今回の問題
dynamics#03【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「相対速度」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 速度のベクトル表現: 運動の向きを正負の符号で表すため、まず座標軸(例:東向きを正)を設定します。これにより、速度を向きの情報を含んだ数値として扱えます。
- 相対速度の公式: 観測者Aから見た物体Bの相対速度 \(v_{AB}\) は、物体Bの速度 \(v_B\) から観測者Aの速度 \(v_A\) を引くことで求められます。(\(v_{AB} = v_B – v_A\))
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、東西方向の運動を表すために、東向きを正(+)、西向きを負(-)として座標軸を設定します。
- 次に、各物体(A, B, C)の速度を、設定した座標軸に従って符号付きの数値で表します。
- 最後に、それぞれの問いに対して相対速度の公式を適用し、計算します。計算結果の符号が相対的な運動の向きを示します。
準備:座標軸の設定と各物体の速度の整理
思考の道筋とポイント
相対速度の問題を解く第一歩は、全ての物体の速度を同じ基準(座標軸)で表現することです。ここでは、水平方向の運動を扱うため、東向きを正、西向きを負と設定します。このルールに従って、問題文で与えられた各物体の「速さ」と「向き」を、符号付きの「速度」に変換します。この準備を正確に行うことが、後の計算ミスを防ぐ鍵となります。
具体的な解説と立式
座標軸を東向きを正(+)、西向きを負(-)と設定します。
この設定に基づき、各物体の速度を表現すると以下のようになります。
- 列車A: 西向きに速さ \(30\) m/s なので、速度 \(v_A = -30\) m/s
- 自動車B: 東向きに速さ \(15\) m/s なので、速度 \(v_B = +15\) m/s
- 自動車C: 西向きに速さ \(20\) m/s なので、速度 \(v_C = -20\) m/s
以降の計算では、これらの符号付きの速度の値を使用します。
Aから見たBの速度 \(v_{AB}\)
思考の道筋とポイント
「Aから見たBの速度」を求めます。これは、観測者がA、観測対象がBであることを意味します。相対速度の公式 \(v_{AB} = v_B – v_A\) に、準備段階で整理した速度の値を代入して計算します。
この設問における重要なポイント
- 観測者はA、観測対象はB。
- 公式は「(相手の速度) – (自分の速度)」。引き算の順序を間違えない。
- 符号の計算、特に負の数を引く操作(例: \(-(-30)\))を正確に行う。
具体的な解説と立式
Aから見たBの相対速度 \(v_{AB}\) は、Bの速度 \(v_B\) からAの速度 \(v_A\) を引くことで求められます。
$$ v_{AB} = v_B – v_A \quad \cdots ① $$
- 相対速度の公式: \(v_{AB} = v_B – v_A\)
準備で求めた \(v_A = -30\) m/s, \(v_B = +15\) m/s を式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
v_{AB} &= (+15) – (-30) \\[2.0ex]&= 15 + 30 \\[2.0ex]&= 45
\end{aligned}
$$
計算結果は正の値なので、向きは東向きです。
西向きに走る列車Aから、反対の東向きに走る自動車Bを見ると、Bはものすごい速さで遠ざかって見えます。この「すれ違い」の速さは、両者の速さを足し合わせたものになります。具体的には、Aから見るとBは東向きに \(30 + 15 = 45\) m/s の速さで見えます。公式を使うと \((+15) – (-30) = +45\) となり、同じ結果が得られます。
Aから見たBの速度 \(v_{AB}\) は \(+45\) m/s。これは、東向きに \(45\) m/sの速さで運動しているように見えることを意味し、直感とも一致します。
Bから見たCの速度 \(v_{BC}\)
思考の道筋とポイント
「Bから見たCの速度」を求めます。観測者がB、観測対象がCとなります。相対速度の公式 \(v_{BC} = v_C – v_B\) を用いて計算します。これも反対方向にすれ違うパターンです。
この設問における重要なポイント
- 観測者はB、観測対象はC。
- 公式は \(v_{BC} = v_C – v_B\)。
- 両者の速度の符号を正確に代入する。
具体的な解説と立式
Bから見たCの相対速度 \(v_{BC}\) は、Cの速度 \(v_C\) からBの速度 \(v_B\) を引くことで求められます。
$$ v_{BC} = v_C – v_B \quad \cdots ② $$
- 相対速度の公式: \(v_{BC} = v_C – v_B\)
準備で求めた \(v_B = +15\) m/s, \(v_C = -20\) m/s を式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
v_{BC} &= (-20) – (+15) \\[2.0ex]&= -20 – 15 \\[2.0ex]&= -35
\end{aligned}
$$
計算結果は負の値なので、向きは西向きです。
東向きに走る自動車Bから、反対の西向きに走る自動車Cを見ると、Cは非常に速く近づいてきて、すれ違っていくように見えます。この速さは、やはり両者の速さを足し合わせたものになります。Bから見るとCは西向きに \(15 + 20 = 35\) m/s の速さで見えます。公式を使うと \((-20) – (+15) = -35\) となり、同じ結果が得られます。
Bから見たCの速度 \(v_{BC}\) は \(-35\) m/s。これは、西向きに \(35\) m/sの速さで運動しているように見えることを意味し、妥当な結果です。
Cから見たAの速度 \(v_{CA}\)
思考の道筋とポイント
「Cから見たAの速度」を求めます。観測者がC、観測対象がAです。今回は両者とも同じ西向きに運動しています。相対速度の公式 \(v_{CA} = v_A – v_C\) を用いて、どちらがどれだけ速く見えるかを計算します。
この設問における重要なポイント
- 観測者はC、観測対象はA。
- 同じ向きに運動する物体の相対速度は、速度の差で求められる。
- 公式 \(v_{CA} = v_A – v_C\) を使えば、向きを間違えずに計算できる。
具体的な解説と立式
Cから見たAの相対速度 \(v_{CA}\) は、Aの速度 \(v_A\) からCの速度 \(v_C\) を引くことで求められます。
$$ v_{CA} = v_A – v_C \quad \cdots ③ $$
- 相対速度の公式: \(v_{CA} = v_A – v_C\)
準備で求めた \(v_A = -30\) m/s, \(v_C = -20\) m/s を式③に代入します。
$$
\begin{aligned}
v_{CA} &= (-30) – (-20) \\[2.0ex]&= -30 + 20 \\[2.0ex]&= -10
\end{aligned}
$$
計算結果は負の値なので、向きは西向きです。
西向きに20m/sで走る自動車Cから、同じく西向きに30m/sで走る列車Aを見ます。Aの方が速いので、Cから見るとAは自分を追い越して、さらに西向きに遠ざかっていくように見えます。その速さの差は \(30 – 20 = 10\) m/s です。公式を使うと \((-30) – (-20) = -10\) となり、Cから見てAが西向きに10m/sで遠ざかる、という同じ結果が得られます。
Cから見たAの速度 \(v_{CA}\) は \(-10\) m/s。これは、西向きに \(10\) m/sの速さで運動しているように見えることを意味し、同じ向きに進む2物体の速度差として妥当な結果です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 相対速度の公式 \(v_{AB} = v_B – v_A\) の完全な理解:
- 核心: この問題の全ては、相対速度が「相手の速度から自分の(観測者の)速度を引く」という単純な引き算で表されることを理解し、正しく適用できるかにかかっています。
- 理解のポイント: この公式が成り立つ大前提として、全ての速度が「地面」という共通の基準(静止座標系)から見た速度であるという点です。そして、公式を使うことで、基準を「観測者」が静止している座標系に変換している、と捉えることが物理的な理解を深めます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 2次元の相対速度: 「川を横切る船」や「雨の中を走る人」の問題が代表例です。この場合、速度をx成分とy成分に分解し、各成分で相対速度の公式を適用します。ベクトルの作図や三平方の定理、三角比の知識が必要になります。
- 衝突・出会いの問題: 2物体の相対速度が分かれば、「出会うまでの時間 = 初期距離 ÷ 相対的な速さ」という形で、出会いの時刻を簡単に計算できる場合があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 正の向きを宣言する: 問題を読み始めたら、まず自分で「右向きを正とする」などと座標軸の向きを決め、余白に書き込みます。これが全ての計算の土台となります。
- 観測者を特定する: 「Aから見たBの速度」とあれば、「観測者=A」「相手=B」と明確に区別します。これにより、\(v_{AB} = v_B – v_A\) の引き算の順序を間違えません。
- 速度を符号付きでリストアップする: 計算を始める前に、問題に登場する全ての物体の速度を、設定した座標軸に従って「\(v_A = -30\)」のように符号付きで書き出しておくと、代入ミスを防げます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 引き算の順序を間違える:
- 誤解: \(v_{AB}\) を計算するのに、\(v_A – v_B\) と計算してしまう。
- 対策: 「Aから見たBの速度 (\(v_{AB}\))」は、「Bの速度(\(v_B\))引くAの速度(\(v_A\))」と、言葉と式の対応を呪文のように覚えてしまいましょう。「〜から見た」の「〜」の方を後に引くと覚えるのが効果的です。
- 符号の計算ミス:
- 誤解: \((+15) – (-30)\) を \(15-30\) と計算してしまう。
- 対策: 負の数を引くときは、必ずカッコをつけて立式する癖をつけましょう。\(v_B – v_A = (+15) – (-30)\) と書けば、次のステップで \(+15 + 30\) になることが明確になり、ミスが激減します。
- 向きを答えない:
- 誤解: 計算結果が「45」と出たので、答えを「45 m/s」としてしまう。
- 対策: 「速度」は向きを含むベクトル量です。計算結果の符号(この例ではプラス)が何(東向き)を意味するのかを必ず解釈し、「東向きに45 m/s」のように、大きさと向きをセットで答えることを徹底しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 相対速度の公式 \(v_{AB} = v_B – v_A\) の物理的意味:
- 選定理由: この公式は、観測者の視点に立つための数学的な手続きです。
- 適用根拠: 観測者Aが自分自身を見ると、自分は常に「静止」しているように見えます。Aの速度 \(v_A\) を \(v_A – v_A = 0\) にするためには、A自身の速度を引く必要があります。この「自分の速度を引く」という操作を、観測したい相手であるBの速度 \(v_B\) にも公平に適用したものが \(v_B – v_A\) です。つまり、この公式は「自分を無理やり止めて見たときに、相手がどう見えるか」を計算していることに他なりません。この理屈を理解すると、公式を忘れにくくなります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- カッコを省略しない: 速度を代入する際は、\((+15) – (-30)\) のように、必ず各速度をカッコでくくって代入しましょう。これが符号ミスを防ぐ最も確実な方法です。
- 一行一操作: 焦って一度に複数の計算をしようとせず、
- \(v_{AB} = v_B – v_A\) (公式を書く)
- \(= (+15) – (-30)\) (代入する)
- \(= 15 + 30\) (カッコを外す)
- \(= 45\) (計算する)
のように、一行ずつ丁寧に計算を進めることで、ミスを発見しやすくなります。
- 直感とのダブルチェック: 計算後、その結果が直感に合うか考えます。「西へ向かう自分から、東へ向かう相手を見たら、ものすごく速く東へ遠ざかるはずだ」→「計算結果は東向きに大きな値になった。OK」というように、日常感覚で検算する癖をつけると、大きな間違いに気づけます。
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