今回の問題
electromagnetic03【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「導体と不導体の電気的性質の違い」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 導体と不導体(絶縁体): 物質を電気の通しやすさで分類したもので、その違いは内部を自由に移動できる自由電子の有無によって決まります。
- 静電誘導: 導体に帯電体を近づけたとき、導体内の自由電子が移動し、表面に電荷が偏って現れる現象です。
- 誘電分極: 不導体に帯電体を近づけたとき、自由電子は移動しませんが、物質内の原子や分子の電荷分布が偏り、表面に電荷が現れる現象です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)から(8)の空欄補充は、上記の物理用語の定義と現象の理解に基づいて、適切な語句を選択します。
- (9)の理由説明は、導体(アルミホイル)と不導体(発泡スチロール)の根本的な違いである「自由電子の有無」が、帯電体との接触後の振る舞いにどう影響するかを記述します。
解答
思考の道筋とポイント
各空欄について、前後の文脈から物理現象を特定し、適切な用語や語句を当てはめていきます。
(1) 金属などの導体が電気をよく伝えるのは、内部に自由に動き回れる自由電子が存在するためです。不導体にはこれがほとんどありません。
(2), (3), (4) 導体に帯電体を近づけると、静電誘導が起こります。例えば正の帯電体を近づけると、導体内の自由電子(負電荷)が引き寄せられて近い側に集まります。したがって、近い側には帯電体と異符号の電荷が現れます(2)。その結果、自由電子が去った遠い側には正の電荷が残り、帯電体と同符号の電荷が現れます(3)。この現象が静電誘導です(4)。
(5), (6), (7), (8) 不導体に帯電体を近づけると、誘電分極が起こります(7)。自由電子は移動しませんが、原子や分子内の電荷分布が偏ります。正の帯電体を近づけると、原子内の電子が近い側に引き寄せられるため、表面には帯電体と異符号の電荷が現れます(5)。遠い側には同符号の電荷が現れます(6)。この現象は、電荷分布の偏りによって生じます(8)。
(9) 導体であるアルミホイルは、正の帯電体に接触すると自由電子が帯電体へ移動し、自身も正に帯電します。その結果、帯電体との間に斥力が生じて離れます。一方、不導体である発泡スチロールは自由電子がないため、接触しても電荷の移動がほとんど起こらず、全体として正に帯電することがないため、斥力が生じず離れません。
この設問における重要なポイント
- 導体と不導体の違いは、自由に動ける「自由電子」の有無である。
- 導体で起こる現象は「静電誘導」、不導体で起こる現象は「誘電分極」である。
- どちらの現象でも、帯電体を近づけると、近い側には異符号、遠い側には同符号の電荷が現れる。
- 導体は接触によって容易に電荷が移動するが、不導体は移動しにくい。
具体的な解説と立式
この問題は知識を問うものであり、数式による立式はありません。上記「思考の道筋とポイント」で解説した内容が解答の根拠となります。
使用した物理公式
- この問題では、数式ではなく物理用語の定義と理解が問われます。
この問題に計算過程はありません。
(1) 電気を運ぶ粒は「自由電子」です。
(2)~(4) 導体にプラスの棒を近づけると、マイナスの自由電子が引き寄せられます。なので、近い側は「異」符号(2)、遠い側は「同」符号(3)になります。この現象を「静電誘導」(4)と言います。
(5)~(8) 不導体でも同じように、近い側は「異」符号(5)、遠い側は「同」符号(6)になります。この現象は「誘電分極」(7)といい、原子レベルでの電荷の「偏り」(8)が原因です。
(9) アルミは導体なので、プラスの棒に触れるとマイナスの電子を奪われ、自分もプラスになります。プラス同士は反発するので離れます。発泡スチロールは不導体なので、電子が移動しにくく、プラスにならないので反発しません。
各空欄と理由説明は、導体と不導体の電気的性質の基本的な理解を問うものです。解答は物理用語の定義と現象の説明として一貫しています。
(1) 自由電子
(2) 異
(3) 同
(4) 静電誘導
(5) 異
(6) 同
(7) 誘電分極
(8) 偏り
(9) アルミホイルは導体であり自由電子をもつため、帯電体に接触すると電荷が移動して帯電体と同符号に帯電し、斥力によって離れるから。一方、発泡スチロールは不導体で自由電子をもたないため、接触しても電荷が移動しにくく、斥力がはたらかないから。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 自由電子の有無による導体と不導体の区別:
- 核心: 静電気に関する現象のほとんどは、物質内に「自由に動ける電荷(自由電子)があるかないか」で説明できます。この問題は、その根本的な違いが、静電誘導と誘電分極、さらには接触による帯電といった様々な現象にどう現れるかを体系的に理解しているかを問うています。
- 理解のポイント:
- 導体: 自由電子が豊富。電荷が物質全体をダイナミックに移動できる。→ 静電誘導
- 不導体: 自由電子がほぼない。電荷は原子・分子内に束縛されているが、その位置がわずかにズレる(偏る)ことはできる。→ 誘電分極
この2つのモデルを頭の中で明確に区別することが最も重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 検電器の箔が開く理由: 検電器に帯電体を近づけると、静電誘導によって金属箔が同符号に帯電し、斥力で開きます。接触させると、電荷が移動して検電器全体が帯電するため、帯電体を離しても箔は開いたままになります。
- 静電遮蔽: 導体で囲まれた内部の空間には、外部の電場が侵入できません。これは、外部電場を打ち消すように導体内の自由電子が移動し、静電誘導が起こるためです。
- コンデンサー: 2枚の導体板を向かい合わせたコンデンサーに不導体(誘電体)を挿入すると、誘電分極によって導体板間の電場が弱められ、より多くの電荷を蓄えられるようになります。
- 初見の問題での着眼点:
- 物質の特定: まず、問題に出てくる物質が「導体」か「不導体」かを見極めます。(例: 金属→導体、ゴム・ガラス・プラスチック→不導体)
- 現象の特定: 次に、操作が「近づける」だけなのか、「接触させる」のかを区別します。
- 「近づける」→ 静電誘導 or 誘電分極
- 「接触させる」→ 電荷の移動(導体の場合)
- 電荷の動きをイメージ: 特定した物質と現象に合わせて、自由電子が大きく動くのか、原子内の電荷が少し偏るだけなのかを頭の中でイメージします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 静電誘導と誘電分極の混同:
- 誤解: どちらの現象も同じように電荷が移動するものだと考えてしまう。
- 対策: 「静電誘導は自由電子の長距離移動」「誘電分極は原子・分子内の電荷の短距離の偏り」と、電荷の動くスケール感で区別しましょう。
- 不導体は電気と無関係という誤解:
- 誤解: 不導体は電気を通さないので、帯電体を近づけても何も起こらないと考えてしまう。
- 対策: 下敷きで髪の毛が逆立つように、不導体も電気的な力を及ぼします。その原因が「誘電分極」です。「電気を通さない」ことと「電気的な影響を受けない」ことは違うと理解しましょう。
- (9)の理由を曖昧に答える:
- 誤解: 「導体だから」「不導体だから」というだけで説明を終えてしまう。
- 対策: なぜ導体だと離れ、不導体だと離れないのか、そのメカニズムまで踏み込んで説明する必要があります。「自由電子の有無 → 接触による電荷移動の有無 → 斥力の発生の有無」という論理の連鎖を意識して記述する練習をしましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- なぜ帯電体を近づけると引き寄せられるのか?:
- 選定理由: この現象はクーロンの法則で説明できます。
- 適用根拠: 静電誘導や誘電分極が起こると、帯電体に近い側には異符号の電荷が、遠い側には同符号の電荷が現れます。クーロン力は距離の2乗に反比例するため、より近くにある異符号の電荷からの引力の方が、より遠くにある同符号の電荷からの斥力よりも強くなります。その結果、全体として引力がはたらき、物体は引き寄せられます。
- なぜ導体は接触すると反発するのか?:
- 選定理由: 電荷保存則とクーロンの法則の組み合わせで説明できます。
- 適用根拠: 導体が帯電体に接触すると、自由電子が移動して電荷が再分配され、導体全体が帯電体と同符号に帯電します。同符号の電荷同士には斥力がはたらくため、物体は離れます。この一連の流れは、物理法則に基づいた論理的な帰結です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- この問題は知識問題であり、計算はありませんが、論理的な思考が求められます。
- 図を描いて考える: 静電誘導や誘電分極の様子を、自分で簡単な図に描いてみましょう。プラスやマイナスの記号を書き込むことで、電荷の分布が視覚的に理解でき、思考が整理されます。
- 因果関係を言葉にする: 「(原因)だから、(結果)になる」という形で、現象を言葉で説明する練習をしましょう。例えば、「導体は自由電子を持つ(原因)から、接触すると電荷が移動し、同符号に帯電する(結果)」のように、論理のつながりを明確にすることで、(9)のような記述問題に強くなります。
- 用語の定義を正確に覚える: 「自由電子」「静電誘導」「誘電分極」といったキーワードは、その意味を正確に暗記しておくことが、この分野の学習の第一歩です。
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