m=0\)(中心)を確保してから、左右の \(m=1, 2\dots\) を数える手順を習慣化しましょう。
- 端点の扱い:
- 誤解: 波源の位置(端点A, B)に腹が来た場合、それを数に入れるかどうか迷う。
- 対策: 問題文の指示に従いますが、通常、波源そのものは振動の強制点であり、干渉の結果として議論する対象から外されることが多いです。ただし、計算上 \(m \le 3.5\) のように端点を含まないことが明確な場合は迷う必要はありません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)〜(4)での公式選択(干渉条件):
- 選定理由: 「強め合うか弱め合うか」という問いは、波の重ね合わせの位相差(=経路差)によって決まるため、干渉条件の式を使うのが最も直接的です。
- 適用根拠: 水面波の干渉は、光の干渉(ヤングの実験など)と同じく、波動の一般性質としてこの条件式に従います。
- (5)でのアプローチ選択(数え上げ vs 不等式):
- 選定理由(数え上げ): 波源間の距離が短く、腹の数が少ない場合は、具体的に位置を特定して数える方が直感的でミスが少ないです。
- 選定理由(不等式 – 別解): 波源間が長い場合や、一般解を求める場合には、\(0 \le \text{経路差} \le AB\) という不等式を解く方法が効率的かつ厳密です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 図への書き込み:
- 問題用紙の図に、直接「山」「谷」の記号や、波源からの波数を書き込むことで、視覚的な数え間違いを防ぎます。
- 対称性の利用:
- 線分ABの中点に対して左右対称であることを利用すれば、片側だけ数えて2倍し、中心の1個を足すだけで済みます。これにより計算の手間が半分になり、ミスも減ります。
- 単位の確認:
- 波長や距離の単位(cm, m)が揃っているかを確認します。この問題では全て cm なのでそのままで大丈夫ですが、異なる単位が混在している場合は要注意です。
問7
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(4)の別解: 定圧モル比熱を用いた解法
- 模範解答(および主たる解法)が熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W\) の各項を個別に計算して和を求めるのに対し、別解では定圧変化における熱量計算の公式 \(Q = nC_p\Delta T\) を用いて一発で求めます。
- 設問(4)の別解: 定圧モル比熱を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 計算の効率化: 内部エネルギー変化と仕事を別々に計算する手間が省け、計算ミスを減らせます。
- 物理的理解の深化: 「定圧モル比熱」という概念を理解することで、気体の種類(単原子分子など)に応じた熱量の計算がスムーズになります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「シリンダー内の気体の定圧変化」です。ピストンが自由に動ける状況での気体の状態変化(定圧変化)における、状態方程式の適用とエネルギー収支(熱力学第一法則)の計算をマスターすることが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
- 力のつりあい: ピストンが静止しているとき、気体の圧力による力と外気圧による力がつりあっています。
- 定圧変化: ピストンがなめらかに動く場合、気体の圧力は常に外気圧と等しく保たれます(\(P = P_0\))。
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
- 内部エネルギー: 単原子分子理想気体の場合、\(U = \frac{3}{2}nRT\)
- 気体がする仕事: 定圧変化の場合、\(W = P\Delta V\)
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、状態Aにおける圧力、体積を特定し、状態方程式を立てて温度 \(T_0\) を表します。
- (2)では、ピストンが自由に動けることから、変化後も圧力が変わらない(定圧変化)ことを見抜きます。
- (3)では、シャルルの法則(または状態方程式)を用いて、温度変化に伴う体積(ピストンの位置)の変化を求めます。
- (4)では、熱力学第一法則を用いて、内部エネルギーの増加分と外部へした仕事の和として熱量を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
状態Aにおける気体の圧力 \(P_A\) と体積 \(V_A\) を求め、理想気体の状態方程式 \(P_AV_A = nRT_0\) に代入します。
この設問における重要なポイント
- ピストンが静止している \(\rightarrow\) 力のつりあいより、内部の圧力 \(P_A\) は外気圧 \(P_0\) と等しい。
- 容器の断面積が \(S\)、底からの距離が \(l_0\) \(\rightarrow\) 体積 \(V_A = Sl_0\)。
具体的な解説と立式
まず、状態Aにおける気体の圧力 \(P_A\) を考えます。
ピストンはなめらかに移動でき、静止しています。水平方向に置かれたシリンダーなので、ピストンにはたらく力は「内部の気体が押す力 \(P_A S\)」と「外気が押す力 \(P_0 S\)」のみです(重力は鉛直方向なので関係ありません)。
力のつりあいより、
$$ P_A S = P_0 S \rightarrow P_A = P_0 $$
次に、状態Aにおける気体の体積 \(V_A\) は、断面積 \(S\) と距離 \(l_0\) の積です。
$$ V_A = S l_0 $$
これらを理想気体の状態方程式 \(PV = nRT\) に代入します。
$$ P_0 (S l_0) = n R T_0 $$
この式を \(T_0\) について解きます。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
- 力のつりあい: \(P_{\text{内}}S = P_{\text{外}}S\)
$$ T_0 = \frac{P_0 S l_0}{nR} $$
ピストンが止まっているということは、中の空気と外の空気が同じ力で押し合っているということです。だから中の圧力は外と同じ \(P_0\) です。体積は「底面積×高さ」で \(Sl_0\) です。これらを \(PV=nRT\) の公式に入れるだけで、温度 \(T_0\) の式が作れます。
次元を確認すると、\(\frac{[\text{Pa}] \cdot [\text{m}^2] \cdot [\text{m}]}{[\text{mol}] \cdot [\text{J}/(\text{mol}\cdot\text{K})]} = \frac{[\text{N}/\text{m}^2] \cdot [\text{m}^3]}{[\text{J}/\text{K}]} = \frac{[\text{N}\cdot\text{m}]}{[\text{J}/\text{K}]} = \frac{[\text{J}]}{[\text{J}/\text{K}]} = [\text{K}]\) となり、温度の単位になっています。
問(2)
思考の道筋とポイント
「ゆっくりと」加熱し、ピストンが「なめらかに移動できる」という条件から、変化の過程および変化後の状態Bにおいても、常に力のつりあいが保たれていると考えます。
この設問における重要なポイント
- ピストンは自由に動けるため、内部の圧力は常に外気圧 \(P_0\) と等しくなるように調整される。
- つまり、この変化は定圧変化である。
具体的な解説と立式
状態Bにおいてもピストンは静止しています。
(1)と同様に、ピストンにはたらく水平方向の力のつりあいを考えます。
内部の気圧を \(P\) とすると、
$$ P S = P_0 S $$
したがって、
$$ P = P_0 $$
となります。
加熱して膨張しても、ピストンが自由に動いて体積が増えることで、圧力の上昇が抑えられ、常に外気圧と同じ圧力に保たれます。
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(P_{\text{内}} = P_{\text{外}}\)
計算は不要で、物理的な状況判断のみです。
ピストンが自由に動ける場合、中の空気が温まって圧力が上がろうとしても、ピストンが押されて広がることで圧力が逃げていきます。結局、ピストンが止まるのは「中の圧力=外の圧力」になったときだけなので、圧力はずっと \(P_0\) のまま変わりません。
定圧変化の典型的な設定です。
問(3)
思考の道筋とポイント
圧力が一定(\(P_0\))のまま、温度が \(T_0\) から \(2T_0\) に変化しました。シャルルの法則(または状態方程式)を用いて、体積(距離 \(l\))の変化を求めます。
この設問における重要なポイント
- 変化前の状態A: 温度 \(T_0\)、体積 \(V_A = S l_0\)
- 変化後の状態B: 温度 \(2T_0\)、体積 \(V_B = S l\)
- 圧力が一定なので、体積は絶対温度に比例する(シャルルの法則)。
具体的な解説と立式
シャルルの法則 \(\frac{V}{T} = \text{一定}\) より、
$$ \frac{V_A}{T_A} = \frac{V_B}{T_B} $$
値を代入します。
$$ \frac{S l_0}{T_0} = \frac{S l}{2T_0} $$
この式を \(l\) について解きます。
使用した物理公式
- シャルルの法則: \(\frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2}\)
両辺の \(S\) と \(T_0\) を約分します。
$$
\begin{aligned}
\frac{l_0}{1} &= \frac{l}{2} \\[2.0ex]
l &= 2l_0
\end{aligned}
$$
圧力が変わらないとき、気体の体積は温度(絶対温度)に比例します。温度が \(T_0\) から \(2T_0\) へ2倍になったので、体積も2倍になります。断面積 \(S\) は変わらないので、底からの距離 \(l\) が2倍になります。
温度が上がって膨張したので、\(l > l_0\) となるのは妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W\) を用いて、加えられた熱量 \(Q\) を求めます。内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) と、気体が外部へした仕事 \(W\) をそれぞれ計算して足し合わせます。
この設問における重要なポイント
- 内部エネルギーの変化: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)
- 気体がした仕事(定圧変化): \(W = P\Delta V\)
- 温度変化: \(\Delta T = 2T_0 – T_0 = T_0\)
- 体積変化: \(\Delta V = S(2l_0) – Sl_0 = Sl_0\)
具体的な解説と立式
1. 内部エネルギーの変化 \(\Delta U\)
単原子分子理想気体なので、
$$ \Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T = \frac{3}{2}nR(2T_0 – T_0) = \frac{3}{2}nRT_0 $$
ここで、(1)の結果 \(nRT_0 = P_0 S l_0\) を用いて、与えられた文字(\(P_0, S, l_0\))で表します。
$$ \Delta U = \frac{3}{2} P_0 S l_0 $$
2. 気体が外部へした仕事 \(W\)
定圧変化なので、仕事は圧力×体積変化で求められます。
$$ W = P_0 \Delta V = P_0 (S l – S l_0) = P_0 (2S l_0 – S l_0) = P_0 S l_0 $$
3. 熱量 \(Q\) の計算
熱力学第一法則より、
$$ Q = \Delta U + W $$
求めた2つの値を代入します。
$$ Q = \frac{3}{2} P_0 S l_0 + P_0 S l_0 $$
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
- 内部エネルギー変化: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)
- 定圧変化の仕事: \(W = P\Delta V\)
$$
\begin{aligned}
Q &= \left( \frac{3}{2} + 1 \right) P_0 S l_0 \\[2.0ex]
&= \frac{5}{2} P_0 S l_0
\end{aligned}
$$
気体を温めると、エネルギーは2つのことに使われます。1つは「温度を上げること(内部エネルギー増)」、もう1つは「膨らんでピストンを押すこと(仕事)」です。
温度を上げるのに使われたエネルギーは \(\frac{3}{2}P_0Sl_0\)、ピストンを押すのに使われたエネルギーは \(P_0Sl_0\) です。
合計で \(\frac{5}{2}P_0Sl_0\) の熱エネルギーが必要だったことになります。
係数が \(\frac{5}{2}\) となりました。これは単原子分子の定圧変化における特徴的な係数です。
思考の道筋とポイント
定圧変化における熱量は、定圧モル比熱 \(C_p\) を用いて \(Q = nC_p\Delta T\) で求められます。単原子分子理想気体の場合、\(C_p = \frac{5}{2}R\) です。
この設問における重要なポイント
- 単原子分子理想気体の定圧モル比熱: \(C_p = \frac{5}{2}R\)
- 熱量の公式: \(Q = nC_p\Delta T\)
具体的な解説と立式
単原子分子理想気体の定圧モル比熱は \(C_p = \frac{5}{2}R\) です。
これを用いると、定圧変化で温度を \(\Delta T\) 上昇させるのに必要な熱量 \(Q\) は、
$$
\begin{aligned}
Q &= n C_p \Delta T \\[2.0ex]
&= n \left( \frac{5}{2}R \right) (2T_0 – T_0) \\[2.0ex]
&= \frac{5}{2} n R T_0
\end{aligned}
$$
(1)より \(nRT_0 = P_0 S l_0\) なので、これを代入して、
$$ Q = \frac{5}{2} P_0 S l_0 $$
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 定圧変化のメカニズム
- 核心: 「なめらかに動くピストン」は、シリンダー内外の圧力を常に等しく保つ装置です。
- 理解のポイント: 加熱されて内部の圧力が上がろうとしても、即座にピストンが動いて体積が増え、圧力が下がることで、結果的に \(P_{\text{内}} = P_{\text{外}}\) が維持されます。この「圧力一定」という条件が、すべての計算の出発点になります。
- 熱力学第一法則とエネルギー配分
- 核心: 定圧変化において、加えられた熱 \(Q\) は「内部エネルギーの増加 \(\Delta U\)」と「外部への仕事 \(W\)」に分配されます。
- 理解のポイント: 単原子分子理想気体の場合、その配分比率は常に決まっています。
- \(\Delta U : W : Q = \frac{3}{2}nR\Delta T : nR\Delta T : \frac{5}{2}nR\Delta T = 3 : 2 : 5\)
- この比率(3:2:5)を知っていると、計算の検算や、見通しを立てるのに非常に役立ちます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 鉛直置きのシリンダー: ピストンに重力がはたらく場合、力のつりあいの式が変わります。
- \(P_{\text{内}}S = P_{\text{外}}S + mg\) \(\rightarrow P_{\text{内}} = P_{\text{外}} + \frac{mg}{S}\)
- この場合も、\(P_{\text{外}}, m, g, S\) が一定なら、内部の圧力 \(P_{\text{内}}\) は一定(定圧変化)になります。
- ばね付きピストン: ピストンにばねが付いている場合、体積が変わるとばねの力が変わるため、圧力は一定になりません。この場合は \(P = P_0 + \frac{kx}{S}\) のように、圧力が体積(位置 \(x\))の関数になります。
- 鉛直置きのシリンダー: ピストンに重力がはたらく場合、力のつりあいの式が変わります。
- 初見の問題での着眼点:
- ピストンの拘束条件: 「固定されている(定積)」「自由に動く(定圧)」「ばねが付いている(非定圧)」のどれかを見極めます。
- 気体の種類: 「単原子分子」なら \(C_v = \frac{3}{2}R\)、それ以外(二原子分子など)なら \(C_v\) が与えられているか、あるいは一般の \(U\) を使うかを確認します。
- 状態方程式の活用: \(P, V, T\) のうち2つが決まれば残り1つは決まります。変化の前と後でそれぞれ状態方程式を立てるのが基本動作です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 仕事 \(W\) の計算ミス:
- 誤解: 定圧変化以外でも \(W = P\Delta V\) を使ってしまう。
- 対策: \(W = P\Delta V\) が使えるのは圧力が一定のときだけです。圧力が変化する場合(等温変化や断熱変化など)は、\(P-V\) グラフの面積を考えるか、第一法則 \(W = Q – \Delta U\) から逆算する必要があります。
- 温度変化 \(\Delta T\) の符号ミス:
- 誤解: 「変化量」を「初めの値 – 終わりの値」で計算してしまう。
- 対策: 変化量 \(\Delta\) は常に「後 – 前(Final – Initial)」です。温度が下がった場合は \(\Delta T < 0\) となり、\(\Delta U\) も \(Q\) も負(放熱)になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(力のつりあいと状態方程式):
- 選定理由: ピストンが静止していることから「力のつりあい」で圧力を決定し、その圧力を使って温度を求めるために「状態方程式」を使います。
- 適用根拠: 力学的な平衡状態と、熱力学的な平衡状態が同時に成立しているためです。
- (4)でのアプローチ選択(第一法則 vs 比熱):
- 選定理由(第一法則): \(\Delta U\) と \(W\) の物理的な意味(温度上昇と膨張)を個別に理解しやすく、基本に忠実な方法です。
- 選定理由(比熱 – 別解): 計算が速く、定圧変化という条件を直接利用できるため、慣れている人には最適です。
- 適用根拠: どちらもエネルギー保存則に基づいており、等価です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の展開と整理:
- \(P_0(Sl – Sl_0)\) のように括弧でくくったまま計算を進め、最後に展開するか、あるいは \(V_B – V_A\) のように文字のまま扱って最後に代入すると、式が煩雑にならずミスが減ります。
- 係数の確認:
- 単原子分子の定圧変化では、最終的な熱量 \(Q\) の係数が必ず \(\frac{5}{2}\) になります(\(PV\) や \(nRT\) に対して)。計算結果が \(\frac{3}{2}\) や \(1\) になっていたら、\(\Delta U\) か \(W\) のどちらかを足し忘れている可能性があります。
- 単位(次元)のチェック:
- 答えの \(P_0 S l_0\) は \((\text{力}/\text{面積}) \times \text{面積} \times \text{長さ} = \text{力} \times \text{長さ} = \text{仕事(エネルギー)}\) の次元を持っています。熱量 \(Q\) の答えとして正しい次元です。
問8
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(10)の別解: \(P-V\) グラフの面積を用いた解法
- 模範解答(および主たる解法)が各過程の仕事の和から正味の仕事を求めるのに対し、別解では \(P-V\) グラフの閉曲線(三角形)で囲まれた面積が1サイクルでの正味の仕事に等しいことを利用して計算します。
- 設問(10)の別解: \(P-V\) グラフの面積を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 計算の効率化: 3つの過程の仕事を個別に足し合わせるよりも、三角形の面積公式一発で求める方が速く、計算ミスも減らせます。
- 物理的直感の養成: 「サイクルの面積=仕事」という重要な概念を視覚的に理解できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「\(P-V\) グラフを用いた熱サイクルの解析」です。定積変化、定圧変化、および一般の変化(ここでは直線的な変化)における内部エネルギー、仕事、熱量の計算方法を習得し、最終的に熱効率を求めることが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー変化: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T = \frac{3}{2}\Delta(PV)\)
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W_{\text{out}}\)
- 仕事の計算: \(P-V\) グラフの面積が仕事を表す。
- 膨張(体積増) \(\rightarrow\) 正の仕事
- 圧縮(体積減) \(\rightarrow\) 負の仕事
- 定積(体積不変) \(\rightarrow\) 仕事は0
- 熱効率: \(e = \frac{\text{正味の仕事 } W_{\text{net}}}{\text{吸収した熱量の総和 } Q_{\text{in}}}\)
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各状態(A, B, C)における \(P, V\) の値から、\(PV\) の値を求めます。これを用いて内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) を計算します。
- 各過程(A\(\to\)B, B\(\to\)C, C\(\to\)A)について、グラフの面積から仕事 \(W\) を求めます。
- 第一法則を用いて、各過程での熱量 \(Q\) を求めます。
- 最後に、1サイクル全体での正味の仕事と、吸収した(\(Q>0\) となる)熱量の総和を用いて熱効率を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) を求めます。単原子分子理想気体なので、\(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) ですが、温度 \(T\) が与えられていないため、状態方程式 \(PV=nRT\) を用いて \(\Delta U = \frac{3}{2}\Delta(PV)\) と変形して計算します。
この設問における重要なポイント
- 状態A: \(P_0, V_0\)
- 状態B: \(2P_0, V_0\)
- 内部エネルギー変化の公式: \(\Delta U = \frac{3}{2}(P_BV_B – P_AV_A)\)
具体的な解説と立式
AからBへの変化における内部エネルギーの変化 \(\Delta U_{AB}\) は、
$$ \Delta U_{AB} = \frac{3}{2}(P_B V_B – P_A V_A) $$
グラフより、
- 状態A: \(P_A = P_0, V_A = V_0\)
- 状態B: \(P_B = 2P_0, V_B = V_0\)
これらを代入します。
$$ \Delta U_{AB} = \frac{3}{2}(2P_0 V_0 – P_0 V_0) $$
使用した物理公式
- 内部エネルギー変化: \(\Delta U = \frac{3}{2}\Delta(PV)\)
$$
\begin{aligned}
\Delta U_{AB} &= \frac{3}{2}(P_0 V_0) \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}P_0 V_0
\end{aligned}
$$
温度の代わりに圧力と体積を使ってエネルギーの変化を計算します。AからBへ行くと、体積はそのままで圧力が2倍になっています。\(PV\) の値も2倍になるので、エネルギーが増えます。
正の値なので内部エネルギーは増加しています。圧力が上がれば温度も上がるので妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
気体がした仕事 \(W\) を求めます。\(P-V\) グラフにおいて、体積が変化しない(定積変化)場合、仕事は \(0\) です。
この設問における重要なポイント
- A\(\to\)B は体積が \(V_0\) のまま一定である(定積変化)。
- 体積変化がない \(\rightarrow\) 仕事は \(0\)。
具体的な解説と立式
AからBへの変化は、グラフより体積が \(V_0\) で一定の定積変化です。
気体が外部へ仕事をするのは体積が膨張するときだけです。体積が変わらないので、移動距離が0であることと同じで、仕事は0になります。
$$ W_{AB} = 0 $$
使用した物理公式
- 定積変化の仕事: \(W = 0\)
計算不要。
ピストンが動いていない(体積が変わらない)ので、気体は仕事をしていません。
定積変化なので仕事は0です。
問(3)
思考の道筋とポイント
熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W\) を用いて、吸収した熱量 \(Q\) を求めます。(1)と(2)の結果を利用します。
この設問における重要なポイント
- 第一法則: \(Q_{AB} = \Delta U_{AB} + W_{AB}\)
具体的な解説と立式
熱力学第一法則より、
$$ Q_{AB} = \Delta U_{AB} + W_{AB} $$
(1)より \(\Delta U_{AB} = \frac{3}{2}P_0 V_0\)、(2)より \(W_{AB} = 0\) なので、
$$ Q_{AB} = \frac{3}{2}P_0 V_0 + 0 $$
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
$$ Q_{AB} = \frac{3}{2}P_0 V_0 $$
仕事をしていないので、加えた熱はすべて内部エネルギー(温度上昇)に使われました。
正の値なので吸熱です。
問(4)
思考の道筋とポイント
BからCへの変化について、(1)と同様に内部エネルギーの変化を求めます。
この設問における重要なポイント
- 状態B: \(2P_0, V_0\)
- 状態C: \(P_0, 2V_0\)
具体的な解説と立式
$$ \Delta U_{BC} = \frac{3}{2}(P_C V_C – P_B V_B) $$
グラフより、
- 状態B: \(P_B = 2P_0, V_B = V_0 \rightarrow P_B V_B = 2P_0 V_0\)
- 状態C: \(P_C = P_0, V_C = 2V_0 \rightarrow P_C V_C = 2P_0 V_0\)
これらを代入します。
$$ \Delta U_{BC} = \frac{3}{2}(2P_0 V_0 – 2P_0 V_0) $$
使用した物理公式
- 内部エネルギー変化: \(\Delta U = \frac{3}{2}\Delta(PV)\)
$$ \Delta U_{BC} = 0 $$
BとCでは、圧力×体積の値(\(PV\))が同じです。\(PV\) が同じなら温度も同じなので、内部エネルギーの変化はありません。
\(PV\) が一定なので等温変化のように見えますが、途中経路は等温線(双曲線)ではなく直線なので、厳密には等温変化ではありません。しかし、始点と終点の温度が同じなので \(\Delta U = 0\) となります。
問(5)
思考の道筋とポイント
BからCへの変化における仕事を求めます。\(P-V\) グラフの面積を利用します。B\(\to\)C は直線的な変化なので、グラフの下側の面積は台形になります。
この設問における重要なポイント
- 仕事 \(W\) = \(P-V\) グラフと横軸で囲まれた面積。
- 面積は台形(上底 \(P_0\)、下底 \(2P_0\)、高さ \(V_0\))として計算できる。
- 体積が増加しているので、正の仕事である。
具体的な解説と立式
BからCへの過程で、気体がした仕事 \(W_{BC}\) は、線分BCの下側の面積(台形の面積)に等しいです。
$$ W_{BC} = \frac{1}{2}(P_B + P_C)(V_C – V_B) $$
値を代入します。
$$ W_{BC} = \frac{1}{2}(2P_0 + P_0)(2V_0 – V_0) $$
使用した物理公式
- 仕事(グラフの面積): \(W = \int P dV\) (ここでは台形の面積公式)
$$
\begin{aligned}
W_{BC} &= \frac{1}{2}(3P_0)(V_0) \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}P_0 V_0
\end{aligned}
$$
グラフの線の下にある面積が仕事になります。形は台形なので、「(上底+下底)×高さ÷2」で計算できます。体積が増えているのでプラスの仕事です。
正の値であり、妥当です。
問(6)
思考の道筋とポイント
熱力学第一法則を用いて熱量を求めます。(4)と(5)の結果を利用します。
この設問における重要なポイント
- 第一法則: \(Q_{BC} = \Delta U_{BC} + W_{BC}\)
具体的な解説と立式
$$ Q_{BC} = \Delta U_{BC} + W_{BC} $$
(4)より \(\Delta U_{BC} = 0\)、(5)より \(W_{BC} = \frac{3}{2}P_0 V_0\) なので、
$$ Q_{BC} = 0 + \frac{3}{2}P_0 V_0 $$
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
$$ Q_{BC} = \frac{3}{2}P_0 V_0 $$
内部エネルギーが変わらないので、加えた熱はすべて仕事に使われました。
正の値なので吸熱です。
問(7)
思考の道筋とポイント
CからAへの変化について、内部エネルギーの変化を求めます。
この設問における重要なポイント
- 状態C: \(P_0, 2V_0\)
- 状態A: \(P_0, V_0\)
具体的な解説と立式
$$ \Delta U_{CA} = \frac{3}{2}(P_A V_A – P_C V_C) $$
値を代入します。
$$ \Delta U_{CA} = \frac{3}{2}(P_0 V_0 – 2P_0 V_0) $$
使用した物理公式
- 内部エネルギー変化: \(\Delta U = \frac{3}{2}\Delta(PV)\)
$$
\begin{aligned}
\Delta U_{CA} &= \frac{3}{2}(-P_0 V_0) \\[2.0ex]
&= -\frac{3}{2}P_0 V_0
\end{aligned}
$$
CからAへ戻ると、圧力は同じですが体積が半分になります。\(PV\) の値が減るので、エネルギーも減ります。
1サイクル(A\(\to\)B\(\to\)C\(\to\)A)での \(\Delta U\) の総和は \(\frac{3}{2}P_0V_0 + 0 + (-\frac{3}{2}P_0V_0) = 0\) となり、元に戻っていることが確認できます。
問(8)
思考の道筋とポイント
CからAへの変化における仕事を求めます。定圧変化です。
この設問における重要なポイント
- 圧力一定(\(P_0\))での圧縮。
- 仕事 \(W = P\Delta V\)。
- 体積が減少しているので、仕事は負になる。
具体的な解説と立式
CからAへの過程は定圧変化です。
$$ W_{CA} = P_0(V_A – V_C) $$
値を代入します。
$$ W_{CA} = P_0(V_0 – 2V_0) $$
使用した物理公式
- 定圧変化の仕事: \(W = P\Delta V\)
$$ W_{CA} = -P_0 V_0 $$
圧力が一定のまま縮んでいるので、気体は仕事をされています(負の仕事をしています)。大きさは長方形の面積 \(P_0 \times V_0\) です。
負の値であり、圧縮に対応しています。
問(9)
思考の道筋とポイント
熱力学第一法則を用いて熱量を求めます。(7)と(8)の結果を利用します。
この設問における重要なポイント
- 第一法則: \(Q_{CA} = \Delta U_{CA} + W_{CA}\)
具体的な解説と立式
$$ Q_{CA} = \Delta U_{CA} + W_{CA} $$
(7)より \(\Delta U_{CA} = -\frac{3}{2}P_0 V_0\)、(8)より \(W_{CA} = -P_0 V_0\) なので、
$$ Q_{CA} = -\frac{3}{2}P_0 V_0 + (-P_0 V_0) $$
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
$$
\begin{aligned}
Q_{CA} &= -\frac{5}{2}P_0 V_0
\end{aligned}
$$
エネルギーが減り、さらに仕事もされている(エネルギーをもらっているはずなのに減っている)ので、大量の熱を外に捨てている(放熱)ことになります。
負の値なので放熱です。問題文は「吸収した熱量」を求めているので、答えは負の値のまま答えます(「放出した熱量」を聞かれたら正の値にします)。
問(10)
思考の道筋とポイント
熱効率 \(e\) を求めます。定義式 \(e = \frac{W_{\text{net}}}{Q_{\text{in}}}\) に従い、1サイクルでの正味の仕事 \(W_{\text{net}}\) と、吸収した熱量の総和 \(Q_{\text{in}}\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 正味の仕事 \(W_{\text{net}}\): 各過程の仕事の代数和(\(W_{AB} + W_{BC} + W_{CA}\))。
- 吸収した熱量 \(Q_{\text{in}}\): \(Q > 0\) となる過程の熱量の和(放熱は含めない)。
- \(Q_{AB} > 0\)(吸熱)
- \(Q_{BC} > 0\)(吸熱)
- \(Q_{CA} < 0\)(放熱)
- よって \(Q_{\text{in}} = Q_{AB} + Q_{BC}\)。
具体的な解説と立式
1. 正味の仕事 \(W_{\text{net}}\)
$$
\begin{aligned}
W_{\text{net}} &= W_{AB} + W_{BC} + W_{CA} \\[2.0ex]
&= 0 + \frac{3}{2}P_0 V_0 + (-P_0 V_0) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}P_0 V_0
\end{aligned}
$$
2. 吸収した熱量の総和 \(Q_{\text{in}}\)
吸熱過程は A\(\to\)B と B\(\to\)C です。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{in}} &= Q_{AB} + Q_{BC} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}P_0 V_0 + \frac{3}{2}P_0 V_0 \\[2.0ex]
&= 3P_0 V_0
\end{aligned}
$$
3. 熱効率 \(e\)
$$ e = \frac{W_{\text{net}}}{Q_{\text{in}}} $$
値を代入します。
$$ e = \frac{\frac{1}{2}P_0 V_0}{3P_0 V_0} $$
使用した物理公式
- 熱効率: \(e = \frac{W_{\text{net}}}{Q_{\text{in}}}\)
$$
\begin{aligned}
e &= \frac{1/2}{3} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{6}
\end{aligned}
$$
このエンジンは、トータルで \(3P_0V_0\) の熱エネルギーをもらって、そのうち \(\frac{1}{2}P_0V_0\) だけを仕事として取り出すことができました。効率は「仕事÷もらった熱」で計算できるので、\(\frac{1}{6}\) になります。
熱効率は必ず \(0 < e < 1\) になります。\(\frac{1}{6}\) はこの範囲内です。
思考の道筋とポイント
1サイクルでした正味の仕事 \(W_{\text{net}}\) は、\(P-V\) グラフの閉曲線(三角形ABC)で囲まれた面積に等しいことを利用します。
この設問における重要なポイント
- 三角形ABCの面積 = \(W_{\text{net}}\)
- 底辺: \(2V_0 – V_0 = V_0\)
- 高さ: \(2P_0 – P_0 = P_0\)
具体的な解説と立式
正味の仕事 \(W_{\text{net}}\) は三角形ABCの面積です。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{net}} &= \frac{1}{2} \times \text{底辺} \times \text{高さ} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times (2V_0 – V_0) \times (2P_0 – P_0) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} P_0 V_0
\end{aligned}
$$
これは各過程の仕事の和と一致します。
吸収熱 \(Q_{\text{in}} = 3P_0 V_0\) は主たる解法と同様に求めます。
$$ e = \frac{\frac{1}{2}P_0 V_0}{3P_0 V_0} = \frac{1}{6} $$
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- \(P-V\) グラフの完全読解
- 核心: \(P-V\) グラフ上の「点」は状態(\(P, V, T, U\))を表し、「線」は変化(\(W, Q\))を表します。
- 理解のポイント:
- 状態量(点): \(P, V\) はグラフから直接読み取れます。\(T\) と \(U\) は \(PV\) に比例するので、原点から遠いほど高温・高エネルギーです。
- プロセス量(線): 線の下の面積が仕事 \(W\) です。右に進めば \(W>0\)(膨張)、左に進めば \(W<0\)(圧縮)です。
- 熱力学第一法則のサイクル適用
- 核心: 1周回って元の状態に戻ると、内部エネルギーの変化の総和は必ずゼロになります(\(\sum \Delta U = 0\))。
- 理解のポイント: これにより、1サイクルでの「正味の仕事 \(W_{\text{net}}\)」は「正味の吸熱量 \(Q_{\text{net}} = Q_{\text{in}} – Q_{\text{out}}\)」と等しくなります。熱効率の計算では、この関係性が背景にあります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 長方形サイクル: 定積変化と定圧変化のみで構成される最も基本的なサイクル。計算が簡単で、基礎確認に最適です。
- カルノーサイクル: 等温変化と断熱変化で構成される理想的なサイクル。曲線が含まれるため、仕事の計算には積分(または与えられた熱量)が必要になります。
- スターリングサイクル: 等温変化と定積変化の組み合わせ。再生器を用いることで高い理論効率を持ちます。
- 初見の問題での着眼点:
- 各頂点の座標 \((P, V)\) を確定する: これが全ての計算の出発点です。
- 各過程の種類を見極める:
- 垂直な線 \(\rightarrow\) 定積(\(W=0\))
- 水平な線 \(\rightarrow\) 定圧(\(W=P\Delta V\))
- 原点を通る直線 \(\rightarrow\) 比例(\(P=kV \rightarrow T \propto V^2\))
- 双曲線 \(\rightarrow\) 等温(\(PV=\text{一定}\))
- \(Q\) の符号(吸熱・放熱)を判定する: 熱効率の分母 \(Q_{\text{in}}\) には、\(Q>0\) の過程だけを足し合わせる必要があるため、各過程で熱が入っているか出ているかの判定が重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 熱効率の分母の取り違え:
- 誤解: 分母に「正味の熱量 \(Q_{\text{in}} – Q_{\text{out}}\)」を入れてしまう。これだと \(e = \frac{Q_{\text{in}} – Q_{\text{out}}}{Q_{\text{in}} – Q_{\text{out}}} = 1\) になってしまいます。
- 対策: 熱効率の定義は「投じたコスト(吸熱 \(Q_{\text{in}}\))に対して、どれだけのリターン(仕事 \(W_{\text{net}}\))があったか」です。捨てた熱 \(Q_{\text{out}}\) はコストの一部ではありませんが、リターンを減らす要因です。分母は必ず「入ってきた熱の合計」だけにします。
- 内部エネルギー変化 \(\Delta U\) の計算ミス:
- 誤解: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) の式を使いたいが、\(T\) がないので止まってしまう。
- 対策: 状態方程式 \(PV=nRT\) を使って、\(\Delta U = \frac{3}{2}\Delta(PV) = \frac{3}{2}(P_{\text{後}}V_{\text{後}} – P_{\text{前}}V_{\text{前}})\) と書き換えるテクニックを常備しておきましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)(4)(7)での公式選択(内部エネルギー):
- 選定理由: 温度 \(T\) が明示されていないため、\(P, V\) を直接使える \(\Delta U = \frac{3}{2}\Delta(PV)\) が最短ルートです。
- 適用根拠: 単原子分子理想気体であれば常に成立します。
- (10)でのアプローチ選択(定義式 vs 面積):
- 選定理由(定義式): 各過程の \(Q\) をすでに求めている場合、それらを足し合わせるのが自然な流れです。
- 選定理由(面積 – 別解): 仕事 \(W\) の計算が複雑な場合や、検算を行いたい場合に、グラフの面積(三角形や長方形)を利用すると瞬時に \(W_{\text{net}}\) が求まります。
- 適用根拠: \(P-V\) グラフの囲む面積が仕事になることは、積分の幾何学的意味から保証されています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- \(P_0 V_0\) をくくり出す:
- 計算の途中では、係数(\(\frac{3}{2}, 1, -\frac{5}{2}\) など)だけを計算し、最後に \(P_0 V_0\) を付けるようにすると、文字を書く手間が減り、ミスも防げます。
- 1周チェック:
- 全ての過程の \(\Delta U\) を足して \(0\) になるか、\(W\) の合計が面積と一致するか、\(Q\) の合計が \(W\) の合計と一致するか(\(\sum Q = \sum W\))を確認することで、計算の信頼性を盤石にできます。
問9
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 波面の間隔を用いた幾何学的な解法
- 模範解答(および主たる解法)がスネルの法則(屈折の法則)の公式を用いて計算するのに対し、別解では波面の間隔(波長)と角度の幾何学的な関係を図形的に捉えて屈折率を導出します。
- 設問(1)の別解: 波面の間隔を用いた幾何学的な解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的直感の養成: 公式の暗記だけでなく、なぜ屈折が起こるのか、波長と角度がどのように関係しているのかを視覚的に理解できます。
- 応用力の向上: ホイヘンスの原理に基づく作図問題など、公式だけでは対応しにくい問題への応用力が身につきます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「波の屈折」です。異なる媒質の境界面で波の進行方向が変わる現象(屈折)について、入射角、屈折角、波長、速さ、振動数の関係を理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 屈折の法則(スネルの法則): 媒質1に対する媒質2の屈折率を \(n_{12}\) とすると、入射角 \(i\)、屈折角 \(r\)、媒質1での速さ \(v_1\)、波長 \(\lambda_1\)、媒質2での速さ \(v_2\)、波長 \(\lambda_2\) の間には以下の関係が成り立ちます。
$$ n_{12} = \frac{\sin i}{\sin r} = \frac{v_1}{v_2} = \frac{\lambda_1}{\lambda_2} $$ - 入射角と屈折角の定義: 入射角 \(i\) と屈折角 \(r\) は、境界面の法線と波の進行方向とのなす角です。これは図形的に、境界面と波面とのなす角と等しくなります。
- 振動数の不変性: 波が屈折しても、振動数 \(f\) は変化しません(\(f_1 = f_2\))。
- 波の基本公式: \(v = f\lambda\)
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、図から入射角 \(i\) と屈折角 \(r\) を読み取り、屈折の法則を用いて屈折率 \(n_{12}\) を計算します。
- (2)では、媒質1での波長 \(\lambda_1\) と振動数 \(f_1\) が与えられているので、波の基本公式 \(v = f\lambda\) を用いて速さ \(v_1\) を求めます。
- (3)では、屈折の法則を用いて媒質2での波長 \(\lambda_2\) と速さ \(v_2\) を求めます。振動数 \(f_2\) は媒質1と同じです。
問(1)
思考の道筋とポイント
まず、図から入射角 \(i\) と屈折角 \(r\) を正しく読み取ります。問題の図には「波面と境界面のなす角」が示されていますが、これは幾何学的に「入射角・屈折角」と等しいことを利用します。
この設問における重要なポイント
- 入射角 \(i\): 入射波の波面と境界面のなす角(\(45^\circ\))。
- 屈折角 \(r\): 屈折波の波面と境界面のなす角(\(30^\circ\))。
- 屈折率の定義式: \(n_{12} = \frac{\sin i}{\sin r}\)。
具体的な解説と立式
図より、入射波の波面と境界面のなす角は \(45^\circ\) です。これは入射角 \(i\) に等しいので、
$$ i = 45^\circ $$
同様に、屈折波の波面と境界面のなす角は \(30^\circ\) です。これは屈折角 \(r\) に等しいので、
$$ r = 30^\circ $$
媒質1に対する媒質2の屈折率 \(n_{12}\) は、屈折の法則より、
$$ n_{12} = \frac{\sin i}{\sin r} $$
値を代入します。
$$ n_{12} = \frac{\sin 45^\circ}{\sin 30^\circ} $$
使用した物理公式
- 屈折の法則: \(n_{12} = \frac{\sin i}{\sin r}\)
$$
\begin{aligned}
n_{12} &= \frac{1/\sqrt{2}}{1/2} \\[2.0ex]
&= \frac{2}{\sqrt{2}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2}
\end{aligned}
$$
問題文より \(\sqrt{2} = 1.4\) とするので、
$$ n_{12} = 1.4 $$
波の進む向きと波面は垂直です。図の角度(波面と境界線の角度)は、そのまま入射角と屈折角として使えます。あとは公式 \(\frac{\sin(\text{入射角})}{\sin(\text{屈折角})}\) に当てはめて計算するだけです。
屈折率が \(1.4\)(\(>1\))なので、媒質2の方が波が進みにくい(波長が縮む)媒質であることがわかります。これは角度が \(45^\circ \to 30^\circ\) と小さくなっていることと整合します。
思考の道筋とポイント
ホイヘンスの原理の作図をイメージし、波面の間隔(波長)と境界面上の共通の長さとの関係から屈折率を導きます。
この設問における重要なポイント
- 境界面上の長さを \(L\) とする。
- 媒質1での波長 \(\lambda_1 = L \sin i\)
- 媒質2での波長 \(\lambda_2 = L \sin r\)
具体的な解説と立式
境界面上の適当な長さ(例えば波面が境界面と交わる2点間の距離)を \(L\) とします。
直角三角形の幾何学的関係から、
媒質1での波長(波面間隔)\(\lambda_1\) は、
$$ \lambda_1 = L \sin 45^\circ $$
媒質2での波長(波面間隔)\(\lambda_2\) は、
$$ \lambda_2 = L \sin 30^\circ $$
屈折率 \(n_{12}\) は波長の比 \(\frac{\lambda_1}{\lambda_2}\) で定義されるので、
$$
\begin{aligned}
n_{12} &= \frac{\lambda_1}{\lambda_2} \\[2.0ex]
&= \frac{L \sin 45^\circ}{L \sin 30^\circ} \\[2.0ex]
&= \frac{\sin 45^\circ}{\sin 30^\circ}
\end{aligned}
$$
これはスネルの法則と同じ式になります。
問(2)
思考の道筋とポイント
媒質1における波の速さを求めます。波長と振動数が与えられているので、波の基本公式を使います。
この設問における重要なポイント
- 波長 \(\lambda_1 = 2.0\,\text{cm}\)
- 振動数 \(f_1 = 25\,\text{Hz}\)
- 公式 \(v = f\lambda\)
具体的な解説と立式
媒質1での波の速さ \(v_1\) は、
$$ v_1 = f_1 \lambda_1 $$
値を代入します。
$$ v_1 = 25 \times 2.0 $$
使用した物理公式
- 波の基本公式: \(v = f\lambda\)
$$ v_1 = 50\,\text{cm/s} $$
1秒間に25個の波が出て、1つの波の長さが2.0cmなので、1秒間に進む距離(速さ)は \(25 \times 2.0\) で求まります。
単位も \(\text{Hz} \times \text{cm} = (1/\text{s}) \times \text{cm} = \text{cm/s}\) となり正しいです。
問(3)
思考の道筋とポイント
媒質2における波長 \(\lambda_2\)、振動数 \(f_2\)、速さ \(v_2\) を求めます。
振動数は媒質が変わっても変化しません。波長と速さは屈折率を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- 振動数は不変: \(f_2 = f_1\)
- 屈折の法則: \(n_{12} = \frac{\lambda_1}{\lambda_2} = \frac{v_1}{v_2}\)
具体的な解説と立式
1. 波長 \(\lambda_2\)
屈折の法則より、
$$ n_{12} = \frac{\lambda_1}{\lambda_2} $$
よって、
$$ \lambda_2 = \frac{\lambda_1}{n_{12}} $$
値を代入します。\(n_{12} = \sqrt{2}\) を使うと計算誤差が少なくなります。
$$ \lambda_2 = \frac{2.0}{\sqrt{2}} $$
2. 振動数 \(f_2\)
波が屈折しても振動数は変化しません。
$$ f_2 = f_1 = 25\,\text{Hz} $$
3. 速さ \(v_2\)
屈折の法則より、
$$ n_{12} = \frac{v_1}{v_2} $$
よって、
$$ v_2 = \frac{v_1}{n_{12}} $$
値を代入します。
$$ v_2 = \frac{50}{\sqrt{2}} $$
(あるいは \(v_2 = f_2 \lambda_2 = 25 \times 1.4\) で計算してもよいですが、ルートのまま計算する方が正確です)
使用した物理公式
- 屈折の法則: \(n_{12} = \frac{\lambda_1}{\lambda_2} = \frac{v_1}{v_2}\)
- 振動数不変の原理: \(f_1 = f_2\)
波長 \(\lambda_2\):
$$
\begin{aligned}
\lambda_2 &= \frac{2.0}{1.41\dots} \approx \frac{2.0}{1.4} \\[2.0ex]
&= 1.42\dots \approx 1.4\,\text{cm}
\end{aligned}
$$
(正確には \(\sqrt{2} \approx 1.41\) なので \(1.4\))
速さ \(v_2\):
$$
\begin{aligned}
v_2 &= \frac{50}{1.41\dots} \approx \frac{50}{1.4} \\[2.0ex]
&= 35.7\dots \approx 36\,\text{cm/s}
\end{aligned}
$$
あるいは \(v_2 = 25 \times 1.41\dots = 35.25\dots\)
ここで有効数字2桁の処理に注意が必要です。
問題文で \(\sqrt{2}=1.4\) と指定されているので、これに従います。
\(\lambda_2 = 2.0 / 1.4 = 1.42\dots \rightarrow 1.4\,\text{cm}\)
\(v_2 = 50 / 1.4 = 35.7\dots \rightarrow 36\,\text{cm/s}\)
媒質2に入ると、波は「進みにくく」なります。屈折率が1.4なので、波長も速さも \(1/1.4\) 倍に縮みます。ただし、波のリズム(振動数)だけは変わりません。
波長は \(2.0 \to 1.4\)、速さは \(50 \to 36\) と小さくなっており、屈折率 \(>1\) の媒質に入ったことと整合します。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 屈折の法則(スネルの法則)の完全理解
- 核心: 異なる媒質へ波が進むとき、「振動数 \(f\) は変わらない」が、「速さ \(v\) と波長 \(\lambda\) は変化する」という性質が全ての基礎です。
- 理解のポイント:
- 屈折率 \(n_{12}\) は「媒質1に対する媒質2の相対屈折率」であり、\(n_{12} = \frac{v_1}{v_2} = \frac{\lambda_1}{\lambda_2} = \frac{\sin i}{\sin r}\) という3つの比が全て等しくなります。
- 「速い媒質(疎)から遅い媒質(密)へ入るとき」は、角度が小さくなり(\(i > r\))、波長が縮みます。逆の場合は角度が大きくなります。
- 波面と進行方向の幾何学的関係
- 核心: 波の進行方向(射線)は、常に波面に対して垂直です。
- 理解のポイント: 問題図で与えられる角度が「波面と境界線のなす角」であっても、それは幾何学的に「進行方向と法線のなす角(入射角・屈折角)」と等しくなります。この図形的性質を知っていると、作図や角度の読み取りが瞬時に行えます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 光の屈折: 水面波だけでなく、光ファイバーやレンズの問題でも全く同じ法則が使えます。特に全反射(\(r=90^\circ\) となる現象)は頻出です。
- 音の屈折: 気温による音速の違いで音が曲がる現象も、この法則で説明できます(高温=速い、低温=遅い)。
- ホイヘンスの原理: 波面上の各点から素元波が出て、その包絡線が次の波面になるという作図原理。屈折の法則を導出する際や、障害物がある場合の回折を考える際に使います。
- 初見の問題での着眼点:
- 角度の定義を確認する: 与えられた角度が「法線との角(入射角)」なのか「境界線との角」なのかを必ず確認します。もし境界線との角なら、そのまま入射角として使えます(あるいは \(90^\circ – \theta\) で計算)。
- 媒質の疎密(速さ)を予測する: 角度が大きい方(\(45^\circ\))が速い媒質、小さい方(\(30^\circ\))が遅い媒質です。計算結果がこれと矛盾していないか(\(v_2 < v_1\) になっているか)を常にチェックします。
- 振動数不変の原則: どんなに複雑な屈折や反射を繰り返しても、波源が変わらない限り振動数 \(f\) は一定です。これを計算の軸にします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 屈折率の定義の逆転:
- 誤解: \(n_{12} = \frac{\sin r}{\sin i}\) や \(n_{12} = \frac{v_2}{v_1}\) と分母分子を逆にしてしまう。
- 対策: 「屈折率 \(n\) が大きい=進みにくい=角度・速さ・波長が小さくなる」とイメージします。\(n > 1\) なら、分母(媒質2の量)の方が小さくなるはずです。
- 角度の読み取りミス:
- 誤解: 図の \(30^\circ\) や \(45^\circ\) を使わず、余角(\(60^\circ\) や \(45^\circ\))を使ってしまう。
- 対策: 波面と境界線のなす角は、そのまま入射角・屈折角です。迷ったら、進行方向の矢印を書き足し、法線との角度を測り直すのが確実です。
- 有効数字とルートの扱い:
- 誤解: 計算途中で \(\sqrt{2} = 1.414\dots\) を早めに丸めてしまい、最終的な答えの精度が落ちる。
- 対策: 可能な限りルートや分数のまま計算を進め、最後に数値を代入して有効数字を処理します。特に \(\sqrt{2}\) や \(\sqrt{3}\) が指定されている場合は、その指示に従って代入します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(スネルの法則):
- 選定理由: 角度の情報(\(45^\circ, 30^\circ\))から屈折率を求める唯一の手段だからです。
- 適用根拠: 波の屈折現象において、角度の正弦(sin)の比が屈折率になることは実験的・理論的に確立された法則です。
- (2)での公式選択(波の基本公式):
- 選定理由: 媒質1の中だけの話であり、波長と振動数が既知なので、\(v=f\lambda\) を使うのが最も直接的です。
- (3)でのアプローチ選択(屈折率の利用):
- 選定理由: 媒質2の情報は屈折率(または媒質1との関係)を通してしか得られないため、\(n_{12} = \frac{\lambda_1}{\lambda_2} = \frac{v_1}{v_2}\) を使います。
- 適用根拠: 屈折率は、単なる角度の比ではなく、波の速さや波長の比そのものを表す物理量だからです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三角比の値の確認:
- \(\sin 30^\circ = 1/2, \sin 45^\circ = 1/\sqrt{2}\) などの基本値を瞬時に出せるようにしておきます。単位円を描いて確認する癖をつけるとミスが減ります。
- 単位の確認:
- 波長が cm、速さが cm/s なので、単位換算(mへの直し)は不要ですが、もし m/s で答えるよう指示があった場合は \(10^{-2}\) の補正が必要です。問題文の単位を丸で囲むなどして注意を喚起しましょう。
- 検算のテクニック:
- \(v = f\lambda\) の関係が媒質2でも成り立っているか確認します。
- \(36 \approx 25 \times 1.4\) (\(35\))となり、おおよそ合っていることが確認できます(有効数字の丸め誤差の範囲内)。