問題の確認
dynamics#27各設問の思考プロセス
この問題は、滑車を介して糸でつながれた2つの物体が連動して運動する、力学における典型的な「連結物体の運動」の問題です。それぞれの物体に注目して運動方程式を立て、それらを連立させて解くのが基本的なアプローチとなります。
この問題を解く上で中心となる物理法則は「ニュートンの運動の第二法則(運動方程式)」です。
$$ma = F_{\text{合力}}$$
この問題を解くための手順は以下の通りです。
- 力の図示と座標軸の設定: まず、物体Aと物体Bそれぞれにはたらく力を矢印で図示します(フリーボディダイアグラム)。次に、それぞれの運動の向きを正とする座標軸を設定すると、式が立てやすくなります。
- 物体A: 右向きを正とする。
- 物体B: 下向きを正とする。
こうすることで、両方の物体の加速度 \(a\) を同じ正の値として扱うことができます。
- (1) 運動方程式の立式: AとB、それぞれについて運動方程式(\(ma = F_{\text{合力}}\))を立てます。これにより、未知数である加速度\(a\)と張力\(T\)を含む2つの式が得られます。
- (2), (3) 連立方程式の求解: (1)で立てた2つの式を連立方程式として解き、加速度 \(a\) と張力 \(T\) を求めます。一般に、2つの式を足し合わせると \(T\) が消去できるため、\(a\) を簡単に求めることができます。その後、求めた \(a\) をどちらかの式に代入して \(T\) を求めます。
各設問の具体的な解説と解答
(1) A,Bそれぞれについて運動方程式を書け。
問われている内容の明確化
物体Aと物体B、それぞれについての運動方程式を、加速度 \(a\) と張力 \(T\) を用いて記述します。
具体的な解説と立式
物体Aの運動方程式
物体Aにはたらく水平方向の力は、糸がAを引く張力 \(T\) のみです。Aの運動の向き(右向き)を正とすると、
$$(\text{Aの質量}) \times (\text{Aの加速度}) = (\text{Aにはたらく合力})$$
$$Ma = T \quad \cdots ①$$
(鉛直方向には重力と垂直抗力がはたらきますが、これらはつり合っており、水平方向の運動には影響しません。)
物体Bの運動方程式
物体Bには、鉛直下向きに重力 \(mg\)、鉛直上向きに糸の張力 \(T\) がはたらきます。Bの運動の向き(下向き)を正とすると、重力 \(mg\) は正の力、張力 \(T\) は負の力となります。
$$(\text{Bの質量}) \times (\text{Bの加速度}) = (\text{Bにはたらく合力})$$
$$ma = mg – T \quad \cdots ②$$
$$ma = F_{\text{合力}}$$
計算過程
この設問では式を立てることまでが求められているため、上記の式①と式②が解答となります。
計算方法の平易な説明
- 物体Aについて: 水平方向には、糸が引く力Tしかはたらいていません。したがって、Aの運動方程式は「Aの質量M × 加速度a = T」となります。
- 物体Bについて: 下向きに重力mg、上向きに糸が引く力Tがはたらいています。下向きをプラスと決めると、Bにはたらく力の合計(合力)は「mg – T」となります。したがって、Bの運動方程式は「Bの質量m × 加速度a = mg – T」となります。
この設問における重要なポイント
- 物体ごとにはたらく力を正しく見つけ出し、図示できること。
- それぞれの物体の運動方向を正として、力の向きを正負の符号で運動方程式に反映させること。
物体A: \(Ma = T\)
物体B: \(ma = mg – T\)
(2) 生じた加速度はいくらか。
問われている内容の明確化
(1)で立てた連立方程式を解いて、加速度 \(a\) を求めます。
具体的な解説と立式
(1)で立てた2つの運動方程式を再掲します。
$$Ma = T \quad \cdots ①$$
$$ma = mg – T \quad \cdots ②$$
この2つの式を足し合わせることで、未知数 \(T\) を消去し、\(a\) についての方程式を導きます。
$$(Ma) + (ma) = (T) + (mg – T)$$
使用した物理法則: 運動方程式の連立
複数の運動方程式を連立させて未知数を解く
計算過程
上の式を整理します。
$$
\begin{aligned}
Ma + ma &= T + mg – T \\[2.0ex](M+m)a &= mg
\end{aligned}
$$
この式を加速度 \(a\) について解きます。
$$
a = \frac{mg}{M+m}
$$
計算方法の平易な説明
- (1)で立てた2つの式(\(Ma = T\) と \(ma = mg – T\))を、左辺どうし、右辺どうしで足し算します。
- すると、右辺の \(+T\) と \(-T\) が打ち消し合って、\( (M+m)a = mg \) という簡単な式になります。
- この式を \(a\) について解けば、加速度が求まります。
この設問における重要なポイント
- 連立方程式を解いて未知数を求めること。特に、2式を足し算(または引き算)して片方の未知数を消去するテクニックは頻繁に用います。
\(\displaystyle a = \frac{mg}{M+m}\)
(3) 糸が引く力はいくらか。
問われている内容の明確化
(1)で立てた連立方程式を解いて、糸の張力 \(T\) を求めます。
具体的な解説と立式
(2)で加速度 \(a\) が求まったので、これを運動方程式①または②に代入することで、張力 \(T\) を求めることができます。式① \(T=Ma\) を使うのが最も簡単です。
$$T = Ma$$
この式の \(a\) に、(2)で求めた \(a = \frac{mg}{M+m}\) を代入します。
計算過程
$$
\begin{aligned}
T &= M \times a \\[2.0ex]&= M \left( \frac{mg}{M+m} \right) \\[2.0ex]&= \frac{Mmg}{M+m}
\end{aligned}
$$
計算方法の平易な説明
- (2)で加速度aがわかったので、これを(1)で作った式のどちらかに代入すればTが求まります。
- 簡単なのはAの運動方程式 \(Ma=T\) です。このaに(2)の答えを代入するだけで、Tが計算できます。
この設問における重要なポイント
- 一つの未知数が求まれば、それを元の式に代入することで、もう一方の未知数も求められること。
- より簡単な式に代入することで、計算ミスを減らせること。
\(\displaystyle T = \frac{Mmg}{M+m}\)
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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- ニュートンの運動の第二法則(運動方程式): 力学の基本中の基本。物体ごとに正しく立式できることが全ての出発点です。
- 作用・反作用の法則(ニュートンの第三法則): この問題では直接意識しませんが、Aが糸を引く力と糸がAを引く力、Bが糸を引く力と糸がBを引く力は、それぞれ作用・反作用の関係にあります。
- 内力と外力: 2物体を一つの系と見なした場合、張力Tは系内部の力(内力)となり、系全体の運動を考える上では相殺されます。一方、物体Bにはたらく重力 \(mg\) は、系全体を動かす外力として作用します。
- 運動の拘束条件: 「糸が伸び縮みしない」という条件によって、2つの物体の加速度の大きさが等しくなります。このような、運動を束縛する条件を正しく見抜くことが重要です。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- まず、物体ごとに力を図示する: どんな問題でも、まずフリーボディダイアグラム(物体にはたらく全ての力を矢印で示した図)を描くことが最も重要です。
- 次に、物体ごとに運動方程式を立てる: 図を見ながら、それぞれの物体について \(ma = F_{\text{合力}}\) の式を立てます。
- 最後に、連立方程式を解く: 得られた式を数学的に解いて、未知数を求めます。2つの式を足したり引いたりして、未知数を一つ消去するのが定石です。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 張力Tの扱い: 糸の両端で物体を引く張力は、同じ一つの糸であれば同じ大きさ \(T\) です。これを \(T_A, T_B\) のように別々の文字で置いてしまうと、式が複雑になります。
- 物体Aにはたらく力: 物体Aを動かしているのは、物体Bの重力 \(mg\) が直接はたらいているのではなく、あくまで糸の張力 \(T\) です。Aの運動方程式を \(Ma=mg\) としないように注意が必要です。
- 物体Bにはたらく合力: Bにはたらく合力は、重力 \(mg\) ではなく、重力と張力の差 \(mg-T\) です。物体が運動している場合、力はつり合っていません (\(T \neq mg\))。
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