今回の問題
dynamics#25【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「運動方程式の立式と計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式 (\(ma=F\)): 物体の運動を記述する最も基本的な法則です。質量\(m\)の物体に合力\(F\)がはたらくと、物体は加速度\(a\)で運動します。
- 合力: 物体にはたらく全ての力をベクトル的に足し合わせたものです。運動方程式の\(F\)には、この合力を代入します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず気球にはたらく力を全て特定します(この場合は重力と浮力)。次に、問題の指示に従って上向きを正とし、各力の符号に注意しながら合力を求め、運動方程式の形にまとめます。
- (2)では、(1)で立てた運動方程式を、未知数である加速度\(a\)について解き、具体的な数値を代入して計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
運動方程式 \(ma=F\) を立てる問題です。この式の各要素を、問題の状況に合わせて具体的に表現していきます。
- 左辺の\(m\)と\(a\): 質量は\(70\) kg、加速度は\(a\)と与えられているので、左辺は \(70a\) となります。
- 右辺の\(F\)(合力): 気球にはたらく力は、上向きの「浮力」と下向きの「重力」です。「上向きを正」とするので、浮力は正の値、重力は負の値として足し合わせます。
これらを等号で結べば、運動方程式が完成します。
この設問における重要なポイント
- 物体にはたらく力を全て見つけ出す。
- 座標軸の正の向きに従って、各力の符号を正しく決定する。
- 合力は、符号を考慮した力の総和である。
具体的な解説と立式
気球にはたらく力は以下の2つです。
- 浮力: 大きさは \(784\) N。向きは上向きなので、正の向きに \(+784\) N。
- 重力: 大きさは \(mg\)。向きは下向きなので、正の向きとは逆向きに \(-mg\)。
したがって、気球にはたらく合力 \(F_{合力}\) は、
$$ F_{合力} = 784 – mg $$
運動方程式 \(ma = F_{合力}\) に、質量 \(m=70\) kg を代入して立式します。
$$ 70a = 784 – mg $$
ここで、重力加速度の大きさ \(g=9.8 \, \text{m/s}^2\) を代入すると、
$$ 70a = 784 – 70 \times 9.8 \quad \cdots ① $$
これが求める運動方程式です。
- 運動方程式: \(ma = F_{合力}\)
- 重力: \(W = mg\)
この設問では、式を立てることがゴールなので、式①が解答となります。
運動方程式は「質量 × 加速度 = 力の合計」というルールです。
- 「質量」は70kg、「加速度」は\(a\)なので、左側は \(70 \times a\)。
- 「力の合計」は、上向きをプラスとすると、上向きの浮力(784 N)と下向きの重力(\(-70 \times 9.8\) N)を足したもの。
これらをイコールで結ぶと、\(70a = 784 – 70 \times 9.8\) という式ができます。
気球の運動方程式は \(70a = 784 – 70 \times 9.8\) です。左辺が \(ma\)、右辺が合力を表すという基本形に正しく従っています。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で立てた運動方程式を解いて、加速度\(a\)の値を求めます。まず方程式の右辺(合力)を計算し、最後に両辺を質量で割ることで、加速度が求まります。
この設問における重要なポイント
- 四則演算を正確に行う。
- 計算結果の符号が、加速度の向きを表すことを理解する。
具体的な解説と立式
(1)で立てた運動方程式を再掲します。
$$ 70a = 784 – 70 \times 9.8 $$
この方程式を\(a\)について解きます。
- 運動方程式: \(ma = F_{合力}\)
まず、方程式の右辺を計算します。
$$
\begin{aligned}
70 \times 9.8 &= 686
\end{aligned}
$$
したがって、運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
70a &= 784 – 686 \\[2.0ex]70a &= 98
\end{aligned}
$$
両辺を70で割って\(a\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{98}{70} \\[2.0ex]&= 1.4
\end{aligned}
$$
したがって、気球の加速度は \(1.4 \, \text{m/s}^2\) となります。
(1)で作った式 \(70a = 784 – 70 \times 9.8\) を計算します。まず右側の力の計算をすると、\(784 – 686 = 98\) となります。式は \(70a = 98\) となるので、\(a = 98 \div 70 = 1.4\) と計算できます。
気球の加速度は \(1.4 \, \text{m/s}^2\) です。計算結果が正の値なので、加速度の向きは設定した正の向き、すなわち上向きであることがわかります。浮力が重力より大きい(\(784 > 686\))ので、気球が上に加速していくという結果は物理的に妥当です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式の立式プロセス:
- 核心: この問題は、運動方程式 \(ma=F\) を立てるための一連の思考プロセスを正しく実行できるかを問うています。そのプロセスとは、(1)物体に着目し、(2)物体にはたらく力を全て見つけ出し、(3)座標軸を設定し、(4)力の合力を計算し、(5)運動方程式を立てる、という手順です。
- 理解のポイント: 運動方程式は単に \(F=ma\) という式を覚えるだけでは不十分です。様々な状況において、右辺の合力\(F\)を正しく表現できることが最も重要です。そのためには、力の図示と座標軸の設定が不可欠となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- エレベーター内の物体: 加速上昇・下降するエレベーターの中で、物体にはたらく垂直抗力や、ばねばかりが示す値を求める問題。観測者がエレベーター内にいる場合は慣性力を考慮する必要がありますが、地上から見れば、物体にはたらく重力と垂直抗力(または張力)の合力で運動方程式を立てます。
- 斜面上の物体: 斜面上を滑り降りる物体にはたらく重力、垂直抗力、摩擦力を考え、運動方程式を立てる問題。この場合は、斜面に平行な方向と垂直な方向に力を分解し、それぞれの方向で運動方程式や力のつり合いの式を立てます。
- 初見の問題での着眼点:
- 主語(着目物体)を明確にする: 「何が」運動するのかをまず確定します。この問題では「気球」です。
- 力を漏れなくリストアップする: 着目物体にはたらく力を全て探し出します。「触れているものからの力(この問題では浮力)」と「離れていてもはたらく力(重力)」に分けて考えると、見落としが減ります。
- 座標軸を設定する: 運動の方向(またはその逆)に軸をとり、どちら向きを正とするかを宣言します。これにより、力の符号が自動的に決まります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の見落とし:
- 誤解: 浮力だけに注目してしまい、常に存在するはずの重力を見落とす。
- 対策: 質量を持つ物体には、必ず重力がはたらくことを常に念頭に置きましょう。力を探すときは、まず最初に重力を書き込む癖をつけると良いです。
- 合力の計算ミス:
- 誤解: 力の向きを考えず、力の大きさを単純に足したり引いたりしてしまう。例えば、\(784+686\) のように計算してしまう。
- 対策: 座標軸を設定し、「正の向きと同じならプラス、逆ならマイナス」というルールを機械的に適用しましょう。これにより、合力の計算ミスを防げます。
- 質量と重さの混同:
- 誤解: 運動方程式の右辺で、重力\(mg\)を計算すべきところを、質量\(m\)のまま引いてしまう(例: \(70a = 784 – 70\))。
- 対策: 運動方程式の右辺は「力」の総和です。質量[kg]は力ではないので、必ず重力加速度\(g\)を掛けて力[N]に変換してから、他の力と足し引きする必要があります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式 \(ma=F_{合力}\):
- 選定理由: この問題は、物体にはたらく力と、その結果生じる運動(加速度)の関係を問うています。この因果関係を記述する唯一の基本法則が運動方程式です。
- 適用根拠: 物理学では、物体の運動状態の変化(加速度)は、必ず力の作用によって引き起こされると考えます。運動方程式は、その「原因(力)」と「結果(加速度)」を、「質量(物体の動きにくさ)」を介して結びつける、力学の根幹をなす関係式です。したがって、力と運動の関係を扱う問題では、常にこの法則が思考の出発点となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 各項を先に計算する: (2)で \(a = \frac{784 – 70 \times 9.8}{70}\) を計算する際、まず \(70 \times 9.8 = 686\) を計算し、次に引き算 \(784 – 686 = 98\)、最後に割り算 \(98 \div 70 = 1.4\) と、計算をステップに分けて行うとミスが減ります。
- 単位の確認: 右辺の合力 \(784 – 686\) の単位は[N]です。これを質量[kg]で割るので、加速度の単位は[N/kg]となります。\(1 \text{ N} = 1 \text{ kg} \cdot \text{m/s}^2\) なので、[N/kg] = [\(\text{m/s}^2\)] となり、加速度の単位と一致することを確認できます。
- 物理的な意味で検算: 浮力(784 N)が重力(686 N)より大きいので、気球は上に加速するはずです。計算結果の加速度が正の値になったことで、この予測と一致していることを確認できます。
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